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救急患者の低血糖の原因は副腎不全が意外に多い

 救急部門に収容された患者の低血糖の原因として、血糖降下薬、飲酒に続き、副腎不全が3番目に多いというデータが報告された。新小文字病院内分泌・糖尿病内科の河原哲也氏らの研究結果であり、詳細は「Journal of the Endocrine Society」に8月4日掲載された。同氏は、「副腎不全による低血糖はわれわれが考えているよりもはるかに多い可能性がある。原因不明の低血糖症例では副腎機能を評価すべきと考えられる」と述べている。 低血糖の大半は原因を特定可能なものの、救急患者の低血糖の約1割は原因不明との報告も見られる。一方、低血糖の既知の原因の一つとして副腎不全が挙げられ、適切に治療されない場合、副腎クリーゼなどの重篤な状態につながる可能性がある。ただし、救急患者の低血糖原因としての副腎不全の実態は明らかにされていない。河原氏らは、同院の救急部門で低血糖が認められた患者を対象として、この点の詳細な検討を行った。 2016年4月~2021年3月に同院救急部門に収容された患者のうち、低血糖症状の有無にかかわらず、血糖値70mg/dL未満であることが確認された18歳以上の患者528人を解析対象とした。妊婦や迅速ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)負荷試験施行の同意が得られなかった患者は除外されている。年齢中央値は62歳(範囲19~92)であり、52.1%が男性で、血糖値は平均48.5mg/dL(95%信頼区間31.5~54.7mg/dL)だった。96.0%にあたる507人は、発汗、動悸、振戦、空腹感、めまい、せん妄などの低血糖症状が出現していた。 解析対象528人のうち389人(73.7%)は、血糖降下薬が処方されていた。そのほかの低血糖を来し得る原因として、35人(6.6%)に飲酒、19人(3.6%)に重症感染症または敗血症、18人(3.4%)に低栄養、15人(2.8%)に悪性腫瘍、13人(2.5%)に肝機能障害などが認められた。また、インスリン自己免疫症候群が4人(0.8%)、インスリノーマが3人(0.6%)、非糖尿病の血液透析症例が2人(0.4%)、非膵島細胞腫瘍が1人(0.2%)含まれていた。 迅速ACTH負荷試験は、血糖降下薬が処方されていた糖尿病患者を除く139人に対して施行した。その結果、32人(解析対象全体の6.1%)が血清コルチゾールレベル18μg/dL未満であり、副腎不全と診断された。前記の低血糖を来し得る原因別に見た、副腎不全患者の割合は、飲酒者では35人中2人(5.7%)、重症感染症または敗血症では19人中7人(36.8%)、低栄養では18人中1人(5.6%)、悪性腫瘍では15人中4人(26.7%)だった。 また、副腎不全患者は、副腎機能正常患者に比べて血清ナトリウム値が低く(132対139mEq/L、P<0.01)、好酸球比率が高く(14対8%、P<0.01)、収縮期血圧が低かった(120対128mmHg、P<0.05)。血糖値は有意差がなかった。インスリン負荷試験、CRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)負荷試験、持続的ACTH負荷試験などにより、副腎不全の原因を精査した結果、原発性(アジソン病)が32人中3人、下垂体性が27人、視床下部性が2人だった。 以上より著者らは、「われわれの研究では、救急部門に収容された時点で低血糖を来している患者のその原因として副腎不全が3番目に多く、予想よりもはるかに高頻度に認められた」と結論付けている。また、迅速ACTH負荷試験は比較的簡便に施行でき、安全性も高く、かつ低コストであるとして、「原因不明の低血糖、特に低ナトリウム血症や低血圧、好酸球増多を伴う場合は、積極的に迅速ACTH負荷試験を行い副腎機能を確認すべきではないか」と提案している。

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この仕事量はミッション・インポッシブル!? 1年目フェローだけの24時間オンコール【臨床留学通信 from NY】第35回

第35回:この仕事量はミッション・インポッシブル!? 1年目フェローだけの24時間オンコールさて、前回までは講義やローテーションの仕組みの概要を説明いたしました。今回からもっと実務的な内容をご紹介したいと思います。その中でも、24時間当直について説明したいと思います。米国では、医学教育プログラムのトレーニング内容は施設によって差はありますが、ACGME(Accreditation Council for Graduate Medical Education、米国卒後医学教育認定評議会)という団体が、内科レジデントや、循環器フェローなど、各教育プログラムをおおむね管理しており、施設の大きさや教育の仕組みなどによって、病院が雇えるレジデント、フェローに制限を設けています。全米でのフェローの枠が一定数に決まっているため、内科の中でも人気のある循環器フェローには、希望者の6割程度の人しか進むことができません。さらにACGMEは、当直したその次の日に働くことを原則禁止しており、24時間を最大の連続勤務時間とし、週80時間を最大勤務時間としています。抜け道として、自宅待機で電話でのオンコール対応をメインとしている病院のフェローは、次の日も働かなければならないようです。それはさておき、そのような時間制限が可能なのは、豊富な数のレジデントないしフェローがいるからなのです。日本より楽!?と思うかもしれませんが、やはりここはアメリカ。日本の忙しい病院で寝る暇もなく夜通し働いて、次の日も通常の8時間、いや12時間勤務、ということまでは確かにありません。しかし、瞬間的に裁く仕事量は日本より多く、物理的にほぼ不可能な量(医療ミスが起きてもおかしくないレベル)の処理をしなければならないこともあります。私は卒後10年以上経っていて、医学的判断に問題はないといっても、瞬間的な量が一気に降りかかってしまう時のストレスは、日本の時以上です。しかも英語ということで、疲れも倍増している気がします。24時間オンコールについて、具体的に説明します。土曜から日曜の勤務の場合、朝7時半に病院に来て、その前の晩に泊まっていたオンコールフェローから引き継ぎを受けます。そして、CCUの12人の患者のラウンドが8時半から2~3時間ほどあり、必要な中心静脈カテーテルやスワンガンツカテーテルを入れるのはフェローの仕事です。さらには、病院の中のすべてのコンサルテーションを一手に引き受けます。胸痛があってトロポニンが陽性なら循環器内科の介入が必要で、コンサルテーションは妥当だとわかりますが、敗血症に伴ったトロポニン陽性で、大した介入が必要でない人もいます。介入が不要な患者でもコンサルテーションしてくるのは、訴訟対策のためかもしれません。一方で、不整脈や心不全のサブスペシャリティもカバーしなければならず、ICD(植込み型除細動器)の誤作動、頸静脈ペーシングが必要な人への対応や、LVAD(左室補助ポンプ)のトラブルや、移植後の拒絶反応への対応などさまざまです。そのような対応が1日平均で15~20件あり、STEMI(ST上昇型心筋梗塞)が来たらその判断をして、STEMIチームを始動することなどもフェローの仕事です。正直、アメリカのレジデントを終わりたてのフェロー1年目には手に負えるわけもなく(多くは中心静脈カテーテルを数回入れたかどうかの経験です)、2~3年目フェローのバックアップや、それぞれの分野の指導医に電話で指示を仰ぎながら、なんとかこなしていくことで経験を積んでいきます。経験の浅い1年目フェローに経験を積ませることが目的だとしても、1年目フェローしかいない最も大変な土日の24時間オンコールは、ちょっと野蛮な仕組みではないかな、と思う次第です。Column画像を拡大する祝日を利用して、2泊3日で同じニューヨーク州のナイアガラの滝に行ってきました。手前がアメリカ滝、奥がカナダ滝、対岸がカナダです。きれいに2本の虹がかかっていました。同じ州といってもマンハッタンから650kmほど離れているので、車で7時間ほどかかりました。カメラはLeica M9を使用しています。

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liso-cel、再発・難治性大細胞型B細胞リンパ腫の2次治療に有効か?/Lancet

 早期再発または難治性の大細胞型B細胞リンパ腫(LBCL)の2次治療において、CD19を標的とするキメラ抗原受容体(CAR)-T細胞療法リソカブタゲン マラルユーセル(liso-cel)は従来の標準治療と比較して、無イベント生存期間を約8ヵ月延長することが、米国・コロラド大学がんセンターのManali Kamdar氏らが進めている「TRANSFORM試験」の中間解析で示された。安全性に関する新たな懸念は認めなかったという。研究の成果は、Lancet誌2022年6月18日号に掲載された。47施設の無作為化第III相試験の中間解析 TRANSFORMは、再発・難治性LBCLの2次治療におけるliso-celの有効性と安全性の評価を目的とする非盲検無作為化第III相試験であり、2018年10月23日~2020年12月8日の期間に、米国、欧州、日本の47施設で参加者のスクリーニングが行われた(CelgeneとBristol-Myers Squibb Companyの助成を受けた)。この試験は進行中で、今回は中間解析の結果が報告された。 対象は、年齢18~75歳、1次治療に抵抗性、またはアンスラサイクリン系薬剤と抗CD20モノクローナル抗体を含む1次治療で初回奏効が得られてから12ヵ月以内に再発したLBCLで、全身状態の指標であるEastern Cooperative Oncology Group performance status(ECOG PS)のスコアが0または1、自家造血幹細胞移植(HSCT)の適応があり、Lugano基準(2014年)でPET陽性の病変を有する患者であった。 被験者は、liso-celの投与群または標準治療を受ける群に1対1の割合で無作為に割り付けられた。liso-cel群は、リンパ球除去化学療法(フルダラビン+シクロホスファミド)を3日間受けたのち、総用量100×106 CAR+T細胞を目標に、CD8+とCD4+のCAR+T細胞を2回連続で静脈内投与された。 標準治療群は、救援免疫化学療法として、担当医の裁量でR-DHAP(リツキシマブ+デキサメタゾン+シタラビン+シスプラチン)、R-ICE(リツキシマブ+イホスファミド+エトポシド+カルボプラチン)、R-GDP(リツキシマブ+デキサメタゾン+ゲムシタビン+シスプラチン)のうちいずれか1つを3サイクル施行され、このうち奏効(完全奏効、部分奏効)が得られた患者が、大量化学療法(カルムスチン+エトポシド+シタラビン+メルファラン)を1サイクルと自家HSCTを受けた。 主要エンドポイント、は無イベント生存期間とされた。奏効の評価は、独立の審査委員会がLugano基準(2014年)を用いて行った。完全奏効割合や無増悪生存期間も良好 184例が登録され、liso-cel群に92例(年齢中央値60歳[IQR:53.5~67.5]、女性52%)、標準治療群にも92例(58.0歳[42.0~65.0]、34%)が割り付けられた。多くの患者(160例[87%])が、びまん性LBCL(DLBCL)(DLBCL-NOSまたは濾胞性リンパ腫からの形質転換が117例[64%])あるいは高悪性度B細胞リンパ腫(43例[23%])であり、135例(73%)は1次治療に抵抗性、61例(33%)は65歳以上で、73例(40%)はsAAIPI≧2であった。追跡期間中央値は6.2ヵ月(IQR:4.4~11.5)だった。 無イベント生存期間中央値は、liso-cel群が10.1ヵ月(95%信頼区間[CI]:6.1~未到達)と、標準治療群の2.3ヵ月(2.2~4.3)に比べ有意に改善された(層別ハザード比:0.35、95%CI:0.23~0.53、層別Cox比例ハザードモデルの片側検定のp<0.0001)。 完全奏効割合(66% vs.39%、p<0.0001)、無増悪生存期間中央値(14.8ヵ月vs.5.7ヵ月、p=0.0001)、全生存期間中央値(未到達vs.16.4ヵ月、p=0.026)は、いずれもliso-cel群で良好であった。 最も頻度の高いGrade3以上の有害事象は、好中球数減少(liso-cel群80%[74/92例]vs.標準治療群51%[46/91例])、貧血(49%[45例]vs.49%[45例])、血小板減少(49%[45例]vs. 64%[58例])、遷延性血球減少(43%[40例]vs.3%[3例])であった。liso-cel群で、とくに注目すべき有害事象として、CAR-T細胞療法関連のGrade3のサイトカイン放出症候群が1%(1例)、神経学的事象が4%(4例)で発現した(Grade4、5は認めなかった)。 試験薬投与下の有害事象(無作為化の日から最終投与後90日までに発現または悪化した有害事象)のうち重篤な事象は、liso-cel群で48%(44例)、標準治療群で48%(44例)に認められた。2次治療におけるliso-celの安全性に関する新たな懸念は確認されなかった。また、治療関連死は、liso-cel群ではみられず、標準治療群では1例(敗血症)で認められた。 著者は、「これらの結果は、早期再発または難治性のLBCL患者における、新たな2次治療の推奨レジメンとして、liso-celを支持するものである」としている。

