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第211回 医師研修マッチング中間結果、都市部病院が上位独占/医師臨床研修マッチング協議会

<先週の動き>1.医師研修マッチング中間結果、都市部病院が上位独占/医師臨床研修マッチング協議会2.高齢社会対策大綱を改定、高齢者医療費の3割負担拡大を検討/政府3.臓器移植、509人が医療機関の態勢不足で手術を受けられず/厚労省4.特定機能病院の9割に改善指摘、安全管理体制強化を求める/厚労省5.病院経営の厳しさ浮き彫り、病院団体は特例的な財政支援を要請へ/四病協6.訪問看護の過剰請求にメス、厚労省が実態調査を開始/厚労省1.医師研修マッチング中間結果、都市部病院が上位独占/医師臨床研修マッチング協議会医師臨床研修マッチング協議会は、2024年度の医師臨床研修マッチングの中間結果を発表した。大学病院では、順天堂大学が最も多くの1位希望者(76人)を集め1位となり、続いて東京大学(60人)、東京医科歯科大学(56人)がそれぞれ2位、3位となった。順天堂大学は充足率も181.0%でトップ、帝京大学(117.9%)、東京慈恵会医科大学(103.1%)がこれに続き、いずれも定員を大幅に超える希望者を集めている。今年度、大学病院の1位希望者数は1,699人となり、昨年度の1,757人から58人減少し、減少傾向が続いている。大学病院の定員も減少しており、2021年度の3,715人から2024年度は3,467人となった。特筆すべきは、兵庫医科大学が32位から5位へと大きく順位を上げたことや、帝京大学が32位から10位へ急上昇したことだ。一方で、九州大学や浜松医科大学など、順位を大幅に下げた大学もみられた。市中病院では虎の門病院が1位希望者数で首位を獲得し、充足率は390.5%に達した。2位は川崎市立川崎病院、3位は市立豊中病院で、都市部に位置する病院が上位を占めた。とくに東京都立広尾病院は募集定員6人に対して45人が希望し、充足率750.0%で圧倒的な人気を誇った。この結果は、都市部の市中病院の人気が根強いことを示しており、医師志望者の関心がますます都市に集中していることがうかがえる。参考1)2024年度 医師臨床研修マッチング 中間公表(医師臨床研修マッチング協議会)2)【医師臨床研修マッチング2024】中間結果ランキング マッチング中間、大学病院は順天堂が1番人気に(日経メディカル)2.高齢社会対策大綱を改定、高齢者医療費の3割負担拡大を検討/政府政府は2024年9月13日、新たな「高齢社会対策大綱」を閣議決定し、75歳以上の高齢者の医療費負担拡大を検討する方針を示した。現行の制度では、75歳以上の高齢者の窓口負担は原則1割、一定の所得がある場合は2割、そして「現役並みの所得」がある場合は3割とされている。今回の大綱改定では、この「現役並み所得者」の3割負担対象を拡大し、社会保障制度の持続を図る狙いがある。高齢者の医療費は急増しており、政府はその抑制に向けて制度改革を進めている。すでに2023年末に決定された「社会保障改革工程表」にも、2028年度までにこの対象範囲の見直しを含めた議論を行う方針が明記されている。また、大綱では、年齢にかかわらず、能力に応じて社会を支える「全世代型社会保障」を目指す考えが示されている。高齢者が支えられるだけでなく、状況に応じて支える側にも回る社会を築くことを目指す。高齢者の就業促進も大綱に盛り込まれ、2029年までに65歳以上の就業率を大幅に引き上げる目標が掲げられている。現行の65~69歳の就業率は52%だが、2029年には57%まで高める方針。また、60~64歳の就業率も現在の74%から79%に引き上げることが目標とされている。これにより、少子化による労働力不足や経済規模の縮小への対応を図り、同時に高齢者の社会保障費負担を抑制しようとしている。一方で、認知症や孤立した高齢者に対する支援体制の強化も大綱では重視している。身寄りのない高齢者や単身世帯が増える中、身元保証制度や地域での見守り体制の充実が求められているため、民間事業者が提供する終身サポート事業の適正運営を促し、孤立を防ぐための取り組みが進められる見込み。医療費負担の拡大により、現役世代の負担軽減を図ることが期待される一方、高齢者にはさらなる負担が求められる。政府は、高齢者が安心して暮らせる社会の実現に向けて、医療や年金制度の見直しを進める方針を強調している。参考1)高齢社会対策大綱[令和6年9月13日閣議決定](内閣府)2)身寄りない人の支援 医療費3割負担の拡大検討も盛る 高齢大綱改定(朝日新聞)3)75歳医療費、負担増検討 高齢化対策指針に明記(東京新聞)4)医療費3割負担拡大「検討」 高齢社会大綱6年ぶり改定(日経新聞)3.臓器移植、509人が医療機関の態勢不足で手術を受けられず/厚労省2023年に行われた脳死者からの臓器移植で、509人の患者が医療機関の態勢が整わないことを理由に移植手術を受けられなかったことが、厚生労働省の初めての調査で明らかになった。移植を担当する医療機関の人員不足や集中治療室(ICU)の満床などが主な理由。この調査では、脳死者から提供された臓器のうち、複数の医療機関が移植を辞退したために成立しなかったケースが192件あり、心臓6件、肺25件、肝臓9件、膵臓45件、腎臓8件、小腸99件の移植ができなかった。辞退の理由として多かったのは「ドナーの医学的な理由」(2,195人)、「体格・年齢差」(573人)、院内態勢の不備(509人)が挙げられた。臓器移植を希望する患者が、医療機関を複数登録できるようにするなど、移植辞退を減らすための新たな仕組みも検討されている。移植希望者が手術を受けられなかった問題を受け、厚労省は今後、医療機関の受け入れ体制を強化する方針。日本臓器移植ネットワークによると、国内の移植待機期間は心臓で平均3年半、腎臓では14年9ヵ月と長期化している。臓器提供数を増やす取り組みが進められる一方で、医療機関の対応力不足が移植の実施を阻んでいる現状が浮き彫りとなった。参考1)臓器移植断念2023年に25施設、人員・病床不足が理由…厚労省が初の調査結果発表(読売新聞)2)臓器移植 去年509人が手術を希望するも不成立 医療機関の態勢整わず 厚労省が初調査(テレビ朝日)3)臓器移植、延べ3,706人の手術見送り 受け入れ態勢整わず 厚労省(毎日新聞)4)脳死からの提供臓器、2割が移植辞退 医学的理由や院内体制など理由(朝日新聞)4.特定機能病院の9割に改善指摘、安全管理体制強化を求める/厚労省厚生労働省は、2023年度に全88の特定機能病院に対して行った立入検査の結果、77病院に「医薬品や医療機器の安全管理体制」や「事故報告書の作成・提出」などに関して若干の改善が必要であることがわかった。9月20日に公表された報告によれば、指摘を受けた病院では、今後の改善状況については、次年度の立入検査で確認される予定。特定機能病院は国内最高水準の医療を提供する施設であるが、過去に発生した医療事故を受け、医療安全管理体制の強化が進められてきた。2023年度の立入検査では、88病院中77病院(87.5%)において改善指摘が行われ、とくに「医薬品、医療機器の安全管理体制の確保」に関する指摘が多くみられた。指摘は主に口頭で行われ、書面で「検討を要する事項」として通知された病院は6件に止まった。特定機能病院は重要な役割を担う施設であるため、多くの病院で医療安全管理の徹底や院内感染対策の強化が求められている。そのため医療法に基づく検査では、施設の安全基準や適切な人員配置が確認され、問題がある場合は翌年度の立入検査で改善状況がチェックされる仕組みとなっている。2023年度の検査では。新型コロナウイルス感染症の影響で一時的に縮小されていたが、24年度は通常通り全施設に対して実施された。今回の検査結果を受けて、医療機関はさらなる安全管理体制の強化に向けた取り組みが求められており、特定機能病院の質の向上が期待されている。参考1)特定機能病院に対する立入検査結果について(令和5年度)(厚労省)2)すべての特定機能病院で立入検査実施、「医薬品、医療機器の安全管理体制」や「事故等報告書の作成・提出」に若干の問題あり-厚労省(Gem Med)3)特定機能病院の9割弱に指摘事項、立ち入り検査で「不適切な事項」は該当なし 23年度(CB news)5.病院経営の厳しさ浮き彫り、病院団体は特例的な財政支援を要請へ/四病協四病院団体協議会は2024年9月25日に開催された総合部会で、深刻な経営不振に陥っている病院への特例的な財政支援を国に求める方針を発表した。日本病院会の相澤 孝夫会長は、病院経営定期調査の中間報告を基に、病院の収益減少とコスト増加による減収減益が顕著であり、とくに建築費の高騰により改修や設備投資が困難な状況にあることを指摘した。調査によれば、2024年6月時点で病院の医業収益は前年同月比で減少しており、医業費用は増加、結果として多くの病院が赤字となっている。経常赤字病院の割合は、2023年度の約22.7%から2024年度には51.0%と大幅に増加した。また、診療報酬改定やコロナ関連の補助金減少が収益減少に拍車をかけ、給与費や物価の上昇によりさらなるコスト増が経営を圧迫している。この状況を受け、記者会見で相澤会長は「このままでは来年にはさらに厳しい状況が予測され、地域医療が立ち行かなくなる恐れがある」として、2024年度中の診療報酬改定も含めた支援策を求めた。11月には調査結果の最終報告を国に提出し、財政支援の要望を行う方針。また、9月27日に総務省が発表した2023年度の地方公営企業等決算では、全国681の病院事業は2,055億円の赤字を計上し、4年ぶりに赤字に転落したことが明らかになっており、新型コロナウイルス感染症関連の補助金が減少し、人件費や薬剤費の高騰が大きな影響を与えていることがうかがえた。これにより累積欠損金が1兆6,974億円に達するなど、地域医療の維持のためには、政府に早急な対応が必要となってきている。参考1)四病協、中間年改定含む財政支援要請へ 日病相澤氏「病院は深刻な経営不振」(CB news)2)病院経営は減収・減益の危機的な状況、期中の診療報酬対応も含めた病院経営支援を国に強く要請へ-四病協(Gem Med)3)2024年度 病院経営定期調査-中間報告-(3病院団体)4)公立病院事業4年ぶり赤字 2023年度、コロナ補助金減少や人件費高騰影響(産経新聞)5)令和5年度地方公営企業等決算の概要(総務省)6.訪問看護の過剰請求にメス、厚労省が実態調査を開始/厚労省精神科訪問看護において一部の事業者が患者の状態に関係なく訪問回数を増やし、診療報酬を不適切に請求している問題を受け、厚生労働省は実態調査を行い、仕組みを見直す方針を固めた。訪問看護サービス最大手の「ファーストナース」などが不正な運用をしていると指摘されており、同社の訪問看護ステーションでは患者の必要度にかかわらず週3回の訪問を指示し、利益確保を優先していたことが明らかになった。厚労省は、2024年度に科学研究費を活用し、訪問看護の実態を把握する特別調査を実施する予定。訪問看護の役割や訪問回数の適正化、連携体制などを詳細に調査し、2026年度の診療報酬改定に反映させる考えだ。過剰な訪問を是正し、適切な支援を行うための新しい基準が検討される一方で、真面目に運営している事業者が評価される仕組みも求められている。ファーストナースの内部資料や元社員の証言によると、経営陣は売上増加を最優先とし、訪問回数や時間を操作して診療報酬を最大限に引き出すよう指示していた。また、社員には「ロレックスキャンペーン」など高額報酬を餌に、売上増を奨励していたという。今後、厚労省は、調査結果を基に訪問看護ステーションの基準を見直し、報酬体系の適正化を図る予定。過剰請求の是正と同時に、利用者の状態に応じた適切な支援が評価される仕組みが期待される。参考1)精神科の訪問看護、見直しへ 過剰請求受け、厚労省が実態調査(東京新聞)2)精神科訪問看護 見直し方針に期待と要望「良質な事業者評価を」(山陰中央新報)3)「ロレックスぐらいは買える!!」精神科の訪問看護最大手が社内LINEでハッパをかけた「売り上げ最大化」(共同通信)

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第230回 迫る自民党総裁選、立候補者の言い分は?(後編)

