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コロナワクチンが来る前に読め!【Dr.倉原の“俺の本棚”】第38回

【第38回】コロナワクチンが来る前に読め!峰先生は、アメリカの国立研究機関で博士研究員を務める病理医で、ウイルス研究者です。Twitterをやっている人にとって、通称「ばぶ」先生の愛称で親しまれています。赤ちゃんっぽい感じですが、ウイルス学に関してはオリンピックアスリートくらい強いです。『新型コロナとワクチン 知らないと不都合な真実』峰 宗太郎・山中 浩之/著. 日本経済新聞出版. 2020年この本は、一般向けと医療従事者向けのちょうど間くらいの温度の内容で、新型コロナウイルスの核酸ワクチンについてあまり知らない人は必読です。私も、既存のワクチンとどう違うのかがわかっておらず、とりあえず冷凍が必要だという知識しかありませんでした。後半はワクチンから少し離れて、PCR検査について触れられています。とくに、名古屋市立大学大学院医学研究科教授の鈴木 貞夫先生との対談では、PCR検査を広く行うことについて鋭い指摘あります。間違った解釈がなぜ生まれるのか、ということを「アイスクリーム理論」とともに丁寧に説明しています。「医療従事者には白黒をつけるのが好きな人がたくさんいて、検査をすれば白か黒か分かると思っている」というご批判はその通りであろうと思います。あれだけ医学部で勉強したのに、いまだに電子カルテに表示される「異常値の色」に振り回されている医師がいるのですから。ケアネットは間違った情報を載せることはまずないと思いますが、世の中にはトンデモ医師が馬にまたがって似非ナポレオンのごとく先導して、おかしな持論を展開するという現象が存在します。私はこういう誤った情報に何かしら罰則を設けるべきだと思っています。世の中には「金と命」(YMYL:Your Money or Your Life)をテーマにして荒稼ぎしているあくどい連中がいますが、悪気がなく本気でトンデモ理論に漬かってしまった医師もいます。これが一番タチが悪い。ところで、峰先生の一番嫌いな言葉は「免疫力」です。曰く、「複雑な免疫システムを単純なものだと誤解させてしまうところもあるし、実際にはできないことをできるかのように誤認させるから」です。私がもし「免疫力を高める10の呼吸法」なんていう本を出したら、エライコッチャです。気を付けねば!『新型コロナとワクチン 知らないと不都合な真実』峰 宗太郎・山中 浩之 /著出版社名日本経済新聞出版定価本体850円+税サイズ新書判刊行年2020年

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Moderna社mRNAワクチン、3万例超で94.1%の有効性/NEJM

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する、Modernaのワクチン「mRNA-1273」の有効性(重症化を含む発症の予防効果)は94.1%に上ることが、3万例超を対象にした第III相無作為化プラセボ対照試験で明らかになった。米国・ブリガム&ウィメンズ病院のLindsey R. Baden氏らが報告した。安全性に対する懸念は、一過性の局所および全身性の反応以外に認められなかったという。mRNA-1273ワクチンは、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の膜融合前安定化スパイクタンパク質をコードする脂質ナノ粒子カプセル化mRNAベースのワクチンで、2020年12月に米国では緊急使用の承認が発表されている。NEJM誌オンライン版2020年12月30日号掲載の報告。投与2回目から2週間以降の感染予防効果を検証 試験は全米99ヵ所の医療機関を通じて、18歳以上でSARS-CoV-2感染や同感染による合併症の高リスク者を対象に、観察者ブラインド化にて行われた。 研究グループは被験者を無作為に2群に分け、一方にはmRNA-1273(100μg)を、もう一方にはプラセボを、28日間隔で2回筋肉注射した。初回接種は2020年7月27日~10月23日に行われた。 主要エンドポイントは、2回目投与から14日以降のCOVID-19発症の予防で、SARS-CoV-2感染歴のない被験者を対象に評価した。mRNA-1273群の症候性COVID-19発生率、3.3件/1,000人年 ボランティア被験者数は3万420例で、mRNA-1273群またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付けられた(各群1万5,210例)。ベースラインでSARS-CoV-2感染のエビデンスが認められたのは2.2%。被験者の96%超が2回接種を受けた。 2回目投与から14日以降に症候性COVID-19が認められたのは、プラセボ群185例(56.5件/1,000人年、95%信頼区間[CI]:48.7~65.3)に対し、mRNA-1273群では11例(3.3件/1,000人年、1.7~6.0)で、ワクチン有効率は94.1%(95%CI:89.3~96.8、p<0.001)だった。 1回目投与から14日以降の症候性COVID-19など主な副次解析や、ベースラインでSARS-CoV-2感染のエビデンスが認められた者を含めた評価、65歳以上に限定した評価でも、有効性は同等であることが認められた。 重症COVID-19の発生は30例(うち1例が死亡)で、全例がプラセボ群だった。接種後の中等度で一過性の反応原性が発現する頻度は、mRNA-1273群で高率だった。重篤な有害イベントはまれで、発現頻度は両群で同程度だった。

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母の子宮頸がん細胞が子に移行、国立がん研究センターが発表/NEJM

 国立がん研究センター中央病院の荒川 歩氏らは、小児の肺がん2例について、腫瘍組織と正常組織のペアサンプルを用いたルーチン次世代シークエンスで偶然にも、肺がん発症は子宮頸がんの母子移行が原因であることを特定したと発表した。移行したがん細胞の存在は同種の免疫応答によって示され、1例目(生後23ヵ月・男児)では病変の自然退縮が、2例目(6歳・男児)では腫瘍の成長速度が遅いことがみられたという。また、1例目は、免疫チェックポイント阻害薬ニボルマブを投与することで、残存するがん細胞の消失に結び付いたことも報告された。腫瘍組織と正常組織のペアサンプルを用いたルーチン次世代シークエンスは、わが国の進行がん患者を対象とした前向き遺伝子プロファイリング試験「TOP-GEAR」の一環として行われた解析で、114のがん関連遺伝子の変異を検出することを目的とする。1例目の患児に対するニボルマブ(3mg/kg体重を2週ごと)投与は、再発または難治固形がんを有する日本人患児を対象としたニボルマブの第I相試験で行われたものであった。症例の詳細は、NEJM誌2021年1月7日号で報告されている。HPVワクチン未接種の母親から生まれ、生後23ヵ月で肺がんを発症 1例目(生後23ヵ月・男児)は、湿性咳嗽が2週間続き地元の病院を受診。CTにて両肺気管支に散在する複数の腫瘍が確認され、VATS肺生検で限局性の腺分化を伴う肺神経内分泌がんであることが確認された。 母親は35歳でHPVワクチン未接種。出産前7ヵ月に行った子宮頸がん検査では陰性だったが、妊娠39週で経膣分娩、3ヵ月後に子宮頸部扁平上皮がんの診断を受けた。当時は組織学的特徴が一致せず、出生児へのがんの移行は疑われなかったが、両親の懸念に応じて頻繁にフォローアップを実施。ただし治療は行われなかった。 生後23ヵ月時に肺神経内分泌がん診断後1年で病勢が進行。3歳時に研究グループの病院に紹介され入院加療を受けた。驚くべきことに、その時点で病変の自然退縮が認められたという。残存病変は化学療法で一部は退縮したが、その他は進行。ニボルマブの第I相試験に組み込まれ、4サイクル投与後、病変の退縮を確認。用量を低減し計14サイクルを投与して7ヵ月間、新たな病変は認められなかった。その後、肺葉切除術を受け、12ヵ月時点で再発のエビデンスはみられていない。 一方、母親は最終治療(放射線+化学療法)から3年間で、肺・肝臓・骨転移がみられた。そして肺腫瘍の組織学的検査で、男児の肺と非常に類似した所見が認められたという。 その後、母子別々に行われた次世代シークエンスで、それぞれの腫瘍組織に複数の同じ遺伝子変異が存在することが確認され、またサンガーシークエンスで、両者の腫瘍組織がタイプ18のHPV陽性であることも認められた。子宮頸がんの母親から生まれた男児、6歳時に肺がんを発症 2例目(6歳・男児)は、左胸部疼痛で地元の病院を受診。左肺に6cmの腫瘤を認め粘液性腺がんと診断された。男児は化学療法を受けたが再発。左肺を全摘し15ヵ月のフォローアップ時点で再発は認められていない。 母親は、妊娠中に子宮頸がんが検出されたが、細胞診は陰性で、介入不要のがん細胞の安定化が認められたことから、妊娠38週で経膣分娩した。出産後、生検で子宮頸部の腺がんが判明し、分娩3ヵ月後に研究グループの病院に紹介され子宮および両側卵管の全摘手術を受けたが、術後2年後に死亡に至っている。 6歳時に男児が肺がんと診断された際、がんの母子感染は疑われなかったが、母親の子宮頸がん組織と男児の肺がん組織を用いた次世代シークエンスで同様の遺伝子プロファイルが認められ、また、タイプ16のHPV陽性であることも認められた。 なお、次世代シークエンスで、ほかにも母子移行が認められたケースはあったが、研究グループは、この2つのケースでは肺にのみがん細胞が観察されたことに着目。「母親のがん細胞は、羊水、分泌物、または子宮頸部からの血液に存在し、経膣分娩時に新生児が吸引した可能性がある」と指摘。子宮頸がんの母親には帝王切開を推奨する必要があることを提言している。

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「イナビル」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第34回

第34回 「イナビル」の名称の由来は?販売名イナビル®吸入粉末剤20mg※吸入懸濁用160mgセットは吸入粉末剤のインタビューフォームと異なるため、今回は情報を割愛しています。ご了承ください。一般名(和名[命名法])ラニナミビルオクタン酸エステル水和物(JAN)効能又は効果A型又はB型インフルエンザウイルス感染症の治療及びその予防用法及び用量警告内容とその理由警告1.本剤の使用にあたっては、本剤の必要性を慎重に検討すること。2.インフルエンザウイルス感染症の予防の基本はワクチンによる予防であり、本剤の予防使用はワクチンによる予防に置き換わるものではない。禁忌内容とその理由禁忌(次の患者には投与しないこと)本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者※本内容は2021年1月13日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2020年9月改訂(第14版)医薬品インタビューフォーム「イナビル®吸入粉末剤20mg」2)第一三共Medical Library:製品一覧

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第42回 南アの新型コロナウイルス変異株へのワクチン効果が心配されている/変異株はどう発生するのか

