サイト内検索|page:8

検索結果 合計:2139件 表示位置:141 - 160

141.

国内での小児の新型コロナ感染後の死亡、経過や主な死因は?

 2024年8月9日時点での新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の国内での流行状況によると、とくに10歳未満の小児患者が多い傾向にある1)。日本でCOVID-19発症後に死亡した0~19歳の小児・青年患者の特徴を明らかにするために、国立感染症研究所のShingo Mitsushima氏らの多施設共同研究チームは、医療記録および死亡診断書から詳細な情報を収集し、聞き取り調査を行った。その結果、53例の情報が得られ、ワクチン接種対象者の88%が未接種であったことや、発症から死亡までの期間は77%が7日未満であったことなどが判明した。CDCのEmerging Infectious Diseases誌2024年8月号に掲載。 日本では、2022年にオミクロン株が初めて検出された後、小児COVID-19患者数が急増した。2021年12月までに0~19歳のSARS-CoV-2陽性患者数は24万例(0~9歳:8万4千例、10~19歳:15万6千例)だったが、2022年1~9月(オミクロン株流行期)には480万例(0~9歳:240万例、10~19歳:240万例)に増加し、死亡者数も増加した。 本研究では、厚生労働省、地方自治体、保健所、HER-SYS、学会、メディアから小児・青年死亡症例の情報を収集した。症例は、発症または死亡日が2022年1月1日~9月30日である0~19歳におけるSARS-CoV-2感染後に発生した死亡症例と定義した。死因について、中枢神経系異常、心臓異常、呼吸器異常、その他、不明に分類した。患者の発症から死亡までの日数の中央値と四分位範囲(IQR)を算出し、選択された変数の適合度を検定するために、x2検定またはFisherの正確確率検定を用いた。発症から初回診察、心肺停止、または死亡までの間隔を異なる死因間で比較するためにlog-rank検定を用いた。 主な結果は以下のとおり。・COVID-19発症後に死亡した0~19歳の小児・青年患者62例が確認され、うち53例について詳細な調査を実施できた。46例(87%)は内的死因、7例(13%)は外的死因(新型コロナ感染後の溺水や窒息などの予期せぬ事故)であった。・内的死因患者46例のうち、1歳未満が7例、1~4歳が15例、5~11歳が18例、12~19歳が6例であった。19例に基礎疾患が認められた。・ コロナワクチン接種対象者(5歳以上)は24例で、そのうち21例(88%)がワクチンを接種していなかった。2回のワクチン接種済みの3例(12歳以上)のCOVID-19発症日は、最後のワクチン接種日から3ヵ月以上経過していた。・入院前は呼吸器症状よりも非呼吸器症状のほうが多く、疑われた死因は、多い順に、中枢神経系異常(急性脳症など)が16例(35%)、心臓異常(急性心筋炎など)が9例(20%)、呼吸器異常(急性肺炎など)が4例(9%)だった。小児の多系統炎症性症候群(MIS-C)は認められなかった。・基礎疾患のない患者(27例)では、最も多く疑われた死因は中枢神経系異常(11例)、次いで心臓異常(5例)だった。呼吸器異常は認められなかった。・入院前に救急外来で確認された死亡者数は19例、入院後の死亡者数は27例であった。患者の46%は院外心停止で死亡した。・中枢神経系異常を認めた16例では、発症から心肺停止までの中央値は2日(IQR:1.0~12.0)、発症から死亡までの中央値は3.5日(2.0~14.5)だった。5~11歳が最も多く(9例/56%)、1歳未満はいなかった。急性脳症の12例のうち、出血性ショック脳症症候群(HSES)が疑われたのは5例、急性劇症脳浮腫を伴う脳症が1例、分類不能脳症が 6例であった。・心臓異常を認めた9例では、発症から心肺停止までの中央値は4日(IQR:2.0~4.0)、発症から死亡までの中央値は4日(2.0~5.0)だった。 8例に臨床的急性心筋炎が検出された。 本研究の結果、小児・青年のCOVID-19発症後の死因として、中枢神経系異常、次いで心臓異常が多かったことが示された。徴候・症状への対処に加えて、臨床医は基礎疾患にかかわらず、COVID-19発症から少なくとも最初の7日間は小児・青年患者を注意深く観察すべきだ、と著者らはまとめている。

142.

浸潤性子宮頸がん、HPV遺伝子型別の有病率を解明/Lancet

 ヒトパピローマウイルス(HPV)の遺伝子型別に浸潤性子宮頸がん(ICC)の有病率を把握することは、1次予防(すなわちワクチン接種)および2次予防(すなわちスクリーニング)のターゲットとすべきHPV遺伝子型を明らかにすることを可能とする。フランス・国際がん研究機関(IARC/WHO)のFeixue Wei氏らは、各HPV遺伝子型のICCとの因果関係を明らかにするために、世界レベル、地域レベルおよび各国レベルのHPV遺伝子型別の人口寄与割合(AF)をシステマティックレビューにより推定した。Lancet誌2024年8月3日号掲載の報告。HPV陽性ICCと正常子宮頸部細胞診の各HPV遺伝子型の有病率を比較 研究グループは、ICCまたは子宮頸部細胞診の正常例における各HPV遺伝子型の有病率を報告している試験を対象としたシステマティックレビューを行った。適格試験の特定には、文献言語に制限を設けず、「cervix」「HPV」を検索単語として用い、2024年2月29日までにPubMed、Embase、Scopus、Web of Scienceに登録された文献を検索した。 地域、文献発行年、HPVプライマー/検査で補正したロジスティック回帰モデルを用いて、HPV陽性ICCと子宮頸部細胞診の正常例の各HPV遺伝子型の有病率を比較し、オッズ比(OR)を推算した。 ORの95%信頼区間(CI)下限が1.0を超えるHPV遺伝子型をICCの原因であると判定。対応する地域の遺伝子型別のAFは、ICCにおける地域別HPV有病率に「1-(1/OR)」を乗じて算出し、計100%になるよう比例調整して推算した。世界的AFは、2022年の地域別ICC症例数(GLOBOCAN)で重み付けされた地域別AFから推算した。ICCの原因とみなされたHPV遺伝子型は17個、HPV16の世界的AFが最も高率 システマティックレビューにより、HPV陽性ICCの症例11万1,902例と子宮頸部細胞診の正常例275万5,734例を含む1,174試験を特定した。 ICCの原因とみなされたHPV遺伝子型は17個であり、ORの範囲は、HPV16の48.3(95%CI:45.7~50.9)からHPV51の1.4(1.2~1.7)までと広範囲にわたった。 世界的AFが最も高いのはHPV16で(61.7%)、以下HPV18(15.3%)、HPV45(4.8%)、HPV33(3.8%)、HPV58(3.5%)、HPV31(2.8%)、HPV52(2.8%)と続いた。その他の遺伝子型(HPV35、59、39、56、51、68、73、26、69、および82)の世界的AFは、合わせて5.3%であった。 HPV16と18、およびHPV16、18、31、33、45、52、58を合わせたAFは、アフリカで最も低く(それぞれ71.9%と92.1%)、中央・西・南アジアで最も高かった(それぞれ83.2%と95.9%)。HPV35はアフリカ(3.6%)で他の地域(0.6~1.6%)よりもAFが高かった。 結果を踏まえて著者は、「今回の研究は、HPVワクチン接種の影響を受ける前の、ICCにおけるHPV遺伝子型別のAFの世界的な実情を示すものとなった。これらのデータは、ICC負担を軽減するHPV遺伝子型特異的ワクチン接種戦略およびスクリーニング戦略に役立つ可能性がある」とまとめている。

143.

HPVワクチンの定期接種とキャッチアップ接種

HPVワクチン(子宮頸がん予防)の定期接種とキャッチアップ接種• 日本では2013年4⽉から、⼩学校6年⽣〜⾼校1年⽣を対象に、公費によるHPVワクチンの無料接種(定期接種)が実施されています• 上記のほか2025年3⽉まで、1997年4⽉2⽇〜2008年4⽉1⽇⽣まれの⽅を対象に、無料で接種できる「キャッチアップ接種」が実施されています• 現在定期接種の対象となっているHPVワクチンは3種類とも3回の接種完了までに6ヵ⽉かかるため、「キャッチアップ接種」の期限内にすべて終了させるためには、2024年9⽉末までに初回接種を行う必要があります<3種類のワクチンと接種タイミング(2025年3⽉までに終了させる場合)>2024年9⽉10⽉11⽉ ・・・・ 2025年3⽉3回目子宮頸がんの原因の50~70%を占めるHPV16/18型の感染を防ぐ3回目HPV16/18型に加え、尖圭コンジローマなどの原因となる6/11型の感染を防ぐ3回目さらに5つの型の感染を防ぎ、子宮頸がんの原因の80~90%を防ぐ2価ワクチン(サーバリックス)4価ワクチン(ガーダシル)1回目1回目2回目2回目9価ワクチン(シルガード9)1回目2回目出典:日本対がん協会「子宮頸がんの予防のために HPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチン」厚生労働省「HPVワクチンに関するQ&A」Copyright © 2024 CareNet,Inc. All rights reserved.

144.

第227回 いわば毒をもって毒を制す斬新なHIV治療手段がサルで有効

いわば毒をもって毒を制す斬新なHIV治療手段がサルで有効いわば毒をもって毒を制す新たなHIV治療手段がサルを使った検討1,2)で有望な成績を収め、ヒトに投与する試験の計画が進められています。HIV感染をHIV投与によって封じるというその斬新な手段はさかのぼること15年以上も前にカリフォルニア大学サンフランシスコ校の生物物理学者Leor Weinberger氏が思い付きました3)。Weinberger氏はインフルエンザウイルスがときに不完全なウイルスを生み出し、それが正常ウイルス(野生型ウイルス)の邪魔をするということを大学院のときに知ってその手段を思いつきました。欠損変異のせいで半端なそのようなウイルスは自力では複製できませんが他力本願で増えることができます。半端ウイルスは感染細胞内の野生型ウイルスに押し入り、複製や身繕いに不可欠なタンパク質を奪って野生型ウイルスを減らします。ゆえに都合よく増えるように仕立てた半端ウイルスは一回きりの投与で長く治療効果を発揮すると予想され、Weinberger氏らは2007年に研究に取り掛かり、それから約10年を経た2018年に求める特徴を備えた治療用の半端HIV(以下、治療用HIV)を手にしました。Weinberger氏らは複製を助ける配列を残しつつHIV遺伝子一揃いを切り詰めることで治療用HIVのゲノムを作製しました。治療用HIVは構造がより単純なため、野生型HIVの先を越してより早く複製することができます。治療用HIVの効果は幼いサルを使った検討で検証されました。6匹にはまず治療用HIVが投与され、その24時間後にサルのHIV同等ウイルス(SHIV)が投与されました。4匹にはSHIVのみ投与されました。30ヵ月後の様子を調べたところ、治療用HIVが投与されたサル6匹中5匹は健康で、SHIV濃度はピーク時のおよそ1万分の1で済んでいました3)。一方、治療用HIVが投与されなかった4匹のうち3匹は病んで16週時点で安楽死させられました。治療用HIVは増えずに居続けることもでき、いざとなれば復活して潜伏感染HIVの再現を封じうることも患者細胞などを使った検討で確認されています。また野生型HIVと同様に治療用HIVはヒトからヒトに伝播することができます。その特徴は望まないのに治療用HIVをもらってしまうという倫理的懸念を孕みます。しかし経口ポリオワクチンの弱毒化ウイルスが他のヒトに移って免疫を助けるのと同じように、治療用HIVの伝播はHIV感染の世界的な蔓延を減らす助けになるかもしれません。今後の予定としてWeinberger氏らは治療用HIVをサルでさらに検討するつもりです。また、カリフォルニア州からの助成により実施される臨床試験に関する米国FDAとの話し合いも進んでいます3)。HIV感染に加えてその他の末期の病気も患う患者が被験者として想定されています。それら被験者にまず治療用HIVを投与し、次に抗レトロウイルス薬を中止してウイルス量がどう推移するかが検討される見込みです。被験者が亡くなったらその組織を解析し、治療法HIVと関連する炎症やその他の問題が生じていないかどうかが調べられる予定です。試験が来年早々に始まることをWeinberger氏は期待しています。参考1)Pitchai FNN, et al. Science. 2024;385:eadn5866. 2)Study: Single experimental shot reduces HIV levels 1,000-fold / Oregon Health & Science University 3)Bold new strategy to suppress HIV passes first test / Science

145.

