サイト内検索|page:1

検索結果 合計:139件 表示位置:1 - 20

1.

専門医への紹介を要したせん妄、認知症・せん妄既往・大量飲酒が関連

 せん妄は、注意・意識・認知機能が急性に変化し、患者の安全や治療経過に影響する。今回、専門チームへの紹介を経て診断されたせん妄には、認知症、せん妄既往歴、大量飲酒が関連することが、2万人超の入院患者を対象とした研究で明らかになった。研究は、奈良県立医科大学附属病院精神医療センターの松田恵美氏、同大学健康管理センター・精神医学講座の山室和彦氏らによるもので、詳細は7月30日付の「PCN Reports」に掲載された。 せん妄は、入院中の合併症で、短期間に注意力や意識、認知機能の障害が生じ、高齢者や身体的に弱い患者に多い。入院期間延長や死亡リスクの上昇と関連し、患者の発症しやすさに、手術、感染症、薬剤などが重なって発症すると考えられる。実臨床では見逃される例もあり、全入院患者を対象に、院内スクリーニング項目と紹介後のせん妄診断との関連を検討したデータは限られていた。著者らは、入院患者のリスク因子の分布と、専門チームの診断に関連する因子を検討した。 研究では、2022年6月~2023年11月に奈良県立医科大学附属病院に入院した全ての連続患者2万980人を対象とし、除外基準は設けなかった。入院後3日以内に、厚生労働省の診療報酬制度に基づく院内チェックリストを用いて、年齢、認知症、せん妄既往、大量飲酒、薬剤使用、手術歴などを評価した。せん妄が疑われた場合は、主治医が認知症ケアチームまたは精神科に紹介し、専門チームがICD-10およびDSM-5-TRに基づき診断した。さらに、ロジスティック回帰分析により、関連因子を年齢と性別で調整して検討した。 対象2万980人のうち、認知症ケアチームまたは精神科へのコンサルテーションは509人(2.4%)に行われ、209人(全対象の1.0%)がせん妄と診断された。この1.0%は、紹介後にせん妄と診断された患者の割合を示す。入院時のスクリーニングでは、1万1,823人(56.4%)が70歳以上に該当した。また、4,446人(21.2%)はいずれのリスク因子にも該当しなかった。 年齢別にみると、この診断の割合は概ね年齢が高い群ほど高く、40歳未満では0%だったのに対し、80歳超では1.57%となった。また、認知症やせん妄既往歴は高齢群ほど多くみられた。一方、大量飲酒は中年層で多く、最も高齢の層では少なかった。 未調整ロジスティック回帰分析では、年齢が1歳高くなるごとに、せん妄と診断されるオッズが3.2%高く、オッズ比(OR)は1.032(95%信頼区間〔CI〕1.020~1.043)だった。一方、年齢と性別を調整した多変量解析では、認知症(OR 3.995、95%CI 2.647~6.029)、せん妄既往歴(OR 3.649、95%CI 2.158~6.170)、大量飲酒(OR 1.648、95%CI 1.002~2.710)が、せん妄診断と独立して関連していた。一方、70歳以上、器質性脳疾患、せん妄リスクを高める薬剤の使用、全身麻酔下の手術などは、せん妄診断と独立して関連しなかった。 著者らは、今回、認知症やせん妄既往などに着目し、早期にリスクを見極めて予防につなげる意義を指摘する。ただし、本研究で把握したのは、認知症ケアチームまたは精神科への紹介後に診断されたせん妄に限られる。紹介されず主治医が対応した症例や見逃し例は含まれないため、結果は入院患者全体のせん妄発症因子ではなく、紹介後の診断に関連する因子として解釈する必要がある。

2.

9ヵ月児の上咽頭に「ルイ・ヴィトン」【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第313回

【第313回】9ヵ月児の上咽頭に「ルイ・ヴィトン」生後9ヵ月で、もう「ルイ・ヴィトン」。しかも身につけていた場所は、靴でも服でもなく、上咽頭でした。今回の異物論文、ブランドの使い方がだいぶ斬新です。Kumar P, et al. Nasopharyngeal Foreign Body with Unusual Presentation. Iran J Otorhinolaryngol.2024;36(1):361-363.女児が「何かを飲み込んだかもしれない」と耳鼻咽喉科救急へ。両親はその瞬間を見ておらず、正体も不明。一緒に遊んでいた子供たちの話だけが手がかりでした。本人はすやすや眠り、症状はまったくありません。酸素飽和度は100%で、呼吸音も左右差なし。鼻腔、口腔、口腔咽頭を診ても異物は見えませんでした。これだけなら、「何もなかったのでは」と思ってしまいそうです。ところが、硬性鏡で鼻から奥をのぞくと、左後鼻孔から上咽頭にかけて鋭い金属片が引っかかっていました。全体像は見えず、まだ正体はわかりません。頸部軟部組織X線を側面と正面から撮影すると、そこにはくっきりと金属製の「ルイ・ヴィトン」のロゴが写っていました。そう、あの「LV」の文字です!!!正体は、靴に付いていた「ルイ・ヴィトン」の金属製ロゴでした。全身麻酔下で確認すると、ロゴには2つの張り出しがあり、一方は左後鼻孔、もう一方は軟口蓋の後面に食い込んでいました。栄養チューブで軟口蓋を持ち上げて引っかかりを外し、最後は鉗子を使って口から摘出しました。取り出された「ルイ・ヴィトン」のロゴは3×3cm。9ヵ月児の上咽頭に収まっていたとは思えない大きさです。著者らは、遊んでいるうちに口へ入れ、そのまま上咽頭へ入り込んだ可能性を考えています。手技は合併症なく終了し、抜管後のX線でも残存異物はありませんでした。女児は24時間の経過観察後、内服薬を処方されて退院しています。この症例で一番怖いのは、これほど鋭く大きな異物があるのに、女児が無症状だったことです。2つの張り出しが周囲に引っかかり、たまたまその場に固定されていたのでしょう。著者らは、幼児の異物誤飲が疑われるのに見つからない場合、上咽頭のX線評価も診察に含めるよう提案しています。ブランド物は目立つものですが、今回の「ルイ・ヴィトン」は、内視鏡を入れるまで見事に気配を消していたのでした。

3.

非心臓大手術、全静脈麻酔vs.揮発性吸入麻酔/JAMA

 非心臓大手術を受ける高齢患者において、全静脈麻酔(TIVA)は揮発性吸入麻酔と比較し、術後30日時点の在宅日数(days alive and at home;生存し、自宅で過ごした日数)を改善しなかった。英国・Institute of Cancer ResearchのShaman Jhanji氏らVITAL Trial Teamが、「Volatile vs Total Intravenous Anesthesia for Major Non-Cardiac Surgery(VITAL)」試験の結果を報告した。非心臓大手術を受ける高齢者は、術後合併症を呈し医療サービスを利用することが多く、これらに麻酔手技が関係する可能性がある。TIVAと吸入麻酔は意識消失をもたらすが、薬理学的特性、術中の生理学的影響および周術期の安全性プロファイルは顕著に異なる。しかし、回復および安全性に関する両者間の比較は行われていなかった。JAMA誌オンライン版2026年8月12日号掲載の報告。主要評価項目は術後30日時点の在宅日数 VITAL試験は、英国国民保健サービス(NHS)の49施設で実施されたプラグマティックな無作為化非盲検臨床試験である(最終追跡調査:2024年10月)。 研究グループは、全身麻酔下での待機的非心臓大手術が予定されている50歳以上の患者を、外科分野(筋骨格系、腹腔内、胸部、血管、その他)、予想手術時間(2時間未満、2時間以上)、手術の適応(がん、非がん)、および術前のRockwoodの臨床虚弱尺度スコア(健常、脆弱、虚弱)で層別化し、手術当日に維持麻酔としてTIVA(プロポフォール点滴)群または揮発性の吸入麻酔群のいずれかに1対1の割合で無作為に割り付けた。その他の周術期ケアは、すべて臨床医の裁量に委ねられた。 主要評価項目は、術後30日時点の在宅日数、副次評価項目は、術後90日時点の在宅日数、30日・90日・6ヵ月時の死亡率、術後3日目のQuality of Recovery-15スコア、術後1日目の患者満足度(Bauer Patient Satisfaction Questionnaire)、術後3日目のせん妄(4 As Test[4AT])、麻酔下での意図しない覚醒、および術後30日以内の主要術後合併症(Clavien-Dindo分類2以上)などであった。主要評価項目、副次評価項目に有意差なし 2022年1月12日~2024年4月10日に2,508例が無作為化された(TIVA群1,254例、吸入麻酔群1,254例)。TIVA群の1例が同意を撤回し解析対象から除外された。 患者背景は、平均年齢67歳(SD 8.9)、男性55%、主な適応はがん(75.4%)で、ほとんどは腹腔内手術(72.1%)であった。 術後30日時点の在宅日数は、TIVA群22.5日(SD 6.8)、吸入麻酔群22.4日(SD 6.6)で、両群間に有意差は認められなかった(発生率比:1.00、95%信頼区間:0.99~1.02、補正後p=0.68)。 90日時点の在宅日数、30日・90日・6ヵ月時の死亡率、および術後3日目のQuality of Recovery-15スコアについても差はなかった。 TIVA群では吸入麻酔群と比較し、術後早期の症状として口渇(74%vs.78%)、嗄声(48%vs.54%)、および悪心・嘔吐(27%vs.36%)の報告率が低かった。 術後3日目にせん妄が認められた患者の割合は両群で同程度であり、ほとんどの患者(87.6%)はせん妄を呈していなかった。 術後30日以内の主要術後合併症は全体で312例(12.4%)に発生したが、両群で有意差はなかった(TIVA群154例、吸入麻酔群158例)。 麻酔下での意図しない覚醒(確実または可能性が高い)は、TIVA群で2例報告された。

4.

