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COVID-19ワクチンの血栓性合併症にIgGは有効なのか?(解説:後藤信哉氏)

 COVID-19 pandemicは持続している。ワクチンは切り札と理解されているが、ウイルスベクターのワクチンでは血栓イベントの合併がまれとはいえ発症する。血栓性合併症に対して抗凝固療法とIgGbの併用が推奨されている。カナダではウイルスベクターワクチンChAdOx1 nCoV-19を、ワクチンによる血栓症が少ないとされた55歳以上に使用した。それでも63~72歳の症例に血栓イベントが発症した。血栓イベントは2例が下肢動脈血栓症、1例が脳静脈洞血栓症であった。3例ともヘパリンと血小板第4因子に対する抗体(いわゆるHIT抗体)を認めた。IgG投与によりHIT抗体は減少した。 本研究は3例の経験にすぎない。しかし、世界のCOVID-19 pandemic抑制に期待されるワクチンでもまれに重篤な血栓イベントを起こすこと、血栓イベントに対してまったく対応法がないわけではないことを示している。ワクチンによる血栓症ではいわゆるHIT抗体が高いとされていた。HITであれば、血栓症に対してヘパリンを使うわけにはいかない。アルガトロバンなどの他の抗凝固薬に転換された。しかし、抗凝固薬転換のみでは血小板数は活性化しなかった。HITではHIT抗体による血小板活性化がFcRg受容体刺激を介して起こる。そこで大量のIgGを添加すれば病態を改善できる可能性がある。本研究の対象は3例であり、臨床イベントを標的とした研究ではないが、3例の血小板数、HIT抗体量などを丁寧に計測してIgG療法の有効性を示唆した。 筆者はワクチン反対論者ではない。積極的ワクチン接種がCOVID-19 pandemic克服への唯一の希望と思っている。ワクチンによる合併症はまれである。しかし、0(ゼロ)ではない。ワクチンには血栓イベントなど致死的な合併症のリスクはあるが、臨床医は確立された治療がなくても類似病態を参考にベストを尽くす。すべての合併症が治るとは言わない。しかし、合併症が起こったら、その実態を社会で共有し、対応策をみんなで考えることが大事である。 本論文は、まれだが致死的合併症に対してでも医師がベストを尽くして対応している、カナダ社会の健全性を示す論文として評価できる。

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トファシチニブ、COVID-19肺炎入院患者の予後を改善/NEJM

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による肺炎で入院した患者の治療において、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬トファシチニブはプラセボと比較して、28日以内の死亡または呼吸不全のリスクを抑制し、安全性に大きな差はないことが、ブラジル・Hospital Israelita Albert EinsteinのPatricia O. Guimaraes氏らが実施した「STOP-COVID試験」で示された。NEJM誌オンライン版2021年6月16日号掲載の報告。ブラジル15施設の無作為化プラセボ対照比較試験 研究グループは、COVID-19肺炎入院患者の治療におけるトファシチニブの有効性と安全性を評価する目的で、二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験を行った(Pfizerの助成による)。本試験では、2020年9月16日~12月13日の期間に、ブラジルの15施設で患者登録が行われた。 対象は、年齢18歳以上、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)法で重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の感染が確定され、画像検査(胸部CTまたはX線)でCOVID-19肺炎の証拠が認められ、入院から72時間未満の患者であった。被験者は、トファシチニブ(10mg、1日2回)またはプラセボを経口投与する群に無作為に割り付けられ、14日間または退院まで投与された。 主要アウトカムは、28日時点での死亡または呼吸不全とされた。米国国立アレルギー感染症研究所(NIAID)の疾患重症度に関する8段階順序尺度(点数が高いほど、病態の重症度が高い)で、6点(入院中に非侵襲的換気または高流量酸素装置による換気を受けている)、7点(入院中に侵襲的機械換気または体外式膜型人工肺[ECMO]の装着を受けている)、8点(死亡)の場合に、主要アウトカムを満たすと定義された。全死因死亡には差がない 289例が登録され、144例がトファシチニブ群、145例はプラセボ群に割り付けられ、それぞれ2例および3例が試験薬の投与を受けなかった。全体の平均年齢は56歳で、34.9%が女性であった。COVID-19の診断から無作為化までの期間中央値は5日だった。 ベースラインの全体のBMI中央値は29.7で、50.2%が高血圧、23.5%が糖尿病を有しており、75.4%が酸素補充療法、78.5%が糖質コルチコイド、77.9%が予防的抗凝固療法、20.8%が治療的抗凝固療法を受けていた。入院中に89.3%が糖質コルチコイドの投与を受けた。 28日の時点での死亡または呼吸不全の発生率は、トファシチニブ群が18.1%(26/144例)と、プラセボ群の29.0%(42/145例)に比べ有意に低かった(リスク比:0.63、95%信頼区間[CI]:0.41~0.97、p=0.04)。 28日時の全死因死亡の発生率は、トファシチニブ群が2.8%(4/144例)、プラセボ群は5.5%(8/145例)であり、両群間に差は認められなかった(ハザード比[HR]:0.49、95%CI:0.15~1.63)。 プラセボ群と比較したトファシチニブ群の8段階順序尺度スコアの比例オッズは、14日の時点で0.60(95%CI:0.36~1.00)、28日時は0.54(0.27~1.06)であった。 重篤な有害事象は、トファシチニブ群が14.1%(20例)、プラセボ群は12.0%(17例)で発現した。とくに注目すべき有害事象は、トファシチニブ群で深部静脈血栓症、急性心筋梗塞、心室頻拍、心筋炎が1例ずつ認められた。重篤な感染症の発生率は、トファシチニブ群3.5%、プラセボ群4.2%であった。また、死亡を除き、試験薬投与中止の原因となった有害事象は、それぞれ11.3%および3.5%でみられ、最も頻度の高かった原因はアミノトランスフェラーゼ値上昇(4.2%、0.7%)と、リンパ球減少(2.8%、1.4%)だった。 著者は、「ACTT-2試験(バリシチニブ+レムデシビルはレムデシビル単剤に比べ、とくに高流量酸素補充または非侵襲的機械換気を受けている患者で、回復までの期間を短縮)と本試験の結果を統合すると、JAK阻害薬は、侵襲的機械換気を受けていないCOVID-19肺炎患者の新たな治療選択肢となることを示すエビデンスがもたらされた」としている。

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冠動脈血行再建術後のP2Y12阻害薬vs. DAPTのメタ解析/BMJ

 スイス・ベルン大学のMarco Valgimigli氏は、無作為化比較試験6件のメタ解析を行い、P2Y12阻害薬単独療法は抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)と比較して、死亡、心筋梗塞および脳卒中のリスクは同等であるが、P2Y12阻害薬単独療法の有効性は性別によって異なり、出血リスクはDAPTより低いことを明らかにした。BMJ誌2021年6月16日号掲載の報告。P2Y12阻害薬単独vs.DAPTの無作為化比較試験6件、2万4,096例をメタ解析 研究グループは、Ovid Medline、Embaseおよび3つのWebサイト(www.tctmd.com、www.escardio.org、www.acc.org/cardiosourceplus)を検索して、2020年7月16日までに発表された、経口抗凝固療法の適応がない患者における冠動脈血行再建術後の経口P2Y12阻害薬単独療法とDAPTの有効性を比較(中央判定)した無作為化比較試験を特定し、個々の患者レベルでのメタ解析を行った。 主要評価項目は全死因死亡・心筋梗塞・脳卒中の複合(非劣性マージン:ハザード比[HR]:1.15)であり、安全性の主要評価項目はBARC(Bleeding Academic Research Consortium)出血基準タイプ3または5の出血とした。 メタ解析には、6件の無作為化試験(合計2万4,096例)が組み込まれた。死亡・心筋梗塞・脳卒中の複合リスクは同等、出血リスクはP2Y12阻害薬単独が低い 主要評価項目のイベントは、per protocol集団においてP2Y12阻害薬単独療法群283例(2.95%)、DAPT群315例(3.27%)に認められた(HR:0.93、95%信頼区間[CI]:0.79~1.09、非劣性のp=0.005、優越性のp=0.38、τ2=0.00)。intention to treat集団ではそれぞれ303例(2.94%)、338例(3.36%)であった(0.90、0.77~1.05、優越性のp=0.18、τ2=0.00)。 治療効果は、性別(交互作用のp=0.02)を除くすべてのサブグループで一貫していた。P2Y12阻害薬単独療法は、女性では主要評価項目イベントのリスクを低下させるが(HR:0.64、95%CI:0.46~0.89)、男性では低下させないことが示唆された(1.00、0.83~1.19)。 BARC出血基準タイプ3または5の出血リスクは、P2Y12阻害薬単独療法群がDAPT群より低かった(0.89% vs.1.83%、HR:0.49、95%CI:0.39~0.63、p<0.001、τ2=0.03)。この結果は、P2Y12阻害薬の種類(交互作用のp=0.02)を除くすべてのサブグループで一貫しており、クロピドグレルではなく新しいP2Y12阻害薬をDAPTレジメンに使用した場合に有益性が高いことが示唆された。

