サイト内検索|page:31

検索結果 合計:860件 表示位置:601 - 620

601.

小児の乾癬発症、抗菌薬や感染症との関連は?

 抗生物質抗菌薬)はヒトの微生物叢を破壊し、いくつかの小児の自己免疫疾患と関連している。一方、乾癬は、A群溶連菌およびウイルス感染と関連していることが知られている。米国・ペンシルベニア大学のDaniel B. Horton氏らは、抗菌薬治療や感染症が小児における偶発的な乾癬と関連しているかどうかを調べる目的で、コホート内症例対照研究を行った。その結果、感染症は小児の乾癬発症と関連しているが、抗菌薬は実質的にはそのリスクはないことを報告した。JAMA Dermatology誌オンライン版2015年11月11日号の掲載報告。 研究グループは、英国におけるプライマリケアの医療記録データベースであるThe Health Improvement Networkを用い、1994年6月27日~2013年1月15日のデータを2014年9月17日~2015年8月12日に分析した。 症例は、初めて乾癬と診断された1~15歳の小児(免疫不全、炎症性大腸疾患および若年性関節炎患児を除く)(845例)で、年齢および性別をマッチさせた乾癬の既往のない対照小児(8,450例)と比較した。対照は、乾癬と診断した小児が1例以上いるプライマリケアにおいて診断と同時期に受診した小児から無作為抽出された。 全身投与の抗菌薬処方、および乾癬と診断される前2年以内の皮膚ならびに他の部位の感染症について調べ、主要評価項目を乾癬の発症として、乾癬と抗菌薬治療ならびに感染症との関連性について条件付きロジスティック回帰分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・マッチング、地域、社会経済的貧困、外来受診および過去2年以内の感染症に関して調整後、最近2年間の抗菌薬治療は偶発的な乾癬とわずかに関連していた(調整オッズ比[aOR]:1.2、95%信頼区間[CI]:1.0~1.5)。・皮膚感染症(aOR:1.5、95%CI:1.2~1.7)およびその他の感染症(同:1.3、1.1~1.6)の関連性は類似していた。・抗菌薬で治療した非皮膚感染症(1.1、0.9~1.4)ではなく、未治療の非皮膚感染症(1.5、1.3~1.8)が乾癬と関連していた。・曝露期間を生涯とした場合も、結果は類似していた。・抗菌薬の種類や抗菌薬を初めて投与された年齢は、乾癬と関連していなかった。・乾癬診断前の期間を2年からさまざまな期間に変えた場合でも、所見は実質上変化しなかった。

602.

梅毒に気を付けろッ! その2【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。国立国際医療研究センター 国際感染症センターの忽那です。本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気を付けろッ」は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そして時にまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。第14回となる今回は梅毒の続きで、性交渉歴の聴取の仕方と梅毒の臨床症状についてです。デリケートな内容へのアプローチ梅毒は性感染症ですので、梅毒を疑った時点で性交渉歴を聞かなければなりません。読者の皆さまは、性交渉歴をどのように聴取していますでしょうか?もちろん「ねえねえ、セックスやってる~?」という90年代のバブリーなノリで聞いてはいけません。ここはビーチやゲレンデ、ましてやジュリアナ東京ではありません! われわれがいるのは病院であり、相手にしているのは患者さんなのですッ!われわれは、常日頃から性交渉歴というきわめて個人的な内容について、聴取していることに自覚的でなければなりません。患者さんのセックスについて、けっして軽く聞いてはならないのです。しかし、いきなり初対面の患者さんに、性交渉歴を聞くのはちょっとためらいがあることと思います。そんなときには「これはすべての患者さんに聞いていることなのですが…」「診断で大事なことかもしれないので、聞かせていただきたいのですが…」などの前置きをすると、患者さんも回答に抵抗が少ないかもしれません。「5つのP」を重点に肝心の問診の内容ですが、性交渉歴を聴取する際には「5つのP」を意識して問診することが重要です。米国疾病対策予防センター(CDC)のSTDガイドラインには「5P」と書いてあるのですが、性交渉の話で5Pっていうと、わが国では何となく誤解を招きやすい表現である気がしますので、私は「5つのP」と言っています、はい。表がその「5つのP」になります。画像を拡大するとくに重要なのはパートナーのPとプラクティスのPです。パートナーについては、男性か、女性か、両方かを聞きます。男性だから女性と、女性だから男性としか性交渉しないとは限りません。また、特定の相手のみとしか性交渉がないのか、不特定の相手ともあるのかによってSTDのリスクが大きく異なります。プラクティスは性交渉の内容です。通常の生殖器同士の性交渉だけでなく、オーラルセックス、オーラル・アナル・セックスなどの性交渉を行っているかを聴取します。3つ目のプロテクションのPは、コンドームの使用の有無によって感染のリスクを推定することができますし、4つ目の既往歴は性感染症の既往のある人は、また性感染症になりやすいという、けっして偏見ではなくキラリと光る真実に基づいています。このような「5つのP」を意識しながら、性感染症のリスク評価を行うわけですが、前回もご紹介したとおり、現在梅毒は大流行している状況です。また、今回の梅毒の流行は、当初MSM(Men who has sex with Men:男性と性交渉する男性)の間で始まりましたが、現在は男性-女性間でも感染例が多数報告されている状況です。ですからわれわれ臨床医は、とくに梅毒に関して疑う閾値を低くして診療に望む必要があります。再確認、梅毒の病態どのような場合に梅毒を疑うか? それは、今どの時期の梅毒を診ているのかを意識することが重要です。図1は梅毒の自然経過ですが、見ておわかりのとおりかなり複雑です。画像を拡大する第1期梅毒は、梅毒の病原微生物であるTreponema pallidumが進入した部位(陰茎、膣、肛門、口唇など)に、約3週間の潜伏期の後に硬性下疳と呼ばれる丘疹を生じる病態です(図2)。画像を拡大するこの硬性下疳は痛くないのが特徴で、本人も気付かないことが多々あります。この際、鼠径リンパ節腫大を伴うこともあります。第1期梅毒のときに治療がされなければ、約4~10週を経て第2期梅毒に移行します。第2期梅毒で特徴的なのは前回もご紹介したとおり、皮疹です。梅毒の皮疹は手のひら、足の裏にも皮疹が出るのが特徴です(図3)。画像を拡大するちなみに梅毒以外で手のひら・足の裏にも皮疹がみられる感染症としては、手足口病、日本紅斑熱、感染性心内膜炎、髄膜炎菌感染症などがあります。第2期梅毒のその他の臨床症状としては、発熱、全身倦怠感、リンパ節腫脹、関節痛などを呈することもあります。あるいは「腹痛の原因精査で内視鏡をしたら胃梅毒だった」「ネフローゼ症候群の原因が梅毒だった」「ブドウ膜炎の原因(以下同文)」というような、さまざまな病態を呈することがあります。第2期梅毒の臨床症状は非常に多彩です。かと思うと、第2期梅毒の臨床症状をまったく呈さずに、潜伏期梅毒に移行する症例もあり、梅毒の診断は時に非常に難しいのです。症状の出ない潜伏期梅毒潜伏期梅毒はその名のとおり、とくに症状を有さない梅毒の状態ですが、感染後1年以内のものは早期潜伏期梅毒、1年を越えるものは後期潜伏期梅毒と定義されます。厳密にきっちり1年で分かれるものではありませんが、早期潜伏期梅毒は性交渉でも感染性を有し、第2期梅毒を再発することがあるのに対し、後期潜伏期梅毒は、性交渉で感染することは少なくなります(母胎感染はありえます)。感染後さらに時間が経過すると、晩期梅毒という病態に移行するといわれています。しかし、抗菌薬が頻繁に処方される現代では、非常にまれな病態とされています。臨床現場でも、とりあえずカッコつけのために、鑑別診断として挙げることはありますが、ぶっちゃけ私も診たことがありません。さらにさらに、このような第1期から晩期までの梅毒の流れとは別に、いつのステージであっても神経梅毒という中枢神経系の感染症を発症することがあります。神経梅毒は早期には無症状であることも多く、臨床症状はなく髄液検査でのみ異常がみられることも多々あります。時間が経過すると、慢性に進行する認知症状などを呈し「なんか最近言っていることがおかしい」「計算ができなくなった」などといった症状で、神経内科や精神科などを受診することもあります。こうなってくると、いわゆる「Treatable Dementia(見逃してはいけない認知症)」の鑑別になってきます。いやー、梅毒の病態は非常に複雑です。梅毒がひっそりと流行しているのは、このような「診断の難しさ」も関与しているものと思われます。さて、梅毒だけでけっこう引っ張ってしまいましたが、次回はいよいよ梅毒の診断と治療についてご紹介いたしますッ!!1)Workowski KA, et al. MMWR Recomm Rep.2015;64:1-137.2)柳澤如樹ほか. モダンメデイア.2008;54:14-21.

603.

