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tisotumab vedotin、再発子宮頸がんの2次・3次治療に有効/NEJM

 再発子宮頸がんの2次または3次治療において、化学療法と比較してtisotumab vedotin(組織因子を標的とするモノクローナル抗体と微小管阻害薬モノメチルアウリスタチンEの抗体薬物複合体)は、全生存期間(OS)と無増悪生存期間(PFS)が有意に延長し、新たな安全性シグナルの発現はないことが、ベルギー・Universitaire Ziekenhuizen LeuvenのIgnace Vergote氏らが実施した「innovaTV 301/ENGOT-cx12/GOG-3057試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2024年7月4日号で報告された。27ヵ国168施設の無作為化第III相試験 本研究は、日本を含む27ヵ国168施設が参加した非盲検無作為化第III相試験であり、前治療後に病勢が進行した再発子宮頸がん患者におけるtisotumab vedotinの有効性と安全性の評価を目的に行われた(GenmabとSeagenの助成を受けた)。 再発または転移を有する子宮頸がんと診断され、全身状態の指標であるEastern Cooperative Oncology Group(ECOG)performance-statusのスコアが0または1の患者502例(年齢中央値50歳[範囲:26~80]、前治療ライン数は1が61.4%、2が38.4%)を登録した。 tisotumab vedotin単剤(2.0mg/kg体重、3週ごと)の静脈内投与を受ける群に253例、担当医が選択した化学療法(トポテカン、ビノレルビン、ゲムシタビン、イリノテカン、ペメトレキセドのいずれか)を受ける群に249例を無作為に割り付けた。奏効率も有意に優れる 前治療薬として、全体の63.9%がベバシズマブの投与を、27.5%が抗PD-1または抗PD-L1抗体製剤の投与を受けていた。 主要評価項目であるOS中央値は、化学療法群が9.5ヵ月(95%信頼区間[CI]:7.9~10.7)であったのに対し、tisotumab vedotin群は11.5ヵ月(9.8~14.9)と有意に良好であった(ハザード比[HR]:0.70、95%CI:0.54~0.89、両側p=0.004)。 12ヵ月時のOS率は、tisotumab vedotin群が48.7%(95%CI:41.0~55.8)、化学療法群は35.3%(28.0~42.7)であった。 PFS中央値は、化学療法群が2.9ヵ月(95%CI:2.6~3.1)であったのに比べ、tisotumab vedotin群は4.2ヵ月(4.0~4.4)と有意に優れた(HR:0.67、95%CI:0.54~0.82、両側p<0.001)。 また、確定された奏効の割合は、化学療法群の5.2%と比較して、tisotumab vedotin群は17.8%と有意に高率だった(オッズ比:4.0、95%CI:2.1~7.6、両側p<0.001)。毒性による投与中止は14.8% 初回投与の1日目から最終投与後30日までに有害事象が1件以上発現した患者の割合は、tisotumab vedotin群が98.4%、化学療法群は99.2%であり、Grade3以上の有害事象は、それぞれ52.0%および62.3%で発現した。tisotumab vedotin群では、14.8%の患者が毒性により投与を中止した。 とくに注目すべき有害事象では、眼イベントがtisotumab vedotin群で52.8%、化学療法群で6.3%に発現し、このうちGrade3以上はそれぞれ4.0%および0%であった。また、末梢神経障害イベントはそれぞれ38.4%および4.2%、Grade3以上は5.6%および0.4%に、出血イベントは42.0%および14.2%、Grade3以上は2.4%および2.9%に発現した。 著者は、「これらのデータを総合すると、tisotumab vedotinは、再発子宮頸がん患者の治療において化学療法よりも優先される2次または3次治療の選択肢となる可能性が示唆される」としている。

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ASCO2024 レポート 乳がん

レポーター紹介2024年5月31日~6月4日まで5日間にわたり、ASCO2024がハイブリッド形式で開催された。昨年も人が戻ってきている感じはあったが、会場の雰囲気はコロナ流行前と変わりなくなっていた。一方、日本からの参加者は若干少なかったように思われる。これは航空運賃の高騰に加えて、円安の影響が大きいと思われる(今回私が行ったときは1ドル160円!! 奮発した150ドルのステーキがなんと24,000円に…。来年は費用面で行けない可能性も出てきました…)。さて、本題に戻ると、今回のASCOのテーマは“The Art and Science of Cancer Care:From Comfort to Cure”であった。乳がんの演題は日本の臨床に大きなインパクトを与えるものが大きく、とくにPlenary sessionの前に1演題のためだけに独立して行われたセッションで発表されたDESTINY-Breast06試験は早朝7:30のセッションにもかかわらず、満席であった。日本からは乳がんのオーラルが2演題あり、日本の実力も垣間見ることとなった。本稿では、日本からの演題も含めて5題を概説する。DESTINY-Breast06試験トラスツズマブ・デルクステカン(T-DXd)は日本で開発が開始され、現在グローバルで最も使われている抗体薬物複合体(ADC)の1つと言っても過言ではない。乳がんではHER2陽性乳がんで開発され、現在はHER2低発現乳がんにおける2次化学療法としてのエビデンスに基づいて適応拡大されている。20年近く乳がんの世界で用いられてきたサブタイプの概念を大きく変えることになった薬剤である。T-DXdのHER2低発現乳がんの1次化学療法としての有効性を検証したのがDESTINY-Breast06(DB-06)試験である。この試験では、ホルモン受容体陽性HER2低発現の乳がんにおいて、T-DXdの主治医選択化学療法に対する無増悪生存期間(PFS)における優越性が検証された。この試験のもう1つの大きな特徴は、HER2超低発現(ultra-low)の乳がんに対する有効性についても探索的に検討したことである。HER2超低発現とは、これまで免疫組織化学染色においてHER2 0と診断されてきた腫瘍のうち、わずかでもHER2染色があるものを指す。本試験では866例(うちHER2低発現713例、超低発現が152例)の患者がT-DXdと主治医選択治療(TPC)に1:1に割り付けられた。主要評価項目はHER2低発現におけるPFSで13.2ヵ月 vs. 8.1ヵ月(ハザード比[HR]:0.62、95%信頼区間[CI]:0.51~0.74、p<0.0001)とT-DXd群の優越性が示された。ITT集団においても同様の傾向であった。HER2超低発現の集団については探索的項目であるが、PFSは13.2ヵ月 vs.8.3ヵ月(HR:0.78、95%CI:0.50~1.21)とHER2低発現の集団と遜色ない結果であった。一方、全生存期間(OS)についてはHER2低発現でHR:0.83、HER2超低発現でHR:0.75であり、いずれも有意差はつかなかった。有害事象は既知のとおりであるが、薬剤性肺障害(ILD)はany gradeで11.3%であった。2次化学療法の試験であるDESTINY-Breast 04試験ではOSの優越性も示されているため、OSの優越性が示されていない状況で毒性の強い薬剤をより早いラインで使うかどうかは議論が必要であろう。また、HER2超低発現の病理評価の標準化についても課題が残される。postMONARCH試験こちらも待望の試験である。日本国内で使えるCDK4/6阻害薬であるアベマシクリブのbeyond PD(progressive disease)を証明した初の試験である。これまでMAINTAIN試験で(phase2ではあるが)、CDK4/6阻害薬の治療後のribociclibの有効性が示されていたが、ribociclibは日本国内では未承認なため、エビデンスを活用することができなかった。postMONARCH試験では、転移乳がん、もしくは術後治療としてホルモン療法(転移乳がんはAI剤)とCDK4/6阻害薬を使用後にPDもしくは再発となった368例の患者を対象に、フルベストラント+アベマシクリブ/プラセボに1:1に割り付けられた。術後CDK4/6阻害薬後の再発が適格となっていたが残念ながら全体で2例のみであり、プラクティスへの参考にはならなかった。前治療のCDK4/6阻害薬はパルボシクリブが60%と最も多く、ついでribociclibで、アベマシクリブは両群とも8%含まれた。主要評価項目は主治医判断のPFSで、6.0ヵ月 vs. 5.3ヵ月(HR:0.73、95%CI :0.57~0.95、p=0.02)とアベマシクリブ群で良好であった。盲検化PFSが副次評価項目に設定されていたが、面白いことに12.9ヵ月 vs.5.6ヵ月(HR:0.55、95%CI:0.39~0.77、p=0.0004)と主治医判断よりも良い結果となった。有害事象はこれまでの臨床試験と変わりはなかった。この試験の結果をもって、自信を持ってホルモン療法の2次治療としてフルベストラント+アベマシクリブを実施できるようになったと言える。JBCRG-06/EMERALD試験さて、日本からの試験も紹介する。研究代表者である神奈川県立がんセンターの山下 年成先生が口演された。本試験はHER2陽性転移乳がんの初回治療として、標準治療であるトラスツズマブ+ペルツズマブ+タキサン(HPT)療法に対して、トラスツズマブ+ペルツズマブ+エリブリン療法が非劣性であることを証明した。446例の患者が登録され、1:1に割り付けられた。ホルモン受容体は60%が陽性であり、PSは80%以上が0であった。初発StageIVが60%を占めていた。主要評価項目のPFSはHPT群12.9ヵ月 vs.エリブリン群14.0ヵ月(HR:0.95、95%CI:0.76~1.19、p=0.6817)で非劣性マージンの1.33を下回り、エリブリン群の非劣性が示された。化学療法併用期間の中央値はエリブリン群が28.1週、HPT群は約20週であり、エリブリン群で長かった。OSもHR:1.09(95%CI:0.76~1.58、p=0.7258)と両群間の差を認めなかった。毒性については末梢神経障害がエリブリン群で61.2% vs. HPT群で52.8%(G3に限ると9.8% vs.4.1%)と、エリブリン群で多かった。治療期間が長いことの影響があると思われるが、less toxic newと言ってよいかどうかは悩ましいところである。HER2陽性乳がんにおけるエリブリン併用療法は1つの標準治療になったと言えるが、実臨床での使用はタキサンアレルギーの症例などに限られるかもしれない。ER低発現乳がんにおける術後ホルモン療法こちらはデータベースを使った後ろ向き研究であり臨床試験ではないが、実臨床の疑問に重要なものであるため取り上げる。米国のがんデータベースからStageI~IIIでER 1~10%の症例を抽出し、術後ホルモン療法の実施率と予後を検討したものである。データベースから7,018例の対象症例が抽出され、42%の症例が術後ホルモン療法を省略されていた。ホルモン療法実施群と非実施群におけるOSは3年OSが92.3% vs.89.1%であり、HR:1.25、95%CI:1.05~1.48、p=0.01と実施群で良い傾向にあった。後ろ向き研究ではあるが、ER低発現であっても術後ホルモン療法に意義がある可能性が提示されたことは、今後の術後治療の選択にとって重要な情報である。PRO-DUCE試験最後に日本からのもう1つの口演であるPRO-DUCE試験を紹介する。これは治療薬の臨床試験ではなく、ePROが患者のQOLに影響するかを検証した試験である。関西医科大学の木川 雄一郎先生によって発表された。本試験はT-DXdによる治療を受ける患者を対象として、ePRO+SpO2/体温の介入が通常ケアと比較してQOLに影響するかを比較した。主要評価項目はベースラインから治療開始24週後のEORTC QLQ-C30を用いたglobal health scoreの変化であり、ePRO群では-2.4、通常ケア群では-10.4であり、両群間の差は8.0(90%CI:0.2~15.8、p=0.091)と統計学的に有意にePRO群で良好であった。その他の項目では倦怠感はePRO群で良好であったが、悪心/嘔吐は両群間の差は認めなかった。この研究は日本から乳がんにおいてePROが有効であることを示した初の試験である。ePROは世界的にも必須のものとなっており、今後の発展が期待される。

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EGFR陽性NSCLCの1次治療、amivantamab+lazertinibがPFS延長/NEJM

 未治療の上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子変異陽性進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者の治療において、標準治療であるオシメルチニブ(第3世代EGFRチロシンキナーゼ阻害薬[TKI])と比較して、amivantamab(EGFRと間葉上皮転換因子[MET]を標的とする二重特異性抗体)+lazertinib(活性化EGFR変異とT790M変異を標的とする第3世代EGFR-TKI)の併用療法は、無増悪生存期間(PFS)が有意に長く、安全性のデータは既報の第I、II相試験と一致することが、韓国・延世大学校医科大学のByoung C. Cho氏らMARIPOSA Investigatorsが実施した「MARIPOSA試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2024年6月26日号に掲載された。実薬対照の国際的な無作為化第III相試験 MARIPOSA試験は、amivantamab+lazertinib併用療法の有効性と安全性の評価を目的とする日本を含む国際的な無作為化第III相試験であり、2020年11月~2022年5月に参加者の無作為化を行った(Janssen Research and Developmentの助成を受けた)。 年齢18歳以上で、未治療の局所進行または転移を有するEGFR遺伝子変異陽性(exon19欠失またはL858R)NSCLC患者1,074例を登録し、amivantamab+lazertinib群(非盲検)に429例(年齢中央値64歳、女性64%)、オシメルチニブ群(盲検)に429例(63歳、59%)、lazertinib群(盲検)に216例を無作為に割り付けた。 主要評価項目は、オシメルチニブ群との比較におけるamivantamab+lazertinib群のPFSとし、盲検下独立中央判定による評価が行われた。中間解析でのOSは評価不能 全体の追跡期間中央値は22.0ヵ月で、投与期間中央値はamivantamab+lazertinib群18.5ヵ月、オシメルチニブ群18.0ヵ月であった。 PFS中央値は、オシメルチニブ群が16.6ヵ月(95%信頼区間[CI]:14.8~18.5)であったのに対し、amivantamab+lazertinib群は23.7ヵ月(19.1~27.7)と有意に長かった(病勢進行または死亡のハザード比[HR]:0.70、95%CI:0.58~0.85、p<0.001)。lazertinib群のPFS中央値は18.5ヵ月(95%CI:14.8~20.1)だった。 また、奏効率は、amivantamab+lazertinib群が86%(95%CI:83~89)、オシメルチニブ群は85%(81~88)であった。奏効期間中央値は、それぞれ25.8ヵ月(95%CI:20.1~評価不能)および16.8ヵ月(14.8~18.5)だった。 一方、予定された中間解析における全生存期間(OS)中央値は両群とも未到達であり、死亡のHRは0.80(95%CI:0.61~1.05)であった。EGFR阻害関連の有害事象が多い 主な有害事象はEGFR阻害関連の毒性作用であり、爪囲炎がamivantamab+lazertinib群の68%、オシメルチニブ群の28%で、皮疹がそれぞれ62%および31%で発現した。注入に伴う反応(infusion-related reaction)は、amivantamab+lazertinib群の63%に認め、その大部分はサイクル1の1日目に発生した。 Grade3以上の有害事象は、amivantamab+lazertinib群が75%、オシメルチニブ群が43%で発現し、重篤な有害事象はそれぞれ49%および33%で発現した。治療関連有害事象によるすべての試験薬の投与中止は、amivantamab+lazertinib群が10%、オシメルチニブ群は3%に認め、死亡の原因となった有害事象はそれぞれ34例(8%)および31例(7%)で発現した。 著者は、「amivantamabをlazertinibと併用する科学的根拠は、オシメルチニブに対する腫瘍の耐性機序への積極的な対処法となることであった。この併用療法には、化学療法を後の治療ラインに温存できるという利点もある」と述べ、また「治療関連有害事象によるすべての試験薬の投与中止の頻度は低く、ほとんどの患者が治療を継続できることが示唆された」としている。

