サイト内検索

検索結果 合計:312件 表示位置:1 - 20

1.

虚血性脳卒中の2次予防、asundexian追加が有効性示す/NEJM

 非心原塞栓性虚血性脳卒中または高リスク一過性脳虚血発作(TIA)発症後72時間以内の患者において、血液凝固第XI因子(FXI)阻害薬asundexianの1日1回50mg経口投与は、抗血小板療法との併用下でプラセボと比較し大出血のリスクを増加させることなく、虚血性脳卒中および主要心血管イベントのリスクを有意に低下させることが、カナダ・McMaster UniversityのMukul Sharma氏らOCEANIC-STROKE Investigatorsが実施した「OCEANIC-STROKE試験」で示された。NEJM誌2026年4月16日号掲載の報告。37ヵ国702施設で第III相試験を実施 OCEANIC-STROKE試験は、日本を含む37ヵ国702施設で実施された国際共同無作為化二重盲検プラセボ対照イベント主導型第III相試験で、対象は非心原塞栓性虚血性脳卒中または高リスクTIA発症後72時間以内の2剤併用または単剤による抗血小板療法が予定されている18歳以上の患者であった。 虚血性脳卒中はNIHSSスコア(範囲0~42:高スコアほど重症)が15以下、高リスクTIAはABCD2スコア(範囲0~7:高スコアほど高リスク)が6または7と定義された。また、すべての患者は、急性非ラクナ梗塞の画像所見、冠動脈疾患・末梢血管疾患または50%以上の頸動脈狭窄の既往歴、脳血管アテローム性動脈硬化の画像所見のいずれか1つ以上を満たしていることとし、心房細動の既往歴または抗凝固療法の適応となる病態を有する患者などは除外した。 研究グループは、適格患者をasundexian(1日1回50mg経口投与、経管投与も可)群またはプラセボ群に無作為に割り付け、予定されていた抗血小板療法に加えて投与した。 有効性の主要アウトカムは虚血性脳卒中発症、副次アウトカムはすべての脳卒中(虚血性または出血性)、心血管死・心筋梗塞・脳卒中の複合、全死亡・心筋梗塞・脳卒中の複合など、安全性の主要アウトカムは国際血栓止血学会(ISTH)の定義による大出血であった。虚血性脳卒中およびすべての脳卒中が26%有意に減少、大出血は増加せず 2023年1月~2025年2月に1万2,578例がスクリーニングを受け、1万2,327例が無作為化された(asundexian群6,162例、プラセボ群6,165例)。 無作為化後の追跡期間中央値567日(四分位範囲:377~729)において、虚血性脳卒中はasundexian群で384例(6.2%)、プラセボ群で518例(8.4%)に発生した(原因別ハザード比[csHR]:0.74、95%信頼区間[CI]:0.65~0.84、層別log-rank検定のp<0.001)。 asundexian群およびプラセボ群で、すべての脳卒中はそれぞれ404例(6.6%)、545例(8.8%)(csHR:0.74、95%CI:0.65~0.84、層別log-rank検定のp<0.001)、心血管死・心筋梗塞・脳卒中の複合イベントは568例(9.2%)、685例(11.1%)(0.83、0.74~0.92、p<0.001)、全死因死亡・心筋梗塞・脳卒中の複合イベントは649例(10.5%)、757例(12.3%)(0.85、0.77~0.95、p=0.003)に発生した。 大出血は、asundexian群で1.9%(117/6,124例)、プラセボ群で1.7%(107/6,130例)に認められた(csHR:1.10、95%CI:0.85~1.44、層別log-rank検定のp=0.46)。有害事象の発現割合はasundexian群69.3%、プラセボ群70.1%であり、重篤な有害事象の発現割合はそれぞれ19.2%および19.5%であった。

2.

血栓後症候群、血管内治療が症状およびQOLを有意に改善/NEJM

 中等症または重症の血栓後症候群(PTS)および腸骨静脈閉塞を有する患者において、血管内治療は標準治療と比較し、6ヵ月後のPTS重症度を有意に軽減し健康関連QOLを改善した。ただし、出血リスクは高かった。米国・ワシントン大学のSuresh Vedantham氏らC-TRACT Trial Investigatorsが、同国29施設で実施した第III相無作為化非盲検評価者盲検比較試験「Chronic Venous Thrombosis: Relief with Adjunctive Catheter-Directed Therapy trial:C-TRACT試験」の結果を報告した。PTSは深部静脈血栓症(DVT)発症後によくみられ、下肢の重篤な症状により患者の活動性やQOLを著しく低下させることがある。血管内治療は、慢性静脈閉塞を除去でき、PTS重症度を軽減することが期待されていた。NEJM誌オンライン版2026年4月13日号掲載の報告。血栓後症候群に対する血管内治療の有効性を、6ヵ月後のPTS重症度で評価 研究グループは、中等症または重症のPTSを有し、画像診断により腸骨静脈閉塞(閉塞または50%以上の狭窄)が確認された患者を登録した。 PTSは、登録の3ヵ月以上前に発症したDVTの同側下肢における慢性静脈疾患と定義し、静脈症状により日常活動や作業能力に著しい制限が生じ、修正Venous Clinical Severity Score(VCSS)が8以上、Villalta PTSスコアが10以上、または開放性静脈性潰瘍を認める場合を中等症または重症とした。 適格患者を、血管内治療(腸骨静脈ステント留置および強化抗血栓療法)群または非血管内治療(標準治療のみ)群に1対1の割合で無作為に割り付けた。両群とも標準的なPTS治療として、圧迫療法、抗凝固療法、生活指導を行い、開放性静脈性潰瘍を有する患者はエビデンスに基づくケアを行うため創傷/潰瘍ケアクリニックへ紹介された。 主要アウトカムは、無作為化後6ヵ月時のPTS重症度で、VCSS(スコア範囲:0~30、高スコアほど重症)を用いて盲検下で評価した。主要な副次アウトカムは、無作為化後6ヵ月時の患者報告によるQOLで、静脈疾患に特異的なVenous Insufficiency Epidemiological and Economic Study Quality of Life(VEINES-QOL)質問票(範囲:0~100、4~6ポイントの変化を臨床的に重要な変化と定義)、および包括的なMedical Outcomes Study 36-Item Short-Form Health Status Survey(SF-36)を用いて評価した。安全性アウトカムは、出血、静脈血栓塞栓症の再発、および死亡とした。PTS重症度は血管内治療群で有意に低下、生活の質も向上 2018年7月~2025年6月に225例が無作為化された。このうち画像検査で腸骨静脈閉塞がないことが判明した1例を除く224例(血管内治療群112例、非血管内治療群112例)が主要解析の対象集団となった。 無作為化後6ヵ月時のPTS重症度は、血管内治療群が非血管内治療群に比べて有意に低かった(平均[±SD]VCSSスコア:8.1±5.1 vs.10.0±4.9、補正後群間差:-2.0、95%信頼区間[CI]:-3.2~-0.8、p=0.001)。 VEINES-QOLスコア(平均値±標準偏差)は、6ヵ月時点で血管内治療群62.8±24.6、非血管内治療群48.6±26.7であり、血管内治療群が良好であった(補正後群間差:14.5ポイント、95%CI:9.5~19.4、p<0.001)。同様に、SF-36の身体機能スコアも血管内治療群のほうが良好であった(補正後群間差:6.1ポイント、95%CI:2.8~9.3、p<0.001)。 安全性については、出血(大出血+非大出血)は血管内治療群のほうが非血管内治療群より発現割合が有意に高く(11.6%vs.3.6%、p=0.03)、その主な要因は非大出血であった(9.8%vs.2.7%)。

3.

中等度リスク肺塞栓症、超音波補助カテーテル血栓溶解療法が有望/NEJM

 中等度リスクの肺塞栓症において、抗凝固療法への超音波補助カテーテル血栓溶解療法の併用により、抗凝固療法単独と比較して、7日以内の肺塞栓症関連死、心肺の非代償状態または虚脱、肺塞栓症の症候性再発の複合のリスクが有意に低下し、大出血のリスクには差がないことが、米国・マサチューセッツ総合病院のKenneth Rosenfield氏らHI-PEITHO Investigatorsが行った「HI-PEITHO試験」の結果で示された。中等度リスクの急性期肺塞栓症の治療では、静脈内血栓溶解療法は循環虚脱を予防するが、大出血や脳卒中のリスクを増加させることが、大規模無作為化試験で示されている。高周波・低出力の超音波エネルギーは血栓溶解作用を増強する可能性があり、tPA(アルテプラーゼ)によるカテーテル血栓溶解療法の補助として超音波を用いるデバイスは、有効性を保持しつつアルテプラーゼの投与量を減らし、注入時間を短縮する可能性が示されていた。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2026年3月28日号で報告された。米国と欧州の無作為化試験 HI-PEITHO試験は、米国と欧州の59施設で実施したアダプティブデザインを用いた市販後非盲検(主要アウトカムの評価は盲検下)無作為化試験であり、2021年8月~2025年7月に参加者を登録した(Boston Scientificの助成を受けた)。 対象は、年齢18~80歳、中等度リスク肺塞栓症(右室拡張末期径/左室拡張末期径の比が1.0以上、かつトロポニン値の上昇)と診断され、心肺機能の指標(収縮期血圧110mmHg以下、心拍数100回/分以上、呼吸数20回/分超)のうち2つ以上満たす患者であった。 被験者を、アルテプラーゼを用いた超音波補助カテーテル血栓溶解療法(EkoSonic血管内システム[Boston Scientific製])+抗凝固療法を受ける群(介入群)または抗凝固療法のみの通常治療を受ける群(対照群)に、1対1の比率で無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、7日以内の肺塞栓症関連死、心肺の非代償状態または虚脱、肺塞栓症の症候性再発の複合とした。主に心肺非代償状態/虚脱のリスクが低下 ITT集団として544例(平均[±SD]年齢58.2[±13.5]歳、女性42.6%)を登録し、介入群に273例、対照群に271例を割り付けた。急性期肺塞栓症関連症状の平均持続期間は3.7(±3.4)日だった。 7日の時点での主要アウトカムのイベントは、対照群で28例(10.3%、95%信頼区間[CI]:7.2~14.5)に発現したのに対し、介入群では11例(4.0%、95%CI:2.3~7.1)と有意に少なかった(相対リスク:0.39、95%CI:0.20~0.77、p=0.005)。 主要アウトカムの構成要素別の解析では、主に心肺非代償状態/虚脱(介入群3.7%vs.対照群10.3%、相対リスク:0.4[95%CI:0.2~0.7])のリスクが介入群で大きく低下しており、肺塞栓症関連死(1.1%vs.0.4%、3.0[0.3~28.5])および肺塞栓症の症候性再発(0.4%vs.0.4%、1.0[0.1~15.8])については両群間に差を認めなかった。重篤な有害事象にも差はない 無作為化後7日以内の大出血は、介入群で11例(4.1%)、対照群で6例(2.2%)にみられた(p=0.32)。また、30日以内に大出血を認めたのは、それぞれ11例(4.1%)および8例(3.0%)であった(p=0.64)。 無作為化後30日までの重篤な有害事象(介入群14.8%vs.対照群16.2%、相対リスク:0.9[95%CI:0.6~1.3]、p=0.64)の発生率についても、両群間に有意な差を認めなかった。また、両群とも、頭蓋内出血は発生しなかった。長期アウトカムの追跡調査が進行中 著者は、「参加施設の試験プロトコルの順守状況がきわめて優れていたことを踏まえると、本試験の結果は、この介入法が中等度リスクの患者集団において良好な有効性と安全性プロファイルを有することを示唆する」「肺塞栓症後の長期アウトカムへの超音波補助カテーテル血栓溶解療法の潜在的な影響を評価するために、現在、12ヵ月間にわたる追跡調査が進行中である」としている。 また、「イベントの発生頻度が全体的に低かったため、本試験では、特定の患者サブグループにおいて治療効果を比較したり、2つの治療群間の出血性合併症の差異について確固たる結論を導き出すのに十分な統計学的検出力は得られなかった」と付言している。

4.