眼由来でも黄色ブドウ球菌分離株の多くが多剤耐性、メチシリン耐性が蔓延

 米国・マウントサイナイ医科大学のPenny A. Asbell氏らは、ARMOR研究の最初の5年間に採取された眼由来臨床分離株の耐性率と傾向について調査した。ARMOR研究は、眼感染症の病原体に関する唯一の抗生物質耐性サーベイランスプログラムである。その結果、黄色ブドウ球菌分離株は多くが多剤耐性を示し、メチシリン耐性が蔓延していることを明らかにした。眼以外の感染症由来黄色ブドウ球菌株で報告されている耐性傾向と一致しており、5年間で、眼由来臨床分離株の耐性率は増加していなかったという。著者らは、「眼由来臨床分離株の継続的な調査は、眼感染症の経験的治療に用いる局所抗菌薬の選択に重要な情報を提供する」と述べている。JAMA Ophthalmology誌オンライン版2015年10月22日号の掲載報告。 2009年1月1日~13年12月31日の5年間に、眼由来臨床分離株(黄色ブドウ球菌、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CoNS)、肺炎レンサ球菌、インフルエンザ菌および緑膿菌)を集め、2015年1月16日~5月15日に中央の施設にて抗生物質耐性について分析した。 米国臨床検査標準委員会(CLSI)のガイドラインに基づく微量液体希釈法で、各種抗生物質に対する最小発育阻止濃度(MIC)を測定し、ブレイクポイントに基づき感受性、中間、耐性で表記した。 主な結果は以下のとおり。・72施設から眼由来臨床分離株計3,237株が集まった(黄色ブドウ球菌1,169株、CoNS 992株、肺炎レンサ球菌330株、インフルエンザ菌357株、緑膿菌389株)。・メチシリン耐性は、黄色ブドウ球菌493株(42.2%、95%信頼区間[CI]:39.3~45.1%)、CoNS 493株(49.7%、95%CI:46.5~52.9%)で確認された。・メチシリン耐性分離株は、フルオロキノロン系、アミノグリコシドおよびマクロライド系抗生物質に対しても同時に耐性を示す可能性が高かった(p<0.001)。・3種類以上の抗生物質に耐性の多剤耐性菌は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌が493株中428株(86.8%)、メチシリン耐性CoNSが493株中381株(77.3%)であった。・すべての黄色ブドウ球菌分離株は、バンコマイシン感受性であった。・肺炎レンサ球菌はアジスロマイシン耐性株が最も多く(330株中113株、34.2%)、一方、緑膿菌およびインフルエンザ菌は検査した抗生物質に対する耐性は低かった。・米国南部で分離された高齢患者由来の黄色ブドウ球菌株は、メチシリン耐性株が多かった(p<0.001)。・5年間で、黄色ブドウ球菌株のメチシリン耐性は増加しなかった。一方、CoNS株およびメチシリン耐性CoNS株のシプロフロキサシン耐性、ならびにCoNS株のトブラマイシン耐性はわずかに減少した(p≦0.03)。

604.

常染色体優性多発性嚢胞腎〔ADPKD : autosomal dominant polycystic kidney disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義PKD1またはPKD2遺伝子の変異により、両側の腎臓に多数の嚢胞が発生・増大する疾患。■ 診断基準ADPKD診断基準(厚生労働省進行性腎障害調査研究班「常染色体優性多発性嚢胞腎ガイドライン(第2版)」)1)家族内発生が確認されている場合(1)超音波断層像で両腎に各々3個以上確認されているもの(2)CT、MRIでは、両腎に嚢胞が各々5個以上確認されているもの2)家族内発生が確認されていない場合(1)15歳以下では、CT、MRIまたは超音波断層像で両腎に各々3個以上嚢胞が確認され、以下の疾患が除外される場合(2)16歳以上では、CT、MRIまたは超音波断層像で両腎に各々5個以上嚢胞が確認され、以下の疾患が除外される場合※除外すべき疾患多発性単純性腎嚢胞(multiple simple renal cyst)腎尿細管性アシドーシス(renal tubular acidosis)多嚢胞腎(multicystic kidney 〔多嚢胞性異形成腎 multicystic dysplastic kidney〕)多房性腎嚢胞(multilocular cysts of the kidney)髄質嚢胞性疾患(medullary cystic disease of the kidney〔若年性ネフロン癆 juvenile nephronophthisis〕)多嚢胞化萎縮腎(後天性嚢胞性腎疾患)(acquired cystic disease of the kidney)常染色体劣性多発性嚢胞腎(autosomal recessive polycystic kidney disease)【Ravineの診断基準】(表)(家族歴がある場合の画像診断基準)画像を拡大する■ 疫学一般人口中に占める多発性嚢胞腎患者数(有病率)は、病院受診者数を基に調査した結果では一般人口3,000~7,000人に1人である。病院患者数に占める多発性嚢胞腎患者数は3,500~5,000人に1人、病院での剖検結果では被剖検患者約400人に1人である。メイヨー病院があるオルムステッド郡(米国)で1年間に新たに診断された患者数(発症率)は、一般人口1,000~1,250人あたり1人である。調査方法、調査年代、調査場所などにより、結果に差異が認められる。今後、治療薬が利用可能になると受療する患者数が増加し、有病率も増える可能性がある。■ 病因(図を参照)画像を拡大するPKD1またはPKD2遺伝子の変異による。PKD1は16p13.3、PKD2は4q21-23に位置する。PKD1とPKD2の遺伝子産物 polycystin 1(PC 1)とPC2はtransient receptor potential channel for polycystin(TRPP)subfamilyで、Caチャネルである。PC1とPC2は腎臓、肝臓、膵臓、乳腺の管上皮細胞、平滑筋と血管内皮細胞、脳の星状細胞に存在する。PCは腎臓上皮細胞、血管内皮細胞、胆管細胞などの繊毛に存在する。尿細管腔の内側に存在する繊毛は、尿細管液の流れに反応して屈曲する。屈曲によるshear stressはPCや繊毛機能に関係する蛋白を活性化し、細胞外と小胞体からCaイオンを細胞質内へ流入させ、細胞質内Ca濃度を高める。繊毛機能に関係する蛋白をコードする遺伝子異常が嚢胞性腎疾患をもたらすことが明らかとなり、繊毛疾患(ciliopathy)として概括されている。PKD細胞ではPC機能異常により、尿細管上皮細胞のCa濃度は低値である。細胞内Ca濃度が低下すると、cyclicAMP(cAMP)分解酵素(PDE)活性が低下し、またcAMPを産生するadenyl cyclase(AC)活性が高まり、細胞内cAMP濃度が高まる。その結果、cAMP依存性protein kinase A(PKA)機能が高まり、種々のシグナル経路(EGF/EGFR、Wnt、Raf/MEK/ERK、JAK/STAT、mTORなど)が活性化され細胞増殖が起きる。繊毛は細胞極性(尿細管構造形成)に関与しており、細胞極性機能を失った細胞増殖が起きる結果、嚢胞が形成される。また、PKAはcystic fibrosis transmembrane conductance regulator(CFTR)を刺激し、嚢胞内へのCl分泌を高める。腎尿細管(集合管)に存在するバソプレシン(AVP)V2受容体は、AVPの作用を受け、ACおよびcAMP、PKAを介して水透過性を高める。この過程でcAMPは嚢胞を増大させる。ソマトスタチンはACを抑制するので、治療薬として期待される。■ 症状多くの患者は30~40代までは無症状で経過する。1)腎機能低下腎機能の低下と総腎容積は相関し、総腎容積が3,000mLを超えると腎不全になる確率が高い。しかし、3,000mLを超えない場合でも腎不全になる場合もある。腎不全による症状(疲労、貧血、食欲低下、皮膚搔痒など)は、他疾患による腎不全症状と同じである。透析導入平均年齢は55歳位であったが、最近では60歳近くになっている。患者全体では70歳で約50%が終末期腎不全になる。2)高血圧血管内皮機能の異常により高血圧を来すと考えられ、腎機能が低下する以前から発症する。60~80%の患者が高血圧に罹患している。高血圧になっている患者では腎臓腫大と腎機能低下の進行が速い。3)圧迫症状腎臓や肝臓の嚢胞(60~80%の患者に嚢胞肝が併存)が腫大するにつれて、腹部膨満感、少し食べるとお腹が張る、前屈が困難になる、背腰部痛、腹部痛などの圧迫症状が出現する。腎嚢胞は平均年5~6%の割合で増大するので、加齢とともに症状は進行する。4)脳血管障害脳出血、くも膜下出血、脳梗塞の発症頻度が高い。脳出血の原因として高血圧がある。脳動脈瘤の発生頻度(約8%)は一般より高い。5)血尿・尿路感染症血管の構築異常により血管が裂け、嚢胞内に出血し、疼痛を引き起こす。出血巣と尿路が交通すると血尿になる。また、変形した尿路のために尿路感染症を起こしやすい。嚢胞感染が起きると抗菌薬が嚢胞内に移行しにくいので難治性になることがある。6)その他尿路結石、鼠径ヘルニア、大腸憩室、心臓弁膜機能異常などの頻度が高い。■ 分類遺伝子の変異部位に応じて、PKD1とPKD2に分かれる。約85%はPKD1である。PKD1の方が症状は強く、腎不全になる平均年齢も若い。■ 予後生命予後に関するデータはない。腎機能に関しては症状の項参照。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)診断基準に準ずる。家族歴と画像検査(超音波、CT、MRIなど)で比較的正確に診断できるが、中には診断に迷う症例もあり、遺伝子診断が有用な場合もある。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)1)トルバプタン(商品名: サムスカ)による治療AVP V2受容体拮抗薬トルバプタンは、ナトリウム利尿をあまり伴わない水利尿作用があり、低ナトリウム血症、体液貯留の治療薬として開発され、わが国では、2010年に心不全による体液貯留、2013年に肝硬変による体液貯留への治療薬として承認を受けている。2003年にモザバプタン(トルバプタンの前段階の薬)が、多発性嚢胞腎モデル動物に有効であると発表され、2007年から多発性嚢胞腎患者1,445名を対象として、トルバプタンの有効性と安全性を検討する国際共同治験が行われた。腎臓容積増大速度を約50%、腎機能低下速度を約30%緩和する結果が2012年秋に発表され、わが国において2014年3月に多発性嚢胞腎治療薬として承認され、臨床使用が始まっている。わが国での投薬適応基準は、総腎容積≧750mL、総腎容積増大速度≧年5%、eGFR≧15 mL/min/1.73m2などである。服用開始時には入院が必要で、その後月1回の血液検査で肝機能(5%程度に肝機能障害が発生する)、血清Na値(飲水不足で高Na血症になる)、尿酸値(上昇する)などのモニターが必要である。また、トルバプタンの処方医はWeb講習を受講し、登録する必要がある。2)高血圧の治療ARBが第1選択薬として推奨される。標準的降圧目標(120/70~130/80)とより低い降圧目標(95/60~110/75)との2群を5年間追跡したところ、より低い降圧群での総腎容積増大速度が低かったことが報告されているので、可能なら収縮期血圧を110未満にコントロールすることが望ましい。3)Na摂取制限Na摂取と腎嚢胞増大速度は相関するので、Na摂取は制限したほうがよい。4)飲水動物実験では飲水によって嚢胞の増大抑制効果が認められているが、人で飲水を奨励した結果では、逆に嚢胞増大速度とeGFR低下速度が増大したことが報告されている。水道水では、消毒用塩素の副産物ジクロロ酢酸に嚢胞増大作用があることが報告されている。多発性嚢胞腎患者では、腎機能が低下するにしたがい血清浸透圧とAVPが高くなることが報告されている。人における飲水効果には疑問があるが、脱水によるAVP上昇は避けるべきである。5)カフェインや抗うつ薬カフェインはPDEを抑制しcAMP濃度を上昇させ、嚢胞増大を促進する可能性がある。SSRI、三環系抗うつ薬などはAVPの放出を促進するため、多発性嚢胞腎では嚢胞増大を促進することが考えられる。6)開発中の薬剤(1)トルバプタン〔AVP V2受容体阻害薬〕は、大規模な臨床試験で腎嚢胞増大と腎機能悪化を抑制する効果が示され1)、わが国では2014年3月、カナダ、ヨーロッパでは2015年3月に認可が下りている。(2)ソマトスタチンアナログは小規模な臨床試験で肝臓と腎臓の嚢胞増大に有効と報告されているが、当局への申請を目的とする大規模な臨床試験は行われていない。(3)mTOR阻害薬であるシロリムスとエベロリムスの臨床試験が行われたが、副作用が強く臨床効果が認められなかった。7)腎動脈塞栓術(transcatheter arterial embolization: TAE)腎動脈を塞栓し、腎臓を縮小させることで症状の緩和をもたらす。すでに透析が導入され、尿量が1日500mL以下の患者が対象となる。8)腹腔鏡下腎嚢胞開創術、腎摘除術抗菌薬抵抗性または反復感染の原因になっている嚢胞が特定される場合、あるいは数個の嚢胞が特別に大きくなり圧迫症状が強い場合、腹腔鏡下に特定の嚢胞を開窓する手術が適応となる。出血が強い場合や、反復する嚢胞感染がある場合、患者に腎機能の予後をよく説明したうえで同意を前提として腎摘除術(腹腔鏡下腎摘除術も行われる)が選択肢となる。4 今後の展望1)最近の研究では、総腎容積増大速度が5%/年以下でも、腎不全に進行することが示されている。トルバプタン適応基準となった総腎容積増大速度≧5%/年の基準では、これら腎不全に進行する患者を除外することになる。2)トルバプタンの作用として利尿作用があるが、利尿作用を少なくする薬剤が望まれる。3)多発性嚢胞腎の進展機序は、cAMP-PKAを介する経路のみではないので、cAMP-PKA非依存性経路を抑制する薬剤開発が望まれる。4)肝臓嚢胞に有効なソマトスタチンアナログの臨床開発が望まれる。5 主たる診療科腎臓内科、泌尿器科、脳動脈瘤があれば脳外科(多発性嚢胞腎に関心の高い医師の存在)※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報多発性嚢胞腎啓発ウエブサイト(杏林大学多発性嚢胞腎研究講座)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 多発性嚢胞腎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)常染色体多発性嚢胞腎(順天堂大学医学部泌尿器科)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)ADPKD.JP (~多発性嚢胞腎についてよくわかるサイト~/大塚製薬株式会社)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報PKDの会(患者と患者家族の会)1)Torres VE,et al.N Engl J Med.2012;367:2407-2418.2)東原英二 編著.多発性嚢胞腎~進化する治療最前線~.医薬ジャーナル;2015.3)Irazabal MV, et al. J Am Soc Nephrol.2015;26:160-172.公開履歴初回2013年04月18日更新2015年10月27日

