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1.

再発高リスクのVTE患者、DOACは減量可能か?/Lancet

 再発リスクが高く長期の抗凝固療法が必要な静脈血栓塞栓症(VTE)患者において、直接経口抗凝固薬(DOAC)の減量投与は全量投与に対して、非劣性基準を満たさなかった。しかしながら両投与群ともVTEの再発率は低く、減量投与群のほうが臨床的に重要な出血が大幅に減少し、減量投与は治療選択肢として支持可能なことが示されたという。フランス・Centre Hospitalier Universitaire BrestのFrancis Couturaud氏らRENOVE Investigatorsが、多施設共同無作為化非盲検エンドポイント盲検化非劣性試験「RENOVE試験」の結果を報告した。再発リスクが高くDOACの長期投与が適応のVTE患者において、その最適な投与量は明らかになっていなかった。結果を踏まえて著者は、「さらなる試験を行い、抗凝固薬の減量投与をすべきではないサブグループを特定する必要があるだろう」と述べている。Lancet誌2025年3月1日号掲載の報告。減量投与群vs.全量投与群、症候性VTEの再発を評価 RENOVE試験は、フランスの47病院で行われた。急性症候性VTE(肺塞栓症または近位深部静脈血栓症)を呈し、長期の抗凝固薬療法が適応で連続6~24ヵ月の抗凝固薬全量投与を受けた18歳以上の外来患者を適格とした。適格患者は、初発の特発性VTE、再発VTE、持続性リスク因子の存在、その他の再発リスクが高いと考えられる臨床的状態のいずれかに分類された。 被験者は、双方向ウェブ応答システムを用いた中央無作為化法により、減量投与群(アピキサバン2.5mgを1日2回またはリバーロキサバン10mgを1日1回)または全量投与群(アピキサバン5mgを1日2回またはリバーロキサバン20mgを1日1回)に、無作為に1対1の割合で割り付けられた。コンピュータ乱数生成ジェネレーターを用いたシーケンス生成法でブロックサイズの差異のバランスを取り、無作為化では試験施設、DOACの種類、抗血小板薬による層別化を行った。試験担当医師および被験者は治療割り付けを盲検化されなかった。VTEの再発、臨床的に重要な出血、全死因死亡は治療割り付けを盲検化された独立委員会によって判定された。 主要アウトカムは、治療期間中に判定された症候性VTEの再発(致死的または非致死的な肺塞栓症もしくは孤立性の近位深部静脈血栓症などを含む)であった(非劣性マージンは、ハザード比[HR]の95%信頼区間[CI]の上限が1.7、検出力90%に設定)。重要な副次アウトカムは、治療期間中に判定された重大な出血(国際血栓止血学会[ISTH]の基準に従い定義)または臨床的に重要な非重大出血、および治療期間中に判定されたVTEの再発、重大な出血または臨床的に重要な非重大出血の複合とした。主要アウトカムと最初の2つの副次アウトカムは、階層的に評価した。VTEの5年累積発生率は減量投与群2.2%、全量投与群1.8%で非劣性は認められず 2017年11月2日~2022年7月6日に2,768例が登録され、減量投与群(1,383例)または全量投与群(1,385例)に無作為化された。970例(35.0%)が女性、1,797例(65.0%)が男性で、1例(<0.1%)は性別が報告されていなかった。追跡期間中央値は37.1ヵ月(四分位範囲[IQR]:24.0~48.3)。 症候性VTEの再発は、減量投与群で19/1,383例(5年累積発生率2.2%[95%CI:1.1~3.3])、全量投与群で15/1,385例(1.8%[0.8~2.7])に報告された(補正後HR:1.32[95%CI:0.67~2.60]、絶対群間差:0.40%[95%CI:-1.05~1.85]、非劣性のp=0.23)。 重大または臨床的に重要な出血は、減量投与群で96/1,383例(5年累積発生率9.9%[95%CI:7.7~12.1])、全量投与群で154/1,385例(15.2%[12.8~17.6])に報告された(補正後HR:0.61[95%CI:0.48~0.79])。 有害事象の発現は、減量投与群で1,136/1,383例(82.1%)、全量投与群で1,150/1,385例(83.0%)に報告された。Grade3~5の重篤な有害事象の発現はそれぞれ374/1,383例(27.0%)、420/1,385例(30.3%)であった。試験期間中の死亡はそれぞれ35/1,383例(5年累積死亡率4.3%[95%CI:2.6~6.0])、54/1,385例(6.1%[4.3~8.0])であった。

2.

脳出血既往AFに対する脳梗塞予防、DOACは有用か?/Lancet

 直接経口抗凝固薬(DOAC)は、心房細動を伴う脳内出血生存者の虚血性脳卒中予防に有効ではあるが、その有益性の一部は脳内出血再発の大幅なリスク増加により相殺されることが示された。英国・インペリアル・カレッジ・ロンドンのRoland Veltkamp氏らPRESTIGE-AF Consortiumが、欧州6ヵ国75施設で実施された第III相無作為化非盲検評価者盲検比較試験「PRESTIGE-AF試験」の結果を報告した。結果を踏まえて著者は、「これら脆弱な患者集団における脳卒中予防を最適化するには、さらなるエビデンスと無作為化データのメタ解析が必要である。特定の患者に対しては、より安全な薬物療法または機械的代替療法の評価も求められる」と述べている。DOACは、心房細動患者において血栓塞栓症の発症頻度を低下させるが、脳内出血生存者に対するベネフィットとリスクは不明であった。Lancet誌オンライン版2025年2月26日号掲載の報告。脳内出血発症後14日~1年のAF患者をDOAC群と抗凝固薬非投与群に無作為化 研究グループは、脳内出血発症後14日~12ヵ月(当初は6ヵ月)以内で、心房細動を有し、抗凝固療法の適応があり、修正Rankinスケール(mRS)スコアが4以下の18歳以上の患者を、脳内出血の部位と性別によって層別化し、DOAC群または抗凝固薬非投与群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 血管奇形または外傷に起因する脳内出血、左心耳閉鎖デバイスによる治療予定または既治療患者などは除外した。 DOAC群では、各地の試験担当医師の判断によりアピキサバン、ダビガトラン、エドキサバンまたはリバーロキサバンが投与された。抗凝固薬非投与群では、試験担当医師の判断で抗血小板薬(例:アスピリン100mg 1日1回)を投与または非投与した。 主要エンドポイントは2つで、初回虚血性脳卒中と脳内出血の初回再発とし、ITT集団で優越性と非劣性に関する階層的検定を実施した。脳内出血に関する非劣性マージンは、ハザード比(HR)の90%信頼区間上限が1.735未満とした。安全性についても、ITT集団を対象に解析した。DOAC群で虚血性脳卒中リスクは減少、脳内出血再発リスクは増大 2019年5月31日~2023年11月30日に319例が登録され、DOAC群(158例)および抗凝固薬非投与群(161例)に無作為に割り付けられた。患者背景は、年齢中央値が79歳(四分位範囲[IQR]:73~83)で、女性113例(35%)、男性206例(65%)であった。 追跡期間中央値1.4年(IQR:0.7~2.3)において、初回虚血性脳卒中の発症頻度は、DOAC群が抗凝固薬非投与群より低かった(HR:0.05、95%CI:0.01~0.36、log-rank検定p<0.0001)。すべての虚血性脳卒中イベントの発症頻度(100患者年当たり)は、DOAC群で0.83(95%CI:0.14~2.57)に対し、抗凝固薬非投与群では8.60(5.43~12.80)であった。 脳内出血の初回再発については、DOAC群は事前に規定された非劣性マージン(<1.735)を満たさなかった(HR:10.89、90%CI:1.95~60.72、p=0.96)。すべての脳内出血の発症頻度(100患者年当たり)は、DOAC群5.00(95%CI:2.68~8.39)に対し、抗凝固薬非投与群は0.82(95%CI:0.14~2.53)であった。 重篤な有害事象は、DOAC群で158例中70例(44%)、抗凝固薬非投与群で161例中89例(55%)に発現した。DOAC群では16例(10%)、抗凝固薬非投与群では21例(13%)が死亡した。

3.

