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検査前確率+DダイマーでDVT診断向上/BMJ

 深部静脈血栓症(DVT)の診断において、検査前臨床的確率とDダイマーを組み合わせた戦略は、超音波検査の実施回数を減少させつつDVTのリスクが低い患者群を特定できることが、カナダ・マックマスター大学のClive Kearon氏らが実施した前向き試験「Designer D-Dimer Deep vein thrombosis(4D)試験」で示された。これまでのコホート研究で、検査前臨床的確率が低いまたはWellsスコアが低くDダイマー陰性の患者はDVTを除外できることの安全性が示唆されていた。BMJ誌2022年2月15日号掲載の報告。低確率+1,000ng/mL未満、中確率+500ng/mL未満はDVTを除外 研究グループは、カナダの大学病院10施設の救急診療部または外来を受診した、DVTの症状または兆候を有する患者を前向きに登録し、3ヵ月間追跡した。 登録時、Wellsスコアを用いてDVT検査前臨床的確率を低確率(スコア:-2~0)、中確率(1、2)、高確率(3以上)に分類するとともにDダイマーを測定し、低確率でDダイマー1,000ng/mL未満、または中確率でDダイマー500ng/mL未満の患者は追加検査なしでDVTを除外できると判断。その他のすべての患者には超音波検査を実施した。最初の超音波検査が陰性で、低~中確率かつDダイマー>3,000ng/mLまたは高確率かつDダイマー>1,500ng/mLの患者には、1週間後に再度超音波検査を行った。超音波検査でDVTが認められた患者には、抗凝固療法を実施した。 主要評価項目は、3ヵ月時の症候性静脈血栓塞栓症とした。4D診断アルゴリズムで、超音波検査の必要性がほぼ半減 2014年4月~2020年3月の期間に1,508例の登録と解析が行われた。1,508例中173例(11.5%)が今回の4D診断アルゴリズムによりDVTと診断された(168例は来院日の超音波検査で、5例は1週間後の再検査で確認)。DVTと診断されず抗凝固療法を受けなかった1,275例のうち、8例(0.6%、95%信頼区間[CI]:0.3~1.2)が、追跡期間中に静脈血栓塞栓症を発症した。 従来のDVT診断戦略と比較すると、今回のアルゴリズムでは超音波検査の平均回数が患者1例当たり1.36回から0.72回に減少し、差は-0.64回(95%CI:-0.68~-0.60)で、相対的な47%の減少に相当した。 なお著者は、入院患者、抗凝固療法中の患者、妊婦、肺塞栓症疑いの患者などが除外されていることなどを研究の限界として挙げている。

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「災害としてのCOVID-19と血栓症Webセミナー」ホームページで公開中/日本静脈学会

 新型コロナウイルス感染症はほかの感染症と比較して血栓リスクが高いことは知られている。今回、日本静脈学会はこのコロナ第6波を受け、コロナ×血栓症に関する内容を多くの医療者に発信したいと、昨年11月10日(水)と12月7日(火)にクローズド開催した『災害としてのCOVID-19と血栓症Webセミナー』の編集動画を本ホームページへ公開した。 本学会は「日頃COVID-19治療に従事している医療従事者の皆さんのVTE対応への指標の一つとなるよう」思いを込めてセミナーを企画しており、本講演会については医師のみならず誰でも視聴可能だ。災害としてのCOVID-19と血栓症(前編)1『COVID-19患者で注意すべき血栓症・静脈血栓塞栓症とは?』 山下 侑吾氏(京都大学医学部附属病院 循環器内科)2『日本でもCOVID-19患者のVTE発症は多いのか?』 西本 裕二氏(兵庫県立尼崎総合医療センター 循環器内科)3『COVID-19:血栓症の診療指針と抗凝固療法の実際』 谷地 繊氏(JCHO東京新宿メディカルセンター 循環器内科)災害としてのCOVID-19と血栓症(後編)4『災害時VTEから考える自宅・宿泊療養患者さんのVTEの危険性』 岩田 英理子氏(JCHO南海医療センター心臓血管外科)5『静脈血栓症予防の理学療法 下肢運動と予防用弾性ストッキングの着用法』 杉山 悟氏(広島逓信病院)コメンテーター: 山本 尚人氏(浜松医療センター 血管外科) 佐戸川 弘之氏(福島県立医科大学附属病院 心臓血管外科) 福田 幾夫氏(吹田徳洲会病院 心臓血管センター長) 相川 志都氏(筑波メディカルセンター病院 心臓血管外科)

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若年者の再発VTEへの抗凝固療法、6週が3ヵ月に非劣性/JAMA

 21歳未満の若い誘発性静脈血栓塞栓症(VTE)患者において、6週の抗凝固療法は3ヵ月の同療法に対して、再発VTEリスクと出血リスクとのトレードオフに基づく非劣性基準を満たしたことが、米国・Johns Hopkins All Children's HospitalのNeil A. Goldenberg氏らによる無作為化試験「Kids-DOTT試験」で示された。VTEに対する抗凝固療法について、21歳未満の患者における至適な治療期間は不明であった。JAMA誌2022年1月11日号掲載の報告。5ヵ国42施設で417例を対象に無作為化試験 試験は、21歳未満の誘発性VTE患者に対する抗凝固療法について、6週投与は従来法の3ヵ月投与に非劣性であるとの仮説を検証するため、2008~21年に、5ヵ国42医療施設で登録された417例を対象に行われた(主要エンドポイントの最終受診評価は2021年1月)。主な除外条件は重度の抗凝固因子欠乏症またはVTE既往で、持続性の抗リン脂質抗体がなく、診断後6週時の再画像診断で血栓が解消または完全な閉塞は認められない患者を無作為化に2群に割り付け、6週(207例)または3ヵ月(210例)の抗凝固療法を行った。 主要有効性および安全性の評価は、治療割付盲検下の1年以内に、発生が中央で判定された症候性の再発VTEと臨床的に問題となる出血イベントであった。 主要解析はper-protocol集団における非劣性の評価で、非劣性の定義には、症候性再発VTEの絶対増加0%と臨床的に問題となる出血イベントの絶対リスク低下4%など、二変量のトレードオフが組み込まれた(二変量非劣性境界曲線の3つのポイント中の1ポイントとした)。主要有効性アウトカム1年累積発生率、6週群0.66%、3ヵ月群0.70% 無作為化された417例において、297例(年齢中央値8.3歳[範囲:0.04~20.9]、女性49%)が、主要per-protocol解析の基準を満たした。Kaplan-Meier法により、主要有効性アウトカムの1年累積発生率は、6週抗凝固療法群0.66%(95%信頼区間[CI]:0~1.95)、3ヵ月抗凝固療法群0.70%(0~2.07)だった。 両群の再発VTEおよび臨床的に問題となる出血イベントの絶対リスク差に基づき、非劣性が実証された。 有害事象の発生は、6週抗凝固療法群26%、3ヵ月抗凝固療法群32%で、最も頻度の高かった有害事象は発熱(それぞれ1.9%、3.4%)であった。

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ICU入室COVID-19患者にアトルバスタチンは有効か?/BMJ

 集中治療室(ICU)に入室した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)成人患者において、アトルバスタチンによる治療はプラセボと比較し、安全性は確認されたが、静脈/動脈血栓症、体外式膜型人工肺(ECMO)使用および全死亡の複合エンドポイントの有意な減少は認められなかった。イラン・Rajaie Cardiovascular Medical and Research CentreのBehnood Bikdeli氏らINSPIRATION-S試験グループが、同国11施設で実施した2×2要因デザインの無作為化比較試験の結果を報告した。BMJ誌2022年1月7日号掲載の報告。アトルバスタチン群290例、プラセボ群297例を比較 INSPIRATION-S(Intermediate vs Standard-Dose Prophylactic Anticoagulation in Critically-ill Patients With COVID-19:An Open Label Randomised Controlled Trial [INSPIRATION] -statin)試験は、ICUに入室した18歳以上のCOVID-19患者をアトルバスタチン(20mg 1日1回経口投与)群とプラセボ群に無作為に割り付け、退院状況にかかわらず無作為化後30日間投与し行われた。 有効性の主要評価項目は、30日以内の静脈/動脈血栓症、ECMO使用および全死亡の複合とした。事前に規定した安全性の評価項目は、肝酵素値の基準値上限3倍以上の患者の割合、臨床的に診断された心筋症などであった。有効性および安全性の評価は、治療の割り付けについて盲検化された臨床イベント委員会が行った。 2020年7月29日~2021年4月4日に、605例が無作為化された(アトルバスタチン群303例、プラセボ群302例)。なお、605例中343例は、先行して行われた、予防的抗凝固療法としてのヘパリン(エノキサパリン)の中等量と標準量を比較するINSPIRATION試験にも無作為化されており、262例はINSPIRATION試験終了後に無作為化された。 INSPIRATION-S試験の主要解析対象集団は605例中、適格基準を満たしていなかった14例と試験薬が投与されなかった4例を除く587例(アトルバスタチン群290例、プラセボ群297例)で、患者背景は年齢中央値57歳(四分位範囲:45~68)、女性256例(44%)であった。静脈/動脈血栓症・ECMO使用・全死亡の複合エンドポイントに両群で有意差なし 主要評価項目のイベントは、アトルバスタチン群で95例(33%)、プラセボ群で108例(36%)に認められた(オッズ比[OR]:0.84、95%信頼区間[CI]:0.58~1.21)。死亡は、アトルバスタチン群90例(31%)、プラセボ群103例(35%)であった(OR:0.84、95%CI:0.58~1.22)。静脈血栓塞栓症の発現率は、アトルバスタチン群2%(6例)、プラセボ群3%(9例)であった(OR:0.71、95%CI:0.24~2.06)。 心筋症は両群とも確認されなかったが、肝酵素値上昇はアトルバスタチン群で5例(2%)とプラセボ群で6例(2%)に認められた(OR:0.85、95%CI:0.25~2.81)。 なお、著者は「全体のイベント発生率が予想より低値であったため、臨床的に重要な治療効果を排除することはできない」とまとめている。

