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第179回 血液凝固タンパク質2つがコロナ感染後の脳の不調と関連

血液凝固タンパク質2つがコロナ感染後の脳の不調と関連疲労に加えて認知機能障害、いわゆる脳のもやもや(brain fog)が数ある新型コロナウイルス感染(COVID-19)罹患後症状(long COVID)の1つとしてよく知られています。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染して認知機能障害に見舞われる人とそうでない人を隔てる仕組みへの血液凝固タンパク質2つの寄与を示唆する大規模観察試験結果が報告されました1)。試験ではCOVID-19で入院した患者約2千例(1,837例)が追跡され、入院時のそれらタンパク質2つと感染から半年と1年時点での認知機能障害の関連が認められました。その1つはフィブリノゲンです。C反応性タンパク質(CRP)に比してフィブリノゲンが入院時に多かった患者は少なかった患者に比べて記憶や注意などの認知機能の客観的検査成績や主観評価が劣りました。もう1つはDダイマーで、CRPに比してDダイマーが多かった患者は認知機能の主観評価が劣りました。たとえばDダイマーが多かった患者の6ヵ月時点の認知機能主観評価C-PSQ(0~7点)の点数は約1.5点劣りました。また、Dダイマーが多かった患者は疲労や呼吸困難の訴えや仕事への差し障りをより多く報告しました。フィブリノゲンやDダイマーとCOVID-19の関連を示した報告は今回が初めてではありません。先立つ複数の試験でCOVID-19入院患者にそれらタンパク質の増加が血栓過剰とともに認められています2)。フィブリノゲンが多いことと認知機能障害や認知症の関連を示したCOVID-19流行前の報告もあり、フィブリノゲンは認知機能欠損と何はさておき関連するのかもしれません。一方、DダイマーはCOVID-19以外で認知機能障害との関連は示されておらず、SARS-CoV-2感染に特有の指標かもしれません。フィブリノゲンやDダイマーが認知機能障害を引き起こすとしてその仕組みがいくつか想定されています。フィブリノゲンは脳の血液循環を妨げる血栓を形成するのかもしれません。あるいは神経系の受容体と直接相互作用することも想定されます。Dダイマーは肺での血栓形成をより反映していると思われ、それが呼吸困難に寄与し、酸欠による脳の不具合をもたらすのかもしれません。今回の試験結果を解釈するうえでいくつか注意点があります。1つは変異株がぼこぼこ出現する前のコロナ流行初期に募った被験者を対象にしていることであり、変異株が優勢の現在の感染患者に今回の結果が当てはまるかどうかは不明です。また、ワクチン非接種の重症の入院患者を対象としていることも注意が必要です。感染症状が軽度だったlong COVID患者は多く、そういう患者は今回の試験の対象ではありません。フィブリノゲンやDダイマー、あるいはより大まかに血栓を標的とする治療のlong COVID予防の裏付けはほとんどありません。抗凝固薬が治療手段の1つとしてみなされていますが、決定的な試験結果はまだありません2)。それに抗凝固薬は出血などの副作用と隣り合わせでもあります。抗凝固薬の検討のために必要な前段階として、認知機能障害をSARS-CoV-2感染後に被った患者の脳を画像診断して脳虚血の兆候があるかどうかを調べることを著者は提案しています1)。もし脳虚血が見つかるようなら先行きが心配な患者の感染初期のころの抗凝固薬使用の試験を実施する価値はありそうです。参考1)Taquet M, et al. Nat Med. 2023 Aug 31. [Epub ahead of print] 2)Clotting proteins linked to Long Covid’s brain fog / Science

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医師の役割が重要な高齢者の肺炎予防、ワクチンとマスクの徹底を/MSD

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染者数の増加や、インフルエンザの流行の継続が報告されているが、高齢者にとっては肺炎球菌による肺炎の予防も重要となる。そこで、これら3つの予防に関する啓発を目的として、MSDは2023年8月28日にメディアセミナーを実施した。国立病院機構東京病院 感染症科部長の永井 英明氏が「人生100年時代、いま改めて65歳以上が注意しておきたい肺炎対策-Life course immunizationの中での高齢者ワクチン戦略-」をテーマとして、高齢者の肺炎の特徴や原因、予防方法などについて解説した。肺炎は高齢者の大敵、肺炎による死亡の大半は高齢者 肺炎は日本人の死因の第5位を占める疾患である1)。65歳を超えると肺炎による死亡率は大きく増加し、肺炎による死亡者の97.9%は65歳以上と報告されている2)。そのため、肺炎は高齢者の大敵であり、とくに「慢性心疾患」「慢性呼吸器疾患」「腎不全」「肝機能障害」「糖尿病」を有する患者は肺炎などの感染症にかかりやすく、症状も重くなる傾向があると永井氏は指摘した。また、「高齢者の肺炎は気付きにくいという問題も存在する」と言う。肺炎の一般的な症状は発熱、咳、痰であるが、高齢者では「微熱程度で、熱があることに気付かない」「咳や痰などの呼吸器症状が乏しい」「元気がない、食欲がないという症状のみ」といった場合があるとし、「高齢者の健康状態については注意深く観察してほしい」と述べた。とくに肺炎球菌に注意が必要 肺炎の病原菌として最も多いものは肺炎球菌である3)。肺炎球菌の感染経路は飛沫感染とされる。主に小児や高齢者において侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)を引き起こすことがあり、これが問題となる。IPDの予後は悪く、成人の22.1%が死亡し、8.7%に後遺症が残ったことが報告されている4)。 インフルエンザウイルス感染症も2次性細菌性肺炎を引き起こすため、注意が必要である5)。季節性インフルエンザ流行時に肺炎で入院した患者の原因菌として肺炎球菌が最も多いことが報告されている6)。肺炎予防の3本柱 肺炎を予防するために重要なこととして、永井氏は以下の3つを挙げた。(1)細菌やウイルスが体に入り込まないようにする当然ではあるが、マスク、手洗い、うがいが重要であり、とくにマスクが重要であると永井氏は強調する。「呼吸器感染症を抑制するためには、マスクが最も重要である。国立病院機構東京病院では『不織布マスクを着用して院内へ入ってください(布マスクやウレタンマスクは不可)』というメッセージのポスターを掲示している」と述べた。また、口腔ケアも大切であると指摘した。高齢者では誤嚥が問題となるが、「咳反射や嚥下反射が落ちることで不顕性誤嚥が生じ得るため、歯磨きなどで口腔内を清潔に保つことが重要である」と話した。(2)体の抵抗力を強める重要なものとして「規則正しい生活」「禁煙」「持病の治療」を挙げた。(3)予防接種を受ける肺炎球菌ワクチンやインフルエンザワクチン、新型コロナワクチンなどのワクチン接種が肺炎予防のベースにあると強調した。医師の役割が大きいワクチン接種 永井氏は、高齢者に推奨されるワクチンとして肺炎球菌ワクチン、インフルエンザワクチン、帯状疱疹ワクチン、新型コロナワクチンの4つを挙げた。「これらの4つの感染症は疾病負荷が大きく、社会に与えるインパクトが大きいため、高齢者に対して積極的にワクチン接種を行うことで、医療機関の負担の軽減や医療費削減につながると考えている」と述べる。しかし、健康に自信のある高齢者はワクチンを打ち控えているという現状があることを指摘した。そこで、医師の役割が重要となる。本邦の家庭医クリニックに通院中の65歳以上の患者を対象として、23価肺炎球菌ワクチン(PPSV23)の接種につながる因子を検討した研究では、PPSV23を知っていること(オッズ比[OR]:8.52、p=0.003)、PPSV23の有効性を認識していること(OR:4.10、p=0.023)、医師の推奨(OR:8.50、p<0.001)が接種につながることが報告されている7)。 また、COVID-19の流行後、永井氏は「コロナワクチンのほかに打つべきワクチンがありますか?」と患者から聞かれることがあったと言う。そこで、COVID-19の流行によって、ワクチン忌避が減ったのではないかと考え、ワクチン接種に対する意識の変化を調査した。COVID-19流行前に肺炎球菌ワクチン、インフルエンザワクチン、帯状疱疹ワクチンを打ったことがない人に、それぞれのワクチン接種の意向を調査した。その結果、新型コロナワクチン0~2回接種の人と比べて、3~4回接種した人はいずれのワクチンについても、接種を前向きに検討している割合が高かった(肺炎球菌ワクチン:27.3% vs.54.5%、p=0.009、インフルエンザワクチン:15.8% vs.62.0%、p<0.001、帯状疱疹ワクチン:18.8% vs.41.1%、p=0.001)。この結果から、「コロナワクチン接種はワクチン接種に対する意識を変えたと考えている」と述べた。 ワクチン接種について、永井氏は「肺炎球菌ワクチンは定期接種となったが、接種率が低く、接種率の向上が求められる。ワクチン接種の推進には、医療従事者の勧めが大きな力となる。コロナワクチン接種はワクチン接種に対する意識を変えた」とまとめた。■参考文献1)厚生労働省. 令和4年人口動態調査2)厚生労働省. 令和3年人口動態調査 死因(死因簡単分類)別にみた性・年齢(5歳階級)別死亡率(人口10万対)3)日本呼吸器学会成人肺炎診療ガイドライン2017作成委員会編集. 成人肺炎診療ガイドライン2017. 日本呼吸器学会;2017.p.10.4)厚生労働科学研究費補助金 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業「重症型のレンサ球菌・肺炎球菌感染症に対するサーベイランスの構築と病因解析 その診断・治療に関する研究」(2023年8月31日アクセス)5)Brundage JF. Lancet Infect Dis. 2006;6:303-312.6)石田 直. 化学療法の領域. 2004;20:129-135.7)Sakamoto A, et al. BMC Public Health. 2018;18:1172.

