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抗凝固療法の出血リスク、遺伝子型で異なる/Lancet

 ワルファリンの出血リスクについて、CYP2C9、VKORC1の遺伝子型を持つ患者において早期出血の傾向がある人を特定できることが示された。米国ハーバード・メディカル・スクールのJessica L Mega氏らが、ENGAGE AF-TIMI 48試験の被験者データを分析し報告した。検討では、ワルファリンと比較して、エドキサバンの早期安全性に関するベネフィットが大きいことも明らかになったという。Lancet誌オンライン版2015年3月10日号掲載の報告より。ワルファリン感受性について遺伝子型に基づき3分類し評価 研究グループは、遺伝子型により、ワルファリンによる出血リスクが高い患者を特定可能か、またワルファリンと比べてより安全な直接作用経口抗凝固薬を特定可能かを検討した。 ENGAGE AF-TIMI 48は、心房細動患者を対象とした無作為化二重盲検試験で、被験者をワルファリン群、エドキサバン高用量(60mg)群、エドキサバン低用量(30mg)群に無作為に割り付けて、国際標準比(INR)2.0~3.0の達成について検討した試験であった。 事前規定の遺伝子分析に組み込まれたサブグループ患者は、CYP2C9、VKORC1の遺伝子型を持つことが示された。そのデータを用いて、ワルファリンへの反応性について、3つの遺伝子型機能区分(標準、感受性が高い、感受性が高度に高い)に分類し分析した。ワルファリン感受性が高いほど出血リスクが高いことが判明 遺伝子分析に含まれたのは、1万4,348例の患者であった。 このうちワルファリン群の患者4,833例は、ワルファリン感受性について、標準群2,982例(61.7%)、感受性が高い群1,711例(35.4%)、非常に感受性が高い群140例(2.9%)に分類された。 標準群と比較して、他の2群は治療開始90日間において抗凝固作用が過剰であった時間割合が大きかった。標準群は中央値2.2%(IQR:0から20.2%)に対し、感受性が高い群は8.4%(同:0~25.8%)、非常に感受性が高い群は18.3%(同:0~32.6%)であった(傾向のp<0.0001)。 そしてワルファリン出血リスクは感受性が高いほど増大することが認められた。標準群と比較した感受性が高い群のハザード比は1.31(95%信頼区間[CI]:1.05~1.64、p=0.0179)、非常に高い群は2.66(同:1.69~4.19、p<0.0001)であった。遺伝子型は臨床リスクスコアとは異なる独立した情報を与えることが認められた。 一方、治療開始90日間において、ワルファリン群と比較してエドキサバン群で出血リスクが低く、感受性について標準群よりも感受性が高い群および非常に感受性が高い群で、より低下することが両用量群ともに認められた(エドキサバン高用量群の相互作用p=0.0066、低用量群の相互作用p=0.0036)。 90日以降は、出血リスクの低下に関するベネフィットはエドキサバン群とワルファリン群で遺伝子型を問わず同程度であった。

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ビタミンK拮抗薬の急速中和製剤(4F-PCC)の効果は?/Lancet

 緊急の外科的・侵襲的手技においてビタミンK拮抗薬(VKA)投与を必要とする患者について、4因子含有プロトロンビン複合体濃縮製剤(4F-PCC)の血漿製剤に対する、急速VKA中和および止血効果に関する非劣性と優越性が確認された。米国・マサチューセッツ総合病院のJoshua N Goldstein氏らによる第IIIb相の非盲検非劣性無作為化試験の結果、示された。VKAによる抗凝固療法は、緊急外科的・侵襲的手技を要する患者に関して迅速中和を必要とする頻度が高い。しかしこれまでその至適な手法について、臨床比較試験による確定は行われていなかったという。Lancet誌オンライン版2015年2月26日号掲載の報告より。止血効果と急速INR低下の2つを主要エンドポイントに比較 研究グループは、4F-PCCの有効性と安全性を血漿製剤と比較して検討した。試験は国際多施設共同(33病院;米国18、ベラルーシ2、ブルガリア4、レバノン2、ルーマニア1、ロシア6)にて行われ、緊急外科的・侵襲的手技の前に急速VKA中和を必要とする18歳以上の患者を登録した。 患者を、VKA投与と共に4F-PCC(Beriplex/Kcentra/Confidex;ドイツ・CSLベーリング社製)または血漿製剤を単回投与する群に1対1の割合で無作為に割り付けた。投与量は国際標準化比(INR)と体重に基づき調整した。 主要エンドポイントは2つで、止血効果と急速INR低下(投与後0.5時間時点で1.3以下)。 解析は、最初に両エンドポイントについて非劣性(両群差の95%信頼区間[CI]下限値が-10%超と定義)を評価し、次いで非劣性が認められた場合に優越性(同0%超と定義)を評価した。 有害事象と重篤有害事象は、それぞれ10日時点、45日時点まで報告された。いずれのエンドポイントも4F-PCCの非劣性、優越性を確認 181例の患者が無作為に割り付けられた(4F-PCC群90例、血漿製剤群91例)。有効であったintention-to-treat比較集団は168例(それぞれ87例、81例)であった。 止血効果が認められたのは、4F-PCC群78例(90%)に対し血漿製剤群61例(75%)で、4F-PCCの血漿製剤に対する非劣性および優越性が確認された(両群差14.3%、95%CI:2.8~25.8%)。 また、急速INR低下を達成したのは、4F-PCC群48例(55%)に対し血漿製剤群8例(10%)で、こちらについても4F-PCCの血漿製剤に対する非劣性および優越性が確認された(両群差45.3%、95%CI:31.9~56.4%)。 4F-PCCと血漿製剤の安全性プロファイルは類似していた。有害事象の発現は4F-PCC群49例(56%)、血漿製剤群53例(60%)であった。とくに注目された有害事象は、血栓塞栓イベント(4F-PCC群6例[7%] vs. 血漿製剤群7例[8%])、輸液過剰または関連心イベント(3例[3%] vs. 11例[13%])、遅発性出血イベント(3例[3%] vs. 4例[5%])であった。

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Vol. 3 No. 2 脳卒中を巡るコントロバーシー 脳卒中の再発予防にスタチンは有効か?

