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EV71ワクチン、乳幼児対象の第3相試験で高い有効性と良好な安全性を報告/Lancet

 エンテロウイルス71(EV71)ワクチンの有効性と安全性、免疫原性について検討した第3相無作為化試験の結果、有効性は高く、安全性は良好で、免疫原性の維持が確認されたことを、中国・江蘇省疾病管理予防センター(CDC)のFeng-Cai Zhu氏らが報告した。EV71感染症は1974年に疾患報告されて以降、世界的に手足口病(HFMD)と関連した発生が、とくに乳幼児で多く報告され、過去10年では600万例以上の感染、2,000例以上の死亡が報告されているという。不活化アラムアジュバントEV71ワクチンは中国で開発され、成人および小児を対象とした第1相、第2相試験で安全性と免疫原性が確認されていた。今回の第3相試験は乳幼児を対象に、EV71と関連した疾患予防を目的とした評価が行われた。Lancet誌オンライン版2013年5月29日号掲載の報告より。6~35月齢児1万245例をワクチン接種群とプラセボ群に無作為化 第3相無作為化二重盲検プラセボ対照試験は、中国国内4施設において健常6~35月齢児を対象とし、無作為に1対1の割合で、ワクチン接種群とプラセボ(ミョウバンアジュバント)群に割り付け行われた。ワクチンは、0、28日に接種され、試験担当者および被験児と保護者には、割り付け情報は知らされなかった。 主要エンドポイントは、サーベイランス期間中(56日~14ヵ月)のEV71関連のHFMD発生およびEV71関連の疾患とした。解析は事前に規定した集団について行われた。 1万245例が登録され、5,120例がワクチン接種群に、5,125例がプラセボ群に割り付けられた。ワクチン有効性、EV71関連手足口病には90.0%、EV71関連疾患には80.4% 主要有効性解析の結果、ワクチン接種群(4,907例)のEV71関連HFMD発生は3例、EV71関連疾患の発生は8例であった。プラセボ群(4,939例)の発生はそれぞれ30例、41例であった。 ワクチンの有効性は、EV71関連HFMDに対しては90.0%(95%信頼区間[CI]:67.1~96.9、p=0.0001)、EV71関連疾患に対しては80.4%(同:58.2~90.8、p<0.0001)であった。 重大有害事象の報告は、ワクチン接種群1.2%(62/5,117例)、プラセボ群1.5%(75/5,123例)で有意差はみられなかった(p=0.27)。有害事象の発生も両群で有意差はなかった(71.2%vs. 70.3%、p=0.33)。

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少女へのHPVワクチン、2回接種で効果十分?/JAMA

 少女(9~13歳)へのHPVワクチン接種による免疫獲得について、6ヵ月間隔で2回の接種を受けた群が、6ヵ月以内で3回接種を受けた若い女性(16~26歳)に対し非劣性であったことが、カナダ・ブリティッシュコロンビア大学のSimon R. M. Dobson氏らによる無作為化試験の結果、示された。カナダでは2007年に、学校で接種が受けられる4価HPVワクチンプログラムが導入されたが、当初から高コストの問題が懸案事項となっており、2回投与の可能性が模索されていたという。Dobson氏らは、コスタリカで行われた先行研究で少女への2回投与による免疫獲得の成績が良好であったことを踏まえて、本検討を行った。JAMA誌2013年5月1日号掲載の報告より。少女2回接種群と3回接種群、若い女性3回接種群を比較 研究グループは本検討において、HPVワクチンの2回接種を受けた少女のHPV16型および18型に対する平均抗体価が、3回接種を受けた女性に対し非劣性であるかを調べることを目的とした。 試験は、2007年8月~2011年2月の間に多施設共同で行われ、830例のカナダ人女性が参加し、675例(81%)からフォローアップの血液サンプル提供を受けた。 試験では、少女(9~13歳)の被験者群は4価HPVワクチン「0、2、6ヵ月の3回接種群」(261例)か、「0、6ヵ月の2回接種群」(259例)に1対1の割合で割り付け、若い女性(16~26歳)の被験者群については「0、2、6ヵ月の3回接種」(310例)のみを行い、各群について0、7、18、24、36ヵ月時点で抗体価を測定した。 主要アウトカムは、7ヵ月時点での、2回接種少女群の3回接種女性群に対するHPV16型および18型の幾何平均抗体価(GMT)比の非劣性で、95%信頼区間[CI]の下限値>0.5を非劣性の定義とした。 副次アウトカムでは、2回接種少女群vs. 3回接種少女群のGMT比の非劣性(および36ヵ月の非劣性の持続)が検討された。2回接種少女群の非劣性示されるが、接種後24~36ヵ月で効果が失われる型も 結果、2回接種少女群の3回接種女性群に対するGMT比の非劣性が示された。HPV16型は2.07(95%CI:1.62~2.65)、HPV18型は1.76(同:1.41~2.19)だった。 また、2回接種少女群の3回接種少女群に対するGMT比の非劣性も示された。HPV16型は0.95(同:0.73~1.23)、HPV18型は0.68(同:0.54~0.85)だった。3回接種少女群の7ヵ月時点のGMT値は、HPV16型7,736mMU/mL(同:6,651~8,999)、HPV18型は1,730mMU/mL(同:1,512~1,980)であった。 GMT比について2回接種少女群の3回接種女性群に対する非劣性は、36ヵ月時点においても4型すべてについて持続していた。 2回接種少女群の3回接種少女群に対する非劣性は、7ヵ月時点では4型すべてにおいて認められたが、HPV18型については24ヵ月時点で、HPV6型については36ヵ月時点で非劣性ではなくなっていた。 著者はこの点の結果を踏まえて、接種回数を減らす勧告を出す前に、ワクチン効果の持続期間についてのデータを積み上げる必要があると報告をまとめている。

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生年月日でわかるあなたの風疹感染リスク! ワクチン接種済んでますか?

現在、大都市を中心に風疹の感染拡大が懸念されている。国立感染症研究所の発表によれば5月1日現在で5,442人(2012年では2,392人)の患者が報告され、昨年の2倍以上の感染者が確認されている。とくにワクチン接種を受けていない20~50代の成人を中心に感染が拡大、厚生労働省が中心となり、今後さまざまな施策が準備、施行される予定である。今回、この風疹の感染拡大とその対応について大曲 貴夫氏に話を聞いた。今回の風疹流行の原因について教えてください風疹は、実は2011年頃からじわじわと患者数は増えてきていました。原因としては、ワクチン未接種の免疫がない方が、人口密集地域で感染し、一気に拡大したと考えられています。現在、広くワクチン接種が呼びかけられていますが、接種のモデルタイプはどのような方ですか?やはりワクチン接種歴がないとされる20~50代の成人の方(とくに男性)です(図)。母子手帳などで過去のワクチン接種の正確な確認ができない場合は、未接種と考えてワクチン接種をした方がいいでしょう。よく、家族の方が、「子どもの頃に風疹をした」と言っていても、風疹かどうか曖昧な場合がほとんです。罹患した確実な証拠がない、あるいはワクチンの接種歴が分からないのであれば、まずはワクチンを接種すべきと考えた方がよいと思います。生年月日ごとの風疹含有ワクチンの定期接種の状況画像を拡大する風疹が引き起こす、成人や妊婦への影響について教えてください成人の方であれば、発疹、発熱、リンパ節の腫れなどが現れます。風疹は飛沫感染するために、他人に感染させないように症状が軽くても会社や学校を休まねばなりません。また、特に妊婦さん(妊娠24週頃まで)が、風疹に感染すると胎児の死亡、流早産につながったり、先天性風疹症候群を発症し、胎児が心疾患や難聴、白内障などの障害を持った状態で生まれてきます。そのため、妊婦さんやこれから妊娠を希望される方には、特に気をつけてもらいたいと思います。妊娠予定の方は、パートナーと共にワクチン接種を受け、その周囲の人も風疹にならないための配慮が必要です。現行のワクチン接種の問題点について教えてください現在の風疹ワクチンの接種については、大きく3つの問題があります。1つ目はワクチン接種の診療科の問題、2つ目は接種するワクチンの問題、3つ目は経済的な問題です。1つ目の問題は、どの診療科でワクチンを接種するかです。小児科が推奨されていますが、小児科に成人の方が集中する事態も問題であり、かといって一般内科のクリニックには、風疹ワクチンが用意されていないのが実情ではないでしょうか。地域の基幹病院などが推奨されますが、多忙な社会人が受診しやすい夜間や週末の診療はしていないところが多いです。もう少し接種へのアクセスがよくなればということが挙げられます。例えば東京都では、医療機関案内サービス「ひまわり」などで情報の提供を行っています。2つ目の接種するワクチンの問題ですが、風疹ワクチンだけではなくMRワクチンでも良いというのは、実はあまり知られていません。どちらかが自院に用意されているのであれば、接種を希望する方に勧めた方がよいということです。 過去に麻疹になったことがあったり、ワクチン接種済みの方が追加接種となっても、特に問題はありません。どちらもしっかり免疫をつけることができる、そして費用的にもお得です。3つ目は経済的な問題です。現在、各自治体が風疹への問題意識を持ってワクチン接種の助成を行っています。これは良い施策だと思いますが「妊娠を希望する女性とその配偶者」というように、非常に狭い枠での助成となっています。財政的な問題もあると思いますが、インフルエンザの予防接種並みに気軽に接種できるくらいまで、財政支援などの対応をいただきたいと思います。今後、地域の医療従事者が貢献できることを教えてください1つには、地域のワクチン対象者への啓発と誘導です。風疹の問題点は、飛翔感染で多くの人にも感染させることです。自分だけでなく、家庭、職場、学校でも迷惑をかけるということを、医療従事者が、何度も繰り返し説明していくことでワクチン接種の重要性を伝えていく必要があります。とくに妊娠適齢の女性の方は、先天性風疹症候群について詳しく知りません。今、ワクチン接種しておかないとどうなるのか、メリット・デメリットを含めて医療従事者が、外来の機会を通じて説明して、接種ができる医療機関へ誘導していくことが大事だと考えます。もちろん国立国際医療センター病院では、ワクチンを常備していますので、こうした医療機関を医療従事者が知っておくことも大切です。次は、ワクチン接種へのアクセス改善と接種時の問題発生への備えです。理想的には、なるべく多くの医療機関にワクチンを揃えてもらいたいと思います。また、ワクチン接種の時に、何らかの副反応が起る可能性もあります。一般的には発疹、紅斑、発熱などですが、重大な副反応であるアナフィラキシー様症状が出た場合の対応手順と緊急搬送先の確認など、再度チェックしていただきたいと思います。最後に風疹対策は、今行うことで先天性風疹症候群を防ぎ、子どもの未来を救うことになります。この点を医療に携わる方は意識していただければと思います。国立感染症研究所 風疹 参考 東京都感染症情報センター「ストップ 風疹」 参考 東京都医療機関案内サービス「ひまわり」 