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第162回 2022年度の医療費46兆円、2年連続過去最高/厚労省

<先週の動き>1.2022年度の医療費46兆円、2年連続過去最高/厚労省2.新学期スタートでも学級閉鎖相次ぐ、新型コロナ感染者数が5類移行後で最多に/厚労省3.ワクチン接種後の副反応の解析用にデータベースを整備へ/厚労省4.30年ぶりの肥満症新薬の登場も、メディカルダイエットの流行が弊害に/厚労省5.生殖補助医療における課題の解決に向け、公的機関の設立を/日本産科婦人科学会6.2021年度の介護費用、過去最大の11兆円に、高齢化が影響/厚労省1.2022年度の医療費46兆円、2年連続過去最高/厚労省2022年度の日本の概算医療費が46兆円に達し、2年連続で過去最高を更新したことが厚生労働省から発表された。前年度に比べて4.0%増加しており、新型コロナウイルスの感染拡大と高齢化が主な影響因子とされている。厚労省によると、新型コロナウイルスのオミクロン株の流行が、とくに影響を与え、発熱外来などの患者数が大幅に増加した。コロナ患者の医療費は前年度の倍近い8,600億円に上った。また、75歳以上の人々が全体の医療費の約39.1%(18兆円)を占め、その1人当たりの医療費が95万6千円であり、75歳未満の24万5千円に比べ3.9倍だった。診療種類別では、医科が34.3兆円(4.5%増)、歯科が3.2兆円(2.6%増)、調剤が7.9兆円(1.7%増)といずれも増加。とくに、医科の外来や在宅などの入院外が16.2兆円(6.3%増)と目立つ伸びをみせた。診療所においては、不妊治療の保険適用が拡大したことで、産婦人科が前年度比41.7%増と大幅に伸びた。このような背景から、医療費の増加が持続している現状において、その抑制方法が課題となっている。とくに新型コロナウイルスの影響と高齢化が相まって、今後も医療費の増加が予想される。参考1)令和4年度 医療費の動向-MEDIAS-(厚労省)2)医療費が過去最大46兆円 4年度概算、コロナ影響(産経新聞)3)医療費1.8兆円増の46兆円 2年連続過去最高 新型コロナが影響(朝日新聞)4)22年度概算医療費46兆円、2年連続で過去最高 前年度比4%増(CB news)2.新学期スタートでも学級閉鎖相次ぐ、新型コロナ感染者数が5類移行後で最多に/厚労省厚生労働省によると、全国の新型コロナの患者数は前週比で1.07倍増となり、とくに岩手、青森、宮城の患者数が多い状況が明らかとなった。新たな入院者数は全国で1万3,501人と、前週よりは減少しているものの、重症患者数は増加している。新型コロナウイルスの感染拡大が続く中で、学校における影響も顕著になっており、とくに新学期が始まった地域で学級閉鎖が相次いでいる。日本学校保健会によると、全国の小中高校と幼稚園、保育園で149クラスが閉鎖されている。長野県では、新学期が始まったばかりで31クラスが閉鎖され、これは5月以降で最多。感染症の専門家は、学校が再開されることで、子供たちでの感染がさらに広がる可能性を指摘している。また、ワクチン接種から時間が経過すると効果が下がるため、高齢者や基礎疾患のある人は、次の接種が必要になると警告している。自治体や学校は、発熱や倦怠感などがある場合には、無理に登校しないよう呼びかけており、基本的な感染対策の徹底を求めている。参考1)新型コロナで学級閉鎖相次ぐ 「5類移行」後、最多更新の地域も(毎日新聞)2)新型コロナ 全国の感染状況 前週の1.07倍 2週連続の増加(NHK)3)コロナ感染者数、2週続けて増加 前週比1.07倍 5類後最多に(朝日新聞)3.ワクチン接種後の副反応の解析用にデータベースを整備へ/厚労省厚生労働省は、9月1日に厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会を開き、自治体が管理している予防接種の記録や、国が保有する副反応の情報などをまとめた全国的なデータベースを作成する方針を明らかにした。これまでの手書きでの報告を改訂し、効率的に情報収集を行う予定。データベースには、接種記録や副反応疑い報告などが匿名化されて格納され、他のデータベースと連携し、予防接種の有効性・安全性の調査・研究が可能となるため、大学研究機関などに第三者提供も行われる予定。これらの取り組みで、ワクチン接種後の副反応や重篤な有害事象の発生について、副反応の情報と接種歴を結びつけて詳細な分析を可能になる見込み。また、データベースの情報は、レセプト(診療報酬明細書)とも結びつけられ、接種した人としていない人の間で副反応が疑われる症状が起きる割合に差があるかを調査することも計画されている。厚労省は、このデータベースを令和8年度中に稼働させ、ワクチンの有効性や安全性の分析に役立てる方針としている。参考1)予防接種データベースについて(厚労省)2)予防接種データベース「整備イメージ」提示 厚労省、報告様式改訂し情報収集を効率化(CB news)3)ワクチン分析 自治体や国保有の情報データベース作成へ 厚労省(NHK)4.30年ぶりの肥満症新薬の登場も、メディカルダイエットの流行が弊害に/厚労省今春、肥満症治療の新薬「セマグルチド(商品名:ウゴービ)」が承認され、1992年に承認されたマジンドール(同:マサノレックス)以来、約30年ぶりの肥満症治療の新薬の登場で、肥満症の治療は大きく進歩している。さらに糖尿病治療薬として承認された持続性GIP/GLP-1受容体作動薬「チルゼパチド(同:マンジャロ)」は20%の体重減少効果が確認されており、GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)受容体作動薬は、糖尿病の治療だけでなく、肥満症の治療としても注目されている。その一方、近年、痩せるために糖尿病薬を処方する「メディカルダイエット」が横行し、その弊害として欠品が問題となっている。厚生労働省は、この問題に対処するために、医療機関や卸業者に対してGLP-1受容体作動薬について「買い込みを控え適正使用」を呼びかけ、適正な使用と供給の優先を求めている。メーカー側は「医師の処方権」や「独占禁止法」により、適応外処方を厳しく規制することができないとしている。しかし、GLP-1受容体作動薬が適応外使用での処方や適応外でありながら大量に広告されていることから有害事象の発生など懸念が広がっている。参考1)GLP-1 受容体作動薬の在庫逼迫に伴う協力依頼(厚労省)2)30年ぶりの肥満症新薬と、「メディカルダイエット」が招く弊害(毎日新聞)3)“体重20%減”のダイエット効果があだに、糖尿病薬「空前の品不足」で診療に支障も(ダイヤモンド・オンライン)5.生殖補助医療における課題の解決に向け、公的機関の設立を/日本産科婦人科学会日本産科婦人科学会は、生殖補助医療の倫理的課題やデータ管理に対応するための公的機関設立の準備を始めたと発表した。医療技術の進展に伴い、第三者からの精子や卵子の提供など、新たな治療法が増加している一方で、倫理的な議論や法制度の整備が遅れている現状に対処するよう国側に強く働きかけたいとして同学会が決定した。1978年に世界で初めて体外受精が成功して以降、多くの国では親子関係や提供者の情報管理に関する法制度が整備されているのに対し、わが国では、生殖補助医療に関する法整備が世界に比べて遅れており、法整備が進まず、議論が始まったのは比較的最近であり、その結果としての法制度も不十分な状態が続いている。2020年には「生殖補助医療法」が成立し、一定の規定は確立されたが、提供者と子の「出自を知る権利」などがいまだに十分に考慮されていないのが現状。この法には2年以内に詳細を検討するという付則があったが、その期限が過ぎても議論は進展していない状態となっている。具体的には、新たな改正案で提案されている公的機関(独立行政法人)は、提供者の氏名や住所、生年月日などを100年間保存するよう求められている。しかし、この機関が情報を開示するかどうかは、提供者の同意に依存しており、その点が問題視されている。また、法案では提供を受けられるのは法律上の夫婦に限定されているなど、性的マイノリティーや代理出産に対する規定も不明確となっている。これらの課題を解決するためには、公的機関の設立だけでなく、広範な倫理的、法的議論が必要であり、産婦人科学会は国や関連団体に対して、専門の調査委員会を設けて、これらの課題に十分に議論を重ねることを求めている。参考1)“生殖補助医療の課題対応” 学会 公的機関の設立準備委(NHK)2)世界から遅れ 生殖補助医療法の必要性を指摘してきた識者の憂い(毎日新聞)3)生殖補助医療法、2年の改正期限過ぎるも議論混迷、次期国会どうなる(朝日新聞)6.2021年度の介護費用、過去最大の11兆円に、高齢化が影響/厚労省厚生労働省は、2021年度の介護費用(保険給付と自己負担を含む)が11兆2,838億円に達し、過去最大を更新したと発表した。この額は2年連続で11兆円を超え、高齢化に伴い、介護サービスの利用者が増加している。同時に、介護保険の給付費(利用者負担を除く)も前年度比2.0%増の10兆4,317億円となり、これもまた過去最高を更新した。介護や支援が必要とされる人々も、21年度末時点で前年度比1.1%増の690万人となり、うち601万人が75歳以上であることが明らかとなり、これも過去最多の数値。給付費の内訳については、訪問介護などの「居宅サービス」が4兆9,604億円で最も多く、次いで特別養護老人ホームなどの「施設サービス」が3兆1,938億円となっている。高齢化が進む中で、介護費用と給付費の増加は持続的な問題となっている。とくに、75歳以上の高齢者が多くを占めていることから、今後もこの傾向は続くと予想される。参考1)令和3年度 介護保険事業状況報告(厚労省)2)介護費、最大の11兆円 21年度(日経新聞)3)介護給付費、10兆4千億円 21年度、高齢化で更新続く(共同通信)

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ファイザーのXBB.1.5対応コロナワクチン承認/厚労省

