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コロナワクチン、2024年度より65歳以上に年1回の定期接種へ/厚労省

 国内の新型コロナウイルスワクチン接種について、厚生労働省は11月22日に厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会と同分科会予防接種基本方針部会を開催し、2023年度末に「特例臨時接種」を終了し、2024年度以降は、65歳以上の高齢者を対象に「定期接種」として実施する方針を了承した。基礎疾患を有する60~64歳については重症化リスクも考慮し、重症化予防を目的とした接種を行う。65歳以上のコロナワクチン定期接種スケジュールは秋冬に毎年1回 2024年度以降の新型コロナワクチン接種については、個人の重症化予防により重症者を減らすことを目的とし、インフルエンザと同様の予防接種法のB類疾病に位置付けたうえで、法に基づく定期接種として65歳以上の高齢者等を対象に実施する。 65歳以上の高齢者を対象にした新型コロナワクチン定期接種のスケジュールは、秋冬に毎年1回となる。ワクチンに含むウイルス株は、流行の主流であるウイルスの状況やワクチンの有効性に関する科学的知見を踏まえて選択し、当面の間、毎年見直される。 なお、2024年度以降は、新型コロナワクチンはほかのワクチンと同様に一般流通が行われる見込みであり、65歳以上の定期接種の対象者以外であっても、任意接種として接種の機会を得ることができる。ワクチン価格は現時点で決まっていない。 本方針について分科会の委員らからは、特例臨時接種が終了し、自己負担が生じることについて、ワクチン価格がインフルエンザワクチンよりも高額になることが予想され、経済的負担を理由に接種できず、感染した際に重症化することを懸念する意見が上がった。接種を希望する者が安心して接種できるよう、国費等の支援による接種費用の負担軽減を訴えた。

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第172回 働き方改革で救急医療は医師不足に、厚生労働省に提言/救急医学会

<先週の動き>1.働き方改革で救急医療は医師不足に、厚生労働省に提言/救急医学会2.賃上げか負担軽減か、診療報酬改定を巡って議論が白熱/中医協3.医療機能情報提供制度の見直し、スマホ対応と多言語サポート/厚労省4.健康リスクに配慮した「飲酒ガイドライン案」を発表/厚労省5.薬のネット販売全面解禁へ、2025年から規制緩和/厚労省6.医師確保プログラム「842万円の違約金は違法」とNPOが提訴/山梨県1.働き方改革で救急医療は医師不足に、厚生労働省に提言/救急医学会日本救急医学会は、医師の働き方改革に伴う救急医療の人材不足とその対策に関する要望書を厚生労働大臣に提出した。来年度から始まる「働き方改革」では、勤務医に対して労働基準法に基づく休日や時間外労働の上限規定が適用されることになっており、救急医療に従事する医師が不足し、医療体制の維持が困難になる恐れがあると指摘している。同学会は、日本の救急医療が医療者の自己犠牲により支えられてきたと述べ、働き方改革による医師不足を解消するためには、診療報酬の改定などの支援が必要だと訴えている。また、地元の医師会との連携を強化し、救急の専門医を地域の拠点病院に集約することで、効率的な救急医療体制の構築を求めている。一方、NPO法人「EMアライアンス」による調査では、救急医の約1割が深刻な燃え尽き症候群に陥っていることが明らかになった。この調査結果では、救急医療の心理的ストレスの高さと、医師の健康問題に注目が集まった。とくに若手医師や睡眠不足を抱える医師にとって、救命救急センターでの勤務が、燃え尽き症候群と高い関連性を持つことが指摘されている。救急医療の質と持続可能性を確保するためには、医師の働き方改革を通して医師の健康にも配慮する必要がある。提言では、救急医療の現場で働く医師の声を反映した、包括的な対策が必要であると指摘している。参考1)地域救急医療への影響を鑑みた医師の働き方改革に関する提言(日本救急医学会)2)医師の働き方改革 日本救急医学会が支援求める要望書提出(NHK)3)救急医の1割、深刻な燃え尽き症候群か 睡眠不足も関連?NPO調査(朝日新聞)4)1割が深刻な燃え尽き症候群とのデータも 救急医の激務、解決策は?(同)2.賃上げか負担軽減か、診療報酬改定を巡って議論が白熱/中医協厚生労働省は、11月24日に開いた中央社会保険医療協議会(中医協)の総会において、昨年度の医療経済実態調査の結果を明らかにした。その結果、病床数が20床以上の一般病院は、物価高騰の影響で経営が悪化していたが、新型コロナ患者の受け入れに対する国の補助金を含めると、収支は黒字に転じていた。具体的には、一般病院の収支は平均で2億2,424万円の赤字であったが、補助金を含めると4,760万円の黒字となっていた。国公立病院は、平均で7億8,135万円の赤字で、補助金を含めても赤字だが、医療法人が経営する民間病院は補助金を含めると6,399万円の黒字に転じていた。一方、病床が19床以下の一般診療所は、補助金を除いても医療法人が経営する診療所で1,578万円、個人経営の診療所では3,070万円と、いずれも黒字。厚労省は、とくに一般病院の収益が厳しい結果となったことを指摘し、今年度はさらに利益率が悪化している可能性を述べている。日本医師会などは、医療職や介護職員の賃上げが必要だとして「本体」部分の引き上げを求めているが、財務省は保険料負担の軽減を目指し、逆に引き下げを主張している。武見 敬三厚生労働大臣は、新型コロナが「5類」に分類され、補助金や診療報酬の加算措置が大きく見直されていることに言及し、年末に向けて医療機関の経営状況を踏まえ、賃上げや物価高騰、感染症対策などの新たな課題に対応できる診療報酬改定に努力する意向を示している。参考1)第24回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告(厚労省)2)来年度の診療報酬改定 年内決定に向け 議論活発化へ(NHK)3)「一般病院」昨年度収支 黒字 コロナ患者受け入れ補助金含めて(同)4)一般病院・診療所、コロナ補助で黒字 22年度厚労省調査(日経新聞)3.医療機能情報提供制度の見直し、スマホ対応と多言語サポート/厚労省厚生労働省は、患者が適切な医療機関を選択できるよう支援する「医療機能情報提供制度」を見直すため、11月20日に「医療機能情報提供制度・医療広告等に関する分科会」を開催した。現在、各都道府県ごとに情報提供されている医療情報ネットが刷新され、2024年4月からは全国統一システムの運用を開始されることが明らかとなった。また、かかりつけ医機能を含め、国民・患者の医療機関の適切な選択を支援するよう、スマートフォン対応も予定されている。新しいシステムでは、医療機関の基本情報や医療サービス内容、治療結果のほか、高齢者や障害者向けの情報も提供される。さらに、英語・中国語・韓国語での情報提供も行われ、用語解説も整備される予定。医療機関は、毎年1~3月に定期報告を行い、基本情報に変更があった場合は都道府県に報告することが求められる。また、「かかりつけ医機能」の情報も提供され、患者は自宅近くの医療機関を選択しやすくなる。全国統一システムへの移行により、情報提供の内容も新しくなり、利用者がより使いやすい仕組みが提供されることが期待されているほか、2025(令和7)年度から発足するかかりつけ医機能が発揮される制度の施行に向けて、今後も情報提供項目改修が行われていく見込み。参考1)医療機能情報提供制度(医療情報ネット)について(厚労省)2)国民・患者に対するかかりつけ医機能をはじめとする医療情報の提供等に関する検討について(同)3)医療情報ネット、来年1月から新たな報告に 全国統一の情報提供4月開始、スマホ対応(CB News)4)医療情報ネットを「より使いやすい仕組み」に2024年度リニューアル、今後「かかりつけ医機能」情報も充実-医療機能情報提供制度等分科会(Gem Med)4.健康リスクに配慮した「飲酒ガイドライン案」を発表/厚労省11月22日に厚生労働省は、アルコール健康障害対策基本法に基づいて、検討を重ねてきた「飲酒ガイドライン案」を発表し、飲酒に伴うリスクに関する知識の普及と健康障害の防止を目指すことを明らかにした。指針は、年齢や体質に応じた飲酒量の留意点を提案し、純アルコール量での飲酒管理を重視している。とくに高齢者や若年層、アルコール分解能力が低い人々には、飲酒による健康リスクが高いと警告している。ガイドライン案では、純アルコール量の計算方法が示され、疾患ごとのリスクに応じて、少量の飲酒でも注意が必要としている。政府の「健康日本21(第3次)」計画では、1日の純アルコール摂取量を男性40g、女性20g以上と定め、60g以上の過度な飲酒や、不安・不眠解消のための飲酒、他人への強要を避けるよう勧めている。また、健康への配慮として、飲酒量の事前設定、飲酒時の食事摂取、水分補給、週に無酒日を設けることなどが推奨されている。そのほか、最近では、アルコール摂取量の自己管理を促進するため、スマートフォンアプリを利用した記録方法も普及している。ガイドラインに対する反応はさまざまで、個々の許容量に基づく飲酒量の調整を提案する声や、健康意識の高い人々にとって有益だとする意見があり、専門家は、多量飲酒時の水分摂取の重要性を強調し、飲み方の工夫を勧めている。参考1)健康に配慮した飲酒に関するガイドライン(案)(厚労省)2)国内初の飲酒ガイドライン案「男性40g、女性20g以上はリスク」(毎日新聞)3)国として初の飲酒ガイドライン案 ビール1杯で高まる大腸がんリスク(朝日新聞)4)飲酒リスク、初指針で周知 年齢や体質に応じ留意点(日経新聞)5)お酒の望ましい量は?「飲酒ガイドライン」厚労省が案まとめる(NHK)5.薬のネット販売全面解禁へ、2025年から規制緩和/厚労省厚生労働省は、薬のネット販売に関する規制を大幅に緩和する方針を固めた。これにより、ほぼすべての薬がインターネットで購入可能になる見込み。とくに「要指導医薬品」について、これまでは対面販売が義務付けられていたが、ビデオ通話による服薬指導を条件に非対面での購入が認められるようになる。この変更は2025年以降に実施される予定。市販薬のネット販売は、2014年から一部が販売可能になり、新型コロナウイルス感染症の流行を受け、さらに拡大されていた。今回の規制緩和により、市販薬のほぼすべてがネットでの購入が可能となり、患者の利便性が大幅に向上すると期待されている。ただし、緊急避妊薬など対面での情報提供が必要な薬や乱用のリスクがある薬については、20歳未満の大量購入を禁止するなどの規制が維持される。厚労省は、この方針について専門家の会議で議論し、医薬品医療機器法の改正を目指している。現在、オンライン服薬指導による安全性の確保と利便性の向上を両立させるための仕組み作りが進められている。参考1)対面販売必要な薬 薬剤師のビデオ通話でネット販売検討 厚労省(NHK)2)市販薬ネット販売、全面解禁へ ビデオ通話での指導条件(日経新聞)3)薬のネット販売全面解禁へ、利点や注意点は?(同)6.医師確保プログラム「842万円の違約金は違法」とNPOが提訴/山梨県東京のNPO法人「消費者機構日本」は、山梨県が医師不足対策として2019年に開始した医師確保プログラムについて消費者契約法に違反するとして山梨県を11月21日に提訴した。このプログラムは、医学部学生が県内の医療機関で9年間勤務することを条件に、学費の返済を免除する内容。しかし、2021年に導入された新条項では、勤務期間を満たさない場合に最大842万円の違約金を課すことになり、この違約金条項が消費者契約法に違反するとして山梨県を提訴した。NPO法人側は、学費返済だけで十分であり、違約金は不当に高額だと主張している。一方、山梨県は、違約金が必要な措置であると反論し、プログラムの早期離脱が県に追加コストをもたらすとして長崎 幸太郎山梨県知事は争う姿勢を示した。この訴訟は、地域医療の充実を目指す県側の政策と、その実施方法の法的・倫理的妥当性を巡って議論を提起しており、違約金条項導入後、山梨大学や北里大学などから約115人の学生がプログラムに参加しており、今後の訴訟の動向が注目されている。参考1)山梨県の医学部学費貸与、「違約金840万円は違法」 NPOが提訴(朝日新聞)2)医師不足解消を図る山梨県の制度 “違約金は違法”と提訴(NHK)3)山梨県の医師確保プログラム、9年間勤務できなければ最大842万円の違約金…適格消費者団体が差し止め求め提訴(読売新聞)4)医師確保事業巡り 都内の消費者団体が県を提訴 長崎知事は争う姿勢示す 山梨県(山梨放送)

