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高齢者診療の困ったを解決するヒントは「老年医学」にあり!【こんなときどうする?高齢者診療】第1回

今回のテーマは、「なぜ今、老年医学が必要なのか?」です。このような症例に出会ったことはありませんか?85歳女性。自宅独居。糖尿病、高血圧、冠動脈疾患の既往有。呼吸苦を主訴に救急外来を受診。肺炎と診断し入院にて抗菌薬加療。肺炎の治療は適切に行われ呼吸苦症状も改善したが、自力歩行・経口摂取が困難になり自宅への帰宅不可能に。適切な診断と治療をして疾患は治ったにもかかわらず状況が悪化してしまう-高齢者診療でよく遭遇する場面かもしれません。老年医学はこうしたジレンマに向かい合うきっかけを提供し、すべての高齢者に対してQOLの維持・向上を図ること、また同時に心や体のさまざまな症状をコントロールするために体系化された学問です。老年医学の原則とアプローチ(「型」)を実践することで、困難事例に解決の糸口をみつけることができるようになります。老年医学の原則:コモンなことはコモンに起きる-老年症候群と多疾患併存日本における平均寿命と健康寿命はいずれも延伸していますが、平均寿命と健康寿命のギャップは医療の進歩にも関わらず顕著には短縮しておらず、女性で約12年、男性で約7~8年あります。1)この期間に多くの高齢者が抱える問題が2つあります。ひとつは老年症候群。たとえば記憶力の低下や抑うつ、転倒や失禁などの認知・身体機能の低下など、高齢者にコモンに起きる症状・兆候を「老年症候群」と総称します。もうひとつは、多疾患併存(multimorbidity)です。年齢に比例して併存疾患の数が多くなり、60歳以降では約20%が3つ以上の疾患を有しているという調査があります。2)高齢者の治療やケアをする場合、老年症候群と多疾患併存があるという前提で診察やケアにあたることが大切です。老年医学の型:5つのM老年症候群があり、多疾患併存状態にある高齢者の診療は、疾患の診断-治療という線形思考で解決しないことがほとんどです。そこで、複雑な状況を俯瞰するために「5つのM」というフレームを使います。要素は、大切なこと(Matters most)、薬(Medicine)、認知機能・こころ(Mind)、身体機能(Mobility)、複雑性・落としどころ(Multi-complexity)の5つです。今回のケースを5つのMを使って考えてみましょう。ポイントはMatters mostから考え始めること。「生きがい」・「大切なこと」といったことでもよいのですが、「今、患者/家族にとって一番の困りごとは何か、肺炎を治療した先の日々の生活に期待することは何か?」を入院加療の時点で考えられると、行うべき介入がさまざまな角度から検討できるようになります。今回のケースでは、肺炎治療後に自宅に帰り、自立した生活をできる限り続けることがゴールだったと考えてみましょう。そうすると、肺炎治療に加えて1人で歩行するための筋力維持が必要だと気付くでしょう。また筋力を維持するためには栄養状態にも気を配らなければなりません。それに気付けば理学療法士や管理栄養士など、その分野の専門職に相談するという選択肢もあります。また、肺炎治療中の絶対安静や絶食は、筋力や栄養状態の維持を同時に叶えるために適切な選択だろうか?本当に必要なのだろうか?と立ち止まって考えることもできます。しかし命に係わるかもしれない肺炎の治療は優先事項のひとつですから、落としどころとして、安静期間をできる限り短くできないか検討する、あるいはリハビリテーションの開始を早める、誤嚥のリスクを見極めて経口摂取を早期から進めていく、といった選択肢が出てくるかもしれません。100%正しい選択肢はありません。ですが5つのMで全体像を俯瞰すると、目の前の患者に対して、提供できる医療やケアの条件の中で、患者のゴールに近づく落としどころや優先順位を考えることができます。高齢者にかかわるすべての医療者で情報収集し共有する今回のケースでは、例として理学療法士や管理栄養士を出しましたが、その他にもさまざまな専門職が高齢者の医療に携わっています。医師は診断・治療といった医学的介入を職業の専門性として持つ一方で、患者とコミュニケーションできる時間が少ないために十分な「患者―医師関係」が構築しにくく、患者・家族が本当に大切にしていることが届きにくい場合があります。そのため、協働できる多職種の方とともに患者の情報を得る、そして彼らの専門性を活かして介入の方法やその分量のバランスをとること、落としどころを見つけることが医師に求められるスキルのひとつです。参考1)内閣府.令和5年度版高齢社会白書(全体版).第1章第2節高齢期の暮らしの動向.2)Miguel J. Divo,et al. Eur Respir J. 2014; 44(4): 1055–1068.

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外用抗菌薬の鼻腔内塗布でウイルス感染を防御?

 抗菌薬のネオマイシンを鼻の中に塗布することで、呼吸器系に侵入したウイルスを撃退できる可能性があるようだ。新たな研究で、鼻腔内にネオマイシンを塗布された実験動物が、新型コロナウイルスとインフルエンザウイルスの強毒株の両方に対して強力な免疫反応を示すことが確認された。さらに、このアプローチはヒトでも有効である可能性も示されたという。米イェール大学医学部免疫生物学部門教授の岩崎明子氏らによるこの研究結果は、「Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)」に4月22日掲載された。 岩崎氏らによると、新型コロナウイルスは2024年2月時点で、世界で約7億7450万人に感染し、690万人を死亡させたという。一方、インフルエンザウイルスは、年間500万人の重症患者と50万人の死者を出している。 これらのウイルスに感染した際には、一般的には経口または静脈注射による治療を行って、ウイルスの脅威と闘う。これらは、感染の進行を止めることに重点を置いたアプローチだ。しかし研究グループは、鼻に焦点を当てた治療アプローチの方が、ウイルスが肺に広がって肺炎のような命を脅かす病気を引き起こす前にウイルスを食い止められる可能性がはるかに高いのではないかと考えている。 今回の研究では、まず、マウスを使った実験でこの考えを検証した。マウスの鼻腔内にネオマイシンを投与したところ、鼻粘膜上皮細胞でIFN誘導遺伝子(ISG)の発現が促されることが確認された。ISGの発現は、ネオマイシン投与後1日目から確認されるほど迅速だった。そこで、マウスを新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスに曝露させたところ、感染に対して有意な保護効果を示すことが確認された。さらに、ゴールデンハムスターを用いた実験では、ネオマイシンの鼻腔内投与が接触による新型コロナウイルスの伝播を強力に抑制することも示された。 次に、健康なヒトを対象に、鼻腔内にネオマイシンを主成分とするNeosporin(ネオスポリン)軟膏を塗布する治療を行ったところ、この治療法に対する忍容性は高く、参加者の一部で鼻粘膜上皮細胞でのISG発現が効果的に誘導されていることが確認された。 岩崎氏は、「これはわくわくするような発見だ。市販の安価な外用抗菌薬が、人体を刺激して抗ウイルス反応を活性化させることができるのだ」と話している。なお、米国立衛生研究所(NIH)によれば、Neosporinは、抗菌薬のネオマイシン、バシトラシン、およびポリミキシンBを含有する。 岩崎氏は、「今回の研究結果は、この安価で広く知られている抗菌薬を最適化することで、ヒトにおけるウイルス性疾患の発生やその蔓延を予防できる可能性があることを示唆している。このアプローチは、宿主に直接作用するため、どんなウイルスであろうと効果が期待できるはずだ」と話している。

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抗生物質ください!」にはどう対応すべき?【もったいない患者対応】第6回