AFアブレーション後のDOAC、Apple Watchで服用日数を95%削減/日本循環器学会

 心房細動(AF)に対するカテーテルアブレーション術後において、ガイドラインでは脳梗塞・全身塞栓症リスク(CHA2DS2-VAScスコア)に基づいて長期的な抗凝固療法の継続が推奨されている1)。しかし、術後にAFが抑制されている患者においても一律に直接経口抗凝固薬(DOAC)を継続することは、出血リスクの増加や医療コストの増大を招く懸念がある。そこで、アブレーション術後の患者において、Apple Watchを用いてAFをリアルタイムで検出することで、必要な時だけDOACを服用する「イベント駆動型」戦略について、安全性と有効性を検証する多施設共同研究「Up to AF Trial」が実施された。その結果、DOACの服用日数を約95%削減しつつ、追跡期間中に脳梗塞や重大な出血イベントは発生しなかったことが示された。3月20〜22日に開催された第90回日本循環器学会学術集会のLate Breaking Clinical Trials 1にて、大阪大学の須永 晃弘氏が発表した。なお、本結果はCirculation Journal誌オンライン版2026年3月20日号に同時掲載された2)。 本研究は、2023年8月~2024年4月の期間に、関西9施設における前向き単群介入試験として実施された。アブレーション術後3ヵ月以上経過し、洞調律を維持しているCHA2DS2-VAScスコア3以下の患者50例(平均年齢63歳、女性10%)を対象とした。Apple Watchによる30日間の先行モニタリングでAFがないことを確認してDOACを休薬、その後はApple Watchの通知(高心拍または不規則な心拍)や患者自身による心電図(ECG)記録でAFが疑われた場合のみ服用を再開し、7日以内に医師を受診するという「イベント駆動型」プロトコルを採用した。受診の結果、AFが否定されれば再び休薬し、確認されれば試験終了まで服用を継続した。主要評価項目は、追跡期間31~360日目における、従来の継続服用と比較した「DOAC服用日数の削減率」とした。副次評価項目は、全死亡、脳梗塞、全身塞栓症、重大な出血イベント、およびデバイスの不具合とした。 主な結果は以下のとおり。・Apple Watchを用いた心調律モニタリングにより、合計1万5,865人日の観察において、DOAC服用日数は856人日分にとどまり、従来の継続服用群と比較して94.6%(95%信頼区間[CI]:89.8~98.4)削減された。・Apple Watch装着(wear-days)の順守率の中央値は100%(95%CI:99.7~100)に達した。・追跡期間中、死亡、脳梗塞、全身塞栓症、重大な出血イベントは、いずれも発生しなかった。デバイスの不具合によるECG記録不可が1件認められた。・医師の診断を基準としたApple Watch ECGの性能は、感度100%、特異度93.3%、正確度95.8%ときわめて高い値を示した。 本研究の結果、アブレーション術後の低〜中等度リスク患者において、Apple Watchを活用した個別化戦略は、DOACを安全に大幅に削減できる可能性が示された。須永氏は、今回の知見がリスクスコアに基づく静的な管理から、心調律に基づいた「動的な管理」へのパラダイムシフトを促進するものであると指摘した。本研究の限界として、サンプルサイズの少なさや、塞栓症リスクの比較的低い集団を対象としている点に触れ、今後より大規模な無作為化比較試験による検証が必要であると結論付けた。 日本循環器学会(JCS)学術集会まとめページはこちら

5.

「心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン」をフォーカスアップデート/日本循環器学会

 『2026年JCS/JSOGガイドラインフォーカスアップデート版 心血管疾患患者の妊娠・出産の適応と診療』1)が第90回日本循環器学会学術集会(2026年3月20~22日)会期中の3月20日に発刊された。本ガイドラインの研究班長を務めた神谷 千津子氏(国立循環器病研究センター循環器病周産期センター)と桂木 真司氏(宮崎大学産科・婦人科 主任教授)が本学術集会プログラム「ガイドラインを学ぶ2」において、妊娠を避けることを強く望まれる心疾患、妊産婦に注意が必要な循環器用薬を中心に解説した。 本書では、新規薬物治療をはじめとした循環器診療の進歩、思春期以降の男女を対象にしたプレコンセプションケアの取り組み、国内外からの心血管疾患合併妊娠を中心に、シェアード・ディシジョン・メイキング(SDM)を支えることも目標として作成され、今回のアップデート版では以下の7項目を主に取り扱う。そこで本稿では、とくに押さえておきたい項目として、「妊娠を避けることを強く推奨する疾患、病態」「妊娠中、授乳中の循環器薬物治療の安全性」にフォーカスする。―――――――――――――――――――・日本の疫学(周産期データベース、妊産婦死亡症例検討)・プレコンセプションケアと妊娠関連ハートチーム(PHT)・妊娠を避けることを強く推奨する疾患、病態・妊娠中、授乳中の循環器薬物治療の安全性・周産期管理:産科(分娩方法の選択、妊娠高血圧症候群)・周産期管理:麻酔科(麻酔方法の選択、硬膜外麻酔)・産後の注意点―――――――――――――――――――周産期の死亡原因として挙がる心大血管疾患とは 日本産婦人科学会の周産期データベースによると、2014~23年に登録された母体約220万人のうち、基礎疾患に何らかの心疾患を有したのは1.2%(2万6,894例)であった。神谷氏は「心疾患を有する母体は基礎内科疾患がない者と比較して、無痛分娩率、帝王切開率、帝王切開時の全身麻酔率、分娩時出血量、転科率、そして母体死亡率が高い傾向にある」と指摘。また、日本産婦人科医会による妊産婦死亡症例登録システムのデータでは、心大血管疾患は間接産科的死亡*1の第1位であり、大動脈解離、周産期心筋症、肺高血圧症などが原因であることが明らかになっている。同氏は「周産期に初めて診断され、産科と内科の連携が不十分な場合もある。これを解消するために循環器医ができることとして、コンサルテーションの閾値を低く、速やかな検査・治療が求められる」と強調した。*1 妊娠前から存在した疾患または妊娠中に発症した疾患により死亡したもの2)妊娠を避けることを強く望まれる心疾患 妊娠の際に厳重な注意を要する、あるいは妊娠を避けることが強く望まれる心疾患は、第2版までは6項目にとどまっていた。今回、大幅にアップデートがなされ、10項目が表13(p.25)に示された。・高度な体心室機能低下(LVEF<30%、体心室RVEF<40%)や心不全(NYHA心機能分類III~IV度)・重症閉塞性肥大型心筋症(HOCM)・周産期心筋症の既往と左心室機能低下の残存・中等度から重度のPAH(アイゼンメンジャー症候群含む)・重症僧帽弁狭窄(MS)・妊娠前から症状を伴う重度流出路狭窄(大動脈弁高度狭窄:平均圧較差≧40mmHg)・マルファン症候群(上行大動脈拡張期径>45mm、高リスク症例では≧40mm)や大動脈二尖弁を伴う大動脈疾患(大動脈径>50mm)・症状、有意な合併症のあるフォンタン術後・未修復の重症大動脈縮窄症・重症チアノーゼ性心疾患(SpO2<85%) 第3章では上記に対する推奨がCQ1~7とFRQ1で示されている*2。主な変更点について「妊娠を避けることを推奨する左室駆出率(LVEF)が以前は35~40%未満であったが、30%未満へと引き下げた(CQ1)。肺高血圧症患者では、血行動態の重症度が中等度~重度の場合は妊娠を避けることを強く推奨するが、状態の安定した軽症例であれば、妊娠を前向きに考えることが可能と、世界に先駆けてリスク分類した(CQ2)。また、機械弁置換後のリスクは抗凝固療法に起因するものであるため、強く妊娠を希望する場合は、周産期の抗凝固療法に習熟した専門施設での妊娠・分娩管理を強く推奨する(CQ3)。ただし、状態の安定した軽症の肺高血圧症患者や機械弁を有する患者が妊娠継続を希望する場合、各専門施設で周産期管理が求められるため、施設要件が合致した場合にのみ前向きに検討が可能である(p.25、表14)点には留意してほしい」と解説した。 続けて、「流出路狭窄がある場合には、妊娠前から症状を伴うような重症例では妊娠を避けることを強く推奨する一方で、平均圧較差が40~50mmHgで無症状の場合は主治医と相談しながら検討していくことが推奨される(CQ4)。さらに、有症状、有意な合併症をもつフォンタン術後の場合は妊娠リスクを避けることが推奨される(CQ6)。周産期心筋症の既往をもつ場合、LVEF50%未満が継続する患者では妊娠を避けることを強く推奨する(CQ7)」と説明した。*2 CQ:クリニカルクエスチョン、FRQ:フューチャーリサーチクエスチョン なお、これらは妊娠についての意思決定を支える推奨であり、医療的「介入」ではないため、推奨強度は付記しない方針とされている点には注意が必要である。妊娠中に選択できる循環器薬、アテノロールは実は危険! 心疾患合併妊娠のリスク因子のなかで、調整可能な因子の1つに薬剤選択が挙げられる。今回アップデートされた薬剤クラスには、抗凝固薬、降圧薬、利尿薬、抗不整脈薬、肺高血圧症や心不全、脂質異常症の治療薬がある。このなかで特筆すべきはβ遮断薬のアテノロールで、これまで妊娠中の禁忌記載がないβ遮断薬であったにもかかわらず、近年ではアテノロールが最も胎児へのリスクが高いと報告された3)ため、「使用可能だが、在胎不当過小児(SGA)のリスクが最も大きく、他剤への変更が推奨される」と変更した(p.58、表23)ことを強調した。 スタチンについては「添付文書上は禁忌であるが、家族性高コレステロール血症(ホモ接合体)患者や2次予防目的について、FDAでは使用を勧告している。本フォーカスアップデートでもその旨を記載した」と述べ、DOACについては、「妊娠中の安全性は未確立だが、リバーロキサバンにおいては授乳安全性が確立されつつある」とコメント。降圧薬のうちCa拮抗薬については、前版よりニフェジピン、アムロジピン、カルベジロール、ビソプロロールが妊娠中禁忌から有益性投与に変更している。ACE阻害薬やARBは妊娠中に禁忌であるが授乳中の安全性は確立しているため、「出産後に速やかに再開処方することは可能」と話した。 続いて桂木氏は、薬剤選択・用量・投与速度が妊娠中や分娩前後で調節が可能であること、循環器・産科・麻酔科で情報共有・管理することが重要である点に触れ、「妊娠中の薬物は禁忌も多いが、一律に禁忌ではなく症例に応じた病態別評価が必要であり、妊娠は循環器治療を止める理由ではない。また、母体へのリスクは即時的で致死的なものが多いため、母体のベネフィットと胎児リスクを比較して代替薬の選択を検討してほしい」とコメントした。さらに、「薬剤管理は母体死亡を減らす鍵となる。そのためには、妊娠中の循環器薬剤は“中止”より“最適化”を目指してほしい。産科薬剤は循環動態に影響するため、投与を慎重に判断し、分娩前から循環器・産科・麻酔科による情報共有を行ってほしい」と強調した。これまでのガイドラインと改訂の経緯 これまで、心血管疾患患者の妊娠中の病態について取り扱ったガイドラインは、2005年に初版が発刊、2018年に第2版となる『心血管疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン』が日本産科婦人科学会と合同で作成されていた。それから8年が経過し、新たなエビデンスが集積したことから、今回は前版の内容に補足するかたちで作成・公表がなされた。日本循環器学会(JCS)学術集会まとめページはこちら