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コロナ入院患者へのビタミンC投与、有効性認められず/JAMA

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)入院患者へのビタミンC投与は、心肺支持療法離脱日数や生存退院を改善する可能性は低い。カナダ・Sunnybrook Health Sciences CentreのNeill K. J. Adhikari氏らの研究グループ「The LOVIT-COVID Investigators」が、2件の前向き調和型無作為化比較試験の結果を報告した。JAMA誌2023年11月14日号掲載の報告。ビタミンCを6時間ごとに静脈投与 ビタミンCがCOVD-19患者のアウトカムを改善するかどうかを評価した2件の試験は、2020年7月23日~2022年7月15日に、世界4大陸で、集中治療室(ICU)で心肺支持療法を受けている重症患者(90ヵ所で登録)と非重症患者(40ヵ所で登録)を対象に行われた。被験者は無作為に2群に割り付けられ、一方にはビタミンCを、もう一方にはプラセボを6時間ごとに96時間(最大16回)静脈投与した。 主要アウトカムは、心肺支持療法離脱日数(ICUで最長21日間心肺支持療法離脱で生存と定義)と生存退院の複合とした。同アウトカムの範囲は、院内死亡(-1)~心肺支持療法離脱で生存(22)で評価した。 主要解析は、ベイジアン累積ロジスティックモデルを用いて行った。オッズ比(OR)1超の場合は有効性(生存の改善、心肺支持療法離脱日数の増加、またはその両方)を、1未満の場合は有害性を、1.2未満では無益性を示すものとした。有害性・無益性の統計学的基準を満たし、試験中止に 本試験は、有害性と無益性が統計学的基準を満たした時点で、登録が打ち切られた。 主要アウトカムが得られたのは、重症患者1,568例(ビタミンC群1,037例、対照群531例、年齢中央値60歳[四分位範囲[IQR]:50~70]、女性35.9%)、非重症患者1,022例(456例、566例、62歳[51~72]、39.6%)だった。 重症患者において、心肺支持療法離脱日数中央値はビタミンC群7日(IQR:-1~17)、対照群10日(-1~17)で(補正後比例OR:0.88、95%信用区間[CrI]:0.73~1.06)、事後確率は8.6%(有効性)、91.4%(有害性)、99.9%(無益性)だった。 非重症患者においても、心肺支持療法離脱日数中央値はビタミンC群22日(IQR:18~22)、対照群は22日(21~22)で(補正後比例OR:0.80、95%CrI:0.60~1.01)、事後確率は2.9%(有効性)、97.1%(有害性)、99.9%超(無益性)だった。 重症患者の生存退院率についても、ビタミンC群61.9%、対照群64.6%で(補正後OR:0.92[95%CrI:0.73~1.17])、有効性の事後確率は24.0%だった。非重症患者の生存退院率も、それぞれ85.1%、86.6%で(0.86[0.61~1.17])、有効性の事後確率は17.8%だった。

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第190回 コロナ経口薬投与患者の5人に1人がリバウンド

コロナ経口薬投与患者の5人に1人がリバウンドファイザーのコロナウイルス感染症(COVID-19)の経口薬ニルマトレルビル・リトナビル(日本での商品名:パキロビッドパック)は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のメインプロテアーゼ(Mpro)を阻害してSARS-CoV-2の複製を食い止めます。軽~中等度のCOVID-19患者の入院や死亡が同剤で減ることが無作為化試験や観察試験で確認されており、今年5月に米国FDAは重症化リスクが高い軽~中等度COVID-19成人患者の治療に同剤を使うことを本承認しました1)。ニルマトレルビル・リトナビルは2年ほど前の2021年12月に本承認に先立って取り急ぎ認可されており、今では広く使われるようになっています。その普及に伴い、当初に比べてニルマトレルビル・リトナビルは感染再発(リバウンド)をより生じやすいことを示唆する報告が増えています。しかしこれまでの試験での検査や症状の把握は回数が少なくて期間も短く、それにウイルス培養のデータもなく、ニルマトレルビル・リトナビル使用に伴うリバウンドの正確な推定には至っていません2)。そこでMass General Brighamのチームはより正確な結果を得るべく、昨年2022年3月から今年2023年5月の外来のCOVID-19患者127例を繰り返し検査してリバウンド状況を詳しく調べました。それら127例のうち72例にニルマトレルビル・リトナビルが5日間投与されました。残り55例は非投与です。リバウンドはSARS-CoV-2がひとまず検出されなくなった後に培養でSARS-CoV-2が再び検出されること、またはSARS-CoV-2が基準(4.0 log10 copies/mL)未満にいったん減った後に増えた状態をしばらく維持することとみなされました。そのリバウンドがニルマトレルビル・リトナビル投与患者72例のうち15例(20.8%)に認められました3)。それら15例のうち13例は何らかの症状を伴い、7例はより明確に発症し(点数が大きいほど負担が大きいことを意味する下限0で上限30の症状検査値が3点以上上昇)、2例はまったくの無症状でした。ニルマトレルビル・リトナビル非投与55例でのリバウンドは少なくわずか1例(1.8%)のみでした。リバウンドはもっぱら高齢患者や免疫抑制患者に生じました。それは合点がいくことですが、奇妙なことにワクチン接種回数が多い人がリバウンドをより被っていました。つまりワクチンのリバウンド予防効果は認められませんでした。また、興味深いことにニルマトレルビル・リトナビル投与を遅くに始めた患者に比べてより早くに開始した患者にリバウンドがより多く認められました。著者が自覚しているとおり試験は被験者数が少ないという欠点があります。また、ニルマトレルビル・リトナビルが投与されなかった患者は悪化のリスクが低く、そもそもがリバウンドを生じ難かったのかもしれないという試験の設計上不可避な偏りが生じていたかもしれません2)。ニルマトレルビル・リトナビルはリバウンドをどうやら生じやすくするかもしれませんが、先行きが心配な患者の命を救い、入院や死亡を防ぐ効果的な薬であることに変わりはないと著者は言っています4)。著者がそう言うように同剤は軽~中等度COVID-19の治療手段として不可欠なだけにリバウンドを封じる手段を見つけることは大きな意義があります。そのためにはニルマトレルビル・リトナビルとリバウンドを関連付ける仕組みの解明が必要です。さしあたりかなり確からしい説明として、5日間の投与期間が実は不十分でリバウンドを招いているのではないかとの指摘があります2)。より長期間の投与の検討は始まっており、たとえばフランスの研究所ANRS Emerging Infectious Diseasesは免疫抑制患者へのニルマトレルビル・リトナビル10日間投与と5日間投与の比較試験を実施しています5)。また、リバウンド患者へのニルマトレルビル・リトナビル再投与の試験も進行中です6)。日本で承認済みの塩野義製薬の経口薬エンシトレルビル(商品名:ゾコーバ)は今のところリバウンドが少なくて済んでいるようです。欧州の学会で最近発表された試験解析によると、半減期が長い同剤治療患者のPCR検査で認められたウイルスRNAリバウンド率は7.8%、プラセボ群では4.7%でした7)。参考1)Pfizer’s PAXLOVID Receives FDA Approval for Adult Patients at High Risk of Progression to Severe COVID-19 / BUSINESS WIRE2)Cohen MS, et al. Ann Intern Med. 2023 Nov 14. [Epub ahead of print]3)Edelstein GE, et al. Ann Intern Med. 2023 Nov 14. [Epub ahead of print] 4)One in five patients experience rebound COVID after taking Paxlovid, new study finds5)OPTICOV試験(ClinicalTrials.gov)6)NCT05567952(ClinicalTrials.gov)7)ECCMID 2023: Shionogi to Present Data Showing COVID-19 Symptom Recurrence is Not Associated with Ensitrelvir Treatment / BUSINESS WIRE

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第186回 妊婦禁忌のコロナ薬を処方、その理由が独自取材で明らかに