抗生物質ください!」にはどう対応すべき?登場人物<今回の症例>28歳男性。生来健康今日からの37℃台の発熱、咳嗽、喀痰、咽頭痛あり身体所見上、咽頭の軽度発赤を認める<診察の結果、経過観察で十分な急性上気道炎のようです>やっぱり風邪でしょうか?そうですね。風邪だと思います。そうですか。仕事が忙しくて、風邪をひいている場合じゃないんです。とにかく早く治したいので、抗生物質をください。抗生物質は風邪には効きませんよ?でも以前、抗生物質を飲んだら次の日にすっきり風邪が治ったことがあったんです。今日は抗生物質をもらいに来たんです。処方してください。…わかりました。では処方しましょうか。【POINT】若くて生来健康な患者さんの、受診当日からの上気道症状と微熱。上気道炎として、まずは対症療法のみで経過観察してもよさそうな症例です。患者さんから抗菌薬の処方を希望された唐廻先生は、それが不要であることを伝えますが、患者さんに強く迫られて根負けしてしまいました。このようなケース、どう対応すればよかったのでしょうか? デメリットをきちんと説明していますか?患者さんのなかには、何か目に見える形で治療してもらわないと満足できない、という方が一定数います。「治療の必要なし。経過観察可能」と判断されると、「医師は何もしてくれなかった」と思ってしまうのです。なかには、今回のケースのように「風邪には抗菌薬が効く」という間違った医学知識を自らの体験から信じている患者さんも多くいます。こういう方に、無治療経過観察が望ましいことはなかなか理解してもらえません。今回の唐廻先生のように、早々と患者さんの希望どおりに対応してしまうほうが医師にとっては楽です。しかし、医学的に不要な治療を患者さんの希望に合わせて行ってしまうと、患者さんに副作用リスクだけを与えることになります。また、必要のない治療を行うことにより、かえって病態が修飾されるので、精査が必要なまれな病気が隠れていたとき、その発見が遅れるリスクもあるでしょう。もちろん、不要な医療行為は医療経済的な観点からも望ましくありません。唐廻先生のように安易に処方せず、まずは治療が不要であることをきちんと説明することが大切です。一方で、十分な説明なしに処方を断ってしまうのも問題です。満足できなかった患者さんは、自分が望む治療を提供してくれるところを探し、結局別の病院を受診するかもしれないからです。これは、患者さんにとって有益とはいえません。では、治療が不要であることをどのように伝えればよいでしょうか?「なぜ処方できないのか」を明確に伝えようまず、医学的根拠を可能な限りわかりやすく伝えるよう努力すべきです。たとえば今回の抗菌薬に関する説明であれば、まず、風邪の原因はほとんどがウイルス感染である。抗菌薬は細菌をやっつける薬であって、ウイルスをやっつける薬ではないので、風邪には効果がないこと抗菌薬には吐き気や下痢、アレルギーのようなリスクがあり、効果が期待できないうえに副作用のリスクだけを負うのは割に合わないことを説明します。あくまでも個人的な意見“ではない”こともポイント次に、「治療は必要ない」という結論が「個人の主観的判断」によって得られたものではなく、ガイドライン上の記載や学会・公的機関の見解、過去の大規模な臨床試験のデータなど、客観的なエビデンスに基づくものであることを伝えるのがよいでしょう。風邪に抗菌薬を使用することは、メリットよりデメリットのほうが圧倒的に大きいため、厚生労働省が発行した「抗微生物薬適正使用の手引き」に「感冒に対しては、抗菌薬投与を行わないことを推奨する」と明記されていることをかいつまんで説明する、という形がおすすめです。もっと簡単に説明したい場合は、「近年は○○をするのが一般的です」「〇〇されています」「多くの医師が○○しています」のように、自分の主観“以外”のところに拠り所があるというニュアンスを伝えると効果的です。かかりつけの患者さんなど、長年の付き合いで信頼関係ができている場合とは違って、患者さんが医師と初めて会うときは「目の前の医師を本当に信頼していいだろうか」と不安になるものです。そのため、客観的な知見を拠り所にしたほうが、患者さんは安心する可能性が高いはずです。こうした根拠をわかりやすく説明できるよう、準備しておきましょう。もちろん、風邪から肺炎に発展するなど、本当に抗菌薬が必要な病態に発展する可能性はあります。こうしたケースで、患者さんが「抗菌薬を使用しなかったことが原因ではないか」と疑うことのないよう、今後の見通しや再受診のタイミングを伝えておくことも大切です。点滴やうがい薬も誤解が多い風邪は誰もが何度もかかる病気なので、「こういう風に治したい」という強い希望をもつ患者さんは多いと感じます。たとえば、「風邪は点滴で治る」と思い込んでいる人もいますし、ヨード液(商品名:イソジンなど)のうがい薬が風邪予防につながると信じている人もいます。患者さんにこうした希望がある場合、完全に否定するのではなく、それぞれのデメリットや拠り所となるエビデンスを説明したうえで判断してもらいます。点滴であれば、デメリットとして末梢ルート確保に伴う感染リスクや神経障害などのリスク長時間病院に滞在することによる体調悪化のリスク補液に伴う循環器系への負担をきちんと説明する必要があります。ヨード液については、「ヨード液よりも水うがいのほうが風邪予防や症状の緩和につながる」といった客観的なエビデンス1)があることを説明するとよいでしょう。これでワンランクアップ!やっぱり風邪でしょうか?そうですね。風邪だと思います。そうですか。仕事が忙しくて、風邪をひいている場合じゃないんです。とにかく早く治したいので、抗生物質をください。風邪の原因はほとんどが細菌ではなくウイルスです。抗生物質は細菌をやっつける薬なので、ウイルスをやっつけることはできません※1。風邪に効果は期待できないうえに副作用のリスクもある※2ので、今回は使わないほうがいいと思います。風邪に抗生物質を希望する患者さんが多いので、厚労省からも「風邪に対して抗生物質を使わないことを推奨する」という通達が出ているんですよ※3。抗生物質なしで一旦経過をみませんか※4。もちろん症状が悪化したときは風邪とは異なる別の病気を併発している可能性もありますので、そのときは必ずもう一度受診してくださいね。※1:ここを誤解している患者さんは多い。※2:あくまで患者さんの不利益になることを強調する。※3:客観的な意見を伝えると納得してもらいやすい。※4:一度猶予をもらうのも手。参考1)Satomura K, et al. Am J Prev Med. 2005;29:302-303.

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第215回 高脂肪食とがんを関連付ける腸内細菌を発見

高脂肪食とがんを関連付ける腸内細菌を発見肥満ががんの進展を促すことに寄与しているらしい腸内細菌を中国の研究チームが発見しました。乳がんの新たな治療手段を導く可能性を秘めたその結果によると、高脂肪食はマウスの腸のデスルホビブリオ(Desulfovibrio)属の細菌を増やし、それが免疫系を抑制してがんの増殖が亢進します。研究成果は中国の広東省の広州にある病院(SunYat-Sen Memorial Hospital)の乳がん外科医Erwei Song氏らの手によるもので、今月始めにPNAS誌に掲載されました1)。Song氏らは、BMI値が高い肥満の乳がん患者の生存率が低いことをまず確認したうえで、乳がん患者の腸内細菌の検討を始めました。同病院の治療開始前の乳がん患者61例の検体を調べたところ、肥満の目安としたBMI値24以上の女性の腸にはBMI値が24未満の女性に比べてデスルホビブリオ細菌がより多く認められました。続いてマウスを使ってデスルホビブリオ細菌とがんを関連付けうる仕組みが調べられました。ヒトの肥満を模すものとしてしばしば使われる高脂肪食マウスには肥満の乳がん女性と同様にデスルホビブリオ細菌が多く、免疫系を抑制することで知られる骨髄由来抑制細胞(MDSC)の増加も認められました。よってデスルホビブリオ細菌が多いことと免疫系の抑制は関連すると示唆され、どうやらその関連にアミノ酸の1つであるロイシンが寄与していることが続く検討で示されました。高脂肪食マウスの腸内微生物叢はロイシンを多く放ち、血中にはロイシンが多く巡っていました。そのロイシンがmTORC1経路を活性化してMDSCの生成を誘うことが突き止められ、デスルホビブリオ細菌を死なす抗菌薬をマウスに投与したところ、ロイシンとMDSCのどちらも正常水準に落ち着きました。ヒトでもどうやら同様なことが乳がん患者から採取した血液検体の検討で示唆されました。その検討の結果、BMI値が24以上の肥満水準であることは高脂肪食マウスと同様にロイシンやMDSCがより多いことと関連しました。以上の結果によると高脂肪食の恩恵にあずかるデスルホビブリオ細菌のせいでロイシンが過剰に作られ、その結果MDSCが急増して免疫系が抑制されてがんの増殖が許されてしまうようです。腸の細菌は地域や食事によって異なり、腸内細菌研究の結果は調べた集団が違うと一致しないことがよくあります2)。よって今回と同様の仕組みが他の集団でも認められるかどうかを今後調べる必要があります。もし高脂肪食が招くがんの進行にデスルホビブリオ細菌を発端とする免疫抑制が確かに関連しているなら、その経路を断ち切る新たな乳がん治療の道が開けそうです。参考1)Chen J, et al. Proc Natl Acad Sci USA. 2024;121:e2306776121.2)Gut microbes linked to fatty diet drive tumour growth / Nature

