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診療科別2024年上半期注目論文5選(呼吸器内科編)

Clarithromycin for early anti-inflammatory responses in community-acquired pneumonia in Greece (ACCESS): a randomised, double-blind, placebo-controlled trialGiamarellos-Bourboulis EJ, et al. Lancet Respir Med. 2024 Apr;12:294-304.<ACCESS試験>:全身性炎症反応を認める市中肺炎においてβラクタム系抗菌薬へのマクロライドの追加は早期臨床反応を改善市中肺炎の治療においてβラクタム系抗菌薬へのマクロライド追加の上乗せ効果については、観察研究で証明されてきました。今回、全身性炎症反応症候群、SOFAスコア2点以上、プロカルシトニン0.25ng/mL以上を有する市中肺炎の入院成人患者を対象として、無作為化比較試験としては初めて、マクロライドの有益性が示されました。Perioperative Nivolumab in Resectable Lung CancerCascone T, et al. N Engl J Med. 2024 May 16;390:1756-1769.<CheckMate 77T試験>:非小細胞肺がんへの術前ニボルマブ併用化学療法+術後ニボルマブ単剤で無イベント生存期間を改善切除可能な非小細胞肺がん患者を対象とした無作為化比較試験で、術前ニボルマブ併用化学療法+術後ニボルマブ単剤投与が、無イベント生存期間を有意に改善することが明らかとなりました。新たな安全性シグナルは認められませんでした。Dupilumab for COPD with Blood Eosinophil Evidence of Type 2 InflammationBhatt SP, et al. N Engl J Med. 2024 May 20.<NOTUS研究>:タイプ2炎症を有するCOPDにおいてデュピルマブで増悪が減少タイプ2炎症を有するCOPD患者に対するヒト型抗ヒトIL-4/13受容体モノクローナル抗体デュピルマブの有効性を評価した二重盲検無作為化比較試験です。末梢血好酸球数300/uL以上のCOPD患者において、デュピルマブはプラセボに比べて中等度または重度の増悪の減少と有意に関連していました。Bisoprolol in Patients With Chronic Obstructive Pulmonary Disease at High Risk of Exacerbation: The BICS Randomized Clinical TrialDevereux G, et al. JAMA. 2024 May 19.<BICS研究>:ハイリスクCOPD患者へのビソプロロールで増悪は減少せずCOPD患者において、β1受容体選択性遮断薬ビソプロロールがCOPD増悪を減少させるかどうかを検証した無作為化比較試験です。増悪リスクの高いCOPD患者において、ビソプロロールによる治療はCOPD増悪を減少させませんでした。しかし、呼吸器系を含む有害事象の増加をビソプロロールで認めることはなく、ビソプロロールの安全性が示されました。Morphine for treatment of cough in idiopathic pulmonary fibrosis (PACIFY COUGH): a prospective, multicentre, randomised, double-blind, placebo-controlled, two-way crossover trialWu Z, et al. Lancet Respir Med. 2024 Apr;12:273-280. <PACIFY COUPH試験>:特発性肺線維症患者においてモルヒネで咳嗽が減少特発性肺線維症(Idiopathic pulmonary fibrosis:IPF)患者の咳嗽に対する低用量徐放性モルヒネの効果を検証した無作為化比較試験です。モルヒネはプラセボと比較して、客観的覚醒時咳嗽頻度を39%減少させました。この研究は、IPF患者の咳嗽に対するモルヒネの有用性を報告した初めての研究です。

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セフトリアキソンとランソプラゾールの併用リスク、日本人では?

 セフトリアキソン(CTRX)とランソプラゾールの併用は、心室性不整脈、心停止、院内死亡を増加させることが示唆されるという研究結果が、2023年にカナダの研究グループから報告され、話題となった1)。そこで、三星 知氏(下越病院)らの研究グループは、医療データベースを用いた後ろ向きコホート研究により、日本人におけるこれらのリスクを検討した。その結果、日本人においてもCTRXとランソプラゾールの併用は、心室性不整脈や心停止のリスクを上昇させることが示唆された。本研究結果は、Journal of Infection誌オンライン版2024年6月17日号で報告された。 本研究は、JMDCが構築した日本の医療機関データベースを用いて、2014年4月〜2022年8月の期間に登録されたデータを解析した。対象は、CTRXまたはスルバクタム・アンピシリン(SBT/ABPC)とプロトンポンプ阻害薬(PPI)を併用する20歳超100歳未満の患者10万5,301例とした。主要評価項目は、心室性不整脈・心停止の発生率であった。 主な結果は以下のとおり。・CTRXを投与された患者5万5,437例およびSBT/ABPCを投与された4万9,864例を抽出した。対象患者の年齢中央値は81歳(四分位範囲:72~88)であった。・心室性不整脈・心停止は、CTRXを投与された患者187例(0.34%)、SBT/ABPCを投与された患者82例(0.16%)に認められた。・PPIを経口投与された患者集団において、CTRX+ランソプラゾール群はSBT/ABPC+ランソプラゾール群と比較して、心室性不整脈・心停止のリスクが有意に高かった(ハザード比[HR]:2.92、95%信頼区間[CI]:1.99~4.29、p<0.01)。・一方、CTRX+その他のPPI(ラベプラゾール、エソメプラゾール、オメプラゾールのいずれか)群はSBT/ABPC+ランソプラゾール群と比較して、心室性不整脈・心停止のリスクが有意に低かった(HR:0.48、95%CI:0.27~0.88、p=0.02)。・PPIを静脈内投与された患者集団では、CTRX+ランソプラゾール群(HR:4.57、95%CI:1.24~16.8、p=0.02)およびCTRX+オメプラゾール群(HR:4.47、95%CI:1.44~13.9、p=0.01)が、SBT/ABPC+ランソプラゾール群と比較して心室性不整脈・心停止のリスクが高かった。 著者らは、本研究結果は観察研究から得られた知見であり、さらなる研究が必要としつつ「CTRXとランソプラゾールの併用が、経口および静脈内投与のいずれにおいても心室性不整脈や心停止のリスクを上昇させることが示唆された。PPIと抗菌薬の選択が転帰を悪化させる可能性がある」とまとめた。

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亜鉛の測定が推奨される症状・タイミングは?

 近年、健康維持に重要な栄養素として注目を浴びる亜鉛。小児の発育や味覚異常に影響することはよく知られているが、ここ数十年で国内外の研究報告からさまざまな生理作用に関与していることが明らかになっている。先般、国内レセプトデータを解析して日本人の亜鉛不足者の特徴を発表1)した横川 博英氏(順天堂大学医学部総合診療科学講座 先任准教授)が「一般集団・患者群の血清亜鉛濃度の実際と低亜鉛血症患者の頻度やその臨床像」と題し、日本人の亜鉛欠乏の現状や検査の必要性について、6月4日に開催されたノーベルファーマのプレスセミナーにおいて解説した。亜鉛不足はなぜ起こる?年齢や性差は? 横川氏らが報告した研究1)からは、▽疾病の治療を受けている日本人の3人に1人は亜鉛欠乏症(60μg/dL)、▽加齢に伴い血清亜鉛濃度は低下、▽誤嚥性肺炎、褥瘡、サルコペニア、慢性腎臓病(CKD)を併存する患者の50%以上が亜鉛欠乏症で、その関連は誤嚥性肺炎、褥瘡、サルコペニア、COVID-19、CKDの順に高い、▽利尿薬、甲状腺ホルモン治療薬、貧血治療薬、全身性抗菌薬による治療患者の50%以上が亜鉛欠乏症で、その関連は利尿薬、全身性抗菌薬、貧血治療薬、甲状腺ホルモン治療薬の順に高い、などが示唆され、この結果に対し「これらの治療薬を使わなければならない患者の状態では亜鉛欠乏を引き起こすことが多い、と解釈するのが妥当」と同氏は補足した。 また、性別や年齢でこの結果を振り返ると、男性の場合は60歳以上から、女性では70歳以上から血清亜鉛濃度の低下が顕著になっている。加えて、厚生労働省の国民健康・栄養調査報告2)おける亜鉛摂取データによると、男性は全年齢において亜鉛摂取量が不足しているのに対し、女性では50代までは摂取量が不足しているも60~70代の摂取量は推奨量と同等であった。 これを踏まえると、栄養素や健康に対する意識の差が血清亜鉛濃度にも表れている可能性がある。実際に日本人の亜鉛不足には摂取食品の変化が影響しており、「日本人が低亜鉛に陥っている原因の1つは、元来の主食である米の消費量が減り、米や雑穀から得られる亜鉛などの摂取量が低下していること。米飯(精白米)の100gあたりの亜鉛含有量は多くはない(0.6mg)ものの、主食の役割を考えるとその影響は大きい。このほかにも亜鉛を多く含む上記3品には牡蠣(13.2mg)、豚レバー(6.9mg)、牛肩ロース(5.6mg)がある3)ので、これらの摂取を意識した食生活が重要」と食事に対する意識を促した。亜鉛不足による症状 そもそも亜鉛とは、生体内の300種以上の酵素、サイトカイン、ホルモンなどに関与している栄養素で、主に筋肉(60%)、骨(20~30%)、皮膚・毛髪(8%)、肝臓(4~6%)、消化管・膵臓(2.8%)、脾臓(1.6%)などに分布している。そのため、小児の身長の伸びや味覚の維持をはじめ、皮膚代謝、生殖機能、骨格の発達、精神・行動、免疫機能にまでその影響は及ぶ。そして、亜鉛不足に関連する症状を以下のように列挙すると、身長の伸びを除き、実は高齢者にみられる症状の多くと合致することから、横川氏は「“加齢によるもの”に留めてしまうのではなく、このような症状がある場合には、一度、亜鉛測定することを推奨する」と注意喚起した。<亜鉛不足に関連する症状>味がわからない、食欲がない、皮膚炎、生殖機能の低下、脱毛、傷が治りにくい、元気がない、貧血、骨粗鬆症、口内炎、風邪をひきやすい、下痢、身長の伸びが悪い亜鉛を測定するタイミング この10年で医療機関での亜鉛の検査数4)は加速度的に増加し、メディカル・データ・ビジョンの急性期病院の医療情報データベースを用いて亜鉛を検査した診療科比率を算出したところ、外来では内科(19%)、小児科(10%)、外科(8%)で、入院では内科(27%)、腎臓内科(7%)、外科(6%)で主に検査が行われており、「褥瘡管理や経管栄養などを行っている患者への栄養アセスメントの観点から検査件数が増加傾向にある」と見解を示した。では、前述のような亜鉛欠乏を想起するような症状がない場合、亜鉛を測定するタイミングはあるのだろうか? 横川氏によれば、「特徴的な症状がなく、一見、不定愁訴のような訴えの場合でも、まず亜鉛欠乏も疑ってみることが、診断のきっかけになることもあり得る」と説明した。 最後に同氏は、「血清亜鉛濃度の低下は、腎疾患や肝疾患はもちろんのこと、加齢による亜鉛の消化管吸収低下が原因で生じることもある。そのため、消化器領域の診療においても上述のような症状がみられる患者に遭遇した際には、低亜鉛を意識した検査を行ってほしい。そして、亜鉛欠乏にも配慮した併存疾患の治療を行ってほしい」と締めくくった。