第308回 手足口病、全国25都道県で警報レベル 東北でも感染拡大/JIHS

<先週の動き> 1.手足口病、全国25都道県で警報レベル 東北でも感染拡大/JIHS 2.千葉の豪雨で25市町に災害救助法、マイナ保険証なくても受診可能に/厚労省 3.地域ごとに「推奨薬」選定へ 地域フォーミュラリ普及を本格化/厚労省 4.チルゼパチドの薬価25%減 低価格化による不適正使用を懸念/リリー 5.MMR混合ワクチンを個別接種へ 接種率低下と感染拡大に懸念/米国 6.沢井製薬が46品目販売中止、低薬価・設備老朽化で安定供給が課題に/沢井 1.手足口病、全国25都道県で警報レベル 東北でも感染拡大/JIHS国立健康危機管理研究機構(JIHS)の感染症動向調査によると乳幼児を中心に流行する手足口病が、東北各県で高い水準となっている。青森県では8月3~9日の患者報告数が257人で、6週間ぶりに減少したものの、1定点医療機関当たり7.56人と警報基準の5人を上回った。県内6保健所管内のうち5管内が警報レベルで、青森市・東津軽では10.33人、八戸市・三戸では9.14人だった。その一方で、岩手県では同期間の患者数が415人と前週から69人増加。1定点当たり15.37人で10週連続の増加となり、警報基準の3倍を超えた。一関27.0人、中部26.5人、県央25.0人など、10管内中7管内が警報レベルとなっている。宮城県も1定点当たり10.45人と今季最多を更新し、4週連続で警報基準を超えた。同じく福島県でも9.71人と2週連続で今季最多となり、警報レベルが4週続いている。全国では7月27日~8月2日の定点当たり報告数は6.03人。2週連続で減少したものの、25都道県で警報基準を超えており、依然として広範な流行が続いている。手足口病はエンテロウイルスなどによる感染症で、多くは軽症だが、まれに脳炎などの中枢神経合併症を来す。飛沫や接触のほか便を介して感染し、症状消失後も数週間にわたり便中へウイルスが排泄されることがある。医療現場では乳幼児の発熱、口腔内病変、手足の発疹に加え、意識障害、けいれんなど重症化を示唆する症状に注意が必要である。家庭や保育施設では石けんと流水による手洗い、タオルの共用回避、おむつ交換時の排泄物処理の徹底が求められる。 参考 1) 手足口病の減少続くも、感染性胃腸炎やコロナは増転【感染症動向調査第31週:7月27日~8月2日】(Medical Tribune) 2) 青森「手足口病」感染者数減少も依然5保健所管内で警報レベル(NHK) 3) 岩手県内「手足口病」患者数さらに増加 警報基準の3倍余に(同) 4) 福島県内 「手足口病」今季最多に お盆休みの感染対策徹底を(同) 2.千葉の豪雨で25市町に災害救助法、マイナ保険証なくても受診可能に/厚労省8月13日に千葉県を中心に発生した記録的豪雨で、県内の医療機関にも浸水や停電などの被害が広がっている。厚生労働省によると、14日午前10時時点で大規模病院を含む22医療機関から被害報告があり、千葉市、柏市、八千代市などを中心に影響が確認された。内閣府は多数の住民が生命・身体に危害を受ける、またはその恐れがあるとして、千葉県の21市4町、計25市町に災害救助法を適用した。厚労省は14日、被災者の保険診療や診療報酬に関する特例措置を通知した。避難時にマイナンバーカードや資格確認書を紛失、または自宅に残した場合でも、氏名、生年月日、連絡先に加え、被用者保険では事業所名、国保・後期高齢者医療では住所などを申し立てれば保険診療を受けられる。医療機関は可能な限り保険者を確認した上でレセプト請求するが、特定できない場合も住所や事業所名、連絡先などを記載して請求できる。被災者受け入れに伴う診療報酬上の特例も適用される。許可病床数を超えて患者を受け入れても減額措置を適用せず、DPC病院も従来通り診断群分類点数表による算定が可能となる。患者急増や災害支援への職員派遣によって看護配置や夜勤時間などの施設基準が一時的に満たせなくなった場合も、一定範囲では変更届を不要とする。また、被災医療機関からの転院患者については、平均在院日数や重症度、医療・看護必要度などの算定から除外できる場合があり、ICU・HCUにやむを得ず本来の対象外患者を収容した場合も特例が設けられた。そのほか、避難所で継続的な診療が必要な通院困難患者には、条件を満たせば在宅患者訪問診療料の算定も認められる。その一方で、保団連は医療機関や介護施設、在宅人工呼吸器・酸素療法、人工透析患者への電力・水供給の早期確保、医薬品・医療材料の供給、被災者の医療費窓口負担免除などを政府に要望した。豪雨災害では直接的な外傷だけでなく、停電・断水による透析や在宅医療の継続困難、慢性疾患治療の中断も重要な課題となる。 参考 1) 令和8年8月13日からの大雨に伴う災害に係る災害救助法の適用について(内閣府) 2) 令和8年8月13日からの大雨に伴う災害の被災者に係るマイナ保険証又は資格確認書の提示等について(厚労省) 3) 千葉豪雨 県内の22の医療機関から被害報告 厚労省(テレビ朝日) 4) 千葉の大雨、死者8人に…被災者の“医療費免除”と“最大850万円の支給”を医師団体が国に緊急要望(弁護士JPニュース) 5) 2026年8月13日からの千葉県を中心とする大雨被害、保険診療受診や診療報酬算定に関する特例を適用-厚労省(Gem Med) 3.地域ごとに「推奨薬」選定へ 地域フォーミュラリ普及を本格化/厚労省厚生労働省は、地域ごとに使用を推奨する医薬品を定める「地域フォーミュラリ」の普及を本格化させる。今秋をめどに、医療関係者らを対象とした全国説明会を開き、制度への正確な理解を広げる方針。地域フォーミュラリは、高血圧、脂質異常症、胃潰瘍などの治療薬について、有効性、安全性、費用、供給状況などを踏まえ、地域で推奨する医薬品をリスト化する仕組み。院内フォーミュラリと異なり、病院だけでなく診療所や薬局も含む地域全体で運用する。医師の処方権を制限するものではなく、標準的な薬物療法の共有、後発医薬品の適正使用、医薬品の安定供給を目的とする。日本フォーミュラリ学会によると、2026年2月時点で18都道府県30地域に導入が済んでおり、31地域が準備中。大阪府八尾市ではスタチンなど10薬効群、茨城県つくば地域では14薬効群について策定している。学会も31薬効群の「モデルフォーミュラリ」を公開しており、各地域はこれを参考に独自の事情を加味して策定できる。2026年度診療報酬改定では、医科・調剤の施設基準に、地域の医療機関、薬局、関係団体と医薬品の品目情報を共有し、安定供給に向けた事前の取り決めを行うことが望ましいとの考え方が盛り込まれた。現時点では努力目標だが、国が地域フォーミュラリを政策的に後押しする姿勢が鮮明になった。厚労省は全都道府県に医師会や薬剤師会などが参画する検討会の設置を求める。普及の背景には医療費適正化に加え、後発薬の供給不安や災害対応がある。健保連は2019年、高血圧、脂質異常症、糖尿病で後発薬への切り替えが進めば、全国で年間3,100億円の薬剤費削減につながると試算している。また、地域で使用薬をある程度集約すれば、薬局の在庫負担軽減や供給途絶時の代替、災害時の備蓄・配送にも役立つ。今後は、地域の実情を反映しながら、医師の処方判断とどう両立させるかが普及の鍵となる。 参考 1) 地域フォーミュラリ、厚労省が「全国説明会」今秋、医療関係者ら向けも(MEDIFAX) 2) 高血圧・脂質異常症・胃潰瘍…地域ごとに異なる「使用が推奨される医薬品」、リスト作りを国が推進(読売新聞) 3) 報酬改定も策定を後押し、広がる地域フォーミュラリ(日経メディカル) 4.チルゼパチドの薬価25%減 低価格化による不適正使用を懸念/リリー日本イーライリリーは、2型糖尿病治療薬チルゼパチド(商品名:マンジャロ皮下注)の薬価が8月1日付で25%引き下げられたことを受け、「画期的な医薬品に対する不当に不利益な対応」とする声明を発表した。今回の引き下げは、販売額が想定を上回った医薬品の価格を調整する「持続可能性特例価格調整」の適用によるもの。厚生労働省によると、同薬の保険診療での年間販売額は1,000~1,500億円規模に達している。薬価は2.5mg製剤で1本1,443円、15mg製剤で8,658円となった。リリーは、日本の価格は従来からG7で最も低い水準にあり、今回の引き下げにより同規模の経済圏でも最低水準になるとしている。同社は低価格化により、適応外となる痩身目的での不適正使用、海外からの医療ツーリズム、利益目的の買い占めや海外転売が拡大し、本来治療を必要とする2型糖尿病患者への安定供給に影響する可能性があると警告。政府に海外転売を厳格に規制する措置を求めている。チルゼパチドは週1回投与のGIP/GLP-1受容体作動薬で、食欲を抑制する作用も有する。わが国では2023年に2型糖尿病治療薬として発売されたほか、2025年には肥満症治療薬として別製品が発売されている。その一方で、糖尿病治療用製剤を美容・ダイエット目的で自由診療に使用する例が広がっており、適応外使用に伴う健康被害や、医薬品副作用被害救済制度の対象外となる可能性も指摘される。リリーは、今回の薬価引き下げについて、研究開発や国内投資の予見可能性を損ない、将来的なドラッグラグ・ドラッグロスにつながる恐れもあると主張している。高額な革新的医薬品による医療費増大への対応と、適正使用、安定供給、創薬イノベーションをどう両立させるか、薬価政策のあり方が改めて問われている。 参考 1) マンジャロの大幅な薬価引き下げに対する声明を発表~国際競争下における日本への長期的投資の持続のために、そして患者さんがイノベーションを享受するためには、予見可能で透明性の高い政策環境が不可欠~(日本イーライリリー) 2) 糖尿病薬マンジャロ「インドより安い」 不適正使用の助長に懸念(日経新聞) 3) 英アストラゼネカCSO 革新医薬への支出「先進国で公平負担を」(同) 4) リリー、マンジャロ薬価引き下げは「不当に不利益な対応」(AnswersNews) 5.MMR混合ワクチンを個別接種へ 接種率低下と感染拡大に懸念/米国米国のトランプ大統領は8月10日、小児のワクチン接種方針を見直す大統領令に署名した。麻しん、おたふく風邪、風しんを予防するMMR混合ワクチンについて、それぞれを別の機会に接種することを推奨するとともに、すべての小児に一律で推奨するワクチンを従来の17種類から11種類に縮小する方針を示した。A型・B型肝炎、ロタウイルス、髄膜炎菌、インフルエンザ、新型コロナワクチンなどは、医師と保護者による個別判断に移行するとしている。トランプ氏はワクチン接種数の増加と自閉症との関連を示唆しているが、米国小児科学会は「数百万人を対象とした多くの研究で関連がないことが示されている」と反論し、今回の見直しを「危険で誤解を招く」と批判している。WHOも、ワクチンと自閉症との因果関係を示す証拠はなく、MMRを単独接種に分ける医学的利点を裏付ける根拠もないとしている。さらに、麻しん・風しん・おたふく風邪の単独ワクチンは現在米国内では入手ができず、分割接種には製造体制の整備が必要となる。接種回数や受診回数の増加により、接種完遂率が低下するとの懸念も強い。米国では今年、8月6日時点で麻疹患者が2,465人に達しており、専門家はワクチン忌避の拡大がさらなる流行につながる可能性を警告している。なお、接種義務の決定権は各州にあり、大統領令のみでただちに接種スケジュールや保険適用が変更されるわけではない。 参考 1) 米、混合ワクチンを個別接種に 推奨対象も削減(共同通信) 2) 「ワクチンと自閉症が関連」が持論のトランプ氏、混合ワクチンを別々に接種する方針打ち出す…感染リスク拡大の恐れ(読売新聞) 3) 米医師ら、トランプ氏の大統領令に懸念 家庭でのワクチン離れにつながるか(CNN) 6.沢井製薬が46品目販売中止、低薬価・設備老朽化で安定供給が課題に/沢井沢井製薬は、後発医薬品22成分46品目について、在庫がなくなり次第、順次販売を中止すると医療関係者に通知した。大半は安定供給体制の構築と生産効率改善を目的とした製品構成の見直しによるもので、一部は協業する日医工グループ製品などへ統合する。対象にはアテノロール、アマルエット配合錠、アルファカルシドール、エバスチン、クアゼパム、テルミサルタンOD錠、ドネペジル、ニフェジピン、フルボキサミン、ブロナンセリン、メマンチンなど、日常診療で処方される薬剤も多数含まれる。沢井製薬は各品目について代替品・代替候補品を提示している。たとえばアマルエット配合錠はアムロジピンとアトルバスタチンの単剤、セチリジンOD錠は通常錠、ドネペジル錠は同社OD錠への切り替えが候補とされている。在庫消尽時期は品目ごとに異なり、多くは2027年4月だが、プロブコールは2026年10月、ザルトプロフェンやプロピベリン20mgは同年11月、ニフェジピンカプセルは2028年3月とされる。その一方で、アテノロールやアルファカルシドール、クアゼパムなどはすでに供給停止中となっている。経過措置期間の満了は2028年3月の予定。背景には後発薬業界の構造的な供給問題がある。日本製薬団体連合会の調査では、医療上の必要性が高い2,882品目のうち255品目、約9%で将来の供給継続が困難と回答された。主因は薬価低下や製造設備の老朽化であり、なかには全身麻酔薬や注射用抗菌薬など重要薬も含まれている。臨床現場では今後、単なる銘柄変更だけでなく、剤形や規格、配合剤から単剤への変更が必要となるケースもあり、処方時には院内採用品や地域薬局の在庫状況を含めた確認が求められる。 参考 1) 販売中止品目のお知らせ(沢井製薬) 2) 沢井製薬、後発薬46品目を販売中止へ 供給安定へ製品構成見直し(日経新聞) 3) 沢井製薬が46品目、高田製薬が31品目を販売中止に(日経メディカル) 4) 重要度高い薬「供給継続できず」1割 低薬価や老朽化で、日薬連調査(日経新聞) 5) 医療用医薬品供給状況報告(厚労省)

5.

第307回 特定健診は初の6割台 メタボ該当・予備群は880万人で横ばい/厚労省

<先週の動き> 1.特定健診は初の6割台 メタボ該当・予備群は880万人で横ばい/厚労省 2.熊本地震で病院船が初出動 DMAT・JMATなど災害医療チームも活動/熊本県 3.OTC類似薬「薬剤費25%」が患者負担に、長期処方での配慮対象は限定的/厚労省 4.医療・介護AIに重点投資 AX・DX推進本部を設置/厚労省 5.国立大学の経営危機、東大にも波及 研究力低下への懸念強まる/東大ほか 6.正常な脳組織を誤って摘出 50代女性が自発呼吸不能の重篤状態/京大 1.特定健診は初の6割台 メタボ該当・予備群は880万人で横ばい/厚労省厚生労働省は、2024年度の特定健康診査・特定保健指導の実施状況を公表した。特定健診の対象者は約5,142万人、受診者は約3,161万人で、実施率は61.5%となり、前年度から1.6ポイント上昇した。2008年度の制度開始時は38.9%で、今回初めて6割を超えた。国は2029年度までに70%以上の実施を目標としている。性別では男性65.9%、女性57.0%で、男性が8.9ポイント高かった。年齢別では45~49歳が66.8%で最も高く、60歳未満ではおおむね6割台を維持した一方で、65~69歳は52.8%、70~74歳は47.5%まで低下した。保険者別では健康保険組合83.8%、共済組合83.3%に対し、全国健康保険協会60.6%、市町村国保38.8%と大きな差がみられた。特定保健指導は、対象者約524万人のうち約148万人が終了し、実施率は28.3%。前年度から0.7ポイント上昇し過去最高を更新したものの、2029年度目標の45%以上とはなお大きな開きがある。保険者別では単一健康保険組合が46.1%で最も高く、小規模市町村国保が45.3%で続いた。メタボリックシンドロームの該当者・予備群は約880万人で、2008年度比では17.2%減少しており、減少幅は前年度から横ばい推移となった。また、特定健診受診者の31.1%は高血圧症、糖尿病、脂質異常症の治療薬を1種類以上服用していた。受診率は着実に改善しているが、年齢や保険者による格差の縮小に加え、健診後の保健指導や必要な治療へ確実につなげることが今後の課題となる。 参考 1) 2024年度 特定健康診査・特定保健指導の実施状況(厚労省) 2) 特定健診、実施率は61.5%に上昇 24年度、保健指導は28.3%(MEDIFAX) 3) 特定健診実施率、初の6割超え24年度 29年度までに7割以上目標 厚労省(CB news) 2.熊本地震で病院船が初出動 DMAT・JMATなど災害医療チームも活動/熊本県政府は8月5日、7月28日に発生した令和8年熊本地震で多数の医療機関が被災した熊本県八代市の八代港で、防衛省による民間船舶(PFI船)を活用した医療提供(船舶活用医療)を初めて実施した。熊本県知事が8月1日に国へ要請したもので、2021年成立の「災害時等における船舶を活用した医療提供体制の整備の推進に関する法律」に基づく初の船舶活用医療となる。内閣府、防衛省、熊本県に加え、日本赤十字社、DMAT、JMATなどが連携。船内では発熱などの内科診療、熱中症や軽傷への対応、薬の処方などを行い、併せて被災者への入浴支援も実施した。8月5日午後2時から医療提供を開始し、初日の医療利用者は13人、活動した医療従事者は23人だった。その一方で、「はくおうII」への乗船者は187人、うち182人が入浴支援を利用した。台風13号の接近に伴い、同船は6日午前6時に八代港を出港し、医療提供も一時中断している。被災地ではDMAT、DPAT、日赤救護班、災害支援ナース、JMATなども活動を継続している。透析は一時13施設で実施が困難となったが、8月6日時点で実施困難な2施設についても他院での透析が手配済みとなった。船舶は陸上の医療機関やライフラインが被災した際にも、医療、衛生、生活支援を一体的に提供できる新たな災害医療拠点として期待される一方で、今回の台風による中断は、気象条件に左右される運用上の課題も示した。 参考 1) 令和8年熊本地震に係る被害状況等について(内閣府) 2) 令和8年熊本地震における船舶活用医療の実施について(同) 3) 熊本の被災地にあすから「病院船」、防衛省の船舶活用し初の取り組み…内科診療や熱中症治療・薬の処方も(読売新聞) 4) 防衛省チャーター舶「はくおうII」が入浴や医療提供 断水や猛暑に苦しむ熊本の被災者支援(産経新聞) 5) 避難者支援で医療チームが相次ぎ活動 熊本地震 DMAT・DPAT・災害支援ナースなど(CB news) 3.OTC類似薬「薬剤費25%」が患者負担に、長期処方での配慮対象は限定的/厚労省厚生労働省は8月5日、「OTC類似薬の保険給付の見直しの実施に向けた技術的検討会」で中間とりまとめを了承した。2027年3月から、市販薬と成分・投与経路が同一で1日最大用量も異ならないOTC類似薬について、薬剤費の25%相当を保険給付の対象外とし、通常の1~3割の自己負担とは別に「特別料金」として患者が負担する。8月時点の対象は77成分1,042品目で、解熱鎮痛薬、抗アレルギー薬、湿布、保湿剤など日常診療で使用頻度の高い薬剤が含まれる。ただし、一定の患者や使用場面には配慮措置を設ける。がんや指定難病の患者、公費負担医療の対象者は、原疾患や治療に関連する症状への処方であれば追加負担の対象外とする一方で、花粉症など原疾患と無関係な症状への処方は対象となる。18歳未満の子供や入院中・退院時の処方も対象外。外来・在宅でも、生検、処置、手術など侵襲的医療行為に伴い新たに処方する薬は原則14日分まで対象外とする。長期使用の扱いも焦点となる。内服薬は年間おおむね50週の処方が目安で、診療情報提供書、お薬手帳、オンライン資格確認の薬剤情報などで処方歴を確認する。初診で過去の処方歴が確認できない場合は、少なくとも6ヵ月間の症状の持続・反復と薬剤使用を確認した上で、医師が通年使用を必要と判断する。外用薬はさらに条件が厳しく、湿布などの鎮痛消炎外用薬は長期使用でも原則追加負担となる。ただし2028年度末までは、画像検査で重度の変形性膝関節症などが確認され、医師が毎日の継続使用を必要と判断する場合に限り対象外とする。アトピー性皮膚炎に対するヘパリン類似物質や尿素の通年使用は対象外となる。また、医療用薬とOTC薬で効能・効果が一致しない場合は追加負担を求めない。たとえばフェキソフェナジンは、OTCにない蕁麻疹や皮膚疾患に伴うそう痒への使用では対象外となる一方で、アレルギー性鼻炎では原則対象となる。7月にOTC薬が発売された睡眠薬ラメルテオンも対象成分に追加された。今回の制度変更は現場にも大きく影響する。医療機関には対象外と判断した根拠を診療報酬請求書などに記載することが求められる方向で、処方箋様式の変更や電子カルテ、レセコン改修も見込まれる。検討会でも、医師や薬剤師の確認業務が過度に複雑にならない簡素な運用を求める声が相次いだ。厚労省は8月6日から中間とりまとめへのパブリック・コメントを実施しており、8月20日が締め切りとなっている。全国保険医団体連合会(保団連)は、慢性疾患でも配慮対象にならないケースが多いうえ、対象外か否かを判断する医療現場の負担が大きいとして、医療関係者らに厚労省のパブコメへ意見を提出するよう呼びかけている。意見はe-Govのパブリック・コメントから提出できる。厚労省は今後、さらに医療保険部会や中医協で議論し、今秋に省令・告示、関連通知などを取りまとめる予定。 参考 1) 第4回OTC類似薬の保険給付の見直しの実施に向けた技術的検討会(厚労省) 2) 「OTC類似薬の保険給付の見直しの実施に向けた中間とりまとめ」について(同) 3) 入院患者は追加負担対象外 OTC類似薬で厚労省案 がんの主たる疾患や副作用の薬も(産経新聞) 4) OTC類似薬の技術的検討会が中間取りまとめ 湿布薬は慢性・重度の変形性膝関節症は除外 対象1042品目(ミクスオンライン) 5) OTC類似薬保険除外 厚労省が配慮措置(中間とりまとめ)のパブコメ募集開始 8月20日まで(保団連) 6) 湿布は長期使用でもOTC類似薬の追加負担に 厚労省検討会で了承(朝日新聞) 7) OTC類似薬の患者特別負担の詳細固まる、アトピーへの「ヘパリン類似物質・尿素」通年処方は特別負担対象外-厚労省技術的検討会(Gem Med) 8) OTC類似薬の保険給付の見直しの実施に向けた中間とりまとめ」に関する意見公募の実施について(パブリック・コメント) 4.医療・介護AIに重点投資 AX・DX推進本部を設置/厚労省厚生労働省は8月5日、医療・介護・福祉分野でAIやデジタル技術の活用を推進する「厚生労働省ヘルスケアAX・DX推進本部」の初会合を開いた。本部長を務める上野 賢一郎厚労相は、従来の医療DXに加え、AIトランスフォーメーション(AX)も省を挙げて戦略的、総合的に推進する方針を示し、各部局に2027年度予算の概算要求へ必要な事業や経費を盛り込むよう指示した。推進本部は、これまで各部局で進めてきたAI・DX関連施策を一元的に把握し、全省的に加速させる司令塔として4日に発足した。本部長に厚労相、副本部長に事務次官、厚生労働審議官、医務技監などを置き、関係部局長が参加するほか、「AI for ヘルスケア成長戦略室」を新設し、迫井 正深医務技監を室長として、具体的施策の検討や関係省庁との調整を行う。背景には、政府が日本成長戦略で「AI・半導体」を17の戦略分野の1つに位置付けたことがある。医療・介護ではAIロボットなどの「フィジカルAI」、医療・介護・福祉では領域特化型の「バーティカルAI」の開発・導入を進める。政府はフィジカルAIで2040年に世界シェア3割超、市場規模20兆円、バーティカルAIでは2030年までに世界で5兆円超の市場獲得を目標に掲げる。看護記録などの文書作成や福祉相談業務を支援するAIの普及、研究開発・実証、AI活用に必要なデータ基盤の整備などが想定される。創薬・先端医療でも、AIやデータ活用による研究開発プロセスの高度化・効率化を推進する。政府は成長戦略で新設した、予算要求上限を設けない「『強く豊かな日本』投資枠」も活用し、官民投資を促す方針。厚労省は今後、8月末の概算要求に向けて施策を具体化する。 医療DXが電子化や情報連携を中心としてきたのに対し、今後は診療・看護・介護など実務そのものをAIで変革するAXへ政策領域が広がることになる。 参考 1) 第1回厚生労働省ヘルスケアAX・DX推進本部 資料(厚労省) 2) 医療や介護のAI活用を支援 厚労省が推進本部設置(日経新聞) 3) 厚労省 ヘルスケアAX・DX推進本部が初会合 上野厚労相「日本成長戦略実現に向け概算要求へ」(ミクスオンライン) 4) 政府が医療・介護分野でAI活用推進へ「ヘルスケアAX・DX推進本部」初会合(CB news) 5.国立大学の経営危機、東大にも波及 研究力低下への懸念強まる/東大ほか東京大学が2026年度に2年連続の最終赤字となる見通しであることがわかった。国立大学法人化した2004年度以降、2年連続の赤字は初めて。25年度は数十億円、26年度は約40億円の赤字を見込み、大学の「貯金」に当たる繰越金も数年で枯渇する可能性がある。財務状況が改善しなければ、研究者数の削減など研究・教育体制の縮小も避けられないという。東大の年間収入は約3,000億円で国立大学最大規模。24年度は運営費交付金や補助金が約969億円、附属病院収入が約585億円、企業との共同研究や大型研究事業などの外部資金が約1,160億円だった。その一方で、実験機器・材料などの物件費は約1,794億円、人件費は約1,105億円に上る。人事院勧告に伴う給与上昇で人件費は5年間で約100億円増加し、物価高による研究機器や資材価格の上昇も経営を圧迫している。背景には国立大学法人全体の構造問題がある。国からの運営費交付金は26年度で1兆971億円と、法人化した04年度から1,445億円減少。科研費は増えたものの、その増加は649億円にとどまり、基盤的経費の減少を補えていない。わが国の大学の研究開発費も2000年から23年までに1.2倍にとどまり、米国の2.1倍、中国の16.5倍と大きな差がある。大学病院の経営難も大学本体に影響する。国立大学病院44施設のうち25年度は31病院が赤字となる見通しで、経常赤字は計244億円。高度医療や希少疾患診療では高額医薬品・資材の使用が避けられず、診療収入だけではコスト増を吸収しにくい。東大は国際卓越研究大学への認定を目指しているが、文部科学省による審査が継続中となっており、認定見送りとなれば財政改善はさらに厳しくなる。国立大学の研究力と高度医療を維持するため、安定した基盤財源の確保が改めて問われている。 参考 1) 東大が2年連続赤字へ 「貯金」数年で枯渇、研究者の削減不可避(日経新聞) 2) 国立大学法人モデル、岐路に 東大も自立運営困難 収入増、規制が足かせ 研究開発費は20年横ばい(日経新聞) 6.正常な脳組織を誤って摘出 50代女性が自発呼吸不能の重篤状態/京大京都大学医学部附属病院は8月7日、50代女性の脳腫瘍摘出手術で、腫瘍ではない正常な脳組織を誤って摘出し、脳幹などを損傷する医療事故があったと発表した。患者は術後、自発呼吸ができず人工呼吸器による管理が続き、手足も動かない重篤な状態となっている。病院によると、患者はめまいやふらつきはあったものの、手術前は生活に大きな支障はなく通常の生活を送っていた。検査により小脳橋角部に約3cmの良性腫瘍「髄膜腫」が疑われ、7月末に全身麻酔下で開頭手術を受けた。執刀したのは40代の脳神経外科医で、医師として20年以上の経験があり、同様の手術を約100例担当していた。手術中には、摘出した組織の一部を調べる術中病理診断が行われ、「腫瘍ではない」との結果が2度示された。それでも執刀医は、腫瘍の端の組織を採取したため腫瘍成分が含まれていなかった可能性があるなどと判断し、摘出を継続したという。約10時間の手術後も患者の意識や呼吸が十分に回復しなかったためMRI検査を実施したところ、本来摘出する予定だった腫瘍は残存しており、右小脳扁桃や呼吸機能に関わる脳幹の側面から背側にかけて大きな損傷があることが判明した。脳幹には呼吸など生命維持に不可欠な機能を担う神経中枢が集まっており、患者は現在も人工呼吸器を必要としている。京大病院は医療事故として患者と家族に謝罪し、厚生労働省や京都府警など関係機関にも報告した。高折 晃史病院長は「患者と家族に心よりおわび申し上げる」と陳謝。病院側は、執刀医の判断ミスや思い込みが影響した可能性にも言及しており、今後、外部有識者を含む事故調査委員会を設置し、手術中の判断過程や安全確認体制を検証し、原因究明と再発防止を進める方針だ。 参考 1) 脳腫瘍摘出術中の誤認による摘出部位誤り事例について(京大医学部附属病院) 2) 京都大病院、正常部位摘出し脳幹損傷 患者は重篤な状態(日経新聞) 3) 京大病院で医療事故 脳腫瘍の手術で誤って正常な脳の一部摘出(NHK) 4) 京都大病院が脳腫瘍手術で誤って正常な組織摘出、50代女性患者は呼吸に関わる脳幹損傷・人工呼吸器装着つづく(読売新聞)

