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尿路上皮がんへのペムブロリズマブ、日本における市販後調査データ

 ペムブロリズマブはプラチナ製剤不応性の進行尿路上皮がん患者に対する2次治療として、本邦では2017年に保険承認されている。承認の根拠となった国際共同治験KEYNOTE-045試験では日本人の参加者数に限りがあったことから、日本人への有用性のデータが待たれていた。今回、筑波大学附属病院 腎泌尿器外科・西山 博之氏らによる全国規模の全例市販後調査(PMS)の結果が、BMC Cancer誌2023年6月20日号に掲載された。 この多施設共同観察的市販後調査は、ペムブロリズマブ投与開始(200mgを3週間ごと)から1年間の観察期間で実施され、データは症例報告書(3ヵ月および1年)から収集された。安全性の評価には、治療に関連した有害事象(TRAE)およびとくに注目すべき有害事象(AEOSI)が含まれた。有効性の評価には、腫瘍反応、客観的奏効率(ORR)、病勢コントロール率(DCR)が含まれた。 主な結果は以下のとおり。・2017年12月25日~2018年4月20日に455施設から計1,320例が登録され、うち1,293例が安全性について、1,136例が有効性についての評価を受けた。年齢中央値は71歳(SD:35~92歳)、大半が男性(75.3%)、PS 0~1(87.2%)であった。・12ヵ月時点で、TRAEの発生率は53.8%(n=696)、AEOSIの発生率は25.0%(n=323)だった。・Grade5のTRAEは83例(6.4%)に発生し、うち47例(3.6%)は病勢進行によるものだった。Grade5のAEOSIは1.4%(n=18)で発生した。・全Gradeで最も頻度の高いAEOSIは、内分泌疾患(10.4%、n=134)、間質性肺疾患(ILD)(7.2%、n=93)、肝機能障害(4.9%、n=64)であった。多変量解析後、ILD発症リスクは、ベースライン時にILDの併存疾患のある患者では約7倍(オッズ比[OR]:6.60)、65歳以上(OR:2.24)と喫煙歴のある患者(OR:1.79)では約2倍高いことが示された。・ペムブロリズマブのORRは26.1%、DCRは50.7%だった。Bellmuntリスクスコアが0の患者のORRは46.4%で、Bellmuntリスクスコアが増加するにつれて減少した。 著者らは、「PS≧2の患者の割合は12.8%とKEYNOTE-045試験より高く、治療歴の多い患者(前治療歴2レジメン以上)の割合も同様に高かった。しかし、安全性プロファイルとAEOSI発生率はKEYNOTE-045試験で報告されたものと同等であり、切除不能な尿路上皮がんの日本人患者におけるペムブロリズマブの安全性と有効性が、実臨床において確認された」と結論付けている。

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スパイロメトリー正常の喫煙者、症状有無で呼吸器機能の経過に違いは?/JAMA

 症候性のタバコ曝露あり・スパイロメトリー正常(tobacco exposure and preserved spirometry:TEPS)者は、無症候性TEPS者と比べて、FEV1低下速度や、慢性閉塞性肺疾患(COPD)発生率に有意差はみられないことが、米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のWilliam McKleroy氏らによる多施設共同長期観察試験「SPIROMICS II試験」で示された。一方で、症候性TEPS者は追跡期間中央値5.8年の間に、呼吸器症状が増悪した被験者が有意に多かったという。喫煙者はスパイロメトリー正常でも呼吸器症状を有することがあるが、これらの人々は通常、COPD治験では除外され、エビデンスベースの治療が欠落している。研究グループは、無症候性TEPSと症候性TEPSの自然経過を明らかにする検討を行った。JAMA誌2023年8月1日号掲載の報告。FEV1低下速度、COPD発症率、呼吸器増悪の頻度などを比較 SPIROMICS II試験はSPIROMICS I試験の拡張版で、COPDの有無を問わず40~80歳の喫煙者(20pack-years超)と、その対照群としてタバコ曝露や気流制限のない人を対象とした。被験者はSPIROMICS I・II試験に2010年11月10日~2015年7月31日に登録され、2021年7月31日まで追跡を受けた。 SPIROMICS I試験の被験者は3~4年間、毎年の受診時に、スパイロメトリー、6分間歩行テスト、呼吸器症状の評価、胸部CTを受けた。SPIROMICS II試験の参加者は、SPIROMICS I試験登録後5~7年に、追加で1回の対面受診を受けた。呼吸器症状はCOPDアセスメントテスト(スコア範囲:0~40、高スコアほど重度)で評価した。 症候性TEPS患者は、スパイロメトリー正常(気管支拡張後のFEV1と努力肺活量の比が>0.70)で、COPDアセスメントテストのスコアは10以上だった。無症候性TEPS患者は、スパイロメトリー正常でCOPDアセスメントテストのスコアは10未満だった。呼吸器症状とその増悪に関する自己報告は、4ヵ月ごとに電話で評価した。 主要アウトカムは、症候性TEPS患者の、無症候性TEPSと比較したFEV1の加速度的低下だった。副次アウトカムは、スパイロメトリーで定義したCOPDの発症、呼吸器症状、呼吸器増悪の頻度、CTに基づく気道壁肥厚や肺気腫の進行などだった。COPD累積発生率、両群ともに32~33%と同等 被験者数は1,397例で、うち226例が症候性TEPS(平均年齢60.1[SD 9.8]歳、女性59%)、269例が無症候性TEPS(63.1[9.1]歳、50%)だった。 追跡期間中央値5.76年時点で、症候性TEPS群のFEV1低下は-31.3mL/年、無症候性TEPS群は-38.8 mL/年だった(群間差:-7.5 mL/年、95%信頼区間[CI]:-16.6~1.6mL/年)。 COPD累積発生率は、症候性TEPS群33.0%、無症候性TEPS群31.6%だった(ハザード比[HR]:1.05、95%CI:0.76~1.46)。症候性TEPS群は無症候性TEPS群に比べ、呼吸器症状増悪の頻度は有意に高率だった(それぞれ、0.23件/人・年、0.08件/人・年、率比:2.38、95%CI:1.71~3.31、p<0.001)。

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2050年の世界の糖尿病患者数は13億人に達する可能性

 現時点で世界の糖尿病患者数は5億人以上に上り、今後30年以内に13億人を突破する可能性があるとする研究結果が、「The Lancet」に6月22日掲載された。米ワシントン大学保健指標評価研究所のKanyin Liane Ong氏らが、世界の疾病負担研究(GBD)のデータを利用して推計したもの。 Ong氏は、「世界的な糖尿病患者数の急速な増加は、それ自体が憂慮すべきことであるだけでなく、この病気が虚血性心疾患や脳卒中のリスクを増大させることを考えると、世界中の全ての医療制度の維持が困難になる可能性もある」と語っている。また、「多くの人は、2型糖尿病は単に肥満や運動不足、不適切な食習慣に関連して発症すると信じているかもしれないが、実際には遺伝や社会経済的要因も関連がある。特に低・中所得国においては経済的要因の影響が大きい」と解説する。 Ong氏らの研究では、世界204カ国・地域の性別・年齢層別の糖尿病有病率と障害調整生存年数〔DALY(疾患により失われる健康寿命)〕を調査し、今後の推移を予測した。その結果、2021年時点で世界の糖尿病の年齢標準化有病率は6.1%〔95%不確定区間5.8~6.5〕で患者数は5億2900万人(同5億~5億6400万)となった。その96.0%(95.1~96.8)は2型糖尿病だった。2型糖尿病のDALYは7920万(6780万~9250万)であり、疾患別でトップ10にランク入りした。2型糖尿病のDALYの52.2%(25.5~71.8)はBMIの高さに起因するものと計算され、DALYに対するBMI高値の寄与の割合は1990年から2021年にかけて24.3%(18.5~30.4)増加していた。 2型糖尿病のDALYに寄与する肥満以外の因子としては、不適切な食習慣〔25.7%(8.6~40.7)〕、環境や職業に関連すること〔19.6%(12.7~26.5)〕、喫煙〔12.1%(4.5~20.9)〕、運動不足〔7.4%(3.0~11.2)〕、飲酒〔1.8%(0.3~3.9)〕が続いた。論文の共著者の1人である同研究所のLauryn Stafford氏は、「2型糖尿病の増加を少数の因子のみで説明しようとする人がいるかもしれないが、そのような考え方は、世界中で発生している格差の影響を考慮していない。社会経済的な不平等は、検査や治療へのアクセスの差を生み、それが糖尿病の増加につながっていることを忘れてはならない。2型糖尿病の増加という問題を、全体像としてより詳細に把握する努力が必要だろう」と語っている。 今回の研究からは、どの国でも高齢者層において糖尿病有病率が高いことも分かった。65歳以上の糖尿病有病率は20%以上であり、特に75~79歳で最も高く24.4%に達していた。 また、2050年の糖尿病患者数は13.1億人(12.2~13.9)となり、204の国や地域のうち89カ国・地域(43.6%)で年齢標準化有病率が10%を超えると予測された。地域別では、北アフリカ・中東〔16.8%(16.1~17.6)〕、ラテンアメリカ・カリブ海諸国〔11.3%(10.8~11.9)〕において、2050年時点での糖尿病の年齢標準化有病率が特に高値となると見込まれた。 著者らは、「糖尿病は依然として世界の重大な公衆衛生上の課題である。糖尿病の大部分を占める2型糖尿病は、その大半が予防可能であり、発症後の早い段階で治療介入すれば寛解に至ることもある」と述べ、複雑に絡み合ったリスク因子を効果的にコントロールし得る戦略の確立が急がれるとしている。