 厚生労働省は9月1日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のオミクロン株対応ワクチンの一部変更について承認したことを発表した。今回の承認で、ファイザーのオミクロン株XBB.1.5系統のスパイクタンパク質をコードするmRNAを含む1価ワクチンが追加された。一変承認されたのは対象年齢別に、「コミナティRTU筋注」、「コミナティ筋注5~11歳用」、「コミナティ筋注6ヵ月~4歳用」の3タイプとなる。いずれも2023年7月7日に製造販売承認事項一部変更申請されていたもので、9月20日以降の秋開始接種に使用される。 一変承認されたワクチンの概要は以下のとおり。(1)販売名:コミナティRTU筋注一般名:コロナウイルス(SARS-CoV-2)RNAワクチン(有効成分名:トジナメラン及びリルトジナメラン、トジナメラン及びファムトジナメラン又はラクストジナメラン)(下線部追加)接種対象者:12歳以上の者効能・効果:SARS-CoV-2による感染症の予防用法・用量:初回免疫として、1回0.3mLを合計2回、通常、3週間の間隔で筋肉内に接種する。追加免疫として、1回0.3mLを筋肉内に接種する。接種間隔:通常、前回のSARS-CoV-2ワクチンの接種から少なくとも3ヵ月経過した後に接種することができる。(2)販売名:コミナティ筋注5~11歳用一般名:コロナウイルス(SARS-CoV-2)RNAワクチン(有効成分名:トジナメラン、トジナメラン及びファムトジナメラン又はラクストジナメラン)(下線部追加)効能・効果:SARS-CoV-2による感染症の予防用法・用量:本剤を日局生理食塩液1.3mLにて希釈する。初回免疫として、1回0.2mLを合計2回、通常、3週間の間隔で筋肉内に接種する。追加免疫として、1回0.2mLを筋肉内に接種する。接種間隔:通常、前回のSARS-CoV-2ワクチンの接種から少なくとも3ヵ月経過した後に接種することができる。(3)販売名:コミナティ筋注6ヵ月~4歳用一般名:コロナウイルス(SARS-CoV-2)RNAワクチン(有効成分名:トジナメラン、トジナメラン及びファムトジナメラン又はラクストジナメラン)(下線部追加)効能・効果:SARS-CoV-2による感染症の予防用法・用量:本剤を日局生理食塩液2.2mLにて希釈する。初回免疫として、1回0.2mLを合計3回、筋肉内に接種する。2回目は通常、3週間の間隔で、3回目は2回目の接種から少なくとも8週間経過した後に接種する。追加免疫として、1回0.2mLを筋肉内に接種する。接種間隔:通常、前回のSARS-CoV-2ワクチンの接種から少なくとも3ヵ月経過した後に接種することができる。(注)トジナメラン、リルトジナメラン、ファムトジナメラン及びラクストジナメランは、それぞれSARS-CoV-2の起源株、オミクロン株BA.1系統、オミクロン株BA.4-5系統及びオミクロン株XBB.1.5系統のスパイクタンパク質をコードするmRNA。

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コロナ後遺症、1年後は約半数、急性期から持続は16%/CDC

 米国疾病予防管理センター(CDC)が実施したコロナ罹患後症状(コロナ後遺症、long COVID)に関する多施設共同研究において、COVID-19に罹患した人の約16%が、感染から12ヵ月後も何らかの症状が持続していると報告した。また、感染から一定期間を置いて何らかの症状が発症/再発した人を含めると、感染から12ヵ月時点での有病率は約半数にも上った。本結果はCDCのMorbidity and Mortality Weekly Report(MMWR)誌2023年8月11日号に掲載された。コロナ後遺症で何らかの症状が発症/再発した人は1年後で約半数に上った 本研究では、前向き多施設コホート研究であるInnovative Support for Patients with SARS-CoV-2 Infections Registry(INSPIRE)の2020年12月~2023年3月のデータが用いられた。米国8施設において、研究登録時に新型コロナ様症状を発症した18歳以上の1,296例(SARS-CoV-2検査陽性1,017例と検査陰性279例)を対象に、長期症状および転帰を評価した。ベースライン調査、3ヵ月、6ヵ月、9ヵ月、12ヵ月時点の追跡調査を行い、継続する症状と、新たに発症/再発した症状を区別した。アウトカムは自己申告による8カテゴリーの症状:(1)頭、目、耳、鼻、喉(HEENT)、(2)体質、(3)肺、(4)筋骨格系、(5)消化器、(6)循環器、(7)認知障害、(8)極度の疲労。検査陽性群と検査陰性群の統計学的比較はχ2検定を用いて評価した。追跡期間中にSARS-CoV-2検査結果が陽性になった参加者は解析から除外した。 コロナ後遺症に関する多施設共同研究の主な結果は以下のとおり。・6,075例が登録され、12ヵ月間のすべての調査を完了し、追跡期間中にコロナに再感染しなかった参加者は1,296例。女性67.4%(842例)。非ヒスパニック系白人72%(905例)。年齢の比率は、18~34歳39.3%、35~49歳31.1%、50~64歳20.7%、65歳以上8.7%。・検査陽性群では、検査陰性群と比べて女性の割合が低く(陽性群:65.2% vs.陰性群75.2%、p<0.01)、既婚またはパートナーと同居(60.3% vs.48.9%、p<0.01)、コロナ急性期症状での入院(5.6% vs.0.4%、p<0.01)の割合が高かった。・症状の持続について、ベースライン時では陽性群のほうが陰性群よりも各症状カテゴリーの有病率が高く、3ヵ月時点で大幅に減少し、6~12ヵ月にかけて徐々に減少し続けた。・12ヵ月時点で、何らかの症状が急性期から持続していると報告したのは、陽性群18.3%、陰性群16.1%で、統計学的な有意差は認められなかった。・12ヵ月時点での「極度の疲労」の持続は、陰性群が有意に高かった(陽性群3.5% vs.陰性群6.8%)。・感染から一定期間を置いて何らかの症状が発症/再発した人は、陽性群と陰性群共に、12ヵ月時点で約半数に上った。・感染から一定期間後の症状の発症/再発について、症状カテゴリー別の有病率は、陽性群と陰性群共に、「極度の疲労」以外は各検査時点で同程度であった。・「極度の疲労」の有病率は、9ヵ月と12ヵ月時点において、陽性群よりも陰性群のほうが高かった。 著者は本結果について、「陽性群と陰性群を評価した本調査において、多くの参加者は急性期から6ヵ月以上経て新たな症状を経験しており、コロナ後遺症の有病率は相当なものである可能性が示唆された。認知障害と極度の疲労は、6ヵ月後に出現する一般的な症状だ。時間の経過とともに消失する症状と出現する症状を区別することは、コロナ後遺症を特徴付けるのに役立つ。一方、単一時点での測定は、疾病の真の影響を過小評価したり、誤った特徴付けをしてしまうことを示唆している」としている。

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ファイザーXBB.1.5対応ワクチン、EMAで生後6ヵ月以上に推奨

 米国・Pfizer社とドイツ・BioNTech社は8月30日付のプレスリリースにて、両社のオミクロン株XBB.1.5対応1価の新型コロナワクチン「COMIRNATY Omicron XBB.1.5」について、欧州医薬品庁(EMA)の医薬品委員会(CHMP)が、5歳以上に対して、過去の新型コロナワクチンの接種歴の有無にかかわらず単回投与すること、および生後6ヵ月~4歳の小児に対して、過去の接種回数に応じて投与することを推奨したと発表した。欧州委員会(EC)は本推奨を検討のうえ、承認について近く最終決定を下す予定。 本ワクチンの生後6ヵ月~4歳の小児への投与は、初回シリーズ(3回)のうちの一部または3回すべて、もしくは初回シリーズが完了している小児や感染歴のある小児に対しては、追加接種として単回投与することが推奨されている。 CHMPの推奨は、両社の新型コロナワクチンの安全性と有効性を支持するこれまでの臨床試験、非臨床試験、およびリアルワールドデータのエビデンスに基づく。これらのデータには、XBB.1.5対応1価ワクチンが、BA.4/5対応2価ワクチンと比較して、XBB.1.5、XBB.1.16、XBB.2.3を含む複数のXBB亜系統に対してより優れた反応を示す前臨床試験のデータも含まれている。同試験のデータでは、世界保健機関(WHO)によって「注目すべき変異株(VOI)」に指定されているEG.5.1(エリス)に対しても有効性を示すことが認められている。 本XBB.1.5対応1価ワクチンは、米国でも生後6ヵ月以上を対象として米国食品医薬品局(FDA)に申請されており、近く承認が決定される予定。日本を含む世界各地の規制当局にも申請中だ。

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新型コロナウイルスに伴う肺炎で入院した患者を対象に、標準治療に免疫調整薬を併用した効果(解説:寺田教彦氏)

 本研究は、2020年10月から2021年12月までに新型コロナウイルス肺炎で入院した患者に対して、標準治療に加えて、アバタセプト、cenicriviroc、あるいはインフリキシマブを追加した治療群とプラセボ群を比較した試験であり、和文要約は「コロナ肺炎からの回復、アバタセプトやインフリキシマブ追加で短縮せず/JAMA」にまとめられている。 本研究は、マスタープロトコルを使用したランダム化二重盲検プラセボ対照比較試験で、プライマリーエンドポイント(1次アウトカム)は新型コロナウイルス肺炎からの28日目までの回復期間(8段階の順序尺度を使用して評価)と設定されたが、標準治療にアバタセプト、cenicriviroc、あるいはインフリキシマブを追加してもプラセボ群に比較して短縮しなかった。しかし、本研究結果のうち、アバタセプトとインフリキシマブのセカンダリーエンドポイント(2次アウトカム)である28日死亡率および14日後の臨床状態は、統計的な有意差こそ認められなかったものの、プラセボに対しては良好な結果だった。 今回の試験結果は、1次アウトカムに対する効果を示せなかったが、2次アウトカムは良好そうに見える結果でもあり、単純にNegative studyと片付けてしまわずに、今回のような結果になった理由を考える必要はあるだろう。本論文のEDITORIAL(Kalil AC, et al. JAMA. 2023;330:321-322.)でも、この1次アウトカムと2次アウトカムのねじれに対する解釈を提案している。 さて、本研究結果ではアバタセプトとインフリキシマブのセカンダリーエンドポイントは良好に見えたと記載はしたものの、この結果のみでは実臨床で新型コロナウイルスに伴う肺炎患者に対する臨床プラクティスを変更するほどの影響はないと考える。 では、今後どのような研究結果が判明すれば臨床プラクティスを変更しうるかを考えてみる。まずアウトカムは、今回のセカンダリーアウトカムである28日死亡率の低下や14日後の臨床状態の改善を設定することがよいだろう。そして、本研究で有意差を示すことができなかった理由は、検出力が不足していた可能性が考えられる。本研究結果を参考に28日死亡率の低下、14日後の臨床状態の改善で有意差を示すことができる参加者人数を再計算して、臨床試験を実施し、アウトカムの改善を再現することができれば、臨床のプラクティスとして検討してもよさそうである。 ただし、2023年8月の本原稿執筆時点としては、わざわざそのような臨床試験を行うメリットは乏しいと考える。 理由を説明するうえで、新型コロナウイルス肺炎に対する免疫抑制薬・免疫調整薬の役割について振り返ってみようと思う。重症COVID-19患者では、肺障害および多臓器不全をもたらす全身性炎症反応が宿主免疫反応により発現するが、コルチコステロイドの抗炎症作用薬が有効であることがRECOVERY試験(RECOVERY Collaborative Group. N Engl J Med. 2021;384:693-704.)で示された。本邦でも中等症II以上の患者で、宿主免疫反応に対して、抗ウイルス薬のレムデシビルと共にデキサメタゾンやバリシチニブ(Kalil AC, et al. N Engl J Med. 2021;384:795-807., Wolfe CR, et al. Lancet Respir Med. 2022;10:888-899.)が用いられている。その後、ステロイド薬とトシリズマブの併用により全死亡率が低下する可能性も示唆され(RECOVERY Collaborative Group. Lancet. 2021;397:1637-1645., WHO Rapid Evidence Appraisal for COVID-19 Therapies (REACT) Working Group. JAMA. 2021;326:499-518.)、本邦の「COVID-19に対する薬物治療の考え方」や、米国国立衛生研究所(NIH:National Institutes of Health)の「COVID-19治療ガイドライン」でもデキサメタゾン、バリシチニブ、トシリズマブは治療薬の候補に記載されている。 中等症II以上の新型コロナウイルス肺炎に対する治療薬としては、上記のようにエビデンスのある薬剤がすでにあり、これらの薬剤の効果を上回ることが期待される薬剤でなければ、わざわざ費用をかけて臨床試験を行うメリットは乏しいだろう。 また、新型コロナウイルスの変異株の特徴とワクチン・抗ウイルス薬の効果についても考えてみる。 宿主免疫反応による肺炎による死亡者の増加は、主にデルタ株流行下以前で問題となることが多かった。現在の本邦における新型コロナウイルスの亜系統検出割合はEG.5.1を含めたXBB系統が上昇傾向であり、免疫回避の高いオミクロン株が主流である(国立感染症研究所感染症疫学センター. 新型コロナウイルス感染症サーベイランス週報: 発生動向の状況把握. 2023年第31週[2023年7月31日~2023年8月6日])。オミクロン株流行下でも、まれにデルタ株流行下のようなCOVID-19肺炎患者を診療する機会はあるが、頻度は低く、本研究の対象となったようなCOVID-19に対する宿主免疫反応が原因で中等症Ⅱ~重症となるような患者層は、適切なワクチン接種や抗ウイルス薬の投与が行われるならば、今後も臨床現場で診療する機会は以前よりは少なくなると考える。 以上より、本研究は、臨床診療を担当する立場からは本邦の新型コロナウイルス感染症治療に与える影響は乏しい試験と考えるが、臨床研究を担当する立場としては、パンデミック状況下で複数の治療候補薬がある際に、適切かつ効果的なランダム化プロセスとバイアスを最小限にする工夫をした試験であり、今後の臨床研究でも参考にすることができる研究デザインと考える。

