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婦人科腫瘍の循環器合併症~血栓症と高血圧~/日本婦人科腫瘍学会

 婦人科がんと循環器疾患の関連は深い。第68回日本婦人科腫瘍学会学術集会にて、大阪がん循環器病予防センターの向井 幹夫氏は「婦人科腫瘍学と腫瘍循環器学の連携」と題し、両者の密接な関係について紹介した。婦人科腫瘍とがん関連血栓症(CAT) 婦人科腫瘍患者は、閉経後の動脈硬化リスク上昇に加え、卵巣摘出後の外科的閉経や薬物治療により心血管イベントリスクが増大する。中でも、CATへの対応は婦人科腫瘍の診療においてきわめて重要である。 がんはTissue Factor(TF)やサイトカイン、さらにマイクロパーティクルを分泌して凝固系を活性化し血栓を形成する。がんはこの血栓を利用して転移するのである。がん自体による血栓形成以外に、薬剤による血栓形成も問題となる。婦人科がんで汎用される内分泌薬やパクリタキセル、タキサンなどの化学療法薬は血栓症合併リスクが高い。 日本の固形がん1万例における静脈血栓塞栓症(VTE)の発症を前向きに調べたCancer VTE Registryによれば、全体集団では5.9%、婦人科腫瘍では5.5%にVTEが認められた。また、婦人科腫瘍800例超におけるVTEの発症と危険因子を調べたGOTIC-VTE試験では、全体のVTE発症は5.8%、卵巣・卵管・腹膜がんでは13.7%に上る。その多くは無症候性であり、近位部よりも遠位部が多かった。婦人科腫瘍における脚の腫れは治療によるリンパ浮腫とみなされがちだが、末梢の血栓が隠れているケースは多いと、向井氏は注意を促す。 『肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症に関するガイドライン』2025年改訂版では、がん関連VTEに関する記載が追加された。そこでは、活動性がん患者の肺血栓塞栓症/中枢型深部静脈血栓症(DVT)の治療は、がんが治癒しない/活動性がなくならない限り継続を考慮すること、中枢型DVTの延長治療には低用量DOACを考慮することなどが記載されている。婦人科腫瘍とがん関連高血圧(Onco-Hypertension) がん治療関連高血圧では、がん由来のサイトカインや化学療法の血管内皮障害により、通常の高血圧より急速に病態が重篤化する。通常5年かかるプラーク形成が、これらの薬剤では1年程度で起こる可能性があるという。 血管新生阻害薬は投与直後から血圧を上昇させ、長期使用で血管内皮の障害を引き起こす。そのほかプラチナ系薬、アルキル化薬、PARP阻害薬、アロマターゼ阻害薬など婦人科腫瘍の治療で汎用される抗がん剤には血圧を上昇させるものが多い。 『高血圧管理・治療ガイドライン』2025年改訂版では、担がん患者の項が追加され、がんと高血圧の双方向性や治療ステップが示されている。そこでは、がん治療患者の降圧治療開始時期と降圧目標、降圧薬の第1選択、治療抵抗性への対応などが取り上げられている。 婦人科腫瘍における循環器合併症の管理には、ライフステージ、性ホルモン、血栓・出血リスクといった婦人科特有の課題がある。より良い循環器疾患の合併症管理には、婦人科腫瘍医と循環器医の情報共有と連携が大きな鍵を握ることは間違いない。

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断水時の熱中症や災害関連死を防ぐポイント/3学会合同記者会見

 2026年8月3日、日本救急医学会、日本災害医学会、日本生気象学会の3学会合同による緊急オンライン記者会見『避難生活における熱中症予防の留意点』が開催された。本会見は、令和8年熊本地震の被災地において、猛暑とライフライン障害(断水・停電)が重なる中、避難所や復旧作業現場での「熱中症」および「災害関連疾病」の予防・対策・処置について、各専門家が最新の知見と緊急提言を発信するために実施された。 被災地での災害関連死を防ぐためには、避難所環境の改善から二次災害(エコノミークラス症候群[深部静脈血栓症]、感染症、誤嚥性肺炎などの発生)予防、そして熱中症対策が今回の災害では重要になる。また、災害発生から1週間は日常診療をストップし災害対応として救急外来のみを行ってきた医療機関であっても日常診療が徐々に再開され、それに伴う新たな課題も出てくることが予測される。加えて、今回の災害は熱中症対策が必要にもかかわらず、熱中症対策に不可欠な“水”の供給基盤が著しく阻害されている点が大きな課題となっている。今回の記者会見で示された現場の実状と、実臨床医が患者の命を守るために実践できることとは。避難環境の格差解消が急務 現場で生じている実状と医療提供体制について報告した阿南 英明氏(日本災害医学会 理事/神奈川県立病院機構 理事長)は、自衛隊などの支援により避難所の体育館などへのポータブル空調機やスポットクーラー設置が進む一方で、「避難所間の環境格差が著しい」状況を説明した。環境整備が不十分な避難所では暑熱環境が解消されず、結果として車中泊を余儀なくされている被災エリアが存在するという。令和6年能登半島地震などと比較して2次避難が任意であることも手伝い、避難環境の改善が車中泊解消の喫緊の課題となっている。 今回の地震による熱中症傷病者発生状況について、7月28日~8月2日までの6日間での県南圏域病院(災害拠点病院)の受入患者は計60例に上る。熱中症患者の特性としては60歳以上の高齢者が多数を占めており(65歳以上32例[55.2%])、復電した7月31日以降は減少傾向にあるが、「特別養護老人ホームなどの施設では熱中症が多数発生し、そのほとんどが入院しているため、スクリーニングや支援などの重点的な介入を進めている」と述べた。さらに、発災から1週間が経過し、多くの医療機関が救急外来のみの運用から一般外来の再開へシフトし始めるため、同氏は、現場の医療者への「災害対応と日常診療の二重の負荷」について懸念を示した。 同氏は「避難所の環境整備を進めて車中泊を解消させるとともに、共通の評価指針を用いて災害関連死を確実に予防することが重要である。また、診療再開にあたっては熱中症のみならず、食中毒や感染症などの季節性疾患、さらに活動量低下によるロコモティブシンドロームや嚥下機能低下に伴う誤嚥性肺炎、ストレスや脱水による循環器イベントの発生にも十分な警戒が必要」と語り、被災者が日常に近い生活を取り戻せるよう、医療者が生活機能を含めた包括的支援を行う重要性を訴えた。断水下の熱中症予防対策、ライフライン制限下でのアプローチ法 被災地における熱中症予防の緊急提言を行った神田 潤氏(日本救急医学会 熱中症および低体温症に関する委員会委員長/日本医科大学武蔵小杉病院)は、断水とエアコンの不稼働が重なる過酷な環境下では、脱水に伴うエコノミークラス症候群のリスクが跳ね上がると指摘する。また、水道水が自由に使えない状況であっても、衛生面に留意しながら実行可能な代替冷却法を被災者へ指導・周知することが求められる。 具体的には、衣類を脱がせた上で微量の水やスプレーで皮膚を湿らせ、うちわや扇風機で送風して気化熱を奪う「蒸散冷却法」や、手のひら(動静脈吻合が豊富な部位)や足の裏、首筋や腋窩などを溜めた水や濡れタオルで部分的に冷やす「局所冷却法」が有効である。使用する水は飲用水でなくとも対応可能であるため、同氏は「水の衛生問題が生じにくい部位から積極的に冷やす手法が実用的」とコメント。また、自治体や民間施設が提供する稼働中の空調エリアの利用を促すほか、大量発汗時にはイオン飲料や経口補水液での塩分・水分補給を徹底させる必要がある点を強調し、「断水状態であっても諦めず、溜め水を利用した蒸散冷却や手のひらなどの局所冷却を工夫して実践してほしい」と訴えた。軽症からの早期介入と厳格な深部体温管理 続けて神田氏は、重症度別の処置および緊急冷却法について解説。熱中症が疑われる初期段階・軽症の時点では、先手を打ってActive Coolingを開始し、「冷暗所への移動」「衣服を弛緩させる」「局所冷却などを迅速に行う」ことが、中症・重症化を防ぐ第一歩となることを説明した。高度の意識障害や多臓器不全を伴う最重症(IV度)の熱中症患者においては、医療機関で Active Cooling を適切に実施した場合であっても死亡率が約20%に達するというきわめて厳しい現状がある。この救命率を少しでも引き上げるためには、医療者による客観的かつ正確な深部体温の測定(直腸温など)が臨床上の鍵を握るという。 同氏は「重症熱中症の救命において最も恐ろしいのは、正確な深部体温を測定していないことで Active Cooling の実施率が低下し、結果として死亡率が上昇してしまうことだ。IV度の重症例であっても、早期に直腸温などで深部体温を把握し、冷水浸漬や体外循環冷却などを用いて目標体温まで迅速に Active Cooling を完遂することが、患者の命を救うために不可欠である」と力強く説明し、臨床現場における迅速かつ確実な冷却プロトコルの徹底についても強く呼びかけた。 永島 計氏(日本生気象学会 理事)は救助・復旧作業者向けに作成した『被災地における熱中症防止に関する提言(作業者向け,Ver.1)』を示し、1)暑さを確認(WBGTや気象情報で危険を見える化)、2)行動を変える(暑さに応じて作業・活動を減らす)、3)計画的に補水(水分・塩分を早めに、繰り返し)、4)無理をしない(頑張らせない、声をかけ、見守る)を強調。「状況の変化に合わせた発信を行っていく」と述べた。 最後に司会を務めた横堀 將司氏(日本救急医学会 理事/日本医科大学救急医学)は初期症状の早期発見に有効な『熱中症判定アプリ』を紹介し、「熱中症の重症度やそれに対する応急処置方法、救急車を呼ぶべきかを判定・指示してくれるので、ぜひアプリを活用してほしい」と締めくくった。

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第327回 「骨太の方針2026」の注目ポイント(前編) 医療給付費に対GDP比という数値目標設定を提言、医療関係団体は「キャップ制」導入を警戒

