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3学会がコロナワクチン定期接種を「強く推奨」、高齢者のリスク依然高い

 日本感染症学会、日本呼吸器学会、日本ワクチン学会の3学会は2025年9月1日、今秋10月から始まる新型コロナウイルス(COVID-19)ワクチンの定期接種を「強く推奨する」との共同見解を発表した。高齢者における重症化や死亡のリスクが依然として高いことや、ウイルスの変異が続いていることを主な理由としている。インフルエンザを大幅に上回る死亡者数 3学会によると、国内のCOVID-19による死亡者数は2024年に3万5,865例に上り、同年のインフルエンザによる死亡者数2,855例を大きく上回っている。COVID-19による死者数のピークだった2022年の4万7,638例からは減少しているものの、依然として高い水準で推移しており、大きな減少はみられていない。 また、2025年に入ってから8月24日までの期間で、COVID-19で入院した患者のうち60歳以上は3万7,000例を超えており、人工呼吸管理が必要な重症者は616例であった。3学会は、高齢者にとってCOVID-19の重症化リスクはインフルエンザと「少なくとも同等かそれ以上」だと指摘し、警戒を呼びかけている。 COVID-19は5類感染症に移行後も流行を繰り返しており、その要因として変異株が繰り返し出現していることが挙げられる。オミクロン株は数ヵ月ごとに変異し、そのたびに免疫を回避する力が強まっているとされている。高齢者施設や医療機関での集団感染も2024年と同レベルで報告されており、感染力は依然として強いことから、今冬の再流行が予想される。新型コロナワクチンの発症・重症化予防効果 2024年秋冬に接種が行われたJN.1対応ワクチンは、国内多施設共同症例対照研究(VERSUS研究)により、65歳以上の発症を52.5%、60歳以上の入院を63.2%予防する効果が確認されている。 しかし、新型コロナワクチンの効果は変異株の影響もあり接種後数ヵ月で減衰するため、インフルエンザワクチンと同様に、その年の流行株に対応したワクチンを毎年接種することが必要になる。2025年度の定期接種では、オミクロンJN.1系統の「LP.8.1」や「XEC」に対応したワクチンが供給される予定だ。【2025/26シーズンに定期接種で用いられる予定のCOVID-19ワクチン】・コミナティ筋注シリンジ12歳以上用(ファイザー)、抗原組成:LP.8.1・スパイクバックス筋注(モデルナ)、同:LP.8.1・ヌバキソビッド筋注1mL(武田薬品工業)、同:LP.8.1・ダイチロナ筋注(第一三共)、同:XEC・コスタイベ筋注用(Meiji Seika ファルマ)、同:XEC また、過去にオミクロン株の感染歴がある場合でも、6ヵ月以上経過すると再感染のリスクが増えることが報告されており、COVID-19感染から3~6ヵ月以上経過していれば、ワクチン接種が望まれる。過去の感染歴があっても新たなワクチン接種によって免疫力をさらに高めることができるとしている。2025年夏に感染した人でも、発症から3ヵ月以上経過していれば、冬の流行に備えて接種を受けることが推奨されている。 新型コロナワクチンには、COVID-19の罹患後症状(long COVID)や、罹患後1年間にわたって増加する心血管疾患や呼吸器疾患、認知機能低下などの続発症を予防する効果も報告されている。 安全性については、接種後に発熱や倦怠感といった一過性の有害事象がみられるものの、その頻度は接種回数を重ねるごとに減少傾向にあると報告されている。また、国内外の研究から、ワクチン接種が死亡リスクを増加させるという関連性はないことが示されている。 3学会は、ワクチンの利益とリスクを科学に基づいて正しく比較し、自身が信頼できる医療従事者と相談のうえで接種を判断するよう呼びかけている。なお、ワクチン接種で感染を完全に回避できるわけではなく、ワクチン接種に加えて、適切なマスクの着用、換気、手洗いなどの基本的な感染予防策を行うことも重要だとしている。

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第277回 コロナの今、感染・入院・死亡者数まとめ

INDEX定点報告数推移入院・重症化例死亡者数新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)が感染症法の5類に移行したのが2023年5月8日。それから丸2年以上が経過した。現在、全国的に感染者が増加していると報道されているが、先日の本連載でも報告したように地域の基幹病院では、流行期に苦境を迫られているのが現実だ。もっとも世の中全体が新型コロナについて「喉元過ぎた熱さ」化した今、5類移行以後の新型コロナがどのような経過をたどってきたかについての認識は、医療者の中でも差があるだろう。私自身は医療者ではないが、隠さず言ってしまえば、まさに喉元過ぎた熱さ化しつつあるのが実際である。ということで、自省も込めてこの段階で、5類移行から現在に至るまでの新型コロナの状況について経過をたどってみることにした。今回は感染者数、入院者数、死亡者数についてまとめてみた。定点報告数推移まず、5類移行後の一番大きな変化としては感染者報告が定点報告1)となった点である。その最初となった2023年第19週(5月8~14日)は全国で2.63人。この後は第35週(8月28日~9月3日)の20.50人まで、途中で第31週(7月31日~8月6日)と第32週(8月7~13日)に前週比で若干減少したことを除けば、ひたすら感染者は増加し続けた。ただ、ここからは急速に減少し、わずか4週後の第39週(9月25日~10月1日)には8.83人まで減少。第44週(10月30日~11月5日)には第19週の水準を下回る2.44人となった。16週間かけてピークまで増加した感染者数が9週間で減少したことになる。最終的には第46週(11月13~16日)の1.95人で底を打った。もっともここからは再び増加に転じ、この年の最終週の第52週(12月25~31日)には5.79人と6週間で約3倍まで増加した。2024年第1週(1月1~7日)は6.96人で始まり、第5週(1月29日~2月4日)に16.15人。以後は第18週(4月29日~5月5日)の2.27人まで一貫して減少したが、第19週(5月6~12日)からは2.63人と反転し、第30週(7月22~28日)の14.58人まで増加を続けた。そしてこれ以降は再び減少し始め、第45週(11月4~10日)の1.47人がボトムとなり、最終週の第52週(12月23~29日)は7.01人。7週間で5倍弱に増加した。2025年は第1週(2024年12月30日~2025年1月5日)が5.32人と2024年最終週からは減少したものの、翌第2週(1月6~12日)は7.08人と跳ね上がり、これが冬のピーク。この後は緩やかに減少していき、第21週(5月19~25日)、第22週(5月26日~6月1日)ともに0.84人まで低下。そこから再び一貫した上昇に転じ、最新の第33週(8月11~17日)が6.30人である。このデータを概観すると、1月中が冬のピークで、その後は感染者が減少。5月中下旬から感染者が増加し、7~8月にピークを迎え、そこから11月中旬にかけてボトムとなり、再び増加に転じるという流れが見えてくる。現時点において、この夏まで4つの波が到来している形で、年々ピークの感染者数は低下している。もっとも、これは以前書いたようにウイルスの感染力が低下しているわけではなく、次第に多くの人がコロナ禍を忘れ、喉の痛みや鼻水が大量に出るなどの呼吸器感染症の症状が出ても受診・検査をしていないケースが増えているからだろう。また、注意が必要なのが定点報告医療機関数の変化である。2025年第14週(3月31日~4月6日)までは約5,000医療機関だったが、これが再編されて第15週以後は約3,000医療機関に変更されていることだ。その意味ではもはや定点報告数は大まかに流行を捉えるという位置付けにすぎないといえるだろう。そうした中でこの流行の波形を見ると実は特徴的な地域がある。沖縄県だ。同県の場合、ほかの都道府県に見られる冬期の波がほとんどない。これは同県が日本では唯一の亜熱帯に属する県であることが理由だろう。すなわち冬に暖房を使って屋内に籠ることがほとんどないということだ。つまるところ「暑さや寒さでエアコンを使い換気が悪くなる時期に各地で感染者が増加する」という従来からの定説を如実に裏付けているともいえる。実際、夏前の流行の立ち上がり時期を見ると、九州・沖縄地方は全国傾向と同じ毎年第19週前後だが、北海道や東北地方は第25週前後である。逆に冬期は北海道、東北地方は第42週前後に感染者が増加し始めるが、九州地方では第49週前後である。入院・重症化例最も医療機関にとって負荷がかかるのは新型コロナによる入院患者の増加であることはいうまでもない。厚生労働省では医療機関等情報支援システム(G-MIS)2)のデータから週報とともに重症化事例も公表している。当然ながら、定点報告の感染者数のピーク前後で入院事例が増えると考えられるため、各ピーク期に絞ってその状況を取り上げる。まず、2023年については、夏のピークだった第35週の直前である第34週(8月21~27日)の全国の新規入院患者数1万3,972人がピークである。この時の7日間平均でのICU入院中患者数が228人、ECMOまたは人工呼吸器管理中が140人である。ICU入院中の患者数は第33~36週までは200人超である。2024年の冬季の感染者数ピークは第5週だが、入院患者のピークはその前の第3週(1月15~21日)の3,494人である。夏に比べて一気に入院患者数が減少したようにもみえるが、これは2023年9月25日より、入院患者数をG-MISデータ(約3万8,000医療機関)から全国約500ヵ所の基幹定点医療機関からの届出数に変更したためである。その代わり、この時点から入院患者の年齢別などの詳細が報告されるようになっている。この2024年第3週の入院患者の年齢別内訳を見ると、60歳以上の高齢者(同データは65歳以上の区分なし)が83.1%を占めている。これ自体は驚くことではない。ただ、10歳刻みの年齢区分で見ると、60歳以降の3区分と50~59歳の区分に次いで多いのが1歳未満である。また、この時の入院時のICU入室者は117人、人工呼吸器利用者は57人である。さらに同年夏の入院患者数ピークは、感染者数ピークの第30週の翌週である第31週(7月29日~8月4日)の4,590人。この時も60歳以上の高齢者が84.4%を占め、第3週前後の時と同様に60歳以降の3区分と50~59歳の区分に次いで1歳未満の入院患者が多い。この週のICU入室者は187人、人工呼吸器の利用者は80人。2025年冬の入院患者数ピークは、感染者数ピークと同様の第2週で2,906人。60歳以上の高齢者割合は86.0%。年齢階層別の入院患者数で1歳未満が高齢者層に次ぐのは、この時も同じだ。この週のICU入室者は120人、人工呼吸器の利用者は54人だった。死亡者数人口動態統計3)の年次確定数で見ると、2023年の新型コロナによる死亡者数は3万8,086人。前年の2022年が4万7,638人である。ちなみに2023年のインフルエンザの死亡者数が1,383人である。2024年(概数)は3万5,865人、2025年については現在公表されている3月までの概数が1万1,207人である。ちなみに前年の1~3月は1万2,103人であり、やや減少している。ここでまたインフルエンザの死亡者数を挙げると、2024年が2,855人、2025年1~3月が5,216人である。今年に入りインフルエンザの死亡者は増加しているものの、新型コロナの死者は2023年でその27.5倍、2024年で12.6倍にも上る。この感染症の恐ろしさを改めて実感させられる。次回は流行株の変遷とワクチン、治療薬を巡る状況を取り上げようと思う。 参考 1) 厚生労働省:新型コロナウイルス感染症に関する報道発表資料(発生状況等) 2) 厚生労働省:医療機関等情報支援システム(G-MIS):Gathering Medical Information System 3) 厚生労働省:人口動態調査