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第60回 新型コロナBA.2.86「ピロラ」が結構マズイ説

「ピロラ」Unsplashより使用先週EG.5通称「エリス」の話をしたばかりですが、BA.2.86通称「ピロラ」がネット上で結構話題になっています。な、なんだ「ピロラ」って…と思って調べてみたら、ギリシャ神話と関係なさそうな感じです。どうやら、小惑星の名前から付けたということが命名者のポスト(ツイート)に書かれていました。(参考:Wikipedia 1082 Pirola)8月30日の時点で、GISAIDにはBA.2.86は21株が登録されており、デンマーク10株、アメリカ3株、南アフリカ2株、スウェーデン2株、ポルトガル2株、イスラエル1株、イギリス1株です。日本からの検出はありませんが、アメリカの症例は日本からの渡航例です。離れた地域から短期間にこれだけ検出されていることや、以下に述べる変異部位の多さによる免疫回避能の強さを考えると、ビビっている専門家が多いのがこの変異ウイルスです。変異が多いオミクロン株BA.2の子孫に当たるBA.2.86「ピロラ」ですが、変異部位が多いです。過去に流行したオミクロン株の系統は、直前の流行株と比べてスパイクタンパクにわずかな変異がある程度だったのですが、BA.2.86はオミクロン株BA.1が登場したときと同じくらいのインパクトの変異数です。BA.2.86「ピロラ」の特徴1,2,3)BA.2.86は変異部位が多く、祖先と思われるBA.2や現在流行しているXBB系統の変異型とも離れている。ゲノムサーベイランスを実施している複数の国で、渡航歴のない人にBA.2.86が急速に出現していることから、世界中で伝播していると推測される(アメリカでは日本からの渡航例で確認)。配列は世界中で類似しており、比較的最近出現し、急速に増加したことを示している。XBBと比べても、新たに34の変異を獲得しており、免疫回避能が大きい可能性がある。これまで効果が確認されている治療薬は有効である。新型コロナワクチン接種は重症化や入院予防に有効と考えられる。ほかの変異ウイルスと比べて重症化するというエビデンスはない。マスク等の有効な感染対策はこれまでどおりである。8月23日時点で、アメリカにおいて増えているCOVID-19入院例の原因はBA.2.86ではない(まだそこまで流行は拡大していない)。Nature誌のBA.2.86の解説3)によると、もしこの変異ウイルスが今後蔓延して、免疫回避能が高かったとしても、基本的に重症化する懸念は大きくないとされています。ただ、オミクロン株BA.1が登場したときのように、かなりの数の感染者が出てしまうことで、医療が再び逼迫する可能性はあります。現時点では、WHOはBA.2.86を監視下の変異株(VUM: Variants Under Monitoring)という位置付けにしています4)。参考文献・参考サイト1)UK Health Security Agency:Risk assessment for SARS-CoV-2 variant V-23AUG-01(or BA.2.86)2)CDC:Risk Assessment Summary for SARS CoV-2 Sublineage BA.2.863)Callaway E. Why a highly mutated coronavirus variant has scientists on alert. Nature. 2023 Aug 21.4)WHO:Currently circulating variants under monitoring(VUMs)(as of 17 August 2023)

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コロナ禍の大学生のメンタルへの影響は2021年時点の4年生が最大

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの大学生のメンタルヘルスへの影響を、学年別に検討した結果が報告された。2021年時点の4年生に、メンタルヘルスへの影響が最も強く現れていたという。岐阜大学保健管理センターの堀田亮氏らの研究によるもので、詳細は「Psychiatry Research」7月号に掲載された。 日常生活を急変させたCOVID-19パンデミックが、人々のメンタルヘルスに大きな影響を与えたことについて、多くの研究報告がなされている。ただし、大学生のメンタルヘルスへの影響を経時的かつ学年別に比較検討した研究は見られない。一方、岐阜大学では毎年、全学生を対象に健康状態のオンライン調査を実施している。堀田氏らは今回そのデータを用いて、大学2~4年生のパンデミックによるメンタルヘルスへの影響を詳細に検討した。 解析対象は6,441人(平均年齢20.27歳、男性48.8%)で、2~4年生がほぼ3分の1ずつを占めていた。調査の実施時期は各年の2月で、2020年は国内ではまだパンデミックに至っておらず、大学では平常の講義が行われていた。2021年はリモート講義が行われている時期で、2022年は正常に回復する段階での調査だった。 メンタルヘルス状態の評価には、大学生の心理カウンセリングのために開発された指標(CCAPS)の日本語版を用いて、過去2週間の状態をオンラインで回答してもらった。解析は、8領域のサブスケール(抑うつ、全般性不安、社会不安、食事関連の懸念、家族関係のストレス、飲酒習慣、学業ストレス、敵意)について実施。回答者が「全く当てはまらない」~「かなり当てはまる」の5段階から選択した結果を、0~4点のリッカートスコアとして判定し、スコアが高いほどストレスをより強く感じていると判断した。 調査年・学年別に解析した結果、2~4年生の全てにおいて、2021年は2020年よりCCAPSのサブスケールのスコアが総じて高く、2022年にはやや低下するという傾向が認められた。ただし、飲酒習慣を表すスコアは、いずれの学年でも2020年が最も高値であった。この点について著者らは、飲酒行動につながりやすいサークル活動やイベント開催は、2020年の春以降に減少したためではないかとの考察を述べている。 なお、2年生では食事関連の懸念が2022年、家族関係のストレスは2020年に最高値であり、3年生では食事関連の懸念が2022年に最高値という、一部の例外的な変化が認められた。ただし、4年生については飲酒習慣を除く全てのサブスケールのスコアが、2021年に最高値であり、2020年や2022年のスコアとの比較で有意差が認められた。また、2021年の4年生のスコアは、2年生や3年生よりも高値であった。例えば、2021年の抑うつスコアは2年生が0.89±0.73、3年生0.94±0.77であるのに対して4年生は1.11±0.83であり、全般性不安も同順に0.97±0.71、1.00±0.74、1.16±0.75だった。 以上に基づき著者らは、「2021年に大学2~4年生の全てでメンタルヘルスの悪化が観察され、上級学年でその傾向が強く、特に4年生で顕著だった」と結論付けている。また、本研究は「大学生の学年別にパンデミック前後の影響を比較検討した初の研究」であり、「上級学年の大学生のメンタルヘルスを適切にサポートするための公衆衛生プログラム策定に向けた基礎データとなり得る」と述べている。

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4年ぶりの一時帰国、変わるもの、変わらないもの【臨床留学通信 from NY】第51回

