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第233回 コロナワクチンとがん免疫治療患者の生存改善が関連/ESMO2024

コロナワクチンとがん免疫治療患者の生存改善が関連/ESMO2024がん患者は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を生じ易いことが知られます。幸い、がん患者の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチン接種の安全性はおおむね良好です。いまや可能な限り必要とされるがん患者のSARS-CoV-2ワクチン接種が、その本来のCOVID-19予防効果に加えて、なんとがん治療の効果向上という思わぬ恩恵ももたらしうることが、今月13~17日にスペインのバルセロナで開催された欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2024)での報告で示唆されました1)。報告したのは米国屈指のがん研究所であるテキサス大学MDアンダーソンがんセンターのAdam J. Grippin氏です。Grippin氏らは今回の報告に先立ち、mRNAワクチンがその標的抗原はどうあれ、腫瘍のPD-L1発現を増やして抗PD-L1薬などの免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の効果を高めうることを、げっ歯類での検討で見出していました。そこでGrippin氏らはCOVID-19予防mRNAワクチンがPD-L1発現を促すことでICIが腫瘍により付け入りやすくなるのではないかと考え、StageIII/IVの進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者2,406例や転移黒色腫患者757例などの記録を使ってその仮説を検証しました。予想どおり、SARS-CoV-2 mRNAワクチン接種から100日以内のNSCLC患者の腫瘍では、PD-L1がより発現していました。また、5千例強(5,524例)の病理報告の検討でもSARS-CoV-2 mRNAワクチン接種とPD-L1を擁する腫瘍細胞の割合の55%上昇が関連しました。SARS-CoV-2 mRNAワクチンとICI治療効果の関連も予想どおりの結果となりました。ICIが投与されたNSCLC患者群のうち、その開始100日以内にSARS-CoV-2 mRNAワクチンを接種していた患者は、そうでない患者に比べて全生存期間(OS)がより長く(それぞれ1,120日と558日)、より多くが3年間を生きて迎えることができました(3年OS率はそれぞれ57.2%と30.7%)。一方、ICI非治療の患者の生存へのSARS-COV-2 mRNAワクチン接種の影響はありませんでした。黒色腫患者でも同様の結果が得られており、ICI治療開始100日以内のSARS-COV-2 mRNAワクチン接種はOS、無転移生存期間、無増悪生存期間の改善と関連しました。SARS-COV-2 mRNAワクチンはPD-L1発現亢進と黒色腫やNSCLC患者のICI治療後の生存改善と関連したとGrippin氏らは結論しています。Grippin氏らの研究はmRNAワクチンに的を絞ったものですが、昨年9月に中国のチームが報告した解析結果では、mRNA以外のSARS-CoV-2ワクチン接種とICI治療を受けたNSCLC患者の生存改善の関連が認められています2)。不活化ワクチン2種(BBIBP-CorVとCoronaVac)を主とするSARS-CoV-2ワクチンを接種してICI治療を受けたNSCLC患者は非接種群に比べてより長生きしました。中国からの別の2つの報告でもmRNA以外のSARS-CoV-2ワクチンのICIの効果を高める作用が示唆されています。それらの1つでは抗PD-1抗体camrelizumab治療患者2,048人が検討され、BBIBP-CorV接種と全奏効率(ORR)や病勢コントロール率(DCR)が高いことが関連しました3)。ただし年齢、性別、がんの病期や種類、合併症、全身状態指標(ECOG)を一致させたBBIBP-CorV接種群530例と非接種群530例のORRやDCRの比較では有意差はありませんでした。同じ研究者らによる翌年の別の報告では、抗PD-1薬で治療された上咽頭がん患者1,537例が調べられ、CoronaVac接種とORRやDCRの向上が関連しました4)。参考1)Association of SARS-COV-2 mRNA vaccines with tumor PD-L1 expression and clinical responses to immune checkpoint blockade / ESMO Congress 20242)Qian Y, et al. Infect Agent Cancer. 2023;18:50.3)Mei Q, et al. J Immunother Cancer. 2022;10:e004157.4)Hua YJ, et al. Ann Oncol. 2023;34:121-123.

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HPV感染は男性の生殖機能を損なう可能性

 HPV(ヒトパピローマウイルス)は、ほぼ全例(95%)の子宮頸がんの原因であることから、これまで女性の健康問題と考えられてきた。しかし、男性にもHPVを恐れる理由と予防接種を受けるべき理由のあることが新たな研究で明らかになった。男性が高リスク型のHPVに感染すると、生殖機能が障害される可能性のあることが示されたのだ。国立コルドバ大学(アルゼンチン)化学学部教授のVirginia Rivero氏らによるこの研究結果は、「Frontiers in Cellular and Infection Microbiology」に8月23日掲載された。 HPVは高リスク型と低リスク型に分類され、前者は、子宮頸がんや陰茎がん、肛門がんなどのリスクを上昇させ得る。米疾病対策センター(CDC)は、性的に活発になってウイルスに曝露するリスクが高まる前にHPVワクチンを接種する方が効果が高いことから、9〜14歳の小児へのワクチン接種を推奨している。しかし、男子でのワクチン接種率は女子よりも低く、2022年の米国での接種率は、女子で約65%であったのに対し男子では約61%にとどまっていたという。 この研究では、205人の男性(年齢中央値35歳)を対象に、生殖器系での高リスク型または低リスク型HPV感染と精液の質、酸化ストレス、炎症との関連が検討された。Rivero氏らが対象者の精液サンプルを調べたところ、19.0%(39/205人)でHPV感染が確認された。陽性サンプルからHPVの遺伝子型を割り出すことができたのは27人で、うち20人(74.0%)は少なくとも1種類の高リスク型HPVに、7人(26.0%)は低リスク型HPVに感染していることが確認された。対象者のうち、HPVも含め尿路病原菌が確認されず、膿精液症のなかった43人を対照とした。 解析の結果、高リスク型HPV感染者でも低リスク型HPV感染者でも、WHOのガイドラインに基づいて評価した精液の質に有意な低下は認められなかった。しかし、高リスク型HPV感染者では低リスク型HPV感染者や対照と比べて、精子のアポトーシスや壊死が有意に多く、活性酸素種(ROS)陽性精子の割合も高いことが確認された。また、高リスク型HPV感染者と低リスク型HPV感染者の精液に顕著な炎症は認められず、さらに前者では予想外にも、対照と比べて精液中の白血球と炎症性サイトカイン(IL-6およびIL-1β)レベルが低いことも観察された。 Rivero氏は、「高リスク型HPVに感染した男性は、酸化ストレスと尿生殖器の局所的な免疫反応の低下により、死滅する精子が増加することが示された。この結果は、これらの男性では生殖機能が障害を受けている可能性があることを示唆している」と話している。 Rivero氏は、「われわれの研究は、高リスク型HPVが精子のDNAの質にどのように影響し、それが生殖機能と子孫の健康とどのように関わってくるのかについて、重要な問題を提起している」との考えを示す。その上で、「これらの影響の根底にある生物学的メカニズムの解明が必要だ。また、性感染症(STI)は極めて一般的であることから、われわれは、HPV感染と他のSTIの併発がこれらの結果に影響を及ぼすかどうかを調査することを計画している」と話している。

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インフルワクチン接種と急性腎障害の関連~高齢者での検討

 インフルエンザワクチン接種後に急性腎障害(AKI)を発症した症例が報告されているが、その関連を示す集団レベルのエビデンスはない。韓国・Ewha Womans UniversityのHaerin Cho氏らによる大規模データベースを用いた自己対照ケースシリーズ研究の結果、インフルエンザワクチンの接種は65歳以上の高齢者のAKIリスク低下と関連することが明らかになった。Pharmacoepidemiology and Drug Safety誌2024年9月号掲載の報告より。 本研究では、韓国疾病管理庁の予防接種登録データと国民健康保険サービスの請求データを組み合わせた大規模データベースが使用された。ワクチン接種時に65歳以上で、2018~19年または2019~20年インフルエンザシーズン(それぞれ9月1日~翌4月30日まで)に、インフルエンザワクチンを1回以上接種し、接種後にAKIで入院した患者が対象。腎疾患の既往がある症例は除外された。 リスク期間をワクチン接種後1~28日、観察期間をインフルエンザの各流行シーズン、対照期間を接種前14日間およびリスク期間を除く観察期間として、自己対照ケースシリーズ研究を実施した。補正後発生率比(aIRR)は、条件付きポアソン回帰モデルを使用して、腎毒性を有する薬剤の使用とインフルエンザ感染による補正後、計算された。 主な結果は以下のとおり。・2018~19年と2019~20年のシーズンにインフルエンザワクチンを接種した722万2,439人が特定された。このうち、5万8,023例がAKIにより入院していた。・AKI入院患者のうち、腎疾患の既往がある症例、9月1日以前の発症例などが除外され、解析対象となったのは2018~19年:1万6,713例、2019~20年:1万6,272例であった。・リスク期間におけるaIRRは、2018~19年シーズン(aIRR:0.83、95%信頼区間[CI]:0.79~0.87)および2019~20年シーズン(aIRR:0.86、95%CI:0.82~0.90)のいずれにおいても、対照期間と比較して統計学的に有意に減少していた。 著者らは、今回の結果は台湾で行われた研究結果1)と一致しており、インフルエンザワクチン接種が高齢者のAKI予防に役立つ可能性が示唆されるとともに、高齢者への毎年のインフルエンザ予防接種推奨が裏付けられたとしている。一方、インフルエンザワクチンとAKIを関連付ける生物学的メカニズムを明らかにするには、さらなる研究が必要と指摘している。