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LP.8.1対応組換えタンパクコロナワクチン、一変承認を取得/武田

 武田薬品工業は8月27日のプレスリリースで、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のオミクロン株LP.8.1を抗原株とした組換えタンパクワクチンの「ヌバキソビッド筋注1mL」について、厚生労働省より一部変更承認を取得したと発表した。ヌバキソビッド筋注は、同社がノババックスから日本での製造技術のライセンス供与を受けたもので、LP.8.1対応ワクチンは9月中旬以降に供給が開始される予定。 2025年5月28日に開催された「厚生科学審議会 予防接種・ワクチン分科会 研究開発及び生産・流通部会 季節性インフルエンザワクチン及び新型コロナワクチンの製造株について検討する小委員会」において、2025/26シーズンの定期接種で使用する新型コロナワクチンの抗原組成は、WHOの推奨と同様に、「1価のJN.1、KP.2もしくはLP.8.1に対する抗原又は令和7年5月現在流行しているJN.1系統変異株に対して、広汎かつ頑健な中和抗体応答又は有効性が示された抗原を含む」とされている1)。 今回の承認は、抗原株の変更に係るデータに加え、LP.8.1を抗原株としたヌバキソビッド筋注が、直近の新型コロナ変異株(LP.8.1、LP.8.1.1、JN.1、KP.3.1.1、XEC、XEC.4、NP.1、LF.7およびLF.7.2.1)に対しても中和抗体を産生することが認められた非臨床データに基づく。 本剤は、6歳以上を対象とした初回免疫(1、2回目接種)および12歳以上に対する追加免疫(3回目接種以降)の適応を取得している。用法・用量は、12歳以上には1回0.5mLを筋肉内に接種する。また、6歳以上12歳未満には、初回免疫として、1回0.5mLを2回、通常、3週間の間隔をおいて、筋肉内に接種する。

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米国の小児におけるインフルエンザ関連急性壊死性脳症(IA-ANE)(解説:寺田教彦氏)

 本報告は、米国2023~24年および2024~25年シーズンにおける小児インフルエンザ関連急性壊死性脳症(IA-ANE)の症例シリーズである。 IA-ANEは、インフルエンザ脳症(IAE)の重症型で、米国2024~25年シーズンのサーベイランスにおいて小児症例の増加が指摘されていた(MMWR Morb Mortal Wkly Rep 2025 Feb 27)。同レポートでは、小児インフルエンザ関連死亡例の9%がIAEによる死亡と報告され、早期の抗ウイルス薬使用と、必要に応じた集中治療管理、インフルエンザワクチン接種が推奨されていた。 本研究では、2024~25年シーズンで大規模小児医療センターの医師からIA-ANEが増加していると指摘があり、主症状、ワクチン接種歴、検査結果および遺伝学的解析結果、治療介入、臨床アウトカム(修正Rankinスケールスコア)、入院期間、機能的アウトカムを主要アウトカムとして調査結果が報告された。詳細は「インフルエンザ脳症、米国の若年健康児で増加/JAMA」に記載のとおりである。 本研究のdiscussionでは、サーベイランス結果と同様に、速やかな診断と集中治療管理、ならびにインフルエンザワクチン接種の有用性が強調されている。前者については、死亡例の多くが入院後1週間以内(中央値3日)に発生し、主因が脳浮腫に伴う脳ヘルニアであった点から指摘されている。後者については、米国における2023~24年および2024~25年シーズンの小児インフルエンザワクチン接種率がそれぞれ55.4%、47.8%であったのに対し、本研究に登録されたIA-ANE患者で接種歴を有したのは16%にとどまっていた点から指摘されている。 また、本研究では、アジア系の子供で急性壊死性脳症(ANE)が多かった。日本を中心としたアジアではANEが多い可能性が指摘されており、日本では2015~16年シーズン以降、IAEは新型コロナウイルス感染症の世界的な流行期間を除き毎年約100~200例が報告されており、2023~24年シーズンは189例が報告されていた(「インフルエンザ流行に対する日本小児科学会からの注意喚起」日本小児科学会)。本研究でもアジア人が登録された割合は高かったが、ANEに関連する可能性があるRANBP2やその他の遺伝的変異はアジア系の子供で多いわけではなく、非遺伝的要因が関与している可能性がある。 ANEは健康な小児でも発症することがあり、頻度は低いが壊滅的な神経学的合併症を来し、死亡することもある疾患である。日本での急性脳症の予後の報告でも、平成22年度の報告書では、急性脳症全体/急性壊死性脳症(ANE)で治癒56%/13%、後遺症(軽・中)22%/2%、後遺症(重)14%/33%、死亡6%/28%、その他・不明1%/3%だった。 本報告は米国におけるANEの臨床像と深刻さを明確に示すとともに、日本においても適切なワクチン接種の実施、IA-ANEの早期診断と集中管理、治療プロトコルの標準化が急務であることを再確認させられた。

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第257回 新型コロナ感染9週連続増加 変異株「ニンバス」拡大、百日咳も同時流行/厚労省