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抗菌薬持続間欠の比較(解説:栗原宏氏)

特長・6つの最新試験を含む大規模なメタアナリシスを使用しているため、最新かつ信頼性の高い結果である・ベイズ解析と頻度主義分析を併用し、治療効果の包括的評価と信頼性を高めている・持続投与は間欠投与に対し、90日間の死亡リスクを14%減少させる効果が確認されている。NNTは26であり、持続投与の高い有効性が示唆される。また、ICU死亡率の低下と臨床的治癒率の向上にも寄与している研究上の制約・敗血症および敗血症性ショックの定義が一定していないため、結果の比較にばらつきがある・試験ごとに治癒の定義が異なり、治癒判断が主観的である可能性がある βラクタム系抗菌薬は、最小発育阻止濃度以上の時間(time above MIC)が長いほど効果がある時間依存性であり、頻回投与、長時間投与が望ましいとされている。そのため、究極的に持続投与ならばMIC以上の最適な状態が維持され、より高い治療効果が得られるのではないかと推論される。 この推論に基づき、これまで多数の間欠投与と持続投与の比較試験が行われてきた。最近発表されたものとしては、重症患者におけるメロペネムの持続投与と間欠投与を比較した多国間ランダム化臨床試験であるMERCY試験、BLING III試験が知られている。持続投与は理論上間欠投与より有効であるが、実際に患者の転帰を改善するかどうかについては、有効であったとする研究と差がなかったとする研究があり、結果が分かれている。 本調査では持続投与と間欠投与の比較に関して、敗血症、敗血症性ショックを患う成人患者を対象に、90日間での全死亡率をメインアウトカム、ICU死亡率、臨床的治癒率、微生物学的治癒率、有害事象、ICU滞在期間を2次アウトカムとして検討を行っている。 参考までに使用された抗菌薬は、メロペネム8件、セフェピム3件、チカルシリン-クラブラン酸2件、アンピシリン-スルバクタム、セフトリアアキソン、イミペネム-シラスタチン各1件であった。 サブグループ分析は7項目で行われているが、いずれも差がなかった。1)メロペネム対ピペラシリン・タゾバクタム(相対リスク比 [RRR], 1.00; 95%信用区間 [CrI], 0.75-1.29)2)培養陽性対培養陰性感染(RRR, 1.13; 95%CrI, 0.91-1.72)3)グラム陰性対グラム陽性感染(RRR, 1.13; 95%CrI, 0.85-1.79)4)腎置換療法対非腎置換療法(RRR, 1.08; 95%CrI, 0.82-1.53)5)肺感染対その他の感染(RRR, 0.90; 95%CrI, 0.64-1.15)6)敗血症対敗血症性ショック(RRR, 0.97; 95%CrI, 0.75-1.23)7)男性対女性(RRR, 0.91; 95%CrI, 0.71-1.12) 敗血症、敗血症性ショックという重篤な状態の患者を対象とし、90日間の全死亡をメインアウトカムとしている本調査は臨床的に現実的な調査である。敗血症治療に抗菌薬は不可欠であるが、信頼性の高い調査で投与方法の選択次第で死亡リスクを減少できることが示された意義は大きい。二次アウトカムとしてICU死亡率の減少と臨床的治癒率向上に関連していることが示されたことも臨床的に有益な情報である。 NNT(1人の死亡を防ぐために必要な治療人数)が26と治療効果は高く、サブグループ分析の結果を踏まえても、敗血症治療にβラクタム系抗菌薬を使用する際は持続投与を選択するのがよいと思われる。