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抗菌薬は咳の持続期間や重症度の軽減に効果なし

 咳の治療薬として医師により抗菌薬が処方されることがある。しかし、たとえ細菌感染が原因で生じた咳であっても、抗菌薬により咳の重症度や持続期間は軽減しない可能性が新たな研究で明らかにされた。米ジョージタウン大学医学部家庭医学分野教授のDaniel Merenstein氏らによるこの研究の詳細は、「Journal of General Internal Medicine」に4月15日掲載された。 Merenstein氏は、「咳の原因である下気道感染症は悪化して危険な状態になることがあり、罹患者の3%から5%は肺炎に苦しめられる」と説明する。同氏は、「しかし、全ての患者が初診時にレントゲン検査を受けられるわけではない。それが、臨床医がいまだに患者に細菌感染の証拠がないにもかかわらず抗菌薬を処方し続けている理由なのかもしれない」とジョージタウン大学のニュースリリースの中で述べている。 今回の研究では、咳または下気道感染症に一致する症状を理由に米国のプライマリケア施設または急病診療所を受診した患者718人のデータを用いて、抗菌薬の使用が下気道感染症の罹患期間や重症度に及ぼす影響を検討した。データには、対象患者の人口統計学的属性や併存疾患、症状、48種類の呼吸器病原体(ウイルス、細菌)に関するPCR検査の結果が含まれていた。 ベースライン時に対象患者の29%が抗菌薬を、7%が抗ウイルス薬を処方されていた。最も頻繁に処方されていた抗菌薬は、アモキシシリン/クラブラン酸、アジスロマイシン、ドキシサイクリン、アモキシシリンであった。このような抗菌薬を処方された患者とされなかった患者を比較した結果、抗菌薬に咳の持続期間や重症度を軽減する効果は認められないことが示された。 研究グループはさらに、検査で細菌感染が確認された患者を対象に、抗菌薬を使用した場合と使用しなかった場合での転帰を比較した。その結果、下気道感染症が治癒するまでの期間は両群とも約17日間であったことが判明した。 研究グループは、「抗菌薬の過剰使用は、危険な細菌が抗菌薬に対する耐性を獲得するリスクを高める」との懸念を示す。論文の上席著者である米ジョージア大学公衆衛生学部教授のMark Ebell氏は、「医師は、下気道感染症の中に細菌性下気道感染症が占める割合を知ってはいるが、おそらくは過大評価しているのだろう。また、ウイルス感染と細菌感染を区別する自身の能力についても過大評価していると思われる」と話す。 一方、Merenstein氏は、「この研究は、咳に関するさらなる研究の必要性を強調するものだ。咳が深刻な問題の指標になり得ることは分かっている。咳は、外来受診の理由として最も多く、年間の受診件数は、外来では約300万件、救急外来では約400万件以上に上る」と話す。その上で同氏は、「重篤な咳の症状とその適切な治療法は、おそらくはランダム化比較試験によりもっと詳しく研究される必要がある。なぜなら、今回の研究は観察研究であり、また、2012年頃からこの問題を研究したランダム化比較試験は実施されていないからだ」と述べている。

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知見のupdateを絶えず重ね続ける【国試のトリセツ】第40回

§3 decision making知見のupdateを絶えず重ね続けるQuestion〈111G57〉82歳の女性。肺炎で入院中である。抗菌薬が投与され肺炎の症状は軽快していたが、3日前から頻回の水様下痢が続いている。高血圧症で内服治療中である。意識は清明。体温37.6℃。脈拍76/分、整。血圧138/78mmHg。腹部は平坦、軟。下腹部に軽い圧痛を認める。血液所見赤血球380万、Hb12.0g/dL、Ht 36%、白血球9,800、血小板26万。腹部X線写真で異常所見を認めない。便中Clostridium difficileトキシン陽性。この患者に有効と考えられる薬剤はどれか。2つ選べ。(a)バンコマイシン(b)クリンダマイシン(c)エリスロマイシン(d)メトロニダゾール(e)ベンジルペニシリン(ペニシリンG)※2016年に、Clostridium difficileはClostridioides difficileに名称が変更されました。第111回医師国家試験は2017年に実施されましたが、まだ以前のままの表記になっています。以降の解説では、このupdateを汲み、新しい表記で統一します。Lawson PA, et al:Reclassification of Clostridium difficile as Clostridioides difficile(Hall and O’Toole 1935) Prevot 1938. Anaerobe, 40:95-99, 2016

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身体診察【とことん極める!腎盂腎炎】第2回

CVA叩打痛って役に立ちますか?Teaching point(1)CVA叩打痛があっても腎盂腎炎と決めつけない(2)CVA叩打痛がなくても腎盂腎炎を除外しない(3)他の所見や情報を合わせて総合的に判断する1.腎盂腎炎と身体診察腎盂腎炎の身体診察といえば肋骨脊柱角叩打法(costovertebral angel tenderness:CVA tenderness)が浮かぶ方も多いのではないだろうか。発熱、膿尿にCVA叩打痛があれば腎盂腎炎と診断したくなるが、CVA叩打痛は腎臓の周りの臓器にも振動が伝わり、肝胆道や脊椎の痛みを誘発することがあるため、肝胆道系感染症や化膿性脊椎炎を腎盂腎炎だと間違えてしまう場合がある。身体所見やその他の所見と組み合わせて総合的に判断する必要がある。2.CVA叩打痛と腎双手診CVA叩打痛は腎盂腎炎を示唆する身体所見として広く知られている。図1のように、胸椎と第12肋骨で作られる角に手を置き、上から拳で叩打し、左右差や痛みの誘発があるかどうかを観察する。なお腎臓は左の方がやや頭側に位置しているため、肋骨脊柱角の上部・下部とずらして叩打痛の確認をする。もし左右差や痛みがあれば腎盂腎炎を示唆する所見となるが、第1回で紹介したとおり、所見がないからといって腎盂腎炎を否定することはできず、ほかの所見と合わせて診断を考える必要がある。画像を拡大するその他の身体診察として腎双手診がある。腎臓のある側腹部を両手で挟み込み、痛みを生じるかどうかを確かめる診察であり尿管結石でも陽性となり得るが、腎盂腎炎においてCVA叩打痛陰性であっても腎双手診は陽性となる症例も散見される。CVA叩打痛は脊椎の痛みを反映している場合もある一方で腎双手診(図2)は大腸の病変を触れている可能性もある。CVA叩打痛が圧迫骨折などの脊椎の痛みを誘発していないか確かめるために、棘突起を押して圧痛を生じないか確かめることが有用である。棘突起を押して圧痛を生じるようであれば、椎体の病変の可能性が高くなる。画像を拡大するこのように、腎臓の位置は肉眼では把握しづらく、痛みを生じているのが腎臓なのか、その周囲の臓器なのかわかりにくい。裏技のような方法になるが、エコーで腎臓を描出しながらプローブで圧痛が生じるか確認する、いわばsonographic Murphy’s signの腎臓バージョンもある1)。3.自身が体験した非典型的なプレゼンテーション最後に自身が体験した非典型なプレゼンテーションを述べる。糖尿病の既往がある90歳の女性で、転倒後の腰痛で体動困難となり救急搬送された。身体診察・画像検査からは腰椎の圧迫骨折が疑われ、鎮痛目的に総合診療科に入院となった。その夜に39℃台の発熱を生じfever work upを行ったところ、右の双手診で側腹部に圧痛があり、尿検査では細菌尿・膿尿を認めた。圧迫骨折後の尿路感染症として治療を開始し、後日、尿培養と血液培養より感受性の一致したEscherichia coliが検出された。本人によく話を聞くと、転倒した日は朝から調子が悪く、来院前に悪寒戦慄も生じていたとのことだった。ERでは腰痛の診察で脊椎叩打痛があることを確認していたが、その後脊椎を一つひとつ押しても圧痛は誘発されず、腎双手診のみ再現性があった。腰椎圧迫骨折は陳旧性の物であり、急性単純性腎盂腎炎後の転倒挫傷だったのである。転倒後という病歴にとらわれ筋骨格系の疾患とアンカリングしていたが、そもそも転倒したのが体調不良であったから、という病歴を聞き取れれば初診時に尿路感染症を疑えていたかもしれない。この症例から高齢者の腎盂腎炎は転倒など一見関係なさそうな主訴の裏に隠れていること、腰痛の診察の際に腎双手診は脊椎の痛みと区別する際に有用であることを学んだ。4.腎盂腎炎診断の難しさ腎盂腎炎の診断は難しい。それは、腎盂腎炎の診断が非典型的な症状、細菌尿・膿尿の解釈、側腹部痛の身体所見、他疾患の除外など、さまざまな情報を統合して総合的に判断しなければならないからである。正しい診断にこだわることはもちろん重要だが、腎盂腎炎がさまざまな症状を呈し、また、どの身体所見も腎盂腎炎を確定診断・除外できないことを念頭に置き、柔軟に対応することが必要なのではないだろうか。たとえ典型的な症状や所見が揃っていなくても、できる限り他疾患の可能性について考慮したうえで、患者の余力も検討し腎盂腎炎として抗菌薬を開始することが筆者はリーズナブルであると考える。重要なことは治療を始めた後も、経過を観察し、合わない点があれば再度、腎盂腎炎の正当性について吟味することである。多種多様な鑑別疾患と総合的な判断が求められる腎盂腎炎は臨床医の能力が試される疾患である。1)Faust JS, Tsung JW. Crit Ultrasound J. 2017;9:1.