<先週の動き> 1.新型コロナ感染9週連続増加 変異株「ニンバス」拡大、百日咳も同時流行/厚労省 2.消化器外科医、2040年に約5,000人不足 がん手術継続に黄信号/厚労省 3.医療ネグレクト対応、緊急時の同意なし医療に法的責任問わず/こども家庭庁 4.往診5年で4割増 高齢者中心に需要拡大も過剰提供を懸念/厚労省 5.末期がん患者に未承認治療3千件超 都内クリニックに措置命令/厚労省 6.がん治療後の肝炎再活性化で患者死亡、情報共有不足が背景に/神戸市 1.新型コロナ感染9週連続増加 変異株「ニンバス」拡大、百日咳も同時流行/厚労省新型コロナウイルスの感染者が全国的に増加している。厚生労働省によると、8月11~17日に約3,000の定点医療機関から報告された感染者数は2万2,288人で、1医療機関当たり6.3人となり、9週連続で前週を上回り、入院患者も1,904人と増加した。例年、夏と冬に流行のピークがあり、今年もお盆や夏休みの人の移動を背景に感染拡大が続いている。流行の中心はオミクロン株の派生型「NB.1.8.1」で、俗称「ニンバス」と呼ばれる株。国立健康危機管理研究機構によれば20日時点で国内検出の28%を占め、同系統を含めると全体の8割以上になる。感染力は従来株よりやや強いが、重症化リスクは大きく変わらないとされている。症状は、発熱や咳に加え「カミソリを飲み込んだような強い喉の痛み」が特徴で、筋肉痛や関節痛を伴う例も報告されている。ワクチンは重症化予防に有効と考えられており、WHOも監視下の変異株に指定している。都道府県別では、宮崎が最多の14.7人、鹿児島12.6人、埼玉11.5人と続き、東京や大阪など大都市圏では比較的低水準に止まっている。厚労省は「手洗いや咳エチケット、エアコン使用時の換気など基本的な感染対策を徹底してほしい」と呼びかけている。新学期開始で人の動きが再び活発化する9月中旬ごろまで増加が続く可能性が指摘される。一方、百日咳も同時流行しており、8月10日までの週に3,211人が報告され、年初からの累計は6万4千人超となった。子供を中心に長引く咳を呈し、乳児では重症化するリスクが高い。国内外で増加傾向にあり、厚労省は原因を分析中。コロナと百日咳が並行して拡大する中、専門家は体調不良時には早めに医療機関を受診し、感染拡大防止に努めるよう求めている。 参考 1) 変異ウイルス「NB.1.8.1」“感染力やや強い”(NHK) 2) 新型コロナ感染者、全国平均で9週続けて増加 例年夏に流行 厚労省(朝日新聞) 3) “カミソリをのみ込んだような強烈な喉の痛み” 新型コロナ「ニンバス」感染拡大 百日せきも流行続く(読売テレビ) 2.消化器外科医、2040年に約5,000人不足 がん手術継続に黄信号/厚労省厚生労働省の「がん診療提供体制のあり方に関する検討会」は、2040年にがん手術を担う消化器外科医が約5,000人不足するとの推計をまとめた。需要側では初回手術を受ける患者数が2025年の約46万5千人から40年には約44万人へ微減する一方、供給側の減少が急速に進む。外科医の約7割を占める消化器外科では、日本消化器外科学会の所属医師(65歳以下)が25年の約1万5,200人から40年に約9,200人へ39%減少し、需給ギャップは5,200人規模に拡大すると見込まれている。背景には若手医師の敬遠がある。消化器外科は10時間を超える食道がん手術や夜間・休日の救急対応など負担が大きい一方、給与水準は他科と大差がない。修練期間も長く、労働と報酬のバランスが「割に合わない」とされ、2002年から20年間で医師数は2割減少した。他方、麻酔科や内科は増加しており、診療科間での偏在が深刻化している。こうした現状に、学会や大学病院は人材確保策を模索する。北里大学は複数医師で患者を担当し、緊急時の呼び出しを減らし、富山大学は長時間手術の交代制を導入、広島大学は若手の年俸を1.3倍に引き上げた。学会は拠点病院への人材集約により休暇確保や経験蓄積を両立させたい考えを示している。報告書はまた、放射線治療では、装置の維持が難しくなる可能性や、薬物療法では地域格差が生じやすい点にも言及。今後は都道府県単位で医療機関の集約化やアクセス確保を検討し、効率的な医療提供体制を整える必要があるとしている。高齢化が進み85歳以上のがん患者は、25年比で45%増えると見込まれる中、医師不足は治療継続に直接影響し得る。厚労省は、就労環境や待遇改善に報酬面での配慮を進め、がん医療の持続可能性確保に向けた施策を急いでいる。 参考 1) 2040年を見据えたがん医療提供体制の均てん化・集約化に関するとりまとめ(厚労省) 2) がん手術担う消化器外科医、2040年に5000人不足 厚労省まとめ(毎日新聞) 3) 消化器外科医の不足深刻…厳しい勤務で若手敬遠、「胃や腸のがん患者の命に関わる」学会に危機感(読売新聞) 4) 消化器外科医「5,000人不足」 がん診療「病院集約を」厚労省検討会、40年推計(日経新聞) 3.医療ネグレクト対応、緊急時の同意なし医療に法的責任問わず/こども家庭庁こども家庭庁は8月、保護者の思想や信条を理由に子供に必要な医療を拒否される「医療ネグレクト」について、緊急時に医療機関が保護者の同意なく治療を実施した場合でも、刑法や民法上の責任は基本的に問われないと定め、7日付の事務連絡で明示するとともに、法務省とも協議済みとしている。救命手術などで同意が得られなくても「社会的に正当と認められる医療行為」であれば刑事責任は生じず、急迫の危害を避ける行為であれば悪意や重大な過失がない限り、民事責任も免れると解説している。背景には医療現場からの実態報告がある。こども家庭庁が救命救急センターを有する88医療機関を対象に行った調査では、2022年4月~24年9月までに24機関から計40件の医療ネグレクト事例が報告された(回答施設の3割弱に相当)。多くの事例では保護者への説明を尽くし同意を得る努力が行われたが、同意取得が不可能または時間的猶予がない場合、医療機関の判断で治療が行われていた。調査では対応の工夫として「児童相談所と事例を共有」が75%、「日頃から顔の見える関係作り」が59%と挙げられた。一方で、児相との「切迫度認識の差」や「帰宅可否を巡る判断の齟齬」など課題も指摘された。児相のノウハウ不足を補うため、具体的事例や対応方法を管内で共有することの重要性も強調されている。こども家庭庁は、平時からの地域ネットワーク構築や事例共有を通じ、迅速かつ適切な対応体制の整備を自治体に要請。現場の医師にとっても、緊急時に同意がなくとも治療に踏み切れる法的整理は大きな後押しとなるが、児相との連携強化や判断基準の共有が今後の課題となる。 参考 1) 令和6年度子ども・子育て支援等推進調査研究事業の報告書の内容及びそれを踏まえた取組(こども家庭庁) 2) 緊急時の保護者同意ない医療「法的責任負わず」こども家庭庁(MEDIFAX) 3) 救命救急センターの3割弱で医療ネグレクトの報告 思想などに起因する事例、22年4月-24年9月に40件(CB news) 4) 令和6年度 保護者の思想信条等に起因する医療ネグレクトに関する調査研究報告書(三菱UFJ) 4.往診5年で4割増 高齢者中心に需要拡大も過剰提供を懸念/厚労省厚生労働省の統計によると、医師が自宅を訪ねる往診が過去5年で1.4倍に増加した。2024年は月27万5,001回と前年比11.2%増で、とくに75歳以上の高齢者が利用の8割を占め、前年比19.6%増の23万件超となった。在宅高齢者の急変時対応や有料老人ホームなどでの需要が増え、夜間・休日対応を外部委託する医療機関の広がりが背景とみられる。一方、コロナ禍では15歳未満の往診が急増。外来受診制限や往診報酬の特例引き上げにより、2023年には月1万7,000件を超えた。深夜の乳幼児往診では1回5万円弱の報酬が得られるケースもあり、自治体の小児医療無償化と相まって都市部で利用が拡大した。しかし、2024年度の報酬改定で特例は縮小され、15歳未満の往診は63.8%減少した。往診の拡大は救急搬送の抑制につながる利点がある一方、診療報酬目的で必要性の低い往診を増やす事業者がいるとの指摘もある。厚労省もこの問題を把握しており、必要に応じて中央社会保険医療協議会(中医協)で、在宅医療報酬の見直しを議論する考えを示している。訪問診療は計画的に実施される在宅医療の柱で、2024年は月208万回、患者数110万人。これに対し往診を受けた患者は約20万人に止まる。往診の増加が高齢社会に不可欠な在宅医療の充実につながるのか、それとも過剰提供の温床となるのか、制度の在り方が問われている。 参考 1) 令和6年社会医療診療行為別統計の概況(厚労省) 2) 医師の往診5年で4割増 高齢者の利用拡大、過剰提供の懸念も(日経新聞) 5.末期がん患者に未承認治療3千件超 都内クリニックに措置命令/厚労省厚生労働省と環境省は8月22日、東京都渋谷区の「北青山D.CLINIC」(阿保 義久院長)に対し、カルタヘナ法に基づく措置命令を出した。自由診療に対する同法の命令は初めて。同院は2009年以降、末期がん患者らに「CDC6shRNA治療」と称する遺伝子治療を提供してきたが、必要な承認を得ていなかった。治療には遺伝子を組み込んだレンチウイルスが用いられ、製剤は院長が中国から個人輸入していた。これまでに3千件以上行われたが、有効性や安全性は科学的に確認されていない。患者への同意文書では「がん細胞に特異的に発生するCDC6というたんぱくを消去する遺伝子を投与する」と説明されていた。両省は製剤の不活化・廃棄と再発防止策の報告を命じた。現時点で健康被害や外部漏洩は確認されていないという。クリニックは6月以降治療を中止しており、今後は法に基づき申請するとしている。厚労省によると、自由診療での遺伝子治療は、科学的根拠が不十分なまま患者が全額自費で受けるケースが国内で広がっている。昨年の法改正で「再生医療等安全性確保法」の対象にも加わったが、今回の事例は十数年にわたり違法状態が続いていたことを示している。厚労省は今後、医療機関に法令順守の徹底を求めている。 参考 1) 「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」に基づく措置命令について(厚労省) 2) 未承認「がん遺伝子治療」に措置命令 カルタヘナ法、自由診療で初(毎日新聞) 3) がん自由診療に措置命令 都内クリニック手続き怠り(東京新聞) 4) がんに対する自由診療の遺伝子治療めぐり、厚労省などが措置命令(朝日新聞) 6.がん治療後の肝炎再活性化で患者死亡、情報共有不足が背景に/神戸市8月21日、神戸市立西神戸医療センターは、70代男性患者が医療事故で死亡したと発表した。男性は2023年10月に悪性リンパ腫と診断され、B型肝炎ウイルスを保有していることを自ら申告していた。化学療法にはB型肝炎ウイルスを再活性化させる作用を持つ薬が含まれるため、予防目的で核酸アナログ製剤が併用処方されていた。しかし、2024年に悪性リンパ腫が完全寛解した後、担当医が患者のB型肝炎感染を失念し、薬の処方を中止。継続されていたウイルス量の検査でも増加傾向を見落とし、2025年1月に男性は急性肝炎を発症し、入院から18日後に死亡した。男性の担当医は免疫血液内科の医師で、B型肝炎治療を専門とする消化器内科ではなかった。事故後、病院は消化器内科以外の医師が核酸アナログ製剤を処方できない仕組みを導入するなど再発防止策を取っている。北垣 一院長は会見で「重大な結果を招いたことは大変残念で、深く反省している」と謝罪、遺族にも経緯を説明し、理解を得たとしている。B型肝炎の再活性化をめぐっては、化学療法や免疫抑制療法の患者における発症リスクが広く知られており、定期的な検査と予防的投薬の継続が学会ガイドラインでも推奨されている。今回の事故は、がん治療後も必要な薬の中止と検査結果の見落としが重なり、致死的転帰を招いた典型例となった。同様の事故は他施設でも発生しており、今年5月には名古屋大学医学部附属病院で、リウマチ治療を受けていた70代女性が検査不備によりB型肝炎再活性化で死亡していたことが公表されている。専門家は、複数診療科にまたがる患者管理における情報共有とチェック体制の徹底が再発防止に不可欠だと指摘している。 参考 1) B型肝炎ウイルス感染を失念、投薬を誤って中止し患者死亡…西神戸医療センターが遺族に謝罪(読売新聞) 2) 薬剤処方を誤って中止、患者死亡 神戸の市立病院が謝罪(共同通信) 3) 「担当医が患者の申告を失念」 70代男性が急性肝炎で死亡 神戸(朝日新聞)

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第276回 医学誌側が拒否!ケネディ氏がワクチン論文に要請したこと

INDEX今さら何を…医学誌編集部がケネディ氏へ抵抗示す職権の乱用が過ぎる今さら何を…「私はこれまで『反ワクチン』や『反産業』と呼ばれてきましたが、それは事実ではありません。私は反ワクチンではありませんし、反産業でもありません。私は安全を重視する立場なのです」「私の子どもたちは全員、ワクチンを接種しています。ワクチンは医学において極めて重要な役割を果たしています」上記の発言は、米国・保健福祉省長官のロバート・F・ケネディ・ジュニア氏(以下、ケネディ氏)が米連邦議会上院財務委員会の指名承認公聴会で述べた発言だ。同公聴会は大統領が指名する閣僚の承認是非を検討するプロセスの入口である。以前からケネディ氏のことは本連載(第264回、第267回、第274回参照)で同氏によるACIP(予防接種の実施に関する諮問委員会)の委員全員の解任、mRNAワクチン研究の縮小などを取り上げ、なかば「週刊ケネディ」状態になっているが、それはこれほど突っ込みどころの多い人物もそうそういないからである。昨今の報道からもこの人のワクチン懐疑主義は筋金入りであり、前述の公聴会発言は長官承認を得るための方便に過ぎなかったのだと改めて思っている。医学誌編集部がケネディ氏へ抵抗示すその昨今の報道とは「ケネディ米厚生長官のワクチン研究撤回要請、医学誌が拒否」というロイター電である。要約すると、“デンマーク国立血清学研究所(SSI)が行った小児用ワクチンに含まれるアジュバントのアルミニウムと50種類の疾患(自閉症、喘息、自己免疫疾患を含む)との関連性を調べた大規模コホート研究の結果、これら疾患の増加とアルミニウム・アジュバントとの関連は認められなかったという研究に対して、ケネディ氏が撤回を要求し、掲載した『Annals of Internal Medicine』誌編集部が拒否した”というものだ。この研究1)、中身を見ると個人的にはなかなかのものと感じる。まず研究に使用したデータはデンマークの国民健康登録データで、デンマークでの小児用ワクチン接種プログラムが始まった1997~2018年までに生まれ、2歳時点まで国内に居住していたすべての子どもを対象にしている。移住、死亡、特定の先天性疾患や先天性風疹症候群、呼吸器疾患、原発性免疫不全症、心不全または肝不全などの既往例を除外した最終的な解析対象は122万4,176例と極めて規模が大きい。ちなみにデンマークのワクチンプログラムは、2歳までにジフテリア・破傷風・百日咳、不活化ポリオの混合ワクチンとヒブワクチンの3回接種とMMRワクチンの1回目を完了させるもので、2007年からは肺炎球菌ワクチン(2010年までは7価、それ以降は13価)が加わっている。この研究結果によると、アルミニウム・アジュバントの曝露量は出生年代によって異なり、総アルミニウム曝露量の中央値は3mg(四分位範囲2.8~3.4)。最終的な生後2年間のワクチン接種によるアルミニウム累積曝露量1mg増加当たりの調整ハザード比は、自己免疫疾患が0.98(95%信頼区間:0.94~1.02)、アトピー性またはアレルギー性疾患が0.99(同:0.98~1.01)、神経発達障害が0.93(同:0.90~0.97)という結果だった。レトロスペクティブな研究ではあるが、これだけ大規模であることを考えれば、その欠点はかなり補えていると言える。また、この研究の特徴は日本より先行して導入されたデンマーク版マイナンバーであるCPR(Central Persons Registration)番号を利用しているため、親の経済状況などの交絡因子などは可能な限り調整されているはずだ。職権の乱用が過ぎるこの研究についてケネディ氏は「製薬業界による欺瞞的なプロパガンダ」と評し、対照群がないことなどを批判したらしいが、研究の筆頭著者は「デンマークでのワクチン未接種率は2%未満のため、統計学的に意味のある対照群設定は困難」と反論している。世界の大国・アメリカの閣僚とは言え、そもそも学術誌に掲載された査読済み論文を自らの要請だけで撤回させられると本気で思っているならば、相当な破廉恥だと思うのは私だけではないはずだ。 1) Andersson NW, et al. Ann Intern Med. 2025 Jul 15. [Epub ahead of print]

