21.
ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。国立国際医療研究センター 国際感染症センターの忽那です。本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気を付けろッ」は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そして時にまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。第13回となる今回は「梅毒」についてです。今回の梅毒流行の特徴「梅毒」というと、江戸時代に流行した記録もあるくらいに、日本では古くからある感染症です。そんな梅毒をなぜ今さら、この「気を付けろッ」が取り上げるのかと言いますと…今再び梅毒がすさまじい勢いで日本で流行しているからなのです! 梅毒は、日本における再興感染症なのですッ!図1は梅毒の患者数の推移です。見てのとおり、2013年から症例数が増加してきています。当初流行は、東京新宿区から始まったとされていますが、新宿区の病院で働く私としては「うーん…まあときどき診るなぁ」くらいの認識でおりましたし、「きっと医師がちゃんと報告する習慣がついただけで、報告バイアスが働いているんだな」などと思っておりました。 しかし、今こそハッキリ言いましょう! 梅毒は、流行ってます!! まあ、読者の皆さまは「おまえに言われんでも知っとるわ!」と思われるでしょうが、マジで流行ってます。ここ最近の梅毒の流行状況はヤバいことになっており、当院では週に数例診るペースで受診者が訪れています。2013年くらいまでは、主にMSM(Men who has sex with Men: 男性と性交渉する男性)の方を中心に流行していましたが、今では女性にも流行が及んでおります。画像を拡大する1回の性交渉で30%が感染梅毒は言うまでもなく性交渉で感染します。1期または2期梅毒に感染している人と性交渉をすると30%くらいの確率で感染すると言われています。主な性感染症の1回の性交渉で感染する確率を表にまとめました。HIVの1回の性交渉での感染率が0.05~0.1%くらいと言われていますので、30%というと結構な確率ですよね。そんなわけで梅毒になりたくなければセックスしなければ良いわけですが、それぞれ皆さまいろんな事情があるでしょうから、そういうわけにもいかないと思います。100%ではありませんが、コンドームの装着は予防に有効です。画像を拡大する初期症状に乏しい梅毒梅毒が広がりやすい理由の1つとして、症状に気付きにくい点が挙げられます。1期梅毒の「硬性下疳」と呼ばれる潰瘍病変は、一般的に痛みを伴わず、自覚症状に乏しいため気付かないうちにパートナーに梅毒をうつしてしまうことがあります。私自身は口唇に硬性下疳ができて、口唇ヘルペスと診断されて放置していたコマーシャルセックスワーカーの方を診たことがあります(図2)。画像を拡大するこの方はオーラルセックスをなりわいとされていましたので、1日何人もの梅毒患者が誕生していたものと思われます。また、2期梅毒も症状が多彩であり、なかなか診断に至らないことがあります。梅毒の皮疹は「これは典型的な梅毒疹だッ!」というものもありますが、「えー!これ梅毒の皮疹なの?」という非典型的なものもあり、さまざまなスペクトラムがあります。図3は乾癬のような皮疹で受診した2期梅毒の方です。「なんか最近様子がおかしい」ということで、上司に受診を勧められた会社員の方は神経梅毒でした。画像を拡大するというわけで、梅毒の診断は非常に難しいのですッ! 他の性感染症(淋菌、クラミジア、B型肝炎、HIVなど)を診たときも梅毒を疑ってみましょう。「いつも心に梅毒を!」これをわれわれの座右の銘にしようではありませんかッ!話が長くなってしまったのと、とっくに原稿の締め切りを過ぎている関係上、今回はここで終わります。次回「梅毒 その2」では性交渉歴の聴き方と、梅毒の診断・治療についてお話しさせていただきます。1)国立感染症研究所.IDWR 2014年第47号<注目すべき感染症> 梅毒 2014年における報告数増加と疫学的 特徴2)Holmes KK, et al. Am J Epidemiol.1970;91:170-174.3)Platt R, et al. JAMA.1983;250:3205-3209.4)Lycke E, et al. Sex Transm Dis.1980;7:6-10.