北川 一夫 氏東京女子医科大学医学部神経内科学はじめにスタチンは、脂質低下作用以外に多面的作用を有し、脂質低下と抗炎症作用をはじめとしたさまざまな機序により心血管疾患発症予防に寄与していると考えられている。本稿では、最初に脳卒中と血清脂質の疫学的な関連について解説したうえで、スタチンの脳卒中予防効果に関する臨床研究を概説し、最後に本件に関する著者の意見を述べてみたい。脳卒中発症と脂質との関係 ―臨床疫学的検討―脳卒中と脂質の関連は“cholesterol paradox”といわれるほど複雑である1)。疫学的に明確なのは、低コレステロール血症が脳出血のリスクとなる点である2)。臨床疫学研究のメタ解析でもコレステロールが低下すると脳出血リスクが高まることが報告されている。ちょうど30年以上前の日本人の食生活では、蛋白質、脂質の摂取量が少なく低栄養状態であり、かつ塩分摂取が多いため、高血圧とともに低コレステロール血症が脳出血リスクを増大していたと考えられる。近年の茨城県の一般住民を対象としたコホート研究でも、LDLコレステロールが80mg/dL未満の群では脳出血リスクが高いことが報告されている(本誌p.45図1を参照)3)。一方、脳梗塞と血清脂質との関連は明確でない。脳梗塞には、アテローム硬化を基盤として発症するアテローム血栓性脳梗塞、脳細動脈の閉塞が原因のラクナ梗塞以外に、脂質との関連が少ないと考えられる心原性脳塞栓症が含まれ、久山町研究では血清脂質とアテローム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞との関連が示されている(本誌p.45図1を参照)4)。しかし脳梗塞の各病型を含めた解析では、LDLコレステロールで160mg/dL、総コレステロールで260mg/dLまでの軽度から中等度の脂質異常が脳梗塞のリスクとなるかどうかについては明確となっていない。心筋梗塞と血清脂質の関連が各年代でこれら脂質レベルでも明確なのと対照的である5)。また近年、脳梗塞を発症した患者ではむしろ血清脂質レベルが軽度上昇しているほうが、機能予後がよいことが報告されている6)。血清脂質レベルが低下している症例では、全身栄養状態が低下していることが多く、血清脂質レベル低値そのものあるいは、そのことに反映される栄養状態不良のどちらが、脳出血リスクや脳卒中発症後の予後不良に寄与しているのかは明らかとなっていない。スタチンの脳卒中予防効果脳卒中と血清脂質レベルの関連が疫学的に不明瞭であるのと対照的に、スタチンが脳卒中発症予防効果を示すことは多くの臨床試験から示されている。もともと冠動脈疾患の発症、再発予防を目的としたスタチンの介入試験で、副次エンドポイントとして評価されていた脳卒中が20%程度発症抑制されていた7)。特に冠動脈疾患既往を有する患者での臨床試験では一貫して脳卒中発症が抑制されていた。一方、血管疾患の既往を有さない患者を対象としたプラバスタチンの冠動脈疾患の初発予防効果を検証したMEGA研究では、プラバスタチン投与群で脳梗塞発症が低下する傾向がみられたが有意な差に至らなかった8)。海外では血管疾患の既往を有さないが血液高感度CRP濃度が軽度上昇した患者を対象としたJUPITER試験が実施され、ロスバスタチン投与により血清LDLコレステロール値とともに高感度CRP濃度も低下し、心筋梗塞および脳卒中発症が50%近く抑制されていた9)。このように多くの試験でスタチンの脳卒中予防効果が示されているが、発症抑制された脳卒中病型は脳梗塞であった。またスタチンの脂質低下レベルと脳卒中抑制効果には直線的な関係があり、治療開始時の脂質レベルによらず、スタチンを投与してLDLコレステロールが低下するほど脳卒中発症抑制効果が高いことが報告されている7)。一方、脳卒中既往患者を対象とした臨床試験としてSPARCL研究が発表されている。脳卒中または一過性脳虚血発作症例を対象としてアトルバスタチン80mg/日またはプラセボを投与して脳卒中再発を主要エンドポイントとした試験であるが、アトルバスタチン投与群で脳卒中再発が16%抑制され、特に脳梗塞再発が20%抑制されることが明らかとなった(本誌p.46図2を参照)10)。アトルバスタチン投与によりLDLコレステロールが十分に低下した場合に脳卒中、心筋梗塞発症が有意に抑制されていた。脳梗塞病型別の検討ではアテローム血栓性脳梗塞、内頸動脈狭窄を有する症例では、スタチン投与により脳卒中再発とともに心筋梗塞発症が抑制されることが明らかとされた11)。日本では常用量のスタチンであるプラバスタチンを用いた非心原性脳梗塞患者の再発予防効果を検証するJ-STARS試験が終了しており、その結果発表が待たれている12)。SPARCL研究では、脳卒中および脳梗塞再発は有意に抑制したが、アトルバスタチン投与群で脳出血が1.68倍増加したため、スタチンの脳出血リスクが危惧された。SPARCL試験のサブ解析では、脳出血のリスクとなる因子として、脳出血の既往、男性、高血圧が抽出されたが、LDLコレステロール値と脳出血との間には関連がみられず、LDLコレステロール値が50mg/dL未満の群でも脳出血リスクが高まる傾向はみられなかった13)。またスタチンを用いた臨床試験の大規模なメタ解析も行われ、スタチン投与と脳出血リスクとの間には関連がないことが報告されている14)。ただSPARCL研究のサブ解析では、脳梗塞のなかでも脳内小血管の疾患であるラクナ梗塞ではスタチン投与群で脳出血リスクが有意に高まっており、基盤に脳小血管病(脳出血、ラクナ梗塞)を有する患者では、スタチン投与に際して脳出血リスクを念頭におく必要があると考えられる。脳卒中再発予防にスタチンを使用すべきか?前述の内容をもとに、脳卒中再発予防におけるスタチンの意義について考察する。まず脳卒中のなかでも出血性脳卒中―脳出血、くも膜下出血―では脂質異常の関与は少ないため、脂質管理は動脈硬化疾患ガイドラインに沿ってLDLコレステロールが140mg/dL未満であれば、スタチンの投与は必要ないと考えられる。脳梗塞では、病型ごとにスタチンの投与を考えるべきであり、アテローム血栓性脳梗塞およびラクナ梗塞では、スタチンは脳卒中、特に脳梗塞再発抑制効果が期待できるため積極的に投与すべきと考えられる。一方動脈硬化疾患ガイドラインでは、これら脳梗塞病型ではLDLコレステロールを120mg/dL未満に管理することが推奨されているが、スタチンには血管炎症抑制効果15)があるため、LDLコレステロールの値にかかわらず投与したほうがよいという考えもあり、筆者も同意見に賛成である。内頸動脈狭窄や脳主幹動脈病変を有する場合は積極的なスタチン投与の適応と考えられ、脳卒中再発のみならず冠動脈疾患発症抑制効果も期待できる。一方、SPARCL研究で危惧されたスタチンの脳出血リスクについては、脳血管事故の既往のない症例ではメタ解析の結果から心配する必要はないと思われる。しかし脳卒中既往症例については、SPARCL試験の成績を念頭におく必要があろう。すなわち脳出血、ラクナ梗塞など脳小血管病の既往のある症例では、スタチン投与により脳出血リスクが高まる可能性が示唆されており、ラクナ梗塞でのスタチン投与に際しては、血圧管理を厳格に行うべきと考えられる。MRI検査の発達により、無症候性脳小血管病として脳微小出血(図)が検出されるようになり16)、脳微小出血が観察される症例についてもスタチンを投与する際には血圧管理を特に厳格にすべきであろう。脳梗塞既往患者ではほとんどの症例が抗血栓薬を内服しており、抗血栓薬、スタチンを併用しているラクナ梗塞患者では、収縮期血圧130mmHg未満をめざした管理が望ましいと考えられる。図 脳微小出血(脳MRI T2*画像)a. 健常者に観察される皮質下微小出血  (→で示す)画像を拡大するb. 遺伝性脳小血管病患者で観察される  多数の微小出血(→で示す)画像を拡大する脳卒中再発予防にスタチン以外の脂質低下手段は有効か?スタチン以外の脂質低下薬については、フィブラート、ナイアシンでは脳卒中発症予防に有効とのエビデンスは示されていない17)。近年、次々と新規薬剤が開発されているが、これらの薬剤について脳卒中予防効果は検討されていない。日本で脂質異常を有する患者にエイコサペンタエン酸(EPA)を常用量のスタチンに追加投与したJELIS試験が実施された。脳卒中発症に関しては全症例ではEPA投与の有用性は示されなかったが、卒中既往症例に限った解析ではEPAにより脳卒中再発が抑制されることが示されている18)。しかしpost hoc解析であり、脳卒中発症から登録までの期間も明らかでないため、強いエビデンスを示すには至っていない。おわりに表題の脳卒中再発予防にスタチンは有効か、という問いかけに対しては、出血性脳卒中、心原性脳塞栓症では有効性は低く、非心原性脳梗塞であるアテローム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞では有効であるというのが現時点のコンセンサスであろう。なかでも内頸動脈狭窄、頭蓋内動脈閉塞・狭窄を伴いアテローム硬化の強い症例では、脂質レベルに関わりなくスタチンは積極的に投与すべきであろう。一方、ラクナ梗塞既往があり脳MRIで微小出血を有する症例ではスタチン投与の有効性は十分期待できるが、脳出血リスク低減のため血圧管理を厳格にした上でスタチンを使用すべきであるというのが著者の考えである。文献1)Amarenco P Steg PG. The paradox of cholesterol and stroke. Lancet 2007; 370: 1803-1804.2)Wang X et al. Cholesterol levels and risk of hemorragic stroke: a systematic review and meta-analysis. Stroke 2013; 44: 1833-1839.3)Noda H et al. Low-density lipoprotein cholesterol concentrations and death due to intraparenchymal hemorrhage: the Ibaraki Prefectural Health Study. Circulation 2009; 119: 2136-2145.4)Imamura T et al. LDL cholesterol and the development of stroke subtypes and coronary heart disease in a general Japanese population: the Hisayama study. Stroke 2009; 40: 382-388.5)Prospective Studies Collaboration, Lewington S et al. Blood cholesterol and vascular mortality by age, sex, and blood pressure: a meta-analysis of individual data from 61 prospective studies with 55,000 vascular deaths. Lancet 2007; 370: 1829-1839.6)Olsen TS et al. Higher total serum cholesterol levels are associated with less severe strokes and lower all-cause mortality: ten-year follow-up of ischemic strokes in the Copenhagen Stroke Study. Stroke 2007; 38: 2646-2651.7)Amarenco P, Labreuche J. Lipid management in the prevention of stroke. Review and updated meta-analysis of statins for stroke prevention. Lancet Neurol 2009; 8: 453-463.8)Nakamura H et al. Primary prevention of cardiovascular disease with pravastatin in Japan (MEGA Study): a prospective randomised controlled trial. Lancet 2006; 368: 1155-1163.9)Ridker PM et al. Rosuvastatin to prevent vascular events in men and women with elevated C-reactive protein. N Engl J Med 2008; 359: 2195-2207.10)The Stroke Prevention by Aggressive reduction in Cholesterol Levels (SPARCL) Investigators. High-dose atorvastatin after stroke or transient ischemic attack. N Engl J Med 2006; 355: 549-559.11)Amarenco P et al. Results of the stroke prevention by aggressive reduction in cholesterol levels (SPARCL) trial by stroke subtypes. Stroke 2009; 40: 1405-1409.12)Nagai Y et al. Rationale, design, and baseline features of a randomized controlled trial to assess the effects of statin for the secondary prevention of stroke: the Japan Statin Treatment Against Recurrent Stroke (J-STARS). Int J Stroke 2014; 9: 232-239.13)Goldstein LB et al. Hemorrhagic stroke in the stroke prevention by aggressive reduction in cholesterol levels study. Neurology 2008; 70: 2364-2370.14)Hackam DG et al. Statins and intracerebral hemorrhage: collaborative systematic review and meta-analysis. Circulation 2011; 124: 2233-2242.15)Blum A, Shamburek R. The pleiotropic effects of statins on endothelial function, vascular inflammation, immunomodulation and thrombogenesis. Atherosclerosis 2009; 203: 325-330.16)Greenberg SM et al. Cerebral microbleeds: a guide to detection and interpretation. Lancet Neurol 2009; 8: 165-174.17)Goldstein LB et al. Guidelines for the primary prevention of stroke: a guideline for healthcare professionals from the American Hear t Association/American Stroke Association. Stroke. 2011; 42: 517-584.18)Tanaka K et al. Reduction in the recurrence of stroke by eicosapentaenoic acid for hypercholesterolemic patients. Subanalysis of the JELIS trial. Stroke 2008; 39: 2052-2058.