新たな慢性血栓症、VITT様血栓性モノクローナル免疫グロブリン血症の特徴/NEJM

 ワクチン起因性免疫性血小板減少症/血栓症(またはワクチン起因性免疫性血栓性血小板減少症、VITT)は、血小板第4因子(PF4)を標的とする抗体と関連し、ヘパリン非依存性であり、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するアデノウイルスベクターワクチンまたはアデノウイルス感染によって誘発される急性の血栓症を特徴とする。オーストラリア・Flinders UniversityのJing Jing Wang氏らの研究チームは、VITT様抗体と関連する慢性的な血栓形成促進性の病態を呈する患者5例(新規症例4例、インデックス症例1例)について解析し、新たな疾患概念として「VITT様血栓性モノクローナル免疫グロブリン血症(VITT-like monoclonal gammopathy of thrombotic significance:VITT-like MGTS)」を提唱するとともに、本症の治療では抗凝固療法だけでなく他の治療戦略が必要であることを示した。研究の詳細は、NEJM誌オンライン版2025年2月12日号に短報として掲載された。本研究は、カナダ保健研究機構(CIHR)などの助成を受けた。従来のVITTとは異なる病態の血栓症の病因か 対象となった5例すべてが慢性の抗凝固療法不応性血栓症を呈し、間欠性の血小板減少症を伴っていた。これらの患者はM蛋白の濃度が低く(中央値0.14g/dL)、各患者でM蛋白がVITT様抗体であることが確認された。 また、PF4上の抗体のクローン型プロファイルと結合エピトープは、ワクチン接種やウイルス感染後に発症する急性疾患で観察されるものとは異なっており、これは別個の免疫病因を反映した特徴であった。さらに、VITT様抗体は、一般的なヘパリン起因性血小板減少症(HIT)の抗体とは異なり、ヘパリン非依存性に血小板を活性化することが示された。 VITT様MGTSという新たな疾患概念は、このような従来のVITTとは異なる病態を示す慢性的な抗PF4抗体による血栓症の病因として、ほとんどの抗PF4障害、および明確な原因のない異常や再発性の血栓症を説明可能であることが示唆された。抗PF4抗体、M蛋白が新たな治療標的となる可能性 新規の4例の中には、VITT様の特性を有する血小板活性化抗PF4抗体が検出されたため、MGTSを疑い、ブルトン型チロシンキナーゼ阻害薬イブルチニブによる治療を行ったところ、血栓症が抑制された症例を認めた。 また、従来の抗凝固療法を含むさまざまな治療を行っても、血栓症と血小板減少症が再発したため、MGTSを疑ってボルテゾミブ+シクロホスファミド+ダラツムマブ療法を施行したところ、血小板数が正常化し、M蛋白および抗PF4抗体が検出されなくなり、血栓症が改善した症例もみられた。 著者は、「慢性血栓症患者の診断に抗PF4抗体およびM蛋白の検査を追加することで、VITT様MGTSの早期発見が可能になると考えられる」「既存のVITT治療に加え、経静脈的免疫グロブリン療法(IVIG)やイブルチニブ、ボルテゾミブ+ダラツムマブなどを適用することで、より効果的な治療戦略を構築できるだろう」「これらの知見は、他の自己免疫性血小板減少症や血栓症における新たな治療標的としての抗PF4抗体およびM蛋白の役割を研究する基盤となる」としている。

4.

心房細動、abelacimab月1回投与で出血イベント改善/NEJM

 脳卒中リスクが中~高の心房細動患者の抗凝固療法において、リバーロキサバンと比較してabelacimab(不活性型の第XI因子に結合してその活性化を阻害する完全ヒトモノクローナル抗体)の月1回投与は、遊離型第XI因子濃度を著明に低下させ、出血イベントを大幅に少なくすることが、米国・ハーバード大学医学大学院のChristian T. Ruff氏らAZALEA-TIMI 71 Investigatorsが実施した「AZALEA-TIMI 71試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2025年1月22日号で報告された。7ヵ国の無作為化実薬対照比較第IIb相試験 AZALEA-TIMI 71試験は、心房細動患者の抗凝固療法におけるabelacimabの安全性と忍容性の評価を目的とする無作為化実薬対照比較第IIb相試験であり、2021年3~12月に7ヵ国の95施設で患者を登録した(Anthos Therapeuticsの助成を受けた)。 年齢55歳以上、心房細動または心房粗動の既往歴があり、抗凝固療法が計画され、CHA2DS2-VAScスコアが4点以上、またはCHA2DS2-VAScスコアが3点以上で抗血小板薬の併用が計画されているか推定クレアチニンクリアランスが50mL/分以下の患者を対象とした。 これらの患者を、盲検下にabelacimab 150mgまたは90mgを月1回皮下投与する群、または非盲検下にリバーロキサバン20mgを1日1回経口投与する群に、1対1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、大出血または臨床的に重要な非大出血とした。出血イベントが予想以上に減少、試験は早期中止に 1,287例(年齢中央値74歳、女性44%)を登録し、abelacimab 150mg群に430例、同90mg群に427例、リバーロキサバン群に430例を割り付けた。CHA2DS2-VAScスコア中央値は5点で、ベースラインで患者の92%が60日以上の抗凝固薬の投与を受けており、66%が直接経口抗凝固薬(DOAC)であった。 abelacimabの月1回の皮下投与により、遊離型第XI因子の値はベースラインと比較して持続的に低下し、3ヵ月後の遊離型第XI因子の減少の中央値は、150mg群で99%(四分位範囲:98~99)、90mg群で97%(51~99)であった。 abelacimabによる出血イベントの減少が予想を超えていたため、独立データモニタリング委員会の勧告に基づき試験は早期中止となった。 大出血または臨床的に重要な非大出血の発生率は、abelacimab 150mg群が3.22件/100人年、同90mg群が2.64件/100人年であったのに比べ、リバーロキサバン群は8.38件/100人年と高い値を示した。リバーロキサバン群に対するabelacimab 150mg群のハザード比(HR)は0.38(95%信頼区間[CI]:0.24~0.60、p<0.001)、リバーロキサバン群に対する同90mg群のHRは0.31(0.19~0.51、p<0.001)であった。有害事象の頻度は同程度 副次エンドポイントである大出血(リバーロキサバン群に対するabelacimab 150mg群のHR:0.33[95%CI:0.16~0.66]、リバーロキサバン群に対する同90mg群のHR:0.26[0.12~0.57])および大出血、臨床的に重要な非大出血、小出血の複合(0.68[0.51~0.91]、0.46[0.33~0.64])についても、リバーロキサバン群に比べ2つのabelacimab群で良好であった。また、大出血のうち消化管大出血(0.11[0.03~0.48]、0.11[0.03~0.49])はabelacimab群で顕著に少なかったが、頭蓋内大出血やその他の大出血にはこのような差はなかった。 全有害事象、重篤な有害事象、試験薬の投与中止に至った有害事象の発現率は、3群で同程度であった。abelacimab群における注射部位反応は、150mg群で2.8%、90mg群で1.6%に認めた。抗薬物抗体を発現した患者はいなかった。 著者は、「本試験は症例数が少ないため、abelacimabの臨床的有効性を評価することはできず、より大規模な試験が必要である。現在、利用可能な抗凝固療法を使用できない高リスク心房細動患者を対象に、脳梗塞および全身性塞栓症の予防におけるabelacimabの有効性をプラセボと比較する第III相試験(LILAC-TIMI 76試験)が進行中である」としている。

5.

心房細動患者、脳卒中予防のために有益な意思決定支援とは?/BMJ

 非弁膜症性心房細動を有する成人患者において、患者用意思決定支援(PDA)のみ、診療時意思決定支援(EDA)のみ、または両者の実施といった意思決定支援を受けた患者は、それらを受けなかった通常ケアの患者と比較し、意思決定の葛藤が少なくその共有が良好で、より多くの知識を得ていたことが示された。なお、PDAのみであった場合は、意思決定の葛藤に及ぼす影響については統計学的に有意ではなかった。米国・ユタ大学のElissa M. Ozanne氏らが、同国の6つの大学医療センターで実施したクラスター無作為化臨床試験の結果を報告した。心房細動患者のための共有意思決定(SDM)ツールや意思決定支援の手法がいくつか開発されているが、実際の共有意思決定支援の改善に関する、PDAとEDAの効果の違いを比較したデータはなかった。結果を踏まえて著者は、「来院前または外来診療時の意思決定支援を単独または組み合わせて実施することは、通常ケアと比較して有益であることが実証された」とまとめている。BMJ誌2025年1月9日号掲載の報告。患者および医師をそれぞれ意思決定支援実施群、非実施の通常ケア群に無作為化 研究グループは、18歳以上で非弁膜症性心房細動と診断され、血栓塞栓性イベントのリスク因子を1つ以上有し(CHA2DS2-VAScスコア:男性1以上、女性2以上)、抗凝固療法の適応と判断され、脳卒中予防戦略について話し合うための臨床予約が予定されている患者を、PDA実施群または非実施(通常ケア)群に1対1の割合で無作為に割り付けた。臨床医もEDA実施群と非実施(通常ケア)群に無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、OPTION12尺度で測定したSDMの質(スコア範囲:0~100、高スコアほど意思決定が共有されていることを示す)、心房細動とその管理に関する知識(7項目からなるtrue/false回答形式の調査、スコアは正答率)、意思決定の葛藤(Decisional Conflict Scale[DCS]、16項目からなる5段階のリッカート尺度の合計を0~100のスコアに変換、低スコアほど患者の意思決定の葛藤レベルが低い)の3つであった。PDAとEDAの併用、およびEDA単独が有用 2020年12月14日~2023年7月3日に1,214例の患者が登録され、適格基準などを満たした1,117例が解析対象となった。臨床医は107例登録され、51例がEDA群、56例が通常ケア群に割り付けられた。したがって患者は、通常ケア群306例、PDA+EDA併用群263例、PDA単独群285例、EDA単独群263例であった。 通常ケア群と比較し、PDA+EDA併用群で、SDMの質が改善し(補正後平均群間差:12.1、95%信頼区間[CI]:8.0~16.2、p<0.001)、患者の知識が向上し(オッズ比:1.68、95%CI:1.35~2.09、p<0.001)、患者の意思決定の葛藤が減少した(補正後平均群間差:-6.3、95%CI:-9.6~-3.1、p<0.001)。 また、EDA単独群でも3つの主要アウトカムすべてにおいて、通常ケア群と比較し有意な改善が認められ、PDA単独群ではSDMの質および知識について通常ケア群と比較し有意な改善が認められた。 その他の評価項目である脳卒中予防のための治療選択や参加者の満足度については、重要な差は観察されなかった。また、診察時間の長さも各群間で、統計学的な有意差は認められなかった。

6.