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第114回 10月からの新型コロナワクチンの値段がヤバイ

10月から定期接種次の新型コロナワクチンの案内はいつ来るのかと待ちわびていたら、秋冬のインフルエンザワクチン接種と時期を合わせるかのように定期接種が開始されることになりました。「2,000~3,000円なら余裕で打つっしょ!」と思っていたら、われわれ非高齢者の医療従事者の自己負担額は…1万5,300円!!!グハッ!鉄板焼の高級店のカウンターで、神戸牛フィレ肉をカットしてもらうくらい高いでんがな!もともと新型コロナワクチンというのは、1回接種すると原価で1万5,300円かかるのです。そもそもが高い。65歳以上の高齢者や、60~64歳の重度の疾患がある場合には定期接種が適用され、安い値段で接種できるような仕組みになっています。この負担軽減は、国と自治体の両方が頑張ってくれていて、渋谷区や足立区のように、高齢者の場合は無料で接種できるところもあるようです。問題はわれわれ任意接種世代です。過去には医療従事者にも新型コロナワクチンの接種費用が減免された時代もありましたが、今やもう一般の方々と同じ扱いです。当院のスタッフに聞いたところ、打たない人のほうが多かったです。子供についても、何らかの助成があってしかるべきと思いますが、今のところ自治体に委ねられているようです。ワクチン流通量は?これまで圧倒的なシェアを得ていたmRNAワクチンが流通量のほとんどを占め1)、おそらく主にこれが選択されるでしょう(表)。SNSで炎上気味のレプリコンワクチンについては400万回程度の流通です。画像を拡大する表. 10月以降流通する新型コロナワクチン(筆者作成)レプリコンワクチンについては、mRNAを自己複製できるという意味ですが、この言葉が独り歩きして、周囲にシェディングをもたらすなどというデマが広まっているようです。生物学の知識があれば、誤ったことであることは読者の皆さんもおわかりかと思いますが…。レプリコンワクチンは、1本16人分なので、集団接種とかそういうことになったら使いやすいかもしれませんが、クリニックや医療機関では外来用に使いづらいかもしれません。外来で聞かれることが増えた最近外来で、「10月以降、新型コロナワクチンを接種すべきかどうか」という質問を患者さんからよくいただきます。個人的には、「これまでインフルエンザワクチンを接種していたなら検討いただく形でよい」と返しています。ただ、この値段だと、全員に強くお勧めするとは簡単に言えなくなりました。最近だと、帯状疱疹ワクチンもそれなりに高いですが、今後ワクチンの原価は上がってくる時代なのかもしれません。参考文献・参考サイト1)厚生労働省 健康・生活衛生局 感染症対策部 予防接種課. 2024/25シーズンの季節性インフルエンザワクチン及び新型コロナワクチンの供給等について(2024年9月2日)

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JN.1系統対応の次世代mRNA(レプリコン)コロナワクチン、一変承認取得/Meiji Seika

 Meiji Seikaファルマは9月13日のプレスリリースにて、同社の新型コロナウイルス感染症に対するオミクロン株JN.1系統に対応した次世代mRNA(レプリコン)「コスタイベ筋注用」について、製造販売承認事項一部変更承認を取得したことを発表した。 同社は、2024年5月29日に開催された「第2回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会研究開発及び生産・流通部会季節性インフルエンザワクチン及び新型コロナワクチンの製造株について検討する小委員会」にて、2024/25シーズン向けの新型コロナワクチンの抗原構成がJN.1系統に取りまとめられたことを受け、同年5月31日に本剤のJN.1系統に対応したワクチンの日本における一部変更承認申請を行った。 本剤は、新規のmRNA技術を使用した次世代mRNAワクチンであり、既承認mRNAワクチンよりも少ない有効成分量で高い中和抗体価を示し、その抗体価が長く維持されることを特徴としている。 また、忍容性も高く、安全性については既承認mRNAワクチンと同様であり、有害事象の多くが軽度または中等度であることが国内外の臨床試験で示されている。 本剤は、年1回の定期接種に適したプロファイルを有すると考えられ、とくにリスクの高い高齢者に、新型コロナウイルス感染症の予防における新たな選択肢を提供すると期待されている。 同社は、本剤を2024/25シーズンに1バイアル(16回接種分)のJN.1系統対応ワクチンとして、近日中に供給を開始する予定。

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わが国初のダニ媒介性脳炎予防ワクチン「タイコバック水性懸濁筋注」【最新!DI情報】第23回

わが国初のダニ媒介性脳炎予防ワクチン「タイコバック水性懸濁筋注」今回は、組織培養不活化ダニ媒介性脳炎ワクチン(商品名:タイコバック水性懸濁筋注0.5mL/小児用水性懸濁筋注0.25mL、製造販売元:ファイザー)を紹介します。本剤はわが国初のダニ媒介性脳炎の予防ワクチンであり、致死的な経過および後遺症の予防が期待されています。<効能・効果>本剤は、ダニ媒介性脳炎の予防の適応で、2024年3月26日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>初回免疫の場合、16歳以上には1回0.5mL、1歳以上16歳未満には1回0.25mLを3回、筋肉内に接種します。2回目接種は1回目接種の1~3ヵ月後、3回目接種は2回目接種の5~12ヵ月後に接種します。免疫の賦与を急ぐ場合には、2回目接種を1回目接種の2週間後に行うことができます。追加免疫の場合、16歳以上には1回0.5mL、1歳以上16歳未満には1回0.25mLを筋肉内に接種します。<安全性(0.5mL製剤の場合)>重大な副反応として、ショック、アナフィラキシー、多発性硬化症、急性散在性脳脊髄炎、ギラン・バレー症候群、脊髄炎、横断性脊髄炎、脳炎(いずれも頻度不明)があります。その他の頻度の高い副反応として、注射部位疼痛(35.0%)、下痢(10%以上)があります。10%未満の副反応には、注射部位出血、注射部位腫脹などの局所症状、上気道感染、浮動性・回転性めまい、悪心、嘔吐、腹痛、皮膚そう痒症、発疹などがあります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、ダニ媒介性脳炎を予防するためのワクチンです。2.ワクチン接種したすべての人で、ダニ媒介性脳炎ウイルスへの感染が完全に予防されるわけではありません。マダニに咬まれるリスクが高い環境下では、虫よけ剤の使用や皮膚の露出を少なくするなど、基本的な感染リスク低減対策をとってください。3.接種は、3回の接種を行う「初回免疫」と必要に応じて接種を行う「追加免疫」があります。初回免疫1回目の接種のみでは、発症の予防を期待することはできません。4.ショック、アナフィラキシーが現れることがあるので、医師の監視下で接種を行います。接種後、少なくとも15分間は座って安静にしてください。<ここがポイント!>ダニ媒介性脳炎(tick-borne encephalitis:TBE)は、TBEウイルスを保有するマダニに咬まれることで感染・発症します。TBEは重度の急性臨床経過をたどり、日本に多い極東亜型ウイルスの感染では、7~14日の潜伏期間後に頭痛、発熱、悪心、嘔吐が現れ、進行すると精神錯乱や昏睡、痙攣などの脳炎症状が生じることがあります。致死率は20%以上で、生存者であっても30~40%に後遺症が残るとされています。TBEに対する抗ウイルス治療はなく、対症療法が中心となります。本剤はTBEを予防するためのワクチンで、TBEリスク地域でレクリエーションや農業・林業などの野外活動でマダニに咬まれるリスクがある人に接種が推奨されます。ただし、接種したすべての人で感染が予防されるわけではないので、マダニに咬まれるリスクが高い場合には、虫よけ剤の塗布や防護服の着用または皮膚露出を避けるなど、感染リスク低減のための基本的な対策が重要です。本剤は、TBEウイルスをSPF発育鶏卵から採取したニワトリ胚初代培養細胞で増殖させ、得られたウイルスをホルムアルデヒドで不活化した後、精製し、安定剤およびアジュバント(水酸化アルミニウム懸濁液)を加えたものです。TBEウイルスに感染歴のない日本人健康成人および健康小児を対象とした国内第III相試験(B9371039試験:初回免疫)において、本剤を3回接種した4週間後にTBEウイルス中和抗体陽性率は成人および小児とも90%以上に達しました。また、追加免疫における海外第IV相試験(223試験)や免疫持続性における海外第IV相試験(690701試験、691101[B9371010]試験)で本剤の有効性が確認されています。なお、ダニ媒介性脳炎ワクチンは、医療上の必要性が高いワクチンとして厚生労働省からの要請を受けて開発されました。