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肝臓がんの60%は予防可能

 進行が早く致死的となることも多い肝臓がんの60%は、重要なリスク因子を回避または治療することで予防できることが、新たな国際的研究で明らかにされた。重要なリスク因子とは、ウイルス性肝炎への罹患、アルコールの乱用、または肥満に関連する危険な肝脂肪の蓄積などであるという。論文の筆頭著者である香港中文大学(中国)のStephen Chan氏は、「各国がこれらのリスク因子に焦点を絞り、肝臓がんの発生を防いで人々の命を救う大きな機会があることを浮き彫りにする結果だ」と述べている。この研究は、肝臓がんに関する特別報告書として、「The Lancet」に7月28日掲載された。 Chan氏らによると、肝臓がんは世界で6番目に多いがんであり、がんによる死因の第3位である。肝臓がんの影響の大きさは国によって異なり、特に中国は、主にB型肝炎の蔓延により、世界の肝臓がん症例の42.4%を占めるほど症例数が多い。同氏らの報告書では、何らかの介入を行わなければ、世界の肝臓がん症例は2050年までにほぼ倍増し、年間150万件を超えると予測している。報告書の上席著者である復旦大学(中国)のJian Zhou氏は、「肝臓がんは、治療が最も難しいがんの一つであり、5年生存率は約5〜30%程度だ。現状を逆転させるための対策を今すぐにでも講じなければ、今後四半世紀で肝臓がんの症例数と死亡数がほぼ倍増する恐れがある」と危機感を示している。 肝臓がんの多くは予防可能である。予防可能な原因の一つである代謝機能障害関連脂肪肝疾患(MASLD)は、肝臓内に脂肪がゆっくりとだが着実に蓄積していく疾患で、肥満と関係していることが多い。Zhou氏らによると、世界人口の最大3分の1が何らかのレベルのMASLDに罹患しており、肥満率の上昇に伴いこの疾患の症例数も増加することが予測されているという。Zhou氏らは、2040年までに米国人の55%がMASLDに罹患し、肝臓がんの発症リスクも上昇すると予測している。  共著者の一人である米ベイラー医科大学のHashem El-Serag氏は、「肝臓がんはかつて、主にウイルス性肝炎、またはアルコール性肝障害の患者に発生すると考えられていた。しかし今日では、肥満率の上昇に伴いMASLDが増え、それに起因する肝臓がんが増加傾向にある」と指摘している。 一方、B型肝炎ウイルス(HBV)およびC型肝炎ウイルス(HCV)については、治療法の進歩により、肝炎が肝臓がんの発症に与える影響は弱まりつつあるという。Zhou氏らは、「HBVに関連する肝臓がん症例の割合は、2022年の39.0%から2050年には36.9%に、一方HCV関連の症例は同期間に29.1%から25.9%に減少すると予測されている」と述べている。研究グループは、B型肝炎ワクチンの接種やC型肝炎の検査・治療の強化により、肝臓がんの発生率をさらに低下させることができる可能性があるとしている。  肝臓がんの発生を低下させるためには、MASLDの診断と治療も役に立つ。El-Serag氏は、「肝臓がんリスクが高い患者を特定する方法の一つは、肥満、糖尿病、心血管疾患などのMASLDリスクが高い患者を対象に、日常的な医療行為に肝障害のスクリーニングを導入することだ。このスクリーニングは、健康的な食事と定期的な運動に関する啓発活動の強化に役立つだろう」と付け加えている。  研究グループは、肝臓がんの年齢標準化罹患率を年間2~5%削減するだけで、2050年までに世界中で880万~1730万件の新たな肝臓がん症例を予防できる可能性があるとしている。これは、最大1510万人の命を救うことを意味するという。

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狂犬病予防レジメン、モノクローナル抗体は有用か/Lancet

 狂犬病は、ほぼ確実に死に至る、主としてアジアとアフリカの低・中所得国で影響の大きいウイルス性疾患の人獣共通感染症である。ワクチンと免疫グロブリンによる曝露後予防(PEP)がきわめて効果的だが、狂犬病免疫グロブリン(ヒト狂犬病免疫グロブリン[HRIG]またはウマ狂犬病免疫グロブリン[ERIG])の製造・供給にさまざまな制約があり、低・中所得国の狂犬病への高リスク曝露例の大半は、狂犬病免疫グロブリンによる予防的治療を受けていないという。インド・Serum Institute of IndiaのPrasad S. Kulkarni氏らRAB-04 study groupは、同国で開発され2016年に受動的予防法として承認された世界初の狂犬病モノクローナル抗体(RmAb、Serum Institute of India製[Pune])について市販後調査を実施。RmAbは安全で忍容性は良好であり、狂犬病に対する予防効果が示されたことを報告した。Lancet誌2025年8月9日号掲載の報告。無作為化試験で免疫グロブリンレジメンと比較 研究グループはインドの3次救急病院15ヵ所で、RmAbを含むPEPレジメンの長期安全性、免疫原性および有効性を評価する、第IV相非盲検無作為化実薬対照試験を行った。 対象は、WHOの狂犬病曝露カテゴリー3(狂犬病感染が疑われる動物による曝露)を有する2歳以上で、試験登録前72時間未満に曝露があった患者(顔、首、手、指への曝露については試験登録前24時間未満)を適格とした。 被験者を、RmAb+精製Vero細胞狂犬病ワクチン(PVRV[Rabivax-S])またはERIG(Equirab製)+PVRVのいずれかのPEPを受ける群に3対1の割合で無作為に割り付けた。さらに各群で、筋肉内投与または皮内投与を受ける群に1対1の割合で無作為に割り付けた。各試験群には、ブロックサイズ8の並び替えブロックデザインを用いて割り付けられ、試験開始前に中央無作為化リストが作成され、双方向ウェブ応答システムを用いて無作為化された。免疫原性の検査担当者は割り付けを知らされなかった。 RmAb(3.33 IU/kg)およびERIG(40 IU/kg)は、WHO 2018推奨に従い0日目にのみ創傷内および創傷周囲に注射投与した。PVRVは、1.0mLを筋肉内投与(0日目、3日目、7日目、14日目、28日目:Essenレジメン)または0.1mL+0.1mLを皮内投与(0日目、3日目、7日目、28日目:updated Thai Red Crossレジメン)した。 主要アウトカムは予防的治療後365日までの治療関連重篤有害事象で、安全性解析対象集団(ワクチンと予防的治療を1回以上受けた全被験者)で評価した。また、狂犬病ウイルス中和抗体濃度の幾何平均値(GMC)をサブ対象集団で評価した。主要アウトカムの治療関連重篤有害事象は0件、長期の免疫応答を確認 2019年8月21日~2022年3月31日に、4,059例が登録・無作為化された。計3,994例(男性3,001例、女性993例)がPEPレジメンによる治療を受けた(RmAb+PVRV群2,996例、ERIG+PVRV群998例)。両群のベースライン特性は類似しており、平均年齢はRmAb+PVRV群30.3(SD 17.0)歳、ERIG+PVRV群30.6(17.5)歳、18歳未満の被験者がいずれも25.1%であった。また、曝露動物は犬がそれぞれ93.5%と92.6%。曝露から無作為化までの平均時間は15.1時間と15.4時間であった。 3,622例(90.7%)が1年間のフォローアップを完了した。 治療関連有害事象は、RmAb+PVRV群11件、ERIG+PVRV群で17件が報告された。ほとんどの有害事象は、軽度で一過性であった。 重篤な有害事象は、RmAb+PVRV群7例で7件報告されたが、すべて治療との関連は認められなかった。ERIG+PVRV群では治療と関連がある重篤な有害事象が1件報告された。 14日目に狂犬病ウイルス中和抗体濃度のGMCは、RmAb+PVRV群は16.05 IU/mL(95%信頼区間[CI]:13.25~19.44)に、ERIG+PVRV群は13.48 IU/mL(9.51~19.11)に上昇した(GMC比のポイント推定値:1.19[95%CI:0.82~1.72])。 1年間のフォローアップ中、狂犬病を発症した被験者はいなかった。 結果を踏まえて著者は、「RmAb+PVRVのPEPレジメンは、免疫原性が認められ、免疫応答は長期にわたり持続した」とまとめている。

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ワクチンの追加接種はがん患者のCOVID-19重症化を防ぐ

 がん患者は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が重症化しやすいとされるが、新型コロナワクチンの追加接種を受けることで重症化を予防できる可能性があるようだ。新たな研究で、COVID-19によるがん患者の入院リスクは、新型コロナワクチンの追加接種によって、未接種の患者と比べて29%低下することが示された。米シダーズ・サイナイ医療センター地域保健・人口研究部長のJane Figueiredo氏らによるこの研究結果は、「JAMA Oncology」に7月17日掲載された。 この研究では、シダーズ・サイナイ、カイザー・パーマネンテ北カリフォルニア、ニューヨークのノースウェル・ヘルス、および退役軍人保健局でがん治療を受けたがん患者を対象に、従来型の新型コロナ1価ワクチン(2022年1月までに接種)、および変異株に対応した2価ワクチン(2022年9月1日〜2023年8月31日の間に接種)の追加接種がもたらす効果を検討した。 1価ワクチンの追加接種の効果についての検討で対象とされたがん患者は7万2,831人(女性24.6%)で、そのうちの69%が2022年1月1日までに追加接種を受けていた。3万4,006人年の追跡期間におけるCOVID-19による入院率(1,000人年当たり)は、追加接種群で30.5件、未接種群で41.9件であった。入院予防に対する調整済みのワクチン有効性(VE)は29.2%であり、COVID-19による入院を1件防ぐには166人にワクチンを接種する必要があると推定された。また、COVID-19罹患の予防に対するVEは8.5%、COVID-19関連の集中治療室(ICU)入室予防に対するVEは35.6%であった。 2価ワクチンの追加接種の効果についての検討で対象とされたがん患者は8万8,417人(女性27.8%)で、そのうちの38%が2価ワクチンの追加接種を受けていた。8万1,027人年間の追跡期間におけるCOVID-19による入院率(1,000人年当たり)は、追加接種群で13.4件、未接種群で21.7件であった。入院予防に対する調整済みのVEは29.9%であり、COVID-19による入院を1件防ぐには451人にワクチンを接種する必要があると推定された。また、COVID-19関連のICU入室予防に対するVEは30.1%であった。 Figueiredo氏は、「ワクチン接種群での入院患者数の減少は顕著であり、追加接種の効果を得るために接種が必要な患者数は少なかった。この結果は、がん患者にとってワクチン接種には大きなベネフィットがあることを示しており、接種について医療提供者と相談するきっかけになるだろう」とシダーズ・サイナイ医療センターのニュースリリースで述べている。 Figueiredo氏は、今回の研究では1価ワクチンの接種率が69%、2価ワクチンの接種率がわずか38%であったことについて、「これがワクチンの安全性に対する患者の懸念によるものなのか、それとも医療提供者ががん治療中に接種すべきか迷ったためなのかは明らかではない。確かなのは、がん患者を含む脆弱な集団がこれらのワクチンを接種できるよう強く訴えていく必要があるということだ」と述べている。 さらにFigueiredo氏は、「今回の研究は、新型コロナワクチンの有効性に関する理解を大きく深めるものであり、ワクチンの組成が変更されたり新たな変異株が出現したりしても、患者の健康を守るための最善の勧告を行えるよう、追加研究を実施していくつもりだ」と話している。同氏らは、今後の研究で自己免疫疾患患者や臓器移植を受けた患者などを対象にワクチンの有効性を調べる予定だとしている。

