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新肺炎診療ガイドラインは高齢者に重点

 2017年4月21~23日に都内で開催された第57回日本呼吸器学会学術講演会(会長:中西洋一、九州大学大学院附属胸部疾患研究施設 教授)において、新しい「成人肺炎診療ガイドライン」が発表された。 特別講演として「新しい肺炎診療ガイドラインとは」をテーマに、迎 寛氏(長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科 呼吸器内科学分野 教授)が今回の改訂の背景、ガイドラインの概要について講演を行った。患者の意思を尊重した終末期の治療を 今までのガイドラインは、市中肺炎(CAP)、院内肺炎(HAP)、医療・介護関連肺炎(NHCAP)と3冊に分かれ、各疾患への細かい対応ができた反面、非専門医や医療従事者にはわかりにくかった。これに鑑み、新しいガイドラインは1冊に統合・改訂されたものである。 今回の改訂は、『Minds 診療ガイドライン作成の手引き』に準拠して行われ、第1部では“SCOPE”として肺炎の基本的特徴を解説、第2部では“Clinical Question”として25項目のCQが掲載されている。 CQ推奨の強さは、アウトカムへのエビデンスの強さ、リスクとプロフィットのバランス、患者の価値観や好み、コストパフォーマンスの視点から総合的に評価できることにある。とくに今回の改訂では、肺炎死亡の96.8%が65歳以上の高齢者が占めることから、高齢者の肺炎への対応も述べられている。 予後不良や誤嚥性肺炎といった肺炎における高齢者特有の問題は、終末期とも密接に関わっており、このような場合は治療を本人や家族とよく検討して対処することを推奨している。肺炎治療に抗菌薬を使うと死亡率は減少するが、QOLは低下することも多い。そのため、患者が不幸な終末期を迎えないためにも、厚生労働省や老年医学会のガイドラインなどが参照され、患者や患者家族の意思の尊重が考慮されている。大きく2つのグループに分けて肺炎診療を考える 新しいガイドラインは、わが国の現状を見据え、CAPとHAP+NHCAPの大きく2つのグループに分けた概念で構成されている。 CAP診断の際には従来のA-DROPによる重症度分類に加えて、新たに敗血症の有無を判定することも推奨され、敗血症の有無や重症度に応じて治療の場や治療薬を決定する。 また、HAPとNHCAPは高齢者に多いことから、最初に重要なのは患者のアセスメントだという。疾患終末期や老衰、誤嚥性肺炎を繰り返す患者では、患者の意思を尊重しQOLに配慮した緩和ケアを中心とした治療を行う。上記に該当しない場合は、敗血症の有無、重症度、耐性菌リスクを考慮して、治療を行うこととしている。このほかに、予防の項目ではインフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチンの接種や、口腔ケアの実施を推奨している。 今回の新肺炎診療ガイドラインの特徴としては、 ・CAP、HAP、NHCAPの診療の流れを1つのフローチャートにまとめたこと ・終末期や老衰状態の患者には個人の意思を尊重した治療を推奨すること ・重要度の高い医療行為は、CQを設定し、システマティックレビューを行い、  リスクとベネフィット、患者の意思、コストを考慮しながら委員投票で推奨を  決定したことが挙げられる。 最後に迎氏は「今後、新ガイドラインの検証が必要である。ガイドラインを精読していただき、診療される先生方のさまざまな提案や意見を取り入れてより良くしていきたい。次版の改訂に向け、動き出す予定である」と語り、講演を終えた。 なお、本ガイドラインの入手は日本呼吸器学会直販のみで、書店などでの販売はない。詳しくは日本呼吸器学会 事務局まで。(ケアネット 稲川 進)関連リンク 日本呼吸器学会 事務局 第57回日本呼吸器学会学術講演会

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出生年によって子宮頸がんリスクに大きな差

 わが国では、2013年に厚生労働省が「積極的なHPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチン接種勧奨の中止」を発表後、接種率が急激に低下した。今回、大阪大学産婦人科が中心となって運営している大阪府下での疫学研究OCEAN STUDY(Osaka Clinical Research for HPV vaccine)グループが、出生年ごとの将来の子宮頸がん発症リスクを評価した。Human vaccines & immunotherapeutics誌オンライン版2017年3月8日号に掲載。 本研究では、堺市の各年齢におけるワクチン接種率の最新データを調査し、子宮頸がん発症リスクを算出した。算出において、12歳、13歳、14歳、15歳、16歳、17歳、生涯での性交経験率をそれぞれ0%、1%、2%、5%、15%、25%、85%と仮定し、子宮頸がんリスクが生涯におけるHPV感染の相対リスクに比例するとした。また、HPVワクチン導入前の1993年生まれのリスクを1.0000とした。 主な結果は以下のとおり。・累積ワクチン接種率は、1994年生まれが65.8%、1995年生まれが72.7%、1996年生まれが72.8%、1997年生まれが75.7%、1998年生まれが75.0%、1999年生まれが66.8%、2000年生まれが4.1%、2001年生まれが1.5%、2002年生まれが0.1%、2003年生まれが0.1%であった。・1994~99年生まれの子宮頸がん発症の相対リスクは0.56~0.70に低下したが、2000~03年生まれでは0.98~1.0と上昇し、ワクチン導入前のリスクとほぼ同じになった。

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MRワクチン接種後に失明、偶然か必然かは不明

 予防接種後、まれに眼炎症が観察されることがあるが、ほとんどは永続的な視覚障害を生じることなく回復する。今回、近畿大学医学部眼科学教室の國吉一樹氏らは、インフルエンザ菌b型(Hib)ワクチン、肺炎球菌結合型ワクチンならびに麻疹風疹混合(MR)ワクチン接種後に、両眼の急性失明を来した生後13ヵ月の日本人の健康な男児について報告した。後ろ向きの調査の結果、感染により滲出性網膜剥離とともに重篤な脈絡網膜炎が誘発されてリカバリンに対する自己抗体が産生され、自己抗体が急速に光受容体の機能を変化させたものと推察された。著者らは、「初期の感染はMRワクチン接種に起因した可能性がある」との見解を示したうえで、「われわれの知る限り過去に報告例はないので、ワクチン接種後の失明は偶然の一致によるものかもしれないし、ワクチン接種に関連しているのかもしれない」とまとめている。JAMA Ophthalmology誌オンライン版2017年3月30日号掲載の報告。MRワクチン接種24日後に両眼の急性失明 研究グループは、急性失明を来した生後13ヵ月の日本人の健康な男児のカルテを後ろ向きに調査し、眼底およびフルオレセイン血管造影所見、超音波検査および光干渉断層計(OCT)所見、網膜電図検査所見について検討した。 ワクチン接種後に両眼の急性失明を来した男児のデータを検討した主な結果は以下のとおり。・男児が両眼の急性失明を来したのは、Hibワクチンと肺炎球菌結合型ワクチン接種31日後であり、MRワクチン接種24日後であった。・男児は、失明する10日前に風邪を呈していた。・視力低下発症1日後、超音波検査で滲出性網膜剥離が認められたが、4日後、眼底は正常であった。・男児の眼は物体を追わず、瞳孔対光反射はみられなかった。・前部ぶどう膜炎の徴候はなかった。・副腎皮質ステロイドで治療が行われたが、視力は改善しなかった。・網膜血管は次第に減少し、深部網膜にびまん性の小さな白い斑点状病変が現れた。・OCTで、外顆粒層の菲薄化とエリプソイドゾーンの消失が認められた。・網膜電図は記録できなかった。・これらの所見から、とくに外節の光受容体の重篤な機能障害が示唆された。・血清のウェスタンブロット法の結果、光受容体のカルシウム結合タンパク質であるリカバリンの抗体が検出された。

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膠芽腫〔GBM: glioblastoma multiforme〕