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ICUでのビタミンC投与は敗血症に有効か/NEJM

 敗血症では、ビタミンC投与による抗酸化作用が酸化ストレスによる組織障害を軽減すると考えられているが、集中治療室(ICU)で昇圧薬治療を受けている敗血症の成人患者への、ビタミンC静脈内投与を評価した先行研究の結果は、相反するものだという。カナダ・シャーブルック大学のFrancois Lamontagne氏らは今回「LOVIT試験」において、ICUでの敗血症患者へのビタミンC投与はプラセボと比較して、28日の時点での死亡または持続的な臓器障害のリスクが有意に高いという、予想外の結果を確認した。研究の詳細は、NEJM誌2022年6月23日号で報告された。3ヵ国35のICUで、プラセボ対照無作為化第III相試験 LOVIT試験は、ICUで昇圧薬治療を受けている敗血症の成人患者への高用量ビタミンC投与の有効性の評価を目的とする多施設共同プラセボ対照無作為化第III相試験であり、2018年11月~2021年7月の期間に、3ヵ国(カナダ、フランス、ニュージーランド)の35ヵ所のICUで参加者の登録が行われた(カナダ・Lotte and John Hecht記念財団の助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、ICU入室から24時間以内で、主診断として感染症が証明または疑われ、昇圧薬の投与を受けている患者であった。被験者は、最長96時間にわたり6時間ごとに1回30~60分でビタミンC(50mg/kg)またはプラセボの静脈内投与を受ける群(すなわち200mg/kg/日、最大16回)に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、28日の時点における死亡または持続的な臓器障害(昇圧薬、侵襲的人工呼吸器、腎代替療法の使用と定義)の複合とされた。主要アウトカム:44.5% vs.38.5% 863例が主解析の対象となり、ビタミンC群が429例(平均[±SD]年齢65.0±14.0歳、女性35.2%)、プラセボ群は434例(同意前に無作為化され、同意前に死亡した1例を除く433例で、65.2±13.8歳、40.0%)であった。全体の96.7%の患者が、予定された用量の90%以上の投与を受け、入室期間中央値は6日(IQR:3~12)、入院期間中央値は16日(IQR:8~32)だった。ICU入室中に併用された介入や生命維持療法の使用状況や期間は両群で同程度であった。 試験開始から28日の時点での複合アウトカム(死亡または持続的な臓器障害)の発現は、ビタミンC群が429例中191例(44.5%)で認められ、プラセボ群の434例中167例(38.5%)と比較して、リスクが有意に高かった(リスク比:1.21、95%信頼区間[CI]:1.04~1.40、p=0.01)。 複合アウトカムの個々の構成要素については、28日時点の死亡はビタミンC群が429例中152例(35.4%)、プラセボ群は434例中137例(31.6%)で発生し(リスク比:1.17、95%CI:0.98~1.40)、持続的な臓器障害はそれぞれ429例中39例(9.1%)および434例中30例(6.9%)でみられた(リスク比:1.30、95%CI:0.83~2.05)。 また、臓器障害スコア、バイオマーカー(組織低酸素症、炎症、血管内皮細胞傷害)、6ヵ月生存率、健康関連の生活の質(6ヵ月時のEQ-5D-5Lスコア)、ステージ3の急性腎障害、低血糖の発現に関しては、両群でほぼ同様であった。 事前に規定された安全性のアウトカムに、重大な群間差はなかった。有害事象は、ビタミンC群で4件、プラセボ群で1件みられた。ビタミンC群では、重篤なアナフィラキシーと重症低血糖が1例ずつ発現した。 著者は、「これらは予想外の知見であり、7日目までに測定された5つのバイオマーカーの評価を含む2次解析では、有害性について推定されるメカニズムは確認されなかった」としている。

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心原性ショックへの体外式膜型人工肺、低体温管理は死亡率を改善せず /JAMA

 難治性心原性ショックに対し静脈-動脈方式の体外式膜型人工肺(VA-ECMO)を導入した患者において、早期に24時間中等度低体温(33~34度)管理を行っても正常体温(36~37度)管理と比較し、生存率は改善しなかった。フランス・CHRU NancyのBruno Levy氏らが、同国の20施設で実施した無作為化臨床試験「Hypothermia During ECMO trial:HYPO-ECMO試験」の結果を報告した。標準治療と標準治療+ECMOを比較した無作為化臨床試験はないにもかかわらず、難治性心原性ショックの管理におけるECMOの使用が世界的に増加しているが、心原性ショック時のVA-ECMOの最適な方法は不明であった。今回の結果について著者は、「95%信頼区間(CI)が広く、臨床的に重要な差が存在する可能性もあり、今回の結果で結論付けるべきではないと考えられる」との見解を示した。JAMA誌2022年2月1日号掲載の報告。VA-ECMO導入後6時間未満の患者で、24時間低体温管理vs.正常体温管理 研究グループは、2016年10月~2019年7月の期間に、心原性ショックに対してVA-ECMOを導入後6時間未満の適格患者374例を、24時間中等度低体温(33~34度)管理群(168例)または厳格な正常体温(36~37度)管理群(166例)に割り付けた。最終追跡調査年月は2019年11月であった。 主要評価項目は30日死亡。副次評価項目は、7日・60日・180日死亡、30日・60日・180日時点の死亡/心臓移植/左室補助人工心臓植込みへの移行/脳卒中の複合アウトカム、30日・60日・180日時点での人工呼吸器または腎代替療法を必要としない日数などを含む31項目であった。有害事象の評価には、重度出血、敗血症、VA-ECMO導入中の赤血球輸血単位数なども含まれた。30日死亡率は42% vs.51%で有意差なし 無作為化された374例のうち、334例(平均[±SD]年齢58±12歳、女性24%)が試験を完遂し、主要解析に組み込まれた。 30日死亡は、低体温管理群で71例(42%)、正常体温管理群で84例(51%)に認められ、補正後オッズ比(OR)は0.71(95%CI:0.45~1.13、p=0.15)、リスク差は-8.3%(95%CI:-16.3~-0.3)であった。また、30日時点の複合アウトカムの補正後ORは0.61(95%CI:0.39~0.96、p=0.03)、リスク差は-11.5%(95%CI:-23.2%~0.2%)であった。 31の副次評価項目のうち、30項目については両群間で有意差はみられなかった。 有害事象の発現率は、中等度または重度出血が低体温管理群41%、正常体温管理群42%、感染症が両群ともに52%、菌血症がそれぞれ20%および30%であった。

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コロナ流行開始以降、小児の感染症による入院・死亡が減少/BMJ

 イングランドの小児では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的大流行の発生以降、重度の侵襲性感染症や呼吸器感染症、ワクチンで予防可能な感染症による入院が大幅かつ持続的に減少し、このうち敗血症や髄膜炎、細気管支炎、肺炎、ウイルス性喘鳴、上気道感染症による入院から60日以内の死亡数も減少したことが、英国・オックスフォード大学のSeilesh Kadambari氏らの調査で明らかとなった。研究の成果は、BMJ誌2022年1月12日号で報告された。イングランドの0~14歳の観察研究 本研究は、イングランドにおける小児の呼吸器感染症、重度の侵襲性感染症、ワクチンで予防可能な感染症による、入院および死亡に及ぼしたCOVID-19の世界的大流行の影響の評価を目的とする住民ベースの観察研究である(Office for Health Improvement and Disparitiesなどの助成を受けた)。 研究グループは、イングランドのすべての国民保健サービス(NHS)病院から、2017年3月1日~2021年6月30日の期間における0~14歳の小児の入院データを入手し、全国的な死亡データと関連付けた。19種の感染症(重度の侵襲性感染症6種、呼吸器感染症8種、ワクチンで予防可能な感染症5種)について、COVID-19の世界的大流行の発生前後で、入院率および死亡転帰を比較した。 個々の感染症について、毎月の入院数、2020年3月1日の前後での入院数の変化率、同日前後での60日死亡率の補正後オッズ比(OR)を算出した。インフルエンザ入院が94%、麻疹入院が90%減少 2020年3月1日以降の12ヵ月間に、それ以前の36ヵ月間と比較して、腎盂腎炎を除く18種の感染症で、入院数の顕著な減少が認められた。 呼吸器感染症では、インフルエンザによる入院の減少率が最も高く、平均年間入院数は2017年3月1日~2020年2月29日に5,379件であったのに対し、2020年3月1日~2021年2月28日には304件となり、減少率は94%(95%信頼区間[CI]:89~97)に達した。次いで同期間の入院は、細気管支炎が5万1,655件から9,423件へと82%(79~84)減少し、続いてクループ(減少率78%、95%CI:65~87)、中耳炎(74%、71~77)の順であった。 重度の侵襲性感染症による入院の減少率は、髄膜炎(減少率50%、95%CI:47~52)が最も高く、次いで蜂巣炎(43%、39~48)、感染性関節炎(35%、28~41)、敗血症(33%、30~36)の順であった。また、ワクチンで予防可能な感染症による入院の減少率は、流行性耳下腺炎(ムンプス)の53%(95%CI:32~68)から麻疹の90%(80~95)までの幅がみられた。 このようなCOVID-19以外の感染症による入院の減少は、すべての人口統計学的サブグループと基礎疾患を有する小児で確認された。 6つの感染性疾患(敗血症、髄膜炎、細気管支炎、肺炎、ウイルス性喘鳴、上気道感染症)では、入院数の減少に伴い60日死亡数も減少した。ただし、肺炎については、60日の絶対死亡数は減少したが(2017~20年の3年の年間平均193件、2020年3月1日以降156件)、入院から60日以内の死亡率は2020年3月1日以降に増加していた(年齢・性別で補正したOR:1.73、95%CI:1.42~2.11、p<0.001)。 著者は、「COVID-19の世界的大流行期に、SARS-CoV-2感染を抑制するために多様な行動変容(非薬物的介入)や社会的施策(学校閉鎖、都市封鎖、旅行制限)が採択され、これが小児の一般的な感染症や重篤な感染症をも低下させたと考えられる。社会的制約の進展とともに、これらの感染症の持続的なモニタリングが求められる」としている。

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咳嗽も侮れない!主訴の傾聴だけでは救命に至らない一例【Dr.山中の攻める!問診3step】第10回