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ASCO2024 レポート 老年腫瘍

レポーター紹介昨今、ASCOで老年腫瘍に関する重要な臨床研究の結果が発表されるようになった。高齢がん患者を対象とする臨床研究の枠組みとしては、(1)高齢がん患者を対象とした治療開発(特定の治療の有用性を検証)に関する臨床試験、(2)特定の因子、とくに高齢者機能評価が予後因子になるか否かを評価する臨床研究、(3)「高齢者機能評価+脆弱性に対するサポート」の有用性を評価する臨床試験に大別されるだろう。ASCO2024では、それぞれの枠組みの中で、日常診療の参考になる臨床研究が多数発表されていた。その中から、興味深い研究を紹介する。転移性膵がんを患う「脆弱な」高齢者を対象としたランダム化比較試験(GIANT study: #40031))近年、高齢者という集団は不均一であり、暦年齢だけで治療方針を決めるべきではない、という認識が浸透しつつあるように思う。とくに欧州では、高齢者という集団を全身状態の良いほうから順番に、fit、vulnerable、frailに分類するという考え方が提唱されている。すなわち、“fit”は、積極的ながん治療の恩恵を受けられるような全身状態の良い患者、“frail”はベストサポーティブケアの適応となるような全身状態の悪い患者、“vulnerable”は、その中間に位置することが提唱されている2)。しかし、それぞれの分類の線引きは定まっておらず、がん種ごと、病態ごとに定義が異なっているのが現状である。米国のECOG-ACRINグループが実施したGIANT試験は、“vulnerable”な高齢者を独自に定義し、GEM+nab-PTX vs.5FU/LV+nal-IRIの有用性を比較したランダム化比較第II相試験である。70歳以上、転移性膵管腺がんを有する、ECOG-PS:0~2かつ高齢者機能評価(生活機能、併存症、認知機能、暦年齢、老年症候群[転倒、失禁])の結果で“vulnerable”な高齢者と判断された患者が本試験に登録された(表1)。登録患者は、ゲムシタビン(1,000mg/m2)とナブパクリタキセル(125mg/m2)を14日ごとに投与するA群および5-フルオロウラシル(2,400mg/m2)、ロイコボリン(400mg/m2)、リポソームイリノテカン(50mg/m2)を14日ごとに投与するB群に無作為に割り付けられた。Primary endpointは全生存期間、secondary endpointsは、無増悪生存期間、奏効割合、有害事象などであった。A群の生存期間中央値を7.7ヵ月、B群を10.7ヵ月(HR:0.72)、片側α:0.10、検出力80%とした場合、予定登録患者数は184例であった。本試験は想定よりも予後が悪すぎたため、第1回目の中間解析で無効中止となった。92施設から176例の患者が登録され、年齢中央値は両群とも77歳。登録はしたものの治療を開始できなかった患者はA群で10.2%、B群で14.8%、1~3コースしか治療ができなかった患者はA群で34.2%、B群で42.7%であった。全生存期間は、A群で4.7ヵ月、B群で4.4ヵ月(HR:1.12、0.76~1.66、p=0.72)であり、無増悪生存期間はA群3.0ヵ月、B群2.4ヵ月であった。Grade3以上の有害事象発生割合は、A群45.6%、B群58.7%であった。残念ながら早期中止となってしまったが、“vulnerable”な高齢者を対象として治療開発を試みた意欲的な試験である。高齢者機能評価を用いて高齢者を分類するという手法を用いた臨床試験は過去にも複数存在3)するが、このタイプの臨床試験では試験結果がnegativeになった場合、「試験治療が適切なのか」という問題以外にも、「そもそも高齢者機能評価を用いた分類方法が適切なのか」という問題がつきまとう。本試験の場合、両群で治療強度を弱め過ぎたのかもしれないという問題と、本試験で定義した“vulnerable”という分類方法が適切ではなかったのではないかという問題が生じる。治療が開始できなかった患者や治療期間が極端に短かった患者が多かったことを踏まえると、本試験で定義した“vulnerable”の大部分が本当は“frail”なのではないかという疑問を持ってしまう。患者の大多数は、認知機能障害(46%)、暦年齢が80歳以上(36%)、併存疾患(31.4%)により“vulnerable”と判断されており、これらの患者は、より慎重に化学療法を実施、またはベストサポーティブケアを提案してもよいのかもしれない。一方、サブグループ解析では、75歳以上と75歳未満の集団の生存曲線に大きな違いはなかったため、やはり暦年齢だけで治療方法を決めるのは避けるべきなのだろう。本試験は早期中止となり、また“vulnerable”な高齢者を定義することの難しさを改めて知ることになったが、このような意欲的な試験のデータが蓄積されていくことで、より適切な集団を設定することができ、その集団に適切な治療を提供できるようになると考えている。画像を拡大する日本発の高齢者機能評価+介入のランダム化比較試験の副次的解析(NEJ041/CS-Lung001: #15024))“vulnerable”な高齢者をどう定義するのか、という議論は以前からある。生理的予備能が乏しい高齢者が全身化学療法などで重篤な有害事象が生じると全身状態が悪化することが予想されるため、重篤な有害事象が生じうる集団を“vulnerable”な高齢者とするという考え方もある。化学療法の毒性を予測するツールで有名なものとして、米国の高齢がん研究グループ(Cancer and Aging Research Group:CARG)が作成したChemo Toxicity Calculator(以下、CARGスコア)がある。CARGスコアは簡単な11項目(年齢、がんの種類、予定されている化学療法の投与量、予定されている化学療法の薬剤数、ヘモグロビン、クレアチニンクリアランス、聴力、転倒、服薬管理、身体活動、社会活動)を評価するだけでGrade3以上の有害事象の出現頻度を予測できるとされている5,6)。CARGスコアは米国では妥当性が検証されており、また正式な手順で翻訳されたCARGスコア日本語版があるため日本でも使用しやすいツールである(当該URLのlanguageをJapaneseにすれば日本語になる)7)。しかし、日本人での有用性が評価されていないこと、また分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬などは予測式を作成する際の対象集団に含まれていなかったことから、その使用には注意が必要であるとされていた。今回、日本発の高齢者機能評価+介入のランダム化比較試験の副次的解析の中で、日本人におけるCARGスコアの有用性が評価された。NEJ041/CS-Lung001は、非小細胞肺がんを患う75歳以上の患者を対象とした、高齢者機能評価+介入の患者満足度における有用性を評価したクラスターランダム化比較試験であり、主たる解析の結果はASCO2023で報告された。1,021例が登録され、そのうち911例がCARGスコアで評価された。CARGスコアは19点満点であり、0~5点を「低い」、6~9点を「中間」、10~19点を「高い」とした場合、米国のデータでは、それぞれのカテゴリーとGrade3以上の有害事象の発生割合に関連がみられたため、CARGスコアは重篤な有害事象を予測できるという結論に至ったが、今回の日本人データではそれらに関連がみられなかった。また、CARGスコアの対象外とされていた分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬を受けている集団でもCARGスコアの有用性を評価したものの、いずれもCARGスコアのカテゴリーと重篤な有害事象に明らかな関連はみられなかった。欧米のKey opinion leaderが提唱しているツールをそのまま日本に流用することなく、日本人データで妥当性を検証し、日本人でのCARGスコアの有用性をきちんと否定するという重要な研究である。CARGスコアの日本語版はCARGのホームページに掲載してもらっているのだが、日本人でも毒性を予測できるか否かの評価がされていなかったため、研究目的以外でのCARGスコアの使用は推奨してこなかった。今回、副次的解析ではあるものの、日本人ではCARGスコアの有用性が示せなかったことは、臨床上重要である。ただし、欧米でもCARGスコアは絶対的なツールではない。実際、「全がん種」を対象として生まれたCARGスコアでは予測精度が低いという理由で、「乳がん」に特化した予測ツールCARG-BC(Breast Cancer)が作成されている8)。このように、それぞれのがん種、人種に特化した予測ツールが望まれており、今後、日本独自の毒性予測ツールが求められる。『高齢者機能評価+脆弱な部分をサポートする診療』モデルの費用対効果分析(#15099))欧米の老年腫瘍ガイドラインでは、高齢者機能評価(Geriatric Assessment:GA)を実施するのは当然であり、「高齢者機能評価+脆弱な部分をサポートする診療」、いわゆるGeriatric Assessment and Management (GAM)の実施までもが推奨されるようになった。これは、世界中で「高齢者機能評価+脆弱な部分をサポートする診療」の有用性を検証するランダム化比較試験が公表されたためである。ただ、それぞれの試験におけるGAMの診療モデルはまったく異なるため、どの診療モデルが最適なのかはわかっていない。このため今回、GAMの有用性を検証したpivotal study 4試験のデータを基に、費用対効果分析が行われた(表2)。これらの試験のGAMモデルを概説すると、(1)The 5C試験は「老年医学の訓練を受けたチームによる電話を用いてフォローアップするモデル」10)、(2)GAIN試験は「老年医学の訓練を受けたチームによる脆弱な部分をサポートする方法を提示するモデル」11)、(3) GAP70+試験は「老年医学の訓練を受けたチームがいない状態でのGA実施および脆弱な部分をサポートする方法を提示するモデル」12)、(4)INTEGERATE試験は「適宜、老年科医にコンサルトしながら診療を行うモデル」13)である。本試験はカナダの研究者が実施したため、カナダの医療費をベースとして、さまざまなシナリオの下でそれぞれの試験における12ヵ月以内の、がん薬物療法に伴う費用、有害事象に伴う費用、入院/救急外来受診に伴う費用、GAM実施に伴う費用を推定し、質調整生存年(Quality-adjusted life years:QALY)当たりの医療費および増分純金銭便益(incremental monetary benefit、INMB)を計算した(INMB=[λ*ΔQALY]-ΔCosts、閾値は50,000ドル)。患者当たりの平均QALYはGAM群で0.577~0.662、通常診療群(GAMを実施しない通常診療)で0.606~0.665、平均総費用は、GAM群で3万1,234~3万9,432ドル、通常診療群で2万9,261~4万1,756ドルであった。がん薬物療法の費用は総費用の46~66%を占めていた。INTEGERATE試験およびGAP70+試験では、INMBが3,975ドルおよび1,383ドルと正の値だったが、GAIN試験、The 5C試験では、INMBの値がそれぞれ-3,492ドル、-2,125ドルと負の値であった。INTEGERATE試験の診療モデル(適宜、老年科医にコンサルトしながら診療を行うモデル)は最も高価なモデルであったが、入院の減少(GAM群での入院/救急外来受診割合:26.6%、通常診療群:40.2%)により費用対効果が良好になったと考察されている。結果の解釈には慎重になる必要がある研究である。すなわち、12ヵ月のみのデータであること、カナダの医療費を基に計算されたものであること、入院/救急外来受診のしやすさは環境によって変わりうることなど、多くのlimitationがある。しかし、それぞれの診療モデルの一長一短は推察できるため、どの診療モデルが自施設に適していそうかの考察には使えると考えている。欧米の老年腫瘍ガイドラインがGAMを推奨しており、また日本老年医学会が発刊した『高齢者総合機能評価(CGA)に基づく診療・ケアガイドライン2024』でも悪性腫瘍を患う患者に高齢者総合機能評価(ほぼGAMと同じ意味)は推奨しているが、これらガイドラインはGAMを推奨しているにもかかわらず、具体的にどのようなモデルを用いればよいかは提示していない。日本では現状、がん治療に携わる老年科医が少ないため、「老年医学の訓練を受けたチームがいない状態でのGA実施および脆弱な部分をサポートする方法を提示するモデル」、すなわちGAP70+モデルが費用対効果の意味でも適しているのかもしれない。しかし、将来的には老年科医と協働して高齢がん患者の診療を進めてゆける環境がつくられることを祈っている。画像を拡大する参考1)Dotan E, et al. A randomized phase II study of gemcitabine and nab-paclitaxel compared with 5-fluorouracil, leucovorin, and liposomal irinotecan in older patients with treatment-naive metastatic pancreatic cancer (GIANT): ECOG-ACRIN EA2186.J Clin Oncol.2024;42:s4002)Ferrat E, et al. Performance of Four Frailty Classifications in Older Patients With Cancer: Prospective Elderly Cancer Patients Cohort Study. J Clin Oncol. 2017;35:766-777.3)Corre R, et al. Use of a Comprehensive Geriatric Assessment for the Management of Elderly Patients With Advanced Non-Small-Cell Lung Cancer: The Phase III Randomized ESOGIA-GFPC-GECP 08-02 Study. J Clin Oncol. 2016;34:1476-1483.4)Furuya N, et al. Geriatric assessment in older patients with non-small cell lung cancer: Insights from a cluster-randomized, phase III trial―ENSURE-GA study (NEJ041/CS-Lung001).J Clin Oncol.2024.42:s15025)Hurria A, et al. Predicting chemotherapy toxicity in older adults with cancer: a prospective multicenter study. J Clin Oncol. 2011;29:3457-3465.6)Hurria A, et al. Validation of a Prediction Tool for Chemotherapy Toxicity in Older Adults With Cancer. J Clin Oncol. 2016;34:2366-2371.7)Cancer and Aging Research Group, Chemo-Toxicity Calculator.8)Magnuson A, et al. Development and Valida39tion of a Risk Tool for Predicting Severe Toxicity in Older Adults Receiving Chemotherapy for Early-Stage Breast Cancer. J Clin Oncol. 2021;39:608-618.9)Selai A, et al.Cost-utility of geriatric assessment (GA) in older adults with cancer: A model-based economic evaluation of four randomized controlled trials (RCTs). J Clin Oncol.2024;42.16:s150910)Puts M , et al. Comprehensive geriatric assessment and management for Canadian elders with Cancer: The 5C study. 2021. J Geriatr Oncol. 2021;12:s40.11)Li D, et al. Geriatric Assessment-Driven Intervention (GAIN) on Chemotherapy-Related Toxic Effects in Older Adults With Cancer: A Randomized Clinical Trial. JAMA Oncol.2021;7:e214158.12)Mohile SG, et al. et al. Evaluation of geriatric assessment and management on the toxic effects of cancer treatment (GAP70+): a cluster-randomised study. Lance. 2021;398:1894-904.13)Soo WK, et al. Integrated Geriatric Assessment and Treatment Effectiveness (INTEGERATE) in older people with cancer starting systemic anticancer treatment in Australia: a multicentre, open-label, randomised controlled trial.Lancet Healthy Longev. 2022;3:e617-e627.