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D-ダイマー高値COVID-19入院患者、治療的 vs.予防的抗凝固療法/Lancet

 D-ダイマー値上昇の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)入院患者に対し、リバーロキサバンやエノキサパリンなどによる治療的抗凝固療法は、予防的抗凝固療法に比べ臨床アウトカムを改善せず、一方で出血リスクを増大したことが示された。米国・デューク大学のRenato D. Lopes氏らが、600例超を対象に行った多施設共同非盲検(評価者盲検)無作為化比較試験「ACTION試験」の結果で、著者は「経口抗凝固療法適応のエビデンスがない場合は、リバーロキサバンおよびその他の直接経口抗凝固薬の治療的投与は避けなくてはならない」と警鐘を鳴らした。COVID-19は、有害転帰につながる血栓形成促進との関連が示されているが、これまで治療的抗凝固療法がCOVID-19入院患者の転帰を改善するかどうかは不明だった。Lancet誌2021年6月12日号掲載の報告。治療的抗凝固療法としてリバーロキサバンを30日間投与 研究グループはブラジル31ヵ所の医療機関で、COVID-19で入院した18歳以上の患者を対象に試験を行った。被験者はD-ダイマー値上昇が認められ、無作為化時点でCOVID-19の症状継続期間が最長で14日だった。 被験者を治療的抗凝固療法群と予防的抗凝固療法群に割り付け、治療群には、臨床的安定な患者に対してはリバーロキサバン(1日20mgまたは15mg)を投与し、臨床的不安定な患者にはエノキサパリン皮下投与(1mg/kgを1日2回)または未分画ヘパリン皮下投与(目標抗Xa濃度:0.3~0.7IU/mL)を行った後にリバーロキサバンを30日間投与した。 予防群に対しては、入院標準治療のエノキサパリンまたは未分画ヘパリンを投与した。 有効性の主要アウトカムは、死亡までの期間、入院期間または30日目までの酸素補充を要した期間の階層的解析結果で、勝利比メソッド(比率1超は治療的抗凝固療法のアウトカムがより良好)を用いてITT集団で評価した。 安全性の主要アウトカムは、30日間の大出血、または臨床的に関連する非大出血だった。治療的抗凝固療法で出血リスクは3.64倍に 2020年6月24日~2021年2月26日にかけて、3,331例をスクリーニングし、うち615例を無作為化した(治療的抗凝固療法群311例、予防的抗凝固療法群304例)。臨床的安定な患者は576例(94%)で、不安定な患者は39例(6%)だった。治療群の患者1例が同意の取り下げでフォローアップが完遂できず、主要解析に含まれなかった。 有効性の主要アウトカムは両群で差が認められなかった(勝利比:0.86、95%信頼区間[CI]:0.59~1.22、p=0.40)。この傾向は、臨床的安定な患者と不安定な患者それぞれで、一貫していた。 安全性の主要アウトカムについては、大出血または臨床的に関連する非大出血の発生率は、予防群2%(7例)に対し、治療群8%(26例)だった(相対リスク:3.64、95%CI:1.61~8.27、p=0.0010)。試験薬のアレルギー反応は、治療群2例(1%)、予防群3例(1%)で報告された。

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国内コロナ患者へのCT検査実施率とVTE発症の実態は?

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者での血栓症が世界的に報告されている。日本国内でもその状況を把握するために種々のアンケート1)2)が実施されてきたが、発症率や未診断症例(under-diagnosis)に関する詳細は不明であった。そこで、京都大学の山下 侑吾氏らは画像診断症例を対象にCOVID-19症例の静脈血栓塞栓症(VTE)発症の実態を正確に調査するレジストリ研究を実施した。その結果、以下4点が明らかになった。1)国内の現実臨床では、COVID-19症例に造影CT検査が実施される事はかなり少数だった。2)VTE発症について、軽症例では一例も認めなかったが、重症例では比較的高率だった。3)VTE発症例では、肥満やCOVID-19重症例の割合が多かった。4)VTE発症例と非発症例の生存退院の割合には有意差を認めなかった。また、肺塞栓症の重症度はすべて軽症だった。 この報告はCirculation Journal誌2021年5月20日号オンライン版に掲載された。研究概要と結果 本研究は、日本静脈学会および肺塞栓症研究会の有志「日本でのVTEとCOVID-19の実態調査タスクフォース」によって実施された医師主導の多施設共同の後ろ向き観察研究である。対象者は2020年3~10月に参加施設22件において、PCR検査でCOVID-19と確定診断された症例の中から、胸部を含む造影CT検査が実施された患者1,236例。 主な結果は以下のとおり。・COVID-19症例の中で、造影CT検査が実施されていたのは45例(3.6%)だった。・そのうちの28例(62%)では、VTE発症を疑い造影CTが撮像されたていたが、残りの症例は別目的での撮像であった。・45例のうちVTEを認めたのは10例だった。COVID-19の重症度別では、軽症は0%、中等症は11.8%、重症は40.0%だった。・VTE発症例は非発症例と比較して、過体重(81.6kg vs. 64.0kg、p=0.005)かつBMI高値(26.9 kg/m2 vs. 23.2kg/m2、p=0.04)であり、人工呼吸器やECMOを要するような重症例の割合が有意に高かった(80.0%vs. 34.3%)。・一方、VTE発症例と非発症例で、退院時の生存割合に有意な差は認められなかった(80.0%vs. 88.6%)。・45例のうち30例(66.7%)には抗凝固薬が投与されていた(予防用量の未分画ヘパリン:46.7%、治療用量の未分画ヘパリン:30.0%、低分子ヘパリン:13.3%)。・VTE発症例において、入院からVTE診断までの日数の中央値は18日であり、50.0%の患者はICU入室中に診断された。残り50%の患者は一般病棟入室中に診断されていた。・8例(17.8%)に肺塞栓症を認めたが、肺塞栓症の重症度はすべて軽症例であった。しかし、5例(11.1%)に大出血イベントを認めていた。 研究者らは、「海外では、予防的な抗凝固療法の実施に関して、適切な対象患者、抗凝固療法の種類と強度、および投与期間などを検討するさまざまな報告が相次いでいる。日本の現場でも、画像診断の可否を含めどのように対応すべきか議論を進めていくことが重要と考えられる」と考察している。

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新型コロナ変異株感染者の特徴は?/国立国際医療研究センター

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の変異株の勢いが止まらない。日々の報道でも変異株の置き換わりについて耳にしない日はなく、早急な対応がなされつつある。そんな状況の中で、臨床の場で疫学的にはどのような動きがあるのだろうか。 国立国際医療研究センターは、国立感染症研究所と共同調査した「新型コロナウイルス感染症(新規変異株)の積極的疫学調査(第1報)」を4月27日開催のメディアセミナーで報告を行った。 セミナーでは、COVID-19の届出がされた24万2,373例のうちゲノム解析で変異株と同定された380例から協力が得られた110例の結果が、大曲 貴夫氏(国立国際医療研究センター 国際感染症センター長)により報告された。置き換わりの変異株の大多数がVOC-202012/01 本調査は、厚生労働省の協力依頼として行われ、2021年4月15日時点の状況を報告している。調査対象は、「COVID-19の患者」「ゲノム検査で変異株確定者」「COVID-19等情報把握・管理支援システムで報告された患者」「国内の医療機関に入院した患者」の4つの条件をすべて満たす患者で、110例について検討が行われた。 その結果、男性は52例、女性は58例だった。年齢の中央値は42(27-63)歳、年齢分布では10歳未満(18.2%)、30代(16.4%)、40代(15.5%)の順で多かった。 確定したウイルス株の内訳としては、VOC-202012/01(いわゆる英国株)が105例、501Y.V2(いわゆる南アフリカ株)で4例、501Y.V3(いわゆるブラジル株)で1例だった。 BMIの中央値は21.5、曝露歴では家族が47例、職場と保育・教育関連施設がともに14例だった。 発症から初診までの期間の中央値は1(0-3)日、発症から診断までの期間も中央値は2(1-4)日、発症から入院までの期間の中央値は3(2-6)日であり、基礎疾患(高血圧、脂質異常症、肥満など)を有した症例は31症例だった。 入院時の有症状者は91例、主な症状では発熱(44例)、咳嗽(42例)、倦怠感(27例)などがみられ、入院時の画像検査では胸部X線検査所見ありが28例、胸部CT検査所見ありが49例だった。変異株重症化割合は5.5% 治療では、COVID-19への直接治療が40例で行われ、内訳としてステロイド24例、レムデシビル21例、ファビピラビル10例の順で多かった。また、抗血栓・抗凝固療法としては予防目的で13例、治療目的で2例が行われた。酸素投与などでは、鼻カニューレまたはマスクが一番多く21例、ネーザルハイフローが8例、人工呼吸器管理が3例、体外式膜型人工肺(ECMO)装着が1例だった。 ICU治療は5例で、滞在期間中央値は12(8-13)日、予後では自宅退院が98例、死亡が1例だった。 以上から調査対象の大多数がVOC-202012/01であり、年齢層の中心が比較的若年層であったこと、ICUでの治療や人工呼吸器などによる治療を行った重症例6例は、全例がVOC-202012/01であり、重症化割合は約5.5%だったことが説明された。 大曲氏は、今回の調査につき「調査対象が限定的であり、重症化割合に与える影響因子の調整を行っていないなどの理由から、重症化割合が従来株の症例より高いかどうかの結論付けは困難」と考察を述べ、説明を終えた。

