サイト内検索|page:72

検索結果 合計:2114件 表示位置:1421 - 1440

1421.

J&Jの新型コロナワクチン、単回接種で速やかな免疫応答を誘導/JAMA

 Janssen Pharmaceuticalsが開発中の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)新規ワクチン候補「Ad26.COV2.S」について、第I相試験の一部として米国マサチューセッツ州ボストンの単施設で実施された無作為化二重盲検比較試験において、Ad26.COV2.Sの単回接種により速やかに結合抗体および中和抗体が産生されるとともに、細胞性免疫応答が誘導されることが示された。米国・ベス・イスラエル・ディーコネス医療センターのKathryn E. Stephenson氏らが報告した。COVID-19パンデミックのコントロールには、安全で有効なワクチンの開発と導入が必要とされている。JAMA誌オンライン版2021年3月11日号掲載の報告。25例で、ワクチン2用量の免疫原性をプラセボと比較 研究グループは、Ad26.COV2.Sワクチンのヒトにおける免疫原性(SARS-CoV-2スパイク特異的液性および細胞性免疫応答の動態、強さ、表現型など)を評価する目的で、2020年7月29日~8月7日の期間に25例を登録し、Ad26.COV2.Sをウイルス粒子量5×1010/mL(低用量)、同1×1011/mL(高用量)、またはプラセボを、1回または2回(56日間隔)筋肉内投与する群に無作為に割り付けた。 液性免疫応答として接種後複数時点でのスパイク結合抗体および中和抗体、細胞性免疫応答としてT細胞反応(ELISPOTおよび細胞内サイトカイン染色法)を評価した。 本論では、中間解析として71日目までの追跡調査(2020年10月3日時点)に関する結果が報告されている。持続性に関する追跡調査は2年間継続される。単回接種後、結合抗体および中和抗体の速やかな産生と細胞性免疫応答が誘導 全25例(年齢中央値42歳[範囲:22~52]、女性52%、男性44%、区別なし4%)が71日時点の中間解析評価を受けた。 初回接種後8日までに、結合抗体はワクチン接種者の90%に、中和抗体は25%で検出された。57日目までに、両抗体は単回接種者の100%で検出された。 ワクチン接種者において、71日時点のスパイク特異的結合抗体の幾何平均抗体価は2,432~5,729、中和抗体の幾何平均抗体価は242~449であった。また、さまざまな抗体のサブクラス、Fc受容体結合能、抗ウイルス機能が誘発されたこと、CD4+およびCD8+ T細胞応答が誘導されたことも確認された。 現在、Ad26.COV2.Sの有効性を評価するため、2件の第III相試験が進行中である。

1422.

異種アデノウイルス混在ワクチン(Gam-COVID-Vac, Sputnik V)の特性を読み解く (解説:山口佳寿博氏)-1366

 ロシアGamaleya研究所によって開発された遺伝子ワクチンはアデノウイルス(Ad)をベクター(輸送媒体)とし、そのDNAに新型コロナウイルスのS蛋白全長をコードする遺伝子情報を組み込んだ非自己増殖性ワクチン(Ad-vectored vaccine)の一種である。本ワクチンは“Gam-COVID-Vac”と命名されたが別名“Sputnik V”とも呼称される。“Sputnik”は1957年に旧ソ連が世界に先駆け打ち上げに成功した人工衛星の名前であり、ロシアのプーチン大統領は“Sputnik”という名称を用いることによって本ワクチンが新型コロナに対する世界初のワクチンであることを強調した。本ワクチンは2020年8月11日にロシアで承認、2021年3月18日現在、ロシアを含め世界53ヵ国で早期/緊急使用が承認されており、第III相試験を終了したワクチンの中で最も多くの国に導入されている(The New York Times 3/18, 2021)。しかしながら、現時点においてWHOはSputnik V使用に関する正当性(validation)を保証していない。さらに、欧州連合(EU)も製造を承認していない(現在、欧州医薬品庁(EMA)に製造認可を申請中とのこと)。ロシアはSputnik Vの医学的正当性(副反応を含む)の詳細を正式論文として発表する前からワクチン不足が深刻な貧困国、低開発国に対してワクチン外交を積極的に推進してきた。ワクチンの正当性が医学的に担保されていない段階でワクチン配布を政治的な具として利用するロシアの姿勢は医学的側面からは許容できるものではない。ロシアと同様の政治姿勢は中国においても認められるが、少なくとも中国の場合、中国製ワクチンに関する学問的内容を早期に正式論文として発表するという良識を有していた。 現在のところ、本ワクチンの本邦への導入は計画されていない。本ワクチンは臨床治験(第I~III相)の結果が正式論文として発表される前にロシア政府が承認したためワクチンの基礎的事項、臨床効果(副反応を含む)が不明確で世界の批判を浴びたことは記憶に新しい。しかしながら、2020年9月4日に第I/II相試験の結果(Logunov DY, et al. Lancet. 2020;396:887-897.)、次いで2021年2月2日に第III相試験の結果(Logunov DY, et al. Lancet. 2021;397:671-681.)が正式論文として発表され、ようやく本ワクチンの基礎的、臨床的意義が他の遺伝子ワクチンと同じレベルで議論できるようになった。 Sputnik VはAstraZeneca社のChAdOx1(ベクター:チンパンジーAd)、Johnson & Johnson社のAd26.COV2.S(ベクター:ヒトAd26型)など他のAd-vectored vaccineとは異なりpriming効果を得るための1回目ワクチン接種時にはヒトAd5型を、booster効果を得るための2回目ワクチン接種時にはヒトAd26型をベクターとして用いており、“異種Ad混在ワクチン(heterologous prime-boost COVID-19 vaccine)”と定義すべき特殊なワクチンである。ChAdOx1ならびにAd26.COV2.Sの基礎的研究で明らかにされたように、同種のAdを用いたワクチンでは1回目接種後にベクターであるAdに対して中和抗体が生体内で形成され、2回目ワクチン接種後には使用Adに対する中和抗体価がさらに上昇することが確認された(Ramasamy MN, et al. Lancet. 2021;396:1979-1993.、Stephenson KE, et al. JAMA. 2021 Mar 11. [Epub ahead of print])。すなわち、同種AdワクチンではAdに対する中和抗体によって一部のAdウイルスが破壊され、とくに、2回目のワクチン接種時にS蛋白に対する遺伝子情報の生体導入効率が低下、液性/細胞性免疫に対するbooster効果の発現が抑制される(山口. 日本医事新報(J-CLEAR通信 124) 5053:32-38, 2021)。異種Ad混在ワクチンに用いられるAdに対する中和抗体の推移については報告されていないが、2回目接種時には1回目接種時とは異なるAdをベクターとして用いるので2回目のワクチン接種後のAdを介したS蛋白遺伝子情報の生体への導入効率は同種Adワクチンの場合ほど抑制されないものと推察される。すなわち、異種Ad混在ワクチンの新型コロナ感染症に対する予防効果は同種Adワクチンよりも高いことが期待される。 以上のような視点で異種Ad混在ワクチンであるSputnik Vの新型コロナ発症予防効果を見てみると、第III相試験(n=19,866)において2回目ワクチン接種(1回目ワクチン接種21日後)7日目以降の発症予防効果は91.1%、重症化予防効果は100%であった(Logunov DY, et al. Lancet. 2021;397:671-681.)。一方、チンパンジーAdをベクターとしたAstraZeneca社の同種AdワクチンChAdOx1の2回目ワクチン接種後14日以上経過した時点での新型コロナ発症予防効果は、第III相試験(n=23,848)に関する中間報告において標準量(SD量:5×1010 viral particles)をある一定期間(中央値で69日)空けて2回接種した場合に62.1%と報告された(Voysey M, et al. Lancet. 2021;397:99-111.)。しかしながら、その後の第III相試験に関する最終報告では、発症予防効果が1回目と2回目のワクチン接種間隔に依存して変化することが示され、ChAdOx1の発症予防効果は、6週間以内にワクチンを2回接種した場合に55.1%、12週間以上空けて2回接種した場合に81.3%と訂正された(Voysey M, et al. Lancet. 2021;397:881-891.)。ChAdOx1に関して報告されたすべての発症予防効率値を考慮したとしても、新型コロナ発症予防効果は、同種AdワクチンChAdOx1に比べ異種Ad混在ワクチンSputnik Vのほうが高い。同種AdワクチンとしてJohnson & Johnson社のAd26.COV2.S(ベクター:ヒトAd26型)が存在するが、このワクチンは単回接種を目指したものであり2回接種を原則として開発が進められてきた異種Ad混在ワクチンSputnik Vとの比較は難しい。しかしながら、パンデミックという人類の緊急事態を鑑みたとき、Sputnik Vにおいても第III相試験の結果を再解析し、単回接種によってどの程度の新型コロナ発症予防効果を発揮するかを提示してもらいたい。 AstraZeneca社のChAdOx1 nCoV-19は本邦への導入が計画されている。しかしながら、前述した医学的解析結果を根拠として、2回接種のAdワクチンを本邦に導入するならばAstraZeneca社のChAdOx1ではなくロシア製の異種Ad混在ワクチンSputnik Vを導入すべきだと論評者は考えている。

1423.

