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高齢者の術後せん妄の予防に有効な薬物療法とは/BMJ

 術後せん妄の予防に鎮静薬デクスメデトミジンが有効であり、エビデンスの質は高くないもののコルチコステロイド、メラトニン受容体作動薬、parecoxib、経鼻インスリン、オランザピンにも潜在的な有益性があることが、英国・オックスフォード大学のMatthew Luney氏らの検討で示された。手術後に急激な意識障害や注意力の低下を来す術後せん妄は、認知症発症のリスクを高めるだけでなく、多大な医療コストの要因ともなっており、高齢化社会における重大な課題とされるが、有効な薬物療法は確立されていない。BMJ誌2026年2月12日号掲載の報告。158試験4万1,084例のネットワークメタ解析 研究グループは、高齢者の術後せん妄に有効な薬剤を特定し、罹患率や死亡率への影響を評価する目的で、既報の無作為化対照比較試験の系統的レビューとネットワークメタ解析を実施した(英国国立衛生研究所[NIHR]のdoctoral research fellowshipの助成を受けた)。 2024年3月4日の時点で、医学関連データベースに登録された関連文献を検索した。対象は、参加者の年齢が60歳以上で、全身または区域麻酔を要する手術後のせん妄の予防を目的に1つ以上の薬剤を投与し、妥当性の検証が済んでいるせん妄評価ツールをアウトカムの評価に用いた無作為化対照比較試験とした。局所麻酔のみの試験、術前に患者が機械換気を受けていた試験、せん妄の治療介入に関する試験は除外した。ベイズ法に基づくネットワークメタ解析を用いて介入法の比較を行った。 52種類の薬物介入を比較した158件の試験(参加者4万1,084例)を特定した。1件の試験の参加者数中央値は120例(四分位範囲:80~259、範囲:16~7,507)で、単施設試験が135件、多施設共同試験が23件だった。これらの試験の結果はすべて1999~2024年に発表され、87件(55%)は2021~24年に報告されていた。17件の試験を、バイアスのリスクが高いと判定した。術後せん妄は14.5%(5,957例)に発現した。術後の悪心・嘔吐の抑制効果も デクスメデトミジンは、外科領域全体(オッズ比[OR]:0.45、95%信用区間[CrI]:0.36~0.56)、胸部手術を除く各専門領域(非心臓手術のOR:0.41[95%CrI:0.31~0.54]、心臓手術:0.52[0.31~0.82]、大腿骨近位部骨折修復手術:0.35[0.17~0.63]、腹部手術:0.38[0.17~0.81]、整形外科手術:0.35[0.20~0.60]、待機的手術:0.47[0.37~0.59]、緊急手術:0.22[0.08~0.46])のいずれにおいても、プラセボに比べ術後せん妄の予防効果が高く、バイアスのリスクが高い試験を除外した感度分析(OR:0.46、95%CrI:0.36~0.57)でも高い効果を示した。 また、デクスメデトミジンの術後せん妄の予防効果は、手術時の麻酔法を問わず優れた(全身麻酔のOR:0.45[95%CrI:0.35~0.57]、区域麻酔:0.28[0.11~0.64])。 デクスメデトミジンは、低血圧(OR:1.40、95%CrI:1.08~1.81)と徐脈(1.60、1.32~2.00)の頻度が高かった一方で、術後の悪心・嘔吐(0.67、0.49~0.87)を抑制した。重症度軽減はコルチコステロイドのみ バイアスのリスクが高い試験を除外した感度分析で、デクスメデトミジンのほかに優れた術後せん妄予防効果を認めた介入として、コルチコステロイド(OR:0.53、95%CrI:0.31~0.87)、メラトニン受容体作動薬(0.54、0.34~0.85)、parecoxib(0.34、0.16~0.74)、オランザピン(0.27、0.07~0.94)、経鼻インスリン(0.13、0.04~0.34)が挙げられたが、これらの試験のエビデンスの質は中~非常に低いであった。 penehyclidineは、プラセボに比べ術後せん妄を有意に増加させた唯一の介入であった(外科領域全体のOR:6.20、95%CrI:1.19~35.37)。 Memorial Delirium Assessment Scale(MDAS)を用いた評価で、プラセボと比較してせん妄の重症度をわずかとはいえ軽減した薬剤は、コルチコステロイド(平均群間差:-2.42、95%CrI:-4.72~-0.12)のみであった。ほとんどの介入は、入院期間、死亡率、術後合併症、生活の質、術後の認知機能に影響を及ぼさなかった。また、コルチコステロイドにより感染症関連合併症が増加することはなかった(OR:0.97、95%CrI:0.66~1.65)。 著者は、「術後せん妄への介入が、せん妄の重症度、精神的苦痛(患者が重視しているにもかかわらず報告がほとんどない)、生活の質、認知機能、自立度、医療資源の消費量に及ぼす影響を評価し、医療経済分析に資する情報を得るために、厳格に実施される試験が必要なことは明らかである」としている。

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第303回 病院と診療所で「メリハリ」に違いが出た2026年度診療報酬改定、病院は急性期病院一般入院基本料新設、地域包括医療病棟入院料大幅見直しなどで地域医療構想後押しへ

病院には相当なメリハリが付けられたものの、診療所のメリハリは今ふたつ、みっつこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。急に春めいてきましたね。この週末は久しぶりの足慣らしに高尾山に行ってきました。高尾山口駅から登り始める通常ルートではなく、高尾山の南側、草戸山から大洞山、大垂水峠へと縦走し、城山側から高尾山を目指すという約18キロの周回コースです。天気も良く快適に歩けたのですが、早くも飛散し始めた花粉で目がしょぼしょぼになってしまいました。また、途中には「クマ出没注意」の看板も。エサも少なさそうなこんな低山にもツキノワグマが出ているようです。今シーズンも各地でクマ被害は増えるのでしょうか?改めて心配になってきました。さて、厚生労働省の中央社会保険医療協議会は2月13日の総会で2026年度診療報酬改定案を了承し、上野 賢一郎厚生労働相に答申しました。診療報酬本体の改定率が30年振りに3%を超え3.09%となりましたが、その半分以上は賃上げと物価高への対応に充てられることになります。改定率が決まる前、本連載「第293回 佳境迎える診療報酬改定議論、『本体』引き上げはほぼ既定路線も、最大の焦点は病院と診療所間の『メリハリ』」で、「次期改定で本当の意味での『メリハリ』が付けられるかどうか、今後の議論の行方に注目したい」と書きましたが、病院の診療報酬については相当なメリハリが付けられたものの、日本医師会を意識してか診療所のメリハリは今ひとつどころか今ふたつ、みっつの結果となりました。ということで、今回は個人的に注目した診療報酬改定でのいくつかの項目について書いてみたいと思います。「急性期病院A一般入院料」は「急性期拠点機能」の病院を想定した点数病院に関しては、2027年度からの新たな地域医療構想を見据えて、急性期を担う病院機能の明確化を推し進める内容となったのが注目点です。ポイントは地域ごとの病院単位の急性期機能を確保するため、2区分の急性期病院一般入院基本料(急性期病院Aは看護配置7対1病棟で1日につき1,930点、同Bは看護配置10対1病棟で1日につき1,643点)が新設されたことです。2040年を見据えた新たな地域医療構想では、医療機関機能が「急性期拠点機能」「高齢者救急・地域急性期機能」「在宅医療等連携機能」「専門等機能」の4つに分類されます。このうち、「急性期拠点機能」を有する病院は「人口20万~30万人ごとに1拠点」が目安とされています。新設される2区分の急性期病院一般入院基本料のうち、「急性期病院A一般入院料」はまさにそうした「急性期拠点機能」の病院を想定した点数です。また、入院料の加算である「急性期総合体制加算」と「地域医療体制確保加算2」、手術料の加算である「外科医療確保特別加算」も同趣旨の点数と言えます。「急性期病院A一般入院料」の主な要件は、「救急搬送件数:年2,000件以上」「全身麻酔手術件数:年1,200件以上」などで、入院患者数の10%以上の数の常勤医師の配置が求められます。病院全体として急性期医療への特化が必要で、地域包括医療病棟や地域包括ケア病棟入院料などとのケアミックスは認められません。該当する手術を行うたびに医師に手当が出来高で上乗せされる画期的な「外科医療確保特別加算」関連する加算のうち「急性期総合体制加算」は、現行の「総合入院体制加算」と「急性期充実体制加算」を再編統合した点数で5区分からなり、入院期間14日(7日以内、8~11日以内、12~14日以内の3段階の点数)までの加算です。このうち「急性期総合体制加算1〜4」は、「急性期病院A一般入院料」を算定する病棟を持つ病院に限定されます。ちなみに、「急性期総合体制加算1」の「7日以内の期間」の点数は530点です。「地域医療体制確保加算2」(720点)は入院料への加算で、若手医師が減少する外科系診療科(消化器、心血管、小児、循環器)の医師の勤務環境改善と処遇向上を評価する点数です。そして、「外科医療確保特別加算」は「地域医療体制確保加算2」の届出施設を対象に、胸部(食道)から腹部(胃、腸、肝胆膵)にかけての鏡視下手術を中心に、長時間かつ高難度な手術料への加算です。「当該手術の所定点数の100分の15を加算、当該診療科の医師が行った対象手術件数に応じ、休日手当、時間外手当、深夜手当、当直手当等とは別に、当該加算額の100分の30以上に相当する額を総額とする手当を当該診療科の医師に支給、当該支給額の8割以上を当該診療科に配置されている常勤医師に支給」――などが要件となっており、該当する手術を行うたびに医師に手当が出来高で上乗せされる画期的な仕組みになっています。これらは、いずれも「急性期総合体制加算」または「特定機能病院入院基本料」届出が要件となっており、「急性期拠点機能」の病院の医師(とくに外科医)確保も含めた体制維持を目的とした点数です。「高齢者救急・地域急性期機能」も評価、地域包括医療病棟入院料は大幅見直しこうした将来的に「急性期拠点機能」を担う病院の評価と並行して、「拠点機能」を持った病院が軽度な高齢者救急への対応に煩わされないよう、地域の高齢者救急を受け入れる病院の評価も2024年度改定に続いて行われました。前述の新たな地域医療構想の医療機関機能の中の「高齢者救急・地域急性期機能」の評価です。とくに高齢者救急の主要な受け入れ先となる地域包括医療病棟は、急性期病棟を併設しない場合の「地域包括医療病棟入院料1」(3,117~3,367点)と併設する場合の「同入院料2」(3,066~3,316点)の2類型に分けられます。さらに医療資源投入量に基づいて手術や緊急入院の有無に応じて入院料を3つに細分化して、点数に差を付けられます。改定後は現行の点数より最大317点アップすることになります。加えて施設基準も大きく見直されて緩和されます。改定前は「在院日数」「ADL低下割合」などの基準が高齢患者比率にかかわらず求められ、高齢者救急を多く受け入れる病棟にはハードルが高い面がありましたが、今改定では、急性期病棟併設の有無や緊急入院・手術対応などに応じて6区分に細分化され、85歳以上が多い病棟では在院日数・ADL低下割合の基準が緩和されます。一方、地域包括ケア病棟入院料も、在宅医療や協力対象施設への後方支援機能が高く評価されました。具体的には在宅患者支援病床初期加算の対象患者を緊急入院した患者にまで拡大して報酬が一部引き上げられます。このほか、在宅医療・介護保険施設の後方支援等に一定の体制と実績がある医療機関を評価する「包括期充実体制加算」(80点、14日まで)が新設されます。地域包括医療病棟または地域包括ケア病棟を持つ主に許可病床数200床未満が対象となります。かかりつけ医関連の項目はメリハリ不足、「かかりつけ医機能報告制度」との連動は持ち越しこうした、急性期病院一般入院基本料の新設、中でも「急性期病院A一般入院料」の高評価、地域包括医療病棟、地域包括ケア病棟入院料の施設基準見直しや高評価は、「新たな地域医療構想」を見越して病院の機能分化を一層推し進めるためのもので、まさにメリハリの効いた改定だと言えるでしょう。地域医療構想における調整会議が開かれる前に、地域において役割分担、機能分化を事前に進めてもらいたいという国の意向が透けて見えます。その一方で、かかりつけ医関連の項目はメリハリ不足の感が拭えません。中医協の議論の中で、支払側は2025年4月に始まった「かかりつけ医機能報告制度」と連動させ、かかりつけ医の診療機能に応じた評価体系を導入するよう求めていました。財務省も「秋の建議」においてかかりつけ医機能報告制度上、基本的な機能を有していない診療所の初診料・再診料の減算措置導入や、外来管理加算や特定疾患管理料、生活習慣病管理料などの適正化を求めていました。しかし、今回の改定では、制度開始から間もなく報告が十分集まっていないとの理由から、かかりつけ医機能報告制度のデータを踏まえた評価は導入されず、機能強化加算、生活習慣病管理料、特定疾患療養管理料、地域包括診療料(加算)、時間外対応加算などの施設基準・算定要件の小幅の改正に留まりました。ちょうど3年前、「かかりつけ医機能報告制度」を盛り込んだ法案(通称、全世代型社会保障制度関連法案)が提出された時に、本連載「第150回 かかりつけ医機能の確認めぐりひと悶着、制度化の芽も摘んだ日本医師会の執念」で、「何の強制力も、発展性も、拡張性もない、ただ『制度を作った』という事実を作るためだけの制度」と書きましたが、仮に次回、2028年度の診療報酬改定で、「かかりつけ医機能報告制度」と密に連動した、かかりつけ医関連の報酬体系が導入されないとしたら、現状、患者、地域住民にほとんど役に立たない同制度は形骸化に向かうに違いありません。