熊本地震、10年前と変わらぬ雑魚寝状態の避難所こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。7月28日夕刻に発生した熊本地震は、地域的な事情(今回は大都市である熊本市内の被災が少ない等)もあると思いますが、10年前よりも全体的に医療機関の被災は少なく、医療提供体制に壊滅的な影響は出てはいないようです。地震翌日、知人の熊本市内の病院理事長に聞いたところ、「熊本市内のライフラインは大丈夫。当院も救急搬送が多く医師、医療スタッフはてんてこ舞いだが、10年前のような大混乱はない」とのことでした。とはいえ、酷暑、猛暑下での避難や支援は熱中症など、さまざまな体調不良を生じさせます。震災関連死を減らすには、これまでの震災とは次元が異なる対応が必要になりそうです。各メディアの報道の中で気になったのは、避難所に段ボールベッドが十分に用意されておらず、床に雑魚寝をしている被災者が少なくなかったことです。2011年の東日本大震災のとき、筆者が取材で訪れた石巻市の福祉避難所「遊学館」は、それはひどい状況でした。比較的健康な人も要介護状態の人も、皆一緒に床にびっしりと寝かされていたのです。そうした反省から、段ボールベッド(簡易ベッド)の必要性が十分認識されていたにもかかわらず、5年後、2016年の熊本地震でもほとんど用意されずに問題となりました。そして10年、今回の地震でもまったく同じ状況が起こっています。床に直接寝る状態が続いたり、長時間同じ姿勢を強いたりすることで、エコノミークラス症候群(深部静脈血栓症)の発生率が高まることや、劣悪な生活環境によるストレスでさまざまな循環器疾患が悪化し、災害関連死が増えることはもはや常識です。また、感染症予防の観点からも床寝はNGです。15年以上前から課題として挙がり、準備しておくべき重要装備(しかも比較的安価)の段ボールベッドを各自治体が十分用意していないとは一体どういうことなのでしょうか。国は県に、県は各市町村に段ボールベッド確保の要請をしておくべきでしたが、それが十分に行われていなかったのでしょう。断水や停電などはある意味不可抗力と言えます。しかし、ベッド不足は人災です。政府は、防災庁設置など目に見える“体裁”の整備には力を入れる一方で、やろうと思えばできていたはずの防災準備をおろそかにしていたわけです。本当に呆れますね。「骨太ショック」が起こり、閣議決定に至るまでいつになくバタバタさて、今回は、遅れに遅れ、7月21日にようやく閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2026『責任ある積極財政』元年~日本の挑戦を起動する!」(骨太の方針2026)について書いてみたいと思います。今年の「骨太の方針2026」は、6月30日に原案がまとまり公表されましたが、その後、「骨太ショック」と呼ばれる事態が起こり、閣議決定に至るまでいつになくバタバタしました。「骨太ショック」とは、昨年まで明記されていた「財政健全化」の文言が原案から消えたことや、「『強い経済』に向けては、適切な金融政策運営が行われることも非常に重要」という文面によって、政府(利上げを嫌う高市政権)が日銀に介入するのでは、との憶測が広がったことで債券市場が大きく動揺、長期金利は約30年振りの高水準となり、併せて円安が急速に進行した事態を指します。焦った政府は原案を修正、日銀法第3条に触れる注釈を付け、「金融政策の具体的な手法については日銀に委ねられる」といった日銀の自主性を尊重する記述を加えるなど“火消し”対応が行われ、「骨太」は例年より約1カ月遅れての閣議決定となりました。7月22日付の日本経済新聞の記事によれば、「高市政権発足から間もない2025年11月。『自分たちで一から書く、財務省に原案を作らせない』」と、高市早苗首相のブレーンだけで構成される検討チームで「骨太」の作業に入ったとのことです。同記事は「財務省から奪還した主導権を存分に活用した初の骨太の方針。それは皮肉にも市場と首相との距離感を浮き彫りにすることになった」と批判的に書いています。皇室典範改正や、国旗損壊処罰法・「副首都」法成立など、高市首相の強引さが一際目立つようになり、各メディアの支持率も下落傾向です。全国紙の評価も総じて厳しく、7月26日付けの朝日新聞社説は、高市首相が初めて臨んだ国会について、「見えたのは、説明責任から逃げ、『数の力』で押し通そうとする首相と、それを制御できない自民党の責任政党としての劣化であった」と厳しく断じています。懸案だった「70歳以上の高齢者の医療費窓口負担割合3割」は明記されずさて、「骨太の方針2026」は、その副題に「『責任ある積極財政』元年~日本の挑戦を起動する!」とあるように、補助金により成長分野の企業の供給力拡大を国主導で後押しすることが主眼となりました。戦略17分野、62製品・技術で2040年度までに370兆円の官民投資を行うとしています。また、補正予算に頼り過ぎず、恒常的な施策は当初予算で対応する方針が明確になりました。一見華々しい成長分野での記述に対し、医療・介護をはじめとする社会保障の予算については、「医療・介護を中心とした社会保障制度改革を着実に実行することにより、現役世代の保険料率の上昇を止め、引き下げていくことを目指す」との方針の下、「歳出改革努力を継続し、2027年度の社会保障負担率が2025年度と比較して上昇しないよう取り組む」と厳しい考えが示されました。ただし、懸案だった「70歳以上の高齢者の医療費窓口負担割合3割」は明記されませんでした。与党である日本維新の会が強く求めていましたが、自民党はこれを嫌い、最終的に「原則3割となっている現役世代との間で年齢によらない真に公平な応能負担を実現する観点から見直しを行う」という記述に留まり、「そのための改革工程表を26年度末までに策定する」となりました。現役世代の「3割」という文言を入れることで、高齢者の負担割合は明示しないものの、「いずれ3割を目指すんだな」と意識させるという、絶妙な作文に落ち着いたわけです。医療給付費に対GDP比という数値目標を設定、その目標達成のために診療報酬を調整医療関係者がとくにカチンときたのは、社会保障改革について「2026年度中に改革項目の具体化と工程の明確化を図り、順次実施する」という本文の欄外に付けられた次の「注釈」でした。「医療給付費については、経済が成長し賃上げが継続する『強い経済』の構築に向けた取組を進める中で、診療報酬に経済・物価動向等を基本的に反映しつつも、医療給付費の対GDP比や雇用者報酬の伸びとの関係などを参照しつつ、医療費適正化計画の次期改定に向けて抜本的な見直しを行うことを含め、改革を継続する』。つまり、医療保険制度全体で給付される医療費の総額である医療給付費に対GDP比という数値目標を設定、その目標達成のために診療報酬を調整していく、と言っているわけです。対GDP比の数値目標の導入等の考えに「到底容認できない」と日医医療関係団体はすぐさま反応しました。ミクスオンライン等の報道によれば、日本医師会の松本 吉郎会長は7月22日の定例会見で、「骨太方針2026」に医療給付費対GDP比、社会保障費の対GDP比の数値目標の導入等の考えが入ったことに対して、「到底容認できない」と語るとともに、医療費に上限をかけるような「キャップ制につながらないよう、強く主張していきたい」と牽制。また、「70歳以上の高齢者の医療費窓口負担原則3割」も「到底容認できない」と語ったとのことです。また、キャリアブレインマネジメント等の報道によれば、日本病院団体協議会の代表者会議は7月24日、「骨太方針2026」などについて議論、会議後に神野 正博議長(全日本病院協会会長)は、代表者会議では注釈の記述について社会保障費への「キャップ制ではないか」と警戒する声が相次いだと明かした上で、「成長戦略を否定するものではないが、成長の中に社会保障制度が取り残されないよう再生医療や新薬、新しい医療材料などもしっかりと伸ばしてほしいという強い思いがある」と述べたとのことです。「骨太の方針2026」が閣議決定されてから9日後の7月30日、高市早苗首相は食料品にかかる消費税率を2027年4月から1%に引き下げる方針を表明しました。年5兆円という財源は相変わらず示されませんでした。「骨太」といい「食品消費税1%」といい、いずれも社会保障費、ひいては診療報酬に直結する問題です。高市政権下、医療機関にとってはなかなか厳しい局面が続きそうです。次回は「骨太の方針2026」に書かれた社会保障費関連以外の部分も見てみたいと思います。(この項続く)

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新型コロナ・インフルワクチンの同時接種で有害事象は増えず

 この秋は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とインフルエンザの対策が一度で済むかもしれない。新たな研究で、新型コロナウイルスワクチン(以下、新型コロナワクチン)とインフルエンザワクチンを同時接種しても、インフルエンザワクチンのみを接種した場合と比べて安全上のリスクは増加しないことが示された。米ワシントン大学医学部および米VA St. Louis Health Care SystemのYan Xie氏らによるこの研究は、「Annals of Internal Medicine」に6月30日掲載された。 この研究では、米国の退役軍人(VA)約250万人の電子医療記録データを用いて、新型コロナワクチン(二価ワクチン、XBB対応ワクチン、およびKP対応ワクチン)とインフルエンザワクチンを同時接種した場合とインフルエンザワクチンを単独接種した場合とで、接種後90日以内の有害事象の発生について比較・評価した。2022年9月1日から2025年8月26日の間に70万5,124人が2種類のワクチンを同時接種し、181万3,205人はインフルエンザワクチンのみを接種していた。 有害事象は46種類を対象とし、重症度に応じて、1)重症で生命を脅かす事象(Tier 1)、2)臨床的に重要な事象(Tier 2)、3)比較的軽度または自己限定性の事象(Tier 3)の3段階に分類した。有害事象の具体的な例は、Tier 1では脳静脈洞血栓症や心筋梗塞、肺塞栓症など、Tier 2では心房細動や心房粗動、深部静脈血栓症など、Tier 3ではベル麻痺、失神、耳鳴りなどである。 解析の結果、重症度のレベルにかかわりなく、有害事象リスクについて同時接種群と単独接種群の間に統計学的な有意差は認められなかった。リスク比は、Tier 1で1.03(95%信頼区間0.99~1.09)、Tier 2で0.99(同0.96~1.03)、Tier 3で0.99(同0.96~1.02)であった。3種類の新型コロナワクチンが使用された期間別に解析しても、同時接種は有害事象のリスク増加と関連していなかった。 著者らは、「今回の結果は、新型コロナワクチンとインフルエンザワクチンを同時接種することの短期的な安全性を支持するものであり、今後のワクチン接種に関する推奨を策定する際にも役立つ可能性がある」と述べている。

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がん患者の肺塞栓症診断、YEARSアルゴリズムは有効か?/JAMA

 がん患者における肺塞栓症(PE)の診断戦略について、YEARSアルゴリズムの使用はCT肺動脈造影(CTPA)のみ使用の場合と安全性は同等であることが、オランダ・ライデン大学医療センターのBram Akerboom氏らHydra Study Investigatorsが実施した研究者主導の無作為化非盲検非劣性試験「Hydra試験」の結果で示された。同試験において22%の患者がYEARSアルゴリズムの使用でCTPAの実施を回避できたことも示された。YEARSアルゴリズムは、急性PEを除外する安全かつ効率的な方法とされているが、がん患者における精度に関する確固たるエビデンスは不足しており、現行のガイドラインでは直接CTPAを行うことが推奨されている。JAMA誌オンライン版2026年7月12日号掲載の報告。活動性がんを有する急性PEが疑われる患者を無作為化 Hydra試験はオランダ、イタリア、スイス、ベルギー、フランス、スペインの21施設で実施され、対象は、活動性がん(皮膚の基底細胞がんまたは扁平上皮がんを除く)を有し、臨床的に急性PEが疑われる18歳以上の患者であった。 活動性がんの定義は、研究登録6ヵ月以内の組織学的な確定診断、または臨床医により強く疑われたがんの診断、登録時点でがんの治療中、無作為化前6ヵ月以内にがん治療が行われた、または転移病変の存在とされた。 研究グループは、適格患者を、YEARSアルゴリズム(YEARS項目の評価、D-ダイマーの測定、およびリスクに応じたCTPAの実施で構成される)に基づく診断群(352例)と、CTPAのみによる診断群(346例)に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要評価項目は、ベースラインでPEが除外された患者における無作為化後90日以内に発生した、症候性PE、症候性の上肢または下肢の深部静脈血栓症(DVT)(これらは確定されたもののみ)、あるいはPE関連死(関連が疑われたものを含む)で、非劣性マージンはper-protocol解析による絶対リスク群間差の片側99.9%信頼区間(CI)の上限2.6%とした。 主要な副次評価項目は、CTPA陰性割合(実施されたCTPA件数のうちCTPAの結果が陰性であった割合)であった。YEARSアルゴリズムはCTPA単独に非劣性 2019年8月22日~2025年5月23日に、計698例が無作為化され(YEARS群352例、CTPA群346例)、最終追跡調査日は2025年8月21日であった。患者背景は、年齢中央値65歳(四分位範囲:56~72)、女性が422例(60%)で、104例(15%)がベースラインでPEと診断され、1例が追跡不能となった。 per-protocol解析対象集団は555例であった。主要評価項目のイベントは、YEARS群で282例中5例(1.8%)、CTPA群で273例中15例(5.5%)に認められた。絶対リスク群間差は-3.7%(99.9%CI:-8.8~1.4)であり、YEARS群のCTPA群に対する非劣性が示された(非劣性のp=3.4×10-5)。 intention-to-diagnosis解析では、YEARS群とCTPA単独群の絶対リスク群間差は-2.6%であった(99.9%CI:-7.5~2.4、非劣性のp=5.9×10-4)。 YEARS群において352例中77例(22%)は、CTPAを実施せずにPEの診断が行われた。CTPA陰性割合は、両群とも83%であり差はなかった(p=0.93)。

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がん関連VTEのDOACによる出血リスク、新たな予測モデルが有用か