605.

緑膿菌による角膜炎、多剤耐性のリスクは?

 多剤耐性緑膿菌角膜炎のリスク因子は、潤滑軟膏使用、眼表面損傷および保護コンタクトレンズ使用であることを、インド・L V Prasad Eye InstituteのJayesh Vazirani氏らが後ろ向き症例対照研究の結果、示した。著者は、「防腐剤が入っていない潤滑軟膏は、感染源またはリザーバーとして作用する可能性がある」と指摘したうえで、「多剤耐性緑膿菌角膜炎は薬剤感受性緑膿菌角膜炎と比較して予後不良である」とまとめた。Ophthalmology誌2015年10月号(オンライン版2015年7月15日号)の掲載報告。 研究グループは、多剤耐性緑膿菌角膜炎のリスク因子を明らかにするとともにその臨床的特徴と予後を検討することを目的に、2007~2014年の間に3次医療機関の眼科にて診断された、多剤耐性緑膿菌角膜炎患者23例(患者群)および薬剤感受性緑膿菌角膜炎患者67例(対照群)を対象として、患者背景と多剤耐性との関連などについて分析した。 多剤耐性とは、3系統以上の抗菌薬に対して耐性を示すと定義された。 主な結果は以下のとおり。・多変量解析の結果、潤滑軟膏使用、眼表面損傷および保護コンタクトレンズ使用が、多剤耐性緑膿菌角膜炎と関連していることが認められた。・多剤耐性緑膿菌角膜炎分離株の抗菌薬耐性率は、コリスチンおよびイミペネムで最も低くそれぞれ56.52%であった。・角膜穿孔は、対照群に比べ患者群で高頻度であった(11.94%[8/67例] vs.52.17%[12/23例]、p=0.0001)。・医療用シアノアクリレート系接着剤の使用を要した患者の割合は、患者群47.82%(11/23例)、対照群22.38%(15/67例)であった(p=0.031)・角膜移植を要した患者の割合は、対照群20.89%(14/67例)に対し患者群47.82%(11/23例)で、後者が有意に多かった(p=0.017)。

606.

脳卒中後の予防的抗菌薬投与、肺炎を抑制せず/Lancet

 脳卒中ユニットで治療中の嚥下障害がある脳卒中後患者について、予防的抗菌薬投与を行っても肺炎発症は抑制されず、同治療は推奨できないとする見解を、英国・キングス・カレッジ・ロンドンのLalit Kalra氏らがクラスター無作為化試験の結果、報告した。脳卒中後肺炎は、死亡の増大および機能的アウトカムの不良と関連している。研究グループは、予防的抗菌薬の有効性を調べるため今回の検討を行ったが、アルゴリズムに基づく発症率の補正後オッズ比は1.21であるなど、肺炎の発症に有意な差は認められなかったという。Lancet誌オンライン版2015年9月3日号掲載の報告。7日間の抗菌薬投与+通常ケア vs.通常ケアで検討 検討は、英国内48の脳卒中ユニットで、UK National Stroke Auditに認定・包含された18歳以上の新規脳卒中後嚥下障害患者を募って実施された。試験は、前向き非盲検、エンドポイントを盲検化して行われた。対象者について、抗菌薬投与が禁忌、嚥下障害が発症前に既往または感染症が認められる、もしくは14日間の生存が見込めない患者は除外した。 被験者は発症48時間以内にユニット単位で、7日間の抗菌薬投与+通常ケアを行う群、または通常ケアのみを行う(対照)群に、コンピュータで無作為に割り付けられた。割り付けは、入院件数の層別化および専門的ケアを評価するため最小化にて行われた。また、被験者、評価および解析スタッフは、割り付けユニットについて知らされなかった。 主要アウトカムは、当初14日間における脳卒中後肺炎の発生で、intention-to-treat集団にて、階層的アルゴリズムと医師の診断の両者の診断基準に基づく評価を行った。また、安全性についてもintention-to-treat解析を行った。アルゴリズム定義および医師の診断に基づく発生率とも、両群間で有意差みられず 2008年4月21日~2014年5月17日に、48ヵ所の脳卒中ユニット(患者は全ユニット総計1,224例)を2つの治療群(各群24ヵ所)に無作為に割り付けた。無作為化後14日間を待たずに、11ユニットと患者7例が試験中止となった。intention-to-treat解析には残る37ユニット1,217例の患者が組み込まれた(抗菌薬群615例、対照群602例)。 結果、予防的抗菌薬投与は、アルゴリズム定義の脳卒中後肺炎の発生に影響を及ぼさなかった。発生率は、抗菌薬群13%(71/564例) vs.対照群10%(52/524例)で、周辺補正後オッズ比(OR)1.21(95%信頼区間[CI]:0.71~2.08、p=0.489)、クラス内相関係数(ICC)0.06(95%CI:0.02~0.17)であった。なお、アルゴリズム定義の脳卒中後肺炎は、データ損失のため129例(10%)の患者について確認できなかった。 医師の診断に基づく脳卒中後肺炎の発生状況についても、両群間の差は認められなかった。同発生率は、16%(101/615例) vs.15%(91/602例)で、補正後OR:1.01(95%CI:0.61~1.68、p=0.957)、ICC:0.08(95%CI:0.03~0.21)であった。 有害事象は、感染症とは無関係の脳卒中後肺炎(主に尿路感染症)の頻度が最も高かったが、同発生頻度は抗菌薬群のほうが有意に低率であった(4%[22/615例] vs.7%[45/602例]、OR:0.55[95%CI:0.32~0.92]、p=0.02)。 クロストリジウム・ディフィシル感染症の発生は、抗菌薬群2例(1%未満)、対照群4例(1%未満)であった。また、MRSAコロニー形成の発生は、抗菌薬群11例(2%)、対照群14例(2%)であった。

607.