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告白【いじめ(同調)】Part 4

いじめ対策―私たちが生かす取り組みいじめの危険因子を探っていくと、どうやら、学校の仕組みやあり方そのものに、いじめをはびこらせる要因があることが分かってきました。それは、「みんな仲良し」というベタベタ感(集団凝集性)と、クラスのノリ(同調)による不安定なルール(集団規範)でした。私たちは、クラスという集団と同じく、組織という集団にいます。ですから、私たちが、子どものいじめや学校社会の危うさをよく知ることで、大人のいじめや職場の組織のあり方を見つめ直すことができそうです。ここからは、いじめへの具体的な対策を考えることを通して、私たちの組織集団が、いじめや対人トラブルなどで煮詰まらずに、なるべく健康的であり続けるためのヒントを見つけていきましょう。大きく2つの対策が上げられます。それは、ベタベタ感(集団凝集性)をコントロールすること、そして、ルール(集団規範)がブレないことです。(1)ベタベタ感(集団凝集性)をコントロール―表2いじめの危険因子を探っていくと、どうやら、学校の仕組みやあり方そのものに、いじめをはびこらせる要因があることが分かってきました。それは、「みんな仲良し」というベタベタ感(集団凝集性)でした。本来、このベタベタ感は、友達作りのチャンスとして、ある程度は必要です。ただ、どの程度まで必要なのかという視点を持つことが大事だということです。なぜなら、このベタベタ感が行きすぎると、「仲良しの強制」になってしまい、関係が煮詰まり、逆説的に、いじめが起こり、大きくなり、長引くからです。そのベタベタ感の要素は、個体的な「近さ」(均一性)、時間的な「近さ」(固定性)、空間的な「近さ」(閉鎖性)でした。それでは、学校は、これらを具体的にどうコントロールしていけばいいのでしょうか?1. 人はそれぞれ違うことに気付かせる―多様化1つ目に問題なのが、個体的な「近さ」、つまり、集団のメンバー同士がどれだけ見た目や考え方が似ているか(均一性)でした。この「みんな同じ」という横並び意識は、集団主義の日本文化を土台に、平等、協調性、管理を重んじる学校文化によって、蔓延してしまいました。この均一性のコントロールのためには、学校社会における生徒たちの見た目と考え方に介入していく方法があります。a. 見た目の多様化まずは見た目です。制服は自由として、髪染めやピアスを含めたヘアースタイルの校則を緩和することです。この校則は、非行が蔓延した80年代には一定の効果はあったようですが、もはや時代錯誤の時期に来ています。b. 考え方の多様化次に、考え方です。もちろん、集団のノリに合わせることは大切な時はありますが、その物差しが全てではないことを学校教育として示さなければなりません。いじめが起こりやすくなる小学校高学年(前青年期)からは、学業、スポーツなどでの能力や頑張りをみんなに見える形で公表して、評価することです。子どもをなるべく競争に曝(さら)さないようにするという今までの教育のあり方は、「みんなと違うこと」に怯えてしまう「去勢」されたひ弱な大人になり、ストレス耐性を弱めてしまい(脆弱性)、引きこもりなどのメンタルヘルスの問題を引き起こしています。ディベートの授業を取り入れて、あえて相手と反対の主張をさせる取り組みも1つです。ある程度の競争や自己主張は必要だということです。なぜなら、そもそも大人の社会が競争と人それぞれの主張で成り立っているからです。学校教育としては、協調性というコミュニケーション能力だけの「競争」ではなく、競争はいくつもあるということを示すことです。そこから、世の中には、自分を計るいろんな物差しがある、いろんな価値観がある、つまり「みんなそれぞれ違う」ことに気付かせることです(多様化)。個体的な「間合い」です。自分が「みんなと違うこと」は、人と比べた自分の得意不得意を見極める良いチャンスでもあります。そうすることで、コミュニケーション能力だけでなく、自分の得意なことを伸ばすこと、自分流を見つけることに目が向きます。さらには、相手の違った価値観を受け入れていくことにもつながっていきます。相手との主張のぶつかり合いにこそ、相手への本音の理解や敬意を学んでいくチャンスがあるからです。c. 私たちが生かす取り組み「同じこと」が前提の価値観から、「違うこと」が前提の価値観へ発想を転換していく必要があることが分かりました。この多様化の視点で、私たちが組織集団に生かす取り組みとして、白衣やナース服の規定に幅を待たせることから、いろいろな経歴や出身の人材を幅広く受け入れることだということです。さらには、組織の考え方が同調圧力によって偏らないように(集団的浅慮)、自分たちから選ばれた人が、わざと反対意見を述べる役割を作る取り組みもあります(悪魔の擁護者)。ちょうど、「さくら」が根回によって同調するのとは真逆の役割です。そうすることで、他の人たちも違った意見を言いやすくなり、多角的で実りある話し合いが生まれていきます。2. 人間関係は変わっていくことに気付かせる―流動化2つ目は、時間的な「近さ」、つまり、集団のメンバー同士がどれだけの時間いっしょにいるかでした(固定性)。この問題点は、1年から2年という長期間で相手がほとんど変わらない、つまり、担任教師やクラスメートたちとの人間関係が固定化されてしまうことで、「みんな仲良し」が深まりすぎて、お互いのことを知り尽くしてしまうことです。そして、心の間合い(心理的距離)が近すぎることで、逆に必死に仲良くしようと気を使い、ヘトヘトになり、煮詰まることです。a. 組替え学期制この固定性のコントロールのためには、学校制度そのものに介入していく方法があります。まず、いじめが起こりやすくなる小学校高学年(前青年期)からは、組替えは1学期(半年)に1回はすることです。そして、クラス内の班替えや席替えも半月から1か月に1回することです。つまり、学校教育として、人間関係は、期間限定であること、人間関係は常に移り変わっていくことに気付かせることです(流動化)。時間の「間合い」です。その期間で、同じ友達と仲良くやっていく大切さだけでなく、時が来たら、新しく友達を作る大切さも学ぶことができます。もはや、いじめ自殺が現実に繰り返し起こっている以上、人間関係の煮詰まりを子どもに我慢させ続けることは、教育の本来の目的ではないはずです。b. 私たちが生かす取り組み流動化の視点で、私たちが組織集団に生かす取り組みとして、やはり組織は人材を循環すべきだということが分かります。組織の性質によって、期間はそれぞれですが、目安としては3年くらいではないでしょうか?長く同じ場所にいることは、勝手が分かってしまうだけに、「なあなあ」な関係になり、お互いへのチェックが甘くなり、隠蔽体質も芽生えてしまいます。古株が既得権を振りかざし、組織として停滞して腐敗するリスクが高まります。つまり、「流れない水は、やがて濁って腐る」というわけです。集団に人の出入りにより、流れがあることが必要不可欠です。3. 人間関係は教室の中だけではないことに気付かせる―開放化3つ目は、空間的な「近さ」、つまり、集団のメンバーがどれだけ閉ざされた空間にいるかという密閉性でした(閉鎖性)。この問題点は、望んでいない相手でも顔を合わせなければならないこと、そこから心の間合い(心理的距離)の調節ができないということです。少年Aは、いじめのターゲットになってから、誰からも話しかけられませんでした。このように、クラス全員で無視する、全員で悪口を言うなどのコミュニケーションタイプの陰湿ないじめが可能になります。この閉鎖性のコントロールのためには、学校教育の新たな試みが必要にあります。a. 集団を「またぐ」取り組みまずは、集団の境界をもっと「またぐ」ことです。すでに行われている「またぐ」ことは、合同クラス、選択教科別クラス、能力別クラスなど、いつもいるクラスとは別に設けられているクラスを受けたり、クラブ活動に参加することです。ただ、これだけでは、まだまだいつもいるクラスの影響力が大きすぎます。「またぐ」のは、クラス、学年だけではく、学校、地域、そして理想的には国までも広げていくことができないかということです。学年をまたいだ取り組みとしては、小学校高学年が低学年のお世話をすることです。すでに年1、2回程度の交流はあるようでが、重要なのは、このかかわりが、月1回程度に定期的にそして継続的になされることです。学校をまたいだ取り組みとして、一部の地域の試みで、中学校の生徒たちが小学生たちの世話をしているようです。このように、クラスメートとのヨコの関係と教師とのタテの関係だけでなく、先輩後輩というナナメの関係をもっと多く築くことで、人間関係の幅が広がります。また、サマーキャンプやイベント学習などへの参加は、地域をまたいだ取り組みです。さらには、交換留学を推し進め、留学生をクラスに受け入れ、そして外国に留学する中学生が増えれば、違う文化を受け入れることで、自分たちの中にある違う考え方や価値観にもっと理解を示すことができ、日本人はより国際的になっていくことができます。これらの「またぐ」ことを通して、クラスは開かれます。子どもたちに、人とかかわる選択肢はいくつもある、居場所はいくつもあることを知らせることは、人間関係は教室の中だけではないことに気付かせることになります(開放化)。空間の「間合い」です。また、そもそも、子どもの時に、いろんな人に会う、かかわり合うことは、大きな刺激です。心の豊かさやたくましさを育みます。このように、クラスが開かれていることで、クラスが「意気投合」「一致団結」して、みんなでターゲットを無視したり悪口を言うことが難しくなっていきます。ターゲットにされた生徒は、たとえ、無視される相手がいたとしても、別の人間関係でかかわりを持てる相手がいる以上、ただ、無視された相手との付き合いがなくなるだけになります。こうして、健康的な心の間合い(心理的距離)ができていくのです。b. 私たちが生かす取り組みこのように集団が開かれていることは、いろいろな外部へ目を向けることができます。その取り組みとしては、他のグループや科との勉強会や学会への参加です。つまり、情報も循環させる必要があります。さらに、集団が開かれることのもう1つの良さは、いろいろな外部からの目も向けられるということです。それは、監査からの目だけではなくなります。学生を受け入れることが決まってから、学生の目を気にして、急に病棟の雰囲気が変わったという病院がありました。学生やボランティアなどの外部のメンバーを定期的に受け入れることで、自分たちは彼らからどう見られるかとの客観的な視点に立つことができます(客観化)。そして、世の中での標準的な医療のあり方とはどういうものかという自分たち自身への意識付けにもつながっていきます(標準化)。(2)ルール(集団規範)がブレないこと―表3表3 クラスのルール(集団規範)がブレないための取り組み犯罪レベルのいじめ犯罪レベルではないいじめ例1. 加害者いじめは許されないこと、警察通報・被害届を出すということを伝え、貼り紙などで目に見える形にもする。2. 被害者いじめがなくなる保証をする3. 傍観者報告義務・通報義務があることを伝える4. 教師複数担任制5. 学校いじめを解決したことを評価する学校教育反省文奉仕活動学校社会は、「教育の聖域」として閉ざされていることで、外で起きた問題が中に入って来ないので、最も安全で守られた場所のはずでした。しかし、現在では、中で起きた問題が外に出て行かないので、最も危険な場所になっています。皮肉な話です。私たちは、いじめという言葉に惑わされすぎています。今まで、「いじめ」という名のもとに学校での犯罪行為が放置されてきました。問題は、いじめそのものではなく、恐喝、傷害、暴行、窃盗などの犯罪行為が学校で起こったというだけで「いじめ」という教育の問題として処理され、不問にされ、隠蔽され、事実上、野放しにされていることです。つまり、学校が無法地帯だということです。そこで、この学校の中の無法地帯を学校の外の市民社会と同じようにするためには、何が必要でしょうか?もう1つの対策は、学校の外のルールと同じように、学校の中のルール(集団規範)がブレないことです。ここから、いじめを、犯罪レベルのいじめと犯罪レベルではないいじめに分けて整理して見ていきましょう。1. 犯罪レベルのいじめa. 学校以外の場所で行われているとしたら映画の中で、少年Aと美月が教室で手足の自由を奪われ、無理矢理キスをさせられるシーンがありました。もしも、この行為が学校以外の場所、例えば駅前のカラオケ店の一室で行われていたとしたら、どうなるでしょうか?きっと見つけた店員は警察通報するでしょう。つまり、犯罪レベルのいじめとは、その後に教師が介入できたとしてもできなかったとしても、カラオケ店で行われていたとしたら、そこの店員はすぐに警察通報するというレベルであることです。また、少年Aのノートなどの持ち物への落書きや、それらをゴミ箱への投げ捨て、教室の窓からの投げ落としのシーンでは、それらがカラオケ店の備品と考えればどうでしょうか?実際、このような行為が繰り返され、学校の介入でも改善されないのであれば、やはり、加害者を特定して、録画などの証拠を持参し、学校が警察に被害届を出すべきです。しかし、実際の学校ではどうでしょうか?生徒への「教育的配慮」や、生徒との「信頼関係」を理由に、警察の介入を望まない教師や学校が多いのではないでしょうか?もちろん、生徒・教師・保護者の間の信頼関係をもとにした教育的配慮は必要です。しかし、誰かを傷付けている犯罪レベルの状況で、加害者の生徒を学校の外のルールに委ねないことに一体、どんな「教育的配慮」や「信頼関係」の意味があるのでしょうか?そんな状況で、そもそも被害者はどうなるのでしょうか?b. 被害者への取り組み―「絶対に死ぬな」とは言わない映画の熱血教師のウェルテルは、授業中に、クラスメート全員の前で、いじめの被害者は少年Aだと名指しします。そして、「それぞれの個性をどんどん磨いていってほしい」との話にすり替わり、「みんなもう二度とやるなよ」などとのニュアンスで力強く一方的に説教して終わります。具体的にどんないじめなのか、具体的にどうしていくのかなどの話し合いが一切ありません。いじめ自殺が騒がれる昨今、被害者へのかかわりが注目されています。ウェルテルのような熱血教師なら、いじめ被害者に「命の大切さ」を語り、「絶対に死ぬな」と言いそうではないでしょうか?しかし、実は、このかかわりは、効果が期待できないばかりか、逆に、とても危ういのです。なぜなら、「命の大切さ」を強調することは、「大切にされていない自分の命は何なんだ」と被害者を混乱させてしまい、追い詰めてしまうリスクがあるからです。さらには、「絶対に死ぬな」と説教したとしても、いじめによって思考が「麻痺」している被害者には、「死ぬか生きるか」という究極の2択を指し示すことになってしまい、結果的に自殺のリスクを高めてしまいます。被害者へのかかわりとして、優先的なことは、加害者に絶対にいじめをさせない具体的な厳しい取り組みをすることを保証することです。間違っても、被害者に、「仲良くしなさい」と説教したり、加害者と無理矢理に握手させようとしないことです。c. 加害者への取り組み―モラルだけではなく、ルールにも訴える加害者が特定できたとしたら、ウェルテルなら「いじめは良くない」と涙目で熱く語るでしょう。しかし、このようにモラルに訴えるのには、限界があります。なぜなら、いじめは集団心理の病理だからです。そして、彼らにとってモラルよりも「おもしろさ」が上回ってしまうからです。さらに言えば、彼らは反抗期の真っただ中で、人権やヒューマニズムなどのきれい事や「大人の正論」は生理的に受け付けられないという心理の発達段階にあるからです。よって、「いじめは良くない」というモラルに訴えるだけでなく、「いじめは許されない」「いじめは罰せられる」というルールに訴えることが必要不可欠です。つまり、いじめは、犯罪レベルであれば、学校であっても、教師の裁量によってではなく、その行為そのものによって、警察通報され、司法の介入があるというメッセージを生徒に伝えることです。もっと言えば、いじめかどうかについて判断する前に、暴力などの犯罪があったかどうかについてまず判断するということです。犯罪レベルのいじめをした場合には、学校の「教育的配慮」や、教師との「信頼関係」だけではもはや限界があるということをあらかじめ生徒に伝えることです(限界設定)。この警察通報が「自動的」になされるという限界設定は、いじめの抑止の効果を大いに期待できます。さらには、それでもいじめが事例化した時は、その加害者のためにもなるということです。なぜなら、警察通報されると分かっていてもいじめをする加害者は、家族の問題や発達の問題を抱えている可能性が高いからです。これらの問題は、学校教育だけでは太刀打ちできません。児童相談所の一時保護などの社会的な介入や精神医学的な評価による医療的な介入が早期に必要になります。誤解されがちですが、いじめの警察通報は、懲罰が目的ではなく、あくまで教育や更生が目的だということです。さらには、暴力などの犯罪レベルのいじめを見た他の生徒は、その場で介入できないとしても、少なくとも市民社会のルールとして、教師や管理者への報告義務、場合によっては警察への通報義務があることを教師からはっきり伝えることです。さきほどの例にあげたカラオケ店の店員がもし「見て見ぬふり」をしたら、通報義務を怠ったと咎められるでしょう。咎められるのは学校の外でも中でも同じことであることを、教師は生徒に伝えるだけでなく、教室に貼り紙を貼るなどみんなが見える形にする取り組みも必要です。d. 教師への取り組み―複数担任制映画の中で、ウェルテルは、少年Bの不登校を抱え込んでいます。同僚や校長には、一切相談していません。この「抱え込み」の心理は、全て自分で解決しよとするあまりに独りよがりになってしまい、生徒との「信頼関係」が「身内」「見逃してやる」にすり替わってしまう危険性があります。同調的な日本文化のもとで、「信頼関係」は、「馴れ合い」「甘え」と紙一重でした(表1)。つまり、「教育的配慮」という大義名分のもと、この「信頼関係」によって、「学校が犯罪を『いじめ』というだけのことにしてくれる」「学校の中なら先生がもみ消してくれる」という動機付けを生徒にさせてしまい、結果的に、いじめ加害者を作り出しているとも言えます。そもそも、教師の社会が、チームプレイではなくなってきている現実があります。教師への評価制度の導入によって、教師も実は、生徒と同じように管理され、競争させられているという現実があります。これは、教師への評価制度の1つの弱点と言えます。よって、自発的に相談することが難しいなら、生徒を教師が複数で見るという連携と責任の共有の仕組みを作る必要があります。複数担任制です。また、いざという時は、警察通報という限界設定があることで、警察という学校の外部の目が入るという心理によって、警察官から自分たちはどう見られるかという教師自身への意識付けにもなり(客観化)、学校の開放化につながります。e. 学校への取り組み―評価する仕組みを変えるさらに根深い問題は、生徒たちが期待する「もみ消し」「握りつぶし」を学校側が自発的に行うこと、つまり、学校の隠蔽体質です。どうして、「正しくあるはず」の学校に隠蔽体質が起こってしまうのでしょうか?それは、実は「正しくあるはず」という私たちの固定観念そのものが、学校を隠蔽体質に追い込んでいるとも言えます。なぜなら、いじめの発生自体、教師や学校しては「正しくあるはず」出来事ではないからです。つまり、いじめの発生自体で、教師や学校の管理責任を問われてしまう可能性があるので、教師も学校も自分の評価を下げたくないのです。こうして、いじめは、「なかったこと」にされ、うやむやにされてしまいがちになります。そして、学校の隠蔽体質はより大きくなっていくのです。いじめは、集団心理の問題や加害者の家族や発達の問題などが絡むため、もはや、教育現場だけの取り組みや心構えでは、最初から「撲滅」することは不可能なのです。世の中で広く共有すべきは、学校でいじめは起きるものだ、大事なのは、起きたかどうかではなく、どう解決したかであるということです。いじめが起きたことだけで、教師や学校を責めるべきではないということです。いじめを「起こさなかった」教師や学校が評価されるのではなく、いじめを「解決した」教師や学校が評価される仕組みを作る必要があります。また、生徒からいじめの報告を受けた教師は、どう対処したかの報告義務があるようにします。このような仕組みへ早急に改善していく必要があります。2. 犯罪レベルではないいじめ―いじめの「予防ワクチン」まず、そもそも人が社会的な動物である限り、いじめはいつでも生まれてしまうことを理解しなければなりません。そして、大事なのは、それぞれのいじめを大きくさせないこと、長引かせない仕組みを作ることです。皆さんは、テレビのいじめ報道で、「いじめ撲滅」などというスローガンを掲げている学校をよく見かけませんか?よくよく考えてみれば、人間が序列を好む社会的な動物であり、いじめに本能的な要素があるという現実を直視する以上、「いじめ撲滅」は実現不可能な「おとぎ話」です。仮に実現したとして、果たして子どもがいじめに対して「無菌状態」になっていいのかという問題もあります。なぜなら、大人の社会でも、いじめはれっきとしてあるからです。むしろ、いじめへの「免疫力」を付けるために、「予防ワクチン」として「小さないじめ」は必要ではないかということです。悪口を言われたり無視されたりするなどのコミュニケーションタイプの「小さないじめ」は、心理的な成長の発達段階においてある程度は経験した方が、被害者は自分自身を見つめ直し、そして相手との力関係をそこで認識しようとします。大人のいじめへのトレーニングとしてむしろ良いかもしれないということです。大事なのは、コミュニケーションタイプのいじめが、ベタベタ感(集団凝集性)のコントロールによって、小人数でしかもすぐに終わらせることです。それでも、終わらない時こそ、まさに、学校教育の出番になります。反省文を書かせたり、奉仕活動をさせるなどのルールを明確に設けることです。3. 私たちが生かす取り組み同調性が高い日本文化に生きる私たちだからこそ、逆に、ルール(集団規範)が揺らぐ危うさを知っておかなければなりません。そして、ルールがブレないような取り組みが必要です。その取り組みは、大きく3つあります。1つ目は、管理者がルールのモデルとなることです。例えば、管理者が、性格的に優しすぎて「なあなあ」であったり、精神的に弱っていたりするなど、統率力が弱まっている時は危ういということです(アノミー)。2つ目は、管理者はブレないことです。例えば、管理者が感情的で、時間や状況によって態度が極端に違う場合や(ダブルバインド)、強気なスタッフがミスした時は、気を使って受け流す一方、弱気なスタッフには小言が多いなど、管理者が相手によって態度を変えている時は危ういです(ダブルスタンダード)。また、集団内でのトラブルが起きたら、隠さず、オープンにすることです。そして、ブレない公平なルールに乗っかるべきです。私たち日本人は、トラブルで目立つことは迷惑になり恥ずかしいと思いがちです。しかし、隠すことが、この映画のような閉鎖性や葛藤を生み出します。トラブルにこそ「見える」化が必要です(客観化)。3つ目は、集団のメンバーの大半が、適度な心の間合いを持つことです(心理的距離)。例えば、個人的なことに無暗に首を突っ込んだり、共通の敵をつくろうと誰かの悪口を盛んに言い、共感を求めようとする人がいる時は危ういです。そういう時は、「そうなの?」と話は聞いて受容しつつ、「私、鈍くてよく分からない」とはっきりしたことを言わず、同調をしないのがコミュニケーションのコツです。以上のように、集団が、同調やトラブル隠しによる葛藤や緊張などの感情の高ぶりが少なく、ルールという理性がうまく働き、ブレていないかが健康的な組織作りのコツになります。健康的な組織作り―表4映画「告白」を通して、いじめのメカニズム、具体的ないじめ対策、私たちが生かす取り組みを探ってきました。キーワードは、同調です。そして、この同調は、具体的ないじめ対策で提案した、ベタベタ感(集団凝集性)のコントロール、ルール(集団規範)がブレないことに加えて、私たちが生かす取り組みで触れた「見える」化(客観化)を合わせた3つの要素でバランスをとることができます。私たちは、これら3つの要素をより見つめ直していくことで、より健康的な組織作りができるのではないかと思います。表4 健康的な組織作りベタベタ感(集団凝集性)をコントロールルール(集団規範)がブレない「見える」化(客観化)例1. 多様化違う経歴や出身悪魔の擁護者2. 流動化人材の循環3. 開放化他のグループや科との勉強会や学会(情報の循環)学生やボランティアの受け入れ管理者がルールのモデル管理者がブレないスタッフが心の間合いを保つ外部に目を向ける外部の目を入れるトラブルはオープンにする1)「告白」(双葉文庫) 湊かなえ2)「いじめの構造」(講談社現代新書) 内藤朝雄3)「いじめの構造」(新潮社) 森口朗4)「教室の悪魔」(ポプラ文庫) 山脇由貴子5)「ヒトはなぜヒトをいじめるのか」(講談社) 正高信男<< 前のページへ

1885.

ショーシャンクの空に【心の抵抗力(レジリエンス)】[改訂版]

