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敗血症疑い患者の抗菌薬の期間短縮、PCTガイド下vs.CRPガイド下/JAMA

 敗血症が疑われる重篤な入院成人患者において、バイオマーカー(プロカルシトニン[PCT]とC反応性タンパク質[CRP])のモニタリングプロトコールによる抗菌薬投与期間の決定について、標準治療と比較してPCTガイド下では、安全に投与期間を短縮でき全死因死亡も有意に改善したが、CRPガイド下では投与期間について有意な差は示されず、全死因死亡は明らかな改善を確認することはできなかった。英国・マンチェスター大学のPaul Dark氏らADAPT-Sepsis Collaboratorsが、多施設共同介入隠蔽(intervention-concealed)無作為化試験「ADAPT-Sepsis試験」の結果を報告した。敗血症に対する抗菌薬投与の最適期間は不明確であり、投与中止の判断はバイオマーカー値に基づいて行われているが、その有効性および安全性の根拠は不明確なままであった。JAMA誌オンライン版2024年12月9日号掲載の報告。総抗菌薬投与期間(有効性)と全死因死亡(安全性)を評価 ADAPT-Sepsis試験は2018年1月1日~2024年6月5日に、英国国民保健サービス(NHS)の集中治療室(ICU)41ヵ所で行われた。敗血症が疑われ24時間以内に抗菌薬の静脈内投与を開始した、少なくとも72時間の投与継続の可能性がある18歳以上の成人患者2,760例を対象に、PCTまたはCRPの評価に基づく決定が抗菌薬期間を安全に短縮可能かどうかについて検証した。 被験者は、daily PCTガイド下プロトコール群(918例)、daily CRPガイド下プロトコール群(924例)、標準治療群(918例)に無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、無作為化から28日までの総抗菌薬投与期間(有効性)と全死因死亡(安全性)であった。副次アウトカムは、CCU(critical care unit)入室期間、入院期間データなどであった。90日全死因死亡も評価した。PCTガイド下の有効性、安全性を確認 無作為化された2,760例のベースライン特性は3群間で類似しており、平均年齢は60.2(SD 15.4)歳、男性60.3%であった。ほぼすべての患者が敗血症診断Sepsis-3基準を満たしていたと考えられ(SOFAスコア:7[四分位範囲:5~9])、敗血症患者は1,397例(50.8%)、敗血症性ショック患者は1,352例(49.2%)であった。 無作為化から28日までの総抗菌薬投与期間は、daily PCTガイド下プロトコール群が標準治療群と比較して有意に短縮した(平均期間:9.8日[SD 7.2]vs.10.7日[7.6]、平均群間差:0.88[95%信頼区間[CI]:0.19~1.58]、p=0.01)。一方、daily CRPガイド下プロトコール群は標準治療群と比較して、総抗菌薬投与期間について差はみられなかった(10.6日[SD 7.7]vs.10.7日[7.6]、平均群間差:0.09[95%CI:-0.60~0.79]、p=0.79)。 無作為化から28日までの全死因死亡について、daily PCTガイド下プロトコール群(全死因死亡率20.9%[184/879例])の標準治療群(19.4%[170/878例])に対する非劣性(非劣性マージンは5.4%)が示された(絶対群間差:1.57[95%CI:-2.18~5.32]、p=0.02)。daily CRPガイド下プロトコール群(全死因死亡率21.1%[184/874例])の標準治療群に対する非劣性は確証が得られなかった(絶対群間差:1.69[95%CI:-2.07~5.45]、p=0.03)。

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再発・難治性B細胞性ALLにobe-celが有効/NEJM

 obecabtagene autoleuce(l以下obe-cel)は、自家41BB-ζ抗CD19キメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法であり、毒性作用を軽減してCAR-T細胞の生着と持続性を改善するために、CD19に対する親和性が中等度のCARを使用している。英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのClaire Roddie氏らは「FELIX試験」において、再発または難治性のB細胞性急性リンパ芽球性白血病(ALL)の成人患者の治療として、obe-celは高い割合で持続的奏効をもたらし、Grade3以上の免疫関連毒性作用の発現率が低いことを示した。研究の成果は、NEJM誌2024年12月12日号で報告された。3ヵ国の第Ib/II相試験 FELIX試験は、再発・難治性B細胞性ALLにおけるobe-celの安全性、有効性、拡張性の評価を目的とする第Ib/II相試験であり、3ヵ国(スペイン、英国、米国)の34施設で患者を登録した(Autolus Therapeuticsの助成を受けた)。 年齢18歳以上の再発または難治性のB細胞性ALL患者を対象とし、主要コホートであるコホート2Aは形態学的病変(骨髄芽球≧5%)を有する患者、コホート2Bは測定可能な微小残存病変(MRD)(骨髄芽球<5%)を有する患者とした。 患者は、obe-celを製造するために白血球アフェレーシスを受けた。ブリッジング療法は、担当医の裁量で必要に応じて行われた。obe-celは、リンパ球除去療法後に、骨髄負荷(bone marrow burden)を調整した分割用量で投与した。1回目の投与後に、重篤な毒性作用や未解消の毒性作用がない場合に2回目の投与を行った。 主要エンドポイントは、コホート2Aにおける全寛解(完全寛解[CR]+血球数の回復が不十分な完全寛解[CRi])とし、副次エンドポイントとして無イベント生存、全生存、安全性を評価した。全寛解は77% 153例を登録し、このうち127例(83.0%)が少なくとも1回のobe-celの投与を受け、評価が可能であった。127例の年齢中央値は47歳(範囲:20~81)、女性が61例(48%)で、前治療ライン数中央値は2(範囲:2~6)であり、52.0%が最終の前治療時に難治性であった。56例(44.1%)が同種幹細胞移植を受けており、登録時の骨髄芽球中央値は40%(範囲:0~100)だった。 コホート2A(94例、追跡期間中央値20.3ヵ月)における全寛解の割合は77%(95%信頼区間[CI]:67~85)であり、このうちCRが55%(45~66)、CRiは21%(14~31)であった。事前に規定された帰無仮説は、全寛解(≦40%)および完全寛解(≦20%)のいずれについても棄却された(p<0.001)。 少なくとも1回の投与を受けた127例(追跡期間中央値21.5ヵ月)の無イベント生存期間中央値は11.9ヵ月(95%CI:8.0~22.1)であり、推定6ヵ月無イベント生存率は65.4%、12ヵ月無イベント生存率は49.5%であった。また、全生存期間中央値は15.6ヵ月(12.9~評価不能)で、推定6ヵ月全生存率は80.3%、12ヵ月全生存率は61.1%だった。Grade3以上のICANSは7.1% サイトカイン放出症候群は87例(68.5%)に発現し、このうちGrade3以上は3例(2.4%)であった。また。免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)は29例(22.8%)に、Grade3以上は9例(7.1%)に認めた。 obe-cel投与後60日以内に、発熱性好中球数減少が31例(24.4%)で発生し、5例が感染症で死亡した。obe-celに起因する死亡は2例にみられ、1例はICANSの進行を伴う急性呼吸窮迫症候群、もう1例は好中球減少性敗血症によるものであった。 著者は、「obe-cel投与後の重篤なICANSはリンパ球除去療法前の骨髄負荷が高度(芽球>75%)な患者にほぼ限定されていたことから、骨髄負荷が軽度(芽球<5%)の患者では、obe-celを外来で安全に投与できる可能性が示唆される」「obe-celは、より早期の治療ラインでの地固め療法としても検討に値する」としている。

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高リスクHR+/HER2-乳がんの1次治療、パルボシクリブ+内分泌療法vs.化学療法単独(PADMA)/SABCS2024

 高リスクHR+/HER2-転移乳がんの1次治療として、CDK4/6阻害薬と内分泌療法の併用が国際的ガイドラインで推奨されているが、化学療法単独との比較を前向きに実施した試験は報告されていない。今回、ドイツ・German Breast Groupが実施したPADMA試験で、パルボシクリブ+内分泌療法の併用が化学療法単独に比べて、治療成功期間(TTF)と無増悪生存期間(PFS)の統計学的有意かつ臨床的に意義のある改善を示したことを、Sibylle Loibl氏がサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2024、12月10~13日)で発表した。 PADMA試験は、化学療法の適応のある高リスク転移乳がんの1次治療として、CDK4/6阻害薬+内分泌療法を化学療法単独(±維持療法としての内分泌療法)と比較した、初の前向き多施設無作為化非盲検第IV相試験である。・対象:化学療法の適応のある未治療のHR+/HER2-転移乳がん・試験群:パルボシクリブ+内分泌療法(アロマターゼ阻害薬/フルベストラント±GnRHアゴニスト)・対照群:医師選択の化学療法(パクリタキセル/カペシタビン/エピルビシン/ビノレルビン)±維持療法として内分泌療法(タモキシフェン/アロマターゼ阻害薬/フルベストラント±GnRHアゴニスト)・評価項目:[主要評価項目]TTF(無作為化から病勢進行/治療毒性/患者希望/死亡による治療中止までの期間と定義)[副次評価項目]PFS、全生存期間(OS)、安全性、忍容性、コンプライアンスなど 主な結果は以下のとおり。・2018年4月~2023年12月にドイツの28施設で130例が登録され、うち120例(パルボシクリブ+内分泌療法群 61例、化学療法群59例)が治療を開始し解析に組み入れられた。年齢中央値は62歳(範囲:31~85歳)であった。化学療法群における医師選択の化学療法はカペシタビンが69.0%、パクリタキセルが29.3%、ビノレルビンが1.7%で、22.4%が維持療法としての内分泌療法を受けた。・TTF中央値は、追跡期間中央値36.8(範囲:0~74.4)ヵ月において、パルボシクリブ+内分泌療法群が17.2ヵ月と、化学療法群の6.1ヵ月より有意に長く(ハザード比[HR]:0.46、95%信頼区間[CI]: 0.31~0.69、p<0.001)、どのサブグループにおいても一貫していた。・PFS中央値も、パルボシクリブ+内分泌療法群が18.7ヵ月と、化学療法群の7.8ヵ月より有意に長かった(HR:0.45、95%CI:0.29~0.70、p<0.001)。・OS中央値は、パルボシクリブ+内分泌療法群が46.1ヵ月、化学療法群が36.8ヵ月と、パルボシクリブ+内分泌療法群で数値的に改善傾向がみられた。・血液毒性の発現割合はパルボシクリブ+内分泌療法群で有意に高く(全Grade:96.8% vs.56.8%、 Grade3/4:54.8% vs.6.9%)、非血液毒性は両群で同程度であった。・治療関連死亡はパルボシクリブ+内分泌療法群で1例(敗血症性ショック)みられた。 Loibl氏は、「この結果は、HR+/HER2-転移乳がんの1次治療として、CDK4/6阻害薬+内分泌療法を標準治療と提唱する既存の国際的ガイドラインを支持する」と述べた。