11月14日、日本感染症学会 、日本化学療法学会、日本産科婦人科学会、日本医師会、日本薬剤師会の5団体が医療従事者向けに「妊婦にとって禁忌とされている新型コロナウイルス感染症治療薬の処方並びに調剤に関する合同声明文」を発表した。要は新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の経口治療薬で催奇形性があるとされているモルヌピラビル(商品名:ラゲブリオ)、エンシトレルビル(同:ゾコーバ)について、再三の注意喚起が行われながら現在でも処方後に妊娠が判明した事例が報告されていることを受け、改めて注意喚起を促した声明文である。従来のこの手の声明文と異なり、今回の声明文はお堅い表現も用いずに極めて平易な文章で書かれている。しかも、「新型コロナウイルス感染症の治療を受けられる女性の患者さんへ お薬を飲むまえに、もう一度確認を!」という日本感染症学会、日本化学療法学会、日本産科婦人科学会による患者向け文書も作成されている。その最後には以下のように記述されている。「新型コロナウイルス感染症に罹患され、そのお薬を内服したいというお気持ちもあると思いますが、あとでつらい思いをすることがないように、妊娠可能な世代の女性の患者さんにおかれましては、問診や調剤前、チェックリスト使用の時には妊娠の可能性はない、と申告されたとしても、内服前には、もう一度、最近数ヵ月間のことをよく思い出し、妊娠の可能性につき、思い当たる節がある場合には内服を控えるようにしてください。その場合には、お薬を保管しないで、ご自身で破棄するか、薬剤師に戻してください」最悪のケースとして異例とも言える患者自身による破棄まで言及している点からして、相当に危機感が強いのだろう。厚生労働省の新型コロナウイルス感染症対策本部と医薬局医薬安全対策課も同日付の都道府県、保健所設置市、特別区の衛生主管部(局)宛の事務連絡で、声明文の周知依頼を行っている。では、実際どれだけこうした事例があるのだろうか?エンシトレルビルについては緊急承認に基づく使用成績調査が課されており、10月15日までに妊婦への投与は疑い6例を含む32例が報告されている(この間の推定投与患者数84万1,646例)。一方、モルヌピラビルについては、MSD広報部門は「国内で妊婦に投与された事例があることは当社でも把握しているものの、例数は非開示」としている。ただし2023年1月4日に開催された薬事・食品衛生審議会(医薬品等安全対策部会安全対策調査会)において、国内で特例承認を受けた2021年12月24日から一般流通開始前の2022年9月15日までに数例あることが明らかにされている(この間の投与実績は61万9,621例)。ざっくり言えば、数万件に1件の割合で妊婦への処方事例が起きている計算になる。頻度としては少ないことになるだろうが、実際に胎児に影響が出れば、出生児にとっては生涯にわたって影響する可能性があるため、重大な問題だろう。とはいえ、これらの薬剤投与後に妊娠が発覚したケースは、製薬企業作成のチェックリストを使用せずに投与してしまった事例がごく一部にあるものの、声明文にあるように大半はこうしたチェックを経ても防げなかった事例である。ある意味、打つ手なしとも言えそうだが、まだやるべきことは残されていると個人的には思っている。というのも、モルヌピラビルに関してはアメリカで医療提供者向けに「Healthcare Provider Action」と題して「Assess whether an individual of childbearing potential is pregnant or not, if clinically indicated」と表記してある。直訳すれば「臨床上の兆候があれば、妊孕性のある女性での妊娠の有無を評価すること」となるが、事実上、必要に応じて妊娠検査を行うよう求めていると十分に解釈できるものだ。しかし、国内ではモルヌピラビル、エンシトレルビルとも添付文書やインタビューフォームにこうした記載はなく、投与前のチェックリストに「妊娠初期の妊婦では、妊娠検査で陰性を示す場合があります」と記載するに留まっている。アメリカと同様の記載がないことについて、MSD広報部門は「通常、添付文書の作成は規制当局と検討が行われますが、本剤の承認申請時の規制当局との添付文書の検討において、(国内の添付文書では)妊娠検査等の記載が必要であるという指示等は受けていないという背景がございます」と回答した。ただ、個人的にはアメリカでのモルヌピラビルの例にならった表現やより明確に事前に妊娠検査を行うよう記述することが望ましいのではないかと思う。それでも妊婦へ誤って処方してしまうケースはゼロにはならないだろうが、前述したように、たとえ1例でも重大なことである以上、やって損はないと思う。この点について当事者である行政、企業に尋ねてみたところ、次のような回答が返ってきた。「添付文書の記載を変更する予定は今のところありません。禁忌という形で注意喚起しておりますので、その中で医療現場が必要に応じて対応していただけていると思っております。また妊娠検査も妊娠週数4~5週間以降でやっと尿検査などでわかるようなものと認識しております」(厚生労働省医薬・生活衛生局医薬安全対策課)「MSDでは妊婦さんへの投与について注意喚起するために、医療関係者向けの文書や投与前のチェックリストなどを作成し、適正使用の推進に努めているところでございます。また、今後の添付文書等の改訂についてですが、現時点では予定はありませんが、引き続き今後の状況を確認しながら、適正使用の推進に向けて必要な対応を行ってまいります」(MSD広報部門)「妊娠検査の必要性に関する添付文書への記載も含め、妊婦への投与を防ぐための取り組みについては、さまざまな検討は行っております。ただ、現時点で添付文書に妊娠検査の必要性を記載するということは決まっておりません」(塩野義製薬広報部)確かにチェックリストの記載を見れば、本来、妊娠検査を含む対応は医療現場でやっていてしかるべきと思える面はある。しかし、ここまで各方面が繰り返し注意喚起を行わなければならない現状となっている以上、とくに厚生労働省にはもう一歩踏み込んでもらっても良さそうな気がするのだが。

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ファイザーのコロナワクチン、インフルワクチンと同時接種の有効性は?

 ファイザーの新型コロナワクチン(BA.4/5対応2価)と季節性インフルエンザワクチンを同時に接種した場合、別々に接種した場合と比べて有効性に差があるかを、米国の18歳以上の約344万人を対象に、米国・ファイザー社のLeah J. McGrath氏らの研究グループが調査した。その結果、コロナワクチンとインフルワクチンの同時接種は、それぞれ単独で接種した場合と比較して同等の有効性があることが示された。JAMA Network Open誌2023年11月8日号に掲載。 本研究では、2022年8月31日~2023年1月30日に、ファイザーの新型コロナワクチン(BA.4/5対応2価)のみ、インフルワクチンのみ、または両方を同日接種した、米国の民間医療保険に加入している18歳以上の344万2,996人を対象に、後ろ向き比較試験を実施した。1価ワクチンまたは他社の新型コロナワクチン接種者は除外した。65歳以上は、強化型インフルワクチン接種者のみを対象とした。主な転帰および評価基準は、COVID-19関連およびインフルエンザ関連の入院、救急(ED)や緊急診療(UC)の受診、および外来受診とした。ワクチン接種群間の残存バイアスを検出するため、尿路感染と不慮の傷害の2つのネガティブコントロールアウトカム(NCO)を評価した。 主な結果は以下のとおり。・全344万2,996人(女性57.0%、平均年齢65歳[SD 16.7])のうち、62万7,735人がコロナワクチンとインフルワクチンの同時接種を受け、36万9,423人がコロナワクチン単独接種を受け、244万5,838人がインフルワクチン単独接種を受けた。・65歳以上(221万493人、女性57.9%、平均年齢75歳[SD 6.7])において、同時接種群は、コロナワクチン単独接種群と比較して、COVID-19関連入院の発生率が類似していた(調整ハザード比[aHR]:1.04、95%信頼区間[CI]:0.87~1.24)。一方、救急や緊急診療の受診(aHR:1.12、95%CI:1.02~1.23)と、外来受診(aHR:1.06:95%CI:1.01~1.11)の発生率はわずかに高かった。・18~64歳(123万2,503人、平均年齢47歳[SD 13.1]、女性55.4%)では、同時接種群は、コロナワクチン単独接種群と比較してCOVID-19関連転帰の発生率がわずかに高く、COVID-19関連入院はaHR:1.55(95%CI:0.88~2.73)、救急や緊急診療の受診はaHR:1.57(95%CI:1.09~2.26)、外来受診はaHR:1.14(95%CI:1.07~1.21)であった。ただし、若年層群では全体的にイベントが少なかったため、CIは広くなった。・65歳以上では、インフルワクチン単独接種群と比較して、同時接種群はすべてのインフル関連転帰の発生率が低く、インフル関連入院はaHR:0.83(95%CI:0.72~0.95)、救急や緊急診療の受診はaHR:0.93(95%CI:0.86~1.01)、外来受診はaHR:0.86(95%CI:0.81~0.91)であった。・18~64歳でも高齢者と同様に、インフルワクチン単独接種群と比較して、同時接種群はインフル関連転帰の発生率が同等か、それより低かった。インフル関連入院はaHR:0.92(95%CI:0.69~1.23)、救急や緊急診療の受診はaHR:1.08(95%CI:0.91~1.29)、外来受診はaHR:0.76(95%CI:0.72~0.81)。・NCOを用いたCOVID-19関連およびインフルエンザ関連の転帰のキャリブレーション(較正)で、一貫してすべてのaHR推定値が基準値に近づき、ほぼすべてのCIが1.00を横断し、同時接種の有効性に有意な差がないことが示唆された。 本研究により、ファイザーの2価コロナワクチンとインフルワクチンの同時接種が、高齢者と若年者の両方で、各ワクチンを単独で接種した場合と同等の有効性があることが示された。本結果は、今後の秋冬期のワクチン接種キャンペーンにおいて、両ワクチンの同時接種を支持するものとなった。

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赤ワインやコーヒーがコロナ重症化リスクを増大

 いくつかの食習慣と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染感受性や入院・重症化リスクとの間には因果関係があり、とくに赤ワイン摂取は入院と重症化のいずれのリスクも有意に増大させることが、中国・Yantai Yuhuangding HospitalのXiaoping Li氏らのメンデルランダム化研究により明らかになった。British Journal of Nutrition誌オンライン版2023年11月6日号掲載の報告。 食習慣とCOVID-19リスクとの関連は数多くの観察研究によって報告されている。しかし、交絡変数や研究の限界のためその関連はまだ不明確であり、より厳密なデザインの研究が求められていた。そこで研究グループはメンデルランダム化研究を実施し、食習慣とCOVID-19の感受性、入院・重症度の関連を推定した。解析は逆分散加重法を主要な方法として用い、オッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)を算出した。コロナ重症化リスクが赤ワインとコーヒー摂取で増大 肉や魚、穀物、野菜、乳製品、アルコール、嗜好品などの26種類の食習慣に関するゲノムワイド関連研究(GWAS)のデータは英国バイオバンクより抽出し(約50万例)、COVID-19の感受性、入院・重症度に関するデータはCOVID-19 Host Genetics Initiative(Round7)より抽出した(約260万例)。 食習慣と新型コロナの感染感受性や入院・重症化リスクとの関連を推定した主な結果は以下のとおり。・新型コロナの感受性の低下と関連していたのは、無塩ピーナッツ(OR:0.53、95%CI:0.35~0.82、p=0.004)、牛肉(OR:0.59、95%CI:0.41~0.84、p=0.004)、豚肉(OR:0.63、95%CI:0.42~0.93、p=0.022)、加工肉(OR:0.76、95%CI:0.63~0.92、p=0.005)、牛乳(OR:0.82、95%CI:0.68~0.98、p=0.032)の摂取であった。一方で、コーヒー(OR:1.23、95%CI:1.04~1.45、p=0.017)、紅茶(OR:1.17、95%CI:1.05~1.31、p=0.006)の摂取で感受性が増加していた。・新型コロナによる入院は、牛肉(OR:0.51、95%CI:0.26~0.98、p=0.042)の摂取でリスクが低減したが、赤ワイン(OR:2.35、95%CI:1.29~4.27、p=0.005)、ドライフルーツ(OR:2.08、95%CI:1.37~3.15、p=0.001)、紅茶(OR:1.54、95%CI:1.16~2.04、p=0.003)の摂取でリスクが増大した。・新型コロナの重症化リスクを有意に低減した食習慣はなかったが、赤ワイン(OR:2.84、95%CI:1.21~6.68、p=0.017)、コーヒー(OR:2.16、95%CI:1.25~3.76、p=0.006)、ドライフルーツ(OR:1.98、95%CI:1.16~3.37、p=0.012)摂取でリスクの増大が示された。・感度分析においても、同様の結果が得られた。