第10回 咳嗽も侮れない!主訴の傾聴だけでは救命に至らない一例―Key Point―咳は重大な疾患の一つの症状であることがある詳細な問診、咳の持続時間、胸部レントゲン所見から原因疾患を絞り込むことができる慢性咳に対するアプローチを習得しておくと、患者満足度があがる症例:45歳 男性主訴)発熱、咳、発疹現病歴)3週間前、タイのバンコクに出張した。2週間前から発熱あり。10日前に帰国した。1週間前から姿勢を変えると咳がでる。38℃以上の発熱が続くため紹介受診となった。既往歴)とくになし薬剤歴)なし身体所見)体温:38.9℃ 血圧:132/75mmHg 脈拍:88回/分 呼吸回数:18回/分 SpO2:94%(室内気)上背部/上胸部/顔面/頭部/手に皮疹あり(Gottron徴候、機械工の手、ショールサインあり)検査所見)CK:924 IU/L(基準値62~287)経過)胸部CT検査で両側の間質性肺炎ありCK上昇、筋電図所見、皮膚生検、Gottron徴候、機械工の手、ショールサインから皮膚筋炎1)と診断された筋力低下がほとんど見られなかったので、amyopathic dermatomyositis(筋無症候性皮膚筋炎)と考えられるこのタイプには、急性発症し間質性肺炎が急速に進行し予後が悪いことがある2)本症例ではステロイドと免疫抑制剤による治療を行ったが、呼吸症状が急速に悪化し救命することができなかった◆今回おさえておくべき臨床背景はコチラ!急性の咳(<3週間)では致死的疾患を除外することが重要である亜急性期(3~8週間)の咳は気道感染後の気道過敏または後鼻漏が原因であることが多い慢性咳(>8週間)で最も頻度が高い原因は咳喘息である【STEP1】患者の症状に関する理解不足を解消させよう【STEP2】緊急性のある疾患かどうか考えよう咳を伴う緊急性のある疾患心筋梗塞、肺塞栓、肺炎後の心不全悪化重症感染症(重症肺炎、敗血症)気管支喘息の重積肺塞栓症COPD (慢性閉塞性肺疾患)の増悪間質性肺炎咳が急性発症ならば、心血管系のイベントが起こったかをまず考える心筋梗塞や肺塞栓症、肺炎は心不全を悪化させる心筋梗塞や狭心症の既往、糖尿病、高血圧、喫煙、脂質異常症、男性、年齢が虚血性心疾患のリスクとなる3つのグループ(高齢、糖尿病、女性)に属する患者の心筋梗塞は非典型的な症状(息切れ、倦怠感、食欲低下、嘔気/嘔吐、不眠、顎痛)で来院する肺塞栓症のリスクは整形外科や外科手術後、ピル内服、長時間の座位である呼吸器疾患(気管支喘息、COPD、間質性肺炎、結核)の既往に注意するACE阻害薬は20%の患者で内服1~2週間後に咳を起こす【STEP3-1】鑑別診断:胸部レントゲン所見と咳の期間で行う胸部レントゲン写真で肺がん、結核、間質性肺炎を確認する亜急性咳嗽(3~8週間)の原因の多くはウイルスやマイコプラズマによる気道感染である細菌性副鼻腔炎では良くなった症状が再び悪化する(二峰性の経過)。顔面痛、後鼻漏、前かがみでの頭痛増悪を確認する百日咳:咳により誘発される嘔吐とスタッカートレプリーゼが特徴的である2)【STEP3-2】鑑別診断3):慢性咳か否か8週間以上続く慢性咳の原因は咳喘息、上気道咳症候群(後鼻漏症候群)、逆流性食道炎、ACE阻害薬、喫煙が多い上記のいくつかの疾患が合併していることもある咳喘息が慢性咳の原因として最も多い。冷気の吸入、運動、長時間の会話で咳が誘発される。ほかのアレルギー疾患、今までも風邪をひくと咳が長引くことがなかったかどうかを確認する非喘息性好酸球性気管支炎(NAEB:non-asthmatic eosinophilic bronchitis)が慢性咳の原因として注目されている3)上気道咳症候群では鼻汁が刺激になって咳が起こる。鼻咽頭粘膜の敷石状所見や後鼻漏に注意する夜間に増悪する咳なら、上気道咳症候群、逆流性食道炎、心不全を考える【治療】咳に有効な薬は少ないハチミツが有効とのエビデンスがある4)咳喘息:吸入ステロイド+気管支拡張薬上気道咳症候群:アレルギー性鼻炎が原因なら点鼻ステロイド、アレルギー以外の原因なら第一世代抗ヒスタミン薬3)逆流性食道炎:プロトンポンプ阻害薬<参考文献・資料>1)Mukae H, et al. Chest. 2009;136:1341-1347.2)Rutledge RK, et al. N Engl J Med. 2012;366:e39.3)ACP. MKSAP19. General Internal Medicine. 2021. p19-21.4)Abuelgasim H, et al. BMJ Evid Based Med. 2021;26:57-64.

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切除不能悪性黒色腫の1次治療、relatlimab・ニボルマブ併用が有効/NEJM

 未治療の転移のあるまたは切除不能の悪性黒色腫患者の治療において、2つの免疫チェックポイント阻害薬relatlimab(抗リンパ球活性化遺伝子3[LAG-3]抗体)とニボルマブ(抗プログラム細胞死1[PD-1]抗体)の併用は、標準治療であるニボルマブ単剤と比較して、無増悪生存期間を有意に延長し、併用による新たな安全性への懸念は認められないことが、米国・テキサス大学MD AndersonがんセンターのHussein A. Tawbi氏らが実施した「RELATIVITY-047試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2022年1月6日号で報告された。国際的な無作為化第II/III相試験 研究グループは、未治療の転移のあるまたは切除不能の悪性黒色腫における、relatlimabとニボルマブの併用によるLAG-3とPD-1の阻害の有効性と安全性を評価する目的で、二重盲検無作為化第II/III相試験を行った(Bristol Myers Squibbの助成による)。本試験には、北米、中米、南米、欧州、オーストラリア、ニュージーランドの111施設が参加し、2018年5月~2020年12月の期間に患者の登録が行われた。 対象は、年齢12歳以上、StageIII/IVの切除不能の悪性黒色腫で、腫瘍組織の評価でLAG-3とPD-L1の発現が認められ、治療歴のない患者であった。術後または術前治療として、PD-1阻害薬、CTLA-4阻害薬、BRAF阻害薬、MEK阻害薬、BRAF阻害薬+MEK阻害薬併用の投与を受けた患者は、再発の6ヵ月以上前に治療を終了している場合、インターフェロンの投与を受けた患者は、最終投与が無作為化の6週間以上前の場合に、対象に含まれた。 被験者は、固定用量のrelatlimab(160mg)+ニボルマブ(480mg)またはニボルマブ(480mg)単剤を、4週ごとに60分間で静脈内投与する群に無作為に割り付けられた。 主要エンドポイントは、無増悪生存期間(無作為化の日から病勢進行または死亡の日までの期間)とされ、独立の中央判定委員会が盲検下に評価した。無増悪生存期間が約2倍に、リスクは25%減少 714例(年齢中央値63.0歳[範囲:20~94]、女性298例[41.7%])が登録され、relatlimab+ニボルマブ併用群に355例、ニボルマブ単剤群に359例が割り付けられた。データベースのロックの時点(2021年3月9日)で、追跡期間中央値は13.2ヵ月であった。治療中止の割合は65.8%(併用群66.8%、単剤群64.9%)で、最も多い中止の理由は病勢進行(36.3%、46.0%)だった。 無増悪生存期間中央値は、併用群が10.1ヵ月(95%信頼区間[CI]:6.4~15.7)と、単剤群の4.6ヵ月(3.4~5.6)に比べ有意に延長した(ハザード比[HR]:0.75、95%CI:0.62~0.92、p=0.006[log-rank検定])。また、12ヵ月時の無増悪生存率は、併用群が47.7%(95%CI:41.8~53.2)、単剤群は36.0%(30.5~41.6)であった。 主なサブグループのすべてで、無増悪生存期間中央値は併用群のほうが良好であった。LAG-3発現率が≧1%の患者では、無増悪生存期間中央値は併用群で有意に優れ(12.58ヵ月vs.4.76ヵ月、HR:0.75、95%CI:0.59~0.95)、LAG-3発現率<1%の患者では併用群で良好な傾向がみられたものの有意差はなかった(4.83ヵ月vs.2.79ヵ月、0.78、0.54~1.15)。 Grade 3/4の治療関連有害事象は、併用群が18.9%、単剤群は9.7%で発現した。併用群で最も頻度の高いGrade 3/4の治療関連有害事象は、リパーゼ値上昇(1.7%)、アラニンアミノトランスフェラーゼ値上昇(1.4%)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ値上昇(1.4%)、疲労(1.1%)であった。治療中止の原因となった治療関連有害事象は、併用群が14.6%、単剤群は6.7%で認められた。 死亡例は、併用群が3例(0.8%、血球貪食性リンパ組織球症、急性肺水腫、肺臓炎)、単剤群は2例(0.6%、敗血症/心筋炎、肺炎)であり、いずれも担当医によって治療関連死と判定された。併用群で最も頻度の高い免疫関連有害事象は、甲状腺機能低下症/甲状腺炎(18.0%)、皮疹(9.3%)、下痢/大腸炎(6.8%)だった。併用群の1.7%で心筋炎が発現したが、全例が完全に回復した。 著者は、「併用群では、無増悪生存期間中央値の延長に伴って有害事象がわずかに増加したが、健康関連QOLは両群で同程度であった」とし、「本試験の結果は、悪性黒色腫患者における、PD-1とともにLAG-3を遮断する治療の妥当性を示しており、LAG-3はPD-1とCTLA-4に続く、臨床的有益性をもたらす第3の免疫チェックポイント経路として確立されたと考えられる」としている。

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双極性障害の自殺死亡率に対する性別固有のリスクプロファイル

 双極性障害患者の自殺リスクに対する性差および併存疾患の影響についてのエビデンスは十分ではない。台湾・台北医学大学のPao-Huan Chen氏らは、自殺の発生率、医療利用状況、併存疾患の観点から、双極性障害患者における自殺リスクに対する性別固有のリスクプロファイルについて調査を行った。Psychological Medicine誌オンライン版2021年8月11日号の報告。 2000年1月~2016年12月の台湾の全民健康保険研究データベースを用いて、コホート研究を実施した。対象は、双極性障害患者4万6,490例および年齢、性別を1:4の割合でマッチさせた一般集団18万5,960例。自殺死亡率の比率(MRR)は、双極性障害コホートと一般集団の自殺率で算出した。また、双極性障害コホートにおける医療利用状況、併存疾患の性別固有のリスクを調査するため、ネストされたケースコントロール研究(自殺死亡患者:1,428例、生存患者:5,710例)を実施した。 主な結果は以下のとおり。・双極性障害患者の自殺リスクは、一般集団と比較し、非常に高かった(MRR:21.9)。とくに女性において顕著であった(MRR:35.6)。・性別層別分析では、性別間での医療利用パターンおよび身体的併存疾患のリスクプロファイルの違いが明らかであった。・女性の自殺死亡患者は、生存患者と比較し、非高血圧性心血管疾患、肺炎、慢性腎臓病、消化性潰瘍、過敏性腸症候群、敗血症のリスクが高かった。一方、男性では、慢性腎臓病と敗血症のリスクが高かった。 著者らは「双極性障害患者の自殺死亡リスクは、発生率および身体的併存疾患において、性別固有のリスクプロファイルを有していると考えられる。これらの修正可能なリスク因子を特定することは、双極性障害患者の自殺リスク減少につながる可能性がある」としている。

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転移のない前立腺がん、アビラテロン+エンザルタミドで無転移生存期間延長/Lancet