「あ~もう嫌になる!」みなさんは、仕事や人間関係でうまくいかなかったり、移った職場で慣れなくて居心地が悪かったりして、「あ~もう嫌になる!」と絶望的になったことはありませんか?そんな時、みなさんの心に何が起きているのでしょうか?そして、どうしたらこの気持ちから救われるのでしょうか?これらの疑問を踏まえて、今回は、映画「ショーシャンクの空に」を取り上げてみました。舞台は、1940年代後半から1960年代頃までの、とあるアメリカの刑務所。主人公の20年の歳月をかけた刑務所での生活が描かれています。このストーリーを追いながら、メンタルヘルスの視点で、心の抵抗力(レジリエンス)について、いっしょに考えていきましょう。ストレス因子―心の風邪ウイルス主人公のアンディは、もともと若くして有能な銀行員で、妻といっしょに裕福な暮らしをしていました。しかし、彼の妻は不倫をしており、しかも彼女の愛人とともに何者かに銃殺されてしまったのです。そして、彼は、身に覚えのないまま、状況証拠から、妻とその愛人を殺害した罪で終身刑を言い渡され、ショーシャンク刑務所に収容されてしまいます。刑務所では、所長に「命を私に預けろ」と宣告され、全裸にされ乱暴に消毒薬の粉をかけられ、そのまま独房が並ぶ廊下を歩かされます。囚人虐待を予感させます。その後、アンディは男色の囚人たちに目を付けられ、集団で暴行されレイプされます。看守たちは見て見ぬふりの無法状態です。そして、それが刑務所の日常業務の1つのようにして繰り返されるのでした。時には反撃しますが、暴行はとどまるところがなく、まさに絶望的なのでした。アンディのストレスとなる原因(ストレス因子)として、妻の裏切りと喪失、濡れ衣、終身刑、囚人虐待、集団レイプがあげられます。彼はくじけそうになり、精神的に限界に達しようとしていました。私たちも、彼ほどではないにしても、日々の生活の中で、このストレス因子という心の風邪ウイルスにより、心の風邪(うつ)をひいて、ふさぎ込むことはあります。このストレス因子を整理して見ると、対人関係、環境変化、燃え尽き(過剰適応)の3つに大きく分けられます(表1)。表1 ストレス因子の例対人関係環境変化燃え尽き(過剰適応)例職場・学校・地域・家庭でのトラブル離婚、結婚(「マリッジブルー」)喪失、死別(「ペットロス」なども含む)就職(5月病)、退職、解雇、昇進転居、転勤、転職、転校カルチャーショック施設症身体疾患(疼痛、不自由など)育児ノイローゼ介護疲れ(介護ノイローゼ)新人(新入生や新入社員)の張り切り過ぎ(4月病)レジリエンス―心の抵抗力アンディが受けた囚人たちからのレイプの関係とは対照的に、調達屋で友人のレッドとの友情が引き立ちます。この映画の醍醐味の1つとも言えます。アンディはレッドに趣味の鉱物集めのためにとロックハンマーを調達してもらいます。刑務所の中の時間はゆっくりと流れていきます。2年後のある時に、屋根掃除のボランティアが募られました。この時、レッドは「このままだと彼は廃人同然になる」と思い、彼の計らいで、メンバーにアンディが引き抜かれます。レッドはアンディを何とか救いたいと思ったのでした(ソーシャルサポート)。屋根掃除をしているさなか、たまたま看守が遺産相続で愚痴をこぼしているのを小耳にはさんだアンディは、もともと銀行員であった知識を生かし資産運用をアドバイスします。その見返りとして、なんと意を決して、掃除メンバーにビールを振る舞うように申し出るのです(積極性)。まさに、アンディ自身が囚人たちにとっての「救世主」となるのです。アンディの狂気に陥りそうになる中での人間らしさを求める気持ちが伝わってきます。それは、彼を思いやるレッドの存在と同時に、彼がレッドを含め多くの仲間たちへの思いやりです(愛他主義)。ビールを片手に、メンバーたちは、アンディに感謝すると同時に一目置くようになります。その後、その能力を買われたアンディは刑務所職員たちの税理士となり、所長にも大目に見られるようになります。刑務所職員からも一目置かれる存在になり、強姦魔たちは排除されます。アンディは生き生きとし自尊心を取り戻し、図書室の改造や刑務所全体にオペラを流すなど、様々なことに精力的に力を注いでいきます。オペラの歌声が響き渡り、荒みきった囚人たちの心がひと時、潤されるシーンは感動的です。アンディが様々な苦難にくじけずに乗り越えてきた理由が、ストーリーを追っていくうちに見えてきます。それは、彼には、苦難という心の風邪ウイルス(ストレス因子)を撥ね返す心の抵抗力(レジリエンス)が強かったからでした。これから、このレジリエンスという心の抵抗力の要素を、他の登場人物と比べながら、もっと掘り下げていきましょう。スキーマ―生き様という心の習慣図書室の係員であるブルックスは50年という歳月を刑務所で過ごしてきました。一番の古株です。その彼に仮釈放処分が許可されたところから事態が急展開します。彼は出所を拒む気持ちから、仮釈放取り消しを望んで、気が動転して、なんと仲間にナイフを振り回してしまいました(衝動性)。あまりにも長い年月、塀の中にいると逆にその居心地が良くなってしまうのです。もはや塀の外でやっていくだけの自信がないのでした。レッドも気付きます。「ブルックスはここでは教養があり大事にされているが、外ではただの老いた元服役因だ」「あの塀は、最初に憎み、やがて慣れ、最後に頼るようになる」「これは施設慣れ(施設症)だ」(表1)と。ブルックスが刑務所での役割を見出し、そこが自分の居場所であると確信していました。ちょうど風邪ウイルスから体を守るために、マスク、手洗い、うがいをする習慣のように、心の風邪ウイルス(ストレス因子)から心を守るために、私たちはそれぞれが良しとしている心の習慣を持っています(スキーマ)。それは、考え方の癖、生き方、生き様、人生観があります。そして、この心の習慣(スキーマ)が周りから見てあまりにも偏っている場合は、問題が起きてしまいます(認知の歪み)。それはちょうど、風邪を予防しなければならない時に、あえてマスクを付けなかったり、手洗いやうがいをいい加減にしてしまうようなものです。適応障害―心の風邪(うつ)結局ブルックスは出所します。半世紀を経て外の世界が大きく変わったことに驚きます。与えられた仕事であるスーパーマーケットのレジ係に慣れず、上司からは嫌われ、気遣ってくれる仲間もいなくて、新しい生活を送ることがつらくなっていきます。また、「悪夢で眠れない」「不安から解放されたい」と思い詰めていきます。出所後の慣れない生活環境 (ストレス因子)が心の習慣(スキーマ)に合わず、心の風邪をひいています(適応障害)。そして最後は、「おさらばすることにしました」とあっけなく(衝動性)、自宅アパートで首を吊ってしまいます。レッドが後に「ここ(刑務所)で死なせてやりたかった」と言ったように、ブルックスほどにもなると、もはや居場所は刑務所しかなかったのかもしれません。ブルックスは、もともとの衝動性や「刑務所が自分の本当の居場所」という凝り固まり偏った考え(認知の歪み)に、出所後の孤独が重なり、心の抵抗力はとても弱くなっていた(脆弱性)と考えられます(表2)。実際に最近の日本でも、出所しても社会での居場所がないため軽犯罪を繰り返し、再び入所するケースが問題視されています。出所後、彼らにどういう適応環境が提供されるか(ソーシャルサポート)、また彼らがどういう適応環境を見出すことができるか(認知再構築)が大きな課題です。実は、この問題は、精神科病院に長期入院をしている患者にも通じることです。入院期間が年単位の患者ともなると、病院生活がいかに楽かうすうす気付いてしまい、むしろ安住し、居付いてしまうのです。そして、地域や病院の手助けがあるのに、自分で生きていくことを拒むようになります。また、家族も本人が家庭にいないことが当たり前になってしまい、今の生活を続けたいと思い、家族も受け入れに対して強い抵抗を示すようになります。仮に退院しても、本人が新しい生活に慣れず、すぐ再入院してしまうケースも多く、医療関係者の頭を悩ませる1つになっています。表2 脆弱性とレジリエンスの比較脆弱性レジリエンス意味ストレスへの心の脆さ、弱さストレスを撥ね返す心の抵抗力(立ち直る力、打たれ強さ)要素本人(個人)衝動性偏った考え方(認知の歪み)マイナス思考消極性無力感、受身自己本位客観視ユーモア希望を持つプラス思考積極性他者への思いやり(愛他主義)助けを求める能力(社交性)周り(社会)つながりなし(孤独)家族、仲間、地域、職場とのつながりアスピレーション―心のワクチン20年の月日が流れ、新入りトミーが入所します。憎めないトミーにアンディは父親のように接し、勉強を教え、高校卒業資格を取らせます。その後、奇遇にも、トミーはたまたまアンディの妻とその愛人を殺害した真犯人の話を知っていました。ついに、アンディの無実が明るみになります。アンディは、所長に掛け合いますが、所長は全く取り合ってくれません。所長に金銭面での違法な便宜を図り悪事を支えているアンディは、所長にとって、なくてはならない存在にまでなっていたからです。その直後、トミーは密かに射殺されます。そして、アンディは監禁房に入れられてしまいます。アンディが2ヵ月間も監禁房にいて正気が保てたのは、ひとえに彼を希望が支えていたからでした。彼の希望とは、脱獄し、ジワタネホという楽園に行くことでした。このように、「自分の人生をどうしたいのか」というはっきりとした希望、目標、生きがいがあること(アスピレーション)は、苦難を生き抜くための大きな原動力になります。このアスピレーションは、ちょうど、風邪をひかないために、ある一定期間に免疫力を高めるワクチン予防接種のように、心の抵抗力を高める心のワクチンと言えます。レッドが昔、アンディに「希望は危険だ」「塀の中では禁物だ」「正気を失わせる」と言い諭したことがありましたが、非常に対照的です。セルフモニタリング―心を鍛えるようやく監禁房から出た後、アンディは、レッドに漏らします。「自分が妻を死に追いやったも同然だと思う」「こんな私が彼女を死なせた」「そして、もう十分すぎるほどの償いをした」と。自分の運命を受け入れているという前向きな発言です(プラス思考)。「私は運が悪いな」「不運は誰かの頭上に舞い降りるけど、今回は私だった」「それだけのことだけど、油断しちゃったな」とユーモアも交えています。これらの考え方の基になるのは、彼が自分自身を冷静に見つめ直し、客観視していることです(セルフモニタリング)。このセルフモニタリングの能力は、ちょうど、風邪をひかないように体を鍛えて血の巡りをよくするのと同じく、心の風邪をひかないよう心を鍛えて心の血の巡りをよくしていくことであると言えそうです。ただ、この心の鍛えることは、「スポ根(スポーツ根性)」のような単に無理に我慢すること(忍耐力)とは違います。その理由は、単なる我慢強さは、燃え尽き(過剰適応)に陥るリスクを高めてしまうからです(表1)。自分の独房に戻った時、アンディは思い立ちます。脱獄する時が来たと。かつてレッドに調達してもらった大きなポスターが貼られてある独房の壁の向こうには、彼が小さなロックハンマーで密かに20年の歳月をかけて地道に掘った穴が続いていたのです。彼は、自分の運命を受け入れ、さらに時間をかけて打開しようとしていたのでした(積極性)。その穴の向こうには確実に希望がありました。小さな穴道を必死に這いつくばり、最後は塀の外の下水管から這い出ていきます。そして、汚物まみれのアンディは恍惚とします。祝福の雷雨に、汚物と過去に背負ってきた全てのものを洗い流されながら。この映画のクライマックスと言えるシーンです。その後すぐに、アンディの告発によって、所長の悪事が明るみになります。所長は、様々な聖書の一節を引用する偽善者でしたが、駆けつけてくる警察車両を彼は窓から見つつ、壁に刺繍で書かれた聖書の一節が眼に飛び込んできます。「主の裁きは下る。いずれ間もなく」と。見ている私たちには、してやったりの瞬間です。追い詰められた所長は咄嗟にピストル自殺します。ソーシャルサポート―人薬という心のビタミン剤アンディが去った刑務所で喪失感を感じるレッドにも、やがて仮釈放処分が下ります。そして、かつて自殺したブルックスと同じ道を辿っていきます。ブルックスが住んだアパートに住み、ブルックスと同じスーパーマーケットのレジ係の仕事に就きます。長年、刑務所で調達屋としての地位を築いていた彼は、塀の一歩外に出てしまうとただのスーパーのレジ係に過ぎず、自分を必要としてくれる仲間はそこにはいません。レッドは塀の外に出て初めて、ブルックスと同じように正気を失いかけていました。彼は、ブルックスと自分を重ね合わせて思います。「毎日が恐ろしい」「おびえなくて済む安心できる場所へ行きたい」と。その時、かつてアンディが脱獄前に言った言葉を思い出しました。ある場所に行けと。そこは二人が出会う約束の場所でした。それは、まさにレッドにとっての一筋の希望(アスピレーション)でした。希望は、正気を失いかけていたレッドも救ったのでした。希望とは、ポジティブな見通しであり、心の抵抗力(レジリエンス)としてとても重要であることが分かります。また、自分とつながっている人がいること (ソーシャルサポート)も大切であることが分かります。これは、風邪をひかないためのビタミン剤のように、心の風邪をひかないための「人薬(ひとぐすり)」という心のビタミン剤と言えます。ブルックスと比べて、レッドの状況は大きく違っています。アンディが待っていると気付いたことで、レッドは初めて本当の自由を実感したのでした。そして、「希望には永遠の命がある」と思うまでになりました。ブルックスにも、地域で行きつけのお店ができて、顔馴染みの知り合いでもできれば、また状況は変わったかもしれません。表3 心の抵抗力(レジリエンス)の違いブルックスレッドアンディレジリエンス×衝動的×認知の歪み×出所後に孤独△出所後に一時孤独◎アンディとの約束○冷静○仲間思い◎希望を持つ心の抵抗力を高める具体的なコツ私たちは、アンディから心の抵抗力(レジリエンス)を高める様々なコツを学ぶことができました。これらは、それぞれ連動し合い、強め合っています。これから、それらを大きく3つに分けて整理し、具体的に私たちにもできることを考えていきましょう。(1)心を鍛える(セルフモニタリング)1つ目は、心を鍛える、つまりは、自分を冷静に見つめ直す癖を付けること、つまり自己客観視です(セルフモニタリング)。具体的には、自分自身の行動や気持ちを記録したり日記をつけて、心の風邪ウイルス(ストレス因子)を書き出して、言葉にすることです(外在化)。これは、例えば、「神様にいつも見守られている(=いつも見られている)」という信者が神様の視点で自分自身を見る心理でもあります。また、カリスマ歌手である矢沢永吉の熱烈なファンが、「自分は困った時、『永ちゃんだったらどうするんだろう』っていつも考えるんだよ」と語る発想にも似ています。尊敬する人の視点で自分自身を見ることにより、自分自身への気付きを高めていると言えます。また、気持ちが揺らいできたら、そこでわざと自分を実況生中継して、自分自身への気付きを高めるのも手です(マインドフルネス)。例えば、あなたは今お腹が空いてイライラしてレストランで注文した食事を待っているという状況。「『お腹が空いた』と○○(自分の名前)はいら立っている」「なぜかと言うと・・・」と実況中継します。すると、どうでしょう?自分じゃない誰かの視点に立つことで、自分自身の心から距離が取れた感覚(メタ認知)になりませんか?このように、もやもやとした感情を理性的な言葉にすること(外在化)で、理性が、感情の手綱を握ることができるようになります。さらには、お笑いネタのように自分自身に突っ込みを入れること(ユーモア)も良いです。これらは、車の運転や楽器の習い事のように、理屈を頭で理解すると同時に、別の視点や様々な発想(認知パターン)を感覚的に刷り込むトレーニングです。こうして、心を鍛えることで、やがていら立ちも意識しにくくなっていきます。(2)アスピレーション2つ目は、はっきりとした希望、目標、生きがいを持つことです(アスピレーション)。自分は「こうしたい」や「こうなりたい」(ロールモデル)という強い気持ちがあることで、人生をより前向きに(プラス思考)、より積極的に生きて行こうという発想になります。これは、1つ目のコツの自己客観視(セルフモニタリング)が基になっています。例えば、誰かのために何かをした時、「いいように使われた」と損得勘定だけでマイナスに思ってしまったら(外発的動機付け)、同時に「自分を役立てることができた喜びと楽しさがあった」「お仕えすることができて幸せだ」との前向きで積極的な発想も持ち、そして強めていくことです(内発的動機付け)。また、苦しい状況の中に意味を見出すのもコツです。例えば、「あっ、今、自分は試されている」「これは自分の目標に達するための試練だ」と発想を切り替えることです。これらの発想は、全てアスピレーションという希望や目標があることで支えられていると言えます。(3)ソーシャルサポートそして、3つ目は、家族や仲間とのつながりを保つこと、つまりは人薬です(ソーシャルサポート)。そのためには、まず家族や仲間への思いやりが大切であることが分かります。独りぼっちには思いの外、危うさがあります。そして、つながっていることで、自分の役割を見つけ、居場所を見いだすことができます。これらは、アスピレーションである希望や目標をより硬く力強いものにしてくれます。表4 心の抵抗力(レジリエンス)を高めるコツ例心を鍛える(セルフモニタリング)自己客観視言葉にする(外在化)自分への気付きを高める(マインドフルネス)心のワクチン(アスピレーション)希望、目標、生きがい、ロールモデルを持つプラス思考積極性人薬(ソーシャルサポート)家族や仲間とのつながり家族思い、仲間思い自分の役割と居場所の確保自分らしく生き生きと生きる二人が再会するラストシーンは、かつて共に過ごしていた高い塀に囲まれた暗く行き場のない刑務所から一転して、視界が限りなく広がった真っ青な海のビーチです。このシーンは強烈なインパクトで、最高のコントラストでした。もはや見ている私たちにも深い感動と、そして癒しを与えてくれます。私たちの生活に置き換えてみると、私たちも「日常生活」という塀の中にいるのかもしれません。そして、何かに立ち向かっている時や苦しんでいる時に、この映画は心地よく励みになります。「必死に生きるか、必死に死ぬか」とのアンディのセリフがありますが、それは塀の中でも外でも同じことで、いかに自分らしく生き生きと生きるかが大事だというメッセージです。私たち自身も、心の抵抗力(レジリエンス)を高めることで、より生き生きと生きていけるのではないでしょうか?1)「臨床精神医学、レジリエンスと心の科学」(アークメディア)2012年2月号2)「マインドフルネスそしてACTへ」(星和書店) 熊野宏昭

1886.

エキスパートに聞く!「関節リウマチ」Q&A part2

CareNet.comでは4月の関節リウマチ特集を配信するにあたって、事前に会員の先生より関節リウマチ診療に関する質問を募集しました。その中から、とくに多く寄せられた質問に対し、慶應義塾大学 花岡 洋成先生にご回答いただきました。今回は生物学的製剤の投与方法や新規薬剤に関する質問です。生物学的製剤の開始時期について教えてください。また、開始時にルーチンで実施する検査を教えてください。日本リウマチ学会より、関節リウマチに対するTNF阻害薬、トシリズマブ、アバタセプト使用ガイドラインが発行されている。これに基づくと、1.既存の抗リウマチ薬通常量を3ヵ月以上継続して使用してもコントロール不良の関節リウマチ患者(コントロール不良の目安として、圧痛関節数6関節以上、腫脹関節数6関節以上、CRP 2.0mg/dL以上あるいはESR 28mm/hr以上)や、画像検査における進行性の骨びらんを認める患者、DAS28-ESRが3.2(moderate disease activity)以上の患者2.既存の抗リウマチ薬による治療歴のない場合でも、罹病期間が6ヵ月未満の患者では、DAS28-ESRが5.1超(high disease activity)で、さらに予後不良因子(RF陽性、抗CCP抗体陽性または画像検査における骨びらんを認める)を有する患者には、メトトレキサート(MTX)との併用による使用を考慮するとある。開始時のルーチンで施行する検査は、上記ガイドラインに記されている禁忌・要注意事項に該当する患者を除外する目的で、以下の検査を行う。白血球分画を含む末梢血検査、β-Dグルカン、胸部X線、ツベルクリン反応、クォンティフェロン(QFT)、HBs抗原、HBs抗体、HBc抗体また開始後の骨破壊の進展を評価するために、生物学的製剤開始前の関節X線を撮影することが多い。生物学的製剤の休薬や中止の判断基準を教えてください。いくつかの生物学的製剤で、休薬後、寛解や低疾患活動性を維持できるか(バイオフリー)を検証されている。日本発のエビデンスで最初の報告はRRR studyである(Ann Rheum Dis. 2010; 69: 1286-1291)。これはインフリキシマブによって低疾患活動性および寛解を24週間以上維持できた患者を対象に、インフリキシマブを中止し、その1年後の休薬達成率を確認したものである。その結果、55%が休薬を達成し続けた。ここで、休薬を達成し続けられた群は、そうでない群と比較して罹病期間が短く(4.7 vs 8.6年、p=0.02)、mTSS(modified total sharp score)が低値(46.9 vs 97.2、p=0.02)であると報告されている。他の製剤については検証中のものが多く確定的なことは言えないが、早期例で骨破壊が少なく、深い寛解を維持できた症例はバイオフリー寛解を維持しやすいようである。生物学的製剤投与中の感染症の早期発見方法について教えてください。わが国で施行した市販後全例調査の結果、生物学的製剤使用者の1~2%で重篤な細菌性肺炎の報告があった。ただし、早期発見する確実な手段はない。重要なことは感染症のリスクを評価し、リスクが高い症例は注意深く慎重に観察していくことである。さらに、事前の肺炎球菌ワクチンや冬期のインフルエンザワクチン接種を推奨する。生物学的製剤において感染症のリスクとして共通しているのは、ステロイドの内服、既存の肺病変、高齢、長期罹患などである(Arthritis Rheum. 2006; 54: 628-634)。さらに、インフリキシマブでは投与開始20~60日に細菌性肺炎の発症が増加する(Ann Rheum Dis. 2008; 67: 189-194)。よって投与2ヵ月以内は注意しながら診療する。また、トシリズマブ投与例ではCRPは上昇しないことが知られているため、スクリーニングの画像検査を積極的に行うことが望ましい。また、ニューモシスチス肺炎も0.2~0.3%程度報告されている。これについては、β-Dグルカンの測定を定期的に行い、労作時呼吸困難や咳嗽などを訴えた症例は慎重に精査を進めていく。間質性肺炎を合併した関節リウマチ患者に対して、どのように治療したらよいでしょうか?間質性肺疾患合併例ではMTX肺炎を誘発する懸念があるため、MTXを軸とした管理ができないことがある。米国リウマチ学会の治療推奨(Arthritis Care Res. 2012; 64: 625-639)などに基づき治療戦略を決定するが、一般的にわが国では、まず推奨度Aの抗リウマチ薬(ブシラミン、サラゾスルファピリジン、タクロリムスなど)で疾患活動性のコントロールを試みることが多い。これで活動性が抑制できなければ生物学的製剤の適応を考慮する。例外的に、活動性がきわめて高く、予後不良因子を有する症例や短期間で骨破壊が進行する症例などでは、生物学的製剤を積極的に第一選択薬として用いることもある。この場合、MTX併用を必須とするインフリキシマブは投与できない。よって、残りの製剤のどれかを選択することになるが、「既存の肺病変」の存在は生物学的製剤において重篤感染症やニューモシスチス肺炎などのリスク因子になりうる(N Engl J Med. 2007; 357 : 1874-1876)ため、リスクとベネフィットを考慮して治療方針を決定する。JAK阻害薬(トファシチニブ)など、新規薬剤の可能性について教えてください。生物学的製剤の登場によって関節リウマチの診療は大きく変わった。これらは劇的な効果をもたらしたが、無効例も存在することは間違いなく、TNFやIL-6などの阻害だけでは病態を十分制御できないことを示唆している。これを受けて、現在、新規治療薬として1,000kDa以下の低分子化合物の開発が進行しており、なかでもJAK阻害薬の有効性が臨床でも確認されている。FDAが、2012年11月に関節リウマチの治療薬として、JAK1/JAK3阻害薬であるトファシチニブを認可した。承認用量である5mg 1日2回12週間の投与によって、12.5%の寛解率を示した(Arthritis Rheum. 2012; 64: 617-629)。その効果は生物学的製剤に匹敵する。一方、JAK阻害によって多数のサイトカインシグナルが阻害され、炎症と免疫に与える影響は複雑である。高分子化合物である生物学的製剤が細胞外の受容体に作用するのに対して、低分子化合物であるJAK阻害薬は細胞内で作用する。細胞内で作用した同薬剤が、最終的にヒトにおける長期安全性にどのような影響を及ぼすのか、今後の解明が待たれる。

