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耳介の外傷(耳介血腫)の処置【漫画でわかる創傷治療のコツ】第11回

第11回 耳介の外傷(耳介血腫)の処置《解説》今回は、柔道など格闘技の選手によく起こる耳介の外傷「耳介血腫」の処置について解説します。耳介は側頭面より聳立(しょうりつ)しているため、とくに外傷を受けやすい部位です。構造も複雑で、一度変形を生じると再建が困難となるため、適切な初期治療が求められます。耳介軟骨は軟骨膜によって血液が供給されているため、鈍的外力により耳介が外傷を負うと、軟骨膜下の血腫を引き起こすことがあります。血腫の排液に失敗したり、治療をせず放置したりすると、血腫は吸収されずに器質化し、不可逆的な耳介変形を引き起こすので迅速に対処しましょう!処置の前に行う洗浄や局所麻酔については、以前の記事を参考にしてください。耳介ブロックも知っていると便利です。画像を拡大する(1)耳介血腫の処置耳介血腫は、耳介前面の軟骨膜下に血液が溜まった状態です。耳介前面の上半部(舟状窩)に起こりやすいです。単なる穿刺吸引では再発するので、絶対に固定を行ってください!!!急性期であれば、血腫を穿刺吸引後に脱脂綿、ガーゼなどを使用して耳介の凸凹に合わせて枕縫合(漫画参照)を行い、血腫腔(つまり血が溜まるスペース)を残さないようにします。縫合はドレナージが効くように、あえて間隔を空けてナイロン糸で縫合します。ペンローズドレーンも有効です。2~3日経過したものは切開をやや広くして内部を掻爬(そうは)し、血腫とフィブリンを除去した後、同様に固定します。再発性のものや凝固してしまっている血腫については、耳介後面から皮膚軟骨を切開して血腫を排出し、同様に圧迫固定するか形成外科外来に紹介してください。(2)耳介裂傷の処置耳介裂傷のうち、耳介軟骨が露出していない耳輪辺縁のみの軽傷例であれば保存的治療でも治癒しますが、多くは縫合が必要です。血行は良好なので、受傷後24時間以内であれば一次縫合が可能であるとされています。しかし、耳介から完全に、または部分的に剥離してしまった組織片がある場合は、受傷後数時間以内に縫合を行わないと生着率が低下してしまうので、速やかに形成外科等に紹介しましょう。縫合は、漫画にあるように前後の皮膚と耳介軟骨の3層をそれぞれ行います。軟骨は裂けやすいため、しっかり縫合するというよりも正しい位置に戻すというイメージです。参考波利井 清紀ほか監修. 形成外科治療手技全書III 創傷外科. 克誠堂出版;2015.福田 修、荻野 洋一編著. 耳介の形成外科. 克誠堂出版;2005.市田 正成著. スキル外来手術アトラス. 第3版. 文光堂;2006.岡 正二郎監訳. ERでの創処置 縫合・治療のスタンダード. 羊土社;2019.

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第120回 断食でCOVID-19重症化予防? / 音の鎮痛効果の仕組み

定期的な断食の習慣は健康に良いという報告がいくつかあり、たとえば心疾患や2型糖尿病を生じ難くなることやより長生きになることとの関連が示されています。断食の習慣が担いうる効能はどうやらまだ出尽くしてはおらず、米国ユタ州での試験で新型コロナウイルス感染(COVID-19)重症化を防ぐ効果が示唆されました1,2)。毎月最初の日曜日に2食続けて抜く断食(Intermittent fasting)をすることがユタ州の住民の大半(6割超)を占める末日聖徒イエス・キリスト教会教徒の典型的な習慣として知られています。試験ではそのユタ州の医療法人Intermountain HealthcareのCOVID-19患者201人が調べられ、断食の習慣がある人はない人に比べてCOVID-19による入院や死亡をより免れていました。COVID-19入院/死亡率は断食をしていた71人では11%、そうでない人では約28%でした(ハザード比:0.61、95%信頼区間:0.42~0.90)。断食の習慣とCOVID-19の経過が良好なことを関連付ける仕組みは今後調べる必要がありますが、考えられる仕組みが幾つかあります。断食をするとリノール酸を含む脂肪酸が体内で増えることが知られています。リノール酸は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のスパイクタンパク質にきつく結合し、細胞受容体ACE2への親和性を低下させます。断食で増えたリノール酸はそのようにしてSARS-CoV-2感染細胞や細胞内SARS-CoV-2粒子を減らしてCOVID-19重症化を予防するのかもしれません。断食で増える多機能なタンパク質・ガレクチン3がSARS-CoV-2感染抑制に一役買っている可能性もあります。ガレクチン3は数多くの病原体に結合することができ、自然免疫を活性化し、抗ウイルスタンパク質遺伝子の発現を増やし、ウイルス複製を阻害することなどが知られています。また、COVID-19経過不良と関連する糖尿病や冠動脈疾患などの持病が断食で生じ難くなることでCOVID-19重症化が間接的に抑制されている可能性もあります。時々の断食はCOVID-19ワクチンの代役とはなりえませんが、ワクチン接種を補完してCOVID-19重症化を減らす予防や治療の役割を担えるかもしれません。全世界の誰もが数ヵ月に1回のCOVID-19ワクチン接種をいつまでも続けることはおよそ現実的ではなく1)、接種が行き届いていない国は多く存在します。COVID-19流行の目下やこれからの世界での断食のワクチン補完の役割はCOVID-19後遺症への効果も含めて更なる検討の価値があると著者は結論しています。音の鎮痛効果の仕組み約60年前の1960年、歯科処置中に音楽を流すことで患者の痛みが和らぐことを示した報告がScienceに掲載されました3)。難儀な処置を亜酸化窒素や局所麻酔なしでやりおおせた患者もいたほどの効果がありました。以降、モーツァルトの古典音楽やら現代のミュージシャン・マイケル ボルトンの歌やらさまざまな音の鎮痛効果が検討され、実際に効果も認められました。たとえば8年ほど前の2014年の報告ではそのモーツァルトやマイケル ボルトン等の好きな音楽を聴いているときの線維筋痛症患者の痛みが減ることが示されています4)。米国NIHの神経生物学者Yuanyuan Liu氏等が率いるチームがScienceに発表した最新のマウス研究成果によると、そういった音の鎮痛効果はどうやら脳の特定の神経回路を抑制することでもたらされるようです5)。研究でマウスには少なくとも人には心地よいバッハの交響曲Rejouissance(歓喜)を毎日20分聴かせました6)。曲の音の強さは50~60デシベルで、曲なしでの背景音(ambient noise)は45デシベルが保たれました。マウスの足には炎症痛誘発液(complete Freund’s adjuvant;CFA)が注射され、続いて微針(von Frey filament)でその足を突いてどれだけ痛がるかが調べられました。驚いたことに、痛みを緩和する音の強さは決まっているようで、曲が背景音を5デシベル上回る50デシベルのときにマウスの痛みが緩和しました。50デシベルだとマウスは足を刺激されても平気で、それより強い音だと音楽なしのときと同様により痛がりました。人にとって不快なように変化させたRejouissanceやホワイトノイズでどうかを試したところ、それらが背景音を若干上回るデシベルであればやはり痛みを和らげました。つまり音の種類や快不快ではなく強度が鎮痛の鍵を握るようです7)。そういう低強度の音の鎮痛効果を担う脳の神経回路を同定すべく色素を使って脳領域の連結を調べたところ聴覚皮質から視床への経路が見つかり、低強度の音はその経路の神経活動を低下させました。音なしでその経路を光や低分子化合物で止めると低強度の音と同様に痛みを和らげる効果があり、その経路が通るようにすれば痛みが復活しました。すなわち低強度の音は聴覚皮質から視床への神経信号を阻害することで鎮痛効果をもたらしているようです。今後の課題として、鎮痛には背景音を若干上回る低強度の音でないとどうしてだめなのかを解き明かしたいと研究者は考えています。また、音を使った痛み治療の実現に向けて人ではどうなのかも調べる必要があります。たとえばマウスに試したような低強度の音を聞いているときの視床の活動をMRIスキャンで測定する試験は実施する価値がありそうです6)。参考1)Horne BD, et al. BMJ Nutrition Prevention & Health. 2022 Jul 1.2)Study finds people who practice intermittent fasting experience less severe complications from COVID-19 / Eurekalert3)GARDNER WJ,et al. Science 1960 Jul 1;132:32-3.4)Garza-Villarreal EA,et al. Front Psychol. 2014 Feb 11;5:90. 5)Sound induces analgesia through corticothalamic circuits. Science. 2022 Jul 7.6)Soft sounds numb pain. Researchers may now know why / Science7)Researchers discover how sound reduces pain in mice / NIH

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痙攣性発声障害〔SD:Spasmodic dysphonia〕