 転移のない高リスク前立腺がん男性の治療において、アンドロゲン除去療法(ADT)による3年間の標準治療にアビラテロン酢酸エステル(アビラテロン)+プレドニゾロンまたはアビラテロン+プレドニゾロン+エンザルタミドを併用すると、標準治療単独と比較して、全生存期間の代替指標とされる無転移生存期間が延長し、前立腺がん特異的生存期間や生化学的無再発生存期間も改善されることが、英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのGerhardt Attard氏らの検討で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2021年12月23日号で報告された。2つの第III相STAMPEDE試験のメタ解析 研究グループは、非転移性前立腺がん男性の治療における、ADTへのアビラテロン+プレドニゾロンまたはアビラテロン+プレドニゾロン+エンザルタミド併用の有効性を評価する目的で、STAMPEDEプラットホームプロトコールに基づく2つの第III相非盲検無作為化対照比較試験のメタ解析を行った(Cancer Research UKなどの助成を受けた)。これら2つの試験は、英国とスイスの113施設が参加し、2011年11月~2016年3月の期間に実施された。 対象は、年齢制限はなく、高リスク(リンパ節転移陽性、または陰性の場合は次の要件のうち少なくとも2つを有する:腫瘍Stage T3/T4、Gleasonスコア8~10点、前立腺特異抗原[PSA]値40ng/mL以上)あるいは、高リスクの特徴(ADTの全期間が12ヵ月以下で治療なしの間隔が12ヵ月以上でありPSA値4ng/mL以上で倍加時間が6ヵ月未満、またはPSA値20ng/mL以上、またはリンパ節再発)を持つ再発の非転移性前立腺がんで、WHO performance statusが0~2の患者であった。放射線療法は、リンパ節転移陰性例では行い、陽性例では推奨された。 2つの試験(第1試験、第2試験)とも、被験者は、ADT単独(手術、黄体形成ホルモン放出ホルモンの作動薬と拮抗薬)による治療を受ける群(対照群)、またはADT+経口アビラテロン酢酸エステル(1,000mg/日)+経口プレドニゾロン(5mg/日)を受ける群(併用群)に1対1の割合で無作為に割り付けられた。第2試験の併用群は、さらにエンザルタミド(160mg/日、経口投与)が追加された。ADTは3年間、併用治療は2年間行われたが、放射線療法を受けなかった患者では、病勢が進行するまで治療を継続できることとされた。 主要エンドポイントは無転移生存期間とし、無作為化の時点から全死因死亡または遠隔転移(画像で確定)の発現までの期間と定義された。両群とも期間中央値には未到達だが、併用群で47%延長 1,974例が解析に含まれた。第1試験(2011年11月~2014年1月)では、併用群に459例、対照群に455例が、エンザルタミドを含む第2試験(2014年7月~2016年3月)では、それぞれ527例および533例が割り付けられた。全体の年齢中央値は68歳(IQR:63~73)、PSA中央値は34ng/mL(IQR:14.7~47)であった。また、39%がリンパ節転移陽性で、85%は標準治療として放射線療法を受けていた。 追跡期間中央値は72ヵ月(IQR:60~84)で、この間に無転移生存イベントが併用群で180件、対照群で306件発生した。 無転移生存期間中央値(月)は、両群とも未到達(IQRは併用群が評価不能[NE]~NE、対照群は97~NE)であり、併用群で有意に延長していた(ハザード比[HR]:0.53、95%信頼区間[CI]:0.44~0.64、p<0.0001)。6年無転移生存率は、併用群が82%(95%CI:79~85)、対照群は69%(65~72)であった。 また、全生存期間(両群とも中央値には未到達で、IQRは併用群がNE~NE、対照群は103~NE、HR:0.60[95%CI:0.48~0.73]、p<0.0001)、前立腺がん特異的生存期間(両群とも中央値には未到達で、IQRは併用群がNE~NE、対照群はNE~NE、HR:0.49[0.37~0.65]、p<0.0001)、生化学的無再発生存期間(併用群は中央値未到達でIQRはNE~NE、対照群は中央値86ヵ月でIQRは83~NE、HR:0.39[0.33~0.47]、p<0.0001)、無増悪生存期間(両群とも中央値には未到達で、IQRは併用群がNE~NE、対照群は103~NE、HR:0.44[0.36~0.54]、p<0.0001)は、いずれも併用群で有意に長かった。 治療開始から24ヵ月の期間に、Grade3以上の有害事象は、第1試験の併用群で37%(169/451例)、対照群で29%(130/455例)に、第2試験ではそれぞれ58%(298/513例)および32%(172/533例)に認められた。併用群で頻度の高かったGrade3以上の有害事象は、高血圧(第1試験の併用群は5%[23/451例]、対照群は1%[6/455例]、第2試験はそれぞれ14%[73/513例]および2%[8/533例])と、高アラニントランスアミナーゼ血症(第1試験の併用群は6%[25/451例]、対照群は<1%[1/455例]、第2試験はそれぞれ13%[69/513例]および1%[4/533例])であった。 Grade5の有害事象は7件が報告された。第1試験の併用群で3件(直腸腺がん、肺出血、呼吸不全)、第2試験の併用群で4件(敗血症性ショック2件、突然死2件)であり、2つの試験とも対照群では発現しなかった。 著者は、「アビラテロン+プレドニゾロンは、転移のない高リスク前立腺がんの新たな治療法として考慮すべきである」としている。

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アトピー性皮膚炎を全身治療する経口JAK阻害薬「サイバインコ錠50mg/100mg/200mg」【下平博士のDIノート】第89回

アトピー性皮膚炎を全身治療する経口JAK阻害薬「サイバインコ錠50mg/100mg/200mg」今回は、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬「アブロシチニブ(商品名:サイバインコ錠50mg/100mg/200mg、製造販売元:ファイザー)」を紹介します。本剤は、全身療法が可能な経口剤であり、既存治療で効果不十分な中等症~重症のアトピー性皮膚炎の新たな選択肢として期待されています。<効能・効果>本剤は、既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎(AD)の適応で、2021年9月27日に承認され、同年12月13日に発売されました。なお、ステロイド外用薬やタクロリムス外用薬などの抗炎症外用薬による適切な治療を一定期間施行しても十分な効果が得られず、強い炎症を伴う皮疹が広範囲に及ぶ患者に使用します。<用法・用量>通常、成人および12歳以上の小児には、アブロシチニブとして100mgを1日1回経口投与します。患者の状態に応じて200mgを1日1回投与することもできます。なお、中等度の腎機能障害(30≦eGFR<60)では50mgまたは100mgを1日1回投与し、重度の腎機能障害(eGFR<30)では50mgを1日1回経口投与します。本剤投与時も保湿外用薬は継続使用し、病変部位の状態に応じて抗炎症外用薬を併用します。なお、投与開始から12週までに治療反応が得られない場合は中止を考慮します。<安全性>AD患者を対象に本剤を投与した臨床試験の併合解析において、発現頻度2%以上の臨床検査値異常を含む有害事象が確認されたのは3,128例中2,294例でした。主な副作用は、上咽頭炎、悪心、アトピー性皮膚炎、上気道感染、ざ瘡、筋骨格系および結合組織障害などでした。なお、重大な副作用として感染症(単純ヘルペス[3.2%]、帯状疱疹[1.6%]、肺炎[0.2%])、静脈血栓塞栓症(肺塞栓症[0.1%未満]、深部静脈血栓症[0.1%未満])、血小板減少(1.4%)、ヘモグロビン減少(ヘモグロビン減少[0.9%]、貧血[0.6%])、リンパ球減少(0.7%)、好中球減少症(0.4%)、間質性肺炎(0.1%)、肝機能障害、消化管穿孔(いずれも頻度不明)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、皮膚バリア機能を低下させたり、アレルギー炎症を悪化させたりするJAKという酵素の産生を抑えることで、アトピー性皮膚炎の症状を改善します。2.本剤には免疫を抑制させる作用があるため、発熱や倦怠感、皮膚の感染症、咳が続く、帯状疱疹や単純ヘルペスなどの感染症の症状に注意し、気になる症状が現れた場合は、すみやかにご相談ください。3.この薬を服用している間は、生ワクチン(麻疹、風疹、おたふく風邪、水痘・帯状疱疹、BCGなど)の接種ができません。接種の必要がある場合は主治医に相談してください。4.(女性に対して)この薬を服用中、および服用中止後一定期間は適切な避妊をしてください。5.これまで使用していた保湿薬は続けて使用してください。<Shimo's eyes>近年、ADの新しい治療薬が次々と発売されており、難治例における治療が大きく変化しつつあります。本剤と同じ経口JAK阻害薬のほかにも、ヒト型抗ヒトIL-4/13受容体モノクローナル抗体製剤や外用JAK阻害薬などがすでに発売されています。本剤は、ADの適応を得た経口JAK阻害薬として、バリシチニブ(商品名:オルミエント錠)、ウパダシチニブ水和物(同:リンヴォック錠)に続く3剤目となります。また、12歳以上のアトピー性皮膚炎患者に使用できる製剤としてはウパダシチニブに続いて2剤目となります。相互作用については、フルコナゾール、フルボキサミンなどの強力なCYP2C19阻害薬、あるいはリファンピシンのような強力なCYP2C19および CYP2C9誘導薬との併用に注意が必要です。これらの薬剤と併用する場合、可能な限りこれらの薬剤をほかの類薬に変更する、または休薬するなどの対応を考慮します。経口JAK阻害薬は、肺炎、敗血症、ウイルス感染などによる重篤な感染症や結核の顕在化および悪化への注意が警告に記載されています。生ワクチンの接種は控え、帯状疱疹やB型肝炎ウイルスの再活性化にも注意する必要があります。調剤時の注意に関しては、抗うつ薬/慢性疼痛治療薬デュロキセチン(商品名:サインバルタカプセル)と販売名が類似していることから、取り違え防止案内が発出されています。薬剤の登録名や調剤棚の表示などを工夫して、取り違えを防ぎましょう。本剤は、米国においてブレークスルー・セラピー(画期的治療薬)の指定を受け、優先審査品目に指定されています。参考1)PMDA 添付文書 サイバインコ錠50mg/サイバインコ錠100mg/サイバインコ錠200mg

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肺炎球菌ワクチン【今、知っておきたいワクチンの話】各論 第11回