1 疾患概要 ■ 概念・定義 膠芽腫(glioblastoma multiforme: GBM)は、悪性脳腫瘍の中で最も頻度が高く、かつ生物学的にもっとも未分化な予後不良の悪性新生物(brain cancer)である。高齢者の大脳半球、ことに前頭葉と側頭葉に好発し、浸潤性増殖を特徴とする。 病理学的に腫瘍細胞は異型性が強く、未分化細胞、類円形細胞、紡錘形細胞、多角細胞および多核巨細胞より構成され、壊死を取り囲む偽柵状配列を特徴とする(pseudopalisading necrosis)。 WHO grade IVに分類され5年生存率は10%、平均余命は15ヵ月。分子生物学的特徴から2型に分類される。イソクエン酸脱水素酵素(IDH1: isocitrate dehydrogenase 1)遺伝子のコドン132のアルギニン(R)がヒスチジン(H)に点変異を有することにより、分化度の高いWHO grade II、IIIの星細胞腫から悪性転換(malignant transformation)した続発性膠芽腫(secondary GBM)とIDH1の変異を伴わない原発性膠芽腫(primary GBM)とに区別される。両者ともGBMとしての予後に差異はなく、半年から1年程度である(表)。 前者では、TP53 mutation(>65%)、ATRX mutation(>65%)に続いてLOH 19q(50%)、LOH 10q(>60%)、TERT mutation(30%)が引き起こされる。一方、後者の遺伝子異常とその頻度はTERT mutation(70%)、EGFR amplification(35%)、TP53 mutation(30%)、PTEN mutation(25%)、LOH 10p(50%)、LOH 10q(70%)である。 画像を拡大する Grade Iは、小児に多い分化型腫瘍で予後が良い(10年生存は80%以上)。 Grade II、IIIは、1年から数年でGrade IVに悪性転換する。これとは別に、初発から神経膠芽腫として発症するタイプがある。いずれの神経膠芽腫も予後はきわめて悪い(5年生存率10%)。 BRAF: B-Raf proto-oncogene、serine/threonine kinaseでRAS/RAF/MEK/MAPKシグナル伝達の主要な役割を担う。 TP53: p53をコードする遺伝子 G-CIMP: CpG island methylation phenotype DNA修復酵素MGMTのプロモーター領域のメチル化を示す表現型。この表現型ではMGMTの蛋白発現は抑制されるため、予後良好のマーカーとなる。GBM患者でCIMP+は若年者、腫瘍の遺伝子表現型がproneural typeに多く全生存期間の延長に寄与する。 ATRX: alpha-thalassemia/mental retardation syndrome x-linked geneで、この遺伝子の変異は、テロメアの機能異常からテロメアの伸長(alternative lengthening of telomeres: ATL)を来す。 なお、遺伝子表現型とグリオーマ予後との関連は、次の文献を参考にした。Siegal T. J Clin Neurosci. 2015;22:437-444. 欧州で施行された臨床試験においてテモゾロミド(TMZ[商品名:テモダール])併用群(2年生存率26.5%、平均全生存期間14.6ヵ月)が、放射線治療(RT)単独治療群(2年生存率10.4%、平均全生存期間12.1ヵ月)に比して、有意差をもって生存期間の延長が認められ、TMZ + RTがGBMの標準治療とされている。 GBMは、このように予後不良で“がんの中のがん”といい得るため、創薬の対象となり、さまざまな臨床試験や新規治療薬が開発されている。GBMの根本治療の創出が今後の大きな課題である。 ■ 疫学 国内における原発性脳腫瘍患者(年間2万人、人口10万人につき14人)のうち、GBMは2,220人で、悪性脳腫瘍の中で最も多く、11.1%を占める。 大脳半球白質に好発し(前頭葉35%、側頭葉25%、頭頂葉18%、後頭葉6%)、時に脳梁を介して対側半球へ浸潤する。平均発症年齢は60歳、45~75歳の中高年に多く、 原発性膠芽腫が9割を占め、その平均発症年齢は62歳、続発性膠芽腫は平均45歳と若い。男性が女性の1.4倍多く、小児ではまれであり、成人と異なり脳幹部、視床、基底核部に好発する。 ■ 病因 発生起源細胞の同定および腫瘍形成の分子機構は解明されていない。 BaileyとCushing(1926年)は、組織発生を念頭に起源細胞に基づいた組織分類を提唱し、脳腫瘍を16型に分類し、glioblastomaの起源細胞をbipolar spongioblast(双極性突起を持つ紡錘型細胞)とした。 WHO脳腫瘍分類に貢献した群馬大学の石田陽一は、膠芽腫を星細胞腫とともに星形グリアの腫瘍と定義した1)。石田の正常な星形グリアとグリオーマの電顕像での詳細な観察によると、 血管壁まで伸び足板を壁におく太い細胞突起には、8~9nmの中間径フィラメントと少量の20~25nmの微小管とグリコーゲン顆粒を有する星形グリアとしての形質が、分化型の星細胞種でよく保たれており、膠芽腫でも保持されていることから、グリオーマを腫瘍性グリアと考察した。さらに星芽細胞腫(astroblastoma)は、腫瘍細胞が血管を取り囲んで放射冠状に配列されていることから、血管足が強調された腫瘍型とした。このように多くの病理学者が、星細胞腫をアストロサイトの脱分化した腫瘍と定義している。 発生学的には、げっ歯類の観察から、成体脳においても脳室周囲の脳室下帯(SVZ)や海馬歯状回(DG)において、neural stem cell/glial progenitorの活発な嗅球や顆粒細胞層へのmigrationが確認されていた。James E Goldmanらは、グリオーマ細胞の特性である高い遊走能は、neural stem cell/glial progenitorの特性を反映していると推察している2)。Fred H Gageらは、ブロモデオキシウリジンをヒトに投与することで、高齢者においてもSVZとDGではDNA合成するNeuN陽性細胞を同定し、neural stem cell/neural progenitorの存在を確認したと報告した3)。Sanai Nらは、ヒトSVZ生検材料を用いた培養系の研究から、脳室壁ependyma直下のastrocyteが、neural progenitorであると判定した4)。状況証拠的には、 現時点で直接証明はなされていないがneural stem cell/glial progenitorが、グリオーマ細胞の起源細胞の有力な候補であると思われる。さらに原発性GBMと続発性GBMでは、前述したように遺伝子異常のパターンが異なるため、起源細胞が異なる可能性も示唆される5、6)。 以上のほか、歴史的にグリオーマの病因としては、グリア(アストロサイト)の脱分化とする考えと、前駆細胞のmaturation arrestとする説がある。 近年、携帯電話の普及に伴い、公衆衛生学的観点からは、ラジオ波電磁界の発がん性の懸念が提起されている。山口によると7)、携帯電話と神経膠腫に関する疫学調査では、デンマークの前向きコホート調査が実施されたが、10年以上の長期契約者でもリスクの上昇を認めなかった。スウェーデンにおける症例対照研究では、10年を超えて携帯電話端末を使用した群では、非使用群と比較して2.6倍のリスクが指摘された。日本も参加した国際共同研究「INTERPHONE研究」では、累積使用時間が1,640時間以上でオッズ比1.4倍と、有意な上昇を示した。 以上から、携帯電話は人にがんを生じさせる可能性があると判定されている。 ■ 症状 腫瘍塊周囲に脳浮腫を伴いながら急速に浸潤性に増殖するため、早ければ週単位で、少なくとも月単位で症状が進行する。初発症状としては頭痛(31%)が最も多く、次いで痙攣(18%)、性格変化(16%)や運動麻痺(13%)などの巣症状が多い。 症状は、腫瘍の発生した場所の脳機能の障害を反映するのが基本である。また、病変が進行し、広範に浸潤すると症状は顕著となる。たとえば両側前頭葉に浸潤する症例では、性格変化、意欲低下、尿失禁、下肢の麻痺が出現する。一側では、初期には徴候は目立たず、徐々に腫瘍塊を形成し、脳浮腫が顕著になると具現化する。側頭葉腫瘍では、優位半球の病変では失名詞などの失語症状や4分の1半盲などが出現しやすい。また、視野症状に、患者自身が気付いていないことが多い。 前述したように、腫瘍局在に応じた神経学的局在症状の出現が基本であるが、たとえば前頭葉に局在する腫瘍でも神経回路網(frontal-parietal networks)を介して、頭頂葉の症候が認められることがあるので注意しなければならない。 具体例として、右側前頭葉病変ではいつも通りに職場へ通勤できなくなるなどの空間認知能の低下や、左側前頭葉腫瘍では失書・失算や左右失認など優位半球頭頂葉症状としてのゲルストマン症状が認められるなどの例が挙げられる。このような症例では、画像検査で大脳白質を介する脳浮腫が顕著である場合が多い。 小児や若年者では、ひとたび頭痛や吐気などの頭蓋内圧亢進症状が出現すると、急速に脳ヘルニアへと進行し、致命的な事態になるので、時期を逸せず迅速に対応することが重要となる。時として脳腫瘍患者は、内科・小児科、精神科において感冒、インフルエンザ、下痢・嘔吐症、認知症、精神疾患として誤診されている場合もある。たまたま下痢・嘔吐症が、流行する時期に一致すると、症状のみの診断では見逃される可能性が高くなりやすい。 そのため、器質的疾患が強く疑わしい症例に限定して画像検査(MRI)を施行するのではなく、症状が軽快せず、進行・悪化している場合には、致命的な見逃しをなくすため、また、器質的な疾患をスクリーニングするためにも、脳画像検査を診療の早期に取り入れる視点が大切であろう。これによりカタストロフィックな見逃しは回避でき、患者の生命および機能予後の改善につなげることができるからである。強く疑わしい症例でなくとも、鑑別診断をするために、脳神経外科を紹介しておく心がけも重要である。 ■ 予後 標準治療、すなわち外科的な切除後にTMZを内服併用した放射線化学療法施行患者の全生存期間(OS)は、15ヵ月程度である。IDH1野生型で9.9ヵ月、IDH1変異型で24.0ヵ月である。ヒト化モノクロナール抗体のベバシズマブ(商品名: アバスチン)やインターフェロンの併用は、OSには寄与しない。組織学的にglioblastoma with oligodendroglioma component、giant cell GBM、 cystic GBMは悪性だが、古典的なGBMよりやや予後が良い傾向にある。分子基盤に基づいてMGMT非メチル化症例やIDH1野生型の予後不良例では、TMZに反応を示さない場合が多く、今後免疫療法や免疫チェックポイント阻害剤の応用が取り入れられるであろう。これらの治療には、腫瘍ペプチドワクチン療法WT1やさらに百日咳菌体をアジュバントしたWT1-W10、抗PD-1 (Programmed cell deah-1) 抗体療法などT細胞の免疫応答にかけられたブレーキを解除することでT細胞の活性化状態を維持し、がん細胞を細胞死に追いやる試みである。 同じくT細胞の表面に発現する抑制性因子CTLA (Cytotoxic T-lymphocyte-associated antigen 4 ) に対する抗体の併用も期待されている。 2 診断 (検査・鑑別診断も含む) ■ 検査 造影MRI、 脳血管撮影、 MRS、 PET(methionine、FDG)などの検査と合わせ、総合的に判断する。 ■ 鑑別診断 造影MRIや造影CTでは、不規則なリング状の造影効果を示す。GBM、転移性脳腫瘍、脳膿瘍との鑑別が必要である。GBMでは、造影部分は壊死を取り囲む血管新生を反映するので、より不規則なリング状になる。それに比べ脳膿瘍のリングは、円形でよりスムースである。転移性脳腫瘍は、GBMと脳膿瘍の中間を取るので目安になるが、さらに拡散強調MRIやMRスペクトルスコピーなど多種類の検査で、総合的に判断することが重要である。 術中迅速診断では、壊死を取り囲む偽柵状配列が明らかでないとHGG(high grade glioma)と診断されるので、確定診断は永久標本によることになる。摘出腔内にカルムスチン(脳内留置用徐放性製剤: BCNUウェハー[商品名: ギリアデル])の使用を予定するときは、時に悪性リンパ腫との鑑別が問題となる。 悪性リンパ腫では、血管中心性の腫瘍細胞の集簇に注目して診断するが、LCA、GFAP、MIB-1など免疫組織学的検査では、迅速標本の作成が必要となる症例もある。 転移性脳腫瘍との組織上の鑑別は容易であるが、きわめてまれにadenoid glioblastomaの症例で腺腔形成や扁平上皮性分化を示すので、注意が必要である。 3 治療 (治験中・研究中のものも含む) ■ 基本治療 腫瘍容量の減圧と確定診断を目的に、まず外科治療を行う。近年、ナビゲーションと術中MRIを用いた画像誘導による外科手術が、一般的となってきている。グリオーマの外科手術の目標は、機能を損なうことなく最大限の摘出をすることにある。 MRI Gd(Gadolinium)-DTPAにて造影された腫瘍塊が、全部摘出された症例の予後では期待でき、腫瘍摘出度が高いほど予後の改善に結び付くと、複数の報告がなされている。 次いで確定診断後には、TMZ併用の化学放射線療法が標準治療である。放射線療法は、拡大局所にtotal 60Gy(2Gy×30 fractions)を週5回、6週間かけて行うのが標準である。 最近は、周囲脳の保護を目的に強度変調放射線治療(Intensity Modulated Radiation Therapy: IMRT)を行うことが多い。 初期治療終了後には、TMZの内服を月5日間行う。再発時にはインターフェロンβの併用や、血管内皮増殖因子に対するベバシズマブの併用などが行われている。 ■ その他の治療 手術前日にタラポルフィンナトリウム(商品名: レザフィリン)を投与し、病巣部位に集積させ、手術により最大限の摘出後にレーザー光を照射する摘出断端の浸潤部位に対する光線力学的療法やカルムスチンの摘出腔留置などがある。 4 今後の展望 陽子線、炭素線やホウ素中性子補足療法などの、新しい線源を用いた悪性脳腫瘍への応用やウイルス療法、脳内標的部位への薬剤分布を高める技術として開発されたconvection-enhanced delivery(CED)、免疫療法などがある。 免疫療法には、がん免疫に抑制性に働くものに対する解除を目的とする、T細胞活性化抑制抗原に対する抗PD-1抗体による治療やがん遺伝子WT1(Wilms tumor 1)を抗原標的として、自己のTリンパ球にがん細胞を攻撃させるWT1ペプチドワクチン療法がある。後者は、脳腫瘍の最新治療法として安全性や有効性が確立されつつあり、ランダム化比較試験の結果が期待される。 5 主たる診療科 脳神経外科 ※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。 6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など) 診療、研究に関する情報 国立がん研究センター がん対策情報センター がん情報サービス (一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報) 一般社団法人 日本脳神経外科学会、日本脳神経外科コングレス 脳神経外科疾患情報ページ (一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報) 1)石田陽一. 北関東医. 1990;40:355-361.2)Cayre M, et al. Prog Neurobiol. 2009;88:41-63.3)Eriksson PS,et al. Nat Med. 1998;4:1313-1317.4)Sanai N, et al. Nature. 2004;427:740-744.5)Louis DN, et al. WHO Classification of Tumours of the Central Nervous System. Revised 4th Edition.Lyon;IARC Press:2016.pp52-56.6)Louis DN, et al. Acta Neuropathol. 2016;131:803-820.7)Yamaguchi N. Clin Neurosci. 2013;31:1145-1146.公開履歴初回2015年02月27日更新2017年03月21日