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新型コロナウイルス感染におけるDOACの意味:ランダム化比較試験か観察研究か?(解説:後藤信哉氏)

 観察研究にて、新型コロナウイルス感染による入院中の血栓イベント予防におけるDOACの価値は限定的とされた。血栓イベントリスクは退院後も高いと想定される。退院後の低分子ヘパリンの継続の根拠も確立されていない。本研究ではVTE risk 2~3以上、あるはD-dimer 500以上の症例を対象として抗凝固療法なしと1日10mgのrivaroxabanを比較するオープンラベルのランダム化比較試験である。退院後の抗凝固薬として標準治療は確立されていない。しかし、無治療と10mg rivaroxabanの比較試験の施行根拠を明確に説明することも難しい。本研究はブラジルの14の施設にて施行された。 一般的にランダム化比較試験は仮説検証試験として施行される。本研究は1国の、比較的少数(n=320)の仮説を生み出す研究である。血栓イベントリスクの高い症例が選択されているが、抗血栓薬なしの症例群でも退院後35日以内の血栓イベント発現率は9%(160例中15例)であった。この値には価値があると思う。今まで真剣に考えていなかったが、新型コロナウイルス感染の症例では退院後も油断はできない。血栓イベントリスクを評価して適切な対応が必要である。 さて、本試験では10mg/日のrivaroxabanと比較された。rivaroxaban群の血栓イベントは3%(159例中3例)と対象群よりも低かった。両群の出血イベントには差がなかった。 本研究成果を見て皆さんはどう考えるだろうか? ランダム化比較試験であるため実験的研究である。研究に必要な費用はrivaroxabanメーカーであるBayer社が負担している。オープンラベルの本研究の成果により新型コロナウイルスによる入院後の血栓リスクの高い症例の血栓イベント予防の適応にてrivaroxabanを承認するのは難しいと思われる。 ランダム化比較試験は標準治療の転換に用いられる。標準治療の転換を目指すランダム化比較試験でもボランティアは自らリスクをとって参加することになる。試験の結果に応じて次世代の標準治療が転換される。医師・患者のみならず企業、規制当局も国際共同ランダム化比較試験による科学的根拠が標準治療の転換に必要と考えている。筆者は、本研究はランダム化比較試験とするよりも新型コロナウイルス感染後の血栓イベントリスクの高い症例の観察研究でよかったと思う。観察研究では企業の資金を得られなかったかもしれない。前向き国際共同観察研究にて、新型コロナウイルス感染後の血栓イベントリスクの高い症例の血栓イベントが10%程度あることを確認し、その後に薬剤介入の効果を検証するランダム化比較試験ができればよかった。本研究には価値はあるが、筆者は被験者にはなりたくないと思ってしまう研究であった。

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COVID-19退院後の血栓イベント予防に、抗凝固療法が有用/Lancet

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で入院した高リスク患者において、退院後のリバーロキサバン10mg/日投与は抗凝固療法を行わない場合と比較し35日後の臨床アウトカムを改善することが、無作為化非盲検試験「MICHELLE試験」で示された。ブラジル・Science Valley Research InstituteのEduardo Ramacciotti氏らが報告した。COVID-19で入院した患者は、退院後に血栓イベントのリスクがあるが、この集団における血栓予防の効果は不明であった。Lancet誌オンライン版2021年12月15日号掲載の報告。退院時にリバーロキサバン10mg/日投与と抗凝固療法なしに無作為化、35日間追跡 研究グループは、ブラジルの14施設において、COVID-19により入院し、静脈血栓塞栓症(VTE)のリスクが高い患者(VTE予防のための国際登録「IMPROVE」のVTEスコア≧4、または2~3でDダイマー>500ng/mL)を、退院時にリバーロキサバン10mg/日を投与する群(リバーロキサバン群)と抗凝固療法を行わない群(対照群)に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 有効性の主要評価項目は、35日目における症候性または致死性VTE、両側下肢静脈超音波検査およびCT肺血管造影による無症候性VTE、症候性動脈血栓塞栓症、および心血管死の複合とし、盲検下で判定した。安全性の主要評価項目は大出血。いずれもintention-to-treat解析を行った。リバーロキサバン群で血栓イベントリスクが67%低下 2020年10月8日~2021年6月29日の間に997例がスクリーニングされ、このうち適格基準を満たした320例が登録され、リバーロキサバン群(160例、50%)または対照群(160例、50%)に無作為に割り付けられた。 全例、入院中は標準用量のヘパリンによる血栓予防を行った。165例(52%)は入院中に集中治療室に入室しており、197例(62%)はIMPROVEのVTEスコアが2~3のDダイマー高値例、121例(38%)は同スコア≧4であった。2例(各群1例)は、同意を撤回したため追跡調査ができず、解析から除外された。 有効性主要評価項目の複合イベントは、リバーロキサバン群で159例中5例(3%)、対照群で159例中15例(9%)に発生し、相対リスクは0.33(95%信頼区間[CI]:0.12~0.90、p=0.0293)であった。 両群とも大出血は認められなかった。リバーロキサバン群で2例(1%)にアレルギー反応が報告された。

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肺塞栓除外、YEARS基準+D-ダイマー年齢補正カットオフ値が有効/JAMA

 肺塞栓症の疑いで救急部門に搬送され、肺塞栓症除外基準(PERCルール)で除外できなかった患者について、YEARS基準とD-ダイマー年齢補正カットオフ値を組み合わせた診断戦略は、従来のD-ダイマー年齢補正カットオフ値のみによる診断戦略と比べて非劣性であることが、フランス・ソルボンヌ大学のYonathan Freund氏らが1,414例を対象に行った無作為化試験で示された。YEARS基準+D-ダイマー診断群では、胸部画像撮影実施率も約9%低減し、救急部門入院期間は短縮したという。これまで非コントロール試験では、YEARS基準とさまざまなD-ダイマーのカットオフ値を組み合わせた診断戦略が、安全に肺塞栓症を除外できることが示されていた。JAMA誌2021年12月7日号掲載の報告。肺塞栓をYEARS基準とD-ダイマー年齢補正カットオフ値で除外 研究グループは2019年10月~2020年6月にかけて、フランスとスペインの18ヵ所の救急部門で、肺塞栓症の臨床的リスクは低いもののPERCルールで除外できなかった患者、または肺塞栓症の主観的な中等度の臨床リスクが認められた患者の合計1,414例を対象に、クラスター無作為化クロスオーバー非劣性試験を行った。追跡は、2020年10月まで行った。 各試験センターで、無作為に介入期間とコントロール期間の順序が決められた。介入期間に、YEARS基準に該当せずD-ダイマー値が1,000ng/mL未満、またはYEARS基準1以上に該当しD-ダイマー値が年齢補正カットオフ値(50歳未満は500ng/mL、50歳以上は年齢×10ng/mL)未満の患者について、胸部画像なしで肺塞栓症を除外した(726例)。 コントロール期間では、D-ダイマー値が年齢補正カットオフ値未満の場合に、胸部画像なしで肺塞栓症を除外した(688例)。 主要エンドポイントは、3ヵ月時点の静脈血栓塞栓症(VTE)の発生率で、非劣性マージンは1.35%とした。副次エンドポイントは8項目で、いずれも3ヵ月時点で評価した胸部画像撮影、救急部門入院期間、入院、非適応抗凝固療法、全死因死亡、あらゆる再入院などだった。肺塞栓除外のYEARS基準とD-ダイマー年齢補正カットオフ値の組み合わせは有効 被験者数1,414例(平均年齢55歳、女性58%)のうち、1,217例(86%)を対象にper-protocol解析が行われた。 試験期間中に、救急部門で肺塞栓症の診断を受けたのは100例(7.1%)だった。3ヵ月時点で、VTE発症は介入群1例(0.15%、95%信頼区間[CI]:0.0~0.86)に対し、コントロール群5例(0.80%、0.26~1.86)で、介入群の非劣性が示された(補正後群間差:-0.64%、片側97.5%CI:-∞~0.21)。 解析を行った6項目の副次エンドポイントのうち有意差が認められたのは、胸部画像撮影の実施率(介入群30.4% vs.コントロール群40.0%、補正後群間差:-8.7%[95%CI:-13.8~-3.5])、救急部門入院期間の中央値(6時間[IQR:4~8]vs.6時間[5~9]、補正後群間差:-1.6時間[95%CI:-2.3~-0.9])の2項目のみだった。