自民党総裁選は本日、ついに投開票が行われ、新総裁が決定する。与党の自民党と公明党が衆参両院の過半数を占めている現状では、当然ながら自民党総裁=日本国総理大臣となる。巷の報道では、議員票や党員・党友票、都道府県連票の票読みが行われているが、今回は上位2人による決選投票が確実視されているだけに、その段階で一気に票読みの困難度が増す。とりわけ自民党の総裁選は過去から権謀術数が渦巻く世界だ。現在の推薦人制による立候補となった1972年以降、決選投票となったのは3回。初めての決選投票は、1972年の田中 角栄氏vs. 福田 赳夫氏。第1回投票では第1位の田中氏と第2位の福田氏はわずか6票差だったが、決選投票では票差が92票まで開き、田中氏が総裁に選出された。残る2回のうち1回は2012年。この時は党員・党友票の過半数を獲得した石破 茂氏が1回目で安倍 晋三氏に58票もの差をつけて1位となったが、決選投票では逆に安倍氏が石破氏を19票上回り、逆転で総裁となった。ちなみに1972年以前の自民党でも決選投票が2回あり、1956年の初の決選投票では同じく1回目の1位、2位の逆転が起きた。この時勝利したのは石橋 湛山氏、逆転負けを帰したのは“昭和の妖怪”の異名を持つ安倍氏の祖父・岸 信介氏である。最も直近の決選投票は前回2021年の総裁選で1位の岸田 文雄氏と2位の河野 太郎氏の1回目の票差はわずか1票。これが決選投票では87票差となり、岸田氏が勝利した。このように概観するだけでも自民党総裁選は魔物である。さて誰が当選するのか? 前回紹介しきれなかった自民党総裁選候補者(五十音順)である小林 鷹之氏、高市 早苗氏、林 芳正氏、茂木 敏充氏の社会保障、医療・介護政策を独断と偏見の評価も交えながら紹介する。小林氏(千葉2区)今回、真っ先に出馬表明した小林氏だが、閣僚経験があるとはいえ、最も世間的には知名度が低かったのではないだろうか? 小林氏は東大法学部卒業後、旧大蔵省に入省。2010年に退官し、自民党の候補者公募に応募して2012年の衆議院で初当選して現在に至っている。大蔵省・財務省在籍中にはハーバード大学ケネディ行政大学院に留学し、公共政策学修士号を取得している。小林氏の特設ページでは、「世界をリードする国へ」をキャッチフレーズに掲げている。政策については直ちに取り組む3本柱とこれも含めたより詳細な7項目ごとの政策を披露している。前者では“02.暮らしを明るく:中間層「ど真ん中」の所得向上を実現”として以下の2点を挙げている。地方や若者も多く従事する介護・看護・保育従事者の賃上げ(「物価を超える処遇改善ルール」導入)。若年層の保険料負担軽減を図る「第3の道」の具体化。「社会保障未来会議(仮称)」立ち上げ。介護関係者などの賃上げは、ほかの候補者も挙げているが「物価を超える処遇改善ルール」とより具体的なのは小林氏だけである。もっとも現在の物価高騰を考えれば、介護報酬改定などでは相当な引き上げが必要になる。後者については小林氏の特設ページの7項目のうちの「V. 教育・こども・社会保障」では以下のように記述している(下線は筆者によるもの)。「社会保障未来会議(仮称)では、(1)データに基づく人的物的資源の適正配分、(2)ロボット、AI、アプリ等による健康管理、(3)健診・予防・リハビリ・フレイル対策・軽度認知症対策などの「健康づくり」とその行動や成果へのインセンティブ付与、(4)DX による効果的・効率的なサービスの提供を通じた費用の抑制に資する取組、などを通した医療・介護需要の低減を進めます。あらゆるアイデアをすべて俎上に載せ、国民の皆様とともに広く社会保障制度を考え、方向性を共有して、新たな時代の社会保障制度を作り上げます」DX(Digital Transformation)、EBPM(Evidence based policy making、エビデンスに基づく政策立案)、PHR(Personal Health Record)などを通じて、まずは需要そのものを適正化したいということらしい。もっとも日本記者クラブの候補者討論会では、「若い世代の社会保険料の軽減を主張していますが、財源はどこにあるんですか。結局、一定以上の所得・資産のある高齢者に負担を求める、かなり抵抗が強い方向になると思いますが、そういった覚悟はありますか」と問われたのに対し、前述の社会保障未来会議の説明を平たく語っただけでスルーしてしまっている。高齢者の負担増に関しては今の時点で単にかわしたか、あるいは念頭にあるからこそ敢えてかわしたかのどちらかではないだろうか? (ちなみに私は高齢者の負担増に反対ではない)この項では、ほかに以下のような政策を列挙している。家族等にとって大きな不安の源となる現役世代の怪我や疾病に対しサポート体制を築き、医療サービスの面からも現役世代を支えます。また、DXやイノベーションを通じ、健康医療分野でも世界をリードします。医師の地域偏在と診療科偏在を是正し医療へのアクセスを確保していきます。また、公的サービスの安定供給を前提に、医療法人等の経営改革も進めます。医療・介護・障害福祉等の人材確保を進めます。地域特性に応じた地域包括ケア体制を確立し、住み慣れた場所で生き生きと暮らせる社会の実現を目指します。あらゆるがん対策や研究支援を分野横断で進めると共に、腎疾患、アレルギー疾患等の重症化予防、移植手術の利用推進等に努めます。このなかで個人的に注目したのは2番目である。「医師・診療科の偏在是正」「医療法人等の改革」は若さゆえに繰り出せるパワーワードだろうか? これに手を突っ込めば、医療界、とりわけ日本医師会からの最強度の抵抗を受けることを小林氏は承知して言っているのか定かではない。むしろ、具体的にこれらをどのように実現したいかの詳細があれば、ぜひ聞いてみたいものである。また、これらとは別に「II.経済」では“創薬産業の競争力強化”を掲げ、そこでは「官民の連携を強化し、創薬のエコシステムと政府の司令塔機能を強化します。医療・介護分野のヘルスケアスタートアップを大胆に支援します。『ゲノミクスジャパン』を早期に構築し、ゲノム医療で世界と伍する創薬産業にします」と記述している。これについては7月30日に岸田首相の肝入りで開催された「創薬エコシステムサミット」に酷似した政策である。同サミットは医薬品産業を成長産業と位置付け、必要な予算を確保し、国内外から優れた人材や資金を集結させることで、日本を世界の人々に貢献できる『創薬の地』としていくというものだ。政策の大枠について異論はないが、現行では国際レベルと大きく差が開いた日本の創薬力を引き上げるのは容易ではない。また、コロナ禍中に開催された2020年4月3日の衆議院厚生労働委員会での小林氏の質疑を読むと、新型コロナウイルス感染症のワクチン、治療薬の国産を強く促しているが、失礼ながら製薬業界の現在地に対する理解はやや甘いようである。高市氏(奈良2区)意外と知られていないようだが、高市氏はもともと野党出身の政治家である。神戸大学経営学部経営学科卒業後、松下政経塾に入塾し、その資金提供を受けて米・民主党下院議員のもとで研修を積み、帰国後は日本経済短期大学(後の亜細亜大学短期大学部)助手に就任するとともに、テレビ朝日、フジテレビの番組でキャスターを務めた。テレビ朝日の番組では立憲民主党の前参院議員の蓮舫氏、フジテレビでは日本維新の会の参院議員の石井 苗子氏も同じ番組のキャスターだったのは、今となればなんと因果な巡り合わせかと思う。1992年の参院選・奈良県選挙区で自民党に公認申請をするも公認は得られず、無所属で出馬して落選。翌1993年には中選挙区時代の衆院選奈良全県区から再び無所属で出馬して初当選した。高市氏の当選時は折しも自民党が下野し、細川 護熙政権が発足した時期である。その後高市氏は、自民党を離党した柿澤弘治氏らが結党した自由党に参加。さらに非自民の自由改革連合(代表:海部 俊樹元首相)、新進党を経て、96年に新進党を離党して自民党に入党している。これまで衆院選は9選しているが、自民党入党以降は小選挙区で2度落選している(うち1度は比例復活)。さて安倍 晋三氏の秘蔵っ子とも言われるほど、自民党内でも保守色の強い政治家として知られる高市氏だが、特設サイトでは「日本列島を、強く豊かに。」とのスローガンを掲げている。このスローガンの下、総合的な国力を強化するための6項目のポリシーを掲げており、全体として経済、安全保障に関する高市氏の思考が背骨となっている印象だ。このため社会保障、医療・介護に関する政策もいくつかの項目に散らばっている。政策集を読むと、明らかにもっとも注力しているのは、ポリシー01の「大胆な『危機管理投資』と『成長投資』で、『安全・安心』の確保と『強い経済』を実現。」である。端的に言うと、積極的な財政出動で経済浮揚を図るという考え。そもそもご本人は昨今の日本銀行による利上げを「アホやと思う」とまでこき落としているほど積極財政論者である。そしてポリシー01では、さらに6つの詳細プランを提唱。プラン05の「健康医療安全保障の構築」では、以下のような政策が箇条書きで示されている。国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が実施している「革新的がん医療実用化研究事業」「スマートバイオ創薬等研究支援事業」「医療機器開発推進研究事業」を促進します。AMEDが支援してきたiPS細胞由来の心筋細胞移植の臨床試験が大きく前進しました。「再生・細胞医療、遺伝子治療分野」における研究開発を推進し、その成果を早期に患者の皆様にお届けできるよう、取り組んでまいります。今後のパンデミックに備えるべき「重点感染症」の見直しと医薬品等の対応手段確保のための研究開発支援、有事において大規模臨床試験を実施できる体制の構築、緊急承認については新たな感染症発生時の薬事承認プロセスの迅速化に資する準備を進めます。CBRNEテロ(化学・生物・核・放射線兵器や爆発物を用いたテロ)の対策を検討する専門家組織を創設します。テロに悪用された微生物・化学物質などの特定と拮抗薬やターニケット(止血用の緊縛バンド)の使用が迅速に行われる体制の構築方法を検討します。「国民皆歯科健診」の完全実施に加え、PHRの活用と、「予防医療」や「未病」の取組へのインセンティブを組み込んだ制度設計を検討します。また、プラン06「成長投資の強化」では“工業製品、環境、エネルギー、食料、健康・医療など適用分野が広く、経済安全保障の強化にもつながる『バイオ分野の事業化・普及』に向けた取組を促進します”と謳っている。概観すると、成長が見込めそうな分野への財政出動を通じた徹底投資とそれに伴う製品の国産強化という方針だ。実はこの政策を列挙する前に「ワクチンや医薬品の開発・生産は、海外情勢に左右されてはならず、安全保障に関わる課題です。原材料・生産ノウハウ・人材を国内で完結できる体制を構築します」との基本的考えを示している。この辺は高市氏の保守色の強さを如実に表している。現在、世界水準からはかなり立ち遅れつつある創薬・バイオを安全保障の観点から捉えて強化する方針そのものに異論はない。むしろ日本に欠けているのは、安全保障の観点である。ただ、創薬・バイオは消費・貢献対象の多くが民生分野であり、安全保障視点が過度だと、逆に産業発展を阻害する面もある。また、コロナ禍での国政選挙の際の各政党の政策でも批判してきたことだが、創薬・バイオ技術のグローバル化が進展する今、国産にこだわり過ぎれば、国内での技術開発や社会還元はスピーディーさを欠く結果となる。ポリシー02「『全世代の安心感』を、日本の活力に。」で掲げているのは以下。私は、生涯にわたってホルモンバランス変化の影響を受けやすい女性の健康をサポートする施策の検討に平成25年に着手し、ようやく令和6年度新規事業として「『女性の健康』ナショナルセンター機能の構築」が開始されました。女性特有の疾患や不調について、予防・病態解明・治療・社会啓発の取組を推進します。人手不足の中でも就労時間調整の一因となっている「年収の壁」と「在職老齢年金制度」を大胆に見直し、「働く意欲を阻害しない制度」へと改革します。高齢者だけではなく、現役世代も将来に年金を受け取ることを踏まえ、年金に対する課税の見直しを検討します。物価が上昇する中で年金の手取りが減らないよう、公的年金等控除額の拡大を提案します。国民年金受給額と生活保護受給額の逆転現象を解消するため、低年金と生活保護の問題を一体的に捉えた新たな制度の在り方を検討します。ここに見える年金政策では、既存の制度内で負担と給付のバランスを取るというよりは、給付の拡充とそれによる消費拡大のほうに重点を置いているようだ。その意味で、高市氏は社会保障制度改革も経済政策の一環として捉える思考がほかの候補と比べても極度に強い「経済バカ一代」のような印象である。林氏(山口3区)旧大蔵相・旧厚生相を務めた林 義郎氏の長男。祖父・高祖父も衆院議員歴がある政治一家育ち。東大法学部卒業後、三井物産、サンデン交通(林家のファミリー企業)、山口合同ガスを経てハーバード大学ケネディ・スクールに入学、米・下院議員のスタッフや米・上院議員のアシスタントを経験した。父・義郎氏の大蔵相就任に伴い大学院を休学して帰国し、大臣秘書官を務めた(後に復学、修了した)。1995年の参院選で自民党公認として山口県選挙区で初当選し、同選挙区で連続5回当選。2021年の衆院選で鞍替えして当選。衆院議員としてはまだ1期目である。特設サイトでは「人にやさしい政治。」のキャッチフレーズの下で3つの安心を掲げる。このうちの1つ「底上げによる格差是正と、生活環境の改善・地域活性化を通じた、少子化対策」として「医療・介護DXの推進や医療・介護・福祉人材の処遇改善、医薬品の安定供給、医師の偏在是正、大学病院の派遣機能強化、歯科保健医療提供体制の構築、看護師確保対策などを推進します」と謳っている。概ねほかの候補と共通する政策だが、石破氏と同じく数少ない医薬品安定供給を掲げているほか、林氏の政策にのみ見られるのが「大学病院の派遣機能強化」である。もっとも後者に関して、そのためにどのようにするのかはわからない。また、日本記者クラブでの討論会では、林氏が出馬表明時にマイナ保険証に関して「皆さん納得の上でスムーズに移行してもらうための必要な検討をしたい」と述べたことの意味を問われた。以下は林氏の回答の要約である。林氏廃止という言葉でお伝えをしていたが、実際は新しい切り替えがなくなるということ。紙の保険証は12月3日以降、次の期限までは使え、その期限後は希望すれば資格確認書が発行される。聞くところによると、(資格確認証は)今の保険証とほぼ同じようなものであるとのことなので、私は廃止と言わずに新規発行がなくなることを丁寧に説明するだけで、かなりの不安は解消するのではないかと思っている。いや果たしてそうだろうか? デジタル慣れしていない高齢者などはそうかもしれないだろうが、若年者でマイナ保険証を躊躇する層は、これまでに明らかになったずさんな個人情報管理を問題視しているのが多数のように感じるのだが。この辺はやや危機感に欠けている印象は拭えない。茂木氏(栃木5区)東大経済学部卒業後、丸紅、読売新聞、マッキンゼー社を経て政界入りした茂木氏。政界入り前にはハーバード大学ケネディ行政大学院に留学し、行政学修士号も取得している。以前の立憲民主党代表選の時も触れたが、政界入りは政治改革を掲げた元熊本県知事の細川 護熙氏が立ち上げた日本新党を通じてであり、この時の当選同期が今回の立憲民主党代表に選出された元首相の野田 佳彦氏、野田氏と同代表選で決選投票を戦った枝野 幸男氏である(ほかに日本新党の当選同期は東京都知事の小池 百合子氏、名古屋市長の河村 たかし氏など)。日本新党が解党して新進党に合流した時に無所属となり、その後、自民党に入党して現在に至る。世間的には必ずしも知名度は高くないが、閣僚経験数は実は石破氏や高市氏よりも多い(もっともその多くは内閣府特命担当大臣ではあるが)。今回は「経済再生を、実行へ」をキャッチフレーズに掲げ、その下で6つの実行プランを掲げている。特設サイトを見ると、実行プラン3として「『人生100年時代』の社会保障改革 年齢ではなく経済力に応じた公平な負担へ」を謳っている。茂木氏の各実行プランは「何をする?」「具体的にどうする」の順で目指す政策の概念と具体的な施策を開示している点が特徴だ。実行プラン3の「何をする?」では、デジタル化で個々人の立場に応じた負担と給付へ。“余力のある人には払ってもらい、困難な人への負担軽減と支援拡大”。あらゆる世代が活躍し、生きがいを実感できる社会へ」とし、「具体的にどうする」では以下の3項目を列挙している。社会保障分野にデジタルを完全導入。“標準世帯”から“個々人のデータ”に基づく、負担と給付へ(標準報酬月額の上限も見直し)。在職老齢年金制度の見直しによる中高年層の労働意欲向上。給付手段の簡素化(スマホ搭載のマイナンバーカードにキャッシュレス決済機能を付与し、ここへの給付を可能に)。要はデジタル化で国民個々人の所得状況をガラス張りにし、そのデータを基に応分の負担を求めるということ。カッコ内でさらりと標準報酬月額上限の見直しに触れているが、前段で「余力のある人には払ってもらい」と書いている以上、上限見直しとは上限の引き下げ、すなわち高額所得者や高齢者を中心に保険料負担の引き上げを想定していると思われる。同時に年金の見直しの「中高年層の労働意欲向上」も聞こえを良くしただけで、素直に解釈すれば、給付開始年齢の引き上げや給付水準の引き下げで“労働意欲を持たざるを得ない”状況にするということではないだろうか?いずれにせよある程度“物は言い様”は確かだが、総理総裁を目指そうとするならば、それなりに意図していること臆せず表現する度胸も必要だと思うのだが…。さてさて9候補も紹介するとなると、なかなか骨が折れる。現時点での各社報道によると、上位3人は石破氏、小泉氏、高市氏だという。いずれにせよこの記事公開後、半日も経たずに日本の首相が決まることになる。

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第229回 迫る自民党総裁選、立候補者の言い分は?(前編)

さて前回は立憲民主党代表選挙の立候補者が掲げる社会保障、医療・介護政策を取り上げた。となれば、いま一番熱い? 自由民主党(以下、自民党)の総裁選を取り上げないわけにはいかないだろう。自民党総裁選は、1955年の結党以来、今回で45回目。ちなみに現在のような推薦人制度に基づく立候補制となったのは1972年の第12回総裁選(田中角栄が当選)以降であり、これ以降で現在まで最も立候補者が多かった時は2008年の第38回と2012年第40回の5人である。しかし、今回は9人。形式的には派閥解消後初の総裁選ということもあってか、異様な賑わい、まるで東京都知事選化である。9人の立候補者を50音順に挙げると、石破 茂氏(67)、加藤 勝信氏(68)、上川 陽子氏(71)、小泉 進次郎氏(43)、河野 太郎氏(61)、小林 鷹之氏(49)、高市 早苗氏(63)、林 芳正氏(63)、茂木 敏充氏(68)。国会議員当選回数(参院も含む)は石破氏の12回が最多、次いで茂木氏の10回、河野氏と高市氏が9回、加藤氏と上川氏が7回、林氏が6回、小泉氏が5回、小林氏が4回。ちなみにこの中で世襲議員は、石破氏、加藤氏(娘婿として)、小泉氏、河野氏、林氏で過半数を占める。立候補者全員が閣僚経験者だが、小泉氏と小林氏は経験1回である。自民党で総裁を除く最高幹部である、幹事長、総務会長、政調会長という党三役経験者は、石破氏と茂木氏がともに幹事長・政調会長、加藤氏が総務会長、高市氏が政調会長の経験者である。総裁選立候補回数は石破氏が今回で最多タイの5回(同じ5回は小泉 純一郎氏)、河野氏が3回。両者とも第12回総裁選以降導入された決選投票方式で過去3回行われた決選投票経験者である。このようにしてみると、改めて、ベテランから若手まで幅広い候補者が並んだことがわかる。ちなみに自民党自体が総裁選特設ページを設けている。「THE MATCH」とややエンタメ化を意識したページで、各候補の政策は通常の一般選挙の選挙公報を模したような紙ペラ1枚が掲載されている。ちなみにこれとは別に各候補とも自前の総裁選特設ページを開設している。当然ながら、多くの候補は自前ページのほうの内容が充実している。ということでこの自前ページを前提に、自民党の特設ページや日本記者クラブが主催した総裁選立候補者の公開討論会なども参考にしながら、恒例の各候補の社会保障、医療・介護政策を見ていき、独断と偏見の評価も加えたい。なお、あまりに候補者が多過ぎるので、2回にわけてお届けしたい。となると、2回目は総裁選投票当日になってしまうが、9人全員を一気に紹介したら1万字超となるので、ご理解いただきたい。石破氏(鳥取1区選出)まず、石破氏の略歴だが、父親の石破 二郎氏は旧建設省事務次官を経て、鳥取県知事、自民党参院議員に当選し、旧自治相などを歴任した人物。旧三井銀行を経て、父の跡を継いで自民党から政界入りした。しかし、今の若年世代は知らないかもしれないが、1993年の宮澤 喜一内閣の政治改革停滞に伴い野党が提出した内閣不信任案決議に自民党議員のまま賛成票を投じた。直後の衆院選では党公認を得られなかったものの無所属で当選。その後、自民党の下野に伴い細川連立政権入りした、自民党離党組の羽田 孜氏・小沢 一郎氏らが率いる新生党に入党した。新生党が野党各党と新進党を結成した際にもそのまま同党に参加したが、安保政策の不一致から新進党を離党し、橋本 龍太郎氏が総裁の時の自民党に復党している。私が大学4年時、宮澤政権の崩壊直前に自民党若手政治家たちを代表した石破氏が、政治改革実現を訴えるために宮澤氏の私邸を訪問し、テレビカメラに囲まれていた映像が鮮烈に記憶に残っている。さてその石破氏の特設ページでは、「5つの『守る』」をキャッチフレーズに掲げている。その中の「03 国民を守る」に“社会保障制度改革”がある。以下に列挙する。従来の家族モデルを前提とした社会保障の在り方を脱却し、多様な人生の在り方、多様な人生の選択肢を実現できる柔軟な制度設計を行います。医療DXの推進により、ビッグデータも活用しつつ、予防と自己管理を主眼とした健康維持のための医療制度を構築し、医療費を適正化するとともに、遠隔医療の拡充、医師偏在の是正、健康寿命延伸、薬価制度の見直しなどに取り組み、国民一人一人に最適な医療の実現を目指します。併せて医療人材の処遇改善、医療機関の負担軽減にも取り組みます。国民が必要とする医薬品の安定供給を実現するため医薬品の原材料の確保にも万全を期します。子ども・子育て支援に加えて、結婚・出産支援にも重点を置き、結婚、出産、育児と一貫した支援で少子化対策を拡充します。一番目と最後の少子化対策を併せて考えると、少なくとも既存概念からやや脱却したリベラルな思考のようである。石破氏というと安全保障政策でやや保守的な政策が目立つとの印象を持つ人も少なくないようだが、一応そちらの分野も取材テーマである私からすると、石破氏の安全保障政策は徹底したリアリズムである。その意味で社会保障政策でもあくまで現在の社会状況に立脚している印象である。そして医療DXは誰もが言いそうだが、私個人の注目点は薬価制度見直しと医薬品安定供給に言及している点である。ちなみに医薬品安定供給については、自民党の特設ページの簡易版公報では削除されている。その意味では、この問題の優先度は高くないということか? やや皮肉的に言えば、安定供給で問題が生じていることを「知らないわけではないよ」という意思表示と解釈できるかもしれない。とはいっても、厚生族でもないのにこの問題を認識している点が、当選回数が多く政策通と呼ばれる石破氏らしいとも言える。そのためか、ほかの候補と比較しても石破氏の公報は文字で溢れかえったビジーなオジサンパワーポイントのごとしである。その意味では、石破氏は宮澤政権の崩壊前夜のあの時とまったく変わっていないのかもしれない。加藤氏(岡山3区)加藤氏は東大卒業後に旧大蔵省入り、退官後に当時自民党衆議院議員だった加藤 六月氏の秘書となり、同氏の娘と結婚して改姓。初の国政選挙では無所属で参院選に出馬するも落選。後に自民党の衆院選比例候補となるもこれも落選し、その後、ようやく比例区で当選した。途中からは小選挙区に転じ、今に至っている。議員当選後は一貫して厚生族畑を歩み続け、省庁再編による厚生労働省発足後、最多となる3度4代、厚労相に就任した(最長在職期間は初代厚労相の坂口 力氏)。さてその特設サイトでは「ニッポン総活躍 国民の所得倍増を柱とした8つのプラン」を掲げている。この中では「プラン3 こども・教育改革」で「三つのゼロ』給食費・こども 医療費・出産費負担ゼロの実現へも掲げているが、メインは「プラン4 社会保障改革」の人生100年を“健幸”で過ごせる社会保障改革である。以下、政策内容の原文である。2040年を見据え、必要な人に必要なサービスが提供され、能力に応じて負担し支えあう新たな仕組みを構築。医療・介護のDX推進、人材の確保や処遇改善、物価に連動した薬価の見直し、創薬推進と薬の安定供給、5大がん検診・生活習慣病健診・国民皆歯科健診の推進、多職種連携による医療・介護の充実、低年金者の年金水準改善など、人生100年を健やかに暮らせる“健幸”社会を実現。医療・介護・福祉職員などのさらなる処遇改善、医療・介護DXの推進などによる医療福祉人材の確保AIを活用した診断・診療強化による医療水準の向上地域において必要な医療が受けられる地域医療構想の推進保険給付と自己負担の組み合わせ方式(保険外併用療養)の活用による最先端医療の提供物価に連動した薬価の見直し、創薬の推進と薬の安定供給5大がん検診や生活習慣病検診の無償化、プッシュ型の保健指導国民皆歯科検診の導入栄養管理・口腔ケア・リハビリを含めた多職種連携による医療・介護の充実専門的支援も含めたメンタルヘルスの充実低年金者の年金水準改善私見ではざっと見ても、さすがはたたき上げの厚生族で元厚労相である。地域医療構想、薬価制度の見直しと医薬品安定供給、栄養管理・口腔ケア・リハビリの三位一体提供などへの言及など、かなりの玄人である。そして「保険外併用療養」という用語の使い方もまた絶妙である。この言葉、混合診療と混同されがちだが、基本的に解釈の違う言葉である。若手議員あたりが勢い余って混合診療と言ってしまい、あとで医師会関係者から叱られるポイントだったりする。ただし、玄人過ぎて、党員や下手をすると国会議員にも伝わるかどうかはやや懸念点である。また、個人的には地域医療構想の推進の中身が気になる。というのも、私個人は将来の適切な医療提供のためには病院再編は避けられないと考えているからだ。しかし、この点は日本医師会の会員内でも温度差があるので、そちらと関係が深い加藤氏はどう考えているのだろうか?また、冒頭ではさらっと言及した「プラン3 こども・教育改革」の中でこどもの死を予防するための検証制度(CDR)の促進も私自身は頷いた点である。少子化対策というと、すぐ「産めよ、増やせよ」になるが、まず今を生きている子供が不慮の死を迎えないよう予防措置を推進することも少子化対策ではないかと思っているからだ。実はこの視点が多くの政治家に欠けている。上川氏(静岡1区)今回の候補で最年長の上川氏。東大卒業後に三菱総合研究所研究員を経て、ハーバード大学で政治行政学修士号を取得。米・上院の民主党マックス・ボーカス議員の政策スタッフを務めた。1996年の衆院選に静岡1区から無所属で出馬して落選。その後、自民党に入党するも、2000年の衆院選では自民党公認が得られず、再度無所属で同区から出馬して初当選した。自民党公認候補がいながらの出馬強行と、その当選で自民党公認が落選したことで自民党を除名。2001年に復党した。上川氏の特設ページに掲げられたキャッチフレーズは「一緒に創りませんか 日本の新しい景色」と何ともほんわかとしている。関連する政策は『7つの政策の柱』の筆頭の「1. 新しい経済の景色を創りましょう!」で、成長産業の育成として7分野を挙げ、この中にバイオ、ヘルスケアを含んでいる。上川氏はこうした産業育成に向け、”『令和版産業構造ビジョン』を策定し、科学技術イノベーションと社会実装を飛躍させます“と宣言している。社会保障制度そのものについては「3. “誰一人取り残さない社会”の景色を創りましょう!」と題する項目で健康長寿日本への社会保障として以下の2点を掲げている。「令和の財政強靭化」を通じて、 国民皆保険制度、年金制度を堅持しますヘルスケアサービスを推進するほか、病に至る前の予防・健康増進、自立支援を強化し、「健康寿命」を延伸しますちなみに「令和の財政強靭化」とは、経済政策の中で言及しており、“世界・金融市場の信認を維持しながら、しなやかで力強く成長する『令和の財政強靭化』に乗り出します”との記述がある。なんともふわっとした「強靭化」である。日本記者クラブの公開討論会では「(社会保障制度が)持続可能になるためには、給付と負担の関係の見直しということは極めて重要であると認識をしております」と発言しているが、給付削減に重点を置くのか、負担増に重点を置くのか、給付削減と負担増を等分で行うのかは不明である。外交畑が得意とはいえ、衆院厚生労働委員会委員長の経験者でもあるので、もっと分厚い政策が欲しかったところである。小泉氏(神奈川11区)もはや説明も不要なほど、今回の総裁選の台風の目である小泉氏。変人とまで称された元首相・小泉 純一郎氏の次男である。関東学院大学卒業後、米コロンビア大学大学院に進学し、政治学修士号を取得。その後は米国戦略国際問題研究所(CSIS)研究員、純一郎氏の私設秘書を経て、2008年に純一郎氏の引退を受けてその地盤を引き継ぎ初当選し、今に至る。さて小泉氏の特設サイトで掲げるのは「決着 新時代の扉をあける」とのキャッチフレーズ。社会保障関連で掲げる政策は、自民党の特設サイトの公報、本人の特設サイト、出馬会見全文のいずれでも「社会保障」「医療」「介護」という言葉はゼロである。正直、目を疑って何度も読み返したがゼロである。大事な事なのでもう1度言うと、ゼロである。ちなみに前述の公開討論会では、進行の都合などもあるだろうが、やはり何も言及していない。新たに開設された本人のYouTubeチャンネルにアップされている街頭演説2本でも同様。いやいや、ライドシェア解禁よりもはるかに国民生活にとって重要なテーマではないだろうか?「若さ」「改革」という言葉が並び、加えてイケメンだと、こうも有利に事が運ぶのかと感心しきりである。河野氏(神奈川15区)河野氏は自民党総裁を務めながら首相にはなれなかった河野 洋平氏の長男。父・洋平氏は若き頃、ロッキード事件に失望して自民党を離党。新自由クラブを組織し、一時自民党が衆院で過半数割れになった時に同クラブとして連立を組むなどして政界のキャスティングボードを握ったが、後に自民党に復党している。河野氏自身は日本で大学を中退して渡米。米・ジョージタウン大学に進学して在学中は米・民主党の大統領選にボランティアで参加したり、交換留学生として共産圏時代のポーランドに渡るなど、どちらかというとリベラル思考である。大学を卒業して帰国後は富士ゼロックス(現・富士フイルムビジネスイノベーション)、日本端子(洋平氏が大株主、現社長は河野氏の弟)を経て、1996年の小選挙区比例代表制が初めて導入された衆院選で、洋平氏の選挙区が分割されたことを受けて出馬。ここで当選し、今に至る。河野氏の特設サイトで掲げられているキャッチフレーズは「有事の今こそ、河野太郎 国民と向き合う心。世界と渡り合う力」。まず、経済として「投資拡大ができる環境整備」を掲げ、“データに基づいた投資を行いやすくするために、地域におけるサービスの需要をオープンデータ化し、企業と共有しながら地域活性化につながる産業を創り出す(交通、医療・介護、教育、小売)”と産業面からの医療・介護支援を提言。さらに社会保障で第一に掲げているのが、「社会保険料が『現役世代の賃金課税』となっていることを改める」として、“『前期高齢者納付金』と『後期高齢者支援金』が現役世代に重くのしかかっていることを考慮して、応能負担の観点から世代間移転のあり方を検討する”としている。ここから察するに高齢世代に応分負担を求めて行く考えであろうことが想像できる。この問題は従来から各種審議会などでも指摘されていることで、最終的には政治決断でやるかやらないかだけの問題とも言えるかもしれない。これ以外では以下のようになる。社会課題が集中する厚労省を厚生と労働に分割し、それぞれ専任の大臣を設置する電子カルテ、電子処方箋の推進や、福祉施設の業務効率化など、医療・介護DXを更に進めることで、人手不足の中でも活力ある健康長寿社会を実現する医師確保計画の深化、医師の確保・育成、実効的な医師配置により、日本中どこでも確実に医療を受けられるようにする皆保険を維持しながら医療の高度化に対応するため民間医療保険を活用する心臓死からの臓器移植を増やす一番目の厚労省分割は、当時の省庁再編時に会社員記者として旧厚生省に出入りしていた立場として、なかば結論ありきで進められた雰囲気がありありだったと体感している。厚生行政と労働行政は、関連はあっても完全に別物であり、1つのゲージに犬と猫を同居させるやや無理ゲーのようなもの。また、厚生行政は国会会期中の対応が突出して多く、明らかに業務過多であり、私個人も分割して人員を強化すべきという立場である。医療DXは、ほかの候補よりもやや具体的だが、基本的に現在の施策のスピードアップ化と解釈できる。この辺に関連し、例のマイナ保険証推進での河野氏に役割について、日本記者クラブ主催の討論会では、記者との間でやや尖ったやり取りがあった。以下に引用する。 記者 突破力があるということでは、もうこれは自他共に認めるところでありましょう。ただマイナ保険証に一本化することを唐突に表明されたり、それから防衛大臣時代にイージス・アショアの問題で配備の中止をアメリカとまったく調整しないまま打ち出したりで、これに対していろんなご意見があります。突破力があるというばっかりに、悪い言い方をすると、自分を誇示すること、あまり異なる意見に耳を傾けないというそういう感じがあるんではないかという具合に思われている。このことについてどうお考えですか。河野氏(イージス・アショアについては省略)マイナ保険証についても、これは当時の厚労大臣、総務大臣、あるいは官房長官と調整をして、最終的に総理のご了解をいただいて、こういうふうにやっていこうということにしたわけでございますから、私が何か誇示をするというよりは、一番批判を浴びやすいところを私が記者会見などで受持ってお話を申し上げてきたというのが正しいところだと思います。またまた河野氏らしい受け答えではあるが、通称ブロック太郎と呼ばれるX(旧Twitter)でのブロック姿勢を眺め、若干やり過ぎと考えている私としては、これに通じる印象、どちらかというと質問した記者と同様の印象を受けてしまう。さて医師確保と民間医療保険の活用は既得権益の抵抗大は必至。とはいえ、ここはもっとも河野氏らしいと言える。詳細な考えはこの中では述べられていないが、もし総理になったら、どのような中身でどう進めるか? を間違うと、政権崩壊に繋がる危険性のある事案である。最後の心臓死からの移植増は、今回の河野氏の政策のなかで、正直、私がもっともナンセンスと思った点である。心臓死からの移植であれ、脳死からの移植であれ、提供はあくまで亡くなった本人の生前の意思か家族の承諾に基づくのが現在の法令上の規定。河野氏の主張は生前意思不明の場合の家族承諾をなくすということかもしれないが、人の内心に手を突っ込むということであり、「増やす」と宣言して増やせるものでもない。とりあえず今回はここまでにしておこう。