2回目のコロナワクチン、きつかった!【Dr. 中島の 新・徒然草】(367)

三百六十七の段 2回目のコロナワクチン、きつかった!なんだかんだと言っているうちにもう春分。徐々に昼が長くなる季節、明るく前向きな日々を送りたいものです。さて、三百六十四の段にコロナワクチン接種の経験談を述べさせていただきました。その時は、金曜夕方の注射から24時間後くらいに急に寒気が発症。幸い土曜日だったので、布団に入っておとなしくしていました。日曜日の午後に寒気がなくなると共に復活。ちょうど注射から48時間後くらいのことです。今回は2回目のワクチン接種になるのですが、先に打った人からは色々な声が……俺は38度の熱が出た私は39度よ全身の関節痛と疲労感がありましたもう無理です。早退させてくださいなどなど。一方で、こういう話もありました。全然平気だったんだけど、ちゃんと薬が入ってたんかなひょっとして生食を打たれたのでは?結局、周囲の人たちの声を合わせると、何ともない人:2割発熱や倦怠感はあったけど休むほどではなかった人:6割仕事を休んだ人:2割まあ、N=10程度なので統計学的には意味がないのでしょうけど。で、いよいよ自分の2回目コロナワクチンの順番が回ってきました。前回と同じ要領で、だだっ広い講堂の中のブースで打ってもらいます。その後しばらくの観察時間。椅子に座って金曜日夕方の日差しを眺めます。普段は、病院で15分間も何もせずに座っているなどということはありません。忙中閑あり、とはこのことでしょうか。でも、2回目を打った、という意識が頭の中のどこかに残っていました。数時間後には発熱が来るかも、と思ったら気分が滅入ってきます。夜に予定していた若者の論文手直しは、週明けに変更しました。若者もワクチンを打った日だったせいか、先延ばしには大賛成。家で動けなくなったら大変だ、ということで帰宅途中のコンビニで買い物をしました。買ったのはアイスクリームとコカコーラ。夜中に急に「アイスクリームが食べた~い!」となった時に備えたわけです。で、「睡眠こそ正義」とばかりに家では早めに寝ました。翌朝4時頃、汗びっしょりで目が覚めました。ついに来た、ワクチンの副反応か!この時点では体温は36.6度。たいしたことはありません。「でも、俺の平熱は35度台だから心配だなあ」と、素人みたいなことを考えます。朝食までは普通に食べることができましたが、その後が大変。まずは頭痛。頭を動かすたびに響きます。続いて悪寒。あまりにも寒いので、朝風呂に入ってから寝ました。病院で仕事に追われている夢を見ながらふと目を覚ますと、昼過ぎです。体温を測ると38.1度!ついに来た、正真正銘の発熱。あらかじめ配付されていたカロナール(500mg)をのんで再び昼寝です。結局、寝たり起きたり、暑くなったり寒くなったりの繰り返し。その都度、掛布団をむしりとったり電気毛布の温度を上げたりしました。それやこれやで、土曜日は1日中寝ている羽目に。これが平日だったら、出勤しても書類1枚書けなかったことでしょう。ひたすら眠った翌朝、日曜日。スッと体が軽くなっており、こうして原稿を書くこともできております。結局、つらかったのは接種後12時間~36時間の間でした。日曜朝の体温は36度台、体重は2日前の1キロ減。体重減少は、主として脱水によるものですね、おそらく。ということで、これからワクチンを打つ人へのアドバイスです。ワクチン接種の翌日はできるだけ仕事を入れないようにしましょう調子の悪い間は体温調節が大切です、電気毛布などで凌ぎましょう経口摂取可能なものを手元に置いておきましょう、買い物には行けませんカロナールも持っておきましょう私のつらい経験が読者の皆様のお役に立つことができれば幸いです。最後に1句彼岸来て ワクチン打って 引き籠る

1424.

AZ製ワクチン、南アフリカ変異株への有効性みられず/NEJM

 2回投与の新型コロナウイルスワクチン「AZD1222」(アストラゼネカ製ChAdOx1)は、南アフリカ共和国で最初に見つかったB.1.351変異型による、軽度~中等度の症候性COVID-19発症に対する有効性は認められないことが示された。同国・ウィットウォーターズランド大学のShabir A. Madhi氏らによる、約2,000例のHIV非感染者を対象に行った試験の結果で、NEJM誌オンライン版2021年3月16日号で発表された。HIV非感染の18~65歳を対象に試験 研究グループは、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に対するワクチンの安全性と有効性の評価は、さまざまな集団を対象に行うことが必要であり、南アフリカ共和国で最初に同定されたB.1.351変異型をはじめとする新たな変異型に対するワクチンの有効性についても、同様に調査が必要だとして本検討を行った。 同国在住でHIV非感染の18~65歳を対象に、多施設共同無作為化二重盲検試験を行い、「AZD1222」の安全性と有効性を検証。被験者を無作為に1対1の割合で2群に割り付け、一方にはワクチン(含有ウイルス粒子量5×1010)を、もう一方にはプラセボ(0.9%塩化ナトリウム溶液)を、21~35日間隔でそれぞれ2回投与した。 被験者25例から2回投与後に血清サンプルを採取し、擬似ウイルスと生ウイルス中和試験を実施。変異前のD614G型ウイルスとB.1.351変異型に対する中和活性を測定した。 主要エンドポイントは、2回投与後14日超における、検査で確定した症候性COVID-19に対するワクチンの安全性と有効性とした。中和試験では変異株への抵抗性示す 2020年6月24日~11月9日に、HIV非感染成人2,026例(年齢中央値30歳)が登録され、1回以上のプラセボまたはワクチン投与を、それぞれ1,010例、1,011例が受けた。 血清サンプル評価では、擬似ウイルス、生ウイルス中和試験ともに、B.1.351変異型に対する抵抗性は、プラセボ群に比べワクチン群でより大きかった。 軽度~中等度の症候性COVID-19の発生例は、プラセボ群23/717例(3.2%)、ワクチン群19/750例(2.5%)で、有効性は21.9%(95%信頼区間[CI]:-49.9~59.8)だった。 症候性COVID-19を呈した42例のうち、B.1.351変異型は39例(92.9%)で、変異型に対するワクチンの有効性は10.4%(95%CI:-76.8~54.8)だった。 重篤な有害事象の発生は、両群間で均衡がとれていた。

1425.