第205回 ポストコロナ時代、地域医療の存続に向けた病院の新たなアプローチとは?

毎週月曜日に先週にあった行政や学会、地域の医療に関する動きを伝える「まとめる月曜日」。今回は特別編として「すこし未来の地域医療の姿」について井上 雅博氏にご寄稿いただきました。新型コロナが医療・介護にもたらした影響とは今春、6年に1度のタイミングで医療報酬、介護報酬、障害福祉サービスの報酬が同時に改定されました。今回の改定では、医療と介護の連携の必要性を強く求めると同時に、マイナンバーカードの普及により医療情報の利活用を促進し、高血圧、脂質異常症、糖尿病を中心に診療を行っていた医療機関では「療養計画書」の作成などの対応に追われました。改定後、全国の病院関係者からは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大時に救急患者の受け入れや転院、退院支援で苦労したのが、第11波の現在では、患者不足で病床が埋まらず、病床稼働率の低下が囁かれるようになったという声が聞かれます。もちろん、COVID-19のワクチン接種による軽症化や治療薬の開発による早期治療開始による早期退院が可能となったことが大きいとは思います。しかし、それ以外の原因として、感染拡大によって定期的な健康診断やがん検診によって発見された手術適応患者の紹介の減少が目立っていることが挙げられます。さらに、後期高齢者の場合、入院しても手術適応とならない方が増えている可能性があります。私が以前勤務していた広島県福山市の脳神経センター大田記念病院では、最新の統計によれば中央値では過去5年間大きな変動はないものの、高齢者層の増加(とくに90歳以上)が報告されています。じわじわと来る診療報酬改定の影響現在、病院が直面している経営課題は、昨年秋以降、コロナ対策の医療機関への病床確保基金などの制度が廃止され、以前の診療報酬体制に戻ったにも関わらず、患者の受診行動が変化してしまい、COVID-19拡大が落ち着いても元通りにならなかったという点です。このため、病床稼働率低下に加え、今春の改定で厳しくなった重症度、医療・看護必要度の対応で、10月からの病床再編や加算の対応に頭を悩ませている病院が多いと思います。さらに、原油高やエネルギー価格高騰に加え、デフレからインフレへの転換による経営環境の変化、人件費の増加といった影響も大きく、経営環境が激変しています。診療報酬改定では医療・介護職員の処遇改善のために賃上げの財源としてベースアップ評価料の算定が可能になりましたが、目新しい加算項目は少なく、サイバーセキュリティの強化など追加支出が求められているため、医療機関にとっては厳しい状況です。また、医療機関で問題となっているのは人手不足です。介護系サービス事業者は、高齢者の増加に備え設備投資を行い、施設を増やしてきましたが、現場に投入する医療・介護人材が必要となるため、医療機関よりも賃上げを先行して実施しており、同じ職種でも介護サービス事業者の賃金が高い状態になっています。さらに都市部では、コロナ禍にサービスを縮小していたホテル、飲食業などのサービス業界での人材不足が深刻化し、異業種との人材獲得競争も厳しくなっています。医療機関に求められる新たな「医療の形」病床稼働率の低下という現状を乗り切るための唯一の解決方法は、患者のニーズに応えることです。しかし、急性期の医療機関は専門医が多く、スペシャリストとして専門診療は得意である一方、後期高齢者のように2つ以上の慢性疾患が併存し、診療の中心となる疾患の設定が難しい「Multimorbidity(多疾患併存)」の場合、診療科ごとに縦割り構造のため、患者をチームで診ていると言いながら、病院内で診療科間の連携が取れていない、かかりつけ医や介護サービス事業者との連携協力が不十分なため、退院後にも内服薬の治療中断や退院前の指導不足による病状の悪化など、同じ患者が何回も入退院を繰り返す例が少なくありません。今後は、高度な急性期の医療機関は変わる必要がありそうです。とくに、在宅医やかかりつけ医との退院前のカンファレンスの開催や紹介状の内容の充実、情報共有の進化が必要ですが、多忙な急性期病院の医師がこれらを行うのは難しいと感じています。現状の解決手段としては、医師事務補助作業者の活用による書類作成の充実、退院サマリーや紹介状の作成業務のクオリティの向上が考えられます。また、今後は電子カルテにAIを導入し、カルテ内容の要約自動化を進めることや連携医療機関とカルテの開示を進めることが求められます。さらに、回復期リハビリテーション病棟や地域包括ケア病棟のある医療機関から退院する場合に、退院後のケアを担当する医療、福祉職へのわかりやすい指導(たとえば体重が〇kg以上増えたら早期に専門医に受診、食事や体重が減ったらインスリンは〇単位減量など)が求められると考えます。政府が模索する「新たな地域医療構想」の時代へ厚生労働省は、社会保障制度改革国民会議報告書に基づき、団塊の世代が全員75歳以上となる2025年に向けて、地域医療構想を策定するよう各都道府県に働きかけてきました。厚労省は地域医療構想を「中長期的な人口構造や地域の医療ニーズの質・量の変化を見据え、医療機関の機能分化・連携を進め、良質かつ適切な医療を効率的に提供できる体制の確保を目的とするもの」と定義しています。現状、2025年を目指していた「地域医療構想」はほぼ完成形に近付いているように思います。高度急性期、急性期、回復期、慢性期の病床区分は、各医療機関の立ち位置を明確にし、担うべき役割と連携協力機関をはっきりさせることで、独立した医療機関が有機的に医療・介護連携を行い、全国の2次医療圏内で完結できるよう基盤整備を進めてきました。厚労省は、今後の日本が迎える「高齢者が増えない中、むしろ労働人口が減少していく」2040年を見据え、今年3月から「新たな地域医療構想等に関する検討会」を立ち上げました。地域によっては高齢化の進行によって外来患者のピークを過ぎた2次医療圏も増えています。これは国際医療福祉大学の高橋 泰教授らが作成した2次医療圏データベースシステムからも明らかになっています。これまで、医師や看護師といった人材リソースを増やすことで充実させてきた医療のあり方が変わる中、その地域でいかに残っていくのかを考える必要があります。そのために、最近読んでいる本を紹介します。今後の病院、クリニック運営を考える際の一助になりましたら幸いです。『病院が地域をデザインする』発行日2024年6月14日発行クロスメディア・パブリッシング発売インプレス定価1,738円(1,580円+税10%)https://book.cm-marketing.jp/books/9784295409861/著者紹介梶原 崇弘氏(医学博士/医療法人弘仁会 理事長/医療法人弘仁会 板倉病院 院長/日本大学医学部消化器外科 臨床准教授/日本在宅療養支援病院連絡協議会 副会長)千葉県の船橋市にある民間病院である板倉病院(一般病床 91床)の取り組みとして、救急医療、予防医療、在宅医療の提供、施設や在宅との連携を通して「地域包括ケア」の展開や患者に求められる医療機関の在り方など先進的な取り組みが、とても参考になります。ぜひ一度、手に取ってみられることをお勧めします。参考1)新たな地域医療構想等に関する検討会(厚労省)2)社会保障制度改革国民会議報告書(同)3)外来医療計画関連資料(同)4)診療報酬改定2024 「トリプル改定」を6つのポイントでわかりやすく解説!(Edenred)5)2次医療圏データベースシステム(Wellness)5)医療の価格どう変化? 生活習慣病、医師と患者の「計画」で改善促す(朝日新聞)

146.

JN.1系統対応コロナワクチン、一変承認を取得/ファイザー・ビオンテック

 ファイザーおよびビオンテックは2024年8月8日付のプレスリリースにて、生後6ヵ月以上を対象とした新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のオミクロン株JN.1系統対応の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンについて、日本での製造販売承認事項一部変更承認を取得したことを発表した。 両社は2024年6月10日、オミクロン株JN.1系統のスパイクタンパク質をコードするメッセンジャーRNA(mRNA)を含む1価ワクチンについて厚生労働省に承認事項一部変更を申請しており、今回、以下の製剤が承認された。・コミナティ筋注シリンジ 12歳以上用(プレフィルドシリンジ製剤で希釈不要)・コミナティRTU筋注5~11歳用 1人用(バイアル製剤で希釈不要)・コミナティ筋注6ヵ月~4歳用 3人用(バイアル製剤で要希釈) 上記申請は、品質に係るデータに加え、本ワクチンが両社のオミクロン株XBB.1.5系統対応COVID-19ワクチンに比べ、JN.1およびKP.2、KP.3を含むその亜系統に対しても優れた免疫反応を示した非臨床データに基づいている。 2024年5月29日に開催された「第2回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会研究開発及び生産・流通部会季節性インフルエンザワクチン及び新型コロナワクチンの製造株について検討する小委員会」では、2024/2025シーズン向けの新型コロナウイルス感染症ワクチンの抗原組成について、JN.1系統が選択されている1)。 また、諸外国の動向として、英国医薬品・医療製品規制庁(MHRA)は7月24日に、ファイザー・ビオンテックのJN.1対応ワクチンを承認している2)。一方米国では、2024年秋から使用する新型コロナワクチンについて、6月13日の米国食品医薬品局(FDA)の発表によると、可能であればJN.1系統のKP.2株を使用することをワクチン製造業者へ提案しているという3)。

147.