6.

脳梗塞発症後24時間以内のtenecteplase、機能的アウトカムを改善/Lancet

 脳底動脈閉塞による虚血性脳卒中患者において、発症後24時間以内のtenecteplase投与は標準治療と比較し機能的アウトカムを改善し、症候性頭蓋内出血および死亡の発生は同程度であった。中国・首都医科大学のYunyun Xiong氏らTRACE-5 investigatorsが、同国の脳卒中センター66施設で実施した無作為化非盲検評価者盲検第III相優越性試験「TRACE-5試験」の結果を報告した。脳底動脈閉塞による脳梗塞発症後24時間以内にtenecteplaseを静脈内投与した場合の有効性と安全性は十分に研究されていなかった。Lancet誌オンライン版2026年2月5日号掲載の報告。発症後4.5時間以内のアルテプラーゼ投与を含む標準治療と比較 研究グループは、脳底動脈閉塞による脳卒中で、発症後24時間以内または最終健常確認から24時間以内、静脈内血栓溶解療法の適応があり、発症前の修正Rankinスケール(mRS)スコア(範囲:0~6、高スコアほど障害が重度であることを示す)が3以下の18歳以上の患者を、発症後24時間以内のtenecteplase単回静脈内投与群(0.25mg/kg、最大25mg)、または標準治療群(発症後4.5時間以内のアルテプラーゼ静脈内投与[0.9mg/kg、最大90mg]、抗凝固療法・抗血小板療法を含む)に無作為に割り付けた。両群とも、血管内血栓除去術の併用は可とされた。 主要アウトカムは、90日時点のmRSスコア0~1、またはベースラインのmRSスコアへの回復(脳卒中前のベースラインmRSスコアが2~3の場合)。安全性アウトカムは、症候性頭蓋内出血および死亡とした。 主要アウトカムおよび安全性アウトカムはいずれも、最初に割り付けられた群に含まれるすべての無作為化患者を対象に評価した。90日時点の機能的アウトカムの改善は38%vs.29%、tenecteplase群で有意に改善 2024年1月24日~2025年6月20日に、452例が登録され(平均年齢66.4歳[SD 11.2]、男性321例[71%]、女性131例[29%])、221例がtenecteplase群、231例が標準治療群に無作為化された。このうち222例(49%)は血栓除去術を受けた。また、標準治療群231例中80例(35%)でアルテプラーゼが使用された。 主要アウトカムを達成した患者は、tenecteplase群83例(38%)、標準治療群66例(29%)であった(補正後相対率:1.50、95%信頼区間[CI]:1.09~2.08、p=0.014)。 36時間以内に症候性頭蓋内出血が認められた患者は、tenecteplase群で4例(2%)、標準治療群で7例(3%)であった(補正後相対率:0.58、95%CI:0.17~1.99)。 90日時点の全死因死亡も両群で同程度であった(tenecteplase群65例[29%]、標準治療群71例[31%]、補正後相対率:0.87、95%CI:0.62~1.22)。90日時点でmRSスコア5~6であった患者の割合も両群で同程度であった(tenecteplase群82例[37%]、標準治療群89例[39%]、補正後相対率:0.87、95%CI:0.65~1.18)。

7.

隠れた心房細動の検出にスマートウォッチが有用

 気付かれにくく危険性の高い心臓リズム障害である心房細動(AF)を検出する医師の能力が、スマートウォッチによって大きく向上する可能性を示した臨床試験の結果が報告された。同試験でApple Watchを装着していた患者では、医師がAFを発見する頻度が4倍に増加したという。また、AFを抱えていたApple Watch装着者の半数以上には、診断前に明らかな症状はなかったことも分かった。アムステルダム大学医療センター(オランダ)の循環器専門医であるMichiel Winter氏らによるこの研究の詳細は、「Journal of the American College of Cardiology」に1月22日掲載された。 ある世代以降のApple Watchには、心臓の健康状態の監視に役立てるために、心拍数を測定する光電式容積脈波記録法(PPG)と心臓のリズムを監視する単極誘導心電図(ECG)が搭載されている。Winter氏は、「PPGとECGの機能を備えたスマートウォッチの使用は、自分の不整脈に気が付いていない人の診断を助け、診断プロセスの迅速化につながる」と説明。また、「この研究結果は脳卒中リスクの低下につながる可能性を示唆するものであり、患者にとって有益であるだけでなく、医療システム全体にもコスト削減という形で良い影響をもたらし得る」とニュースリリースの中で述べている。 論文の研究背景によると、AFは最も高頻度に見られる不整脈の一つである。米国心臓協会(AHA)によると、AFを有する人では、AFにより血液が心臓内に滞留して血栓が形成されやすくなり、脳卒中のリスクが5倍に高まるという。しかし、AF症例のおよそ半数は発作性で自覚症状もないため、発見や診断が難しいという。この臨床試験の結果をレビューした米ノースウェル・ヘルス電気生理学部門でシステムディレクターを務めるLaurence Epstein氏は、「人々は多くの場合、診察室で心電図検査を受ける。しかし、それは断続的あるいは極めてまれにしか起こらない可能性がある異常を、3秒間だけ切り取られた人生の中で探そうとしているに過ぎない」と指摘している。 今回報告された臨床試験では、脳卒中リスクが高い65歳以上の男女219人にApple Watchを提供し(介入群)、218人に標準的なケアを受けてもらった(標準ケア群)。Apple Watchによるモニタリング期間は6カ月間で、介入群はApple Watchを1日12時間装着した。 その結果、6カ月後までに介入群では21人がAFと診断されたが、そのうち半数以上(57%)では自覚症状がなかった。一方、標準ケア群でAFと診断されたのは5人にとどまり、いずれの患者も診断につながる症状を経験していた。 臨床試験を主導したアムステルダム大学医療センターのNicole van Steijn氏は、脈拍と電気活動の両方を測定できるウェアラブル機器自体は以前から存在していたと話す。しかし、「AFのリスクが高い患者のスクリーニングにおいて、この技術がリアルワールドでどの程度有効に機能するのかについては、これまで検証されてこなかった」とニュースリリースの中で説明している。Epstein氏は、「特定の集団において、通常の方法では見逃されやすいAFの検出にスマートウォッチの使用が有効であることが示された」と述べている。さらに同氏は、大きな視点から見ると、この臨床試験から、症状が出たり消えたりする健康問題の検出にスマートウォッチのようなデバイスを活用できる可能性が示されたとも話している。 なお、Epstein氏によると、AF患者は脳卒中リスクを下げるため抗凝固薬の処方を受ける可能性があるが、最大で50%は抗凝固療法を受けていないという。同氏は、「患者のAFや心不全、冠動脈疾患などの発症リスクを高めるリスク因子の継続的なモニタリングでわれわれにできるあらゆることが、こうした長期的な転帰の一部を防ぐ可能性を高めることにつながる」と述べている。

8.

静脈血栓塞栓症における抗凝固薬の継続は出血リスクの増加はあるが、再発リスクの低下の効果が大きい(Target Trial Emulation:TTEによる検討)(解説:名郷直樹氏)