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マヤロ熱に気を付けろッ!【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。国立国際医療研究センター 国際感染症センターの忽那です。本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気を付けろッ」は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そして時にまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。本連載もついに第27回を迎えました。27回も書いてるのに、誰からも「ケアネットの連載、読んでるよ」って言われたことないんですけど、大丈夫でしょうか。まあ、マニアックな疾患について書いてますからね、ダニ脳炎だのクリプトコッカス・ガッティだの…。そんなもん診る機会あるかっつ~の。でも安心してください。今回取り上げる疾患も、今後読者の皆さまが診る可能性が極めて低い「マヤロ熱」ですッ! と書くと、これ以上読んでいただけないので、なぜそんなマヤロ熱を取り上げたのかという理由も述べたいと思います。近年、蚊媒介性感染症の広がりが世界的な脅威になっています。2014年にはデング熱が日本でアウトブレイクしました。同じころ、チクングニア熱が中南米で大流行し、そして、2015~16年にはジカウイルス感染症の流行が社会問題になったことは、記憶に新しいところです。そして…次に来てしまうのは、今回紹介するマヤロ熱ではないかと個人的には思っているのですッ!日本でも流行が危惧されるマヤロ熱マヤロ熱はマヤロウイルスによる蚊媒介性感染症です。マヤロウイルスは、チクングニアウイルスと同じアルファウイルス属トガウイルス科に属するウイルスで、1954年にトリニダード・トバゴで発見されています。トリニダード・トバゴは南米の国ですね。その後、フランス領ギアナ、スリナム、ベネズエラ、ペルー、ボリビア、ブラジルでもこのウイルスが見つかっており、南米に広がっているウイルスであると考えられていました。典型的には、ジャングルの労働者である成人男性が感染したという孤発例としての報告が多いのですが、これまでに何度か中規模の流行を起こしています。蚊媒介性感染症と言いましたが、蚊の中でもHaemagogusという種類の蚊が主に媒介すると考えられています。蚊媒介性感染症に詳しい方は、もしかしたら「ヤブカ属(Aedes)じゃないんだったら、日本に入ってくる心配はないな」と思われたかもしれませんが、実験ではヤブカ属のうちネッタイシマカも、そして、日本に広く分布するヒトスジシマカも、このマヤロウイルスを媒介することが判明しているのですッ! つまり…マヤロ熱は南米だけでなく、世界中に広がりうるポテンシャルを秘めているのですッ!現にマヤロウイルスは南米を飛び出し、すでにカリブ海のハイチでの感染例が報告されています。マヤロウイルス、恐るべし!マヤロ熱の症状は何かと似てるマヤロ熱の臨床症状ですが、いわゆる急性発熱疾患であり、高熱に加えて頭痛、関節痛、筋肉痛、皮疹、時に嘔吐などの消化器症状を呈します。さらに関節痛にとどまらず関節炎を起こし、手関節・足関節を中心に腫脹することがあります。発熱などの症状が治まった後も、この関節炎の所見だけは数年にわたって続くことがあります。こう書くとある疾患に似ていることに、気付きませんか? そう、同じトガウイルス科であるチクングニアウイルスによるチクングニア熱に激似なのですッ! ちゅ~か、ほぼ一緒ッ! 忘れてしまっている方は、本連載の「チクングニア熱に気を付けろッ! その1」を読み返してみてください。つまり、チクングニア熱とはほぼ同じ臨床症状で、さらにデング熱とジカウイルス感染症ともよ〜く似ているわけです。この3つの感染症の臨床上の違いを表にまとめました。マヤロ熱の臨床像についてはまだ十分なデータがありませんが、おそらくチクングニア熱の臨床像にクリソツだと考えられています。画像を拡大するこれらの4つの感染症は同じ中南米で今も流行しているのです。現地の臨床医にとって、これらの鑑別は非常に悩ましいところでしょう。われわれにとっても他人事ではありません。すでにマヤロ熱の輸入例は海外で報告されています。今後、このマヤロ熱の流行がさらに大規模になってきた場合、鑑別疾患として外せない蚊媒介性感染症となるでしょう。とか言ってまったく流行せずに、このまま終息したりして…それはそれでいいんですが。マヤロ熱の治療と予防他の蚊媒介性感染症と同様に、マヤロウイルスに有効な治療薬というものはありません。支持療法を行うのみでありますが、これまでにマヤロ熱での死亡例は報告されていません。ただし遷延する関節炎については、チクングニア熱と同様に患者のQOLを下げるいまいましい症状のようです。ワクチンの開発もこれからのようです。予防のために、流行地域に渡航する際には防蚊対策を徹底することが重要です。流行地域で外出するときは、なるべく肌の露出の少ない服装にして、DEETなどの成分を含む防虫剤を使用することが重要です。これも「チクングニア熱に気を付けろッ! その2」で触れていますので、確認してください。というわけで、もし今後マヤロ熱が世界的に広がった場合は「あ~そういえば忽那がなんか言っていた感染症だな」と思い出してください。このままとくに流行しなければ、どうぞそのまま忘れてください…。次回は、隣国の中国で感染者が激増しているH7N9鳥インフルエンザについて、ご紹介したいと思いますッ!1)Halsey ES, et al. Emerg Infect Dis. 2013;19:1839-1842.2)Lednicky J, et al. Emerg Infect Dis. 2016;22:2000-2002.3)Ioos S, et al. Med Mal Infect. 2014;44:302-307.

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同じGPでの診療継続は、不要な入院を減らす/BMJ

 プライマリケアの継続性を促進することで、不必要な入院を回避し、とくに受診頻度の高い患者で医療費の抑制効果を改善する可能性があることが、英国・The Health FoundationのIsaac Barker氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2017年2月1日号に掲載された。予定外の入院を回避するために、多くのヘルスケアシステムが、プライマリケアへのアクセスの迅速性と公正性の改善に重点的に取り組んでいる。英国では、ケアの継続性が損なわれつつあるとされ、これはケアへのアクセスの促進と継続性はトレード・オフの関係にあるためと考えられている。また、ケアの継続性は、患者および医師の満足度と関連することが知られているが、入院との関連は不明だという。ケアの継続性とACSCによる入院の関連を横断的に評価 研究グループは、高齢患者を対象に、一般医(GP)によるケアの継続性と、「プライマリケアでの適切な処置により不必要な入院が回避可能な病態(ambulatory care sensitive conditions:ACSC)」に起因する入院との関連を評価するために、横断的研究を行った(研究助成は受けていない)。 解析には、英国の臨床試験研究データベース(Clinical Practice Research Datalink)に参加する200のGP施設のプライマリケアおよびセカンダリケアの記録を用いた。 ACSCには、喘息など質の高いケアで再燃エピソードを予防すべき長期的な病態や、壊疽など適切な時期に効果的なケアで発症を阻止すべき急性の病態、インフルエンザや肺炎などワクチン接種で予防可能な病態などが含まれた。 ケアの継続性は、最も受診回数の多いGPへの受診頻度(usual provider of care index)のスコアで評価した。たとえば、1例の患者がGPを10回受診し、そのうち6回が同一のGPの場合、継続性スコアは0.6(6/10)となる。 2011年4月~2013年3月の2年間に、GP施設を2回以上受診した年齢62~82歳の患者23万472例のデータが解析の対象となった。主要評価項目は、ACSCによる入院回数とした。受診頻度が高い患者は、ケアの継続性が低く、不必要な入院が多い ベースラインの全体の平均年齢は71.43(SD 5.88)歳、女性が53.63%を占めた。2年間で、1例がGPを受診した平均回数は11.40(SD 9.40)回、専門医への平均紹介数は0.45(SD 0.89)回、ACSCによる平均入院回数は0.16(SD 1.01)回であった。ACSCによる入院は0が89.57%、1回が7.70%、2回以上は2.73%だった。 ケアの継続性スコアの平均値は0.61であった。所属GPの多い大規模施設(常勤換算GP数≧7人)は、小規模施設(同:1~3人)よりもケアの継続性が低い傾向がみられた(平均継続性スコア:0.59 vs.0.70)。 年齢が高い患者ほど、専門医への紹介が多く、疾患が長期に及び、ACSCによる入院でGPを受診する頻度が高かった。また、ACSCによる入院の頻度は、女性が男性に比べて低く、社会経済的貧困度が高度の集団ほど高かった。 さらに、ケアの継続性が高い患者ほど、ACSCによる入院が少なかった。すなわち、ケアの継続性が中等度の群(継続性スコア:0.4~0.7)は低い群(同:0~0.4)に比べACSCによる入院が8.96%減少し(p<0.001)、高い群(同:0.7~1.0)は、低い群よりも12.49%(p<0.001)、中等度の群よりも3.87%(p=0.03)低下した。 人口統計学的特性と患者の臨床的背景因子で調整したモデルによる解析では、ケアの継続性スコアが0.2上昇すると、ACSCによる入院が6.22%(95%信頼区間[CI]:4.87~7.55、p<0.001)低下した。 プライマリケアの受診頻度が最も高い患者(GP受診回数≧18回/2年)は、最も低い患者(同:2~4回/2年)に比べ、ケアの継続性が低く(継続性スコア:0.56 vs.0.69)、ACSCによる入院は多い傾向がみられた(入院回数:0.36 vs.0.04)。 著者は、「GPによるケアの継続性を改善する戦略は、とくに受診頻度が最も高い患者においてセカンダリケアの医療費を抑制するとともに、患者および医療者の負担を軽減する可能性がある」とまとめ、「介入法については注意深い評価が求められる」と指摘している。

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肺炎球菌ワクチン定期接種化で薬剤感受性への影響は?

 肺炎球菌ワクチンは小児および成人の肺炎球菌感染を減少させたが、ワクチンに含まれない血清型(non-vaccine serotype:NVT)の有病率が相対的に増加していることが報告されている。今回、東京医科大学の宮崎治子氏らの調査から、肺炎球菌ワクチンの急速な影響および血清型置換の進行が示唆された。ペニシリン非感受性のNVTによる有病率の増加が懸念され、著者らは「最適な予防戦略を立てるために肺炎球菌血清型と薬剤感受性の継続的なモニタリングが必要」と指摘している。Journal of Infection and Chemotherapy誌オンライン版2017年2月1日号に掲載。 著者らは、肺炎球菌ワクチンの定期接種が開始された後、2014年10月~2016年5月に国内の病院で分離された肺炎球菌534株について、莢膜血清型検査および薬剤感受性試験を実施した。血清型分布および薬剤感受性は患者集団全体で評価し、また年齢と検体群および血清型群でそれぞれ比較した。 主な結果は以下のとおり。・13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)の標的となる血清型は、5歳未満の検体では14.6%、5~64歳では44.5%、65歳以上では40.2%で同定された。・23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(PPSV23)の標的となる血清型は、5歳未満の検体では42.4%、5~64歳では68.2%、65歳以上では63.1%で同定された。一方、PCV13のNTVまたはPPSV23のNVTで全分離株の46.8%を占めた。・NVTでは血清型35Bが最も分離頻度が高く、次に15Aで、とくに5歳未満の小児から採取された喀痰検体で15Aが多かった。・PCV13およびPPSV23の標的となる血清型3は、65歳以上および5~64歳で最も多かった。・薬剤感受性試験で、血清型35Bの88.9%がペニシリン非感受性、また81.0%がメロペネム非感受性であり、15Aの89.4%がペニシリン非感受性であった。

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高安動脈炎〔TAK : Takayasu Arteritis〕