1 疾患概要■ 概念・定義痙攣性発声障害は、発声器官に器質的異常や運動麻痺を認めない機能性発声障害の1つで、発声時に喉頭筋の不随意的、断続的な収縮により音声障害を来す疾患である。1871年にTraubeが“spastic dysphonia”として初めて報告した。1968年にAronsonらが内転型と外転型の2つの病型に分類して“spasmodic dysphonia”という名称を提唱し、それ以降その名称が用いられている。発声時の声帯筋の筋緊張に関わるフィードバック機構の異常による喉頭の局所性ジストニア(focal dystonia)と考えられている。■ 病因痙攣性発声障害では約12%の患者でジストニアの家族歴がみられ、少なくとも一部の例では遺伝的要因が関与すると考えられている1)。ジストニア関連遺伝子のうちGNAL遺伝子変異の関与が指摘され、GNAL遺伝子変異を認めた例ではfunctional MRIにより前頭頭頂葉皮質の活動が亢進し、小脳の活動が低下していることが示されている。本症の病因は十分には解明されていないが、大脳白質における神経細胞の解剖学的異常、発声に関わる感覚-運動ネットワーク障害、中枢の神経伝達物質であるドーパミンやGABAの代謝異常などの関与が推測されている1)。■ 病型および症状本症は大きく内転型と外転型に分けられる。内転型では発声時に声帯が内転して声門が過閉鎖されることで発声中の呼気流が遮断され、発声時に断続的な声の途切れ、声の詰まり、努力性発声などを呈する。一方、外転型は発声時に声帯が外転して声門が開大することで、断続的な気息性嗄声、声の抜けなどの症状を呈する。いずれの病型においても、スムーズな会話が障害され日常生活上、大きな支障が生じる。■ 疫学筆者らが2013年に行った全国疫学調査などによると、病型別では内転型が90~95%と大部分を占め、男女比は約1:4で女性に多く、年齢は20および30歳代が約60%を占める2)。また、有病率は3.5~7.0人/10万人で、いわゆる希少疾病である。海外と比較するとわが国では女性の比率が高く、発症年齢は低い傾向にある。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)数年前まで、国内外を通じて本症の明確な診断基準はなかったが、厚生労働省研究班により2017年に診断基準と重症度分類が作成された。診断基準は必須条件、主要症状、参考となる所見、発声時の所見、治療反応性からなる(表1)3)。主な鑑別疾患は、音声振戦症、過緊張性発声、心因性発声障害、吃音がある。表1 痙攣性発声障害の診断基準(概要)画像を拡大する重症度分類はまず主観的重症度と客観的重症度に分けて評価する(表2)。主観的重症度は、音声障害の自覚度評価法であるVoice Handicap Indexと社会的・心理的支障度(声の障害により社会生活にどの程度の支障があるか)をそれぞれ点数化する。客観的重症度は規定文朗読や自由会話を検者が聞きとって、声の異常度を点数評価する。そして、両者の点数の組み合わせから、疾患の総合的重症度を決定する(表3)3)。表2 主観的および客観的重症度基準画像を拡大する表3 痙攣性発声障害の総合的重症度分類3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 保存的治療1)音声治療内転型痙攣性発声障害は発声時に声門が過閉鎖することによる音声障害であることから、発声時の喉頭筋の緊張を軽減させることで、症状を軽減できる場合がある。具体的な手技として、発声と呼吸のパターンを整えて楽な発声を誘導する腹式発声、喉頭筋の過緊張を軽減するための喉頭リラクゼーション法、高音での発声などがある。ただし、いずれも根本治療ではなく音声治療のみでの効果は限定的である。2)ボツリヌストキシン治療ボツリヌストキシンを喉頭筋に注入することで、筋の異常収縮を抑えて音声症状を改善させる治療法である。侵襲性が少なく奏効率が高いことから、米国耳鼻咽喉科・頭頸部外科学会の「嗄声の診療ガイドライン」、わが国における「ジストニア診療ガイドライン」や「音声障害診療ガイドライン」において、本症に対する標準治療と位置付けられている。通常、内転型では輪状甲状間膜経由で甲状披裂筋に、外転型では輪状軟骨外側からのルートで後輪状披裂筋に、筋電図モニター下に投与する(図1)。治療効果は注入の1、2日後より現れ、平均15週間程度持続する。治療に伴う副作用としては、一過性の気息性嗄声や液体嚥下時のむせがある。国内では2018年にA型ボツリヌストキシン(商品名:ボトックス)の適用承認が得られた4)。先進国ではオーストラリアに次いで2ヵ国目である。図1 ボツリヌストキシン治療内転型では輪状甲状間膜経由で、外転型では輪状軟骨外側からのルートでそれぞれ標的筋に投与する。■ 外科的治療内転型痙攣性発声障害に対しては、以下に示す外科的治療があり、近年、適用症例が増えつつある。一方、外転型に対しては有効性が確立された外科的治療はない。1)甲状披裂筋切除術全身麻酔下に経口的に喉頭へアプローチし、声帯上面に切開を加えて責任筋である甲状披裂筋を両側性に鉗除する。手術手技が比較的簡単で皮膚切開を要しないという利点があるが、術後に気息性嗄声がみられる短所がある。2)選択的反回神経内転筋枝切断-再支配手術反回神経の内転筋枝を一旦切断したのちに再支配させる選択的反回神経内転筋枝切断-再支配手術(selective laryngeal adductor denervation-reinnervation surgery)が米国を中心に行われている。手技がやや煩雑でやはり術後に嗄声を来すことが多く、わが国ではあまり行われていない。3)甲状軟骨形成術2型局所麻酔下に甲状軟骨上に皮膚切開を置き、甲状軟骨を正中で縦切開して離断する。離断した軟骨を左右に開大することで、声帯前方を拡げて声帯の過閉鎖が起こらないようにする(図2)。術直後より音声が改善し、長期的にも安定した治療効果が得られることから5)、わが国を中心に手術例が増加しつつある。図2 内転型痙攣性発声障害に対する甲状軟骨形成術2型の模式図甲状軟骨を正中で切開し左右に開大してチタンブリッジにより固定することで、声帯内転による声門の過閉鎖を防止する。4 今後の展望近年の国内外における研究により、本症の病態は明らかになりつつある。また、治療においてもボツリヌストキシン治療や外科的治療の有効性が普及してきた。一方、本症に対する根治的治療法はまだない。発声に関わる中枢へのアプローチによる根治的治療法開発も進められており、今後のさらなる研究の発展が期待される。また、患者は耳鼻咽喉科のみならず、脳神経内科、脳神経外科、心療内科、精神科などさまざまな診療科を受診することが考えられる。本症の認知度はまだ十分とは言えず、早期診断や適切な治療に向けて、これらの診療科の医師や国民に対する啓発活動も望まれる。5 主たる診療科耳鼻咽喉科、脳神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診断・治療に関する情報日本音声言語医学会ホームページ(痙攣性発声障害の診断基準および重症度分類、ボツリヌストキシン治療実施可能施設一覧を掲載)患者会情報SDCP発声障害患者会(痙攣性発声障害を含む発声障害患者さんの交流と情報交換)1)兵頭政光. Clinical Neuroscience. 2020;38:1122-1124.2)Hyodo M, et al. Auris Nasus Larynx. 2021;48:179-184.3)鈴木則宏ほか編. Annual Review 神経 2020. 中外医学社;2020:229-235.4)Hyodo M, et al. Eur J Neurol. 2021;28:1548-1556.5)Sanuki T, et al. Otolaryngol Head Neck Surg. 2017;157: 80-84.公開履歴初回2022年2月21日

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事例042 皮膚・皮下腫瘍摘出術の査定【斬らレセプト シーズン2】

解説事例では、右上眼瞼皮膚良性腫瘍に「K005 1 皮膚・皮下腫瘍摘出術(露出部 長径2cm未満)を算定したところ、「K001 1 皮膚切開術(長径10cm未満)」570点に査定となりました。査定理由を調べるためにカルテを確認しました。局所麻酔下において、右上眼瞼の腫瘍を摘出したことが記載されていました。改めて、レセプトを確認すると、局所麻酔が表示されていません。入力担当に尋ねたところ、「使用量の麻酔薬を手術の薬剤として算定したところ、15円以下のため表示されなかった」とのことでした。保険診療には「手術は通常麻酔下に行われる」という前提があります。この前提に基づき、「皮膚・皮下腫瘍摘出術」は過剰とみなされ、通常麻酔下でなくとも実施が認められている「皮膚切開術」に査定となったものと推測できます。査定防止として、手術に対する麻酔がレセプトに表示されない場合には、コメントに「麻酔薬の使用を記載すること」としました。なお、炎症性粉瘤・せつ・よう・粘液水腫などに対する皮膚切開術は通常麻酔下でなくとも算定ができるとされています。

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頭皮の傷(裂創)の縫合処置【漫画でわかる創傷治療のコツ】第8回

第8回 頭皮の傷(裂創)の縫合処置外来で意外とよく見かける頭の傷。頭皮は血流が豊富なため傷が浅くても結構出血するので、外来に慌てて駆け込んでくる患者さんがよくいます。しかし、頭部は皮膚が厚く毛包脂腺系に富むので、全身の皮膚の中で最も良好な創傷治癒機転が働く部位でもあります。つまり治りやすいので、慌てず落ち着いて処置していきましょう!ただ、頭を打っている場合は頭蓋内病変も心配です。まずは頭部への衝撃による頭蓋内病変の有無を速やかに判定し、その疑いがあれば直ちに脳外科専門医に紹介をしましょう。外来では、それらを否定してから創部の処置を行います。次に、大まかに創部の状態をチェックして、縫合が必要かどうか、局所麻酔が必要かどうかを考えましょう。擦過傷であれば、第2回に解説した対応で問題ありません。皮膚や浅い皮下組織までの損傷なら、ちゃんと毛が生えます。頭皮の欠損が大きい場合は形成外科に紹介してくださいね。頭皮縫合のポイントは「帽状腱膜」の状態を見極めることさて、よくある頭部の外傷は裂創です。今回は頭皮裂創の縫合処置をメインに解説します。毎度のことですが、最初は局所麻酔と洗浄を行いましょう。創傷処置の基本は洗浄です! 剃毛は必要ありません!! もしどうしても剃毛する場合は、周囲5mm程度にしましょう。剃毛後は粘着テープで周囲の髪を除去します。挫滅した組織をトリミングする際は最小限にとどめ、楔状(右図参照)に行いましょう。洗浄と局所麻酔については前の記事(第2回、第3回)を参照してください。頭皮の縫合を行うに当たって、できれば見極めてほしいポイントが、「帽状腱膜まで切れているのかどうか?」です。処置方法は、帽状腱膜の処置が必要かどうかで大まかに分けられます。(1)帽状腱膜の状態を確認創部がどのくらいの深さか判定するためには、まず頭皮の解剖学を理解していないといけませんね。表皮から順にSCALPの頭文字になっています(下図参照)。皮膚~皮下組織~棒状腱膜は密に結合しているため、まとまって骨膜から剥がれて出血していることが多いです。帽状腱膜(下図参照)は、皮下組織より深層、骨膜上に存在しています。前方では前頭筋、後方では後頭筋、側方では上耳介筋、側頭筋膜にそれぞれ移行する横方向に強靭な線維性組織で、この表層に主要血管と神経が走行しています。そのため、帽状腱膜が損傷している場合は出血量が多いことがあるのです。帽状腱膜の縫合が必要な場合帽状腱膜が破れていたら、しっかり縫合することがその後の止血や瘢痕(はんこん)予防に重要となります。骨膜が見えている、もしくはすぐ硬い骨が触れるような場合、帽状腱膜が破れている可能性が高いです。太めのナイロン糸(4−0)でしっかり縫合しましょう。出血源となっていることも多いため、ここをしっかり縫合することである程度の出血をコントロールできるはずです。腱膜を寄せるのが緊張で難しい場合は、帽状腱膜下を少し剥離するとよいです。帽状腱膜の縫合が不要な場合比較的浅い傷で、毛包や脂肪層が見える範囲にとどまっている場合、出血は圧迫止血のみでコントロールできることが多いです。無闇に電気メスやバイポーラで止血すると毛包を傷つけてしまうので気を付けてください。縫合は、後に解説する表面縫合のみで対応します。(2)帽状腱膜がどれかわからなかったら…帽状腱膜は慣れていないと同定しづらいこともあります。その場合、皮膚から帽状腱膜まで大きく組織を取って縫合するやり方もあります。出血が多い場合は、このように大きく針糸をかけて強めに縫合します。残ってしまった瘢痕は髪の毛で隠せます。縫合の緊張が強過ぎて創縁が壊死してしまった場合は、抜糸後に軟膏処置などを行う必要があります。(3)頭皮の表面縫合について帽状腱膜の処置が終わったら、表皮を縫合しましょう。前回、頭皮に真皮縫合は必要ないと説明しました。真皮縫合を行うと、毛包を損傷し瘢痕性脱毛の原因となります。右図のように真皮浅層から中層を通すように表面縫合を行います。後に記載するステープラー縫合もいいと思います。(4)ステープラー縫合について毛包を損傷しにくいという点で、ステープラー縫合は頭皮の表面縫合に有用です。ただ、寝転がる際に当たる部分などは日常生活で患者さんが苦痛に感じることもあるので注意しましょう。小児の頭部裂創に対して皮膚接着剤を使う方法がある?泣き叫ぶ子供を押さえつけて局所麻酔して縫合して…とは非常に困難ですよね。そこで、止血ができた比較的浅い(皮下組織程度)裂創に対して、ダーマボンドを使う方法があります。創部を寄せるように髪の毛をくっつけるのです。もちろん、処置の前に創部をしっかり洗浄して水分は拭き取ること! ダーマボンドが傷に入らないよう、気をつけて行ってくださいね。参考1)Brosnahan J. Evid Based Nurs. 2003;6:17.2)夏井 睦. ドクター夏井の外傷治療裏マニュアル. 三輪書店;2007.3)波利井 清紀ほか監修. 形成外科治療手技全書I 形成外科の基本手技1. 克誠堂出版;2016.4)菅又 章 編. PEPARS(ペパーズ)123 実践!よくわかる縫合の基本講座<増大号>. 全日本病院出版会;2017.5)横田 和典 編.PEPARS(ペパーズ)177 当直医マニュアル形成外科が教える外傷対応.全日本病院出版会;2021.6)山本 有平 編.PEPARS(ペパーズ)14 縫合の基本手技<増大号>.全日本病院出版会;2007.7)上田 晃一 編. PEPARS(ペパーズ)88 コツがわかる!形成外科の基本手技―後期臨床研修医・外科系医師のために―. 全日本病院出版会;2014.8)日本形成外科学会, 日本創傷外科学会, 日本頭蓋顎顔面外科学会編. 形成外科診療ガイドライン2 急性創傷/瘢痕ケロイド. 金原出版;2015.