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第282回 初診は据え置き、再診は実質3点増、2026年度改定の全体像明らかに/中医協

<先週の動き> 1.初診は据え置き、再診は実質3点増、2026年度改定の全体像明らかに/中医協 2.末期腎不全も緩和ケア対象に、診療報酬改定で/厚労省 3.在宅医療にメス 頻回訪問を抑制、報酬体系を大幅見直し/厚労省 4.急性期A・B新設で何が変わる? 入院基本料再編の全体像/厚労省 5.ナースコールからランサムウェアが侵入、患者情報1万人流出/日医大武蔵小杉病院 6.医療行為が刑事裁判に 赤穂市民病院手術事故、指導体制も争点/神戸地裁 1.初診は据え置き、再診は実質3点増、2026年度改定の全体像明らかに/中医協中央社会保険医療協議会(中医協)は2月13日、2026年度診療報酬改定の内容を決定した。物価高騰と人件費上昇への対応を最重要課題に位置付け、診療報酬本体は3.09%引き上げられる。内訳は賃上げ対応1.70%、物価対応1.29%で、30年ぶりに「賃金・物価」を正面から評価する改定となった。外来では、初診料(291点)は据え置く一方で、再診料は1点引き上げられて76点とし、新設の「物価対応料」により初診・再診とも2点(20円)が加算される。これにより再診時は合計3点増となる。訪問診療でも物価対応料が上乗せとなり、いずれも1日単位で算定が可能とされた。さらに、今後の物価上昇を見据え、2027年6月以降は物価対応料を原則2倍とする方針が示されている。賃上げを実施する医療機関を評価する「ベースアップ評価料」も拡充される。外来・在宅では、初診時17点、再診時4点を基本とし、すでに賃上げを行っている医療機関ではより高い点数が付く。入院ベースアップ評価料も最大250点まで拡大され、医師・看護師に加え、事務職員や看護補助者など幅広い職種を対象に処遇改善を促す設計となった。2027年度には評価水準をさらに引き上げる。今回の改定の特徴は、外来よりも入院医療を厚く評価する点にある。急性期一般入院料は機能に応じて約8~11%引き上げられ、救急搬送件数や全身麻酔手術件数など実績を重視した評価体系が導入される。多職種協働体制を評価する新加算や、救急・外科医療体制を支援する加算も相次いで新設され、地域の急性期拠点を明確に選別する方向性が打ち出された。その一方で、入院時の食費は1食40円、光熱水費は1日60円引き上げられ、患者負担は増加する。医療DXでは、生成AIの活用を前提に医師事務作業補助体制加算の人員基準を柔軟化するなど、実績と効率化を重視する評価が強まった。総じて2026年度改定は、「賃上げを実行する医療機関」「急性期・救急機能を担う病院」「DXで生産性を高める施設」を重点的に評価する構造となった。算定の可否により病院経営への影響差は大きく、各医療機関には自院の機能定位と戦略的な届出判断が求められる。 参考 1) 個別改定項目について(厚労省) 2) 物価高・賃上げ対応で初診・再診料ともに引き上げへ…中医協が診療報酬改定内容を決定(読売新聞) 3) 物価高に対応、初診2点・再診3点引き上げ 26年度診療報酬改定、入院評価を重点化(CB news) 4) 診療報酬加算引き上げへ 中医協が改定案答申 患者窓口負担も増(NHK) 2.末期腎不全も緩和ケア対象に、診療報酬改定で/厚労省2026年度診療報酬改定で、緩和ケアの評価対象が大きく見直される。これまで診療報酬上、主にがん患者に限られてきた緩和ケアについて、末期の腎不全患者や呼吸器疾患が新たに対象に加えられることが決まった。ただし、「緩和ケア病棟」の入院料としては末期腎不全のみであり、末期呼吸器疾患は緩和ケア診療加算・外来緩和ケア管理料で算定可能となった。背景には、がん以外の疾患では十分な緩和ケアが提供されてこなかったという課題がある。とりわけ、人工透析を中断した末期腎不全患者は、呼吸困難や意識障害、強い吐き気などの重い症状に直面することが多く、苦痛緩和の必要性が指摘されてきた。今回の改定では、透析療法の開始や継続が困難な終末期の腎不全患者を、診療報酬上も正式に緩和ケアの対象として位置付ける。あわせて、高齢者を中心に問題となっている多剤服用や重複投薬への対策も強化される。病棟に勤務する薬剤師が、転院・退院時に服薬状況や副作用リスクについて患者や家族に指導した実績を適切に評価する仕組みを整える。さらに、在宅医療では医師と薬剤師が同時に訪問し服薬指導を行った場合、半年に1回3,000円を算定できる「訪問診療薬剤師同時指導料」が新設される。国の調査では、半数近くが飲み忘れや飲み残しによる残薬を自宅に保管しているとされ、60歳以上でとくに多い傾向が確認されている。処方・調剤時に残薬を確認し、調剤量を調整する取り組みを評価することで、患者の安全確保と医療費の適正化につなげる狙い。厚生労働省は、6月からの改定施行を通じ、がん以外の疾患も含めた幅広い終末期医療と薬物療法の質向上を後押ししたいとしている。 参考 1) 末期腎不全患者を緩和ケア対象に 残薬対策も 26年度診療報酬改定(毎日新聞) 2) 緩和ケアの診療報酬 末期の腎不全患者など対象の方針 中医協(NHK) 3.在宅医療にメス 頻回訪問を抑制、報酬体系を大幅見直し/厚労省2月13日に答申された、2026年度診療報酬改定では、在宅医療、とりわけ訪問看護や訪問診療を巡る報酬体系が大きく見直される。焦点となっているのは、高齢者住宅や有料老人ホームに併設された訪問看護ステーションによる「頻回訪問」や、いわゆるホスピス型住宅での過剰請求への対応だ。厚生労働省は、同一建物で多数の入居者に短時間・高頻度で訪問看護を行い、高額な報酬を得ている事例が増えているとして、包括的な評価方式を導入する。ホスピス型住宅では、従来の出来高払いに代えて定額制の包括払いを新設し、1人当たり月80~90万円に上るケースがあった報酬水準は、最大でも45万円程度に抑えられる。出来高払いを選択した場合でも、多人数への頻回訪問では報酬が引き下げられ、20分未満の訪問は算定不可となる。訪問診療についても、必要性の乏しい頻回訪問を抑制する方向が示された。要介護度や重症度の低い患者への月2回以上の訪問は原則とせず、月1回を標準と位置付ける。がんなど重症患者の割合が低い医療機関では、管理料を低い区分に制限する仕組みとし、通院可能な患者は外来対応へ誘導する。24時間往診体制の評価も、自院完結型か他院連携型かで差を設け、実質的な関与が乏しい場合の報酬を抑える。さらに、在宅医療を担う病院・診療所には、災害時の業務継続計画(BCP)の策定が施設基準として義務化される。新規開設は2026年度から、既存施設も2027年5月末までに策定が求められ、地域の訪問看護や介護事業者、行政との連携を前提とする。今回の改定では、在宅医療の「量」から「質」への転換を明確にし、高齢者の囲い込みや過剰な医療提供を抑制する一方で、真に必要な在宅・終末期医療の持続可能性を確保する狙いがある。 参考 1) 「ホスピス型住宅」報酬引き下げ 訪問看護、厚労省6月から(共同通信) 2) 在宅医療「もうけすぎ」にメス 診療報酬見直し、高齢者囲い込み防止(日経新聞) 3) 高齢者住まい等への頻回訪問に包括評価を導入(日経メディカル) 4) 在宅医療巡り病院・診療所にBCP策定義務化へ…厚労省、災害時の地域連携促す(読売新聞) 4.急性期A・B新設で何が変わる? 急性期医療の拠点化と実績重視/厚労省2026年度診療報酬改定では、急性期病院の入院基本料が大きく再編され、急性期医療の拠点化と実績重視の姿勢が鮮明になった。最大の特徴は、新たに創設された「急性期病院一般入院料A・B」である。急性期Aは1日1930点と、従来の急性期一般1より56点高く設定され、地域の基幹病院としての役割を強く評価する。急性期Bは1,643点だが、多職種7対1体制を整え「看護・多職種協働加算2(255点)」を算定すれば1,898点となり、急性期一般1を上回る水準に達する。従来の急性期一般入院料(1~6)も軒並み引き上げられ、とくに急性期一般1は1,874点へと大幅に増点された。結果として点数序列は「急性期A、次いで多職種体制を整えた急性期B、その下に急性期一般1」という構図が明確になった。単なる看護配置だけでなく、多職種協働体制の整備が収益に直結する設計となっている。さらに、総合入院体制加算と急性期充実体制加算を統合した「急性期総合体制加算」が新設された。最上位区分では入院7日以内に530点が上乗せされて、救急・高度医療を担う病院への重点配分が強化される。加えて、物価高への対応として入院でも物価対応料が加算され、2027年以降は原則倍増する見通し。今回の改定は、急性期病院に対し「どの機能を担い、どの水準を目指すのか」という戦略的選択を迫る内容であり、届出の有無が経営に大きな差を生む改定となった。 参考 1) 急性期Aは1,930点、多職種7対1急性期Bは1,898点、急性期1と多職種7対1急性期4は1,874点(Gem Med) 2) 地域包括医療病棟を「3,367-3,066点」の6区分に細分化、ADL低下割合などの基準柔軟化も(同) 3) 2026年度診療報酬改定の詳細が決定 急性期の病院機能を報酬で明確化へ(日経メディカル) 5.ナースコールからランサムウェアが侵入、患者情報1万人流出/日医大武蔵小杉病院日本医科大学武蔵小杉病院(川崎市、372床)は2月13日、ランサムウェアによるサイバー攻撃を受け、患者約1万人分の個人情報が外部に流出したと公表した。流出したのは氏名、性別、住所、電話番号、生年月日、患者IDなどで、病名・病歴や電子カルテ、クレジットカード情報の漏洩は現時点で確認されていない。攻撃者は身代金として1億ドル(約150億円)を要求しているが、病院側は支払いに応じない方針を示している。病院によると、2月9日午前1時50分頃、病棟のナースコール端末が正常に作動しなくなり、システム障害が発覚。調査の結果、ナースコール用サーバーがランサムウェアに感染していたことが判明した。侵入経路は、医療機器保守用に設置されていたVPN装置とみられ、パスワード管理が脆弱だった可能性があるという。11日には攻撃者側とみられるサイト上で、患者情報の一部流出が確認された。診療体制への直接的な影響はなく、外来・入院・救急はいずれも通常通り継続している。ただし、ナースコールは完全復旧に至っておらず、看護師の増員や病室巡回の強化で安全確保を図っている。同院は、厚生労働省や文部科学省に報告し、神奈川県警に被害届を提出。対象患者には個別通知を開始し、相談窓口も設置した。今回の事案は、医療機関における周辺システムやVPN管理の脆弱性が、診療データ以外からも大規模な情報漏洩につながり得ることを示した。医療DXが進む中、電子カルテ以外を含むシステム全体のセキュリティ点検、BCPやインシデント対応体制の再確認が、改めて医療現場に突き付けられている。 参考 1) 当院へのサイバー攻撃による個人情報漏洩に関するご報告とお詫び(第日本医科大学武蔵小杉病院) 2) 患者1万人分の個人情報漏洩 日医大武蔵小杉病院にサイバー攻撃(朝日新聞) 3) 日本医科大武蔵小杉病院にサイバー攻撃 患者約1万人の情報漏洩(日経新聞) 4) またもVPNからランサム被害、日本医科大学武蔵小杉病院で約1万人の情報漏洩(日経クロステック) 6.医療行為が刑事裁判に 赤穂市民病院手術事故、指導体制も争点/神戸地裁兵庫県赤穂市民病院で2020年1月、腰椎手術中に患者の神経を損傷し重い後遺障害を負わせたとして、当時の執刀医の男性(47)が業務上過失傷害罪に問われた事件で、神戸地裁姫路支部は2月9日、初公判を開いた。被告は起訴内容をおおむね認め、「詳細は被告人質問で答える」と述べ、弁護側も「罪が成立することは争わない」とした。医師の医療行為が刑事裁判で審理されるのは異例とされる。起訴状などによると、被告は女性患者(80)の腰椎の一部を切除する手術で、出血が多く患部の視認が困難な状況にもかかわらず十分な止血を行わず、威力の高い医療用ドリルで骨を削る操作を継続。誤って神経(脊髄・馬尾周辺)を切断し、両下肢麻痺など全治不能の後遺障害を負わせたとされる。検察側は、「科長から止血を促されても血を吸引しただけで手技を続けた」と指摘し、「事故は容易に予見できた」と過失の程度を強調した。その一方で、弁護側は「手術は1人で遂行できず、経験の浅い被告だけに責任を負わせるのは相当でない」と主張。証人として出廷した指導医は止血を勧めたが執刀を止めなかった経緯を説明し、「1分1秒でも早く交代していればよかった」と後悔を口にした。この事故を巡っては民事でも、被告と赤穂市に約8,800~8,900万円の賠償を命じた判決が確定している。病院側は医療過誤と認定。被告が着任後約半年で関与した手術で医療事故が複数(後遺障害8件、計11件とも報道)起き、2人が死亡したとされる点も、管理体制を含めた再発防止策が問われている。公判では証拠として手術映像も法廷で取り調べられ、被害者側親族が被害者参加制度で出廷した。今後、被告人質問や求刑・弁論を経て結審する見通しで、量刑判断とともに、指導医の関与や病院の教育・監督体制が争点となる。医療安全と人材育成の両面で、現場に突き付けられた課題は重い。 参考 1) 赤穂市民病院の医療過誤 執刀医の男、起訴内容認める 神戸地裁姫路支部で初公判(神戸新聞) 2) 手術で重い障害残る医療過誤…業務上過失傷害罪の初公判で赤穂市民病院の元医師認める(読売新聞) 3) 市民病院医療事故多発 被告医師「私一人だけ悪いとなるのはおかしい」(赤穂民報)

