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1.

がん合併の低リスク肺塞栓症患者に対する在宅療養は適切か(ONCO PE)/日本循環器学会

 肺塞栓症含む血栓塞栓症はがん患者の主要な合併症の1つだ。通常の肺塞栓症の場合、低リスクであればDOACによる在宅療養を安全に行えるものの、がん患者の肺塞栓症に対してもそれが可能であるか議論されていた。倉敷中央病院心臓病センター循環器内科の茶谷 龍己氏らは、肺塞栓症重症度スコア(sPESI)が1点のがん合併の低リスク肺塞栓症患者に対して、リバーロキサバンによる在宅療養と入院療養の比較試験を、ONCO PE試験のコンパニオンレポートとして実施した。3月8~10日に開催された第88回日本循環器学会学術集会のLate Breaking Clinical Trials 2セッションにて茶谷氏が発表した。なお本結果は、Circulation Journal誌オンライン版2024年3月8日号に同時掲載された。 ONCO PE試験(NCT 04724460)は、sPESIスコアが1点の活動性がん合併の低リスク肺塞栓症患者を対象に、18ヵ月間のリバーロキサバン治療と6ヵ月間のリバーロキサバン治療を比較することを目的とした、国内32施設による多施設非盲検判定者盲検RCTだ。今回、ONCO PE試験のスキーム外で、プロトコルで事前に決定されていたコンパニオンレポートとして、在宅療養と入院療養の3ヵ月間の臨床転帰が評価された。なお、本試験はバイエル薬品より資金提供を受けたが、同社は本試験のデザイン、データの収集・解析、報告書の執筆には関与していない。 本試験では、造影CT検査によって新たに肺塞栓症(sPESIスコア:1点)が認められた活動性がん患者が対象とされた。診断時の抗凝固療法の実施、出血ハイリスクと医師に判断された患者、リバーロキサバン禁忌、生命予後が6ヵ月以下とされた患者は除外された。試験開始後、医師の判断でリバーロキサバンを最初の3週間は15mgを1日2回の初期強化療法を行い、その後15mgを1日1回投与した。医師の判断で初期強化療法を行わないことは許容された。主要評価項目は、肺塞栓症関連死、再発性静脈血栓塞栓症(VTE)、大出血の複合転帰とした。副次評価項目は、主要評価項目に関連する肺塞栓症関連死、再発性VTE、大出血、全死因死亡と肺塞栓症関連事象による入院(再発性VTE、出血による入院)とした。Kaplan-Meier曲線を用いて累積発生率を推定し、log-rank検定で差異を評価した。在宅療養と入院療養における評価項目をCox比例ハザードモデルで評価した。 主な結果は以下のとおり。・2021年2月~2023年3月に、国内32施設の178例が解析対象となった。平均年齢65.7歳、女性53%、平均体重60.1kg、平均BMI 23.0kg/m2。・在宅療養群は、66例(37%)、平均年齢66.2±9.5歳、女性34例(52%)、平均体重60.4±10.9kg、平均BMI 23.1±2.9kg/m2。・入院療養群は、112例(63%)、平均年齢65.5±11.0歳、女性61例(55%)、平均体重60.0±11.7kg、平均BMI 22.9±4.2kg/m2。・ベースライン時では、在宅療養群では右心負荷所見のある患者の頻度が低かった(1.5% vs.13%、p=0.01)。・3ヵ月間での肺塞栓症関連死、再発性VTE、大出血の複合転帰は、在宅療養群:66例中3例(4.6%、95%信頼区間[CI]:0.0~9.6)vs.入院療養群:112例中2例(1.8%、95%CI:0.0~4.3)で、主要評価項目の累積3ヵ月の発生率には両群間に有意差はなかった(log-rank p=0.28)。・肺塞栓症関連死は両群ともに発生しなかった。・在宅療養群では、3例に大出血が発生した(4.6%、95%CI:0.0~9.6)。・入院療養群では、再発性VTEが1例(0.9%、95%CI:0.0~2.7)、大出血が1例(0.9%、95%CI:0.0~2.7)発生した。・両群で、初期強化療法期間中に大出血は発生しなかった。・3ヵ月間での全死因死亡は在宅療養群4例(6.1%、95%CI:0.3~11.8)、院内療養群5例(4.5%、95%CI:0.6~8.3)であった。すべてがんによるものだった。・在宅療養群では、2例が肺塞栓症関連事象による入院を必要としたが、すべて出血事象による入院であった(3.0%、95%CI:0.0~7.2)。 本試験の結果、sPESIスコアが1点の活動性がん合併の低リスク肺塞栓症患者は、在宅療養での治療ができる可能性があることが示された。

2.

薬剤推奨不要を示す臨床試験(解説:後藤信哉氏)

 欧米人は各種疾病、合併症のリスク層別化がうまい。抗凝固薬は確実に重篤な出血合併症リスクを増加させるので、メリットの明確な症例に限局して使用することには価値がある。 私は、本研究のThrombosis Risk Prediction for Patients with Cast Immobilisation (TRiP)スコアを知らなかった。私同様知らないヒトはhttps://doi.org/10.1016/j.eclinm.2020.100270を読むとよい。臨床的に比較的簡便に血栓リスクの層別化が可能である。本研究では、急性期を過ぎたのちに、low risk群(TRiP(cast)スコア<7)には抗凝固薬療法を施行せず、high risk群に抗凝固薬療法を施行した。 静脈血栓症の世界の標準治療は、低分子ヘパリン自己皮下注射である。手技としては、それなりにうっとうしい。low riskであれば、抗凝固療法の継続が不要であることを示した本試験には、一定の意味がある。高価な薬剤が増え続ける現在、薬剤を使用するよりも、使用しない推奨のできる臨床研究は価値がある。

3.

下肢外傷固定後の抗凝固療法、TRiP(cast)で必要性を判断可/Lancet

 固定を要する下肢外傷で救急外来を受診した患者における予防的抗凝固療法には議論の余地がある。フランス・Angers University HospitalのDelphine Douillet氏らは、「CASTING試験」において、抗凝固療法を受けておらず、Thrombosis Risk Prediction for Patients with Cast Immobilisation-TRiP(cast)スコアが7未満の患者は、静脈血栓塞栓症のリスクがきわめて低いことから、下肢外傷で固定術を受けた患者の大部分は血栓予防を安全に回避可能であることを示した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2024年2月15日号に掲載された。15施設のステップウェッジ・クラスター無作為化試験 CASTING試験は、フランスとベルギーの15の救急診療部で実施したステップウェッジ・クラスター無作為化試験であり、2020年6月~2021年9月に患者を登録した(フランス保健省の助成を受けた)。 ステップウェッジ方式に基づき、15の参加施設を、コントロール期から介入期への移行時期をずらして無作為化した。コントロール期は、通常診療として抗凝固療法を行い、介入期は、TRiP(cast)スコア<7の患者には抗凝固療法を行わず、≧7の患者にはこれを行った。 対象は、18歳以上で、救急診療部を受診し、少なくとも7日間の固定を必要とする下肢外傷の患者であった。 主要アウトカムは、ITT集団における、TRiP(cast)スコアが<7の患者の介入期での症候性静脈血栓塞栓症の3ヵ月間の累積発生率とし、この値が<1%で95%信頼区間(CI)の上限値が<2%の場合に安全と判定した。発生率0.7%、主要アウトカムを達成 介入期の解析の対象となった1,505例(年齢中央値31歳[四分位範囲[IQR]:23~44]、女性43.2%)のうち、1,159例(77.0%)がTRiP(cast)スコア<7であり、抗凝固療法を受けなかった。 ITT解析では、TRiP(cast)スコア<7の患者1,159例のうち症候性静脈血栓塞栓症が発生したのは8例(0.7%、95%CI:0.3~1.4)であり、主要アウトカムを達成したことから、これらの患者に抗凝固療法を行わないことは安全と考えられた。 また、per-protocol解析では、TRiP(cast)スコア<7の患者1,048例において、症候性静脈血栓塞栓症が発生したのは8例(0.8%、95%CI:0.3~1.5)であった。出血の発生にも差はない 症候性静脈血栓塞栓症の累積発生率は、コントロール期が1.0%(6/603例)、介入期は1.1%(17/1,505例)であり、2つの期間の絶対差は0.1ポイント(95%CI:-0.8~1.1)であった。 また、出血は、コントロール期には発生せず、介入期には大出血が1例(自然発生的な頭蓋内出血)、臨床的に重要な非大出血が1例(術後の腓腹筋血腫)で発生した。 著者は、「フランスとベルギーの現在の診療(本試験のコントロール期)と比較して、TRiP(cast)スコアを用いた戦略は、3ヵ月間の静脈血栓塞栓症を増加させずに、抗凝固療法の処方を半減させた」「TRiP(cast)スコアは、医師による意思決定に有用であり、下肢固定患者のほぼ4分の3において、毎日の皮下注射による抗凝固療法を回避することが可能と考えられる」としている。

4.