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なぜ今、「AI×医療英語」なのか?【タイパ時代のAI英語革命】第1回

医療英語の必要性が高まる理由近年、医療現場で英語力の必要性がますます高まっています。なぜ、急速に医療英語が医療従事者にとって、より不可欠になっているのでしょうか。1)多様化する患者への対応が必須に日本では在留外国人が370万人、訪日外国人が3,700万人を超え、医療機関が外国人患者に対応する機会が急増しています。とくに救急外来では限られた時間内に英語での的確な対応が求められ、医療スタッフ全員が基本的な医療英会話を身に付けておくことが重要です。2)国内勤務でも、医師のキャリア構築に必須海外での研修や国際学会への参加が増えるなかで、より医療英語が求められるようになっています。学会のオンライン化や英語での発表の機会も増え、英語力がアカデミックキャリアに直結する時代となりました。また、論文の影響力を示すIF(Impact Factor)という数字を比較しても、日本国内のトップジャーナルが10程度であるのに対し、権威ある英語の医学誌、たとえばThe Lancetでは現在98となっており、10倍以上の差があり、国際的な発信力を持つためにも英語力が不可欠です。留学や海外病院勤務といったキャリアを考えていなくとも、医師としてのキャリアを築くに当たって、英語力が必須の時代なのです。3)新しい医療情報のキャッチアップ現代医学の知見の多くは、英語で書かれた論文やガイドラインを通じて提供されています。たとえば、新しい治療法や薬剤の情報は、まず英語圏の医学誌やメディアに掲載され、そこから日本の学会やメディアで日本語化され、ゆくゆくは臨床適応へと広がっていくのですが、どうしてもタイムラグが生まれます。世界の医療の最新の情報をいち早く把握するには、翻訳機能が発展している今でも英語で直接受信する力が必要です。4)医療安全、公衆衛生の確保に必須医療英語は医療安全と公衆衛生とも深く関わります。わかりやすいものだと、英語で記された薬剤情報を医療スタッフの誰かが誤って解釈すれば、投薬ミスや医療事故につながります。公衆衛生の面で考えれば、世界の行き来が簡単になったことが災いとなり、COVID-19が発生した時は瞬く間に世界に広がりました。症状、感染者数、治療法、ワクチンに関する情報はすべて英語発信が最初で、正しいものから誤ったものまで、大量の英語による情報が世界中に拡散されたことは記憶に新しいのではないでしょうか。その際に英語による情報を早く的確に吟味したうえで対応する力が国や医療者全体に求められます。こうした点からも、医療を行ううえで英語との関わりはますます強まっています。AIが切り開く、新しい学習環境医療において英語が大切であることをお伝えしましたが、医療英語は専門用語が多く、一般の英語とは異なる語彙力が求められます。これまでは、参考書を読み込む、英会話スクールに通う、海外の論文を地道に読む、という方法が主流でした。しかし、これらの方法には大きな課題が存在します。それは時間的制約です。多忙な医療現場で働きながらまとまった学習時間を確保するのは難しい、という声を多く耳にします。加えて、学習内容が自分の必要な専門領域に直結していないような場合には、モチベーションの維持も困難です。また、独学ではフィードバックが得られにくく、自分の理解や発音が正しいかどうかを確認する手段も限られていました。そこでAIの登場です。AIは、医療英語と英語学習をつないでくれる最大・最強のツールです。生成AIといわれているものの中でもChatGPTのような大規模言語モデル(LLM:Large Language Model)は、人間のように自然な文章や会話を生成する能力を持っています。これにより、従来では不可能だった学習支援やコミュニケーション支援が現実のものとなりました。生成AIの最大の強みは、学習者一人ひとりのニーズに合わせて柔軟に対応し、かつ迅速にフィードバックができる点です。また、今後の回で詳しく述べていきますが、生成AIは単なる語学習得の域を超え、医療英語をマスターせずとも、実践的かつ効率的に英語を使いこなす手段としても非常に有効です。生成AIは医療英語の強力な研鑽ツールとなるとともに、たとえ英語が不得手であっても、その力を借りながら積極的に世界とつながるツールともなります。生成AIを使いこなすことで、今後の医師生活において大きな強みとなるでしょう。生成AIを単なる道具としてではなく、共に歩むパートナーとして活用する具体的な方法を、今後の連載で皆さんに紹介したいと思います。生成AIの注意点1 AI Hallucination今後生成AIのさまざまなツールや使い方を述べるに当たって、注意しなければならないことがあります。1つ目はAI Hallucination(ハルシネーション)と呼ばれるものです。いわゆるAIによる“幻覚”ですね。生成AIは今までのデータからパターンを推測することで回答を導き出すので、すべてが事実に基づいているとは限りません。医療の観点で一番起こりやすいものとしては、「論文引用」が挙げられます。たとえば論文を書いていて、引用文献を見つけたいときに生成AIに該当する論文名とリンクを貼ってもらいます。しかし、回答にある論文のタイトルを調べても出てこなかった、リンクに飛んでも論文自体が存在しなかった、なんてことはよく聞く話です。AIとパートナーになりながら最大限に効率を上げることは大事ですが、あくまでもリーダーは「あなた」です。とくに世間に発表したり論文化したりする際に、生成AIが出した答えを丸のみにするのは非常に危険ですので、必ず事実に基づいたものなのか、別のリソースも使いながら、自分の目で最終確認をしてください。生成AIの注意点2 Stochastic Generation2つ目の注意点とはStochastic Generation(ストキャスティックジェネレーション)と呼ばれるものです。まだ日本語で訳されることがあまりないので、いったん「確率的生成」とでもしておきましょう。これは生成AIの強みでもあるのですが、弱点にもなりえます。確率的生成は、AIが文章を生成する際に、次に出現する単語や語句を確率分布に基づいてランダムに選択する手法です。この仕組みは、AIに自然で人間らしい言語生成を可能にする一方で、毎回異なる出力がなされるという不確実性をもたらします。具体的なリスクは、「ニュアンスが変わってしまう」ということです。患者説明用の文書を生成する際を想定すると、「副作用がまれに起こります」と書かれることもあれば、「副作用はほとんどありません」と書かれることもある、というイメージです。ほかの例としては、患者への説明時に「異常な組織の増殖が確認され、さらなる検査が必要です」というのと「あなたには腫瘍があり、がんの可能性があります」というのでは、どちらも一見同じようなことを伝えてはいますが、相手への伝わり方は大きく異なります。このような認識の齟齬が起こりえると知ったうえで、最終的にはAIの使用者が確認し、責任を持つ必要があります。AIを使用する際にはぜひこれらの注意点を十分に理解し、リスク回避策を取ってください。次回は、早速生成AIに関して深く触れていきます!

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ファイザー・ビオンテック、LP.8.1対応コロナワクチンの承認取得

 ファイザーおよびビオンテックは8月8日付のプレスリリースにて、オミクロン株JN.1系統の変異株であるLP.8.1に対応した新型コロナウイルスワクチンについて、8月7日に厚生労働省より製造販売承認を取得したことを発表した。承認されたのは「コミナティ筋注シリンジ12歳以上用」「コミナティRTU筋注5~11歳用1人用」「コミナティ筋注6ヵ月~4歳用3人用」の3製品。これらのワクチンは2025~26年秋冬シーズンで使用される予定。 今回の承認は、両社が開発した新型コロナワクチンの安全性と有効性を示した臨床、非臨床およびリアルワールドデータを含むさまざまなエビデンスに基づいている。申請データには、品質に係るデータに加え、LP.8.1対応ワクチンが、XFG、NB.1.8.1、LF.7、および現在流行している他の変異株に対し、昨年度のJN.1対応ワクチンより優れた免疫反応を示した非臨床試験データなどが含まれている。 また、ワクチンの抗原株の変更と合わせて、以下の承認事項も変更された。・有効期間の延長:冷蔵(2~8℃)において8ヵ月から12ヵ月へ延長・包装単位の追加:1シリンジ包装に加え、5シリンジ包装を追加

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ワクチンがないチクングニア熱の診療

ワクチンがないチクングニア熱の症状と治療●原因と感染経路チクングニア熱とは、チクングニアウイルスを持った蚊(ネッタイシマカ・ヒトスジシマカ)に刺されることで生じる感染症。病源体は、図のチクングニアウイルス(Chikungunya virus)。チクングニアウイルスを持っている蚊に刺されることによって感染が成立し、ヒトからヒトに直接感染することはない。●症状蚊に刺されてから3~12日の潜伏期後、「発熱」「発しん」「関節痛」などが出現。急性症状が軽快した後も、数週間~数年にわたり、リウマチに似た関節痛や腫脹、圧痛が続くことがある。●治療症状に応じた対症療法が行われ、関節痛・関節炎の程度に応じて解熱鎮痛薬(アセトアミノフェンなど)が使用される。現在有効なワクチンはない。●予防のポイントチクングニア熱の流行する地域(たとえばセネガル、インドネシア、タイ、べトナム、中国など)に渡航する際、蚊に刺されないような衣服の着用や虫除けなどの工夫が重要。国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト チクングニア熱より引用(2025年8月6日閲覧)https://id-info.jihs.go.jp/diseases/ta/chikungunya/010/chikungunya-intro.htmlCopyright © 2025 CareNet,Inc. All rights reserved.