 誘因のない静脈血栓塞栓症に対する経口抗凝固療法の継続と中止についてのTarget Trial Emulationが、Kueiyu Joshua Linらにより報告された。Target Trial EmulationはTTEと略されるが、経胸壁心エコー(Transthoracic Echocardiography)のことではない。Target Trial Emulationとは、観察データを使って、仮想的なランダム化臨床試験を模倣する方法論である。 まず、『日本循環器学会/日本肺高血圧・肺循環学会合同ガイドライン2025年改訂版 肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症に関するガイドライン』ではどうなっているか。「誘因のない中枢型DVT(unprovoked 中枢型DVT)に対し,出血リスクが高くない場合には,中枢型DVTの治療および再発予防のための長期の抗凝固療法として,低用量DOACが使用できるなら可及的長期の抗凝固療法を行うことを考慮してもよい」とクラスIIbで推奨されている。しかし、その根拠となる文献の引用は記載されていない。 では、論文のPECO(Patient、Exposure、Comparison、Outcome)と結果を見てみる。誘因不明の静脈血栓塞栓症があり、初回治療後少なくとも90日間経過した患者において、治療継続群と中止群を比較し、主要アウトカムは、入院を要する再発性VTE、入院を要する大出血である。中止群は、初回90日間の治療後、30日以内に処方がないものと定義された。まず、結果である。治療継続群を治療中止群と比較して、再発性VTEの発生率が著しく低く信頼区間も狭い(調整ハザード比:0.19、95%信頼区間:0.13~0.29)。大出血発生率の上昇(ハザード比:1.75、95%信頼区間:1.52~2.02)、死亡率の低下(ハザード比:0.74、95%信頼区間:0.69~0.79)が認められた。転倒などの出血リスクが低ければ、継続が妥当かもしれない。 次に、TTEにおける批判的吟味を進める。TTEの想定されるランダム化比較試験を模倣する手順は次の7つである。対象患者抽出の適格基準、比較対照となる治療戦略、割付手順、追跡期間、アウトカム、解析方法(交絡因子の調整、ITT、PPS)、解析計画である。とくに、比較対照となる治療戦略、割付手順、解析方法が問題になる。それぞれ、Immortal time biasへの対応と交絡因子の調整などを確認する必要がある。TTEでは介入開始と追跡期間が不一致となる可能性があり、イベントが調査されない期間が含まれる。その期間が解析に含まれると、介入の効果を過大評価してしまう。それをImmortal time biasと呼ぶ。 この研究では、Immortal time biasを回避するため、治療戦略が割り当てられる時点と追跡開始時点(Time zero)を一致させるように設計されている。Time zeroを中止群は抗凝固薬中止日とし、対応する継続群は同じ暦日を割り当てたと記載がある。Time zeroが明確で、Immortal time biasを回避する対応がなされている。 交絡の調整であるが、プロペンシティスコア・マッチングを行い、背景をそろえているが、貧血や転倒の既往は調整されているものの、直前のHb低下傾向や転倒リスクなどの調整は行われていない。抗凝固薬導入後貧血の進行があれば、抗凝固薬を中止することもある。転倒リスクが高いなどの理由で抗凝固薬を中止することも多い。継続群のDOACの用量やワーファリン使用時の目標INRも不明である。TTEではデータベースにない因子を調整することができないという大きな問題がある。ただこうした未知の交絡因子のリスクはあるが、再発リスクをハザード比の95%信頼区間の上限でも0.29まで少なくするという大きな効果を覆すほどの大きな影響はないかもしれない。また現実の患者に利用する際には、アウトカムが入院を要する患者のみに絞られ、外来治療可能な肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症や軽症出血が除外されている。外来患者など再発リスクが低い対象には適用しにくい面がある。 またリスクとベネフィット、再発予防効果と出血リスクのバランスも重要である。この問題を検討するためにLHHという指標がある。Likelihood of Harm to the Patientといい、治療の「害が生じる可能性」を示す医療統計の用語である。計算式はLHH=(1/NNT)÷(1/NNH)である。LHH>1で治療が推奨される。NNT 39、NNH 209のため、LHHは5.36になり、1を大きく超える。一般的には治療推奨になる。しかし血栓症の再発と大出血では重みが異なる。その重みを考慮すると、LHH=(1/NNT)×S÷(1/NNH)(Sは有害事象の重み)になる。一般的に出血のほうが致死的になることが2倍と仮定すると、さらにLHHは小さくなるがそれでも1より大きい。上記のような批判的吟味のポイントはあったが、続けられない理由がない限り、基本的には抗凝固薬継続がいいのかもしれない。

9.

年齢調整Dダイマーカットオフ値、下肢DVTの除外診断に有効/JAMA

 年齢調整Dダイマーカットオフ値(50歳以上の患者では年齢×10μg/L)は、肺塞栓症(PE)が疑われる患者ではDダイマーの診断的有用性を安全性を損なわずに高めるが、下肢深部静脈血栓症(DVT)が疑われる患者に外挿可能かは確立されていない。カナダ・Ottawa Health Research InstituteのGregoire Le Gal氏らは「ADJUST-DVT試験」において、年齢調整Dダイマーカットオフ値は、安全性を低下することなくDVTを除外して診断効率を向上し、不必要な画像検査を低減する可能性があることを示した。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2026年1月5日号に掲載された。4ヵ国の前向き診断管理アウトカム研究 ADJUST-DVT試験は、4ヵ国(ベルギー、カナダ、フランス、スイス)の27の病院で実施された前向き診断管理アウトカム研究(Swiss National Research Foundationなどの助成を受けた)。 2015年1月~2022年10月に患者を登録した。参加施設の救急診療部を受診し、臨床的に下肢のDVTが疑われた患者3,205例(年齢中央値59歳、女性1,737例[54%])を対象とした。 これらの患者を、Wellsスコアを用いた検査前の臨床的確率、高感度Dダイマー検査、下肢圧迫超音波検査に基づく段階的診断戦略により評価した。DVTが除外された患者は、3ヵ月間の追跡調査を受けた。 主要アウトカムは、従来のカットオフ値(500μg/L)と年齢調整カットオフ値の間のDダイマー値に基づきDVTを除外された患者における、追跡期間中に判定された症候性静脈血栓塞栓症(VTE:下肢DVTまたはPE、あるいはこれら両方)イベントの発生率(失敗率)とした。DVTを除外できる患者が7.4%増加 DVTの臨床的確率が高くない(non-high)、または可能性が低い(unlikely)と判定された2,169例のうち、531例(24.5%、95%信頼区間[CI]:22.7~26.4)はDダイマー値が500μg/L未満であり、161例(7.4%、95%CI:6.4~8.6)は500μg/Lと年齢調整カットオフ値の間であった。 したがって、従来のカットオフ値から年齢調整カットオフ値への転換により、Dダイマー陰性の割合は7.4%(95%CI:6.4~8.6)の絶対的増加を示し、23.3%(95%CI:20.3~26.6)の相対的増加がもたらされた。 初回受診時の遠位型または近位型DVTの有病率は21.8%であった。追跡期間中のVTEイベント発現例はない Dダイマー値が従来のカットオフ値(500μg/L)以上で、年齢調整カットオフ値未満の161例では、追跡期間中にVTEイベントが発現した失敗例(主要アウトカム)を認めなかった(0%、95%CI:0~2.3)。 年齢別のサブグループ解析では、Dダイマー値が500μg/L未満の患者の割合は、18~49歳では59.6%であったが、加齢とともに低下し、75歳以上ではわずか8.7%であった。これに対し、年齢調整カットオフ値を使用すると、75歳以上のDダイマー陰性の割合は26.1%(95%CI:22.0~30.8)に上昇した。 著者は、「高齢者のDダイマー検査の診断的有用性が一般人口と同等レベルに達した。これは、臨床現場では重要な意味を持つ。より多くの患者が画像検査なしで退院可能となり、救急診療部の滞在時間が短縮され、不必要な経験的抗凝固療法が回避される。重要な点は、これらの利点が診断の安全性を損なわずに達成されたことである」「留意点として、これらの結果は、他の血栓症の部位やタイプ(例:上皮、脳、内臓、生殖器の血栓症)には外挿できないことが挙げられる」としている。

10.

VTE後の抗凝固療法、90日以上継続で再発リスク大幅低下/BMJ

 米国・ハーバード大学医学大学院のKueiyu Joshua Lin氏らの研究チームは、誘因のない静脈血栓塞栓症(VTE)の患者では、90日以上の初期抗凝固療法終了後に経口抗凝固療法(OAC)を継続すると、抗凝固療法を中止した場合と比較して、VTE再発のリスクが低下し、大出血のリスクは上昇するが、OAC継続群で良好な純臨床的ベネフィット(net clinical benefit:VTE再発と大出血の複合アウトカム)を認め、これらはVTE発症から少なくとも3年にわたりOACを使用している患者でも持続的に観察されることを示した。研究の成果は、BMJ誌2025年11月12日号で発表された。2つの大規模データベースを用いた標的試験エミュレーション 研究チームは、米国の2つの大規模な健康保険データベースであるOptum Clinformatics Data Mart(Optum CDM)とメディケア(うち出来高払い分)を用いて標的試験エミュレーション(target trial emulation)を行った(米国国立老化研究所などの助成を受けた)。 VTEを有する18歳以上(Optum CDM)または65歳以上(メディケア)の成人で、可逆的な誘発因子のないVTEによる初回入院後30日以内にOAC(ワルファリン、直接作用型OAC)を開始し、90日以上治療を継続した患者を対象とした。 傾向スコア1対1マッチング法を用いて、治療継続群と治療中止群(30日以内に再処方がない集団)を比較した。 有効性の主要アウトカムはVTE再発による入院、安全性の主要アウトカムは大出血とした。副次アウトカムは純臨床的ベネフィット(VTE再発と大出血の複合)および死亡率であった。OACによる治療期間(90~179日、180~359日、360~719日、720~1,079日、1,080日以上)で層別化して解析した。全死因死亡率も低下 傾向スコアでマッチさせたOACによる治療継続と治療中止の組み合わせ3万554組を試験コホート(平均年齢73.9歳、女性57.0%)とした。 90日以上の初期抗凝固療法終了後に、治療を中止した患者と比較してOACによる治療を継続した患者は、VTE再発の発生率が著明に低く(補正後ハザード比[aHR]:0.19[95%信頼区間[CI]:0.13~0.29]、補正後率差/1,000人年:-25.50[95%CI:-39.38~-11.63])、大出血の発生率が高かった(1.75[1.52~2.02]、4.78[1.95~7.61])。 また、治療継続群は、全死因死亡率が低く(aHR:0.74[95%CI:0.69~0.79]、補正後率差/1,000人年:-14.31[95%CI:-22.02~-6.59])、純臨床的ベネフィットが著しく優れた(0.39[0.36~0.42]、-21.01[-32.31~-9.71])。 VTE再発の発生率は、アピキサバン、リバーロキサバン、ワルファリンで同程度であったが、OAC継続による出血リスクの絶対的な増加は、ワルファリンに比べ直接作用型OACで小さかった。投与期間が最長の集団で、大出血の相対リスク消失 治療継続群におけるVTE再発の発生率の減少は、OACによる治療期間の長さにかかわらず一貫して認めた(各治療期間のaHR、90~179日:0.22[95%CI:0.16~0.32]、180~359日:0.17[0.13~0.23]、360~719日:0.15[0.11~0.20]、720~1,079日:0.18[0.07~0.49]、1,080日以上:0.13[0.04~0.41])。 また、治療継続群における大出血の発生率の上昇も治療期間を通じてみられたが、OAC使用期間が最長の集団では治療中止群との差がなくなった(各治療期間のaHR、90~179日:2.38[95%CI:1.88~3.02]、180~359日:1.92[1.56~2.37]、360~719日:1.85[1.34~2.57]、720~1,079日:2.04[0.96~4.36]、1,080日以上:1.00[0.40~2.48])。 治療継続群の良好な純臨床的ベネフィットは、治療期間の長さにかかわらず一貫して認め(各治療期間のaHR、90~179日:0.50[95%CI:0.43~0.57]、180~359日:0.37[0.32~0.41]、360~719日:0.38[0.32~0.45]、720~1,079日:0.36[0.26~0.50]、1,080日以上:0.27[0.17~0.43])、OACの種類による差はみられなかった。 著者は、「本研究で得られた優れた純臨床的ベネフィットは、初期抗凝固療法終了後、最長で少なくとも3年間のOAC継続投与を支持する知見である」「これらの結果は、OAC継続投与の平均的な効果を反映するものであり、誘因のないVTE患者ごとに、個別化を要する治療継続の意思決定を行ううえで有益な情報をもたらすと考えられる」としている。

11.