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経口ワクチンが抗菌薬に代わる尿路感染症の治療法に?

 新たに開発された経口投与型のワクチンが、尿路感染症(UTI)を繰り返す「再発性UTI」の患者にとって抗菌薬に代わる治療法となる可能性のあることが、英ロイヤル・バークシャーNHS財団トラストの泌尿器科専門医であるBob Yang氏らの研究で示唆された。同氏らによると、スプレーを使って舌の下にワクチンを投与した再発性UTI患者の半数以上(54%)は、その後9年にわたってUTIを再発することがなく、また目立った副作用も認められなかったという。この研究結果は、欧州泌尿器科学会(EAU 2024、4月5~8日、フランス・パリ)で発表された。 UTIは最も一般的な細菌感染症で、女性の半数、男性の5人に1人が生涯に一度は経験するとされる。UTI症例の20~30%では、抗菌薬による治療を必要とするUTIが再発する。 Yang氏は、「ワクチン接種前は、全参加者が再発性UTIに苦しんでいた。また、多くの女性患者で再発性UTIは治療困難となり得る」とニュースリリースの中で述べている。そして、「この新たなUTIワクチンを初めて接種してから9年後の時点まで、参加者のほぼ半数は感染することはなかった」と説明。また、「全体として、このワクチンは長期にわたって安全であり、参加者はUTIの再発が減少したこと、再発した場合でも重症度が低く、多くは水をたくさん飲むだけで治ったと話していた」と振り返っている。 このMV140と呼ばれるワクチンは、4種類の細菌種を含んだパイナップル風味の懸濁液で、スペインの製薬会社であるImmunotek社によって開発された。ワクチンには、感染と闘う抗体の産生を促す細菌が含まれている。ワクチンは3カ月間、毎日舌の下に2回吹きかけて投与する。 今回の研究は、英国のロイヤルバークシャー病院でUTIの治療を受けた18歳以上の女性72人と男性17人を対象としたもの。これらの患者は、MV140の臨床試験への当初からの参加者で、ワクチン投与後1年間の追跡調査の結果は2017年に報告されていた。今回の報告は、その後の9年に及ぶ追跡調査の結果である。Yang氏らは、89人の医療記録データを分析するとともに聞き取り調査を実施した。 その結果、48人の参加者が、9年間の追跡期間中にUTIを再発しなかったことが明らかになった。再発が認められなかった期間は、女性で平均54.7カ月(4年半)、男性で平均44.3カ月(3年半)だった。なお、参加者の約40%は、1年後または2年後にMV140の再接種を受けたことを報告していた。 今回の研究には関与していない専門家であるアルタ・ウロ泌尿器医療センター(スイス)教授のGernot Bonkat氏は、「これらは有望な結果だ。再発性UTIによってもたらされる経済的な負担は大きく、また、抗菌薬の過剰使用は抗菌薬耐性感染症の要因にもなり得る」と研究結果に期待を寄せる。 Bonkat氏は、「今後は、より複雑なUTIについての研究や、異なる患者のグループを対象とした研究の実施が必要だ。そこから得られる研究成果を通じて、このワクチンの使用方法を最適化できる」と話す。また同氏は、「現実的な視点を持つ必要はあるが、このワクチンはUTI予防において画期的な手段となる可能性や、従来の治療法に代わる安全で有効な治療法となる可能性を秘めている」と述べている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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事例047 アンブロキソール塩酸塩の査定【斬らレセプト シーズン3】

解説痰のからみを訴える扁桃炎の患者に対して、抗菌薬と去痰薬のアンブロキソール塩酸塩錠(以後「同錠」)を投与したところ、多くは病名不足を示すA事由(医学的に適応と認められないもの)にて査定となりました。同錠の添付文書を参照したところ、効能・効果には、気管支炎もしくは肺炎由来の去痰に適用があると記載されていました。扁桃炎は、扁桃に炎症が起きる上気道疾患です。効能・効果には、上気道疾患に伴う去痰が記載されていません。現在はコンピュータによる審査が行われています。添付文書の効能・効果と病名が一致しないために、A事由が適用されたものと推測ができます。他のレセプトも調べてみました。同様の理由にてブロムヘキシン塩酸塩などが査定となっていました。医師にはこの結果を伝えて、同錠などを投与する場合には、気管支や肺の炎症に伴う去痰を目的に使用した理由が読み取れる病名を付けていただくようにお願いしました。

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CPOE導入で、尿路感染症入院への広域抗菌薬の使用が減少/JAMA

 尿路感染症(UTI)で入院した非重症の成人患者では、通常の抗菌薬適正使用支援と比較して、多剤耐性菌(MDRO)のリスクが低い患者に対して標準スペクトルの抗菌薬をリアルタイムで推奨するオーダーエントリーシステム(computerized provider order entry:CPOEバンドル)は、在院日数やICU入室までの日数に影響を及ぼさずに、広域スペクトル抗菌薬の経験的治療を有意に減少させることが、米国・カリフォルニア大学アーバイン校のShruti K. Gohil氏らが実施した「INSPIRE UTI試験」で示された。JAMA誌オンライン版2024年4月19日号掲載の報告。米国59施設のクラスター無作為化試験 INSPIRE UTI試験は、MDROのリスクが低い(<10%)と推定されるUTI入院患者に対して標準スペクトル抗菌薬による経験的治療を推奨するCPOEバンドル(フィードバック、教育、リアルタイムのリスクベースCPOEプロンプトから成る)の有効性を、通常の抗菌薬適正使用支援と比較するクラスター無作為化試験(米国疾病管理予防センター[CDC]の助成を受けた)。 米国の59の病院を、CPOEバンドルを使用するCPOE介入群(29施設)または通常の抗菌薬適正使用支援を行う群(30施設)に無作為に割り付けた。対象は、年齢18歳以上の非重症のUTIによる入院患者であった。試験は、18ヵ月間のベースライン期間(2017年4月~2018年9月)、6ヵ月間の段階的導入期間(2018年10月~2019年3月)、15ヵ月間の介入期間(2019年4月~2020年6月)で構成された。 主要アウトカムは、入院から3日間における広域スペクトル抗菌薬の投与日数であり、ICU以外の場所で患者1例当たりに投与された広域スペクトル抗菌薬の総数とした。バンコマイシン、抗緑膿菌薬の投与日数も良好 59の病院に入院したUTI患者12万7,403例(ベースライン期間7万1,991例、介入期間5万5,412例)を解析の対象とした。全体の平均年齢は69.5(SD 17.9)歳、男性が30.5%で、Elixhauser併存疾患指数中央値は4点(四分位範囲[IQR]:2~5)であった。 1,000日当たりの広域スペクトル抗菌薬による経験的治療の日数は、通常の抗菌薬適正使用支援群ではベースライン期間で431.1日、介入期間で446.0日であったのに対し、CPOE介入群ではそれぞれ392.2日および326.0日といずれも少なかった。全体の率比は0.83(95%信頼区間[CI]:0.77~0.89)であり、CPOE介入群で広域スペクトル抗菌薬による経験的治療の日数が有意に短縮した(p<0.001)。 副次アウトカムであるバンコマイシンによる治療日数(全体の率比:0.89、95%CI:0.82~0.96、p=0.002)および抗緑膿菌薬による治療日数(0.79、0.72~0.87、p<0.001)は、いずれもCPOE介入群で有意に短縮した。MDROの増殖は6%未満 安全性アウトカムの評価では、在院日数(全体の率比:0.96、95%CI:0.91~1.01、p=0.21)およびICU入室までの日数(0.98、0.85~1.12、p=0.77)には両群間に有意な差を認めなかった。 著者は、「MDRO関連感染の患者別リスクのデータを使用して、電子健康記録(electronic health record)から標準スペクトル抗菌薬の推奨をリアルタイムに生成することで、UTI入院患者に対する広域スペクトル抗菌薬による経験的治療を安全に削減する可能性が示された」とまとめ、注目すべき点として、試験の終盤に新型コロナウイルス感染症の流行による混乱があったにもかかわらず、ICU入室や在院期間といった安全性のアウトカムには変化がなかったこと、研究に用いたアルゴリズムによりMDROのリスクが低いと推定された患者のうち、MDROの増殖を認めたのは6%未満であったことを挙げている。