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重度母体合併症、その後の出産減少と関連/JAMA

 最初の出産で重度の母体合併症(SMM)を発症した女性はその後の出産の可能性が低いことが、スウェーデン・カロリンスカ研究所のEleni Tsamantioti氏らによるコホート研究の結果において示された。SMMを経験した女性は健康問題が長く続く可能性があり、SMMと将来の妊娠の可能性との関連性は不明であった。著者は、「SMMの既往歴がある女性には、適切な生殖カウンセリングと出産前ケアの強化が非常に重要である」とまとめている。JAMA誌オンライン版2024年11月25日号掲載の報告。スウェーデンの初産女性約105万人を対象に解析 研究グループは、スウェーデンの出生登録(Medical Birth Register)および患者登録(National Patient Register)のデータを用い、コホート研究を実施した。 対象は、1999年1月1日~2021年12月31日の間の初産女性104万6,974例で、初産時の妊娠22週から出産後42日以内のSMMを特定するとともに、出産後43日目から2回目の出産に至った妊娠の最終月経初日まで、または死亡、移住あるいは2021年12月31日のいずれか早い時点まで追跡した。 SMMは、次の14種類からなる複合イベントと定義した。(1)重症妊娠高血圧腎症、HELLP(溶血、肝酵素上昇、血小板減少)症候群、子癇、(2)重症出血、(3)手術合併症、(4)子宮全摘、(5)敗血症、(6)肺塞栓症・産科的塞栓症、播種性血管内凝固症候群、ショック、(7)心合併症、(8)急性腎不全、透析、(9)重度の子宮破裂、(10)脳血管障害、(11)妊娠中・分娩時・産褥期の麻酔合併症、(12)重度の精神疾患、(13)人工呼吸、(14)その他(重症鎌状赤血球貧血症、急性および亜急性肝不全、急性呼吸促迫症候群、てんかん重積状態を含む)。 主要アウトカムは、2回目の出産(生児出産または在胎22週以降の胎児死亡と定義される死産)とし、多変量Cox比例ハザード回帰モデルを用いて、初産時SMMと2回目出産率またはその期間との関連について解析した。初産時SMM発症女性は発症しなかった女性より2回目出産率が低い 解析対象104万6,974例中、初産時にSMMが認められた女性は3万6,790例(3.5%)であった。初産時SMMを発症した女性は発症しなかった女性と比較して、2回目出産率が低かった(1,000人年当たり136.6 vs.182.4)。 母体の特性を補正後も、初産時のSMMは調査期間中の2回目出産率の低下と関連しており(補正後ハザード比:0.88、95%信頼区間:0.87~0.89)、とくに初産時の重度子宮破裂(0.48、0.27~0.85)、心合併症(0.49、0.41~0.58)、脳血管障害(0.60、0.50~0.73)、および重度精神疾患(0.48、0.44~0.53)で顕著であった。 同胞分析の結果、これらの関連性は家族性交絡の影響を受けていないことが示された。

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血流感染症の抗菌薬治療、7日間vs.14日間/NEJM

 血流感染症の入院患者への抗菌薬治療について、7日間投与は14日間投与に対して非劣性であることが示された。カナダ・トロント大学のNick Daneman氏らBALANCE Investigatorsが、7ヵ国の74施設で実施した医師主導の無作為化非盲検比較試験「BALANCE試験」の結果を報告した。血流感染症は、罹患率と死亡率が高く、早期の適切な抗菌薬治療が重要であるが、治療期間については明確になっていなかった。NEJM誌オンライン版2024年11月20日号掲載の報告。重度の免疫抑制患者等を除く患者を対象、主要アウトカムは90日全死因死亡 研究グループは、血流感染症を発症した入院患者(集中治療室[ICU]の患者を含む)を抗菌薬の短期(7日間)治療群または長期(14日間)治療群に1対1の割合で無作為に割り付け、治療チームの裁量(抗菌薬の選択、投与量、投与経路)により治療を行った。 重度の免疫抑制状態にある(好中球減少症、固形臓器または造血幹細胞移植後の免疫抑制治療を受けている)患者、人工心臓弁または血管内グラフトを有する患者、長期治療を要する感染症(心内膜炎、骨髄炎、化膿性関節炎、未排膿の膿瘍、未除去の人工物関連感染)、血液培養で一般的な汚染菌(コアグラーゼ陰性ブドウ球菌など)が陽性、黄色ブドウ球菌またはS. lugdunensis菌血症、真菌血症などの患者は除外した。 主要アウトカムは血流感染症診断から90日以内の全死因死亡で、非劣性マージンは4%ポイントとした。診断後90日以内の全死因死亡率は7日群14.5%、14日群16.1% 2014年10月17日~2023年5月5日に、適格基準を満たした1万3,597例のうち3,608例が無作為化された(7日群1,814例、14日群1,794例)。登録時、1,986例(55.0%)はICUの患者であった。 血流感染症の発症は、市中感染75.4%、病棟内感染13.4%、ICU内感染11.2%であり、感染源は尿路42.2%、腹腔内または肝胆道系18.8%、肺13.0%、血管カテーテル6.3%、皮膚または軟部組織5.2%であった。 血流感染症診断後90日以内の全死因死亡は、7日群で261例(14.5%)、14日群で286例(16.1%)が報告された。群間差は-1.6%ポイント(95.7%信頼区間[CI]:-4.0~0.8)であり、7日群の14日群に対する非劣性が検証された。 7日群の23.1%、14日群の10.7%でプロトコール不順守(割り付けられた日数より2日超短縮または延長して抗菌薬が投与された)が認められたが、プロトコール順守患者のみを対象とした解析(per-protocol解析)においても主要アウトカムの非劣性が示された(群間差:-2.0%ポイント、95%CI:-4.5~0.6)。 これらの結果は、副次アウトカムや事前に規定されたサブグループ解析においても一貫していた。

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第239回  温暖化でツツガムシ病はこれから増える?須藤・秋田大名誉教授の訃報を聞いて考えたこと

ツツガムシ病の早期診断法の開発、危険性・治療法の啓発活動に尽力した須藤恒久氏こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。いやあ、米国の大統領選に続き、兵庫県知事選の結果には驚きました。報道ではSNSを駆使して選挙運動を行ったとのことですが、誤情報も多く発信され、対立候補はその対応に相当苦慮したようです。新聞やテレビといった旧来のマスコミ報道の限界も垣間見えました。日本もポピュリズム政治がメインストリームになっていきそうで心配です。さて、今回は突然ですが、「ツツガムシ病」について書いてみたいと思います。というのも、私が新人記者時代、何度も取材でお世話になった秋田大学名誉教授の須藤 恒久氏が10月23日、98歳で逝去されたニュースを読んだからです。ツツガムシ病の早期診断法の開発、その危険性・治療法の啓発活動に尽力された須藤先生を悼みつつ、ツツガムシ病をはじめとするダニ媒介性疾患のこれからについて勝手に予想してみます。医師の頭にツツガムシ病の知識があれば診断できるが、なければ診断できず死に至る病ツツガムシ病は、ダニの一種であるツツガムシに刺されることによって発症する感染症です。かつては山形県、秋田県、新潟県などで夏季に河川敷で感染する“風土病”と言われていましたが、現在は媒介するツツガムシの種類も増え、ほぼ全国(北海道以外)で発生が確認されています。国立感染症研究所のWebサイトなどによれば、潜伏期は5〜14日で、典型的な症例では39℃以上の高熱、頭痛が現れます。その他の症状としては筋肉痛、咳、全身性のリンパ節腫脹、悪心、嘔吐、腹痛などがあります。早期に適切な治療を受けないと間質性肺炎、急性呼吸促迫症候群(ARDS)、髄膜脳炎、急性腎障害、播種性血管内凝固(DIC)などを起こし、死亡する患者もいます。皮膚のどこかに特徴的なダニの刺し口がみられ、発症後数日で体幹部を中心に発疹が出るのも特徴です。この病気の最大のポイントは、ダニ媒介性のリケッチア症であることです。リケッチア症にはβラクタム系抗菌薬は効きません。ミノサイクリンなどのテトラサイクリン系抗菌薬が第一選択となります。というわけで、ツツガムシ病の診療経験がなく、リケッチア症の存在や、その治療法に疎い医師が初診でこの病気を診た場合、通常の抗菌薬が効かないために右往左往し、最悪、患者は死に至ることになります。実際、昨年1月、千葉県船橋市で70歳男性がツツガムシ病で死亡しています。この男性は、ツツガムシ病の発生が多い千葉県の南部地域に滞在中に草刈りをし、その約1週間後から咽頭痛や発熱、発疹の症状が出て、入院先の病院で約18日後に敗血症で死亡しています。ツツガムシ病との検査結果が出たのは死亡後でした。抗菌薬使用の主流がβラクタム系に変わり、知らないうちに治っていたツツガムシ病が治らなくなるさて、私が新人記者だった1980年代半ば頃、ツツガムシ病はまだ“風土病”の範疇で、全国的にはそれほど知られた病気ではありませんでした。ですから、医師向け月刊誌の企画にも選ばれたのでしょう。須藤氏に取材を依頼したのは、学会発表を聞いたか、学会誌などでの論文を読んだことがきっかけだったと思います。秋田大医学部の微生物学教室の狭い教授室で会った須藤氏は実に温厚で、秋田弁なまりの言葉でゆっくりと、そしてわかりやすくツツガムシ病について解説してくれました。須藤氏は秋田県由利本荘市出身で、東北大医学部を卒業後、県立中央病院微生物検査科長などを経て、1971年に秋田大医学部に創設された微生物学教室の教授に就任しました。1973年にツツガムシ病の研究を始め、1976年頃からツツガムシ病の早期診断・早期治療の啓発に取り組みました。その理由を須藤氏は、「秋田県の雄物川水系の風土病と言われていたツツガムシ病をなんとかしたかった」ことと、「医師の抗菌薬使用の主流がクロラムフェニコールやテトラサイクリン系からβラクタム系に変わってきたことで、それまで抗菌薬投与で知らないうちに治っていたツツガムシ病が治らなくなり、死亡例も多くなってきた」ことを挙げていました。須藤氏は1980年に免疫ペルオキシダーゼ反応による迅速血清診断法を確立、この診断法が普及していなかった当初は、全国からの検査依頼に対応したそうです。また、この方法は世界保健機関(WHO)の標準診断法に推薦され、東南アジア各国でも活用されるに至っています。こうした功績が認められ、須藤氏は1987年には病原微生物学、感染症学、公衆衛生学分野でわが国最高の賞とされる小島三郎記念文化賞を受賞しています。1992年に大学を退職した後も、医学誌などでツツガムシ病への注意喚起や早期診断・早期治療の啓発を続けられていました。4、5年おきに雑誌に掲載すると定番のように読まれたツツガムシ病の記事1980年代に書いた私の記事はとても読まれました。それだけ当時の医師にツツガムシ病の知識がなかったからだとも言えます。その後、日本紅斑熱(やはりマダニに刺されて発症するリケッチア症)やライム病(やはりマダニに刺されて発症するが、こちらはスピロヘータ感染症)などの取材で、幾度か秋田を訪れ、須藤氏を取材しました。当時は秋田の飲み屋街、川反通りも大変賑やかで、それはそれでいい思い出です。ツツガムシ病の記事は、4、5年おきに雑誌に掲載すると定番のように読まれました。それは、一定の期間が経てばこの病気を知らない医師が出てくることを意味します。須藤氏が生涯にわたって啓発活動に取り組んだ理由がわかる気がします。なお、ツツガムシ病は1999年4月に新感染症予防法の施行に伴って第4類感染症となり全数把握の対象となりました。ということで、国立感染症研究所のWebサイトに行けばその発症数を確認することができます。夏に患者数が多いわけではなく、むしろ今の時期、11月〜12月に患者数が多い地域もツツガムシ病は1種類のツツガムシによって発症するのではありません。かつての東北地方の”風土病”のように、夏に患者数が多いわけでもありません。むしろ今の時期、12月に患者数が多い地域もあります(先述した千葉県の死亡例は1月でした)。国立感染症研究所の病原微生物検出情報(IASR)の2022年8月号によれば、「全国集計では3~5月の春と11~12月の秋~初冬にかけた2つのピークがある。患者発生時期はツツガムシの種ごとの生息地域での幼虫の活動時期に左右される。寒冷に強いフトゲツツガムシが主に分布する地域では、孵化後の秋~初冬に患者が発生すると同時に、越冬した幼虫により春にも患者届出数のピークがみられる。一方、寒冷に弱いタテツツガムシの幼虫は越冬できず、その生息地では孵化した後の秋~初冬にかけて患者発生数のピークを示す」とのことです。ちなみに、かつて秋田県雄物川流域のほかに山形、新潟県の一部河川流域で多発していたツツガムシ病はアカツツガムシによるものだったそうです(最近は症例数が少なく、「古典型つつが虫病」と呼ばれています)。つまり、生息するツツガムシの種類とその地域の気候によって、患者の発生パターンは変わってくるということです。今後、温暖化が進めば、患者発生パターンも変動していくでしょう。たとえば、寒冷に弱いタテツツガムシが越冬できる地域が増えれば、そこでの春の発生も増えてくるかもしれません。ツツガムシ病は微増傾向、マダニが媒介する日本紅斑熱は明らかに増加傾向気になって、国立感染症研究所のWebサイトで年別の発生動向を調べてみました1)。それによると、ツツガムシ病は微増傾向、そしてマダニが媒介する日本紅斑熱は明らかに増加傾向にあるようです。マスコミは、北海道でブリが大漁となるなど、地球温暖化でとれる魚が変化することなどは大騒ぎしますが、ツツガムシ病などのダニの生息域の変化は大きくは報道されていません。日常診療と温暖化は今のところ関係ないように見えますが、昆虫などが媒介する感染症は大きな影響を受けます。ヤブ蚊(ヒトスジシマカ)が媒介するデング熱の発症地域が日本でも北上中との報道もあります。日頃から各都道府県の衛生研究所や地元の保健所からの最新情報には敏感になっておきたいものです。参考1)発生動向調査年別一覧(全数把握)/国立感染症研究所