非小細胞肺がん、アミバンタマブ・ラゼルチニブ併用における予防的抗凝固療法に関する合同ステートメント/日本臨床腫瘍学会ほか

 日本臨床腫瘍学会、日本腫瘍循環器学会、日本循環器学会、日本肺癌学会、日本癌治療学会、日本血栓止血学会、日本静脈学会は2025年12月8日、非小細胞肺がん(NSCLC)のアミバンタマブ・ラゼルチニブ併用療法における予防的抗凝固療法の適正使用に関する合同ステートメントを発表した。 EGFR遺伝子変異陽性の切除不能進行・再発NSCLCに対する新たな治療戦略として二重特異性モノクローナル抗体であるアミバンタマブと第3世代EGFR-TKIラゼルチニブの併用療法が臨床導入された。アミバンタマブ・ラゼルチニブ併用療法では、静脈血栓塞栓症(VTE)の発症が高頻度であることが国内外の臨床試験により報告されている。このためVTE発症予防を目的として、併用療法開始後4ヵ月間にわたる直接経口抗凝固薬アピキサバンの投与が2025年3月27日付で厚生労働省保険局医療課により承認された。 しかし、本邦における診療ガイドラインでは外来化学療法時の抗がん薬によるVTE発症の予防目的で施行される抗凝固療法において推奨する抗凝固薬に関する記載がなく、同時にアミバンタマブ・ラゼルチニブ併用療法治療中のNSCLC患者に対するアピキサバンの臨床的経験は限られているのが現状である。そこで、今回承認された新たながん治療法を安全かつ適正に導入するために、患者の安全性を最優先に考慮する必要があることから本ステートメントが発出された。ステートメント 「EGFR変異陽性の進行・再発NSCLCに対してアミバンタマブ・ラゼルチニブ併用療法を施行する患者において、静脈血栓塞栓症予防を目的としてアピキサバン2.5mgを1日2回、4ヵ月間投与する。活動性悪性腫瘍症例に対しアピキサバンによる予防的抗凝固療法を施行するにあたり日本人では血中濃度が高くなることが知られているが、アピキサバン2.5mg1日2回投与の出血リスクについては安全性が確認されていない。そこで出血(ISTH基準の大出血*)などの重篤な合併症を生じるリスクを理解した上で、使用薬の特性、投与方法、薬剤相互作用を考慮した慎重な対応が必要である。そして、これらの治療は抗凝固療法に精通した腫瘍循環器医(循環器医)等と連携の取れる体制の下で実施されることが望ましい。」*:ISTH基準の大出血:実質的な障害をもたらす出血(脳出血、消化管出血、関節内出血など)、失明に至る眼内出血、2単位以上の輸血を要する出血

12.

アブレーション後のAF患者、長期DOAC投与は必要か/NEJM

 1年以上前に心房細動に対するカテーテルアブレーションが成功している脳卒中リスク因子を有する患者において、直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)リバーロキサバンの投与は抗血小板薬アスピリンと比較して、3年後の時点での脳卒中、全身性塞栓症、新規潜因性塞栓性脳卒中の複合アウトカムの発生率を低減せず、大出血の頻度は同程度だが、小出血および臨床的に重要な非大出血の発生率が高いことが示された。カナダ・McGill UniversityのAtul Verma氏らOCEAN Investigatorsが国際的な臨床試験「OCEAN試験」の結果を報告した。NEJM誌オンライン版2025年11月8日号掲載の報告。6ヵ国の前向き無作為化試験 OCEAN試験は6ヵ国56施設で実施した研究者主導型の前向き非盲検(アウトカム評価者盲検)無作為化試験であり、2016年3月~2022年7月に参加者の無作為化を行った(Bayerなどの助成を受けた)。 試験登録の1年以上前に、非弁膜症性心房細動に対するカテーテルアブレーションに成功し、CHA2DS2-VAScスコア(0~9点、高スコアほど脳卒中のリスクが高い)が1点以上(女性および血管疾患がリスク因子の患者では2点以上)の患者1,284例(平均年齢66.3[SD 7.3]歳、女性28.6%、平均CHA2DS2-VAScスコア2.2[SD 1.1]点、同スコア3点以上の患者の割合31.9%)を対象とした。 これらの参加者を、アスピリン(施設の所在地域の入手可能状況に応じて70~120mg/日)群643例、またはリバーロキサバン(15mg/日)群641例に無作為に割り付け、3年間追跡した。 有効性の主要アウトカムは、脳卒中、全身性塞栓症、新規潜因性塞栓性脳卒中(MRI上で大きさが15mm以上の新規梗塞が1つ以上と定義)の複合とした。主要アウトカムの構成要素にも差はない 主要アウトカムのイベントは、リバーロキサバン群で5例(0.8%、0.31件/100人年)、アスピリン群で9例(1.4%、0.66件/100人年)に発生し、両群間に有意な差を認めなかった(相対リスク:0.56、95%信頼区間[CI]:0.19~1.65、3年時の絶対リスク群間差:-0.6%ポイント、95%CI:-1.8~0.5、p=0.28)。 副次アウトカムである脳卒中(リバーロキサバン群0.8%vs.アスピリン群1.1%、相対リスク:0.72、95%CI:0.23~2.25)、全身性塞栓症(0%vs.0%)、新規潜因性塞栓性脳卒中(0%vs.0.3%、0)の発生率は両群間に差がなかった。また、15mm未満の新規脳梗塞の頻度にも差はみられなかった(3.9%vs.4.4%、0.89、0.51~1.55)。主要複合安全性アウトカムも同程度 3年の時点で致死的出血および大出血の複合(主要複合安全性アウトカム)は、リバーロキサバン群で10例(1.6%)、アスピリン群で4例(0.6%)に発現した(ハザード比[HR]:2.51、95%CI:0.79~7.95)。致死的出血の報告はなく、大出血がそれぞれ10例(1.6%)および4例(0.6%)にみられた(2.51、0.79~7.95)。 一方、臨床的に重要な非大出血(リバーロキサバン群5.5%vs.アスピリン群1.6%、HR:3.51、95%CI:1.75~7.03)および小出血(11.5%vs.3.1%、3.71、2.29~6.01)は、リバーロキサバン群で高頻度であった。 著者は、「脳卒中および新規潜因性塞栓性脳卒中の発生率は、両群とも予想を大きく下回った。全体の96%の患者では、3年後のMRIで新規脳梗塞を認めなかった」「心房細動アブレーションが成功し、脳卒中リスク因子を有する患者では、脳卒中の発生はまれであり、抗凝固療法継続の有益性はみられなかった」「本試験の参加者と同程度の脳卒中リスクを有するアブレーション成功後の心房細動患者では、アスピリンまたは抗凝固療法のいずれかを継続することが妥当と考えられるが、患者は抗凝固療法には臨床的に重要な出血リスクの増加が伴うことを認識すべきだろう」としている。

13.