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第210回 在宅医療の看取り件数が急増、訪問看護も利用拡大、コロナ禍で在宅ケアが進展/慈恵医大

<先週の動き>1.在宅医療の看取り件数が急増、訪問看護も利用拡大、コロナ禍で在宅ケアが進展/慈恵医大2.2025年度専攻医募集数のシーリングは継続、シーリング逃れに対策を/厚労省3.大学病院の医師、残業時間の上限緩和申請は4割に、研究時間不足が課題/全国医学部長病院長会議4.医療訴訟の発生率、東京・大阪が高く、茨城、福島、岐阜などは低め/東邦大5.働き方改革の影響で9大学病院が医師派遣の取り止めや中止を検討/全国医学部長病院長会議6.「疲労回復」謳う美容医療、治療効果にエビデンスなし、クリニックを提訴/消費者機構日本1.在宅医療の看取り件数が急増、訪問看護も利用拡大、コロナ禍で在宅ケアが進展/慈恵医大新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、在宅医療における看取りが急増したことが、東京慈恵会医科大学の青木 拓也准教授らの研究で明らかになった。調査は、2020年4月の緊急事態宣言を境に、終末期医療の利用や自宅での看取りが急増したことを示している。病院での受診控えや面会制限が影響し、在宅でのケアが選ばれるケースが増えたと考えられる。研究チームは、厚生労働省のNDBデータベースを用いて2019~2022年にかけて在宅医療サービスの利用動向を分析。訪問診療に大きな変化はみられなかったが、往診や終末期医療は増加傾向にあった。また、訪問看護の利用件数も増加しており、とくに医療保険適用型の訪問看護費が過去10年間で5.4倍に増加していることが、共同通信の分析で明らかになった。利用者数が4倍近く増加したことに加え、1人当たりの費用も1.4倍に増えたことが、費用増加の主因とされる。医療保険適用型の増加幅は介護保険適用型を大幅に上回っており、入院患者の早期在宅復帰を促す政策や、医療保険には利用限度額がないことが背景にある。訪問看護を巡っては、精神科や難病患者を対象にした診療報酬の過剰請求が指摘されており、利益を目的にした一部事業者による制度の乱用が費用増加の一因とも考えられている。財務省はこの問題を医療財政の圧迫要因として問題視しており、今後の対策が注目される。参考1)自宅でのみとり急増 緊急事態宣言境に、終末期医療も 受診控え、面会制限影響か・慈恵医大など(時事通信)2)医療保険の訪問看護費5倍 10年間、1人当たりも増加(共同通信)2.2025年度専攻医募集数のシーリングは継続、シーリング逃れに対策を/厚労省厚生労働省は、9月9日に医師専門研修部会を開き、日本専門医機構が提案した2025年度の専攻医募集に関するシーリング案を審議し、特別地域連携プログラムにおける新要件を却下する方針を決定した。この結果、2024年度と同様のシーリングを継続することになった。新要件は、医師充足率が0.7以下(小児科は0.8以下)の都道府県で医師を1年以上派遣する案だったが、地域内での医師偏在を助長する恐れがあるとの意見が相次ぎ、採用を見送った。今後、1ヵ月以内に厚生労働大臣の意見として正式に日本専門医機構に伝達する予定。一方で、「シーリング逃れ」と呼ばれる問題が引き続き指摘されている。これは、シーリング対象外のプログラムが、実際にはシーリング対象地域で長期間の研修を行う形態を指し、その実態把握と報告が求められている。また、特別地域連携プログラムに関しては、地域偏在是正の実効性を検証し、今後の改良が提案される予定。厚労省は、医師偏在是正に向けた総合的対策を2024年末までに策定する予定であり、9月5日に開いた社会保障審議会・医療部会では、医師偏在是正に向けた対策を議論し、偏在是正のために若手医師だけに負担をかけるのではなく、即戦力となる40歳以上の医師に対する施策の強化が求められている。参考1)令和7年度専攻医募集におけるシーリング案に対する厚生労働大臣からの意見案(厚労省)2)医師偏在是正に向けた総合的な対策パッケージの骨子案について(同)3)2025年度プログラム募集専攻医シーリング数(案)(日本専門医機構)4)2025年度の新専門医目指す専攻医募集、「玉突き案」は却下、「シーリング逃れ」の実態を解明-医師専門研修部会(Gem Med)5)医師偏在対策の総合パッケージ策定に向け医療部会で議論スタート「若手医師による偏在対策はもう限界」、少数区域に中堅医師の派遣求める声も(日経メディカル)3.大学病院の医師、残業時間の上限緩和申請は4割に、研究時間不足が課題/全国医学部長病院長会議9月11日に全国医学部長病院長会議は、医師の働き方改革施行後の令和6年4月の状況について、大学病院の医師の働き方改革に関するアンケート調査結果を発表した。これによると、大学病院に勤務する医師のうち、時間外労働の上限緩和を申請した医師が4割に達したことが明らかになった。これは2024年4月に導入された医師の働き方改革に伴い、年間960時間の時間外労働上限が1,860時間に引き上げられる特例措置を活用した結果で、2022年の調査時の34%から増加している。調査は全国82の大学病院を対象に行われ、約4万2,000人の医師のうち41%が特例措置を申請していることが判明した。また、医師の約56%が週平均5時間以下の研究時間しか確保できていないことが指摘され、とくに20歳代の医師では96%がこの状況にある。若手医師が診療業務に追われ、十分な研究時間が確保できていない実態が浮き彫りとなり、医療の将来に重大な影響を及ぼす可能性があると懸念されている。一方、労働時間の短縮は徐々に進んでおり、週50時間未満で勤務する医師の割合は49.6%となり、2022年の調査よりも8.1ポイント増加している。複数主治医制の導入や業務の時間内完了を進める取り組みが功を奏しているが、週60時間以上働く医師が依然として3割を超えており、とくに外科や小児科での改善が求められている。また、大学病院の給与に関しては、20歳代医師の87%、30歳代では51%が年収500万円未満であることが明らかとなり、国立病院や一般医療機関と比べて低い水準にあることが問題視されている。働き方改革を進めるためには、ICTの活用やタスクシフトの推進が求められており、診療報酬による支援が必要とされている。参考1)大学病院の医師の働き方改革に関するアンケート調査結果2)医師の残業時間、4割が上限緩和申請 大学病院団体調べ(日経新聞)3)若手医師の研究時間が少なく「医療の将来に重大な影響」 医師の働き方改革で調査(産経新聞)4)週50時間未満勤務の大学病院医師49.6% 4月時点 22年7月から8.1ポイント増(CB news)4.医療訴訟の発生率、東京、大阪が高く、茨城、福島、岐阜などは低め/東邦大学東邦大学薬学部の平賀 秀明講師らの研究グループは、最高裁判所の協力を得て2005~2021年にかけて全国の地方裁判所に提訴された医事関係訴訟の都道府県別発生率を調査した結果、発生率に地域差があることを明らかにした。今後、地域ごとの医療安全対策や医療事故後の患者応対、訴訟実務における指針として活用されることが期待される。調査によると、人口100万人当たりの医事関係訴訟発生率が全国平均(6.30件/年)と比べて有意に高い地域は東京都(12.97件/年)および大阪府(10.99件/年)。逆に、発生率が有意に低い地域は茨城県(1.77件/年)、福島県(1.93件/年)、岐阜県(2.50件/年)など12地域に及ぶ。また、医療機関1,000施設当たりや医師・歯科医師1,000人当たりの発生率においても、東京と大阪が高く、茨城、福島、岐阜などでは低い傾向がみられた。この地域差の要因については、医療機関側の過誤が少ないことや、弁護士不足による訴訟へのアクセスの違いが影響している可能性が指摘され、追加解析が進められている。今後、地域ごとの実情に応じた医療訴訟対策が求められる。この研究は、2024年7月31日に『医療の質・安全学会誌』に公開された。参考1)最高裁判所の協力を得て医事関係訴訟の都道府県別発生率を調査~発生率における地域差の存在が明らかに~(東邦大学)2)東邦大学 医事関係訴訟の都道府県別発生率に地域差 東京、大阪が高く、茨城、福島、岐阜等12地域は低い(ミクスオンライン)5.働き方改革の影響で9大学病院が医師派遣の取り止めや中止を検討/全国医学部長病院長会議2024年4月に始まった医師の働き方改革により、全国9つの大学病院が他の医療機関への医師派遣を取りやめ、または中止を検討していることが明らかになった。この調査は、全国医学部長病院長会議が82の大学病院を対象に実施したアンケート結果から判明したもので、働き方改革に伴う時間外労働の制限が影響を及ぼしている。調査結果によると、82の大学病院のうち、9つの病院が派遣中止や検討をしており、24の病院では勤務体制の見直しが進められている。具体的には、勤務間インターバルの導入などにより、医師の負担軽減を図る取り組みが行われている。一方、53の病院では現時点でとくに派遣に関する変更はないとされている。働き方改革により、医師の労働時間は減少傾向にあるが、とくに若手医師は診療業務、教授クラスの医師は研究業務に影響が出ている。若手医師の78%が診療時間の増加を感じており、教授の66%が研究時間の減少を挙げている。これにより、研究の遅れや診療体制の見直しが必要となっている。全国医学部長病院長会議の相良 博典会長は、「大学病院は地域医療にとって重要な存在であり、派遣中止が広がれば医療崩壊のリスクが高まる」と懸念を表明。今後、国に対して待遇の改善や医師確保に向けた対策を求めていく考えを示している。医師派遣の中止や制限が進むことで、地域医療に大きな影響を与える可能性があり、早急な対応が求められている。参考1)大学病院の医師の働き方改革に関するアンケート調査結果(全国医学部長病院長会議)2)全国9大学病院 ほかの医療機関への医師派遣 取りやめ 中止検討(NHK)3)医師派遣の取りやめ・中止検討、大学病院1割超で 4月時点 AJMC調査(CB news)6.「疲労回復」謳う美容医療、治療効果にエビデンスなし、クリニックを提訴/消費者機構日本特定適格消費者団体「消費者機構日本」は9月10日、東京都渋谷区のクリニック「サカイクリニック62」を相手取り、同クリニックが提供する自由診療に関するインターネット広告の表示が景品表示法における「優良誤認表示」に該当するとして、広告の停止を求める訴訟を東京地裁に起こした。クリニックは「疲労回復」や「アンチエイジング」などの効能を謳ったが、これらの効果には医学的なエビデンスがなく、厚生労働省も安全性に関する注意喚起を行っていた。提訴の対象となったのは、点滴や温熱療法など8種類の治療法に関する広告で、これらに関する効果を裏付ける客観的な医学的証拠がないことが問題視された。とくに「エクソソーム点滴療法」などの治療法は、その安全性が確認されていないとされており、消費者団体は「このままの状態が続くことが患者の利益を損なう」と指摘している。この訴訟は、医療機関による広告が景品表示法違反に問われた初のケースとなる。自由診療は保険診療とは異なり、高額で提供されることが多く、効能のエビデンスが不十分なまま提供される治療が広がっている現状がある。今回の訴訟は、こうした問題を是正し、消費者の利益を保護する狙いがある。また、訴訟に至るまでの経緯として、消費者機構日本が、4月にクリニックへ広告の削除を要請したものの、クリニック側のウェブサイトの改修対応などが遅れたこと、そして、当初「来年に改訂予定」として広告の表示を続けていたが、最終的には削除作業を進めていることを公表した。今回のケースは、自由診療分野における医療広告の規制が緩く、消費者保護が不十分であることを示しているとされ、今後も消費者機構日本は、同様の訴訟を展開し、他の医療機関に対しても適切な表示を促す姿勢を示している。参考1)再生医療・免疫療法と称する自由診療行為を行う医療社団法人サカイクリニック62(渋谷区)に対し、インターネット上の広告表示が優良誤認表示に該当するとして差止請求訴訟を提起しました(消費者機構日本)2)医療広告で「疲労回復」効能なし 消費者団体が東京・渋谷のクリニック提訴(産経新聞)3)「アンチエイジング」「睡眠の質改善」…自社サイトで優良誤認表示にあたる表現があるとしてクリニック側を提訴 原告「自由診療分野はやりたい放題」(TBS)4)「自由診療は野放しになっている」 “ネット広告”が「優良誤認表示」に該当するとして、消費者団体が医療クリニックに差し止め請求(弁護士JPニュース)

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歯周ポケットなどの歯科健診項目は嚥下機能と関連

 75歳以上の日本人高齢者を対象に、歯科健診の結果と嚥下機能との関連を調べる縦断的研究が行われた。その結果、歯周ポケットの深さが4mm以上、硬いものが噛みにくいこと、水やお茶でむせること、口が乾くことは、将来の嚥下機能低下と関連することが明らかとなった。朝日大学歯学部口腔感染医療学講座社会口腔保健学分野の岩井浩明講師、友藤孝明教授らによる研究であり、「International Journal of Environmental Research and Public Health」に5月24日掲載された。 加齢に伴う筋肉量の減少などにより、嚥下機能は低下する。また、ストレスや抑うつなどのメンタルヘルスの問題も嚥下機能低下のリスクであるとされる。口腔の健康状態に関しては、唾液の分泌、残存歯数、歯周病菌などと嚥下機能との関連が報告されている。しかし、口腔に関するどのような要因が、嚥下機能低下につながるのかは明らかになっていない。 そこで著者らは、2018年4月から2019年3月に岐阜県内の4つの市で歯科健診を受診した75歳以上の地域住民を2020年4月から2021年3月まで追跡し、歯科健診項目と2年後の嚥下機能低下との関連を検討した。歯科医師による歯科健診として、嚥下機能、残存歯数、虫歯の有無、歯周ポケットの深さなどを評価した。反復唾液嚥下試験を行い、嚥下回数が30秒間に3回未満の場合を嚥下機能低下と判定した。また、自記式質問票を用いて、硬いものが噛みにくいか、お茶や水でむせるか、口が乾くかどうかや、喫煙習慣などについても調査した。 ベースライン時に嚥下機能が低下していた人などは除き、解析対象者は3,409人(ベースライン時の平均年齢81歳、男性42%)だった。 2年後に嚥下機能低下と判定された人は429人(13%)だった。ベースライン時と比べて2年後の方が、高血圧(61%対64%)、糖尿病(35%対38%)、運動器障害(75%対78%)、要支援・要介護認定(11%対22%)を有する人の割合は有意に高く、残存歯数20本以上の人(67%対62%)の割合は有意に低かった。一方、虫歯のある人(26%対25%)、歯周ポケット4mm以上の人(66%対68%)、硬いものが噛みにくい人(24%対25%)、お茶や水でむせる人(21%対22%)、口が乾く人(30%対32%)の割合については、有意差は認められなかった。 次に、嚥下機能低下と関連する因子を多変量ロジスティック回帰により解析した。その結果、男性(オッズ比0.772、95%信頼区間0.615~0.969)、81歳以上(同1.523、1.224~1.895)、要支援・要介護認定(同1.815、1.361~2.394)、歯周ポケット4mm以上(1.469、1.163~1.856)、硬いものが噛みにくいこと(同1.439、1.145~1.808)、お茶や水でむせること(同2.543、2.025~3.193)、口が乾くこと(同1.316、1.052~1.646)が、2年後の嚥下機能低下と有意に関連していることが明らかとなった。 今回の研究結果に関して、嚥下機能が低下すると元の状態に戻ることは困難であることから、著者らは「歯科健診を通じて、嚥下機能低下を予防するための早期スクリーニングを行うこと」の重要性を指摘している。また、「嚥下機能低下と関連する因子が見つかった人には、早期の歯科的介入が必要となる可能性がある」と述べている。

