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3日間のアミカシン吸入、長期挿管患者の人工呼吸器関連肺炎発生を軽減(解説:栗原宏氏)

Strong point ・多施設二重盲検ランダム比較試験で結果の信ぴょう性が高い・手技が簡便かつ重篤な副作用の発症が少ない・治療効果が臨床的に有意義研究デザイン上の限界・ICU、入院期間全体を短縮するかの評価は試されていない 人工呼吸器関連肺炎(VAP)は、気管挿管後48~72時間以上経過して発生する肺炎を指す。報告によって幅があるが全挿管患者の5~40%に発生するとされ、ICUでしばしばみられる感染性合併症である。死亡率は約10~30%と院内肺炎の中でもかなり高い。 気管チューブから侵入した細菌が気管チューブ、気管支肺胞系、肺実質で増殖することがVAPの原因となる。抗菌薬吸入療法はこれらの部位に直接高濃度の抗菌薬投与が可能であり、小規模試験のメタ解析によればVAP予防に有効であることが示されている。これを踏まえて、著者らは人工呼吸器導入後3日目以降に、1日1回3日間、理想体重1kg当たり20mgのアミカシン吸入療法を行い、VAPの発生率が減少するかを検討した。 VAPの発症は肺検体の定量的細菌培養で陽性、および白血球増多、白血球減少、発熱、胸部X線撮影で新たな浸潤影を伴う化膿性分泌物のうち、少なくとも2つを満たすと定義され、期間も28日間と実臨床に即した判定法といえる。 主要アウトカムは以下のとおりで、臨床的にも意義があると考えられる。・VAP発症:アミカシン群62例(15%) vsプラセボ群95例(22%)・VAP発症までの境界内平均生存期間(RMST)の群間差:1.5日(95%信頼区間[CI]:0.6~2.5、p=0.004)・侵襲的人工呼吸管理1,000日当たりのVAP初回エピソード発生頻度:アミカシン群16 vsプラセボ群23(発生率比:0.68、95%CI:0.49~0.94) ※RMSTは、「境界時間内のイベント発現までの時間に対する平均値」と定義され、短い観察期間でも生存曲線の要約情報を得ることができる。従来用いられていたCox比例ハザードモデルが厳密には適用できない場合があるため、新たな生存時間解析の指標として広まりつつある。 治療に起因する重篤な副作用(気管チューブの閉塞、気管支痙攣、呼気リンパフィルターの抵抗増加)はみられたが、1.7%(417例中7例)程度かつプラセボ群との有意差もなく、治療自体のリスクは低いと考えらえる。 本調査のアミカシン吸入療法によってVAP発症率を改善することが示されたが、デザイン上、28日間でのVAP発症の有無自体をエンドポイントとしており、ICU、入院期間全体の短縮に寄与するかは不明である。この点に関して今後の調査が期待される。 VAPの高い死亡率、治療の簡便さ、治療自体の危険性を総合的に考えると、長期の挿管が予想される患者に対して予防的なアミカシン吸入療法の実施は検討に値すると思われる。

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アミカシン吸入、人工呼吸器関連肺炎発症を抑制/NEJM

 少なくとも3日間侵襲的人工呼吸管理を受けている患者において、アミカシン1日1回3日間吸入投与はプラセボと比較し、28日間の人工呼吸器関連肺炎(VAP)の発症を有意に減少したことが、フランス・トゥール大学のStephan Ehrmann氏らCRICS-TRIGGERSEP F-CRIN Research Networksが実施した多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照優越性試験「AMIKINHAL試験」において示された。予防的な抗菌薬吸入投与がVAPの発症を減少させるかどうかは不明であった。NEJM誌オンライン版2023年10月25日号掲載の報告。侵襲的人工呼吸管理が72時間以上96時間未満の患者を無作為化 研究グループは、フランスの19施設のICUにおいて、侵襲的人工呼吸管理を72時間以上受けている成人患者をアミカシン(標準体重1kg当たり20mg)群またはプラセボ(同量の0.9%塩化ナトリウム)群に1対1の割合に無作為に割り付け、1日1回3日間吸入投与した。 侵襲的人工呼吸管理を96時間行った患者、VAPが疑われるか確認された患者、腎代替療法を受けていない重症急性腎障害患者、慢性腎臓病(糸球体濾過量<30mL/分)患者、気管切開チューブを留置している患者、24時間以内に抜管が予定されている患者、アミノグリコシド系薬の全身投与を受けている患者は除外した。 主要アウトカムは、無作為化後28日間のVAP発症(肺検体の定量的細菌培養で陽性、および次の所見のうち少なくとも2つを満たすと定義・盲検下中央判定:白血球増多、白血球減少、発熱、胸部X線撮影で新たな浸潤影を伴う化膿性分泌物)で、安全性についても評価した。28日時までのVAP発症は、プラセボ群よりアミカシン群で少ない 2017年7月3日~2021年3月9日に、計850例が無作為化され、同意撤回の3例を除く847例(アミカシン群417例、プラセボ群430例)がITT解析対象集団となった。アミカシン群では337例(81%)、プラセボ群では355例(82%)が1日1回計3回の投与を完了した。 28日間のVAP発症は、アミカシン群62例(15%)、プラセボ群95例(22%)に認められ、VAP発症までの境界内平均生存期間(RMST)の群間差は1.5日(95%信頼区間[CI]:0.6~2.5、p=0.004)、侵襲的人工呼吸管理1,000日当たりのVAP初回エピソード発生頻度はアミカシン群16、プラセボ群23(発生率比:0.68、95%CI:0.49~0.94)であった。 感染に関連した人工呼吸器関連合併症は、アミカシン群74例(18%)、プラセボ群111例(26%)に発生した(ハザード比:0.66、95%CI:0.50~0.89)。 試験に関連した重篤な副作用は、アミカシン群で7例(1.7%)、プラセボ群で4例(0.9%)に認められた。

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日本人は肥満が重症コロナ転帰不良のリスク因子でない?

 アジア人の肥満は、人工呼吸器を要する重症新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者において、転帰不良のリスク因子ではないことを示唆するデータが、国内多施設共同研究の結果として報告された。東京医科大学病院救命救急センターの下山京一郎氏らによる論文が、「Scientific Reports」に7月24日掲載された。 COVID-19パンデミックの比較的初期の段階で、肥満が重症化リスク因子の一つであると報告された。しかし重症化して人工呼吸器を要した患者において、肥満が予後に影響を与えるのかは未解明であった。また、アジア人においては大規模なコホート研究がされておらず、知見がより少ない。これを背景として下山氏らは、国内のCOVID-19治療に関するレジストリである「J-RECOVER」のデータを用いた過去起点コホート研究により、ICUに収容され人工呼吸器を要した患者の転帰に肥満が関与しているか否かを検討した。J-RECOVERは国内66施設が参加して実施され、2020年1~9月に退院したCOVID-19症例4,700件の診療報酬包括評価(DPC)データや治療転帰などの情報が登録されている。 解析対象は、ICUにて侵襲的機械換気(IMV)が施行されていた580人から、BMIデータが記録されている477人とした。またアジア人の肥満の影響を検討するという目的から、アジア人以外は除外している。 この477人の年齢は中央値67歳(四分位範囲56~75)、男性78.4%、BMI中央値25.0(22.3~28.1)であり、BMI25未満の非肥満群が242人(50.7%)、BMI25以上の肥満群が235人(49.3%)。各群のBMI中央値は、非肥満群22.4、肥満群28.2だった。 肥満の有無で比較すると、年齢は肥満群のほうが若年で(中央値61対70歳、P<0.001)、糖尿病が多い(33.2対22.7%、P=0.014)という有意差が見られた。ただし、両群ともにチャールソン併存疾患指数(CCI)が中央値0、ICU患者の重症度の指標であるSOFAスコアは4、ICU滞在期間13日で、いずれも同等であり、慢性腎臓病、心不全の有病率も有意差がなかった。 主要評価項目として検討した院内死亡は、非肥満群が71人(29.3%)、肥満群は49人(20.9%)であり、肥満群の方が少なかった(P=0.035)。単変量解析の結果、肥満は院内死亡との有意な負の関連が見られた〔オッズ比(OR)0.634(95%信頼区間0.417~0.965)〕。ただし、説明変数に年齢、性別、CCIを加えた多変量解析では単変量解析で見られた負の関連は消失し、肥満は院内死亡との関連は見られなかった〔OR1.150(同0.717~1.840)〕。 副次的評価項目として検討した体外式膜型人工肺(VV-ECMO)の施行は、非肥満群が38人(15.7%)、肥満群は52人(22.1%)であり有意差がなかった(P=0.080)。単変量解析の結果、肥満は有意な関連因子でなく〔OR1.530(同0.960~2.420)〕、多変量解析の結果も非有意だった〔OR1.110(同0.669~1.830)〕。 著者らは、本研究が後方視的解析であることなどの限界点を述べた上で、「国内のICUにてIMVを要したCOVID-19患者では、肥満は院内死亡リスクと関連がないことが示された。肥満を有することは重症COVID-19転帰不良のリスク因子ではないのではないか」と結論付けている。 なお、欧米での一部の先行研究と異なる結果となった理由について、アジア人の肥満は欧米人ほどBMIが高くなく、本研究においても肥満群のBMIは中央値28.2であって欧米の過体重の範囲にあるという相違の影響を、考察として指摘している。また、肥満群のほうが若年であったこと、および、パンデミック当初に肥満が重症化リスク因子であると報告されていたため、肥満患者に対してより早期に積極的な治療が行われていた可能性の関与も考えられるという。

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筋肉が脂肪化していると非肥満でもCOVID-19が重症化しやすい