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ロタウイルスワクチン、定期接種化後の有効性を確認

 米国疾病管理予防センター(CDC)のDaniel C. Payne氏らは、ロタウイルスワクチン5価(RV5、商品名:ロタテック、接種回数3回)および単価(RV1、同:ロタリックス、同2回)の両定期接種化後初となる予防効果に関する評価を行った。その結果、両ワクチン効果(VE)は1回以上接種で80%であり、5歳未満児のロタウイルス胃腸炎による病院救急部門(ED)受診および入院に対する顕著な減少効果が認められたことを報告した。米国ではRV5は2006年に、RV1は2008年に定期接種化されたが、それ以前はほとんどの乳幼児がロタウイルスに感染し、ロタウイルスが冬場の急性胃腸炎の最高70%を占め、毎年10億ドルを超える医療・社会的コストが生じていたという。Clinical Infectious Diseases誌オンライン版2013年3月13日号の掲載報告。 研究グループは、RV5とRV1のワクチン効果(VE)を評価するため、人口動態的および地理的に多様な小児を登録し、ロタウイルス急性胃腸炎での入院およびED受診の低下の状況を調べた。 全米7施設において、2009年11月~2010年6月、2010年11月~2011年6月に急性胃腸炎(AGE)症状で入院またはED受診した5歳未満児を登録し、糞便検体を用いた酵素免疫測定法にてロタウイルス感染の有無および遺伝子型の確認を行い、感染が確認されたケースのワクチン接種状況をロタウイルス非感染AGEケース(対照例)と比較した。回帰モデルにて、各ワクチン、年齢、民族性、優勢を占めた遺伝子型、臨床評価項目(入院、ED受診)についてVEを算出し検討した。 主な結果は以下のとおり。・RV5接種群は、ロタウイルス感染例359例、対照(ロタウイルス陰性)例1,811例であった。RV1接種群は、同60例、155例であった。・ロタウイルス関連のED受診および入院に対するVEは、RV5(3回完全接種)は84%(95%CI:78~88)、RV1(2回完全接種)は70%(同:39~86)であった。・いずれかのワクチン接種1回以上のVEは80%(95%CI:74~85)であった。・臨床評価項目別にみたRV5のVEは、ロタウイルス関連のED受診に対しては81%(95%CI:70~84)、入院に対しては86%(同:74~91)であった。・同じくRV1については、ED受診に対して78%(95%CI:46~91)のVEが認められた。入院については試験の検出力が不十分で評価ができなかった。・明らかな免疫の減衰は、RV5は接種後4年間、RV1は同2年間はみられなかった。・遺伝子型別にみた場合、RV5は4種類の主要なロタウイルス(G1P[8]、G2P[4]、G3P[8]、G12P[8])に対するVEが統計的に有意であった。RV1も、最も頻度の高い遺伝子型であるG3P[8]に対するVEが統計的に有意であった。

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“医者の不養生”は本当?「もっと早く受診すればよかった…」そんな経験、ありますか?

今回の「医師1,000人に聞きました」は“医師自身の健康管理”。“医者の不養生”なんてことわざがありますが、その“口先ばかりで実行が伴わないこと”という解釈を読むとなんだか解せない…なんて方も多いのでは。先生方は、健康診断・人間ドック、毎回欠かさず受けますか?受けない先生、それはなぜですか?自分自身が患者になってみて、感じたことは?患者さんにかかりっきりになっているうちに医師のほうが手遅れになってしまった…なんて笑えない話も飛び出す今回の調査、寄せられたコメントも必見です!コメントはこちら結果概要約7割が健康診断・人間ドックを『必ず受ける』、一方で『毎回受けない』医師が1割以上存在全体の68.7%が『毎回必ず受けている』と回答。『受けないことがある』医師は19.3%、『毎回受けない』 医師は12.0%存在。世代間で大きな差は見られなかったものの、『毎回受けない』とした人の比率は年代が上がると共に漸増し、30代以下で10.6%のところ、60代以上では13.8%となった。働き盛りの40代「忙しくて」、60代以上「開業して交代要員がいない」健康診断・人間ドックを受けない(ことがある)医師に理由を尋ねたところ、最も多かったのは『忙しいから』で64.9%、働き盛りの40代では72.7%に上った。一方、若年層に比べ開業医の比率が高まる60代以上では、『院内に自身しか医師がいない/シフトを替わってもらえないから』が28.6%に上ったのと同時に『自分の健康状態は自分でわかっていると思うから』が21.4%。“受けたいのに都合がつけられない”医師と、“受けないと決めている”医師が他の世代に比して明確に表れるという結果となった。2割近くの医師に 『もっと早く受診すれば…』と後悔した経験あり自身が具合を悪くした際、『もっと早く受診すれば良かった』と感じた経験がある医師は全体の17.6%。40代では20.3%となった。遅れた理由としては、健康診断と同様『忙しかったから』が69.9%と最も多かったが、次いで多い回答が『受診するほどの症状ではないと思ったから』で27.8%。「知り合いの先生が“まだ大丈夫”“と過信し、忙しさも重なり受診をのばした結果、手遅れになった」など、ある程度自分で判断がつくことから招いてしまった事態、また「健康診断は受けるが、そこで引っかかっても、多忙のため受診できない」など、結果として”医者の不養生”になってしまうことを嘆く声も寄せられた。立場特有の“受診への不安”、受診して患者の気持ちを実感受診を躊躇する理由としてコメント中に複数挙がったのが、「身内の医者には診てもらいにくい」「オーダリングシステムを使える立場の人なら病名・処方が簡単にわかってしまう」など、プライバシーの漏えいを懸念する声が挙がった。また「自分の専門領域の検査を受ける場合は、結果がわかれば先が見えるから怖い」と医師ならではの不安感のほか、自身の検査や入院により「人間ドックの再検査を受けた際、病名告知前に患者さんがどれほど心配しているか実感した」「同室患者のいびきがこんなに心身に影響するのか、と」など、患者の立場・気持ちを実感したというコメントも見られた。設問詳細各種がん検診の推進、ワクチンの早期接種の推奨など、早期発見および予防が謳われるようになった昨今、先生方も普段患者さんに「早めの受診を」と呼びかけていらっしゃるかと思います。そこで先生にお尋ねします。Q1.健康診断(人間ドック含む)について当てはまるものをお選び下さい。毎回必ず受けている受けないことがある毎回受けない(Q1で「受けないことがある」「毎回受けない」を選んだ方のみ)Q2.健康診断(人間ドック含む)を受けない理由について、当てはまるものを全てお選び下さい。(複数回答可)面倒だから忙しいから院内に自身しか医師がいない/シフトを替わってもらえないからその気になればいつでも検査できると思うから自分の健康状態は自分でわかっていると思うから健康診断・人間ドックには意味が無いと思うから知りたくない、怖いからその他(                 )Q3.ご自身が心身の具合を悪くした際、結果として「もっと早く受診すればよかった」と感じた経験はありますか。あるない(Q3で「ある」とした方のみ)Q4.その時に受診しなかった、受診が遅れた理由で当てはまるものをお選び下さい。(複数回答可)面倒だったから忙しかったから院内に自身しか医師がいない/シフトを替わってもらえなかったから受診するほどの症状ではないと思ったから自覚症状がなかったから知りたくなかった、怖かったからその他(                  )Q5.コメントをお願いします。(ご自身の体調管理、受診・治療へのハードル、健康診断・人間ドックに対して思うこと、ご自身が患者の立場となった際に感じたこと、ご自身や周囲の先生方が体調を崩した際のエピソードなど、どういったことでも結構です)2013年3月15日(金)実施有効回答数1,000件調査対象CareNet.com会員コメント抜粋(一部割愛、簡略化しておりますことをご了承下さい)「医療を提供しているとその限界も見え、自分が病気になったときは“寿命がきた”と判断して医療を受けたくない、という気持ちが強くなった。」(40代,内科,一般病院)「思ってもみない結果が出ると人間は動揺するものであることがよくわかった」(50代,放射線科,一般病院)「健康管理は重要だと思うが、他の医療機関を受診するのはハードルが高い」(50代,外科,診療所・クリニック)「検診などを受ける時間もなく、症状にあわせて友人医師に内服処方を出してもらい済ませる事が多い。」(40代,救急医療科,一般)「人間ドックの再検査を受けて、病名告知前に患者さんがどのくらい病気について心配しているか実感した」(40代,内科,一般病院)「健診に対する価値観、病気に対する価値観はそれぞれであり、強要されるものでは決してない。また、結果の還元が十分にできているのかという疑問がある。どこまで踏み込んで検査すべきなのか、逆に不足していないのかなど、検討すべき余地はたくさんある。」(40代,内科,診療所・クリニック)「39歳の時に体調を崩して1-2か月仕事ができなかった。病院勤務だったのである程度は収入があったが、それでも生活費を切りつめる必要があった。現在開業しており、同様な事態が起こると不安に思うことがある。」(40代,皮膚科,診療所・クリニック)「身近な先生で、症状が出ているのに“まだ大丈夫”と過信してしまい、忙しいこととも重なり受診をのばした結果手遅れになったケースがあり、自分も注意が必要と思います」(60代以上,内科,一般病院)「他に医師がおらず、薬を飲みながらの診療は正直つらかった。」(40代,消化器科,一般病院)「頸椎椎間板ヘルニアで手術をすることになったが、上肢の症状の時に受診をしていれば 経過がもっと良かったと思われる。」(40代,整形外科,診療所・クリニック)「症状があっても進行性でない場合は職務を優先することが多い。自己判断は必ずしも正しくないことを認識しなくてはいけないと反省している。」(60代以上,循環器科,一般)「健康診断をしなかったツケで、今年網膜剥離になることがわかっている。”医者の命”の目であるため、後悔している。」(60代以上,内科,診療所・クリニック)「年齢の近い先輩医師が大腸がんとなり、大腸内視鏡を含めた侵襲的な検査も定期的に施行しなければと思ってはいるが、時間的な余裕のなさから受けられないことが日々ストレスとなっている。」(50代,内科,一般病院)「身体が資本と改めて感じた。検査、治療にかかる時間を捻出するのが大変困難であった」(50代,循環器科,診療所・クリニック)「自分で受けて初めて、検査の苦しさがわかる」(40代,小児科,一般病院)「検診の際は強制で休みにするくらいでないと受診率は上がらないと思う。」(40代,内科,一般病院)「曜日や時間帯から、実際に医療機関を受診できるタイミングが限られている」(50代,内科,一般病院)「問題意識から具体的な受診行動にうつす際のギャップは、意外と大きいなと思った。」(50代,内科,診療所・クリニック)「(院内の)知り合いに診てもらうことになるので受診を躊躇することがあります。」(40代,血液内科,大学病院)「バリウム検査がこんなにきついとは思っていなかった。」(30代以下,外科,大学病院)「肺がんが末期の状態で見つかった現役の医者がいた。」(50代,内科,診療所・クリニック)「疾病を発見するというよりも、安心のために受けるべきだと思う。患者の立場を経験できるのは貴重なこと」(40代,内科,一般病院)「やっぱり医師の言うことにはなかなか逆らいにくいというか、聞きたいことが聞きにくかったりする」(30代以下,整形外科,一般病院)「胃カメラはつらい」(50代,整形外科,一般病院)「糖尿病の母が血糖コントロールを悪くし、半年後の定期健診で膵癌が見つかり、それが死因となりました。受診をしなければいけませんが、こんな経験をしていても、自分は別と思ってしまうのですよね・・・。」(40代,内科,診療所・クリニック)「自分の専門科(の疾患)の時どうしたらいいかわからない。」(50代,外科,一般病院)「職場の義務で健康診断は毎回受けていますが、日常業務が多忙なため、精密検査が必要となってもなかなか平日昼間に受診するのは大変と思います。」(30代以下,呼吸器科,一般病院)「健康診断と保険診療を同時にできれば、健診受診率もあがるのではないかと思います。」(30代以下,産業医,診療所・クリニック)「入院患者になってみてわかったのは、何もなければそっとしておいて欲しいということだ。 遠くから暖かく見守ってもらえれば十分。元気な人(医療者含む)を相手にするのは結構疲れる。 医療とは単なるサービス業ではないと実感した。」(40代,内科,診療所・クリニック)「健康診断が学術的に有効と認められるものなのか、疑問に思うことがある。」(30代以下,循環器科,一般病院)「検診の有用性はほんとうにあるのだろうか? やるなら胃カメラやバリウム検査は必須にする必要があると思う」(30代以下,救急医療科,大学病院)「実際に患者になって、大学病院では患者を待たせるのが当たり前としているところに気づいた。」(30代以下,皮膚科,大学病院)「自分で確認できる部分は年一回はチェックしてますが、内視鏡など他院でしてもらわないとダメな検査はどうしても先送りにしてしまいます。自営業のつらいところです・・・」(40代,内科,診療所・クリニック)「常に早期発見を心がけて検診を受けていても、やはり漏れ落ちはある。症状が出てからでも早期受診することで軽症で済むことも自身で経験すると、患者に対する説明も説得力が増した。」(50代,放射線科,一般病院)「自分で検査してます。 内視鏡も自分自身で挿入して検査します。得意技です。」(50代,内科,診療所・クリニック)「気合で仕事する文化が根付いており、気軽に休めるほどの人員が確保されていないため、病気になってからでないと体のメンテナンスができない。」(30代以下,小児科,大学病院)「人間ドックを受診して、クレアチニンが高値であることが判明し、CKDであることがわかりました。クレアチニンが検査に導入されたから分かったことで、検査項目の見直しが必要であると思いました。」(60代以上,内科,一般病院)「胃カメラを初めて受けたが緊張した。」(30代以下,内科,診療所・クリニック)「常勤の頃は必ず受診していましたが、結婚して非常勤になるとなかなかチャンスがありません。 常勤ではない女性医師がもっと受診しやすくするシステムがあるといいと思います。」(30代以下,皮膚科,診療所・クリニック)「人間ドックを 日曜日や休日、または平日午後からも受けられる施設を増やしてほしい。」(40代,内科,診療所・クリニック)「1日人間ドックに入る時間的余裕がない」(30代以下,救急医療科,一般病院)「仕事が忙しくて体調を崩すが仕事のため受診できないという悪循環にはまります。」(30代以下,循環器科,一般病院)「人間ドックの項目に簡易スパイログラフィー(肺年齢)やBNP値を入れて、もっとハイリスク集団を効率よく抽出する努力をした方が良い。」(30代以下,外科,大学病院)「健康診断や人間ドックを受けていると全ての疾患が早期発見できると思っている人も多いようだが、それらで引っかかるのは一部の疾患だと考えてもらいたい。また、1年の間でも一気に進行する癌もあり、健康診断や人間ドックは有用ではあるが万能ではないことを周知してほしい。」(30代以下,その他,一般病院)「自分ばかりでなく家族が病気になり医療機関の世話になったときには、患者の気持ち、心配、不安を実感することができる」(60代以上,循環器科,大学病院)「職場で健診を受けられることはありがたいが、何か異常があった場合はすぐに院内に知れ渡ってしまいそうという不安もある」(30代以下,外科,一般病院)「入院中はいろんなスタッフが頻繁に入室してくるのでリラックスできなかった。」(40代,小児科,一般病院)「検診では心配している疾患(例えば前立腺など)を網羅していないため、受ける意欲を欠いた。」(60代以上,外科,一般)「病気になっても休暇が取りにくく、周囲に迷惑をかけるので、健康診断は必ず受けるようにしている。 勤務医の時は自分がいなくても代わりはいるが、開業すると休診にせざるを得ず、大変な思いをした。」(50代,形成外科,診療所・クリニック)「自分の専門領域の検査を受ける場合は緊張します。結果がわかると先が見えるから、こわい気がします。」(60代以上,脳神経外科,一般病院)「歯科への受診はついつい遅れがちになります。総合病院系で歯科のある所だとちょっと相談、とかもできますが、個人病院では歯科がないのがほとんどですし、仕事を休んでまで受診する程ではないとか、週末に改めて歯科医院に行くのも面倒だったりして受診が遅くなる事が多いです。」(50代,内科,介護老人保健施設)「医師が少ない科であるため、一人が倒れると膨大な業務が残りの医師にきて処置しきれないことがあった。」(60代以上,呼吸器科,一般病院)「十二指腸潰瘍で入院した時は、患者はなんと弱いものかと実感した」(50代,精神・神経科,診療所・クリニック)「知人が急な入院になったときに、診療所を仲間でバックアップしました。忙しくて、また代わりを頼んで診察を受ける時間がなかったとのことでした。」(50代,内科,診療所・クリニック)「客観的な判断が鈍るのか専門医への受診が遅れがち、特に65歳以上はその傾向が強い。 開業医は時に自費で薬剤を購入し、それでだましだましの治療をしているケースがある。」(50代,内科,診療所・クリニック)「血液検査などはしやすいが、昨年初めて大腸ファイバーをしてポリープが見つかった。出来れば人間ドックを毎年受け、胃カメラなども継続したいが、忙しく難しいのが現状です。」(30代以下,整形外科,一般病院)「自分の勤務する病院に受診希望の科があれば ふつうはそこを受診します。しかし大学の医局人事であちこちに勤務した経験上、自分の家族の受診も含めて、プライバシー・個人情報はほぼ守られないと感じています。現在の勤務先も、オーダリングシステムを使える立場の人ならだれでも、個人情報を入手でき、病名や処方など簡単にわかります。もっとアナログな点をいえば、“看護師の口に戸は立てられない”です。」(40代,小児科,一般病院)「全身倦怠感が強く、微熱が出た時に原因がわからず、呼吸器症状がほとんど無かったが胸部X線検査を行なって、肺炎になっていた時は驚いた。マイコプラズマ肺炎だったが、熱が低いわりに症状が強く出るのだなと解った。」(40代,内科,診療所・クリニック)「指を骨折したが、職員がどのように受診すればよいかわからず、ためらってしまったため受診が遅れてしまった」(30代以下,精神・神経科,大学病院)「先ごろ、入院しました。主治医をはじめスタッフの方々に大変よくしていただき、感謝の限りです。 自分も患者さんにとって、頼りがいがあり、感謝される医師でいなければいけないという気持ちを新たにしました。」(60代以上,整形外科,一般病院)「なかなか休暇をとって、人間ドックにかかれないのが悩み。 人間ドック休暇みたいな制度が有るといいんだけど。」(50代,内科,診療所・クリニック)「便潜血陽性のため、昨年初めて大腸ファイバー検査を受けた。結果は良性のポリープだったが、勇気がいることであった。」(50代,内科,診療所・クリニック)「健康は自己責任である。もっと早く受診すればよかったではなくて、そこまで健康に注意しなかった運命。といって検診をこまめに受ける人はただ単に責任転嫁したいだけ。病気というのはある程度遺伝子上で決められた運命です。治療を受けて長生きできるのも運命。受けられずに命が閉じるのも運命でしょう。」(30代以下,外科,大学病院)「単純レントゲン(肺)で異常を指摘され、CTを行うまで心配した。」(50代,整形外科,診療所・クリニック)「健康診断で引っかかっても、勤め先だと精密検査を受けにくい。」(40代,消化器科,一般病院)「患者には早期発見が大事という割に、自分は病気を見つけたくない矛盾があります。」(40代,泌尿器科,一般病院)「血圧が高め、少しぐらいなら、と放っておいたらかなりの高血圧に。自覚症状がないと甘く見がち」(50代,内科,一般病院)「医科のものは意識しているのですが、歯科が盲点でした。つい面倒で行かずにいたら、ある日突然歯がポロッと欠け、慌てて受診。既にかなり進行した齲歯でした。他にも齲歯多数とのことで、今も通院が続いています。」(40代,外科,一般病院)「胃カメラは想像以上に苦痛であった。」(50代,整形外科,一般病院)「入院して患者さんの気持ちが判ったので、応対に気をつけるようになった。」(60代以上,産婦人科,診療所・クリニック)「重度感染症で入院した際、食事の重要性と同室のいびきがこんなにも心身に影響するのかと実感しました。特に六人部屋、八人部屋というのは、本当に忍耐の日々でありました。入院設備は昭和の時代から全く変化がないように思えます。そろそろ、入院設備へも目を向けるべきかなと思います。」(40代,小児科,診療所・クリニック)「実際に健康診断がきっかけで癌が見つかったDrもいるので他人ごとではないと思ってます。」(40代,産婦人科,大学病院)「患者さんには偉そうに言うのに自分の健康管理は不十分。昨年目の手術をして、自己管理の大切さと医療者のありがたさを痛感した」(50代,小児科,大学病院)「症状から自己診断してしまい、結果的に回復が遅れた。受診に時間を要することが一番の理由」(60代以上,その他,一般)「評判のいい開業医のところへ特定健診に行って、細やかな診察や説明など、患者さんに人気のある理由を目の当たりにしたのは、医療人としても良い経験となった。 気軽にできる“患者体験“になるような気がする。」(40代,麻酔科,診療所・クリニック)「前立腺がん、右腎盂癌が検診で見つかった」(60代以上,内科,診療所・クリニック)「なかなか健康診断を受ける時間がない。知り合いの外科医はPSA測定をご自分で測定し、次第に上昇し、あり得ない数値になっても放置し、病状が進行して血尿が出て、初めて相談を受けました。」(60代以上,泌尿器科,診療所・クリニック)「健康なので患者さんの気持ちがわからないのではないかと心配です。」(30代以下,血液内科,大学病院)「過去に、業務に支障がない外傷で勤務していた所、気付かれてストップがかかったことがありました。医師不足のため代わりがいない状況では患者の診療が優先され、受診にはハードルが高く感じます。その分、職場健診は義務であり、権利と考え毎年受けています。」(50代,内科,一般病院)「開業していると急には休診にはできないので、なかなか他の医療機関を受診できない。自分の専門分野であれば自分自身で投薬(治療)せざるを得ない。」(40代,内科,診療所・クリニック)「外来や当直の時に、嘔吐下痢症だったり発熱してしんどかったときは、因果な商売だなぁと思いました。」(30代以下,神経内科,一般病院)「自分はまだ30代だが、同年代で生命に関わる患者を診察する機会も多いため、健康に気をつけるよう心掛けています。」(30代以下,産婦人科,一般病院)「患者になって以後、(身体より)仕事を優先することの愚かさを、実臨床の場で啓蒙するようになった」(50代,外科,一般病院)「まず自分で診断治療しようとしてしまう。こんな症状なんかで受診するのかとの思いから専門医に相談するのが遅れたり、あるいは他院で検査を受けるのが気恥ずかしかったりして受診が遅れる。」(40代,内科,診療所・クリニック)「健康診断は職場で強制的に受けさせられるから問題ないのですが、体調を崩したときも仕事を抜けて受診することが、病院で働いていても困難だと思うことが多いです。」(30代以下,麻酔科,一般病院)