H. pylori 除菌治療のリスク・ベネフィット:システマティックレビューとメタ解析(解説:上村 直実 氏)-414

 ピロリ除菌に対する世界的な標準レジメンである3剤併用治療法(プロトンポンプ阻害薬:PPI+アモキシシリンAMPC+クラリスロマイシンCAM)の除菌成功率が低下する一方、近年、高い除菌率を示すレジメンが数多く報告されている。今回、最も有効性が高く安全な治療レジメンを探索する目的で、世界中から報告されている除菌治療法について、システマティックレビューとネットワークメタ解析により検討した研究論文が、中国から報告された。 Cochrane Library、PubMed、Embaseから入手した、14種類の除菌治療レジメンに関するデータを解析した結果、標準レジメンである3剤併用治療法7日間の除菌率が最も低かった。最も有効であったのは、4剤併用療法(PPI+抗菌薬3剤)で、次いで抗菌薬3剤+プロバイオティクス、レボフロキサシン(LVFX)を用いる3剤併用治療、ハイブリッド療法(PPI+AMPCに続いてPPI+AMPC+CAM+メトロニダゾールMNZを服用する方法)、順次療法(PPI+AMPCを5~7日間、引き続きPPI+CAM+MNZまたはMNZを5~7日間服用)などが除菌成功率が高いレジメンであった。一方、安全性に関しては、LVFXを用いるものと、抗菌薬3剤+プロバイオティクスを用いたレジメンにおいて、ほかのレジメンと比較して有害事象の発生が高率であった。 ピロリ感染に対する除菌治療の有効性・除菌率は、地域の耐性菌率により大きな影響を受けるとともに、除菌判定法の精度によっても大きく左右される。したがって、今回の報告による有効性の高い除菌治療レジメンが万国共通に優れた治療法とは言い難い。わが国の保険診療では、ピロリ感染症に対して保険適用とされているのは、PPI+AMPC+CAMの3剤併用レジメンが1次除菌治療として、CAMをMNZに変更したレジメンが2次治療レジメンとして保険承認されているが、その他のレジメンは未承認で自費診療となっている。なお、最近使用可能となった新たなPPIを用いたレジメンの1次除菌率が、90%以上であると報告されている。

608.

経口抗菌薬への早期切り替え、誤嚥性肺炎でも有効か

 市中肺炎において、早期に抗菌薬の点滴静注から経口投与に移行するスイッチ療法の有効性が報告されているが、誤嚥性肺炎については報告されていない。そこで、聖路加国際病院呼吸器内科 宇仁 暢大氏らは、誤嚥性肺炎患者を対象に、新たに設けられた市中肺炎に対する切り替え基準の可能性と有効性を前向き観察研究で検討した。その結果、患者の約75%がこの新たな切り替え基準を満たし、その約90%が経口投与に安全に移行したことから、この基準の有効性と実現可能性が示唆された。Respiratory investigation誌2015年9月号に掲載。 本研究の対象は、聖路加国際病院で10ヵ月の間に誤嚥性肺炎で入院した患者で、集中治療を要した患者は除外した。早期の切り替えの基準は、バイタルサインが安定していること(体温:38℃以下、呼吸数:24回/分以下、脈拍:24時間以上100回/分以下)と、嚥下評価が良好(反復唾液嚥下テスト2点以上、改訂水飲みテスト4点以上)であることとした。主要評価項目は、経口抗菌薬に移行後30日間、静注に戻すことなく治療が良好に完了することした。成功率は、先行研究に基づき60~75%と予想した。 主な結果は以下のとおり。・誤嚥性肺炎で入院した70例のうち、32例(45.7%)が除外され、38例(54.3%)が選択基準を満たした。・38例のうち、29例(76.3%)が切り替え基準を満たし、それぞれの入院期間中央値は、16日(5~30日)および30日(12~68日)であった(p=0.03)。・切り替え基準を満たした患者のうち、26例(89.7%)が良好に経口治療を完了したが、3例(10.3%)が再度静注となった。

609.

H.pylori除菌治療、最も有効なレジメンは?/BMJ

 複数あるヘリコバクター・ピロリ(H.pylori)除菌治療の有効性と忍容性について、中国・安徽医科大学のBao-Zhu Li氏らが、システマティックレビューとネットワークメタ解析により評価を行った。結果、14種類の除菌治療に関するデータが入手でき、解析の結果、標準治療とされている抗菌薬3剤併用7日間の効果が最も低く、最も有効であるのは、併用療法(抗菌薬3剤+PPI阻害薬)で、次いで抗菌薬3剤+生菌10~14日間、レボフロキサシンベースのトリプル治療10~14日間、ハイブリッド治療14日間、逐次的治療10~14日間であることが示唆された。標準治療は除菌効果が低いとして、多くの新たなレジメンが導入され、効果が高いものがあることも報告されている。しかし、各治療間の比較や最適な治療を特定する検討はこれまで限定的であった。BMJ誌オンライン版2015年8月19日号掲載の報告。14種類の除菌治療データをネットワークメタ解析 研究グループは、言語や日付を限定せず、Cochrane Library、PubMed、Embaseを検索し、成人を対象としたH.pylori除菌治療の無作為化試験の全文報告を特定し、除菌率が最も高く、同時に一般的な有害事象の尤度が最も低い除菌治療を調べた。 検索により1万5,565試験が特定された。143試験が適格基準を満たし、14種類の除菌治療に関するデータが入手でき解析に組み込んだ(intention to treat解析被験者数3万2,056例)。最も有効性が高かったのは併用療法(抗菌薬3剤+PPI阻害薬)7日間 有効性アウトカムに関する比較は91件で、そのうち直接比較されたものは34件であった。 除菌効果は、標準療法を含めすべての治療で有効であったが、有効性のランク付けで最も高位だったのは「併用療法(抗菌薬3剤+PPI阻害薬)7日間」で、次いで「併用療法10~14日間」「抗菌薬3剤+生菌10~14日間」「レボフロキサシンベースのトリプル治療(PPI阻害薬+レボフロキサシン+抗菌薬)10~14日間」「ハイブリッド治療14日間(PPI阻害薬+アモキシシリン7日間、PPI阻害薬+アモキシシリン+クラリスロマイシン+メトロニダゾール[5-nitroimidazole] 7日間)」「逐次的治療10~14日間(PPI阻害薬+アモキシシリン5~7日間、PPI阻害薬+クラリスロマイシン+メトロニダゾールまたはアモキシシリン5~7日間)であった。 忍容性もすべての治療で良好であると認められたが、同ランクが最高位であった「抗菌薬3剤+生菌7日間」「レボフロキサシンベースのトリプル治療7日間」は、有害事象の報告割合も高かった。

610.

特発性肺線維症の死亡率は悪性腫瘍よりも高い

 日本ベーリンガーインゲルハイムは、特定疾患治療研究事業の対象疾患である「特発性肺線維症」(IPF)の治療薬ニンテダニブ(商品名:オフェブ)の製品記者発表会を、8月20日都内において行った。 ニンテダニブは、本年7月に製造販売を取得、今秋にも発売が予定されている治療薬で、特発性肺線維症では初めての分子標的薬となる。特発性肺線維症は特徴的な所見で気付 はじめに本間 栄氏(東邦大学医学部医学科 内科学講座呼吸器内科学分野 教授)が、「特発性肺線維症 -病態・疫学-」と題してレクチャーを行った。 特発性肺線維症は、肺胞壁などに炎症ができるため抗生物質、ステロイド、免疫抑制薬が効果を発揮しない治療抵抗性の難病である。 画像所見による診断では、X線単純所見で横隔膜の拳上が確認され、HRCT(高分解能胸部断層撮影)で胸膜下に蜂巣肺が確認されるのが特徴となる。また、臨床症状としては、慢性型労作性呼吸困難、乾性咳嗽、捻髪音(ベルクロ・ラ音)、ばち状指、胃食道酸逆流などが認められる。臨床経過で注意するポイントは、本症では急性増悪がみられ、わずか1年で呼吸不全に至る点である。 確定診断では、「特発性間質性肺炎診断のためのフローチャート」が使用され、原因不明のびまん性肺疾患をみたら、特発性肺線維症を疑いHRCT検査の施行、専門施設での診断などが望まれる。特発性肺線維症に喫煙をする高齢の男性は注意 特発性肺線維症の疫学として「北海道スタディ」より有病率は10万人当たり10.0人、わが国での推定患者数は1万3,000人程度と推定されている。男性に多く、中年以降の発症が多いのが特徴で、高齢化社会を背景に患者数は増加している。 予後について5年生存率でみた場合、肺がん(20%未満)に次いで悪く(20~40%未満)、死亡者数も増えている。また、わが国では患者の40%が「急性増悪」で亡くなっているほか、特発性肺線維症は発がん母地ともなり、30%程度の患者が肺がんへと進行する。 特発性肺線維症のリスクファクターは、患者関連因子と環境関連因子に分けられ、前者では、男性、高齢、喫煙、特定のウイルス(例:EBウイルス)、遺伝的素因、胃食道逆流などが挙げられ、後者では動物の粉塵曝露、鳥の飼育、理髪、金属や木材、石などの粉塵が挙げられる。問診などで社会歴も含め、よく聴取することが診断の助けとなる。特発性肺線維症治療の歴史 続いて、杉山 幸比古氏(自治医科大学 呼吸器内科 教授)が、「特発性肺線維症治療の現状と将来展望」と題して、解説を行った。 はじめに特発性肺線維症の病因として慢性的な刺激による肺胞上皮細胞傷害が、傷害の修復異常・線維化を引き起こすという考えに基づき、抗線維化薬の開発が行われた経緯などを説明した。 効果的な治療薬がない中で、吸入薬であるアセチルシステイン(商品名:ムコフィリン)は、導入薬としてながらく、安全かつ有害事象が少ない、安価な治療薬として使用されてきたことを紹介する一方で、経口薬で行われた海外の試験では効果が否定的とされたことと、ネブライザーでの吸入が必要なことで、コンプライアンスに問題があることを指摘した。 次に2008年に初めての抗線維化薬として登場したのが、ピルフェニドン(同:ピレスパ)であり、欧米で広く使用され、無増悪生存期間を延長し、呼吸機能の低下を抑制することが知られていると説明した。本剤の開発がきっかけとなり、世界的に抗線維化薬の開発が進んだ。特発性肺線維症に抗線維化薬で初めての分子標的薬 次に登場したのが、ニンテダニブ(同:オフェブ)である。ニンテダニブは、肺の線維化に関与する分子群受容体チロシンキナーゼを選択的に阻害する分子標的薬で、25ヵ国が参加した第II相試験では、用量依存的に努力性肺活量(FVC)の低下率を68.4%抑制し、急性増悪を有意に低下させたほか、QOLの有意な改善を認めたとする結果が報告された。また、第III相試験では、40歳以上の軽症~中等の特発性肺線維症患者、約1,000例について観察した結果、プラセボとの比較でFVCの年間減少率を約半分に抑える結果となった(-113.6% vs. -225.5%)。また、373日間の期間で初回急性増悪発現までの割合を観察した結果、ニンテダニブが1.9%(n=638)であるのに対し、プラセボでは5.7%(n=423)と急性増悪の発生を抑えることも報告された。 主な有害事象としては、下痢(62.4%)、悪心(24.5%)、鼻咽頭炎(13.6%)などが報告されている(n=638)。とくに下痢に関しては、対症療法として補液や止瀉薬の併用を行うか、さらに下痢が高度な場合は、ニンテダニブの中断または中止が考慮される。 今後は、国際ガイドラインでも推奨されているように広く適用があれば使用すべきと考えられるほか、がんとの併用療法も視野に入れた治療も考える必要がある。 最後に特発性肺線維症治療の展望と課題として、「線維化の機序のさらなる解明、急性増悪因子の解明とその予防、患者ごとに治療薬の使い分けと併用療法の研究、再生医療への取り組みなどが必要と考えられる」とレクチャーを終えた。

611.