南アの新型コロナウイルス変異株へのワクチン効果が心配されている南アフリカ(南ア)で広まる新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)変異株は英国で広まる変異株にはない変異があり、英国の専門家はそれらがワクチンの効果を妨げる恐れがあると心配しています1-3)。南アの変異株B.1.351(別称501Y.V2)のスパイクタンパク質の受容体結合領域(RBD)には英国の変異株B.1.1.7と共通するN501Y変異に加えてさらに2つの変異が存在します。南アの変異株に特有のそれら2つの変異の1つE484Kは抗体を寄せ付け難くすることが知られており1)、厄介なことに先立つ感染やワクチン接種で備わった免疫防御をウイルスが回避するのを助けます。E484Kだけで南アの変異株に目下のワクチンが全く歯が立たなくなるとは考え難いが、変異株の発見にはワクチンの効果の心配がつきものであり、南アの変異株へのワクチンの効き具合はまだ想像がつかないとロンドン大学のFrancois Balloux教授は言っています1)。英国の変異株は去年9月にみつかり4)、12月中旬に同国で急速に広まりました。南アの変異株は11月中旬から他のSARS-CoV-2に取って代わって同国で広まっていることが12月18日に発表されました5)。オックスフォード大学の免疫学者で英国のワクチン開発の取り組みへの助言者の1人・John Bell氏は英国の変異株にワクチンは効きそうだが南アの変異株への効果は大変心配(big question mark)で、調査を急いでいると言っています3,6)。南アの変異株のゲノムを調べている同国の大学University of KwaZulu-Natalの感染症専門家Richard Lessells氏はその調査こそ同氏等の最優先課題であるとし、抗体がすでに備わっている人やワクチン接種を経た人の血液の中和抗体活性の検討を始めています7)。中和抗体だけでなく細胞を介した免疫を調べることも有益だろうと米国のウイルス学者Kartik Chandran氏は科学ニュースThe Scientistに述べています3)。T細胞が担うそれらの免疫は中和抗体に比べて変異への対応がより鈍いかもしれません。※幸いなことに、南アと英国の SARS-CoV-2 変異株に共通のN501Y変異はPfizer/BioNTechのワクチンの効果を妨げはしないようです。先週7日にbioRxivに掲載された実験によると、同ワクチンの第III相試験の被験者20人の血清はN501Y変異導入SARS-CoV-2を非変異SARS-CoV-2と同様に中和しました。SARS-CoV-2変異株はどう発生するのか新型コロナウイルス感染(COVID-19)から1ヵ月が過ぎてもその原因ウイルスSARS-CoV-2を排出し続けるがん(リンパ腫)患者がいることを知ったケンブリッジ大学のウイルス研究者Ravindra Gupta氏は治療を助けるために出向いてその男性患者にとりつくSARS-CoV-2の面々の変遷を調べました8,9)。その結果、抗体を効かなくするスパイクタンパク質変異対を備えるSARS-CoV-2一派が回復者血漿投与に伴って優勢になっており、その変異対の片割れΔH69/ΔV70は英国で広まる変異株B.1.1.7にも存在するものでした。男性患者は抗体を作る免疫細胞・B細胞を減らす抗がん剤リツキシマブ治療を受けていて免疫が衰えている免疫弱者であり、抗ウイルス薬Remdesivir(レムデシビル)や回復者血漿投与の甲斐なくCOVID-19診断から101日で亡くなりました。男性にとりついたSARS-CoV-2の面々は2度の一連のレムデシビル治療にも関わらず65日間はほとんど進化的変化(evolutionary change)なしで居着いていました。しかし回復者血漿が投与されるやその組成は一変し、抗体を効かなくする変異対・D796HとΔH69/ΔV70を有するSARS-CoV-2一派があたまをもたげて優勢になり、その変異対はSARS-CoV-2への主な抗体を突き放すウイルスの常套手段の一つであることが判明しました。スパイクタンパク質に8つの変異を携えて英国で広まる変異株B.1.1.7もGupta氏等が見つけた変異対保有一派と同様に免疫弱者が出どころかもしれないと研究者は考えています8)。ΔH69/ΔV70変異を備えて抗体を突っぱねることがSARS-CoV-2の常套手段であることはその変異がB.1.1.7に備わることも物語っています。Scienceのニュースによると8)、レンチウイルスを試しに使ったGupta氏の実験でΔH69/ΔV70変異は感染を捗らせました。B.1.1.7のスパイクタンパク質に備わる別の変異N501Yは南アで広まる変異株B1.351にも存在し、Science誌掲載の研究では細胞受容体ACE2との密着を促すことが示唆されました10)。N501Yのように独立して生き残る変異はウイルスにとって有益である公算が大きいとFred Hutchinson Cancer Research Centerの進化生物学者Jesse Bloom氏は言っています8)。英国の変異株B.1.1.7のスパイクタンパク質に備わるP681H変異もN501Yと同様に注意が必要とみられています。P681Hは細胞侵入に際してのスパイクタンパク質切断部位を変えます。その切断部位は20年近く前の2003年に流行したコロナウイルスSARS-CoV-1とSARS-CoV-2のスパイクタンパク質の不一致領域に位置し、その領域の変化は感染をより広めやすくする恐れがあります10)。参考1)expert reaction to the South African variant / Science Media Centre2)UK scientists worried vaccines may not work on S.African coronavirus variant / Reuters3)South African SARS-CoV-2 Variant Alarms Scientists / TheScientist4)COVID-19 (SARS-CoV-2): information about the new virus variant / GOV.UK 5)SARS-CoV-2 Variants / WHO6)Covid: 'No question' restrictions will be tightened, says Boris Johnson / BBC7)South Africa testing whether vaccines work against variant / AP8)U.K. variant puts spotlight on immunocompromised patients’ role in the COVID-19 pandemic / Science9)Neutralising antibodies drive Spike mediated SARS-CoV-2 evasion. medRxiv. December 19, 202010)Gu H, et al. Science. 2020 Sep 25;369:1603-1607.

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体験ルポ・新型コロナワクチン接種(2)新たなワクチンに臨むために必要なこと

 国内では、連日のように過去最多の感染者数が確認されている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。行動を変え、消毒を徹底するなどの地道な自助努力が、現時点ではわれわれにできる唯一の感染防止策であり、ワクチン接種の開始が待ち望まれるところである。 感染者数世界最多の米国では、世界に先駆け2020年12月14日からワクチン接種が実施されている。本稿は、米国・ワシントンDCの病院に勤務する日本人医師の安川 康介氏がケアネットに寄せたワクチン接種の体験ルポ第2弾である。安川氏は、2020年12月16日に1回目のワクチン接種を経験し、今回は、2回目となる1月5日の接種の際に経験した体調変化や周りの接種者の反応、日本が新たなワクチンに臨むために必要なことについてレポートしている。2回目接種時に体調変化を経験、ナースでは接種忌避傾向も 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染者数増加を受け、日本では1月7日に2度目の緊急事態宣言が発出された。Pfizer社は2020年12月18日、日本におけるmRNAワクチンの製造販売承認を申請し、今年2月には承認される見通しである。日本における収束に向け、ワクチンへの期待が高まる。 米国では、FDAが2020年12月11日、Pfizer社とBioNTech社が開発したmRNAワクチン(BNT162b2)の緊急使用を認めた。これを受けて、わたしが勤務するワシントンDCのMedStar Washington Hospital Centerにおいても、12月16日から医療従事者を対象にワクチン接種が始まり、同日に受けることができた。ご存じの通り、本ワクチンは2回接種が必要であり、年明けの1月5日に2回目を接種した。 前回接種時は、主に接種部位の痛みがあったのみで、それも2~3日後にはほぼ消失した。2回目の接種では、前回と同様に接種部位の痛みが生じたのに加え、前回と違ったのは、翌日にやや強い倦怠感を経験したことである。体温が37.2度程度と少し高くなり、体がだるく、いわゆる風邪を引いた時のような倦怠感が夜まで続いた。接種を受けた同僚の中には、初回はほとんど全身性の反応が出なかったが、2回目の接種では、当夜に眠れないくらいの発熱・悪寒・頭痛を経験した人もいた。2回目の接種時に全身性の症状が出やすいことは臨床試験でも報告されており、16~55歳では、2回目接種後の発熱は16%、倦怠感は59%、頭痛は52%と報告されている。逆に、初回接種後に発熱・悪寒・倦怠感が強かったものの、2回目ではそれほど全身性の反応が出なかった人もいた。わたしが勤務する病院では、医師やナースプラクティショナーの多くがワクチン接種を受けた一方、看護師やナースアシスタントではワクチン接種を躊躇する人も多く、わたしはコロナ病棟の看護師を対象にmRNAワクチンに関する教育も担当した。 Pfizer/BioNTech社ワクチンでは、2回目接種後7日以降の発症予防効果は95%、モデルナ社のワクチンでは2回目接種後14日以降の発症予防効果は94.1%といずれも高い。ただし、無症状の感染や2次感染をどれだけ予防できるかは今のところ不明で、感染予防対策は引き続き必須である。一部施設では、ワクチンの無症状感染についての予防効果を調べるため、接種後毎週PCRを行うという臨床試験も開始されているようである。モデルナ社のワクチンの臨床試験では、2回目接種前にPCR検査をしており、PCR陽性は1万4,134人中14人、プラセボ群では1万4,073人中38人と、無症状の感染の予防効果も期待されている1)。大規模接種の円滑実施のカギはプロトコル作成と周到なシミュレーション 米国では2020年12月18日、モデルナ社のmRNAワクチンの緊急使用も認められ、急ピッチで、Pfizer/BioNTech社およびモデルナ社のワクチン接種が進んでいる。実際に接種が始まった12月16日から、すでに500万人以上(1月7日執筆時、対象は主に医療従事者・高齢者施設の入居者)がワクチン接種を受けた。しかしこの数は、米政府が2020年末までの目標に掲げていた2,000万人には遠く及ばず、進行の遅れに対する批判の声が上がっている。実際に各州に供給されているワクチン量に比べ、接種された数は大幅に下回っており、大規模なワクチン接種をいかに効率的に行うか、各州で調整が進められている段階である。CDC(米国疾病予防管理センター)はワクチンの接種について、phase1aでは高齢施設入居者と医療従事者、phase1bでは消防士や警察官、グローサリーストアの従業員などのエッセンシャルワーカー、75歳以上の高齢者、などと優先順位を設定したものの2)、実際はphase1a全員の接種が終わる前にでも次のフェーズでの接種を開始する州が増えている状況である3)。 翻って日本においても、大規模なワクチン接種をいかに効率的に実施できるか今から綿密に計画しておくことが重要である。Pfizer/BioNTech社ワクチンは保管温度が−70℃、モデルナ社ワクチンは−20℃であり、コールドチェーンの確立はもちろんのこと、効率的に接種を行っていくためには、接種者の登録および説明は、接種会場ではなく事前に済ませられるような形で行うことも必要かもしれない。わたし自身、ワクチン接種の登録はオンラインシステムで済ませ、ワクチンに関する説明はFDAが作成した説明書4)および医療機関が個別に作成した資料を渡され、読むように指示されただけである。また、Pfizer/BioNTech社ワクチンは、これまで接種した約190万人中21人に強いアレルギー反応が確認されており5)、CDCではワクチン接種後15~30分観察することを推奨している。接種会場では、アナフィラキシーをどのようにモニターし、治療するかをプロトコル化しておく必要もあるだろう。 日本に限らず世界的にもCOVID-19の感染者数増加に伴い、医療施設に負荷がかかっている。したがって、具体的に誰がどのように接種を進めていくのか、人材調整も喫緊の課題だ。たとえば米国では、州によってはCVSやWalgreensなどの薬局と提携を結び、薬剤師が高齢者施設での接種を担っている6)。また、Pfizer/BioNTech社ワクチンの場合、解凍した後、冷蔵保存(2~8℃)が5日間と短い(モデルナ社は30日)。そのため、ワクチンを無駄にしないためにはいつ、どこに配給し、ワクチンが余った場合には誰に回すのか、あるいは他施設に輸送するのか、といったことを周到にシミュレーションしておくべきである。 日本では、ワクチンを忌避する人も少なからずいる。世界に先駆けて新型コロナワクチンを接種した国々からは、メディアを通じてネガティブな情報も届いていることだろう。HPVワクチンの二の舞にならないように、メディアや国民に向けて、ワクチンの正しい科学的知識、予期される局所反応・全身性反応に関する教育等を行うことが、この新たなワクチンを経験するに当たっては何よりも重要であると考える。先行して大規模接種が開始された米国の情報などを参考に、接種開始早期から円滑に進行できることを願っている。【安川 康介氏プロフィール】2007年慶應義塾大学医学部卒業。日本赤十字社医療センターにて初期研修を修了後渡米。ミネソタ州ミネソタ大学医学部内科レジデンシー、テキサス州ベイラー医科大学感染症フェローシップ修了。米国内科専門医・感染症専門医。現在は、ワシントンDCのMedStar Washington Hospital Centerにて、ホスピタリストとして勤務。参考文献・参考サイトはこちら1)https://www.fda.gov/media/144453/download2)https://www.cdc.gov/vaccines/hcp/acip-recs/vacc-specific/covid-19/evidence-table-phase-1b-1c.html3)https://www.cnn.com/2021/01/06/health/covid-19-messy-roll-out-state-expand-priorities/index.html4)https://www.fda.gov/media/144414/download5)https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/70/wr/mm7002e1.htm?s_cid=mm7002e1_w6)https://www.gov.ca.gov/2020/12/28/governor-newsom-announces-partnership-with-cvs-and-walgreens-to-provide-pfizer-vaccines-to-residents-and-staff-in-long-term-care-facilities/

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COVID-19の院内死亡率、10代はインフルの10倍にも

 インフルエンザとCOVID-19は、類似した感染様式を伴う呼吸器疾患である。そのため、インフルエンザの流行モデルは、COVID-19の流行モデルの検証にもなり得ると考えられる。ただし、両者を直接比較するデータはほとんどない。フランス・ディジョンのUniversity of Bourgogne-Franche-Comté(UBFC)のLionel Piroth氏ら研究グループが、国の行政データベース(PMSI)を用いて後ろ向きコホート研究を実施したところ、入院を要するCOVID-19患者と季節性インフルエンザの患者の症状にはかなりの差異があり、11〜17歳におけるCOVID-19の院内死亡率は、インフルエンザの10倍にも上ることが明らかになった。The Lancet Respiratory Medicine誌2020年12月17日付のオンライン版に掲載。 本研究には、2020年3月1日~4月30日にCOVID-19で入院した全患者、および2018年12月1日~2019年2月28日にインフルエンザで入院した全患者が含まれ、年齢層ごとに層別化されたデータを基に、患者間の危険因子、臨床的特徴、および転帰の比較が行われた。 主な調査結果は以下のとおり。・8万9,530例のCOVID-19患者および4万5,819例のインフルエンザ患者が、それぞれの研究期間中にフランス国内で入院した。患者の年齢中央値は、COVID-19で68歳(四分位範囲[IQR]:52~82)、インフルエンザでは71歳(IQR:34~84)だった。 ・COVID-19患者は、インフルエンザ患者よりも肥満または太り過ぎの傾向があり、糖尿病、高血圧および脂質異常症が多く見られたのに対し、インフルエンザ患者は、心不全、慢性呼吸器疾患、肝硬変、および欠乏性貧血が多かった。 ・COVID-19の入院患者では、インフルエンザと比べ急性呼吸不全、肺塞栓症、敗血症性ショック、または出血性脳卒中の発症頻度が高かったが、心筋梗塞や心房細動の発症頻度は低かった。・院内死亡率は、COVID-19患者のほうがインフルエンザ患者よりも高く(1万5,104例[16.9%]/8万9,530例 vs.2,640例[5.8%]/4万5,819例)、相対死亡リスクは2.9(95%信頼区間[CI]:2.8~3.0)、年齢標準化死亡比は2.82であった。・入院患者のうち、18歳未満の小児の割合はインフルエンザよりもCOVID-19のほうが少なかった(1,227例[1.4%] vs.8,942例[19.5%])。・5歳未満では、インフルエンザよりもCOVID-19のほうが集中治療を要する頻度が高かった(14/613例[2.3%] vs.65/6973例[0.9%])。・11〜17歳におけるCOVID-19の院内死亡率は、インフルエンザよりも10倍高かった(5/458例[1.1%] vs.1/804例[0.1%])。 本結果について著者らは、対象患者数が少ないため、限定的な知見ではあるものの、入院を要するCOVID-19患者と季節性インフルエンザ患者の症状にはかなりの差異があること、小児においてはCOVID-19の入院率はインフルエンザよりも低いが、院内死亡率が高いことを指摘。本結果により、COVID-19の適切な感染予防策の重要性およびワクチンや治療の必要性が浮き彫りになったと述べている。