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ASCO2024 レポート 泌尿器科腫瘍

レポーター紹介米国臨床腫瘍学会(ASCO)は、1964年の創立以来「がんが予防または治癒されすべてのサバイバーが健康である世界」というビジョンを掲げ活動してきた、がん治療研究のための学会であり、世界各国に5万人近くの会員を有する。年1回の総会は、世界のがん研究者が注目する研究成果が発表される機会であり、2024年は5月31日から6月4日まで米国イリノイ州のシカゴで行われた。COVID-19のまん延があった2020~22年にかけてon-line参加のシステムが整い、現地参加と何ら変わりなく学会参加が可能となったため、今年はon-lineでの参加を選択した。泌尿器科腫瘍の演題は、Oral Abstract Session 18(前立腺9、腎5、膀胱4)、Rapid Oral Abstract Session 18(前立腺8、腎4、膀胱4、陰茎1、副腎1)、Poster Session 112で構成されていた。ASCOはPractice Changingな重要演題をPlenary Sessionとして5演題選出するが、今年は泌尿器カテゴリーからは選出されなかった。Practice Changingな演題ではなかったが、新しい見地を与えてくれる演題が多数あり、ディスカッションは盛り上がっていた。今回はその中から4演題を取り上げ報告する。Oral Abstract Session 腎/膀胱4508 淡明細胞腎がん1次治療のアベルマブ+アキシチニブ、PFSを延長(JAVELIN Renal 101試験)Avelumab + axitinib vs sunitinib in patients (pts) with advanced renal cell carcinoma (aRCC): Final overall survival (OS) analysis from the JAVELIN Renal 101 phase 3 trial.Robert J. Motzer, Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, NYJ Clin Oncol 42, 2024 (suppl 16; abstr 4508)JAVELIN Renal 101試験は、転移性淡明細胞腎がんにおける1次治療としてアベルマブ+アキシチニブ(AVE+AXI)をスニチニブ(SUN)と比較するランダム化第III相試験であり、無増悪生存期間(PFS)の延長が示され、すでに報告されている。この転移性腎細胞がんにおける1次治療の免疫チェックポイント阻害薬(ICI)とチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)の組み合わせは、そのほかにもペムブロリズマブ+レンバチニブ、ニボルマブ+カボザンチニブ、ペムブロリズマブ+アキシチニブがあり、いずれも全生存期間(OS)の延長が報告されているだけに、このAVE+AXIのOS結果も注目されていた。この報告は、フォローアップ期間最小値68ヵ月における最終解析である。プライマリ・エンドポイントは2つ設定され、PD-L1陽性の転移性腎細胞がんにおける中央判定によるPFSとOSである。全体集団における解析はセカンダリ・エンドポイントに設定されていた。PD-L1陽性集団のOS中央値は、SUN 36.2ヵ月、AVE+AXI 43.2ヵ月、ハザード比 (HR):0.86(95%信頼区間[CI]:0.701~1.057、p=0.0755)であり、ネガティブな結果であった。全体集団でのOS中央値は、SUN 38.9ヵ月、AVE+AXI 44.8ヵ月、HR:0.88(95%CI:0.749~1.039、p=0.0669)であり、こちらも有意差なしの結果となった。全体集団のOSのサブグループ解析では、とくに効果不良を示唆する群はないが、IMDCリスク分類のPoorリスクにおいてはSUNとの差は開く傾向(HR:0.63、95%CI:0.43~0.92)があった。有害事象(AE)に関し、Grade3以上の重篤なAEはSUN群61.5%とAVE+AXI群66.8%であったが、AVE+AXIにおける免疫関連有害事象(irAE)は全体で50.7%、重篤なものは14.7%であった。この結果により、ICI+TKI療法のすべての治療成績がそろったことになる。ICI単剤においては、抗Programmed death(PD)-1抗体か抗PD-ligand(L)1かの違いによる影響があるかどうか確かな証拠はないが、抗PD-1抗体のみがOS延長を証明できたことになる。またTKI単剤の比較において、VEGFR(Vascular Endothelial Growth Factor Receptor)を強く阻害しつつ耐性化にも対応できる新世代のTKIであるカボザンチニブとレンバチニブのレジメンがより良い治療成績を示した。試験間における患者背景の差はあるものの、薬効の違いもICI+TKI療法の効果に影響しているのではないかと感じる。とはいえ、目の前の患者にICI+ICI療法かICI+TKI療法か、いずれを選択するのがベストかの問いに答えられる臨床試験は行われておらず、PFSやOSだけでなく奏効割合や病勢増悪割合、合併症、治療環境なども加味し、患者との話し合いの下で決定していく現状は今後も変わらないだろう。Oral Abstract Session 前立腺/陰茎/精巣LBA5000 去勢抵抗性前立腺がんのカバジタキセル+アビラテロン併用療法はPFSを延長(CHAARTED2試験)Cabazitaxel with abiraterone versus abiraterone alone randomized trial for extensive disease following docetaxel: The CHAARTED2 trial of the ECOG-ACRIN Cancer Research Group (EA8153). Christos Kyriakopoulos, University of Wisconsin Carbone Cancer Center, Madison, WIJ Clin Oncol 42, 2024 (suppl 17; abstr LBA5000)CHAARTED試験は、転移性去勢感受性前立腺がん(mCSPC)におけるアンドロゲン除去療法(ADT)に加えUpfrontにドセタキセル(DTX)を6サイクル行うことでOS延長が証明された重要な試験であった。これにより、DTXがアンドロゲン耐性クローンも含め初期に量を減らすことに寄与する、という仮説が立証されたと考えられている。CHAARTED2試験は、初回にDTXが行われた患者に対し、アンドロゲン受容体(AR)阻害薬に加えカバジタキセル(CBZ)をさらに加えることで、AR阻害薬の効果が延長するかを検討するランダム化比較第II相試験であった。3サイクル以上のDTX治療歴があるmCRPC患者を、アビラテロン(ABI)1,000mg+プレドニゾロン(PSL)10mg群とABI+PSLに加えCBZ 25mg/m2 3週ごとを6サイクルまで行う群に1:1でランダム化した。プライマリ・エンドポイントはPFS延長(HR:0.67、α=0.10、β=0.10)と設定された。患者背景は、Gleason score 8~10が83%、High-volumeが76%含まれる集団であり、両群にバランスよく割り付けられていた。PFS中央値は、ABI+PSL群で9.9ヵ月、ABI+PSL+CBZ群で14.9ヵ月、HR:0.73(80%CI:0.59~0.90、p=0.049)と有意差を認めた。セカンダリ・エンドポイントのOSは、HR0.93であり、今回の検討ではアンダーパワーではあるが有意差を認めなかった。AEでは、重篤なものは26.7%と42.2%であり、ABI+PSL+CBZ群で多く報告された。Kyriakopoulos氏は、CBZ追加によるOS延長は認められなかったものの、PFSやPSA(Prostate Specific Antigen)増悪までの期間の延長は認められたことから仮説は証明できたことを報告した。とはいえ、現在のmCSPCの初期治療は3剤併用療法(AR阻害薬+DTX+ADT)であることから、日常診療に与える影響は限られると結んだ。Rapid Oral Abstract Session 前立腺/陰茎/精巣5009 陰茎がん1次治療のペムブロリズマブ併用化学療法(HERCULES試験)A phase II trial of pembrolizumab plus platinum-based chemotherapy as first-line systemic therapy in advanced penile cancer: HERCULES (LACOG 0218) trial.Fernando Cotait Maluf, Hospital Beneficencia Portuguesa de Sao Paulo and Hospital Israelita Albert Einstein; LACOG (Latin American Cooperative Oncology Group), Sao Paulo, BrazilJ Clin Oncol 42, 2024 (suppl 16; abstr 5009)希少がんである進行陰茎がんにおける1次治療の免疫療法追加のエビデンスが報告された。陰茎がんの発生は、アフリカやアジア、中南米などの低所得国に多いことが知られているが、ブラジルで行われた単群第II相試験の結果である。陰茎がんの標準治療として無治療と比較したランダム化試験はないが、プラチナ併用レジメンを基本としている。NCCN(National Comprehensive Cancer Network)ガイドラインによると、preferred regimenとして3剤併用のTIP療法(パクリタキセル+イホスファミド+シスプラチン)、other recommended regimenとしてFP療法(5FU+シスプラチン)が提示されている。TIP療法はFP療法と比べると、奏効割合が40%程度と高いが、AEの割合も高く忍容性は問題となることが多い。Maluf氏らは、初発の転移性陰茎がん患者に対し、シスプラチン70mg/m2あるいはカルボプラチンAUC 5 day1と5FU 1,000mg/m2 day1~4に加えペムブロリズマブ200mgを3週間ごとに6サイクル実施後、ペムブロリズマブのみを維持療法として34サイクル実施するレジメンの治療成績を報告した。プライマリ・エンドポイントは奏効割合であり、統計設定は奏効割合期待値40%、閾値20%、両側α=0.1、β=0.215として33症例が必要であると計画された。患者37例が登録され、年齢中央値56歳、白人40.5%が含まれていた。奏効割合は39.4%(95%CI:22.9~57.9%)でありポジティブな結果であった。PFS中央値は5.4ヵ月(95%CI:2.7~7.2)、OS中央値は9.6ヵ月(95%CI:6.4~13.2)であった。サブグループ解析では、TMB(Tumor Mutational Burden)高値(≧10)と低値(<10)の奏効割合は75%と36.4%、HPV-16陽性と陰性では55.6%と35%であり、PD-L1陽性、陰性による一定の傾向はなかった。AEは全Gradeで91.9%、Grade3以上で51.4%であり、治療関連死はなかった。このHERCULES試験により、ペムブロリズマブ+FP療法は転移性陰茎がんの新たな治療オプションとなった、と報告された。日本においてこのレジメンは保険承認が得られず適用は困難だが、陰茎がんが希少がんであることを考慮すると、診断時より遺伝子パネル検査を行うことでICI使用の機会を逃さないよう注意を払う必要がある。Rapid Oral Abstract Session 腎/膀胱4510 尿膜管がん1次治療のmFOLFINOX療法(ULTMA試験)A multicenter phase II study of modified FOLFIRINOX for first-line treatment for advanced urachal cancer (ULTMA; KCSG GU20-03).Jae-Lyun Lee, Asan Medical Center, University of Ulsan College of Medicine, Seoul, South KoreaJ Clin Oncol 42, 2024 (suppl 16; abstr 4510)希少がんの重要なエビデンスとして、膀胱尿膜管がんの単群第II相試験の結果も注目すべき演題の1つである。尿膜管がんは膀胱がんのうち1%未満の発生割合で、標準治療が確立していないがんであるが、病理組織の特徴は消化器がんに類似することから、5FU系、プラチナ系薬剤での治療が適用されることが多く、その有効性が報告されている。Lee氏らは、modified FOLFIRINOXレジメン(オキサリプラチン85mg/m2 day1、イリノテカン150mg/m2 day1、ロイコボリン400mg/m2 day1、5FU 2,400mg day1をそれぞれ2時間、1.5時間、2時間、46時間かけて静注)に、支持療法としてペグフィルグラスチム6mg皮下注を3日目、予防的抗菌薬として少なくとも最初の2サイクルはレボフロキサシン750mgを4~7日目に内服し、2週間を1サイクルとして最大12サイクルまで継続する治療プロトコールを開発し、その治療成績を報告した。プライマリ・エンドポイントは奏効割合であり、期待値35%、閾値17%、α=0.05、β=0.2に設定された。2021年4月~2023年11月の2年7ヵ月間に韓国の5施設で実施した試験であった。患者背景は、年齢中央値50歳(28~68)、PSは0/1がそれぞれ3/18例であった。奏効割合は61.9%(95%CI:41.1~82.7)であり、病勢増悪例は0例であった。PFS中央値は9.3ヵ月(95%CI:6.7~11.9)、OS中央値は19.7ヵ月(95%CI:14.3~25.1)であった。安全性では、Grade 3以上の重篤なものは、貧血2例、好中球減少1例、血小板減少1例、嘔気1例、下痢1例であったが、Grade2の発生は、血小板減少3例、嘔気8例、嘔吐2例、下痢1例、口内炎3例、倦怠感6例、末梢神経障害5例であった。発熱性好中球減少症や治療関連死は認めなかった。演者らは、mFOLFIRINOX療法は膀胱尿膜管がんの新たな治療選択肢として考慮されるべきであると締めくくった。尿膜管がんでも大腸がんと同様に、triplet therapyがdoublet therapyより数値上高い奏効割合を示すことができた試験であったのは、生物学的特性が類似していることを反映すると思われる。また、毒性の強いレジメンに安全性を高める工夫が最大限盛り込まれたプロトコールになっていることで、今回の良い結果を生んだと思われた。この試験の患者背景で特徴的なのは、患者の年齢が若いことと、PS不良例は含まれていないことも重要なポイントである。