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先生!その縫合の目的は何ですか?~縫合の歴史と目的~【漫画でわかる創傷治療のコツ】第4回

第4回 先生!その縫合の目的は何ですか?~縫合の歴史と目的~《解説》さて、前回から切り傷の縫合処置について解説していますが、まずは準備段階として、創部確認~局所麻酔~消毒を中心にお話ししました。今回は、実際の縫合処置に入る前のアイスブレイクとして、縫合処置の歴史と目的を確認しておきましょう。そもそも、縫合は何のために行われるのでしょうか? 創面積の縮小が1つの目的ではありますが、組織の欠損が大きくなければ、縫合しなくても適切な軟膏処置などで傷自体は治ります。縫合するということは、組織の一部が血行不良となるので、誤った処置はむしろ創縁の壊死や創離開の原因となり、治癒が遅くなることさえあるのです。では、わざわざ異物である縫合糸を使って縫合する理由は何でしょうか。縫合は、大きく分けると、皮膚表面を縫う縫合と皮下(真皮も含む)を縫う縫合の2つがあります。これらの縫合によって、創傷の一次治癒を達成できるだけでなく、最小の瘢痕形成にとどめられるという利点があります。切り傷によって、本来の生体構造にはない空間(死腔)ができると、そこに浸出液や壊死組織がたまって感染源になってしまいます。感染すると傷の治りが遅れ、一次治癒が阻害されて傷痕が残ります。つまり、適切な縫合処置をすることで、傷の治りが良く(早く)なるだけでなく、傷自体も小さくすることができるのです!次回は、実際の縫合処置を行うために用意する道具(器械、糸、針)について説明します!参考1)McCarthy J.G. Introduction to plastic surgery. Plastic Surgery. Vol 1. Philadelphia: W. B. Saunders Co.;1990.p.42-53.2)小林寛伊. 縫合材料の歴史と問題点. 医科器械学雑誌. 1975;45:627−634.3)日本医療用縫合糸協会ホームページ

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がん治療の中心静脈アクセスデバイス、完全埋め込み型ポートが有用/Lancet

 固形腫瘍または血液腫瘍患者の全身性抗がん薬治療(SACT)に使用する中心静脈アクセスデバイス(CVAD)では、完全埋め込み型ポート(PORT)はHickmanトンネル型中心静脈カテーテル(Hickman)や末梢挿入型中心静脈カテーテル(PICC)と比較して、合併症の頻度がほぼ半減し、QOLや費用対効果も比較的良好である可能性があることが、英国・グラスゴー大学のJonathan G. Moss氏らが実施した「CAVA試験」で示された。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2021年7月20日号に掲載された。3つの2群間比較で非劣性または優越性を評価 研究グループは、悪性腫瘍患者に対するSACTに用いる3つのCVADについて、合併症の発生率や費用、QOLを比較し、受容性、臨床的有効性、費用対効果を評価する目的で、非盲検無作為化対照比較試験を行った(英国国立衛生研究所[NIHR]医療技術評価[HTA]プログラムの助成による)。本試験では、2013年11月~2018年2月の期間に、英国の18の腫瘍科病棟で参加者が募集された。 対象は、年齢18歳以上、固形腫瘍または血液腫瘍の治療で12週以上のSACTが予測され、最適なCVADに関して臨床的に不確実性が認められる患者であった。 被験者は、4つの無作為化の選択肢(Hickman対PICC対PORT[2対2対1]、PICC対Hickman[1対1]、PORT対Hickman[1対1]、PORT対PICC[1対1])に基づいて、3つのCVADに割り付けられた。PICCとHickmanの比較では非劣性(マージン:10%)、PORTとHickmanおよびPORTとPICCの比較では優越性(マージン:15%)の評価が行われた。 主要アウトカムは、デバイスの除去、試験中止、追跡期間1年のうちいずれか先に到達した時点における合併症(デバイス関連の感染症・静脈血栓症・肺塞栓症、静脈血吸引不能、器具の故障など)の発生率とした。医療サービス提供モデルの改変が課題 1,061例が登録され、PICC対Hickmanに424例(PICC群212例、Hickman群212例)、PORT対Hickmanに556例(253例、303例)、PORT対PICCに346例(147例、199例)が割り付けられた(Hickman対PICC対PORTの患者は2つの2群間比較に含まれたため、比較対象の患者の総数は無作為化で割り付けられた患者数よりも多く、1,326例[各群の平均年齢の幅59~62歳、女性の割合の幅44~55%]となった)。 がん種は、固形腫瘍が87~97%で、このうち大腸がんが46~65%、乳がんが11~16%、膵がんが6~15%であり、血液腫瘍は3~13%で、固形腫瘍の患者のうち59~68%に転移病変が認められた。 Hickmanの留置を最も多く行ったのは放射線科医(46~48%)で、次いで看護師(23~35%)、麻酔科医(13~20%)の順であった。PICC留置の多くは看護師(67~73%)によって行われた。PORT留置は、放射線科医(59~78%)、看護師(2~24%)、麻酔科医(10~11%)の順だった。PORT群の5例が全身麻酔下にデバイスを留置されたが、これ以外はすべて局所麻酔下であった。 PICC対Hickmanの合併症発生率は、PICC群が52%(110/212例)、Hickman群は49%(103/212例)と同程度であった。両群間の差は10%未満であったが、PICCのHickmanに対する非劣性は確認されず(オッズ比[OR]:1.15、95%信頼区間[CI]:0.78~1.71)、検出力が不十分である可能性が示唆された。 PORT対Hickmanの合併症発生率は、PORT群が29%(73/253例)と、Hickman群の43%(131/303例)に対して優越性が認められた(OR:0.54、95%CI:0.37~0.77)。また、PORT対PICCでは、PORT群は32%(47/147例)の発生率であり、PICC群の47%(93/199例)に比し優れていた(0.52、0.33~0.83)。 デバイス特異的なQOLは、PICC群とHickman群に差はなく、PORT群はこの2群に比べ良好であった。一方、PICC群はHickman群よりも総費用が低かった(-1,553ポンド)が、留置期間を考慮すると、週当たりの費用の差は小さくなった(-129ポンド)。PORT群はHickman群に比べ総費用(-45ポンド)が低く、週当たりの費用も安価であった(-47ポンド)が、有意差はなかった。また、PORT群はPICC群に比し総費用が実質的に高額であった(+1,665ポンド)が、週当たりの費用は逆に低かった(-41ポンド、有意差はない)。 著者は、「これらの知見により、固形腫瘍でSACTが行われる患者の多くは、英国国民保健サービス(NHS)の範囲内でPORT留置を受けるべきであることが示唆される」とまとめ、「現在の課題は、PORTをより適切な時期に、費用対効果が高い方法で施行できるように、医療サービス提供モデルを改変することである」としている。

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切り傷の縫合処置(創部確認~局所麻酔~消毒)【漫画でわかる創傷治療のコツ】第3回

第3回 切り傷の縫合処置(創部確認~局所麻酔~消毒)《解説》前回は、擦過傷(擦り傷)についての基礎的な解説をしました。今回は、切創の縫合処置について、基本的なことを何回かに分けて説明していこうと思います。※咬傷などの術後感染が懸念される場合については、また別途解説予定です。けがから8時間以内の切り傷は一次縫合の適応受傷後8時間以内で汚染が少ないと考えられる切創であれば、縫合処置で一次治癒(切り傷がそのままくっついて、傷痕が少なく治る状態)を目指しましょう。その場で縫合を行うかの判断は、創の部位、汚染の有無、基礎疾患などを考慮し、リスクを患者さんにしっかり説明したうえで行います。どうしても迷って決断できない場合や、縫合の手技が難しいと考えた場合は、洗浄と軟膏処置のみ行い、できるだけ早めの形成外科受診を促してください。それでは、実際の処置の流れを説明します。(1)創部の確認まずは、創を簡単に確認しましょう。顔面は、眼瞼や耳介、鼻など特徴的な形態の部位が多く、また口唇の赤唇と白唇といった解剖学的に境界線を有する組織もあるため、ランドマークは先にマーキングしておきましょう。後ほどの処置で、局所麻酔薬による腫脹やエピネフリンによる血管収縮で境界がわからなくなってしまうことがあります。(2)洗浄:必要に応じて局所麻酔と組み合わせる前回取り上げた擦過傷と同様に、洗浄が大切です! 切創の場合、洗浄前に縫合処置の必要性が高そうだと判断できるならば、先に局所麻酔をしておくと、創部を観察しやすくなるのでおすすめです。とくに小児の場合は、表面麻酔をしてから局所浸潤麻酔をすると、麻酔時の痛みも軽減できます。洗浄の方法については、前回の記事も参考にしてください。(3)局所麻酔皮膚表面の外傷に対して主に使用するのは、表面麻酔、浸潤麻酔、伝達麻酔です(ほかに、脊髄くも膜下麻酔、硬膜外麻酔などがあります)。外来で最も一般的なのは局所浸潤麻酔で、薬剤を皮下や粘膜下に直接注射して浸潤させる方法です。表に、よく使用する局所麻酔薬をまとめました。pKaは作用発現の速さ、分配係数は効果の強さ、蛋白結合率は作用時間の長さと関連しています。たとえば、リドカインだと数分で麻酔が効いてきて、1〜1.5時間(エピネフリン添加であれば2時間)作用が持続しますよ!表:よく使用する局所麻酔薬と各指標なお、麻酔にはリスクが伴うことも念頭に置いておきましょう。薬剤の血中濃度が高くなり過ぎると、中枢神経や心筋のナトリウムチャネル遮断が起こり、中毒症状(めまい、舌のしびれ、耳鳴り、多弁、興奮状態、意識障害、痙攣、昏睡、呼吸停止、循環虚脱)が発現する恐れがあります。麻酔前に同意書を書いていただく際などに、再度リスクについての説明をしておきましょう。禁忌や慎重投与(陰茎、指鼻などの末端部位)でなければ、1%エピネフリン含有リドカインを使うことが多いです。エピネフリンは血管収縮の作用があり止血効果、麻酔薬作用時間の延長効果があります。しかし、動悸頻脈を引き起こすことがあるので注意しましょう。《麻酔時の痛みが出やすいタイミングと対処法》注射薬や洗浄時に皮膚が切れるとき⇒表面麻酔を併用し、30Gなどの細い注射針を使用しましょう。薬剤が浸潤するとき⇒最初は狭い範囲に注射を行い、薬剤をゆっくり注入(slow injection)して、薬が浸潤したところから徐々に広げていきましょう。pH調整(炭酸水素ナトリウム注射液を約10%混ぜるなど)も有効です。極量とは:これを超える量は局所麻酔薬中毒を誘発する危険性が高く、使用してはならない量。極量の半分を超える用量を目安に注意を要します。例)リドカイン1%の極量は5mg/kg(体重50kgの場合25mL) エピネフリン含有リドカイン1%の極量は7mg/kg(同上35mL)(4)その他の麻酔方法:ブロック麻酔指や顔でも、範囲が大きい場合はブロック麻酔を使うと便利です。《指ブロック麻酔》エピネフリンを添加していない麻酔薬を用いることが多いです。指の神経は、漫画にも示した図のように手背側では伸筋腱の両側面の皮下を走行しており、手掌側ではMP関節(指の付け根)の付近で二つに分かれて屈筋腱の両側を走行しています。そのため、指間部で背側2ヵ所、掌側2ヵ所に麻酔薬を注入します。《顔面のブロック麻酔》鼻などはかなり痛みが強い部位なので、顔の神経ブロックを併用すると薬剤の注入時も疼痛が軽減できます。眼窩上神経は三叉神経第1枝の抹消枝であり、眉毛部や前額部の痛みに適応、眼窩下神経は三叉神経第2枝領域であり、下眼瞼や上口唇、鼻腔領域の痛みに適応します。また、オトガイ神経ブロックは、下口唇や頤部の痛みに適応します。切創ではとくに、創部の除痛をしっかり行って洗浄しましょう。砂や小石などの異物はすべて取り除きます。この時に、損傷の深さはどのくらいなのか(たとえば、皮下組織までにとどまっているのか、筋層まで断裂しているのか、腱や神経、主要な血管の損傷がないかなど)を再確認しましょう。(5)消毒、ドレーピング縫合前準備の仕上げとして、縫合する範囲とその周囲を消毒しましょう。顔面にエタノールは、目や粘膜の刺激になるので絶対にやめてくださいね!外来なら、クロルヘキシジン0.05%やポビドンヨードなどが置いてあると思います。ポビドンヨードは術野に色が付いてしまうので、状況によって使い分けてくださいね。今回は、縫合前の準備についてまとめました。次回は、縫合に使用する道具の選択や使い方について解説していく予定です!参考1)波利井 清紀ほか監修. 形成外科治療手技全書I 形成外科の基本手技1. 克誠堂出版;2016.2)日本形成外科学会, 日本創傷外科学会, 日本頭蓋顎顔面外科学会編. 形成外科診療ガイドライン2 急性創傷/瘢痕ケロイド. 金原出版;2015.3)土肥 修司ほか編. イラストでわかる麻酔科必須テクニック. 羊土社;2019.4)菅又 章 編. PEPARS(ペパーズ)123 実践!よくわかる縫合の基本講座<増大号>. 全日本病院出版会;2017.5)岡崎 睦 編. PEPARS(ペパーズ)127 How to局所麻酔&伝達麻酔. 全日本病院出版会;2017.6)一般社団法人 日本創傷外科学会ホームページ