1 疾患概要■ 概念・定義高安動脈炎(Takayasu Arteritis:TAK)は、血管炎に属し、若年女性に好発し、大動脈および大動脈1次分枝に炎症性、狭窄性、または拡張性の病変を来し、全身性および局所性の炎症病態または虚血病態により諸症状を来す希少疾病である。1908年に金沢医学専門学校(現・金沢大学医学部)眼科教授の高安 右人氏(図1)により初めて報告された。画像を拡大する呼称には、大動脈炎症候群、高安病、脈なし病などがあるが、各学会において「高安動脈炎」に統一されている。2012年に改訂された血管炎のChapel Hill分類(図2)1)により、英文病名は“Takayasu arteritis”に、略語は“TAK”に改訂された。画像を拡大する■ 疫学希少疾病であり厚生労働省により特定疾患に指定されている。2012年の特定疾患医療受給者証所持者数は、5,881人(人口比0.0046%)だった。男女比は約1:9である。発症年齢は10~40代が多く、20代にピークがある。アジア・中南米に多い。TAK発症と関連するHLA-B*52も、日本、インドなどのアジアに多い。TAK患者の98%は家族歴を持たない。■ 病因TAKは、(1)病理学的に大型動脈の肉芽腫性血管炎が特徴であること、(2)特定のHLAアレル保有が発症と関連すること、(3)種々の炎症性サイトカインの発現亢進が報告されていること、(4)ステロイドを中心とする免疫抑制治療が有効であることから、自己免疫疾患と考えられている。1)病理組織像TAKの標的である大型動脈は中膜が発達しており、中膜を栄養する栄養血管(vasa vasorum)を有する。病変の主座は中膜の外膜寄りにあると考えられ、(1)外膜から中膜にかけて分布する栄養血管周囲への炎症細胞浸潤、(2)中膜の破壊(梗塞性病変、中膜外側を主とした弾性線維の虫食い像、弾性線維を貪食した多核巨細胞の出現)、これに続発する(3)内膜の細胞線維性肥厚および(4)外膜の著明な線維性肥厚を特徴とする。進行期には、(5)内膜の線維性肥厚による内腔の狭窄・閉塞、または(6)中膜破壊による動脈径の拡大(=瘤化)を来す。2)HLA沼野 藤夫氏らの功績により、HLA-B*52保有とTAK発症の関連が確立されている。B*52は日本人の約2割が保有する、ありふれたHLA型である。しかし、TAK患者の約5割がB*52を保有するため、発症オッズ比は2~3倍となる。B*52保有患者は非保有患者に比べ、赤沈とCRPが高値で、大動脈弁閉鎖不全の合併が多い。HLA-B分子はHLAクラスI分子に属するため、TAKの病態に細胞傷害性T細胞を介した免疫異常が関わると考えられる。3)サイトカイン異常TAKで血漿IL-12や血清IL-6、TNF-αが高値との報告がある。2013年、京都大学、東京医科歯科大学などの施設と患者会の協力によるゲノムワイド関連研究により、TAK発症感受性因子としてIL12BおよびMLX遺伝子領域の遺伝子多型(SNP)が同定された2)。トルコと米国の共同研究グループも同一手法によりIL12B遺伝子領域のSNPを報告している。IL12B遺伝子はIL-12/IL-23の共通サブユニットであるp40蛋白をコードし、IL-12はNK細胞の成熟とTh1細胞の分化に、IL-23はTh17細胞の維持に、それぞれ必要であるため、これらのサイトカインおよびNK細胞、ヘルパーT細胞のTAK病態への関与が示唆される。4)自然免疫系の関与TAKでは感冒症状が、前駆症状となることがある。病原体成分の感作後に大動脈炎を発症する例として、B型肝炎ウイルスワクチン接種後に大型血管炎を発症した2例の報告がある。また、TAK患者の大動脈組織では、自然免疫を担当するMICA(MHC class I chain-related gene A)分子の発現が亢進している。前述のゲノムワイド関連研究で同定されたMLX遺伝子は転写因子をコードし、報告されたSNPはインフラマソーム活性化への関与が示唆されている。以上をまとめると、HLAなどの発症感受性を有する個体が存在し、感染症が引き金となり、自然免疫関連分子やサイトカインの発現亢進が病態を進展させ、最終的に大型動脈のおそらく中膜成分を標的とする獲得免疫が成立し、慢性炎症性疾患として確立すると考えられる。■ 症状1)臨床症状TAKの症状は、(1)全身性の炎症病態により起こる症状と(2)各血管の炎症あるいは虚血病態により起こる症状の2つに分け、後者はさらに血管別に系統的に分類すると理解しやすい(表1)。画像を拡大する2)合併疾患TAKの約6%に潰瘍性大腸炎(UC)を合併する。HLA-B*52およびIL12B遺伝子領域SNPはUCの発症感受性因子としても報告されており、TAKとUCは複数の発症因子を共有する。■ 分類1)上位分類血管炎の分類には前述のChapel Hill分類(図2)が用いられる。「大型血管炎」にTAKと巨細胞性動脈炎(GCA)の2つが属する。2)下位分類畑・沼野氏らによる病型分類(1996年)がある(図3)3)。画像を拡大する■ 予後1年間の死亡率3.2%、再発率8.1%、10年生存率84%という報告がある。予後因子として、(1)失明、脳梗塞、心筋梗塞などの各血管の虚血による後遺症、(2)大動脈弁閉鎖不全、(3)大動脈瘤、(4)ステロイド治療による合併症(感染症、病的骨折、骨壊死など)が挙げられる。診断および治療の進歩により、予後は改善してきている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 検査1)各画像検査による血管撮影TAKは、生検が困難であるため、画像所見が診断の決め手となる。(1)画像検査の種類胸部X線、CT、MRI、超音波、血管造影、18F-FDG PET/PET-CTなどがある。若年発症で長期観察を要するため、放射線被曝を可能な限り抑える。(2)早期および活動期の画像所見大型動脈における全周性の壁肥厚は発症早期の主病態であり、超音波検査でみられる総頸動脈のマカロニサイン(全周性のIMT肥厚)や、造影後期相のCT/MRIでみられるdouble ring-like pattern(肥厚した動脈壁の外側が優位に造影されるため、外側の造影される輪と内側の造影されない輪が出現すること)が特徴的である。下行大動脈の波状化(胸部X線で下行大動脈の輪郭が直線的でなく波を描くこと)も早期の病変に分類され、若年者で本所見を認めたらTAKを疑う。動脈壁への18F-FDG集積は、病変の活動性を反映する(PET/PET-CT)。ただし動脈硬化性病変でもhotになることがある。PET-CTはTAKの早期診断(感度91~92%、特異度89~100%)と活動性評価の両方に有用である(2016年11月時点で保険適用なし)。(3)進行期の画像所見大型動脈の狭窄・閉塞・拡張は、臨床症状や予後と関連するため、CTアンギオグラフィ(造影早期相の3次元再構成)またはMRアンギオグラフィ(造影法と非造影法がある)で全身の大型動脈の開存度をスクリーニングかつフォローする。上行大動脈は拡張し、大動脈弁閉鎖不全を伴いやすい。従来のgold standardであった血管造影は、血管内治療や左室造影などを目的として行い、診断のみの目的では行われなくなった。(4)慢性期の画像所見全周性の壁石灰化、大型動脈の念珠状拡張(拡張の中に狭窄を伴う)、側副血行路の発達などが特徴である。2)心臓超音波検査大動脈弁閉鎖不全の診断と重症度評価に必須である。3)血液検査(1)炎症データ:白血球増加、症候性貧血、赤沈亢進、血中CRP上昇など(2)腎動脈狭窄例:血中レニン活性・アルドステロンの上昇■ 診断基準下記のいずれかを用いて診断する。1)米国リウマチ学会分類基準(1990年、表2)4)6項目中3項目を満たす場合にTAKと分類する(感度90.5%、特異度97.8%)。この分類基準にはCT、MRI、超音波検査、PET/PET-CTなどが含まれていないので、アレンジして適用する。2)2006-2007年度合同研究班(班長:尾崎 承一)診断基準後述するリンクまたは参考文献5を参照いただきたい。なお、2016年11月時点で改訂作業中である。画像を拡大する■ 鑑別診断GCA、動脈硬化症、血管型ベーチェット病、感染性大動脈瘤(サルモネラ、ブドウ球菌、結核など)、心血管梅毒、炎症性腹部大動脈瘤、IgG4関連動脈周囲炎、先天性血管異常(線維筋性異形成など)との鑑別を要する。中高年発症例ではTAKとGCAの鑑別が問題となる(表3)。GCAは外頸動脈分枝の虚血症状(側頭部の局所的頭痛、顎跛行など)とリウマチ性多発筋痛症の合併が多いが、TAKではそれらはまれである。画像を拡大する3 治療■ 免疫抑制治療の適応と管理1)初期治療疾患活動性を認める場合に、免疫抑制治療を開始する。初期治療の目的は、可及的に疾患活動性が低い状態にすること(寛解導入)である。Kerrの基準(1994年)では、(1)全身炎症症状、(2)赤沈亢進、(3)血管虚血症状、(4)血管画像所見のうち、2つ以上が新出または増悪した場合に活動性と判定する。2)慢性期治療慢性期治療の目的は、可及的に疾患活動性が低い状態を維持し、血管病変進展を阻止することである。TAKは緩徐進行性の経過を示すため、定期通院のたびに診察や画像検査でわかるような変化を捉えられるわけではない。実臨床では、鋭敏に動く血中CRP値をみながら服薬量を調整することが多い。ただし、血中CRPの制御が血管病変の進展阻止に真に有用であるかどうかのエビデンスはない。血管病変のフォローアップは、通院ごとの診察と、1~2年ごとの画像検査による大型動脈開存度のフォローが妥当と考えられる。■ ステロイドステロイドはTAKに対し、最も確実な治療効果を示す標準治療薬である。一方、TAKは再燃しやすいので慎重な漸減を要する。1)初期量過去の報告ではプレドニゾロン(PSL)0.5~1mg/kg/日が使われている。病変の広がりと疾患活動性を考慮して初期量を設定する。2006-2007年度合同研究班のガイドラインでは、中等量(PSL 20~30mg/日)×2週とされているが、症例に応じて大量(PSL 60 mg/日)まで引き上げると付記されている。2)減量速度クリーブランド・クリニックのプロトコル(2007年)では、毎週5mgずつPSL 20mgまで、以降は毎週2.5mgずつPSL 10mgまで、さらに毎週1mgずつ中止まで減量とされているが、やや速いため再燃が多かったともいえる。わが国の106例のコホートでは、再燃時PSL量は13.3±7.5mg/日であり、重回帰分析によると、再燃に寄与する最重要因子はPSL減量速度であり、減量速度が1ヵ月当たり1.2mgより速いか遅いかで再燃率が有意に異なった。この結果に従えば、PSL 20mg/日以下では、月当たり1.2mgを超えない速度で減量するのが望ましい。以下に慎重な減量速度の目安を示す。(1)初期量:PSL 0.5~1mg/kg/日×2~4週(2)毎週5mg減量(30mg/日まで)(3)毎週2.5mg減量(20mg/日まで)(4)月当たり1.2mgを超えない減量(5)維持量:5~10mg/日3)維持量維持量とは、疾患の再燃を抑制する必要最小限の用量である。約3分の2の例でステロイド維持量を要し、PSL 5~10mg/日とするプロトコルが多い。約3分の1の例では、慎重な漸減の後にステロイドを中止できる。4)副作用対策治療開始前にステロイドの必要性と易感染性・骨粗鬆症・骨壊死などの副作用について十分に説明し、副作用対策と慎重な観察を行う。■ 免疫抑制薬TAKは、初期治療のステロイドに反応しても、経過中に半数以上が再燃する。免疫抑制薬は、ステロイドとの相乗効果、またはステロイドの減量効果を期待して、ステロイドと併用する。1)メトトレキサート(MTX/商品名:リウマトレックス)(2016年11月時点で保険適用なし)文献上、TAKに対する免疫抑制薬の中で最も使われている。18例のシングルアーム試験では、ステロイド大量とMTX(0.3mg/kg/週→最大25mg/週まで漸増)の併用によるもので、寛解率は81%、寛解後の再燃率は54%、7~18ヵ月後の寛解維持率は50%だった。2)アザチオプリン(AZP/同:イムラン、アザニン)AZPの位置付けは各国のプロトコルにおいて高い。15例のシングルアーム試験では、ステロイド大量とAZP(2mg/kg/日)の併用は良好な経過を示したが、12ヵ月後に一部の症例で再燃や血管病変の進展が認められた。3)シクロホスファミド(CPA/同:エンドキサン)CPA(2mg/kg/日、WBC>3,000/μLとなるように用量を調節)は、重症例への適応と位置付けられることが多い。副作用を懸念し、3ヵ月でMTXまたはAZPに切り替えるプロトコルが多い。4)カルシニューリン阻害薬(2016年11月時点で保険適用なし)タクロリムス(同:プログラフ/報告ではトラフ値5ng/mLなど)、シクロスポリン(同:ネオーラル/トラフ値70~100ng/mLなど)のエビデンスは症例報告レベルである。■ 生物学的製剤関節リウマチに使われる生物学的製剤を、TAKに応用する試みがなされている。1)TNF-α阻害薬(2016年11月時点で保険適用なし)TNF-α阻害薬による長期のステロイドフリー寛解率は60%、寛解例の再燃率33%と報告されている。2)抗IL-6受容体抗体トシリズマブ(同:アクテムラ/2016年11月時点で保険適用なし)3つのシングルアーム試験で症状改善とステロイド減量効果を示し、再燃はみられなかった。■ 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)免疫抑制治療により疾患活動性が落ち着いた後も、虚血病態による疼痛が残りうるため、病初期から慢性期に至るまでNSAIDsが必要となることが多い。腎障害・胃粘膜障害などに十分な注意と対策を要する。■ 抗血小板薬、抗凝固薬血小板薬は、(1)TAKでは進行性の血管狭窄を来すため脳血管障害や虚血性心疾患などの予防目的で、あるいは、(2)血管ステント術などの血管内治療後の血栓予防目的で用いられる。抗凝固薬は、心臓血管外科手術後の血栓予防目的で用いられる。■ 降圧薬血圧は、鎖骨下動脈狭窄を伴わない上肢で評価する。両側に狭窄がある場合は、下肢血圧(正常では上肢より10~30mmHg高い)で評価する。高血圧や心病変に対し、各降圧薬が用いられる。腎血管性高血圧症にはACE阻害薬が用いられる。■ 観血的治療1)術前の免疫抑制治療の重要性疾患活動性のコントロール不十分例では、再狭窄、血管縫合不全、吻合部動脈瘤などの術後合併症のリスクが高くなる。観血的治療は、緊急時を除き、原則として疾患活動性をコントロールしたうえで行う。外科・内科・インターベンショナリストを含む学際的チームによる対応が望ましい。術前のステロイド投与量は、可能であれば少ないほうがよいが、TAKの場合、ステロイドを用いて血管の炎症を鎮静化することが優先される。2)血管狭窄・閉塞に対する治療重度の虚血症状を来す場合に血管バイパス術または血管内治療(EVT)である血管ステント術の適応となる。EVTは低侵襲性というメリットがある一方、血管バイパス術と比較して再狭窄率が高いため、慎重に判断する。3)大動脈瘤/その他の動脈瘤に対する治療破裂の可能性が大きいときに、人工血管置換術の適応となる。4)大動脈弁閉鎖不全(AR)に対する治療TAKに合併するARは、他の原因によるARよりも進行が早い傾向にあり、積極的な対策が必要である。原病に対する免疫抑制治療を十分に行い、内科的に心不全コントロールを行っても、有症状または心機能が低い例で、心臓外科手術の適応となる。TAKに合併するARは、上行大動脈の拡大を伴うことが多いので、大動脈基部置換術(Bentall手術)が行われることが多い。TAKでは耐久性に優れた機械弁が望ましいが、若年女性が多いため、患者背景を熟慮し、自己弁温存を含む大動脈弁の処理法を選択する。4 今後の展望最新の分子生物学的、遺伝学的研究の成果により、TAKの発症に自然免疫系や種々のサイトカインが関わることがわかってきた。TAKはステロイドが有効だが、易再燃性が課題である。近年、研究成果を応用し、各サイトカインを阻害する生物学的製剤による治療が試みられている。治療法の進歩による予後の改善が期待される。1)特殊状況での生物学的製剤の利用周術期管理ではステロイド投与量を可能であれば少なく、かつ、疾患活動性を十分に抑えたいので、生物学的製剤の有用性が期待される。今後の検証を要する。2)抗IL-6受容体抗体(トシリズマブ)2016年11月時点で国内治験の解析中である。3)CTLA-4-Ig(アバタセプト)米国でGCAおよびTAKに対するランダム化比較試験(AGATA試験)が行われている。4)抗IL-12/23 p40抗体(ウステキヌマブ)TAK3例に投与するパイロット研究が行われ、症状と血液炎症反応の改善を認めた。5 主たる診療科患者の多くは、免疫内科(リウマチ内科、膠原病科など標榜はさまざま)と循環器内科のいずれか、または両方を定期的に受診している。各科の連携が重要である。1)免疫内科:主に免疫抑制治療による疾患活動性のコントロールと副作用対策を行う2)循環器内科:主に血管病変・心病変のフォローアップと薬物コントロールを行う3)心臓血管外科:心臓血管外科手術を行う4)脳外科:頭頸部の血管外科手術を行う6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療・研究に関する情報1)2006-2007年度合同研究班による血管炎症候群の診療ガイドライン(ダイジェスト版)(日本循環器学会が公開しているガイドライン。TAKについては1260-1275ページ参照)2)米国AGATA試験(TAKとGCAに対するアバタセプトのランダム化比較試験)公的助成情報難病情報センター 高安動脈炎(大動脈炎症候群)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報大動脈炎症候群友の会 ~あけぼの会~同講演会の講演録(患者とその家族へのまとまった情報)1)Jennette JC, et al. Arthritis Rheum. 2013;65:1-11.2)Terao C, et al. Am J Hum Genet. 2013;93:289-297.3)Hata A, et al. Int J Cardiol. 1996;54:s155-163.4)Arend WP, et al. Arthritis Rheum. 1990;33:1129-1134.5)JCS Joint Working Group. Circ J. 2011;75:474-503.主要な研究グループ〔国内〕東京医科歯科大学大学院 循環制御内科学(研究者: 磯部光章)京都大学大学院医学研究科 内科学講座臨床免疫学(研究者: 吉藤 元)国立循環器病研究センター研究所 血管生理学部(研究者: 中岡良和)鹿児島大学医学部・歯学部附属病院 小児診療センター 小児科(研究者: 武井修治)東北大学大学院医学系研究科 血液・免疫病学分野(研究者: 石井智徳)〔海外〕Division of Rheumatology, University of Pennsylvania, Philadelphia, PA 19104, USA. (研究者: Peter A. Merkel)Department of Rheumatology, Faculty of Medicine, Marmara University, Istanbul 34890, Turkey.(研究者: Haner Direskeneli)Department of Rheumatologic and Immunologic Disease, Cleveland Clinic, Cleveland, OH 44195, USA.(研究者: Carol A. Langford)公開履歴初回2014年12月25日更新2016年12月20日