HPVワクチンのキャッチアップ接種推進に向けて/日医

 日本医師会(会長:松本 吉郎氏[松本皮膚科形成外科医院 理事長・院長])は、定例会見を開催した。会見では、「2025(令和7)年度の予算要求要望」について、「医療DXの適切な推進、地域医療への予算確保、新興感染症などへの予算確保」ならびに事項要求として「物価高騰・賃金上昇への対応」を厚生労働省に要望したことが報告された。また、医師会が日本医学会との協力で発行している英文ジャーナル「JMA Journal」が「1.5」(クラリベイト社発表)のインパクトファクターを取得したことも報告された。そのほか、2024年9月末に期限が迫っている「HPVワクチンキャッチアップ接種推進に向けて」について医師会の取り組みが説明された。キャッチアップ接種について看護学生の9割は「知っている」と回答 HPVワクチンは、定期接種が小学校6年生~高校1年生相当の女子を対象に行われている。現在、接種勧奨が行われているが、平成9年度生まれ~平成19年度生まれ(誕生日が1997年4月2日~2008年4月1日)の女子の中に、 通常の定期接種の対象年齢のときに接種機会を逃した人もおり、HPVワクチンの接種の機会(キャッチアップ接種)が設けられている。 このキャッチアップ接種は、2025(令和7)年3月31日までとなっているが、3回の接種を完了するためには半年程度の期間が必要で、2024(令和6)年9月末までに初回接種をする必要があり、その期限が目前となっている。 こうした事態を受けて、釜萢 敏副会長(小泉小児科医院 院長)が、「HPVワクチンのキャッチアップ接種について」をテーマに、これまでの医師会の取り組みや接種対象の看護学生へのアンケート結果などを説明した。 医師会では、HPVワクチンの接種について、さまざまな啓発動画を制作・公開するとともに啓発資料を作成し、医師会員の医療機関などで活用してもらっている。そこで、最近公開された資料として福岡県立大学看護学部のワクチン対象年齢の学生25人に行ったアンケート調査結果について内容を説明した。 アンケート調査の概要は以下のとおり。・「HPVワクチンの接種の有無」を聞いたところ、「接種した」が48%、「予定している」が28%、「ない」が24%だった。・「キャッチアップ接種について知っているか」を聞いたところ、「よく知っている」が40%、「多少は知っている」が52%、「知らない」が8%だった。・「20代のがんの過半数が子宮頸がんであることを知っているか」を聞いたところ、「よく知っている」が56%、「多少は知っている」が40%、「知らない」が4%だった。  また、自由回答でワクチン接種のきっかけを聞いたところ、「無料接種だから」「母親の勧め」「がん予防のため」「医師の勧め」などの回答だった。一方、接種していない・悩んでいる対象者の未接種理由では、「親が不要と言っている」「副反応が怖い」「注射が苦手」などの回答だった。 「医師会では、ひとりでも多く子宮頸がんなどで亡くなる人をなくしたいという目的でこうした活動を行っているが、接種については本人が決めることであり、接種を考える際の判断材料にしてもらいたい。そして、期限までに多くの対象者に接種してもらいたい」と釜萢氏は思いを語った。 医師会では、今後も9月末の期限までにさまざまなメディアで啓発活動を行うとしている。

148.

第108回 オリンピックもSNSで誹謗中傷だらけ

コロナ禍で加速した誹謗中傷私は大手メディア等でこっそりと情報発信を続けていますが、コロナ禍で行政や教授のなかなかプレッシャーのある立場で、熱心に発信し続けていた医師たちがいます。しかし、彼らに対する誹謗中傷は見るに堪えないものでした。そんなダメージが蓄積されたせいで、彼らの発信頻度も最近減ったのではないか…と感じております。SNSは、X(旧Twitter)のユーザーが圧倒的に多いですが、日本ではInstagram、TikTok、Facebookなどのユーザーも多いです。いずれのSNSにも共通していることとして、「心無い言葉をかける人が増えた」と感じます。Threadsのように最近登場したSNSはまだ少し穏やかな雰囲気が漂っていますが、だんだんとオラオラ系のつぶやきが増えてくるのがSNSの性(さが)。コロナ禍は、マスクやワクチンなど意見を二分するようなテーマが多かったので、敵意帰属バイアスが起こりやすかった。要は、相手に敵意がなくとも、そこに敵意が存在しているかのように誤認してしまうバイアスで、「ワクチン接種=犯罪」という極端な方向に意見を置いてしまうことです。そのため、メッセンジャーRNAワクチンだろうと不活化ワクチンだろうと、世のあまねくワクチンは罪であるという、ネジが吹っ飛んだ考え方に傾倒してしまい、医療従事者へ厳しい罵詈雑言を投げかけるワケです。敵意帰属バイアスの怖いところは、「自分イズ正義」と思い込んでいることです。犯罪者には人権はなく、厳しい言葉をぶつけてもいいと思っている人は、放送禁止用語を連発してディスってきます。これがSNSでよく見かける誹謗中傷です。また、SNSの特徴は、その人に直接メッセージを送るわけではなくて、ただ空中につぶやいているだけのことも多い。誹謗中傷の相手がそれを読んでいるとは思っていないし、本人は悪口とも思っていないはずです。ちょっと「毒を吐いている」程度の認識だから、余計にタチが悪い。周りはみんな見ていますよ。オリンピックでも誹謗中傷今回のオリンピックでは、誤審だけでなく、選手の態度、性別に関する話題もSNSで取り上げられました。その仔細について、私はとやかく言う立場ではないですが、今回のオリンピックの選手に向けた誹謗中傷は、なかなかのものだなあと感じます。自国を愛して、その選手たちを応援するのは自然な感情だと思います。ただ、このナショナリズムが過度になってしまうと、相手選手や審判へのフルボッコは加速していきます。1回針をチクリと刺しただけでは人は死にませんが、SNSで何万人もの人に刺され続けると、人は簡単に死にます。過去に誹謗中傷を受けて自死した人がいることをわれわれは知っているのですから、SNSを使う人は感情垂れ流しではなく、オトナにならないといけません。いつまでもイジメがなくならない理由は、たぶんこういう「安易な悪口」をやっちゃう人が多いからだと思います。自分が発信している内容を、家族や友人が見ても「いいね」してくれるだろうか。安易につぶやく前に、冷静になってみましょう。もちろんこれは、自戒も込めて。

149.

経口コロナ治療薬シェア7割のゾコーバ、入院を37%抑制/塩野義

 塩野義製薬は7月29日の第1四半期決算説明会にて、新型コロナウイルス感染症治療薬のゾコーバ(一般名:エンシトレルビル フマル酸)について、現在流通する3剤の経口コロナ治療薬の中でシェアを拡大し、とくに2024年4月以降は重症化リスク因子を有する患者への処方が多く、7月第3週時点でシェア67.6%に達したことを明らかにした。ゾコーバの重症化リスクのある患者の入院抑制効果など、リアルワールドエビデンスが蓄積されていることについて、以下のとおり説明された。入院リスクを37%減少 本剤が日本で緊急承認された2022年11月22日~2023年7月31日の期間において、国内の18歳以上のCOVID-19来院患者16万7,310例を対象に、レセプトデータベース(JMDC)を用いた入院抑制効果について、ゾコーバ群5,177例と標準対症療法群(抗ウイルス薬治療なし)16万2,133例とを比較して、投与から1ヵ月間の入院率を検証した。本結果は、Infectious Diseases and Therapy誌2024年8月号に掲載された1)。 本試験の結果、主要評価項目である理由を問わない入院イベントに関して、ゾコーバ群は対症療法群と比較して、約37%入院リスクが減少し、有意に入院イベントを抑制した(入院リスク:ゾコーバ群:0.494% vs.対症療法群:0.785%、リスク比:0.629[95%信頼区間[CI]:0.420~0.943]、リスク差:-0.291[-0.494 ~-0.088])。 本結果について同社は、オミクロン流行下でワクチン接種済みの患者が多い環境下においても、早期に本剤を服用することにより重症化を抑制できることを強く示唆するデータが得られたと見解を述べた。症状消失に関するグローバル第III相試験 また、患者1,888例を対象に症状消失およびLong COVIDについてフォローアップしたグローバル第III相試験(SCORPIO-HR試験)の結果について、ドイツ・ミュンヘンで開催された第25回国際エイズ学会(AIDS 2024)で発表された内容の一部についても言及された。本試験では、主要評価項目を、15の症状について症状が完全に消失し2日間以上経過したことと定義し、本剤とプラセボを比較した。本試験の結果、15症状消失までの時間短縮を示したが、統計学的な有意差は認められなかった(ゾコーバ群:12.5日vs.プラセボ群13.1日、p=0.14)。 アジア圏(日本、韓国、ベトナム)における第III相試験(SCORPIO-SR試験)では、5症状(鼻水または鼻づまり、喉の痛み、咳、熱っぽさまたは発熱、倦怠感[疲労感])について消失して1日以上経過したと定義し、本剤とプラセボを比較した。本試験の結果、ゾコーバ群:10.1日vs.プラセボ群10.9日、p=0.04となり、統計学的に有意な結果が示された。 SCORPIO-HR試験およびSCORPIO-SR試験において、同じ施設でPCRの測定をしたところ、本剤を服用することでプラセボよりも速やかにウイルス量を低下させ、症状を伴うウイルス力価のリバウンドはみられなかったという。 現在、本剤について、国内の小児を対象とした症例集積や、グローバルでの予防効果の試験、グローバルでの入院から早期復帰の試験(STRIVE試験)、国内でのLong COVIDに対する前向き試験なども進行中だ。

150.

