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JN.1系統対応の次世代mRNA(レプリコン)コロナワクチン、一変承認取得/Meiji Seika

 Meiji Seikaファルマは9月13日のプレスリリースにて、同社の新型コロナウイルス感染症に対するオミクロン株JN.1系統に対応した次世代mRNA(レプリコン)「コスタイベ筋注用」について、製造販売承認事項一部変更承認を取得したことを発表した。 同社は、2024年5月29日に開催された「第2回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会研究開発及び生産・流通部会季節性インフルエンザワクチン及び新型コロナワクチンの製造株について検討する小委員会」にて、2024/25シーズン向けの新型コロナワクチンの抗原構成がJN.1系統に取りまとめられたことを受け、同年5月31日に本剤のJN.1系統に対応したワクチンの日本における一部変更承認申請を行った。 本剤は、新規のmRNA技術を使用した次世代mRNAワクチンであり、既承認mRNAワクチンよりも少ない有効成分量で高い中和抗体価を示し、その抗体価が長く維持されることを特徴としている。 また、忍容性も高く、安全性については既承認mRNAワクチンと同様であり、有害事象の多くが軽度または中等度であることが国内外の臨床試験で示されている。 本剤は、年1回の定期接種に適したプロファイルを有すると考えられ、とくにリスクの高い高齢者に、新型コロナウイルス感染症の予防における新たな選択肢を提供すると期待されている。 同社は、本剤を2024/25シーズンに1バイアル(16回接種分)のJN.1系統対応ワクチンとして、近日中に供給を開始する予定。

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第210回 在宅医療の看取り件数が急増、訪問看護も利用拡大、コロナ禍で在宅ケアが進展/慈恵医大

<先週の動き>1.在宅医療の看取り件数が急増、訪問看護も利用拡大、コロナ禍で在宅ケアが進展/慈恵医大2.2025年度専攻医募集数のシーリングは継続、シーリング逃れに対策を/厚労省3.大学病院の医師、残業時間の上限緩和申請は4割に、研究時間不足が課題/全国医学部長病院長会議4.医療訴訟の発生率、東京・大阪が高く、茨城、福島、岐阜などは低め/東邦大5.働き方改革の影響で9大学病院が医師派遣の取り止めや中止を検討/全国医学部長病院長会議6.「疲労回復」謳う美容医療、治療効果にエビデンスなし、クリニックを提訴/消費者機構日本1.在宅医療の看取り件数が急増、訪問看護も利用拡大、コロナ禍で在宅ケアが進展/慈恵医大新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、在宅医療における看取りが急増したことが、東京慈恵会医科大学の青木 拓也准教授らの研究で明らかになった。調査は、2020年4月の緊急事態宣言を境に、終末期医療の利用や自宅での看取りが急増したことを示している。病院での受診控えや面会制限が影響し、在宅でのケアが選ばれるケースが増えたと考えられる。研究チームは、厚生労働省のNDBデータベースを用いて2019~2022年にかけて在宅医療サービスの利用動向を分析。訪問診療に大きな変化はみられなかったが、往診や終末期医療は増加傾向にあった。また、訪問看護の利用件数も増加しており、とくに医療保険適用型の訪問看護費が過去10年間で5.4倍に増加していることが、共同通信の分析で明らかになった。利用者数が4倍近く増加したことに加え、1人当たりの費用も1.4倍に増えたことが、費用増加の主因とされる。医療保険適用型の増加幅は介護保険適用型を大幅に上回っており、入院患者の早期在宅復帰を促す政策や、医療保険には利用限度額がないことが背景にある。訪問看護を巡っては、精神科や難病患者を対象にした診療報酬の過剰請求が指摘されており、利益を目的にした一部事業者による制度の乱用が費用増加の一因とも考えられている。財務省はこの問題を医療財政の圧迫要因として問題視しており、今後の対策が注目される。参考1)自宅でのみとり急増 緊急事態宣言境に、終末期医療も 受診控え、面会制限影響か・慈恵医大など(時事通信)2)医療保険の訪問看護費5倍 10年間、1人当たりも増加(共同通信)2.2025年度専攻医募集数のシーリングは継続、シーリング逃れに対策を/厚労省厚生労働省は、9月9日に医師専門研修部会を開き、日本専門医機構が提案した2025年度の専攻医募集に関するシーリング案を審議し、特別地域連携プログラムにおける新要件を却下する方針を決定した。この結果、2024年度と同様のシーリングを継続することになった。新要件は、医師充足率が0.7以下(小児科は0.8以下)の都道府県で医師を1年以上派遣する案だったが、地域内での医師偏在を助長する恐れがあるとの意見が相次ぎ、採用を見送った。今後、1ヵ月以内に厚生労働大臣の意見として正式に日本専門医機構に伝達する予定。一方で、「シーリング逃れ」と呼ばれる問題が引き続き指摘されている。これは、シーリング対象外のプログラムが、実際にはシーリング対象地域で長期間の研修を行う形態を指し、その実態把握と報告が求められている。また、特別地域連携プログラムに関しては、地域偏在是正の実効性を検証し、今後の改良が提案される予定。厚労省は、医師偏在是正に向けた総合的対策を2024年末までに策定する予定であり、9月5日に開いた社会保障審議会・医療部会では、医師偏在是正に向けた対策を議論し、偏在是正のために若手医師だけに負担をかけるのではなく、即戦力となる40歳以上の医師に対する施策の強化が求められている。参考1)令和7年度専攻医募集におけるシーリング案に対する厚生労働大臣からの意見案(厚労省)2)医師偏在是正に向けた総合的な対策パッケージの骨子案について(同)3)2025年度プログラム募集専攻医シーリング数(案)(日本専門医機構)4)2025年度の新専門医目指す専攻医募集、「玉突き案」は却下、「シーリング逃れ」の実態を解明-医師専門研修部会(Gem Med)5)医師偏在対策の総合パッケージ策定に向け医療部会で議論スタート「若手医師による偏在対策はもう限界」、少数区域に中堅医師の派遣求める声も(日経メディカル)3.大学病院の医師、残業時間の上限緩和申請は4割に、研究時間不足が課題/全国医学部長病院長会議9月11日に全国医学部長病院長会議は、医師の働き方改革施行後の令和6年4月の状況について、大学病院の医師の働き方改革に関するアンケート調査結果を発表した。これによると、大学病院に勤務する医師のうち、時間外労働の上限緩和を申請した医師が4割に達したことが明らかになった。これは2024年4月に導入された医師の働き方改革に伴い、年間960時間の時間外労働上限が1,860時間に引き上げられる特例措置を活用した結果で、2022年の調査時の34%から増加している。調査は全国82の大学病院を対象に行われ、約4万2,000人の医師のうち41%が特例措置を申請していることが判明した。また、医師の約56%が週平均5時間以下の研究時間しか確保できていないことが指摘され、とくに20歳代の医師では96%がこの状況にある。若手医師が診療業務に追われ、十分な研究時間が確保できていない実態が浮き彫りとなり、医療の将来に重大な影響を及ぼす可能性があると懸念されている。一方、労働時間の短縮は徐々に進んでおり、週50時間未満で勤務する医師の割合は49.6%となり、2022年の調査よりも8.1ポイント増加している。複数主治医制の導入や業務の時間内完了を進める取り組みが功を奏しているが、週60時間以上働く医師が依然として3割を超えており、とくに外科や小児科での改善が求められている。また、大学病院の給与に関しては、20歳代医師の87%、30歳代では51%が年収500万円未満であることが明らかとなり、国立病院や一般医療機関と比べて低い水準にあることが問題視されている。働き方改革を進めるためには、ICTの活用やタスクシフトの推進が求められており、診療報酬による支援が必要とされている。参考1)大学病院の医師の働き方改革に関するアンケート調査結果2)医師の残業時間、4割が上限緩和申請 大学病院団体調べ(日経新聞)3)若手医師の研究時間が少なく「医療の将来に重大な影響」 医師の働き方改革で調査(産経新聞)4)週50時間未満勤務の大学病院医師49.6% 4月時点 22年7月から8.1ポイント増(CB news)4.医療訴訟の発生率、東京、大阪が高く、茨城、福島、岐阜などは低め/東邦大学東邦大学薬学部の平賀 秀明講師らの研究グループは、最高裁判所の協力を得て2005~2021年にかけて全国の地方裁判所に提訴された医事関係訴訟の都道府県別発生率を調査した結果、発生率に地域差があることを明らかにした。今後、地域ごとの医療安全対策や医療事故後の患者応対、訴訟実務における指針として活用されることが期待される。調査によると、人口100万人当たりの医事関係訴訟発生率が全国平均(6.30件/年)と比べて有意に高い地域は東京都(12.97件/年)および大阪府(10.99件/年)。逆に、発生率が有意に低い地域は茨城県(1.77件/年)、福島県(1.93件/年)、岐阜県(2.50件/年)など12地域に及ぶ。また、医療機関1,000施設当たりや医師・歯科医師1,000人当たりの発生率においても、東京と大阪が高く、茨城、福島、岐阜などでは低い傾向がみられた。この地域差の要因については、医療機関側の過誤が少ないことや、弁護士不足による訴訟へのアクセスの違いが影響している可能性が指摘され、追加解析が進められている。今後、地域ごとの実情に応じた医療訴訟対策が求められる。この研究は、2024年7月31日に『医療の質・安全学会誌』に公開された。参考1)最高裁判所の協力を得て医事関係訴訟の都道府県別発生率を調査~発生率における地域差の存在が明らかに~(東邦大学)2)東邦大学 医事関係訴訟の都道府県別発生率に地域差 東京、大阪が高く、茨城、福島、岐阜等12地域は低い(ミクスオンライン)5.働き方改革の影響で9大学病院が医師派遣の取り止めや中止を検討/全国医学部長病院長会議2024年4月に始まった医師の働き方改革により、全国9つの大学病院が他の医療機関への医師派遣を取りやめ、または中止を検討していることが明らかになった。この調査は、全国医学部長病院長会議が82の大学病院を対象に実施したアンケート結果から判明したもので、働き方改革に伴う時間外労働の制限が影響を及ぼしている。調査結果によると、82の大学病院のうち、9つの病院が派遣中止や検討をしており、24の病院では勤務体制の見直しが進められている。具体的には、勤務間インターバルの導入などにより、医師の負担軽減を図る取り組みが行われている。一方、53の病院では現時点でとくに派遣に関する変更はないとされている。働き方改革により、医師の労働時間は減少傾向にあるが、とくに若手医師は診療業務、教授クラスの医師は研究業務に影響が出ている。若手医師の78%が診療時間の増加を感じており、教授の66%が研究時間の減少を挙げている。これにより、研究の遅れや診療体制の見直しが必要となっている。全国医学部長病院長会議の相良 博典会長は、「大学病院は地域医療にとって重要な存在であり、派遣中止が広がれば医療崩壊のリスクが高まる」と懸念を表明。今後、国に対して待遇の改善や医師確保に向けた対策を求めていく考えを示している。医師派遣の中止や制限が進むことで、地域医療に大きな影響を与える可能性があり、早急な対応が求められている。参考1)大学病院の医師の働き方改革に関するアンケート調査結果(全国医学部長病院長会議)2)全国9大学病院 ほかの医療機関への医師派遣 取りやめ 中止検討(NHK)3)医師派遣の取りやめ・中止検討、大学病院1割超で 4月時点 AJMC調査(CB news)6.「疲労回復」謳う美容医療、治療効果にエビデンスなし、クリニックを提訴/消費者機構日本特定適格消費者団体「消費者機構日本」は9月10日、東京都渋谷区のクリニック「サカイクリニック62」を相手取り、同クリニックが提供する自由診療に関するインターネット広告の表示が景品表示法における「優良誤認表示」に該当するとして、広告の停止を求める訴訟を東京地裁に起こした。クリニックは「疲労回復」や「アンチエイジング」などの効能を謳ったが、これらの効果には医学的なエビデンスがなく、厚生労働省も安全性に関する注意喚起を行っていた。提訴の対象となったのは、点滴や温熱療法など8種類の治療法に関する広告で、これらに関する効果を裏付ける客観的な医学的証拠がないことが問題視された。とくに「エクソソーム点滴療法」などの治療法は、その安全性が確認されていないとされており、消費者団体は「このままの状態が続くことが患者の利益を損なう」と指摘している。この訴訟は、医療機関による広告が景品表示法違反に問われた初のケースとなる。自由診療は保険診療とは異なり、高額で提供されることが多く、効能のエビデンスが不十分なまま提供される治療が広がっている現状がある。今回の訴訟は、こうした問題を是正し、消費者の利益を保護する狙いがある。また、訴訟に至るまでの経緯として、消費者機構日本が、4月にクリニックへ広告の削除を要請したものの、クリニック側のウェブサイトの改修対応などが遅れたこと、そして、当初「来年に改訂予定」として広告の表示を続けていたが、最終的には削除作業を進めていることを公表した。今回のケースは、自由診療分野における医療広告の規制が緩く、消費者保護が不十分であることを示しているとされ、今後も消費者機構日本は、同様の訴訟を展開し、他の医療機関に対しても適切な表示を促す姿勢を示している。参考1)再生医療・免疫療法と称する自由診療行為を行う医療社団法人サカイクリニック62(渋谷区)に対し、インターネット上の広告表示が優良誤認表示に該当するとして差止請求訴訟を提起しました(消費者機構日本)2)医療広告で「疲労回復」効能なし 消費者団体が東京・渋谷のクリニック提訴(産経新聞)3)「アンチエイジング」「睡眠の質改善」…自社サイトで優良誤認表示にあたる表現があるとしてクリニック側を提訴 原告「自由診療分野はやりたい放題」(TBS)4)「自由診療は野放しになっている」 “ネット広告”が「優良誤認表示」に該当するとして、消費者団体が医療クリニックに差し止め請求(弁護士JPニュース)

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医師はなぜ自ら死ぬのか(解説:岡村毅氏)