心房細動のない心房性疾患患者の潜因性脳卒中、アピキサバンの再発予防効果は?/JAMA

 心房細動を伴わない心房性心疾患の証拠がある、潜因性脳卒中(cryptogenic stroke)を呈した患者において、アピキサバンはアスピリンと比較して脳卒中再発リスクを有意に低下しなかった。米国・Weill Cornell MedicineのHooman Kamel氏らが「ARCADIA試験」の結果を報告した。心房性心疾患は、臨床的に明らかな心房細動を認めない場合において、脳卒中と関連することが示されている。心房細動への有益性が示されている抗凝固療法が、心房性疾患を有するが心房細動は有さない患者の脳卒中を予防するかどうかは不明であった。JAMA誌オンライン版2024年2月7日号掲載の報告。1,015例を対象に有効性(脳卒中再発予防)と安全性を評価 ARCADIA試験は、潜因性脳卒中および心房性心疾患の証拠(PTFV1>5,000μV、NT-ProBNP>250pg/mL、心エコーでの左房直径≧3cm/m2と定義)がある患者において、脳卒中の二次予防のための抗凝固療法と抗血小板療法を比較する第III相の多施設共同二重盲検無作為化試験。試験登録と追跡調査は2018年2月1日~2023年2月28日に行われ、National Institutes of Health StrokeNet and the Canadian Stroke Consortiumに参加する185施設から患者1,100例を登録し、そのうち1,015例が試験に参加した。 被験者は、1対1の割合でアピキサバン群(5mgまたは2.5mgを1日2回投与、507例)またはアスピリン群(81mgを1日1回投与、508例)に無作為化され追跡評価を受けた。無作為化の時点で被験者に心房細動の証拠はなかった。 主要有効性アウトカムは脳卒中の再発で、time-to-event解析にて評価した。無作為化後に心房細動と診断された患者を含む全被験者を対象とし、無作為化した各群に従って解析が行われた。主要安全性アウトカムは、症候性頭蓋内出血およびその他の大出血であった。平均追跡期間1.8年で試験は中止に 平均追跡期間1.8(SD 1.3)年で、事前に計画された中間解析後に試験は無益であるとして中止となった。 被験者1,015例の平均年齢は68.0(SD 11.0)歳、女性が54.3%であり、87.5%が追跡期間の調査を完了した。 脳卒中再発の発生は、アピキサバン群40例(年率4.4%)、アスピリン群40例(年率4.4%)であった(ハザード比[HR]:1.00、95%信頼区間[CI]:0.64~1.55)。 症候性頭蓋内出血はアピキサバン群では発生せず、アスピリン群で7例(年率1.1%)に発生した。その他の大出血の発生は、アピキサバン群5例(年率0.7%)、アスピリン群5例(年率0.8%)であった(HR:1.02、95%CI:0.29~3.52)。

5.

膵がん患者に合併する静脈血栓塞栓症への対応法【見落とさない!がんの心毒性】第28回

※本症例は、患者さんのプライバシーに配慮し一部改変を加えております。あくまで臨床医学教育の普及を目的とした情報提供であり、すべての症例が類似の症状経過を示すわけではありません。《今回の症例》年齢・性別60代・女性既往歴虫垂炎術後服用歴テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム(ティーエスワン配合OD錠T20)(2錠分2 朝夕食後)、クエン酸第一鉄Na錠50mg(1錠分1 朝食後)、ランソプラゾールOD錠15(1錠分1 朝食後)喫煙歴なし現病歴X年10月に食欲不振と食後嘔吐を主訴に消化器内科を受診した。腹部骨盤部造影CTで十二指腸水平脚の圧排を伴う膵鈎部がんおよび多発肝転移を認め、上部消化管内視鏡で十二指腸水平脚に腫瘍の直接浸潤に伴う潰瘍性病変を認めた(写真1、2)。画像を拡大する進行膵鈎部がん(T4,N1,M1 StageIVb)と診断し、十二指腸ステントを挿入し、同年11月に化学療法(ゲムシタビン[GEM]単剤)を開始した。その後、食欲は改善し、同年12月に退院した。外来で同化学療法計4クールを施行したが、X+1年3月にはPD判定となり、同月よりTS-1単剤での化学療法に変更となった(Performance Status[PS]3)。同年5月に、突然の呼吸困難を主訴に救急外来を受診し、バイタルは体温36.5℃、脈拍数111/分、血圧93/56mmHg、SpO2 94%(室内気)で、左下腿浮腫を認めた。血液検査でDダイマー46μg/mL、BNP 217pg/mLと上昇し、心エコー図検査で右室拡大によるD-shapeを認めた。造影CTで両側肺塞栓症(pulmonary embolism:PE)、両下肢深部静脈血栓症(deep vein thrombosis:DVT)と診断し、入院となった(写真3)。画像を拡大する循環器内科と連携し、入院時Hb 8.3mg/dLと貧血を認めたことから、出血リスクを考慮し、未分画ヘパリン10,000単位/日の低用量で抗凝固療法を開始した。入院2日目に明らかな吐下血は認めなかったものの、Hb 6.7mg/dLと貧血の悪化を認めた。【問題】下記のうち、この患者の静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism:VTE)管理の方針や膵がん患者に合併するVTEに関する文章として正しいものはどれか。a.日本において膵がん患者におけるVTE予防目的に、低分子ヘパリン(LMWH)皮下注や直接経口抗凝固薬(DOAC)の予防投与が保険承認されている。b.本症例におけるVTEの初期治療として、DOAC単剤による抗凝固療法がより適切である。c.本症例では抗凝固療法の開始後、貧血の悪化を認めたが、明らかな出血事象が確認されない限り、抗凝固療法は継続すべきである。d.進行膵がんは診断後、3ヵ月以内のVTE発症が多く、定期的なDダイマー測定がVTEの診断に有用である。まとめ膵がん患者では予防的抗凝固療法による生存期間延長の利益について、一定の見解は得られていない。自施設の日本人の膵がん患者432名を対象とした検討では、膵がん診断後の生存期間は、VTE群と非VTE群で有意差はなかった。膵がん自体の予後が不良で、VTEの発症は予後悪化に寄与しない可能性がある5)。しかし、VTEはひとたび発症すると致命的な病態となり得ることや、他臓器のがんではVTE発症により生存期間が短縮するという研究が多いため、今後、膵がん治療・患者管理の進歩により、VTE発症の生命予後への影響が明確化する可能性ある。1)Khorana AA, et al. Cancer. 2013;119:648-655.2)Schunemann HJ, et al. Lancet Haematol. 2020;7:e746-755.3)Wang Y, et al. Hematology. 2020;25:63-70.4)Maraveyas A, et al. Eur J Cancer. 2012;48:1283-1292.5)Suzuki T, et al. Clin Appl Thromb Hemost. 2021;27:1-6.講師紹介

6.

デバイスによる無症候の心房細動にもDOACは有効?(解説:後藤信哉氏)

 症候性の心房細動にて脳卒中リスクの高い症例では、PT-INR 2-3を標的としたワルファリン治療よりもDOACの1つであるアピキサバンが安全、かつ有効であることがARISTOTLE試験により証明された。ICDなどを入れ込まれた症例では無症候の心房細動も検出できる。無症候のdevice detected AFに対する標準治療は確立されていない。本研究は無症候のdevice detected AFを対象として、アピキサバンの脳卒中・全身塞栓症予防効果をアスピリンと比較した無作為二重盲検ランダム化比較試験の結果である。 対象例のCHA2DS2-VAScスコアは3.9±1.1と高い。観察期間は3.5±1.8年と長い。アピキサバン群の脳卒中・全身塞栓症発症率は、アスピリン群にて年率1.24%、アピキサバン群にて0.78%であった。対象症例の脳卒中・全身塞栓症の発症リスクは決して高くはないが、本研究は4,012例を対象とした無作為化二重盲検比較試験としてエビデンスレベルは高い。 アピキサバン群では年率1.71%に重篤な出血合併症が起こり、アスピリン群の0.94%よりも高かった。本研究は科学的な仮説検証研究としての価値は大きいが、年率1%程度の脳卒中・全身塞栓症と重篤な出血合併症発症リスクの選択になるので臨床的価値は大きくない。 同様のdevice detected AFを対象としたエドキサバンとプラセボのランダム化比較試験NOAH-AFNET 6では、DOACエドキサバンの効果は中立とされている(Kirchhof P, et al. N Engl J Med. 2023;389:1167-1179.)。イベントリスク年率1%前後にて抗血栓効果と出血合併症のバランスをとるのは、きわめて難しい。NOAH-AFNET 6 and ARTESiAの2つの試験のメタ解析もCirculationに出版されている(McIntyre WF, et al. Circulation. 2023 Nov 12.[Epub ahead of print])。device detected AFに対する抗凝固療法は、必ずしも大きくない血栓リスクを減少させるが、血栓イベントリスク減少効果と同程度に重篤な出血イベントリスクを増加させる薬剤の使用の有無の判定という難しい臨床判断である。

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無症候性心房細動の脳卒中予防、アピキサバンvs.アスピリン/NEJM