意外な所に潜む血栓症のリスク/日本血液学会

 2025年10月10~12日に第87回日本血液学会学術集会が兵庫県にて開催された。10月12日、井上 克枝氏(山梨大学 臨床検査医学)、野上 恵嗣氏(奈良県立医科大学 小児科)を座長に、シンポジウム6「意外な所に潜む血栓症のリスク」が行われた。Nan Wang氏(米国・Columbia University Irving Medical Center)、Hanny Al-Samkari氏(米国・The Peggy S. Blitz Endowed Chair in Hematology/Oncology, Massachusetts General Hospital/Harvard Medical School)、長尾 梓氏(関西医科大学附属病院 血液腫瘍内科)、成田 朋子氏(名古屋市立大学大学院医学研究科 血液・腫瘍内科学)。JAK2V617Fクローン性造血とアテローム血栓症との関連 JAK2V617F(Jak2VF)クローン性造血は、アテローム血栓性の心血管疾患(CVD)との関連が指摘されている。Wang氏は、本シンポジウムにおいて、Jak2VFクローン性造血が動脈血栓症に及ぼす影響とそのメカニズムを評価した研究結果を報告した。 まず、3つのコホート研究を用いたメタ解析により、Jak2VFとCVD、血小板数、補正平均血小板容積との関連が確認された。また、マウスモデルでは20%または1.5%のJak2VFクローン性造血が動脈血栓症を促進し、血小板活性化を増加させることが示された。 Jak2VFクローン性造血は、前血小板形成および放出を促進し、血栓形成促進性の網状血小板数を増加させると考えられている。Gp1ba-Creを介して血小板におけるJak2VFを発現させたモデル(VFGp1ba)は、血小板数が増加した一方、白血球数には影響が見られなかった。このことから、VFGp1baは、血小板活性化と動脈血栓症を促進する可能性が示唆された。 また、Jak2VFクローン性造血では、変異型血小板と野生型(WT)血小板のいずれもが活性化しており、両者の間にクロストークが存在することが示唆された。Jak2VF血小板では、COX-1およびCOX-2が2~3倍に増加し、cPLA2の活性化とトロンボキサンA2産生の増加が認められた。一方、WT血小板は、活性化Jak2VF血小板由来の培養液に曝されるとさらに活性化し、この反応はトロンボキサン受容体拮抗薬により抑制された。さらに、低用量アスピリンは、VFGp1baマウスおよびJak2VFクローン性造血マウスで頸動脈血栓症を改善したが、WT対照マウスでは改善が見られなかった。 これらの結果を踏まえてWang氏は「Jak2VFクローン性造血によるアテローム性動脈硬化症の進行メカニズムにおいて、網状血小板の増加とトロンボキサンを介したクロストークが重要な役割を果たしており、アスピリンの潜在的な効果が期待される」と結論づけた。ITPにおける血栓症リスクとその管理 続いて、Al-Samkari氏が免疫性血小板減少症(ITP)における血栓症の重要なトピックスを紹介した。 ITPは、血小板破壊の増加と血小板産生の低下により生じる後天性自己免疫疾患である。さまざまな仮説に基づくメカニズムから、ITPは静脈血栓症および動脈血栓症のリスクを上昇させる可能性が指摘されている。実際、ITP患者の静脈血栓塞栓症のリスクは、一般集団の10~30倍と推定されている。また、トロンボポエチン受容体作動薬などの特定のITP治療薬は、血栓塞栓症リスクを上昇させる一方、脾臓チロシンキナーゼ阻害薬などの他の治療薬はリスクを低下させるとされている。 ITPにおける血栓症のリスク因子は、一般的な血栓症リスク因子に加え、年齢、脾臓摘出、複数回のITPの治療歴、免疫グロブリン静脈(IVIG)療法などが挙げられる。脾臓摘出後の生涯静脈血栓症リスクは3〜5倍に増加し、その発症率は7〜12%と報告されている。IVIG治療患者における血栓症リスクは約1%であり、血栓イベントの60%以上が注入後24時間以内に発生すると報告されている。とくに、45歳以上の患者や血栓イベントの既往歴を有する患者では、リスクがより高いと考えられる。 ITPにおける血栓症の治療について、Al-Samkari氏は次のように述べた。「出血がない場合であっても、血小板数が5万/μLを超える患者では抗凝固療法または抗血小板療法が通常適応となる。また、血小板数が3万/μL以上の場合には、年齢やその他のリスク因子を考慮しつつ、治療用量の抗凝固療法と抗血小板薬2剤併用療法を選択する必要がある」。日本人血友病患者のCVD管理のポイント 先天性血友病患者が胸痛を呈し、心エコー検査でST上昇が認められる場合には、緊急冠動脈インターベンションが必要となる。このような症例は、血友病患者の高齢化に伴い今後増加する可能性がある。 先天性血友病は、第VIII因子(血友病A)または第IX因子(血友病B)の欠乏によって引き起こされるX連鎖性出血性疾患であり、その重症度は重症(活性1%未満)、中等症(1~5%)、軽症(5~40%)に分類される。2024年度の日本における血液凝固異常症全国調査によると、血友病Aは5,956例、血友病Bは1,345例であると報告されている。血友病患者は関節内出血などの深部出血を呈し、血友病性関節症の発症やQOL低下につながる可能性があることから、予防的な因子補充療法は依然として治療の基本である。 近年、血友病治療は目覚ましい進歩を遂げており、半減期を延長した凝固因子濃縮製剤、第VIII因子模倣二重特異性抗体、抗凝固経路を標的としたリバランス療法、そして海外でも利用可能となった遺伝子治療など、新たな治療選択肢が登場している。一方、日本では高齢の血友病患者が比較的少なかったことから、CVDなどの血栓性合併症はまれで、その管理のための確立したガイドラインや十分なデータが存在しなかった。しかし、非因子療法の普及や包括的ケアシステムの拡充に伴い、血友病患者の長期予後は改善しつつある。2024年の全国調査では、日本の血友病Aおよび血友病B患者の平均年齢は約40.2歳であり、患者集団の高齢化が進んでいることが明らかにされた。 2019年以降に40歳以上であった血友病患者599例をフォローアップしたADVANCEコホート研究では、5年間で17例の死亡が観察され、死亡時の平均年齢は62.4歳(中央値:58.0歳)であったことが報告されている。70〜90代まで生存した患者も報告されており、血友病患者の寿命が延長していることも示されている。日本人男性の平均寿命(約81歳)との差は依然としてあるものの、日本人血友病患者の平均寿命が延びていることを明確に示す結果となった。 重要なポイントとして、長尾氏は「日本人は欧米人よりも出血傾向が高いと考えられるため、日本人患者に合わせた個別化かつバランスの取れたCVD管理戦略が不可欠である」と指摘した。さらに「血友病患者のCVD管理のための、日本人特有のエビデンスに基づく臨床ガイドラインを早急に策定する必要がある」と述べ、講演を締めくくった。多発性骨髄腫における血栓症リスク がん患者は健康な人と比較して血栓イベントの発生リスクが4~7倍高いことが報告されている。多発性骨髄腫はその中でも血栓イベントの発生率が高い疾患の1つであり、患者の約10%において臨床経過中に血栓イベントが生じるとされている。 血栓イベントのリスク因子は多岐にわたり、患者関連因子、疾患関連因子、治療関連因子の3つに大別される。たとえば治療関連リスクとしては、レナリドミドなどの免疫調節薬とデキサメタゾンの併用が挙げられる。 多発性骨髄腫患者における血栓イベントの発生は、治療に影響を及ぼし、アウトカム不良につながるため、適切な予防と評価が重要となる。成田氏は「診断時および定期的な血栓症のスクリーニングが有益であり、免疫調節薬を併用療法で使用する場合には、血栓症の予防およびモニタリングがとくに重要となる」と指摘した。 現在、日本における多発性骨髄腫患者の血栓症に関する調査が進行中であり、その結果が待ち望まれている。

14.

治療法、どこまでの説明が必要?【医療訴訟の争点】第16回

症例患者の罹患する疾患に対して複数の治療法が存在するも、患者の状態から選択が困難と考えざるを得ない治療法が存在することもある。そのような治療法についても医師は説明義務を負うのか。本稿では、医師が“選択は困難”と考えた治療法の説明義務が争点となった東京地裁令和4年12月9日判決を紹介する。<登場人物>患者女性(87歳)原告患者の子(次男)被告基幹病院、脳神経内科担当医、脳神経内科部長事案の概要は以下の通りである。平成24年2月29日午前10時頃コンビニエンスストアの駐車場で倒れているところを発見午前10時45分頃被告病院に救急搬送。救急医の診察時、(1)失語の状態で発語はまったく見られない、(2)痛み刺激に対し、左上下肢は動くが、右上下肢に動きは見られない、(3)左共同偏視(両目が左を向いて固定された状態)、(4)右バビンスキー反射(足の裏をこすると足の親指が上を向いてしまう状態)陽性の所見。救急医は脳神経内科にコンサルト。神経内科医(被告医師)が診療を担当し、(1)右注視麻痺、(2)右顔面筋力低下、(3)右上下肢動きなし、(4)失語の状態にある旨の所見を確認した。頭部CTで出血所見はなく、脳梗塞と診断された。被告医師は、患者が87歳と高齢であり、広範な脳のダメージが示唆され重症例であることから、アルテプラーゼによる静注血栓溶解(rt-PA)療法の施行は困難と判断した。また、血液検査の結果、クレアチニンは0.95mg/dL(基準値0.47mg/dLないし0.79mg/dL)、血中尿素窒素は17mg/dL(基準値8mg/dLないし22mg/dL)であり、腎機能障害が認められたことから、腎障害や高齢者における致死的副作用の報告が多いエダラボンの適応ではないと判断した。被告医師は、患者の長男に対し、患者の病状説明を行い、診断は脳梗塞と考えること、治療は、抗凝固療薬の点滴によるが、出血の危険性が高いと判断されれば使用しないこと等を説明した。なお、長男から、被告医師に対し、rt-PA療法やエダラボン投与に関する質問やこれらの治療の要望はなかった。MRI検査にて深部白質にDWI高信号が認められるとの所見であったことから、被告医師は、本件患者はアテローム血栓性脳梗塞である可能性が高いと判断し、アルガトロバンの投与による抗凝固療法を行うことを決定した。4月25日本件患者は要介護5の認定5月7日リハビリテーション病院へ転院令和元年12月23日老衰により死亡実際の裁判結果本件では、(1)rt-PA療法に係る問診・診断義務違反および説明義務違反、(2)エダラボンの投与に係る診断義務違反、説明義務違反および治療義務違反が争点となったが、裁判所は以下の判断をし、原告の請求をいずれも棄却した。(1)rt-PA療法に係る問診・診断義務違反及び説明義務違反について原告は、本件患者にはrt-PA療法の適応があったことから、被告医師はその実施に向けて、未発症時刻の確認、NIHSSによる重症度評価及び頭部CTの画像診断といった問診・診断を行い、原告らに対し同療法について説明する義務を負っていた旨を主張した。これに対し、裁判所は以下の点を指摘し、「未発症時刻の確認、NIHSSによる重症度評価及び頭部CTの画像診断を行うまでもなく、本件患者に対しrt-PA療法を実施しないとした被告医師の判断は、医学的合理性に基づくものというべきであり、医師の裁量を逸脱するものとは認められない」とした。本件患者が、当時87歳であり、本件当時の「rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法適正治療指針(2005年10月)」において慎重投与とされる基準(75歳)を大きく上回っていたこと。被告医師が本件患者を診察した際の状態は、右注視麻痺、右顔面筋力低下、右上下肢動きなし、失語の状態にあるというものであり、NIHSSによる評価はともかく、前頭葉、頭頂葉並びに側頭葉に関連し得る広い範囲に及ぶ脳のダメージが示唆され、脳梗塞の中でも重症と評価できるものであったこと。治療指針のチェックリストの1項目でも慎重投与とされる基準に該当すれば、適応の可否を慎重に判断することとされ、とくに高齢、重症例では治療成功率は低く、症候性頭蓋内出血の危険性も高くなると考えられるとされていること。その上で、原告らがrt-PA療法の実施可能性等について強い関心を有し、これを被告医師に伝えていたとは認められないことを指摘し、「被告医師が、本件患者やその家族に対しrt-PA療法について説明すべき義務を負うとは認められない」と結論付けた。(2)エダラボンの投与に係る診断義務違反、説明義務違反及び治療義務違反について原告は、本件患者に対しエダラボンを投与することが可能であり、被告医師は、本件患者の腎機能の評価を行ってエダラボンを投与し、原告らに対しエダラボンについて説明する注意義務を負っていた旨を主張した。これに対し、裁判所は、以下の点を指摘し、「87歳という高齢で、高度に近い中等度の腎機能障害が認められた本件患者に対しエダラボンを投与しないとした被告医師の判断は、医学的合理性に基づくものというべきであり、医師の裁量を逸脱するものとは認められない」とした。本件当時87歳、体重は48kgであり、血液検査の結果、クレアチニンの値は0.95mg/dLであるなど、高度に近い中等度の腎機能障害を来していたといえること。エダラボンは、腎機能障害、高齢者には慎重投与とされていること。とくに80歳以上の高齢者においては、致命的な経過をたどる例が多く報告され、製薬会社が緊急安全情報を発していること。その上で、原告らがエダラボンの投与について強い関心を有し、これを被告医師に伝えていたとは認められないことを指摘し、「被告医師が、本件患者やその家族に対しエダラボンについて説明すべき義務を負うとは認められない」と結論付けた。注意ポイント解説本件は、高齢脳梗塞患者における急性期治療の選択と説明義務の範囲が争われた事案であり、裁判所は、当時の診療指針や添付文書に示された「慎重投与」基準を踏まえ、rt-PA療法やエダラボン投与といった積極的治療は、副作用リスクが高いとされる高齢・重症例では、医学的裁量に基づく非実施が正当とされ得るとして、医師の判断を尊重する判断をした。また、説明義務の発生についても、患者や家族らがその治療法に強い関心を示し、それを医師に伝えていたわけではないことを指摘し、医師が「適応がないと判断した治療」については説明義務が生じないとした。これは、説明義務の範囲があくまで医療水準に照らした「実施を検討すべき治療」に限られることを示すものといえる。もっとも、本件は、いずれの治療を選択するにしても直ちにその適応を判断しなければならないものであったため、時間をかけた検査の要否や、治療法の採否につき、医師の裁量が認められたとの要素があると考えられる。患者の状態・症状等から「慎重投与」の基準をわずかに逸脱するにとどまっていたり、副作用リスクが高いとの報告がされていなかったりすれば、医師の裁量は狭まることとなり、ほかにありうる治療法としてrt-PA療法やエダラボン投与につき、説明をする義務があったとされる可能性がある点に留意する必要がある。また、今回問題となったrt-PA療法は、本件当時(平成24年=2012年)は、75歳以上は慎重投与とされていたが、その後、慎重投与は80歳以上となるなど、年齢の点は緩和されるなど変化が生じている。同様に、エダラボンの投与についても、本件当時よりも報告例の集積がされた結果、投与に対する考え方にも変更がありうるところである。このため、本判決の判断が現在も同様に当てはまるとは限らず、いずれにしても診療時の医学的知見を踏まえ、患者の状態を考慮した上での判断となることに留意が必要である。医療者の視点今回の裁判所の判断は、臨床現場における医師の判断プロセスを尊重したものであり、実臨床の感覚に近いものと言えます。本件の87歳というご高齢の患者さんのように、複数のリスクを抱えている方への治療方針の決定は、常に難しい判断を迫られます。とくに脳梗塞急性期のrt-PA療法は、有効性が期待される一方で、重篤な出血のリスクを伴います。当時のガイドラインで75歳以上が慎重投与とされていた中、87歳で、かつ臨床症状から重症と判断される患者さんに対して、治療の利益よりも不利益が上回る可能性を重くみて治療を実施しない、という判断は、多くの医師が同様の結論に至る可能性のある、医学的合理性に基づいたものと考えられます。エダラボン投与に関しても、腎機能障害や高齢者への慎重投与が求められており、医師の判断は妥当なものであったと判断されたのでしょう。一方で、裁判所が「家族が強い関心を示していなかったため、説明義務はなかった」と判断した点については、実臨床では注意が必要です。訴訟上の義務は発生しないとしても、患者さんやご家族との信頼関係を築く上では、たとえリスクが高く実施が難しいと判断した治療法であっても、そのような選択肢が存在すること、そしてなぜそれを選ばないのかを丁寧に説明することが望ましいからです。後から「なぜあの治療法の説明をしてくれなかったのか」という不信感につながることを避けるためにも、積極的な情報提供が重要になる場面は少なくありません。医療技術やガイドラインは日々更新されるため、常に最新の情報を収集し続ける姿勢が不可欠です。その上で、個々の患者さんの状況に応じた最善の選択肢を、ご本人やご家族と共に考えていく丁寧な対話こそが、訴訟リスクを低減し、より良い医療を実現する鍵となるでしょう。Take home message治療選択においては、ガイドラインや添付文書において慎重投与とされているケースについて、その選択をしない医師の裁量的判断が尊重される場合もあるため、これらの記載内容を常にアップデートしておく必要がある。医師の裁量に基づく非実施が医学的合理性を有する治療法については、患者や家族らがその治療法に強い関心を示してない場合には、説明義務違反はないとされることもある。