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国内初承認のダニ媒介性脳炎ワクチンを発売/ファイザー

 ファイザーは9月13日付のプレスリリースにて、成人および小児におけるダニ媒介性脳炎の発症を予防する国内初の承認ワクチン「タイコバック(R)水性懸濁筋注0.5mL」および「タイコバック(R)小児用水性懸濁筋注0.25mL」(一般名:組織培養不活化ダニ媒介性脳炎ワクチン)を、同日より発売したことを発表した。 本剤は、1970年代にIMMUNO社が開発した不活化ダニ媒介性脳炎ウイルスワクチンで、最初に市販された組織培養由来ダニ媒介性脳炎ワクチン。その後の改良を経て、ダニ媒介性脳炎の流行国を中心に使用されている。ファイザーは、2015年にバクスターから本剤の製造販売承認を承継した。 ダニ媒介性脳炎は、ダニ媒介性脳炎ウイルス(tick-borne encephalitis virus:TBEV)を保有するマダニに刺咬されることで感染する疾患だ。急性ダニ媒介性脳炎の経過や長期的転帰は、感染したTBEVの亜型により異なる。日本では、北海道で極東亜型ウイルスが分布していると報告されており、感染すると徐々に頭痛、発熱、悪心、嘔吐などの髄膜炎症状が現れ、脳脊髄炎などを発症すると、精神錯乱、昏睡、痙攣、麻痺などの中枢神経症状を呈する。極東亜型の致死率は20%以上で、生存者の30~40%に神経学的後遺症がみられるなど、最も重篤な経過をたどると報告されている1)。しかし、有効な治療法がなく、本ワクチンによる予防が重要な役割を担うと見込まれている。 海外では、英国、ノルウェー、フランス、ドイツ、ロシアを含むヨーロッパ、東アジアなどで毎年1万~1万5,000件の発生が報告されているものの、日本では2018年に発生した国内5例目以降の報告はなかった。しかし、2024年6月に札幌市で6例目、7月に函館市で7例目の発生が報告された2)。これまでに国内で報告された7例はすべて北海道で発生しているが、原因不明の中枢神経系疾患患者の血液を後方視的に調査した報告では、東京都、岡山県、大分県でTBEV抗体陽性例が示されている3,4)。また、栃木県、島根県、長崎県などにおいても抗TBEV抗体を保有する動物が確認されていることから、これらのウイルスが国内に広く分布していることが示唆されている4,5)。ダニ媒介性脳炎は、疾患認知や検査体制が十分に整っていないなどの理由から、急性脳炎などを発症しても診断に至っていない可能性が示唆されており、本邦におけるダニ媒介性脳炎の実態は十分に把握されていない。 本剤は1970年代から欧州を中心に広く使用されており、本邦では「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」にて医療上の必要性が高い医薬品と評価され、2019年9月19日にファイザーが厚生労働省から本剤の開発要請を受けた。この開発要請を受け同社が実施した国内第III相試験の結果などに基づき、2024年3月26日に承認された。本剤の接種により、TBEVに感染する可能性のある地域居住者や、ダニ媒介性脳炎の流行地域への渡航者の感染を予防することが期待される。<用法及び用量>タイコバック(R)水性懸濁筋注0.5mL・接種対象者:16歳以上の者・初回免疫の場合、1回0.5mLを3回、筋肉内に接種する。2回目接種は、1回目接種の1~3ヵ月後、3回目接種は、2回目接種の5~12ヵ月後に接種する。免疫の賦与を急ぐ場合には、2回目接種を1回目接種の2週間後に行うことができる。・追加免疫の場合、1回0.5mLを筋肉内に接種する。[用法及び用量に関連する注意]・追加免疫について、必要に応じて3回目接種の3年後に追加免疫を行い、以降は16~60歳では5年ごと、60歳以上では3年ごとの追加免疫を行うこと。・0.25mL接種対象者には使用しないこと。タイコバック(R)小児用水性懸濁筋注0.25mL・接種対象者:1歳以上16歳未満の者・初回免疫の場合、1回0.25mLを3回、筋肉内に接種する。2回目接種は、1回目接種の1~3ヵ月後、3回目接種は、2回目接種の5~12ヵ月後に接種する。免疫の賦与を急ぐ場合には、2回目接種を1回目接種の2週間後に行うことができる。・追加免疫の場合、1回0.25mLを筋肉内に接種する。[用法及び用量に関連する注意]・追加免疫について、必要に応じて3回目接種の3年後に追加免疫を行い、以降は5年ごとの追加免疫を行うこと。・0.5mL接種対象者には使用しないこと。水性懸濁筋注0.5mL、小児用水性懸濁筋注0.25mL共通事項・2回目接種意向に接種が中断された場合は、できるだけ速やかに接種し、以降の接種を継続すること。・医師が必要と認めた場合には、他のワクチンと同時に接種することができる。・初回免疫完了前にダニ媒介性脳炎ウイルスに感染するリスクがある場合(ダニ媒介性脳炎流行時期における流行地域への渡航等)は、その前に本剤を2回接種すること。

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第113回 経鼻インフルワクチン「フルミスト」を使いますか?

フルミスト登場私は子供の頃、注射されるのが恐怖だったのですが、「全然怖くないやい!」と言いつつ強がっていました。インフルエンザワクチンは例外なく腕に注射されるため、とくに小さな子供ではなかなか大変なことがあります。さて、鼻に噴霧するタイプのインフルエンザワクチン「フルミスト®」が今年から使用されます。2003年にアメリカで、2011年にヨーロッパで認可されたもので、世界から10年以上遅れて日本でようやく認可されました。めっちゃ遅いやんけ!と思いましたが、しばらくH1N1株に対する有効性が疑問視されてきて、中央で揉まれていた時期があるようです。保存状態も含めていろいろと改善点が判明し、その後国際的にも推奨されたことが、承認の後押しとなっています。このフルミスト、針を刺さないため、「痛くない」というメリットが期待されています。対象年齢は?フルミストの対象年齢は、2歳以上19歳未満です。2歳未満の子供に対しては喘鳴のリスクが増加したという報告があり、使用が認められていません。また、国際的には49歳まで使用可能ですが、日本の薬事承認は上限19歳未満で、これも注意が必要です。要は、子供のためのワクチンなのですよ、これは。フルミストは、不活化ワクチンではなく、弱毒化したウイルスを使った「生ワクチン」なので、妊婦や免疫不全状態にある方には使用できません。もちろん、注射で用いられてきた従来の不活化ワクチンは、2歳未満でも妊婦でも接種可能です。フルミストの効果は?鼻粘膜の表面に直接免疫を成立させることから、高い感染防御効果が期待できます。とくに小さな子供に対しては、従来の注射不活化ワクチンと効果は同等で、感染の成立を約7割減らすとされています。また、重症化リスクを軽減する効果が示されています。「接種しても感染した」とおっしゃる人が一定割合いますが、全員に効果があるわけではなく、コミュニティ全体でリスクを低減する効果を期待して接種することになります。フルミストの注意点は?これも上述したように、2歳未満、妊婦、免疫不全のある人には使えないことです。需要が一番高い層には不適なので、従来の注射不活化ワクチンを使用ください。注意点としては、生ワクチンなので、経鼻接種後に鼻水や咳などの風邪症状がみられる場合があることです。そのため、喘息や鼻詰まりが強い子供では、接種を避けたほうがよいでしょう。副反応で風邪症状が出現した場合、生ワクチンなので接種から2週間程度、インフルエンザ抗原検査が「陽性」になってしまう可能性があります。この解釈には注意が必要でしょう。その他、卵アレルギーやゼラチンアレルギーのある人も避けたほうがよいとされています。費用が確定すれば、すぐにでも接種が始まるでしょうね。

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mRNAコロナワクチン後の心筋炎、心血管合併症の頻度は低い/JAMA