 直接経口抗凝固薬(DOAC)治療を受けるがん関連静脈血栓塞栓症(VTE)患者を対象に開発された出血リスク予測モデル「ONCO-DOAC BLEEDスコア」は、既存の出血リスクスコアと比較して大出血リスクを良好に層別化できることが示された。本結果は京都府立医科大学循環器内科の長井 智之氏や中西 直彦氏ら(COMMAND VTE Registry-2)が報告し、JACC:CardioOncology誌2026年6月号に掲載された。  本研究グループは、国内31施設において2015年1月~2020年8月の期間に、急性の症候性の肺塞栓症および深部静脈血栓症と診断された患者5,197例を登録した多施設共同の観察研究「COMMAND VTE Registry-2」のデータを使用。VTE診断時に活動性がんを有していた1,507例のうち、経口抗凝固療法未実施例、ワルファリン投与例、血栓溶解療法施行例を除外した1,166例を開発コホートとして作成、解析した。主要評価項目は、大出血(国際血栓止血学会[ISTH]基準)の発生とした。 多変量Cox比例ハザード解析より、大出血と独立して関連する予測因子(各1点)として、(1)大出血の既往、(2)慢性腎臓病(CKD)、(3)NSAIDsの使用、(4)遠隔転移のあるがん、(5)末期がん、(6)上部消化管がん、(7)膵臓がん、(8)子宮がんの8項目を特定し、「ONCO-DOAC BLEEDスコア」を構築。合計点に基づき、低リスク(0点)、中リスク(1点)、高リスク(2点以上)の3群に分類した。さらに、国内臨床試験のONCO DVT試験(601例)およびONCO PE試験(178例)の計779例を検証コホートとした。  主な結果は以下のとおり。・開発コホート(1,166例、追跡期間中央値163日)において127例(10.9%)が大出血を経験し、構築されたスコアの1年累積大出血発現率は低リスク群5.7%、中リスク群8.9%、高リスク群21.2%と、有意なリスク層別化が示された(p<0.001[Gray's test])。 ・開発コホートでのONCO-DOAC BLEEDスコアの識別能(C-index)は、Harrell's C-indexで0.68(95%信頼区間[CI]:0.62~0.73)、Uno's C-indexで0.67(95%CI:0.62~0.72)を示し、既存スコア(VTE-BLEED:0.55、RIETE:0.58、CAT-BLEED:0.58、Perform:0.54)と比較して有意に高い識別能を発揮した(p値はそれぞれ<0.001、0.004、0.002、<0.001)。 ・検証コホート(779例、うち53例が大出血を経験)においても、1年累積大出血発現率は低リスク群6.6%、中リスク群8.6%、高リスク群18.2%と段階的な上昇を示した(p=0.003[Gray's test])。 ・検証コホートにおける識別能はHarrell's C-indexで0.62(95%CI:0.54~0.70)、Uno's C-indexで0.63(95%CI:0.54~0.71)で、既存スコア(VTE-BLEED:0.60、RIETE:0.60、CAT-BLEED:0.55、Perform:0.53)と同等以上の予測能を維持し、キャリブレーションにより予測リスクと実際の観察イベント発生率との良好な一致が確認された。  研究者らは「ONCO-DOAC BLEEDスコアは、DOAC治療中のがん関連VTE患者での大出血リスク予測において、臨床的に意義のある層別化を可能にし、日常診療における個別化された治療意思決定をサポートしうる」とし、「本スコアを用いて高リスク患者を特定することは、より綿密な臨床フォローアップや併用薬(とくにNSAIDs)の見直し、病状モニタリングにつながり、安全な長期抗凝固療法の継続と最適ながん治療・VTE管理の両立に貢献することが期待される。ただし、本研究コホートは日本人のみで構成されているため、今後は欧米などほかの民族集団における外部検証を進める必要がある」と結論付けている。

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最適な輸液ルート選択の考え方 その弐【ケースで学ぶ輸液オーダー】第3回

最適な輸液ルート選択の考え方 その弐中心静脈カテーテル(CVC)を選択する際、ルーメン数は「大は小を兼ねる」と考えがちですが、実はそうではありません。ルーメンが1つのみのほうが最適な場合もあります。今回は、あえてシングルルーメンを選ぶべき状況について確認しましょう。症例70代女性、胃がんによる幽門狭窄。1ヵ月前からの食欲不振と繰り返す嘔吐により全身倦怠感を来して受診、るいそうが顕著です。幸い遠隔転移はなく根治手術を目指せますが、高度の低栄養状態です。経口からの十分な栄養摂取は困難なことから、2週間の静脈栄養ののちに手術を行う方針となりました。研修医A君は指導医から栄養管理を任されました。さて、どのような静脈路が望ましいでしょうか?図1 幽門狭窄を来した胃がん画像を拡大する考えかたの整理高度な栄養障害を認める場合、ESPENのガイドラインでは術前7~14日間の栄養療法を推奨しています1)。第1選択は経腸栄養ですが、本例のような通過障害がある場合は静脈栄養の出番です。高カロリー輸液を行うには中心静脈路が必要ですが、静脈栄養以外の他の薬剤投与の予定がないのであれば、ルーメン数は1つで十分です。さらに、CDCガイドラインでは、カテーテル関連血流感染(CRBSI)防止の観点から、「必要最小限のルーメン数」の使用を強く推奨しています2)。ここでお勧めしたいのが末梢挿入型中心静脈カテーテル(PICC)です。PICCのシングルルーメンは外径わずか1mm程度(3Fr)。これを上肢から挿入することで、血胸や気胸といった穿刺に伴う重篤な合併症のリスクを避けつつ、安全に中心静脈路を確保できます。PICCのピットフォールPICCは安全なデバイスですが、弱点もあります。それは従来のCVCに比して深部静脈血栓症(DVT)のリスクが高いという点です3)。このリスクを回避する鍵は「血管選び」にあります。カテーテル外径は、血管内径の45%を超えると血流の停滞により血栓リスクが高まるという報告があり4)、「血管径の33%(1/3)以内」に収めるべしとされています5)。つまり、穿刺前のエコー観察で上腕にカテーテルの3倍以上の太さがある血管を見付けることができれば、その時点で「頂き」と言えるでしょう。また、解剖学的な走行も重要です。尺側皮静脈(Basilic vein)は直線的に鎖骨下静脈へ連続しますが、橈側皮静脈は急峻な角度で合流しています。このため、穿刺の第1選択は尺側皮静脈をお勧めします。もう1つのPICCの弱点として、カテーテルが細くて長いため急速輸液には使えないことも知っておきましょう。図2 PICCの至適挿入部位画像を拡大する本症例の対応A君は、栄養投与のみを目的としてシングルルーメンのPICC(外径1mm)を選択しました。右上腕をエコーで観察したところ、カテーテル径の3倍を優に超える直径5mmの尺側皮静脈を確認できました。エコー下穿刺でスムーズに挿入し、合併症なく術前栄養療法を行い、手術の準備を整えることができました。中心静脈輸液の目的が1つであれば、穿刺が安全なシングルルーメンのPICCを選びましょう。シングルルーメンカテーテルから輸液する場合の注意点シングルルーメンカテーテルから注射薬を投与する場合には、投与ルートがメインの輸液ルートとその側管に限られてしまうため、投与方法に工夫が必要になります。配合変化が混合直後に発生する場合は、各注射薬を物理的に接触させないためにメインの輸液をいったん止める必要がありますが、メインの輸液を中断するリスクについても検討して投与ルートの設計を行うことが大切です。シングルルーメンカテーテルから中心静脈栄養施行中の患者さんに、セフトリアキソンの投与が開始されたケースで投与ルートの設計をしてみましょう。国外において、新生児にセフトリアキソンとカルシウム含有注射薬を同一経路から同時に投与した場合に肺、腎臓などに生じたセフトリアキソンを成分とする結晶により、死亡に至った症例が報告されています6)。高カロリー輸液はカルシウムを含有しており、セフトリアキソンとの同一経路からの同時投与は推奨されません。そのため、通常は(1)高カロリー輸液の投与をいったん中断する、(2)ルート内を生理食塩液でフラッシュする、(3)側管からセフトリアキソンを投与する、(4)ルート内を生理食塩液でフラッシュする、(5)カロリー輸液の投与を再開する、という対策をとることで高カロリー輸液とセフトリアキソンの物理的接触を回避できると考えるでしょう。では、セフトリアキソン投与中の30~60分間にわたって高カロリー輸液を中断することは問題ないのでしょうか? 高カロリー輸液(糖濃度12%)中止後の血糖変動をみた報告7)では、低血糖症状は呈さないものの、いずれの症例においても24~80mg/dL低下していたことが確認され、中止20分で44mg/dLまで低下している例もありました。高カロリー輸液の急な中断は、30分程度といえども低血糖を引き起こすリスクがあることから、何かしらの対策が必要と考えられます。具体的には、(1)セフトリアキソンのみ末梢静脈から投与することは可能か、(2)低血糖への対策(高カロリー輸液を中断する1時間前から投与速度を半減する8))をとることは可能か、(3)同じ第3セフェム系薬剤で同等のスペクトラムをもつセフォタキシムへの変更は可能か、からどの対策をとるか医師・看護師・薬剤師などのチームで議論することが望ましいでしょう。注射薬を効果的かつ安全に投与するためには、多職種チームでルート管理に対応していく必要があります。1)Weimann A, et al. Clin Nutr. 2021;40:4745-4761.2)O'Grady NP, et al. Clin Infect Dis. 2011;52:e162-193.3)Chopra V, et al. Lancet. 2013;382:311-325.4)Sharp R, et al. Int J Nurs Stud. 2015;52:677-685.5)Nifong TP, et al. Chest. 2011;140:48-53.6)医薬品安全性情報 Vol.7 No.10(2009/05/14)7)日本消化器外科学会編. 日消外会誌.1982;15:491-500.8)井上善文著. 静脈経腸栄養ナビゲータ エビデンスに基づいた栄養管理. 照林社;2021.

