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原因不明の脳卒中後の心房細動検出、携帯型心電図で5倍以上改善/NEJM

 原因不明の脳卒中後の心房細動検出について、30日イベントレコーダー付き携帯型心電計によるモニタリングが、従来の24時間ホルター心電図によるモニタリングより有効であることが示された。検出率は5倍以上有意に改善し、抗凝固療法の施行率はほぼ2倍上昇したという。カナダ・トロント大学のDavid J. Gladstone氏らが、前向き無作為化比較試験を行い報告した。NEJM誌2014年6月26日号掲載の報告より。原因不明の脳梗塞またはTIA発症患者を2群に分け評価 試験は、6ヵ月以内に原因不明の脳梗塞または一過性脳虚血発作(TIA)を発症した、心房細動歴のない55歳以上の患者572例を対象に行われた。なおTIA発症の被験者は、24時間心電図など標準的な検査を行ったが、その原因は不明だった患者を適格とした。 被験者を無作為に2群に分け、一方の群(280例)には、非侵襲的な30日イベントレコーダー付き携帯型心電計による心電図モニタリングを、もう一方の対照群(277例)には、従来の24時間ホルター心電図検査によるモニタリングを行った。 主要評価項目は、試験開始後90日以内に新たに検出された30秒以上持続する心房細動だった。副次評価項目には、2.5分以上持続する心房細動や、90日時点における抗凝固療法の有無などが含まれた。30秒以上の心房細動検出率、携帯型心電図群はホルター心電図群より約13%上昇 結果、30秒以上持続する心房細動の検出は、携帯型心電図群は280例中45例(16.1%)であったのに対し、対照群では277例中9例(3.2%)の検出にとどまった(絶対差:12.9ポイント、95%信頼区間[CI]:8.0~17.6、p<0.001)。1例検出に必要なスクリーニング患者数は8例だった。 また、副次評価項目の2.5分以上持続する心房細動については、携帯型心電図群では284例中28例(9.9%)に認められたのに対し、対照群では277例中7例(2.5%)であった(同:7.4ポイント、3.4~11.3、p<0.001)。 試験開始後90日までに経口抗凝固薬の処方を受けた人は、対照群で279例中31例(11.1%)だったのに対し、携帯型心電図群は280例中52例(18.6%)と有意に高率だった(絶対差:7.5ポイント、同:1.6~13.3、p=0.01)。

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肺塞栓症への血栓溶解療法、全死因死亡は減少、大出血は増大/JAMA

 肺塞栓症に対する血栓溶解療法について、全死因死亡は減少するが、大出血および頭蓋内出血(ICH)は増大することが、メタ解析の結果、明らかにされた。米国・マウントサイナイヘルスシステムの聖ルーク-ルーズベルトがん病院のSaurav Chatterjee氏らが、16試験2,115例のデータを分析し報告した。一部の肺塞栓症患者に対して血栓溶解療法は有益である可能性が示されていたが、これまで行われた従来抗凝固療法と比較した生存の改善に関する解析は、統計的検出力が不十分で関連性は確認されていなかった。JAMA誌2014年6月18日号掲載の報告より。16試験2,115例について血栓溶解療法vs. 抗凝固療法を評価 研究グループは、急性肺塞栓症患者を対象に、抗凝固療法と比較した血栓溶解療法の死亡率における有益性および出血リスクを調べた。被験者には、中リスクの肺塞栓症(右室不全を有するが血行動態安定)患者も対象に含めた。 血栓溶解療法と抗凝固療法を比較した無作為化試験を適格条件に、PubMed、Cochrane Library、EMBASE、EBSCO、Web of Science、CINAHLの各データベースを検索(各発刊~2014年4月10日まで)。16試験2,115例を特定した。そのうち8試験1,775例は中リスク肺塞栓症(血行動態安定で右室不全を有する)患者だった。 2名のレビュワーがそれぞれ試験データから患者数、患者特性、追跡期間、アウトカムのデータを抽出し検討した。 主要アウトカムは、全死因死亡と大出血で、副次アウトカムは、肺塞栓症再発およびICHのリスクとした。固定効果モデルを用いて、Peto法によりオッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)を求め関連を評価した。血栓溶解療法、全死因死亡は減少、大出血は増大 結果、血栓溶解療法は、全死因死亡を有意に減少した。血栓溶解療法群の全死因死亡率は2.17%(23/1,061例)、抗凝固療法群は3.89%(41/1,054例)で、ORは0.53(95%CI:0.32~0.88)、治療必要数(NNT)は59例であった。 一方で大出血リスクは、血栓溶解療法群での有意な上昇が認められた。同群の大出血発生率は9.24%(98/1,061例)、抗凝固療法群は3.42%(36/1,054例)で、ORは2.73(95%CI:1.91~3.91)、有害必要数(NNH)は18例だった。ただし大出血リスクは、65歳以下の患者では有意な増大はみられなかった(OR:1.25、95%CI:0.50~3.14)。 また、血栓溶解療法群ではICH増大との有意な関連が認められた。発生率は1.46%(15/1,024例)vs. 0.19%(2/1,019例)、ORは4.63(95%CI:1.78~12.04)、NNHは78例だった。 肺塞栓症の再発は、血栓溶解療法群において有意な減少が認められた。1.17%(12/1,024例)vs. 3.04%(31/1,019例)、ORは0.40(95%CI:0.22~0.74)、NNTは54例だった。 中リスク肺塞栓患者の分析においても、全死因死亡は減少(OR:0.48、95%CI:0.25~0.92)、一方で大出血イベントについては増大が認められた(同:3.19、2.07~4.92)。 なお著者は今回の結果について、右室不全を有さない血行動態安定の肺塞栓症患者には適用できない可能性があるとしている。

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中等度リスク肺塞栓症への血栓溶解療法の臨床転帰は?/NEJM

 中等度リスクの肺塞栓症に対する血栓溶解療法は血行動態の代償不全を防止するが、大出血や脳卒中のリスクを増大させることが、フランス・ジョルジュ・ポンピドゥー・ヨーロッパ病院のGuy Meyer氏らが行ったPEITHO試験で示された。これまでの肺塞栓症の無作為化臨床試験では、血栓溶解療法による血行動態の迅速な改善効果は示されているものの、とくに発症時に血行動態の不安定がみられない患者では、臨床転帰への影響は確認されていなかったという。NEJM誌2014年4月10日号掲載の報告。血栓溶解薬の上乗せ効果をプラセボ対照無作為化試験で評価 PEITHO(Pulmonary Embolism Thrombolysis)試験は、正常血圧の急性肺塞栓症で、不良な転帰のリスクが中等度の患者に対する、ヘパリンによる標準的な抗凝固療法とテネクテプラーゼによる血栓溶解療法の併用の、臨床的有効性および安全性を評価する多施設共同二重盲検プラセボ対照無作為化試験である。 対象は、年齢18歳以上で、右室機能不全(心電図またはスパイラルCT)とともに心筋梗塞(トロポニンIまたはTが陽性)が確証された発症後15日以内の患者とした。これらの患者が、テネクテプラーゼ+ヘパリンを投与する群またはプラセボ+ヘパリンを投与する群に無作為に割り付けられた。 主要評価項目は、無作為割り付け後7日以内の死亡または血行動態の代償不全(または虚脱)とした。安全性に関する主要評価項目は,無作為化割り付け後7日以内の頭蓋外大出血と、虚血性または出血性脳卒中の発症とした。主要評価項目は有意に良好だが、死亡率には差はない 2007年11月~2012年7月までに、13ヵ国76施設から1,006例が登録され、テネクテプラーゼ群に506例、プラセボ群には500例が割り付けられた。プラセボ群の1例を除く1,005例がintention-to-treat解析の対象となった。 ベースラインの年齢中央値は両群とも70.0歳、男性がテネクテプラーゼ群47.8%、プラセボ群46.3%、平均体重はそれぞれ82.5kg、82.6kg、平均収縮期血圧は130.8mmHg、131.3mmHg、心拍数は94.5/分、92.3/分、呼吸数は21.8/分、21.6/分であった。 死亡または血行動態の代償不全の発生率は、テネクテプラーゼ群が2.6%(13/506例)であり、プラセボ群の5.6%(28/499例)に比べ有意に低かった(オッズ比:0.44、95%信頼区間:0.23~0.87、p=0.02)。無作為割り付けから7日までに、テネクテプラーゼ群の6例(1.2%)およびプラセボ群の9例(1.8%)が死亡した(p=0.42)。 頭蓋外出血の発生率は、テネクテプラーゼ群が6.3%(32例)と、プラセボ群の1.2%(6例)に比べ有意に高かった(p<0.001)。脳卒中の発生率は、テネクテプラーゼ群が2.4%(12例、そのうち10例が出血性)であり、プラセボ群の0.2%(1例、出血性)に比し有意に高値を示した(p=0.003)。30日までに、テネクテプラーゼ群の12例(2.4%)およびプラセボ群の16例(3.2%)が死亡した(p=0.42)。 著者は、「中等度リスクの肺塞栓症患者では、テネクテプラーゼによる血栓溶解療法は、血行動態の代償不全を抑制したが、大出血や脳卒中のリスクを増大させた」とまとめ、「右室機能障害がみられ、心筋トロポニン検査陽性で、血行動態が安定した肺塞栓症に対し、血栓溶解療法を考慮する場合は十分に注意を払う必要がある」と指摘している。

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高齢者の肺塞栓症除外には年齢補正Dダイマー値が有用/JAMA

 血漿Dダイマー値を用いた急性肺塞栓症(PE)患者の除外診断について、固定指標値500μg/Lをカットオフ値として用いるよりも、年齢補正Dダイマー値を用いたほうが有用であることが、スイス・ジュネーヴ大学病院のMarc Righini氏らによる多施設共同前向き試験ADJUSTの結果、示された。Dダイマー測定は、PEが臨床的に疑われる患者において重要な診断戦略として位置づけられている。しかし、高齢者の診断ではその有用性が限定的で、年齢補正の必要性が提言されていた。JAMA誌2014年3月19日号掲載の報告より。19施設のERでPE診断戦略の精度を検討 ADJUST試験は、2010年1月1日から2013年2月28日にかけて、ベルギー、フランス、オランダ、スイスの19の医療施設で、治療アウトカムを前向きに評価して行われた。試験施設の救急部門を受診したPEが臨床的に疑われた全連続外来患者を、逐次診断戦略で評価した。診断はPEに関する簡易改訂ジュネーブ・スコアまたは2-level Wellsスコアを用いて行われ、臨床的可能性が高い患者についてはCT肺動脈造影[CTPA]が、低い/中等度の患者については高感度Dダイマー測定が行われ、全患者を形式的に3ヵ月間追跡した。 主要アウトカムは、診断戦略の失敗で、3ヵ月の追跡期間中に年齢補正のDダイマーカットオフ値に基づき抗凝固療法が行われず血栓塞栓症を発生した場合と定義した。75歳以上における年齢補正Dダイマー値による除外患者の割合は6.4%から29.7%に上昇 PEが疑われた患者3,346例が対象に含まれ、そのうちPE発生率は19%であった。 PEの臨床的可能性が低い/中等度であった2,898例のうち、Dダイマー値500μg/L未満の患者が817例(28.2%、95%信頼区間[CI]:26.6~29.9%)、同500μg/L以上だが年齢補正Dダイマーカットオフ値未満であった患者(年齢補正群)は337例(11.6%、同:10.5~12.9%)であった。 年齢補正群の3ヵ月間の診断戦略失敗率は、患者331例につき1例(0.3%、95%CI:0.1~1.7%)であった。 また75歳以上の患者766例のうち、673例がPEの臨床的可能性が低い/中等度の患者であったが、Dダイマー値の従来カットオフ値500μg/Lに年齢を加味することで、除外患者の割合は、673例のうち43例(6.4%、95%CI:4.8~8.5%)から200例(29.7%、同:26.4~33.3%)に上昇した。ほかの偽陰性所見はとくに伴わなかった。

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日循学術集会、見どころはココ!