15.

心房細動患者における脳梗塞リスクを示すバイオマーカーを同定

 抗凝固療法を受けている心房細動(AF)患者においても、既知の脳梗塞リスクのバイオマーカーは脳梗塞リスクと正の関連を示し、そのうち2種類のバイオマーカーがAF患者の脳卒中発症の予測精度を改善する可能性があるとする2報の研究結果が、「Journal of Thrombosis and Haemostasis」に8月6日掲載された。 米バーモント大学のSamuel A.P. Short氏らは、抗凝固療法を受けているAF患者におけるバイオマーカーと脳梗塞リスクの関連を検討するために、登録時に45歳以上であった黒人および白人の成人3万239人を対象とし、前向きコホート研究を実施した。ベースライン時に、対象者の9種類のバイオマーカーが測定された。解析の結果、ワルファリンを内服していたAF患者713人のうち67人(9%)が、12年間の追跡期間中に初発の脳梗塞を発症していた。交絡因子を調整した後も、標準偏差1単位の上昇ごとに、N末端プロ脳性ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)、血液凝固第VIII因子、D-ダイマー、成長分化因子-15(GDF-15)は、いずれも新規脳卒中発症と正の関連を示した。ハザード比は、NT-proBNPで1.49(95%信頼区間1.11〜2.02)、GDF-15で1.28(同0.92〜1.77)であった。ただし、D-ダイマーとGDF-15の関連は、統計学的に有意とはならなかった。 2件目の研究で、Short氏らは、以前一般集団で脳卒中リスクと関連が報告されていたバイオマーカーが、AF患者でも同様に脳卒中リスクと関連するか、さらにCHA2DS2-VAScスコアによる予測を改善できるかを検討した。13年間の追跡期間中に、AF患者2,411人のうち163人(7%)が初発の脳梗塞を発症していた。解析の結果、NT-proBNP、GDF-15、シスタチンC、インターロイキン6(IL-6)、リポ蛋白(a)の高値は、それぞれ独立して脳卒中リスクの上昇と関連していた。CHA2DS2-VAScモデルの適合度と予測能は、これらのバイオマーカーを加えることで大きく改善した。NT-proBNPとGDF-15の2種類のみを追加したモデルが、最も適合性・予測能に優れていた。 Short氏は、「今回示されたモデルにより、医師は抗凝固療法の対象となる患者をより適切に選択できるようになり、救命や医療費削減につながる可能性がある」と述べている。

16.

左心耳閉鎖術?(解説:後藤信哉氏)

 心房細動の症例は、長期間の観察期間内の脳卒中リスクが高い。心房細動による血流うっ滞が血栓形成に寄与している可能性はある。血流うっ滞による血栓形成は、うっ滞が最も重症になる心耳から始まる可能性がある。そこで左心耳を閉じてしまえば心房細動の脳梗塞予防が可能かもしれないとの仮説につながる。 カテーテルアブレーションを受ければ左房の内膜側に損傷ができるので血栓イベントリスクが上昇する。一時的に抗凝固薬を使用するのは血栓イベント予防に有効と考えられる。左心耳閉鎖が有効であるためには、アブレーションにより傷ついた内膜からの血栓が左心耳にて成長している必要がある。本研究では重篤な出血イベント発現リスクを仮説検証のエンドポイントにしている。全身の凝固機能が低下する抗凝固薬使用時には出血イベントリスクが増加する現実に、本研究でも抗凝固療法群の重篤な出血イベント発現リスクは18.1%と左心耳閉鎖群の8.5%よりも高かった。この結果は予想通りである。 問題の血栓イベントリスクは、36ヵ月の総死亡・脳卒中・全身塞栓症にて定義された。有効性エンドポイント発現率は5.3%と5.8%で両群間に差がなかった。抗凝固薬を使用すると重篤な出血イベントリスクは増える。しかし、現実世界では多くの症例が抗凝固介入を受けている。総死亡・脳卒中・全身塞栓症にて定義される血栓イベントリスクは、抗凝固薬使用時の重篤な出血イベントリスクよりもはるかに低い。左心耳閉塞が血栓イベントリスクに及ぼす効果は未知である。心房細動に対する過剰な抗凝固薬投与の反省の時代が来るかもしれない。

17.

冠動脈バイパス術後の新規AF発症、術後30日以後はリスク低い?/JAMA

 ドイツ・LMU University HospitalのFlorian E. M. Herrmann氏らは、同病院およびイエナ大学病院の心臓外科センターで研究者主導の前向き観察研究を実施し、植込み型心臓モニター(ICM)による1年間のモニタリングの結果、冠動脈バイパス術(CABG)後1年以内の新規心房細動(AF)の累積発生率は既報より高かったものの、術後30日以降はAF負担がきわめて低いことを明らかにした。CABG後のAF新規発生率や負担は不明であるが、米国のガイドラインでは非無作為化臨床試験に基づきCABG後新たにAFを発症した患者に対し60日間の経口抗凝固療法がクラス2a(中程度の強さ)で推奨されている。著者は「術後30日以降のきわめて低いAF負担は、現行ガイドラインの推奨に疑問を呈するものである」とまとめている。JAMA誌オンライン版2025年10月9日号掲載の報告。AF既往歴のない初回単独CABG施行患者198例を登録 研究グループは、初回単独CABGで、3枝冠動脈疾患または左主幹病変に対し2本以上のバイパスグラフトを施行する、AFならびにその他の不整脈の既往がない術前左室駆出率が35%以上の成人(18歳超)を対象に、術中(皮膚閉鎖後)にICMを埋設し、持続モニタリングを開始した。 主要アウトカムは、持続モニタリングで検出されたCABG後1年以内の新規AF累積発生率。副次アウトカムは、1年間におけるAF累積持続時間、AF負担(AF累積持続時間/総モニタリング時間)、臨床アウトカムなどであった。 2019年11月~2023年11月に1,217例がスクリーニングされ、適格患者198例(男性173例[87.4%]、女性25例[12.6%]、平均年齢66歳[SD 9])が登録された。術後1ヵ月以降はAF負担中央値0、累積持続時間0分 198例中1例はモニタリング開始前に死亡し、197例(99.5%)で遠隔データ収集が開始され、192例(97.0%)が1年間の持続モニタリングを完了した。 198例中95例がCABG後1年以内に新規AFを発症し、累積発生率は48%(95%信頼区間:41~55)であった。 一方、副次アウトカムである1年間のAF負担中央値は0.07%(四分位範囲:0.02~0.23)、AF累積持続時間は370分であった。AF負担中央値は、術後1~7日目で3.65%(0.95~9.09)、8~30日目0.04%(0~1.21)、31~365日目0%(0~0.0003)であり、AF累積持続時間はそれぞれ368分、13分、0分であった。 退院後、3例で24時間を超えるAF発作が認められた。

18.