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第217回 医師偏在対策で自由開業の見直しも? 規制強化を提言/財務省

<先週の動き>1.医師偏在対策で自由開業の見直しも? 規制強化を提言/財務省2.マイナ保険証一本化へ、資格確認方法見直しを中医協で了承/厚労省3.医療費高騰で現役世代の負担軽減へ 高額療養費制度の見直しを検討/政府4.出産費用高騰、妊婦の負担軽減へ対策急務 保険適用など議論続く/厚労省5.美容医療トラブル増加で規制強化へ、年次報告義務化などを検討/厚労省6.生後6ヵ月の女児、抗菌薬過剰投与で死亡/兵庫県1.医師偏在対策で自由開業の見直しも? 規制強化を提言/財務省11月13日に財政制度等審議会は、2025年度予算編成に向けた議論を行い、財務省は医師の偏在対策が不十分であるとして、規制強化などを求める提言を行った。審議会で増田 寛也分科会長代理は、「これまでの取り組みは実効性が乏しかった」と指摘し、「診療報酬の減算などの経済的ディスインセンティブ措置を含め、より強力な対策が必要だ」と強調した。財務省は、医師多数区域での開業規制や診療報酬の地域別単価設定、自由開業・自由標榜の見直しなどを提言、また、地域で過剰な医療サービスを提供する医療機関に対し、診療報酬を減算する仕組みの導入の提案を行った。さらに、診療科別の医師偏在指標が不足している点を批判し、厚生労働省に対し、診療科ごとの医師偏在指標を早急に作成するよう求めた。これらの提言に対し、日本医師会は反発する可能性がある。政府は、年末までに医師偏在対策の総合的な対策パッケージを策定する予定だが、規制強化と医師確保の両立が課題となる。参考1)社会保障(財務省)2)過剰な医療への診療報酬減算を提言、財務省 偏在是正策、外来機能は「転換・集約」(CB news)3)医師偏在対策「手ぬるかった」財政審分科会で 増田氏は「もう一段強く」と主張(同)2.マイナ保険証一本化へ、資格確認方法見直しを中医協で了承/厚労省12月2日から健康保険証の新規発行が終了し、マイナンバーカードと一体化した「マイナ保険証」が基本となることを受け、中央社会保険医療協議会(中医協)は11月13日、患者の資格確認方法の変更に伴うルール見直しを了承した。このため厚生労働省は、医療機関や薬局がマイナ保険証や資格確認書で患者の資格を確認できるよう、療養担当規則を改正する。マイナンバーカードを持っていない人や、健康保険証としての利用を登録していない人でも、保険者から発行される「資格確認書」を医療機関に提示することで、これまで通り保険診療が受けられる。資格確認書は、カード型、はがき型、A4型の3種類があり、氏名や被保険者番号などが記載される。申請は不要で、対象者には現行の健康保険証の有効期限に応じて、加入している医療保険者から無償で交付される。デジタル庁では、資格確認書の交付や健康保険証の有効期限に関する情報を公開し、マイナンバーカードの未取得者や、マイナンバーカードを健康保険証としての利用を登録していない人が従来通り保険診療を受けられるよう国民へ周知を図っている。中医協の小塩 隆士会長は、「マイナ保険証への移行に伴う混乱を懸念し、保険診療を受けられない人が出ないよう、必要があれば制度を改めるべきだ」と危惧している。厚労省は、マイナ保険証の利用促進に取り組む一方、国民が安心して保険診療を受けられるよう、制度の周知徹底に努めるとしている。参考1)中央社会保険医療協議会 総会(厚労省)2)12月2日以降の資格確認、療担規則見直しへ 厚労相が諮問 即日答申(CB news)3)2024年12月2日以降のマイナ保険証「以外」(資格確認書等)で保険診療受けるための法令整備を決定-中医協総会(2)(Gem Med)4)12月2日で発行停止の健康保険証、代わりとなる「資格確認書」の交付対象や方法は?-デジ庁が公開(CNET Japan)3.医療費高騰で現役世代の負担軽減へ 高額療養費制度の見直しを検討/政府医療費が高額になった場合に患者の自己負担を軽減する「高額療養費制度」について、政府は自己負担の上限額を引き上げる方向で検討に入った。11月15日、政府の有識者会議「全世代型社会保障構築会議」で、高額療養費制度の見直しを求める意見が相次いだ。厚生労働省は、医療費の増加や患者の負担能力向上を踏まえ、上限額を引き上げることで医療費の抑制と現役世代の保険料負担軽減を図りたい考え。具体的な引き上げ幅は、年収区分に応じて7~16%を軸に調整されており、所得が低い人への配慮も検討されている。引き上げは2段階で行われ、2025年度に上限額を引き上げた後、2026年度には年収区分を細分化し、高所得者はより高い上限額とする見込みである。高額療養費制度は、医療費の自己負担に上限を設け、超過分を健康保険組合などの保険者が給付する仕組み。近年、高額な新薬の登場や高齢化により、医療費が高額化するケースが増加しており、制度の適用件数と支給総額は増加している。政府は、今回の見直しを通じて、支払い能力に応じた負担を求める「応能負担」を強化したい考え。その一方で、患者の自己負担が増えることから、与野党を問わず反発が出る可能性もあり、今後の議論の行方が注目されている。参考1)全世代型社会保障構築会議[第19回](内閣府)2)高額療養費、見直し求める 政府の有識者会議(日経新聞)3)「高額療養費制度」上限額引き上げる方向で検討 厚労省(NHK)4)高額療養費制度の上限額引き上げ検討 最大5万400円、来年夏めど(朝日新聞)4.出産費用高騰、妊婦の負担軽減へ対策急務 保険適用など議論続く/厚労省値上げが続く出産費用と支援策の課題について、厚生労働省は11月13日に「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会」を開き、出産費用の上昇や支援策の有効性を巡り多角的な議論が展開された。全国の正常分娩による出産費用は2024年度上半期で平均51万8,000円に達し、昨年度からさらに1万1,000円増加した。出産育児一時金は、2023年4月に42万円から50万円に引き上げられたが、実際の負担額を賄いきれないケースが多く、都道府県別では東京や神奈川で高額化が顕著となっている。一時金が不足する割合は、全国平均で45%に上り、個室利用料などを含めるとその割合は80%に達している。また、出産費用の「見える化」を目的としたウェブサイト「出産なび」についても検討会で報告が行われた。2024年5月に開設されたこのサイトは、認知率は36%、利用率は18%と低調で、妊婦の情報収集への活用が進んでいない現状が明らかとなった。その一方で、利用者の満足度は高く、妊婦が望む情報の充実が求められている。出産費用の保険適用(現物給付化)については賛否が分かれている。推進派は、経済的負担軽減や標準化の重要性を訴える一方、地方の産科医療体制への悪影響や財源問題を懸念する声もある。とくに一時金引き上げと同時に医療機関が費用を引き上げた印象が拭えず、さらなる分析が必要との意見が多く挙げられた。少子化対策として「安心して出産できる環境整備」の必要性が叫ばれる中、今後は出産費用の地域差解消や制度の簡素化、支援内容の拡充が急務となる。2025年春を目途に検討会での意見が集約される予定。参考1)第5回「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会」(厚労省)2)「出産なび」を知らない妊産婦が6割超 開設後3ヵ月時点で 厚労省検討会に報告(CB news)3)出産育児一時金の引き上げで軽減されたはずが…妊婦の負担額が再び増加、原因は産院の値上げ(読売新聞)4)出産費用 半数近くで一時金の50万円上回る 厚生労働省(NHK)5)出産費用の保険適用には賛否両論、「出産育児一時金の引き上げを待って、医療機関が出産費用引き上げる」との印象拭えず-出産関連検討会(Gem Med)5.美容医療トラブル増加で規制強化へ、年次報告義務化などを検討/厚労省美容医療をめぐるトラブル増加を受け、厚生労働省は規制強化に乗り出す。11月13日に開かれた厚労省の「美容医療の適切な実施に関する検討会」では、クリニックなどに安全管理措置の状況を年1回、自治体に報告することを義務付ける案を含む報告書案が議論された。この背景には、美容医療に関する健康被害や料金トラブルなどの相談が急増している現状がある。国民生活センターへの相談件数は、2023年度には5,507件と、5年間で3倍に増加した。報告書案では、自由診療が多い美容医療は、保険診療に比べて行政による指導・監査の範囲が限定的であることや、患者の要望や医師の技量によって合併症や後遺症のリスクも高まる可能性があることなどが課題と指摘している。対応策として、医療機関による定期報告の仕組み導入が提案された。報告内容には、安全管理措置の実施状況、医師の専門医資格の有無、トラブル発生時の相談窓口などが含まれ、患者にとって必要な情報は自治体が公表する。厚労省は、年内にも正式な対策をまとめる方針。また、この検討会で臨床研修修了直後に若手の医師が美容医療分野に流入していることが指摘されたが、この問題は医師の偏在是正の観点から、厚労省において別途必要な検討がなされる見込み。参考1)美容医療の適切な実施に関する報告書(案)(厚労省)2)美容医療の安全管理状況を自治体に年1回定期報告へ 健康被害や料金相談増加で厚労省方針(産経新聞)3)美容医療、安全管理状況を年1回報告へ 自治体に 厚労省方針(毎日新聞)4)美容医療「安全管理の報告」取りまとめ案 若手医師の“直美”「別途検討必要」(CB news)6.生後6ヵ月の女児、抗菌薬過剰投与で死亡/兵庫県兵庫県立こども病院(神戸市中央区)は11月14日、生後6ヵ月の女児に抗菌薬を過剰投与する医療ミスがあり、女児が死亡したと発表した。女児は先天性疾患で入院しており、9月に肺炎症状がみられたため、医師が抗菌薬の点滴を指示した。しかし、医師は通常濃度の5倍の抗菌薬を投与するよう誤って指示し、看護師もそれに気付かず投与。さらに、投与時間も本来の2時間ではなく1時間と指示し、2倍の速度で投与していた。女児は点滴開始から約1時間後に心拍数が低下し、その後死亡が確認された。医師は「なぜ初歩的なことを間違ったのかわからない」と話しているという。病院では、医療事故調査委員会を設置し、投与と死亡の因果関係を調査する。また、病理解剖では、新型コロナウイルス感染や敗血症などの疑いもみられたが、抗菌薬の副作用に多い不整脈などは確認されなかったという。病院側は、医療ミスと死亡の因果関係は現時点では明らかではないとしているが、再発防止に向け、正しい希釈方法を看護師らが確認できるようシステムを改修するなどの対策を講じるとしている。参考1)規定量5倍の抗菌薬投与、女児が1時間半後に死亡…医師「なぜ初歩的なこと間違ったかわからない(読売新聞)2)兵庫県立こども病院 生後6か月の乳児 薬の過剰投与後に死亡(NHK)3)乳児に抗菌薬を過剰に投与、直後に死亡 兵庫・こども病院で医療事故(朝日新聞)4)兵庫県立こども病院で医療ミス 生後6カ月の女児に高濃度の抗菌薬を投与、2時間半後に死亡(神戸新聞)