 無症候性の心房細動患者への経口抗凝固療法について、アピキサバンはアスピリンと比較し、脳卒中または全身性塞栓症を減少するが大出血が増加したことを、カナダ・マクマスター大学のJeff S. Healey氏らが、欧米16ヵ国247施設で実施された無作為化二重盲検比較試験「Apixaban for the Reduction of Thrombo-Embolism in Patients with Device-Detected Subclinical Atrial Fibrillation trial:ARTESIA試験」の結果で報告した。無症候性心房細動は、持続時間が短く無症状であり、通常はペースメーカーまたは除細動器による長期的な連続モニタリングによってのみ検出可能である。また、脳卒中のリスクを2.5倍増加するが、経口抗凝固療法による治療効果は不明であった。NEJM誌オンライン版2023年11月12日号掲載の報告。主要有効性アウトカムは脳卒中または全身性塞栓症 研究グループは、ペースメーカー、植込み型除細動器または心臓モニターによって検出された6分~24時間持続する心房細動を有し、CHA2 DS2-VAScスコア(範囲:0~9、スコアが高いほど脳卒中リスクが高いことを示す)が「3以上かつ55歳以上」、または「75歳以上」、あるいは「他のリスク因子のない脳卒中既往」の患者を、アピキサバン群(5mgを1日2回[または製品ラベル表示に準じて2.5mgを1日2回]投与)またはアスピリン群(81mgを1日1回投与)に無作為に割り付け追跡評価した。無症候性心房細動が24時間以上持続、または臨床的な心房細動を認めた場合は、試験薬の投与を中止し抗凝固療法が開始された。 有効性の主要アウトカムは、脳卒中または全身性塞栓症とし、ITT集団(無作為化されたすべての患者)で解析した。安全性の主要アウトカムは、国際血栓止血学会(ISTH)の定義に基づく大出血とし、on-treatment集団(無作為化され試験薬を少なくとも1回投与されたすべての患者、理由を問わず試験薬の投与を中止した場合は5日後に追跡調査を打ち切り)で解析した。脳卒中または全身性塞栓症リスク、アピキサバン群で37%低下 2015年5月7日~2021年7月30日に、計4,012例がアピキサバン群(2,015例)またはアスピリン群(1,997例)に割り付けられた。平均年齢(±SD)は76.8±7.6歳、CHA2 DS2-VAScスコアは3.9±1.1、女性は36.1%であった。 平均追跡期間3.5±1.8年において、脳卒中または全身性塞栓症の発生は、アピキサバン群55例(0.78%/人年)、アスピリン群86例(1.24%/人年)であった(ハザード比[HR]:0.63、95%信頼区間[CI]:0.45~0.88、p=0.007)。 on-treatment集団における大出血の発現頻度は、アピキサバン群1.71%/人年、アスピリン群0.94%/人年であった(HR:1.80、95%CI:1.26~2.57、p=0.001)。致死的出血は、アピキサバン群5例、アスピリン群8例であった。