 日本循環器学会学術集会の開催に先立ち、学会から「学術集会の見どころ」が永井良三会長(自治医科大学)および平田恭信事務局長(東京逓信病院)から発表された。 今回は、「情報爆発とネットワーク時代の循環器病学」をメインテーマとしており、大量の医療データの扱い方やデータ構築方法などが基礎・臨床の両面で話し合われるのに加え、地域医療と情報ネットワークについても改めて考える機会が作られる。また、昨今問題となっている臨床研究のあり方や利益相反についてのセッションも複数予定され、活発な議論が期待されている。 今回の学術集会も数多くの演題が予定されているが、演者からは、とくに興味深い/発表数の多い演題として下記が挙げられた。・循環器疾患関連ビックデータの扱い・構築・再生医療(血管新生、心筋再生、iPS細胞)・重症心不全例の治療(人工心臓、心臓移植)・弁膜症に対するTAVI・冠動脈疾患例に対する内科と外科のハイブリッド治療・心房細動例への抗凝固療法・難治性高血圧例に対する腎デナベーションの効果と懸念・心臓の分子生物学の第一人者であるChristian Seidman氏の講演・次世代シークエンサーによる遺伝子解析と医療への応用・日本の臨床研究のあり方・女性医師の循環器への参画・循環器疾患の医療費**********************************第78回日本循環器学会学術集会テーマ:情報爆発とネットワーク時代の循環器病学会期:2014年3月21日(金)~23日(日)会場:東京国際フォーラム等**********************************

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第23回 非専門医に求められる医療水準の範囲

■今回のテーマのポイント1.神経疾患で一番訴訟が多い疾患は脳梗塞であり、争点としては、治療の遅れおよび診断の遅れが多い2.非専門科に求められる医療水準は、専門科において求められる水準よりも低い3.ただ、非専門科においても一般医学書程度の知識は要求される事件の概要X(71歳、女性)は、高血圧症などにてY病院循環器科外来(A医師)を受診していました。また、平成20年11月に追突事故に遭い、同事故の影響で左手指にしびれがでたこと、そのためリハビリ中であることをA医師に伝えていました。平成21年3月3日午後9時頃、持ち帰り用の食品を受け取るため、自宅付近の居酒屋を訪れ、代金を支払おうと財布から硬貨を取り出そうとしたところ、左手から硬貨を落とし、それを拾おうとしてはまた落としてしまいました。居酒屋の経営者夫妻は、Xのその様子および、Xの顔面の片側が垂れ下がっていたのをみて、同店で以前、脳梗塞を発症した客の様子と似ていたことから、救急車を要請しました。居酒屋に到着した救急隊員は、Xの状況について、椅子に座っており、意識清明、顔色正常、呼吸正常であること、歩行不能であったが、他自覚症状もなく、四肢のしびれや麻痺もなく、頭痛、嘔気、めまいもないことから、TIA(一過性脳虚血発作)疑いとしてかかりつけのY病院に受け入れ依頼をしました。Y病院受診時のXは、意識清明で、血圧166/110、歩行障害はなく、腱反射、瞳孔反射ともに正常でした。当直のB医師(消化器外科医)は、当時、TIAには意識障害があると思っていたため、XはTIAではないと判断し、ちょうど翌日、A医師の外来受診予定であったことから、夜間で十分な検査ができないので、翌日検査を受けるように伝え、異常時は再診するように伝えた上、Xを帰宅させました。翌4日、A医師が診察したところ、バレー徴候もなく、フィンガー・トゥ・ノーズテストも異常所見はなく、また、心音、呼吸音に問題はなく、末梢浮腫も認めませんでした。脳梗塞の診断のため、頭部MRI、MRAおよびDWI(拡散強調画像)を施行しましたが、陳旧性脳梗塞を認めるものの、新鮮な脳血管障害は認められませんでした。A医師が現症状を尋ねたところ、Xは「どうもありません。」と答えたことから、前日に原告が小銭を取りこぼしたのは、平成20年11月の追突事故による左手指のしびれのためと考え、従前の処方のみで経過観察としました。ところが、Xは、3月18日早朝、自宅で倒れているところを家族に発見され、Z病院に救急搬送されたところ、脳梗塞と診断されました。Z病院にて治療およびリハビリテーションを行ったものの、Xには、中等度の感覚性失語、右片麻痺により、要介護3級の状態となりました。そこで、Xは、Y病院に対し、遅くとも3月4日の段階でTIAと診断し、抗凝固療法などを行うべきであったとして、約8,050万円の支払いを求める訴訟を提起しました。事件の判決■原告一部勝訴(440万円)被告は、当時の医療水準では、非専門医療機関、非専門医に対しては、適切な問診を行い、TIA又はその疑いがあることを診断する義務があるというレベルまでは要求できないと主張し、P医師(被告側鑑定医)は、おおむね以下の内容の意見を述べている。各ガイドラインは、専門医及び一般内科医用とされているが、まず専門医の脳卒中治療を標準化し、それから一般内科医へ広がっていくように期待されているものであり、非専門医は通常見ないものであり、本件当時は、上記ガイドライン2009は出ておらず、もし出ていたとしても、非専門医がこれを知らなくても全くおかしなことではない。平成23年3月に一般内科医を対象としたアンケートでも、上記ガイドラインを読んだのは4分の1以下というのが実情である。TIAは、非専門医に正確に理解されておらず、非専門医の「TIA疑い」と診断した患者の多くはTIAではなく、実際にTIAであったケースは1割以下である。今日においても、非専門医が、単なる失神をTIAだと誤解している例がある。TIAの定義や診断については、専門医の間でもコンセンサスは得られていない。TIAにおける脳梗塞発症リスクの指標にABCD2スコアがあるが、今日においても非専門医には浸透していない。そのため、本件当時、非専門医がこれを知らなくても全く不思議なことではなく、不勉強だということでもない。しかしながら、P医師の上記意見は、次のとおり、いずれも採用できない。前記認定の一般的知見は、ガイドライン2009を待つまでもなく、今日の診断指針、メルクマニュアル等の極めて一般的な文献に基づいて認定し得るものであって、ガイドラインに関するP医師の意見はその前提を欠くものである。また、医療水準は医師の注意義務の基準となるものであって、平均的医師が現に行っている医療慣行とは必ずしも一致するものではない(最高裁判所平成8年1月23日第三小法廷判決・民集50巻1号1頁参照)。一般的な医学書にはTIAに関する記載がある以上、その記載程度の知識は非専門医でも得ておくべきであるから、そのような知識の獲得を怠り、TIAに関する間違った認識の下に行った診療行為は、他にも、TIAである旨の誤診が多く見られたり、単なる失神をTIAだと誤解した例があったからといって正当化されるものではない。さらに、被告は、TIAの定義や診断については専門医の間でもコンセンサスが得られておらず、また、ABCD2スコアは非専門医には浸透していないともいうが、定義について、専門家の間に、異論があるとしても、前記認定の一般的知見に基づく定義等は、平成2年以来、一般的に承認されているものであり、前記認定を妨げるものではない。また、ABCD2スコアは、TIAから脳梗塞発症のリスクを予測するための指標であり、TIA又はその疑いがあるか否かの診断に影響するものではない。以上によれば、P医師の上記意見によっても、医療水準についての前記判断は左右されないというべきであり、このような見解に沿った被告の前記主張は採用できない。(*判決文中、下線は筆者による加筆)(福岡地判平成24年3月27日判時2157号68頁)ポイント解説■神経疾患の訴訟の現状今回は、神経疾患です。神経疾患で最も訴訟となっているのは脳梗塞です(表1)。脳梗塞に対し、近年、抗凝固療法(血栓溶解療法)が行われるようになったことから、診断・治療の遅れによって予後に大きな変化が生じうるようになりました。その結果、表2をみていただければわかるように、昨今、訴訟となる事例が増加しており、争点も診断の遅れ、治療の遅れが中心となっています。ただ、訴訟となり始めたのが最近であることからか、原告勝訴率は低く、今回紹介した事例においても、原告勝訴はしていますが、認容額は請求額の5.5%ほどであり、実質的には原告敗訴ともいえる内容となっています。医療の進歩により、訴訟が増加することは皮肉ではありますが、その一方で現在の裁判所は慎重な判断をしているといえそうです。■非専門科に求められる医療水準今回の事例で問題となったのは、非専門科の医師にどこまでの医療水準が求められるかという点です。夜間、患者を診察したのが消化器外科医(B医師)で、翌朝外来にて診察したのが循環器内科医(A医師)であり、両者とも神経内科を専門としていません。そして、ともにTIAに関する認識が乏しかったため、抗凝固療法を行わず、かといって神経内科を受診させることもしませんでした。民事医療訴訟における過失とは、第1回で解説したように、「人の生命及び健康を管理すべき業務(医業)に従事する者は、その業務の性質に照らし、危険防止のために実験上必要とされる最善の注意義務を要求されるのであるが(最判昭和36年2月16日民集15巻2号244頁)、具体的な個々の案件において、債務不履行又は不法行為をもって問われる医師の注意義務の基準となるべきものは、一般的には診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準である(最判昭和57年3月30日民集135号563頁)。そして、この臨床医学の実践における医療水準は、全国一律に絶対的な基準として考えるべきものではなく、診療に当たった当該医師の専門分野、所属する診療機関の性格、その所在する地域の医療環境の特性等の諸般の事情を考慮して決せられるべきものであるが(最判平成7年6月9日民集49巻6号1499頁)、医療水準は、医師の注意義務の基準(規範)となるものであるから、平均的医師が現に行っている医療慣行とは必ずしも一致するものではなく、医師が医療慣行に従った医療行為を行ったからといって、医療水準に従った注意義務を尽くしたと直ちにいうことはできない」(最判平成8年1月23日民集50巻1号1頁)を指します。したがって、非専門科に求められる医療水準は、「専門科に求められる医療水準よりは低いのですが、かといって平均的医師が行っている医療慣行と常に一致するわけではなく、より高い水準が求められることもある」ということになります。本件訴訟において、被告側は非専門科におけるTIAの認識、診断の難しさを主張しましたが、判決では、一般医学書に記載されている程度の疾患概念の理解については、非専門科にも求められるとしました。本判決およびその他の判例からみた非専門科に求められる具体的な医療水準としては、「最新のガイドラインの内容を熟知することまでは必要ないが、一般的な医学書程度の知識は非専門科でも得ておくべきである」とする傾向があります(図)。非専門科においてまで高度な医療水準が求められるとなると、救急医療の崩壊を導くことは、2000年代の苦い経験です。ただ、その一方で、非専門科とはいえ、プロフェッションである医師に対し、一定程度の水準は求められるのは当然といえます。常に刷新し続ける医療において、この微妙なさじ加減につき、個別具体的な事例を通じて司法と医療の相互理解を継続していくことが、何より肝要と思われます。裁判例のリンク次のサイトでさらに詳しい裁判の内容がご覧いただけます。(出現順)最高裁判所平成8年1月23日第三小法廷判決・民集50巻1号1頁福岡地判平成24年3月27日判時2157号68頁本事件の判決については、最高裁のサイトでまだ公開されておりません。最判昭和36年2月16日民集15巻2号244頁最判昭和57年3月30日民集135号563頁最判平成7年6月9日民集49巻6号1499頁