ワクチンで予防できる疾患:肺炎球菌感染症肺炎球菌感染症とは肺炎球菌の感染による疾病の総称であり、肺炎、中耳炎、副鼻腔炎、髄膜炎などが含まれる。肺炎球菌は主に鼻腔粘膜に保菌され、乳幼児では40〜60%と高頻度に、成人ではおよそ3〜5%に保菌されている1)。感染経路は飛沫感染であり、小児の細菌感染症の主な原因菌の1つである。また、成人の市中肺炎の起因菌では38%と最も多い2)。肺炎球菌が髄液や血液などの無菌部位に侵入すると、菌血症を伴う肺炎、髄膜炎、敗血症などの侵襲性肺炎球菌感染症(invasive pneumococcal disease:以下「IPD」)を引き起こす。治療は抗菌薬投与および全身管理であるが、近年は薬剤耐性菌の出現も問題となっている3)。わが国の成人IPDの好発年齢は60~80代で4,5)、基礎疾患があることは発症や重症化のリスクとなる3,6)。65歳以上の成人(以下「高齢者」)の罹患率はおよそ5/10万人・年であり、致命率は6%台と高い1)。成人の肺炎球菌感染症とりわけIPDの発症や重症化の予防には、日常診療における基礎疾患の管理とともに肺炎球菌ワクチンの接種が重要である3,6)。ワクチンの概要肺炎球菌の病原因子の中で最も重要なものは、菌の表層全体を覆う莢膜である。この莢膜は多糖体からなり、97種類の型が報告されている3)。ある莢膜型の肺炎球菌に感染するとその型に対する抗体が獲得され、同じ型には感染しなくなるが、別の型には抗体がないため感染が成立し、発症する7)。そのため肺炎球菌による発症や重症化を予防するには、さまざまな莢膜型の抗体をあらかじめ獲得しておく必要があり7)、肺炎球菌ワクチンは莢膜多糖体を抗原としている。国内では以下の2つのワクチンが承認されているが、それぞれカバーする莢膜型の数や種類、免疫応答の方法などが異なる(表)。以下に2つのワクチンの特徴を述べる。1)23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(PPSV23)〔商品名:ニューモバックスNP〕23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(以下「PPSV23」)は、莢膜多糖体からなる不活化ワクチンで、23種類の莢膜型を有する。PPSV23接種による免疫応答では、T細胞を介さないため免疫記憶は獲得されず、B細胞の活性化によりIgG抗体のみが獲得される。IgG抗体は経年的に減弱し、減弱するとワクチン血清型の菌に対して予防効果は期待できなくなる3)。PPSV23の予防効果としては、接種により高齢者のワクチン血清型のIPDを39%減少させ8)、すべての肺炎球菌による市中肺炎を27.4%、ワクチン血清型の肺炎球菌による市中肺炎を33.5%減少させたと国内より報告されている9)。PPSV23は2006年に販売開始となり、2014年から5年間限定で65歳、70歳、75歳、80歳、85歳、90歳、95歳および100歳になる人を対象に定期接種となった。2019年度以降はさらに5年間の期限で、同年齢を対象に定期接種が継続されている10)。初回接種後の予防効果は3〜5年で低下する11)。再接種による予防効果について明確なエビデンスは報告されていないが、再接種後の免疫原性は初回接種時と同等であり、初回接種時と同等の予防効果が期待されている12)。また、再接種時の局所および全身性の副反応の頻度は初回接種時より高いことに注意が必要だが、いずれも軽度で許容範囲と考えられている12)。以上より症例によっては追加接種を繰り返してもよいと考えられ、接種後5年以上の間隔をおいて再接種することができる12)。2)沈降13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)〔同:プレベナー13水性懸濁注〕沈降13価肺炎球菌結合型ワクチン(以下「PCV13」)は、莢膜多糖体に無毒化したジフテリア蛋白を結合させた蛋白結合型の不活化ワクチンで、13種類の莢膜型を有する。PCV13接種による免疫応答は、T細胞とB細胞を介している。まず、樹状細胞に抗原が提示されてT細胞の活性化を誘導する(T細胞依存型)。ついで活性したT細胞とB細胞の相互作用によりB細胞が活性化する。その後、形質細胞によるIgG抗体の産生とメモリーB細胞による免疫記憶が獲得される。そのため記憶された莢膜型の菌が侵入すると速やかにIgG抗体産生能が誘導(ブースター効果)され免疫能が高まる3)。小児に対する7価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV7)は2010年より販売開始となり、同年に接種費用の公費助成が開始された。2013年4月より定期接種となり、同年11月よりPCV13に切り替えられた。予防効果として、PCV7・PCV13の導入により小児のIPD、とくに髄膜炎は87%も激減したと報告されている4)。一方、2014年より高齢者に対しても適応が拡大され、任意接種することが可能となった。PCV13接種により高齢者のワクチン血清型のIPDを47〜57%減少させ、ワクチン血清型の肺炎(非侵襲型)を38〜70%、すべての原因の肺炎を6〜11%減少させたとの予防効果が諸外国より報告されている13)。さらに2020年5月からは、高齢者のみならず全年齢に適応が拡大され、全年齢の「肺炎球菌感染症に罹患するリスクが高い人」に接種が可能となった。また、PCV13接種には集団免疫効果が認められており、小児へのPCV7およびPCV13接種の間接効果(集団免疫)により、成人IPD症例のPCV13血清型(莢膜型)は劇的に減少した3)。その一方で、PCV13に含まれない血清型が増加するなど血清型置換が報告されている3)がこの問題は後述する。表 肺炎球菌ワクチン(PPSV23とPCV13)の比較画像を拡大する接種のスケジュール1)23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(PPSV23)〔商品名:ニューモバックスNP〕【定期接種】これまでにPPSV23を1回も接種したことがなく、以下(1)(2)にあてはまる人は定期接種として1回接種できる。(1)2019年度から2023年度末までの5年間限定で65歳、70歳、75歳、80歳、85歳、90歳、95歳および100歳になる人。なお、2023年度以降は65歳になる年度に定期接種として1回接種できる見込みである。(2)60〜64歳で、心臓、腎臓、呼吸器の機能に障害があり、身の回りの生活が極度に制限されている人。ヒト免疫不全ウイルス(HIV)で免疫機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能な人。【任意接種】2歳以上で上記以外の人。接種後5年以上の間隔をおいて再接種することができる12)。2)沈降13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)〔同:プレベナー13水性懸濁注〕【定期接種】小児(2ヵ月以上5歳未満)以下のように接種開始時の月齢・年齢によって接種間隔・回数が異なることに注意する。(〔1〕1回目、〔2〕2回目、〔3〕3回目、〔4〕4回目)[接種開始が生後2ヵ月~7ヵ月に至るまでの場合(4回接種)]〔1〕〔2〕〔3〕の間は 27 日以上(27~56日)、〔3〕〔4〕の間は 60日以上の間隔をあけて(12~15ヵ月齢で)接種する 。[接種開始が生後7ヵ月~12ヵ月に至るまでの場合(3回接種)]〔1〕〔2〕の間は 27日以上(27~56日)、〔2〕〔3〕の間は 60日以上の間隔をあけて(12ヵ月齢以降で)接種する。[接種開始が12ヵ月~24ヵ月に至るまでの場合(2回接種)]〔1〕〔2〕の間は 60日以上の間隔をあけて接種する。[接種開始が24か月-5歳の誕生日に至るまでの場合(1回接種)]1回のみ接種する。【任意接種】5歳以上の罹患するリスクが高い者:1回1回のみ接種する。日常診療で役立つ接種ポイント1)PPSV23の推奨(1)2歳以上の脾臓を摘出した患者肺炎球菌感染症の発症予防として保険適用されるが、より確実な予防のためには摘出の14日以上前までに接種を済ませておくことが望ましい。(2)2歳以上の脾機能不全(鎌状赤血球など)の患者(3)高齢者(4)心臓や呼吸器の慢性疾患、腎不全、肝機能障害、糖尿病、慢性髄液漏などの基礎疾患がある患者(5)免疫抑制作用がある治療が予定されている患者。治療開始の14日以上前までに接種を済ませておくことが望ましい。2)PCV13の推奨(1)乳幼児(生後2ヵ月~5歳未満:定期接種)IPDは、とくに乳幼児でリスクが高く、5歳未満の致命率はおよそ1%と報告され14)、後遺症を残す危険性もある。そのため乳児であっても、接種が可能となる生後2ヵ月以上ではワクチン接種をされることを強く勧める。(2)基礎疾患がある5〜64歳の人2017年時点のIPDの致命率は、6〜44歳で6.2%、45〜64歳で19.5%と高く、基礎疾患を有することがリスクとなることが報告されている6)。基礎疾患(先天性心疾患、慢性心疾患、慢性肺疾患、慢性腎疾患、慢性肝疾患、糖尿病、自己免疫性疾患、神経疾患、血液・ 腫瘍性疾患、染色体異常、早産低出生体重児、無脾症・脾低形成、脾摘後、臓器移植後、髄液漏、人工内耳、原発性免疫不全症、造血幹細胞移植後など6,15)がある人には、本人・保護者と医師との話し合い(共有意思決定)に基づいてワクチン接種をされることを勧める。詳しくは「6歳から64歳までのハイリスク者に対する肺炎球菌ワクチン接種の考え方」(2021年3月17日)を参照。(3)基礎疾患がある高齢者、高齢者施設の入所者 基礎疾患(慢性的な心疾患、肺疾患、肝疾患、糖尿病、アルコール依存症、喫煙者など)がある高齢者では、本人・家族と医師との話し合い(共有意思決定)に基づいてワクチン接種することを勧める11)。とくに、髄液漏、人工内耳、免疫不全(HIV、無脾症、骨髄腫、固形臓器移植など)の患者には接種を勧める11)。高齢者施設の入所者も医師と相談して接種することを勧める11)。3)高齢者に対するPPSV23とPCV13の接種に関する考え方これまで高齢者に対するPPSV23とPCV13の接種について国内外で議論されてきたが、現時点での日本呼吸器学会・日本感染症学会の合同委員会による「考え方」16)を紹介する。【PPSV23未接種者に対して】(1)まず定期接種としてPPSV23の接種を受けられるようにスケジュールを行う。(2)PPSV23とPCV13の両方の接種をする場合には(1)を考慮しつつPCV13→PPSV23の順番で接種し、PCV13接種後6ヵ月〜4年以内にPPSV23を接種することが適切と考えられている。この順番の利点は、成人ではPCV13接種後に、被接種者に13の血清型の莢膜抗原特異的なメモリーB細胞が誘導され、その後のPPSV23接種により両ワクチンに共通した12の血清型に対する特異抗体のブースター効果が期待されることである。ただし、この連続接種については海外のデータに基づいており、日本人を対象とした有効性、安全性の検討はなされていない。【PPSV23既接種者に対して】PPSV23接種から1年以上あけてからPCV13接種を行う。詳細は以下の図1と「65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方(第3版)」を参照。図1 65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種の考え方(2019年10月)(日本感染症学会/日本呼吸器学会 合同委員会)画像を拡大する今後の課題・展望小児へのPCV7およびPCV13接種の間接効果(集団免疫)により、成人IPD症例のPCV13血清型(莢膜型)は劇的に減少したが、一方でPCV13に含まれない血清型が増加し、血清型置換が報告されている3)(図2)。図2 小児へのPCVs導入後のIPD由来株の莢膜型変化画像を拡大する2018年の厚生労働省の予防接種基本方針部会では、国内のIPDや肺炎原因菌の血清型分布などを検討しPCV13を高齢者に対する定期接種に指定しないと結論された17)。また、米国予防接種諮問委員会(ACIP)において、PPSV23はこれまで同様に推奨されたが、小児へのPCV13定期接種の集団免疫効果により高齢者の同ワクチン血清型の感染が劇的に減少したことから費用対効果も考慮し、高齢者へのPCV13の定期接種や一律のPCV13-PPSV23の連続接種は推奨しない方針に変更され、患者背景を考慮してPCV13接種を推奨することとされた13)。PCV13は高齢者の定期接種には指定されていないものの、接種しないことが勧められているわけではなく、その効果や安全性は確認されており13)、患者背景を考慮して接種する必要があることに注意する。とくに基礎疾患がある高齢者、高齢者施設の入所者には積極的に接種を勧めたい。また、2016年時点の高齢者のPPSV23接種率は40%ほど1)に留まっており、接種率のさらなる向上が必要である。基礎疾患を有することはIPDの重症化のリスクであり、日常診療における基礎疾患の管理とともに、適切にPPSV23やPCV13の接種を勧め、被接種者と共有意思決定を行い(shared decision making)、接種を実施し患者や地域住民をIPDから守りたい。わが国では成人IPDの調査・研究に限界があるが、前述の通りIPD症例の莢膜型の変化が報告4)されており、将来的にはさらに多くの血清型をカバーするワクチンやすべての肺炎球菌に共通する抗原をターゲットとした次世代型ワクチンの開発が望まれ、今後の動向にも注目したい3,6,18)。参考となるサイト(公的助成情報、主要研究グループ、参考となるサイト)1)23 価肺炎球菌莢膜ポリサッカライド ワクチン(肺炎球菌ワクチン) ファクトシート. 平成30(2018)年5月14日.国立感染症研究所.2)13価肺炎球菌コンジュゲートワクチン(成人用)に関するファクトシート. 平成27年7月28日.国立感染症研究所. 3)65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方(第3版 2019-10-30)日本呼吸器学会呼吸器ワクチン検討WG委員会/日本感染症学会ワクチン委員会・合同委員会4)「6歳から64歳までのハイリスク者に対する肺炎球菌ワクチン接種の考え方」(2021年3月17日).日本呼吸器学会呼吸器ワクチン検討委員会/日本感染症学会ワクチン委員会/日本ワクチン学会・合同委員会.5)こどもとおとなのワクチンサイト1)国立感染症研究所. 23 価肺炎球菌莢膜ポリサッカライド ワクチン(肺炎球菌ワクチン) ファクトシート. 平成30(2018)年5月14日. 2018.(2021年8月9日アクセス)2)Yoshii Y, et al. Infectious diseases. 2016;48:782-788.3)生方公子,ほか. 肺炎球菌感染症とワクチン. 2019.(2021年8月10日アクセス)4)Ubukata K, et al. Emerg Infect Dis. 2018;24:2010-2020.5)Ubukata K, et al. J Infect Chemother. 2021;27:211-217.6)Hanada S, et al. J Infect Chemother. 2021;27:1311-1318.7)生方公子, ほか. 肺炎球菌. 重症型のレンサ球菌・肺炎球菌感染症に対するサーベイランスの構築と病因解析、その診断・治療に関する研究.(2021年8月10日アクセス)8)新橋玲子, ほか.成人侵襲性肺炎球菌感染症に対する 23 価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチンの有効性. 2018; IASR 39:115-6.(2021年8月10日アクセス) 9)Suzuki M, et al. Lancet Infect Dis. 2017;17:313-321.10)厚生労働省. 第27回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会 資料. 2019.(2021年8月10日アクセス)11)World Health Organization. Releve epidemiologique hebdomadaire. 2008;83(42):373-384.12)肺炎球菌ワクチン再接種問題検討委員会. 肺炎球菌ワクチン再接種のガイダンス(改訂版). 感染症誌. 2017;9;:543-552.(2021年8月10日アクセス)13)Matanock A, et al. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2019;68:1069-1075.14)国立感染症研究所. 資料3 13価肺炎球菌コンジュゲートワクチン(成人用)に関するファクトシート. 平成27年7月28日. 第1回厚生科学審議会予防接種・ワクチン文科会予防接種基本方針部会ワクチンに関する小委員会資料. 2015.(2021年8月9日アクセス)15)日本呼吸器学会呼吸器ワクチン検討委員会/日本感染症学会ワクチン委員会/日本ワクチン学会・合同委員会. 「6歳から64歳までのハイリスク者に対する肺炎球菌ワクチン接種の考え方」(2021年3月17日). (2021年8月9日アクセス)16)日本呼吸器学会呼吸器ワクチン検討WG委員会/日本感染症学会ワクチン委員会・合同委員会. 65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方(第3版 2019-10-30). 2019.(2021年8月9日アクセス)17)厚生労働省. 第24回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会 資料 2018.(2021年8月9日アクセス)18)菅 秀, 富樫武弘, 細矢光亮, ほか. 13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)導入後の小児侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)の現状. IASR Vol. 39 p112-113. 2018.(2021年8月10日アクセス)講師紹介