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ワクチン接種後の手のしびれ、痛みをどう診るか(1)

前回、ワクチン接種後に生じる可能性のある末梢神経障害や、SIRVA(Shoulder Injury Related to Vaccine Administration:ワクチン接種に関連する肩関節傷害)について解説しました。今回はワクチン接種後にこれらを疑う症例について、より実際に即したお話をしたいと思います。<今回のポイント>神経に穿刺した場合、“どこに注射したか”“何を注射したか”“損傷の形態”さらに“心因的な要素”などによって症状は異なる。神経を損傷したわけではなくても、注射の後に手の痺れを訴えることがある。末梢神経損傷やSIRVAについて、ワクチン接種に従事する医療者は知っておいたほうが良いのでしょうか?前回も述べたように、私たちが提案した安全なワクチンの筋注方法に従って注射する限り、末梢神経損傷やSIRVAは心配しなくても良いと考えています。とくに今回のような状況下では末梢神経損傷やSIRVAについては、せいぜい「そんな副反応もあるのだな」程度の知識で十分ではないでしょうか。それよりもワクチン接種会場では適切な問診の対応ができること、さらに厚生労働省が示すように、「アナフィラキシー」「血管迷走神経反射」といった副反応への対処のほうが大切でしょう。しかし、従来通り肩峰下三横指以内に筋肉注射する手技を選択するのであれば、少なくともSIRVAという疾患概念については知っておくべきではと思います。その部位に接種することによって障害が発生するリスクが指摘されているからです。針で神経を刺してしまうと、必ず麻痺が起こるのでしょうか?“どこに注射したか”“何を注入したか”“神経損傷の形態”さらに“心因的な要素”などによって症状は大きく異なると考えます。まず“どこに注射したか”ですが、たとえば、手関節の橈側での静脈穿刺は、橈骨神経浅枝損傷のリスクがあります1)(図1)。(図1)画像を拡大する2021年現在、判例等によると、手関節から12cm以内の前腕橈側での静脈穿刺は、橈骨神経浅枝の損傷に対して医療側の過失を問われる可能性が高い。実際にCRPS(複合性局所疼痛症候群)を発症し、病院側が敗訴した判例もあります2)。この部位での採血や静脈路確保による橈骨神経障害は、ほかの部位と比べると症状が強く発現しやすくトラブルに発展しやすいため、極力避けるべきだと個人的にも思います。ワクチン接種と関連した上腕の部位だと、腋窩神経は終末近くを分岐する運動神経で症状が出にくく、橈骨神経では手の一部を支配する感覚神経と運動神経双方の線維を含むことから症状が現れやすいと言えます。一方で、私たち整形外科医や麻酔科医は腕神経叢や坐骨神経に対して神経ブロックを行う際に末梢神経を針で刺し、局所麻酔薬を注入します。確かに神経に針を刺せば、部分的な軸索の損傷を生じる可能性があります。しかし、通常神経ブロックを行う部位への局所麻酔薬の注射では、永続的な神経障害の危険性はかなり低いと考えられています。もちろん注入する薬剤の種類や濃度によっては、注射部位によらず神経の障害を起こしうるでしょう。“何を注射したか”薬剤の種類によって神経毒性はまったく異なります。とくにワクチンは局所の炎症を引き起こすので、誤って末梢神経に注入するようなことは避けるべきでしょう(図2)。(図2)画像を拡大する末梢神経に対する局所の毒性は薬剤によって大きく異なる。「神経ブロックでよく穿刺しているから、ワクチン接種で穿刺しても大丈夫」とはならない。さらに知っておきたいのは、実際にはさまざまな“神経損傷の形態”があるということです。古典的なSeddon分類に従って考えても、一時的な圧迫による伝導障害、神経幹は断裂していないが軸索が損傷している状態、神経幹自体が断裂している状態など、神経損傷の程度や回復の見込みもさまざまです(図3)。(図3)画像を拡大するそれぞれの末梢神経は、図に示す神経線維の束である神経束がさらに束になったものである。実際には部分的な神経束の損傷など、さまざまな形態が存在する。ですから実際の患者さんが教科書に書いてあるような典型的な麻痺の症状を必ず呈するとは限りません。たとえば、単純に『肩が自動運動で挙上できるので、腋窩神経損傷は否定できます』などとは言えないわけです。末梢神経を傷つけた場合、ほとんど無症状の場合から、異常な感覚を訴える場合、あるいは筋力低下を明らかに示す場合など、さまざまな症状が生じ、整形外科医でも判断に迷うことはよくあります。注射後に手の痺れを訴える人もいるようですが、神経損傷あるいは気のせいでしょうか。神経損傷やSIRVAを生じる可能性は、全体的に見ると低いものです。SIRVAの場合、4月30日時点での厚生労働省の「医療機関からの副反応疑い報告について」3)を参照すると2件の副反応疑いとして報告(ワクチン接種関連肩損傷[ワクチン投与関連肩損傷])があります。もちろん何千万という単位で行われる集団ワクチン接種が今回日本で初めて筋肉注射という形で行われているので、確率の低い合併症であっても日本全体で見ると今後問題となるかもしれません。神経障害については、まだはっきりとした発生頻度は分かりません。上記の厚労省報告では、さまざまな症状の中で「感覚異常(感覚鈍麻)」と記載されているものは100例以上あるようです。しかし、ワクチン接種後に腕のしびれや肩の痛みなどの症状があっても、それをすぐに末梢神経損傷やSIRVAといった診断や被接種者への説明に結びつけるべきではないとも思います。 奈良県立医科大学附属病院では、これまで約4,000人の医療従事者に対して2回の新型コロナウイルスワクチン接種が研修医によって行われました。副反応のうち、肩や腕など接種部位に関連する症状について診察を必要とすると判断された被接種者については、私の外来を受診してもらっています。本病院ではわれわれが作成した筋肉注射手技マニュアルに従った接種方法を研修医に行ってもらいましたが、現在のところ末梢神経損傷やSIRVAを疑う被接種者はおりません。しかし、腕のしびれや痛みを訴えて受診された方は数名いました。実はインフルエンザワクチン接種や採血、あるいは研修医同士の採血の練習などにおいて、明らかな末梢神経の損傷を示す所見はないのに、「腕や手の痺れを訴える」というケースが毎年あり、珍しいものではありません。腕に注射をされた際、一時的に「なんとなく腕や手に軽い違和感」を自覚したものの、そのあとは「とくに何もしなくても元に戻った」と感じたことがある人は多いのではないでしょうか。このような一時的な痛みや痺れは、ほとんどの場合臨床上問題なく自然治癒するものなのですが、中には医療従事者の対応も含めた“心因的な要素”も重なり、CRPS(複合性局所疼痛症候群)を疑うような強い痛みに発展してしまう患者さんもいます。ただし、稀に本当の神経損傷がまぎれ込むこともあるので、慎重な診察が必要です。このあたりの問題については、次稿で解説します。1)渡邉 卓編. 日本臨床検査標準協議会. 標準採血法ガイドライン(GP4-A3). 2019.2)Medsafe.Net: No.400「点滴ルートの確保のために左腕に末梢静脈留置針の穿刺を受けた患者が複合性局所疼痛症候群(CRPS)を発症。看護師が、深く穿刺しないようにする注意義務を怠った結果、橈骨神経浅枝を損傷したと認定した高裁判決」3)厚生労働省:医療機関からの副反応疑い報告について(予防接種法に基づく医療機関からの副反応疑い報告状況について [令和3年2月17日から令和3年4月25日報告分まで])

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擦り傷の治療(洗浄、異物除去、被覆材の選択)【漫画でわかる創傷治療のコツ】第2回

第2回 擦り傷の治療(洗浄、異物除去、被覆材の選択)《解説》創傷には、急性創傷(外傷など)と慢性創傷(褥瘡など)がありますが、今回は急性創傷の中から、擦過傷(さっかしょう)をテーマに取り上げました。主な外傷は、ほかに切創(せっそう)、裂挫創(れつざそう)、刺創(しそう)、咬傷(こうしょう)などがあります。擦過傷とは、いわゆる擦り傷のことで、道路や塀などに擦り付けられ、皮膚が擦りむけた状態の創傷です。損傷自体は浅く、真皮層などに留まることが多いです(皮下組織まで達している場合は、擦過創になります)。通常、軽度の場合は自然治癒しますが、傷に土や砂などが入り込んだまま上皮化すると、外傷性刺青といって皮膚に異物の色が残ってしまうことがあるため、初期治療で異物を取り除くことが非常に大事です。それでは、実際の処置の流れを説明していきます。(1)洗浄擦過傷に限らず、外傷の処置はまず汚染を取り除くこと、つまり洗浄が第一です。創部の直接消毒は創傷治癒を邪魔してしまうので、現在ではほとんどの場合推奨されません。洗浄水は、基本的に水道水でよい1)ですが、深部組織の場合は生理食塩水のほうがよいです。汚染が強い場合には、せっけんも使用可。十分な水で洗浄し、創部に付着している細菌を減らすことが大事です。洗浄はスタッフにも手伝ってもらいましょう。剃毛は、はさみなどで処置の妨げになる部分を取り除く程度の最低限で構いません。疼痛が強い場合は、創部の麻酔を考慮します。《局所麻酔の方法》表面麻酔  患部に麻酔クリームを塗ってラップをのせ、10~30分置く。例)リドカイン・プロピトカイン配合クリーム(商品名:エムラクリーム)、リドカイン塩酸塩ゼリー(同:キシロカインゼリー)など局所浸潤麻酔患部付近の皮内に穿刺して丘疹を作り、そこから広げて麻酔薬を浸潤させる。27~30Gのできるだけ細い針を使用。注入後、3~5分待つ。例)1%エピネフリン含有リドカインなど(2)異物除去次に、異物を徹底的に取り除きます。病院ではガーゼ、滅菌した歯ブラシなどを使用します。取れないものは異物セッシなどを使用することもあります。ここで少しでも異物が残ってしまうと、外傷性刺青の要因となります。周辺組織が壊死している場合は、壊死組織を除去しますが、判断が難しい場合は形成外科にそのまま引き渡していいと思います(原則翌日の対応をお願いします!)。(3)創傷被覆洗浄・異物除去が終わったら、創傷が治る環境にしましょう!一概にどの方法がよいとは言えない部分もありますが、基本として、湿潤環境を整えて創傷治癒を促すことが大切です。湿潤環境とは:創面を乾燥させず、浸出液が適度に保たれた状態。浸出液には創傷治癒に必要な因子が含まれるため、それを保持することで上皮化が早くなります。昔の創傷処置は、感染を恐れて創部を乾燥させていました。以下に、漫画で紹介した被覆材のメリット・デメリットを示します。湿潤環境の形成を目的とした製品もあります。アルギン酸塩+フィルム◎浸出液・血液などの吸収力が高く、止血促進効果がある。△剥がす時に張り付いて取れにくい(貼付時に創面が乾いていたら生理食塩水で湿らせる)。白色ワセリン+ガーゼ◎どこの病院でも取り扱っており、安価。△乾燥し過ぎる傾向にあり、剥がす時に痛みが出ることも。ハイドロコロイド(材)など◎防水性が高く、湿潤環境を保持でき、痛みも少ないため小児に使いやすい。△感染徴候がある場合や浸出液が多い創には向かない。高価で交換時期の判断が難しい。(◎:メリット/△:デメリット)いずれにせよ、専門外で対応する場合は、後日専門医に創部をチェックしてもらう前提で選びましょう。できるだけ近日中(翌日か数日以内)に、形成外科を受診してもらうようにしてください!自宅処置については、交換時にしっかり流水で洗浄してもらうことを指導します。なお、交換時期については自己判断が難しい場合もあり、形成外科では基本的に通院してもらっています。傷が治ってきたら、傷跡をできるだけきれいに治すために、上皮化後の遮光、保湿など、上皮化後に行う後療法の指導も行います。参考1)Fernandez R, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2012 Feb 15.2)波利井清紀ほか監修. 形成外科治療手技全書I 形成外科の基本手技1. 克誠堂出版;2016.3)日本形成外科学会, 日本創傷外科学会, 日本頭蓋顎顔面外科学会編. 形成外科診療ガイドライン2 急性創傷/瘢痕ケロイド. 金原出版;2015.