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モース顕微鏡手術の安全性を確認 重大有害イベント発生はごくわずか、死亡例なし

 モース顕微鏡手術(MMS)の安全性について、米国内23施設・2万821例を検討した結果、有害イベント発生率は0.72%であり、重大有害イベント発生率は0.02%で非常に低く、死亡例はなく、「同手術は安全である」ことを米国・ノースウェスタン大学のMurad Alam氏らが報告した。これまでMMSにおいて注意すべきとされている合併症の大半は、散発的なものであり、単施設から報告されたもの、もしくは報告が1例のみであった。研究グループは多施設共同前向きコホート試験を行い、MMS関連の有害イベント発生率の定量化と安全性に関する検出に格差がないかを評価した。JAMA Dermatology誌2013年12月号の掲載報告。 本試験は、米国内でMMSを実施する外来センター(民間21、公的2)で行われ、被験者は、各センターで35週の間にMMSの施術を順次受けた連続患者2万821例であった。 主要評価項目は、手術時および術後の重大でない(minor)または重大な(serious)有害イベントとした。 主な結果は以下のとおり。・2万821例のうち、有害イベントは149例(0.72%)であった。重大例は4例(0.02%)、死亡例の報告はなかった。・有害イベントのうち頻度が高かったのは、感染症(61.1%)、裂開および部分的/完全壊死(20.1%)、出血/血腫(15.4%)であった。・出血、創傷癒合といった合併症発生の大半は、抗凝固治療を受けていた患者で起きていたが、MMS中の安全性は問題なく管理されていた。・MMS中の消毒薬、抗菌薬、無菌手袋の使用は、有害イベントリスクの減少とわずかだが関連していることが認められた。・以上のように、MMSは安全な手術であり、有害イベントの発生率は非常に低く、重大有害イベント発生率はきわめて低く、死亡例は検出されていなかった。頻度が高い合併症は感染症で、次いで創傷癒合と出血であった。出血と創傷癒合の問題は、先行する抗凝固療法と関連している頻度が高いが、MMS中は問題なく管理されていた。・一方で著者は「無菌手袋、消毒薬、抗菌薬を用いたことによりみられたリスク減少の効果は小さく、それが臨床的に重要かどうか、また大規模な実践がリスク減少をもたらす費用対効果があるかについても確信が持てない」と述べている。

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遺伝子型に基づく初期投与量決定の試み(ワルファリン以外)/NEJM

 抗凝固療法の遺伝子ガイド投薬アルゴリズムの有効性と安全性に関して、アセノクマロール(国内未承認)、フェンプロクモン(同)について検討した無作為化試験の結果、治療開始後12週間の国際標準比(INR)治療域の時間割合は改善されなかったことが明らかにされた。オランダ・ユトレヒト大学のTalitha I. Verhoef氏らが報告した。抗凝固療法ではワルファリンの使用頻度が最も高いが、国によってはアセノクマロールまたはフェンプロクモンが、心房細動患者の脳卒中予防や静脈血栓塞栓症の治療または予防に用いられている。また観察研究において、遺伝子ガイド投薬が両剤投与の有効性および安全性を高める可能性が示唆されていた。NEJM誌オンライン版2013年11月19日号掲載の報告より。アセノクマロールとフェンプロクモンについて検討 研究グループは、2つの単盲検無作為化試験を行い、遺伝子ガイド投薬アルゴリズムと臨床的変数のみの投薬アルゴリズムを比較した。心房細動もしくは静脈血栓塞栓症を有する患者でアセノクマロールあるいはフェンプロクモンによる治療開始について、遺伝子ガイド群は、CYP2C9とVKORC1の遺伝子型を参照した投薬アルゴリズムが適用された。 主要アウトカムは、治療開始後12週間の、INR目標治療域2.0~3.0の時間割合とした。 登録例が少数であったため、2試験は統合して分析が行われた。主要アウトカムの評価は、10週以上フォローアップを受けた患者を対象に行われた。12週間のINR治療域時間割合、臨床的変数ガイド群と有意差みられず 登録患者数は548例(遺伝子ガイド群273例、対照群275例)であり、10週以上フォローアップを受けた被験者は、遺伝子ガイド群239例、対照群245例であった。 結果、INR治療域であった時間割合は、遺伝子ガイド群61.6%、対照群60.2%で有意差はみられなかった(p=0.52)。 副次アウトカムも大部分は両群間に有意差はなかったが、治療開始後4週間の治療域時間割合について、遺伝子ガイド群が有意に高いことがみられた。この有意差は、アセノクマロール、フェンプロクモンの複合解析で有意であった(遺伝子ガイド群52.8% vs. 対照群47.5%、p=0.02)。 出血または血栓塞栓症イベントの発生は、両群で有意差はみられなかった。重大出血事例は1例で対照群での発生であった。血栓塞栓症イベントは、遺伝子ガイド群5例、対照群4例の発生であった。

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ワルファリン投与量を遺伝子ガイドにより調整してみた/NEJM

 抗凝固療法コントロールについて、薬理遺伝学的ベースの遺伝子ガイドによりワルファリン投与量を調整して行っても、治療開始4週間の改善はみられなかったことが大規模無作為化試験の結果、示された。米国・ペンシルベニア大学のStephen E. Kimmel氏らが報告した。遺伝子ガイド(薬理遺伝学的をベースとした)によるワルファリン投与法は、これまで小規模臨床試験および観察試験で検討されたのみで、臨床における有用性は曖昧であった。NEJM誌オンライン版2013年11月19日号掲載の報告より。1,015例を遺伝子ガイド群と臨床ガイド群に無作為化 試験は多施設共同無作為化二重盲検法にて行われた。研究グループはワルファリン投与を受ける1,015例の患者のワルファリン量について、治療開始5日間に、臨床的変数と遺伝子データによる投薬アルゴリズムで決定する群(遺伝子ガイド群514例)と、臨床的変数のみで決定する群(臨床ガイド群501例)に割り付けて検討した。 全患者と担当医は4週間の治療期間中、ワルファリン投与量を知らされなかった。 主要アウトカムは、治療4~5日から28日の間に、国際標準比(INR)が治療域を維持していた時間の割合とした。両群のINR治療域達成時間割合に有意差みられず 結果、4週時点でINRが治療域を維持した時間の割合は、遺伝子ガイド群45.2%、臨床ガイド群45.4%で、有意差はみられなかった(補正後平均差:-0.2%、95%信頼区間[CI]:-3.4~3.1、p=0.91)。 また、1mg/日以上の予測用量の有意差も両群間でみられなかった。 一方で、投与量調整と人種間には有意な相互作用がみられた(p=0.003)。黒人患者では、同達成割合が、臨床ガイド群よりも遺伝子ガイド群のほうが有意に低値であった(平均差:-8.3%、95%CI:-15.0~-2.0、p=0.01)。 INR 4超、重大出血、血栓塞栓症の複合アウトカムの発生率は、投与量調整による有意差はみられなかった。

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消化管手術の創合併症発症率は真皮縫合とステープラーで同等である(コメンテーター:中澤 達 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(156)より-