6.

ASCO2026 レポート 老年腫瘍(後編)

レポーター紹介ここ数年、ASCO Annual Meetingでは、高齢者機能評価(Geriatric Assessment:GA)や、GAで明らかになった脆弱性に対するサポートの有用性を検証する研究が発表され、老年腫瘍学の領域を大いに盛り上げてきた。前編に続き、筆者が興味深いと感じた研究を抜粋して紹介する。AIはGAを日常診療に近付けるか - 「GAができない問題」をAIは解決できるのか前編で述べたように、高齢がん患者の治療判断においてGAは重要な情報を与える。しかし、GAの重要性が示されることと、それを日常診療で広く行えることは別問題である。外来診療では、病期、治療歴、遺伝子変異、治療選択肢、有害事象など、確認すべきことが多い。その中で、すべての高齢がん患者に十分なGAを行うことは容易ではない。会話型AIを用いてGAを行うプラットフォームGRACE(#1658)今回報告されたGRACE(Geriatric Oncology Risk and Capability Evaluation)についての研究は、この課題に対して、会話型AIを用いてGAを行うものである1)。GRACEは、自然言語で患者とやり取りしながらGAを実施するAIプラットフォームであり、手動GAとの一致度が検討された。対象は65歳以上の成人70例で、米国・カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の患者向けオンラインポータルや関連する高齢者施設を通じて登録された。さらに、15人の医療者から質的な意見も収集された。AIによる評価結果と医療者が実施した従来のGAとの一致度を示す指標(感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率、Cohen’s κ、Gwet’s AC1)が評価された。GRACEは全体として感度0.73、特異度0.94、Cohen’s κ 0.63、Gwet’s AC1 0.82と、医療者が実施したGAとおおむね良好な一致度を示した。とくにポリファーマシーの評価ではκが約0.97、Gwet’s AC1が約0.98と非常に高い一致度を示した。一方、生活機能、社会支援、心理面といった領域では相対的に一致度が低かった。本研究は70例を対象とした小規模なものであり、GRACEによって治療毒性、入院、QOL、治療方針の適正化などが改善するかは示されていない。したがって、現時点でAIがGAを代替できると結論付けることはできない。むしろ、AIが得意な領域と苦手な領域を示した研究と捉えるべきだろう。薬剤数や併存症のように構造化しやすい情報はAIでも拾いやすいが、社会支援、心理面、生活機能のように患者ごとの状況や背景によって評価が変わる領域では、医療者による確認が不可欠である。それでも、本研究は興味深い。診察前にAIが患者の問題点を拾い上げ、医療者が確認すべき項目を整理することができれば、GAを日常診療に持ち込むハードルは下がる可能性がある。AIが老年腫瘍学を代替するのではなく、GAを日常診療に近付ける補助線になるのかもしれない。術後せん妄を予防できるか - 「薬を足せば防げるのか」という問いへの明確な答え(#LBA12002)最後に、ASCOらしく正統派のランダム化比較試験を紹介したい。今回、日本から高齢がん患者における術後せん妄予防を目的としたラメルテオンの多施設共同プラセボ対照二重盲検比較試験が報告された2)。術後せん妄は、高齢がん患者において臨床的に重要な合併症であり、入院期間の延長、身体機能低下、施設退院などにつながりうる。ラメルテオンはメラトニン受容体作動薬であり、睡眠覚醒リズムへの作用を介したせん妄予防効果が期待された。主な適格規準は、65歳以上、全身麻酔下でがん手術を受ける患者、術後5日以上の入院が予定されていることなどであった。患者はラメルテオン群とプラセボ群に1:1で割り付けられ、ラメルテオン群では手術4~8日前から術後4日目までラメルテオン8mgを就寝前に内服した。プラセボ群でも同様のスケジュールでプラセボが投与された。なお、全例に多職種によるせん妄予防介入が行われていた。主要評価項目は75歳以上の集団における術後5日以内のせん妄発症割合であり、主要な副次評価項目として65歳以上全体での、術後せん妄発症割合などが設定された。766例がランダム化され、ラメルテオン群383例、プラセボ群383例に割り付けられた。75歳以上のITT集団はラメルテオン群316例、プラセボ群314例であり、平均年齢はいずれも78.5歳であった。結果、75歳以上の集団における術後せん妄発症割合は、ラメルテオン群22.5%、プラセボ群22.9%であり、統計学的有意差は認められなかった(p=0.9618)。65歳以上の集団でも、術後せん妄発症割合はラメルテオン群22.5%、プラセボ群21.3%であり、ラメルテオンによる予防効果は示されなかった。安全性では、めまいがラメルテオン群16.4%、プラセボ群9.0%と、ラメルテオン群で多かった。少なくとも本試験の結果からは、がん手術を受ける高齢患者に対して、術後せん妄予防を目的にラメルテオンをルーチンに投与することは支持されない。一方で、高齢がん患者で問題になりやすい術後せん妄を、二重盲検プラセボ対照第III相試験として検証した点には大きな意義がある。また、negativeな結果であったことは、せん妄予防が薬剤を1つ追加するだけで解決するほど単純ではないことも示している。せん妄の発症には、睡眠、疼痛、感染、脱水、薬剤、認知機能、感覚障害、環境変化など多くの因子が関与する。今後は、単剤投与だけでなく、多職種による包括的な予防策の中で、どの介入が本当に有効なのかを検証していく必要があるだろう。老年腫瘍学は、高齢がん患者の脆弱性を評価するだけでなく、そこで明らかになった問題に対して、どのような介入が本当に患者の転帰を改善するのかを検証していく段階に来ているのだと思う。おわりにASCO2026の老年腫瘍に関連する演題を振り返ると、「高齢がん患者にGAを行うべきか」という議論は、少しずつ次の段階へ進んでいるように感じた。「GAは重要である、暦年齢だけで判断してはいけない」という総論を繰り返すだけなら難しくない。難しいのは、その評価を忙しい診療の中で実際に行い、患者にとって意味のある治療選択や支援につなげることである。個人的には、近年「GAを実施すること」自体がやや一人歩きし、日常診療で医療者が本当に困っていることが、置き去りにされているのではないかと感じることもあった。しかし、今回紹介した演題からは、高齢がん患者をどう分類するか、GAをどう日常診療に持ち込むか、術後せん妄をどう予防するのかという、医療者が実際に悩んでいる問いを研究として扱い、少しずつ前に進めようとする姿勢が感じられた。GAを実施しただけで患者の転帰が良くなるわけではないし、frailと分類しただけで治療方針が自動的に決まるわけでもない。術後せん妄も、薬剤を1つ追加すれば解決するほど単純ではない。それでも、こうした問いに正面から向き合う研究が積み重なっていることは、老年腫瘍学に関わる者として率直に嬉しく、非常に有意義な学会であったと感じた。1)Naeim A, et al. GRACE: A conversational AI platform for geriatric oncology risk and capability evaluation.2)Sadahiro R, et al. Ramelteon for prevention of postoperative delirium in elderly cancer patients: A randomized, double-blind, placebo-controlled multicenter trial, JORTC-PON02/J-SUPPORT2103/NCCH2103

7.

糖尿病患者の治療薬、残歯数と周術期死亡の関連/日本糖尿病学会

 日本糖尿病学会の第69回年次学術集会(会長:下村 伊一郎氏[大阪大学大学院医学系研究科 内分泌・代謝内科学 教授])が、5月21~23日の日程で、大阪国際会議場、リーガロイヤルホテル大阪をメイン会場に開催された。 今回の学術集会は「IMAGINE いのち輝く 糖尿病の医療・医学を共に目指して」をテーマに、41のシンポジウム、143の口演、ポスターセッション、会長特別企画による講演、特別企画「糖尿病とともに生活する人々の声をきく」などが開催された。 近年、口腔内の衛生状態が糖尿病や心不全をはじめとするさまざまな疾患と関連することが知られている。糖尿病患者では、治療薬と残歯数は手術後の死亡リスクに関係するのであろうか。この課題について尾崎 邦彰氏、高橋 裕氏ら(奈良県立医科大学糖尿病内分泌内科学講座)の研究グループは、同公衆衛生学教室との共同研究により、口演52「大規模臨床試験」において「糖尿病薬の周術期死亡リスクへの影響は残歯数によって異なる:レセプトビッグデータ解析」をテーマに発表を行った。 研究グループは、大規模レセプトデータを調査・解析し、その結果、一定の糖尿病治療薬と残歯数は手術後の死亡率と相関していることが判明した。糖尿病患者の口腔ケアは周術期の死亡リスクを減らす可能性 高橋氏らの研究グループは、糖尿病と残歯数はともに周術期リスクとなるが、同一コホートで検討した報告がないことから、周術期死亡に対して糖尿病治療薬と残歯数が与える影響を検討した。 研究は後方視的研究により1,700万人登録の商用DeSCデータベース(国民健康保険、後期高齢者医療広域連合および健康保険組合より提供されたレセプト情報・特定健診情報が含まれている)を使用した。対象者は18歳以上で全身麻酔下の手術が行われた人で、主要アウトカムは術後30日以内の死亡、副次的な解析として糖尿病治療薬と手術後死亡との関連、および残歯数について検討した。糖尿病の定義は、手術前6ヵ月以内に糖尿病治療薬が処方された人。 主な結果は以下のとおり。・手術を受けた対象者は124万1,425例、そのうち歯の本数の情報がある対象者は56万1,515例だった。このうち術後30日以内の死亡は3,414例だった。・対象者のプロフィールとして、糖尿病群では高齢、男性の割合が高く、死亡割合も高かった。・残歯数について、死亡者では糖尿病群と比べて約1.7本少なく、平均では残歯数20本の人が多かった。・残歯数23本以下では糖尿病患者が多く、残歯数26本以上では非糖尿病患者が多かった。・糖尿病を有することで死亡割合は約1.85倍に増加した。・糖尿病の有無によらず、残歯数が少ないほど死亡割合も増加していた。・手術後死亡の関連因子では、インスリン使用、加齢、残歯数の減少が死亡リスクの増加と関連していた。・層別化すると残歯数20本以上の群ではビグアナイド薬の使用が、20本未満の群ではチアゾリジン薬の使用が死亡リスクの低下と関連していた。 研究グループは、これらの結果から「糖尿病の罹患が周術期後の死亡の増加と関連し、残歯数も少なくなることとも関連することが判明した。また、残歯数が少ないことが周術期後の死亡の増加と関連することも判明した。糖尿病患者には、診断時から口腔(歯)への介入が推奨されている一方で、歯科受診は半分に満たないという報告もある。そして、糖尿病患者で残歯数20本未満の68歳の死亡リスクは、糖尿病ではない残歯数20本以上の80歳の死亡リスクと同等であることが示された。加齢、糖尿病の存在、残歯本数の減少はそれぞれが関連しながらも独立して死亡リスクと関連した。これらの結果から糖尿病患者には、歯の喪失に関連して、比較的若年であっても高齢者に相当するリスクを有するため、適切な歯科的介入の重要性が示される」と述べている。

8.