ChAdOx1 nCoV-19(AZ社)における1回接種の有効性と血栓形成を含む新たな展開 (解説:山口佳寿博氏)-1364

 AstraZeneca社のChAdOx1 nCoV-19(別名:AZD1222)は、チンパンジーアデノウイルス(Ad)をベクターとして用いた非自己増殖性の同種Adワクチンである(priming時とbooster時に同種のAdを使用)。ChAdOx1に関する第I~III相試験は、英国、ブラジル、南アフリカの3ヵ国で4つの試験が施行された(COV001:英国での第I/II相試験、COV002:英国での第II/III相試験、COV003:ブラジルでの第III相試験、COV005:南アフリカでの第I/II相試験)。それら4つの試験に関する総合的評価は中間解析(Voysey M, et al. Lancet. 2021;397:99-111.)と最終解析(Voysey M, et al. Lancet. 2021;397:881-891.)の2つに分けて報告された。 ChAdOx1に関する治験には種々の問題点が存在し、中間報告時から多くの疑問が投げ掛けられていた。最大の問題点は、最も重要な英国でのCOV002試験において37%の対象者に対して、ワクチン初回接種時に正式プロトコールで定められたAdウイルスの標準量(SD:5×1010 viral particles)ではなく、その半量(LD:2.2×1010 viral particles)が接種されていたことである。これは、Adウイルス量の調整間違いの結果と報告されたが、治験の信頼性を著しく損なうものであった。2番目の問題点は、ワクチンの1回目接種と2回目接種の間隔が正式プロトコールでは28日と定められていたにもかかわらず、多くの症例で28日間隔が順守されていなかったことである。たとえば英国のCOV002試験において、SD/SD群(初回接種:SD量、2回目接種:SD量)では中央値69日間隔、LD/SD群(初回接種:LD量、2回目接種:SD量)では中央値84日間隔の接種であり、SD/SD群における53%の症例で12週以上の間隔を空けて2回目のワクチンが接種されていた。ワクチン接種の間隔が一定でなかったことから、発症予防効果がワクチン接種の間隔に依存するという興味深い副産物的知見が得られたが、臨床試験の面からは許容されるべき内容ではない。3番目の問題点は、LD/SD群の発症予防効果(90%)が正式プロトコールのSD/SD群の発症予防効果(62%)を明確に凌駕していたことである(Voysey M, et al. Lancet. 2021;397:99-111.)。この現象を科学的に説明することは困難である。ただ、ChAdOx1の治験にあっては、他のワクチンで採用された有症状感染を評価指標とした発症予防効果に加え、無症候性感染を含めた感染全体に対する予防効果も評価されたことは特記に値する。 ChAdOx1の正式プロトコールであるSD/SD群における最終解析から得られた重要な知見(Voysey M, et al. Lancet. 2021;397:881-891.)は、(1)2回のワクチン接種間隔が12週以上の場合のS蛋白に対する中和抗体価(幾何学的平均)は、ワクチン接種間隔が6週以下の場合に比べ2倍以上高い。ただし、この現象は、55歳以下の若年/中年者において認められたもので56歳以上の高齢者では認められなかった。(2)その結果として、ワクチン接種間隔が12週以上の場合の発症予防効果(2回目ワクチン接種後14日以上経過した時点での判定)は、ワクチン接種間隔が6週以内の場合に比べ明らかに優っていた(12週以上で81.3% vs.6週以内で55.1%)。(3)無症候性感染に対する感染予防効果は、ワクチン接種間隔が6週以内の場合で-11.8%、12週以上の場合で22.8%であり共に有意な予防効果ではなかった。以上の結果より、ChAdOx1ワクチンの発症予防に関する最大の効果を得るためには、SD量のワクチンを12週間以上空けて接種すべきだと結論された。 ChAdOx1の治験では、LD/SD群、SD/SD群のすべてを対象として1回目のワクチン接種後22日目から90日目までの発症予防効果、無症候性感染予防効果が検討された(Voysey M, et al. Lancet. 2021;397:881-891.)。1回目ワクチン接種の発症予防効果は76.0%(有効)、無症候性感染予防効果は-17.2%(非有効)であった。一方、LD/SD群、SD/SD群のすべてを対象とした2回接種の発症予防効果は66.7%(有効)、無症候性感染予防効果は22.2%(非有効)であった。すなわち、ChAdOx1の1回接種は2回接種の発症予防効果に比べ優勢であっても劣勢であることはなく、ChAdOx1の2回接種の必要性に対して本質的疑問を投げ掛けるものであった(山口. ジャ-ナル四天王-1352「遺伝子ワクチンの単回接種は新型コロナ・パンデミックの克服に有効か?」、山口. 日本医事新報(J-CLEAR通信124). 2021;5053:32-38.)。3月18日現在、ChAdOx1は2回接種の同種AdワクチンとしてEU医薬品庁(EMA)の製造承認、WHOの使用に関する正当性(Validation)承認を得ているが、米国FDAの製造承認は得られていない。米国FDA、EU-EMAならびにWHOの全機関の承認を得ている単回接種の同種AdワクチンとしてJohnson & Johnson社のAd26.COV2.S(ベクター:ヒトAd26型Ad)が存在するが、その発症予防効果は米国、中南米、南アフリカにおける治験の平均で66%と報告された(山口. 日本医事新報(J-CLEAR通信124).2021;5053:32-38.)。すなわち、ChAdOx1の1回接種の発症予防効果はAd26.COV2.Sよりも優れており、パンデミックという緊急事態を考慮した場合、ChAdOx1を2回接種ではなく単回接種ワクチンとして発展させることを考慮すべきではないだろうか? 2021年2月7日、南アフリカはChAdOx1の導入計画を中止した。これはChAdOx1の南アフリカ変異株に対する予防効果が低いためであった(Fontanet A, et al. Lancet. 2021;397:952-954.)。3月に入りChAdOx1の使用を一時中断する国が増加している。2021年3月11日以降、デンマーク、アイスランド、ノルウェー、アイルランド、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、オランダなど、欧州各国が相次いでChAdOx1の接種を一時中断すると発表した(The New York Times. March 18, 2021)。この原因は、ChAdOx1接種後に脳静脈血栓を含む全身の静脈血栓症が相次いで報告されたためである。2021年3月10日までにChAdOx1を接種した500万人にあって脳静脈血栓症による死亡者1人を含む30人に血栓症の発生が確認された。すなわち、ChAdOx1接種後の血栓症全体の発症頻度は6人/100万人、脳静脈血栓症の発症頻度は0.2人/100万人と推定された。重篤な脳静脈血栓症の一般人口における発症頻度は0.63人/100万人(ドイツ国立ワクチン研究機関ポール・エーリッヒ研究所)とされており、ChAdOx1接種後に観察された現時点での脳静脈血栓症の発症頻度は、一般人口における発症頻度を超過するものではなかった。このようなことから、2021年3月18日現在、EU-EMAはChAdOx1と血栓症との因果関係を否定し、欧州各国にChAdOx1の接種再開を呼びかけた。その提言を受け、ドイツ、フランス、イタリア、スペインはChAdOx1の接種を再開したが、ノルウェー、スウェーデンなど北欧諸国は一時中断を継続すると発表した。WHO、EU-EMAが示唆しているように、ChAdOx1接種後の静脈血栓の発症率は一般人口における血栓発症率を超過するものではない。しかしながら、米国CDCの副反応報告では、Pfizer社BNT162b2、Moderna社mRNA-1273の接種後(1,379万4,904回)に全身の静脈血栓発生を認めず(Gee J, et al. MMWR. 2021;70:283-288.)、ChAdOx1接種後のみに、頻度が低いものの血栓症が発生している事実は看過できない問題だと論評者は考えている。

1426.

不確実さは不安を招き安心感は猫を招く、コロナワクチンからの考察【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第34回

第34回 不確実さは不安を招き安心感は猫を招く、コロナワクチンからの考察インドの昔話です。ある男が超能力を獲得しました。その能力とは、人を念じながら観察すると、その人が1年後に生きているか、死んでいるかがわかるのです。その男のもとには、病に悩む患者や、痩せ細った赤子を抱いた母親、年老いた母親を背負った息子などが、次々と訪れるようになりました。1年後に生きていると言われれば小躍りして帰っていきます。1年後に死んでいると言われれば納得して帰ります。その男は名医と呼ばれ、患者が絶えることがなかったと言います。かつての記憶を頼って紹介した昔話なので、インドではなくヒマラヤかもしれず、ストーリーも正確ではないかもしれません。小学生のころに学校図書館にあった本で読んだのでしょうか。妙に、心に残っている話です。皆さまは、この昔話をいかが思いますか。違和感を覚える人も、なるほど名医だと納得する人もいることでしょう。この男は本当に名医でしょうか。この男は、一切の医療行為をしていません。ただただ、1年後の生死を正確に伝えているだけです。しかし、予言をさずかった者は、その男を名医と崇めます。なぜでしょうか。不安がなくなるからではないでしょうか。不確実さは不安をまねきます。1年後の確実な情報が安堵を与えます。患者の立場からは、安心を与えてくれる人は名医なのです。医学が進歩した現在においても、人はやがて死ぬことが運命づけられています。哲学者ハイデッガーは彼の主著「存在と時間」の中で、人間は「死への存在」であるといっています。古来より、不老不死の秘薬を求めた権力者は多くいますが、現在まで生命を保っているものは、誰一人としていません。東京渋谷の横断歩道を渡る人々の100年、いや150年後を考えてみましょう。その時までには、全員が死んでいる可能性が高いです。これを自分が予言しても名医の称号は与えられません。なぜなら、それほど将来には皆が死んでいることへの不確実性は低いからです。不確実さが介入する余地のある、明日の命、1年後の命には不安が伴います。医学研究における統計学は不確実さを確率論で数値化しますが、不確実さを払拭するわけでありません。新型コロナウイルスは、その感染症としての怖さはもちろんですが、情報不足や経験のない状況への不安が問題を複雑にします。さらに、不安をあおることは人を惹きつけます。新型コロナ感染症にまつわる不安を掻き立てる報道は視聴率を稼ぎます。正しいコロナウイルスへの対応策や知識を伝えることは、危機感や恐怖を叫ぶマスコミに負けてしまいます。科学的な情報を理性的に解釈するには素養とエネルギーを必要とします。不安に身をゆだね、その矛先を他人への批判に転嫁することは容易です。この状況を打破するには安心を付与することが一番です。ワクチン接種により不安が少しでも解消することを期待します。ワクチンそのものが有効であるべきことは当然ですが、ワクチン接種が進むことで不安が払拭され社会が落ち着きを回復することを願うばかりです。安心感を与えることは人を惹きつけるのですから、猫も惹きつけることは間違いありません。猫に安心感を与えるコツがあります。猫は警戒心がとても強く、過度にかまわれるのがストレスとなります。適度な距離を保つことが懐かれる秘訣です。視線を外し、なるべく低い姿勢で静かに近づき、少し高めの声で話しかけると良いです。「お前なんかには興味はないのさ」という態度で接することが、猫を手なずけるポイントです。猫と遊んでいると幸せな安心感が湧いてきます。もしかすると日本中の人が猫を飼うと、コロナ騒動が収束に向かうかもしれません。猫バカも、ほどほどにして、これでおしまいにします。

1427.