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COVID-19ワクチン(2021年3月現在)【今、知っておきたいワクチンの話】各論 第8回

ワクチンの特徴(種類と製法)新型コロナワクチンは2020年12月に相次いで3製剤(Pfizer/BioNTech製、Moderna製、AstraZeneca/Oxford製)が治験を終え、米国および英国をはじめ各国で承認され接種が始まった。その後も複数の新規ワクチンが米国、中国、ロシアなどで順次承認され使用されている。わが国では2021年3月現在、Pfizer/BioNTech製の「コミナティ筋注」(以下、「コミナティ」)のみが承認され、医療従事者から順次接種が始まっている。早ければ4月中旬には地域の高齢者にも接種が始まる見込みである。Moderna製、AstraZeneca/Oxford製はいずれも承認申請済みであるものの現在審査中であり、具体的な承認時期は不明である。以下、コミナティに限定して解説する。コミナティの特徴コミナティはメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンである。新型コロナウイルスが持つ構造蛋白のうちヒト細胞への侵入のカギとなるのは、スパイク蛋白である。このワクチンは、ウイルス遺伝子からスパイク蛋白の配列部分だけを切り出し、安定化のためにリポ脂質で包んだもの(物質名「トジナメラン」1) )を主成分としている。コロナウイルスは1本鎖プラス鎖RNAウイルスであるため、切り出したウイルス遺伝子がそのままmRNAとして機能する。これを筋肉内に接種すると、ヒト筋細胞はmRNAを読み取って細胞質内でウイルスのスパイク蛋白を大量に生成し、細胞外に放出する。放出されたスパイク蛋白を免疫細胞が認識することで、スパイク蛋白に対する免疫を獲得するという仕組みである2)。mRNAワクチンがヒトで実用化されたのは今回が初めてである。ではなぜ、不活化や弱毒性などの既存製法ではなく、mRNAだったのか? 答えは開発速度にある。不活化や弱毒性その他の既存製法は基本的に、ウイルスそのものを原材料として大量に必要とする。そのためウイルスの適切な培養系の確立が必須となるが、通常は年単位を要する開発作業である。それに対してmRNAは、ウイルスの遺伝子配列さえ既知であれば、遺伝子工学によって迅速に原材料を大量生産できる。実際、Pfizer/BioNTech社は、2020年1月10日に中国保健当局が新型コロナウイルスの全遺伝子配列を発表したその日から開発に着手したとphase 3論文で明言している3)。全世界を覆う未曾有のパンデミックにおいて迅速なワクチン開発は決定的に重要であった。遺伝子工学による新技術がコロナ禍に迅速に希望をもたらしたのである。ウイルス遺伝子を接種することに漠然とした不安があるようだが、杞憂である。分子生物学のセントラルドグマに従い、ワクチンのmRNAがヒトDNAへと逆転写されることはけっして起きない。そもそも一般にウイルス感染のたびにヒト細胞は大量のウイルス遺伝子に晒されるが、レトロウイルスのようなごく一部のウイルスを除いて、ウイルス遺伝子がヒトDNAに直接影響を及ぼすことはないのだ。インフルエンザウイルスに感染しても新型コロナウイルスに感染しても、ヒトDNA自体が変化を受けることはない。よって、ワクチンとして接種した新型コロナウイルス・スパイク蛋白のmRNAが、ヒトDNAに影響を与えることも子孫に継代されることもあり得ないのである。コミナティの効果Phase 3論文で示された効果は、2回目接種完了後7日後以降におけるCOVID発症(発熱などで発症しPCR検査で陽性と確定される患者)が、プラセボ群に比べて95.0%(95%信頼区間90.3-97.6)減少するという驚異的数字であった。発症の減少に伴い、重症COVIDも88.9%(同20.1-99.7)と著しく減少した。世界で最も早く市民への接種が進んだイスラエルにおけるヒストリカルコホート研究4)でも、COVID発症が94%(同87-98)、重症COVIDが92%(同75-100)それぞれ減少した。これらはphase 3とほとんど同等の結果であり、治験内容が裏付けられた。さらに、同研究では無症候性感染に相当するPCR陽性者も90%(同83-94)減少したことも観察され、コミナティが発症のみならず感染自体も予防することが示唆された。一方で、コミナティ接種によって他者への感染伝播を減少するか、すなわち集団免疫の形成に寄与するかは、本稿執筆時点でpeer-reviewed journalに掲載された質の高い研究では示されていない。今後の報告が待たれる。ワクチンの副反応・有害事象懸念された副反応については、治験においては通常のワクチン反応性症状(発熱、倦怠感、接種部位疼痛、腫脹など)しか検出されなかった。これは人体が免疫獲得する際に生ずる自然な炎症反応の現れであり、何ら後遺症を残すことなく1日~数日で自然消失する。ただし、既知のワクチンに比べると頻度は高く、自覚症状も強めのようである。接種翌日には欠勤など、接種しやすくする配慮が望ましいであろう。アナフィラキシーについては、治験では検出されなかったが、市中接種開始後に報告され始めた。米国のワクチン有害事象報告システム(VAERS)に集積された報告の解析によると5)、コミナティは994万接種中47件のアナフィラキシー(ブライトン分類1~3)が生じ、100万接種あたり4.7件の頻度であった。接種から発症までの時間の中央値は10分であり、94%が女性であった。同じ米国VAERSに報告された既存ワクチンによるアナフィラキシーが100万接種あたり1.31件とされている6)のに比べても、極端に高い数字とは言えない。ただし、女性がほとんどを占めていることには注意を要する。もともとアナフィラキシーは女性に多いと報告されており7)、局所麻酔薬アナフィラキシーでも女性が多かったという報告もある8)。一方で、コミナティではmRNAを包むリポ脂質がポリエチレングリコール(PEG)で構成されているが、PEGはアナフィラキシー原因物質として知られる9)と同時に、多くの化粧品に含まれている。コミナティで女性にアナフィラキシーが多いのは化粧品にPEGが含まれていることと関係があるかもしれないが、現時点で詳細はわかっていない。上記以外には、副反応の可能性がある有害事象の報告は現時点ではなく、極めて安全なワクチンと言ってよい。コミナティは3月上旬時点ですでに世界で1億回以上接種されたと見込まれている。仮に100万接種分の1の極めてまれな頻度で生ずる重篤な副反応があったとしても、1億回接種してそれが1件も発生しない確率は、と、あり得ないほど小さな確率である。すなわち、1億回以上接種されたにもかかわらず新しい副反応報告がない時点で、確率100万分の1のような極めてまれな副反応も観察されていないと言ってよい。ただし、特定の人口集団(特定の年齢、特定の疾患患者など)に限定的な副反応は今後発見される可能性が残っている。たとえば、コミナティではなくAstraZeneca製のウイルスベクターワクチンではあるが、55歳以下の若年世代で接種によって血栓症(播種性血管内凝固症候群および脳静脈洞血栓症)が増える可能性が示唆されている10)。ただし、COVID-19感染そのものによって血栓症リスクが明らかに増大するため、接種による感染予防は接種による血栓症リスクを上回ると欧州医薬品局は判断している。ワクチンの保管と輸送の注意点、留意点mRNAは不安定な物質であるため、長期にはマイナス70℃前後の超低温保存が必要である。ただし2021年3月1日付で添付文書が改訂され、最長14日間までならマイナス20℃前後でも保存可能となった11)。解凍からシリンジ分注までは、冷蔵温度(プラス2~8℃)の場合は5日以内に、直接室温に出す場合は2時間以内に行わねばならない。1バイアルを溶解するとちょうど1.8mLとなり、1人分が0.3mLであることから、死腔の少ないシリンジで適切な手技にて吸引すれば1バイアル6人分採取が可能である。何らかの理由で6人分採取できない場合は残量を破棄する。シリンジに分注後は6時間以内に接種せねばならず、それ以上経過した場合は破棄する。またすべての過程において、十分に遮光し続けねばならない。図も参照いただきたい。図 コミナティの取扱い画像を拡大するmRNAが物質として不安定であることから、輸送時には振動を避けることとされている。オートバイのような輸送手段は不適切とされるが、乗用車の座席で丁寧に輸送する程度なら問題はないようだ。被接種者への説明のポイント筆者が確認している限りでは、コミナティその他新型コロナワクチンを不用意に危険と煽るような報道は幸いほとんど目にしていない。しかし、SNSや口コミでさまざまな否定的意見やデマの類が広まっているようである。医療従事者が、被接種者や患者から不安げに質問されたり、限られた情報だけに基づく否定意見を投げられたりするかもしれない。日頃の医療従事者-被接種者(患者)関係に基づいて、丁寧なコミュニケーションを是非ともお願いしたいところである。コミュニケーションのポイントは、下記のように整理できるだろう。効果として、発症、感染を共に90%以上予防できる、優れたワクチンであること。副反応は、世界で1億人以上が接種した時点で、一過性の発熱や痛みとごくまれなアナフィラキシーしか報告されていない、かなり安全なワクチンでもあること。遺伝子工学の発展のお陰で極めて短期間で開発できたが、治験の手順は一切省略されず丁寧に行われ、さらに市中接種開始後も効果と安全性を検証する研究が多数進行中であること。ウイルス遺伝子を体に注入することは自分や子孫の遺伝子に何ら悪影響はないこと。接種によって他人にも感染させないようになる(いわゆる「集団免疫」が付く)のかはまだわかっていないが、少なくとも接種した本人が極めて高い確率で感染から守られるのは確実であること。参考となるサイト(公的助成情報、主要研究グループ、参考となるサイト)新型コロナワクチンについては下記の各サイトも是非参照いただきたい。新型コロナウイルス感染症 診療所・病院におけるプライマリ・ケアのための情報サイト(日本プライマリ・ケア連合学会)こどもとおとなのワクチンサイト(日本プライマリ・ケア連合学会)新型コロナワクチンについて(厚生労働省)新型コロナワクチンについて(首相官邸)これでわかる!新型コロナワクチン情報(新型コロナワクチン公共情報タスクフォース)こびナビ(保健医療リテラシー推進社中)コロワくんサポーターズ(コロワくんサポーターズ)また、筆者自身もコロナワクチンの医療従事者向け情報を下記サイトで整理している。併せてご参考になれば幸いである。Vaccipediaワクチペディア プライマリケアのためのワクチンリソース1)コミナティ筋注添付文書.2)Pardi N, et al. Nat Rev Drug Discov. 2018;17:261-279.3)Polack FP, et al. N Engl J Med. 2020;383:2603-2615.4)Dagan N, et al. N Engl J Med. Published online 2021.doi:10.1056/NEJMoa21017655)Shimabukuro TT, et al. Jama. 2021;325:2020-2021.6)McNeil MM, et al. J Allergy Clin Immunol. 2016;137:868-878.7)Jensen-Jarolim E, et al. Allergy. 2008;63:610-615.8)Fuzier R, et al. Pharmacoepidemiol Drug Saf. 2009;18:595-601.9)Stone Jr. CA, et al. J Allergy Clin Immunol Pr. 2019;7:1533-1540.10)EuropeanMedicalAgency. COVID-19 Vaccine AstraZeneca: benefits still outweigh the risks despite possible link to rare blood clots with low blood platelets. 18 March. Published 2021. (2021年3月1日閲覧)11)ファイザー株式会社. COVID-19ワクチン『コミナティ筋注』の日本における添付文書改訂について.(2021年3月1日閲覧) 講師紹介