第313回 救急患者争奪戦が激化の予感(後編)「地域最多救急病院」の判断は「病床機能報告のデータ等」に基づいて確認、「自院の救急搬送件数の8割以上の実績を有する他の医療機関」には搬送件数の照会必要

ホルムズ海峡封鎖は農業、医療に多大な影響こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は久しぶりに、茨城県の桜川市真壁町で有機農業をやっている大学の先輩のところに、農作業の支援に行ってきました。作業は春の定番、キュウリ、トマト栽培用の支柱立てとネット張りです。思えば、20年以上、この作業の手伝いをやってきているのですが、いまだにネット張りはうまくいったためしがなく、ナイロンのネットが展開時にぐちゃぐちゃになってしまいます。農作業は向かないなと実感させられる瞬間です。夜はワラビとフキを入れた猪鍋(実は豚肉)に筍ごはんという春のご馳走でした。先輩は料理を作りながら、「戦争で窒素などの化学肥料の供給危機が報道されているが、うちは有機なので幸いその影響はない。ただ、ナフサ不足でナイロンなどの化学繊維の価格が上がることで、農業用資材のコストは相当上昇するだろう」と浮かない顔でした。ホルムズ海峡封鎖の影響で、石油由来のナフサが高騰、注射器、手袋、カテーテル、透析用器具などの医療用資材が供給不足・価格高騰に陥っていますが、私たちの口に入るさまざまな食べ物(野菜や魚類など)への影響もこれから徐々に出始めるでしょう。戦争は本当に厄介ですね。人口20万人以下の医療圏で複数の急性期病院がある地域では激しい救急患者争奪戦の可能性さて、前回に引き続き、2026年度診療報酬改定で新設された2区分の急性期病院一般入院基本料(急性期病院A:看護配置7対1病棟で1日1,930点、同B:看護配置10対1病棟で1日1,643点)について書いてみたいと思います。前回詳しく書いたように、「急性期病院A一般入院料(以下、急性期病院A)」は、高度な救急・手術実績を持つ病院向けで、主に都市部における「急性期拠点機能」を想定しているようです。一方、「急性期病院B一般入院料(以下、急性期病院B)」は、主に人口減少地域などで急性期医療を担う病院を対象としていると考えられます。施設基準等からも明らかなように救急搬送件数が取得のカギであり、いずれも多数の救急患者が必要なため、病床過剰地域では病院間で救急患者の争奪戦が勃発しそうです。とくに「急性期病院B」の要件には、「人口20万人未満地域で二次医療圏内の搬送件数最大かつ1,000件以上」があり、搬送件数最大の1病院のみが対象となります。そのため、人口20万人以下の医療圏で複数の急性期病院がある地域では、激しい救急患者争奪戦が起こる可能性があります。では実際に、今ある各地の急性期病院はどんな動きを見せ始めているのでしょうか。日赤グループは90病院中45病院、徳洲会グループは31病院中24病院が「急性期病院A」メディファクスは、4月6日付で日本赤十字社のグループ病院、4月10日付で徳洲会グループの取得見込みを報じています。同紙によれば、「日本赤十字社は、グループ90病院のうち45病院が急性期病院A一般入院料の施設基準を満たすと見込んでいる」と報じています。また、「急性期病院Bは17病院の届け出を見込んでいる。内訳は、急性期一般入院料1からの届け出が11病院、入院料2からが4病院、入院料4からが2病院」としています。このほかに「急性期病院A」の基準を満たしているものの併設が認められない地域包括ケア病棟を持つ病院が5施設あるとのことで、同紙の取材に医療事業推進本部の渡部 洋一本部長は「現在の地域ニーズに基づき確保している地ケア病棟だが、今後も引き続き必要とするのかどうか、地域の中で判断すべき課題と受け止めている」と話したとのことです。一方、徳洲会グループ(3月末時点89病院)については、現在、「急性期一般入院料1を算定する31病院のうち、24病院が『急性期病院A一般入院料』を、6病院が『急性期病院B一般入院料』を届け出る見通し」と報じています。そして、「急性期Aを目指す24病院のうち10病院は、300床以上を有するグループの中心的な施設で、残り14病院は200~300床の規模となる」とのことです。なお、「急性期病院A」は「救急搬送件数:年2,000件以上」に加え、「全身麻酔手術件数:年1,200件以上」が要件となっており、これについて徳洲会グループの岸良 洋一部長(大阪本部医事部)は「とくに全麻手術件数は病床数に影響を受ける。200床未満で基準を満たすのは厳しい」との見方を示しています。全身麻酔手術件数を満たせず「急性期病院B」を選択する病院も各地の急性期病院の今後の動きについては、日経ヘルスケア4月号も特集記事「徹底分析!2026年度診療報酬改定」で詳細に報じています。同記事では、医療法人徳洲会・岸和田徳洲会病院(大阪府岸和田市、400床)、社会医療法人愛仁会の千船病院(大阪市西淀川区、308床)、高槻病院(大阪府高槻市、477床)、明石医療センター(兵庫県明石市、392床)、社会医療法人仁医会・牧田総合病院(東京都大田区、290床)などが、「急性期病院A」を届け出る予定とのことで、いずれもかなりの増収が見込まれるとしています。「急性期病院B」については、「届け出る医療機関の状況は多岐にわたりそうだ」として、社会医療法人水光会・宗像水光会総合病院(福岡県福津市、300床)や、医療法人永生会・南多摩病院(東京都八王子市、170床)、医療法人董仙会・恵寿総合病院(石川県七尾市、386床)のケースなどを紹介しています。宗像水光会総合病院は現状ある地域包括医療病棟を急性期病棟に転換する考えを示し、南多摩病院はその病床規模から「急性期病院A」の要件「全身麻酔手術件数:年1,200件以上」を満たせず「急性期病院B」を選択するとのことです。恵寿総合病院も看護配置7対1などを満たせず「急性期病院B」の選択になるとしています。 「地域最多救急病院」の判断について「直近の病床機能報告のデータ等に基づき確認」と厚労省が疑義解釈発出こうして医療メディアの報道を見てくると、「急性期病院A」は都市部で概ね250床以上の中規模・大規模病院で、救急や手術に積極的な「急性期拠点機能」を担う病院が選択することになるようです。一方、「急性期病院B」は200床に満たない病院も含め、都市部で「高齢者救急・地域急性期機能」に対応したり、地方で「急性期拠点機能」を展開したりする病院が選択することになるようです。もっとも、「急性期病院B」は地域包括ケア病棟との併存は可能ですが、地域包括医療病棟と併存させることはできないことから、ケアミックスの手法については近隣の医療機関も含めての体制再構築が求められることになります。ちなみに、厚生労働省保険局医療課は4月21日付で「急性期病院B一般入院料」、「急性期総合体制加算」で求める「地域最多救急病院」として届け出る場合の疑義解釈を発出しています。それによれば、「自院が所属する二次医療圏に所在する医療機関のうち、救急搬送件数が最多(地域最多救急病院)であることをどのように判断するか」との問い対し、「直近の病床機能報告のデータ等に基づき、当該医療機関が所属する二次医療圏において救急搬送件数が最多であることを確認した上で、届出を行うこと。この際、当該二次医療圏において、自院の救急搬送件数の概ね8割以上の実績を有する他の医療機関が存在する場合、又は新設、再編若しくは統合等により自院を上回る救急搬送件数となる可能性のある医療機関が存在する場合には、必要に応じて、当該医療機関に対し前年度の救急搬送件数を照会する等により確認を行うこと」としています。つまり、病床機能報告のデータ等で確認し、ライバル医療機関がある場合は、そこの搬送件数も確認しろ、ということのようです。救急患者争奪戦は単なる患者獲得に加えて、ある意味「情報戦」の側面も持つことになるかもしれません。

9.

第312回 救急患者争奪戦が激化の予感(前編) 新設の「急性期病院一般入院基本料」が“なんちゃって急性期病院”に迫る「急性期現場からの退場」

急性期病院の経営層が救急搬送受入件数や手術が必要な患者数を増やすことを今まで以上に重要視こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。3月の本連載で心配していたシカゴ・ホワイトソックスの村上 宗隆選手、トロント・ブルージェイズの岡本 和真選手ですが、絶不調から脱する兆しが見えてきました。とくに村上選手は4月19日(現地時間)、3試合連続となる8号本塁打を放ちました。同日に岡本選手は4打数2安打3打点(3号ソロ含む)と2試合連続でマルチ安打を記録しました。2人とも速球に加え、チェンジアップなどの変化球に苦労していましたが、対応できるようになってきたようです。考えるに、村上選手はアメリカン・リーグ最弱のホワイトソックスに入団してよかったのかもしれません。エリート揃いの有名球団ならすぐに控えに回されていたでしょう。「最初から背伸びをしすぎない」ことが異質の環境に適応するうえでの秘訣だということが、村上選手の例からもわかります。さて今回は、2026年度診療報酬改定を機に、各地で救急患者や急性期患者の獲得競争が今まで以上に激化しそうな気配ですので、それについて書いてみたいと思います。地域の急性期病院で働いている方は、経営層が救急搬送受入件数や手術が必要な患者数を増やすことを、今まで以上に重要視しはじめたことに気付いたのではないでしょうか。その大きな原因は、2026年度診療報酬改定で新設される「急性期病院一般入院基本料」です。医療メディアも各地の急性期病院の対応について詳細に報じるようになってきました。「新たな地域医療構想」での「急性期拠点機能」を想定した「急性期病院A一般入院料」「第303回 病院と診療所で『メリハリ』に違いが出た2026年度診療報酬改定、病院は急性期病院一般入院基本料新設、地域包括医療病棟入院料大幅見直しなどで地域医療構想後押しへ」でも書きましたが、「急性期病院一般入院基本料」について、改めておさらいしておきましょう。2026年度改定の病院に関する項目の最大の注目点は、2027年度からの新たな地域医療構想を見据え、急性期を担う病院機能の明確化を推し進める内容となったことです。中でも、地域ごとの病院単位の急性期機能を確保するため、2区分の急性期病院一般入院基本料(急性期病院A:看護配置7対1、1日1,930点、同B:看護配置10対1、1日1,643点)が新設されたことで、地域の病院機能の役割分担の動きが加速しています。2040年を見据えた「新たな地域医療構想」では、医療機関機能が「急性期拠点機能」「高齢者救急・地域急性期機能」「在宅医療等連携機能」「専門等機能」の4つに分類されます。このうち、「急性期拠点機能」を有する病院は「人口20万~30万人ごとに1拠点」が目安とされています。新設される2区分の急性期病院一般入院基本料のうち、「急性期病院A一般入院料」はまさにそうした「急性期拠点機能」の病院を想定した点数と言えます。また、入院料の加算である「急性期総合体制加算」と「地域医療体制確保加算2」、手術料の加算である「外科医療確保特別加算」も同趣旨の点数と言えます。救急搬送件数と全身麻酔手術件数が要件に「急性期病院A一般入院料」の主な要件は、「救急搬送件数:年2,000件以上」「全身麻酔手術件数:年1,200件以上」などで、入院患者数の10%以上の数の常勤医師の配置が求められます。病院全体として急性期医療への特化が必要で、地域包括医療病棟や地域包括ケア病棟入院料とのケアミックスは認められません。一方、「急性期病院B一般入院料」の主な要件は、第二次救急医療機関または認定救急病院で、以下の4要件のうちいずれかを満たす必要があります。1.救急搬送件数:年間1,500件以上2.救急搬送500件以上かつ全身麻酔手術500件以上3.人口20万人未満地域で二次医療圏内の搬送件数最大かつ1,000件以上4.離島医療圏で最大の救急搬送件数地域包括医療病棟とのケアミックスは認められません(地域包括ケア病棟入院料との併存は可能)。従来からある急性期一般入院基本料1〜6は今後整理が進むとの見方も最大のポイントは、これまでの入院料のように病棟単位ではなく、医療機関の機能に着目した病院単位での入院料となっていることです。さらに、病院内で多様な機能の病棟を併存させるケアミックスにも制限がかけられています。ちなみに、厚生労働省の「令和8年度診療報酬改定の概要」資料の中の「急性期における評価の見直し」の項には、「地域で病院が果たしている救急搬送の受入や手術等の急性期機能に着目し、地域ごとの急性期の病院機能を確保する観点から、病院の機能に着目した急性期病院一般入院基本料を新設」と記されています。「新たな地域医療構想」の医療機関機能を想定した点数であることは、この文面からもわかります。新しい診療報酬が適用される6月から、急性期病院は実績などに応じて「急性期病院一般入院基本料」または従来の「急性期一般入院基本料」を選ぶことになります。ただ、新たな地域医療構想を推し進めていく上で、病院単位での入院料の普及・定着が必要なことから、次期改定以降に急性期一般入院基本料1〜6は整理が進む、という見方が専らです。つまり、今後、急性期病院として生き残っていくためには、「急性期病院A一般入院料」か「急性期病院B一般入院料」の選択は必須と言えるのです。「急性期病院B一般入院料」は「新たな地域医療構想」における「高齢者救急・地域急性期機能」に近いイメージ「急性期病院A一般入院料」は、高度な救急・手術実績を持つ病院向けで、主に都市部における急性期拠点機能を想定していると考えられます。一方、「急性期病院B一般入院料」は、主に人口減少地域などで急性期医療を担う病院を対象としていると考えられます。「新たな地域医療構想」における「高齢者救急・地域急性期機能」に近いイメージと言えるでしょう。なお、「急性期病院B一般入院料」の基本点数は1,643点(看護10対1)と低めですが、新設の看護・多職種協働加算(255点)を取ることで収益性が向上し、従来の「急性期一般入院料1」(1,874点、看護7対1)を上回って1,898点となる設計です。“背伸び”をしてきた“なんちゃって急性期病院”は急性期医療の現場から退場へ「急性期病院一般入院基本料」の要件からも明らかなように、救急搬送件数が取得のカギとなります。A/Bいずれも多数の救急患者が必要となり、病床過剰地域では病院間で救急患者の争奪戦が繰り広げられることになります。とくに競争が厳しくなりそうなのが、人口20万人以下の医療圏です。「急性期病院B 一般入院料」の要件の中には「人口20万人未満地域で二次医療圏内の搬送件数最大かつ1,000件以上」があり、この場合、搬送件数最大の1病院のみが対象となるからです。圏域内に同等の病院が2病院以上あり、どこも救急搬送件数が1,000件に達していなければ、争奪戦は避けられません。なお、救急患者数は入院料の施設基準の肝でもある重症度、医療・看護必要度の指数算出のために新たに設けられた「救急患者応需係数」(1床当たり年間救急件数×0.005)にも影響します。そうしたことも競争に拍車をかけるでしょう。「急性期病院一般入院基本料」の新設と、従来からの「急性期一般入院料」の整理によって、これまで“背伸び”をしてきた“なんちゃって急性期病院”」はほどなく淘汰され、急性期医療の現場から退場を余儀なくされるでしょう。では実際に、今ある各地の急性期病院はどんな動きを見せ始めているのでしょうか。(この項続く)

10.