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第13回 添付文書 その2:どこまで必要?添付文書の厳格さのさじ加減!

■今回のテーマのポイント1.医薬品の添付文書の記載に不備があった場合には、指示・警告上の欠陥として、製造物責任法が適用される2.添付文書の記載に不備があるか否かは、当該医薬品を処方する専門家である医師が理解するに足りるかという視点から判断される3.医薬品については、無過失補償制度である医薬品副作用被害救済制度があることから、同制度による救済範囲を狭めるべきではない。また、同時に制度の穴を埋めるべく前向きな議論がなされるべきである事件の概要平成14年7月5日にゲフィチニブ(商品名:イレッサ)は、肺がんの治療薬(内服薬)として、世界に先駆け、申請から承認まで半年と異例の短さで日本で承認されました。承認時点において、イレッサ®による間質性肺炎の報告は、国内外合わせて日本の3例(133人中)であり、死亡例はありませんでした。承認に際して、添付文書の「重大な副作用」欄の4番目に「間質性肺炎(頻度不明):間質性肺炎があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常がみとめられた場合には、投与を中止し、適切な処置を行うこと」と記載し、かつ、承認条件として市販後の臨床試験を指示しました。しかし、承認から約3ヵ月で間質性肺炎および急性肺障害の副作用発症が22例(死亡11例)報告されました。平成14年10月15日、厚生労働省の指示により、添付文書が改訂され、間質性肺炎について「警告」欄を設けて記載すると同時に緊急安全性情報を作成し、医療機関等へ配布しました。このような流れの中、イレッサ®による間質性肺炎で死亡した患者3名の遺族が、製薬会社に対しては、製造物責任法または不法行為上の損害賠償責任として、国に対しては、国家賠償法上の損害賠償請求として、計7,700万円を請求しました。第1審では、製薬会社に対しては、「当該添付文書の記載(「警告」欄ではなく、「重大な副作用」欄の4番目に記載したこと)が指示・警告上の欠陥である」として製造物責任法上の責任を認め、国に対しては、イレッサ®を薬事承認したことについて違法性はないものの、「承認後、間質性肺炎による死亡事例が出たにもかかわらず、10月15日まで添付文書を改訂するよう指導しなかったことは国家賠償法上違法である」とし、計1,760万円の損害賠償責任を認めました。これに対し、控訴審は、下記の通り判示し、原判決を破棄し、原告の請求を棄却しました。*なお本件は、現在、最高裁判所(以下、最高裁)に係属中であり、判断が待たれています。事件の経過●患者A(31歳)の経過平成13年2月頃から咳嗽が続き、6月頃からは咳嗽に加え、左胸痛が認められるようになったことから、同年9月13日D病院に検査入院となりました。検査の結果、肺腺がんでⅣ期と診断されました。その後、化学療法は行わず、丸山ワクチンを受けていましたが改善を認めず、胸水も貯留してきたため、同年11月29日D病院に入院しました。その時点で多発性骨転移が認められ、がん性疼痛も生じたため、化学療法が開始されました。腫瘍の縮小は認められなかったものの、自覚症状の改善が一定程度みられたことから、平成14年2月11日に退院となり、外来化学療法を行っていました。しかし、化学療法の副作用による、吐気、食思不振、脱毛が強かったため、同年7月1日を最後に外来化学療法は中止されました。同年7月19日の時点で、小脳、脳幹、大脳に多発転移が認められました。そのような折、Aの父がインターネットでイレッサ®の存在を知り、主治医と相談の上、8月15日より入院の上、イレッサ®の服用が開始されると同時に、多発性脳転移に対して放射線全脳照射を行いました。イレッサ®開始1ヵ月後に肺の腫瘍は約1/3にまで縮小を認め、自覚症状の改善もみられたことから、9月21日に退院となり、外来にてイレッサ®の服用を継続することとなりました。ところが、退院後最初の外来である10月3日に撮影した胸部X線写真上、気になる影があるといわれ、イレッサ®内服を中止の上、同日入院となりました。しかし、入院3日目から呼吸状態が悪化し、治療を行うも増悪。10月17日に呼吸不全にて死亡しました。●患者B(55歳)嗄声および呼吸困難のため平成14年6月に近医受診。肺がん疑いにてE病院を紹介受診したところ、肺腺がん(Ⅳ期)で左副腎に転移ありと診断されました。7月15日より入院にて化学療法が行われたものの、副作用が強く10月には中止されました。また、12月24日には多発性脳転移が認められたため、放射線全脳照射が行われました。平成15年1月28日、主治医Fは、BおよびBの妻よりイレッサ®による治療を求められました。しかし、平成14年10月15日にイレッサ®に関する緊急安全性情報がでていたことから、主治医Fは、「イレッサ®はがん細胞を狙い撃ちする抗がん剤で、20~30%の人に有効ですが、最近、重大な副作用として間質性肺炎が問題になっており、0.2~0.4%の方が肺炎で命を落としました」との緊急安全性情報等を踏まえた説明をしたところ、それでも治療を受けたいとの希望があり、入院にてイレッサ®の服用が開始されました。ところが、2月3日の胸部X線写真上、間質性陰影の増悪が認められ、その2日後には呼吸困難等が出現したことから、イレッサ®による間質性肺炎を疑い、服用を中止し、ステロイドパルス療法を行いました。しかし、翌日より真菌感染を引き起こしてしまい、2月11日に死亡しました。●患者C(67歳)平成11年12月、近医で胸部X線写真上、間質性陰影が認められ、G病院紹介受診。肺線維症の診断にて外来治療を受けていました。しかし、平成14年1月頃から血痰、咳嗽、胸痛等が認められるようになったため、同年4月15日にH病院を紹介され、精査目的で入院となりました。H病院での検査の結果、肺腺がん(III期)と診断され、化学療法が行われました。しかし、化学療法の効果はなく、副作用も強かったことから、7月には化学療法は中止されました。その後も呼吸状態、全身状態が悪化したため、同年9月2日から入院にてイレッサ®の服用が開始されました。しかし、服用開始2日目から間質性変化を認めるようになり、10月9日には、間質性肺炎が急性増悪し、ステロイドパルス療法を行ったものの、翌10月10日に死亡しました。事件の判決「本件添付文書第1版の記載はこれとは異なり、文書冒頭に警告欄が設けられていない。しかし、間質性肺炎は従来の抗癌剤等による一般的な副作用であり、イレッサを処方するのは癌専門医又は肺癌に係る抗癌剤治療医であり、当該医師は、薬剤性間質性肺炎により致死的事態が生じ得ることを認識していたものといえる。仮にその医師に、「分子標的薬には従来の抗癌剤に生じる副作用が生じない」という医学雑誌記事等に基づく予備知識があったとしても、本件添付文書第1版は、イレッサの適応を「手術不能・再発非小細胞肺癌」に限定し、「重大な副作用」欄に間質性肺炎を含む4つの疾病又は症状を掲げていたのであり、添付文書を一読すれば、イレッサには4つの重大な副作用があり、適応も非小細胞肺癌一般ではなく、手術不能・再発非小細胞肺癌に限定されていることを読み取ることができ、それを読む者が癌専門医又は肺癌に係る抗癌剤治療医であるならば、それが副作用を全く生じない医薬品とはいえないものであることを容易に理解し得たと考えられる。これらの医師が、仮に本件添付文書第1版の記載からその趣旨を読み取ることができなかったとすれば、その者は添付文書の記載を重視していなかったものというほかない。イレッサについての臨床試験等の結果が前記記載のとおりであったにもかかわらず、肺癌専門医又は肺癌に係る抗癌剤治療医を対象とした本件添付文書第1版の記載の違法性の判断において、「間質性肺炎の副作用について文書冒頭に警告欄を設けないのは違法である」、「警告欄について赤枠囲いをしないのは違法である」等として、添付文書の内容如何ではなく、目に訴える表示方法を違法性の判断基準として取上げるとすれば、それは司法が癌専門医及び肺癌に係る抗癌剤治療医の読解力、理解力、判断力を著しく低く見ていることを意味するのであり、真摯に医療に取り組むこれら医師の尊厳を害し、相当とはいえない。警告欄のない本件添付文書第1版に指示・警告上の欠陥があったということはできない。・・・以上のとおり、「重大な副作用」欄中の1番目から3番目までに掲げられた副作用も、4番目の間質性肺炎と同様に、いずれも重篤な副作用に区分され、当該患者の全身状態等によっては、そのいずれもが死亡又は重篤な機能不全に陥るおそれのあるものであり、また、評価対象臨床試験において間質性肺炎が高い割合で発現していたとはいえない状況にあったものである。しかも、本件添付文書の説明の対象者が癌専門医及び肺癌に係る抗癌剤治療医であり、また、イレッサについての評価対象外臨床試験等の結果における死亡症例についてイレッサ投与との因果関係の認定を揺るがす症状又は現象が存在していたことに照らせば、間質性肺炎を本件添付文書第1版の「重大な副作用」欄の4番目に掲げ、1番目に掲げなかったことをもって、指示・警告上の欠陥があったものということはできないものというべきである」(東京高判平成23年11月15日判時2131号35頁)ポイント解説今回は、前回に引き続き添付文書について解説させていただきます。前回の判例は、添付文書に反した場合の法的取扱いについてでした。今回解説する判例は、添付文書の記載に不備があった場合の取扱いについてです。本判決の最大の特徴の1つは、抗がん剤であるイレッサ®による副作用被害に対し、製造物責任法(PL法)を適用したことです。製造物責任は、1960年代にアメリカの判例理論として形成され、「不法行為の要件である過失がなくても、その物に欠陥があった場合には、損害賠償責任を認める」という無過失責任の1つです。平成6年にわが国で製造物責任法が成立するにあたって、副作用が出ることが必然である医薬品に対して、製造物責任法を適用すべきか否かが議論されました。すなわち、副作用を欠陥とした場合には、一定の確率で必然的に生ずる副作用被害をすべて製薬企業が賠償しなければならなくなるおそれがあるからです。さまざまな議論の末、最終的には、同法4条1号において、「当時における科学又は技術に関する知見によっては、当該製造物にその欠陥があることを認識することができなかった場合には、免責する」という開発危険の抗弁を認め、医薬品に対しても製造物責任法を適用することとなりました。ただ、開発危険の抗弁における「「科学又は技術に関する知見」とは、科学技術に関する諸学問の成果を踏まえて、当該製造物の欠陥の有無を判断するに当たり影響を受ける程度に確立された知識のすべてをいい、それは、特定の者が有するものではなく客観的に社会に存在する知識の総体を指すものであって、当該製造物をその製造業者等が引き渡した当時において入手可能な世界最高の科学技術の水準がその判断基準とされるものと解するのが相当である。そして、製造業者等は、このような最高水準の知識をもってしても、なお当該製造物の欠陥を認識することができなかったことを証明して、初めて免責されるものと解するのが相当である」(東京地判平成14年12月13日判タ1109号285頁)とされており、開発危険の抗弁は、非常に限定的な場合にしか認められないこととなっています。その一方で、製造物責任法における欠陥とは、「当該製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていること」(同法2条2項)と定義されたことから、医薬品における設計上の欠陥とは、「医薬品は、適正な使用目的に従い適正に使用された場合にも、人体に有害な副作用をもたらす場合があることを避けられない。それにもかかわらず医薬品が使用されるのは、副作用による有害性の程度が、その医薬品の有効性を考慮するとなお許容され得るからであると解される。このような医薬品の特性にかんがみれば、当該医薬品に副作用があることをもって直ちに設計上の欠陥があるとはいえず、副作用による有害性が著しく、その医薬品の有効性を考慮してもなお使用価値を有しないと認められる場合に、当該医薬品について設計上の欠陥が認められるものというべきである」(本判例第1審)と医薬品の特徴に応じた判断がされています。また、製造物責任法上の欠陥には、設計上の欠陥だけでなく、取扱説明書の記載不備のような指示・警告上の欠陥もあります。本判例第1審において、「医薬品は、副作用による有害性の程度が、その有効性を考慮した場合に許容される限度を超えないものとして、設計上の欠陥を有するとは認められない場合にも、個別の患者がその副作用による被害を受けることを防止するため、なお適切な指示・警告を必要とし、これを欠く場合には、指示・警告上の欠陥を有するものと認められる。そして、医薬品が指示・警告上の欠陥を有するかどうかは、当該医薬品の効能、効果、通常予見される処方によって使用した場合に生じ得る副作用の内容及び程度、副作用の表示及び警告の有無、他の安全な医薬品による代替性の有無並びに当該医薬品を引渡した時期における医学的、薬学的知見等の諸般の事情を総合考慮して判断すべきものと解される。そして、添付文書は、上記のとおり、法の規定に基づいて、医薬品の製造業者又は輸入販売業者が作成するものであり、その投与を受ける患者の安全を確保するために、これを使用する医師等に対して必要な情報を提供する目的で記載されるものであって、医薬品を治療に使用する医師等が必ず確認し、そこに記載された使用上の注意事項に従わなければならないものであるから、医薬品の副作用等その安全性を確保するために必要な使用上の注意事項は基本的に添付文書に記載されていなければならないものというべきであり、これを欠く場合には他の方法により安全管理が十分に図られたなどの特段の事情のない限り、指示・警告上の欠陥があると認めるのが相当である。なお、医療用医薬品のように医師等が使用することが予定されているものについては、これを使用することが予定された医師等の知識、経験等を前提として、当該医師等が添付文書に記載された使用上の注意事項の内容を理解できる程度に記載されていれば足りるものと解される」と判示されているように、医薬品における指示・警告上の欠陥は、原則的に添付文書の記載によって判断されることとなります。また、処方箋薬の添付文書の記載に不備があったか否かは、上記判示の通り、専門家である医師が理解するに足りるかという視点から判断されることとなります。本件第1審においては、「重大な副作用」欄の4番目に書かれたことをもって、指示・警告上の欠陥であるとして、製造物責任法上の損害賠償責任を認めました(「4番目判決」)が、高裁においては、「4番目に書かれていたとしても、本件添付文書の説明の対象者が癌専門医及び肺癌に係る抗癌剤治療医であること等から、指示・警告上の欠陥とはいえない」として、損害賠償責任を認めませんでした。本判決のもう1つの大きな特徴は、第1審において、添付文書に警告欄を設けるよう指導しなかったとして、国の責任を認めたことです。薬事法上、医薬品を製造販売するためには、厚生労働大臣による承認が必要となります(薬事法14条1項)。この承認を受けるために製薬企業は治験を行うわけですが、被験者の数は限られますので、稀な副作用は、上市後に、多くの患者に使用されなければわからないことがある等限界があります。だからといって治験において安全性を過度に追及すると、今度は承認が大きく遅れ、薬がないために治療できない患者が出てきてしまいます(ドラッグ・ラグ)。薬事承認においてはこのように、安全性と迅速性のバランスが常に求められることとなり、わが国では、諸外国と比べて大きく迅速性に欠ける、換言すればドラッグ・ラグが長く、適時に必要な薬が患者に届かず場合によっては生命を落とすという状況となっています。そのようなわが国の現状において、製造物責任をテコに国に損害賠償責任を認めるとなると、結局のところ国は、薬事承認において安全性に大きく判断ウエイトを置くこととなり、ますますドラッグ・ラグが加速するのではないかという懸念がでてきます。本件の東京高裁判決は第1審を覆し、国の責任を否定しましたが、現在最高裁で係争中であり、その判断が待たれています(*2013年4月2日の報道では、「国に対する請求については上告が受理されず遺族敗訴が確定し、製薬企業に対する請求は受理されたものの弁論を開くことなく2013年4月12日に判決が出される」とのことです)。●添付文書再考本連載で、2回にわたって、添付文書について解説してきました。製薬企業自らが作成する添付文書に対し、内容が不足していると製薬企業に対し厳格に製造物責任を問われることとなれば、製薬企業としては、できうる限りのことを添付文書に記載する方向にインセンティブが働きます。その結果、本来の薬の適用対象にまで慎重投与として警告が付されたり、場合によっては禁忌とするなど、実医療とはかけ離れた添付文書が作成されることとなります。しかし、医師がそのような添付文書の記載に形式的に反した場合には、前回の判例により過失が推定されてしまうことから、結果的に、医師が萎縮してしまい、患者が適切な治療を受けられなくなるという悪循環が生ずるおそれがあります(図1)。図1 添付文書の厳格性のジレンマ画像を拡大するこのように添付文書に過度の法的意義を持たせることは、患者にとってマイナスの効果を生じかねませんし、そもそも、過剰な警告文書はアラートとしての機能を喪失してしまうことから、その意味においても患者にとって危険となります。●医薬品副作用被害救済制度2つの判決を異なる視点でみてみましょう。医薬品によって生じた副作用被害に対しては、公的に医薬品被害救済制度が整備されています(独立行政法人医薬品医療機器総合機構法15条1項)。製薬企業が拠出金を出し合い基金をつくり、副作用被害が生じた場合には、そこから医療費や障害年金、遺族年金が支払われます(同法16条1項)。医薬品の副作用被害については、すでに公的な無過失補償制度ができているのです。しかし、本制度の給付対象外として、表が定められています。みていただければわかるように、前回の判例は2-(1)に該当し、今回の判例は、2-(1)および4に該当します。つまり、添付文書に関する訴訟は、この医薬品副作用被害救済制度から漏れてしまっているために止むを得ず生じているのです。実際、本件第1審で国が敗訴した後に「制度の穴」を埋めるべく厚生労働省内で、「抗がん剤等による健康被害の救済に関する検討会」が立ち上げられました(残念ながら、高裁にて国が勝訴したため、平成24年8月10日の同検討会によるとりまとめにおいて見送りとされました)。表 医薬品副作用被害救済制度除外事由画像を拡大する●まとめ2回にわたり解説したように、添付文書に製造物責任を厳格に問うことは、製薬企業自らの責任回避のために添付文書の過度な長文化・不適切化を生じさせます。そのような状況下で添付文書を不磨の大典のごとく扱うと萎縮医療を生み出し、結果として患者が適切な医療を受けることができなくなります。さらに、添付文書の指示・警告上の欠陥をテコに国に責任を認めるとドラッグ・ラグが加速し、適切な医薬品が患者のもとに届かなくなってしまいます(図2)。図2 添付文書厳格化による問題点画像を拡大するもちろん、副作用被害の救済はできうる限り行われるべきです。しかし、その方向は、無過失補償制度による救済範囲を広げる方向で行われるべきであり、個別事案における救済に固執するあまり、制度全体に問題を生じさせてしまっている現状を認識すべきものと思われます。すなわち、添付文書に対し指示・警告上の欠陥を広く認めることは、一般的には、医薬品副作用被害救済制度の除外事由を広げること(=救済範囲を狭めること)となりますし、添付文書違反に対し過失の推定をかけることも同様に、医薬品副作用被害救済制度の除外事由を広げること(=救済範囲を狭めること)になるのです。添付文書に関する紛争は、医薬品副作用被害救済制度に穴があるために生じています。いがみ合い、争う方向に進めるのではなく、手に手を取って「制度の穴」を埋める方向に進んでいくことを切に願います(図3)。図3 副作用被害の早急な救済のモデル画像を拡大する裁判例のリンク次のサイトでさらに詳しい裁判の内容がご覧いただけます。(出現順)東京高判平成23年11月15日判時2131号35頁東京地判平成14年12月13日判タ1109号285頁