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コロナ入院患者にアスピリン併用は有効か/Lancet

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)入院患者において、アスピリンによる治療は28日死亡率、侵襲的人工呼吸管理への移行または死亡のリスクを低下させなかったが、28日以内の生存退院率はわずかに改善した。無作為化非盲検対照プラットフォーム試験「RECOVERY試験」の結果で、英国・オックスフォード大学のPeter W. Horby氏らRECOVERY試験共同研究グループが報告した。これまで、その抗血栓性に基づきCOVID-19に対する治療薬としてアスピリンが提案されていたが、著者らは、「今回の結果は、COVID-19入院患者において、標準的な血栓予防や治療的抗凝固療法としてアスピリンを追加することを支持するものではない」とまとめている。Lancet誌オンライン版2021年11月17日号掲載の報告。通常治療単独とアスピリン併用の有効性を28日死亡率などで比較 RECOVERY試験は、COVID-19入院患者においてさまざまな治療法の有効性を評価する医師主導の試験で、英国177施設、インドネシア2施設、ネパール2施設で実施された。 研究グループは、適格基準を満たし同意が得られたCOVID-19入院患者を、通常の標準治療+アスピリン(150mg、1日1回)群または通常治療群に、Webシステムを用いて1対1の割合(非層別)で無作為に割り付けた。 主要評価項目は28日死亡率で、intention-to-treat解析で評価した。28日死亡率に有意差なし、入院期間と28日以内の生存退院率はわずかに改善 2020年11月1日~2021年3月21日にRECOVERY試験に登録された2万2,560例中、1万4,892例(66%)が適格基準を満たし、7,351例がアスピリン群に、7,541例が通常治療群に割り付けられた。 全体で無作為化から28日以内に、アスピリン群で1,222例(17%)、通常治療群で1,299例(17%)が死亡した(率比:0.96[95%信頼区間[CI]:0.89~1.04]、p=0.35)。事前に規定したすべてのサブグループで、一貫した結果が得られた。 アスピリン群では通常治療群より入院期間がわずかに短く(中央値8日[IQR:5~>28]vs.9日[5~>28])、28日以内の生存退院率が高かった(75% vs.74%、率比:1.06[95%CI:1.02~1.10]、p=0.0062)。 ベースラインで侵襲的人工呼吸管理を受けていなかった患者において、侵襲的人工呼吸管理または死亡に至った割合に有意差はなかった(21% vs.22%、リスク比:0.96[95%CI:0.90~1.03]、p=0.23)。 アスピリンは、血栓イベントの減少(4.6% vs.5.3%、絶対群間差:-0.6%、SE:0.4%)、および大出血イベントの増加(1.6% vs.1.0%、絶対群間差:0.6%、SE:0.2%)と関連していた。 結果について著者は、本無作為化試験は非盲検試験で、入院患者のみを対象としており、放射線学的または生理学的アウトカムに関する情報が不明であることなどを研究の限界として挙げている。なお、現在、入院していないCOVID-19患者におけるアスピリンの安全性と有効性に関する臨床試験が進行中である。

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がんと血栓症、好発するがん種とリスク因子は?【見落とさない!がんの心毒性】第8回

がん患者における血栓症は、頻度が多いにも関わらず見逃されやすい病気です。慎重な身体診察と適切な検査を行うことで、早期診断、早期治療を行うことが重要です。近年、がん患者の血栓症の発症頻度は増加傾向にあり、がん関連血栓症(CAT :Cancer-Associated Thrombosis)と呼ばれて注目されています。とくに、深部静脈血栓症(DVT)と肺血栓塞栓症(PTE)を合わせた静脈血栓塞栓症(VTE :venous thromboembolism)の頻度が高く、入院中のがん患者では約20%に起こると報告されています1)。主な原因は、がんや治療による血液凝固能の異常な活性化、長期臥床や血管の圧迫などによる血流のうっ滞、検査や治療による血管内皮障害により静脈血栓が形成されやすくなることです。さらに、診断率の向上、がん治療の長期化、がん患者の高齢化、心血管毒性を有する抗がん剤の使用なども増加の一因と考えられています。一方、がん患者の動脈血栓塞栓症の頻度は1%以下ですが、脳梗塞、心筋梗塞、末梢動脈疾患などの重篤な病態の原因となり注意が必要です。本稿では、VTEの診断と治療のポイントを解説します。症状と診断VTEを診断するための重要なポイントは、症状を見逃さないように注意深く病歴を聴取し、全身の診察を怠らないことです。DVTの症状では、四肢の腫脹、疼痛、皮膚の色調変化が重要ですが、時に症状に乏しく突然のPTEを来たして診断されることもあります。PTEの症状では、呼吸困難、胸痛が多く、そのほかに咳嗽、喘鳴、動悸、失神などが見られます。急性PTEは致死率が高いため、Dダイマー上昇などの検査所見からVTE を疑うことも重要です。(表1)にDVT、PTEの診断を予測する代表的な「Wellsスコア」「改訂ジュネーブスコア」を示します。「Wellsスコア」では合計点数が3点以上では高リスクで精査が必要ですが、2点以下(低or中リスク)でDダイマー陰性であればDVTの可能性は低くなります2)。「改訂ジュネーブスコア」においてPTEの頻度は1点以下で7.7%(95%信頼区間[CI]:5.2~10.8)、2~4点で29.4%(%同:26.6~33.1)、5点以上では64.3%(同%:48.0~78.5) と予測されています3)。日本のガイドラインでも、問診・診察・Dダイマー検査を行い、DVTが疑われる場合は下肢静脈超音波検査・造影CT、PTEの場合は胸部造影CTなどで確定診断を行うことを推奨しています4)。(表1)DVT、PTE診断における代表的なスコア画像を拡大するVTEのリスク因子がん患者におけるVTE発症のリスク因子は(表2)に示すように患者・がん・治療関連の因子に大別されます。先天性血栓素因やVTEの既往などの一般的な患者関連リスク因子に加えて、がん関連またはがん治療関連リスク因子が報告されています。がんの原発部位別にみると、膵臓がん、胃がん、脳腫瘍でVTEのリスクが高く、組織型、進行度も重要です。また、大手術や中心静脈カテーテル留置もリスクを上げます5)。化学療法中のがん患者は、非がん患者と比べるとVTE発症のリスクが6~7倍上昇すると報告され6)、とくに血管新生阻害薬、血液がんの治療に用いる免疫調整薬、ホルモン療法(タモキシフェンなど)では注意が必要です。(表2)がん患者のVTE発症リスク因子画像を拡大する管理法・治療法VTEの標準治療は抗凝固療法です。本邦で使用可能な抗凝固療法には点滴製剤である未分画ヘパリン(海外では低分子ヘパリンが推奨)、経口製剤としてワルファリン、直接経口抗凝固薬(DOAC)のアピキサバン、エドキサバン、リバーロキサバンなどがあり、経口製剤単独もしくは点滴製剤と組み合わせて治療を行います。DOACは、がん患者を対象とした大規模臨床試験(Hokusai-VTE Cancer7)、CARAVAGGIO8)、SELECT-D9))において、VTE再発や重篤な出血に関して低分子ヘパリンと比較して遜色ない良好な成績が示されたことから、海外の最新のガイドラインではがん患者の急性VTEに対する治療として推奨されています10)。しかし、がん患者では抗がん剤と抗凝固薬との薬物相互作用(例:ワルファリンと5−FU)、抗凝固療法による出血リスクの上昇など、患者ごとに慎重な抗凝固療法の適応判断と薬剤選択を検討する必要があります。抗凝固療法の継続期間は、がん患者では再発リスクの観点から3ヵ月以上の長期的な使用が推奨されています。(表3)DOAC3剤とワルファリンの注意点画像を拡大するそのほかの治療として、血行動態が不安定となるような重症PTEに対して血栓溶解療法(商品名:クリアクター)や外科的血栓除去術を行うこともあります。また抗凝固療法が困難な症例や、抗凝固療法を行っているにもかかわらずVTEが増悪する症例に対しては下大静脈フィルターを留置し突然死を予防することもあります。VTEを発症した症例において、がん治療を中断・中止すべきかどうかは、個々の例の状況に応じて、腫瘍内科医と循環器内科医とが緊密に連携して検討する必要があります。1)Lecumberri R, et al. Thromb Haemost. 2013;110:184-190.2)Wells PS, et al. Lancet.1995;345:1326-1330.3)Klok FA, et al. Arch Intern Med. 2008;168:2131-2136.4)日本循環器学会編. 日本循環器学会編. 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン)2017年改訂版)5)Ay C, et al. Thromb Haemost. 2017;117:219-230.6)Blom JW, et al. JAMA. 2005,;293:715-722.7)Raskob GE, et al. N Engl J Med. 2018;378:615-624.8)Agnelli G, et al. Engl J Med. 2020;382:1599-1607.9)Young AM, et al. J Clin Oncol. 2018;36:2017-2023.10)Stevens SM, et al. Chest. 2021 Aug 2.[Epub ahead of print]講師紹介