 医師の自殺率は高いとされてきた。本論文は1960年から2024年に出版されたすべての論文を対象にしたシステマティックレビューとメタ解析であり、現時点での包括的な情報と言っていいだろう。ちなみに英語とドイツ語以外は、翻訳ソフトであるDeepLを用いて評価しているのが現代的だ。男性医師では時代と共に自殺率は低下してきていることが示されたが、女性医師においてはむしろ増加している。 いくつかの視点で論じてみよう。 自殺の関連要因はさまざまであるが、この論文1)では以下のように分けている。第一に精神疾患(うつ病や統合失調症)、第二に身体疾患、第三に当たり前だが自殺関連行動(過去の自殺企図歴など)、第四に人口社会学的要因(借金、学歴、信仰、仕事のストレスなど)、そしてその他として犯罪歴、幼少期の逆境、火器が身近にあるなどを挙げている。医師といっても多様だとは思うが、身体疾患、貧困、借金、火器などが一般人口より多いとは思えないので、やはり仕事のストレスやうつ病が関与するのかもしれない。 自殺は、近年は「絶望死」の1つとして捉えられることもある。「絶望死」とは自殺、薬物の過剰摂取、そしてアルコール性肝疾患を指す。米国の労働者階級の白人においてこれらの絶望死が増えていることが指摘され2,3)、トランプ現象との関連も語られている。これを医師の自殺と結び付けるのは飛躍かもしれないが、激しい競争と格差が「絶望死」とつながっているとしたら、医師の世界の激しい競争が関係しているのかもしれない。 仕事のストレスといえば、患者や家族からの過大な要求などは増えているとされている(いわゆるモンスターペイシェント)。一方で、たとえば私が某下町の救命救急センターで研修を受けていた2000年代初頭は、日・当・日直で36時間稼働して12時間休むのを3回(つまり6日稼働し、その間に3晩休める)して、初めて休日になるというありさまだった。あらゆる仕事は尊く大変だが、医師は命が関わる局面が多く、休みたいなどと言うと人間性を疑われることが多いのはつらい。これを米国の友人に言うとドン引きされるので、日本が異常なのだろう。とはいえ、このような身体的なストレスは確かに減ってきた。 この論文の対象外であるが、新型コロナウイルスパンデミックのような社会現象も関連するだろう。新型コロナの患者に接している医療従事者の子供が保育園で差別されるといった事象や、国民の生命を守るためにマスコミに姿を曝した専門家に対する誹謗中傷4)などである。 ではなぜ女性で増えているのか。本論文ではまったく明らかになっていないが、これまでの研究を総合して、問題の在りかを明らかにし、これからの研究の道標にするというのがこの研究の意義である。

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患者負担を軽減する世界初の肺胞蛋白症治療薬/ノーベルファーマ

 ノーベルファーマは、世界初の肺胞蛋白症治療薬サルグラモスチム(商品名:サルグマリン吸入用250μg)について本社でプレスセミナーを開催した。 肺胞蛋白症(pulmonary alveolar proteinosis:PAP)は、酸素と二酸化炭素をガス交換する肺胞に蛋白様物質が貯留する希少疾患の総称。酸素と二酸化炭素の交換ができなくなり、うまく酸素が体に取り込めなくなるため、呼吸困難、咳や痰、発熱、体重減少などの症状がある。PAPのうち、免疫細胞の過剰産出に起因する自己免疫性PAPが90%を占め、国内に約730~770例の患者が推定されている。 従来の治療法では、全身麻酔下で老廃物を洗い出す区域肺洗浄か全肺洗浄のみであり、患者の身体的負担、治療時間、限定された専門施設など治療上の課題があった。 サルグラモスチムは、肺胞マクロファージに直接作用し、成熟を促すことで、老廃物の分解を促進する薬剤であり、患者にとって新たな治療の選択肢となる。自己免疫性肺胞蛋白症(APAP)と先天性肺胞蛋白症(CPAP)は2015年に指定難病の指定を受けている。 セミナーでは、サルグラモスチムの特徴、効果の実際、治療を受けての患者の感想などが説明された。患者を全身麻酔下の治療から解放する画期的治療法 「世界初の自己免疫性肺胞蛋白症に対する薬物療法-サルグマリン吸入療法の何処が画期的なのか?-将来の展望」をテーマに中田 光氏(新潟大学医歯学総合病院高度医療開発センター先進医療開拓分野 特任教授)が、PAPの診療、サルグラモスチムの特性と従来の治療との違い、今後の展望などを説明した。 PAPとは、老廃物がゆっくりと肺胞を埋め尽くす疾患で、年間発症200例程度あるが、呼吸器の専門医ではよく知られている疾患。肺胞腔内に溜まるサーファクタント由来の老廃物は、血漿や肺由来のタンパク質、リン脂質、コレステロールなどであり、中でもタンパク質が多く溜まることから本症の名前が付いたとされる。 APAPの病因は、患者の肺にある抗GM-CSF自己抗体であり、肺胞マクロファージの成熟を阻害することで発生するとされている。 症状としては、相当呼吸が苦しくなるというものではなく、正常に呼吸できるときとそうでないときがまばらに生じ、病状が進行すると酸素の取り込みができず呼吸が重くなり、酸素の供給量を増やしても改善されない。 今回承認されたサルグラモスチム(GM-CSF)は、顆粒状マクロファージコロニー刺激因子の人工タンパク(分子量は15,000)で、吸入器を使用して細かい霧を口腔から吸う治療薬で、吸入器から出る粒子は3~5ミクロンの大きさとなる。 薬効機序として、肺胞に到達後、一部は自己抗体に結合するほか、肺胞マクロファージ受容体にたどり着き、機能を賦活化する仕組みで、細胞表面の受容体に結合することで、細胞増殖や成熟、機能維持に効果を発揮する。 また、サルグラモスチムが画期的な治療薬であることから、画期性加算の対象となった。その理由として、既存の治療では、全身麻酔下で10~20Lの生理食塩水で肺の洗浄をするしかなかった治療から吸入だけで肺の老廃物の処理、呼吸機能の改善が期待できること、APAPで肺胞機能が改善された世界初の治療薬であること、広い安全性を有し、通常の使用量を超える量でも安全性が確認されていることが挙げられている。 最後に中田氏は、「サルグラモスチムがマクロファージや好中球などの機能を高め、生体防御に貢献している働きから緑膿菌感染症、肺MAC症、ウイルス性肺炎、肺アスペルギルス症などにも適用拡大ができる可能性がある」と展望を語り、説明を終えた。肺活量が落ちる前に積極的にGM-CSF吸入療法の使用を 「自己免疫性肺胞蛋白症の克服に向けて-GM-CSF吸入療法の重要性」をテーマに石井 晴之氏(杏林大学医学部呼吸器内科 主任教授)が、サルグラモスチムの概要や効果について説明した。 初めに自験例のAPAPの症例を示し、酸素がうまく肺に取り入れないことで予後が悪いと窒息死することを説明。最近では新型コロナウイルス感染症との鑑別診断が難しいという。『肺胞蛋白症診療ガイドライン2022』では、3段階の重症度に合わせた治療指針が示されている。 重症度(DSS)と治療は以下のとおりである。・軽症:DSS1、2/動脈血酸素分圧はPaO2≧70→治療は慎重な経過観察・中等症:DSS3/動脈血酸素分圧は70>PaO2≧60→治療は対症療法(去痰薬、鎮咳薬など)またはサルグラモスチム吸入療法・重症:DSS4/動脈血酸素分圧は60>PaO2≧50DSS5/動脈血酸素分圧は50>PaO2→治療は区域洗浄、対症療法、長期酸素療法、サルグラモスチム吸入療法 今回発売されたサルグラモスチム吸入療法では、1日250μg(1バイアル)を12回(24週間)繰り返して治療を行う(吸入は3秒周期で吸気・息止・呼気を繰り返す)。そして、その効果については、プラセボと比較し、有意に肺の酸素化の改善を示し、肺CT所見以外でもLDH、KL-6、SP-Aも有意に改善していた1)。 また、先に講演した中田氏らが実施した特定臨床研究PAGEIIにも触れ、最重症例を含めた30例について、ベースラインから24週にわたる肺胞気動脈血酸素分圧較差の変化をみたところ、サルグラモスチム吸入療法により標準偏差で平均-12.8mmHg±10.7mmHg下がったという2)。 安全面については、副作用として赤血球・白血球の増多、咳嗽、発声障害、頭痛、尿中陽性などが報告されたが重篤なものはなかった。 最後に石井氏はまとめとして「世界初の承認された薬物療法であり、重症度3~5には積極的に導入すべきであること、肺活量が落ちると効果が下がるので%VCが80%未満の拘束性換気障害を呈する前に導入すべきであること、そして患者さんには禁煙の重要性を指導すべきである」と4項目を挙げ、説明を終えた。GM-CSF吸入療法をしてわかった患者目線の吸入時のポイント APAPの患者として小林 剛志氏(日本肺胞蛋白症患者会 代表)が、「GM-CSF製剤吸入療法の経験談 未来に向けての願い」をテーマに、現在進行形の実体験を語った。 小林氏は、医療機関に勤務する臨床工学技士であり、医学の知識がある。症状は2006年ごろに運動時の息切れ、運動パフォーマンスの低下から始まり、約4ヵ月後にPAPと確定診断されたという。 当初、治療では、全身麻酔下での肺洗浄が行われていたが、2008年からGM-CSF吸入療法を開始した。途中1回の両肺洗浄(2012年)を経て、継続している。吸入治療を経験し、小林氏が気付いたこととして、吸入に際しては「毎日30分吸入」、「臥位で吸入」、「腹式呼吸→胸式呼吸の順」という3点がしっかりと吸入できると提案した。 おわりに小林氏は、患者がもつ本症への不安として「患者ならば誰でも処方してもらえるのか、治療を受けられる施設(現在12程度施設)は今後広がるのか、GM-CSF吸入療法が有効でない場合の対応などがある」と示唆し、今後の患者の願いとして薬剤の冷蔵保管、調剤の煩雑さ、吸入器具の清潔、薬価などの課題解決への期待を寄せた。

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mRNAコロナワクチン後の心筋炎、心血管合併症の頻度は低い/JAMA

 従来型の心筋炎患者と比較して、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後に心筋炎を発症し入院した患者は心血管合併症の頻度が高いのに対し、COVID-19のmRNAワクチン接種後に心筋炎を発症した患者は逆に心血管合併症の頻度が従来型心筋炎患者よりも低いが、心筋炎罹患者は退院後数ヵ月間、医学的管理を必要とする場合があることが、フランス・EPI-PHAREのLaura Semenzato氏らの調査で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2024年8月26日号で報告された。フランスのコホート研究 研究グループは、COVID-19 mRNAワクチン接種後の心筋炎および他のタイプの心筋炎に罹患後の心血管合併症の発生状況と、医療処置や薬剤処方などによる疾患管理について検討する目的でコホート研究を行った。 フランス国民健康データシステムを用いて、2020年12月27日~2022年6月30日にフランスで心筋炎により入院した12~49歳の患者4,635例のデータを収集した。 これらの患者を、ワクチン接種後心筋炎(COVID-19 mRNAワクチン接種から7日以内、558例[12%])、COVID-19罹患後心筋炎(重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2[SARS-CoV-2]感染から30日以内、298例[6%])、従来型心筋炎(COVID-19 mRNAワクチン接種やSARS-CoV-2感染とは関連のない心筋炎、3,779例[82%])に分類した。 主要アウトカムは、初回入院から18ヵ月間における心筋心膜炎による再入院、心筋心膜炎以外の心血管イベント、全死因死亡と、これらのイベントの複合アウトカムとし、退院後の医療管理(心臓画像検査、心血管治療[β遮断薬、レニン-アンジオテンシン系作用薬]、冠動脈検査[冠動脈造影、CT検査]、トロポニン検査、ストレス検査など)についても評価を行った。再入院と他の心血管イベントにも差はない ワクチン接種後心筋炎群は、COVID-19罹患後心筋炎群および従来型心筋炎群に比べ年齢が若く(平均年齢25.9[SD 8.6]歳、31.0[10.9]歳、28.3[9.4]歳)、男性が多かった(84%、67%、79%)。 18ヵ月時の複合アウトカムの標準化発生率は、従来型心筋炎群が13.2%(497/3,779例)であったのに比べ、ワクチン接種後心筋炎群は5.7%(32/558例)と低く(重み付けハザード比[wHR]:0.55、95%信頼区間[CI]:0.36~0.86)、COVID-19罹患後心筋炎群は12.1%(36/298例)であり同程度だった(1.04、0.70~1.52)。 心筋心膜炎による再入院(ワクチン接種後心筋炎群と従来型心筋炎群の比較:wHR 0.75[95%CI:0.40~1.42]、COVID-19罹患後心筋炎群と従来型心筋炎群の比較:1.07[0.53~2.13])および心筋心膜炎以外の心血管イベント(0.54[0.27~1.05]、1.01[0.62~1.64])は、いずれも差を認めなかった。 全死因死亡は、ワクチン接種後心筋炎群が1例(0.2%)、COVID-19罹患後心筋炎群が4例(1.3%)、従来型心筋炎群は49例(1.3%)でみられた。医療処置、薬剤処方の頻度は従来型心筋炎群と同様 ワクチン接種後心筋炎群およびCOVID-19罹患後心筋炎群の退院から18ヵ月間の医療処置(心臓画像検査、トロポニン検査、ストレス検査)および薬剤処方の標準化された頻度は、従来型心筋炎群と同様の傾向を示した。 著者は、「これらの知見は、現時点および将来にmRNAワクチンを推奨する際に考慮すべきと考えられる」としている。

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第209回 医師の偏在是正、美容医療規制も含めて年末までに対策を策定へ/厚労省