身近な血圧計から心房細動の早期発見に寄与する新システム発表/オムロン

 オムロンヘルスケアは、血圧測定時に同時に得られるバイタルデータを解析することで「脈の乱れ」を検知するシステムの完成に合わせ、プレスセミナーを開催した。 セミナーでは、心房細動(AF)におけるバイタルデータの重要性や開発された血圧測定でAFのリスクを検出する次世代アルゴリズム“Intellisense AFib”の説明が行われた。大きな循環器、脳血管障害の予防に日常生活でみつけたいAF 「脳・心血管イベントの抑制における心房細動管理の重要性」をテーマに清水 渉氏(日本医科大学大学院医学研究科循環器内科学分野 教授)がAFの発症リスクと家庭におけるバイタルデータ計測の重要性について、説明を行った。 2017(平成29)年の人口動態統計によれば死因の第1位は「悪性新生物」、第2位は「心疾患」、第3位は「脳血管疾患」となっている。循環器系疾患で全体の約1/4を占め、医療費と介護費では1番費用がかかり全体の約1/5を占め、介護が必要となる原因でも約1/5を循環器系疾患が占めている。 AFは加齢とともに増加する最も頻度が高い不整脈であり、患者の健康寿命や生命予後に大きく影響する。そのためAFに伴う心原性脳梗塞、心不全、認知症の予防が健康寿命延伸の鍵となる。 わが国のAFの有病率は、年齢に比例し、男性ほど多く、80代では男性の約4.5%で、女性の約2%でAFという研究報告もあり1)、有病率は年々増加している。とくに問題となるのは、脳卒中の前症状でAFが診断されないケースであり、“Fukuoka Stroke Registry”によれば、脳卒中の発症前にAFの診断なしが45.9%だったという報告もある2)。 そのため、早期にAFを発見することが、その後の大きな循環器、脳血管障害の予防に寄与するが、発見のアプローチとしてはさまざまなものがある。日常、簡単にできるものでは、自分で脈をチェックする「検脈」のほか、血圧計、ウェアラブルデバイスがあり、AFスクリーニング能は高くないが簡単にできる。また、家庭では携帯型心電計、24時間ホルター心電計などAFの可能性を検出できるデバイスもあり、これらの機器を駆使して早期に発見されることが期待される。 AFのリスクファクターでは、年齢、糖尿病、喫煙のほかに高血圧も指摘されている。とくに高血圧患者では非高血圧患者と比べて、未治療のAFが約3倍検出されたことが報告されており、早期発見の重要なターゲットといわれている3)。 次にAFの治療の最新動向について触れ、『2024年JCS/JHRSガイドライン フォーカスアップデート版 不整脈治療』(日本循環器学会/日本不整脈心臓学)から内容を引用しつつ、説明を行った。 同ガイドラインでは、リズムコントロールの有効性を高めるために生活習慣(肥満、喫煙、アルコール多飲など)の改善、併存疾患(高血圧、糖尿病、睡眠時無呼吸症候群など)の治療も重要と示すとともに、早期発見のAF患者ではリズムコントロール療法を考慮することが記載されている。 また、わが国では年間10万例を超えるカテーテルアブレーションの治療が行われており、その適応も拡大されるとともに、従来の焼灼ではなく高周波の電気で患部に作用するパルスフィールドアブレーションも使用できるなど治療機器の進化の一端も説明した。そのほか、抗凝固療法について、すべての直接経口抗凝固薬(DOAC)がCHAD2スコア1点以上で推奨されていること、高リスク高齢者では、腎機能障害や認知症などがあっても積極的にDOACを使用するべきと述べ、レクチャーを終えた。高血圧患者の圧脈波をAIが解析し、AFを発見 血圧を測るだけでAFの早期発見をサポートする「次世代アルゴリズム“Intellisense AFib”とは」をテーマに、同社の技術開発統轄部の濱口 剛宏氏がシステムの説明を行った。 同社は累計3.5億台の血圧計を製造・販売しており、高血圧患者が、毎日の血圧測定で意識せず、AFを早期にみつける「新しい機会」の創出を模索していた。そして、今回開発された“Intellisense AFib”は、心臓が拍動するときに生じる動脈内の圧力変化である圧脈波のデータを取得することで、これをAIが解析し、AFの検出を可能にするという。 Intellisense AFibは、同社が蓄積してきた50年に及ぶ膨大な圧脈波のデータと最新のAIによるアルゴリズム、そして、心電図・脈波解析の専門チームの融合により、高精度なAF検出アルゴリズムを実現したものである。このシステムは2024年8月から中国をはじめ、欧州で発売を開始し、25年に米国で発売を、本年度中にはわが国でも薬事取得を目指すという。 同社では「Intellisense AFibが搭載された血圧計が普及し、1人でも多くの高血圧のAF患者の早期発見を実現したい」と今後に期待を寄せている。

7.

心房細動の早期発見、早期介入で重症化を防ぐ/日本心臓財団

 日本心臓財団メディアワークショップは、都内で「心房細動の診療」をテーマにメディアワークショップを開催した。 心房細動(AF)は心臓内の心房が異常な動きをし、不整脈を引き起こす疾患である。AFでは、自覚症状を伴わないことが多く、気付かずに長期間放置すると心房内に生じた血栓が血流にのり、脳血管障害や心不全などを発症させる恐れがある。早期発見が重要であり、治療ではカテーテルアブレーションや薬物による治療が行われる。そして、早期発見では、日常の検脈や健康診断が重要となるが、近年では、テクノロジーの発達とデジタルデバイスの普及により、これまで見つかりにくかった無症候性や発作性タイプのAFの早期発見が可能になってきている。 セミナーでは、AFの病態やリスク、早期発見のための静岡市清水区でのAI診断の取り組みなどが解説された。AFの患者は100人に1人の時代 最初に「心房細動管理の最新トレンド」をテーマに清水 渉氏(日本医科大学大学院 医学研究科 循環器内科学分野 教授)が、最近のガイドラインからみたAFの病態や治療、カテーテルアブレーションについて解説した。 AFは、高齢の男性に多く、その有病率は増え続けている。患者数は100万人と推定され、100人に1人がAFと考えられる。2018年からは法律に基づき、「国民の健康寿命の延伸等を図るため」に脳卒中とならび国を挙げて対策を要する疾患となっている。 そして、AFを発症すると脳梗塞発症リスクが5倍、心不全で5倍、認知症で2倍という報告もあり、健康寿命、生命予後に大きく影響する。 現在、わが国にはAFに関係するガイドラインが4つある。『2020年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン』(編集:日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン/後述の3ガイドラインも同様)では、病態生理として「肥満」「高血圧」「糖尿病」「睡眠呼吸障害」などが伝導障害となり、電気的リモデリングを促進させ、AFのトリガーになることが示されている。 『2024年JCS/JHRSガイドライン フォーカスアップデート版 不整脈治療』では、4つの段階に分けてAFと生活習慣管理・包括管理を示している。第1段階では「急性期の管理」、第2段階では「増悪因子の管理」、第3段階では「脳梗塞の予防」、第4段階では「症状の改善」が記載されている。とくに第4段階の症状の改善について、リズムコントロール(洞調律維持)およびレートコントロール(適切な心拍数調節)が症状改善に行われるが、「動悸などの症状が強い」「AFの持続で心不全の発症・増悪が危惧される」「AF発症関連の併存疾患が比較的少ない」などの患者ではリズムコントロールが望ましいとガイドラインでは記されている。 次に症状の発見について触れ“Fukuoka Stroke Registry”から「急性虚血性脳卒中を発症した心房細動患者における、脳卒中発症前の心房細動の診断状況、抗凝固療法の実施状況」について、脳卒中発症前にAFの診断がなかった人が45.9%に上ることを紹介するとともに1)、AF患者において無症候性の割合について37.7%の報告もある2)と紹介し、AFの発見が難しいことを説明した。では、発見が難しいAFをどのように見つけるか? 日常生活で簡単にできる方法として身体診察の「検脈」の方法を紹介するとともに、『2022年改訂版 不整脈の診断とリスク評価に関するガイドライン』に触れ、ガイドラインの中に記載されているAFのスクリーニングと治療に用いられる各デバイスの特徴について説明を行った。最近では、ウェアラブルの測定機器が進歩しているが、その精度はまだ未知数であり、エビデンスも確立されていないために長時間心電図モニターや携帯心電図などの心電図記録によるデバイスで診断することになっている。進歩するAFの治療 『2024年JCS/JHRSガイドライン フォーカスアップデート版 不整脈治療』からAFの治療では、カテーテルアブレーションと抗凝固治療が行われる。 カテーテルアブレーションは、20221年のデータでわが国では約11万件施行されている。とくに心不全を合併したAFでは、カテーテルアブレーションは、全死亡・心不全入院を有意に減少させる報告があるので、予後を改善できる可能性が高い3)。 また、近年ではLVEF(左室駆出率)の低下した心不全(HFrEF)にも治療の適応が拡大されているほか、新しいカテーテル治療法として熱を伴わず特殊な電気ショックを利用して細胞のアポトーシスを誘導するパルスフィールドアブレーション(PFA)も登場し、安全に外科的治療が施行できるようになってきているという。 抗凝固療法に関しては、『2020年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン』で直接経口抗凝固薬(DOAC)4薬剤の用法・用量設定基準が明記され、すべてのDOACがCHADS2スコア1点以上で使用が推奨されている。また、腎機能障害、認知症、フレイルなどの高リスク高齢者についても積極的なDOACの使用を記していると説明し、レクチャーを終えた。AI診断で未診断のAFを発見 「『隠れ心房細動』を早期発見するための、AIとリモートテクノロジーを用いた取り組み-静岡市清水区における地域医療プロジェクトについて-」をテーマに笹野 哲郎氏(東京科学大学 大学院医歯学総合研究科 循環制御内科学分野 教授)が、静岡市清水区で行われている心電図のAI診断とデバイスによるリモートモニタリングによるAFの早期発見の取り組みについて説明した。  静岡市清水地区の高齢化率は約32%とわが国の平均よりやや進んだ高齢化率を示し、すでにAFと診断された人が2,036人、隠れAFの人が2,000人とほぼ同数であることから、この地区が選定されたという。この取り組みでは、地元の市立清水病院と清水医師会が共同事業者となり現地で健診などを実施、連携する東京科学大学がデータのAI解析を行い、解析結果をフィードバックするものである。 同地区で行われているAFの早期発見メソッドとしては、「12誘導心電図のAI診断」、「デバイスによるリモートモニタリング」が行われている。AFは、肺静脈からのトリガー興奮の後、左心房内で異常興奮が持続することで起るが、発作時でなくとも心房リモデリングの評価はできるとして、AIの深層学習により発作性AFの推定をさせている。 そして、AIによるAF発見は実現可能な段階にあり、2022年1月から開始されたプロジェクトでは、2023年7月までに検診を受けた362例のうち11例(3.04%)に未診断のAFを発見したという。 また、デバイスによるリモートモニタリングについて、スマートウォチやスマートリングなどの精度は向上途上であり、やはり現在医療機器で使用されているモニタリング機器での検査が行われる。 今後、早期発見のために装着されるウェアラブル機器による生体モニタリングなどについては、利用者が中途で止めてしまわないようにモニタリングの重要性を教育すること、一切操作不要でモニタリングできるシステムの開発と導入が望まれると展望を語り、講演を終えた4)。