「心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン」をフォーカスアップデート/日本循環器学会

 『2026年JCS/JSOGガイドラインフォーカスアップデート版 心血管疾患患者の妊娠・出産の適応と診療』1)が第90回日本循環器学会学術集会(2026年3月20~22日)会期中の3月20日に発刊された。本ガイドラインの研究班長を務めた神谷 千津子氏(国立循環器病研究センター循環器病周産期センター)と桂木 真司氏(宮崎大学産科・婦人科 主任教授)が本学術集会プログラム「ガイドラインを学ぶ2」において、妊娠を避けることを強く望まれる心疾患、妊産婦に注意が必要な循環器用薬を中心に解説した。 本書では、新規薬物治療をはじめとした循環器診療の進歩、思春期以降の男女を対象にしたプレコンセプションケアの取り組み、国内外からの心血管疾患合併妊娠を中心に、シェアード・ディシジョン・メイキング(SDM)を支えることも目標として作成され、今回のアップデート版では以下の7項目を主に取り扱う。そこで本稿では、とくに押さえておきたい項目として、「妊娠を避けることを強く推奨する疾患、病態」「妊娠中、授乳中の循環器薬物治療の安全性」にフォーカスする。―――――――――――――――――――・日本の疫学(周産期データベース、妊産婦死亡症例検討)・プレコンセプションケアと妊娠関連ハートチーム(PHT)・妊娠を避けることを強く推奨する疾患、病態・妊娠中、授乳中の循環器薬物治療の安全性・周産期管理:産科(分娩方法の選択、妊娠高血圧症候群)・周産期管理:麻酔科(麻酔方法の選択、硬膜外麻酔)・産後の注意点―――――――――――――――――――周産期の死亡原因として挙がる心大血管疾患とは 日本産婦人科学会の周産期データベースによると、2014~23年に登録された母体約220万人のうち、基礎疾患に何らかの心疾患を有したのは1.2%(2万6,894例)であった。神谷氏は「心疾患を有する母体は基礎内科疾患がない者と比較して、無痛分娩率、帝王切開率、帝王切開時の全身麻酔率、分娩時出血量、転科率、そして母体死亡率が高い傾向にある」と指摘。また、日本産婦人科医会による妊産婦死亡症例登録システムのデータでは、心大血管疾患は間接産科的死亡*1の第1位であり、大動脈解離、周産期心筋症、肺高血圧症などが原因であることが明らかになっている。同氏は「周産期に初めて診断され、産科と内科の連携が不十分な場合もある。これを解消するために循環器医ができることとして、コンサルテーションの閾値を低く、速やかな検査・治療が求められる」と強調した。*1 妊娠前から存在した疾患または妊娠中に発症した疾患により死亡したもの2)妊娠を避けることを強く望まれる心疾患 妊娠の際に厳重な注意を要する、あるいは妊娠を避けることが強く望まれる心疾患は、第2版までは6項目にとどまっていた。今回、大幅にアップデートがなされ、10項目が表13(p.25)に示された。・高度な体心室機能低下(LVEF<30%、体心室RVEF<40%)や心不全(NYHA心機能分類III~IV度)・重症閉塞性肥大型心筋症(HOCM)・周産期心筋症の既往と左心室機能低下の残存・中等度から重度のPAH(アイゼンメンジャー症候群含む)・重症僧帽弁狭窄(MS)・妊娠前から症状を伴う重度流出路狭窄(大動脈弁高度狭窄:平均圧較差≧40mmHg)・マルファン症候群(上行大動脈拡張期径>45mm、高リスク症例では≧40mm)や大動脈二尖弁を伴う大動脈疾患(大動脈径>50mm)・症状、有意な合併症のあるフォンタン術後・未修復の重症大動脈縮窄症・重症チアノーゼ性心疾患(SpO2<85%) 第3章では上記に対する推奨がCQ1~7とFRQ1で示されている*2。主な変更点について「妊娠を避けることを推奨する左室駆出率(LVEF)が以前は35~40%未満であったが、30%未満へと引き下げた(CQ1)。肺高血圧症患者では、血行動態の重症度が中等度~重度の場合は妊娠を避けることを強く推奨するが、状態の安定した軽症例であれば、妊娠を前向きに考えることが可能と、世界に先駆けてリスク分類した(CQ2)。また、機械弁置換後のリスクは抗凝固療法に起因するものであるため、強く妊娠を希望する場合は、周産期の抗凝固療法に習熟した専門施設での妊娠・分娩管理を強く推奨する(CQ3)。ただし、状態の安定した軽症の肺高血圧症患者や機械弁を有する患者が妊娠継続を希望する場合、各専門施設で周産期管理が求められるため、施設要件が合致した場合にのみ前向きに検討が可能である(p.25、表14)点には留意してほしい」と解説した。 続けて、「流出路狭窄がある場合には、妊娠前から症状を伴うような重症例では妊娠を避けることを強く推奨する一方で、平均圧較差が40~50mmHgで無症状の場合は主治医と相談しながら検討していくことが推奨される(CQ4)。さらに、有症状、有意な合併症をもつフォンタン術後の場合は妊娠リスクを避けることが推奨される(CQ6)。周産期心筋症の既往をもつ場合、LVEF50%未満が継続する患者では妊娠を避けることを強く推奨する(CQ7)」と説明した。*2 CQ:クリニカルクエスチョン、FRQ:フューチャーリサーチクエスチョン なお、これらは妊娠についての意思決定を支える推奨であり、医療的「介入」ではないため、推奨強度は付記しない方針とされている点には注意が必要である。妊娠中に選択できる循環器薬、アテノロールは実は危険! 心疾患合併妊娠のリスク因子のなかで、調整可能な因子の1つに薬剤選択が挙げられる。今回アップデートされた薬剤クラスには、抗凝固薬、降圧薬、利尿薬、抗不整脈薬、肺高血圧症や心不全、脂質異常症の治療薬がある。このなかで特筆すべきはβ遮断薬のアテノロールで、これまで妊娠中の禁忌記載がないβ遮断薬であったにもかかわらず、近年ではアテノロールが最も胎児へのリスクが高いと報告された3)ため、「使用可能だが、在胎不当過小児(SGA)のリスクが最も大きく、他剤への変更が推奨される」と変更した(p.58、表23)ことを強調した。 スタチンについては「添付文書上は禁忌であるが、家族性高コレステロール血症(ホモ接合体)患者や2次予防目的について、FDAでは使用を勧告している。本フォーカスアップデートでもその旨を記載した」と述べ、DOACについては、「妊娠中の安全性は未確立だが、リバーロキサバンにおいては授乳安全性が確立されつつある」とコメント。降圧薬のうちCa拮抗薬については、前版よりニフェジピン、アムロジピン、カルベジロール、ビソプロロールが妊娠中禁忌から有益性投与に変更している。ACE阻害薬やARBは妊娠中に禁忌であるが授乳中の安全性は確立しているため、「出産後に速やかに再開処方することは可能」と話した。 続いて桂木氏は、薬剤選択・用量・投与速度が妊娠中や分娩前後で調節が可能であること、循環器・産科・麻酔科で情報共有・管理することが重要である点に触れ、「妊娠中の薬物は禁忌も多いが、一律に禁忌ではなく症例に応じた病態別評価が必要であり、妊娠は循環器治療を止める理由ではない。また、母体へのリスクは即時的で致死的なものが多いため、母体のベネフィットと胎児リスクを比較して代替薬の選択を検討してほしい」とコメントした。さらに、「薬剤管理は母体死亡を減らす鍵となる。そのためには、妊娠中の循環器薬剤は“中止”より“最適化”を目指してほしい。産科薬剤は循環動態に影響するため、投与を慎重に判断し、分娩前から循環器・産科・麻酔科による情報共有を行ってほしい」と強調した。これまでのガイドラインと改訂の経緯 これまで、心血管疾患患者の妊娠中の病態について取り扱ったガイドラインは、2005年に初版が発刊、2018年に第2版となる『心血管疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン』が日本産科婦人科学会と合同で作成されていた。それから8年が経過し、新たなエビデンスが集積したことから、今回は前版の内容に補足するかたちで作成・公表がなされた。日本循環器学会(JCS)学術集会まとめページはこちら

11.

高齢者の術後せん妄の予防に有効な薬物療法とは/BMJ

 術後せん妄の予防に鎮静薬デクスメデトミジンが有効であり、エビデンスの質は高くないもののコルチコステロイド、メラトニン受容体作動薬、parecoxib、経鼻インスリン、オランザピンにも潜在的な有益性があることが、英国・オックスフォード大学のMatthew Luney氏らの検討で示された。手術後に急激な意識障害や注意力の低下を来す術後せん妄は、認知症発症のリスクを高めるだけでなく、多大な医療コストの要因ともなっており、高齢化社会における重大な課題とされるが、有効な薬物療法は確立されていない。BMJ誌2026年2月12日号掲載の報告。158試験4万1,084例のネットワークメタ解析 研究グループは、高齢者の術後せん妄に有効な薬剤を特定し、罹患率や死亡率への影響を評価する目的で、既報の無作為化対照比較試験の系統的レビューとネットワークメタ解析を実施した(英国国立衛生研究所[NIHR]のdoctoral research fellowshipの助成を受けた)。 2024年3月4日の時点で、医学関連データベースに登録された関連文献を検索した。対象は、参加者の年齢が60歳以上で、全身または区域麻酔を要する手術後のせん妄の予防を目的に1つ以上の薬剤を投与し、妥当性の検証が済んでいるせん妄評価ツールをアウトカムの評価に用いた無作為化対照比較試験とした。局所麻酔のみの試験、術前に患者が機械換気を受けていた試験、せん妄の治療介入に関する試験は除外した。ベイズ法に基づくネットワークメタ解析を用いて介入法の比較を行った。 52種類の薬物介入を比較した158件の試験(参加者4万1,084例)を特定した。1件の試験の参加者数中央値は120例(四分位範囲:80~259、範囲:16~7,507)で、単施設試験が135件、多施設共同試験が23件だった。これらの試験の結果はすべて1999~2024年に発表され、87件(55%)は2021~24年に報告されていた。17件の試験を、バイアスのリスクが高いと判定した。術後せん妄は14.5%(5,957例)に発現した。術後の悪心・嘔吐の抑制効果も デクスメデトミジンは、外科領域全体(オッズ比[OR]:0.45、95%信用区間[CrI]:0.36~0.56)、胸部手術を除く各専門領域(非心臓手術のOR:0.41[95%CrI:0.31~0.54]、心臓手術:0.52[0.31~0.82]、大腿骨近位部骨折修復手術:0.35[0.17~0.63]、腹部手術:0.38[0.17~0.81]、整形外科手術:0.35[0.20~0.60]、待機的手術:0.47[0.37~0.59]、緊急手術:0.22[0.08~0.46])のいずれにおいても、プラセボに比べ術後せん妄の予防効果が高く、バイアスのリスクが高い試験を除外した感度分析(OR:0.46、95%CrI:0.36~0.57)でも高い効果を示した。 また、デクスメデトミジンの術後せん妄の予防効果は、手術時の麻酔法を問わず優れた(全身麻酔のOR:0.45[95%CrI:0.35~0.57]、区域麻酔:0.28[0.11~0.64])。 デクスメデトミジンは、低血圧(OR:1.40、95%CrI:1.08~1.81)と徐脈(1.60、1.32~2.00)の頻度が高かった一方で、術後の悪心・嘔吐(0.67、0.49~0.87)を抑制した。重症度軽減はコルチコステロイドのみ バイアスのリスクが高い試験を除外した感度分析で、デクスメデトミジンのほかに優れた術後せん妄予防効果を認めた介入として、コルチコステロイド(OR:0.53、95%CrI:0.31~0.87)、メラトニン受容体作動薬(0.54、0.34~0.85)、parecoxib(0.34、0.16~0.74)、オランザピン(0.27、0.07~0.94)、経鼻インスリン(0.13、0.04~0.34)が挙げられたが、これらの試験のエビデンスの質は中~非常に低いであった。 penehyclidineは、プラセボに比べ術後せん妄を有意に増加させた唯一の介入であった(外科領域全体のOR:6.20、95%CrI:1.19~35.37)。 Memorial Delirium Assessment Scale(MDAS)を用いた評価で、プラセボと比較してせん妄の重症度をわずかとはいえ軽減した薬剤は、コルチコステロイド(平均群間差:-2.42、95%CrI:-4.72~-0.12)のみであった。ほとんどの介入は、入院期間、死亡率、術後合併症、生活の質、術後の認知機能に影響を及ぼさなかった。また、コルチコステロイドにより感染症関連合併症が増加することはなかった(OR:0.97、95%CrI:0.66~1.65)。 著者は、「術後せん妄への介入が、せん妄の重症度、精神的苦痛(患者が重視しているにもかかわらず報告がほとんどない)、生活の質、認知機能、自立度、医療資源の消費量に及ぼす影響を評価し、医療経済分析に資する情報を得るために、厳格に実施される試験が必要なことは明らかである」としている。

12.

第303回 病院と診療所で「メリハリ」に違いが出た2026年度診療報酬改定、病院は急性期病院一般入院基本料新設、地域包括医療病棟入院料大幅見直しなどで地域医療構想後押しへ