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手足口病の予防は手洗いで

夏、小児に流行する手足口病〔原因ウイルス〕・エンテロウイルスやコクサッキーウイルス(※アルコール消毒や熱に抵抗性が高いウイルス)〔流行期、おもな患者層、潜伏期間〕・夏季を中心に流行し、4歳くらいの幼児が主体(2歳以下が半数。成人もまれに感染)・約3~5日の潜伏期間の後に発症〔主症状〕・口腔粘膜、手掌、足底や足背などの四肢末端に2~3mmの水疱性発疹出現(下図参照)。肘、膝、臀部などにも出現する場合もある。・発熱は約1/3にあるが、軽度でほぼ38℃以下。・通常は3~7日で消退し、水疱が痂皮を形成することはない。・まれに幼児に髄膜炎、小脳失調症などの中枢神経系合併症が生ずるので注意が必要。〔治療〕・特異的な治療法はない。 抗菌薬の投与は意味がない。・口腔内病変には柔らかめで薄味の食べ物を推奨。・発熱には通常解熱剤なしで経過観察が可能。・頭痛、嘔吐、高熱、2日以上続く発熱などの場合 には髄膜炎、脳炎などへの進展に注意。・ステロイドの多用が症状を悪化させる示唆あり。〔予防〕・有症状中の接触予防策および飛沫予防策が重要。 とくに手洗いの励行(排便後の手洗いを徹底)!図 手足口病における水疱性発疹国立感染症研究所ホームページより引用・作成(2024年4月25日閲覧)https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/441-hfmd.htmlCopyright © 2024 CareNet,Inc. All rights reserved.

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肺炎への広域抗菌薬使用、オーダーエントリーシステムで減少/JAMA

 肺炎でICU以外に入院した成人患者において、患者特異的な多剤耐性菌(MDRO)の感染リスク推定に基づき、リスクが低い患者に対し標準スペクトラム抗菌薬を推奨するオーダーエントリーシステム(computerized provider order entry:CPOEバンドル)の使用は、通常の抗菌薬適正使用支援の実践と比較し、広域スペクトラム抗菌薬の経験的使用が有意に減少した。ICU転室までの日数および在院期間に差はなかった。米国・カリフォルニア大学アーバイン校のShruti K. Gohil氏らが、米国の地域病院59施設で実施したクラスター無作為化比較試験「INSPIRE(Intelligent Stewardship Prompts to Improve Real-time Empiric Antibiotic Selection)肺炎試験」の結果を報告した。肺炎は入院を要する一般的な感染症であり、広域スペクトラム抗菌薬過剰使用の主な要因である。MDROの感染リスクは低いにもかかわらず、臨床上の不確実性が最初の抗菌薬選択につながることがよくあり、肺炎患者に対する抗菌薬の経験的過剰使用を抑制する戦略が求められている。JAMA誌オンライン版2024年4月19日号掲載の報告。CPOEバンドル使用施設vs.通常施設、広域スペクトラム抗菌薬の使用を評価 研究グループは参加施設を、CPOEバンドルを使用するCPOE介入群(29病院)と通常の抗菌薬適正使用支援のみを行う対照群(30病院)に無作為に割り付けた。対象は、肺炎で入院した非重症成人(18歳以上)患者である。 CPOE介入群では、通常の抗菌薬適正使用支援に加え、MDRO肺炎の絶対リスクが低い(10%未満)患者には、入院の最初の3日間(経験的治療期間)は広域スペクトラム抗菌薬の代わりに標準スペクトラム抗菌薬を推奨するCPOEプロンプトの提供、ならびに臨床医の教育とフィードバック報告が行われた。 ベースライン期間を18ヵ月(2017年4月1日~2018年9月30日)、段階的導入期間を6ヵ月(2018年10月1日~2019年3月31日)、介入期間を15ヵ月(2019年4月1日~2020年6月30日)とし、ベースライン期間と介入期間のアウトカムを比較した。 主要アウトカムは、入院の最初の3日間における広域スペクトラム抗菌薬による累積治療日数(患者1人当たりに投与された広域スペクトラム抗菌薬の数×日数として算出。たとえば、最初の3日間に2種類の広域スペクトラム抗菌薬を少なくとも1回ずつ投与した場合は6日間とする)。副次アウトカムはバンコマイシンおよび抗緑膿菌薬による経験的治療など、安全性アウトカムはICU転室までの日数、在院期間などであった。CPOE介入により広域スペクトラム抗菌薬による経験的治療が28.4%減少 試験期間に肺炎で入院した非重症成人患者は9万6,451例(ベースライン期間5万1,671例、介入期間4万4,780例)であった。患者背景は、平均(SD)年齢68.1(17.0)歳、男性48.1%、Elixhauser併存疾患指数中央値は4(四分位範囲[IQR]:2~6)であった。 経験的治療日数1,000日当たり患者1人当たりの広域スペクトラム抗菌薬累積治療日数は、CPOE介入群ではベースライン期間613.9日から介入期間428.5日に減少したのに対して、対照群ではそれぞれ633.0日、615.2日であった。 施設および期間別にクラスタリングした率比(RR)は0.72(95%信頼区間[CI]:0.66~0.78、p<0.001)であり、対照群と比較してCPOE介入群では広域スペクトラム抗菌薬による経験的治療が28.4%(95%CI:22.2~34.1、p<0.001)有意に減少した。副次アウトカムも同様の結果であった。 安全性アウトカムについては、介入期間におけるICU転室までの平均日数(対照群6.5日、CPOE介入群7.1日)および在院期間(それぞれ6.8日、7.1日)に両群で差は認められなかった。

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優先度を考えてdecision makingを組み立てる【国試のトリセツ】第39回

§3 decision making優先度を考えてdecision makingを組み立てるQuestion〈109F11〉咽頭痛、喘鳴および呼吸困難を訴える成人が救急外来を受診した際に、バイタルサインを確認しながらまず準備するのはどれか。(a)気管挿管(b)抗菌薬投与(c)動脈血採血(d)鎮痛薬投与(e)胸部X 線撮影

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第192回 マイナンバーカードはデータヘルス改革のキープレーヤー