忽那氏が振り返る新型コロナ、今後の対策は?/感染症学会・化学療法学会

 2024年8月2日の政府の発表によると、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の定点当たりの報告数は14.6人で、昨夏ピーク時(第9波)の20.5人に迫る勢いで12週連続増加し、とくに10歳未満の感染者数が最も多く、1医療機関当たり2.16人だった。週当たりの新規入院患者数は4,579人で、すでに第9波および第10波のピークを超えている1)。 大阪大学医学部感染制御学の忽那 賢志氏は、これまでのコロナ禍を振り返り、パンデミック時に対応できる医師が不足しているという課題や、患者数増加に伴う医師や看護師のバーンアウトのリスク増加など、今後のパンデミックへの対策について、6月27~29日に開催の第98回日本感染症学会学術講演会 第72回日本化学療法学会総会 合同学会にて発表した。日本ではオミクロン株以前の感染を抑制 忽那氏は、コロナ禍以前の新興感染症の対策について振り返った。コロナ禍以前から政府が想定していた新型インフルエンザ対策は、「不要不急の外出の自粛要請、施設の使用制限等の要請、各事業者における業務縮小等による接触機会の抑制等の感染対策、ワクチンや抗インフルエンザウイルス薬等を含めた医療対応を組み合わせて総合的に行う」というもので、コロナ禍でも基本的に同じ考え方の対策が講じられた。 欧米では、オミクロン株が出現した2021~22年に流行のピークを迎え、その後減少している。オミクロン株拡大前もしくはワクチン接種開始前に多くの死者が出た。一方、日本での流行の特徴として、第1波から第8波まで波を経るごとに感染者数と死亡者数が拡大し、とくにオミクロン株が拡大してからの感染者が増加していることが挙げられる。忽那氏は「オミクロン株拡大までは感染者数を少なく抑えることができ、それまでに初回ワクチン接種を進めることができた。結果として、オミクロン株拡大後は、感染者数は増えたものの、他国と比較して死亡者数を少なくすることができた」と分析した。新型コロナの社会的影響 しかし、他国よりも感染対策の緩和が遅れたことで、新型コロナによる社会的な影響も及んでいる可能性があることについて、忽那氏はいくつかの研究を挙げながら解説した。東京大学の千葉 安佐子氏らの日本における婚姻数の推移に関する研究では、2010~22年において、もともと右肩下がりだった婚姻数が、感染対策で他人との接触が制限されたことにより、2020年の婚姻数が急激に減少したことが示されている2)。また、超過自殺の調査では、新型コロナの影響で社会的に孤立する人の増加や経済的理由のために、想定されていた自殺者数よりも増加していることが示された3)。忽那氏は、「日本は医療の面では新型コロナによる直接的な被害者を抑制することができたが、このようなほかの面では課題が残っているのではないか。医療従事者としては、感染者と死亡者を減らすことが第一に重要だが、より広い視点から今回のパンデミックを振り返り、次に備えて検証していくべきだろう」と述べた。パンデミック時、感染症を診療する医師をどう確保するか コロナ禍では、医療逼迫や医療崩壊という言葉がたびたび繰り返された。政府が2023年に発表した第8次医療計画において、次に新興感染症が起こった時の各都道府県の対応について、医療機関との間に病床確保の協定を結ぶことなどが記載されている。ただし、医療従事者数の確保については欠落していると忽那氏は指摘した。OECDの加盟国における人口1,000人当たりの医師数の割合のデータによると、日本は38ヵ国中33位(2.5人)であり医師の数が少ない4)。また、1994~2020年の医療施設従事医師数の推移データでは、医師全体の数は1.47倍に増えているものの、各診療科別では、内科医は0.99倍でほぼ横ばいであり、新興感染症を実際に診療する内科、呼吸器科、集中治療、救急科といった診療科の医師は増えていない5)。 感染症専門医は2023年12月時点で1,764人であり、次の新興感染症を感染症専門医だけでカバーすることは難しい。また、岡山大学の調査によると、コロナパンデミックを経て、6.1%の医学生が「過去に感染症専門医に興味を持ったことがあるが、調査時点では興味がない」と回答し、3.7%の医学生が「コロナ禍を経て感染症専門医になりたいと思うようになった」、11.0%の医学生が「むしろ感染症専門医にはなりたくない」と回答したという結果となった6)。医療従事者のバーンアウト対策 日本の医師と看護師の燃え尽きに関する調査では、患者数が増えると医師と看護師の燃え尽きも増加することが示されている7)。米国のMedscapeによる2023年の調査では、診療科別で多い順に、救急科、内科、小児科、産婦人科、感染症内科となっており、コロナを診療する科においてとくに燃え尽きる医師の割合が高かった8)。そのため、パンデミック時の医師の燃え尽き症候群に対して、医療機関で対策を行うことも重要だ。忽那氏は、所属の医療機関において、コロナの前線にいる医師に対して精神科医がメンタルケアを定期的に実施していたことが効果的であったことを、自身の経験として挙げた。また、業務負荷がかかり過ぎるとバーンアウトを起こしやすくなるため、診療科の枠を越えて、シフトの調整や業務分散をして個人の負担を減らすなど、スタッフを守る取り組みが大事だという。 忽那氏は最後に、「感染症専門医だけで次のパンデミックをカバーすることはできないので、医師全体の感染症に対する知識の底上げのための啓発や、感染対策のプラクティスを臨床現場で蓄積していくことが必要だ。今後の新型コロナのシナリオとして、基本的には過去の感染者やワクチン接種者が増えているため、感染者や重症者は減っていくだろう。波は徐々に小さくなっていくことが予想される。一方、より重症度が高く、感染力の強い変異株が出現し、感染者が急激に増える場合も考えられる。課題を整理しつつ、次のパンデミックに備えていくことが重要だ」とまとめた。■参考1)内閣感染症危機管理統括庁:新型コロナウイルス感染症 感染動向などについて(2024年8月2日)2)千葉 安佐子ほか. コロナ禍における婚姻と出生. 東京大学BALANCING INFECTION PREVENTION AND ECONOMIC. 2022年12月2日.3)Batista Qほか. コロナ禍における超過自殺. 東京大学BALANCING INFECTION PREVENTION AND ECONOMIC. 2022年9月7日4)清水 麻生. 医療関連データの国際比較-OECD Health Statistics 2021およびOECDレポートより-. 日本医師会総合政策研究機構. 2022年3月24日5)不破雷蔵. 増える糖尿病内科や精神科、減る外科や小児科…日本の医師数の変化をさぐる(2022年公開版)6)Hagiya H, et al. PLoS One. 2022;17:e0267587.7)Morioka S, et al. Front Psychiatry. 2022;13:781796.8)Medscape: 'I Cry but No One Cares': Physician Burnout & Depression Report 2023

151.

がんによる死亡の半数近くとがん症例の4割にライフスタイルが関係

 がんによる死亡の半数近くとがん症例の4割に、喫煙や運動不足などのライフスタイルが関係していることが、新たな研究で明らかになった。特に喫煙はがんの最大のリスク因子であり、がんによる死亡の約30%、がん発症の約20%は喫煙に起因することが示されたという。米国がん協会(ACS)がん格差研究のシニア・サイエンティフィック・ディレクターを務めるFarhad Islami氏らによるこの研究結果は、「CA: A Cancer Journal for Clinicians」に7月11日掲載された。 Islami氏らは、米国における2019年のがんの罹患率とがんによる死亡率に関する全国データとそのリスク因子を分析し、ライフスタイルのリスク因子に起因するがんの症例数と死亡数を推定した。その結果、2019年に30歳以上の米国成人に発生した、メラノーマを除くがん症例の40.0%(178万1,649例中71万3,340例)とがんによる死亡の44.0%(59万5,737例中26万2,120例)は、是正可能なライフスタイルのリスク因子に起因することが示された。 それらのリスク因子の中でも、がん罹患とがんによる死亡への寄与度が特に高かったのは喫煙であり、あらゆるがん症例の19.3%、がんによる死亡の28.5%は喫煙に起因すると推測された。この結果についてIslami氏は、「米国での喫煙に起因する肺がん死亡者数は、過去数十年の間に喫煙者が大幅に減少したことを考えると憂慮すべき数だ」と懸念を示す。同氏は、「この知見は、各州で包括的なたばこ規制政策を実施して禁煙を促進することの重要性を強調するものでもある。さらに、治療がより効果的になる早期段階で肺がんを見つけるために、肺がん検診の受診者数を増やす努力を強化することも重要だ」と付け加えている。 そのほかの因子でがん罹患とがんによる死亡への寄与度が高かったのは、過体重(同順で7.6%、7.3%)、飲酒(5.4%、4.1%)、紫外線曝露(4.6%、1.3%)、運動不足(3.1%、2.5%)であった。Islami氏は、「特に、若年層で体重過多と関連するがん種が増加していることを考えると、健康的な体重と食生活を維持するための介入により、米国内のがん罹患者数とがんによる死亡者数を大幅に減少させることができるはずだ」との考えを示している。 さらに本研究では、がん種によってはライフスタイルの選択によりがんの発症を完全に、もしくは大幅に回避できる可能性があることも判明した。例えば、子宮頸がんは、ヒトパピローマウイルス(HPV)感染を防ぐワクチンの接種により全て回避できる可能性がうかがわれた。論文の上席著者であるACSのサーベイランスおよび健康の公平性に関する科学のシニアバイスプレジデントを務めるAhmedin Jemal氏は、「同様に、肝臓がん予防も、その原因となるB型肝炎ウイルスに対するワクチンの接種が効果的だ。B型肝炎ウイルスは、肝臓がん以外にも肛門性器や口腔咽頭のがんの原因にもなる」と説明する。その上で同氏は、「推奨されている時期にワクチン接種を受けることで、これらのウイルスに関連する慢性感染、ひいてはがんのリスクを大幅に減らすことができる」と付け加えている。

152.

influenza(インフルエンザ)【病名のルーツはどこから?英語で学ぶ医学用語】第9回

言葉の由来“influenza”という言葉は、ラテン語の“influentia”(流れ込む)から派生したものだそうです。これは“influence”(影響)という英単語の語源でもあるようです。過去の記録によれば、当時の人々は、この病気が天体の影響によって引き起こされると考えていたようで、とくに占星術の影響が強かった中世では、星々の位置が地上の出来事に影響を与えると信じられていたそうです。このため、突然広がる流行性の病気は、天体からの影響だと解釈されていたわけです。興味深いことに、18世紀ごろまでは“influenza di freddo”(寒さの影響・流れ込み)という言い方もされており、寒気が体内に「流れ込む」ことで病気が発生するとも考えられていたようです。時代が変わり、19世紀後半に病原体としてのウイルスが発見されるまで、この「天体の影響」や「寒気の流れ込み」という概念が続いていました。現代の医学では、インフルエンザはウイルス感染症であることが明らかになっていますが、その名称には中世の人々の世界観が今も残っているようです。なお、“influenza”は日本語でも「インフルエンザ」ですが、日本では古くは「地域名+かぜ」あるいは「流行性感冒」と呼ばれており、ウイルスが分離され、命名されるまでは、この病気に対する特別な名前はなかったようです。併せて覚えよう! 周辺単語抗ウイルス治療antiviral therapy混合感染concomitant infection抗原シフトantigenic shiftワクチンvaccine飛沫感染予防droplet precautionこの病気、英語で説明できますか?Influenza, commonly known as "flu", is a highly contagious respiratory illness caused by influenza viruses. It can cause mild to severe illness and, at times, can lead to death. 参考1)Michael Quinion. “Influenza”. World Wide Words. 1998-01-03.(参照2024-07-23)2)“Tis the (Flu) Season: The History of ‘Influenza”. Merriam-Webster.(参照2024-07-23)講師紹介

153.

