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第240回 ウイルス学者が自身の乳がんを手ずから精製したウイルスで治療

50歳の女性科学者が研究室で手ずから作ったウイルスで自身の乳がんを治療し、成功しました。クロアチアのザグレブ大学のBeata Halassy氏は2016年に乳がんと診断され、その2年後の2018年にトリプルネガティブ乳がん(TNBC)を再発します。さらに2020年にはかつて乳房切除したところの最初は小さかった漿液腫が直径2cmの固形腫瘍へと進展して、2回目の再発に直面しました1)。MRI/PET-CT検査で転移やリンパ節への移行は認められなかったものの、腫瘍は胸筋や皮膚に達していました。Halassy氏はその再発も手に余るTNBCであろうと覚悟し、がん細胞を死なせ、抗腫瘍免疫を促す腫瘍溶解性ウイルスに似たウイルスを腫瘍へ投与する治療をする、と彼女を診る腫瘍科医に告げました。腫瘍溶解性ウイルス治療(OVT)の経過を観察することを腫瘍科医は了承し、有害事象や腫瘍進展の際にOVTを止めて定番療法が始められるようにしました。OVTの臨床試験は進行した転移を有するがんをもっぱら対象としてきましが、転移前のがんを対象とする開発も始まっています。たとえば、転移前の乳がんのOVT込み術前治療を検討した第I/II相試験で奏効率向上効果が示唆されています2)。Halassy氏はOVTの専門家ではありませんが、ウイルスの培養や精製の経験はOVT治療の実行の自信となりました。Halassy氏はかつて研究で扱ったことがある2つのウイルスを順番に自身のがんに投与しました。その1つは小児ワクチン接種で安全なことが知られる麻疹ウイルス(MV)のエドモンストンザグレブ株です。もう1つは副作用といえばせいぜい軽いインフルエンザ様症状を引き起こすぐらいで、ヒトにほとんど無害な水疱性口内炎ウイルス(VSV)のインディアナ株です。MVは乳がんで豊富に発現する分子2つを足がかりにして細胞に侵入し、VSVはマウスでの検討で乳がん阻止効果が認められています。Halassy氏の共同研究者はHalassy氏が準備したそれらウイルスをHalassy氏の腫瘍に2ヵ月にわたって直接注射しました。幸いOVTはうまくいき、もとは2.47cm3だった腫瘍は0.91cm3へと大幅に縮小しました。硬すぎて注射針を刺すのが極めて困難だった腫瘍は、治療後にやわ(softer)になって容易に注射できるようになりました1)。また、侵襲していた胸筋や皮膚から離脱し、手術で取り除きやすくなりました。全身の副作用といえば発熱と寒気ぐらいで、深刻な副作用は認められませんでした。取り出した腫瘍を調べたところ、免疫細胞のリンパ球が腫瘍塊の45%を占めるほどにがっつり侵入しており、リンパ球と線維組織が豊富で腫瘍細胞が見当たらない部分もありました。そのような豊富な線維化は昔ながらの術前化学療法での完全寛解後にしばしば認められます。どうやらOVTは目当ての効果を発揮して免疫系の攻撃を導いたようです。取り出した腫瘍にHER2が認められたことからHalassy氏は手術後に抗HER2抗体トラスツズマブを1年間使用しました。そして手術後に再発なしで45ヵ月を過ごすことができています。数多のジャーナルが掲載拒否Halassy氏の手ずからのウイルス治療の報告は十数ものジャーナルに却下された後、今夏8月にようやくVaccines誌に掲載されました。Halassy氏の自己治療(self-experimentation)の掲載を拒否したジャーナルの倫理上の懸念は意外なことではないとの法と医学の専門家Jacob Sherkow氏の見解がNattureのニュースで紹介されています3)。掲載したら患者が定番の治療を拒んでHalassy氏のような治療を試すことを促してしまうかもしれないということが問題なのだとSherkow氏は言っています。一方、自己治療の経験が埋没しないようにする手立ても必要だとSherkow氏は考えています。Halassy氏もSherkow氏が指摘するような心配は心得ており、がんの最初の治療手段として腫瘍溶解性ウイルスを自己投与してはいけないと言っています1)。そもそも、実行には多大な科学的素養と技術を要する自身の治療を真似ようとする人はいないだろうとHalassy氏は踏んでいます。Halassy氏が望むのは、自身の経験ががんの術前治療でのOVTの使用を検討する正式な臨床試験が進展することです。いまやHalassy氏の経験から新たな道が生まれようとしています。この9月にHalassy氏は家畜のがんを腫瘍溶解性ウイルスで治療する取り組みへの資金を手に入れました3)。目指すものが自身の自己治療の経験によってまったく違うものになったとHalassy氏は言っています。参考1)Forcic D, et al. Vaccines (Basel). 2024;12:958. 2)Soliman H, et al. Clin Cancer Res. 2021;27:1012-1018.3)This scientist treated her own cancer with viruses she grew in the lab / Nature

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第216回 マイコプラズマ肺炎5週連続で過去最多更新、厚労省が注意喚起/厚労省

<先週の動き>1.マイコプラズマ肺炎5週連続で過去最多更新、厚労省が注意喚起/厚労省2.新たな地域医療構想で、2次救急病院はどう分類? 定義が課題に/厚労省3.外科医不足解消へ集約化・重点化を検討 厚労省が提案/厚労省4.信頼できるがん情報はどこに? 半数近くの患者はがん情報が入手困難/国立がん研5.出生数減少、過去最少を更新 社会保障制度への影響も懸念/厚労省6.コロナ禍の補助金、不正受給21億円 会計検査院が厳正な対応を要求/会計検査院1.マイコプラズマ肺炎5週連続で過去最多更新、厚労省が注意喚起/厚労省マイコプラズマ肺炎の感染拡大が続いている。国立感染症研究所の発表によると、10月21~27日の1週間における定点医療機関当たりの患者報告数は2.49人で、5週連続で過去最多を更新した。都道府県別では、愛知県の5.4人が最も多く、次いで福井県(5.33人)、青森県(5.0人)、東京都(4.84人)、埼玉県(4.67人)と続いている。マイコプラズマ肺炎は、肺炎マイコプラズマ細菌による呼吸器感染症で、咳や発熱が主な症状。子供や若者に多くみられるが、大人も感染する可能性がある。厚生労働省は、咳が長引くなどの症状がある場合は医療機関を受診するよう呼びかけている。また、感染拡大防止のため、手洗い、マスク着用などの基本的な感染対策を徹底するよう促している。一方、手足口病も依然として高止まりが続いている。10月21~27日の1週間における定点医療機関当たりの患者報告数は8.06人で、警報レベル(5.0人)を超えている。手足口病は、主に乳幼児がかかるウイルス性の感染症で、発熱や口内炎、手足の発疹などが主な症状。感染経路は、咳やくしゃみなどの飛沫感染や、接触感染。厚労省は、手足口病の流行状況を注視し、引き続き予防対策の徹底を呼びかけている。参考1)全数把握疾患、報告数、累積報告数、都道府県別(国立感染症研究所)2)マイコプラズマ肺炎が5週連続で過去最多 手足口病も高止まり 感染研(CB news)3)マイコプラズマ肺炎が猛威=感染者、4週連続で過去最多更新-厚労省「手洗い、マスク着用を」(時事通信)2.新たな地域医療構想で、2次救急病院はどう分類? 定義が課題に/厚労省2026年度から始まる新たな地域医療構想に向け、厚生労働省は病院機能報告制度の具体化を進めている。11月8日に開かれた「新たな地域医療構想等に関する検討会」では、地域ごとに整備する4つの機能と広域的な機能を担う大学病院本院の機能が提示された。地域ごとの機能は、(1)高齢者救急等機能、(2)在宅医療連携機能、(3)急性期拠点機能、(4)専門等機能(リハビリや専門性の高い医療など)となっており、1つの医療機関が複数の機能を併せ持つこともあり得るとされた。広域的な機能を担う大学病院本院は、「医育および広域診療機能」として、医師派遣、医師の卒前・卒後教育、移植や3次救急などの広域医療を担っていくこととされた。急性期拠点機能については、全国の2次救急医療機関(3,194施設)の半数以上が、救急車の受け入れが23年度に500件未満だったことから、手術や救急など医療資源を多く要する症例を集約化し、医療の質を確保するため、報告できる病院数を地域ごとに設定する方針となった。検討会では、機能の名称や定義が分かりにくいという意見や、高齢者救急等機能と急性期拠点機能の役割分担、2次救急病院の分類などについて議論があった。厚労省は、これらの意見を踏まえ、名称や定義を明確化し、2025年度中に新たな地域医療構想の策定ガイドラインを示す予定。参考1)第11回新たな地域医療構想等に関する検討会[資料](厚労省)2)医療機関機能4プラス1案示す、検討継続 厚労省「複数報告」も想定(CB news)3)新地域医療構想で報告する病院機能、高齢者救急等/在宅医療連携/急性期拠点/専門等/医育・広域診療等としてはどうか-新地域医療構想検討会(Gem Med)3.外科医不足解消へ集約化・重点化を検討 厚労省が提案/厚労省厚生労働省は10月30日に「医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」を開き、外科医不足の解消に向け、外科医療の集約化・重点化を検討課題として提案した。背景には、外科医の増加がほかの診療科に比べて緩慢であること、時間外・休日労働の割合が高いことなど、外科医の労働環境の厳しさが挙げられている。検討会では、外科医の減少に対する学会の取り組みとして、日本消化器外科学会と日本脳神経外科学会からヒアリングが行われ、両学会からは、症例数の多い施設ほど治療成績が向上する傾向があること、救急対応など地域医療の均てん化が必要な領域もあることなどが報告された。構成員からは、集約化の必要性や、地域や領域に応じた対応の必要性などが指摘された。一方、集約化によって医師の都市部集中が加速する可能性や、地域での専門医育成の難しさなどが課題として挙げられた。厚労省では、これらの意見を踏まえ、新たな地域医療構想等に関する検討会に報告し、医師偏在対策の総合的な対策パッケージ策定に向けて検討を進める方針。参考1)第7回医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会(厚労省)2)外科の集約化・重点化は医師偏在対策で「喫緊の課題」、厚労省が提案(日経メディカル)3)急性期病院の集約化・重点化、「病院経営の維持、医療の質の確保」等に加え「医師の診療科偏在の是正」も期待できる-医師偏在対策等検討会(Gem Med)4.信頼できるがん情報はどこに? 半数近くの患者はがん情報が入手困難/国立がん研国立がん研究センターなどが、2023年12月に実施したアンケート調査によるとオンラインでがん情報を入手する際に困難を感じているがん患者が45%に上ることが明らかになった。この調査は、インターネット上で約1,000人のがん患者を対象に行われ、オンラインでの情報収集における課題や情報源、情報活用について尋ねたもの。回答者の45%が「オンラインでがん関連情報を得る際に困難を感じたことがある」と回答し、そのうち5%は「常に困難を感じている/感じていた」と回答した。困難を感じた理由としては、「自分に合った情報をみつけることができない」「さまざまな情報が分散して掲載されている」「専門用語が多い」といった点が挙げられた。情報の入手元としては、検索エンジンが94%と最も多く、次いで動画共有サービスが30%、SNSが17%となった。この調査結果を受け、国立がん研究センターや全国がん患者団体連合会などは、「がん情報の均てん化を目指す会」を立ち上げた。同会は、アンケート調査の結果を踏まえて、患者が理解しやすい情報発信の必要性や、科学的根拠に基づかない情報への対応など、3つの課題と提言をまとめた。情報源に関する課題では、専門用語を避け、患者が理解しやすい情報発信が求められるとともに、信頼できる情報源の活用を促進するべきだと提言している。情報へのリーチに関する課題では、患者が適切な情報にアクセスできるよう、信頼できる情報を集めたポータルサイトの作成や、優良なWebサイト同士の相互リンクによる誘導強化を提言している。情報の活用に関する課題では、医師やがん相談支援センターによるサポート体制を強化し、患者が情報の意味を理解し、自分の状況に合わせて解釈できるよう支援するとともに、患者向けオンラインユーザーガイドを作成し、情報活用力を高めるための普及啓発を行うべきだと提言している。同会は今後、これらの提言を基に、具体的な対策を検討していく。参考1)がん情報のネットでの収集 半数近くが「困難」経験 患者調査で判明(朝日新聞)2)がん情報の均てん化に向けて~がん患者がオンライン上でがん情報を入手・活用する際の課題と提言~(がん情報の均てん化を目指す会)5.出生数減少、過去最少を更新 社会保障制度への影響も懸念/厚労省厚生労働省が11月5日に発表した人口動態統計によると、2024年上半期(1~6月)の出生数は、前年同期比6.3%減の32万9,998人だった。このペースで推移すると、2024年の年間出生数は70万人を割り込み、過去最少を更新する可能性が高まっている。出生数の減少は8年連続で、少子化に歯止めがかからない深刻な状況。背景には、未婚化・晩婚化の進行に加え、コロナ禍で結婚や出産を控える人が増えたことが挙げられる。出生数の減少は、労働力人口の減少や消費の冷え込みなど、経済への影響も懸念され、また、医療や年金などの社会保障制度の維持も困難になる可能性がある。政府は、少子化対策として児童手当や育児休業給付の拡充などを進めているが、今後、抜本的な対策が求められている。参考1)人口動態統計(厚労省)2)24年上半期の出生数は33万人 初の70万人割れか 人口動態統計(毎日新聞)3)ことし上半期の出生数 約33万人 年間70万人下回るペースで減少(NHK)4)今年上半期の出生数は33万人届かず 過去最低だった去年を下回る見込み 厚労省発表(テレビ朝日)6.コロナ禍の補助金、不正受給21億円 会計検査院が厳正な対応を要求/会計検査院会計検査院は11月6日、2023年度の決算検査報告を公表し、新型コロナウイルス対策の交付金や補助金を巡り、医療機関による不正受給など、計648億円の国費の不適切な取り扱いを指摘した。報告書によると、コロナ禍で医療体制を整備するために支払われた国の補助金において、約21億円が過大に交付されていた。中には虚偽の申請や制度の理解不足によるものなど、悪質なケースも含まれていた。具体的な事例として、空き病床とコロナ診療で休止した病床を重複申請するなどした病床確保料の過大請求、トイレや洗濯機置き場を診察室としてカウントするなどした発熱外来の補助金の不正受給、オペレーターの勤務時間を水増しするなどしたワクチン接種コールセンター業務の不正請求、納入されていない設備を納入したと虚偽報告などした救急・小児科医療機関の補助金不正受給などが挙げられている。会計検査院は、事業者側の制度理解不足や行政側の審査の甘さを指摘し、再発防止を求めている。また、コロナ交付金については、総額18兆3,000億円のうち約2割の約3兆2,000億円が不要になっていたことも判明した。使途に制限がないことから、「イカのモニュメント」や「ゆるキャラの着ぐるみ代」など、コロナ対策などとの関連性が不明瞭な事業に交付金が使われたケースもあり、批判が出ている。会計検査院は、自由度の高い交付金事業は、効果検証を行い国民に情報提供する必要があると指摘している。参考1)公金648億円余りが不適切取り扱いと指摘 会計検査院(NHK)2)コロナ医療支援21億円過大 トイレも「診察室」扱いで申請(日経新聞)3)今村洋史・元衆院議員の病院、新型コロナ診療体制の補助金1.6億円を不当申請…「考え甘かった」(読売新聞)