第50回 全国組織で動いたのは老健施設のみ。全老健、コロナ回復患者受け入れ表明の意味

緊急事態宣言解除、新味のない「5つの柱」こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。首都圏1都3県の緊急事態宣言が3月21日をもって解除されました。飲食店については営業が21時まで伸びたことで、外食が多い私も少々ほっとしています。ただ、心配もあります。解除決定が正式報道される前日の17日夕刻、所用があって東京・上野に出かけたのですが、ガード下の飲み屋街は17時でほぼ満席でした。東京の飲み屋街の中でも、上野は昭和の雰囲気を残した居酒屋が特に集中するエリアです。店先にテーブルを置いた、いわゆるオープンカフェ的な居酒屋も多く、それはそれで安全そうですが、「平日17時でこの混みようか!」と正直驚きました。ちなみに、20時でほとんどのお店は閉店していましたが、「20時以降営業中」の一画もあって、入店を待つ長い行列(ほとんど若者)ができていました。これからお花見も始まります。「外で飲みたい!」という人々のパワーを鎮めるのは、実際問題として難しそうです。さて、緊急事態宣言解除に当たって、3月18日に菅 義偉総理大臣が記者会見を行いました。今後の対策として、安全で迅速なワクチン接種などの「5つの柱」が示されたのですが、残念ながらどれも新味がないものでした。本連載でも度々書いてきた「医療提供体制」については、「今回は、急速な感染拡大に十分に対応できず、各地でコロナ病床や医療スタッフが不足する事態となった。各都道府県において、今回のような感染の急拡大に対応できるように準備を進めている。コロナ病床、回復者を受け入れる病床、軽症用のホテル、自宅療養が役割を分担して、感染者を効果的に療養できる体制をつくる」と述べ、 5月中までに病床・宿泊療養施設確保計画を見直す方針を示したのみでした。同じ日、田村 憲久厚生労働大臣も「4月中にも再び感染拡大の可能性があるので都道府県と調整してほしいと指示している」と述べたに留まりました。1、2月にバタバタして、もう4月です。それなのにまだ、「進めている」「体制をつくる」「指示している」「5月中まで」とはいったいどういうことでしょう。第4波に対応できる医療提供体制になっているか?もっとも、厚生労働省は医療提供体制確保のための下準備は着々と進めてきてはいます。今年1月には、重症患者向けの病床を新たに確保した病院に対し1床あたり1,950万円、中等症以下の病床は900万円を補助する施策を講じました。続く2月には、コロナ患者の受け入れについて、高度な医療を提供できる大学病院や地域の基幹病院が重症患者を、都道府県から指定を受けた「重点医療機関」は中等症患者を受け入れるなど、病院の役割分担を進めるよう都道府県等に要請(第46回 第4波を見据えてか!? 厚労省が「大学病院に重症患者を受け入れさせよ」と都道府県に事務連絡)しました。同じ2月には、新型コロナウイルス感染症の退院基準の見直しも行い、発症からの感染可能期間などのエビデンスも提示しています(第47回 「発症10日したらもう他人に感染させない」エビデンス明示で、回復患者受け入れは進むか?)。つまり、重症患者の病床を確保し、軽快・回復した患者の退院先の整備には取り組んでいるのです。それでも「もう大丈夫」と言えないのは、重症病床の退院以降、患者が流れていく道筋をしっかり確保できていないからでしょう。日本医師会が中心となり、病院団体が集まって組織された「新型コロナウイルス感染症患者病床確保対策会議」については、「コロナ病床を拡充し退院基準の周知に努め、コロナから回復した方の受入病床の拡充も行った。新型コロナウイルス感染症と通常医療の両方を守る活動を着実に進めている」(3月18日の中川 俊男会長の定例会見での発言)とのことですが、実際に第4波が来たときに十分対応できる体制になっているかどうかは不明です。医療提供体制について一貫して手厳しい日本経済新聞は3月19日の朝刊で「コロナ病床増 進まず」という記事を掲載、「首都圏のコロナ対応病床は一般の病床全体のうち4.6%どまりだ。全国の病床数も宣言直前に比べれば7%増えたものの、第1波のさなかだった昨年5月に見込んだ数にも届いていない」として、「医療提供体制の抜本的立て直しが求められる」と書いています。全老健、会員施設の45.2%が受け入れ表明そんな中、全国レベルで実効性がありそうな動きがありました。全国老人保健施設協会(全老健)は3月12日に記者会見を開き、全国の老人保健施設の半数近くにあたる1,600余りの施設がコロナから回復した高齢の入院患者を受け入れる意向があると表明したのです。会見で同協会の平川 博之副会長(東京都老人保健施設協会 会長)は、病床逼迫が続いていた都内において、老健施設では新型コロナウイルス感染患者がスムーズに受け入れられない状況が起こっており、病院側から、「患者を受け入れても回復後の行き先がない」との訴えがあったと説明、「全老健としてこうした状況を打開すべく、会員施設に対して退院基準を満たした要介護高齢者の積極的な受け入れを要請した」と話しました。会見時の11日時点で会員施設の45.2%に当たる1,625施設が協力を表明しており、そのうち129施設ではすでにこうした患者を受け入れ、270人の高齢者が入所している、とのことです。「中間施設」の機能を発揮できる機会コロナ患者の“上流”から“下流”の流れの中で、“下流”の受け入れ先として全老健が手を挙げた意味はとても大きいと思います。もちろん、退院基準を満たした患者を介護保険施設で受け入れた場合に「退所前連携加算」(1日500単位、最大30日間)の算定が認められる、など経済的な理由もあるでしょう。しかし一方で、今こそまさに老健施設の本来の役割である「在宅復帰の機能」を発揮できる機会であると、全老健が純粋に判断したとも考えられます。約30年前の創設前後、老健施設は「中間施設」とも呼ばれていたように、病院と自宅の中間にあって高齢者の在宅復帰を目的とする施設です。医師が常駐し、リハビリ機能も充実しています。コロナでは、長期入院によって身体機能や認知機能が低下する患者は多く、回復患者にリハビリ機能は必須だと言えます。最近では介護医療院の制度化もあって、老健施設は高齢者施設としてのアイデンティティを模索していたとも言われます。ただ、看取り機能が重視される介護医療院では病床の回転は鈍く、コロナ受け入れは難しいと考えられます。そうした意味でも、老健施設はコロナ回復患者の受け入れ先としては最適の施設と言えるでしょう。高齢者施設はクラスター発生の危険性も高いと言われていますが、感染対策をしっかり行った上で、老健施設がコロナ回復患者の主要受け入れ先として機能していけば、軽症・中等度の患者を受け入れる一般病院も増えてくるのではないでしょうか。

1428.

