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2025年には約50億人が民間航空機を利用すると予測されている。航空機内での急病(機内医療イベント)は、医療資源が限られ、専門的な治療へのアクセスが遅れるという制約の中で対応が必要となる。米国・デューク大学のAlexandre T. Rotta氏、MedAireのPaulo M. Alves氏らの研究グループは、84の航空会社が参加した大規模な国際データを分析し、機内医療イベントの発生頻度や、航空機の目的地変更につながる要因などを明らかにした。JAMA Network Open誌2025年9月29日号に掲載。 本研究では、2022年1月1日~2023年12月31日の期間に地上支援センターへ報告された、航空会社84社7万7,790例の機内医療イベントを対象に観察コホート研究が実施された。 主な結果は以下のとおり。・全7万7,790例の機内医療イベントにおいて、その発生頻度は乗客100万人当たり39例、フライト212便当たり1例の割合であった。・急病になった乗客は、女性が54.4%、年齢中央値43歳(IQR 27~61)であった。・機内医療イベントによる航空機の目的地変更は1.7%(1,333例)発生した。・全イベントのうち312例(0.4%)が死亡し、年齢中央値69歳(IQR 55~79)であった。急性心疾患による死亡が276例(88.5%)を占め、これらの死亡例において心肺蘇生法が実施されていた。・医療経験を持つ乗客ボランティアは、32.9%(2万5,570例)の医療イベントを支援した。また、目的地変更となった1,333例のうち1,056例(79.2%)、死亡に至った312例のうち246例(78.9%)でボランティアの関与があった。・目的地変更の主な原因は、神経系疾患(542例、40.7%)と心血管系疾患(359例、26.9%)であった。・目的地変更のオッズが高かったのは、脳卒中疑い(調整オッズ比[aOR]:20.35、95%信頼区間[CI]:12.98~31.91)、急性心疾患(aOR:8.16、95%CI:6.38~10.42)、意識変容(aOR:6.96、95%CI:5.98~8.11)であった。・全イベントにおける主な医療介入として、酸素療法(40.8%)、非麻薬性鎮痛薬(15.2%)、制吐薬(14.9%)が使用された。 本研究により、機内医療イベントは従来考えられていたよりも頻繁に発生していることが示された。世界的に航空旅客数が増加し続ける中、機内医療イベントは今後も避けられない課題であり、著者らはこれらの知見が、航空会社の方針、乗務員の訓練、緊急時対応プロトコルの改善に役立つ可能性があると結論付けている。