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入院患者の静脈血栓塞栓症予防【医療訴訟の争点】第21回

症例入院患者については、原疾患や手術そのほかの治療との関係で、診療科を問わず、肺血栓塞栓症の発症リスクがあるため、予防についても意識を払った対応がされている。本稿では、精神科入院患者に対する身体拘束下における肺血栓塞栓症(PTE)の予防義務の有無が争われた大阪高裁令和7年3月26日判決を紹介する。<登場人物>患者(P3)精神疾患を有する入院患者(肥満[BMI≧30]に該当)原告患者の母(唯一の相続人)被告大学医学部附属病院(国立大学法人)事案の概要は以下の通りである。平成29年(2017年)2月15日P3、精神症状の増悪により、被告病院に入院。入院後、精神科において薬物療法などが開始され、経過観察が行われた。2月中旬~5月下旬入院継続中、P3にはカタトニア様症状(強い緊張状態、反応低下など)が認められ、症状の増悪と改善を繰り返していた。向精神薬の投与が行われる一方、活動性の低下や脱水傾向などもみられていた。5月29日P3は精神症状の悪化により興奮・不穏状態が強まり、自傷他害のおそれがあると判断された。このため、保護室に隔離の上、四肢拘束を含む身体拘束が開始された。同日以降、看護師はバイタルサイン、呼吸状態、末梢循環(浮腫、皮膚色)、下肢の状態などの観察を、行動制限時フローシートなどに基づき継続的に実施した。もっとも、この時点で、Dダイマー検査や下肢静脈エコー検査といった客観的検査は実施されなかった。5月30日身体拘束の継続の要否についてカンファレンスが実施され、拘束継続の必要性が確認された。一方、拘束期間が長期化するかについては、この時点で明確な見通しは立っていなかった。5月31日午前P3は依然として拘束下にあり、自発的な運動は乏しい状態であった。医師は、血栓予防の観点から、同日午前11時頃、弾性ストッキングの装着を指示し、これが実施された。もっとも、体位変換の積極的実施、IPC(間欠的空気圧迫法)、抗凝固薬投与といったほかの予防措置は行われていなかった。また、同日午前までの時点においても、下肢の腫脹、発赤、疼痛など、深部静脈血栓症(DVT)を疑わせる症候は認められていなかった。午後2時頃看護師が訪室したところ、P3は反応が乏しく、呼吸・脈拍の異常が疑われる状態で発見された。午後2時20分頃スタットコールがなされ、医療スタッフが集結し、心肺蘇生措置(胸骨圧迫など)が開始された。なお、最初の異常指摘から蘇生開始までの時間は長くても約6分程度であったと認定されている。午後2時38分頃蘇生継続中の状態で院内搬送がなされたが、回復には至らなかった。同日P3死亡。 実際の裁判結果本件の第一審(神戸地裁)は、P3の死因を呼吸停止(呼吸不全)と認定し、呼吸管理義務違反を肯定して一部認容した。これに対し、被告病院が控訴し、原告も附帯控訴*を提起した。控訴審では、死因が急性肺血栓塞栓症(PTE)であるとの新たな主張がなされたほか、身体拘束後のVTE予防義務違反、検査義務違反などの主張も追加され、以下のような注意義務違反の有無が争われた。*控訴された側が、自身もより有利な内容へと一審判決を変更することを求めて控訴すること血液検査義務違反抗精神病薬の副作用防止義務違反呼吸管理義務違反救急対応義務違反PTE予防義務違反(控訴審で追加)VTE早期発見のための検査義務違反(控訴審で追加)控訴審(大阪高裁)は、P3の死因は急性PTEであると認定した上で、原告(患者家族)の主張する被告の注意義務違反をいずれも否定し、原告の請求を全面的に棄却した。控訴審で追加されたPTE予防義務違反とVTE早期発見のための検査義務違反を取り上げる。裁判所の判断1)P3の死因について詳細はこちら控訴審は、死因究明におけるAi(Autopsy imaging、死亡時画像診断)を用いた画像診断を行う第三者的医療機関として設立された一般財団法人Ai情報センターが作成したAi診断の報告書において、P3が心肺停止になってから1時間強後である5月31日午後3時35分頃に撮影された単純CT画像に、両側肺門部の肺動脈内に凝血塊を示唆する軽度高吸収が認められ、これらが肺動脈左右分岐部を横断するようにして連続していることから、P3の死因はPTEと考える旨の意見が述べられていることなどを踏まえ、P3の死因を「急性PTE」と認定した。2)PTE予防義務違反について詳細はこちら原告は、身体拘束開始後にVTEリスク評価を行い、体位変換、早期離床、弾性ストッキング、IPC、ヘパリンなどの予防策を講ずべき義務を主張した。しかし裁判所は、以下の点を指摘し、「控訴人病院スタッフである医師が、P3に対し、5月29日午後4時45分に体幹部及び両上肢を拘束したが、下肢拘束はせず、その時点ではVTEのリスクが高いとは判断せずに、積極的な運動(マッサージ、他動的な足関節運動など)、弾性ストッキング、IPC法または低用量未分割ヘパリンなどの予防法を取らず、それから48時間が経過する前である5月31日午前11時6分頃に、下肢を自発的に動かせないことから、DVTのリスクが高いと判断して弾性ストッキングの装着を指示したが、ほかの予防法を取らなかったことが、大学医学部の附属病院という控訴人病院の性格などの諸般の事情を考慮しても、当時の控訴人病院スタッフの医師に要求される医療水準に反すると認めることはできない」として、急性PTEの発症を回避するための予防策を取るべき注意義務違反があったとは認められないとした。5月29日以降、カタトニアにより下肢が不動化した状態にあったP3のDVTのリスクは客観的には相当に高かったといえ、P3が急性PTEにより死亡したのも、そのようなリスクが現実化したものと考えるのが自然であること日本血栓止血学会のガイドラインおよび研究班ガイドラインに挙げられたVTEの危険因子で、P3が該当するのは肥満だけであり、この場合の推奨予防法は「早期離床及び積極的な運動」であること72時間以上の身体拘束がVTEのリスクを高めるとの記載がある文献もあり、被告病院も含め、48時間以上の安静の必要をリスク評価の前提とする医療機関が多い中、P3につき5月29日の拘束開始時点やその翌日のカンファレンスにおいて、48時間以上の拘束が必要であると判断されていないこと平成29年当時、ほかの医療機関においても、ベッド上で拘束する場合は、高リスクとして薬物予防あるいはIPC法を考慮することにはなっていなかったこと弾性ストッキング、IPC法及び薬物療法(低用量未分割ヘパリン)には、それぞれ副作用などのリスクがある上、弾性ストッキングやIPC法には、PTEの発症リスクが高いことが保険適用の条件となっていること被告病院では、P3の身体拘束後、生体モニターシステムを用いた測定をするとともに、行動制限時フローシートなどに従い、看護師が末梢循環状態や皮膚状態を継続的に観察しており、症候性DVTの臨床症状である浮腫や皮膚色の変化の有無なども確認されていたが、症候性DVTを疑わせる所見は認められていないこと3)VTE早期発見のための検査義務違反について詳細はこちら原告は、身体拘束時などにDダイマー測定や下肢エコーを行うべきと主張したが、裁判所は、以下の点を指摘し、「医師がP3に対し、身体拘束時から5月31日の弾性ストッキングの装着開始指示時点までの間において、Dダイマー検査などを実施しなかったことが、控訴人病院の性格などの諸般の事情を考慮しても、当時の控訴人病院スタッフの医師に要求される医療水準に反すると認めることはできず、控訴人病院スタッフに、被控訴人主張の注意義務違反があったとは認められない」とした。Dダイマー検査などの実施は、学会予防指針では“身体拘束の解除の際に、場合によりDダイマーなどのスクリーニングを行う”と記載するに止まること大病院では入院時や身体拘束時にDダイマーを測定するとなっているが、病院の規模などからすると、これらの病院において実施されている予防措置が直ちに被告病院における注意義務の内容となると解することはできないことVTEの予防法などを定めるに当たって、Dダイマー検査などについて記載していないか、IPC法を行う症例の場合やDVTの可能性が高い患者またはDVTの臨床症状が疑われる患者に限って実施するという医療機関もあることDダイマー検査については、血栓症の発症リスクの高い症例についてのみ手術前のスクリーニング検査の保険適用がなされ、DVTリスクが高くない限り、患者に対するスクリーニングとしてDダイマー検査などを行うことに否定的な見解もあること被告病院では、下肢の不動化が認められた後は、弾性ストッキングを装着して予防法を取っており、その装着時を含め、DVTを疑わせる所見が存したとは認められないこと注意ポイント解説本件は、控訴審で提出されたAi画像診断の報告書に基づきP3の死因がPTEと認定された上で、その予防義務違反の有無が争われ、本判決は、患者側の主張する予防義務違反をいずれも否定した。PTEは突発的に発症し、救命困難な場合も多いため、その予防を実施しているかが重要となる。本件当時のガイドラインやほかの医療機関での予防の実施状況を踏まえた判断をしているが、本判決でも「平成30年時点の報告を前提にすると、ベッド上で拘束する場合は、高リスクとして薬物予防かIPC法を考慮することになっているが、平成29年5月当時、控訴人病院が、規模も異なるq1病院(注:他自治体が開設・運営する大規模な精神病院)の上記基準に従い、運用すべきであったとはいえない」としているように、ガイドラインの内容はアップデートされるものである。同様に、本判決が、被告病院では実施していない予防措置を実施している他院が存在していることについて「病院の規模などからすると、これらの病院において実施されている予防措置が直ちに控訴人における注意義務の内容となると解することはできない」としていることに表れているとおり、予防のために実施する対応内容については、医療機関の規模などによっても異なる。したがって、本判決と同様の対応をしていれば、予防措置が履行されているとして義務違反が否定されることになるとは限らない点に留意する必要がある。医療者の視点本件は、精神科における身体拘束中のPTE予防と検査のあり方が問われた事例です。裁判所は、当時のガイドラインや病院の規模を考慮し、Dダイマー検査や下肢静脈エコー検査、IPC法などの画一的な実施義務を否定しました。これは、予防策に伴う副作用リスクや患者ごとの状況を総合的に評価する、実際の臨床現場の感覚と合致しています。実臨床において、自傷他害の恐れがある興奮・不穏状態の患者の安全を確保するためには、身体拘束を実施せざるを得ない場面が多々あります。しかし、そのような患者に対して、PTE予防のための弾性ストッキングやIPC法を装着することは容易ではありません。不快感からさらなる不穏を招くリスクがあるためです。また、採血や長時間を要するエコー検査を安全に実施することも物理的に困難なケースが少なくありません。このようなジレンマの中で身を守るためには、入院時や拘束開始時にVTEのリスク評価をしっかり行うことが大事です。その上で、患者の状態に応じて早期離床や下肢の運動など、可能な予防策を選択してください。もし不穏などの理由で積極的な予防策や検査が困難な場合は、下肢の腫脹や色調変化などの継続的な観察を行い、その結果や「なぜ検査・処置ができないのか」という理由をカルテに詳細に記録しておくことを心がけると良いでしょう。Take home messagePTEは突発的に発症し、救命困難な場合があるため、裁判においては、然るべき予防措置を取っていたかが問題となる VTE予防はリスク評価に基づいて個別判断がなされるが、ガイドラインや同種医療機関での実施状況が、予防措置義務の履行がなされていたかの判断基準となるキーワード肺血栓塞栓症(PTE)/静脈血栓塞栓症(VTE)/身体拘束/予防義務/医療水準

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中リスクの急性肺血栓塞栓症に対する超音波補助カテーテル血栓溶解療法が有効で重篤な出血合併症を増加させなかった(HI-PEITHO試験)(解説:佐田政隆氏)

 急性肺血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism:PTE)の死亡率は、診断されず未治療の場合は約30%と高いが、適切な治療を実施すれば2~8%まで低下することが知られている。致死的PTE患者の75%は発症から1時間以内に、残りの25%は発症48時間以内に死亡するとされており、遅れることなくPTEを診断して適切な治療を施すことがきわめて重要である。 心停止やショックといった高リスク例では、早急に機械的補助循環を導入し、抗凝固療法に加えて再灌流療法(血栓溶解療法、外科的血栓摘除術、カテーテル治療)の実施を検討することが国内外で推奨されている。 一方、中リスクのPTE患者に対する血栓溶解療法の有効性は確立していなかった。2014年に発表になったPEITHO試験では、血行動態が安定している中リスクのPTE患者約1,000例に対し、抗凝固療法(ヘパリン)に加えて血栓溶解薬としてのtPAを全身投与する治療が、抗凝固療法単独よりも死亡・血行動態悪化の発生率を低下させたものの、重大な出血リスクを高めた(Meyer G, et al. N Engl J Med. 2014;370:1402-1411.)。 日本循環器学会と日本肺高血圧・肺循環学会による2025年改訂版「肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症に関するガイドライン」においては、重症度別に急性PTEに対する治療戦略をフローチャートで提示している。中リスクのうち、右心機能障害と心臓バイオマーカーの上昇のいずれも認める場合、抗凝固療法を開始するとともに慎重なモニタリングを行い、血行動態が悪化した場合には再灌流療法の実施を考慮することが推奨されている。 Boston Scientific社が開発したEKOSシステムでは、高周波・低出力の超音波エネルギーカテーテルを用いることで、血栓溶解薬の投与量、投与期間を減じても従来と同等の血栓溶解効果が期待できることが示され、欧米では販売されている。本HI-PEITHO試験は市販後非盲検無作為化試験である。中リスクの急性PTEに対するEKOSシステムを使用した血栓溶解と抗凝固の併用療法は、抗凝固療法のみと比較して、7日以内のPTE関連死、症候性のPTE再発、心肺機能の代償不全/虚脱の複合イベントの発生率を低下させたが、重篤な出血リスクは増加させなかった。 今まで、PTEに対するカテーテルを用いた血栓溶解療法については十分なエビデンスは示されておらず、わが国では、海外で使用されているカテーテルが承認されていない。そのため、もっぱらガイディングカテーテルを用いた用手的吸引術が用いられてきており、関連学会から未承認の血栓吸引あるいは血栓除去カテーテルについて早期承認申請が行われている。抗凝固療法としてDOACが主流となった現在、日本でもPTEに対する血栓除去カテーテル治療が本研究のようなRCTの結果に基づき承認されていき、患者の予後改善につながることを期待したい。