第51回:4年ぶりの一時帰国、変わるもの、変わらないもの8月上旬に、日本に一時帰国しました。実に4年ぶり、2019年7月以来です。2020年2~3月から新型コロナが猛威を振るい始め、2022年9月までは日本入国時に陰性証明書も必要であったことから、一時帰国は控えていました。また、帰らなくなるとだんだんと米国に適合し、日本の良さを忘れてきてしまい、帰らなくてもいいかな、と思ってきてしまいます。両親などとはビデオチャットで話しているとはいえ、さすがに4年も帰らないのは、ということもあり、一念発起して家族共々一時帰国しました。昨今の物価上昇と、夏休みの時期というのもあり、直行便で2,000ドル(8月18時点で1ドル145円なので29万円!)とかなり高額です。そこはやむを得ません。帰国時にはビザの更新も原則必要で、円安の影響もあり家族4人で10万円以上かかります。実際に帰ると久々の時差ボケもありますが、とにかく暑かったです。連日35度を超えて干からびそうな日々でした。車の免許も切れてしまったため、更新するまで移動は歩きも多く疲弊してしまいました。コロナの影響のため、期限が切れてしまっていても特別処置で更新程度の手続きで済んだのはよかったです。ほかには暴飲暴食ではありませんが、普段あまり食べられない新鮮な納豆、生卵はもちろん、お寿司、焼肉、うなぎ、日本酒といったものを食べ過ぎてしまいました。日本ではマスクが多いと聞いておりましたが、電車でも予想よりマスクをしている人が少なかった印象で、暑さの影響もあるのでしょうか。滞在は2週間の休暇で子供たちと両親や親戚、祖母、姉家族と過ごしておりましたが、やはり両親や祖母が4年分歳を取ってしまったな、というところは認識せざるを得ませんでした。それでも孫、ひ孫を見せることができたのはよかったと思います。また少ない時間ではありますが、大学や初期研修の同期たちとも久々に会うことができ、そこはやはり変わらないなと思いました。日本の物価の安さも変わらないという印象で(それでも昨年以降は上がっているようですが)、ビッグマックの価格が欧米の6割程度とよく言われるように、欧米諸国からは安くて良いものが手に入る国として見なされてしまっているようです。私としては米国で働き続けるのか、選択肢を迫られた時にいろいろ考えさせられます。といっても、現在ドル建てでお給料をもらっていても余るどころか減る一方なので、足りない分を円から補おうとすると、現状では円安がつらいところです。一般的な臨床研究の留学は2~3年、基礎研究で3~5年でしょうか。渡米して6年目に突入するといろいろ考えることが増えてきます。ColumnCirculation誌の姉妹誌であるCirculation Cardiovasc Imaging 誌(IF 8.5)に、Montefioreの研究チームで投稿した冠動脈石灰化スコアに関する論文が、先日発表されました。私は主に解析を担当し、共同筆頭著者として参加しました。米国では予防循環器学(preventive cardiology)が発達しており、このような冠動脈の石灰化と予後をみるような研究が盛んに行われています。発症してしまったものを治すだけでなく、ならないようにどう予防するかが重要な時代になってきています。私のいる病院はマンハッタン島から北東にあるブロンクスというエリアで、ヒスパニック系や黒人が患者の4分の3を占めており、米国大都市の現状を反映していると思います。Fattouh M, Kuno T, et al. Interplay Between Zero CAC, Quantitative Plaque Analysis, and Adverse Events in a Diverse Patient Cohort. Circ Cardiovasc Imaging. 2023;16:e015236.

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ファイザーとモデルナ、高齢者により安全なワクチンはどっち?

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)mRNAワクチンの安全性と有効性は、モデルナ社製ワクチンでもファイザー社製ワクチンでも高いとされている。しかし、高齢者におけるワクチン接種後の有害事象の発生という点では、軍配はモデルナ社製ワクチンに上がるとする研究結果が報告された。米ブラウン大学公衆衛生大学院、老年学・ヘルスケア研究センターのDaniel Harris氏らが米国立老化研究所の資金提供を受けて実施した研究で、詳細は、「JAMA Network Open」に8月2日掲載された。 Harris氏は、「COVID-19にまつわる有害事象の発生リスクは、新型コロナウイルスに自然感染した場合の方が、mRNAワクチンを接種した場合よりもはるかに高い。しかし、世界人口の70%以上が何らかのCOVID-19ワクチンを接種した今となっては、ワクチンの供給についてさほど心配する必要はない」と説明する。そして、現時点で必要とされているのは、どのワクチンを接種するかを決める際の判断材料となる、ワクチンの安全性と有効性に関する詳細な情報だと強調する。 今回の研究でHarris氏らは、mRNAワクチンの1回目接種を終えた、66歳以上の出来高払い方式のメディケア受益者638万8,196人(平均年齢76.3歳、女性59.4%)を対象に、モデルナ社製ワクチンとファイザー社製ワクチン接種後の有害事象の発生について比較を行った。対象者の38.1%はプレフレイル(フレイル前段階)、6.0%はフレイルと判定されていた。また、339万704人がファイザー社製ワクチンを、299万7,492人がモデルナ社製ワクチンを接種していた。有害事象としては、深部静脈血栓症、肺塞栓症、血小板減少性紫斑病、ギラン・バレー症候群、急性心筋梗塞など12種類について検討した。 検討した12種類の有害事象の発生率は全て1%以下であり、最も高かったのは深部静脈血栓症の0.27%と肺塞栓症の0.23%であった。あらゆる因子を調整したモデルを用いた解析からは、モデルナ社製ワクチンの方が肺塞栓症リスクが4%低く、また、血栓塞栓症の複合(急性心筋梗塞、深部静脈血栓症、出血性脳卒中、非出血性脳卒中、肺塞栓症)のリスクも2%低いことが示された。モデルナ社製ワクチンはさらに、COVID-19と診断されるリスクがファイザー社製ワクチンよりも14%低かった。ただし、このようなリスク低下は、フレイルと判定された人では6%にとどまっていた。 Harris氏は、「この研究結果は、公衆衛生の専門家が、フレイルのある人も含めた高齢者にとって、どのmRNAワクチンが望ましいかを検討する上で役に立つ」と話す。同氏はまた、健康に慢性的な問題を抱えていることの多い高齢者は、臨床試験から除外されることが多いことを指摘し、「介護施設に入居している高齢者ではCOVID-19の重症化リスクが高いことを考えると、高齢者でのワクチンの安全性と有効性を調べることは極めて重要である」としている。 では、なぜモデルナ社製ワクチンの方が、わずかではあるが有害事象の発生リスクが低かったのか。Harris氏は、「安全性と有効性は相互に関連している。モデルナ社製ワクチンを接種した患者の方が、ファイザー社製ワクチンを接種した人よりも肺塞栓症やその他の有害事象のリスクがわずかに低かったのは、モデルナ社製ワクチンの方がCOVID-19罹患リスクを低減させる効果が高いことに起因する可能性がある」と話している。 ただし、この研究では、有害事象の発生リスクの違いが、安全性または有効性のどちらに起因するのかについて、結論付けることはできなかった。また、本研究で検討されたのはmRNAワクチンの初回投与後についてだけであり、研究グループは、さらなる研究が必要だとしている。

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オミクロン感染した高齢者、再感染リスクが高い!?

 高齢者は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチンの接種率が高いにもかかわらず、SARS-CoV-2オミクロン株への感染および重症化のリスクが高く、とくに介護施設などで共同生活をしている高齢者はそのリスクが高いことが知られている。また、高齢者において、SARS-CoV-2オミクロン株感染後のハイブリッド免疫(ワクチン接種と感染をいずれも経験した人の免疫)の再感染に対する予防効果は明らかになっていない。そこで、カナダ・McMaster UniversityのJessica A. Breznik氏らの研究グループは、介護施設や老人ホームに入所しているワクチン接種済みの高齢者を対象に、SARS-CoV-2感染リスクに関連する因子を検討した。その結果、SARS-CoV-2オミクロン株への感染歴を有する高齢者は再感染リスクが低下せず、むしろ高かったことが明らかになった。本研究結果は、eClinicalMedicine誌オンライン版2023年8月21日号で報告された。 カナダ・オンタリオ州の介護施設または老人ホームに入所している高齢者で、ワクチン接種を4回受けている750例を対象に、2022年7月1日~9月13日の期間におけるSARS-CoV-2感染率を後ろ向きに調査し、感染リスクに関連する因子を検討した。また、観察期間前3ヵ月(2022年4月1日~6月30日)において、318例を対象に体液性免疫とT細胞免疫について検討した。 主な結果は以下のとおり。・対象者の年齢中央値は87.0歳、女性の割合は64.4%(483例)、介護施設入所者の割合は57.1%(428例)であった。・観察期間において、750例中133例(17.7%)にSARS-CoV-2感染が確認された。・観察期間においてSARS-CoV-2感染が認められなかった617例のうち、観察期間前にSARS-CoV-2オミクロン株への感染歴を有する割合は8.9%(55例)であった。一方、観察期間に感染が認められた133例のうち、観察期間前にSARS-CoV-2オミクロン株への感染歴を有する割合は57.1%(76例)であった。・Cox比例ハザードモデルを用いてSARS-CoV-2感染リスクに関連する因子を検討した結果、SARS-CoV-2オミクロン株への感染歴を有する人は、観察開始9~29日後におけるSARS-CoV-2感染リスクが有意に高かった(ハザード比[HR]:47.67、95%信頼区間:23.73~95.76、p<0.0001)。また、mRNA-1273とBNT162b2を組み合わせてワクチンを4回接種した人は、BNT162b2のみで4回接種した人よりも、観察期間中のSARS-CoV-2感染リスクが低かった(同:0.49、0.26~0.90、p=0.023)。・一方、年齢、性別、居住形態、過去の居住地でのアウトブレイクの有無、オミクロン株以前の株への感染歴、4回目のワクチン接種日は、観察期間中のSARS-CoV-2感染リスクとの関連が認められなかった。・SARS-CoV-2オミクロン株への感染歴を有する人のうち、再感染が認められた人は血清中の抗SARS-CoV-2受容体結合ドメインIgG抗体価、抗スパイクタンパク質IgA抗体価が有意に低く(それぞれp=0.0009、0.0072)、オミクロン株BA.1に対する中和抗体価も低かった(p=0.0072)。すなわち、再感染者は体液性免疫応答の誘導が弱かった。

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第161回 新型コロナワクチンの秋接種、9月から全世代対象で/厚労省