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抗血栓療法中のNSAIDs、出血・心血管イベント増大/JAMA

 心筋梗塞(MI)後の抗血栓療法中の患者における非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)の併用投与は、短期間であっても出血や心血管イベントリスクを増大することが明らかにされた。デンマーク・コペンハーゲン大学ゲントフテ病院のAnne-Marie Schjerning Olsen氏らが、同国患者データ6万1,971例を分析し報告した。著者は、「所見についてはさらなる検討を行い確認する必要があるが、MI後の患者へのNSAIDs処方には注意を払わなくてはならない」とまとめている。JAMA誌2015年2月24日号掲載の報告より。デンマーク、心筋梗塞後6万1,971例のNSAIDs治療併用有無別にアウトカムを分析 研究グループは、MI後で抗血栓療法中の患者についてNSAIDsを併用投与した場合の、出血・心血管イベントを調べた。 同国2002~2011年の入院レジストリデータを用いて、30歳以上で初発MIを経験し、退院後30日間生存していた患者について、MI後のアスピリン、クロピドグレルまたは抗血栓薬、およびそれらの組み合わせ治療と、NSAIDs治療の併用について調べた。 主要評価項目は、NSAIDs治療併用有無別にみた出血リスク(入院を要する)または心血管複合アウトカム(心血管系による死亡、非致死的MI、脳卒中)で、補正後時間依存的Cox回帰モデルを用いて評価した。 分析には6万1,971例が組み込まれた(平均年齢67.7[SD 13.6]歳、男性63%)。そのうち34%の患者が1種以上のNSAIDsを処方されていた。併用群、出血リスク2.02倍、心血管イベントリスク1.40倍 追跡期間中央値3.5年間で、死亡者は1万8,105例(29.2%)であった。出血イベントの発生は計5,288例(8.5%)、心血管イベントは計1万8,568例(30.0%)であった。 出血イベントの粗発生率は100人年当たり、NSAIDs治療併用群4.2例(95%信頼区間[CI]:3.8~4.6例)、非併用群2.2例(同:2.1~2.3例)であった。心血管イベントについてはそれぞれ11.2例(同:10.5~11.9例)、8.3例(同:8.2~8.4例)であった。 多変量補正後Cox回帰分析の結果、NSAIDs治療併用群は非併用群と比較して、出血リスクは2.02倍(ハザード比:2.02、95%CI:1.81~2.26)、心血管イベントリスクは1.40倍(同:1.40、1.30~1.49)増大することが認められた。 出血および心血管イベントリスクは、抗血栓療法やNSAIDsの種別を問わず、また併用期間を問わず、併用により増大することが認められた。