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高齢NVAF患者、DOAC使用実態と2年間の転帰(ANAFIEレジストリ)/日本循環器学会

 本邦では、80代あるいは90代の心房細動患者も少なくないが、最適な抗凝固療法は必ずしも明らかになっていない。85歳以上の超高齢者が約25%を占める、3万例超の日本人高齢非弁膜症性心房細動(NVAF)患者の大規模レジストリ(ANAFIE)の結果を、第85回日本循環器学会学術集会(2021年3月26日~28日)で井上 博氏(富山県済生会富山病院)が発表した。高齢NVAF患者での抗凝固療法の臨床転帰、DOACをワルファリンと比較 ANAFIEレジストリは、日本人高齢NVAF患者におけるリアルワールドでの抗凝固療法の使用状況と臨床転帰を調査するために実施された、多施設共同前向き観察研究。75歳以上のNVAF患者を登録、2年間の追跡調査が行われた。 脳卒中/全身性塞栓症(SEE)、大出血、および2年間の全死因死亡の発生率は、カプランマイヤー分析によって推定された。各イベントのハザード比は、治療群(抗凝固薬なし、ワルファリン[WF]、およびDOAC)間のCox比例ハザードモデルを使用して分析された。 75歳以上のNVAF患者を2年間追跡調査したANAFIEレジストリの主な結果は以下のとおり。・2016年10月~2018年1月に33,278例のNVAF患者が登録され、32,275例が解析対象とされた。・平均年齢は81.5歳、85歳以上は26.1%(8,419例)含まれた。男性:57.3%、平均CHA2DS2-VAScスコア:4.5、平均HAS-BLEDスコア:1.9、発作性心房細動:42.1%/持続性心房細動:16.5%/長時間持続性・永続性心房細動:41.4%であった。・92.4%が経口抗凝固薬による治療を受けていた(ワルファリン:25.5%、DOAC:66.9%)。・DOACの投与状況は通常用量(appropriate:17.7%、overdose:3.2%)、減量用量(appropriate:44.2%、underdose:16.8%)。・ワルファリンの平均至適範囲内時間(TTR)は75.5%であった。・平均追跡期間1.88年における各イベントの発生率は以下のとおり: 脳卒中/SEE(全体:3.01%、85歳未満:2.69%、85歳以上:3.91%) 大出血(全体:2.00%、85歳未満:1.80%、85歳以上:2.55%) 頭蓋内出血(全体:1.40%、85歳未満:1.28%、85歳以上:1.76%) 心血管死亡(全体:2.03%、85歳未満:1.39%、85歳以上:3.85%) 全死因死亡(全体:6.95%、85歳未満:4.89%、85歳以上:12.77%) net clinical outcome(全体:10.14%、85歳未満:7.92%、85歳以上:16.44%)・転倒歴(登録前1年以内)、カテーテルアブレーション歴が、脳卒中/SEE、大出血および全死因死亡の独立したリスク因子であり、多剤併用は大出血および全死因死亡と関連していた。・ワルファリン群と比較して、DOAC群では出血性脳卒中および消化管出血を除く全てのイベントリスクが低く、抗凝固薬なし群では脳卒中/SEEおよび全死因死亡のリスクが高かった。  これらの結果を受けて井上氏は、日本人高齢NVAF患者においてDOACは広く用いられており、良好にコントロールされたワルファリン投与群と比較して、脳卒中/SEE、大出血および全死因死亡リスクが有意に低かったとして発表を締めくくった。

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新型コロナウイルスの血栓対策(解説:後藤信哉氏)-1374

 当初肺炎が主病態と考えられた新型コロナウイルス感染症であるが、症例が蓄積されるとともに主な病態は血管系におけるimmunothrombosisであることがわかってきた。結果として静脈血栓症、脳梗塞などの典型的な血栓症の病態を呈することもあるが、血栓形成の開始機序は明確に異なる。成長メカニズムには相同性と特殊性があると想定される。静脈血栓症、心筋梗塞などの動脈血栓症を標的として抗血小板薬、抗凝固薬が開発されてきたが、新型コロナウイルス感染に対する至適抗血栓療法は現時点では未知である。 欧米では静脈血栓リスクが一般に高いためICUに入る症例では全例抗凝固療法を受けるのが普通であった。静脈血栓予防と治療では用量が異なる。血栓治療量は血栓症に対して使用される。新型コロナウイルス感染では、一般的な静脈血栓の有無の判定に用いるD-dimerが陽性のことが多い。ならば血栓予防量と治療量のランダム化比較試験を企画しても倫理的問題は起こらない。本研究では新型コロナウイルス感染にてICUに入院した症例における予防量と治療量の抗凝固療法が比較された。 新型コロナウイルスの血栓形成メカニズムはわからない。動脈硬化も経過の長いimmunothrombosisと考えれば、心筋梗塞などの動脈硬化・血栓性疾患の発症予防・治療に有効なスタチンも新型コロナウイルス感染のimmunothrombosisに有効かもしれない。このスタチンの有効性も探索的に検討された。 日本以外の諸国では静脈血栓症予防・治療の標準治療として低分子ヘパリンが確立されている。低分子ヘパリンのうち、エノキサパリンを1日40mgの固定用量として使用する群と、体重1kg当たり1mgにて使用する群にランダムに振り分けた。有効性の1次エンドポイントとして静脈あるいは動脈血栓症・ECMO使用・死亡の複合エンドポイントを用いた。ICUに入院する新型コロナウイルス感染は怖い。30日以内の1次エンドポイント発現率は予防量低分子ヘパリン群にて44.1%、用量を増やしても発現率は45.7%であった。圧倒的多数の有効性1次エンドポイントは死亡に直結した。心筋梗塞、脳梗塞、静脈血栓が多いわけではない。病態の主因がimmunothrombosisであっても、現在われわれがもっている抗凝固介入では予後を大きく改善できない。 遠回りかもしれないが、新型コロナウイルス感染によるimmunothrombosisのメカニズムを解明し、予後不良に寄与する因子を解明し、その因子に対する選択的治療薬の開発が必要である。抗血栓薬開発は既存の心筋梗塞、脳梗塞、静脈血栓に対しては出揃った感があるが、新型コロナウイルスに対しては基本に立ち返って革新的創薬が必須であることを本研究は示したことになる。

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トランスサイレチン型心アミロイドーシス〔ATTR-CM:transthyretin amyloidosis cardiomyopathy〕