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静脈インターベンションの世界からの新しいエビデンスの登場―詰まった静脈もやはり広げればよいのか?(解説:山下侑吾氏)

 循環器医や放射線科医を中心とするインターベンション医は、これまで「動脈」を対象とした血管内治療の世界を大きく切り開いてきた。長年にわたる貢献により同領域は高度に発展し、現在では一定の成熟を得た領域となったともいえる。一方で、同じ血管である「静脈」を対象とした血管内治療は、未知な部分も多く、今後の発展が望まれる領域といえる。近年、静脈領域としては、肺塞栓症や深部静脈血栓症に対するさまざまな血栓吸引デバイスが世界中で普及しつつあり、これまで同領域では、ほとんど皆無であったランダム化比較介入試験も報告され、信頼性の高いエビデンスが現在進行形で蓄積しつつある。C-TRACT試験は、このような静脈インターベンションの世界での新しい歴史を切り開く重要なエビデンスと考えられる。筆者自身も、循環器内科のインターベンション医として、普段から冠動脈・末梢動脈・肺動脈などの全身の動脈の血管内治療に携わっているが、時として静脈の血管内治療が必要となることがある。しかしながら、カテーテル室の現場ではその適応や介入方法を含めて悩むことも多く、本試験の結果は、心より待ち望んでいたエビデンスであった。 深部静脈血栓症は、慢性期の後遺症として血栓後症候群(post-thrombotic syndrome:PTS)を呈することがある。大半は、軽度の浮腫や疼痛の残存といった軽症例と考えられるが、時として強い症状を呈することがあり、患者のQOLを著しく下げる可能性もある。これまでの治療法としては圧迫療法などの保存的治療であったが、高度の狭窄および閉塞した静脈がある場合には、当該血管を物理的に再疎通させる治療が有用と考えられ、そのコンセプトは「open vein hypothesis」という形で広く知られている。しかしながら、この意義を、大規模なランダム化比較介入試験で直接的に検証されたことはなかった。C-TRACT試験は、これまで主として保存的治療で対応されていたPTSに対して、病態の根幹である静脈閉塞に直接介入するという「open vein hypothesis」の妥当性を検証した意義深い試験といえる。多くの専門家がおそらく有用であろうと思いつつも意外に立証されていなかった治療介入は、心血管領域ではよくあるが、本試験は静脈インターベンションの世界でのそのような疑問に真正面から取り組んだものともいえる。 本試験の結果自体は、ステントによる血管内治療が、保存的治療と比較してPTS症状やQOLの改善に有用であることが示されたpositiveなものであった。医学的な価値として「open vein hypothesis」を臨床的に支持する結果を、大規模なランダム化比較介入試験にて初めて示した点が挙げられる。一方で、血管内治療は6ヵ月時点での重症度の評価スコアであるVenous Clinical Severity Score(VCSS)を有意に低下させたが、その低減は約2点と比較的控えめであった。この結果は、統計学的には有意であるが、臨床的なインパクトとしては限定的と解釈する余地もある。しかしながら、本病態のQOL指標であるVEINES-QOLおよび包括的健康指標であるSF-36においては、いずれも臨床的に意味のある改善幅であり、患者の日常生活機能や主観的健康状態に対する影響は十分な恩恵があることが示された。すなわち、本治療の本質的価値は単なるスコアの改善ではなく、患者が実際に感じる生活の質の向上にあると考えるべきであろう。この視点は、今後のPTS治療戦略を考えるうえできわめて重要である。 本試験を日常臨床に応用する際にはいくつかの注意点もある。本試験の対象患者は、腸骨静脈に閉塞もしくは高度狭窄を有する中等度から重度のPTS患者に限定されており、比較的選択された集団である。このため、軽症例や腸骨静脈に相応の病変を伴わない症例に対して本結果を一般化することは適切ではない。また、本試験は経験豊富な施設において実施されており、手技の再現性や外的妥当性についても慎重な評価が求められる。また、安全性の観点では、血管内治療群において出血イベントの増加が有意に認められた点は無視できない。多くは非大出血であったものの、抗血栓療法の強化に伴うと予想される出血リスクの増大は、臨床的に無視できないトレードオフである。この点は、適応判断の際には十分に考慮されるべきであり、すべての静脈をもれなくopenさせることが適切であるかは慎重であるべきである。 上記の注意点を有するものの、本試験はPTS患者への静脈インターベンションが有用であることを高いエビデンスとして示し、新しい歴史を切り開く価値あるものと考えられる。まったくの奇遇であるが、筆者自身が本稿を執筆している当日に、下大静脈の完全閉塞により高度の下肢浮腫に大変困っている患者に大静脈ステントを留置する静脈インターベンションを実施した。治療介入直後より下肢静脈圧の著明な改善とともに下肢浮腫の改善も認め、患者はQOLの改善に対して大変なご利益を感じられた。適切な症例への適切な静脈インターベンションによる介入は、患者QOLの視点より重要であることを改めて実感した。本試験は、筆者のそのような主観的な感覚を、ランダム化比較介入試験という客観的な形で示してくれたこの上ない朗報である。今後は、さらなる長期的な予後の検証や最適な抗血栓療法の確立、さらには実臨床でのさまざまな患者への適応を通して、本治療の真の臨床的価値がより明確になることが期待される。

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血栓後症候群、血管内治療が症状およびQOLを有意に改善/NEJM

 中等症または重症の血栓後症候群(PTS)および腸骨静脈閉塞を有する患者において、血管内治療は標準治療と比較し、6ヵ月後のPTS重症度を有意に軽減し健康関連QOLを改善した。ただし、出血リスクは高かった。米国・ワシントン大学のSuresh Vedantham氏らC-TRACT Trial Investigatorsが、同国29施設で実施した第III相無作為化非盲検評価者盲検比較試験「Chronic Venous Thrombosis: Relief with Adjunctive Catheter-Directed Therapy trial:C-TRACT試験」の結果を報告した。PTSは深部静脈血栓症(DVT)発症後によくみられ、下肢の重篤な症状により患者の活動性やQOLを著しく低下させることがある。血管内治療は、慢性静脈閉塞を除去でき、PTS重症度を軽減することが期待されていた。NEJM誌オンライン版2026年4月13日号掲載の報告。血栓後症候群に対する血管内治療の有効性を、6ヵ月後のPTS重症度で評価 研究グループは、中等症または重症のPTSを有し、画像診断により腸骨静脈閉塞(閉塞または50%以上の狭窄)が確認された患者を登録した。 PTSは、登録の3ヵ月以上前に発症したDVTの同側下肢における慢性静脈疾患と定義し、静脈症状により日常活動や作業能力に著しい制限が生じ、修正Venous Clinical Severity Score(VCSS)が8以上、Villalta PTSスコアが10以上、または開放性静脈性潰瘍を認める場合を中等症または重症とした。 適格患者を、血管内治療(腸骨静脈ステント留置および強化抗血栓療法)群または非血管内治療(標準治療のみ)群に1対1の割合で無作為に割り付けた。両群とも標準的なPTS治療として、圧迫療法、抗凝固療法、生活指導を行い、開放性静脈性潰瘍を有する患者はエビデンスに基づくケアを行うため創傷/潰瘍ケアクリニックへ紹介された。 主要アウトカムは、無作為化後6ヵ月時のPTS重症度で、VCSS(スコア範囲:0~30、高スコアほど重症)を用いて盲検下で評価した。主要な副次アウトカムは、無作為化後6ヵ月時の患者報告によるQOLで、静脈疾患に特異的なVenous Insufficiency Epidemiological and Economic Study Quality of Life(VEINES-QOL)質問票(範囲:0~100、4~6ポイントの変化を臨床的に重要な変化と定義)、および包括的なMedical Outcomes Study 36-Item Short-Form Health Status Survey(SF-36)を用いて評価した。安全性アウトカムは、出血、静脈血栓塞栓症の再発、および死亡とした。PTS重症度は血管内治療群で有意に低下、生活の質も向上 2018年7月~2025年6月に225例が無作為化された。このうち画像検査で腸骨静脈閉塞がないことが判明した1例を除く224例(血管内治療群112例、非血管内治療群112例)が主要解析の対象集団となった。 無作為化後6ヵ月時のPTS重症度は、血管内治療群が非血管内治療群に比べて有意に低かった(平均[±SD]VCSSスコア:8.1±5.1 vs.10.0±4.9、補正後群間差:-2.0、95%信頼区間[CI]:-3.2~-0.8、p=0.001)。 VEINES-QOLスコア(平均値±標準偏差)は、6ヵ月時点で血管内治療群62.8±24.6、非血管内治療群48.6±26.7であり、血管内治療群が良好であった(補正後群間差:14.5ポイント、95%CI:9.5~19.4、p<0.001)。同様に、SF-36の身体機能スコアも血管内治療群のほうが良好であった(補正後群間差:6.1ポイント、95%CI:2.8~9.3、p<0.001)。 安全性については、出血(大出血+非大出血)は血管内治療群のほうが非血管内治療群より発現割合が有意に高く(11.6%vs.3.6%、p=0.03)、その主な要因は非大出血であった(9.8%vs.2.7%)。

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テストステロン補充療法は膝関節全置換術後の合併症リスクを高める?

 米国でテストステロン補充療法(TRT)の利用者が急増する中、膝関節全置換術(TKA)を受ける患者にとっては、このホルモンがより高いリスクをもたらす可能性があるようだ。新たな研究で、手術前の1年以内にTRTを受けていた患者は、術後に感染症、血栓、腎障害、肺炎、膝関節の不安定性などの合併症の発症リスクが高いことが示された。米Hospital for Special Surgeryの整形外科医であるBrian Chalmers氏らによるこの研究結果は、米国整形外科学会(AAOS)年次総会(AAOS 2026、3月2〜6日、米ニューオーリンズ)で発表された。 研究グループによると、テストステロン補充療法の処方件数は2019年の730万件から2024年には1100万件超へと増加している。男女ともに、健康的な老化の促進、筋肉・骨の増強、性欲の改善を目的としてこのホルモンを使用しているという。一方で、テストステロンは、血栓形成や免疫機能、骨代謝にも影響するため、手術後の回復を複雑にする可能性がある。Chalmers氏は、「テストステロンを使用する人がかつてないほど増えており、また、TKAの件数は2030年までに年間100万件を超えると予測されている。そこでわれわれは、TRTが術後の患者に与える影響についてより深く調べることにした」とニュースリリースでコメントした。 今回の研究では、米国の電子カルテ全国データベース(TriNetX)のデータを用いて、2020年2月以前にTKAを受け、術後5年間の追跡データがそろう成人1万3,250人を対象に、TKA前のTRTと術後合併症との関連を検討した。 その結果、術後90日時点において、TRTを受けた群と受けていない群の合併症の発生率は、肺塞栓症で1.6%と1.2%、肺炎で3.3%と1.9%、急性腎障害で4.2%と2.9%、敗血症で1.9%と1.1%であった。また、術後1年時点では、肺塞栓症で2.6%と2.0%、深部静脈血栓症で4.5%と3.3%、心血管関連イベントで3.0%と2.4%、肺炎で6.0%と4.0%、急性腎障害で7.9%と5.2%、敗血症で2.4%と0.9%であり、TRT群での合併症の発生率は高いままだった。さらに、人工関節そのものに関わる合併症のリスクも高まっており、術後5年にわたって関節感染症、骨折、インプラントの緩み、膝の不安定性、再手術の発生率が高いことが示された。 研究グループは、「テストステロンは血栓リスクの上昇と関連することが知られているが、このホルモンがTKAにどのように影響するかを解明するには、さらなる研究が必要だ」と指摘している。研究グループの一員である米ワイル・コーネル・メディスンのArsen Omurzakov氏は、「本研究から、テストステロンは、骨が時間をかけて自然に再構築される過程にも影響を与えることが示唆された」とプレスリリースで述べている。Arsen Omurzakov氏の双子の兄弟で、同じく研究グループの一員である米ケース・ウェスタン・リザーブ大学のArgen Omurzakov氏は、「テストステロン値は免疫系だけでなく、免疫系・治癒・その他の重要な生体機能に関わるマイクロバイオームにも影響する可能性がある」と付け加えている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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急性静脈血栓塞栓症の出血リスク、アピキサバンvs.リバーロキサバン/NEJM