<先週の動き>1.医師の偏在是正、美容医療規制も含めて年末までに対策を策定へ/厚労省2.認知症施策、希望を持って生きる社会を目指す基本計画を閣議決定へ/内閣府3.喫煙率14.8%、規制強化で最低水準に/厚労省4.マイナ保険証の利用率に基づく医療DX加算、翌月から適用可能/厚労省5.新たな地域医療構想、二次医療圏見直しと在宅医療強化へ/厚労省6.75歳以上の医療費抑制、3割負担の対象拡大を検討/内閣府1.医師の偏在是正、美容医療規制も含めて年末までに対策を策定へ/厚労省厚生労働省は2024年9月5日、医師の地域・診療科偏在を是正するために「医師偏在対策推進本部」を設置し、9月5日に初会合を開催した。武見 敬三厚労相は冒頭で、「医師偏在の解消なしには、国民皆保険制度の維持は困難だ」と述べ、医師偏在問題に対する強い危機感を示した。本部は年末までに、経済的インセンティブや規制的手法を含む総合的な対策パッケージを策定する予定。会合では、主に「医師確保計画の深化」「医師の育成と配置」「実効的な医師配置」の3つの柱に基づき議論が進められた。とくに、医師少数区域での医師確保を目指し、若手医師や医学生に対する地域医療への理解促進や研修制度の見直しなどが検討されている。また、外来医師が多い都市部での新規開業を制限するため、規制的手法も導入される可能性がある。さらに、美容医療への若手医師の流出を抑えるため、公的保険診療の経験をクリニック開業の条件とする案も議論された。とくに美容外科などの分野で若手医師が急増している現状を踏まえ、保険外診療のみに依存する医療機関の乱立を防ぐ狙いがある。対策推進本部では、地方の医療機関への財政支援や医師が少ない地域への医師派遣制度の強化なども進める予定。都道府県が策定する医師確保計画に基づき、地域ごとの医師の需給バランスを見極めながら対策を推進する。今後、さらに具体的な議論が進み、年末には法改正も視野に入れた包括的な対策が発表される見通し。参考1)医師偏在是正に向けた総合的な対策パッケージの骨子案について(厚労省)2)医師偏在是正に向けた総合的な対策パッケージの骨子案 主な論点(同)3)美容クリニック開業に規制案 公的医療の経験必要に(日経新聞)4)外来医師多数区域における新規開業への規制的手法などを議論 厚生労働省「医師偏在対策推進本部」が始動(日経メディカル)5)医師偏在「もはや待ったなし」 厚労省、是正に向け部局横断会議(毎日新聞)2.認知症施策、希望を持って生きる社会を目指す基本計画を閣議決定へ/内閣府2024年9月2日に政府は、認知症施策の基本計画案を発表した。計画の中心には「認知症になっても希望を持って自分らしく暮らし続けることができる」という新たな認知症観が据えられ、その浸透を進めることが重点目標とされた。これにより、認知症の人を「支える対象」とする従来の考え方から、共に支え合う社会を目指す方針へと転換する。また、この計画は、認知症基本法に基づく初めての施策であり、2029年度までを計画期間とし、5年ごとに見直しを行う予定。計画案では、認知症になった後も、できることややりたいことがあるという前提を掲げ、偏見の解消を目指す。「ピアサポート活動」を推進し、認知症当事者が支え合う仕組みや、学校現場での教育活動なども盛り込まれた。また、当事者の意思を尊重し、地域での生活を支えることが重要視されている。さらに、重点目標として「当事者の意思尊重」「地域での安心した生活」「新技術の活用」が挙げられ、認知症の人が他者と支え合いながら住み慣れた地域で暮らせる社会を目指す。具体的な施策として、若年性認知症の人の就労支援強化や地域のバリアフリー化推進、認知症サポーターの養成などが含まれている。計画は今月下旬にも閣議決定され、各自治体においても地域の実情に応じた計画の策定が進められる。これにより、認知症の人々が、社会の一員として共に生きるための施策が強化される見通し。参考1)認知症施策推進基本計画[案](内閣府)2)「認知症でも自分らしく」 政府重点目標、基本計画案(日経新聞)3)希望を持って生きる「新しい認知症観」 基本計画案を了承(毎日新聞)4)「新しい認知症観」で社会参画促す 認知症基本計画 閣議決定へ(朝日新聞)5)認知症施策推進基本計画案、当事者らの参画を強調 認知症カフェなどでの交流促す 政府(CB news)6)「新しい認知症観」を明示 国の基本計画固まる(福祉新聞)3.喫煙率14.8%、規制強化で最低水準に/厚労省厚生労働省は、2022年に実施した国民健康・栄養調査の結果を公表した。これによると、20歳以上の喫煙率は14.8%と過去最低を記録した。前回の2019年の調査結果の16.7%を下回り、2003年以降の最低値を更新したが、政府が「健康日本21(第2次)」で掲げた目標の12%には届いていない。男女別の喫煙率は、男性が24.8%、女性が6.2%で、いずれも過去最低だった。とくに男性では30代が35.8%、女性は40代が10.5%と高い傾向がみられた。喫煙者のうち、たばこを止めたいと考えている人は全体の25%で、男性では21.7%、女性では36.1%が禁煙を希望している。今後、厚労省は、喫煙を止めたい人への治療支援をさらに充実させる方針を示している。また、「受動喫煙の機会がある」と答えた人の割合も減少しており、とくに飲食店や遊技場では規制強化により半減し、それぞれ14.8%、8.3%となった。一方、路上や職場での受動喫煙は依然として高く、路上では23.6%、職場では18.7%と報告されている。この調査は2022年11~12月にかけて、全国約2,900世帯を対象に実施された。新型コロナウイルス感染症の影響で、2020年と2021年の調査は中止され、今回は3年ぶりの調査となった。厚労省は今後も、規制強化と禁煙支援の充実を進めることで、喫煙率のさらなる低下を目指す考えを強調している。参考1)令和4年「国民健康・栄養調査」の結果(厚労省)2)喫煙率14.8%、過去最低 国民健康・栄養調査(日経新聞)3)「喫煙率」14.8% 厚労省2022年の調査 2003年以降で最も低く(NHK)4.マイナ保険証の利用率に基づく医療DX加算、翌月から適用可能/厚労省9月3日に厚生労働省は「医療情報取得加算及び医療DX推進体制整備加算の取扱いに関する疑義解釈資料」を事務連絡で発出した。2024年10月から導入される「医療DX推進体制整備加算」では、マイナンバーカードによる保険証(マイナ保険証)の利用率に基づき、医療機関が算定する新たな評価制度がスタートする。資料によれば、この加算の算定基準となるマイナ保険証の利用率が、翌月に適用されることを明確にした。医療機関は、毎月中旬に社会保険診療報酬支払基金からメールで通知される利用率を基に、翌月1日から加算の算定が可能になる。この加算は、マイナ保険証利用率に応じて3区分に分類され、医療機関ごとの利用率が基準値を満たしている場合、施設基準の再届け出は不要とされる。ただし、利用率が基準に満たない場合は加算が算定できないことも示されている。さらに、利用率は2~5ヵ月前までの期間で「最も高い数値」を選択して算定できる柔軟な対応が可能となる。医療DX推進体制整備加算は、診療情報や処方箋情報の電子化、患者の医療情報の共有を促進する取り組みであり、医療の質と効率を高めることを目指す。2024年10月からの基準値は、最も高い加算(11点)を受けるためには15%以上の利用率を求め、来年1月以降は30%以上が必要となる。その他の区分も利用率に応じた基準が設けられている。さらに、今回の加算見直しでは、利用率の基準を確認できる仕組みが強化され、支払基金のポータルサイトを通じて、医療機関が確認できるようになっている。2025年4月以降の利用率基準も今後の状況を踏まえて再評価される予定であり、今後も医療機関の対応が重要視される。参考1)医療情報取得加算及び医療DX推進体制整備加算の取扱いに関する疑義解釈資料の送付について(その1)(厚労省)2)通知のマイナ利用率、翌月に適用 DX加算で医療課(MEDIFAX)3)医療DX推進体制整備加算、マイナ保険証利用率は「自院に最も有利な数値」を複数月から選択適用可能な点など再確認-厚労省(Gem Med)5.新たな地域医療構想、二次医療圏見直しと在宅医療強化へ/厚労省2025年に向けて地域の病床機能の再編や地域ごとの医療体制を整備するために取り組んできた地域医療構想を見直すために、厚生労働省は、新たに2040年に向けて立ち上げた「新たな地域医療構想に関する検討会」で、2040年に向けた新たな地域医療構想の方向性を示した。とくに85歳以上高齢者の救急医療や在宅医療の需要増加に対応するため、現行の二次医療圏よりも小規模な地域単位での医療提供体制を強化することが求められている。日本病院会も、二次医療圏の見直しを提言し、今後意見書を提出する予定。新たな地域医療構想の議論では、現行の考え方を継続する部分と新しい要素を組み込む部分を区別しながら進めるべきという意見が出されている。各都道府県が策定するガイドラインについて、国は細部を厳格に定めず、地域の実情に応じた柔軟な対応が求められている。9月5日に開かれた社会保障審議会医療部会では、市立病院の再編や経営支援、在宅医療や外来医療を含む包括的な地域医療体制の整備が提案された。また、現行の病床機能報告制度や病床数の不足が指摘されている回復期病床の見直しも求められている。精神科医療の組み込みやかかりつけ医機能報告制度に関する議論も進められ、これらを踏まえた新たな医療構想の実現が目指されている。2040年には後期高齢者の増加に伴い、介護・福祉との連携も重要視され、内科系の急性期医療や救急医療の需要が高まることが予想されている。とくに85歳以上の救急搬送件数は、2020年から2040年にかけて75%増加する見通しであり、ADL(活動能力)の低下を防ぐため、早期のリハビリ提供が重要になる。加えて、在宅医療の需要も同時期に62%増加すると予想され、24時間対応の体制構築やオンライン診療の活用が課題とされた。新たな地域医療構想では、入院医療だけでなく外来医療や在宅医療も対象とし、長期的に地域における医療提供体制を見直す方針が示された。また、医療圏を越えて一定の症例や医師の集約を進め、高度医療の提供体制を強化することも検討されている。過疎地域では医療機能の維持が重要視され、医師の派遣やICTの活用を通じて地域の医療提供力を高めることが求められている。今後、年末までに具体的な対策が取りまとめられ、2025年度からの実施を目指す。参考1)新たな地域医療構想の検討状況について(厚労省)2)2040年ごろを見据えた新しい地域医療構想の方針を提示 医療圏より小さい範囲で在宅医療の提供体制の検討を(日経メディカル)3)新たな地域医療構想、「2次医療圏」見直しを 日病(MEDIFAX)4)新たな地域医療構想論議、「現行の考え方を延長する部分」と「新たな考え方を組み込む部分」を区分けして進めよ-社保審・医療部会(Gem Med)6.75歳以上の医療費抑制、3割負担の対象拡大を検討/内閣府政府は、75歳以上の後期高齢者の医療費窓口負担について、3割負担の対象範囲を拡大する方針を検討している。これは、2024年に改定予定の「高齢社会対策大綱」に盛り込まれ、高齢化に伴う医療費の膨張に対応するための措置として進められる。現在、75歳以上の高齢者は原則1割自己負担だが、一定の所得がある場合は2割、さらに現役並みの所得がある場合には3割を負担している。今回の改定では、この3割負担の適用範囲が広がる可能性がある。政府は2023年12月に決定した社会保障改革の工程表で、この負担増を検討課題として挙げており、2028年度までに「現役並み所得」の判断基準を見直す計画を示している。医療費の膨張を抑制するため、負担を増やす一方で、負担増に対する国民の反発も懸念され、今後の議論は難航する可能性がある。さらに、内閣府は、高齢者の就労を促進するための「在職老齢年金制度」の見直しも提言。具体的には、働く高齢者が一定以上の所得を得た場合に年金受給額を減らす現行の制度を見直し、就労を支援する方向での改革を進めるとされている。また、個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入可能年齢の引き上げなど、私的年金制度の拡充も検討中であり、これらも大綱に含まれる予定。この改定案は、2024年内に閣議決定される見通しで、今後のわが国の高齢社会に対応する医療制度の持続性を高めるための重要な議論となる。参考1)高齢社会対策大綱の策定のための検討会 報告書[案](内閣府)2)75歳以上医療費、3割負担の対象拡大検討 高齢社会大綱(日経新聞)3)政府が75歳以上の医療費3割負担の対象拡大検討 高齢社会大綱案に明記、制度持続狙い(産経新聞)

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第230回 肥満症治療薬セマグルチドでコロナ死亡が減少

肥満症治療薬セマグルチドでコロナ死亡が減少ノボ ノルディスク ファーマの肥満症治療薬のGLP-1受容体作動薬セマグルチド2.4mg皮下注(商品名:ウゴービ)と新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)による死亡率低下との関連が第III相SELECT試験の長期経過解析で示されました1)。SELECT試験の被験者の割り振りは、COVID-19流行開始前の2018年10月に始まって2021年3月まで続き、被験者の受診は2023年6月29日に完了しました。すなわち同試験の期間はCOVID-19流行の最悪期である2020年3月~2022年3月の約2年間をすっかり含みます。SELECT試験には、太っていて(BMIが27以上)心血管疾患の既往があるものの糖尿病ではない45歳以上の1万7,604例が参加しました。それら被験者の選択基準は図らずも後に判明するCOVID-19重症化リスクが高い集団の特徴とかぶるものでした。よってSELECT試験のデータは、COVID-19重症化リスクが高い人のSARS-CoV-2感染後の経過がセマグルチドでどう変わるかを調べるのに好都合です。そこでハーバード大学関連のブリガム・アンド・ウィメンズ病院の研究者らはSELECT試験の被験者の半数の経過が3.3年間に達した時点までのデータを解析し、COVID-19の経過にセマグルチド投与がどう影響したかなどを検討しました。昨年の11月にNEJM誌にすでに報告されているとおり、心血管が原因の死亡率(心血管死亡率)はセマグルチド投与群のほうがプラセボ投与群に比べて低かったものの、p値は0.05を超える0.07で有意ではありませんでした2,3)。それゆえ他の副次転帰の検定はなされませんでしたが、あらゆる死亡の発生率(全死亡率)はセマグルチド投与群のほうが19%低く、そのハザード比0.81の95%信頼区間は有望なことに1未満に収まる0.71~0.93でした。そしてCOVID-19死亡率も全死亡率と同様にセマグルチド投与群のほうが低いことが今回の解析で示されました。セマグルチド投与患者はプラセボ群と同程度にSARS-CoV-2に感染しました。しかしSARS-CoV-2感染したセマグルチド投与患者のほうがSARS-CoV-2感染したプラセボ投与患者に比べてCOVID-19死亡をより免れており、その発生率はセマグルチド投与群のほうがプラセボ群より34%低くて済んでいました。また、SARS-CoV-2感染者の深刻なCOVID-19関連有害事象の発生率もセマグルチド投与群のほうがプラセボ群に比べて低いことが示されました(それぞれ2.6%と3.1%、p=0.04)。感染症による死亡率もセマグルチド投与群のほうがプラセボ群に比べて低くて済んでいました。それらの効果のメカニズムは不明です。体重の大幅な減少と重度のCOVID-19合併症が少なくて済むことの関連が肥満手術患者の観察試験で示されていることなどから察するに、セマグルチドの感染症死亡予防は体重減少のおかげらしいと著者は言っています1)。いずれにせよさらなる試験での検証が必要です。また、他の同種の薬の試験で新たな発見を得られそうです4)。参考1)Scirica BM, et al. J Am Coll Cardiol. 2024 Aug 27. [Epub ahead of print] 2)Lincoff AM, et al. N Engl J Med. 2023;389:2221-2232.3)Novo Nordisk A/S: Semaglutide 2.4 mg (Wegovy) cardiovascular outcomes data presented at American Heart Association Scientific Sessions and simultaneously published in New England Journal of Medicine. 4)Brigham-led study finds weight loss drug semaglutide reduced COVID-19 related deaths during the pandemic / Eurekalert

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第208回 都市部での新規開業を制限、医師の偏在是正の対策案を発表/厚労省