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第21回 痛み診療のコツ・治療編(2)神経ブロック・その4【エキスパートが教える痛み診療のコツ】

第21回 痛み診療のコツ・治療編(2)神経ブロック・その4前回は、自律神経ブロックとしてよく知られている星状神経節ブロックについて説明しました。今回は、知覚神経と交感神経を同時にブロックする、代表的な応用範囲の広い硬膜外ブロックについて解説します。硬膜外ブロックとは硬膜外腔は、硬膜と黄靭帯および椎弓板との間に存在する脊柱管の腔です(図1)。この腔は、中枢側では大後頭孔まで、末梢側では第2仙骨部まで存在します。従って、通常L5~S1よりも上部の脊椎の間から硬膜外腔に刺入する方法を硬膜外ブロックと呼んでいます(図2)。硬膜外腔における黄靭帯と硬膜の間の長さは、頸部が一番短く約1.5mmですが、腰部では4~6mmあります。硬膜外腔は、外気圧に比べ-1~-8mmHg程度の陰圧になっており、この圧差を利用してブロック針が硬膜外腔に侵入することを察知できます。画像を拡大する画像を拡大する硬膜外ブロックの適応疾患最も頻度が多く施行されているのが腰部硬膜外ブロックで、腰痛、坐骨神経痛への適応です。そのほか、交感神経ブロック効果が期待されて、下肢の血行障害を伴うレイノー病やバージャー病の痛みにも適応されます。腹部の内臓痛、術後痛などに利用されるほか、仙骨ブロックも仙骨部の硬膜外ブロックとして施行されます。硬膜外ブロックの実際患者さんは側臥位で、両足を抱えるようにして、エビをイメージして椎間を広げてもらいます(図3)。この時、痛みに左右差があれば痛いほうが下になるようにします。そして、痛い部位から責任神経を割り出し、その責任椎間からブロック針を挿入します。前述のとおり、硬膜外腔が陰圧であることから、すべりの良いガラスシリンジもしくは専用のプラスチックシリンジを使用し、パンピングしながら徐々に侵入していきます。黄靭帯を越えたあたりで突然抵抗がなくなりますが、針先が硬膜外腔に侵入したことを知らせるサインです。loss of Resistanceと呼ばれ、実にわかりやすいサインです(図4)。たまに硬膜外腔が炎症などにより癒着が生じ、loss of Resistanceがわかりにくいことがあります。その場合には、硬膜穿刺が生じることがありますので注意が必要です。硬膜外ブロックの1分節当たりの局所麻酔量は、頸部1mL、胸部1.5mL、腰部2mLと言われています。痛みの範囲から、必要な投与量を決めましょう。痛みを抑えるためには、0.5%塩酸メピバカイン注PBがよいでしょう。濃度が濃くなると運動神経の麻痺を生じ、休み時間が延長しますので気を付けてください。画像を拡大する画像を拡大する硬膜外ブロックの効果判定患者さんの痛みが楽になればよいのですが、VAS(Visual Analogue Scale)やNRSなどを測定して、処置前との痛みの差を見るとわかりやすいでしょう。血流増加による皮膚温上昇などで、患者さんが温かさを感じることからもブロック効果が判定できます。合併症硬膜下やくも膜下腔への穿刺、それによる麻酔薬注入で麻酔効果が長時間持続し、運動神経が麻痺すると、しばらく足が動かなくなるので、注意が必要です。時間経過により次第に回復しますが、長時間に及ぶこともあります。その予防のために、薬液を注入する前には必ず吸引して液体の逆流を確かめることが必要です。局所麻酔薬の血管内注入による局所麻酔薬中毒により、痙攣が生じることもあります。また、交感神経遮断効果による血圧低下、それに伴う悪心・嘔吐もあります。大量のクモ膜下腔局所麻酔薬注入によって全脊麻が生じると、呼吸困難が見られるので、気道を確保して十分に酸素加することが必要です。以上、硬膜外ブロックを取り上げ、その適応、方法、合併症などについて述べさせていただきました。痛みを有する患者さんに接しておられる先生方に少しでもお役に立てれば幸いです。次回は理学療法の中でも、患者さんに好まれている光線療法ついてお話しします。1)花岡一雄他、ペインクリニック実践ハンドブック 南江堂 1994;

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第20回 痛み診療のコツ・治療編(2)神経ブロック・その3【エキスパートが教える痛み診療のコツ】

第20回 痛み診療のコツ・治療編(2)神経ブロック・その3前回は、トリガーポイント(TP)ブロックに焦点を当てて解説しました。今回は、自律神経ブロックとしてよく知られる星状神経節ブロックについて説明したいと思います。星状神経節ブロックとは上部交感神経節(C3の高さ)、中部交感神経節(C6の高さ)、下部交感神経節(C7の高さ)が連鎖していますが、そのうち下部神経節と上胸部交感神経節が融合して星のような形態を呈しており、これを星状神経節と呼んでいます(図1)。これら一連の交感神経幹は、頭部、頸部、上肢を支配しています。画像を拡大する(1)星状神経節ブロックの適応疾患交感神経幹の支配領域から考慮して、片頭痛、群発頭痛、筋緊張性頭痛、不定型顔面痛、肩凝り、頸椎神経根症、帯状疱疹痛および帯状疱疹後神経痛などの頭頸部の疼痛疾患が適応になります。疼痛疾患ではありませんが、顔面神経麻痺、突発性難聴、多汗症なども適応になります。Burger病、Raynaud病、凍傷、塞栓などの上肢の循環不全に伴う痛みや、肩関節周囲炎、急性および慢性血栓性静脈炎、血栓性浮腫、術後リンパ性浮腫などの炎症・浮腫に伴う痛みなども適応になります。また、交感神経節ブロックですので、反射性交感神経萎縮症、カウザルギー、幻肢痛、断端痛も適応とされています。その他、アレルギー性鼻炎や喘息にも有効性が認められます。(2)星状神経節ブロックの実際患者さんに仰臥位を取ってもらいます。ブロックベッドであれば、頭部の部分を下げますが、通常のベッドであれば肩の下に薄い枕を入れて、首をやや伸展し、ごく軽く顎を前方に突き出していただきます。胸鎖関節より2.5cm上方、正中線より1.5cm外側を刺入点とします(図2)。使用する針は、2.5cm25Gを用います。星状神経節へのアプローチには、傍気管的接近法、前方的接近法及び後方的接近法があります。傍気管的接近法は、わかりやすく施行しやすいので、よく用いられます。具体的には、左手の示指と中指で総頸動脈を外側に引き寄せ、針を皮膚に直角に、総頸動脈と気管との間を通過するように刺入します。針先が第7頸椎横突起にぶつかったら、0.5cmほど引き戻し、吸引テストを十分に施行したうえで1%メピバカイン5mL注入します(図3)。画像を拡大する画像を拡大する(3)星状神経節ブロックの効果判定Horner症候群の発現でブロック効果がわかります。すなわち、眼球結膜の充血と流涙瞳孔縮小眼瞼下垂と眼裂狭小顔面や上肢の温感顔面や上肢の発汗減少鼻閉などが見られれば、ブロック効果が判定できます。(4)合併症気胸、胸痛 呼吸困難血管内注入による局所麻酔薬中毒でけいれんが生じる。クモ膜下腔注入による呼吸困難上喉頭神経麻痺による嗄声、嚥下困難、呼吸困難上腕神経叢麻痺喘息発作硬膜外ブロックなどが見られることがあります。そのため、少なくとも10分間は仰臥位を保ち、枕により頭部を高くします。少なくとも1時間は飲食を禁止します。両側ブロックは、同時には禁忌です。以上、星状神経節ブロックを取り上げ、その意義、適応、使用される薬物、合併症などについて述べました。痛みを有する患者さんに接しておられる先生方に少しでもお役に立てれば幸いです。次回は、知覚神経と交感神経を同時にブロックする、代表的で応用範囲の広い硬膜外ブロックについて解説します。1)花岡一雄監修. 疼痛コントロールのABC 日本医師会雑誌. 1998;S1042)花岡一雄他、ペインクリニック実践ハンドブック 南江堂 1994;10-15

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第18回 痛み診療のコツ・治療編(2)神経ブロック・その1【エキスパートが教える痛み診療のコツ】

第18回 痛み診療のコツ・治療編(2)神経ブロック・その1前回までは治療編(1)として、薬物療法について解説しました。今回は、神経ブロックに焦点を当てて説明していきたいと思います。神経ブロックとは神経ブロックとは、脳脊髄神経および神経節や神経叢、交感神経および神経節や神経叢に神経ブロック針を刺入して、神経に直接またはその近傍に局所麻酔薬や神経破壊薬を注入し、その薬物効果で神経の伝導機能を一時的あるいは永久的に遮断する方法です。また、神経を特殊な針を用いて高周波熱凝固し、同様に神経の伝導を遮断する方法も神経ブロックに含まれます。痛み治療における神経ブロックでは、外来患者さんの場合では運動機能を残し、痛覚のみをブロックする方法を選択します。手術時の神経麻酔(ブロック)と、この点において大いに異なります。神経ブロックの意義(1)診断的ブロック神経ブロックにより、痛みに関与する神経を診断することができます。この診断的ブロックそのものによっても痛み治療になります。(2)痛み伝導路の遮断当然のことながら、痛み伝導路の遮断によって痛みの緩和が得られます。局所麻酔薬による神経ブロックでは、効果は一時的なものと考えますが、繰り返し神経ブロックを施行することで、痛みのない時間を作ることが大切です。これにより、最初に述べた痛みの悪循環が断ち切られ、痛みから解放されます。(3)交感神経の遮断知覚神経のみならず、交感神経の遮断が生じると、当然ことながら、交感神経の過剰反応が緩和され、末梢血管が拡張し、末梢循環不全が解消されることで痛みが抑制されます。神経ブロックの種類通常よく用いられるのは、以下の種類です。脳神経ブロック:三叉神経末梢枝神経ブロック知覚神経ブロック:腕神経叢ブロック、肩甲上神経ブロック交感神経ブロック:星状神経節ブロック交感・知覚・運動神経ブロック:頸部・胸部・腰部・仙骨硬膜外ブロック などこのほか、比較的一般に施行されているのが、トリガーポイントブロックです。安全性が高く、それなりの鎮痛効果が得られます。神経ブロックの適応(1)有痛性疾患三叉神経痛や肋間神経痛などのいわゆる神経痛、末梢神経障害性疼痛、末梢循環障害性疼痛、がん性疼痛などが含まれます。(2)無痛性疾患本態性顔面神経麻痺、顔面けいれん、眼瞼けいれん、手掌多汗症、突発性難聴などが含まれます。神経ブロックに使用される薬物(1)局所麻酔薬リドカイン、メピバカイン、ブピバカイン、ロピバカイン、ボプスカイン、ジブカインなどがあります。効果持続時間が薬物によって異なりますので、ブロックの目的に合わせて使います。(2)神経破壊薬エタノール(99.5%)、フェノールグリセリン、フェノール水(7%)などを用います。(3)ステロイド神経の炎症や絞扼症状が強い場合には、水溶性ステロイド薬を局所麻酔薬に適量添加します。神経ブロックの合併症局所麻酔薬中毒、アナフイラキシーショック、神経損傷、血管内注入、などが見られることがあるので、ブロック後十分な観察が必要です。患者さんに対し、あらかじめ十分な説明をしておくと共に、万一、合併症が生じた場合の緊急蘇生器具などの準備が大切です。以上、神経ブロックを取り上げ、その意義、種類、適応、使用される薬物、合併症などについて述べました。痛みを有する患者さんに接しておられる読者の皆様に、少しでもお役に立てれば幸いです。次回は神経ブロックの実際についてさらに具体的に解説します。1)花岡一雄ほか監修. 痛みマネジメントupdate 日本医師会雑誌. 2014;143:S180-S181