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セットでお得なワクチン接種

高齢者のためのワクチン接種のコツ冬は高齢者にとってインフルエンザや肺炎になりやすい季節。インフルエンザワクチンだけでなく、肺炎球菌ワクチンも接種すると効果的です!●インフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンの併用接種における予防効果両方とも接種した人が発症する確率は、どちらも接種しなかった人より、大幅に低下する!インフルエンザ発症リスクの低下肺炎全体侵襲性肺炎球菌感染症29%↓37%↓44%↓スウェーデンの65歳以上の成人25万8,754人におけるデータChristenson B, et al. Eur Respir J. 2004;23:363-368.より作図Copyright © 2016 CareNet,Inc. All rights reserved.

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高齢者のインフルエンザ・肺炎予防

今日から家でできるインフルエンザや肺炎の予防高齢者にとってインフルエンザや肺炎などにかかりやすくなる冬季は、とくに注意が必要です●家では次の3つのことを実践し、予防しましょう1) 口の中、手指を清潔に(うがい、歯磨き、手洗いの励行)2) 栄養のあるものを食べる(肉や魚も積極的に食べる)3) 部屋を適温・適湿に保つ(暖房器具、加湿器を活用)インフルエンザと肺炎球菌ワクチンの予防接種も忘れずに!日本呼吸器学会「成人市中肺炎診療ガイドライン作成委員会」. 成人市中肺炎診療ガイドライン;2007.Copyright © 2016 CareNet,Inc. All rights reserved.

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9価HPVワクチン、9~14歳への2回接種は男女とも有効/JAMA

 9価ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン(メルク社製)の免疫原性について、9~14歳の男女児への2回投与(6または12ヵ月間隔で)は16~26歳の若年女性への3回投与(6ヵ月間で)に対し非劣性であることが、ノルウェー・ベルゲン大学のOle-Erik Iversen氏らによる非盲検非劣性免疫原性比較試験の結果、報告された。HPV感染は性器・肛門がん、疣贅を引き起こす。9価HPVワクチンは、子宮頸がんの90%に関与する高リスクの7つの型、および疣贅の90%に関与する2つの型のHPVに予防効果を示し、従来の2価および4価のHPVワクチンよりもカバー範囲が広い。JAMA誌オンライン版2016年11月21日号掲載の報告。16~26歳の若年女性への3回投与と比較 検討は、15ヵ国52の外来ケア施設で行われた。2013年12月16日にスタートし、被験者登録が締め切られたのは2014年4月18日、被験者への最終評価は2015年6月19日に行われた。 次の5つのワクチン接種コホートに被験者を登録し、免疫原性について評価した。(1)9~14歳の女児に6ヵ月間隔で2回投与(301例)、(2)9~14歳の男児に6ヵ月間隔で2回投与(301例)、(3)9~14歳の男児・女児に12ヵ月間隔で2回投与(301例)、(4)9~14歳の女児に6ヵ月間で3回投与(301例)、(5)16~26歳の若年女性に6ヵ月間で3回投与(314例、標準対照群)。 主要エンドポイントは、事前に規定した最終接種後1ヵ月(4週)時点で、競合的免疫検定法で評価したHPV各型(6、11、16、18、31、33、45、52、58)の免疫獲得についてだった。(1)~(3)の3つの2回投与群を標準対照群と比較し、各HPVの幾何平均抗体価(GMT)の率比を算出。非劣性マージンを両側95%信頼区間(CI)(=片側97.5%CI下限値)0.67として評価した。男児・女児、6ヵ月または12ヵ月間隔で2回接種について非劣性を確認 全被験者1,518例は、女児が753例(平均年齢11.4歳)、男児が451例(同11.5歳)、若年女性は314例(同21.0歳)であった。1,474例が試験投与を完了し、データが得られた1,377例について解析した。 最終接種後4週時点で、2回投与の男女児のHPV免疫獲得は、標準対照群に対し非劣性であった(HPV各型のp<0.001)。標準対照群との比較によるHPV各型のGMT率比の片側97.5%CI下限値は、(1)群では1.36(HPV-52)~2.50(HPV-33)、(2)群では1.37(HPV-45)~2.55(HPV-33)、(3)群では1.61(HPV-45)~5.36(HPV-33)にわたっていた。なお、上限値はすべて∞であった。 これらの結果を踏まえて著者は、「さらなる検討を行い、免疫獲得の持続性と臨床的アウトカムへの効果を評価する必要がある」と述べている。

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小児のワクチン接種、非特異的な免疫学的効果はあるか/BMJ