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第280回 7対1でも安泰ではない? 急性期病院A・Bが迫る機能再編/中医協

<先週の動き> 1.7対1でも安泰ではない? 急性期病院A・Bが迫る機能再編/中医協 2.診療報酬46億円返還、医師14人が資格喪失、不正請求は「見逃されない」時代へ/厚労省 3.緊急避妊薬(アフターピル)が国内初の市販化、2月から全国販売へ/厚労省 4.相次ぐ汚職でトップが謝罪―卓越大認定に暗雲、不退転の改革へ/東大 5.臓器移植改革が始動 ドナー関連業務を地域法人に移行/藤田医大 6.介護事業者倒産が過去最多176件 突出する訪問介護の経営危機/厚労省 1.7対1でも安泰ではない? 急性期病院A・Bが迫る機能再編/中医協2026年度の診療報酬改定で中央社会保険医療協議会(中医協)は、新たに「急性期病院A・B(急性期病院入院基本料)」を設け、急性期医療の評価軸が病棟単位中心から「病院機能・実績」へと一段強まることになる。Aは「地域の急性期医療の拠点」を想定し、年間の救急搬送2,000件以上かつ全身麻酔手術1,200件以上など、高い実績要件が柱となる。Bは一般的な急性期を幅広く捉え、救急搬送1,500件以上、または救急搬送500件以上+全身麻酔手術500件以上などを求める。加えて、Aでは地域包括医療病棟・地域包括ケア病棟との併設を認めない一方で、Bは地域包括医療病棟のみを除外するなど、ケアミクスの許容範囲でも差を付けた。注目は救急実績の「質」の担保で、介護保険施設入所者の救急搬送は、協力医療機関での受入困難など例外を除き、A・Bいずれでも原則として救急搬送件数に算入しない方向が示された。その一方で、現行7対1病院の相当数がA基準を満たしにくいとの指摘もあり、急性期の集約・機能分化を加速させる可能性がある。今後は、地域で救急・手術を集約する「A志向」か、高齢者救急や包括期との接続を含めた「B/他入院料志向」か、病院ごとの役割の再設計が不可避となりそうだ。 参考 1) 【急性期】厚労省が個別改定項目を提示 救急・手術件数を評価する急性期病院一般入院基本料を新設(日経メディカル) 2) 7対1病院の6割、11万床が急性期Aの基準未達(CB news) 3) 「地域の急性期医療の拠点」病院を評価する【急性期病院一般入院料】を新設、病院単位での救急搬送・手術実績が要件にー中医協総会(Gem Med) 2.診療報酬46億円返還、医師14人が資格喪失、不正請求は「見逃されない」時代へ/厚労省厚生労働省は1月29日、2024(令和6)年度に実施した保険医療機関などへの指導・監査の状況を公表し、診療報酬の不正請求などを理由に、「医科・歯科を含む9施設の保険医療機関指定を取り消した」と発表した。処分に先立ち廃業した施設を含めると、指定取消相当は14施設にのぼる。これに伴い、保険医の登録が取り消されたのは医師5人、歯科医師12人の計17人で、返還を求めた診療報酬額は約48億5,000万円と、前年度を上回った。その一方で、厚労省があわせて公表した2023年度の指導・監査実績によると、個別指導を受けた保険医療機関は1,464件で前年度比2.7%減少したものの、対象となった医師数は2,774人と大幅に増加している。医科に限れば、個別指導件数・対象医師数ともに増加しており、医科領域での請求内容に対する点検が一層強化されている実態がうかがえる。2023年度に実施された監査は46件で、その結果、保険指定取消または取消相当となった医療機関は21件、医師ら14人が資格を喪失した。返還された診療報酬総額は46億2,338万円に達し、前年度から26億円以上増加した。とくに施設基準を満たさない入院料の請求、実施していない診療行為の請求(架空請求)、実診療で行っていない行為を上乗せする付増請求など、基本的ルール逸脱が繰り返し確認されている。注目すべき点として、保険指定取消などの端緒(発覚のきっかけ)の多くが、保険者や医療機関従事者、患者からの情報提供であったことが挙げられる。医療費通知やマイナンバーカード利用の進展により、請求内容の「見える化」が進み、不正請求は発覚しやすい環境となっている。診療報酬は公費・保険料・患者負担で成り立つ共有財源であり、ルール遵守は医療者全体の信頼を支える前提条件である。近年の指導・監査の動向は、「悪質事例への厳正対応」と同時に、日常診療における請求の正確性や施設基準管理の重要性を、すべての医師に改めて突きつけるものと言えそうだ。 参考 1) 令和6年度における保険医療機関等の指導・監査等の実施状況について(厚労省) 2) 9施設の保険指定取り消し 24年度、返還請求48億円(産経新聞) 3) 不正請求等で21件・14人の医師等が「保険指定取り消し」等の処分、診療報酬46億円強を返還-2023年度指導・監査(Gem Med) 3.緊急避妊薬(アフターピル)が国内初の市販化、2月から全国販売へ/厚労省国内初となる市販の緊急避妊薬(アフターピル)が、2月2日から全国で販売される。第一三共ヘルスケアが販売するレボノルゲストレル(商品名:ノルレボ)は、これまで医師の処方箋が必要だったが、スイッチOTCとして薬局やドラッグストアで購入可能となる。希望小売価格は1錠7,480円で、年齢制限はなく、未成年でも保護者やパートナーの同意は不要とされた。ノルレボは、排卵を遅らせる作用があり、性交後72時間以内に1回服用すれば、約8割の確率で妊娠を防ぐとされる。24時間以内の服用では妊娠阻止率は約95%に達する一方、時間が経過するほど効果は低下し、49~72時間では約58%に下がる。販売は対面に限定され、厚生労働省が指定した研修を修了した薬剤師が、チェックシートによる確認と説明を行い、購入者本人がその場で服用する「面前服用」が要件となる。転売や誤用を防ぐ狙いで、ネット販売や持ち帰りは認められていない。服用後は、3週間を目安に妊娠検査や医療機関での確認が推奨されている。厚労省によると、販売開始時点で全国5,445店舗が取り扱い、今後はさらに拡大する見通しだ。イオンリテールは併設薬局69店舗で販売を開始し、ウエルシア薬局やクオールなど大手も全店展開を予定している。その一方で、緊急避妊薬はあくまで緊急時の対処法で、服用後は一時的に妊娠しやすくなる場合もある。専門家は、低用量ピルなど確実性の高い平時の避妊法や、性教育の充実が不可欠だと指摘する。世界では約90の国・地域で処方箋なしで購入可能であり、世界保健機関(WHO)の必須医薬品にも指定されている。今回の市販化は、望まない妊娠を防ぐ選択肢を広げる一方、適切な使用と制度運用が問われる転換点となりそうだ。 参考 1) 緊急避妊薬、2月から薬局などで販売 1錠7,480円購入は対面のみ(朝日新聞) 2) 緊急避妊薬、来年2月に初の市販開始 面前服用要件に-第一三共「ノルレボ」(時事通信) 3) 緊急避妊薬、72時間以内の服用で効果8割 2月から市販(日経新聞) 4) イオンリテール、緊急避妊薬を販売 2日から併設の薬局69店舗で(同) 5) 2月発売の緊急避妊薬、全国5,000超の店舗で取り扱い 厚労省集計(同) 4.相次ぐ汚職でトップが謝罪-卓越大認定に暗雲、不退転の改革へ/東大東京大学医学部附属病院で汚職事件が相次いだ問題で、同大は1月28日、藤井 輝夫総長が記者会見し「教育・研究機関として社会の信頼を著しく損ねた」と謝罪した。大学院医学系研究科の佐藤 伸一教授が、民間団体との共同研究(社会連携講座)に絡み、性風俗店を含む高額接待を受けたとして24日に収賄容疑で逮捕され、東大は26日付で懲戒解雇した。不祥事は単発ではなく、2025年11月にも同院の准教授が医療機器選定を巡る収賄容疑で逮捕・起訴されている。こうした事態を受け、田中 栄病院長は27日付で引責辞任。教職員宛てのメールで「短期間に複数の重大な不祥事が発生し、患者や社会の信頼を著しく損ねた。組織の長として管理監督責任を明確にする」と辞任理由を説明した。藤井総長は会見で、不祥事の背景として(1)教員の倫理意識の希薄さ、(2)民間資金受け入れを巡るチェック機能の不足、(3)閉鎖的でヒエラルキーの強い組織風土の3点を挙げた。責任を取り、総長は役員報酬の一部(1ヵ月分の50%)を自主返納し、担当理事らも返納する。さらに、全教職員約1万3,000人を対象とした調査で、倫理規程違反が22件判明し、うち3件で高額接待が認められたことも明らかにした。大学は4月に最高リスク責任者(CRO)を新設し、独立監査を含む「三線防御」によるガバナンス再構築を進める方針だ。10兆円規模の大学ファンド支援を受ける「国際卓越研究大学」の審査が継続している最中、改革の実効性と信頼回復への道筋が厳しく問われている。 参考 1) 本学教員の逮捕を受けて(東大) 2) 東京大学総長「信頼著しく損ねた」30秒頭下げ謝罪 教授の収賄事件(朝日新聞) 3) 東京大学総長謝罪 大学院教授の収賄など汚職相次ぎ(NHK) 4) 東大ガバナンス欠如、卓越大認定影響避けられず? 総長「急ピッチで改革進める」(産経新聞) 5) 東大総長が汚職事件で謝罪「信頼損ねる」 高額接待など新たな倫理違反22件も発覚(同) 5.臓器移植改革が始動 ドナー関連業務を地域法人に移行/藤田医大厚生労働省は1月30日、藤田医科大学などが設立した一般社団法人「中部日本臓器提供支援協会(CODA)」を、心臓や肺などの提供臓器をあっせんする「ドナー関連業務実施法人」として許可した。眼球を除く臓器あっせん業の許可は、日本臓器移植ネットワーク(JOT)以外では全国で初めてとなる。これまで、脳死や心停止下での臓器提供に際し、家族への説明や同意取得、摘出チームの受け入れ調整などのドナー関連業務はJOTが一元的に担ってきた。しかし近年、臓器提供数の増加に対し、コーディネーター不足や業務の集中による対応の遅れが指摘され、結果として移植が見送られる事例も生じていた。こうした状況を受け、厚労省は2024年12月、ドナー側業務を地域ごとに分担する体制改革を打ち出していた。CODAは中部7県(愛知、三重、岐阜、静岡、福井、富山、石川)を担当し、臓器提供が想定される医療機関にコーディネーターを派遣。ドナー家族への説明や同意取得、関係機関との調整を担う。その一方で、移植希望者の登録やレシピエント選定、臓器搬送は引き続きJOTが担当し、公平性は従来通り担保される。CODAは移植業務経験者5人を確保し、JOTでの研修を経て、2026年夏ごろの本格稼働を予定している。厚労省は今後、他地域でも同様のあっせん法人を募集する方針で、臓器提供体制は「全国一元」から「地域分担」へと大きな転換点を迎えた。ドナーの意思を確実に生かし、移植機会の拡大につながるかが注目される。 参考 1) ドナー関連業務実施法人を許可しました(厚労省) 2) 臓器提供 家族対応などの業務を新法人に許可 厚労省(NHK) 3) 臓器あっせん法人を初許可 ドナー対応、藤田医大設立(日経新聞) 4) 「中部日本臓器提供支援協会」、厚労省が臓器あっせん業を許可 藤田医科大などが設立(中日新聞) 6.介護事業者倒産が過去最多176件 突出する訪問介護の経営危機/厚労省訪問介護事業者の経営悪化が深刻さを増している。2024年度の介護報酬改定で訪問介護の基本報酬が引き下げられたことに加え、物価高や移動に伴うコスト増が重なり、収益を圧迫している。とりわけ人手不足が最大のボトルネックとなり、サービスの継続が困難になるケースが相次いでいる。こうした状況を受け、厚生労働省は人材確保に向けた広報を強化。昨秋以降、訪問介護の仕事の具体像を伝えるショート動画や漫画、ポスターなどを特設サイトで発信し、教材としての活用も見込むなど、職場の魅力を可視化して担い手拡大を狙っている。背景には介護事業者の倒産の増加への危機感がある。東京商工リサーチによると、2025年の介護事業者倒産は176件で過去最多を更新し、「訪問介護」は91件と3年連続で最多。倒産理由は「販売不振」が約8割を占め、「人手不足」倒産も最多を更新した。規模は小・零細が中心で、資金繰り余力の乏しさが表面化している。賃上げ支援や生産性向上策は進むが、他産業の賃上げに追いつかず、現場の人材確保は依然として厳しい。国・自治体には、倒産抑制と運営効率化支援を一体で進める対応が求められる。 参考 1) 2025年「介護事業者」倒産 過去最多の176件 「訪問介護」の倒産が突出、認知症GHも増加(東京商工リサーチ) 2) 訪問介護の倒産急増、人材確保に懸命の厚労省 PR動画・漫画など続々(日経新聞)