病院には相当なメリハリが付けられたものの、診療所のメリハリは今ふたつ、みっつこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。急に春めいてきましたね。この週末は久しぶりの足慣らしに高尾山に行ってきました。高尾山口駅から登り始める通常ルートではなく、高尾山の南側、草戸山から大洞山、大垂水峠へと縦走し、城山側から高尾山を目指すという約18キロの周回コースです。天気も良く快適に歩けたのですが、早くも飛散し始めた花粉で目がしょぼしょぼになってしまいました。また、途中には「クマ出没注意」の看板も。エサも少なさそうなこんな低山にもツキノワグマが出ているようです。今シーズンも各地でクマ被害は増えるのでしょうか?改めて心配になってきました。さて、厚生労働省の中央社会保険医療協議会は2月13日の総会で2026年度診療報酬改定案を了承し、上野 賢一郎厚生労働相に答申しました。診療報酬本体の改定率が30年振りに3%を超え3.09%となりましたが、その半分以上は賃上げと物価高への対応に充てられることになります。改定率が決まる前、本連載「第293回 佳境迎える診療報酬改定議論、『本体』引き上げはほぼ既定路線も、最大の焦点は病院と診療所間の『メリハリ』」で、「次期改定で本当の意味での『メリハリ』が付けられるかどうか、今後の議論の行方に注目したい」と書きましたが、病院の診療報酬については相当なメリハリが付けられたものの、日本医師会を意識してか診療所のメリハリは今ひとつどころか今ふたつ、みっつの結果となりました。ということで、今回は個人的に注目した診療報酬改定でのいくつかの項目について書いてみたいと思います。「急性期病院A一般入院料」は「急性期拠点機能」の病院を想定した点数病院に関しては、2027年度からの新たな地域医療構想を見据えて、急性期を担う病院機能の明確化を推し進める内容となったのが注目点です。ポイントは地域ごとの病院単位の急性期機能を確保するため、2区分の急性期病院一般入院基本料(急性期病院Aは看護配置7対1病棟で1日につき1,930点、同Bは看護配置10対1病棟で1日につき1,643点)が新設されたことです。2040年を見据えた新たな地域医療構想では、医療機関機能が「急性期拠点機能」「高齢者救急・地域急性期機能」「在宅医療等連携機能」「専門等機能」の4つに分類されます。このうち、「急性期拠点機能」を有する病院は「人口20万~30万人ごとに1拠点」が目安とされています。新設される2区分の急性期病院一般入院基本料のうち、「急性期病院A一般入院料」はまさにそうした「急性期拠点機能」の病院を想定した点数です。また、入院料の加算である「急性期総合体制加算」と「地域医療体制確保加算2」、手術料の加算である「外科医療確保特別加算」も同趣旨の点数と言えます。「急性期病院A一般入院料」の主な要件は、「救急搬送件数:年2,000件以上」「全身麻酔手術件数:年1,200件以上」などで、入院患者数の10%以上の数の常勤医師の配置が求められます。病院全体として急性期医療への特化が必要で、地域包括医療病棟や地域包括ケア病棟入院料などとのケアミックスは認められません。該当する手術を行うたびに医師に手当が出来高で上乗せされる画期的な「外科医療確保特別加算」関連する加算のうち「急性期総合体制加算」は、現行の「総合入院体制加算」と「急性期充実体制加算」を再編統合した点数で5区分からなり、入院期間14日(7日以内、8~11日以内、12~14日以内の3段階の点数)までの加算です。このうち「急性期総合体制加算1〜4」は、「急性期病院A一般入院料」を算定する病棟を持つ病院に限定されます。ちなみに、「急性期総合体制加算1」の「7日以内の期間」の点数は530点です。「地域医療体制確保加算2」(720点)は入院料への加算で、若手医師が減少する外科系診療科(消化器、心血管、小児、循環器)の医師の勤務環境改善と処遇向上を評価する点数です。そして、「外科医療確保特別加算」は「地域医療体制確保加算2」の届出施設を対象に、胸部(食道)から腹部(胃、腸、肝胆膵)にかけての鏡視下手術を中心に、長時間かつ高難度な手術料への加算です。「当該手術の所定点数の100分の15を加算、当該診療科の医師が行った対象手術件数に応じ、休日手当、時間外手当、深夜手当、当直手当等とは別に、当該加算額の100分の30以上に相当する額を総額とする手当を当該診療科の医師に支給、当該支給額の8割以上を当該診療科に配置されている常勤医師に支給」――などが要件となっており、該当する手術を行うたびに医師に手当が出来高で上乗せされる画期的な仕組みになっています。これらは、いずれも「急性期総合体制加算」または「特定機能病院入院基本料」届出が要件となっており、「急性期拠点機能」の病院の医師(とくに外科医)確保も含めた体制維持を目的とした点数です。「高齢者救急・地域急性期機能」も評価、地域包括医療病棟入院料は大幅見直しこうした将来的に「急性期拠点機能」を担う病院の評価と並行して、「拠点機能」を持った病院が軽度な高齢者救急への対応に煩わされないよう、地域の高齢者救急を受け入れる病院の評価も2024年度改定に続いて行われました。前述の新たな地域医療構想の医療機関機能の中の「高齢者救急・地域急性期機能」の評価です。とくに高齢者救急の主要な受け入れ先となる地域包括医療病棟は、急性期病棟を併設しない場合の「地域包括医療病棟入院料1」(3,117~3,367点)と併設する場合の「同入院料2」(3,066~3,316点)の2類型に分けられます。さらに医療資源投入量に基づいて手術や緊急入院の有無に応じて入院料を3つに細分化して、点数に差を付けられます。改定後は現行の点数より最大317点アップすることになります。加えて施設基準も大きく見直されて緩和されます。改定前は「在院日数」「ADL低下割合」などの基準が高齢患者比率にかかわらず求められ、高齢者救急を多く受け入れる病棟にはハードルが高い面がありましたが、今改定では、急性期病棟併設の有無や緊急入院・手術対応などに応じて6区分に細分化され、85歳以上が多い病棟では在院日数・ADL低下割合の基準が緩和されます。一方、地域包括ケア病棟入院料も、在宅医療や協力対象施設への後方支援機能が高く評価されました。具体的には在宅患者支援病床初期加算の対象患者を緊急入院した患者にまで拡大して報酬が一部引き上げられます。このほか、在宅医療・介護保険施設の後方支援等に一定の体制と実績がある医療機関を評価する「包括期充実体制加算」(80点、14日まで)が新設されます。地域包括医療病棟または地域包括ケア病棟を持つ主に許可病床数200床未満が対象となります。かかりつけ医関連の項目はメリハリ不足、「かかりつけ医機能報告制度」との連動は持ち越しこうした、急性期病院一般入院基本料の新設、中でも「急性期病院A一般入院料」の高評価、地域包括医療病棟、地域包括ケア病棟入院料の施設基準見直しや高評価は、「新たな地域医療構想」を見越して病院の機能分化を一層推し進めるためのもので、まさにメリハリの効いた改定だと言えるでしょう。地域医療構想における調整会議が開かれる前に、地域において役割分担、機能分化を事前に進めてもらいたいという国の意向が透けて見えます。その一方で、かかりつけ医関連の項目はメリハリ不足の感が拭えません。中医協の議論の中で、支払側は2025年4月に始まった「かかりつけ医機能報告制度」と連動させ、かかりつけ医の診療機能に応じた評価体系を導入するよう求めていました。財務省も「秋の建議」においてかかりつけ医機能報告制度上、基本的な機能を有していない診療所の初診料・再診料の減算措置導入や、外来管理加算や特定疾患管理料、生活習慣病管理料などの適正化を求めていました。しかし、今回の改定では、制度開始から間もなく報告が十分集まっていないとの理由から、かかりつけ医機能報告制度のデータを踏まえた評価は導入されず、機能強化加算、生活習慣病管理料、特定疾患療養管理料、地域包括診療料(加算)、時間外対応加算などの施設基準・算定要件の小幅の改正に留まりました。ちょうど3年前、「かかりつけ医機能報告制度」を盛り込んだ法案(通称、全世代型社会保障制度関連法案)が提出された時に、本連載「第150回 かかりつけ医機能の確認めぐりひと悶着、制度化の芽も摘んだ日本医師会の執念」で、「何の強制力も、発展性も、拡張性もない、ただ『制度を作った』という事実を作るためだけの制度」と書きましたが、仮に次回、2028年度の診療報酬改定で、「かかりつけ医機能報告制度」と密に連動した、かかりつけ医関連の報酬体系が導入されないとしたら、現状、患者、地域住民にほとんど役に立たない同制度は形骸化に向かうに違いありません。

13.

第282回 初診は据え置き、再診は実質3点増、2026年度改定の全体像明らかに/中医協

<先週の動き> 1.初診は据え置き、再診は実質3点増、2026年度改定の全体像明らかに/中医協 2.末期腎不全も緩和ケア対象に、診療報酬改定で/厚労省 3.在宅医療にメス 頻回訪問を抑制、報酬体系を大幅見直し/厚労省 4.急性期A・B新設で何が変わる? 入院基本料再編の全体像/厚労省 5.ナースコールからランサムウェアが侵入、患者情報1万人流出/日医大武蔵小杉病院 6.医療行為が刑事裁判に 赤穂市民病院手術事故、指導体制も争点/神戸地裁 1.初診は据え置き、再診は実質3点増、2026年度改定の全体像明らかに/中医協中央社会保険医療協議会(中医協)は2月13日、2026年度診療報酬改定の内容を決定した。物価高騰と人件費上昇への対応を最重要課題に位置付け、診療報酬本体は3.09%引き上げられる。内訳は賃上げ対応1.70%、物価対応1.29%で、30年ぶりに「賃金・物価」を正面から評価する改定となった。外来では、初診料(291点)は据え置く一方で、再診料は1点引き上げられて76点とし、新設の「物価対応料」により初診・再診とも2点(20円)が加算される。これにより再診時は合計3点増となる。訪問診療でも物価対応料が上乗せとなり、いずれも1日単位で算定が可能とされた。さらに、今後の物価上昇を見据え、2027年6月以降は物価対応料を原則2倍とする方針が示されている。賃上げを実施する医療機関を評価する「ベースアップ評価料」も拡充される。外来・在宅では、初診時17点、再診時4点を基本とし、すでに賃上げを行っている医療機関ではより高い点数が付く。入院ベースアップ評価料も最大250点まで拡大され、医師・看護師に加え、事務職員や看護補助者など幅広い職種を対象に処遇改善を促す設計となった。2027年度には評価水準をさらに引き上げる。今回の改定の特徴は、外来よりも入院医療を厚く評価する点にある。急性期一般入院料は機能に応じて約8~11%引き上げられ、救急搬送件数や全身麻酔手術件数など実績を重視した評価体系が導入される。多職種協働体制を評価する新加算や、救急・外科医療体制を支援する加算も相次いで新設され、地域の急性期拠点を明確に選別する方向性が打ち出された。その一方で、入院時の食費は1食40円、光熱水費は1日60円引き上げられ、患者負担は増加する。医療DXでは、生成AIの活用を前提に医師事務作業補助体制加算の人員基準を柔軟化するなど、実績と効率化を重視する評価が強まった。総じて2026年度改定は、「賃上げを実行する医療機関」「急性期・救急機能を担う病院」「DXで生産性を高める施設」を重点的に評価する構造となった。算定の可否により病院経営への影響差は大きく、各医療機関には自院の機能定位と戦略的な届出判断が求められる。 参考 1) 個別改定項目について(厚労省) 2) 物価高・賃上げ対応で初診・再診料ともに引き上げへ…中医協が診療報酬改定内容を決定(読売新聞) 3) 物価高に対応、初診2点・再診3点引き上げ 26年度診療報酬改定、入院評価を重点化(CB news) 4) 診療報酬加算引き上げへ 中医協が改定案答申 患者窓口負担も増(NHK) 2.末期腎不全も緩和ケア対象に、診療報酬改定で/厚労省2026年度診療報酬改定で、緩和ケアの評価対象が大きく見直される。これまで診療報酬上、主にがん患者に限られてきた緩和ケアについて、末期の腎不全患者や呼吸器疾患が新たに対象に加えられることが決まった。ただし、「緩和ケア病棟」の入院料としては末期腎不全のみであり、末期呼吸器疾患は緩和ケア診療加算・外来緩和ケア管理料で算定可能となった。背景には、がん以外の疾患では十分な緩和ケアが提供されてこなかったという課題がある。とりわけ、人工透析を中断した末期腎不全患者は、呼吸困難や意識障害、強い吐き気などの重い症状に直面することが多く、苦痛緩和の必要性が指摘されてきた。今回の改定では、透析療法の開始や継続が困難な終末期の腎不全患者を、診療報酬上も正式に緩和ケアの対象として位置付ける。あわせて、高齢者を中心に問題となっている多剤服用や重複投薬への対策も強化される。病棟に勤務する薬剤師が、転院・退院時に服薬状況や副作用リスクについて患者や家族に指導した実績を適切に評価する仕組みを整える。さらに、在宅医療では医師と薬剤師が同時に訪問し服薬指導を行った場合、半年に1回3,000円を算定できる「訪問診療薬剤師同時指導料」が新設される。国の調査では、半数近くが飲み忘れや飲み残しによる残薬を自宅に保管しているとされ、60歳以上でとくに多い傾向が確認されている。処方・調剤時に残薬を確認し、調剤量を調整する取り組みを評価することで、患者の安全確保と医療費の適正化につなげる狙い。厚生労働省は、6月からの改定施行を通じ、がん以外の疾患も含めた幅広い終末期医療と薬物療法の質向上を後押ししたいとしている。 参考 1) 末期腎不全患者を緩和ケア対象に 残薬対策も 26年度診療報酬改定(毎日新聞) 2) 緩和ケアの診療報酬 末期の腎不全患者など対象の方針 中医協(NHK) 3.在宅医療にメス 頻回訪問を抑制、報酬体系を大幅見直し/厚労省2月13日に答申された、2026年度診療報酬改定では、在宅医療、とりわけ訪問看護や訪問診療を巡る報酬体系が大きく見直される。焦点となっているのは、高齢者住宅や有料老人ホームに併設された訪問看護ステーションによる「頻回訪問」や、いわゆるホスピス型住宅での過剰請求への対応だ。厚生労働省は、同一建物で多数の入居者に短時間・高頻度で訪問看護を行い、高額な報酬を得ている事例が増えているとして、包括的な評価方式を導入する。ホスピス型住宅では、従来の出来高払いに代えて定額制の包括払いを新設し、1人当たり月80~90万円に上るケースがあった報酬水準は、最大でも45万円程度に抑えられる。出来高払いを選択した場合でも、多人数への頻回訪問では報酬が引き下げられ、20分未満の訪問は算定不可となる。訪問診療についても、必要性の乏しい頻回訪問を抑制する方向が示された。要介護度や重症度の低い患者への月2回以上の訪問は原則とせず、月1回を標準と位置付ける。がんなど重症患者の割合が低い医療機関では、管理料を低い区分に制限する仕組みとし、通院可能な患者は外来対応へ誘導する。24時間往診体制の評価も、自院完結型か他院連携型かで差を設け、実質的な関与が乏しい場合の報酬を抑える。さらに、在宅医療を担う病院・診療所には、災害時の業務継続計画(BCP)の策定が施設基準として義務化される。新規開設は2026年度から、既存施設も2027年5月末までに策定が求められ、地域の訪問看護や介護事業者、行政との連携を前提とする。今回の改定では、在宅医療の「量」から「質」への転換を明確にし、高齢者の囲い込みや過剰な医療提供を抑制する一方で、真に必要な在宅・終末期医療の持続可能性を確保する狙いがある。 参考 1) 「ホスピス型住宅」報酬引き下げ 訪問看護、厚労省6月から(共同通信) 2) 在宅医療「もうけすぎ」にメス 診療報酬見直し、高齢者囲い込み防止(日経新聞) 3) 高齢者住まい等への頻回訪問に包括評価を導入(日経メディカル) 4) 在宅医療巡り病院・診療所にBCP策定義務化へ…厚労省、災害時の地域連携促す(読売新聞) 4.急性期A・B新設で何が変わる? 急性期医療の拠点化と実績重視/厚労省2026年度診療報酬改定では、急性期病院の入院基本料が大きく再編され、急性期医療の拠点化と実績重視の姿勢が鮮明になった。最大の特徴は、新たに創設された「急性期病院一般入院料A・B」である。急性期Aは1日1930点と、従来の急性期一般1より56点高く設定され、地域の基幹病院としての役割を強く評価する。急性期Bは1,643点だが、多職種7対1体制を整え「看護・多職種協働加算2(255点)」を算定すれば1,898点となり、急性期一般1を上回る水準に達する。従来の急性期一般入院料(1~6)も軒並み引き上げられ、とくに急性期一般1は1,874点へと大幅に増点された。結果として点数序列は「急性期A、次いで多職種体制を整えた急性期B、その下に急性期一般1」という構図が明確になった。単なる看護配置だけでなく、多職種協働体制の整備が収益に直結する設計となっている。さらに、総合入院体制加算と急性期充実体制加算を統合した「急性期総合体制加算」が新設された。最上位区分では入院7日以内に530点が上乗せされて、救急・高度医療を担う病院への重点配分が強化される。加えて、物価高への対応として入院でも物価対応料が加算され、2027年以降は原則倍増する見通し。今回の改定は、急性期病院に対し「どの機能を担い、どの水準を目指すのか」という戦略的選択を迫る内容であり、届出の有無が経営に大きな差を生む改定となった。 参考 1) 急性期Aは1,930点、多職種7対1急性期Bは1,898点、急性期1と多職種7対1急性期4は1,874点(Gem Med) 2) 地域包括医療病棟を「3,367-3,066点」の6区分に細分化、ADL低下割合などの基準柔軟化も(同) 3) 2026年度診療報酬改定の詳細が決定 急性期の病院機能を報酬で明確化へ(日経メディカル) 5.ナースコールからランサムウェアが侵入、患者情報1万人流出/日医大武蔵小杉病院日本医科大学武蔵小杉病院(川崎市、372床)は2月13日、ランサムウェアによるサイバー攻撃を受け、患者約1万人分の個人情報が外部に流出したと公表した。流出したのは氏名、性別、住所、電話番号、生年月日、患者IDなどで、病名・病歴や電子カルテ、クレジットカード情報の漏洩は現時点で確認されていない。攻撃者は身代金として1億ドル(約150億円)を要求しているが、病院側は支払いに応じない方針を示している。病院によると、2月9日午前1時50分頃、病棟のナースコール端末が正常に作動しなくなり、システム障害が発覚。調査の結果、ナースコール用サーバーがランサムウェアに感染していたことが判明した。侵入経路は、医療機器保守用に設置されていたVPN装置とみられ、パスワード管理が脆弱だった可能性があるという。11日には攻撃者側とみられるサイト上で、患者情報の一部流出が確認された。診療体制への直接的な影響はなく、外来・入院・救急はいずれも通常通り継続している。ただし、ナースコールは完全復旧に至っておらず、看護師の増員や病室巡回の強化で安全確保を図っている。同院は、厚生労働省や文部科学省に報告し、神奈川県警に被害届を提出。対象患者には個別通知を開始し、相談窓口も設置した。今回の事案は、医療機関における周辺システムやVPN管理の脆弱性が、診療データ以外からも大規模な情報漏洩につながり得ることを示した。医療DXが進む中、電子カルテ以外を含むシステム全体のセキュリティ点検、BCPやインシデント対応体制の再確認が、改めて医療現場に突き付けられている。 参考 1) 当院へのサイバー攻撃による個人情報漏洩に関するご報告とお詫び(第日本医科大学武蔵小杉病院) 2) 患者1万人分の個人情報漏洩 日医大武蔵小杉病院にサイバー攻撃(朝日新聞) 3) 日本医科大武蔵小杉病院にサイバー攻撃 患者約1万人の情報漏洩(日経新聞) 4) またもVPNからランサム被害、日本医科大学武蔵小杉病院で約1万人の情報漏洩(日経クロステック) 6.医療行為が刑事裁判に 赤穂市民病院手術事故、指導体制も争点/神戸地裁兵庫県赤穂市民病院で2020年1月、腰椎手術中に患者の神経を損傷し重い後遺障害を負わせたとして、当時の執刀医の男性(47)が業務上過失傷害罪に問われた事件で、神戸地裁姫路支部は2月9日、初公判を開いた。被告は起訴内容をおおむね認め、「詳細は被告人質問で答える」と述べ、弁護側も「罪が成立することは争わない」とした。医師の医療行為が刑事裁判で審理されるのは異例とされる。起訴状などによると、被告は女性患者(80)の腰椎の一部を切除する手術で、出血が多く患部の視認が困難な状況にもかかわらず十分な止血を行わず、威力の高い医療用ドリルで骨を削る操作を継続。誤って神経(脊髄・馬尾周辺)を切断し、両下肢麻痺など全治不能の後遺障害を負わせたとされる。検察側は、「科長から止血を促されても血を吸引しただけで手技を続けた」と指摘し、「事故は容易に予見できた」と過失の程度を強調した。その一方で、弁護側は「手術は1人で遂行できず、経験の浅い被告だけに責任を負わせるのは相当でない」と主張。証人として出廷した指導医は止血を勧めたが執刀を止めなかった経緯を説明し、「1分1秒でも早く交代していればよかった」と後悔を口にした。この事故を巡っては民事でも、被告と赤穂市に約8,800~8,900万円の賠償を命じた判決が確定している。病院側は医療過誤と認定。被告が着任後約半年で関与した手術で医療事故が複数(後遺障害8件、計11件とも報道)起き、2人が死亡したとされる点も、管理体制を含めた再発防止策が問われている。公判では証拠として手術映像も法廷で取り調べられ、被害者側親族が被害者参加制度で出廷した。今後、被告人質問や求刑・弁論を経て結審する見通しで、量刑判断とともに、指導医の関与や病院の教育・監督体制が争点となる。医療安全と人材育成の両面で、現場に突き付けられた課題は重い。 参考 1) 赤穂市民病院の医療過誤 執刀医の男、起訴内容認める 神戸地裁姫路支部で初公判(神戸新聞) 2) 手術で重い障害残る医療過誤…業務上過失傷害罪の初公判で赤穂市民病院の元医師認める(読売新聞) 3) 市民病院医療事故多発 被告医師「私一人だけ悪いとなるのはおかしい」(赤穂民報)

14.