ネットによる手洗い行動介入は気道感染症の抑制に有効/Lancet

 インターネットを利用して手洗い行動を促す介入法は、気道感染症の拡大の抑制に有効であることが、英国・サウサンプトン大学のPaul Little氏が実施したPRIMIT試験で示された。手洗いは、気道感染症の拡大予防に広く支持され、とくに新型インフルエンザA(H1N1)ウイルスのパンデミック(pandemic)の際には世界保健機関(WHO)が推奨した。一方、主な感染経路は飛沫とする見解があるなど、手洗いの役割については議論があり、また非貧困地域の成人に関する質の高い無作為化試験のエビデンスはこれまでなかったという。さらに、パンデミックのリスクの増大に伴い、迅速に利用できる低コストの介入法が求められている。Lancet誌オンライン版2015年8月6日号掲載の報告。プライマリケアでのネット介入の効果を検証 PRIMIT試験は、プライマリケアにおいて、手洗い行動へのインターネットを用いた介入(https://www.lifeguideonline.org/player/play/primitdemo)による気道感染症の拡大の抑制効果を評価するオープンラベルの無作為化試験(英国Medical Research Councilの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、1人以上の同居者がいる者とし、英国の一般医(GP)の患者リストから無作為に選んで、インフルエンザの感染拡大を防止する試験への参加を呼びかける書面を郵送した。被験者は、ウェブベースの介入を受ける群(介入群)またはこれを受けない群(対照群)に無作為に割り付けられた。 ウェブベースのセッションは週1回、合計4回行われ、内容は毎回更新された。セッションでは、インフルエンザの重要性や手洗いの役割に関する情報が提供された。また、手洗いの意欲を最大化する計画を立て、手洗い行動を管理し、個々の参加者に合わせたフィードバックを行うなどの介入が行われた。 主要評価項目は16週のフォローアップを完了した集団における気道感染症のエピソードであった。感染率:51 vs.59%、パンデミック期にも有効な可能性 2011年1月17日~2013年3月31日までに、英国内各地域344ヵ所のGP施設に2万66例が登録され、介入群に1万40例、対照群に1万26例が割り付けられた。このうち1万6,908例(84%、介入群8,241例、対照群8,667例)が16週のフォローアップを完了した。 16週時に、介入群の51%(4,242例)が1回以上の気道感染症のエピソードを報告したのに対し、対照群は59%(5,135例)であり、介入による有意な感染抑制効果が認められた(多変量リスク比[mRR]:0.86、95%信頼区間[CI]:0.83~0.89、p<0.0001)。 同居者の気道感染症エピソード(44 vs.49%、mRR:0.88、95%CI:0.85~0.92、p<0.0001)、インフルエンザ様疾患(6 vs.7%、0.80、0.72~0.92、p=0.001)、消化器感染症(21 vs.25%、0.82、0.76~0.88、p<0.0001)も、介入群で有意に抑制された。 介入により、気道感染症は同居者への感染だけでなく同居者からの感染も抑制された。また、16週および1年後のプライマリケアにおける抗菌薬の使用、および気道感染症によるプライマリケアでのコンサルテーションや入院も、介入群で有意に改善された。 試験期間中に両群2人ずつが感染症で入院した。ベースライン時に皮膚症状を認めなかった集団では、介入に伴い軽度の皮膚症状(自己申告)が増加した(4%[231/5,429例] vs.1%[79/6,087例]、p<0.0001)が、皮膚関連のコンサルテーションに影響はなかった。重篤な有害事象は報告されなかった。 著者は、「気道感染症やインフルエンザ様疾患では手から口への感染が重要であり、非パンデミック期における手洗い行動の増加を目指した簡便なインターネットベースの行動介入は、急性気道感染症の抑制に有効であることが示された」とし、「パンデミック期には、より関心が高まり、情報を求めてインターネットへのアクセスが増加することを考慮すると、このような介入はパンデミック期にも効果的に実施可能と考えられる」と指摘している。

612.

1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第23回

第23回:消化性潰瘍とH. pylori感染症の診断とH. pylori除菌治療について監修:吉本 尚(よしもと ひさし)氏 筑波大学附属病院 総合診療科 消化器病領域で遭遇する頻度が多い疾患の1つに消化性潰瘍が挙げられますが、その原因のほとんどが、ヘリコバクター・ピロリ菌感染とNSAIDsの使用によるものと言われています。ヘリコバクター・ピロリ菌には日本人の約50%弱が感染していると言われ、がんの発生にも関与しているため、どのような人にどのような検査・治療を行うべきかを理解しておくことが重要です。 除菌治療に関連して、カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)などの新しい治療薬も販売されていますが、日本での除菌適応は「H. pylori 陽性の胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病、早期胃がんに対する内視鏡的治療後胃、ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎」で、胃炎の場合には上部消化管内視鏡での確認が必須となっていることに注意が必要です。いま一度、既存の診断と除菌治療戦略について知識の整理をしていただければ幸いです。 タイトル:消化性潰瘍とH. pylori感染症の診断とH. pylori除菌治療について以下、 American Family Physician 2015年2月15日号1)より一部改変H. pyloriはグラム陰性菌でおよそ全世界の50%以上の人の胃粘膜に潜んでいると言われ、年代によって感染率は異なる。十二指腸潰瘍の患者の95%に、胃潰瘍の患者の70%の患者に感染が見られる。典型的には幼少期に糞口感染し、数十年間持続する。菌は胃十二指腸潰瘍やMALTリンパ腫、腺がんの発生のリスクとなる。病歴と身体所見は潰瘍、穿孔、出血や悪性腫瘍のリスクを見出すためには重要であるが、リスクファクターと病歴、症状を用いたモデルのシステマティックレビューでは機能性dyspepsiaと器質的疾患を、明確に区別できないとしている。そのため、H. pyloriの検査と治療を行う戦略が、警告症状のないdyspepsia(胸やけ、上腹部不快感)の患者に推奨される。米国消化器病学会では、活動性の消化性潰瘍や消化性潰瘍の既往のある患者、dyspepsia症状のある患者、胃MALTリンパ腫の患者に検査を行うべきとしている。現在無症状である消化性潰瘍の既往のある患者へ検査を行う根拠は、H. pyloriを検出し、治療を行うことで再発のリスクを減らすことができるからである。H. pyloriを検出するための検査と治療の戦略は、dyspepsiaの患者のほか、胃がんのLow Risk群(55歳以下、説明のつかない体重減少や進行する嚥下障害、嚥下痛、嘔吐を繰り返す、消化管がんの家族歴、明らかな消化管出血、腹部腫瘤、鉄欠乏性貧血、黄疸などの警告症状がない)の患者に適当である。内視鏡検査は55歳以上の患者や警告症状のある患者には推奨される。H. pyloriの検査の精度は以下のとおりである。<尿素呼気試験>感度と特異度は100%に達する。尿素呼気試験は除菌判定で選択される検査の1つであり、除菌治療終了から4~6週間空けて検査を行うべきである。プロトンポンプ阻害薬(PPI)は、検査の少なくとも2週間前からは使用を控えなければならず、幽門側胃切除を行った患者では精度は下がる。<便中抗原検査>モノクローナル抗体を用いた便中抗原検査は、尿素呼気試験と同等の精度を持ち、より安くて簡便にできる検査である。尿素呼気試験のように便中抗原検査は活動性のある感染を検出し、除菌判定に用いることができる。PPIは検査の2週間前より使用を控えるべきだが、尿素呼気試験よりもPPIの使用による影響は少ない。<血清抗原>血清抗原検査は血清中のH. pyloriに特異的なIgGを検出するが、活動性のある感染か、既感染かは区別することができない。そのため除菌判定に用いることはできない。検査の感度は高いが、特異的な検査ではない(筆者注:感度 91~100% 特異度 50~91%)2)。PPIの使用や、抗菌薬の使用歴に影響されないため、PPIを中止できない患者(消化管出血を認める患者、NSAIDsの使用を続けている人)に最も有用である。<内視鏡を用いた生検>内視鏡検査による生検は、55歳以上の患者と1つ以上の警告症状のある患者には、がんやその他の重篤な原因の除外のために推奨される。内視鏡検査を行う前の1~2週間以内のPPIの使用がない患者、または4週間以内のビスマス(止瀉薬)や抗菌薬の使用がない患者において、内視鏡で施行される迅速ウレアーゼテストはH. pylori感染症診断において精度が高く、かつ安価で行える。培養とPCR検査は鋭敏な検査ではあるが、診療所で用いるには容易に利用できる検査ではない。除菌治療すべての消化性潰瘍の患者にH. pyloriの除菌が推奨される。1次除菌療法の除菌率は80%以上である。抗菌薬は地域の耐性菌の状況を踏まえて選択されなければならない。クラリスロマイシン耐性率が低い場所であれば、標準的な3剤併用療法は理にかなった初期治療である。除菌はほとんどの十二指腸潰瘍と、出血の再発リスクをかなり減らしてくれる。消化性潰瘍が原因の出血の再発防止においてはH. pyloriの除菌治療は胃酸分泌抑制薬よりも効果的である。<標準的3剤併用療法>7~10日間の3剤併用療法のレジメン(アモキシシリン1g、PPI、クラリスロマイシン500mgを1日2回)は除菌のFirst Lineとされている。しかし、クラリスロマイシン耐性が増えていることが、除菌率の低下に関連している。そのため、クラリスロマイシン耐性のH. pyloriが15%~20%を超える地域であれば推奨されない。代替療法としては、アモキシシリンの代わりにメトロニダゾール500mg1日2回を代用する。<Sequential Therapy(連続治療)>Sequential TherapyはPPIとアモキシシリン1g1日2回を5日間投与し、次いで5日間PPI、クラリスロマイシン500mg1日2回、メトロニダゾール500mg1日2回を投与する方法である。全体の除菌率は84%、クラリスマイシン耐性株に対して除菌率は74%である。最近の世界規模のメタアナリシスでは、sequential therapyは7日間の3剤併用療法よりも治療効果は優れているが、14日間の3剤併用療法よりも除菌率は劣るという結果が出ている。<ビスマスを含まない4剤併用療法>メトロニダゾール500mg1日2回またはチニダゾール500mg1日2回を標準的な3剤併用療法に加える治療である。Sequential Therapyよりも複雑ではなく、同様の除菌率を示し、クラリスロマイシンとメトロニダゾール耐性株を有する患者でも効果がある。クラリスロマイシンとメトロニダゾールの耐性率が高い地域でも90%にも及ぶ高い除菌率であるが、クラリスロマイシンを10日間服用する分、sequential therapyよりも費用が掛かってしまう。除菌判定H. pyloriの除菌判定のための尿素呼気試験や便中抗原の試験の適応は、潰瘍に関連したH. pylori感染、持続しているdyspepsia症状、MALTリンパ腫に関連したH. pylori感染、胃がんに対しての胃切除が含まれる。判定は除菌治療が終了して4週間後以降に行わなければならない。※本内容は、プライマリケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) Fashner J , et al. Am Fam Physician. 2015;91:236-242. 2) 日本ヘリコバクター学会ガイドライン作成委員会.H. pylori 感染の診断と治療のガイドライン 2009 改訂版