妊娠初期のコロナ感染・ワクチン接種、児の先天異常と関連せず/BMJ

 妊娠第1三半期(13週+6日)における新型コロナウイルス感染およびワクチン接種は、生児の先天異常のリスクに大きな影響を及ぼさないことが、ノルウェー・公衆衛生研究所のMaria C. Magnus氏らの調査で示された。研究の詳細は、BMJ誌2024年7月17日号で報告された。北欧3ヵ国のレジストリベース前向き研究 研究グループは、妊娠第1三半期における新型コロナウイルス感染およびワクチン接種による主要な先天異常のリスクへの影響の評価を目的に、北欧の3ヵ国でレジストリベースの前向き研究を行った(ノルウェー研究会議[RCN]などの助成を受けた)。 2020年3月1日~2022年2月14日に妊娠したと推定され、スウェーデン、デンマーク、ノルウェーの全国的なレジストリに登録された単胎の生児34万3,066例を対象とした。 先天異常は、欧州先天異常サーベイランス(EUROCAT)の定義に基づいて分類した。妊娠第1三半期における新型コロナウイルス感染およびワクチン接種後のリスクを、母親の年齢、経産回数、教育歴、収入、出身国、喫煙状況、BMI値、慢性疾患、妊娠開始の推定日で補正したロジスティック回帰モデルで評価した。ウイルス変異株によるリスクの違いの解明が必要 1万7,704例(5.2%、516/1万人)の生児が先天異常と診断された。このうち737例(4.2%)では2つ以上の先天異常を認めた。 妊娠第1三半期の新型コロナウイルス感染に関連するリスクの評価では、補正後オッズ比(OR)は、眼球異常の0.84(95%信頼区間[CI]:0.51~1.40)から口腔顔面裂の1.12(0.68~1.84)の範囲であった。 同様に、妊娠第1三半期のCOVID-19ワクチン接種に関連するリスクのORは、神経系異常の0.84(95%CI:0.31~2.31)から腹壁破裂の1.69(0.76~3.78)の範囲だった。 また、先天異常の11のサブグループのうち10のORの推定値は1.04未満であり、顕著なリスク増加はみられなかった。 著者は、「今後、新型コロナウイルスの変異株による先天異常のリスクの違いを解明するための検討を進める必要がある」としている。

154.

第225回 新しい帯状疱疹ワクチンと認知症リスク低下が関連

新しい帯状疱疹ワクチンと認知症リスク低下が関連米国の20万例強の記録を英国オックスフォード大学の研究者らが解析したところ、2017年から同国で使用されるようになった新しい組み換え帯状疱疹ワクチンであるシングリックス接種と認知症を生じ難いことが関連しました1-3)。2006年から使われ始めて7年ほど前まで最も一般的だった別の帯状疱疹ワクチンZostavaxは生きた弱毒化ウイルスを成分とします。何を隠そうZostavaxも認知症が生じ難くなることとの関連が先立つ試験で示されています。しかし今回の新たな結果によると、認知症発現を遅らせるか、ともすると防ぎうるシングリックスの効果はZostavaxに比べて高いようです。帯状疱疹は高齢者の多くに生じる深刻な疾患の1つです。ストレスや化学療法などの免疫を弱らす事態に乗じて体内に潜む水痘帯状疱疹ウイルスが再活性化することを原因とし、痛い皮疹を引き起こし、2次感染や傷跡を残すことがあります。帯状疱疹は加齢につれて生じ易くなることから、高齢者へのそのワクチン接種が必要とされています。米国では50歳、英国では65歳での帯状疱疹ワクチン接種が推奨されています。米国を含む多くの国で帯状疱疹ワクチンは代替わりしてより有効なシングリックスが使われるようになっており、Zostavaxは使われなくなっています。シングリックスは組み換えワクチンであり、病原体のDNAのごく一部を細胞に挿入して作られるタンパク質を成分とします。それらタンパク質が体内で感染予防に必要な免疫反応を引き出します。米国では2017年後半からシングリックスがZostavaxの代わりに使われるようになりました。オックスフォード大学のMaxime Taquet氏らは、その区切り以降にシングリックスを接種した人とそれ以前にZostavaxを接種した人の認知症の生じ易さを比較しました。選ばれた人の数はどちらも10万例強で、平均年齢は71歳です。6年間の経過を追ったところ、シングリックス接種群の認知症の発症率はZostavax接種群に比べて17%低いことが示されました。また、帯状疱疹以外のワクチン(インフルエンザワクチンと3種混合ワクチン)接種群と比べてもシングリックス接種群の認知症発症率は2~3割ほど低く済んでいました。帯状疱疹ワクチンと認知症が生じ難くなることを関連付ける仕組みは不明で、今後調べる必要があります。もしかしたら帯状疱疹の原因ウイルスが認知症を生じ易くし、帯状疱疹ワクチンはそれらウイルスを阻止することで認知症をより生じ難くするのかもしれません2)。または、ワクチン自体が脳に有益な効果をもたらしている可能性もあります。ところで認知症発症率低下との関連は帯状疱疹以外のワクチンでも示されています。結核の予防や膀胱がん治療に使われるBCGワクチンはその1つで、認知症の発症リスクの45%低下との関連が昨年発表されたメタ解析で確認されています4)。BCGワクチンといえば新型コロナウイルス感染症(COVID-19)予防効果がかつて期待されましたが、プラセボ対照無作為化試験でその効果を示すことができませんでした5)。残念な結果になったとはいえBCGワクチンのCOVID-19予防効果は最終的に無作為化試験で検証されました。その試験と同様のシングリックスの認知症予防効果を検証する大規模無作為化試験の構想を今回の結果は促すだろうとTaquet氏らは論文に記しています。参考1)Taquet M, et al. Nat Med. 2024 Jul 25. [Epub ahead of print]2)New shingles vaccine could reduce risk of dementia / University of Oxford 3)Evidence mounts that shingles vaccines protect against dementia / NewScientist4)Han C, et al. Front Aging Neurosci. 2023;15:1243588. 5)Pittet LF, et al. N Engl J Med. 2023;388:1582-1596.

155.

第106回 肺炎球菌ワクチン、「プレベナー20」一強時代の到来か

「プレベナー20」とは成人・小児共に最も有効かつエビデンスがある肺炎球菌ワクチンは「プレベナー20®水性懸濁注」(PCV20)です。小児における、「肺炎球菌(血清型1、3、4、5、6A、6B、7F、8、9V、10A、11A、12F、14、15B、18C、19A、19F、22F、23F及び33F)による侵襲性感染症の予防」を効能または効果として、2024年10月から定期接種される見込みです。え…?10月…ッ!!?( ゚д゚) …   (つд⊂)ゴシゴシ  (;゚ Д゚) …!?ええっと、今7月ですよね。医療機関の契約変更、医師会やクリニックの調整、そして予診票…、もろもろの準備、間に合うんでしょうか。その想定を受けて水面下で定期接種の話が進んでいたものと推察されるので、ちゃんと間に合わせてくるのかもしれません。プレベナー13(PCV13)はPCV20の入れ替わりのような形で供給が終了になっていくものと予想されます。どちらもファイザー社製品なので、供給のバランスを取ればいいだけです。本当は、成人にも使いたいできれば成人にもPCV20を使いたいところです。――というのも、海外ではPCV20を接種するのが当たり前になっているためです。国際的には、肺炎球菌感染症のリスクが高い成人については、基本的にPCV20が推奨されています。これまで定期接種に長らく使われてきたニューモバックス(PPSV23)は、2024年4月から助成の範囲が縮小されました。5の倍数の年齢ごとにチャンスがあったものが、65歳固定になりました。基礎疾患がある場合は、60~64歳と広めに対象が設定されていますが、「チャンスが減った」ということで今後も接種率は低くなっていくかもしれません。…まあ、もともと接種率が低いんですけど…。現在、新しい肺炎球菌ワクチンとして、バクニュバンス(PCV15)が小児および成人を対象として用いられています。ただ、国際的にはPCV15を接種する場合、1年後にPPSV23を追加接種するほうが予防効果が高いとされています。現在65歳の方は、助成をフルに活用するならPPSV23→PCV15の順番で接種することが望ましいかもしれません。ただ、1回のワクチンが1万円→数千円になるくらいの助成なので、そこまでこだわらなくてもよいのではないかと思っていますが。いずれにしても、PCV15+PPSV23の連続接種が完了すると、PCV20単独よりも3つの血清型に追加防御が生じるため、こちらのほうを好む専門家もいます1)。PCV13は成人にも使用することができますが、PCV13の代わりにPCV20を導入することで、医療費の削減効果は2,039億円あるとされており、労働産生的な損失も加味すると、費用削減としては約3,526億円の効果が期待できるとされています2)。画像を拡大する図. 3種のワクチン接種プログラム(人口当たり)の費用対効果(文献2より引用、CC BY 4.0)図は、右軸にQALYの増加、縦軸に費用の増加をプロットしており、PCV13から他ワクチンに置き換わった場合の効果および費用の増分を算出しています。医薬品のアプレイザル(総合評価)では、かなりポジティブなデータとなっています。…なので、どの方向に転んでも、現時点でのエビデンスでは「PCV20推し」となるわけです。さて、肺炎球菌ワクチンは今後どうなるのか、要注目です!ちなみに、私は肺炎球菌ワクチンに関して、開示すべきCOIはありません!参考文献・参考サイト1)Mt-Isa S, et al. Matching-adjusted indirect comparison of pneumococcal vaccines V114 and PCV20 Expert Rev Vaccines. 2022 Jan;21(1):115-123.2)Shinjoh M, et al. Cost-effectiveness analysis of 20-valent pneumococcal conjugate vaccine for routine pediatric vaccination programs in Japan. Expert Rev Vaccines. 2024 Jan-Dec;23(1):485-497.

156.

コロナ罹患後症状の累積発生率、変異株で異なるか/NEJM

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染後に生じる罹患後症状(postacute sequelae of SARS-CoV-2 infection:PASC)は多くの臓器システムに影響を及ぼす可能性がある。米国・退役軍人省セントルイス・ヘルスケアシステムのYan Xie氏らは、パンデミックの間にPASCのリスクと負担が変化したかを調べた。感染後1年間のPASC累積発生率はパンデミックの経過に伴って低下したが、PASCのリスクはオミクロン株が優勢になった時期のワクチン接種者においても依然として持続していることが示された。NEJM誌オンライン版2024年7月17日号掲載の報告。各株優勢期別に、SARS-CoV-2感染後1年間のPASC累積発生率を推定 研究グループは、退役軍人省の健康記録を用いて、COVID-19パンデミックのプレデルタ株優勢期、デルタ株優勢期、オミクロン株優勢期におけるSARS-CoV-2感染後1年間のPASC累積発生率を推定した。 試験集団は、2020年3月1日~2022年1月31日にSARS-CoV-2に感染した退役軍人44万1,583例と、同時期の非感染対照474万8,504例で構成された。ワクチン接種者のオミクロン株優勢期とデルタ株優勢期の差は-1.83件/100人 ワクチン非接種のSARS-CoV-2感染者において、感染後1年間のPASC累積発生率は、プレデルタ株優勢期では10.42件/100人(95%信頼区間[CI]:10.22~10.64)、デルタ株優勢期では9.51件/100人(9.26~9.75)、オミクロン株優勢期では7.76件/100人(7.57~7.98)であった。オミクロン株優勢期とプレデルタ株優勢期の差は-2.66件/100人(-2.93~-2.36)、オミクロン株優勢期とデルタ株優勢期の差は-1.75件/100人(-2.08~-1.42)であった。 ワクチン接種者では、1年時点のPASC累積発生率は、デルタ株優勢期では5.34件/100人(95%CI:5.10~5.58)、オミクロン株優勢期では3.50件/100人(3.31~3.71)で、オミクロン株優勢期とデルタ株優勢期の差は-1.83件/100人(-2.14~-1.52)であった。 1年時点のPASC累積発生率は、ワクチン接種者が非ワクチン接種者よりも低く、デルタ株優勢期では-4.18件/100人(95%CI:-4.47~-3.88)、オミクロン株優勢期では-4.26件/100人(-4.49~-4.05)であった。 分解分析の結果、オミクロン株優勢期ではプレデルタ株優勢期とデルタ株優勢期を合わせた時期よりも、1年時点の100人当たりのPASCイベント数が5.23件(95%CI:4.97~5.47)少ないことが示された。減少分の28.11%(95%CI:25.57~30.50)は、優勢期に関連した影響(ウイルスの変化やその他の時間的影響)によるものであり、71.89%(69.50~74.43)はワクチンによるものであった。

157.