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診療科別2024年上半期注目論文5選(呼吸器内科編)

Clarithromycin for early anti-inflammatory responses in community-acquired pneumonia in Greece (ACCESS): a randomised, double-blind, placebo-controlled trialGiamarellos-Bourboulis EJ, et al. Lancet Respir Med. 2024 Apr;12:294-304.<ACCESS試験>:全身性炎症反応を認める市中肺炎においてβラクタム系抗菌薬へのマクロライドの追加は早期臨床反応を改善市中肺炎の治療においてβラクタム系抗菌薬へのマクロライド追加の上乗せ効果については、観察研究で証明されてきました。今回、全身性炎症反応症候群、SOFAスコア2点以上、プロカルシトニン0.25ng/mL以上を有する市中肺炎の入院成人患者を対象として、無作為化比較試験としては初めて、マクロライドの有益性が示されました。Perioperative Nivolumab in Resectable Lung CancerCascone T, et al. N Engl J Med. 2024 May 16;390:1756-1769.<CheckMate 77T試験>:非小細胞肺がんへの術前ニボルマブ併用化学療法+術後ニボルマブ単剤で無イベント生存期間を改善切除可能な非小細胞肺がん患者を対象とした無作為化比較試験で、術前ニボルマブ併用化学療法+術後ニボルマブ単剤投与が、無イベント生存期間を有意に改善することが明らかとなりました。新たな安全性シグナルは認められませんでした。Dupilumab for COPD with Blood Eosinophil Evidence of Type 2 InflammationBhatt SP, et al. N Engl J Med. 2024 May 20.<NOTUS研究>:タイプ2炎症を有するCOPDにおいてデュピルマブで増悪が減少タイプ2炎症を有するCOPD患者に対するヒト型抗ヒトIL-4/13受容体モノクローナル抗体デュピルマブの有効性を評価した二重盲検無作為化比較試験です。末梢血好酸球数300/uL以上のCOPD患者において、デュピルマブはプラセボに比べて中等度または重度の増悪の減少と有意に関連していました。Bisoprolol in Patients With Chronic Obstructive Pulmonary Disease at High Risk of Exacerbation: The BICS Randomized Clinical TrialDevereux G, et al. JAMA. 2024 May 19.<BICS研究>:ハイリスクCOPD患者へのビソプロロールで増悪は減少せずCOPD患者において、β1受容体選択性遮断薬ビソプロロールがCOPD増悪を減少させるかどうかを検証した無作為化比較試験です。増悪リスクの高いCOPD患者において、ビソプロロールによる治療はCOPD増悪を減少させませんでした。しかし、呼吸器系を含む有害事象の増加をビソプロロールで認めることはなく、ビソプロロールの安全性が示されました。Morphine for treatment of cough in idiopathic pulmonary fibrosis (PACIFY COUGH): a prospective, multicentre, randomised, double-blind, placebo-controlled, two-way crossover trialWu Z, et al. Lancet Respir Med. 2024 Apr;12:273-280. <PACIFY COUPH試験>:特発性肺線維症患者においてモルヒネで咳嗽が減少特発性肺線維症(Idiopathic pulmonary fibrosis:IPF)患者の咳嗽に対する低用量徐放性モルヒネの効果を検証した無作為化比較試験です。モルヒネはプラセボと比較して、客観的覚醒時咳嗽頻度を39%減少させました。この研究は、IPF患者の咳嗽に対するモルヒネの有用性を報告した初めての研究です。

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新たながん治療で高まる医療者全体の教育ニーズ ゾルベツキシマブで勉強会/WJOG

 新たながん治療の登場は新たな有害事象(AE)との遭遇とも言える。認定NPO法人西日本がん研究機構(WJOG)では、継続的に全医療者を対象とした学習機会を設けている。7月には2024年5月に承認されたゾルベツキシマブを速やかに臨床現場に導入するためのグループワークを実施する。WJOG教育広報委員会副委員長で恵佑会札幌病院腫瘍内科の川上 賢太郎氏に聞いた。新薬の登場は未経験の有害事象との出合い 川上氏は、「分子標的薬の登場で、消化器がん領域では従来の殺細胞性抗がん剤では経験のないAEを経験した」と言う。 2010年大腸がんのKRAS検査が保険適用となり抗EGFR抗体が臨床で使われるようになる。その際、皮膚障害などの新たなAEに遭遇する。皮膚の乾燥、発疹、爪囲炎など消化器科医にとっては「まったく経験したことのない有害事象」だったと振り返る。 近年、消化器がん領域に免疫チェックポイント薬(ICI)が保険適用となる。ICIもまた、消化器科医にとって未知のAEをもたらした。「ICIはメラノーマや肺がんが先行していたので、皮膚科医や肺がん治療医などから使用経験を共有してもらい対応していた」。しかし、「実際に他人ごとから自分ごとになったときに『さあ、どうしよう?』となる。結局自分たちで経験してみないとわからないことも多々ある」と川上氏。医療者全体で対応する 有害事象の対応は医師だけではカバーできない。事前にわかっていれば化学療法委員会やレジメン審査委員会などで看護師、薬剤師など多職種からなるチームで対応策を練る。導入後から対処する場合は、知識や対応経験のあるスタッフによる院内講習会、対応マニュアルなどを作成するが、これは医師だけでは難しい。 また、外来あるいは入院後、患者が帰宅してから起こる有害事象への対応も看護師、薬剤師の協力が必要だ。 川上氏によれば「単純なカルテ記載では拾いきれない事象を拾い上げる」ことが重要である。そのためにも医療者全体で知識を持合い共有する場は欠かせない。消化器がん領域、話題の新薬ゾルベツキシマブでの勉強会を実施 そのような中、WJOGは職種横断的な若手医療者向けセミナーを企画している。2024年7月に取り上げるのが、新規治療薬として注目される抗CLDN18.2抗体ゾルベツキシマブだ。 2024年5月に承認されたゾルベツキシマブは、CLDN18.2陽性切除不能胃がんに対し化学療法併用で有効性を示す。CLDN18.2は多くのがん細胞表面で発現し、幅広いがんターゲットとしても期待される一方、正常の胃粘膜にも発現する。 その影響か、ゾルベツキシマブでは悪心・嘔吐の発現が多い。実際、Pivotal試験であるSPOTLIGHT試験、GLOW試験の2つの第III相試験におけるゾルベツキシマブの悪心・嘔吐発現(全Grade)はそれぞれ89.2%、81.9%と高い。ゾルベツキシマブの悪心・嘔吐の発現は早く、薬剤投与中に起こることもあるという。日本癌治療学会も「ゾルベツキシマブ併用一次化学療法における制吐療法」としてガイドライン速報を出している。 「制吐療法の発達・普及により近年は殺細胞性抗がん剤の悪心・嘔吐はコントロールできているが、ゾルベツキシマブについては従来の方法ではコントロールできない可能性もある」と川上氏は言う。 同セミナーでは対面式のグループワークも含め、「新規治療導入時に解決すべき課題」「多職種で出来る工夫」などを議論する。WJOG2024年多職種の若手で考えるプロジェクト 第2回若手医療従事者向けセミナー多職種で学ぶ!胃がん診療-新規治療導入時のポイント:ゾルベツキシマブ導入について考えよう日時:2024年7月27日(土)場所:東京、品川TKPカンファレンスセンター WJOGイベント参加募集ページ

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局所進行上咽頭がんの1次治療、sintilimab併用は有益か/Lancet

 局所進行の上咽頭がんの1次治療として、化学放射線療法へのsintilimab上乗せは、無イベント生存(EFS)率を改善し、有害事象の発現が増加したが管理可能な範囲のものであったことが、中国・中山大学がんセンターのXu Liu氏らによる第III相多施設共同非盲検並行群間無作為化試験「CONTIUUM試験」で示された。再発または転移のある上咽頭がんでは、抗PD-1療法+化学療法が1次治療として推奨されているが、局所進行の上咽頭がんにおけるPD-1阻害薬の有益性については明らかになっていなかった。Lancet誌2024年6月22日号掲載の報告。中国9病院で無作為化試験、標準化学放射線療法vs.化学放射線療法+sintilimab CONTIUUM試験は、18~65歳の成人で新規に診断された転移のないStageIII~IVaの局所進行上咽頭がん患者(T3-4N0、T3N1は除外)を対象とし、中国の9病院で実施された。 被験者は4ブロック法を用いて無作為に1対1の割合で割り付けられ、ゲムシタビン+シスプラチンの導入化学療法後に、シスプラチン+放射線療法(標準治療)を、または標準治療とsintilimab 200mg静脈内投与3週ごとを12サイクル(放射線療法の導入前3サイクル、併用療法3サイクル、補助療法6サイクル)受けた。 主要評価項目は、ITT集団におけるEFS(無作為化から局所再発または遠隔再発、全死因死亡のいずれかが認められるまでの期間)。副次評価項目は、有害事象などであった。EFSの層別ハザード比0.59 2018年12月21日~2020年3月31日に、患者425例が登録され、sintilimab群(210例)または標準治療群(215例)に無作為化された。 追跡期間中央値41.9ヵ月(四分位範囲[IQR]:38.0~44.8)、主要データカットオフ(2023年2月28日)時点で389例が生存しており、366例(94%)が36ヵ月以上の追跡調査を受けた。sintilimab群は標準治療群と比較してEFS率が高かった(36ヵ月EFS率86%[95%信頼区間[CI]:81~90]vs.76%[70~81]、層別ハザード比[HR]:0.59[95%CI:0.38~0.92]、p=0.019)。 Grade3~4の有害事象は、sintilimab群で155例(74%)、標準治療群では140例(65%)に発現した。最も多くみられたのは、口内炎(68例[33%]、64例[30%])、白血球減少症(54例[26%]、48例[22%])、好中球減少症(50例[24%]、46例[21%])であった。死亡は、sintilimab群2例(1%)(いずれも免疫関連と考えられる)、標準治療群1例(<1%)。sintilimab群では、Grade3~4の免疫関連有害事象が20例(10%)に発現した。 これらの結果を踏まえて著者は、「本治療法が、高リスクの局所進行上咽頭がん患者に対する標準レジメンと見なすことができるかどうかを判断するには、より長期の追跡調査が必要である」とまとめている。

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早期TN乳がんの術前・術後ペムブロリズマブ、QOLの評価(KEYNOTE-522)

 早期トリプルネガティブ乳がん(TNBC)への術前・術後のペムブロリズマブ追加を検討したKEYNOTE-522試験で、主要評価項目の病理学的完全奏効と無イベント生存期間の有意な改善はすでに報告されている。今回、副次評価項目の患者報告アウトカムにおいてペムブロリズマブ追加による実質的な差は認められなかったことを、シンガポール・国立がんセンターのRebecca Dent氏らがJournal of the National Cancer Institute誌オンライン版2024年6月24日号で報告した。 本試験の対象は、治療歴のない高リスク早期TNBC患者で、術前にペムブロリズマブ(3週ごと)+パクリタキセル+カルボプラチンを4サイクル投与後、ペムブロリズマブ+シクロホスファミド+ドキソルビシン(またはエピルビシン)を4サイクル、術後にペムブロリズマブを最長9サイクル投与する群と、術前に化学療法+プラセボ、術後にプラセボを投与する群に2対1に無作為に割り付けられた。事前に規定された副次評価項目のEORTC QLQ-C30およびQLQ-BR23について、ベースライン(術前、術後の1サイクル目の1日目)から、完遂率/コンプライアンス率60%/80%以上であった最後の週までの変化の最小二乗平均の群間差を縦断モデルで評価した。 主な結果は以下のとおり。 ・完遂率/コンプライアンス率が60%/80%以上の最後の週は、術前では21週、術後では24週であった。・術前では、ベースラインから21週目までの変化の最小二乗平均の群間差(ペムブロリズマブ+化学療法[762例]vs.プラセボ+化学療法[383例])は、GHS/QOLが-1.04(95%信頼区間[CI]:-3.46~1.38)、情緒機能が-0.69(同:-3.13~1.75)、身体機能が-2.85(同:-5.11~-0.60)であった。・術後では、ベースラインから24週目までの変化の最小二乗平均の群間差(ペムブロリズマブ[539例]vs.プラセボ[308例])は、GHS/QOLが-0.41(95%CI:-2.60~1.77)、情緒機能が-0.60(同:-2.99~1.79)、身体機能が-1.57(同:-3.36~0.21)であった。

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再発/転移上咽頭がんの1次治療、nab-TPC vs.GC/BMJ