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抜歯時の抗凝固療法に介入してDOACの休薬期間を適正化【うまくいく!処方提案プラクティス】第64回

 今回は、歯科治療に伴う直接経口抗凝固薬(DOAC)の休薬期間について、最新のガイドラインに基づいて介入した事例を紹介します。適切な周術期管理によって、経過は良好なままDOACの服用継続が実現しました。患者情報80歳、女性(施設入所中)基礎疾患認知症、統合失調症、心房細動(CHA2DS2-VAScスコア※:4点[年齢2点、女性1点、高血圧1点])※CHA2DS2-VAScスコア:範囲0~9点、点数が高いほど梗塞リスクが大きい処方内容1.アピキサバン錠2.5mg 2錠 分2 朝夕食後2.リスペリドン錠1mg 1錠 分1 夕食後3.トラゾドン錠25mg 1錠 分1 就寝前4.酪酸菌製剤錠 3錠 分3 毎食後本症例のポイントこの患者さんは歯科治療(単純抜歯1本)の予定があり、施設看護師より「訪問診療医から1週間のDOACの休薬指示が出たので抜薬の対応をしてほしい」と連絡がありました。しかし、抗血栓療法患者の抜歯に関するガイドライン1)では、出血時の対応が可能な医療機関で行うことを前提に、DOAC単剤による抗凝固薬投与患者に対して、休薬下の抜歯よりもDOAC継続下で抜歯をすることが推奨されています。また、Steffelらの報告2)によると、DOACの周術期管理において、低出血リスク手術では24時間の休薬で十分とされています。アピキサバンの薬物動態データ3)では消失半減期が約12時間であることからも、7日間の休薬は過剰と考えられます。医師への提案と経過そこで、医療機関に電話で疑義照会し、看護師を介して医師に情報提供を行いました。まず、CHA2DS2-VAScスコアは4点で塞栓リスクが高く、認知症による活動性低下および向精神薬併用による鎮静作用もあるため、休薬により血栓リスクがさらに高まることが懸念されます。一方で出血リスクはあるものの、単純抜歯1本(低リスク処置)であり、抗血小板薬は非併用であることから、局所止血処置は可能と考えられることを伝えました。そのうえで、抜歯は病院ではなく診療所で行うことや、アピキサバンの血中濃度ピーク時(服用後3~3.5時間)3)に抜歯が行われて出血リスクがあることも懸念事項として伝えしました。医師からは、アピキサバンの半減期が約12時間である程度効果が残ることから、処置当日のみの休薬が妥当と判断されました。施設看護師にも変更内容について情報共有し、抜歯後の止血状況や口腔ケア時の出血状況で問題があれば相談するように伝えました。その後の経過を看護師と連携をとりながら確認したところ、抜歯時の出血は問題なく、血栓症状の発現もなく、術後の経過は良好なままDOACを服用継続できていました。本事例を通じて、(1)周術期管理における過剰な休薬の危険性、(2)エビデンスに基づく介入の重要性、(3)薬剤師による能動的な情報提供の意義を感じました。まとめ1.エビデンスに基づく評価:ガイドラインの適切な活用、患者個別のリスク評価、薬物動態データの考慮2.多職種連携の実践:医師との情報共有、歯科医師との連携、施設スタッフへの情報提供1)日本有病者歯科医療学会ほか編. 抗血栓療法患者の抜歯に関するガイドライン2020年版.学術社;2020.2)Steffel J, et al. Eur Heart J. 2018;39:1330-1393.3)エリキュース錠 医薬品インタビューフォーム(第13版)

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低リスク肺塞栓症がん患者のVTE再発、リバーロキサバン18ヵ月vs. 6ヵ月(ONCO PE)/AHA2024

 低リスク肺塞栓症(PE)を発症したがん患者を対象に、直接経口抗凝固薬(DOAC)であるリバーロキサバンの投与期間を検討したONCO PE試験の結果が、京都大学循環器内科の山下 侑吾氏らにより、11月16~18日に米国・シカゴで開催されたAmerican Heart Association’s Scientific Sessions(AHA2024、米国心臓学会)のFeatured Scienceで発表され、Circulation誌2024年11月18日号に同時掲載された。 本研究より、リバーロキサバンの18ヵ月間の投与は6ヵ月間の投与に比べ、静脈血栓塞栓症(VTE)の再発リスクを有意に低下させ、一方で出血リスクは有意な上昇を認めず、「がん患者の低リスクPEに対するDOACを用いた抗凝固療法は、血栓症予防の観点から18ヵ月間のより長期的な投与が望ましい」との結果が得られた。 ONCO PE試験は、国内32施設による多施設非盲検判定者盲検ランダム化比較試験(RCT)である。対象は、低リスクPEとして肺血栓塞栓症の重症度評価の簡易版PESIスコアが1点(がんの因子のみ)のPEと、新しく診断されたがん患者で、2021年3月~2023年3月に登録された179例をリバーロキサバンの18ヵ月投与群または6ヵ月投与群に1対1の割合でランダムに割り付けた。同意を途中撤回した症例を除外し、18ヵ月投与群89例、6ヵ月投与群89例をITT集団とした。主要評価項目は18ヵ月後までのVTEの再発。副次評価項目は18ヵ月後までの国際血栓止血学会(ISTH)の基準による大出血などであった。 主な結果は以下のとおり。・対象患者は平均年齢65.7歳、男性47%で、症候性のPEは12%だった。がんの罹患部位は、多い順に大腸がん12%、子宮がん12%、卵巣がん11%であった。・主要評価項目である18ヵ月後までのVTE再発は、18ヵ月投与群5.6%(89例中5例)、6ヵ月投与群19.1%(89例中17例)と有意に抑制された(オッズ比[OR]:0.25、95%信頼区間[CI]:0.09~0.72、p=0.01)。・大出血は、18ヵ月投与群7.8%(89例中7例)、6ヵ月投与群5.6%(89例中5例)に発生し、18ヵ月投与群で多い傾向にあったが、統計学的に有意な増加ではなかった(OR:1.43、95%CI:0.44~4.70)。・年齢、性別、体重、VTEの既往、腎機能、血小板数、貧血の有無、大出血の既往、がんの遠隔転移の有無、化学療法の有無などのサブグループ解析でも、18ヵ月投与群における主要評価項目のリスク抑制傾向は一貫して認められた。 これらの結果から研究グループは「簡易版PESIスコア1点の低リスクPEを発症したがん患者に対するVTE再発予防を目的としたリバーロキサバンの投与期間は、6ヵ月間よりも18ヵ月間のほうが優れていた」と結論付けた。低リスク肺塞栓症がん患者のVTE再発予防、国内での普及目指す がん患者の腫瘍の評価のためにCT検査が実施されることは多いが、その際に偶発的な軽症のPEを認めることも多い。国際的なガイドラインでは、このようながん患者に併発した比較的軽症のPEに対しても、通常のPEと同様に扱うことを弱く推奨している。しかしながら、このような低リスクPEを発症したがん患者を対象とした抗凝固療法の投与期間を検討したRCTは過去に報告されておらず、そのエビデンスレベルは低い状況であった。 この現況を踏まえて行われた本解析について、同氏は「本研究結果は、がん患者では低リスクPEでも血栓症リスクを軽視すべきではないという現行の国際ガイドラインの考え方を支持する結果であった。一方で、統計学的に有意ではないものの、大出血を起こした患者数が18ヵ月投与群で多かったことは注意を要する点である。RCTは確実性の高いエビデンスを提供する有用な研究デザインであるが、目の前の患者ごとの治療の最適解を提供することは困難である。臨床現場では、これらの研究結果も参考に、血栓リスクと出血リスクのバランスを患者ごとに慎重に検討することが重要である。また、今後RCTの弱点を克服するような新しい臨床研究の発展も望まれる」とコメントした。 最後に、「本研究は、数多くの共同研究者が日本全体で集結し、その献身的な姿勢による多大な尽力により成り立っている。日本の腫瘍循環器領域における重要な研究成果が、今回日本から世界に情報発信されたが、すべての共同研究者、事務局の関係者、および本研究に参加いただいた患者さんに何よりも大きな感謝を示したい」と締めくくった。

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心房細動を伴う脳梗塞後のDOAC開始、早期vs.晩期/Lancet