 体組成と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)重症化リスクとの関連が報告された。COVID-19が重症化した患者はBMIや内臓脂肪面積が高値であることのほかに、非肥満で重症化した患者は筋肉内の脂肪が多いことなどが明らかになったという。三重大学医学部附属病院総合診療部の山本貴之氏、山本憲彦氏らの研究によるもので、詳細は「PLOS ONE」に7月28日掲載された。 肥満がCOVID-19重症化のリスク因子であることは、パンデミックの初期から指摘されている。ただし、肥満か否かを判定するための指標であるBMIには体組成が反映されないため、例えば内臓脂肪の蓄積のみが顕著であまり太っているように見えない、いわゆる“隠れ肥満”では、肥満と判定されないことがある。反対に筋肉質であるために高体重の場合に肥満と判定されてしまうようなことが起きる。 また最近では、COVID-19重症化リスクはBMIよりむしろ内臓脂肪量と強く相関することなどが報告されている。ただしこれまでのところ、体組成とCOVID-19重症化リスクとの詳細な関連は明確になっていない。加えて、BMIや体組成と疾患リスクとの関連は人種/民族により異なることから、日本発の知見が必要とされる。これらを背景として山本氏らは、日本人COVID-19患者におけるBMIや体組成と、COVID-19重症化リスクとの関連を検討した。 研究対象は、2020年8月~2021年9月に同院に入院したCOVID-19患者のうち、体組成を評価可能な画像検査データが記録されていた連続76症例。年齢は中央値59歳(範囲22~85)、男性71.1%、BMIは中央値26.8(同17~58.6)で、2型糖尿病が36.8%であり、59.2%に脂肪肝が認められた。体組成関連の指標は、内臓脂肪面積(VFA)が中央値128.7cm2(13.6~419.5)であり、また、筋肉の質の指標とされている筋肉内脂肪組織含有量(IMAC)は-0.33(-0.73~-0.02)だった。なお、IMACは値が高いほど、筋肉が脂肪化していることを意味する。 入院中に48人が気管挿管と人工呼吸管理を要する状態に重症化していた。重症化群と非重症化群を比較すると、前者は炎症マーカー(CRP、白血球数)が有意に高く、体重(中央値76.0対67.0kg)、BMI(27.7対24.0)、VFA(159.0対111.7cm2)も有意に高値だった。年齢、性別、糖尿病患者の割合、クレアチニン、リンパ球数、血小板数、凝固マーカー(Dダイマー)、およびVFA以外の体組成関連指標(IMACや大腰筋質量指数など)には有意差がなかった。 重症化した48人のうち13人が入院中に死亡した。この群を生存退院した35人と比較すると、腎機能の低下(クレアチニンが中央値1.41対0.73mg/dL)と、血小板数の減少(139対214×103/μL)が見られた。その一方で、年齢や性別、および体重・体組成関連指標も含めて、評価したその他の項目に有意差はなかった。 次に、全体を肥満度で3群(BMI25未満、25~30未満、30以上)に層別化し、重症化群と非重症化群の体組成を比較。するとBMI25以上の場合には体組成関連指標に有意差がなかったが、BMI25未満の場合は重症化群のIMACが非重症化群より有意に高値を示していた(P=0.0499)。また、BMI25以上では重症化群と非重症化群で年齢に有意差がなかったが、BMI25未満では重症化群の方が高齢だった(P=0.015)。なお、死亡リスクについては、肥満度にかかわらず、IMACとの有意な関連は認められなかった。 著者らは、本研究が単一施設で行われたものであり、サンプル数が比較的少ないなどの限界点があるとした上で、「非肥満の日本人ではIMACで評価される筋肉の質が低下しているほど、COVID-19罹患時に重症化しやすい可能性がある。ただし、肥満患者ではこの関連が見られず、またIMACは死亡リスクの予測因子ではないようだ」と結論付けている。なお、この関連の背景については既報研究を基に、「筋肉の質の低下によって呼吸器感染症からの防御に重要な咳嗽反応(せき)が十分でなくなること、筋肉由来の生理活性物質(サイトカイン)であり炎症反応などに関わるマイオカインの分泌が低下することなどの関与が考えられる」と考察している。

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米国の病院から学んだ急性期緩和ケア【非専門医のための緩和ケアTips】第58回

第58回 米国の病院から学んだ急性期緩和ケア先日、米国・ロサンゼルスにあるCedars-Sinai Medical Center(CSMC)を見学する機会がありました。日本と米国の医療制度は健康保険、職種ごとの権限、運営資源など異なる点も多いものの、共通の課題や参考になる点も多くありました。今日の質問先日、人工呼吸器装着や延命治療の中止に関するニュースを見ました。長く議論されている話題ですが、法整備や現場での運用はどうなっていくのでしょうか?今回は生命維持治療の中止についての質問をいただきました。緩和ケアには「急性期医療」の分野があります。緩和ケアというと「がん患者の終末期ケア」というイメージが根強いですが、急性期医療の分野でも症状緩和や意思決定支援、倫理的な問題を緩和ケアの一環として議論する機会が増えてきました。米国で見学したCSMCは急性期病院で、緩和ケアの対象は非がん疾患の方が多く、集中治療領域における緩和ケアのコンサルテーションにしばしば対応している、とのことでした。今回の質問にある生命維持治療の中止については、米国でもしばしば議論になるそうです。CSMCの緩和ケア医と議論した際、治療中止の際の苦痛緩和や家族へのケアを標準化していることが印象的でした。たとえば、人工呼吸器の装着を終了する際には呼吸困難を和らげる薬剤を準備し、家族に対して状況や見通しを共有する、などに多職種で取り組んでいるそうです。ケースや医療者ごとに対応がバラつきがちな日本と大きく異なる点だと感じました。治癒の見込みのなくなった患者に対する治療の中止は、医学的にはもちろん、倫理的にも難しい判断です。米国では本人の自立性を尊重し、本人の希望に沿って治療の中止を決断できるのでしょうか? 実はここはさまざまで、日本と同様に家族間で意見が異なる場合や、遠方の親族の意見を聞くために時間を要することがあるそうです。ここからは私の意見ですが、日本においても回復の見込みのなくなった患者の生命維持治療の中止をどのように考えるか、というのは今後避けては通れない議論でしょう。無益で患者の望まない治療を適切な時期に中止するため、必要な法的整備や現場での実践についてさらに議論していく必要があるでしょう。米国の病院の急性期緩和ケアを見学し、こんなことを感じました。いろいろな意見がある分野だと思います。皆さんの意見も聞かせてください。今回のTips今回のTips急性期の緩和ケア、延命治療中止に関する議論が求められています。

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ウクライナの戦争負傷者で薬剤耐性菌が増加

 ウクライナで戦争により負傷して入院した患者の多くが、極度の薬剤耐性を獲得した細菌に感染していることが、ルンド大学(スウェーデン)臨床細菌学分野教授のKristian Riesbeck氏らによる研究で示された。研究グループは、このような状況が戦争により荒廃したウクライナの負傷者や病人に対する治療をいっそう困難なものにしているとの危惧を示している。この研究は、「The Lancet Infectious Diseases」7月号に掲載された。 Riesbeck氏は、「私はこれまでに多くの薬剤耐性菌と患者を目にしてきたため慣れているが、今回目撃したほど強烈な薬剤耐性菌に遭遇したことは、これまでなかった」と話している。 今回の研究は、国立ピロゴフ記念医科大学(ウクライナ)の微生物学者であるOleksandr Nazarchuk氏が、戦争で負傷した入院患者から採取した検体に含まれる細菌が、どの程度薬剤耐性を獲得しているのかを調べるために、ルンド大学に協力を求めて実施された。対象患者はいずれも、重症のやけどや榴散弾による負傷、骨折により緊急手術や集中治療が必要だった。患者の傷ややけどの部位に感染の兆候が認められた場合には、皮膚や軟部組織から検体を採取した。また、中心静脈カテーテルを使用している患者に感染の兆候が認められた場合にはカテーテル先端の培養を行い、人工呼吸器関連肺炎の兆候が認められた患者からは気管支洗浄液の採取を行った。総計141人(負傷した成人133人、肺炎と診断された乳幼児8人)の患者から156株の細菌株が分離された。これらの菌株について、まず、広い抗菌スペクトルを持つカルバペネム系抗菌薬のメロペネムに対する耐性をディスク拡散法で調べた。次いで、耐性が確認されるか抗菌薬への曝露増加に感受性を示した株については、微量液体希釈法での分析が行われた。 その結果、テストした154株中89株(58%)がメロペネム耐性を示すことが明らかになった。耐性を示した菌株は、肺炎桿菌(34/45株、76%)とアシネトバクター・バウマニ複合体(38/52株、73%)で特に多かった。また、微量液体希釈法での分析を行った107株中10株(9%;肺炎桿菌9株、プロビデンシア・スチュアルティ1株)は、「最後の砦」とされる抗菌薬のコリスチンにさえ耐性を示した。さらに156株中の9株(6%、いずれも肺炎桿菌)は、新しい酵素阻害薬(β-ラクタマーゼ阻害薬配合抗菌薬)を含む、今回の試験で試した全ての抗菌薬に対して耐性を示した。 Riesbeck氏は、「私は以前、インドや中国で同様のケースに遭遇したことはあるが、この研究で観察された薬剤耐性菌の耐性は次元が違う」と驚きを表す。同氏は特に、肺炎桿菌で認められた耐性に懸念を示す。肺炎桿菌は、健康で免疫系が十分に機能している人にさえ病気を引き起こす可能性があるからだ。同氏は、「これは非常に心配な結果だ。これほど高いレベルの耐性を持つ肺炎桿菌に遭遇することはまれであり、われわれもこのような結果が出るとは予想していなかった」と付け加えた。 Riesbeck氏は、「多くの国がウクライナに軍事援助や資源を提供しているが、同国で進行している薬剤耐性菌の増加という事態への対処を支援することも、それと同じくらい重要だ。薬剤耐性菌のさらなる広がりは、欧州全体にとっての脅威となる可能性がある」と述べている。

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ワクチン別、デルタ/オミクロン期の重症化抑制効果/BMJ