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COVID-19の血栓症は本当の問題なのか?(解説:後藤信哉氏)

 新型コロナウイルス感染は血管内皮細胞にも起こる。血管内皮細胞障害を介して深部静脈血栓症、脳血栓症などが増える。とくに、最初の武漢からのレポートでは入院例にヘパリンの抗凝固療法を施行していないこともあり、約半数の症例に静脈血栓イベントを認めたと注目された。米国、欧州などでは静脈血栓イベント予防のための低分子ヘパリンがルーチンになっていたが、それでも10~20%の症例に静脈血栓イベントを認めた。また、最近のランダム化比較試験にて静脈血栓の治療量を用いても、予防量投与時と重症化後には重篤な予後イベント発症率に差がないとされた。 本研究では症候性ではあるが外来症例が対象とされた。新型コロナウイルス感染の予後が血栓症により規定されているのであれば、従来確立された抗血栓療法である抗血小板薬アスピリン、抗凝固薬アピキサバンは有効なように思われる。考えられた仮説に対してランダム化比較試験による検証をするのが欧米人の偉いところである。登録された症例はPCR陽性、有症候性の40~80歳の男女であった。コントロール、アスピリン、予防量、治療量のアピキサバンの4群比較試験であった。死亡、血栓症などをエンドポイントとした実臨床ベースのランダム化比較試験であった。当初7,000例の登録を目標としたが、予想よりもイベントが著しく少なかったため、657例が対象になったときにDSMBの勧告により試験は中止となった。登録症例のうち22例が45日以内に肺炎にて入院となった。アスピリンまたはアピキサバンを服用した症例のうち、血栓イベントなどの有効性1次エンドポントを発現したのは3例であった。136例のコントロールでの血栓イベントも1例にすぎなかった。 新型コロナウイルス感染の入院例にて血栓イベントが多かったことは事実であった。しかし、有症候であっても外来通院中の症例の血栓イベントは決して多くはない。新型コロナウイルス感染による血栓イベントのメカニズムの解明には本研究は大きく期待できた。しかし、コントロールの血栓イベントの少なさから考えると、アスピリンとアピキサバンの比較まで行うためには数万人の登録が必要と思われる。有症候であっても外来通院中の症例には必ずしも抗血栓療法は必要ないらしい、くらいが本論文が示した結果と思う。

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浮腫の見分け方、発症形式と部位を押さえよう!【Dr.山中の攻める!問診3step】第7回

第7回 浮腫の見分け方、発症形式と部位を押さえよう!―Key Point―片側性の下腿浮腫は、深部静脈血栓症の可能性を第一に考える突然発症の浮腫はアナフィラキシーや血管浮腫を想起する薬剤が原因で浮腫を起こすことがある症例:73歳女性主訴)左下肢腫脹現病歴)4日前から左下肢が腫れてきた。膝背部や大腿が椅子に座ると痛む。近くの診療所からリンパ浮腫の疑いと紹介があった。胸痛や歩行時の息切れはない。既往歴)特になし身体所見)バイタルサインは体温:36.4℃、血圧111/59mmHg、心拍数63回/分、呼吸数20回/分、SpO2 95%(室内気)。意識清明、左下肢全体に浮腫と発赤があった。経過)鑑別診断として深部静脈血栓症と蜂窩織炎を考えた。骨盤造影CT検査を行い左総腸骨静脈血栓症と診断した。◆今回おさえておくべき臨床背景はコチラ!どの部位に浮腫があるか発症形式(時期)病態生理【STEP1】患者の症状に関する理解不足を解消させよう【STEP2】浮腫の部位、発症形式に注目し、病態生理を考える全身性浮腫心不全、肝硬変、腎不全、ネフローゼ症候群などによる低アルブミン血症、甲状腺機能低下症、薬剤(Ca拮抗薬、NSAIDs、ステロイド、シクロスポリン)局所性浮腫口唇(血管浮腫)、上肢(上大静脈症候群)、片側下肢(深部静脈血栓症、蜂窩織炎、リンパ浮腫)発症形式(時期)突然発症(数分以内)アナフィラキシー、血管浮腫急性発症(数日)深部静脈血栓症、蜂窩織炎、急性糸球体腎炎慢性(数ヵ月)心不全、肝硬変、静脈不全病態生理1)患部を指で圧迫する非圧痕性浮腫甲状腺機能低下症、リンパ浮腫圧痕性浮腫fast edema(40秒以内に圧痕が消失)なら低アルブミン血症、slow edema (40秒経っても圧痕が残る)なら心不全、静脈不全2)血栓の有無や静脈不全を見逃さない血栓片側性下腿浮腫では、深部静脈血栓症→肺塞栓の可能性を第一に考える。悪性腫瘍(とくに腺がん)に伴う過凝固が原因で深部静脈血栓症ができることもある。静脈不全見逃されていることが多い。内果の血管拡張、うっ滞性皮膚炎、静脈瘤、足関節付近の色素沈着、下腿潰瘍があれば疑う。3)浮腫の原因は複合的なことが多い1)[例]薬剤(Ca拮抗薬)+静脈不全+塩分過多+長時間の立位図)正常と静脈不全の下肢2)画像を拡大する【STEP3】治療を検討する● 深部静脈血栓症抗凝固療法● 静脈不全塩分制限、下肢挙上、弾性ストッキング● 薬剤性薬剤の中止<参考文献・資料>1)高橋良. 本当に使える症候学の話をしよう. じほう.2020.p.124-154.2)Thai KE, at al. Fitzpatrick’s Dermatology in General Medicine. 7th. 2007.p.1680.

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心房細動患者に対する心臓手術では左心耳閉鎖も追加すべきである(解説:高月誠司氏)

 心房細動患者には心原性脳梗塞の予防のための抗凝固療法を適切に導入することが大事である。近年経皮的左心耳閉鎖術はワルファリン内服とほぼ同等の臨床効果が報告され、保険適応となった。一方、外科的な左心耳閉鎖術、切除術は単独で行われることは少ないが、よく他の弁膜症や冠動脈疾患の心臓手術に伴い行われる。本LAAOS IIIは既知の心房細動患者が心臓手術を受ける際、左心耳閉鎖術を追加することの意義をランダム化比較試験で検討した。術後通常診療を継続中の脳梗塞や全身性塞栓症が1次エンドポイントである。大動脈クランプ時間、人工心肺時間や術中、術後の出血量は両群間で有意な差を認めなかった。術後閉鎖群と非閉鎖群の3年後の抗凝固率はそれぞれ75.3%、78.2%だったが、1次エンドポイントはそれぞれ4.8%、7.0%で発生し、ハザード比0.67(p=0.001)で有意に左心耳閉鎖群における塞栓症の発生は少なかった。本研究から心臓手術に左心耳閉鎖術を追加することのメリットが証明されたが、左心耳閉鎖して抗凝固薬を中止した群の比較ではなく、抗凝固を中止するかどうかは別の判断が必要となる。本研究における左心耳閉鎖術は多くがcut and sewやステープルを用いた左心耳切除術であった。左心耳は心房性利尿ホルモンの分泌部位として知られ、その切除には心不全を惹起する懸念が以前から示唆されていたが、本研究では術後の心不全の発症率に差はなく、左心耳切除が血行動態に与える影響は少ないと考えられた。

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脳卒中治療ガイドラインが6年ぶりに改訂、ポイントは?