 従来型の心筋炎患者と比較して、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後に心筋炎を発症し入院した患者は心血管合併症の頻度が高いのに対し、COVID-19のmRNAワクチン接種後に心筋炎を発症した患者は逆に心血管合併症の頻度が従来型心筋炎患者よりも低いが、心筋炎罹患者は退院後数ヵ月間、医学的管理を必要とする場合があることが、フランス・EPI-PHAREのLaura Semenzato氏らの調査で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2024年8月26日号で報告された。フランスのコホート研究 研究グループは、COVID-19 mRNAワクチン接種後の心筋炎および他のタイプの心筋炎に罹患後の心血管合併症の発生状況と、医療処置や薬剤処方などによる疾患管理について検討する目的でコホート研究を行った。 フランス国民健康データシステムを用いて、2020年12月27日~2022年6月30日にフランスで心筋炎により入院した12~49歳の患者4,635例のデータを収集した。 これらの患者を、ワクチン接種後心筋炎(COVID-19 mRNAワクチン接種から7日以内、558例[12%])、COVID-19罹患後心筋炎(重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2[SARS-CoV-2]感染から30日以内、298例[6%])、従来型心筋炎(COVID-19 mRNAワクチン接種やSARS-CoV-2感染とは関連のない心筋炎、3,779例[82%])に分類した。 主要アウトカムは、初回入院から18ヵ月間における心筋心膜炎による再入院、心筋心膜炎以外の心血管イベント、全死因死亡と、これらのイベントの複合アウトカムとし、退院後の医療管理(心臓画像検査、心血管治療[β遮断薬、レニン-アンジオテンシン系作用薬]、冠動脈検査[冠動脈造影、CT検査]、トロポニン検査、ストレス検査など)についても評価を行った。再入院と他の心血管イベントにも差はない ワクチン接種後心筋炎群は、COVID-19罹患後心筋炎群および従来型心筋炎群に比べ年齢が若く(平均年齢25.9[SD 8.6]歳、31.0[10.9]歳、28.3[9.4]歳)、男性が多かった(84%、67%、79%)。 18ヵ月時の複合アウトカムの標準化発生率は、従来型心筋炎群が13.2%(497/3,779例)であったのに比べ、ワクチン接種後心筋炎群は5.7%(32/558例)と低く(重み付けハザード比[wHR]:0.55、95%信頼区間[CI]:0.36~0.86)、COVID-19罹患後心筋炎群は12.1%(36/298例)であり同程度だった(1.04、0.70~1.52)。 心筋心膜炎による再入院(ワクチン接種後心筋炎群と従来型心筋炎群の比較:wHR 0.75[95%CI:0.40~1.42]、COVID-19罹患後心筋炎群と従来型心筋炎群の比較:1.07[0.53~2.13])および心筋心膜炎以外の心血管イベント(0.54[0.27~1.05]、1.01[0.62~1.64])は、いずれも差を認めなかった。 全死因死亡は、ワクチン接種後心筋炎群が1例(0.2%)、COVID-19罹患後心筋炎群が4例(1.3%)、従来型心筋炎群は49例(1.3%)でみられた。医療処置、薬剤処方の頻度は従来型心筋炎群と同様 ワクチン接種後心筋炎群およびCOVID-19罹患後心筋炎群の退院から18ヵ月間の医療処置(心臓画像検査、トロポニン検査、ストレス検査)および薬剤処方の標準化された頻度は、従来型心筋炎群と同様の傾向を示した。 著者は、「これらの知見は、現時点および将来にmRNAワクチンを推奨する際に考慮すべきと考えられる」としている。

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ヘルスリテラシー世界最低国の日本、向上のカギは「がん教育」

 現在、小・中・高等学校で子供たちが「がんの授業」を受けていること、そしてその授業を医師などの医療者が担当する可能性があることをご存じだろうか。 2024年8月27日、厚生労働省プロジェクト「がん対策推進企業アクション」メディアセミナーで、中川 恵一氏(東京大学大学院医学系研究科 総合放射線腫瘍学講座 特任教授)が「がん教育の意味」をテーマに、ヘルスリテラシーから考えるがん教育、授業の効果、医療者による授業などについて解説した。ヘルスリテラシーの欠如と学校がん教育 ヘルスリテラシーとは「健康情報を入手し、理解し、評価し、活用するための知識、意欲、能力」を指すが、先進国以外も含む調査において、日本のヘルスリテラシーは最低レベルであることが報告されている1)。 がんはヘルスリテラシーを高めることでコントロールできる側面があるが、日本においては、予防につながる生活習慣の理解や早期発見のためのがん検診受診率などに課題が多い。また、受動喫煙対策やワクチン接種など、がん対策の遅れの背景にも、ヘルスリテラシーの欠如があるという。 中川氏は、がん予防に関わる費用を他国と比較した場合、日本では教育や情報提供に占める割合が少ないことを示したうえで、今後国民のヘルスリテラシーを向上させうる「学校がん教育」への期待を語った。がん教育の効果の検証 がん教育は、教育カリキュラムの基準となる学習指導要領に2017年から明記されており、全国の小・中・高等学校で授業が始まっている。がん教育の一般認知度はまだ高いとはいえない状況だが、子供が授業で学んだことを親と話したり、がんについて学ぶ授業があることを親が知ったりすることで、大人のヘルスリテラシー向上も期待されている。 実際に、香川県の中学校におけるがん教育授業開始後に、町内の大腸がん検診受診率が向上したという報告もある。また、授業を受けた子供の知識やリテラシーが向上したことも報告されている2)。ただし、授業を受けた子供の成人後の検診受診意向の変化などについてはまだ調査が不十分であり3)、がん教育の長期的な効果の検証が求められる。高知県では、がん教育授業を受けた卒業生を対象に、子宮頸がんワクチン接種の有無などを含む行動変容について今後調査する予定である。医療者のがん教育参画への期待 がん教育をより効果的なものとするために、医療者やがんサバイバーなど、外部講師の授業への参画が期待されている。しかし、令和5年度の調査4)では、がん教育授業を実施した学校のうち、外部講師が授業を実施した割合は中学校で16.4%、高等学校で11.3%にとどまっており、この向上が課題の1つとなっている。 中川氏は「がん教育は、(死のイメージが強い)がんを題材とすることで、子供たちが命の大切さや死について考える大事な機会になる」としたうえで、医療者やがんサバイバーなどの参画の重要性を語った。さらに、学校医はがん検診受診促進やがんの緩和ケアに関わる機会もあるため、外部講師としての活動も期待されると述べた。 東京都で多くのがん教育授業を実施している南谷 優成氏(東京大学医学部附属病院 放射線科 助教)は、医学生にも授業を担当してもらっているという。授業を行うことは、患者教育やヘルスコミュニケーションについて学ぶ機会となるため、医療者にもメリットがあると語った。また、授業のインパクトを残すことは重要であり、そのためにも学校の教師ではなく外部講師が授業を実施する意義があると述べた。 高いヘルスリテラシーを持つ医療者ががん教育に参画することで、国民全体のヘルスリテラシーのさらなる向上が期待される。

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ファイザー肺炎球菌ワクチン「プレベナー20」一変承認取得、高齢者にも適応

 ファイザーは8月28日付のプレスリリースにて、同社の肺炎球菌ワクチン「プレベナー20(R)水性懸濁注」(一般名:沈降20価肺炎球菌結合型ワクチン[無毒性変異ジフテリア毒素結合体])について、「高齢者又は肺炎球菌による疾患に罹患するリスクが高いと考えられる者における肺炎球菌(血清型1、3、4、5、6A、6B、7F、8、9V、10A、11A、12F、14、15B、18C、19A、19F、22F、23F及び33F)による感染症の予防」に対する国内の医薬品製造販売承認事項一部変更承認を取得したことを発表した。今回の承認取得は、60歳以上の成人を対象とした国際共同第III相試験1)および海外第III相試験2)の結果に基づく。 本剤は、同社の従来の沈降13価肺炎球菌結合型ワクチン「プレベナー13(R)」に7血清型を加えたことにより、さらに広範な血清型による肺炎球菌感染症を予防することが期待される。プレベナー20の「小児における肺炎球菌(血清型1、3、4、5、6A、6B、7F、8、9V、10A、11A、12F、14、15B、18C、19A、19F、22F、23F及び33F)による侵襲性感染症の予防」の適応については、2024年3月26日に承認を取得している。 なお、プレベナー20の発売日は8月30日で、プレベナー13は今後市場から引き上げ、9月30日をもって販売を終了する。現在日本でも、プレベナー13には含まれない血清型による肺炎球菌感染症罹患率の絶対的増加が認められているという。<製品名>プレベナー20(R)水性懸濁注<一般名>日本名:沈降20価肺炎球菌結合型ワクチン(無毒性変異ジフテリア毒素結合体)英名:20-valent Pneumococcal Conjugate Vaccine adsorbed(Mutated diphtheria CRM197 conjugate)<用法及び用量>・高齢者又は肺炎球菌による疾患に罹患するリスクが高いと考えられる6歳以上の者:肺炎球菌による感染症の予防:1回0.5mLを筋肉内に注射する。・肺炎球菌による疾患に罹患するリスクが高いと考えられる6歳未満の者:肺炎球菌による感染症の予防:1回0.5mLを皮下又は筋肉内に注射する。・小児:肺炎球菌による侵襲性感染症の予防 初回免疫:通常、1回0.5mLずつを3回、いずれも27日間以上の間隔で皮下又は筋肉内に注射する。 追加免疫:通常、3回目接種から60日間以上の間隔をおいて、0.5mLを1回皮下又は筋肉内に注射する。