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歯の喪失は心血管疾患による死亡リスクと関連

 口腔の良好な健康は、心臓の良好な健康を意味するようだ。新たなシステマティックレビューとメタアナリシスにより、歯の喪失は心血管疾患(CVD)による死亡リスクと関連しており、失った歯の本数が多いほどそのリスクは高くなる可能性のあることが明らかになった。米ケース・ウェスタン・リザーブ大学歯学部教授のAnita Aminoshariae氏らによるこの研究の詳細は、「Journal of Endodontics」に6月28日掲載された。 Aminoshariae氏は、「本研究結果は、歯の喪失が単なる歯の問題ではなく、CVDによる死亡の重大な予測因子であることを明確に示すものだ」と述べている。 歯の喪失とCVDによる死亡の関連に関する過去の研究では、一致した見解が得られていない。Aminoshariae氏らは今回、論文データベースから選び出した12件の研究を対象にシステマティックレビューとメタアナリシスを実施し、歯の喪失とCVDによる死亡リスクとの関連について検討した。歯の喪失は、全歯欠損または残存歯が10本未満の場合と定義した。 その結果、歯を喪失した人では、歯を喪失していない人に比べてCVDによる死亡リスクが66%高いことが明らかになった(ハザード比1.66、95%信頼区間1.32〜2.09)。全歯欠損か残存歯が10本未満かで分けて解析すると、全歯欠損の人ではCVDによる死亡リスクが高く、この結果は研究間で一貫していた。同様に、残存歯が10本未満の人でも同リスクは増加していたが、研究間で結果にばらつきが認められた。さらに、主な交絡因子に基づく感度分析でも、歯の喪失がCVDによる死亡のリスク因子であることが確認された(ハザード比1.52、95%信頼区間1.28〜1.80)。 こうした結果を受けてAminoshariae氏は、「マジックナンバーは10本だ。残っている歯が10本未満になると、厄介な問題が起こり得る」と話す。また同氏は、「良好な口腔衛生を維持することは、健康的な笑顔のためだけでなく、健康的な心臓のためにも不可欠だ。この研究は、重篤な心血管イベントのリスクを低下させるためには、定期的な歯科検診と予防ケアが重要であることを強調している」と述べている。

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早老症の寿命延長に寄与する治療薬ロナファルニブ発売/アンジェス

 アンジェスは、小児早老症であるハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群(HGPS)とプロセシング不全性プロジェロイド・ラミノパチー(PDPL)の治療薬であるロナファルニブ(商品名:ゾキンヴィ)の発売に伴い、都内でプレスセミナーを開催した。 HGPSとPDPLは、致死性の遺伝的早老症の希少疾病であり、若い時点から死亡率が加速度的に上昇する疾患。これらの疾患では、深刻な成長障害、強皮症に似た皮膚症状などを来す。 ロナファルニブは、2023年3月に厚生労働省により希少疾病医薬品に指定され、2024年1月に国内製造販売承認を取得、同年4月に薬価基準に収載され、同年5月27日に発売された。 プレスセミナーでは、これら疾患と治療薬の概要が講演されたほか、ムコ多糖症や脊髄性筋萎縮症などを対象に衛生検査事業を同社が開始することが発表された。全世界で200例程度の患者・患児が存在 はじめに井原 健二氏(大分大学医学部医学科長 小児科学講座 教授)が、「HGPS/PDPL:病態・疫学・歴史と未来」をテーマに、主に疾患の概要について説明を行った。 ヒトは、小児期の発育(成長・発達・成熟)と成人期の老化(衰退・退行・退縮)の各要素により一生を終える。HGPS/PDPLなどの早老症は、老化の3要素が小児期から起こる疾患であり、発症年齢から先天性、乳児型、若年/成人型に分類される。 主な徴候としては、白髪・脱毛、難聴、白内障、強皮症様の皮膚症状、脂肪異栄養症、2型糖尿病、骨粗鬆症、動脈硬化および脳血管疾患などがある。また、100以上の症候群が報告され、乳児で発症すれば乳児早老症(コケイン症候群)、成人で発症すれば成人早老症(ウェルナー症候群)と発症年代の違いにより病名も変わってくる。 中でもHGPSは、出生児400万人に1人の発症とされ、患児は全世界に140例程度と推定されている。発症要因はLMNA遺伝子の病的変異が9割で、生後1年以内に発育不全、生後1~3年で特徴的な顔貌(下顎形成不全など)と早老徴候がみられ、平均余命は14.5歳。HGPSの老化には、Lamin A遺伝子の異常スプライシングによる翻訳時の欠失が知られ、異常ラミンが細胞核の物理的損傷や染色体クロマチン構造の異常を引き起こし、これらが病的変化の原因になることが判明している。また、核ラミナの変異が原因の遺伝性疾患であるラミノパチーはイコールで早老症ではなく、筋ジストロフィーや拡張型心筋症などもあり、これらの1つに早老症があるとされる。その代表疾患がHGPSであり、PDPLであるという。PDPL患者は、全世界で50例程度と推定され、生命予後は少し長く成人期まで生きることができる。 HGPSとPDPLの診断では、診察・問診後に遺伝子検査が必須となり、その結果遺伝子変異などの態様により分類される。 臨床症状としては、HGPSを例にとると「低身長(<3パーセンタイルなど)」、「不均衡な大頭などの顔の特徴」、「乳歯の萌出・脱落遅延などの歯科所見」、「さまざまな色素沈着などの皮膚所見」、「全禿頭や眉毛の喪失などの毛髪所見」、「末節の骨溶解などの骨格筋所見」、「細く甲高い声」などの症状がみられる。これらを大症状、小症状、遺伝学的検査の3つの組み合わせで確定または推定と診断される。医療者でも小児早老症の認知度は75%程度 HGPSとPDPLの疾患啓発については、「GeneReviews日本語版」や「プロジェリアハンドブック(日本語版)」などで医療者へ行っており、今後も医療者向けに2025年の診断基準の改訂情報や検査の高度化(血漿プロジェリン測定)を発信していくという。 また、啓発活動の一環として、「小児遺伝子疾患の診療経験・学習機会について」を医師51人に調査したアンケート結果を報告した。・「医学生時代に小児遺伝子疾患について学んだか」について聞いたところ、「はい」が53%、「いいえ/覚えていない」が47%だった。・「小児遺伝子疾患である早老症を知っているか」について聞いたところ、「はい」が75%、「いいえ」が25%だった。・「早老症のうちHGPS/PDPLなどの疾患群を知っているか」を聞いたところ、「はい」が27%、「いいえ」が73%だった。・「小児遺伝子疾患の診療で困ったこと」(複数回答)では、「治療に困った」が19人、「診断に困った」が18人と回答した医師が多かった。 まだ、医療者の中でも広く知られていないHGPSとPDPLの疾患啓発は、今後も続けられる。寿命の延伸に期待されるロナフェルニブ 「HGPSの治療の実際、および治療薬の登場により何が変わるのか?」をテーマに松尾 宗明氏(佐賀大学医学部小児科学 教授)が、HGPSの治療の概要やロナファルニブ登場の意義などを説明した。 はじめに自験例としてHGPSの患児について、生後3ヵ月で皮膚の硬化を主訴に診療を受けた症例を紹介した。その後、患児はHGPSが疑われ、生後5ヵ月でアメリカでの遺伝子検査により確定診断された。以降は、対症療法が行なわれ、10歳にときに無償提供プログラムでロナファルニブ単剤が投与され、現在も存命という。 ロナファルニブの作用機序は、核膜の構造・機能を損なうファルネシル化された変異タンパク質(核の不安定化と早期老化を惹起)の蓄積を阻害することで死亡率を低下させ、生存期間を延長する。 臨床試験では、HGPSおよびPDPLを対象としたロナファルニブの観察コホート生存試験が行われ、ロナファルニブ投与被験者は未治療対照と比較して、平均生存期間が4.327年延長した(平均9.647年vs.5.320年、名目上のp<0.0001、層別log-rank検定)。また、死亡率はロナファルニブ投与群で38.7%(24/62例)、未治療対照群で59.7%(37/62例)で、ハザード比は0.28(95%信頼区間:0.154~0.521)だった。HGPSおよびPDPLでの死亡原因は、動脈硬化の進行が一番多く、治療薬の効果として血管の硬化を抑えている可能性が示唆された。 用法・用量は、通常、ロナファルニブとして開始用量115mg/m2(体表面積)を1日2回、朝夕の食事中または食直後に経口投与し、4ヵ月後に維持用量150mg/m2(体表面積)を1日2回、朝夕の食事中または食直後に経口投与する(なお、患者の状態に応じて適宜減量する)。 主な副作用では、嘔気・嘔吐、下痢などの消化器症状が多く、とくに最初の4ヵ月に多いが、次第に慣れていくという。また、肝機能障害も初期に出現しやすく、QT延長もみられる場合もある。そのほか、潜在的なリスクとして、骨髄抑制、腎機能障害、眼障害、電解質異常も散見されるので注意しつつ処方する必要がある。 松尾氏はロナファルニブの登場により、「心血管系の合併症(脳血管障害を含む)の発症抑制」、「患者QOLの向上」、「延命効果」、「国内の患者さんへの適切な診断・治療の提供」などが変化すると期待をみせた。その一方で、「外観、体格など骨格系の問題、関節拘縮などに対する効果は乏しいこと」、「心血管系に対する効果もまだ限定的であること」、「心血管系の合併症(脳血管障害を含む)の管理」、「延命に伴う新たな問題(老化進行による予期せぬ合併症)」などが今後解決すべき課題と語り、講演を終えた。

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第207回 マイコプラズマ肺炎が全国で急増、8年ぶりの大流行/感染研

<先週の動き>1.マイコプラズマ肺炎が全国で急増、8年ぶりの大流行/感染研2.「かかりつけ医機能」報告を義務付け、医療情報システム「ナビイ」/厚労省3.美容・歯科で違反広告が急増、適正化へ行政指導強化/厚労省4.ゲノム情報による就職差別を防止へ、ゲノム収集禁止を周知/厚労省5.炎症を肺がんと誤診し不要な肺摘出術、大学病院を提訴/鹿児島大6.システム不具合のため大学病院で抗がん剤を過剰投与/阪大1.マイコプラズマ肺炎が全国で急増、8年ぶりの大流行/感染研今夏、マイコプラズマ肺炎が全国的に急増しており、過去8年間で最も大きな流行が確認されている。この感染症は、発熱や長引く咳といった風邪に似た症状が特徴で、とくに子供に多くみられるが、大人の感染例も報告されている。マイコプラズマ肺炎は、潜伏期間が2~3週間と長く、症状が現れても風邪と誤認されがちであるため「歩く肺炎」とも呼ばれている。国立感染症研究所によると、8月11日までの1週間で全国の医療機関での報告数は1医療機関当たり1.14人に達し、昨年同期比で57倍の増加をみせている。専門家は、この感染急拡大の背景として、新型コロナウイルス感染症対策の緩和とともに、人々の行動が活発化し、他人との接触機会が増加したことが一因であると指摘する。また、徹底したコロナ対策により地域全体の免疫が低下し、マイコプラズマ肺炎が流行しやすくなったとも考えられている。診療現場では、抗菌薬による治療が行われているが、最近では耐性菌の増加が問題となっており、従来の抗菌薬が効かないケースも増えている。さらに、抗菌薬の供給不足が続いており、薬局間での融通が必要な状況も報告されている。帝京大学大学院教授で小児科医の高橋 謙造氏は、抗菌薬の不適切な使用を避け、本当に必要な患者に処方が行き渡るよう、医療関係者に対して注意を呼びかけている。今後、学校や職場などの集団生活の場での感染拡大が懸念されるため、基本的な感染対策であるマスク着用や手洗いの徹底が重要とされる。とくに、熱や咳の症状が続く場合は、早めに医療機関を受診し、適切な処置を受けることが推奨される。参考1)IDWR速報データ 2024年(国立感染症研究所)2)マイコプラズマ肺炎 8年ぶり大流行 感染気付かず広がるリスク(NHK)3)マイコプラズマ肺炎が過去10年で最多ペース、昨年同期の57倍 コロナ明けで感染拡大か(産経新聞)4)マイコプラズマ肺炎が猛威 長引くせき、高齢者もリスク(日経新聞)2.「かかりつけ医機能」報告を義務付け、医療情報システム「ナビイ」/厚労省8月22日に厚生労働省は、医療機能情報提供制度・医療広告等に関する分科会を開催し、「医療機能情報提供制度」をもとに、2024年4月にスタートした全国統一の医療情報ネット「ナビイ」のリニューアルするため、新たな報告項目の追加や既存項目の修正を承認した。今回の修正案を基に障害者向けサービス情報やかかりつけ医機能の情報をさらに充実させる予定。患者が受診先を適切に選択できるように支援する医療情報ネット「ナビイ」の現行のシステムについて、障害者向けサービスの情報提供が不十分であるとして、医療機関の駐車場の台数、電話・メールによる診療予約の可否、家族や介助者の入院中の対応状況など、障害者が医療機関を選ぶ際に重要となる情報が報告を求めるほか、既存の項目について、たとえば「車椅子利用者へのサービス内容」が「車椅子・杖等利用者に対するサービス内容」に、「多機能トイレの設置」が「バリアフリートイレの設置」に見直される。また、障害者団体との意見交換を通じて、医療機関がより使いやすい形で情報を提供できるように報告システムの改修が行われる予定。さらに、「かかりつけ医機能」についても報告が義務付けられ、一般国民や患者が必要な医療機関を適切に選択できるよう支援が強化される。この報告制度の見直しは、2025年4月に施行され、2026年1月から報告が始まる予定で、同年4月からは「ナビイ」での公表が行われる。ただ、医療機能情報提供制度への報告率には、地域ごとに大きなばらつきがあり、全国平均では73.5%に止まっている。秋田県や徳島県などでは報告率が100%に達しているが、沖縄県や京都府では30%未満と著しく低い。このため、厚労省では各都道府県に報告の徹底を促すとともに、医療機関自身の適切な報告を求めている。今後、「ナビイ」は障害者やその家族、そしてすべての国民が必要な医療情報を簡単に取得できるプラットフォームとして進化を遂げる見通し。参考1)医療機能情報提供制度の報告項目の見直しについて(厚労省)2)医療機能情報提供制度について(同)3)「ナビイ」サイト(同)4)全国の医療機関等情報を掲載する「ナビイ」、かかりつけ医機能情報や障害患者サービス情報なども搭載-医療機能情報提供制度等分科会(Gem Med)5)医療機能情報提供、障害者関連の項目追加・修正へ「駐車場の台数」など26年1月報告から(CB news)3.美容・歯科で違反広告が急増、適正化へ行政指導強化/厚労省8月22日に厚生労働省は、医療機能情報提供制度・医療広告等に関する分科会を開催し、2023年度に1,098の医療広告サイトが医療広告規制に違反していることを確認し、これらのサイトに対して運営する医療機関に自主的な見直しを促す通知を行ったことを明らかにした。違反件数は6,328件に達し、1サイト当たり平均で約5.8件の違反が確認された。とくに、歯科と美容分野が違反の中心であり、全体の76.6%を占めるという結果だった。違反の内訳を詳細にみると、歯科関連では「審美」が最も多く、次いで「インプラント」が続き、美容関連では「美容注射」が最も多かった。違反の内容としては、広告が可能とされていない事項の広告が大半を占め、とくに美容分野では、リスクや副作用の記載が不十分な自由診療の広告が目立っていた。厚労省は、こうした長期にわたって改善がみられない違反に対する対応を強化するため、行政処分の標準的な期限を定めた手順書のひな型を関連の分科会に提示し、了承を得た。この手順書によると、違反の覚知から2~3ヵ月以内に行政指導を行い、改善がみられない場合は6ヵ月以内に広告の中止や是正命令を行う。さらに、1年以内に管理者変更や開設許可取り消しなどの行政処分を完了させることが望ましいとされている。このひな型は、医療広告の違反が長期にわたり改善されない事例を抑制し、早期の適正化を図ることを目的としている。また、各自治体がこのひな型を参考にしながら、標準的な対応を進めることが期待される。しかし、自治体からは他県との対応差に対する懸念も出されており、対応には慎重な姿勢も求められている。厚労省は、これらの取り組みを通じて、違反広告の早期是正と適正な医療情報の提供を目指すとともに、医療機関に対して適切な広告活動を行うよう指導を続けていく方針。参考1)医療広告違反、行政処分は覚知から1年以内に 自治体に目安提示へ 厚労省(CB news)2)医療広告違反、1,098サイトで計6,328件 23年度に、厚労省が報告(同)4.ゲノム情報による就職差別を防止へ、ゲノム収集禁止を周知/厚労厚生労働省は、個人のゲノム情報を基にした就職差別を防止するため、「労働分野でのゲノム情報の取り扱いに関するQ&A」を公表した。このQ&Aは、企業や労働者がゲノム情報をどのように扱うべきかを明確にし、不当な差別が生じないようにすることを目的としている。具体的には、職業安定法や労働安全衛生法に基づき、ゲノム情報は「社会的差別の原因となるおそれのある事項」に該当し、その収集は禁じられているとされている。これは、業務遂行に必要であっても例外ではなく、ゲノム情報の収集が禁止されていることを明確にしている。また、労働者が採用後にゲノム情報の提出を求められても、個人情報保護法に基づき応じる必要はなく、そのために不当な評価や処遇を受けることは「不適切」と指摘されている。さらに、労働者がゲノム情報を提出し、それによって解雇や不利益な人事評価を受けた場合、それは職権濫用に該当し、無効とされる。こうした対応は、2023年に施行されたゲノム医療推進法に基づき、ゲノム情報の活用拡大とともに不当な差別が懸念されることから行われたものである。厚労省は、ゲノム情報が労働者に不利益をもたらすことがないよう、既存の法令に基づいて、その収集を禁止していることを強調しており、労働者が不当な扱いを受けた場合には、労働基準監督署などで相談を受け付けている。参考1)「良質かつ適切なゲノム医療を国民が安心して受けられるようにするための施策の総合的かつ計画的な推進に関する法律」(ゲノム医療推進法)2)ゲノム情報による不当な差別等への対応の確保(労働分野における対応)(厚労省)3)ゲノム情報による就職差別防止へ、Q&Aを公表 収集の禁止を周知 厚労省(CB news)4)遺伝情報に基づく雇用差別禁止、厚労省が法令Q&A解説(日経新聞)5)遺伝情報に基づく雇用差別禁止 厚労省が労働法令をQ&Aで解説、労働者は提出の必要なし(産経新聞)5.炎症を肺がんと誤診し不要な肺摘出術、大学病院を提訴/鹿児島大鹿児島市の72歳の女性が、鹿児島大学病院を相手取り、約1,000万円の損害賠償を求めて鹿児島地方裁判所に提訴した。女性は2017年2月に同病院で定期検診を受けた際、肺がんと誤診され、「早期に手術しなければ危険」と外科手術を促され、右肺の上部を全摘出する手術を受けた。しかし、約4ヵ月後、実際には肺がんではなく、単なる炎症であり、手術は不要であったことが病院から告げられた。女性は手術後、息苦しさや体調不良に悩まされており、日常生活に支障を来していると訴えている。また、病院が手術前後に十分な説明を行わず、診断上の注意義務に違反したと主張している。同院は、訴状の内容を詳細に検討し、適正に対応するとしている。女性は「二度と同じような被害を生むことがないようにしたい」と述べ、病院の対応に改善を求めている。参考1)肺がんと診断され右肺上部を全摘…実は「単なる炎症。手術も不要だった」 誤診を訴え鹿児島大学病院を提訴 鹿児島市の女性(南日本新聞)2)「炎症を肺がんと誤診、右肺の大部分摘出」患者女性が鹿児島大を提訴…1,000万円賠償求める(読売新聞)6.システム不具合のため大学病院で抗がん剤を過剰投与/阪大大阪大学医学部附属病院は8月21日、がん治療中の60代男性患者2人に対し、「抗がん剤を過剰投与するミスが発生した」と発表した。原因は、投与量を計算するシステムの不具合によるもので、今年の1~2月にかけて通常の1.2~2倍の抗がん剤が誤って投与されたもの。このうち、男性の1人には通常の約2倍の抗がん剤が3日間連続で投与され、その後、高度な神経障害を発症した。この患者は6月に元々の血液がんの進行により死亡したが、過量投与による神経障害が死亡に影響を与えた可能性が指摘されている。一方、もう1人の患者には1.2倍の量が投与されたが、明らかな影響は確認されていない。この過剰投与の原因は、薬の投与量を計算するシステムにおいてmgからmLへの単位変換時に、小数点以下の四捨五入が正しく行われなかったことに起因する。このシステムは、大阪のメーカー・ユヤマが開発したもので、同社は同様のシステムを使用している他の35の病院についても確認を行ったが、同様の問題は確認されていない。同院では、今回の医療ミスについて、患者や家族に謝罪するとともに、再発防止に努めると表明。また、システムの開発企業も再発防止策として、新たなチェックプログラムの開発や品質管理体制の強化に取り組んでいる。なお、病院側は、このケースが医療事故調査制度の対象には該当しないとして、医療事故には認定されないと説明しているが、今回の事態は病院に対する信頼を揺るがす重大な問題として受け止められている。参考1)薬剤部門システムのプログラム不具合による注射抗がん薬の過量投与の発生について(大阪大学)2)阪大病院 抗がん剤を入院患者2人に過剰投与 システムに不具合(NHK)3)大阪大病院でがん患者2人に抗がん剤を過量投与、プログラムの不具合(朝日新聞)