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第27回 有名だけれども意外と見落とされがちな意識障害の原因は?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)意識障害の原因は主軸を持って対応を!2)忘れがちな意識障害の原因を把握し対応を!【症例】62歳男性。意識障害仕事場の敷地内で倒れていた。●受診時のバイタルサイン意識20/JCS血圧128/51mmHg脈拍95回/分(整)呼吸20回/分SpO295%(RA)体温36.0℃瞳孔4/4 +/+既往歴高血圧内服薬定期内服薬なし所見麻痺の評価は困難だが、明らかな左右差なし意識障害の原因は?1)救急外来では意識障害患者にしばしば遭遇します。以前に取り上げた意識障害のアプローチに準じて対応しますが、今回の原因は何らしいでしょうか。意識障害というとどうしても頭蓋内疾患を考えがちですが、一般的に頭蓋内疾患が原因の意識障害では血圧は高くなるため、この時点で明らかな麻痺も認めないことから脳卒中は積極的には疑いません。クモ膜下出血の多くは左右差を認めないため、突然発症であった場合には注意が必要ですけどね。それでは原因は何でしょうか?意識障害の原因は多岐に渡り、“AIUEOTIPS”などの語呂合わせで覚えている人も多いのではないでしょうか。急性発症の意識障害であれば、低血糖を除外し、その後頭部CTを検査するというのは一般的な流れかと思います。診療の場において頻度は異なりますが、救急外来を受診する患者では感染症、脳卒中、痙攣、薬剤性、外傷が多く、その他、血糖異常やアルコール、電解質異常などもそれなりに経験します。今回はその中でも見逃しがちな意識障害の原因を見逃される理由と併せて整理しておきましょう。細菌性髄膜炎2)頻度として高くはありませんが、病態として敗血症が考えられる状況においては常に考える必要があります。見逃してしまう理由は、そもそも鑑別に挙げることができない、鑑別に挙げても発熱がない、項部硬直を認めないなどから除外してしまう、その他腰椎穿刺は施行したものの細胞数の上昇を認めなかったため除外してしまったなどが一般的でしょう。ワクチンの普及によって、以前と比較し細菌性髄膜炎は減少傾向にあるものの、毎年私の施設でも数例を経験します。忘れた頃にやってくる疾患といったイメージでしょうか。救急外来では、qSOFA陽性患者では鑑別に挙げ、他のフォーカスが明らかでない場合には積極的に腰椎穿刺を施行し、たとえ細胞数が上昇していなくてもグラム染色所見や培養結果で根拠を持って否定できるまでは、細菌性髄膜炎として対応するようにしています。髄膜刺激徴候は重要ですが、ケルニッヒ徴候やブルジンスキー徴候など特異度が比較的高い所見はあるものの、感度が高い身体所見は存在しないことに注意が必要です(項部硬直は感度46.1%、特異度71.3%)。単一の指標ではなく、総合的な判断が必要であるため、髄膜刺激徴候は1つ1つ確認しますが、結果の解釈を誤らないようにしましょう。細菌性髄膜炎は内科的エマージェンシー疾患であり、安易な除外は禁物です。レジオネラ症(legionellosis)「レジオネラ肺炎」。誰もが聞いたことがある病気ですが、早期に疑い適切な介入を行うことは簡単なようで難しいものです。呼吸困難を主訴に来院し、低酸素血症を認め、X線検査所見では明らかな肺炎像、尿中抗原を提出して陽性、このような状況であれば誰もが考えると思いますが、実臨床はそんなに甘くはありません。肺炎球菌と並んで重症肺炎の代表的な菌であるため、早期発見、早期治療介入が重要ですが、入り口を把握し疑うポイントを知らなければ対応できません。レジオネラ肺炎を見逃してしまう理由もまた同様であり、そもそも鑑別に挙がらない、疑ったものの温泉入浴などの感染経路がなく否定してしまった、尿中抗原陰性を理由に除外してしまったなどが挙げられます。市中肺炎患者に対して肺炎球菌をカバーしない人はいないと思いますが、意外とレジオネラは忘れ去られています。セフトリアキソン(CTRX)やアンピシリン・スルバクタム(ABPC/SBT)などの抗菌薬は、しばしば救急外来で投与されますが、これらはレジオネラに対しては無効ですよね。重症肺炎、喀痰グラム染色で起因菌が見当たらない、紹介症例などでCTRXなどβラクタム系抗菌薬が無効な場合には積極的にレジオネラ肺炎を疑う必要があります。難しいのは入り口が肺炎を示唆する症状ではない場合です。レジオネラ症の初期に認めうる肺外症状を頭に入れておきましょう(表)。これらを認める場合、他に説明しうる原因があれば過度にレジオネラを考える必要はありませんが、そうではない場合、「もしかしてレジオネラ?!」と考え、改めて病歴や身体所見をとるとヒントが隠れているかもしれません。また、意識すれば発熱の割に脈拍の上昇が認められない比較的徐脈にも気付くかもしれません。尿中抗原は診断に多々利用されていますが、これも注意が必要です。特異度は比較的高いとされますが、偽陽性の問題もあります。また、感度は決して高くないため陰性であっても否定できません。(1)重症肺炎、(2)βラクタム系抗菌薬が効かない肺炎、(3)グラム染色で有意な菌が認められない場合、(4)肺外症状を認める場合、(5)比較的徐脈を認める場合、このような場合にはレジオネラを意識して対応するようにしています。表 レジオネラ肺炎の肺外症状画像を拡大するウェルニッケ脳症4)アルコール多飲患者では鑑別に挙げ対応することが多いと思いますが、それ以外の場合には忘れがちです。フレイル患者など低栄養の患者さんでは常に考えるべき疾患であると思います。ウェルニッケ脳症が見逃されがちな5つの誤解があります。それは、「(1)非常にまれである、(2)慢性アルコール患者のみに起こる、(3)3徴(意識障害、眼球運動障害、歩行失調)が揃っていなければならない、(4)チアミンを静注するとアナフィラキシーのリスクが高い、(5)他の診断があれば除外できる」です。正確な頻度は不明であるものの、私たちが行わなければならないのはウェルニッケ脳症を診断すること以上に治療介入のタイミングを逃さないことです。意識障害患者に対するビタミンB1の投与は経静脈的に行いますが、迷ったら投与するようにしましょう。典型的な症状が揃うまで待っていてはいけません。重要なこととして(5)の他の診断があれば除外できるという誤解です。フレイル患者が脳梗塞を起こした場合、肺炎を起こした場合、その場合にビタミンB1が欠乏している(しかけている)ことも考え対応するようにしましょう。意識すると撮影した脳梗塞のMRIに典型的な所見が映っているかもしれませんよ。今回の症例の最終診断は「レジオネラ肺炎」でした。診断へのアプローチは紙面の都合上割愛しますが、意識障害のアプローチは主軸を持ちつつ、そのアプローチで見逃しがちな点を把握し、対応することが重要です。私は重度の意識障害患者に対するアプローチ方法を決め、そこから目の前の患者さんでは必要のない項目を引く形で対応しています。これもあれもと足し算で対応すると忘れたり、後手に回ることがありますからね。1)坂本 壮、安藤 裕貴著. 意識障害。あなたも名医!. 日本医事新報社;2019.2)Akaishi T, et al. J Gen Fam Med. 2019;20:193-198.3)Cunha BA. Infect Dis Clin North Am. 2010;24:73-105.4)坂本 壮 編著. 救急外来、ここだけの話. 医学書院;2021.

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入院COVID-19の生存日数は?デキサメタゾン6mg vs.12mg/JAMA

 重度の低酸素血症を呈する新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の成人入院患者において、デキサメタゾンの12mg投与は6mgと比較して、28日後の生命維持装置を使用しない生存日数を改善せず、28日と90日後の死亡率にも差はないことが、デンマーク・コペンハーゲン大学病院のMarie W. Munch氏らCOVID STEROID 2 Trial Groupが実施した「COVID STEROID 2試験」で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2021年10月21日号で報告された。欧州とインドの医師主導無作為化試験 本研究は、重度の低酸素血症を有するCOVID-19患者におけるデキサメタゾン12mgと6mgの有効性の比較を目的とする医師主導の二重盲検無作為化試験であり、2020年8月27日~2021年5月20日の期間に、4ヵ国(デンマーク、インド、スウェーデン、スイス)の26病院で行われた(Novo Nordisk財団などの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染が確定されて入院し、(1)酸素補充療法(流量≧10L/分)、(2)低酸素血症に対する非侵襲的換気または持続陽圧呼吸療法、(3)侵襲的機械換気のいずれかを受けている患者であった。 被験者は、最長10日間、デキサメタゾン12mgを静脈内投与する群または同6mgを投与する群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、28日時点の生命維持装置(侵襲的機械換気、循環補助、腎代替療法)なしでの生存日数とし、層別変数で補正された。副次アウトカムは事前に8つが設定され、今回の解析では、そのうち5つ(90日時点の生命維持装置なしの生存日数、90日時点の生存退院日数、28日時点と90日時点の死亡、28日時点の1つ以上の重篤な有害反応)が評価された。重篤な有害反応にも差はない 982例(年齢中央値65歳[IQR:55~73]、女性31%)が解析に含まれ、デキサメタゾン12mg群に497例、同6mg群に485例が割り付けられた。このうち971例(12mg群491例、6mg群480例)で主要アウトカムのデータが得られた。介入期間中央値は両群とも7日で、12mg群の9例(1.8%)、6mg群の11例(2.3%)が医師の指示に反して28日以内に退院した。 28日時点の生命維持装置なしの生存日数中央値は、12mg群が22.0日(IQR:6.0~28.0)、6mg群は20.5日(4.0~28.0)であり、両群間に有意な差は認められなかった(補正後平均群間差:1.3日、95%信頼区間[CI]:0~2.6、p=0.07)。 副次アウトカムである90日時点の生命維持装置なしの生存日数中央値は、12mg群が84.0日(IQR:9.3~90.0)、6mg群は80.0日(6.0~90.0)であった(補正後平均群間差:4.4日、99%CI:-1.6~10.4)。また、90日時点の生存退院日数は、それぞれ61.5日(0~78.0)および48.0日(0~76.0)だった(4.1日、-1.3~9.5)。 さらに、28日時点の死亡率は、12mg群が27.1%、6mg群は32.3%(補正後相対リスク[RR]:0.86、99%CI:0.68~1.08)、90日時点の死亡率は、それぞれ32.0%および37.7%(0.87、0.70~1.07)であり、いずれも有意差はみられなかった。 28日までに1つ以上の重篤な有害反応(敗血症性ショック、侵襲性真菌症、臨床的に重要な消化管出血、デキサメタゾンに対するアナフィラキシー反応)が発現した患者の割合は、12mg群が11.3%、6mg群は13.4%であり、両群間に差はなかった(補正後RR:0.83、99%CI:0.54~1.29)。体外式膜型人工肺(ECMO)は、12mg群が3例(0.6%)、6mg群は14例(2.9%)で使用された。 なお著者は結果について、「本試験は、有意差を同定するには、検出力が十分でなかった可能性がある」としている。

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ステロイド投与に関連する臨床試験の難しさ:心肺蘇生の現場から(解説:香坂俊氏)