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妊婦禁忌のコロナ治療薬は慎重に処方・調剤を、5団体が合同声明文を発表

 妊婦にとって禁忌とされる新型コロナウイルス感染症の治療薬が処方・調剤され、その後に患者が妊娠していることが判明した事例が多数報告されていることから、11月14日付で、日本感染症学会、日本化学療法学会、日本産科婦人科学会、日本医師会、日本薬剤師会の5団体は、診療に携わる医療関係者および治療を受ける女性患者のそれぞれに向けて合同声明文を発表した。 現在承認されている経口コロナ治療薬は、モルヌピラビル(商品名:ラゲブリオ)、エンシトレルビル(商品名:ゾコーバ)、ニルマトレビル・リトナビル(商品名:パキロビッドパック)である。そのうち、モルヌピラビルとエンシトレルビルは、動物実験で催奇形性や胚・胎児致死などが認められているため、妊婦または妊娠している可能性のある女性への投与が禁忌となっている。 合同声明文によると、医師の問診や処方前のチェックリストにてこれらのコロナ治療薬が処方に問題ないと判断され、薬局薬剤師の聞き取りでも確認したにもかかわらず、コロナ治療薬の処方・調剤後に、患者が妊娠していることが判明した事例が多数報告されている。実際に服用した患者は大変に大きな不安を抱えて妊娠と向き合うことになっているという。 声明文では、コロナ治療薬を処方する医師並びに調剤する薬剤師に対して、患者が妊娠可能年齢の女性である場合、本人への問診の結果、妊娠の可能性がないと申告されても完全には排除できるものではないということに留意することを訴えた。そのうえで、患者に丁寧な説明を行うとともに、妊婦にとって禁忌とされている薬剤を妊娠可能な世代の女性の患者に処方・調剤するかどうかについて、くれぐれも慎重に判断するよう呼びかけた。 また、この合同声明文を受けて厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策本部が同日に発表した事務連絡では、以下の周知も呼びかけている。・製造販売業者が周知している薬服用時の事前のチェックリスト及び処方された女性患者と家族向けの資材を活用すること。・資材が活用され、かつ患者から服薬の同意が得られている事例においても、処方時点では患者が妊娠の可能性に気付いておらず、服薬後に妊娠が判明する事例が複数報告されていることから、妊娠している可能性(前回月経後に性交渉を行った場合は妊娠している可能性があること等)について、入念に説明、確認を行うこと。

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毎年9%死亡者が増加する人獣共通感染症の行方/ギンコ・バイオワークス

 古くはスペイン風邪、近年では新型コロナウイルス感染症のように、歴史的にみると世界的に流行する人獣共通感染症の人への感染頻度が、今後も増加することが予想されている。そして、これらは現代の感染症のほとんどの原因となっている。人獣共通感染症の人への感染の歴史的傾向を明らかにすることは、将来予想される感染症の頻度や重症度に関する洞察に資するが、過去の疫学データは断片的であり分析が困難である。そこで、米国・カルフォルニア州のバイオベンチャー企業ギンコ・バイオワークス社のAmanda Meadows氏らの研究グループは、広範な疫学データベースを活用し、人獣共通感染症による動物から人に感染する重大な事象(波及事象)の特定のサブセットについて、アウトブレイクの年間発生頻度と重症度の傾向を分析した。その結果、波及事象の発生数は毎年約5%、死亡数は毎年約9%増加する可能性を報告した。BMJ Global Health誌2023年11月8日号に掲載。現状のままでは毎年約9%で人獣共通感染症の死亡者数が増加 研究では、エボラウイルス、マールブルグウイルス、SARSコロナウイルス、ニパウイルス、マチュポウイルスによる75件の波及事象を検討(SARS-CoV-2パンデミックは除外)。 主な結果は以下のとおり。・波及事象の発生数は、毎年4.98%(95%信頼区間[CI]:3.22~6.76)増加している。・死亡数は、毎年8.7%(95%CI:4.06~13.62)増加している。 この結果を踏まえ、Meadows氏らは「この増加傾向は、世界的な努力によって発生を予防し、食い止める能力を向上させることで変えることができる。その努力は、世界の健康に対する感染症の大きな、増大しつつあるリスクに対処するために必要である」と述べている。

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コロナワクチン、オミクロン初期の東京で850万人の感染を回避/京大

 2022年1~5月には、全世界的に新型コロナウイルス(COVID-19)のオミクロン株BA.1/BA.2が流行していた。京都大学大学院医学研究科の茅野 大志氏と西浦 博氏は、この時期のワクチン接種による集団レベルの影響を、全国でも比較的完全な接種歴データを有する東京都のデータを用いて評価した。その結果、ワクチン接種により約64万人の感染が直接回避され、集団接種による間接的な効果も含めると約850万人の感染が回避され、ワクチン接種しなかった場合と比較すると65%の感染を減少したと推定された。BMC Infectious Diseases誌2023年10月31日号に掲載の報告。 オミクロン株BA.1は、日本では2021年12月下旬から増加し、1日当たり約2万人の患者が発生した。この流行の少し前の12月初旬に、ファイザー社とモデルナ社のmRNAワクチン(起源株対応)の追加接種プログラムが確立されていた。2022年5月下旬には、4回目接種が開始された。 本研究では、オミクロン株BA.1/BA.2が優勢だった第6波の2022年1月1日~5月27日(21週間)のデータを解析した。初回シリーズ(1・2回目)と追加接種(3回目)の接種率、および接種歴別に層別化した確定症例を分析し、ワクチン接種によって直接および間接的に予防されたCOVID-19症例数を推定した。症例報告率は25%と仮定した。直接的な効果の推定には、ワクチン未接種者とワクチン接種者のリスクを比較する統計モデルを用いた。ワクチンの集団接種により得られる効果を間接的な効果とした。直接効果と間接効果を総合した効果は、ワクチン接種プログラムが実施されなかったという反事実のシナリオを伝播モデルで推定し、リアルワールドで観察された感染者数のデータと比較することで評価した。間接効果は、総合効果と直接効果の差として算出した。 主な結果は以下のとおり。・2022年1~5月の東京都において、初回シリーズは47万8,000人(95%信頼区間[CI]:46.7万~48.9万、29%減少)の感染回避に直接貢献し、追加接種は16万2,000人(95%CI:15.7万~16.6万、12%減少)の、合計64万人(95%CI:62.4万~65.5万)の感染回避に直接的に貢献した。・初回シリーズと追加接種により、850万人(95%CI:840万~860万、65%減少)の感染回避に、直接的および間接的に貢献した。・追加接種の接種率が初回シリーズの接種率と同程度であれば、感染者数はさらに19%(376万75人、95%CI:370万9,102~380万8,214)減少した可能性がある。さらに、10~49歳の追加接種の接種率があと10%高ければ、感染者数はさらに7%減少した可能性がある。・高齢者の初回接種率は95%を超えていた。2022年のオミクロン株流行時の集団レベルの影響は大きく、東京都に住む60歳以上において、54%の感染を予防した。 著者は本結果について、オミクロン株のような変異株の出現といったSARS-CoV-2の進化が存在する場合でも、集団におけるワクチン接種率が高いほど、集団レベルでの間接的な効果が大きくなり、一時的であるかもしれないが、大規模なワクチン接種が集団免疫効果を誘発できると述べている。

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第170回 外来管理加算の廃止提案に医師会は強く反発/中医協