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小児の上腕骨内側上顆転位骨折、手術的固定術はベネフィット示さず/Lancet

 上腕骨内側上顆転位骨折は、小児の骨折で最も議論の余地のある損傷の1つだが、裏付けとなるエビデンスが乏しいにもかかわらず、手術的固定術を行う傾向が強い状況であるという。英国・リバプール大学のDaniel C. Perry氏らは「SCIENCE試験」において、転位した骨片の位置を回復させる手術的固定術は非手術的治療と比較して、臨床的有益性をもたらさず費用対効果も優れないうえに、これらの小児を回避可能な外科的リスクにさらす可能性があることを示した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2026年1月20日号で報告された。3ヵ国の無作為化優越性試験 SCIENCE試験は、3ヵ国(英国、オーストラリア、ニュージーランド)の59施設で実施した実践的な多施設共同無作為化優越性試験(英国国立衛生研究所[NIHR]などの助成を受けた)。2019年6月~2023年9月に参加者を登録した。 年齢7~15歳の転位を伴う内側上顆骨折の患者を対象とした。被験者を、手術的固定術を受ける群または非手術的治療を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 手術的固定術は、全身麻酔下に切開、解剖学的整復、骨片の固定を行った。非手術的治療は、ギプス、副木、スリングを用いて肘を約90度の屈曲位に固定した。 主要アウトカムは、12ヵ月の時点での上肢機能の回復とし、ITT集団において小児用PROMIS(Patient Report Outcomes Measurement System)上肢スコア(13.7~57.3点、高点数ほど上肢機能が良好)で評価した。手術的固定術は術中・術後合併症と追加手術が多い 334例(平均年齢11.7[SD 2.3]歳、女児170例[51%])を登録し、手術群に168例、非手術群に166例を割り付けた。194例(58%)はスポーツによる骨折で、体操(55例[16%])とフットボール/サッカー(37例[11%])による損傷が多かった。主要アウトカムのデータは285例(85%)から得られた。 12ヵ月時のPROMIS上肢スコアは、手術群が54.3(SD 5.7)点、非手術群は53.1(SD 7.8)点であり、両群間に有意な差を認めなかった(平均治療群間差:1.57点、95%信頼区間[CI]:-0.01~3.14、p=0.052)。また、この治療効果の推定値は臨床的に意義のある差(4点)を下回っていた。 追加手術(計画手術、合併症関連手術)は、手術群で24例、非手術群で3例に行われた。手術的固定術を受けた150例のうち、13例(9%)に14件の術中合併症が、7例(5%)に術後合併症が発生し、それぞれ手術を要した。さらに、17例(11%)ではスクリューやワイヤの除去手術がルーチンに行われた。 非手術的治療を受けた184例では、4例(2%)に5件の合併症が発生し、このうち3件(2%)で追加手術を要した。費用は手術群で2,435ポンド高額 英国の国民保健サービス(NHS)および福祉サービス(Personal Social Services)の評価法で算出した患者1例当たりの平均費用は、手術群で2,435ポンド(95%CI:1,812~3,057)高く、患者1人当たりの質調整生存年(QALY)の群間差は平均-0.008(95%CI:-0.039~0.024)であった。 また、1QALY当たり2万ポンドまたは3万ポンドの支払い意思額閾値において、手術的固定術で費用対効果が優れる確率は0%だった。 著者は、「非手術的治療では、後日手術が必要となるリスクがごくわずかに残るが、これは手術的固定術における2次的手術の実施率と比較して低い」「これらの知見は、小児の上腕骨内側上顆転位骨折では非手術的治療を標準的な管理戦略へと転換し、手術的固定術は例外的な状況に限定すべきであることを示唆する」「このエビデンスは、今後のガイドラインに反映すべきであり、治療選択肢に関する臨床医と患児、家族との話し合いに有益と考えられる」としている。

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鼻に歯が生えていた2例【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第297回

鼻に歯が生えていた2例さまざまな場所に歯が生えるものですが、過去に脳内に歯が生えた事例を紹介しました。今度は鼻の中です。脳に比べるとインパクトは少ないかもしれませんが、おどろき医学論文マニアとして、紹介しなければなりません。Bergamaschi IP, et al. Intranasal Ectopic Tooth in Adult and Pediatric Patients: A Report of Two Cases. Case Rep Surg. 2019 Sep 17;2019:8351825.「先生、鼻の中に“歯”があると言われたんですけど……」。外来でこんな訴えが飛び出したら、皆さんどうされるでしょうか。「抜けた歯が鼻腔に入ったのかな? いや、でもなんで歯が鼻に?」と一瞬フリーズしたくなりますが、世の中には“鼻から歯が生える”患者さんが存在します。今回は、ブラジルの口腔外科チームが報告した「鼻腔内異所性歯」の成人例と小児例、2症例を扱った論文をご紹介します。1例目は、32歳の女性です。主訴はズバリ「鼻の中に歯がある」というものでした。この患者さんによると、この状態は痛みを引き起こし、とくに寒い日には鼻血が出るとのことでした。詳しく病歴を聴取すると、6歳のときに顔面外傷を負い、上顎前歯部に損傷を受けたことが判明しました。つまり、26年もの間、歯が鼻の中に存在していたことになります。臨床診察で鼻尖部を持ち上げてみると、なんと右鼻孔内に上顎中切歯の歯冠が観察されました。6歳といえば、ちょうど前歯の永久歯が萌出する時期であり、Nollaの発育段階では7(歯冠完成、歯根の3分の1発育)に相当します。この時期に外傷を受けたことで、本来口腔内に萌出するはずだった歯が、上方に変位して鼻腔内に迷い込んでしまったと考えられます。ここで疑問が生じます。なぜ26年間も放置されていたのでしょうか。論文によると、これは「専門家からの誤った情報提供」が原因だったとのことです。つまり、症状(痛みや鼻出血)に対する対症療法のみが行われ、その原因である鼻腔内の歯が長年見過ごされていたということです。2例目は、左側の片側性口唇口蓋裂を有する8歳の女児です。この子供は、左側鼻閉を主訴に紹介されてきました。原因は、肉芽組織に囲まれた鼻腔内の硬い組織塊でした。口腔内診察とCT検査の結果、この白色塊は左側側切歯の異所性萌出であることが判明しました。口腔内では左側側切歯が欠損しており、塊の透過性は他の歯と一致していました。興味深いことに、CT検査では、この形成異常歯の上部は軟組織内に埋入しており、骨性支持がない状態でした。母親によると、この白色塊は腸骨骨移植による口鼻瘻孔閉鎖術の3ヵ月後に出現したとのことです。口唇口蓋裂自体が多因子性の病因を持つため、異所性萌出に対する遺伝的素因も否定できませんが、手術操作による歯胚の変位も原因として考えられます。両症例とも、治療は全身麻酔下での歯の外科的摘出でした。「鼻から歯を抜く」という、一見すると大手術のように思える処置ですが、実際の手技は比較的シンプルで、無事に済んだそうです。

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手が大樹になった男性【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第294回

手が大樹になった男性ヒトパピローマウイルス(HPV)は、手足にできる小さないぼから、子宮頸がんの原因となる型まで、いろいろな疾患を起こすことで知られています。多くの人にとってのHPVは、自然に治ることも多いいぼの原因に過ぎませんが、体の免疫がうまく働かないと、全身に広がることがあります。Alisjahbana B, et al. Disfiguring generalized verrucosis in an indonesian man with idiopathic CD4 lymphopenia. Arch Dermatol. 2010;146:69-73. 2010年に報告されたインドネシア人男性の症例は、尋常性疣贅の原因であるHPV-2が全身に広がり、手足に大樹のような巨大な角化物まで作ってしまったというものです。論文には手が大きな木のようになってしまった写真が掲載されています。この男性、CD4陽性T細胞が慢性的に少ない特発性CD4リンパ球減少症を背景疾患として持ち、この細胞性免疫の低下が長年にわたってウイルスの増殖を許容してしまいました。最初は膝の小さな疣贅から始まりました。ところが数年で病変は顔、胸、背中、手足へと広がり、20代のうちに仕事ができないほどに増えました。診察時には、四肢の皮膚は厚い角質に覆われ、長いものでは30cmにも達する樹木のような突起が層状に曲がりくねっていました。見た目の衝撃は大きく、悪臭も伴っていたそうです。皮膚生検では、いぼに典型的な表皮の肥厚やウイルス感染細胞がみられました。病変から採った組織のDNAを調べると、どの検体からもHPV-2の遺伝子が見つかりました。まずQOLを最も損なっていた巨大な角化物を全身麻酔下で機械的に削り落としました。電気ノコギリなどを使用して約6kgの疣贅と壊死組織を除去しました。そして、再び厚くならないように高濃度サリチル酸で角質を軟らかくし続けました。顔や体幹の病変は切除やシェービングを少しずつ繰り返しました。角化を抑える飲み薬であるアシトレチンも試されましたが、実感できる効果は乏しかったそうです。

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腹部大手術時の周術期血圧管理、個別化vs.通常/JAMA

 腹部大手術を受ける術後合併症リスクが高い患者において、術前夜間平均動脈圧(MAP)に基づく個別周術期血圧管理は、MAP目標値65mmHg以上とする通常血圧管理と比較して、術後7日以内の急性腎障害、急性心筋障害、非致死的心停止または死亡の複合アウトカムを減少させなかった。ドイツ・University Medical Center Hamburg-EppendorfのBernd Saugel氏らIMPROVE-multi Trial Groupが、同国15の大学病院で実施した無作為化単盲検試験「IMPROVE-multi試験」の結果を報告した。手術中の低血圧は臓器損傷と関連しているが、手術中の血圧管理が臨床アウトカムを改善可能かについては不明であった。JAMA誌オンライン版2025年10月12日号掲載の報告。術後7日以内の複合アウトカムを評価 研究グループは、2023年2月26日~2024年4月25日に、全身麻酔下にて90分以上の手術時間が予定される腹部大手術を受ける45歳以上の患者で、少なくとも1つの高リスク基準を満たす患者を登録し、個別血圧管理群と通常血圧管理群に1対1の割合で無作為に割り付けた(最終追跡調査日2024年7月25日)。 全例、24時間血圧モニターを用いて術前血圧を1晩にわたり30分間隔で測定し、深夜0時~午前6時に測定されたMAPに基づき、各患者の術前夜間MAPを算出した。 個別血圧管理群では、全身麻酔導入開始時から術後2時間まで、術前夜間MAP値以上の保持を目標とした。術前夜間MAPが65mmHg未満の患者では65mmHg以上、110mmHg超の患者では110mmHg以上を周術期MAPの目標値とした。一方、通常血圧管理群では、目標MAPを65mmHg以上とした。 主要アウトカムは、術後7日以内の急性腎障害、急性心筋障害、非致死的心停止または死亡の複合アウトカムの発生率、副次アウトカムは、術後3~7日における主要アウトカムの構成項目の各発生率、術後7日以内の感染性合併症、術後30日および90日以内の腎代替療法、心筋梗塞、非致死的心停止または死亡の複合アウトカムなど、22項目であった。複合アウトカムの発生に有意差なし 7,621例がスクリーニングを受け、1,272例が登録された。このうち1,142例が無作為化され(各群571例)、手術中止または同意撤回の8例を除く1,134例が主要アウトカムおよび副次アウトカムの解析対象集団となった(年齢中央値66歳[四分位範囲:59~73]、女性34.1%)。 主要複合アウトカムは、個別血圧管理群で33.5%(190/567例)、通常血圧管理群で30.5%(173/567例)に発現した(相対リスク:1.10、95%信頼区間:0.93~1.30、p=0.31)。 副次アウトカムについては、22項目のいずれも有意差は認められなかった。術後7日以内の感染性合併症は、個別血圧管理群15.9%、通常血圧管理群17.1%(p=0.63)であり、術後90日以内の腎代替療法、心筋梗塞、非致死的心停止または死亡の複合アウトカムはそれぞれ5.7%と3.5%(p=0.12)であった。