<先週の動き>1.都市部での新規開業を制限、医師の偏在是正の対策案を発表/厚労省2.マイナ保険証の利用が低迷、医療機関への働きかけ強化へ/政府3.少子化の深刻化続く、2024年上半期の出生数が最少記録/厚労省4.75歳以上高齢者に2割負担導入で、医療費が3~6%減少/厚労省5.2022年度の体外受精児、過去最多の7.7万人に/日本産科婦人科学会6.独居高齢者の孤独死が2万8000人超に、2024年上半期/警察庁1.都市部での新規開業を制限、医師の偏在是正の対策案を発表/厚労省厚生労働省は、8月30日に地域ごとの医師の偏在を是正するための総合対策を発表した。医師が多い都市部での新規開業を抑制するため、法令改正を含む一連の措置を検討しており、都道府県知事の権限を強化する予定。武見 敬三厚生労働大臣は30日の記者会見で、医師の偏在を是正するため、省内に「医師偏在対策推進本部」を設置、9月には初会合を開くことを発表した。具体的には、新規開業希望者に対して、救急医療や在宅医療などの地域で不足している医療サービスを提供するよう要請する法的枠組みを整え、開業を事実上制限することが柱となっている。さらに、地方の医療機関への財政支援を強化し、医師不足地域への医師派遣を推進するためのマッチング支援を行うことが検討されている。これには、医師が少ない地域での勤務経験を管理者要件とする医療機関の拡大、大学医学部卒業後地元で働くことを条件に医学部入学を認める「地域枠」の再配置も含まれる。厚労省内では、部局横断の推進本部が新設され、年末までに具体的な対策パッケージがまとめられる予定。また、この対策は「近未来健康活躍社会戦略」の一環として、国民皆保険の維持や医療・介護産業の発展を目指している。今後、25年度予算案への反映や通常国会での法改正も視野に入れ、医師の偏在是正に向けた取り組みが本格化する見通し。参考1)武見大臣会見概要[令和6年8月30日](厚労省)2)今後の医師偏在対策について(同)3)近未来健康活躍社会戦略(同)4)医師偏在是正へ開業抑制、都道府県の権限強化 厚労省案(日経新聞)5)医師多い地域で開業抑制、厚労省が偏在是正へ対策骨子案 地方医療機関へ財政支援強化(産経新聞)6)医師偏在是正「多数区域」の知事権限強化など 厚労省が対策具体案、年末までに具体化(CB news)2.マイナ保険証の利用が低迷、医療機関への働きかけ強化へ/政府厚生労働省は、8月30日に社会保障審議会医療保険部会を開き、「マイナ保険証」の利用促進策について検討した。2024年7月時点でのマイナ保険証の利用率は11.13%と低迷し、政府が掲げる現行健康保険証の12月廃止に向けた利用促進には課題が残っていることが明らかになった。とくに利用率が低い医療機関や薬局に対しては、厚労省が地方厚生局を通じて個別に事情を確認し、利用促進を図るための支援を行う方針を明らかにした。厚労省は「消極的な利用は療養担当規則違反の恐れがある」としているが、医療機関側からは威圧的との批判も寄せられている。政府はマイナ保険証の利用率を引き上げるため、医療機関に対して一時金の支給や補助金の期間延長などのインセンティブを提供してきたが、利用率については最高の富山県で18.0%、最下位の沖縄県で4.75%と依然として利用率が伸び悩んでいる状況。今後、政府は利用促進策をさらに強化し、国民の不安を解消するための広報活動にも力を入れる予定。さらに総務省と厚労省は、マイナンバーカードの利用拡大を図るための一連の新対策として、マイナンバーカードの暗証番号をコンビニエンスストアやスーパーで再設定できるサービスを開始し、従来の自治体窓口に出向く必要をなくした。変更にはスマートフォンの専用アプリを使用して事前手続きを行い、イオングループの店舗やセブン-イレブンの一部店舗内のマルチコピー機端末で再設定が可能となり、今後さらに広がる予定。マイナンバーカードの普及と利用促進に向けた政府の取り組みが進んでいるが、現場の課題や地域差が浮き彫りになっており、さらなる対策が求められている。参考1)マイナ保険証の利用促進等について(厚労省)2)マイナ保険証 利用率低い医療機関や薬局に聞き取りへ 厚労省(NHK)3)マイナ保険証利用増へ追加策 厚労省、個別に働きかけ(日経新聞)4)マイナ保険証、利用実績低い施設に働き掛けへ 7月の利用率11.13%、新たな利用促進策(CB news)3.少子化の深刻化続く、2024年上半期の出生数が最少記録/厚労省厚生労働省が発表した2024年1~6月の人口動態統計(速報値)によると、出生数は前年同期比5.7%減の35万74人で、1969年の統計開始以来、上半期として最少を更新した。この減少は、少子化の深刻さを浮き彫りにしている。前年同期比で約2万人の減少がみられ、これで3年連続して40万人を下回る結果となった。また、2014年と比べると出生数は約3割減少しており、長期的な低下傾向が続いている。加えて、2024年の年間出生数が70万人を下回る可能性が高まっており、少子化対策の重要性が一層強調されている。婚姻数は、前年同期比で若干の増加がみられたが、新型コロナウイルス感染症の影響による晩婚化や晩産化が、今後の出生数減少に拍車をかける可能性がある。厚労省は、若い世代の減少や晩婚化により、出生数が今後も中長期的に減少する可能性が高いとし、少子化対策は待ったなしの危機的状況であると強調する。政府は、児童手当の拡充などの対策を進めているが、これまでの施策だけでは減少を食い止められていない状況。参考1)人口動態統計速報(令和6年6月分)(厚労省)2)上半期の出生数速報値で35万人余 統計開始以来最少に(NHK)3)1~6月の出生数は35万74人、上半期で過去最少 厚労省統計(朝日新聞)4)出生数1~6月最少、5.7%減の35万人 年70万人割れの恐れ(日経新聞)4.75歳以上高齢者に2割負担導入で、医療費が3~6%減少/厚労省厚生労働省は、8月30日に社会保障審議会医療保険部会を開き、一定の所得がある75歳以上の高齢者の窓口負担割合を、2022年10月から医療費の窓口負担を1割から2割に引き上げられた影響で、1人当たりの1ヵ月の医療費が3~6%減少したことが明らかにした。この調査は、2割負担の高齢者と1割負担のままの高齢者の診療報酬データを比較して行われ、医療サービスの利用が減少したことが確認された。とくに、糖尿病や脂質異常症などの一部の疾病で外来利用が顕著に減少しており、負担増が受診控えに繋がった可能性が示唆されている。厚労省が行った厚労科学研究の結果、負担増に伴う「駆け込み需要」も一部でみられたことが報告された。調査では、2割負担への移行後に医療サービスの利用日数が約2%減少し、医療サービス全体の利用が約1%減少したことが確認された。これにより、高齢者の医療費総額が減少し、特定の疾病での外来受診が減る傾向がみられた。一方、負担増が高齢者の健康にどのような影響を与えているかについては、さらに詳しい調査が必要とされ、社会保障審議会委員からも健康影響の検証を求める声が上がっている。今後、厚労省は、この調査結果を基に、後期高齢者医療制度の窓口負担割合の見直しを検討する方針。この調査結果は、高齢者の医療費負担増が医療サービスの利用にどのような影響を及ぼしているかを理解する上で重要な資料となり、これからの政策立案に役立てられることが期待されている。参考1)後期高齢者医療の窓口負担割合の見直しの影響について(厚労省)2)受診控えで医療費3~6%減 窓口負担1割→2割に増の75歳以上 厚労省調査(産経新聞)3)75歳以上で窓口負担2割、1ヵ月の医療費3%減少 1割負担者と比べ 厚労科研で検証(CB news)5.2022年度の体外受精児、過去最多の7.7万人に/日本産科婦人科学会日本産科婦人科学会が、2024年8月30日に発表した調査結果によると、2022年に国内で実施された不妊治療の一環である体外受精によって誕生した子供は、過去最多の7万7,206人に達した。これは、前年よりも7,409人増加し、全出生数の約10人に1人が体外受精で生まれたことを意味している。2022年の総出生数は約77万人であり、体外受精による出生がこれまでで最も多くなったことが確認された。体外受精の治療件数も過去最多の54万3,630件に上り、前年から4万5,000件以上増加した。とくに42歳の女性での治療件数が突出して多く、4万6,095件に達した。これは、2022年4月から体外受精に対する公的医療保険の適用が始まり、費用面でのハードルが下がったことが大きく影響したと考えられている。保険適用の対象は43歳未満の女性であるため、この年齢までに治療を行いたいと考える人が増加したとされている。また、体外受精の治療件数は2021年の約50万件からさらに増加し、前年の45万件台の横ばい傾向から再び上昇に転じた。この増加傾向は、2021年に続く大規模なもので、新型コロナウイルス感染症の影響による一時的な減少を除けば、近年は一貫して増加していることが示されている。その一方で、適齢期の女性の人口が減少していることから、今後もこの増加傾向が続くかどうかは不透明であり、専門家からは、医療保険適用による一時的な増加が影響している可能性が高く、今後の動向については引き続き注視が必要だとしている。参考1)2022年体外受精・胚移植等の臨床実施成績(日本産科婦人科学会)2)22年の体外受精児、10人に1人で過去最多 識者「保険適用でハードル下がった」(産経新聞)3)体外受精児、最多7.7万人 22年、10人に1人の割合(日経新聞)4)2022年に国内で実施の体外受精で生まれた子ども 年間で最多に(NHK)6.独居高齢者の孤独死が2万8,000人超に、2024年上半期/警察庁警察庁は、2024年上半期(1~6月)に全国で自宅死亡した独居高齢者(65歳)が2万8,330人に達したことを初めて発表した。これは、同期間に全国の警察が取り扱った自宅で死亡した1人暮らしの人が、全国で3万7,227人(暫定値)いた中の約76.1%を占めている。この統計は、政府が進める「孤独死・孤立死」の実態把握の一環として行われ、今後の対策の議論に活用される予定。この中で孤独死は、85歳以上の高齢者が7,498人と最も多く、次いで75~79歳の5,920人、70~74歳の5,635人と、高齢者の孤独死が顕著だった。また、男女別では男性が2万5,630人、女性が1万1,578人と、男性の方が圧倒的に多い傾向がみられた。地域別では東京(4,786人)が最も多く、続いて大阪、神奈川といった都市部での高齢者の孤独死が目立っている。さらに、死亡から警察が認知するまでの期間が1日以内のケースが全体の約4割に当たる1万4,775人であった一方で、15日以上経過したケースも19.3%に達し、孤立した生活の中で発見が遅れる事例が少なくないことが浮き彫りとなった。政府は昨年8月から「孤独死・孤立死」の問題に対応するためのワーキンググループを設置し、今年4月には「孤独・孤立対策推進法」が施行された。この統計結果は、今後の政策立案や社会支援の強化に向けた貴重な資料として活用されることが期待されている。参考1)令和6年上半期(1~6月分)(暫定値)における死体取扱状況(警察取扱死体のうち、自宅において死亡した一人暮らしの者)について(警察庁)2)独居高齢者、今年上半期に2万8,000人が死亡 7,000人超が85歳以上 警察庁まとめ(産経新聞)3)高齢者の「孤独死」、今年1~6月で2万8,330人…警察庁が初めて集計(読売新聞)4)高齢者の「孤独死」、半年で2万8千人 死後1ヵ月以上経ち把握も(朝日新聞)

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ニルマトレルビル・リトナビルの曝露後予防効果が示唆された―統計学的問題について(解説:谷明博氏)

 本研究は実薬群(ニルマトレルビル・リトナビル群)の約30%以上の予防効果が示されているにもかかわらず、統計学的有意差が得られなかった研究である。臨床的に有意であるのと、統計学的に有意であるのとは別物であるということを認識しないと、この研究を正しく評価できなくなるので注意が必要だ。 この研究はイベント数が小さいために、検出力の低い試験であり、有意差が得られにくい試験であった。検出力はエントリー症例の大小ではなく、イベント数の大小で決まるものである。たとえ1万例がエントリーしていても、イベント数が数例では統計学的に有意差を得ることはできない。本研究のイベント数はいずれも20例前後ときわめて小さく、これで統計学的に有意差が得られなかったからといって、「臨床的に役に立たない」とまでは言えないのではないか。 この研究の解析では各群を別々に検定しているが、その場合、次の問題点が生じる。1)各群のイベント数が小さくなり、検出力不足となるため統計学的に有意差がつかなくなる。2)各群を別々に検定することは検定の多重性の問題が生じる。 したがって、本研究のようなイベント数が小さい場合は以下の方法で解析することが推奨されている。1)イベントを全体でまとめて解析し検定する。検定は1回のため多重性の問題は生じない。2)群間の効果の差をみるには、群ごとに別々に解析をするのではなく、サブ解析を行って群間の交互作用を調べる。 これに従って解析してみた。5日間投与例と10日間投与例は重なっていないので単純に足し合わせる。症候性感染例と無症候性感染例も重なっていないので単純に足し合わせる。 すると、結果は以下のようになる。コントロール群7%(59/840)、実薬群4.5%(75/1,674)リスク低下36.2%(7.9~64.6%、 p=0.012)と、有意に感染予防効果が示された。 次に、群間のサブグループ解析であるが、5日間投与群と10日間投与群の効果の相互作用のp値は0.78で差はなく、症候性群と無症候性群の交互作用のp値は0.29で、こちらも有意ではない。 したがって、結論は以下のようになる。「ニルマトレルビル・リトナビルの曝露後予防効果が示唆された。その効果は5日間投与と10日間投与で差はなく、また症候性か無症候性であるかによっても効果に差はみられなかった。」 ただし、今回の私の解析は後解析であるためエビデンスとはならず、「~である可能性が示唆された」という表現となる。もし、この研究の試験デザインで最初からこの解析法が採用されていれば、検証試験であったため「~であることが証明できた」と結論することができたであろうに。

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第111回 増えるマイコプラズマ肺炎、今年のマクロライド耐性率は?

