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心臓手術時の血小板輸血、長期冷蔵保存血液でも止血効果/JAMA

 人工心肺装置(CPB)の使用を伴う心臓手術を受ける患者は、出血に対する血小板輸血を要することが多いという。血小板は通常、室温(20~24℃)で最長5~7日間保存されるが、冷蔵保存(1~6℃)により、止血機能を損なわずに保存期間を延長できる可能性が示唆されている。米国・ピッツバーグ大学のPhilip C. Spinella氏らCHIPS Investigator Groupは「CHIPS試験」において、心臓手術を受ける患者では、手術中の活動性出血の制御に関して、最長21日間保存された冷蔵保存血小板(CSP)は、室温保存血小板(RTP)と同程度の止血効果が期待できることを示した。研究の成果はJAMA誌オンライン版2026年8月17日号で報告された。2ヵ国の無作為化非劣性試験 CHIPS試験は、米国とオーストラリアの27施設で実施した部分盲検無作為化適応型非劣性試験であり、2021年12月~2025年3月に、生後28日以上85歳未満で、CPBの使用を伴う複雑な心臓手術が予定され、血小板輸血を要する出血が予測される患者を登録した(Defense Health Agency Operational Medical Systemsの助成を受けた)。 被験者1,000例を、最長21日間保存したCSPの投与を受ける群(660例)、または最長7日間保存したRTPの投与を受ける群(340例)に無作為に割り付けた。 主要評価項目は、止血有効性スコア(1~5点、点数が大きいほど出血量が多い)とし、非劣性マージンは1点に設定した。7日以上の冷蔵保存期間が少なくとも1回あり、その際の非劣性の事後確率が97.5%以上の場合に、成功基準を満たしたと判定した。胸腔ドレナージ排出量も同程度 血小板輸血を受けた1,000例のうち678例(67.8%)が男性で、1歳未満がCSP群で79例(12.0%)、RTP群で54例(15.9%)含まれた。主解析の対象となったのは989例(CSP群650例、RTP群339例)で、年齢中央値は55.5歳(四分位範囲[IQR]:4.8~68.8)であった。CPBの施行時間中央値は164.0分(IQR:114.0~219.0)であった。 主要評価項目に関して、CSP群はRTP群に対し非劣性を示し、すべての冷蔵保存期間(1~21日)においてその確率は99.9%を超えた。保存期間を統合して分析したところ、止血有効性スコアはCSP群が3.08点(95%信用区間[CrI]:2.99~3.17)、RTP群は2.99点(95%CrI:2.88~3.11)であり、平均群間差は0.09(95%CrI:-0.06~0.23)であった。 また、事後解析では、すべての保存期間で非劣性であったためCSP群を単一の群と見なすと、止血有効性スコアの平均値はCSP群が3.08(SD 1.15)点、RTP群は2.99(SD 1.10)点と両群でほぼ同等であった。 副次評価項目である24時間後の胸腔ドレナージ排出量中央値は、CSP群で8.9mL/kg(IQR:5.2~15.4)、RTP群で8.4mL/kg(IQR:5.5~15.9)であり、中央値の群間差は0.4mL/kg(95%CrI:-1.0~1.5)と両群間に統計学的な有意差を認めなかった(p=0.83)。安全性アウトカムに大きな差はない 安全性アウトカムについては、初回血小板輸血後24時間以内の出血に対する再手術がCSP群で多かった(4.2%vs.1.8%、群間差:2.5%[95%CrI:0.4~4.6])ことを除くと、同7日以内の静脈血栓イベント(2.6%vs.1.8%)、動脈血栓イベント(2.6%vs.3.8%)、輸血関連有害事象(0.2%vs.0%)などに両群間で差はなく、28日死亡率(3.2%vs.1.8%)も同程度であった。 著者は、「この結果は、活動性出血に対する、最長で21日間冷蔵保存された血小板の使用を支持するものである」としている。 また、「これによって、血小板の廃棄を減らし、供給量を増やすことができ、従来の5~7日間室温保存された血小板は投与できなかった患者での使用も可能になると考えられる」と指摘している。

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GERD診療30年の変遷―PPIの時代からP-CABを軸とする時代へ【温故知新30年】

講師紹介H2受容体拮抗薬(H2RA)が中心であった1980年代胃食道逆流症(GERD)診療の変遷を振り返る際には、わが国における酸関連疾患全体の変化を抜きにして語ることはできない。1980年代の消化器診療において、酸関連疾患の中心は胃潰瘍・十二指腸潰瘍であった。H. pylori感染率は現在よりはるかに高く、胃粘膜萎縮を背景に加齢とともに胃酸分泌が低下する症例が多く、GERDは日常診療のなかで大きな位置を占める疾患ではなかった。胸焼けや呑酸など逆流症状を訴える患者は存在していたが、主な治療対象は内視鏡でびらんや潰瘍を認める逆流性食道炎であり、内視鏡所見に乏しい症例をどのように診断し、治療するかについては整理されていなかった。非びらん性胃食道逆流症(NERD)、食道知覚過敏、機能性胸焼けという概念は、診療現場でほとんど浸透していなかったのである。治療の中心は、生活指導と1980年に登場したH2RAであった。H2RAは、外科的治療が中心であった消化性潰瘍診療を内科的治療へと大きく変えた薬剤であり、当時の臨床的意義は大きかった。しかし、逆流性食道炎(とくに重症例や再発例)に対しては、酸分泌抑制の強さと持続性に限界があった。PPIの普及により、大きな変化を迎えた1990年代今から30年前に感じた最大の進歩は、プロトンポンプ阻害薬、すなわちPPIの普及である。PPIはH2RAより強力かつ持続的に胃酸分泌を抑制し、逆流性食道炎の治癒率を大きく改善した。とくに中等症から重症の逆流性食道炎において、PPIは標準治療としての地位を確立した。PPIの登場に伴って、全国GERD研究会が立ち上がり、GERD診療が大きく標準化された。逆流症状を訴える患者にPPIを投与し、症状の改善を確認する。内視鏡で逆流性食道炎の重症度を評価し、必要に応じて維持療法を行う。こうした診療の流れが一般診療に定着したことはGERD診療の歴史における大きな転換期といえる。同じ時期に、保険収載されたH. pylori除菌治療の普及により消化性潰瘍の再発が大きく減少した。これは酸関連疾患の交代を意味していた。H. pylori感染率の低下、除菌後患者の増加などで胃粘膜萎縮の少ない高齢者が増え、胃酸分泌が保たれる日本人が多くなってきた。その結果、GERD(とくに逆流性食道炎)は、日常診療でより頻繁に遭遇する疾患となった。PPIの普及は新たな課題も明らかにした。PPIを適切に投与しても症状が十分に改善しない患者が一定数存在すること、内視鏡では食道炎が治癒しているにもかかわらず強い症状が残る症例、夜間の逆流症状や再発を繰り返す症例もみられた。PPIはGERD診療を標準化したが、同時に「酸を抑えればすべて解決するわけではない」という事実が私たちに突きつけられた時代であった。P-CABの登場で変わる治療:2015年〜この10年のGERD診療で重要な変化は、カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)の登場である。わが国で開発されたボノプラザンは、従来のPPIと異なる機序でプロトンポンプを阻害し、速やかで強力かつ持続的な酸分泌抑制を示す。GERD診療は、PPIの時代から、P-CABをどう位置付けるかを考える時代に入った。臨床的意義が大きかったのは、重症逆流性食道炎、再発を繰り返す症例、夜間酸逆流が問題となる症例、PPIで十分な効果が得られない症例に対する有効性であった。従来は、PPIを増量する、投与タイミングを工夫する、就寝前にH2RAを併用するなどの対応が行われてきた領域に、より強力な酸分泌抑制という新たな選択肢が加わった。この変化は、GERD診療の治療設計そのものを変える可能性を持っていた。初期治療でどの患者にP-CABを用いるのか、治癒後の維持療法をどうするのか、軽症例ではどの時点で休薬やオンデマンド療法を検討するのか、NERDではPPIとP-CABをどう使い分けるのか。これらの問いが、GERD診療の中心課題となっている。一方で、P-CABは強力であるがゆえに、漫然と使用すべき薬剤ではない。酸分泌抑制が強いほどよい、という単純な時代ではない。長期投与に伴う高ガストリン血症、胃底腺ポリープなど胃粘膜の変化、さらに病理組織学的変化をどう評価するかは、今でも重要な検討課題となっている。私にとってのパラダイムシフト従来、内視鏡所見や組織学的所見、胃酸分泌能および消化管ホルモンを研究してきた私にとって、GERD診療における第1のパラダイムシフトはPPIの登場であった。PPIによる酸分泌抑制は、組織学的胃炎とガストリン動態に影響するとともに、逆流性食道炎を確実に治癒が目指せる疾患とした。H2RAの時代には難しかった重症例の治癒、再発抑制、維持療法が可能になり、GERD診療は大きく進歩した。第2のパラダイムシフトはP-CABの登場である。P-CABは、従来のPPI治療で残されていた課題に正面から向き合う薬剤である。すなわち、酸抑制の立ち上がり時間、夜間酸分泌抑制、重症食道炎の治癒、再発抑制、PPI抵抗性症状に対する対応である。症状が残る患者の中には、真の酸逆流が主因ではなく、逆流に対する過敏性や機能性胸焼け、機能性ディスペプシア、心理的社会的因子が関与する症例もあり、P-CABによってGERD診療のすべてが解決するわけではない。むしろ重要なのは、強力な酸分泌抑制が必要な患者を正しく選択し、投与期間および用量を適切に判断することである。この点で、P-CABはGERD診療の成熟を促している。従来は「PPIで効かなければ難治例」と考えていた症例の一部に、より強力な酸分泌抑制で対応していたが、P-CABでも改善しない症例では、そもそも酸逆流が症状の主因なのかを再検討すべきである。P-CABの登場により、酸抑制治療の限界が押し広げられると同時に、GERDの精緻な病態診断の重要性が増したのである。次の5年、GERD診療はP-CABを中心に再編される? 内視鏡的治療の普及も?今後5年のGERD診療では、P-CABの位置付けがさらに明確になるだろう。重症逆流性食道炎、再発リスクの高い症例、PPIで十分な効果を得られない症例では、P-CABをより早期から用いる診療が広がる可能性がある。GERD治療は、PPIを基本としながら必要時にP-CABを追加する時代から、病態に応じて最初からPPIとP-CABを使い分ける時代へと移行していくと考えられる。一方で、軽症例やNERDでは、過剰な酸分泌抑制を避ける視点も重要である。症状が軽く、再発リスクが低い患者では、短期間治療、休薬、間欠療法、オンデマンド療法を組み合わせる。P-CABを使う場合でも、初期治療後にどのように減量・中止・維持へ移行するかを考える必要がある。今後のGERD診療では、「強く抑える」ことと同じくらい、「適切にやめる」「必要最小限にする」こと、さらにはアルギン酸製剤やプロバイオティクスの併用による酸分泌抑制薬中止後のリバウンド抑制なども課題となると思われる。P-CAB中心の診療になるほど、長期安全性の評価は避けて通れない。ボノプラザンは発売から11年が経過し、H. pylori陰性者を対象としたVISION研究など長期維持療法に関するエビデンスも蓄積されつつある。今後は、実臨床での長期使用データ、病理組織学的変化、血清ガストリン値の推移、胃粘膜の変化、患者背景別の安全性を丁寧に評価していく必要がある。さらに、P-CABでも改善しない症例への対応が、専門医療の質を左右する。食道インピーダンス、pHモニタリング、食道内圧検査を適切に用い、真のGERD、逆流過敏、機能性胸焼けを区別することが求められる。今後のGERD診療は、薬剤治療の効果が乏しい症例、長期投与が必要な若年症例に対して内視鏡的逆流防止術が選択される時代が到来する可能性もある。過去30年で、GERDの薬物診療はH2RAからPPIへ、そしてP-CABへと進歩してきた。これからの課題は、P-CABという強力な治療選択肢を、いかに過不足なく使いこなすかである。必要な患者には十分な酸抑制を行い、不要な患者には漫然投与を避ける。長期安全性を見据えながら、症状、内視鏡所見、再発リスク、患者の生活背景を総合的に判断し、内視鏡的治療にも目を向ける。GERDはありふれた疾患である。しかし、ありふれているからこそ、治療の質が問われる。P-CABの登場は、GERD診療を新しい段階へ押し上げた。次の5年は、その力を最大限に活かしながら、患者一人ひとりに適したGERD治療を設計する時代になる。

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損害賠償が高額となる場合って?【医療訴訟の争点】第23回