社会保障制度改革にマイナンバーカードは必須新型コロナウイルス感染症が落ち着き、いよいよ団塊の世代のすべてが後期高齢者になる2025年がみえてきました。多くの医療機関にとって、今年の診療報酬改定は賃上げを求められるとともに、厚生労働省が打ち出したさまざまな政策により大きく影響を受けることになります。この中で1番注目すべきは、マイナ保険証の利用促進です。日本健康会議が4月25日に開いた、医療DX推進フォーラム「使ってイイナ!マイナ保険証」には武見 敬三厚労大臣、河野 太郎デジタル大臣、斉藤 健経済産業大臣が参加し、マイナ保険証利用促進集中取組月間のキャンペーンのキックオフを行いました。政府だけでなく、保険者団体、医療界、経済界も一丸となって国民にマイナンバーカード(マイナカード)の普及によって医療DXに取り組む宣言を行っています。マイナカードについては、当初からマイナンバーと健康保険証の紐付けミスが発生したことで批判も多く、国民の半数以上が所有しながらも、4割程度しか常時所持していないことが明らかになるなど、政府の取り組みについて実効性を疑問視する声も挙げられている一方、そのメリットは計り知れないことが国民にはまだ理解されていません。〔マイナンバー保険証によるメリット〕オンライン資格確認医療機関で保険証として直接利用でき、受診時の手続きが迅速化できるセキュリティの向上個人情報の保護が強化され、情報の漏洩リスクを低減できるデータ連携の効率化医療・介護情報がデジタル化され、異なる医療機関間での情報共有がスムーズに行えるこれらの実現によって、医療の質を高め効率的な医療介護連携が促進されることは間違いなく、患者さんが急病になって、意識がなくても救急車内で持病や内服などの情報も確認できるなど、救急医療現場でも利便性や信頼が高まっていくと考えられます。持続性可能な社会保障制度を求めた動きを強化わが国は、少子高齢化が急速に進展するため、2050年には高齢化率が36%に達する見込みであり、国民1人ひとりの健康寿命延伸が望まれる一方、医療・介護費の負担増大も見込まれています。毎年のように報道される過去最高を記録し続ける社会保障費の増大に対して、政府も伸び率の抑制を試みてはいるものの、医療アクセスを維持しながらの医療費抑制は困難です。さらに健康保険組合の財政も厳しく、「健保組合の9割が赤字見通し」「全体の赤字幅、過去2番目6,578億円」といったように社会保障制度の根幹である国民皆保険制度の維持にもかかわっています。このため、政府は後発品への置き換えによる薬剤費の抑制などを行ったものの、1人当たりの医療費や介護費が多く必要となる後期高齢者が増加し、そのスピードに追い付けていません。これに対して、厚労省は2017年1月からデータヘルス改革推進本部を設立し、レセプト(医療情報)、健診結果などのデータ分析に基づいて、PDCAサイクルで効果的、効率的に保健事業へ取り組む「データヘルス改革」に着手をしようとしていましたが、新型コロナウイルスの感染拡大によって実際に動き出せたのが遅れたというのが真相です。データヘルス改革によって、データに基づく質の高い医療を実現させるとしていますが、患者個人の医療情報が、複数の医療機関にまたがって患者の健康情報や治療歴が保管され、医薬品の副作用やワクチンの接種歴などがアナログで参照できない状態では、効率性もさることながら、医療の質が高まらない上に医療安全でも好ましくない状態となっています。「厚生労働省が進めるデータヘルス改革」の今後のデータヘルス改革の進め方によるとゲノム医療・AI活用の推進自身のデータを日常生活改善などにつなげるPHRの推進医療・介護現場の情報利活用の推進データベースの効果的な利活用の推進とあり、この頃からAIの活用も盛り込みながら、医療・介護情報の利活用推進を行っていくことが明らかになっています。具体的には保健医療・介護分野の公的データベースに連結、解析することで、医薬品の安全性のさらなる向上、治療の質の向上や新たなサービスなどの開発など、保健医療介護分野におけるイノベーションを創出地域包括ケアの実現などに向けた保健医療介護分野の効果的な施策の推進などのメリットが得られるとしています。厚労省医政局は、健康・医療・介護情報利活用検討会医療等情報利活用ワーキンググループをこれまでに21回開催し、医療・介護情報の利活用についてAction Planをまとめ、実施に向けた準備を取り組んでいます。この中で、来年の4月から本格化する「電子カルテ情報共有サービス」については電子カルテ情報共有サービスの運用開始までのロードマップ(「電子カルテ情報共有サービスにおける運用について」30ページ目)によれば、令和7年度中に稼働が本格的に始まることになります。さらに、政府は介護保険証のマイナカードとの一体運用を2024年度中にデータ基盤が整った自治体から開始し、2026年度に全国規模で運用を目指すことを決定しており、介護保険の介護認定の申請や通知にも利用されるほか、ケアプランの作成や提出だけでなく、主治医意見書などもマイナ保険証を介する可能性があり、医療だけでなく介護現場にもマイナ保険証がますます活用されることになると予想されます。医療・介護情報の連結に必要なのは、実はマイナカードです。来年度には、電子カルテ情報共有サービスが本格的に稼働するなどさらに進むことになります。紙の保険証が、今年12月から発行停止になることで、国民に広がっていく不安を解消するために、医療機関や行政機関はさらに力を入れていく必要があります。医療DXで進む「効率化」と「医療費適正化」医療費適正化については、あまり広くは知られていませんが、厚労省は令和6年度から6年間の第四期医療費適正化計画(2024~2029年度)を開始しています。政府は第4期の計画策定にあたり、2023年7月20日に「医療費適正化に関する施策についての基本的な方針」を定めています。この中には特定健診などの実施率向上実施率目標につき特定健診を70%、特定保健指導を45%後発医薬品の使用促進後発医薬品の数量シェアを80%以上(2023年度末までに全都道府県で)生活習慣病(糖尿病)などの重症化予防重複・多剤投薬の是正のように従来から取り組んできた項目のほか、新たに抗菌薬の適正使用、リフィル処方箋など今年の診療報酬改定につながるような項目が加わっています。政府は、各都道府県に対して医療費適正化計画の策定を求め、PDCAサイクルで医療費の適正化に取り組むように求めていきます。これまでと異なるのは医療・介護データを連結することで解析を行い、目標に近付けるために、各都道府県がよりデータに基づいて、保険者と連携して、医療機関だけでなく国民に働きかけることが増えると思われます。多くの医療機関は、保険償還の範囲の中であれば自由に検査や治療が行っていますが、今後は医薬品の適正使用、医療資源の効果的・効率的な活用のために地域ごとに高額な医療機器の共有なども進められていくほか、新たな地域医療構想に基づいた病床機能の分化・連携の推進が進んでいくように働きかけも強くなっていくと考えられます。今回の診療報酬改定や介護報酬改定では、医療機関や介護サービス事業者に対して補助金を支給するなどマイナカードの普及への協力を求めており、今後のオンライン資格確認や電子処方箋など将来的にも重要な役割を果たすマイナカードに対して、患者さんへの利用の呼びかけなど積極的な協力が求められます。参考1)健康・医療・介護情報利活用検討会 医療等情報利活用ワーキンググループ(厚労省)2)第四期医療費適正化計画(2024~2029年度)について(同)3)医療費適正化に関する施策についての基本的な方針(同)4)第四期東京都医療費適正化計画(東京都)5)介護保険証もマイナカード一体化検討 24年度にも運用(日経新聞)6)健保組合の9割が赤字見通し 全体の赤字幅、過去最大6578億円に(朝日新聞)

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両下肢の浮腫・発赤への抗菌薬【日常診療アップグレード】第3回

両下肢の浮腫・発赤への抗菌薬問題75歳女性。2年前から両側下肢の腫脹あり。1週間前から両側下腿の浮腫が悪化し、右側に強い発赤を認めている。体温は37.0℃で全身状態は良好である。蜂窩織炎を疑い抗菌薬の点滴投与を検討したが、両側下腿に発赤があることから静脈不全の合併を考え抗菌薬を投与は取りやめた。

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診断を下すには定義が必要となる【国試のトリセツ】第38回

§2 診断推論診断を下すには定義が必要となるQuestion〈108I56〉1歳の男児。発熱、頸部の腫脹および前胸部の皮疹を主訴に母親に連れられて来院した。4日前から38℃台の発熱が続き、今朝から頸部の腫脹と前胸部の紅斑とに気付いた。体温39.3℃。脈拍148/分、整。両側眼球結膜に充血を認める。顔面下部の写真を次に示す。右頸部に径3cmのリンパ節を1個触知する。心音と呼吸音とに異常を認めない。血液所見赤血球406万、Hb11.2g/dL、Ht35%、白血球19,600(桿状核好中球9%、分葉核好中球72%、好酸球2%、単球4%、リンパ球13%)、血小板39万。血液生化学所見総蛋白6.2g/dL、アルブミン3.1g/dL、AST40IU/L、ALT80IU/L。CRP7.9mg/dL。初期治療として適切なのはどれか。(a)血漿交換(b)抗菌薬の投与(c)免疫抑制薬の投与(d)生物学的製剤の投与(e)免疫グロブリン製剤の投与

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腸内での酪酸産生菌の増加は感染症リスクの低下と関連

 腸内で酪酸産生菌が10%増えるごとに、感染症による入院リスクが14〜25%低下することが、オランダとフィンランドの大規模コホートを対象にした研究で明らかになった。アムステルダム大学医療センター(オランダ)のRobert Kullberg氏らによるこの研究結果は、欧州臨床微生物学・感染症学会(ECCMID 2024、4月27〜30日、スペイン・バルセロナ)で発表予定。 酪酸は、ビフィズス菌や乳酸菌などの「善玉」の腸内細菌が食物繊維を分解・発酵させる際に産生される短鎖脂肪酸の一種である。米クリーブランド・クリニックの説明によると、酪酸は大腸の細胞が必要とするエネルギーの大部分(約70%)を供給しており、消化器系の健康に重要な役割を果たしているという。 重症の感染症による入院患者において腸内細菌叢に変化が生じることは珍しくなく、また、前臨床モデルでは、好気性の酪酸産生菌が全身感染症に対して保護効果を持つことが示されている。酪酸産生菌は入院患者では減少していることが多く、またこれらの菌は感染症以外の腸疾患に対しても保護効果を持つ可能性が考えられることから、これまで酪酸産生菌に焦点を当てた研究が実施されてきている。しかし、腸内細菌叢が大きく変化することで重症感染症に罹患しやすくなるのかについては、明確になっていない。 今回の研究では、総計1万699人から成るオランダとフィンランドの2つの大規模コホート(オランダコホート4,248人、フィンランドコホート6,451人)を対象に、ベースライン時の腸内細菌叢とその後の感染症関連の入院リスクとの関連が検討された。試験参加者の便サンプルを用いて腸内細菌のDNAシーケンス解析を行い、腸内細菌叢の組成や多様性、酪酸産生菌の相対存在量を評価した。さらに、国の登録データを用いて、便サンプルの採取から5〜7年間の追跡期間中に生じた感染症による入院または死亡について調査した。 追跡期間中に総計602人の参加者(オランダコホート152人、フィンランドコホート450人)が感染症(多くは市中肺炎)により入院または死亡していた。腸内細菌叢と感染症リスクとの関連を検討したところ、腸内細菌叢の中に占める酪酸産生菌の量が10%増えるごとに感染症による入院リスクは、オランダコホートでは25%、フィンランドコホートでは14%低下することが明らかになった。このような結果は、人口統計学的属性やライフスタイル、抗菌薬曝露や併存疾患で調整して解析しても変わらなかった。 こうした結果を受けてKullberg氏は、「ヨーロッパの2つの独立したコホートを用いたこの研究で、腸内細菌叢の組成、特に酪酸産生菌の定着は、一般集団の感染症による入院予防と関連していることが示された」と結論付けている。 研究グループは、「今後の研究では、腸内細菌叢を調整することで重症感染症のリスクを低減できるかどうかを検討する必要がある」と述べている。ただ残念なことに、酪酸産生菌は酸素を嫌う嫌気性細菌であるため、これらの貴重な細菌を腸内に取り込むことは困難であるという。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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ダニ咬傷【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第14回