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敗血症患者の半数は2年以内に死亡する

 救急外来を受診して入院した敗血症患者の50%強が2年以内に死亡していることが、オーフス大学病院(デンマーク)臨床疫学分野のFinn Nielsen氏らによる新たな研究で明らかになった。Nielsen氏は、「敗血症後の死亡リスクを上昇させるいくつかの因子が判明した。当然のことながら、高齢はその1つであり、認知症、心臓病、がん、過去6カ月以内の敗血症による入院歴などもリスク上昇と関連していた」と述べている。この研究結果は、ヨーロッパ救急医学会年次総会(EUSEM 2024、10月13〜16日、デンマーク・コペンハーゲン)で発表された。 この研究でNielsen氏らは、2017年10月から2018年3月の間に感染症の疑いで同大学病院に入院した患者2,110人の転帰を追跡調査した。これらの患者のうち714人が敗血症を発症していた。Nielsen氏は、「われわれの研究は、前向きに収集された患者データに基づく敗血症データベースに依拠したものだ。これまでの研究で頻繁に使用されているレジストリデータとは異なり、このアプローチはエラーを最小限に抑え、敗血症の影響についてより正確で詳細な洞察を可能にする」と説明している。 その結果、中央値で2年後、361人(50.6%)が敗血症を含むあらゆる原因により死亡していた。関連因子を検討したところ、高齢の場合、年齢が1歳上がるごとに死亡リスクが4%上昇することが明らかになった。また、死亡リスクは、がんの既往歴がある場合では2倍以上(121%の増加)、虚血性心疾患がある場合では39%、認知症がある場合では90%、過去6カ月以内に敗血症による入院歴がある場合では48%増加することも示された。 Nielsen氏は、「この知見は、急性期医療に携わる臨床医と研究者の双方に有益だと思われる。敗血症は死亡率の高い重篤な疾患だと認識することが重要だ」と話している。その一方で同氏は、「この研究は単一施設で実施されたため、より大規模な研究が必要だ。敗血症の包括的な疫学的状況を把握するには、本研究と同様の手法を用いた、診療部門、地域、国を越えたより大規模な研究を実施して敗血症関連の転帰について繰り返し検討する必要がある」と述べている。 本研究には関与していない、EUSEMの演題選定委員長であるBarbra Backus氏は学会のニュースリリースの中で、「敗血症は、重篤で死に至る可能性のある疾患だ。敗血症の発症率はいくつかの国で増加しているが、現時点では、敗血症を発症した患者の長期的な転帰に関する信頼できる情報は限られている」と指摘する。その上で同氏は、「この研究は、敗血症患者の死亡リスクを高める可能性がある、警戒すべき特定のリスク因子を明らかにした。臨床医はこの知見を、患者をより注意深く監視し、経過観察するために活用できるはずだ」と述べている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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脳卒中の発熱予防は機能回復に有用か?/JAMA

 急性脳血管障害の患者では、発熱の標準治療と比較して、自動体表温度管理装置(Arctic Sun体温管理システム)を用いた予防的正常体温療法による発熱予防は、発熱負荷を効果的に減少させるが、機能回復には改善を認めないことが、米国・Boston University Chobanian and Avedisian School of MedicineのDavid M. Greer氏らが実施した「INTREPID試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌オンライン版2024年9月25日号に掲載された。7ヵ国のICUの無作為化試験 INTREPID試験は、7ヵ国の43の集中治療室(ICU)で実施した非盲検無作為化試験であり、2017年3月~2021年4月に参加者を登録した(Becton, Dickinson and Companyの助成を受けた)。 年齢18~85歳、急性期脳卒中でICUに入室し、脳卒中発症前は機能的に自立していた患者(修正Rankin尺度[mRS]スコアが0~2点、81~85歳の患者については0点)を対象とした。 被験者を、発熱予防を受ける群または標準治療を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。発熱は、体温38.0℃以上と定義した。発熱予防群では、目標体温を37.0℃とし、ICUで14日間またはICU退室まで、自動体表温度管理装置による体温管理療法を行った。標準治療群では、38℃以上の体温の発生時に標準化された段階的な発熱治療を実施した。 主要アウトカムは1日平均発熱負荷とし、37.9℃以上の体温曲線下面積(総発熱負荷)を急性期の総時間数で割り、24時間を乗じた値(℃・時)と定義した。主な副次アウトカムは、mRS(0点[症状なし]から6点[死亡]までの7段階のうち5点[重度障害]と6点を1つに統合した6カテゴリー)のシフト分析による3ヵ月間の機能回復であった。 予定されていた中間解析で、発熱予防群における主な副次アウトカム(機能回復)の無益性が示されたため、患者登録を中止した。3つのサブタイプとも発熱負荷が良好 677例(年齢中央値62歳、女性345例[51%])を登録し、発熱予防群に339例、標準治療群に338例を割り付けた。677例のうち254例が脳梗塞、223例が脳出血、200例がくも膜下出血だった。433例(64%)が12ヵ月間の試験を完了した。 1日平均発熱負荷は、標準治療群が0.73(SD 1.1)℃・時(範囲:0.0~10.3)であったのに対し、発熱予防群は0.37(1.0)℃・時(0.0~8.0)と有意に低かった(群間差:-0.35°C・時、95%信頼区間[CI]:-0.51~-0.20、p<0.001)。 また、脳卒中サブタイプ別の発熱負荷の群間差は、脳梗塞が-0.10°C・時(95%CI:-0.35~0.15)、脳出血が-0.50°C・時(-0.78~-0.22)、くも膜下出血が-0.52°C・時(-0.81~-0.23)といずれも発熱予防群で良好だった(すべてp<0.001[Wilcoxonの順位和検定])。 一方、3ヵ月の時点で、機能回復には両群間に有意な差を認めなかった(mRSスコア中央値:発熱予防群4.0点vs.標準治療群4.0点、機能的アウトカムの良好な転換のオッズ比:1.09、95%CI:0.81~1.46、p=0.54)。主要有害事象の年間発生率は同程度 急性期におけるすべての主要有害事象(死亡、肺炎、敗血症、悪性脳浮腫)の発生率には両群間で顕著な差はなく、試験期間を通じた発生率(発熱予防群:3ヵ月時47.4%、6ヵ月時48.9%、12ヵ月時49.5%、標準治療群:44.9%、47.9%、48.5%)にも差を認めなかった。 感染症の発生率は、発熱予防群(33.8%)と標準治療群(34.5%)で同程度であった。心イベント(14.5% vs.14.0%)、呼吸器障害(24.5% vs.20.5%)についても両群間に顕著な差はなかった。また、悪寒が発熱予防群で85.5%、標準治療群で24.3%にみられ、発熱予防群の26例(7.7%)が悪寒により治療を中止した。 著者は、「本研究は、発熱リスクの高い患者、とくに72時間以上のICUでの治療を要する重症患者を対象としたが、標準治療群の25%は発熱せず、両群は慎重にマッチングされたため発熱予防群のかなりの割合の患者も発熱しにくかった可能性があり、発熱予防はこれらの患者のアウトカムには影響しない可能性がある」と述べ、「発熱予防が、発熱負荷のある患者または発熱の可能性が非常に高い患者においてのみ、アウトカムを改善するかどうかについては、さらなる検討が必要である」としている。

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大手術前のRAS阻害薬は中止すべき?/JAMA

 非心臓大手術を受ける患者では、レニン-アンジオテンシン系阻害薬(RASI:ACE阻害薬またはARB)の投与を手術の48時間前に中止する方法と比較して、手術当日まで投与を継続する方法は、全死因死亡と術後合併症の複合アウトカムの発生率が同程度で、術中の低血圧の発現を増加させ、低血圧持続時間も長いことが、米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のMatthieu Legrand氏らStop-or-Not Trial Groupが実施した「Stop-or-Not試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌2024年9月24日号に掲載された。フランスの医師主導型無作為化試験 Stop-or-Not試験は、非心臓大手術前のRASIの継続投与が48時間前の投与中止と比較し、術後のアウトカムを改善するかの検証を目的とする医師主導の非盲検無作為化試験であり、2018年1月~2023年4月にフランスの40施設で参加者を登録した(フランス保健省の助成を受けた)。 年齢18歳以上、待機的非心臓大手術が予定され、術前の少なくとも3ヵ月間、RASIの長期投与を受けている患者を対象とした。大手術は、切開から皮膚閉鎖まで2時間以上を要し、術後の入院期間が3日以上と見込まれる手術と定義した。 被験者を、手術当日までRASIの使用を継続する群、または手術の48時間前にRASIの使用を中止する(手術の3日前が最終投与日)群に無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、術後28日以内の全死因死亡と主要術後合併症の複合とした。主要術後合併症には、術後主要心血管イベント(急性心筋梗塞、血栓症、脳卒中、急性腎障害など)、敗血症または敗血症性ショック、呼吸器合併症、予期せぬ集中治療室(ICU)入室または再入室、急性腎障害、高カリウム血症、術後28日以内の外科的再介入を要する病態が含まれた。主要アウトカムは、RASI中止群22% vs.RASI継続群22% 2,222例を登録し、RASI継続群に1,107例、RASI中止群に1,115例を割り付けた。ベースラインの全体の平均年齢は67(SD 10)歳、65%が男性で、98%が高血圧の治療を受けており、9%が慢性腎臓病、8%が糖尿病、6%が心不全であった。46%がACE阻害薬、54%がARBを使用していた。 術後28日の時点で、全死因死亡と主要術後合併症の複合の発生率は、RASI中止群が22%(245/1,115例)、RASI継続群も22%(247/1,107例)であった(リスク比:1.02、95%信頼区間[CI]:0.87~1.19、p=0.85)。 主な副次アウトカムである術中の低血圧エピソード(昇圧薬投与を要する病態)の発生率は、RASI中止群が41%(417例)、RASI継続群は54%(544例)と、継続群で高かった(リスク比:1.31、95%CI:1.19~1.44)。 また、術中低血圧(平均動脈圧<60mmHg)の持続時間中央値は、RASI中止群が6分(四分位範囲:4~12)、RASI継続群は9分(5~16)であり、継続群で長かった(平均群間差:3.7分、95%CI:1.4~6.0)。他のアウトカムにも差がない 主要アウトカムを構成する個々の項目や、術中低血圧以外の副次アウトカム(術後臓器不全、術後28日間の入院期間およびICU入室期間など)にも両群間に差を認めなかった。 著者は、「RASI継続群で術中低血圧の発生率が高かったことが、全死因死亡や主要術後合併症のリスクの増加に結び付かなかった理由は、術中に高血圧が迅速に改善したことと、低血圧の持続時間が全体として短かったためと考えられる」とし、「これらの結果は、今後のガイドラインに影響を与える可能性がある。術後のアウトカムに差がないことから、RASI継続と中止のどちらも容認でき、安全である」と述べている。

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高齢者へのImpellaの安全性・有効性~J-PVADレジストリより/日本心臓病学会