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日本におけるアルコール摂取、喫煙と認知症リスク~村上健康コホート研究

 飲酒や喫煙は、生活習慣病リスクに影響するが、認知症への影響については依然としてよくわかっていない。新潟大学のShugo Kawakami氏らは、日本人中高年におけるアルコール摂取や喫煙と認知症リスクとの長期的な関連性を調査するため本研究を実施した。その結果、中程度までのアルコール摂取は認知症リスクが低下し、喫煙は用量依存的に認知症リスク増加との関連が認められた。また、多量のアルコール摂取と喫煙との間に認知症リスクとの相互作用が確認された。Maturitas誌オンライン版2023年6月14日号の報告。 研究デザインは、8年間のフォローアップによるコホート研究。参加者は、40~74歳の地域在住の日本人1万3,802人。2011~13年に自己記入式アンケートを含むベースライン調査を実施した。アウトカムは、介護保険データベースから収集した認知症発症、予測因子は、アルコール摂取量および喫煙とした。共変量は、人口統計、ライフスタイル要因、BMI、一般的な健康状態、脳卒中歴、糖尿病歴、うつ病歴とした。 主な結果は以下のとおり。・参加者の平均年齢は、59.0歳。・1週間当たりのエタノール量が1~149g、150~299g、300~449gの群は、対照群と比較し、調整ハザード比(HR)が有意に低く、有意な線形関連性は認められなかった。・飲酒歴、健康状態が不良、病歴を有する人を除外した場合、HRは1に向かい増加が認められた(各々、HR:0.80、0.66、0.82)。・喫煙レベルが高いほど、用量依存的にHRが高く(調整p for trend=0.0105)、1日当たり20本以上の喫煙群では、調整HRが有意に高かった(HR:1.80)。・多量飲酒者(1週間当たりのエタノール量:449g以上)において、喫煙習慣のある人は認知症リスクが高かったが(p for interaction=0.0046)、喫煙習慣のない人では影響が認められなかった。

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睡眠の質が食道がんリスクと関連?

 米国における食道腺がん(EAC)の罹患率は1960年代から増加しており、2007年には10万人年当たり0.41人から5.31人となったが、この要因は明らかになっていない。睡眠の質と食道がんの発症リスクとの関連について調べた、ワシントン大学セントルイス校のXiaoyan Wang氏らによる研究の結果がCancer Epidemiology, Biomarkers & Prevention誌2023年8月1日号に掲載された。 研究者らは、英国バイオバンク(2006~16年)の参加者39万3,114例を対象に、睡眠行動(クロノタイプ、持続時間、昼寝、日中の眠気、いびき、不眠症)とEACおよび食道扁平上皮がん(ESCC)リスクとの関連性を前向きに評価した。 参加者は、1日当たり6時間未満または9時間超の睡眠、日中の昼寝、習慣的な日中の眠気などの不健康な行動の数によって、良い睡眠群(0)、中程度の睡眠群(1)、悪い睡眠群(2つ以上)に分類された。EACについては多遺伝子リスクスコアとの相互作用も調べた。Coxモデルを使用して、ハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・最長9.3年の追跡期間中に、294例のEACと95例のESCCが診断された。睡眠の質が悪いことを示す睡眠複合スコアが高いのは、男性、BMIが高い、喫煙者、胃食道逆流症(GERD)の既往がある人に多かった。・1日当たり9時間超の睡眠(HR:2.05、95%CI:1.18~3.57)、時々の日中の昼寝(HR:1.36、95%CI:1.06~1.75)は、EACリスクの増加と個別に関連していた。・良い睡眠群と比較して、中程度の睡眠群はEACリスクが47%(HR:1.47、95%CI:1.13~1.91)増加し、悪い睡眠群は同87%(HR:1.87、95%CI:1.24~2.82)増加した。・睡眠の質によるEACリスク上昇は、遺伝子リスクスコアの層別に見ても同様だった。・夕方のクロノタイプは、登録2年後のESCC診断のリスク上昇と関連していた(HR:2.79、95%CI:1.32~5.88)。 著者らは「不健康な睡眠行動は、遺伝的リスクとは関係なく、EACのリスク増加と関連していた。睡眠行動は、EACを予防するための修正可能な要素として機能する可能性がある」としている。

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コロナの急性期症状、男女差は?

 男性のほうが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の症状が重症化しやすく死亡率が高いという、性別による差異が報告されている。その理由として、男性のほうが喫煙率や飲酒率、予後悪化に関連する併存疾患を有している割合が高いなどの健康格差が示唆されている1)。今回、COVID-19の急性期症状の性差を調査したところ、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)陽性と判定された男性では発熱や悪寒といった特定の症状の発現率が女性よりも高いことが、米国・テキサス大学ヒューストン健康科学センターのJenil R. Patel氏らにより明らかになった。Preventive Medicine Reports誌2023年10月号掲載の報告。 対象は、アーカンソー医科大学でRT-PCR検査を受けた成人であった。パンデミック当初はCOVID-19関連の症状を有する人や濃厚接触者が検査対象であったが、その後、症状や曝露の有無にかかわらずすべての希望者に拡大した。COVID-19関連の症状(発熱、咳、息切れ、咽頭痛、悪寒、筋肉痛、頭痛、味覚・嗅覚障害)は、検査時、7日後、14日後に聴取した。症状の発現率の性差はχ2検定を用いて評価し、男女別の有病率比および95%信頼区間(CI)はロバスト分散を使用したポアソン回帰モデルを用いて推定した。今回の報告は、2020年3月29日~10月7日に聴取したデータの解析であった。 主な結果は以下のとおり。・2020年10月7日時点で、6万648例の地域住民と患者がRT-PCR検査を受けた。・SARS-CoV-2陽性者のうち86.3%が18~64歳、53.7%が女性であった。検査時に有していたCOVID-19関連の症状は、咳(28.1%)、頭痛(20.7%)、発熱(19.7%)、咽頭痛(16.0%)、筋肉痛(15.8%)、悪寒(13.7%)、味覚・嗅覚障害(12.4%)、息切れ(11.5%)であった。・陽性および陰性を含む解析対象者全員の症状は、検査時では悪寒を除くすべてが女性で有意に多かった。7日後では発現率は下がるものの、悪寒も含めて女性で有意に多いままであった。14日後にはほぼすべての症状は男女差なく減少したが、咳(p=0.02)は女性で有意に多かった。・陽性の集団では、男性のほうが発熱(男性22.6% vs.女性17.1%、p<0.001)と悪寒(14.9% vs.12.6%、p=0.04)が有意に多く、そのほかの症状は男女による差はなかった。・陰性の集団では、女性のほうが男性よりもすべての症状が有意に多かった。・検査時の男女別有病率比は、男性では発熱1.32(95%CI:1.15~1.51)および悪寒1.19(95%CI:1.01~1.39)と高かった。7日後では男性のほうが症状を有する割合が低い傾向にあったが、咽頭痛(0.49[95%CI:0.24~1.01])と筋肉痛(0.67[95%CI:0.41~1.09])以外は統計学的に有意ではなかった。14日後では、男女間で有意差は認められなかった。 これらの結果より、研究グループは「SARS-CoV-2陽性と判定された男性では、検査時における発熱や悪寒といった特定の症状の発現率が女性と比較して高かった。これらの違いは、COVID-19パンデミック時に急速に顕在化した健康格差という重要な問題を明らかにするものである」とまとめた。

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労働時間の変化にかかわらず睡眠時間減少が心理的苦痛に関連