 米国退役軍人の集団において、デルタ株およびオミクロン株の優勢期で、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染して30日以内の人を対象に、ワクチン接種の回数や種類と、入院や死亡などの重症アウトカムとの関連性を調べた後ろ向きコホート研究が、米国・Lieutenant Colonel Charles S. Kettles VA Medical CenterのAmy S. B. Bohnert氏らにより実施された。本研究の結果、ワクチンの種類にかかわらず、未接種者よりも接種者のほうが重症化率や死亡率の低下が認められた。また、mRNAワクチンに関しては、ファイザー製よりもモデルナ製のほうが高い効果が得られることが示唆された。BMJ誌2023年5月23日号に掲載の報告。 本研究の対象となったのは、デルタ株流行期(2021年7月1日~11月30日)およびオミクロン株流行期(2022年1月1日~6月30日)において、SARS-CoV-2感染が初めて記録された退役軍人会に所属する18歳以上の27万9,989例で、平均年齢59.4歳(SD 16.3)、男性87%であった。なお、対象者は試験登録以前の18ヵ月以内にプライマリケアを受診していない人に限られた。対象者が接種した新型コロナワクチンは、ファイザー/ビオンテック製(BNT162b2)、モデルナ製(mRNA-1273)、ヤンセンファーマ/ジョンソン・エンド・ジョンソン製(Ad26.COV2.S)のいずれかで、異なる種類のワクチンの組み合わせは除外した。主要評価項目は、SARS-CoV-2陽性判定から30日以内での入院、ICU入室、人工呼吸器の使用、死亡とした。 主な結果は以下のとおり。・デルタ株流行期では、9万5,336例が感染し、47.6%がワクチン接種を1回以上受けていた。2回接種は3万5,994例(37.8%)、3回接種は1,691例(1.8%)。・オミクロン株流行期では18万4,653例が感染し、72.6%がワクチン接種を1回以上受けていた。2回接種は5万6,911例(30.8%)、3回接種は5万6,115例(30.4%)。・デルタ株流行期では、mRNAワクチン2回接種は、ワクチン未接種と比較して、重症アウトカムの発生率低下と関連していた。入院 調整オッズ比(OR):0.41(95%信頼区間[CI]:0.39~0.43)、ICU入室 OR:0.33(95%CI:0.31~0.36)、人工呼吸器 OR:0.27(95%CI:0.24~0.30)、死亡 OR:0.21(95%CI:0.19~0.23)。・オミクロン株流行期では、mRNAワクチン2回接種は、ワクチン未接種と比較して、重症アウトカムの発生率低下と関連していた。入院 OR:0.60(95%CI:0.57~0.63)、ICU入室 OR:0.57(95%CI:0.53~0.62)、人工呼吸器 OR:0.59(95%CI:0.51~0.67)、死亡 OR:0.43(95%CI:0.39~0.48)。・さらに、オミクロン株流行期でmRNAワクチン3回接種は、2回接種と比較して、入院OR:0.65(95%CI:0.63~0.69)、ICU入室 OR:0.65(95%CI:0.59~0.70)、人工呼吸器 OR:0.70(95%CI:0.61~0.80)、死亡 OR:0.51(95%CI:0.46~0.57)となり、すべてのアウトカムの発生率低下と関連していた。・ヤンセン製ワクチンは、ワクチン未接種と比較して転帰が良好であったが(オミクロン期における入院 OR:0.70[95%CI:0.64~0.76]、ICU入室 OR:0.71[95%CI:0.61~0.83])、mRNAワクチン2回投与と比較して、入院およびICU入室の発生率が高かった(オミクロン期における入院 OR:1.16[95%CI:1.06~1.27]、ICU入室 OR:1.25[95%CI:1.07~1.46])。・ファイザー製ワクチンは、モデルナ製ワクチンと比較して、より悪いアウトカムと関連している傾向が示された。オミクロン期で3回接種の場合、入院 OR:1.33(95%CI:1.25~1.42)、ICU入室 OR:1.21(95%CI:1.07~1.36)、人工呼吸器 OR:1.22(95%CI:0.99~1.49)、死亡 OR:0.97(95%CI:0.83~1.14)。・オミクロン株流行期でmRNAワクチン接種を3回受けた人では、最後のワクチン接種からの期間が7~90日よりも91~150日のほうが、より悪いアウトカムと関連していた。入院 OR:1.16(95%CI:1.07~1.25)、死亡 OR:1.31(95%CI:1.09~1.58)。 著者らは、「重症アウトカムを起こした患者の割合は、デルタ期よりもオミクロン期のほうが低かったが、ワクチン接種のステータスと結果については、2つの期間で同様のパターンが観察された。この結果は、治療薬がより普及していても、新型コロナの感染予防だけでなく重症化や死亡リスクを低減するための重要なツールとして、ワクチン接種が引き続き重要であることを裏付けている」とまとめている。

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コロナ死の要因はウイルスではなく細菌感染?

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染により集中治療室(ICU)で治療を受ける患者は、ICU入室期間や人工呼吸器装着期間が長いことが報告されている。また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者のICU入室期間が長い理由の1つとして、サイトカインストームによる多臓器不全が挙げられている。しかし、米国・ノースウェスタン大学のCatherine A. Gao氏らが機械学習アプローチを用いて実施した研究によると、COVID-19患者におけるICU入室期間の長さは、呼吸不全を特徴とする臨床状態に起因していたことが示された。また、二次的な細菌感染による人工呼吸器関連肺炎(VAP)の発生率が高く、VAPが主な死亡の原因となっていることが示唆された。本研究結果は、Journal of Clinical Investigation誌オンライン版2023年4月27日号に掲載された。 研究グループは、重症肺炎が疑われてICUに入室し、呼吸不全により人工呼吸器が装着された585例を対象とした前向きコホート研究を実施した。対象患者は、試験登録時および臨床的に肺炎が疑われるたびに気管支肺胞洗浄(BAL)により、肺炎の原因となる微生物が調べられた。ICU入室期間が異なる(COVID-19患者はICU入室期間が長い)グループ間でICU入室中のイベントを比較するという課題に対処するため、CarpeDiemという機械学習システムが用いられた。 主な結果は以下のとおり。・対象患者585例の内訳は、COVID-19関連肺炎190例、ほかの呼吸器ウイルス関連肺炎50例、細菌性肺炎252例、肺炎以外の呼吸不全93例であった。・COVID-19患者のICU入室期間の長さは、主に呼吸不全を特徴とする臨床状態に起因していた。・対象患者のうち、ICU入室中に少なくとも1回以上VAPを発症した患者の割合は35.5%であった。COVID-19の有無別にみると、非COVID-19患者では25.0%であったのに対し、COVID-19患者では57.4%と有意に高率であった(p<0.001)。・COVID-19患者は非COVID-19患者と比べてVAPの罹患期間が有意に長かった(p<0.001)。・VAPを1回発症した患者において、緩和ケアまたは死亡に至った割合は、VAPの治療に成功した患者が17.6%であったのに対し、VAPの治療転帰が不確定または治療失敗の患者では76.4%と有意に高率であった(p<0.001)。 本研究結果について、著者らは「VAPの治療失敗は死亡率の上昇に関連していた。重症COVID-19関連肺炎による死亡は、VAPの治療失敗のリスクを高める呼吸不全と関連し、多臓器不全との関連性は低いことが示唆された」とまとめた。

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成人肺炎診療ガイドラインを先取りした肺炎の予防戦略/日本呼吸器学会

 肺炎は日本人の死因の5位に位置する主要な疾患である。高齢になるにつれて発生率、死亡率が高くなり、65歳以上の高齢者が死亡者全体の95%以上を占めている。したがって、高齢者肺炎の予防が重要といえる。本邦において、医療関連肺炎(HCAP)では肺炎球菌に加えて口腔内連鎖球菌、嫌気性菌が多かったという報告もあり1)、高齢者肺炎の予防戦略は「肺炎球菌ワクチン」と「口腔ケア」が2本柱といえる。改訂中の成人肺炎診療ガイドラインでは、これに対応して「肺炎の予防に口腔ケアを推奨するか」というCQ(クリニカルクエスチョン)が設定され、システマティックレビュー(SR)が実施された。ワクチンについては、すでに確立された予防戦略と判断されたことから、2017年版の内容が引用され、「インフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンの併用接種」が推奨された。そこで、第63回日本呼吸器学会学術講演会において丸山 貴也氏(三重県立一志病院 院長)は、肺炎診療ガイドラインの改訂にあたって実施した口腔ケアのSRの結果や、それに基づく委員会での推奨、ワクチンに関する最新の情報について紹介した。成人肺炎診療ガイドラインで口腔ケアのCQ設定 改訂中の成人肺炎診療ガイドラインでは、「肺炎の予防に口腔ケアを推奨するか」というCQが設定され、人工呼吸器関連肺炎(VAP)/非VAP、クロルヘキシジン使用/不使用に分けてSRが実施された。その結果、非VAPについて、クロルヘキシジン不使用の口腔ケア実施群で、非実施群と比べて肺炎による死亡が有意に減少し、肺炎発症率も有意に低下した。以上の結果などから、推奨は「実施することを弱く推奨する」とする予定と報告された。今回、“弱く”推奨するとなっているのは、認知症や精神疾患などによって口腔ケアの実施が難しい場合が考えられるためであるという。したがって、丸山氏は「口腔ケアにはしっかりとしたエビデンスがあり、原因微生物とストラテジーもはっきりしている。侵襲性も少ないことから、ぜひ実践してほしい」と述べた。成人肺炎診療ガイドラインではワクチン併用接種を引き続き推奨 現行の成人肺炎診療ガイドライン2017では、「高齢者の肺炎予防において、インフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンの併用接種は推奨されるか」というCQが設定され、併用接種が強く推奨されている2)。改訂中の成人肺炎診療ガイドラインでは、すでに確立された予防方法として2017年版でのSRの結果を引用しながら、新たなワクチンについても解説するという。 インフルエンザウイルスに感染すると、気道や全身に変化が起こり、肺炎球菌などへの2次感染が生じやすくなる。実際に、本邦においてインフルエンザウイルス感染により入院した患者の合併症として肺炎が最も多く、36.4%を占めていた。また、インフルエンザ関連肺炎の原因微生物として、肺炎球菌が多く、死亡例の80%が肺炎を合併し、インフルエンザ関連肺炎の死亡率は9.5%であった。多変量解析によっても肺炎の発症がインフルエンザウイルス感染の予後規定因子として特定されており3)、インフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンの併用接種が重要といえる。 肺炎球菌ワクチンについて、日本呼吸器学会と日本感染症学会の合同委員会は、2023年3月24日に「65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方(第4版)」を公表している。そこでは、65歳以上の健康な高齢者については「定期接種の機会を利用してPPSV23(23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン)を接種」、ハイリスク者については「PCV13(沈降13価肺炎球菌結合型ワクチン)またはPCV15接種後1年以内のPPSV23接種を検討(とくに免疫不全者には推奨)」としている4)。改訂中の成人肺炎診療ガイドラインでは、この内容を追随する予定と報告された。