 再発または転移のある上咽頭がんの1次治療において、nab-パクリタキセル+シスプラチン+カペシタビン(nab-TPC)療法はゲムシタビン+シスプラチン(GC)療法と比較し優れた抗腫瘍効果と良好な安全性プロファイルを示したことを、中国・中山大学がんセンターのGuo-Ying Liu氏らが中国の4施設で実施した第III相無作為化非盲検比較試験の結果で報告した。著者は、「nab-TPC療法は再発または転移のある上咽頭がんに対する1次治療の標準治療と考えるべきであるが、全生存期間(OS)に対する有益性の確認には、より長期間の追跡調査が必要である」とまとめている。BMJ誌2024年6月19日号掲載の報告。主要評価項目はIRC評価によるPFS 研究グループは2019年9月~2022年8月に、18歳以上で全身性の化学療法による治療歴がない、ECOG PSが0または1の再発または転移のある上咽頭がん患者81例を、nab-TPC群(41例)およびGC群(40例)に1対1の割合で無作為に割り付けた。 nab-TPC群では、1サイクルを3週間としてnab-パクリタキセル200g/m2を1日目に、シスプラチン60mg/m2を1日目、カペシタビン1000mg/m2 1日2回を1~14日目に、最大6サイクル投与し、その後はカペシタビンによる維持療法を病勢進行、許容できない毒性あるいは同意撤回まで最大2年間行った。 GC群では、1サイクルを3週間としてゲムシタビン1g/m2を1日目および8日目に、シスプラチン80mg/m2を1日目に、最大6サイクル投与し、その後はベストサポーティブケアを行った。 主要評価項目は、ITT集団における独立審査委員会(IRC)評価による無増悪生存期間(PFS、無作為化からRECIST v1.1に基づく病勢進行または死亡までの期間)、副次評価項目はOS、奏効率(ORR)および安全性であった。最新解析において、PFSは11.9ヵ月vs.7.6ヵ月、ORRは83% vs.63% 事前に規定された中間解析(2022年10月31日)の結果、追跡期間中央値15.8ヵ月において、IRC評価によるPFS中央値はnab-TPC群11.3ヵ月(95%信頼区間[CI]:9.7~12.9)、GC群7.7カ月(6.5~9.0)であり、nab-TPC群で有意な延長が認められた(ハザード比[HR]:0.43、95%CI:0.25~0.73、p=0.002)。このことから、独立データモニタリング委員会により試験の早期中止が決定された。 2023年6月3日の最新解析では、IRC評価によるPFS中央値はnab-TPC群11.9ヵ月(95%CI:10.0~13.8)、GC群7.6ヵ月(6.6~8.7)であった(HR:0.39、95%CI:0.24~0.65、p<0.001)。 OSについては、データが未成熟であった。ORRはnab-TPC群83%(34/41例)、GC群63%(25/40例)であり(p=0.05)、奏効期間はそれぞれ10.8ヵ月、6.9ヵ月であった(p=0.009)。 Grade3または4の治療関連有害事象はnab-TPC群よりGC群で高く、主なものは白血球減少症がそれぞれ10%(4/41例)vs.33%(13/40例)(p=0.02)、好中球減少症15%(6/41例)vs.40%(16/40例)(p=0.01)、貧血2%(1/41例)vs.20%(8/40例)(p=0.01)であった。両群とも治療に関連した死亡は報告されなかった。

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ASCO2024 レポート 泌尿器科腫瘍

レポーター紹介米国臨床腫瘍学会(ASCO)は、1964年の創立以来「がんが予防または治癒されすべてのサバイバーが健康である世界」というビジョンを掲げ活動してきた、がん治療研究のための学会であり、世界各国に5万人近くの会員を有する。年1回の総会は、世界のがん研究者が注目する研究成果が発表される機会であり、2024年は5月31日から6月4日まで米国イリノイ州のシカゴで行われた。COVID-19のまん延があった2020~22年にかけてon-line参加のシステムが整い、現地参加と何ら変わりなく学会参加が可能となったため、今年はon-lineでの参加を選択した。泌尿器科腫瘍の演題は、Oral Abstract Session 18(前立腺9、腎5、膀胱4)、Rapid Oral Abstract Session 18(前立腺8、腎4、膀胱4、陰茎1、副腎1)、Poster Session 112で構成されていた。ASCOはPractice Changingな重要演題をPlenary Sessionとして5演題選出するが、今年は泌尿器カテゴリーからは選出されなかった。Practice Changingな演題ではなかったが、新しい見地を与えてくれる演題が多数あり、ディスカッションは盛り上がっていた。今回はその中から4演題を取り上げ報告する。Oral Abstract Session 腎/膀胱4508 淡明細胞腎がん1次治療のアベルマブ+アキシチニブ、PFSを延長(JAVELIN Renal 101試験)Avelumab + axitinib vs sunitinib in patients (pts) with advanced renal cell carcinoma (aRCC): Final overall survival (OS) analysis from the JAVELIN Renal 101 phase 3 trial.Robert J. Motzer, Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, NYJ Clin Oncol 42, 2024 (suppl 16; abstr 4508)JAVELIN Renal 101試験は、転移性淡明細胞腎がんにおける1次治療としてアベルマブ+アキシチニブ(AVE+AXI)をスニチニブ(SUN)と比較するランダム化第III相試験であり、無増悪生存期間(PFS)の延長が示され、すでに報告されている。この転移性腎細胞がんにおける1次治療の免疫チェックポイント阻害薬(ICI)とチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)の組み合わせは、そのほかにもペムブロリズマブ+レンバチニブ、ニボルマブ+カボザンチニブ、ペムブロリズマブ+アキシチニブがあり、いずれも全生存期間(OS)の延長が報告されているだけに、このAVE+AXIのOS結果も注目されていた。この報告は、フォローアップ期間最小値68ヵ月における最終解析である。プライマリ・エンドポイントは2つ設定され、PD-L1陽性の転移性腎細胞がんにおける中央判定によるPFSとOSである。全体集団における解析はセカンダリ・エンドポイントに設定されていた。PD-L1陽性集団のOS中央値は、SUN 36.2ヵ月、AVE+AXI 43.2ヵ月、ハザード比 (HR):0.86(95%信頼区間[CI]:0.701~1.057、p=0.0755)であり、ネガティブな結果であった。全体集団でのOS中央値は、SUN 38.9ヵ月、AVE+AXI 44.8ヵ月、HR:0.88(95%CI:0.749~1.039、p=0.0669)であり、こちらも有意差なしの結果となった。全体集団のOSのサブグループ解析では、とくに効果不良を示唆する群はないが、IMDCリスク分類のPoorリスクにおいてはSUNとの差は開く傾向(HR:0.63、95%CI:0.43~0.92)があった。有害事象(AE)に関し、Grade3以上の重篤なAEはSUN群61.5%とAVE+AXI群66.8%であったが、AVE+AXIにおける免疫関連有害事象(irAE)は全体で50.7%、重篤なものは14.7%であった。この結果により、ICI+TKI療法のすべての治療成績がそろったことになる。ICI単剤においては、抗Programmed death(PD)-1抗体か抗PD-ligand(L)1かの違いによる影響があるかどうか確かな証拠はないが、抗PD-1抗体のみがOS延長を証明できたことになる。またTKI単剤の比較において、VEGFR(Vascular Endothelial Growth Factor Receptor)を強く阻害しつつ耐性化にも対応できる新世代のTKIであるカボザンチニブとレンバチニブのレジメンがより良い治療成績を示した。試験間における患者背景の差はあるものの、薬効の違いもICI+TKI療法の効果に影響しているのではないかと感じる。とはいえ、目の前の患者にICI+ICI療法かICI+TKI療法か、いずれを選択するのがベストかの問いに答えられる臨床試験は行われておらず、PFSやOSだけでなく奏効割合や病勢増悪割合、合併症、治療環境なども加味し、患者との話し合いの下で決定していく現状は今後も変わらないだろう。Oral Abstract Session 前立腺/陰茎/精巣LBA5000 去勢抵抗性前立腺がんのカバジタキセル+アビラテロン併用療法はPFSを延長(CHAARTED2試験)Cabazitaxel with abiraterone versus abiraterone alone randomized trial for extensive disease following docetaxel: The CHAARTED2 trial of the ECOG-ACRIN Cancer Research Group (EA8153). Christos Kyriakopoulos, University of Wisconsin Carbone Cancer Center, Madison, WIJ Clin Oncol 42, 2024 (suppl 17; abstr LBA5000)CHAARTED試験は、転移性去勢感受性前立腺がん(mCSPC)におけるアンドロゲン除去療法(ADT)に加えUpfrontにドセタキセル(DTX)を6サイクル行うことでOS延長が証明された重要な試験であった。これにより、DTXがアンドロゲン耐性クローンも含め初期に量を減らすことに寄与する、という仮説が立証されたと考えられている。CHAARTED2試験は、初回にDTXが行われた患者に対し、アンドロゲン受容体(AR)阻害薬に加えカバジタキセル(CBZ)をさらに加えることで、AR阻害薬の効果が延長するかを検討するランダム化比較第II相試験であった。3サイクル以上のDTX治療歴があるmCRPC患者を、アビラテロン(ABI)1,000mg+プレドニゾロン(PSL)10mg群とABI+PSLに加えCBZ 25mg/m2 3週ごとを6サイクルまで行う群に1:1でランダム化した。プライマリ・エンドポイントはPFS延長(HR:0.67、α=0.10、β=0.10)と設定された。患者背景は、Gleason score 8~10が83%、High-volumeが76%含まれる集団であり、両群にバランスよく割り付けられていた。PFS中央値は、ABI+PSL群で9.9ヵ月、ABI+PSL+CBZ群で14.9ヵ月、HR:0.73(80%CI:0.59~0.90、p=0.049)と有意差を認めた。セカンダリ・エンドポイントのOSは、HR0.93であり、今回の検討ではアンダーパワーではあるが有意差を認めなかった。AEでは、重篤なものは26.7%と42.2%であり、ABI+PSL+CBZ群で多く報告された。Kyriakopoulos氏は、CBZ追加によるOS延長は認められなかったものの、PFSやPSA(Prostate Specific Antigen)増悪までの期間の延長は認められたことから仮説は証明できたことを報告した。とはいえ、現在のmCSPCの初期治療は3剤併用療法(AR阻害薬+DTX+ADT)であることから、日常診療に与える影響は限られると結んだ。Rapid Oral Abstract Session 前立腺/陰茎/精巣5009 陰茎がん1次治療のペムブロリズマブ併用化学療法(HERCULES試験)A phase II trial of pembrolizumab plus platinum-based chemotherapy as first-line systemic therapy in advanced penile cancer: HERCULES (LACOG 0218) trial.Fernando Cotait Maluf, Hospital Beneficencia Portuguesa de Sao Paulo and Hospital Israelita Albert Einstein; LACOG (Latin American Cooperative Oncology Group), Sao Paulo, BrazilJ Clin Oncol 42, 2024 (suppl 16; abstr 5009)希少がんである進行陰茎がんにおける1次治療の免疫療法追加のエビデンスが報告された。陰茎がんの発生は、アフリカやアジア、中南米などの低所得国に多いことが知られているが、ブラジルで行われた単群第II相試験の結果である。陰茎がんの標準治療として無治療と比較したランダム化試験はないが、プラチナ併用レジメンを基本としている。NCCN(National Comprehensive Cancer Network)ガイドラインによると、preferred regimenとして3剤併用のTIP療法(パクリタキセル+イホスファミド+シスプラチン)、other recommended regimenとしてFP療法(5FU+シスプラチン)が提示されている。TIP療法はFP療法と比べると、奏効割合が40%程度と高いが、AEの割合も高く忍容性は問題となることが多い。Maluf氏らは、初発の転移性陰茎がん患者に対し、シスプラチン70mg/m2あるいはカルボプラチンAUC 5 day1と5FU 1,000mg/m2 day1~4に加えペムブロリズマブ200mgを3週間ごとに6サイクル実施後、ペムブロリズマブのみを維持療法として34サイクル実施するレジメンの治療成績を報告した。プライマリ・エンドポイントは奏効割合であり、統計設定は奏効割合期待値40%、閾値20%、両側α=0.1、β=0.215として33症例が必要であると計画された。患者37例が登録され、年齢中央値56歳、白人40.5%が含まれていた。奏効割合は39.4%(95%CI:22.9~57.9%)でありポジティブな結果であった。PFS中央値は5.4ヵ月(95%CI:2.7~7.2)、OS中央値は9.6ヵ月(95%CI:6.4~13.2)であった。サブグループ解析では、TMB(Tumor Mutational Burden)高値(≧10)と低値(<10)の奏効割合は75%と36.4%、HPV-16陽性と陰性では55.6%と35%であり、PD-L1陽性、陰性による一定の傾向はなかった。AEは全Gradeで91.9%、Grade3以上で51.4%であり、治療関連死はなかった。このHERCULES試験により、ペムブロリズマブ+FP療法は転移性陰茎がんの新たな治療オプションとなった、と報告された。日本においてこのレジメンは保険承認が得られず適用は困難だが、陰茎がんが希少がんであることを考慮すると、診断時より遺伝子パネル検査を行うことでICI使用の機会を逃さないよう注意を払う必要がある。Rapid Oral Abstract Session 腎/膀胱4510 尿膜管がん1次治療のmFOLFINOX療法(ULTMA試験)A multicenter phase II study of modified FOLFIRINOX for first-line treatment for advanced urachal cancer (ULTMA; KCSG GU20-03).Jae-Lyun Lee, Asan Medical Center, University of Ulsan College of Medicine, Seoul, South KoreaJ Clin Oncol 42, 2024 (suppl 16; abstr 4510)希少がんの重要なエビデンスとして、膀胱尿膜管がんの単群第II相試験の結果も注目すべき演題の1つである。尿膜管がんは膀胱がんのうち1%未満の発生割合で、標準治療が確立していないがんであるが、病理組織の特徴は消化器がんに類似することから、5FU系、プラチナ系薬剤での治療が適用されることが多く、その有効性が報告されている。Lee氏らは、modified FOLFIRINOXレジメン(オキサリプラチン85mg/m2 day1、イリノテカン150mg/m2 day1、ロイコボリン400mg/m2 day1、5FU 2,400mg day1をそれぞれ2時間、1.5時間、2時間、46時間かけて静注)に、支持療法としてペグフィルグラスチム6mg皮下注を3日目、予防的抗菌薬として少なくとも最初の2サイクルはレボフロキサシン750mgを4~7日目に内服し、2週間を1サイクルとして最大12サイクルまで継続する治療プロトコールを開発し、その治療成績を報告した。プライマリ・エンドポイントは奏効割合であり、期待値35%、閾値17%、α=0.05、β=0.2に設定された。2021年4月~2023年11月の2年7ヵ月間に韓国の5施設で実施した試験であった。患者背景は、年齢中央値50歳(28~68)、PSは0/1がそれぞれ3/18例であった。奏効割合は61.9%(95%CI:41.1~82.7)であり、病勢増悪例は0例であった。PFS中央値は9.3ヵ月(95%CI:6.7~11.9)、OS中央値は19.7ヵ月(95%CI:14.3~25.1)であった。安全性では、Grade 3以上の重篤なものは、貧血2例、好中球減少1例、血小板減少1例、嘔気1例、下痢1例であったが、Grade2の発生は、血小板減少3例、嘔気8例、嘔吐2例、下痢1例、口内炎3例、倦怠感6例、末梢神経障害5例であった。発熱性好中球減少症や治療関連死は認めなかった。演者らは、mFOLFIRINOX療法は膀胱尿膜管がんの新たな治療選択肢として考慮されるべきであると締めくくった。尿膜管がんでも大腸がんと同様に、triplet therapyがdoublet therapyより数値上高い奏効割合を示すことができた試験であったのは、生物学的特性が類似していることを反映すると思われる。また、毒性の強いレジメンに安全性を高める工夫が最大限盛り込まれたプロトコールになっていることで、今回の良い結果を生んだと思われた。この試験の患者背景で特徴的なのは、患者の年齢が若いことと、PS不良例は含まれていないことも重要なポイントである。