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抗凝固薬による脳内出血、血腫増大の分岐点/JAMA

 抗凝固療法の合併症で脳内出血を発症した人は、4時間以内の国際標準比(INR)が1.3未満で、収縮期血圧が160mmHg未満だと、血腫増大リスク、院内死亡リスクともに減少することが明らかにされた。オッズ比はそれぞれ0.28、0.60であった。ドイツ・エアランゲン-ニュルンベルク大学のJoji B. Kuramatsu氏らが、約1,200例の患者について行った後ろ向きコホート試験の結果、明らかにした。同発症患者について、経口抗凝固薬の再開についても分析した結果、再開は虚血イベントの低下につながることが示されたという。なお、これらの結果について著者は、前向き試験での再現性と評価の必要性を指摘している。JAMA誌2015年2月24日号掲載の報告より。血腫増大リスクや経口抗凝固薬の再開について分析 研究グループは2006~2012年にかけて、ドイツ19ヵ所の三次医療機関を通じ、抗凝固療法の合併症で脳内出血を発症した患者1,176例について追跡した。そのうち853例については血腫増大、719例については経口抗凝固薬の再開について、それぞれ分析を行った。 主要評価項目は、INR値や血圧値と血腫増大発症率との関連などだった。INR値1.3未満の血腫増大発症率は19.8%、1.3以上では41.5% その結果、血腫増大が発症したのは、853例中307例(36.0%)だった。血腫増大率低下と関連がみられたのは、入院4時間以内のINR値が1.3未満と、同じく4時間以内の収縮期血圧160mmHg未満だった。具体的には、INR値1.3未満の血腫増大率は19.8%に対し、INR値1.3以上の同発症率は41.5%(p<0.001)。収縮期血圧160mmHg未満の同発症率は33.1%に対し、収縮期血圧160mmHg以上では52.4%だった(p<0.001)。 入院4時間以内のINR値が1.3未満で収縮期血圧160mmHg未満だった場合、血腫増大に関するオッズ比は0.28(95%信頼区間[CI]:0.19~0.42、p

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心房細動による脳卒中での寝たきり予防に 提言書 第二版を発表

 公益社団法人日本脳卒中協会とバイエル薬品株式会が共同事業として展開する「心房細動による脳卒中を予防するプロジェクト」は3月4日、「脳卒中予防への提言 ―心原性脳塞栓症の制圧を目指して―(第二版)」を発表した。本提言書は、昨年5月に発表した「脳卒中予防への提言─心原性脳塞栓症の制圧を目指すために─初版」で示した提言について、どのように実行が可能なのかを、各地で進む事例を取り上げながら、具体的な実行策を示したもの。 提言書 第二版は同プロジェクトの過去1年間の活動成果、および各地域での先進的な取り組みなどを取り上げ、自治体、保険者、医療関係者などが、提言を実行に移すための具体的な施策について提示している。提言は、1)心房細動の早期発見 2)脳卒中予防のための適切な治療の推進 3)切れ目ない地域連携で乗り越える制度間の課題──の3部構成となっており、各項目について具体的な解決策や事例を紹介している(提言の要旨は別紙参照)。 心原性脳塞栓症の予防には、心房細動を早期に発見し、脳卒中予防のための治療(主に抗凝固療法)を適切に行うことが大切だが、現在は「発見」と「治療」の両方に多くの課題があるという。同プロジェクトでは、これら課題の解決には、自治体、保険者、医療関係者などの連携が鍵を握ると考え、昨年5月に、地域一体での取り組みの必要性を「初版」として提言していた。 なお、今回発表された提言書 第二版の全文は「心房細動による脳卒中を予防するプロジェクト」のウェブサイトに掲載されている(PDF)。詳細はプレスリリース(PDF)へ

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Vol. 3 No. 2 AF患者の脳卒中にどう対応するか? NOAC服用患者への対応を中心に