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Pfizerの新型コロナワクチン、190万人でのアレルギー反応は/CDC

 米国で2020年12月14〜23日に初回投与されたPfizer-BioNTechのCOVID-19ワクチン接種189万3,360回で、21例(11.1例/100万回)にアナフィラキシーが発現し、そのうち71%は15分以内に発症したことを、米国疾病予防管理センター(CDC)が2021年1月6日に発表した。 米国では2020年12月23日の時点で、Pfizer-BioNTechのCOVID-19ワクチンの1回目の投与が189万3,360人(女性117万7,527人、男性64万8,327人、性別不明6万7,506人)に実施され、4,393例(0.2%)に有害事象が報告された。そのうち、アナフィラキシーを含む重度のアレルギー反応の可能性がある175例を調査した。これらのうち21例(11.1例/100万回)がアナフィラキシーと判断され、うち17例はアレルギーまたはアレルギー反応の既往があり、そのうち7例はアナフィラキシーの既往があった。 投与から症状発現までの中央値は13分(範囲:2〜150分)で、15分以内が21例中15例(71%)、15〜30分が3例(14%)、30分を過ぎて発現したのは3例(14%)であった。治療については、21例中19例(90%)がアドレナリン(エピネフリン)で治療され、1例は皮下、18例は筋肉内に投与された。21例中4例(19%)が入院し、17例(81%)が救急科で治療を受けた。その後の情報が入手可能な20例全員が回復もしくは退院した。 アナフィラキシーではないと判断された154例のうち、86例は非アナフィラキシー性のアレルギー反応、61例は非アレルギー性の有害事象と判断され、7例は調査中という。

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第39回 人間の弱みを熟知した新型コロナウイルス、これを抑制させるには?

2020年はまさに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に明けて暮れた1年だったと言える。私個人は2019年12月末に中国の武漢で謎の肺炎が流行しているという一報を耳にした時は、「フェイクもどきのオカルト的なニュース?」「中国ローカルな感染症でも出たのか?」くらいにしか考えていなかった。1月16日に日本で初の感染者が報告された時点でも「急性重症呼吸器症候群(SARS)のようなものかな?」ぐらいの認識だった。その後、2月下旬くらいまでは国内でポツリポツリと感染者が報告されると、1例1例の分かる範囲の情報をポチポチとExcelファイルに打ち込んでいた。今振り返ると、とてつもなく呑気なことをしていたと思う。その後、この作業は中止した。とてもそんなことはやっていられないほどに感染者が増えていったからだ。そして今や東京都で1日に確認される感染者は1,000人超どころか、2,000人超にまで達し、ついに政府が首都圏の一都三県に対して新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)に基づく2度目の緊急事態宣言を発出するまで追い込まれている。ちょうど昨年末の大晦日の午前11時前に私はTwitter上でこんなツイートをしていた。「大晦日にあんまり不吉なこと言わないほうがいいんだが、今日と明日の元日に発表される感染者数が気になる。新型コロナの平均潜伏期間は5日強なので、これに検査による結果判明までの1~2日を加えると、ちょうどクリスマスの時にどんちゃん騒ぎした中で起きた感染が報告される時期になるから」とはいえ、この時は東京都でPCR検査陽性者数が900人台後半になるか、最悪でも1,000人をやや超える程度だろうと予測していた。しかし、大晦日の午後2時過ぎ、東京都での陽性者が1,300人超の見込みというYahoo!ニュース速報ポップアップがスマホに表示された際は、紋切り型の表現だが「凍り付いた」。その時はたまたま路上にいたのだが、なぜかポップアップからニュース本文に飛ばず、ディスプレイを凝視したまま立ち尽くしてしまっていた。もっとも前述のツイートで、クリスマスのどんちゃん騒ぎで感染したであろう人を非難したつもりは毛頭ない。従来ならばそうした行為は騒音や泥酔など他人への明らかな迷惑行為がなければ、非難されるものではなかったからだ。むしろそうできる仲間と環境を持つ人はうらやましがられたはずである。新型コロナウイルスはそうした状況を一変させてしまった。そして恨んでもしようがないが、新型コロナウイルスの特徴を改めて考えれば考えるほど、なんと嫌なウイルスだろうと思う。感染経路は接触感染と飛沫感染で、そのうちの前者が主。発症前から感染力を有し、一定割合の無症候感染者がいる。発症後は風邪やインフルエンザに比べ、だらだらと症状が続く期間が長く、そこでも他人に感染させる。とにかく音も気配もなく感染を広げていくのである。ワクチンがなく、治療薬も決定打と言えるほど奏効するものはなく、現在打てる対策は予防。3密回避、マスク着用、手洗い励行の3つである。この予防策の中で最も重要度が高いものは3密回避だろう。極端な話、屋内に1人で完全に引きこもって一切外出しないのならば、理論的にはマスク、手洗いという予防策の必要度はかなり低下するからである。そこで改めて3密の定義を確認すると、換気の悪い「密閉」空間、多数が集まる「密集」場所、間近で会話や発声をする「密接」場面の3つの「密」のことである。密閉ぐらいなら若干の注意で避けられるだろうが、日常生活のさまざまなシーンを考えれば密集はやや避けがたく、密接に至っては家族という存在も含めれば完全回避は不可能である。実際、現在報告されている感染者の中で、経路が判明しているケースの最多が家庭内感染というのも頷ける。ちなみに家庭内感染そのものは家族の誰かが他人との会食や接触で感染して家庭内に持ち込むことから始まる。それゆえ多くの専門家が「他人との会食はなるべく控えて」と訴えるのはこの上なく理にかなっている。しかし、食事の時間という日常生活での大きな楽しみを、可能ならば他人と共有したいと思うのもまた人の性である。よく「人は一人では生きられない」という使い古された言葉があるが、結局のところ「3密回避」とは、極端な言い方をすれば「人として当たり前に生きるな」と言われるに等しい。一時期、これまた耳にタコができるほど聞かされたキーワードに「不要不急」があるが、今回のことを通じて「不要不急」と呼ばれたものの多くが私たちの生活の潤滑油だったことに気づいた人も少なくないはずだ。今回2度目となる緊急事態宣言そのものは、かなりの「劇薬」でもあるため、発出中の期間は限定される。ところが今や日常生活でベースの予防対策である「3密回避」は、今のところ期間限定ではなく、終わりはまったく見えていない。結局、新型コロナウイルスはすべての人に「エンドレスな孤独との戦い」を強いている。そしてこれだけパンデミックが長期間に及ぶと、その過程でほぼすべての人がリスクを過小評価しようとする正常性バイアスに襲われたと思われる。時にはその結果として、ウイルスに対するガードを下げてしまう場合もあっただろう。ところがそうした隙を新型コロナウイルスは巧みに突いてくる。まるで、騙されたことに気付いた人が取る回避策すべてにわなを仕掛けてあざ笑う詐欺師のような陰湿さだ。その結果が現在の感染者増につながっていることは明らかだろう。そして医療従事者の中にはテレビで流れている情景とは異なり、思ったほど往来が減っていない年末年始の光景に、「自分たちが発するメッセージが伝わらない」といら立ちを覚える人たちも多いに違いない。だが、繰り返しになるがこのウイルスに対する重要な予防策である「3密回避」は人が人らしく生きようとすることを阻む行動様式である。単純に「伝わらない」のではなく、一旦は伝わっても意識的にも無意識的にも可能ならば無視したいメッセージなのであり、それが自然なのである。現在逼迫している医療現場で奮闘する皆さんからはお叱りを受けるかもしれないが、だからこそ私は「3密回避」を怠ったがゆえに感染したかもしれない感染者は「明日の自分」かもしれないと思ってしまうのだ。同時にこのウイルスは医学的作用と同時に負の社会的作用も生む。典型は少なからぬ医療従事者も経験したであろう差別・偏見である。これは不十分な知識のまま過剰な感染防御に走った人たちがもたらしたものである。また、感染者に占める若年者比率の高さから、無症候・軽症が多い若年感染者が流行を加速させている可能性があるという医学的には比較的妥当な分析が一部の若年者と高齢者との間に亀裂を招いたとの指摘もある。このような現象は挙げればきりがなく、しかも生み出された社会的分断が社会的後遺症にまでつながってしまう可能性もある。このような経緯を踏まえたうえでCOVID-19の報道にかかわる私たちや同じように社会や患者に向かって注意喚起する医療従事者がやるべきこと、やれることは何なのか? 実はこれまた極めて平凡な答えにならざるを得ない。それは3密回避、マスク着用、手洗いの意義をことあるごとに発信し続けることに尽きるのである。発信量が増えてもにわかに効果が出るものではないのは多くの人が認識しているだろうが、逆に発信量が減れば個々人の感染対策のガードを下げる正常性バイアスがいとも簡単に拡散しやすくなる懸念は十分にあるからだ。同時にもう一つ発信する側に必要なのはアンガーマネージメント的な感情コントロールだろう。さもなくば、地味な発信を地味に継続するという意欲を維持することは困難であり、なおかつ感情的な発信が時に前述した社会分断の原因にもなりかねないからである。2度目の緊急事態宣言を前に個人的雑感に寄り過ぎているかもしれないが、この1年を振り返って思いを強くしているのは、強大な敵に対して「竹槍戦法」で挑むしか方法がないならば、根気よく竹を削って竹槍を作り、何度も挑むしつこさが必要だということ。諦めたら負けなのである。

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第39回 収束に光明?獣医学の視点から新型コロナ治療薬を展望