新型コロナワクチン、安全な筋注部位を新たに追加/日本プライマリ・ケア連合学会

 プライマリ・ケア連合学会と予防医療・健康増進委員会ワクチンチームが制作・監修を行った『新型コロナワクチンより安全な新しい筋注の方法 2021年3月版』が3月15日に公開された。本解説は、2月22日にYoutubeに公開され多くの反響を得た『新型コロナワクチン 筋肉注射の方法とコツ』(動画)に安全な接種部位を加筆修正したもの。 より安全と考えられる新たな接種部位として、「肩峰から下ろした垂線と前腋窩線の頂点・後腋窩線の頂点を結ぶ線の2つの線が交わる点」が推奨されている。ただし、従来からの接種部位(肩峰から3横指下)も選択肢として残されている。 筋肉注射の場合、手技が原因で末梢神経損傷およびSIRVA(Shoulder Injury Related to Vaccine Administration)が生じる可能性もある。今回の新型コロナワクチン接種は日本人にあまり馴染みのなかった筋肉注射であったことから、このような事例に注意が必要である。この問題について、仲西 康顕氏(奈良県立医科大学整形外科・臨床研修センター)が指摘、指導のもと「安全な接種部位」に関する情報がアップデートされた。仲西氏が作成した筋肉注射手技マニュアルを参考に実際の注射時の様子がレクチャーされている。

1429.

英国・EU規制当局がAZ製ワクチンのレビューを発表、ベネフィットがリスクを上回る

 接種後に血栓などの報告があり、一部の国で接種が中止されていたアストラゼネカ製COVID-19ワクチン(AZD1222、日本では承認申請中)について、2021年3月18日、英国医薬品・医療製品規制庁(The Medicines and Healthcare products Regulatory Agency:MHRA)および欧州医薬品庁(European Medicines Agency:EMA)は、ベネフィットがリスクを上回ることを再確認した。同日、英国アストラゼネカ社が発表した。 MHRA・EMAの報告によると、ワクチン接種後の静脈血栓の発症率は、ワクチン接種を受けていない場合に想定される発症率を上回るという根拠はなく、接種のベネフィットがリスクを上回るとした。一方で、稀な血栓症である血小板の減少を伴う脳静脈洞血栓症(CVST)に関する5件の症例と関連する可能性は残され、ワクチンとの因果関係は確立されていないものの、さらなる分析に値する、としている。 世界保健機構(WHO)も、WHOワクチン安全性諮問委員会(GACVS)による安全性レビューを行い、ワクチンの投与後の深部静脈血栓症や肺塞栓症などの凝固状態の増加はなく、接種後に報告された血栓塞栓性イベントの発生率は自然発生の予想数と一致している、とした。また、CVSTなど血小板減少症と組み合わせた稀な血栓塞栓性イベントも報告されているものの、それらとワクチン接種の関係は不明だとした。 アストラゼネカのワクチンは英国では約1,100万回接種し、5例のCVSTが報告され、欧州全体では計2,000万回以上接種し、18例のCVSTが報告されていた。

1430.

第52回 南ア変異株を取り入れたCOVID-19ワクチンはより心強い

南アフリカでの新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症流行第二波で台頭した変異株(南ア変異株)B.1.351の感染はSARS-CoV-2の古参も新顔も手広く相手する抗体一揃いを生み出すようで、その配列を取り入れたワクチンはどうやらより頼りがいがあるようです。同国での去年9月初めまでの流行第一波の後の10月に見つかって瞬く間に広まった1)B.1.351は回復者血漿(convalescent plasma)やモノクローナル抗体を効き難くするかまったく効かなくする変異を有し、取り急ぎ認可されたワクチンの効果にも差し障るのではないかと懸念されました。その懸念は杞憂ではなく、AstraZenecaのSARS-CoV-2ワクチンChAdOx1 nCoV-19(AZD1222)の試験ではB.1.351感染者の発症を防げませんでした2)。それに、Pfizer-BioNTechやModernaのワクチン接種者の血清(抗体)のB.1.351中和はかなり劣りました3)。その結果を踏まえてModernaはB.1.351の配列を取り入れたワクチンmRNA-1273.351を仕立てており、早くも今月前半には第II相試験でその投与が始まっています4)。mRNA-1273.351はB.1.351を含むSARS-CoV-2変異株も相手できるように免疫反応の幅を広げることを目指します。南アフリカの中心都市ヨハネスブルグのウィットウォータースランド大学の ペニー・ムーア(Penny Moore)氏のチームが今月11日にbiorxivに発表した報告5)によるとmRNA-1273.351はその狙い通りの効果をもたらしてくれそうです。ムーア氏等はB.1.351が免疫の網をかいくぐることなく強力な免疫反応を引き出しうると期待し6)、ケープタウンの病院にB.1.351感染で入院した89人の血清(抗体)のSARS-CoV-2代理ウイルス(pseudovirus)阻止効果を調べました。代理ウイルスはSARS-CoV-2スパイクタンパク質を使って細胞に感染するように加工したHIVです6)。結果はムーア氏等の期待に沿うもので、B.1.351感染者の抗体はB.1.351変異を有する代理ウイルスの阻止のみならずB.1.351台頭前の流行第一波の代理ウイルスやブラジルで見つかった変異株501Y.V3 (P.1)代理ウイルスも食い止めました5)。P.1もB.1.351と同様に手強く、抗体が効きにくいことが知られています。B.1.351も相手しうるワクチンの取り組みはModernaのみならずPfizer-BioNTechやその他のワクチン開発会社も進めています。それらのワクチンはおそらくより高性能であろうとムーア氏は言っています6)。変異株感染は総じてSARS-CoV-2を手広く相手する免疫反応を引き出すかというとそうではなさそうです。たとえば英国で見つかった変異株B.1.1.7感染で備わる抗体は南ア変異株や先立って流行したウイルスの面々の認識や抑制がより不得手です7)。南ア変異株B.1.351感染でSARS-CoV-2あれこれへの手広い免疫反応が備わる仕組みは不明で、これから調べる必要があります。もしかするとB.1.351は変異株の間で共通するスパイクタンパク質特徴を認識する抗体を引き出すのかもしれません6)。参考1)Emergence and rapid spread of a new severe acute respiratory syndrome-related coronavirus 2 (SARS-CoV-2) lineage with multiple spike mutations in South Africa. medRxiv. December 22, 20202)Madhi SA,et al, N Engl J Med.2021 Mar 16. [Epub ahead of print]3)Wang P, et al.Nature.2021 Mar 8. [Epub ahead of print]4)Moderna Announces First Participants Dosed in Study Evaluating COVID-19 Booster Vaccine Candidates / businesswire5)SARS-CoV-2 501Y.V2 (B.1.351) elicits cross-reactive neutralizing antibodies. bioRxiv. March 11, 20216)Rare COVID reactions might hold key to variant-proof vaccines / Nature7)Reduced antibody cross-reactivity following infection with B.1.1.7 than with parental SARS-CoV-2 strains. bioRxiv. March 01, 2021.

1431.

mRNAワクチン、無症候性感染リスクも低下/大規模調査

 新型コロナウイルスワクチンは無症候性感染にも有効なのか。米国・メイヨークリニックのAaron J. Tande氏らによる大規模調査によって、ワクチン接種によって 無症候性の感染リスクも低下することがわかったという。Clinical Infectious Diseases誌オンライン版2021年3月10日号掲載の報告。 該当地域においてワクチン接種が始まった2020年12月17日から2021年2月8日の間に、処置/手術前にSARS-CoV-2検査を受けた無症状の患者(3万9,156例)の検査4万8,333件を対象として、後ろ向きコホート研究を実施した。 mRNAワクチン(ファイザーもしくはモデルナ社製)を1回以上接種した群(接種群)と、同じ期間内に接種しなかった群(未接種群)の間でSARS-CoV-2検査の陽性率を比較し、相対リスク(RR)を算出した。RRは混合効果log-binomial回帰を用いて、年齢、性別、人種/民族、病院と居住地の相対位置(医療アクセス)、地域の医療システム、反復検査について調整した。 主な結果は以下のとおり。・患者の年齢中央値は54.2(SD:19.7)歳で、2万5,364例(52.5%)が女性だった。接種群の検査数は3,006件(6.2%)、未接種群は4万5,327件(93.8%)だった。・接種群の初回接種から検査までの日数の中央値は16(四分位範囲:7~27)日だった。・接種群の検査3,006件中、陽性は42件(1.4%)、未接種群の検査4万5,327件中、陽性は1,436件(3.2%)だった(RR:0.44、95%CI:0.33~0.60、p<0.0001)。・接種群が未接種群と比較して調整後RRが低かった検査時期は、ワクチンの初回接種後11日以降2回目の接種前(RR:0.21、95%CI:0.12~0.37、p<0.0001)、および2回目の接種翌日以降(RR:0.20、95%CI:0.09~0.44、p<0.0001)だった。 研究者らは、mRNAワクチンは症候性の感染同様に無症候性感染のリスクも減らすことが裏付けられた、としている。

1432.