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悪寒戦慄の重要性【とことん極める!腎盂腎炎】第3回

悪寒戦慄ってどれくらい重要ですか?Teaching point(1)悪寒戦慄は菌血症を予測する症状である(2)重度の悪寒戦慄をみたら早期に血液培養を採取すべし《今回の症例》基礎疾患に糖尿病と高血圧、脂質異常症がある67歳女性が半日前に発症した発熱と寒気で救急外来を受診した。トリアージナースより、体温以外のバイタルは落ち着いているが、ガタガタ震えていて具合が悪そうなので準緊急というより緊急で診察をしたほうがよいのでは、という連絡を受け診察開始となった。症状としては頭痛、咽頭痛、咳嗽、喀痰、腹痛、下痢、腰痛などの症状はなく、悪寒戦慄と全身の痛み、倦怠感を訴えていた。general appearance:ややぐったり、時折shiveringがみられる意識清明、体温:39.4℃、呼吸数:18回/分、血圧:152/84mmHg、SpO2 99%、心拍数:102回/分頭頸部、胸腹部、四肢の診察で目立った所見はない。簡易血糖測定:242mg/dLqSOFAは陰性ではあるが、第1印象はぐったりしていて、明確な悪寒と戦慄がある。診察上は明確な熱源が指摘できない。次にどうするべき?1.悪寒戦慄は菌血症の予測因子である菌血症は、感染症の予後不良因子であり、先進国の主要な死因の上位7番目に位置する疾患である1)。具体的には、市中感染型菌血症の1ヵ月率は10~19%、院内血流感染症の死亡率は17~28%である2)。したがって菌血症の早期予測は、迅速な治療開始を助け、臨床転帰の改善につながるため重要である。そして悪寒や戦慄、いわゆる“chill”は発熱以外で菌血症の鑑別かつ有効な予測因子として報告がある唯一の症状である。では悪寒はどれくらい菌血症を予測できるのだろうか?まとめて調べた文献によると3)、発熱がある患者:陽性尤度比(LR+)=2.2、陰性尤度比(LR−)=0.56発熱がない患者:LR+=1.6、LR−=0.84といわれている。そして徳田らの報告4)では、shaking chill(厚い毛布にくるまっていても全身が震え、寒気がする悪寒):LR+=4.7moderate(非常に寒く、厚手の毛布が必要な程度の悪寒):LR+=1.7mild(上着が必要な程度の悪寒):LR+=0.61のように悪寒の重症度がより菌血症に関連することを報告されている。したがって、悪寒や戦慄の病歴聴取は重要だが、shaking chillかどうかまで踏み込んでの病歴聴取が望ましいといえる。さらに、悪寒のあと2時間以内が血液培養が陽性になりやすいという報告5)もあるので、悪寒や戦慄をみかけたらすかさず血液培養を採取するのがおすすめだ。なお、腎盂腎炎においても悪寒は菌血症の予測因子といわれている6)が、何事にも例外はあり、インフルエンザで悪寒を経験した読者もいるであろう。悪性リンパ腫や薬剤熱でも悪寒は来すので過信は禁物となる。2.悪寒戦慄は腎盂腎炎診療でも大事な症状である腎臓は血流豊富な臓器であり、急性腎盂腎炎において42%で血液培養が陽性になるといわれている7)。そして側腹部痛か叩打痛があり、膿尿か細菌尿があれば腎盂腎炎は適切な鑑別診断といえるが8)、腎盂腎炎は下部尿路症状(排尿時痛、頻尿、恥骨部の痛み)、上部尿路症状(側腹部痛やCVA叩打痛陽性)を来す頻度は多いとはいえない。実地臨床では悪寒戦慄、ぐったり感(toxic appearance)、嘔気や倦怠感という症状が主訴になる腎盂腎炎は少なくなく、その場合は血液培養が腎盂腎炎の診断に役立つ8)。合併症のない腎盂腎炎における血液培養に関しては議論の分かれることではあるが9,10)、それは腎盂腎炎の検査前確率が高いという臨床状況においての話であり、前述のように尿路症状がなく悪寒戦慄やぐったり感(toxic appearance)がメインでの場合は敗血症疑いであれば1h bundleの達成、すなわち感染症のfocus同定とバイタルの立て直しと血液培養採取と抗菌薬投与を早急に行わなければならない11)。また、菌血症疑いの状況であっても血液培養の取得は必要になる。したがって悪寒戦慄のチェックは重要であるといえる。3.菌血症の疫学を抑える菌血症の頻度が多い疾患はどのようなものだろうか?血液培養で何が陽性になったか、患者の基礎疾患や症状にもよるが全体的な頻度としては尿路感染症22〜31%、消化管9〜11%、肝胆道7〜8%、気道感染(上下含む)9〜20%、不明18〜23%が主な頻度となる12-14)。このデータと各感染症の臨床像から考えるに、明確な随伴症状やfocusがなく悪寒戦慄があり、菌血症を疑う患者で想定すべきは尿路感染、胆道系感染、血管内カテーテル感染といえるだろう。逆に肺炎は発熱の原因としては頻度が高いが血液培養が陽性になりにくい感染症であり、下気道症状がなく症状が発熱と悪寒のみの状況であれば肺炎の可能性はかなり低いと考えられる。4.血液培養採取のポイントを抑える血液培養の予測ルールに関してはShapiroらのルールの有用性が報告されている。やや煩雑だが2点以上で血液培養の適応というルールである。特異度は29〜48%だが、感度は94〜98%と高く外的妥当性の評価もされているのが優れている点になる(表)15,16)。画像を拡大するその他、簡易的なものとしては白血球の分画で時折みられるband(桿状好中球)が10%以上(bandemia)であれば感度42%、特異度91%、オッズ比7.15で菌血症を予測するという報告もある2)。そのためbandemiaがあれば血液培養採取を考慮してもよいと思われる。1)Goto M, Al-Hasan MN. Clin Microbiol Infect. 2013;19:501-509.2)Harada T, et al. Int J Environ Res Public Health. 2022;19:22753)Coburn B, et al. JAMA. 2012;308:502-511.4)Tokuda Y, et al. Am J Med. 2005;118:1417.5)Taniguchi T, et al. Int J Infect Dis 2018;76:23-28.6)Nakamura N, et al. Intern Med. 2018;57:1399-1403.7)Kim Y, et al. Infect Chemother. 2017;49:22-30.8)Johnson JR, Russo TA. N Engl J Med. 2018;378:48-59.9)Long B, Koyfman A. J Emerg Med. 2016;51:529-539.10)Karakonstantis S, Kalemaki D. Infect Dis(Lond). 2018;50:584-5911)Evans L, et al. Crit Care Med. 2021;49:e1063-e1143.12)Larsen IK, et al. APMIS. 2011;119:275-279.13)Pedersen G, et al. Clin Microbiol Infect. 2003;9:793-802。14)Sogaard M, et al. Clin Infect Dis. 2011;52:61-69.15)Shapiro NI, et al. J Emerg Med. 2008;35:255-264.16)Jessen MK, et al. Eur J Emerg Med. 2016;23:44-49.

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重症敗血症へのβ-ラクタム系薬投与、持続と間欠の比較(BLING III)/JAMA

 重症敗血症患者に対するβ-ラクタム系抗菌薬による治療では、間欠投与と比較して持続投与は、90日の時点での死亡率に有意差を認めないことが、オーストラリア・Royal Brisbane and Women's HospitalのJoel M. Dulhunty氏らが実施した「BLING III試験」で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2024年6月12日号で報告された。7ヵ国104のICUで無作為化第III相試験 BLING III試験は、7ヵ国の104の集中治療室(ICU)で実施した非盲検無作為化第III相試験であり、2018年3月~2023年1月に参加者を登録し、2023年4月に90日間の追跡を完了した(オーストラリア・国立保健医療研究評議会などの助成を受けた)。 年齢18歳以上、ICUに入室し、無作為化前の24時間以内にタゾバクタム・ピペラシリンまたはメロペネムの投与を開始した敗血症患者7,031例(平均年齢59[SD 16]歳、女性35%)を登録し、処方された抗菌薬を持続静注する群に3,498例、間欠静注する群(対照群)に3,533例を無作為に割り付け、担当医が決定した期間またはICU退室のいずれか早い期日まで投与した。 主要アウトカムは、無作為化から90日以内の全死因死亡とした。90日死亡率、持続投与群24.9% vs.間欠投与群26.8%で有意差なし 最も頻度の高い主要感染部位は肺(4,181例、59.5%)で、次いで腹腔内(916例、13.0%)、血液(562例、8.0%)、泌尿器(380例、5.4%)の順であった。投与期間中央値は、持続投与群が5.8日(四分位範囲[IQR]:3.1~10.2)、間欠投与群は5.7日(3.1~10.3)だった。 90日以内に、持続投与群の3,474例中864例(24.9%)、間欠投与群の3,507例中939例(26.8%)が死亡し(絶対群間差:-1.9%[95%信頼区間[CI]:-4.9~1.1]、オッズ比[OR]:0.91[95%CI:0.81~1.01])、両群間に有意な差を認めなかった(p=0.08)。 事前に定義した5つのサブグループ(肺感染[あり、なし]、β-ラクタム系抗菌薬の種類[タゾバクタム・ピペラシリン、メロペネム]、年齢[65歳未満、65歳以上]、性別、APACHE IIスコア[25点未満、25点以上])のいずれにおいても、90日死亡率に関して持続投与群と間欠投与群に有意な差はなかった。臨床的治癒率は持続投与群で良好 副次アウトカムである14日の時点までに臨床的治癒を達成した患者は、間欠投与群が3,491例中1,744例(50.0%)であったのに対し、持続投与群は3,467例中1,930例(55.7%)と有意に良好であった(絶対群間差:5.7%[95%CI:2.4~9.1]、OR:1.26[95%CI:1.15~1.38]、p<0.001)。 また、他の3つの副次アウトカム(14日以内の新規感染/菌定着/多剤耐性菌またはClostridioides difficile感染、全死因によるICU内死亡、全死因による院内死亡)は、いずれも両群間に有意な差を認めなかった。 有害事象は、持続投与群で10件(0.3%)、間欠投与群で6件(0.2%)発生した。このうち重篤な有害事象は持続投与群の1件で認めた脳症で、誤嚥性肺炎と心停止をもたらし、敗血症性ショックで死亡した。このイベントは、担当医によってメロペネムに関連する可能性があると評価された。 著者は、「効果推定値のCIには、この患者集団におけるβ-ラクタム系抗菌薬の持続投与には重要な効果がない可能性と、臨床的に重要な有益性がある可能性の両方が含まれる」としている。