新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めが掛からず、感染力が高いとされる「変異種」(厳密に言えば、種ではないがこう称されている)も確認され、収束の先行きが見えない。ただ、ワクチンに関しては、日本は米ファイザー、米モデルナ、英アストラゼネカの3社から計2億9,000万回分(接種は1人につき2回)の供給を受ける。早ければ2月下旬にも医療従事者から接種を始める。また、治療薬については、別の疾患に対して開発された既存薬の中から有効な薬を探る手法で見いだす動きが進み、国内ではレムデシビルやデキサメタゾンが認められている。このような状況下、医療分野などのコンテンツ制作を行っているステラ・メディックス社長で獣医師の星 良孝氏がこのほど、新社会システム総合研究所のセミナーで、動物のコロナウイルスに対応してきた獣医学の視点を交えて、「新型コロナウイルス治療薬の展望」をテーマに講演した。まず、米国医師会雑誌に掲載された情報などを基に、新型コロナの致死率は約2%だが、年齢別致死率で見ると85歳以上が約30%と高い一方、18歳以下は0.04%と低いことを示し、若年感染者の動きが感染拡大を招いている可能性を指摘。感染した場合、重症化の予防が重要な点を強調した。続いて星氏は、獣医領域では一般的なコロナウイルスの性格について、ウイルス自身を保護し、自ら増殖する酵素を持つため“しぶとい”と評す。RNAウイルスでは最大のゲノムサイズであり、複数のサブゲノミックRNAが転写されること、エンベロープに王冠状スパイクを有するのが特徴で、一般的にウイルスは形状によって弱点が変わる点を理由として述べた。スパイクタンパクに関しては、新型コロナでは「D614G」変異が起きたことにも言及した。武漢株はスパイクタンパクの614番目のアミノ酸がアスパラギン酸(D)だったのに対し、昨年2月下旬以降、欧州株の同じ部位のアミノ酸がグルシン(G)に変異。スパイクタンパクが開裂してウイルスが侵入した結果、感染力が高まったという。現在では欧州株が世界を席巻している(なお、9月以降、英国で別の箇所での変異を増やしたものが変異種と呼ばれるようになっている)。動物でもコロナ感染の現れ方は多様新型コロナはさまざまな動物に感染しうるが、異種間感染については「まだ謎がある」と星氏は述べる。動物でも病気の現れ方は多様で、遺伝子変異でも病気の現れ方が変わるという。例えば、ネコ腸コロナウイルス(FECV)が遺伝子変異により病理性が強まると、ネコ伝染性腹膜炎(FIPV)になり、致死率は100%になる。ブタの腸コロナウイルス(TGE、PED)は、遺伝子変異により症状が変わると呼吸器コロナウイルスになり、子ブタの致死率が高くなる。1型ネココロナウイルスが1型イヌコロナウイルスと融合すると、2型ネココロナウイルスになり、種を超えて感染する可能性もある。コロナは変幻自在のようだ。新型コロナはなぜ手強いか。星氏は(1)致死率が比較的低い(2)ゲノム構造によりウイルス増殖能力が高い(3)幅広い動物に感染する(4)感染経路が多様(5)変異して病原性が変化する――を挙げた。そのため、治療薬についても“攻め手”を見極めた上で手段を構築すべきと強調する。新薬の開発期間は10〜18年、合成化合物から承認に至る確率は10万分の5と言われる中、従来のプロセスから見れば、半年や1年程度で新薬ができるわけがない。そのため、既存薬の転用から治療手段を増やし、有効性を探りつつ薬剤開発が進められている。星氏は、薬剤のターゲットとして(1)ウイルス感染により遺伝子が作り出すタンパク質の機能を阻害する(2)ウイルスの付着と侵入を止める(3)ウイルスの持つmRNAのコピーを止める(4)mRNAに基づいて作られるタンパク質の成熟を阻害する(5)ウイルスの放出を阻害する――を例示した。ウイルスと宿主それぞれに働き掛ける幸い、コロナウイルスの標的になるタンパク質と、遺伝情報の由来については全容が解明されている。ゲノムRNA約3万の配列は確定されており、SARSと82%の類似性、必須酵素は90%であることが明らかになっている。特徴となる機能を阻害すれば感染や増殖が止まり、それは治療手段になる。「鍵を握るのは、過去の研究の蓄積」と星氏。SARSの薬剤に関連する研究は、2002年から19年11月30日までに1,813件、コロナの薬剤に関連する研究は、SARS出現前年の2001年までに351件ある。また、星氏は新型コロナの臨床試験に関して、以下のような2つのアプローチと6つの柱を示した。1.ウイルスに働き掛ける(1)ウイルスに対して結合する抗体医薬(2)ウイルスの細胞への侵入、融合を阻止する薬剤(3)ウイルスの増殖を抑制する薬剤(4)ウイルスに対する免疫を強化する薬剤2.宿主側に働き掛ける(1)体内の過剰な免疫反応を調整する薬剤(2)合併症を軽減する薬剤星氏は、製薬企業24社やAMED(日本医療研究開発機構)採択課題の企業主導型・アカデミア主導型の薬剤開発動向、コンピュータを用いた「バーチャルスクリーニング」を紹介。「2021年以降、新型コロナへの対応の選択肢は増える見込み」との展望で締めくくった。新型コロナの収束につながる光が、少しずつ見えてきた。

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新型コロナの医療従事者への感染:院内感染と非院内感染が混在(解説:山口佳寿博氏)-1336

 新型コロナが中国・武漢で発生してから約1年が経過し、手探りで始まった本感染症における臨床所見の把握、診断法、治療法(抗ウイルス薬剤、抗炎症薬/サイトカイン・ストーム抑制薬、ECMOなどの呼吸管理法)、予防法(有効ワクチン)の確立に関し多くの知見が集積されつつある。感染症発生初期には、感染症の本体(感染性、播種性、重症化因子)が十分に把握できず、医療従事者の防御法(PPE:Personal Protective Equipment)も不完全で医療施設内での医療従事者を巻き込んだ感染クラスターの発生など、種々の社会的問題が発生した。これらの諸問題は時間経過と共に沈静化しつつあるが、現在施行されている医療従事者の一般的PPEが本当に正しいかどうかに関する検証はなされていない。もし、医療従事者のPPEが正しいならば、医療従事者の新型コロナ感染率は一般住民のそれと同等であるはずである。この問題に対する確実な答えを見つけておくことは、今後のコロナ感染症の診断/治療に当たるわれわれ医療従事者にとって重要な問題である。医療従事者はコロナ感染症患者に的確に対処すると同時に、1人の一般人として自らを取り巻く家族にも責任を持たなくてはならない。本論評では医療従事者における新型コロナ感染症の感染率、入院率について、現在までに報告された知見を基に考察する。 医療従事者における新型コロナ感染率は、中国・武漢における感染初期(2020年1月1日~2月3日)の院内感染データを基に初めて報告された(Wang D, et al. JAMA. 2020;323:1061-1069. )。感染症発症後間もない時期の疫学データで、PCR確定入院肺炎患者138例のうち57例(41%)が院内感染による肺炎であった。他疾患で入院中の患者における院内感染関連の肺炎発症は17例(12%)、医療従事者のそれは40例(29%)であった。これらの値は非常に高く、感染発症初期段階における院内感染予防策の稚拙さを物語っている。 感染が世界に広がり、PPEの重要性が医療現場に浸透しだした2020年2月12日から4月9日までのデータを基に、米国CDCは、39万5,030例のPCR確定患者のうち医療従事者の感染者数は9,286例(感染率:2.35%)であると報告した(Washington Post, USA Today, 2020年4月9日)。この医療従事者の感染率は新型コロナ発生の最も初期に中国・武漢の医療施設から報告された値の約10分の1であり、医療従事者におけるPPEの厳密度が時間経過に伴い上昇していることを示している。米国CDCの報告で重要な点は、医療従事者の感染者のうち45%は感染経路が不明で、院内感染など感染患者との接触歴を認めなかったことである。すなわち、医療従事者の多くは、医療現場で感染したわけではなく、通勤、買い物、あるいは、家族内など一般人と同じ経路で感染したことを物語っている。 同年4月22日から4月30日に集積されたデータを基に、ベルギーの単一施設におけるIgG抗体に基づく医療従事者の感染率が報告された(Steensels D, et al. JAMA. 2020;324:195-197.)。この報告によると、3,056例の医療従事者のうち197例(6.4%)でN蛋白に対するIgG抗体が陽性であった。ベルギーにおける一般人口のN蛋白IgG抗体陽性率は報告されていないが、欧州各国の一般人口におけるIgG抗体陽性率が人口の5~10%であることを考慮すると、ベルギーにおける医療従事者のIgG抗体陽性率は一般人口のそれとほぼ同等と考えてよい。この解析から得られた興味深い知見は、医療従事者のIgG抗体陽性がコロナ患者との院内接触歴ではなく、感染した家族との接触歴が関連した事実である。この結果も、医療従事者への感染は、一般人と同様に医療現場ではなく家族内感染が重要な役割を果たしていること示している。 同年3月1日から6月6日までに集積されたデータを基に、英国・スコットランド全域における医療従事者(15万8,445人)とその家族(22万9,905人)のコロナ感染による入院率が検討された(Shah ASV, et al. BMJ. 2020;371:m3582.)。医療現場を含めた何らかの仕事に従事する“Working age(18~65歳)”の入院総数は2,097例、そのうち医療従事者は243例(11.6%)、医療従事者の家族は117例(5.6%)であった。以上を医療従事者の仕事内容(患者対面職[patient facing]、患者非対面職[non-patient facing])で層別化すると、患者非対面職の医療従事者とその家族の入院リスクは非医療従事者(一般人)のそれと同等であった。一方、患者対面職医療従事者の入院リスクは患者非対面職医療従事者の3.3倍、患者対面職医療従事者の家族における入院リスクは患者非対面職医療従事者家族の1.8倍であった。救急隊員、集中治療室勤務、呼吸器内科医師/看護師など患者対面職の中で“最前線医療従事者(front door staffs)”と位置付けられる人たちの入院リスクは非最前線医療従事者の2.1倍であった。 以上の報告をまとめると、(1)医療従事者におけるコロナ感染は、医療施設内におけるコロナ患者との接触(院内感染)に起因するもの(~55%)と医療施設内患者接触とは無関係なもの(~45%)が混在する。(2)患者非対面職医療従事者(その家族を含む)のコロナ感染症による入院リスクは非医療従事者(一般人)のそれと同等である。(3)医療施設内での患者接触は、患者対面職医療従事者の入院リスクを有意に上昇させる。(4)同時に、感染した医療従事者からの感染を介してその家族の入院リスクを上昇させる。(5)患者対面職にあって最前線医療従事者の入院リスクは、一般的な患者対面職医療従事者に比べ有意に高い。以上より、一般的PPEは医療施設内での感染予防に貢献しているが、患者対面職の医療従事者、とくに、最前線医療従事者にあっては一般的PPEでは不十分で、さらに厳密なPPEが必要であることが示唆される。

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第41回 去年の大発見~循環する独り立ちミトコンドリア、第四の唾液腺

去年は世界が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に見舞われ、それに関連する薬、ワクチン、診断、研究技術の開発が飛躍的に進歩しました。その一方で他の研究ももちろん進展し、たとえばよく見知ったはずの人体の新たな大発見1)がありました。その一つは、すでに知られている3つの唾液腺に加えて第4の唾液腺一対が新たに見つかったことです2)。耳管隆起(torus tubarius)近くにあることからtubarial glandと名付けられたその新たな唾液腺は手術で顕わになり難いので長く見つからないままだったようです。オランダのがん研究所Netherlands Cancer Instituteの放射線腫瘍医Wouter Vogel氏等は前立腺特異的膜抗原(PSMA)に結合する放射性トレーサー頼りのCTやPET撮影によってその在り処を突き止めました。PSMA PET/CTはそもそも前立腺がんの検出のためのものですが、Vogel氏によると唾液腺検出感度がすこぶる良好で、そのおかげでこれまで見えなかったものを見つけることができました1)。もう一つは健康な人の血液を独り立ちして巡るミトコンドリアの発見です3)。どこかが傷んで細胞から漏れたミトコンドリア由来と思われるその一部(DNA)が体を巡っていることは知られていました。しかし生来の機能を果たしうるミトコンドリアまるごとが健康な人の血液に細胞に入っていない状態で存在することは分かっていませんでした1)。フランスの著名な研究所INSERMのチームが見つけたそれらのむき出しのミトコンドリアが細胞の外で何をしているかはこれから調べる必要がありますが、細胞間の連絡に一役買っているのではないかと研究者は推測しています4)。人体は調べ尽くされたようでまだまだ未開の発見を待つ未知を隠しているに違いありません。今年はどんな発見があるのでしょうか。参考1)The Biggest Science News of 2020 / TheScientist 2)Valstar MH,et al. Radiother Oncol. 2020 Sep 23. [Epub ahead of print]3)Al Amir Dache Z, et al. FASEB J. 2020 Mar;34:3616-3630.4)A new blood component revealed / Eurekalert