 今年7月、『脳卒中治療ガイドライン2021』が発刊された。2015年の前版(2017年、2019年に追補発行)から6年ぶりの全面改訂ということで、表紙デザインから一新。脳卒中治療ガイドライン2021では追補の内容に加え、関連学会による各指針など最新の推奨が全面的に取り入れられている。そこで、脳卒中ガイドライン委員会(2021)の板橋 亮氏(岩手医科大学内科学講座脳神経内科・老年科分野 教授)に、近年目覚ましい変化を遂げる脳梗塞急性期の治療を中心として、主に内科領域の脳卒中治療ガイドライン2021の変更点について話をうかがった。脳卒中治療ガイドライン2021の変更点にエビデンスレベルの追加 まず脳卒中治療ガイドライン2021の1番大きな変更点としては、追補2019までは推奨文にエビデンスレベルはついておらず、文献のエビデンスを踏まえた推奨度のみが記載されていたが、2021年版では推奨文に推奨度(ABCDE)とエビデンス総体レベル(高中低)の両方が記載された。すべての引用文献に、エビデンスレベル(1~5)が示されている。 さらに、脳卒中治療ガイドライン2021では今回初めてクリニカルクエスチョン(CQ)方式が一部に採用され、重要な臨床課題をピックアップしている。利便性を考慮し、あえてCQ方式と従来の推奨文方式の両方にて記載した内容もある。 また、脳卒中治療ガイドライン2021の全般的な構成の変更点として、前版までリハビリテーション関連の内容はすべて後半のページにまとめられていたが、今回から急性期に関してのリハビリテーションは前半ページ(目次I「脳卒中全般」)に記載された。脳卒中治療ガイドライン2021脳梗塞急性期の変更点 脳卒中治療ガイドライン2021の具体的な内容に関しては、たとえば目次II「脳梗塞・一過性脳虚血発作(TIA)」項の冒頭に、CQ「脳梗塞軽症例でもrt-PA(アルテプラーゼ)は投与して良いか?」「狭窄度が軽度の症候性頸動脈狭窄患者に対して頸動脈内膜剥離術(CEA)は推奨されるか?」が追加された。 また、脳卒中治療ガイドライン2021では、脳梗塞急性期における抗血小板療法の推奨として、DAPT(抗血小板薬2剤併用療法)の推奨度が見直され、発症早期の軽症非心原性脳梗塞患者の亜急性期までの治療法として、推奨度BからA(エビデンスレベル高)に引き上げられた(なお、高リスクTIAの急性期に限定した同療法は、DAPTの効果の大きさと出血リスク上昇を総合的に勘案し、推奨度Bで据え置きとなっている)。これに伴い、従来経静脈投与で用いられていた抗凝固薬アルガトロバン、抗血小板薬オザグレルNaは、推奨度BからCに引き下げられている。 さらに、脳梗塞急性期の抗凝固療法における直接阻害型経口抗凝固薬(DOAC)についての推奨、脳梗塞慢性期の塞栓源不明の脳塞栓症における抗血栓療法についての推奨などが、脳卒中治療ガイドライン2021には新たに追加された。 全体的には、『静注血栓溶解(rt-PA)療法適正治療指針 第三版』『経皮経管的脳血栓回収用機器 適正使用指針 第4版』などの推奨に準じた内容で、目新しさには欠けるかもしれないが、それが脳卒中治療ガイドライン2021として1つにまとめられたことは大きな意義を持つだろう。 詳細は割愛するが、塞栓源となる心疾患に対するインターベンションについての記載も充実した。たとえば、脳梗塞慢性期の奇異性脳塞栓症(卵円孔開存を合併した塞栓源不明の脳塞栓症を含む)については、『潜因性脳梗塞に対する経皮的卵円孔開存閉鎖術の手引き』に準じた推奨が、出血の危険性が高い非弁膜症性心房細動患者については、『左心耳閉鎖システムに関する適正使用指針』に準じた推奨が追記されている。脳卒中治療ガイドライン2021にテネクテプラーゼを記載 機械的血栓回収療法は、急性期治療の中でもとくに注目されており、軽症例や単純CTで広範な早期虚血が見られる例に関して、国際的な無作為化試験が行なわれている。本治療に関するエビデンスはここ数年で変わる可能性が高い。 また、海外ではCTPT系P2Y12拮抗薬チカグレロルとアスピリンによるDAPTの臨床試験が行われ,米国ではすでに脳卒中領域の承認を得ているが、わが国で導入される見通しは不明である。このように、推奨文にするほどではない、もしくはわが国では保険適用がない場合でも、臨床医に知っておいてほしい情報は、脳卒中治療ガイドライン2021の解説文の中にコラム形式で記載されている。 推奨文としては書いていないが、脳卒中治療ガイドライン2021の脳梗塞急性期の経静脈的線溶療法の解説文には、海外の一部で使われ始めているテネクテプラーゼについても記載がある。おそらく、無作為化試験の結果が揃えば、今後アルテプラーゼに代わって使われるようになるだろう。国内での臨床試験も行われる予定だが、わが国で導入できる目途は立っていないため、こちらも今後の展開に注目されたい。脳卒中治療ガイドライン2021は読みやすさを重視した構成 驚くことに、脳卒中治療ガイドライン2021は、前版から解説文の文字数を半分近くに減らしたという。現場で参照することを第一に、各項目はできる限り2ページ以内に収めるなど、読みやすさを重視した工夫が凝らされている。板橋氏は、「推奨文だけ読めば最低限の重要事項が確認できるように作られてはいるが、推奨度そしてエビデンスの根拠となる解説文の内容も是非確認していただきたく、できるだけ読んでもらえるように短くまとめた」と語った。また、手元に置いておきたくなるような脳卒中治療ガイドライン2021のスタイリッシュなデザインは、委員会事務局の黒田 敏氏(富山大学脳神経外科 教授)が選んだこだわりの青色が採用されたという。脳卒中治療ガイドライン2021の電子版は11月に発売予定だ。『脳卒中治療ガイドライン2021』・発行日 2021年7月15日・編集 一般社団法人日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会・定価 8,800円(税込)・体裁 A4判、320ページ・発行 株式会社協和企画

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高齢者への心房細動スクリーニングでイベント発生減/Lancet

 心房細動のスクリーニングは、標準ケアと比較し、わずかではあるもののネットベネフィットがあり、高齢者におけるスクリーニングは安全で有益であることが示された。スウェーデン・カロリンスカ大学病院のEmma Svennberg氏らが、高齢者を対象とした心房細動スクリーニングの有用性を検証した多施設共同無作為化非盲検比較試験「STROKESTOP試験」の結果を報告した。心房細動は虚血性脳卒中の主な原因であり、心房細動の早期発見により抗凝固療法による虚血性脳卒中および死亡の減少が期待できるが、十分なエビデンスがないという。Lancet誌オンライン版2021年8月27日号掲載の報告。75~76歳の高齢者をスクリーニング群と対照群に無作為化 研究グループは、スウェーデンのハッランドおよびストックホルムに居住している75~76歳の全住民を、心房細動のスクリーニングに招待する群(スクリーニング群)と対照群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 スクリーニング群は、地元のスクリーニング施設を受診し、心房細動の既往歴がない参加者は携帯型心電図を用いて1日2回14日間、心電図を記録。心房細動が検出された参加者、あるいは未治療の心房細動を有する参加者には、経口抗凝固薬を用いた治療が開始された。対照群は、介入せず通常ケアのみとした。 主要評価項目は、虚血性/出血性脳卒中、全身性塞栓症、入院を要する出血および全死亡の複合エンドポイントであった。無作為化された全参加者を、最低5年間追跡し、intention-to-treat解析を行った。スクリーニング群で対照群より有意にイベント発生率が低下 2012年3月1日~2014年5月28日の期間に、2万8,768例がスクリーニング群(1万4,387例)または対照群(1万4,381例)に無作為に割り付けられた。試験への招待前の死亡または移住により、スクリーニング群408例、対照群385例が除外となり、解析対象はそれぞれ1万3,979例および1万3,996例であった。 スクリーニング群では、1万3,979例中7,165例(51.3%)がスクリーニングを受けた。 追跡調査期間中央値6.9年(IQR:6.5~7.2)において、主要評価項目のイベント発生率は、スクリーニング群が31.9%(4,456/1万3,979例)(100年当たり5.45件、95%信頼区間[CI]:5.52~5.61)、対照群が33.0%(4,616/1万3,996例)(5.68件、5.52~5.85)であり、スクリーニング群が有意に低かった(ハザード比:0.96、95%CI:0.92~1.00、p=0.045)。