ステープラーによる皮膚縫合は消化器外科での開腹手術後に広く行われている反面、もう一つの手段である真皮縫合の潜在的な利点については評価されていない。 本研究はオープンラベル多施設ランダム化比較試験として、24施設が参加して行われた。適応基準は、20歳以上、臓器機能異常なし、上部消化管または下部消化管の開腹外科手術を施行された患者。手術前に真皮縫合とステープラー群に1:1で割り付けられた。主要アウトカムは手術後30日以内の創合併症発症率、副次アウトカムは術後6ヵ月以内の肥厚性瘢痕発症率とした。 1,072例が主要アウトカムの、1,058例が副次アウトカムの評価対象となった。真皮縫合群とステープラー群はそれぞれ558例(上部消化管382例、下部消化管176例)、514例(上部消化管413例、下部消化管101例)であった。 主要評価項目である創合併症発症率は、真皮縫合群で8.4%、ステープラー群では11.5%と、全体としては有意な差は確認できなかった(オッズ比:0.709、95%CI:0.474~1.062、p=0.12)。しかしながら、探索的データ解析によると創合併症発症率は、下部消化管においては真皮縫合群で有意に少なかった(真皮縫合群10.2%、ステープラー群19.8%、オッズ比:0.463、95%CI:0.217~0.978、p=0.0301)。 内訳をみると、表層手術部位感染については、下部消化管において真皮縫合群で有意に少なかった(真皮縫合群7.4%、ステープラー群15.8%、オッズ比:0.425、95%CI:0.179~0.992、p=0.0399)。表層手術部位感染以外の創合併症発症率については、全体では真皮縫合群で有意に少なく(真皮縫合群2.0%、ステープラー群4.5%、オッズ比:0.435、95%CI:0.189~0.940、p=0.0238)、上部消化管においても真皮縫合群で有意に少ないという結果であった(真皮縫合群1.6%、ステープラー群4.6%、オッズ比:0.331、95%CI:0.107~0.875、p=0.0149)。 副次アウトカムである肥厚性瘢痕の発症率については、全体では真皮縫合群で有意に少なく(真皮縫合群16.7%、ステープラー群21.6%、オッズ比:0.726、95%CI:0.528~0.998、p=0.0429)、上部消化管においても真皮縫合群で有意に少なかった(真皮縫合群17.3%、ステープラー群23.7%、オッズ比:0.672、95%CI:0.465~0.965、p=0.0282)。 サブセット解析では、男性、下部消化管手術、手術時間220分以上、手術後の抗凝固療法施行において、真皮縫合群で創合併症リスクが減少していた。また、ほとんどのサブセットにおいて、真皮縫合群で創合併症の頻度が減少していることが証明された。 消化器外科手術で、下部消化管手術が上部消化管手術より創部感染率が高いことはよく知られている。平成19年4月に施行された改正医療法により、すべての医療機関において、管理者の責任の下で院内感染対策のための体制の確保が義務化された。院内感染の発生状況や薬剤耐性菌の分離状況、および薬剤耐性菌による感染症の発生状況を調査し、わが国の院内感染の概況を把握して医療現場へ院内感染対策に有用な情報の還元等を行うため、厚生労働省により院内感染対策サーベイランス(JANIS)が始まった。そのSSI(surgical site infection)部門の最新結果(2013年1~6月)でも、創感染発症率は直腸手術14.7%、結腸手術12.7%、胃手術8.4%であった。 本研究は先行研究であるClass 1(clean)と同様に、Class 2(clean-contaminated)においても、真皮縫合がステープラーより創合併症発症率が低い結果を期待したが、全体では有意差が出なかった。腹腔鏡手術を除く上部、下部消化管手術のすべてを対象に設定されており、腹腔鏡手術が下部消化管手術でより普及しているため、上部消化管手術の比率が高くなったためと考えられる。下部消化管においては真皮縫合群で有意に低かったとしているが、サブグループ解析の本来の目的は有意差のある対象者を探し出すことではなく、1次エンドポイント結果の普遍性・汎用性を検証することである。上部、下部消化管手術の感染率が明らかに異なるのであるから、臓器別に研究計画を立て、検証するべきである。

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ENGAGE-TIMI48:負けない賭けは成功か?(コメンテーター:後藤 信哉 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(154)より-

新規経口抗凝固薬が相次いで開発された。非弁膜症性心房細動に対して、脳卒中予防に使うべきだという。過去のエビデンスがPT-INR 2-3を標的としたワルファリンの優れた効果を示しているので、新薬は「PT-INR 2-3を標的としたワルファリン治療」と比較して論じられる。 ENGAGE-TIMI48では、日本の第一三共が開発したエドキサバンと「PT-INR 2-3を標的としたワルファリン治療」の有効性、安全性が検証された。しかし、莫大な開発費を投じて、万一認可承認を得られなければ会社は存続できない。ランダム化比較試験は企業にとって死活をかけた「賭け」である。 一般に日本企業では雇用も安定しており、ドラマティックなレイオフもできない。認可承認を目指す第三相試験は「賭け」であるが、勝ちにいく賭けよりも負けない賭けが重視されるのは日本の文化として理解できる。ENGAGE-TIMI48は「負けない賭け」を目指した。すなわち、「PT-INR 2-3を標的としたワルファリン治療」とエドキサバンの比較ではなく、「PT-INR 2-3を標的としたワルファリン治療」と「複雑に容量を調節した、複数容量のエドキサバン」の比較を行なった。臨床的仮説は複雑で、試験結果の解釈も難しい。兵力を小出しにしているので、沢山試した容量の中に勝つ部隊もいるだろうという発想である。 一般に兵力を小出しにする「負けない賭け」は、死活を決める決戦の戦略としてまちがっているのが歴史の教訓である。厳しいグローバル競争の中では持てるリソースを全力投球して真の勝負しなければならない時がある。規制当局は60mgと30mgのいずれを承認するのであろうか?職人的で安全重視の日本人医師は15mgを選択するかも知れないが、第三相試験は意味のある情報を与えてくれない。 これまで抗Xa薬は抗トロンビン薬と異なり、心筋梗塞は「PT-INR 2-3を標的としたワルファリン治療」よりも少ない傾向であった。今回初めて低容量のエドキサバンでは心筋梗塞増加のシグナルを認めた。全体像は複雑で、試験の結果の意味の解釈は困難、臨床医へのメッセージを作ることも容易ではない。5mgの1容量で勝負したアピキサバンの試験より全てがあいまいである。 日本人としては世界競争における日本企業の勝利を支えたい。しかし、複数の容量にて、さらに各容量で試験中途の容量調節を認めた試験は複雑すぎる。さらに、本試験ではCHADS2 2点以上の症例が対象となっている。しかし、論文中のカプランマイヤー曲線を見れば、安全性の一次エンドポイントの発現率が有効性の一次エンドポイントの発現率よりも高い。すなわち、CHADS2 2点以上という患者集団全体では、抗凝固療法による損(出血イベント)の方が血栓イベントよりも発現率が高い。 心房細動という不整脈はあっても、とくに血栓イベントを起こした既往のない症例に、本当に抗凝固介入を行なう方がよいのか?安全性、有効性、経済性まで考えて、年間100人に2~3人の重篤な出血イベントを起こす介入が、本当に医療として望ましいのか? 「負けない賭け」ENGAGE-TIMI48では、有効性の非劣性も、低容量では非劣性マージンのぎりぎりであった。試験を重ねれば重ねるほど、多少のリスク因子のある非弁膜症心房細動には抗凝固介入は不要と見えてしまうのは私だけだろうか?

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エドキサバン:心房細動患者の脳卒中予防、ワルファリンに劣らない結果示す/NEJM

 直接第Xa因子阻害薬エドキサバン(商品名:リクシアナ)は、心房細動(AF)患者における脳卒中の予防効果がワルファリンに劣らず、出血リスクが有意に低いことが、米国・ブリガム&ウィメンズ病院のRobert P. Giugliano氏らが実施したENGAGE AF-TIMI 48試験で示された。エドキサバンは、活性化血液凝固第Xa因子を可逆的かつ直接的に阻害する経口薬であり、1~2時間で最高血中濃度に達し50%が腎で排泄される。すでに、8,000例以上の急性静脈血栓塞栓症患者を対象とした第III相試験(Hokusai-VTE試験)において、再発予防効果がワルファリンに劣らず、出血の発症率が有意に低いことが確認されている。本研究は、米国心臓協会学術集会(AHA)で発表され、NEJM誌オンライン版2013年11月19日号に掲載された。2種類の用量の非劣性を無作為化試験で評価 ENGAGE AF-TIMI 48試験は、AF患者の脳卒中予防におけるエドキサバンの長期的な有効性と安全性をワルファリンとの比較において評価する二重盲検ダブルダミー無作為化試験。対象は、年齢21歳以上、割り付け前の1年以内にAFを発症し、中等度~重度の脳卒中リスク(CHADS2スコア≧2)を有し、抗凝固療法が予定されている患者であった。 これらの患者が、ワルファリン(INR:2.0~3.0)、エドキサバン60mg/日、同30mg/日を投与する群に無作為に割り付けられた。 有効性の主要エンドポイントは脳卒中または全身性塞栓症の発症とし、エドキサバンのワルファリンに対する非劣性(ハザード比[HR]の97.5%信頼区間[CI]の上限値が1.38を超えない)を評価した。安全性の主要エンドポイントは大出血の発現であった。脳卒中/全身性塞栓症:1.50 vs 1.18 vs 1.61%、大出血:3.43 vs 2.75 vs 1.61% 2008年11月19日~2010年11月22日までに、46ヵ国1,393施設から2万1,105例が登録された。ワルファリン群に7,036例(年齢中央値72歳、女性37.5%、CHADS2スコア4~6:22.6%)、エドキサバン高用量群に7,035例(72歳、37.9%、22.9%)、エドキサバン低用量群には7,034例(72歳、38.8%、22.2%)が割り付けられた。ワルファリン群の治療期間中のINR治療域内時間(TTR)の割合(中央値)は68.4%と良好だった。フォローアップ期間中央値は2.8年。 脳卒中または全身性塞栓症の年間発生率は、ワルファリン群の1.50%に対し、エドキサバン高用量群が1.18%(HR:0.79、97.5%CI:0.63~0.99、非劣性検定:p<0.001)、低用量群は1.61%(1.07、0.87~1.31、p=0.005)であり、2つの用量ともにワルファリン群に対し非劣性であった。有効性のITT解析では、エドキサバン高用量群はワルファリン群よりも良好な傾向が認められ(HR:0.87、97.5%CI:0.73~1.04、p=0.08)、低用量群は不良な傾向がみられた(1.13、0.96~1.34、p=0.10)。 大出血の年間発生率は、ワルファリン群の3.43%に比べ、エドキサバン高用量群が2.75%(HR:0.80、95%CI:0.71~0.91、p<0.001)、低用量群は1.61%(0.47、0.41~0.55、p<0.001)であり、2つの用量ともにワルファリン群に対する優越性が示された。 心血管死の年間発生率は、ワルファリン群の3.17%に対し、エドキサバン高用量群が2.74%(HR:0.86、95%CI:0.77~0.97、p=0.01)、低用量群は2.71%(0.85、0.76~0.96、p=0.008)であり、いずれもワルファリンに比べ有意に良好であった。また、主要な副次エンドポイント(脳卒中、全身性塞栓症、心血管死)の発生率は、ワルファリン群の4.43%に比べ、高用量群は3.85%(HR:0.87、95%CI:0.78~0.96、p=0.005)と有意に優れたが、低用量群は4.23%(0.95、0.86~1.05、p=0.32)であり、有意差は認めなかった。 著者は、「エドキサバンの2つのレジメンはいずれも、脳卒中および全身性塞栓症の予防効果がワルファリンに劣らず、出血および心血管死が有意に少なかった」とまとめ、「エドキサバンの投与中止後のイベント発生数は少なく、凝固活性のリバウンドの可能性は低いことが示唆される」としている。■「リクシアナ」関連記事リクシアナ効能追加、静脈血栓症、心房細動に広がる治療選択肢