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新型コロナの経鼻ワクチン、動物実験で感染を阻止

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の次世代経鼻ワクチンは、従来の注射型のワクチンにはできなかった、人から人へのウイルスの伝播を阻止できる可能性のあることが、動物実験で示された。この経鼻ワクチンが投与されたハムスターは、ウイルスに感染しても他のハムスターにそれを伝播させることはなく、感染の連鎖を断ち切ったと米セントルイス・ワシントン大学医学部分子微生物学および病理学・免疫学分野のAdrianus C. M. Boon氏らが報告した。詳細は、「Science Advances」8月2日号に掲載された。研究グループは、今回の動物を用いた研究によって、鼻や口へのワクチン投与がインフルエンザやCOVID-19といった呼吸器感染症の感染拡大を抑えるカギになる可能性があることを支持するエビデンスが増えたと話している。 注射型のCOVID-19のワクチンは重症化例や死亡例を減らすことはできたが、感染拡大を防ぐことはできなかった。ワクチン接種済みの軽症患者でも、ウイルスを他の人にうつす可能性はあったからだ。Boon氏らによると、インフルエンザウイルスや新型コロナウイルス、RSウイルスなどは鼻の中で急速に増殖するため、咳やくしゃみ、さらには呼吸するだけでも、人から人へと広がっていくのだという。 注射型のワクチンは、血流中と比べると鼻の中での効果が大幅に低いため、鼻の中は急速に増殖して広がっていくウイルスに対して無防備な状態になりやすい。そのため、研究者らは長年、スプレーや滴下によって鼻や口にワクチンを投与すれば、最も必要とされる場所で免疫反応が引き起こされ、感染症の伝播を抑えることができると考えてきた。 Boon氏らは今回、ハムスターを用いて、インドで使用されているCOVID-19の経鼻ワクチン(iNCOVACC)をファイザー社の注射型のワクチンと比較する2段階のプロセスから成る実験を行った。 まず、一群のハムスターに2種類のワクチンを投与した後、十分な免疫応答が誘導されるまで数週間待った上で、新型コロナウイルスを感染させた他のハムスターとともに8時間にわたって同じ空間に置いた。その結果、経鼻ワクチンが投与された14匹中12匹(86%)、注射型ワクチンが投与された16匹中15匹(94%)の鼻と肺からウイルスが検出された。しかし、経鼻ワクチンが投与されたハムスターでは、注射型ワクチンが投与されたハムスターと比べて、気道から検出されたウイルス量が10万分の1~100分の1にとどまっていることが明らかになった。 さらに、次の段階の実験で、ウイルスに感染した、経鼻または注射型ワクチン接種済みのハムスターを他のワクチン接種済みまたは未接種の健康なハムスターと同じ空間で8時間一緒に過ごさせた。その結果、経鼻ワクチンが投与されたハムスターに接した健康なハムスターは、ワクチン接種済みか未接種かにかかわらず1匹も感染していなかった。一方、注射型ワクチンが投与されたハムスターに接した健康なハムスターは、約半数が感染していた。 こうした結果を受けてBoon氏らは、「鼻からのワクチン接種によってウイルス伝播のサイクルが断ち切られた」と結論付けた。またBoon氏は、「粘膜ワクチンは呼吸器感染症に対するワクチンの未来の姿だ」と期待を示し、「これまで、このようなワクチンの開発は困難だった。われわれが必要とする免疫応答はどのようなものなのか、それを誘導するにはどうすればよいのか、まだ不明なことがたくさんある。今後数年のうちに、呼吸器感染症用ワクチンの大幅な改良につながるような刺激的な研究が続々と出てくるだろう」と述べている。

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モデルナのJN.1対応コロナワクチン、一変承認を取得

 モデルナは2024年8月23日付のプレスリリースにて、オミクロン株JN.1に対応する新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン「スパイクバックス筋注(1価:オミクロン株JN.1)」の承認事項の一部変更承認を厚生労働省より取得したことを発表した。 厚生労働省は2024年5月に、2024/2025秋冬シーズンの定期接種に使用する新型コロナワクチンの製造株として、JN.1系統および下位系統に中和抗体を誘導する抗原を採用することを決定していた。このガイダンスは、世界保健機関(WHO)のTAG-CO-VACの勧告と一致している1)。 この秋冬に自治体により行われる新型コロナワクチンの定期接種の対象は65歳以上または、60~64歳で心臓、腎臓または呼吸器の機能に障害があり、身の回りの生活が極度に制限される人、およびヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫の機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能であるなど一定の健康状態にある人が対象だ。ただし、対象外でも任意で接種を受けることができる。 また同社は7月に、田辺三菱製薬と、日本におけるモデルナのmRNA呼吸器ワクチンポートフォリオのコ・プロモーション契約を締結したことを発表した。同社のリリースによると、当初契約期間は2029年3月31日までであり、本契約の締結に基づき、モデルナのmRNA呼吸器ワクチンの製造、販売、メディカル活動および流通をモデルナ・ジャパンが行い、日本における公衆衛生のためのプロモーション活動を両社が実施する。このポートフォリオには、モデルナのCOVID-19ワクチンであるスパイクバックスも含まれるという。

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第110回 MSDが「HPVワクチン訴訟」にコメント

HPVワクチンのキャッチアップは9月末まで子宮頸がんの原因となっているヒトパピローマウイルス(HPV)に対するワクチンについては、一時、積極的な接種勧奨が控えられていましたが、2022年より勧奨が再開されました。勧奨が一時控えられ、「空白期間」ができてしまった理由として、ワクチンの副反応に対する声がマスコミに取り上げられたことが挙げられます。産婦人科の漫画として有名な『コウノドリ』においても、マスコミの科学的根拠のないHPVワクチンに反対するキャンペーンに屈したのは日本だけである、と書かかれています。日本では毎年約1万人の女性が子宮頸がんと診断され、約3,000人が亡くなっています。HPVワクチンの接種率は激減し、後進国になってしまい、欧米の接種率と大きく差が付きました。子宮頸がんに罹患する割合も、先進国の中では高いほうで、今後ワクチン未接種の子宮頸がんの女性がさらに増えていくと予想されています。現在、HPVワクチンの定期接種の機会を逃した高校2年生から27歳の女性を対象にした無料キャッチアップ接種を実施しています。しかしながら、この施策は2025年3月末で終了します。HPVワクチンは3回接種が必要なので、無料で完遂するためには、2024年9月末までに初回接種を開始しなければいけません。MSDがコメントを発表2016年に複数の女性がHPVワクチンの接種後に体調不良を訴え、製薬会社と国を相手取って訴訟を起こしています。これに関して、HPVワクチンを販売しているMSDが、2024年8月14日にHPVワクチン訴訟に関してステートメントを出しました1)。名古屋市における調査で、HPVワクチンと接種後の体調不良については、非接種集団と有意差が付いていないことが示されています。MSDも、この部分について触れています。「HPVワクチンが世界で初めて発売された2006年よりも遥か前から、特に思春期の若い方に見られる症状として知られており、(中略)[国内の]大規模な疫学調査では、HPVワクチンの接種歴のない方においても、HPVワクチン接種後に報告されている症状と同様の『多様な症状』を有する方が一定数存在した」。これは、おおむね機能性神経症状症(変換症)や機能性身体症状のことを指していると思われます。たとえば機能性身体症状は、決して思い込みやウソなどではなく、実際に起こる症状なのですが、「症状の訴えや苦痛が、確認できる組織障害の程度より大きい」というものです。身体的要因だけでなく、心理的要因も大きく影響しています。ナラティブな医療従事者が、傾聴的になりすぎることでワクチン反対の声を増幅してしまう可能性があります。もちろん、ワクチンによる症状のすべてが機能性症状とは限りません。こういったデリケートな事情も踏まえたうえで、厚労省やMSDは「接種することのメリットが接種することのデメリットを上回る」という主張を展開し続けています。コロナ禍でも問題になった「医療のリスクコミュニケーション」。うまく行政が、舵取りしてほしいところです。参考文献・参考サイト1)HPVワクチン訴訟に関するMSD株式会社のステートメント(2024年8月14日)