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インフルワクチン接種回数と認知症リスクが逆相関~メタ解析

 インフルエンザワクチン接種と認知症リスク低下との関連性については、一貫性のない結果が報告されており、この関連性は明確になっていない。台湾・Keelung Chang Gung Memorial HospitalのWen-Kang Yang氏らは、全人口および慢性腎臓病(CKD)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、血管性疾患などの認知症高リスク患者におけるインフルエンザワクチン接種と認知症リスクとの関連を評価するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Age and Ageing誌2025年7月1日号の報告。 2025年4月6日までに公表された研究をPubMed、Embase、CENTRALよりシステマティックに検索し、ランダム効果メタ解析を実施した。バイアスリスクの評価には、ニューカッスル・オタワ尺度を用いた。 主な結果は以下のとおり。・8件のコホート研究より993万8,696人をメタ解析に含めた。・1件を除き、メタ解析に組み込んだ研究のバイアスリスクは低かった。・インフルエンザワクチン接種は、認知症高リスク患者において認知症発症リスクの低下と関連していたが、全人口においては関連が認められなかった(ハザード比[HR]:0.93、95%信頼区間[CI]:0.86〜1.01)。・高リスク患者においては、インフルエンザワクチン接種を2回以上受けると認知症発症リスクの低下との関連が認められた。【2〜3回接種】HR:0.84、95%CI:0.76〜0.92【4回以上接種】HR:0.43、95%CI:0.38〜0.48 著者らは「インフルエンザワクチン接種と認知症発症リスク低下との関連には、用量反応関係が認められた」と結論付けている。

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第274回 ケネディ氏のワクチン開発支援打ち切りを深読み

INDEX米国、mRNAワクチン開発を縮小へ契約終了と継続、わかっていること保健福祉省長官の意図悪魔はどっち?米国、mRNAワクチン開発を縮小へ当の本人は大真面目なのだろうが、傍から見ると、もはやガード下の居酒屋にいる酔っ払いオヤジが政治を語っているようだ。何のことかと言えば、米国・保健福祉省(HHS)が8月5日、傘下の生物医学先端研究開発局(BARDA)が行っているmRNAワクチンの研究開発支援を段階的に縮小すると発表した件である。ご存じのように現在のHHS長官はあのロバート・F・ケネディ・ジュニア氏である(第264回参照)。今回、影響を受けるのはBARDAで行われていた総額約5億ドル(約700億円)におよぶ22件のmRNAワクチン開発プロジェクトである。このプロジェクトすべてとその支援金額の詳細は明らかになっていないが、現時点で判明しているのは以下のような感じである。契約終了と継続、わかっていることまず契約が終了したのが、エモリー大学が行っていた吸入できるパウダータイプのmRNAワクチン研究、Tiba Biotech社(本社:マサチューセッツ州ケンブリッジ)が行っていた支援額約75万ドル(約1億2,000万円)のインフルエンザに対するRNA医薬の研究。また、BARDAへの提案そのものが却下されたのが、ファイザー社によるmRNAワクチン開発(詳細不明)、サノフィ・パスツール社によるmRNAインフルエンザワクチン開発、グリットストーン・バイオ社(本社:カリフォルニア州エメリービル)に対する支援額最大4億3,300万ドル(約637億6,300万円)の新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)に対する汎変異株対応の自己増幅型mRNAワクチン開発などである。一方でモデルナ社とテキサス大学医学部が国防総省と協力するフィロウイルス感染症(エボラ出血熱やマールブルグ病)へのmRNAワクチン開発、アークトゥルス・セラピューティクス社(本社:カリフォルニア州サンディエゴ)との支援総額最大6,320万ドル(約9億円)のH5N1鳥インフルエンザ自己増幅型mRNAワクチン開発の一部などは維持されるという。わかっている範囲だけでも、かなり広範な新規mRNAワクチンと既存ワクチンの新規モダリティに影響が及ぶことになるようだ。保健福祉省長官の意図この決定に関するHHSのプレスリリース1)には、「私たちは専門家の意見に耳を傾け、科学を検証し、行動を起こした。BARDAは、これらのワクチンがCOVID-19やインフルエンザなどの上気道感染症を効果的に予防できないことを示すデータに基づき、22件のmRNAワクチン開発への投資を停止する。私たちは、この資金をウイルスが変異しても効果を維持できる、より安全で幅広いワクチンプラットフォームへとシフトさせている」とするケネディ氏のコメントも含まれている。前述のように今回影響を受けるプロジェクトには、ケネディ氏が言うところの「ウイルスが変異しても効果を維持できる」ワクチン開発も含まれているのだが、どうやら本人のmRNAワクチン嫌悪が先に立っている模様だ。そもそも本人のコメントにある「上気道感染症を効果的に予防できないことを示すデータ」とは何を意味するのかは明記されていない始末である。この辺について、より深読みすると、いわゆるワクチンの三大効果と呼ばれる「感染予防」「発症予防」「重症化予防」のうち、ワクチンに懐疑的な人たちがよく示す「感染予防そのものが効果的に得られていないではないか」という主張なのかもしれない。確かに以前の本連載でも取り上げたが、内閣官房の新型インフルエンザ等対策推進会議 新型コロナウイルス感染症対策分科会会長だった尾身 茂氏(現・公益財団法人結核予防会 理事長)がテレビ出演時に言及したように、オミクロン株以降、mRNAワクチンの感染予防としての効果は高くないのが現実である。しかし、最も重大な事象である入院・死亡といった重症化予防効果に関して確たるものがあるのは、もはや異論はないだろう。もし感染予防効果うんぬんだけで測るならば、現在使われているインフルエンザの不活性化ワクチンも同様に無用なものとなってしまうが、そうした認識を持つ医療者はかなり少数派であるはずだ。また、mRNAワクチンは新規ウイルスに対する迅速なワクチン開発という点では、かつてない威力を発揮したことも私たちは実感している。今回のコロナ禍を従来型の不活性化ワクチン開発で乗り切ろうとしていたならば、今のような平常生活に戻るまでに要した時間は相当長いものになっていた可能性が高い。もはやmRNAワクチンについては、これがあることを前提に(1)これまでワクチン開発が難しかった病原体での新規開発、(2)抗体価持続期間の延長、(3)副反応の軽減、という方向性に進むフェーズに来ていると考えたほうがよい。その意味では今回影響を受けたワクチン研究開発プログラムを見ると、(2)については日本発の新型コロナワクチンとなったコスタイベで使われた自己増幅技術が次世代ワクチンとして注目を集めていることもうかがえる。悪魔はどっち?いずれにせよ、ケネディ氏の打ち出した方針はかなりの頓珍漢ぶりである。ちなみに同氏の最近のX(旧Twitter)の投稿を見ると、FDAの中庭のベンチに刻まれたセンテンスという投稿がある。そのセンテンスとは「The devil has got hold of the food supply of this country(悪魔がこの国の食糧供給を掌握している)」というもの。しかし、Xに搭載されている生成AIのGrokが「この写真は改変されている可能性が高い」と指摘している。要はそんなセンテンスなどベンチに刻まれていないということだ。いやはやとんだ人がHHS長官になったものである。「悪魔」はあなたではないのか、と問いたい。 参考 1) U.S. Department of Health and Human Services:HHS Winds Down mRNA Vaccine Development Under BARDA

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インフルエンザ脳症、米国の若年健康児で増加/JAMA

 米国では2024~25年のインフルエンザシーズン中、大規模な小児医療センターの医師たちから、インフルエンザ関連急性壊死性脳症(IA-ANE)の小児患者数が増加したと報告があった。このことから、同国・スタンフォード大学のAndrew Silverman氏らIA-ANE Working Groupは、全米を対象とした直近2シーズンの症例集積研究を実施。主として若年で直前までは健康であった小児の集団において、IA-ANEの罹患率および死亡率が高かったことを明らかにした。急性壊死性脳症(ANE)は、まれだが重篤な神経系疾患であり、疫学データおよび治療データは限られていた。JAMA誌オンライン版2025年7月30日号掲載の報告。2024~25年インフルエンザシーズンのANE小児を調査 研究グループは、IA-ANEと診断された米国の小児における臨床症状、介入およびアウトカムを明らかにするため、ANEと診断された小児を対象に多施設共同集積研究にて長期追跡調査を行った。 症例募集は、学会、公衆衛生機関を通じたほか、同国内76の大学医療センターの小児専門医に直接コンタクトを取り、2023年10月1日~2025年5月30日の症例の提供を要請して行った。 対象基準は、放射線学的な急性視床障害および臨床検査によりインフルエンザ感染が確認された21歳以下の急性脳症患者とした。 主要アウトカムは、主な症状、ワクチン接種歴、検査値および遺伝学的所見、介入、臨床アウトカム(修正Rankinスケールスコア[0:症状なし、1~2:軽度障害、3~5:中等度~重度障害、6:死亡]など)、入院期間、機能的アウトカムであった。39例(95%)がインフルエンザAに感染 提供された58例のうち、23病院からの41例(女児23例、年齢中央値5歳[四分位範囲[IQR]:2~8])が対象基準を満たした。31例(76%)は重大な病歴を有していなかったが、5例(12%)は複雑な疾患を有していた。 主な臨床症状は、発熱38例(93%)、脳症41例(100%)、けいれん発作28例(68%)であった。39例(95%)がインフルエンザA(A/H1pdm/2009:14例、A/H3N2:7例、サブタイプ不明:18例)、2例がインフルエンザBに感染していた。 検査所見で異常値が認められたのは、肝酵素の上昇(78%)、血小板減少症(63%)、脳脊髄液タンパク質の上昇(63%)などであった。 遺伝子検査を受けた32例(78%)のうち、15例(47%)にANEリスクに関連する可能性がある遺伝的リスクアレルがあり、11例(34%)はRANBP2変異を有していた。季節性インフルエンザワクチンの接種を受けていたのは6例(16%)のみ ワクチン接種歴が入手できた38例のうち、年齢に応じた季節性インフルエンザワクチンの接種を受けていたのは6例(16%)のみだった。 ほとんどの患者は複数の免疫調節療法を受けていた。メチルプレドニゾロン(95%)、免疫グロブリン静注(66%)、トシリズマブ(51%)、血漿交換(32%)、anakinra(5%)、髄腔内メチルプレドニゾロン(5%)などであった。 ICU在室期間中央値は11日(IQR:4~19)、入院期間中央値は22日(7~36)。11例(27%)が症状発症から中央値3日(2~4)で死亡し、主な死因は脳ヘルニア(91%)であった。90日間の追跡調査を受けた生存児27例のうち、17例(63%)が中等度以上の障害(修正Rankinスケールスコア3以上)を有していた。

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モデルナのLP.8.1対応コロナワクチン、一変承認を取得

 モデルナ・ジャパンは8月5日付のプレスリリースにて、同社の新型コロナウイルスワクチン「スパイクバックス筋注シリンジ 12歳以上用」および「スパイクバックス筋注シリンジ 6ヵ月~11歳用」について、2025~26年秋冬シーズン向けのオミクロン株JN.1系統の変異株LP.8.1対応とする一部変更承認を、8月4日に厚生労働省より取得したことを発表した。6ヵ月~11歳用については、生後6ヵ月以上4歳以下を対象とした追加免疫に関する一部変更承認も7月29日に取得した。 これらの承認により、2025年10月から開始予定の定期接種の対象者だけでなく、生後6ヵ月以上のすべての世代で、LP.8.1対応の本ワクチンを接種することが可能となる。12歳以上用は定期接種開始前の9月中、6ヵ月~11歳用は10月に供給開始の予定。 2025~26年秋冬シーズンの定期接種の対象者は、65歳以上、および60~64歳で心臓、腎臓または呼吸器の機能に障害があり、身の回りの生活が極度に制限される人、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫の機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能な人となっている。定期接種は各自治体において設定された自己負担額が発生する。 厚生労働省が8月1日付で発表した新型コロナの発生状況では、2025年第30週(7月21~27日)の定点報告数は全国平均で1医療機関当たり4.12人となり、沖縄県を除く全都道府県で増加している。