矢坂 正弘 氏国立病院機構九州医療センター脳血管センター脳血管・神経内科はじめに非弁膜症性心房細動において新規経口抗凝固薬(novel oral anticoagulant : NOAC)の「脳卒中と全身塞栓症予防」効果はワルファリンと同等かそれ以上である1-3)。大出血や頭蓋内出血が少なく、管理が容易であることを合わせて考慮し、ガイドラインではNOACでもワルファリンでも選択できる状況下では、まずNOACを考慮するように勧めている4)。しかし、NOACはワルファリンより脳梗塞や頭蓋内出血の発症頻度が低いとはいえ、その発症をゼロに封じ込める薬剤ではないため、治療中の脳梗塞や頭蓋内出血への対応を考慮しておく必要がある。本稿では、NOACの療法中の脳梗塞や頭蓋内出血時の現実的な対応を検討する。NOAC療法中の急性脳梗塞NOAC療法中の症例が脳梗塞を発症した場合、一般的な脳梗塞の治療に加えてNOAC療法中であるがゆえにさらに2つの点、rt-PA血栓溶解療法施行の可否と急性期抗凝固療法の実際を考慮しなくてはならない。(1) rt-PA血栓溶解療法の可否ワルファリン療法中は適正使用指針にしたがってPTINRが1.7以下であればrt-PA血栓溶解療法を考慮できる5)。しかし、ダビガトラン、リバーロキサバンおよびアピキサバン療法中の効果と安全性は確立しておらず、明確な指針はない。表1にこれまで発表されたダビガトラン療法中のrt-PA血栓溶解療法例を示す6-8)。ダビガトラン療法中の9例のうち中大脳動脈広範囲虚血で190分後にrt-PAが投与された1例を除き、8例で良い結果が得られている。それらに共通するのは、ダビガトラン内服から7時間以後でrt-PAが投与され、投与前APTTが40秒未満であった。ダビガトランの食後内服時のTmaxが4時間であることを考慮すると、rt-PA投与が内服後4時間以降であり、APTTが40秒以下(もしくは前値の1.5倍以下)であることがひとつの目安かもしれない。内服時間が不明な症例では来院時のAPTTと時間を空けてのAPTTを比較し、上昇傾向にあるか、低下傾向にあるかを見極めてTmaxを過ぎているかどうかを判断することも一法であろう。NOAC療法症例でrt-PA血栓溶解療法を考慮する場合は、少なくとも各薬剤のTmax 30分から4時間程度、ダビガトランではAPTTが40秒以下、抗Xa薬ではプロトロンビン時間が1.7以下であることを確認し、論文を含む最新情報に十分に精通した上で施設ごとに判断をせざるを得ないであろう5)。アピキサバンはAPTTやPT-INRと十分に相関しないことに注意する。抗Xa薬では、血中濃度と相関する抗Xa活性を図る方法も今後検討されるかもしれない。表1 ダビガトラン療法中のtPA血栓溶解療法に関する症例報告画像を拡大する(2) 急性期抗凝固療法心原性脳塞栓症急性期は脳塞栓症の再発率が高いため、この時期に抗凝固療法を行えば、再発率を低下させることが期待されるが、一方で栓子溶解による閉塞血管の再開通現象と関連した出血性梗塞もこの時期に高頻度にみられる。したがって、抗凝固療法がかえって病態を悪化させるのではないかという懸念もある。この問題はまだ解決されていないため、現時点では、脳塞栓症急性期の再発助長因子(発症後早期、脱水、利尿薬視床、人工弁、心内血栓、アンチトロンビン活性低下、D-dimer値上昇など)や、抗凝固療法による出血性合併症に関連する因子(高齢者、高血圧、大梗塞、過度の抗凝固療法など)を考慮して、個々の症例ごとに脳塞栓症急性期における抗凝固療法の適応を判断せざるを得ない。われわれの施設では症例ごとに再発の起こりやすさと出血性合併症の可能性を検討して、抗凝固療法の適応を決定している。具体的には感染性心内膜炎、著しい高血圧および出血性素因がないことを確認し、画像上の梗塞巣の大きさや部位で抗凝固療法開始時期を調整している(表2)9)。表2 脳塞栓症急性期の抗凝固療法マニュアル(九州医療センター2013年4月1日版)画像を拡大する(別タブが開きます)出血性梗塞の発現は神経所見とCTでモニタリングする。軽度の出血性梗塞では抗凝固療法を継続し、血腫型や広範囲な出血性梗塞では抗凝固薬投与量を減じたり、数日中止し、増悪がなければ再開する10)。新規経口抗凝固薬、ヘパリン、およびワルファリン(ワーファリン®)の投与量および切り替え方法の詳細も表2に示す。ワルファリンで開始する場合は即効性のヘパリンを必ず併用し、PT-INRが治療域に入ったらヘパリンを中止する。再発と出血のリスクがともに高い場合、心内血栓成長因子である脱水を避けること,低容量ヘパリンや出血性副作用がなく抗凝血作用のあるantithrombin III製剤の使用が考えられる11)。NOAC療法中に脳梗塞を発症した症例で、NOAC投与を考慮する場合、リバーロキサバンとアピキサバンは第III相試験が低用量選択基準を採用した一用量で実施されているので、脳梗塞を発症したからといって用量を増量したり、調節することは適切ではない2,3)。他剤に変更するか、脳梗塞が軽症であれば、あるいは不十分なアドヒアランスで発症したのであれば、継続を考慮することが現実的な対応であろう。一方ダビガトランは第III相試験が2用量で行われ、各々の用量がエビデンスを有しているので、低用量で脳梗塞を発症した場合、通常用量の可否を考慮することは可能である1)。NOAC療法中の頭蓋内出血ここではNOAC療法中の頭蓋内出血の発症頻度や特徴をグローバルやアジアでの解析結果を参照にワルファリン療法中のそれらと対比しながら概説する。(1) グローバルでの比較結果非弁膜症性心房細動を対象に脳梗塞の予防効果をワルファリンと対比したNOAC(ダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバン)の4つの研究(RE-LY、ROCKET AF、ARISTOTLE、ENGAGE-AF)においてワルファリン群と比較してNOAC群の頭蓋内出血は大幅に減少した(本誌p.24図1を参照)1-3,12)。(2) アジアでの比較結果各第III相試験サブ解析から読み取れるアジアや東アジアの人々の特徴は、小柄であり、それに伴いクレアチニンクリアランス値が低く、脳卒中の既往や脳卒中発症率が高いことである13-16)。またワルファリンコントロールにおけるtime in therapeutic range(TTR)が低く、PT-INRが低めで管理されている症例が多いにもかかわらず、ワルファリン療法中の頭蓋内出血発症率は極めて高い特徴がある(本誌p.24図2を参照)13-16)。しかし、NOACの頭蓋内出血発症率はワルファリン群より大幅に低く抑えられており、NOACはアジアや東アジアの人々には一層使いやすい抗凝固薬といえよう。(3) NOAC療法中に少ない理由NOACで頭蓋内出血が少ない一番の理由は、脳に組織因子が多いことと関連する16-18)。組織が損傷されると組織因子が血中に含まれる第VII因子と結びつき凝固カスケードが発動する。NOAC療法中の場合は第VII因子が血液中に十分にあるので、この反応は起こりやすい。しかし、ワルファリン療法中は第VII因子濃度が大幅に下がるのでこの反応は起こりにくくなり止血し難い。次にワルファリンと比較して凝固カスケードにおける凝固阻止ポイントが少ないことが挙げられる。ワルファリンは凝固第II、VII、IX、X因子の4つの凝固因子へ作用するが、抗トロンビン薬や抗Xa薬はひとつの凝固因子活性にのみ阻害作用を発揮するため、ワルファリンよりも出血が少ない可能性がある。さらに安全域の差異を考慮できる。ある薬剤が抗凝固作用を示す薬物血中濃度(A)と出血を示す薬剤の血中濃度(B)の比B/Aが大きければ安全域は広く、小さければ安全域は狭い。ワルファリンはこの比が小さく、NOACは大きいことが示されている19)。最後に薬物血中濃度の推移も影響するだろう。ワルファリンはその効果に大きな日内変動はみられないが、ダビガトランは半減期が12時間で血中濃度にピークとトラフがある。ピークではNOAC自身の薬理作用が、トラフでは生理的凝固阻止因子が主となり、2系統で抗凝固作用を発揮し、見事に病的血栓形成を抑制しているものと理解される(Hybrid Anticoagulation)(図)16,17)。トラフ時には生理的止血への抑制作用は強くないため、それが出血を減らすことと関連するものと推測される。図 ハイブリッド抗凝固療法画像を拡大する(4) 特徴NOAC療法中は頭蓋内出血の頻度が低いのみならず、一度出血した際に血腫が大きくなり難い傾向も有するようだ。われわれはダビガトラン療法中の頭蓋内出血8例9回を経験しケースシリーズ解析を行い報告した20)。対象者は高齢で9回中7回は外傷と関連する慢性硬膜下出血や外傷性くも膜下出血などで、脳内出血は2例のみであった。緊急開頭が必要な大出血はなく、入院後血腫が増大した例もなく、多くの転帰は良好であった。もちろん、大血腫の否定はできず、血圧、血糖、多量の飲酒、喫煙といった脳内出血関連因子の徹底的な管理は重要であるが、ダビガトラン療法中の頭蓋内出血が大きくなりにくい機序としては、前述の頻度が低い機序が同様に関連しているものと推定される。(5) 出血への対応1.必ず行うべき4項目基本的な対応として、まず(1)休薬を行うこと、そして外科的な手技を含めて(2)止血操作を行うことである。(3)点滴によるバイタルの安定は基本であるが、NOACでは点滴しバイタルを安定させることで、半日程度で相当量の薬物を代謝できるので極めて重要である。(4)脳内出血やくも膜下出血などの頭蓋内出血時には十分な降圧を行う。2.場合によって考慮すること急速是正が必要な場合、ワルファリンではビタミンK投与や新鮮凍結血漿投与が行われてきたが、第IX因子複合体500~1,000IU投与(保険適応外)が最も早くPT-INRを是正できる。NOACの場合は、食後のTmaxが最長で4時間程度なので、4時間以内の場合は胃洗浄や活性炭を投与し吸収を抑制する。ダビガトランは透析で除去されるが、リバーロキサバンやアピキサバンは蛋白結合率が高いため困難と予測される。NOAC療法中に第IX因子複合体を投与することで抗凝固作用が是正させる可能性が示されている21)。今後の症例の蓄積とデータ解析に基づく緊急是正方法の開発が急務である。抗体製剤や低分子化合物も緊急リバース方法の1つとして開発が進められている。おわりにNOACは非常に有用な抗凝固薬であるが、実臨床における諸問題も少なくない。登録研究や観察研究を積極的に行い、安全なNOAC療法を確立する必要があろう。文献1)Connolly SJ et al. Dabigatran versus warfarin in patients with atrial fibrillation. N Engl J Med 2009; 361: 1139-1151 and Erratum in. N Engl J Med 2010; 363: 1877.2)Patel MR et al. Rivaroxaban versus Warfarin in Nonvalvular Atrial Fibrillation. N Engl J Med 2011;365: 883-891.3)Granger CB et al. Apixaban versus warfarin in patients with atrial fibrillation. N Engl J Med 2011; 365: 981-992.4)http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2013_inoue_h.pdf5)日本脳卒中学会 脳卒中医療向上・社会保険委員会 rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法指針改訂部会: rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法 適正治療指針 第二版 http://www.jsts.gr.jp/img/rt-PA02.pdf6)矢坂正弘ほか. 新規経口抗凝固薬に関する諸問題.脳卒中2013; 35: 121-127.7)Tabata E et al. Recombinant tissue-type plasminogen activator (rt-PA) therapy in an acute stroke patient taking dabigatran etexilate: A case report and literature review, in press.8)稲石 淳ほか. ダビガトラン内服中に出血合併症なく血栓溶解療法を施行しえた心原性脳塞栓症の1例―症例報告と文献的考察. 臨床神経, 2014; 54:238-240.9)中西泰之ほか. 心房細動と脳梗塞. 臨牀と研究 2013;90: 1215-1220.10)Pessin MS et al. Safety of anticoagulation after hemorrhagic infarction. Neurology 1993; 43:1298-1303.11)Yasaka M et al. Antithrombin III and Low Dose Heparin in Acute Cardioembolic Stroke. Cerebrovasc Dis 1995; 5: 35-42.12)Giugliano RP et al. Edoxaban versus warfarin in patients with atrial fibrillation. N Engl J Med 2013;369: 2093-2104.13)Hori M et al. Dabigatran versus warfarin: effects on ischemic and hemorrhagic strokes and bleeding in Asians and non-Asians with atrial fibrillation. Stroke 2013; 44: 1891-1896.14)Goto S et al. Efficacy and safety of apixaban compared with warfarin for stroke prevention in atrial fibrillation in East Asia with atrial fibrillation. Eur Heart J 2013; 34 (abstract supplement):1039.15)Wong KS et al. Rivaroxaban for stroke prevention in East Asian patients from the ROCKET AF trial. Stroke 2014, in press.16)Yasaka M et al. Stroke Prevention in Asian Patients with Atrial Fibrillation. Stroke 2014, in press.17)Yasaka M et al. J-ROCKET AF trial increased expectation of lower-dose rivaroxaban made for Japan. Circ J 2012; 76: 2086-2087.18)Drake TA et al. Selective cellular expression of tissue factor in human tissues. Implications for disorders of hemostasis and thrombosis. Am J Pathol 1989; 134: 1087-1097.19)大村剛史ほか. 抗凝固薬ダビガトランエテキシラートのA-Vシャントモデルにおける抗血栓および出血に対する作用ならびに抗血栓作用に対するビタミンKの影響. Pharma Medica 2011; 29: 137-142.20)Komori M et al. Intracranial hemorrhage during dabigatran treatment: Case series of eight patients. Circ J, in press.21)Kaatz S et al. Guidance on the emergent reversal of oral thrombin and factor Xa inhibitors. Am J Hematol 2012; 87 Suppl 1: S141-S145.