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免疫も老化、その予防が新型コロナ対策に重要

 国内初の新型コロナウイルスのワクチン開発に期待が寄せられるアンジェス社。その創業者でありメディカルアドバイザーを務める森下 竜一氏(大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学 寄附講座教授)が、12月15日に開催された第3回日本抗加齢医学会WEBメディアセミナー「感染症と免疫」において、『免疫老化とミトコンドリア』について講演した。風邪と混同してはいけない理由 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策やワクチン開発を進めていく上で世界中が難局に直面している。その最大の問題点について森下氏は、「新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のモデルが作れないこと」だという。その理由として、「マウスはSARS-CoV-2に感染しない。ハムスターやネコは感染するものの肺炎症状が出ないため、治療薬に最適なモデルを作り出すことが難しい。つまり、従来の開発方法に当てはめられず、未知な領域が多い」と同氏は言及した。 そんな中、同氏率いるアンジェス社は同社が培ってきたプラスミドDNA製法の技術を活かし、新型コロナのDNAワクチンを開発中である。これは、ウイルスのスパイク部分(感染の足掛かりとなるタンパク質)の遺伝子情報を取り込んだプラスミドDNAをワクチンとして接種することで、スパイク部分のみを体内で発現させて抗体を産生させる仕組みである。12月23日現在、国内で500例を対象としたワクチンの用法・用量に関する安全性や免疫原性評価のための第2/3相臨床試験が行われている。ワクチン完成までは一人ひとりが自然免疫の強化を 国内でのワクチン(海外製含む)接種の開始時期は、2021年2月とも言われているが、実際のところ未だ見通しが立っていない。その間、個人でできる感染対策(手洗い・消毒、マスク着用、うがいなど)だけで感染を凌ぐにはもはや限界にきている。そこで同氏は人間のもともとの免疫力に着目し、「人間の体内で最初に働く自然免疫の強化」を強調した。しかし、自然免疫の機能は18~20歳でピークを迎え低下の一途をたどる。また、免疫機能の中で最も重要なT細胞の分化場所である胸腺は体内で一番老化が早いため、「加齢は自然免疫の低下だけではなく、胸腺の退縮がT細胞の老化につながり、獲得免疫の衰えの原因にもなる」と指摘した。加えて、「睡眠不足、ストレス、肥満、そして腸内細菌叢の構成異常なども免疫力の低下として問題だが、とくに“免疫の老化”が問題」とし、高齢者の重症化の要因の1つに免疫力の老化を挙げた。免疫老化を防ぐにはミトコンドリアをCoQ10で助けよ この免疫老化を食い止めるための方法として、同氏はミトコンドリアの老化を助けることが鍵だと話した。ミトコンドリアは細胞の中のエネルギー生産工場で、中和抗体を作るB細胞などあらゆる細胞の活性化に影響する、いわば“免疫を正常に働かせる司令塔”の役割を司る。そのため主要な自然免疫経路はすべてミトコンドリアに依存している。しかし、ミトコンドリアも加齢とともに減少傾向を示すことから、この働きを助けるコエンザイムQ10(CoQ10)の補充が重要1)だという。また、自然免疫のなかでも口腔内に多く存在し、口腔内に侵入したSARS-CoV-2を速やかに攻撃、粘膜への付着や体内への侵入阻止するIgAもこのCoQ10の摂取により増加傾向が示唆された2)ことを踏まえ、医療用医薬品のユビデカレノン製剤(商品名:ノイキノンほか)をはじめ、サプリメントや機能性食品として販売されているCoQ10(とくに還元型)の摂取が有効であることを説明した。 最後に同氏は「ワクチン導入には時間を要するので、現時点ではまず基本的な感染対策、生活習慣の改善から免疫力UPに注力してほしい。そのなかで免疫を上げる工夫として還元型CoQ10の多い食品(イワシ:約6.4mg、豚肉:約3.3mg[各100g中の含有量])を食べたり、プラスαとしてサプリメントなどを活用したりして、体内のCoQ10量を増やすことを心がけてほしい」とし、医療者に対しては「CoQ10量や唾液内のIgAは検査で測定可能であるため、患者の体質確認には有用」と締めくくった。

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COVID-19ワクチン、2021年に世界人口の何割に接種可能か/BMJ

 主要メーカーの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンの世界的な需給について、メーカーが最大生産量を可能としても、世界の人口のほぼ4分の1は少なくとも2022年までワクチン接種を受けることはできないとの研究結果を、米国・ジョンズ・ホプキンズ公衆衛生大学院のAnthony D. So氏らが報告した。COVID-19ワクチンについては、高所得国が市販前に購入契約を結んでいる一方、そのほかの国・地域については入手が不確実であるといわれ、世界保健機関(WHO)が主導するCOVAXファシリティを介して、グローバルアクセスを調整する取り組みが進められている。しかし、高所得国の購入契約に遅れをとっているうえ、資金は不十分で、米国やロシアの協力は得られていない。今回の検討では、高所得国がどのようにCOVID-19ワクチンの将来の供給を確保したかについて概要を示すとともに、残されたそのほかの国・地域は不確実であること、2021年末までに低中所得国が調達できるワクチンはメーカー生産量の40%であり、仮に高所得国が購入予定量を増やした場合、その割合はさらに少なくなるが、高所得国が調達したワクチンが供出されれば増える可能性があることなどが明らかにされた。研究グループは、「政府およびメーカーは、購入契約に関する透明性と説明責任を高めることで、COVID-19ワクチンの公平な配分への確約も果たすことができるだろう」と提言している。BMJ誌2020年12月15日号掲載の報告。主要メーカーから各国へのCOVID-19ワクチンの市販前購入契約を分析 研究グループは、主要メーカーから各国へのCOVID-19ワクチンの市販前購入契約を分析するため、WHOのCOVID-19ワクチン候補のレポート(draft landscape of covid-19 candidate vaccines)、米国証券取引委員会へ提出された企業情報開示、企業および財団のプレスリリース、政府のプレスリリース、メディア報告を調べ、2020年11月15日までに公表されていたCOVID-19ワクチンの市販前購入契約(コース当たりの価格、ワクチンプラットフォーム、研究開発のステージ、調達代理店および購入先の国)を分析した。当面の供給量の半分強は高所得国(世界の人口の14%) 2020年11月15日時点で、13のワクチンメーカーから合計74.8億回(37.6億コース)分を購入する市販前契約が結ばれていた。これらの半分強(51%)は、高所得国(世界の人口の14%)に送達されるものであった。 米国は、世界のCOVID-19の症例数の約5分の1(1,102万例)を占めるが、予約量は8億回分であった。一方で、日本、オーストラリア、カナダは、合計10億回分以上を予約していたが、その症例数は世界の症例数の1%に満たない(45万例)。 もし、これらのワクチン候補が最大生産量を達成できた場合、2021年末までに59.6億コース分のワクチン製造が予測された。これらのワクチンコースの最大40%(あるいは23.4億コース)が低中所得国に供給される可能性があるが、もし高所得国が購入拡大オプションを行使すると、低中所得国の供給量は少なくなることが示唆された。また、高所得国が調達したワクチンを供出する場合は、低中所得国の供給量は増すことが示唆された。 ワクチン価格は、コース当たり6ドル(4.50ポンド、4.90ユーロ)から74ドルまでと10倍以上の幅があった。 米国とロシアを除く多彩な国が参加するCOVAXファシリティは、5億回(2.5億コース)分を少なくとも確保しているが、世界的なCOVID-19ワクチンへのアクセスをサポートする取り組みにおいて、2021年末に目標としている20億回分の投与に必要な資金の確保は半分にとどまっているのが現状であった。

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COVID-19ワクチンに関する提言(第1版)を公開/日本感染症学会

 欧米では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンの接種が2020年12月初旬に開始され、わが国でも接種開始が期待されている。日本感染症学会では、学会会員および国民に対し、現在海外で接種が開始されているCOVID-19ワクチンの有効性と安全性に関する科学的な情報を提供し、それぞれが接種の必要性を判断する際の参考にしてもらうべく、COVID-19ワクチンに関する提言(第1版)を作成し、12月28日、学会サイトに公開した。今後、COVID-19ワクチンの国内外における状況の変化に伴い、内容を随時更新する予定という。 日本感染症学会によるCOVID-19ワクチンに関する提言には、世界におけるワクチン開発状況、各ワクチンの特徴、mRNAワクチンやウイルスベクターワクチンの作用機序、ワクチンの有効性の評価方法、3つのワクチン(ファイザー社のBNT162b2、モデルナ社のmRNA-1273、アストラゼネカ社のChAdOx1)の臨床試験における有効率、1回目および2回目接種後の有害事象、日本での優先接種対象者、接種時における注意や求められる準備などが記載されている。

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新型コロナに対するRNA遺伝子ワクチンは人類の救世主になりうるか?【臨床編】(解説:山口佳寿博氏)-1335