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小児用ワクチン中のアルミニウム塩は慢性疾患と関連しない

 120万人以上を対象とした新たな研究で、小児用ワクチンに含まれるアルミニウム塩と自閉症、喘息、自己免疫疾患などの長期的な健康問題との間に関連は認められなかったことが示された。アルミニウム塩は、幼児向け不活化ワクチンの効果を高めるためのアジュバントとして使用されている。スタテンス血清研究所(デンマーク)のAnders Hviid氏らによるこの研究結果は、「Annals of Internal Medicine」に7月15日掲載された。 アルミニウム塩はワクチンのアジュバントとして長年使われているものの、アルミニウム塩が慢性自己免疫疾患やアトピー性皮膚炎、アレルギー、神経発達障害のリスクを高めるのではないかとの懸念から、ワクチン懐疑論者の標的にもなっている。 今回Hviid氏らは、デンマークで1997年から2018年の間に生まれ、2歳時にデンマークに居住していた122万4,176人の児を対象に、ワクチン接種によるアルミニウム塩への累積曝露量と慢性疾患との関連を検討した。対象児は2020年まで追跡された。アルミニウム塩の累積曝露量は生後2年間に接種したワクチンに含まれる成分から推算し、曝露量1mg増加ごとのリスクを検討した。アウトカムとした慢性疾患は、以下の3つの疾患グループに分類される50種類の疾患であった。すなわち、自己免疫疾患として皮膚・内分泌・血液・消化管に関わる疾患とリウマチ性疾患が36疾患、アトピー性またはアレルギー性疾患として喘息、アトピー性皮膚炎、鼻結膜炎、アレルギーなど9疾患、神経発達障害として自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症など5疾患である。 その結果、生後2年間のアルミニウム塩の累積曝露量は、対象とした50種類の疾患のいずれについても、発症率の増加とは関連していないことが示された。疾患グループ別に見ると、アルミニウム塩曝露量が1mg増加するごとの調整ハザード比は、自己免疫疾患で0.98(95%信頼区間0.94~1.02)、アトピー性・アレルギー性疾患で0.99(同0.98~1.01)、神経発達障害で0.93(同0.90~0.97)であった。 Hviid氏は、「これらの結果は、アルミニウム塩に対する懸念の多くに対処し、小児用ワクチンの安全性について明確かつ強固なエビデンスを提供している」と述べるとともに、「この結果は、親が子どもの健康のために最善の選択をする必要があることを示すエビデンスでもある」と付け加えている。 なお、この研究は、2022年に米疾病対策センター(CDC)の資金提供を受けて実施された、アルミニウム塩含有ワクチンと喘息の関連性を示唆した研究に対する反論として実施された。同研究はその後、ワクチンに含まれるアルミニウム塩と、食品、水、空気、さらには母乳など他の発生源由来のアルミニウムを区別できていなかったとして批判されている。  米フィラデルフィア小児病院ワクチン教育センター所長のPaul Offit氏も、「ワクチンによるアルミニウム塩曝露量が多い人と少ない人を比較する場合、交絡因子をコントロールし、これらの人が摂取したアルミニウム塩供給源がワクチンに限定されていることを知る必要がある」と指摘している。 米国では、アルミニウム塩はジフテリア・破傷風・百日咳(DTaP)ワクチンのほか、HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)、B型肝炎ワクチン、肺炎球菌ワクチンにも使用されている。接種したアルミニウム塩は大部分が2週間以内に体内から排出されるが、微量のアルミニウム塩は何年も体内に残ることがある。専門家らは、単一の研究で何かが安全であると証明することはできないものの、この研究は、ワクチンに含まれるアルミニウム塩が無害であることを示してきた過去の研究成果に加わるものであるとの見解を示している。

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胃がんはピロリ菌が主原因、米国の若年で罹患率が増加

 胃がん症例の4分の3(76%)はヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori、以下、ピロリ菌)感染が原因であることが、新たな研究で明らかになった。国際がん研究機関(フランス)のJin Young Park氏らによるこの研究結果は、「Nature Medicine」に7月7日掲載された。Park氏らは、「胃がんのほとんどはピロリ菌への慢性感染によって引き起こされていることから、抗菌薬とプロトンポンプ阻害薬(PPI)の組み合わせによる治療により予防できるはずだ」と述べている。 米メイヨー・クリニックによると、世界人口の半数以上が、生涯、どこかの時点でピロリ菌に感染する可能性があるという。ピロリ菌は、嘔吐物、便、唾液などの体液との接触により広がると考えられており、感染すると、胃痛、お腹の張り(膨満感)、頻回なげっぷなどの症状や、胃や小腸の消化性潰瘍などが引き起こされる。米国がん協会(ACS)によると、米国では2025年に胃がんの新規症例が約3万300件発生し、約1万780人が胃がんにより死亡すると予想されている。胃がん症例のほとんどは、高齢者であるという。 今回の研究では、2008年から2017年の間に生まれた185カ国の若年コホートの将来の胃がん症例数が、胃がんに対する現行の予防措置に変更がないとの仮定のもとで推定された。この推定は、グローバルがん統計(GLOBOCAN)2022による各国の年齢別胃がん罹患率と、国連の人口動態予測に基づくコホート別死亡率を組み合わせて行われた。 その結果、これらのコホート全体で1560万人が胃がんを発症することが推定された。症例の68%(約1060万人)はアジアに集中しており、とりわけ中国とインドでの症例数が多く、全体の42%(約650万人)を占めていた。アジアに次いで多かったのは、南北アメリカ(13%)とアフリカ(11%)であった。ピロリ菌を原因とする症例は全体の76%(約1190万人)であり、そのうちの67%(約800万人)はアジアで生じていた。また、新規症例の58%はもともと罹患率の高い地域での症例だったが、残りの42%は人口増加などの要因により、これまで罹患率が低かった地域で生じることが予想された。発症数の急増が特に大きかったのはサブサハラ・アフリカ地域であり、研究グループは、「将来的には2022年の推定発症数の6倍近くになると予測される」と記している。 研究グループは、「先進国においてさえもピロリ菌を原因とする胃がんが一定数見られるのは、公衆衛生対策が不十分だからだ」と指摘している。また、「米国では現在、胃がん予防に関する国のガイドラインや正式な勧告はないが、胃がんはアジア系・ヒスパニック系・アフリカ系米国人、アメリカ先住民やアラスカ先住民に不均衡に多く発生している。加えて、2016年から2022年の間に50歳未満での胃がん罹患率が増加傾向にあり、特に女性で顕著なことも報告されている」と記している。 Park氏らは、ピロリ菌除去の治療は簡単ではあるものの、この細菌に対するワクチンの開発が最善の策との考えを示している。その上で、「現在、第3相臨床試験で安全性と有効性が確認されたピロリ菌のワクチンは1種類だけだ。小児集団に焦点を当てた将来のワクチン試験へのさらなる投資を行い、ワクチン接種による免疫保護のメカニズムを解明する必要がある」と述べている。

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第273回 孤軍奮闘を迫られる、三次救急でのコロナ医療の現状