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吸収性局所止血材、膝関節全置換術後リスクを低下

 人工膝関節全置換術(TKA)において、術後出血は重大な合併症の原因となり輸血を要することもある。米国・St. Francis Memorial HospitalのJohn H. Velyvis氏は、ヒトトロンビン含有ゼラチン使用吸収性局所止血材の使用がTKA術後ドレーン排液量および輸血予測確率を低下させることを報告した。結果について著者は「今後、多施設無作為化試験などさらなる研究が必要である」とまとめている。Orthopedics誌2015年2月号の掲載報告。 検討は、初回TKAを受ける連続症例を前向きに登録し、74例にヒトトロンビン含有ゼラチン使用吸収性局所止血材(商品名:フロシール)5mLを用いた。さらに83例に10mLを用いて評価した。 フロシール群の登録に先立ち、対照群としてフロシールを使用しなかったTKA施行連続100例のデータを診療記録より抽出した。 なお、全例、手術の翌日から血栓予防としてワルファリンが投与された。 主な結果は以下のとおり。・術後ドレーン排液量は、フロシール5mL群236.9mL、10mL群120.5mLで、どちらも対照群(430.8mL)より有意に少なかった(ともにp<0.0001)。・また、フロシール5mL群と比較するとフロシール10mL群が有意に低値であった(p<0.0001)。・輸血予測確率は、フロシール5mL群と対照群とで差はなかったが(6.0% vs 7.6%、p=0.650)、フロシール10mL群は対照群より有意に低率であった(0.5% vs 5.5%、p=0.004)。・フロシール10mL群のうちフロシールの使用が止血帯解除前であった群と解除後であった群のどちらも、対照群との間で排液量ならびに輸血予測確率が有意に低かった。・使用された麻酔の種類は、転帰に影響を及ぼさなかった。・フロシール使用に関連した有害事象は認められなかった。

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フォンダパリヌクス、NSTEMIの日常診療に有効/JAMA

 フォンダパリヌクス(商品名:アリクストラ)は、非ST上昇心筋梗塞(NSTEMI)の日常診療において、低分子量ヘパリン(LMWH)に比べ院内および180日後の大出血イベントや死亡の抑制効果が優れることが、スウェーデン・カロリンスカ研究所のKarolina Szummer氏らの検討で示された。フォンダパリヌクスは第Xa因子を選択的に阻害する抗凝固薬。同国では、欧州心臓病学会(ESC)と保健福祉庁が第1選択薬として本薬を推奨して以降、NSTEMIの日常診療においてLMWHからの転換が急速に進んだが、臨床試験以外の非選択的な患者集団における評価は行われていなかった。JAMA誌2015年2月17日号掲載の報告。日常診療での治療転帰を前向きコホート研究で比較 研究グループは、スウェーデンのNSTEMI患者においてフォンダパリヌクスとLMWHの治療転帰を比較するプロスペクティブな多施設共同コホート試験を実施した。 対象は、“Swedish Web-System for Enhancement and Development of Evidence- Based Care in Heart Disease Evaluated According to Recommended Therapies(SWEDEHEART)”と呼ばれる同国のレジストリから選出した。 2006年9月1日~2010年6月30日までに、入院中にフォンダパリヌクスまたはLMWHの投与を受けたNSTEMI患者4万616例のデータが収集された。最終フォローアップは2010年12月31日であった。 主要評価項目は、院内における重度出血イベントと死亡、30日および180日時の死亡、MIの再発、脳卒中、大出血イベントの発生とした。院内出血イベントが46%減少、腎機能低下例、PCI施行例でも同様 フォンダパリヌクス群が1万4,791例(36.4%)、LMWH群は2万5,825例(63.6%)であった。ベースラインの年齢中央値はフォンダパリヌクス群が2歳若かった(72 vs. 74歳)。女性がそれぞれ36.5%、37.6%で、糖尿病が25.4%、26.9%、高血圧が56.5%、55.3%、喫煙者が21.0%、20.0%含まれた。 また、フォンダパリヌクス群でMIの既往歴のある患者(28.2 vs. 32.2%)およびうっ血性心不全の診断歴のある患者(14.5 vs. 18.7%)が少なかったが、出血イベントや出血性脳卒中の既往歴は両群間に差はなかった。入院中のPCI施行率は、フォンダパリヌクス群のほうが高率であった(46.4 vs. 38.9%)。 治療開始後の院内出血イベント発生率は、フォンダパリヌクス群が1.1%(165例)と、LMWH群の1.8%(461例)に比べ有意に低かった(補正オッズ比[OR]:0.54、95%信頼区間[CI]:0.42~0.70)。また、院内死亡率は、それぞれ2.7%(394例)、4.0%(1,022例)であり、フォンダパリヌクス群で有意に良好であった(0.75、0.63~0.89)。 大出血イベントのORは、30日時(1.4 vs. 2.1%、OR:0.56、95%CI:0.44~0.70)と180日時(1.9 vs. 2.8%、0.60、0.50~0.74)で類似し、死亡率のORも30日(4.2 vs. 5.8%、0.82、0.71~0.95)と180日(8.3 vs. 11.8%、0.76、0.68~0.85)でほぼ同等であり、いずれもフォンダパリヌクス群で有意に良好であった。 再発MIのORは、30日時(9.0 vs. 9.5%、OR:0.94、95%CI:0.84~1.06)と180日時(14.2 vs. 15.8%、0.97、0.89~1.06)のいずれにおいても両群間に差はなく、脳卒中のORも30日(0.5 vs. 0.6%、1.11、0.74~1.65)と180日(1.7 vs. 2.0%、0.98、0.79~1.22)の双方で両群間に差を認めなかった。 著者は、「腎機能が低下した患者でも、フォンダパリヌクス群のLMWH群に対する出血のオッズが低く、試験全体の結果と一致していた。PCI施行例でも同様の傾向がみられ、フォンダパリヌクス群の出血のオッズが低かったが有意差はなかった」としている。