第47回 要申請、市町村へアドレナリン製剤の無償提供/マイラン

<先週の動き>1.【要申請】市町村へアドレナリン製剤の無償提供/マイラン2.緊急事態宣言の解除後、感染対策に「5つの柱」3.勤務医の働き方改革など、医療法改正法案が審議入り4.高齢者ワクチン、医師確保が間に合わない自治体2割5.ワクチン優先接種、精神疾患などの患者も対象に6.科学的介護情報システム「LIFE」を訪問・居宅支援に活用へ1.要申請、市町村へアドレナリン製剤の無償提供/マイラン厚生労働省は、4月12日から開始される高齢者の新型コロナワクチン接種に必要となる予診票などの情報提供を開始している。抗血小板薬や抗凝固薬を内服している患者については、接種前の休薬は必要なく、接種後は2分間以上しっかり押さえるようにと具体的な記載がされている。また、ワクチン接種の際にアナフィラキシーショックなどを発現した場合に必要となるアドレナリン製剤(商品名:エピペン注射液0.3mg)については、製造販売元であるマイランEPD合同会社より無償提供について、各市町村(特別区を含む)へ告知されるなど準備が進んでいる。なお、無償提供を希望する市町村は、専用のWEBサイト(https://med.epipen.jp/free/)を通じて申請を行うこと。受付は、18日より開始されている。(参考)新型コロナワクチンの予診票・説明書・情報提供資材(厚労省)予防接種会場での救急対応に用いるアドレナリン製剤の供給等について(その2)(同)マイランEPD 自治体向け「エピペン」無償提供の受付開始 コロナワクチン接種後のアナフィラキシー対応で(ミクスオンライン)2.緊急事態宣言の解除後、感染対策に「5つの柱」菅総理大臣は18日夜、東京都を含む1都3県の緊急事態宣言について、21日をもって解除することを明らかにした。1都3県の新規感染者数は、1月7日の4,277人と比較して、3月17日は725人と8割以上減少しており、東京では、解除の目安としていた1日当たり500人を40日連続で下回っていた。宣言解除に当たり、感染の再拡大を防ぐための5本の柱からなる総合的な対策を決定し、国と自治体が連携して、これらを着実に実施することを発表した。第1の柱「飲食の感染防止」大人数の会食は控えて第2の柱「変異ウイルス対応」第3の柱「戦略的な検査の実施」第4の柱「安全 迅速なワクチン接種」第5の柱「次の感染拡大に備えた医療体制の強化」また、ワクチンについては、今年6月までに少なくとも1億回分が確保できる見通しを示し、医療従事者と高齢者に行きわたらせるには十分な量だと述べた。(参考)新型コロナウイルス感染症に関する菅内閣総理大臣記者会見(首相官邸)【菅首相会見詳報】“宣言”解除へ 再拡大防ぐ「5つの柱」示す(NHK)3.勤務医の働き方改革など、医療法改正法案が審議入り長時間労働が問題となっている勤務医などの働き方改革を目指し、2024年度から、一般の勤務医は年間960時間、救急医療を担う医師は年間1,860時間までとする時間外労働規制を盛り込んだ医療法の改正案が、18日に衆議院本会議で審議入りした。今回の法案には、各都道府県が策定する医療計画の重点事項に「新興感染症等の感染拡大時における医療」が追加された。このほか、医師養成課程の見直しであるStudent Doctorの法的位置付けや地域医療構想の実現に向けた医療機関の再編支援、外来医療の機能の明確化・連携といった2025年問題と、今後の地域医療の提供体制にも大きな影響が出ると考えられる。(参考)勤務医などの働き方改革を推進へ 医療法改正案 衆院で審議入り(NHK)地域医療の感染症対策を強化、医療法改正案を閣議決定(読売新聞)資料 良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律案(厚労省)4.高齢者ワクチン、医師確保が間に合わない自治体2割4月12日から開始される65歳以上の高齢者対象の新型コロナウイルスワクチン接種について、厚労省が全国1,741の自治体を対象に行った調査の結果、約2割の自治体が接種を担う医師を確保できていないことが明らかになった。調査は3月5日時点の各自治体の状況についてたずね、各接種会場で1人以上の医師を確保できているとする自治体は1,382(79.3%)だが、残り約2割の自治体では「0人」だった。地元医師の調整に時間がかかっている自治体や医師不足のため近隣自治体と調整中の自治体もあるため、体制の確立には時間を要するとみられる。また、各自治体より高齢者分の接種券の配送時期については4月23日が最も多く、次いで4月12日とする自治体が多かった。(参考)医師確保「0人」が2割 高齢者ワクチン接種(産経新聞)資料 予防接種実施計画の作成等の状況(厚労省)5.ワクチン優先接種、精神疾患などの患者も対象に厚労省は、18日に第44回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会を開催し、新型コロナウイルスワクチン接種の接種順位、対象者の範囲・規模について議論した。接種の対象については、接種実施日に16歳以上とし、一定の順位を決めて接種を進める。4月12日から高齢者への接種を始め、基礎疾患のある人などに優先して接種を行う。(1)医療従事者等(2)高齢者(2021年度中に65歳に達する、1957年4月1日以前に生まれた方)(3)高齢者以外で基礎疾患を有する方や高齢者施設等で従事されている方(4)それ以外この会議において、優先接種に「重い精神疾患」や「知的障害」がある人も加えることになった。具体的には精神疾患で入院中の患者のほか、精神障害者保健福祉手帳や療育手帳を持っている人などが対象で、合わせておよそ210万人と見積もられている。(参考)資料 接種順位の考え方(2021年3月18日時点)(厚労省)6.科学的介護情報システム「LIFE」を訪問・居宅支援に活用へ厚労省は、2021年の介護報酬改定により、科学的介護情報システム「LIFE」の運用を始め、科学的なエビデンスに基づいた自立支援・重度化防止の取り組みを評価する方向性を打ち出した。今回の介護報酬改定で新設される「科学的介護推進体制加算」をはじめ、LIFEの取り組みには多くの加算が連携しており、対応を図る介護事業者にとってはデータ提出などが必須だ。さらに、改定では「訪問看護」にも大きなメスが入った。訪問看護ステーションの中には、スタッフの大半がリハビリ専門職で「軽度者のみ、日中のみの対応しか行わない」施設が一部あり、問題視されていたが、今回の改定ではリハビリ専門職による訪問看護の単位数を引き下げる、他職種と連携のために書類記載を求めるなど対策が行われている。(参考)2021年度介護報酬改定踏まえ「介護医療院の実態」「LIFEデータベース利活用状況」など調査―介護給付費分科会・研究委員会(Gem Med)リハビリ専門職による訪問看護、計画書や報告書などに「利用者の状態や訪問看護の内容」などの詳細記載を―厚労省(同)介護報酬の“LIFE加算”、計画の策定・更新が必須 PDCA要件の概要判明(JOINT)資料 訪問看護計画書及び訪問看護報告書等の取扱いについて(厚労省)

1433.

専門医が教える 新型コロナ・感染症の本当の話

忽那賢志氏が解説する新型コロナの正体と正しい対処法「新興再興感染症に気を付けろッ!」や「診療よろず相談TV」、最近ではYAHOOニュースでもお馴染みの忽那 賢志氏の新刊です。世界中で猛威を振るう新型コロナウイルス感染症。症状はどんな経過をたどり、どんな治療が行われるのか?他の感染症と比べてどんなところが怖く厄介か? 感染はどうしたら防げるか? ワクチンはどのぐらい有効なのか? そもそも感染症とは何か?新型コロナの日本上陸直後から最前線で治療にあたる感染症専門医が、自身の現場での経験と最新の科学データをもとにやさしく解説。新型コロナの正体と正しい対処法に加えて、コロナ禍を乗り切り、次のパンデミックに備えるための知識も身につく、必読の教科書です。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    専門医が教える 新型コロナ・感染症の本当の話定価900円 + 税判型新書判頁数264頁発行2021年3月著者忽那 賢志Amazonでご購入の場合はこちら

1434.