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軽い健康問題なら薬剤師による治療が低コストの選択肢に

 薬剤師が軽症の疾患を治療できるようにすることで、患者の治療費を抑えられるとともに、より多くの人が医療にアクセスできるようになり、何百万ドルもの医療費を削減できる可能性のあることが、米ワシントン州立大学薬物療法学准教授のJulie Akers氏らの研究で示された。研究結果は、「ClinicoEconomics and Outcomes Research」に5月3日掲載された。 この研究で検討の対象となった米ワシントン州では、1979年以降、医師から特定の医薬品を処方および投与する許可を得た薬剤師には、患者を治療する法的権利が認められている。薬剤師はその教育の一環として、日常的によく見られる疾患の臨床評価の研修を受けており、OTC医薬品(市販薬)で治療可能な疾患についての助言を行っている。薬剤師が関与できるレベルをさらに上げて、患者を治療する権利である「処方権」を与えれば、薬剤師は、OTC医薬品では不十分な場合に医療用医薬品を処方することも可能になる。 Akers氏らは今回の研究で、2016~2019年にワシントン州の46の薬局で計175人の薬剤師から治療を受けた496人の患者のデータを分析した。同氏らは、患者が薬局を受診した30日後に追跡調査を行い、治療効果を評価した。次に、同様の疾患で診療所や緊急医療クリニック(urgent care clinic)、救急救命室(ER)を受診し、医師による治療を受けた患者の保険データと比較した。患者が治療を求めた原因として最も多かったのは、避妊、喘息、尿路感染症、アレルギー、頭痛の順であった。 その結果、検討したほぼ全ての軽症疾患で、薬局での治療が有効であることが明らかになった。また、軽症疾患は、診療所や緊急医療クリニックの医師が治療するよりも薬局で治療した方が、治療費が平均で約278ドル(1ドル155円換算で約4万3,000円)低くなると推定された。具体的な例を挙げると、合併症のない尿路感染症に対して抗菌薬による治療を行った場合の平均的な費用は、診療所の医師による治療では約121ドル(同約1万8,800円)、ERでの治療では約963ドル(同約14万9,300円)であったが、薬局での治療であれば30ドル(同約4,700円)だった。本研究の3年間の調査期間において、通常の医療機関で治療された全ての軽症疾患が地域の薬剤師によって治療されていた場合、医療費は推定2300万ドル(同約36億5500万円)節約できたものと推算された。 こうした結果を踏まえた上でAkers氏らは、「薬剤師に軽症疾患を治療する権限を与えることは、農村部などの医師へのアクセスが限られている地域に恩恵をもたらす可能性がある」と結論付けている。 Akers氏は、「薬剤師は、特に地域の外来医療において、われわれの州および国が抱える医療アクセスの問題の一部に実行可能な解決策をもたらす」と言う。その上で、「薬剤師はこの仕事ができるように訓練を受け、それを行う資格を持っているが、残念なことに十分に活用されていない場合が多い。しかし薬剤師は、患者がいかに早く医療にアクセスできるかに大きな影響を与え得る。患者が早い段階で医療にアクセスできれば、疾患の複雑化や進行を最小限に抑えられる可能性がある」と付け加えている。 Akers氏はさらに、「われわれは、治療へのアクセスが得られずに苦労している患者が徐々に増えていくのを目の当たりにしている。過去数十年の間、緊急医療クリニックや救急外来などでの医療サービスが不必要な患者がそうしたサービスを利用するのを見てきた」と言う。もし、より多くの州、あるいは連邦政府がこのアプローチを受け入れれば、人々は、薬局でワクチンを接種するのと同じように、この種の医療サービスも薬局に期待できるようになるのではないかとの展望をAkers氏らは示している。 今後の研究では、薬局の医療費請求への移行の支援について検討する予定であるという。Akers氏らは、そのような支援があれば経済的に治療費の自己負担が難しい人々の医療へのアクセスが大幅に向上する可能性があるとの見方を示している。

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急性膵炎の管理にエビデンスに基づく推奨事項を提起、米ACG

 急性膵炎(AP)患者の管理について、エビデンスに基づく推奨が示された臨床ガイドラインが、米国消化器病学会(ACG)発行の「The American Journal of Gastroenterology」3月号に掲載された。 米ニューヨーク州立大学ブルックリン校のScott Tenner氏らは、膵臓の急性炎症と定義されるAPの管理について論じている。 著者らは、APは不均一な疾患であり、患者によって進行が異なることを指摘している。ほとんどの患者は数日間症状が続くが、約20%の患者は、膵壊死と臓器不全の一方または両方を含む合併症を経験する。AP患者には、胆道原性膵炎を評価するための経腹超音波検査が推奨され、特発性AP患者には、追加の診断的評価が推奨される。患者には、輸液蘇生を中等度の強度で実施することが推奨される。静脈路からの輸液蘇生には、生理食塩水よりも、乳酸リンゲル液が推奨される。胆管炎を伴わない急性胆道原性膵炎では、早期の内視鏡的逆行性胆管膵管造影よりも、薬剤治療が推奨される。重度のAP患者には、予防抗菌薬を使用しないことが推奨される。感染性膵壊死が疑われる患者には、穿刺吸引は推奨されない。軽度のAP患者には、従来の絶食の手法よりも、患者が許容できれば経口摂取の早期開始(24~48時間以内)が推奨される。軽度のAP患者には、流動食から固形食へと段階的に進める手法よりも、初回からの低脂肪固形食の経口摂取が推奨される。 著者らは、「さらなる研究が必要であるが、感染壊死が認められた患者には緊急手術が必要である、という考え方はもはや妥当ではない」と述べている。

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長期間、精液を静注していた男性【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第259回

長期間、精液を静注していた男性ある男性が激しい背中の疼痛で受診しました。3日前に重たいものを持ち上げてから、痛いとのこと。しかし、彼の腕はなぜか化膿性に腫脹していました。蜂窩織炎です。…あれ、痛いのは背中じゃないんですか?「いやいや、話せば長いのですが、実は私、精液を注射していまして…」という、まったくエキセントリックな論文を紹介しましょう。Dunne L, et al.“Semenly” Harmless Back Pain: An Unusual Presentation of a Subcutaneous Abscess. Ir Med J. 2019 Jan 15;112(1):857.病歴をよくよく聴いてみると、腰痛はずっと前からあったようです。3日前から悪化したわけではなく、慢性腰痛があったということです。そして、この症状に対して彼は約18ヵ月にもわたって、毎月1回、腕に精液を静注していたようです。繰り返します。腕に精液を静注していたのです…ッ!…ちょっと何言ってるかわからないですが、話を進めましょう。今回腕の蜂窩織炎が悪化したのは、静注だけでなく筋肉のほうにも精液を追加投与したからではないかとのこと。腰痛も気になっていたでしょうが、おそらくこちらの腕のほうが気掛かりだったに違いありません。いやしかし、そもそも、なぜ精液を自己注射しようとしたのか。地域にこういった民間療法があるわけではなく、何らかのポリシーで精液を注射することで腰痛が治ると信じていたようです。今回の症例報告の著者は、過去の文献で精液を静注して皮下膿瘍・蜂窩織炎を発症した症例がないか調べたようですが、残念ながら1例もありませんでした。そりゃそうや!その後、彼は精液ではなく抗菌薬を静注され、事なきを得ました。やれやれです。というわけで、エビデンスのない民間療法はダメだよ、という啓蒙になっています。

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重症敗血症へのβ-ラクタム系薬、持続投与vs.間欠投与~メタ解析/JAMA