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ESMO2023 レポート 肺がん

レポーター紹介2023年のESMOはスペインのマドリードで開催されました。昨年・一昨年以上に参加人数が多かったようで、ポストコロナ時代の学会として大変盛況でした。さて、肺がん領域においてはPractice Changeにつながる可能性の高い重要な演題が多く発表されました。とくに、ここ2年間で劇的に進歩した肺がん周術期治療やEGFR・RETなどのdriver mutation陽性の進行例に対する新たな知見が複数報告されております。今回はその中から、7つの演題を取り上げ概括したいと思います。CheckMate77T試験切除可能なIIA~IIIB(N2)期の非小細胞肺がんを対象として、術前の化学療法を標準治療として、術前のニボルマブ+化学療法および術後のニボルマブ療法の優越性を検証した無作為化比較第III相試験である。CheckMate816試験を基に現在保険承認されている術前のニボルマブ+化学療法に術後1年間のニボルマブ療法を加えた、いわゆるサンドイッチレジメンである。主要評価項目は中央判定での無イベント生存期間(EFS)で、副次評価項目は中央判定での病理学的完全奏効(pCR)、中央判定での病理学的奏効(MPR)、全生存期間(OS)、安全性プロファイルが設定されていた。患者背景として、病期やPD-L1発現などはCheckMate816試験と同様であった。主要評価項目の結果としては、CheckMate816試験やほかのサンドイッチレジメンと同様にEFSを有意に延長し(ハザード比:0.58、95%信頼区間[CI]:0.42~0.81)、副次評価項目であるpCRやMPRも化学療法と比較して有意に良好であった(pCR:25.3% vs.4.7%、MPR:35.4% vs.12.1%)。EFSのサブ解析を見ても、おおむねどの集団においてもニボルマブ併用群で良好な結果であった。また、ほかのサンドイッチレジメンと同様にpCRやMPR別でのEFSの解析も行われ、こちらも今までと同様にpCRやMPRの有無でEFSに大きな差が認められた。安全性のデータも報告されたが、目新しい有害事象(AE)の報告はなく、過去の周術期ICIのレジメンと同様であった。本レジメンも将来的に保険承認されると予想されるが、ほかのペムブロリズマブやデュルバルマブなどのサンドイッチレジメンとの差別化が図れるようなデータは今回の報告からは見られなかった。ALINA試験本年のASCOで、EGFR遺伝子変異陽性肺がん完全切除例に対するオシメルチニブによる術後補助療法が、プラセボと比較してOSを有意に延長したことが大きな話題となったが、ESMOではALK遺伝子転座陽性非小細胞肺がんに対するアレクチニブの術後補助療法の有効性が報告された。UICC-7版でのIB~IIIA期のALK陽性非小細胞肺がんが対象で、標準治療であるプラチナ併用化学療法による補助療法に対するアレクチニブを2年間内服する術後補助療法の有効性を検証する無作為化比較第III 相試験である。主要評価項目は無病生存期間(DFS)で、副次評価項目はCNSのDFS、OS、安全性であった。主要評価項目はII~IIIA期で評価された後、ITT集団を対象として階層的に評価されるデザインであった。257例が登録されており、アジア人が約半数でIIIA期が約半数登録された試験であった。主要評価項目であるII~IIIA期DFSは、標準治療と比較してアレクチニブ群のハザード比は0.24(95% CI:0.13~0.45)であり、ITT集団を対象とした解析でもハザード比は0.24(95% CI:0.13~0.43)と、ともに主要評価項目を達成した。サブ解析でもほぼすべての集団でアレクチニブ群のDFSが良好であった。副次評価項目の1つであるCNSのDFSも、アレクチニブ群は標準治療と比較してハザード比は0.22(95%CI:0.08~0.58)と良好であった。再発後の治療はアレクチニブ群の約半数、標準治療群では約75%でALK-TKIが投与されており、今回の発表のデータカットオフ時点ではOSのイベントはわずか6例しか認められなかった。安全性は、Grade3以上は30%で治療関連の死亡は認められなかった。主なAEは、CPK上昇(約40%)、便秘(約40%)、AST上昇・ALT上昇(約40%前後)と、過去のALEX試験やJ-ALEX試験と同様のプロファイルであった。今回、DFSの良好な結果が報告されたが、オシメルチニブと同様にOSの延長にも寄与するかが今後期待される。ただ、ALK陽性肺がんの予後を考えると、数年後まで結果は出てこない可能性が高い。今回の結果からは、今後バイオマーカーの結果によって周術期治療戦略も進行期と同様に細分化されると考えられる。MARIPOSA試験EGFR遺伝子変異陽性の進行・再発非小細胞肺がんに対する1次治療として確立しているオシメルチニブを標準治療とした、無作為化比較第III相試験である。試験治療群はEGFRとMETの二重特異性抗体であるamivantamabと第3世代EGFR-TKIであるlazertinibの2剤併用療法もしくはlazertinib単剤の3群の比較試験で、主要評価項目はamivantamab・lazertinib併用療法のオシメルチニブに対する中央判定によるPFSであった。 1,074例が登録され、amivantamab・lazertinib併用療法、オシメルチニブ療法、lazertinib療法に、それぞれ2:2:1に割り付けられた。EGFR変異の種別はExon19欠失が60%でL858R点変異が40%、約40%が脳転移を有していた。主要評価項目のPFSはamivantamab・lazertinib併用群で中央値23.7ヵ月、オシメルチニブ群で中央値16.6ヵ月、ハザード比0.70(95%CI:0.58~0.85)と、amivantamab・lazertinib併用群のオシメルチニブに対するPFS延長効果が証明され、主要評価項目を達成した。サブ解析では、おおむねどの集団においてもamivantamab・lazertinib併用群で良好な結果であったが、65歳以上の集団ではハザード比1.06であった。奏効率(ORR)は併用群およびオシメルチニブ群ともに約85%で、OSは今回の中間解析時点では2年時点で5%約の差(75% vs.69%)で併用群が良好であった。有効性について有望な結果が得られたamivantamab・lazertinib併用群であったが、AEが強く発現する点に注意する必要がある。Grade3以上のAEは75%で、皮膚障害・粘膜障害についてもGrade3以上がamivantamab・lazertinib併用群で強く発現していた。さらに特筆すべきは静脈血栓症(VTE)で、オシメルチニブ群の9%と比較して併用群では37%と高く、発症時期は中央値で84日と比較的早期に発症することが特徴である。現在実施されているamivantamab・lazertinib併用の治験では、治療開始後4ヵ月間は予防的抗凝固療法が推奨されているとのことであった。今回、オシメルチニブに対するPFS延長を示したamivantamab・lazertinib併用療法であるが、AEが強く発現する点から、個人的には今後オシメルチニブに完全に置き換わるよりは、使い分けが重要となってくると予想する。MARIPOSA-2試験先述したMARIPOSA試験と同じセッションで発表された本試験は、オシメルチニブに対して病勢増悪を来したEGFR遺伝子変異陽性例を対象として、カルボプラチン+ペメトレキセドによる化学療法を標準治療として、amivantamab+lazertinib+化学療法の4剤併用療法もしくはamivantamab+化学療法の3剤併用療法の3群に割り付ける無作為化比較第III相試験で、657例が登録された。主要評価項目は中央判定による4剤併用療法と化学療法を比較するPFSと、3剤併用療法と化学療法を比較したPFSである。登録前のオシメルチニブは、70%が1次治療、30%が2次治療で投与されていた。主要評価項目のPFSの結果は、4剤併用療法群の中央値が8.3ヵ月、3剤併用療法群の中央値が6.3ヵ月、化学療法群の中央値が4.2ヵ月で、それぞれハザード比が0.44(95%CI:0.35~0.56)、0.48(95%CI:0.36~0.64)と、4剤併用療法、3剤併用療法ともに化学療法に対する有意なPFS延長効果を証明した。サブ解析においても、すべての集団でPFSは良好な結果であった。ORRは両群63%程度(化学療法は36%)で頭蓋内のPFSも両群とも良好であった(4剤併用:12.8ヵ月、3剤併用:12.5ヵ月、化学療法:8.3ヵ月)。AEは先述したMARIPOSA試験同様に注意すべき点である。とくにlazertinibを加えた4剤併用療法では、Grade3以上のAEは92%、治療関連死亡は5%に認めた。3剤併用療法はGrade3以上のAEが72%であった。なかでも好中球減少や血小板減少などの血球減少は多く見られ、吐き気や倦怠感、食欲不振といった自覚症状として出てくるAEも4剤併用療法や3剤併用療法で多く認められた。血球減少が多く見られたことから、4剤併用療法のレジメンが見直され、lazertinibはカルボプラチン終了後に開始となるレジメンにmodifyされた。この修正後のレジメンの有効性・安全性データは今後評価予定となっている。今回、オシメルチニブ後の治療として有望な結果が得られたが、効果と安全性のバランスを考えると3剤併用療法がより使いやすい印象はある。先述したMARIPOSA試験と併せて、EGFR遺伝子変異陽性の最適な治療シークエンスが今後検討されることであろう。LIBRETTO-431試験本試験は肺腺がんの1~2%に認められるRET融合遺伝子陽性の非扁平上皮非小細胞肺がんを対象として、RET阻害薬であるセルペルカチニブを試験治療として、カルボプラチン+ペメトレキセド(+ペムブロリズマブ:investigator choice)療法を標準治療とした無作為化比較第III相試験である。標準治療群に割り付けられても病勢増悪後にセルペルカチニブにクロスオーバーが可能な試験である。主要評価項目は中央判定によるPFSであった。PFSはITT集団とITT-pembrolizumab(ITT-P)集団という2つの対象で評価された。261例が2:1に割り付けられた。約20%に脳転移を認め、40%強がPD-L1発現を認めた。主要評価項目であるPFSはITT-P集団でハザード比0.465(95%CI:0.309~0.699)、ITT集団で0.482(95%CI:0.331~0.700)と、規定された2つの集団でセルペルカチニブのPFSの有意な延長効果が証明された。サブ解析ではPD-L1陰性例よりも陽性例で良好な結果であった。セルペルカチニブのORRは83.7%(標準治療群:65.1%)、頭蓋内のORRも82.4%(標準治療群:58.3%)と、ともに良好な結果であった。CNS転移の累積発生率で見ても、12ヵ月時点で標準治療群が約20%であるのに対して、セルペルカチニブ群は5.5%とCNS転移をしっかりと抑えていることが示された。AEについては、セルペルカチニブの承認の元になった第I/II相試験であるLIBRETTO-001試験と同様のプロファイルであった。Grade3以上のAEは約70%に認められ、頻度の高いAEはAST上昇(Grade3以上13%)、ALT上昇(Grade3以上22%)、高血圧(Grade3以20%)、下痢(Grade3以上:1%)であった。約80%の症例でセルペルカチニブの用量変更が必要であったことも特筆すべきことである。今回の第III試験の報告で、RET融合遺伝子陽性例の1次治療としてセルペルカチニブは確立したものとなったと考える。本試験の結果は発表と同時にNew England Journal of Medicine誌にpublishされたことも報告された。TROPION-Lung01試験既治療の進行・再発非小細胞肺がんを対象として、ドセタキセル療法を標準治療としたdatopotamab deruxtecan(Dato-DXd)の優越性を検証する無作為化比較第III相試験である。Dato-DXdはTROP2を標的とした抗体薬物複合体である。EGFRやALKなどのdriver mutationを有する症例について、標的治療およびプラチナ併用化学療法(+ICI)の治療を終えた症例であれば組み込むことは可能であった。主要評価項目は中央判定によるPFSとOSであった。604例が1:1に割り付けられ、非扁平上皮がんが約80%、EGFR遺伝子変異陽性例は約15%登録されていた。主要評価項目のPFSはDato-DXd群で中央値が4.4ヵ月、ドセタキセル群で中央値が3.7ヵ月、ハザード比は0.75(95%CI:0.62~0.91)とDato-DXdの有意なPFS延長効果が示された。ORRはDato-DXd群は26.4%、ドセタキセル群では12.8%と、こちらもDato-DXd群で良好であった。PFSのサブ解析で特筆すべきは組織型での差であった。非扁平上皮がんではDato-DXd群のハザード比が0.63であったのに対して、扁平上皮がんでは1.38と組織型でDato-DXd療法の有効性が異なることが示唆された。今回の中間解析時点でのOSはDato-DXd vs.ドセタキセルで0.90(95%CI:0.72~1.13)であり、今後のフォローアップデータが待たれるところである。治療期間の中央値はDato-DXdが4.2ヵ月、ドセタキセルは2.8ヵ月であった。Dato-DXdのAEについて、Grade3以上のAEは25%、減量を要した症例の割合は20%と、どちらもドセタキセルと比較して低い傾向にあった。頻度の多いAEは口内炎(47%)、吐き気(34%)、脱毛(32%)であった。またDato-DXdに特徴的なAEとしてドライアイや流涙などの眼関連のAEが19%に発生した。また、ILDは8%で、7例(2%)にILDによる治療関連死亡が発生したことも注意すべきAEとして取り上げたい。これらの結果から、既治療の非扁平上皮がんに対してDato-DXdが重要な治療選択肢になりうると結論付けられた。ACHILLES/TORG1834試験最後に、本邦からの重要な第III相試験の報告を紹介する。TORGを中心に全国の臨床試験グループが参加して行われたインターグループスタディであるACHILLES試験の結果が、新潟県立がんセンター新潟病院の三浦 理氏より報告された。本試験は、EGFR遺伝子変異の中でExon19欠失もしくはL858R点変異を除く、いわゆるuncommon変異を有する未治療例を対象として、標準治療をプラチナ+ペメトレキセド、試験治療をアファチニブとして、PFSを主要評価項目に設定した無作為化比較試験である。109例が登録され、標準治療群とアファチニブ群に1:2に割り付けられた。変異の種類としてはG719Xが約40%と最も多く、L861Qが約18%であった。複数のuncommon変異を同時に有するcompound変異は約30%であった。ベースの脳転移は約30%に認めた。主要評価項目のPFSはアファチニブ群の中央値が10.6ヵ月、標準治療群では5.7ヵ月で、ハザード比は0.422(95%CI:0.256~0.694)であり、アファチニブの有意なPFS延長効果が示された。ORRはアファチニブで61.4%、標準治療で47.1%とアファチニブで良好であった。安全性は過去のLUX-Lung試験と同様のプロファイルであった。uncommon変異に対する初めての第III相試験であり、OSの結果が待たれるところであるが、同対象への標準治療としてアファチニブの地位はほかのEGFR-TKIよりリードしたものと考える。終わりに今回のESMOでは、取り上げた演題以外にもMini Oralやポスター発表で非常に興味深い発表が多かったです。今回のレポートが、多くの先生の臨床にお役に立てれば幸いです。

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非心房細動での心房高頻度エピソード、抗凝固薬は勧められず/NEJM