 補助循環用ポンプカテーテルImpellaは、左室機能を補助するための経カテーテル的補助人工心臓(PVAD:percutaneous ventricular assist device)で、唯一、国内承認されているものだ。2017年の承認から7年が経過し、国内の高齢者への安全性や有効性が徐々に明らかになってきている。今回、樋口 亮介氏 (榊原記念病院 循環器内科)が「心原性ショックを合併した後期高齢者におけるImpellaの成績:J-PVADレジストリからの検討」と題し、9月27~29日に仙台で開催された第72回日本心臓病学会学術集会の高齢化社会における循環器診療に関するシンポジウムで発表した。 今回の結果によると、高齢者におけるImpellaの安全プロファイルは非高齢者と比較して概ね同等であり、短期予後は不良であるものの受容可能な結果であった。なお、本発表内容はCirculation Report誌2024年10月29日号オンライン版に掲載された。 樋口氏らは日本におけるImpellaの全例登録研究であるJ-PVADレジストリに登録された2020年2月~2022年12月までにImpellaを挿入した患者のうち75歳以上を高齢者とし、非高齢者のデータと比較・解析した。主要評価項目は30日死亡で、副次評価項目はPVAD関連合併症(輸血を要する出血、心タンポナーデ、脳卒中、溶血、下肢虚血、急性腎障害、敗血症、治療を要する血管合併症)であった。 主な結果は以下のとおり。・解析対象者5,718例のうち75歳以上の高齢者は1,807例(31.6%)で、年齢中央値は80歳(四分位:77~83)であった。・解析対象の高齢者の特徴は、体格指数(BMI)が小さい、急性冠症候群が多い、心筋炎が少ないなどが挙げられた。・高齢者では肝腎機能に関連するT-BilやCreが高く、Alb値が低かった一方で、院外心停止(OHCA)の発生、ECMO併用は少なかった。・30日死亡は高齢者が非高齢者よりも多く認められ(38.9% vs.32.5%)、ハザード比(HR)は1.29(95%信頼区間:1.18~1.41、p<0.0001)であった。また、75〜79歳、80~84歳、85歳以上の3群の間では30日死亡に差はみられなかった。・PVAD関連合併症の多くは高齢者と非高齢者で同等であったが、心タンポナーデ(3.5% vs.1.8%)、下肢虚血(5.6% vs.3.5%)にて、わずかな差を認めた。・多変量解析の結果、75歳以上、BMI、心筋炎、不整脈の既往、ショックの重症度、肝腎障害、合併症としての下肢虚血がImpella挿入後の死亡と関連していた。・研究限界は、PVADを選択しなかった患者データが含まれていない、高齢者特異的パラメータが含まれていない、フォローアップ期間が限定的、イベント判定委員会の設置がなかったなどであった。 本研究を振り返り、同氏は「75歳以上であることはHRをみるとネガティブな因子であるが、死亡率の増加は受容可能な程度。高齢者の中でも補助循環装置を使用することで予後が見込める背景の患者を臨床医が見極め、その上でPVADを使用した結果ではないか」と説明した。また、世界的に心原性ショックを合併した高齢者やECMOを使用する高齢者が増加していることを受け、「暦年齢だけではなく、フレイル、サルコペニア、マルチモビディティなどの高齢者要素を含んだ包括的評価が心原性ショックを合併する高齢者に対して必要」ともコメントした。

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大理石骨病〔osteopetrosis〕

1 疾患概要■ 定義大理石骨病(osteopetrosis)は、破骨細胞の機能不全による骨吸収障害により、びまん性の骨硬化性疾患の総称である。遺伝的異質性の高い疾患であり、症状も早期に発症する重症の新生児型/乳児型、中等度の中間型、軽症の遅発型まで多様である。腎尿細管性アシドーシスや免疫不全を伴う病型もある。骨硬化による高骨量であるにもかかわらず、脆く骨折しやすい。■ 疫学わが国では患者は100人未満とされている。新生児型/乳児型は20万人に1人、遅発型では2万人に1人と報告されている。■ 病因破骨細胞の形成や機能に関連する複数の遺伝子異常(TCIRG1、CLCN7、OSTM1、TNFSF11、TNFRSF11A、PLEKHM1、CA2、SLC4A2、IKBKG、FERMT3、RASGRP2、SNX10)が報告されている。新生児型/乳児型は常染色体潜性遺伝、遅発型は常染色体顕性遺伝である。■ 症状新生児型/乳児型は早期より重度の骨髄機能不全(貧血、易感染性、出血傾向、肝脾腫など)、脳神経症状(難聴、視力障害、顔面神経麻痺など)、水頭症、低カルシウム血症、成長障害などを呈する。汎血球減少となるため感染や出血を生じやすく、幼児期までの死亡率は高い。中間型は、小児期に発症して骨折、骨髄炎、難聴、低身長、歯牙の異常など種々の症状を呈するが、骨髄機能不全は重篤ではない。遅発型では骨髄機能不全は認められず、病的骨折、下顎の骨髄炎、顔面神経麻痺などで診断されることが多い。また、遅発型では他の理由で施行された骨X線検査によって偶然発見されることもある。■ 予後新生児/乳児型では重度の貧血、出血、肺炎、敗血症などにより乳幼児期に死亡するものがある。視力障害、水頭症も問題となる。中間型の長期予後に関しては不明な点が多い。遅発型の生命予後は良い。成人期以降では骨折の遷延治癒や偽関節、骨髄炎、進行性の難聴などが日常生活における問題となる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)上記の症状と下記の検査所見を合わせて診断する(表)。X線所見としては、全身性の骨硬化像を認め、頭蓋底や眼窩縁の骨硬化像、長管骨骨幹端のundermodeling(Erlenmeyerフラスコ状変形)や帯状透亮像、椎体終板の硬化像(サンドイッチ椎体、ラガージャージ椎体)、長管骨や恥骨などの骨内骨像などを特徴とする。新生児型/乳児型はしばしば低カルシウム血症、汎血球減少症を認める。表 大理石病の診断基準画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)重症の新生児/乳児型では骨髄移植、造血幹細胞移植などが試みられているが、現時点で確立されたものはない。種々の症状に応じての対症療法が中心となる。骨折に関しては著しい骨硬化により手術による固定術は困難なことが多い。骨髄炎は遷延化することが多く、長期にわたる薬物治療を要する。視覚障害に対する視神経の外科的減圧術は、技術的な困難さはあるが、一定の成果があるとされている。進行性の難聴に対しては補聴器が必要となる。歯科口腔関連では口腔外科的処置を必要とすることがある。4 今後の展望造血幹細胞移植の工夫、さまざまな前臨床試験が行われている。5 主たる診療科小児科、整形外科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 大理石骨病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)小児慢性特定疾病情報センター 大理石骨病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Wu CC, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2017;102:3111-3123.2)Gene Reviews Japan(GRJ):CLCN7関連大理石骨病3)Palagano E, et al. Curr Osteoporos Rep. 2018;16:13-25.公開履歴初回2024年10月3日

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筋層浸潤性尿路上皮がん、術後ペムブロリズマブでDFS改善/NEJM

 膀胱全摘除術後の高リスク筋層浸潤性尿路上皮がんの治療において、経過観察と比較してPD-1阻害薬ペムブロリズマブによる補助療法は、無病生存期間(DFS)を有意に延長し、有害事象プロファイルは既報と一致し安全性に関する新たな懸念は認めないことが、米国国立がん研究所のAndrea B. Apolo氏らが実施した「AMBASSADOR試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2024年9月15日号に掲載された。米国の無作為化第III相試験 AMBASSADOR試験は、米国の246施設で実施した医師主導型の非盲検無作為化第III相試験であり、患者の登録を2017年9月に開始し、高リスク筋層浸潤性尿路上皮がん患者への術後ニボルマブ療法が米国食品医薬品局の承認を得た2021年8月に早期中止した(米国国立がん研究所などの助成を受けた)。 高リスク筋層浸潤性尿路上皮がんと診断され膀胱全摘除術を受けた患者702例(予定登録者数[734例]の96%)を登録し、術後補助療法としてペムブロリズマブ(200mg、3週ごと、静脈内投与)を1年間投与する群に354例(年齢中央値69歳、女性23.4%)、経過観察群に348例(68歳、27.3%)を無作為に割り付けた。 主要複合評価項目は、ITT集団におけるDFS(無作為化の日から病勢進行または全死因死亡の日までの期間)と全生存(無作為化の日から全死因死亡の日までの期間)とし、いずれかが経過観察群に比べ、ペムブロリズマブ群で有意に延長した場合に試験は成功と判定した。3年生存率には差がない DFSの追跡期間中央値は44.8ヵ月(ペムブロリズマブ群45.7ヵ月、経過観察群40.5ヵ月)であった。ITT集団におけるDFS中央値は、経過観察群が14.2ヵ月(95%信頼区間[CI]:11.0~20.2)であったのに対し、ペムブロリズマブ群は29.6ヵ月(20.0~40.7)と有意に延長した(病勢進行または死亡のハザード比[HR]:0.73、95%CI:0.59~0.90、両側のp=0.003)。 主な副次評価項目であるPD-L1陰性腫瘍を有する患者のDFS中央値は、ペムブロリズマブ群が17.3ヵ月、経過観察群は9.0ヵ月であり(HR:0.71、95%CI:0.53~0.95)、PD-L1陽性腫瘍を有する患者のDFS中央値はそれぞれ36.9ヵ月および21.0ヵ月であった(0.81、0.61~1.08)。 また、追跡期間中央値が両群とも36.9ヵ月の時点での2回目の中間解析では、ペムブロリズマブ群で131例、経過観察群で126例が死亡し、ITT集団における3年生存率はそれぞれ60.8%および61.9%だった(死亡のHR:0.98、95%CI:0.76~1.26)。治療関連有害事象は26.4%に 治療との関連性を問わないGrade3以上の有害事象は、ペムブロリズマブ群で50.6%、経過観察群で31.6%に発現した。 ペムブロリズマブ群では、87例(26.4%)に治療関連の有害事象を認め、頻度が高かった全グレードの有害事象は疲労(47.3%)、そう痒(22.4%)、下痢(20.6%)、甲状腺機能低下症(20.0%)であった。Grade5(死亡)の有害事象は5例(呼吸不全1例、多臓器不全1例、敗血症1例、原因不明2例)が報告された。 経過観察群では、報告された最も頻度が高かった全グレードの有害事象は、疲労(56.1%)、腹痛(33.1%)、末梢感覚神経障害(25.0%)、関節痛(24.7%)であった。Grade5の有害事象は15例だった。 著者は、「PD-L1の状態は予後予測因子であったが、無病生存に関する有益性を予測するものではなかったため、PD-L1をペムブロリズマブによる術後補助療法の患者選択に用いるべきではない」と述べている。なお、「死亡は、全生存の最終解析に必要な数の80%しか発生しておらず、2回目の中間解析で有効性の境界値を超えていないため、全生存期間データの最終解析は行っていない」という。