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック下で行われた日本人対象の横断研究から、労働時間の増減にかかわらず、睡眠時間が減った場合に心理的苦痛が強くなる可能性が示された。産業医科大学環境疫学研究室の頓所つく実氏、藤野善久氏らの研究によるもので、詳細は「Frontiers in Psychology」に3月14日掲載された。 COVID-19パンデミックが人々のメンタルヘルスに大きな影響を及ぼしていることについては、既に多くの研究報告がある。ただし、その影響を労働時間および睡眠時間の変化と結びつけて検討した研究は数少ない。パンデミックの初期には、職業や勤務形態によって労働時間が減る場合と増える場合があった。また、睡眠時間が大きく変わった人も少なくないことが知られている。藤野氏らは、産業医科大学が行っている「COVID-19流行下における労働者の生活、労働、健康に関する調査(CORoNaWork研究)」の一環として、パンデミック下での労働時間と睡眠時間の変化と、心理的苦痛の変化との関連を検討した。 2020年12月20~26日(パンデミック第3波の最中)にインターネット調査を行い、2万5,762人の労働者(正社員のほかに派遣・契約社員、在宅勤務者、自営業者などは組み入れ、アルバイトは除外)から有効回答を得た。うつ病と診断されている人や極端な低体重者(30kg未満)などは除外されている。アンケートは、パンデミックの前後で労働時間と睡眠時間がどのように変化したかという質問と、過去30日間の心理的苦痛の程度を把握する「ケスラー6(K6)」という指標の質問で構成されていた。K6は6項目の質問に対して0~4点で回答し、合計24点満点のスコアで評価する。本研究では5点以上の場合を「軽度の心理的苦痛がある」と判定した。 アンケートの回答に基づき、全体を以下の九つのグループに分類。1.パンデミック後に、労働・睡眠時間がともに増加した群、2.労働時間は増加し睡眠時間は変化していない群、3.労働時間は増加し睡眠時間は減少した群、4.労働時間は変化せず睡眠時間が増加した群、5.労働・睡眠時間がともに変化していない群、6.労働時間は変化せず睡眠時間が減少した群、7.労働時間が減少し睡眠時間は増加した群、8.労働時間が減少し睡眠時間は変化していない群、9.労働・睡眠時間ともに減少した群。 解析結果に影響を及ぼし得る因子〔年齢、性別、BMI、喫煙・飲酒・運動習慣、治療中の病気、教育歴、居住地域(緊急事態宣言が発出された地域か否か)、婚姻状況、12歳未満の子どもの有無、家族と過ごす時間、通勤時間、業種、勤務先の従業員数、就業形態(テレワークの頻度)、職位、仕事上のストレス、経済状況など〕を統計学的に調整し、「軽度の心理的苦痛がある」オッズ比を算出した。 まず労働時間に着目すると、労働時間が増加した群は変化なしの群に比べて、軽度の心理的苦痛がある確率が有意に高かった〔オッズ比(OR)1.15(95%信頼区間1.03~1.28)〕。労働時間が減少した群は変化なしの群と有意差がなかった。次に、睡眠時間との関連を見ると、睡眠時間が減少した群は変化なしの群に比べて、軽度の心理的苦痛がある確率が2倍近く高かった〔オッズ比(OR)1.97(同1.79~2.18)〕。睡眠時間が増加した群は変化なしの群と有意差がなかった。 続いて、前記の5番目の「労働・睡眠時間がともに変化していない群」を基準として9群の比較を行った結果、労働時間の増加・減少・不変に関係なく睡眠時間が減少した場合に、軽度の心理的苦痛がある確率が有意に増加していたことが明らかになった。一方、労働時間が増加しても睡眠時間も増加した場合は、有意なオッズ比上昇が観察されなかった。 オッズ比の有意な上昇が認められた群は以下の通り。2番目の「労働時間は増加し睡眠時間は変化していない群」はOR1.24(1.08~1.43)、3番目の「労働時間は増加し睡眠時間は減少した群」はOR1.98(1.64~2.39)。6番目の「労働時間は変化せず睡眠時間が減少した群」はOR1.94(1.72~2.18)。9番目の「労働・睡眠時間ともに減少した群」はOR2.59(2.05~3.28)。なお、オッズ比の有意な低下が見られた群はなかった。 以上より著者らは、「労働時間にかかわりなく、睡眠時間の減少が心理的苦痛の主な要因である可能性が示された。パンデミックの初期段階での経済的困難を伴う労働時間の減少が睡眠時間の減少を引き起こし、その結果、心理的苦痛を増大させたのではないか」と述べている。また、「この知見は、労働者の良好なメンタルヘルス維持のための睡眠衛生の重要性を物語っている」と付け加えている。

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静脈血栓塞栓症の治療に難渋した肺がんの一例(前編)【見落とさない!がんの心毒性】第23回

※本症例は、患者さんのプライバシーに配慮し一部改変を加えております。あくまで臨床医学教育の普及を目的とした情報提供であり、すべての症例が類似の症状経過を示すわけではありません。《今回の症例》年齢・性別30代・男性既往歴なし併存症健康診断で高血圧症、脂質異常症を指摘され経過観察喫煙歴なし現病歴発熱と咳嗽が出現し、かかりつけ医で吸入薬や経口ステロイド剤が処方されたが改善せず。腹痛が出現し、総合病院を紹介され受診した。胸部~骨盤部造影CTで右下葉に結節影と縦隔リンパ節腫大、肝臓に腫瘤影を認めた。肝生検の結果、原発性肺腺がんcT1cN3M1c(肝転移) stage IVB、ALK融合遺伝子陽性と診断した。右下肢の疼痛と浮腫があり下肢静脈エコーを実施したところ両側深部静脈血栓塞栓症(deep vein thrombosis:DVT)を認めた。肺がんに伴う咳嗽以外に呼吸器症状なし、胸部造影CTでも肺塞栓症(pulmonary embolism:PE)は認めなかった。体重65kg、肝・腎機能問題なし、血圧132/84 mmHg、脈拍数82回/min。肺がんに対する一次治療としてアレクチニブの投与を開始した。画像所見を図1に、採血データを表1に示す。(図1)中枢性DVT診断時の画像所見画像を拡大する(表1)診断時の血液検査所見画像を拡大する【問題1】DVTに対し、どのような治療が考えられるか?【問題2】筆者が本症例でがん関連血栓塞栓症のリスクとして注目した患者背景は何か?第24回(VTEの治療継続で生じた問題点とその対応)に続く。1)Dou F, et al. Thromb Res. 2020;186:36-41.2)Al-Samkari H, et al. J Thorac Oncol. 2020;15:1497-1506.3)Wang HY, et al. ESMO Open. 2022;7:100742.4)Qian X, et al. Front Oncol. 2021;11:680191.講師紹介

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妊婦の親子関係の不良は妊娠中高血糖の予測因子

 両親との親子関係にあまり満足していない妊婦は、妊娠中に高血糖を来すリスクが高いというデータが報告された。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科国際健康推進医学分野の藤原武男氏らの研究によるもので、詳細は「BMC Pregnancy and Childbirth」に4月4日掲載された。藤原氏は、「妊婦健診の際に親子関係を尋ねることが、妊娠中高血糖のリスク評価に役立つのではないか」と述べている。 妊娠中に血糖値の高い状態が続いていると、難産や巨大児出産などのリスクが高くなるため、妊娠中の積極的な血糖管理を要する。また、妊娠以前から糖代謝異常のリスク因子を有する女性は、妊娠糖尿病などの妊娠中高血糖(HIP)のリスクが高く、その糖代謝異常のリスク因子の一つとして、子ども期の逆境体験(ACE)が挙げられる。そのためACEのある女性は、HIPになりやすい可能性がある。とはいえ、妊婦健診などにおいて全妊婦のACEの有無を把握することは現実的でない。 一方、成人後の親子関係が良くないことは、ACEの表現型の一つと考えられている。よって、妊婦の現在の親子関係を確認することでACEの有無を推測でき、それによってHIPリスクを評価できる可能性が想定される。以上を背景として藤原氏らは、妊婦に対して親子関係の良し悪しを質問し、その答えとHIPリスクとの間に関連があるか否かを検討した。なお、HIPには、妊娠糖尿病(妊娠中に生じる高血糖)と、妊娠前からの糖尿病、および妊娠時に判明した糖尿病を含めた。 解析対象は、2019年4月~2020年3月に、4府県(大阪、宮城、香川、大分)の産科施設58件を受診した全妊婦から、データ欠落者などを除外した6,264人。初診時に行った「両親との関係について満足しているか?」との質問に対して、93.3%が「満足している」、5.5%が「あまり満足していない」、1.2%が「全く満足していない」と回答。この3群間に、年齢、未婚者の割合には有意差がなかった。親子関係の満足度が高い群ほど教育歴(高卒以上の割合)は有意に高く、自己申告による精神疾患既往者の割合(全体で5.6%)は低かった(いずれもP<0.01)。 HIPは4.4%に認められた。「親子関係に満足している」群を基準とするロジスティック回帰分析の結果、交絡因子未調整の粗モデルでは、「あまり満足していない」群のHIPのオッズ比(OR)が1.77(95%信頼区間1.11~2.63)であり有意に高かった。ただし、年齢、教育歴、精神疾患の既往を調整すると、OR1.53(同0.98~2.39)でありわずかに非有意となった(P=0.06)。「全く満足していない」群は、粗モデルでも有意な関係が認められなかった。 次に、HIPの既知のリスク因子である精神疾患の既往の有無で層別化して検討。すると、精神疾患の既往がなく親子関係に「あまり満足していない」群のHIPリスクは、粗モデルでOR1.85(1.17~2.95)、年齢と教育歴を調整後にもOR1.77(1.11~2.84)であり、独立した有意な関連が認められた。一方、精神疾患の既往があり親子関係に「あまり満足していない」群では、有意なオッズ比上昇は認められなかった。なお、親子関係に「全く満足していない」群は、精神疾患の既往の有無にかかわらず非有意だった。 著者らは既報研究に基づく考察から、親子関係の不良がHIPリスクを高めるメカニズムとして、喫煙や体重管理の悪化などの不健康な行動が関与している可能性があると述べている。また、親子関係に「あまり満足していない」群でHIPリスクが高いのに対して「全く満足していない」群はそうでなかった理由については、後者の群にはACEリスクがより高いために児童福祉支援を受けて育った女性が多く含まれており、逆説的にACEによるHIPリスクを高めるような行動増加などの影響が小さくなった可能性が考えられるとしている。 以上より論文の結論は、「精神疾患の既往のない妊婦では親子関係の良くないことがHIPリスクと有意に関連していた。妊婦の診察においてACEの有無を直接評価することは困難だが、親子関係を問うだけでACEの影響により生じるHIPリスクを推測できるのではないか」とまとめられている。なお、研究の限界点として、BMIや喫煙習慣、妊娠中の体重増加、血圧など、HIPの既知のリスク因子を考慮していないことなどを挙げ、さらなる研究が必要としている。