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10月13日 麻酔の日【今日は何の日?】

【10月13日 麻酔の日】〔由来〕1804年の今日、江戸時代の医師・華岡青洲が、世界初の「全身麻酔」による乳がん摘出手術に成功。人類が手術の痛みから解放された歴史的な日として日本麻酔科学会が2000年に制定。関連コンテンツ「苦しいのは仕方がない」という患者さん【非専門医のための緩和ケアTips】海外旅行と医療用麻薬【非専門医のための緩和ケアTips】意外と知らないオピオイド(1)モルヒネによる眠気【臨床力に差がつく 医薬トリビア】高齢の心臓手術患者、脳波ガイド下麻酔は術後せん妄を抑制せず/JAMAICU入室患者の鎮静、α2作動薬vs.プロポフォール/JAMA

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第283回 「公務員給与は物価スライド方式」も医師の給与が上がらない理由

INDEX新総裁、高市氏が選出医療界の危機に寄り添う救世主か「鉄壁」財務省が譲歩するなら真綿で首を締めるよう…新たな要件を提示新総裁、高市氏が選出前回触れた自民党総裁選は高市 早苗氏が決選投票を勝ち抜き、新総裁に選出された。このまま順当に行けば、高市氏が新首相に指名され、日本史上初の女性首相になると思われる。あえて“思われる”と書いたのは、ここにきて連立を組む公明党が極めて保守色の強い高市氏への警戒感から、連立維持のために高いボールを投げ始めたからである。もっとも現在、衆参両院で過半数を占める野党各党がまとまりに欠くこと、さらには高市氏の過去の政党渡り歩き、言い換えれば目的のためには手段を選ばないことをうかがわせる経歴をみれば、最終的に公明党の要求を受け入れ、連立を維持することになるだろうと個人的には踏んでいる。ちなみに私見の余談だが、率直にいうと今回の結果はやや意外だった。何が意外だったかというと、昨年の総裁選でも思ったことだが、地方の自民党員が高市氏に高い支持を与えていることである。これは自民党に限らないことだが、政党党員は年々高齢化が進んでいる。中でも高齢の自民党員はかなり保守的である。この保守的には男尊女卑的な思考も含まれる。しかも、高市氏はもともと旧新進党出身の“外様”である。にもかかわらず、これだけ高い支持を獲得したのは、党員が持つ極度の危機感の表れとも解釈できる。ただ、党の刷新性を考えるならば、小泉氏という選択肢もあり得たはずだ。しかし、地方党員たちの選択がそうはならなかったのは、入閣3回・党三役経験なしの小泉氏よりも、入閣7回・政調会長経験者の高市氏の実績を評価したからなのだろうと推測できる。そうならば自民党員は新旧の考えが入り交じる複雑な思いで高市氏を選んだということだ。医療界の危機に寄り添う救世主かさてその高市氏は、10月4日の記者会見で「病院、介護施設は、今、大変な状況になっている。病院は7割が深刻な赤字。介護施設の倒産は過去最高になった」「診療報酬改定は年末にあるが、それを待っていられない状況。地域にある医療機関がどんどん倒産していくことになると大変。介護報酬は改定年がまだ先であり、そこまで待っていられない。ここは補正予算を使って支援できる形を検討してもらいたいと思っている」と述べたという。ちなみに総裁選中は「補正予算を措置し、診療報酬については過去2年分の賃上げ・物価上昇分を反映して前倒しで改定、介護報酬についても同様に前倒しで改定することも検討する」とも発言していた。現在、物価高により経営環境が悪化する医療機関・介護施設にとって、この発言への期待は高まっているかもしれない。だが、来春に向けて改定議論が進行中の今、それが可能かと問われれば、常識的に考えて否だ。しかも、高市氏は野党との連立を視野にガソリン暫定税率廃止や給付付き税額控除制度導入まで主張している。税収が減り、歳出が増加する高市氏のこの方針に、官庁の中の官庁である財務省が同意するはずもない。また、繰り返しになるが、現在、中央社会保険医療協議会では、ようやく具体的な診療報酬改定項目の議論が始まったばかりであり、個別項目の前倒し引き上げなどできるはずがないのは明らかだ。この状況下では、高市氏が財務省の抵抗を抑え込めたとしても、診療報酬・介護報酬の個別項目の詳細な検討はほぼ不可能で、打てる方策は限られる。考えられるのは、「条件付きの補助金給付」「物価スライド方式的な引き上げ」の2つぐらいではないだろうか?「鉄壁」財務省が譲歩するなら一番簡単なのは後者かもしれないが、これこそ財務省は認めないだろう。というのも、これまでの状況を考えれば“簡単なのに、あえてやっていない”からである。ご存じのように財務官僚も含む公務員の給与は物価スライド方式が導入されている。ここから考えれば、診療報酬・介護報酬も物価スライド方式の導入は理論上可能である。それをやらないのは、財務省が診療報酬、ひいては医療費を財政調整弁と考えているからにほかならない。もし臨時特例的であっても物価スライド方式を導入すれば、彼ら官僚の口癖である「前例」を望まない形で導入する形となり、かつ将来的に政治の側から“悪用”される可能性もある。このように考えれば、もし高市氏が何か手を打てたとしても条件付き補助金の支給ということになる。「条件付き」としたのも、少子高齢化で膨張する社会保障関連費に頭を悩ませている財務官僚が、医療機関や介護施設に無条件で大盤振る舞いをするはずはないだろうという読みだ。もちろん、これとてできないということも十分あり得る。真綿で首を締めるよう…新たな要件を提示さて、現在の世界的物価高と日本国内での賃金上昇トレンドは、従来から診療報酬が有する構造的な問題である▽損税▽物価スライドのない2年に1度の政治決着の改定▽資本コスト分が考慮されない低単価をフレームアップしている。そんな最中、10月8日の中央社会保険医療協議会総会では、厚生労働省側は入院医療の急性期一般入院料1(通称・7対1看護)について、さらに病院単位の緊急搬送件数や全身麻酔手術件数を要件化することを示唆する論点を提示してきた。これが現実になれば、とりわけ地方の病院はさらに苦境に追いやられることになる。このような状況を“高市政権”はどのように解決するのか? まずはお手並み拝見である。

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内視鏡鎮静に新たな選択肢、レミマゾラムが覚醒時間を半減/ムンディファーマ

 2025年6月、短時間作用型ベンゾジアゼピン系鎮静薬レミマゾラムベシル(一般名:レミマゾラム、商品名:アネレム)の新規格である20mg製剤が消化器内視鏡診療時の鎮静を効能・効果として新規に承認され、既存の50mg製剤も追加承認を取得した。50mg製剤は2020年に全身麻酔の導入・維持を適応として承認されていたが、今回の承認により、消化管内視鏡時の鎮静用途において、国内初のベンゾジアゼピン系薬剤として保険適用を取得した。これを受け、ムンディファーマは9月19日、「消化器内視鏡診療における鎮静の重要性について」と題したメディアセミナーを開催した。北里大学病院 内視鏡センター長の池原 久朝氏が登壇し、内視鏡検査の現状と新薬の臨床的意義について講演した。内視鏡受診を阻む苦痛と不安、従来薬は転倒リスクも【池原氏】がんは依然として日本人の死因の第1位であり、とくに胃がん、大腸がんの早期発見は内視鏡検査に依存する部分が大きい。にもかかわらず、検診受診率は欧米諸国に比べ低水準に留まる。この背景には、検査時の苦痛、恥ずかしさ、鎮静薬に対する不安などがあるとされる。これまで、日本の臨床現場における内視鏡検査の鎮静には、ミダゾラムやプロポフォールなどの薬剤を適応外で用いてきた。ただ、これらは鎮静からの回復に時間がかかり、リカバリールーム不足による検査数の制限や、高齢者の転倒リスクの要因となっていた。検査・処置の双方で鎮静効果を証明 今回のレミマゾラム承認の根拠となったのは、私たちが行った複数の医師主導治験だ。もともと鎮静薬は価格が安く、適応外使用の薬剤であっても保険適用となる現状があり、なかなか企業主導治験が組みにくい状況だった。私たちが論文から見つけたレミマゾラムはその有効性が期待できるものだったが、臨床現場で広げるためには、臨床試験で有用性を証明し、正面突破で保険承認を得るしかないと考え、医師主導治験に踏み切った。 最初に行った用量探索試験では、日本人に対しては、米国で承認されている7mgの半量以下の3mgで効果があることがわかった。その後、内視鏡検査目的として上部・下部消化管内視鏡を対象に、プラセボ対照ランダム化二重盲検試験を実施。上部では92%、下部では95%の鎮静成功率を示した。続く内視鏡処置を対象とした試験では、早期胃がんの内視鏡的粘膜切除術、大腸ポリープ切除、胆道結石摘出、小腸内視鏡など多様な処置を対象に実施し、62例で98%の処置成功率を達成した。いずれの試験でも重篤な有害事象は認めなかった。特筆すべきは「覚醒の速さ」 レミマゾラムの特徴は、なんといっても超短時間作用型である点だ。投与後速やかに鎮静導入が得られ、検査終了後は5~9分程度で歩行可能なレベルにまで覚醒する。従来の薬剤では検査終了から30分程度のリカバリー時間が必要だったが、これが半分以下にまで短縮する。具体的には、これまで1人当たり1時間かかっていた外来の内視鏡検査が30分で終わるイメージだ。実際、北里大学病院における鎮静ありの内視鏡検査はこれまで35~50%程度だったが、レミマゾラム導入後は急速に増加している。覚醒の速さでリカバリールームの回転率が改善し、より多くの患者に鎮静を提供できる環境が整ったためだ。とくに炎症性腸疾患(IBD)患者など定期的に内視鏡検査が必要な患者では、苦痛の少ない検査が継続受診率を高め、長期の予後改善に寄与することが期待できる。追加の臨床試験も進行中 今回承認されたレミマゾラムは、日本の内視鏡診療を「苦痛を伴う検査」から「快適で継続しやすい検査」へ転換する「ゲームチェンジャー」になり得る薬剤だ。患者の心理的障壁を取り除き、検診受診率を高めることは、胃がん・大腸がんの早期発見・治療に直結する。現在、検査後に車の運転が可能かを検証する追加の臨床試験を進行しており、車での来院者が多い地方の医療機関・患者にとっては重要なポイントになるだろう。市販後の全例調査を含め、本薬剤を臨床現場に広げるためにデータをさらに蓄積していく予定だ。

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第279回 「クマ外傷」の医学書が教えてくれるクマ被害の実態、「顔面、上肢の損傷が多く、挿管と出血性ショックに対する輸血が必要なケースも。全例で予防的抗菌薬を使用するも21.1%で創部感染症が発生」