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ASCO2024 レポート 肺がん

レポーター紹介2024年のASCOはほぼ現地開催となり、同時にWebでのライブ配信等も充実した、ポストコロナを完全に印象付ける形で実施された。ASCO Lung、Lung ASCOと呼ばれるほど肺がんに関しては当たり年であり、早期緩和ケアをVirtualで実施するか対面で実施するか比較したREACH PC、EGFR遺伝子変異陽性III期非小細胞肺がんに対する化学放射線療法後のオシメルチニブの意義を検証したLAURA、限局型小細胞肺がんにおいて化学放射線療法後のデュルバルマブの意義を検証したADRIATICの3試験がPlenaryで採択される等、注目演題がめじろ押しであった。本稿では、その中から重要な知見について解説したい。REACH PC試験2010年のASCOでTemelらが、肺がん患者に対する早期緩和ケア介入が、QOLのみならず生存期間を延長したという驚きの発表を行って以来、早期緩和ケアは肺がん治療のスタンダードとして認識されてきた。ただし、その実施に際しては、医療アクセスの問題、さらに近年はCOVID-19が障壁となっている現状が存在する。そこで、同じグループが実施したのが、進行非小細胞肺がん患者1,250例を対象として、従来の対面の早期緩和ケアを毎月実施することと、VirtualのVideo Visitsによる早期緩和ケアを毎月実施することの、patient-reported measuresへの影響を検証したREACH PC試験をである。米国を中心に実施された本試験は、FACT-Lと呼ばれるQOL指標を主要評価項目として、対面とVideo Visitsが同等であることを検証した。両群で対人、Video Visitsはおおむね遵守されており、双方が併用されていないことも確認されている。結果は明快であり、24週時点で両群のFACT-L指標は同等であることが示され、Video Visitsも早期緩和ケアにおける選択枝の1つであると位置付けられた。今回はまだ初回報告であることから、今後さらなる追加解析の結果が公表される見込みではあるものの、すべての早期緩和ケアをVideo Visitsにすることが妥当ということではなく、どういった場合にVideo Visitsがより有用かについて検討することが必要と、演者も結論付けていた。さらに、米国を中心に実施されたことから、医療環境、医療アクセス、地理的な条件等が大きく異なるわが国ならびに世界各地で同様の結論が得られるのか、解決すべき課題は少なくない。ただ、virtualとrealを併用したコミュニケーションの在り方が今後減少する可能性は乏しく、むしろvirtualをいかに実臨床に活用していくかを検討しよう、というASCOの意図をplenaryセッションでの採択という結果から読み取ることができる。LAURA試験EGFR遺伝子変異陽性の切除不能III期非小細胞肺がんに対して、根治的化学放射線療法後にオシメルチニブを増悪もしくは許容できない毒性が出現するまで続けることで、プラセボ群に対して無増悪生存期間(PFS)における優越性を検証した第III相試験がLAURA試験である。割付調整因子として、根治的放射線治療の同時vs.逐次、IIIA 期vs.IIIB/C期、中国vs.中国以外、が設定されている。216例の患者が2:1でオシメルチニブ群により多く割り付けられた。副次的評価項目として全生存期間(OS)、脳転移無増悪生存期間、安全性等が設定されている。PFSはハザード比0.16、95%信頼区間0.10~0.24で、オシメルチニブを追加することでPFSが有意に延長(39.1ヵ月vs.5.6ヵ月)するという結果であった。24ヵ月時点のPFSの点推定値はオシメルチニブ群で65%、プラセボ群で13%であり、50%以上の上乗せを認めている。とくに、プラセボ群のPFSはEGFR遺伝子変異陽性進行非小細胞肺がんと同様の状況であることが強調されていた。プラセボ群では68%に新規病変(増悪)を認めており、29%が脳転移であり、オシメルチニブ群の8%と明白な違いを示していた。同時に発表されたOSは、36ヵ月以降でややオシメルチニブ群が良好な傾向を示しているものの、ハザード比0.81で大きな違いはなかった。プラセボ群で81%がオシメルチニブにクロスオーバーしていることも同時に報告されている。両群でOSイベントが20%程度であることから、まだ未成熟なデータとはいえ、今後追加報告が行われる見込みである。NEJM誌に同時掲載され、会場では大きな拍手が沸き起こった。ADAURA試験よりも、一段階進行しているが、同様に根治を目指すことができる病態において、チロシンキナーゼ阻害薬であるオシメルチニブの有効性が示されるという、既視感のあるデータであった。ADAURAとの最も大きな違いは、Post-ADAURAともいえる状況で、チロシンキナーゼ阻害薬による地固め療法に対する意見が(現時点では)それほど強く沸き起こっていないところである。確かに、オシメルチニブを増悪もしくは許容できない毒性を認めるまで継続するという治療法は、ディスカッサントもその課題を指摘していた。(1)ADAURA(オシメルチニブ3年)においても、より長いほうがよいのでは、との議論がすでにある状況、(2)ADAURAよりも進行した病状であること、(3)プラセボ群のPFSが進行肺がんを思わせる状況であり進行期同様の治療(増悪まで)が許容されうる!?等の諸点が、ADAURAの結果を初めて見た際とは大きく異なる。ただ、このプラセボ群の成績は、これまでEGFR遺伝子変異陽性III期非小細胞肺がんに対して根治的化学放射線療法を実施した研究結果と比べても悪い印象であり、その点は検証の必要性がありそうである。本試験結果から同対象にオシメルチニブが適応拡大される可能性は高く、実臨床で使用可能となった段階で、最適な対象患者選定、さらには至適使用期間等についてわれわれが検討していく必要があると考えている。ADRIATIC試験臨床病期I~III期、限局型小細胞肺がんを対象として、根治的化学放射線療法後のデュルバルマブ(1,500mg固定用量、4週おき、最大24ヵ月)による地固め療法を、プラセボと比較する第III相試験がADRIATIC試験である。730例が登録され、デュルバルマブ群に264例、プラセボ群に266例、デュルバルマブ+トレメリムマブ群に200例が割り付けられた。今回はデュルバルマブ群とプラセボ群に関する解析が実施され、デュルバルマブ+トレメリムマブ群については次回以降に解析が行われる。割付調整因子は、臨床病期I/II vs.III期、PCIの有無が設定されている。主要評価項目はデュルバルマブとプラセボの比較におけるOSとPFSのCo-primaryとされ、デュルバルマブ+トレメリムマブにおけるOS、PFSはKey secondary endpointと位置付けられている。統計学的設定としては、5%のα(両側検定)を、OSに4.5%、PFSに0.5%使用し、それぞれで優越性が示されればαをリサイクルする予定が設定されている。PFS、OSともに優越性が示され、非の打ちどころのない結果が示された。PFSのハザード比は0.76、95%信頼区間0.61~0.95と有意に試験治療群が良好であり、24ヵ月時点のPFS点推定値は試験治療群で46.2%、プラセボ群で43.2%であった。OSのハザード比は0.73、95%信頼区間0.57~0.93と有意に試験治療群が良好であり、36ヵ月時点のOS点推定値は試験治療群で56.5%、プラセボ群で47.6%であった。IMpower133、CASPIANの両試験により、進展型小細胞肺がんの初回治療に導入された免疫チェックポイント阻害薬が、いよいよ限局型小細胞肺がんの標準治療にも導入され、その有効性は進展型よりも限局型においてより大きい結果であった。同様の傾向は、非小細胞肺がんや、それ以外のがん腫においても繰り返し示されており、Late lineよりもFirst line、進行期よりも早期において免疫チェックポイント阻害薬の意義が大きいことに再現性がある。切除可能小細胞肺がんにおける周術期治療への免疫チェックポイント阻害薬の展開が期待されるところではあるものの、これまで同集団に対して第III相試験を実施し完遂できたのはJCOG1205/1206試験のほかはほぼ存在せず、わが国で小細胞肺がんに対する周術期免疫チェックポイント阻害薬の治療開発が何かしらの形で行われることに期待したい。EVOKE-01試験sacituzumab govitecanは、TROP2を標的とし、ペイロードとしてSN-38をDAR 7.6で搭載した抗体薬物複合体(ADC)である。近年大きな話題となっているADCにおいて、非小細胞肺がんにおいてはTROP2を標的としたDato-DXdが先行しており、昨年のESMOで発表されたTROPION-Lung 01試験においてドセタキセルに対して、とくに非扁平上皮非小細胞肺がんにおいてPFSの優越性を示している。今回、ほぼ同様のセッティングである、進行非小細胞肺がんの2次治療において、sacituzumab govitecanとドセタキセルを比較した第III相試験がEVOKE-01試験である。603例が1:1で登録され、割付調整因子は、扁平上皮がんvs.非扁平上皮がん、前治療での免疫チェックポイント阻害薬がCR/PR vs.SD/PD、ドライバー遺伝子変異(AGA)の有無、が設定された。主要評価項目としてはOSが設定され、PFSが副次評価項目とされた。PFSのハザード比は0.92、95%信頼区間0.71~1.11でドセタキセルに対する優越性は示せなかった。さらに、OSにおいてもハザード比は0.84、95%信頼区間0.68~1.04とsacituzumab govitecanが良い傾向にはあるものの、統計学的な優越性は示せなかった。同じTROP2を標的としたADCによる、ドセタキセルをコントロールとした第III相試験において、TROPION-Lung 01試験とは異なる結果となったことは意外ではあるものの、両試験ともにOSにおいて明白な優越性が示せなかった点は共通している。TROP2は、肺がんを含め多くのがん腫で高頻度に発現していることが報告されていることからADCの良い標的と考えられてきたが、実際の臨床試験で示される有効性はその発現割合とは異なっており、前治療等による蛋白発現への影響が示唆されている。Dato-DXdを用いて、TROP2蛋白発現だけでなくマルチオミックス解析を付加した臨床試験の結果がGustave Roussyでも報告されており、ADCにおいても治療前の標的蛋白の評価の重要性が示唆されている。周術期治療アップデート・追加解析周術期治療に関してもいくつかのアップデート、追加解析の報告が行われている。日本においても1年ほど前に承認された、術前ニボルマブ+化学療法の有効性を評価したCheckMate 816試験の4年アップデート解析が報告された。無イベント生存期間(EFS)は3年時点で53%、4年時点で49%の点推定値が報告され、48ヵ月以降はプラトーに達しているかのような生存曲線であり、引き続き良好な成績であった。OSについても同時にアップデートが報告され、3年時点で77%、4年時点で71%と、コントロール群に比べ明確に良好であるものの、もともとの統計設定でOSの優越性を評価する基準が厳しく、統計学的には優越性を示すことができていない。術前のみのCheckMate 816試験は周術期免疫チェックポイント阻害薬の試験ではむしろマイノリティであり、同じ企業が実施したCheckMate 77T試験を含め、他の試験はほぼ術後免疫チェックポイント阻害薬も実施する試験治療を採用している。CheckMate 77T試験からは、N2リンパ節転移のSingle vs.Multipleで、周術期免疫チェックポイント阻害薬の意義が異なるかを検討したサブグループ解析が報告され、結果としてはMultiple N2であっても周術期ニボルマブの意義は十分に存在するというものであった。N2リンパ節のSingle/Multipleに関する解析が企業治験で実施されることの意義は大きい。Multiple N2でも周術期免疫チェックポイント阻害薬の意義は明白であり、R0切除を目指すことができると判断されている状況であれば、Multiple N2であっても切除を前提とした周術期免疫チェックポイント阻害薬が選択肢となりうることが示された。ADAURA試験からは、ctDNAを用いたMRD解析の結果が報告されている。RaDaRと呼ばれるTissue-InformedのMRD解析が用いられており、MRD解析の意義が示されている。ただ、MRD解析においてポイントとなるランドマーク時点(術後アジュバント前)の解析結果というよりは、モニタリング相におけるMRD陽性から画像診断上の再発までの解析に主眼が置かれており、今後の追加解析に期待したい。抗体医薬品の進歩近年の抗体医薬品の進歩は目を見張るものがある。現時点でその中心はADCだが、今後はBispecific抗体、BiTE等がそこに加わり、より多様な展開を示すことが期待されている。抗体製剤に比較的共通する特徴としてInfusion-related reaction(IRR)があり、その対処を目指した試験がPALOMA-3試験である。amivantamabは開発当初からIRRが課題とされており、IV投与よりも皮下注射のほうがIRRの頻度を低減させられることはすでに知られていた。PALOMA-3試験は、amivantamabとlazertinibの併用療法において、amivantamabのIVと皮下注射の有効性と安全性、薬物動態を評価した第III相試験である。主要評価項目は薬物動態における同等性とされ、副次評価項目に奏効割合、PFS等が設定されている。主要評価項目である薬物動態では同等の結果が得られ、IRRの頻度において、IVが66%に対して皮下注射では13%であり、明らかにIRRの頻度を抑制することが可能となった。皮膚毒性等については同等であった。さらに、PFSのハザード比が0.84、95%信頼区間0.64~1.10であり、OSのハザード比は0.62、95%信頼区間0.42~0.92と、いずれも皮下注射で良好という結果であり、安全性、有効性ともに皮下注射を支持する結果であった。また、血管内皮増殖因子(VEGF)と、抗PD-1抗体のBispecific抗体であるivonescimabを用いたHARMONi-A試験の結果も報告された。EGFR-TKI後に増悪したEGFR遺伝子変異陽性進行非小細胞肺がんを対象に、プラチナ併用化学療法とivonescimabもしくはプラセボを併用する第III相試験である。PFSのハザード比は0.46、95%信頼区間0.34~0.62、OSのハザード比は0.72、95%信頼区間0.48~1.09と、PFSでは統計学的に有意に、OSにおいても併用療法がより予後を改善させる傾向が示された。前出のamivantamabだけでなく、血管新生阻害薬と免疫チェックポイント阻害薬の併用療法もすでに検討されている領域に、新たな選択肢が投入される形となった。今後も複数の選択肢が開発されていく見込みであり、EGFR-TKI耐性化後の治療選択は引き続き注目を集めることになりそうである。さいごに冒頭で紹介したように、肺がんの注目演題が多数報告されたASCOは、近年の治療開発の状況を縮図のように示した学会であった。周術期や根治的な病態における免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬の役割、ADC、Bispecific抗体、BiTE等抗体医薬品の治療開発等が注目を集めている。さらに、EGFR-TKI耐性化後、EGFR遺伝子変異陽性初回治療、ALK初回治療、周術期治療等、同一の領域にさまざまな選択肢が展開される状況となることも明白であり、続々と実臨床に投入される治療法から、患者ごとに最適な選択肢をどのように検討し、提案し、相談するかが問われる時代が訪れようとしている。