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第121回 高額過ぎて新型コロナワクチン接種が進まない

各学会から見解2024年10月に、日本感染症学会・日本呼吸器学会・日本ワクチン学会の3学会から合同で、「2024年度の新型コロナワクチン定期接種に関する見解」が発出され1)、「高齢者における重症化・死亡リスクはインフルエンザ以上であり、今冬の流行に備えて、10月から始まった新型コロナワクチンの定期接種を強く推奨」と記載されました。そして、日本小児科学会から「2024/25シーズンの小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方」も発出され2)、「生後6ヵ月~17歳のすべての小児への新型コロナワクチン接種(初回シリーズおよび適切な時期の追加接種)が望ましい。特に、重症化リスクが高い基礎疾患のある児への接種を推奨」という文面になりました。こうした学会の見解は、これまでのエビデンスに裏付けられたものであり、一定の合理性を感じます。「変異ウイルスに効かない説」いまだによく聞く言説として、今年のワクチンはもう新しいKP.3系統に効果がないというものがあります。これは誤解です。確かに、従来のワクチン(起源株の1価ワクチン、BA.4・BA.5を含む2価ワクチン、XBB.1.5の1価ワクチン)やXBB以前の獲得免疫については、現在の主流株であるKP.3にはやや劣る側面があるかもしれません。しかし、現在定期接種で用いられているJN.1の1価ワクチンは、ここよりも下位系統に対して中和抗体の誘導が可能で、現在主流のKP.3系統も含めて発症予防効果があると考えられています3)。この冬に流行するのは、おそらくXEC株というものですが、これはKS.1.1(JN.13.1.1.1)とKP.3.3(JN.1.11.1.3.3)の組み換え体であるため4)、これもJN.1対応の現行ワクチンで効果があると思われます。ちなみに、JN.1対応ワクチンを接種した場合、KP.3株およびXEC株に対する中和抗体価は、JN.1株ほどではないものの有意に向上したという査読前論文があります5)。この冬に流行しそうな株は、現行ワクチンで十分と考えられます。現状、過去のワクチン接種の後、効果がなくなってしまった人がほとんどなので、とくに定期接種対象者についてはどこかで接種を検討する形でよいかと理解しています。高額過ぎて打てない自治体によって対応に差はありますが、ほとんどの子供は定期接種対象者ではありません。そのため、新型コロナワクチンの接種費用はガチでかかります。約1万5,000円です。家族4人で打つと6万円ということになるので、それなら感染予防を心掛けて今年の冬を乗り切ろうというご家庭が多いかもしれません。この費用負担が、新型コロナワクチンの接種を妨げる一因ともいえます。インフルエンザワクチンは接種するものの、コロナワクチンは見送る──そんなご家庭が増えているのが現状です。さらに、レプリコンワクチンに関する誤情報も影響している可能性があります。実際、Meiji Seika ファルマは、こうしたデマに対して訴訟を起こすなど、厳しい対応を行っています。諸外国では無料で接種できる国も多く、日本の現状は「予防医学の理想」からは遠い位置にあります。将来的にインフルエンザとの混合ワクチンが実現する際には、この費用の問題も解決されることが期待されます。参考文献・参考サイト1)日本感染症学会, 日本呼吸器学会, 日本ワクチン学会. 2024年度の新型コロナワクチン定期接種に関する見解(2024年10月17日)2)日本小児科学会. 2024/25シーズンの小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方(2024年10月27日)3)厚生労働省. 第2回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会研究開発及び生産・流通部会季節性インフルエンザワクチン及び新型コロナワクチンの製造株について検討する小委員会資料. 資料1「2024/25シーズン向け新型コロナワクチンの抗原組成について」(2024年5月29日)4)Kaku Y, et al. Virological characteristics of the SARS-CoV-2 XEC variant. bioRxiv. 2024 Oct 17. [Preprint]5)Arona P, et al. Impact of JN.1 booster vaccination on neutralisation of SARS-CoV-2 variants KP.3.1.1 and XEC. bioRxiv. 2024 Oct 04. [Preprint]

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第235回 コロナワクチン否定のための引用論文、実は意外な結論だった

つくづく新型コロナウイルス感染症のワクチン問題は説明が難しいと感じている。つい先日、知人と久しぶりに会った時に「新型コロナウイルスのスパイクタンパク質って毒性あるの?」と尋ねられ、「なんかそう言っている話もあるけどね」と確たる答えを返せなかった。確かにSNS上では、mRNAワクチンで産生されるスパイクタンパク自体に毒性があり、ワクチン接種そのものに問題があるという指摘は、ワクチン批判派の人たちからはよく流されている。私がこうした指摘にこれまで気にも留めなかったのは、脂質ナノ粒子にくるまれて細胞内に入り込んだmRNAワクチン成分がそこでスパイクタンパク質を作り出しても、スパイクタンパク質自体やmRNAが入り込んでスパイクタンパク質を産生している細胞は、ワクチン接種で誘導された免疫反応で排除されるのが、このワクチンの理論的な作用機序だと考えているからだ。とはいえ、知人の指摘する話の原典には当たったことはなく、後日実際に検索しているうちに、ワクチン批判派があちこちで引用する2021年3月のCirculation Research誌に掲載されたLetter1)に行き着いた。ワクチン否定派の引用論文×自身が気になった論文これはスパイクタンパク質をつけた疑似ウイルスをハムスターに接種した実験で、スパイクタンパク単体でも細胞表面のACE2受容体のダウンレギュレーションを通じて血管内皮細胞に障害を与える可能性があるとの研究。これ自体は当然ながら一定の信憑性はあるのだろう。もっともこの論文の最後を読んで、申し訳ないが笑ってしまった。というのも、結論は「ワクチン接種により産生される抗体や外因性の抗Sタンパク質抗体は、新型コロナウイルスの感染だけでなく、内皮障害も保護する可能性が示唆される」というものだったからだ。ワクチン批判派の人たちは、論文を読まずに拡散していたということにほかならない。もっとも私自身の中でことはこれで終わりにはならなかった。前出の論文検索中にCirculation誌の2023年1月に掲載されていた論文2)を見つけたからだ。この論文が記述していたのはmRNAワクチン接種約100万回当たり1回程度生じるといわれる心筋炎の副反応に関する研究である。その中身は「新型コロナワクチン接種後に心筋炎の副反応を経験した若年者と年齢をマッチングさせたワクチン接種経験のある健常ボランティアの血液を分析した結果、心筋炎発症集団の血中でのみワクチン接種により産生された抗体が結合しきれていないスパイクタンパク質が高濃度で検出された」という内容である。ちなみにこの研究では「抗体産生や新型コロナウイルス特異的T細胞などの免疫応答についても解析し、両集団に差がなかった」ことも記述している。この論文では、「こうしたワクチンによる抗体が掴まえきれない、血中を遊離するワクチン由来のスパイクタンパク質が心筋炎発症に関与する可能性が示唆される」と結論付けている。もっとも前述のように両者の免疫応答に差がなく、心筋炎発症集団で高濃度に検出された遊離スパイクタンパク質も33.9±22.4pg/mLと量そのものの絶対値で見れば微量にすぎない。となると、新型コロナワクチン接種者で発症する心筋炎に関しては、遊離スパイクタンパク質はリスクファクターではあるものの、何らかの内因性のファクターが関与していると見るのが妥当だと個人的には考えている。友人の意外な反応さて、そんなこんなを前述の知人に伝えたところ、「だとするならやっぱり危ないんじゃないのかな?」との反応。「いやいや、そうではなくて…」と私は語り掛け、合計1時間半にもおよぶ長電話になってしまった。私が話した内容の大半は、リスクとベネフィットのバランスである。もっともここで“約100万回に1回”という心筋炎の発症頻度が非常にわかりにくいことも改めて思い知らされた。確率に直せば0.000001ということになるので、そう説明すると知人もようやく「まあ、そんなに低いのね。何度もコロナで苦しむリスクを減らすなら、ワクチンもコスパが良いのか?」と言い出した。ちなみに本人は今年61歳。過去に2度の感染で苦しんでもいる。しかし、本当にリスクの伝え方は難しいと改めて感じている。とくに今回、私が経験したケースは入口となるファクトそのものは間違いではない。ただ、ワクチンに批判的な人たちがそこをフックに針小棒大に語っていると、こちらも医療に詳しくない一般人に説明する際はのっけから苦労する。つまり、ワクチン批判派は入口のファクトは一定の信頼性があるものを使っているため、彼らが伝える“ある種の妄想”と言っても差し支えないその先の解釈までもが、何も知らない人は“信憑性を帯びている”と無意識に受け止めているということだ。ここへさらにヒトの中に無意志に備わっているゼロリスク願望が加わると、より確かな情報を理解してもらうハードルが一気に高まってしまう。そしてSNS上で次世代mRNAワクチン、通称・レプリコンワクチンに関する異常とも言えるデマのまん延を見るにつけ、医療従事者の皆さんは私以上に苦労しているのだろうと思わずにはいられない。参考1)Lei Y, et al. Circ Res. 2021;128:1323-1326.2)Yonker LM, et al. Circulation. 2023;147:867-876.

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60歳以上へのRSVワクチン、承認後初のシーズンの有効性/Lancet

 RSウイルス(RSV)ワクチン承認後最初のシーズンである2023~24年の米国において、同ワクチンの接種は、60歳以上のRSV関連入院および救急外来受診の予防に有効であったことが示された。米国疾病予防管理センターのAmanda B. Payne氏らが報告した。2023年に初めて使用が推奨されたRSVワクチンは、臨床試験で下気道疾患に有効であることが確認されているが、実臨床での有効性に関するデータは限られていた。Lancet誌2024年10月19日号掲載の報告。RSV関連入院および救急外来受診に対するRSVワクチンの有効性を解析 研究グループは、米国8州の電子カルテに基づくネットワーク(Virtual SARS-CoV-2, Influenza, and Other respiratory viruses Network:VISION)において、2023年10月1日~2024年3月31日にRSV検査を受けた60歳以上の成人におけるRSV様疾患による入院および救急外来受診に関して、検査陰性デザインを用いた解析を実施した。 受診時のRSVワクチン接種状況は、電子カルテ、州および市の予防接種登録、一部の施設では医療請求記録から取得した。 ワクチンの有効性は、RSV陽性症例群と陰性対照群でワクチン接種のオッズを比較し、年齢、人種/民族、性別、暦日、社会的脆弱性指数、呼吸器系以外の基礎疾患数、呼吸器系の基礎疾患の有無および地理的地域で調整し、免疫不全状態別に推定した。免疫正常者における有効性、RSV関連入院に対し80%、救急外来受診に対し77% 60歳以上、免疫正常者のRSV様疾患による入院は2万8,271例で、RSV関連入院に対するワクチンの有効性は80%(95%信頼区間[CI]:71~85)、RSV関連重篤疾患(ICU入院/死亡、または両方)に対するワクチンの有効性は81%(95%CI:52~92)であった。 60歳以上、免疫不全状態の患者のRSV様疾患による入院は8,435例で、RSV関連入院に対するワクチンの有効性は73%(95%CI:48~85)であった。 60歳以上、免疫正常者のRSV様疾患による救急外来受診3万6,521例において、RSV関連救急外来受診に対するワクチンの有効性は77%(95%CI:70~83)であった。 ワクチンの有効性の推定値は、年齢層や製剤の種類によらず同様であった。 著者は研究の限界として、RSV陽性患者の受診がRSV感染症以外の理由で受診していた可能性を否定できないこと、予防接種登録、電子カルテ、医療請求記録では、投与されたRSVワクチンの投与量をすべて特定できない可能性があること、残余交絡の可能性などを挙げている。

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第215回 新型コロナ5類移行後も死者3万人超、インフルエンザの15倍、高齢者に脅威/厚労省