 小児へのワクチン予防接種の一部の試験では、非特異的な免疫学的効果を示唆する免疫反応の傾向やパターンが認められるものの、試験デザインの異質性のため臨床的に意味があるとは結論できないとの検討結果が、英国・オックスフォード大学のRama Kandasamy氏らによりBMJ誌2016年10月13日号で報告された。観察研究では、ワクチン予防接種による、全死因死亡への非特異的な効果の発現が示唆されているが、その免疫学的な因果関係の機序は明らかにされていない。非特異的な免疫学的効果を系統的にレビュー 研究グループは、小児へのワクチン定期接種(BCG、MMR[ムンプス、麻疹、風疹]、ジフテリア、百日咳、破傷風)による非特異的な免疫学的効果を同定し、その特徴を検討するために、文献の系統的なレビューを行った(WHOの助成による)。 1947~2014年1月までに医学データベース(Embase、PubMed、Cochrane library、Trip)に登録された文献(無作為化対照比較試験、コホート試験、症例対照研究)を検索した。 小児への標準的なワクチン予防接種の非特異的な免疫学的効果を報告した試験を対象とし、遺伝子組み換えワクチンワクチン特異的アウトカムのみを報告した試験は除外した。異質性のためメタ解析は不可能 77件の試験が適格基準を満たした。37試験(48%)がBCGを使用しており、47試験(61%)が小児のみを対象としていた。ワクチン接種後1~12ヵ月の間に、最終的なアウトカムの評価が行われたのは54試験(70%)だった。 バイアスのリスクが高い試験が含まれ、すべての評価基準が低リスクと判定された試験は1つもなかった。全部で143項目の免疫学的変数が報告されており、きわめて多くの組み合わせが生成されるため、メタ解析は不可能であった。 最も多く報告されていた免疫学的変数はIFN-γであった。BCG接種を非接種と比較した試験では、接種群でin vitroにおけるIFN-γの産生が増加する傾向が認められた。 また、BCG接種により、カンジダ・アルビカンス、破傷風トキソイド、黄色ブドウ球菌、リポ多糖類、B型肝炎由来の微生物抗原によるin vitro刺激に反応して、IFN-γ値が上昇することも確認された。 さらに、ジフテリア-破傷風(DT)およびジフテリア-破傷風-百日咳(DTP)のワクチン接種により、異種抗原に対する免疫原性の増大が認められた。すなわち、DTにより単純ヘルペスウイルスおよびポリオ抗体価が上昇し、DTPでは肺炎球菌血清型14およびポリオ中和反応の抗体が増加していた。 著者は、「非特異的な免疫学的効果の論文は、試験デザインに異質性がみられたため従来のメタ解析は行えず、質の低いエビデンスしか得られなかった」としている。

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小児のワクチン接種と死亡率、BCG vs.DTP vs.MCV/BMJ

 BCGおよび麻疹含有ワクチン(MCV)接種は、疾患予防効果を介して予想される以上に全死因死亡率を低下させ、ジフテリア・百日咳・破傷風の3種混合ワクチン(DTP)接種は逆に全死因死亡率を上昇させる可能性があることが、英国・ブリストル大学のJulian P Higgins氏らによるシステマティックレビューとメタ解析の結果、明らかとなった。これまでの研究で、麻疹やDTPなどのワクチン接種は、目的とする疾患の発症を顕著に減少させるにもかかわらず、目的の感染症以外に起因する死亡に影響を及ぼすことが示唆されていた。著者は、「今回の結果は、WHOで推奨されているワクチン接種の変更を支持するものではないが、ワクチン接種スケジュールにおけるDTPの順番の影響について無作為化試験で比較検討する必要がある」と述べるとともに、「すべての子供たちがBCG、DTP、MCVの予防接種を予定どおり確実に受けられるよう取り組むべきである」とまとめている。BMJ誌2016年10月6日号掲載の報告。5歳未満児コホート試験34件のシステマティックレビューとメタ解析を実施 研究グループは、5歳未満の小児におけるBCG、DTP、標準力価MCV接種の非特異的な影響や全死因死亡率への影響を評価するとともに、性別やワクチンの接種順序の修正効果について検討した。Medline、Embase、Global Index Medicus、WHO国際臨床試験登録プラットフォームを用い、各種臨床試験、コホート研究、症例研究を検索し、システマティックレビューとメタ解析を実施。組み込まれた研究の対象小児の重複を避けるため、地理的場所と時期で子供たちを出生コホートに分け、さらに同一出生コホートに関連する全論文を分類した。バイアスのリスク評価には、コクランツールを使用した。 出生コホート34件が本レビューに組み込まれた。一部は短期間の臨床試験で、ほとんどは観察研究であった。全死因死亡率に関しては大半の研究で報告されていた。全死因死亡率は、BCGと標準力価MCVで低下、DTPで上昇 BCGワクチン接種は、全死因死亡率の低下と関連していた。平均相対リスク(RR)は臨床試験5件で0.70(95%信頼区間[CI]:0.49~1.01)、バイアスリスクが高い観察研究9件(追跡期間がほとんど1年以内)では0.47(95%CI:0.32~0.69)であった。 DTP接種(ほとんどが経口ポリオワクチンと併用)は、バイアスリスクが高い研究10件で、全死因死亡率の増加の可能性と関連が認められた(RR:1.38、95%CI:0.92~2.08)。この影響は、男児よりも女児のほうがより強いことが示唆された。 標準力価MCV接種は、全死因死亡率の低下と関連していることが確認された(臨床試験4件でRR:0.74[95%CI:0.51~1.07]、観察研究18件でRR:0.51[95%CI:0.42~0.63])。この影響は男児よりも女児のほうがより強いようであった。 ワクチンの順番を比較した観察研究7件では、バイアスリスクが高いものの、DTP接種がMCVと併用あるいはMCV接種後で、MCV接種前より死亡率上昇と関連する可能性が示唆された。

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70歳以上高齢者に対する帯状疱疹サブユニットワクチンの有効性(解説:小金丸 博 氏)-596

 帯状疱疹の罹患率や、その合併症である帯状疱疹後神経痛の発生率は、年齢とともに増加することが知られている。帯状疱疹を発症した場合、抗ウイルス薬の投与によって罹病期間を短縮することはできるが、帯状疱疹後神経痛の減少効果は示されておらず、ワクチンによる予防効果が期待されてきた。日本や米国では、50歳以上の成人に対して帯状疱疹の予防に生ワクチンが認可されているが、帯状疱疹の予防効果は50%程度とそれほど高くなく、さらに年齢とともに有効性が低下することが指摘されていた。  2015年に、組み換え水痘帯状疱疹ウイルス糖蛋白EとAS01Bアジュバントを組み合わせた帯状疱疹サブユニットワクチン(HZ/su)の有効性が報告された。この試験は、50歳以上を対象としたもの(ZOE-50)であったが、今回は70歳以上の高齢者に対象を限定して、帯状疱疹と帯状疱疹後神経痛へのサブユニットワクチンの有効性を検証するために、プラセボ対照ランダム化比較試験(ZOE-70)が行われた。ZOE-50と足し合わせた解析では、帯状疱疹に対する有効性が91.3%(95%信頼区間:86.8~94.5、p<0.001)、帯状疱疹後神経痛に対する有効性が88.8%(同:68.7~97.1、p<0.001)であり、プラセボと比較して高い有効性が示された。また、70~79歳と80歳以上の2群で有効性は同等であり、高齢者では有効性が低下した生ワクチンとは対照的な結果であった。 有効性、有害事象のデータを見る限り、非常に有望なワクチンと思われる。一般的に生ワクチンは免疫不全者では使用できず、高齢者に対しては不活化ワクチンのほうが安全に接種できる。安全性のさらなる確認は必要であるが、サブユニットワクチンの認可、導入が待たれる。 多くのワクチンでみられるように、帯状疱疹サブユニットワクチンの効果も経年的に減弱する傾向があるようである。今後は、どのくらいの期間ワクチンの効果が持続するのか、追加接種の必要性などについても検証する必要があると考える。

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帯状疱疹の新規ワクチンの有効性、70歳以上では9割/NEJM

 組換え水痘帯状疱疹ウイルス糖蛋白EとAS01Bアジュバントを組み合わせた帯状疱疹サブユニットワクチン(HZ/su)の70歳以上高齢者に対する予防効果について、帯状疱疹の有効性は約91%、帯状疱疹後神経痛に対する有効性は約89%であることが示された。オーストラリア・シドニー大学のA.L.Cunningham氏らが、約1万4,000例を対象に行った第III相のプラセボ対照無作為化比較試験「ZOE-70」の結果で、NEJM誌2016年9月15日号で発表した。すでに、50歳以上を対象にHZ/suの有効性について検証した「ZOE-50」試験では、帯状疱疹リスクがプラセボに比べ97.2%減少したことが示されていた。ワクチンを2ヵ月間隔で2回投与 研究グループは18ヵ国で集めた70歳以上の成人1万3,900例を無作為に2群に分け、一方にはHZ/suを、もう一方にはプラセボを、2ヵ月間隔で2回、筋肉投与した。 すでに実施済みのZOE-50試験と、今回の試験を合わせて、70歳以上への帯状疱疹と帯状疱疹後神経痛へのワクチンの有効性について検証を行った。ワクチン有効性、帯状疱疹は91.3%、帯状疱疹後神経痛は88.8% ZOE-70被験者の平均年齢は75.6歳だった。 追跡期間中央値3.7年の期間中、帯状疱疹を発症したのは、プラセボ群223例だったのに対し、HZ/su群は23例と大幅に減少した(発症率はそれぞれ、9.2/1,000人年、0.9/1,000人年)。 帯状疱疹に対するワクチンの有効率は89.8%(95%信頼区間:84.2~93.7、p<0.001)で、70~79歳では90.0%、80歳以上では89.1%で、高年齢でも有効性は同等だった。 ZOE-50の70歳以上の被験者とZOE-70の被験者の計1万6,596例についてプール解析をしたところ、帯状疱疹に対するワクチン有効率は91.3%(同:86.8~94.5、p<0.001)、帯状疱疹後神経痛への有効率は88.8%(同:68.7~97.1、p<0.001)だった。 なお、接種後7日以内の自発的ではない注射部位や全身反応の報告は、HZ/su群(79.0%)のほうがプラセボ群(29.5%)よりも高率だった。一方で、重篤有害事象や免疫が介在していると考えられる疾患、死亡については、両群で同等だった。

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亜急性硬化性全脳炎〔SSPE : subacute sclerosing panencephalitis〕