症例医療訴訟の損害賠償額はどのように決定付けられるのか。腰部脊柱管狭窄症に対する腰椎後方除圧術中に馬尾神経が切断され、患者に重篤な後遺障害が残存した事案についての神戸地裁姫路支部令和7年5月14日判決を紹介する。<登場人物>患者74歳・女性(令和2年当時)原告患者およびその長女被告市立病院を開設する市および執刀医事案の概要は以下の通りである。令和元年(2019年)12月20日腰痛を主訴として被告病院を受診。腰部脊柱管狭窄症が疑われた。令和2年(2020年)1月6~8日検査入院し、脊髄造影検査(ミエログラフィー)などを実施。重度の腰部脊柱管狭窄症と診断された。また、残尿も認められた。1月17日担当医(A医師)から、重度の腰部脊柱管狭窄症であり早期手術が望ましいこと、腎機能がさらに悪化すれば人工透析となる可能性があることなどの説明を受け、患者は手術に同意した。1月20日手術目的で入院。1月22日腰椎後方除圧術(本件手術)を施行。執刀医(A医師)は、第2・第3腰椎間の除圧操作中、視野が十分確保されていないにもかかわらずスチールバーによる骨切除を継続した。その結果、バーが硬膜を損傷し、逸脱した馬尾神経を巻き込んで複数本を切断した。助手医師(上級医である脳神経外科部長)が交代して馬尾神経の修復処置を行い、手術は終了した。手術後患者には、両下肢麻痺、自力での起立・歩行不能、重度の膀胱直腸障害、腰部から下肢にかけての強い神経障害性疼痛が残存した。5月頃主治医がA医師から脳神経外科部長に交代し、その後もリハビリや疼痛管理が継続された。6月病院は、本件医療事故を医療過誤と判断し、患者家族に謝罪した。10月23日神経障害は改善が見込めないとして症状固定と診断された。後遺障害は、自動車損害賠償保障法施行令別表第一1級1号(常時介護を要するもの)相当と評価された。令和3年(2021年)1月28日患者は入院継続中、病室内で転倒し、右脛骨・腓骨骨折などを受傷した。患者にはそれ以前から複数回の転倒歴があり、病院では離床センサー付きベッドなどの転倒防止策を講じていたが、この転倒事故についても病院の安全配慮義務違反があったかが争われた。3月病院は代理人弁護士を通じ、本件医療事故について適正な損害賠償を行う意向を通知した。8月執刀医は病院を退職した。令和4年(2022年)病院は院内事故調査を実施し、本件を含む複数の医療事故について検証を行った。また、記者会見を開き、一連の医療事故について公表・謝罪した。さらに、医療安全管理体制等について外部機関から改善を求められた。令和5年(2023年)患者は約3年間の入院生活を経て退院し、その後は転院、自宅療養及び特別養護老人ホームへの入所を経ながら療養を継続した。 実際の裁判結果本件では、本件手術(腰椎後方除圧術)中の馬尾神経損傷について執刀医に手技上の過失があることについては被告病院側も争っていないため、以下の2点が主な争点となった。(1)本件手術により本件患者に生じた後遺障害に対する損害額、とくに後遺障害慰謝料をどの程度認めるべきか(2)長期入院中に発生した転倒事故について病院に安全配慮義務違反があったか1)本件手術により患者に生じた損害について裁判所は、本件患者につき、以下(1)~(13)の合計約8,670万円を、本件患者の娘につき、固有の慰謝料として200万円を、それぞれ損害として認めた。(1)治療関係費詳細はこちら裁判所は、(ア)本件手術に係る入院日(令和2年1月20日)から本件症状固定日(同年10月23日)までの治療関係費のほか、(イ)本件症状固定日(令和2年10月23日)以降の治療関係費について、「本件症状固定日以降も、本件医療事故による神経障害性疼痛等の症状に対する投薬治療やリハビリ等がされており、主治医は、リハビリを中止した場合、症状が増悪する可能性が高いと診断したことが認められるから、本件症状固定日以降も本件患者に対するリハビリなどの必要性は高く、主治医の判断に基づき継続された治療やリハビリであると認められる」として、これらの合計約76万円を損害として認めた。(2)入院付添費詳細はこちら裁判所は、「本件病院は完全看護で医師による付添看護の指示が明確にあったとは認められない」としつつも、[1]本件患者が、馬尾神経を切断損傷されたことにより、本件手術終了直後から神経損傷により右足が動かず、自力での起立・歩行は不可能であり、その後も腰部から両下肢にかけての激しい疼痛としびれや、膀胱直腸障害が生じるという重篤な障害を負っていること、[2]本件患者が思い詰めやすい性格であり自殺未遂をした経験があること、[3]本件医療事故の直後から、本件患者に前向きにリハビリに取り組んでもらえるよう、本件患者の娘と本件病院の職員が協力し合う方針が確認され、定期的に面談を行っていることを指摘し、「本件医療事故を境に突如として重度の障害を負った本件患者を精神的に支え、さらなる状況の悪化を避けるべくリハビリを継続させるため、本件患者の娘が本件患者に付き添う必要性があり、本件病院も、本件患者の娘の付添を許容・依頼していたものというべき」として、症状固定日前日までの付添費として、その期間の1/3の92日に相当する期間の入院付添費約60万円を損害として認めた。(3)入院雑費詳細はこちら裁判所は、本件手術日から症状固定日前日までの入院期間(275日)の入院雑費約41万円を損害として認めた。(4)休業損害詳細はこちら裁判所は、本件患者が本件手術前から、要介護4の認定を受け、ヘルパーによる入浴介助を受けており、娘及びその夫と同居し、在宅で仕事をする娘が家事や買い物をしていたことを指摘し、「本件患者が一家の家事を担っていたとはいえず、休業損害は認められない」として、休業損害を否定した。(5)入通院慰謝料詳細はこちら本件症状固定日までの入院期間や症状を考慮して、入通院慰謝料として298万5,000円が認められた。(6)後遺障害慰謝料詳細はこちら裁判所は、主に以下の3点など、本件に現れた一切の事情を総合考慮し、慰謝料3,300万円(一般的な後遺障害1級事案における慰謝料2,800万円より高額の慰謝料)を認めた。ア本件手術における執刀医の手技上の過失の重大性(出血等により視認性の確保が十分ではないのに止血をこまめにしないままスチールバーによる骨切除を進め、本件医療事故を起こしたものであり、経験のある医師において危険を感じさせる手技であったこと、及び、執刀医が本件病院に入職してから約9ヵ月の間に手術に関与した11事例が医療事故として検証の対象とされたことなど)イ患者に残存した重篤な後遺障害及び強い神経障害性疼痛ウ病院の事故後の対応に十分でない点があったこと(執刀医が本件医療事故後に原告らに対し馬尾神経を切断損傷したことを明確に説明しなかったこと、本件病院は、令和2年4月、本件医療事故が医療過誤であると判断し、同年6月に原告ら家族に口頭で謝罪したほか、令和3年3月に代理人弁護士を通じて、損害賠償をする意向を通知しているが、A医師が関与した医療事故11例についての調査を終え、記者会見を開いて一連の医療事故を謝罪したのは令和4年6月であることに加え、調査内容の開示を求める原告らの要望への対応にも時間を要したことなど)(7)後遺障害逸失利益詳細はこちら裁判所は、休業損害と同様、本件患者が一家の家事を担っていたとはいえないことを指摘し、逸失利益の損害は認められないとした。(8)退院後の治療費、施設入所費詳細はこちら裁判所は、退院後に本件患者らが治療関係費などとして支払った退院後の治療費、施設入所費合計約103万円を損害として認定した。(9)症状固定日後の入院入所付添費詳細はこちら裁判所は、本件症状固定日(令和2年10月23日)から自宅介護開始日(令和5年8月1日)までの期間の入院入所付添費につき、本件患者が重篤な後遺障害を負い、リハビリや常時介護を要した上、強い痛みやしびれに苦しみ、精神的に不安定な状態が続いて転倒リスクのある危険行動や単独行動を起こしていたため、家族の付添いによる精神的な支えが必要な状態であったこと、令和4年6月頃までは、本件患者の娘がほぼ毎日のように面会し、相当程度頻繁に本件患者に付き添ったことを指摘し、本件症状固定日(令和2年10月23日)から令和4年6月末日までの616日間の約1/3である205日分の付添費約133万円を損害として認めた。(11)装具費、自宅改造費など詳細はこちら裁判所は、以下をそれぞれ損害として認めた。本件医療事故により両足が動かなくなったことに伴い、本件患者が両下腿原発性リンパ浮腫を来たし、医師より両下肢を常時圧迫する必要があるとの装着指示を受けて購入した装具費用2万2,000円本件症状固定日から入院先病院退院日(令和5年7月12日)まで(993日間)の入院雑費約149万円自宅介護開始後の物品のレンタル及び購入費6万3,000円自宅介護の開始にあたり購入した入浴時用車いす購入費7,100円自宅介護を開始するにあたり要した自家用車改造費47万円なお、特別養護老人ホーム短期入所期間中の介護雑費については、治療やリハビリがされた様子はなく、また、おむつ代は介護保険の範囲に含まれているとみられることを踏まえれば、別途、日常生活品として必要なものを超えた雑費の支出があったと認められないとして、損害とされなかった。(11)自宅介護費用詳細はこちら裁判所は、令和5年8月1日から令和6年2月29日までの213日間の自宅介護における近親者介護費用約170万円を損害として認めた。(12)将来介護費用詳細はこちら裁判所は、以下を損害として認めた。令和6年11月1日(特別養護老人ホームに正式入所した日より後の日)から口頭弁論終結日(令和7年2月12日)の期間に支出した費用33万3,840円(日額3,210円×104日)口頭弁論終結日(令和7年2月12日)以後の期間につき、日額約1万3,000円を症状固定時の平均余命までの期間について、中間利息(一括で支払いが受けられることによる運用益)を控除した金額である約3,460万円(13)弁護士費用詳細はこちら上記(1)~(12)の合計金額の1割の約788万円。2)転倒事故の安全配慮義務違反について病室内で発生した転倒事故については、患者は事故以前から危険行動や単独行動を繰り返していたものの、事故直前には看護師がその都度訪室して危険行動がないことを確認しており、当時の病棟の人員配置なども踏まえると、看護師が患者に付き添い続ける義務までは認められないとして、病院の責任を否定した。注意ポイント解説本件は、腰椎後方除圧術中の手技上の過失により馬尾神経が切断され、患者に重度の後遺障害が残存した事案である。手技上の過失自体については当事者間に争いがなく、裁判では主として損害額が争点となったものである。医療過誤訴訟の損害賠償は、(1)治療費、介護費などの積極的損害、(2)休業損害、逸失利益、入通院慰謝料、死亡慰謝料または後遺障害慰謝料などの消極的損害が賠償費目となる。そして、これらの損害は、交通事故と同様に算出されることとなり、積極的損害については実際の支出を踏まえた金額消極的損害については、入通院慰謝料については入通院期間をふまえた所定の計算式に基づいた金額死亡慰謝料や後遺障害慰謝料は、死亡の結果が生じた被害者が家庭の中で占めている役割に応じた所定の金額(2,000万円~3,000万円など)、後遺障害の場合には障害の程度に応じた金額(最も重い後遺障害等級1級の場合で2,800万円)消極的損害のうち、休業損害や逸失利益については、基礎収入に、障害の程度に応じた所定の労働能力喪失率と、就労可能期間を乗じる等して算出した金額が、それぞれ損害として認められる扱いとなっている。すなわち、医療過誤訴訟の損害は、交通事故の場合と同様に、所定の計算式に基づいての機械的計算ということとなるため、医療訴訟特有の事情により高額化するといったことはほとんどない。そしてまた、上記のような計算式により損害額が算定されるため、被害者に重度の障害が残り、介護費用が生じる場合被害者が若年者である場合(逸失利益算出にあたっての就労可能期間が長期となる場合)被害者が高額の収入を得ている場合(休業損害・逸失利益算出にあたっての基礎収入額が高額となる場合)などにより損害賠償額が高額化することとなる。本判決についても、(1)治療関係費、(2)入院付添費、(3)入院雑費、(5)入通院慰謝料、(8)退院後の治療費、施設入所費、(9)症状固定日後の入院入所付添費、(10)装具費、自宅改造費等、(11)自宅介護費用、(12)将来介護費用、(13)弁護士費用の算出は、損害賠償実務に沿った算出・認定となっている。また、本件では、(4)休業損害と(7)後遺障害逸失利益は認められていないが、事故前の就労の事実が認定されていないことからすれば、これもまた損害賠償実務の通例の判断である。このような中、本判決は、(ⅰ)患者が自力歩行不能となり、重度の膀胱直腸障害に加えて耐え難い神経障害性疼痛が残存したこと、(ⅱ)執刀医の手技上の過失が重大であったことに加え、(ⅲ)病院による事故後の説明や情報開示、院内調査などの対応が不十分な点があったことなど、本件に現れた一切の事情を総合考慮し、通常より高額の慰謝料を認定した点に特徴がある。とくに、病院は比較的早い段階で医療過誤を認めて謝罪し、適正な賠償を行う意思も表明していたにもかかわらず、裁判所は、院内調査や情報開示の進め方、医療安全体制の検証状況などを含めた事故後の一連の対応についても判断資料とし、マイナスの評価をしていることから、医療事故発生後の病院の対応全体が慰謝料額に影響し得ることを示唆した点は注目される。もちろん、本判決は、「事故後対応に問題があれば直ちに慰謝料が増額される」と判示したものではなく、事故後対応のみを独立した慰謝料増額事由としたものでもない。しかし本件のように、重大な後遺障害が残存した事案では、事故後の説明、情報提供、調査及び再発防止に向けた取組を含めた病院の対応が、患者や家族の精神的苦痛を評価する事情の1つとなり得ることが示されており、今後、事故後の対応において留意する必要がある。医療者の視点本件の判決では、手技上の重大な過失や重篤な後遺障害の残存に加え、事故後の病院側の対応(説明不足や情報開示・院内調査の遅れ)が、慰謝料増額の要因として考慮されました。実臨床の現場において、医療事故が発生した際、事実関係の正確な把握や院内事故調査委員会の開催、外部機関を交えた専門的な検証には、どうしても多大な時間がかかります。本件のように関連する複数事例の検証を併せて行う場合、年単位の時間を要することも決して珍しくありません。医療者側は「正確な原因究明を行ってから、責任をもって説明したい」と考えがちですが、患者やその家族からすれば、その空白の時間が「事実を隠蔽しようとしている」「対応が不誠実だ」と映ってしまいます。実際に裁判所も、この調査や開示に要した時間を「迅速に説明を尽くしたと評価するには不足」と判断しました。また、難易度やリスクの高い手術を多く手掛ける医師ほど合併症を経験する確率が高くなりますが、訴訟においては過去の事例が「技量不足」の根拠として扱われるリスクがある点にも注意が必要です。正確な調査には時間がかかるという実臨床ならではのジレンマはありますが、調査中であっても進捗状況をこまめに共有し、患者側との誠実なコミュニケーションを途絶えさせないことが、結果的に紛争の激化を防ぐ上で極めて重要であるといえます。Take home message医療事故の損害賠償額は、一般に交通事故実務に準じて算定されるため、医療事故であるという理由のみで慰謝料が増額されるものではない。本判決は、重大な結果が生じた事案(死亡事案、重大な後遺障害の残存事案)においては、過失の内容に加え、事故後の説明、情報開示、院内調査等を含めた病院の対応が、慰謝料額の判断事情として考慮され得る。キーワード馬尾神経損傷、後遺障害慰謝料、神経障害性疼痛、医療安全、医療事故後対応

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AF合併PCI患者の2剤抗血栓療法、1ヵ月vs.12ヵ月(OPTIMA-AF試験)/Lancet