<先週の動き>1.新型コロナ5類移行後も死者3万人超、インフルエンザの15倍、高齢者に脅威/厚労省2.医師臨床研修マッチング、大学病院離れが加速、地方志向強まる/厚労省3.心臓移植、余命1カ月の患者を最優先へ 待機期間中の死亡減目指す/厚労省4.第50回総選挙、医師資格保持者17人が議席獲得5.がん予防の細胞療法で重症感染症 都内クリニックに停止命令/厚労省6.根拠不明の薬でがん患者死亡 遺族が自由診療のクリニックを提訴/大阪1.新型コロナ5類移行後も死者3万人超、インフルエンザの15倍、高齢者に脅威/厚労省新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が5類感染症に移行して以降も、死者数は依然として高い水準にあることが判明した。厚生労働省の人口動態統計によると、2023年5月~2024年4月までの1年間で、COVID-19による死者は計3万2,576人に上り、季節性インフルエンザの約15倍に達した。死亡者の大部分は65歳以上の高齢者で、全体の約97%を占めていた。男女別では男性が1万8,168人、女性が1万4,408人と、男性の方が多い傾向がみられた。専門家は、COVID-19が次々と変異を繰り返して高い感染力を持つ一方で、病原性はあまり低下していないことが、高齢者を中心に多くの死亡者が出ている原因だと指摘している。COVID-19の5類移行に伴い、行動制限などは解除されたが、感染拡大防止に向けた個々人の意識が重要となる。東北大学の押谷 仁教授(感染症疫学)は、「大勢が亡くなっている事実を認識し、高齢化社会の日本で被害を減らすために何ができるのかを一人一人が考えないといけない」と訴えている。押谷教授は、社会経済活動を維持しながら死亡者数を減らすためには、「高齢者へのワクチン接種や高齢者施設における検査などの費用を国が負担すべきだ」と指摘している。参考1)コロナ死者年間3万2千人 5類移行後、インフル15倍 高齢者ら今も脅威 冬の流行、専門家懸念(東京新聞)2)新型コロナ死者、年間3万2,576人 5類移行後、インフルの15倍(毎日新聞)3)コロナ死者年間3万2,000人超 5類移行後、インフルの15倍 高齢者らには今も脅威(産経新聞)2.医師臨床研修マッチング、大学病院離れが加速、地方志向強まる/厚労省2024年度の医師臨床研修マッチングの結果が10月24日に発表され、地方での研修を希望する医師が増加傾向にある一方、第1希望の研修プログラムへのマッチ率が前年度より低下したことが明らかになった。厚生労働省によると、マッチングに参加した医学生は1万136人で、うち9,868人が希望順位表を登録した。研修先がマッチングしたのは9,062人で、マッチ率は91.8%。研修先は、市中病院が64.7%、大学病院が35.3%と、市中病院での研修を希望する医師が大多数だった。また、地方病院での研修希望も増加傾向にあり、東京都、神奈川県、愛知県、京都府、大阪府、福岡県の6都府県を除く41道県でのマッチ率は60.1%で、前年度より1.1ポイント増加した。その一方で、第1希望の研修プログラムにマッチした人の割合は62.5%で、前年度より1.8ポイント減少した。第3希望までにマッチした人は88.7%で、こちらも前年度より1.0ポイント減少した。マッチングの結果、大学病院本院で定員充足率が100%となったのは19大学であり、とくに関西医科大学は10年連続、昭和大学は9年連続でフルマッチを達成していた。そのほか、自大学出身者のマッチ割合が高い大学も多く、金沢医科大学、旭川医科大学など9校では、マッチ者の全員が自大学出身者だった。参考1)令和6年度の医師臨床研修マッチング結果をお知らせします(厚労省)2)2025年4月からの医師臨床研修、都市部6都府県「以外」での研修が60.1%、大学病院「以外」での研修が64.7%に増加-厚労省(Gem Med)3)医師臨床研修マッチング、63%が第1希望に内定 前年度比1.8ポイント減 厚労省(CB news)4)市中病院にマッチした医学生は64.7% マッチング最終結果、フルマッチは19校(日経メディカル)3.心臓移植、余命1カ月の患者を最優先へ 待機期間中の死亡減目指す/厚労省心臓移植を希望する患者の待機期間が長期化する中、厚生労働省は10月23日、余命1ヵ月以内と予測される60歳未満の患者を最優先に対象とする新たな方針を決定した。従来の心臓移植の優先順位は、血液型や体重、人工心臓の装着の有無などを基準とし、条件が同じ場合は待機期間が長い患者が優先されていた。しかし、医療技術の進展により、約7割の患者が同じ優先枠で待機できるようになり、より切迫した緊急性が考慮されない状況だった。このため、病状が悪化しても待機順位が上がらず、移植を受けられないまま死亡するケースも少なくなかった。新たな方針では、余命1ヵ月以内と予測される60歳未満の患者を最優先枠に設定し、待機期間中の死亡を減らすことを目指す。対象となる患者は、日本循環器学会に設置される専門部会が審査を行う予定。また、厚労省では、心臓移植以外の臓器移植についても、優先順位の見直しを進める方針。一方、臓器提供者側の対応については、あっせん機関である日本臓器移植ネットワークの業務を分割し、ドナー家族への対応などを新組織や医療機関の院内コーディネーターに委嘱する体制見直し案も提示された。参考1)心臓移植「余命1ヵ月最優先」 厚労省、待機中の死亡減目指す(毎日新聞)2)緊急性の高い患者に心臓移植を 厚労省、優先順位の基準見直しへ(朝日新聞)3)心臓移植 緊急度の高い患者に優先枠 厚労省の専門委が承認(NHK)4)心臓移植断念、5年で34人 待機長期化、緩和医療を選択 切迫患者を最優先の動き(産経新聞)4.第50回総選挙、医師資格保持者17人が議席獲得第50回衆議院議員総選挙で、医師資格を持つ候補者36人が立候補し、そのうち17人が当選を果たした。自民からは6人が当選し、維新は5人、立民から4人、公明と国民民主からは各1人ずつが議席を獲得した。残る19人は惜しくも落選となり、選挙戦を制することはできなかった。注目の当選者には、立憲民主党の阿部 知子氏(神奈川12区)がおり、医師資格保持者の中で最多の9回目の当選となった。また、日本維新の会から立候補した梅村 聡氏(大阪5区)は、参議院議員から鞍替え出馬での立候補で、衆議院への転身が実現した。無所属で立候補した三ツ林 裕巳氏(埼玉13区)は、自民党からの公認が得られず落選という結果になった。今回の選挙では、前回の第49回衆院総選挙の当選者は12人に比べて、医師資格保持者が17名と増加したことが特徴的で、医療や福祉政策への関心の高まりが反映されているとみられる。【医師資格を持つ今回の当選者】国光 文乃:自民 比例当選/新谷 正義:自民 比例当選/今枝 宗一郎:自民 愛知14区/松本 尚:自民 千葉13区/安藤 高夫:自民 比例当選/仁木 博文:自民 徳島1区/岡本 充功:立民 愛知9区/中島 克仁:立民 山梨1区/阿部 知子:立民 神奈川12区/米山 隆一:立民 新潟4区/沼崎 満子:公明 比例当選/梅村 聡:維新 大阪5区/伊東 信久:維新 大阪19区/猪口 幸子:維新 比例当選/阿部 圭史:維新 比例当選/阿部 弘樹:維新 比例当選/福田 徹:国民 愛知16区(敬称略)5.がん予防の細胞療法で重症感染症、都内クリニックに停止命令/厚労省東京都内のクリニックで再生医療を受けた患者2人が重大な感染症を発症し、厚生労働省が当該医療機関に医療提供一時停止の緊急命令を出した事態を受け、一般社団法人再生医療安全推進機構は10月27日、厚労省に再生医療政策の見直しを求める陳情書を提出した。10月25日、厚労省は、医療法人輝鳳会が運営する「THE KCLINIC」(東京都中央区)で、がん予防を目的とした自由診療の細胞療法を受けた患者2人が、重大な感染症で入院したと発表した。2人は「NK細胞」と呼ばれる細胞の加工物の投与を受けており、その細胞加工物から感染症の原因とみられる微生物が確認された。厚労省は、再生医療安全性確保法に基づき、同クリニックと、NK細胞の培養を行った「池袋クリニック培養センター」(東京都豊島区)に対し、同様の再生医療の提供などを一時的に停止させる緊急命令を出した。同機構は、この事件を受け、自由診療下における再生医療ビジネスの増加と、医療機関内での細胞培養加工の安全性に対する懸念を表明。厚労省に対し、再生医療政策の抜本的な見直しを求める陳情書を提出した。陳情書では、臨床現場のニーズを反映した政策立案、審査ガイドラインの策定、法規制の更新、監視体制の強化などを求めている。とくに、医療機関内で行う細胞培養加工施設の運用基準の明確化、細胞外小胞を用いた治療など、法規制の枠外にある再生医療に対する規制強化を訴えている。同機構は、今回の陳情を機に、再生医療の安全性確保と健全な発展に向けた議論が深まることに期待を寄せている。参考1)再生医療等の安全性の確保等に関する法律に基づく緊急命令について(厚労省)2)再生医療政策の抜本的見直しを求める陳情書を厚生労働省に提出(PR TIMES)3)再生医療後に重大な感染症で2人が入院 厚労省、医院に医療提供一時停止の緊急命令(産経新聞)4)再生医療で重大な感染症 医療提供一時停止の緊急命令 厚労省(NHK)6.根拠不明の薬でがん患者死亡 遺族が自由診療のクリニックを提訴/大阪大阪市内のクリニックで「がん細胞が死ぬ」と勧められた自由診療の薬を投与された後、容体が悪化し死亡した男性の遺族が、クリニックの院長を相手取り、損害賠償を求める訴訟を大阪地裁に起こした。訴状によると、男性は2021年4月、前立腺または精嚢がんと診断され、一般病院で抗がん剤治療を受けながら、並行してクリニックで自由診療を受けていた。クリニックの院長は、公的医療保険が適用されない自由診療の薬を「アメリカ製の治療薬で、日本製よりパワーがある」と勧め、男性は「ガスダーミンE」という薬の点滴を受けることにした。しかし、点滴投与後、男性の容体は悪化。その後、院長から「『ガスダーミンE』ではなく『ガスダーミンRNA』を投与していた」と告げられたが、明確な説明はなく、男性は2022年4月、がん性腹膜炎で死亡した。遺族は、院長が十分な説明をせず正体不明の薬を投与し、病状を悪化させたとして、935万円の損害賠償を求めている。治療の同意書はみつかっておらず、遺族は「ずさんな対応」と訴えている。一方、院長は「納得の上で同意を得ていたが、同意書は作成していなかった。使った薬はガスダーミンEで間違いなかった」と反論している。専門家は、自由診療は科学的根拠が不十分な場合が多く、高額な費用がかかるにもかかわらず、効果が保証されない点に注意が必要だと指摘している。参考1)がん自由診療2日後に容体悪化、半年後に死亡…「副作用説明なかった」遺族が医師を提訴へ(読売新聞)2)「『がん細胞が死ぬ』と勧められた自由診療の薬で容体悪化」死亡した男性の遺族がクリニック院長を提訴(読売テレビ)3)提訴:「がん細胞死ぬ」点滴後死亡 自由診療クリニック 遺族が提訴へ(毎日新聞)

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インフルエンザウイルス曝露後抗ウイルス薬の有効性(解説:寺田教彦氏)

 インフルエンザウイルス曝露者に対する抗ウイルス薬の有効性を評価したシステマティックレビューとネットワークメタ解析の結果が、2024年8月24日号のLancet誌に報告された。本研究では、MEDLINE、Embase、Cochrane Central Register of Controlled Trials、Cumulative Index to Nursing and Allied Health Literature、Global Health、Epistemonikos、ClinicalTrials.govを用いて、11,845本の論文と関連レビューから18件の研究を確認し、このうち33件の研究をシステマティックレビューに含めている。概要は「季節性インフル曝露後予防投与、ノイラミニダーゼ阻害薬以外の効果は?/Lancet」のとおりでザナミビル、オセルタミビル、ラニナミビル、バロキサビルは、重症化リスクの高い被験者において、季節性インフルエンザ曝露後、速やか(48時間以内)に投与することで症候性インフルエンザの発症を大幅に軽減する可能性が示唆され、重症化リスクの低い人では、症候性インフルエンザの発症を大幅に軽減しない可能性が示唆された。 過去には、2017年のインフルエンザウイルス曝露者に対する予防投与のシステマティックレビューで、オセルタミビルまたはザナミビルの曝露後予防投与により有症状のインフルエンザ発生を減少させる効果が報告されていたが(Doll MK, et al. J Antimicrob Chemother. 2017;72:2990-3007)、エビデンスの質や確実性は評価されていなかった。当時は、これらのエビデンスを参考に、WHOやIDSAのガイドライン(Uyeki TM, et al. Clin Infect Dis. 2019;68:e1-e47.)では、インフルエンザウイルス曝露後に、合併症のリスクが非常に高い患者に対して、抗ウイルス薬の予防投与が推奨された。本邦の現場でも、インフルエンザウイルス曝露後の予防投与は保険適用外だが、病院や医療施設内で曝露者が発生したときなどに、重症化や合併症リスクを参考に、個々の患者ごとに適応を検討していた。 本研究の結果から、2024年9月17日にWHOのガイドラインが更新されており、抗インフルエンザ薬(バロキサビル、ラニナミビル、オセルタミビル、ザナミビル)の曝露後予防投与は、ワクチン接種の代わりにはならないが、きわめてリスクの高い患者(85歳以上の患者、または複数のリスク要因をもつ若年者)には曝露後48時間以内の投薬が推奨されている。 さて、われわれのプラクティスについて考えてみる。本研究では、曝露後予防投与で入院や死亡率の低下を確認することはできていないが、曝露後予防投与はインフルエンザ重症化リスクの高い患者群では発症抑制(確実性は中程度)の効果が期待でき、重症化リスクの低い人では、季節性インフルエンザに曝露後、速やかに投与しても症候性インフルエンザの発症を大幅に軽減しない可能性が示唆された(確実性は中程度)。インフルエンザ重症化リスクの高い患者群では、インフルエンザに罹患することで重症化やADL低下につながることが予測され、適切な患者を選定して曝露後予防投与を行うことはメリットがあるだろう。 そのため、インフルエンザウイルス曝露後予防は、これまでどおりインフルエンザの重症化や合併症リスクを個々の症例で検討することが良いと考える。 曝露後予防投与時の抗ウイルス薬では、オセルタミビルやザナミビルに加えて、本研究では、ラニナミビルやバロキサビルも有効性を確認することができた。ラニナミビルやバロキサビルは、オセルタミビルやザナミビルに対して、単回投与が可能という強みをもつため、抗ウイルス薬の複数回投与が困難な環境ならば使用を考慮してもよいのかもしれない。しかし、オセルタミビルのように、過去の使用実績が豊富で安価な薬剤を選択できる場合は、これまでどおりこれらの薬剤を選択してよいと考える。

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第234回 医療政策のレベル高し?立憲、公明党、国民民主党、社民党の公約