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入院中の移動能力の変化が大腿骨近位部骨折リスクと関連

 日本の急性期病院に入院している高齢患者を対象に、患者の状態の変化に着目し、大腿骨近位部骨折(PFF)リスクの予測因子を検討する研究が行われた。その結果、入院中に移動能力が改善した患者は骨折リスクが高く、移動能力の変化をモニタリングすることで骨折の予測精度が向上する可能性が示唆された。獨協医科大学産科婦人科学講座の尾林聡氏、東京医科歯科大学病院クオリティ・マネジメント・センターの森脇睦子氏、鳥羽三佳代氏らによる研究の成果であり、「BMJ Quality and Safety」に6月20日掲載された。 身体機能が低下する高齢者は転倒リスクが高い。転倒のリスク因子として、筋力、日常生活動作やバランス能力の低下などが挙げられるが、これらの能力は入院中の患者の歩行安定性により変化する可能性がある。転倒によるPFFは、患者の予後、QOL、医療費などに大きな影響を及ぼす。そのため、患者の状態や経過を考慮した、より正確な骨折予測モデルの開発が求められている。 そこで著者らは、DPCデータと「重症度、医療・看護必要度」データを用いて、2018年4月から2021年3月に入退院した65歳以上の患者のうち、寝たきりや病的骨折などの患者を除いた851万4,551人(1,321施設)を解析対象とする研究を行った。ロジスティック回帰分析を用いて、入院中のPFFと関連する因子を、移動能力の変化などを含めて詳細に検討した。 対象患者のうち、入院中のPFFの発生(骨折群)は1,858人(0.02%)だった。骨折群は非骨折群と比べて、平均年齢(82.6±7.8対77.4±7.7歳)、女性の割合(65.3%対42.7%)、BMI 18.5未満の割合(30.3%対14.3%)が高かった。また、併存疾患、手術や救急治療の有無、看護師配置や施設規模などの多くの変数についても、骨折群と非骨折群で有意差が認められた。 患者の移動能力について、骨折前日の介助の必要性および入院時から骨折前日の移動能力の変化を組み合わせて比較すると、骨折群は非骨折群と比較して、「介助なし×改善」(33.0%対15.7%)、「一部介助×変化なし」(25.8%対13.9%)、「一部介助×改善」(11.4%対4.4%)に分類される人の割合が高かった。 PFFリスクとの関連を検討した結果、入院時の移動能力については、「全介助」を基準として、「一部介助」のオッズ比(OR)は1.75(P<0.01)、「介助なし」のORは1.49(P<0.01)だった。入院時から骨折前日の移動能力の変化については、「変化なし」のORは1.58(P<0.01)、「改善」のORは2.65(P<0.01)であり、移動能力が改善した患者は、変化しなかった患者よりもPFFのリスクが高いことが示唆された。 今回の研究の結果、入院中に移動能力が改善した患者はPFFのリスクが高かったことから、著者らは、特に高齢患者は状態が変化しやすいことを指摘し、「患者の日々の移動状態の把握とその変化のモニタリングが、入院中の骨折予防に役立つ」と述べている。

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糖尿病の第6の合併症は歯周病(Dr.坂根のすぐ使える患者指導画集)

患者さん用画 いわみせいじCopyright© 2023 CareNet,Inc. All rights reserved.説明のポイント(医療スタッフ向け)診察室での会話患者医師患者医師今、歯科にかかっています。それはいいですね。いつまでも食事を楽しむには、お口の健康が大切ですからね。それに…。それに?「歯周病」は神経障害・網膜症・腎症の3大合併症、心疾患や脳卒中などの動脈硬化性疾患に次いで6番目の合併症と言われています。糖尿病の人は歯周病に2倍以上なりやすいというデータもあります。患者 糖尿病の6番目の合併症!医師 そうなんです。糖尿病になると歯周病になりやすくなり、歯周病が原因で歯を失うと硬いものが食べられなくなってバランスの悪い食事になります。それに食感が変わっておいしく食べられないし、表情が変わったり、喋りにくくなる人もいますからね。画 いわみせいじ患者 確かに、野菜とかは食べにくくなりますね。医師 逆に、お口のケアを上手にすると血糖コントロールもよくなるそうです。患者 えっ、そうなんですか。それなら、きっちりと歯の治療をしておかないといけませんね。医師 よろしくお願いしますね。ポイント高血糖だと歯周病が進行し、歯周病になると血糖コントロールが悪くなる負の連鎖があることをわかりやすく説明します。Rをカ行(関連性、危険性、効果、懸念、繰り返し)で覚えておくと便利です。Copyright© 2023 CareNet,Inc. All rights reserved.

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事例005 生活習慣病管理料の算定の流れ【斬らレセプト シーズン4】

解説令和6(2024)年度診療報酬改定にて、「B001-3 生活習慣病管理料」(以下「管理料」)の算定方法が緩和されました。従来の包括報酬を管理料(I)とし、出来高算定ができる「B001-3-3 管理料(II)」も設定されました。特定疾患対象である「脂質異常症」、「高血圧症」、「糖尿病」が「B000 特定疾患療養管理料」の算定要件から外されたこと、施設基準が設定されたことを理由に、算定方法に対する質問が多く寄せられています。とくに多くの医師から管理料(II)を採用したいと問い合わせがあります。管理料(II)は、従来の特定疾患療養管理料と特定疾患処方管理加算を加えた点数とほぼ変わりません。比較的簡単かつ手厚い診療が可能となる点数です。今回は、規定に則り算定をされるための留意事項をお届けいたします。1)算定前に次の内容の院内掲示が必要です。(1)生活習慣病管理料の算定を行っている医療機関であること(2)28日分以上の長期処方とリフィル処方箋の発行が可能であること2)3つの該当疾患のうち1つを主病としている患者に対して、生活習慣病管理の対象となることを告げて管理開始の了解を口頭で得ます。診療録にその旨を必ず記載します。3)療養計画書(別紙様式9)にて指定された検査を医学的必要性に応じて行い、その結果を参照して、疾患の改善を行うための初回の療養計画書を作成します。4)次回、再診時以降に療養計画の説明を行います。療養計画の説明は、必ず医師が行い患者の申し出事項(たとえば運動するなど)を追記、患者からその場で承諾の署名*をいただいてください。サイン入り療養計画書を診療録に添付して算定開始です。医師の説明以降に看護師や管理栄養士などからの補足説明も推奨されています。糖尿病を主病とする場合は、歯科の受診を勧めることが必須となります。いずれも診療録に簡潔な記録が必要です。*補足説明後署名でも良いのですが、医師の前で署名するほうが効果があるため。5)2回目以降の療養計画は別紙様式9の2を使用して4ヵ月に1度以上の説明が必要です。診療録への添付と記載は必須です。2回目以降には患者サインの必要はありません。6)施設基準が設定されていますが、届出の必要はありません。施設基準を満たしていることは、公的機関から求められたときに診療録を提示して示します。診療録への必要充分な記録が認められない場合は、診療報酬の返還を求められる場合があります。7)管理料は、医療機関内で管理料(I)と管理料(II)の混在ができます。患者の状態に応じた使い分けができます。ただし、管理料(I)から(II)への変更には(I)の算定後6ヵ月以上を経過しないと(II)が算定できないことに留意をお願いします。

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第204回 医師免許証の手続き、マイナポータルでオンライン化へ/デジタル庁

<先週の動き>1.医師免許証の手続き、マイナポータルでオンライン化へ/デジタル庁2.正常分娩の保険適用に反対意見相次ぐ、産婦人科医会が懸念/厚労省3.外国人患者受け入れ病院で未収金増加、平均50万円に/厚労省4.労基署の勧告受けた市立病院、10億円の未払い残業代支払い困難/宮城県5.神戸徳洲会病院、医療過誤で3件目の認定/兵庫県6.資金不正問題、第三者委員会は理事長の責任を指摘/東京女子医大1.医師免許証の手続き、マイナポータルでオンライン化へ/デジタル庁デジタル庁は、介護福祉士、社会福祉士、精神保健福祉士、公認心理師の4つの国家資格の事務手続きを2024年8月6日からオンライン化すると発表した。これにより、名前変更手続きやデジタル資格証の取得がオンラインで完結できるようになる。紙の書類や対面での手続きが不要となり、住民票や戸籍謄本の写しの添付も省略でき、登録免許税や手数料のオンライン決済も可能となる。さらに、11月には医師や看護師など27の資格についても事務手続きをオンライン化する予定。2025年3月までには准看護師や栄養士など11の資格も加わり、最終的には計84資格のオンライン化を目指す。国家資格のオンライン化に伴い、デジタル庁は資格管理者が共同利用できる「国家資格等情報連携・活用システム」を開発した。このシステムは住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)や戸籍情報と連携し、マイナポータルのデータとも紐付けられる。これにより、資格保有者はマイナポータルから各種の申請が可能となり、迅速かつ正確に事務手続きを進められるだけでなく、事務処理に伴う負担やコストの削減も見込まれる。資格管理者側にも大きなメリットがあるとされている。河野 太郎デジタル担当相は記者会見で「オンライン化により、資格保有者と資格管理者の双方にメリットを出していきたい」と述べ、積極的なオンライン利用を促した。また、デジタル資格者証も発行される。これはPDF形式でダウンロードができ、電子署名も付与されるため、改ざん検知が可能となる。固有の二次元コードも付与され、スマートフォンなどを使って資格者証の検証も行えるほか、資格者証は、印刷して利用したり、スマートフォンの画面に提示して利用したりすることが想定される。国家資格のオンライン化のスケジュールとしては、まず、8月6日から介護福祉士、社会福祉士、精神保健福祉士、公認心理師の4資格が対応開始となり、11月頃には医師、歯科医師、看護師など27の資格がオンライン化される予定。そして、2025年3月頃には准看護師、栄養士など11の資格が追加され、2025年度以降にはさらに多くの資格が順次対応される。参考1)2024年8月6日から4つの国家資格についてオンライン・デジタル化を開始します(デジタル庁)2)国家資格のオンライン申請が8月6日から順次スタート 介護福祉士など4資格から 全84資格で対応予定(ITmedia)3)国家資格の手続きオンライン化へ、介護福祉士など 6日から、マイナポータルで申請可能に(CB news)2.正常分娩の保険適用に反対意見相次ぐ、産婦人科医会が懸念/厚労省厚生労働省とこども家庭庁は、「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会」を8月1日に開催し、関係学会や団体へのヒアリングを実施した。今回のヒアリングでは、正常分娩(出産)に公的医療保険を適用する案について、日本産婦人科医会や日本産科婦人科学会などから慎重な意見が相次いだ。日本産婦人科医会の前田 津紀夫副会長は、正常分娩に公的保険が適用されると出産育児一時金の支給額50万円(2024年8月現在)を維持するのが難しく、結果的に出産に伴う経済的負担が大きく変わらないと指摘。また、診療報酬のみでは出産費用をカバーできず、医療機関が減収となるため、産科医療機関の減少やアクセスの悪化、サービスや医療安全に必要なコストの削減が進む恐れがあるとした。前田氏は、分娩のプロセスが多様であり、保険適用に向かないと述べ、「少子化対策」の名の下に拙速な制度変更を行うことに反対の立場を示した。これに対し、健康保険組合連合会の佐野 雅宏会長代理は、「課題が多いことは理解しているが、賛成や反対を前提とせずに議論を進めるべき」との意見を述べた。日本産科婦人科学会の亀井 良政常務理事は、正常分娩に保険が適用されることで医療機関が産科から撤退すれば、周産期医療センターに低リスクの出産まで集中し、病床確保や医師増員が困難になることで、周産期医療の安全が崩壊しかねないと懸念を表明。亀井氏は、「緩やかな集約化は受け入れられるが、急速な減少や医療崩壊を招くような保険適用には反対」と述べた。さらに、亀井氏は「出産費用の保険適用は出産数のV字回復につながる特効薬ではなく、むしろ産科医療施設を廃業に追いやる毒薬になる可能性がある」と強い危機感を示した。日本看護協会の井本 寛子常任理事も、出産前後の女性や新生児に迅速に対応できるケア提供体制の強化が必要だと訴えた。このように、正常分娩への保険適用については慎重な意見が多く、拙速な制度変更には反対の声が強まっている。参考1)第2回「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会」資料(こども庁・厚労省)2)正常分娩への保険適用、拙速な制度変更に反対表明 検討会のヒアリングで日本産婦人科医会(CB news)3)出産費用の保険適用、2026年度導入視野 産科医療に大きな影響も(朝日新聞)4)「政府案 出産費用(正常分娩)の保険適用の導入」に関するアンケート 報告(スペシャリスト・ドクターズ)3.外国人患者受け入れ病院で未収金増加、平均50万円に/厚労省厚生労働省は、2023年9月に外国人患者を受け入れた病院のうち、未収金が発生した病院は516病院で、1病院当たりの未収金総額が平均49.6万円と前年度の2倍以上に増加したことを明らかにした。同省の担当者は「1件当たりの未収金額が高いケースが増えている。突発的な増加の可能性もある」と話している。調査では、外国人患者を受け入れた2,813病院のうち、18.3%が未収金を経験していた。1病院当たりの未収金発生件数は平均3.9件で、1件当たりの未収金額は12万8,497円、中央値は1万1,150円だった。未収金額が最も多かったのは「1万円以下」で954件、「1万~5万円」が522件と続いた。外国人患者の受け入れ実績がある病院のうち、最も多いのは「10人以下」の1,273病院で、「11~50人」が879病院、「51~100人」が247病院だった。さらに、都道府県が選出した「外国人患者を受け入れる拠点的な医療機関」608病院中524病院(86.2%)でも受け入れ実績が確認された。外国人患者の診療費については、ほとんどの病院が通常の1点10円で費用請求を行っているが、一部の病院では通訳費用を含む追加コストを考慮し、1点を15円、20円としている場合もある。しかし、多くの病院では請求可能な通訳費用を請求していないのが現状。調査結果を受け、厚労省は外国人患者受け入れのための医療機関向けマニュアルを策定し、未収金発生防止策として、外国人患者が海外旅行保険に加入しているかどうかを事前に確認し、医療費の概算説明を丁寧に行うようアドバイスしている。また、外国人患者受け入れ体制の整備に向けた取り組みを進めている。この未収金問題は、病院経営に大きな影響を与えており、厚労省は引き続き対策を講じ、外国人患者が安心して医療を受けられる体制を目指す。参考1)令和5年度「医療機関における外国人患者の受入に係る実態調査」の結果(厚労省)2)外国人患者の受け入れ、未収金総額は平均50万円 前年度の2倍超に増加 厚労省(CB news)3)依然「外国人患者を受け入れる医療機関の2割弱」で未収金発生、ごく一部だが「月間500万円超」の高額未収となるケースも-厚労省(Gem Med)4.労基署の勧告受けた市立病院、10億円の未払い残業代支払い困難/宮城県宮城県大崎市の大崎市民病院が、医師や看護師ら約1,100人に対し、時間外勤務手当を適正に支給していなかった問題で、古川労働基準監督署から是正勧告を受けた。未払い額は約10.5億円に上るが、病院は約2.3億円しか支払わず、残りの約8億円は経営状況から支払えないとしている。昨年2月に是正勧告を受けた際、病院は基礎賃金に必要な手当を足さずに計算していたため、未払いが発生したことが判明。さらに、時間外労働時間の過少申告も発覚した。労基署は2020年3月にさかのぼって不足額を追加支給するよう求めたが、病院は赤字が続く見込みであり、勧告通りの対応は困難だと判断した。結果として、実際に支給されたのは約10.5億円のうち約2.3億円に止まり、病院は「労基署に相談しながらできる範囲で対応した。10億円は額が大きすぎる。すべて支払うことはできない」と説明した。参考1)市立病院が残業代10億円未払い 労基署が勧告も2億円しか支払わず(朝日新聞)2)令和6年度大崎市病院事業会計予算書(大崎市民病院)5.神戸徳洲会病院、医療過誤で3件目の認定/兵庫県神戸市垂水区の神戸徳洲会病院で発生した患者死亡事故について、同病院が今年1月に心肺停止状態で搬送された90代男性の死亡を医療過誤と認定した。これは同病院で3件目の医療過誤認定となる。今年1月、心肺停止状態で救急搬送された90代男性患者に対して、血圧を上昇させる薬剤の追加投与が遅れたため、患者が死亡した。この事例について病院は「死期を早めた可能性がある」として医療過誤を認定し、遺族に謝罪するとともに、この事例をホームページで公表し、神戸市も報道からの取材に対し認定を認めた。また、遺族への賠償も検討しているという。神戸徳洲会病院では、2023年1~7月にかけて、複数の患者がカテーテル治療後に死亡するなど15件の医療事故が発覚しており、そのうち4件は国の医療事故調査制度に基づく調査対象となっている。これまでに認定された医療過誤は、糖尿病患者へのインスリン投与ミスによる70代男性の死亡、カテーテル治療中に血管を破った90代女性の死亡の2件だった。今回の事例は、国の制度の対象外として病院が個別に検証を行った11件のうちの1件に含まれる。残りの10件については、病院側は過誤の有無に言及せず、遺族への説明を進めている。尾野 亘院長は「患者安全を十分に重視して病院運営を行ってこなかった結果で、深く反省している」とコメントを発表し、改善を誓った。神戸市は、神戸徳洲会病院が適切な治療を提供できなかった問題を受けて、今年2月に医療法に基づく改善命令を出している。また、福田 貢副理事長が6月に行われた有識者会議後に「根本的な原因はない」と発言したが、これは4月に提出された改善計画と矛盾するとして市が抗議。病院側は発言を撤回し、謝罪した。病院側は改善計画書の内容を修正し、根本的な原因として、医師数の不足や組織ガバナンスの機能不全など7項目を追加し、神戸市に再提出した。市は修正版を受理し、今後の対応を見守るとしている。参考1)神戸徳洲会病院が医療ミス3件目認定、90代男性死亡巡り(産経新聞)2)神戸徳洲会、医療過誤3件目を新たに認定…血圧薬補充遅れ直後に死亡(読売新聞)3)血圧上昇させる薬剤投与遅れ死亡 神戸徳洲会病院が新たに医療過誤1件謝罪、賠償を検討(神戸新聞)4)不適切治療で患者死亡の神戸徳洲会病院 法人幹部が報道陣に「根本原因ない」発言、神戸市が抗議(同)6.資金不正問題、第三者委員会は理事長の責任を指摘/東京女子医大東京女子医科大学(東京都新宿区)やその同窓会組織「至誠会」を巡る不透明な資金の流れについて、同大学が設置した第三者委員会(委員長=山上 秀明弁護士)が調査報告書をまとめた。この報告書は、推薦入試での寄付金の考慮や理事長の岩本 絹子氏(77)の「一強体制」による経営の問題を指摘する内容となっている。報告書によると、同大学の推薦入試では、至誠会が持つ推薦枠で生徒を選ぶ際に寄付額が加点要素となっていた。受験生側から至誠会と大学法人への寄付は、面接の直前2ヵ月の期間に集中しており、2019~2022年度の間に受験生側から寄付された総額は3,520万円に達していた。また、寄付金の実績がない受験生が、寄付金を行った受験生に順位で抜かれて推薦を受けられなかった事例や面接の前に寄付を行った事例もあった。さらに、同大学の至誠会から大学に出向していた職員への給与についても、二重払いの疑いが指摘された。この業務委託は、法人の利益を犠牲にし、岩本氏に近い2人の利益を図る行為とされている。また、理事会運営会議の承認を得ずに行われた手続き違反も認定された。第三者委員会は、岩本理事長が異なる意見を持つ職員を排除し、ガバナンス機能を封殺したとし、岩本氏の重大な経営判断の誤りについても言及した。具体的には、小児集中治療室(PICU)の運用停止や小児集中治療医の大量退職を招いたことが挙げられている。また、岩本氏の知人が代表を務める会社とのコンサルティング契約で、不透明な支出があったことも判明している。これらの問題に対して、東京女子医科大学は「組織の改善・改革に全身全霊で取り組む」とのコメントを発表した。また、新たに第三者委員会答申検討委員会を立ち上げ、再発防止策と管理運営体制の再構築を図る計画を示した。文部科学省も、この問題を受けて早急に大学側に説明を求める予定。さらに、国の私立大学への補助金の配分についても見直しが検討される可能性がある。参考1)東京女子医大 同窓会組織めぐる問題 第三者委“抜本的改革を”(NHK)2)東京女子医大、理事長に資金還流か…第三者委員会報告書「金銭に強い執着」(読売新聞 )3)東京女子医大の第三者委、理事長の責任を指摘 報告書を公表(朝日新聞)4)第三者委員会による調査報告書の公表について(東京女子医大)5)第三者委員会の調査報告書を受けての本学の決意と「(仮称)第三者委員会答申検討委員会」の設置について(同)