増えるマイコプラズマ肺炎マイコプラズマ肺炎は、基幹定点医療機関において週ごとに報告される5類感染症です。新型コロナやインフルエンザと比べると報告義務のある医療機関はかなり少なくなります。さて、感染症発生動向調査週報2024年第31・32週(第31・32合併号)において、2016年と同じくらいの流行に陥っていることが示されました(図1)1)。定点当たりの報告数としては新型コロナほどではないのですが、マイコプラズマ気管支炎や咽頭炎などは報告数に入っておらず、肺炎が対象となっているので、水面下にはそれなりの感染者数がいると認識したほうがよいでしょう。画像を拡大する図1. マイコプラズマ肺炎の定点医療機関当たりの報告数(参考文献1より引用)マクロライド耐性率15年ほど前に、マクロライド耐性マイコプラズマが流行したことを覚えているでしょうか2)。といっても、これを読んでいるのがアラフォー・アラフィフばかりとは限らないので、その事実を知らない読者のほうが多いかもしれません。私の研修医時代はあまりそういう話はなかったのですが、5年10年経つと「マクロライド耐性」がやたら騒がれるようになって、いつの間にか8割以上がマクロライド耐性になっていました。当時、時折開かれる感染症セミナーでも、専門家の方々が「耐性化がハンパない」と連呼していましたが、結局思ったほど流行せず、しかもその後は徐々に耐性率は下がっていきました3)。この背景として、遺伝子型の違いが挙げられます。Mycoplasma pneumoniaeの細胞接着タンパク(P1)の遺伝子型は1型と2型があり、この2つは10~20年ごとに交互に流行するという傾向があります(図2)4)。1990年代は2型が優勢で、マクロライド耐性率は低かったようです。2001~16年あたりまでは1型菌が優位になっていたのですが、マクロライドの曝露を受けたことによって、この1型菌たちが耐性化したのではないかと考えられています。最近、中国で分離されたM. pneumoniaeのp1遺伝子型の頻度が報告されています5)。この報告では、1型菌が明らかに優勢で、全体の約4分の3を占めていたとされています。1型菌は当然ながらマクロライド耐性遺伝子を有していたのですが、驚いたのは2型菌もすべてマクロライド耐性遺伝子を持っていたことです(1型:54株すべてがA2063G変異、2型:3株がA2063G変異陽性・1株がA2064G変異陽性、2c型:13株すべてA2063G変異陽性)。画像を拡大する図2. M. pneumoniae分離株の遺伝子型とマクロライド耐性率の年別推移(参考文献4より引用)日本では2017年以降、2型菌が優勢となっていて、M. pneumoniaeのマクロライド耐性率が低減したとされています。上述した中国の報告を考慮すると、2型菌とて安心できるわけではないのかもしれません。また、地域によって耐性率に差があります。米国疾病予防管理センター(CDC)のウェブサイトによると、マクロライド耐性率はカナダで12%、中国で80%(上記の研究は100%でしたが)、ヨーロッパは5%(イタリアは20%)、日本は50%以上(上述したように時期によって変動があります)、アメリカは10%と記載されています6)。とはいえ、日本呼吸器学会の『成人肺炎診療ガイドライン2024』7)の中には、「マイコプラズマ肺炎は軽症例が多く、マクロライド耐性株が数十パーセント存在するがマクロライド系薬の有効性は示されている」と書かれており、“初手アジスロマイシン”はとくに否定されるものではないと考えられます。各医療機関、コロナ禍で検査技術が進展し、蛍光標識プローブ(Qプローブ)などでマクロライド耐性遺伝子があるかどうか判定できるようになりました。成人の場合、最初からテトラサイクリンやキノロンを用いる戦法だけでなく、アジスロマイシンなどのマクロライド系抗菌薬の治療失敗を早めに判断してスイッチすることも検討されます。ただし小児においては、使用する必要があると判断される場合、トスフロキサシンあるいはテトラサイクリン系薬の投与を考慮しますが、8歳未満には、テトラサイクリン系薬は原則禁忌です。参考文献・参考サイト1)感染症発生動向調査週報2024年第31・32週(第31・32合併号)2)Kawai Y, et al. Nationwide Surveillance of Macrolide-Resistant Mycoplasma pneumoniae Infection in Pediatric Patients. Antimicrob Agents Chemother. 2013 Aug;57(8):4046-4049.3)Kenri T, et al. Periodic Genotype Shifts in Clinically Prevalent Mycoplasma pneumoniae Strains in Japan. Front Cell Infect Microbiol. 2020 Aug 6;10:385.4)見理剛. 肺炎マイコプラズマの遺伝子型別法と薬剤耐性の動向. IASR. 2024 Jan;45:6-8.5)Chen Y, et al. Increased macrolide resistance rate of Mycoplasma pneumoniae correlated with epidemic in Beijing, China in 2023. Front Microbiol. 2024 Aug 6;15:1449511.6)CDC. Mycoplasma pneumoniae Infection Surveillance and Trends7)日本呼吸器学会. 成人肺炎診療ガイドライン2024. メディカルレビュー社.

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コロナ後遺症、6~11歳と12~17歳で症状は異なるか/JAMA

 米国・NYU Grossman School of MedicineのRachel S. Gross氏らは、RECOVER Pediatric Observational Cohort Study(RECOVER-Pediatrics)において、小児(6~11歳)と思春期児(12~17歳)の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染後の罹患後症状(postacute sequelae of SARS-CoV-2 infection:PASC)を特徴付ける研究指標を開発し、これらの年齢層で症状パターンは類似しているものの区別できることを示した。これまでPASC(またはlong COVID)に関する研究のほとんどは成人を対象としたもので、小児におけるPASCの病態についてはあまり知られていなかった。JAMA誌オンライン版2024年8月21日号掲載の報告。6~11歳の約900例と12~17歳の約4,500例について解析 RECOVER-Pediatricsコホート研究は、4つのコホートで構成され、前向き研究と後ろ向き研究を併合して解析した。今回は、SARS-CoV-2感染歴の有無にかかわらず医療機関および地域から新規に募集した0~25歳の参加者を含むde novo RECOVERコホートと、米国最大の思春期の脳の発達に関する長期研究であるAdolescent Brain Cognitive Development(ABCD)コホートのデータの解析結果が報告された。 対象は2022年3月~2023年12月に登録された6~17歳の、初感染日が明らかなSARS-CoV-2感染既往者(感染群)と、SARS-CoV-2ヌクレオカプシド抗体陰性が確認された非感染者(非感染群)であった。 9つの症状領域にわたる89の遷延症状に関する包括的な症状調査を行った。 主要アウトカムは、COVID-19パンデミック以降に発症または悪化した、調査完了時(感染後少なくとも90日以上)の4週以上持続する症状とした。4週以上続く症状を有していたが調査完了時に症状がなかった場合は、対象に含まなかった。 小児898例(感染群751例、非感染群147例)および思春期児4,469例(感染群3,109例、非感染群1,360例)が解析対象集団となった。背景は、小児が平均年齢8.6歳、女性49%、黒人またはアフリカ系アメリカ人11%、ヒスパニック系、ラテン系またはスペイン人34%、白人60%、思春期児がそれぞれ14.8歳、48%、13%、21%、73%であった。初感染から症状調査までの期間の中央値は、小児で506日、思春期児で556日であった。小児は神経認知症状、疼痛、消化器症状、思春期児は嗅覚/味覚障害、疼痛、疲労が多い 小児では感染者の45%(338/751例)、非感染者の33%(48/147例)、思春期児ではそれぞれ39%(1,219/3,109例)、27%(372/1,369例)が、持続する症状を少なくとも1つ有していると報告した。 性別、人種、民族で調整したモデルにおいて、小児と思春期児の両方で非感染者と比較して感染者で多くみられた症状(オッズ比の95%信頼区間下限が1を超えるもの)は14個あり、さらに小児のみでみられた症状は4個、思春期児のみでみられた症状は3個であった。これらの症状はほとんどすべての臓器系に影響を及ぼしていた。 感染歴と最も関連の高い症状の組み合わせを特定し、小児と思春期児のPASC研究指標を作成した。いずれも、全体的に健康や生活の質の低下と相関していた。小児では神経認知症状、疼痛、消化器症状、思春期児では嗅覚や味覚の変化や消失、疼痛、疲労に関連する症状が多かった。 クラスタリング解析により、小児では4個、思春期児では3個のPASC症状表現型(クラスター)が同定された。両年齢群ともに症状の負荷が大きいクラスターが1個存在し(成人と同様)、疲労と疼痛の症状が優勢なクラスターも同定された。その他のクラスターは年齢群で異なり、小児では神経心理および睡眠への影響を有するクラスター、消化器症状が優勢なクラスターが、思春期児では、主に味覚と嗅覚の消失を有するクラスターが同定された。

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新型コロナの経鼻ワクチン、動物実験で感染を阻止

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の次世代経鼻ワクチンは、従来の注射型のワクチンにはできなかった、人から人へのウイルスの伝播を阻止できる可能性のあることが、動物実験で示された。この経鼻ワクチンが投与されたハムスターは、ウイルスに感染しても他のハムスターにそれを伝播させることはなく、感染の連鎖を断ち切ったと米セントルイス・ワシントン大学医学部分子微生物学および病理学・免疫学分野のAdrianus C. M. Boon氏らが報告した。詳細は、「Science Advances」8月2日号に掲載された。研究グループは、今回の動物を用いた研究によって、鼻や口へのワクチン投与がインフルエンザやCOVID-19といった呼吸器感染症の感染拡大を抑えるカギになる可能性があることを支持するエビデンスが増えたと話している。 注射型のCOVID-19のワクチンは重症化例や死亡例を減らすことはできたが、感染拡大を防ぐことはできなかった。ワクチン接種済みの軽症患者でも、ウイルスを他の人にうつす可能性はあったからだ。Boon氏らによると、インフルエンザウイルスや新型コロナウイルス、RSウイルスなどは鼻の中で急速に増殖するため、咳やくしゃみ、さらには呼吸するだけでも、人から人へと広がっていくのだという。 注射型のワクチンは、血流中と比べると鼻の中での効果が大幅に低いため、鼻の中は急速に増殖して広がっていくウイルスに対して無防備な状態になりやすい。そのため、研究者らは長年、スプレーや滴下によって鼻や口にワクチンを投与すれば、最も必要とされる場所で免疫反応が引き起こされ、感染症の伝播を抑えることができると考えてきた。 Boon氏らは今回、ハムスターを用いて、インドで使用されているCOVID-19の経鼻ワクチン(iNCOVACC)をファイザー社の注射型のワクチンと比較する2段階のプロセスから成る実験を行った。 まず、一群のハムスターに2種類のワクチンを投与した後、十分な免疫応答が誘導されるまで数週間待った上で、新型コロナウイルスを感染させた他のハムスターとともに8時間にわたって同じ空間に置いた。その結果、経鼻ワクチンが投与された14匹中12匹(86%)、注射型ワクチンが投与された16匹中15匹(94%)の鼻と肺からウイルスが検出された。しかし、経鼻ワクチンが投与されたハムスターでは、注射型ワクチンが投与されたハムスターと比べて、気道から検出されたウイルス量が10万分の1~100分の1にとどまっていることが明らかになった。 さらに、次の段階の実験で、ウイルスに感染した、経鼻または注射型ワクチン接種済みのハムスターを他のワクチン接種済みまたは未接種の健康なハムスターと同じ空間で8時間一緒に過ごさせた。その結果、経鼻ワクチンが投与されたハムスターに接した健康なハムスターは、ワクチン接種済みか未接種かにかかわらず1匹も感染していなかった。一方、注射型ワクチンが投与されたハムスターに接した健康なハムスターは、約半数が感染していた。 こうした結果を受けてBoon氏らは、「鼻からのワクチン接種によってウイルス伝播のサイクルが断ち切られた」と結論付けた。またBoon氏は、「粘膜ワクチンは呼吸器感染症に対するワクチンの未来の姿だ」と期待を示し、「これまで、このようなワクチンの開発は困難だった。われわれが必要とする免疫応答はどのようなものなのか、それを誘導するにはどうすればよいのか、まだ不明なことがたくさんある。今後数年のうちに、呼吸器感染症用ワクチンの大幅な改良につながるような刺激的な研究が続々と出てくるだろう」と述べている。

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第207回 マイコプラズマ肺炎が全国で急増、8年ぶりの大流行/感染研