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042)外来処置で試される発想力【Dr.デルぽんの診察室観察日記】

第42回 外来処置で試される発想力ゆるい皮膚科勤務医デルぽんです☆コロナ禍で一時減少した外来も元に戻りつつあり、日々忙しく過ごしております。先日のこと、片耳の粉瘤で受診した患者さんがいらっしゃいました。その場で処置が必要だったので、局所麻酔した後切開・洗浄し、圧迫固定したところまではよかったのですが…。帰り際に患者さんが、「これって、マスクはどうやって着けたらいいですか?」とひと言。なるほど、耳にガーゼを当てているため、マスクのゴム紐がかかりません。しかし、コロナ対策のためにも、帰宅時にマスクの着用はお願いしたいところ…。診察室にある物でなんとかできないだろうか? と少し考えた結果、ガーゼを紙縒(こより)のようにくるくるっと巻いて紐状にし、両側のマスクのゴム紐を頭の後ろで結わえることにしました。マスクの着け外しは、結んだガーゼごとスポッと頭の上を通してもらいます。長年皮膚科外来をやっていますが、マスクが着けられなくて困ったことはなかったので、今回の出来事はちょっと新鮮でした。外来処置の多い皮膚科では、毛髪の近い顔や、頭皮の傷など、部位によってはガーゼの留め方や圧迫の仕方を工夫しなければいけないときがあります。その場その場で臨機応変に対応しつつ、今後も経験値を増やしていきたい所存です。それでは、また~!

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乳がん術後再発、局所vs.全身麻酔で差なし/Lancet

 乳がんの根治的切除術時の麻酔法として、局所的な麻酔/鎮痛(傍脊椎ブロックとプロポフォール)は、全身麻酔(揮発性麻酔[セボフルラン]とオピオイド)と比較して、乳がんの再発を抑制しないことが、米国・クリーブランドクリニックのDaniel I. Sessler氏らBreast Cancer Recurrence Collaborationの検討で示された。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2019年10月20日号に掲載された。手術時のストレス応答、揮発性吸入麻酔の使用、鎮痛のためのオピオイドは、がん手術の周術期因子であり、いずれも再発に対する宿主防御を減弱させるという。一方、これらの因子はすべて、局所的な麻酔/鎮痛によって改善するとされている。8ヵ国13施設が参加、2つの仮説を検証する無作為化試験 研究グループは次の2つの仮説を立て、これを検証する目的で無作為化対照比較試験を行った(アイルランド・Sisk Healthcare Foundationなどの助成による)。 (1)傍脊椎ブロックとプロポフォールを用いた局所麻酔/鎮痛は、揮発性麻酔薬セボフルランとオピオイド鎮痛による全身麻酔に比べ、治癒が期待される根治的切除術後の乳がんの再発を抑制する(主要仮説)、(2)局所麻酔/鎮痛は、乳房の持続性の術後痛を低減する(副次仮説)。 8ヵ国(アルゼンチン、オーストリア、中国、ドイツ、アイルランド、ニュージーランド、シンガポール、米国)の13病院で、治癒が期待される根治的切除術(初回)を受ける乳がん女性(85歳未満)が登録され、局所麻酔/鎮痛を受ける群または全身麻酔を受ける群に無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、局所または転移を有する乳がん再発とし、intention-to-treat解析を行った。副次アウトカムは、6ヵ月後と12ヵ月後の術後痛であった。再発率:10% vs.10%、1年後の術後痛:28% vs.27% 2007年1月30日~2018年1月18日の期間に、2,108例の女性が登録され、1,043例(平均年齢53[SD 12]歳)が局所麻酔/鎮痛群に、1,065例(53[11]歳)は全身麻酔群に割り付けられた。1,253例(59%)が北京市、404例(19%)がダブリン市、170例(8%)はウィーン市からの患者であった。 ベースラインの患者背景は両群間でバランスがよくとれていた。追跡期間中央値は、両群とも36ヵ月(IQR:24~49)だった。 乳がんの再発は、局所麻酔/鎮痛群が102例(10%)、全身麻酔群は111例(10%)で報告され、両群間に有意な差は認められなかった(補正後ハザード比[HR]:0.97、95%信頼区間[CI]:0.74~1.28、p=0.84)。 術後痛は、6ヵ月の時点では局所麻酔/鎮痛群が856例中442例(52%)、全身麻酔群では872例中456例(52%)で報告され、12ヵ月時にはそれぞれ854例中239例(28%)、852例中232例(27%)で報告された(全体の中間補正後オッズ比:1.00、95%CI:0.85~1.17、p=0.99)。 神経障害性の乳房痛の発生には麻酔術による差はなく、6ヵ月時には局所麻酔/鎮痛群が859例中87例(10%)、全身麻酔群は870例中89例(10%)で認められ、12ヵ月時はそれぞれ857例中57例(7%)、854例中57例(7%)にみられた。 著者は、「乳がん再発と術後痛に関しては、局所麻酔と全身麻酔のどちらを使用してもよい」としている。

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急性期虚血性脳卒中への翼口蓋神経節刺激は有益か/Lancet

 翼口蓋神経節(sphenopalatine ganglion:SPG)刺激療法は、血栓溶解療法の適応がなく、発症から8~24時間の急性期虚血性脳卒中の患者に対し安全に施行可能であり、とくに皮質病変を有する集団では機能アウトカムの改善をもたらす可能性があることが、イスラエル・Shaarei Zedek医療センターのNatan M. Bornstein氏らが行ったImpACT-24B試験で示された。研究の成果はLancet誌オンライン版2019年5月24日号に掲載された。SPG刺激は、前臨床研究において側副循環の血流増加、血液脳関門の安定化、梗塞サイズの縮小が報告され、ヒトでの無作為化パイロット試験では有益性をもたらす可能性が示唆されている。mRSの改善をシャム刺激と比較する無作為化試験 本研究は、18ヵ国73施設が参加した二重盲検シャム対照無作為化試験であり、2011年6月~2018年3月に患者登録が行われた(BrainsGateの助成による)。 対象は、年齢が男性40~80歳、女性40~85歳で、再灌流療法が施行されておらず、発症から8~24時間の前方循環系急性期虚血性脳卒中の患者であった。被験者は、SPG刺激またはシャム刺激を行う群に無作為に割り付けられた。SPG刺激は、画像ガイドシステムを用い、局所麻酔下に神経刺激電極(長さ23mm、直径2mm)をSPG近傍の翼口蓋管に植え込み、1日4時間、5日間施行された。 有効性の主要エンドポイントは、3ヵ月後の修正Rankinスケール(mRS)スコアの期待値を超える改善とした。ベースラインのNIH脳卒中スケール(NIHSS)スコア、年齢、脳卒中部位(左脳/右脳)によって事前に規定された予後モデルに基づくmRSの期待値と比較して1点以上低かった場合を、期待値を超える改善と定義した。このエンドポイントは、修正intention-to-treat(mITT)集団および確認された皮質病変(CCI)を有する集団で解析を行った。 安全性の主要エンドポイントは、3ヵ月時のすべての重篤な有害事象(SAE)、植え込み/除去に関連するSAE、刺激に関連するSAE、神経症状増悪(発症から10日以内の神経学的イベントに関連するNIHSSスコアの4点以上の上昇)、および死亡であった。CCI集団で、刺激の強さと主要エンドポイントに逆U字型用量反応関係 1,000例(mITT集団、年齢中央値70歳[IQR:63~77]、女性51%)が1回以上の治療を受けた(SPG刺激群481例、シャム刺激群519例)。CCI集団は520例(71歳[64~77]、49%)で、SPG刺激群244例、シャム刺激群276例だった。 mITT集団では、3ヵ月時の身体機能が期待値よりも改善した患者の割合は、SPG刺激群が49%(234/481例)と、シャム刺激群の45%(236/519例)よりも高かったが、有意差は認めなかった(オッズ比[OR]:1.14、95%信頼区間[CI]:0.89~1.46、p=0.31)。一方、CCI集団では、期待値よりも改善した患者の割合は、SPG刺激群が50%(121/244例)であり、シャム刺激群の40%(110/276例)に比べ有意に優れた(1.48、1.05~2.10、p=0.0258)。 CCI集団におけるSPG刺激の強さと主要エンドポイントには、逆U字型の用量反応関係が認められた。すなわち、良好なアウトカムを示した患者の割合は、低強度の40%から中強度では70%に上昇したが、高強度では40%へと、低強度と同じ割合に低下した(p=0.0034)。 mRS 0~2の割合(mITT集団:p=0.47、CCI集団:p=0.06)、mRS 0~3の割合(p=0.13、p=0.01)、脳卒中関連QOL(SIS-16、p=0.23、p=0.01)、機能障害関連QOL(UW-mRS、p=0.24、p=0.05)にも、CCI集団ではSPG刺激群で良好な傾向が認められた。 死亡率(SPG刺激群14.2% vs.シャム刺激群12.3%、p=0.38)およびSAE(全体:30.0% vs.28.1%、p=0.50、植え込み/除去関連:0.6% vs.0.0%、p=0.09、刺激関連SAE:0.6% vs.0.4%、p=0.68、神経症状増悪:7.6% vs.6.6%、p=0.49)には、両群に差はみられなかった。 著者は、「これらの知見は、CCIを有する急性期虚血性脳卒中患者の治療における、SPG刺激療法の臨床導入を支持するものである」としている。

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愚痴を言うべからず【Dr. 中島の 新・徒然草】(223)