 本論評(臨床編)では3種類の遺伝子ワクチン(RNA、DNA)の特徴について考察する。(1) RNAワクチンにあってPfizer/BioNTech社のBNT162b2に関しては初期試験が終了し(Walsh EE, et al. N Engl J Med. 2020;383:2439-2450.)、第III相試験の中間解析の結果が正式論文として発表された(Polack FP, et al. N Engl J Med. 2020 Dec 10. [Epub ahead of print])。それを受け、12月2日に英国、12月11日に米国においてBNT162b2の緊急使用が承認され、医療従事者、高齢者、施設入居者などを対象としてワクチン接種が開始されている。カナダ、バーレーン、サウジアラビアでは完全使用が認可された。12月18日、Pfizer社は本邦へのワクチン導入を目指し厚労省に製造承認を申請した。 BNT162b2は、S蛋白全長の遺伝子情報(塩基配列)を自己増殖性のAlphavirus遺伝子(1本鎖RNA)に組み込み、脂質ナノ粒子(LNP:lipid nanoparticle)に封入し生体細胞に導入するもので、RNAワクチンの中で最も抗体産生効率が良いと考えられている(必要な1回ワクチン量は30μgと最も少ない)。本ワクチンの問題点の1つは、-70℃±10℃という非常な低温で保存しないとワクチンの安定性を維持できないことである。BNT162b2の第III相試験は16歳以上の若年者から高齢者までを対象として、米国、アルゼンチン、ブラジル、南アフリカ共和国、ドイツ、トルコの6ヵ国で施行され(4万3,548例、対照群:2万1,728例、ワクチン群:2万1,720例)、中間報告では、2回目のワクチン接種(1回目接種後21日目)後7日目以降の中間値で3.5ヵ月間におけるコロナ感染予防有効性を報告している。ワクチンの有効性は95%であり、人種/民族、性、年齢、併存症による影響を認めなかった(高齢者でも若年者と同等の有効性)。重症化した症例が10例存在したが、対照群で9例、ワクチン接種群で1例であり、ワクチンは重症化阻止効果を有することが示唆された。副作用/有害事象の内容・頻度は他のワクチン接種時にも認められる一般的なものであり、とくに問題となるものは存在しなかった。1回目のワクチン接種から2回目のワクチン接種までの間の感染予防有効性は52%であり、1回のワクチン接種のみでも有意な感染予防効果が得られることが判明した。本第III相試験では15歳以下の若年者/小児、妊婦、免疫不全を有する患者は治験から除外されており、これらの対象におけるワクチンの効果、あるいは、有害事象については今後の検討課題である。 ワクチンの有効性が最長でも2回目のワクチン接種後3.5ヵ月で判定されており、ワクチンを年間何回接種する必要があるかを決定するためには、もっと長期間にわたる液性/細胞性免疫の持続性に規定される有効性の観察が必要である。ワクチン接種後時間が経過すれば、ワクチン接種によって惹起された液性/細胞性免疫の賦活化は減弱し、それに伴い感染予防効果も低下するはずである。それ故、現時点で報告された感染予防有効性は、あくまでもBNT162b2ワクチンの最大効果を示す値と考えなければならない。 もう一点注意すべき事項は、ワクチン有効性の判定基準である。新規感染はコロナを疑わせる臨床症状の発現(有症状)に加え、呼吸器検体におけるPCR陽性をもって定義された。すなわち、無症候性症例は有効性の判定から除外されている。PCR陽性者のうち無症候性感染者(不顕性感染者)は約30%と報告されており(Lee S, et al. JAMA Intern Med. 2020 Aug 6. [Epub ahead of print])、社会におけるウイルス播種を考えるとき、無症候性感染に対するワクチンの予防効果に関する検討が必要である。 Pfizer/BioNTech社は、S1-RBDに関する遺伝子情報を組み込んだRNAワクチン(BNT162b1)も同時に開発していた。しかしながら、S蛋白全長の遺伝子情報を組み込んだBNT162b2のほうがウイルスの自然構造により近いこと、今後S蛋白領域で間断なく発生する自然遺伝子変異(2.5塩基/1ヵ月、Meredith LW, et al. Lancet Infect Dis. 2020;20:1263-1272.)によるワクチン能力の低下を考慮すると、BNT162b2のほうがより優れていると結論された(Walsh EE, et al. N Engl J Med. 2020;383:2439-2450.)。(2) Moderna社のmRNA-1273は自己非増殖性のLNP封入RNAワクチンであり、S蛋白全長に対する遺伝子情報が導入されている(1回のワクチン量は100μgでBNT162b2投与量の3.3倍、2回目のワクチンは29日目に接種)。本ワクチンは-4℃(通常の冷凍庫)保存で1ヵ月間は安定だと報告されている。本ワクチンに対する高齢者を含む初期試験が終了し(Jackson LA, et al. N Engl J Med. 2020;383:1920-1931. , Anderson EJ, et al. N Engl J Med. 2020;383:2427-2438.)、第III相試験(COVE試験)の中間解析の結果が、12月17日、米国FDAの審査書類の一環として発表された(FDA Briefing Document)。これらの書類を審査した結果、12月18日、米国FDAはmRNA-1273の緊急使用を承認した。本論評では米国FDAが発表したデータを基に考えていく。 治験対象者は18歳以上の3万418例で、25.3%は65歳以上の高齢者であった。妊婦は対象から除外された。感染予防有効性は、2回目ワクチン接種後14日目以降中間値で9週(2.3ヵ月)までの間で判定された。非高齢者(18歳以上~65歳未満)の感染予防有効性は95.6%、高齢者(65歳以上)のそれは86.4%であった(全年齢の平均:94.1%)。これらの値はPfizer/BioNTech社のBNT162b2と同等であり、性差、年齢、人種、併存症の有無に関係なく、ほぼ一定であった。また、重症化した症例は30例存在したが、すべてが対照群で発生し、ワクチン接種群では重症化症例を認めなかった。1回目のワクチン接種から14日以内(2回目のワクチン接種前)の感染予防有効性(ワクチン1回接種の効果)は50.8%であり、やはりBNT162b2と同等であった。副作用/有害事象に関しても、ワクチン接種時に認められる一般的なものが中心で特異的なものは認められなかった。ただ、ワクチン接種群にベル麻痺が1例発生し、米国FDAはワクチン接種と無関係だとは結論できないとしている。mRNA-1273の問題点は、BNT162b2で指摘した内容がそのまま当てはまる(治験対象から外れた17歳以下の症例、妊婦に対する有効性、ワクチン接種による液性/細胞性免疫の賦活化の持続時間とそれに規定される感染予防効果の持続時間、無症候性感染に対する予防効果など)。(3) AstraZeneca社のChAdOx1は、S蛋白の全長に対する遺伝子情報を、チンパンジーアデノウイルス(Ad)をベクターとして宿主に導入した自己非増殖性DNAワクチンである。本ワクチンに関する初期試験は高齢者を対象としたものを含め終了し(Folegatti PM, et al. Lancet. 2020;396:467-478. , Ramasamy MN, et al. Lancet. 2021;396:1979-1993.)、第III相試験の中間解析結果も正式の論文として発表された(Voysey M, et al. Lancet. 2020 Dec 8. [Epub ahead of print])。本ワクチンに関する第III相試験は英国、ブラジル、南アフリカ共和国において施行されたものを総合的に評価したもので、対象は18歳以上の1万1,636例(対照群:ワクチン群=1:1)であった。 本第III相試験はStudy designに種々の問題点が存在し、その結果の解釈には注意を要する。問題点として、(1)試験施行国での2回目のワクチン接種時期が、決められた1回目ワクチン接種後4週ではなく、それからかけ離れている症例が多数存在する。(2)1回目のワクチン量が国によって異なり、標準量(SD、5×1010 viral particles)の半量(LD、2.2×1010 viral particles)を接種した対象とSD量を接種した対象が混在している。(3)対照群に投与された偽ワクチンが、生食の場合とMeningococcal group A, C, W, Y conjugate vaccine(MenACWY)の場合が混在しており、偽ワクチンの差が感染予防有効性の最終結果をどのように修飾しているのかが判断できない。以上のような問題点を有する第III相試験ではあるが、ワクチンによる感染予防有効性を見てみると(2回目ワクチン接種後14日以上経過した時点での判断)、1回目LD量のワクチン接種、2回目SD量のワクチンを接種した群(LD/SD群)での感染予防有効性は最も高く90%であった。一方、SD/SD群の有効性は62%で、LD/SD群に比べ明らかに低い値を示した。 以上の結果は、ChAdOx1の場合、SD量を2回接種したとき(SD/SD群)には、“基礎編”で考察したように、1回目のSD量ワクチン接種後ベクターとして用いたチンパンジーAdに対する抗体が高度に形成され、その結果として2回目のSD量ワクチン接種時にAdの一部が破壊され遺伝子情報の宿主への導入量が減少、S蛋白関連の液性/細胞性免疫の賦活化が低めに維持された可能性を示唆する。一方、LD/SD群では、初回ワクチン量が低いためAdに対する抗体産生量も低く、2回目のSD量ワクチンに対する負の効果が弱められたのではないかと推察される。しかしながら、LD/SD群には65歳以上の高齢者が1例も含まれておらず、LD/SD投与の優越性が高齢者においても維持されているかどうかは不明である。 副作用/有害事象に関しては、ChAdOx1の治験中に横断性脊髄炎の発症が第I~III相試験を通して3例報告されている。うち1例は偽ワクチン接種後に発生していたことなどから、ChAdOx1接種とは無関係だと結論された。しかしながら、RNAワクチンでは横断性脊髄炎は報告されておらず、ChAdOx1接種後のみに2例の横断性脊髄炎が発生した事実は看過できない問題だと考えられる。ChAdOx1に限らず、RNAワクチンの報告も数ヵ月以内の短い経過観察におけるものであること、さらには、第III相試験でも数万人程度の接種人数であり、ワクチン接種が世界的規模で始まり億単位の人に接種された場合に、頻度の低い有害事象が出現する可能性があることを踏まえ、今後の確実な経過観察の継続が必要である。 AstraZeneca社のChAdOx1に関しては、以下の諸点について再考が必要と思われる。“基礎編”で考察したように、Adをベクターとするワクチンでは2回目のワクチン接種によって誘導されるブースター効果が弱く、単回ワクチン接種で2回接種の場合と遜色ない臨床的効果が得られる可能性がある。ワクチン接種に起因する副作用/有害事象の発現を考慮すると、単回接種の可能性を追求すべきかもしれない。第III相試験の結果からは、ChAdOx1に関する至適用量(LD量かSD量か)が決定されたとは言い難い。対照群に用いる偽ワクチンの固定化、2回目のワクチン接種時期を1回目ワクチン接種4週後に確実に固定したうえで、十分な人数の高齢者を治験対象に含め、LD/LD群(ワクチン半量2回接種)、LD/SD群、SD/SD群に関する新たな第III相試験を計画してもらいたい。これらの治験データが提出されない限り、ChAdOx1を臨床的に有効なワクチンとして受け入れることは難しい。ただ、本ワクチンは2~8℃(家庭用の冷蔵庫)の保存で少なくとも6ヵ月間は安定しており、利便性の面でBNT162b2、mRNA-1273より優れている。さらに、ChAdOx1のコストはBNT162b2、mRNA-1273に比べ安価だと報告されており(コーヒー1杯分の値段とのこと)、その意味でもChAdOx1の開発を成功させてもらいたいと念願するものである。 12月11日、AstraZeneca社は、ChAdOx1(チンパンジーAd)とロシア製Sputnik V(ヒトAd26でpriming、Ad5でboost)を組み合わせた臨床治験をロシアにおいて開始すると発表した。2種類のDNAワクチンを組み合わせることによって、新型コロナに対する感染予防効果を高めることができるかどうかの検証を目的とした治験である。

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第40回 新型コロナウイルスへの抗体やメモリーB細胞が感染後少なくとも8ヵ月間持続

無症状か軽症の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染(COVID-19)から8ヵ月を過ぎた患者のほとんどからSARS-CoV-2のスパイクタンパク質(S)やヌクレオカプシド(N)への抗体を検出することができました1,2)。検討されたのは韓国の58人で、それらのうち7人は無症状、残り51人は軽症でした。感染から8ヵ月時点で抗N Igは53人(91%)、抗N IgGは15人(26%)、抗S IgGは50人(86%)、抗S1 IgGは40人(69%)から検出できました。中和抗体も半数を超える31人(53%)から検出できました。さらに心強いことに、遭遇したウイルスを覚えておいて次の襲来時に素早く抗体を生み出すメモリーB(Bmem)細胞の少なくとも8ヵ月間の存続もオーストラリアのMenno van Zelm氏等のチームによる別の研究で確認されています3,4)。van Zelm氏等はCOVID-19患者25人の発症後4日~8ヵ月(242日)の血液中の抗体やBmem細胞を調べました。Bmem細胞はフローサイトメトリーを利用した手法で検出されました。まず抗体はどうだったかというと、スパイクタンパク質受容体結合領域(RBD)やヌクレオカプシドタンパク質に対するIgGは減りはしたものの韓国での研究と同様に全員から検出できました。一方、抗体がすぐに減り始めたのとは対照的にそれらSARS-CoV-2タンパク質に対するBmem細胞は100~150日後まで増え続け、8ヵ月後まで安定して存続していました。抗原減少につれて減っていく抗体に比べて長い間安定なSARS-CoV-2特異的Bmem細胞は長期免疫のより確実な指標の役目を果たすようであり、van Zelm氏等が開発したフローサイトメトリーによるSARS-CoV-2特異的Bmem細胞検出法はCOVID-19感染やワクチン接種後の長期免疫記憶の判定に役立つでしょう。重症のCOVID-19患者ほど臓器や免疫系を攻撃しうる自己抗体活性が高いSARS-CoV-2感染への免疫反応はジキル博士とハイド氏のような表裏があるようで、次に備える抗体やメモリーB細胞などの有益な免疫反応を引き出す一方で異常な免疫反応を誘発することも知られつつあります5)。米国・エール大学のCOVID-19研究で名を馳せるAkiko Iwasaki(岩崎明子)氏等がCOVID-19患者194人を調べたところ重症の患者ほど臓器や免疫系を攻撃、いわば誤爆しうる自己抗体活性が高いことが示されました5,6)。感染解消に必要な免疫細胞を攻撃してしまう自己抗体もあれば中枢神経系(CNS)・心臓・肝臓・胃腸・血管・結合組織を攻撃する自己抗体も検出されました。1型インターフェロンに対する自己抗体(抗IFN-I自己抗体)はCOVID-19入院患者の5.2%に認められ、重症の患者により集中していました。抗IFN-I自己抗体を有する患者はウイルス除去に支障を来しており、どうやら抗IFN-I自己抗体があるとウイルス複製がうまく食い止められなくなるようです。また、免疫細胞・B細胞やT細胞表面のタンパク質への自己抗体はそれらの細胞の枯渇と関連することも示され、抗IFN-I自己抗体と同様にSARS-CoV-2への免疫反応を害している恐れがあります。免疫系以外への自己抗体も数多く、たとえば脳の視床下部に豊富なオレキシン受容体・HCRTR2への自己抗体がCOVID-19患者8人に認められ、HCRTR2への自己抗体が多いことは意識低下(グラスゴー昏睡尺度点数低下)と関連しました。SARS-CoV-2感染を脱した後に長く続く後遺症(Post-Covid syndrome)が18~49歳ではおよそ10人に1人、70歳を超えるとその倍の5人に1人に生じると考えられています6)。Long Covidとしても知られるそれらのCOVID-19後遺症は長く体内に居座る自己抗体によって引き起こされている恐れがあると今回の研究を岩崎氏と共に率いたAaron Ring氏は言っています。それに、自己抗体が多岐にわたることはCOVID-19に伴う雑多な病態に寄与しているようです7)。英国や南アフリカで広まるSARS-CoV-2変異株の状況(25日時点)英国で広まるSARS-CoV-2変異株B.1.1.7〔別名variant of concern(VOC)202012/01、かつての名称はvariant under investigation(VUI)202012/01〕は心配なことに他のSARS-CoV-2に比べて15歳未満の小児に感染しやすいかもしれず、流行食い止め(maintain R below 1)のために学校閉鎖が必要かもしれないとインペリアル・カレッジ・ロンドンの研究者によるひとまずの解析で示唆されました8)。更なる調査の上で英国政府諮問委員会NERVTAGは判断を下します。18日のNERVTAG議事録によるとB.1.1.7感染者915人のうち4人は再感染者とみられています9)。南アフリカでも変異株が広まっていますが、21日の世界保健機関(WHO)発表によると英国での変異株とは別物のようです10)。南アフリカでの変異株はB1.351(501Y.V2)と呼ばれ、おそらく8月の終わりから出回り始めました11)。英国の変異株は9月に出現したと示唆されています12)。23日にModerna(モデルナ)社は英国で広まる変異株へのワクチンの検討を数週間のうちに始めると発表しています13)。参考1)COVID-19: Sustained Antibody Response / PHYSICIAN'S FIRST WATCH2)Choe PG, et al. Emerg Infect Dis. 2020 Dec 22;27. 3)COVID immunity lasts up to 8 months, new data reveals / Eurekalert4)Bartley GE, et al. Sci Immunol. 2020 Dec 22; 5: eabf8891.5)Diverse Functional Autoantibodies in Patients with COVID-19. medRxiv. December 19, 20206)'Autoantibodies' may be driving severe Covid cases, study shows / TheGuardian 7)Self-sabotaging antibodies are linked to severe COVID / Nature8)21 December 2020. NERVTAG/SPI-M Extraordinary meetingon SARS-CoV-2 variant of concern 202012/01 (variant B.1.1.7) / NERVTAG9)18December2020. NERVTAG meetingon SARS-CoV-2 variant under investigation VUI-202012/01 / NERVTAG10)SARS-CoV-2 Variant - United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland / WHO11)Confirmed cases of COVID-19 variant from South Africa identified in UK / GOV.UK12)COVID-19 (SARS-CoV-2): information about the new virus variant / GOV.UK13)Statement on Variants of the SARS-CoV-2 Virus / moderna