1 疾患概要■ 概念・定義アミロイドーシスは、βシート構造を豊富にもつ蛋白質がさまざまな病因により前駆蛋白となり、立体構造を変化させながら、重合、凝集を来すことによりアミロイド線維を形成し、細胞外間質に沈着することで臓器障害を生じる疾患の総称である。アミロイド前駆蛋白の種類により、傷害される臓器が異なる。心アミロイドーシスとして、臨床的な心臓の障害を呈するのは、トランスサイレチン(transthyretin:TTR)を前駆蛋白とするATTRアミロイドーシスと免疫グロブリン軽鎖(L鎖)を前駆蛋白とするALアミロイドーシスが主な病型である(図1)。さらにATTRアミロイドーシスは、TTR遺伝子変異を認めない野生型ATTRアミロイドーシス(ATTRwt)とTTR遺伝子変異を認める遺伝性TTRアミロイドーシス(ATTRv)に分けられる。図1 心アミロイドーシスの病型分類画像を拡大する(日本循環器学会.2020年版 心アミロイドーシス診療ガイドライン.https://www.j-circ.or.jp/guideline/guideline-series/(2021年2月閲覧).2020.p.11より引用)■ 疫学本症は従来まれな疾患と考えられてきた。しかし、後で述べる検査法の進歩により、特にATTRwt心アミロイドーシスは、高齢者の心不全(高齢者心不全の数%の可能性)や大動脈弁狭窄症にある一定数存在することが明らかになり、日常臨床で比較的遭遇する疾患であると考えられるようになった。性差があり、高齢男性に多い。ATTRvアミロイドーシスの患者は、わが国は、ポルトガル、スウェーデンに次いで世界で3番目に多いと考えられている。数百人の患者が報告されているが、診断されていない患者も相当数いると考えられる。■ 病因TTRはおもに肝臓、一部脳の脈絡叢や網膜色素上皮細胞で産生される127個のアミノ酸からなる蛋白質であり、甲状腺ホルモンであるサイロキシンやレチノール結合蛋白を運搬する役割を担っている。TTRは、血中では四量体を形成することで安定して存在するが、何らかの原因で四量体が不安定となると解離し、単量体を形成しアミロイド線維の基質となる。TTRが不安定となる原因としては、加齢とTTR遺伝子変異が挙げられる。加齢とともにTTR四量体が不安定となる理由はいまだ明らかではないが、肝臓でのトランスサイレチンあるいはシャペロン蛋白の翻訳後の生化学的変化などが可能性として報告されている。TTR遺伝子における150 種類以上の変異型が報告されている。わが国では、30番目の アミノ酸であるバリンがメチオニンに変異するVal30Met変異型がもっとも高頻度に認められる。■ 症状心アミロイドーシスの特異的な症状はなく、心不全による症状や不整脈や伝導障害による脳虚血症状などを認める。ATTRwtアミロイドーシスの主な障害臓器は、心臓に加え、腱や末梢神経が多いため、手根管症候群や脊柱管狭窄症が心症状に数年先行して出現することが多く、診断の一助となる。ATTRvアミロイドーシスは、全身臓器障害による多彩な症候を認める(図2)。図2 ATTRv アミロイドーシスの多様な全身症状(日本循環器学会.2020年版 心アミロイドーシス診療ガイドライン.https://www.j-circ.or.jp/guideline/guideline-series/(2021年2月閲覧).2020.p.23より引用改変)■ 予後ATTRwtアミロイドーシスは、確定診断からの生存期間の中央値は約3年半、ATTRvアミロイドーシスでは、未治療の場合は発症からの平均余命は10年程度と報告されている。2 診断 (検査・鑑別診断を含む)心アミロイドーシスの診断において最も重要なことは、原因不明の心不全や心肥大などにおいて本症を疑うことである(図3)。図3 心アミロイドーシス診療アルゴリズム画像を拡大する(日本循環器学会.2020年版 心アミロイドーシス診療ガイドライン.https://www.j-circ.or.jp/guideline/guideline-series/(2021年2月閲覧).2020.p.62より引用)1)スクリニーング検査(1)心電図検査心房細動や伝導障害を認めることが多い。従来心アミロイドーシスの特徴と言われた低電位と偽心筋梗塞パターンの出現頻度は、ATTR心アミロイドーシスでは高くはないので注意が必要である。(2)心エコー左室壁の肥厚、心房中隔の肥厚、心房の拡大、左室心筋のgranular sparklingを認める。ドプラー検査では左室の拡張障害を認める。病期が進行すると左室長軸方向のストレイン値は心室基部から低下していくため、apical sparing(心基部の長軸方向ストレインが低下し、相対的に心尖部では保たれている所見)を認める。(3)採血検査高感度心筋トロポニンの持続高値が診断に有用である。重症度に応じて、B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)およびB型Na利尿ペプチド前駆体N端フラグメント(NT-proBNP)が上昇する。(4)心臓MRICine MRIによる肥大の確認と遅延造影 MRIにおける左室内膜下優位のびまん性(late gadolinium enhancement:LGE)が典型的な所見である。近年T1 mapping法における他の肥大心との鑑別が期待されている(心アミロイドーシスではNative T1値高値、細胞外容積分画(ECV)高値)。2)二次検査(1)99mTc ピロリン酸シンチグラフィ(骨シンチグラフィ)99mTc ピロリン酸シンチグラフィが、ATTR心アミロイドーシスで高率に陽性になり、診断に有用である(図4)。実際には判断が困難な例も存在するが、高い感度、特異度で非侵襲的に本症を疑うことが可能である。図4 99mTc ピロリン酸シンチグラフィ画像を拡大する(2)M蛋白ALアミロイドーシスの除外診断のため、血液あるいは尿中のM 蛋白の有無を確認する。3)生検および病理診断によるアミロイドタイピングアミロイドーシス確定診断のためには組織へのアミロイド沈着の証明と病理学的なタイピングが必要である。心筋生検の陽性率は100%とされるが、その侵襲性の高さより、まずは腹壁脂肪吸引、皮膚生検、口唇唾液腺生検、胃・十二指腸などからの生検が行われるが、いずれの部位もアミロイドの検出は100%ではなく、1つの部位からの生検が陰性の場合は、他部位からの生検や繰り返しの生検、心筋生検を検討すべきである。特にスクリーニングとして行われることの多い腹壁脂肪吸引は、ATTRwtアミロイドーシスでは陽性率が低い(15%前後)ので注意が必要である。病理検査でアミロイドの沈着が証明された場合、各種抗体を用いた免疫染色によるタイピングが必須である。免疫染色でアミロイドタイピングの鑑別ができないときには、質量解析が有用である。4)遺伝子診断アミロイドタイピングでATTRアミロイドーシスと診断された場合、十分な配慮のもと遺伝子診断を行い、確定診断を行う。5)診断基準アミロイドーシスに関する調査研究班が各学会のコンセンサスのもと作成したATTRwtおよびATTRvアミロイドーシスの診断基準を示す(図5)。図5 ATTRwtおよびATTRvアミロイドーシスの診断基準画像を拡大する(日本循環器学会.2020年版 心アミロイドーシス診療ガイドライン.https://www.j-circ.or.jp/guideline/guideline-series/(2021年2月閲覧).2020.p.18-20.より引用)3 治療1)アミロイドーシスに対する一般的治療(1)心不全基本は利尿剤を中心とした治療である。左室駆出率の低下した心不全(HFrEF)で生命予後改善効果のあるβ遮断薬やACE阻害薬/アンギオテンシン受容体拮抗薬の効果は明らかでは無い。(2)不整脈心アミロイドーシスに伴う心房細動では塞栓症を来しやすく、禁忌でない限りCHADS2スコアに関係なく抗凝固療法を行うべきである。心房細動の心拍数管理に関して、ジギタリスは副作用を来しやすいため禁忌である。ベラパミルも変時作用や変陰力作用が強く出やすく、左室収縮性の低下した症例では禁忌である。完全房室ブロックなどの徐脈性不整脈を認めれば、恒久的ペースメーカーを植え込む。2)TTRアミロイドーシスに対する疾患修飾治療(図6)(1)TTR産生の抑制ATTRvアミロイドーシスに対して、異常なTTRの産生を抑える目的で、肝移植による治療が行われてきた。一方、TTRのほとんどが肝臓で産生されるため、遺伝子サイレンシングの手法を用いた遺伝子治療の良い標的と考えられる。パチシラン(商品名:オンパットロ)は、TTRメッセンジャーRNAを標的とし、遺伝子発現を抑制し、TTRの産生を阻害する低分子干渉RNA製剤である。本剤は、トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーに対し使用可能である。(2)TTR 四量体の安定化TTRを安定化させ、単量体になることを防ぐことで、TTRアミロイドーシスの進行が抑制されることが期待される。タファミジス(商品名:ビンダケル)は、TTRのサイロキシン結合部位に結合し、四量体を安定化させる。ATTR-ACT試験において、ATTRwtおよびATTRvによる心アミロイドーシス患者に対して、全死因死亡と心血管事象に関連する入院頻度を減少し、トランスサイレチン型心アミロイドーシス(野生型および変異型)に対して適応拡大が行われた。心アミロイドーシス患者に投与する際の適正投与のための患者要件(資料)、施設要件、医師要件に関するステートメントが日本循環器学会より出されている。図6 ATTRアミロイドの形成機序およびわが国で認可されている疾患修飾療法の作用機序画像を拡大する(日本循環器学会.2020年版 心アミロイドーシス診療ガイドライン.https://www.j-circ.or.jp/guideline/guideline-series/(2021年2月閲覧).2020.p.56より引用)【資料】トランスサイレチン型心アミロイドーシス症例に対するビンダケル適正投与のための患者要件(1)野生型の場合ア心不全による入院歴または利尿薬の投与を含む治療を必要とする心不全症状を有することイ心エコーによる拡張末期の心室中隔厚が12mmを超えることウ組織生検によるアミロイド沈着が認められることエ免疫組織染色によりTTR前駆蛋白質が同定されること(2)変異型の場合ア心筋症症状および心筋症と関連するTTR遺伝子変異を有することイ心不全による入院歴または利尿薬の投与を含む治療を必要とする心不全症状を有することウ心エコーによる拡張末期に心室中隔厚が12mmを超えることエ組織生検によるアミロイド沈着が認められること4 今後の展望次世代RNA干渉剤であるVutrisiran、TTR四量体安定化剤AG10、ATTRアミロイドを標的としたモノクロナール抗体などの試験が現在進行中である。5 主たる診療科循環器内科、脳神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本アミロイドーシス学会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 全身性アミロイドーシス(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本循環器学会 トランスサイレチン型心アミロイドーシス症例に対するビンダゲル適正投与のための施設要件、医師要件に関するステーテメント(医療従事者向けのまとまった情報)1)安東由喜雄 監修. 最新アミロイドーシスのすべてー診療ガイドライン2017とQ&A―. 医歯薬出版:2017.2)2020年版 心アミロイドーシス診療ガイドライン(2021年2月閲覧)3)佐野元昭 編. Heart View 11月号.Medical View:2020. 4)Ruberg FL, et al. J Am Coll Cardiol. 2019;73:2872-2891.5)Kittleson M, et al. Circulation. 2020;142:e7–e22.公開履歴初回2021年4月5日