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心房細動へのワルファリン、腎機能低いと大出血リスク増/BMJ

 心房細動でワルファリン服用を開始した高齢患者について、腎機能が低下しているほど、大出血リスクが増大することが明らかにされた。とくに服用開始30日以内でその傾向は顕著で、また消化管出血により増大することも示された。カナダ・カルガリー大学のMin Jun氏らが、アルバータ州の患者登録データを基に、約1万2,000例の患者について行った後ろ向きコホート試験により明らかにした。BMJ誌オンライン版2015年2月3日号掲載の報告より。eGFRにより被験者を6分類 研究グループは2003年5月1日~2010年3月31日の間に、心房細動でワルファリンの服用を開始した66歳以上の患者で、ベースライン時に腎機能測定を行った1万2,403例について調査を行った。 被験者について、推定糸球体濾過量(eGFR)に基づき、90以上、60~89、45~59、30~44、15~29、15(mL/分/1.73m2)未満、の6群に分類し評価した。なお、末期腎不全患者については除外した。 主要評価項目は、頭蓋内や上部・下部消化管などの大出血による入院や救急外来の受診だった。服用30日の大出血率、eGFR値15mL/分/1.73m2未満群で63.4/100人年 被験者の平均年齢は77歳、49.3%が女性で、45%がeGFR値60mL/分/1.73m2未満だった。中央値2.1年の追跡期間中、大出血を呈したのは1,443例(11.6%)だった。 ワルファリン服用30日間の補正後出血率は、eGFR値が90mL/分/1.73m2超の人で6.1/100人年(95%信頼区間:1.9~19.4)だったのに対し、15mL/分/1.73m2未満の人で63.4/100人年(同:24.9~161.6)と高率だった。ワルファリン服用30日超の出血率についても同様な傾向が認められたが、その差は小さかった。この傾向は、主に消化管出血によるもので、eGFR値が15mL/分/1.73m2未満の人の同発症リスクは、90mL/分/1.73m2超の人の3.5倍に上った。頭蓋内出血については、腎機能低下によるリスクの増大は認められなかった。 また、eGFR値にかかわらず、ワルファリン服用開始30日以内の重大出血の発生率は、それ以降の追跡期間に比べ高率だった。

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アリスミアのツボ Q20

Q20高血圧を有する心房細動患者での抗凝固療法はどう開始したらよいですか?まずは血圧管理から……。血圧管理が終わってから抗凝固療法を開始する心房細動と高血圧は蜜月いまや心房細動患者数はうなぎのぼりだと思いますが、そのほとんどに高血圧が合併しています。多くの疫学研究をみると、心房細動患者の80~90%に高血圧を合併しているというところでしょうか。つまり、ほとんどの場合、高血圧治療と心房細動治療を両者同時に行うということになりそうです。2つのことを同時に行えればよいが……では、この2つの治療をどの順序で行うべきでしょうか。両者同時に、あるいは個別に? 心不全に対するβ遮断薬とRAS抑制薬、どちらから始めるべきかという議論は決着をみることなく、できれば両者同時に、不可能なら個別に考えてという落ち着きどころがみえてきました。しかし今回の抗凝固療法と降圧、心房細動治療と高血圧治療には実はれっきとした順番があるのです。まずは高血圧治療から高血圧が残存している状態で、抗凝固療法が行われると、致命的な大出血を生じやすいことが知られているからです。心房細動で血圧が高い……これは脳梗塞のリスクが高いことを意味しているので、即座に抗凝固療法を開始したくなります。でもそこは思い留まって、まずできるだけ早急に血圧の是正を開始し、血圧が正常化するまでは抗凝固療法を開始しないという心構えを持つ必要があります。血圧が是正される前に脳梗塞になったらどうする? の逆質問もあります。医療自身によるharmはできるだけ少なくというのが私の方針です。

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アリスミアのツボ Q19

Q19超高齢者の心房細動に対して、どこまで抗凝固療法を勧めるべきなのでしょう?基本的に平均寿命の上下で分けて考えますが、見た目年齢が一番「入口戦略」だけでよいのだろうか日本、欧米を含めたすべてのガイドラインで、心房細動患者の脳卒中予防を積極的に勧めています。心房細動による脳卒中の頻度と悲惨さを知れば、もちろん私はそれに大賛成です。しかし、進む高齢化社会を考えると、少し心もとない気もするのです。CHADS2スコア、あるいはCHA2DS2-VAScスコアで、脳卒中予防に対する抗凝固療法の守備範囲ばかりを広げていく……それで大丈夫なのでしょうか。「入口戦略」ばかりが討論され、「出口戦略」はほとんど表だって討論されません。「65歳未満で基礎疾患のない心房細動」以外はすべて抗凝固療法(新規抗凝固薬が望ましい)……というESCガイドラインにのっとり、まだCHA2DS2-VAScを用いない日本のガイドラインに近いカナダのガイドラインにはすぐに欧米からケチがつく……。高齢化社会の中で「入口戦略」の入口をただひたすらその範囲を広げていくことには不安を感じます。1次予防と2次予防の立場は異なるこの問題は、1次予防を担っている医師と2次予防を担っている医師では、たぶん大きく感覚は異なるでしょう。2次予防の現場ではいくら高齢であるからといっても抗凝固療法をしないという選択肢は考えにくいでしょう。患者や患者家族も一度痛い目にあっている立場では、考え方が異なるものです。しかし、1次予防の現場では、一度も痛い目にあっていない患者、患者家族を前に、心房細動による脳梗塞を教育することに奔走し、どれだけ理解してくれたのかもわからず、大出血率の高い高齢者にどんどん抗凝固療法を行えば、いずれ脳卒中の前に大出血に出会うでしょう。しかも、抗凝固療法による大出血が引き金となって死亡に至ることも知っていると、そう簡単に入口の間口だけをただ広げるというわけにもいかないと思うのです。「フレイル」という概念しかし、年齢だけでものを語ることができないのも事実です。見た目年齢が重要……これはけっこうその患者のクレアチニンクリアランスに反映されている気もします。高齢医学では、「フレイル」という概念があります。青信号を渡れない患者、認知症を有する患者、独居老人などが挙げられています。このフレイルに相当する患者に抗凝固療法をまっとうに行うことはかなり困難でしょう。これはあくまでも個人的な考えの医療となってしまいますが、基本的に平均寿命以下ならガイドライン通りに、それ以上のフレイルに相当する患者では抗凝固療法を行わないという選択肢も医療としてありうると思っています。もちろんこれは医療者が決定することではなく、むしろ家族や介護提供者の意思がより重要視されるべきでしょう。