 心房細動を合併した主に慢性冠症候群を有する患者において、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後に2剤併用抗血栓療法を1ヵ月行い、その後に直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)単剤療法を行った群は、2剤併用抗血栓療法を12ヵ月行った群と比較し、12ヵ月時の死亡または血栓塞栓性イベントに関して非劣性であることが示され、大出血または臨床的に問題となる非大出血(CRNM)は有意に減少した。大阪大学の外海 洋平氏らOPTIMA-AF Investigatorsが、国内75施設で実施した無作為化非盲検実薬対照並行群間試験「OPTIMA-AF試験」の結果を報告した。心房細動患者におけるPCI後の2剤併用抗血栓療法の至適期間は、依然として不明であった。なお著者は、「1ヵ月併用群で全体として臨床的プロファイルが良好であることが示唆されたが、イベント発生率が予想より低かったため有効性に関する解釈には注意が必要である」と述べている。Lancet誌オンライン版2026年7月15日掲載の報告。DOAC+P2Y12阻害薬併用1ヵ月後DOAC単剤vs.併用継続を比較 研究グループは、非弁膜症性心房細動を合併した、CHADS2スコアが1以上で、慢性冠症候群または不安定狭心症に対するPCIの適応があり、PCI施行後にDOACを用いた抗凝固治療継続が予定されている20歳以上の患者で、エベロリムス溶出ステント(XIENCE)留置に成功した適格患者を、1ヵ月併用群と12ヵ月併用群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 1ヵ月併用群では、DOAC+P2Y12阻害薬(クロピドグレル75mg/日またはプラスグレル3.75mg/日)を1ヵ月間併用投与した後、DOAC単剤療法に切り替えた。12ヵ月併用群では、同様の併用療法を12ヵ月間行った後、DOAC単剤療法に切り替えた。 有効性の主要評価項目は、12ヵ月時の全死因死亡または血栓塞栓性イベント(心筋梗塞、確定ステント血栓症、脳卒中または全身性塞栓症)の複合であった。安全性の主要評価項目は、12ヵ月時の国際血栓止血学会(ISTH)の定義による大出血またはCRNMで、盲検下独立委員会の判定に基づいた。 本試験では、有効性主要評価項目に対する非劣性検定を行い(非劣性マージンは絶対群間差の両側95%信頼区間[CI]の上限が5%)、非劣性が示された場合は、安全性の主要評価項目の優越性を検定し、同優越性が示された場合は有効性評価項目の優越性の検定を行う固定順序法が採用された。12ヵ月時の死亡または血栓塞栓性イベントは5.4%vs.4.3%、出血イベントは4.5%vs.8.8% 2019年10月7日~2024年9月3日に、1,101例の適格性評価が行われ、このうち1,088例が無作為化され、試験薬を少なくとも1回投与され事前に規定された基準を満たした1,079例が解析対象集団となった(1ヵ月併用群542例、12ヵ月併用群537例)。 患者背景は、年齢中央値76歳(四分位範囲[IQR]:70~81)、女性225例(21%)、男性854例(79%)、CHADS2スコア中央値は2(IQR:2~3)で、追跡期間中央値は540日(IQR:517~559)であった。 1ヵ月併用群は有効性に関して非劣性基準を満たし、出血リスクに関する優越性も示されたが、有効性に関する優越性は認められなかった。 有効性の主要評価項目のイベントは、1ヵ月併用群で29例、12ヵ月併用群で23例に発生し(Kaplan-Meier推定値5.4%vs.4.3%)、絶対群間差は1.1%(95%CI:-1.5~3.6)、ハザード比(HR)は1.25(95%CI:0.73~2.17)であった。 安全性の主要評価項目の大出血またはCRNMは、1ヵ月併用群で24例、12ヵ月併用群で47例に発生し(Kaplan-Meier推定値4.5%vs.8.8%)、絶対群間差は-4.4%(95%CI:-7.3~-1.4)、HRは0.50(95%CI:0.30~0.81)であった(優越性のp=0.0041)。

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がん関連VTEのDOACによる出血リスク、新たな予測モデルが有用か

 直接経口抗凝固薬(DOAC)治療を受けるがん関連静脈血栓塞栓症(VTE)患者を対象に開発された出血リスク予測モデル「ONCO-DOAC BLEEDスコア」は、既存の出血リスクスコアと比較して大出血リスクを良好に層別化できることが示された。本結果は京都府立医科大学循環器内科の長井 智之氏や中西 直彦氏ら(COMMAND VTE Registry-2)が報告し、JACC:CardioOncology誌2026年6月号に掲載された。  本研究グループは、国内31施設において2015年1月~2020年8月の期間に、急性の症候性の肺塞栓症および深部静脈血栓症と診断された患者5,197例を登録した多施設共同の観察研究「COMMAND VTE Registry-2」のデータを使用。VTE診断時に活動性がんを有していた1,507例のうち、経口抗凝固療法未実施例、ワルファリン投与例、血栓溶解療法施行例を除外した1,166例を開発コホートとして作成、解析した。主要評価項目は、大出血(国際血栓止血学会[ISTH]基準)の発生とした。 多変量Cox比例ハザード解析より、大出血と独立して関連する予測因子(各1点)として、(1)大出血の既往、(2)慢性腎臓病(CKD)、(3)NSAIDsの使用、(4)遠隔転移のあるがん、(5)末期がん、(6)上部消化管がん、(7)膵臓がん、(8)子宮がんの8項目を特定し、「ONCO-DOAC BLEEDスコア」を構築。合計点に基づき、低リスク(0点)、中リスク(1点)、高リスク(2点以上)の3群に分類した。さらに、国内臨床試験のONCO DVT試験(601例)およびONCO PE試験(178例)の計779例を検証コホートとした。  主な結果は以下のとおり。・開発コホート(1,166例、追跡期間中央値163日)において127例(10.9%)が大出血を経験し、構築されたスコアの1年累積大出血発現率は低リスク群5.7%、中リスク群8.9%、高リスク群21.2%と、有意なリスク層別化が示された(p<0.001[Gray's test])。 ・開発コホートでのONCO-DOAC BLEEDスコアの識別能(C-index)は、Harrell's C-indexで0.68(95%信頼区間[CI]:0.62~0.73)、Uno's C-indexで0.67(95%CI:0.62~0.72)を示し、既存スコア(VTE-BLEED:0.55、RIETE:0.58、CAT-BLEED:0.58、Perform:0.54)と比較して有意に高い識別能を発揮した(p値はそれぞれ<0.001、0.004、0.002、<0.001)。 ・検証コホート(779例、うち53例が大出血を経験)においても、1年累積大出血発現率は低リスク群6.6%、中リスク群8.6%、高リスク群18.2%と段階的な上昇を示した(p=0.003[Gray's test])。 ・検証コホートにおける識別能はHarrell's C-indexで0.62(95%CI:0.54~0.70)、Uno's C-indexで0.63(95%CI:0.54~0.71)で、既存スコア(VTE-BLEED:0.60、RIETE:0.60、CAT-BLEED:0.55、Perform:0.53)と同等以上の予測能を維持し、キャリブレーションにより予測リスクと実際の観察イベント発生率との良好な一致が確認された。  研究者らは「ONCO-DOAC BLEEDスコアは、DOAC治療中のがん関連VTE患者での大出血リスク予測において、臨床的に意義のある層別化を可能にし、日常診療における個別化された治療意思決定をサポートしうる」とし、「本スコアを用いて高リスク患者を特定することは、より綿密な臨床フォローアップや併用薬(とくにNSAIDs)の見直し、病状モニタリングにつながり、安全な長期抗凝固療法の継続と最適ながん治療・VTE管理の両立に貢献することが期待される。ただし、本研究コホートは日本人のみで構成されているため、今後は欧米などほかの民族集団における外部検証を進める必要がある」と結論付けている。

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ハイリスク患者の術前説明やリスク評価、どこまでやる? 術式選択の裁量はある?【医療訴訟の争点】第22回

症例本稿では、食道がん患者に対する手術前のリスク評価及び説明のあり方、さらに術後合併症発生後の再手術における術式選択の適否が争われた岡山地裁令和7年5月20日判決を紹介する。<登場人物>患者60歳・男性原告患者の妻及び子ら(相続人)被告地方独立行政法人(市民病院)、担当消化器外科医事案の概要は以下の通りである。平成29年(2017年)1月20日本件患者は他院に入通院してアルコール依存症治療中であったが、発熱、全身倦怠感、低栄養、腹水貯留等の精査加療目的で被告病院へ転院。2月6日上部消化管内視鏡検査により食道がん発見。その後の2月8日、体調を整えるため、もともと入院治療を受けていた病院に転院。2月22日食道がんの治療のため、被告病院へ再入院。2月23日担当医は本件患者に対し、食道がんの病状などについて以下を説明。食道がんは現時点ではStageIと考えられている。この場合、手術が最も確実な治療法であるが、手術が嫌なら放射線、化学療法の治療法もあること手術を行う場合の手術概要手術は患者の協力がなければできない、断酒、禁煙は当然であるが、呼吸訓練も含め努力していただきたいこともある、これらができないのであれば手術に伴うリスクは高くなる、どうするかについては家族とよく相談すること。3月8日担当医は本件患者及び家族に対し、食道がんに対する手術について、以下を説明。StageIの食道がん治療としては、手術、放射線+抗がん剤による治療法があること胸腔鏡下食道亜全摘術など(本件手術1)の手術時間は8時間前後、出血量は200~600mL、入院期間は3~4週間の見込みであること食道がんに対する手術のリスクについては、その合併症によって異なり、手術に関連した合併症による死亡率は2~3%。併存疾患によりその程度は変化するが、食道がん手術において術後の合併症で1番問題となるのは、呼吸器系、とりわけ胸水の貯留、無気肺、肺炎などの発症に起因する呼吸不全があり、一旦起こると長期の管理が必要となること消化管吻合(初回の手術は食道胃吻合術)における縫合不全の発症は、治癒が遷延することがあり、一旦発症すると唾液漏の形をとりなかなか治癒しないで厄介になり、縫合不全の合併症が生じるリスクは約10%であることそのほか、創部の感染、腸管麻痺による腸閉塞など、また健康人でも発症する心筋梗塞、脳卒中などが周術期に偶然発症することがあること3月10日午前9時頃から午後9時30分頃まで本件手術1が施行。患者にはアルコール性肝障害や腹水貯留などが認められていたが、担当医はICG負荷試験を実施しないまま手術が施行した。食道がん術後、人工呼吸管理中の重篤な状態であると判断され、ICUに入室した。3月12日午前6時ころ、心拍数上昇、血圧低下、胃管出血が認められ、循環動態が悪化。担当医は緊急再手術を決定し、午前8時頃から午後6時頃まで、止血術、胃管抜去及び食道再建術(本件手術2)を施行。本件手術2では、出血性ショック状態に近い状況下で、結腸再建及び空腸再建を含む長時間かつ高侵襲な再建術が実施された。3月16日午後4時30分頃、患者の状態はさらに悪化し、担当医は本件患者家族に対し、腸管気腫症が広範囲に発生しており広範囲に腸が壊死している可能性もあり得る、原因除去のための再手術は危険性は極めて大きいが、緊急手術が必要であると説明した上で、午後7時30分頃から午後10時頃にかけて再度の緊急手術(本件手術3)を施行。3月17日患者は多臓器不全により死亡。 実際の裁判結果本件では、以下が主な争点となった。(1)食道がん手術(本件手術1)前にICG負荷試験を実施しなかったこと及びその結果を踏まえた説明を行わなかったことが検査・説明義務違反に当たるか(2)その義務違反と死亡との間に相当因果関係が認められるか(3)術後出血に対する再手術(本件手術2)時に、食道切除と再建を別の機会に行う二期的再建術とするのではなく一期的再建術を選択したことが術式選択義務違反に当たるか(4)その義務違反と死亡との間に相当因果関係が認められるか争点(1)について裁判所は、争点(1)について、本件手術1当時の最新のガイドラインであった『食道癌診断・治療ガイドライン 第3版』(日本癌治療学会編、2012年4月発行)の記載や、関連する医学的知見を指摘した上で、「本件手術1が施行された平成29年3月当時、食道がんの治療方針決定のために、治療方針を患者へ提示し、診断根拠や診断過程などを説明するに当たっては、がんの進行度診断や病巣特性(悪性度)の把握のほか、全身状態の把握・評価が重要とされており、その中でも肝硬変症例については、患者の肝機能ないし肝予備能が保たれているかを確認・判定することが必要・重要であり、ICG負荷試験はそのための重要な検査と位置付けられ、かかる試験の結果、高い数値が出た場合には、術後合併症やそれによる死亡のリスクが高まると理解されていたものと認めるのが相当である」とした。そして、本件患者が、腹部CTで腹水や肝硬変が指摘されていたこと、アルブミン点滴で経過を見たものの、2週間が経っても腹水は減少しつつも依然として貯留していたこと、肝細胞の合成能障害を反映するChEは被告病院受診当初から手術前まで基準値を大幅に下回る値であったこと等を指摘し、「アルコール性の代償性肝硬変の疑いが強く、肝機能が低下していることを示す具体的な所見が認められていたのであり、肝機能ないし肝予備能が保たれているかを慎重に確認・判定する必要があったものというべきであった」とした。その上で、「食道がんに対する治療方針を提案・説明するに当たっては、肝機能ないし肝予備能が保たれているかを確認・把握するためにICG負荷試験を実施した上で、その結果を踏まえて、全身状態の評価、さらにはリスク評価をして、治療方針を本件患者に提示して説明をすべき注意義務を負っていたものと認めるのが相当」とし、特別な事情や理由もないまま、ICG負荷試験を実施せず、適切な全身状態の評価やリスク評価をしないまま、縫合不全になるリスクは10%程度、多臓器不全等で死亡するリスクが2ないし3%程度として、リスクを過小にとどめた説明をしたことに説明義務違反があるとした。争点(2)について裁判所は、本件手術1に先立ち、本件患者にICG負荷試験を実施した場合には、20%を超える相当に高い数値が出る蓋然性があったこと、その場合、本件手術1につき術後合併症発生率は80%以上であり、術後合併症死亡率は15~30%かそれ以上であること、手術以外の治療法として根治的化学放射線療法も適応があったことを指摘し、「これらの説明を受けていれば、本件患者においては、本件手術1をせずに根治的化学放射線療法ないしは放射線単独療法を選択していた高度の蓋然性があり、また、その場合、本件患者が死亡した3月17日時点でなお生存していた高度の蓋然性があると認めるのが相当である」として、説明義務違反と死亡との間の因果関係を認めた。争点(3)について食道切除と再建をそれぞれ分けて2回手術をするか、1回にまとめて手術をするかについて、裁判所は、関連する文献の記載を指摘した上で、「二期的分割手術の適応について明確な基準は確立しておらず、緊急再手術時にどのような方針で手術を行うかについては具体的状況によって対応するしかなく、原則として、手術に当たる医師の現場における合理的な裁量に委ねられるものというべきであるが、ただし、全身状態が悪く、耐術能が十分でないと判断される患者に対しては、一期的再建手術ではなく二期的分割手術を実施すべき場合もあるものと認めるのが相当である」とした。そして、本件患者はそもそも10時間以上にわたる本件手術1を受けてから本件手術2開始までに約35時間しか経っていない状態にあったこと、肝硬変であると確認されていたこと、重症の出血性ショックに陥り、複数の昇圧剤を継続的に大量投与しなければ循環動態等を保つことが困難な状態にあったことを指摘し、「本件患者の全身状態は悪く、耐術能が十分でないと判断される患者であり、その救命を最優先とすべき具体的状況にあったといわなければならない」とした。その上で、「高侵襲かつ長時間を要する一期的再建術から、侵襲の小さい二期的分割手術へと方針を変更するか否かを具体的に検討・判断しなければならなかった」として、「本件手術2の術中の本件患者の状態について、循環動態等を保つことが困難な重篤な状態にあり、救命が最優先であると評価すべきところ、出血については迅速にコントロールができ血圧も安定しているなどと合理性を欠く評価をし、これを前提として胃管抜去後、右側結腸再建及び有茎空腸再建等を行って9時間15分にわたって本件手術2を継続・実施したものであり、術者としての合理的な裁量を逸脱し、術式選択義務に違反したものと認めるのが相当」と判示し、術式選択義務違反を認めた。争点(4)について裁判所は、分割手術の死亡率が一期的手術よりも低い旨が報告されている文献を指摘し、「本件手術2において、再建術まで実施せず、胃管抜去後、食道瘻を造設し、栄養チューブを留置する等して再建術を実施せずに閉腹していれば、正午ころには手術を終えることができ、9時間15分もの長時間にわたり大量の昇圧剤を継続使用することや、結腸・空腸再建術に伴う高い侵襲を回避することができ、本件患者においては、循環不全、呼吸不全等を引き起こすことなく状態が安定していた高度の蓋然性があり、また、その場合、本件患者が死亡した3月17日時点でなお生存していた高度の蓋然性があると認めるのが相当」と判断し、術式選択義務違反と死亡との因果関係を認めた。損害等以上の結果、裁判所は病院及び担当医の責任を認め、患者妻に対して約2,812万円、その余の遺族に対して各55万円の支払を命じた。注意ポイント解説本件は、食道がん手術後に患者が死亡した事案であるが、裁判所が問題としたのは手術手技そのものではなく、「術前のリスク評価及び説明」と「術後合併症発生後の再手術時の術式選択(に関する医師の裁量)」であったが、それぞれ以下の点が注目される。1. 術前のリスク評価と説明について医療訴訟では、説明義務違反のみが認定される場合には自己決定権侵害の慰謝料のみが認められるにとどまり、死亡との因果関係が否定されることも少なくない。しかし本件では、手術以外に有効な代替治療が存在し、適切な説明があれば患者が手術を選択しなかった高度の蓋然性があるとして、死亡結果との因果関係まで認められた点が重要である。本件の裁判所がこのような判断を下した背景には、以下の点があると考えられる。本件患者にアルコール依存症の既往があり、画像検査上も肝硬変を疑わせる所見が存在し、さらに腹水貯留や低アルブミン血症等も認められていたことから、担当医は肝機能障害の存在を十分認識し得たと判断したこと。食道がん手術は消化器外科領域の中でも侵襲の大きい手術の一つであり、肝機能障害を有する患者では術後合併症や死亡リスクが上昇することは広く知られていること。当時の食道がん診療ガイドラインにおいて肝硬変症例に対する術前評価としてICG負荷試験が挙げられていたこと患者の食道がんがStageIであったことに加え、当時すでに根治的化学放射線療法が有力な治療選択肢として存在していたこと裁判所は、ICG負荷試験を実施しなかったこと自体を形式的に問題視したのではなく、肝硬変ないし肝機能障害が疑われる患者に対し、十分なリスク評価を行わないまま死亡率を2~3%程度と説明し、その結果、患者が危険な治療を選択してしまったことを問題視したといえる。したがって、然るべき検査をして適切なリスク評価をした上で、合併症や死亡のリスクを説明しなければ、患者の自己決定に必要な情報提供がなされたとは言えず、説明義務を果たしたとは認められないことを改めて認識する必要がある。2. 術式選択に関する医師の裁量について一般に術式選択は高度に専門的な医療判断であり、複数の合理的選択肢が存在する場合には裁量が広く認められる傾向があり、本判決もこのことを認める判示をしている。しかし本判決は、患者の全身状態、再手術時の循環動態、昇圧剤の使用状況、手術時間、侵襲度等を詳細に検討した上で、「救命を優先すべき局面であった」という事実認定をし、侵襲の大きい一期的再建術を選択したことを裁量の範囲外と評価した。かかる判断において裁判所は、長時間手術後わずか約35時間しか経過していない状況で、さらに約10時間近い再建術を実施したことについて、患者の耐術能との関係を厳しく検討しているが、これは「一期的再建術は危険だから違法である」としたものではなく、「極めてハイリスクな患者に対して救命より根治性を優先した判断」を問題としたものである。ここでは、術式選択について「どちらの術式が正しかったか」という議論ではなく、「当時の患者状態に照らして合理的な判断過程がとられていたか」が問題となっていると言えるため、医療機関としては、ハイリスク患者に対する治療方針決定の際には、カンファレンス記録、説明記録、診療録への記載等を通じて判断根拠を残しておくことが極めて重要である。とくに複数の合理的選択肢が存在する場面では、「なぜその選択肢を採用したのか」という思考過程を後から説明できる状態にしておくことが、訴訟対応上も重要になると言える。医療者の視点本件では、「術前評価の不備」と「術中の術式選択」の2点が問われています。術前評価については、ガイドライン上の基本的な検査であるICG負荷試験を省略し、客観的根拠に乏しい楽観的なリスク説明を行ったことが問題視されました。これは実臨床の感覚に照らしても、患者の自己決定権を担保する説明義務のあり方として不適切であり、裁判所の判断は妥当と受け止められます。一方で、術式選択における裁量逸脱の認定には、臨床現場の医師として悩ましさを覚えます。裁判所は、昇圧剤を大量に使用する重篤な状況下で、高侵襲な一期的再建術を継続したことを裁量逸脱と断じました。たしかに結果から見ればその通りですが、実際の緊急手術の現場では事情が複雑です。二期的再建を選択した場合、長期にわたる生活の質の低下や、癒着による将来の再建手術の困難さが予想されます。そのため、術中の出血がコントロールできていると術者が判断すれば、患者の将来を見据えて一期的に再建を完了させたいと考えるのは、十分にあり得る思考回路です。とはいえ、訴訟においては事後的な客観的データに基づき、救命最優先の局面であったと厳格に評価されます。実臨床で私たちが身を守るためには、ハイリスク症例において術前に最悪の事態を想定しておくことが不可欠です。どの状態に至ればダメージコントロールに切り替えるのか、チーム内で明確な撤退基準を共有し、それを診療録に記録しておく姿勢が求められます。Take home message治療法の説明は、然るべき検査をして適切なリスク評価をした上で行う必要がある。高侵襲手術においては、術式そのものだけでなく、術前リスク評価、代替治療を含めた説明内容、そして合併症発生時の意思決定過程までが後に検証対象となる。特にハイリスク症例においては、「なぜその治療を選択したのか」を説明できる診療録・説明記録を残しておくことが重要である。キーワード食道がん、周術期リスク評価、説明義務、ICG負荷試験、肝硬変合併症例、術後合併症、手術適応、術式選択、二期的再建術、医師の裁量、ハイリスク症例 、意思決定過程 、チームカンファレンス