1 疾患概要■ 概念・定義亜急性硬化性全脳炎(subacute sclerosing panencephalitis: SSPE)は、1934年Dawsonにより急速進行する脳炎として初めて報告された。この疾患は、麻疹に感染してから数年の潜伏期間を経て発症する。発病後は数ヵ月から数年の経過(亜急性)で神経症状が進行し、病巣の性状はグリオーシス(硬化)であり、全脳を侵すことにより、亜急性硬化性全脳炎と呼ばれる。このように潜伏期間が長く、緩徐に進行するウイルス感染を遅発性ウイルス感染と呼び、ほかにはJCウイルスによる進行性多巣性白質脳症(progressive multifocal leukoencephalopathy: PML)が知られている。根本的治療法は確立されておらず、現在でも予後不良の疾患である。■ 疫学わが国での発症者は、麻疹ワクチンが普及する以前は年間10~15人程度であったが、麻疹ワクチン普及後は減少し、現在は年間5~10人程度となっている。男女比は2 : 1でやや男性に多く、潜伏期間、症状の発症とも女性と比較すると長く、遅くなっている。SSPEの発症年齢は平均12歳で、20代をピークに10~30歳代で96%を占める。麻疹ワクチンによるSSPEの発症は認められておらず、SSPE発症には直接的な麻疹ウイルス(MV)感染が必要であるため、発症予防には麻疹への感染予防が重要であるが、わが国では他の先進国に比べて麻疹ワクチンの接種率が低く、接種率向上が必要である。■ 病因SSPEの発症のメカニズムは現在まで十分には判明していないが、発症に関与する要因として、ウイルス側のものと宿主側のものが考えられている。1)ウイルス側の要因MVの変異株(SSPEウイルスと呼ぶ)が、中枢神経に持続感染することで起こる。SSPEウイルスは野生のMVと比較すると、M遺伝子やF遺伝子の変異が生じている。M遺伝子は、ウイルス粒子形成とカプシドからの粒子の遊離に重要なMタンパク質をコードし、Mタンパク質機能不全のため、SSPEウイルスは、感染性ウイルス粒子を産生できない。そのため隣接する細胞同士を融合させながら、感染を拡大していく。F遺伝子は、エンベロープ融合に関与するFタンパク質をコードし、一般にはSSPEウイルスはFタンパク質の膜融合が亢進しており、神経親和性が高くなっている。2)宿主側の要因幼少期にMV初感染を受けると免疫系や中枢神経系が十分に発達していないため、MVの脳内での持続感染が起こりやすく、SSPE発症リスクが上がる。ほかにSSPE発症に関わる遺伝的要因として、これまでにIL-4遺伝子多型とMxA遺伝子多型が報告されている。IL-4は、ヘルパーT細胞のTh1/Th2バランスをTh2(抗体産生)側に傾けるサイトカインで、SSPE患者ではIL-4産生が多いタイプの遺伝子多型を持つことが多いために、IL-4産生が亢進してTh2側に傾き、細胞傷害性T細胞の活性が抑えられて、MVの持続感染が起こりやすくなっていると考えられている。また、SSPE患者はインターフェロンによって誘導され、細胞内でのウイルス増殖を抑える機能を持つ、MxAの産生が多くなる遺伝子多型を持つことも知られている。MxA産生が多いと、中枢神経系のMV増殖が抑制され、MVに感染した神経細胞が免疫系から認識されにくくなり、中枢神経系での持続感染が起こりやすくなると考えられている。■ 症状と特徴初発症状として、学校の成績低下、記憶力低下、行動の異常、性格の変化があり、その後、歩行障害、ミオクローヌス、痙攣、自律神経症状、筋固縮を来し、最終的には無言・無動となり、死に至ることが多い。これらの症状の分類には、Jabbourが提唱した臨床病期分類が一般的に用いられる。■ Jabbourの分類第1期精神神経症状性格変化(無関心、反抗的)、学力低下、行動異常など第2期痙攣および運動徴候痙攣のタイプは全身強直発作、失神発作、複雑部分発作など運動徴候として運動機能低下、不随意運動(SSPEに特徴的な四肢の屈曲や進展を反復するミオクローヌス)第3期昏睡に至る意識障害の進行、筋緊張の亢進、球症状の出現による経口摂取困難、自律神経症状など第4期無言無動、ミオクローヌス消失全経過は通常数年だが、数ヵ月以内に死に至る急性型(約10%)、数年以上の経過を示す慢性型(約10%)がある。■ 予後SSPE症例は、無治療の場合は約80%が亜急性の経過をたどり、約1~3年の経過で第1期から第4期の順に進行し死亡する。約10%は発症後急速に進行し、3ヵ月以内に死亡する。また、残り約10%の進行は緩徐で、約4年以上生存する。無治療で寛解する症例や、寛解と増悪を繰り返す症例も報告されている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)診断は、臨床症状を軸に血液、髄液、脳波、画像検査を統合して行う。■ 特徴的な検査所見1)麻疹抗体価血清および髄液の麻疹抗体価が上昇する。髄液麻疹抗体価の上昇はSSPEに特異的であり、検出されれば診断的意義が高い。SSPE患者の抗体価は異常高値が特徴とされたが、最近では、軽度上昇にとどまる症例も多く、注意が必要である。また、抗体価の推移と臨床経過は必ずしも一致しない。2)髄液検査多くの場合は細胞数・糖・蛋白とも正常だが、細胞数・蛋白が軽度上昇することもある。また、髄液IgGおよびIgG indexの上昇も認める。3)脳波検査Jabbour2期から3期にかけて、左右同期性または非同期性で3~20秒間隔で出現する周期性同期性高振幅徐波をほとんどの症例で認めるが、Jabbour4期になると消失する(図)。画像を拡大する4)画像検査MRIは、疾患の推移を評価するのに有用である。画像変化は臨床病期とは一致せず、主に罹患期間に依存する。病初期のMRI所見では、正常または後頭葉の皮質・皮質下に非対称なT2強調画像での高信号の病変を認める。病期の進行とともに脳萎縮が進行し、側脳室周囲に対称性の白質病変が出現・拡大する。5)病理病理所見の特徴は、灰白質と白質の両方が障害される全脳炎であることと、線維性グリオーシスにより硬化性変化を示すことである。組織学的には、軟膜と血管周囲の炎症細胞浸潤、グリア細胞の増生、ニューロンの脱落および神経原線維変化の形成、脱髄などの所見がみられる。炎症所見は、発症からの経過が長いほど乏しくなる。麻疹ウイルス感染に関連した所見として、核内および細胞質の封入体を認める。■ 鑑別診断SSPEは急速に進行する認知症、ミオクローヌス、痙攣などを来す疾患の一部であり、ADEM(acute disseminated encephalomyelitis)、亜急性および慢性脳炎、脳腫瘍、多発性硬化症、代謝性白質脳症、進行性ミオクローヌスてんかんなどが鑑別に挙がる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ イノシンプラノベクスイノシンプラノベクス(商品名: イソプリノシン)は、抗ウイルス作用と免疫賦活作用を併せ持つ薬剤で、保険適用薬として認可されている。通常50~100mg/kg/日を3~4回に分割し、経口的に投与する。これにより生存期間の延長が得られるとされている。副作用として、血中および尿中の尿酸値の上昇(18.8%)があり、注意を要する。■ インターフェロン(IFN)インターフェロンは、ウイルス増殖阻害作用を持つ薬剤であり、IFNα、IFNγともに保険適用薬として認可されている。イノシンプラノベクスとの併用により有効であったとの報告例を多数認める。通常100~300万単位を週1~3回、脳室内に直接投与する。副作用として一過性の発熱をほぼ全例で認める。頻度は低いが、アレルギー反応を来す症例も認める。イノシンプラノベクス経口投与とIFN髄腔内または脳室内投与を併用するのが一般的で、有効性は言われているものの進行を阻止した例はまれであり、治療効果として不十分と考えられている。■ リバビリン近年、研究的治療(保険適用外)として、リバビリンの髄腔内または脳室内投与療法が試みられている。リバビリンは、広い抗ウイルススペクトラムを有する薬剤であり、麻疹(SSPE)ウイルスに対しても優れた抗ウイルス効果を示す。直接脳室内に投与することで、髄液中のリバビリン濃度はウイルス増殖を完全に抑制する濃度に維持され、重篤な副作用を認めず、少数例ではあるが臨床的有効性が報告されている。しかし、病初期(Jabbour2期)に投与した症例においては、臨床症状に明らかな改善を認めたとする報告が多く、病期の進行した症例(Jabbour3期)では改善効果に乏しかったとする報告が多い。以上のことから、リバビリン療法は、リバビリンがウイルスの増殖を抑制して病期の進行を抑制する治療法であり、進行した神経障害を改善させるものではないと考えられている。■ 対症療法上記の治療のほかには対症療法として、ミオクローヌスのコントロールや呼吸管理、血圧コントロールなどの対症療法を行っていく必要がある。4 今後の展望SSPEの重症度の評価として、新たにトリプトファン代謝の主要経路であるキヌレニン経路の代謝産物の髄液中濃度について検討されている。SSPE群では対象例と比較し、髄液中のキノリン酸濃度が有意に高値であり、病期の進行とともに増加が認められている。代謝産物であるキノリン酸の増加はキヌレニン経路の活性化が示唆され、その活性化はSSPEにおける変異型麻疹ウイルスの持続感染に関与している可能性がある。さらにキノリン酸は NMDA型グルタミン酸受容体アゴニストとして興奮性神経毒性を持つため、SSPEにおける神経症状との関係が示唆されている。また、前述したが、研究的治療としてリバビリン髄腔内または脳室内投与が有望である可能性が考えられている。具体的な投与方法として、リバビリン1mg/kg/回、1日2回、5日間投与から開始し、1回量、投与回数を調整し、髄液リバビリン濃度を目標濃度(50~200μg/mL)にする。投与量が決定したら、5日間投与・9日間休薬を12クール(6ヵ月)継続するものとなっている。効果としては、国内で詳細に調査された9例において、治療前後の臨床スコアの平均は前が52.9、後が51.0であり、治療前後で有意差は認めなかった。しかし、イノシンプラノベクスとIFNの併用療法を施行された48症例では治療前後の臨床スコアは前が54.3、後が61.1と悪化を認めており、リバビリン脳室内投与群のほうが優る結果となっている。しかしSSPEは、症例により異なる経過をたどり、その経過も長いため、多数例の調査を行ったうえでの慎重な判断が必要である。5 主たる診療科神経内科および小児科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 亜急性硬化性全脳炎(一般利用者向けと医療従事者むけのまとまった情報)プリオン病及び遅発性ウイルス感染症に関する調査研究班プリオン病のサーベイランスと感染予防に関する調査研究班(医療従事者向けの情報)患者会情報SSPE青空の会(SSPE患者とその家族の会)1)厚生労働省難治性疾患克服研究事業 プリオン病及び遅発性ウイルス感染症に関する調査研究班. 亜急性硬化性全脳炎(SSPE)診療ガイドライン(案)2)平成27年度(2015年度)プリオン病及び遅発性ウイルス感染症に関する調査研究班 総括研究報告書3)Gutierrez J, et al. Dev Med Child Neurol.2010;52:901-907.公開履歴初回2014年05月19日更新2016年09月20日

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可愛い孫は、肺炎を持ってくる

孫の世話に疲れる高齢者 大都市の待機児童の問題にみられるように、保育園や幼稚園に入所できず、祖父母に子供を預ける共働き世帯も多い。また、地方では、2世帯同居が珍しくなく、日中、孫の育児を祖父母がみるという家庭も多い。そんななか、預かった孫の世話に追われ、体力的にも精神的にも疲れてしまう「孫疲れ」という現象が、最近顕在化しているという。晩婚化のため祖父母が高齢化し、体力的に衰えてきているところに、孫の育児をすることで、身体が追いついていかないことが原因ともいわれている。家庭内で感染する感染症 そして、孫に疲れた高齢者に家庭内、とくに孫から祖父母へうつる感染症が問題となっている。子供は、よく感染症を外からもらってくる。風邪、インフルエンザをはじめとして、アデノウイルス、ノロウイルス、帯状疱疹など種々の細菌、ウイルスが子供への感染をきっかけに家庭内に持ち込まれ、両親、兄弟、祖父母へと感染を拡大させる。 日頃孫の面倒をみていない祖父母でも、お盆や年末、大型連休などの帰省シーズンに帰ってきた孫との接触で感染することも十分考えられ、連休明けに高齢者の風邪や肺炎患者が外来で増えているなと感じている医療者も多いのではないだろうか1)。ワクチンで予防できる肺炎 なかでも高齢者が、注意しなくてはいけないのが「肺炎」である。肺炎は、厚生労働省の「人口動態統計(2013年)」によれば、がん、心疾患についで死亡原因の第3位であり、近年も徐々に上昇しつつある。また、肺炎による死亡者の96.8%を65歳以上の高齢者が占めることから肺炎にかからない対策が望まれる。 日常生活でできる肺炎予防としては、口腔・上下気道のクリーニング、嚥下障害・誤嚥の予防、栄養の保持、加湿器使用などでの環境整備、ワクチン接種が推奨されている。とくにワクチン接種については、高齢者の市中肺炎の原因菌の約4分の1が肺炎球菌と報告2)されていることから、2014年よりわが国の施策として、高齢者を対象に肺炎球菌ワクチンが定期接種となり、実施されている。 定期接種では、65歳以上の高齢者に23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(商品名:ニューモバックスNP)の接種が行われ、平成30年度まで経過措置として65歳から5歳刻みで区切った年齢の該当者に接種が行われる。定期接種の注意点と効果を上げるコツ 定期接種の際に気を付けたいことは、経過措置の期間中に接種年齢に該当する高齢者が接種を受けなかった場合、以後は補助が受けられず自己負担となってしまうことである(自治体によっては、独自の補助などもある)。また、過去にこのワクチンの任意接種を受けた人も、定期接種の対象からは外れてしまうので注意が必要となる。 そして、ワクチンの効果は約5年とされ、以後は継続して任意で接種を受けることが望ましいとされている。 このほか高齢者においては肺炎球菌ワクチンだけでなく、同時にインフルエンザワクチンも接種することで、発症リスクを減らすことが期待できるとされる3,4)。低年齢の子供へのインフルエンザワクチンの接種により、高齢者のインフルエンザ感染が減少したという報告5)と同様に肺炎球菌ワクチンでも同じような報告6)があり、今後のワクチン接種の展開が期待されている。 普段からの孫との同居や預かり、連休の帰省時の接触など、年間を通じて何かと幼い子供と接する機会の多い高齢者が、健康寿命を長く保つためにも、高齢者と子供が同時にワクチンを接種するなどの医療政策の推進が、現在求められている。 この秋から冬の流行シーズンを控え、今から万全の対策が望まれる。(ケアネット 稲川 進)参考文献 1)Walter ND, et al. N Engl J Med. 2009;361:2584-2585. 2)日本呼吸器学会. 成人市中肺炎診療ガイドライン. 2007;15. 3)Maruyama T, et al. BMJ. 2010;340:c1004. 4)Kawakami K, et al. Vaccine. 2010;28:7063-7069. 5)Reichert TA, et al. N Engl J Med. 2001;344:889-896. 6)Pilishvili T, et al. J Infect Dis. 2010;201:32-41.参考サイト ケアネット・ドットコム 特集 肺炎 厚生労働省 肺炎球菌感染症(高齢者):定期接種のお知らせ 肺炎予防.JP