第280回 7対1でも安泰ではない? 急性期病院A・Bが迫る機能再編/中医協

<先週の動き> 1.7対1でも安泰ではない? 急性期病院A・Bが迫る機能再編/中医協 2.診療報酬46億円返還、医師14人が資格喪失、不正請求は「見逃されない」時代へ/厚労省 3.緊急避妊薬(アフターピル)が国内初の市販化、2月から全国販売へ/厚労省 4.相次ぐ汚職でトップが謝罪―卓越大認定に暗雲、不退転の改革へ/東大 5.臓器移植改革が始動 ドナー関連業務を地域法人に移行/藤田医大 6.介護事業者倒産が過去最多176件 突出する訪問介護の経営危機/厚労省 1.7対1でも安泰ではない? 急性期病院A・Bが迫る機能再編/中医協2026年度の診療報酬改定で中央社会保険医療協議会(中医協)は、新たに「急性期病院A・B(急性期病院入院基本料)」を設け、急性期医療の評価軸が病棟単位中心から「病院機能・実績」へと一段強まることになる。Aは「地域の急性期医療の拠点」を想定し、年間の救急搬送2,000件以上かつ全身麻酔手術1,200件以上など、高い実績要件が柱となる。Bは一般的な急性期を幅広く捉え、救急搬送1,500件以上、または救急搬送500件以上+全身麻酔手術500件以上などを求める。加えて、Aでは地域包括医療病棟・地域包括ケア病棟との併設を認めない一方で、Bは地域包括医療病棟のみを除外するなど、ケアミクスの許容範囲でも差を付けた。注目は救急実績の「質」の担保で、介護保険施設入所者の救急搬送は、協力医療機関での受入困難など例外を除き、A・Bいずれでも原則として救急搬送件数に算入しない方向が示された。その一方で、現行7対1病院の相当数がA基準を満たしにくいとの指摘もあり、急性期の集約・機能分化を加速させる可能性がある。今後は、地域で救急・手術を集約する「A志向」か、高齢者救急や包括期との接続を含めた「B/他入院料志向」か、病院ごとの役割の再設計が不可避となりそうだ。 参考 1) 【急性期】厚労省が個別改定項目を提示 救急・手術件数を評価する急性期病院一般入院基本料を新設(日経メディカル) 2) 7対1病院の6割、11万床が急性期Aの基準未達(CB news) 3) 「地域の急性期医療の拠点」病院を評価する【急性期病院一般入院料】を新設、病院単位での救急搬送・手術実績が要件にー中医協総会(Gem Med) 2.診療報酬46億円返還、医師14人が資格喪失、不正請求は「見逃されない」時代へ/厚労省厚生労働省は1月29日、2024(令和6)年度に実施した保険医療機関などへの指導・監査の状況を公表し、診療報酬の不正請求などを理由に、「医科・歯科を含む9施設の保険医療機関指定を取り消した」と発表した。処分に先立ち廃業した施設を含めると、指定取消相当は14施設にのぼる。これに伴い、保険医の登録が取り消されたのは医師5人、歯科医師12人の計17人で、返還を求めた診療報酬額は約48億5,000万円と、前年度を上回った。その一方で、厚労省があわせて公表した2023年度の指導・監査実績によると、個別指導を受けた保険医療機関は1,464件で前年度比2.7%減少したものの、対象となった医師数は2,774人と大幅に増加している。医科に限れば、個別指導件数・対象医師数ともに増加しており、医科領域での請求内容に対する点検が一層強化されている実態がうかがえる。2023年度に実施された監査は46件で、その結果、保険指定取消または取消相当となった医療機関は21件、医師ら14人が資格を喪失した。返還された診療報酬総額は46億2,338万円に達し、前年度から26億円以上増加した。とくに施設基準を満たさない入院料の請求、実施していない診療行為の請求(架空請求)、実診療で行っていない行為を上乗せする付増請求など、基本的ルール逸脱が繰り返し確認されている。注目すべき点として、保険指定取消などの端緒(発覚のきっかけ)の多くが、保険者や医療機関従事者、患者からの情報提供であったことが挙げられる。医療費通知やマイナンバーカード利用の進展により、請求内容の「見える化」が進み、不正請求は発覚しやすい環境となっている。診療報酬は公費・保険料・患者負担で成り立つ共有財源であり、ルール遵守は医療者全体の信頼を支える前提条件である。近年の指導・監査の動向は、「悪質事例への厳正対応」と同時に、日常診療における請求の正確性や施設基準管理の重要性を、すべての医師に改めて突きつけるものと言えそうだ。 参考 1) 令和6年度における保険医療機関等の指導・監査等の実施状況について(厚労省) 2) 9施設の保険指定取り消し 24年度、返還請求48億円(産経新聞) 3) 不正請求等で21件・14人の医師等が「保険指定取り消し」等の処分、診療報酬46億円強を返還-2023年度指導・監査(Gem Med) 3.緊急避妊薬(アフターピル)が国内初の市販化、2月から全国販売へ/厚労省国内初となる市販の緊急避妊薬(アフターピル)が、2月2日から全国で販売される。第一三共ヘルスケアが販売するレボノルゲストレル(商品名:ノルレボ)は、これまで医師の処方箋が必要だったが、スイッチOTCとして薬局やドラッグストアで購入可能となる。希望小売価格は1錠7,480円で、年齢制限はなく、未成年でも保護者やパートナーの同意は不要とされた。ノルレボは、排卵を遅らせる作用があり、性交後72時間以内に1回服用すれば、約8割の確率で妊娠を防ぐとされる。24時間以内の服用では妊娠阻止率は約95%に達する一方、時間が経過するほど効果は低下し、49~72時間では約58%に下がる。販売は対面に限定され、厚生労働省が指定した研修を修了した薬剤師が、チェックシートによる確認と説明を行い、購入者本人がその場で服用する「面前服用」が要件となる。転売や誤用を防ぐ狙いで、ネット販売や持ち帰りは認められていない。服用後は、3週間を目安に妊娠検査や医療機関での確認が推奨されている。厚労省によると、販売開始時点で全国5,445店舗が取り扱い、今後はさらに拡大する見通しだ。イオンリテールは併設薬局69店舗で販売を開始し、ウエルシア薬局やクオールなど大手も全店展開を予定している。その一方で、緊急避妊薬はあくまで緊急時の対処法で、服用後は一時的に妊娠しやすくなる場合もある。専門家は、低用量ピルなど確実性の高い平時の避妊法や、性教育の充実が不可欠だと指摘する。世界では約90の国・地域で処方箋なしで購入可能であり、世界保健機関(WHO)の必須医薬品にも指定されている。今回の市販化は、望まない妊娠を防ぐ選択肢を広げる一方、適切な使用と制度運用が問われる転換点となりそうだ。 参考 1) 緊急避妊薬、2月から薬局などで販売 1錠7,480円購入は対面のみ(朝日新聞) 2) 緊急避妊薬、来年2月に初の市販開始 面前服用要件に-第一三共「ノルレボ」(時事通信) 3) 緊急避妊薬、72時間以内の服用で効果8割 2月から市販(日経新聞) 4) イオンリテール、緊急避妊薬を販売 2日から併設の薬局69店舗で(同) 5) 2月発売の緊急避妊薬、全国5,000超の店舗で取り扱い 厚労省集計(同) 4.相次ぐ汚職でトップが謝罪-卓越大認定に暗雲、不退転の改革へ/東大東京大学医学部附属病院で汚職事件が相次いだ問題で、同大は1月28日、藤井 輝夫総長が記者会見し「教育・研究機関として社会の信頼を著しく損ねた」と謝罪した。大学院医学系研究科の佐藤 伸一教授が、民間団体との共同研究(社会連携講座)に絡み、性風俗店を含む高額接待を受けたとして24日に収賄容疑で逮捕され、東大は26日付で懲戒解雇した。不祥事は単発ではなく、2025年11月にも同院の准教授が医療機器選定を巡る収賄容疑で逮捕・起訴されている。こうした事態を受け、田中 栄病院長は27日付で引責辞任。教職員宛てのメールで「短期間に複数の重大な不祥事が発生し、患者や社会の信頼を著しく損ねた。組織の長として管理監督責任を明確にする」と辞任理由を説明した。藤井総長は会見で、不祥事の背景として(1)教員の倫理意識の希薄さ、(2)民間資金受け入れを巡るチェック機能の不足、(3)閉鎖的でヒエラルキーの強い組織風土の3点を挙げた。責任を取り、総長は役員報酬の一部(1ヵ月分の50%)を自主返納し、担当理事らも返納する。さらに、全教職員約1万3,000人を対象とした調査で、倫理規程違反が22件判明し、うち3件で高額接待が認められたことも明らかにした。大学は4月に最高リスク責任者(CRO)を新設し、独立監査を含む「三線防御」によるガバナンス再構築を進める方針だ。10兆円規模の大学ファンド支援を受ける「国際卓越研究大学」の審査が継続している最中、改革の実効性と信頼回復への道筋が厳しく問われている。 参考 1) 本学教員の逮捕を受けて(東大) 2) 東京大学総長「信頼著しく損ねた」30秒頭下げ謝罪 教授の収賄事件(朝日新聞) 3) 東京大学総長謝罪 大学院教授の収賄など汚職相次ぎ(NHK) 4) 東大ガバナンス欠如、卓越大認定影響避けられず? 総長「急ピッチで改革進める」(産経新聞) 5) 東大総長が汚職事件で謝罪「信頼損ねる」 高額接待など新たな倫理違反22件も発覚(同) 5.臓器移植改革が始動 ドナー関連業務を地域法人に移行/藤田医大厚生労働省は1月30日、藤田医科大学などが設立した一般社団法人「中部日本臓器提供支援協会(CODA)」を、心臓や肺などの提供臓器をあっせんする「ドナー関連業務実施法人」として許可した。眼球を除く臓器あっせん業の許可は、日本臓器移植ネットワーク(JOT)以外では全国で初めてとなる。これまで、脳死や心停止下での臓器提供に際し、家族への説明や同意取得、摘出チームの受け入れ調整などのドナー関連業務はJOTが一元的に担ってきた。しかし近年、臓器提供数の増加に対し、コーディネーター不足や業務の集中による対応の遅れが指摘され、結果として移植が見送られる事例も生じていた。こうした状況を受け、厚労省は2024年12月、ドナー側業務を地域ごとに分担する体制改革を打ち出していた。CODAは中部7県(愛知、三重、岐阜、静岡、福井、富山、石川)を担当し、臓器提供が想定される医療機関にコーディネーターを派遣。ドナー家族への説明や同意取得、関係機関との調整を担う。その一方で、移植希望者の登録やレシピエント選定、臓器搬送は引き続きJOTが担当し、公平性は従来通り担保される。CODAは移植業務経験者5人を確保し、JOTでの研修を経て、2026年夏ごろの本格稼働を予定している。厚労省は今後、他地域でも同様のあっせん法人を募集する方針で、臓器提供体制は「全国一元」から「地域分担」へと大きな転換点を迎えた。ドナーの意思を確実に生かし、移植機会の拡大につながるかが注目される。 参考 1) ドナー関連業務実施法人を許可しました(厚労省) 2) 臓器提供 家族対応などの業務を新法人に許可 厚労省(NHK) 3) 臓器あっせん法人を初許可 ドナー対応、藤田医大設立(日経新聞) 4) 「中部日本臓器提供支援協会」、厚労省が臓器あっせん業を許可 藤田医科大などが設立(中日新聞) 6.介護事業者倒産が過去最多176件 突出する訪問介護の経営危機/厚労省訪問介護事業者の経営悪化が深刻さを増している。2024年度の介護報酬改定で訪問介護の基本報酬が引き下げられたことに加え、物価高や移動に伴うコスト増が重なり、収益を圧迫している。とりわけ人手不足が最大のボトルネックとなり、サービスの継続が困難になるケースが相次いでいる。こうした状況を受け、厚生労働省は人材確保に向けた広報を強化。昨秋以降、訪問介護の仕事の具体像を伝えるショート動画や漫画、ポスターなどを特設サイトで発信し、教材としての活用も見込むなど、職場の魅力を可視化して担い手拡大を狙っている。背景には介護事業者の倒産の増加への危機感がある。東京商工リサーチによると、2025年の介護事業者倒産は176件で過去最多を更新し、「訪問介護」は91件と3年連続で最多。倒産理由は「販売不振」が約8割を占め、「人手不足」倒産も最多を更新した。規模は小・零細が中心で、資金繰り余力の乏しさが表面化している。賃上げ支援や生産性向上策は進むが、他産業の賃上げに追いつかず、現場の人材確保は依然として厳しい。国・自治体には、倒産抑制と運営効率化支援を一体で進める対応が求められる。 参考 1) 2025年「介護事業者」倒産 過去最多の176件 「訪問介護」の倒産が突出、認知症GHも増加(東京商工リサーチ) 2) 訪問介護の倒産急増、人材確保に懸命の厚労省 PR動画・漫画など続々(日経新聞)

15.