<先週の動き>1.マイコプラズマ肺炎が全国で急増、8年ぶりの大流行/感染研2.「かかりつけ医機能」報告を義務付け、医療情報システム「ナビイ」/厚労省3.美容・歯科で違反広告が急増、適正化へ行政指導強化/厚労省4.ゲノム情報による就職差別を防止へ、ゲノム収集禁止を周知/厚労省5.炎症を肺がんと誤診し不要な肺摘出術、大学病院を提訴/鹿児島大6.システム不具合のため大学病院で抗がん剤を過剰投与/阪大1.マイコプラズマ肺炎が全国で急増、8年ぶりの大流行/感染研今夏、マイコプラズマ肺炎が全国的に急増しており、過去8年間で最も大きな流行が確認されている。この感染症は、発熱や長引く咳といった風邪に似た症状が特徴で、とくに子供に多くみられるが、大人の感染例も報告されている。マイコプラズマ肺炎は、潜伏期間が2~3週間と長く、症状が現れても風邪と誤認されがちであるため「歩く肺炎」とも呼ばれている。国立感染症研究所によると、8月11日までの1週間で全国の医療機関での報告数は1医療機関当たり1.14人に達し、昨年同期比で57倍の増加をみせている。専門家は、この感染急拡大の背景として、新型コロナウイルス感染症対策の緩和とともに、人々の行動が活発化し、他人との接触機会が増加したことが一因であると指摘する。また、徹底したコロナ対策により地域全体の免疫が低下し、マイコプラズマ肺炎が流行しやすくなったとも考えられている。診療現場では、抗菌薬による治療が行われているが、最近では耐性菌の増加が問題となっており、従来の抗菌薬が効かないケースも増えている。さらに、抗菌薬の供給不足が続いており、薬局間での融通が必要な状況も報告されている。帝京大学大学院教授で小児科医の高橋 謙造氏は、抗菌薬の不適切な使用を避け、本当に必要な患者に処方が行き渡るよう、医療関係者に対して注意を呼びかけている。今後、学校や職場などの集団生活の場での感染拡大が懸念されるため、基本的な感染対策であるマスク着用や手洗いの徹底が重要とされる。とくに、熱や咳の症状が続く場合は、早めに医療機関を受診し、適切な処置を受けることが推奨される。参考1)IDWR速報データ 2024年(国立感染症研究所)2)マイコプラズマ肺炎 8年ぶり大流行 感染気付かず広がるリスク(NHK)3)マイコプラズマ肺炎が過去10年で最多ペース、昨年同期の57倍 コロナ明けで感染拡大か(産経新聞)4)マイコプラズマ肺炎が猛威 長引くせき、高齢者もリスク(日経新聞)2.「かかりつけ医機能」報告を義務付け、医療情報システム「ナビイ」/厚労省8月22日に厚生労働省は、医療機能情報提供制度・医療広告等に関する分科会を開催し、「医療機能情報提供制度」をもとに、2024年4月にスタートした全国統一の医療情報ネット「ナビイ」のリニューアルするため、新たな報告項目の追加や既存項目の修正を承認した。今回の修正案を基に障害者向けサービス情報やかかりつけ医機能の情報をさらに充実させる予定。患者が受診先を適切に選択できるように支援する医療情報ネット「ナビイ」の現行のシステムについて、障害者向けサービスの情報提供が不十分であるとして、医療機関の駐車場の台数、電話・メールによる診療予約の可否、家族や介助者の入院中の対応状況など、障害者が医療機関を選ぶ際に重要となる情報が報告を求めるほか、既存の項目について、たとえば「車椅子利用者へのサービス内容」が「車椅子・杖等利用者に対するサービス内容」に、「多機能トイレの設置」が「バリアフリートイレの設置」に見直される。また、障害者団体との意見交換を通じて、医療機関がより使いやすい形で情報を提供できるように報告システムの改修が行われる予定。さらに、「かかりつけ医機能」についても報告が義務付けられ、一般国民や患者が必要な医療機関を適切に選択できるよう支援が強化される。この報告制度の見直しは、2025年4月に施行され、2026年1月から報告が始まる予定で、同年4月からは「ナビイ」での公表が行われる。ただ、医療機能情報提供制度への報告率には、地域ごとに大きなばらつきがあり、全国平均では73.5%に止まっている。秋田県や徳島県などでは報告率が100%に達しているが、沖縄県や京都府では30%未満と著しく低い。このため、厚労省では各都道府県に報告の徹底を促すとともに、医療機関自身の適切な報告を求めている。今後、「ナビイ」は障害者やその家族、そしてすべての国民が必要な医療情報を簡単に取得できるプラットフォームとして進化を遂げる見通し。参考1)医療機能情報提供制度の報告項目の見直しについて(厚労省)2)医療機能情報提供制度について(同)3)「ナビイ」サイト(同)4)全国の医療機関等情報を掲載する「ナビイ」、かかりつけ医機能情報や障害患者サービス情報なども搭載-医療機能情報提供制度等分科会(Gem Med)5)医療機能情報提供、障害者関連の項目追加・修正へ「駐車場の台数」など26年1月報告から(CB news)3.美容・歯科で違反広告が急増、適正化へ行政指導強化/厚労省8月22日に厚生労働省は、医療機能情報提供制度・医療広告等に関する分科会を開催し、2023年度に1,098の医療広告サイトが医療広告規制に違反していることを確認し、これらのサイトに対して運営する医療機関に自主的な見直しを促す通知を行ったことを明らかにした。違反件数は6,328件に達し、1サイト当たり平均で約5.8件の違反が確認された。とくに、歯科と美容分野が違反の中心であり、全体の76.6%を占めるという結果だった。違反の内訳を詳細にみると、歯科関連では「審美」が最も多く、次いで「インプラント」が続き、美容関連では「美容注射」が最も多かった。違反の内容としては、広告が可能とされていない事項の広告が大半を占め、とくに美容分野では、リスクや副作用の記載が不十分な自由診療の広告が目立っていた。厚労省は、こうした長期にわたって改善がみられない違反に対する対応を強化するため、行政処分の標準的な期限を定めた手順書のひな型を関連の分科会に提示し、了承を得た。この手順書によると、違反の覚知から2~3ヵ月以内に行政指導を行い、改善がみられない場合は6ヵ月以内に広告の中止や是正命令を行う。さらに、1年以内に管理者変更や開設許可取り消しなどの行政処分を完了させることが望ましいとされている。このひな型は、医療広告の違反が長期にわたり改善されない事例を抑制し、早期の適正化を図ることを目的としている。また、各自治体がこのひな型を参考にしながら、標準的な対応を進めることが期待される。しかし、自治体からは他県との対応差に対する懸念も出されており、対応には慎重な姿勢も求められている。厚労省は、これらの取り組みを通じて、違反広告の早期是正と適正な医療情報の提供を目指すとともに、医療機関に対して適切な広告活動を行うよう指導を続けていく方針。参考1)医療広告違反、行政処分は覚知から1年以内に 自治体に目安提示へ 厚労省(CB news)2)医療広告違反、1,098サイトで計6,328件 23年度に、厚労省が報告(同)4.ゲノム情報による就職差別を防止へ、ゲノム収集禁止を周知/厚労厚生労働省は、個人のゲノム情報を基にした就職差別を防止するため、「労働分野でのゲノム情報の取り扱いに関するQ&A」を公表した。このQ&Aは、企業や労働者がゲノム情報をどのように扱うべきかを明確にし、不当な差別が生じないようにすることを目的としている。具体的には、職業安定法や労働安全衛生法に基づき、ゲノム情報は「社会的差別の原因となるおそれのある事項」に該当し、その収集は禁じられているとされている。これは、業務遂行に必要であっても例外ではなく、ゲノム情報の収集が禁止されていることを明確にしている。また、労働者が採用後にゲノム情報の提出を求められても、個人情報保護法に基づき応じる必要はなく、そのために不当な評価や処遇を受けることは「不適切」と指摘されている。さらに、労働者がゲノム情報を提出し、それによって解雇や不利益な人事評価を受けた場合、それは職権濫用に該当し、無効とされる。こうした対応は、2023年に施行されたゲノム医療推進法に基づき、ゲノム情報の活用拡大とともに不当な差別が懸念されることから行われたものである。厚労省は、ゲノム情報が労働者に不利益をもたらすことがないよう、既存の法令に基づいて、その収集を禁止していることを強調しており、労働者が不当な扱いを受けた場合には、労働基準監督署などで相談を受け付けている。参考1)「良質かつ適切なゲノム医療を国民が安心して受けられるようにするための施策の総合的かつ計画的な推進に関する法律」(ゲノム医療推進法)2)ゲノム情報による不当な差別等への対応の確保(労働分野における対応)(厚労省)3)ゲノム情報による就職差別防止へ、Q&Aを公表 収集の禁止を周知 厚労省(CB news)4)遺伝情報に基づく雇用差別禁止、厚労省が法令Q&A解説(日経新聞)5)遺伝情報に基づく雇用差別禁止 厚労省が労働法令をQ&Aで解説、労働者は提出の必要なし(産経新聞)5.炎症を肺がんと誤診し不要な肺摘出術、大学病院を提訴/鹿児島大鹿児島市の72歳の女性が、鹿児島大学病院を相手取り、約1,000万円の損害賠償を求めて鹿児島地方裁判所に提訴した。女性は2017年2月に同病院で定期検診を受けた際、肺がんと誤診され、「早期に手術しなければ危険」と外科手術を促され、右肺の上部を全摘出する手術を受けた。しかし、約4ヵ月後、実際には肺がんではなく、単なる炎症であり、手術は不要であったことが病院から告げられた。女性は手術後、息苦しさや体調不良に悩まされており、日常生活に支障を来していると訴えている。また、病院が手術前後に十分な説明を行わず、診断上の注意義務に違反したと主張している。同院は、訴状の内容を詳細に検討し、適正に対応するとしている。女性は「二度と同じような被害を生むことがないようにしたい」と述べ、病院の対応に改善を求めている。参考1)肺がんと診断され右肺上部を全摘…実は「単なる炎症。手術も不要だった」 誤診を訴え鹿児島大学病院を提訴 鹿児島市の女性(南日本新聞)2)「炎症を肺がんと誤診、右肺の大部分摘出」患者女性が鹿児島大を提訴…1,000万円賠償求める(読売新聞)6.システム不具合のため大学病院で抗がん剤を過剰投与/阪大大阪大学医学部附属病院は8月21日、がん治療中の60代男性患者2人に対し、「抗がん剤を過剰投与するミスが発生した」と発表した。原因は、投与量を計算するシステムの不具合によるもので、今年の1~2月にかけて通常の1.2~2倍の抗がん剤が誤って投与されたもの。このうち、男性の1人には通常の約2倍の抗がん剤が3日間連続で投与され、その後、高度な神経障害を発症した。この患者は6月に元々の血液がんの進行により死亡したが、過量投与による神経障害が死亡に影響を与えた可能性が指摘されている。一方、もう1人の患者には1.2倍の量が投与されたが、明らかな影響は確認されていない。この過剰投与の原因は、薬の投与量を計算するシステムにおいてmgからmLへの単位変換時に、小数点以下の四捨五入が正しく行われなかったことに起因する。このシステムは、大阪のメーカー・ユヤマが開発したもので、同社は同様のシステムを使用している他の35の病院についても確認を行ったが、同様の問題は確認されていない。同院では、今回の医療ミスについて、患者や家族に謝罪するとともに、再発防止に努めると表明。また、システムの開発企業も再発防止策として、新たなチェックプログラムの開発や品質管理体制の強化に取り組んでいる。なお、病院側は、このケースが医療事故調査制度の対象には該当しないとして、医療事故には認定されないと説明しているが、今回の事態は病院に対する信頼を揺るがす重大な問題として受け止められている。参考1)薬剤部門システムのプログラム不具合による注射抗がん薬の過量投与の発生について(大阪大学)2)阪大病院 抗がん剤を入院患者2人に過剰投与 システムに不具合(NHK)3)大阪大病院でがん患者2人に抗がん剤を過量投与、プログラムの不具合(朝日新聞)

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モデルナのJN.1対応コロナワクチン、一変承認を取得

 モデルナは2024年8月23日付のプレスリリースにて、オミクロン株JN.1に対応する新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン「スパイクバックス筋注(1価:オミクロン株JN.1)」の承認事項の一部変更承認を厚生労働省より取得したことを発表した。 厚生労働省は2024年5月に、2024/2025秋冬シーズンの定期接種に使用する新型コロナワクチンの製造株として、JN.1系統および下位系統に中和抗体を誘導する抗原を採用することを決定していた。このガイダンスは、世界保健機関(WHO)のTAG-CO-VACの勧告と一致している1)。 この秋冬に自治体により行われる新型コロナワクチンの定期接種の対象は65歳以上または、60~64歳で心臓、腎臓または呼吸器の機能に障害があり、身の回りの生活が極度に制限される人、およびヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫の機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能であるなど一定の健康状態にある人が対象だ。ただし、対象外でも任意で接種を受けることができる。 また同社は7月に、田辺三菱製薬と、日本におけるモデルナのmRNA呼吸器ワクチンポートフォリオのコ・プロモーション契約を締結したことを発表した。同社のリリースによると、当初契約期間は2029年3月31日までであり、本契約の締結に基づき、モデルナのmRNA呼吸器ワクチンの製造、販売、メディカル活動および流通をモデルナ・ジャパンが行い、日本における公衆衛生のためのプロモーション活動を両社が実施する。このポートフォリオには、モデルナのCOVID-19ワクチンであるスパイクバックスも含まれるという。

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長期のコロナ罹患後症状、入院後6ヵ月時点がカギに

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、急性期以降の認知および精神医学的転帰のリスク増加と関連することが知られている。英国で行われた大規模研究ではCOVID-19による入院後2~3年間における認知・精神症状の進行を追跡し、その症状と就労への影響について調査した。The Lancet Psychiatry誌2024年9月号掲載の報告。 本研究は英国の臨床医コンソーシアムであるThe Post-hospitalisation COVID-19 study(PHOSP-COVID)の登録データを使い、英国全土の参加病院でCOVID-19の臨床診断を受けて入院した成人(18歳以上)を対象とした前向き縦断コホート研究だった。参加者は入院から2~3年の間に、客観的な認知機能、うつ病、不安障害、慢性疾患治療疲労機能を評価する課題と、主観的な認知機能を評価する質問票に回答した。また、参加者は就労状況の変化やその理由についても報告した。6ヵ月後、12ヵ月後、2〜3年後の追跡調査において症状の絶対リスクの変化を評価し、2〜3年後の症状が初期症状によって予測できるかを検討した。 主な結果は以下のとおり。・83病院の入院患者2,469例が対象となり、うち475例(男性284例[59.8%]、平均年齢58.3[SD 11.13]歳)が2~3年後の追跡調査時にデータを提供した。・参加者は、テストされたすべての認知領域において、社会人口統計学的に予想されるよりもスコアが悪かった。・多くの参加者が、軽度以上のうつ病(263/353例[74.5%])、不安(189/353例[53.5%])、疲労(220/353例[62.3%])、主観的な認知機能低下(184/353例[52.1%])を報告した。・5分の1以上が重度のうつ病(79/353例[22.4%])、重度の疲労(87/353例[24.6%])、重度の認知機能低下(88/353例[24.9%])を報告した。・抑うつ、不安、疲労は、6ヵ月後や12ヵ月後よりも2〜3年後のほうが悪化しており、既存の症状の悪化と新たな症状の出現の両方が認められた。新たな症状の出現は、6ヵ月後と12ヵ月後にほかの症状がみられた人に多くみられ、それ以前の時点で完全に良好であった人にはみられなかった。・2~3年後の症状は、COVID-19の急性期の重症度とは関連しなかったが、6ヵ月後の回復度、急性期のC反応性蛋白に関連するD-ダイマー値上昇、および6ヵ月後の不安、抑うつ、疲労、主観的な認知機能低下と強い関連がみられた。・2〜3年後の客観的な認知機能低下と関連する因子は、6ヵ月後の客観的な認知機能低下のみだった。・95/353例(26.9%)が「職業が変わった」と報告し、その理由として最も多いものは「健康不良」であった。職業の変化は、客観的な認知機能低下(オッズ比[OR]:1.51 )および主観的な認知機能低下(OR:1.54)と強く特異的に関連していた。 著者らは「精神症状および認知症状は、入院後2〜3年の間に、6ヵ月時点ですでに存在していた症状の悪化と、新たな症状の出現の両方により増加するようだ。新たな症状は6ヵ月時点ですでにほかの症状がみられる人に多くみられた。したがって、症状を早期に発見し管理することは、後に複合症候群が発症するのを防ぐ有効な戦略である。COVID-19は、客観的および主観的な認知機能低下を伴う。COVID-19の機能的・経済的影響を抑制するためには、認知機能の回復を促進する、あるいは認知機能の低下を予防するための介入が必要である」としている。

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流行株によるコロナ罹患後症状の発生率とコロナワクチンの効果(解説:寺田教彦氏)