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現金給付は、医療アクセスを改善するか/JAMA

 貧困は医療へのアクセスの大きな障壁となり、健康アウトカムの悪化と関連することが知られている。米国・ブリガム&ウィメンズ病院のSumit D. Agarwal氏らは、現金給付が医療サービス利用と健康にベネフィットをもたらすかを無作為化試験で調べた。現金給付を受けた人では、とくに精神疾患や物質使用障害(substance use disorder:SUD)に関連した理由での救急外来の受診が有意に減少し、入院に至った救急外来の受診の減少や専門外来の受診の増加もみられた。著者は、「試験の結果は、所得支援の提供で貧困を軽減しようとする政策が、健康および医療アクセスに大きなメリットをもたらす可能性があることを示唆するものであった」とまとめている。JAMA誌オンライン版2024年7月22日号掲載の報告。月額最大400ドルを給付、主要アウトカムは救急外来の受診 本試験は、マサチューセッツ州ボストン近郊の低所得者コミュニティであるチェルシー市が、現金給付を受ける人を抽選により選ぶ無作為化法にて行われた。2020年9月17日に抽選を行い、当選者には市庁舎でデビットカードを配布した。入金は、初回が同年11月24日、その後8ヵ月間に毎月行われ、当選者には月額最大400ドルが給付された。デビットカードの使用はVisaが使える場所ならどこでも可能であった。参加者の医療記録は、複数の医療システムと結び付いていた。 2020年11月24日~2021年8月31日の介入期間にアウトカムを評価。主要アウトカムは、救急外来の受診であった。副次アウトカムは、4つのタイプ別にみた救急外来の受診(入院に至った受診、精神疾患またはSUD[アルコール、薬物]に関連した受診、SUDに関連した受診、回避可能だった救急外来受診[緊急性の低い状況で治療できた可能性のある受診])、外来全体および専門外来の利用状況、COVID-19ワクチン接種、コレステロール値などのバイオマーカーなどであった。現金給付により救急外来の受診が有意に減少 抽選に応募したのは2,880例で、平均年齢45.1歳、女性が77%を占めた。 現金給付を受ける群に割り付けられた1,746例は対照群と比較して、救急外来の受診が有意に少なかった(217.1 vs.317.5件/1,000人、補正後群間差:-87.0件/1,000人[95%信頼区間[CI]:-160.2~-13.8])。これには、精神疾患またはSUD関連の受診(-21.6件/1,000人[-40.2~-3.1])、SUD関連の受診(-12.8件/1,000人[-25.0~-0.6])および入院に至った受診(-27.3件/1,000人[-53.6~-1.1])の減少が含まれた。 現金給付は、すべての外来受診(424.3件/1,000人[95%CI:-118.6~967.2])、プライマリケア受診(-90.4件/1,000人[-308.1~127.2])、精神疾患またはSUDの専門外来受診(83.5件/1,000人[-182.9~349.9])には、統計学的に有意な影響を及ぼさなかった。 その他の専門外来受診は、対照群と比較して現金給付群でより多く(303.1件/1,000人[95%CI:32.9~573.2])、とくに車を持たない人で多かった。 現金給付は、COVID-19ワクチン接種、血圧、体重、グリコヘモグロビン、コレステロール値には、統計学的に有意な影響を及ぼさなかった。

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流行株によるコロナ罹患後症状の発生率とコロナワクチンの効果(解説:寺田教彦氏)

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、起源株やアルファ株、デルタ株といったプレオミクロン株流行時期は、重症化率・死亡率の高さから、国内でも緊急事態宣言が出されるほど公衆衛生に多大な影響を与えていた。その後コロナワクチンや中和抗体治療薬により、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化率や死亡率は低下したが、2021年ごろから後遺症の問題が注目されるようになった。 新型コロナウイルス感染症罹患後症状(以下、本文ではPASC:post-acute sequelae of SARS-CoV-2 infectionとする)は、診断基準を提案する論文はあるが(Thaweethai T, et al. JAMA. 2023;329:1934-1946.)、世界的に統一された明確な定義や診断基準はなく、病態や治療法も判明しきってはいない。 PASCはオミクロン株では、過去のアルファ株やベータ株、デルタ株などより発症率が低下していること(Couzin-Frankel J. Science. 2023;379:1174-1175.)や、ワクチン接種者でPASC発症のリスクが軽減する可能性は指摘されていた(Mizrahi B, et al. BMJ. 2023;380:e072529. , Iversen A, et al. Front Public Health. 2024;12:1320059.)が、ウイルス変異の影響(罹患した株による違い)とワクチン接種の効果が、どの程度PASC発症のリスクに影響しているかははっきりしていなかった。 本研究では、新型コロナウイルス感染者のうち、感染時期がプレデルタ株、デルタ株、オミクロン株優勢期だったワクチン未接種者と、感染時期がデルタ株、オミクロン株優勢期だったワクチン接種者のSARS-CoV-2感染後1年間のPASC累積発生率を推定し、優勢株の時期に関連した影響(ウイルスの特性やそのほかの時間的影響)とワクチンによる効果を報告している。 結果は、「コロナ罹患後症状の累積発生率、変異株で異なるか/NEJM」に報告されたとおりで、ウイルスの特性(変異)による影響も罹患後症状リスク低下に関与していたが、罹患後症状が減少した主因(71.89%)はコロナワクチン接種による影響と考えられた。 本研究の特徴として、退役軍人省の大規模な健康記録を活用したため膨大なデータではあるものの、研究対象集団が主に高齢白人男性で構成されていることがある。PASCが問題となる患者層は、女性、高齢者、BMI高値、喫煙歴や基礎疾患がある患者など(Tsampasian V, et al. JAMA Intern Med. 2023;183:566-580.)であり、リスクファクター層と一部合致していない。しかし、本研究結果は過去の研究と同様の傾向を読み取ることができ、おそらくリスク集団を含めたほかの集団でも、同様の傾向となることは予測されるだろう。 ところで、本研究結果からはコロナワクチン接種がPASC発症のリスク軽減に役立つことはわかったが、ワクチンの種類や接種回数、接種時期については調査していないため、コロナワクチン接種後、どの程度の期間PASCのリスク軽減に役立つかはわからなかった。 COVID-19は、今夏も昨年と同様に増加傾向となっており、当院でも入院を要する中等症・重症患者が増加してきている。 今年も昨年同様に8月中旬ごろにピークを迎え、秋に患者数が減少し、冬季に再度ピークとなる可能性が考えられる。本研究から、新型コロナワクチンはPASC発症のリスク軽減に大きな役割を果たしたことが判明したが、新型コロナワクチンはリスクのある患者に接種することで、重症化率や死亡率の軽減にも役立つことも期待されている。今年度より、新型コロナワクチンは65歳以上や、60~64歳でリスクのある対象者で定期接種となっている(厚生労働省「新型コロナワクチンについて」)。 気道ウイルス感染症は冬季に流行しやすい性質があり、定期接種の対象者に対する秋から冬にかけてのコロナワクチン接種は、COVID-19による入院や死亡を減らすためにメリットが大きいと私は考えている。本研究結果からは、PASCリスク軽減にワクチン接種が大きく貢献したことも確認でき、ワクチン接種を推奨するさらなる1つの理由になるだろう。

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第206回 日本でも広がるエムポックス感染、WHOが再び緊急事態を宣言/WHO