mRNAワクチン後のアナフィラキシー、医療者で報告多い?/JAMA

 Pfizer-BioNTech社およびModerna社のmRNA新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンについて、米国の医療従事者約6万5,000人を対象に、初回接種後の急性アレルギー反応発生状況について調査が実施された。マサチューセッツ総合病院のKimberly G. Blumenthal氏らによる、JAMA誌オンライン版2021年3月8日号リサーチレターでの報告。 2020年12月16日~2021年2月12日(フォローアップは2月18日まで)に、mRNA COVID-19ワクチンの初回投与を受けたMass General Brigham(MGB;ボストンを拠点とする非営利の病院および医師のネットワーク)の従業員が前向きに調査された。ワクチン接種後3日間、従業員は電子メール、テキストメッセージ、電話、スマートフォンアプリケーションのなどを通じて症状を報告した。 報告が求められた急性アレルギー反応の症状には、接種部位以外の発疹またはかゆみ、じんましん、口唇・舌・目・顔の腫脹、喘鳴・胸部圧迫感または息切れが含まれた。報告された症状は、Brighton Criteria2および国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)/食物アレルギー・アナフィラキシーネットワーク(FAAN)基準を使用して評価され、2つのうち少なくとも1つの基準を満たした場合にアナフィラキシーと判定された。 主な結果は以下の通り。・ワクチン初回接種を受けた6万4,900人のうち、2万5,929人(40%)がPfizer-BioNTech社、3万8,971人(60%)がModerna社のワクチンを接種した。・5万2,805人(81%)が1回以上回答した。・自己申告の急性アレルギー反応は、全体で1,365人から報告され(2.10%[95%CI:1.99~2.22%])、Pfizer-BioNTech社と比較してModerna社のワクチンでより頻繁に報告された(2.20%[2.06~2.35%] vs.1.95%[1.79~2.13%]、p=0.03)。・アナフィラキシーは16人で確認された(0.025%[95%CI:0.014~0.040%])。Pfizer-BioNTech社ワクチンでは7例(0.027%[0.011~0.056%])、Moderna社ワクチンでは9例(0.023%[0.011~0.044%])報告された(p=0.76)。・アナフィラキシーが確認された人の平均年齢は41(±13)歳、94%(15人)が女性だった。63%(10人)はアレルギー歴があり、31%(5人)はアナフィラキシー歴があった。・アナフィラキシー発症までは平均17(±28、1~120)分であった。・1人が集中治療室に入り、9人(56%)がエピネフリンの筋肉内投与を受け、全員がショック療法または気管挿管なしで回復した。 著者らは、本コホートで得られたアナフィラキシー発生率(2.47回/1万回ワクチン接種)は、CDCによる受動的サーベイランス(自発的報告)による報告(0.025~0.11回/1万回ワクチン接種)と比較して高いことに言及。それでも、mRNA COVID-19ワクチンによるアナフィラキシーの全体的なリスクは非常に低く、他の一般的な医療行為と同等としている。また、 本コホートの参加者は主に医療従事者であったため、自己申告データの信頼性は高い可能性があると考察している。 また、成人の約5%が重度の食物アレルギー歴、約1%が重度の薬物アレルギー歴を有していることを考慮すると、安全にワクチン接種された人のうち重度の食品または薬物アレルギー歴を持つ約4,000人が含まれている可能性があるとしている。

1435.

第49回 新型コロナ変異株報道が悲劇を生む前に伝えたいこと

最近、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)に関して、ワクチンと並んで報道量が多いのが、変異株関連である。すでに多くの方がご存じのように日本国内では英国型(B.1.1.7系統:VOC 202012/01)、南アフリカ型(B.1.351系統:VOC 501Y.V2)、ブラジル型(P.1系統)が確認されている。これに加え、最近ではフィリピン型、PCR検査で検出しにくいと言われる仏・ブルゴーニュ型などの報告もある。ただ、先日この変異株に関連したある報道を見て、私はかなり違和感を覚えてしまった。その違和感を紹介する前に、これら変異株についての現時点までの情報を改めて整理しておきたい。現在、日本で一定数の感染者が報告されているのは英国型、南アフリカ型、ブラジル型の3つである。いずれもが感染力が増強するN501Y変異、加えて南アフリカ型、ブラジル型では免疫逃避のE484K変異を持っていることがわかっている。感染性については英国型では最大40%、南アフリカ型では最大50%、ブラジル型では1.4~2.2倍、増強していると報告されている。死亡率に関しては英国型で64%上昇するとの報告があるものの、その他の変異株については不明である。厚生労働省の発表では3月16日時点で、26都道府県の399人の変異株感染事例が判明しており、変異株別では英国型が374人、南アフリカ型が8人、ブラジル型が17人。都道府県別の報告数を見ると、多くの都道府県が英国型のみの報告で兵庫県が94人、大阪府が72人、新潟県が32人、京都府が24人、東京都が14人、北海道が13人、広島県が12人など。また埼玉県は57人が報告され、うち英国型が42人、ブラジル型が15人。神奈川県は28人で、うち英国型が24人、南アフリカ型が4人。岐阜県が南アフリカ型のみ4人、山梨県がブラジル型のみ2人となっている。さて私が疑問に思った報道とは、昨今神奈川県が発表した変異株感染者2人の死亡事例に関してである。国内で初の変異株感染者の死亡例であるため、各紙が一斉に報じた。「コロナ変異株で国内初の死者 神奈川の50代と70代」(朝日新聞)「変異ウイルスに感染、初の死亡事例…神奈川の70代と50代男性」(読売新聞)「コロナ変異株で男性2人死亡 国内で初確認 神奈川県が発表」(毎日新聞)「変異株で国内初の死者 神奈川の男性2人」(産経新聞)「変異ウイルス感染の2人死亡 神奈川県、国内初確認」(日本経済新聞)「変異株で国内初の死者、神奈川 70代と50代の男性」(共同通信)いつもと違い共同通信を加えたのは、地方紙各社などがこの記事を掲載することが多いためだ。さて私見で恐縮だが、この中で私が報じ方として不合格と考えるのが読売新聞と毎日新聞であり、一番高く評価できるのは日本経済新聞。この評価の軸は、死亡した感染者の医学的なバックグラウンドをどれだけ丁寧に報じたかどうかにある。より具体的に説明すると、読売新聞、毎日新聞では報じなかった、死亡者の50代男性は高血圧・脂肪肝の基礎疾患あり、70代男性は基礎疾患なし、さらに日本経済新聞で記述している70代男性は新型コロナの症状で入院に至っていたという情報はいずれも極めて重要である。端的に言ってしまえば、この情報からは、そもそもこの2人は野生株での感染でも重症化や死亡のリスクが高い事例と分かるからである。前述のように変異株での致死性に関しては、英国型で高いとのBMJに掲載された報告があるものの、それ以外は目立った報告はなく、現時点でほぼ不明と言わざるを得ない。ところが新聞報道で基礎疾患の有無などの情報がなければ、「変異株に感染したから死亡した=変異株はただただ恐ろしい」という誤解を与えかねない。この誤解が問題なのは、差別・偏見の温床になるからである。新型コロナパンデミックが始まった当初、感染者や感染者に接する医療従事者に対する差別・偏見事例が数多く報告されたことは記憶に新しい。今でも同様の差別・偏見はなくなっていないが、徐々に減っていると私は感じている。その根拠の一つは例えば匿名性の低いSNSのFacebookでは、最近は感染をカミングアウトする人が増えていることである。それだけ市中感染が広がったということでもあり、誰かが新型コロナウイルスに感染したという事実だけならば、かなりの人が慣れ始めている。ところがそうした状況では、新たに登場した異質なものに多くの人はギョッとする。まさに「変異株」はそうした存在である。余談になるが、慣れっこの世界で新たに感じた異質さは時に悲劇を生む。今は一時休業しているが、私は戦争現場の取材もしている。その中でも最も取材期間が長かった「ボスニア内戦」がまさに新たに感じた異質さが生み出した悲劇の典型である。旧ユーゴスラビアの一構成共和国だったボスニア・ヘルツェゴビナは1992年に独立を宣言するが、その直後から国内では血で血を洗うかのような過酷な内戦が始まった。ボスニア国内の民族宗教に基づく人口構成が、イスラム教徒のボスニャック人が5割強、キリスト教正教徒のセルビア人が3割強、カトリック教徒のクロアチア人が1割という民族宗教のモザイク状態であったため、この3民族が三つ巴戦を繰り広げたというのが内戦に関する通説である。この通説は間違いではないが、私の口からより具体的に説明するならば、「独立を巡って権力闘争を繰り広げた政治家たちが、たまたま民族・宗教の違いを持っており、それぞれが自らを有利にさせるためにその違いを利用して自らの勢力確保と敵対勢力への憎悪をあおり、殺し合いが始まった」となる。短くまとめるなら、民族という皮をかぶった政治家同士の権力闘争である。そしてその実相は、従来はとくに民族や宗教の違いなど意識せずに暮らしてきた者同士が、突如互いが違う、しかも相手は怖いやつらだと宣伝され、顔の見える者同士で殺し合った戦争なのである。私はこの戦争の取材を通じて、「違い」の気づき方次第で人は取り返しのつかない結果を招くという現実を学んだ。話を元に戻すと、変異株については感染性が増強していることはほぼ確実視されている。そのことは正確に伝えなければならず、それだけでも今後感染者の中でも変異株感染者を危険視する風潮が起こる可能性は高い。だが、だからこそ致死性に関しては、意図しなかったものだったとしても過剰な印象を与えるような報道をしてはならない。そのことが実態以上に変異株を危険視させ、差別・偏見を助長させる可能性が高いからである。今回紹介したような「変異株感染者が死亡した」というだけの一部の報道は誤報ではない。しかし、時として解釈のない事実のみを報じることは、正確性を欠く典型事例である。自分もこの報道に接して改めて気を引き締め始めている。最後にこの件に関する地元紙・神奈川新聞の報道は、地元紙という特性も影響したのか、かなり丁寧で正確かつ不安を助長させないよう心がけていると感じた。

1437.