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新型コロナの発生状況、「定点把握」の発表開始/厚労省

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について、2023年5月8日から感染症法上の5類感染症の位置づけとなり、新規患者数の発生状況等の把握は、定点医療機関(全国約5,000ヵ所のインフルエンザ/COVID-19定点)からの報告に基づくものとなった。厚生労働省は5月19日に、これに基づく発生状況の発表を開始した。今回の発表では、5月8~14日の発生状況が報告された。今後、発生状況等については、毎週金曜日14時を目途に公表される予定。 なお、今回の発表では、5類感染症への位置づけ変更前となる5月7日までの推移も示している。ただし、これはHER-SYS(新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理システム)を活用してこれまで入力された定点医療機関による報告数を集計(5月17日17時時点)したものであり、各定点医療機関からの報告がHER-SYS上明らかでない場合は含まれないため、すべての定点医療機関による報告数が網羅されていない点に留意が必要となる。 5月19日時点での報告では、5月8~14日の新型コロナの定点医療機関報告数の総数は1万2,922件で、都道府県別で多い順に、東京都(994件)、北海道(964件)、神奈川県(838件)、埼玉県(783件)となっている。定点当たりの全国平均は2.63件であった。前週(1.80件)と比べて微増となっている。都道府県別の定点当たりの報告数は、多い順に、沖縄県(6.07件)、石川県(4.90件)、北海道(4.36件)、新潟県(4.30件)、山梨県(4.22件)、富山県(4.17件)となっている。 G-MIS(医療機関等情報支援システム)における新型コロナの新規入院患者数についても発表された。5月8日以降は、ICU入院中の患者数について独立した項目として報告される。今回の報告では、5月8~14日の新型コロナによるICU入院中の患者(7日間平均)は42例、ECMOまたは人工呼吸器管理中の患者は18例であった。

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第159回 アルツハイマー病行動障害の初の承認薬誕生近し?/コロナ肺炎患者への欧米認可薬の効果示せず

アルツハイマー型認知症の難儀な振る舞いの初の承認薬誕生が近づいているアルツハイマー型認知症患者の半数近い約45%、多ければ60%にも生じうる厄介な行動障害であるアジテーション(過剰行動、暴言、暴力など)の治療薬が米国・FDAの審査を順調に進んでいます。大塚製薬がデンマークを本拠とするLundbeck社と開発した抗精神病薬ブレクスピプラゾール(商品名:レキサルティ)は昨夏2022年6月に速報された第III相試験結果でアルツハイマー型認知症に伴うアジテーション(agitation associated with Alzheimer’s dementia、以下:AAD)を抑制する効果を示し1)、今年初めにその効能追加の承認申請がFDAに優先審査扱いで受理されました2)。アジテーションは誰もが生まれつき持つ感情や振る舞いが過度になることや場違いに現れてしまうことであり、多動や言動・振る舞いが攻撃的になることを特徴とします。アジテーションは患者本人の生きやすさを大いに妨げるのみならずその親しい人々をも困らせます。第III相試験では徘徊、怒鳴る、叩く、そわそわしているなどの29のアジテーション症状の頻度がプラセボと比較してどれだけ減ったかがCohen-Mansfield Agitation Inventory(CMAI)という採点法によって調べられました。29のアジテーション症状それぞれの点数は1~7点で、点数が大きいほど悪く、症状がない(Never)場合が1点で、1時間に繰り返し認められる場合(Several times an hour)は最大の7点となります。試験にはAAD患者345例が参加し、ブレクスピプラゾール投与群の12週時点のCMAI総点がプラセボ群に比べて5点ほど多く低下し、統計学的な有意差を示しました(22.6点低下 vs.17.3点低下)3)。同試験結果をもとに承認申請されたその用途での米国審査は順調に進んでおり、先週14日に開催された専門家検討会では同剤が有益な患者が判明しているとの肯定的判断が得られています4)。FDAの審査官も肯定的で、同剤の効果はかなり確からしいとの見解を検討会の資料に記しています5)。AADを治療するFDA承認薬はありません。ブレクスピプラゾールのその用途のFDA審査結果は間もなく来月5月10日までに判明します。首尾よく承認に至れば、同剤はFDAが承認した初めてのAAD治療薬の座につくことになります。その承認は歴史的価値に加えて経済的価値もどうやら大きく、その効能追加で同剤の最大年間売り上げが5億ドル増えるとアナリストは予想しています6)。重症コロナ肺炎患者へのIL-1拮抗薬anakinraの効果示せずスペインでの非盲検の無作為化第II/III相試験でIL-1受容体拮抗薬anakinraが重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)肺炎患者の人工呼吸管理への移行を防ぐことができませんでした7)。ANA-COVID-GEASという名称の同試験は炎症指標の値が高い(hyperinflammation)の重症コロナ肺炎患者を募り、179例がanakinraといつもの治療(標準治療)または標準治療のみの群に割り振られました。プラセボ対照試験ではありません。主要転帰は15日間を人工呼吸なしで過ごせた患者の割合で、解析対象の161例のうちanakinra使用群では77%、標準治療のみの群では85.9%でした。すなわちanakinraなしのほうがその割合はむしろ高く、人工呼吸の出番を減らすanakinraの効果は残念ながら認められませんでした。侵襲性の人工呼吸を要した患者の割合、集中治療室(ICU)を要した患者の割合、ICU滞在期間にも有意差はありませんでした。それに死亡率にも差はなく、28日間の生存率はanakinra使用群と標準治療のみの群とも93%ほどでした。試験の最大の欠点は非盲検であることで、他に使われた治療薬の差などが結果に影響した恐れがあります。同試験の結果はanakinraが有効だった二重盲検のプラセボ対照第III相試験(SAVE-MORE)の結果と対照的です。欧州は600例近くが参加したそのSAVE-MORE試験結果に基づいてコロナ肺炎患者へのanakinraの使用を2021年12月に承認しています8)。SAVE-MORE試験は重度呼吸不全か死亡に至りやすいことと関連する可溶性ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子受容体(suPAR)上昇(6ng/mL以上)患者を対象としました。今回発表されたスペインでの試験結果と異なり、SAVE-MORE試験では重症呼吸不全への進展か死亡がanakinra使用群ではプラセボ群に比べて少なく済みました(20.7% vs.31.7%)9)。また、生存の改善も認められ、anakinraは28日間の死亡率をプラセボ群の半分以下に抑えました(3.2% vs.6.9%)。SAVE-MORE試験の被験者選定基準にならい、欧州はsuPARが6ng/mL以上の酸素投与コロナ肺炎患者への同剤使用を認めています10)。米国もsuPARが上昇しているコロナ肺炎患者への同剤使用を取り急ぎ認可しています11)。参考1)Otsuka Pharmaceutical and Lundbeck Announce Positive Results Showing Reduced Agitation in Patients with Alzheimer’s Dementia Treated with Brexpiprazole / BusinessWire 2)Otsuka and Lundbeck Announce FDA Acceptance and Priority Review of sNDA for Brexpiprazole for the Treatment of Agitation Associated With Alzheimer’s Dementia / BusinessWire3)Otsuka Pharmaceutical and Lundbeck present positive results showing reduced agitation in patients with Alzheimer’s dementia treated with brexpiprazole at the 2022 Alzheimer's Association International Conference / BusinessWire4)Otsuka and Lundbeck Issue Statement on U.S. Food and Drug Administration (FDA) Advisory Committee Meeting on REXULTI® (brexpiprazole) for the Treatment of Agitation Associated with Alzheimer’s Dementia / BusinessWire5)FDA Briefing Document6)Otsuka, Lundbeck head into key FDA panel meeting with agency support for their Rexulti application / FiercePharma7)Fanlo P, et al. JAMA Netw Open. 2023;6:e237243.8)COVID-19 treatments: authorised / EMA9)Kyriazopoulou E, et al. Nature Medicine. 2021;27:1752-1760.10)Kineret / EMA11)Kineret® authorised for emergency use by FDA for the treatment of COVID-19 related pneumonia / PRNewswire

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軽度熱傷【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第1回