<先週の動き>1.外来管理加算の廃止提案に医師会は強く反発/中医協2.地域医療構想で進む病床再編、急性期病床が減少、回復期は増加/厚労省3.日本の公的医療支出が高水準、病床数と在院日数で2位/OECD4.GLP-1受容体作動薬の供給不足、卸に対して美容目的の出荷抑制を指示/厚労省5.美容目的のエクソソーム使用に規制を、死亡事例の報告も/再生医療学会6.介護職員の待遇改善へ、来年2月から月6,000円の賃上げ決定/政府1.外来管理加算の廃止提案に医師会は強く反発/中医協厚生労働省は、中央社会保険医療協議会(中医協)の総会を11月10日に開催。2024年度の診療報酬改定に向けて議論が行われた。とくに外来医療に関する「外来管理加算(52点)」については、支払い側が廃止を求め、激しい議論となった。外来管理加算は、2008年の診療報酬改定で再診患者に対する計画的な医学管理を評価するため導入された。当初は「おおむね5分を超える診察」の要件(いわゆる「5分ルール」)が含まれていたが、医療現場の強い反発で、このルールは2年後に廃止された代わりに、「簡単な症状の確認」だけで処方を行った場合は加算を算定できないことが明確化されていた。支払側委員の松本 真人氏(健康保険組合連合会理事)は、外来管理加算の算定要件があいまいで、その評価の妥当性に疑問を提起した。さらに、外来管理加算と「特定疾患療養管理料」、「生活習慣病管理料」、「地域包括診療加算」の併せて算定が許される現状についても、患者や保険者にとって理解しづらいと指摘し、廃止を主張した。これに対して、診療側の委員たちは強く反発。長島 公之委員(日本医師会常任理事)は、松本委員の意見を「暴論」と断じ、まったく容認できないと強調した。池端 幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)も、廃止の主張に全面的に反対する意向を示した。参考1)中医協資料 外来(その3)について(厚労省)2)外来管理加算の廃止を主張、支払側の松本委員 長島委員は「暴論、容認できない」(CB news)3)「外来管理加算の廃止」の支払側提案に、診療側委員は猛反発、「かかりつけ医機能」の診療報酬評価をどう考えるか-中医協総会(1)(Gem Med)2.地域医療構想で進む病床再編、急性期病床が減少、回復期は増加/厚労省厚生労働省は、11月9日に「地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループ」を開催し、地域医療構想の進捗について報告した。厚労省が最新の病床機能報告を基に行った集計によれば、2025年までに急性期病床が約7.1万床減少する一方、回復期病床は約7.9万床増加する見込み。政府は、高齢化や人口減少に対応するため、2025年までに各地域の医療体制を効率化することを目的として地域医療構想の実現を目指し、病床再編を行っている。病床再編により、一部の地域では医療機関の存続が危ぶまれ、とくにコロナ禍での病床削減への疑問符が生じている。たとえば、岐阜県東濃地方では、公営病院の病床数削減や民間への譲渡が進められているが、地域全体での病床利用率は高くなく、病床削減による共倒れの懸念が指摘されている。新型コロナウイルスのパンデミックは、病床削減の方針に再考を迫っており、急性期病床の役割の重要性が再認識されているが、今後は、コロナ禍の経験や在宅医療の需要も考慮に入れた新たな医療再編の議論が求められている。参考1)地域医療構想の進捗等について(厚生労働省)2)急性期7.1万床減少見込み、15-25年に 回復期は7.9万床増、全国ベースで(CB News)3)目標の2025年迫る「地域医療構想」 病床再編 議論が“再燃” 地域医療の崩壊に危機感(東京新聞)3.日本の公的医療支出が高水準、病床数と在院日数で2位/OECD経済協力開発機構(OECD)の最新報告によれば、わが国の公的医療支出はGDPの11.5%であり、政府支出の22%を占めることが判明した。これは、加盟38ヵ国中最高の割合であることが明らかになった。わが国の人口当たり病床数(12.6)は韓国に次いで2位で、平均在院日数も16.0日と、OECDの平均の約2倍である。人口1,000人当たりの医師数は2.6人で、OECDの平均3.7人に及ばない。また、わが国は、65歳以上の高齢者割合が29%と最も高く、1人当たりの受診回数も11回で2番目に多い。OECDは、これらの現状をもとにわが国の医療資源の効率的な活用を促している。人口10万人当たりの薬剤師数は199人でトップに立つ一方で、ノルウェーやスウェーデンの65歳以上の人口100人当たり介護従事者の数は約12人に対して、わが国は6.8人である。そのほか、開業医の電子カルテ利用率は平均93%に対し、日本は42%と低くOECDの武内 良樹事務次長は、わが国の医療提供の効率化と介護の費用対効果の向上を求めている。さらにわが国の病院依存型の医療制度が非効率であると指摘し、遠隔医療の利用拡大やかかりつけ医の医療質向上のほか、スキルの高い介護人材の確保と労働条件の改善も必要とも述べている。参考1)図表でみる医療 2023:日本(OECD)2)公的医療支出の割合、日本がトップ OECD、病床数・在院日数は2位(MEDIFAX)4.GLP-1受容体作動薬の供給不足、卸に対して美容目的の出荷抑制を指示/厚労省厚生労働省は、2型糖尿病治療に使用されるGLP-1受容体作動薬の在庫が逼迫していることを受け、7月下旬に医療機関と薬局に対して、GLP-1受容体作動薬の買い込みを控え、必要量のみの購入を行うよう求め、薬剤の適正使用を依頼した。GLP-1受容体作動薬は、2型糖尿病患者以外への使用(主に美容・痩身目的)については有害事象の報告もあり、懸念が広がる一方、海外承認のニュースにより急速に処方が増えている。厚労省は、2型糖尿病患者に対して適切に供給されるように、医薬品卸売販売業者に対して、注文を受けた際に治療目的を確認し、糖尿病治療以外の目的での使用が明らかな注文に対しては、納入を控えるよう11月9日付けで通知を発出した。参考1)GLP-1受容体作動薬の在庫逼迫に伴う協力依頼(その2)(厚労省)2)GLP-1、糖尿病治療以外は納入しないよう卸に要請 厚労省(日刊薬業)5.美容目的のエクソソーム使用に規制を、死亡事例の報告も/再生医療学会厚生労働省が、11月10日に開催した厚生科学審議会の再生医療等評価部会で、日本再生医療学会は、細胞から分泌される微粒子「エクソソーム」が含まれる幹細胞培養上清液が、美容目的やアンチエイジング目的で自由診療の医療機関で使用されているとして、「何らかの規制下に置かれることが望ましい」とする提言書を国に提出した。エクソソームは組織再生を促す物質を含んでいるが、現行の再生医療の安全に関する法律の対象外のため、管理が不十分な場合には重大な事故を引き起こす可能性があると指摘されている。すでに、幹細胞培養上清液を使用した治療による患者の死亡事例も報告されており、研究者らはエクソソームの体内での効果や安全性に関する科学的根拠が不足しており、一部のクリニックが効果を誇張して宣伝されていることを問題視しており、大阪大学の曽宮 正晴助教は、このような未確立の治療法には倫理的、科学的な問題があると指摘している。これに対して、実施しているクリニックが所属している日本再生医療抗加齢学会側は、現在の状況を改善するためのガイドライン作成や問題点の精査を急務としている。参考1)エクソソーム等に対する日本再生医療学会からの提言(日本再生医療学会)2)幹細胞培養上清液に関する死亡事例の発生について(再生医療抗加齢学会)3)エクソソーム 美容目的などに利用 “将来的に規制を”学会提言(NHK)4)エクソソーム治療「規制下が望ましい」学会が提言 死亡例の報告も(朝日新聞)5)幹細胞培養上清液で死亡例 研究者「エクソソームの投与で何かを治したと人で実証された例はない」「身体にリスクも」“若返りや美容効果”うたうクリニックに警鐘(ABEMA TIMES)6.介護職員の待遇改善へ、来年2月から月6,000円の賃上げ決定/政府政府は、介護職員と看護補助者の賃金を2023年2月から月額6,000円引き上げることを含む補正予算を閣議決定した。この措置は、介護分野と他の産業との間で開いた待遇格差を埋め、介護職員の離職を防ぐための措置で、賃上げには関連経費が2023年度補正予算案に盛り込まれ、都道府県を通じて事業所や医療機関に補助される。今回の賃上げは、介護報酬の3年ごと、診療報酬の2年ごとの見直しに先立つ「つなぎ」としての措置であり、来年度の報酬改定で恒久的な賃上げを目指している。厚生労働省によれば、2022年の介護職員の給与平均は29.3万円、看護補助者は25.5万円で、全産業平均(36.1万円)と比べて低く、介護分野では低賃金のために他産業への人材流出が続いており、離職者数が増加している。全国老人保健施設協会の調査では、介護職員の2023年度の賃上げ率は1.42%で、春闘の平均賃上げ率3.58%を大きく下回っている。岸田 文雄首相は、医療介護における賃上げや人材確保を重要な課題として挙げ、「必要な処遇改善の検討を行わなければならない」と述べている。参考1)介護職、月6000円賃上げ 人材流出抑制で-厚労省・補正予算(時事通信)2)介護職員の賃金、来年2月から月6000円引き上げ…離職の歯止め措置で補正予算案に盛り込む(読売新聞)3)コロナ交付金に6,143億円、補正予算案決定 月6千円相当の看護職賃上げへ(CB news

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第186回 エピペンを打てない、打たない医師たち……愛西市コロナワクチン投与事故で感じた、地域の“かかりつけ医”たちの医学知識、診療レベルに対する不安