 植込み型心臓デバイスによって検出された心房高頻度エピソード(atrial high-rate episodes:AHRE)は心房性不整脈を示唆しており、心房細動と類似の病態だが、発現はまれで持続時間が短い。ドイツ・Atrial Fibrillation Network(AFNET)のPaulus Kirchhof氏らは「NOAH-AFNET 6試験」において、心房細動(通常の心電図検査で検出されるもの)のない患者におけるAHREの発現が、抗凝固薬の投与開始を正当化するかを検討した。その結果、直接経口抗凝固薬エドキサバンによる抗凝固療法はプラセボと比較して、心血管死、脳卒中、全身性塞栓症の複合の発生率を減少させず、全死因死亡または大出血の複合の発生率が有意に高いことを明らかにした。研究の詳細は、NEJM誌オンライン版2023年8月25日号に掲載された。欧州のイベント主導型、二重盲検ダブルダミー無作為化試験 NOAH-AFNET 6試験は、欧州18ヵ国206施設で実施されたイベント主導型の二重盲検ダブルダミー無作為化試験であり、2016年6月~2022年9月に患者の登録を行った(German Center for Cardiovascular Research[DZHK]などの助成を受けた)。 年齢65歳以上、植込み型デバイスで6秒以上持続するAHREが検出され、1つ以上の脳卒中リスク因子を有し、心電図で検出された心房細動の既往歴がない患者を対象とした。これらの患者を、ダブルダミーデザインを用いてエドキサバン(60mg、1日1回)またはプラセボを経口投与する群に無作為に割り付けた。 有効性の主要アウトカムは、心血管死、脳卒中、全身性塞栓症の複合であり、イベント発生までの時間分析で評価。安全性のアウトカムは、全死因死亡または大出血の複合とした。 本試験は、安全性への懸念と、エドキサバンの有効性に関する独立した非公式の無益性評価の結果に基づき、追跡期間中央値21ヵ月の時点で早期終了となった。終了時に、予定されていた患者登録は完了していた。 解析集団は2,536例で構成された(エドキサバン群1,270例、プラセボ群1,266例)。全体の平均年齢は78歳(67.0%が75歳以上)、女性が37.4%で、AHRE持続時間中央値は2.8時間だった。心電図検査では、2,536例中462例(18.2%、8.7%/人年)が心房細動と診断された。脳卒中の発生には差がない、大出血は有意に多い 有効性の主要アウトカムは、エドキサバン群が83例(3.2%/人年)、プラセボ群は101例(4.0%/人年)で発生し、両群間に有意な差を認めなかった(補正後ハザード比[HR]:0.81、95%信頼区間[CI]:0.60~1.08、p=0.15)。 安全性のアウトカムは、プラセボ群が114例(4.5%/人年)で発生したのに対し、エドキサバン群は149例(5.9%/人年)と有意に多く発生した(補正後HR:1.31、95%CI:1.02~1.67、p=0.03)。 脳卒中(脳梗塞)の発生は、エドキサバン群が22例(0.9%/人年)、プラセボ群は27例(1.1%/人年)でみられ、両群で同程度であった(補正後HR:0.79、95%CI:0.45~1.39)。また、全身性塞栓症は、それぞれ14例(0.5%/人年)、28例(1.1%/人年)で認められた(0.51、0.27~0.96)。 心血管死(エドキサバン群52例[2.0%/人年]vs.プラセボ群57例[2.2%/人年]、補正後HR:0.90[95%CI:0.62~1.31])、脳卒中(脳梗塞)または全身性塞栓症(25例[1.0%/人年]vs.38例[1.5%/人年]、0.65[0.39~1.07])の発生にも、両群間に差はみられなかった。 大出血(エドキサバン群53例[2.1%/人年]vs.プラセボ群25例[1.0%/人年]、補正後HR:2.10[95%CI:1.30~3.38]、p=0.002)の発生はエドキサバン群で多かったが、全死因死亡(111例[4.3%/人年]vs.94例[3.7%/人年]、1.16[0.88~1.53]、p=0.28)は両群で同程度であった。 著者は、「本試験では、エドキサバンはプラセボに比べて脳卒中の発生を抑制せず、脳卒中の発生率そのものは低かったことから、AHREを有する患者では抗凝固療法を控えるのが適切と考えられる」としている。

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DOAC内服AF患者の出血リスク、DOACスコアで回避可能か/ESC2023

 心房細動患者における出血リスクの評価には、HAS-BLEDスコアが多く用いられているが、このスコアはワルファリンを用いる患者を対象として開発されたものであり、その性能には限界がある。そこで、米国・ハーバード大学医学大学院のRahul Aggarwal氏らは直接経口抗凝固薬(DOAC)による出血リスクを予測する「DOACスコア」を開発・検証した。その結果、大出血リスクの判別能はDOACスコアがHAS-BLEDスコアよりも優れていた。本研究結果は、オランダ・アムステルダムで2023年8月25日~28日に開催されたEuropean Society of Cardiology 2023(ESC2023、欧州心臓病学会)で発表され、Circulation誌オンライン版2023年8月25日号に同時掲載された。 RE-LY試験1)のダビガトラン(150mgを1日2回)投与患者5,684例、GARFIELD-AFレジストリ2)のDOAC投与患者1万2,296例を対象として、DOACスコアを開発した。その後、一般化可能性を検討するため、COMBINE-AF3)データベースのDOAC投与患者2万5,586例、RAMQデータベース4)のリバーロキサバン(20mg/日)投与患者、アピキサバン(5mgを1日2回)投与患者1万1,1945例を対象に、DOACスコアの有用性を検証した。 以下の10項目の合計点(DOACスコア)に基づき、0~3点:非常に低リスク、4~5点:低リスク、6~7点:中リスク、8~9点:高リスク、10点以上:非常に高リスクに患者を分類し、DOACスコアの大出血リスクの判別能を検討した。また、DOACスコアとHAS-BLEDスコアの大出血リスクの判別能を比較した。【DOACスコア】<年齢> 65~69歳:2点 70~74歳:3点 75~79歳:4点 80歳以上:5点<クレアチニンクリアランス/推算糸球体濾過量(eGFR)> 30~60mL/分:1点 30mL/分未満:2点<BMI> 18.5kg/m2未満:1点<脳卒中、一過性脳虚血発作(TIA)、塞栓症の既往> あり:1点<糖尿病の既往> あり:1点<高血圧症の既往> あり:1点<抗血小板薬の使用> アスピリン:2点 2剤併用療法(DAPT):3点<NSAIDsの使用> あり:1点<出血イベントの既往> あり:3点<肝疾患※> あり:2点※ AST、ALT、ALPが正常値上限の3倍以上、ALPが正常値上限の2倍以上、肝硬変のいずれかが認められる場合 主な結果は以下のとおり。・RE-LY試験の対象患者5,684例中386例(6.8%)に大出血が認められた(追跡期間中央値:1.74年)。・ブートストラップ法による内部検証後において、DOACスコアは大出血について中等度の判別能を示した(C統計量=0.73)。・DOACスコアが1点増加すると、大出血リスクは48.7%上昇した。・いずれの集団においても、DOACスコアはHAS-BLEDスコアよりも優れた判別能を有していた。 -RE-LY(C統計量:0.73 vs.0.60、p<0.001) -GARFIELD-AF(同:0.71 vs.0.66、p=0.025) -COMBINE-AF(同:0.67 vs.0.63、p<0.001) -RAMQ(同:0.65 vs.0.58、p<0.001) 本研究結果について、著者らは「DOACスコアを用いることで、DOACを使用する心房細動患者の出血リスクの層別化が可能となる。出血リスクを予測することで、心房細動患者の抗凝固療法に関する共同意思決定(SDM)に役立てることができるだろう」とまとめた。

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がん患者の血栓症再発、エドキサバン12ヵ月投与が有効(ONCO DVT)/ESC2023

 京都大学の山下 侑吾氏らは、下腿限局型静脈血栓症 (DVT)を有するがん患者に対してエドキサバンによる治療を行った場合、症候性の静脈血栓塞栓症(VTE)の再発またはVTE関連死の複合エンドポイントに関して、12ヵ月投与のほうが3ヵ月投与よりも優れていたことを明らかにした。本結果はオランダ・アムステルダムで8月25~28日に開催されたEuropean Society of Cardiology(ESC、欧州心臓学会)のHot Line Sessionで報告され、Circulation誌オンライン版2023年8月28日号に同時掲載された。 抗凝固療法の長期処方は、血栓症の再発予防にメリットがある一方で出血リスク増加が危惧されており、その管理方針には難渋することが多いが、日本国内だけではなく世界的にもこれまでにエビデンスが乏しい領域であった。とくに、比較的軽微な血栓症を有するがん患者における抗凝固薬の使用については、ガイドラインでも投与期間を含めた明確な治療指針については触れられていない現状があることから、同氏らはがん患者における下腿限局型DVTに対する抗凝固療法の最適な投与期間を明らかにする大規模なランダム化比較試験を実施した。 本研究は日本国内60施設で行われた医師主導型の多施設共同非盲検化無作為化第IV相試験で、下腿限局型DVTと新規に診断されたがん患者を、エドキサバン治療12ヵ月(Long DOAC)群または3ヵ月(Short DOAC)群に1:1に割り付けた。主要評価項目は12ヵ月時点での症候性VTEの再発またはVTE関連死の複合エンドポイントで、主な副次評価項目は12ヵ月時点での大出血(国際血栓止血学会の基準による)とした。 主な結果は以下のとおり。・2019年4月~2022年6月までの601例がITT解析対象集団として検討された。エドキサバン12ヵ月群には296例、3ヵ月群には305例が割り付けられた。・対象者の平均年齢は70.8歳で28%が男性だった。全体の20%がベースライン時点でDVTの症状を呈していた。・症候性のVTE再発またはVTE関連死は、エドキサバン12ヵ月群で296例中3例(1.0%)、エドキサバン3ヵ月群で305例中22例(7.2%)発生した(オッズ比[OR]:0.13、95%信頼区間[CI]:0.03~0.44)。・大出血は12ヵ月群では28例(9.5%)、3ヵ月群では22例(7.2%)で発生した(OR:1.34、95%CI:0.75~2.41)。・事前に指定されたサブグループは、主要評価項目の推定値に影響を与えなかった。 山下氏は、「がん患者では軽微な血栓症でもその後の血栓症悪化のリスクが高い、というコンセプトを証明した試験であり、下腿限局型DVTを有するがん患者においては、抗凝固療法による再発予防がなければ、その後の再発リスクは決して低くはないことが示された」とまとめた。一方で、「統計学的な有意差は認めなかったが、抗凝固療法に伴う出血リスクも決して無視することはできないイベント率であり、本研究の結果を日常臨床に当てはめる際には、やはり血栓症リスクと出血リスクのバランスを考慮したうえで、患者個別レベルでの検証が必要であり、とくに出血リスクの推定が重要であると考えられる。同研究からさまざまなサブ解析を含めた検討が共同研究者により開始されているが、今後それらの検討結果を含めてさらなる検証を続けたい」と述べた。 最後に、「本研究は、がん関連血栓症を専門とする数多くの共同研究者が日本全体で集結し、その多大な尽力により成り立っている。日本の腫瘍循環器領域における大きな研究成果が、今回日本から世界に情報発信されたが、そのような貴重な取り組みに関与させていただいた1人として、すべての共同研究者、事務局の関係者、および本研究に参加いただいた患者さんに何よりも大きな感謝を示したい」と締めくくった。