(1)敗血症性ショック症例に対するステロイド投与今回のテーマはVAM-IHCA試験という院内の心停止症例に対してバソプレシン+メチルプレドニゾロンを投与するかどうかというRCTなのであるが(JAMA誌掲載)、このテーマに関しては少し昔の話から始めさせていただきたい。ステロイドが集中治療の現場に登場したのは、2002年くらいからではないだろうか。Annane氏らによってフランスで敗血症性ショック症例を対象としたRCTが行われ(300例)、ACTH負荷不応だった患者に対して・ヒドロコルチゾン50mg(6時間ごと)+フルドロコルチゾン50mg(24時間ごと)を7日間実施すると、プラセボと比較して、ICU死亡(58% vs.70%)や院内死亡(61% vs.72%)が減少したと報告された。この研究を契機に、敗血症性ショックにはACTH試験を行い不応性であればステロイド投与を行うというのが普及した。当時自分はニューヨークで内科のレジデントをやっていたが、ICUのことが詳しかった同僚※に「これどうなの?」とか聞いたりして、四苦八苦しながらそのプロトコールを実施していた記憶がある。しかし、このフランスのRCTは小規模なものであり、プロトコール外で副腎ステロイド複合体阻害薬が投与されていた症例が少なからずいたこと、フルドロコルチゾンが単なる交絡因子であった可能性、そして対照群で抗菌薬投与の遅れがあったなど、議論の余地が結構残されていた。その後、さまざまな小規模あるいは中規模の試験が行われたが、明確な結論を得るに至らず、2018年にようやく満を持してADRENAL試験(3,800例)の結果が報告された。その結果であるが、Among patients with septic shock undergoing mechanical ventilation, a continuous infusion of hydrocortisone did not result in lower 90-day mortality than placebo. というものであった。(2)心停止症例に対するステロイド投与前置きが長くなったが、今回デンマークで行われたVAM-IHCA試験の結果を拝読し、Annane氏らの敗血症性ショックに対するRCTの結果が重なった。VAM-IHCAは501人の院内心停止症例を対象としており、蘇生時にバソプレシン+メチルプレドニゾロン(40mg)、あるいは通常どおりエピネフリンを投与するかどうかをランダム化したものであり(Annane氏らの研究と異なりメチルプレドニゾロンの投与は蘇生時の1回のみ)、結果としてROSC(return of spontaneous circulation)の率は改善したものの(42% vs.33%)、30日生存率の改善には至らなかった(10% vs.12%)。VAM-IHCAではAnnane氏らの研究と同様にさまざまな交絡が指摘されており、たとえば24時間生存したプラセボ群の患者の実に46%が何らかのステロイドの投与が行われていた。また、プライマリエンドポイントはあくまでROSCであり、生存率を検証するための症例数はこの研究ではそもそも担保されていなかったという限界もある。今後この領域でADRENALのような決定的な臨床試験が行われるか? そこはかなり難しいように思われるが、デンマークを含む北欧諸国の成熟したregistry-based RCTのシステムを用いればもしかすると可能かもしれない(3)今後心肺蘇生のプロトコールは変更されるか?敗血症性ショックに対するステロイド治療の歴史を体験してきた身としては、この領域の試験の難しさは身に染みてわかっているつもりである。ステロイドにはα受容体をアップレギュレートする効果があり、また全身的な炎症反応が不活化されている状況下で相対的な副腎機能低下を補うことも期待される。しかし、このように「想定されるベネフィット」も臨床試験の検証があってのものであり、VAM-IHCA試験の結果を踏まえて、すぐにASLSなどの心肺蘇生のプロトコールが変更されることはないだろう。ステロイド治療は、一部のCPR-refractoryの患者群のみに用いられるべき、と捉えるのが現段階での最適解ではなかろうか。※現Intermountain LDS HospitalのICU Directorである田中 竜馬氏

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やせ過ぎは尿路感染症の死亡の危険因子に/国立国際医療研究センター

 尿路感染症のために入院している患者は年間約10万人と推定され、高齢になるほど患者は増え、90歳以上では1年間で100人に1人が入院し、その入院医療費は年間660億円にのぼると見積もられている。その実態はどのようなものであろう。 国立国際医療研究センターの酒匂 赤人氏(国府台病院総合内科)らは、東京大学などとの共同研究により、尿路感染症で入院した23万人の大規模入院データをもとに、尿路感染症による入院の発生率、患者の特徴、死亡率などを明らかにすることを目的に調査を行い、今回その結果を発表した。 その結果、年間約10万人が入院し、患者平均年齢は73.5歳で、女性が64.9%を占め、入院中の死亡率は4.5%だった。また、年代や性別にかかわらず、夏に入院患者が多く、冬と春に少ないという季節変動がみられた。23万人のデータを解析【研究の背景・目的】 尿路感染症は敗血症やDIC(播種性血管内凝固症候群)といった重篤な状態に至ることもあり、死亡率は1~20%程度と報告され、高齢、免疫機能の低下、敗血症などが死亡の危険因子だと言われているが、日本での大規模なデータはなかった。わが国の大規模入院データベースであるDPCデータを利用し、尿路感染症による入院の発生率などを明らかにすることを目的に研究を行った。【方法】 DPCデータベースを用い、2010~15年に退院した約3,100万人のうち、尿路感染症や腎盂腎炎の診断により入院した15歳以上の患者23万人のデータを後ろ向きに調査(除く膀胱炎)。年間入院患者数を推定し、患者の特徴や治療内容、死亡率とその危険因子などを調査した。【結果】・患者の平均年齢は73.5歳、女性が64.9%を占めた・年代や性別にかかわらず、夏に入院患者が多く、冬と春に少ないという季節変動がみられた・尿路感染症による入院の発生率は人口1万人当たりで男性は6.8回、女性は12.4回・高齢になるほど入院の発生率が高くなり、70代では1万人当たり約20回、80代では約60回、90歳以上では約100回・15~39歳の女性のうち、11%が妊娠していた・入院初日に使用した抗菌薬はペニシリン系21.6%、第1世代セフェム5.1%、第2世代セフェム18.5%、第3世代セフェム37.9%、第4世代セフェム4.4%、カルバペネム10.7%、フルオロキノロン4.5%・集中治療室に入ったのは2%、結石や腫瘍による尿路閉塞に対して尿管ステントを要したのは8%だった・入院日数の中央値は12日で、医療費の中央値は43万円・入院中の死亡率は4.5%で、男性、高齢、小規模病院、市中病院、冬の入院、合併症の多さ・重さ、低BMI、入院時の意識障害、救急搬送、DIC、敗血症、腎不全、心不全、心血管疾患、肺炎、悪性腫瘍、糖尿病薬の使用、ステロイドや免疫抑制薬の使用などが危険因子だった尿路感染症の死亡の危険因子で体型が関係 今回の調査を踏まえ、酒匂氏らは次のようにコメントしている。「尿路感染症は女性に多いことが知られているが、高齢者では人口当たりの男性患者は女性と同程度であることもわかった。夏に尿路感染症が多いことが、今回の研究でも確かめられ、さらに年代や性別によらないことがわかった。また、冬に死亡率が高いこともわかった。一方で、なぜ季節による変化があるのかについてはわからず、今後の他の研究が待たれる。患者一人当たりの平均入院医療費は約62万円(日本全体で年間約660億円と推定)がかかっており、医療経済的な観点でも重要な疾患であることが確かめられた。尿路感染症には軽症から重症なものまであり、死亡率は1~20%とかなり幅があるが、今回の研究では4.5%だった。死亡の危険因子として、従来わかっている年齢や免疫抑制などのほかにBMIが低いことも危険因子であることがわかった。近年、さまざまな疾患で太り過ぎよりもやせ過ぎていることが体によくないということがわかってきたが、今回の研究でもBMI18.5未満の低体重ではそれ以上と比べて死亡率が高いことがわかった」。 なお、今回の研究にはいくつかの限界があり、内容を解釈するうえで注意を要するとしている。

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ヒブ(Hib)ワクチン【今、知っておきたいワクチンの話】各論 第10回

今回は、ワクチンで予防できる疾患、VPD(vaccine preventable disease)としてヒブを取り上げる。ヒブ(Hib)は、“Haemophilus influenzae type b”(インフルエンザ菌b型)の頭文字をとった呼称で、髄膜炎などにより多くの子供たちの命を奪ってきた病原体の1つである。しかし、2008年にワクチンが国内に導入されてからHib感染症の報告数は激減し、2014年以降、5歳未満のHib侵襲性感染症は報告されていない。あまりに目覚ましい発症予防効果のため、Hib感染症そのものが忘れ去られつつある今、本稿では改めてこの疾患の特徴と疫学、成人におけるワクチンの活用について取り上げる。ヒブワクチンで予防できる疾患Hibは気道を介して感染する(飛沫感染と接触感染)。乳幼児の上気道に定着し、ほとんどの場合は無症状である。ワクチンが導入される前の保菌率は、15歳以下の17%、16~30歳の5.1%であった。しかし、気道から血流感染を起こすと、図に示すように髄膜炎、肺炎、敗血症、喉頭蓋炎、中耳炎などさまざまな臓器に侵襲性感染症を起こす。なかでもHib髄膜炎の致死率は5%と高く、4人に1人にてんかん、難聴、発育障害などの後遺症を残す1)。1996~1998年の調査ではHib髄膜炎は年間約600人で、罹患リスクの高い生後2ヵ月~5歳までの間に2,000人に1人の割合で罹患していると推測されていた。インフルエンザ菌による侵襲性感染症は感染症法において、第5類感染症全数届出疾患となっている2)。図 ワクチン導入前のHib感染症の病型画像を拡大する細菌学的にみるとHibはインフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)の1つで、インフルエンザ菌はa~f型の6つの莢膜菌型と、これらに該当しない型別不能の菌(Non-typable H. influenzae:NTHi)に分かれる。感染防御にあたって最も重要な宿主因子は莢膜多糖体(PRP/polyribosylribitol phosphate)に対する抗体である。通常は5歳以上になるとワクチン未接種であっても抗PRP抗体価が自然に上昇するため、感染リスクが低くなる。逆に乳児は感染リスクが高く、実際にワクチン導入前の侵襲性感染症の93%が5歳未満で、ピークは生後8ヵ月であった。このことから、生後早期に免疫を獲得しておくことが重要であるとわかる。ワクチンの概要表 ワクチンの概要と接種スケジュール画像を拡大する1)開発、普及の歴史ヒブワクチンは1980年代に開発が進んだ。はじめに開発されたのは莢膜多糖体(PRP)を抗原としたワクチンで、18ヵ月以上の小児を対象として導入されたが、効果は限定的で、また最も侵襲性感染症のリスクが高い2歳未満の小児への免疫原性が弱かった。その後、2歳未満の小児への免疫原性が改善された、PRPにキャリア蛋白を結合させた結合型ワクチン(conjugate vaccine)が開発され、現在わが国ではこのワクチンが採用されている。2006年、WHOが乳児期のワクチンとして推奨し、日本では2008年12月に販売開始となった。2010年11月には「子宮頸がん等ワクチン接種緊急促進事業」により多くの自治体で公費助成の対象となり、さらに2013年4月からは定期接種(A型疾病)が開始された。2)効果発症予防効果は90%以上と高い。米国ではワクチン導入5年で、5歳未満の侵襲性感染症の罹患率が99%減少したと報告されている。日本でも1道9県における疫学調査により、公費助成後のHib髄膜炎の減少率は100%と示されている3,4)。3)副反応ワクチン接種による一般的な副反応のみで、特異的な副反応は報告されていない。複数回の接種により、副反応の発現率が上昇することはない。4)注意点ヒブワクチンによるアナフィラキシーを起こしたことがある場合には禁忌である。日常診療で役立つ接種ポイント【5歳以上のワクチンについて】無脾症、待機的脾摘手術予定者、脾機能低下症、造血幹細胞移植者において、ヒブワクチンの接種が推奨される。前述の通り通常5歳以上では、ワクチン未接種であっても抗RPR抗体が上昇するため、ワクチン接種が不要である。しかしながら、上記のハイリスク群では、ワクチンによって十分な抗体価を維持する必要がある。米国の予防接種の実施に関する諮問委員会(ACIP)では、ヒブワクチン未接種の無脾症、待機的脾摘手術予定者では1回接種(脾摘術の場合は、術前14日前に接種)、造血幹細胞移植者ではヒブワクチン接種歴に関わらず移植後6~12ヵ月からの3回接種を推奨している。今度の課題、展望ヒブワクチンは、侵襲性Hib感染症の発症予防効果が非常に高く、Hib髄膜炎は今や過去の病気になりつつある。しかしながら臨床で遭遇することが減ったのは、高いワクチン接種率の恩恵であることを忘れてはならない。今後も肺炎球菌ワクチンと共に、ヒブワクチンの重要性を伝え、乳児期および高リスク者への接種を推奨してもらいたい。Hib感染症の減少とともに、非b型のインフルエンザ菌および無莢膜型(non-typable H. infuenzae:NTHi)による侵襲性感染症の増加が報告されている。2019年度感染症流行予測調査では、検討された58株のうち、3株がe型、4株がf型、その他の51株はNTHi であった。臨床診断名では26名が肺炎で最も多く(45%)、NTHiによる高齢者の肺炎が課題となっている。現在NTHiに対する複数のワクチン開発が進んでおり、今後の実用化が期待される。参考となるサイトこどもとおとなのワクチンサイト日本ワクチン産業協会 予防接種に関するQ&A集2020.インフルエンザ菌b型(Hib)感染(pdf)1)Plotkin SA, et al(eds). Plotkin's Vaccines (Seventh Edition).Elsevier.2018.2)国立感染症研究所. 令和元年度(2019年度)感染症流行予測調査報告書.(最終アクセス2021.7.15)3)厚生労働科学研究費補助金. 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業 Hib、肺炎球菌、HPV及びロタウイルスワクチンの各ワクチンの有効性、安全性並びにその投与方法に関する基礎的・臨床的研究 平成26年度 総括・分担研究報告書 庵原俊昭、「小児細菌性髄膜炎および侵襲性感染症調査」に関する研究(全国調査結果)(厚生労働科学研究成果データベース閲覧システム)4)菅秀. ワクチンの実地使用下における有効性・安全性及びその投与方法に関する基礎的 ・ 臨床的研究 平成28年度 委託研究開 発成果報告書(国立研究開発法人 日本医療研究開発機構)(最終アクセス2021.7.27)5)CDC. MMWR. 2014;63:1-14.講師紹介