新型コロナワクチン接種後に女性が死亡した問題で事故調査委員会が報告書公表こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。MLBのワールドシリーズ、NPBの日本シリーズが終わり、今年の野球シーズンも終幕を迎えました。ワールドシリーズは、テキサス・レンジャーズがアリゾナ・ダイヤモンドバックスを4勝1敗で破り、初優勝を飾りました。総じて地味で大味な戦いでしたが、かつてヤクルト・スワローズに在籍したことがあるという、ダイヤモンドバックスのトーリ・ロブロ監督の、バントや盗塁を駆使した日本の高校野球のような戦い方(「スモール・ベースボール」と呼んでいました)はなかなか興味深かったです(レンジャーズに1勝しかできませんでしたが…)。一方、第7戦までもつれた日本シリーズは、第6戦の山本 由伸投手の目が覚めるような完投劇があったものの、勢い勝った阪神タイガースの38年振りの日本一で幕を閉じました。オリックス第7戦登板の宮城 大弥投手は、立ち上がりはとてもいい出来に見えました。しかし、阪神のシェルドン・ノイジー外野手に投げたチェンジアップが少しだけ甘く入り、先制3ラン。あの失投さえなければ投手戦がそのまま続き、勝敗はどうなっていたかわかりません。いずれにせよ、山本投手はいいお土産を持って米国に渡ることになります。これから1、2ヵ月は大谷 翔平選手、山本投手のFA移籍先報道が熱くなるでしょう。さて今回は、昨年、愛知県愛西市で新型コロナワクチン接種後に女性が死亡した問題で、1ヵ月ほど前に愛西市医療事故調査委員会が公表した調査報告書について書いてみたいと思います。「早期にアドレナリンが投与された場合、救命できた可能性を否定できない」と結論付けた報告書ですが、なぜ、アドレナリンが適切に投与されなかったのか、アナフィラキシーを起こしている患者を前にしてその判断ができなかった医師は、どんなキャリアでどれくらいの診療レベルだったのかについて、報告書には詳細に書かれていません。「かかりつけ医機能」が発揮されるための制度整備が議論されている中、地域の医師会の医師たちの医学知識、診療レベルを疑うような事例だけに、せっかく報告書を公表するならば、そのあたりまで突っ込んでもらいたいと思いました。「早期にアドレナリンが投与された場合、救命できた可能性を否定できない」と結論この事故は、昨年11月、愛西市の集団接種会場で、新型コロナワクチンを接種した女性(当時42)が直後に容体が急変し死亡した、というものです。専門家らで構成された愛西市医療事故調査委員会は9月26日、調査報告書1)を公表、「本事例は、ワクチン接種後極めて短時間に患者が急変し、死亡に至ったものである。非心原性肺水腫による急性呼吸不全及び急性循環不全が直接死因であると考えられ、この両病態の発症にはアナフィラキシーが関与していた可能性が高い。本事例は短時間で進行した重症例であることから、アドレナリンが投与されたとしても救命できなかった可能性はあるが、特に早期にアドレナリンが投与された場合、症状の増悪を緩徐にさせ、高次医療機関での治療につなげ、救命できた可能性を否定できない」と結論付けました。医療者たちの対応はことごとく「標準的ではなかった」さらに、「ワクチン接種後待機中の患者の容体悪化(咳嗽、呼吸苦の訴え)に対し、看護師らがアナフィラキシーを想起できなかったこと、問診者に接種前の患者の状態を確認することなく、患者は接種前から調子が悪かったと解釈したことは標準的ではなかった。また、その情報に影響を受け、ワクチン接種後患者の容体変化に対し、アドレナリンの筋肉内注射が医師によって迅速になされなかったことは標準的ではなかった」と、医療者たちの対応はことごとく「標準的ではなかった」と結論付けました。病態はアナフィラキシーの可能性が低いと医師が判断、アドレナリン筋肉内注射をせず報告書によれば、接種4分後から女性に咳嗽と呼吸苦が発現したにもかかわらず、看護師らは「ワクチン接種前からマスク着用の圧迫感による過呼吸発作状態にあったもの」と勝手に解釈していたとのことです。また、体調不良者が出たことで対応を依頼された医師も「接種前から体調不良、呼吸苦があったようだという看護師からの情報と、粘膜所見、皮膚所見、掻痒感、消化器症状など『アナフィラキシーで典型的な症状』がなかったことから、女性の病態はアナフィラキシーの可能性が低いと判断し、アドレナリンの筋肉内注射を第一治療選択から外し」てしまいました。そんな中、看護師の1人は「アナフィラキシーの可能性を考え、アドレナリン投与を想定し、注射器に22ゲージの針をつけ、医師の指示があればいつでも筋注できるよう準備をし」ていましたが、「医師の判断を尊重するため、アドレナリンの準備ができていることを積極的に伝えようとはしなかった」とのことです。接種14分後に心停止、3次救急病院に搬送されるも到着時にはすでに心肺停止状態さらに対応を依頼された医師は、「アナフィラキシーガイドライン2022」(日本アレルギー学会)の存在は認識していましたが、アナフィラキシーに比較的よくみられる所見や情報が乏しかったことに影響され、ガイドライン等に沿った対応、すなわち「0.1%アドレナリン(ボスミン1/2A)の筋肉内注射、またはアドレナリン自己注射用製剤(エピペン0.3mg製剤)の投与」を行いませんでした。なお、新型コロナウイルスワクチンの接種事業に協力する医師に対して海部医師会(医師たちが所属する医師会)は、医師たちに事前に準備された「アナフィラキシー対応マニュアル」を読んでおくよう指示していたとのことです。結局、この女性にアドレナリンが投与されることはなく、接種14分後に心停止、その後救急隊が呼ばれ、3次救急病院に搬送されるも到着時にはすでに心肺停止状態で、心肺蘇生を試みた後、死亡が確認されています。ハチ毒はアレルギーを獲得した後2回目に刺された時のアナフィラキシーが怖いエピペン(アドレナリン自己注射用製剤)については、私も少々苦い思い出があります。20年ほど前の秋、奥秩父の登山中にハチに刺されたことがあります。ハチ毒は、アレルギーを獲得した後の2回目に刺された時のアナフィラキシーが怖いと言われています。そこで私は近所の内科診療所を訪れ、エピペンの処方を頼みました。実は私の友人がその数年前、ハチに刺された数ヵ月後に蜂の子を食べ、アナフィラキシーで生死をさまよいました。その話を聞いていたので、「今後、山に登る時はエピペン所持が必要だ」と考えたのです。開業医にエピペン処方を断られるエピペンの日本での歴史はそう古くはありません。1995年、国有林で働く林業従事者のハチ毒対策のために米国で製造販売されていた製品を「治験扱い」で使用されたのが始まりです。その後、民有林での使用要望も出され、2003年に厚生労働省の製造販売承認が下りています。つまり、林業従事者のハチ毒対策が日本でのエピペン普及のきっかけだったのです。この時の適応は「蜂毒に起因するアナフィラキシー反応に対する補助治療(アナフィラキシーの既往のある人またはアナフィラキシーを発現する危険性の高い人に限る)」で、該当者は処方を受けて所持・使用することができるようになりました。その後、2005年には食物や薬物等によるアナフィラキシー反応および小児への適応も取得しています(ただし2011年までは保険が効かず自費)。私がハチに刺されたのは2003年の製造販売承認後だったので、内科診療所の医師は処方できたはずだったのですが、医師(60歳代)は「処方したことがない」「自分で打つのは危険だ」「全額自費だよ」などとさまざまな理由を挙げて、結局処方してもらえませんでした。「次、山で刺されたらアナフィラキシーで死ぬかもしれない」という私の切実な訴えも、まったく無視されました(その後、別の医療機関で入手し、数年間は登山時に所持)。ちなみに現在、エピペンの処方には講習受講と登録が必要となっています。アナフィラキシーを除外した医師は「内科医、医師歴5年以上10年未満」そんな経験があったため、愛西市の新型コロナワクチン接種後に女性がアナフィラキシーで死亡した事故を知った時、対応した医師は、私にエピペンを処方しなかった医師同様、比較的年配で、アドレナリン自己注射用製剤を患者に使用させた経験がなかったのではないか、さらにはアナフィラキシーというものを教科書では読んだことがあるが、自身では経験したことがなかったのではないかと思いました。しかし、私の予想は外れました。報告書によれば、最初にこの女性の対応を任され、アナフィラキシーを除外した医師は、海部医師会愛西市班に所属する医師で「内科医、医師歴5年以上10年未満」となっています。むしろ、こちらのほうが驚きです。医師になって10年未満、エピペンの使い方も一般化し、アナフィラキシー時の対応についても十分に学んでいるはずの世代が大きな判断ミスを犯したということになるからです。医学や診療技術は、日々進歩していますが、学ぼうとしない医師も一定数います。この「医師歴5年以上10年未満」の医師は、どういう経歴で、日々の診療はどういうもので、どのように最新の医学情報をアップデートしていたのでしょうか。「かかりつけ医」機能が議論される中、報告書には判断ミスを犯した医師の資質についても言及されるべきだったのではないでしょうか。「医療事故調査制度の制度趣旨に反している」との批判もところで、今回、この事故に関して、愛西市医療事故調査委員会の委員長らが記者会見し、報告書を公表、医学的評価の判断をマスコミ等に説明したことについて、「医療事故調査制度の制度趣旨に反している」との批判が一部にあるようです。公表が医師や看護師個々人への責任追及を促す危険性をはらんでいるからです。それはそれで一理あります。しかし、仮にことの原因が、個々の医療機関の安全管理体制等ではなく、医師の教育体制(卒後教育含む)にもあるとしたらどうでしょう。個々の医療機関に報告するだけで問題は解決するのでしょうか。愛西市のワクチン事故は、今の医療事故調査制度にも一石を投じたようです。参考1)新型コロナウイルスワクチン集団接種会場で発生した死亡事案について/愛西市

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第188回 コロナ後遺症の新たな生理指標、セロトニン欠乏が判明

コロナ後遺症の新たな生理指標、セロトニン欠乏が判明新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後症状(long COVID)は患者数が莫大なだけに盛んに研究されて新たな成果が次々に発表されています。先週はそういうコロナ後遺症とタウリンの欠乏の関連を示した報告を紹介しましたが、その報告の10日前にはタウリンと同様にアミノ酸の1つであるトリプトファンの吸収低下を一因とするセロトニンの減少とコロナ後遺症の関連を裏付ける研究成果がCell誌に発表されています1,2)。神経伝達物質の1つであるセロトニン減少の発端となりうるのは腸の新型コロナウイルスです。腸に居座る新型コロナウイルスがトリプトファン吸収を抑制し、トリプトファンを原料とするセロトニン生成が減ると示唆されました。新型コロナウイルスが腸に長居しうることは糞便のウイルスRNA解析で示されました。その解析によるとコロナ後遺症患者の糞中からはそうでない患者(新型コロナウイルスに感染したものの長引く症状は生じなかった患者)に比べて新型コロナウイルスRNAが有意に多く検出されました。新型コロナウイルスを含むウイルス感染はインターフェロン(IFN)伝達を誘発することが知られています。さらには、コロナ後遺症患者の1型IFN増加の持続も先立つ研究で確認されています。腸に似せた組織(腸オルガノイド)やマウスでの検討の結果、その1型IFNがセロトニンの前駆体であるトリプトファン吸収を抑制することでセロトニンの貯蔵量を減らすようです。また、新型コロナウイルスが居続けることで続く炎症は血小板を介したセロトニン輸送の妨害やセロトニン分解酵素MAO(モノアミン酸化酵素)の亢進を介してセロトニンの流通を妨げうることも示されました。実際、コロナ後遺症患者では血中のセロトニンが乏しく、コロナ後遺症の発現の有無をセロトニンの量を頼りに区別しうることが確認されています。さて研究はいよいよ大詰めです。コロナ後遺症患者の大部分が被る疲労、認知障害、頭痛、忍耐の欠如、睡眠障害、不安、記憶欠損などの神経/認知症状とセロトニン欠乏を関連付けるとおぼしき仕組みが判明します。その仕組みとは迷走神経の不調です。中枢神経系(CNS)の外を巡るセロトニンは血液脳関門(BBB)を通過できませんが、迷走神経などの感覚神経を介して脳に作用します。ウイルス感染を模すマウスでの実験の結果、末梢のセロトニンを増やすことや感覚神経を活性化するTRPV1作動薬(カプサイシン)の投与で認知機能が正常化しました。続いて、感覚神経の種類を区別するタンパク質の刺激実験から末梢のセロトニン不足と脳の働きの低下の関連は感覚神経の一員である迷走神経伝達の不足を介すると示唆されました。その裏付けとして迷走神経に豊富に発現するセロトニン受容体(5-HT3受容体)の作動薬がウイルス感染を模すマウスの海馬神経反応や認知機能障害を正常化することが示されました。それらの結果を総括し、セロトニン不足が迷走神経伝達を弱めて認知機能を害するのだろうと結論されています。さて、そうであるなら選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)に属するフルオキセチン(fluoxetine)やフルボキサミン(fluvoxamine)などのセロトニン増加薬がコロナ後遺症に有効かもしれません。その可能性は今回の研究でも検討されており、ウイルス感染を模すマウスの記憶障害がフルオキセチンでほぼ解消しました。新型コロナウイルスに感染して間もない患者へのSSRIの試験はいくつか実施されています。その効果の程は今のところどっちつかずですが、それらの試験と同様にコロナ後遺症の神経/認知症状へのセロトニン伝達標的治療の効果も調べる必要があります。幸い、その試みはすでに始まっています。臨床試験登録サイトClinicaltrials.govを検索したところ、コロナ後遺症へのフルボキサミンの試験が進行中です3)。結果一揃いは再来年2025年3月中頃に判明する見込みです。コロナ後遺症の治療といえばこれまでのところ患者が訴える症状が頼りでした。今やセロトニンやタウリンの減少などの生理指標が明らかになりつつあり、見つかった生理指標を頼りに患者を治療や試験に割り当てられそうだと著者は言っています2)。参考1)Wong AC, et al. Cell. 2023;186:4851-4867.2)Viral persistence and serotonin reduction can cause long COVID symptoms, Penn Medicine research finds3)Fluvoxamine for Long COVID-19

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新型コロナが小児感染症に及ぼした影響

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが小児感染症に及ぼした影響として、long COVID(罹患後症状、いわゆる後遺症)や医療提供体制の変化、感染症の流行パターンの変化などが挙げられる。これらをまとめたものが、イスラエルのネゲブ・ベン・グリオン大学のMoshe Shmueli氏らによってEuropean Journal of Pediatrics誌オンライン版2023年9月20日号に報告された。 本研究はナラティブレビューとして実施した。 主な結果は以下のとおり。既知の内容・COVID-19は通常、小児では軽度であるが、まれに重篤な症状が現れる可能性が知られている。また、一部の成人が悩まされるとされるlong COVIDは、小児においてもみられた。・COVID-19の流行による衛生管理の強化や体調不良時の行動変化により、呼吸器感染症(インフルエンザやRSウイルス、肺炎球菌)だけではなく、他の感染症(尿路感染症や感染性胃腸炎など)でも感染率の低下がみられた。・医療提供体制が大きく変化し、オンライン診療の普及などがみられた。・ワクチン定期接種の中断により、ワクチン接種を躊躇する動きがみられた。・抗菌薬の誤用や過剰処方の問題が生じた。新規の内容・COVID-19流行期間中にインフルエンザやRSウイルスの流行が減少した理由は、非医薬品介入※(non pharmaceutical intervention:NPI)措置に関連しているのではなく、むしろ生物学的ニッチ(鼻咽頭)における病原体と宿主の相互作用などの、NPI措置以外に関連していると考えられた。※非医薬品介入:マスク着用義務や外出禁止令などの医薬品以外の予防対策