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ILRによる心房細動の検出は、脳卒中の予防に有効か/Lancet

 脳卒中のリスク因子を持つ集団において、脳卒中の予防を目的とする植込み型ループレコーダ(ILR)による心房細動のスクリーニングは、心房細動の検出と抗凝固療法の開始をそれぞれ約3倍に増加させるものの、脳卒中や全身性動脈塞栓症のリスク低減には結び付かず、大出血の発生も抑制しないことが、デンマーク・コペンハーゲン大学病院RigshospitaletのJesper Hastrup Svendsen氏らが実施した「LOOP試験」で示された。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2021年8月27日号に掲載された。デンマークの4施設の無作為化対照比較試験 研究グループは、心房細動のスクリーニングと抗凝固療法が、高リスク集団における脳卒中の予防に有効かの検証を目的に、医師主導の非盲検無作為化対照比較試験を行った(Innovation Fund Denmarkなどの助成を受けた)。本試験には、デンマークの4施設が参加し、2014年1月~2016年5月の期間に参加者のスクリーニングが行われた。 対象は、年齢70~90歳、心房細動がみられず、少なくとも1つの脳卒中リスク因子(高血圧、糖尿病、脳卒中の既往歴、心不全)を有する集団であった。 被験者は、ILR(Reveal LINQ、Medtronic製)によるモニタリングを受ける群または通常治療を受ける対照群に、1対3の割合で無作為に割り付けられた。ILR群は、6分以上持続する心房細動エピソードがみられる場合は抗凝固療法が推奨された。 主要アウトカムは、脳卒中または全身性動脈塞栓症の初回発症までの期間とされた。主要アウトカム:4.5% vs.5.6%、大出血:4.3% vs.3.5% 6,004例が登録され、ILR群に1,501例(25.0%)、対照群に4,503例(75.0%)が割り付けられた。全体の平均年齢は74.7歳、2,837例(47.3%)が女性であり、5,444例(90.7%)が高血圧であった。フォローアップが完遂できなかった参加者はいなかった。 フォローアップ期間中央値64.5ヵ月(IQR:59.3~69.8)の時点で、1,027例が心房細動と診断された。このうち、ILR群は31.8%(477/1,501例)と、対照群の12.2%(550/4,503例)に比べ有意に高率であった(ハザード比[HR]:3.17、95%信頼区間[CI]:2.81~3.59、p<0.0001)。 また、1,036例で経口抗凝固薬の投与が開始された。このうち、ILR群は29.7%(445例)であり、対照群の13.1%(591例)と比較して有意に割合が高かった(HR:2.72、95%CI:2.41~3.08、p<0.0001)。 主要アウトカムは318例(脳卒中315例、全身性動脈塞栓症3例)の参加者で発生した。このうち、ILR群が4.5%(67例)、対照群は5.6%(251例)であり、両群間に有意な差は認められなかった(HR:0.80、95%CI:0.61~1.05、p=0.11)。 一方、大出血は221例の参加者で発現した。このうち、ILR群が4.3%(65例)、対照群は3.5%(156例)であり、両群間に有意差はなかった(HR:1.26、95%CI:0.95~1.69、p=0.11)。 著者は、「ILRにより心房細動の検出率と抗凝固療法の施行率が大幅に増加したにもかかわらず、脳卒中と全身性動脈塞栓症の発現が抑制されなかったとの知見は、すべての心房細動がスクリーニングに値するわけではなく、スクリーニングで検出されたすべての心房細動患者が抗凝固療法の恩恵を受けるわけではないことを示唆している可能性がある」としている。

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コロナワクチン接種後の脳静脈血栓症、VITT併存で重症化/Lancet

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン接種後の脳静脈血栓症は、ワクチン起因性免疫性血栓性血小板減少症(VITT)が併存すると、これを伴わない場合に比べより重症化し、非ヘパリン抗凝固療法や免疫グロブリン療法はVITT関連脳静脈血栓症の転帰を改善する可能性があることが、英国・国立神経内科・脳神経外科病院のRichard J. Perry氏らCVT After Immunisation Against COVID-19(CAIAC)collaboratorsの調査で示された。研究グループは、これらの知見に基づきVITT関連脳静脈血栓症の新たな診断基準を提唱している。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2021年8月6日号で報告された。VITT有無別の転帰を評価する英国のコホート研究 CAIAC collaboratorsは、VITTの有無を問わず、ワクチン接種後の脳静脈血栓症の特徴を記述し、VITTの存在がより不良な転帰と関連するかを検証する目的で、多施設共同コホート研究を行った(特定の研究助成は受けていない)。 COVID-19ワクチン接種後に脳静脈血栓症を発症した患者の治療に携わる臨床医に対し、ワクチンの種類や接種から脳静脈血栓症の症状発現までの期間、血液検査の結果にかかわらず、すべての患者のデータを提示するよう要請が行われた。 脳静脈血栓症患者の入院時の臨床的特徴、検査結果(血小板第4因子[PF4]のデータがある場合はこれを含む)、画像所見が収集された。除外基準は設けられなかった。 VITT関連の脳静脈血栓症は、入院期間中の血小板数の最低値が<150×109/L、Dダイマー値が測定されている場合はその最高値が>2,000μg/Lと定義された。 主要アウトカムは、VITTの有無別の、入院終了時に死亡または日常生活動作が他者に依存している患者(修正Rankinスコア3~6点[6点=死亡])の割合とされた。また、VITTの集団では、International Study on Cerebral Vein and Dural Sinus Thrombosis(ISCVT)に登録された脳静脈血栓症の大規模コホートとの比較が行われた。主要アウトカム:47% vs.16% 2021年4月1日~5月20日の期間に、英国43施設の共同研究者から脳静脈血栓症99例のデータが寄せられた。このうち4例は、画像で脳静脈血栓症の明確な所見が得られなかったため解析から除外された。残りの95例のうち、70例でVITTが認められ、25例は非VITTであった。 年齢中央値は、VITT群(47歳、IQR:32~55)が非VITT群(57歳、41~62)よりも低かった(p=0.0045)。女性はそれぞれ56%および44%含まれた。ISCVT群は624例で、年齢中央値37歳(VITT群との比較でp=0.0001)、女性が75%(同p=0.0007)を占めた。 ChAdOx1(Oxford-AstraZeneca製)ワクチンの1回目接種後に脳静脈血栓症を発症した患者が、VITT群100%(70例)、非VITT群84%(21例、残り4例のうち3例はBNT162b2[Pfizer-BioNTech製]の1回目接種後、1例は同2回目接種後)であり、接種から脳静脈血栓症発症までの期間中央値はそれぞれ9日(IQR:7~12)、11日(6~21)だった。 VITT関連脳静脈血栓症群は非VITT関連脳静脈血栓症に比べ、血栓を形成した頭蓋内静脈数中央値が高く(3[IQR:2~4]vs.2[2~3]、p=0.041)、頭蓋外血栓症の頻度が高かった(44%[31/70例]vs.4%[1/25例]、p=0.0003)。 退院時に修正Rankinスコアが3~6点の患者の割合は、VITT群が47%(33/70例)と、非VITT群の16%(4/25例)に比べて高かった(p=0.0061)。また、VITT群におけるこの有害な転帰の頻度は、非ヘパリン抗凝固療法を受けた集団が受けなかった集団に比べて低く(36%[18/50例]vs.75%[15/20例]、p=0.0031)、直接経口抗凝固薬投与の有無(18%[4/22例]vs.60%[29/48例]、p=0.0016)および静脈内免疫グロブリン投与の有無(40%[22/55例]vs.73%[11/15例]、p=0.022)でも有意な差が認められた。 著者は、「VITT関連脳静脈血栓症は他の脳静脈血栓症に比べ転帰が不良であることが明らかとなったが、VITTはChAdOx1ワクチン接種によるきわめてまれな副反応であり、COVID-19に対するワクチン接種の利益はリスクをはるかに上回る」としている。

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重症化前のCOVID-19入院患者、ヘパリン介入で転帰改善/NEJM