小児の上腕骨内側上顆転位骨折、手術的固定術はベネフィット示さず/Lancet

 上腕骨内側上顆転位骨折は、小児の骨折で最も議論の余地のある損傷の1つだが、裏付けとなるエビデンスが乏しいにもかかわらず、手術的固定術を行う傾向が強い状況であるという。英国・リバプール大学のDaniel C. Perry氏らは「SCIENCE試験」において、転位した骨片の位置を回復させる手術的固定術は非手術的治療と比較して、臨床的有益性をもたらさず費用対効果も優れないうえに、これらの小児を回避可能な外科的リスクにさらす可能性があることを示した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2026年1月20日号で報告された。3ヵ国の無作為化優越性試験 SCIENCE試験は、3ヵ国(英国、オーストラリア、ニュージーランド)の59施設で実施した実践的な多施設共同無作為化優越性試験(英国国立衛生研究所[NIHR]などの助成を受けた)。2019年6月~2023年9月に参加者を登録した。 年齢7~15歳の転位を伴う内側上顆骨折の患者を対象とした。被験者を、手術的固定術を受ける群または非手術的治療を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 手術的固定術は、全身麻酔下に切開、解剖学的整復、骨片の固定を行った。非手術的治療は、ギプス、副木、スリングを用いて肘を約90度の屈曲位に固定した。 主要アウトカムは、12ヵ月の時点での上肢機能の回復とし、ITT集団において小児用PROMIS(Patient Report Outcomes Measurement System)上肢スコア(13.7~57.3点、高点数ほど上肢機能が良好)で評価した。手術的固定術は術中・術後合併症と追加手術が多い 334例(平均年齢11.7[SD 2.3]歳、女児170例[51%])を登録し、手術群に168例、非手術群に166例を割り付けた。194例(58%)はスポーツによる骨折で、体操(55例[16%])とフットボール/サッカー(37例[11%])による損傷が多かった。主要アウトカムのデータは285例(85%)から得られた。 12ヵ月時のPROMIS上肢スコアは、手術群が54.3(SD 5.7)点、非手術群は53.1(SD 7.8)点であり、両群間に有意な差を認めなかった(平均治療群間差:1.57点、95%信頼区間[CI]:-0.01~3.14、p=0.052)。また、この治療効果の推定値は臨床的に意義のある差(4点)を下回っていた。 追加手術(計画手術、合併症関連手術)は、手術群で24例、非手術群で3例に行われた。手術的固定術を受けた150例のうち、13例(9%)に14件の術中合併症が、7例(5%)に術後合併症が発生し、それぞれ手術を要した。さらに、17例(11%)ではスクリューやワイヤの除去手術がルーチンに行われた。 非手術的治療を受けた184例では、4例(2%)に5件の合併症が発生し、このうち3件(2%)で追加手術を要した。費用は手術群で2,435ポンド高額 英国の国民保健サービス(NHS)および福祉サービス(Personal Social Services)の評価法で算出した患者1例当たりの平均費用は、手術群で2,435ポンド(95%CI:1,812~3,057)高く、患者1人当たりの質調整生存年(QALY)の群間差は平均-0.008(95%CI:-0.039~0.024)であった。 また、1QALY当たり2万ポンドまたは3万ポンドの支払い意思額閾値において、手術的固定術で費用対効果が優れる確率は0%だった。 著者は、「非手術的治療では、後日手術が必要となるリスクがごくわずかに残るが、これは手術的固定術における2次的手術の実施率と比較して低い」「これらの知見は、小児の上腕骨内側上顆転位骨折では非手術的治療を標準的な管理戦略へと転換し、手術的固定術は例外的な状況に限定すべきであることを示唆する」「このエビデンスは、今後のガイドラインに反映すべきであり、治療選択肢に関する臨床医と患児、家族との話し合いに有益と考えられる」としている。

16.

鼻に歯が生えていた2例【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第297回

鼻に歯が生えていた2例さまざまな場所に歯が生えるものですが、過去に脳内に歯が生えた事例を紹介しました。今度は鼻の中です。脳に比べるとインパクトは少ないかもしれませんが、おどろき医学論文マニアとして、紹介しなければなりません。Bergamaschi IP, et al. Intranasal Ectopic Tooth in Adult and Pediatric Patients: A Report of Two Cases. Case Rep Surg. 2019 Sep 17;2019:8351825.「先生、鼻の中に“歯”があると言われたんですけど……」。外来でこんな訴えが飛び出したら、皆さんどうされるでしょうか。「抜けた歯が鼻腔に入ったのかな? いや、でもなんで歯が鼻に?」と一瞬フリーズしたくなりますが、世の中には“鼻から歯が生える”患者さんが存在します。今回は、ブラジルの口腔外科チームが報告した「鼻腔内異所性歯」の成人例と小児例、2症例を扱った論文をご紹介します。1例目は、32歳の女性です。主訴はズバリ「鼻の中に歯がある」というものでした。この患者さんによると、この状態は痛みを引き起こし、とくに寒い日には鼻血が出るとのことでした。詳しく病歴を聴取すると、6歳のときに顔面外傷を負い、上顎前歯部に損傷を受けたことが判明しました。つまり、26年もの間、歯が鼻の中に存在していたことになります。臨床診察で鼻尖部を持ち上げてみると、なんと右鼻孔内に上顎中切歯の歯冠が観察されました。6歳といえば、ちょうど前歯の永久歯が萌出する時期であり、Nollaの発育段階では7(歯冠完成、歯根の3分の1発育)に相当します。この時期に外傷を受けたことで、本来口腔内に萌出するはずだった歯が、上方に変位して鼻腔内に迷い込んでしまったと考えられます。ここで疑問が生じます。なぜ26年間も放置されていたのでしょうか。論文によると、これは「専門家からの誤った情報提供」が原因だったとのことです。つまり、症状(痛みや鼻出血)に対する対症療法のみが行われ、その原因である鼻腔内の歯が長年見過ごされていたということです。2例目は、左側の片側性口唇口蓋裂を有する8歳の女児です。この子供は、左側鼻閉を主訴に紹介されてきました。原因は、肉芽組織に囲まれた鼻腔内の硬い組織塊でした。口腔内診察とCT検査の結果、この白色塊は左側側切歯の異所性萌出であることが判明しました。口腔内では左側側切歯が欠損しており、塊の透過性は他の歯と一致していました。興味深いことに、CT検査では、この形成異常歯の上部は軟組織内に埋入しており、骨性支持がない状態でした。母親によると、この白色塊は腸骨骨移植による口鼻瘻孔閉鎖術の3ヵ月後に出現したとのことです。口唇口蓋裂自体が多因子性の病因を持つため、異所性萌出に対する遺伝的素因も否定できませんが、手術操作による歯胚の変位も原因として考えられます。両症例とも、治療は全身麻酔下での歯の外科的摘出でした。「鼻から歯を抜く」という、一見すると大手術のように思える処置ですが、実際の手技は比較的シンプルで、無事に済んだそうです。

17.

手が大樹になった男性【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第294回

手が大樹になった男性ヒトパピローマウイルス(HPV)は、手足にできる小さないぼから、子宮頸がんの原因となる型まで、いろいろな疾患を起こすことで知られています。多くの人にとってのHPVは、自然に治ることも多いいぼの原因に過ぎませんが、体の免疫がうまく働かないと、全身に広がることがあります。Alisjahbana B, et al. Disfiguring generalized verrucosis in an indonesian man with idiopathic CD4 lymphopenia. Arch Dermatol. 2010;146:69-73. 2010年に報告されたインドネシア人男性の症例は、尋常性疣贅の原因であるHPV-2が全身に広がり、手足に大樹のような巨大な角化物まで作ってしまったというものです。論文には手が大きな木のようになってしまった写真が掲載されています。この男性、CD4陽性T細胞が慢性的に少ない特発性CD4リンパ球減少症を背景疾患として持ち、この細胞性免疫の低下が長年にわたってウイルスの増殖を許容してしまいました。最初は膝の小さな疣贅から始まりました。ところが数年で病変は顔、胸、背中、手足へと広がり、20代のうちに仕事ができないほどに増えました。診察時には、四肢の皮膚は厚い角質に覆われ、長いものでは30cmにも達する樹木のような突起が層状に曲がりくねっていました。見た目の衝撃は大きく、悪臭も伴っていたそうです。皮膚生検では、いぼに典型的な表皮の肥厚やウイルス感染細胞がみられました。病変から採った組織のDNAを調べると、どの検体からもHPV-2の遺伝子が見つかりました。まずQOLを最も損なっていた巨大な角化物を全身麻酔下で機械的に削り落としました。電気ノコギリなどを使用して約6kgの疣贅と壊死組織を除去しました。そして、再び厚くならないように高濃度サリチル酸で角質を軟らかくし続けました。顔や体幹の病変は切除やシェービングを少しずつ繰り返しました。角化を抑える飲み薬であるアシトレチンも試されましたが、実感できる効果は乏しかったそうです。

18.

腹部大手術時の周術期血圧管理、個別化vs.通常/JAMA

 腹部大手術を受ける術後合併症リスクが高い患者において、術前夜間平均動脈圧(MAP)に基づく個別周術期血圧管理は、MAP目標値65mmHg以上とする通常血圧管理と比較して、術後7日以内の急性腎障害、急性心筋障害、非致死的心停止または死亡の複合アウトカムを減少させなかった。ドイツ・University Medical Center Hamburg-EppendorfのBernd Saugel氏らIMPROVE-multi Trial Groupが、同国15の大学病院で実施した無作為化単盲検試験「IMPROVE-multi試験」の結果を報告した。手術中の低血圧は臓器損傷と関連しているが、手術中の血圧管理が臨床アウトカムを改善可能かについては不明であった。JAMA誌オンライン版2025年10月12日号掲載の報告。術後7日以内の複合アウトカムを評価 研究グループは、2023年2月26日~2024年4月25日に、全身麻酔下にて90分以上の手術時間が予定される腹部大手術を受ける45歳以上の患者で、少なくとも1つの高リスク基準を満たす患者を登録し、個別血圧管理群と通常血圧管理群に1対1の割合で無作為に割り付けた(最終追跡調査日2024年7月25日)。 全例、24時間血圧モニターを用いて術前血圧を1晩にわたり30分間隔で測定し、深夜0時~午前6時に測定されたMAPに基づき、各患者の術前夜間MAPを算出した。 個別血圧管理群では、全身麻酔導入開始時から術後2時間まで、術前夜間MAP値以上の保持を目標とした。術前夜間MAPが65mmHg未満の患者では65mmHg以上、110mmHg超の患者では110mmHg以上を周術期MAPの目標値とした。一方、通常血圧管理群では、目標MAPを65mmHg以上とした。 主要アウトカムは、術後7日以内の急性腎障害、急性心筋障害、非致死的心停止または死亡の複合アウトカムの発生率、副次アウトカムは、術後3~7日における主要アウトカムの構成項目の各発生率、術後7日以内の感染性合併症、術後30日および90日以内の腎代替療法、心筋梗塞、非致死的心停止または死亡の複合アウトカムなど、22項目であった。複合アウトカムの発生に有意差なし 7,621例がスクリーニングを受け、1,272例が登録された。このうち1,142例が無作為化され(各群571例)、手術中止または同意撤回の8例を除く1,134例が主要アウトカムおよび副次アウトカムの解析対象集団となった(年齢中央値66歳[四分位範囲:59~73]、女性34.1%)。 主要複合アウトカムは、個別血圧管理群で33.5%(190/567例)、通常血圧管理群で30.5%(173/567例)に発現した(相対リスク:1.10、95%信頼区間:0.93~1.30、p=0.31)。 副次アウトカムについては、22項目のいずれも有意差は認められなかった。術後7日以内の感染性合併症は、個別血圧管理群15.9%、通常血圧管理群17.1%(p=0.63)であり、術後90日以内の腎代替療法、心筋梗塞、非致死的心停止または死亡の複合アウトカムはそれぞれ5.7%と3.5%(p=0.12)であった。

19.

10月13日 麻酔の日【今日は何の日?】

【10月13日 麻酔の日】〔由来〕1804年の今日、江戸時代の医師・華岡青洲が、世界初の「全身麻酔」による乳がん摘出手術に成功。人類が手術の痛みから解放された歴史的な日として日本麻酔科学会が2000年に制定。関連コンテンツ「苦しいのは仕方がない」という患者さん【非専門医のための緩和ケアTips】海外旅行と医療用麻薬【非専門医のための緩和ケアTips】意外と知らないオピオイド(1)モルヒネによる眠気【臨床力に差がつく 医薬トリビア】高齢の心臓手術患者、脳波ガイド下麻酔は術後せん妄を抑制せず/JAMAICU入室患者の鎮静、α2作動薬vs.プロポフォール/JAMA

20.

第283回 「公務員給与は物価スライド方式」も医師の給与が上がらない理由

INDEX新総裁、高市氏が選出医療界の危機に寄り添う救世主か「鉄壁」財務省が譲歩するなら真綿で首を締めるよう…新たな要件を提示新総裁、高市氏が選出前回触れた自民党総裁選は高市 早苗氏が決選投票を勝ち抜き、新総裁に選出された。このまま順当に行けば、高市氏が新首相に指名され、日本史上初の女性首相になると思われる。あえて“思われる”と書いたのは、ここにきて連立を組む公明党が極めて保守色の強い高市氏への警戒感から、連立維持のために高いボールを投げ始めたからである。もっとも現在、衆参両院で過半数を占める野党各党がまとまりに欠くこと、さらには高市氏の過去の政党渡り歩き、言い換えれば目的のためには手段を選ばないことをうかがわせる経歴をみれば、最終的に公明党の要求を受け入れ、連立を維持することになるだろうと個人的には踏んでいる。ちなみに私見の余談だが、率直にいうと今回の結果はやや意外だった。何が意外だったかというと、昨年の総裁選でも思ったことだが、地方の自民党員が高市氏に高い支持を与えていることである。これは自民党に限らないことだが、政党党員は年々高齢化が進んでいる。中でも高齢の自民党員はかなり保守的である。この保守的には男尊女卑的な思考も含まれる。しかも、高市氏はもともと旧新進党出身の“外様”である。にもかかわらず、これだけ高い支持を獲得したのは、党員が持つ極度の危機感の表れとも解釈できる。ただ、党の刷新性を考えるならば、小泉氏という選択肢もあり得たはずだ。しかし、地方党員たちの選択がそうはならなかったのは、入閣3回・党三役経験なしの小泉氏よりも、入閣7回・政調会長経験者の高市氏の実績を評価したからなのだろうと推測できる。そうならば自民党員は新旧の考えが入り交じる複雑な思いで高市氏を選んだということだ。医療界の危機に寄り添う救世主かさてその高市氏は、10月4日の記者会見で「病院、介護施設は、今、大変な状況になっている。病院は7割が深刻な赤字。介護施設の倒産は過去最高になった」「診療報酬改定は年末にあるが、それを待っていられない状況。地域にある医療機関がどんどん倒産していくことになると大変。介護報酬は改定年がまだ先であり、そこまで待っていられない。ここは補正予算を使って支援できる形を検討してもらいたいと思っている」と述べたという。ちなみに総裁選中は「補正予算を措置し、診療報酬については過去2年分の賃上げ・物価上昇分を反映して前倒しで改定、介護報酬についても同様に前倒しで改定することも検討する」とも発言していた。現在、物価高により経営環境が悪化する医療機関・介護施設にとって、この発言への期待は高まっているかもしれない。だが、来春に向けて改定議論が進行中の今、それが可能かと問われれば、常識的に考えて否だ。しかも、高市氏は野党との連立を視野にガソリン暫定税率廃止や給付付き税額控除制度導入まで主張している。税収が減り、歳出が増加する高市氏のこの方針に、官庁の中の官庁である財務省が同意するはずもない。また、繰り返しになるが、現在、中央社会保険医療協議会では、ようやく具体的な診療報酬改定項目の議論が始まったばかりであり、個別項目の前倒し引き上げなどできるはずがないのは明らかだ。この状況下では、高市氏が財務省の抵抗を抑え込めたとしても、診療報酬・介護報酬の個別項目の詳細な検討はほぼ不可能で、打てる方策は限られる。考えられるのは、「条件付きの補助金給付」「物価スライド方式的な引き上げ」の2つぐらいではないだろうか?「鉄壁」財務省が譲歩するなら一番簡単なのは後者かもしれないが、これこそ財務省は認めないだろう。というのも、これまでの状況を考えれば“簡単なのに、あえてやっていない”からである。ご存じのように財務官僚も含む公務員の給与は物価スライド方式が導入されている。ここから考えれば、診療報酬・介護報酬も物価スライド方式の導入は理論上可能である。それをやらないのは、財務省が診療報酬、ひいては医療費を財政調整弁と考えているからにほかならない。もし臨時特例的であっても物価スライド方式を導入すれば、彼ら官僚の口癖である「前例」を望まない形で導入する形となり、かつ将来的に政治の側から“悪用”される可能性もある。このように考えれば、もし高市氏が何か手を打てたとしても条件付き補助金の支給ということになる。「条件付き」としたのも、少子高齢化で膨張する社会保障関連費に頭を悩ませている財務官僚が、医療機関や介護施設に無条件で大盤振る舞いをするはずはないだろうという読みだ。もちろん、これとてできないということも十分あり得る。真綿で首を締めるよう…新たな要件を提示さて、現在の世界的物価高と日本国内での賃金上昇トレンドは、従来から診療報酬が有する構造的な問題である▽損税▽物価スライドのない2年に1度の政治決着の改定▽資本コスト分が考慮されない低単価をフレームアップしている。そんな最中、10月8日の中央社会保険医療協議会総会では、厚生労働省側は入院医療の急性期一般入院料1(通称・7対1看護)について、さらに病院単位の緊急搬送件数や全身麻酔手術件数を要件化することを示唆する論点を提示してきた。これが現実になれば、とりわけ地方の病院はさらに苦境に追いやられることになる。このような状況を“高市政権”はどのように解決するのか? まずはお手並み拝見である。

検索結果 合計:139件 表示位置:1 - 20