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「ザイボックス」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第71回

第71回 「ザイボックス」の名称の由来は?販売名ザイボックス注射液600mgザイボックス錠600mg一般名(和名[命名法])リネゾリド(JAN)効能又は効果○〈適応菌種〉本剤に感性のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)〈適応症〉敗血症、深在性皮膚感染症、慢性膿皮症、外傷・熱傷及び手術創等の二次感染、肺炎○〈適応菌種〉本剤に感性のバンコマイシン耐性エンテロコッカス・フェシウム〈適応症〉各種感染症用法及び用量<ザイボックス注射液 600mg>通常、成人及び12歳以上の小児にはリネゾリドとして1日1200mgを2回に分け、1回600mgを12時間ごとに、それぞれ30分~2時間かけて点滴静注する。通常、12歳未満の小児にはリネゾリドとして1回10mg/kgを8時間ごとに、それぞれ30分~2時間かけて点滴静注する。なお、1回投与量として600mgを超えないこと。<ザイボックス錠 600mg>通常、成人及び12歳以上の小児にはリネゾリドとして1日1200mgを2回に分け、1回600mgを12時間ごとに経口投与する。通常、12歳未満の小児にはリネゾリドとして1回10mg/kgを8時間ごとに経口投与する。なお、1回投与量として600mgを超えないこと。警告内容とその理由警告本剤の耐性菌の発現を防ぐため、「5.効能又は効果に関連する注意」、「8.重要な基本的注意」 の項を熟読の上、適正使用に努めること。禁忌内容とその理由禁忌(次の患者には投与しないこと)本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者※本内容は2021年9月29日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2021年6月改訂(第17版)医薬品インタビューフォーム「ザイボックス®注射液600mg・ザイボックス®錠600mg」2)Pfizer for Professionals:製品情報

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疑問点ばかりが浮かぶ研究(解説:野間重孝氏)

 ショックとは「生体に対する侵襲あるいは侵襲に対する生体反応の結果、重要臓器の血流が維持できなくなり、細胞の代謝障害や臓器障害が起こり、生命の危機に至る急性の症候群」と定義される。ショックの分類については、近年は循環障害の要因による新しい分類が用いられることが多く、次のように分類される。(1)循環血液量減少性ショック(hypovolemic shock)   出血、脱水、腹膜炎、熱傷など(2)血液分布異常性ショック(distributive shock)   アナフィラキシー、脊髄損傷、敗血症など(3)心原性ショック(cardiogenic shock)   心筋梗塞、弁膜症、重症不整脈、心筋症、心筋炎など(4)心外閉塞・拘束性ショック(obstructive shock)   肺塞栓、心タンポナーデ、緊張性気胸など ここで注意すべきなのは、どの型のショックにおいても例外なく血圧の低下を伴うことで、実際臨床で最大の指標にされるのは血圧である。ちなみにショックの五大兆候とは、蒼白・虚脱・冷汗・脈拍触知不能・呼吸不全をいう。 心原性ショックについて言えば、血液を送り出せない場合だけではなく、心臓に戻ってきた血液を受け止めきれないために生じる場合も含んでいることに注意する必要がある。心原性ショックは心筋性(心筋梗塞、拡張型心筋症など)、機械性(大動脈弁狭窄症、心室瘤など)、不整脈性の3つに分類される。 ミルリノン(商品名:ミルリーラなど)はホスホジエステラーゼ(phosphodiesterase:PDE)III阻害薬に分類される薬剤で、β受容体を介さずに細胞内cAMPをAMPに分解する酵素であるPDE IIIを抑制することによって細胞内cAMP濃度を高めると同時に血管平滑筋も弛緩させるため、inodilatorと呼ばれる。一般にドブタミンなどによる通常の治療に反応が不良であるケースに使用されるが、高度腎機能低下例(SCR≧3.0mg/dL)、重篤な頻脈性不整脈、カテコラミンを用いても血圧<90mmHgの症例には使用を避けるべきであるとされる。 本論文ではどのような患者に対して、どのような併用薬を用いて、どのような状態でドブタミンまたはミルリノンが使用されたかについての記載がまったくない。これは使用に当たって厳しい制限が課されている薬剤の研究発表としては、不適切と言わなければならないだろう。最大の問題点は血圧についての言及がないことで、では血圧が50mmHgを割っている患者に対して昇圧剤も使用せずにミルリノンを使用したのか、という単純な疑問に答えられていない。また、心室頻拍や心室細動に伴う心原性ショックに対してミルリノンが使用されることはないはずである。一連の研究について説明不足と言うべきだろう。 評者が一番の問題点、疑問点と考えるのはend pointの設定である。本研究においては院内死亡、蘇生された心停止、心移植、機械的循環補助の実施、非致死性の心筋梗塞、一過性脳虚血発作または脳梗塞、腎代替療法の開始が複合end pointとして設定されている。しかし本来、心原性ショックの治療成績は一にかかって、救命できたか・できなかったかであるはずである。重症不整脈によるショックの治療過程において、一時的に心停止を起こすことはとくに珍しいことではない。心移植や補助循環は方法であって結果ではない。また心移植というが、ショック状態の患者に対して心移植の適応はあるのだろうか(そもそも都合よくドナーがいるのかがまず問題であるが)。心筋梗塞は原因であって結果ではない。きわめてまれなことではあるが、蘇生の合併症として心筋梗塞が起こったとしても、それは合併症であって救命と直接関係した結果ではない。脳神経合併症は蘇生措置において生じた合併症であっても結果ではない。腎代替療法も補助的方法であって結果ではない。このように考えてみると、筆者らの設定したend pointはきわめて不適切であると言わざるを得ない。 現在の心原性ショックの治療の核は、原因の除去と左室を休ませることにあると言ってよい。たとえば、冠動脈閉塞が原因ならば可及的速やかに再開通を図るべきである。その際、血行動態が破綻しているならインペラ、ECMO、VADなど、あらゆる手段を用いることを躊躇するべきではない。また左室を休ませるという観点からもこれらの補助手段は大変に有効で、しかもできるだけ早期に実施することが望ましい。追加的補助として持続透析なども使用することをためらうべきではない。そこで強心薬を使用することは例外的な場合を除いてむしろ有害であり、それはドブタミンでもミルリノンでも同じではないかと考えられている。 論文という点から見ると、何点か問題があるだけでなく、シングルセンターの比較的少数の症例数であるにもかかわらずNEJM誌が掲載したことに驚いているというのが正直な感想である。見方を変えると、大変皮肉な言い方になるが、強心薬の時代は終わりを告げ、インペラ、VADなどのメカニカルサポートの時代が来ているのだと、とどめを刺すような印象を受けたことを申し添えたい。

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下痢症状から急性胃腸炎を診断、ゴミ箱診断を防ぐには?【Dr.山中の攻める!問診3step】第5回

第5回 下痢症状から急性胃腸炎を診断、ゴミ箱診断を防ぐには?―Key Point―下痢症状から急性胃腸炎の診断をするときは、本当に診断が正しいのかどうか後ろめたい気持ちにならなければならない。なぜなら、ゴミ箱診断の可能性があるからである。48歳男性が動悸を主訴に救急室を受診。1週間前から臥位で寝ると息苦しいという。3日前に下痢と発熱が出現。昨日は37.9℃、水様便10回と嘔吐20回あり。意識清明で38.2℃、血圧230/102mmHg、心拍数132回/分(絶対性不整脈)、呼吸回数22回/分だった。ベラパミル(商品名:ワソラン)5mgを2回静注しても頻脈は変化なし。甲状腺機能を調べるとTSH:0.01μIU/mL(基準値:0.3~4.0)、 FT4:8ng/dL(基準値:0.9~1.7)であった。このとき優秀な後期研修医が「発熱+下痢+嘔吐+頻脈+心不全、これって甲状腺クリーゼじゃないの」と気が付いてくれた。◆今回おさえておくべき疾患はコチラ!経口摂取や消化液の分泌により、毎日7.5Lの水分が消化管に流れ込む。小腸でほとんどの水分が吸収され、1.2Lの水分が大腸に到達する。大腸は1Lの水分を吸収するため、正常の便は200mLの水分を含む。したがって、大量の下痢は小腸に病変があることを示す1)急性下痢は感染症、慢性下痢は感染症以外で起こることが多い急性下痢では脱水になっていないかの評価が重要である就寝中に起こる下痢は器質的疾患の存在を示唆する大腸がんでは便秘のみならず下痢となることもある【STEP1】患者の症状に関する理解不足を解消させよう【STEP2】疾患の緊急性を見極める下痢は腸管以外の原因から考える。下痢の原因は腸管にあると考えがちだが、緊急性が高い腸管以外の疾患から考えるようにするとよい。●緊急性が高い“腸管以外”の疾患甲状腺クリーゼ、アナフィラキシー、トキシックショック症候群(TSS)、敗血症、腹膜炎、膵炎、薬剤●うんちしたい症候群(しぶり腹)大動脈瘤の切迫破裂、直腸がん、異所性妊娠、虚血性腸炎、炎症性腸疾患、細菌性大腸炎、急性虫垂炎、憩室炎、直腸異物*しぶり腹とは激しい便意にもかかわらず、ほとんど便が出ない状態*S状結腸や直腸に刺激が加わるとしぶり腹になる●血便が出る感染性下痢症腸管出血性大腸菌、赤痢菌、サルモネラ、カンピロバクター、赤痢アメーバ【分類】■急性下痢(1)炎症性(大腸型)下痢腸管出血性大腸菌、赤痢菌、サルモネラ、カンピロバクター、赤痢アメーバ*発熱、少量頻回(8~10回/日)の血性下痢、しぶり腹(2)非炎症性(小腸型)下痢ノロウイルス、ロタウイルス、コレラ、ウェルシュ、ランブル鞭毛虫*軽度の発熱、多量の水様下痢(3~4回/日)、悪心嘔吐、脱水■慢性下痢2)(1)浸透圧性下痢乳糖不耐症、下剤*乳糖不耐症は大人になって起こることがある*絶食により下痢は軽快する(2)炎症性下痢炎症性腸疾患、顕微鏡的大腸炎、放射線照射性腸炎、好酸球性腸炎、悪性腫瘍(大腸がん、悪性リンパ腫)*NSAIDsやプロトンポンプ阻害薬は顕微鏡的大腸炎を起こす*炎症性腸疾患は30~40代で多く、顕微鏡的大腸炎は70~80代に多い。(3)吸収不良症候群慢性膵炎、small intestinal bacterial overgrowth(SIBO、小腸内細菌異常増殖症)、短腸症候群*脂肪便は悪臭を伴い、便器に付着したり水に浮いたりする(4)分泌性下痢神経内分泌腫瘍(カルチノイドやVIPoma)、胆汁酸による下痢(5)腸管運動の異常過敏性腸症候群、糖尿病、甲状腺機能亢進症、強皮症(6)慢性感染症ランブル鞭毛虫、アメーバ赤痢、Clostridium difficile【STEP3】検査で原因を突き止める●急性下痢のほとんどは自然治癒するので検査は不要●以下の症状があれば検査が必要発熱(38.5℃超)、血便、脱水、ひどい腹痛、免疫力が低下している、高齢者(70歳超)、衛生状態が悪い外国から帰国症状に応じて血算、生化学、ヘモグロビン、便中白血球、便培養、CD毒素/抗原、寄生虫、大腸カメラを考慮する。●薬が原因の下痢は多い(薬剤性下痢)化学療法薬、抗菌薬、NSAIDs、アンギオテンシンンII受容体拮抗薬(とくにオルメサルタン)、プロトンポンプ阻害薬、ジゴキシン、メトホルミン、コルヒチン、ジスチグミン*、人工甘味料、アルコール*ジスチグミン(商品名:ウブレチド)はコリン作動性クリーゼを起こす<参考文献>1)Mansoor AM. Frameworks for Internal Medicine. p.176-197.2)Alguire PC, et al. MKSAP18 Gastroenterology and Hepatology. 2018. p.26-35.

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