<先週の動き>1.日本でも広がるエムポックス感染、WHOが再び緊急事態を宣言/WHO2.市町村国保2年連続で赤字拡大、医療費適正化など検討/厚労省3.医師の偏在に危機感、厚労省に地域枠拡大と定員増を求める/全国知事会4.臓器あっせん機関の複数化で移植体制強化へ/厚労省5.岩本前理事長を全役職から解任、諮問委員会を設置/東京女子医大6.障害福祉サービスの不正受給が続発、監査体制に課題1.日本でも広がるエムポックス感染、WHOが再び緊急事態を宣言/WHO世界保健機関(WHO)は2024年8月14日、アフリカ中央部で拡大するエムポックス(サル痘)に対し、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を再び宣言した。2022年7月に続き、2度目の宣言となる。コンゴ民主共和国を中心に感染が急拡大しており、WHOは国際的な協力の重要性を強調。日本国内ではこれまでに248例の感染が確認され、今後も慎重な対応が求められている。エムポックスは、天然痘ウイルスに似たウイルスによる感染症で、症状には発熱、頭痛、リンパ節の腫れ、水疱を伴う発疹が含まれる。発症から自然回復まで2~4週間程度かかるが、死亡例も報告されている。感染経路は、動物との接触や感染者との濃厚接触を通じたものであり、とくにMSM(男性と性的接触を行う男性)がリスクグループとされるが、女性や子供にも感染が広がっている。今回の流行は、コンゴ民主共和国で新たに確認された「クレード1b」系統が主な原因とされ、とくに女性や子供の間で感染が拡大していることが特徴。WHOは、ワクチンの供給と接種の強化を求めており、日本政府もコンゴへのワクチン供与の準備を進めている。わが国では、感染が確認された248例のうち、エイズウイルス(HIV)感染者を含む一部の患者が死亡している。国内での感染者数は増加傾向にあり、関係省庁は引き続き検査体制の強化と感染者の早期発見に注力している。エムポックスの新たな流行が広がる可能性は低いとされているが、予防策としてのワクチン接種が進められる見通しだ。参考1)「緊急事態宣言」2度目のエムポックス(サル痘) 日本でも散発的に発生、248例を確認(産経新聞)2)エムポックス対応「万全期す」 緊急事態で厚労相 ワクチン供与も(朝日新聞)3)WHO、エムポックスの感染拡大で「緊急事態」宣言 22年7月以来(同)2.市町村国保2年連続で赤字拡大、医療費適正化など検討/厚労省8月8日に厚生労働省は、市町村が運営する国民健康保険(国保)の2022年度決算を発表し、実質収支が1,067億円の赤字となったことを明らかにした。これは2年連続の赤字であり、前年度から赤字幅が約1,000億円拡大した。主な要因は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大による受診控えが影響し、交付金が減額されたこと、高齢化に伴う医療費の増加、そして国保加入者の減少に伴う保険料収入の減少である。2022年度の国保加入者数は前年度から124万人減少し、過去最少の2,413万人となった。この減少は、団塊の世代が75歳以上となり後期高齢者医療制度に移行したことが一因とされる。加入者減少により、保険料収入も9年連続で減少し、前年度比502億円減の2兆4,513億円となった。一方、国からの支出金は823億円減の3兆3,650億円、他の医療保険からの交付金も2,521億円減の3兆5,397億円となった。これに対し、医療費の自己負担を除く「保険給付費」は、加入者減少により1,338億円減少したものの、8兆6,244億円に達している。国保の財政状況は、加入者の4割以上が65~74歳の高齢者であり、1人当たりの医療費が高い一方で、加入者の平均所得が低いため、厳しさが増している。これに加え、COVID-19の影響による受診控えが、2020年度の交付金に影響を与え、その後の赤字をさらに拡大させた。厚労省は、医療費の適正化を進めるとともに、財政支援のあり方も検討する考えを示している。国保の持続可能な運営を図るためには、これまで以上に効果的な対策が求められる状況にある。参考1)令和4年度国民健康保険(市町村国保)の財政状況について(厚労省)2)市町村国保、2年連続の赤字 コロナ受診控えの影響 厚労省(時事通信)3)国民健康保険の2022年度収支、1,067億円の赤字 赤字幅拡大(朝日新聞)4)「国民健康保険」令和4年度決算 実質的な収支1,067億円の赤字(NHK)3.医師の偏在に危機感、厚労省に地域枠拡大と定員増を求める/全国知事会地域の医師不足の深刻化に対し、地方12県の知事団体と全国知事会が相次いで医師不足解消に向けた提言をまとめ、厚生労働省や文部科学省に提出した。8月9日、岩手県など12県の知事団体は、医師の偏在がとくに顕著な地域における医学部定員の増加と「地域枠」の拡大を求め、医師不足が深刻な地域での地域医療崩壊を防ぐための対策を訴えた。また、これに先立つ8月1日には、全国知事会が2040年を見据えた医療・介護提供体制の構築に向けた提言を発表し、医師不足が顕著な地域や診療科に対応するための医学部新設や別枠制度の創設を求めた。全国知事会の提言では、医師需給の再検証を行い、地域ごとに必要な医師数を算定した上で定員を設定することを要請。また、医学部臨時定員増の延長や恒久定員の増員も求め、地域医療の維持に向けた具体的な方策を示した。これには、医師偏在指標に基づく定員設定や都市部と地方の医師派遣の連携強化、さらには専攻医の募集定員におけるシーリングの厳格な適用も含まれている。岩手県の達増 拓也知事は提言の提出後、記者団に対し「医師不足対策が今年の骨太の方針に盛り込まれたことは大きなチャンスであり、対策が前進することを期待している」と語った。これに対し、厚労省は、年末までに医師の偏在解消に向けた総合的な対策パッケージを策定する予定であり、これらの提言が今後の議論に影響を与えることが期待される。これらの提言は、医師不足が深刻な地域での医療崩壊を防ぎ、全国的な医師の適正配置を目指すものであり、地方の医療を支えるために国が一層の対策を講じる必要性が強く求められている。参考1)2040年を見据えた医療・介護提供体制の構築に向けた提言(全国知事会)2)「医師の偏在」解決へ 12県の知事団体が厚労省などに提言提出(NHK)3)医学部定員増の延長提言、医師不足の岩手など 厚労省に(日経新聞)4)全国知事会が2040年を見据え医師不足顕著な地域での医学部新設を提言(日経メディカル)4.臓器あっせん機関の複数化で移植体制強化へ/厚労省厚生労働省は、臓器移植の円滑な実施と体制の見直しを進めるため、日本臓器移植ネットワーク(JOT)の業務を分散する方針を検討している。JOTは現在、国内唯一の臓器あっせん機関として、臓器提供者の家族対応や移植希望者の選定など、多岐にわたる業務を担っているが、コーディネーターの派遣が不足し、対応の遅れが指摘されている。2024年8月14日に開かれた厚労省の臓器移植委員会では、JOTに業務が集中している現状を改善するため、臓器提供に関する家族への対応を各都道府県に配置された地域のコーディネーターが担うことを提案。さらに、複数のあっせん機関を設置し、JOTの負担軽減を図る案も示された。委員会では、これらの案を基に、今後の体制見直しを進める予定で、早ければ2024年10月にも結論が出る見通し。また、脳死状態にある患者の情報共有を強化し、臓器提供の可能性を高めるため、医療機関とあっせん機関の連携を強化することも検討されている。現在、脳死と診断され得る患者数は国内に約4,400人いるが、実際に家族に臓器提供の選択肢が示されるのは約25%に過ぎず、提供者数は限られている。JOTに対しては、知的障害者に対する臓器提供の扱いについて差別的な運用が行われていたことが判明し、組織としてのガバナンスも問われている。これを受け、厚労省は過去の事例についても調査を進め、改善策を検討することを求めている。今回の見直しによって、臓器移植の体制が強化され、より多くの患者が適切な移植を受けられることが期待される。参考1)「日本臓器移植ネットワーク」業務分散を検討へ 厚労省専門委(NHK)2)臓器あっせん機関の複数化、厚労省検討 移植推進へ体制を大幅見直し(朝日新聞)5.岩本前理事長を全役職から解任、諮問委員会を設置/東京女子医大8月16日に東京女子医科大学(東京都新宿区)は、臨時評議員会を開催し、岩本 絹子前理事長を理事および評議員から解任した。これにより、岩本氏は大学のすべての役職から退くこととなった。岩本氏は、同大学の同窓会組織「至誠会」を巡る特別背任容疑で警視庁の捜査対象となっており、勤務実態のない女性職員に約2,000万円の給与を支払った疑いが持たれている。また、第三者委員会の調査により、岩本氏が自身の側近に過大な報酬を与え、不正な資金の流れを作り出していたことが指摘されている。今回の解任に伴い、大学は再発防止策を講じるため「新生東京女子医科大学のための諮問委員会」を設置した。この委員会は、企業再生、ガバナンス、内部統制、コンプライアンスなどの分野に精通した5名の専門家で構成され、大学経営の正常化に向けた助言を行う予定。委員には、元厚生労働省局長の岩田 喜美枝氏、青山学院大学名誉教授の八田 進二氏などが名を連ねている。同大学は、理事長の解任により、過去の不正に対する責任を明確にするとともに、諮問委員会の助言を基に経営体制の立て直しを図る考え。さらに、新理事長に就任した肥塚 直美氏を中心に、関係者全員が責任を果たし、新たなスタートを切る方針を固めている。参考1)諮問委員会設置のお知らせ(東京女子医大)2)東京女子医大の岩本前理事長、理事・評議員も解任 評議員会が議決(朝日新聞)3)東京女子医大、岩本絹子・前理事長を全役職から解任…「一強体制」で数々の疑惑(読売新聞)4)東京女子医大の前理事長、大学から完全に離れる 臨時評議員会で理事職からも解任(東京新聞)6.障害福祉サービスの不正受給が続発、監査体制に課題障害福祉サービスを巡る不正受給が深刻な問題となっている。2023年度までの5年間で、不正受給の総額は58億6千万円を超え、全国で427件の行政処分が行われた。とくに、放課後などデイサービスや就労支援、訪問系サービスにおいて、利用者数や日数の水増し、職員配置の偽装といった不正が多くみられた。名古屋市では、グループホーム運営会社「恵(めぐみ)」が3つの事業所で2億円を超える不正請求を行っていたことが発覚し、事業所指定の取り消しなどの行政処分が下された。この事例を含め、多くの自治体が不正行為の摘発と対応に追われている。障害福祉サービスは、障害者が地域で自立した生活を送るために重要な役割を果たしている。しかし、事業所数の急増に伴い、自治体による監査が追いつかず、不正行為が横行している現状がある。厚生労働省は、事業所の適切な運営を確保するために3年に1度の現地調査を指導しているが、自治体の人員不足や新型コロナウイルス感染症の影響で、実施率は低いままに止まっている。こうした背景から、自治体や厚労省は、不正受給の防止に向けた体制の強化が急務としている。福祉サービスの質の確保と適正な運営を目指し、今後、事業者に対するチェック体制や参入要件の厳格化が求められる。参考1)障害福祉サービスの不正受給58億円超 19~23年度全国調査、行政処分は427件(中日新聞)2)「親から金とってないんだからいいじゃん」障害福祉不正、悪質な事業者は後を絶たず(中日新聞)3)障害児事業2億円不正請求 「恵」運営の名古屋3施設(東京新聞)

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国内での小児の新型コロナ感染後の死亡、経過や主な死因は?