はじめまして!聖マリアンナ医科大学病院 救急医学の沼田と申します。主に救急科で勤務しながら、総合診療医、小児救急、集中治療を勉強してきました。最近は緩和ケアを勉強しています。オフ・ザ・ジョブトレーニングでは、外科系救急初期診療を学ぶ「T&Aマイナーエマージェンシーコース」のコアメンバーとして活動しています。このコラムでは、かかりつけ医が診る機会の多い軽症救急疾患の治療を、救急医の視点でわかりやすく解説していきます。初回は熱傷の中でもI、II度の軽度熱傷の治療についてです。熱傷にはさまざまな原因がありますよね。天ぷらを揚げていた、子供が電気ケトルを倒した、カセットコンロが爆発した…など。熱傷の加療の方向性はほぼ同一ですが、医師によって使用する薬剤や被覆材にはばらつきがあると感じています。大まかな治療に関してはAmerican family physicianの「Outpatient burns: prevention and care」と日本熱傷学会の「熱傷診療ガイドライン(改訂第3版)」を基に、私の経験も交えながらポイントを解説します1,2)。22歳男性。夜間にカップラーメンを食べようとして、カップに熱湯を入れて移動した際に転倒し、熱湯が両腕にかかり受診。既往歴なし、内服歴なし、アレルギー歴なし、バイタル特記事項なし。右前腕に5cm程度の発赤、左前腕に3cm程度の発赤と水疱が2ヵ所ある。水疱の1つは1cm程度、もう1つは3cm程度で破れている。これは、私が近くに皮膚科がない地方の内科外来で働いていたときに経験した症例です。熱傷の治療は、ステップを踏んで診察をしていくことが重要ですので、今回はこの症例を基にどういう判断や対応を行ったかお話しします。1. すぐに入院が必要かどうかの判断(1)受傷部位私の専門が救急であり、火災などによる熱傷に遭遇することもありますが、その場合に最も警戒するのは気道熱傷です。火災が関連している熱傷では、顔面熱傷がないかどうかを確認し、気道熱傷がある場合は人工呼吸管理を行うため入院が必要です。今回の症例は、両腕に熱湯がかかったことによる熱傷ですので気道熱傷はありません。(2)熱傷面積熱傷の面積によっては病院や熱傷センターなどへの搬送が必要になりますので、熱傷の範囲を把握します。よく使われるのが「9の法則」です。頭部、右上肢、左上肢をそれぞれ9%、体幹部の前面、後面をそれぞれ18%、右下肢、左下肢をそれぞれ18%、陰部を1%として熱傷面積を推定します。画像を拡大するまた、熱傷面積が小さく、散在しているときは「手掌法」を用います。これは、手のひらの大きさを体表面積の1%と換算して熱傷面積を推定します。患者の入院の必要性を判断するにあたっては、「Artzの基準」がよく用いられます。II度熱傷の面積が15~30%、III度熱傷の面積が2~10%で一般病院での入院加療が必要とされています。逆に言えば、この面積以下であれば外来通院でよいでしょう。今回の症例の熱傷範囲は1~2%程度ですので、外来通院としました。2. 後日専門医への相談が必要かどうかの判断(1)受傷部位受傷部位で専門的な加療が必要かどうか変わってきます。顔面、手指、肛門、陰部の熱傷や、大関節(肩、膝、股関節)を超える熱傷は、美容や機能予後に影響を与えるので、可能であればなるべく早く専門医に診察してもらいましょう。(2)深達度熱傷には、I度、II度、III度があります。I度は発赤のみ、II度(浅達)は水疱を形成して水疱底の真皮が赤色、II度(深達)は水疱を形成して水疱底の真皮が白色、III度は白色皮革様もしくは褐色皮革様で感覚が消失します。III度熱傷は、適切に治療したとしても拘縮して植皮が必要になる可能性が高いため、専門医に紹介するべきです。II度の浅達か深達かの判別は専門医でなくては困難ですが、治療もとくに変わらないので必ずしも判別する必要性はないと考えます。この患者は、右前腕は発赤のみでI度、左前腕は水疱を形成していてII度熱傷となります。3. 治療(1)冷水での洗浄ここからは、症例のような軽症熱傷を通院加療する流れを記載します。どこで受傷したとしてもまず推奨されるのが冷水での洗浄です。実は強いエビデンスはないと言われていますが、熱傷を負った人の治療で「水で洗う vs.水で洗わない」の検証は倫理的に問題があり行えないため、実際の効果を検証することは困難です。どこでも、すぐに、安価にできるので、受傷後なるべく早く10分程度洗ってもらいましょう。ただし、20分以上の冷水での洗浄や氷水の使用は組織障害や低体温を起こすことがあるため控えます。●右腕(I度)右腕のI度熱傷の治療は、基本的には適切な鎮痛薬の内服のみで完了します。しかし、熱傷は時間とともに進行することがあり、今日はI度であったとしても翌日には水疱を形成してII度に進行していることはしばしば経験するので、進行する可能性があることをしっかりと説明しましょう。進行した場合はII度として治療を行います。●左腕(II度)II 度熱傷の場合は、まずは水疱が保たれているかどうかを確認しましょう。水疱内は清潔ですので、破れていなければ基本的には保存的に加療します。American Family physicianでは水疱のサイズが6mmを超える場合は破膜するよう指導されていますが、私は2~3cmでも保存的に加療しています。重要なのは、患者自身が水疱を保護できるかどうかで、難しいようであれば破膜します。保存的に加療する場合は、ガーゼをかぶせて保護し、もし破れてしまった場合は受診するよう指導します。この症例では、3cmの大きいほうの水疱が破れていました。水疱が破けている場合や、水疱を破膜した場合の治療はどうでしょうか? 私はまずリドカイン塩酸塩ゼリー(商品名:キシロカインゼリー)を塗布してから創部を洗浄しています。その後、破れた水疱の膜を残しておくと感染のリスクがあるため除去します。なお、アルコールやポビドンヨード液などによる消毒は組織障害が生じるため、参考文献2つはいずれも推奨していません。私も創部がよほど汚染されていない限り使用はしません。(2)創部の被覆被覆材にはさまざまなものがあります。メディカルオンラインで「創傷・熱傷被覆材(ドレッシング材)」と検索すると、サイズや用途はさまざまですが130個ほど出てきます。これらの有意性に関する報告は限られていますが、元々熱傷にはスルファジアジン銀が使用されており、それに対する非劣性や有意性を示した論文はあるため、どれを選択しても大きくは変わらないと考えます。その中で、私は基本的には白色ワセリン+ガーゼを使用しています。理由はどこの施設でも置いていて、安価で簡便だからです。患者には、ワセリンをたっぷりと塗って、最低1日1回交換するよう指導して帰宅とします。私がインストラクターとして参加しているT&Aマイナーエマージェンシーコースでは、ガーゼ1枚の範囲を覆う場合、約20gの白色ワセリンの使用を推奨しています。画像のとおり「ぷにゅっとする」くらい厚塗りします。画像を拡大する熱傷の範囲に合わせて調節しますが、熱傷の初期は浸出液が多く、頻回にガーゼ交換が必要ですので、私は患者に白色ワセリンを最低100g渡しています。以前、とある外来で、軟膏がすぐになくなったのでガーゼのみを張って、乾燥して創部に引っ付いてしまった患者がいて、剥ぐのに苦労したことがありました。必ず「軟膏なしでガーゼのみを張るのは控えましょう」と伝えてください。ちなみに、白色ワセリンはドラッグストアでも販売しているので、必ずしも病院を受診して受け取る必要はありません。(4)ステロイド軟膏ステロイド軟膏は、有用性を示すエビデンスに乏しく、安易に使用するべきではないという意見がある一方で、局所の炎症兆候に対して推奨する意見もあるのが現状です。American Family physicianでは使用を推奨せず、本邦の熱傷診療ガイドラインでは「専門医が抗炎症効果を期待して使用する際は、ステロイドの副作用に十分注意しながら、受傷早期(2日間程度)に使用することが望ましい」とされているので、非専門医である私は原則使用しません。(5)外来フォロー推奨された通院間隔はなく、あくまで私のプラクティスを紹介させていただきます。I度熱傷であれば通院の必要はなく、鎮痛薬の処方で終診です。しかし、II度へ移行した場合は再診するよう指導しています。II度熱傷は状況により通院間隔が異なります。その見極めは自力で被覆交換ができるかどうかです。自力で被覆交換が可能であれば、患者の症状に合わせて3~7日程度のサイクルで通院してもらいます。自力での被覆交換が難しい場合は1~3日ごとに通院してもらいます。被覆終了のタイミングは、「ガーゼに浸出液が付かなくなったとき」と伝えています。フォロー中に患者からよく訴えられる症状は、疼痛と掻痒感です。疼痛は初期から生じますので、私は初めからNSAIDsかアセトアミノフェンで対応しています。ただし、数日経って急激に痛みが増悪する、創部に熱感が生じる場合は感染した可能性があるため受診するよう指導します。かゆみが出た場合は抗ヒスタミン薬の有効性が示されているため処方します。今回は、軽度熱傷の症例を例に挙げながら、どういう判断や対応を行ったかお話ししました。軽度熱傷はかかりつけ医が診る機会がありますが、美容や機能予後に影響を与えることも多々あるので、重症度や受傷部位によっては専門医へ相談しましょう。これから定期的に非専門医向けの軽症救急処置のコラムを連載いたします。可能な限り根拠に基づきながら、自身の経験を織り交ぜていこうと思いますのでどうぞよろしくお願いします!1)Lanham JS, et al. Am Fam Physician. 2020;101:463-470.2)日本熱傷学会編. 熱傷診療ガイドライン(改訂第3版).2021.