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孤立や孤独が寿命を縮める可能性

 孤立や孤独が寿命にかかわる可能性のあることを示唆する研究結果が報告された。研究参加者数の合計が220万人以上に及ぶ世界各国から報告された90件の研究データを統合した解析から、社会的に孤立している、または孤独を感じている人は、早期死亡のリスクが高いことが示された。ハルビン医科大学(中国)のMaoqing Wang氏、Yashuang Zhao氏らの研究によるもので、詳細は「Nature Human Behaviour」に6月19日掲載された。 社会的孤立や孤独が人々の健康や幸福にどのような影響を与えるのかについて、完全には理解されていないものの、両者を結びつける多くの理論が存在すると、研究者らは述べている。例えば、そのような状況にある人には、体に良い食事や運動をせず、喫煙や飲酒の習慣のある人が多く含まれていたり、社会とのつながりが少ないために必要な医療を受ける機会が限られていたりする可能性があるという。また、社会的孤立が炎症や免疫力の低下と関連していることも報告されているとのことだ。 社会的孤立と孤独は同じではない。前者はほかの人々との接点が欠如した状態を指し、後者はそのような状況とかかわりなく、自分が1人きりだと感じることを指す。今回の研究では、90件、220万5,199人の研究データのメタ解析が行われた。その結果、社会的孤立と孤独の双方が、全死亡(あらゆる原因による死亡)やがん死のリスク上昇と有意に関連していることが分かった。また社会的孤立に関しては、心血管死リスクとの関連も有意だった。ただし、社会的孤立と孤独の評価指標が研究によって異なることや、大半の研究が高所得国で行われたものといった限界点もあり、結果の一般化には留意が求められるという。 この報告について、研究には関与していない米ブリガムヤング大学のJulianne Holt-Lunstad氏は、「われわれは2015年に、孤立と孤独の双方が死亡リスクの重要な予測因子であるというメタ解析の結果を報告しているが、今回報告された結果もそれと一致している。また、米国公衆衛生総局の孤立と孤独に関する勧告とも重なり合う」と話している。同氏はその勧告の著者陣の1人でもある。 Holt-Lunstad氏はまた、「人は孤立していても孤独でないこともあるし、孤独であっても孤立はしていないこともある。今回の研究結果は、孤立の方が死亡リスクへの影響が強いことを示している」と解説。さらに、「社会的孤立と孤独に焦点を当てた啓発活動や公衆衛生対策の推進が求められる。個人的に孤立や孤独を好むという人もいるだろう。しかし、90件のメタ解析の結果から、それが早期死亡のリスクとなる可能性が明らかになったからには、そのような人はそのままにしておいて良いとする考え方には賛同できない」とも語っている。 米国癌協会のRobin Yabroff氏もこれに同調。「社会的孤立や孤独と闘い、健康を獲得するためにすべきことは多々ある。例えば、個人個人が社会的コミュニティーグループに積極的に参加すること、孤立して孤独に直面している人たちに手を差し伸べること、孤独感につながりやすいソーシャルメディアの過度の使用を避けることなどが必要だ」と述べている。