 敗血症または敗血症性ショックでICUに入院中の重症成人患者において、β-ラクタム系抗菌薬の持続点滴投与は間欠点滴投与と比較し、90日死亡リスクの低下と関連していることが、オーストラリア・クイーンズランド大学のMohd H. Abdul-Aziz氏らによるシステマティック・レビューとメタ解析の結果で示された。β-ラクタム系抗菌薬の持続点滴投与が、敗血症または敗血症性ショックの重症成人患者において臨床的に重要な転帰を改善するかどうかはわかっていなかった。著者は、「今回の結果は、臨床医が敗血症および敗血症性ショックの管理における標準治療として持続点滴投与を考慮すべきことを示している」とまとめている。JAMA誌オンライン版2024年6月12日号掲載の報告。システマティックレビューとメタ解析で、90日全死亡率を比較 研究グループは、敗血症または敗血症性ショックの重症成人患者を対象にβ-ラクタム系抗菌薬の持続点滴投与と間欠点滴投与を比較した無作為化臨床試験について、データベース開始から2024年5月2日までに公表された論文を、言語を問わずMEDLINE(PubMed経由)、CINAHL、Embase、Cochrane Central Register of Controlled TrialsおよびClinicalTrials.govを用いて検索した。 2人の研究者が独立してデータ抽出を行い、バイアスリスクを評価。エビデンスの確実性は、GRADEアプローチを用いて評価した。主要統計的手法としてベイジアンフレームワークを、二次的手法として頻度論的フレームワークを用いた。解析にはランダム効果モデルを用い、リスク比または平均差としてプール推定値を求めた。 主要アウトカムは90日全死因死亡率、副次アウトカムはICU死亡率、臨床的治癒率などであった。持続点滴投与で90日全死因死亡リスクが低下、エビデンスの確実性は高い 敗血症または敗血症性ショックの重症成人9,108例を含む計18件の無作為化試験が解析に組み入れられた。全体の患者背景は、年齢中央値54歳(四分位範囲[IQR]:48~57)、男性5,961例(65%)であった。18試験のうち17試験(9,014例)より主要アウトカムのデータが提供された。 β-ラクタム系抗菌薬の間欠点滴投与と比較して持続点滴投与の90日全死因死亡率のリスク比は0.86(95%信用区間[CrI]:0.72~0.98、I2=21.5%、エビデンスの確実性:高)であり、持続点滴投与が90日全死因死亡率の低下と関連している事後確率は99.1%であった。 β-ラクタム系抗菌薬の持続点滴投与は、ICU死亡リスクの低下(リスク比:0.84、95%CrI:0.70~0.97、エビデンスの確実性:高)および臨床的治癒率の増加(リスク比:1.16、95%CrI:1.07~1.31、エビデンスの確実性:中)とも関連していた。

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病院受診すべき尿の色

あなたの尿はどんな色?今すぐ病院へ!状態特徴疑う病気要注意正常茶~オレンジ色トマトジュース様の赤色やや赤みカフェオレ色やや白色濁った黄色ほぼ無色透明薄黄色~黄色〇―◎◎〇〇ーー色にごり早めに受診を胆汁が出ている状態。泡も黄色ければ「ビリルビン尿」「血尿」*「膿尿」**または「血尿」*感染症により炎症が出ている状態「膿尿」**尿酸が尿中に出ている状態「希釈尿」健康な状態胆汁は便への排泄:〇尿への排泄:×出血部位や出血量で濃淡が変化糖尿病性腎症などで腎臓の細胞が傷付いている可能性抗菌薬治療が必要リン酸塩炭酸塩シュウ酸塩などの結晶が出ることもある血中の尿酸が増えると生じる原因は水分、アルコールの多量摂取摂取水分量食事内容服用薬などで濃淡差脱水状態は「濃縮尿」匂いは弱い尿路感染症結石糖尿病ー痛風尿崩症肝機能障害結石胆道閉塞膀胱がん尿路感染症による出血尿路感染症尿路結石*血尿とは、尿に血液(赤血球)が混ざっている状態の尿のこと。**膿尿とは、尿に白血球が出ている状態の尿のこと。白血球の量で、にごり度合いが変化する。尿の色を見る場合、毎朝一番の早朝尿をチェックしましょう。最も色が濃くなるので変化を見つけやすいです。出典:高橋 悟氏,高野 秀樹(監修). 主婦の友社. 2019. 尿の健康手帖監修:高橋 悟氏(日本大学医学部泌尿器科学系 主任教授)、菅野 希氏(日本大学医学部附属板橋病院 臨床検査部尿検査室)写真:ケアネット撮影Copyright © 2024 CareNet,Inc. All rights reserved.

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発熱性好中球減少症に対するグラム陽性菌をカバーする抗菌薬の追加の適応【1分間で学べる感染症】第5回

画像を拡大するTake home message発熱性好中球減少症に対するグラム陽性菌をカバーする抗菌薬の追加の適応を7つ覚えよう。発熱性好中球減少症は対応が遅れると致死率が高いため、迅速な対応が求められます。入院中の患者の場合、基本的には緑膿菌のカバーを含めた広域抗菌薬の投与が初期治療として推奨されていますが、それに加えてグラム陽性菌に対するカバーを追加するかどうかは悩みどころです。そこで、今回はガイドラインで推奨されている以下の7つの適応を理解するようにしましょう。1)血行力学的不安定または重症敗血症の場合2)血液培養からグラム陽性菌が陽性の場合3)メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、バンコマイシン耐性腸球菌 (VRE)、ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)の保菌がある場合4)重症粘膜障害(フルオロキノロン系抗菌薬予防内服)の場合5)皮膚軟部組織感染症を有する場合6)カテーテル関連感染症を臨床的に疑う場合7)画像上、肺炎が存在する場合上記のうち、1)2)に関してはとくに疑問なく理解できると思います。3)に関しては、患者のこれまでの記録をカルテで確認することで、そのリスクを判断します。4)5)6)に関しては、身体診察でこれらを疑う場合には、すぐに追加を検討します。6)はカテーテル局所の発赤や腫脹、疼痛などがあれば容易に判断できますが、血液培養が陽性となるまでわからないこともあるため注意が必要です。7)に関してはMRSAによる肺炎を懸念しての推奨です。グラム陽性菌をカバーする抗菌薬の追加の適応に関しては、上記7つをまずは理解したうえで、その後のde-escalationを行うタイミングや継続の有無に関しては、その後の臨床経過や検査結果から総合的に判断しましょう。1)Freifeld AG, et al. Clin Infect Dis. 2011;52:e56-e93.

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リウマチ性心疾患、低中所得国で死亡率が高い/JAMA

 リウマチ性心疾患(RHD)成人患者の死亡率は高く、弁膜症の重症度と関連しており、一方で弁手術と弁形成術は死亡率の大きな低下と関連していることを、インド・All India Institute of Medical SciencesのGanesan Karthikeyan氏らが、国際多施設共同前向き観察研究「INVICTUS試験」の結果で報告した。RHDは、低中所得国において依然として公衆衛生上の問題となっているが、複数の流行国で患者を登録した大規模研究はほとんどなかった。今回の結果を受けて著者は、「抗菌薬による予防と抗凝固療法を中心とした現在のアプローチに加え、外科的治療とインターベンション治療へのアクセスを改善する必要性が高まっている」とまとめている。JAMA誌オンライン版2024年6月5日号掲載の報告。24ヵ国のRHD患者約1万4千例の予後を前向きに調査 研究グループは、RHDが流行中の低中所得国24ヵ国の138施設において、心エコー検査により臨床的にRHDが確認され同意が得られた18歳以上の成人患者を連続登録し、6ヵ月ごとに対面または電話で追跡調査を行い、1年ごとに対面で評価した。 主要アウトカムは全死因死亡、副次アウトカムは死因別死亡、心不全(HF)による入院、脳卒中、感染性心内膜炎、リウマチ熱の再発などであった。アウトカムは、世界銀行グループ加盟国の最新の所得水準別分類(低所得国[LICs]、低中所得国[LMICs]、高中所得国[UMICs]、高所得国[中東、北アフリカ]、北米、南アジア、サハラ以南)に基づきイベント発生率を分析し、多変量Cox回帰モデルを使用して死亡の予測因子を同定した。 2016年8月~2022年5月に、計1万3,696例のRHD患者が登録された。2,769例(20%)がLICs(エチオピア、マラウイ、モザンビーク、ネパール、ルワンダ、タンザニア、ウガンダ)、8,453例(62%)がLMICs(カメルーン、エジプト、インド、ケニア、ニジェール、パキスタン、フィリピン、スーダン、ザンビア、ジンバブエ)、2,474例(18%)がUMICs(ボツワナ、ブラジル、中国、カザフスタン、メキシコ、パラグアイ、南アフリカ共和国)であった。全体の平均年齢は43.2歳、女性が72%であった。死亡率は14.2%、その約7割は血管死 観察期間中央値3.2年(4万1,478人年)において、1万2,967例(94.7%)の生命予後に関するデータが入手可能であった。 全体で1,943例(14.2%、4.7%/人年)が死亡した。死亡例の67.5%(1,312例)は血管死で、主にHF(667例)または心臓突然死(352例)であった。 観察期間中、弁手術を受けた患者は少なく(604例、4.4%)、HFによる入院(805例、5.9%、年間発生頻度2.0%)も低値であった。また、非致死的脳卒中(年間発生頻度0.6%)、感染性心内膜炎(0.07%)、リウマチ熱の再発(0.02%)もまれであった。 死亡リスクの増加と関連していた因子は、うっ血性心不全(ハザード比[HR]:1.68、95%信頼区間[CI]:1.50~1.87、p<0.001)、肺高血圧症(1.52、1.37~1.69、p<0.001)、心房細動(1.30、1.15~1.46、p<0.001)など重症弁膜症のマーカーであった。一方、観察期間中の弁手術(0.23、0.12~0.44、p<0.001)や弁形成術(0.24、0.06~0.95、p=0.042)は死亡リスクの低下と関連していた。 患者レベルの因子を調整した後、国の所得水準が高いことが死亡率の低下と関連していることが認められた。