マダニが媒介するウイルス感染症、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の累計患者数が過去最高にこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。9月に入っても猛暑の日が続きます。この歴史的な暑さのせいもあってか、自然界もいろいろ変調を来しているようです。「第272回 致死率30%!猛威を振るうマダニ感染症SFTS、患者発生は西日本から甲信越へと北上傾向」で取り上げたマダニが媒介するウイルス感染症、重症熱性血小板減少症候群(SFTS:Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome)も急増中です。国立健康危機管理研究機構は8月26日、8月17日までの1週間に全国から報告されたSFTSの患者は5人で、今年の累計の患者数は速報値で143人となり、過去最多だったと発表しました。これまでに感染者が報告されているのは31道府県で、高知県で14人、大分県で11人、熊本県、長崎県で9人、鹿児島県、島根県、兵庫県で8人など、西日本を中心に多くなっていますが、今年はこれまで感染が確認されていなかった関東地方や北海道でも報告されています。「第272回」でも書いたように温暖化などの影響でSFTSウイルスを持ったマダニの生息域が日本で北上しているのは確かなようです。例年、発症が増え始めるのは4月で、5月にピークを迎え、10月くらいまで続くとされていますが、猛暑の今年は11月くらいまで発症が続くかもしれません。1〜2週間前に山や畑などで作業などをしており、謎の発熱や嘔吐、下痢を起こしている患者の診療には、皆さん重々お気を付けください。クマ被害も過去最多の被害者数となった2023年度と同じ水準増えているということでは、クマの被害も急増中です。山での被害はもちろん、麓の町中での被害も増えています。8月7日付のNHKニュースは、「環境省のまとめでは、今年4月から7月末までにクマに襲われてけがをするなどの被害にあった人は、長野県が13人、岩手県が12人、秋田県、福島県、新潟県で、それぞれ4人などの、合わせて55人で、このうち北海道と岩手県、長野県で、それぞれ1人が死亡しました。過去の同じ時期と比べると、年間を通じて過去最多の被害者数となった2023年度は56人で、今年度はほぼ同じ水準」と報じています。この夏、私がとくにショックだったのは、8月14日に起こった北海道・羅臼岳で登山中の26歳男性がヒグマに襲われ死亡した事件です。襲ったと思われる母グマが、15日に子グマ2頭と共に駆除され、その後母グマはDNA鑑定で男性を襲った個体と特定されました。登山者が被害に遭った羅臼岳の登山道はかつて私も下ったことがあります。「アリの巣が多く、クマがよく出る」ことで昔から有名で、熊鈴だけではなく笛も頻繁に吹きながら歩いた覚えがあります。北海道警察の事故の調査結果を報じた8月21日付の共同通信によれば、「男性は襲撃直前、同行者から離れて単独で走り、岩尾別温泉に向かって下山していた。クマ避けの鈴は携帯していた。道幅が狭く見通しの悪いカーブで母グマに遭遇したとみられる」とのことです。突然の遭遇で驚いた母グマが防御反応として襲った可能性が高そうです。もう一つショックだったのは、北アルプスの薬師峠キャンプ場(通称:太郎平キャンプ場、富山市有峰)で、ツキノワグマにより登山者のテント及び食料が持ち去られる被害が発生し、このキャンプ場が閉鎖された事件です。ここは薬師岳だけではなく、雲の平や高天ヶ原、黒部五郎岳などにテント泊で行くためには、必ず泊まるキャンプ場です。薬師峠キャンプが使えなくなることによる登山者への影響は甚大です。ちなみに、私は高校時代から今までにこのキャンプ場に20泊近くしていますが、クマには一度も遭ったことがありません。北アルプスのツキノワグマは、登山者の食料を漁ることが常態化してきたのでしょうか。だとしたらとても恐ろしいことです。山麓の町でも、山の中においても、人とクマの生息域が近くなり過ぎたことが、クマ被害急増の大きな原因だと言われています。町中に不用意にゴミを放置しない、柿などの果実を木に成らしっぱなしにしない、キャンプ場では食料の管理を米国の国立公園並みに厳格にする、などの対策を取るとともに、クマに対して「人の活動領域に行ってもいいことはない」ということを多様な手段で教え込むことも必要だと感じる今日この頃です。2023年度に年間21例の重傷クマ外傷の治療に当たった秋田大医学部付属病院の医師たちが症例をまとめるそんなクマ被害急増の中、クマ外傷に特化した医学書が今年4月に出版され全国紙で取り上げられるなど話題になっています。『クマ外傷 クマージェンシー・メディシン』(新興医学出版社)で編著者は秋田大学医学部 救急・集中治療学講座教授の中永 士師明(なかえ・はじめ)氏です。『クマ外傷 クマージェンシー・メディシン』編著・中永 士師明(秋田大学医学部 救急・集中治療学講座教授)新興医学出版社、A5変型判、88頁、3,960円(税込み)『クマ外傷 クマージェンシー・メディシン』編著・中永 士師明(秋田大学医学部 救急・集中治療学講座教授)新興医学出版社、A5変型判、88頁、3,960円(税込み)同書の序文によれば、「2023年度のクマ類による人身被害は急増し、東北が141件と突出している。(中略)秋田県内の人身被害は70件となっており、秋田大学医学部付属病院では年間21例の重傷クマ外傷の治療に当たった」とのことで、同書では、2023年に搬送された21例のうち20例について症例写真を例示しながら詳細に分析しています。「クマ外傷の特徴」の章にまとめられたその分析では、患者の平均年齢は74.5歳で、男性が13人を占めていました。受傷場所は市街地が15人で、山林が5人。搬送のピークは10月の7人で、受傷の時間帯に傾向はありませんでした。患者は顔面の負傷が9割で、骨折(9人)や眼球破裂(3人)などのほか、頭蓋骨骨折(1人)もありました。ツキノワグマの攻撃力がいかに強大なものであるかがわかります。同書はこれらのデータから得られる医学的知見として、「クマ外傷は秋に人間の生活圏で多く発生していた。上半身(顔面、上肢)の損傷が多く、全身麻酔による緊急手術が必要であった。一部の患者は挿管と出血性ショックに対する輸血が必要であった。全例で予防的抗菌薬を使用したが、21.1%で創部感染症が発生した。死亡退院はなかったが、15.8%で失明などの重大な後遺症が残った」とまとめています。「クマによる最初の一撃はほとんどが爪によるものであり、クマが立ち上がった高さでちょうど手が届く顔面を襲われる」「クマ外傷による顔面外傷の実際」の章では、爪が下眼瞼にひっかかることで下涙小管の断裂が起こりやすいこと、顔面神経の損傷とその修復が大きな課題であることを指摘するとともに、「クマによる最初の一撃はほとんどが爪によるものであり、クマが立ち上がった高さでちょうど手が届く顔面を襲われる。(中略)2023年度の症例のうち眼球損傷と眼筋の障害により3名が片眼を失明した。クマ外傷の後遺症として最も生活に支障をきたす失明を避けるには、まず眼球を守ることを周知しておく必要がある」と書いています。また、多くの患者が、受傷後に不眠やせん妄、急性ストレス反応などを訴えたことから、「クマ外傷による精神的問題」という章も設け、急性ストレス症や心的外傷後ストレス症(PTSD)への対応についても詳細に解説しています。本書は医学書ですが、「クマ外傷の予防策」の章では、クマとの遭遇を避ける方法や、クマを寄せ付けないための方法の解説もあります。コラムも充実しており、「飼い犬は役立つか」、「子グマなら勝てるか?」、「クマのパンチにアッパーカットはない」など興味深いテーマで13本が掲載されています。これから秋を迎え、各地でクマ被害も増えると予想されます。クマに襲われた患者が運ばれてきたときの対処法を学びたい方は、一読をお勧めします。

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東海大学医学部 乳腺・腫瘍科学【大学医局紹介~がん診療編】

新倉 直樹 氏(教授)寺尾 まやこ 氏(講師)清原 光 氏(助教)講座の基本情報医局独自の取り組み・特徴当科は乳腺の悪性疾患から良性疾患まで対応し、東海大学医学部付属病院(伊勢原・神奈川)では乳腺専門医5名を中心に乳がんの診療をし、2023年の当科の年間手術症例数は355件(全身麻酔での乳がん手術322例)でした。がん薬物療法専門医3名が所属しており、その他の悪性腫瘍の患者さんも積極的に受け入れ、薬物療法も行っています。遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)に対しては遺伝子診療科と連携し、BRCA検査、その他の家族性腫瘍に対する検査にも対応しています。乳房再建においては形成外科と連携し腹直筋、広背筋皮弁再建やインプラント再建も行っております。独自の取り組みとしては、乳腺・腫瘍科の中に外科専門医と内科専門医が混在しているチームとなり、外科医が薬物治療を行うのと同時に、内科出身であっても、診断・手術を行っています。医師の育成方針当科では外科系以外に、2008年より内科系の乳腺専門医を目指す医師を育成しており、今後も外科・内科問わずさまざまなバックグラウンドを持つ乳腺専門医を目指す医師を募集しています。乳腺・腫瘍科として診断から外科的手術、薬物療法まで行える医師の育成を行っております。さらには研究については、基礎研究、データベース研究、新規薬剤の開発治験、留学制度など本人のやりたいことをサポートできる環境を整えてあります。同医局でのがん診療/研究のやりがい、魅力東海大学乳腺・腫瘍科学は、外科系・内科系を問わず乳がん診療全般に関わることができること、「がん薬物療法専門医」が複数名おりオンコロジストとして乳がん以外の悪性疾患の臨床や研究に携わることができるのが大きな魅力です。複雑な症例の相談や、原発不明がんの治療など自施設に限らず地域の医療機関の患者さんたちに適切な治療を提供することは、医師としてやりがいを感じられます。次世代オンコロジストの育成にも力を入れ、幅広く腫瘍学を学ぶことができる環境が整っており、基礎研究に関心のある方にも、多様なテーマに取り組める機会があります。復職・キャリア再開を考えている医師へのメッセージ当教室では、3年目専攻医でなくても、結婚・出産・家庭の事情などで一度離職された先生方や、過去に他の医療機関に在籍していた方の復職も可能です。東海大学医学部には「復職支援室」を設けており、復職支援、長期離職予防、キャリア支援などを積極的に行っています。復職にあたって不安をお持ちの方には、診療科を問わず個別相談や研修の提案なども可能です。まずは相談だけでも、ぜひお気軽にご連絡ください。これまでの経歴宮崎大学を卒業後、神奈川県内の市中病院で初期臨床研修を行いました。現在の医局に入局し、医師7年目になります。初期研修中に乳腺診療の魅力を知り、この分野を選びました。同医局を選んだ理由乳腺外科を選んだ理由は、1)診断から手術、周術期治療、再発転移の治療まで一貫して携わることができること、2)患者さんの多くが女性であり女性医師の需要が高いこと、3)ワークライフバランスも大切にできることの3点です。東海大学では、乳腺専門医取得に向けて外科系だけでなく内科系ローテーションを選択することができました。とくに薬物療法に興味があった私は、この点を魅力に感じ、東海大学に入局を決めました。現在学んでいること医師3~5年目は当院の内科系と乳腺外科で専攻医として勤務し、うち1年間は国立がん研究センター東病院で腫瘍内科を中心に研修させていただきました。その後内科専門医を取得し、現在は外来や手術を中心に乳腺診療全般を学んでいます。また、研究にも取り組み、学会発表や論文執筆を進めています。さらに、がん薬物療法の理解を深めるため、遺伝子パネル検査のエキスパートパネルにも参加し、他がん種についても学んでいます。東海大学医学部 乳腺・腫瘍科学住所〒259-1193 神奈川県伊勢原市下糟屋143問い合わせ先mamma@tokai.ac.jp医局ホームページ東海大学医学部 乳腺・腫瘍科学専門医取得実績のある学会日本外科学会日本内科学会日本乳癌学会日本臨床腫瘍学会日本癌治療学会日本遺伝性腫瘍学会研修プログラムの特徴(1)東海大学では、大学院に進学する場合、臨床助手・ハイブリッドコースを選択し、学位を取得することができます。また、臨床助手の7割の給与が支給されます。(2)男女を問わず、結婚・出産後の待遇について相談に応じます。産休・育休制度を活用し、最大産後1年間の休職が可能です。短時間勤務制度(20~28時間勤務/週、子供が9歳になるまで、最大3年間)を利用することもできます。この制度を利用し、復帰後も他医師と同様に臨床・研究・教育を継続することができる体制を整えております。本院(伊勢原)、八王子病院ともに院内保育所を併設しており、利用時間は7:00~22:00です。詳細はこちら

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1型糖尿病への同種β細胞移植、拒絶反応なく生着/NEJM

 同種細胞移植では、術後に免疫系の抑制を要するが、これにはさまざまな副作用が伴う。スウェーデン・ウプサラ大学のPer-Ola Carlsson氏らの研究チームは、拒絶反応を回避するよう遺伝子編集されたヒト低免疫化プラットフォーム(hypoimmune platform:HIP)膵島細胞製剤(UP421)を、罹病期間が長期に及ぶ1型糖尿病患者の前腕の筋肉に移植した。免疫抑制薬は投与しなかったが、12週の時点で拒絶反応は発現しなかった。本研究は、Leona M. and Harry B. Helmsley Charitable Trustの助成を受けて行われ、NEJM誌オンライン版2025年8月4日号で報告された。症例:罹病期間37年の42歳・男性 本研究は、UP421(遺伝子編集ヒトHIP膵島細胞製剤)の安全性と有効性の評価を目的とする研究者主導の非盲検first-in-human研究である。対象は1例のみで、症例の追加登録はしなかった。 患者は、1型糖尿病の罹病期間が37年に達する42歳の男性であった。ベースラインの糖化ヘモグロビン値は10.9%(96mmol/mol)、内因性インスリンの産生は検出限界未満(Cペプチドは測定不能)であり、疾患の自己免疫性の指標となるグルタミン酸脱炭酸酵素と膵島抗原2自己抗体は検出可能であった。被験者は、1日32単位のインスリンの連日投与を受けていた。B2M遺伝子とCIITA遺伝子を不活化、CD47相補的DNAを導入 糖化ヘモグロビン値6.0%(42mmol/mol)の60歳のドナーから血液型O型適合膵臓を得た。拒絶反応を回避するための遺伝子編集として、ヌクレアーゼCas12b(CRISPR-CRISPR関連タンパク質12b)とガイドRNAを用いてドナー膵島細胞のB2M遺伝子(HLAクラスIの構成要素をコード)とCIITA遺伝子(HLAクラスIIの転写のマスターレギュレータをコード)を不活化した後、CD47の相補的DNAを含むレンチウイルスベクターを導入した。 最終的な細胞製剤(UP421)には次の3種類の細胞が含まれた。(1)CD47が高発現しHLAが完全に除去されたHIP膵島細胞、(2)CD47が内因性CD47の水準を保持したHLAクラスIおよびIIダブルノックアウト細胞、(3)CD47レベルが変動しHLAの発現が保持された膵島細胞(野生型)。また、この研究で使用された膵島細胞の約66%はβ細胞だった。 全身麻酔下に、被験者の左腕橈骨筋の部分の皮膚を切開し、合計7,960万個のHIP膵島細胞を17回に分けて筋肉内に注入、移植した。被験者は合併症の観察のため一晩入院し、翌日退院した。グルココルチコイド、抗炎症薬、免疫抑制薬の投与は行わなかった。HIP膵島細胞への免疫反応や試験薬関連有害事象はない 野生型細胞とダブルノックアウト細胞に対する免疫反応が継続している間も、HIP膵島細胞は被験者の免疫細胞によって殺傷されず、抗体の誘導も認めなかった。また、被験者の末梢血単核細胞(PBMC)や血清(抗体、補体を含む)と混ざり合っても、HIP膵島細胞はあらゆる免疫コンポーネントから逃れ、生存した。したがって、研究期間中に、HIP膵島細胞を標的とした免疫反応は発現しなかった。 移植後12週の時点で、糖化ヘモグロビン値が約42%低下した。これは、おそらく外因性インスリンへの反応と考えられた。また、4週目および8週目のMRI検査で、膵島移植片の残存が確認された。 12週時にも遺伝子編集細胞に対する拒絶反応はみられず、Cペプチド測定では安定したグルコース反応性のインスリン分泌を認めた。被験者の容体は良好で、有害事象は4件発現したが、重篤なものはなく、試験薬との関連もなかった。 著者は、「早期の移植片機能は長期的な臨床アウトカムと関連するとの報告があり、これを考慮すると、今回の研究結果は有望と考えられる」「同種移植における免疫寛容の誘導は、長らく困難な探求の対象とされてきた。本研究は予備的なものではあるが、免疫回避は同種拒絶反応を避けるための新たな考え方となる可能性を示唆する」としている。