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ASCO2023 レポート 肺がん

レポーター紹介2023年のASCOはCOVID-19の影響をまったく感じさせず、ハイブリッド形式とはいえ現地をベースとした印象を強く打ち出した形で実施された。肺がん領域では、ここ数年肺がんの演題がなかったPlenaryでADAURAのOverall survival(OS)が採択されるなど、久しぶりに話題の多い年であったといえる。引き続き周術期の演題が大きな注目を集めているものの、進行肺がんにおいてもAntibody-drug conjugate(ADC)を用いた治療開発がさらに進展、成熟の段階を迎えており、免疫療法や分子標的薬についても新たな取り組みが報告されている。本稿では、その中から重要な知見について解説したい。ADAURA試験EGFR遺伝子変異陽性、完全切除後のStageIB、II、IIIA非小細胞肺がんを対象として、オシメルチニブを試験治療(36ヵ月)とし、プラセボと比較した第III相試験がADAURA試験である。プラチナ併用療法による標準的な術後療法を受けていない患者の登録も許容されており、両群とも約半数が術後療法を受けている。682例の患者が1:1で両群に割り付けられた。主要評価項目はII期、IIIA期の患者における無病生存割合、副次評価項目として全患者集団での無病生存期間(DFS)、全生存期間(OS)等が設定されている。2020年のASCOで、DFSがハザード比0.17、95%信頼区間0.12~0.23という驚異的な結果と共にPlenaryで発表された。従来、試験治療群のDFSが36ヵ月の投与期間後に明らかに悪化していること、CTONG1104やIMPACT試験等の第1、2世代のEGFR-TKIを用いた術後療法の試験がOS延長を示さなかったことなどから、オシメルチニブを用いたADAURAのOS結果への注目が高まる一方であった。3年を経て今年のASCOで、2度目のPlenaryでOSの最終解析の結果が報告された。II期、IIIA期のOSは、ハザード比0.49、95%信頼区間0.33~0.73で有意な延長を示し、5年時点での生存割合は術後オシメルチニブ群で85%、プラセボ群で73%と、12%の上乗せを示している。最も懸念されていた、DFSのような観察期間の後半、とくに36ヵ月を過ぎた後の試験治療群での悪化は今回の解析では明らかではなかったことも、好印象であった。フォローアップ期間は術後オシメルチニブ群で61.7ヵ月、プラセボ群で60.4ヵ月といずれも5年を超えて一見十分のように見えるが、OSのイベントは、オシメルチニブ群で15%、プラセボ群で27%と両群合わせても21%であり、報告された生存曲線を見ても48ヵ月時点以降は打ち切りの表示が多数存在していた。幸いなことに、今回の「最終解析」以降も、OSについてはフォローアップ結果を報告することが触れられていた。DFSで認められたような解析後半での試験治療群の動向を、OSで確認するためにはおそらく7年や8年のフォローアップが必要になる可能性が高いことから、より成熟した解析結果から得られる情報も重要になってくる。従来と同様のサブセット解析結果も同時に報告されており、IB期を加えた全患者で、プラチナベースの術後療法の有無で分けた解析、いずれにおいてもハザード比はほぼ変わらず、いずれの切り口でも術後オシメルチニブの優越性が示されている。発表後に世界中の肺がん専門家の間で、「思ったよりも良かった」OSの結果についてさまざまな議論が巻き起こっている。その中でも最も強く指摘されている点が、プラセボ群での再発後の治療としてのオシメルチニブの実施割合である。後治療の解析において、プラセボ群で再発し後治療が行われた184例中、オシメルチニブが使用されたのは79例(43%)にとどまり、114例(62%)は他のEGFR-TKIで治療されていることが報告された。この点について、批判的な意見として「OSの違いはオシメルチニブを術後に使用したかしなかったかではなく、タイミングによらずオシメルチニブが使用できたか否かを反映しているだけ」という点が提起されている。一方、擁護的な意見として、「オシメルチニブでないにしても何らかのEGFR-TKIがほとんどの患者の後治療で使用されているため大きな問題ではない」という見解も存在する。議論はあるものの、大局的には、術後にEGFR遺伝子変異をチェックし、術後オシメルチニブにアクセスできない国や地域を減らすことが重要と考えられる。KEYNOTE-671試験病理学的に確認された臨床病期II、IIIA、IIIB(N2)期、切除可能非小細胞肺がんを対象として、術前ペムブロリズマブ+プラチナ併用療法最大4サイクル後の切除、術後ペムブロリズマブ(13サイクル)を試験治療とし、術前プラセボ+プラチナ併用療法最大4サイクル後の切除、術後プラセボ(13サイクル)による標準治療と比較する第III相試験がKEYNOTE-671試験である。割付調整因子として、II期vs.III期、PD-L1 50%未満vs.以上、組織型、東アジアかそれ以外か、が設定されている。786例の患者が1:1で両群に割り付けられた。主要評価項目は無イベント生存(EFS)とOSのCo-primaryであり、副次評価項目としてmPR、pCR、安全性等が設定されている。今回発表されたEFSはハザード比0.58、95%信頼区間0.46~0.72でペムブロリズマブによる術前、術後療法を行ったほうが有意に延長するという結果であった。24ヵ月時点のEFSの点推定値は術前術後ペムブロリズマブ群で62.4%、術前術後プラセボ群で40.6%であり、22%程度の上乗せを認めている。OSはまだ未成熟であるものの、ハザード比0.72と術前術後ペムブロリズマブ群が良好な傾向を示している。病理学的な奏効に応じたサブセット解析において、pCRが達成された患者、達成されなかった患者、いずれにおいてもペムブロリズマブを術前術後に上乗せすることでEFSの延長傾向が示されていた。mPRで行われた同様の解析でも、同じ傾向が示されている。24ヵ月時点のEFSの点推定値は、すでに発表され実地診療にも導入されているニボルマブ+プラチナ併用療法を術前に3サイクルのみ実施したCheckMate 816試験において65%と報告されており、術前術後ともにペムブロリズマブを実施したKEYNOTE-671の62.4%という結果は異なる試験、異なる患者集団の比較ではあるもののほぼ同一であった。病理学的な奏効に基づくサブセット解析において、とくにpCRやmPRを達成した患者でもペムブロリズマブの上乗せ効果が存在する可能性がある点は注目に値するものの、標準治療がプラチナ併用療法であることから、術前だけでなく術後にペムブロリズマブを追加することの意義を示すことは、本試験のこの解析だけでは難しいと考えられる。いずれにせよ、まずは初回解析の結果が得られたところであり、今後のアップデートに注目したい。NEOTORCH試験臨床病期II、III期、切除可能非小細胞肺がんを対象として、術前toripalimab+プラチナ併用療法3サイクル後の切除、術後toripalimab+プラチナ併用療法1サイクル、術後toripalimab(13サイクル)を試験治療とし、術前プラセボ+プラチナ併用療法3サイクル後の切除、術後プラセボ+プラチナ併用療法1サイクル、術後プラセボ(13サイクル)による標準治療と比較する第III相試験がNEOTORCH試験である。術前3サイクルだけでなく、術後にもtoripalimabもしくはプラセボとプラチナ併用療法を1サイクル実施した後に、toripalimabもしくはプラセボによる術後療法を実施するという、少し変わったレジメンが設定されている。主要評価項目であるIII期でのEFS、II~III期でのEFS、III期でのmPR、II~III期でのmPRについて、αをリサイクルしながら順に評価するデザインであり、副次評価項目としてOS、pCR、DFS、安全性等が設定されている。500例が1:1に両群に割り付けられている。中国で開発された薬剤を用いた、中国国内で実施された試験であるが、これだけの大規模試験を単一の国で立案し、このスピード感で実施できることは驚くべきことである。実施の背景を反映して、喫煙率が8割以上と非常に高く、扁平上皮がんが8割を占める点が、結果の解釈にも影響するポイントといえる。また、解析方法も変則的であり、今回の初回解析ではIII期のみが対象となっている。III期のEFSは、ハザード比0.40、95%信頼区間0.277~0.565と、有意に試験治療群が良好な結果であり、24ヵ月時点のEFS点推定値は試験治療群で64.7%、標準治療群で38.7%であった。KEYNOTE-671試験同様に、CheckMate 816試験と24ヵ月時点のEFSの点推定値は同等ともいえるが、今回はIII期のみの解析であること、扁平上皮がんの割合が非常に高いことなどが、結果の解釈を複雑にしている。病理学的奏効に基づくサブセット解析も報告されており、mPRとなった集団においてもtoripalimabの上乗せが示されているが、KEYNOTE-671同様、標準治療がプラチナ併用療法であることから術後ICIの意義を検証できるデザインとはなっていない。toripalimabが日本国内で使用可能になる可能性は高いとはいえないものの、他のGlobal trialとは異なる特徴を持った試験として、今後のアップデートに注目したい。KEYNOTE-789試験EGFR-TKIで治療後のEGFR ex19delもしくはL858R遺伝子変異を有する進行非小細胞肺がんを対象として、ペムブロリズマブ+ペメトレキセド+プラチナ併用療法最大4サイクル後のペムブロリズマブ(最大31サイクル)+ペメトレキセド維持療法を試験治療とし、プラセボ+ペメトレキセド+プラチナ併用療法最大4サイクル後のプラセボ(最大31サイクル)+ペメトレキセド維持療法による標準治療と比較する第III相試験がKEYNOTE-789試験である。割付調整因子として、PD-L1 50%未満vs.50%以上、オシメルチニブ投与歴の有無、東アジアかそれ以外か、が設定されている。492例の患者が1:1で両群に割り付けられた。主要評価項目はPFSとOSのCo-primaryであり、副次評価項目として奏効割合、DOR、安全性、PRO等が設定されている。PFSのハザード比は0.80、95%信頼区間は0.65~0.97で、事前に設定された有効性の判断規準であるp=0.0117に対してp=0.0122と、Negativeであったことが報告されている。PFSの中央値も、試験治療群で5.6ヵ月、標準治療群で5.5ヵ月とほぼ一致しており、12ヵ月時点のPFS割合も試験治療群14.0%、標準治療群10.2%と大きな違いはなかった。OSについても同様の結果であり、昨年のESMO Asiaで報告されたCheckMate 722試験と同様Negativeな結果であった。サブグループ解析において、PD-L1が1%以上の群でPFSが良好な傾向が示されているものの、ハザード比は0.77とそれほど大きな違いではなかった。EGFR遺伝子変異陽性肺がんにおける免疫チェックポイント阻害薬の意義については、IMpower150試験のサブセット解析で良好な結果が示されて以来注目されてきたが、検証的な試験では軒並み結果が出せていない。EGFR-TKI耐性化後の治療については、耐性機序に基づく分子標的薬、ADC等による戦略への期待がさらに高まる状況となっている。TROPION-Lung02試験TROP2を標的としたADCであるdatopotamab deruxtecan(Dato-DXd)の第 Ib相試験の中で、Dato-DXdとペムブロリズマブの併用療法にプラチナ併用療法を追加した群(Triplet群)と、追加しなかった群(Doublet群)を評価した試験がTROPION-Lung02試験である。Dato-DXdは4mg/kgもしくは6mg/kg、ペムブロリズマブは200mg 3週おきで実施されている。初回治療の患者において、Doublet群での奏効割合が44%、Triplet群での奏効割合が55%であった。安全性については、Grade3以上の治療関連の有害事象がDoublet群で31%、Triplet群で58%に発生している。試験治療に関連した死亡はなかったものの、Dato-DXdとペムブロリズマブの併用療法でとくに留意すべき口内炎Grade3以上はDoublet群8%、Triplet群6%、間質性肺炎All gradeはDoublet群17%(Grade3以上3%)、Triplet群22%(Grade3以上3%)と報告されている。TROP2に対するADCは、TROP2がNSCLCにおいて幅広く発現する良い標的蛋白であることから注目されているが、分子標的薬とは異なりADCでは細胞障害性抗がん剤の毒性も加味されることから安全性については留意が必要となることが、本試験の結果でも明らかにされている。現在、TROPION-Lung07試験(PD-L1 50%未満でのKEYNOTE-189レジメンと、Doublet、Tripletの3群比較試験)、TROPION-Lung08試験(PD-L1 50%以上でのペムブロリズマブとDoubletの比較試験)が実施されている。sunvozertinibEGFR exon20 insertionに対して開発が進められているsunvozertinib(DZD9008)を用いた、単群WU-KONG6試験の結果が報告された。EGFR exon20 insertion変異が確認され、3ラインまでの前治療歴を有する97例の患者が登録されている。年齢中央値は58歳、女性が59.8%、非喫煙者が67%、変異のタイプは769_ASVが39.2%、770_SVDが17.5%、プラチナ併用療法のほかにEGFR-TKIが26.8%、免疫チェックポイント阻害薬が35.1%で実施されていることが患者背景として報告された。独立評価委員会による奏効割合はPRが60.8%、SDが26.8%であり、exon20 insertion変異のタイプによらず有効性が示されている。主なGrade3以上の毒性は、下痢7.7%、CK上昇17.3%、貧血5.8%などであり、皮疹や爪囲炎等のEGFR wild typeの阻害に基づく有害事象の頻度は比較的低く抑えられている。EGFR exon20 insertionを標的とする薬剤の開発はこのところ過熱しており、EGFR wild type阻害に基づく有害事象を抑制しつつ、高い奏効割合を示す薬剤に期待が集まっている。SCARLET(WJOG14821L)試験SCARLET(WJOG14821L)試験は、KRAS G12C変異を有する、未治療進行非小細胞肺がん患者を対象として、ソトラシブとカルボプラチン+ペメトレキセドを併用する第II相試験である。期待奏効割合を65%、閾値奏効割合を40%と設定し、α0.1、β0.1として30例を必要症例数として実施された。患者背景からは、年齢中央値は70歳、男性/女性25/5、非喫煙/喫煙1/29であり、KRAS G12Cらしい患者集団であることが報告されている。主要評価項目であるBICRによる奏効割合は88.9%、80%信頼区間は76.9~95.8と統計学的にPositiveな結果であった。PFSの中央値はBICRで5.7ヵ月であり、6ヵ月時点のOS割合は87.3%と報告されている。KRAS G12Cに対する、ソトラシブ単剤の奏効割合は30%から35%と報告されており、必ずしも満足できる水準ではないことから、本試験の高い奏効割合は注目を集めている。一方、同じく今年報告された、KontRASt-01試験における新たなKRAS G12C阻害薬であるJDQ443により、Early phaseの試験ではあるものの57.1%という良好な奏効割合も報告されている。さらに、KRASやRASを対象とした薬剤開発は加速しており、Pan-KRAS阻害薬、Pan-RAS阻害薬などが次々と早期臨床試験に入り、有効性の向上が期待されている。

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植物由来cytisinicline、禁煙効果を第III相試験で検証/JAMA