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ICU入室COVID-19へのエノキサパリン、中等量vs.標準量/JAMA

 集中治療室(ICU)に入室した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者に対し、予防的抗凝固療法としてエノキサパリンの中等量(1mg/kg/日、クレアチニン・クリアランス値により調整)の投与は同標準量(40mg/日)の投与と比べ、30日以内静脈または動脈血栓症・体外式膜型人工肺(ECMO)の使用・死亡の複合アウトカムについて、有意差は認められなかった。イラン・Iran University of Medical SciencesのParham Sadeghipour氏ら「INSPIRATION無作為化試験」研究グループが約600例の患者を対象に行った試験結果を報告した。COVID-19重症患者において、血栓性イベントの報告頻度は高い。抗血栓予防療法の強度を高めることに関するデータは限定的であり、今回の検討が行われた。研究グループは、「結果は、ICU入室COVID-19患者に対して非選択的に中等量の予防的抗凝固療法をルーチン投与することを支持しないものであった」とまとめている。JAMA誌オンライン版2021年3月18日号掲載の報告。イラン10ヵ所の医療センターで試験 研究グループはイランの大学医療センター10施設を通じて、ICUに入室したCOVID-19患者を対象に、2×2要因デザインを用いて多施設共同無作為化試験を行った。 本試験で被験者は、エノキサパリン中等量(体重120kg未満でクレアチニン・クリアランス値30mL/分超に対し、1mg/kg/日)または同標準量(40mg/日)による予防的抗凝固療法と、スタチンまたはプラセボ(第2の仮説、本論では結果報告なし)を、それぞれ投与(両群の投与量について、体重とクレアチニン・クリアランス値に応じて調整)。割り付け治療は、30日間のフォローアップ完遂まで行うよう計画された。 被験者の募集期間は2020年7月29日~11月19日で、主要アウトカムの30日間フォローアップの最終日は2020年12月19日だった。 有効性の主要アウトカムは、30日以内の静脈または動脈血栓症・ECMOの使用・死亡の複合だった。試験の適格基準を満たし割り付け試験薬を1回以上投与された被験者を対象に分析を行った。 事前に規定した安全性に関するアウトカムは、BARCによる大出血(タイプ3または5)の非劣性評価(非劣性マージン:オッズ比[OR]1.8)、重症血小板減少症(血小板数:20×103/μL未満)などだった。大出血発生率も非劣性示せず 600例が無作為化を受け、主要解析には562例(93.7%)が含まれた(年齢中央値62歳[範囲:50~71]、女性は237例[42.2%])。 主要有効性アウトカムの発生は、中等量群126例(45.7%)、標準量群126例(44.1%)だった(絶対リスク差:1.5%[95%信頼区間[CI]:-6.6~9.8、OR:1.06[95%CI:0.76~1.48]、p=0.70)。 大出血の発生は、中等量群7例(2.5%)、標準量群4例(1.4%)で、ORは1.83(片側97.5%CI:0.00~5.93)と非劣性は示されなかった(非劣性のp>0.99)。重症血小板減少症の発生は、中等量群でのみ6例(2.2%)で認められた(6 vs.0、リスク差:2.2%[95%CI:0.4~3.8]、p=0.01)。

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新型コロナウイルス感染:米国退役軍人の医療経験から(解説:後藤信哉氏)-1361

 世界最強の米軍を維持するため、米国の退役軍人は手厚く待遇されている。各都市には退役軍人専用のDepartment of Veterans Affairs管理下の病院、クリニックがある。本研究は米国各地の退役軍人専用病院、クリニックにおける新型コロナウイルス感染者の抗血栓療法の実態と生命予後の解析結果である。2020年3月1日から7月30日までに新型コロナウイルス陽性とされた症例が対象となった。この短期間にて退役軍人に限定して4,297例が本研究の対象となった。一般に、血栓イベントリスクの高い西欧人では入院、安静時には静脈血栓予防の抗凝固療法が標準である。ICUに入院する市条例などでは禁忌がなければ全例予防的抗凝固治療を受ける。本研究では、入院24時間以内に抗凝固治療を受けた3,627例(84.4%)と受けなかった症例の予後を比較した。抗凝固療法の圧倒的多数は(3,600例:99%)ヘパリン(低分子ヘパリン)の皮下注であった。 新型コロナウイルスがあらためて恐ろしいのは30日以内に622例が死亡していたことからもわかる。死亡者のうち513例は抗凝固予防を受けていた。622例のうち、510例は入院期間中の死亡であった。一般に入院例、とくに重症例では抗凝固予防が施行される米国にて抗凝固予防例と非予防例の比較に価値があるか否かは難しい。著者らは傾向スコアを用いて標準化を目指した。予防介入を受けた症例の30日の死亡率は14.3%(95% confidence interval [CI]:13.1%~15.5%)にて、抗凝固予防を受けなかった症例の18.7%(15.1%~22.9%)より低いと本研究では報告されている。24時間以内に抗凝固薬を開始すれば死亡はHR 0.73(95%CI:0.66~0.81)にて低く、かつ重篤な出血イベントが多くなったわけではない。 一般に欧米の入院症例では抗凝固予防の価値が大きいことは知られている。新型コロナウイルス感染でも24時間以内にヘパリンなどを開始することにより死亡率低減効果はありそうである。米国の退役軍人のデータなので、米国、欧州にも適応可能と考える。日本でも同じかどうかはわからない。単純な観察研究なので各種の交絡因子により結論には限界がある。しかし、数値は事実である。健康保険の経済データベースの充実している本邦でも単純に、?月?日から??月??日までに新型コロナウイルス感染にて入院した症例は?例、抗凝固薬使用は?%、死亡は30日以内に?例など数値データベースを速やかに解析、公表する体制を作れば、皆で数値に基づいた議論ができると思う。

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COVID-19入院患者への早期予防的抗凝固療法、30日死亡率を低下/BMJ

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)入院患者において、早期予防的抗凝固療法は非投与と比較して、重大出血のイベントリスクを増大することなく30日死亡率を有意に低下することが示された。英国・ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のChristopher T. Rentsch氏らが、4,297例の入院患者を対象に行った観察コホート試験の結果で、BMJ誌2021年2月11日号で発表した。COVID-19患者の死亡原因の一部として、静脈血栓塞栓症および動脈血栓症が報告されている。抗凝固療法は、血栓形成を予防し、抗ウイルス性および潜在的な抗炎症性作用も有し、COVID-19患者に有効であることが期待されている。今回の結果を踏まえて著者は、「今回の所見は、COVID-19入院患者の初期治療として、予防的抗凝固療法の実施を推奨するガイドラインを支持する、強力なリアルワールドのエビデンスを提供するものである」と述べている。抗凝固療法歴のない4,297例を対象に観察コホート試験 研究グループは、米国退役軍人省が運営する全米医療システムに加入し、2020年3月1日~7月31日に、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染が確認された入院患者で、抗凝固療法歴のない4,297例について観察コホート試験を行った。早期予防的抗凝固療法の実施と、死亡率との関連を検証した。 主要アウトカムは、30日死亡率だった。副次アウトカムは、入院死亡率、抗凝固療法の実施(血栓塞栓症など臨床的増悪の代用アウトカム)、輸血を要する出血だった。予防的抗凝固療法で輸血を要する出血リスクは増大せず 4,297例のCOVID-19入院患者のうち、入院後24時間以内に予防的抗凝固療法を行ったのは3,627例(84.4%)だった。そのうち99%超の3,600例が、ヘパリンまたはエノキサパリンの皮下投与を受けた。 入院後30日以内の死亡は622例で、うち予防的抗凝固療法群の死亡は513例だった。 inverse probability of treatment weighted解析にて、入院30日時点の累積死亡率は、予防的抗凝固療法群14.3%(95%信頼区間[CI]:13.1~15.5)、非予防的抗凝固療法群18.7%(95%CI:15.1~22.9)で、予防的抗凝固療法群の30日死亡率に関するハザード比(HR)は0.73(95%CI:0.66~0.81)と27%のリスク低下が認められた。同様の関連性が、入院患者の死亡率と予防的抗凝固療法の実施についても認められた。 一方で、予防的抗凝固療法による輸血を要する出血リスク増大は認められなかった(HR:0.87、95%CI:0.71~1.05)。 量的バイアス分析では、同試験結果は計測されない交絡因子に対してロバストであることが示された(30日死亡率に関するe値の95%CI下限値は1.77)。感度解析でも結果は維持された。