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静脈血栓塞栓症での長期投与の安全性、DOAC vs.ワルファリン

 静脈血栓塞栓症(VTE)に対する経口抗凝固薬の投与期間は、海外では初回3~6ヵ月の治療期間からの延長が推奨される場合があるが、直接経口抗凝固薬(DOAC)またはワルファリンの臨床アウトカムの違いは明らかにされていない。そこで、米国・カルフォルニア大学のMargaret C. Fang氏らが急性VTE患者を対象にDOACまたはワルファリンの抗凝固療法の6ヵ月以上の延長による「VTEの再発」「出血による入院」および「全死因死亡の割合」への影響を比較した。その結果、DOAC治療はVTEの再発リスク低下と関連し、臨床アウトカムの観点からVTEの長期治療にDOACの使用を支持すると報告した。JAMA Network Open誌2023年8月1日号掲載の報告。 本研究は2010~18年にVTE発症の診断を受け、6ヵ月以上の経口抗凝固薬(DOACまたはワルファリン)による治療を完了した18歳以上の成人を対象に実施したもの。対象者を最初の6ヵ月の治療期間終了後から抗凝固療法の中止、イベント発生、登録解除・研究追跡期間終了(2019年12月31日)まで追跡調査した。主要評価項目はVTEの再発、出血による入院、全死因死亡の100人年あたりの割合で、解析にはCox比例ハザードモデルが用いられた。 主な結果は以下のとおり。・6ヵ月以上の抗凝固療法を受けたVTE患者計1万8,495例(75歳以上:5,477例[29.6%]、女性:8,973例[48.5%])を解析。そのうちDOACによる治療は2,134例(11.5%)、ワルファリンによる治療は1万6,361例(88.5%)が受けていた。・未調整のイベント発生率について、VTEの再発はDOAC群のほうがワルファリン群よりも低かった(100人年あたりのイベント発生率:2.92[95%信頼区間[CI]:2.29~3.54]vs. 4.14[95%CI:3.90~4.38])。出血は1.02(95%CI:0.66~1.39)vs. 1.81(95%CI:1.66~1.97)、全死因死亡は3.79(95%CI:3.09~4.49)vs. 5.40(95%CI:5.13~5.66)だった。・多変量解析後ではDOAC群でVTEの再発リスク低下と関連していた(調整ハザード比:0.66[95%CI:0.52~0.82])。

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血栓吸引療法前のワルファリン服用は気になる?(解説:後藤信哉氏)

 血栓溶解療法、冠動脈インターベンション(PCI)などの急性期再灌流療法の普及により、急性心筋梗塞の生命予後、心不全リスクともに劇的に改善した。重要臓器の虚血性障害との意味では脳梗塞と心筋梗塞は類似性が高い。実際に脳を灌流する太い血管の閉塞による血栓を急性期に吸引・除去すれば、脳梗塞の予後も改善できる。 血管が血栓性に閉塞することにより心筋梗塞、脳梗塞は発症する。閉塞を解除すれば臓器への血流が再開する。臓器の虚血性障害は改善される。しかし、再灌流は利点だけではない。虚血臓器に血液が再灌流されると臓器の再灌流障害も起こる。脳組織は脆弱なので再灌流障害が脳出血の原因になるリスクはある。さらに、抗凝固療法を施行すると出血巣が大きくなるリスクがある。 脳卒中予防のためにワルファリンを服用している症例では、再灌流障害による出血リスクが高い可能性も想定される。本研究は後ろ向き研究ではあるが、7日以内にワルファリンを服用している症例でも血栓吸引療法後の脳出血リスクは非服用例と差がないことを示唆した。後ろ向きの観察研究ではあるが、臨床データの公開には価値があることを示した。

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オズウイルス感染症に気をつけろッ! その1【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さん、こんにちは。大阪大学の忽那です。この連載では、本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気を付けろッ」は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そして時にまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。本日のテーマは「オズウイルス感染症」です。皆さんはすでにオズウイルス感染症についてのニュースはご覧になったでしょうか。2023年6月23日、国立感染症研究所から日本初、いやむしろ世界初となるオズウイルス感染症の症例が報告されました。世界で初めて報告されたオズウイルス感染症例症例の概要は以下の通りです。2022年初夏、高血圧症・脂質異常症を基礎疾患に持ち、海外渡航歴のない茨城県在住の70代女性に倦怠感、食欲低下、嘔吐、関節痛が出現し、39℃の発熱が確認された。肺炎の疑いで抗菌薬を処方されて在宅で経過を観察していたが、症状が増悪し、体動困難となったため再度受診し、その後、紹介転院となった。身体所見上は右鼠径部に皮下出血がみられたが皮疹はなかった。血液検査では、血小板減少(6.6万/µL)、肝障害、腎障害、炎症反応高値(CRP22.82mg/dL)、CK高値(2,049U/L、CK-MB14IU/L)、LDH高値(671U/L)、フェリチン高値(10,729ng/mL)が認められた。入院時、右鼠径部に飽血に近い状態のマダニの咬着が確認されたため、マダニ媒介感染症が疑われたが、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)やリケッチア症は陰性であった。入院後、心筋炎によるものと考えられる房室ブロックが出現し、ペースメーカーが留置され、心筋炎が疑われた。入院20日目には意識障害が出現し、多発脳梗塞が確認されたため抗凝固療法を開始した。治療継続中の入院26日目、突如心室細動が生じて死亡し、病理解剖が行われた。キーワード的には、「マダニ刺咬後の発熱」「血小板減少」「肝障害」「腎障害」「CK上昇」「フェリチン高値」「心筋炎」「凝固障害」などでしょうか。マダニ媒介感染症は流行地域も重要ですので、「茨城県」というのも大事な情報です。とくに心筋炎については、他のマダニ媒介感染症でもあまり報告がなく、オズウイルス感染症に特徴的なのかもしれません。とはいえ、まだ世界で1例ですので、オズウイルス感染症の典型的な経過なのかもよくわかっていません。オズウイルス肉眼で確認この症例は、原因不明でありましたが、茨城県衛生研究所において実施した次世代シーケンサー(NGS)によるメタゲノム解析とMePIC v2.0を用いた検索で、血液、尿などの検体からオズウイルスの遺伝子断片が検出され、国立感染症研究所でウイルスが分離され、遺伝子の配列が解析された結果、オズウイルスであることが確認されました(図1)。図1 患者検体から分離されたオズウイルス粒子の電子顕微鏡写真画像を拡大する(出典:国立感染症研究所.IASR.「初めて診断されたオズウイルス感染症患者」)本症例で初めてオズウイルスがみつかったわけではなく、実は以前からオズウイルスの存在は知られていました。ヒトで世界初の感染例なのに、その前からウイルスの存在が知られており、本症例ではそのオズウイルスの遺伝子断片を検出するためのRT-PCR検査まで行われています。これはなぜかと言うと、マダニからオズウイルスからみつかっており、「いつかこのようなオズウイルスによるヒト感染例が現れるのではないか」と予想され検査体制も整えられていたためです。ぶっちゃけ、マダニ媒介感染症の世界では、SFTSがみつかって以降、ヒトでの感染例が出る前から、マダニが持っているウイルスを先回りして調べるというのがトレンドとなっており、このオズウイルスも2018年に愛媛県のタカサゴキララマダニというマダニからオズウイルスがみつかっていました1)(なお、このオズウイルスは現時点では日本以外の国ではみつかっていません)。オズウイルスの正体とは、バーボンとの関係はオズウイルス(通は「OZV」と呼ぶ)は、オルソミクソウイルス科トゴトウイルス属に属するウイルスです。オルソミクスウイルス科と言えばインフルエンザウイルスが有名ですね。オルソミクスウイルスは、(1)Influenzavirus A、(2)Influenzavirus B、(3)Influenzavirus C、(4)Thogotovirus(トゴトウイルス)、(5)Isavirus(アイサウイルス)の5つの属に分類されます。トゴトウイルス属には他にもトゴトウイルス、ドーリウイルスなどがあり、とくにオズウイルスはアメリカで報告されている「バーボンウイルス」に近縁のウイルスです。えっ…バーボンウイルスを知らないッ!?バーボンウイルス感染症は、2014年にカンザス州東部のバーボン郡の住民が感染したとして初めて報告され2)、その後ミズーリ州でも観察されている感染症です。お酒のバーボンとは関係ありません。このバーボンウイルスも致死率の高い感染症であり、その類縁ウイルスということでオズウイルスもヒトが感染すれば重症度は高いのではないかと予想されていました。ではわが国で今後もオズウイルス感染症の症例が報告される可能性はあるのでしょうか?次回、その可能性を解説します!1)Ejiri H, et al. Virus Res. 2018;249:57-65.2)Kosoy OI, et al. Emerg Infect Dis. 2015;21:760-764.