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病名や薬物治療手順を一部変更、「蕁麻疹診療ガイドライン」改訂/日本皮膚科学会

 国際ガイドラインの改訂や病態解明の進展、新たな生物学的製剤の登場などを背景に、8年ぶりの改訂版となる「蕁麻疹診療ガイドライン2026(第4版)」が2026年4月に公開された。病型分類および病名の一部変更や治療アルゴリズムのアップデートが行われた今回の改訂について、ガイドライン策定委員会の委員長を務めた福永 淳氏(大阪医科薬科大学)が第125回日本皮膚科学会総会で講演した。慢性蕁麻疹→慢性特発性蕁麻疹、アスピリン蕁麻疹→NSAID誘発蕁麻疹へ 蕁麻疹の病型について、特発性の蕁麻疹、刺激誘発型の蕁麻疹、血管性浮腫、蕁麻疹関連疾患という4つの大分類に変更はないが、その下の分類や病名がいくつか変更された。まず、特発性の蕁麻疹は「急性特発性蕁麻疹(発症後6週間以内)」と「慢性特発性蕁麻疹(発症後6週間超)」に、“特発性”という言葉を加える形に病名が変更された。 刺激誘発型の蕁麻疹は、食物依存性運動誘発アナフィラキシーがアレルギー性蕁麻疹の一部であるという考え方に基づき、別分類されていた2018年版から、アレルギー性の蕁麻疹(食物依存性運動誘発アナフィラキシーを含む)という表記に変更された。またアスピリン蕁麻疹は、アスピリンでのみ生じるという誤解を生む可能性があることから、NSAID誘発蕁麻疹と改めた。 血管性浮腫に関しては、「マスト細胞起因性」および「非マスト細胞起因性」という中分類を新たに設け、非マスト細胞起因性の病型の1つとして「メディエーター不明の血管性浮腫」が追加された。 さらに、病態に関する記述も最新の知見をもとに大きくアップデートされた。その中で最大の特徴といえるのが、すべての文言において「肥満細胞」という名称を削除し、「マスト細胞」に統一した点である。「脂肪細胞(肥満に関わる細胞)」と混同することを避けるための配慮であり、疾患の正しい理解を促進する狙いがあるという。日本独自の疫学データを追加、慢性特発性蕁麻疹患者のボリュームゾーンは40〜50代 これまでの日本のガイドラインでは、蕁麻疹に関する詳細な疫学データが不足していたが、今回の改訂では新たに医療情報データベースなどを用いた研究結果が追加された。日本人の慢性特発性蕁麻疹の推定有病率は1.2〜1.6%であり、全国でおよそ200万人の患者が存在すると推測される。新規発症率はおよそ0.7〜0.8%である。 福永氏は、「慢性特発性蕁麻疹の有病率はヨーロッパ諸国と比較して、東アジアでより高い傾向がある。年齢分布を見ると、実は0〜9歳の小児期に新規発症の大きなピークが存在する。しかし、この年代の多くは自然治癒に向かうため、実際に医療機関で継続的な治療を要する患者のボリュームゾーンは40~50代となる。また、男女比は2対3で女性に多いことも明らかになった」と語った。網羅的検査の実施は推奨されない 検査に関しては、2018年版から「原因検索のための網羅的な検査」を推奨しない方向性であることに変更はないが、今回その姿勢をより明確に打ち出している。I型アレルギーの検査実施については、1型アレルギーが疑われる詳細な問診・病歴がある場合にのみ、疑わしい抗原に対して個別の検査を選択的に行うべきとされた(CQ1)。急性特発性蕁麻疹(CQ2)および慢性特発性蕁麻疹(CQ3)に対する検査についても、全例でルーチンに実施する必要はないとしたうえで、推奨文では以下のように記載された。急性特発性蕁麻疹:発熱などの全身症状を伴い,細菌やウイルスの感染が疑われる場合には血算・血清・生化学検査などの一般的な検査を行ってもよい慢性特発性蕁麻疹:非定型的な症例、難治性の症例などで、背景因子、合併症の存在が疑われる場合は抗ヒスタミン薬やオマリズマブの反応性を予測できる可能性があり、それらに応じた検査(血清総IgE値,甲状腺自己抗体,CRPの測定)を行ってもよいPROMs活用を推奨し、治療の第1目標を変更 今回のガイドライン策定委員会で全員一致で推奨に強い合意が得られたのが、UAS7(Urticaria Activity Score over 7 days)や、UCT(Urticaria Control Test)などの患者報告アウトカム尺度(PROMs:Patient-Reported Outcomes Measures)を用いた疾患コントロール状態の客観的評価である。治療の第1目標は、2018年版での「治療により症状が現れない状態」から「治療により生活に支障がない状態」と変更された。またその目安をUCTのスコアで表しており、第1目標(治療により生活に支障がない状態)がUCT12点以上、第2目標(治療により症状が現れない状態)がUCT16点と明記された。福永氏は、「日常診療のアセスメントの際には、ぜひUCTを活用して客観的な評価を行っていただきたい」と呼びかけた。薬物治療はStep 2にオマリズマブまたはデュピルマブ、ステロイドは「急性増悪時のみ」 治療手順については、急性と慢性でアルゴリズムが明確に分けられた。急性は主に救急外来などでの短期間の対応を想定している。薬物治療手順は、慢性特発性蕁麻疹について以下が示された。Step 1:第2世代抗ヒスタミン薬Step 2:Step1に追加してオマリズマブまたはデュピルマブStep 3:Step1に追加してシクロスポリンまたは試行的治療 2018年版でStep 2とされていたH2-拮抗薬、抗ロイコトリエン薬、トラネキサム酸については、国際ガイドラインやエビデンスレベルの低さなどを背景に、Step1の補助的治療としての位置付けに変更された。 また、Step 3に含まれていた副腎皮質ステロイドに関しては、「急性増悪時のみ」とされて、プレドニゾロン換算量0.2mg/kg/日未満で2週間以内の使用に限定することが明記された。

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Mim8―次世代FVIII mimetic開発競争(解説:長尾梓氏)

 2026年4月、NEJM誌にMim8(denecimig)の第III相試験(FRONTIER2)が掲載された。血友病A診療において、エミシズマブに続く新たなFactor VIII mimeticとして注目される報告である。 しかし、本試験の意義は単に「新薬が有効だった」という点にとどまらない。むしろ、「Factor VIII mimetic」という薬剤クラスが、エミシズマブ一強時代から次のステージへ進み始めたことを示している点にある。Factor VIII mimetic 血友病Aでは第VIII因子(FVIII)が欠乏するため、FIXaとFXを橋渡しできず、十分なトロンビン産生が得られない。 エミシズマブは、この問題を「FVIIIそのものを補充する」のではなく、「FVIIIaの機能を模倣する二重特異性抗体を作る」という発想で解決し、血友病治療に革命をもたらした。皮下注射で投与でき、インヒビターの有無を問わず有効であり、従来の静脈内定期補充療法から患者を解放した。 そして今、そのコンセプトをさらに発展させた次世代FVIII mimeticの開発競争時代に入っている。Mim8(Novo Nordisk) Mim8はエミシズマブと同様に、FIXaとFXを橋渡しする二重特異性抗体であるが、FIXaとの相互作用を最適化することで、より高い凝固活性を目指して設計された。前臨床試験ではエミシズマブを上回る止血活性が示されており、FRONTIER2試験でその臨床的有効性が確認された。NXT007(Chugai/Roche) NXT007は「エミシズマブの後継分子」とも呼べる存在である。 エミシズマブは共通の軽鎖を用いる特殊な構造を有するが、NXT007ではFIXa側とFX側にそれぞれ最適化された軽鎖を導入し、さらにFc領域も改変することで薬物動態を改善した。開発目標として「非血友病レベルの止血能(hemostatic normalization)」が掲げられている点が特徴的である。現在、第III相試験が進行中である。Inno8(Novo Nordisk) Inno8はさらに新しいFVIII mimetic候補であり、現在は初期臨床開発段階にある。ナノボディを利用したなんと飲み薬である。2024年に第I相試験が開始され、まず健常成人における安全性および薬物動態が評価されている。現時点では有効性データは限定的であるが、Novo NordiskがMim8に続く次世代候補として開発を継続している点は興味深い。 エミシズマブの登場により、皮下注射による非因子製剤は血友病Aの日常診療に定着した。そして今、次世代FVIII mimeticは「正常に近い凝固能」を目指し、さらに内服薬という新たな治療概念も現実味を帯びつつある。

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脳梗塞治療と心筋梗塞治療の類似性と相違(解説:後藤信哉氏)