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、起源株やアルファ株、デルタ株といったプレオミクロン株流行時期は、重症化率・死亡率の高さから、国内でも緊急事態宣言が出されるほど公衆衛生に多大な影響を与えていた。その後コロナワクチンや中和抗体治療薬により、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化率や死亡率は低下したが、2021年ごろから後遺症の問題が注目されるようになった。 新型コロナウイルス感染症罹患後症状(以下、本文ではPASC:post-acute sequelae of SARS-CoV-2 infectionとする)は、診断基準を提案する論文はあるが(Thaweethai T, et al. JAMA. 2023;329:1934-1946.)、世界的に統一された明確な定義や診断基準はなく、病態や治療法も判明しきってはいない。 PASCはオミクロン株では、過去のアルファ株やベータ株、デルタ株などより発症率が低下していること(Couzin-Frankel J. Science. 2023;379:1174-1175.)や、ワクチン接種者でPASC発症のリスクが軽減する可能性は指摘されていた(Mizrahi B, et al. BMJ. 2023;380:e072529. , Iversen A, et al. Front Public Health. 2024;12:1320059.)が、ウイルス変異の影響(罹患した株による違い)とワクチン接種の効果が、どの程度PASC発症のリスクに影響しているかははっきりしていなかった。 本研究では、新型コロナウイルス感染者のうち、感染時期がプレデルタ株、デルタ株、オミクロン株優勢期だったワクチン未接種者と、感染時期がデルタ株、オミクロン株優勢期だったワクチン接種者のSARS-CoV-2感染後1年間のPASC累積発生率を推定し、優勢株の時期に関連した影響(ウイルスの特性やそのほかの時間的影響)とワクチンによる効果を報告している。 結果は、「コロナ罹患後症状の累積発生率、変異株で異なるか/NEJM」に報告されたとおりで、ウイルスの特性(変異)による影響も罹患後症状リスク低下に関与していたが、罹患後症状が減少した主因(71.89%)はコロナワクチン接種による影響と考えられた。 本研究の特徴として、退役軍人省の大規模な健康記録を活用したため膨大なデータではあるものの、研究対象集団が主に高齢白人男性で構成されていることがある。PASCが問題となる患者層は、女性、高齢者、BMI高値、喫煙歴や基礎疾患がある患者など(Tsampasian V, et al. JAMA Intern Med. 2023;183:566-580.)であり、リスクファクター層と一部合致していない。しかし、本研究結果は過去の研究と同様の傾向を読み取ることができ、おそらくリスク集団を含めたほかの集団でも、同様の傾向となることは予測されるだろう。 ところで、本研究結果からはコロナワクチン接種がPASC発症のリスク軽減に役立つことはわかったが、ワクチンの種類や接種回数、接種時期については調査していないため、コロナワクチン接種後、どの程度の期間PASCのリスク軽減に役立つかはわからなかった。 COVID-19は、今夏も昨年と同様に増加傾向となっており、当院でも入院を要する中等症・重症患者が増加してきている。 今年も昨年同様に8月中旬ごろにピークを迎え、秋に患者数が減少し、冬季に再度ピークとなる可能性が考えられる。本研究から、新型コロナワクチンはPASC発症のリスク軽減に大きな役割を果たしたことが判明したが、新型コロナワクチンはリスクのある患者に接種することで、重症化率や死亡率の軽減にも役立つことも期待されている。今年度より、新型コロナワクチンは65歳以上や、60~64歳でリスクのある対象者で定期接種となっている(厚生労働省「新型コロナワクチンについて」)。 気道ウイルス感染症は冬季に流行しやすい性質があり、定期接種の対象者に対する秋から冬にかけてのコロナワクチン接種は、COVID-19による入院や死亡を減らすためにメリットが大きいと私は考えている。本研究結果からは、PASCリスク軽減にワクチン接種が大きく貢献したことも確認でき、ワクチン接種を推奨するさらなる1つの理由になるだろう。

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第228回 ウイルス感染の運命の鍵を握る脂肪酸生成酵素を同定

ウイルス感染の運命の鍵を握る脂肪酸生成酵素を同定2013年に中国で初めて確認された鳥インフルエンザのヒト感染で、およそ35%が命を落としています。その感染で死ぬ人とそうでない人の運命の差はどのようにして生じるのか?オーストラリアのPeter Doherty Institute for Infection and Immunityと世界各地の16の研究所のチームの取り組みで、OLAHという名の意外な酵素遺伝子がその運命の分かれ道の鍵を握ると示唆されました1-3)。OLAHはオレイン酸などの脂肪酸生成に携わるオレオイル-アシル-キャリアタンパク質加水分解酵素の遺伝子です。何らかの病気の免疫や経過に寄与するOLAHの役割を調べた研究はかつてありませんでした。そんな意外な遺伝子にたどり着いた今回の研究の手始めに、チームは鳥インフルエンザA(H7N9)感染で死んだ4例の血液を解析しました。先立つ成果から予想されたとおり、サイトカイン過剰がもたらす炎症の高まりが認められました。遺伝子発現を調べたところOLAHを含む10種の発現が上がるか下がっていました。OLAHの発現は感染の初期から死に至るまでずっと高く、感染するも死なずに済んだ4例に比べて約82倍も上回っていました。OLAHの発現上昇は鳥インフルエンザA(H7N9)感染に限らず他のウイルス感染でも生じるようです。入院して人工呼吸に至った季節性インフルエンザ患者3例のOLAH mRNAは健康な人をだいぶ上回りました。米国のいくつかの小児病院の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者群の最重症例でもOLAHの発現が高まっていました。テネシー州の同じく小児病院の23例の血液を解析したところ、より重症の呼吸器合胞体ウイルス(RSV)感染とOLAHが多いことが関連しました。続くマウスの検討でOLAHが感染の重症化を促すことが示されました。検討の結果、OLAH遺伝子を省いたマウスは致死量のインフルエンザウイルスを被っても生き残れましたが、対照群の野生型マウスはそうはいかず約半数が死にました。OLAH欠損マウスのインフルエンザ感染の病状が軽いことは、免疫細胞の1つであるマクロファージでの脂肪滴形成の抑制のおかげのようです。今回の研究によるとマクロファージでのOLAH発現はウイルス感染に伴う脂肪滴形成を促し、果てはサイトカイン生成を増やします。一方、脂肪滴形成を阻害するとマクロファージでのウイルス感染が減りました。さらに突き詰めると、OLAHの酵素反応の主産物であるオレイン酸がマクロファージでのウイルス複製を促します。マウスにオレイン酸を与えたところマクロファージでのインフルエンザウイルス複製が増え、炎症反応が促進しました。また、COVID-19患者73例を調べたところ、入院した35例のオレイン酸は外来治療で済んだ患者38例に比べて過剰でした。いまや研究者はオレイン酸過剰の呼吸器感染症患者の治療に使いうるOLAH阻害化合物作りに取り組んでいます4)。また、OLAHの量を測定し、最終的には重症度を予測しうる診断検査も開発したいと考えています。参考1)Jia X, et al. Cell. 2024 Aug 6. [Epub ahead of print] 2)Scientists discover gene linked to the severity of respiratory viral infections / Peter Doherty Institute for Infection and Immunity3)Study reveals oleoyl-ACP-hydrolase underpins lethal respiratory viral disease / St. Jude Children’s Research Hospital4)An unexpected gene may help determine whether you survive flu or COVID-19 / Science

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第206回 日本でも広がるエムポックス感染、WHOが再び緊急事態を宣言/WHO

<先週の動き>1.日本でも広がるエムポックス感染、WHOが再び緊急事態を宣言/WHO2.市町村国保2年連続で赤字拡大、医療費適正化など検討/厚労省3.医師の偏在に危機感、厚労省に地域枠拡大と定員増を求める/全国知事会4.臓器あっせん機関の複数化で移植体制強化へ/厚労省5.岩本前理事長を全役職から解任、諮問委員会を設置/東京女子医大6.障害福祉サービスの不正受給が続発、監査体制に課題1.日本でも広がるエムポックス感染、WHOが再び緊急事態を宣言/WHO世界保健機関(WHO)は2024年8月14日、アフリカ中央部で拡大するエムポックス(サル痘)に対し、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を再び宣言した。2022年7月に続き、2度目の宣言となる。コンゴ民主共和国を中心に感染が急拡大しており、WHOは国際的な協力の重要性を強調。日本国内ではこれまでに248例の感染が確認され、今後も慎重な対応が求められている。エムポックスは、天然痘ウイルスに似たウイルスによる感染症で、症状には発熱、頭痛、リンパ節の腫れ、水疱を伴う発疹が含まれる。発症から自然回復まで2~4週間程度かかるが、死亡例も報告されている。感染経路は、動物との接触や感染者との濃厚接触を通じたものであり、とくにMSM(男性と性的接触を行う男性)がリスクグループとされるが、女性や子供にも感染が広がっている。今回の流行は、コンゴ民主共和国で新たに確認された「クレード1b」系統が主な原因とされ、とくに女性や子供の間で感染が拡大していることが特徴。WHOは、ワクチンの供給と接種の強化を求めており、日本政府もコンゴへのワクチン供与の準備を進めている。わが国では、感染が確認された248例のうち、エイズウイルス(HIV)感染者を含む一部の患者が死亡している。国内での感染者数は増加傾向にあり、関係省庁は引き続き検査体制の強化と感染者の早期発見に注力している。エムポックスの新たな流行が広がる可能性は低いとされているが、予防策としてのワクチン接種が進められる見通しだ。参考1)「緊急事態宣言」2度目のエムポックス(サル痘) 日本でも散発的に発生、248例を確認(産経新聞)2)エムポックス対応「万全期す」 緊急事態で厚労相 ワクチン供与も(朝日新聞)3)WHO、エムポックスの感染拡大で「緊急事態」宣言 22年7月以来(同)2.市町村国保2年連続で赤字拡大、医療費適正化など検討/厚労省8月8日に厚生労働省は、市町村が運営する国民健康保険(国保)の2022年度決算を発表し、実質収支が1,067億円の赤字となったことを明らかにした。これは2年連続の赤字であり、前年度から赤字幅が約1,000億円拡大した。主な要因は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大による受診控えが影響し、交付金が減額されたこと、高齢化に伴う医療費の増加、そして国保加入者の減少に伴う保険料収入の減少である。2022年度の国保加入者数は前年度から124万人減少し、過去最少の2,413万人となった。この減少は、団塊の世代が75歳以上となり後期高齢者医療制度に移行したことが一因とされる。加入者減少により、保険料収入も9年連続で減少し、前年度比502億円減の2兆4,513億円となった。一方、国からの支出金は823億円減の3兆3,650億円、他の医療保険からの交付金も2,521億円減の3兆5,397億円となった。これに対し、医療費の自己負担を除く「保険給付費」は、加入者減少により1,338億円減少したものの、8兆6,244億円に達している。国保の財政状況は、加入者の4割以上が65~74歳の高齢者であり、1人当たりの医療費が高い一方で、加入者の平均所得が低いため、厳しさが増している。これに加え、COVID-19の影響による受診控えが、2020年度の交付金に影響を与え、その後の赤字をさらに拡大させた。厚労省は、医療費の適正化を進めるとともに、財政支援のあり方も検討する考えを示している。国保の持続可能な運営を図るためには、これまで以上に効果的な対策が求められる状況にある。参考1)令和4年度国民健康保険(市町村国保)の財政状況について(厚労省)2)市町村国保、2年連続の赤字 コロナ受診控えの影響 厚労省(時事通信)3)国民健康保険の2022年度収支、1,067億円の赤字 赤字幅拡大(朝日新聞)4)「国民健康保険」令和4年度決算 実質的な収支1,067億円の赤字(NHK)3.医師の偏在に危機感、厚労省に地域枠拡大と定員増を求める/全国知事会地域の医師不足の深刻化に対し、地方12県の知事団体と全国知事会が相次いで医師不足解消に向けた提言をまとめ、厚生労働省や文部科学省に提出した。8月9日、岩手県など12県の知事団体は、医師の偏在がとくに顕著な地域における医学部定員の増加と「地域枠」の拡大を求め、医師不足が深刻な地域での地域医療崩壊を防ぐための対策を訴えた。また、これに先立つ8月1日には、全国知事会が2040年を見据えた医療・介護提供体制の構築に向けた提言を発表し、医師不足が顕著な地域や診療科に対応するための医学部新設や別枠制度の創設を求めた。全国知事会の提言では、医師需給の再検証を行い、地域ごとに必要な医師数を算定した上で定員を設定することを要請。また、医学部臨時定員増の延長や恒久定員の増員も求め、地域医療の維持に向けた具体的な方策を示した。これには、医師偏在指標に基づく定員設定や都市部と地方の医師派遣の連携強化、さらには専攻医の募集定員におけるシーリングの厳格な適用も含まれている。岩手県の達増 拓也知事は提言の提出後、記者団に対し「医師不足対策が今年の骨太の方針に盛り込まれたことは大きなチャンスであり、対策が前進することを期待している」と語った。これに対し、厚労省は、年末までに医師の偏在解消に向けた総合的な対策パッケージを策定する予定であり、これらの提言が今後の議論に影響を与えることが期待される。これらの提言は、医師不足が深刻な地域での医療崩壊を防ぎ、全国的な医師の適正配置を目指すものであり、地方の医療を支えるために国が一層の対策を講じる必要性が強く求められている。参考1)2040年を見据えた医療・介護提供体制の構築に向けた提言(全国知事会)2)「医師の偏在」解決へ 12県の知事団体が厚労省などに提言提出(NHK)3)医学部定員増の延長提言、医師不足の岩手など 厚労省に(日経新聞)4)全国知事会が2040年を見据え医師不足顕著な地域での医学部新設を提言(日経メディカル)4.臓器あっせん機関の複数化で移植体制強化へ/厚労省厚生労働省は、臓器移植の円滑な実施と体制の見直しを進めるため、日本臓器移植ネットワーク(JOT)の業務を分散する方針を検討している。JOTは現在、国内唯一の臓器あっせん機関として、臓器提供者の家族対応や移植希望者の選定など、多岐にわたる業務を担っているが、コーディネーターの派遣が不足し、対応の遅れが指摘されている。2024年8月14日に開かれた厚労省の臓器移植委員会では、JOTに業務が集中している現状を改善するため、臓器提供に関する家族への対応を各都道府県に配置された地域のコーディネーターが担うことを提案。さらに、複数のあっせん機関を設置し、JOTの負担軽減を図る案も示された。委員会では、これらの案を基に、今後の体制見直しを進める予定で、早ければ2024年10月にも結論が出る見通し。また、脳死状態にある患者の情報共有を強化し、臓器提供の可能性を高めるため、医療機関とあっせん機関の連携を強化することも検討されている。現在、脳死と診断され得る患者数は国内に約4,400人いるが、実際に家族に臓器提供の選択肢が示されるのは約25%に過ぎず、提供者数は限られている。JOTに対しては、知的障害者に対する臓器提供の扱いについて差別的な運用が行われていたことが判明し、組織としてのガバナンスも問われている。これを受け、厚労省は過去の事例についても調査を進め、改善策を検討することを求めている。今回の見直しによって、臓器移植の体制が強化され、より多くの患者が適切な移植を受けられることが期待される。参考1)「日本臓器移植ネットワーク」業務分散を検討へ 厚労省専門委(NHK)2)臓器あっせん機関の複数化、厚労省検討 移植推進へ体制を大幅見直し(朝日新聞)5.岩本前理事長を全役職から解任、諮問委員会を設置/東京女子医大8月16日に東京女子医科大学(東京都新宿区)は、臨時評議員会を開催し、岩本 絹子前理事長を理事および評議員から解任した。これにより、岩本氏は大学のすべての役職から退くこととなった。岩本氏は、同大学の同窓会組織「至誠会」を巡る特別背任容疑で警視庁の捜査対象となっており、勤務実態のない女性職員に約2,000万円の給与を支払った疑いが持たれている。また、第三者委員会の調査により、岩本氏が自身の側近に過大な報酬を与え、不正な資金の流れを作り出していたことが指摘されている。今回の解任に伴い、大学は再発防止策を講じるため「新生東京女子医科大学のための諮問委員会」を設置した。この委員会は、企業再生、ガバナンス、内部統制、コンプライアンスなどの分野に精通した5名の専門家で構成され、大学経営の正常化に向けた助言を行う予定。委員には、元厚生労働省局長の岩田 喜美枝氏、青山学院大学名誉教授の八田 進二氏などが名を連ねている。同大学は、理事長の解任により、過去の不正に対する責任を明確にするとともに、諮問委員会の助言を基に経営体制の立て直しを図る考え。さらに、新理事長に就任した肥塚 直美氏を中心に、関係者全員が責任を果たし、新たなスタートを切る方針を固めている。参考1)諮問委員会設置のお知らせ(東京女子医大)2)東京女子医大の岩本前理事長、理事・評議員も解任 評議員会が議決(朝日新聞)3)東京女子医大、岩本絹子・前理事長を全役職から解任…「一強体制」で数々の疑惑(読売新聞)4)東京女子医大の前理事長、大学から完全に離れる 臨時評議員会で理事職からも解任(東京新聞)6.障害福祉サービスの不正受給が続発、監査体制に課題障害福祉サービスを巡る不正受給が深刻な問題となっている。2023年度までの5年間で、不正受給の総額は58億6千万円を超え、全国で427件の行政処分が行われた。とくに、放課後などデイサービスや就労支援、訪問系サービスにおいて、利用者数や日数の水増し、職員配置の偽装といった不正が多くみられた。名古屋市では、グループホーム運営会社「恵(めぐみ)」が3つの事業所で2億円を超える不正請求を行っていたことが発覚し、事業所指定の取り消しなどの行政処分が下された。この事例を含め、多くの自治体が不正行為の摘発と対応に追われている。障害福祉サービスは、障害者が地域で自立した生活を送るために重要な役割を果たしている。しかし、事業所数の急増に伴い、自治体による監査が追いつかず、不正行為が横行している現状がある。厚生労働省は、事業所の適切な運営を確保するために3年に1度の現地調査を指導しているが、自治体の人員不足や新型コロナウイルス感染症の影響で、実施率は低いままに止まっている。こうした背景から、自治体や厚労省は、不正受給の防止に向けた体制の強化が急務としている。福祉サービスの質の確保と適正な運営を目指し、今後、事業者に対するチェック体制や参入要件の厳格化が求められる。参考1)障害福祉サービスの不正受給58億円超 19~23年度全国調査、行政処分は427件(中日新聞)2)「親から金とってないんだからいいじゃん」障害福祉不正、悪質な事業者は後を絶たず(中日新聞)3)障害児事業2億円不正請求 「恵」運営の名古屋3施設(東京新聞)