<先週の動き>1.新型コロナワクチンの秋接種、9月から全世代対象で/厚労省2.医師の過労死問題に加藤厚労相「適切な労働時間管理」を求める/兵庫県3.新型コロナ診療手引き改訂、医療従事者の就業制限と治療薬の使用を明確化/厚労省4.感染症対策の体制を大幅刷新、尾身 茂氏が一線を退く/政府5.看護師不足とハラスメント対策に、看護師確保の基本指針を初改定へ/厚労省6.人材不足が深刻化する日本の医療・福祉業界、対策を模索/厚労省1.新型コロナワクチンの秋接種、9月から全世代対象で/厚労省厚生労働省は、全世代を対象にした追加接種を9月から開始すると発表した。対象となるのは、生後6ヵ月以上のすべての人で、新たに承認申請されたオミクロン株の亜系統「XBB」に対応するワクチンを使用する。これまで高齢者や基礎疾患のある人には「努力義務」が適用されていたが、9月からの接種では、この「努力義務」は適用されない見通し。なお、接種は今年度内は無料で行われるが、来年度以降の接種費用については、「定期接種」に変更される可能性があり、場合によっては接種費用の一部自己負担が必要となる可能性がある。東京都では9月20日から接種を開始すると発表しており、接種会場は都庁の北展望室をはじめとした複数の場所で行われる見込み。予約はインターネットで8月28日から開始され、使用するワクチンは米ファイザー製、米モデルナ製、および米ノババックス製の3種類とされている。政府は、早めの予約と各自治体からの最新情報に注意を払うよう呼びかけている。参考1)新型コロナワクチンの接種について(厚労省)2)コロナワクチン追加接種は9月20日から 全世代で「XBB」対応へ(朝日新聞)3)東京都、9月20日から新型コロナワクチンの秋接種開始(日経新聞)4)9月からのコロナワクチン接種 子ども含め幅広く対象に【Q&A】(NHK)2.医師の過労死問題に加藤厚労相「適切な労働時間管理」を求める/兵庫県2022年、神戸市の甲南医療センターで勤務していた26歳の医師が自殺した事件が労災と認定された件について、加藤 勝信厚生労働大臣は8月25日の閣議後の記者会見で「医師の健康確保のために適切な労働時間管理が必要」とコメントした。遺族は当時、学会発表の準備に追われていたと指摘しているが、病院側は業務時間外の自己研鑽であると主張。これに対し、加藤大臣は「医師の研究時間が労働時間に含まれるかどうかの指針を明確化している」と説明した。厚生労働省の調査によると、病院勤務の医師の約2割が「過労死ライン」とされる年960時間以上の残業をしていることが明らかになった。とくに脳神経外科、救急科、外科、産婦人科などでこの傾向が顕著である一方で、働き方改革により長時間労働は減少傾向にあり、一部の施設では患者や家族への病状説明を診療時間内に限定するなどの取り組みが進んでいる。調査代表の自治医科大学の小池 創一教授は「勤務時間は短くなったが、新しい医療の研究や若手教育の時間も減っている。どうやって働き方改革を進めていくのかが課題」と指摘している。また、2019年に施行された働き方改革関連法の医師への適用が24年度に迫っており、この問題はさらに注目されている。以上の状況を受けて、厚労相は「過労死は許されない。医師が健康であることが国民に対して適切な医療が確実に提供される基盤になる」と強調。労働時間管理の支援を含め、引き続き必要な対応を図ると明言している。参考1)医師の専門性を考慮した勤務実態を踏まえた需給等に関する研究(厚労省)2)医師自殺で労災認定 “労働時間管理 支援含め対応” 厚労相(NHK)3)勤務医2割、なお過労死ライン 残業推計「年960時間超」 長時間労働、是正傾向も・厚労省研究班(時事通信)3.新型コロナ診療手引き改訂、医療従事者の就業制限と治療薬の使用を明確化/厚労省厚生労働省は、8月21日に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する診療の手引き第10.0版を公表した。今回は、新型コロナが5類(一般感染症)に移行した後の初の改訂で、医療従事者の就業制限や治療薬の使用指針について新たな規定が盛り込まれている。今回の手引きでは、医療従事者に対する就業制限は感染症法に基づく制限がないものの、厚労省は医療機関や高齢者福祉施設に対して、「発症日を0日目として5日間、かつ症状が軽快してから24時間以上経過するまで」の就業制限を考慮するよう呼びかけている。また、家庭内に感染者がいる場合や10日目までの期間には、マスク着用や黙食などの感染防止策を徹底するよう推奨している。治療薬に関しては、ファビピラビル(商品名:アビガン錠)やイベルメクチン(同:ストロメクトール)などのコロナ治療効果が認められず、使用は推奨されていないと明示している。そのほか、新たな重症化リスク因子、小児例や妊婦例の特徴、各種薬物療法についての情報が更新されている。また、診療の手引きには「G-MIS(病床管理システム)を活用した入院調整」が新たに盛り込まれ、このシステムの導入により、地域の病床状況が可視化され、保健所との照会が不要になるなどのメリットが挙げられている。今回の改訂は、とくに九州地方や沖縄県でのコロナ再燃や日本全体での感染再拡大が懸念される中で行われたもので、感染拡大を防ぐための配慮が依然として求められている。厚労省では今後も状況に応じた指針の更新を行うとしている。参考1)新型コロナウイルス感染症COVID-19診療の手引き 第10.0版(厚労省)2)新型コロナウイルス感染症 診療の手引き・第10.0版 改定のポイント(同)3)5類移行後初改訂、医療従事者の就業制限など追加 厚労省がコロナ診療の手引きを事務連絡(CB news)4)コロナ5類移行後、初の「診療の手引き」改訂!法定就業制限はないが、医療機関等では感染拡大への配慮を―厚労省(Gem Med)4.感染症対策の体制を大幅刷新、尾身 茂氏が一線を退く/政府2023年8月25日、政府は新型コロナウイルスを含む感染症対策の一層の強化を目的として、いくつかの新たな組織と体制の変更を発表した。9月1日に発足する「内閣感染症危機管理統括庁」は、政府の感染症対策の司令塔となる。この統括庁には約5億2,000万円の2024年度予算が割り当てられる予定で、約60人の職員が配置される。厚生労働省も同日、新たに「感染症対策部」を設置すると発表した。この新組織は、統括庁と連携し、新たな感染症危機に備える。さらに、医薬・生活衛生局と健康局が改組され、食品衛生基準業務と水道業務はそれぞれ消費者庁、国土交通省と環境省に移管される。内閣感染症危機管理統括庁のトップには栗生 俊一官房副長官が就任することが決まっており、担当大臣としては後藤 茂之コロナ担当相が務める。そのほかの主要な役職には厚労省の迫井 正深医務技監や中村 博治新型コロナウイルス等感染症対策推進室長も名を連ねる。この一連の発表と同時に、新型コロナ対策の専門家として活躍してきた尾身 茂氏が一線から退くことが明らかになった。尾身氏は、新体制のもとで「新型インフルエンザ等対策推進会議」の委員数が35人から15人に減り、議長から外れる形となった。尾身氏は、今後「葛藤の記録を残したい」と語り、この間の活動を書籍にまとめる予定だ。政府は、新たな体制のもとで感染症対策の連携と効率を高めることを目指しており、この体制変更は、新型コロナウイルスによる緊急事態が一段落ついた今、次の感染症危機に備える重要なステップとなる。尾身氏の引退は、新たな体制のスタートとともに、これまでの感染症対策の一区切りとも言えるタイミングでの出来事となる。参考1)尾身氏、コロナ対策一線退く「葛藤の記録残したい」 政府が体制刷新(朝日新聞)2)厚労省に新組織「感染症対策部」 司令塔「統括庁」発足にあわせ(同)3)感染症統括庁トップに栗生俊一氏…コロナ分科会は廃止(読売新聞)5.看護師不足とハラスメント対策に、看護師確保の基本指針を初改定へ/厚労省厚生労働省は、看護師を確保するための基本指針を31年ぶりに全面改定すると発表した。今回の改定は、看護師不足の解消、新たな感染症に備えた専門知識のある看護師の養成、ハラスメント対策、処遇改善、業務負担軽減など多岐にわたる要素が盛り込まれる方針。看護系の人材不足はとくに都市部と訪問看護ステーションで深刻で、労働時間短縮や業務負担の軽減が必要とされている。具体的には、国の基金を活用し、夜勤業務の負担軽減、仮眠や休憩ができる場所の設置など、看護職員の処遇改善を進めるとともに、業務のデジタル化なども計画されている。さらに、訪問看護の現場でのハラスメントの危険性が高いことから、暴力やハラスメント対策の支援も進められる予定のほか、タスク・シフトやタスク・シェアの推進、特定行為研修の推進なども改定に含まれており、年次有給休暇の取得を可能とするような勤務割の長期計画も盛り込まれ、雇用管理の責任体制も明確化される方向となっている。看護師確保の基本指針は、1992年に作成されており、高齢化社会の本格化とともに、2040年にはさらに多くの看護職員が必要とされる看護職の環境の変化を反映して、今回初めて見直しを受け、今年の秋にも正式に告示される予定。参考1)第3回医道審議会保健師助産師看護師分科会看護師等確保基本指針検討部会 [資料]看護師等確保基本指針の改定について(厚労省)2)看護師確保の指針、30年ぶり改定へ 感染症、ハラスメントに対応(朝日新聞)3)看護師確保の基本指針改定を諮問、秋ごろ告示 厚労相・文科科相(CB news)6.人材不足が深刻化する日本の医療・福祉業界、対策を模索/厚労省厚生労働省が発表した令和4年の雇用動向調査の結果によると、2022年に「医療、福祉」分野で入職超過率が初めてマイナスとなるなど、国内で医療介護業界での人材不足が深刻化していることが明らかとなった。厚労省によれば、医療、福祉業界への入職者数は昨年度の約113万8,100人、一方で離職者数は約121万人、入職超過率は0.9ポイントのマイナスとなった。全産業を合わせた場合の入職超過率は0.2ポイントのプラスであり、医療・福祉業界は全産業平均を下回っていた。とくに介護職員の離職率は14.4%と過去最低水準を維持しているが、事業所間での格差も大きい状況であり、小規模や新設の事業所では離職率が高く、「職場の人間関係」や「事業所の理念や運営に不満」などが離職の主な理由とされている。訪問介護の現場でも人手不足が顕著で、担当者の38%が60歳以上、7人に1人は70歳以上とスタッフの高齢化が進行していた。厚労省は2024年に施設職員を訪問介護にも活用できるようにする計画を進めている。この複合型サービスは、訪問と通所の両方を利用する場合に効率の良い介護を提供する可能性がある。しかし、介護業界全体で人材確保が難しく、とくに訪問介護員の有効求人倍率は過去最高の15.53倍に達している。今後、団塊の世代が後期高齢者に移行することで、介護保険の給付は一段と増えると見込まれ、人材不足問題の解決が急募となっている。参考1)令和4年 雇用動向調査結果の概要(厚労省)2)介護職員の離職率、14.4% 過去最低並みを維持 事業所間で2極化の傾向=介護労働実態調査(JOINT)3)訪問介護でも「老々」拡大 利用者10年で2割増/担い手70歳以上13% 厚労省、施設職員活用へ(日経新聞)4)「医療、福祉」入職超過率、初のマイナスに 厚労省概況、現行統計の2009年以降で(CB news)

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ワクチン接種者でCOVID-19が重症化しにくいのはなぜか