 行動支援との併用によるcytisiniclineの6週間および12週間投与は、いずれも禁煙効果と優れた忍容性を示し、ニコチン依存症治療の新たな選択肢となる。米国・ハーバード大学医学大学院のNancy A. Rigotti氏らが米国内17施設で実施した無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験「ORCA-2試験」の結果を報告した。cytisinicline(cytisine)は植物由来のアルカロイドで、バレニクリンと同様、ニコチン依存を媒介するα4β2ニコチン性アセチルコリン受容体に選択的に結合する。米国では未承認だが、欧州の一部の国では禁煙補助薬として使用されている。しかし、従来の投与レジメンと治療期間は最適ではない可能性があった。JAMA誌2023年7月11日号掲載の報告。cytisinicline 6週間投与と12週間投与の有効性をプラセボと比較検証 研究グループは2020年10月~2021年6月に、現在1日10本以上タバコを吸っており、呼気一酸化炭素(CO)濃度が10ppm以上で、禁煙を希望する18歳以上の成人810例を、cytisinicline 3mgを1日3回12週間投与(12週間投与群、270例)、cytisinicline 3mgを1日3回6週間投与後プラセボ1日3回6週間投与(6週間投与群、269例)、プラセボ1日3回12週間投与(プラセボ群、271例)の3群に、1対1対1の割合で無作為に割り付けた。全例が無作為化から12週目までにカウンセラーによる10分間の禁煙行動支援を受け(最大15回)、16週、20週および24週時には短いセッションが行われた。 主要アウトカムは、投与期間の最終4週間における生化学的に確認された禁煙継続(すなわち、6週間投与では3~6週目、12週間投与では9~12週目)。副次アウトカムは、投与期間の最終4週間から24週目まで(すなわち、6週間投与では3~24週目、12週間投与では9~24週目)の禁煙継続とした。 2週目から12週目までの禁煙継続は、毎週評価した前回受診時からの禁煙の自己申告と呼気CO濃度10ppm未満で確認し、16週、20週および24週目の禁煙は、判定基準のRussell Standard(前回の受診時から5本以上喫煙していない)を用いて自己申告で確認した。禁煙継続率はcytisinicline群でプラセボ群の約3~6倍 無作為化された810例(平均年齢52.5歳、女性54.6%、1日平均喫煙数19.4本)のうち、618例(76.3%)が試験を完遂した。 禁煙継続率は、cytisinicline 6週間投与群とプラセボ群との比較では、3~6週目で25.3% vs.4.4%(オッズ比[OR]:8.0、95%信頼区間[CI]:3.9~16.3、p<0.001)、3~24週目で8.9% vs.2.6%(3.7、1.5~10.2、p=0.002)であった。また、cytisinicline 12週間投与群とプラセボ群との比較では、9~12週目で32.6% vs.7.0%(OR:6.3、95%CI:3.7~11.6、p<0.001)、9~24週目で21.1% vs.4.8%(5.3、2.8~11.1、p<0.001)であった。 主な有害事象は悪心、頭痛、異常な夢、不眠症であったが(各群10%未満)、そのうち異常な夢と不眠症のみプラセボ群よりcytisinicline群で発現率が高かった。 有害事象による投与中止は、cytisinicline群で539例中16例(2.9%)(6週間投与群:2.2%、12週間投与群:3.7%)、プラセボ群で270例中4例(1.5%)であった。試験薬に関連する重篤な有害事象は認められなかった。 なお、著者は研究の限界として、参加者が主に白人であったこと、有害事象の検証が短期間であったこと、本試験における行動支援の強度等は一般的な医療現場で提供できるものを超えている可能性があることなどを挙げている。

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生理痛の強さと生活習慣との関連が明らかに

 朝食を欠かさずビタミンDやB12が不足しないようにすること、毎日入浴することなどが、月経痛(生理痛)の痛みを和らげてくれるかもしれない。月経痛の重い人と軽い人の生活習慣を比較したところ、それらの有意差が認められたという。順天堂大学の奈良岡佑南氏らの研究結果であり、詳細は「Healthcare」に4月30日掲載された。 日本人女性の月経痛の有病率は78.5%という報告があり、生殖年齢にある多くの女性が周期的に生じる何らかの症状に悩まされていると考えられる。月経痛は本人の生活の質(QOL)低下を来すだけでなく、近年ではそれによる労働生産性の低下も含めた経済的負担が、国内で年間6830億円に上ると試算されるなど、社会的な対策の必要性も指摘されるようになった。 これまでに、ビタミンやミネラルなどの摂取量、または食事や運動・睡眠習慣などと月経痛の強さとの関連を個別に検討した研究結果が、いくつか報告されてきている。ただし、研究対象が学生に限られている、または一部の栄養素や食品の摂取量との関連のみを調査しているといった点で、結果の一般化に限界があった。これを背景として奈良岡氏らは、就労年齢の日本人女性を対象として、摂取栄養素・食品、朝食欠食の有無、睡眠・運動・入浴習慣など、多くの生活習慣関連因子と月経痛の強さとの関連を検討する横断研究を行った。 研究参加者は、2018年5~6月に、一般社団法人Luvtelli(ラブテリ)のオンラインプラットフォームを通じて募集された511人から、年齢40歳以上、妊娠中・授乳中、何らかの疾患治療中、経口避妊薬使用、摂食障害、データ欠落などの該当者を除外し、20~39歳の健康な女性321人(平均年齢30.53±4.69歳、BMI20.67±2.62、体脂肪率27.02±5.29%)を解析対象とした。 調査項目は、月経周期や月経痛の程度、自記式の食事調査票、および、就労状況、飲酒・喫煙・運動・睡眠習慣などに関する質問で構成されていた。そのほかに、身長、体重、体組成を評価した。なお、月経痛の強さは、「寝込むほどの痛み」、「薬を服用せずにいられない」、「痛むものの生活に支障はない」、「痛みはほとんどない」の四者択一で回答してもらい、前二者を月経痛が「重い」、後二者を「軽い」と判定した。 解析対象者のうち、76.19%が月経痛を経験しており、痛みが重いと判定された人が101人、軽いと判定された人が220人だった。この2群を比較すると、年齢、BMI、体脂肪率、摂取エネルギー量は有意差がなかった。ただし、総タンパク質、動物性タンパク質、ビタミンD、ビタミンB12、魚の摂取量は、月経痛が重い群の方が有意に少なかった。反対に、砂糖、ラーメン、アイスクリームの摂取量は、月経痛が重い群の方が有意に多かった。また、朝食を欠かさない割合は、月経痛が軽い群73.6%、重い群64.4%で、後者が有意に低値だった。 栄養・食事以外の生活習慣に着目すると、毎日入浴する割合が、前記と同順に40.5%、26.7%で有意差があり、月経痛が重い人は入浴頻度が少なくシャワーで済ます人が多かった。睡眠時間や1日30分以上の運動習慣のある人の割合については有意差がなかった。 これらの結果について著者らは、以下のような考察を述べている。まず、糖質の摂取量の多さが月経痛の強さと関連していることは、先行研究と同様の結果だとしている。その一方で、欧州からは肉類の摂取量の多さは月経痛の強さと関連していると報告されており、今回の研究では異なる結果となった。この点については、日本人の肉類の摂取量が欧州に比べて少ないことが、相違の一因ではないかとしている。 このほか、ビタミンDは子宮内膜でのプロスタグランジン産生抑制、ビタミンB12はシクロオキシゲナーゼの合成阻害などの作用が報告されており、炎症抑制と疼痛緩和につながる可能性があり、魚はビタミンDとビタミンB12の良い供給源であるという。また、朝食摂取や入浴は体温を高め、血行改善や子宮収縮を抑制するように働いて月経痛を緩和する可能性があるが、本研究では体温を測定していないことから、今後の検証が必要と述べている。 論文の結論は、「日々の食事で魚、タンパク質、ビタミンB12、ビタミンDを十分に摂取し、朝食や入浴などによって体温を上げるような生活習慣とすることが、月経痛の緩和に効果的である可能性が考えられる」とまとめられている。

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炎症性腸疾患の患者は脳卒中リスクが高い

 炎症性腸疾患(IBD)患者は脳卒中リスクが高いことを示唆するデータが報告された。カロリンスカ研究所(スウェーデン)のJiangwei Sun氏らの研究によるもので、詳細は「Neurology」に6月14日掲載された。この研究結果はIBDと脳卒中との間に因果関係が存在することは示していないが、「IBD患者と医師はそのリスクを認識しておく必要がある。IBD患者の脳卒中リスク因子のスクリーニングとその管理は、緊急の臨床課題であるかもしれない」とSun氏は述べている。 この研究の対象は、1969~2019年にスウェーデンで、生検によって診断されたIBD患者8万5,006人(クローン病2万5,257人、潰瘍性大腸炎4万7,354人、未分類のIBD1万2,395人)と、年齢、性別、居住地域が一致するIBDでない一般住民40万6,987人。平均12年追跡して、脳卒中リスクを比較検討した。 追跡期間中の脳卒中発生件数は、IBD群では3,720件(1万人年当たり32.6)、非IBD群では1万5,599件(同27.7)だった。肥満や高血圧、心疾患などの脳卒中リスクに影響を及ぼし得る因子を調整後、IBD群は非IBD群に比べて13%ハイリスクであることが分かった〔調整ハザード比(aHR)1.13(95%信頼区間1.08~1.17)〕。 脳卒中のタイプ別に見ると、IBD群でのリスク上昇は虚血性脳卒中でのみ認められ〔aHR1.14(同1.09~1.18)〕、出血性脳卒中のリスク差は非有意だった〔aHR1.06(0.97~1.15)〕。虚血性脳卒中のリスク上昇は全てのIBDサブタイプで認められた。調整ハザード比は以下の通り。クローン病1.19(1.10~1.29)、潰瘍性大腸炎1.09(1.04~1.16)、未分類のIBD1.22(1.08~1.37)。また、脳卒中のリスク差はIBD診断から25年経っても存在しており、Sun氏によると、「それまでの間にIBD患者93人につき1人の割合で、脳卒中イベントがより多く発生していたと計算される」という。 この研究では、遺伝的背景の影響も考慮された。ほかの多くの疾患と同様に、IBDや脳卒中も遺伝的因子が発症リスクに関与していることが知られている。そこで、IBD群の患者のきょうだいの中で、IBDや脳卒中の既往のない10万1,082人を比較対象とする解析が行われた。その結果、IBD群はそのきょうだいと比べても、脳卒中リスクが11%高いことが明らかになった。 以上より著者らは、「IBD患者はIBDのサブタイプにかかわりなく、脳卒中、特に虚血性脳卒中のイベントリスクが高い。リスク差はIBD診断後25年が経過しても続いていた。これらの知見は、IBDの臨床において、患者の脳卒中イベントリスクを長期間にわたって留意する必要のあることを意味している」と結論付けている。 一方、研究の限界点としては、本研究は前述のように1969~2019年にIBDと診断された患者を対象としているが、この間にIBDや脳卒中の診断方法・基準が変化しており、それが解析結果に影響を及ぼした可能性を否定できないことが挙げられるという。また、解析対象者の脳卒中リスクに影響を及ぼし得る、食事・喫煙・飲酒などの既知のリスク因子の全てを把握して調整できたわけではないとも追記されている。