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国内での小児の新型コロナ感染後の死亡、経過や主な死因は?

 2024年8月9日時点での新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の国内での流行状況によると、とくに10歳未満の小児患者が多い傾向にある1)。日本でCOVID-19発症後に死亡した0~19歳の小児・青年患者の特徴を明らかにするために、国立感染症研究所のShingo Mitsushima氏らの多施設共同研究チームは、医療記録および死亡診断書から詳細な情報を収集し、聞き取り調査を行った。その結果、53例の情報が得られ、ワクチン接種対象者の88%が未接種であったことや、発症から死亡までの期間は77%が7日未満であったことなどが判明した。CDCのEmerging Infectious Diseases誌2024年8月号に掲載。 日本では、2022年にオミクロン株が初めて検出された後、小児COVID-19患者数が急増した。2021年12月までに0~19歳のSARS-CoV-2陽性患者数は24万例(0~9歳:8万4千例、10~19歳:15万6千例)だったが、2022年1~9月(オミクロン株流行期)には480万例(0~9歳:240万例、10~19歳:240万例)に増加し、死亡者数も増加した。 本研究では、厚生労働省、地方自治体、保健所、HER-SYS、学会、メディアから小児・青年死亡症例の情報を収集した。症例は、発症または死亡日が2022年1月1日~9月30日である0~19歳におけるSARS-CoV-2感染後に発生した死亡症例と定義した。死因について、中枢神経系異常、心臓異常、呼吸器異常、その他、不明に分類した。患者の発症から死亡までの日数の中央値と四分位範囲(IQR)を算出し、選択された変数の適合度を検定するために、x2検定またはFisherの正確確率検定を用いた。発症から初回診察、心肺停止、または死亡までの間隔を異なる死因間で比較するためにlog-rank検定を用いた。 主な結果は以下のとおり。・COVID-19発症後に死亡した0~19歳の小児・青年患者62例が確認され、うち53例について詳細な調査を実施できた。46例(87%)は内的死因、7例(13%)は外的死因(新型コロナ感染後の溺水や窒息などの予期せぬ事故)であった。・内的死因患者46例のうち、1歳未満が7例、1~4歳が15例、5~11歳が18例、12~19歳が6例であった。19例に基礎疾患が認められた。・ コロナワクチン接種対象者(5歳以上)は24例で、そのうち21例(88%)がワクチンを接種していなかった。2回のワクチン接種済みの3例(12歳以上)のCOVID-19発症日は、最後のワクチン接種日から3ヵ月以上経過していた。・入院前は呼吸器症状よりも非呼吸器症状のほうが多く、疑われた死因は、多い順に、中枢神経系異常(急性脳症など)が16例(35%)、心臓異常(急性心筋炎など)が9例(20%)、呼吸器異常(急性肺炎など)が4例(9%)だった。小児の多系統炎症性症候群(MIS-C)は認められなかった。・基礎疾患のない患者(27例)では、最も多く疑われた死因は中枢神経系異常(11例)、次いで心臓異常(5例)だった。呼吸器異常は認められなかった。・入院前に救急外来で確認された死亡者数は19例、入院後の死亡者数は27例であった。患者の46%は院外心停止で死亡した。・中枢神経系異常を認めた16例では、発症から心肺停止までの中央値は2日(IQR:1.0~12.0)、発症から死亡までの中央値は3.5日(2.0~14.5)だった。5~11歳が最も多く(9例/56%)、1歳未満はいなかった。急性脳症の12例のうち、出血性ショック脳症症候群(HSES)が疑われたのは5例、急性劇症脳浮腫を伴う脳症が1例、分類不能脳症が 6例であった。・心臓異常を認めた9例では、発症から心肺停止までの中央値は4日(IQR:2.0~4.0)、発症から死亡までの中央値は4日(2.0~5.0)だった。 8例に臨床的急性心筋炎が検出された。 本研究の結果、小児・青年のCOVID-19発症後の死因として、中枢神経系異常、次いで心臓異常が多かったことが示された。徴候・症状への対処に加えて、臨床医は基礎疾患にかかわらず、COVID-19発症から少なくとも最初の7日間は小児・青年患者を注意深く観察すべきだ、と著者らはまとめている。

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第205回 ポストコロナ時代、地域医療の存続に向けた病院の新たなアプローチとは?

毎週月曜日に先週にあった行政や学会、地域の医療に関する動きを伝える「まとめる月曜日」。今回は特別編として「すこし未来の地域医療の姿」について井上 雅博氏にご寄稿いただきました。新型コロナが医療・介護にもたらした影響とは今春、6年に1度のタイミングで医療報酬、介護報酬、障害福祉サービスの報酬が同時に改定されました。今回の改定では、医療と介護の連携の必要性を強く求めると同時に、マイナンバーカードの普及により医療情報の利活用を促進し、高血圧、脂質異常症、糖尿病を中心に診療を行っていた医療機関では「療養計画書」の作成などの対応に追われました。改定後、全国の病院関係者からは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大時に救急患者の受け入れや転院、退院支援で苦労したのが、第11波の現在では、患者不足で病床が埋まらず、病床稼働率の低下が囁かれるようになったという声が聞かれます。もちろん、COVID-19のワクチン接種による軽症化や治療薬の開発による早期治療開始による早期退院が可能となったことが大きいとは思います。しかし、それ以外の原因として、感染拡大によって定期的な健康診断やがん検診によって発見された手術適応患者の紹介の減少が目立っていることが挙げられます。さらに、後期高齢者の場合、入院しても手術適応とならない方が増えている可能性があります。私が以前勤務していた広島県福山市の脳神経センター大田記念病院では、最新の統計によれば中央値では過去5年間大きな変動はないものの、高齢者層の増加(とくに90歳以上)が報告されています。じわじわと来る診療報酬改定の影響現在、病院が直面している経営課題は、昨年秋以降、コロナ対策の医療機関への病床確保基金などの制度が廃止され、以前の診療報酬体制に戻ったにも関わらず、患者の受診行動が変化してしまい、COVID-19拡大が落ち着いても元通りにならなかったという点です。このため、病床稼働率低下に加え、今春の改定で厳しくなった重症度、医療・看護必要度の対応で、10月からの病床再編や加算の対応に頭を悩ませている病院が多いと思います。さらに、原油高やエネルギー価格高騰に加え、デフレからインフレへの転換による経営環境の変化、人件費の増加といった影響も大きく、経営環境が激変しています。診療報酬改定では医療・介護職員の処遇改善のために賃上げの財源としてベースアップ評価料の算定が可能になりましたが、目新しい加算項目は少なく、サイバーセキュリティの強化など追加支出が求められているため、医療機関にとっては厳しい状況です。また、医療機関で問題となっているのは人手不足です。介護系サービス事業者は、高齢者の増加に備え設備投資を行い、施設を増やしてきましたが、現場に投入する医療・介護人材が必要となるため、医療機関よりも賃上げを先行して実施しており、同じ職種でも介護サービス事業者の賃金が高い状態になっています。さらに都市部では、コロナ禍にサービスを縮小していたホテル、飲食業などのサービス業界での人材不足が深刻化し、異業種との人材獲得競争も厳しくなっています。医療機関に求められる新たな「医療の形」病床稼働率の低下という現状を乗り切るための唯一の解決方法は、患者のニーズに応えることです。しかし、急性期の医療機関は専門医が多く、スペシャリストとして専門診療は得意である一方、後期高齢者のように2つ以上の慢性疾患が併存し、診療の中心となる疾患の設定が難しい「Multimorbidity(多疾患併存)」の場合、診療科ごとに縦割り構造のため、患者をチームで診ていると言いながら、病院内で診療科間の連携が取れていない、かかりつけ医や介護サービス事業者との連携協力が不十分なため、退院後にも内服薬の治療中断や退院前の指導不足による病状の悪化など、同じ患者が何回も入退院を繰り返す例が少なくありません。今後は、高度な急性期の医療機関は変わる必要がありそうです。とくに、在宅医やかかりつけ医との退院前のカンファレンスの開催や紹介状の内容の充実、情報共有の進化が必要ですが、多忙な急性期病院の医師がこれらを行うのは難しいと感じています。現状の解決手段としては、医師事務補助作業者の活用による書類作成の充実、退院サマリーや紹介状の作成業務のクオリティの向上が考えられます。また、今後は電子カルテにAIを導入し、カルテ内容の要約自動化を進めることや連携医療機関とカルテの開示を進めることが求められます。さらに、回復期リハビリテーション病棟や地域包括ケア病棟のある医療機関から退院する場合に、退院後のケアを担当する医療、福祉職へのわかりやすい指導(たとえば体重が〇kg以上増えたら早期に専門医に受診、食事や体重が減ったらインスリンは〇単位減量など)が求められると考えます。政府が模索する「新たな地域医療構想」の時代へ厚生労働省は、社会保障制度改革国民会議報告書に基づき、団塊の世代が全員75歳以上となる2025年に向けて、地域医療構想を策定するよう各都道府県に働きかけてきました。厚労省は地域医療構想を「中長期的な人口構造や地域の医療ニーズの質・量の変化を見据え、医療機関の機能分化・連携を進め、良質かつ適切な医療を効率的に提供できる体制の確保を目的とするもの」と定義しています。現状、2025年を目指していた「地域医療構想」はほぼ完成形に近付いているように思います。高度急性期、急性期、回復期、慢性期の病床区分は、各医療機関の立ち位置を明確にし、担うべき役割と連携協力機関をはっきりさせることで、独立した医療機関が有機的に医療・介護連携を行い、全国の2次医療圏内で完結できるよう基盤整備を進めてきました。厚労省は、今後の日本が迎える「高齢者が増えない中、むしろ労働人口が減少していく」2040年を見据え、今年3月から「新たな地域医療構想等に関する検討会」を立ち上げました。地域によっては高齢化の進行によって外来患者のピークを過ぎた2次医療圏も増えています。これは国際医療福祉大学の高橋 泰教授らが作成した2次医療圏データベースシステムからも明らかになっています。これまで、医師や看護師といった人材リソースを増やすことで充実させてきた医療のあり方が変わる中、その地域でいかに残っていくのかを考える必要があります。そのために、最近読んでいる本を紹介します。今後の病院、クリニック運営を考える際の一助になりましたら幸いです。『病院が地域をデザインする』発行日2024年6月14日発行クロスメディア・パブリッシング発売インプレス定価1,738円(1,580円+税10%)https://book.cm-marketing.jp/books/9784295409861/著者紹介梶原 崇弘氏(医学博士/医療法人弘仁会 理事長/医療法人弘仁会 板倉病院 院長/日本大学医学部消化器外科 臨床准教授/日本在宅療養支援病院連絡協議会 副会長)千葉県の船橋市にある民間病院である板倉病院(一般病床 91床)の取り組みとして、救急医療、予防医療、在宅医療の提供、施設や在宅との連携を通して「地域包括ケア」の展開や患者に求められる医療機関の在り方など先進的な取り組みが、とても参考になります。ぜひ一度、手に取ってみられることをお勧めします。参考1)新たな地域医療構想等に関する検討会(厚労省)2)社会保障制度改革国民会議報告書(同)3)外来医療計画関連資料(同)4)診療報酬改定2024 「トリプル改定」を6つのポイントでわかりやすく解説!(Edenred)5)2次医療圏データベースシステム(Wellness)5)医療の価格どう変化? 生活習慣病、医師と患者の「計画」で改善促す(朝日新聞)

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