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ASCO2024 レポート 血液腫瘍

レポーター紹介はじめにASCO2024の年次総会(5月31日~6月4日)は、今年も現地参加に加えWEBでの参加(視聴)も可能であり、私は昨年までと同様に現地参加はパスして(円安と米国のインフレ問題があり、現地参加は費用的に無理があります)、オンデマンドで注目演題を聴講したり発表スライドを閲覧したりしました。それらの演題の中から、今年は14演題を選んで、発表内容をレポートしたいと思います。以下に、悪性リンパ腫関連4演題、多発性骨髄腫関連6演題、白血病/骨髄増殖性腫瘍(MPN)関連4演題を紹介します。悪性リンパ腫関連Upfront allo-HSCT after intensive chemotherapy for untreated aggressive ATL: JCOG0907, a single-arm, phase 3 trial. (Abstract #7001)本演題は日本のJCOGからの発表で、ATLに対するアップフロントの同種移植の前向き試験の成績をまとめたものである。研究開始当初は、55歳以下で骨髄破壊的前処置(MAST)を行う患者のみをエントリー基準としたが、2014年9月以降は56~65歳の患者に対し骨髄非破壊的前処置(RIST)も許容された。2010年9月~2020年6月に110例の患者(72例:急性型、27例:リンパ腫型、10例:予後不良慢性型、1例:その他)がエントリーされ、92例が移植を受けた。41例がプロトコルどおりの治療を受け、51例はプロトコル治療外での移植であった(アップフロント同種移植は76例となった)。主要評価項目の3年OS(110例)は44.0%(90%CI:36.0~51.6)であり、仮説にメットした。プロトコル治療を受けた41例のうち、治療関連死(TRD)は血縁ドナー16.7%、非血縁ドナー20.7%であった。また、死亡した70例の死亡原因は、ATL 34例、TRD 30例、その他6例であった。結論として、ATLに対するアップフロント同種移植はアグレッシブATLに対し1つの治療オプションとなりうるが、生存期間の延長に関しては不明とされた。以下の3題はマントル細胞リンパ腫(MCL)に関する演題です。MCLは、悪性リンパ腫の中では比較的まれな疾患で、中悪性度に分類されますが、インドレントな経過を示す症例もあります。また、従来の免疫化学療法だけでは治癒が難しく、最近では、分子標的薬のBTK阻害薬やBCL-2阻害薬の有用性が示されています。Benefit of rituximab maintenance after first-line bendamustine-rituximab in mantle cell lymphoma. (Abstract #7006)初発MCLに対し、BR(ベンダムスチン-リツキシマブ)療法の後のR維持療法(RM)の意義については、PFS・OSを延長しない(Rummel, et al. ASCO 2016)、PFS・OSを延長する(Martin, et al. JCO 2023)という異なるデータが示されてきた。本研究では、米国で大規模な観察研究が実施され、RMの意義が検証された。BR療法(自家移植なし)後3ヵ月時点でPRあるいはCRの患者がエントリーされ、RM実施の有無で、無イベント(再発、次治療開始、死亡)率(EFS)が比較された。さらに、次治療開始例の無イベント率(EFS2)も比較された。613例がエントリーされ、318例がRMを受け、295例がRMを受けなかった。RM群では年齢が若く(69歳vs.71歳)、男性の割合が高く(78% vs.69%)、進展期の割合が高かった(95.2% vs.89.0%)が、リスク因子(MIPI)、組織型、Ki-67、TP53変異、複雑型染色体異常、BR療法の実施年代、BR療法の効果には差を認めなかった。追跡期間中央値が61.3ヵ月の時点で、RM群で有意にEFS(47.1ヵ月vs.29.7ヵ月)、EFS2(89.1ヵ月vs.48.3ヵ月)、OS(136.1ヵ月vs.74.3ヵ月)の延長を認めた。BR療法によりCRが得られた患者においても、RMにより有意にEFS、EFS2、OSの延長が示された。以上より、初発MCLに対するBR療法後のRMの有用性が明らかとなった。Efficacy and safety of ibrutinib plus venetoclax in patients with mantle cell lymphoma (MCL) and TP53 mutations in the SYMPATICO study. (Abstract #7007)SYMPATICO試験はMCL患者に対するイブルチニブ+ベネトクラクス(I-V)の効果を検証した試験であり、再発・難治(R/R)MCLに対しイブルチニブ+プラセボと比較した第III相試験では、有意にI-VのPFSがI単剤よりも延長することが報告されている(Wang M, et al. ASH 2023)。本発表では、R/R MCLに対するI-V療法の第I相試験、上記の第III相試験、また、初発MCLに対する第II相試験にエントリーされたTP53変異を有するMCL患者に対するI-V療法の効果が報告された。合計74例の患者(初発:29例、R/R:45例)が解析対象となり、年齢中央値67歳、HighリスクMIPI 43%、bulky 36%、骨髄浸潤64%、脾腫39%であった。治療期間中央値が40.1ヵ月時点で、PFS中央値20.9ヵ月、全奏効率84%、CR率57%、OS中央値47.1ヵ月であった。PFSは初発とR/Rにて差を認めなかった。I-V併用療法は、TP53変異陽性のHighリスクMCL患者にも有用であることが示された。Glofitamab monotherapy in patients with heavily pretreated relapsed/refractory (R/R) mantle cell lymphoma (MCL): Updated analysis from a phase I/II study. (Abstract #7008)CD20XCD3の二重特異性抗体であるglofitamab(Glof)単剤でのR/R MCLに対する臨床試験のフォローアップ(中央値:19.6ヵ月)のデータが報告された。Glofは固定期間(約8.5ヵ月間)の治療である。Glof治療を受けた60例のR/R MCL患者が解析された。前治療のライン数は2(1~5)、73.3%が最終治療に抵抗性、前治療にBTK阻害薬の投与を受けた31例中29例がBTK阻害薬に抵抗性であった。Glofは、中央値12サイクル投与され、全奏効率85.0%、CR率78.3%であり、CRが得られた患者の治療奏効期間(DOCR)の中央値は15.4ヵ月であった。とくに、BTK阻害薬の前治療歴のある患者の全奏効率は74.2%、CR率71.0%であり、DOCRは12.6ヵ月であった。R/R MCLの治療、とくにBTK阻害薬に抵抗性の患者に対し、Glofは有望な治療薬であることが示された。多発性骨髄腫関連今年の多発性骨髄腫(MM)の演題は、初発MMに対する4剤併用の試験の3演題とR/R MMに対するCAR-T細胞治療の3演題を紹介します。Phase 3 study results of isatuximab, bortezomib, lenalidomide, and dexamethasone (Isa-VRd) versus VRd for transplant-ineligible patients with newly diagnosed multiple myeloma (IMROZ). (Abstract #7500)移植非適応初発MM患者に対するVRd-Rd療法とIsaVRd-IsaRd療法を比較した第III相試験(IMROZ試験)の結果が報告された。80歳以上は除外され、VRd-Rd療法に181例、IsaVRd-IsaRd療法に265例が割り当てられた。主要評価項目はPFS、主な副次評価項目はCR率、MRD陰性率、VGPR以上率、OSであった。追跡期間中央値59.7ヵ月時点でのPFSは、54.3ヵ月vs.未達(HR:0.596)、CR率は64.1% vs.74.7%、MRD陰性CR率は40.9% vs.55.5%と、いずれもIsaVRd-IsaRd療法の有効性が優れた。Isa併用によりVRdのRDIの低下は認めず、安全性も問題とはならなかった。Phase 3 randomized study of isatuximab (Isa) plus lenalidomide and dexamethasone (Rd) with bortezomib versus IsaRd in patients with newly diagnosed transplant ineligible multiple myeloma (NDMM TI). (Abstract #7501)移植非適応初発MM患者に対するIsaRd(12サイクル)-IsaR療法とIsaVRd(12サイクル)-IsaVR(6サイクル)-IsaR療法を比較した第III相試験(BENEFIT/IFM2020-05試験)の結果が報告された。対象患者は65~79歳のnon-frail患者であった。両群135例ずつの患者が割り当てられた。主要評価項目は18ヵ月時点のMRD陰性率(NGS:10-5)であった。結果、MRD陰性率は26% vs.53%と、有意にボルテゾミブを追加した治療の効果が優れた。ただし、24ヵ月時点のPFS、OSは差を認めなかった。また、治療継続率には差を認めず安全性には問題がなかった。本研究では、主要評価項目でIsaVRd-IsaVR-IsaR療法が優れたため、対象の患者には本治療法が新たな標準療法となる可能性が示された。Daratumumab (DARA) + bortezomib/lenalidomide/dexamethasone (VRd) in transplant-eligible (TE) patients (pts) with newly diagnosed multiple myeloma (NDMM): Analysis of minimal residual disease (MRD) in the PERSEUS trial. (Abstract #7502)移植適応初発MM患者に対するDVRd療法とVRd療法、その後、DRとRによる維持療法を比較したPERSEUS試験の維持療法期のMRD陰性率についての結果が報告された。DVRd-DR群に355例、VRd-R群に354例が割り付けられた。治療開始後、12ヵ月、24ヵ月、36ヵ月時点のMRD陰性率(10-5)は、それぞれ65.1% vs.38.7%、72.1% vs.44.9%、74.6% vs.46.9%とDara併用群で有意に高い割合であり、また、経時的に陰性率の上昇を認めた。移植適応MM患者に対するDRによる維持療法の意義が示された。MRD陰性を持続できた患者のPFS、OSがどうなるか本試験の長期フォローアップの結果が注目される。Efficacy and safety of ciltacabtagene autoleucel±lenalidomide maintenance in newly diagnosed multiple myeloma with suboptimal response to frontline autologous stem cell transplant: CARTITUDE-2 cohort D. (Abstract #7505)自家移植治療(±地固め)を受けた後CRに到達しなかったMM患者を対象に、Cilta-Cel治療単独(最初の5例)とCilta-Cel治療21日以降から最長2年間レナリドミドを併用した12例の安全性、有効性が検証された。主要評価項目はMRD陰性率(10-5)であった。MRD評価が行えた15例中12例(80%)でMRD陰性が達成され、MRD陰性達成までの期間の中央値は1ヵ月であった。追跡期間の中央値が22ヵ月時点で、奏効期間の中央値は未到達、18ヵ月時点のPFSは94%(17例中16例)であった。CRSは14例でみられたが、すべてG1/2であった。ICANSは1例(G1)でみられた。また、レナリドミド併用による遷延する血球減少の有害事象の増加はみられていない。自家移植後にCRが得られない患者へのCilta-Celの投与は深い奏効が望める治療法である。Ciltacabtagene autoleucel vs standard of care in patients with functional high-risk multiple myeloma: CARTITUDE-4 subgroup analysis. (Abstract #7504)1~3ラインの前治療歴のあるR/R MM患者に対するCilta-Celと標準治療を比較したCARTITUDE-4試験に参加した患者(初期治療開始後18ヵ月以内に再発を認めたFunctional Highリスク患者を含む)の中で、セカンドラインでの治療効果を post hoc解析し、PFS、CR率、MRD陰性率を比較している。全体では、未到達vs.17ヵ月、71% vs.35%、63% vs.19%であり、Functional Highリスク患者では、未到達vs.12ヵ月、68% vs.39%、65% vs.10%であった。標準治療と比較し、Cilta-Celの有意な有効性が示された。R/R MM患者(とくにFunctional Highリスク患者)に対する早いラインでのCilta-Celの有用性が認められた。Impact of extramedullary multiple myeloma on outcomes with idecabtagene vicleucel. (Abstract #7508)髄外腫瘤(EMD)を有するMM患者に対するIde-Celの効果は不明である。Ide-Cel治療を受けた351例のR/R MM患者のうち、84例(24%)にEMDを認めた。EMD患者とEMDを有さない(Non-EMD)患者での患者背景で差を認めた因子は、年齢(62歳 vs.66歳)、PS 0-1(78% vs.89%)、ペンタドラッグ抵抗性(46% vs.32%)、リンパ球除去前の血清フェリチン値(591 vs.242)、CRP(2.1 vs.1.0)であった。治療効果は、全奏効率(@Day30)58% vs.69%(p=0.1)、全奏効率(@Day90)52% vs.82%(p<0.001)、PFS 5.3ヵ月vs.11.1ヵ月(p<0.0001)、OS 14.8ヵ月 vs.26.9ヵ月(p=0.0064)であった。また、EMD患者では、血球減少が多く認められた。EMDはIde-Cel治療の効果がNon-EMD患者と比較し、明らかに不良であることが示された。白血病/MPN関連Ponatinib (PON) in patients (pts) with chronic-phase chronic myeloid leukemia (CP-CML) and the T315I mutation (mut): 4-year results from OPTIC. (Abstract #6501)OPTIC試験の4年のフォローアップが報告された。OPTIC試験は、2剤以上のTKI治療抵抗性を有するか、T315I変異を有するCP-CML患者をポナチニブ45/30/15mgで開始し、IS-PCRが1%以下で45/30mg開始群は15mgに減量する治療法の有効性、安全性を検討した試験である。23.8%の患者がT315I変異を有していた。4年時点でのIS-PCRが1%以下率、PFS、OSを比較した。45mg→15mgの投与法で、T315I変異を有する患者で最も、IS-PCRの低下、PFSの延長がみられた。動脈閉塞の合併症率は同等であり、本試験の対象となった患者(とくにT315I変異を有する患者)に対しては、有効性、安全性の面から45mg→15mgのポナチニブの投与法が推奨される。A retrospective comparison of abbreviated course “7+7” vs standard hypomethylating agent plus venetoclax doublets in older/unfit patients with newly diagnosed acute myeloid leukemia. (Abstract #6507)メチル化阻害薬+ベネトクラクス(VEN)の併用治療は、通常の化学療法の実施が難しいfrail AML患者の標準療法となっている。VENの投与期間を28日/サイクルから短縮することで骨髄抑制は軽減されるが、有効性が失われないかどうかは不明である。VENの投与期間を7日間に短縮した7+7を実施したフランスの患者82例と通常の21~28日で投与したMDACC(USA)の患者166例をレトロスペクティブに比較した。CR+CRi率、CR率は両治療法で差を認めなかったが、CRに到達するためのサイクル数は7+7治療で、1サイクル多かった(2 vs.1サイクル)。OS中央値は11.2ヵ月 vs.10.3ヵ月、2年OSは28% vs.34%で差を認めなかった。8週時点での死亡率は6%と16%で有意に7+7で少なく、また、血小板輸血も少なかった。以上より、7+7の投与期間は、有効性、安全性の面でも十分に許容されると思われた。Updated safety and efficacy data from the phase 3 MANIFEST-2 study of pelabresib in combination with ruxolitinib for JAK inhibitor treatment-naive patients with myelofibrosis. (Abstract #6502)pelabresib(PELA)は新規のBET阻害薬であり、骨髄線維症(MF)の遺伝子発現を抑制する。MANIFEST-2試験はJAK阻害薬治療を受けたことがないMF患者に対するルキソリチニブ(Rux)+PELA(214例)とRux+プラセボ(216例)を比較した第III相比較試験である。DIPSSスコアがInt-1以上のMF患者が対象であり、主要評価項目は24週時点での脾臓体積の35%減少(SVR35)率であり、副次評価項目として症状スコア(TSS)の改善を検討している。結果、Rux+PELA群でSVR35率が65.9%(vs.35.2%)と、有意に多くの患者で脾腫の縮小が認められた。また、Rux+PELA群で、脾腫の縮小は早くみられ、その効果は長く維持された。TSSの改善も、Rux+PELA群で良い傾向が示された。また、貧血、骨髄線維化の改善がRux+PELA群で有意に多くみられた。有害事象としては、血小板減少と下痢がやや多かったが、総じてRux単独と変わりなかった。MFに対し、Rux単独と比較し、Rux+PELA併用が有効であることが示されている。ASC4FIRST, a pivotal phase 3 study of asciminib (ASC) vs investigator-selected tyrosine kinase inhibitors (IS TKIs) in newly diagnosed patients (pts) with chronic myeloid leukemia (CML): Primary results. (Abstract #LBA6500)初発CML患者に対し、既存のTKIとアシミニブ(ASC)を比較した第III相試験(ASC4FIRST試験)の最初の解析結果がLBAにて報告された。TKIの種類はランダム化前に主治医と患者の判断で選択された(IS-TKI)。また、ランダム化前に2週間以内であれば、TKIの服用が許容された。本試験の目的は、48週時点でのASC群のMMR達成率がIS-TKI群と比較して優れていることを示すことであった。ASC群に201例、IS-TKI群に204例(IM:102、第2世代[2G]:102[NI:48%、DA:41%、BO:11%])がエントリーされた。結果、48週時点のMMR達成率はASC群67.7%、IS-TKI群49.0%であり、有意にASC群で優れた。データカットオフ時点での治療薬の継続率は、ASC群86%、IM群62%、2G群75%であり、中止理由として、効果不十分が6%、21%、10%、有害事象が5%、11%、10%であった。以上の結果より、ASCは既存のTKIと比較し、初発CML患者に対する有効性、安全性に優れていることが示された。おわりに以上、ASCO2024で発表された血液腫瘍領域の演題の中から14演題を紹介しました。過去3年間のASCO2021、2022、2023では10演題ずつを紹介しましたが、今年発表された演題もこれまでと同様に、今後の治療を変えていくような結果であるように思いました。来年以降も現地開催に加えてWEB開催を継続してもらえるならば、ASCO2025にオンライン参加をしたいと考えています(1年前にも書きましたが、もう少しWEBでの参加費を安くしてほしい、さらに円安が続く今日この頃[笑])。