さて前回に引き続き、衆院選の各党の政策紹介と独断と偏見に基づくその評価の第二段である。ちなみに現在の各種報道を参照すると、与党である自民党・公明党による過半数獲得が微妙とのこと。正直、個人的には予想外である。久々に目が離せない選挙となった。さて今回は前回予告したように、公示前議席数で偶数順位の政党を順に取り上げる。立憲民主党(2位:98議席)もはや説明も要らぬ野党第1党である。以前紹介した代表選の結果、党内でも保守色が強い元首相の野田 佳彦氏が代表に就任。報道各社の情勢分析によると、かなり議席を増やす可能性があるらしい。その意味ではあくまで同党はチャンスであるためか、「7つの約束 政権交代こそ、最大の政治改革。」を掲げる。さて同党の200ページ超の分厚い政策集から主なものを拾ってみた。『デジタル・IT』の項目ではマイナ保険証に関して以下のような記述となっている。医療DXの推進は喫緊の課題であるものの、「不安払拭なくしてデジタル化なし」です。国民の不安を払拭し、国民皆保険の下、誰もが必要なときに、必要な医療が受けられる体制を堅持するために、2024年12月の健康保険証の廃止を延期し、一定の条件が整うまで現在の健康保険証を存続させます。現行法においてマイナンバーカードの取得が申請主義であることを踏まえ、マイナ保険証の利用は、リスクと便益を自分で判断して決めるべきであり、本人の選択制とします。ちなみに『厚生労働』の医療保険制度関連で「レセプト審査の効率化、医療ビッグデータのさらなる活用によって、保険者機能の強化、医療費適正化、健康課題への活用を推進します」とあることも考慮すれば、マイナ保険証にむしろ内心では肯定的な見解もうかがえる。マイナ保険証全否定の日本共産党、れいわ新撰組、社民党と比べれば、かなり穏健かつ現実的な方向性に舵を切っていると言える。この辺からもこれら3党との共闘は、野田氏の代表就任から衆院選まで時間があったとしても難しかっただろうと推察できる。一方で社会保険料負担に関しては「上限額を見直し、富裕層に応分の負担を求めます」とある。これだけでは具体性に欠くのだが、後段では「世代間公平に配慮しつつ、重点化と効率化によって、子どもから高齢者にわたる、持続可能で安心できる社会保障制度を構築します」「被用者保険からの大幅な拠出金が課題となっている高齢者医療制度については、医療保険制度の持続可能性の強化と現役世代のさらなる負担軽減を含めて、抜本的な改革を目指します」などの記述があるため、日本維新の会や後述の国民民主党とかなり似た制度設計が念頭にあるのだろう。また、『経済政策』『厚生労働』では創薬・バイオ、ゲノム医療を成長分野に位置付けており、以下のような関連項目の記述がある。ワクチン開発を支援し、日本企業の国際競争力を高めます。iPS細胞を利用した再生医療研究等の促進、創薬への支援や創薬の環境整備を進め、日本の先進医療、画期的な新薬などの医療技術を海外に輸出するための産業育成、発信力強化を図ります開発途上国が必要とする医薬品の開発を支援し、日本の医薬品が海外で使用される基盤づくりを進めます後発医薬品の質の確保、先発品の特許切れ後の値下げを進めます。漢方薬など伝統的医薬品は、現行の薬価改定方式では薬価が下がり続けるばかりであることから、生産を維持するための歯止めを設けます。医薬品の安定供給、イノベーション創出の基盤を強固にし、国民に品質の高い医薬品を安定して供給できるようにするため、中間年薬価改定を廃止し、2年に1度の改定とします。まあ、この中では漢方薬に言及したのは、各政党の中で唯一なのだが、そもそもこの点については、OTC類似薬の保険給付の是非も含めて議論すべきことかと私見ながら思う。しかし、「ワクチン国産化」「iPS細胞研究の推進」は、率直に言ってやや時代遅れではないだろうか? 創薬の世界的潮流や実態を知らないのだろう。ちなみにワクチンに関連して、「新型コロナウイルス感染症のワクチン対策」と称して、ワクチン接種体制の円滑な確保と同時に▽リスクコミュニケーション強化▽新型コロナワクチンの副反応に特化した検討会議体の設置▽健康被害救済制度の周知▽死亡事例に関する認定審査体制の充実、などを掲げている。これを読むと、「うわっ、反ワクチンか!」と思う人もいるだろうが、こうした副反応対策やリスクコミュニケーション強化は、少なくとも今後のワクチン接種を進めていくためには必須のことと個人的には考えている。現状は少なくともSNSでワクチンに批判的言説が多く出回っている以上、放置するのは最悪である。もっともここまで是々非々で考えられるなら、ワクチンに関する陰謀論をSNSで拡散する同党の一部議員を何とかしてほしいと思うのだが…。公明党(4位:32議席)ご存じ、日蓮正宗系宗教法人・創価学会を支持母体とする政党である。過去からの政策を見ると、とにかく「現物・現金支給」に著しく偏り、自民党よりもバラマキ色が強い政党という印象がある。今回の「2024公明党 衆院選重点政策」は全部で10の大項目を掲げる。まず、『1 物価高克服へ、暮らしを守る!所得向上!』では、「医療・介護等の持続的な賃上げ・処遇改善」で、“医療・介護・障がい福祉・保育など公的に価格が決まる部門で働く方々の賃金については、引き続き、物価上昇を上回る引き上げ分を確保するとともに、さらなる処遇改善に向けて取り組みます“と謳っている。この辺は他党もおおむね同じである。社会保障、医療・介護については「3 健康・命を守る、高齢者支援」の項目で掲げられている中項目を一部抜粋する。健康な暮らしの確保と健康寿命延伸による高齢者のウェルビーイング(満足度)の向上医療提供体制の充実医療DX の推進がんとの共生社会を創るがん医療提供体制の充実メンタルヘルスケアが社会の当たり前に医薬品の安定供給・品質の確保帯状疱疹ワクチンの円滑な接種地域包括ケアシステムの推進難聴に悩む高齢者等に対する支援介護人材の確保各項目とも詳細な説明があるものの、中身は定性的なものがほとんどで、ですます調の官僚文書を読んでいるかのような印象がある。この中で私自身が注目したのは「難聴に悩む高齢者等に対する支援」。これも昨今、盛んに言及されるようになったことだが、認知症のリスクファクターの1つに難聴が指摘され、早期の補聴器使用が軽度認知障害への進行速度を低下させるなどの報告もある。公明党はこの政策の中で、「加齢による聴力低下を早期に発見し、適切な支援につなげるため、身近なところで聴力チェックが受けられる体制」「難聴に悩む高齢者が医師や言語聴覚士などの助言のもとで、自分にあった聴覚補助機器等を使用する体制」の整備と必要な財政的な支援も検討することを掲げた。認知症に関連した難聴対策の必要性は専門医も訴え始めており、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会は「加齢性難聴・聴こえ8030運動」を展開している。実は同学会には補聴器相談医という制度も設けて啓蒙に努めているが、まだ広がりは見せていない。その意味で公明党のこの政策はかなり着眼点が良いとは言える。しかし、2021年の衆院選の政策比較で掲げた新型コロナウイルス感染症後遺症対策の時も触れたが、現金・現物給付以外は本気度が低いという同党の傾向が玉にきずである。国民民主党(6位:7議席)東京都知事の小池 百合子氏が国政進出を狙って2017年に希望の党を設立した際、旧民主党の後継政党・旧民進党がこれに合流を宣言したことは、まだ記憶にある人は多いだろう。結局、希望の党は国政でまともに議席を確保できず、合流組の一部が後に希望の党から分党して国民党を創設した。これが旧民進党残留組と合併して設立したのが第一次の国民民主党である。ただ、現在の国民民主党は、第一次国民民主党が2020年に立憲民主党との合併を決めた際に、不参加だった者たちで構成される第二次の国民民主党である。公示前議席数では第6位だが、報道に基づく終盤の情勢調査では3倍以上に議席を積み増す可能性が指摘されている。エネルギーや安全保障に関する政策がより保守色、言い換えれば現実路線に近いことが有権者から受けがよい理由なのだろう。さて今回の同党の政策パンフレット2024では『手取りを増やす』と何ともシンプルなメッセージの下に政策柱4つを掲げる。この4つのうち筆頭に来るのが「給与・年金が上がる経済を実現」で、ここでは“社会保険料の軽減”を主張し、負担能力に応じた窓口負担、公費投入増による後期高齢者医療制度に関する現役世代の負担軽減を明示している。前者は現在、財政制度審議会や社会保障制度審議会で議論が続けられている高齢者での負担増、後者は同制度での現役世代が加入する健保組合からの拠出金を指しているのは明らかだ。日本維新の会なども主張しているのと同様の、いわば現役世代向け政策の典型である。もっとも高齢者での負担増と後期高齢者制度への公費投入はおそらく連動しているのだろう。マニフェストの細部では「年齢ではなく能力に応じた負担」として後期高齢者の自己負担を原則2割、現役並みの所得者は3割とし、その際には金融所得・金融資産も反映させるとしている。また、富裕層の保有資産への課税も検討すると記述している。つまり真の公費投入額は、「拠出金―自己負担増分―富裕層資産課税」以内で収まるという制度設計のようだ。失礼ながら、この辺は日本共産党が同制度への1兆円の公費投入を唱えつつ、高齢者負担増阻止も主張する“冷暖房同時稼働”のような経済・財政オンチぶりとは異なる。柱の3番手「人づくりこそ、国づくり」では「ひとり一人に寄り添うダブルケアラー対策、ビジネスケアラー対策」「尊厳死の法制化を含めた終末期医療の見直し」が記述されている。ここで出てくる「ダブルケアラー」とは育児、介護の両方に取り組む人、「ビジネスケアラー」は主に働きながら高齢の親の介護に取り組む人のことである。少子高齢化が進展する社会では、極めて重要な視点で、ほかの政党にはない着眼点である。同党はまずは実態調査、そのうえで「ダブルケアラー支援法」の制定を訴えている。もっとも「尊厳死の法制化」については、わからないわけではないが、極めて多様な死生観なども関わる問題だけにサラッと書いてしまうのはやや軽すぎるとも感じてしまう。そしてより細部の政策では以下のようなものも掲げている。保険給付範囲の見直しヘルスリテラシー教育の推進セルフメディケーションの推進中間年薬価改定の廃止予防医療・リハビリテーションの充実医療提供体制の充実地域医療のあり方の見直し・日本版GP制度の創設地域における患者アクセスの確保と医療経営の安定強化医療DXの推進による保険医療勤務医の働き方改革介護サービス・認知症対策の充実介護研修費用補助介護福祉士国家試験に母国語併記ケアマネジャー更新研修の廃止、負担軽減これらを概観すると、とくに薬剤関係ではかなり玄人はだしである。たとえば、保険給付範囲の見直しやセルフメディケーション推進ではOTC類似薬の保険外し、医療提供体制の充実では日本版CPCF(Community Pharmacy Contractual Framework、薬剤師の権限が大きいイギリスの薬局制度)、地域における患者アクセスでは地域フォーミュラリの導入推進、そして中間年薬価改定の廃止を唱える。また、4大柱の2番目『自分の国は自分で守る』では経済安全保障の観点からジェネリック医薬品安定供給や今春に一部緩和された薬価の再算定時の共連れルール(再算定対象の医薬品の類似薬も同時に薬価を引き下げるルール)の廃止まで言及している。ざっと同党所属国会議員を見回してみても、これらの政策理論を唱えそうな人物は見当たらない。誰がこの政策立案の頭脳を担っているのかは、個人的に興味津々である。さらに日本版GP(General Practitioner)制度の創設では「診療報酬の包括支払制度や人頭払制度等について検討」と、日本医師会が最も毛嫌いしそうな政策まで言及している。社民党(8位:1議席)社民党の源流組織である1945年創設の旧日本社会党は、1947年に衆院の第1党となり政権を奪取するも1年余りで下野したが、1993年の第40回衆院選までは野党第1党であり続けた。しかし、その後継組織である社民党は現有1議席にまで凋落した。個人的には時代はここまで変わったのかと改めて思ってしまう。さて同党のマニフェスト(余談ながらリンク先のページは異常に重い)『日本を立て直す 社民党6つのプラン』というキャッチフレーズを掲げているが、その中の「02 税金はくらしに!軍事費増税NO!」で以下のような記述がある。高齢者が安心して暮らせる年金を受給できるようにしていきます。また、75歳以上の後期高齢者医療費負担を1割に戻し、高齢者の健康を守ります。訪問介護の報酬減額をやめさせます。介護制度の立て直しは急務です。医療・介護・保育などケア労働者を支援します。病床削減、公立・公的病院の統廃合に反対し、地域医療を守ります。マイナ保険証強要に反対し、現行の健康保険証を残します。保険証や運転免許証などとのマイナンバーカード一体化・国による管理強化に反対します。さて、もうこれらについては他党の政策に対する吟味の際に言ってきたことだが、一番目の負担増に関して改めて言及しておく。現在日本での租税負担率と社会保障負担率を合計した国民負担率は2023年度実績値で46.1%。欧米先進国と比べて低いほうなのだが、欧米はおおむね日本よりも所得が高く、結果として日本の世帯当たりの可処分所得は低めである。この状況で増加し続ける高齢者への医療・介護給付を少子化で減る現役世代からの税収で現状通り継続することが“無理ゲー”である。いずれにせよこの先は(1)現役層の負担率引き上げ(2)給付水準の引き下げ(3)現役層以外の負担率引き上げを適度に組み合わせながら行っていくしかない。社民党の今回の主張は後期高齢者医療制度での負担率引き下げを謳っている以上、(3)の選択肢は端からないことは明らかだ。また、後段で訪問介護の基本報酬減額に反対姿勢を示していることやこれまでの同党の主張からは(2)も選択肢にはないだろう。ということは残るは(1)となるが、たぶんこれも彼らの念頭にはない。となると、どこに財源を見いだそうとしているかだが、前述の政策一覧を見ればわかることだが、増加する国防費の削減や年々増加する企業の内部留保への課税を主張しており、社民党はこの辺を財源として考えているのだろう。毎度お馴染みという感じだが、これで中長期的に解決がつくとは到底思えない。公立・公的病院の統廃合とマイナ保険証への反対については、前回、日本共産党、れいわ新撰組の政策で述べたとおりだ。さて長々となってしまったが、週明けにはもしかしたら世の中が一変してしまうのだろうか?