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小児急性中耳炎診療ガイドライン 2024年版 第5版

大幅アップデートの最新版登場!6年ぶりの改訂となる2024年版では、以下多くのアップデートがなされています。肺炎球菌結合型ワクチン(PCV)のエビデンスの強化や、従来からの抗菌薬適正使用に基づいた一部抗菌薬の用量・選択候補薬の見直し、軽症・中等症・重症のアルゴリズムを合体した「アルゴリズムのまとめ」の追加、重症度判定などの参考用の鼓膜画像の更新など、本ガイドラインの「中耳炎診療の基本を伝える」使命に則った大改訂版となりました。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する小児急性中耳炎診療ガイドライン 2024年版 第5版定価2,860円(税込)判型B5判頁数116頁(図数:4枚、カラー図数:2枚)発行2024年5月編集日本耳科学会日本小児耳鼻咽喉科学会日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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日本における市中感染と院内感染の罹患率と死亡率~全国7千万例超のデータ

 細菌および真菌感染症の罹患率や死亡率の現状と年次傾向について、市中感染と院内感染の観点から報告した研究はほとんどない。今回、千葉大学の高橋 希氏らが日本の全国保険請求データベースに登録された7千万例超の入院患者のデータを調べたところ、院内死亡率は院内感染のほうが市中感染よりも有意に高かったが、両群とも死亡率は低下傾向であることが示された。BMC Infectious Diseases誌2024年5月23日号に掲載。 著者らは、全国保険請求データベースから、2010年1月~2019年12月に入院し培養検査が実施され抗菌薬が投与された患者を抽出し、罹患率と院内死亡率の年次推移を患者の年齢で4群に分けて算出し評価した。 主な結果は以下のとおり。・7,396万2,409例の入院患者のうち、市中感染は9.7%、院内感染は4.7%であった。これらの罹患率は両群とも経年的に増加する傾向にあった。・感染症で入院した患者のうち、85歳以上では有意な増加(市中感染:+1.04%/年、院内感染:+0.94%/年、p<0.001)がみられたが、64歳以下では有意な減少(市中感染:-1.63%/年、院内感染:-0.94%/年、p<0.001)がみられた。・院内死亡率は、市中感染より院内感染で有意に高かった(市中感染:8.3%、院内感染:14.5%、調整平均差:4.7%)。・院内感染群は、臓器サポートや患者当たりの医療費が高く、入院期間も長かった。・死亡率は両群で減少傾向が認められた(市中感染:-0.53%/年、院内感染:-0.72%/年、p<0.001)。 今回の日本の大規模請求データベースの解析から、とくに85 歳以上において市中感染と院内感染の両方で入院が増加傾向にあること、院内感染は高齢社会の入院患者にとって大きな負担となっていることが示された。

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治療方針をなかなか選んでくれない患者さんへの対応は?【もったいない患者対応】第7回

登場人物<今回の症例>20代女性右下腹部痛で来院腹部造影CTで軽度の虫垂腫大と周囲の脂肪織濃度上昇あり<軽症の急性虫垂炎を疑ったため、治療方針を相談することに>いかがでしょうか?虫垂が腫れているようです。急性虫垂炎、いわゆる「盲腸」ですね。盲腸ですか! どうすればいいんでしょう?軽い虫垂炎なので、手術で虫垂を切除する方法もありますし、抗菌薬で治療する方法もありますよ。どうしよう…悩みます。どちらがいいんでしょうか?どちらにもメリット、デメリットはありますから、どちらがいい、ということはないんです。治療を選択するのは患者さんですので、お好きなほうをお選びください。その選択を私たちは尊重しますよ。(こちらで誘導して何かあったらこっちの責任だしな…)うーん…。【POINT】軽症虫垂炎の患者さんに、手術と保存的治療(抗菌薬投与)の2つの選択肢を提案していますね。唐廻先生はインフォームドコンセントの重要性に思考を巡らせ、「患者さんが主体的に治療を選択すべき」という考えから、治療について十分な説明をしたうえで患者さんに選択を委ねています。ところが、患者さんは悩み込んでしまい、なかなか選べません。こんなとき、どうすればいいのでしょうか?“選択をお手伝いする”という意識をもつかつて、医師が主体的に治療方針を決め、患者はその判断にすべてを委ねればよい、という考え方が一般的な時代がありました。現在はこうした考え方は“医療パターナリズム”と揶揄されていますし、インフォームドコンセント、すなわち、患者は医療行為について十分な説明を受けたうえで、自由意志に基づいて治療方針について合意するのが大切だということは、大学の講義でも学んできたでしょう。ところが、こうした“患者主体”という考え方は、患者さんに選択を完全に委ね、医師はその選択に関して責任を負わない、といった間違った発想に行き着くことがあります。カルテでも、ことさらに「患者さんが希望したため、この治療を選択した」と強調するような記載を見ることもあります。しかし、医療の専門家ではない患者さんにとっては、「選択権があっても選択できない」というのが実情でしょう。逆に、専門的知識をもつ医師だからこそ、“選択のお手伝い”をする必要があります。患者さんの状況に応じて選択をサポートする治療選択肢が複数あり、どちらかが優れているという明らかなエビデンスがないときは、まずそれぞれのメリット、デメリットをきちんと説明し、「科学的データに照らすといずれにも優劣がない」ことを強調します。そのうえで患者さんに選択を委ねますが、選択に難渋しているときは、専門的知識を使ってその選択をサポートします。たとえば仕事や介護、子育てをしている人は時間的な制約があるので、通院期間や入院の有無などが気になるかと思います。費用を気にする患者さんもいますし、既往や服薬状況によって副作用などのリスクも変わります。また、時間的に余裕がある場合は、いますぐに決めずに少し考える時間を設けたり、ご家族と相談する機会を設けたりすることも可能であることを伝えます。このようにして、医療者と患者さんが価値観を共有し、一緒に治療方針を決めていく過程を、近年ではShared Decision Making(SDM)と呼ぶこともあります。今回の例で重要なのは、まずは各治療選択肢を完全に等価であるとして提示するのではなく、(1)総合的に判断して推奨できる案を提示したうえで、(2)その案を採用しなくてもよいことを明示し、代替案を提示するという方向性が望ましいと考えます。病態に応じてケースバイケースなので、こうした手法が適用できない場合もあるとは思いますが、たとえば今回のようなケースでは次のような説明がいいでしょう。これでワンランクアップ!いかがでしょうか?虫垂が腫れているようです。急性虫垂炎、いわゆる「盲腸」ですね。盲腸ですか!どうすればいいんでしょう?軽い虫垂炎なので、手術で虫垂を切除する方法もありますし、抗菌薬で治療する方法もありますよ(ここで両方のメリット、デメリットを説明)※1。※1:まずはここを丁寧にどうしよう……悩みます。どちらがいいんでしょうか?どちらにもメリット、デメリットがありますから、どちらがいい、という確実なデータはないんです。ただ、抗菌薬の効果が乏しかったときは、いずれにしても手術が必要になります※2。また、お仕事でお忙しい〇〇さんのような方の場合※3、抗菌薬治療だと通院期間が長引いて仕事を休まなければならない日が多くなる可能性があります。一方、手術だと何も問題なければ数日の入院で済みます。その点を考えると、手術のほうがメリットは大きいかもしれません※4。もちろん、手術をせずに抗菌薬で炎症を抑えることもできますし※5、リスクをご理解いただいたうえで抗菌薬治療を希望されるのであれば、それでもまったくかまいません。いかがでしょうか?※2:その治療方針を選んだときの具体的な見通しを伝える。※3:患者さんの生活スタイルを考慮した提案も大事。※4:まずは推奨できる案を提案する。※5:他の選択肢のフォローもあると、患者さんの意思が入りやすい。そうですか。それでしたら、手術をお願いしたいと思います。

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INSPIRE Pneumonia Trial:肺炎に対する抗菌薬選択改善を促すオーダーエントリーシステム(解説:小金丸博氏)