 急性静脈血栓塞栓症の患者において、3ヵ月の治療期間における臨床的に重要な出血リスクは、アピキサバン投与群がリバーロキサバン投与群よりも有意に低下したことが、カナダ・オタワ大学のLana A. Castellucci氏らCOBRRA Trial Investigatorsによる検討で示された。アピキサバンおよびリバーロキサバンは、急性静脈血栓塞栓症の治療でよく用いられる経口抗凝固薬であるが、両薬の出血リスクの差については不明なままであった。NEJM誌2026年3月12日号掲載の報告。3ヵ月の投与中に発生した臨床的に重要な出血を評価 研究グループは、急性静脈血栓塞栓症の患者におけるアピキサバンとリバーロキサバンを比較するプラグマティックな多国間共同(カナダ、オーストラリア、アイルランドが参加)前向き無作為化非盲検エンドポイント盲検化試験を行った。 急性症候性肺塞栓症または近位深部静脈血栓症を有する患者を適格とし、アピキサバン群(10mgを1日2回7日間投与し、その後は5mgを1日2回投与)またはリバーロキサバン群(15mgを1日2回21日間投与し、その後は20mgを1日1回投与)に1対1の割合で無作為に割り付け、3ヵ月間投与した。 主要アウトカムは、3ヵ月の試験期間中に発生した臨床的に重要な出血で、大出血または臨床的に重要な非大出血の複合とした(出血の定義はInternational Society on Thrombosis and Haemostasisによる)。 副次アウトカムは、全死因死亡などであった。アピキサバン群、相対リスク0.46で有意に低下 2017年12月13日~2025年1月23日に3ヵ国の32施設で2,760例が無作為化された(アピキサバン群1,370例、リバーロキサバン群1,390例)。ITT集団はアピキサバン群1,345例、リバーロキサバン群1,355例であった。ベースラインの両群の特性は均衡が取れており、全体の平均年齢は58.3歳、女性が1,175例(43.5%)。多くの患者(2,087例、77.3%)が誘因のない静脈血栓塞栓症であった。 ITT解析において、主要アウトカムのイベント発生は、アピキサバン群44/1,345例(3.3%)、リバーロキサバン群96/1,355例(7.1%)であった(相対リスク[RR]:0.46、95%信頼区間[CI]:0.33~0.65、p<0.001)。 全死因死亡は、アピキサバン群1/1,345例(0.1%)、リバーロキサバン群4/1,355例(0.3%)で報告された(RR:0.25、95%CI:0.03~2.26)。 出血または静脈血栓塞栓症に関連しない重篤な有害事象は、アピキサバン群36/1,345例(2.7%)、リバーロキサバン群30/1,355例(2.2%)で報告された。

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静脈血栓塞栓症における抗凝固薬の継続は出血リスクの増加はあるが、再発リスクの低下の効果が大きい(Target Trial Emulation:TTEによる検討)(解説:名郷直樹氏)

 誘因のない静脈血栓塞栓症に対する経口抗凝固療法の継続と中止についてのTarget Trial Emulationが、Kueiyu Joshua Linらにより報告された。Target Trial EmulationはTTEと略されるが、経胸壁心エコー(Transthoracic Echocardiography)のことではない。Target Trial Emulationとは、観察データを使って、仮想的なランダム化臨床試験を模倣する方法論である。 まず、『日本循環器学会/日本肺高血圧・肺循環学会合同ガイドライン2025年改訂版 肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症に関するガイドライン』ではどうなっているか。「誘因のない中枢型DVT(unprovoked 中枢型DVT)に対し,出血リスクが高くない場合には,中枢型DVTの治療および再発予防のための長期の抗凝固療法として,低用量DOACが使用できるなら可及的長期の抗凝固療法を行うことを考慮してもよい」とクラスIIbで推奨されている。しかし、その根拠となる文献の引用は記載されていない。 では、論文のPECO(Patient、Exposure、Comparison、Outcome)と結果を見てみる。誘因不明の静脈血栓塞栓症があり、初回治療後少なくとも90日間経過した患者において、治療継続群と中止群を比較し、主要アウトカムは、入院を要する再発性VTE、入院を要する大出血である。中止群は、初回90日間の治療後、30日以内に処方がないものと定義された。まず、結果である。治療継続群を治療中止群と比較して、再発性VTEの発生率が著しく低く信頼区間も狭い(調整ハザード比:0.19、95%信頼区間:0.13~0.29)。大出血発生率の上昇(ハザード比:1.75、95%信頼区間:1.52~2.02)、死亡率の低下(ハザード比:0.74、95%信頼区間:0.69~0.79)が認められた。転倒などの出血リスクが低ければ、継続が妥当かもしれない。 次に、TTEにおける批判的吟味を進める。TTEの想定されるランダム化比較試験を模倣する手順は次の7つである。対象患者抽出の適格基準、比較対照となる治療戦略、割付手順、追跡期間、アウトカム、解析方法(交絡因子の調整、ITT、PPS)、解析計画である。とくに、比較対照となる治療戦略、割付手順、解析方法が問題になる。それぞれ、Immortal time biasへの対応と交絡因子の調整などを確認する必要がある。TTEでは介入開始と追跡期間が不一致となる可能性があり、イベントが調査されない期間が含まれる。その期間が解析に含まれると、介入の効果を過大評価してしまう。それをImmortal time biasと呼ぶ。 この研究では、Immortal time biasを回避するため、治療戦略が割り当てられる時点と追跡開始時点(Time zero)を一致させるように設計されている。Time zeroを中止群は抗凝固薬中止日とし、対応する継続群は同じ暦日を割り当てたと記載がある。Time zeroが明確で、Immortal time biasを回避する対応がなされている。 交絡の調整であるが、プロペンシティスコア・マッチングを行い、背景をそろえているが、貧血や転倒の既往は調整されているものの、直前のHb低下傾向や転倒リスクなどの調整は行われていない。抗凝固薬導入後貧血の進行があれば、抗凝固薬を中止することもある。転倒リスクが高いなどの理由で抗凝固薬を中止することも多い。継続群のDOACの用量やワーファリン使用時の目標INRも不明である。TTEではデータベースにない因子を調整することができないという大きな問題がある。ただこうした未知の交絡因子のリスクはあるが、再発リスクをハザード比の95%信頼区間の上限でも0.29まで少なくするという大きな効果を覆すほどの大きな影響はないかもしれない。また現実の患者に利用する際には、アウトカムが入院を要する患者のみに絞られ、外来治療可能な肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症や軽症出血が除外されている。外来患者など再発リスクが低い対象には適用しにくい面がある。 またリスクとベネフィット、再発予防効果と出血リスクのバランスも重要である。この問題を検討するためにLHHという指標がある。Likelihood of Harm to the Patientといい、治療の「害が生じる可能性」を示す医療統計の用語である。計算式はLHH=(1/NNT)÷(1/NNH)である。LHH>1で治療が推奨される。NNT 39、NNH 209のため、LHHは5.36になり、1を大きく超える。一般的には治療推奨になる。しかし血栓症の再発と大出血では重みが異なる。その重みを考慮すると、LHH=(1/NNT)×S÷(1/NNH)(Sは有害事象の重み)になる。一般的に出血のほうが致死的になることが2倍と仮定すると、さらにLHHは小さくなるがそれでも1より大きい。上記のような批判的吟味のポイントはあったが、続けられない理由がない限り、基本的には抗凝固薬継続がいいのかもしれない。

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年齢調整Dダイマーカットオフ値、下肢DVTの除外診断に有効/JAMA

 年齢調整Dダイマーカットオフ値(50歳以上の患者では年齢×10μg/L)は、肺塞栓症(PE)が疑われる患者ではDダイマーの診断的有用性を安全性を損なわずに高めるが、下肢深部静脈血栓症(DVT)が疑われる患者に外挿可能かは確立されていない。カナダ・Ottawa Health Research InstituteのGregoire Le Gal氏らは「ADJUST-DVT試験」において、年齢調整Dダイマーカットオフ値は、安全性を低下することなくDVTを除外して診断効率を向上し、不必要な画像検査を低減する可能性があることを示した。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2026年1月5日号に掲載された。4ヵ国の前向き診断管理アウトカム研究 ADJUST-DVT試験は、4ヵ国(ベルギー、カナダ、フランス、スイス)の27の病院で実施された前向き診断管理アウトカム研究(Swiss National Research Foundationなどの助成を受けた)。 2015年1月~2022年10月に患者を登録した。参加施設の救急診療部を受診し、臨床的に下肢のDVTが疑われた患者3,205例(年齢中央値59歳、女性1,737例[54%])を対象とした。 これらの患者を、Wellsスコアを用いた検査前の臨床的確率、高感度Dダイマー検査、下肢圧迫超音波検査に基づく段階的診断戦略により評価した。DVTが除外された患者は、3ヵ月間の追跡調査を受けた。 主要アウトカムは、従来のカットオフ値(500μg/L)と年齢調整カットオフ値の間のDダイマー値に基づきDVTを除外された患者における、追跡期間中に判定された症候性静脈血栓塞栓症(VTE:下肢DVTまたはPE、あるいはこれら両方)イベントの発生率(失敗率)とした。DVTを除外できる患者が7.4%増加 DVTの臨床的確率が高くない(non-high)、または可能性が低い(unlikely)と判定された2,169例のうち、531例(24.5%、95%信頼区間[CI]:22.7~26.4)はDダイマー値が500μg/L未満であり、161例(7.4%、95%CI:6.4~8.6)は500μg/Lと年齢調整カットオフ値の間であった。 したがって、従来のカットオフ値から年齢調整カットオフ値への転換により、Dダイマー陰性の割合は7.4%(95%CI:6.4~8.6)の絶対的増加を示し、23.3%(95%CI:20.3~26.6)の相対的増加がもたらされた。 初回受診時の遠位型または近位型DVTの有病率は21.8%であった。追跡期間中のVTEイベント発現例はない Dダイマー値が従来のカットオフ値(500μg/L)以上で、年齢調整カットオフ値未満の161例では、追跡期間中にVTEイベントが発現した失敗例(主要アウトカム)を認めなかった(0%、95%CI:0~2.3)。 年齢別のサブグループ解析では、Dダイマー値が500μg/L未満の患者の割合は、18~49歳では59.6%であったが、加齢とともに低下し、75歳以上ではわずか8.7%であった。これに対し、年齢調整カットオフ値を使用すると、75歳以上のDダイマー陰性の割合は26.1%(95%CI:22.0~30.8)に上昇した。 著者は、「高齢者のDダイマー検査の診断的有用性が一般人口と同等レベルに達した。これは、臨床現場では重要な意味を持つ。より多くの患者が画像検査なしで退院可能となり、救急診療部の滞在時間が短縮され、不必要な経験的抗凝固療法が回避される。重要な点は、これらの利点が診断の安全性を損なわずに達成されたことである」「留意点として、これらの結果は、他の血栓症の部位やタイプ(例:上皮、脳、内臓、生殖器の血栓症)には外挿できないことが挙げられる」としている。