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第169回 診療所自由開業の見直しを提案、医師偏在問題への対策で/財務省

<先週の動き>1.診療所自由開業の見直しを提案、医師偏在問題への対策で/財務省2.診療所の経常利益率上昇、財務省と医師会の間で賃上げ論争/財務省3.医療・介護施設の経営危機、過去最低の利益率、特養は6割超が赤字/WAM4.先発薬の自己負担上乗せ、後発薬への移行を促進/厚労省5.20歳未満の市販薬乱用対策として購入制限を提案/厚労省6.介護人材確保のカギは賃上げ、報酬改定で新たな取り組み/厚労省1.診療所自由開業の見直しを提案、医師偏在問題への対策で/財務省財務省は、11月1日に開催した財政制度等審議会の財政制度分科会で、医師の偏在対策を進めるため診療所の自由開業・自由標榜の見直しを提案した。特定の地域や診療科での医師の集中が続く中、フランスのように地域・診療科ごとの専門医の定員制を導入するべきとの意見が示された。同省は、大都市に医師や診療所が集中する傾向を示すデータを公表するとともに、医療資源を均等に分散させるため、診療報酬の地域による単価差を導入する提案も行った。このほか同省は、大学病院などからの医療機関に対する医師派遣の充実や外来医療計画における都道府県知事の権限強化、医学部の定員適正化なども求めた。参考1)財政制度分科会 社会保障 資料(財務省)2)診療所の自由開業・標榜の見直し提案、財務省 偏在解消策のメニューとして(CB news)2.診療所の経常利益率上昇、財務省と医師会の間で賃上げ論争/財務省財務省は11月1日に財務相の諮問機関である財政制度等審議会の分科会において社会保障制度について話し合った。この中で、来年度の診療報酬改定で、診療所の初・再診料を中心に診療報酬を引下げて、マイナス改定とすることを提言した。同省の調査によれば、新型コロナウイルスの影響で診療所の経営状況が改善し、2022年度の医療法人の経常利益率が平均8.8%となったためである。財務省側は、収益の改善を原資に賃上げが可能であるとしているが、日本医師会は新型コロナの特例的な影響はあくまで一過性のものであり、これを除くと新型コロナ流行後3年間の利益率は3.3%程度となり、流行前よりも悪化している可能性がある上、特例の見直しにより、来年度以降はコスト増と合わせて経営環境はさらに悪化するとし、財務省の主張はミスリードだとし、診療報酬の引き上げを求めて強く反発している。一方、岸田 文雄首相は医療・介護・福祉分野における物価高騰対策と賃上げを重要な課題だとして、総合経済対策でも必要な対応を検討する意向を示しており、診療報酬の改定については、年末までさらに議論が続く見込み。参考1)財政制度分科会 社会保障 資料(財務省)2)令和6年度診療報酬改定について(日本医師会)3)“利益率高い医療機関は利益取り崩し賃上げ”財政制度等審議会(NHK)4)診療所の利益急改善、財務省「賃上げ可能」 医師会反発(日経新聞)5)日医会長、診療報酬の大幅な引き上げ主張-「ミスリード」「恣意的」財務省に反論(CB News)6)岸田首相 医療、介護、福祉分野の「物価高対策、賃上げは重要な課題」総合経済対策で必要な対応検討へ(ミクスオンライン)3.医療・介護施設の経営危機、過去最低の利益率、特養は6割超が赤字/WAM医療および介護施設の経営困難が深刻化していることが、最近の複数の報道により浮き彫りとなった。福祉医療機構(WAM)の調査によれば、2022年度の一般病院の医業利益率はマイナス1.2%に低下し、療養型病院も1.9%と過去最低水準を記録している。これは、医業利益率が医療活動による収益状況を示す指標であるため、医療機関の経営が厳しくなっていることを物語っている。とくに、新型コロナウイルス対応病院の経常利益率は、補助金を除いてマイナス2.9%となり、赤字となっている病院の割合は61.3%に上昇している。一方、全国老人福祉施設協議会(老施協)の調査によると、特別養護老人ホームの昨年度の赤字施設の割合は62%に達し、2002年度の調査開始以来、初めて6割を超えた。物価高騰が原因で、電気代や紙おむつ、食材のコストの上昇が経営を圧迫している。国や自治体の補助金を収入に加えても、赤字施設の割合は51%となっている。施設の運営は介護報酬の範囲内で行われるため、物価高騰などでの経費増に対応するのが難しく、結果として職員のボーナスが削減されるなどの対応が取られている。老施協は政府に対し、介護報酬の大幅な見直しを求めている。このような背景から、医療・介護施設の経営状況の改善が喫緊の課題となっており、施設の撤退やサービスの低下が地域の医療・介護体制に影響を及ぼす恐れがある。参考1)2022年度 病院の経営状況(速報値)について(福祉機構)2)2022年度 特別養護老人ホームの経営状況(速報値)について(同)3)一般病院と療養病院の医業利益率が最低水準に 昨年度、福祉医療機構調べ(CB News)4)特養ホームの62%が赤字、紙おむつ・食材などの価格上昇が経営圧迫…ボーナス切り下げも(読売新聞)4.先発薬の自己負担上乗せ、後発薬への移行を促進/厚労省厚生労働省は、後発薬の普及をさらに促進するために新たな方針を提案した。これによると、先発薬の患者の自己負担を引き上げることで、患者の後発薬への移行を促進し、医療費の増大を抑制することを目的としている。具体的には、先発薬の自己負担部分に後発薬との価格差の一部を上乗せすることを提案しており、これにより患者の自己負担は数円~数百円ほど増加する可能性がある。さらに、後発薬の安定供給を確保するための対策も進められている。厚労省の「後発医薬品の安定供給等の実現に向けた産業構造のあり方に関する検討会」では、後発薬の供給体制を可視化することを提案し、供給能力と実績を持つ製薬企業が評価される仕組みの構築を求めており、供給不安を緩和するために、製薬企業の供給体制や緊急対応能力、原材料の供給源などの情報公開を求めていく提案されている。これにより、患者や医療機関が信頼性の高い製薬企業を選択することが可能となり、全体としての医薬品供給の安定が期待されるとしている。参考1)先発薬の患者負担上乗せ 厚労省案 後発薬への移行促す(日経新聞)2)後発薬「企業の供給力、評価を」 厚労省検討会(同)3)後発医薬品の安定供給等の実現に向けた産業構造のあり方に関する検討会 中間取りまとめ(厚労省)5.20歳未満の市販薬乱用対策として購入制限を提案/厚労省厚生労働省は、10月30日に開いた薬事・食品衛生審議会薬事分科会の部会において、若者の間での過剰摂取(オーバードーズ)を防ぐ対策として、20歳未満に対する「乱用の恐れのある医薬品」の大量購入を制限する新たな方針を示した。これによると、麻薬や覚醒剤に似た成分を含む一部の市販薬、たとえば大正製薬の「パブロン」や「浅田飴」など、OTCとして手軽に購入できる風邪薬などに適用することになる。具体的には20歳未満には1箱のみの販売とし、ネットでの購入は原則ビデオ通話が必須とされる見込み。ビデオ通話は購入者の状況や表情を確認するためとしており、薬の購入状況の一元管理にマイナンバーの利用も検討されている。国立精神・神経医療研究センターの調査によると、高校生の1.6%が過去1年間に市販薬の乱用経験があると推定され、背景にはSNSの広がりや孤独感があるとされている。参考1)要指導医薬品のリスク評価について(厚労省)2)市販薬の2・3類を統合へ 薬の説明は「努力義務」に 厚労省検討会(朝日新聞)3)市販風邪薬の販売規制案 20歳未満、多量購入不可に(日経新聞)4)一部医薬品の大量販売、20歳未満に禁止案 オーバードーズ対策(毎日新聞)6.介護人材確保のカギは賃上げ、報酬改定で新たな取り組み/厚労省わが国の介護業界は深刻な人手不足に直面していることが明らかになった。厚生労働省の分析によると2022年に介護業界から離職した人が、新たに働き始めた人を上回り、就労者が前年より1.6%減していた。今後も介護を必要とする高齢者の増加は見込まれており、処遇の改善による介護士の確保が急務となっている。一方、介護サービスの供給が需要に追いつかない現状が続いている中、介護職の離職率も高まっている。厚労省によると、介護職員の平均賃金は時給1,138円と、他の業種と比べて低い水準であり、新たな人材の獲得や現場の職員の維持が困難となっている。このため、厚労省は介護職員の賃金を引き上げる方針を示している。2023年度の介護報酬改定では、介護職員の平均時給を1,400円以上にすることを目指している。この賃上げは、業界の人手不足解消とサービス品質の向上を目的としている。また、地域によっては、賃金のアップだけでなく、研修やキャリアアップの機会を提供することで、介護職員の定着を促進する取り組みも進められている。一方、介護事業者からは、報酬改定による経営の厳しさを指摘する声も上がっている。報酬の引き上げは、介護サービスの品質向上に寄与する一方で、事業者の経営負担も増大するため、バランスの取れた対応が求められる。参考1)介護職員の賃上げ「月6000円が妥当」 武見敬三厚労相(日経新聞)2)介護就労者が初の減少、低賃金で流出 厚生労働省分析(同)3)コメディカルの給与が全産業平均を下回ることが明らかに(日経ヘルスケア)

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BA.2.86「ピロラ」感染3週間後の抗体応答が大幅に増強/NEJM

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株であるオミクロン株BA.2.86(通称:ピロラ)は、2023年8月初頭にデンマークで初めて報告され、スウェーデンでは8月7日に初めて検出された。本症例(インデックスケース)は、慢性疾患のない免疫不全の女性であった。本症例の血清および鼻腔粘膜の抗体応答について、2023年2月に得られた検体と、BA.2.86感染から3週間後に得られた検体を用いて比較したところ、BA.2.86感染後ではIgA値およびIgG値の上昇が認められ、感染前より抗体応答が大幅に増強されることが示唆された。スウェーデン・カロリンスカ研究所のOscar Bladh氏らによる、NEJM誌2023年10月26日号CORRESPONDENCEに掲載の報告。 スウェーデンの医療従事者2,149人を対象としたCovid-19 Immunity(COMMUNITY)コホート研究内のスクリーニングプログラムにおいて、8月7日にBA.2.86感染の最初の症例が確認された。本症例は、慢性疾患のない免疫不全の女性で、SARS-CoV-2感染歴があり、BA.2.86感染の診断前にBNT162b2ワクチン(ファイザー製)を4回接種していた。症状は鼻漏、悪寒、発熱があり、症状期間は3日間であった。これらの症状は前年のSARS-CoV-2感染時よりも軽かった。 主な結果は以下のとおり。・2023年2月の検体採取時に得られた詳細な免疫データから、被験者はBA.2.86感染前では、COMMUNITYコホートと同程度の血清IgG値および鼻腔粘膜IgA値を有していたことが認められた。・BA.2.86感染から3週間後に得られた血清および粘膜検体を用いて、2023年2月に得られた検体と抗体応答について比較したところ、血清中のヌクレオカプシドIgG力価は36倍上昇していた。・野生株およびBA.5スパイクタンパク質に対する血清IgG結合は、2023年2月に得られた検体と比較して、BA.2.86感染後の検体では1.1倍および1.5倍だった。・一方、野生株およびBA.5スパイクタンパク質に対する粘膜IgA結合は、2023年2月に得られた検体と比較して、BA.2.86感染後の検体では3.6倍および3.4倍であり、血清IgGより強く誘導されていた。 本研究により、BA.2.86感染により抗体応答が大幅に増強されるという結果が得られた。著者らは、ワクチン接種を受けた免疫不全者や過去に感染したことのある正常な抗体レベルの人がBA.2.86に感染する可能性があることを裏付けており、BA.2.86が世界的な感染者急増を引き起こす可能性があることを指摘している。また、本研究では2月に検体を採取してから8月にBA.2.86感染と診断されるまでに6ヵ月が経過していたため、9月に抗体価が上昇する以前に抗体価が減少し、感染後の上昇率が過小評価されている可能性もあるという。

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インフルエンザワクチン接種率、コロナ前後でどう変化した?