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ナルコレプシーのリスクが約16倍に、インフルワクチン接種の子ども/BMJ

 ASO3アジュバント添加パンデミックA/H1N1 2009インフルエンザワクチン(Pandemrix)の接種を受けた英国の子どもで、接種後6ヵ月以内に睡眠障害であるナルコレプシーを発症するリスクが約16倍に増大したことが、同国健康保護局(HPA)のElizabeth Miller氏らの調査で明らかとなった。2010年8月、フィンランドとスウェーデンで同ワクチンの接種とナルコレプシーの関連を示唆するデータが提示され、2012年にはフィンランドの疫学調査により、ワクチン接種を受けた小児/青少年でリスクが13倍に増大したことが判明した。現在、北欧諸国以外の国での検証が進められている。BMJ誌オンライン版2013年2月26日号掲載の報告。ナルコレプシーのリスクを後ろ向きに解析 研究グループは、2009年10月以降にASO3アジュバント添加パンデミックA/H1N1 2009インフルエンザワクチン接種を受けた、英国の小児/青少年におけるナルコレプシーのリスクの評価を目的にレトロスペクティブな解析を行った。 2011年8月~2012年2月までの英国内の睡眠センターおよび小児神経センターの診療記録から、臨床情報および睡眠検査の結果を抽出し、専門家委員会がレビューを行って診断を確定した。対象は、2008年1月以降にナルコレプシーを発症した4~18歳の小児/青少年であった。 ナルコレプシー患者におけるワクチン接種のオッズ比を、年齢をマッチさせた英国人集団との比較において算出した。自己対照ケースシリーズ(SCCS)法を用いて、ワクチン接種6ヵ月以内と、この期間以外のナルコレプシーの発生状況を比較した。6ヵ月以内の発症のオッズ比16.2、寄与リスクは5万7,500~5万2,000接種に1例 245人の診療記録がレビューの対象となった。2008年1月以降に75人がナルコレプシーを発症し、そのうち56人にはナルコレプシーの特徴とされるカタプレキシー(情動脱力発作)が認められた。 11人(4~8歳:7人、9~13歳:2人、14~18歳:2人、男児8人、女児3人)がナルコレプシー発症前にワクチン接種を受けており、そのうち接種後6ヵ月以内の発症は7人だった。2011年7月までに診断を受けたナルコレプシー患者における時期を特定しないワクチン接種のオッズ比は14.4[95%信頼区間(CI):4.3~48.5]で、発症前6ヵ月以内のワクチン接種のオッズ比は16.2(同:3.1~84.5)であった。 2008年10月~2010年12月に発症し2011年7月までに診断を受けた患者についてSCCS法による解析を行ったところ、ナルコレプシーの相対的発症率は9.9(95%CI:2.1~47.9)であった。また、寄与リスクは5万7,500接種に1人から5万2,000接種に1人と推定された。 著者は、「ASO3アジュバント添加パンデミックA/H1N1 2009インフルエンザワクチンの接種を受けた英国の子どもにおいてナルコレプシーのリスク増大が確認された。これはフィンランドの知見と一致する」と結論した上で、「確認バイアス(ascertainment bias)は最小化されているとはいえ、ワクチン被接種者をより早急に抽出することによるリスクの過大評価の可能性は残る。寄与リスクを適正に評価するには、被接種者のより長期のフォローアップを要する」と指摘している。

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「岐阜県COPDストップ作戦」一丸となってCOPDに取り組む

大林 浩幸 ( おおばやし ひろゆき )氏岐阜県COPD対策協議会 本部長(東濃中央クリニック 院長)※所属・役職は2013年2月現在のものです。岐阜県におけるCOPDの現状大規模なCOPD疫学調査NICE Study*の結果によれば、COPD患者は40歳以上の8.6%、約530万人と推定されています。COPDによる死亡者数は年々増加しており2011年の死亡者数は16,639人です。このNICEstudyの有病率に岐阜県の人口を当てはめると、岐阜県のCOPD患者数は12万3070人と推定されます。一方、岐阜県の治療中のCOPD患者数を主要なCOPD治療薬の販売量から推定すると5,000人未満となり、推測患者数の1割にも満たないことがわかりました。すべての治療患者さんが対象ではないとしても、これはあまりにも少なすぎます。残りの10万人以上の方は潜在患者として、気づかれないままでいるか、他疾患の治療のみ受けている可能性もあるわけです。また、岐阜県のCOPD死亡者数は1997年から2009年までの12年間、全国平均を常に上回っています。このように岐阜県のCOPD治療は重要な課題を抱えていました。*NICE(Nippon COPD Epidemiology)study:2004年に順天堂大学医学部の福地氏らが報告した40歳以上の男女2,343名のデータによるCOPDの大規模な疫学調査研究COPD死亡率(人口10万人対)2009年画像を拡大するCOPD死亡率(人口10万人対)岐阜VS全国画像を拡大する手をかけなければいけない疾患COPD喘息には吸入ステロイドなどの治療薬があり、適切な治療で症状改善が可能ですが、COPDには進行を遅らせる治療しかありません。具体的には、禁煙、増悪防止のための感染予防(ワクチン)、日常管理といった基本と、その上で行われる気管支拡張薬、呼吸リハビリテーションなどがそれにあたります。この中の一つでも欠けると奏功しません。このように、COPDはさまざまな医療が必要となる“手をかけなければいけない疾患”だといえます。COPDの認知度の低さCOPDの認知度はきわめて低いものです。一般の方の半数以上はCOPDをご存じありませんし、知っていたとしても名前だけで、COPDがどういう疾患かわかる方はとても少ないです。息切れは年齢のせい、喫煙者だから多少の息切れは当たり前と考えているのですから、医療機関を受診をすることはありません。このように、COPDの認知の低さにより、自分がCOPDである事を知らずに過ごしている方が数多くいることになります。また、受診してもCOPDを理解していないと治療はうまくいきません。COPDの薬剤を吸入しながら喫煙しているケースなどは、その典型例といえます。肺機能検査の普及COPDの早期発見と診断には肺機能検査が必要です。しかし、プライマリ・ケア領域では機器がない、あるいは機器があっても使っていない状況であり、肺機能検査を実施しているのはほとんどが大病院です。つまり、COPD潜在患者のほとんどが医療機関未受診かプライマリ・ケア領域に潜んでいる可能性があります。高血圧などの循環器疾患、脂質異常症や糖尿病、消化器疾患などの疾患治療患者の何割かに隠れCOPDがいると思われます。COPDストップ作戦立ち上げこのような背景の中、岐阜県としては早急にCOPDへの対策を図る必要がありました。COPDは片道切符で、一旦悪化するとなかなか元に戻りません。ブレーキの始動が遅れると終着駅は在宅酸素になります。だからこそ、重症化する前にいかに早期発見・早期診断し、いかに禁煙、薬物治療、リハビリテーションという一連の治療を導入していくのかを考えなければなりません。また、これらの治療はバラバラでは意味をなさず、全県が同じレベルでこれらの治療がカバーできるよう足並み揃えて取り組む必要がありました。そこで平成23年度に岐阜県医師会と岐阜県で協議し、委託事業として県医師会がCOPD対策事業を始めることになりました。まず岐阜県医師会COPD対策協議会を立ち上げ、その下にCOPD対策本部を設置しました。そして岐阜県を5地区に分け、各地区に対策委員会を設置しました。地域医師会との連携がスムーズに行われるように、専門医と共に、地域医師会役員も地区委員に就任していただきました。そして私、大林が岐阜県COPD対策本部長に指名され、平成23年10月に全県一斉に「COPDストップ作戦」を立ち上げ開始しました。岐阜県5ブロック画像を拡大するCOPD対策協議会画像を拡大するCOPDストップ作戦の目的は、COPD死の減少です。活動の軸は、COPDの頭文字をとって、Care COPD(COPDの早期治療)、Omit COPD(COPD発症の最大原因である喫煙習慣の排除) 、Prevent COPD(COPD発症の原因であるタバコの害を啓発し、喫煙開始させない)、Discover COPD(COPDを早期から発見し、早期治療に結びつける)の4本としました。県医師会“COPDストップ作戦”の4つのコンセプト画像を拡大するCOPDストップ作戦 第1弾COPD教育講演会ストップ作戦の第1弾はCare COPDとして、COPD教育講演会を実施しました。COPDの適切な治療法の普及を目的とし、H23年10月〜12月に第1回、翌年のH24年10月〜12月に第2回を県内5地区すべてで行っています。H25年には第3回を実施の予定です。この講演会の特徴は、外部講師を招かず、地元の専門医に座長と講師をお願いしていることです。地域の核となる先生と地域の先生が顔の見える連携を築き、今後の病診連携に役立てることを意図しています。COPDストップ作戦第2弾 スパイロキャラバン第2弾はDiscover COPDとして、スパイロキャラバンを実施しました。COPDの早期発見・早期治療の最大の障壁は肺機能検査(スパイロメトリ―)の普及不足です。肺機能検査を体験していただき、より日常診療的な検査にしていただくことを目的として行っています。まず、岐阜県下の診療所等を対象に、各地区での説明会を行い、ボランティア参加で協力診療所を募りました。肺機能検査装置のない診療所には貸し出し、患者さんに無料で肺機能検査を実施していただくというものです。検査対象者は、COPD以外の疾患で受診中の、喫煙中または禁煙歴があり、労作性呼吸困難の訴えがある40歳以上の患者さんです。この方たちに書面で同意を得て肺機能検査を実施しました。第1回はH23年10月〜12月、第二回はH24年9月〜12月の期間に実施しています。第1回のスパイロキャラバンの結果、COPD疑いありの患者さんは、検査を行った方の30.9%でした。とくに、70歳代では半数、80歳代では6割が疑いありと非常に高い頻度でした。人数でいうと、計530例の潜在患者さんを参加51施設が引き出したことになります。また、肺年齢はII期以上から実年齢に比べ有意に下がっていることもわかりました。このスパイロキャラバンの結果は、県下において積極的にCOPDストップ作戦を展開すべき根拠を明らかにしたといえます。スパイロキャラバン実施結果画像を拡大する年齢別COPD(疑)存在率(%)画像を拡大するCOPDストップ作戦第3弾 禁煙指導セミナー第3弾はOmit COPDとして、プライマリ・ケアの医師、薬剤師を対象に県5地区すべてで禁煙治療法セミナーを開講しました。目的は禁煙治療ができる施設を増やし、禁煙治療をもっと市民に身近なものにすることと、県内の禁煙治療レベルの底上げです。COPDの進行を止める最も有効かつ根本的な治療法は禁煙です。ただし、禁煙指導は標準治療に則り正しく行わないと成果が上がりません。ところが、実際は施設によって禁煙指導のやり方に差があるなど多くの課題がありました。平成24年10月~12月に第1回を行いましたが、反響が大きく、各地域とも非常に多くの先生方に参加いただきました。今年は第2回を開催する予定です。COPDストップ作戦第4弾 吸入指導セミナー第4弾はCare COPDとして、吸入指導セミナーを薬剤師会との連携により実施していきたいと考えています。このセミナーは薬局の吸入指導技術の向上と、すべての薬局で同じ指導ができるようにすることが目的です。COPD治療薬の主軸は吸入薬です。しかし、吸入指導が不十分で、患者さんが誤った吸入方法を行ったり、有効に吸入できていないケースが多くみられます。吸入デバイスもメーカーごとに異なり、すべての薬剤・デバイスを網羅したセミナーが必要とされています。東濃地区では2009年から行っていますが、薬剤師の方は非常に熱心で、成果も上がっています。これから全県下に展開していきたいと思います。COPDストップ作戦の成果と今後スパイロキャラバンで新たに多くの潜在患者から引き出し、プライマリ・ケア領域に多くのCOPD患者さんが埋もれている可能性を示したことは、大きな成果といえます。また、この作戦を通し、医療者の意識の変化も感じられます。COPD患者さんを積極的にみられる先生方も増えるなどCOPDの意識が定着し始めてきたと思います。また、肺機能検査実施の意識が高まってきたと思います。スパイロキャラバンに2回とも参加したり、数多く肺機能検査を実施される熱心な先生も増えてきました。肺機能検査の重要性や簡単さが浸透し、第1回目のスパイロキャラバン開始後、肺機能検査装置の新規購入が増えたようです。禁煙指導セミナーについては非常に反響が強く、禁煙治療の標準化が県下で底上げされたと思います。とはいえ、一般市民へのCOPDの認知率向上は今後も必要ですし、Prevent COPDとして学校での禁煙教室も非常に重要です。さらに、病診連携の実現もありますので、これら4つのコンセプトを軸にCOPD作戦を今後も進めて行きたいと考えています。COPD治療は前述のとおり、しなければならないことが多いのですが、それだけのことを行わないと、患者さんに良い医療を十分に提供できたことにはなりません。しかし、個々の施設ごとで、十分に対応できるとは限りません。そこで、これまでのような局地戦でなく、県全体が力を合わせた総力戦で行うことで、患者さんが救われるのだと思います。

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新規結核ワクチンの有効性示せず:MVA85A 020 Trial Study/Lancet