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オシメルチニブのEGFR陽性NSCLC1次治療、化学療法との併用で添付文書を改訂/AZ

 アストラゼネカは2024年6月25日、オシメルチニブ(商品名:タグリッソ)の「用法及び用量に関連する注意」などにおける記載を変更し、電子化された添付文書(電子添文)を改訂したと発表した。EGFR遺伝子変異陽性の手術不能または再発非小細胞肺がん(NSCLC)治療薬としてオシメルチニブと化学療法との併用療法が可能となる。 今回の改訂は、EGFR変異陽性NSCLC1次治療におけるオシメルチニブと化学療法の併用治療とオシメルチニブ単剤治療を比較した第III相FLAURA2試験の結果に基づくもの。試験の結果、同剤と化学療法の併用が可能と判断された。 FLAURA2試験ではオシメルチニブと化学療法の併用がオシメルチニブ単剤に対し、主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)を有意に改善した(ハザード比:0.62、95%信頼区間:0.49~0.79、p<0.0001)。 EGFR変異陽性NSCLCの1次治療において、オシメルチニブ投与により臨床転帰は改善するものの、大部分の患者では病勢進行が認められる。オシメルチニブの耐性化を抑制できるより有効性・安全性の高い治療法が求められるなか、オシメルチニブ併用療法群は単剤療法を上回るPFSが認められたこととなる。 「用法及び用量に関連する注意」の改訂「他の抗悪性腫瘍剤との併用について、有効性及び安全性は確立していない」の記載を削除し、「本剤を他の抗悪性腫瘍剤と併用する場合、併用する他の抗悪性腫瘍剤は「17.臨床成績」の項の内容を熟知し選択すること」に変更。

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T1N0のHER2+乳がんへの術後トラスツズマブ、生存ベネフィットは

 腫瘍径が小さく、リンパ節転移のないHER2陽性乳がん患者において、化学療法の有無にかかわらず術後トラスツズマブ療法が無浸潤疾患生存期間(iDFS)を有意に改善することが、米国臨床腫瘍学会のデータベースを用いた多施設共同後ろ向き解析により示された。米国・オハイオ大学のKai C. C. Johnson氏らによるNPJ Breast Cancer誌2024年6月19日号への報告より。 米国臨床腫瘍学会のCancerLinQデータベースを用いて、2010~21年の間に診断され、局所療法のみまたは局所療法+術後トラスツズマブ療法(+/-化学療法)を受けたT1a~c、N0のHER2陽性乳がん患者の生存転帰が比較された。主要評価項目はiDFSと全生存期間(OS)であった。 主な結果は以下のとおり。・適格基準を満たした1,184例のうち、436例は局所療法のみ、169例は術後トラスツズマブ単剤療法、579例は術後トラスツズマブ+化学療法を受けていた。・ベースライン特性は3群でバランスがとれており、年齢中央値が60.4(18.9~95.4)歳、ホルモン受容体陽性が54.9%、T1mic:1.2%/T1a:17.1%/T1b:27.4%/T1c:51.9%であった。・単変量解析の結果、化学療法の有無にかかわらず術後トラスツズマブ療法を受けた場合、iDFS(ハザード比[HR]:0.73、95%信頼区間[CI]:0.57~0.93、p=0.003)およびOS(0.63、0.41~0.95、p=0.023)の有意な改善が認められ、多変量解析においても有意な改善が認められた。・3群単変量解析の結果、局所療法のみと比較して術後トラスツズマブ単剤療法(HR:0.51、95%CI:0.33~0.79、p=0.003)および術後トラスツズマブ+化学療法(0.75、0.58~0.97、p=0.027)でiDFSの有意な改善が認められた。・サブグループ解析の結果、T1b/T1cの患者ではiDFSとOSのいずれにおいても明らかなベネフィットがみられたが、T1aの患者ではみられなかった。

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局所進行食道がんの術前補助療法、3剤併用がOSを改善/Lancet

 局所進行食道扁平上皮がん(OSCC)の術前補助療法において、シスプラチン+フルオロウラシルによる2剤併用化学療法(NeoCF)と比較して、これにドセタキセルを追加した3剤併用化学療法(NeoCF+D)が全生存率を有意に改善し、日本における新たな標準治療となる可能性がある一方で、NeoCFに比べNeoCF+放射線(NeoCF+RT)では全生存率の有意な改善効果を認めないことが、国立がん研究センター中央病院の加藤 健氏らが実施した「JCOG1109試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2024年6月11日号に掲載された。日本の44施設の無作為化第III相試験 JCOG1109試験は、日本の44施設で実施した非盲検無作為化第III相試験であり、2012年12月~2018年7月に参加者を募集した(日本医療研究開発機構[AMED]などの助成を受けた)。 年齢20~75歳、全身状態の指標であるEastern Cooperative Oncology Group performance status(ECOG PS)が0または1で、未治療の局所進行OSCC(StageIB、II、III[T4は含まない])の患者601例を登録し、NeoCF群に199例(年齢中央値65歳[範囲:38~75]、女性11%)、NeoCF+D群に202例(64歳[41~75]、12%)、NeoCF+RT群に200例(65歳[30~75]、14%)を無作為に割り付けた。 NeoCF群ではCF療法を2コース、NeoCF+D群ではCF+D療法を3コース、NeoCF+RT群ではCF療法を2コース施行後に総線量41.4Gyの放射線照射を行った。引き続き、全例で食道切除術と局所リンパ節郭清を実施した。 主要評価項目は、ITT集団における全生存率とした。無増悪生存率、客観的奏効率、病理学的完全奏効率も良好 追跡期間中央値50.7ヵ月の時点における3年全生存率は、NeoCF群が62.6%(95%信頼区間[CI]:55.5~68.9)であったのに対し、NeoCF+D群は72.1%(65.4~77.8)と有意に優れた(ハザード比[HR]:0.68、95%CI:0.50~0.92、p=0.006)。一方、NeoCF+RT群の3年全生存率は68.3%(95%CI:61.3~74.3)であり、NeoCF群の62.6%(55.5~68.9)に比べ有意な差を認めなかった(HR:0.84、95%CI:0.63~1.12、p=0.12)。また、全生存期間中央値は、NeoCF+D群で未到達、NeoCF群で5.6年であった。 3年無増悪生存率は、NeoCF群の47.7%(95%CI:40.6~54.4)に比べNeoCF+D群は61.8%(54.7~68.1)と良好であった(HR:0.67、95%CI:0.51~0.88)。無増悪生存期間中央値は、NeoCF+D群で未到達、NeoCF群で2.7年だった。 測定可能病変を有する患者における客観的奏効率は、NeoCF群の42.4%(95%CI:30.3~55.2)と比較して、NeoCF+D群は76.4%(64.9~85.6)と高率であり、病理学的完全奏効の割合も、NeoCF群の2.0%(95%CI:0.6~5.1)に対しNeoCF+D群は19.8%(14.5~26.0)と良好だった。手術前後の安全性プロファイルはNeoCF+Dで比較的管理しやすい Grade3以上の発熱性好中球減少は、NeoCF群で193例中2例(1%)、NeoCF+RT群で191例中9例(5%)に発現したのに比べ、NeoCF+D群では196例中32例(16%)と頻度が高かった。また、術前補助療法の中止の原因となった治療関連有害事象は、NeoCF群(8/199例[4%])およびNeoCF+RT群(12/200例[6%])に比べNeoCF+D群(18/202例[9%])で高頻度であった。術後補助療法期間中の治療関連死は、NeoCF群で3例(2%)、NeoCF+D群で4例(2%)、NeoCF+RT群で2例(1%)に認めた。 Grade2以上の術後の肺炎、食道吻合部漏出、反回神経麻痺が、NeoCF群で185例中それぞれ19例(10%)、19例(10%)、28例(15%)に、NeoCF+D群で183例中18例(10%)、16例(9%)、19例(10%)に、NeoCF+RT群で178例中23(13%)、23例(13%)、17例(10%)に発現した。術後の院内死亡は、NeoCF群3例、NeoCF+D群2例、NeoCF+RT群1例であった。 著者は、「手術前後のNeoCF+D群の安全性プロファイルは、NeoCF群やNeoCF+RT群よりも管理しやすいものであった。本試験の目的は、NeoCF+D群とNeoCF+RT群の直接比較ではなく、この2つの群の優越性を認めた場合に、より大規模な比較試験に進む計画であった」と述べたうえで、「各治療群のリスクとベネフィットを明らかにするには、より長期の追跡による最新のデータの解析が必要である」としている。

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NSCLC患者への周術期ペムブロリズマブ、QOLの評価(KEYNOTE-671)/ASCO2024

 切除可能な非小細胞肺がん(NSCLC)患者を対象としたKEYNOTE-671試験では、術前補助療法としてペムブロリズマブ+化学療法、術後補助療法としてペムブロリズマブを用いた場合、術前補助療法として化学療法を用いた場合と比較して、無イベント生存期間(EFS)、全生存期間(OS)などが有意に改善したことが報告されている1)。今回、本試験における健康関連QOL(HRQOL)の解析結果が、米国臨床腫瘍学会年次総会(2024 ASCO Annual Meeting)で、イタリア・Fondazione IRCCS Istituto Nazionale dei TumoriのMarina Garassino氏より発表された。 KEYNOTE-671試験では、対象患者797例を以下のとおり試験群と対照群に1対1で無作為に割り付けた。・試験群(397例):ペムブロリズマブ200mg+化学療法(シスプラチン[75mg/m2]+ゲムシタビン[1,000mg/m2を各サイクル1、8日目]またはペメトレキセド[500mg/m2])を3週ごと最大4サイクル→手術→ペムブロリズマブ200mgを3週ごと最大13サイクル・対照群(400例):プラセボ+化学療法(同上)を3週ごと最大4サイクル→手術→プラセボを3週ごと最大13サイクル HRQOLの変化は副次的評価項目であり、患者はベースライン、術前補助療法フェーズ(手術前最後の受診時)、術後補助療法フェーズ(術後補助療法の1~4、7、10、13サイクル目)、術後補助療法後のフォローアップ期間中に、EORTC QLQ-C30およびQLQ-LC13の調査票に回答した。 主な結果は以下のとおり。・調査票への回答率は、両群ともに術前補助療法フェーズの11週目で87%以上(コンプライアンス87%以上)、術後補助療法フェーズの10週目で62%以上(コンプライアンス92%以上)であった。・ベースラインから術前補助療法フェーズの11週目までの変化および術後補助療法フェーズの10週目までの変化は、QLQ-C30の全般的な健康状態/QOL、機能尺度(身体、役割)、症状尺度/項目(呼吸困難)、QLQ-LC13の症状尺度/項目(咳、胸痛)において、両群間に差はなかった。・QLQ-C30の全般的な健康状態/QOL、機能尺度(身体、役割)は両群ともに術前補助療法フェーズで低下が認められたが、術後補助療法フェーズでおおむねベースラインレベルまで上昇した。 Garassino氏はKEYNOTE-671試験におけるHRQOLの結果について「OSとEFSの改善、新たな安全性シグナルが認められなかったことと併せて、術前および術後補助療法におけるペムブロリズマブの使用が新しい標準治療であることを裏付けている」とまとめた。