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日本発!真皮縫合 vs ステープラー/Lancet

 ステープラーによる皮膚縫合は消化器外科での開腹手術後に広く行われている反面、もうひとつの手段である真皮縫合の潜在的な利点については評価されていない。「大阪大学消化器外科共同研究会リスクマネジメント分科会」の辻仲 利政氏らは、真皮縫合とステープラー使用時の手術部位感染、肥厚性瘢痕などの創合併症の頻度を評価し報告した。Lancet誌2013年9月28日号に掲載。消化管開腹手術後の創合併症と肥厚性瘢痕発症率を比較 本研究はオープンラベル多施設ランダム化比較試験として、24施設が参加して行われた。適応基準は、20歳以上、臓器機能異常なし、上部消化管または下部消化管の開腹外科手術を施行された患者。手術前に真皮縫合とステープラー群に1:1で割り付けられた。主要アウトカムは手術後30日以内の創合併症発症率、副次アウトカムは術後6ヵ月以内の肥厚性瘢痕発症率とした。全体の発症は有意差なしも、上部・下部で発症に差 1,072例が主要アウトカムの、1,058例が副次アウトカムの評価対象となった。真皮縫合群とステープラー群はそれぞれ558例(上部消化管382例、下部消化管176例)、514例(上部消化管413例、下部消化管101例)であった。 主要評価項目である創合併症発症率は真皮縫合群で8.4%、ステープラー群では11.5%と、全体としては有意な差は確認できなかった(オッズ比:0.709、95%CI:0.474~1.062、p=0.12)。しかしながら探索的データ解析によると、創合併症発症率は下部消化管においては真皮縫合群で有意に少なかった(真皮縫合群10.2%、ステープラー群19.8%、オッズ比:0.463、95%CI:0.217~0.978、p=0.0301)。 内訳をみると、表層手術部位感染については、下部消化管において真皮縫合群で有意に少なかった(真皮縫合群7.4%、ステープラー群15.8%、オッズ比:0.425、95%CI:0.179~0.992、p=0.0399)。表層手術部位感染以外の創合併症発症率については、全体では真皮縫合群で有意に少なく(真皮縫合群2.0%、ステープラー群4.5%、オッズ比:0.435、95%CI:0.189~0.940、p=0.0238)、上部消化管においても真皮縫合群で有意に少ないという結果であった(真皮縫合群1.6%、ステープラー群4.6%、オッズ比:0.331、95%CI:0.107~0.875、p=0.0149)。 副次アウトカムである肥厚性瘢痕の発症率については、全体では真皮縫合群で有意に少なく(真皮縫合群16.7%、ステープラー群21.6%、オッズ比:0.726、95%CI:0.528~0.998、p=0.0429)、上部消化管においても真皮縫合群で有意に少なかった(真皮縫合群17.3%、ステープラー群23.7%、オッズ比:0.672、95%CI:0.465~0.965、p=0.0282)。 サブセット解析では、男性、下部消化管手術、手術時間220分以上、手術後の抗凝固療法施行において、真皮縫合群で創合併症リスクが減少していた。また、ほとんどのサブセットにおいて、真皮縫合群で創合併症の頻度が減少していることが証明された。

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肺動脈性肺高血圧症に新薬の有効性が示される―新規デュアルエンドセリン受容体拮抗薬―/NEJM

 肺動脈性肺高血圧症(PAH)の治療において、マシテンタン(国内未承認)はイベント発生および死亡を有意に抑制することが、メキシコ・Ignacio Chavez国立心臓研究所のTomas Pulido氏らが行ったSERAPHIN試験で示された。現行のPAH治療薬(エンドセリン[ET]受容体拮抗薬、ホスホジエステラーゼ5[PDE5]阻害薬、プロスタサイクリンなど)は、運動耐容能を主要評価項目とする短期的な試験(12~16週)に基づいて臨床導入されているという。デュアルET受容体拮抗薬マシテンタンは、ET受容体拮抗薬ボセンタンの化学構造を改良して有効性と安全性を向上させた新規薬剤で、受容体結合時間の延長と組織透過性の増強を特徴とする。NEJM誌2013年8月29日号掲載の報告。長期投与の有用性を、イベント発生を指標に無作為化試験で評価 SERAPHIN試験は、症候性PAH患者の治療におけるマシテンタン長期投与の有用性を評価する二重盲検プラセボ対照無作為化試験。対象は、年齢12歳以上で、特発性または遺伝性PAH、結合組織疾患関連PAH、先天性全身肺シャントに伴うPAH、薬物・毒物に起因するPAHであった。 被験者は、プラセボ、マシテンタン3mg、同10mgをそれぞれ1日1回経口投与する群のいずれかに無作為に割り付けられた。試験登録時に、PAH治療としてET受容体拮抗薬を除く経口薬または吸入薬を安定的に使用していた患者は、併用してよいこととした。 主要評価項目は、治療開始から複合エンドポイント[死亡、心房中隔裂開術、肺移植、プロスタノイド(静注または皮下投与)の開始、PAH増悪]の初回発生までの期間であった。既治療例、未治療例の双方に有効 2008年5月~2009年12月までに39ヵ国151施設から742例が登録され、プラセボ群に250例、マシテンタン 3mg群に250例、同10mg群に242例が割り付けられた。平均治療期間は、それぞれ85.3週、99.5週、103.9週であった。 ベースライン時の全体の平均年齢は45.6歳、女性76.5%、PAH診断後の期間2.7年、特発性PAH 55.0%、結合組織疾患関連PAH 30.5%、6分間歩行距離360m、PDE5阻害薬の使用61.4%、経口または吸入プロスタノイドの使用5.4%、抗凝固療法51.2%であった。 複合エンドポイントの発生率は、プラセボ群が46.4%、3mg群が38.0%、10mg群は31.4%であった。プラセボ群に対する3mg群のハザード比(HR)は0.70(97.5%信頼区間[CI]:0.52~0.96、p=0.01)、10mg群のHRは0.55(97.5%CI:0.39~0.76、p<0.001)であり、いずれも有意な差が認められた。複合エンドポイントのうち、PAH増悪の頻度が最も高かった(プラセボ群:37.2%、3mg群:28.8%、10mg群:24.4%)。 6ヵ月時の6分間歩行距離は、プラセボ群が平均9.4m短縮したのに対し、3mg群は7.4m(p=0.01)、10mg群は12.5m(p=0.008)有意に延長した。また、6ヵ月時のWHO機能分類はプラセボ群が平均13%改善したのに比べ、3mg群は20%(p=0.04)、10mg群は22%(p=0.006)有意に改善した。 有害事象の発症率はプラセボ群が96.4%、3mg群が96.0%、10mg群は94.6%で、重篤な有害事象の発症率はそれぞれ55.0%、52.0%、45.0%であった。マシテンタン群で頻度の高い有害事象として、頭痛、鼻咽頭炎、貧血が認められた。 著者は、「このイベント主導型試験では、マシテンタンによる長期的な治療はPAH患者のイベント発生および死亡を有意に抑制した」とまとめ、「マシテンタンの効果は、ベースライン時のPAH治療の有無にかかわらず認められた」としている。