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パンデミック再び、ICUで苦悩するコロナ治療【臨床留学通信 from NY】第16回

第16回:パンデミック再び、ICUで苦悩するコロナ治療ご存じの通り、こちら米国ニューヨークは2020年4月に最もひどいパンデミックの中心地となりました。痛い目に逢った教訓から、人々はマスクを着け、ソーシャルディスタンスを保とうと努めていました。欧米においては、もともと日常的にマスクを着ける文化はないため、マスクを着けていること自体に抵抗があるようなのですが、第2波への恐れもあり、ニューヨークの人々は米国の他の州よりもマスクをきちんと着けていた印象です。ところが、9月下旬より学校が再開され、レストランも外ではなく店内での食事が許可されました。さらに、11月下旬のサンクスギビングの週で人々の動きが活発となり、12月上~中旬に新型コロナ第2波が急にやって来ました。人々の行動変化に加え、われわれの以前のデータが示す通り、寒さも関係していると見られます1)。私は、レジデントとしてさまざまな部署をローテートしている最中ですが、12月中旬よりICUに配属され、最前線でコロナ治療に当たりました。16床がほぼ満床、そのうち半分弱がコロナ患者で占められています。残念ながら亡くなる人も多いのですが、空いたベッドには容赦なくすぐに次の患者が入ってくるという状況です。また、医療崩壊が起きていたと見られるクイーンズ地区やブルックリン地区など、マンハッタンの外側の地域からも挿管された患者さんの転院搬送が多く、何とか捌いているという印象です。4月は当初の5倍までベッド数を増やしたICUですが、いまは2~3倍というところに抑えてられています。しかしながら通常のICUではないため、看護師の配置等はどうしても少なめになってしまうのが実情です。治療法は依然、第1波のころからほとんど進歩はなく、抗凝固療法、ステロイドをベースに人工呼吸器管理をするというものです。また、どれほど意味があるのかは不明ですが、酸素化が悪い場合は腹臥位にして無気肺の改善を図ります。やはり、ひとたび人工呼吸器に乗ってしまうと死亡率は非常に高く、われわれの施設のデータから報告されたICUでの死亡率は55%でした2)。サンクスギビングが感染契機となった人もおり、未然に防ぐこともできただけに、とても残念です。サンクスギビングが長らく文化として根付き、家族で集う大事な時だといっても、生命のリスクを追うほどものとは考えられません。抗凝固療法に関しては、Mount Sinai groupから出された観察研究のデータで肯定的な結果3)であったため、わたしの勤務病院でも使用していましたが、すべての人に経験的に使うというのは否定的になりつつあり4)、Dダイマーの数値を基に、経験的に調整している程度です。ステロイドもメタ解析で効果が期待されています5)が、もはや人工呼吸器が必要なほど肺が損傷すると、目に見えて効果を感じることができず6)、われわれのデータが示している通り、長期化すると真菌感染が全面に出てきています。参考1)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32762336/2)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32720702/3)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32860872/4)https://www.hematology.org/covid-19/covid-19-and-pulmonary-embolism5)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32876694/6)https://www.jstage.jst.go.jp/article/yoken/advpub/0/advpub_JJID.2020.884/_articleColumn画像を拡大する最前線でレジデントは働いているわけですが、2020年12月14日より、米国ではワクチンの使用が許可され、医療従事者を優先に投与が始まりました。私もICU勤務であることから、他の人より若干早い12月17日にPfizer/BioNTech社のワクチンを受け、今年1月8日に2回目を接種しました。とくにアレルギー等の副反応はなく、筋注なので上腕の筋肉痛が2~3日ありましたが、それもインフルエンザワクチンと同程度でした。

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COPD急性増悪、入院患者の約6%が肺塞栓症/JAMA

 呼吸器症状の急性増悪で入院した慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者において、あらかじめ定めた診断アルゴリズムを用いると、5.9%の患者に肺塞栓症が検出された。フランス・Centre Hospitalo-Universitaire de BrestのFrancis Couturaud氏らが、同国内の病院7施設で実施した前向き多施設共同横断研究「prevalence of symptomatic Pulmonary Embolism in Patients With an Acute Exacerbation of Chronic Obstructive Pulmonary Disease study:PEP研究」の結果を報告した。COPDで呼吸器症状が急性増悪した患者における肺塞栓症の有病率はこれまで明らかになっておらず、COPDの急性増悪で入院した患者に対していつどのように肺塞栓症のスクリーニングをするかが課題であった。JAMA誌2021年1月5日号掲載の報告。COPD急性増悪による入院患者を肺塞栓症診断アルゴリズムで評価 研究グループは、2014年1月~2017年5月の間に呼吸器症状の急性増悪のため入院したCOPD患者を対象に、あらかじめ定めた肺塞栓症診断アルゴリズム(改訂ジュネーブスコアによる検査前確率判定、Dダイマー検査、スパイラルCT肺血管造影+下肢圧迫超音波検査)を入院48時間以内に適用し、3ヵ月間追跡調査した(追跡調査最終日は2017年8月22日)。 主要評価項目は、入院48時間以内に診断された肺塞栓症であった。主な副次評価項目は、入院時に静脈血栓塞栓症を有していないとして抗凝固療法を受けなかった患者における3ヵ月間の肺塞栓症とした。その他の評価項目は、入院時および3ヵ月間の静脈血栓塞栓症(肺塞栓症または深部静脈血栓症)、ならびに3ヵ月間の死亡(静脈血栓塞栓症が臨床的に疑われるかどうかにかかわらない)とした。COPD急性増悪で入院後、2日以内に約6%で肺塞栓症が確認 COPD急性増悪のため入院した患者の計740例(平均[±SD]年齢68.2±10.9歳、女性274例[37.0%])が登録された。このうち、入院48時間以内に肺塞栓症が確認されたのは44例(5.9%、95%信頼区間[CI]:4.5~7.9%)であった。 COPD急性増悪による入院時に静脈血栓塞栓症を有していないと判定され抗凝固療法を受けなかった患者670例において、3ヵ月間の追跡期間中に肺塞栓症が確認されたのは5例(0.7%、95%CI:0.3~1.7%)で、このうち3例は肺塞栓症に関連して死亡した。 全例における3ヵ月死亡率は、6.8%であった(50/740例、95%CI:5.2~8.8%)。追跡期間中に死亡した患者の割合は、入院時静脈血栓塞栓症有病者が非有病者と比較して高かった(25.9%[14/54例]vs.5.2%[36/686例]、リスク差:20.7%、95%CI:10.7~33.8%、p<0.001)。 静脈血栓塞栓症の有病率は、肺塞栓症が疑われた患者(299例)で11.7%(95%CI:8.6~15.9%)、肺塞栓症が疑われなかった患者(441例)で4.3%(95%CI:2.8~6.6%)であった。 著者は、研究の限界として、呼吸器症状の急性増悪が軽度であった患者や重度呼吸不全患者は過小評価されている可能性があること、17.6%の患者は肺塞栓症の初回評価を完遂できていないことなどを挙げたうえで、「COPD患者における肺塞栓症の体系的なスクリーニングが果たしうる役割について、さらなる研究により理解する必要がある」とまとめている。

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日本人のCOVID-19による血栓症発症率は?

 合同COVID-19関連血栓症アンケート調査チームによる『COVID-19関連血栓症に関するアンケート調査』の結果が12月9日に発表された。それによると、日本人での新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連血栓症の発症率は、全体では1.85%であることが明らかになった。 この調査は、COVID-19の病態の重症化に血栓症が深く関わっていることが欧米の研究で指摘されていることを受け、日本人COVID-19関連血栓症の病態及び診療実態を明らかにすることを目的として行われたもの。2020年8月31日までに入院したCOVID-19症例を対象とし、全国の病院399施設のうち109施設からCOVID-19患者6,082例に関する回答が寄せられた。なお、合同調査チームは厚生労働省難治性疾患政策研究事業「血液凝固異常症等に関する研究」班、日本血栓止血学会、日本動脈硬化学会の3組織合同によるもの。 主な調査結果は以下のとおり。・Dダイマーは症例全体の72%で測定され、入院中に基準値の3~8倍の上昇を認めたのはそのうちの9.5%、8倍以上の上昇を認めたのは7.7%と、多くの症例で血栓傾向がみられた。・血栓症は1.85%(血栓症に関する回答のあった5,687例のうち105例)に発症し、発症部位は(重複回答を可として)、症候性脳梗塞22例(血栓症症例の21.0%)、心筋梗塞7例(同6.7%)、深部静脈血栓症41例(同39.0%)、肺血栓塞栓症29例(同27.6%)、その他の血栓症21例(同20.0%)であった。・血栓症は、軽/中等症の症例での発症が31例(軽/中等症症例の0.59%)、人工呼吸器/ECMO使用中の発症が50例(人工呼吸/ECMO症例まで要した重症例の13.2%)であった。・症状悪化時に血栓症を発症したのは64例だったが、回復期にも26例が血栓症を発症していた。・抗凝固療法は、76病院で6,082例のうち880例(14.5%)に実施された。治療法の主な内訳は、未分画ヘパリン591例(880例中の67.2%)、低分子量ヘパリン111例(同13.0%)、ナファモスタット234例(同26.6%)、トロンボモジュリンアルファ42例(同4.8%)、前述の薬剤併用138例(同15.7%)、直接経口抗凝固薬[DOAC]91例(同10.3%)、その他42例(同4.8%)だった。・予防的抗凝固療法の実施について回答した49施設によると、予防的投与を行った患者背景として、Dダイマー高値、NPPV(非侵襲的陽圧換気)/人工呼吸患者、酸素投与患者などが挙げられた。