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日本人で増加傾向の口腔がん、その最大要因とはー診療ガイドライン改訂

 『口腔癌診療ガイドライン2023年版 第4版』が昨年11月に4年ぶりに改訂された。口腔がんは歯科医も治療を担う希少がんだが、口腔がんを口内炎などと見間違われるケースは稀ではないという。そこで今回、日本口腔腫瘍学会学術委員会『口腔癌診療ガイドライン』改定委員会の委員長を務めた栗田 浩氏(信州大学医学部歯科口腔外科学 教授)に口腔がんの疫学や鑑別診断などについて話を聞いた。 本ガイドライン(以下、GL)では、日常的に出くわす臨床疑問に対してClinical Question(CQ)を設定、可能な限りのエビデンスを集め、GRADEアプローチに準じ推奨を提案している。希少がんであるがゆえ、少ないエビデンスから検証を行っていることもあり、FRQ(future research question)やBQ(background question)はなく、すべてがCQだ。同氏は「アナログな手法ではあるが、システマティック・レビューで明らかになっているCQの “隙間を埋める”ように、明らかにされていない部分のCQを作成し、全部で60個を掲載した」と作成経緯を説明した。口腔がん、日本人で多い発生部位やその要因 口腔がんとは、顎口腔領域に発生する悪性腫瘍の総称である。病理組織学的に口腔がんの90%以上は扁平上皮がんであり、そのほかには小唾液腺に由来する腺系がんや肉腫、悪性リンパ腫、転移性がんなどがあるが、本GLでは最も頻度が高い口腔粘膜原発の扁平上皮がんを「口腔がん」として記している。 口腔がんの好発年齢は50歳以降で加齢とともに増加し、男女比3:2と男性に多いのが特徴である。これまで国内罹患数は年間5,000~8,000人で推移していたが、近年の罹患数は年間1万人と増加傾向にあるという。これについて栗田氏は「もともと世界的にはインドや欧州での罹患率が高いが、日本人で増えてきているのは高齢化が進んでいることが要因」とコメントした。部位別発生率については、2020年の口腔がん登録*の結果によると、舌(47.1%)、下顎歯肉(18.4%)、上顎歯肉(11.9%)、頬粘膜(8.6%)、口底(6.6%)、硬口蓋(2.6%)、下顎骨中心性(1.7%)、下唇(0.8%)で、初診時の頸部リンパ節の転移頻度は25%、遠隔転移は1%ほどである。*日本口腔外科学会および日本口腔腫瘍学会研修施設における調査。扁平上皮がん以外も含む。 また、口腔がんの場合、口腔以外の部位にがんが発生(重複がん)することがあり、重複がんの好発部位と発生頻度は上部消化管がんや肺がんが多く、11.0~16.2%に認められる。これはfield cancerizationの概念1,2)で口腔と咽頭、食道は同一の発がん環境にあると考えられているためである(CQ1、p.80)。 これまで、全国がん登録を含め口腔がんの統計は口腔・咽頭を合算した罹患数の集計になっていたため、口腔がん単独としては信頼性の高いデータは得られていなかった。同氏は「咽頭がんと口腔がんでは性質が異なるので別個の疾患として捉えることが重要」と、口腔がんと咽頭がんは別物であることを強調し、「本GLに記されている罹患率は口腔がん登録のものを記しているため、全国がん登録の罹患状況とは異なる。その点に注意して本GLを手に取ってもらいたい。今後、口腔がんに特化したデータの収集を行うためにも口腔がん登録が厳正に進むことを期待する」と説明した。口腔がんが疑われる例、現在の治療法 口腔がんが生じやすい部位や状態は、舌がん、歯肉がん、頬粘膜がんの順に発生しやすく、鑑別に挙げられる疾患として口内炎、歯肉炎、入れ歯による傷などがある。「もし、口内炎であれば通常は3~4日、長くても2週間で治る。この期間に治らない場合や入れ歯が合わないなどの原因をなくしても改善しない場合、そして、白板症、紅板症のような前がん病変が疑われる場合は歯科口腔外科へ紹介してほしい。またステロイド含有製剤の長期投与はカンジダなど別疾患の原因となる可能性もあり避けてほしい」と話した。 口腔がんの治療は主に外科療法で、口腔を含む頭頸部がんにも多くの薬剤が承認されているが、薬物療法のみで根治が得られることは稀である。再発リスク因子(頸部リンパ節節外進展やその他リスク因子)がある場合には、術後化学放射線療法や術後放射線療法を行うことが提案されている(CQ33、p.146)。外科手術や放射線療法の適応がない切除不能な進行がんや再発がんにおいては、第1選択薬としてペムブロリズマブ/白金製剤/5-FUなどが投与されるため、がん専門医と連携し有害事象への対応が求められる。口腔がんの予防・早期発見、まずは口腔内チェックから 口腔がんの主な危険因子(CQ2~4、p.81~85)として喫煙や飲酒、合わない入れ歯による慢性的な刺激、そしてウイルス感染(ヒトパピローマウイルス[HPV]やヒト免疫不全ウイルス[HIV]など)が挙げられるが、「いずれも科学的根拠が乏しい。早期発見が最も重要であり、50歳を過ぎたら定期的な口腔内チェックが重要になる」と強調した。 現在、口腔以外の疾患で入院している患者では周術期などの口腔機能管理(口腔ケア、栄養アセスメントの観点からの口腔内チェックなど)が行われており、その際に口腔がんが発見されるケースもある。健康で病院受診をしていない人の場合には、近年では各歯科医師会主導の集団検診や人間ドックのオプションとして選択することがリスク回避の場として推奨される。同氏は「歯周病検診は口腔機能をチェックするために、口腔がん検診は生活習慣病の一貫として受けてほしい。口腔がん検診は目に見えるため容易に行えるほか、前がん病変、口腔扁平苔癬、鉄欠乏性貧血、梅毒による前がん状態などの発見にもつながる」と説明した。 最後に同氏は「口腔がんは簡単に見つけられるのに、発見機会が少ないがゆえに発見された時点で進行がんになっていることが多い。進行がんでは顔貌が変化する、食事は取りづらい、しゃべることが困難になるなど、人間の尊厳が奪われ、末期は悲惨な状況の患者が多い。そのような患者を一人でも減らすためにも早期発見が非常に重要」とし、「診察時に患者の話し方に違和感を覚えたり、食事量の低下がみられたりする場合には、患者の口腔変化を疑ってほしい」と締めくくった。

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第202回 新型コロナ新変異株「KP.3」拡大で感染者数急増/政府

<先週の動き>1.新型コロナ新変異株「KP.3」拡大で感染者数急増/政府2.新型コロナワクチン定期接種10月から開始、任意接種は1万5,000円/厚労省3.かかりつけ医制度の整備進む、2025年度から報告義務化/厚労省4.マイナ保険証推進のため医療DX推進体制整備加算の見直しが決定/中医協5.新興感染症対策強化へ、新たな行動計画と備蓄計画を発表/厚労省6.専門医機構の特別地域連携プログラム、要件緩和案に反発広がる/厚労省1.新型コロナ新変異株「KP.3」拡大で感染者数急増/政府林 芳正官房長官は7月19日の記者会見で、新型コロナウイルスの感染者数が増加していることについて、「今後、夏の間に一定の感染拡大が生じる可能性がある」と述べ、感染対策を徹底するよう呼び掛けた。厚生労働省によると、全国約5,000の定点医療機関から7月8~14日に報告された感染者数は5万5,072人で、1医療機関当たり11.18人と、前週比1.39倍に増加。感染者数は10週連続で増加し、とくに九州地方での増加が目立った。鹿児島県の定点医療機関の感染者数は31.75人、佐賀県は29.46人、宮崎県は29.34人と高い水準を記録。東京(7.56人)、愛知(15.62人)、大阪(9.65人)、福岡(14.92人)でも増加が確認され、全国45都府県で感染者数が増加していた。入院者数も増加傾向にあり、14日までの1週間で新規入院患者は3,081人、前週の2,357人から724人増加。集中治療室(ICU)に入院した患者数も113人と、前週から11人増加していた。専門家は、今回の感染拡大の背景には、新たな変異株「KP.3」の存在があると指摘する。東京大学の研究チームによると、KP.3はオミクロン株から派生した変異株で、感染力が強く、免疫を回避しやすい特徴があるという。とくに高齢者は重症化するリスクがあるため、十分な対策を講じる必要がある。感染症に詳しい東京医科大学の濱田 篤郎客員教授は、「今後、夏休みやお盆期間中に人の移動が増えることで、感染がさらに拡大する可能性がある」と警告。室内の換気や手洗い、マスクの着用など基本的な感染対策の徹底を呼び掛けている。また、高齢者は人混みを避け、感染が疑われる場合には、速やかに医療機関を受診することが重要だとしている。参考1)新型コロナ流行、なぜ毎年夏に 「第11波」ピークは8月か(朝日新聞)2)新型コロナの感染者数増加 林官房長官が注意喚起(毎日新聞)3)コロナ「第11波」、夏の流行期前に変異株KP・3が主流 梅雨明けで影響か(産経新聞)2.新型コロナワクチン定期接種10月から開始、任意接種は1万5,000円/厚労省2024年7月18日に厚生労働省は、新型コロナウイルスと帯状疱疹のワクチンを定期接種化する方針を発表した。新型コロナワクチンの定期接種は10月1日から開始予定で、65歳以上の高齢者と60~64歳の重症化リスクが高い人を対象とする。帯状疱疹ワクチンについては、対象年齢を65歳とし、費用を公費で支援する定期接種とする案が示された。新型コロナワクチンの定期接種は、2023年度まで全額公費負担で無料接種が行われていたが、今秋からは季節性インフルエンザと同様に接種費用の一部自己負担が求められる。接種費用の自己負担額は自治体によって異なるが、最大で7,000円と設定される。国は接種1回当たり8,300円を各自治体に助成し、費用負担を軽減する。接種期間は、2024年10月1日~2025年3月31日までで、各自治体が設定する。対象外の人は「任意接種」となり、全額自己負担で費用は約1万5,000円程度となる見込み。また、帯状疱疹ワクチンの定期接種についても同日、厚労省の予防接種基本方針部会で議論が行われた。帯状疱疹は水痘(水ぼうそう)と同じウイルスが引き起こし、加齢や疲労などによる免疫力の低下で発症する。日常生活に支障を来すほどの痛みが生じることがある。現在、国内で承認されている帯状疱疹ワクチンは、阪大微生物病研究会の生ワクチンと、英グラクソ・スミスクラインの不活化ワクチンの2種類である。部会では、65歳を対象とする定期接種化を検討し、帯状疱疹や合併症による重症化予防を目的とすることが提案された。厚労省は今後、専門家による会議での議論を経て正式に決定する予定。参考1)厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会 予防接種基本方針部会 ワクチン評価に関する小委員会(厚労省)2)帯状疱疹ワクチン65歳に定期接種化、厚労省案 引き続き検討(CB news)3)新型コロナワクチン 高齢者など対象の定期接種 10月めど開始へ(NHK)4)新型コロナワクチンの定期接種、10月から開始…全額自己負担の任意接種費は1万5,000円程度(読売新聞)3.かかりつけ医制度の整備進む、2025年度から報告義務化/厚労省厚生労働省は、「かかりつけ医機能が発揮される制度の施行に関する分科会」を7月19日に開き、2025年4月に施行される新たな報告制度を巡る議論を大筋で取りまとめた。新しい報告制度によって、各都道府県が病院や診療所に対して、かかりつけ医の機能や診療できる疾患を毎年報告させる。報告された情報はウェブサイトで公開され、患者がかかりつけ医を選びやすくすることを目指す。この報告制度は、大学病院や歯科医療機関を除くすべての病院や診療所を対象とし、かかりつけ医の研修を修了した医師や総合診療専門医の有無も報告対象に含まれる。診療できる疾患は、患者にわかりやすいように高血圧や腰痛症、かぜ・感冒などの40疾患から選ぶ形となる。報告された情報は、厚労省の医療機関検索サイト「ナビイ」で公開される予定。地域の医療提供体制を把握し、足りない機能があれば対策を講じるよう各自治体に求める。初回の報告は2026年初めごろを見込んでおり、制度開始に向けてルールの改正やガイドライン作成が進められる。また、この報告制度では、病院や診療所は「日常的な診療」(1号機能)と「時間外診療」(2号機能)の2段階で報告する。1号機能は17の診療領域ごとに一時診療に対応できるかどうかを報告し、かかりつけ医機能に関する研修修了者や総合診療医の有無も報告する。2号機能には時間外診療や在宅医療、介護サービスとの連携が含まれる。時間外診療の体制については、在宅当番医制や休日夜間急患センターへの参加状況などを報告する。かかりつけ医機能の報告制度は、5年後を目途に報告内容の見直しが検討される。初回の報告時には「高血圧」「脳梗塞」「乳房の疾患」などの40疾患についての報告を求めるが、施行から5年後に改めて検討する予定である。また、かかりつけ医機能に関する研修の要件を設定し、それに該当する研修を示す予定。今回の制度導入により、患者が適切なかかりつけ医を選びやすくなると同時に、医療提供体制の強化が期待されることで、地域医療の質の向上が期待される。参考1)第8回 かかりつけ医機能が発揮される制度の施行に関する分科会(厚労省)2)「かかりつけ医機能報告」枠組み固まる 一次診療への対応は「17領域ごと」に(CB news)3)かかりつけ医、選びやすく 来年度、診療疾患をウェブ掲載(日経新聞)4.マイナ保険証推進のため医療DX推進体制整備加算の見直しが決定/中医協7月17日に厚生労働省は、中央社会保険医療協議会を開催し、2024年度の診療報酬改定で新設された「医療DX推進体制整備加算」の見直しを決定した。見直しでは、マイナカードの利用率の実績に応じて、医療DX推進体制整備加算を3区分に再編することが含まれている。具体的には、医科における加算1が現在の8点から11点に引き上げられる。医療情報取得加算についても変更があり、患者がマイナ保険証を利用するかどうかで区分されていた初診時と再診時の点数が、12月以降はそれぞれ1点に一本化されることが決定した。医療DX推進体制整備加算の医科における点数は、10月以降、加算1が11点、加算2が10点に引き上げられるのと同時に、マイナポータルの医療情報に基づき患者からの健康管理の相談に応じることが新たに求められる。加算3は現在の8点を維持し、相談対応の基準は設定されない。マイナ保険証の利用率は、原則として適用3ヵ月前のレセプト件数ベースでの実績を使い、10月から2025年1月までは2ヵ月前のオンライン資格確認件数ベースでの利用率の使用も認められる。具体的な基準値は、10~12月には加算1が15%、加算2が10%、加算3が5%となり、2025年1~3月にはそれぞれ30%、20%、10%に引き上げられる予定。2025年4月以降の基準は年末をめどに検討される予定となっている。医療情報取得加算については、医科の初診時と再診時の点数が12月以降に1点に一本化される。これは、現行の保険証が12月に廃止され、マイナ保険証に一本化されることに対応するための措置。厚労省は、この改定を8月中に告示する予定。一方、厚労省は、低迷するマイナ保険証の利用を推進するため、医療従事者のマイナ保険証に関する疑問を解消するためのセミナーを7月19日にYouTubeでライブ配信した。セミナー資料は下記のリンクを参照されたい。厚労省は、医療DX推進体制整備加算の見直しにより、マイナ保険証の利用率向上を図り、医療現場でのデジタルトランスフォーメーションを推進する考え。2025年度以降も、電子処方箋の普及のため、さらなる引き上げが検討される予定。参考1)中央社会保険医療協議会 総会(厚労省)2)徹底解決!マイナ保険証への医療現場の疑問 解消セミナー(同)3)医療DX推進体制加算1は11点、10月以降 加算3は8点、中医協が即日答申(CB news)4)マイナ保険証、来年度以降の基準は年末めどに 医療DX推進体制加算 中医協で検討・設定(CB news)5.新興感染症対策強化へ、新たな行動計画と備蓄計画を発表/厚労省7月17日に厚生労働省は、厚生科学審議会感染症部会を開催し、新型インフルエンザ等対策政府行動計画に基づく新ガイドライン案を示した。このガイドラインでは、緊急時に備えて医療用マスク3億1,200万枚を国と都道府県で備蓄することを盛り込んでいる。ガイドライン案には、高機能なN95マスク2,420万枚や非滅菌手袋12億2,200万枚の備蓄など、物資確保の項目が新たに追加された。都道府県は、初動1ヵ月分の物資を備蓄し、国は2ヵ月目以降の供給が回復するまでの分を備蓄する。また、事実誤認の指摘など国民への情報発信の強化も求められている。2024年度からの新しい医療計画(第8次医療計画)では、「新興感染症対策」が追加され、各都道府県で感染患者受け入れ病床や発熱患者対応外来医療機関の確保が進展している。6月1日時点で病床確保は目標の81.8%、発熱外来は54.0%の達成率となっている。とくに流行初期に確保すべき病床の進捗率は109.5%、初期に対応すべき発熱外来は124.1%と目標を上回る進展をみせている。新医療計画では、新興感染症の流行初期や蔓延時に備えて、都道府県と医療機関が「医療措置協定」を締結することが義務付けられている。現在、各都道府県で協議が進行中であり、9月末までに協定の締結完了を目指している。協定締結が進む一方で、病床数や発熱外来の整備が依然として必要とされている。部会では、病床の確保だけでなく医療従事者の確保も課題として挙げられた。出席した委員からは、「病床数は多いが医療従事者が不足することで運用が難しい」との指摘があり、医療現場の状況の把握も検討が求められた。また、初動期には各都道府県が相談センターを整備し、受診調整を実施することが提案された。厚労省は同日、新型インフルエンザ等対策ガイドラインの案も示し、感染症発生前の「準備期」から発生後の「初動期」、「対応期」ごとに対応策を整理し、感染者の受け入れや流行段階に応じた対応を求めている。政府は、今後もガイドラインの内容を議論し、夏ごろに取りまとめを目指す予定。参考1)新型インフルエンザ等対策政府行動計画 ガイドライン案 概要(厚労省)2)第87回厚生科学審議会感染症部会(同)3)新興感染症対策、各都道府県の「感染患者受け入れ病床」「発熱患者に対応する外来医療機関」確保が着実に進展-社保審・医療部会(Gem Med)4)感染症のまん延防止策、ガイドライン案を公表 リスク評価に基づき、機動的に実施 厚労省(CB news)5)感染症有事の対応、「病床確保」だけでは不十分 厚科審でガイドライン案めぐり議論(同)6.専門医機構の特別地域連携プログラム、要件緩和案に反発広がる/厚労省日本専門医機構は、7月19日に開催された厚生労働省の医道審議会の医師専門研修部会で、医師少数区域の施設で1年以上の研修を設ける「特別地域連携プログラム」の要件緩和案を示した。この案では、新たに医師を1年以上派遣する研修施設を連携先に加えることを提案。しかし、「ミニ一極集中」を招く恐れがあるとして反対意見が相次いだ。特別地域連携プログラムは、医師が不足している都道府県の医師少数区域の施設などを連携先とし、1年以上の研修を行うもの。しかし、研修施設としての要件を満たす施設が少ないことから、連携枠を設けるのが困難だという指摘が複数の学会から出ていた。そのため、同機構は2025年度に向けて、医師多数区域であっても、医師少数区域の医療機関に新たに医師を派遣する研修施設であれば、連携先に加えることを提案した。しかし、立谷 秀清委員(全国市長会相馬市長)は「ミニ一極集中を助長する」と反対を表明。2024年度のプログラムで採用された専攻医42人の連携先のうち、約4割が茨城県、約3割が埼玉県と、東京に近い地域に偏っていることが問題視され、他の委員からも反対意見が多く出された。花角 英世委員(全国知事会新潟県知事)は、要件緩和を行うにしても「シーリングの効果が十分に発揮されていない東北や東海、甲信越地域の医師少数区域に医師が派遣されるような制限を設けるべき」と主張し、医師の偏在解消に効果が期待できる制度設計を求めた。参考1)令和6年度第1回医道審議会医師分科会 医師専門研修部会(厚労省)2)特別地域連携プログラム、「要件緩和」に反対相次ぐ 25年度シーリング案 専門医機構(CB news)