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ショッピングカートで不整脈を検出できるようになる?

 スーパーマーケット(以下、スーパー)のショッピングカートが脳卒中予防に役立つ日が来るかもしれない。英リバプール・ジョン・ムーア大学教授のIan Jones氏らによる研究で、ハンドルバーに心電図センサーを内蔵したショッピングカートを用いたスクリーニングにより、脳卒中の主な原因である心房細動を持つ人を見つけ出せる可能性が示された。この研究結果は、欧州心臓病学会(ESC)の構成団体の一つであるAssociation of Cardiovascular Nursing & Allied Professions(心血管看護・および関連専門職協会)の年次集会(ACNAP 2023、6月23~24日、英エディンバラ)で発表された。 このショッピングカートを用いたスクリーニング方法は、未診断の心房細動を持つ買い物客を見つけ出すことを目的としている。米アーマンソンUCLA心筋症センターの所長を務めるGregg Fonarow氏は、「心房細動は無症状なこともあるため、脳卒中を発症して初めて心房細動の診断を受ける人もいる。複数の研究から、未診断の心房細動を持つ成人の数は、米国だけで75万~150万人に上ると推定されている」と説明する。一方、Jones氏らによると、世界の診断例と未診断例を含めた心房細動の患者数は4000万人を超えると推定されている。 こうした理由から、できるだけ早く心房細動を持つ人を見つけ出すためのスクリーニング方法に対する関心が高まりつつあるとFonarow氏は説明。「スクリーニングによって心房細動を早期の段階で診断し、脳卒中予防のために経口抗凝固薬による抗凝固療法(抗血栓療法)を開始できる可能性がある」と話す。 Jones氏らは今回、心電図センサーがハンドルに装備された10台のショッピングカートを使った実験を、2カ月にわたり、4カ所のスーパーで実施した。これらのスーパーには、薬局も併設されていた。 試験参加者が、ショッピングカートのハンドルバーを1分以上握っている間に、ハンドルバーの心電図センサーがその人の心拍リズムを評価し、問題がなければセンサーが緑色に、問題が検出された場合には赤色に点灯する。緑色に点灯した買い物客に対しては、その後、手首の脈拍測定によるスクリーニングを実施し、ハンドルバーの心電図センサーによるスクリーニング結果の正確性を確認した。一方、赤色に点灯した買い物客に対しては、施設に併設する薬局の薬剤師が手首の脈拍測定によるスクリーニングを行うとともに、ショッピングカートに装備されたものとは異なるセンサーによるスクリーニングも行った。さらに、赤色に点灯した買い物客の心電図データは循環器専門医によっても確認された。 最終的に2,155人の買い物客がこの研究に参加した。研究参加者には、1)心房細動は検出されなかった、2)心房細動が検出され、確認された(2週間以内に循環器専門医の受診を予約)、3)心房細動の有無が不確定であり、スクリーニングのやり直しも可能、のいずれかの結果が示された。 その結果、220人が、センサーが赤色に点灯するか手首の脈拍測定で不整脈が検出される、あるいはその両方が当てはまり、心房細動の疑いありと判定された。このうち、最終的に59人が心房細動と診断された。残りの参加者のうち、115人では心房細動は検出されず、46人で不確定との結果が示された。心房細動と診断された59人の平均年齢は74歳で、女性が43%を占めていた。また、59人中20人は、すでに心房細動を持っていることを把握していたが、その他の人は、今回の研究で初めて心房細動と診断された。 全体的な精度については、このショッピングカートによるスクリーニングで心房細動が検出された買い物客のうち、実際に心房細動と診断された人の割合は4分の1から2分の1程度にとどまっていた(陽性的中率0.24〜0.56)。つまり、このスクリーニング方法では、多くの人が、実際には心房細動を持っていないのに持っていると誤って診断されていたということだ。同時に、実際に心房細動を持っていた人たちの約半数で、このスクリーニング方法では心房細動が見逃されていた(陰性的中率0.55〜1.00)。 ただし、今回の研究では、無作為に選ばれた買い物客の3分の2は研究参加を快諾していたことから、この方法は一般の人たちに受け入れられやすく、精度の問題が改善されれば今後も研究を重ねていく価値があるとJones氏は主張している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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脳卒中既往のある心不全患者の心血管リスク、HFrEFとHFpEFで検討

 左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)と左室駆出率が保たれた心不全(HFpEF)の患者における脳卒中既往と心血管イベント(心血管死/心不全入院/脳卒中/心筋梗塞)発生率を調べたところ、左室駆出率にかかわらず、脳卒中既往のある患者はない患者に比べて心血管イベントリスクが高いことが示された。英国・グラスゴー大学のMingming Yang氏らが、European Heart Journal誌オンライン版2023年6月26日号で報告。 本研究は、HFrEFとHFpEFの患者が登録されていた7つの臨床試験のメタ解析である。 主な結果は以下のとおり。・脳卒中既往があったのは、HFrEF患者2万159例中1,683例(8.3%)、HFpEF患者1万3,252例中1,287例(9.7%)であった。・左室駆出率に関係なく、脳卒中既往のある患者は血管合併症が多く、心不全も悪化していた。・HFrEF患者では、心血管死/心不全入院/脳卒中/心筋梗塞の複合アウトカム発生率は、脳卒中既往ありで100人年当たり18.23(95%信頼区間[CI]:16.81~19.77)に対し、既往なしで13.12(95%CI:12.77~13.48)であった(ハザード比[HR]:1.37、95%CI:1.26~1.49、p<0.001)。・HFpEF患者では、複合アウトカム発生率は、脳卒中既往ありで100人年当たり14.16(95%CI:12.96~15.48)に対し、既往なしで9.37(95%CI:9.06~9.70)であった(HR:1.49、95%CI:1.36~1.64、p<0.001)。・脳卒中既往ありの患者では、複合アウトカムの各項目の頻度が高く、またその後の脳卒中リスクは2倍だった。・脳卒中既往ありの患者は、心房細動患者の30%が抗凝固療法を受けておらず、動脈疾患患者の29%がスタチンを服用していなかった。また、HFrEF患者の17%、HFpEF患者の38%が収縮期血圧をコントロールされていなかった(140mmHg以上)。 著者らは、「脳卒中既往のある心不全患者は心血管イベントリスクが高く、ガイドライン推奨の治療を行っていない患者をターゲットにすることが、この高リスク集団の予後を改善する方法かもしれない」と考察している。

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心房細動の脳梗塞後、抗凝固療法開始は早いほうがよい?(解説:後藤信哉氏)

 心房細動症例の脳卒中リスクは洞調律例よりも高いとされる。しかし、脳梗塞急性期の抗凝固療法では梗塞巣からの出血が心配である。DOAC時代になって、ワルファリンの時代よりも抗凝固療法に対する心理的ハードルは低下した。心房細動があり、脳梗塞を経験した症例での早期(48時間以内)と晩期(6~7日後)のDOAC療法による30日以内の脳梗塞・全身性塞栓症・大出血・症候性頭蓋内出血の発現リスクをランダムに比較した。 本研究は、実臨床を反映したシンプルな仮説検証試験である。実臨床の中で、シンプルな仮説検証を繰り返しながら医療の質をシステム的に改善するアプローチとして価値のある研究である。 本研究はSwiss National Science Foundationなどによる助成研究である。日本でも公的資金により、CROなどを使用せずに、シンプルに仮説検証研究を安価に施行できるようになるとよいと思う。

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複数流産歴のある遺伝性血栓症女性への低分子ヘパリン、出生率を改善せず/Lancet