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レプリコンワクチンvs.従来のmRNAワクチン、接種1年後の免疫原性を比較

 追加接種としての新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する次世代mRNAワクチン(レプリコンワクチン)ARCT-154は、従来のmRNAワクチンであるBNT162b2と比較して優れた初期免疫応答を示し、接種後12ヵ月まで持続することが、50歳以上を含む日本人成人において確認された。The Lancet Infectious Diseases誌オンライン版2024年10月7日号CORRESPONDENCEに掲載の報告より。 日本の11臨床施設において、少なくとも3回のmRNAワクチン接種歴のある成人(最後の接種は3ヵ月以上前)825人が登録され、ARCT-154群(417人)またはBNT16b2群(408人)に無作為に割り付けられた。接種前のベースライン、および接種後1、3、6、12ヵ月時点で、すべての適格参加者から血清サンプルを採取し、武漢株(Wuhan-Hu-1)およびオミクロン株BA.4/5に対する中和抗体価を測定した。また、ベースラインからその後すべての時点でSARS-CoV-2陰性であった各群30人によるサブセットにおいて、デルタ株、オミクロン株BA.2、BA.2.86、およびXBB.1.5.6に対する中和抗体価が測定された。参加者は18~49歳(<50歳)と50歳以上(≧50歳)の2つの年齢グループに層別化された。 結果は、中和抗体価の幾何平均(GMT)と両群間のGMT比、ベースラインの中和抗体価(定量下限未満の場合は定量下限の1/2)から4倍以上の上昇を示した割合で定義される中和抗体応答率で表された。 主な結果は以下のとおり。・既報のとおり、接種1ヵ月後までに、どちらのワクチンも両株に対して年齢によらず中和抗体価を上昇させた。・接種後1ヵ月時点におけるARCT-154群の武漢株およびオミクロン株BA.4/5に対する反応はBNT162b2群よりも高く、<50歳ではGMT比が1.45(95%信頼区間[CI]:1.22~1.71、武漢株)および1.31(1.01~1.71、オミクロン株BA.4/5)、≧50歳では1.42(1.18~1.72)および1.29(0.96~1.73)であった。・GMTは時間の経過とともに両群で低下したが、12ヵ月の追跡期間中に両群間の差は拡大し、<50歳ではGMT比がそれぞれ1.79(95%CI:1.41~2.29、武漢株)、1.68(1.15~2.45、オミクロン株BA.4/5)、≧50歳では2.06(1.55~2.75)、2.14(1.40~3.27)であった。・ARCT-154のBNT162b2に対する優越性は、両年齢層における中和抗体応答率の一貫した正の差によって裏付けられた。・4つの変異株に対しても、BNT162b2群と比較してARCT-154群で優れた反応と持続性が確認され、GMT、GMT比、血清中和抗体応答率について同様の傾向がみられた。・BNT162b2接種後12ヵ月時点で、デルタ株、オミクロン株BA.2、およびXBB.1.5.6に対するGMTはベースラインと同等であったが、ARCT-154群ではデルタ株およびオミクロン株BA.2に対するGMTはベースラインよりも高いままで、オミクロン株XBB.1.5.6に対するGMTもベースラインよりわずかに高かった(152[95%CI:83〜281]vs.106[52〜215])。

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慢性疾患患者のインフルワクチン接種率、電子メールで改善/JAMA

 デンマークにおける全国規模登録ベースの無作為化臨床試験において、慢性疾患を有する青年~中年患者のインフルエンザワクチン接種率は、電子メールを用いたナッジにより有意に上昇することが示された。デンマーク・コペンハーゲン大学のNiklas Dyrby Johansen氏らが、「Nationwide Utilization of Danish Government Electronic Letter System for Increasing Influenza Vaccine Uptake Among Adults With Chronic Disease trial:NUDGE-FLU-CHRONIC試験」の結果を報告した。世界的にガイドラインで強く推奨されているにもかかわらず、慢性疾患を有する若年~中年患者のインフルエンザワクチン接種率は依然として十分とは言えない状況(suboptimal)で、接種率向上のための効果的で柔軟性のある戦略が求められている。本試験の結果を受けて著者は、「費用対効果の高い電子メール戦略は、簡便で柔軟性があり、公衆衛生に大きな影響を与える可能性があることが示された」と述べている。JAMA誌オンライン版10月11日号掲載の報告。デンマークの約30万例を対象に、電子メールの有無でインフルワクチン接種率を比較 研究グループは、2023年9月24日~2024年5月31日に、18~64歳のデンマーク国民で、デンマーク政府によるワクチン接種プログラムのインフルエンザワクチン無料接種対象者(インフルエンザに感染した場合の有害アウトカムのリスク上昇が知られている慢性疾患を有する)を登録し、通常ケア(対照)群または6つの異なる積極的介入群に、2.45対1対1対1対1対1対1の割合で無作為に割り付けた。 積極的介入群には、ワクチン接種の決断を促すための情報(標準レター:無料であること、慢性疾患患者が接種する場合のリスクの簡単な説明、接種スケジュール、COVID-19ワクチンとの同時接種に関する説明を記述)を電子メールで送付することを基本とし、そのほかに標準レターの10日後の再送信、心血管疾患患者へのベネフィットを強調したレター(CV gain-framing letter)、呼吸器疾患gain-framing letter、積極的な選択/実行を促すレター、損失を強調したレターの送付という6つの異なる介入で構成された。対照群は電子メールなしとした。 すべてのデータは行政の保健登録から取得した。主要アウトカムは2024年1月1日以前のインフルエンザワクチン接種であった。 主要解析は、主要アウトカムについて事前に7種の比較(全介入統合群vs.対照群、および各介入群vs.対照群)を行うことが規定され、各比較について接種率の絶対差および粗相対リスクを算出し、検定は全体でα=0.05(各比較でα=0.0071)として評価が行われた。 計29万9,881例(女性53.2%[15万9,454例]、年齢中央値52.0[四分位範囲:39.8~59.0]歳)が、無作為化された。いずれかの電子メールを受け取った人のほうが接種率は高率 インフルエンザワクチン接種率は、対照群27.9%、全介入統合群(6つのうちいずれかの電子メールを受信した参加者)39.6%であり、全介入併合群で高率だった(群間差:11.7%ポイント、99.29%信頼区間[CI]:11.2~12.2ポイント、p<0.001)。 介入(各個人宛の電子メール)はインフルエンザワクチンの接種率を有意に上昇し、最も効果が大きかったのは、初回メール送信から10日後に標準レターメールを再送した群(41.8% vs.27.9%、群間差:13.9%ポイント[99.29%CI:13.1~14.7]、p<0.001)と、CV gain-framing letterをメールした群(39.8% vs.27.9%、11.9%ポイント[11.1~12.7]、p<0.001)であった。 サブグループ解析においても、6つすべての介入群のほうがワクチン接種率を向上することが示された。

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感染症学会ほか、コロナワクチン「高齢者の定期接種を強く推奨」

 日本感染症学会、日本呼吸器学会、日本ワクチン学会の3学会は、10月21日に「2024年新型コロナワクチン定期接種に関する見解」を共同で発表した。3学会は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の高齢者における重症化・死亡リスクはインフルエンザより高く、今冬の流行に備えて、10月から始まった新型コロナワクチンの定期接種を強く推奨している。本見解は、接種を検討する際の参考となる科学的根拠を提供している。 学会の見解によると、新型コロナワクチンは、世界では2020年12月からの1年間にCOVID-19による死亡を1,440万例防ぎ1)、日本では、もし新型コロナワクチンが導入されていなかったら、2021年2~11月の期間の感染者数は報告数の13.5倍、死亡者数は36.4倍に及んでいたと推定されている2)。また、2023年秋のXBB.1.5対応ワクチンは、日本の高齢者のCOVID-19による入院を44.7%減少させた3)ことが、過去の研究より判明している。 オミクロン株はXBB.1.5、JN.1、KP.3と数ヵ月ごとに変異し、変異のたびに免疫回避力が強まっている。そのため流行を繰り返しており、今冬には再び大きな流行が予想される。このような中、日本の高齢者は若年層に比べてCOVID-19に罹ったことのない人が多く、引き続きワクチンによる免疫の獲得が重要となる。高齢者のCOVID-19の重症化・死亡リスクはインフルエンザ以上 2024年の流行では、高齢者のCOVID-19による入院が増え、高齢者施設の集団感染も続いている。国の死亡統計では、5類感染症移行後1年間のCOVID-19による死亡者数は2万9,336例で、新型コロナ出現前の60歳以上のインフルエンザ年間死亡者数1万908例より多く4)、COVID-19の疾病負荷は依然として大きい状況だ。 新型コロナワクチンの発症予防効果は、ウイルスの変異の影響もあり、数ヵ月で減衰するため、流行株に対応した新たなワクチンの接種が必要となる。日本では、2024年10月からJN.1対応ワクチンが新たに使用されている。なお、現在流行しているKP.3はJN.1の派生株で、JN.1対応ワクチンはKP.3に対しても一定の効果が期待される。 毎シーズン変異を繰り返すインフルエンザウイルスに対して、毎年新しいインフルエンザワクチンが高齢者に定期接種として使用されているように、新型コロナウイルスに対しても新たな流行株に対応した新型コロナワクチンを少なくとも年に1回は接種することが必要であるという。3学会は、高齢者には新型コロナワクチンの定期接種を強く推奨している。ワクチンの利益とリスクの大きさを科学に基づいて正しく比較し、接種対象者自身が信頼できる医療従事者とよく相談して、接種するかどうかを判断することが望まれるという見解を示している。5種類のJN.1対応ワクチン、有効性・安全性のエビデンスを明記 定期接種として用いられるJN.1対応ワクチンは、ファイザーの「コミナティ筋注シリンジ12歳以上用」、モデルナの「スパイクバックス筋注」、武田薬品工業の「ヌバキソビッド筋注」、第一三共の「ダイチロナ筋注」、Meiji Seika ファルマの「コスタイベ筋注用」の5種類だ。いずれも有効な免疫誘導と安全性が臨床試験で確認されている。これらのワクチンはすべて一過性の副反応があるが、臨床試験ではワクチンと関連した重篤な健康被害は認められなかった。本見解には、各ワクチンの詳細なデータが記載されている。 なお、Meiji Seika ファルマのレプリコンタイプ(自己増幅型)の次世代mRNAワクチンである「コスタイベ筋注用」については、SNSなどで科学的根拠に基づかない情報が流布し、一部の人から強い懸念の声が挙がっている。この状況に対して本見解では、「自己増幅されるのはスパイクタンパク質のmRNAだけであり、感染力のあるウイルスや複製可能なベクターはコスタイベに含まれていません。また、被接種者が周囲の人に感染させるリスク(シェディング)はありません」と、安全性を裏付けるデータとともに提示している。■参考日本感染症学会、日本呼吸器学会、日本ワクチン学会:2024年度の新型コロナワクチン定期接種に関する見解日本感染症学会、日本呼吸器学会、日本ワクチン学会:2024年度の新型コロナワクチン定期接種に関する見解(概要版)1)Watson OJ, et al. Lancet Infect Dis. 2022;22:1293-1302.2)Kayano T, et al. Sci Rep. 2023;13:17762.3)長崎大学熱帯医学研究所. 新型コロナワクチンの有効性に関する研究(VERSUS study)〜国内多施設共同症例対照研究〜. 第11報.4)Noda T, et al. Ann Clin Epidemiol. 2022;4:129-132.

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インフルワクチンの日本人の心不全に対する影響~PARALLEL-HF試験サブ解析/日本心不全学会

 呼吸器感染症に代表されるインフルエンザ感染は、心筋へウイルスが移行する直接作用、炎症惹起性サイトカイン放出による全身反応などによって心血管障害を及ぼす。また、プラークの不安定化、炎症による心拍数の不安定化への影響なども報告されているが、海外研究であるPARADIGM-HF試験1)が検証したところによると、インフルエンザワクチン接種が心不全患者の死亡リスク低下と関連する可能性を示唆している。 そこで筒井 裕之氏(国際医療福祉大学大学院 副大学院長)らはPARADIGM-HF試験に準じて行われた国内でのPARALLEL-HF試験2)の後付けサブ解析として『国内心不全患者のインフルエンザワクチン接種と心血管イベントの関連性』について検証、10月4~6日に開催された第28回日本心不全学会学術集会のLate breaking sessionで報告した。なお、本研究はCirculation reports誌2024年9月10日号に掲載3)された。 本研究は、日本国内の左室駆出率の低下した心不全(HFrEF)に対するサクビトリルバルサルタンの臨床試験であるPARALLEL-HF試験に登録された患者について、インフルエンザワクチンの接種率ならびに心血管イベントとの関連を検討した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者223例のうち97例(43%)がインフルエンザワクチン接種を受けていた。・ワクチン接種群を非接種群と比較した場合の特徴として、高齢、BMI・収縮期血圧・eGFR低値があった。また、NYHA、LVEF、NT-proBNP、薬物治療について有意差はみられなかった。・ワクチン接種群の全死亡(調整ハザード比[HR])は0.83(95%信頼区間[CI]:0.41~1.68)、心肺またはインフルエンザに関連した入院/死亡は調整HRが0.80(95%CI:0.52~1.22)と低い傾向がみられた。・研究限界として、解析対象者が少数、ワクチン接種と予後との関連を解析している、ワクチンの詳細情報(種類、接種回数など)不十分などがあった。 日米欧の各診療ガイドラインでは“肺炎は心不全の増悪因子の1つ”と記されており、「日本国内では感染予防のため(クラスI、エビデンスレベルA)、米国では死亡率低下のためにreasonableである(クラスIIa、エビデンスレベルB)、欧州では心不全死亡低下のために[肺炎球菌ワクチンなども含めて]should be considered(クラスIIa、エビデンスレベルB)と推奨が記されている。接種目的は各国で異なるが欧米諸国の接種率は高い」と説明した。日本における心不全患者のインフルエンザワクチン接種率は国内の全体接種率が55.7%であることを見ても、低い傾向にあることが本研究より明らかになった。これを踏まえ、同氏は「本結果は海外のPARADIGM-HF試験のサブ解析と同様の結果を示した。現在、国内のHFrEF患者のインフルエンザワクチン接種率は不十分であるが、ワクチン接種による臨床的利益が期待できることが示された」と述べ、「ワクチン接種を推奨する医療の役割分担が不明瞭(かかりつけ医/一般内科/循環器専門医、クリニック/病院などの連携の必要性)、副反応による懸念、広報が不十分などの解決が喫緊の課題」と締めくくった。

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第233回 各党の迷走ぶりをみる、衆院解散総選挙に向けた公約とは