ダニは主に野外に生息し、哺乳類(ヒトを含む)や鳥類、爬虫類から血を吸う節足動物です。農業や林業作業中だけでなく、山登りやハイキングといったレジャーでもダニにかまれることがあります。ダニは日本紅斑熱(JSF)やライム病(LD)などのリケッチア症やボレリア症などの感染症を伝播しますが、ダニ媒介感染症は特定の地域に比較的限定されていて、効果的な抗菌薬もあるため、日本ではダニによる咬害をそれほど恐れない傾向がありました。しかし、2013年に重症熱性血小板減少症候群(Severe fever with thrombocytopenia syndrome:SFTS)が報告され、にわかに注目を集めています。結果として、ダニによる咬害治療のための来院が急速に増加しているため1)、皆さんの診療所や救急外来にダニにかまれた患者さんが突然受診するかもしれません。今回は、ダニ咬傷の対処法を説明します。日本では咬傷を生じるダニは6種類いて、地域によって異なります。SFTSなどを生じるマダニは主に西日本にいます。これらの詳細を書くととても長くなるので、今回はマダニにかまれて来院した患者さんの対処法を記載します。<症例>75歳男性主訴西日本在住。山菜を採りに山へ入った。当日の入浴時に右前腕に黒い脚が生えている動くダニを発見した。引っ張ってみたりしたが外れないため、救急外来を受診した。(1)ダニを確認するまずは、かんだダニを確認して吸血の有無を判断しましょう。血液を吸っていればお腹が大きく膨らんでいます。本症例は、さほど膨らんでいませんでした。(2)かまれてからの時間を確認かまれてからの時間を確認しましょう。ダニ咬傷はほとんど症状がなく、気付くまで2~3日、長いと1週間ほどかかることがあります。ダニがかみついてから24時間経過すると食いつきが強くなり、攝子では除去が困難になります2)。かまれてから3日以上経過した場合はマダニ媒介感染症のリスクが高くなるため、外科的除去がより強く推奨されます3,4)。本症例は、山に山菜取りに行ったのが久しぶりで、当日にかまれたことが想定されます。よって、24時間以内と判断しました。(3)ダニの除去方法はいくつかありますが、今回は非侵襲的方法2つと侵襲的方法1つを紹介します。a.非侵襲的除去基本的にダニの体には触らないことが理想です、なぜなら、体を押すと病原体や毒が体内に入ったり、体をつまんで除去をしようとするとダニの口が残ってしまったりします。よって1つ目の方法は「無鈎攝子でダニの口器をつかんで除去する」です(図1)。図1 攝子を用いたダニの除去方法2つ目の方法として、もし手元にあれば、Tick twisterという動物用のダニ除去器具を用いるのも手です(図2)。ダニの口は縦方向の力に強いため、攝子で引っ張るにはある程度力がいります。Tick twisterを皮膚とダニの間に挟んで軽く持ち上げながら回転させることで非常に簡便に除去できます。口器を意識せずに使用できるのも利点です。ダニ咬傷を診る機会があれば、1個1,000円程度ですので持っておいてもよいかもしれません。YouTubeで「Tick Twister」と検索すると複数の動画がヒットしますので使用の際は参考にしてください。本症例は攝子で口器をつまんで除去しました。図2 Tick Twisterb.侵襲的処置口が深く入って把持できなかったり、ダニ咬傷となってから3日以上経っていたりする場合は外科的切除が必要になります4)。まずキシロカインで鎮痛し、図3のようにダニの周囲を円錐状に切除して皮膚ごと除去します3)。図3 侵襲的処置(4)除去後の処置まずは創部を洗浄しましょう。抗菌薬はダニにかまれた場合には推奨されていません。というのも、そもそものマダニ媒介感染症のリスクが低いため、抗菌薬の使用によるリスクがベネフィットを上回るためです。しかし例外として、シュルツェマダニにかまれた場合は予防投与の適応となります。シュルツェマダニは北海道、本州中部が生息域と推定されています(参考文献5の図4を参考にしてください)。ダニがシュルツェマダニであり、血液を吸い肥大化している場合、ライム病のリスクが高いため200mgのドキシサイクリン単回投与が推奨されます4)。この場合はダニの種類の同定が必要であり、ダニを保存して専門家へ相談することも必要になります4)。本症例は西日本の患者さんであったため抗菌薬の予防投与は行いませんでした。帰宅時に、マダニ咬傷から4週間以内に発熱、嘔吐、下痢、感覚障害などの神経症状が出現した場合はマダニ媒介感染症を生じた可能性があるので、医療機関を受診するように指導しました。以上がダニ咬傷の対処法です。ダニはなるべく早く除くことが重要ですので、上記手技を使って素早く除去しましょう。1)Inoue Y, et al. 衛生動物. 2020;71:31-38.2)鵬図商事:マダニに刺されてしまったら3)Roupakias S, et al. Wilderness Environ Med. 2012;23:97-99.4)Natsuaki M. J Dermatol. 2021;48:423-430.5) 国立国際研究所:ライム病とは

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肺炎診療GL改訂~NHCAPとHAPを再び分け、ウイルス性肺炎を追加/日本呼吸器学会