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硬膜外カテーテル、13%で位置ずれ? 経験豊富な医師でも注意が必要

 硬膜外麻酔時のカテーテル挿入には、高い技量と経験が要求される。しかし、今回、熟練の麻酔科によるカテーテル挿入でも、その先端が適切な位置に届いていないとする研究結果が報告された。カテーテル先端の位置異常が見られた症例では、担当麻酔科の経験年数が有意に長かったという。研究は富山大学医学部麻酔科学講座の松尾光浩氏らによるもので、詳細は「PLOS One」に6月26日掲載された。 硬膜外麻酔は高度な技術を要し、経験豊富な麻酔科医でも約3割の症例で鎮痛が不十分となる。成功率向上の鍵となるのがカテーテル先端の正確な挿入位置だが、その実際の到達部位を客観的に評価した報告は乏しい。本研究では、術後CT画像を用いてカテーテル先端の位置不良の頻度を明らかにするとともに、術者や患者の特性との関連を後ろ向きに検討した。 解析対象は、2005年1月1日~2022年12月31日までの間に、富山大学附属病院にて硬膜外麻酔を伴う全身麻酔が施行された1万1,559人とした。これらの患者のうち、手術当日を含む術後5日以内に胸部CTまたは腹部CTが撮影された患者を特定した。術後CT画像より、カテーテル先端が黄色靭帯を貫通していなかった場合を「位置異常」と定義した。群間比較にはχ2検定とMann-Whitney U検定を用い、カテーテル位置異常を従属変数、麻酔科医の卒後年数を独立変数としてロジスティック回帰分析を行った。 最終的な解析対象は、術後の胸部または腹部CT画像で硬膜外カテーテルの挿入が確認された189人であった。患者の年齢中央値は71歳(範囲:15~89歳)、女性は全体の41%を占めた。すべての患者において、硬膜外カテーテルは左側臥位で傍正中アプローチにより挿入され、主な挿入部位は胸椎中部(48%)および胸椎下部(49%)であった。挿入を担当した医師の卒後経験年数の中央値は5.7年(2.0~35.4年)であった。 硬膜外カテーテルの位置異常は24人で認められた(12.7%、95%信頼区間〔CI〕8.3~18.3)。これらの症例では、カテーテルの先端は椎骨(椎弓:9、肋横突起:2、棘突起:1)、浅層軟部組織(脊柱起立筋内:5、皮下:4)、深層軟部組織(椎間孔内:2、背側胸膜下腔:1)に確認された。 正常なカテーテル位置群と位置異常群での特性の違いを調べたところ、患者の年齢やBMI、挿入部位による相違は認められなかったが、位置異常群の麻酔科医は卒後の経験年数が有意に長かった(中央値5.6年 vs. 10.1年、P=0.010)。ロジスティック回帰分析を用いて、カテーテルの位置異常と経験年数の相関を解析した結果、カテーテルの位置異常の発生率は麻酔科医の経験年数の増加に伴い有意に増加することが示された(卒後1年あたりのオッズ比1.08、95%CI 1.02~1.15)。 本研究について著者らは、「術後CTで確認された硬膜外カテーテル先端の位置不良は全体の約13%に認められた。挿入を担当した麻酔科医の卒後年数が長いほど位置異常のリスクが高くなる傾向があり、経験豊富な医師であっても適切な挿入位置の確認が重要である」と述べている。 なお、経験年数の増加に伴い、カテーテルの位置異常の発生率が上昇する理由としては、1)経験に伴う不注意や過信による一次的な位置異常、2)経験を積んだ麻酔科医が皮膚へのカテーテル固定に十分な注意を払わなくなり、結果として患者の体動により生じる二次的な位置異常、の2つの可能性が指摘されている。

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小児気道異物【すぐに使える小児診療のヒント】第4回

小児気道異物今回は、小児気道異物についてお話しします。「咳が続く」「熱が出た」など風邪様症状で受診する小児は多いですが、それらは本当に風邪ですか?症例1歳3ヵ月、男児咳嗽が出現したため5日前に近医を受診し、急性上気道炎として経過観察されていた。症状が持続し、2日前から発熱も認めるようになったため、近医を再診した。このような症例は、小児を診察していると非常によく遭遇すると思います。保育園に通う幼児は、しょっちゅう風邪をひいて発熱することもしばしば。たいていは急性上気道炎ですが、そんな数ある症例の中に「気道異物」は隠れています。気道異物とは?気道異物とは、本来であれば食道へ向かうべきものが誤って気管や気管支に入ってしまう状態を指します。とくに2歳未満の乳幼児に多く、男児にやや多い傾向があります。原因となるのは、ナッツ類や豆などの食べ物のほか、ビーズやボタン、ビニール片なども含まれます。この時期の小児はまだ犬歯や臼歯が生えそろっておらず、咀嚼力が不十分です。また、咳反射も未熟なため、異物が気道に入っても上手に吐き出せません。こうした身体的特徴に加え、なんでも口に入れて確認しようとする発達段階の特性も、気道異物のリスクを高めています。診断が遅れる理由小児の気道異物の典型的な症状としては、「突然の咳き込み」「喘鳴」「呼吸苦」などが知られています。しかし、実際には「咳が続く」「熱が出た」など非特異的な症状で受診することが多く、初診医が気道異物を疑わないまま経過を追ってしまうケースも少なくありません。異物によっては症状が一時的に軽快するものもあり、その後の症状と結びつかなくなって診断が難しくなることもあります。たとえば、ビニール片のような薄く柔らかい異物は気管内で一旦固定されると喘鳴や咳が軽減し、症状が目立たなくなることがあります。これを「無症状期」と言います。気道異物を疑ったとしても、CTや気管支鏡などの検査は小児では被曝や鎮静のリスクがあるため、実施にためらいが生じやすい現実があります。そのため「明らかな所見がなければ様子をみる」という判断がされやすく、この慎重さが診断の遅れにつながる理由でもあります。診断の鍵は「問診」言葉で症状を説明できない乳幼児では、診察時の所見だけでは判断がつきにくく、保護者から得られる情報が診断の鍵となります。しかし、保護者自身がその情報を重要視していない場合もあるため、「何か口に入れていませんでしたか」「急な咳き込みはありませんでしたか」といった吸引エピソードを探る質問に加え、「おもちゃの部品が足りない」「食べ物が床に落ちていた」といった状況証拠を確認する質問も重要です。診察時に症状が落ち着いていたとしても無症状期を考慮し、吸引の可能性について尋ねる習慣を持つことも診断につながります。また、保護者からの申告がない場合でも、急に始まった咳嗽や喘鳴、治療抵抗性の肺炎などがある場合には、常に気道異物の可能性を頭の片隅に置いておく必要があります。実際の説明例咳が続いていて、熱も出てきました。なんだか呼吸も苦しそうです。何かを口に入れてむせたり、急に咳き込んだりしませんでしたか?あっ!そういえば、1週間くらい前にナッツを与えたところ、むせこんでいました。ちょっと様子をみていたら一旦落ち着いたので、今の咳とは関係ないと思い込んでいました。画像検査と治療方針左主気管支、カシューナッツ画像を拡大する問診で気道異物の可能性が示唆されたとき、次に考えるのが画像検査による裏付けです。しかし、ここでもいくつかの注意点があります。単純X線検査では、ナッツ類やビニール片などの異物は写らないことが多く、診断の決め手にはなりにくいのが実情です。Holtzkneht徴候といった教科書的な所見も、実臨床ではなかなか確認できません。CT検査は異物の描出に有用で、冒頭の症例のもととなった患児の左主気管支でカシューナッツを発見しました。しかし、CT検査は被曝や鎮静の必要性があるため、小児では実施のハードルは高いでしょう。確定診断および治療は、気管支鏡を用いた異物の摘出です。全身麻酔下での気管支鏡検査(主に硬性鏡)が必要となり、設備と経験のある施設での対応が前提となります。したがって、気道異物の可能性が否定できない場合には、専門施設への紹介を検討することが重要です。予防のために気道異物は診断・治療の難しさだけでなく、予防の視点も欠かせません。とくに乳幼児期は、口に入れることで物の形や質感を学ぶ発達段階にあるため、「なんでも口に入れてしまう」こと自体は自然な行動です。だからこそ、周囲の大人が環境を整えることが何より大切です。たとえば、節分の豆やナッツ類は5歳未満には与えない、ミニトマトやブドウなど球状の食品は4等分に切るか柔らかく調理する、食事中は遊ばず食べることに集中できる環境を整える、小さなパーツ付きのおもちゃで遊ぶときは目を離さない―こうした日常の注意が、事故の予防に直結します。実際、節分の時期には消費者庁から注意喚起の文書が毎年発表されています。また、保護者自身が「誤って吸い込む危険」に気付いていないことも多いため、医療者からの丁寧な声かけが有効です。日頃から予防のための一言を添えたり、「子どもの事故防止ハンドブック」(子ども家庭庁・消費者庁発行)など無料で入手できる資料を紹介したりすることも、保護者への啓発に役立ちます。気道異物は、ありふれた咳や発熱の陰にひそんでいることがあります。急に始まった咳や、なかなか治らない喘鳴の背景には、思いがけない異物が潜んでいるかもしれません。いつもの診察に吸引の可能性を一言加える習慣が大きな見落としを防ぐ力になるはずです。暑い日が続いているため、次回は「熱中症」をテーマにお話します。参考資料 1) 今井丈英 ほか. 日本小児呼吸器学会雑誌. 2018;29:114-121. 2) 吉井れの ほか. 日本小児外科学会雑誌. 2024;60:884-889. 3) Shlizerman L, et al. Am J Otolaryngol. 2010;31:320-324. 4) 日本小児科学会:Injury Alert(傷害速報)「No.045 ベビーフード(大豆)の誤嚥による気道異物」 5) 消費者庁:食品による子どもの窒息・誤嚥(ごえん)事故に注意!―気管支炎や肺炎を起こすおそれも、硬い豆やナッツ類等は5歳以下の子どもには食べさせないで― 6) 消費者庁:子どもを事故から守る!事故防止ハンドブック

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術後の吐き気、AI解析による最大のリスク因子は「総出血量」【論文から学ぶ看護の新常識】第20回