 非重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)入院患者の治療において、治療量のヘパリンを用いた抗凝固療法は通常の血栓予防治療と比較して、集中治療室(ICU)における心血管系および呼吸器系の臓器補助なしでの生存退院の割合を改善し、この優越性はDダイマー値の高低を問わないことが、カナダ・トロント大学のPatrick R. Lawler氏らが実施した、3つのプラットフォーム(ATTACC試験、ACTIV-4a試験、REMAP-CAP試験)の統合解析で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2021年8月4日号で報告された。中等症入院患者の適応的マルチプラットフォーム試験 研究グループは、治療量の抗凝固療法はCOVID-19による非重症入院患者の転帰を改善するとの仮説を立て、これを検証する目的で、非盲検適応的マルチプラットフォーム無作為化対照比較試験を行った(ATTACC試験はカナダ保健研究機構[CIHR]など、ACTIV-4a試験は米国国立心臓・肺・血液研究所[NHLBI]など、REMAP-CAP試験は欧州連合[EU]などによる助成を受けた)。本研究では、2020年4月21日~2021年1月22日の期間に、9ヵ国121施設で患者登録が行われた。 対象は、中等症のCOVID-19で、登録時に入院を要するが、臓器補助は必要とせずICUへの入室が不要な患者であった。被験者は、治療量のヘパリンを用いた抗凝固療法を受ける群、または通常の血栓予防薬の投与を受ける群に無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは臓器補助離脱日数とし、院内死亡(最も不良なアウトカム、-1点)と、最長で21日までの生存退院時における心血管系または呼吸器系の臓器補助なしの日数(0~21点)を合わせた順序尺度(ICUでの介入と生存を反映し、点数が高いほどアウトカムが良好)で評価された(21日までに臓器補助なしで生存退院した場合は22点[最良のアウトカム]と判定された)。このアウトカムの評価は、全例およびベースラインのDダイマー値別に、ベイズ流統計モデルを用いて行われた。 本研究は、1,398例の適応的解析においてDダイマー値の高値集団と低値集団の双方で、治療量抗凝固療法群が事前に規定された優越性の中止基準に到達したため、2021年1月22日、データ安全性監視委員会の勧告により患者登録が中止された。1,000例当たり大出血7件増、臓器補助なし生存退院40例増 ベースラインの平均年齢(±SD)は、治療量抗凝固療法群が59.0±14.1歳、通常血栓予防薬群は58.8±13.9歳、男性がそれぞれ60.4%および56.9%であった。最終解析には2,219例(治療量抗凝固療法群1,171例、通常血栓予防薬群1,048例)が含まれた。治療量抗凝固療法群のうちデータが得られた1,093例では、94.7%(1,035例)が低分子量ヘパリン(ほとんどがエノキサパリン)の投与を受けていた。通常血栓予防薬群は、71.7%が低用量の、26.5%が中用量の血栓予防薬の投与を受けた。 治療量抗凝固療法群で、通常血栓予防薬群に比べ臓器補助離脱日数が増加する事後確率は、98.6%(補正後オッズ比中央値:1.27、95%信用区間[CrI]:1.03~1.58)であった。21日までに臓器補助なしで生存退院した患者は、治療量抗凝固療法群が1,171例中939例(80.2%)、通常血栓予防薬群は1,048例中801例(76.4%)、補正後絶対差中央値は4.0ポイント(95%CrI:0.5~7.2)であり、抗凝固療法群で良好だった。 治療量抗凝固療法群で臓器補助離脱日数が優越する事後確率は、Dダイマー高値(各施設の基準値上限の≧2倍)の集団で97.3%、同低値(同<2倍)の集団で92.9%、同不明の集団では97.3%であった。 大血栓イベント/死亡(心筋梗塞、肺塞栓症、虚血性脳卒中、全身性動脈塞栓症、院内死亡の複合)は、治療量抗凝固療法群で8.0%(94/1,180例)、通常血栓予防薬群で9.9%(104/1,046例)に発現した。大出血はそれぞれ1.9%(22/1,180例)および0.9%(9/1,047例)、致死的出血は3例および1例にみられた。頭蓋内出血やヘパリン起因性血小板減少症は認められなかった。 著者は、「これらの知見に基づくと、治療量抗凝固療法は通常血栓予防薬と比較して、中等症COVID-19入院患者1,000例当たり、大出血イベントを7件増やす一方で、40例に臓器補助なしでの生存退院を追加的にもたらす可能性が示唆される」としている。

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重症COVID-19患者へのヘパリン介入、転帰を改善せず/NEJM

 重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の治療において、治療量のヘパリンを用いた抗凝固療法は通常の血栓予防治療と比較して、生存退院の確率を向上させず、心血管系および呼吸器系の臓器補助なしの日数も増加させないことが、カナダ・トロント大学のEwan C. Goligher氏らが行った、3つのプラットフォーム(REMAP-CAP試験、ACTIV-4a試験、ATTACC試験)の統合解析で示された。研究の詳細は、NEJM誌オンライン版2021年8月4日号に掲載された。重症ICU入室患者の適応的マルチプラットフォーム試験 本研究は、治療量の抗凝固療法は重症COVID-19患者の転帰を改善するとの仮説の検証を目的とする非盲検適応的マルチプラットフォーム無作為化対照比較試験であり、2020年4月21日~12月19日の期間に10ヵ国393施設で参加者が募集された(REMAP-CAP試験は欧州連合[EU]など、ACTIV-4a試験は米国国立心臓・肺・血液研究所[NHLBI]など、ATTACC試験はカナダ保健研究機構[CIHR]などの助成を受けた)。 対象は、重症のCOVID-19患者(疑い例、確定例)で、重症の定義は集中治療室(ICU)で呼吸器系または心血管系の臓器補助(高流量鼻カニュラによる酸素補給、非侵襲的/侵襲的機械換気、体外式生命維持装置、昇圧薬、強心薬)を要する場合とされた。被験者は、治療量のヘパリンを用いた抗凝固療法を受ける群、または各施設の通常治療に準拠した血栓予防薬の投与を受ける群に無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは臓器補助離脱日数とされ、院内死亡(−1点)と最長で21日までの生存退院における心血管系または呼吸器系の臓器補助なしの日数(0~21点)を合わせた順序尺度で評価された。 本研究は、適応的中間解析で治療量抗凝固療法群が事前に規定された無益性の判定基準を満たしたため、2020年12月19日に患者登録が中止された。離脱日数は95.0%、生存退院は89.2%の確率で、通常治療より劣る 1,103例が登録され、治療量抗凝固療法群に536例(平均年齢[±SD]60.4±13.1歳、男性72.2%)、通常血栓予防薬群に567例(61.7±12.5歳、67.9%)が割り付けられた。主要アウトカムのデータは1,098例(534例、564例)で得られた。 臓器補助離脱日数中央値は、治療量抗凝固療法群が1点(IQR:-1~16)、通常血栓予防薬群は4点(-1~16)で、補正後オッズ比(OR)は0.83(95%信用区間[CrI]:0.67~1.03)であり、無益性(OR<1.2と定義)の事後確率は99.9%、劣性(OR<1と定義)の事後確率は95.0%、優越性(OR>1と定義)の事後確率は5.0%であった。 また、生存退院の割合は両群で同程度だった(治療量抗凝固療法群:62.7%、通常血栓予防薬群:64.5%、補正後OR:0.84[95%CrI:0.64~1.11]、無益性の事後確率:99.6%、劣性の事後確率:89.2%)。 大血栓イベント(肺塞栓症、心筋梗塞、虚血性脳血管イベント、全身性動脈血栓塞栓症)の割合は、治療量抗凝固療法群で少なかった(6.4% vs.10.4%)が、大血栓イベント/死亡(大血栓イベント+院内死亡の複合)の割合は両群で同程度であった(40.1% vs.41.1%)。また、大出血は、治療量抗凝固療法群で3.8%、通常血栓予防薬群で2.3%に発現した。 著者は、「今回の共同研究は、個々の独立プラットフォームではありえないほど迅速に、有害な可能性のある無益性の結論に到達することを可能にした」とし、「重症COVID-19患者では、複数の臓器系で凝固活性の亢進が示されているが、重症COVID-19の発症後に治療量の抗凝固療法を開始しても、確立された疾患過程の結果を改善するには遅過ぎる可能性がある。また、肺に著明な炎症がある場合、治療量の抗凝固療法は肺胞出血の増悪をもたらし、転帰の悪化につながる可能性がある」と指摘している。

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VEGFR-TKIの心毒性、注意すべきは治療開始○ヵ月【見落とさない!がんの心毒性】第4回