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新型コロナワクチン、国産希望が約7割/アイスタット

 世界的に収まる気配のない新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対し、英国、米国、ロシア、中国などではCOVID-19ワクチンの投与が開始された。わが国でも国産ワクチンの開発・研究が進んでいるが、その道のりは険しい。 こうした社会の動きを踏まえ、株式会社アイスタット(代表取締役社長 志賀保夫)は、12月20日に「新型コロナウイルス感染症のワクチンに関するアンケート調査」を行った。 アンケートは、業界最大規模のモニター数を誇るセルフ型アンケートツール “Freeasy”に登録している会員で20歳~79歳の全員に調査を実施したもの。同社では今後も毎月定期的に定点調査を行い、その結果を報告するとしている。調査概要形式:WEBアンケート方式期日:2020年12月20日対象:セルフ型アンケートツール“freeasy”の登録者300人(20~79歳)アンケート結果の概要・ワクチンの接種が日本でも開始された場合、受ける時期は「現時点では判断できない」(41.3%)が最多、次に「1ヵ月過ぎてから~3ヵ月以内」(14.7%)と続く・6ヵ月以内にワクチンを受ける理由の第1位は、「個人の感染症予防対策だけでは限界があるから」が65.0%・6ヵ月以内にワクチンを受けない理由の第1位は、「ワクチンの安全性がまだ十分に検証されていないから」が57.2%・どこの国(製薬会社)で開発されたワクチンを接種したいかは、第1位「日本」(67.7%)、第2位「アメリカ」(27.3%)、第3位「ヨーロッパ」(22.0%)と国産のワクチン希望者が多い・ワクチンの接種を開始した国について、「早急すぎると思う」が54%で過半数を超えているアンケート結果の詳細 「COVID-19のワクチンが日本でも接種できるようになった場合、ワクチンを『受ける』『受けても良い』と思う時期はいつか」という質問では、「現時点では判断できない」の41.3%が最も多く、次に「1ヵ月過ぎてから~3ヵ月以内」が14.7%、「3ヵ月過ぎてから~6ヵ月以内」が14.0%だった。また、年代別にみると年代が高いほど接種を希望する傾向がみられた。 「ワクチンを受ける時期で、『すぐに受ける』から『6ヵ月以内』を回答した人『その理由』」(複数回答)について質問したところ、「個人の感染症予防対策だけでは限界があるから」が65.0%と最多で、次に「新型コロナウィルスの感染状況が深刻だから」(51.7%)、次に「集団の感染症予防対策にはワクチン接種が有用だから」(45.0%)との回答が続いた。社会全体を意識した動機が上位を占めた。 「ワクチンを受ける時期で、『6ヵ月以内に受けない』『期間に関わらず絶対に受けない』『現時点では判断できない』と回答した人に『その理由』」(複数回答)について質問したところ、「ワクチンの安全性がまだ十分に検証されていないから」が57.2%と最多で、次に「副作用が怖いから」が50.0%、次に「ワクチンの有効性がまだ十分に検証されていないから」が36.1%、次に「臨床試験の進行が早すぎるから」が26.1%となっており、効果よりも安全性への懸念が強いことがわかった。 「COVID-19のワクチン接種に関わらず、どこの国(製薬会社)で開発されたワクチンを日本で接種できるのが良いと思うか」(複数回答)という質問では、「日本」が67.7%と最も多い結果だった。次に「アメリカ」(27.3%)、「ヨーロッパ」(22.0%)と続き、「わからない・決められない」も20.7%存在した。回答の結果は、日本製という安心感や日本人の体質にあったワクチンといったイメージがあると予想される。 「ワクチンの接種が開始された国について、この動きをどう思うか」という質問では、「やや早急すぎると思う」が37.7%で最も多く、「非常に」「やや」を足し合わせた「早急すぎると思う」の割合で54.0%を示した。 「政府は、現在、COVID-19ワクチンの準備を進めていますが、あなたが気になること」(複数回答)について質問したところ「安全性」が79.0%で最多であり、次に「副作用」が71.7%、つぎに「有効性」が51.7%と続いた。通常より早いペースで開発が進められているためか、多くの回答者が「安全性」を気にかけている実態が浮き彫りになった。 「(COVID-19ワクチンの接種希望の有無にかかわらず)ワクチン接種が開始されたとき、そのワクチンに不安はありますか」という質問では、「やや不安である」が51.7%で最も多く、「非常に」「やや」を足し合わせた「不安である」の割合でみると72.3%を示し、12月20日時点で、約7割の人が不安を伴うという結果だった。 「現時点で、日々増加しているCOVID-19の患者数を抑えるには、どうすればよいか」(複数回答)という質問では、「個人の予防対策の強化」「集団での予防対策の強化」が共に61.7%で最も多く、「全国的なGO TOキャンペーンの延期・中止」(43.3%)、「政府などからの不要不急の外出自粛要請・特別警報」(39.3%)と続き、「早急なワクチン接種の開始」は22.0%で、第7位だった。

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第36回 タスクシフトで医師労働時間の短縮計画は実現できるのか?

<先週の動き>1.タスクシフトで医師労働時間の短縮計画は実現できるのか?2.医薬品メーカーに今、問われる安全性と安定供給3.コロナ禍でも着々と進められる社会保障制度改革4.マイナンバーのスマホ搭載でさらなるデータヘルス改革を目指す5.コロナに阻まれる地域医療構想の実現6.准教授の不正請求により再び問われた製薬企業の資金提供1.タスクシフトで医師労働時間の短縮計画は実現できるのか?2019年3月に取りまとめられた「医師の働き方改革に関する検討会」報告書に基づいて、2024年4月からは診療に従事する勤務医における年間の時間外・休日労働の上限は原則960時間以下とされる。2019年7月からは、実際に現場での働き方を改善するために「医師の働き方改革の推進に関する検討会」で討論されてきたが、本年12月21日に中間とりまとめが発表された。過酷な労働環境で働く医師の働き方改革の必要性から、着実に労働時間短縮の取り組みを進められるように、地域医療確保暫定特例水準(B・連携B水準)と集中的技能向上水準(C水準)の対象医療機関の指定の枠組みや、追加的健康確保措置の義務化、履行確保に係る枠組み、医師労働時間短縮計画などについて必要性が指摘されてきた。今後、地域の医療機関は2023年までに地域住民の求める救急医療を提供しつつ、医師事務補助作業員や他職種とタスクシフティングをして、医師の労働時間短縮に取り組む必要がある。(参考)医師の働き方改革の推進に関する検討会 中間とりまとめの公表について(厚労省)2.医薬品メーカーに今、問われる安全性と安定供給製薬業界において、後発品の経口抗真菌薬に通常用量を超える睡眠剤が混入し、死亡者が発生した事件は記憶に新しい。これまで厚労省は、医療費を抑制するため薬価引き下げを続けてきたが、医薬品の製造承認時に定めた製造工程を守れていないメーカーが存在し、今回のような事件が発生した。患者さんに安心して薬物治療を受けていただくためにも、再発防止が望まれる。とくに、薄利多売を求められる後発品は、原薬の調達をインドや中国といった国々に依存しているが、昨年は原薬工場のトラブルにより、セファゾリンの安定供給が途絶えるなど、医療現場に大きな影響が出たばかりだ。医療安全の観点からは、医薬品の安定供給と安全性はコスト削減を実現しながらバランスよく行われるべきである。厚労省は、2020年9月に医薬品の安定確保について取りまとめを発表しており、ワクチンも含め、国民の期待に業界が応える必要がある。(参考)医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議(取りまとめ)資料(厚労省)3.コロナ禍でも着々と進められる社会保障制度改革2020年、厚労省は、新型コロナウイルス感染症への対策を打ち出しながらも、2025年に向けた社会保障制度の改革について取り組み続けている。高齢者の自己負担増については、日本医師会から受診抑制への懸念が表明されたにもかかわらず、75才以上の後期高齢者の2割負担導入を決定した。この経緯からも、現役世代から後期高齢者支援への支出軽減というより、現行の社会保障制度を維持する目的が明らかで、一定金額以上の収入のある高齢者には負担増を求め、財政健全化を先送りせずに同時達成する「社会保障と税の一体改革」を実現するためとも言える。新型コロナ感染拡大による財政出動により、健全化の目標は遠のいたが、2025年には団塊の世代が後期高齢者となるため、高齢者医療の支出増に備えた社会保障費の支出マネジメントが、今後も政府の大きな課題となっていくと考えられる。今年の12月14日には、全世代型社会保障改革の方針(案)が取りまとめられており、少子化対策と並んで医療提供体制の改革が述べられている。今後、医療現場でもこの動きを受け止める必要がありそうだ。(参考)全世代型社会保障改革の方針(案)(首相官邸)4.マイナンバーのスマホ搭載でさらなるデータヘルス改革を目指す2020年、政府はマイナンバーの普及促進にさまざまな対策を行ってきた。1人あたり5,000円相当のポイント付与だけでなく、来年度の春から本格的にマイナンバーの利用が推進されることになる。診療所や病院についても、マイナンバー専用端末に補助金を交付し、マイナンバーによって医療機関や薬局において健康保険のオンライン資格確認が可能となる。このほか、マイナポータルを介して、処方箋データや健診データの閲覧など利用者の利便性を高め、複数医療機関での検査、医薬品の処方の重複などを防ぐなど、さらに活用促進を目指す。また、12月23日に開催された社会保障審議会医療保険部会では、マイナンバーカードをスマートフォンに搭載可能にする法改正の検討を行い、保険診療をマイナンバーカードなしでも受けられる方向性について了承を得た。今後のデータヘルス集中改革プランも明らかとなっており、医療現場でも診療情報の情報共有に利用が進むことが期待される。(参考)データヘルス改革の進捗状況等について(厚労省)健康保険証、スマホ搭載 マイナカード活用で可能に(日本経済新聞)5.コロナに阻まれる地域医療構想の実現2025年に向け、病床の機能分化・連携を進めるために、医療機能ごとに医療需要と病床の必要量を推計し、「地域医療構想」の策定を行うため2015年3月から進めてきた。二次医療圏によっては急性期病床が過剰となるため、「地域医療構想調整会議」で協議することとなっていたが、具体的には医療機関の統廃合を伴うため、進捗が遅々として進まなかった。このため厚労省は、2020年1月17日に各都道府県に対して、公立・公的医療機関の再編統合を伴う場合については、遅くとも2020年秋頃までとしていたが、今年は新型コロナウイルス感染拡大のため、延期を余儀なくされた。今年の9月には公立病院事業934億円の赤字の増加が報道されるなど、地方自治体にとっては運営が今後困難となることが予想される。政府は地域医療構想の実現のために、地域医療連携推進法人の利用や再編を支援する取り組みとして、優遇措置を来年度から開始するなど本格的なテコ入れに乗り出した。2023年度には各都道府県において第8次医療計画(2024~2029年度)の策定作業もあり、コロナの収束を待つ間もなく、議論を重ねていく必要がありそうだ。(参考)公立・公的医療機関等の具体的対応方針の再検証等について(厚労省)令和3年度厚生労働省関係税制改正について(同)6.准教授の不正請求により再び問われた製薬企業の資金提供今年も、麻酔科の元准教授が、実際には使用していない薬剤を手術中に使ったとしてカルテを改ざんし、診療報酬の不正請求を行っていたなど、製薬マネーを巡った大きな報道があった。第三者委員会を立ち上げた病院側によると、同医師は2018年から2年間で、2,800万円以上を不正請求していた。この事件発覚により、大学当局は同医師を懲戒解雇し、10月2日、津地検に刑事告発を行った。その後、12月23日に津地方検察庁から、公電磁的記録不正作出および供用の罪で起訴された。通常、奨学寄付金は製薬企業からアカデミアに対して研究助成目的に提供されるが、今回のように医薬品のプロモーション目的で提供される可能性があり、従来から行っているCOIの開示だけでなく、2020年10月12日に改定された日本製薬工業協会の「医療用医薬品等を用いた研究者主導臨床研究の支援に関する指針」に基づいて、適切に行われる必要性がある。(参考)当院における不正事案について(三重大学医学部附属病院)医療用医薬品等を用いた研究者主導臨床研究の支援に関する指針(日本製薬工業協会)

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新型コロナに対するRNA遺伝子ワクチンは人類の救世主になりうるか?【基礎編】(解説:山口佳寿博氏)-1334