 心房細動を伴う虚血性脳卒中後の直接経口抗凝固薬(DOAC)の投与開始時期について、早期開始(4日以内)は晩期開始(7~14日)に対して、90日時点での複合アウトカム(虚血性脳卒中の再発、症候性頭蓋内出血、分類不能の脳卒中、全身性塞栓症)発生に関して非劣性であることが示された。英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのDavid J. Werring氏らOPTIMAS investigatorsが、第IV相の多施設共同非盲検無作為化エンドポイント盲検化並行群間比較試験「OPTIMAS試験」の結果を報告した。著者は、「われわれの検討結果は、心房細動を伴う虚血性脳卒中後のDOAC開始を晩期とする、現行のAHA/ASA脳卒中ガイドラインの推奨を支持するものではなかった」と述べている。Lancet誌オンライン版2024年10月24日号掲載の報告。90日時点の複合アウトカム発生を評価 OPTIMAS試験は、心房細動を伴う急性虚血性脳卒中患者におけるDOACの早期開始と晩期開始の有効性と安全性を比較した試験で、英国の100病院で行われた。対象者は、心房細動を伴う急性虚血性脳卒中の臨床診断を受けており、医師が最適なDOAC開始時期を確信していなかった成人患者とした。 研究グループは被験者を、あらゆるDOACによる抗凝固療法の早期開始(脳卒中発症から4日以内)群または晩期開始(7~14日)群に1対1の割合で無作為に割り付けた。被験者および治療担当医は治療割り付けをマスクされなかったが、マスクされた独立外部判定委員会によって、すべての入手できた臨床記録、脳画像レポート、ソース画像を用いてすべてのアウトカムの評価が行われた。 主要アウトカムは、修正ITT集団における90日時点の、虚血性脳卒中の再発、症候性頭蓋内出血、分類不能の脳卒中、または全身性塞栓症の複合であった。解析にはゲートキーピング法による階層的アプローチを用い、2%ポイントの非劣性マージンについて検定を行い、次いで優越性の検定を行うこととした。早期開始群の晩期開始群に対する非劣性を確認、優越性は認められず 2019年7月5日~2024年1月31日に、3,648例が早期開始群または晩期開始群に無作為化された。適格基準を満たしていなかった、またはデータを包含することの同意を得られなかった27例を除く、3,621例(早期開始群1,814例、晩期開始群1,807例)が修正ITT集団に組み入れられた。 主要アウトカムは、早期開始群59/1,814例(3.3%)、晩期開始群59/1,807例(3.3%)で発生した(補正後リスク群間差[RD]:0.000、95%信頼区間[CI]:-0.011~0.012)。補正後RDの95%CI上限値は、2%ポイントの非劣性マージンを下回っていた(非劣性のp=0.0003)。優越性は認められなかった(優越性のp=0.96)。 症候性頭蓋内出血の発生は、早期開始群11例(0.6%)に対して晩期開始群12例(0.7%)であった(補正度RD:0.001、95%CI:-0.004~0.006、p=0.78)。

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抗凝固薬の服用理由の仮説を立てて中止提案、そのまま続いていたら…【うまくいく!処方提案プラクティス】第62回

 今回は、直接経口抗凝固薬(DOAC)の服薬理由を検討し、医師との連携によって中止した事例を紹介します。心房細動や脳梗塞の2次予防で服薬しているケースでは、出血リスクなどで一時的に中止できることはあるかと思います。皆さんは新患対応時に、服用薬の理由をどのように確認していますか? 現病歴や既往歴など情報収集を丁寧に行うことで、エンドポイントや目標ラインに合わせて治療を最適化することが可能です。患者情報90歳、女性(施設入居)基礎疾患認知症(病型は不明)、右大腿骨近位部骨折介護度要介護2服薬管理施設職員が管理処方内容1.エドキサバン錠30mg 1錠 分1 朝食後2.アセトアミノフェン錠200mg 6錠 分3 毎食後本症例のポイントこの患者さんは右大腿骨頸部骨折の手術後にリハビリ調整なども完了して施設入居となりました。持参薬確認と契約のタイミングが合ったため、訪問時に施設スタッフに情報連携をとりました。施設スタッフからは、施設内は歩行器補助を利用しながら移動していて、さらに夜間にベッドから滑り落ちることが続いていると聴取しました。転倒・転落のリスクがあることから抗凝固薬の出血リスクが懸念されます。入居時の情報連携文書としては、診療情報提供書と看護サマリがありましたが、エドキサバンの服用理由がなく、基礎疾患にある右大腿骨遠位部の骨折後の疼痛コントロールのためにアセトアミノフェンの服用を続けていることだけが記録されていました。服用理由の不明な抗凝固薬が“もやもやポイント”であったことから、仮説として近位部骨折手術時に深部静脈血栓症を予防するためにDOACを服用開始したのではないかと想定しました。大腿骨近位部骨折は、深部静脈血栓症の高リスク群に位置付けられている1)ことから、DOACによる抗凝固療法の予防内服が推奨されています。投与期間は、手術後12時間を経過し、出血がないことを確認して11〜14日間の経口投与が推奨1)されており、15日間以上投与した場合の有効性および安全性は検討されていません。この患者さんは施設入居1ヵ月前に手術をしており、15日を超えて服用している状況であることから、仮説どおりの深部静脈血栓症の予防投与であれば有効性・安全性の観点からも中止してよいのではないかと考えました。医師への相談と経過訪問診療時に医師に同席し、エドキサバン服用理由について前医からの情報提供などがあったかどうか確認しました。前医からのDOAC服用理由についての詳細な情報提供がなく、心房細動の既往もないので疑問に思っていたと医師から返答がありました。そこで医師と協力し、入院していた医療機関に問い合わせを行ったところ、薬剤部担当者から深部静脈血栓症予防が終了せずにそのまま服用を続けていたことが発覚しました。前医からは、術後の血管エコーなどの結果からもDOAC終了で問題ないとの返答があり、エドキサバンは終了することとなりました。患者さんは疼痛も安定していたこともあり(可動時の膝関節周りの疼痛なし:NRS0/10)、医師と相談してアセトアミノフェン200mg 4錠 分2 朝夕食後のみに減量することとなりました。1週間後のモニタリングで疼痛悪化はなく、体動時の疼痛もなかったことから、1週間後の診察で再度医師に相談してアセトアミノフェンは頓用に変更しました。その後、疼痛増悪や頓用の使用もなく経過安定しています。1)日本循環器学会編. 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2017年改訂版)

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TAVI周術期の経口抗凝固薬、継続vs.中断/NEJM

 経口抗凝固療法の適応を有する経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)施行患者において、周術期の経口抗凝固薬継続は中断と比較し、TAVI後30日以内の心血管死、全脳卒中、心筋梗塞、主要血管合併症または大出血の複合アウトカムに関する非劣性は認められなかった。オランダ・St. Antonius HospitalのDirk Jan van Ginkel氏らが、欧州22施設で実施された医師主導の無作為化非盲検非劣性試験「Periprocedural Continuation versus Interruption of Oral Anticoagulant Drugs during Transcatheter Aortic Valve Implantation trial:POPular PAUSE TAVI試験」の結果を報告した。TAVIを受ける患者の3分の1は、併存疾患のため経口抗凝固薬の適応がある。TAVI中の経口抗凝固薬中断は出血リスクを軽減する可能性がある一方で、継続は血栓塞栓性イベントのリスクを軽減する可能性があった。NEJM誌オンライン版2024年8月31日号掲載の報告。約869例を無作為化、主要アウトカムは心血管死、全脳卒中、心筋梗塞等の複合 研究グループは、長期間経口抗凝固薬の投与を受けており大腿動脈または鎖骨下動脈アプローチによるTAVIを受ける予定の患者を、周術期に経口抗凝固薬を継続する群または中断する群に、施設および経口抗凝固薬の種類(ビタミンK拮抗薬、直接経口抗凝固薬)で層別化して1対1の割合で無作為に割り付けた。 中断群では、ダビガトラン投与中の腎不全合併患者を除き、直接経口抗凝固薬を投与中の患者はTAVIの48時間前、ダビガトラン投与中でeGFRが50~80mL/分/1.73m2の患者は72時間前、同30~50mL/分/1.73m2未満の患者は96時間前に中断した。ビタミンK拮抗薬投与中の患者では、acenocoumarolはTAVIの72時間前、phenprocoumonおよびワルファリンは120時間前に中断した。ヘパリンまたは低分子ヘパリンによるブリッジングは開始しなかった。TAVI後は、いずれも術者または担当医が安全と判断した時点で再開した。 継続群では、TAVI当日も含めて経口抗凝固薬を継続した。 主要アウトカムは、TAVI後30日以内の心血管死、全脳卒中、心筋梗塞、主要血管合併症、または大出血(VARC-3基準の2以上)の複合であった。主要解析は、無作為割り付けされた全患者のうち、TAVIが予定日の5日以上前にキャンセルされた患者を除いた修正ITT集団を対象とした。 2020年11月~2023年12月に計869例が無作為に割り付けられ(継続群435例、中断群434例)、858例が修正ITT集団となった(それぞれ431例、427例)。16.5% vs.14.8%、継続群の非劣性は示されず 主要アウトカムの複合イベントは、継続群で71例(16.5%)、中断群で63例(14.8%)に発生した。絶対群間差(リスク差)は1.7%ポイント(95%信頼区間[CI]:-3.1~6.6、非劣性のp=0.18)で、事前に設定した非劣性マージン(4.0%)を満たさなかった。 副次アウトカムである血栓塞栓性イベントは、継続群で38例(8.8%)、中断群で35例(8.2%)に発生した(群間リスク差:0.6%ポイント、95%CI:-3.1~4.4)。また、全出血は、それぞれ134例(31.1%)、91例(21.3%)に認められた(9.8%ポイント、3.9~15.6)。 なお、著者は、非盲検試験であること、神経学的検査や神経画像検査は行われなかったこと、血栓塞栓症と出血の2つのアウトカムではなく主要複合アウトカムとして非劣性の検出力が設定されたこと、ほぼ全例で大腿動脈アプローチが用いられたため本結果をTAVIの他の血管アクセスアプローチに一般化できないことなどを、研究の限界として挙げている。