613.

事例67 クリンダマイシンリン酸エステルゲル(商品名:ダラシンTゲル)の査定【斬らレセプト】

解説事例では、ニキビの腫れ、痛みで受診、鼻周囲膿瘍と鼻腔への浸出液がみられたため「毛包炎」と診断、クリンダマイシン酸エステルゲル(ダラシンTゲル®)を処方したところ、C事由(医学的理由による不適当)として査定となった。その理由を調べてほしいと連絡があった。使用されたクリンダマイシン酸エステルゲル(ダラシンTゲル®)の添付文書をみてみる。抗菌薬に分類され、適応菌種は「クリンダマイシンに感性のブドウ球菌属、アクネ菌」に限定されている。適応疾患は「ざ瘡(化膿性炎症を伴うもの)」のみであった。毛包炎に適応はなかった。医師は「毛包炎とざ瘡は同じような疾患であって、事例の場合は薬剤が著効した」と説明した。しかし、レセプトの実日数は1日であり、細菌検査のコメントもなく、医師の説明を読み取るすべがない。その旨を説明し、適応疾患のない薬剤投与は原則として査定されるので、添付文書を意識した投与をお願いした。

614.

ASPECT-cUTI試験:複雑性尿路感染症におけるセフトロザン/タゾバクタムの治療効果~レボフロキサシンとの第III相比較試験(解説:吉田 敦 氏)-401

 腎盂腎炎を含む複雑性尿路感染症の治療は、薬剤耐性菌の増加と蔓延によって選択できる薬剤が限られ、困難な状況に直面している。セファロスポリン系の注射薬であるセフトロザンとタゾバクタムの合剤である、セフトロザン/タゾバクタムは、βラクタマーゼを産生するグラム陰性桿菌に効果を有するとされ、これまで腹腔内感染症や院内肺炎で評価が行われてきた。今回、複雑性尿路感染症例を対象とした第III相試験が行われ、その効果と副作用が検証され、Lancet誌に発表された。用いられたランダム化比較試験 成人に1.5 gを8時間ごとに投与を行った、ランダム化プラセボ対照二重盲検試験であり、欧州・北米・南米など25ヵ国で実施された。膿尿があり、複雑性下部尿路感染症ないし腎盂腎炎と診断された入院例を、ランダムにセフトロザン/タゾバクタム投与群と高用量レボフロキサシン投与群(750mg /日)に割り付けた。投与期間は7日間とし、微生物学的に菌が証明されなくなり、かつ、治療開始5~9日後に臨床的に治癒と判断できた状態をエンドポイントとした(Microbiological modified Intention-to-treat:MITT)。同時に、合併症・副作用の内容と出現頻度を比較した。レボフロキサシンに対して優れた成績 参加した1,083例のうち、800例(73.9%)で治療開始前の尿培養などの条件が満たされ、MITT解析を行った。うち656例(82.0%)が腎盂腎炎であり、2群間で年齢やBMI、腎機能、尿道カテーテル留置率、糖尿病・菌血症合併率に差はなかった。また776例は単一菌の感染であり、E. coliがほとんどを占め(629例)、K. pneumoniae(58例)、P. mirabilis(24例)、P. aeruginosa(23例)がこれに次いだ。なお、開始前(ベースライン)の感受性検査では、731例中、レボフロキサシン耐性は195例、セフトロザン/タゾバクタム耐性は20例に認めた。 結果として、セフトロザン/タゾバクタム群の治癒率は76.9%(398例中306例)、レボフロキサシン群のそれは68.4%(402例中275例)であり、さらに尿中の菌消失効果もセフトロザン/タゾバクタム群が優れていることが判明した。菌種別にみても、ESBL産生大腸菌の菌消失率はセフトロザン/タゾバクタムで75%、レボフロキサシンで50%であった。合併症と副作用に及ぼす影響 セフトロザン/タゾバクタム群では34.7%、レボフロキサシン群では34.4%で何らかの副作用が報告された。ほとんどは頭痛や消化器症状など軽症であり、重い合併症(腎盂腎炎や菌血症への進行、C. difficile感染症など)はそれぞれ2.8%、3.4%であった。副作用の内容を比べると、下痢や不眠はレボフロキサシン群で、嘔気や肝機能異常はセフトロザン/タゾバクタム群で多かった。今後のセフトロザン/タゾバクタムの位置付け セフトロザン/タゾバクタムは抗緑膿菌作用を含む幅広いスペクトラムを有し、耐性菌の関与が大きくなっている主要な感染症(複雑性尿路感染症、腹腔内感染症、人工呼吸器関連肺炎)で結果が得られつつある。今回の検討は、尿路感染症に最も多く用いられているフルオロキノロンを対照に置き、その臨床的・微生物効果を比較し、セフトロザン/タゾバクタム群の優位性と忍容性を示したものである。 しかしながら、ベースラインでの耐性菌の頻度からみれば、レボフロキサシン群の効果が劣るのは説明可能であるし、尿路の基礎疾患(尿路の狭窄・閉塞)による治療効果への影響についても本報告はあまり言及していない。そもそも緑膿菌も、さらにESBL産生菌も視野に入れた抗菌薬を当初から開始することの是非は、今回の検討では顧みられていない。また、腸管内の嫌気性菌抑制効果も想定され、これが常在菌叢の著しいかく乱と、カルバぺネム耐性腸内細菌科細菌のような耐性度の高いグラム陰性桿菌の選択に結び付くことは十分ありうる。実際に、治療開始後のC. difficile感染症はセフトロザン/タゾバクタム群でみられている。 セフトロザン/タゾバクタムをいずれの病態で使用する場合でも、その臨床応用前に、適応について十分な議論がなされることを期待する。販売し、いったん市場に委ねてしまうと、適応は不明確になってしまう。本剤のような抗菌薬は、適応の明確化のみならず、使用期間の制限が必要かもしれない。

615.

成人市中肺炎の原因微生物(解説:小金丸 博 氏)-390

 肺炎は、今でも入院や死亡原因となる重要な感染症である。肺炎球菌ワクチンが普及し、微生物検査が進歩した現代において、市中肺炎の発生率と原因微生物を調査するためにCDC(米国疾病管理予防センター)がactive population-based studyを実施した。 本研究では、シカゴとナッシュビルの5病院に市中肺炎で入院した18歳以上の成人を対象とし、28日以内の入院歴のある患者や免疫不全患者(気管切開や胃瘻が造設されている患者、臓器移植後、嚢胞線維症、CD4数200/μl未満のHIV感染症患者など)は除外された。肺炎は、発熱などの急性感染症状があること、咳などの急性呼吸器症状があること、胸部X線で肺炎像があることと定義した。病原体診断は、細菌培養(血液、胸水、良質な喀痰、気管吸引物)、遺伝子検査(喀痰、胸水、鼻咽頭・口腔咽頭スワブ)、尿中抗原検査、ペア血清による抗体検査で行った。 2010年1月~2012年6月の調査期間で、2,320例が胸部X線で肺炎像を確認された。そのうち498例(21%)が集中治療を必要とし、52例(2%)が死亡した。入院が必要な肺炎の発生件数は、年間1万人当たり24.8(95%信頼区間:23.5~26.1)だった。年齢ごとにみると、18~49歳の発生率が6.7(同:6.1~7.3)、50~64歳が26.3(同:24.1~28.7)、65~79歳が63.0(同:56.4~70.3)、80歳以上が164.3(同:141.9~189.3)であり、高齢になるほど高い傾向がみられた。 2,259例で細菌検査とウイルス検査の両方が実施され、853例(38%)で病原体が検出された。ウイルスのみが530例(23%)、細菌のみが247例(11%)、ウイルスと細菌を同時検出したのが59例(3%)、真菌あるいは抗酸菌が17例(1%)だった。検出された病原体は、多い順にヒトライノウイルス(9%)、インフルエンザウイルス(6%)、肺炎球菌(5%)だった。 本研究では、過去の研究よりも検出感度の高い微生物検査を用いたにもかかわらず、肺炎患者から病原体を検出できたのは38%のみだった。その理由としては、下気道検体を採取できなかったこと、検体採取前の抗菌薬投与の影響、非感染性疾患の可能性などが挙げられる。肺炎の原因微生物を決定することは、現在の微生物検査のレベルをもってしても困難であることを知っておくべきだろう。 肺炎像を呈している患者から最も多く検出された病原体は、“かぜ”の原因微生物として知られるヒトライノウイルスだった。このウイルスが肺炎の原因微生物になっているのかは疑問の余地があるが、無症候コントロール群ではまれにしか検出されておらず、成人の市中肺炎発症に関与している可能性は十分考えられる。 原因微生物として、インフルエンザウイルスや肺炎球菌が多いことも示された。これらに対してはワクチンが存在するため、さらなるワクチンの普及、啓発が重要であると考える。

616.