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Vol. 1 No. 3 超高齢者の心房細動管理

小田倉 弘典 氏土橋内科医院1. はじめに本章で扱う「超高齢者」についての学会や行政上の明確な定義は現時点でない。老年医学の成書などを参考にすると「85歳以上または90歳以上から超高齢者と呼ぶ」ことが妥当であると思われる。2. 超高齢者の心房細動管理をする上で、まず押さえるべきこと筆者は、循環器専門医からプライマリーケア医に転身して8年になる。プライマリーケアの現場では、病院の循環器外来では決して遭うことのできないさまざまな高齢者を診ることが多い。患者の症状は全身の多岐にわたり、高齢者の場合、自覚・他覚とも症状の発現には個人差があり多様性が大きい。さらに高齢者では、複数の健康問題を併せ持ちそれらが複雑に関係しあっていることが多い。「心房細動は心臓だけを見ていてもダメ」とはよくいわれる言葉であるが、高齢者こそ、このような多様性と複雑性を踏まえた上での包括的な視点が求められる。では具体的にどのような視点を持てばよいのか?高齢者の多様性を理解する場合、「自立高齢者」「虚弱高齢者」「要介護高齢者」の3つに分けると、理解しやすい1)。自立高齢者とは、何らかの疾患を持っているが、壮年期とほぼ同様の生活を行える人たちを指す。虚弱高齢者(frail elderly)とは、要介護の状態ではないが、心身機能の低下や疾患のために日常生活の一部に介助を必要とする高齢者である。要介護高齢者とは、寝たきり・介護を要する認知症などのため、日常生活の一部に介護を必要とする高齢者を指す。自立高齢者においては、壮年者と同様に、予後とQOLの改善という視点から心房細動の適切な管理を行うべきである。しかし超高齢者の場合、虚弱高齢者または要介護高齢者がほとんどであり、むしろ生活機能やQOLの維持の視点を優先すべき例が多いであろう。しかしながら、実際には自立高齢者から虚弱高齢者への移行は緩徐に進行することが多く、その区別をつけることは困難な場合も多い。両者の錯綜する部分を明らかにし、高齢者の持つ複雑性を“見える化”する上で役に立つのが、高齢者総合的機能評価(compre-hensive geriatric assessment : CGA)2)である。CGAにはさまざまなものがあるが、当院では簡便さから日本老年医学会によるCGA7(本誌p20表1を参照)を用いてスクリーニングを行っている。このとき、高齢者に立ちはだかる代表的な問題であるgeriatric giant(老年医学の巨人)、すなわち転倒、うつ、物忘れ、尿失禁、移動困難などについて注意深く評価するようにしている。特に心房細動の場合は服薬管理が重要であり、うつや物忘れの評価は必須である。また転倒リスクの評価は抗凝固薬投与の意思決定や管理においても有用な情報となる。超高齢者においては、このように全身を包括的に評価し、構造的に把握することが、心房細動管理を成功に導く第一歩である。3. 超高齢者の心房細動の診断超高齢者は、自覚症状に乏しく心房細動に気づかないことも多い。毎月受診しているにもかかわらず、ずっと前から心房細動だったことに気づかず、脳塞栓症を発症してしまったケースを経験している医師も少なくないと思われる。最近発表された欧州心臓学会の心房細動管理ガイドライン3)では、「65歳以上の患者における時々の脈拍触診と、脈不整の場合それに続く心電図記録は、初回脳卒中に先立って心房細動を同定するので重要(推奨度Ⅰ/エビデンスレベルB)」であると強調されている。抗凝固療法も抗不整脈処方も、まず診断することから始まる。脈は3秒で測定可能である。「3秒で救える命がある」と考え、厭わずに脈を取ることを、まずお勧めしたい。4. 超高齢者の抗凝固療法抗凝固療法の意思決定は、以下の式(表)が成り立つ場合になされると考えられる。表 抗凝固療法における意思決定1)リスク/ベネフィットまずX、Yを知るにはクリニカルエビデンスを紐解く必要がある。抗凝固療法においては、塞栓予防のベネフィットが大きい場合ほど出血リスクも大きいというジレンマがあり、高齢者においては特に顕著である。また超高齢者を対象とした研究は大変少ない。デンマークの大規模コホート研究では、CHADS2スコアの各因子の中で、75歳以上が他の因子より著明に大きいことが示された(本誌p23図1を参照)4)。この研究は欧州心臓学会のガイドラインにも反映され、同学会で推奨しているCHA2DS2-VAScスコアでは75歳以上を2点と、他より重い危険因子として評価している。また75歳以上の973人(平均81歳)を対象としたBAFTA研究5)では、アスピリン群の年間塞栓率3.8%に比べ、ワルファリンが1.8%と有意に減少しており、出血率は同等で塞栓率を下回った。一方で人工弁、心筋梗塞後などの高齢者4,202人を対象とした研究6)では、80歳を超えた人のワルファリン投与による血栓塞栓症発症率は、60歳未満の2.7倍であったのに対し、出血率は2.9倍だった。スウェーデンの大規模研究7)では、抗凝固薬服用患者において出血率は年齢とともに増加したが、血栓塞栓率は変化がなかった。また80歳以上でCHADS2スコア1点以上の人を対象にしたワルファリンの出血リスクと忍容性の検討8)では、80歳未満の人に比べ、2.8倍の大出血を認め、CHADS2スコア3点以上の人でより高率であった。最近、80歳以上の非弁膜症性心房細動の人のみを対象とした前向きコホート研究9)が報告されたが、それによると平均年齢83~84歳、CHADS2スコア2.2~2.6点という高リスクな集団において、PT-INR2.0~3.0を目標としたワルファリン治療群は、非治療群に比べ塞栓症、死亡率ともに有意に減少し、大出血の出現に有意差はなかった。このように、高齢者では出血率が懸念される一方、抗凝固薬の有効性を示す報告もあり、判断に迷うところである。ひとつの判断材料として、出血を規定する因子がある。80歳以上の退院後の心房細動患者323人を29か月追跡した研究10)によると、出血を増加させる因子として、(1)抗凝固薬に対する不十分な教育(オッズ比8.8)(2)7種類以上の併用薬(オッズ比6.1)(3)INR3.0を超えた管理(オッズ比1.08)が挙げられた。ワルファリン服用下で頭蓋内出血を起こした症例と、各因子をマッチさせた対照とを比較した研究11)では、平均年齢75~78歳の心房細動例でINRを2.0~3.0にコントロールした群に比べ、3.5~3.9の値を示した群は頭蓋内出血が4.6倍であったが、2.0未満で管理した群では同等のリスクであった。さらにEPICA研究12)では、80歳以上のワルファリン患者(平均84歳、最高102歳)において、大出血率は1.87/100人年と、従来の報告よりかなり低いことが示された。この研究は、抗凝固療法専門クリニックに通院し、ワルファリンのtime to therapeutic range(TTR)が平均62%と良好な症例を対象としていることが注目される。ただし85歳以上の人は、それ以外に比べ1.3倍出血が多いことも指摘されている。HAS-BLEDスコア(本誌p24表3を参照)は、抗凝固療法下での大出血の予測スコアとして近年注目されており13)、同スコアが3点以上から出血が顕著に増加することが知られている。このようにINRを2.0~3.0に厳格に管理すること、出血リスクを適切に把握することがリスク/ベネフィットを考える上でポイントとなる。2)負担(Burden)超高齢者においては、上記のような抗凝固薬のリスクとベネフィット以外のγの要素、すなわち抗凝固薬を服薬する上で生じる各種の負担(=burden)を十分考慮する必要がある。(1)ワルファリンに対する感受性 高齢者ほどワルファリンの抗凝固作用に対する感受性が高いことはよく知られている。ワルファリン導入期における大出血を比べた研究8)では、80歳以上の例では、80歳未満に比べはるかに高い大出血率を認めている(本誌p25図2を参照)。また、高齢者ではワルファリン投与量の変更に伴うINRの変動が大きく、若年者に比べワルファリンの至適用量は少ないことが多い。前述のスウェーデンにおける大規模研究7)では、50歳代のワルファリン至適用量は5.6mg/日であったのに対し、80歳代は3.4mg/日、90歳代は3mg/日であった。(2)併用薬剤 ワルファリンは、各種併用薬剤の影響を大きく受けることが知られているが、その傾向は高齢者において特に顕著である。抗菌薬14)、抗血小板薬15)をワルファリンと併用した高齢者での出血リスク増加の報告もある。(3)転倒リスク 高齢者の転倒リスクは高く、転倒に伴う急性硬膜下血腫などへの懸念から、抗凝固薬投与を控える医師も多いかもしれない。しかし抗凝固療法中の高齢者における転倒と出血リスクの関係について述べた総説16)によると、転倒例と非転倒例で比較しても出血イベントに差がなかったとするコホート研究17)などの結果から、高齢者における転倒リスクはワルファリン開始の禁忌とはならないとしている。また最近の観察研究18)でも、転倒の高リスクを有する人は、低リスク例と比較して特に大出血が多くないことが報告された。エビデンスレベルはいずれも高くはないが、懸念されるほどのリスクはない可能性が示唆される。(4)服薬アドヒアランス ときに、INRが毎回のように目標域を逸脱する例を経験する。INRの変動を規定する因子として遺伝的要因、併用薬剤、食物などが挙げられるが、最も大きく影響するのは服薬アドヒアランスである。高齢者でINR変動の大きい人を診たら、まず服薬管理状況を詳しく問診すべきである。ワルファリン管理に影響する未知の因子を検討した報告19)では、認知機能低下、うつ気分、不適切な健康リテラシーが、ワルファリンによる出血リスクを増加させた。 はじめに述べたように、超高齢者では特にアドヒアランスを維持するにあたって、認知機能低下およびうつの有無と程度をしっかり把握する必要がある。その結果からアドヒアランスの低下が懸念される場合には、家族や他の医療スタッフなどと連携を密に取り、飲み忘れや過剰服薬をできる限り避けるような体制づくりをすべきである。また、認知機能低下のない場合の飲み忘れに関しては、抗凝固薬に対する重要性の認識が低いことが考えられる。服薬開始時に、抗凝固薬の必要性と不適切な服薬の危険性について、患者、家族、医療者間で共通認識をしっかり作っておくことが第一である。3)新規抗凝固薬新規抗凝固薬は、超高齢者に対する経験の蓄積がほとんどないため大規模試験のデータに頼らなければならない。RE-LY試験20)では平均年齢は63~64歳であり、75歳を超えるとダビガトランの塞栓症リスクはワルファリンと同等にもかかわらず、大出血リスクはむしろ増加傾向を認めた21)。一方、リバーロキサバンに関するROCKET-AF試験22)は、CHADS2スコア2点以上であるため、年齢の中央値は73歳であり、1/4が78歳以上であった。ただし超高齢者対象のサブ解析は明らかにされていない。4)まとめと推奨これまで見たように、80歳以上を対象にしたエビデンスは散見されるが85歳以上に関する情報は非常に少なく、一定のエビデンス、コンセンサスはない。筆者は開業後8年間、原則として虚弱高齢者にも抗凝固療法を施行し、85歳以上の方にも13例に新規導入と維持療法を行ってきたが、大出血は1例も経験していない。こうした経験や前述の知見を総合し、超高齢者における抗凝固療法に関しての私見をまとめておく。■自立高齢者では、壮年者と同じように抗凝固療法を適応する■虚弱高齢者でもなるべく抗凝固療法を考えるが、以下の点を考慮する現時点ではワルファリンを用いるINRの変動状況、服薬アドヒアランスを適切に把握し、INRの厳格な管理を心がける併用薬剤は可能な限り少なくする導入初期に、家族を交えた患者教育を行い、服薬の意義を十分理解してもらう導入初期は、通院を頻回にし、きめ細かいINR管理を行う転倒リスクも患者さんごとに、適切に把握するHAS-BLEDスコア3点以上の例は特に出血に注意し、場合により抗凝固療法は控える5. 超高齢者のリズムコントロールとレートコントロール超高齢者においては、発作性心房細動の症状が強く、直流除細動やカテーテルアブレーションを考慮する場合はほとんどない。また発作予防のための長期抗不整脈薬投与は、永続性心房細動が多い、薬物の催不整脈作用に対する感受性が強い、などの理由で勧められていない23)。したがって超高齢者においては、心拍数調節治療、いわゆるレートコントロールを第一に考えてよいと思われる。レートコントロールの目標については、近年RACEII試験24,25)において目標心拍数を110/分未満にした緩徐コントロール群と、80/分未満にした厳格コントロール群とで予後やQOLに差がないことが示され注目されている。同試験の対象は80歳以下であるが、薬剤の併用や高用量投与を避ける点から考えると、超高齢者にも適応して問題ないと思われる。レートコントロールに用いる薬剤としてはβ遮断薬、非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬のどちらも有効である。β遮断薬は、半減期が長い、COPD患者には慎重投与が必要である、などの理由から、超高齢者には半減期の短いベラパミルが使用されることが多い。使用に際しては、潜在化していた洞不全症候群、心不全が症候性になる可能性があるため、投与初期のホルター心電図等による心拍数確認や心不全徴候に十分注意する。6. 超高齢者の心房細動有病率米国の一般人口における有病率については、4つの疫学調査をまとめた報告26)によると、80歳以上では約10%とされており、85歳以上の人では男9.1%、女11.1%と報告されている27)。日本においては、日本循環器学会の2003年の健康診断症例による研究28)によると、80歳以上の有病率は男4.4%、女2.2%であった。また、2012年に報告された最新の久山町研究29)では、2007年時80歳以上の有病率は6.1%であった。今後高齢化に伴い、超高齢者の有病率は増加するものと思われる。7. おわりにこれまで見てきたように、超高齢者の心房細動管理に関してはエビデンスが非常に少なく、特に抗凝固療法においてはリスク、ベネフィットともに大きいというジレンマがある。一方、そうしたリスク、ベネフィット以外にさまざまな「負担」を加味し、包括的に状態を評価し意思決定につなげていく必要に迫られる。このような状況では、その意思決定に特有の「不確実性」がつきまとうことは避けられないことである。その際、「正しい意思決定」をすることよりももっと大切なことは、患者さん、家族、医療者間で、問題点、目標、それぞれの役割を明確にし、それを共有し合うこと。いわゆる信頼関係に基づいた共通基盤を構築すること1)であると考える。そしてそれこそが超高齢者医療の最終目標であると考える。文献1)井上真智子. 高齢者ケアにおける家庭医の役割. 新・総合診療医学(家庭医療学編) . 藤沼康樹編, カイ書林, 東京, 2012.2)鳥羽研二ら. 高齢者総合的機能評価簡易版CGA7の開発. 日本老年医学会雑誌2010; 41: 124.3)Camm J et al. 2012 focused update of the ESC Guidelines for the management of atrial fibrillation.An update of the 2010 ESC Guidelines for the management of atrial fibrillation Developed withthe special contribution of the European Heart Rhythm Association. 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虚血性脳卒中の一次予防における予測能についての、新しいアルゴリズムQ Strokeと従来のアルゴリズムとの比較―前向きオープン試験―(コメンテーター:山本 康正 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(115)より-