 周知のように、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン(以下、新型コロナワクチン)を接種することで、感染リスクがなくなるわけではないが感染後の重症化リスクは低下する。しかし、それはなぜなのか。その理由の解明につながる研究結果を、米コロラド大学コロラド公衆衛生大学院のAlison Abraham氏らが、「The Lancet Microbe」に8月7日発表した。この研究によると、COVID-19罹患者のうち、ワクチン接種を受けていた人では未接種の人に比べて、炎症マーカーの値が低かったことが示されたという。 サイトカインとケモカインは、感染症やワクチン接種に対する応答において重要な役割を果たしている。サイトカインは主に免疫細胞から分泌されるタンパク質で、細胞間の情報伝達を行う。一方、ケモカインはサイトカインの一種で、細胞遊走を活性化する働きを持つ。Abraham氏らは、2020年6月29日から2021年9月30日の間に新型コロナウイルスに感染した882人(女性57%)の血液サンプルを用いて、新型コロナワクチン接種と、21種類のサイトカインおよびケモカインの濃度とその経時的な変化との関連性を検討した。対象者は、回復期患者血漿療法のCOVID-19重症化に対する効果を検討する目的で実施された試験への参加者で、78%(688人)が新型コロナワクチン未接種、6%(55人)は一部(1回)接種済み、139人(16%)は接種完了者だった。 対象者の年齢や性別、BMI、基礎疾患などで調整して解析した結果、感染後1〜8日(スクリーニング時)では、ワクチン接種完了者では未接種者に比べて、IL(インターロイキン)-2RA、IL-7、IL-8、IL-15、IL-29、INF(インターフェロン)-γ誘導性サイトカイン(IP-10)、MCP(単球走化性促進因子)-1、TNF(腫瘍壊死因子)-αの濃度の幾何平均が有意に低いことが明らかになった。また、回復期患者血漿療法後90日目では、ワクチン接種完了者では未接種者よりも、IL-7、IL-8、VEGF(血管内皮増殖因子)-Aの濃度の幾何平均がそれぞれ、26%、20%、17%低かった。これに対して、ワクチンの一部接種者では未接種者に比べて、スクリーニング時にIP-10とMCP-1の濃度の幾何平均が有意に低かったが、回復期患者血漿療法後90日目になると、いずれのサイトカイン・ケモカイン濃度の幾何平均についても、未接種者との間に有意差は認められなかった。 研究グループは、「これらの結果は、新型コロナワクチンが、COVID-19重症化の引き金となる炎症反応を短期的にも長期的にも減少させる効果を持つことを示唆している」と述べている。その上で、「この知見は、ワクチンを接種した人でCOVID-19の重症化リスクや死亡リスクが低下し、後遺症の発症率も低下する理由の少なくとも一部を説明するものだ」と付け加えている。 今回の研究には関与していない、米ジョンズ・ホプキンス健康安全保障センターのAmesh Adalja氏は、「オミクロン株が蔓延していた頃のワクチン接種の主な目的は、感染症予防よりも重症化予防だった。今回の研究結果は、重症化予防のメカニズムの一端を解明するものだ」と指摘している。 研究グループは、今回の研究で得られた知見により、COVID-19のより良い治療法を探る研究に弾みがつく可能性があるとの見方を示している。論文の上席著者である、米ジョンズ・ホプキンス大学医学部病理学・内科学・疫学分野のAaron Tobian氏は、「新型コロナワクチンが、この疾患の悪化や長期的影響、死亡を予防するメカニズムの解明は、体の過剰な炎症反応を抑えるための方法の開発につながり、それが患者に対するより良い治療に役立つ」と述べている。

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新型コロナなど呼吸器系ウイルスの重複感染率はどの程度か

 米国で、2022年後半に実施された2万6,000件以上の呼吸器系ウイルスの検査結果を調べたところ、陽性結果の1%以上で新型コロナウイルス、インフルエンザウイルス、RS(呼吸器合胞体)ウイルスの重複感染が認められたとする研究結果が報告された。重複感染は、21歳以下の若年者の間で多く認められたという。米クエスト・ダイアグノスティックス社のテクニカルディレクターを務めるGeorge Pratt氏らによるこの研究結果は、米国臨床化学会年次総会(2023 AACC、7月23〜27日、米アナハイム)で発表された。 Pratt氏は今回の研究背景について、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックが終息に向かい始め、人々の行動様式が変化する中で、われわれは、他の呼吸器系ウイルスの再流行とそれらの重複感染、特に、再流行を見せている新型コロナウイルスとの重複感染の可能性を調査することが重要だと考えた」と説明する。 重複感染は、呼吸器系疾患のアウトブレイクが複数発生した場合に起こりやすい。例えば2022年後半に米国でRSウイルス感染症例が急増した際には、COVID-19のパンデミックと季節性インフルエンザの流行が重なった。Pratt氏らは、同時に複数の感染症に罹患した場合には、重症化や治療合併症のリスクが高まると指摘する。 今回の研究でPratt氏らは、2022年の秋に107日にわたって実施された2万6,657件の呼吸器系ウイルス(RSウイルス、新型コロナウイルス、A型・B型インフルエンザウイルス)の検査結果を収集して分析した。この中には、21歳以下の患者に対して実施された9,800件の検査の結果も含まれていた。 その結果、陽性結果の1.33%、全検査結果の0.55%で、2種類以上のウイルスの重複感染が認められることが明らかになった。重複感染率は感染しているウイルスにより異なり、成人では、新型コロナウイルスとRSウイルスの重複感染での0.38%から、A型インフルエンザウイルスと新型コロナウイルスの重複感染での2.28%までの幅があった。これに対して、21歳以下の若年者での重複感染率はいずれのウイルスの組み合わせでも成人より高く、新型コロナウイルスとA型インフルエンザウイルスの重複感染では6%に上った。 Pratt氏は、「本研究は、米国北東部で複数のウイルスについて同時に実施された大量の検査結果に基づいている点が斬新だ。2万6,000件以上の検査結果を調査できたことは、われわれにとって大きな財産となった」と述べる。 Pratt氏はさらに、「インフルエンザシーズンやその他の呼吸器系ウイルスの流行の経験を重ねていくことで、重複感染率に関するさらなるデータの蓄積が可能となる。今回の研究は、この先、重複感染率が減少するのか増加するのかを評価する際に役立つデータポイントになることだろう」との考えを示している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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血尿診断ガイドライン2023

2013年版から10年ぶりの大幅改訂!血尿の原因疾患を診断する「血尿診断アルゴリズム」を提示わが国では母子保健法、学校保健法、労働安全衛生法、老人保健法などにより、生涯にわたり検尿を受けることが可能。こうした検尿での異常所見(潜血)が契機となって重篤な腎疾患や泌尿器疾患が発見されることも少なくない。本書は潜血が認められた患者における、血尿のタイプの判定と原因疾患の診断のためのガイドラインで、血尿の原因疾患を診断するための手順を初めて詳細な「血尿診断アルゴリズム」として提示。また、ワクチン接種後の血尿例の報告を受けて、最終章で「新型コロナワクチンと血尿」について解説している。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    血尿診断ガイドライン2023定価3,080円(税込)判型A4判頁数80頁発行2023年6月編集血尿診断ガイドライン改訂委員会Amazonでご購入の場合はこちら

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第59回 新型コロナ「エリス」がすでに来ている

「エリス」襲来Pixabayより使用米国疾病予防管理センター(CDC)の報告によると、8月5日までの1週間のコロナ入院患者数が14%増となり、4月下旬以来の多さとなっており1)、再び流行が始まるのではと懸念されています。現在懸念されているのが、EG.5です。BA.1が従来のオミクロン株で、その後BA.2株が2022年5月に流行しました。BJ.1株とBM1.1.1株が組み合わさったのがXBB株で、いろいろなXBB株が存在します。XBB.1.9.1株から派生したEG.5株、EG.5.1株が、われわれの次の敵になります。「もういいよー、覚えられないし」と思っている医療従事者も多いでしょう。大丈夫です、私も覚えられません。EG.5は通称「エリス」と呼ばれています。これは例のごとくギリシャ神話の女神にちなんだ名前で、SNS上で命名されたものです。これまでもケンタウルス、ケルベロスなどさまざまなあだ名が付けられてきた変異ウイルスですが、中二病っぽい感じもあって、小恥ずかしくてなかなか堂々と言えませんでした。「エリス」については中二病感が薄いためか、比較的世界的にも受け入れられている印象です。日本では「エリス」で報道されるのかどうか、気になるところです。第9波の流行の主流であったXBB系統から、いずれ「エリス」へ置き換わりが進むと予想されていましたが、想定よりも早いようです。東京都ではすでに「エリス」が主流株になっており、これまでの主流株であったXBB.1.16株を逆転しています2)。「エリス」は、現在のXBB系統よりも伝播性が高いです。そうじゃないと、主流株にならないので。世界保健機関(WHO)は8月9日、「エリス」を「注目すべき変異株(VOI)」に指定しています。医療従事者はワクチンアップデートを医療従事者の間でもワクチンに対する信頼性が低下しているような印象です。ケアネットをご覧になっている皆さんは、エビデンスを咀嚼できていると思いますので、mRNAワクチンの重要性については理解されているでしょう。もしオミクロン株対応2価ワクチンを接種されていない方は、アップデートを推奨します。2価ワクチンあるいはXBB対応ワクチン(9月接種開始予定)のいずれも、「エリス」以前のXBB系統を含めたオミクロン株全体の重症化を予防する効果があると思われます。秋開始接種で使用するモデルナ社のXBB対応ワクチンは、予備的な臨床試験において、「エリス」に対しても良い免疫反応が得られたとプレスリリースを出しています。参考文献・参考サイト1)CDC:COVID-NET A Weekly Summary of U.S. COVID-19 Hospitalization Data2)東京都健康安全研究センター:定点医療機関当たりの報告数 東京都感染症週報 第30週(7月30日~8月6日)より

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外来・入院・集中治療別マネジメントを記載、COVID-19診療の手引き第10.0版/厚労省