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口臭と認知症との関連〜11年間の国内フォローアップ調査

 社会的交流の頻度が低いと潜在的な認知症リスクが増加する。口臭はアルツハイマー病を含む認知症リスクを増加させる可能性がある。東京医科歯科大学のDuc Sy Minh Ho氏らは、口臭と認知症との関連を調査した。Journal of Alzheimer's Disease Reports誌2024年5月17日号の報告。 秋田県・横手市のJPHCプロスペクティブ研究(Japan Public Health Center-based Prospective Study)を用いて、検討を行った。対象は、2005年5月〜2006年1月に歯科検診および自己申告調査を行った56〜75歳の1,493人。認知症発症のフォローアップ調査は、2006〜16年の介護保険データを用いて行った。口臭のレベルに応じて、口臭なし群、軽度の口臭群、重度の口臭群に分類した。口臭が認知症に及ぼすハザード比を推定するため、Cox比例ハザードモデルを用いた。感度分析には、逆確率重み付けCoxモデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・参加者の平均年齢は65.6±5.8歳、女性の割合は53.6%であった。・フォローアップ調査終了時の認知症発症率は全体で6.4%(96例)、重度の口臭群で20.7%であった。・フォローアップ調査(1万5,274.133人年)を通じて、1,000人年当たりの認知症の平均発症率は6.29であった。・最も発症率が高かった群は、重度の口臭群であった(1,000人年当たり22.4)。・交絡因子で調整したのち、重度の口臭群は、口臭なし群と比較し、認知症発症の危険性が3.8倍(95%信頼区間[CI]:1.5〜9.4)増加した。・逆確率重み付けCoxモデルでは、調整済み限界ハザード比が4.4(95%CI:1.2〜16.4)であり、同様の傾向が確認された。 著者らは「より大規模なサンプルサイズによる検討が必要とされるものの、本研究において、口臭と認知症発症との有意な関連性が認められた」としている。

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重要性を増すゲノム診療科、その将来ビジョン/日本動脈硬化学会

 2023年に議員立法として成立した“良質かつ適切なゲノム医療を国民が安心して受けられるようにするための施策の総合的かつ計画的な推進に関する法律”、通称「ゲノム医療推進法」。詳細についての議論はこれから進んでいく模様だが、循環器領域においては、2022年度の診療報酬改定により動脈硬化に関連する難病への遺伝学的検査の対象疾患が拡大され、4疾患(家族性高コレステロール血症、原発性高カイロミクロン血症、無βリポタンパク血症、家族性低βリポタンパク血症1[ホモ接合体])の遺伝学的検査を含む複数の脂質異常症疾患が保険適用された。 そこで今回、厚生労働省のゲノム医療推進法基本計画ワーキンググループ委員である吉田 雅幸氏(東京医科歯科大学遺伝子診療科 科長/日本動脈硬化学会副理事長)が『我が国におけるゲノム医療と動脈硬化性疾患の遺伝子診断』と題し、遺伝子診断で直面する課題や将来展望について、プレスセミナーで話をした(主催:日本動脈硬化学会)。遺伝診断の将来ビジョン もしも、自分の家族が遺伝性大腸がんや遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)、希少な遺伝性疾患に罹患したら、ご自身の遺伝子検査をどの施設で受けられるかご存じだろうか。あるいは患者から遺伝子検査の相談を受けたら、紹介先などを即答できるだろうか-。一般的に遺伝性疾患の多くは原因不明で、仮に遺伝子疾患が疑われても患者はどこの病院や診療科へ受診するのが適切なのかわからないことが多い。吉田氏は「ゲノム医療の現場で生じている診断・治療に至る長い道のり“Diagnostic Odessey”に多くの時間を費やすのは、原因不明な希少疾患や未診断疾患で苦しむ患者やその家族。そのうえ、患者側が遺伝子診断の可能な施設を見つける手立てもない」と述べ、遺伝専門医にすぐにたどり着けない現状が希少疾患や難病などの早期診断・治療の足かせになっているとして問題提起した。 現在、政府が主導となりゲノム医療等実現推進協議会からタスクフォースを設置し、オールジャパン体制の下でゲノム医療の社会実装のために10万人の全ゲノムを解析して医療へ応用させることを目的とした「全ゲノム解析等実行計画2022」プロジェクトが進められている。策定計画によると、“全ゲノム解析等を実施し、解析結果の日常診療への導入による患者への還元をはじめ、質の高い情報基盤を構築することで、がん・難病などの克服に繋げていくこと”が狙いである。その一方で、100万人規模のゲノム解析研究を目指す英国などの諸外国と水準をそろえていくこと、ゲノム医療の社会実装には、患者・市民参画(Patient and Public Involvement:PPI)や倫理的・法的・社会的課題(Ethical, Legal and Social Issues:ELSI)の推進も併せて望まれるため、法令上の措置を含めた具体的な方策が必要とされている。患者-医療者双方のため、遺伝子検査の実績を可視化させよう このプロジェクトを実装していくためには、国民のゲノム医療へのアクセス確保が急務とされることから、同氏は「▽ゲノム医療の標榜診療科の制定、▽ゲノム医療関連人材の育成、▽患者・市民のゲノム医療・研究への参画」の3つを挙げた。たとえば、昨今の診療報酬点数表に収載されている遺伝性疾患数は、約10年前と比較し191疾患と大幅に増加しているにもかかわらず、ゲノム診療科を標榜する施設の開示がなされていない。同氏は「診療実績を可視化させることでその実績が院内でも周知され、診療科間の連携強化につながる。また、現在では診療報酬の請求からDPCへ反映されるため、そうなればNDB(National Database)におけるゲノム医療の利活用促進にもつながる」と強調した。また、日本動脈硬化学会のホームページに掲載されている『家族性高コレステロール血症(FH)の紹介可能な施設等一覧』では、FHに限られるが、遺伝学的検査の実施有無に関して近隣施設を検索することが可能であるため、「患者に外部施設を紹介する際などに参考になる」ことを説明した。  なお、同氏の所属施設である東京医科歯科大学の場合、遺伝子診療科において内科各科、小児科、外科、腫瘍センター、女性診療科、泌尿器科、耳鼻科が連携を取り、“横串”を通す診療各科横断的な遺伝子診療を実施している。遺伝専門医や認定カウンセラー不足、他県や他施設で補い合う ゲノム医療では、リスクなどがわかるように説明する必要があるため、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラー(非医師)による説明が欠かせない。ところが、前者は総医師数(医療施設従事者数:約31万人)のわずか0.53%(1,894人、2024年2月時点)、カウンセラーに至っては389人、5県で不在、9県で1人ずつしか在籍していないという。「このような人材不足をカバーするために、他県や関連病院との連携もさることながら、オンライン診療を駆使していく予定」と説明し、「将来的な治療との結びつきのためにも遺伝子解析は必要。循環器領域でいうPCSK9の遺伝子変異解析がそれにあたるが、エクソソーム解析(全ゲノムの5%)自体が砂金を探すようなプロジェクトとも言えるため、遺伝性疾患に対する治療薬の開発、遺伝学的検査の保険収載が進みつつあるなか、標榜診療科の策定や人材育成が必要となるだろう」とまとめた。

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ネグレクトと虫歯の関連―児童相談所での調査

 虐待などの理由で児童相談所に一時保護された子どもを対象に、虫歯の有病率と虐待の関連を調べる研究が行われた。その結果、虐待の種類としてネグレクトを受けた子どもで虫歯の有病率が高いことが明らかとなった。新潟大学大学院医歯学総合研究科小児歯科学分野の中村由紀氏らによる研究であり、「BMC Public Health」に5月18日掲載された。 子ども虐待の報告件数は増加が続いている。子どもの虫歯を放置するなど、必要な歯科医療を受けさせないことは「デンタルネグレクト」と呼ばれ、歯科保健と児童福祉の両面から対策を講じることが重要である。虫歯を放置することは虐待の兆候とも考えられるが、虫歯と虐待は直接には関連していないことを示唆する報告もある。また、虐待の種類と虫歯の関係については十分に研究されていない。 著者らは今回、2015年1月~2019年7月に新潟県内の児童相談所に一時保護された2~18歳の子どもで、一時保護から2週間以内の534人(平均年齢10.4±3.85歳、男児308人、女児226人)を対象とする横断研究を実施。新潟大学の小児歯科医師と歯科衛生士が、歯科検診および歯の健康行動に関する問診を行った。虐待に関するデータは児童相談所から入手した。 その結果、対象者のうち323人(60.5%)が、虐待を理由に一時保護を受けていた。虐待の種類の内訳は、身体的虐待が176人(54.5%)で最も多く、ネグレクトが72人(22.3%)、心理的虐待が68人(21.1%)、性的虐待が7人(2.2%)だった。 児童相談所の子ども1人当たりの虫歯(未処置の虫歯+処置済の虫歯)の平均本数は、2~6歳、7~12歳、13~18歳の全ての年齢層で、2016年の厚生労働省の「歯科疾患実態調査」の結果と比較して有意に多かった。 児童相談所の子どもについて虫歯の有無と虐待の有無との関連を調べたところ、未処置の虫歯、処置済の虫歯、未処置の虫歯+処置済の虫歯のいずれを検討した場合も、年齢層にかかわらず、虐待との有意な関連は認められなかった。 次に、虐待の種類別に検討したところ、7~12歳の虫歯(未処置の虫歯、未処置の虫歯+処置済の虫歯)の有無と虐待の種類に有意な関連が認められ、ネグレクトの場合に虫歯の有病率が高いことが示された。未処置の虫歯の本数は、身体的・性的虐待(平均1.5本、中央値0.0本)と心理的虐待(平均1.5本、中央値0.0本)に比べ、ネグレクト(平均3.4本、中央値2.0本)の方が有意に多かった。未処置の虫歯+処置済の虫歯で比較しても同様に、身体的・性的虐待(平均2.3本、中央値1.0本)および心理的虐待(平均2.1本、中央値0.0本)よりも、ネグレクト(平均4.1本、中央値3.0本)で有意に多いことが明らかとなった。 今回の研究結果から著者らは、一時保護に至った理由が虐待かどうかにかかわらず、児童相談所の子どもは全国平均と比較して虫歯の有病率が高く、歯磨きの頻度が低かったとして、対策の必要性を指摘している。また、適切な歯科治療を受けようとしなかったり、受けられなかったりするのは、家族の孤立、経済的余裕のなさ、歯科治療の必要性の認識不足などの要因から生じる可能性にも言及し、「デンタルネグレクトと判断する前に、複数の要因を考慮しなければならない」と述べている。

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もし過去に戻れたらどの診療科を選ぶ?後輩には勧める?/医師1,000人アンケート

 厚生労働省が2024年3月19日に公表した「医師・歯科医師・薬剤師統計」の最新結果では、全国の医師数は34万3,275人で、前回調査(2020年)と比べて1.1%増加した。本調査では、前回調査時と比べて美容外科、アレルギー科、産科、形成外科などの診療科で医師数の増加がみられた。一方、気管食道外科、小児外科、外科、心療内科、耳鼻咽喉科などの診療科では医師数の減少がみられた(詳細は関連記事参照)。この結果には、ワークライフバランスや年収、やりがい、キャリアなどを含めた診療科への満足度が影響している可能性も考えられる。そこで、CareNet.comでは40~50代の医師1,005人を対象に、診療科への満足度に関するアンケートを実施した(2024年5月24~31日実施)。本アンケートでは、現在の診療科にどれだけ満足しているか、もし医学生や研修医に戻れるとしたらどの診療科を選ぶか、自身の診療科を医学生や自分の子供などに勧めるかを聞いた。医師の約4分の3が現在の診療科に満足 現在の専門の診療科について満足度を聞いたところ、「非常に満足」が20.7%、「満足」が54.4%であった。これらを合わせると約4分の3(75.1%)が満足していた。一方、「非常に不満」は0.7%、「不満」は3.5%であり、現在の診療科への不満を有している医師は少ないことが明らかになった。これらの結果について、診療科別に大きな違いはみられなかった。診療科を選び直せても現在の診療科を選ぶのは63.1%、人気は内科 次に、「もし医学生や研修医に戻れるとしたらどの診療科を選ぶか」を聞いた。その結果、「現在の診療科を選ぶ」と回答したのは63.1%であった。この割合は、皮膚科(76.3%)、救命救急科(73.5%)、精神科/心療内科(69.8%)、産婦人科(67.7%)、外科(67.7%)などで高かった。 また、「現在の診療科以外」を選択した371人について集計した結果、内科(12.9%)、皮膚科(7.3%)、放射線科(5.4%)、外科(5.1%)、美容外科(5.1%)が人気であった。医師は選ばないとの回答も2.7%あった。主な理由は以下のとおり。【内科を選んだ理由】・いろいろな症例がみられる(40代、精神科/心療内科)・手術はしたくない(50代、循環器内科)・開業を目指す(50代、腎臓内科)・自分の健康に寄与するから(40代、小児科)【皮膚科を選んだ理由】・目に見えて効果がわかるから(40代、神経内科)・開業もしやすい。ランニングコストが少ない(40代、腎臓内科)・美容皮膚科に携わりたいから(40代、整形外科)【放射線科を選んだ理由】・放射線治療がますます進歩すると考えているから(50代、脳神経外科)・主治医にならないから(40代、救命救急科)・若いころに戻るならば、リモート診療、AIの発達に向けて動いてみたいと思えたから(40代、精神科/心療内科)【外科を選んだ理由】・なり手が少なく社会的な意義が高そう(40代、糖尿病・代謝・内分泌科)・将来AIの台頭で、機械では代用できない技術が重宝されると思うため(40代、放射線科)・外科に憧れがある(40代、消化器内科)【美容外科/美容皮膚科を選んだ理由】・健康な方をより元気にする科であるため(40代、総合診療科)・保険診療はもう嫌(40代、内科)・お金と時間がありそうなイメージ(40代、脳神経外科)・美容に興味があるから(50代、精神科/心療内科)自身の診療科を勧めるのは26.6%、勧めないのは18.3% また、「医学生や自分の子供などに自身の診療科を勧めるか」を尋ねた。その結果、「強く勧める」が7.4%、「勧める」が19.2%であり、合わせて約4分の1(26.6%)が自身の診療科を勧めるという結果であった。一方、「強く勧めない」は5.3%、「勧めない」は13.0%であり、合わせて約5分の1(18.3%)は自身の診療科を勧めないという結果であった。 この結果を診療科別にみると、自身の診療科を勧める(「強く勧める」と「勧める」の合算)と回答したのは、内科系が31.9%と多い傾向にあり、外科系(23.9%)、産婦人科・小児科・救命救急科(21.9%)は少ない傾向にあった。外科系の診療科のなかでも、脳神経外科(6.3%)、外科(12.9%)、消化器外科(15.2%)などで少ない傾向にあった。 勧めない(「強く勧めない」と「勧めない」の合算)と回答したのは、内科系が13.4%と少ない傾向にあり、外科系(22.3%)、産婦人科・小児科・救命救急科(23.1%)は多い傾向にあった。こちらも外科系のなかで、脳神経外科(34.4%)、消化器外科(27.3%)、外科(22.6%)が多い傾向にあった。アンケート結果の詳細は以下のページに掲載中。現在の診療科の満足度は?過去に戻れるならどの診療科を選ぶ?/医師1,000人アンケート

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第200回 相次ぐ往診サービスの終了、診療報酬改定の影響で経営困難に