侮れない侵襲性髄膜炎菌感染症にワクチン普及願う

 サノフィ株式会社は2015年7月3日、侵襲性髄膜炎菌感染症(Invasive Meningococcal Disease、以下IMD)を予防する4価髄膜炎菌ワクチン(ジフテリアトキソイド結合体)(商品名:メナクトラ筋注)のプレスセミナーを開催。川崎医科大学小児科学主任教授 尾内 一信氏と、同大学小児科学教授 中野 貴司氏がIMDの疾患概要や予防ワクチンの必要性について講演した。  細菌性髄膜炎の起因菌にはHib(インフルエンザ菌b型)、肺炎球菌などがあるが、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)もその1つである。髄膜炎菌は髄膜炎以外にも菌血症、敗血症などを引き起こし、それらをIMDと呼ぶ。IMDの初期症状は風邪症状に類似しており、早期診断が難しい。だが、急速に進行し発症から24~48時間以内に患者の5~10%が死に至り、生存しても11~19%に難聴、神経障害、四肢切断など重篤な後遺症が残ると報告されている。また、髄膜炎菌は感染力が強く、飛沫感染で伝播するため集団感染を起こしやすい。そのため、各国の大学・高校、さらにスポーツイベントなどでの集団感染が多数報告されている。このような状況から、IMDは本邦でも2013年4月より第5類感染症に指定されている。 IMDは全世界で年間50万件発生し、うち約5万人が死亡に至っている。IMDの発生は髄膜炎ベルトといわれるアフリカ中部で多くみられるが、米国、オーストラリア、英国などの先進国でも流行を繰り返しており注意が必要だ。米国疾病予防管理センター(CDC)によれば、米国では2005年~2011年に年間800~1,200人のIMDが報告されている。発症年齢は5歳未満と10歳代が多くを占める。本邦でも、2005年1月~2013年10月に報告されたIMD 115例の好発年齢は0~4歳と15~19歳であった。 IMDの治療にはペニシリンGまたは第3世代セフェム系抗菌薬などが用いられるが、急速に進行するため予防対策が重要となる。IMDの予防にはワクチン接種が有効であることが明らかになっている。本邦の第III相試験の結果をみても、4価髄膜炎菌ワクチン接種後、80%以上の接種者の抗体価が上昇しており、その有効性が示されている。このような高い有効性から、発症数は多くないものの、米国、オーストラリア、英国においてはすでに定期接種ワクチンとなっている。 本邦でも4価髄膜炎菌ワクチン「メナクトラ筋注」が本年(2015年)5月に発売され、IMDの予防が可能となった。しかしながら、本邦におけるIMDの認知度は医師および保護者の双方で低い。また、IMDワクチンの医師の認知率は49%と約半分である。IMDの罹患率は低いが、そのリスクは無視できない。今後の啓発活動が重要となるだろう。サノフィプレスリリース「侵襲性髄膜炎菌感染症」に関する意識調査(PDFがダウンロードされます)「メナクトラ筋注」新発売のお知らせ(PDFがダウンロードされます)

617.

急性虫垂炎は抗菌薬で治療が可能か?/JAMA

 単純性急性虫垂炎への抗菌薬治療は、虫垂切除術に対して非劣性ではないことが、フィンランド・トゥルク大学病院のPaulina Salminen氏らが実施したAPPAC試験で示された。本症の治療では、1世紀以上にわたり手術が標準とされてきた。一方、近年、3つの無作為化試験や5つのメタ解析など、抗菌薬治療を支持するエビデンスが増えていたが、個々の試験には限界があるため、依然として標準治療は虫垂切除術とされている。JAMA誌2015年6月16日号掲載の報告より。530例で非劣性を検証 APPAC試験は、急性虫垂炎は抗菌薬で治療が可能であるとの仮説を検証する非盲検無作為化非劣性試験。対象は、年齢18~60歳、単純性急性虫垂炎の疑いで救急診療部に入院し、CT検査で診断が確定された患者であった。 被験者は、ertapenem(1g/日)を3日間静脈内投与後、レボフロキサシン(500mg、1日1回)+メトロニダゾール(500mg、1日3回)を7日間経口投与する群(抗菌薬群)または標準的な開腹虫垂切除術を施行する群(手術群)に無作為に割り付けられ、1年間のフォローアップが行われた。 主要エンドポイントは、抗菌薬群が手術を要さない退院および1年時の非再発であり、手術群は虫垂切除術の成功であった。副次エンドポイントには、介入後の合併症、入院期間、介入後の疼痛スコア(視覚アナログスケール[VAS]:0~10、点が高いほど疼痛が強い)などが含まれた。 2009年11月~2012年6月の間に、フィンランドの6施設に530例が登録され、抗菌薬群に257例(年齢中央値:33.0歳、男性:60.3%)、手術群には273例(35.0歳、63.7%)が割り付けられた。抗菌薬群のうち1年以内に外傷で死亡した1例を除く256例がフォローアップを完了した。抗菌薬治療成功率72.7%、遅延的手術例に重度合併症を認めず 抗菌薬群のうち、70例(27.3%、95%信頼区間[CI]:22.0~33.2%)に対し初回虫垂炎発症から1年以内に手術が行われ、手術を要さなかったのは186例(72.7%、95%CI:66.8~78.0)であった。一方、手術群では、1例を除き虫垂切除術が成功し、成功率は99.6%(95%CI:98.0~100.0)であった。 intention-to-treat(ITT)解析では、両群間の治療効果の差は−27.0%(95%CI:-31.6~∞、p=0.89)であった。これは、事前に規定された非劣性マージンである24%を満たさないことから、虫垂切除術に対する抗菌薬治療の非劣性は示されなかった。 抗菌薬群で手術を受けた70例のうち、58例(82.9%)は単純性虫垂炎で、7例(10.0%)は複雑性急性虫垂炎であり、5例(7.1%)は虫垂炎は正常だが再発疑いで虫垂切除術が施行されていた。これら抗菌薬群の遅延的手術例には、腹腔内膿瘍や他の重度の合併症はみられなかった。 合併症発症率は抗菌薬群が2.8%であり、手術群の20.5%に比べ有意に低かった(p<0.001)。初回入院期間中央値は抗菌薬群が3.0日(四分位範囲:3~3)と、手術群の3.0日(2~3)よりも有意に長かった(p<0.001)。疼痛スコアは退院時がそれぞれ2.0点、3.0点(p<0.001)、1週間後が1.0点、2.0点(p<0.001)であり、いずれも抗菌薬群で疼痛が有意に軽度であった。 著者は、「抗菌薬治療の非劣性は確認できなかったが、72.7%という抗菌薬治療の成功率は、既報の3つの無作為化試験や最近の地域住民ベースの前向き研究と比較して良好であり、最終的に手術を受けた患者も重度の合併症を認めなかった」とまとめ、「患者に抗菌薬と手術に関する情報を提供し、意思決定できるようにすべきである。今後は、手術を要する複雑性急性虫垂炎患者を早期に同定する試験、および抗菌薬治療が至適と考えられる単純性急性虫垂炎患者を前向きに評価する研究を進めるべきである」と指摘している。

618.