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転倒患者の精査義務【医療訴訟の争点】第3回

症例自宅や施設、病院入院中に患者が転倒することを経験している医師は多いと思われる。転倒患者の診療の適否が争われた松江地裁令和4年9月5日判決を紹介する。転倒事故の責任も争点となったが、本コラムでは転倒患者の診療の適否に争点を絞ることとする。<登場人物>患者91歳(転倒時)・女性施設入所前より腰部脊柱管狭窄症、慢性腎不全、心房細動(ワルファリン服用中)、糖尿病、両膝関節症および高血圧症などの既往あり。被告病院に併設する介護老人保健施設に入居していたところ、居室のベッドの近くで転倒しているところを発見された。原告患者の子被告総合病院(地域医療支援病院)事案の概要は以下の通りである。平成30年10月9日   被告病院に併設する介護老人保健施設に入居。11月25日午前1時頃  居室内のベッド付近で転倒しており、床およびシーツに血液が付着していた。被告病院の当直医(呼吸器外科医)が連絡を受け、診察。この時、患者の右側頭部に挫傷と血腫を認めたが、縫合を要するほどの裂傷ではなく、意識レベルの低下および四肢の動きに左右差も見られなかった。当直医は、ガーゼによる保護と患部のクーリング処置を行った上で、施設内での経過観察とした。午前1時30分頃本件患者がベッドに戻る。午前3時30分~午前4時30分頃居室内の本件患者から、30分程度の間隔でナースコールまたはセンサーコールがあった。午前6時20分頃患者が開眼しているものの意識消失し、呼名反応がないことを当直医が確認。被告病院の救急外来に搬送され、外傷性くも膜下出血、硬膜外血腫の疑いと診断。午前7時20分頃二次救急病院に救急搬送。11月26日   急性硬膜下血腫で死亡実際の裁判結果裁判所は、以下の各点を指摘した上で、当直医には「CT検査を行い、仮に直ちに治療すべき所見が見当たらなかったとしても経過観察は病院に入院させて行うべき注意義務があった」として、これを行わなかったことについて注意義務違反があるとした。<判決が指摘したポイント>急性硬膜下血腫は、意識レベルの厳重な観察とCT検査が重要であり、軽症頭部外傷であってもリスクファクターが存在する場合にはCT検査と入院の適応を考慮するとされていること高齢、中高年の転倒外傷、ワルファリンなどの抗血栓薬の内服はいずれもリスクファクターであること抗凝固療法を受けている患者が比較的軽微な外傷を負った際の頭蓋内出血のリスクは、抗凝固療法を受けていない中等度リスク群とみなされる患者(局所神経症状または高リスクの受傷機転など)と同等であり、初期評価で神経脱落所見がなく、外表上に外傷痕を認めなくても頭蓋内血腫を形成することがあることから、最低限、頭部CT検査を行うべきであるとされていること抗凝固療法中の高齢者における硬膜下血腫は、軽微な頭部外傷や症状の少ない頭部外傷でも進行し得ること抗凝固療法に関係した外傷性頭蓋内出血などの死亡率は高率であるとされていることなお、医師側は、本件患者の入居している施設が医師や看護師が配置されている介護老人保健施設であるため、入院した上での経過観察が行われていたことと異ならない旨を主張した。しかし、裁判所は、利用者に診療や入院が必要な場合には、協力医療機関である被告病院に引き継ぐこととされていたこと、夜間は交代で仮眠を取るため医療体制が手薄となることなどを指摘し、「本件施設での経過観察が病院に入院した上で医師や看護職員によって行われる経過観察と異ならないとは到底いえない」と判断した。注意ポイント解説本件では、患者の転倒状況を確認した施設の看護師が患者に状況を確認したところ、電気を消そうと思ってこけた、頭を打ったがどこに頭を打ったかはわからない旨を回答し、意識状態に変化はなかったという事情がある。そして、診察に当たった当直医は「患者の様子にいつもと違う点がない」「意識レベルの低下がない」「四肢の動きに左右差はない」「創部も縫合を要するものではない」ことを確認している。加えて、当直医は呼吸器外科医であったことや、(裁判所は排斥しているものの)本件患者が看護師の配置された介護老人保健施設に入居していたことからすると、当直医に酷な判断である印象は否めない。しかしながら、転倒発見時に床やシーツに血液が付着していることが確認されていたこと(それなりに強く頭を打っている可能性があること)、患者が高齢でワルファリンを服用しており、急性硬膜下血腫のリスクが高かったこと、初期評価で神経脱落所見がなく、外表上に外傷痕を認めなくても頭蓋内血腫を形成する可能性があることから、精査の必要性が否定できるものではなかった。加えて、抗凝固療法中の頭部外傷の致死率は高く、精査の必要性がより一層高いと言えること、頭部CT検査を行うことが困難な事情がないことが考慮され、上記の判決結果となった。転倒で頭部を打撲した患者においては、遅発的に症状・所見が生じてくる可能性があることから、頭部CT検査などの精査の必要性を判断する必要がある。医療者の視点超高齢化が急速に進むに伴い、転倒患者の対応をする機会が増えていると予想されます。医療者がどれだけ患者の転倒予防策を図っても、転倒を100%予防することは不可能ですので、転倒時の対応が重要となります。転倒時の診療体制は施設、病院によって大きく異なります。医師が必ず診察する、頭部受傷時は頭部CT検査まで全例撮影する、という医療機関もあれば、看護師の診察のみで済ませてしまう医療機関もあります。夜間のマンパワーが不足していたり、多忙な勤務体制となっていたりすると、つい転倒時の対応が疎かになってしまいます。転倒時の対応については、医療機関内のどの医療者が対応してもトラブルが起こらないような検査/治療体制の構築が重要です。Take home message転倒で頭部打撲をした患者は、初期診察時に特段の所見が認められなくとも、頭蓋内出血のリスクファクターが複数あれば、速やかに頭部CT検査で精査する必要がある。転倒患者に対する対応の流れを医療機関全体で確認することが重要である。キーワード転倒・転落看護職員の人員配置基準からも明らかなように、一人の看護師が複数名の患者の看護にあたるので、看護師が常に特定の患者に付きっ切りでその状態をチェックし続けることは不可能である。このため、転倒・転落事故に関する裁判では、看護師の人員配置基準や患者の転倒リスクを踏まえ、事故の発生を予見することが困難であったかや、発生を防ぐことが不可能であったかが争点となることが多い。しかしながら、裁判所は、事故が生じたという結果を重視するがあまり、あたかも医療機関側に不可能を強いるがごとく、予見可能性や防止義務を認めて事故の発生についても責任を認める判断をすることが珍しくない。むしろ、よく見舞いに来られる患者の家族のほうが、医療側の対応に限界があることを理解されている印象すらある。転倒・転落事故はどんなに注意をしていても不可避的に生じてしまうが、事故が発生した場合に、患者・家族との紛争化することを防ぐためにも、万一、紛争化したとしても重大な責任問題とならないようにするためにも、患者・家族の納得が得られる処置、重大な結果が生じることを回避するための処置がされることが望まれる。

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産後VTE予防のエノキサパリン、より高リスク例へ限定可能?/JAMA

 妊娠に関連した静脈血栓塞栓症(VTE)予防のためのヘパリン(エノキサパリン)ベースのプロトコルに、より選択的なリスク層別化アプローチを追加することで、産後VTEが増加することなく血腫が減少したことを、米国・アラバマ大学のMacie L. Champion氏らが報告した。著者らのアラバマ大学では、2016年に米国産科婦人科学会のガイドラインに基づく妊娠関連VTE予防プロトコルを導入したが、血腫の発生確率が2倍以上となり(補正後オッズ比[aOR]:2.34)、VTEは減少しなかったため、2021年に、より選択的なリスク層別化アプローチを取り入れたという。JAMA誌オンライン版2024年6月27日号掲載の報告。標準的リスク層別化と、より選択的な産後VTE化学的予防で比較 研究グループは、ヘパリンベースの産科学的血栓予防プロトコル(エノキサパリンプロトコル)に対する、より選択的なリスク層別化アプローチのアウトカムを後ろ向き観察研究で評価した。 対象は米国南東部の3次医療センター1施設で、2016年1月1日~2018年12月31日に出産した患者(オリジナルプロトコル群)および2021年12月1日~2023年5月31日に出産した患者(選択的プロトコル群)計1万7,489例。妊娠期間中にVTEまたはVTE高リスクのために外来で抗凝固療法を受けていた患者は除外した。対象患者は、標準的リスク層別化と、より選択的な産後VTE化学的予防のプロトコルによる治療を受けた。 主要アウトカムは、出産後6週までの血腫の臨床的診断。副次アウトカムは、出産後6週までのVTEの新規診断とした。群間のベースライン特性とアウトカムを比較し、オリジナルプロトコル群を参照群として主要および副次アウトカムのaORを95%信頼区間(CI)とともに推算した。エノキサパリン投与は減少したが、VTEは増加せず血腫が減少 試験対象1万7,489例のうち、オリジナルプロトコル群は1万2,430例(71%)、選択的プロトコル群は5,029例(29%)であった。選択的プロトコル群のほうが、年齢が高く(28.5歳vs.27.7歳)、政府管掌保険の加入者が少なく(59% vs.65%)、BMIが高値で(31 vs.30)、アスピリン使用者が多く(23% vs.18%)、妊娠高血圧腎症の診断率が高かった(21% vs.16%)(すべてのp<0.001)。 エノキサパリンを投与された患者は、選択的プロトコル群(410例、8%)がオリジナルプロトコル群(1,968例、16%)と比較して少なく、選択的プロトコル群のほうが、あらゆる血腫が減少した(0.3% vs.0.7%、aOR:0.38[95%CI:0.21~0.67])。これは、主に表在性血腫の大幅な減少(0.3% vs.0.6%、aOR:0.43[95%CI:0.24~0.75])がみられたことによるものであった。 選択的プロトコル群はオリジナルプロトコル群と比較して、VTE(0.0008%[4例]vs.0.0014%[17例]、aOR:0.40[95%CI:0.12~1.36])あるいは種類別にみたVTE(深部VTE、肺血栓塞栓症、その他のVTE)について、有意な増加はみられなかった。