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感染防御対策が徹底した職場ほど独身者の恋愛活動が活発

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック下で、感染防止対策をより厳格に行っていた職場ほど、独身の人の恋愛活動が活発に行われていたことが明らかになった。産業医科大学環境疫学研究室の藤野善久氏らの研究によるもので、詳細は「Frontiers in Public Health」に2月16日掲載された。 COVID-19パンデミック発生後、外出自粛などのために社会的交流が少なくなり、「孤独」が公衆衛生上の問題としてクローズアップされてきた。若年者や独身者において、より孤独感が強まったとする研究報告も見られる。独身者では、新たな恋愛関係を構築することで孤独感が抑制されると考えられるが、パンデミックによりそのハードルがより高くなったとも言える。例えば、労働者の場合は職場がパートナーとの出会いの場となることが少なくないが、在宅勤務の奨励をはじめとするさまざまな対策によって、出会いの機会が減った。 一方で、孤独感が募りがちな状況下では、その孤独感を解消しようとする目的のために、独身者の恋愛活動が活発になった可能性も考えられる。藤野氏らはその可能性を、産業医科大学が行っている「COVID-19流行下における労働者の生活、労働、健康に関する調査(CORoNaWork研究)」のデータを用いた縦断的研究により検証した。 2020年12月に、インターネット調査パネル登録者を対象にアンケート調査を行い、20~65歳で独身の労働者2万7,036人から有効回答を得た。これをベースライン調査として、その1年後の2021年12月に追跡調査を実施。1万8,560人(68.7%)が回答した。 追跡調査では、この1年間で「恋愛パートナーを探す活動を行ったか?」、「新しい恋愛パートナーができたか?」という二つの質問を行い、その回答内容と、職場での感染防御対策の厳格さとの関連を検討した。感染防御対策の厳格さは、職場で取られている対策(在宅勤務の奨励、出勤前の体温測定の推奨、マスク常時着用、パーテーション設置、屋内での飲食禁止など7種類)の実施状況、および、「勤務先の感染防御対策は十分だと思うか?」との質問(強い否定~強い同意の四者択一で回答)により評価した。 追跡調査回答者の約6割が男性だった。恋愛活動と感染防御対策との関連の解析に際しては、年齢、性別、婚姻状況(未婚、離婚、死別)、職種、収入、教育歴、飲酒・喫煙習慣、主観的健康観、勤務先の従業員数などの影響を統計学的に調整。解析の結果、職場で実施された感染防御対策の種類が多いほど(傾向性P<0.001)、および、勤務先の感染防御対策が十分だと感じているほど(傾向性P=0.003)、「恋愛パートナーを探す活動を行った」割合が高いという有意な関連が認められた。さらに、実際に「新しい恋愛パートナーができた」割合についても、感染防御対策の種類が多いほどその割合が高いという有意な関連が認められた(傾向性P<0.001)。 このような関連が生じた背景について著者らは、以下のように三つの可能性を考察として述べている。第一に、感染防御対策が厳格に行われている職場で働く人では、感染リスクをコントロールできるという自己効力感が高まり、恋愛行動に積極的になること。第二に、感染防御対策が厳格であることで職場での接触の機会が減り、それを補うために恋愛活動への意欲が高まること。第三に、感染防御対策を徹底した会社は、社員同士の交流を推進する活動も推進していた可能性が高いこと。 以上を基に論文の結論は、「COVID-19パンデミック下で、職場の厳格な感染防御対策の実施とそれに対する満足感が、恋人のいない独身者の恋愛を後押ししたと考えられる。独身者は孤独のリスクが高いが、しっかりとした感染防御対策を取った上で恋愛パートナーとの関係を築くことが、精神的な健康の維持に重要な要素となるのではないか」と記されている。

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ワインは心血管に良い影響?22試験のメタ解析

 アルコール摂取と心血管イベントにはJ字型、U字型の関連があるという報告もあり、多量のアルコール摂取は心血管に悪影響を及ぼす一方、少量であれば心血管に良い影響を及ぼす可能性が指摘されているが、結果は一貫していない1-3)。また、ワインの摂取が心血管の健康に及ぼす効果についても、意見が分かれている。そこで、スペイン・Universidad de Castilla-La ManchaのMaribel Luceron-Lucas-Torres氏らは、ワインの摂取量と心血管イベントとの関連について、システマティックレビューおよび22試験のメタ解析を実施した。その結果、ワインの摂取は、心血管イベントのリスク低下と関連していた。また、年齢や性別、追跡期間、喫煙の有無はこの関連に影響を及ぼさなかった。Nutrients誌2023年6月17日号の報告。 Pubmed、Scopus、Web of Scienceを用いて、2023年3月26日までに登録されたワインの摂取量と冠動脈疾患(CVD)、冠動脈性心疾患(CHD)、心血管死との関連を検討した研究を検索した。その結果25試験が抽出され、22試験についてDerSimonian and Laird Random Effects Modelを用いてメタ解析を実施した。また、ワインの摂取量と心血管イベント(CVD、CHD、心血管死)との関連に影響を及ぼす因子を検討した。異質性はτ2値を用いて評価した(0.04未満:小さい、0.04~0.14:中等度、0.14~0.40:大きい)。 主な結果は以下のとおり。・ワイン摂取はCHD、CVD、心血管死のリスクをいずれも有意に低下させた。リスク比(95%信頼区間)およびτ2値は以下のとおり。 -CHD:0.76(0.69~0.84)、0.0185 -CVD:0.83(0.70~0.98)、0.0226 -心血管死:0.73(0.59~0.90)、0.0510・試験参加者の平均年齢、性別(女性の割合)、追跡期間、喫煙の有無はワイン摂取とCHD、CVD、心血管死との関連に影響を及ぼさなかった。・メタ解析を実施した研究のバイアスリスクはいずれの研究も良好であった。出版バイアスについては、CVDに関する研究において認められたが(p=0.003)、CHD、心血管死に関する研究では認められなかった(それぞれp=0.162、0.762)。 著者らは、「年齢、薬物、病態の影響によりアルコールに対する感受性が高い患者では、ワインの摂取量を増やすことが有害となる可能性があるため注意が必要である」と指摘しつつも、「システマティックレビューおよびメタ解析によって、ワイン摂取はCVD、CHD、心血管死のリスクを低下させることが示された。今後、ワインの種類によってこれらの効果を区別する研究が必要である」とまとめた。

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脳卒中後の血糖管理が認知機能低下抑止の鍵となる可能性

 脳卒中を発症後に血糖値が高い状態で推移していると、認知機能の低下が速くなる可能性が報告された。一方、血圧やLDL-コレステロール(LDL-C)が高いことに関しては、そのような関連は認められないという。米ミシガン大学のDeborah Levine氏らの研究によるもので、詳細は「JAMA Network Open」に5月17日掲載された。 Levine氏によると、「脳卒中の発症後は認知症のリスクが最大50倍増加するが、これまで、脳卒中の再発を防ぐこと以外に、そのリスクを抑制する治療アプローチはなかった」という。そのような状況で明らかになった今回の研究結果は、「脳卒中後に血糖値の高い状態が続いていることが、認知機能の低下を速めることを示唆しており、糖尿病に該当するか否かにかかわりなく、脳卒中後の慢性高血糖が認知機能低下を抑制するための潜在的な治療標的である可能性を示唆している」と話している。 Levine氏らの研究は、米国で1971~2019年に行われた4件のコホート研究のデータを統合して解析するという手法で実施された。脳卒中発症前に認知症がなく、解析に必要なデータが記録されている982人〔年齢中央値74.6歳(四分位範囲69.1~79.8)、女性48.9%、糖尿病20.9%〕を中央値4.7年追跡。脳卒中後に行われた検査での空腹時血糖値、収縮期血圧、LDL-Cの累積平均値を算出。主要評価項目として総合的な認知機能の変化との関連、副次的評価項目として実行機能と記憶力の変化との関連を検討した。 結果に影響を及ぼし得る因子〔年齢、BMI、喫煙・飲酒・運動習慣、腎機能、心疾患の既往、遺伝的背景(ApoE4)、教育歴、収入など〕を調整後の解析で、収縮期血圧、LDL-Cの累積平均値については、認知機能との有意な関連が認められなかった。それに対して空腹時血糖値については、累積平均値が10mg/dL高いごとに、1年間での総合的な認知機能の評価が-0.04ポイント(95%信頼区間-0.08~-0.001)、より速く低下するという有意な関連が認められた。実行機能や記憶力との関連は非有意だった。この結果についてLevine氏は、「脳卒中を発症した後の厳格な血糖コントロールが、認知機能低下や認知症発症のリスクを抑制するかという疑問の答えを得るには、さらなる研究が必要とされる」としている。 糖尿病患者においては、血糖コントロールを厳格に行うことで、目や腎臓、神経という細小血管障害による合併症のリスクが抑制されるという強固なエビデンスが存在する。研究者によると、厳格な血糖コントロールによって、脳の細小血管障害による疾患のリスクも軽減される可能性があるものの、証明はされていないという。ただ、脳卒中や一過性脳虚血発作を経験した人は、医療チームと相談して、血糖値のモニタリングとコントロールに関して最適な方法を検討すべきであり、その対象者には糖尿病患者に限らず、前糖尿病の人も含まれるとのことだ。その一方でLevine氏は高血糖の反対に当たる、血糖値が低くなりすぎる「低血糖」も認知症のリスクとなるため、低血糖を避けることも重要と付け加えている。 なお、本研究は米国立老化研究所(NIA)などの資金提供により実施された。