英国では、冠状動脈疾患や虚血性脳卒中・一過性脳虚血発作などの心血管病の危険因子や予測因子は、QRISK2で代表されるようなアルゴリズムが広く一般医の臨床現場で電子化され使用されている。 今回、QRISK2に項目を追加して「Q Stroke」という、脳卒中・一過性脳虚血発作予測の絶対リスクを算出できるようなアルゴリズムを作成した。QRISK2の項目は、人種、年齢、性、喫煙(なし、喫煙経験、1日10本以下、10~19本、20本以上、に程度分類)、心房細動、収縮期血圧、総コレステロール/HDLコレステロール、Body Mass Index、冠状動脈疾患の家族歴、出身地、高血圧、関節リウマチ、CKD、1型糖尿病、2型糖尿病であるが、Q Strokeではこれに、冠状動脈疾患、心不全、弁膜疾患を追加した。 脳卒中・一過性脳虚血発作のない患者で電子化されたデータを集積し再解析すると、Derivation cohort 354万9,478人(平均追跡7年)から7万7,578人、validation cohort 189万7,168人(平均追跡6.7年)から3万8,404人の脳卒中・TIAが発症した。Q StrokeとFramingham stroke equationを比較すると、ROC値、R2、D統計量はいずれもQ Strokeで高く、予測アルゴリズムとして良好であった。validation cohortで心房細動を有する7,683人を限定して10年間追跡すると、890人の脳卒中・TIAが発症した(21%で抗凝固療法が追加されていた)。 CHADS2、CHA2DS2VASc は頻用されているが、Q Strokeのリスク予測能は、ROC値、R2、C統計量でいずれも、とくに男性でより高かった。657人(9%)はQ Strokeではhigh risk、CHADS2でlow riskとなり、その10年の絶対リスクは19%、650人(9%)でQ Strokeではlow risk、CHADS2でhigh riskとなり、10年のリスクは8%となった。両方のアルゴリズムともにhigh riskは25.4%であった。 すなわち、Q Stroke における予測能はCHADS2より(CHA2DS2VAScでは僅差となるが)優れており、抗凝固療法の選択においてQ Strokeを参考にすることで、不要な抗凝固療法を避けたり、抗凝固療法が必要な例を見出したりできる可能性がある。Q Strokeのみにみられる、喫煙(量反応性あり)、脂質異常、BMI、関節リウマチ、CKDなどの因子にも注目する必要があるかもしれない。

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第16回 診療ガイドライン その2: 「沿う」以上に重要な「適切なガイドライン」作り!!

■今回のテーマのポイント1.ガイドラインに沿った診療は紛争化リスクを低減する2.ガイドラインに沿った診療をしていれば、違法と判断される危険性は低い3.実医療現場に沿った適切なガイドラインの作成が課題である事件の概要患者X(54歳)は、4日前より持続する呼吸困難、動悸を認めたため、平成15年10月29日、Y病院を受診したところ、重症心不全および心房細動と診断され、加療のため同日入院となりました。主治医Aは、同日よりXに対し、心不全の治療として酸素投与と利尿薬、カテコラミンの投与を、心房細動に対しヘパリン、翌日よりワルファリンカリウム(商品名:ワーファリン)(2㎎/日)を開始しました。11月4日には、トイレへ歩行しても呼吸苦を認めなくなりました。11月7日、経食道心エコーを行ったところ、左房内に明らかな血栓を認めなかったものの、モヤモヤエコーが描出されました。明らかな血栓がなかったことから、A医師は、Xに対し、電気的除細動を行ったところ、1度は正常洞調律に戻りましたが、その後、心房性期外収縮が頻発するなど不整脈が出現していました。なお、11月6日のXのPT-INRは1.15でした。Xに対するワーファリン®の投与量は、11月4日より3㎎/日に、9日より4㎎/日と順次増量しましたが、10日退院時のPT-INRは1.2でした。A医師は、心不全および心房細胞が改善したこと、Xが退院を希望したことから、ワーファリン®を4.5㎎/日として、10日に退院としました。しかし、翌11日午後7時半頃、Xは、自宅にて右片麻痺が出現し、救急搬送されたものの、脳塞栓症にて右不全麻痺と失語症が残存することとなりました。これに対し、Xは、1)電気的除細動の適応がなかったこと、2)ワーファリン®による抗凝固療法が十分ではなかったにもかかわらず電気的除細動を行ったこと、3)電気的除細動後、抗凝固療法が不十分であったにもかかわらず退院させたことなどを争い、Y病院に対し、約1億5,200万円の損害賠償を請求しました。なぜそうなったのかは、事件の経過からご覧ください。事件の経過患者X(54歳)は、4日前より持続する呼吸困難、動悸を認めたため、平成15年10月29日、Y病院を受診したところ、重症心不全および心房細動と診断され、加療のため同日入院となりました。胸部単純X線上、著明な肺鬱血を認め、心エコー上、左室駆出率は24%、心嚢液貯留を認めました。主治医Aは、同日よりXに対し、心不全の治療として酸素投与と利尿薬、カテコラミンの投与を、心房細動に対しヘパリン、翌日よりワーファリン®(2㎎/日)を開始しました。11月4日には、トイレへ歩行しても呼吸苦を認めなくなったものの、5日に行われた心エコーでは、左室駆出率21%、左房径50㎜、左室拡張末期径64㎜であり、拡張型心筋症様でした。11月7日、経食道心エコーを行ったところ、左房内に明らかな血栓を認めなかったものの、モヤモヤエコーが描出されました。明らかな血栓がなかったことから、A医師は、Xに対し、電気的除細動を行ったところ、1度は正常洞調律に戻りましたが、その後、心房性期外収縮が頻発するなど不整脈が出現していました。なお、11月6日のXのPT-INRは1.15でした。Xに対するワーファリン®の投与量は、11月4日より3㎎/日に、9日より4㎎/日と順次増量しましたが、10日退院時のPT-INRは1.2でした。A医師は、心不全および心房細胞が改善したこと、Xが退院を希望したことから、ワーファリン®を4.5㎎/日として、10日に退院としました。しかし、翌11日午後7時半頃、Xは、自宅にて右片麻痺が出現し、救急搬送されたものの、脳塞栓症にて右不全麻痺と失語症が残存することとなりました。事件の判決1)電気的除細動の適応がなかったこと平成13年ガイドラインでは、除細動により自覚症状や血行動態の改善が期待される場合には、電気的除細動の適応があるとされていること、同ガイドラインでは、除細動しても再発率が高く、効果が期待できない例として、(1)心房細動の持続が1年以上の慢性心房細動、(2)左房径が5センチメートル以上、(3)過去に除細動歴が2回以上、(4)患者が希望しないという条件が1つでもある場合は、積極的な除細動を勧めていないところ、(1)については判断できないが、(2)については11月5日の左房径は5センチメートルとぎりぎりの基準であったこと、同ガイドラインでは、重症心不全では、心房細動が持続していれば電気的除細動を行うのが望ましいとされていることなどから、平成13年ガイドラインから逸脱していない。・・・・・・(中略)・・・・・・すなわち、前記医学的知見に示した、平成13年ガイドラインによれば、重症心不全の場合、心房細動が持続していれば電気的除細動を行うのが望ましいとされているところ、前記認定のとおり、本件除細動時、原告は重症心不全の状態にあったこと、前記前提事実によれば、原告は、本件入院時から本件除細動時の約10日間心房細動が持続していたこと等が認められることから、平成13年ガイドラインによって照合しても電気的除細動を行う適応があったといえる。2)ワーファリンによる抗凝固療法が十分ではなかったにもかかわらず電気的除細動を行ったこと前記前提となる医学的知見によれば、心房細動の持続が48時間以上となると左房内に血栓が形成されて塞栓症を起こす危険が高まること、心房細動では、除細動後、洞調律に戻った後に一過性の機械的機能不全が生じ、この時期に心房内に血栓が形成され、機械的興奮が回復してから血栓が剥がれて飛んで塞栓症の原因となると考えられていること、日本では、INR2程度を目標とすることとされていること、平成13年ガイドラインによれば、心拍数が毎分99以下の発作性心房細動の項で、心房細動の持続時間が48時間を超える場合には、経食道心エコーにて左房内血栓の有無を確認し、無ければヘパリン投与下で除細動を行うとされていることが認められる。そして、前記認定事実によれば、原告のINRは、10月29日に1.15、11月4日に1.14、6日に1.15だったこと、A医師は、本件除細動前に、原告に対して経食道心エコーを行い、左房・左心耳内に血栓がないことを確認したこと、本件除細動時、ヘパリンを投与していたこと等が認められる。以上を総合すると、D医師が電気的除細動の実施に際し、抗凝固の目標値であるINR2~3でワーファリン2をかなり下回るINR1.5程度で本件除細動を行ったことは塞栓症のリスク管理という点から疑問がないとは言えないが、A医師はガイドラインの指針に従って、経食道心エコーにより、左房・左心耳内に血栓がないことを確認し、ヘパリン投与下で本件除細動を行ったのであり、鑑定意見及び医学的知見に照らすと、INRが2程度になる様に抗凝固療法を行った上で除細動を行うべき注意義務があったとまではいえない。3)電気的除細動後、抗凝固療法が不十分であったにもかかわらず退院させたこと平成13年ガイドラインで、電気的除細動施行後はワーファリンによる抗凝固療法(INR2~3)を4週間継続することが推奨されていること、ヘパリンとワーファリンの併用方法としては、ワーファリンの抗凝固療法の効果が出るまでに約72時間ないし96時間を要するため、INRが治療域に入ってからヘパリンを中止することが勧められていることが認められる。前記前提事実及び前記認定事実によれば、A医師は、原告退院時、ワーファリンを従前の4錠(4ミリグラム)から4.5錠(4.5ミリグラム)に増量した上で退院させていることが認められる。しかし、前記前提事実及び前記認定事実によれば、原告の退院時のINRは1.20と、平成13年ガイドラインの推奨するINRの値及び重大な塞栓症が発症する可能性の高いINR1.6を相当下回っていたこと、鑑定書によれば、原告は心不全を合併していたことから特に、脳塞栓症の発生リスクが高まっていたことが認められる。そして、前記認定事実によれば、原告が本件脳梗塞を発症した後の11月13日のINRは1.21であることが認められ、脳梗塞発症時には抗凝固療法のレベルがINR1.2前後であったことが推認できる。・・・・・・(中略)・・・・・・以上の事実を総合すると、原告の退院時の抗凝固レベルは不十分かつ塞栓症発生の危険が高い状態であり、原告退院後、ワーファリン増量の効果が発現するのになお数日を要する状態であったのであるから、A医師には、入院を継続してヘパリンによる抗凝固療法を中止することなく併用しつつ、ワーファリンの投与量を調節して推奨抗凝固レベルを確保する入院を継続させて原告の抗凝固レベルが推奨レベルになるまでの間、特段の事情がない限り、入院を継続し、原告の状態を観察する注意義務があったといえる。・・・・・・(中略)・・・・・・よって、A医師は原告の抗凝固レベルが推奨レベルになるまでの間、入院を継続し、原告の状態を観察する注意義務を怠ったといえる。(岐阜地判平成21年6月18日)ポイント解説今回も、前回に引き続きガイドラインについて解説いたします。前回解説したように、ガイドラインは、裁判所が医療水準を判断する際の重要な資料であり、裁判所はおおむねガイドラインに沿った判断をしていることから、ガイドラインに反した診療をした場合には、「過失」と判断されやすいといえます。それでは、「ガイドラインに沿った診療をしていた場合には、裁判所はどのような判断をするのか?」が今回のテーマとなります。「事件の判決」で挙げている3つの争点について、裁判所は、いずれも日本循環器学会が作成したガイドラインを引用し、過失判断をしています。そして、1)においては、「平成13年ガイドラインによれば、重症心不全の場合、心房細動が持続していれば電気的除細動を行うのが望ましいとされているところ、前記認定のとおり、本件除細動時、原告は重症心不全の状態にあったこと、前記前提事実によれば、原告は、本件入院時から本件除細動時の約10日間心房細動が持続していたこと等が認められることから、平成13年ガイドラインによって照合しても電気的除細動を行う適応があったといえる」と判示し、過失がなかったとしています。第14回で解説したように、判決は法的三段論法(図1)で書かれているところ、1)における大前提(規範定立)は、「平成13年ガイドラインによれば、重症心不全の場合、心房細動が持続していれば電気的除細動を行うのが望ましいとされている」であり、ガイドライン=規範となっています。そして、ガイドライン=規範に本件事案は反していないこと(小前提)から過失はなかった(結論)としているのです。同様に、2)においても、ガイドラインを規範とした上で、「D医師が電気的除細動の実施に際し、抗凝固の目標値であるINR2~3でワーファリン2をかなり下回るINR1.5程度で本件除細動を行ったことは塞栓症のリスク管理という点から疑問がないとは言えないが、A医師はガイドラインの指針に従って、経食道心エコーにより、左房・左心耳内に血栓がないことを確認し、ヘパリン投与下で本件除細動を行ったのであり、鑑定意見及び医学的知見に照らすと、INRが2程度になる様に抗凝固療法を行った上で除細動を行うべき注意義務があったとまではいえない」と判示しており、ガイドラインに沿っていることを理由にPT-INRが低くともなお適法であるとしています。この判示は、より高い医療水準を設定することが可能な場合においても、ガイドラインにさえ沿っていれば、違法と判断しないとした点で重要であるといえます。2000年代前半において、現場の実情や医療を無視した救済判決が出されたことで、医療界が大きく混乱しました。萎縮医療が生じた原因は、医療に対する要望が急速に高まっていく中、年々、求められる医療水準が上昇していったことです(図2)。すなわち、診療当時に入手可能な判例に沿った診療(診療時のルールに基づく診療)を行ったとしても、それが裁判となり争われ、判決が出されるまでの間に、求められる医療水準が上昇(判決時=将来のルール)してしまい、結果、「違法」と判断されてしまったことから、実医療を行うにあたり自身の行為が適法か否かの判断ができなくなってしまったのです。自らの診療の適法性に対する予見可能性がなくなれば、実医療現場で診療する医療従事者にとっては、結果論で裁かれるのと同じことになりますので、その結果、危険を伴う診療には関与しないという萎縮医療が生じてしまいました。本判決のように、その当時のガイドラインに従っていれば、少なくとも違法とは判断されないということは、現場の医療従事者にとっては非常に重要な意味を持ちます。特にその内容が、裁判官ではなく、その領域の専門家である医師によって定められることは、適切な医療訴訟(敗訴しても医師が納得できる)を目指す上でも価値があるといえます。昨今の判決では、裁判所は、ガイドラインを尊重していること、前回解説したように、ガイドラインに準じた治療であった場合には、そもそも弁護士が事件を受任しないことから紛争化自体を防ぐことができるということで、ガイドラインの重要性は増しています。しかしながら、現在作成されているガイドラインの中には、適法性の基準としてみると疑問といえるものも散見されます。特に、複数の選択肢があり、現場の医師の裁量に任せるべきケースに対し、他の選択肢を否定するかのような表記がなされている場合は、しばしば紛争化の道をたどることとなるので注意が必要です。いずれにせよ、医療の正しさは専門家である医師が決定していくということは、重要なことであり、不幸な時期を経て、ようやく手にしたものです。医療界は、ガイドラインを適法性の判断基準にしないで欲しいという後ろ向きの議論をするのではなく、実医療現場で働く医師が困ることのない適切なガイドラインを作成するよう努力していかなければなりません。裁判例のリンク次のサイトでさらに詳しい裁判の内容がご覧いただけます。(出現順)岐阜地判平成21年6月18日