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敗血症生存者の再入院リスクは高い

 敗血症との闘いを幸運にも生き延びたとしても、安心はできないようだ。7,000人以上の敗血症患者を対象にした研究で、退院後30日以内の敗血症の再発やその他の原因による再入院率は驚くほど高いことが明らかになった。米オーガスタ大学看護学部のPriscilla Hartley氏らによるこの研究の詳細は、「American Journal of Critical Care」に9月1日掲載された。論文の筆頭著者であるHartley氏は、「再入院は、自宅退院または在宅医療に移行できるほど健康だと判断された患者の間でも頻発している」と指摘している。 米国立衛生研究所(NIH)によると、敗血症とは、肺炎などの命を脅かす感染症により臓器障害や組織障害が生じている状態を指す。敗血症は急速に進行することがあり、ショック状態に陥ったり臓器障害が重篤化したりすると致死的になる。実際に、敗血症患者の5人に1人は死亡するとされている。 この研究では、2008年から2019年の間に米ボストンのベス・イスラエル・ディーコネス医療センターで敗血症の診断を受けて入院した成人患者7,107人(平均年齢66.5歳、女性46.2%)のデータを用いて、敗血症の診断後30日以内の再入院率が調査された。患者の主な退院先は、高度看護施設(29.5%)や自宅(19.5%)、長期急性期ケア施設(13.4%)などで、在宅医療を受けている患者も多かった(24.4%)。 患者の23.6%(1,674人)が、診断後30日以内に再入院していた。これらの患者の平均再入院回数は1.6回だったが、30%近くの患者が1〜3回再入院しており、最も多いケースでは17回に上った。再入院の主な原因は感染症(敗血症の再発68.3%、嚥下性肺炎26.1%、尿路感染症14.9%、院内感染症9.4%)で、その他、急性腎不全(28.7%)、心不全(6.9%)などがあった。 再入院と関連する因子について検討したところ、退院後の環境と年齢との間に有意な関連が認められたが、性別、民族、加入保険のタイプとの間に関連は見られなかった。再入院率の高かった退院後の環境は、高度看護施設(29.6%)、在宅医療(26.9%)、自宅(15.0%)だった。 Hartley氏らは、多くの場合、患者は病院から「不適切な環境」に退院し、再感染のリスクが高まったとの見方を示している。またHartley氏は、「敗血症からの生存率を継続的に向上させたいのであれば、入院中と退院後の環境の間のギャップを埋める方法を見つけなければならない」と米国クリティカルケア看護師協会(AACN)のニュースリリースで述べている。 研究グループは、同ニュースリリースでさらに、「再入院リスクが最も高い患者を特定することで、適切な環境への退院が促される。それにより患者の回復が維持され、必要な介入や経過観察も行われるようになる」と述べている。

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腹部CT画像の見落としの有無【医療訴訟の争点】第4回

症例腹痛を訴えて受診をする患者は珍しくなく、夜間であれば研修医などの消化器系非専門医がその診察を担当することも多い。本件では、腹痛を訴えて夜間に受診をした患者につき、撮影したCT画像の読影に見落としがあったかが争われた静岡地裁令和3年8月31日判決を紹介する。なお、争点は多岐にわたるが、本稿では画像読影の点を取り上げることとする。<登場人物>患者83歳・女性(A)夜間、自宅で腹痛を発症し、浣腸して便が出るも腹痛が収まらないため、救命救急センターを受診。既往歴はなし。原告患者の子被告総合病院(二次救急病院・地域医療支援病院)、B医師(初期臨床研修1年目)事案の概要は以下の通りである。平成27年10月24日午後9時頃自宅にて腹痛を発症。午後10時過ぎ同居している子(原告)と共に被告病院の救命救急センターを受診。午後11時55分B医師の診察。この際、Aは午後9時頃に「お腹が痛くなり、浣腸をして便が結構出た」「お腹の痛みは治らない」旨を訴えた。10月25日午前0時過ぎ腹部CT検査、血液検査および心電図検査を実施。血液検査を含め、結果は午前1時までに判明。なお、午前0時30分~6時30分までの間、電子カルテシステムがメンテナンスのため、普段と異なるシステムでの画像判読が必要であった。午前2時頃B医師は、腹部CT画像に異常がないと判断したが、C医師(初期臨床研修2年目)に相談。C医師は、同CT画像を確認し、左下腹部の圧痛の原因は便貯留による閉塞性腸炎によるものと判断したものの、緊急性はなく、帰宅可能と判断。午前2時37分B医師は帰宅を指示し、Aは被告病院から帰宅。午前7時頃Aは茶色物を嘔吐午前7時30分頃被告病院に電話し、症状を伝えるとともに再受診する旨を伝えた。C医師は、復旧した電子カルテシステムでCT画像を再度確認したところ、腹部に遊離ガス(free air)を認めたことから、消化管穿孔を疑い、D医師(外科医長)に相談し、画像読影を依頼。午前8時24分頃D医師はCT画像を確認し、胃の腹側および脾臓の前面に遊離ガスを認めたため、改めて腹部CT検査および血液検査を指示。午前8時44分頃2回目の腹部CT画像にて、腹部の遊離ガスおよび腹水の著明な増加を認めたため、D医師は大腸穿孔による急性汎発性腹膜炎からの敗血症ショック状態と判断。午前10時15分頃緊急手術を実施。開腹したところ、穿孔部位は下行結腸であり、周囲には便汁がみられ、腹腔内全体には便汁様の膿が貯留していた。穿孔部を仮縫合し閉鎖した後、腹腔内を洗浄し、口側腸管に人工肛門を造設するなどして手術を終了。10月26日午後0時52分、Aは敗血症を原因とする多臓器不全で死亡。実際の裁判結果裁判所は、以下の各点を指摘した上で、腹部CTが終わり血液検査結果の出た平成27年10月25日午前1時の時点までには、これらの検査結果等に基づき患者Aに発症した消化管穿孔を疑うべきであり「自らあるいは他の医師に依頼するなどして、緊急手術としての開腹による穿孔部への処置と腹腔内洗浄・ドレナージを実施すべき注意義務があった」として、これを行わなかったことについて注意義務違反があるとした。<判決が指摘したポイント>下部消化管穿孔は、比較的高齢者に好発するものであること患者Aが70歳を超える高齢者であったこと特発性大腸穿孔は、慢性的な便秘や排便等、発症の誘因となる動作が認められることが多いこと下部消化管穿孔は、細菌を含む糞便が腹腔内に漏れることにより細菌性腹膜炎を来し、敗血症となり、ショック・播種性血管内凝固症候群(DIC)・多臓器不全に移行することがあり、一般に予後が悪いため、早期の的確な診断と手術をすべきであることCT画像上、上腹部の前腹壁直下および下行結腸周囲にも遊離ガスが認められたこと患者Aが腹痛を訴えて被告病院を受診し、排便を契機として腹痛が生じたなどの経緯を説明したことなお、病院側は、本件当日は電子カルテシステムが停止中であったため、普段使い慣れていない代替システムを用いての画像閲覧を余儀なくされたこと、代替システムで腹部CT画像を閲覧する場合の初期設定は、ガスと脂肪が同じような濃度に見えたため、遊離ガスの検出は難しかったことを主張した。これに対して裁判所は、代替システムの画像濃度値を変更すれば初期設定よりも鮮明に空気と脂肪の区別が比較的容易となること、代替システムが初期設定の状態であっても注意深く観察すればCT画像上の遊離ガスの発見は困難ではなかったこと、B医師もこの点を自認していること等を指摘し、「代替システムを用いてCT画像を読影せざるを得なかったからといって、遊離ガスの発見が困難であったとは言い難い」とした。また、病院側は、B医師は、C医師に相談しており、研修医としての能力的限界を常に自覚しながら誠実に医療に携わっていたとして、B医師に注意義務違反はない旨を主張したが、裁判所は、「過失の判断は、診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準によるべきであって、Bが研修医であったかどうかはこの点において考慮されるべき事情ではない」と判断した。注意ポイント解説本件では、下部消化管穿孔が一般に予後が不良であるため、早期の的確な診断と手術が求められている中で、患者Aが下部消化管穿孔の好発する高齢者であり、その誘発原因となる経過を述べていたこと、CT画像を注意深く見れば下部消化管穿孔を積極的に疑う所見である遊離ガスを認め得たことから、医療機関側の注意義務違反を認める判断がなされた。この点、本件では普段使い慣れているシステムがメンテナンス中であり、使い慣れていない代替システムを用いて読影を余儀なくされたという事情があるほか、研修医が上級医に相談しているという経緯もあり、必ずしも医師の対応に大きな問題があったとまでは言えない部分がある。しかし、医療水準が、医療機関の性格に応じて判断されるものであることからすれば、当日に代替システムを用いざるを得なかったことや、担当医が研修医であったか否かは、医療機関の行っている医療行為のレベルに直接的な関係がないため、医療水準の判断に直ちに影響することにはならない。このため、医療機関は、代替システムの利用方法の周知や、研修医と上級医の連絡・相談体制の構築についても対応していく必要がある。また、連絡・相談体制があっても、上級医が相談しにくい雰囲気を出していれば相談がなされず有名無実化するため、研修医が上級医に相談しやすい環境の醸成を含めた対応が必要である。医療者の視点救急時間帯の画像読影はとてもストレスの大きいタスクです。同じ勤務時間帯に脳、胸部、腹部などすべての領域の専門医が揃うことはほとんどありません。研修医や非専門領域の医師が協力して読影せざるを得ない場面も多くあるかと思います。そのような状況下では、どれだけ注意深く読影しても診断困難な症例に遭遇することがあると予想されます。しかしながら、裁判所や患者さんには医療者側の事情を聞き入れてもらえないことがある、という典型的な事案かと思います。このような事態を引き起こさないための取り組みとしては、(1)自身の読影能力を向上させる、(2)専門医に相談できる体制を整える、(3)救急時間帯も放射線科による読影体制を構築する、(4)画像読影AIを導入する、などが挙げられます。とくに(3)はリモートでも実施可能ですし、(4)の有用性を支持する論文も多数発表されていますので、このような診療補助ツールを駆使することもお勧めです。Take home message画像読影につき、普段使用しているシステムがメンテナンス等で使用できない場合の代替システムの使用方法について把握しておくこと、研修医等の専門性発展途上の医師と上級医の連絡・相談体制(相談しやすい環境づくりを含む)を構築しておくこともまた重要である。キーワード画像所見の見落とし画像所見の見落としがあるとされるか(読影における注意義務違反があるか)は、集団検診におけるものであるか、人間ドックにおけるものか、一定の疾患が疑われた上での精査の場面であるかによっても求められる水準が異なる。誤解を恐れずに言えば、当該画像撮影がなされた検査において、その検査に携わる一般的な医師が指摘可能な所見であったか否かにより、判断されることとなる。

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二次性僧帽弁逆流症、TEER vs.僧帽弁手術/NEJM

 心不全および二次性僧帽弁逆流症を有する患者において、経カテーテルedge-to-edge修復術(transcatheter edge-to-edge repair:TEER)は、1年時の複合エンドポイント(死亡、心不全による入院、僧帽弁再治療、補助デバイス植込み、脳卒中)に関して、僧帽弁手術に対し非劣性であることが示された。ドイツ・ケルン大学のStephan Baldus氏らが、前向き多施設共同無作為化非劣性試験「Multicenter Mitral Valve Reconstruction for Advanced Insufficiency of Functional or Ischemic Origin trial:MATTERHORN試験」の結果を報告した。二次性僧帽弁逆流症を有する心不全患者に対する現在の推奨治療には、TEERおよび僧帽弁手術が含まれるが、この患者集団においてこれらの治療法を比較した無作為化試験のデータは不十分であった。NEJM誌オンライン版2024年8月31日号掲載の報告。外科的僧帽弁手術に対するTEERの非劣性を評価 研究グループは、2015年2月~2022年12月に、臨床的に重大な二次性僧帽弁逆流症を呈し、左室駆出率が20%以上、ガイドラインに従った薬物療法にもかかわらずNYHA心機能分類クラスII以上の心不全を有する患者を、TEER(介入群)または外科的僧帽弁修復術/置換術(手術群)に1対1の割合で無作為に割り付けた。 有効性の主要エンドポイントは、術後1年以内の死亡、心不全による入院、僧帽弁再治療、補助デバイス植込み、脳卒中の複合で、非劣性マージンは推定平均群間差の90%信頼区間(CI)の上限が17.5%ポイントとした。 安全性の主要エンドポイントは、術後30日以内の主要有害事象(死亡、心筋梗塞、大出血、脳卒中/一過性脳虚血発作、再入院、再インターベンションまたは非待機的心血管手術、腎不全、深部創感染、48時間超の機械的人工換気、外科手術を要する消化管合併症、心房細動の新規発症、敗血症、心内膜炎の複合)とした。主要エンドポイント、介入群16.7% vs.手術群22.5%で非劣性を確認 計210例が無作為化されたが、無作為化後に2例が同意を撤回し、ITT集団は介入群104例、手術群104例で構成された。患者の平均(±SD)年齢は70.5±7.9歳、39.9%が女性、平均左室駆出率は43.0±11.7%であった。 有効性の主要エンドポイントのイベントは、介入群ではデータが得られた96例中16例(16.7%)に、手術群では同89例中20例(22.5%)に発生し、推定平均群間差は-6%(95%CI:-17~6、非劣性のp<0.001)であった。 安全性の主要エンドポイントのイベントは、介入群では101例中15例(14.9%)に、手術群では93例中51例(54.8%)に発生した(推定平均群間差:-40%、95%CI:-51~-27、p<0.001)。