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DVT疑いの患者のDダイマー値はカットオフを年齢によって変えると、余計な下肢エコー検査を減らせるかもしれないという朗報(解説:山下侑吾氏)

オリジナルニュース【JAMA】Age-Adjusted D-Dimer Cutoff Levels to Rule Out Deep Vein Thrombosis 日常臨床でDVT(深部静脈血栓症)を疑った際に、Dダイマー値はよく測定される。しかしながら、Dダイマー値は年齢とともに非特異的に上昇するため、高齢者では多くの人が陽性判定になり、結局下肢エコーを実施することになるという困った問題がある。肺塞栓症では、50歳以上は「年齢×10μg/L」という年齢調整Dダイマーカットオフの有用性がすでに示されていた。一方で、おそらくはDVTでも同じであろうと予想はされつつも、DVTでは前向き臨床試験での検証が不十分という“空白地帯”が残っていた。臨床試験には、エビデンスの大きなピースを埋めるものもあれば、隙間の小さな(しかし重要な)ピースを埋めるものもある。本研究は、治療方針を大きく変化させる新規薬剤や治療法の登場に関するエビデンスではないが、本領域での隙間の空白を埋める意義ある研究と筆者は考える。 本研究により、あまりDVTが疑わしくない患者では、年齢調整Dダイマーカットオフを用いると、年齢を調整せずDダイマー値が500μg/L未満であった症例だけを陰性と判定した場合と比べて、7.4%の患者を新たに陰性と判定することができ、それらの患者では下肢エコー検査にて近位部のDVTが発見されなかった。この結果の意味することは、年齢調整Dダイマーカットオフを用いると、一部の患者では不要な下肢エコー検査をスキップできる可能性があるということである。そして、当然ではあるが、その御利益は75歳以上のより高齢の患者で大きかった。わが国での近年の医療費増大に対する厳しい風向きを考えると、医療経済の観点からも、本研究の結果は意味あることと思われる。 わが国では、素晴らしい国民皆保険制度の下、専門的検査が必要と判断された際には、その実施の敷居は比較的低い医療環境である。これは、患者および医療従事者にとっては専門的検査を念のために行い、検査により当該疾患を否定できれば安心できるというメリットもある。一方で、それは諸刃の剣として、時として不要な検査の増大につながる可能性も否めない。筆者は、所属する病院で、DVTの専門家であるようなふりをしているせいか、DVTと診断された患者に加えて、DVTを疑う患者を外来・病棟に限らず山のようにご相談いただく。これらの患者の中には、あまりDVTが疑わしくない場合も多いが、Dダイマー値を測定すると院内の基準値をちょっとだけ超えて「陽性」と判定されることも多い。陽性と判定されたからには、下肢エコー検査による評価を行わないわけにいかず、エコー検査室に緊急での検査の相談をすることになるが、筆者からの多数の依頼に際してエコー検査部からのひんしゅくを買うことも否めない。本研究は、年齢調整Dダイマーカットオフを用いることにより、下肢エコー検査の必要な依頼数を減らすことができるかもしれないという、筆者にとっては日々の懸念を減らせるこの上ない朗報である。このような既存の検査や治療を最適化させる現場のニーズに応える臨床試験は、高く評価されるべきものと日々思っている。 一方で、本研究は、外来患者に限定したものである。とくに術後を含めた入院患者での最適なDダイマーカットオフは現場でよく問題となる。さらに、本研究は、がん患者は少数しか組み入れられていない。近年はがん患者での血栓症が大きな問題となっているが、がん患者ではDダイマー値が漏れなく高値となるため、がん患者ではどうすべきかという問題もきわめて重要である。筆者を含めて、わが国でも本問題に日々苦悩する臨床医は多く潜んでいると想像するが、われわれに役立つさらなる朗報が聞けることを本当に心から願っている。

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NSAIDsによるVTEリスク上昇は本当?~アセトアミノフェンと比較

 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、静脈血栓塞栓症(VTE)発症リスクを上昇させる可能性が指摘されている。しかし、VTE発症リスクの上昇は、NSAIDsが必要となる患者背景による影響を受けている可能性も考えられている。そこで、松尾 裕一郎氏(東京大学)らの研究グループは、日本のレセプトデータベースを用いた研究において、NSAIDsとアセトアミノフェンのVTE発症リスクを比較した。その結果、新規にNSAIDsを処方された患者は、アセトアミノフェンを処方された患者と比較して、VTE発症リスクが有意に低かった。一方で、NSAIDsを処方された患者は、NSAIDsを処方されていない患者と比較するとVTEリスクが高かった。著者らは、アセトアミノフェンがVTE発症リスクを上昇させないと仮定すると、NSAIDsがVTE発症リスクを上昇させるわけではないことが示唆されたとしている。本研究結果は、Journal of Internal Medicine誌オンライン版2026年1月3日号で報告された。 研究グループは、JMDCのレセプトデータベースを用いて、NSAIDsまたはアセトアミノフェンが2013年4月~2022年2月の期間に新規処方された18~65歳の患者を特定した。処方日前365日以内にいずれかの薬剤の処方歴がある患者、抗凝固薬の処方歴がある患者、VTEの既往がある患者などが除外された。主要評価項目は、処方から60日以内のVTE(肺塞栓症または下肢深部静脈血栓症)の発症とした。傾向スコアオーバーラップ重み付け法により背景因子を調整し、群間比較を行った。また、NSAIDs非処方患者を対照とした解析、COX-2阻害薬と非選択的NSAIDs/COX-1阻害薬の比較も実施した。 主な結果は以下のとおり。・解析対象は、NSAIDs処方群428万2,421例、アセトアミノフェン処方群272万8,202例であった。・追跡期間中にVTEを発症したのは全体で1,504例(0.022%)であった。・傾向スコアオーバーラップ重み付け法により背景因子を調整後、NSAIDs処方群はアセトアミノフェン処方群と比較して、VTE発症リスクが有意に低かった(調整ハザード比[aHR]:0.70、95%信頼区間[CI]:0.62~0.80)。・60日以内のVTE発症率の調整群間差は-0.006%(95%CI:-0.010~-0.003、p<0.001)であった。・NSAIDs処方群はNSAIDs非処方群と比較して、VTE発症リスクが有意に高かった(aHR:3.18、95%CI:2.85~3.55)。・COX-2阻害薬と非選択的NSAIDs/COX-1阻害薬の比較では、VTE発症リスクに有意差はみられなかった(aHR:1.01、95%CI:0.85~1.19)。 本研究結果を踏まえて、著者らは「VTE発症リスクへの懸念からNSAIDsを避けてアセトアミノフェンを選択することは、必ずしも合理的ではない可能性がある」と述べている。

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術後VTEの予防、REGN7508Catがエノキサパリンを上回る/Lancet

 カナダ・Thrombosis and Atherosclerosis Research InstituteのJeffrey I. Weitz氏らは、2つの第II相試験(ROXI-VTE-I、ROXI-VTE-II)において、人工膝関節全置換術後の静脈血栓塞栓症(VTE)の予防効果に関して、エノキサパリンと比較してREGN7508Catは優越性を有するが、REGN9933A2は優越性を持たないと報告した。REGN9933A2は、凝固XI因子(FXI)のアップル2ドメインに結合してFXIIaによるFXI活性化のみを阻害し、REGN7508Catは、FXIの触媒ドメインに結合してFXIaの活性を阻害するとともに、FXIIaおよびトロンビンによるFXI活性化をも阻害する完全ヒト型モノクローナル抗体である。研究の成果は、Lancet誌2025年11月29日号で発表された。2つの国際的な無作為化試験 ROXI-VTE-I試験とROXI-VTE-II試験は、それぞれ術後VTEの予防におけるREGN9933A2およびREGN7508Catの有効性と安全性の評価を目的とする非盲検無作為化試験であり、前者は2023年5月~2024年5月に7ヵ国15施設で、後者は2024年6月~2025年1月に5ヵ国12施設で参加者を登録した(Regeneron Pharmaceuticalsの助成を受けた)。 両試験とも、年齢50歳以上で、片側の膝関節に対する初回の待機的人工膝関節全置換術を受けた患者を対象とした。 ROXI-VTE-I試験では、REGN9933A2(300mg、単回、静脈内)、エノキサパリン(40mg、1日1回、皮下)、探索的比較としてアピキサバン(2.5mg、1日2回、経口)の投与を受ける群に1対1対1で、ROXI-VTE-II試験では、REGN7508Cat(250mg、単回、静脈内)またはエノキサパリン(40mg、1日1回、皮下)の投与を受ける群に2対1で、それぞれ参加者を無作為に割り付けた。 両試験の主要エンドポイントは、修正ITT集団における、試験薬の初回投与(術後12~24時間)から12日目までに発現し、客観的に確定されたVTE(術側下肢の無症候性深部静脈血栓症、いずれかの下肢の客観的に確定された症候性深部静脈血栓症、確定された非致死性または致死性肺塞栓症の複合)とした。REGN9933A2とREGN7508Catは、対数オッズ比(log OR)の事後確率が95%を超える場合に、エノキサパリンより優越性があると判定した。 主な安全性アウトカムは、大出血および臨床的に重要な非大出血の複合であった。事後確率、I試験78.5%、II試験99.8% ROXI-VTE-I試験は373例(REGN9933A2群123例[年齢中央値66歳、女性77%]、エノキサパリン群125例[66歳、83%]、アピキサバン群125例[66歳、71%])、ROXI-VTE-II試験は179例(REGN7508Cat群120例[67歳、77%]、エノキサパリン群59例[66歳、75%])を登録した。追跡期間中央値は両試験とも74日(四分位範囲:72~76)であった。 ROXI-VTE-I試験では、12日目までにVTEがREGN9933A2群で116例中20例(17%)、エノキサパリン群で117例中26例(22%)、アピキサバン群で113例中14例(12%)に発生した。平均補正後オッズ比(aOR)は0.78(90%信用区間[CrI]:0.47~1.32)、事後確率は78.5%であり、エノキサパリンに対するREGN9933A2の優越性は示されなかった。 一方、ROXI-VTE-II試験では、12日目までにVTEがREGN7508Cat群で113例中8例(7%)、エノキサパリン群で58例中10例(17%)に発生した。ROXI-VTE-I試験のエノキサパリン群と統合したデータに基づく平均aORは0.37(90%CrI:0.20~0.68)、事後確率は99.8%と、エノキサパリンに対するREGN7508Catの優越性を確認した(名目上のp=0.04)。主な安全性アウトカムのイベントは発生せず 大出血および臨床的に重要な非大出血の発現は認めなかった。最も頻度の高い試験治療下での有害事象は、術後の貧血(ROXI-VTE-I試験:REGN9933A2群123例中9例[7%]、エノキサパリン群125例中11例[9%]、アピキサバン群125例中16例[13%]、ROXI-VTE-II試験:REGN7508Cat群120例中6例[5%]、エノキサパリン群0例)であった。 また、重篤な有害事象は、ROXI-VTE-I試験ではREGN9933A2群で4例(3%)、エノキサパリン群で1例(1%)、アピキサバン群で2例(2%)に発現し、ROXI-VTE-II試験ではREGN7508Cat群で2例(2%)にみられ、エノキサパリン群では認めなかった。両試験ともに試験薬の投与中止の原因となった有害事象の報告はなく、試験薬関連の有害事象や重篤な有害事象も発生せず、試験期間中の死亡例もなかった。 著者は、「これら2つの試験は、FXIの阻害は出血リスクを増加させずに血栓症を軽減するという考え方への支持をより強固なものにする」「今後、REGN9933A2とREGN7508Catの安全性を確定し、これらの異なる作用機序が、FXI活性化の駆動因子に応じた個別化治療を可能にするかを明らかにするための試験が求められる」としている。