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再び複数形で祝福だ!高齢者を国の宝とするために【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第30回

第30回 再び複数形で祝福だ!高齢者を国の宝とするために日本で行われた素晴らしい臨床研究であるELDERCARE-AF試験の結果がNEJM誌に掲載されました(N Engl J Med 2020;383:1735-1745)。心房細動があるとはいえ、通常用量の抗凝固療法がためらわれるような、出血リスクが高い80歳以上の高齢日本人を対象とした試験です。低用量NOACによる抗凝固療法が、大出血を増やすことなく脳卒中/全身性塞栓症を抑制することを示しました。この研究の参加者の平均年齢は86.6歳で、過半数の54.6%が85歳超えでした。このような高齢者は、ランダマイズ研究の除外基準に該当するのが常でした。高齢者に適応可能なエビデンスが存在しない中で、現場の医師は高齢の心房細動患者への対応を迫られています。脳卒中の減少と出血増加のバランスにおいて、試験の結果を慎重に解釈する必要がありますが、高齢者を対象としたエビデンスが登場したことは高く評価されます。日本社会は、高齢化において世界のトップランナーです。65歳以上の高齢者が全人口に占める割合である高齢化率が、7%を超えると「高齢化社会」、14%を超えると「高齢社会」、21%を超えると「超高齢社会」とされます。日本は1970年に高齢化社会、1994年に高齢社会、2007年に超高齢社会へと突入しました。高齢化社会から高齢社会となるまでの期間は、ドイツは42年、フランスは114年を要したのに対し、日本はわずか24年で到達しています。今後も高齢化率は上昇し、2025年には約30%、2060年には約40%に達すると予測されます。ある日の小生の外来診察室の風景です。「昨日、誕生日だったんですね。おめでとうございます!」電子カルテの年齢欄に、87歳0ヵ月と表示された女性患者さんに誕生祝いの声がけをしたのです。電子カルテは、誕生日を迎えたばかりの方や、間もなく誕生日の方が簡単にわかるので便利です。「87歳にもなって、めでたくなんかないですよ。これ以上、年はとりたくない」患者さんは、一見ネガティブな返答をしますが満面の笑みです。「今日まで長生きできてよかったね。年をとれることは素晴らしいことですね。おめでとう」外来では、誕生日の患者さんに必ず祝意を伝えることにしています。誕生日を祝福する意味はなんでしょうか。その意味は、その方の存在を肯定することにあります。子供の誕生日に成長を祝うこととは、少し意味合いが違います。自己の存在を肯定されることは、人間にとって最も満足度の高いことで、その節目が誕生日です。高齢人口が急速に増加する中で、医療、福祉などをどのように運用していくかは喫緊の課題です。逃げることなく正確に現状を把握し、次の方策を練ることは大切です。その議論の過程で、負の側面を捉えて嘆いていてもはじまりません。歴史上に類を見ない超高齢化社会の日本を世界が注目しています。対応に過ちがあれば同じ轍を踏むことがないようにするためです。今、必要なのは高齢者の存在を肯定する前向き思考です。高齢者を国の宝として活用するのです。その具体的成功例が、このELDERCARE-AF試験ではないでしょうか。高齢者医療のエビデンスを創出し、世界に向けて発信していくことは、高齢化社会のトップランナーである日本であるからこそ可能であり、むしろ責務です。あらためて、ELDERCARE-AF試験に関与された皆様に敬意を表し、複数形で祝福させていただきます。Congratulations!

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がん患者、抗凝固薬の中止時期を見極めるには/日本癌治療学会

 がん患者は合併症とどのように付き合い、そして医師はどこまで治療を行うべきか。治療上で起こりうる合併症治療とその中止タイミングは非常に難しく、とりわけ、がん関連血栓症の治療には多くの腫瘍専門医らは苦慮しているのではないだろうかー。 10月23日(金)~25日(日)にWeb開催された第58回日本癌治療学会学術集会において、会長企画シンポジウム「緩和医療のdecision making」が企画された。これには会長の弦間 昭彦氏の“decision makingは患者の治療選択時に使用される言葉であるが、医療者にとって治療などで困惑した際に立ち止まって考える機会”という思いが込められている。今回、医師のdecision makingに向けて発信した赤司 雅子氏(武蔵野赤十字病院緩和ケア内科)が「合併症治療『生きる』選択肢のdecision making-抗凝固薬と抗菌薬-」と題し、困惑しやすい治療の切り口について講演した。本稿では抗凝固療法との向き合い方にフォーカスを当てて紹介する。医師のバイアスがかからない意思決定を患者に与える がん治療を行いながら並行して緩和医療を考える昨今、その場に応じた1つ1つの細やかな意思決定の需要性が増している。臨床上のdecision makingは患者のリスクとベネフィットを考慮して合理的に形成されているものと考えられがちであるが、実際は「多数のバイアスが関係している」と赤司氏は指摘。たとえば、医師側の合理的バイアス1)として1)わかりやすい情報、2)経験上の利益より損失、3)ラストケース(最近経験した事柄)、4)インパクトの大きい事象、などに左右される傾向ある。これだけ多数のバイアスのかかった情報を患者に提供し、それを基にそれぞれが判断合意する意思決定は“果たして合理的なのかどうか”と疑問が残る。赤司氏は「患者にはがん治療に対する意思決定はもちろんのこと、合併症治療においても意思決定を重ねていく必要がある」と述べ、「とくに終末期医療において抗凝固薬や抗菌薬の選択は『生きる』という意味を含んだ選択肢である」と話した。意思決定が重要な治療―がん関連血栓症(CAT) 患者の生死に関わる血栓症治療だが、がん患者の血栓症リスクは非がん患者の5倍も高い。通常の血栓症の治療期間は血栓症の原因が可逆的であれば3ヵ月間と治療目安が明確である。一方、がん患者の場合は原因が解決するまでできるだけ長期に薬物治療するよう現時点では求められているが、血栓リスク・出血リスクの両方が高まるため薬剤コントロールに難渋する症例も多い。それでも近年ではワーファリンに代わり直接経口抗凝固薬(DOAC)が汎用されるようになったことで、相互作用を気にせずに食事を取ることができ、PT-INR確認のための来院が不要になるなど、患者側に良い影響を与えているように見える。 しかし、DOACのなかにはP糖タンパクやCYP3A4に影響する薬物もあることから、同氏は「終末期に服用機会が増える鎮痛剤や症状緩和の薬剤とDOACは薬物相互作用を起こす。たとえば、アビキサバンとデキサメタゾンの併用によるデキサメタゾンの血中濃度低下、フェンタニルやオキシコドン、メサペインとの相互作用が問題視されている。このほか、DOACの血中濃度が2~3倍上昇することによる腎機能障害や肝機能障害にも注意が必要」と実状を危惧した。DOACの調節・中止時の体重換算は今後の課題 また、検査値指標のないDOACは体重で用量を決定するわけだが、悪液質が見られる場合には筋肉量が低下しているにも関わらず、浮腫や胸水、腹水などの体液の貯留により体重が維持されているかのように見えるため、薬物投与に適した体重を見極めるのが難しい。これに対し、同氏は「自施設では終末期がん患者の抗凝固療法のデータをまとめているが、輸血を必要としない小出血については、悪液質を有する患者で頻度が高かった。投与開始時と同量の抗凝固薬を継続するのかどうか、検証するのが今後の課題」と話した。また、エドキサバンのある報告2)によると、エドキサバンの血中濃度が上昇しても大出血リスクが上昇するも脳梗塞/塞栓症のリスクは上昇しなかったことから、「DOACの少量投与で出血も塞栓症も回避することができるのでは」とコメント。「ただし、この報告は非がん患者のものなので、がん患者への落とし込みには今後の研究が待たれる」とも話した。 さらに、抗凝固薬の中止タイミングについて、緩和ケア医とその他の医師ではそのタイミングが異なる点3)、抗凝固薬を開始する医師と中止する医師が異なる点4)などを紹介した。 このような臨床上での問題を考慮し「半減期の短さ、体内での代謝などを加味すると、余命が短め週の単位の段階では、抗凝固療法をやめてもそれほど影響はなさそうだが、薬剤選択には個々の状況を反映する必要がある」と私見をまとめ、治療の目標は「『いつもの普段の自分でいられること』で、“decision making”は合理的な根拠を知りながら、その上で個別に考えていくことが必要」と締めくくった。