 2024年8月9日時点での新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の国内での流行状況によると、とくに10歳未満の小児患者が多い傾向にある1)。日本でCOVID-19発症後に死亡した0~19歳の小児・青年患者の特徴を明らかにするために、国立感染症研究所のShingo Mitsushima氏らの多施設共同研究チームは、医療記録および死亡診断書から詳細な情報を収集し、聞き取り調査を行った。その結果、53例の情報が得られ、ワクチン接種対象者の88%が未接種であったことや、発症から死亡までの期間は77%が7日未満であったことなどが判明した。CDCのEmerging Infectious Diseases誌2024年8月号に掲載。 日本では、2022年にオミクロン株が初めて検出された後、小児COVID-19患者数が急増した。2021年12月までに0~19歳のSARS-CoV-2陽性患者数は24万例(0~9歳:8万4千例、10~19歳:15万6千例)だったが、2022年1~9月(オミクロン株流行期)には480万例(0~9歳:240万例、10~19歳:240万例)に増加し、死亡者数も増加した。 本研究では、厚生労働省、地方自治体、保健所、HER-SYS、学会、メディアから小児・青年死亡症例の情報を収集した。症例は、発症または死亡日が2022年1月1日~9月30日である0~19歳におけるSARS-CoV-2感染後に発生した死亡症例と定義した。死因について、中枢神経系異常、心臓異常、呼吸器異常、その他、不明に分類した。患者の発症から死亡までの日数の中央値と四分位範囲(IQR)を算出し、選択された変数の適合度を検定するために、x2検定またはFisherの正確確率検定を用いた。発症から初回診察、心肺停止、または死亡までの間隔を異なる死因間で比較するためにlog-rank検定を用いた。 主な結果は以下のとおり。・COVID-19発症後に死亡した0~19歳の小児・青年患者62例が確認され、うち53例について詳細な調査を実施できた。46例(87%)は内的死因、7例(13%)は外的死因(新型コロナ感染後の溺水や窒息などの予期せぬ事故)であった。・内的死因患者46例のうち、1歳未満が7例、1~4歳が15例、5~11歳が18例、12~19歳が6例であった。19例に基礎疾患が認められた。・ コロナワクチン接種対象者(5歳以上)は24例で、そのうち21例(88%)がワクチンを接種していなかった。2回のワクチン接種済みの3例(12歳以上)のCOVID-19発症日は、最後のワクチン接種日から3ヵ月以上経過していた。・入院前は呼吸器症状よりも非呼吸器症状のほうが多く、疑われた死因は、多い順に、中枢神経系異常(急性脳症など)が16例(35%)、心臓異常(急性心筋炎など)が9例(20%)、呼吸器異常(急性肺炎など)が4例(9%)だった。小児の多系統炎症性症候群(MIS-C)は認められなかった。・基礎疾患のない患者(27例)では、最も多く疑われた死因は中枢神経系異常(11例)、次いで心臓異常(5例)だった。呼吸器異常は認められなかった。・入院前に救急外来で確認された死亡者数は19例、入院後の死亡者数は27例であった。患者の46%は院外心停止で死亡した。・中枢神経系異常を認めた16例では、発症から心肺停止までの中央値は2日(IQR:1.0~12.0)、発症から死亡までの中央値は3.5日(2.0~14.5)だった。5~11歳が最も多く(9例/56%)、1歳未満はいなかった。急性脳症の12例のうち、出血性ショック脳症症候群(HSES)が疑われたのは5例、急性劇症脳浮腫を伴う脳症が1例、分類不能脳症が 6例であった。・心臓異常を認めた9例では、発症から心肺停止までの中央値は4日(IQR:2.0~4.0)、発症から死亡までの中央値は4日(2.0~5.0)だった。 8例に臨床的急性心筋炎が検出された。 本研究の結果、小児・青年のCOVID-19発症後の死因として、中枢神経系異常、次いで心臓異常が多かったことが示された。徴候・症状への対処に加えて、臨床医は基礎疾患にかかわらず、COVID-19発症から少なくとも最初の7日間は小児・青年患者を注意深く観察すべきだ、と著者らはまとめている。

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浸潤性子宮頸がん、HPV遺伝子型別の有病率を解明/Lancet

 ヒトパピローマウイルス(HPV)の遺伝子型別に浸潤性子宮頸がん(ICC)の有病率を把握することは、1次予防(すなわちワクチン接種)および2次予防(すなわちスクリーニング)のターゲットとすべきHPV遺伝子型を明らかにすることを可能とする。フランス・国際がん研究機関(IARC/WHO)のFeixue Wei氏らは、各HPV遺伝子型のICCとの因果関係を明らかにするために、世界レベル、地域レベルおよび各国レベルのHPV遺伝子型別の人口寄与割合(AF)をシステマティックレビューにより推定した。Lancet誌2024年8月3日号掲載の報告。HPV陽性ICCと正常子宮頸部細胞診の各HPV遺伝子型の有病率を比較 研究グループは、ICCまたは子宮頸部細胞診の正常例における各HPV遺伝子型の有病率を報告している試験を対象としたシステマティックレビューを行った。適格試験の特定には、文献言語に制限を設けず、「cervix」「HPV」を検索単語として用い、2024年2月29日までにPubMed、Embase、Scopus、Web of Scienceに登録された文献を検索した。 地域、文献発行年、HPVプライマー/検査で補正したロジスティック回帰モデルを用いて、HPV陽性ICCと子宮頸部細胞診の正常例の各HPV遺伝子型の有病率を比較し、オッズ比(OR)を推算した。 ORの95%信頼区間(CI)下限が1.0を超えるHPV遺伝子型をICCの原因であると判定。対応する地域の遺伝子型別のAFは、ICCにおける地域別HPV有病率に「1-(1/OR)」を乗じて算出し、計100%になるよう比例調整して推算した。世界的AFは、2022年の地域別ICC症例数(GLOBOCAN)で重み付けされた地域別AFから推算した。ICCの原因とみなされたHPV遺伝子型は17個、HPV16の世界的AFが最も高率 システマティックレビューにより、HPV陽性ICCの症例11万1,902例と子宮頸部細胞診の正常例275万5,734例を含む1,174試験を特定した。 ICCの原因とみなされたHPV遺伝子型は17個であり、ORの範囲は、HPV16の48.3(95%CI:45.7~50.9)からHPV51の1.4(1.2~1.7)までと広範囲にわたった。 世界的AFが最も高いのはHPV16で(61.7%)、以下HPV18(15.3%)、HPV45(4.8%)、HPV33(3.8%)、HPV58(3.5%)、HPV31(2.8%)、HPV52(2.8%)と続いた。その他の遺伝子型(HPV35、59、39、56、51、68、73、26、69、および82)の世界的AFは、合わせて5.3%であった。 HPV16と18、およびHPV16、18、31、33、45、52、58を合わせたAFは、アフリカで最も低く(それぞれ71.9%と92.1%)、中央・西・南アジアで最も高かった(それぞれ83.2%と95.9%)。HPV35はアフリカ(3.6%)で他の地域(0.6~1.6%)よりもAFが高かった。 結果を踏まえて著者は、「今回の研究は、HPVワクチン接種の影響を受ける前の、ICCにおけるHPV遺伝子型別のAFの世界的な実情を示すものとなった。これらのデータは、ICC負担を軽減するHPV遺伝子型特異的ワクチン接種戦略およびスクリーニング戦略に役立つ可能性がある」とまとめている。

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HPVワクチンの定期接種とキャッチアップ接種

HPVワクチン(子宮頸がん予防)の定期接種とキャッチアップ接種• 日本では2013年4⽉から、⼩学校6年⽣〜⾼校1年⽣を対象に、公費によるHPVワクチンの無料接種(定期接種)が実施されています• 上記のほか2025年3⽉まで、1997年4⽉2⽇〜2008年4⽉1⽇⽣まれの⽅を対象に、無料で接種できる「キャッチアップ接種」が実施されています• 現在定期接種の対象となっているHPVワクチンは3種類とも3回の接種完了までに6ヵ⽉かかるため、「キャッチアップ接種」の期限内にすべて終了させるためには、2024年9⽉末までに初回接種を行う必要があります<3種類のワクチンと接種タイミング(2025年3⽉までに終了させる場合)>2024年9⽉10⽉11⽉ ・・・・ 2025年3⽉3回目子宮頸がんの原因の50~70%を占めるHPV16/18型の感染を防ぐ3回目HPV16/18型に加え、尖圭コンジローマなどの原因となる6/11型の感染を防ぐ3回目さらに5つの型の感染を防ぎ、子宮頸がんの原因の80~90%を防ぐ2価ワクチン(サーバリックス)4価ワクチン(ガーダシル)1回目1回目2回目2回目9価ワクチン(シルガード9)1回目2回目出典:日本対がん協会「子宮頸がんの予防のために HPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチン」厚生労働省「HPVワクチンに関するQ&A」Copyright © 2024 CareNet,Inc. All rights reserved.

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