コロナ変異株KP.3のウイルス学的特徴、他株との比較/感染症学会・化学療法学会

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の第11波が到来したか――。厚生労働省が7月19日時点に発表した「新型コロナウイルス感染症の定点当たり報告数の推移」によると、都道府県別では、沖縄、九州、四国を中心に、定点当たりの報告数が第10波のピークを上回る地域が続出している1)。全国の定点当たりの報告数は11.18となり、昨年同期(第9波)の11.04を超えた2)。また、東京都が同日に発表したゲノム解析による変異株サーベイランスによると、7月18日時点では、全体の87%をKP.3(JN.1系統)が占めている3)。KP.2やJN.1を合わせると、JN.1系統が98.7%となっている。 東京大学医科学研究所システムウイルス学分野の佐藤 佳氏が主宰する研究コンソーシアム「G2P-Japan(The Genotype to Phenotype Japan)」は、感染拡大中のKP.3、および近縁のLB.1と KP.2.3の流行動態や免疫抵抗性等のウイルス学的特性について調査した。その結果、これらの親系統のJN.1と比べ、自然感染やワクチン接種により誘導された中和抗体に対して高い逃避能や、高い伝播力(実効再生産数)を有することが判明した4)。6月27~29日に開催の第98回日本感染症学会学術講演会 第72回日本化学療法学会総会 合同学会にて結果を発表した。本結果はThe Lancet Infectious Diseases誌オンライン版2024年6月27日号に掲載された。 本研究ではJN.1より派生したKP.3、LB.1、KP.2.3の流行拡大のリスク、およびウイルス学的特性を明らかにするため、ウイルスゲノム疫学調査情報を基に、ヒト集団内における各変異株の実効再生産数を推定し、次に、培養細胞におけるウイルスの感染性を評価した。また、SARS-CoV-2感染によって誘導される中和抗体や、XBB.1.5対応ワクチンによって誘導される中和抗体に対しての抵抗性も検証した。 主な結果は以下のとおり。・2024年5月時点のカナダ、英国、米国のウイルスゲノム疫学調査情報を基にした調査において、KP.3の実効再生産数は、親系統のJN.1よりも1.2倍高いことが認められた。さらに、LB.1、KP.2.3は、KP.2とKP.3よりも高かった。・培養細胞におけるウイルスの感染性について、KP.2とKP.3はJN.1よりも低い感染性を示した。一方、LB.1とKP.2.3は、JN.1と同等の感染性を示した。・これまでの流行株(XBB.1.5、EG.5.1、HK.3、JN.1)の既感染もしくはブレークスルー感染血清を用いた中和アッセイでは、LB.1とKP.2.3に対する50%中和力価(NT50)は、JN.1に対するものよりも有意に(LB.1:2.2~3.3倍、KP.2.3:2.0~2.9倍)低かった。さらに、KP.2に対するものよりも(LB.1:1.6~1.9倍、KP.2.3:1.4~1.7倍)低かった。・KP.3はすべての回復期血清サンプルに対してJN.1よりも高い中和抵抗性(1.6~2.2倍)を示したが、KP.3とKP.2の間に有意差は認められなかった。・コロナ未感染のXBB.1.5対応ワクチン血清サンプルは、JN.1系統(JN.1、KP.2、KP.3、LB.1、KP.2.3)に対するNT50は非常に低かった。・XBB自然感染後のXBB.1.5対応ワクチン血清サンプルにおいて、KP.3、LB.1、KP.2.3に対するNT50は、JN.1に対するものよりも有意に(2.1~2.8倍)低く、さらにKP.2に対するものよりも(1.4~2.0倍)低かった。 本研究の結果、JN.1から派生したKP.2、KP.3、LB.1、KP.2.3は、JN.1と比較して免疫逃避能と実効再生産数が増加し、その中でも、LB.1とKP.2.3は、KP.2やKP.3よりも高い感染性とより強力な免疫逃避能を保持することが明らかとなった。G2P-Japanについて 佐藤氏が主宰する研究コンソーシアム「G2P-Japan」では、所属機関を超えて研究者が共同で研究を行っている。2021年より、新たな懸念すべき変異株出現の超早期にウイルス学的性状について検証し、その成果は主要な医科学誌に断続的に掲載され、世界的に注目されている。佐藤氏は、次のパンデミックに備えるためにも、「G2P-Japan」としての研究活動を継続し、若手研究者の育成や啓蒙することの重要性を訴えた。ウイルス研究に関して、従来のin vivoやin vitroでの解析に加え、疫学や全世界的な流行動態の推定といったマクロの視点から、迅速に変異の影響を理解するためのタンパク質構造解析といったミクロの視点まで、多角的かつ統合的に理解することが必要であるとし、佐藤氏が創設した「システムウイルス学」という新たな研究分野によって解決していきたいと語った。第2回新型コロナウイルス研究集会を開催 新型コロナに関する最新の知見を共有するため、佐藤氏が大会長を務める「第2回新型コロナウイルス研究集会」が8月2~4日に東京・品川にて開催される5)。2023年に開催された第1回はウイルス学に関する基礎研究にフォーカスしたものだったが、第2回研究集会では、疫学、臨床医学、免疫学、ウイルス学と領域を拡大し、各分野で活躍する研究者が登壇する。 開催概要は以下のとおり。第2回新型コロナウイルス研究集会開催日時:2024年8月2日(金)〜4日(日)会場:東京コンファレンスセンター品川[現地開催]2024年8月2日(金)〜4日(日)[オンデマンド]2024年9月2日(月)正午〜9月30日(月)正午 ※予定[参加登録締切]2024年9月30日(月)大会長:佐藤 佳参加登録など詳細は公式ウェブサイトまで。

158.