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持続的腎代替療法時の抗凝固療法、クエン酸 vs.ヘパリン/JAMA

 急性腎障害を伴う重症患者への持続的腎代替療法施行時の抗凝固療法において、局所クエン酸は全身ヘパリンと比較して、透析フィルター寿命が長く、出血性合併症は少ないが、新規感染症が多いことが、ドイツ・ミュンスター大学病院のAlexander Zarbock氏らが行った「RICH試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌2020年10月27日号で報告された。欧米の現行ガイドラインでは、重症患者への持続的腎代替療法時の抗凝固療法では局所クエン酸が推奨されているが、この推奨のエビデンスとなる臨床試験やメタ解析は少ないという。ドイツの26施設が参加、試験は早期中止に 研究グループは、持続的腎代替療法施行時の局所クエン酸投与が透析フィルター寿命および死亡に及ぼす影響を、全身ヘパリンと比較する目的で、多施設共同無作為化試験を実施した(ドイツ研究振興協会の助成による)。本試験はドイツの26施設が参加し、2016年3月~2018年12月に行われた。 対象は、年齢18~90歳、KDIGOステージ3の急性腎障害または持続的腎代替療法の絶対適応とされ、重症敗血症/敗血症性ショック、昇圧薬の使用、難治性の体液量過剰のうち1つ以上がみられる患者であった。 被験者は、持続的腎代替療法施行時に、局所クエン酸(イオン化カルシウムの目標値1.0~1.40mg/dL)または全身ヘパリン(活性化部分トロンボプラスチン時間の目標値45~60秒)の投与を受ける群に無作為に割り付けられた。 フィルター寿命と90日死亡率を複合主要アウトカムとした。副次エンドポイントには出血性合併症や新規感染症が含まれた。 本試験は、596例が登録された時点で、中間解析の結果がプロトコールで事前に規定された試験終了に達したため、早期中止となった。フィルター寿命が15時間延長、死亡への影響の検出力は低い 638例が無作為化の対象となり、596例(93.4%、平均年齢67.5歳、183例[30.7%]が女性)が試験を終了した。局所クエン酸群が300例、全身ヘパリン群は296例だった。 フィルター寿命中央値は、局所クエン酸群が47時間(IQR:19~70)、全身ヘパリン群は26時間(12~51)であり、有意な差が認められた(群間差:15時間、95%信頼区間[CI]:11~20、p<0.001)。90日の時点での全死因死亡は、局所クエン酸群が300例中150例、全身ヘパリン群は296例中156例でみられ、Kaplan-Meier法による推定死亡率はそれぞれ51.2%および53.6%であり、両群間に有意な差はなかった(補正後群間差:-6.1%、95%CI:-12.6~0.4、ハザード比[HR]:0.79、95%CI:0.63~1.004、p=0.054)。 38項目の副次エンドポイントのうち34項目には有意差がなかった。局所クエン酸群は全身ヘパリン群に比べ、出血性合併症(15/300例[5.1%] vs.49/296例[16.9%]、群間差:-11.8%、95%CI:-16.8~-6.8、p<0.001)が少なく、新規感染症(204/300例[68.0%] vs.164/296例[55.4%]、12.6%、4.9~20.3、p=0.002)が多かった。 局所クエン酸群は、重度アルカローシス(2.4% vs.0.3%)および低リン血症(15.4% vs.6.2%)の頻度が高く、全身ヘパリン群は、高カリウム血症(0.0% vs.1.4%)および消化器合併症(0.7% vs.3.4%)の頻度が高かった。これら以外の有害事象の頻度は両群間に差はなかった。 著者は、「本試験は早期中止となったため、抗凝固療法戦略が死亡に及ぼす影響に関して、結論に至るに十分な検出力はない」としている。

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RCTの評価はどこで行うか? ELDERCARE-AF試験の場合(解説:香坂俊氏)-1302

今回解説させていただくELDERCARE-AFはわが国で実施された試験であるが、出血ハイリスクの心房細動患者に対して抗凝固療法(ただし低用量)の有用性を確立させたという点で画期的であった。高齢者で基礎疾患のある心房細動患者には抗凝固療法(最近ではワルファリンよりもNOACと呼ばれるクラスの薬剤が使われることが多くなっている)を用いた脳梗塞予防が広く行われているが、抗凝固を行えばそれだけ出血するリスクも高くなるわけであり、そこのバランスをどう保つかということは大きな課題であった。この試験では従来からの基準ではNOACを用いることができない「出血ハイリスク」患者を対象として、何もしないか(プラセボ投与)あるいは低用量のエドキサバン(NOACの1つ、通常の1日量が60㎎ 1xであるところを15mg 1xとして用いた)を用いるかというところの比較を行った。出血ハイリスクというところをどう規定するかというところに工夫があり、この試験では80歳以上ということをまず組み入れ基準とし、そのうえで以下のうちのいずれか1つ以上を満たす患者を対象とするとした(かなり条件は厳しい):・低腎機能(creatinine clearanceが15から30mL/min)・出血の既往・低体重(45kg以下)・NSAIDを使用・抗血小板剤を使用ただこの条件の設定の仕方はなかなか見事であり、これならば誰もが「出血ハイリスク」であることに納得がいき、かつ現場で抗凝固薬の処方をためらうというところに異論がないのではないかと思われる([1])。試験の結果として、脳卒中/全身性塞栓症の発生は低用量のエドキサバン群で少なく(the annualized rate of stroke or systemic embolism was 2.3% in the edoxaban group and 6.7% in the placebo group (hazard ratio, 0.34; 95% confidence interval [CI], 0.19 to 0.61; P

80.

非心臓手術後に生じる新規発症心房細動がその後の脳卒中・一過性脳虚血発症に関連(解説:今井靖氏)-1290

 一般的に心房細動の存在は脳梗塞や一過性脳虚血発作のリスクとなることは周知のことであるが、非心臓手術の際に生じた新規心房細動が脳梗塞・一過性脳虚血発作のリスクとなるか否かについては必ずしも明らかではない。本研究は、米国ミネソタ州のオルムステッド郡において2000~13年の間に非心臓手術を施行した際に術後30日以内に新規に心房細動を発症した550例を対象に行われた。そのうち452例については年齢、性別および外科手術日、手術内容が一致したコントロール群を設定し、主要臨床転帰は脳梗塞または一過性脳虚血発作発症、副次的臨床転帰はそれに引き続く心房細動発作、死亡、心臓血管死としている。中央値75歳、男性が51.8%の904例間の比較において心房細動を生じた患者では有意にCHA2DS2-VAScスコアが高く(中央値4[IQR:2~5] vs.3[IQR:2~5]、p<0.001)、中央値5.4年の追跡期間において71例が脳梗塞または一過性脳虚血発作を認め(ハザード比2.69[1.35~5.37])、266例で心房細動のエピソードを認めた(ハザード比7.94)。571例が死亡(ハザード比1.66)したが、172例が心臓関連死であった。 周術期の新規発症心房細動は外科的侵襲に伴う交感神経活性化、体循環血液量・心負荷の急激な変化に伴いもたらされる。非心臓手術時においても心臓手術、たとえば冠動脈バイパス手術においてもβ遮断薬を適宜投与し、輸液バランスに細心の注意を払いながら管理する。β遮断薬はハイリスク例においては心筋虚血の回避、不整脈イベントの減少により予後改善が得られるとの論文が過去複数報告されており、日本では必ずしも一般化されていないが、欧米では周術期管理においてβ遮断薬が多く使用される。日常診療下における心房細動発症あるいはその持続が脳血管障害のリスクになることは周知の事実であるが、侵襲によって誘発された心房細動がはたしてどの程度、脳血管障害や死亡へのインパクトがあるか必ずしも統計学的に明らかにされてこなかった。今回の研究ではこの非心臓血管外科周術期の新規発症心房細動が脳梗塞・一過性脳虚血発作の相当のリスクになることが示されたが、いかにそれを防ぐべきか、また術後の止血・再出血の観点から周術期にいかに抗凝固療法を行うべきかについては本研究からは回答を得ることができない。本研究に類似したものが今年POISE研究(Conen D, et al. Eur Heart J. 2020;41:645-651.)においても示されている。今後、抗凝固療法を含めた心房細動を周術期管理について新たな臨床試験・研究で検証する必要性がある。

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