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コロナの重症肺炎、他の肺炎と転帰は異なるか

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重大な合併症の1つとして急性低酸素性呼吸不全(AHRF)がある。COVID-19による肺炎が引き起こすAHRFは、他の原因によるAHRFとは異なる表現型を有し、より高い死亡率を示すと考えられていた。そこで、米国・ジョンズ・ホプキンス大学のEric P. Nolley氏らは、COVID-19により人工呼吸器が必要な重症肺炎を発症した患者について、他の原因によって重症肺炎を発症した患者と転帰を比較した。その結果、COVID-19による重症肺炎患者は、他の原因による重症肺炎患者と比べて死亡率の上昇は認められなかったものの、人工呼吸器を外すまでの期間が長かったことを明らかにした。JAMA Network Open誌2023年1月10日掲載の報告。 入院後2週間において、人工呼吸器が必要な重症肺炎を発症した18歳以上の成人患者を対象とした。後ろ向きに追跡し、入院から退院または死亡までのデータを抽出した。主要評価項目は、入院中の90日死亡率とした。副次評価項目は、人工呼吸器を外すまでの期間、入院期間、呼吸器コンプライアンス、換気比などとした。 主な結果は以下のとおり。・COVID-19による重症肺炎患者719例(平均年齢61.8歳、男性61.5%)および他の原因による重症肺炎患者1,127例(平均年齢60.9歳、男性52.0%)が対象となった。・未調整解析では、COVID-19による重症患者は他の原因による重症肺炎患者と比べて入院中の90日死亡率が高く(オッズ比[OR]:1.21、95%信頼区間[CI]:1.04~1.41)、人工呼吸器を外すまでの期間も長く(部分分布ハザード比[SHR]:0.72、95%CI:0.63~0.81)、呼吸器コンプライアンスが低かった(p<0.001)。・傾向スコアマッチングを行うと、COVID-19による重症肺炎患者と他の原因による重症肺炎患者において、入院中の90日死亡率に有意差は認められず(OR:1.04、95%CI:0.81~1.35)、呼吸器コンプライアンス(群間差:1.82mL/cm H2O、95%CI:-1.53~5.17mL/cm H2O)、換気比(群間差:-0.05、95%CI:-0.22~0.11)についても、有意差は認められなかった。・一方、傾向スコアマッチング後においても、COVID-19による重症肺炎患者は他の原因による重症肺炎患者と比べて、人工呼吸器を外すまでの期間が有意に長かった(SHR:0.81、95%CI:0.65~1.00)。入院から90日後における生存退院率については、有意差は認められなかったが、COVID-19による重症肺炎患者は他の原因による重症肺炎患者と比べて低い(入院期間が長い)傾向にあった(SHR:0.83、95%CI:0.68~1.01)。

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人工呼吸器装着患者に高用量タンパク質は有効か/Lancet

 人工呼吸器を装着している重症患者にタンパク質を高用量投与しても、通常用量投与と比較して入院から生存退院までの期間は改善されず、急性腎障害や臓器不全スコアの高い患者に関してはアウトカムを悪化させる可能性があることが明らかとなった。カナダ・クイーンズ大学のDaren K. Heyland氏らが、日本を含む16ヵ国85施設の集中治療室(ICU)で実施した医師主導によるプラグマティックな単盲検無作為化試験「EFFORT Protein試験」の結果を報告した。国際的な重症患者の栄養ガイドラインでは、質の低いエビデンスに基づき広範なタンパク質投与量が推奨されているが、重症患者に高用量のタンパク質を投与したときの有効性は不明であった。著者は、「1日1.2g/kg(米国静脈経腸栄養学会2022年版ガイドラインの下限、もしくは、欧州静脈経腸栄養学会2019年版ガイドライン準拠の1日1.3g/kg)を処方し、処方量の80%達成に努めることがすべての重症患者にとって合理的かつ安全な方法と思われる。タンパク質の高用量投与のベネフィットが得られる重症患者のサブグループ(たとえば、熱傷、外傷、肥満、術後回復期の患者)を明らかにするためには、投与の最適な量とタイミングを定義するためのさらなる研究が必要である」と述べている。Lancet誌オンライン版2023年1月25日号掲載の報告。栄養的に高リスクの重症患者にタンパク質投与、1日2.2g/kg以上と1.2g/kg以下を比較 研究グループは、重症患者に高用量のタンパク質を投与することにより臨床アウトカムが改善されるという仮説を検証する目的で、ICU入室から96時間以内かつスクリーニングから48時間以上人工呼吸器の装着が継続されると予想され、栄養的に高リスクの成人患者(18歳以上)を登録し、タンパク質の高用量投与群(1日2.2g/kg以上)と通常用量投与群(1日1.2g/kg以下)に、施設で層別化して1対1の割合で無作為に割り付けた(患者のみ盲検化)。タンパク質の投与は、ICU入室または人工呼吸器装着後96時間以内に、無作為化後できるだけ早く開始することとした。 有効性の主要アウトカムは、ICU入室後60日間における生存退院までの期間、副次アウトカムは60日死亡率であった。累積生存退院率は46.1% vs.50.2%、60日死亡率は34.6% vs.32.1% 2018年1月17日~2021年12月3日の期間に、計1,329例が無作為に割り付けられ、介入前の早期死亡、退院、同意撤回を除く1,301例(高用量群645例、通常用量群656例)が解析対象となった。 60日までの累積生存退院率は、高用量群46.1%(95%信頼区間[CI]:42.0~50.1%)、通常用量群50.2%(46.0~54.3%)であった(ハザード比[HR]:0.91、95%CI:0.77~1.07、p=0.27)。施設や共変量に関して調整しても、生存退院までの期間に両群で差は認められなかった。 60日死亡率は、高用量群34.6%(222/642例)、通常用量群32.1%(208/648例)であった(相対リスク:1.08、95%CI:0.92~1.26)。 サブグループ解析の結果、生存退院までの期間および60日死亡率の両方に関して、入院時の急性腎障害(ステージ1~3)および臓器不全スコア高値(SOFAスコア9以上)の患者においては、タンパク質投与量との間に相互作用がみられ、タンパク質の高用量投与は害を及ぼす可能性があることが示唆された。

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コロナ呼吸不全で気管挿管率が低い治療は?/BMJ

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による低酸素血症性呼吸不全を発症した成人患者に対し、覚醒下腹臥位療法は通常ケアと比べて、気管挿管の発生リスクを低減するが、死亡率や人工呼吸器離脱期間(VFD)などのアウトカムには、ほとんど影響が認められないことが明らかにされた。カナダ・アルバータ大学のJason Weatherald氏らによる、システマティック・レビューとメタ解析で示された。BMJ誌2022年12月7日号掲載の報告。2022年3月時点でMedline、Embase、CENTRALをレビュー 研究グループは、創刊から2022年3月4日までのMedline、Embase、CENTRAL(Cochrane Central Register of Controlled Trials)をデータソースとして、COVID-19関連の低酸素血症性呼吸不全の成人患者を対象に、覚醒下腹臥位療法と通常ケアを比較した無作為化試験について、システマティック・レビューと頻度論的・ベイズメタ解析を行った。 2人のレビュアーがそれぞれデータを抽出し、バイアス・リスクを評価。ランダム効果モデルを用いて主要アウトカム(気管挿管)と副次アウトカム(死亡率、VFD、ICU・病院入院期間など)を評価した。気管挿管と死亡率はベイズメタ解析で評価。アウトカムのエビデンスの信頼性はGRADEで評価した。死亡率、VFD、ICU入室日数などは両群で同等 17試験、被験者総数2,931例が適格基準を満たした。12試験はバイアス・リスクが低く、3試験には懸念があり、2試験はバイアス・リスクが高かった。 補正前気管挿管発生率は、覚醒下腹臥位療法群24.2%と、通常ケア群29.8%に比べてリスクが低かった(相対リスク[RR]:0.83、95%信頼区間[CI]:0.73~0.94、信頼性:高)。同リスクの低下は、患者1,000人当たりで気管挿管の実施が55回減少(95%CI:19~87)することに相当した。 一方で副次アウトカムについては、死亡率(RR:0.90、95%CI:0.76~1.07、信頼性:高)、VFD(平均群間差:0.97日、95%CI:-0.5~3.4、信頼性:低)、ICU入室期間(-2.1日、-4.5~0.4、低)、入院期間(-0.09日、-0.69~0.51、中)とも有意な影響が認められなかった。 覚醒下腹臥位療法に関連した有害事象はまれであった。 ベイズメタ解析の結果、気管挿管については、覚醒下腹臥位療法は有効である確率が高いことが示された(無情報事前分布での平均RR:0.83、95%信用区間[CrI]:0.70~0.97、RR<0.95の事後確率96%)。一方で死亡に関する同確率は低かった(0.90、0.73~1.13、68%)。

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映画「ラン」(前編)【なんで子どもを病気にさせたがるの?(代理ミュンヒハウゼン症候群)】Part 3

なんで子供の病気のねつ造までするの?子供を病気にさせたがる心理は、同情欲求、承認欲求、そして育児欲求によるものであることが分かりました。同情や承認によって構ってもらいたいという対人希求だけでなく、育児によって構いたいという対人希求もあることがわかります。映画の後半では、ダイアンから逃げようとするクロエと娘を逃がすまいとするダイアンの心理戦が繰り広げられます。なんとダイアンは、クロエを地下室に閉じ込め、寝たきりにするための毒薬を作り始めるのです。それにしても、ダイアンはなぜそこまでするのでしょうか? ここから、代理ミュンヒハウゼン症候群の要因を主に2つ挙げてみましょう。(1)罪悪感がないクロエは郵便配達員のトムに助けを求めますが、それに勘付いたダイアンは、トムが油断したすきに彼を注射で気絶(毒殺?)させます。その後、追い詰められたクロエは自殺を図り、病院に運ばれますが、病院ではクロエに担当の看護師が付いているため、ダイアンはクロエに近付けません。しかし、他の患者の急変でその看護師が持ち場を離れた直後に、ダイアンがクロエの目の前に現れるのです。あまりにもタイミングが良く、ダイアンが他の患者を急変させた可能性を考えてしまいます。ダイアンは、クロエの人工呼吸器の抜管を自分だけで手際よくしている様子から、ある程度の医療行為をクロエの看病を通して学んだことも推測できます。このようにダイアンがここまで抵抗なく人に危害を加えることができる原因のヒントが、ダイアンの背中にありました。そこには、大きな傷痕があり、彼女自身が虐待されていたことがほのめかされています。1つ目の要因は、虐待などによる生育環境によって罪悪感が育まれていないことです。もちろん、もともとの遺伝要因よって罪悪感が育まれにくい場合(いわゆるサイコパス)もあります。前回のミュンヒハウゼン症候群の記事(関連記事1)でも紹介しましたが、そもそも私たち人間は、相手に危害を加えるなどの反社会的な行動をすると罪悪感を抱くように心(社会的感情)が進化しました。これは、社会脳と呼ばれています。この詳細は、関連記事3をご覧ください。(2)心の距離感がないダイアンは、クロエの小さい頃を映したホームビデオを繰り返し見て、涙まで流して懐かしんでいました。このことから、ダイアンは決してクロエを憎んでいるわけではありません。ダイアンは、クロエの大学合格通知を隠し持っていたことから、むしろクロエと離れたくないと思っていることがわかります。2つ目の要因は、心の距離感(バウンダリー)がないことです。これは、言い換えれば、子供との一体感が強く、子供は自分の一部、自分の分身と捉えてしまうことです。すると、子供に危害を加えるという他害行為は、「自傷行為」にすり替わります。自分を傷付けているわけなので誰にも迷惑をかけていないという発想になり、ますます罪悪感は希薄になります。実際に、代理ミュンヒハウゼン症候群になるのは、ダイアンがそうであるように、女性が85~95%であり、男性よりも女性が圧倒的に多いことが分かっています1-3)。この点からも、妊娠・出産・授乳という女性ならではの生物学的な密着の必要性が心の距離感に影響を及ぼしていることが考えられます。1)特集「うそと脳」P1576:臨床精神医学、アークメディア、2009年11月号2)うその心理学P77:こころの科学、日本評論社、20113)親の手で病気にされる子供たちP156:南部さおり、学芸みらい社、2021・シックンド 病気にされ続けたジュリー:ジュリー・グレゴリー、竹書房文庫、2004<< 前のページへ■関連記事映画「二つの真実、三つの嘘」(前編)【なんで病気になりたがるの? 実はよくある訳は?(同情中毒)】Part 1ザ・サークル【「いいね!」を欲しがりすぎると?(承認中毒)】Part 1万引き家族(前編)【親が万引きするなら子供もするの?(犯罪心理)】Part 1