さてさて、自民党総裁選が終わり、石破 茂氏が総裁に就任。そのまま首相になった途端、衆院解散総選挙となった。となれば、人気のないテーマとわかりつつも、毎度お馴染み各党の政策とそれに対する独断と偏見に基づく所感を書かないわけにはいかない。いやはや短期間でこれほど政治のことに触れなければならなくなるなど、まったく思っていなかった。毎度のごとく現在衆院に議席を有する国政政党に限定して取り上げていきたい。もっとも議席順や五十音順だとなかなかにバランスを欠く配置となるため、勝手ながら今回は各政党の議席順の奇数順位と偶数順位に分けたい。まずは奇数順である。自民党(1位:258議席)首相就任以来、言動がブレブレと言われる石破 茂氏。今回の選挙で自民党は「2024年政権公約」を公表した。これがどのようなものか、以前取り上げた石破氏の総裁選での公約との比較も交えて取り上げてみたい。総裁選時の石破氏の政策は「5つの『守る』」だったが、同じ「守る」を使いながら今回の自民党としての公約は6つに増えている。社会保障、医療・介護関連は、まず2番目の「暮らしを守る」に登場する。ここで社会保障の項目に記述してある内容(文意は変えずに一部改変)は年金を除くと以下の2点である。全ての世代が安心でき、能力に応じて支える、持続可能な全世代型社会保障の構築予防・健康づくりを強化し健康活躍社会を創る。女性の健康支援の総合対策、がん、循環器病、難病、移植医療、依存症等への対策を推進。食品の安全を確保し、公衆衛生の向上を図る観点からも生活衛生業を振興。感染症危機管理体制を整備。一番目は総裁選時の「従来の家族モデルを前提とした社会保障の在り方を脱却し、多様な人生の在り方、多様な人生の選択肢を実現できる柔軟な制度設計を行います」がやや言葉が丸くなった感じである。この辺は選択的夫婦別姓に関して従来は「選択なのだから反対する理由がない」から、首相就任後に「国民の間にさまざまな意見があり、政府としては、国民各層の意見や国会における議論の動向などを踏まえ、更なる検討をする必要がある」と発言が後退したことと関連があるかもしれない。いわゆる夫婦同姓に代表されるような「従来の家族モデル」に固執する党内保守派に配慮してフワッとおさめる戦略と見受けられる。2番目については総裁選時に掲げていた政策をより深化させた印象である。というのも総裁選時に「がん、循環器病、難病、移植医療、依存症等への対策を推進」に関連する文言はまったくなかったからである。また、同じ「暮らしを守る」内では、成長戦略の項目で「2025年大阪・関西万博を、AI、ロボット、ヘルスケア等の新技術の社会実装を先行体験する『未来社会のショーケース』として活用し、イノベーションの力で変革し続ける日本を発信する絶好の機会とします」と言及したほか、経済安全保障の項目で「半導体、医薬品、電池、重要鉱物等の重要技術・物資のサプライチェーンの強靱化」など、ややナショナリスティックなヘルスケア関連経済政策も掲げている。この辺は総裁選で争った高市 早苗氏や小林 鷹之氏らの政策にやや似通っている。経済に弱いと言われる石破氏の“汚名”返上とやはり党内保守派への配慮の産物だろうか?もっとも社会保障、医療・介護関連以外も眺めまわしてみたが、石破氏の総裁選時の公約と比べ、今回の党としての公約はかなり微に入り細を穿つ内容で、良く書き込まれている印象が強い。これほど短期間でどうしたのだろう? 順当に考えれば、側近がかなり練り込んだのだろうが、それが誰なのか気になってしまう。日本維新の会(3位:44議席)大阪・関西の地域政党から全国政党へと進化しようとしている日本維新の会。前回の2021年衆院選では公示前より4倍弱の議席を積み増したが、昨今では大阪・関西万博に対する支出増大などを背景に、以前より支持を落としているとも伝わる。同党のマニフェストでは、「将来世代への徹底投資で、新しい時代の政治を創る」をキャッチフレーズにしている。ここからは若年保守層への支持浸透を狙っていることが改めてうかがえる。今回、4大改革の1つとして掲げているのが「世代間不公平を打破する社会保障の抜本」だ。これ自体は以前から同党の姿勢として変わらず、「現役世代に不利な制度を徹底的に見直し。高齢者医療制度の適正化による現役世代の社会保険料負担軽減」として、低所得者等へのセーフティネットは確保しながら、高齢者医療費の原則3割負担を主張している。もっともこれまた現役世代への配慮のためか、「こども医療費の無償化」も掲げてしまうところが微妙な感じではある。これは従来から学術関係者からは指摘されている通り、無償化はモラルハザードと表裏一体の関係である。これは同党に限らず思うことだが、小児の医療費無償化を行うぐらいなら、それはせずに児童手当の支給額を積み増したほうが消費にも繋がり遥かにマシだと思うのだが。日本共産党(5位:10議席)日本の政党としてはすでに100年以上、同一政党名で活動し、旧西側諸国の共産党の中では党員数最大である。今回の衆院選では以下のような政策を掲げている。介護保険の国庫負担割合を現行の25%から35%に引き上げ、国費投入を1.3兆円増やし、ホームヘルパー、ケアマネジャーなど介護職の賃金を、「全産業平均」並みに施設職員の長時間・過密労働や「ワンオペ夜勤」の解消に向け、配置基準の見直しや報酬加算・公的補助などを実施介護事業所の人件費を圧迫している人材紹介業者への手数料に「上限」を設定今春の介護報酬改定で引き下げられた訪問介護の基本報酬を早急に元の水準に戻す介護事業が消失の危機にある自治体に対し、国費で財政支援を行う仕組みを緊急につくり、事業所・施設の経営を公費で支援70歳以上の医療費窓口負担を一律1割に引き下げ、負担の軽減・無料化を推進介護保険での軽度者の在宅サービスの保険給付外しや利用料の2割負担・3割負担の対象拡大などを止め、保険給付の拡充、保険料・利用料の減免を図る公費1兆円を投入し、国民健康保険料の抜本的に引き下げ後期高齢者医療制度を廃止病床削減や病院統廃合の中止と医師・看護師を増員で地域医療の体制を拡充マイナ保険証の強制をやめ、健康保険証を存続ざっと見まわせば、「いつもの共産党ポピュリズム」というイメージを抱く有権者が多いと思う。もっともこれまで毎回の国政選挙で各党の政策を見てきた身からすると、若干変化がある。たとえば1番目に挙げた予算について、投入金額など定量的な数字が散りばめられるようになった点である。もっとも公費負担割合の引き上げ率を定めれば、投入予算規模は計算できるので、むしろこれまで数字を積極的に記載してこなかったことが不思議と言ってしまえば、それまでではあるが…。そして毎度お馴染みが医療費や介護サービス利用料の引き上げ反対。しかし、現行や将来の財政負担を考えれば、この場合、その分の財源は若年勤労層への負担転嫁か蜃気楼のようにつかみどころがない将来の経済成長に財源を期待するしかなくなり、不透明感が増す。そもそも同党の場合、歴史の古い政党ゆえのイデオロギー縛りのためか、経済政策が相も変わらず、労働運動と所得再分配の目線が強過ぎる傾向にあり、経済振興策になっていない。余計なお世話を覚悟で言えば、そろそろこの現状から脱して経済政策と連動する財源論を唱えてほしいと思う。病床削減や病院統廃合の中止は、よくよく今後の医療需要の変動を考えれば、少なくとも単なる現状維持は、国民に均てん化した質の低い医療・介護を受けろというようなものだ。一方、比較的、現実味のある政策としては、介護事業所が支払う人材紹介業者への手数料の上限設定である。すでにこの件は社会保障審議会の介護給付費分科会でも議論されていることであり、介護事業所の経営改善の一助にはなる政策である。マイナ保険証の件については、同じ政策を掲げている後段のれいわ新撰組の政策で触れる。れいわ新撰組(7位:3議席)ご存じ山本 太郎氏が党首のリベラル系政党である。古い世代の私はどうしてもバラエティ番組「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」の「高校生制服対抗ダンス甲子園」にスイミング・パンツ一丁で、全身にサラダ油を塗ってテカテカしたままおどけていたイメージが抜けない。今回の選挙マニフェストでは「世界に絶望している?だったら変えよう。れいわと一緒に。」のキャッチフレーズを掲げ、政策として01~06までの6つの大項目を掲げている。「01増税?ダメ 絶対!」では「社会保険料を下げる!年金は底上げ!」を掲げ、「国民健康保険料や介護保険料などの社会保険料を国庫負担で引き下げる」「後期高齢者医療制度は持続不可能なので、現役世代の負担と保険料をすべて国の負担とする」を謳っている。「03親ガチャ?国がやる!『子育ては自己責任』終了のお知らせ」では、子供医療費の完全無償化、「04 失われた30年を取り戻す!賃金爆上げ大作戦」では介護・保育の月給10万円アップ、民間事業者が少ない地域では、介護士を公務員化し「公務員ヘルパー」の復活を掲げている。さて、問題はこれらについては財源をどうするのか? に尽きる。従来から山本氏は3~5%までのインフレ水準までは国債を発行してもよいという考えを主張している。同時に同党が累進課税の強化や法人税引き上げを担保に消費税全廃を掲げていることも有名である。とはいえ、国によるインフレ率コントロールは、これまでの歴史から容易ではないことは明らかで、かつ日本の所得税収が中所得以下からの薄く広い徴収に依存している現実を見れば、れいわの財源論はかなり空想と言わざるを得ない。前述の中で「公務員ヘルパー」が何のことかわからない人もいるかもしれないが、介護保険制度創設以前の居宅訪問サービスがそうだったことに由来しているのだろう。これについては一考の余地はある。というのも居宅介護を拒否する人の中には公務員ならば受け入れるというケースもあるからだ。もっともこの場合は公務員と民間企業とで起こるであろう賃金格差をどのようにならすかの問題が生じる。一方、「05 あらゆる不条理に立ち向かう」では、「マイナンバーカードはいらない! 保険証・免許証はこれまでどおり」と主張している。これは個人監視や社会保障の削減につながる懸念があるためとしているが、社会保障の適切な提供のためにはデータ分析が必要であり、そのための基盤になる可能性のあるものは現時点でマイナンバーカードを軸に収集されるデータ以外にない。概観すると、日本共産党と共通する政策が多く、共産党よりもポピュリズム過ぎないか? という印象しかない。参政党(9位:1議席)2020年に結党され、「日本の国益を守り、世界に大調和を生む」との理念を掲げる保守政党である。2022年の参院選では約177万票を集め、元大阪府吹田市議の神谷 宗幣氏が議席を獲得した。これまで衆院に議席はなかったが、2021年の衆院選で国民民主党から出馬し、比例復活(神奈川10区[現18区])で当選した鈴木 敦氏は、旧民主党政権で国交相、外相などを務めた前原 誠司氏らが2023年に結党した「教育無償化を実現する会」に参加(のちに本人は国民民主党に離党届を提出するも党側から除籍される)。今回の衆院解散で同会が日本維新の会に合流を決めた中、選挙区の関係などで鈴木氏はこれに加わらず参政党に入党したため、同党は公示前1議席となった。さて同党は今回、「日本をなめるな」のスローガンの下、「3つの決意と7つの行動」を謳っている。「決意1 奪われる日本の国土と富を護り抜く」では、「消費税減税と社会保障の最適化により国民負担率に35%上限のキャップをはめる」と主張しているが、どのような社会保障最適化を行うかは、同党の衆院選特設ページを見る限りは不明である。また、「決意2 失われる日本の食と健康を護り抜く」では、「行動4 ワクチン薬害問題を党をあげて追究し、被害救済申請の負担軽減と審査の迅速化」を掲げる。同党HPでは令和6年9月時点で新型コロナウイルス感染症ワクチンによる予防接種健康被害救済制度認定件数が8,180件(うち死亡843人)で、これがコロナワクチン以外の過去すべての同制度認定総数3,687件を大幅に超えるペースとして、危険性を強調している。もっともこの数字を解釈なしで見ることが危険である。まず過去のワクチン接種による健康被害認定は、今ほど医療従事者の安全性認識が鋭敏ではなかった時代も含むことや、かつては事後の有害事象の追跡が十分にできない1回接種だったものもあったことから過少報告の可能性が十分にある。さらに制度の救済認定では、厳密な医学的な因果関係までは必要とせず、接種後の症状が予防接種で起きたことを否定できない場合も対象としており、新型コロナワクチンの被害救済認定=因果関係の認定ではない。仮に前述の8,000件超すべてに因果関係が認められたとしても、このワクチンの国内接種者は1億人超であり、認定対象となった副反応出現率は0.008%に留まる。一方で統計的な検討からこのワクチンにより数多くの死亡を防げたとする学術論文は多数ある。このようなことから新型コロナワクチンは社会全体で見れば明らかにメリットのほうが大きいと言える。これらのことから同党の主張は過剰にワクチンの危険性を強調していると言わざるを得ない。また、同党HPではレプリコンワクチンに対しても懸念を示しているが、これについては以前、本連載で触れたとおりだ。さらにこの行動4に関連し、以下のような政策を箇条書きしている。薬やワクチンに依存しない治療・予防体制強化で国民の自己免疫力を高める新型コロナワクチンの接種推進策の見直しを求める対症医療から予防医療に転換し、無駄な医療費の削減と健康寿命の延伸を実現「自己免疫力」という言葉もさることながら、それを国家として推進するのは半ば意味不明である。さらに予防を政策的に行う場合、実はそれなりにコストがかかるので、それで単純に将来的な医療費削減につながるとは言い難いのが現実。いずれにせよ同党関係者や支持者には申し訳ないが、かなり現実離れした政策が多い。さて、次回は残る立憲民主党、公明党、国民民主党、社民党についてご紹介したいと思う。

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ウイルスを寄せ付けない鼻スプレーを開発

 薬剤を含まない鼻スプレーが、理論的には、マスク着用よりもインフルエンザウイルスや新型コロナウイルスなどの呼吸器系病原体の拡散を防ぐのに効果的である可能性を示唆する研究が報告された。このスプレーに含まれている医学的に不活性な成分が、人に感染する前に鼻の中の病原体を捕らえるのだという。米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院麻酔科のNitin Joshi氏らによるこの研究結果は、「Advanced Materials」に9月24日掲載された。 論文の責任著者の一人である、ブリガム・アンド・ウイメンズ病院のJeffrey Karp氏は、「新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、呼吸器系病原体が非常に短期間で、人類に極めて大きな影響を与えることをわれわれに示した。その脅威は、今も続いている」と話す。 ほとんどの病原体は、鼻から人体に入り込む。インフルエンザウイルスや新型コロナウイルス感染者が吐き出す病原体を含んだ小さな飛沫を健康な人が吸い込むと、病原体が鼻腔内に付着して細胞に感染するのだ。こうした病原体に対する対抗手段の一つはワクチン接種だが、完璧ではなく、接種した人でも感染して病原体を伝播させ得る。また、マスク着用も有効な手段ではあるが、やはり完璧ではない。 今回、研究グループが開発した鼻スプレーは、Pathogen Capture and Neutralizing Spray(PCANS、病原体補足・中和スプレー)と名付けられたもの。スプレーに使用されている成分は、米食品医薬品局(FDA)の不活性成分データベース(IID)に登録されている、承認済みの点鼻薬用の化合物か、FDAによりGRAS(食品添加物に対してFDAが与える安全基準合格証)確認物質に分類されている化合物(ゲランガム、ペクチン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース〔HPMC〕、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩〔CMC〕、カーボポール、キサンタンガム)であるという。Joshi氏は、「われわれは、これらの化合物を使って、3つの方法で病原体をブロックする、有効成分に薬剤を含まない製剤を開発した。PCANSは、呼吸器からの飛沫を捕らえて病原体を固定し、効果的に中和して感染を防ぐゲル状のマトリックスを形成する」と語る。 研究グループは、3Dプリントされた人間の鼻のレプリカを用いた実験を行い、このスプレーの効果をテストした。その結果、このスプレーにより、鼻腔内粘液と比べて2倍の量の飛沫を捕らえることができることが示された。論文の筆頭著者で同大学麻酔科のJohn Joseph氏は、「PCANSは鼻腔内で粘液と混ざることでゲル化し、機械的強度を100倍まで高めて強固なバリアを形成する。インフルエンザウイルス、新型コロナウイルス、RSウイルス、アデノウイルス、肺炎桿菌など、われわれがテストした全ての病原体の100%近くをブロックし、中和した」と成果について語っている。 また、マウスを使った実験では、このスプレーを1回投与するだけで、致死量の25倍のインフルエンザウイルスの感染を効果的に阻止できることも示された。ウイルスがマウスの肺に侵入することはなく、炎症などの免疫反応も認められなかったという。 論文の共著者である、ブリガム・アンド・ウイメンズ病院のYohannes Tesfaigzi氏は、「マウスモデルを用いた厳密に計画された研究で、PCANSによる予防的治療は非常に優れた有効性を示し、治療を受けたマウスは完全に保護されたが、未治療のマウスではそのような効果は認められなかった」と述べている。 研究グループは、「今後は、人間を対象にした臨床試験でこのスプレーの効果をテストする必要がある」との考えを示している。また、このスプレーによりアレルゲンを効果的にブロックできるのかどうかについても調査中であるという。