 今の若い世代の循環器内科医にとって、心筋梗塞に対する再灌流療法は冠動脈インターベンションであろう。1986年から循環器内科医をしている筆者は、心筋梗塞治療に血栓溶解療法が主流になりそうな時代があったことを知っている。血栓溶解療法には内因系のプラスミノーゲンをプラスミンに転換することにより、線溶効果を狙う。ヒトの身体はバランスが取れているので、線溶を亢進させれば、体内の血栓性も亢進する。血栓溶解療法には血小板、凝固系を阻害する抗血栓療法の併用が必須である。われわれは1980~90年代に多数の抗凝固薬、抗血小板薬の併用を試してきた。 脳梗塞治療では血管インターベンションが血栓溶解療法を完全に置換してはいない。本研究でも血栓溶解療法施行時の併用療法が比較された。心筋梗塞後も、当初は抗血小板併用療法が試された。本研究でもチカグレロルを早期から開始する抗血小板併用療法にて予後が改善されたと報告されている。 チカグレロルの用量として循環器と同様90mg bidが選択されている。急性冠症候群では国際共同試験では90mg bidがクロピドグレルよりも有効とされた。しかし、日本などの東アジアではglobal試験の優越性を確認できなかった(Goto S, et al. Circulation Journal. 2015;79:2452-2460.)。本試験は中国にて施行されたがglobal doseが選択されたのは興味深い。 出血合併症から考えれば線溶療法より冠動脈インターベンションが優れていることが心筋梗塞では示されている。抗血小板薬併用療法も、出血合併症リスクが循環器では強調されている。現在、脳領域は1980~90年代の循環器内科を追いかけているようだが、脳梗塞治療も心筋梗塞治療同様カテーテルインターベンションの時代になるのか? いつまでも線溶療法の時代が持続するのか? 興味深く見守りたい。

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止まらない鼻出血の処置【日常診療アップグレード】第57回

止まらない鼻出血の処置問題60歳女性。2時間前から鼻出血が出現したため、救急室を受診した。自宅で鼻腔にティッシュを入れ止血を試みたが、出血は止まらなかった。いままで出血傾向を認めたことはない。既往歴は高血圧とアレルギー性鼻炎である。リシノプリルとフルチカゾン点鼻薬の処方を受けている。バイタルサインは正常である。両側の鼻孔は血液が付着し、左鼻孔から血液が落下している。咽頭の奥に少量の血液を確認できる。前鼻腔パッキングで止血を試みた。

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久しぶりの学会【Dr. 中島の 新・徒然草】(632)

六百三十二の段 久しぶりの学会暑くなってきました。昔の大阪医療センターには「冷房を入れるのは7月になってから」という謎ルールがあったと記憶しています。が、地球温暖化のせいか、そうも言ってられなくなりました。今は一定の気温を超えたら5月でも冷房が入るようになっています。当然といえば当然の話ですね。さて、春の学会シーズン。久しぶりに全国規模の学会に出席しました。会場が京都なので、日帰り出張の繰り返しです。もう朝から晩まで参加する体力もなくなってしまったので、途中から出席して途中で帰る毎日。今回から、京都までの行き帰りには新幹線を使うようになりました。新大阪・京都間は新幹線を使うとわずか13分!隣の駅なので、こだまに乗ってものぞみに乗ってもあまり時間は変わりません。なんといっても体力的に楽です。これが在来線だと25分前後かかるので、近距離であっても新幹線の威力は絶大でした。というわけで、京都に行くなら新幹線一択という気がします。話を戻しましょう。今回出席した日本脳神経外科コングレス総会の使命の1つは、若手脳外科医の教育です。とくに、夏の専門医試験に備えて受験生が勉強する場を提供する、というのが今も昔も変わらぬパターン。ところが、診断にしても治療にしても学問が進み過ぎてしまったのか、とにかく難しい!自分が30数年前に受験した時の10倍くらいの知識量が必要なんじゃないかと思わされました。考えてみれば、各演者はその道のトップなのだから、講演内容が難しいのは当たり前ですね。一方、案外面白かったのが他領域の話です。認知症のBPSDに対する治療とか、消化器外科のロボット手術とか。「へえー!」と思わされることがたくさんありました。たとえば消化器外科におけるバイポーラの使い方。私は皮弁の止血の時なんかは「パチン」「パチン」と音が出るまで景気よく通電していましたが、理屈の上では音の出る直前で通電を止めるのが正しいのだそうです。パチンと音がした時点で組織が破砕されてしまうので、止血効果が劣るのだとか。知らなかった。どうもすみません。ただ、自らの手術を振り返ってみるに、顕微鏡手術の時は慎重に少しずつ通電して音はさせていませんでした。つまり、繊細な部位では無意識に正しい使用法を実行していたことになります。よかった!こういった基本的なことでも、まだまだ知らなかったことがいっぱい。あらためて「勉強こそ人生最大の道楽」と思った次第です。これからも近場の学会にはできるだけ出席しようと思います。最後に1句 夏の京 賢くなったぞ またひとつ

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入院患者の静脈血栓塞栓症予防【医療訴訟の争点】第21回

症例入院患者については、原疾患や手術そのほかの治療との関係で、診療科を問わず、肺血栓塞栓症の発症リスクがあるため、予防についても意識を払った対応がされている。本稿では、精神科入院患者に対する身体拘束下における肺血栓塞栓症(PTE)の予防義務の有無が争われた大阪高裁令和7年3月26日判決を紹介する。<登場人物>患者(P3)精神疾患を有する入院患者(肥満[BMI≧30]に該当)原告患者の母(唯一の相続人)被告大学医学部附属病院(国立大学法人)事案の概要は以下の通りである。平成29年(2017年)2月15日P3、精神症状の増悪により、被告病院に入院。入院後、精神科において薬物療法などが開始され、経過観察が行われた。2月中旬~5月下旬入院継続中、P3にはカタトニア様症状(強い緊張状態、反応低下など)が認められ、症状の増悪と改善を繰り返していた。向精神薬の投与が行われる一方、活動性の低下や脱水傾向などもみられていた。5月29日P3は精神症状の悪化により興奮・不穏状態が強まり、自傷他害のおそれがあると判断された。このため、保護室に隔離の上、四肢拘束を含む身体拘束が開始された。同日以降、看護師はバイタルサイン、呼吸状態、末梢循環(浮腫、皮膚色)、下肢の状態などの観察を、行動制限時フローシートなどに基づき継続的に実施した。もっとも、この時点で、Dダイマー検査や下肢静脈エコー検査といった客観的検査は実施されなかった。5月30日身体拘束の継続の要否についてカンファレンスが実施され、拘束継続の必要性が確認された。一方、拘束期間が長期化するかについては、この時点で明確な見通しは立っていなかった。5月31日午前P3は依然として拘束下にあり、自発的な運動は乏しい状態であった。医師は、血栓予防の観点から、同日午前11時頃、弾性ストッキングの装着を指示し、これが実施された。もっとも、体位変換の積極的実施、IPC(間欠的空気圧迫法)、抗凝固薬投与といったほかの予防措置は行われていなかった。また、同日午前までの時点においても、下肢の腫脹、発赤、疼痛など、深部静脈血栓症(DVT)を疑わせる症候は認められていなかった。午後2時頃看護師が訪室したところ、P3は反応が乏しく、呼吸・脈拍の異常が疑われる状態で発見された。午後2時20分頃スタットコールがなされ、医療スタッフが集結し、心肺蘇生措置(胸骨圧迫など)が開始された。なお、最初の異常指摘から蘇生開始までの時間は長くても約6分程度であったと認定されている。午後2時38分頃蘇生継続中の状態で院内搬送がなされたが、回復には至らなかった。同日P3死亡。 実際の裁判結果本件の第一審(神戸地裁)は、P3の死因を呼吸停止(呼吸不全)と認定し、呼吸管理義務違反を肯定して一部認容した。これに対し、被告病院が控訴し、原告も附帯控訴*を提起した。控訴審では、死因が急性肺血栓塞栓症(PTE)であるとの新たな主張がなされたほか、身体拘束後のVTE予防義務違反、検査義務違反などの主張も追加され、以下のような注意義務違反の有無が争われた。*控訴された側が、自身もより有利な内容へと一審判決を変更することを求めて控訴すること血液検査義務違反抗精神病薬の副作用防止義務違反呼吸管理義務違反救急対応義務違反PTE予防義務違反(控訴審で追加)VTE早期発見のための検査義務違反(控訴審で追加)控訴審(大阪高裁)は、P3の死因は急性PTEであると認定した上で、原告(患者家族)の主張する被告の注意義務違反をいずれも否定し、原告の請求を全面的に棄却した。控訴審で追加されたPTE予防義務違反とVTE早期発見のための検査義務違反を取り上げる。裁判所の判断1)P3の死因について詳細はこちら控訴審は、死因究明におけるAi(Autopsy imaging、死亡時画像診断)を用いた画像診断を行う第三者的医療機関として設立された一般財団法人Ai情報センターが作成したAi診断の報告書において、P3が心肺停止になってから1時間強後である5月31日午後3時35分頃に撮影された単純CT画像に、両側肺門部の肺動脈内に凝血塊を示唆する軽度高吸収が認められ、これらが肺動脈左右分岐部を横断するようにして連続していることから、P3の死因はPTEと考える旨の意見が述べられていることなどを踏まえ、P3の死因を「急性PTE」と認定した。2)PTE予防義務違反について詳細はこちら原告は、身体拘束開始後にVTEリスク評価を行い、体位変換、早期離床、弾性ストッキング、IPC、ヘパリンなどの予防策を講ずべき義務を主張した。しかし裁判所は、以下の点を指摘し、「控訴人病院スタッフである医師が、P3に対し、5月29日午後4時45分に体幹部及び両上肢を拘束したが、下肢拘束はせず、その時点ではVTEのリスクが高いとは判断せずに、積極的な運動(マッサージ、他動的な足関節運動など)、弾性ストッキング、IPC法または低用量未分割ヘパリンなどの予防法を取らず、それから48時間が経過する前である5月31日午前11時6分頃に、下肢を自発的に動かせないことから、DVTのリスクが高いと判断して弾性ストッキングの装着を指示したが、ほかの予防法を取らなかったことが、大学医学部の附属病院という控訴人病院の性格などの諸般の事情を考慮しても、当時の控訴人病院スタッフの医師に要求される医療水準に反すると認めることはできない」として、急性PTEの発症を回避するための予防策を取るべき注意義務違反があったとは認められないとした。5月29日以降、カタトニアにより下肢が不動化した状態にあったP3のDVTのリスクは客観的には相当に高かったといえ、P3が急性PTEにより死亡したのも、そのようなリスクが現実化したものと考えるのが自然であること日本血栓止血学会のガイドラインおよび研究班ガイドラインに挙げられたVTEの危険因子で、P3が該当するのは肥満だけであり、この場合の推奨予防法は「早期離床及び積極的な運動」であること72時間以上の身体拘束がVTEのリスクを高めるとの記載がある文献もあり、被告病院も含め、48時間以上の安静の必要をリスク評価の前提とする医療機関が多い中、P3につき5月29日の拘束開始時点やその翌日のカンファレンスにおいて、48時間以上の拘束が必要であると判断されていないこと平成29年当時、ほかの医療機関においても、ベッド上で拘束する場合は、高リスクとして薬物予防あるいはIPC法を考慮することにはなっていなかったこと弾性ストッキング、IPC法及び薬物療法(低用量未分割ヘパリン)には、それぞれ副作用などのリスクがある上、弾性ストッキングやIPC法には、PTEの発症リスクが高いことが保険適用の条件となっていること被告病院では、P3の身体拘束後、生体モニターシステムを用いた測定をするとともに、行動制限時フローシートなどに従い、看護師が末梢循環状態や皮膚状態を継続的に観察しており、症候性DVTの臨床症状である浮腫や皮膚色の変化の有無なども確認されていたが、症候性DVTを疑わせる所見は認められていないこと3)VTE早期発見のための検査義務違反について詳細はこちら原告は、身体拘束時などにDダイマー測定や下肢エコーを行うべきと主張したが、裁判所は、以下の点を指摘し、「医師がP3に対し、身体拘束時から5月31日の弾性ストッキングの装着開始指示時点までの間において、Dダイマー検査などを実施しなかったことが、控訴人病院の性格などの諸般の事情を考慮しても、当時の控訴人病院スタッフの医師に要求される医療水準に反すると認めることはできず、控訴人病院スタッフに、被控訴人主張の注意義務違反があったとは認められない」とした。Dダイマー検査などの実施は、学会予防指針では“身体拘束の解除の際に、場合によりDダイマーなどのスクリーニングを行う”と記載するに止まること大病院では入院時や身体拘束時にDダイマーを測定するとなっているが、病院の規模などからすると、これらの病院において実施されている予防措置が直ちに被告病院における注意義務の内容となると解することはできないことVTEの予防法などを定めるに当たって、Dダイマー検査などについて記載していないか、IPC法を行う症例の場合やDVTの可能性が高い患者またはDVTの臨床症状が疑われる患者に限って実施するという医療機関もあることDダイマー検査については、血栓症の発症リスクの高い症例についてのみ手術前のスクリーニング検査の保険適用がなされ、DVTリスクが高くない限り、患者に対するスクリーニングとしてDダイマー検査などを行うことに否定的な見解もあること被告病院では、下肢の不動化が認められた後は、弾性ストッキングを装着して予防法を取っており、その装着時を含め、DVTを疑わせる所見が存したとは認められないこと注意ポイント解説本件は、控訴審で提出されたAi画像診断の報告書に基づきP3の死因がPTEと認定された上で、その予防義務違反の有無が争われ、本判決は、患者側の主張する予防義務違反をいずれも否定した。PTEは突発的に発症し、救命困難な場合も多いため、その予防を実施しているかが重要となる。本件当時のガイドラインやほかの医療機関での予防の実施状況を踏まえた判断をしているが、本判決でも「平成30年時点の報告を前提にすると、ベッド上で拘束する場合は、高リスクとして薬物予防かIPC法を考慮することになっているが、平成29年5月当時、控訴人病院が、規模も異なるq1病院(注:他自治体が開設・運営する大規模な精神病院)の上記基準に従い、運用すべきであったとはいえない」としているように、ガイドラインの内容はアップデートされるものである。同様に、本判決が、被告病院では実施していない予防措置を実施している他院が存在していることについて「病院の規模などからすると、これらの病院において実施されている予防措置が直ちに控訴人における注意義務の内容となると解することはできない」としていることに表れているとおり、予防のために実施する対応内容については、医療機関の規模などによっても異なる。したがって、本判決と同様の対応をしていれば、予防措置が履行されているとして義務違反が否定されることになるとは限らない点に留意する必要がある。医療者の視点本件は、精神科における身体拘束中のPTE予防と検査のあり方が問われた事例です。裁判所は、当時のガイドラインや病院の規模を考慮し、Dダイマー検査や下肢静脈エコー検査、IPC法などの画一的な実施義務を否定しました。これは、予防策に伴う副作用リスクや患者ごとの状況を総合的に評価する、実際の臨床現場の感覚と合致しています。実臨床において、自傷他害の恐れがある興奮・不穏状態の患者の安全を確保するためには、身体拘束を実施せざるを得ない場面が多々あります。しかし、そのような患者に対して、PTE予防のための弾性ストッキングやIPC法を装着することは容易ではありません。不快感からさらなる不穏を招くリスクがあるためです。また、採血や長時間を要するエコー検査を安全に実施することも物理的に困難なケースが少なくありません。このようなジレンマの中で身を守るためには、入院時や拘束開始時にVTEのリスク評価をしっかり行うことが大事です。その上で、患者の状態に応じて早期離床や下肢の運動など、可能な予防策を選択してください。もし不穏などの理由で積極的な予防策や検査が困難な場合は、下肢の腫脹や色調変化などの継続的な観察を行い、その結果や「なぜ検査・処置ができないのか」という理由をカルテに詳細に記録しておくことを心がけると良いでしょう。Take home messagePTEは突発的に発症し、救命困難な場合があるため、裁判においては、然るべき予防措置を取っていたかが問題となる VTE予防はリスク評価に基づいて個別判断がなされるが、ガイドラインや同種医療機関での実施状況が、予防措置義務の履行がなされていたかの判断基準となるキーワード肺血栓塞栓症(PTE)/静脈血栓塞栓症(VTE)/身体拘束/予防義務/医療水準