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ICUせん妄患者へのハロペリドール、生存や退院増につながらず/NEJM

 せん妄を有する集中治療室(ICU)入室患者において、ハロペリドールによる治療はプラセボと比較して、生存日数の有意な延長および90日時点の有意な退院数増大のいずれにも結び付かないことが示された。デンマーク・Zealand University HospitalのNina C. Andersen-Ranberg氏らが多施設共同盲検化プラセボ対照無作為化試験の結果を報告した。ハロペリドールはICU入室患者のせん妄治療にしばしば用いられるが、その効果に関するエビデンスは限定的であった。NEJM誌オンライン版2022年10月26日号掲載の報告。プラセボ対照無作為化試験で生存日数および90日時点の退院数を評価 研究グループは、急性症状でICUに入室したせん妄を有する18歳以上の成人患者を対象に、ハロペリドール治療がプラセボ治療と比較して、生存日数および退院数を増大するかどうかを検討した。試験は2018年6月14日~2022年4月9日に、デンマーク、フィンランド、英国、イタリア、スペインのICUで行われた。 被験者を無作為に、ハロペリドール群(2.5mgを1日3回静脈内投与[必要に応じて1日最大20mgまで投与可能])またはプラセボ群に割り付け、せん妄が続く限り、および再発での必要に応じてICUで投与した。 主要アウトカムは、無作為化後の生存日数および90日時点の退院数であった。90日時点の生存および退院の平均日数は両群で同等 合計1,000例が無作為化を受け(ハロペリドール群510例、プラセボ群490例)、987例(98.7%)が最終解析に包含された(501例、486例)。そのうち主要アウトカムデータを入手できたのは963例(96.3%)。 最終解析に包含された両群のベースライン特性は類似しており、年齢中央値70歳、71歳、女性35.3%、33.1%、無作為化時点の人工呼吸器装着患者63.9%、62.8%、昇圧薬/強心薬投与患者54.3%、49.2%、また、COVID-19患者が7.4%、10.7%おり、90日死亡予測(SMS-ICUスコア)は34.7±15.4、34.6±15.4であった。 90日時点の生存および退院の平均日数は、ハロペリドール群35.8日(95%信頼区間[CI]:32.9~38.6)、プラセボ群32.9日(29.9~35.8)であった。補正後平均群間差は2.9日(95%CI:-1.2~7.0)で有意差はなかった(p=0.22)。 90日時点の死亡率は、ハロペリドール群36.3%(182/501例)、プラセボ群43.3%(210/486例)であった(補正後絶対群間差:-6.9ポイント、95%CI:-13.0~-0.6)。 重篤副作用の発現は、ハロペリドール群11例、プラセボ群9例であった。

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SpO2目標値の高低で、人工呼吸器の非使用期間に差はあるか/NEJM

 侵襲的人工呼吸管理を受けている重篤な成人患者では、酸素飽和度(SpO2)の目標値を3段階(低[90%]、中[94%]、高[98%])に分けた場合に、これら3群間で28日後までの人工呼吸器非使用日数に差はなく、院内死亡の割合も同程度であることが、米国・ヴァンダービルト大学のMatthew W. Semler氏らが実施した「PILOT試験」で示された。研究の詳細は、NEJM誌オンライン版2022年10月24日号に掲載された。単一施設のクラスター無作為化クロスオーバー試験 PILOT試験は、侵襲的人工呼吸管理下の患者における、異なるSpO2目標値が臨床アウトカムに及ぼす影響の比較を目的に、ヴァンダービルト大学医療センター(米国、ナッシュビル市)の救急診療部(ED)と集中治療室(ICU)で実施された実践的な非盲検クラスター無作為化クロスオーバー試験であり、2018年7月~2021年8月の期間に参加者の登録が行われた(米国国立心肺血液研究所[NHLBI]などの助成を受けた)。 対象は、ICUに入室またはEDを受診しICU入室が予定されている成人(年齢18歳以上)患者であり、侵襲的人工呼吸管理を最初に受けた時点で試験に登録された。 被験者は、SpO2(パルスオキシメトリで測定)の目標値が低(90%、目標範囲:88~92%)、中(94%、92~96%)、高(98%、96~100%)の3つの群に無作為に割り付けられ、無作為に作成された順序で2ヵ月ごとに3つの群に切り換えられた。 主要アウトカムは、28日以内の生存および人工呼吸器非使用日数とされた。副次アウトカムは28日目までの死亡であった。安全性アウトカムの頻度も3群で同程度 2,541例が主解析に含まれた。低目標値群が808例(年齢中央値57歳、女性44.7%)、中目標値群が859例(59歳、44.8%)、高目標値群は874例(59歳、46.8%)であった。SpO2中央値は、それぞれ94%、95%、97%で、SpO2が99%または100%の患者の割合は、12.3%、14.7%、32.7%、85%未満の患者の割合は、0.8%、0.6%、0.9%だった。 28日目までの人工呼吸器非使用日数中央値は、低目標値群が20日(四分位範囲[IQR]:0~25)、中目標値群が21日(0~25)、高目標値群は21日(0~26)であり、3つの群で有意な差は認められなかった(p=0.81)。 また、28日目までの院内死亡は、低目標値群が808例中281例(34.8%)、中目標値群が859例中292例(34.0%)、高目標値群は874例中290例(33.2%)であった。 安全性のアウトカムについては、心停止、不整脈、心筋梗塞、脳卒中、気胸の発生は3つの群で同程度であった。有害事象は、低目標値群で1件(徐脈)みられた。 著者は、「これらの知見の臨床的意義は、ICUで人工呼吸管理を受けている患者では、SpO2目標値を90%にまで低く設定して酸素補給を制限しても、死亡を防げず、人工呼吸器からの解放を早められないということである」と指摘している。

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コロナ治療薬モルヌピラビル、早期投与で回復までの期間短縮に期待/MSD

 MSDは10月19日、一般流通を9月16日に開始した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の経口治療薬モルヌピラビル(商品名:ラゲブリオ)について、承認後の最新情報として特定使用成績調査の中間報告などをメディアセミナーにて発表した。調査の結果、添付文書の改訂が必要になるような大きな安全性事象は認められなかったことや、外来患者に使用した際の転帰として死亡はなく、人工呼吸器の使用も低く抑えることができたとして、本剤の有効性が提示された。 同社代表取締役社長のKyle Tattle氏によると、本剤は国内にて2021年12月24日に特例承認を取得し、これまでに60万人以上に使用されたという。本剤は、承認当初は供給量が限られていたため、厚生労働省が所有したうえで、重症化リスクのある患者に、決められた流通網を通して医療機関や薬局に配分が行われていたが、供給量が増加したことで、2022年8月18日に薬価基準収載となり、9月16日には一般流通を開始した。 白沢 博満氏(同社代表取締役上級副社長兼グローバル研究開発本部長)は、リアルワールドデータを中心に、承認後の最新情報について解説した。2021年12月24日~2022年6月23日に、同剤の販売開始から6ヵ月間行った市販直後調査では、約20万1,710例に本剤が使用され、症例から安全性情報を収集した結果、添付文書の改訂が必要になるような大きな安全性事象は認められなかった。また、調査予定症例数を3,000例として、より詳細な安全性と有効性を評価する特定使用成績調査(2021年12月27日~2024年12月末日予定)において、2022年6月15日までの中間解析結果も公開された。 主な結果は以下のとおり。・安全性解析対象となった1,061例は、年齢中央値68歳、投与開始時点で外来患者696例(65.60%)、入院患者317例(29.88%)、その他(介護保健施設など)4.52%。本剤投与開始前のCOVID-19重症度では、軽症が931例(87.75%)、中等症Iは104例(9.80%)、中等症IIは23例(2.17%)であった。・主な重症化リスク因子は、65歳以上の高齢者が603例(56.83%)で最も多く、次いで高血圧が459例(43.26%)、喫煙が262例(24.69%)であった。・新型コロナワクチンの接種歴がある人は883例(83.22%)で、2回接種は668例(62.96%)であった。・安全性集計の結果、副作用が発現したのは72例(6.79%)であり、4例以上発現した副作用として、下痢(26例)、発疹(6例)、浮動性めまい(5例)、軟便(4例)が報告された。重篤な副作用の発現は4例で、発疹、肝機能異常、COVID-19増悪、間質性肺炎増悪であった。・有効性解析対象となった1,021例は、外来患者658例(うち最終アウトカム不明29例)、入院患者315例、その他(介護保健施設など)48例。・外来患者における本剤投与開始日から29日までの入院(隔離入院・検査入院などの投与前から予定していた入院を除く)は17例(2.70%)、死亡は0例であった。・入院患者における本剤投与開始日から29日までの死亡は2/254例(0.79%)、酸素投与開始あり13/247例(5.26%)、酸素投与または機械的人工換気(ECMO含む)開始あり13/247例(5.26%)であった。複合エンドポイントでは発現率は5.49%であった。 本結果に加え、白沢氏はモルヌピラビルについて海外で実施された臨床試験についても言及した。査読前論文ではあるが、英国・オックスフォード大学で実施されたPANORMIC試験の結果によると、約2万6,000例(平均年齢56.6歳、ワクチン接種済約99%)において、最初の完全回復までの期間(中央値)が、モヌルピラビル群は9日間、非モヌルピラビル群が15日となり、本剤投与によって6日間短縮されたことが認められた。 続いて登壇した相良 博典氏(昭和大学医学部内科学講座 呼吸器・アレルギー内科学部門 主任教授)は、COVID-19の治療の現状と経口治療薬への期待について講演した。昭和大学病院における新型コロナ治療薬の使用状況について、モルヌピラビルは、軽症患者75例に対して重症化予防のために使用された結果、人工呼吸器の使用症例が0%となり、本剤は効果のある薬剤として位置付けていると述べた。また、新型コロナ感染による後遺症についても、今後はより早期に治療介入することで後遺症の症状も抑えられる可能性があるという。本剤の一般流通開始への期待として、発症早期(5日以内など)に使用できるようになるため重症化防止を促進することや、入院リスクの高い高齢者へ早期に使用することで、負担する医療費や、入院による合併症、ADLの低下といった入院に伴うリスクを低減できることを挙げた。若年者でもサイトカインストームで重症肺炎の死亡率が高くなるため、抗インフルエンザウイルス薬のように軽症者から早期に使える薬剤としても期待できると述べた。