 開発中の新規結核ワクチンMVA85Aは、BCG接種歴のある幼児において良好な安全性を示したものの、予想に反して結核の予防効果はほとんどないことが、南アフリカ共和国・ケープタウン大学のMichele D Tameris氏の検討で示された。2011年の世界の結核患者数は約870万人で、約140万人が結核が原因で死亡している。南アフリカのような流行地では、BCGが広く普及しているにもかかわらず、幼児、小児の結核発症率がきわめて高く、ワクチンの改良が喫緊の課題とされる。MVA85AはBCGの予防効果を増強するようデザインされ、結核の予防に重要と考えられる抗体特異的Th1細胞およびTh17細胞を誘導することが確認されているという。Lancet誌オンライン版2013年2月4日号掲載の報告。安全性、有効性を無作為化第IIb相試験で評価 MVA85A 020 Trial Studyは、幼児における結核およびMycobacterium tuberculosis感染に対するMVA85Aの安全性、免疫原性、有効性を評価する二重盲検プラセボ対照無作為化第IIb相試験。 BCGワクチン接種歴があり、HIVに感染していない健康な幼児(生後4~6ヵ月)を対象とした。これらの幼児を、MVA85Aを皮内接種する群またはプラセボ群に無作為に割り付けた。3ヵ月ごとに最長37ヵ月のフォローアップを行った。 主要評価項目は安全性(有害事象および重篤な有害事象の発現)とし、ワクチン接種群の有効率の評価も行った。有効性の評価項目として、微生物学的、X線画像上、臨床的な判定基準に基づく結核の発症率およびM tuberculosis感染(抗体陽性化)の検討を行った。結核発症に対する有効率17.3%、感染に対する有効率-3.8% 2009年7月15日~2011年5月4日までに2,797人が登録され、MVA85Aワクチン接種群に1,399人が、プラセボ群には1,398人(2人が接種を受けなかった)が割り付けられた。per-protocol集団のフォローアップ期間中央値は24.6ヵ月で、両群間に有意な差はなかった。ワクチン接種群の1,399人(生後146.6日、男児51%)、プラセボ群の1,395人(同:145.7日、51%)が解析の対象となった。 局所的有害事象の発生率はワクチン群で多かった[89%(1,251/1,399人)vs 45%(628/1,396人)]が、全身性の有害事象[80%(1,120/1,399人)vs 76%(1,059/1,396人)]や重篤な有害事象の発生率に差は認めなかった[18%(257/1,399人)vs 18%(258/1,396人)]。これら515人の幼児にみられた648件の重篤な有害事象はMVA85Aワクチンとは無関係だった。 ワクチン群の結核の発症率は2%(32/1,399人)で、これは100人年当たり1.15〔95%信頼区間(CI):0.79~1.62〕に相当した。M tuberculosis感染率は13%(178/1,398人、95%CI:11.0~14.6)であった。 これに対し、対照群の結核発症率は3%(39/1,395人)で、100人年当たり1.39(95%CI:1.00~1.91)、感染率は12%(171/1,394人、同:10.6~14.1)だった。 結核の発症に対するワクチン接種の有効率は17.3%(95%CI:-31.9~48.2)、M tuberculosis感染に対する有効率は-3.8%(同:-28.1~15.9)であった。 著者は、「MVA85Aワクチンは良好な忍容性を示し、細胞性免疫反応も誘導したが、結核の発症およびM tuberculosis感染の抑制効果はほとんどなかった」と結論し、「現行の結核ワクチンの候補選定のパラメータは不適切な可能性があり、試験のデザインや遂行の仕方をも含め、本試験の教訓は今後のワクチン開発にとって重要である」と指摘している。

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エンテロウイルス71ワクチン、第2相試験で免疫原性、安全性を確認/Lancet

 エンテロウイルス71(EV71)ワクチンについて、第2相無作為化二重盲検プラセボ対照試験の結果、乳幼児に対する免疫原性と安全性を確認したことを中国・江蘇省疾病管理予防センターのFeng-Cai Zhu氏らが報告した。EV71は1969年に米国カリフォルニアで初めて報告された腸管ウイルスで、その後14ヵ国以上(日本も含む)から報告が寄せられている。とくに中国では過去に3度重大流行が発生し2009年には255人超が死亡したという。今回検討されたワクチンは、中国Beijing Vigoo Biologicalが開発したアラムアジュバンドワクチン製剤で、第1相試験で臨床的に認容性のある安全性プロファイルと免疫原性が示唆されたことを受けて本試験が行われた。Lancet誌オンライン版2013年1月24日号掲載報告より。生後6~36ヵ月の乳幼児を対象に無作為化二重盲検プラセボ対照試験 EV71ワクチンの第2相試験は、江蘇省東海県の1施設で、生後6~36ヵ月の健康な男女児を適格被験者として行われた。 被験児を無作為に5群[アラムアジュバントEV71ワクチン160U、320U、640U群と、非アジュバントワクチン群、プラセボ(アラムアジュバントのみ含有)群]に、SAS9.1ブロックランダムリストを用いて割り付けた。無作為化情報は、被験児および試験担当者には知らされなかった。 主要エンドポイントは、56日時点での幾何平均抗体価(GMTs)で、プロトコルに基づき解析が行われた。320Uアラムアジュバント製剤が最適 無作為化された被験児は1,200例で、各接種群には240例ずつ(乳児:6~11ヵ月齢児120例、幼児:12~36ヵ月齢児120例)が割り付けられた。そのうち試験を完了したのは1,106例であった。被験児のドロップアウトは、同意が得られなかったことと血液サンプル提供の拒否が主な理由であった。 解析の結果、乳児640U接種群が56日時点のGMTsが最も高値であった(742.2、95%CI:577.3~954.3)。次いで乳児320U接種群が続いた(497.9、383.1~647.0)。 幼児では320U接種群が最も高値であった(1,383.2、1,037.3~1,844.5)。 全体では、ワクチン接種群が非接種群よりもGMTs値が有意に高値であった(p<0.0001)。 ベースラインで血清陰性であった被験児のサブグループについて、640U接種を受けた乳児および幼児の両群が56日時点のGMTsが最も高値であった(乳児:522.8、403.9~676.6、幼児:708.4、524.1~957.6)。次いで320U接種群であった(乳児:358.2、280.5~457.5、幼児:498.0、383.4~646.9)。 安全性について、1,200例のうち549例(45.8%)が1つ以上の注射部位あるいは全身性の副反応を報告したが、副反応発生率は接種群間で有意な差はみられなかった(p=0.36)。ただし硬結発生率について、640Uアジュバントワクチン接種群が非アジュバントと比較して有意に高率であった(p=0.001)。 以上を踏まえて著者は、「EV71ワクチンの免疫原性、安全性、製剤の生産性が確認された。おそらく第3相試験には320Uアラムアジュバント製剤が最も適しているであろう」と結論している。

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妊娠中のH1N1インフルエンザワクチン接種、発症リスクを7割減/NEJM

 妊娠中の2009インフルエンザA(H1N1)ウイルス感染症パンデミックの罹患は、胎児死亡リスクを約2倍増大する一方、妊娠中に同ワクチンを投与した人では、インフルエンザを発症した人の割合は約7割少なかったことが報告された。ノルウェーのNorwegian Institute of Public HealthのSiri E. Haberg氏らが、H1N1ウイルスが流行した2009~2010年に妊娠中だった女性12万人弱について行った試験で明らかにしたもので、NEJM誌2013年1月24日号(オンライン版2013年1月16日号)で発表した。2009パンデミックでは、ワクチン接種後に胎児死亡が散発的に報告されたことで、妊婦へのワクチン接種の安全性について懸念が持ち上がっていた。胎児死亡率は1,000児中4.9児 研究グループは、ノルウェーの全国登録名簿などを用いて、2009~2010年に妊娠中だった11万7,347例について調査を行った。被験者のインフルエンザワクチン接種の有無、出産アウトカム、パンデミック前後や期間中の状況などについて調べ、Cox回帰モデルを用いて、H1N1ウイルス感染やワクチン接種と胎児死亡率についての関連を分析した。 その結果、胎児の死亡は570例で、胎児死亡率は1,000例中4.9だった。被験者のうち単胎妊娠は11万3,331人で、そのうち胎児の死亡は492例(1,000例中4.3)だった。妊婦のワクチン投与で発症リスクは7割減、胎児死亡リスク減少では有意差みられず パンデミック期間中に妊娠第2・第3期だった妊婦は4万6,491例で、そのうちインフルエンザワクチン接種を受けた人の割合は54%だった。 妊娠中のインフルエンザワクチン投与は、インフルエンザ発症率を約7割減少した(補正後ハザード比:0.30、95%信頼区間:0.25~0.34)。 妊婦のうちインフルエンザの臨床的診断を受けた人では、胎児死亡率は約2倍に増大した(補正後ハザード比:1.91、同:1.07~3.41)。 妊娠中のワクチン投与によって、胎児死亡リスクは減少する傾向が認められたものの、有意差は認めらなかった(補正後ハザード比:0.88、同:0.66~1.17)。 これらの結果を踏まえて著者は、「ワクチン接種自体は胎児死亡とは関係がない。むしろパンデミック期間中のインフルエンザ関連の胎児死亡リスクを低減する可能性がある」と結論した。

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「ヒヤリ・ハット」、先生は報告してますか?記名or匿名?電子or紙?実態大公開

診療中、検査中、手術中、「おっと危ない」と心のなかでつぶやいたこと、ありませんか?「ひょっとしてとんでもない事態になっていたかも」と大汗をかいても、喉元過ぎれば…でまた繰り返してしまったり。最近は「とにかく報告をあげろ」という病院も増えているようですが、果たして防止策につながっているのか?責任追及や懲罰は?具体的なエピソードと共に、一挙公開します!コメントはこちら結果概要3人に1人が月に一度以上ヒヤリ・ハットを経験、最も多いシーンは『薬剤の処方・投与』日々の診療でのヒヤリ・ハットの経験頻度について尋ねたところ、『週に一度』(5.7%)『月に一度』(26.3%)を合わせ3人に1人が月に一度以上は何らかの形でヒヤリ・ハットに遭遇していると回答。一方『なし』とした医師は全体の14.4%。内容別では『薬剤の処方・投与』『治療・処置』『転倒・転落』と続くが、「報告は形式的で成果が上がっていない。誤薬と転倒のみが表立っていて、もっと問題視すべき事象は表に出ないまま」「報告数を増やすため些細なものも報告している」などの他、「“報告すること”が目的化してしまい、有効な対策の検討にはつながっていない」といった声も挙がった。経験医師の約6割が『報告しないことがある』、最も多い理由は『レポート作成が手間』そうしたケースに遭遇した場合の報告の有無について尋ねると、全体の41.1%が『全て報告する』と回答。その他の医師の“報告しない理由”として、『レポート作成に手間がかかるため』46.0%、次いで『院内に報告の仕組みがないため』『報告しても事故予防に役立たないと思うため』と続く。『責任追及される、評価・懲罰に関わるため』とした医師は全体の2.2%。しかしその内訳は勤務施設によって異なり、診療所・クリニックにおいては『報告の仕組みがない』が約6割に上った。報告システムの電子化進むが、「かえって面倒」との声も施設の報告体制・安全対策として、4割近い医師が『スタッフ用マニュアル』『定期会議での検討・分析』『研修・セミナー』があると回答。当事者を明らかにするか否かについては、『記名式』35.5%、『匿名式』17.2%であった。報告手段については『紙ベース』44.9%、『電子化された報告システム』32.3%となったが、電子化システムの導入について施設別に見ると、一般の病院では26.5%だったのに対し、参加登録申請医療機関では60.2%、報告義務医療機関では70.1%となった。しかし前述の“報告しない理由”で『レポート作成が手間』とした医師は、報告義務医療機関では66.3%に上り「紙ベースの時のほうが報告しやすかった」「面倒なシステムだと、文化以前の段階で敬遠されてしまう」といった声も見られた。設問詳細ヒヤリ・ハットおよびその報告についてお尋ねします。昨年12月21日のCB医療介護ニュースによると、『日本医療機能評価機構は20日、今年7-9月の四半期に報告を受けた医療事故情報が、同機構が医療事故情報収集・分析・提供事業を始めた2004年10月以降で最多の814件だったことを明らかにした。(中略)同機構によると、9月末現在、報告が義務付けられている国立病院や特定機能病院など「報告義務対象医療機関」は273施設で、自主的に事業に参加している「参加登録申請医療機関」は637施設。7-9月は、157施設の報告義務対象医療機関から計726件、29施設の参加登録申請医療機関から計88件が報告された。同機構の担当者は、前年の報告数が約2800件に上ったことや、今回、四半期としての記録を更新したことから、「事故を報告する文化が定着しつつあるのではないか」と話している(略)』とのこと。医療事故につながる事例として「ヒヤリ・ハット」あるいは「インシデント」があります。日本医療機能評価機構による「ヒヤリ・ハット」の定義は以下です。(1)医療に誤りがあったが、患者に実施される前に発見された事例。(2)誤った医療が実施されたが、患者への影響が認められなかった事例または軽微な処置・治療を要した事例。ただし、軽微な処置・治療とは、消毒、湿布、鎮痛剤投与等とする。(3)誤った医療が実施されたが、患者への影響が不明な事例。そこで先生にお尋ねします。Q1.日々の診療におけるヒヤリ・ハットのご経験について過去1年間で最も近い頻度をお選び下さい。週に一度月に一度半年に一度年に一度なし(Q1で「なし」を選んだ方以外)Q2.どのような場面でヒヤリ・ハットを経験しましたか?当てはまること全てをお選び下さい。治療・処置薬剤の処方・投与ドレーン・チューブ類の使用転倒・転落検査医療機器の使用輸血その他(Q1で「なし」を選んだ方以外)Q3.経験したヒヤリ・ハットへの報告の有無についてお答え下さい。全て報告している報告しないことがある全く報告しない(Q3「全て報告している」を選んだ方以外)Q4.報告しない理由について最も当てはまるものをお選び下さい。レポート作成等に手間がかかるため責任追及されるあるいは評価・懲罰に関わるため報告しても事故予防に役立たないと思うため院内に報告の仕組みがないためその他Q5.ご勤務施設のヒヤリ・ハット報告体制、および医療安全対策について当てはまることを全てお選び下さい。電子化された報告システムを導入している報告書は紙ベースである報告は匿名式である報告は記名式である報告されたヒヤリ・ハットに関し定期的な会議にて検討・分析している報告件数・内容などが集計され院内に発表される医療安全に関わる研修・セミナーを実施しているスタッフ用医療安全マニュアルがある上記全て当てはまらないQ6. コメントをお願いします(具体的なエピソード、防止策、報告に関する勤務施設内での対応方針、報告したことによる評価・責任追及・懲罰の有無、その他ご意見など何でも結構です)F1. 先生が勤務されている施設を以下からお選び下さい。おわかりにならない先生は「上記以外」からお選び下さい。「報告義務医療機関」とは国立高度専門医療センター及び国立ハンセン病療養所独立行政法人国立病院機構の開設する病院学校教育法に基づく大学の付属施設である病院(病院分院を除く)特定機能病院「参加登録申請医療機関」とは上記以外で医療事故情報収集等事業の参加に希望する医療機関報告義務医療機関参加登録申請医療機関上記以外の病院(20床以上)上記以外の一般診療所・クリニック(19床以下)その他F2. 年代F3. 診療科2013年1月17日(木)~18日(金)実施有効回答数1,000件調査対象CareNet.com会員コメント抜粋(一部割愛、簡略化しておりますことをご了承下さい)「報告自体が医師の負荷を増しているのが悩ましい」(40代,内科,上記以外の病院)「同じような失敗が性懲りもなく繰り返されるが、対策を立てると減少する事例、患者サイドの要因が大きくなかなか減少しない事例がある。」(40代,脳神経外科,上記以外の病院)「報告システムはあるが形式的で結局なにも成果があがっていない。 誤薬と転倒のみが表立っていてもっと問題とするべき事項は表に出ないまま終わっている」(50代,神経内科,報告義務医療機関)「薬剤名の間違い(電子カルテで上下の段にある薬を誤って処方してしまう)がほとんど」(60代以上,耳鼻咽喉科,上記以外の一般診療所・クリニック)「他職種のヒヤリハットであっても、全て医師が患者や家族に説明する体制になっていてなんとなく腑に落ちないときがある」(40代,精神・神経科,上記以外の病院)「どの程度から報告したらよいか悩むことがある。今回、報告しなかったのは子どもが診察室の椅子で暴れて落ちそうになったことであり、ヒヤリハットの定義に当てはまらないと思われるが、転落してケガをしたら報告しなくてはならない。小児科であり、今回と同様のことをすべて報告していたらきりがない。以前の病院では、名前を伏せたレポートを冊子化しており、“こんなことが起こりうるのか”“このように注意したらよいのか”など参考になることがあった。レポートを提出することで注意されたり非難されたりしたことは一切なかったので、その環境はレポートを提出しやすくなるので大切」(60代以上,小児科,上記以外の病院)「ただ単に報告するだけでは、重大事故は防げないと思う。重大事故が既に過去に生じているから「ヒヤリ・ハット」と認識できるのであり、それだけでは新たな重大事故防止に不十分であると思うからです。報告することが目的のように勘違いされている風潮があります。重大事故を想像・想定する一歩進めたKYT(危険予知トレーニング)をもっと重視するべき」(50代,外科,上記以外の病院)「エピソードの報告があっても、原因・対応策の真剣な取り組みが見られないし、指導する者が居ない」(60代以上,内科,上記以外の一般診療所・クリニック)「医師は本来業務が煩雑で、ヒヤリ・ハットが多いが、忙しすぎていちいち報告できないのが現状」(40代,内科,上記以外の病院)「インシデント・アクシデントの報告は病院にとって宝であり、原則責任追及や懲罰はなく、特に発見者や対応策の提示者には表彰があります。」(40代,内科,上記以外の病院)「ピリン禁忌の患者にピリン系薬剤を処方し薬剤師より注意された。」(40代,内科,上記以外の一般診療所・クリニック)「電子カルテを最近導入したが,処方の際に小数点が落ちてしまったり,前回処方をコピーしようとして 前々回の処方をコピーしたりすることがある。電子カルテの操作性や,日付順に記載内容が表示されない など,電子カルテそのもののできが悪いとしか言いようがない。」(50代,小児科,報告義務医療機関)「昔なら問題にすらならないようなことまで、問題にされる傾向である。」(50代,内科,上記以外の一般診療所・クリニック)「事故を起こした個人の責任とせず、組織で再発防止を考える最近の流れに、大いに賛成しています。 昔は、ひどかった・・・。」(40代,内科,上記以外の一般診療所・クリニック)「ミスは誰にでもあるので、個人的な責任を問わないという姿勢も大事だとは思うが、明らかにミスを繰り返す傾向のある人もいる。その人に対して、どう対応すればいいのか?」(50代,小児科,上記以外の病院)「事故を報告する文化の醸成が重要、文化のないところにシステムを構築しても機能しないのではないかと思う。それと、報告システムの手間の軽減策、あまりに面倒なシステムだと、それが足かせとなって文化以前の段階で敬遠されてしまう。」(50代,消化器科,報告義務医療機関)「後日、重要なものについては医療安全管理室から事情聴取がある。」(60代以上,麻酔科,その他)「codeblueの館内放送が流れない部屋があったり、ブレーキの壊れた車椅子で院外に出た患者が危うく交通事故に合いそうになったりなど。」(60代以上,救急医療科,その他)「対策はしても責任追及はしない。あまりに報告が少ない部署は、むしろ要注意。」(50代,整形外科,上記以外の病院)「オカーレンスレポートを提出した事がありますが、某教授から退職するように強要されました。責任を追及しないなんて全くの嘘ですので。」(50代,循環器科,上記以外の一般診療所・クリニック)「責任追及ではないので、報告することで病院機能改善の方向に向かうと考えている。」(50代,耳鼻咽喉科,参加登録申請医療機関)「自身も含めインシデント・アクシデントの報告・連絡・相談は思うように行かない・・というのが実感」(40代,内科,上記以外の病院)「玄関前が凍結しており、患者が転倒することがあった。打撲程度であり、患者家族にも理解をしてもらえた。それ以後、翌朝凍結が予想されるときには診察終了時に玄関前に凍結防止剤(塩)を散布し、朝には湯をかけて凍結転倒しないよう配慮している。」(50代,内科,上記以外の一般診療所・クリニック)「報告件数・内容などが集計され院内に発表され対策会議にて再発予防策を策定しています。」(50代,泌尿器科,上記以外の病院)「自分自身、規格違いの内服薬の誤処方、静注薬の過量投与などを起こしたことがあるが、インシデントが起きたことを患者に説明すると、院長名の文書で具体的な改善策を求められ、患者側の意識が以前より高くなっていると感じる。当院ではレベル3b以上では、緊急に医療安全管理委員会が開かれて対応を協議している。報告は原則として安全管理システムの向上を目的としており、当事者の責任追及や懲罰はなされないのが通常の対応であるが、分析によって明らかに当事者個人の対応に問題があった場合はあり得る。」(50代,小児科,参加登録申請医療機関)「以前勤めていた病院で、手術中のエピソード(腰椎麻酔下での血圧低下と一過性の呼吸抑制のため一時術野から手をおろし対応)を報告したら、現場を知らない事務方に医療事故対応をとられる寸前のところだった。県立大野病院の事件の直後の頃である。ヒヤリ・ハットの報告も大事だが、関わるすべての人にきちんと責任をもってもらいたい。」(40代,産婦人科,上記以外の一般診療所・クリニック)「絶対ベッド上安静の患者(認知症なし)が勝手にベッドから降りようとして転倒した。 少ないスタッフでの看護にも限界あり。」(40代,整形外科,上記以外の病院)「外来での処方忘れや、看護師への細かい指示の行違い等、報告しているとキリがない。これらを無くすることは現実的には無理だと思う。 報告すべき事例と、しなくても良い事例の線引きが困難である。 」(40代,循環器科,報告義務医療機関)「ヒヤリハットの範囲が不明確である。処方での入力ミス(非危険薬):用法用量などがキーの入力ミスで 入力後気づく、あるいは薬剤師からの疑義解釈で気づくなどの場合、ヒヤリハットといえるか必ずしも明確でない(手書きでは起こらないことが電カルでは頻繁に起こる)。」(60代以上,リウマチ科,上記以外の病院)「電子カルテシルテムの様式が煩雑でハードルが高い」(50代,眼科,参加登録申請医療機関)「無床クリニックでの安全体制って、皆様いかが取り組んでいらっしゃるのか、知りたいところです。」(40代,内科,上記以外の一般診療所・クリニック)「研修医は直属の上司がはっきりしないため、報告システムが確立していない。」(30代以下,内科,報告義務医療機関)「よく似た名前の患者は、呼名で確認しても患者がハイと返事するので困った。番号で呼ぶのが良いかもしれない。」(50代,腎臓内科,上記以外の病院)「定期的に発信していかないと、報告数が減少してしまいます。報告者への責任や懲罰はありませんが、個別にはいろいろともめる原因になっているようです。」(40代,産婦人科,参加登録申請医療機関)「日常業務に差し支えのない程度の簡単な報告様式にするか、事務が書いてくれるなどしてくれるといいのだが。」(30代以下,産婦人科,報告義務医療機関)「外来処方時の日数間違えなどは登録していません。 入院中の点滴オーダー忘れや検査で有害事象が起きたときはすべて報告しています。」(30代以下,循環器科,その他)「当院では報告しても周囲に報告やお知らせなどせず、反映されていない」(40代,整形外科,報告義務医療機関)「もっと簡単なフォーマットになっていればいいと思います。」(40代,その他,報告義務医療機関)「うちの施設では、犯人探しになってしまうことが多い」(40代,呼吸器科,上記以外の病院)「電子カルテになって、電子化された報告システムになったが、紙ベースのときの方が報告しやすかった」(50代,外科,上記以外の病院)「懲罰はないが、あまりにひどい場合には依願退職した人もいる。」(60代以上,放射線科,参加登録申請医療機関)「報告による評価・責任追及・懲罰の有無はないとされているが、長期的に見た場合、全くヒヤリハット報告がない医師と、正直にすべて報告した医師とで、本当に評価の差が無いのか不安。」(30代以下,小児科,その他)「報告はある程度保存したあとは、残さないというルールでなければ報告は増えないと思います。」(40代,整形外科,上記以外の病院)「どこの病院でも医師からのインシデントレポート(ヒヤリ・ハット)は少ない。関係者が複数の場合、だれが報告を上げるかでも病院幹部の考え方が違っており統一されていない点が問題である。医療評価機構などが報告数を上げることを目的にしているように医師には思えてくるのではないか?真の医療の質の向上に結びついているという実感がないことが多いため報告しない可能性が高いと思う。」(50代,小児科,参加登録申請医療機関)「安全に対する対策費の増額が必要であるが、現状の医療環境の中で捻出が困難」(50代,消化器科,その他)「ワクチンの打ち間違えは痛かった。院長である以上、スタッフ全員に目を配らなければ。」(50代,小児科,上記以外の一般診療所・クリニック)「看護師による誤投薬で責任を取らされたことがあり腑に落ちない」(30代以下,呼吸器科,上記以外の病院)「処方箋の記入間違いがどうしても減らず困っています。」(50代,内科,参加登録申請医療機関)「医者は基本的にインシデント報告をしない人が多い気がします」(30代以下,精神・神経科,報告義務医療機関)「報告により責任追及は行われないことになっているが、誰が見ても防げる単純なミスなどはみっともないと思われるのは通常。どこまでを報告範囲とすべきか、決まっていないものもあり、手術時間の延長についても報告されない場合とされる場合がある」(40代,外科,報告義務医療機関)「MRM委員会と事例検討会が毎月開催されています。」(40代,呼吸器科,その他)「ヒューマンエラーは決してゼロにはならないとの観点から、ヒヤリハットの報告システムは重要と考える。しかし、報告したことや情報を収集したことで満足し、業務内容の改善等に生かされないのであれば意味がない。」(40代,血液内科,報告義務医療機関)「外来診察で高度の認知症のある別の患者が入室したことがあったが、診察終了までそれに気がつきませんでした。」(30代以下,皮膚科,報告義務医療機関)「病院首脳でヒヤリハット会議に出席しているメンバーに、ヒヤリハット事例の常連メンバーがおり、会議自体が形骸化している」(40代,内科,参加登録申請医療機関)「医師からの報告が少ないので、数字を増やすため、些細なものも報告している」(50代,内科,上記以外の一般診療所・クリニック)「報告しても、防ぐ手立てがないものが多い。今後、お互いに気をつけましょうで終わってしまう。」(50代,精神・神経科,上記以外の病院)