第202回 新型コロナ新変異株「KP.3」拡大で感染者数急増/政府

<先週の動き>1.新型コロナ新変異株「KP.3」拡大で感染者数急増/政府2.新型コロナワクチン定期接種10月から開始、任意接種は1万5,000円/厚労省3.かかりつけ医制度の整備進む、2025年度から報告義務化/厚労省4.マイナ保険証推進のため医療DX推進体制整備加算の見直しが決定/中医協5.新興感染症対策強化へ、新たな行動計画と備蓄計画を発表/厚労省6.専門医機構の特別地域連携プログラム、要件緩和案に反発広がる/厚労省1.新型コロナ新変異株「KP.3」拡大で感染者数急増/政府林 芳正官房長官は7月19日の記者会見で、新型コロナウイルスの感染者数が増加していることについて、「今後、夏の間に一定の感染拡大が生じる可能性がある」と述べ、感染対策を徹底するよう呼び掛けた。厚生労働省によると、全国約5,000の定点医療機関から7月8~14日に報告された感染者数は5万5,072人で、1医療機関当たり11.18人と、前週比1.39倍に増加。感染者数は10週連続で増加し、とくに九州地方での増加が目立った。鹿児島県の定点医療機関の感染者数は31.75人、佐賀県は29.46人、宮崎県は29.34人と高い水準を記録。東京(7.56人)、愛知(15.62人)、大阪(9.65人)、福岡(14.92人)でも増加が確認され、全国45都府県で感染者数が増加していた。入院者数も増加傾向にあり、14日までの1週間で新規入院患者は3,081人、前週の2,357人から724人増加。集中治療室(ICU)に入院した患者数も113人と、前週から11人増加していた。専門家は、今回の感染拡大の背景には、新たな変異株「KP.3」の存在があると指摘する。東京大学の研究チームによると、KP.3はオミクロン株から派生した変異株で、感染力が強く、免疫を回避しやすい特徴があるという。とくに高齢者は重症化するリスクがあるため、十分な対策を講じる必要がある。感染症に詳しい東京医科大学の濱田 篤郎客員教授は、「今後、夏休みやお盆期間中に人の移動が増えることで、感染がさらに拡大する可能性がある」と警告。室内の換気や手洗い、マスクの着用など基本的な感染対策の徹底を呼び掛けている。また、高齢者は人混みを避け、感染が疑われる場合には、速やかに医療機関を受診することが重要だとしている。参考1)新型コロナ流行、なぜ毎年夏に 「第11波」ピークは8月か(朝日新聞)2)新型コロナの感染者数増加 林官房長官が注意喚起(毎日新聞)3)コロナ「第11波」、夏の流行期前に変異株KP・3が主流 梅雨明けで影響か(産経新聞)2.新型コロナワクチン定期接種10月から開始、任意接種は1万5,000円/厚労省2024年7月18日に厚生労働省は、新型コロナウイルスと帯状疱疹のワクチンを定期接種化する方針を発表した。新型コロナワクチンの定期接種は10月1日から開始予定で、65歳以上の高齢者と60~64歳の重症化リスクが高い人を対象とする。帯状疱疹ワクチンについては、対象年齢を65歳とし、費用を公費で支援する定期接種とする案が示された。新型コロナワクチンの定期接種は、2023年度まで全額公費負担で無料接種が行われていたが、今秋からは季節性インフルエンザと同様に接種費用の一部自己負担が求められる。接種費用の自己負担額は自治体によって異なるが、最大で7,000円と設定される。国は接種1回当たり8,300円を各自治体に助成し、費用負担を軽減する。接種期間は、2024年10月1日~2025年3月31日までで、各自治体が設定する。対象外の人は「任意接種」となり、全額自己負担で費用は約1万5,000円程度となる見込み。また、帯状疱疹ワクチンの定期接種についても同日、厚労省の予防接種基本方針部会で議論が行われた。帯状疱疹は水痘(水ぼうそう)と同じウイルスが引き起こし、加齢や疲労などによる免疫力の低下で発症する。日常生活に支障を来すほどの痛みが生じることがある。現在、国内で承認されている帯状疱疹ワクチンは、阪大微生物病研究会の生ワクチンと、英グラクソ・スミスクラインの不活化ワクチンの2種類である。部会では、65歳を対象とする定期接種化を検討し、帯状疱疹や合併症による重症化予防を目的とすることが提案された。厚労省は今後、専門家による会議での議論を経て正式に決定する予定。参考1)厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会 予防接種基本方針部会 ワクチン評価に関する小委員会(厚労省)2)帯状疱疹ワクチン65歳に定期接種化、厚労省案 引き続き検討(CB news)3)新型コロナワクチン 高齢者など対象の定期接種 10月めど開始へ(NHK)4)新型コロナワクチンの定期接種、10月から開始…全額自己負担の任意接種費は1万5,000円程度(読売新聞)3.かかりつけ医制度の整備進む、2025年度から報告義務化/厚労省厚生労働省は、「かかりつけ医機能が発揮される制度の施行に関する分科会」を7月19日に開き、2025年4月に施行される新たな報告制度を巡る議論を大筋で取りまとめた。新しい報告制度によって、各都道府県が病院や診療所に対して、かかりつけ医の機能や診療できる疾患を毎年報告させる。報告された情報はウェブサイトで公開され、患者がかかりつけ医を選びやすくすることを目指す。この報告制度は、大学病院や歯科医療機関を除くすべての病院や診療所を対象とし、かかりつけ医の研修を修了した医師や総合診療専門医の有無も報告対象に含まれる。診療できる疾患は、患者にわかりやすいように高血圧や腰痛症、かぜ・感冒などの40疾患から選ぶ形となる。報告された情報は、厚労省の医療機関検索サイト「ナビイ」で公開される予定。地域の医療提供体制を把握し、足りない機能があれば対策を講じるよう各自治体に求める。初回の報告は2026年初めごろを見込んでおり、制度開始に向けてルールの改正やガイドライン作成が進められる。また、この報告制度では、病院や診療所は「日常的な診療」(1号機能)と「時間外診療」(2号機能)の2段階で報告する。1号機能は17の診療領域ごとに一時診療に対応できるかどうかを報告し、かかりつけ医機能に関する研修修了者や総合診療医の有無も報告する。2号機能には時間外診療や在宅医療、介護サービスとの連携が含まれる。時間外診療の体制については、在宅当番医制や休日夜間急患センターへの参加状況などを報告する。かかりつけ医機能の報告制度は、5年後を目途に報告内容の見直しが検討される。初回の報告時には「高血圧」「脳梗塞」「乳房の疾患」などの40疾患についての報告を求めるが、施行から5年後に改めて検討する予定である。また、かかりつけ医機能に関する研修の要件を設定し、それに該当する研修を示す予定。今回の制度導入により、患者が適切なかかりつけ医を選びやすくなると同時に、医療提供体制の強化が期待されることで、地域医療の質の向上が期待される。参考1)第8回 かかりつけ医機能が発揮される制度の施行に関する分科会(厚労省)2)「かかりつけ医機能報告」枠組み固まる 一次診療への対応は「17領域ごと」に(CB news)3)かかりつけ医、選びやすく 来年度、診療疾患をウェブ掲載(日経新聞)4.マイナ保険証推進のため医療DX推進体制整備加算の見直しが決定/中医協7月17日に厚生労働省は、中央社会保険医療協議会を開催し、2024年度の診療報酬改定で新設された「医療DX推進体制整備加算」の見直しを決定した。見直しでは、マイナカードの利用率の実績に応じて、医療DX推進体制整備加算を3区分に再編することが含まれている。具体的には、医科における加算1が現在の8点から11点に引き上げられる。医療情報取得加算についても変更があり、患者がマイナ保険証を利用するかどうかで区分されていた初診時と再診時の点数が、12月以降はそれぞれ1点に一本化されることが決定した。医療DX推進体制整備加算の医科における点数は、10月以降、加算1が11点、加算2が10点に引き上げられるのと同時に、マイナポータルの医療情報に基づき患者からの健康管理の相談に応じることが新たに求められる。加算3は現在の8点を維持し、相談対応の基準は設定されない。マイナ保険証の利用率は、原則として適用3ヵ月前のレセプト件数ベースでの実績を使い、10月から2025年1月までは2ヵ月前のオンライン資格確認件数ベースでの利用率の使用も認められる。具体的な基準値は、10~12月には加算1が15%、加算2が10%、加算3が5%となり、2025年1~3月にはそれぞれ30%、20%、10%に引き上げられる予定。2025年4月以降の基準は年末をめどに検討される予定となっている。医療情報取得加算については、医科の初診時と再診時の点数が12月以降に1点に一本化される。これは、現行の保険証が12月に廃止され、マイナ保険証に一本化されることに対応するための措置。厚労省は、この改定を8月中に告示する予定。一方、厚労省は、低迷するマイナ保険証の利用を推進するため、医療従事者のマイナ保険証に関する疑問を解消するためのセミナーを7月19日にYouTubeでライブ配信した。セミナー資料は下記のリンクを参照されたい。厚労省は、医療DX推進体制整備加算の見直しにより、マイナ保険証の利用率向上を図り、医療現場でのデジタルトランスフォーメーションを推進する考え。2025年度以降も、電子処方箋の普及のため、さらなる引き上げが検討される予定。参考1)中央社会保険医療協議会 総会(厚労省)2)徹底解決!マイナ保険証への医療現場の疑問 解消セミナー(同)3)医療DX推進体制加算1は11点、10月以降 加算3は8点、中医協が即日答申(CB news)4)マイナ保険証、来年度以降の基準は年末めどに 医療DX推進体制加算 中医協で検討・設定(CB news)5.新興感染症対策強化へ、新たな行動計画と備蓄計画を発表/厚労省7月17日に厚生労働省は、厚生科学審議会感染症部会を開催し、新型インフルエンザ等対策政府行動計画に基づく新ガイドライン案を示した。このガイドラインでは、緊急時に備えて医療用マスク3億1,200万枚を国と都道府県で備蓄することを盛り込んでいる。ガイドライン案には、高機能なN95マスク2,420万枚や非滅菌手袋12億2,200万枚の備蓄など、物資確保の項目が新たに追加された。都道府県は、初動1ヵ月分の物資を備蓄し、国は2ヵ月目以降の供給が回復するまでの分を備蓄する。また、事実誤認の指摘など国民への情報発信の強化も求められている。2024年度からの新しい医療計画(第8次医療計画)では、「新興感染症対策」が追加され、各都道府県で感染患者受け入れ病床や発熱患者対応外来医療機関の確保が進展している。6月1日時点で病床確保は目標の81.8%、発熱外来は54.0%の達成率となっている。とくに流行初期に確保すべき病床の進捗率は109.5%、初期に対応すべき発熱外来は124.1%と目標を上回る進展をみせている。新医療計画では、新興感染症の流行初期や蔓延時に備えて、都道府県と医療機関が「医療措置協定」を締結することが義務付けられている。現在、各都道府県で協議が進行中であり、9月末までに協定の締結完了を目指している。協定締結が進む一方で、病床数や発熱外来の整備が依然として必要とされている。部会では、病床の確保だけでなく医療従事者の確保も課題として挙げられた。出席した委員からは、「病床数は多いが医療従事者が不足することで運用が難しい」との指摘があり、医療現場の状況の把握も検討が求められた。また、初動期には各都道府県が相談センターを整備し、受診調整を実施することが提案された。厚労省は同日、新型インフルエンザ等対策ガイドラインの案も示し、感染症発生前の「準備期」から発生後の「初動期」、「対応期」ごとに対応策を整理し、感染者の受け入れや流行段階に応じた対応を求めている。政府は、今後もガイドラインの内容を議論し、夏ごろに取りまとめを目指す予定。参考1)新型インフルエンザ等対策政府行動計画 ガイドライン案 概要(厚労省)2)第87回厚生科学審議会感染症部会(同)3)新興感染症対策、各都道府県の「感染患者受け入れ病床」「発熱患者に対応する外来医療機関」確保が着実に進展-社保審・医療部会(Gem Med)4)感染症のまん延防止策、ガイドライン案を公表 リスク評価に基づき、機動的に実施 厚労省(CB news)5)感染症有事の対応、「病床確保」だけでは不十分 厚科審でガイドライン案めぐり議論(同)6.専門医機構の特別地域連携プログラム、要件緩和案に反発広がる/厚労省日本専門医機構は、7月19日に開催された厚生労働省の医道審議会の医師専門研修部会で、医師少数区域の施設で1年以上の研修を設ける「特別地域連携プログラム」の要件緩和案を示した。この案では、新たに医師を1年以上派遣する研修施設を連携先に加えることを提案。しかし、「ミニ一極集中」を招く恐れがあるとして反対意見が相次いだ。特別地域連携プログラムは、医師が不足している都道府県の医師少数区域の施設などを連携先とし、1年以上の研修を行うもの。しかし、研修施設としての要件を満たす施設が少ないことから、連携枠を設けるのが困難だという指摘が複数の学会から出ていた。そのため、同機構は2025年度に向けて、医師多数区域であっても、医師少数区域の医療機関に新たに医師を派遣する研修施設であれば、連携先に加えることを提案した。しかし、立谷 秀清委員(全国市長会相馬市長)は「ミニ一極集中を助長する」と反対を表明。2024年度のプログラムで採用された専攻医42人の連携先のうち、約4割が茨城県、約3割が埼玉県と、東京に近い地域に偏っていることが問題視され、他の委員からも反対意見が多く出された。花角 英世委員(全国知事会新潟県知事)は、要件緩和を行うにしても「シーリングの効果が十分に発揮されていない東北や東海、甲信越地域の医師少数区域に医師が派遣されるような制限を設けるべき」と主張し、医師の偏在解消に効果が期待できる制度設計を求めた。参考1)令和6年度第1回医道審議会医師分科会 医師専門研修部会(厚労省)2)特別地域連携プログラム、「要件緩和」に反対相次ぐ 25年度シーリング案 専門医機構(CB news)

159.

HPVワクチン、積極的勧奨の再開後の年代別接種率は?/阪大

 ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの積極的勧奨が再開しているが、接種率は伸び悩んでいる。この状況が維持された場合、ワクチンの積極的勧奨再開世代における定期接種終了年度までの累積接種率は、WHOが子宮頸がん排除のために掲げる目標値(90%)の半分にも満たないことが推定された。八木 麻未氏(大阪大学大学院医学系研究科産科学婦人科学教室 特任助教)らの研究グループは、2022年度までのHPVワクチンの生まれ年度ごとの累積接種率を集計した。その結果、個別案内を受けた世代(2004~09年度生まれ)では平均16.16%、積極的勧奨が再開された世代(2010年度生まれ)では2.83%と、積極的勧奨再開後も接種率が回復していない実態が明らかとなった。本研究結果は、JAMA Network Open誌2024年7月16日号に掲載された。 HPVワクチンは2010年度に公費助成が開始され、2013年度に定期接種化されたが、副反応の報道や厚生労働省の積極的勧奨差し控えにより接種率が激減していた。2020年度から対象者へ個別案内が行われ、2022年度からは積極的勧奨が再開(キャッチアップ接種も開始)されたが、接種率の回復が課題となっている。そこで、研究グループは施策を反映した正確な接種状況や生まれ年度ごとの累積接種率を調べた。また、2022年度と同様の接種状況が続いたと仮定した場合の2028年度時点の累積接種率を推定した。 主な結果は以下のとおり。・生まれ年代別にみた、2022年度末時点のHPVワクチン定期接種終了時までの累積接種率は以下のとおり。接種世代(1994~99年度):71.96%停止世代(2000~03年度):4.62%個別案内世代(2004~09年度):16.16%積極的勧奨再開世代(2010年度):2.83%・生まれ年代別にみた、2028年度末時点のHPVワクチン定期接種終了時までの累積接種率の推定値は以下のとおり。接種世代(1994~99年度):71.96%停止世代(2000~03年度):4.62%個別案内世代(2004~09年度):28.83%積極的勧奨再開世代(2010~12年度):43.16% 本研究結果について、著者らは「日本においては、ほかの小児ワクチンの接種率やパンデミック下の新型コロナウイルス感染症ワクチンの接種率が世界的にみて高いことから、HPVワクチンの接種率だけが特異な状況にあることは明白である。今後、子宮頸がんによる悲劇を少しでも減らすため、HPVワクチンの接種率を上昇させる取り組みに加えて、子宮頸がん検診の受診勧奨の強化も必要となる。本研究結果は、今後の日本における子宮頸がん対策を検討する際の重要な資料となるだろう」と考察している。

160.