<先週の動き>1.相次ぐ往診サービスの終了、診療報酬改定の影響で経営困難に2.美容医療トラブル急増、消費者保護のために規制強化へ/厚労省3.新たに3大学が心臓移植に参入、移植医療の逼迫改善を目指す4.紅麹サプリ問題、新たに76人の死亡例が判明/厚労省5.森光 敬子氏を医政局長に起用、初の女性医政局長が誕生/厚労省6.出産費用の保険適用へ議論開始、妊婦の負担軽減を目指す/厚労省1.相次ぐ往診サービスの終了、診療報酬改定の影響で経営困難に夜間や休日の往診サービスを提供する医療スタートアップが、2024年度の診療報酬改定により相次いで事業の縮小やサービスの提供を終了している。今春の診療報酬改定により往診報酬が大幅に減額されたことが、主な原因とされている。「キッズドクター」を運営するノーススターは、5月までに往診サービスを終了し、オンライン診療や健康相談に特化する方針を示した。また、「コールドクター」も3月末で往診サービスから撤退し、オンライン診療と医療相談にシフトしている。さらに、「家来るドクター」は、往診エリアの縮小と料金の引き上げを行い、最大手の「ファストドクター」も自己負担額を引き上げることを決定した。これらの事業者は、新型コロナウイルス感染症の影響下で自宅療養者の急増に対応し、往診サービスを拡大してきた。しかし、今回の診療報酬改定では「普段訪問診療を受けていない患者への夜間・休日の往診」が厳しく見直され、報酬が大幅に減額された。最も報酬が高い「深夜往診加算」は従来の2万3,000円から4,850円に減額されるケースもある。これら改定の結果、往診サービスの提供が経済的に困難となり、多くの事業者が撤退を余儀なくされている。ファストドクターの菊池 亮社長は「改定により往診サービスが縮小すると救急医療の負担増加につながる可能性がある」と懸念を示している。一方、往診サービスを頼りにしてきた自治体では、診療報酬改定の影響で公共サービスとしての往診の見直しが迫られている。とくに、高齢化が進み医療機関が少ない地域では、往診サービスの縮小が医療体制に深刻な影響を与える可能性がある。東京都医師会理事の西田 伸一医師は「今回の改定は不要な往診を減らすことが目的だが、在宅医療の充実には夜間・休日の往診サービスに特化した事業者も必要」と述べ、医療財源の最適化と救急医療のバランスが課題であると指摘している。参考1)夜間休日往診サービス、撤退・縮小相次ぐ 診療報酬減で(日経新聞)2)“往診サービス”続々終了、利用者負担増 理由は「診療報酬改定」?(withnews)2.美容医療トラブル急増、消費者保護のために規制強化へ/厚労省厚生労働省は、美容医療に関するトラブルが急増していることを受け、6月27日に「美容医療の適切な実施に関する検討会」の初会合を開催した。検討会では、やけどや皮膚障害などの健康被害に関する相談が、2018~2023年度にかけて倍増し、2023年度には796件に達したことが報告された。相談件数は、新型コロナウイルス感染症の影響で一時的に減少したものの美容医療の施術回数も急増しており、2022年度には373万件を超え、とくに非外科的手技が大幅に増加していた。一方で、美容医療に従事する医師の数も増加し、おもに若い世代の医師が多くを占めていた。消費者庁によれば、美容医療サービスに関する相談件数は2019年度の2,036件から2023年度には6,264件に増加がみられており、具体的なトラブルの例として、脱毛後にシミが残ったり、リフトアップ後に神経麻痺が生じたりするケースについて報告があった。また、料金トラブルも多く、たとえば発毛治療の費用が予想以上に高額になることがある。美容医療の多くは自由診療であり、料金や診療内容の妥当性を審査する制度がないことが問題視されている。これに対し、厚労省では、ガイドラインの策定やルール作りの必要性を議論しており、年内を目途に取りまとめを行う予定。さらに、医師資格を持たない者が施術を行うケースや、医師不在のクリニックでのトラブルも指摘され、これらの問題に対する対策が求められている。消費者が被害を避けるために、消費者庁などは美容医療を受ける前に確認すべきチェックリストを作成し、リスクや副作用を十分に理解した上で医療機関を選ぶことを推奨している。厚労省の検討会では、医療行為に関する法的な線引きや、モラルに欠ける医師に対する取り締まりの強化を議論し、美容医療に関する安全性の向上を目指し、年内にも報告書をまとめる方針となっている。参考1)第1回美容医療の適切な実施に関する検討会(厚労省)2)美容医療「危害」の相談倍増、5年間で やけどや皮膚障害など(CB news)3)“美容医療で健康被害” 対策話し合う検討会 議論開始 厚労省(NHK)4)美容医療巡る健康被害、国が対策議論 医師不在の事例も(日経新聞)3.新たに3大学が心臓移植に参入、移植医療の逼迫改善を目指す6月27日、東京医科歯科大学、岡山大学、愛媛大学が新たに心臓移植を実施する方針を発表した。日本心臓移植学会の調査では、2023年に心臓移植を断念せざるを得なかった例が16件あり、移植施設の人員や病床不足が原因となっていた。3大学の参入により、全国の心臓移植施設は14ヵ所に増え、医療体制の逼迫解消が期待される。東京医科歯科大学は、東京大学と近距離にあり、東京大学での移植断念例が多い現状を踏まえ、東大との連携を視野に入れている。今年10月には東京工業大学と統合し、新大学「東京科学大学」として心臓移植を実施することで、実力のアピールを図る狙いもある。岡山大学は現在、肺、肝臓、腎臓の移植を行っており、心臓移植施設となれば中国地方で唯一の存在となる。愛媛大学は、四国初の心臓移植施設として登録され、現在は実施に向けた準備を進めている。心臓移植を行うには、日本循環器学会などの協議会の推薦を受け、日本医学会の委員会で選定される必要がある。さらに、臓器あっせん機関「日本臓器移植ネットワーク(JOT)」に登録されることが必要条件。東京医科歯科大学と岡山大学は、来年度にも申請を予定し、愛媛大学はすでに登録を完了している。心臓移植に詳しい福嶌 教偉氏(千里金蘭大学長)は、「移植施設が増え、待機患者の偏りが緩和されれば、臓器の受け入れを断念する問題を解決する一助となる」と期待を寄せる。医療機関の多くは収益性が低いため、心臓移植に新たに参入する動きが鈍かったが、今回の3大学の参入は移植を待つ患者にとっては朗報となる。厚生労働省も移植医療体制の強化に向け、待機患者が複数の施設に登録できる仕組みを進める方針を示している。これにより、東大で受け入れが難しい場合、連携する東京医科歯科大学で手術を受けるなどの選択肢が増えることが期待されている。参考1)心臓移植断念の防止へ一歩、3大学が参入へ…収益性低く国公立に偏り(読売新聞)2)心移植に東京医科歯科・岡山・愛媛の3大学参入へ…医療のひっ迫改善に期待(同)3)四国初 愛媛大附属病院が心臓移植施設に認定(NHK)4.紅麹サプリ問題、新たに76人の死亡例が判明/厚労省小林製薬が販売する「紅麹」サプリメントを巡る健康被害問題で、摂取との関連性が疑われる死者数が新たに76人に上ることが判明した。同社は3月に5人と公表して以来、厚生労働省への報告を怠っており、今回の発覚は厚労省からの問い合わせが契機となった。厚労省は、6月13日に小林製薬に問い合わせた際、「新たな死亡事例はない」との回答を受けたが、翌14日に「調査中の事例がある」と一転して報告があった。最終的に27日に170人の死者についての相談が寄せられていることが明らかになり、28日のうち76人について調査中と報告された。これに対し、武見 敬三厚労相は記者会見で「小林製薬だけに任せておけない」と不信感を示し、今後は厚労省が詳細な指示を出す方針を明らかにした。小林製薬は、これまでは腎疾患と診断されたケースのみを報告対象としていたと説明したが、厚労省は3月の時点で因果関係が不明でも早急に報告するようにと指示していた。消費者庁はこれを受けて、機能性表示食品制度の見直しを進め、9月1日から健康被害情報の報告を義務化する方針を示している。今回の問題をきっかけに、政府は機能性表示食品の製造・販売事業者に対し、医師の診断がある健康被害情報を因果関係にかかわらず速やかに報告することを義務付ける再発防止策を決定した。また、食品表示基準も改正され、2026年9月からはパッケージ表示に「国による評価を受けていない」「医薬品ではない」などの記載が義務化される予定。小林製薬の対応について、消費者問題のある専門家は「消費者を軽んじている」と指摘し、情報開示と透明性の確保が欠かせないと批判している。また、台湾では30人が同社に対して集団訴訟を起こす予定であり、同社への批判は国際的にも広がっている。参考1)小林製薬またも後手 「紅麹」死亡疑い76人、国に報告せず(日経新聞)2)厚労省の問い合わせで発覚=小林製薬側から報告なし-紅麹問題(時事通信)3)「小林製薬だけに任せられない」 3月にも問題視された報告漏れ(毎日新聞)4)「紅麹」死者調査の報告3月以降なし、武見厚労相「もう任せておけない」…小林製薬「確認を重視」と釈明(読売新聞)5.森光 敬子氏を医政局長に起用、初の女性医政局長が誕生/厚労省2024年6月28日に厚生労働省は、新たな事務次官に伊原 和人保険局長を起用する人事を発表した。発令は7月5日付で、現次官の大島 一博氏は退官する。伊原氏は、東京大学法学部卒業後、1987年に旧厚生省に入省し、厚労省政策企画官、大臣官房総務課企画官、健康局総務課長、医政局長などを歴任し、2022年より現職。今回の人事では、医政局長に森光 敬子危機管理・医務技術総括審議官が就任することも発表された。森光氏は、佐賀医科大学医学部を卒業後、1992年に旧厚生省に入省。医薬安全局監視指導課医療監視専門官や厚労省保険局医療課長などを歴任し、2023年9月から現職を務めていた。森光氏の就任により、医政局長に女性が初めて就任することになる。さらに、保険局長には鹿沼 均政策統括官(総合政策担当)が起用される。鹿沼氏は、東京大学経済学部卒業後、1990年に旧厚生省に入省し、保険局総務課長や大臣官房審議官(医療保険担当)、首相秘書官などを歴任してきた。今回の人事発表について、武見 敬三厚労相は「適材適所の人事」と評価しつつ、女性幹部のさらなる登用に努める考えを示した。参考1)厚労事務次官に伊原和人氏起用へ 医政局長など歴任(CB news)2)医政局長に森光敬子氏を起用へ、女性初 保険局長は鹿沼均氏 厚労省人事(同)3)厚労次官に伊原氏(日経新聞)6.出産費用の保険適用へ議論開始、妊婦の負担軽減を目指す/厚労省厚生労働省は、2026年度からの出産費用の保険適用について話し合う有識者検討会の初会合を6月26日に開催した。現在、出産費用は帝王切開などを除き保険適用外であり、国が「出産育児一時金」として原則50万円を支給している。検討会では、保険適用の範囲や全国一律の公定価格の在り方などを議論し、来春を目途に妊産婦の経済的負担軽減策の方向性をまとめる予定。この検討は少子化対策の一環として進められており、2022年度時点の出産費用の全国平均額は約48万2,000円で、都道府県別では最も低い熊本県が約36万円、最も高い東京都が約60万円となり、地域間格差が顕著となっている。保険適用により、出産費用の地域差を縮小し、経済的負担を軽減することが期待される。会合では、保険適用による医療機関の経営悪化を懸念する声が上がったほか、産婦人科医の一部からは、保険適用によって減収となり、分娩を取り扱う医療機関が減少する可能性が指摘された。これを受け、厚労省は出産を担う病院やクリニックの経営実態を調査し、適切な診療報酬の設定を検討する方針を確認した。現在、正常分娩で出産育児一時金が支給されているが、一時金の増額に伴い、医療機関の出産費用も上昇しているため、十分な負担軽減につながっていないとの指摘がある。2022年度の正常分娩の平均費用は54万円で、10年間で12%上昇した。検討会では、出産費用の保険適用によって「天井知らず」の出産費用に歯止めをかけることが狙いだが、産科医側は自由な料金設定ができなくなることによる経営悪化を懸念している。出産は昼夜関係なく発生するため、夜間の受け入れ体制も整える必要があり、医師の働き方改革も考慮しなければならない。今後の議論のポイントは大きく4つある。1つ目は保険適用時の診療報酬設定であり、高めの報酬を求める声があるが、費用抑制の目的から逸脱しないようにする必要がある。2つ目は保険適用の範囲であり、無痛分娩や助産所での出産の扱いを議論する必要がある。3つ目は妊婦側の費用負担であり、自己負担が発生しない仕組みを求める声がある。最後に、給付を増やす場合の財源に関する議論も重要である。厚労省では、2025年春を目途に検討会としての意見をまとめ、2026年度から自己負担を求めない方向にする予定。参考1)第1回「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会」資料(厚労省)2)出産費用、保険適用で初会合 妊婦の自己負担焦点に(日経新聞)3)出産費用への医療保険適用巡り初会合 厚労省、26年度から自己負担求めない方向で検討(産経新聞)4)自己負担分は?閉院可能性など影響指摘も 出産の保険適用で検討会(朝日新聞)5)分娩医療機関が24年間でほぼ半減 産婦人科医は増加、厚労省集計(CB news)

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第217回 バリアフリーはどこにある!?車いす介助から見えた現実

「百聞は一見に如かず」とはよく言ったものである。今まさに人生初の経験をしている。車いすの使用である。といっても自分自身が車いすを利用することになったわけではなく、父親の介助者としてだ。以前、本連載でも触れたが、80代後半の両親は今も健在で、父親は軽度認知障害(MCI)持ちで歩行も亀の歩み状態となっている。それでも父親の出掛けたがりな性分は変わらず、それに付き添う母親のイライラが募った結果、私と母親は折り畳み式の軽量車いすの利用を検討し始めていた。ただ、前述の本連載バックナンバーでも触れたように、介助者である母親が納得するものを見つけるという段階で停滞を余儀なくされた。ところが利用しなければならない事態が現実に発生してしまったのだ。父親の容態ちょうどゴールデン・ウイーク(GW)が始まる1週間前のことだった。いつもより早く目が覚めた私は、ジムで小一時間運動し、シャワールームで汗を流して脱衣所に戻ると、スマートフォンに実家近くに住む薬剤師の親戚からLINE通話の着信があったことに気付いた。朝から何だろうと思ってそのまま体を拭いていると、今度は母親から電話の着信。何かあったと直感的に思った。母親には以前から「生死にかかわること以外で日中に音声電話をかけてこないこと」と言い含めていたからだ。急いで電話を受けると、「詳細はLINEに送ってあるから。お父さん、今、病院に救急車で向かっている」と一気にまくしたてられた。母親の声の背後に救急車のサイレン音がかぶさっていた。「わかった。また、連絡頂戴」と言って、一旦電話を切った。そのままLINEを立ち上げてメッセージを確認すると、「しゃべりなくなって救急車で市立病院に向かっている。体は元気(原文ママ)」とのメッセージ。わかるような、わからないような。即座に「脳梗塞か」とだけLINEメッセージを返し、急いで服を着て事務所に戻った。道すがら前述の親戚に折り返し、どうやら「起床後に(父親の)足が浮腫んでいた」と母親が彼に話していたことを知った。事務所に到着した時点で母親から新たなメッセージが着信していた。「一時的に、梗塞したようで(救急)車の中で回復した。病院について診察受けている、大丈夫だと思う」私はこの日、午前10時と午後1時からオンラインでの打ち合わせがあったが、安定した通信状態が必要なので、それが終わるまで事務所は動けない。昼直前に母親から「脳梗塞が見つかり、入院になった」とのLINEメッセージが着信した。午後の打ち合わせを終え、そこから不在に備えた雑務を諸々こなして、仙台駅に到着したのは6時過ぎ。父親と面会できたのは翌日だった。面会時はちょうど理学療法士がついてリハビリ中。横で眺めていると、結構キチンとやり取りし、手足も動いている。理学療法士が去ってから、父親が起き上がってベッドの端に腰掛け、「この姿勢のほうが耳がよく聞こえる。ワハハ」と元気そうだった。主治医からは、アテローム血栓性脳梗塞で搬送時のNational Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS)スコアは1。血栓回収療法は行わず、抗血小板薬の内服のみで対応しているが、経過観察や検査のため10日間の入院と説明を受けた。結局、私はそのままGW半ばまで病院にアクセスの良い市内のホテルに滞在し、毎日父親を見舞った。退院日には再び医師の説明を受け、軽度の心房細動が確認されたため、今後は内服薬を抗血小板薬から抗凝固薬へ切替えるとの方針が告げられた。駅構内・ホームで悪戦苦闘!最終的に後遺症もなく退院に漕ぎ着けたのだが、10日間の入院の結果、教科書通りなのかもしれないが、歩行力が低下してしまった。入院前から通所リハビリは利用していたが、母親が利用先の理学療法士から聞いた話によると、退院後は以前よりもふらつくシーンがやや増えたとのこと。このため母親が急遽ケアマネジャーに相談し、遠出をする時のことも考慮して、折り畳み式の軽量車いすをレンタルすることになったのだ。軽量車いすが実家に届いたのは5月末。そのため父親の状態確認と車いす介助を経験するため、私は帰省することにした。父親は自宅内や自宅近傍は自力歩行をしていたが、やや距離があるところに出かける時は車いすを使っていた。そして実家には今回レンタルした軽量車いすのほかに前述の親戚から譲り受けた車いすがあり、母親は仙台市内などの繁華街に出かける時は前者、地元の街中を移動するときは後者と使い分けていた。実際に介助してみると、なかなか大変である。どちらの車いすもまだ50代の私にとって重量面で堪えることはないが、非日常の車いす操作に伴い、さまざまな“ケアレスミス”が生じる。たとえば、父親の車いすを押しながら駅の自動改札を抜けた時のこと。改札の幅に問題はなく、父親は車いすに座ったまま自分の交通系ICカード(以下、ICカード)を自動改札に見事にタッチ(実はMCIだとこの自動改札のタッチを本人が忘れたりする)。ピッと音が鳴りホッとしてそのまま改札を通過した。実はここですでに“ミス”が発生していた。この時は母親も一緒にいたため、「あんた(私のこと)、自分のICカードは?」と言われてハッとした。父親のことに集中するあまり自分のICカードのタッチを忘れてしまっていたのだ。そのままホームに進む。以前は父親とこうして出かける時は、父親本人はシルバーカーを押していたので、改札前の歩行距離が最短で済む乗降口に並んでいた。この時も車いすを押しながらいつものようにその場所に並ぼうとすると、母親から「こっち!」と改札から少し離れた対抗ホームに向かう階段近くにある乗降口へと誘導された。「何でだろう?」とやや不思議に思ったが、電車が到着する2分ほど前にようやく理由がわかった。母親から促されて父親が電車に乗るために車いすから立ち上がる。最寄り路線を走るJRの車両はいまもドアが開いたところに大きな段差があるため、乗降時は車いすのままとはいかず、父親も自力歩行をしなければならない。そのために父親が車いすから立ち上がる際、足腰が弱った父親が不安定な車いす本体以外で支えとして掴まえることができるポールが、この階段脇の乗降口にしかなかったのだ。父親が立ち上がる直前に私は手早く車輪のブレーキをかけ、車いすを折り畳んで2人の後に続いた。この辺の操作を覚えることは何の苦もない。車内に乗り込むと、母親の指示で折り畳んだ車いすをシルバーシート脇の車両連結部付近にある広めのスペースに置いた。そして自分も両親の真向かいの席に座り、ホッと一息ついてから「あれ?」となった。というのも車いす導入後、母親はすでに父親と車いすを電車に乗せ、仙台市内の繁華街まで何度か出かけている。母親と2人がかりですら、気の抜けない作業だと私が思っていた「駅到着~電車に乗り終える」までの一連の作業を、母親はこれまで1人でこなしていたことに気付いたからだ。80代後半の小柄な母親にとってはかなり大変な作業なはずなのに。仙台駅に到着後は、私が軽量車いすを先に抱えて降りて、ホーム上で展開し、母親の介助で降りてきた父親を乗せ、ホーム中ほどにあるエレベーターまで移動。そこで改札階に上がり、3人で改札を抜ける。この時は私も忘れずICカードをタッチした。駅でのバス乗降、何が大変かって…父親のかかりつけ歯科医院の受診日のこと。とりあえず母親が路線バスで行ってみたいというので、仙台駅の有名なあのペデストリアンデッキ上を車いすを押しながら移動した。バスターミナルへはデッキから階段で降りていくことになる。幸いエレベーターはあったが、実はこれも大変。というのも駅舎からバス乗り場までの最短距離にある階段そばにはエレベーターはなく、デッキ上を大回りで移動してエレベーターがある場所まで移動して乗り場に降りることになった。バス乗り場では車いすに乗った父親の姿を見つけた係員が親切に誘導してくれ、事なきを得てバスに乗り込めた。しかし、折り畳んでもそれなりに大きさのある車いすを車内で保持しながらの移動は決して楽ではなく、人目もやや気になってしまう。目的地のバス停到着時は電車と同じく私が先行して降車し、母親に介助されながら降車した父親を車いすに乗せて、歯科医院まで私が歩道上を押して歩いた。何でもない作業に思っていたのだが、実はこれがそうでもない。歩道の所々には沿道から車両用の横断勾配があるのだが、この勾配に片輪でもかかると、かなりバランスが崩れる。自分は両親と比べまだ若いからとやや過信していたが、勾配でのバランス制御は介助者が車いすを押す力の多寡だけで解決するのはやや無理がある。そして目的地の歯科医院に到着すると、入口は道路の縁石からやや上方に傾斜したところにあった。そのまま前輪を浮かすように傾斜に乗り上げて前進しようとするもうまくいかない。結局、母親のアドバイスに従い、180度回転させ、引き上げるようにして傾斜を上ることになった。認知症カフェ参加、役所までヒヤヒヤそしてこの翌日には、実家近くの役所で開かれる認知症カフェに参加するため、役所まで再び父親を車いすに乗せて連れて行くことなった。この時に使用したのは親戚から譲り受けたほうの車いす。実家から役所までは2ルートあるのだが、母親からは歩道が綺麗に整備されたルートではなく、農道を拡張したルートを行くように指示された。曰く、前者はあの横断勾配が多くバランスを崩しやすいのだという。すでに前日にこの件は経験済みだったので、アドバイスに従うことにした。もっとも後者のルートは専用の歩道はなく、すぐ脇をビュンビュン乗用車が通り過ぎる。しかも路面の舗装は排水性アスファルトと呼ばれる粗い舗装のため、車いすに乗る父親には路面からのガタガタとした振動がまともに伝わってしまう。父親は文句ひとつ言わずに黙って乗っていたが。そして目的地の役所建物の目の前で車道から歩道に入ろうとしたところで。またガツンとやってしまった。ちょうど車道から歩道の境目は極めて緩やかなV字状で歩道の縁石も申し訳程度に隆起していた(後に現場まで行って定規で計測したところ2cm弱)のだが、前進ができない。結局、昨日の歯科医院前と同じく180度回転し、歩道側に引き上げるように車いすで乗り込み、再び180度方向転換して進み、無事、役所に到着した。背後からついてきた母親が「バリアフリーって歩行できる人のためのもので、車いすを使う人のものではないんだよね」と漏らした。同感だった。医療機関や介護施設ならば、車いすも想定したバリアフリーになっているだろうが、市中は必ずしもそうとは言えないのだ。明日はわが身、車いす介助者による事故そんなこんなもあって車いすについて調べるうちに行き着いたのが、独立行政法人製品評価技術基盤機構のホームページである。同機構は各種製品の安全関係に関する調査事業も行っており、そこでは報告のあった製品事故に関する情報も検索ができる。私が「車いす」のキーワードで検索すると、2019~22年に6件(電動車いすは除く)の報告があった。これはあくまで機構に報告があったものであり、世で起きた車いすに伴う事故の本当にごく一部だろう。いずれもリコールなどに該当する製品そのものの不具合ではない。どちらか言うと使用(介助)者側のミスなどに起因する。6件中4件は死亡事故だ。そのうちの1件の事故詳細を読んでいて何とも言えない気持ちになった。事故の詳細は施設介護者が入浴後の使用者を車いすに移乗させ、左足をフットサポートに乗せようとしたとき、車いすのバックサポートの後方に頭を倒していた使用者もろとも後方に転倒。そのまま使用者が亡くなったという事例である。使用者の姿勢もあり、左足をフットサポートに乗せようと持ち上げた時に重心が偏って起こった事故だ。不注意と言われればそれまでだが、介護者に悪意はまったくない。施設勤務介護者ですらこの状況なのだから、家族介護者で同様の事故が起こっているであろうことは容易に想像がつく。また、ある1件は介助者が、使用者の乗車した車いすを車いす用体重計に乗せるため前輪を上げる(浮かす)操作後に前進し、車いすが大きく傾き使用者が転落・負傷したという事案。まさに私が路上の縁石前で父親の車いすで行おうとしたこととほぼ同じ操作で事故は起きている。結局、介助者の「このくらい」という悪意のない行動が事故に結び付いているのだが、同時に私の少ない経験ながらも市中にはそうした操作を“強いられてしまう”現場があちこちにある。過去から比べれば世の中は進展しているとはいえ、私たちはまだ真のバリアフリー社会への途上にあるのだと改めて実感させられている。

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