 2020年12月18日現在、新型コロナPCR確定感染者は世界全体で7,285万人、死者数は164万人(粗死亡率:2.3%)に達する。不顕性感染者を含む総感染者数はPCR陽性者数の約10倍と考えられるので(Bajema KL, et al. JAMA Intern Med. 2020 Nov 24. [Epub ahead of print])、現時点での世界総感染者数は約7.3憶人(世界総人口の約10%)と推察される。このままでは新型コロナによって人類は危機的状況に陥る可能性があり、それを阻止するためにはワクチンによる感染予防/制御が絶対的に必要である。現在、18種類のワクチンに関し第III相試験が進行中、あるいは終了している。しかしながら、12月10日、オーストラリアのQueensland大学で開発中の遺伝子ワクチンの臨床治験が中止されたことが報道された。以上の18種類のワクチンのうち、3種類の遺伝子ワクチンに関する第III相試験の中間結果が報告された(米国/ドイツ・Pfizer/BioNTech社のBNT162b2、米国・Moderna社のmRNA-1273、英国・AstraZeneca社のChAdOx1)。これらの3種類の遺伝子ワクチンは来年度上半期には本邦にも導入される予定であり、それらの基礎的/臨床的特徴を把握しておくことは、2021年の新型コロナ感染症に対する本邦での抜本的対策を構築するうえで最重要課題である。本論評(基礎編)では、遺伝子ワクチンを含めたワクチン全体の本質を理解するうえで必要な基礎的事項を整理する。次の論評(臨床編)では、来年度、本邦に導入されるであろう3種類の遺伝子ワクチンに関する臨床的意義について考察する。 新型コロナウイルスに対するワクチンは、主として下記の3種類に分類される(Abbasi J. JAMA 2020;324:1125-1127.)。1)蛋白ワクチン 全ウイルスを不活化したワクチン(Whole inactivated vaccine)、感染と関連する領域のみを精製したワクチン(Subunit or split vaccine)、遺伝子組み換え技術を駆使してウイルス侵入規定領域であるS蛋白を人工的に作成しワクチンとして用いるものが含まれる。新型コロナに対する不活化ワクチンは、中国を中心に開発が進められている(Sinovac社のCoronaVac、Sinopharm社のBBIBP-CorV)。遺伝子組み換え人工蛋白ワクチンとしては、米国・Novavax社のNVX-CoV2373に関する第I/II相試験が終了し(Keech C, et al. N Engl J Med. 2020;383:2320-2332.)、第III相試験が開始されつつある。NVX-CoV2373も本邦への導入が検討されている。NVX-CoV2373はS蛋白全長に対する遺伝子情報をナノ粒子に封入してBaculovirusに導入、そのBaculovirusを昆虫内で増殖、遺伝子組み換えS蛋白を作成し、免疫原性を増加(ブースター効果)させるアジュバント(Matrix M1)と共に接種するものである。NVX-CoV2373と同様の方法で、インフルエンザウイルスの血球凝集素(HA)を遺伝子組み換え技術を用いて作成した蛋白ワクチン(フランス・Sanofi社のFluBlok)は、米国などで接種され臨床的評価が高い。蛋白ワクチンの主たる作用は液性免疫の賦活であり、下記に述べる遺伝子ワクチンに比べ細胞性免疫の賦活は弱いと考えられている(Keech C, et al. N Engl J Med. 2020;383:2320-2332.)。 Sanofi社とGSK社は共同でS蛋白を標的とした遺伝子組み換え人工蛋白ワクチンの開発を行ってきたが、開発中の蛋白ワクチンのS蛋白に対する特異的IgG抗体産生が高齢者では有効域に達しなかったことにより、本ワクチンの開発を中止することを12月11日に発表した。今後は、新たなワクチンの開発を進めるとしている。2)DNA遺伝子ワクチン ウイルス侵入規定領域であるS蛋白に関する遺伝子情報をDNAに組み込み宿主に導入、S蛋白を作り出したうえで、それに対する液性免疫(抗体産生)、T細胞由来の細胞性免疫を誘導するものである。このために使用されるのがアデノウイルス(Ad)をベクター(輸送媒体)とする方法である。Adは2本鎖DNAによって形成されるウイルスであり、このDNAにS蛋白を規定する遺伝子情報(塩基配列)を組み込み宿主細胞に導入する。Adとして用いられるのは、ヒトに感染病変を起こさないヒトAd5型、ヒトAd26型、チンパンジー型Adである。ヒトAdをベクターとするワクチンは、米国・Johnson & Johnson社のAd26.COV2.S、中国・CanSino社のAd5-nCoV、ロシア・Gamaleya研究所のSputnik Vなどである。チンパンジー型Adをベクターとするワクチンが、英国・AstraZeneca社のChAdOx1(Voysey M, et al. Lancet. 2020 Dec 8. [Epub ahead of print])である。 Adをベクターとして用いるときの重要な問題点は、生体はAdを異物として認識し、それに対する特異抗体を産生することである。この抗体産生はAdの種類によらず発現する。その結果、ブースター効果を意図して投与される2回目のワクチン接種時には、遺伝子情報を封入したAdが1回目のワクチン投与時に形成された特異抗体の攻撃を受け、その一部は破壊される。その結果、Adをベクターとするワクチンでは、2回目のワクチン接種時、遺伝子情報封入Adの一部しか宿主に導入されず、ブースター効果が不十分で液性/細胞性免疫賦活化が阻害される(Ramasamy MN, et al. Lancet. 2021;396:1979-1993.)。その意味で、Adをベクターとする遺伝子ワクチンは、2回目のワクチン接種の意義が薄く、単回接種を基本とするワクチンと考えるべきである。この原則にのっとって第II相試験が施行されたのが、CanSino社のヒトAd5型をベクターとしたAd5-nCoVワクチンである。Ad5-nCoVの単回接種1ヵ月後には有意な液性/細胞性免疫が惹起されることが示された(Zhu FC, et al. Lancet. 2020;396:479-488.)。一方、ヒトAd5型とAd26型をベクターとしたSputnik V(Logunov DY, et al. Lancet. 2020;396:887-897.)ならびにチンパンジーAdをベクターとしたChAdOx1(Folegatti PM, et al. Lancet. 2020;396:467-478.)においては、1回目ワクチン接種後21日目あるいは28日目に、2回目のワクチンが接種される。両ワクチンとも2回目接種後にブースター効果を認め、S蛋白に対する特異的IgG抗体はさらに上昇するが、回復期血漿中のIgG抗体価を凌駕するものではなかった。この結果は、Adをベクターとするワクチンでは2回目の接種でブースター効果は発現するものの、その程度は弱いことを意味する。RamasamyらはS蛋白に対するIgG抗体産生は、Adに対するIgG抗体価に逆比例することを証明した(Ramasamy MN, et al. Lancet. 2021;396:1979-1993.)。 DNAワクチンのもう1つの欠点は、DNAに組み込まれた遺伝子情報は、まず細胞核内に取り込まれ、その情報がmRNAに転写される必要があることである。その後、細胞質に移行したmRNAを介する翻訳過程を経てS蛋白が産生される。すなわち、DNAワクチンでは転写と翻訳という2段階の過程を経る必要があるため、標的蛋白(S蛋白)の産生効率が悪い。3)RNA遺伝子ワクチン S蛋白の遺伝子情報(塩基配列)をmRNAとして生体に導入し、宿主細胞内でS蛋白の合成とそれに対する液性/細胞性免疫の発現を促す。この方法だとDNAワクチンと異なり、複雑な蛋白合成経路を経ずにS蛋白が宿主細胞質で産生されるので、DNAワクチンに比べ液性/細胞性免疫発現効率が良い(外から導入したmRNAの95%が宿主細胞に取り込まれる)。しかしながら、mRNAは陰性荷電を有する大きな分子であるため、裸のままでは宿主細胞に導入することができない。この問題を解決するため、mRNAをオイル様の性状を有する脂質ナノ粒子(LNP:lipid nanoparticle)に封入して宿主細胞に導入する方法が提唱された。Pfizer/BioNTech社のBNT162b2(Polack FP, et al. N Engl J Med. 2020 Dec 10. [Epub ahead of print])、Moderna社のmRNA-1273(Jackson LA, et al. N Engl J Med. 2020;383:1920-1931.)がこれに該当する。LNPは抗原性を有さず、生体に導入した場合、不要な免疫反応を惹起しない。さらに、LNPは免疫形成に関してアジュバント効果を発揮し、液性/細胞性免疫を上昇させると考えらえている。すなわち、LNP封入RNAワクチンでは、2回目のワクチン接種は確実なブースター効果を発揮するので、BNT162b2、mRNA-1273は2回接種を原則とするワクチンと考えてよい。これら2つのLNP封入mRNAワクチンを用いた場合には、Adをベクターとして用いるChAdOx1ワクチンなどとは異なり、2回目のワクチン接種後のS蛋白特異的IgG抗体価は回復期血漿中のそれを明確に凌駕していた(Walsh EE, et al. N Engl J Med. 2020;383:2439-2450. , Jackson LA, et al. N Engl J Med. 2020;383:1920-1931.)。 遺伝子ワクチンの臨床的効果を考えるうえで重要な事項は、(1)ワクチン由来の液性/細胞性免疫が自然感染の場合に比べ質的/量的に同等のものであるか否か、(2)ワクチン接種による液性/細胞性免疫の持続時間がどの程度であるか、これらを把握することである。1)自然感染とワクチンによる模擬感染における液性/細胞性免疫の差異 自然感染初期にウイルスが宿主内に存在するBリンパ球細胞から分化した形質細胞を刺激し、IgGを中心とするウイルス特異的抗体を産生する(液性免疫)。この機序を担当する形質細胞の寿命は短く、感染発症後2~3週で死滅する(短命形質細胞)。しかしながら、ウイルスはCD4+-helper T細胞の一種であるTh2細胞を刺激し、Th2細胞はB細胞から形質細胞への分化を持続的に誘導する。このようにして形成されたB細胞は抗原情報を細胞内に保持し骨髄で長期に生存する(記憶B細胞)。また、このB細胞から誘導された形質細胞も生存期間が長く、IgG抗体の持続的産生を維持する(長寿形質細胞)。さらに、ウイルスはCD4+-T細胞の一種であるTh1細胞を賦活、IL-2存在下で胸腺のナイーブT細胞をCD8+-T細胞(細胞傷害性T細胞)に分化させる。CD8+-T細胞はウイルスに感染した細胞を殺傷/処理する(細胞性免疫)。新型コロナ感染症ではすべてのTh系細胞が幅広く賦活化されるが、Th1細胞の賦活が優位であると報告されている(Dan JM, et al. bioRxiv. 2020 Dec 18.)。感染初期に賦活化されたT細胞は1~2週間でその90%が死滅する。しかしながら、残り10%のT細胞は抗原情報を保持したまま記憶T細胞としてリンパ組織内で長期に生存する。記憶B細胞、記憶T細胞はウイルスの二次感染時に効率よく液性免疫、細胞性免疫を発現する(二次感染の予防)。 RNAワクチンによるウイルス模擬感染における液性免疫(特異的IgG抗体産生)の発現は、自然感染の場合に較べ有意に高いことが確認されている。しかしながら、T細胞系反応の全貌については、現時点で確実な報告はない。暫定的解析では、RNAワクチン接種によってTh1細胞反応は賦活されるが、Th2細胞反応はむしろ抑制されると報告された(Jackson LA, et al. N Engl J Med. 2020;383:1920-1931.)。RNAワクチン接種によってTh2細胞反応が低く維持されたことは、Th2経路の活性化と関連する抗体依存性感染増強(ADE:Antibody-dependent enhancement of infection)が発生し難いことを意味し、RNAワクチンの安全性を担保する重要な知見である。長期にわたる感染予防のためには、液性免疫に加えTh1系を中心とした細胞性免疫の持続的賦活化も重要な因子であり、今後、ワクチン接種後の細胞性免疫の動態・推移について詳細な検討が望まれる。2)自然感染とワクチンによる模擬感染における液性/細胞性免疫の持続時間 新型コロナの初回感染後に液性/細胞性免疫がどの程度の期間持続するかについての確実な報告はない。新型コロナパンデミック発生初期に出版された論文では、不顕性感染者の40%、有症状感染者の13%で、感染より2ヵ月後(回復期)にはIgG抗体価が無効域まで低下すると報告された(Long QX, et al. Nat Med. 2020;26:1200-1204.)。しかしながら、最近の論文では、S蛋白特異的IgG抗体産生、記憶B細胞、記憶T細胞(CD4+-T細胞、CD8+-T細胞)の賦活化は、感染後少なくとも8ヵ月は維持されることが報告された(Dan JM, et al. bioRxiv. 2020 Dec 18.)。Danらの結果を外挿すると、自然感染によって誘導された種々の免疫機序は、最低でも1年間は持続すると考えてよさそうである。 RNAワクチン接種後(ブースター効果を得るための2回目のワクチン接種後)における液性/細胞性免疫の持続時間に関しては、ワクチン接種後の観察期間が短く確実な結論を導き出せない。しかしながら、S蛋白の受容体結合領域(RBD)に対する特異的IgG抗体産生は、2回目のワクチン接種後少なくとも3ヵ月は持続することが確認された(Widge AT, et al. N Engl J Med. 2020 Dec 3. [Epub ahead of print])。一方、ワクチン接種後の記憶B細胞、T細胞に由来する細胞性免疫の持続期間についての報告はない。ワクチン接種による模擬感染の液性/細胞性免疫持続時間が自然感染のそれと同等あるいはそれ以上であるならば、ワクチンによる二次感染予防効果は、ほぼ1年は持続することになり(すなわち、ワクチン接種は年1回で十分)、人類にとって大きな福音である。

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