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早期アルツハイマー病におけるレカネマブの安全性〜第III相試験

 アルツハイマー病(AD)は、世界における医療制度、患者、家族に多大な負担を強いる高齢化に伴う主要な健康問題である。早期ADに対しFDAが承認しているアミロイドベータ(Aβ)標的抗体であるレカネマブは、可溶性Aβ凝集体に高い親和性を示す薬剤である。一方、可溶性Aβ凝集体は、単量体や不溶性フィブリルよりも神経毒性が高いことが示唆されている。レカネマブは、複数の臨床試験において、忍容性が良好であると報告されているが、プラセボと比較し、アミロイド関連画像異常(ARIA)および注射部位反応の発生リスクが高いことが問題となる。米国・コロンビア大学のLawrence S. Honig氏らは、早期アルツハイマー病におけるレカネマブの安全性について、第III相試験であるClarity AD試験の結果を報告した。Alzheimer's Research & Therapy誌2024年5月10日号の報告。 Clarity AD試験は、早期AD患者を対象に18ヵ月のレカネマブ治療の有効性、安全性を評価した多施設共同二重盲検プラセボ対照並行群間試験(コア試験)であり、非盲検延長試験(OLE試験)が実施された。対象患者は、レカネマブ群(レカネマブ10mg/kg隔週投与)またはプラセボ群に1:1でランダムに割り付けられた。安全性の評価には、バイタルサイン、身体検査、有害事象、臨床検査パラメータ、12誘導心電図モニタリングを含めた。ARIAの発生は、研究全体を通じMRIにより局所と中央の両方でモニタリングを行った。 主な結果は以下のとおり。・対象は、コア試験参加者1,795例およびレカネマブを1回以上投与した1,612例(コア試験+OLE試験)。・Clarity AD試験では、おおむね忍容性が良好であり、コア試験におけるレカネマブ関連の死亡例はなかった。・OLE試験の死亡例は9例であり、そのうち4例は試験治療に関連する可能性があると判断された。・コア試験+OLE試験における死亡例は24例であり、そのうち脳出血(ICH)は3例であった。コア試験ではプラセボ群で1例、OLE試験ではレカネマブ群で2例(組織プラスミノーゲン活性因子:1例、抗凝固療法中:1例)のICHが認められた。・コア試験+OLE試験において、レカネマブ群で最も多く認められた有害事象は、注射部位反応(24.5%)であり、次いでヘモジデリン沈着を伴うARIA脳微小出血(16.0%)、COVID-19(14.7%)、浮腫を伴うARIA(ARIA-E:13.6%)、頭痛(10.3%)であった。・ARIA-EおよびARIA-Hは、主にレントゲン画像で軽度〜中程度であった。・ARIA-Eは、一般的に治療後3〜6ヵ月以内で発生し、ApoE e4キャリア(16.8%)でより多く、ApoE e4ホモ接合(34.5%)で最も多かった。 著者らは「レカネマブは、一般的に忍容性が良好であるが、有害事象では注射部位反応、ARIA-H、ARIA-Eが認められた。臨床医、参加者、介護者は、最適なケアを行うためにも、これらのイベントに対するモニタリングやマネジメントについて、より理解する必要がある」としている。

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リウマチ性心疾患、低中所得国で死亡率が高い/JAMA

 リウマチ性心疾患(RHD)成人患者の死亡率は高く、弁膜症の重症度と関連しており、一方で弁手術と弁形成術は死亡率の大きな低下と関連していることを、インド・All India Institute of Medical SciencesのGanesan Karthikeyan氏らが、国際多施設共同前向き観察研究「INVICTUS試験」の結果で報告した。RHDは、低中所得国において依然として公衆衛生上の問題となっているが、複数の流行国で患者を登録した大規模研究はほとんどなかった。今回の結果を受けて著者は、「抗菌薬による予防と抗凝固療法を中心とした現在のアプローチに加え、外科的治療とインターベンション治療へのアクセスを改善する必要性が高まっている」とまとめている。JAMA誌オンライン版2024年6月5日号掲載の報告。24ヵ国のRHD患者約1万4千例の予後を前向きに調査 研究グループは、RHDが流行中の低中所得国24ヵ国の138施設において、心エコー検査により臨床的にRHDが確認され同意が得られた18歳以上の成人患者を連続登録し、6ヵ月ごとに対面または電話で追跡調査を行い、1年ごとに対面で評価した。 主要アウトカムは全死因死亡、副次アウトカムは死因別死亡、心不全(HF)による入院、脳卒中、感染性心内膜炎、リウマチ熱の再発などであった。アウトカムは、世界銀行グループ加盟国の最新の所得水準別分類(低所得国[LICs]、低中所得国[LMICs]、高中所得国[UMICs]、高所得国[中東、北アフリカ]、北米、南アジア、サハラ以南)に基づきイベント発生率を分析し、多変量Cox回帰モデルを使用して死亡の予測因子を同定した。 2016年8月~2022年5月に、計1万3,696例のRHD患者が登録された。2,769例(20%)がLICs(エチオピア、マラウイ、モザンビーク、ネパール、ルワンダ、タンザニア、ウガンダ)、8,453例(62%)がLMICs(カメルーン、エジプト、インド、ケニア、ニジェール、パキスタン、フィリピン、スーダン、ザンビア、ジンバブエ)、2,474例(18%)がUMICs(ボツワナ、ブラジル、中国、カザフスタン、メキシコ、パラグアイ、南アフリカ共和国)であった。全体の平均年齢は43.2歳、女性が72%であった。死亡率は14.2%、その約7割は血管死 観察期間中央値3.2年(4万1,478人年)において、1万2,967例(94.7%)の生命予後に関するデータが入手可能であった。 全体で1,943例(14.2%、4.7%/人年)が死亡した。死亡例の67.5%(1,312例)は血管死で、主にHF(667例)または心臓突然死(352例)であった。 観察期間中、弁手術を受けた患者は少なく(604例、4.4%)、HFによる入院(805例、5.9%、年間発生頻度2.0%)も低値であった。また、非致死的脳卒中(年間発生頻度0.6%)、感染性心内膜炎(0.07%)、リウマチ熱の再発(0.02%)もまれであった。 死亡リスクの増加と関連していた因子は、うっ血性心不全(ハザード比[HR]:1.68、95%信頼区間[CI]:1.50~1.87、p<0.001)、肺高血圧症(1.52、1.37~1.69、p<0.001)、心房細動(1.30、1.15~1.46、p<0.001)など重症弁膜症のマーカーであった。一方、観察期間中の弁手術(0.23、0.12~0.44、p<0.001)や弁形成術(0.24、0.06~0.95、p=0.042)は死亡リスクの低下と関連していた。 患者レベルの因子を調整した後、国の所得水準が高いことが死亡率の低下と関連していることが認められた。

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レートコントロールと重篤な出血イベント(解説:後藤信哉氏)

 非弁膜症性心房細動に対する抗凝固療法は広く普及した。心房細動の動悸に対してレートコントロールが必要となる。レートコントロールにはβ遮断薬かカルシウム拮抗薬を使っているケースが多いと思う。カルシウム拮抗薬としては、作用時間の短いベラパミルよりもジルチアゼムを使うことが多いと思う。レートコントロールで用いる薬と抗凝固薬の薬物相互作用などは十分に詳細に検討されてこなかった。薬物代謝的には、レートコントロール薬の代謝により代謝酵素が使用される結果、抗凝固薬の血中濃度が増加するリスクは想定された。本研究は後ろ向き観察研究コホートを用いて、レートコントロールに用いる薬剤による出血イベントリスクへのインパクトについての仮説産生を目指した。 日本の国民皆保険制度の中にも国保、社保など不均一性がある。米国は一般に医療保険がないイメージがあるが、実際は、米国の医療保険制度はそれなりに充実している。オバマケアが嫌われたのは、連邦政府による過度の介入が米国人に忌避されたためである。米国の勤労者には会社からの手厚い医療保険がある場合が多い。筆者が米国で暮らしていた間に、勤務先が用意した健康保険の自己負担率が、現在の日本より少なかった。また、米国暮らしが長く、それなりに社会保険税(social security tax)を支払っていた筆者のところには、最近、勤労していない高齢者を対象としたメディケアの案内が来た。本研究はメディケアのデータベースを用いた後ろ向き観察研究である。政府の管理する健康保険データなので、日本でも同様の解析は原理的に可能だと思う。データベースに基づいた最適医療を最小限のコストにて供給しようとのインセンティブがあれば、データベース解析と解析結果に基づいた医療のシステム的改善は必須と思う。 20万4,155 例のうち、5万3,275例がジルチアゼム、15万880例がメトプロロールによるレートコントロールを受けていた。いずれも特許切れした安価な薬剤であり、公的保険医療に適した薬剤である。抗凝固薬としては薬効を標準化できるいわゆるDOACのうち、米国にて実際に使用可能なリバーロキサバンとアピキサバンを用いた。日本で広く使用されるエドキサバンは、米国では腎機能正常性に使用できないとの制限があるため研究対象とされていない。 メトプロロール群に比較してジルチアゼム群における重篤な出血による入院・死亡リスクは、1.21 (95%信頼区間:1.13~1.29)倍大きく、差は観察早期から見られた。重篤な出血による入院、死亡は同じ方向性であった。ジルチアゼムの容量依存性もあり、各種sensitivity analysisの結果も同様で、メトプロロールよりジルチアゼム群で出血が多いのは本当らしい。 後ろ向きコホートにて、レートコントロールの薬剤がDOACによる出血リスクに影響を与えるとの仮説はできた。ランダム化比較試験により仮説検証を目指すか、ジルチアゼム群のメトプロロール群への移行をメディケアとして促すか、科学に基づいた政策決定の今後を見守りたい。