 2024年4月に『成人肺炎診療ガイドライン2024』1)が発刊された。2017年版では、肺炎のカテゴリー分類を「市中肺炎(CAP)」と「院内肺炎(HAP)/医療介護関連肺炎(NHCAP)」の2つに分類したが、今回の改訂では、再び「CAP」「NHCAP」「HAP」の3つに分類された。その背景としては、NHCAPとHAPは耐性菌のリスク因子が異なるため、NHCAPとHAPを1群にすると同じエンピリック治療が推奨され、NHCAPに不要な広域抗菌治療が行われやすくなることが挙げられた。また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行を経て、ウイルス性肺炎の項目が設定された。第64回日本呼吸器学会学術講演会において、本ガイドライン関するセッションが開催され、進藤 有一郎氏(名古屋大学医学部附属病院 呼吸器内科)がNHCAPとHAPの診断・治療のポイントや薬剤耐性(AMR)対策の取り組みについて解説した。また、ウイルス性肺炎に関して宮下 修行氏(関西医科大学 内科学第一講座 呼吸器感染症・アレルギー科)が解説した。NHCAPとHAPは耐性菌のリスク因子が異なる NHCAPとHAPは「敗血症性ショックの有無の判断」「重症度の判断(NHCAPはA-DROPスコア、HAPはI-ROADスコアで評価)」「耐性菌リスクの判断」を行い、治療薬を決定していくという点は共通している。しかし、耐性菌のリスク因子は異なる。進藤氏は、「この違いをしっかりと認識してほしい」と語った。なお、それぞれの耐性菌リスク因子は以下のとおり。NHCAP:経腸栄養、免疫抑制状態、過去90日以内の抗菌薬使用歴、過去90日以内の入院歴、過去1年以内の耐性菌検出歴、低アルブミン血症、挿管による人工呼吸管理を要する(≒診断時に重度の呼吸不全がある)HAP:活動性の低下や歩行不能、慢性腎臓病(透析を含む)、過去90日以内の抗菌薬使用歴、ICUでの発症、敗血症/敗血症性ショック HAPでは、「重症度が低く、耐性菌リスクが低い(リスク因子が1つ以下)場合」は狭域抗菌治療、「重症度が高い、または耐性菌リスクが高い(リスク因子が2つ以上)場合」には広域抗菌治療を行う。NHCAPでは、外来の場合はCAPに準じた外来治療を行う。また、入院の場合も非重症で耐性菌リスク因子が2つ以下であれば、CAPと類似した狭域抗菌治療を行い、重症で耐性菌リスク因子が1つ以上あるか非重症で耐性菌リスク因子が3つ以上であれば広域抗菌治療を行うという流れとなった(詳細は本ガイドラインp.54図3、p.64図3を参照されたい)。不要な広域抗菌薬の使用は依然として多い 進藤氏は、名古屋大学などの14施設で実施した肺炎患者を対象とした前向き観察研究(J-CAPTAIN study)の結果を紹介した。本研究では、CAP患者をNon-COVID-19肺炎とCOVID-19肺炎に分けて検討した。その結果、Non-COVID-19肺炎患者(1,802例)の10%にCAP抗菌薬耐性菌(β-ラクタム系薬、マクロライド系薬、フルオロキノロン系薬のすべてに低感受性と定義)が検出された。CAP抗菌薬耐性菌のリスク因子としては、過去1年以内の耐性菌検出歴、気管支拡張を来す慢性肺疾患、経腸栄養、ADL不良、呼吸不全(PaO2/FiO2≦200)が挙げられた。これらの項目は本ガイドラインのシステマティックレビューの結果と類似していたと進藤氏は語った。 また、本研究においてNon-COVID-19肺炎患者では、CAP抗菌薬耐性菌の検出がなかった患者の29.2%に広域抗菌薬が使用されていたことを紹介した。AMR対策としては、このような患者における広域抗菌薬の使用を減らしていくことが重要となると進藤氏は指摘する。CAP抗菌薬耐性菌のリスク因子が0個であった患者は、Non-COVID-19肺炎の61.2%を占め、そのうち21.8%で広域抗菌薬が使用されていた結果から、進藤氏は「AMR対策上、耐性菌リスクのない症例では広域抗菌薬の使用を控えることが重要である」と強調した。ウイルス性肺炎は想定以上に多い? 2018~20年に九州の14施設で実施された観察研究では、CAP患者の23.3%にウイルスが検出されており2)、肺炎へのウイルスの関与が注目されている。そこで、宮下氏は本ガイドラインに新たに追加されたウイルス性肺炎について、その位置付けを紹介した。 CAPは、(1)CAPとNHCAPの鑑別→(2)敗血症の有無・重症度の判断(治療場所の決定)→(3)微生物学的検査→(4)マイコプラズマ肺炎・レジオネラ肺炎の推定→(5)抗菌薬の選択といった流れで診療が行われる。この流れに合わせて、ウイルス性肺炎の特徴を考察した。 COVID-19肺炎患者の1年後の身体機能をみると、CAPと比較してNHCAPで予後が不良である3)。したがって、宮下氏は「CAPとNHCAPでは予後がまったく異なるため、治療方針を大きく変えるべきであると考える」と述べた。 本ガイドラインでは、重症度の評価をもとに治療場所を決定するが、CAPで用いられるA-DROPスコアによる評価がCOVID-19肺炎においても有用であった。ただし、COVID-19(デルタ株以前)ではA-DROPスコア1点(中等症、外来治療が可能)であっても、R(呼吸状態)の項目が1点の場合は疾患進行のリスクが高いという研究結果4,5)を紹介し、注意を促した。 前版で細菌性肺炎と非定型肺炎の鑑別に用いられていた鑑別表は、細菌性肺炎とマイコプラズマ肺炎の鑑別表(本ガイドラインp.32表4)に改められた。実際に、この鑑別表を非定型肺炎であるCOVID-19肺炎に当てはめると診断の感度は不十分であり、マイコプラズマ肺炎と細菌性肺炎の鑑別に用いるのが適切と考えられた。また、今回のガイドラインではレジオネラ診断予測スコアが掲載された(本ガイドラインp.33表5)。この診断スコアを用いた場合、COVID-19はいずれの株でもレジオネラ肺炎との鑑別が可能であった。 最後に、宮下氏はオミクロン株の流行後にCOVID-19肺炎において誤嚥性肺炎が増加し、誤嚥性肺炎を発症した患者の退院後の顕著な身体機能低下が認められていることに触れ、「早期診断・早期治療が重要であり、肺炎球菌ワクチンやインフルエンザワクチンに加えて新型コロナワクチンによる予防も重要であると考えている」とまとめた。

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肺炎診療GL改訂~市中肺炎の改訂点は?/日本呼吸器学会

 2024年4月に『成人肺炎診療ガイドライン2024』1)が発刊された。2017年版からの約7年ぶりの改訂となる。第64回日本呼吸器学会学術講演会において、本ガイドライン関するセッションが開催され、岩永 直樹氏(長崎大学病院 呼吸器内科)が市中肺炎(CAP)に関する改訂のポイントを解説した。非定型肺炎の鑑別を大切にすることに変わりはない CAPへの初期の広域抗菌薬投与や抗MRSA薬のエンピリックな使用は予後を改善せず、むしろ有害であるという報告がある。そのため、エンピリックな耐性菌カバーは予後を改善しない可能性がある。そこで、今回のガイドラインでは、非定型肺炎の鑑別を大切にするという方針を前版から継承し、CAPのエンピリック治療薬の考え方を示している。そこでは、外来患者や一般病棟入院患者では抗緑膿菌薬や抗MRSA薬は使用せず、これらの薬剤は重症例や免疫不全例に検討することとしている(詳細は本ガイドラインp.34図4を参照されたい)。 近年、CAPではウイルスが検出されることが多いことも報告されている2)。そのような背景から、今後は同時多項目遺伝子検査の活用が重要となってくることが考えられる。そこで、今回のガイドラインでは、多項目遺伝子検査に関するクリニカルクエスチョン(CQ)が設定された。多項目遺伝子検査は従来法と比較して原因微生物の同定率が高く(67.5% vs.42.7%)、「行うことを弱く推奨する(エビデンスの確実性:C[弱い])」とされた(CQ19)。なお、多項目遺伝子検査の対象について、岩永氏は「主にCAPがターゲットとなると考えている。とくに免疫不全例では典型的な病像を呈さないことも多いため、これらの症例に有用性があるのではないか」と意見を述べた。CAPのCQとポイント CAPに関するCQとポイントは以下のとおり。・CAPの重症度評価の方法(CQ1) A-DROPスコアはCURB-65スコアやPSIスコアと同等の予測能を示した。A-DROPスコアによる評価は本邦でよく用いられており、簡便であることから「A-DROPスコアによる重症度評価を弱く推奨する(エビデンスの確実性:C[弱い])」となった。・注射用抗菌薬から経口抗菌薬への変更(スイッチ療法)(CQ2) CAPに対するスイッチ療法は注射用抗菌薬の継続と比較して、同等の肺炎治癒率を示し、副作用発現頻度は有意差がないが減少傾向で、入院期間を有意に短縮した。また、医療費についてはシステマティックレビュー(SR)を実施していないが、3件の無作為化比較試験(RCT)においていずれも低下させる傾向にあった。以上から「スイッチ療法を行うことを強く推奨する(エビデンスの確実性:B[中程度])」となった。・短期抗菌薬治療(CQ3) CAPのアジスロマイシンによる治療とアジスロマイシンを含まない治療のいずれにおいても、短期治療(1週間以内)は標準治療(1週間超)と比較して、死亡率と肺炎治癒率に差がなかった。また、肺炎再燃率や副作用発現率も同等であった。医療費についても、SRは実施していないが、3件のRCTではいずれも低下させる傾向にあった。以上から「初期治療が有効な場合には短期治療を弱く推奨する(エビデンスの確実性:B[中程度])」となった。ただし多くのRCTが軽症〜中等症を対象としており、重症例、集中治療を要する症例、高齢者などは注意が必要である。・β-ラクタム系薬へのマクロライド系薬の併用(CQ4) 重症例では、β-ラクタム系薬にマクロライド系薬を併用することで死亡率と肺炎治癒率の改善が認められた。1件の観察研究でコストは増加する傾向にあったが、耐性菌発生率は変化しなかった。非重症例では、併用療法により死亡率や肺炎治癒率、入院期間、耐性菌発生率のいずれも変化しなかった。また、1件の観察研究でコストは増加する傾向にあった。以上から、「重症例では併用することを弱く推奨する、非重症例では併用しないことを弱く推奨する(エビデンスの確実性:C[弱い])」となった。・抗菌薬へのステロイドの併用(CQ5) 全身性ステロイド薬投与は重症例では死亡率を低下させ、非重症例では死亡率を低下させなかった。CAP全体では、併用により肺炎治癒率は変化せず、入院期間が短縮した。以上から、「重症例では併用することを弱く推奨する、非重症例では併用しないことを弱く推奨する(エビデンスの確実性:C[弱い])」となった。

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