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虚血性脳卒中の2次予防、asundexian追加が有効性示す/NEJM

 非心原塞栓性虚血性脳卒中または高リスク一過性脳虚血発作(TIA)発症後72時間以内の患者において、血液凝固第XI因子(FXI)阻害薬asundexianの1日1回50mg経口投与は、抗血小板療法との併用下でプラセボと比較し大出血のリスクを増加させることなく、虚血性脳卒中および主要心血管イベントのリスクを有意に低下させることが、カナダ・McMaster UniversityのMukul Sharma氏らOCEANIC-STROKE Investigatorsが実施した「OCEANIC-STROKE試験」で示された。NEJM誌2026年4月16日号掲載の報告。37ヵ国702施設で第III相試験を実施 OCEANIC-STROKE試験は、日本を含む37ヵ国702施設で実施された国際共同無作為化二重盲検プラセボ対照イベント主導型第III相試験で、対象は非心原塞栓性虚血性脳卒中または高リスクTIA発症後72時間以内の2剤併用または単剤による抗血小板療法が予定されている18歳以上の患者であった。 虚血性脳卒中はNIHSSスコア(範囲0~42:高スコアほど重症)が15以下、高リスクTIAはABCD2スコア(範囲0~7:高スコアほど高リスク)が6または7と定義された。また、すべての患者は、急性非ラクナ梗塞の画像所見、冠動脈疾患・末梢血管疾患または50%以上の頸動脈狭窄の既往歴、脳血管アテローム性動脈硬化の画像所見のいずれか1つ以上を満たしていることとし、心房細動の既往歴または抗凝固療法の適応となる病態を有する患者などは除外した。 研究グループは、適格患者をasundexian(1日1回50mg経口投与、経管投与も可)群またはプラセボ群に無作為に割り付け、予定されていた抗血小板療法に加えて投与した。 有効性の主要アウトカムは虚血性脳卒中発症、副次アウトカムはすべての脳卒中(虚血性または出血性)、心血管死・心筋梗塞・脳卒中の複合、全死亡・心筋梗塞・脳卒中の複合など、安全性の主要アウトカムは国際血栓止血学会(ISTH)の定義による大出血であった。虚血性脳卒中およびすべての脳卒中が26%有意に減少、大出血は増加せず 2023年1月~2025年2月に1万2,578例がスクリーニングを受け、1万2,327例が無作為化された(asundexian群6,162例、プラセボ群6,165例)。 無作為化後の追跡期間中央値567日(四分位範囲:377~729)において、虚血性脳卒中はasundexian群で384例(6.2%)、プラセボ群で518例(8.4%)に発生した(原因別ハザード比[csHR]:0.74、95%信頼区間[CI]:0.65~0.84、層別log-rank検定のp<0.001)。 asundexian群およびプラセボ群で、すべての脳卒中はそれぞれ404例(6.6%)、545例(8.8%)(csHR:0.74、95%CI:0.65~0.84、層別log-rank検定のp<0.001)、心血管死・心筋梗塞・脳卒中の複合イベントは568例(9.2%)、685例(11.1%)(0.83、0.74~0.92、p<0.001)、全死因死亡・心筋梗塞・脳卒中の複合イベントは649例(10.5%)、757例(12.3%)(0.85、0.77~0.95、p=0.003)に発生した。 大出血は、asundexian群で1.9%(117/6,124例)、プラセボ群で1.7%(107/6,130例)に認められた(csHR:1.10、95%CI:0.85~1.44、層別log-rank検定のp=0.46)。有害事象の発現割合はasundexian群69.3%、プラセボ群70.1%であり、重篤な有害事象の発現割合はそれぞれ19.2%および19.5%であった。

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GERD診療ガイドライン改訂へ、P-CABの位置付け見直しなどが柱/日本消化器病学会

 現在、胃食道逆流症(GERD)診療ガイドラインの改訂作業が進行中であり、2026年4月にはパブリックコメント版が公開された。改訂版の刊行に先立ち、第112回日本消化器病学会総会(2026年4月16日~18日、福井・石川)においてGERD診療ガイドラインに関するパネルディスカッションが行われた。改訂の基本方針 本改訂では、診療の実用性向上を重視し、治療戦略や疾患概念の整理が図られている。基本方針は“シンプルで使いやすいガイドラインへ”である。2021年版ガイドラインでは、軽症・重症の区分に加え、プロトンポンプ阻害薬(PPI)とカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)の併用的な位置付けにより、フローチャートが複雑化していた。今回の改訂では、フローチャートを一本化することで、消化器専門医以外の医師にも理解しやすいシンプルな構成にすることを目指している。最重要課題はP-CABの位置付け見直し 本改訂の最重要課題は、P-CABであるボノプラザンの位置付けの再評価である。その背景として、ボノプラザン発売から10年が経過したことによるエビデンスの蓄積、ボノプラザン自体の強力な酸分泌抑制効果などが挙げられる。 これらを踏まえ、GERD治療をP-CAB中心に再編することや「第一選択薬は何か」というCQの再設定が提案されている。 一方、非びらん性胃食道逆流症(NERD)については保険適用の観点からPPIを中心とする方向性が示されている。治療期間と維持療法の明確化 薬物療法の長期使用に伴う有害事象への懸念を踏まえ、投与期間の明確化も重要な論点となっている。軽症例では4〜8週で休薬を検討するなど、具体的な目安が提示される見込みである。また、漸減やアルギン酸製剤の併用によるリバウンド抑制などは、今後の課題として整理される予定である。新規トピックと診療領域の拡張 今回の改訂では、保険適用拡大に対応するため、内視鏡的逆流防止術や胃上性おくび、PPI抵抗性GERDの診断戦略なども注目領域として取り上げられる予定である。とくに内視鏡的治療は独立した章として詳述される見込みであり、注目度の高さがうかがえる。今後の予定 改訂作業は2025年1月に開始され、相互査読、コンセンサス形成、評価委員会レビューを経て、現在はパブリックコメント段階にある。多くのステートメントは高い合意率を得ており、パブリックコメントを踏まえ、より実用性の高いガイドラインが完成することが期待される。

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最適な輸液ルート選択の考え方 その壱【ケースで学ぶ輸液オーダー】第2回

最適な輸液ルート選択の考え方 その壱これから集中治療を行う患者さんに対して、「どこから、何のために、どんなルートを確保するのが安全か」ということをあまり考えずに、先輩医師のやり方を見てなんとなく慣習で選んでいたということは少なくないかもしれません。今一度、輸液ルート選択の思考回路を一緒に整理してみましょう。症例肺炎によるI型呼吸不全、敗血症性ショックでICUに入室した患者さんに対応するよう、指導医とともに緊急呼び出しされた初期研修医A君。酸素10L/分(マスク)、両側肘正中皮静脈から18Gを1本ずつ確保、両側とも細胞外液補充液を急速投与中、それでも血圧80/40mmHg、脈拍120/分、呼吸回数30回/分、SpO2 88%、ショックと低酸素血症が持続しています。迅速導入気管挿管(rapid sequence intubation)を行い、人工呼吸管理となりました。指導医は「あとは頼んだよ」と言って去っていきました。挿管後、患者さんは強い体動を認め、上肢をばたつかせています。ショックの治療と並行して持続的な鎮静・鎮痛が必要です。併存症に糖尿病があり血糖800mg/dL、さらに播種性血管内凝固症候群(DIC)も合併しています。さて、A君は次に何を行うべきでしょうか?考えかたの整理集中治療では、複数の薬剤・輸液を同時並行で安全に投与する必要があります。想定される投与内容は、ショックに対する細胞外液補充液・昇圧薬、人工呼吸中の鎮静薬・鎮痛薬、抗菌薬、維持輸液(将来的に栄養輸液に移行する可能性あり)、インスリンなどです。ここで大切なことが3つあります。1. 流量変動の影響を受けてはいけない薬剤がある例:昇圧薬、鎮静薬・鎮痛薬、インスリン持続投与などこれらは流量が変わると、血圧や鎮静レベル、血糖値が一気に変動するため、急速に注入するラインと同じラインにすべきではありません。2. 配合変化がありうる例:オメプラゾール、セフトリアキソン、アミオダロンなど他剤との混合で沈殿・失活が起こる薬剤があるため、不明な場合は必ず薬剤師に相談しましょう。ちなみに輸血と同一ラインで流せるのは生理食塩液のみです。3. 末梢で理論上可能でも現実的ではないことがある理論上、すべて末梢静脈から投与可能な薬剤でも、必要な薬剤が多すぎて、メイン点滴ルートの側管などを駆使しても現実的にすべて末梢から行えない場合もあります。その場合は、ルートの本数かせぎに複数のルーメンを持つトリプルやクワッドルーメンの中心静脈カテーテル挿入が必要です。中心静脈カテーテル挿入の主な適応は、(1)末梢静脈の確保困難、(2)薬剤の多剤併用、(3)刺激性、腐食性、高浸透圧性の薬剤投与(抗がん剤、昇圧薬、50%ブドウ糖、高カロリー輸液など)、(4)血行動態のモニタリング(スワンガンツカテーテル挿入、中心静脈圧測定などの圧モニター)です。本症例は、(2)多剤併用、(3)昇圧薬投与が該当します。本症例の対応本症例には以下の輸液、薬剤の投与が必要です。ショック:細胞外液補充液、ノルアドレナリン人工呼吸中の鎮静、鎮痛:プロポフォール、フェンタニル敗血症:抗菌薬維持輸液(将来的に中心静脈栄養に移行する可能性あり)インスリン(持続投与)本患者は強い体動を認めているため、現在の両側肘静脈ラインは今にも抜けそうで不安定であり、流量管理が困難かつ薬剤が組織侵襲性のある薬剤を投与すると血管外へ漏出する恐れがあります。以上から、組織侵襲性のある薬剤や一定の流量で投与すべき薬剤を複数かつ安全に投与する目的で、マルチルーメン中心静脈カテーテル挿入が必須です。中心静脈カテーテルの挿入部位はさまざまでそれぞれ長所・短所がありますが、本症例はDICを合併していることから止血の確実性が重要であり、動脈誤穿刺時の圧迫止血の容易さを考えると、内頸静脈または大腿静脈が有利です。ただし、清潔性・感染管理・将来の離床を考えると、右内頸静脈が第1選択となることも多いでしょう。もちろん、超緊急時は理想に固執せずに最も得意な部位から確実に挿入することも許容されます。図1 中心静脈カテーテル各挿入部位の利点、欠点1)画像を拡大する本症例はベテランICUナースによって図2で示す投与経路が組み立てられました。医師が投与経路の組み立てを自ら行うことはまれですが、たとえば昇圧薬、鎮静薬や鎮痛薬、時間をかけて静注する必要のある薬剤にグループ分けするなど、看護師が多くの薬剤を限られたルートからいかに工夫して投与しているか、そのオキテに着目するのは勉強になります。図2 本症例における輸液・薬剤投与経路の実際2)画像を拡大する目的に見合う最適な輸液ルートやカテーテルを選択しましょう。混ぜても大丈夫?注射薬は単独での使用を想定し開発されていますが、臨床現場では輸液バッグやルート内で配合されて投与される場合が多く、配合変化の危険が存在します。配合変化とは、2種類以上の注射薬を混合した際に生じる変化であり、物理的配合変化(例:混濁・沈殿)と化学的配合変化(例:有効成分の力価低下)に分けられます。配合変化による影響としては、力価の低下やルート閉塞、まれではありますが国外において死亡例が報告されています3)。ICUでは複数の静注薬を限られたルートの中で同時投与せざるを得ない状況があります。そのため、最適なルート選択をする上で配合変化の有無の確認は欠かせません。施設によっては配合変化表を作成し、ICUに配置していると思います。ルート選択の際に活用することにより、配合変化の頻度を下げる可能性が報告されており4)、有用なツールです。最後に、ルート管理において注射薬から内服薬への変更や不要な薬剤の中止を検討することも大事な視点になります。安易に継続処方とせず、薬剤の投与方法についても検討するようにしましょう。図3 (左)坂総合病院ICUの配合変化の問い合わせ記録集、(右)坂総合病院救急室の配合変化の有無の一覧表画像を拡大する1)Marino PL. ICUブック第4版. MEDSI;2015.p15-33.2)濱野繁. 10薬剤投与. In:道又元裕. これならわかるICU看護:照林社;2018.p.159.3)セフトリアキソンナトリウム 添付文書4)Kondo M, et al. J Nippon Med Sch. 2022;89:227-232.