術後の吐き気、AI解析による最大のリスク因子は「総出血量」人工知能(AI)を用いて術後悪心・嘔吐(Postoperative nausea and vomiting:PONV)のリスク因子を解析した研究で、最大のリスク因子は「総出血量」である可能性が示されました。星島 宏氏らの研究で、PLOS One誌2024年8月号に掲載された。人工知能を用いた成人の術後悪心・嘔吐のリスク因子の特定研究チームは、人工知能(AI)を用いて術後悪心・嘔吐(PONV)のリスク因子を特定することを目的に、2010年1月1日から2019年12月31日までに東北大学病院で全身麻酔下手術を受けた成人患者37,548例のデータを分析した。PONVの評価は術後24時間以内に悪心・嘔吐を経験、または制吐薬を使用した患者とし、術後の診療録および看護記録から抽出した。機械学習アルゴリズムの1つである勾配ブースティングツリーモデルを用いて、PONVの発生確率を予測するモデルを構築した。モデルの実装にはLightGBMフレームワークを使用した。主な結果は以下の通り。最終的に、データが利用可能であったのは33,676例であった。総出血量がPONVへの最も強力な寄与因子として特定され、次いで性別、総輸液量、患者の年齢が続いた。その他に特定されたリスク因子は、手術時間(60~400分)、輸血なし、デスフルランの使用、腹腔鏡手術、術中の側臥位、プロポフォールの不使用、腰椎レベルの硬膜外麻酔であった。麻酔時間、およびセボフルランまたはフェンタニルの使用は、PONVのリスク因子として特定されなかった。術中総出血量は、手術時間や循環血液量不足と相関する可能性はあるものの、PONVと最も強く関連する潜在的なリスク因子として特定された。今回ご紹介する研究は、AIを使ってPONVのリスク因子を分析し、予測モデルを構築した興味深い論文です。研究では、LightGBMという機械学習モデルを使用し、各因子が予測にどれだけ「貢献」したかを評価するためにSHAP値(SHapley Additive exPlanations)を用いています。SHAP値が0より大きい場合、その因子はPONVのリスクを高める方向に影響した、つまりリスク因子として働いたと解釈されます。PONVのような多様な要因が複雑に絡みあう事象では、このような機械学習での評価が、従来の統計的手法よりも各因子の影響を適切に示せる可能性があります。このSHAP値を用いた分析から、従来のリスク因子として報告されている「女性」、「若年(20~50歳)」、「デスフルランの使用」、「プロポフォールの不使用」なども本研究でリスク因子として確認されました。そして、今回の解析でPONVの予測に最も強く貢献した因子は「術中の総出血量」であることが特定されました。研究では、とくに総出血量が1~2,500mlの範囲でPONVのリスクが高まる関連が示されています。これは、出血による循環血液量不足や術中低血圧がPONVに関与している可能性を示唆しています。また、従来リスク因子とされている「麻酔時間」、「セボフルランの使用」や「フェンタニルの使用」は、今回のAI分析ではリスク因子として特定されませんでした。その一方で、「手術時間(60~400分)」はリスク因子であることが示されています。この結果は、麻酔そのものの時間よりも、手術侵襲などといった手術自体の身体的負担がPONVに関与している可能性を示唆しています。これらの知見を踏まえて、侵襲が多い手術では全身管理がもっとも大事ですが、同時にPONVの発生にも一層の注意が必要です。頭部付近への防水シーツの設置、ガーグルベースンなどの嘔吐物を受ける容器の準備、いつでも制吐剤が投与できるような事前準備をしておきましょう。最後に、本研究は単施設の研究であるため、一般化できるかは今後さらなる検証が必要です。しかし、今回のPONVのように、今後AI解析によって既存の報告以外のリスク因子が報告される可能性があります。常に最新の知識をアップデートしていきましょう!論文はこちらHoshijima H, et al. PLoS One. 2024;19(8):e0308755.

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術後の吐き気、アロマセラピーで改善か

 術後の悪心・嘔吐(PONV)は、全身麻酔による手術を受けた患者の約30%で発生する。口腔外科手術では、PONVの発生する割合がさらに上がることが報告されているが、今回、アロマセラピーにより術後悪心(PON)の重症度が軽減されるという研究結果が報告された。北海道大学大学院歯学研究院歯科麻酔学教室の石川恵美氏らの研究によるもので、詳細は「Complementary Therapies in Medicine」に3月26日掲載された。 PONVの管理は、全身麻酔での手術後の予後と患者の治療満足度にとって重要な要素の1つだ。海外のPONVのガイドラインでは、女性や、高リスクの手術、揮発性吸入麻酔薬の使用といった複数のリスク因子を有する患者に対しては、3~4つの対策を講じることが望ましいとされている。しかし、国内では保険適用可能な薬剤の数が限られており、これらの高リスク患者のPONV管理においては、複数の対策を講じるための代替となる新しい手段の検討が必要である。 PONVおよびPONの予防・治療に関しては、携帯性が高く、処方箋不要で、比較的低コストで、副作用のリスクが少ないといった観点から、アロマセラピーの活用がこれまでに研究されてきた。しかし、PONVおよびPONの管理に関して、高いエビデンスに基づいた研究は限られている。このような背景を踏まえ、著者らは口腔外科手術後のPON発症に対するアロマセラピーの効果を検討する単施設のランダム化比較試験を実施した。 試験には、2022年7月16日から2023年12月31日の間に、北海道大学病院で全身麻酔下による口腔外科手術を受けた20歳以上の成人患者182人が含まれた。患者は1:1でアロマ群(93人)と対照群(89人)に割り付けられた。アロマ群には、ペパーミント・ショウガ・ラベンダーの3種類のエッセンシャルオイルからなる希釈液を吹き付けた綿がジッパー付きの袋に入れて渡された。対照群の袋には精製水を吹き付けた綿が入れられた。患者はPONの初回発症時に、渡された袋を開き2分間の深呼吸を行うよう指示された。PONの重症度は視覚アナログスケール(VAS)を用いて評価した。連続変数、順序変数(および名義変数)の比較にはそれぞれt検定、フィッシャーの正確確率検定を使用した。 アロマ群で32人、対照群で25人の患者がそれぞれPONを発症した。この中から、麻酔中に予防的制吐剤を投与されていた患者、介入前にレスキュー制吐剤を使用した患者を除外し、アロマ群と対照群でそれぞれ26人と21人が最終的な解析に含まれた。介入前から介入後2分までのVASの変化量は、アロマ群で-19.15±3.67、対照群で-2.00±1.08であり、アロマセラピーにより有意にPONの重症度が軽減されることが示された(P<0.001)。 PON発症後にレスキュー制吐剤が使用された患者の割合は、アロマ群(30.77%)が対照群(52.38%)よりも低かったものの、統計的に有意な差は認められなかった。 試験終了時に行われた、5段階のリッカート尺度による治療満足度の評価では、満足度が高い(4または5)と回答した患者の割合は、アロマ群(79.23%)が対照群(14.29%)より有意に高かった(P<0.001)。なお、試験期間中に有害事象は観察されなかった。 本研究の結果について著者らは、「本研究では、アロマセラピーが全身麻酔下での口腔外科手術後のPONの重症度と患者満足度を大幅に改善することが示された。したがって、その利点を考慮すると、アロマセラピーは複数の制吐策の1つとして有望なのではないか」と述べている。 なお、本研究の限界点については、アロマセラピーの性質上、精製水との比較において患者の盲検化ができないこと、単施設の研究であったことなどを挙げている。

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黄斑部の厚さが術後せん妄リスクの評価に有効か

 「目は心の窓」と言われるが、目は術後せん妄リスクのある高齢患者を見つけるのにも役立つ可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。網膜の中心部にある黄斑部が厚い高齢者は、術後せん妄の発症リスクが約60%高いことが示されたという。同済大学(中国)医学部教授のYuan Shen氏らによるこの研究の詳細は、「General Psychiatry」に4月1日掲載された。Shen氏は、「本研究結果は、黄斑部の厚みを非侵襲的なマーカーとして、麻酔および手術後にせん妄を発症しやすい高齢者を特定できる可能性があることを示唆している」と話している。 米国医師会(AMA)によると、高齢患者の約26%が術後せん妄を発症する。米ミシガン州の内科医Amit Ghose氏は、2023年にAMAに発表された記事の中で、4時間に及ぶ心臓手術後に術後せん妄に襲われた自身の経験を振り返った。Ghose氏は、目を覚ましたときには頭が混乱しており、「私は、『なぜ私はランシングで患者の診察をしていないのだろう』と自問した」と回想する。同氏は、家族の質問に正しく答えることができず、オピオイド系鎮痛薬はせん妄状態を悪化させただけだった。症状が治まるまで数日かかったという。 研究グループは、術後せん妄を発症した患者は、入院期間が長くなり、退院後も自宅でのサポートが必要になる可能性が高いと説明する。また、認知機能低下や認知症のリスクも高まる。しかし残念ながら、術後せん妄のリスクがある人を特定するための簡便な検査は存在しない。ただ、過去の研究で、視力障害が術後せん妄の独立したリスク因子であることや、網膜の厚さが認知障害やアルツハイマー病のリスクと関連していることが示されている。網膜は目の奥にある細胞層で、角膜と水晶体を経由して入ってきた光を電気信号に変換し、視神経を通して脳に送る役割を果たしている。 今回、Shen氏らは、全身麻酔下で膝関節や股関節の置換手術、腎臓や前立腺の手術を受ける予定の65歳以上の患者169人(平均年齢71.15歳)を対象に、網膜の厚さと術後せん妄の発症リスクとの関係を検討した。手術の前に、光干渉断層撮影(OCT)により対象者の目の黄斑部の厚さと網膜神経線維層(RNFL)の厚さを測定した。また術後3日間は、せん妄のスクリーニングや診断に用いられるツールであるConfusion Assessment Method(CAM)とCAM-severity(CAM-S)を用いてせん妄の有無とその重症度の評価を行った。 手術後に40人(24%)がせん妄を発症した。術後せん妄を発症した患者では、発症しなかった患者に比べて黄斑部の厚さが有意に厚いことが明らかになった(厚さの平均値は283.35μm対273.84μm、P=0.013)。また、術前に右目黄斑部の厚さが厚いことは、術後せん妄の発症リスクの増加(調整オッズ比1.593、95%信頼区間〔CI〕1.093〜2.322、P=0.015)、およびせん妄の重症度の上昇(CAM-Sスコアの調整平均差0.256、95%CI 0.037〜0.476、P=0.022)と関連することも示された。 この研究では、黄斑部の厚みの増加と術後せん妄リスクとの間の直接的な因果関係を証明することはできない。それでも研究グループは、「本研究で得た知見は、より大規模な研究でさらに検討する価値があるほど強力であり、せん妄の術前検査につながる可能性がある」と述べている。 なお、米国老年医学会(AGS)によると、術後せん妄は予防可能だという。AGSは予防のための有効な手段として、毎日複数回歩かせること、時間と居場所を思い出させること、夜間に中断なく眠れるようにすること、水分補給を徹底させること、眼鏡や補聴器を持たせること、カテーテルの使用を避けることなどを挙げている。

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整形外科における術後せん妄、幅広い20のリスク因子が明らかに~メタ解析

 術後せん妄(POD)は、外科手術を受けた患者によくみられる術後合併症である。発症率は診療科によって異なるが、とくに整形外科患者のPOD発症率は一般病棟入院患者と比較し大幅に高い。せん妄は、患者の転帰と医療システムの両方に重大な影響を及ぼす可能性があるため、PODのリスク因子を特定し、予防することが重要である。三重大学医学部附属病院のRio Suzuki氏らは、下肢整形外科手術後におけるPODのリスク因子を特定したことを報告した。PLoS One誌2025年4月1日号掲載の報告。 本研究では、人工股関節全置換術や人工膝関節全置換術といった下肢整形外科手術後の患者におけるPODのリスク因子を調査した観察研究を、主要な医学データベース(CINAHL、MEDLINE)から網羅的に収集した。適格基準を満たす2つ以上の研究で解析されたせん妄に関する変数を抽出し、ランダム効果モデルを用いて、プールされたオッズ比(OR)、標準化平均差(SMD)を算出した。データはp<0.05の場合に統計学的に有意と見なされた。データベースの検索期間は1975~2024年7月までとした。 主な結果は以下のとおり。・データベース検索では、あらかじめ定義された検索キーワードを用いて2,599件の記録が同定され、最終的に27件の研究が適格基準を満たした(11件が前向きコホート研究、16件が後ろ向きコホート研究)。・この27件の研究の中で計9,044例の参加者データを統合し、システマティックレビューとメタ解析を行った結果、PODの発症に関連する以下の20の因子が特定された。【患者側の因子】 高齢(SMD:0.8、95%信頼区間[CI]:0.56~1.03)、ポリファーマシー(OR:1.47、95%CI:1.19~1.82)【合併症】 入院前の認知機能低下(OR:3.76、95%CI:1.57~9.02)、認知症(OR:4、95%CI:2.09~7.67)、一過性脳虚血発作(OR:1.69、95%CI:1.22~2.32)、パーキンソン病(OR:2.32、95%CI:1.56~3.44)、心血管疾患(OR:1.4、95%CI:1.16~1.68)、心筋梗塞(OR:1.4、95%CI:1.01~1.95)、せん妄歴(OR:12.64、95%CI:8.75~18.27)【術前因子】 認知機能検査(MMSE)のスコア(SMD:-0.59、95%CI:-1.05~-0.13)、血清Alb低値(SMD:-0.69、95%CI:-1.09~-0.29)、CRP高値(SMD:0.47、95%CI:0.05~0.88)、TSH異常値(SMD:-1.83、95%CI:-2.66~-1.01)、FT3異常値(SMD:-0.37、95%CI:-0.62~-0.12)【術中因子】 入院期間の延長(SMD:0.47、95%CI:0.18~0.76)、長時間の手術(SMD:0.53、95%CI:0.16~0.90)、長時間の麻酔(SMD:0.16、95%CI:0.05~0.28)、全身麻酔(OR:1.28、95%CI:1.04~1.58)、脊髄麻酔(OR:0.79、95%CI:0.65~0.97)、輸血(OR:2.03、95%CI:1.02~4.08) 著者らは「術前および術後のデータを収集することは、PODの高リスク患者を同定するために非常に重要である。本研究の結果が整形外科手術後のPODの予測および予防に役立つ可能性がある」と結論付けている。

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