Borrelia miyamotoiに気を付けろッ! その2【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。国立国際医療研究センター 国際感染症センターの忽那です。このタイトルの連載は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そしてときにまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。前回はBorrelia miyamotoiの微生物学的な特徴、国外での疫学についてご紹介いたしましたが、今回は日本国内の疫学、臨床像、治療、そして気を付け方についてご紹介したいと思います。Borrelia miyamotoiの日本国内の疫学2011年からBorrelia miyamotoiによる感染症が海外でも報告され、日本でもそのうち感染例が出るのではないかと、まことしやかにささやかれ始めました。そもそも日本で最初に見つかった微生物ですからね。そして、ついに日本国内からもBorrelia miyamotoi感染症が報告される日が来ました。Borrelia miyamotoiは、ライム病グループのボレリア属と同じマダニに媒介されるという特徴や、海外ではライム病との共感染が示唆される事例が相次いでいたことから、わが国でも疑い例を含むライム病患者408例の血清でBorrelia miyamotoiのPCRが行われたところ、2例でBorrelia miyamotoi遺伝子が検出されたことから、ライム病との共感染のBorrelia miyamotoi感染症と考えられました1)。この2例はどちらも北海道在住の方で、発症2週間以内にマダニに咬まれていました。日本でも……日本でも回帰熱に感染するのですッ! このうち1例はより詳細な症例報告があります2)。この方は、北海道の山中で仕事をしている際に前胸部をマダニに咬まれており、その12日後、マダニ刺咬部前胸部に、遊走性紅斑が出現したため病院へ受診しています。ライム病に典型的な遊走性紅斑であったことから、当初ライム病と診断されセフトリアキソン1g/日を7日間投与され症状は消失しています。ボレリア抗体が陽性ということで、ライム病として届出が行われましたが、後日PCR法でBorrelia miyamotoi の遺伝子が検出されたことから、回帰熱としても届出が行われました。やはりライム病との共感染の頻度が高いようです。北海道ではマダニの調査も行われており、マダニの種類によって異なるものの、シュルツェマダニなどのマダニが数%の頻度でBorrelia miyamotoiを保有していることが明らかになっています3)。ライム病は北海道以外にも長野県などで報告があること、またシュルツェマダニは北海道だけでなく、全国に分布していることから北海道以外の地域でもBorrelia miyamotoiに感染する可能性はあると考えられます。Borrelia miyamotoiの臨床像、治療、そして気を付け方Borrelia miyamotoi感染症は、まだ報告例が少ないことから臨床像についてもまだ未知な部分が多いのですが、ロシアで報告された46例では高熱、頭痛、倦怠感、筋肉痛、関節痛といった非特異的な症状の頻度が高かったようです4)。46例中9例で遊走性紅斑が認められていますが、これはおそらくライム病との共感染と考えられます。Borrelia miyamotoi感染症は回帰熱グループなんですが、このロシアの報告でも5例だけで繰り返す発熱エピソードが観察されており、他の回帰熱グループと比べるとそんなに発熱は回帰しないんじゃないかと考えられています。ちょっとテンション下がりますね。また、免疫不全者では、慢性髄膜炎の原因にもなるようです5)。治療についても未知な部分は多いのですが、元々ボレリア属はいろんな抗菌薬が効きまくる微生物であり、これまでにペニシリンGやセフトリアキソン、ドキシサイクリンで治療されています。おそらくライム病と同じように、これらの抗菌薬が有効と考えられます。治療期間は2週間というものが多いようですが、適切な治療期間については不明です。 また、治療の際に注意すべき点として、スピロヘータ特有の問題であるJarisch-Herxheimer反応があります5)。治療開始後に発熱やショック状態を呈することがあり、治療を開始したら、しばらくは慎重に経過観察をしましょう。最後に、Borrelia miyamotoi感染症の気を付け方ですが、これまでに明らかになっている疫学や臨床像から、ライム病を疑った患者ではBorrelia miyamotoiの共感染も考えるシュルツェマダニなどの生息する地域でマダニに曝露して10~14日後に高熱を伴う非特異的症状を呈した患者で、原因がわからないもの(とくに回帰性発熱を呈する患者)ではBorrelia miyamotoi感染症を考えるあたりが落としどころになるかと思います。これからマダニの季節がやってきます。読者の皆さまもときどきBorrelia miyamotoiについて、思いを馳せてみてください……。次回は、日本上陸間近と懸念されている「チクングニア熱」の気を付け方に迫りたいと思います!1)Sato K, et al. Emerg Infect Dis. 2014;20:1391-1393.2)兼古稔. 日臨救医誌. 2015;18:63-67.3)Takano A, et al. PLoS One. 2014;9:e104532.4) Platonov AE, et al. Emerg Infect Dis. 2011;17:1816-1823.5) Gugliotta JL, et al. N Engl J Med. 2013;368:240-245.

619.

耐性菌が増加する尿路感染症に有望な抗菌薬/Lancet

 複雑性下部尿路感染症や腎盂腎炎に対し、新規抗菌薬セフトロザン/タゾバクタム配合薬は、高用量レボフロキサシンに比べ高い細菌学的効果をもたらすことが、ドイツ・ユストゥス・リービッヒ大学のFlorian M Wagenlehner氏らが実施したASPECT-cUTI試験で示された。尿路感染症は生命を脅かす感染症の発生源となり、入院患者における敗血症の重要な原因であるが、抗菌薬耐性の増加が治療上の大きな課題となっている。本薬は、新規セファロスポリン系抗菌薬セフトロザンと、βラクタマーゼ阻害薬タゾバクタムの配合薬で、多剤耐性緑膿菌のほか、基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生腸内細菌などのグラム陰性菌に対する効果がin vitroで確認されている。Lancet誌オンライン版2015年4月27日号掲載の報告。セフトロザン/タゾバクタム配合薬の有効性を非劣性試験で評価 ASPECT-cUTI試験は、セフトロザン/タゾバクタム配合薬の高用量レボフロキサシンに対する非劣性を検証する二重盲検ダブルダミー無作為化試験。対象は、年齢18歳以上、膿尿を認め、複雑性下部尿路感染症または腎盂腎炎と診断され、治療開始前に尿培養検体が採取された入院患者であった。 被験者は、セフトロザン/タゾバクタム配合薬(1.5g、8時間ごと、静脈内投与)または高用量レボフロキサシン(750mg、1日1回、静脈内投与)を7日間投与する群に1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要評価項目は、治療終了後5~9日における細菌学的菌消失と臨床的治癒の複合エンドポイントであった。細菌学的菌消失は、治癒判定時の尿培養検査におけるベースラインの尿路病原菌の104コロニー形成単位(CFU)/mL以上の減少と定義した。また、臨床的治癒は、複雑性下部尿路感染症または腎盂腎炎の完全消失、著明改善、感染前の徴候、症状への回復であり、それ以上の抗菌薬治療を必要としない場合とした。 非劣性マージンは10%とし、両側検定による群間差の95%信頼区間(CI)の下限値が-10%より大きい場合に非劣性と判定した。また、95%CIの下限値が0を超える場合は優位性があるとした。セフトロザン/タゾバクタム配合薬群の優位性を確認 2011年7月~2013年9月に、25ヵ国209施設に1,083例が登録され、800例(73.9%)が解析の対象となった(セフトロザン/タゾバクタム配合薬群:398例、レボフロキサシン群:402例)。 656例(82.0%)が腎盂腎炎で、274例(34.3%)が軽度~中等度の腎機能障害を有し、199例(24.9%)が65歳以上であった。菌血症の62例(7.8%)の原因菌のほとんどは大腸菌で、多くが腎盂腎炎患者であった。また、776例(97.0%)が単一菌感染で、629例(78.6%)が大腸菌、58例(7.3%)が肺炎桿菌、24例(3.0%)がプロテウス・ミラビリス、23例(2.9%)が緑膿菌だった。 複合エンドポイントの達成率は、セフトロザン/タゾバクタム配合薬群が76.9%(306/398例)、レボフロキサシン群は68.4%(275/402例)であった(群間差:8.5%、95%CI:2.3~14.6)。95%CIの下限値が>0であったことから、セフトロザン/タゾバクタム配合薬群の優位性が確証された。 副次的評価項目であるper-protocol集団における複合エンドポイントの達成率にも、セフトロザン/タゾバクタム配合薬群の優位性が認められた(83.3% vs. 75.4%、群間差:8.0%、95%CI:2.0~14.0)。セフトロザン/タゾバクタム配合薬の優位性は複雑性尿路感染症でも セフトロザン/タゾバクタム配合薬群で治癒判定時の複合エンドポイントの優位性がみられたサブグループとして、65歳以上、複雑性尿路感染症、レボフロキサシン耐性菌、ESBL産生菌、非菌血症が挙げられ、他のサブグループもレボフロキサシン群に比べ良好な傾向にあり、いずれも非劣性であった。 有害事象の発現率は、セフトロザン/タゾバクタム配合薬群が34.7%、レボフロキサシン群は34.4%であった。最も頻度の高い有害事象は、両群とも頭痛(5.8%、4.9%)および便秘(3.9%、3.2%)、悪心(2.8%、1.7%)、下痢(1.9%、4.3%)などの消化管症状であった。 重篤な有害事象はそれぞれ15例(2.8%)、18例(3.4%)に認められた。セフトロザン/タゾバクタム配合薬群の2例(クロストリジウム・ディフィシル感染)は治療関連と判定されたが、いずれも回復した。同群の1例が膀胱がんで死亡したが治療とは関連がなかった。 著者は、「この新規配合薬は、複雑性尿路感染症や腎盂腎炎の薬物療法の有用な手段に加えられるだろう。とくに、治療が困難なレボフロキサシン耐性菌やESBL産生菌の治療に有望と考えられる」としている。

620.

βラクタム薬アレルギー申告は不確実?

 先行研究の2次医療における研究で、「βラクタム薬に対してアレルギーがある」との申告の85%超が、アレルギー検査で確認されたものではなかったことが示されている。日常診療で、もし患者がβラクタム薬アレルギーありと申告したら、第2選択の抗菌薬を処方せざるを得ないだろう。βラクタム薬アレルギーの過大評価は、狭域抗菌薬の適切な使用を妨げるとともに、医療費の増加や耐性菌の出現を招くことになる。そこでオランダ・Julius Center for Health Sciences and Primary CareのOdette A E Salden氏らは自国の現状について調査し、カルテの記載に基づくβラクタム薬アレルギーの有病率は2%であったが、アレルギーの徴候や症状に関する記載がない患者が多く、診断はほとんどの患者で不確実であることを報告した。著者は、「プライマリケアでは、βラクタム薬アレルギーをスクリーニングするアルゴリズムを用いて、より良い記録を行う必要がある」と提言している。Family Practice誌オンライン版2015年4月7日号の掲載報告。 研究グループは、オランダのプライマリケアにおけるβラクタム薬アレルギーの記録と過剰診断を評価することを目的に、レトロスペクティブ研究を行った。 プライマリケアを受診した8,288例を対象に、プライマリケア国際分類(ICPC)を用いてアレルギーを有する患者を特定し、その患者のカルテからアレルギーの徴候・症状および患者背景などについてデータを得るとともにアンケート用紙を送付した。 アレルギーの可能性については、これらの情報を複合参照基準に照らし合わせ、2人の研究者が独立して判定した。 主な結果は以下のとおり。・カルテに「βラクタム薬アレルギーあり」と記載されていたのは163例(2%)であった。・このうち51.5%の患者では、カルテにアレルギー反応の特徴が何も記載されていなかった。・複合参照基準に基づくと、19例(11.7%)はアレルギーではないと判定された。・βラクタム薬アレルギーありと記載されていた患者の特徴は、女性、年齢が5歳以上、喘息・アレルギー・皮膚疾患の合併であった。

検索結果 合計:860件 表示位置:601 - 620