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災害避難で車中泊は危険なのか?【実例に基づく、明日はわが身の災害医療】第11回

災害避難で車中泊は危険なのか?大規模災害の後、体育館が避難所として運営され、多くの避難者が生活していますが、避難所ではなく自家用車の中で生活している避難者も多くいるようです。避難所管理医師として、車中泊をする避難者の健康管理を行政から依頼されました。どのようなケアをすればいいでしょうか?車中泊する人は多い大規模災害時、避難所の収容限界や感染対策、プライバシーの問題から「車中泊」を選ぶ避難者は少なくありません。車中泊であれば、他人の物音に悩まされることもなく、周囲に気を使わずに夜中でもパソコンやスマートフォンを操作できます。実際、2016年の熊本地震では、避難者の6~7割が一時的に車中泊を経験しました1)。一方、震災関連死した被災者の約3割が車中泊経験者でした2)。こうした経緯から、車中泊は「避けるべきリスク」として語られがちです。しかし、指定避難所が満員である場合や、家族・ペットの事情などを考慮すると、多くの被災者にとって「積極的に選ばれる避難手段」となっているのが現実です。車中泊は血栓症のリスクなのか?医療者が注目すべきは、この避難様式が深部静脈血栓症(DVT)や肺血栓塞栓症(PTE)のリスク因子となる点です3~5)。熊本地震後の調査では、車中泊経験者のDVT発症率は約10%に達し、心肺停止に至る重症PTEの症例も報告されています6)。このような事実から、「車中泊は極力避けるべき」と主張する支援者もおられます。しかし近年の研究では、問題の本質は「車中泊」そのものではなく、その過ごし方と環境にあることが示されています。とくに以下の要因がリスクを高めるといわれています。長時間の下肢屈曲保持(座席での就寝など)トイレ不足による水分制限 → 脱水・血液濃縮下肢運動不足 → 筋ポンプ機能の低下高齢、肥満、静脈瘤、悪性腫瘍、妊産婦、血栓症などの家族歴経口避妊薬や睡眠薬などの服薬歴寒冷環境や強いストレスによる交感神経の緊張車中泊中の血栓症の予防はどうするか?これらのリスクを有する避難者に対しては、車内でも可能な非薬物的予防が有効であり、避難所を預かる医師として、以下のような適切なアドバイスが必要です。足を伸ばせる姿勢を確保する弾性ストッキングや保温具を活用し、下肢を冷やさない1~2時間ごとの足関節運動や体位変換を行う簡易トイレを活用してトイレの不安を減らし、水分を十分に摂取するハイリスク群に対しては、薬物療法としてDOAC(直接作用型経口抗凝固薬)の予防的投与も一案です。しかし、腎機能障害時の出血リスクが高まり、とくに災害時は脱水環境になりやすいため、慎重な判断が求められます。現実的には薬物よりも、まずは非薬物的な予防と環境整備を優先すべきでしょう。災害時の車中泊を一律に「危険」と断じるのではなく、適切な介入と支援を行うことで、DVTやPTEは予防することができます。われわれ医療者は、やみくもにリスクばかり強調するのではなく、避難行動の多様性を尊重しながら、あらゆる状況で被災者の健康を守れる体制を事前に整えておく必要があります。 1) 熊本県. 平成28年熊本地震における車中泊の状況について. 2023年10月15日 2) 日本経済新聞. 熊本地震1年 関連死の犠牲者、3割が車中泊を経験. 2017年4月16日 3) 日本循環器学会/日本高血圧学会/日本心臓病学会合同ガイドライン. 2014年版 災害時循環器疾患の予防・管理に関するガイドライン 4) Sato K, et al. Risk Factors and Prevalence of Deep Vein Thrombosis After the 2016 Kumamoto Earthquakes. Circ J. 2019;83:1342-1348. 5) Sueta D, et al. Venous Thromboembolism Caused by Spending a Night in a Vehicle After an Earthquake (Night in a Vehicle After the 2016 Kumamoto Earthquake). Can J Cardiol. 2018;34:813.e9-813.e10. 6) 坂本 憲治ほか. 熊本地震後に発生した静脈血栓塞栓症と対策プロジェクト. 日本血栓止血学会誌. 2022;33:648-654.

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定義変更や心肺合併症患者の分類に注意、肺高血圧症診療ガイドライン改訂/日本心臓病学会

 『2025年改訂版 肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症ガイドライン』が2025年3月に改訂された。本ガイドラインが扱う静脈血栓塞栓症(VTE)と肺高血圧症(PH)の診断・治療は、肺循環障害という点だけではなく、直接経口抗凝固薬(DOAC)の使用や急性期から慢性期疾患へ移行していくことに留意しながら患者評価を行う点で共通の課題をもつ。そのため、今回より「肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン」「肺高血圧症治療ガイドライン」「慢性肺動脈血栓塞栓症に対するballoon pulmonary angioplastyの適応と実施法に関するステートメント」の3つが統合され、VTEの慢性期疾患への移行についての注意喚起も、狙いの1つとなっている。 本稿では本ガイドライン第5~13章に記されているPHの改訂点について、本ガイドライン作成委員長を務めた田村 雄一氏(国際医療福祉大学医学部 循環器内科学 教授/国際医療福祉大学三田病院 肺高血圧症センター)が第73回日本心臓病学会学術集会(9月19~21日開催)で講演した内容をお届けする(VTEの改訂点はこちらの記事を参照)。PHの定義が変わった 本ガイドラインは、PHにおける改訂目的の1つを「どの施設でも適切な診断・初期治療が行えること」とし、診断基準の変更と第7回肺高血圧症ワールドシンポジウム(WSPH)で提案された概念を世界で初めてガイドラインに取り入れた点を改訂の目玉として作成された。田村氏は「これまで議論されてきた診断基準は、WSPHならびに日本の研究を踏まえ、PHの定義をRHC検査により測定した安静仰臥位の平均肺動脈圧(mPAP)>20mmHg(推奨クラスI、p.68)とした」と説明。しかし、治療の側面からはこの定義の解釈に注意が必要で、「肺動脈性肺高血圧症(PAH)を対象とした臨床試験はmPAP≧25を対象に行われていることから、21~24mmHgではPH治療薬のエビデンスが乏しい状況にある。そして、PHの第4群に該当する慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)の場合、慢性血栓塞栓性疾患(CTED)の概念でこの21~24mmHgというボーダーラインも治療されるケースがあるため、CTEPHとPAHでの解釈の違いにも注意してほしい」とコメントした。 次に「肺血管抵抗(PVR)を2.0以上」としたことも世界と足並みを揃えた点だが、この解釈についても「体格の小さい日本人は心拍出量が欧米人よりも少ないため、PVR 2.0をたまたま超えてしまうケースもある。ボーダーライン患者の場合、背景に病気の有無を確認することが重要」と、同氏は本指標の判断に対して注意喚起した。また、WSPHでも議論された「肺動脈楔入圧(PAWP)の引き下げについては、現状は変更せず15mmHgの基準を維持、13~15mmHgに該当する患者については心疾患合併を考慮してほしい」と説明した。臨床的分類、第3群に変化 臨床的分類はバルセロナ分類2024を引き継ぐかたちになっている。とくに注目すべきは、第3群において機能別(閉塞性、拘束性など)で表記されていたものが、ほかの群と同様に「慢性閉塞性肺疾患(COPD)に伴うPH」「間質性肺疾患(ILD)に伴うPH」のように疾患と紐付けることでそれぞれのエビデンスが変わる点を明確化した。このほか、第1群にCa拮抗薬長期反応例、第2群に特定心筋症(肥大型心筋症または心アミロイドーシス)が追加されたことにも留意したい。初期対応/鑑別アルゴリズムを明確に 日本において、PHの症状発現から診断までに費やされる平均期間は18.0ヵ月と報告されている(PAHは20.2ヵ月、CTEPHは12.2ヵ月)。加えて、就学・就業率は罹病期間が長期化するにつれて経時的に減少することが明らかになっている1)。このような現状において、プライマリ・ケアや地域中核病院、専門医が共に患者をフォローアップしていくためには、PHの初期対応アルゴリズム(図14、p.80)と鑑別アルゴリズム(図15、p.81)の活用が大きなポイントとなる。同氏は「初期対応アルゴリズムでは医療機関や専門医の役割を明確化した。心疾患や肺疾患の評価を行うなかで医師らが相互にコンサルトすることで、CTEPHを見逃さないだけではなく、第2群や第3群の要素の評価を目指す。PHセンターへ早期に紹介すべき患者像も明確化できるようにしている」とし、「鑑別アルゴリズムについては、急性血管反応試験を実施する対象を規定したほか、PAWP 13~15mmHgやHFpEFリスクを有する患者は純粋な1群と判断しかねるため、心肺疾患をもつPAHの特徴を明記し、2群などとの鑑別を念頭に置いてもらえるようなフローを作成した」と改訂の狙いを説明した。新規PH患者も高齢化、治療前の合併症評価を 典型的なPAH患者というと若年者女性を想像するが、近年では新規診断患者の高齢化がみられ、心肺疾患合併例が増加傾向にあるという。この心肺疾患合併の有無は治療選択時の重要なポイントとなることから、まずは心肺疾患合併PAHを示唆する特徴を捉え、単なるPHではなく第3群の要素も併せ持っているか否かを判断し(図17、p.90)、その後、治療アルゴリズム(図18、p.92)に基づいた治療介入を行う。 この流れについて、「心肺疾患合併がある場合に併用療法を行ってしまうと肺水腫のような合併症リスクを伴うため、それらを回避するための手立てとして、まずは単剤での開始を考慮してほしい。決して併用療法を否定するものではない」と説明した。またPAWPが高めのPAHの分類や治療時の注意点として、「PAWPが12~18mmHgの患者は境界域として解釈に注意すべきゾーンであるため、PAWPだけで分類評価をするのではなく、病歴や画像所見、負荷試験結果などを複合的に評価してほしい」ともコメントした。 さらに、診断時/フォローアップ時のリスク層別化については、国内レジストリデータに基づいたJCSリスク層別化指標(表30、p.83)が作成されており、これにのっとり薬物治療を進めていく。低リスク・中リスクの場合にはエンドセリン受容体拮抗薬(アンブリセンタンあるいはマシテンタン)+PDE5阻害薬タダラフィルの2剤併用療法を行い(推奨クラスI)、高リスクの場合は静注/皮下注投与によるプロスタグランジン製剤(エポプロステノール、トレプロスチニル)+エンドセリン受容体拮抗薬+PDE5阻害薬の3剤併用療法を行う(推奨クラスI、エビデンスレベルB)。薬物療法開始後の注意点としては「初回治療開始後は3~4ヵ月以内に評価」「薬剤変更・追加後は6ヵ月以内に再評価」「中リスク以上の場合はカテーテル検査実施」が明記された。 なお、ガイドライン発刊後の2025年8月にアクチビンシグナル阻害薬ソタテルセプトが日本でも発売され、第1群の治療強化という位置付けで本ガイドラインにおいても推奨されている(推奨クラスIIa、エビデンスレベルB)。 このほか、CTEPHの治療について、心臓外科医らとの丁寧な協議を進めた結果、従来は手術適応の有無が最初に評価されていたが、本ガイドラインでは完全血行再建を目指すなかで肺動脈内膜摘除術(PEA)、バルーン肺動脈形成術(BPA)、あるいはハイブリッドという選択肢のなかで最適な方法を多職種チーム(MDT)で選択して治療を進めていくことが重視される。 最後に同氏は「ガイドラインの終盤には専門施設が満たすべき要素や患者指導に役立つ内容も記載しているので、ぜひご覧いただきたい」と締めくくった。

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