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重度外傷患者への搬送時輸血、全血vs.成分輸血/NEJM

 生命を脅かす外傷性出血が認められる患者において、病院到着前の2単位の全血輸血は標準治療の成分輸血と比べて、24時間以内の死亡または大量輸血のリスク低下に関する優越性は示されなかったことが、英国・Royal Centre for Defence MedicineのJason E. Smith氏らSWiFT Trial Groupによる大規模臨床試験で示された。安全性プロファイルも両者で類似していた。重度の出血の管理は、近年では全血輸血が支持を得ているが、臨床的有効性および安全性を大規模臨床試験で評価したデータは不足していた。NEJM誌オンライン版2026年3月17日号掲載の報告。無作為化後24時間以内の全死因死亡または大量輸血を評価 研究グループは、イングランドにある10ヵ所の航空救急サービス(医師およびコメディカル臨床チームで構成)で、プラグマティックな第III相多施設共同非盲検無作為化優越性試験を行った。重度の外傷性出血を起こし、参加施設の航空救急サービスによって病院に搬送された患者は、病院到着前に全血輸血(最大2単位)を受ける群または標準治療(赤血球および血漿をそれぞれ最大2単位)を受ける群に無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、無作為化後24時間以内の全死因死亡または大量輸血(血液成分または製剤輸血を10単位以上)の複合とした。評価項目イベントは全血輸血群48.7%、標準治療群47.7% 2022年12月~2024年9月に942例が無作為化された。非外傷性出血または外傷性心停止の患者を除外し、主要解析の対象は修正ITT解析集団のうち、データが利用可能であった616例とした(全血輸血群314例、標準治療群302例)。被験者のベースライン特性は両群でバランスが取れ、大半が男性(75.5%)で、大部分が鈍的外傷(71.3%)であり、英国における重度外傷患者集団をおおむね代表する特徴を有していた。年齢中央値は全血輸血群38歳(四分位範囲:25~58)、標準治療群35歳(24~57)。 主要アウトカムのイベントは、全血輸血群48.7%、標準治療群47.7%で報告された(相対リスク:1.02、95%信頼区間:0.80~1.31、p=0.84)。 すべての評価時点(無作為化後6時間、24時間、30日後、90日後)の全死因死亡、また大量輸血およびその他の副次アウトカムの発現も両群で同程度にみられた。 プロトロンビン時間が正常範囲を超えていたのは、全血輸血群40.7%、標準治療群30.5%であった。重篤な有害事象の発現は、標準治療群(37例)が全血輸血群(31例)よりも多かった。血栓性イベントの発現は、両群で同程度であった。

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細胞外液補充液と維持輸液【ケースで学ぶ輸液オーダー】第1回

細胞外液補充液と維持輸液研修医が病院で初めて自らオーダーを立てる薬剤はおそらく点滴でしょう。いろいろな種類があり戸惑うかもしれませんが、原則は難しくありません。オーダーを受けた看護師から「輸液、わかってないな」と呆れられないよう、今一度原則を確認しましょう。症例洗面器約1杯分の鮮血を吐いた患者さんが救急搬入され、指導医とともに緊急で呼び出しされた初期研修医A君。指導医が緊急上部消化管内視鏡検査で出血性胃潰瘍と診断し、確実な止血処置を実施しました。現在の輸液内容は、救急科初療医が開始した細胞外液補充液(以下「外液」)です。治療終了時のバイタルサインは血圧120/60mmHg、脈拍90/分、ヘモグロビン値は正常範囲でした。「食事は明日からにしよう。じゃ、輸液オーダーは頼んだよ」と言って指導医は去っていきました。A君は翌日まで外液を継続する指示を出しました。このままでよいでしょうか。考えかたの整理輸液は「目的」によって以下の2つに整理できます1)。出血時など循環血漿量の補充外液絶食中の水分、電解質、糖の補充維持輸液イメージ的には、血液の代わりが外液、ごはんの代わりが維持輸液です。止血が得られ、循環動態が安定した時点で「失血に対する輸液」は役目を終えています。出血分を補えたら、止血後も外液を続ける理由はありません。一方、絶食が続く患者にブドウ糖を含まない輸液だけを投与すると、飢餓状態による低血糖を回避するために蛋白異化が進んでしまいます2)。図1 外液、維持輸液の組成の違いと輸液時の体液分画における分布画像を拡大する細胞内外を比較すると、細胞外はNaが多く、細胞内はKが多いのがポイントです。輸液の組成上、理論的には外液は細胞外へ、維持輸液は細胞内外へ分布するため役割が異なります。本症例の対応本症例では、出血は止血済み、バイタル安定、経口摂取は翌日から再開が予定されています。したがって、外液は減量・終了、維持輸液へ切り替えが妥当です。一方、止血されていたとしてもそれまでの出血量が多く、外液の投与量が出血量に追いついていなければ、維持輸液に並行して外液も投与すべきです。図2 臨床現場でよく見られる輸液療法の流れ画像を拡大する輸液は漫然と「昨日と同じ」にせず、目的を考えてオーダーしましょう。初期輸液は「とりあえずの輸液」英国のNICEガイドラインでは、routine maintenanceの目的の輸液組成には、25~30mL/kg/日の水分、1mmol/kg/日のNa、K、Cl、50~100g/日の糖(5%ブドウ糖液)が必要とされています3)。本邦で絶食時に頻用される維持輸液の3号液は合計2,000mL投与することにより、成人男性の1日の必要水分、電解質、最低限のブドウ糖を補える設定になっています4)。しかし、これら維持輸液のNa濃度は外液よりも低く、医原性の低Na血症が懸念されるため、海外ではNa濃度が外液並みの5%糖含有等張液の使用を提案する5)意見があります。こちらは3号液よりもK濃度が著しく低いため、長期の継続には低K血症に注意が必要です。いずれにしても初期輸液は居酒屋のお通し的立場の「とりあえずの輸液」と割り切り、数日間以上の絶食が予測される場合は、漫然と同じ輸液メニューを続けずに、電解質異常のチェックや補正、本格的な栄養輸液への移行を怠らないようにしましょう。輸液においては初回で満点を目指さず、追試上等と考えて大丈夫です。1)森本康裕. 【総論】輸液の基本のキ 輸液の調節をしてみよう. In:森本康裕. レジデントノート:羊土社;2017.p505-509.2)Gamble JL, et al. 水と電解質. 医歯薬出版;1957.p134-147.3)National Institute for Health and Care Excellence(NICE):Intravenous fluid therapy in adults in hospital. London4)室井延之. 静脈栄養剤の種類と組成、特徴. In:日本臨床栄養代謝学会. JSPENテキストブック:南江堂;2021.p.288-289.5)Moritz ML, et al. N Engl J Med. 2015;373:1350-1360.

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第307回 『脳外科医竹田くん』のモデルとなった脳外科医、民事に続き刑事裁判でも有罪となったポイントとは

民事裁判では被告と市に約8,800万円の賠償命じ、確定こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)、日本、残念でした。北米、中南米のチームが本気を出してMLBの選手をそろえてくると、そうは簡単に勝てないということですね。井端 弘和監督の采配を批判する声もあるようですが、歴代監督と比較するのはちょっと酷ではないかと思います。あと、今季からMLBに行く村上 宗隆、岡本 和真両選手が少々心配になりました。興味深かったのは、Netflixの日本ラウンドの配信を日本テレビが制作面で手伝っていたことです。ヒーローインタビューも日本テレビのアナウンサーが担当していましたし⋯⋯(各試合の実況は民放・NHKのOBアナウンサーも務めていました)。3月11日付の朝日新聞は「独占されたWBC 焦るTV局」と題する記事を掲載、日本テレビの制作受託について「(テレビ局は)『下請けに転落した』との指摘もある」と書いています。野球に限らず、ボクシングやサッカーなどのビッグゲームの放映権料が高騰しています。テレビ局が無料で放送する形態は、今後日本においても衰退していくでしょう。コロナ禍がオンライン会議を爆発的に普及・定着させたように、今回のWBCは日本で「スポーツは生“配信”」という新たなスタンダードが定着するきっかけになったイベントとして記憶されるかもしれません。さて今回は、漫画『脳外科医 竹田くん』のモデルとなった脳外科医、松井 宏樹被告(47)が業務上過失傷害罪に問われた裁判で、先週有罪判決が出たので、それについて書いてみたいと思います。民事裁判においては、2024年8月、被害女性とその家族が松井被告と赤穂市に損害賠償を求めて提訴。神戸地裁姫路支部は2025年5月に「注意義務違反の程度は著しい」として被告と市に約8,800万円の賠償を命じ、判決は1審で確定しています。このケースのように医療過誤で刑事責任まで問われるのは異例のことで、その判決に注目が集まっていました。業務上過失傷害罪で禁錮1年、執行猶予3年の判決兵庫県赤穂市の赤穂市民病院で2020年、女性患者(81)の手術中に脊髄神経をドリルで誤って切断し後遺障害を負わせたとして業務上過失傷害罪に問われた松井被告に対し、神戸地裁姫路支部は3月12日、禁錮1年、執行猶予3年(求刑禁錮1年6ヵ月)の判決を言い渡しました。朝日新聞等の報道によれば、佐藤 洋幸裁判長は「(患者は)一生治ることのない下半身不随に陥った」と結果の重大性を指摘、「罰金刑の選択を相当とする事案とは到底言えない」と量刑理由について述べたとのことです。判決によると、松井被告は2020年1月、執刀医として女性患者の腰椎(ようつい)を手術した際、止血が不十分で患部の目視が難しい状態にもかかわらず、漫然と医療用ドリルを作動させ、神経の一部を切断。患者に両足まひなど全治不能の障害を負わせたとのことです。判決は、手術中の出血で「(患部の)視認性が確保できなくなっていた」とし、被告は「(ドリルの使用を止める)基本的な注意義務を怠った」と認定しました。その一方で、「経験の乏しい被告をバックアップするチームが機能していなかった面は否めない」、「被告が医師として就労することが事実上不可能な状態で社会的制裁も受けている」として刑の執行は猶予されました。赤穂市民病院によれば、松井被告が2019~20年に関わった手術で、医療事故が8件発生しています。このうち手術で女性に重度の障害を負わせた件について、神戸地検姫路支部は2024年12月に松井被告を業務上過失傷害罪で在宅起訴、今年2月から公判がスタートしていました。時効まで残り1ヵ月を切ったタイミングでの在宅起訴この事件や松井被告については、本連載でも「第173回 兵庫で起こった2つの“事件”を考察する(前編) 神戸徳洲会病院カテーテル事故と『脳外科医 竹田くん』」、「第246回 美容外科医献体写真をSNS投稿、“脳外科医竹田くん”のモデルが書類送検、年末の2つの出来事から考える医師のプロフェッショナル・オートノミー」、「第250回 『脳外科医 竹田くん』の作者声明文と“フジテレビの第三者委員会設置で改めて考える、医療界の第三者機関、医療事故調査・支援センターが抱える“アキレス腱”(後編)」などで取り上げてきました。第246回では、2020年1月に業務上の注意義務を怠り、誤って神経を一部切断して患者に重い後遺障害を負わせたとして、2024年12月に松井被告が業務上過失傷害罪で在宅起訴されたニュースを取り上げました。松井被告は別の70代女性患者に対する手術で起こした医療事故でも業務上過失傷害容疑で書類送検されましたが、神戸地検姫路支部は2024年9月に不起訴としていました。今回有罪判決を受けた事件での在宅起訴は、時効(業務上過失傷害罪は5年)まで残り1ヵ月を切ったタイミングでした。赤穂民報は「検察幹部は『複数の専門医の意見を聴くなど慎重に捜査を進めた。結果の重大性などを鑑みて起訴の判断に至った』と語った」と報じました。漫画「脳外科医 竹田くん」の作者が医療過誤の被害者の親族であることを公表そして第250回では、手術などでミスを繰り返す外科医を描き話題を集めた漫画「脳外科医 竹田くん」の作者が、在宅起訴から40日後の2025年2月5日、同漫画のサイトで声明文を発表し、「私(漫画作者)は、赤穂市民病院 脳神経外科で2019年から2020年にかけて複数発生した医療事故のうち、2020年1月22日に起きた医療過誤の被害者の親族です」と自身の背景を明らかにしたニュースを取り上げました。『脳外科医 竹田くん』で描かれる医療事故や医師の世界のリアリティは医療界でもかねてから話題になっていましたが、作者が被害者の親族であったことに誰もが驚きました。作者は制作の動機として、赤穂市民病院で多数の医療事故が起こっていたにもかかわらず、「病院は混乱し、対応に追われ、医療事故についての適切な検証や調査を行おうとしない様子を目の当たりにしました。2022年6月にようやく病院記者会見が開かれましたが、その内容は真相究明とはほど遠いものでした。私は、一連の医療事故の真相が究明されないまま事件の記憶が風化すれば、また新たな犠牲者が生まれてしまうのではないか、といった強い危機感を抱き、葛藤の末、どうにかしてこの問題を社会に伝えたいと考えるようになりました」と、病院の事故対応のひどさ、お粗末さを指摘していました。医療裁判において「ここまで条件がそろう事案はほとんどない」と元大阪地検検事の弁護士今回の判決後、女性の親族の代理人を務める若宮 隆幸弁護士らが姫路市内で記者会見を開きました。大阪読売新聞等の報道によれば、若宮弁護士は親族のコメントとして「公判で反省する松井医師の姿を期待したが、他責的な発言や自己弁護を繰り返し、平然とうそを並べ立てる態度に絶望した」と読み上げました。さらに同弁護士は「医療事故の刑事事件は少なく、有罪判決は非常にまれ。結果の重大性を鑑みると適正な判決」と評価したとのことです。医療過誤が刑事裁判となり、有罪判決が出るのはまれとされています。刑事司法の医療現場への過度の介入は医療現場に萎縮効果をもたらしかねないため、よほどの注意義務違反が認められない限り、業務上過失致死傷罪とならないのです。ですから、悪質で事件性が高いケースであっても、和解もしくは民事裁判で損害賠償を求めるだけで医療過誤事件は収束してしまうことが大半です。では、今回、刑事裁判で「有罪」となった理由はいったい何だったのでしょうか。この裁判を取り上げた3月13日放送のテレビ朝日系「羽鳥慎一モーニングショー」において、元大阪地検検事で弁護士の亀井 正貴氏は、次の4つのポイントを挙げていました。1.重過失にあたる初歩的なミス(本人も認めている)2.手術の内容が保全され証拠が明白3.被害者の処罰感情が強い4.漫画が社会的な関心を生み出し捜査機関への圧力となった亀井氏によれば、医療裁判において「ここまで条件がそろう事案はほとんどない」そうです。今回の裁判を契機として、医療過誤事件における証拠保全の動きや、被害者や被害者家族による社会へのアピールが今まで以上に強まるかもしれません。なお、医師は罰金以上の刑が確定した場合、原則として、3年以内の医業停止や医師免許の取り消しなどの行政処分を受けることになります。判決後、女性の親族は「医療過誤で奪われた母の体の自由や失われた時間が戻ることは二度とない。厳しい行政処分を強く要望する」とのコメントを出しています。

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第286回 OTC類似薬に追加負担、出産実質無償化 医療保険改革法案を閣議決定/政府