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がん合併の低リスク肺塞栓症患者に対する在宅療養は適切か(ONCO PE)/日本循環器学会

 肺塞栓症含む血栓塞栓症はがん患者の主要な合併症の1つだ。通常の肺塞栓症の場合、低リスクであればDOACによる在宅療養を安全に行えるものの、がん患者の肺塞栓症に対してもそれが可能であるか議論されていた。倉敷中央病院心臓病センター循環器内科の茶谷 龍己氏らは、肺塞栓症重症度スコア(sPESI)が1点のがん合併の低リスク肺塞栓症患者に対して、リバーロキサバンによる在宅療養と入院療養の比較試験を、ONCO PE試験のコンパニオンレポートとして実施した。3月8~10日に開催された第88回日本循環器学会学術集会のLate Breaking Clinical Trials 2セッションにて茶谷氏が発表した。なお本結果は、Circulation Journal誌オンライン版2024年3月8日号に同時掲載された。 ONCO PE試験(NCT 04724460)は、sPESIスコアが1点の活動性がん合併の低リスク肺塞栓症患者を対象に、18ヵ月間のリバーロキサバン治療と6ヵ月間のリバーロキサバン治療を比較することを目的とした、国内32施設による多施設非盲検判定者盲検RCTだ。今回、ONCO PE試験のスキーム外で、プロトコルで事前に決定されていたコンパニオンレポートとして、在宅療養と入院療養の3ヵ月間の臨床転帰が評価された。なお、本試験はバイエル薬品より資金提供を受けたが、同社は本試験のデザイン、データの収集・解析、報告書の執筆には関与していない。 本試験では、造影CT検査によって新たに肺塞栓症(sPESIスコア:1点)が認められた活動性がん患者が対象とされた。診断時の抗凝固療法の実施、出血ハイリスクと医師に判断された患者、リバーロキサバン禁忌、生命予後が6ヵ月以下とされた患者は除外された。試験開始後、医師の判断でリバーロキサバンを最初の3週間は15mgを1日2回の初期強化療法を行い、その後15mgを1日1回投与した。医師の判断で初期強化療法を行わないことは許容された。主要評価項目は、肺塞栓症関連死、再発性静脈血栓塞栓症(VTE)、大出血の複合転帰とした。副次評価項目は、主要評価項目に関連する肺塞栓症関連死、再発性VTE、大出血、全死因死亡と肺塞栓症関連事象による入院(再発性VTE、出血による入院)とした。Kaplan-Meier曲線を用いて累積発生率を推定し、log-rank検定で差異を評価した。在宅療養と入院療養における評価項目をCox比例ハザードモデルで評価した。 主な結果は以下のとおり。・2021年2月~2023年3月に、国内32施設の178例が解析対象となった。平均年齢65.7歳、女性53%、平均体重60.1kg、平均BMI 23.0kg/m2。・在宅療養群は、66例(37%)、平均年齢66.2±9.5歳、女性34例(52%)、平均体重60.4±10.9kg、平均BMI 23.1±2.9kg/m2。・入院療養群は、112例(63%)、平均年齢65.5±11.0歳、女性61例(55%)、平均体重60.0±11.7kg、平均BMI 22.9±4.2kg/m2。・ベースライン時では、在宅療養群では右心負荷所見のある患者の頻度が低かった(1.5% vs.13%、p=0.01)。・3ヵ月間での肺塞栓症関連死、再発性VTE、大出血の複合転帰は、在宅療養群:66例中3例(4.6%、95%信頼区間[CI]:0.0~9.6)vs.入院療養群:112例中2例(1.8%、95%CI:0.0~4.3)で、主要評価項目の累積3ヵ月の発生率には両群間に有意差はなかった(log-rank p=0.28)。・肺塞栓症関連死は両群ともに発生しなかった。・在宅療養群では、3例に大出血が発生した(4.6%、95%CI:0.0~9.6)。・入院療養群では、再発性VTEが1例(0.9%、95%CI:0.0~2.7)、大出血が1例(0.9%、95%CI:0.0~2.7)発生した。・両群で、初期強化療法期間中に大出血は発生しなかった。・3ヵ月間での全死因死亡は在宅療養群4例(6.1%、95%CI:0.3~11.8)、院内療養群5例(4.5%、95%CI:0.6~8.3)であった。すべてがんによるものだった。・在宅療養群では、2例が肺塞栓症関連事象による入院を必要としたが、すべて出血事象による入院であった(3.0%、95%CI:0.0~7.2)。 本試験の結果、sPESIスコアが1点の活動性がん合併の低リスク肺塞栓症患者は、在宅療養での治療ができる可能性があることが示された。

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薬剤推奨不要を示す臨床試験(解説:後藤信哉氏)

 欧米人は各種疾病、合併症のリスク層別化がうまい。抗凝固薬は確実に重篤な出血合併症リスクを増加させるので、メリットの明確な症例に限局して使用することには価値がある。 私は、本研究のThrombosis Risk Prediction for Patients with Cast Immobilisation (TRiP)スコアを知らなかった。私同様知らないヒトはhttps://doi.org/10.1016/j.eclinm.2020.100270を読むとよい。臨床的に比較的簡便に血栓リスクの層別化が可能である。本研究では、急性期を過ぎたのちに、low risk群(TRiP(cast)スコア<7)には抗凝固薬療法を施行せず、high risk群に抗凝固薬療法を施行した。 静脈血栓症の世界の標準治療は、低分子ヘパリン自己皮下注射である。手技としては、それなりにうっとうしい。low riskであれば、抗凝固療法の継続が不要であることを示した本試験には、一定の意味がある。高価な薬剤が増え続ける現在、薬剤を使用するよりも、使用しない推奨のできる臨床研究は価値がある。

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下肢外傷固定後の抗凝固療法、TRiP(cast)で必要性を判断可/Lancet

 固定を要する下肢外傷で救急外来を受診した患者における予防的抗凝固療法には議論の余地がある。フランス・Angers University HospitalのDelphine Douillet氏らは、「CASTING試験」において、抗凝固療法を受けておらず、Thrombosis Risk Prediction for Patients with Cast Immobilisation-TRiP(cast)スコアが7未満の患者は、静脈血栓塞栓症のリスクがきわめて低いことから、下肢外傷で固定術を受けた患者の大部分は血栓予防を安全に回避可能であることを示した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2024年2月15日号に掲載された。15施設のステップウェッジ・クラスター無作為化試験 CASTING試験は、フランスとベルギーの15の救急診療部で実施したステップウェッジ・クラスター無作為化試験であり、2020年6月~2021年9月に患者を登録した(フランス保健省の助成を受けた)。 ステップウェッジ方式に基づき、15の参加施設を、コントロール期から介入期への移行時期をずらして無作為化した。コントロール期は、通常診療として抗凝固療法を行い、介入期は、TRiP(cast)スコア<7の患者には抗凝固療法を行わず、≧7の患者にはこれを行った。 対象は、18歳以上で、救急診療部を受診し、少なくとも7日間の固定を必要とする下肢外傷の患者であった。 主要アウトカムは、ITT集団における、TRiP(cast)スコアが<7の患者の介入期での症候性静脈血栓塞栓症の3ヵ月間の累積発生率とし、この値が<1%で95%信頼区間(CI)の上限値が<2%の場合に安全と判定した。発生率0.7%、主要アウトカムを達成 介入期の解析の対象となった1,505例(年齢中央値31歳[四分位範囲[IQR]:23~44]、女性43.2%)のうち、1,159例(77.0%)がTRiP(cast)スコア<7であり、抗凝固療法を受けなかった。 ITT解析では、TRiP(cast)スコア<7の患者1,159例のうち症候性静脈血栓塞栓症が発生したのは8例(0.7%、95%CI:0.3~1.4)であり、主要アウトカムを達成したことから、これらの患者に抗凝固療法を行わないことは安全と考えられた。 また、per-protocol解析では、TRiP(cast)スコア<7の患者1,048例において、症候性静脈血栓塞栓症が発生したのは8例(0.8%、95%CI:0.3~1.5)であった。出血の発生にも差はない 症候性静脈血栓塞栓症の累積発生率は、コントロール期が1.0%(6/603例)、介入期は1.1%(17/1,505例)であり、2つの期間の絶対差は0.1ポイント(95%CI:-0.8~1.1)であった。 また、出血は、コントロール期には発生せず、介入期には大出血が1例(自然発生的な頭蓋内出血)、臨床的に重要な非大出血が1例(術後の腓腹筋血腫)で発生した。 著者は、「フランスとベルギーの現在の診療(本試験のコントロール期)と比較して、TRiP(cast)スコアを用いた戦略は、3ヵ月間の静脈血栓塞栓症を増加させずに、抗凝固療法の処方を半減させた」「TRiP(cast)スコアは、医師による意思決定に有用であり、下肢固定患者のほぼ4分の3において、毎日の皮下注射による抗凝固療法を回避することが可能と考えられる」としている。

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