 肺炎は入院を要する最も一般的な感染症であり、米国では毎年150万人以上の成人が肺炎で入院している。肺炎で入院した患者の約半数で不必要に広域なスペクトラムの抗菌薬を投与されていると推定されており、広域抗菌薬の過剰使用を抑制するための効果的な戦略を特定することが求められている。 今回、患者ごとの多剤耐性菌感染リスク推定値を提供するコンピュータ化されたプロバイダーオーダーエントリー(CPOE)システムが、非重症肺炎で入院した患者における経験的広域抗菌薬の使用を減らすことができるかを検討したランダム化比較試験の結果がJAMA誌オンライン版2024年4月19日号に報告された。CPOE介入群では通常の抗菌薬適正使用支援に加えて、多剤耐性菌による肺炎のリスクが10%未満と推定された症例に対して標準的なスペクトラムの抗菌薬を推奨した。また臨床医に対して教育とフィードバックも同時に行った(有効と考えられる複数の方法を組み合わせて行うバンドルといわれる戦略を採用)。その結果、入院最初の3日間の広域抗菌薬の投与日数は通常介入群と比較して28.4%減少した(リスク比:0.72、95%信頼区間:0.66~0.78)。両群においてICU転室までの日数や入院期間に関して差を認めず、安全に広域抗菌薬の使用を抑制できることが示された。 これまで肺炎に対する抗菌薬処方を改善する戦略は、微生物検査の結果が得られて患者の状態が安定した後に、抗菌薬の投与期間を短縮するか、または広域抗菌薬を狭域抗菌薬に変更することに焦点が当てられてきた。しかし、そのような戦略では微生物検査の結果が得られる前に使用された不必要な広域抗菌薬には対処できていなかった。広域抗菌薬に短期間曝露しただけでも、多剤耐性菌感染症、クロストリディオイデス・ディフィシル感染症、その他の抗菌薬に関連した副作用のリスクが高まる可能性がある。本試験は、微生物検査の結果が得られる前に広域抗菌薬の使用を減らすことに焦点を当てているのが新しい視点である。 肺炎で入院する患者のほとんどは、緑膿菌や多剤耐性菌をカバーしない標準的なスペクトラムの抗菌薬で安全に治療できると考えられるが、耐性菌に感染している可能性があるという懸念から広域抗菌薬を選択してしまう臨床医も多く存在する。CPOEシステムを導入することによって、おそらく臨床医が人口全体における薬剤耐性菌の感染リスクが比較的低いことをより明確に認識できるようになり、最初の抗菌薬の選択が広域から標準スペクトラムの抗菌薬へ変更された。本試験では、多剤耐性菌感染症の「低リスク」に分類するための閾値が10%未満に設定されたが、適切な閾値ははっきりしていないと思われる。耐性菌による肺炎のリスクが低い患者をリアルタイムで特定することによって広域抗菌薬の投与が減少する可能性があり、本試験で有効性が示されたCPOEシステムによる介入の効果を本邦でも評価されることを期待したい。

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第217回 耐性菌阻止のみならず耐性を破りさえする化合物を発見

耐性菌阻止のみならず耐性を破りさえする化合物を発見細菌の抗菌薬に対する耐性を防ぎ、さらには耐性をすでに獲得した細菌への抗菌薬の効果をも復活させうる化合物を英国オックスフォード大学のチームが生み出しました1,2)。抗菌薬の手に負えない細菌(薬剤耐性菌)が世界で増えていることは、人類の健康や発展を脅かす一大事の1つです。よくある感染症の多くがますます治療困難になっており、薬剤耐性菌を直接の原因として年間127万例が死亡しています3)。間接的なものも含めるとその数は4倍ほどの495万例にも上り、新たな抗菌薬の開発なしではそれら薬剤耐性菌を発端とする死亡例は今後増加の一途をたどるとみられています。細菌が抗菌薬への耐性を獲得する仕組みの1つは、それら細菌の遺伝配列に新たな変異が生じることです。フルオロキノロンなどの抗菌薬は細菌DNAを傷つけることで細菌を死なせます。DNAが傷つけられた細菌はその傷を修復して変異を増やすSOS反応と呼ばれる経路を発動します。SOS反応は酵素複合体AddABやRecBCDを皮切りに始まります。前者のAddABは主にグラム陽性細菌に備わり、後者のRecBCDはグラム陰性細菌にあります。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を用いた研究によると、AddABは感染、変異を増やすDNA修復、薬剤耐性に携わります。配列がわかっている細菌のほとんど(約95%)がAddABかRecBCDのいずれかを保有しており、AddABやRecBCDの阻害薬は細菌全般に広く効きそうです。また、都合がよいことに哺乳類にRecBCDやAddABに似通う相同配列は見つかっておらず、それらの阻害薬のヒトへの影響は少なくて済みそうです。AddAB/RecBCD阻害薬の報告はすでにいくつかあり、2019年に発見が報告されたIMP-1700という名称の化合物はその1つで、MRSAのSOS反応をいくらか阻害することが確認されています。オックスフォード大学のチームはIMP-1700の加工品一揃いを作り、フルオロキノロン抗菌薬であるシプロフロキサシンと一緒にMRSAにそれらを投与して効果のほどを検討しました。その検討が実を結び、DNA損傷を促進しつつシプロフロキサシン耐性出現を阻害する化合物OXF-077が見つかりました。シプロフロキサシンやその他の抗菌薬とOXF-077を組み合わせると、それらの抗菌薬はより少ない量でMRSAの増殖を阻害できました。また、シプロフロキサシンとOXF-077の組み合わせは耐性出現を有意に抑制し、SOS反応の阻害薬で細菌の薬剤耐性を抑制しうることが初めて証明されました。OXF-077は耐性抑制にとどまらず、耐性をすでに獲得してしまっている細菌への抗菌薬の効果を復活させる役割もあります。シプロフロキサシンの耐性を獲得した細菌にOXF-077と共にシプロフロキサシンを与えたところ、シプロフロキサシンの効果が非耐性細菌への効果と同程度に回復しました。薬剤耐性菌の世界的な脅威に対抗する細菌DNA修復/SOS反応阻害薬の今後の開発にOXF-077が役立つだろうと著者は結論しています。参考1)Bradbury JD, et al. Chemical Science. 2024 May 16. [Epub ahead of print]2)New molecule found to suppress bacterial antibiotic resistance evolution / University of Oxford 3)Antimicrobial Resistance Collaborators. Lancet. 2022;399:629-655.

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ビソプロロール併用、COPDの治療を要する増悪を低減せず/JAMA

 増悪リスクの高い慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の治療において、β1選択性β遮断薬ビソプロロールの追加はプラセボと比較して、経口コルチコステロイド、抗菌薬、あるいはこれら両方による治療を要するCOPD増悪の回数を抑制しないことが、英国・リバプール熱帯医学校のGraham Devereux氏らが実施した「BICS試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌オンライン版2024年5月19日号で報告された。英国76施設の無作為化プラセボ対照比較試験 BICS試験は、英国の76施設(プライマリケア施設45、二次医療施設31)で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験であり、2018年10月~2022年5月に参加者を登録した(英国国立衛生研究所[NIHR]医療技術評価[HTA]プログラムの助成を受けた)。 スパイロメトリーで中等度以上の気流閉塞(1秒量[FEV1]/努力性肺活量<0.7、FEV1の予測値に対する実測値の割合<80%)を認め、過去12ヵ月間に経口コルチコステロイド、抗菌薬、あるいはこれら両方による治療を要するCOPD増悪が2回以上発現したCOPD患者519例を登録し、ビソプロロール群に261例、プラセボ群に258例を割り付けた。患者はそれまで受けていたCOPD治療を継続した。 ビソプロロールは、1日1.25mgから経口投与を開始し、標準化されたプロトコールを用いて、4期の投与期間中に忍容性に応じて最大用量5mg/日まで漸増した。 主要アウトカムは、1年間の投与期間中における経口コルチコステロイド、抗菌薬、あるいはこれら両方による治療を要するCOPD増悪の発生(患者報告による)とした。増悪までの期間、増悪による入院、全死因死亡にも差はない 本試験は当初1,574例を登録する予定であったが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により2020年3月16日~2021年7月31日の間は患者の募集を中断した。解析の対象となった515例(平均[SD]年齢68[7.9]歳、男性274例[53%]、平均FEV1 50.1%)のうち、514例(99.8%)で主要アウトカムのデータが得られ、371例(72.0%)が試験薬の服用を1年間継続した。 1年の試験期間中に治療を要するCOPD増悪は、ビソプロロール群では526件発生し、平均年間発生回数は2.03件/年であり、プラセボ群ではそれぞれ513件、2.01件/年であった。補正後発生率比(IRR)は0.97(95%信頼区間[CI]:0.84~1.13)と、両群間に有意差を認めなかった(p=0.72)。 初回COPD増悪までの期間中央値(ビソプロロール群96.0日vs.プラセボ群70.0日、補正後ハザード比[HR]:0.94、95%CI:0.78~1.16、p=0.60)、COPD増悪による入院(補正後IRR:1.00、95%CI:0.67~1.50)、COPD以外の原因による入院(1.47、0.88~2.55)、全死因死亡(0.77、0.34~1.73)にも、両群間に有意な差はなかった。重篤な有害事象の発現は同程度 重篤な有害事象を発現した患者は両群で同程度であった(ビソプロロール群14.5%[37/255例]vs.14.3%[36/251例])。また、ビソプロロール群では、呼吸器系の有害反応の増加を認めなかった(9.8%[25/255例]vs.12.3%[31/251例])。最も多かった試験薬の投与中止の理由は、臓器分類コード「呼吸器、胸郭、縦隔の障害」であり、頻度は両群で同程度だった(4.6%[12/259例]vs.6.3%[16/256例])。 著者は、「COVID-19の世界的な流行による参加者の募集の中断と資金不足により、予定よりはるかに少ない患者しか登録できなかったこと、28%の患者が試験薬の使用を中止した点などが本試験の限界である」と述べたうえで、「今回の結果は、COPD患者におけるビソプロロールの臨床的有用性を否定するものであったが、他の治療法との併用や特定の患者群に対する効果について検討を進める必要がある」としている。

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