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かかりつけ医も知っておきたい、コロナ罹患後症状診療の手引き第2版/厚労省

 厚生労働省は、2022年6月に公開した「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント(第1.1版)」を改訂し、第2版を10月14日に発表し、全国の自治体や関係機関などに周知を行った。 主な改訂箇所としては、・第1章の「3.罹患後症状の特徴」について国内外の最新知見を追加・第3~11章の「2.科学的知見」について国内外の最新知見を追加・代表的な症状やキーワードの索引、参考文献全般の見直しなどが行われた。 同手引きの編集委員会では、「はじめに」で「現在、罹患後症状に悩む患者さんの診療や相談にあたる、かかりつけ医などやその他医療従事者、行政機関の方々に、本書を活用いただき、罹患後症状に悩む患者さんの症状の改善に役立ててほしい」と抱負を述べている。1年後に多い残存症状は、疲労感・倦怠感、呼吸困難、筋力低下/集中力低下 主な改訂内容を抜粋して以下に示す。【1章 罹患後症状】「3 罹患後症状の特徴」について、タイトルを「罹患後症状の頻度、持続時間」から変更し、(罹患者における研究)で国内外の知見を追加。・海外の知見 18報告(計8,591例)の系統的レビューによると、倦怠感(28%)、息切れ(18%)、関節痛(26%)、抑うつ(23%)、不安(22%)、記憶障害(19%)、集中力低下(18%)、不眠(12%)が12ヵ月時点で多くみられた罹患後症状であった。中国、デンマークなどからの研究報告を記載。・国内の知見 COVID-19と診断され入院歴のある患者1,066例の追跡調査について、急性期(診断後~退院まで)、診断後3ヵ月、6ヵ月、12ヵ月で検討されている。男性679例(63.7%)、女性387例(36.3%)。 診断12ヵ月後でも罹患者全体の30%程度に1つ以上の罹患後症状が認められたものの、いずれの症状に関しても経時的に有症状者の頻度が低下する傾向を認めた(12ヵ月後に5%以上残存していた症状は、疲労感・倦怠感(13%)、呼吸困難(9%)、筋力低下/集中力低下(8%)など。 入院中に酸素需要のあった重症度の高い患者は、酸素需要のなかった患者と比べ3ヵ月、6ヵ月、12ヵ月といずれの時点でも罹患後症状を有する頻度が高かった。 入院中に気管内挿管、人工呼吸器管理を要した患者は、挿管が不要であった患者と比べて3ヵ月、6ヵ月、12ヵ月といずれの時点でも罹患後症状を有する頻度が高かった。 罹患後症状に関する男女別の検討では、診断後3ヵ月時点で男性に43.5%、女性に51.2%、診断後6ヵ月時点で男性に38.0%、女性に44.8%、診断後12ヵ月時点で男性に32.1%、女性に34.5%と、いずれの時点でも罹患後症状を1つでも有する割合は女性に多かった。(非罹患者と比較した研究) COVID-19非罹患者との比較をした2つの大規模コホート研究の報告。英国の後ろ向きマッチングコホート研究。合計62の症状が12週間後のSARS-CoV-2感染と有意に関連していて、修正ハザード比で大きい順に嗅覚障害(6.49)、脱毛(3.99)、くしゃみ(2.77)、射精障害(2.63)、性欲低下(2.36)のほか、オランダの大規模マッチングコホート研究を記載。(罹患後症状とCOVID-19ワクチン接種に関する研究)(A)COVID-19ワクチン接種がCOVID-19感染時の罹患後症状のリスクを減らすかどうか(B)すでに罹患後症状を認める被験者にCOVID-19ワクチン接種を行うことでどのような影響が出るのか、の2点に分け論じられている。(A)低レベルのエビデンス(ケースコントロール研究、コホート研究のみでの結果)では、SARS-CoV-2感染前のCOVID-19ワクチン接種が、その後の罹患後症状のリスクを減少させる可能性が示唆されている。(B)罹患後症状がすでにある人へのCOVID-19ワクチン接種の影響については、症状の変化を示すデータと示さないデータがあり、一定した見解が得られていない。「5 今後の課題」 オミクロン株症例では4.5%が罹患後症状を経験し、デルタ株流行時の症例では10.8%が罹患後症状を経験したと報告されており、オミクロン株流行時の症例では罹患後症状の頻度は低下していることが示唆されている。揃いつつある各診療領域の知見 以下に各章の「2.科学的知見」の改訂点を抜粋して示す。【3章 呼吸器症状へのアプローチ】 罹患後症状として、呼吸困難は20〜30%に認め、呼吸器系では最も頻度の高い症状であった。年齢、性別、罹患時期などをマッチさせた未感染の対照群と比較しても、呼吸困難は胸痛や全身倦怠感などとともに、両者を区別しうる中核的な症状だった。【4章 循環器症状へのアプローチ】 イタリアからの研究報告では、わずか13%しか症状の完全回復を認めておらず、全身倦怠感が53%、呼吸困難が43.4%、胸痛が21.7%。このほか、イギリス、ドイツの報告を記載。【5章 嗅覚・味覚症状へのアプローチ】 フランス公衆衛生局の報告によると、BA.1系統流行期と比較し、BA.5系統流行期では再び嗅覚・味覚障害の発生頻度が増加し、嗅覚障害、味覚障害がそれぞれ8%、9%から17%に倍増した。【6章 神経症状へのアプローチ】 中国武漢の研究では、発症から6ヵ月経過しても、63%に疲労感・倦怠感や筋力低下を認めた。また、発症から6週間以上持続する神経症状を有していた自宅療養者では、疲労感・倦怠感(85%)、brain fog(81%)、頭痛(68%)、しびれ感や感覚障害(60%)、味覚障害(59%)、嗅覚障害(55%)、筋痛(55%)を認めたと報告されている。【7章 精神症状へのアプローチ】 罹患後症状が長期間(約1年以上)にわたり持続することにより、二次的に不安障害やうつ病を発症するリスクが高まるという報告も出始めている。【8章 “痛み”へのアプローチ】 下記の2つの図を追加。 「図8-1 COVID-19罹患後疼痛(筋痛、関節痛、胸痛)の経時的変化」 「図8-2 COVID-19罹患後疼痛の発生部位」 COVID-19罹患後に身体の痛みを有していたものは75%で、そのうち罹患前に痛みがなかったにも関わらず新規発症したケースは約50%と報告されている。罹患後、新規発症した痛みの部位は、広範性(20.8%)、頸部(14.3%)、頭痛、腰部、肩周辺(各11.7%)などが報告され、全身に及ぶ広範性の痛みが最も多い。 【9章 皮膚症状へのアプローチ】「参考 COVID-19と帯状疱疹[HZ]の関連について」を追加。ブラジルでは2017〜19年のCOVID-19流行前の同じ間隔と比較して、COVID-19流行時(2020年3〜8月)のHZ患者数は35.4%増加した。一方、宮崎での帯状疱疹大規模疫学研究では、2020年のCOVID-19の拡大はHZ発症率に影響を与えなかったと報告。    【10章 小児へのアプローチ】 研究結果をまとめると、(1)小児でも罹患後症状を有する確率は対照群と比べるとやや高く、特に複数の症状を有する場合が多い、(2)年少児は年長児と比べて少ない、(3)症状の内訳は、嗅覚障害を除くと対照群との間に大きな違いはない、(4)対照群においてもメンタルヘルスに関わる症状を含め、多くの訴えが認められる、(5)症例群と対照群との間に罹患後症状の有病率の有意差を認めない、(6)小児においてもまれに成人にみられるような循環器系・呼吸器系などの重篤な病態を起こす可能性があるといえる。【11章 罹患後症状に対するリハビリテーション】 2022年9月にWHOより公表された"COVID-19の臨床管理のためのガイドライン"の最新版(第5版)では、罹患後症状に対するリハビリテーションの項が新たに追加され、関連する疾患におけるエビデンスやエキスパートオピニオンに基づいて、呼吸障害や疲労感・倦怠感をはじめとするさまざまな症状別に推奨されるリハビリテーションアプローチが紹介されている。 なお、本手引きは2022年9月の情報を基に作成されており、最新の情報については、厚生労働省などのホームページなどから情報を得るように注意を喚起している。

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