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腎盂腎炎に対する内服抗菌薬を極める~スイッチのタイミングなど~【とことん極める!腎盂腎炎】第7回

腎盂腎炎に対する内服抗菌薬を極める~スイッチのタイミングなど~Teaching point(1)抗菌薬投与前に必ず血液/ 尿塗抹・培養検査を提出する(2)単純性腎盂腎炎ではセフトリアキソンなどの単回注射薬を使用し、適切なタイミングで内服抗菌薬に変更する(3)複雑性腎盂腎炎では基本的には入院にて広域抗菌薬を使用する。外来で加療する場合は慎重に、下記のプロセスで加療を行う(4)副作用や薬物相互作用に注意し、適切な内服抗菌薬を使用しよう《今回の症例》78歳、男性。ADLは自立。既往に前立腺肥大症があり尿道カテーテルを留置されている。来院3日前から悪寒戦慄を伴う発熱と右腰背部痛があり当院を受診した。尿中白血球(5/1視野)と尿中細菌105/mLで白血球貪食像があり、訪問看護師からの「尿道カテーテルをしばしば担ぎあげてしまっていた」という情報と併せ、カテーテル関連の腎盂腎炎と診断した。来院時、発熱に伴うふらつき・食思不振がみられたため入院加療とした。尿中のグラム染色とカテーテル留置の背景からSPACE(S:Serratia属、Pseudomonas aeruginosa[緑膿菌]、Acinetobacter属、Citrobacter属、Enterobacter属)などの耐性菌を考慮し、ピペラシリン/タゾバクタム1回4.5gを6時間ごとの経静脈投与を開始し、経過は良好であった。その後、尿培養と血液培養から緑膿菌が検出された。廃用予防のため早期退院の方針を立て、内服抗菌薬への切り替えを検討していた。また入院3日目に嚥下機能を確認したところ嚥下機能が低下していることが判明した。はじめに本項では腎盂腎炎の内服抗菌薬への変更のタイミングや嚥下機能や菌種による選択薬のポイントや副作用などについて述べる。まずひと口に腎盂腎炎といっても、単純性腎盂腎炎と複雑性腎盂腎炎では選択するべき抗菌薬や対応は異なる。 1.単純性腎盂腎炎単純性腎盂腎炎において、(1)ショックバイタルでない、(2)敗血症でない、(3)嘔気や嘔吐がない、(4)脱水症の徴候が認められない、(5)免疫機能を低下させる疾患(悪性腫瘍、糖尿病、免疫抑制薬使用、HIV感染症など)が存在しない、(6)意識障害や錯乱などがみられない、のすべてを満たせば外来での治癒が可能である1)。単純性腎盂腎炎の原因菌はグラム陰性桿菌が約80%を占め、そのうち大腸菌(Escherichia coli)が90%である。そのほかKlebsiella属やProteus属が一般的であることからエンピリックにセフトリアキソンによる静脈投与を行う。その後、治療開始後に静注抗菌薬から経口抗菌薬へのスイッチを考慮する場合、従来からよく知られた指標としてCOMS criteriaがある(表1)。画像を拡大する2.複雑性腎盂腎炎冒頭の症例も当てはまるが、複雑性腎盂腎炎は、尿路の解剖学的・機能学的問題(尿路狭窄・閉鎖、嚢胞、排尿障害、カテーテル)や全身の基礎疾患をもつ尿路感染症である。一番の問題としては再発・再燃を繰り返し、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、Enterobacter属、Serratia属、Citrobacter属、腸球菌(Enterococcus属)などの耐性菌が分離される頻度が増えることである。そのため単純性のように単純にセフトリアキソン単剤→内服スイッチともいかないのが厄介な点である。この罠にはまらないためには、必ず尿塗抹・培養検査を提出しグラム染色を確認することが大切である。基本的には全例入院で加療することが推奨されているが、全身状態良好でかつグラム陰性桿菌が起因菌とわかった際には周囲に見守れる人の確認(高齢者の場合)や連日通院することを約束しセフトリアキソンを投与し、培養結果と全身状態が改善したことを確認して内服抗菌薬を処方する2)。この場合も合計14日間の投与期間が推奨されている1)。なお、複雑性腎盂腎炎を外来加療することはリスクが高く、入院加療が理想である。【内服抗菌薬の使い分け】いずれにせよ培養の結果がKeyとなるが、一般的な内服抗菌薬は以下が推奨されている。処方例3,4)(1)ST合剤(商品名:バクタ)1回2錠を12時間ごとに内服(2)セファレキシン(同:ケフレックス)1回500mgを6〜8時間ごとに内服(3)シプロフロキサシン(同:シプロキサン)1回300mgを12時間ごとに内服(4)レボフロキサシン(同:クラビット)1回500mgを24時間ごとに内服腎機能に合わせた投与量や注意事項など表2に示す。なお、腎機能はeGFRではなくクレアチニンクリアランスを使用し評価する必要がある。画像を拡大する治療期間は一般に5〜14日間であり、選択する抗菌薬による。キノロン系は5〜7日間、ST合剤は7〜10日間、βラクタム系抗菌薬は10〜14日間の投与が勧められている2)。各施設や地域の感受性パターンに基づいて抗菌薬を選択することも大切である。筆者の所属施設では、単純性の腎盂腎炎の内服への切り替えは大腸菌のキノロン系への耐性が20%を超えていることから、セファレキシンやST合剤を選択することが多い。【各薬剤の特徴】<ST合剤>バイオアベイラビリティも良好で腎盂腎炎の起因菌を広くカバーする使いやすい薬剤である。ただし最近では耐性化も進んできており培養結果を確認することは重要である。また消化器症状、皮疹、高カリウム血症、腎機能障害、汎血球減少など比較的副作用が多いため注意して使用する5)。とくに65歳以上の高齢患者では高カリウム血症と腎不全をより来しやすいと報告されており経過中に血液検査で評価する必要がある6)。簡易懸濁も可能なため、嚥下機能低下時や胃ろう造設されている患者でも投与可能である。妊婦への投与は禁忌である。<セファレキシン>第1世代セフェム系抗菌薬であるセファレキシンは、一部の大腸菌などの腸内細菌に耐性の場合があるため、起因菌や感受性の結果を確認することが重要である。また一般的には長時間作用型の静注薬であるセフトリアキソンを初めの1回使用したうえで、セファレキシンを用いることが推奨されている。なお第2世代セフェム系内服抗菌薬であるセファクロル(商品名:ケフラール)はアレルギーの頻度が多いため推奨されていない。第3世代セフェム系抗菌薬(同:メイアクトMS、フロモックス)は、わが国ではさまざまな場面で使用されてきたが、バイオアベイラビリティの関係で処方しないほうがよい。ペニシリン系では、βラクタマーゼ阻害薬配合であれば使用可能とされている。日本のβラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン(同:オーグメンチン)はペニシリン含有量が少なく、アモキシシリン(同:サワシリン)と併用し、サワシリン250mg+オーグメンチン375mgを8時間ごとに投与することが推奨されている。<ニューキノロン系>シプロフロキサシン、レボフロキサシンなどのニューキノロン系については、施設における大腸菌のニューキノロン耐性が10%以下の際は経験的治療として投与が可能とされている。また大腸菌以外に緑膿菌にも効果があることが最大の利点であるため、耐性獲得の点からはなるべく最低限の使用を心がけ、温存することが推奨される。副作用としてQT延長、消化器症状、アキレス腱断裂、血糖異常がある。相互作用として、NSAIDsやテオフィリン(とシプロフロキサシン)との併用で痙攣発作を誘発する7)。妊婦への投与は禁忌である。レボフロキサシンはOD錠があるため、嚥下機能が低下している高齢者にも使いやすい。細粒もあるが、経管栄養では溶けにくいため細粒ではなく錠剤を粉砕する方が望ましい。<ESBL産生菌>extended spectrum β-lactamases(ESBL)産生菌に対する経口抗菌薬としてST合剤やホスホマイシンが知られている。ST合剤は感受性があれば使用可能であり、カルバペネム系抗菌薬に治療効果が劣らず、入院期間の短縮、合併症の減少、医療コストの削減が期待できるとの報告がある8)。ホスホマイシンは、海外では有効性が示されているものの、国内で承認されている経口薬はfosfomycin calciumだが、海外で用いられているのはfosfomycin trometamolであるため注意を要する。fosfomycin trometamolのバイオアベイラビリティは42.3%だがfosfomycin calciumのバイオアベイラビリティは12%にすぎない。近年耐性菌が増加するなかで他剤と作用機序の異なる本剤が見直されてきてはいるが、国内で有効性が示されているのは単純性の膀胱炎のみである7,9)。腎盂腎炎に対する有効性は現在研究中であり、現時点では他剤が使用できない軽症膀胱炎、腎盂腎炎に使用を限定するべきである。《今回の症例のその後》尿培養から検出された緑膿菌はレボフロキサシンへの感性が良好であった。心電図にてQT延長がないことを確認し、入院5日目に全身状態良好で発熱など改善傾向であったことから、レボフロキサシンOD錠1回250mgを24時間ごと(腎機能低下あり、用量調節を要した)の内服へ切り替え同日退院し再発なく経過している。1)山本 新吾 ほか:JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015 ─ 尿路感染症・男性性器感染症─. 日化療会誌. 2016;64:1-30.2)Johnson JR, Russo TA. N Engl J Med. 2018;378:48-59.3)Hernee J, et al. Am Fam Physician. 2020;102:173-180.4)Gupta K, Trautner B. Ann Intern Med. 2012;156:ITC3-1-ITC3-15, quiz:ITC3-16.5)Takenaka D, Nishizawa T. BMJ Case Rep. 2020;13:e238255.6)Crellin E, et al. BMJ. 2018;360:k341.7)青木 眞 著. レジデントのための感染症診療マニュアル 第4版. 医学書院. 2020.8)Shi HJ, et al. Infect Drug Resist. 2021;14:3589-3597.9)Matsumoto T, et al. J infect Chemother. 2011;17:80-86.