 厚生労働省は8月21日、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 第10.0版」を公開し、全国の自治体や関係機関に通知した。2023年2月に公開された「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 第9.0版」以来、5類移行後初めての改訂となる本版は、オミクロン株に置き換わって以降の国内外の知見が反映され、よりコンパクトな内容になっている。とくに外来診療にも役立てられるよう、COVID-19診療の手引きの第4章では、前版までは重症度別に記載されていたマネジメントが、「外来診療」「入院診療」「集中治療」別にまとめなおされ、「外来診療」の項目には、成人の外来診療における抗ウイルス薬の選択フロー図が示された。また、COVID-19診療の手引きを基に「COVID-19 外来診療の基礎知識」の表も公開された。COVID-19診療の手引きに抗ウイルス薬の選択フロー図を追加 「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 第10.0版」の主な改訂点は以下のとおり。太字は5類移行に関連する改訂点。【1 病原体・発生状況】・病原体/発生状況を更新【2 臨床像】・臨床像に第9.0版の胸部画像所見、合併症の内容を追加し、更新・重症化リスク因子/小児例の特徴/妊婦例の特徴を更新・COVID-19ワクチンに関する説明を追加【3 診断・サーベイランス】・症例定義に関する記載を削除・検体と採取法を説明する表を追加・届出に関する記載を参考として更新 [参考]定点医療機関における届出基準 2023年5月8日より、COVID-19は、流行の状況や症状等を鑑み、感染症法上の位置づけを見直し、5類感染症に位置づけ、インフルエンザと同様、診療科名に内科・小児科を含む指定届出機関による届出対象疾病に追加された。したがってCOVID-19指定届出機関の管理者が届出基準を満たした患者を診断した場合に届出を行うこととなった。【4 重症度分類とマネジメント】・序文、重症度分類/高齢者の管理/小児の管理/妊産婦の管理を更新・重症度別に記載していたマネジメントを「外来診療」「入院診療」「集中治療」にまとめなおし、内容を更新・G-MISを活用した入院調整に関する説明を参考として追加【5 薬物療法】・抗ウイルス薬/中和抗体薬/免疫抑制・調節薬/妊婦に対する薬物療法を更新・オミクロン流行期以降に実施された臨床研究の表、抗ウイルス薬の選択フロー図を追加・日本国内で開発中の主な薬剤を削除し、国内外で開発が中止された主な薬剤を更新 【6 院内感染対策】・序文/職員の健康管理、個人防護具/妊婦および新生児への対応/死後のケアを更新・病理解剖業務における感染対策/医療従事者の就業制限を追加 [参考]医療従事者の就業制限 5類移行後は感染症法に基づく就業規制は行われないが、国は医療機関や高齢者福祉施設等に対して、COVID-19に罹患した従事者の就業制限を考慮するよう呼びかけている。位置づけ変更後の新型コロナ患者の療養の考え方(発症日を0日目として5日間、かつ解熱および症状軽快から24時間経過するまでは外出を控えることが推奨される)等を参考に、罹患した者の体調や業務内容、地域の流行状況、事業継続性等を総合的に判断して、施設ごとに対応することが求められている。・退院基準、解除基準(第9.0版)の内容を感染予防策を実施する期間として更新 [参考]感染予防策を実施する期間 医療施設内で感染予防策を実施する期間(隔離期間)の基準は示されていないが、新型インフルエンザ等感染症に指定されていた際の退院基準を参考にするなど、医療機関ごとに対応が求められる。

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29歳で2カ所の脳梗塞を発症した女性

 当時29歳の米国ニュージャージー州の女性、Bethany Moeddelさんは、夜のパーティーに参加した翌日、吐き気と頭痛を感じた。二日酔いだと判断した。とはいえ、ボーイフレンドの弟が、カトリック教徒になるための重要な儀式である初聖体が予定されていたため、寝て過ごすわけにはいかなかった。 教会に到着しいったんは礼拝堂の席に着いたが不快感は続いていた。礼拝堂の中で嘔吐してしまわないように、席を外して車に戻った。暑い日だったので、車のドアを開けたままにして休んだ。次に彼女が覚えているのは、救急隊員の声である。「リビング・ウィルはありますか?」と隊員が尋ねた。彼女が「なぜ? 私は死ぬの?」と聞き返すと、「分かりません」という答えが返ってきた。 2日後、Moeddelさんは集中治療室(ICU)で目覚めた。左半身を動かすことができなかった。ベッドサイドに親友が座っていて、脳卒中が起きたことを伝えられた。より正確には、脳の右側の額の近くに1カ所、耳の後ろ辺りに1カ所、計2カ所の梗塞巣が確認されていた。医師から「腕を上げてみて」などの指示が立て続けに出され、Moeddelさんは混乱し、苛立ちと怒りを感じた。彼女は自分の体に何が起こっているのかをまだ十分理解していなかった。 ICUで1週間強過ごし、その後、リハビリテーション病院で約2カ月間を過ごした。退院に際しては車椅子と杖が用意され、介護施設で生活するか、両親とともに生活するかという選択肢が示された。結局、オハイオ州から車で来た両親とともに、実家に戻ることになった。「私は数週間もすれば回復すると思っていた。まさか、その状態が永久に続くとは考えていなかった」と彼女は振り返る。 15年の時が経過した。現在44歳のMoeddelさんは、まだ左半身の部分的な麻痺が残っているものの、自力で歩けるし、階段を上ったり車を運転することもできる。ただ、今もオハイオ州の実家暮らしだ。数年前にニュージャージー州に戻ろうと試みたが、長くは続けられなかった。 脳卒中を発症前、Moeddelさんは弁護士補助の資格取得を目指し、仕事と勉強を両立させていた。現在は電子メールとライブチャットを利用したリモートワークで、顧客サービス業務に携わっている。それだけでなく、脳卒中の啓発活動にボランティアとして参加し、学校を訪問して子どもたちに脳卒中の症状について教えている。また、米国心臓協会(AHA)主催のミニマラソン・ウォーキング大会にエントリーして、それをリハビリ継続のモチベーションとしている。昨年は8マイル(約15km)以上歩き、今年も同じくらいの距離を歩き切った。 この15年の間に、父親が亡くなった。2012年のことだった。一方、母親のRuth Moeddelさんは、「われわれ親子は役割があべこべだ。成人した子どもが年老いた親の世話をする代わりに、年老いた親が成人した子どもの世話をするのだから」と言いながらも、娘の健康を心配している。彼女は、新型コロナウイルス感染症のために、息子も亡くした。 そんなRuthさんは、「Bethanyはタフで立ち直る力を持っている。彼女がリハビリ病院を退院する時、私の娘が車椅子から離れられることは決してないだろうと誰もが言った。しかし今、娘は驚くほど元気に過ごしている」と語っている。[2023年7月19日/American Heart Association] Copyright is owned or held by the American Heart Association, Inc., and all rights are reserved. If you have questions or comments about this story, please email editor@heart.org.利用規定はこちら

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Long COVIDは頭痛の有無でQOLが異なる

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)急性期以降にさまざまな症状が遷延している状態、いわゆる「long COVID」の病状を、頭痛に焦点を当てて詳細に検討した結果が報告された。頭痛を有する患者はオミクロン株流行以降に増加したこと、年齢が若いこと、生活の質(QOL)がより大きく低下していることなどが明らかになったという。岡山大学大学院医歯薬学総合研究科総合内科学分野の大塚文男氏の率いる診療・研究チームによるもので、「Journal of Clinical Medicine」に5月18日掲載された。 この研究は、岡山大学病院総合内科・総合診療科に設けられている、コロナ・アフターケア(CAC)外来を2021年2月12日~2022年11月30日に受診した患者から、研究参加への不同意、年齢が10歳未満、データ欠落などに該当する人を除外した482人を対象とする、後方視的観察研究として行われた。Long COVIDは、COVID-19感染から4週間以上経過しても何らかの症状が持続している状態と定義した。 解析対象の4分の1弱に当たる113人(23.4%)が受診時に頭痛を訴えていた。頭痛の有無で二分し比較すると、頭痛あり群は年齢が若いこと〔中央値37(四分位範囲22~45)対42(28~52)歳、P<0.01〕以外、性別の分布、BMI、喫煙・飲酒習慣に有意差はなかった。COVID-19急性期の重症度についても、両群ともに軽症が8割以上を占めていて、有意差はなかった。また採血検査の結果は、炎症マーカー、凝固マーカーも含めて、主要な項目に有意差が認められなかった。 その一方、COVID-19罹患の時期を比較すると、頭痛なし群はデルタ株以前の流行時に罹患した患者が53.9%と過半数を占めていたのに対して、頭痛あり群ではオミクロン株出現以降に罹患した患者が61.1%を占めていた(P<0.05)。また、頭痛なし群ではCOVID-19罹患から平均84日後にCAC外来を受診していたが、頭痛あり群では約2週間早く外来紹介されていた(P<0.01)。 頭痛以外の症状の有病率を比べると、以下に挙げるように、頭痛あり群の方が有病率の高い症状が複数認められた(以下の全てがP<0.05)。倦怠感(76.1対54.7%)、不眠症(36.2対14.9%)、めまい(16.8対5.7%)、発熱(9.7対3.8%)、胸痛(5.3対1.1%)。一方、嗅覚障害の有病率は、頭痛あり群の方が有意に低かった。 次に、さまざまな症状の主観的評価指標〔抑うつ症状(SDS)、胃食道逆流症(FSSG)、倦怠感(FAS)〕のスコアを見ると、それらのいずれも、頭痛あり群で症状が有意に強く現れていることを示しており、QOLの評価指標(EQ-5D-5L)は頭痛あり群の方が有意に低かった(P<0.01)。 続いて、EQ-5D-5Lスコア0.8点未満をQOL障害と定義して、多変量解析にて独立して関連する症状を検討。その結果、最もオッズ比(OR)の高い症状は頭痛であることが明らかになった〔OR2.75(95%信頼区間1.55~4.87)〕。頭痛のほかには、しびれ〔OR2.64(同1.33~5.24)〕、倦怠感〔OR2.57(1.23~5.34)〕、不眠症〔OR2.14(1.24~3.70)〕などがQOL低下と独立した関連があり、反対に嗅覚障害は唯一、負の有意な関連因子として抽出された〔OR0.47(0.23~1.00)〕。 著者らは本研究の限界点として、単一施設での後方視的研究であるため解釈の一般化が制限されること、頭痛の臨床像が詳しく検討されていないことなどを挙げている。その上で、「頭痛はlong COVIDの最も深刻な症状の一つであり、単独で出現することもあれば、ほかの多くの症状と併存することもある。頭痛がほかの症状の主観的評価に悪影響を及ぼす可能性もあり、long COVIDの治療に際しては頭痛への対処も優先すべきではないか」とまとめている。

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