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進展型小細胞肺がん、アテゾリズマブ+化学療法へのベバシズマブ上乗せの有用性は?(BEAT-SC)/ASCO2024

 進展型小細胞肺がん(ED-SCLC)の標準治療の1つに、アテゾリズマブ+カルボプラチン+エトポシド(ACE療法)がある。非小細胞肺がんでは、アテゾリズマブ+ベバシズマブ+化学療法は、アテゾリズマブ+化学療法と比較して優れた治療効果を有し、アテゾリズマブとベバシズマブには相乗効果があることが示されている1)。そこで、ED-SCLC患者を対象に、ACE療法へのベバシズマブ上乗せ効果を検討する「BEAT-SC試験」が、日本および中国で実施された。本試験において、ベバシズマブ上乗せにより無増悪生存期間(PFS)が有意に改善したが、全生存期間(OS)の改善はみられなかった。大江 裕一郎氏(国立がん研究センター中央病院 副院長/呼吸器内科長)が、米国臨床腫瘍学会年次総会(2024 ASCO Annual Meeting)において、本試験の結果を報告した。・試験デザイン:国際共同第III相無作為化比較試験・対象:未治療のED-SCLC患者333例・試験群(ACE+ベバシズマブ群):ACE療法(アテゾリズマブ+カルボプラチン/シスプラチン+エトポシド)+ベバシズマブを3週ごと4サイクル→アテゾリズマブ+ベバシズマブを3週ごと 167例(日本人66例)・対照群(ACE+プラセボ群):ACE療法+プラセボを3週ごと4サイクル→アテゾリズマブ+プラセボを3週ごと 166例(日本人75例)・評価項目:[主要評価項目]治験担当医師評価に基づくPFS[副次評価項目]OS、治験担当医師評価に基づく奏効割合(ORR)、奏効期間(DOR)、安全性など・解析計画:PFSとOSは階層的に検定し、PFSが有意に改善した場合にOSの解析を実施することとした。OSについては3回の中間解析が予定され、今回は第1回中間解析の結果が報告された。・層別化因子:性別、ECOG PS、プラチナ製剤の種類(カルボプラチン/シスプラチン) 主な結果は以下のとおり。・患者背景は両群で同等であったが、過去の試験と比較して喫煙歴のない患者や脳転移を有する患者が多く、シスプラチンを用いる患者が少なかった。・主要評価項目の治験担当医師評価に基づくPFSの中央値は、ACE+ベバシズマブ群5.7ヵ月、ACE+プラセボ群4.4ヵ月であり、ACE+ベバシズマブ群がACE+プラセボ群と比較して有意に改善した(ハザード比[HR]:0.70、95%信頼区間[CI]:0.54~0.90、p=0.0060)。・事前に規定したPFSのサブグループ解析では、現喫煙者のサブグループを除いてACE+ベバシズマブ群が良好な傾向にあった。・OSのデータは未成熟であったが、OS中央値はACE+ベバシズマブ群13.0ヵ月、ACE+プラセボ群16.6ヵ月であった(HR:1.22、95%CI:0.89~1.67、p=0.2212)。・ORRはACE+ベバシズマブ群81.9%、ACE+プラセボ群73.3%であった。DOR中央値はそれぞれ4.3ヵ月、4.0ヵ月であった。・治療関連有害事象の内訳は両群で同等であったが、蛋白尿と高血圧はACE+ベバシズマブ群に多く発現した。治療中止に至った有害事象は、ACE+ベバシズマブ群20.5%、ACE+プラセボ群16.5%に発現した。 大江氏は、本結果について「ACE+ベバシズマブ群はACE+プラセボ群と比較してPFSを有意に改善し、主要評価項目を達成した。OSは本解析時点では未成熟であり、ACE療法へのベバシズマブ上乗せによる改善はみられなかった。ACE療法へのベバシズマブ上乗せの忍容性はおおむね良好であり、新たな安全性に関するシグナルはみられなかった」とまとめた。なお、OSについては、解析が継続される予定となっている。■関連記事ABCP療法、肺がん肝転移例に良好な結果(IMpower150)/ASCO2019

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ALK陽性NSCLCにおける術後アレクチニブ、健康関連QOLへの影響(ALINA)/ASCO2024

 ALK融合遺伝子陽性非小細胞肺がん(NSCLC)に対するアレクチニブの術後補助療法における有用性を検討したALINA試験では、アレクチニブがプラチナベースの化学療法と比較して、無病生存期間(DFS)を有意に改善したことが報告されている1)。今回、本試験における健康関連QOL(HRQOL)を解析した結果、精神的、身体的項目のベースラインからの改善が認められ、投与期間中維持されたことが米国臨床腫瘍学会年次総会(2024 ASCO Annual Meeting)で、がん研有明病院の西尾 誠人氏より発表された。 ALINA試験では、対象患者257例をアレクチニブ群(600mgを1日2回、2年間または再発まで)と化学療法群(3週ごと4サイクルまたは再発まで)に1対1で無作為に割り付けた。探索的評価項目であるHRQOLはベースライン、3週間ごと(ベースラインから12週目まで)、12週間ごと(12週目以降)に測定された。測定にはSF-36v2を用い、機能的健康状態を8つのドメインとそれらをまとめた身体的側面のサマリースコア(Physical component summary:PCS)および精神的側面のサマリースコア(Mental component summary:MCS)で評価した。スコアは米国の国民標準値に基づいて採点され、数値が高いほどQOLが良好であることを示す。臨床的に意味のある最小重要差(MID)を各項目のベンチマークとした。 主な結果は以下のとおり。・両群ともにHRQOLの測定完了率は高く、試験期間を通じておおよそ90%を超えていた。・ベースラインのスコアは両群で類似しており、「活力」以外のドメイン、PCSおよびMCSは米国の国民標準値を下回っていた。・ベースラインから12週までのスコアの平均変化は、アレクチニブ群において「身体の痛み」「日常役割機能(身体)」「心の健康」「社会生活機能」「活力」の5つのドメインとMCSにおいてMIDを上回る改善が認められた。化学療法群においては、すべてのドメイン、PCSおよびMCSのいずれも改善が認められず、「全体的健康感」「活力」の2つのドメインではMIDを上回る悪化が認められた。・MCSとPCSは、アレクチニブ群において96 週目までに改善、治療期間中維持され、米国の国民標準値と同等のレベルに到達した。化学療法群においては、化学療法終了後(12週目以降)から改善が認められ、米国の国民標準値と同等のレベルに到達した。 西尾氏は、術後患者のQOLは臨床的に考慮すべき重要な事項であるとしたうえで、今回の結果を「DFS改善のベネフィットと併せて、アレクチニブの術後補助療法としての使用が重要な新規治療戦略であることを支持するデータである」とまとめた。

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造血幹細胞移植後GVHDにROCK2阻害薬ベルモスジル発売開始/Meiji Seikaファルマ

 2024年5月、Meiji Seikaファルマは造血幹細胞移植後の慢性移植片対宿主病(GVHD)に対する新薬、選択的ROCK2阻害薬ベルモスジル(商品名:レズロック)を発売開始した。本薬剤はKadmon(現サノフィ)が開発したもので米国では2021年に発売されており、今回国内治験が終了し、保険承認、販売開始に至った。6月6日には慢性GVHDと本薬剤についてのプレスセミナーが行われ、北海道大学大学院 血液内科の豊嶋 崇徳氏が「造血幹細胞移植の最新動向と移植後の健康問題」と題した講演を行った。 「造血幹細胞移植には、患者自身の細胞を使う自家移植と、血縁者や白血球の型が合う他人の細胞を使う同種移植があり、近年では自家移植が年間約2,000件超の一方で、同種移植は4,000件弱と倍近く行われている。この背景には、骨髄バンク・さい帯血バンクなどが充実したことや、以前は移植不適とされたHLA(ヒト白血球抗原)が半合致の人からも新たなGVHD予防法の開発によって移植できるようになったことがある。 造血幹細胞移植は化学療法不応の造血器腫瘍、とくに急性骨髄性白血病や急性リンパ性白血病の患者にとって「最後の砦」といえるもので、実際に約30~40%の患者が移植後に治癒に至るという強力な治療法だ。しかし、同種移植後の患者にとってしばしば問題になるのが、ドナー由来の免疫細胞が患者の体を非自己と認識して攻撃することで発症するGVHDだ。移植後数ヵ月内に生じる急性GVHDと3ヵ月~2年程度で発症する慢性GVHDがあり、全身に炎症や組織の線維化など膠原病と同様の症状が出て、患者のQOLを著しく落とす。GVHD予防のため移植後に免疫抑制剤を投与するが、完全に防ぐことはできず、移植後患者の約3分の1が発症する。全身症状に苦しみ、社会復帰も叶わず、「移植などしなければよかった」と訴える患者さんに、対峙するわれわれもつらい状況だった。 慢性GVHDの第1選択は副腎皮質ステロイドによる治療だが、効果があるのは半数程度で、長年ステロイド耐性の慢性GVHD患者には承認された薬剤がない状況だった。しかし、ここ数年で状況が変わった。2021年にBTK/ITK阻害薬イブルチニブ(商品名:イムブルビカ)、2023年にはJAK1/2阻害薬ルキソリチニブ(商品名:ジャカビ)が慢性GVHD薬として承認された。いずれも他疾患の治療薬として開発されたものの転用だ。そして今回ROCK2阻害薬ベルモスジルが加わった。3剤はそれぞれ作用機序が異なり、1剤で効果がなくても他剤を試すことができる。患者にとって選択肢が増えたことは喜ばしい。 ベルモスジルの承認根拠となった国内試験ME3208-2は慢性GVHD 患者21例を対象としたもので、全奏効率85.7%(すべて部分奏効)と高い効果を示した。慢性GVHDは全身に症状が出るため完全奏効例はなかったものの、臓器別では口腔症状や皮膚症状に高い有効性を認めた。重篤な副作用がほとんどなく、とくにほかの免疫抑制剤で頻繁にみられる血球減少、感染症が少ないことが評価できる」。 講演後の質疑応答では、ベルモスジルの1次治療からの投与や小児への適用、先行する2剤との使い分けや併用効果などについて質問が出た。豊嶋氏は「どれもあり得る選択だろうが、まずは臨床現場で使いながら患者ごとの最適な治療法をディスカッションし、今後の開発や承認につなげたい」とした。

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EGFR-TKI治療後の再発NSCLC、ivonescimab追加でPFSが改善/JAMA

 上皮成長因子受容体(EGFR)チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)による治療後に病勢が進行したEGFR変異陽性の局所進行または転移のある非小細胞肺がん(NSCLC)の治療において、化学療法単独と比較してivonescimab(抗プログラム細胞死-1[PD-1])/血管内皮細胞増殖因子[VEGF]二重特異性抗体)+化学療法は、無増悪生存期間(PFS)を有意に改善し、安全性プロファイルは忍容可能であることが、中国・中山大学がんセンターのWenfeng Fang氏らHARMONi-A Study Investigatorsが実施した「HARMONi-A試験」で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2024年5月31日号で報告された。上乗せ効果を評価する中国の無作為化プラセボ対照第III相試験 HARMONi-A試験は、中国の55施設で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2022年1~11月に参加者を登録した(Akeso Biopharmaの助成を受けた)。 年齢18~75歳で、EGFR-TKI療法後に病勢が進行したEGFR変異陽性の局所進行または転移のあるNSCLC(AJCC病期分類[第8版]のStageIIIB、IIIC、IV)の患者322例を登録した。 これらの患者を、ivonescimab+化学療法(ペメトレキセド+カルボプラチン)を受ける群に161例(年齢中央値59.6歳[範囲:32.3~74.9]、女性52.2%)、プラセボ+化学療法を受ける群に161例(59.4歳[36.2~74.2]、50.9%)を無作為に割り付けた。試験薬の投与は3週ごとに4サイクル行い、引き続き維持療法としてそれぞれivonescimab+ペメトレキセド、プラセボ+ペメトレキセドを投与した。 主要評価項目は、独立画像審査委員会(IRRC)の評価によるITT集団におけるPFSとした。今回は、予定されていた初回中間解析の結果を報告した。奏効率も良好 データカットオフ日(2023年3月10日)の時点での追跡期間中央値は7.89ヵ月であった。IRRCの評価によるPFS中央値は、プラセボ群が4.8ヵ月(95%信頼区間[CI]:4.2~5.6)であったのに対し、ivonescimab群は7.1ヵ月(5.9~8.7)と有意に延長した(群間差:2.3ヵ月、ハザード比[HR]:0.46[95%CI:0.34~0.62]、p<0.001)。 事前に規定されたサブグループ解析では、大部分のサブグループにおいてプラセボ群よりもivonescimab群でPFSに関する有益性が示され、たとえば第3世代EGFR-TKIの投与中に病勢が進行した患者のHRは0.48(95%CI:0.35~0.66)、脳転移を有する患者では同0.40(0.22~0.73)といずれも良好だった。 また、IRRC評価による奏効率は、プラセボ群の35.4%(95%CI:28.0~43.3)に対し、ivonescimab群は50.6%(42.6~58.6)と有意に高率であった(群間差:15.6%、95%CI:5.3~26.0、p=0.006)。OSのデータは未成熟 全生存期間(OS)のデータは初回中間解析時には未成熟で、データカットオフ日の時点で69例(21.4%)が死亡した(ivonescimab群32例[19.9%]、プラセボ群37例[23%])。 試験期間中の治療関連有害事象は、ivonescimab群で99例(61.5%)、プラセボ群で79例(49.1%)に発現し、化学療法関連の有害事象が最も多かった。Grade3以上の免疫関連有害事象は、ivonescimab群で10例(6.2%)、プラセボ群で4例(2.5%)に、Grade3以上のVEGF関連の有害事象は、それぞれ5例(3.1%)および4例(2.5%)に認めた。 著者は、「ivonescimab+化学療法は、TKI抵抗性の患者における新たな治療選択肢となる可能性がある」とし、「VEGF阻害薬ベバシズマブはNSCLC患者における脳転移の進行を遅延または予防する可能性があることから、本試験の脳転移患者におけるPFSの改善は、二重特異性抗体ivonescimabによるVEGFの阻害または抗PD-1/VEGFの複合的な効果に起因する可能性がある」と指摘している。 現在、NSCLCの治療においてivonescimab単剤と併用療法を比較する複数の第III相試験が進行中だという。

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