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新型インフルエンザワクチン、てんかん発作のリスクを増大しない/BMJ

 パンデミックA/H1N1インフルエンザ、いわゆる新型インフルエンザのワクチンについて、てんかん発作のリスクを増大するエビデンスはみられなかったことが、スウェーデン・カロリンスカ研究所のLisen Arnheim-Dahlstrom氏らによる検証の結果、報告された。同ワクチンについては先行研究で、ギラン・バレー症候群など神経学的イベントのリスク増大およびナルコレプシーのリスク増大の可能性が報告されていた。また、百日咳ワクチンの接種後のてんかん発作が報告されており、研究グループは、新型インフルエンザワクチンのてんかん発作リスクの増大について調査した。BMJ誌2013年1月5日号(オンライン版2012年12月18日号)掲載より。てんかんあり・なし含む接種者37万人超について調査 研究グループは自己対照ケースシリーズ研究にて、新型インフルエンザの単価AS03アジュバンドワクチン(商品名:パンデムリックス〔国内未承認〕)のてんかん発作リスクを評価した。 評価の対象は、スウェーデンの3つの州(人口約75万人)で2009年10月~2010年5月にワクチン接種を受けた、てんかんの有無を問わない37万3,398人(0~106歳、年齢中央値41.2歳)だった。 それらのうち、接種前90日間および接種後90日間に、入院患者あるいは外来患者としててんかん発作を診断された人を調べた。エンドポイントは、てんかん発作を主病として入院または外来治療を受けたこととした。 評価は、ワクチン接種後のてんかん発作の発生率とワクチン接種前後の2つの期間におけるてんかん発作の発生とを比較して算出した推定エフェクト相対発生率にて行った。てんかん既往者のリスクも、増大はみられず 試験期間中にてんかん発作を認めた人は859人だった。 1~7日のリスク期間中(1日目がワクチン接種日)において、てんかん既往者の発作のリスク増大は認められなかった(相対発生率:1.01、95%信頼区間:0.74~1.39)。 また、非既往者の発作リスクの有意な低下は認められなかった(同:0.67、0.27~1.65)。 8~30日のリスク期間においては、非既往の人の発作リスクの有意な増大はみられず(同:1.11、0.73~1.70)、既往者のリスクは増大しなかった(同:1.00、0.83~1.21)。

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エキスパートが質問に回答「インフルエンザ診療」その2

CareNet.comでは12月のインフルエンザ特集を配信にあたり、会員の先生よりインフルエンザ診療に関する質問を募集しました。その中から、多く寄せられた質問に対し、岡部信彦先生にご回答いただきました。インフルエンザ脳症の早期発見のポイントについて教えてください。インフルエンザ様症状が発現後、比較的早い時期における“意味不明な言動を起こす”“意識状態に異常がみられる(呼んでも反応が鈍いなど)”という症状は、急性脳症を疑う重要なポイントといえるでしょう。もちろん、痙攣や重度の意識障害も、本症を疑う大きなポイントです。インフルエンザに伴う発熱について、解熱に積極的に介入していくべきか教えてください。インフルエンザの発熱は基本的には自然経過で解熱するため、解熱剤を使用しないというのも選択しうる一つの方法だと思います。しかし、一般的には患者さんの辛さや不安、全身状態の一時的な改善などを目的として使用することのほうが多いと思います。その際、小児に関しては、アスピリンなどのサリチル酸系解熱薬はライ症候群発症のきっかけとなる可能性があり、ジクロフェナクナトリウムやメフェナム酸などのNSAIDsについては急性脳症発症者での予後を悪化させる可能性があるため、原則として使用しないという注意を遵守していただきたいと思います。商品名だとわかりにくいことがあるため、一般名を必ず確認するようにしてください。インフルエンザ治療後、職場に出勤する時期の目安は、どのように考えたらよいでしょうか?成人の場合は仕事などの関係上、学校や幼稚園・保育園などのようにはいかないと思いますが、少なくとも解熱しているかどうかの確認は必要です。また、解熱後はウイルス量は減少しますが、他人に感染させうる程度のウイルスは暫くは排泄される可能性があるため、発症(発熱)から5日程度経過し、かつ解熱から2日経過するくらいまでは、マスクや手洗いなどで他人にうつさないようにすることを指導していただければと思います。新型インフルエンザが発生した場合の一般診療所で行うべき防御手段について、スタッフやその家族を守る観点から教えてください。新型インフルエンザが発生した場合、その病原性、感染力については最新の情報を得ることが最も重要です。その程度によって対応は異なりますが、少なくても平常時から、感染対策におけるスタンダード・プレコーション(標準予防策)を、いつでもとれるように準備しておくことが重要です。それをレベルアップするか、レベルダウンするかは状況によって異なりますので、まずは最新の情報を入手してください。日本のインフルエンザの診療水準や予防への取り組みは、諸外国と比較した場合どの程度の水準なのでしょうか? また、どのような特徴があるのでしょうか?診療水準に関しては、インフルエンザ迅速診断キットで丁寧に診断し、抗インフルエンザ薬を豊富に使用するなど世界でも最上位にあるといえるでしょう。インフルエンザワクチンについても、アメリカには及ばないものの、わが国の関心は世界でも最も高いレベルに位置します。また、わが国における医療機関へのアクセスの良さは、やはりトップクラスであり、重症例の早期発見や早期治療に大きく結び付いていることでしょう。とはいえ、その利点は一方では軽症患者が夜昼となく外来および救急医療機関に集中することにもなり、解決すべき問題点としてあげられます。

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Dr.中野のこどものみかたNEO

第1回「小児気管支喘息最前線 ! 」第2回「使ってみよう ! こどもに漢方」第3回「ワクチン(1) Hib,肺炎球菌」第4回「ワクチン(2) 子宮頸癌の予防ワクチンとHPV」 第1回「小児気管支喘息最前線 ! 」他科領域で“最も難しい”、“なるべくなら回避したい”とされる小児科。小児の特異性は成人を診ることが多い医師にはどうしても判断しにくいものです。このシリーズでは、一般内科医の「診断はどうすれば良いのか?」「治療薬の処方は?」などの疑問に小児科専門医が答えるQ&A形式でわかりやすくお伝えしていきます。新米ママでもある馬杉先生が臨床現場の生の声をぶつけます。2008 年に改訂されたガイドラインを基軸に、現在の小児・乳児の気管支喘息の診断や治療、そして保護者への具体的な指導内容とその方法を徹底的に解説します。医師のみならず薬剤師や看護師など、小児と保護者に接する機会のある全ての医療従事者にご覧いただける内容です。第2回「使ってみよう ! こどもに漢方」最近では一般の医師でも漢方を処方したり、西洋薬と併用使用したりするケースが増えてきましたが、逆に情報通の保護者から漢方処方を依頼されることもあるのではないでしょうか。夜泣きや疳の虫、引きつけなど小さなこどもに多くみられる特有の症状。病気とはいえないがママ達には大変なストレス ! 漢方はそんな症状にズバリ著効することが多々あるのです。もちろん、嘔吐や下痢、発熱、くしゃみ鼻水といった一般的な症候によく効く漢方薬もあります。比較的小児に用い易い漢方処方を取り上げ、症例に沿って紹介します。大流行したノロウイルス感染症に効果のある「五散」のほか、「抑肝散」の母子同服という裏ワザ、そして服薬指導も行います。苦手意識をもたずに先ずは実践してみてください。第3回「ワクチン(1) Hib,肺炎球菌」Hib(インフルエンザ菌b型)と肺炎球菌(7価混合型)の2 種のワクチンについて学習します。Hib も肺炎球菌も、細菌性髄膜炎や中耳炎、肺炎、ときには菌血症といった非常に深刻な感染症を引き起こす菌。こどもが保育園などに通い始めると1年あまりで保菌率が飛躍的に上昇します。そのため家族に高齢者がいれば飛沫感染で影響を及ぼすこともあります。これらのワクチンは、世界的には非常にポピュラーでありWHO でも定期接種が勧められていながら日本では認知度も接種率も低かったのですが、2011 年度から公費助成での接種が始まりました。公衆衛生や集団免疫の観点からも、小児科医だけでなく全ての医師と医療従事者がきちんと知っておく必要がありますので、この機会に是非ワクチンの知識を身につけてください !第4回「ワクチン(2) 子宮頸癌の予防ワクチンとHPV」第4回は小児疾患ではなく、子宮頸がんとそのワクチンについて学習します。近年急増傾向にあり、特に20 代から30 代女性の罹患と発症が問題となっています。子宮頸がんは、ヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルス感染症によって引き起こされ、日本では成人女性の実に4 割以上がHPV に感染しているという驚くべき感染症です。タイプによっては予後が非常に悪く発症後の死亡率も高いため「Mother killer」と呼ばれています。にも関わらず日本では定期検診受診率が低くワクチンに関しても浸透しておらず、医師を含む医療従事者の間でさえ認知度が高いとはいえませんでした。しかし、2009 年12月から一般の医療機関でワクチン接種が可能となり、国と市町村の公費助成がはじまったため、婦人科以外で問合せを受ける可能性もあります。ワクチンで予防可能ながんをよく知り、その重要性を患者さんに啓蒙できるようになることが、これからの医療には求められるのではないでしょうか。

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百日咳ワクチン対策の「コクーン戦略」は限界がある?

 オーストラリア・シドニー大学のK.E. Wiley氏らは、小児ワクチン戦略の「コクーン(繭)戦略」に関して、生後6ヵ月未満の年少の乳児における百日咳の感染源を調べ、接種対象者についてエビデンス情報のレビューを行った。コクーン戦略は、ワクチンが疾患等により接種できない小児の代わりに、近親者に接種を行い繭に包まれた状態として感染を防御するというものである。著者は、百日咳の重症罹患率が最も高い年少の乳児について、感染源を明確にすることは、近親者の誰にワクチン接種を行うのが有効であるかを決定する最も重要かつ唯一の因子であるとして本検討を行った。Vaccine誌オンライン版2012年11月29日号の掲載報告。 研究グループは、高所得国の生後6ヵ月未満の乳児に焦点をあて、百日咳の感染源の特定と、それら報告データおよび要約の質について評価した。対象報告は、MEDLINEとEMBASEのオンラインデータベース、および関連文献リストから研究報告を検索して解析に組み込んだ。 研究の質はSTROBE(Strengthening the Reporting of Observational Studies in Epidemiology)ステートメントに基づき標準化された基準で評価し、最も質の高い報告データを用いて、感染源別に百日咳症例の推定割合をプールして評価した。 主な結果は以下のとおり。・選択基準を満たし解析に組み込まれたのは、9件の研究報告であった。7件は入院した6ヵ月未満児の接触者についてのデータを含んでいた。症例の定義と接触確認の方法には、ばらつきがあった。・感染源として最も多く同定されたのは家族で、母親が39%(95%CI:33~45)、父親が16%(同:12~21)、祖父母5%(同:2~10)であった。・兄弟姉妹は16~43%、非家族接触者は4~22%と、ばらつきがあった。・また、症例のうち32~52%は、感染源が特定できなかった。・無症候性の百日咳感染が、評価をした近親者のうち8~13%で認められた。・以上の結果は、より幼い乳児の重症疾患予防について、母親への百日咳ワクチン接種が最も効果が高い可能性があることを示し、次いで父親、補助的に祖父母に行うことが効果的であること示すものであった。・兄弟姉妹に関しては重要性にばらつきがあった。最近のデータではワクチン接種を受けた子どもの漸減免疫を考慮しており、さらなる検証が必要である。・非家族感染源についてもかなり文書化されており、これは乳児の重症疾患予防のためのコクーン戦略の潜在的な限界を強調するものであった。

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