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第33回 熱中症、初動が大事!【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)重症度を的確に見積もろう!2)深部体温を測定しよう!3)Active coolingを実践しよう!【症例】70歳代・男性畑で倒れているところを発見され救急要請。救急隊到着時、以下のようなバイタルサインであり、熱中症が疑われ当院へ搬送された。●来院時のバイタルサイン意識30/JCS血圧126/54mmHg脈拍128回/分呼吸24回/分SpO294%(RA)体温40.8℃既往歴不明内服薬不明熱中症の現状毎日のようにニュースで、気温の上昇に伴い、熱中症に注意するように報じられています。実際、昨年と比較しても熱中症の件数は増加し、8月は毎週約7,000~9,000人もの方が全国で救急搬送されているのです1)。7月と比較するとピークは過ぎ、減少傾向にあるもののまだまだ注意が必要です。スポーツ中の学生など成人症例も多いですが、重症度が高く致死的となり得る症例の多くは、本症例のような高齢者の熱中症です。屋外だけでなく自宅内など屋内でも発症し、とくに意識障害や40℃を超える高体温の場合には早急な対応が必要となります。2023年の全国の熱中症搬送患者は9万人以上、死亡者数も1,000人を超えています。まだまだ暑い日は続きますので気を抜かず、熱中症の初期対応の基本的事項を整理しておきましょう。熱中症の重症度熱中症のガイドラインが2015年以来9年ぶりにアップデートされました2)。変更点はいくつか存在しますが、とくに以下の点は重要であり頭に入れておきましょう。IV度の導入2015年に発表された『熱中症診療ガイドライン2015』では、熱中症の重症度分類は3段階に分かれていました(Cf. 第4回 覚えておきたい熱中症の基本事項)。しかし、III度には、軽度の意識障害(JCS2、3など)から多臓器不全を来している症例まで含まれるような幅広い定義となっていたが故に、介入を迅速に行う必要がある重篤な症例において、適切な介入がなされていなかった可能性が示唆されました。そこで、新たにIV度が導入され、早急に治療介入が必要な症例が明確にされました。IV度は「深部体温40.0℃以上かつGCS≦8」と定義され、III度(2024)はIV度に該当しないIII度(2015)となりました(表)。表 熱中症の重症度分類(IV度、qIV度の導入)quick IV度(qIV度)IV度か否かを判断するためには、深部体温の測定が必要です。測定は非常に重要であり、可能であれば行うべきですが、測定できない場面もあるでしょう。その際には、表面体温40℃以上、または皮膚に明らかな熱感があるかを意識しましょう。そのような患者が重度の意識障害(GCS≦8もしくはJCS≧100)を伴っている場合には、速やかな対応が求められます(表)。敗血症におけるSOFA score、quick SOFAのようなイメージですね。Active coolingとは重症度の高い熱中症においては、“active cooling”の早期開始が必要です。Active coolingとは、何らかの方法で、熱中症患者の身体を冷却することを指しますが、冷蔵庫に保管していた輸液製剤を投与することや、エアコンの活用、日陰の涼しい部屋で休憩するなどはpassive coolingに該当し、active coolingではありませんので、これらを実施して安心してはいけません。効果の高い方法として、“cold-water immersion”が挙げられ、これは冷水などを利用し深部体温を下げる方法です。冷たいプールにつかるようなイメージです。深部体温が40℃を超えるような状態が続くと、予後は悪くなりますので、39℃前後までは速やかに下げることが大切です3,4)。さいごに毎年のように熱中症に注意するよう報道されるものの、暑い環境を避けてばかりはお勧めできません。熱中症が今年だけの問題であればよいですが、間違いなく来年以降もますます熱中症は問題となるでしょう。暑熱順化(熱ストレスに繰り返し曝露されることで熱耐性を向上させる生理的適応をもたらす過程)を意識し、耐え得る身体作りもしていかないといけません。1)熱中症情報. 救急搬送状況. 令和6年の情報(2024年8月閲覧)2)日本救急医学会. 熱中症診療ガイドライン20243)Ito C, et al. Acute Med Surg. 2021;8:e635.4)Tishukaj F, et al. J Emerg Med. 2024 May 3.[Epub ahead of print]

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重症敗血症へのアセトアミノフェン、生存日数を改善せず/JAMA

 重症敗血症患者において、アセトアミノフェン(パラセタモール)の静脈内投与は、安全性は高いものの、生存日数および臓器補助(腎代替療法、機械換気、昇圧薬)が不要な日数を改善しないことが、米国・ヴァンダービルト大学医療センターのLorraine B. Ware氏らが実施した「ASTER試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌2024年8月6日号で報告された。米国の無作為化第IIb相試験 ASTER試験は、米国の40の病院の救急診療部または集中治療室(ICU)で実施した二重盲検無作為化第IIb相試験であり、2021年10月~2023年4月に参加者のスクリーニングを行った(米国国立心肺血液研究所[NHLBI]の助成を受けた)。 年齢18歳以上の敗血症で、呼吸器系または循環器系の臓器障害を有する患者447例(平均年齢64[SD 15]歳、女性51%、平均SOFAスコア5.4[SD 2.5]点)を登録した。被験者を、アセトアミノフェン1gを6時間ごとに静脈内投与する群(227例)、またはプラセボ群(220例)に無作為に割り付け、5日間投与した。 主要エンドポイントは、28日目までの生存日数および臓器補助(腎代替療法、機械換気、昇圧薬)が不要な日数とした。28日間の全死因死亡にも差はない ベースラインで全体の76%の患者が昇圧薬の投与を、42%が補助換気を受けており、登録前に44%がアセトアミノフェンの投与を受けていた。 アセトアミノフェンは安全であり、治療群間で肝酵素値の異常や低血圧の頻度、体液バランスに差はなかった。 28日目までの生存日数および臓器補助不要日数は、アセトアミノフェン群が20.2日(95%信頼区間[CI]:18.8~21.6)、プラセボ群は19.6日(18.2~21.0)であり、両群間に有意な差を認めなかった(群間差:0.6日、95%CI:-1.4~2.6、p=0.56)。 また、臓器補助の各項目のいずれにも両群間に差はなく、28日間の全死因死亡(アセトアミノフェン群17.5% vs.プラセボ群22.5%、群間差:-5.0%、95%CI:-12.4~2.5、p=0.19)にも差はみられなかった。7日以内のARDSの発生率が有意に改善 15項目の副次アウトカムのうち、7日以内の急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の発生率のみがアセトアミノフェン群で有意に低く(2.2% vs.8.5%、群間差:-6.3%、95%CI:-10.8~-1.8、p=0.01)、他の項目には両群間に差はなかった。 また、アセトアミノフェン群は、2、3、4日目の総SOFAスコア(いずれもp<0.05)とSOFA凝固系スコア(いずれもp<0.05)の改善度が有意に優れた。 著者は、「本試験の結果で重要な点は、重症敗血症では、アセトアミノフェンの6時間ごとの5日間投与はプラセボに比べ、肝障害のバイオマーカーの異常、全身性低血圧、その他の有害事象の発生率に差がなく安全であったことである」としている。

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重症敗血症患者におけるβ-ラクタム系抗菌薬持続投与の有用性(BLING III)(解説:寺田教彦氏)

 β-ラクタム系抗菌薬は「時間依存性」の抗菌薬であり、薬物動態学/薬力学(PK/PD)理論からは投与時間を延ばして血中濃度が細菌の最小発育阻止濃度(MIC)を超える時間(time above MIC)が長くなると、効果が高まることが期待される。β-ラクタム系抗菌薬の持続投与(投与時間延長)は、薬剤耐性菌の出現率低下や、抗菌薬総投与量を減らすことで経済的な利益をもたらす可能性があるが、抗菌薬の持続投与(あるいは、投与時間延長)の欠点も指摘されている。たとえば、抗菌薬の持続投与では、経静脈的抗菌薬投与のために血管内デバイスやラインを維持する必要があり、血管内デバイス留置に伴うカテーテル関連血流感染症(CRBSI)のリスク増加や、同一ラインから投与する薬剤での配合変化に注意しなければならない可能性がある。また、薬剤の持続投与では患者行動に制限が生じたり、看護師の負担増加や、抗菌薬の安定性に注意したりする必要もある。また、理論上の話ではあるが、カルバペネム系抗菌薬などではPAE(postantibiotic effect)効果も期待される(Hurst M, et al. Drugs. 2000;59:653-680.)ため、持続投与は必須ではないのではないかとの意見もある。 重症敗血症患者に対するβ-ラクタム系抗菌薬の持続投与(あるいは、投与時間延長)は、これまで多くの臨床試験が行われてきたが、決定的なエビデンス確立には至ってはいない。代表的なガイドラインの記述「Surviving sepsis campaign guidelines(SSCG)2021」では、敗血症または敗血症性ショックの成人に対して維持(最初のボーラス投与後)のために、従来のボーラス注入よりもβ-ラクタムの長期注入を用いることを提案する(弱い、中等度の質のエビデンス)としており(Evans L, et al. Intensive Care Med. 2021;47:1181-1247.)、米国感染症学会(IDSA)を含めた国際的コンセンサス勧告では、重症成人患者、とくにグラム陰性桿菌患者における死亡率の低減や臨床治癒率向上のために、β-ラクタム系抗菌薬の長期注入を推奨する(条件付き推奨、非常に弱いエビデンス)(Hong LT, et al. Pharmacotherapy. 2023;43:740-777.)、「日本版敗血症診療ガイドライン2024(J-SSCG2024)」では、敗血症に対するβ-ラクタム系抗菌薬は、持続投与もしくは投与時間の延長を行うことを弱く推奨する(GRADE 2B)としている「The Japanese Clinical Practice Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock 2024」。 直近では、2024年6月号のJAMA誌に本研究も含まれたシステマティックレビューとメタ解析結果が掲載されており、ICUに入室した成人重症感染症患者におけるβ-ラクタム系抗菌薬の長期注入と間欠投与の比較で、長期投与の有効性を示す報告がされていた(ジャーナル四天王「重症敗血症へのβ-ラクタム系薬、持続投与vs.間欠投与~メタ解析/JAMA 」)(Abdul-Aziz MH, et al. JAMA. 2024 Jun 12. [Epub ahead of print])。 本BLING III試験は、7ヵ国の104の集中治療室で実施した非盲検無作為化第III相試験で、敗血症患者7,031例(持続投与群:3,498例、間欠投与群:3,533例)と、敗血症患者におけるβ-ラクタム系抗菌薬の持続投与に関する研究としては患者登録数が最大の試験であり、β-ラクタム系抗菌薬持続投与の有用性の有無に結論が出ることが期待されていた(Abdul-Aziz MH, et al. JAMA. 2024 Jun 12. [Epub ahead of print])。 本研究結果は「重症敗血症へのβ-ラクタム系薬投与、持続と間欠の比較(BLING III)/JAMA」に示されたとおりで、β-ラクタム系抗菌薬の持続投与により死亡率の有意な低下は示すことができなかったが、持続投与群で90日死亡率は2%低く、臨床的治癒率が6%高かった。潜在的に有効性のある患者がいる可能性はあり、筆者の主張するとおり、今回の患者集団におけるβ-ラクタム系抗菌薬の持続投与には重要な効果がない可能性と、臨床的に重要な有益性のある可能性が共に含まれるという解釈に同意したい。 本研究結果からは、重症敗血症患者に対してβ-ラクタム系抗菌薬の持続投与が有益な可能性が残るが有意差は示せず、残念ながらβ-ラクタム系抗菌薬の持続投与の是非を結論付けられなかった。β-ラクタムの種類や患者・微生物因子等によっては持続投与も含めた長期注入のほうが予後良好となる可能性はあり、今後も患者や医療従事者の状況を勘案して、持続投与も含めた長期注入は検討してもよいのかもしれない。 本研究結果では明確に示されなかったものの、β-ラクタム系抗菌薬の長期注入が予後改善につながる可能性は残ると考えられ、引き続きβ-ラクタム系抗菌薬の長期注入による臨床的影響の調査結果を期待したい。また、今回は重症敗血症患者に対する、β-ラクタム系抗菌薬の持続投与の有効性と調査するため、患者背景を重症敗血症、抗菌薬はピペラシリン・タゾバクタムとメロペネムが対象とされたが、原因微生物や抗菌薬の種類によっては長期注入のメリットが明らかになるかもしれない。抗菌薬の適切な投与方法について、引き続き新規の研究結果を待ちたいと考える。

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