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ダニ媒介脳炎で国内初めての死者

 北海道は、8月15日に道内の40代男性が「ダニ媒介脳炎」で死亡したと発表した。男性は、7月中旬ごろに道内の草むらでダニに咬まれて発症。発熱や筋肉痛、意識障害、痙攣などの症状を示し、13日に亡くなった。なお、男性には海外渡航歴はなかったという。 ダニ媒介脳炎は、日本脳炎と同じフラビウイルスに属するダニ媒介性の脳炎ウイルスが引き起こす感染症で、わが国では1993年に同じく道内の上磯町で1例の感染が報告されている。 本症は、ダニ刺咬後7~14日の潜伏期を経て、発熱、頭痛、倦怠感、関節痛といった非特異的な症状で発症し(第1相)、いったん症状が消失後、第2相として発熱と神経学的症状が出現する。この神経学的症状は髄膜炎から脳炎までさまざまであり、救命できても麻痺などの後遺症を残すこともある。 現在、有効な治療薬はなく、支持療法が主体となる。そのためダニに刺咬されない予防が重要となる。 予防策としては、流行地域などの病原体の存在が知られている地域で、マダニの生息域に入る際は、肌の露出の少ない服装とはき物で防御する必要がある。また、DEETを含む忌避剤の塗布も有効とのことである。海外ではワクチンの開発がされているが、国内では未承認となっている。(ケアネット)関連リンク新興再興感染症に気を付けろッ! 第12回 ダニ媒介性脳炎に気を付けろッ!厚生労働省 ダニ媒介脳炎について

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大学内の髄膜炎集団感染における新規ワクチンの免疫原性/NEJM

 血清群B(B群)髄膜炎菌ワクチン4CMenBを接種された大学生において、B群髄膜炎菌による髄膜炎菌疾患の症例は報告されなかったが、接種者の33.9%は、2回目のワクチン接種後8週時において流行株に対する免疫原性(血清殺菌性抗体価の上昇)は認められなかったという。2013年12月、米国のある大学でB群髄膜炎菌の集団感染が発生したため、米国FDAの特別な配慮により承認前の4CMenBワクチンが使用された。本報告は、これを受けて米国・ミネソタ大学のNicole E. Basta氏らが集団感染発生中に、4CMenBにより誘導された免疫反応を定量化する目的で血清陽性率を調査し、その結果を報告したもの。集団感染の分離株が、ワクチン抗原(H因子結合タンパク質[fHbp]およびナイセリアヘパリン結合抗原[NHBA])と近縁の抗原を発現していたことから、ワクチン接種により流行を抑えることができるのではないかと期待されていた。NEJM誌2016年7月21日号掲載の報告。大学内での集団感染のため未承認時に使用された4CMenBワクチンの効果を検討 研究グループは、学生のワクチン接種状況を評価するとともに、血清検体を採取して流行株の血清陽性率ならびにヒト補体を含む血清殺菌性抗体(hSBA)の力価を測定し、ワクチン接種者と非接種者で比較した。さらに、流行株と近縁の参考株(fHbpを含む44/76-SL株)、流行株とは一致しない参考株(ナイセリアアドへシンA[NadA]を含む5/99株)の血清陽性率および力価についても同様に調査した。2つの参考株は、ワクチン開発に使用されたものである。 血清陽性は、hSBA抗体価が4以上と定義し評価した。ワクチン2回接種者の血清陽性率は66.1%、免疫原性は予想より低かった 4CMenBワクチンを推奨どおり10週間の間隔をあけて2回接種した被験者は499例であった。そのうち、流行株の血清陽性例は330例・66.1%(95%信頼区間[CI]:61.8~70.3%)で、幾何平均抗体価(GMT)は7.6(95%CI:6.7~8.5)と低かった。 ワクチンを2回接種したが血清陰性であった例(流行株に対して検出可能な予防効果なし:hSBA抗体価4未満)から無作為抽出した61例の検討で、44/76-SL株陽性は53例・86.9%(95%CI:75.8~94.2%)、GMTは17.4(95%CI:13.0~23.2)であったのに対し、5/99株陽性は100%(95%CI:94.1~100%)、GMTは256.3(95%CI:187.3~350.7)と高値であった。 流行株に対する反応性は、44/76-SL株に対する反応性と中程度の相関(ピアソン相関係数:0.64、p<0.001)が認められたが、5/99株との相関は認められなかった(ピアソン相関係数:-0.06、p=0.43)。 著者は、研究の限界として「ほとんどすべての学生がワクチンを接種することを選択した後での観察研究であったため、非接種者が少なかった」ことを挙げ、「今後さらに、さまざまなB群髄膜炎菌株に対する4CMenBの免疫原性を評価する必要がある」と指摘している。

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疑わしきは、まず渡航歴の聴取

 7月14日、国立国際医療研究センター病院/国際感染症センターは、蚊媒介感染症の1つである「黄熱」についてのメディアセミナーを同院で開催した、セミナーでは、流行状況、予防、診療の観点から解説が行われた。ゼロではない、黄熱持ち込みの可能性 はじめに、石金 正裕氏(同院国際感染症センター)が、「現在の流行状況:リスク評価」をテーマに説明を行った。 黄熱は、フラビウイルス科に属する黄熱ウイルスを原因とし、ネッタイシマカによって媒介・伝播される感染症である。そのため体液などを介したヒトヒト直接感染はないとされる。 主にアフリカ、南アメリカ地域で流行し、世界保健機関(WHO)の推計では、全世界の年間患者数は8万4,000人~17万人(うち死亡者は最大6万人)と推定されている。 感染後の潜伏期は3~6日、多くの場合は無症状であるが、頭痛、発熱、筋肉痛、嘔吐などの症状を呈し、重症化すると複数臓器からの出血、黄疸などを来すという(重症化した場合の致命率は20~50%)。多くの場合、症状発現後3~4日程度で回復するが、一部は重症化する。診断は、ウイルスの遺伝子または抗体のPCR法での検査による。現在、有効な治療薬はなく、輸液や頭痛、発熱などの対症療法が行われるが、黄熱ワクチンによる予防はできる。 アフリカ南西部のアンゴラでは、30年ぶりの黄熱のアウトブレイクが報告され、周辺地域への感染拡大が懸念されるとともに、流行地域である中南米のリオデジャネイロ(ブラジル)でのオリンピック開催に伴う、感染拡大も懸念されている。 媒介する蚊の性質の違いや他国の輸入例での感染不拡大をみると、輸入例を端緒として国内感染が起こる可能性は低いとしながらも、「わが国に持ち込まれる可能性はゼロではないため、引き続き流行地域渡航時のワクチン接種と防蚊対策は重要であり、医療者は患者さんへの渡航歴の聴取など漏らさず行ってほしい」と注意を促した。 なお、わが国では、第2次世界大戦以降、輸入例も含め報告例は1例もなく、現在4類感染症に指定されている。健康な旅行はワクチン接種から 次に竹下 望氏(同院国際感染症センター)が、「日本に黄熱を持ち込ませないために」と題して、黄熱ワクチンと防蚊対策に重点をおいて解説を行った。 黄熱の予防ワクチンは、1回接種で、0.5mLを皮下注射で接種し、生涯免疫が獲得できるとされている。国際保健規則(IHR)では、生後9ヵ月以上の渡航者が黄熱流行地域に渡航する際、その国や地域ごとに予防接種の推奨または義務付けがされている(接種後28日間は他のワクチン接種ができなくなるので注意)。 ワクチンの接種では、生後9ヵ月未満の子供、アレルギーを既往に持つ人(とくに卵)、免疫低下と診断され持病のある人、免疫抑制の治療中の人、胸腺不全/胸腺切除術を受けた人は、禁忌とされている(渡航時は禁忌証明書の発行が必要)。また、妊婦、授乳婦、免疫低下の疾患(たとえばHIVなど)を持病に持つ人、60歳以上の高齢者は、慎重な判断が必要とされている。 予想される副反応は、軽微なもので発熱、倦怠、接種部位の発赤、痒みなどがあり、約5~10日ほど続く。重度な副反応としては、重いアレルギー反応(5万人に約1人)、神経障害(12万人に約1人)、内臓障害(25万人に1人)が確認されている。ワクチンの接種は、全国20ヵ所の検疫所関連機関、2ヵ所の日本検疫衛生協会診療所、国立国際医療センター、東京医科大学病院などで受けることができる。 リオデジャネイロへの渡航については、沿岸部に1週間程度の滞在ならワクチンの接種は必要ないものの、アマゾン川上流域やイグアスなどに行く場合は接種を考慮したほうがよい。滞在中は防蚊対策(露出の少ない服装、虫よけ薬の塗布など)をしっかり行うこと、A型肝炎、破傷風などにも注意することが必要だという。 最後に「健康な旅行のための10か条」として、予防接種のほかに、渡航前に旅行医学の専門医に相談する、常備薬や服用薬の準備、旅行者保険への加入、現地での事故に注意する、性交渉ではコンドームを装着、安全な水・食糧の確認、日光曝露への対応、不必要に動物に近づかないなどの注意を喚起した。「旅行先で感染し、国内に持ち込ませないためにも、適切な時期にワクチンなどを接種することで予防計画を立てて旅をしてほしい」とレクチャーを終えた。黄熱との鑑別はどうするか 最後に大曲 貴夫氏(同院国際感染症センター長)が、「黄熱をうたがった場合の対応」として医師などが診断で気を付けるべきポイントを解説した。 黄熱の臨床所見は、先述のもの以外に仙腰痛、下肢関節痛、食欲不振など非特異的な症状がみられ、とくに病初期にはマラリアと酷似しており鑑別は難しいという。また、マラリアだけでなく、デング熱、チクングニア熱、ワイル病、回帰熱、ウイルス性肝炎、リフトバレー熱、Q熱、腸チフスなどの疾患とも症状が似ている。何よりも、外来ではまず「渡航歴」を聴くことが重要で、これで診断疾患を絞ることもできるので、疑わしい場合は問診で患者さんに確認することが大切だという。また、診断に迷ったら、専門医に相談することも重要で、日本感染症学会サイトの専門医を活用することもできる。 最後に、「患者が入院したときの対応として、『患者さんの体液、とくに血液に直接触れない』、『針刺し事故を起こさない』を順守し、感染防止を徹底してほしい」とレクチャーを終えた1)。厚生労働省検疫所-FORTH 黄熱について

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