 コロナ禍を経て、インフルエンザワクチン接種に対する意識はどう変化しただろうか。米国・ブリガム・ヤング大学のTy J. Skyles氏らによる研究の詳細が、Journal of Community Health誌オンライン版2023年9月11日号に報告された。インフルエンザワクチン接種率は12.4%から30.5%に増加 本研究では、同大学に通う440人の学生にアンケートを実施し、2007年のデータと比較した。アンケートでは、インフルエンザワクチン接種に対する意識の実態および過去16年間の変化の要因を調査した。また、回答者には、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の経験やCOVID-19によるワクチン接種への意識の変化についても質問した。 インフルエンザワクチン接種に対する意識の実態を調査した主な結果は以下のとおり。・大学生のインフルエンザワクチン接種率は、2007年の12.4%から2023年には30.5%に増加したことがわかった。・ワクチン未接種者の意識について、2007年と比較し、費用が28%、ワクチン接種によるインフルエンザ罹患への恐れが20%、副作用への恐れが17%、情報不足が15%、それぞれ低下した。・インフルエンザワクチン接種を避ける大きな要因としては、時間、利便性、ワクチン接種によるリスクが挙げられた。・医療提供者や保護者から受けるインフルエンザワクチン接種奨励の効果は薄れてきている。・COVID-19の流行はワクチンに対する考え方に変化をもたらし、ワクチン疲れが大きな要因となっている。・支持政党がインフルエンザワクチン接種の予測因子となり、保守派ほどワクチン接種をしない傾向があった。・個人の安全から公共の安全へと、関心が変化したことも認められた。

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第187回 タウリン再び降臨~コロナ後遺症の治療効果があるかもしれない

タウリン再び降臨~コロナ後遺症の治療効果があるかもしれない新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行を乗り切って世間は落ち着きを取り戻しつつありますが、世界で6,500万人は下らない1)とされる感染後の長引く不調を有する人にCOVID-19は未だ足かせとなって取り付いたままです。昨年の米国での聞き取り調査の結果、成人の約7%がCOVID-19罹患後症状(long COVID)として知られるそういった感染後長期不調があると回答しました2)。小児のCOVID-19罹患後症状は成人に比べて少ないものの200例に1例(0.5%)に認められました3)。COVID-19罹患後症状の承認治療はまだありませんが、カナダのアルバータ州のCOVID-19入院患者117例を調べた結果4)によるとあるアミノ酸にもしかしたらその治療効果があるかもしれません。117例の経過は退院からおよそ17ヵ月後まで追跡され、症状が3つを超える重度のCOVID-19罹患後症状を55例が被りました。32例は症状が3つ以下の比較的軽度のCOVID-19罹患後症状を呈しました。経過の調査に加えて血液も調べられ、およそ6ヵ月間に何回か採取した血液中のサイトカイン、タンパク質、代謝産物が測定されました。それらの測定結果を機械学習にかけて解析したところサイトカインと代謝産物併せて20分子に基づく予後予想手段が導かれ、その手段が83%の正解率で退院後の経過不良患者を同定しうることが示されました。また、COVID-19罹患後症状の患者にとくに目立つ特徴としてあるアミノ酸が少ないことが判明しました。そのアミノ酸とはイカ、タコ、貝類などに多く含まれるタウリンです。研究を率いたアルバータ大学のGavin Oudit氏によるとタウリンが乏しい患者は症状がより多く、より多く死亡しました。タウリンが豊富なままの患者は逆に症状が少なく、経過がより良好でした5)。タウリンは食物にも含まれることに加えて肝臓でも作られ、免疫系などの体の生理機能の調節に携わります。Oudit氏はタウリンの多岐にわたる効果がCOVID-19罹患後症状の数々を被る患者の福音となることを期待しています。タウリンといえば、本連載の第167回で紹介したように、最近発表された研究で全般的な健康増進効果を示唆する結果も得られています。だからといって今すぐタウリンをふんだんに摂取し始めてよいわけではありません。タウリン補給は比較的無害ですが、臨床試験でのその効果の裏付けが必要です。Oudit氏らのチームはそういう裏付けを得るべくCOVID-19罹患後症状へのタウリンの効果を調べる第III相試験開始の手はずを整えています。体内のタウリンを今すぐどうしても増やしたいという人には運動がおすすめです。運動すると血中のタウリンが増えます。また、運動の健康向上効果のいくらかにタウリンが寄与しているようです。参考1)Davis HE, et al. Nat Rev Microbiol. 2023;21:133-146.2)Long COVID in Adults: United States, 2022. NCHS Data Brief No. 480, September 20233)Long COVID in Children: United States, 2022. NCHS Data Brief No. 479, September 20234)Wang W, et al. Cell Rep Med. 2023:101254.5)Researchers identify amino acid that may play a key role for predicting and treating long COVID / Eurekalert

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引用頻度が高いコロナ論文の多い国・大学は

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック開始から3年間、非常に多くのCOVID-19関連の論文が世界中で発表された。京都大学大学院医学研究科の船田 哲氏(現:慶應義塾大学)らの研究グループは、被引用数の多いCOVID-19関連論文を発表した国や機関、研究領域などの傾向を調査した。その結果、高被引用論文の件数は2021年末にピークに達した後、2022年末まで減少傾向を示し、発表数の多い国は当初の中国から米国および英国へと推移していることなどが判明した。JAMA Network Open誌2023年9月8日号に掲載。 本研究では、2020年1月~2022年12月の期間で、Clarivate社のEssential Science Indicators(学術論文の引用動向データを提供するデータベース)から、引用頻度の高い論文を、2ヵ月ごと18期間分を抽出した。それらの論文の固有のアクセッション番号に基づいて、論文データベースのWeb of Science Core Collectionを用いて書誌情報を照会し、COVID-19に関する論文を特定した。論文数は分数カウント法に基づいてカウントし、著者の国、所属機関、研究分野などを調査した。 主な結果は以下のとおり。・Essential Science Indicatorsで2020年1月~2022年12月の7万3,079件の高被引用論文が抽出された。Web of Science Core CollectionでCOVID-19関連論文を特定すると、2ヵ月ごとの各期間で重複を含む高被引用論文は1万5,262件、重複のない論文は4,131件であった。・発表されたCOVID-19関連の高被引用論文は、2020年1~2月には14件であったが、2021年11~12月に1,292件でピークに達し、その後は減少傾向を示し、2022年11~12月には649件であった。・2020年1~2月は臨床医学分野の研究が多かったが(14件中9件[64.3%])、2022年3~4月は427件、2022年11~12月は246件と、徐々に減少した。そのほかの分野の研究は時間の経過とともに増加し、とくに一般社会科学、精神医学/心理学、免疫学、分子生物学/遺伝学の分野で増加した。・2020年7~8月までは中国が2ヵ月当たりの高被引用論文数が最も多かった(中国138.3件、2位の米国103.7件)。・2020年9~10月以降は米国が中国を抜いて最多となった(2020年9~10月は米国159.9件、中国157.6件)。・その後、中国の2ヵ月当たりの高被引用論文数は減少した(2020年11~12月は179.7件、2022年9~10月は40.7件)。・英国は、2020年11~12月に86.5件、2021年5~6月に171.3件で中国を抜き、米国に次いで発表数が多くなった。・2022年3~4月から2022年11~12月にかけて、米国、英国、中国では2ヵ月当たりの高被引用論文数が大幅に減少した(2022年3~4月vs.2022年11~12月の件数は、米国:366.8件vs.190.6件、英国:243.7件vs.158.3件、中国:107.5件vs.45.5件)。・2020年5~6月に高被引用論文を発表した上位5機関はすべて中国であった(華中科技大学:14.7件、香港大学:6.8件、武漢大学:4.8件、浙江大学:4.8件、復旦大学:4.5件)。・2022年11~12月では、上位5機関が米国と英国であった(ハーバード大学:15.0件、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン:11.0件、オックスフォード大学:10.2件、ロンドン大学:9.9件、インペリアル・カレッジ・ロンドン:5.8件)。

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モデルナのコロナワクチン、生後6ヵ月以上で初回免疫の一変承認取得

 新型コロナウイルスに対するmRNAワクチンを提供するモデルナは、2023年10月25日付のプレスリリースで、「スパイクバックス筋注」の生後6ヵ月以上を対象とした初回免疫に関する承認事項の一部変更承認を取得したと発表した。厚生科学審議会への諮問・答申を経て、予防接種実施規則改正をもってはじめて特例臨時接種での使用が可能となる。 今回の一部変更承認は、生後6ヵ月以上を対象とした「スパイクバックス筋注(2価:起源株/オミクロン株BA.1)」「スパイクバックス筋注(2価:起源株/オミクロン株BA.4-5)」および「スパイクバックス筋注(1価:オミクロン株XBB.1.5)」における初回免疫である。 これについてモデルナは、「生後6ヵ月以上の乳幼児を含めたすべての方に接種機会を提供できることで、発症および重症化リスクの軽減に貢献できると考えている」としている。 なお、日本小児科学会(会長:岡 明氏[埼玉県立小児医療センター])の予防接種・感染症対策委員会は、同学会のホームページで「小児への新型コロナワクチン令和5年度秋冬接種に対する考え方」を発表しており、コロナによる感染および重症化を予防する手段としてのワクチン接種は有効であると考え、生後6ヵ月~17歳のすべての小児へのワクチン接種を推奨している。

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