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ヘパリン橋渡し療法・・・それは正しい経験則だったのか?(コメンテーター:山下 武志 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(101)より-

経口抗凝固療法を服用している脳卒中ハイリスク患者では、侵襲的治療に伴う出血と抗凝固療法中断に伴う脳梗塞のリスクを考えることがいつも難しい。 抜歯や白内障の手術では抗凝固療法継続のまま行うことが常識となっているが、それ以外の侵襲的治療ではワルファリンの中断とヘパリンによる橋渡し治療が行うことが多いだろう。しかし、この方法にはエビデンスがなく、単なる経験的な方法にすぎないことを知っている人がどれぐらいいるだろう。 本研究はこの課題に対する初めての無作為化比較試験であり、貴重な知見を与えた。(1) ヘパリン橋渡し療法には出血性事象が多く伴う、(2) デバイス手術はワルファリン継続下で十分安全に可能である、という事実は、今後の診療に大きな影響を及ぼすだろう。「目に見える範囲の侵襲的治療はワルファリン継続下で可能である」との想定が、デバイス手術にもあてはまる。 今後の課題は、消化管内視鏡的操作などの目に見えない部位の侵襲的治療ではどうすべきかということになるだろう。なお、本研究でもアスピリンの併用は独立した出血の危険因子であった。侵襲的治療の際には、抗血小板療法が併用されているかどうかにも十分に注意を払いたい。

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ICD手術時、ワルファリン継続でも安全であることを確認/NEJM

 経口抗凝固療法を受けている患者へのペースメーカーや植込み型除細動器(ICD)の手術時に、ヘパリンに変更する橋渡し療法(bridging therapy)と比較して、ワルファリン療法を継続する戦略は、臨床的に有意なデバイスポケット血腫(device-pocket hematoma)の発生を顕著に減少することが、カナダ・オタワ大学心臓研究所のDavid H. Birnie氏らによる多施設共同単盲検無作為化試験の結果、報告された。ペースメーカーやICDの手術を要する患者では、14~35%と多くの患者が長期の経口抗凝固療法を受けている。現行ガイドラインでは、これら患者について、血栓塞栓症イベントのため高リスク患者についてはヘパリンに変更する橋渡し療法が推奨されているが、デバイスポケット血腫のリスクがかなりあること(17~31%)が問題視されていた。NEJM誌オンライン版2013年5月9日号掲載の報告より。ワルファリン継続vs.ヘパリン橋渡し療法を多施設共同単盲検無作為化試験にて検討 橋渡し療法に関する問題に対して、いくつかの医療施設でワルファリン療法を中断しない手技を行うようになり、安全である可能性が示唆されたが、症例報告レベルにとどまり臨床試験はほとんど行われていなかった。 研究グループは、多施設共同単盲検無作為化試験にて、ワルファリン療法継続戦略の安全性と有効性を明らかにすることを目的とし、カナダの17施設とブラジルの1施設で被験者を登録した。被験者は、血栓塞栓症イベントの年間発生リスクが5%超の患者で、無作為に1対1の割合でワルファリン継続群とヘパリン橋渡し療法群に割り付けられた。 主要評価項目は、臨床的に有意なデバイスポケット血腫とし、その定義は、長期入院または抗凝固療法の中断、あるいはさらなる手術(血腫除去など)を余儀なくされた場合とした。ワルファリン継続群のデバイスポケット血腫発生の相対リスクは0.19 試験は、データ・安全性モニタリングボードによって、事前に規定された2013年2月27日時点の2回目の中間解析後に終了が勧告された。この時点で評価された被験者データ数は668例であった。 臨床的に有意なデバイスポケット血腫の発生は、ワルファリン継続群では343例のうち12例であった(3.5%)。一方、ヘパリン橋渡し療法群338例のうち54例で認められた(16.0%)。ワルファリン継続群の相対リスクは0.19(95%信頼区間[CI:0.10~0.36、p<0.001)であった。 重大な手術または血栓塞栓症の合併症はほとんど認められず、両群間の有意な差もみられなかった。 なお、ヘパリン橋渡し療法群では、心タンポナーデが1例および心筋梗塞が1例、ワルファリン継続群では、脳卒中と一過性脳虚血性発作がそれぞれ1例ずつみられた。

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