INDEX5類感染症移行から2年、コロナの現状日本の平均的都市、岡山県の専門医の見解入院患者が増加する時期と患者傾向今も注意すべき患者像治療薬の選択順位ワクチン接種の話をするときの注意5類感染症移行から2年、コロナの現状今年もこの時期がやってきた。何かというと新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の流行期である。新型コロナは、一般的に夏と冬にピークを迎える二峰性の流行パターンを繰り返している。2025年の定点観測による流行状況を見ると、第1週(2024年12月30日~2025年1月5日)は定点当たりの報告数が5.32人。冬のピークはこの翌週の2025年第2週(2025年1月6~12日)の7.08人で、この後は緩やかに減少していき、第21週(同5月19~25日)、第22週(同 5月26日~6月1日)ともに0.84人まで低下。そこから再び上昇に転じ、最新の第29週(同7月14~20日)は3.13人となっている。2023年以降、この夏と冬のピーク時の定点報告数は減少している。実例を挙げると、2024年の冬のピークは第5週(2024年1月29日~2月4日)の16.15人で、今年のピークはその半分以下だ。しかし、これを「ウイルスの感染力が低下した」「感染者が減少した」と単純に捉える医療者は少数派ではないだろうか?ウイルスそのものに関しては、昨年末時点の流行株はオミクロン株JN.1系統だったが、年明け以降は徐々にLP.8.1系統に主流が移り、それが6月頃からはNB.1.8.1系統へと変化している。東京大学医科学研究所システムウイルス学分野の佐藤 佳教授が主宰する研究コンソーシアム「The Genotype to Phenotype Japan (G2P-Japan) Consortium」によると、LP.8.1系統はJN.1系統と比べ、ウイルスそのものの感染力は低いながらも免疫逃避能力は高く、実効再生産数はJN.1とほぼ同等、さらにNB.1.8.1系統の免疫逃避能力はLP.8.1とほぼ同等、感染力と実効再生産数はLP.8.1よりも高いという研究結果が報告1)されている。ウイルスそのものは目立って弱くなっていないことになる。つまり、ピーク時の感染者が年々減少しているのは、結局は喉元過ぎれば何とやらで、そもそも呼吸器感染症を疑う症状が出ても受診・検査をしていない人が増えているからだろうと想像できる。そしてここ1ヵ月ほど臨床に関わる医師のSNS投稿を見ても感染者増の空気は読み取れる。おそらく市中のクリニック、拠点病院、大学病院などの高度医療機関では、感染者増の実態の中で見えてくる姿も変わってくるだろう。ということで新型コロナの感染症法5類移行後の実際の医療現場の様子の一端を聞いてみることにした。日本の平均的都市、岡山県の専門医の見解場所は岡山県。同県は47都道府県中、人口規模は第20位(約183万人)で県庁所在地の岡山市は政令指定都市である。人口増加率と人口密度は第24位、人口高齢化率は第28位(31.4%)とある意味、日本国内平均的な位置付けにある。同県では県ホームページに公開された新型コロナの患者報告数や医療提供のデータを元に、感染症の専門家など5人の有志チームが分析コメントを加えた情報を毎週発表している。今回話を聞いたのは、有志メンバーである岡山大学病院感染症内科准教授の萩谷 英大氏と津山中央病院総合内科・感染症内科部長の藤田 浩二氏である。岡山大学病院は言わずと知れた特定機能病院で病床数849床、津山中央病院はへき地医療拠点病院で病床数489床。ともに三次救急機能を有する(岡山大学は高度救命救急センター)。ちなみに高齢化率で見ると、岡山市は27.2%と全国平均より低めなのに対し、中山間地域の津山市は32.4%と全国平均(29.3%)や岡山県全体よりも高い。まず感染の発生状況について萩谷氏は「保健所管内別のデータを見れば数字上は地域差もあるものの、その背景は率直に言ってわからない。かつてと違い、今はとくに若年者を中心に疑われてもほとんど検査をしないのが現状ですから」と話す。藤田氏も「定点報告は、あくまでも検査で捕捉されたものが数字として行政に届けられたものだけで、検査をしない、医療機関を受診しない、あるいは受診しても検査をしてないなどの事例があるため、実態との間に相当ロスがある。あくまでも低く見積もってこれぐらいという水準に過ぎません」とほぼ同様の見解を示した。ただ、藤田氏は「大事なのは入院患者数。この数字は誤魔化せない」とも指摘した。入院患者が増加する時期と患者傾向では新型コロナの入院実態はどのようなものなのか? 萩谷氏は「大学病院では90代で従来から寝たきりの患者などが搬送されてくることはほぼありません。むしろある程度若年で大学病院に通院するような移植歴や免疫抑制状態などの背景を有する人での重症例、透析歴があり他院で発症し重症化した例などが中心。ただ、ここ数ヵ月で見れば、そのような症例の受診もありません」とのこと。一方で地域の基幹病院である津山中央病院の場合、事情は変わってくる。藤田氏は「通年で新型コロナの入院患者は発生しているが、お盆期間やクリスマスシーズン・正月はその期間も含めた前後の約1ヵ月半に70~80歳の年齢層を中心に、延べ100人強の入院患者が発生する」と深刻な状況を吐露した。また、高齢の新型コロナ入院患者の場合、新型コロナそのものの症状の悪化以外に基礎疾患の悪化、同時期には地域全体で感染者が増加することから後方支援病院でも病床に余裕がないなどの理由から、入院は長期化しがち。藤田氏は「こうした最悪の時期は平均在院日数が約1ヵ月。一般医療まで回らなくなる」との事情も明かす。さらに問題となるのは致死率。現在のオミクロン系統での感染者の致死率は全年齢で0.1%程度と言われるものの「基礎疾患のある高齢者が入院患者のほとんどを占めている場合の致死率は5~10%。昨年のお盆シーズンは9%台後半だった」という。今も注意すべき患者像こうしたことから藤田氏は「新型コロナではハイリスク患者の早期発見・早期治療の一点に尽きる」と強調。「医療者の中にも、厚生労働省の新型コロナウイルス感染症診療の手引きの記述を『症状が軽い=リスクが低い』のような“誤読”をしている人がいます。しかし、基礎疾患がある方で今日の軽症が明日の軽症を保証しているわけではありません。率直に言うと、私たちの場合、PCR検査などで陽性になりながら、まだ軽症ということで解熱薬を処方され、経過観察中に症状悪化で救急搬送された事例を数多く経験しています。軽症の感染者を一律に捉えず、ハイリスク軽症者の場合は早期治療開始で入院を防ぐチャンスと考えるべき」と主張する。藤田氏自身は、新型コロナのリスクファクターの基本とも言える「高齢+基礎疾患」に基づき、年齢では60代以降、基礎疾患に関してはがん、免疫不全、COPDなどの肺疾患、心不全、狭心症などの心血管疾患、肝硬変などの肝臓疾患、慢性腎臓病(透析)、糖尿病のコントロール不良例などでは経口抗ウイルス薬の治療開始を考慮する。前述の萩谷氏も同様に年齢+基礎疾患を考慮するものの「たとえば60代で高血圧、糖尿病などはあるもののある程度これらがコントロールできており、最低でもオミクロン系統までのワクチン接種歴があれば、対症療法のみに留まることも多い」と説明する。治療薬の選択順位現在、外来での抗ウイルス薬による治療の中心となるのは、(1)ニルマトレルビル/リトナビル(商品名:パキロビッド)、(2)モルヌピラビル(商品名:ラゲブリオ)、(3)エンシトレルビル(商品名:ゾコーバ)の3種類。この使い分けについては、藤田氏、萩谷氏ともに選択考慮順として、(1)⇒(2)⇒(3)の順で一致する。藤田氏は「もっとも重視するのはこれまで明らかになった治療実績の結果、入院をどれだけ防げたかということ。この点から必然的に第一選択薬として考慮するのはニルマトレルビル/リトナビルになる」と語る。もっとも国内での処方シェアとしては、(3)、(2)、(1)の順とも言われている。とくにエンシトレルビルに関しては3種類の中で最低薬価かつ処方回数が1日1回であることが処方件数の多い理由とも言われているが、萩谷氏は「重症化予防が治療の目的ならば、1日1回だからという問題ではなく、重症化リスクを丁寧に説明し、何とか服用できるように対処・判断をすべき」と強調する。また、モルヌピラビルについては、併用禁忌などでニルマトレルビル/リトナビルの処方が困難な場合、あるいはそうしたリスクが評価しきれない重症化リスクの高い人という消去法的な選択になるという点でも両氏の考えは一致している。また、萩谷氏は「透析歴があり、診察時は腎機能の検査値がわからない、あるいは腎機能が低過ぎてニルマトレルビル/リトナビルの低用量でも処方が難しい場合もモルヌピラビルの選択対象になる」とのことだ。ワクチン接種の話をするときの注意一方、最新の厚労省の人口動態統計でも新型コロナの死者は3万人超で、インフルエンザの10倍以上と、その深刻度は5類移行後も変わらない。そして昨年秋から始まった高齢者を対象とする新型コロナワクチンの接種率は、医療機関へのワクチン納入量ベースで2割強と非常に低いと言われている。ワクチン接種について藤田氏は「実臨床の感覚として接種率はあまり高くないという印象。医師としてどのような方に接種してほしいかと言えば、感染した際に積極的に経口抗ウイルス薬を勧める層になります。実際の診療で患者さんに推奨するかどうかについては、そういう会話になれば『こういう恩恵を受けられる可能性があるよ』と話す感じでしょうか。とにかくパンデミックを抑えようというフェーズと違って、今は年齢などにより受けられる恩恵が違うため、一律な勧め方はできません」という。萩谷氏も「やはり年齢プラス基礎疾患の内服薬の状況を考え、客観的にワクチンのメリットを伝えることはあります。とくに過去にほかの急性感染症で入院したなどの経験が高い人は、アンテナが高いので話しやすいですね。ただ、正直、コロナ禍の経験に辟易している患者さんもいて、いきなり新型コロナワクチンの話をすると『また医者がコロナの話をしている』的に否定的な受け止め方をされることも少なくないので、高齢者などには肺炎球菌ワクチンや帯状疱疹ワクチンなどと並べてコロナワクチンもある、と話すことを心がけている」とかなり慎重だ。現在の世の中はかつてのコロナ禍などどこ吹く風という状況だが、このようにしてみると、喉元過ぎて到来している“熱さ”に、一部の医療者が人知れず孤軍奮闘を迫られている状況であることを改めて認識させられる。 参考 1) Uriu K, et al. Lancet Infect Dis. 2025;25:e443.

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帯状疱疹ワクチン【今、知っておきたいワクチンの話】各論 第17回

ワクチンで予防できる疾患帯状疱疹は、水痘帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus:VZV)の初感染後、脊髄後根神経節、脳神経節に潜伏感染しているVZVが再活性化によって、支配神経領域に疼痛を伴う水疱が集簇して出現する疾患である。合併症として発症後3ヵ月以上にわたり痛みが持続する帯状疱疹後神経痛(post herpetic neuralgia:PHN)のほかに髄膜炎、脳炎、ラムゼイ・ハント症候群といった生命の危険や神経学的後遺症を来す疾患が知られている。国内で実施されている大規模疫学調査にて、1997~2020年の間で帯状疱疹は年々増加傾向を認め、罹患率は50代から上昇し、70代(2020年度10.45/千人・年)でピークを示した。別の調査では、50歳以上の帯状疱疹患者の19.7%がPHNを発症し、年齢別では80歳以上で32.9%と高齢になるほど発症しやすい傾向を認めた。ワクチンの概要帯状疱疹ワクチン接種の目的は、「帯状疱疹発症率を低減させ、重症化を予防すること」である。国内で2つのワクチンを使用することができるので表に概要を示す。表 帯状疱疹ワクチンの概要画像を拡大する2025年度から、65歳の方などへの帯状疱疹ワクチンの予防接種が、予防接種法に基づく定期接種の対象となった。接種の対象者は、以下に該当する方である。65歳を迎える方60~64歳で対象となる方(※1)2025~29年度までの5年間の経過措置として、その年度内に70、75、80、85、90、95、100歳(※2)となられる方※1ヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫の機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能な方※2100歳以上の方については、2025年度に限り全員対象となる。帯状疱疹発症、年齢以外のリスク因子帯状疱疹は、前述した年齢のほかに罹患率を上げるリスクが知られている。HIV/AIDS(相対リスク[RR]3.22)、悪性腫瘍(RR2.17)、SLE(RR2.08)などの免疫不全疾患だけではなく、慢性疾患としての心血管疾患(RR1.41)、COPD(RR1.41)、糖尿病(RR1.24)。他にも精神的ストレス(RR1.47)、身体的外傷(RR2.01)、家族歴(RR2.48)もリスク要因としてあげられる。リスク因子のある方に帯状疱疹が発症した場合は、生命を脅かす疾患となってくるため、ワクチン接種を推奨する意義は高い。免疫不全状態では、生ワクチンは接種不適当であり、シングリックスが推奨される。今後の課題・展望2025年4月からすべての国民で65歳時以降に定期接種として帯状疱疹ワクチンを接種する機会を得ることになった。喜ばしいことではあるが、任意接種としてでも接種を勧めたい対象者が65歳まで接種を待ってしまう可能性が出てくる。前述した高リスク群の方々(とくに免疫不全疾患)には、定期接種を待つことのデメリットを伝え、適切な時期に接種を勧めることも重要である。近年、帯状疱疹と水痘の流行様式に変化がみられる。2014年に小児水痘ワクチンが定期接種となり、水痘患者数の減少と罹患年齢の上昇傾向がある。水痘は罹患年齢が上がるほど重症化する。妊婦が水痘に罹患すると流産や先天性水痘症候群になるリスクがある。接種率の低い任意接種期間でかつ低年齢期に水痘に罹患しなかった若者が、重症化リスクの高い年齢になってきている。2021年9月の国立健康危機管理研究機構(旧国立感染症研究所)の報告によると入院水痘患者は成人割合が71.2%となっており、もはや水痘は麻疹・風疹と同じく成人疾患として重要になりつつある。留意すべきは感染経路であり、水痘感染源として帯状疱疹の割合が増加傾向を認める。増加する帯状疱疹患者から重症水痘患者を発生させないためには、小児期に水痘に罹患せずかつ水痘ワクチン接種も受けていない若者に対する水痘ワクチンのキャッチアップ推奨と中高齢者に対しては今後も帯状疱疹ワクチンを推奨していくことが、今後しばらくの間のVZV感染症対策として必要である。参考となるサイト1)帯状疱疹ワクチンファクトシート 第2版2)こどもとおとなのワクチンサイト 帯状疱疹ワクチン3)乾燥弱毒生水痘ワクチン「ビケン」添付文書4)シングリックス筋注用 添付文書5)国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト 水痘ワクチン定期接種化後の水痘発生動向の変化~感染症発生動向調査より・2021年第26週時点~講師紹介

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