第220回 コロナ第11波に反しワクチンが打てない!?その最大原因は…

新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)ワクチンの特例臨時接種が今年3月末で終了し、2024年4月以降は65歳以上の高齢者と基礎疾患を有する60~64歳が秋冬1回の定期接種、そのほかの人は任意接種となる1)のは周知のことだ。現在は秋冬の定期接種に向けての準備期間となるが、実はこの時期、新型コロナワクチン“難民”が出現している。コロナワクチン難民?私がこのことを知ったのは6月に入ってすぐだ。友人から何の脈絡もなく「ちょっと教えてほしいんだけど、コロナの予防接種って任意になってからできるとこが少ないの? 仙台の人なんだけど、病院や行政や医師会に聞いてもみつからなくて埼玉で接種したって…」とのメッセージが送られてきた。今だから明かすと、この時は多忙だったことに加え、極めて特殊事例か最悪はガセネタだと思って既読スルーしてしまった。もっとも特例臨時接種終了後、接種可能な医療機関が減少するであろうことは容易に想像がついた。ご存じのように新型コロナのmRNAワクチンは保管管理に手間がかかる。現在、国内で承認されているのは、ファイザーのコミナティ、モデルナのスパイクバックス、第一三共のダイチロナの3種類。このうちコミナティとスパイクバックスは、出荷時は超低温で冷凍され、2~8℃の冷蔵庫で解凍後の保存可能期間はコミナティが10週間、スパイクバックスが30日間。いずれも再冷凍は不可だ。ダイチロナは冷蔵保存が可能で保管可能期間は7ヵ月とコミナティやスパイクバックスよりは扱いやすい。そして、1バイアル当たりはコミナティが6回接種分、スパイクバックスが10~20回接種分、ダイチロナは2回接種分で、1度針を刺したバイアルはコミナティ、スパイクバックスでは12時間以内、ダイチロナは24時間以内に使い切らねばならない。要はそれだけの接種希望者を一度に集めなければ、残りは廃棄になり、医療機関側はその分の損失を被るだけになる。この点を解決すべく、コミナティに関しては5月中旬に1人用バイアルが登場したばかりだ。とはいえ、まさか東北地方の首都と言ってもいい仙台で、新型コロナワクチンを接種できない事態はあるはずがないと思っていた。実際、友人からのメッセージにも「あれだけたくさんあったはずのワクチンがないって」との記述があったが、私も同じ考えだったのだ。しかし、数日後、たまたまこの友人と直接会う機会があり、そこで話を聞いて一定の信憑性があると感じた。大元の情報提供者は私の地元である仙台に在住。たまたま、以前の本連載で触れた父親が使い始めた車椅子の操作を確認するため帰省する予定だったので、実際に話を聞いてみることにした。任意接種できる場所、どこにもみつからない!情報提供者のAさんは40代の大学教員。20年ほど前から風邪をひくと咳が1~2ヵ月続く体質で、仙台に住み始めてから呼吸器科を受診し、咳喘息の診断を受けている。このため年1回ぐらいの頻度でステロイド吸入薬を頓用していたが、コロナ禍中にユニバーサルマスクが社会全体に浸透したおかげで、2020年以降は咳喘息の症状をほとんど経験しなかったという。新型コロナワクチンに関しては、いわゆる自己申告の基礎疾患保有者として優先接種対象となり、昨年9月に6回目の接種を終了していた。しかし、今年2月にAさんの子供の学校で新型コロナが大流行し、自身も家庭内感染をしてから事態は一変。新型コロナの主な症状が治まった後も咳の症状はひかない。しかも、「大きめの声を出すと、咳が止まらなくなる。ひどいときは喋れないぐらい」(Aさん)まで症状が悪化したそうだ。受診した医療機関で新型コロナ感染や咳喘息の既往を伝えたところ、診察した医師から「半年くらい症状が続くと思われます」と即答された。いわゆる後遺症である。私が話を聞いたのは6月下旬だったが、取材中にも一度ひどく咳込んで水を口にし、ステロイド薬も1日1回は吸入しなければならなくなっていた。二度と感染したくないと思ったAさんは3月中旬から新型コロナワクチンの任意接種ができそうな医療機関を探し始めた。しかし、当時はいくら検索しても、見つかるのは同月末の特例臨時接種終了の告知ばかり。厚生労働省にも直接連絡を取ってみたが、「任意接種できる医療機関の情報はとりまとめていないので、各医療機関に個別に問い合わせてください」との返答で、かかりつけの呼吸器内科も、今後、任意接種を自院で行うかは未定とのことだった。一旦は諦めたA氏だったが、コミナティの1人用バイアルが5月中旬にも承認の見通しと報じられていたため、5月のゴールデン・ウイーク中から再び接種可能な施設を探すために医療機関へ問い合わせを始めた。仙台市内の大学附属病院、公立・公的病院から順に電話で問い合わせ、いずれも「接種は行っていない」との回答を受けたという。その後は呼吸器内科がありそうな病院・クリニック、特例臨時接種時に接種を行っていた病院・クリニックなどにも電話をかけ続けたAさん曰く、「『盛ってませんか?』と言われることもあるが、100軒以上は電話した」という。しかし、仙台市内でこの時期、任意接種可能な医療機関はついに見つからなかった。Aさんはこのほかにも宮城県庁、仙台市役所、宮城県と仙台市の医師会にも問い合わせたが、いずれも「現時点で任意接種できる医療機関はわからず、そうした情報をとりまとめてもいない。とりあえずご意見は承るが、現時点で任意接種対応医療機関情報をとりまとめる予定はない」という趣旨の回答しか得られなかった。新型コロナワクチン求め、問い合わせ窓口巡りまた、ファイザー、モデルナ両社の一般向け相談窓口にも問い合わせをしたが、接種可能な医療機関情報の公表について、ファイザーは「まだそういう予定はない」、モデルナは「検討中」との回答。そして嬉しいことにモデルナ社への問い合わせ時に秋田県由利本荘市が同市内で任意接種可能な医療機関名の一覧をホームページ(HP)で公表していたことを知った。Aさんは仙台から車で由利本荘市に行くことも念頭に、HPに掲載されていた各医療機関に問い合わせたが、いずれの医療機関もこの時点では接種を始めていないことがわかった。そこでAさんは由利本荘市健康福祉部健康づくり課に連絡を取り、市外在住者であることを伝えたうえでリストの更新を要請した。その甲斐があってか、現在は同HPでは各医療機関の任意接種開始時期が記載されている。この時点でほぼ万事休すかに思われた。AさんはX(旧Twitter)でワクチン接種医療機関をまとめているアカウントをウォッチし、東京都内で何軒か任意接種が可能な医療機関は見つけてはいたが、いずれも東京駅からはさらに電車で1時間は要する場所。「これでは接種に行くのはほぼ1日がかりになる」と思っていた矢先、X上で偶然、新幹線で大宮まで約1時間、そこから在来線に乗り換えて10分ほどで行ける埼玉県さいたま市浦和区で接種可能なクリニックを発見した。同クリニックのHPで接種可能なことを確認して予約を入れ、仙台から新幹線で現地に向かい無事接種することができた。ワクチンの接種料金は1万6,000円。これに仙台から浦和までの新幹線と在来線の往復料金が2万1,000円強。合計4万円弱の費用がかかった。なんとも高価な接種となったが、多くの人にとってはそこまでの対応はほぼ不可能だ。こんなにも苦労したAさんだが、現在はモデルナだけが接種可能な医療機関を公表している2)など状況はやや改善している。そこでmRNAワクチンを供給する3社に私自身が今回の事例を説明し、各社の対応について問い合わせてみた。任意接種可能な医療機関について、各社の対応まず、モデルナ社によると、接種可能医療機関の公表は5月下旬にスタート。その経緯について、同社のコミュニケーションズ&メディア担当者は「どの施設でワクチン接種できるのか情報がなく困っている患者さんやご家族は多く、コールセンターへの問い合わせも多くあったため」と回答した。現時点では掲載に同意した医療機関のみ公開しており、「当社サイトを経由して、ワクチンを接種できたとの声もいただいている」という。ファイザーの広報部門は「当社への問い合わせの詳細な内容は回答できないが、ワクチン接種医療機関がみつけられず、困っている人が一部にいることなどは認識している。現時点では、一般人に医療用医薬品の宣伝を禁じる広告規制なども鑑み、接種可能医療機関の検索システムなどはHPに設けてはいない。ただ、接種希望者への適切な情報伝達は社としても重視をしており、その実現のために現在さまざまな可能性を検討中」とのこと。第一三共のコーポレートコミュニケーション部広報グループは「一般の方から当社相談窓口に接種医療機関などに関する問い合わせをいただいている事実はあるが、現時点で接種可能な医療機関リストなどを公開する予定はない」という。ちなみに広告規制との兼ね合いについて、すでに接種医療機関を公表しているモデルナに重ねて問い合わせしたところ、「社内の必要な承認プロセスと厚生労働省への確認も経たうえで公開している」とのことだった。今回、接種に至るまで驚くほど苦労したAさんに改めてこの事態をどう考えるかを尋ねたところ、次のような答えが返ってきた。「何よりもまず、行政や医師会がきちんと動いてほしい。私がネット上を見る限り、今現在も接種希望者は一定数いる。私は強い接種希望があったから、埼玉県まで接種に行ったが、多くの人が同じことはできない。任意接種と言いつつ、地域によっては事実上接種不可能という現状は問題だと思う」少なくとも今回のような事例は、行政、医師会、製薬企業のそれぞれが単独で解決できるコトではないのは確かである。参考1)厚生労働省:新型コロナワクチンについて2))モデルナワクチン接種医療機関一覧

検索結果 合計:2139件 表示位置:141 - 160