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第118回 Meiji Seika ファルマがワクチンデマに法的措置

Meiji Seika ファルマがX公式アカウントを開設10月から新型コロナワクチンの定期接種が始まっていますが、次世代mRNAワクチン(レプリコン)であるコスタイベを販売しているのがMeiji Seika ファルマです。本連載の第115回で、「製薬会社に対するこのような誹謗中傷は許されていいのか」と発言しましたが、その直後にMeiji Seika ファルマはデマを発信する団体などに法的措置を講じるというニュースが流れました。「言わんこっちゃない」と思いました。報道にあるとおり、日本看護倫理学会などに対して科学的根拠がない悪質なものであるというコメントを出し、誹謗中傷に当たるものや、コスタイベに関する不適切な情報流布に対しては訴訟も辞さない構えです。10月11日、突如としてXに「Meiji Seika ファルマ株式会社」(@Meiji_Seika_p)の公式アカウントが登場。「科学的根拠のない主張やデマの投稿が相次いでいる」との声明とともに、積極的な情報発信の意向を表明しました。これを執筆している時点で、Meiji Seika ファルマの公式アカウントはすでに1万フォロワーを超えており、ワクチンデマに関して懸念する人が多いことの表れといえます。Meiji Seika ファルマ:X(旧Twitter)上での公式アカウント開設に関するお知らせ(2024年10月11日)もちろん、ワクチン以外の情報発信も期待しております。法的措置日本看護倫理学会だけでなく、「mRNAワクチン中止を求める国民連合」という団体に対しても法的措置が講じられる予定です。コロナ禍で、医療従事者への誹謗中傷が訴訟沙汰になるのは、もはや珍しくもない日常茶飯事です。しかし、最も厄介なのは、誹謗中傷の当事者たちが「正義の味方」を気取っていることです。ワクチンに反対する自由は尊重されるべきですが、他者への強制や医療従事者への中傷は論外。これは紛れもなく越えてはならない一線です。また、「殺人ワクチン」「政府による薬害の大量発生」など、過激な主張を展開すれば、製薬会社からの訴訟リスクという重荷を背負うことになりかねません。SNSの投稿は、消しても魚拓という形で後世に残る。これは肝に銘じておくべきでしょう。時間とお金を浪費し、自らの首を絞めるようなものです。誹謗中傷は、果たして自分の人生を賭けるに値するのでしょうか。どんな組織でも、偏った考えの持ち主が上層部にいれば、一触即発の状況に陥りやすい。とくに薬剤が絡むと、火種は一気に燃え広がります。アカデミアの世界にいらっしゃる方々、くれぐれも油断大敵です。

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乳児への肺炎球菌ワクチンの減量接種、免疫原性への影響/NEJM

 英国・ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のKatherine E. Gallagher氏らは、生後6週以上8週未満児において、10価および13価肺炎球菌結合型ワクチン(それぞれPCV10[GSK製]、PCV13[ファイザー製])の減量接種による免疫原性について検討し、PCV13の40%用量の3回接種(初回免疫2回、追加免疫1回)は全量接種に対し全血清型で非劣性が認められたことを報告した。PCVワクチンは、定期予防接種の中でも高価なワクチンであることから、減量接種レジメンがワクチン接種プログラムの持続可能性を高める1つの選択肢となりうることが期待されていた。NEJM誌オンライン版2024年9月26日号掲載の報告。PCV10およびPCV13の各40%用量と20%用量を全量と比較 研究グループは、ケニアのキリフィおよびモンバサの9施設において、生後6週以上8週未満の健康な新生児を以下の7群へ無作為に均等に割り付け、生後18ヵ月まで追跡調査を行った。A群:PCV13全量接種B群:PCV13の40%用量接種C群:PCV13の20%用量接種D群:PCV10全量接種E群:PCV10の40%用量接種F群:PCV10の20%用量接種G群:既存スケジュールでPCV10全量接種 A~F群では、初回免疫2回(1回目:登録時、2回目:56日後)、追加免疫1回(生後約9ヵ月時)の計3回接種し、G群では初回免疫3回(登録時、28日後、56日後)を接種し、追加免疫はなしとした。A~F群は、児の保護者およびワクチン接種チーム以外の全試験スタッフが割り付けを盲検化されたが、G群のみは盲検化できなかった。 初回免疫完了後、4週間ごとに4回血液検体を採取するとともに、8週間ごとに2回鼻咽頭スワブを採取し(生後約9ヵ月および約18ヵ月時)、免疫原性を評価した。 非劣性の基準は、3回目接種の4週後に各減量群の全量群に対するIgG幾何平均抗体濃度(GMC)の比の95%信頼区間(CI)の下限が0.5超であり、初回免疫完了の4週後(参加者が生後約18週になった時)に血清型特異的IgG抗体濃度0.35μg/mL以上に達した参加者の割合の差の95%CIの下限が-10%超とした。また、ワクチンの用量は、PCV10群では血清型10種中8種以上、PCV13群では血清型13種中10種以上で非劣性基準を満たした場合に、非劣性が示されると事前に規定した。抗体保有率は生後約9ヵ月および約18ヵ月時に評価した。PCV13の40%用量の3回接種は、全量接種に対して非劣性 2019年3月~2021年11月(2020年3月~10月はCOVID-19パンデミックのため中断)に計2,100例の乳児が登録され、2,097例が無作為化された。生後18ヵ月時のper-protocol解析集団は計1,572例(75%)であり、抗体保有率の解析対象は生後9ヵ月時が1,439例(69%)、生後18ヵ月時が1,364例(65%)であった。 per-protocol解析の結果、PCV13の40%用量(B群)は、初回免疫2回接種後に13血清型中12血清型、追加免疫後に13血清型中13血清型について非劣性基準を満たした。PCV13の20%用量(C群)、PCV10の40%用量(E群)および20%用量(F群)については、全量接種に対する非劣性は示されなかった。 生後9ヵ月時および18ヵ月時におけるワクチン血清型の抗体保有率は、PCV13の各群間で同程度であった。

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日本初、経鼻弱毒生インフルエンザワクチン「フルミスト点鼻液」発売/第一三共

 第一三共は、経鼻弱毒生インフルエンザワクチンのフルミスト点鼻液を発売したと2024年10月4日付のリリースで発表した。本剤は2023年3月に製造販売承認を取得し、2024年8月に3価(A型2種、B型1種)ワクチンとして製造販売承認事項一部変更承認を取得した。日本で初の経鼻投与による季節性インフルエンザワクチンとして、今シーズンより供給開始の予定。 本剤により、自然感染後に誘導される免疫と類似した局所抗体応答および全身における液性免疫、細胞性免疫の誘導が期待されている。また、鼻腔内に噴霧するタイプのワクチンのため、針穿刺の必要がなく、注射部位反応もないことから、被接種者の心理的・身体的負担の軽減も期待される。 本剤に関して、医療機関へ向けて、9月2日に日本小児科学会が「経鼻弱毒生インフルエンザワクチンの使用に関する考え方」1)を発表している。2〜19歳未満に対しては、不活化インフルエンザHAワクチンと経鼻弱毒生インフルエンザワクチンを同等に推奨しているが、喘息患者には不活化インフルエンザHAワクチンの使用を推奨している。また、授乳婦、周囲に免疫不全患者がいる場合にも不活化インフルエンザHAワクチンが推奨されている。 生後6ヵ月〜2歳未満、19歳以上、免疫不全患者、無脾症患者、妊婦、ミトコンドリア脳筋症患者、ゼラチンアレルギーを有する患者、中枢神経系の解剖学的バリアー破綻がある患者に対しては、本剤の使用は認められていないため、不活化インフルエンザHAワクチンのみ推奨されている。<概要>商品名:フルミスト点鼻液一般名:経鼻弱毒生インフルエンザワクチン製造株:・A型株 A/ノルウェー/31694/2022(H1N1) A/タイ/8/2022(H3N2)・B型株 B/オーストリア/1359417/2021(ビクトリア系統)効能または効果:インフルエンザの予防用法および用量:2歳以上19歳未満の者に、0.2mLを1回(各鼻腔内に0.1mLを1噴霧)、鼻腔内に噴霧する。製造販売承認日:2023年3月27日製造販売元:第一三共株式会社

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第212回 新型コロナウイルスワクチンの定期接種開始、新たにレプリコンワクチン導入/厚労省