<先週の動き> 1.OTC類似薬に追加負担、出産実質無償化 医療保険改革法案を閣議決定/政府 2.小児医療センターで何が起きたのか 髄腔内注射で死亡発生/埼玉県 3.大学病院機能強化事業77校決定 収賄事件で東大対象外/文科省 4.赤穂市民病院の元執刀医に禁錮1年、執行猶予3年の有罪判決/神戸地裁 5.リハビリ病院で799件不正請求 2027年4月に保険医療機関指定取り消し/北海道 6.再生医療投与中に60代女性死亡、都内のクリニックに緊急停止命令/厚労省 1.OTC類似薬に追加負担、出産実質無償化 医療保険改革法案を閣議決定/政府政府は3月13日、健康保険法などの改正を柱とする医療保険制度改革法案を閣議決定した。現役世代の社会保険料負担の上昇抑制と、限られた医療財源の効率的配分を目的としたもので、OTC類似薬への追加負担導入や正常分娩の実質無償化などを盛り込んだ。主な柱は、「OTC類似薬の追加負担導入」「後期高齢者医療で金融所得を保険料や窓口負担に反映」「正常分娩の実質無償化」「高額療養費制度見直し時の長期療養患者への配慮」の4点。OTC類似薬とは、市販薬と成分や効果が似た処方薬で、77成分・約1,100品目が対象と想定される。政府は薬剤費の25%を追加負担とする方向で検討しており、子供やがん・難病患者、長期療養者、低所得者には配慮措置を設ける方針。また、後期高齢者医療では、これまで十分反映されてこなかった配当などの金融所得を把握し、保険料や窓口負担に反映させることで、負担能力に応じた公平化を図る。その一方で、正常分娩については全国一律の基本単価を設定し、保険給付と現金給付を組み合わせて妊婦の自己負担を軽減する。出産費用の地域差や施設間格差の是正も狙う。ただ、薬剤自己負担の見直しなどによる保険料軽減効果は1人当たり月183円程度との試算もあり、がん患者団体や野党は「重症患者や子育て世代に負担が集中する」と反発している。医療現場では、患者説明や処方行動、産科施設の経営や地域医療への影響など、制度改正の実務的な影響を注視する必要がある。 参考 1) 現在検討している医療保険制度改革についての考え方(厚労省) 2) 【OTC類似薬の自維合意】薬剤費の25%の上乗せされる薬剤(77成分1,100品目)(保団連) 3) 健康保険法など改正案決定 OTC類似薬に追加負担、75歳以上の医療費は金融所得反映(産経新聞) 4) 健保法改正案が閣議決定 OTC類似薬に追加負担 分娩、保険適用で無償に(日経新聞) 5) 市販薬と成分・効果似る「OTC類似薬」は患者が追加負担、健康保険法など改正案を閣議決定(読売新聞) 6) ロキソニンやアレグラなど1,100品目、27年3月から患者追加負担…厚労省が「OTC類似薬」提示(同) 7) “出産の無償化”法案が閣議決定 分娩1件の単価設定 分娩施設に直接支給へ 妊婦の負担軽減・現金支給も(FNNプライムオンライン) 2.小児医療センターで何が起きたのか 髄腔内注射で死亡発生/埼玉県埼玉県立小児医療センターで、白血病治療のため抗がん剤の髄腔内注射を受けた3人に重篤な神経障害が生じ、10代男性1人が死亡、10歳未満の男児と別の10代男性2人が重体となっている。3人はいずれも2025年1月、3月、10月に治療を受け、歩行困難や大腿部痛、全身まひなどを発症した。病院は2025年11月に髄腔内注射を中止し、外部有識者を含む調査対策委員会を設置。髄液検査の結果、本来この治療で使用しない抗がん剤のビンクリスチンが3人全員から検出され、原因薬剤の可能性が高いと判断した。ビンクリスチンは、白血病や悪性リンパ腫に用いる一方で、強い神経毒性があり髄腔内投与は禁止されている。世界でも誤投与事例が報告され、わが国でも2021年に静岡県内で同種の事故が起きていた。今回の髄腔内注射自体は、小児急性リンパ性白血病で中枢神経再発を防ぐ標準治療で、通常は慎重な管理のもと行われる。調剤室は3重のセキュリティー管理下にあり、薬剤は鍵付き保管庫で厳重保管、調剤・運搬・投与も複数職種で確認していたとされ、記録上も使用形跡や手順上の明確な不備は確認されていない。このため病院は事故と事件の両面を視野に3月10日に県警へ届け出た。当初病院側は1例目、2例目は副作用として捉えていたが、3例目を受け「9ヵ月で3回は異常」と判断して本格的な調査に着手した。上野 賢一郎厚生労働大臣はさいたま市と連携して対応する考えを示し、埼玉県も原因究明と医療安全の徹底、患者家族への説明を求めている。同センターは、県内小児高度医療の中核施設で、2024年には延べ512人、2025年も中止までに427人が髄腔内注射を受けていた。専門家からは「通常では考えられない」との声が出ており、同様の治療を受ける患者家族への不安対応も課題となっている。 参考 1) 小児医療センターにおける髄腔内注射治療後の重篤な神経症状の発症について(埼玉県立小児医療センター) 2) 髄くう内注射で患者が神経症状 病院 “3回は異常”で調査(NHK) 3) 埼玉県立小児医療センターで抗がん剤の髄腔内注射を受けた10代男性死亡、2人に重度の後遺症(読売新聞) 4) 小児医療センター、抗がん剤手順に「落ち度なし」「事件事故両面の可能性」(同) 5) 3重セキュリティーの調剤室、鍵付き保管庫、分単位の調剤記録…抗がん剤で患者死亡は「考えられない事態」(東京新聞) 6) 埼玉県立小児医療センターの患者死亡「市と連携し対応」厚労相(NHK) 7) 埼玉県立小児医療センター死亡問題 県「重く受け止める」 早期究明を要請(東京新聞) 3.大学病院機能強化事業77校決定 収賄事件で東大対象外/文科省文部科学省は3月11日、大学病院の教育・研究基盤の強化を支援する「大学病院機能強化推進事業」の対象として国公私立77大学を選定したと発表した。物価高や人件費上昇などで経営環境が悪化する大学病院を支援するため、2025年度補正予算で349億円を計上し、最先端医療機器の整備や人材育成、研究体制の強化などに対し1大学当たり最大5億円を補助する。医学部を持つ81大学のうち78の大学が申請したが、東京大学は唯一選定されなかった。その理由として大学院医学系研究科の元教授らが収賄容疑で逮捕・起訴された事件を受け、医学部・附属病院の組織風土改革や病院長のマネジメント体制など具体的な改革案が示されていない点が問題視された。また、九州大学は病院長が出張旅費の不正支出問題で辞任したことを踏まえ、交付額が3割減額された。選定委員会は、大学病院が高度医療の提供や医師養成、地域医療の中核を担う一方で、近年は経営悪化が進んでいると指摘している。また、各大学が提出した改革プランや自治体との連携体制、設備整備計画などを審査し、選定したとしている。大学病院を巡っては高度医療と教育研究を担う役割が大きいだけに、今回の選定結果は経営改革やコンプライアンス体制の重要性を示すものとなった。 参考 1) 大学病院機能強化推進事業(経営環境の改善に資する教育研究基盤の充実)の選定結果について(文科省) 2) 文科省の大学病院支援事業、東京大学選ばれず 汚職事件が影響(日経新聞) 3) 国の大学病院支援に東京大学のみ選ばれず 元教授らの収賄事件が影響(朝日新聞) 4) 大学病院機能強化事業、東大以外77大学を選定…文科省(リセマム) 4.赤穂市民病院の元執刀医に禁錮1年、執行猶予3年の有罪判決/神戸地裁兵庫県の赤穂市民病院で2020年、腰椎手術中に81歳女性患者の脊髄神経を医療用ドリルで切断し重い後遺障害を負わせたとして、業務上過失傷害罪に問われた元執刀医に対し、神戸地裁姫路支部は3月12日、禁錮1年、執行猶予3年の有罪判決を言い渡した。判決では、止血が不十分で術野の視認性が確保できないまま、ドリル操作を続けた点について、「止血に努めるのは基本中の基本」であり、基本的注意義務違反は明白だと指摘。患者は下半身不随や膀胱直腸障害、強い疼痛など全治不能の障害を負っており、「罰金刑にとどまる事案ではない」とした。その一方で、助手を務めた上級医が手術を止めず、経験の浅い術者を支えるチームが機能していなかったことや、被告が事実上医師として就労困難で社会的制裁を受けている事情を踏まえ、執行猶予を付けた。同病院では、同医師が関与した手術で計8件の医療事故が判明しており、本件はウェブ漫画『脳外科医竹田くん』を通じても広く知られた。被害者家族は判決後、「奪われた身体の自由と時間は戻らない」と厳しい処分を求め、代理人は医道審議会での免許取り消しも検討すべきだと訴えた。赤穂市は判決を厳粛に受け止め、医療安全体制の強化と再発防止に取り組むとしている。民事訴訟ではすでに市と元医師に約8,900万円の賠償を命じる判決が確定している。今回の刑事判決は、個人の手技上の過失だけでなく、指導・監督体制やインシデント把握後の組織対応も含めて医療安全を問い直す事案として受け止められている。被害者側は、通常の医療事故の刑事事件化拡大には慎重姿勢を示しつつも、本件は「基本中の基本」を欠いた特異な事案だと強調。判決を1つの節目としながらも、再発防止と信頼回復を求める声はなお強い。また、病院事業管理者は経営悪化の責任を取って3月末で辞任する意向を示しており、病院運営全体への影響も広がっている。 参考 1) 赤穂の患者神経切断、元執刀医に有罪 目視困難でもドリル操作(日経新聞) 2) 手術中ドリルで神経切断、半身不随に 医師に禁錮1年・執行猶予3年(朝日新聞) 3) 手術中に神経切断 元赤穂市民病院医師に執行猶予付き有罪判決(NHK) 4) 経営責任取り今月末で辞任 高原秀典・病院事業管理者(赤穂民報) 5.リハビリ病院で799件不正請求 2027年4月に保険医療機関指定取り消し/北海道北海道厚生局は3月11日、札幌市西区の平和リハビリテーション病院(160床)について、診療報酬の不正請求を理由に、保険医療機関の指定を2027年4月1日付で取り消すと発表した。確認された不正請求は2024年3~9月診療分までの799件、総額約1億8千万円に上る。厚生局によると、同院は療養病棟入院基本料1の施設基準である看護職員や看護補助者の配置数を満たしていないことを認識しながら、必要な変更届を出さないまま、同基本料や夜間看護加算、療養病棟療養環境加算1、医療安全対策加算2、感染対策向上加算3などを請求していた。開設者からの報告を受けた厚生局は、個別指導後に監査へ移行し、2025年3月から9月に計5回の監査を実施して不正を認定した。同病院を運営する医療法人社団静和会は謝罪し、保険指定取り消し後は運営継続が困難になるとして、地域医療への影響を避けるため、札幌市南区の医療法人社団CHCPヘルスケアシステムへの事業譲渡に向け調整を進める方針だと公表した。病院側は、内部監査で不正請求を把握したとし、「意図的ではなく管理不足が原因」と説明しているが、厚生局は保険診療の根幹を揺るがす重大事案と判断した。同院は内科、整形外科を標榜し、病床稼働率は9割超という。療養病床の看護配置や加算算定は慢性期医療の収益基盤に直結するだけに、届出基準と実態の乖離を放置した責任は重い。事業譲渡まで診療は継続する方針で、患者受け入れ体制を維持しながら信頼回復と再発防止策の具体化が求められる。慢性期病院を巡っては、人員確保難が続くが、基準未達のまま算定することは認められず、今後は法人統治とコンプライアンス体制の立て直しが焦点となる。 参考 1) 診療報酬不正請求799件 札幌の病院指定取り消し-来年4月1日付(CB news) 2) 札幌・平和リハビリテーション病院、保険指定取り消し 27年4月 診療報酬1億8千万円不正受給(北海道新聞) 3) 札幌市の病院が不正請求1億8,000万円 保険医療機関指定取り消し(毎日新聞) 6.再生医療投与中に60代女性死亡、銀座のクリニックに緊急停止命令/厚労省東京都中央区の「医療法人ネオポリス診療所銀座クリニック」で自由診療の再生医療を受けた外国籍の60代女性が死亡し、厚生労働省は2026年3月13日、再生医療安全性確保法に基づき同クリニックなどに業務の一時停止を命じる緊急命令を出した。女性は10日、慢性的な痛みの改善を目的として、自身の脂肪から採取した幹細胞を培養し、静脈内に投与する治療を受けていたが、投与中に容体が急変し、救急搬送中に心肺停止となり、搬送先の医療機関で死亡が確認された。死因は現時点で不明で、厚労省は原因究明を進めている。治療に用いられた細胞は、京都市の「JASC京都幹細胞培養センター」と韓国・ソウルの「RBio幹細胞培養センター」で製造されていた。厚労省は国内施設である京都のセンターに対して細胞製造の一時停止を命じ、韓国の施設には日本向けの出荷停止を要請した。さらに同施設の細胞加工物を使用している国内の医療機関にも使用中止を求めている。再生医療を巡っては、2025年8月にも都内の別のクリニックで患者が死亡する事案が発生しており、今回の緊急命令は2例目となる。厚労省は、再生医療を提供する医療機関に対し、救急対応体制の整備や法令順守の徹底を求める通知も出しており、自由診療の再生医療の安全管理のあり方が改めて問われている。今後、厚労省は立ち入り調査などを含め、治療の安全性や運用体制の実態解明を進める方針だ。 参考 1) 再生医療等の安全性の確保等に関する法律に基づく緊急命令について(厚労省) 2) 再生医療で60代女性死亡 銀座のクリニックなどに業務一時停止の緊急命令 厚労省(時事通信) 3) 都内クリニックで再生医療受けた60代女性が死亡…死因は不明、厚労省が医療提供一時停止の緊急命令(読売新聞) 4) 自由診療の細胞投与で死亡 厚労省、東京の診療所に治療提供停止命令(日経新聞)

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神経血管老化の予防戦略、農業や園芸が有効な可能性は

 農業または園芸活動は、健康維持や生活習慣病の予防に効果的である可能性のあるシンプルな戦略である。しかし、脳卒中や認知症などの神経血管老化に関連する疾患の発症に対する予防効果は、依然としてよくわかっていなかった。久留米大学の菊池 清志氏らは、定期的な農業または園芸における身体活動(AGPA)の神経血管老化に対する予防効果とその根底にあるメカニズムについて、2つのアプローチを用いて包括的に調査した。Frontiers in Aging Neuroscience誌2025年12月2日号の報告。 男子学生12人(平均年齢:22±1歳)を対象に、管理された条件下で実施した40分間の介入(安静、サイクリング、模擬AGPA)の前後における動脈硬化度、認知機能(フランカーテストおよびストループテスト)、循環血中バイオマーカー(例:プラスミン・α2プラスミンインヒビター複合体、一酸化窒素、脳由来神経栄養因子)を評価する実験研究を行った。また、横断研究を実施し、入院中の高齢者161例(平均年齢:78±5歳、AGPA群:79例、対照群:82例)を登録し、脳卒中の既往、認知機能、MRI所見を評価した。 主な結果は以下のとおり。・実験研究において、模擬AGPAは動脈硬化を減少させ、実行機能を改善し、循環血中のプラスミン・α2プラスミンインヒビター複合体、一酸化窒素、脳由来神経栄養因子を増加させることが明らかとなった。・脳組織への血流減少および脳卒中の有病率に起因する脳MRIによる大脳白質高信号域は、AGPA群で対照群よりも低く、改訂長谷川式認知症スケールによる認知スコアも高値であった。 著者らは「高齢者における定期的なAGPAは、神経血管老化の遅延マーカーと関連していることが示唆された。AGPAは、一般的な身体活動に関連する効果とAGPAに特異的な効果の両方をもたらす可能性がある。さらに、身体活動単独と同等、あるいはそれ以上の効果が期待できる。したがって、習慣的なAGPAは、神経血管老化の効果的な予防戦略となる可能性がある」と結論付けている。

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