国内WATCHMANの左心耳閉鎖術の現状(J-LAAO)/日本心臓病学会

 2019年9月より経皮的左心耳閉鎖デバイスWATCHMANが保険適用となり、それと同時に本邦の患者を対象としたJ-LAAOレジストリがスタートした。それから6年が経ち、これまでに7,690例が登録されてきた。その間にデバイスも進化を遂げ、今では3代目となるWATCHMAN FLX Proが主流となり、初期と比べより安全に左心耳閉鎖が実施できるようになってきている。第73回日本心臓病学会学術集会(9月19~21日開催)のシンポジウム「循環器内科が考える塞栓症予防-左心耳閉鎖、PFO閉鎖、抗凝固療法-」では、草野 研吾氏(国立循環器病研究センター 心臓血管内科部長)が「我が国の左心耳閉鎖術の現状-J-LAAOレジストリからの報告-」と題し、2025年3月までに登録された日本人におけるWATCHMAN最新モデルを含めた安全性・有効性を報告した。 J-LAAOレジストリは、全7学会(日本循環器学会、日本心エコー図学会、日本心血管インターベンション治療学会、日本心臓血管外科学会、日本心臓病学会、日本脳卒中学会、日本不整脈心電学会)共同の非弁膜症性心房細動(NVAF)患者を対象とした経皮的左心耳閉鎖システムによる塞栓予防の有効性・安全性を調査した多施設レジストリ研究である。今回、脳梗塞スコア(CHADS2またはCHA2DS2-VASc)に基づく脳卒中および全身性塞栓症のリスクが高い患者、抗凝固療法が推奨される患者で、とくに出血リスクスコア(HAS-BLED)が3点以上の出血リスクが高い患者を選択基準とし、本レジストリ登録者のうち7,036例の急性期の手技情報、有害事象、術後の抗凝固療法などが解析された。留置後の薬物療法としては、海外試験のレジメンにならい、留置~45日はワルファリン+アスピリン、45日~6ヵ月は抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)、その後はアスピリン単剤療法を推奨している。 主な結果は以下のとおり。 ※いずれの結果も各デバイスでフォローアップ期間が異なる点には注意・平均年齢は78.0歳(FLX Pro群:79.0歳)であった。・各スコアの中央値は、CHADS2が3点、CHA2DS2-VAScが5点、HAS-BLEDが3点であった。・アブレーション治療歴は約1/3にみられ、心房細動の種類としては発作性が2,780例(39.5%)、持続性が4,252例(60.4%)であった。・モヤモヤエコー(smoke like echo)は1,971例(28.0%)にみられた。・最終留置デバイスモデルは約11.3%で40mm、全体の2/3で31mmを超えるデバイスが選択されていた。・手術情報について、手術成功例は97.9%、手術時間は平均52.0分(G2.5:60.0分、FLX:51.0分、FLX Pro:47.0分)で、透視時間も短縮傾向、造影剤投与量も減少傾向であった。・心嚢液リスクはデバイスの形状変化に伴い減少し、G2.5は23例(3.1%)、FLXは40例(0.9%)、FLX Proは9例(0.6%)で認められた。・術45日後の左心耳有効閉鎖率(complete sealもしくは残留血流の最大幅が5mm以下の症例)はG2.5で99.7%、FLXで98.3%、FLX Proで98.3%に認められた。・術45日後の残留血液はG2.5で27%、FLXで13%、FLX Proで9.4%に認められた。・有害事象について、術直後のデバイスごとの心タンポナーデと心嚢液貯留の発生率(G2.5、FLX、FLX Proの順)は、心タンポナーデで0.7%vs.0.2vs.0.1%、心嚢液貯留で1.7%vs.1.0%vs.1.1%であった。・このほかの有害事象は、以下のような結果であった。◯デバイス血栓3.2%(G2.5:36例[4.8%]、FLX:170例[3.7%]、FLX Pro:19例[1.3%])◯うっ血性心不全4.5%(73例[9.7%]、226例[4.9%]、21例[1.4%])◯脳卒中2.5%(36例[4.8%]、131例[2.8%]、11例[0.7%])・死亡者数は全体で415例(5.8%)、G2.5では92例(12.2%)、FLXでは298例(6.5%)、FLX Proでは25例(1.7%)であった。・デバイス移動は全11例(0.16%)、機器の外科的摘出は全9例(0.13%)、経皮的デバイス抜去は全3例(0.04%)であった。 本結果について草野氏は「患者背景をみると、日本人は米国人と比べて発作性心房細動症例の割合が少なく、左心耳入口部が比較的大きい。その点が選択デバイスの大きさに反映されていた。残留血液量も減少傾向にあり、心タンポナーデの発生率の少なさからも安全に手技が行われていたことがうかがえる」とコメントした。外科的摘出の原因として、デバイス血栓・脱落、左房血栓などがみられた点については、「1年以上経過後に発生していることに留意が必要」とし、加えて「FLXでは手術当日にデバイス血栓を生じている症例が複数例あった。一方で、留置後2年後にも生じているケースも散見される。デバイス血栓を発症した患者はシリアスな病態には至っていないものの、これらの結果を踏まえて継続的なフォローアップを行ってほしい」と強調した。なお、いずれの結果を見るうえで、FLX Proは発売からフォローアップまでの期間が短いことには注意が必要である。国内ガイドラインでの推奨は… 日本での左心耳閉鎖術に関する推奨は、『2021年JCS/JHRSガイドラインフォーカスアップデート版不整脈非薬物治療』1)において、「NVAFに対する血栓塞栓症の予防が必要とされ、かつ長期的な抗凝固療法の代替が検討される症例に左心耳閉鎖術を考慮してもよい(推奨クラスIIB、エビデンスレベルB)」となっていた。しかし、2024年にフォーカスアップデート版として公開された『2024年JCS/JHRSガイドラインフォーカスアップデート版不整脈治療』では、症例数の乏しさから左心耳閉鎖術に関する項目に変更は示されず“長期的な抗凝固療法が必要ではあるが、出血リスクが高く抗凝固療法が適切ではない患者においては、左心耳閉鎖デバイスを用いた経皮的左心耳閉鎖術や胸腔鏡下左心耳閉鎖術を症例に応じて考慮してもよい”(p.59)にとどまっている。これについて草野氏は「J-LAAOを経年的に見ても、植込み対象での出血2次予防の割合が減少し、塞栓予防目的の植込みが増加している。今後は海外ガイドラインに準じて、脳梗塞高リスク例への広がりが期待される」と述べた。 最後に国内の状況について、同氏は「米国と日本では左心耳閉鎖術の実施件数に10倍もの差があり、欧米に比べると国内での実施件数は少ない。またレジストリでは、少数ながら脱落が外科手術に至った例があり、安全を心がけた植込み術も重要である」と締めくくった。

19.

アスピリンでも安易な追加は良くない:抗凝固薬服用中の慢性冠動脈疾患の場合(解説:後藤信哉氏)

 慢性冠動脈疾患一般は、アスピリンによる心血管イベントリスクの低減が期待できる患者集団である。しかし、慢性冠動脈疾患でもさまざまな理由により抗凝固療法を受ける症例がいる。抗凝固薬の使用により出血イベントリスクが増加したところにアスピリンを追加すると、出血イベントリスクがさらに増加すると想定される。本研究では、抗凝固薬を服用している慢性冠動脈疾患を対象としてアスピリンとプラセボのランダム化比較試験を施行した。 慢性冠動脈疾患一般ではアスピリンによる心血管死亡リスクの低減が期待される。しかし、抗凝固薬を服用している慢性冠動脈疾患にアスピリンを追加すると、心血管死亡、心筋梗塞、脳梗塞、全身塞栓症、冠動脈再灌流療法、下肢虚血などは増加した。重篤な出血イベントリスクと出血死亡率も増加している。慢性冠動脈疾患でも抗凝固薬を服用している症例には安易にアスピリンを追加すべきでないことを示唆する結果であった。 心筋梗塞などの心血管イベントは血栓イベントなので抗血栓薬を使うべきとの方向性から、抗凝固薬などを使用している出血リスクの高い症例では安易な抗血栓薬の追加は避ける方向に世の中が動いている。

20.

経口抗凝固療法中の慢性冠症候群患者、アスピリン併用は?/NEJM

 経口抗凝固薬を服用中のアテローム血栓症リスクが高い慢性冠症候群患者において、アスピリンの追加投与はプラセボと比較し、心血管死、心筋梗塞、脳卒中、全身性塞栓症、冠動脈血行再建術または急性下肢虚血の複合アウトカムのリスクを増加させ、さらに全死因死亡および大出血のリスクも高める。フランス・リール大学のGilles Lemesle氏らが、同国の51施設で実施された二重盲検プラセボ対照無作為化試験「Assessment of Quitting versus Using Aspirin Therapy in Patients with Stabilized Coronary Artery Disease after Stenting Who Require Long-Term Oral Anticoagulation trial:AQUATIC試験」の結果を報告した。長期経口抗凝固療法中の高リスク慢性冠症候群患者に対する適切な抗血栓療法のレジメンは依然として明らかになっていなかった。NEJM誌オンライン版2025年8月31日号掲載の報告。ステント留置後6ヵ月以上経過した経口抗凝固療法中の慢性冠症候群患者が対象 研究グループは、登録の6ヵ月以上前に冠動脈ステント留置術を受け、アテローム血栓症リスクが高く長期にわたり経口抗凝固療法を受けている慢性冠症候群成人患者を対象とし、アスピリン群またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付け、経口抗凝固療法継続下でそれぞれ100mgを1日1回投与した。 継続する抗凝固療法が経口抗凝固薬と1種類の抗血小板薬であった場合、その1種類の抗血小板薬がアスピリンであればアスピリン継続投与群または中止群に無作為に割り付け、経口抗凝固薬単独であった場合は、アスピリン開始群または非開始群に無作為に割り付けた。 有効性の主要アウトカムは、心血管死、心筋梗塞、脳卒中、全身性塞栓症、冠動脈血行再建術、急性下肢虚血の複合であった。安全性の主要アウトカムは大出血(国際血栓止血学会[ISTH]の定義による)とした。アスピリン追加で全死因死亡率が増加 2020年5月~2024年4月に計872例が無作為化され、アスピリン群433例、プラセボ群439例に割り付けられた。 なお、本試験は追跡期間中央値2.2年後、アスピリン群における全死因死亡率の増加が認められため、独立データ安全性モニタリング委員会(IDSMB)の勧告に基づき、2024年4月16日に患者登録が中止された(最終追跡調査日2025年5月16日)。 有効性の主要アウトカムのイベントは、アスピリン群で73例(16.9%)、プラセボ群で53例(12.1%)に発生した(補正後ハザード比[HR]:1.53、95%信頼区間[CI]:1.07~2.18、p=0.02)。全死因死亡の発生は、それぞれ58例(13.4%)、37例(8.4%)であった(補正後HR:1.72、95%CI:1.14~2.58、p=0.01)。 大出血は、アスピリン群で44例(10.2%)、プラセボ群で15例(3.4%)に認められた(補正後HR:3.35、95%CI:1.87~6.00、p<0.001)。アスピリン群およびプラセボ群で、それぞれ201例467件、192例395件の重篤な有害事象が報告された。

検索結果 合計:312件 表示位置:1 - 20