 2回以上の流産歴があり、遺伝性血栓性素因による特発性血栓症の確定診断を受けた女性に対し、低分子ヘパリン(LMWH)投与は生児出生率の増加に結び付かないことが示された。英国・ウォーリック大学のSiobhan Quenby氏らが、欧米5ヵ国の病院で行った国際非盲検無作為化対照試験「ALIFE2試験」の結果を報告した。抗凝固療法は、不育症および遺伝性血栓性素因を有する女性の流産回数と有害妊娠アウトカムを減らす可能性が示唆されており、研究グループは、同女性集団におけるLMWH vs.標準治療を評価した。結果を踏まえて著者は、「不育症および遺伝性血栓性素因を有する女性にLMWHの使用は推奨しない。また、不育症の女性に遺伝性血栓性素因のスクリーニングを行わないことを推奨する」と述べている。Lancet誌オンライン版2023年6月1日号掲載の報告。妊娠7週目までに低用量LMWHを投与 ALIFE2試験は、英国(26病院)、オランダ(10)、米国(2)、ベルギー(1)、スロベニア(1)の40病院で被験者を募り、18~42歳で、流産歴2回以上、遺伝性血栓性素因による特発性血栓症の確定診断を受け、妊娠を試みている、もしくは妊娠7週目以前の女性を対象に行われた。 尿検査で妊娠を確認後、研究グループは被験者を無作為に2群に分け、一方には標準治療+低用量LMWH投与(LMWH群)、もう一方には標準治療のみ(標準治療群)を行った。LMWH投与は妊娠7週目までに開始し、妊娠終了まで継続した。 主要アウトカムは生児出生率で、データが入手可能な女性全員を対象に評価した。安全性アウトカムは、出血、血小板減少症、皮膚反応などで、無作為化の対象で安全性イベントを報告した全員について評価した。生児出生率、LMWH群72%、標準治療群71%で同等 2012年8月1日~2021年1月30日に、1万625例が適格性評価を受け、428例が試験登録され、うち妊娠が確認された326例が無作為化された(LMWH群164例、標準治療群162例)。 生児出生率は、LMWH群が72%(主要アウトカムデータを入手できた162例中116例)、標準治療群が71%(同158例中112例)だった(補正後オッズ比:1.08[95%信頼区間:0.65~1.78]、絶対群間リスク差:0.7%[同:-9.2~10.6])。 有害イベントは、LMWH群164例中39例(24%)、標準治療群162例中37例(23%)で報告された。

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血圧管理ケアバンドル、脳内出血の機能的アウトカムを改善/Lancet

 脳内出血の症状発現から数時間以内に、高血糖、発熱、血液凝固障害の管理アルゴリズムとの組み合わせで早期に集中的に降圧治療を行うケアバンドルは、通常ケアと比較して、機能的アウトカムを有意に改善し、重篤な有害事象が少ないことが、中国・四川大学のLu Ma氏らが実施した「INTERACT3試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年5月25日号で報告された。10ヵ国121病院のstepped wedgeクラスター無作為化試験 INTERACT3試験は、早期に集中的に血圧を下げるプロトコールと、高血糖、発熱、血液凝固障害の管理アルゴリズムを組み込んだ目標指向型ケアバンドルの有効性の評価を目的に、10ヵ国(低・中所得国9、高所得国1)の121病院で実施された実践的なエンドポイント盲検stepped wedgeクラスター無作為化試験であり、2017年5月27日~2021年7月8日に参加施設の無作為化が、2017年12月12日~2021年12月31日に患者のスクリーニングが行われた(英国保健省などの助成を受けた)。 参加施設は、ケアバンドルと通常ケアを行う時期が異なる3つのシークエンスに無作為に割り付けられた。各シークエンスは、4つの治療期間から成り、3シークエンスとも1期目は通常ケアが行われ、ケアバンドルはシークエンス1が2~4期目、シークエンス2は3~4期目、シークエンス3は4期目に行われた。 ケアバンドルのプロトコールには、収縮期血圧の早期厳格な降圧(目標値:治療開始から1時間以内に140mmHg未満)、厳格な血糖コントロール(目標値:糖尿病がない場合6.1~7.8mmol/L、糖尿病がある場合7.8~10.0mmol/L)、解熱治療(目標体温:治療開始から1時間以内に37.5°C以下)、ワルファリンによる抗凝固療法(目標値:国際標準化比<1.5)の開始から1時間以内の迅速解除が含まれ、これらの値が異常な場合に実施された。 主要アウトカムは、マスクされた研究者による6ヵ月後の修正Rankin尺度(mRS、0[症状なし]~6[死亡]点)で評価した機能回復であった。6ヵ月以内の死亡、7日以内の退院も良好 7,036例(平均年齢62.0[SD 12.6]歳、女性36.0%、中国人90.3%)が登録され、ケアバンドル群に3,221例、通常ケア群に3,815例が割り付けられ、主要アウトカムのデータはそれぞれ2,892例と3,363例で得られた。 6ヵ月後のmRSスコアは、通常ケア群に比べケアバンドル群で良好で、不良な機能的アウトカムの可能性が有意に低かった(共通オッズ比[OR]:0.86、95%信頼区間[CI]:0.76~0.97、p=0.015)。 ケアバンドル群におけるmRSスコアの良好な変化は、国や患者(年齢、性別など)による追加補正を含む感度分析でも、全般に一致して認められた(共通OR:0.84、95%CI:0.73~0.97、p=0.017)。 6ヵ月の時点での死亡(p=0.015)および治療開始から7日以内の退院(p=0.034)も、ケアバンドル群で優れ、健康関連QOL(EQ-5D-3Lで評価)ドメインのうち痛み/不快感(p=0.0016)と不安/ふさぎ込み(p=0.046)が、ケアバンドル群で良好だった。 また、通常ケア群に比べケアバンドル群の患者は、重篤な有害事象の頻度が低かった(16.0% vs.20.1%、p=0.0098)。 著者は、「このアプローチは、収縮期血圧140mmHg未満を目標とする早期集中血圧管理を基本戦略とする簡便な目標指向型のケアバンドルプロトコールであり、急性期脳内出血患者の機能的アウトカムを安全かつ効果的に改善した」とまとめ、「この重篤な疾患に対する積極的な管理の一環として、医療施設は本プロトコールを取り入れるべきと考えられる」としている。

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心房細動を伴う脳梗塞、DOAC投与は早期か後期か/NEJM

 急性脳梗塞を発症した心房細動患者における直接経口抗凝固薬(DOAC)の、至適な投与開始時期は明らかにされていない。スイス・バーゼル大学のUrs Fischer氏らは、「ELAN試験」において、DOACの早期投与と後期投与を比較した。その結果、両群のアウトカムの発生に大きな差はなかったものの、早期に投与を開始しても過度なリスクの増加はないとことが示唆された。NEJM誌オンライン版2023年5月24日号掲載の報告。15ヵ国の無作為化試験 ELAN試験は、日本を含む15ヵ国103施設が参加した医師主導の非盲検無作為化試験であり、2017年11月~2022年9月の期間に患者の登録が行われた(スイス国立科学財団などの助成を受けた)。 脳卒中による入院中に、永続性・持続性・発作性の非弁膜症性心房細動または心房細動と診断された脳梗塞患者が、DOACによる抗凝固療法を早期(軽症または中等症の脳卒中の発症から48時間以内、重症脳卒中の発症から6~7日)、または後期(軽症脳卒中の発症から3~4日、中等症脳卒中の発症から6~7日、重症脳卒中の発症から12~14日)に開始する群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、無作為化から30日以内の再発脳梗塞、全身性塞栓症、頭蓋外大出血、症候性頭蓋内出血、血管死の複合とされた。主要アウトカム発生、早期開始2.9% vs.後期開始4.1%、90日後は3.7% vs.5.6% 2,013例(年齢中央値77歳[四分位範囲[IQR]:70~84]、女性45%、軽症37%、中等症40%、重症23%)が登録され、早期抗凝固療法群に1,006例、後期抗凝固療法群に1,007例が割り付けられた。 30日時点で、主要アウトカムのイベントは、早期抗凝固療法群が29例(2.9%)、後期抗凝固療法群は41例(4.1%)で発生した(オッズ比[OR]:0.70[95%信頼区間[CI]:0.44~1.14]、群間リスク差:-1.18ポイント[95%CI:-2.84~0.47])。また、90日の時点では、それぞれ36例(3.7%)、54例(5.6%)で発生した(群間リスク差:-1.92%ポイント[95%CI:-3.82~-0.02])。 再発脳梗塞は、30日の時点で早期抗凝固療法群14例(1.4%)、後期抗凝固療法群25例(2.5%)で発生し(OR:0.57[95%CI:0.29~1.07]、群間リスク差:-1.14ポイント[95%CI:-2.41~0.13])、90日の時点でそれぞれ18例(1.9%)、30例(3.1%)で認められた(0.60[0.33~1.06]、-1.29ポイント[-2.72~0.13])。 また、症候性頭蓋内出血は、30日の時点で両群とも2例(0.2%)で発生し(OR:1.02[95%CI:0.16~6.59]、群間リスク差:0.01[95%CI:-0.52~0.53])、90日の時点でもこの2例(0.2%)ずつのみだった(1.00[0.15~6.45]、0.00[-0.54~0.53])。 著者は、「30日後の主要アウトカムの発生率は、リスク差の95%CIに基づくと、DOACの使用時期が遅い場合よりも早い場合のほうが、2.8ポイント低~0.5ポイント高の範囲と推定される」とまとめ、「30日までの再発脳梗塞や症候性頭蓋内出血の発生率は低いことから、早期治療開始は、適応がある場合、あるいは希望がある場合に支持される。アウトカムの発生率は30日後よりも90日後でわずかに高かったものの、早期抗凝固療法に伴う過度のリスクの増加はないことが示唆される」と指摘している。

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