<先週の動き>1.新型コロナウイルスワクチンの定期接種開始、新たにレプリコンワクチン導入/厚労省2.先発薬の自己負担増加、薬局でジェネリック薬不足が懸念/厚労省3.医師の偏在が深刻化、是正策を巡る議論が白熱/厚労省4.石破首相、厚労相に福岡氏を起用、社会保障制度の見直しに着手/内閣府5.法医学教室の解剖医不足が深刻化、定年退職で人材不足に拍車/日本法医学会6.千葉県の救急病院、不正請求発覚で保険医療機関指定取り消し/関東厚生局1.新型コロナウイルスワクチンの定期接種開始、新たにレプリコンワクチン導入/厚労省10月1日、65歳以上の高齢者や基礎疾患のある60~64歳の人を対象として新型コロナウイルスワクチンの定期接種が開始された。今回の接種では、新たに接種できるワクチンとして「レプリコンワクチン」が追加されており、このワクチンはmRNAが細胞内で自己複製する特徴を持つ。従来のmRNAワクチンと比較して少ない接種量で高い抗体価を得られる可能性があるが、発症や重症化に対する効果については、まだ不明と指摘もされている。臨床試験では、発症予防効果が約57%、重症化予防効果は95%と確認されている。レプリコンワクチンは、世界で初めて日本で実用化されたもので、国内外での承認が進められている。一方で、従来のワクチン同様、副反応として接種部位の痛みや発熱などが報告されており、安全性は過去のmRNAワクチンと大きな違いはないとされている。接種費用は、国が1回当たり約8,300円を補助するが、無料から7,200円の自己負担まで、自治体によって自己負担額が異なり、負担額に幅がある。また、健康被害が発生した場合の救済制度も一部変更され、軽度の症状での支給はなくなり、入院が必要な場合に限って補助が行われることになった。使用されるワクチンは5種類で、今回の定期接種では主にオミクロン株「JN.1」に対応したものが提供されるが、流行している「KP.3」に対しても一定の効果が期待される。参考1)新型コロナ、初の定期接種開始 高齢者ら対象、自己負担あり(共同通信)2)無料~7,200円 新型コロナ予防接種の自己負担 自治体ごとに開き(朝日新聞)3)新型コロナワクチン定期接種 5種類のうちレプリコンワクチンとは 効果や副反応 専門家の見方は(NHK)4)レプリコンワクチン、コロナ接種で世界初実用化 有効性や安全性は?(毎日新聞)2.先発薬の自己負担増加、薬局でジェネリック薬不足が懸念/厚労省2024年10月から、医療制度が改定され、ジェネリック医薬品の使用を促進するため、先発医薬品を希望する場合に患者の自己負担額が増加する制度が導入された。具体的には、先発薬とジェネリック薬の価格差の4分の1が患者の自己負担となり、患者が先発薬を選んだ場合、これまでより高額の費用を負担する必要が生じる。この制度の目的は、医療費抑制を図ることにあり、国はジェネリック薬の普及率をさらに高めることを目指している。たとえば、先発薬が1錠100円、ジェネリック薬が60円の場合、その差額40円の4分の1に当たる10円に消費税が加算され、患者の負担が増えることになる。この新制度は、あくまで医療上の必要性がなく、患者が先発薬を希望する場合に適用され、医師が先発薬を処方する必要があると判断した場合や、ジェネリック薬の在庫がない場合は例外となる。全国的にジェネリック薬の不足が続いており、薬局はこの制度導入によって需要が集中し、さらに供給不足が深刻化することを懸念している。とくに冬季の感染症流行時には、ジェネリック薬に対する需要がさらに高まると予想され、薬局では在庫管理が難しくなる可能性があると指摘されている。患者の間では、ジェネリック薬を選ぶ人が増えると見込まれる一方で、とくに子供に対しては先発薬を希望する家庭も一定数存在し、自己負担が増えても先発薬を選ぶ傾向がある。また、世帯収入が高い世帯ほど先発薬を選択する割合が増えるという調査結果も報告されている。さらに、厚生労働省は「在宅自己注射の薬剤も対象」になることを示しているが、外来や往診・訪問診療での「注射薬」は対象外となることを疑義解釈で通知を発出している。今回の改定は、医療費削減に向けた大きな一歩となるが、患者や医療現場に与える影響も少なくなく、今後の運用が注目される。参考1)後発医薬品のある先発医薬品(長期収載品)の選定療養について(厚労省)2)「長期収載品の選定療養」導入 Q&A(同)3)長期収載品の処方等又は調剤の取扱いに関する疑義解釈資料の送付について[その3](同)4)先発医薬品処方の自己負担額10月から引き上げ(NHK)5)先発薬の一部“値上げ” 自己負担 来月から新制度 厚労省、医療費削減へジェネリック促進(東京新聞)6)長期収載品の選定療養、在宅自己注射の薬剤は対象になるが、「外来や往診・訪問診療での注射薬」は対象外-厚労省(Gem Med)3.医師の偏在が深刻化、是正策を巡る議論が白熱/厚労省9月30日に厚生労働省は、「新たな地域医療構想等に関する検討会」を開催し、医師偏在是正に向けた総合的な対策パッケージの取組の方向性を示した。議題となった「医師の偏在」は過去10年で、人口規模が小さい二次医療圏においては診療所数が減少傾向にある一方、50万人以上の二次医療圏では、2012~2022年にかけて診療所数が増加傾向するなど深刻化しており、とくに地方や特定の診療科での医師不足が問題となっている。厚労省は医師偏在の是正に向けた対策として、都市部での新規開業を許可制にし、開業数の上限を設ける案を提示した。しかし、職業選択の自由や営業の自由との兼ね合いから慎重な意見も多く、議論は続いている。厚労省の対策パッケージでは、医師の不足する地域での勤務経験を医療機関の管理者要件とすることや、経済的インセンティブを通じて医師を誘導する方策が検討されている。また、医師が多数存在する地域での新規開業希望者に対しては、地域で不足している医療機能をカバーすることを求める仕組みの強化が提案された。しかし、日本医師会などからは、規制が過度に強化されると医師の志望者が減少する可能性があるとの反対意見が出るなど結論は出なかった。このほか、経済的なインセンティブによる誘導策として、医師不足地域への医師派遣の強化や、診療報酬の見直しなども提案され、「重点医師偏在対策支援区域」として特定の地域に医師を集中的に配置することや、派遣医師の待遇改善を進めることが提案されている。厚労省では、医師不足解消のため、国や地方自治体が協力して支援体制を整備し、大学病院などと連携して医師派遣を行う仕組みを強化する考えを示している。これに対し、日本病院会の相澤 孝夫会長は記者会見で、「医師の偏在を是正するための対策を国に提案する方針」を示し、今後も議論が継続される見通し。参考1)第9回新たな地域医療構想等に関する検討会(厚労省)2)診療所多い地域に「開業の上限」厚労省提案 新規開業を都道府県の「許可制」に(CB news)3)診療所の開業許可制に慎重論、厚労省の有識者検討会で(日経新聞)4.石破首相、厚労相に福岡氏を起用、社会保障制度の見直しに着手/内閣府石破 茂首相は、10月4日の就任後初めての所信表明演説で、社会保障制度の見直しに着手することを明言し、医療、介護、子育てを含む幅広い分野での改革を進めることを明らかにした。これによると、「現行の制度が時代に合っているかを再検討し、多様な人生選択を支える柔軟な制度設計を目指す」と語った。とくに、少子高齢化が進行する中で、現役世代の負担軽減が課題であり、子育て支援や年金制度改革が焦点となる。石破首相は子育て支援について「手当より無償化」を重視し、医療費や年金制度の見直しも検討される見通しだ。新たに就任した福岡 資麿厚生労働大臣は、社会保障制度改革に積極的に取り組むと期待され、財務大臣には厚労相を経験した加藤 勝信氏が起用された。両者ともに社会保障分野での豊富な経験を持ち、とくに年金制度や医療費負担の改革が大きなテーマとなる。日本医師会の松本 吉郎会長は、福岡厚労相と加藤財務相の就任を歓迎し、地域医療の守りを強調した。また、デジタル担当大臣に就任した平 将明氏は、健康保険証の廃止とマイナンバーカードへの一本化方針を堅持する姿勢を示し、医療DXの推進に力を入れる意向を表明した。保険証とマイナンバーカードの統合により、医療費やカルテのデジタル管理が進むことが期待される。参考1)第二百十四回国会における石破内閣総理大臣所信表明演説(内閣府)2)石破首相、社会保障全般の見直しを表明 時代に合った制度への転換も(CB news)3)現役世代の負担減、課題に 子育て支援、年金改正も焦点-石破新内閣の課題・社会保障(時事通信)4)平将明デジタル大臣、「保険証廃止」を堅持する理由説明-「医療DXの恩恵は桁違い」(CNET Japan)5.法医学教室の解剖医不足が深刻化、定年退職で人材不足に拍車/日本法医学会法医学教室の解剖医の不足がさらに深刻化することが、読売新聞の報道で明らかになった。報道によると2030年までに全国で24人の教授が定年退職する予定であり、とくに地方では解剖医が1人しかいない地域が14県、さらに1県では解剖医が不在となっている。今後、死亡者数の増加が見込まれる中、解剖医の供給が追いつかなくなる事態が懸念されている。解剖医の不足は、死因究明の遅れや犯罪の見逃しにつながる可能性があり、警察が取り扱う約20万体の遺体のうち、解剖されるのは1割程度に止まっている。日本法医学会は、各都道府県に専任の解剖医を配置する「死因究明医療センター」の設置を提言しているが、進展はみられない。法医学者の確保が急務とされる中、若い医師が敬遠しがちな分野であり、大学における解剖医の後任確保が難しい状況が続いている。さらに、解剖医が少ない地域では教授の退職や転任が発生すると、他県に依頼しなければならず、捜査に遅れが出る事象も起こっている。政府も法医学教室の人員確保を強調しており、死因究明の重要性を社会全体で共有する必要性があると指摘されている。同学会では、解剖医のキャリアパスを紹介するセミナーを開催し、将来の人材育成にも取り組んでいるが、現状の人員不足は依然として大きな課題となっている。参考1)死因究明の解剖医が足りない…法医学教室の教授の大量定年退職、2030年までに全国で24人(読売新聞)2)法医学会が初の学生向けセミナー開催~社会的ニーズ紹介、将来の人材確保へ~(時事通信)6.千葉県の救急病院、不正請求発覚で保険医療機関指定取り消し/関東厚生局関東信越厚生局は、9月30日に、千葉県野田市の小張総合病院が、看護職員の勤務実績を実際よりも多く申告するなどの不正により、診療報酬約5億7,000万円を不正請求していたとして、この病院の保険医療機関の指定を2025年4月1日付で取り消すと発表した。不正は2014~2017年にかけて行われ、元職員の内部告発により発覚した。これに対し、病院を運営する医療法人「圭春会」は、事業を医療法人「徳洲会」に譲渡する予定であり、診療は引き続き行われると発表した。小張総合病院は二次救急指定病院であり、野田市において重要な役割を果たしている。昨年度は約4,700件の救急搬送を受け入れており、病床数は350床、消化器内科や小児科を含む28の診療科を持つ。熊谷 俊人知事は、この不正行為が市の中核的な医療機関で発生したことを「誠に残念」としつつも、運営の引き継ぎを支援し、地域医療体制の維持に取り組む考えを示した。関東信越厚生局は、不正に受け取った診療報酬の返還を求めている。参考1)保険医療機関の行政処分について (関東厚生局)2)診療報酬5億7,000万円を不正請求 千葉・野田市の病院、保険医療機関の指定取り消し(産経新聞)3)救急病院が診療報酬不正疑い保険医療機関指定取消決定 野田(NHK)

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第231回 某学会がレプリコンワクチンの安全性に懸念表明!?気になる内容は…

新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)のワクチンの特例臨時接種が今年3月末に終了したが、65歳以上の高齢者と60~64歳までの基礎疾患を有する人たちに対する定期接種が10月1日からスタートした。今回の定期接種はファイザー、モデルナ、第一三共のmRNAワクチン、ノババックス/武田薬品の組換えタンパクワクチン、Meiji Seikaファルマの次世代mRNAワクチンの5種類のワクチンが使用される。レプリコンワクチンの作用機序このうち巷で話題をさらっているのが、Meiji Seikaファルマの次世代mRNAワクチン「コスタイベ」である。これは通称レプリコンワクチンと称される。ウイルスのスパイクタンパク質とRNAを鋳型にRNAを複製する酵素であるレプリカーゼのmRNAを脂質ナノ粒子で包んだ自己増幅型mRNAワクチンである。これを筋肉注射すると、体内でレプリカーゼの働きによりウイルスのスパイクタンパク質のmRNAが多数複製され、それに応じて中和抗体も多数産生される。さらに、これまでよりも少量のmRNAを投与することで効率的に中和抗体が産生でき、かつ抗体価の持続期間も長いという仕組みである。端的に言えば、投与したmRNAが一時的に自己増幅(増殖ではない)するという新技術だ。さて、“これが巷で話題になっている”というのは、すでに多くの医療者がご存じのようにネガティブな意味でだ。主には「レプリコンワクチンは、接種した人の体内で増殖したmRNAが人やほかの動物に感染する危険性がある」という主張である。SNS隆盛の現在はとくにネガティブ情報は拡散されやすいが、こうした科学的に見て不可思議な説に医療系の国家資格を持つ人々も加担しているため、なんとも厄介である。学会がレプリコンワクチンを忌避!?そうした最中、日本看護倫理学会が「【緊急声明】 新型コロナウイルス感染症予防接種に導入されるレプリコンワクチンへの懸念 自分と周りの人々のために」を8月8日に公開した。ちなみに私自身は今回初めて同学会の存在を知ったが、「看護倫理の知を体系的に構築する」ことを目的に2008年に設立された学会とのこと。さて、その主張は主に5点である。1点目はコスタイベの主な治験実施国であるベトナムや、もともとMeijiがこのワクチンを導入したArcturus Therapeutics社が本社を置くアメリカでは承認されていないことに対する疑問であり、それゆえに安全性に懸念があるのではないかとの指摘だ。しかし、これ自体ははっきり言って揚げ足取りに近い。国情や規制当局の在り方によっても変わってくることだからである。ちなみに国外で米・Arcturus Therapeutics社は豪・CSL Seqirus社と開発提携しており、CSL社のホームページでは欧州連合で承認申請中と記載されている。また、Meiji側が9月末に行った記者会見では、ベトナムで承認準備、アメリカで承認申請に向けて準備が進むほか、数ヵ国で開発中である。そもそも新型コロナワクチンの場合、先行したファイザー、モデルナ両社の製品による接種が急速に進行したため、後発企業は被験者確保に苦労したことはよく知られている。こうした事情も併せて考えれば、日本が先行承認されたことは驚くに値しない。実はこの手の指摘は、今回の定期接種に用いられているノババックス/武田薬品の組換えタンパクワクチンの日本での緊急承認時も「ノババックスの本国であるアメリカでは承認されていない」とネガティブな方向性でSNS上では指摘されていた。しかし、当時すでにEUでは承認されており、後にアメリカでも承認されている。さて緊急声明の2点目は、このワクチンに関して最も多いネガティブ指摘である接種者から非接種者に感染(シェディング)するのではないかとの懸念があります」と言うもの。そもそもこの「シェディング」という用語自体は、以前からワクチンに懐疑的な人たちがSNS上で使っていたが、今回よく調べてみたところ、英語の「shed(発する、放つ)」の現在分詞らしい。声明では「望まない人にワクチンの成分が取り込まれてしまうという倫理的問題をはらんでいます」としているが、いやはやである。そもそも声明では「感染」という言葉を誤用している。感染とは微生物が生体内に侵入し、生体内で定着・増殖し、寄生した状態を指す。このワクチンも先行したファイザー、モデルナのワクチンも成分として封入されているmRNAは、新型コロナウイルスの表面にあるスパイクタンパクのみを生成する。これのみで医学的な定義の感染は起こりえない。しかも、元来、不安定で細胞内で分解されてしまうmRNAが、そのまま血中を流れて肺で呼気に混入してヒトから排出されるなど、もはやファンタジーの域である。それだったら、長年、麻疹や風疹で使われているウイルス本体を弱毒化した生ワクチンのほうがよっぽど危険であるし、生ワクチンではここで言うシェディングに相当するような現象が起きたことはあるが、大局的に問題になったことはない。極めて雑な例えをするが、この主張は私個人からすると「刺身を食べてしばらくしたら、その人の口から生きた小魚が継続的に飛び出すようになった」と言われるくらいナンセンスである。3点目は「人間の遺伝情報や遺伝機構に及ぼす影響、とくに後世への影響についての懸念が強く存在します」というもの。要は投与したmRNAがDNAそのものに影響を及ぼすのではないかとの主張である。この点はヒトでの逆転写酵素の有無に関連するものだが、厳密に言えばその可能性はゼロではない。しかし、率直に言って「あなたが明日死ぬ可能性はゼロではない」というレベルのものである。ちなみにここの項目ではスウェーデンで行われた培養細胞にファイザーのmRNAワクチンを曝露させたin vitroの実験でDNAへの逆転写が起こったとの論文を引用している。しかし、免疫応答も含め通常の生体内とは異なる条件で行われた実験であり、使用された細胞は高分化型ヒト肝癌由来細胞株 Huh-7。そもそもがん細胞由来の細胞株なら正常なDNA複製が行われるとは言えないはずで極めて特殊な条件で行われている。4点目は、そもそもファイザー、モデルナのmRNAワクチンですらリスクの説明が必ずしも十分ではないという指摘だが、これについてはさまざまな受け止めがあろうと思う。少なくとも私個人は、厚生労働省を筆頭に自治体も神経質なまでに情報発信をしていたとの認識である。5点目はレプリコンワクチンが定期接種に用いられることで、患者を守るとの至上命題で医療者を中心にワクチン接種に関する主体的な自己決定権が脅かされるとの懸念。正直、これもどちらかというと感情論であり、レプリコンワクチンに対する懸念とはやや別物ではないかと考える。いずれにせよ今回の声明は、ピッチャーがマウンドからいきなり外野スタンドに投球し始めたかのような違和感を覚えるもので、私個人は読み切るのに相当疲れた次第である。

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ワクチン接種はかかりつけ医に相談を/日医

 日本医師会(会長:松本 吉郎氏[松本皮膚科形成外科医院 理事長・院長])は10月2日、定例会見を開催した。会見では、松本会長が先日発足した石破 茂内閣誕生に言及し、医師会は地域を支える重要な医療インフラとして政権と一体となって政策を推進すること、防災省の提案もあるように医師会も災害対策を重要な事項と考えていること、医療・介護業界が物価高騰を上回る賃上げが実現できることなどを要望し、今後も諸政策で連携していくことを語った。また、先般発生した能登半島豪雨への支援金について10月末まで医師会員、一般からの寄付を募っていることを説明した。新型コロナウイルス感染症の重症化防止に高齢者はワクチン接種の検討を 次に感染症担当の笹本 洋一常任理事(ささもと眼科クリニック 理事長・院長)が 「季節性インフルエンザと新型コロナウイルス等の予防接種について」をテーマに、今秋の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、季節性インフルエンザへのワクチン接種などについて医師会の取り組みや考えを説明した。 COVID-19と季節性インフルエンザは流行傾向にあるが、COVID-19ワクチンの接種が10月1日より開始された。大きな変更点は、公費による無料接種ではなくなったことで、自治体による定期接種となる。対象者は「65歳以上の方」、「60~64歳で心臓、腎臓などに基礎疾患がある方、免疫機能に障害がある方」などが定期接種の対象となり、一部自己負担の有料接種となる。対象者は重症化予防のためにも接種を検討していただき、接種できるワクチンの種類、自己負担額については各自治体により異なるために確認してもらいたいと説明した。また、COVID-19ワクチンは、医師が必要と認めた場合、季節性インフルエンザや肺炎球菌ワクチンとの同時接種もできるので、かかりつけ医に相談してもらいたいと述べた。 そのほか、HPVワクチンの公費負担によるキャッチアップ接種にも触れ、9月末日までの初回接種を医師会としては広く啓発してきたが、これを逃した方も10月中の接種で最短で4~5ヵ月で公費負担の期日内に終えることができるので、かかりつけ医などに相談して欲しいと説明するとともに、通常の定期接種についても近医に問い合わせをお願いしたいと述べた。

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