二百二十三の段 愚痴を言うべからず前回、「日本に来るやつは全員大阪城で転んでウチに来るんか!」と余計なことを言ってしまいましたが、そのせいかバチが当たりました。今回はフランス人のオジサンです。石垣にのぼって写真を撮ろうとして転倒したとかで、ERに担ぎ込まれてきました。再び国際親善です。・ボンジュール(こんにちは)・ジュスィファティゲ(疲れちまったよ)・ジュテーム(愛してる)私の知っているフランス語はこの3つだけ。乏しいとはいえ、日仏友好のためにありったけの知識を動員してコミュニケーションを図りました。言うまでもないことですが、使ったのは前二者だけです。中島「ボンジュール! ジュスィファティゲ」オジサン「ジュフフフフ(そう聞こえた)」中島「すみませーん。フランス語わかりませーん」私がフランス語をしゃべれると思ったのか、オジサンはいろいろ訴えてました。でも、なにがなにやらさっぱり分かりません。そこで同行してきた通訳の女性に助けてもらうことにしました。中島「とにかく、これは縫った方がきれいに治ると思います」通訳「わかりました」病院スタッフ「処置の間、奥様と通訳の方は外に出ていてくださーい」中島「ちょっと待った。通訳が居なくてどないするねん!」病院スタッフ「?」このオジサンも言葉の通じない人に囲まれて処置されるのだから、1つ1つ説明してあげないと不安でしょう。中島「処置する時には、その都度、説明するので、横で通訳をお願いします」通訳「わかりました」わかったと言いつつ、通訳さんは顔を背けたままです。どうも血が苦手な人のようでした。中島「まずは局所麻酔をしまーす」通訳「ジュジュジュジュジュ」オジサン「OK、OK」中島「針はできるだけ細いのを使って痛くないようにします」通訳「ジュフジュフジュフ」オジサン「サンキュー、サンキュー」中島「(皮膚をつまんで)これ、痛いですか?」通訳「ジュフフジュフフ?」オジサン「ジュフフのフ」通訳「痛くないそうです」中島「じゃあ、2針ほど縫いますね」通訳「ジュフフ、ドゥ、フフ」中島「ちょっと予定が変わって4針になりました」通訳「フジュフフフフ」オジサン「サンキュー、サンキュー」というわけで処置は何とか済みました。後は例によって診断書です。ここは医学の世界の共通言語である英語で適当に済ませました。2018年5月〇日、このジェントルマンは転倒して前額部と右肘と右下腿を打撲した。我々はそれぞれの創部を水で洗った。前額部の切創は4針縫った。1週間後に抜糸する必要がある。抗菌薬は、〇〇を△△mg、8時間毎に3日間服用するよう処方した。まったく愛想のない診断書ですが、必要な情報は入れたつもりです。診断書を完成させてオジサン夫婦と通訳さんに見てもらいました。3人とも英語をしゃべるのは苦手だけど、書いたものはよく分かるようで、確認のための質問も的確です。最後にオジサンと握手をして一件落着。ホッとしたけど疲れました。毎週のように国際親善していますが、せめて各国語で「大阪にようこそ。日本旅行を楽しんでいますか?」くらいのことを言って周囲をびっくりさせたいですね。最後に1句愚痴言うと 仕事が増えて ジュスィファティゲ(疲れちまったよ)

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言葉は通じなくとも【Dr. 中島の 新・徒然草】(215)

二百十五の段 言葉は通じなくとも午後遅く、突然、ERから電話がかかってきました。顔の挫創の患者さんの処置をしたいので見て欲しい、というものです。パタパタと用事を済ませてからERに行くと、顔にガーゼを乗せた男性がストレッチャーの上に寝ていました。若いモンが慌ててプレゼンテーションします。若者「中国人です」中島「観光客?」若者「そうです。転倒して顔面を打ったそうです。何かにつまずいたということで、気を失って倒れたわけではありません」中島「なるほど。ところで言葉は通じるわけ?」若者「いやあ、日本語も英語もだめみたいです」中島「あらら」ガーゼをとって傷を確認しました。スッパリ切れていて、2~3針は縫った方が良さそうです。若者「一応、傷口は生食で洗っておきました」中島「問題は、縫うことをどうやって説明するかやな」50代の中国人男性は大人しく寝ていましたが、とにかく安心させてあげようと思い話しかけました。中島「ニーハオ」男性「ニーハウ」中島「Do you speak English?」男性「No, No」男性のしゃべっているのが北京語か広東語かよくわかりませんが、こちらとの共通言語というのがまったくないので困ってしまいました。こうなったら筆談しかありません。以下、【 】内が紙に書いた漢字です。中島【2縫合 or 3縫合】男性「OK, OK」私が紙に書いて見せると、男性はじっと読んでいます。意味が通じたのかうなずいています。中島「リャン or サン」 男性「OK, OK」私の英語+麻雀中国語という無茶苦茶な会話も一応通じました。というか、通じたような気がします。再び筆談へ。中島【局所麻酔薬】男性「OK, OK」話し言葉は違っていても書き言葉は共通。漢字は偉大です。ただ、男性はチラッと見て理解するのではなく、5秒くらいかけて理解しているようでした。確か中国の漢字にも繁体字とか簡体字とかあって、日本語の漢字とずいぶん違っているはずです。時間がかかってもわかればそれで良し。中島【注射】男性「Thank you」というわけで、何とか縫合にこぎつけました。患者さんが日本語を理解しないのをいいことに、熱血指導です。中島「おいおい、1回針を外に出せよ」若者「はいっ」中島「左右で同じ距離を取らないとアカンがな」若者「はいっ」中島「結紮をそんなに締めるな。後で皮膚が腫れた時にネクるかもしれんやろ」「ネクる」というのは necrosis から来ていて、「壊死する」という意味でわれわれは使っています。大阪以外でも通じるのかな。中島「左手の糸を長めに持て。その方が器械結びをやりやすいんや」若者「あっ、そうか」というわけで、無事に処置が終わりました。もしこの会話を全部理解できていたら、患者さんの方もさぞかし不安だったでしょうね。若者「この人、すぐに帰国するらしいです」中島「ということは、抜糸は中国でするのか」若者「だから紹介状がいると思うんですよ」中島「えっ?」若者 「先生、中国語で書けますか」できるわけないがな。知ってて聞くなよ。中島「よっしゃ、ERに来たついでに紹介状も書いとこか」若者「ホンマに書けるんですか!」中島「そんなモン、英語で書くに決まっとるやろ」若者「英語でもいいんでしょうか」中島「いくら中国でも、ドクターは英語できるぞ」医師の世界でもたいていの国の人は日本人より英語は上手です。もし通じなかったとしたら、多くの場合、こちらの英語力のせいでしょう。処置の終わった中国人患者さんは、心から感謝しているようで、われわれに何度もお礼を言ってくれました。筆談ができれば中国人が相手でも何とか乗り切れそう、というのが今回の診療での収穫です。ただ、最近の中国人観光客の多さを考えれば、われわれも中国語会話を学んだ方がいいのかもしれません。色々ありましたが最後に1句共通の 言語がなくても 漢字あり

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魔法のパッチで子供の注射の怖さを軽減

 2017年12月5日、佐藤製薬株式会社は、外用局所麻酔剤のリドカイン・プロピトカイン配合貼付剤(商品名:エムラパッチ)の発売を前に、「注射の痛みに我慢は必要ですか?」をテーマとしたメディアセミナーを開催した。 セミナーでは、「痛み」の概要と小児の痛みのケアについてディスカッションが行われた。なお、同貼付剤は12月13日に発売された(薬価251.60円/1枚)。子供のころの痛みは記憶として大きくなる はじめに同社代表取締役社長の佐藤 誠一氏があいさつし、医薬マーケティング部による製品説明の後、基調講演が行われた。 基調講演では、加藤 実氏(日本大学医学部麻酔科学系麻酔科学分野 診療教授)が、「その『医療の痛み』は本当に必要ですか?~痛みが無くなっても痛みの影響は終わらない~」をテーマに、主に小児における「痛み」の診療について現状や課題を語った。 痛みとは、組織の実質的あるいは潜在的な傷害に結びつくか、このような傷害を表す言葉を使って述べられる不快な感覚、情動体験と定義される。それは主観的な体験であり、患者本人にしかわからない。しかし痛みは、たとえば手術前の麻酔のように、予防することもできる。それにもかかわらず、1980年代までは新生児や小児への痛みの対応はなおざりだったという。 それは、新生児は痛みを感じにくいと思われていたからであり、1980年代後半に報告された論文以降、大きく変化した。すなわち新生児は、痛みの抑制系が未発達ゆえに痛みを感じやすく、新生児の外科的処置時には、成人同様、局所麻酔薬や全身麻酔薬を使用し、減量および中止も成人と同じ基準で行うべきという考えに変化した1)。 さらに小児期での痛みの体験は、一時的なものではなく成長後にも影響を与え、中枢性感作、不安・恐怖など記憶を介した認知を獲得する。たとえば、小児期の機能的な腹痛は、成人後の慢性痛リスクを増加させるという報告もあるという2)。局所麻酔を行い、痛みを中枢神経に伝えないようにすることは、痛みや恐怖から脳を守ることにつながると同氏は説明する。小児の痛みをマネジメントする時代へ 小児の痛みの予防について、まず小児が怖がる痛みの代表に、予防接種、採血、点滴などの注射が挙げられる。現在わが国では、こうした痛みを医療者も患者も「仕方がない」「一時的」「我慢できる」などの理由で、まだ看過しているのが現状だと、加藤氏は問題を指摘する。一方、欧米では、先述の理由から積極的に痛みのマネジメントについて取り組みが行われ、たとえばカナダでは「小児のためのワクチン摂取の痛みのマネジメント(Pain Management During Immunizations for Children)」が作成され、ガイドラインによって痛みの軽減が図られている3)。また、世界保健機関(WHO)も「ワクチン接種時の痛みの軽減についての提言」を2015年に発表するなど、世界的な動きが示されている。 加藤氏は講演のまとめとして、「小児の医療における痛みへの対応が向上するには時間がかかるかもしれないが、防げる痛みを防ぎ、子供を痛みから守る医療を一緒に目指そう」と、小児医療に関わる人々へ向け抱負を述べた。痛みの軽減だけではない患児へのメリット 引き続き、「子どもたちが怖がらずに済む医療へ」をテーマに、先の演者の加藤氏に加え、富澤 大輔氏(国立成育医療研究センター 小児がんセンター 血液腫瘍科 医長)、平田 美佳氏(聖路加国際病院 小児総合医療センター 小児看護専門看護師)によるディスカッションが行われた。 「小児期の疼痛対策の必要性」について、医療者だけでなく患児の親も持つ「痛みは仕方がない」という思い込みから、ケアがされていない現状であるという。わが国は我慢の文化であり、薬も使わない、痛みの弊害に目が向けられない状態が続いている。海外(英国)を例に平田氏は、「10年以上前から子供の痛みのケアが行われ、エムラクリームのような局所麻酔クリームを日常的に使用し、子供たちの間では『マジック・クリーム』の愛称で親しまれ、注射などの処置の前に塗布する習慣ができていた」と説明した。また、「病院での工夫」としては、「患児の疑問に答え、希望に沿うようにしているほか、事前におもちゃの注射器を見せて、準備をさせることも不安軽減に大事だと考えている。注射などの際は、患児の集中力を分散させる環境作りや処置後のフォローを行い、ケースによっては、エムラクリームなどの情報提供をしている」と同氏は付け加えた。 次に、「小児がんの治療の現場」を富澤氏が語った。「診療の中で、患児に痛みを伴う検査や治療が多いのが現状。痛みへのケアがないと、患児は診療に消極的になってしまうので、親を良いサポーターにする努力が医療者側には必要であり、同時に痛みに対する親の意識を変える必要性もある。注射への配慮としては、不必要な検査は避け、患児に痛みを除く方法もあることを説明しておく必要がある。急性リンパ性白血病(ALL)でのエムラクリームを使用したコントロール研究では、局所麻酔下だと患児の動きがなく、心拍数も変わらないという報告もある4)。これは大事な点で、ALL治療の予後にも影響することなので、治療時の患児の動きを抑えることは重要だと考える」と、同氏は実臨床をもとに説明した。患児の痛みのケアには医療者と社会の認知が必要 最後に、各演者が医療者へのメッセージを述べた。平田氏は「血友病の患児がエムラクリームのおかげで、治療を在宅で行えるようになり、表情が明るくなった。患児の感じる痛みを今後もマネジメントしていきたい」と事例を挙げて語り、富澤氏は「小児科は比較的患児の痛みケアが進んでいる分野だが、一般的に多くの医療者は患児の痛みのケアやこうした製剤を知らない。患児の親が医療者に適用を依頼するケースもあり、わが国も欧米並みに知識の普及と診療使用を考え、実践する必要がある」と見解を述べた。 最後に加藤氏は、「痛みをなくすには、体と心の両方の治療が必要で、エムラクリームのように痛みを軽減するツールがあるのに使われていないのが問題。医師への啓発だけではなく、いかに一般社会に広く浸透させるかが今後の課題」と問題を提起し、ディスカッションを終えた。■参考佐藤製薬株式会社 ニュースリリース「エムラパッチ」新発売のご案内(PDF)

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