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双極性障害ラピッドサイクラーの特徴

 双極性障害(BD)におけるラピッドサイクリング(RC、1年当たりのエピソード回数:4回以上)の存在は、1970年代から認識されており、治療反応の低下と関連する。しかし、1年間のRCと全体的なRC率、長期罹患率、診断サブタイプとの関連は明らかになっていない。イタリア・パドヴァ大学のAlessandro Miola氏らは、RC-BD患者の臨床的特徴を明らかにするため、プロスペクティブに検討を行った。その結果、BD患者におけるRC生涯リスクは9.36%であり、女性、高齢、BD2患者でリスクが高かった。RC患者は再発率が高かったが、とくにうつ病では罹患率の影響が少なく、エピソードが短期である可能性が示唆された。RC歴を有する患者では転帰不良の一方、その後の再発率の減少などがみられており、RCが持続的な特徴ではなく、抗うつ薬の使用と関連している可能性があることが示唆された。International Journal of Bipolar Disorders誌2023年6月4日号の報告。 RCの有無にかかわらずBD患者1,261例を対象に、記述的および臨床的特徴を比較するため、病例および複数年のフォローアップによるプロスペクティブ調査を実施した。 主な結果は以下のとおり。・1年前にRCであったBD患者の割合は9.36%(BD1:3.74%、BD2:15.2%)であり、男性よりも女性のほうが若干多かった。・RC-BD患者の特徴は以下のとおりであった。 ●年間平均再発率が3.21倍高い(入院なし) ●罹患率の差異は小さい ●気分安定に対する治療がより多い ●自殺リスクが高い ●精神疾患の家族歴なし ●循環性気質 ●既婚率が高い ●兄弟や子供がより多い ●幼少期の性的虐待歴 ●薬物乱用(アルコール以外)、喫煙率が低い・多変量回帰モニタリングでは、RCと独立して関連した因子は、高齢、抗うつ薬による気分変調、BD2>BD1の診断、年間エピソード回数の増加であった。・過去にRC-BDであった患者の79.5%は、その後の平均再発率が1年当たり4回未満であり、48.1%は1年当たり2回未満であった。

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大量飲酒は後年の筋肉量減少のリスクを高める

 中年期や老年初期における大量の飲酒は、骨格筋量が減少するサルコペニアやフレイル(虚弱)のリスク増加をもたらす可能性のあることが、新たな研究で示唆された。英イースト・アングリア大学(UEA)ノリッジ医学部教授のAilsa Welch氏らによる研究で、「Calcified Tissue International」に5月25日掲載された。 Welch氏はこの研究の実施に至った背景について、「加齢に伴う骨格筋量の減少は、後年の筋力低下やフレイルの問題につながる。アルコール摂取は、多くの疾患において修正可能な主要リスク因子であることから、われわれは、飲酒と加齢に伴う筋肉の健康との関係について調べようと考えた」と振り返る。 研究では、UKバイオバンク参加者の中から本研究の適格基準を満たした19万6,561人(37〜73歳、男性8万8,116人、女性10万8,445人)を対象に、アルコールの摂取量とサルコペニアの指標〔骨格筋量、除脂肪量(FFM)、握力〕との関連を、体格によるFFMの違いや喫煙状況、身体活動量などについても考慮して検討した。 その結果、骨格筋量とFFM%(体重に占めるFFMの割合)の値は中等度の量のアルコール摂取(男性:それぞれ6.8g/日、4.8g/日、女性:それぞれ14.7g/日、13.5g/日)でピークに達するが、摂取量がそれ以上増えると低下の一途をたどることが明らかになった。これらのアウトカムはアルコールを摂取しない場合と比べて、男性では、48g/日の摂取でそれぞれ0.23%、0.47%、80g/日の摂取で1.34%、1.55%、160g/日の摂取で3.59%、3.64%低く、女性では80g/日の摂取でそれぞれ0.57%、1.10%、160g/日の摂取で4.92%、6.10%低かった。これに対して、握力の強さはアルコールの摂取量の増加に伴い増強していた。 研究論文の筆頭著者である、UEAノリッジ医科大学のJane Skinner氏は、「ほとんどが50〜60歳代だった本研究参加者において、体格やその他の要因を考慮しても、アルコールを大量に飲む人ではあまり飲まない人に比べて骨格筋量が少ないことが明らかになった」と述べる。その上で、「ワイン1本やビール4〜5パイント(英国での1パイント=568mL)に相当する、1日に10ユニット(1ユニットの純粋アルコール量は約8g)以上のアルコールを摂取する人では、後年になって確実に問題が生じるとわれわれは考えている」と話す。 ただし、本研究では、骨格筋量とアルコールの摂取量を同時に測定したため、両者が因果関係にあるのかどうかを明らかにすることはできない。それでもWelch氏は、「この研究は、アルコールの大量摂取が骨格筋量に有害な影響を与える可能性があることを示すものだ」と強調する。そして、「加齢に伴う骨格筋量の減少が筋力低下やフレイルにつながり得ることは、すでに明らかにされている。つまりは、中高年期に日常的に多量の飲酒を避けるべき新たな理由がまた増えたということだ」と付け加えている。

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退職後には心疾患のリスクが低下する――35カ国の縦断研究

 退職後には心疾患のリスクが低下することが、世界35カ国で行われた縦断研究のデータを統合した解析の結果、明らかになった。京都大学大学院医学研究科社会疫学分野の佐藤豪竜氏らの研究によるもので、詳細は「International Journal of Epidemiology」に5月8日掲載された。著者らは、「退職年齢の引き上げで、新たな医療コストが発生する可能性もある」と述べている。 現在、多くの国が人口の高齢化を背景に、退職年齢と年金支給開始年齢の引き上げを検討・実施している。しかし、退職による疾患リスクへの影響は十分検討されていない。仮に退職によって疾患リスクが変わるのであれば、国民医療費にも影響が生じることになる。これを背景として佐藤氏らは、退職前後での健康状態の変化を検討可能な世界各国の縦断研究のデータを用いて、特に心疾患とそのリスク因子に焦点を当てた解析を行った。 日本の「くらしと健康の調査(JSTAR)」や、米国、欧州、中国、韓国など35カ国の縦断研究の参加者のうち、退職というライフイベントが生じ得る50~70歳、計10万6,927人を平均6.7年間追跡。各国の年金給付開始年齢を操作変数とし(退職年齢と見なし)、その年齢の前後での疾患リスクなどの変化を解析した。 その結果、退職により心疾患のリスクが2.2パーセントポイント低下することが明らかになった〔係数-0.022(95%信頼区間-0.031~-0.012)〕。また、運動不足(中~高強度運動の頻度が週1回未満)の該当者が3.0パーセントポイント減少することも示された〔同-0.030(-0.049~-0.010)〕。 性別に検討すると、心疾患のリスク低下は男性と女性の双方で認められたが、女性でのみ、喫煙者〔-0.019(-0.034~-0.004)〕の減少が認められた。また、就業中の勤務内容が肉体労働か否かで二分した場合、心疾患のリスク低下や運動不足該当者の減少は、非肉体労働者でのみ観察された。さらに肥満の割合に関しては、非肉体労働者では退職後に低下が見られたのに対して〔-0.031(-0.056~-0.007)〕、肉体労働者では退職後に上昇していた〔0.025(0.002~0.048)〕。 このほかに、教育歴の長さで全体を3群に層別化した検討では、心疾患のリスクは3群全てで退職後に低下していた。また、教育歴が最も長い群では、脳卒中リスクの低下〔-0.014(-0.026~-0.001)〕や、肥満の割合の低下〔-0.029(-0.057~-0.001)〕、運動不足該当者の減少〔-0.045(-0.080~-0.011)〕も観察された。 以上を基に論文の結論は、「われわれの研究結果は、退職が心疾患リスクの低下と関連していることを示唆している。その一方、心疾患のリスク因子と退職との関連については、個人の特徴による影響の違いが認められた」とまとめられている。また、各国の政策立案者への提言として、「退職と年金給付開始年齢とを引き上げることの財政上のメリットだけでなく、退職を先延ばしすることで、高額な医療コストが発生することの多い心疾患患者が増加する可能性のあることも、考慮する必要があるのではないか」と述べられている。

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