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皮膚科医が知っておくべき抗凝固薬と抗血小板薬の特性

 米国・ケース・ウェスタン・リザーブ大学のDeanna G. Brown氏らは、皮膚科臨床で新規の抗凝固薬や抗血小板薬を服用する患者と遭遇する機会が増えているとして、皮膚科医および皮膚科形成外科医が知っておくべき、従来および新規の抗凝固療法および抗血小板療法についてレビューを行った。Journal of American Academy of Dermatology誌オンライン版2014年12月6日号の掲載報告。 レビューでは、抗凝固薬や抗血小板薬をサプリメントとともに服用している従来および新規の抗凝固療法および抗血小板療法の、薬物動態、薬効、副作用を概説することを目的とした。 「アスピリン」「ワルファリン」「クロピドグレル」「ダビガトラン」「リバーロキサバン」「アピキサバン」「プラスグレル」「チカグレロル」をキーワードにPubMed検索を行い、経口抗凝固薬または抗血小板薬の周術期投与が強調されている最近のレビュー論文または出版物を選択した。さらに「皮膚科(dermatology)」「皮膚科手術(dermatologic surgery)」「皮膚手術(cutaneous surgery)」と「出血(hemorrhage)(bleeding)」「血栓症(thrombosis)」を関連させた検索も行った。 主な知見は以下のとおり。・アスピリン、クロピドグレル、ワルファリンは、投与量、モニタリング、有効性に関する情報が不十分である。・複数の試験で、ダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバンは、ワルファリンと比較して有効性は優っており、出血リスクは同等あるいは抑制することが示されている。・プラスグレルとチカグレロルは、出血リスクの増大と関係している可能性がある。・多くの店頭で販売されている薬物にも、出血リスクと関連する無視することができない抗凝固特性がある。・本検討は、デイサージャリー患者に対する新規の経口抗凝固薬の効果を評価している出版物がほとんどない点で限定的である。・これらの所見を踏まえて著者は、「新規の抗凝固薬、抗血小板薬は、心血管疾患の治療に革命をもたらしている。これらの薬物使用がより一般的になるにつれて、皮膚科医と皮膚科形成外科医は、日常診療において出血リスクが常に存在することを心に留めておかなければならない」とまとめている。

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本当の「新規の抗凝固療法」?従来のワルファリンヘパリンでは影響を受けない血液凝固第XI因子機能低下による「出血しない抗凝固療法」への期待(解説:後藤 信哉 氏)-294

 新薬が開発されると「主作用」が「副作用」より効率的に発現することが期待される。抗凝固薬では「主作用」は心筋梗塞、脳梗塞、心血管死亡などの血栓イベントの低減であり、「副作用」は「重篤な出血イベントの増加」である。 古典的な経静脈的抗凝固ヘパリンはトロンビンとXaの、古典的な経口抗凝固ワルファリンはビタミンK依存性のトロンビン、第VII、IX、X因子の阻害薬であった。今までは「新薬」と呼ばれても、フォンダパリヌクス、ダビガトラン、アピキサバン、リバーロキサバン、エドキサバンのすべてが、古典的なヘパリンワルファリンも作用するトロンビン、Xaを標的としていた。血液凝固カスケードにおいてトロンビン、Xaが重要な役割を演じていること、ヘパリンワルファリンのいずれもモニタリングによる用量調節が必須であったことから、トロンビン、Xaの阻害薬は古典的抗凝固薬よりも「主作用」の発現が「副作用」に比較して効率的であると言われても信じ難かった。 新薬開発メーカーは各種の工夫をこらして、古典的なヘパリンワルファリンに対する有効性または安全性の優位性を示そうと全力を尽くしたが、公開された各種ランダム化比較試験の結果は、新規の抗凝固薬使用時の「副作用」(重篤な出血合併症)の発現リスクが無視し得ないレベルであることを示した。 筆者の友人でもあるBuller 博士らは、古典的な抗凝固薬に影響を受けない第XI因子を標的として興味深い臨床研究成果を発表した。基礎研究としては、本邦からも宮崎大学の浅田教授らが第XI因子の機能阻害による動脈、静脈血栓発症予防の可能性を示唆していた1)2)。しかし、動物モデルにおいて設定された仮説は、ヒトを対象とした臨床試験においてしばしば正しくないことが示されるので、Buller らの今回の論文には大きなインパクトがある。 本研究の対象例は300例と少ない。本試験は薬剤の臨床開発としては安全性と用量設定を主眼とする第II相試験である。並行群間オープンラベル試験であり、エンドポイントも静脈造影による深部静脈血栓の発症を含むソフトエンドポイントである。仮説検証試験としての質は試験のデザインの観点から必ずしも高いとは言えないが、抗トロンビン薬、抗Xa薬にて果たせなかった「出血しない抗凝固療法」への期待の大きさを反映してN Engl J Medに採択となった。実際、本研究の筆頭著者であるBuller 博士は、新規経口抗Xa薬エドキサバンの静脈血栓塞栓症予防効果を検証したHOKUSAI試験のprincipal investigatorでもある。抗Xa薬の限界を実感したゆえに第XI因子阻害に期待したのであろう。 本研究にて使用されたのは「抗XI薬」ではない。血液凝固第XI因子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドである。血液凝固第XI因子の体内合成を阻害する。第II相試験でもあり、Buller 博士らsteering committeeが「投与量」、「投与時期」を試験期間内に変更している。生真面目なヒトが多い日本では「臨床試験のプロトコールは事前に決定されているべき」と定式に考えるヒトが多いが、欧米で施行される臨床試験では現実的に試験中途で「protocol amendment」を行うことが多いこともこの機会に学んでおこう! 「modify」でも「revise」でもない「amendment」で、現実的に合わないprotocolを「修正」しながらベストの結果を目指す欧米人の現時的対応が、本研究でも用いられている。 症例数は少ないが、膝関節置換術後に静脈造影にて検出される血栓の頻度は多い。本研究でも、標準治療のエノキサパリン群で30%に血栓を認めている。用量依存性にエノキサパリンよりも血栓が少なくなる可能性と重篤な出血イベントは、エノキサパリンよりも少なくなる可能性を示唆した本研究は、血栓症専門家の視点から興味深い。 Last Authorが血栓の大家であるWeitz博士なのでアンチセンスXIの作用機序を示した図1はいかにも真実性がある。しかし、筆者の知る限り、ヒトにおいて第XI因子の血栓と出血に関する関係を示した十分な症例を含むランダム化比較試験は、本試験が最初である。Weitz博士が示すような内因性凝固因子の血栓形成における寄与が構成論的に真実であるか否かの検証は、今後の課題である3)。

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