第49回 日本の科学者が見いだしたイベルメクチンは、コロナ治療の新たな希望か

新型コロナウイルスのワクチンを巡り、不安材料が浮上してきた。世界的なワクチン争奪戦の影響などで、米ファイザー製のワクチンが計画通りに供給されない可能性が出てきたり、英アストラゼネカ製のワクチンにおける副反応疑いが報じられたりしているからだ。翻って、ノーベル医学生理学賞受賞者(2015年)の大村 智氏(北里大学特別栄誉教授)の研究を基にした抗寄生虫薬「イベルメクチン」について、日本発の新型コロナウイルス感染症治療薬として期待する声が上がっている。新型コロナ治療薬としては未承認だが、中南米やアフリカ、中東でオンコセルカ症(河川盲目症)や類縁の感染症の治療薬として毎年約3億人が服用し、約30年間、副作用の報告がほとんどないという。イベルメクチンは2012年から、さまざまなウイルスに対する効果が多数報告されている。ヒトの後天性免疫不全症候群(AIDS)やデング熱ウイルス、インフルエンザウイルス、仮性狂犬病ウイルスなどだ。世界25ヵ国が新型コロナ治療薬に採用北里大学では2020年9月から、新型コロナウイルスに対する治療効果を調べる臨床試験を行っている。すでに医薬品として承認されているため、第I相を飛ばし、第II相の治験が実施されている。日本を含め、世界27ヵ国で91の臨床試験が行われており(2021年1月30日現在)、25ヵ国がイベルメクチンを新型コロナ感染症対策に採用している(2021年2月26日現在)。米国FLCCC(Front-Line COVID-19 Critical Care)アライアンスの会長Pierre Kory氏が2020年12月8日、上院国土安全保障と政府問題に関する委員会に証人として登壇した際は、イベルメクチンを新型コロナに対する「奇跡の薬」と評し、「政府はイベルメクチンの効果を早急に評価し、処方を示すべきだ」と訴えた。強力な支持、一方で効果を問う最新論文も…FLCCCは、2020年春以降、新型コロナ治療薬としてのイベルメクチンに関する臨床試験情報を収集・分析し、Webに公開している。これまでの臨床試験から可能性が示唆されているのは以下の通りだ。(1)患者の回復を早め、軽~中等症の患者の悪化を防ぐ。(2)入院患者の回復を早め、集中治療室(ICU)入室と死亡を回避させる。(3)重症患者の死亡率を低下させる。(4)イベルメクチンが広く使用されている地域では、新型コロナ感染者の致死率が著しく低い。さらにKory氏は、WHOがイベルメクチンを「必須医薬品リスト」に入れたことを強調。NIHやCDC、FDAに対し、イベルメクチンの臨床試験結果を早急に確認のうえ、医療従事者らに処方ガイドラインを示すように求めた。一方で、イベルメクチンが新型コロナ軽症患者に対して改善効果が認められなかったという無作為化試験の結果が今月、JAMA誌に掲載された1)。新型コロナを巡っては、ワクチンも治療薬も現在進行形で研究・開発が進み、エビデンスの蓄積と医療者や世間の期待とのバランスが非常に難しい。イベルメクチンが、コロナ治療における新たな希望になり得るのか、今後の研究の行方を注視したい。参考1)イベルメクチン、軽症COVID-19の改善効果見られず/JAMA

1439.

米国コロナ治療の今:重症コロナ患者へ実施する緩和医療とは【臨床留学通信 from NY】第18回

第18回:米国コロナ治療の今:重症コロナ患者へ実施する緩和医療とはコロナの最大の関心事は、いまワクチンにあると思います。日本でも医療従事者への接種が始まりましたが、こちらアメリカでは2月25日現時点で6,500万人ほどが1回目の接種をしているようです。しかしながら、米国の総患者数はおよそ人口の10%に相当する2,800万人。そして、ついに50万人の死亡が確認されています。ニューヨーク州は、2,000万人ほどの人口で一時期は1日の新規患者数が2万人にのぼる日もありましたが、現在は1万人以下に減っています。しかし、わたしが所属するMount Sinai Beth Israelでは、残念ながらまだコロナの患者さんの数が減っている気配を感じません。マンハッタン郊外にあたるクイーンズ地区やブルックリン地区にはMount Sinaiの関連病院があり、そこで収容できなかった患者さんがひっきりなしに転院搬送されてきます。日本では、大学病院と大学関連病院といっても経営母体が一緒であることはあまりないと思いますが、Mount Sinai Health SystemにはMount Sinai Hospitalという大学病院を中心に6つほどの病院を有しており、グループ間の転院搬送も専用の救急車でスムーズに行われます。病院としても利益をある程度求めなければならず、グループ間での転院搬送であれば問題はないという考えだと思います。電子カルテも統一されているため、受け入れる側も先方のカルテが閲覧できるため、二重の検査は不要で合理的です。そのようなシステムのため、レジデントがグループ内の病院で、2週間単位で研修を受けるということも可能です。さて、このところコロナ治療の最前線にいることが多かったのですが、緩和医療という日本ではあまり馴染みのない科のローテートをすることになりました。緩和というと、日本では主にがん患者さんに対する医療という意味が強いと思いますが、米国ではそれに限らず、集中治療をいくら施しても回復が難しい場合に、患者さんのcomfortを中心に行うことがあります。実は、そのようなケースが、コロナ患者さんで非常にたくさんおり、患者家族とのやりとりを経て、場合によってはpalliative extubationといって、人工呼吸器がないと生きていけない患者さんの気管内チューブを抜くことがあります。そのような、尊厳死と捉えられてもおかしくないような医療行為には賛否両論があると思いますが、国が違えば考えも違う、法律も違う(米国内でも、州ごとに仕組みが異なります)ということなんだと思います。Column3月21日(日)20時~(日本時間)zoomでウェブセミナーを行います。テーマは「米国循環器グループで行う戦略的メタアナリシス」です。ウェブセミナー「米国循環器グループで行う戦略的メタアナリシス」もしよければ覗いてみてください。

1440.

新型コロナワクチン、無症候性感染者を94%予防か/ファイザー

 米国・Pfizer社、ドイツ・BioNTech社、イスラエル保健省(MoH:Ministry of Health)は、イスラエルでの集積データから同社が製造する新型コロナウイルス感染症のmRNAワクチン(BNT162b2)の新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の発症や入院、死亡を予防する効果は、症候性の場合で少なくとも97%、無症候性の場合で94%だったことを3月11日付けのプレスリリースで発表した。また、今回のデータ解析からワクチン接種を受けていない人は症候性の新型コロナを発症する可能性は44倍高く、新型コロナが原因で死亡する可能性は29倍高いことも示唆されたという。 今回のリリースによると、イスラエルMoHが2021年1月17日~3月6日の匿名化されたデータを使用し、Pfizer社/BioNTech社が製造したワクチンの2回目の接種から2週間後の時点での健康状態を非接種者と比較したという。この当時、イスラエルではB.1.1.7株が流行していた。 ワクチンの有効性は年齢、性別、および検体が収集された週の変動などで調整し、6項目―新型コロナウイルス感染(症状のあり/なし いずれも含む)、無症候性のみ、 症候性のみ、新型コロナによる入院(重度:呼吸困難、毎分30回以上の呼吸、室内空気の酸素飽和度<94%、および/またはP/F比(PaO2/FiO2比)<300mmHg、入院期間の評価(機械的換気、ショック、および/または心臓、肝臓、腎臓機能の障害)、新型コロナによる死亡―から接種者と非接種者に対する予防効果を決定したという。 なお、この内容は現在プレプリント段階であり、近々、査読付き論文として公表予定とのこと。

検索結果 合計:2114件 表示位置:1421 - 1440