第4回はチロシンキナーゼ阻害薬(TKI:Tyrosine Kinase Inhibitor)の心毒性メカニズムと管理法に、草場と森山が解説します。はじめに血管は、酸素や栄養素の供給、炎症部位への細胞輸送など、ヒトのからだにとって必要不可欠な組織です。血管形成は胎生期より始まり、出生後には創傷治癒や月経などの生理的機能、がんや糖尿病などの疾病と深くかかわっています。VEGFR-TKIとは?血管内皮細胞増殖因子VEGF(Vascular Endothelial Growth Factor)のファミリーにはVEGF-A、VEGF-B、VEGF-C、VEGF-D、VEGF-E、 胎盤増殖因子(PIGF)-1、PIGF-2があり、これらは細胞表面に発現するVEGF受容体(VEGFR)-1、VEGFR-2、VEGFR-3、 NRP(neuropilin)1、NRP2のチロシンキナーゼ型受容体と結合して、下流のシグナル伝達経路を活性化することにより、血管内皮細胞の増殖・分化・遊走や血管透過性の調整など血管新生において中心的な働きをします(図1)。(図1)VEGFRシグナルとVEGFR-TKI画像を拡大する多くのがんにおいて、VEGFRを介したシグナル伝達経路の活性化は、がんの増殖や進展に促進的に働きます。VEGFRなどのチロシンキナーゼ型受容体のリン酸化を阻害するTKIは「血管新生阻害薬」の一つとして、様々ながんの治療に用いられています。VEGFR-TKIの種類VEGFR-TKI は、主な標的分子であるVEGFR以外にも複数の分子の機能を阻害します。以下に各薬剤の主な標的分子、本邦での適応疾患を(表1)に示します。(表1) VEGFR-TKI の主な標的分子と適応疾患主な心毒性とリスク因子VEGFは、血管拡張作用を有する一酸化窒素とプロスタサイクリンを増加させ、血管収縮作用を有するエンドセリン-1産生を抑制するため、VEGFの機能が阻害されると血圧が上昇すると考えられています1)。そのため、VEGFR-TKIでは高血圧の頻度が高く(15~40%)、治療開始後2ヵ月以内に発症・増悪する場合が多いのが特徴です。また、微小血管の毛細血管床の密度低下や腎臓におけるメサンギウム細胞・内皮細胞障害なども高血圧発症に関与するとされています1)。リスク因子として、高血圧症の既往、NSAIDsやエリスロポエチン製剤との併用が報告されており2)、時に高血圧緊急症に至る場合があるため、適切な治療が必要です。また、心筋障害・心不全(~5%)、血栓塞栓症(0.6~11.5%)、QT延長(0.6~13.4%)などの心血管毒性も見られます3)。がん患者を対象とした研究のメタ解析でもVEGFR-TKIは、心不全、血栓塞栓症のリスク因子と報告されているのです4)5)。そのほか、倦怠感(35~50%)、下痢(30~70%)、手足症候群などの皮膚毒性(15~70%)、肝機能障害(5~50%)の頻度が高いです。管理法予防・治療の基本は、がん治療の効果を維持しながら、毒性のリスクを減らすことを目指します。VEGFR-TKIのみを対象とした心血管毒性の管理法の研究は少なく、特異的な管理法は未確立のため、通常の心血管リスク管理が重要です。高血圧診療の目標は、早期診断と血圧管理であり、リスク因子(高血圧の既往と現在の血圧など)の評価と既存の高血圧の治療は、VEGFR-TKI投与前に開始しましょう。投与開始後は、重篤な合併症を避けるために血圧上昇の早期発見と治療が重要で、通常の高血圧治療と同様に、ACE阻害薬、ARB、ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬が推奨されています6)。VEGFR-TKIはCYP3A4により代謝されるため、CYP3A4阻害作用を有する降圧剤(非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬)との併用は避ける必要があります。心機能の低下した心不全患者では、ACE阻害薬、ARB、β遮断薬を第一選択とします6)また、VEGFR-TKIは下痢の頻度が高く、利尿剤による脱水を助長する危険性もあります。利尿剤には電解質異常、二次性QT延長のリスクがあるため慎重に用います。重症高血圧があらわれた場合は、循環器専門医と連携して、頻繁なモニタリングと治療効果の評価を行うとともに、VEGFR-TKIの休薬・減量・再開について検討しましょう。心不全診療では、心不全症状発現前の心機能低下を早期発見する為に定期的な心エコー評価を行います。がん治療関連心筋障害を合併した場合は循環器専門医と相談しレニン・アンギオテンシン系阻害薬、β遮断薬などを開始します6)。血栓塞栓症診療では、下肢の浮腫やD-dimer上昇などの血栓症を疑う所見が見られた際に下肢静脈エコーで深部静脈血栓症の評価を行い、臨床的に肺塞栓症を疑う場合は胸部造影CTを行います。静脈血栓塞栓症の診断に至った際は、症例ごとに出血・血栓症のリスクを評価して抗凝固療法の適応を判断します。腎機能正常例では、ワルファリンよりも出血リスクが低い直接経口抗凝固薬(DOAC)が推奨されます6)。心不全や血栓塞栓症の症例において、がん治療を休止・中止すべきかどうかはがん治療医と循環器専門医が連携して判断する必要があります。おわりに近年、悪性腫瘍の領域において、精力的な薬剤開発と良好な抗腫瘍効果から、VEGFR-TKIはがん治療に広く用いられるようになってきました。それに伴い、心血管毒性の管理の重要性が増しており、がん治療医と循環器専門医との緊密な連携がより重要になっているのです。1)Li W, et al. J Am Coll Cardiol. 2015;66:1160-1178. 2)Robinson ES ,et al . Semin Nephrol. 2010;30:591-601.3)日本腫瘍循環器学会編集委員会編. 腫瘍循環器診療ハンドブック. メジカルビュー社;2020.4)Ghatalia P, et al. Crit Rev Oncol Hematol. 2015;94:228 -237.5)Abdel-Qadir H, et al. Cancer Treat Rev. 2017;53:120-127.6)Zamorano JL, et al. Eur Heart J. 2016;37:2768-2801.講師紹介

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脳梗塞の再発を予防するために:老刑事のように心房細動を追う(解説:香坂俊氏)

この原稿を読んでいる方の「4人に1人」は今後の人生のどこかで脳梗塞を経験することになる。上記はAmerican Heart Association(AHA)をはじめとする世界の主要学会が脳梗塞予防の啓蒙活動でしばしば用いる文言であるが、確かに「4人に1人」と言われるとずっしりと重みを感じられる方も多いのではないだろうか。が、残念ながら脳梗塞予防のために行動に移せることはそれほど多くはない。血圧やコレステロールを下げ、健全なライフスタイルを実施し、禁煙や減塩食を心掛ける、といったところだろうか。このあたりの危険因子は過去四半世紀の公衆衛生分野の先生方の献身的な努力により危険因子として浮き彫りにされ、すでに医療の現場でもそのコントロールに向けての努力が広く実践されるに至っている。そこにここ10年来、心房細動に対する抗凝固療法が脚光を浴びている。なにしろ60~70%近く脳梗塞イベントをカットできるというのだから(前述の個々の危険因子に対する介入は5~10%といったところで、累積で30~50%程度のイベントカットを目指している)、抗凝固療法を適切に実施できれば脳梗塞「4人に1人」を「10人に1人」くらいの割合に下げることも夢ではない。そこで、現在の問題はどのように心房細動を拾ってくるかというところに焦点が当てられている。心房細動の半分程度は潜在性(あるいは発作性)と考えられており、1回や2回心電図をとったくらいでは見つけられないということが知られている。今回取り上げるSTROKE-AFでは、すでに脳梗塞を起こした患者496例(平均年齢67歳、CHADS VASc 4~6点程度)を対象に、植込み型の心電図記録計(insertable cardiac monitorいわゆるループレコーダー)を用いる(ICM群)か、通常のケアを続行する(コントロール群)か、というところでランダム化を行い、その後1年間の心房細動の検出率を比較した。そしてその後1年間で、ICM群では7倍多く心房細動が検出されたという結果を得ている(12.1% vs.1.8%)。この結果をどう捉えるか? 心房細動は執念深く追い続ける必要がある、ということに尽きる。以前より3秒程度の記録しか残さない通常の心房細動の記録では検査として不十分だということは言われてきており、一部の診療ガイドラインでは心房細動が強く疑われるケース(動悸症状を繰り返したり、原因不明の失神症例)ではこのICMを積極的に用いるように推奨されているが、ここに「原因不明の脳梗塞」という項目も近い将来加わることになるかもしれない。ただ、このSTROKE-AFではまだ心房細動の検出率が比較されたにすぎず、今後本格的な抗凝固療法を使った介入試験が組まれていくものと思われる。その結果を待つ必要があるし、さらに発達著しいデジタルデバイス(スマートウォッチ)が今後ICMに取って代わる可能性もあり、そのあたりも注視していくべきだろう。

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