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ワクチン接種率向上のための介入、有効な要素は?/BMJ

 ワクチン接種率向上のための介入について、全体的には機会の拡大、予約の支援、金銭的インセンティブ、費用負担支援および動機付け面接が有効な構成要素であり、人との対話や、医療従事者のみでなく医療従事者+地域住民による提供が効果的な実施要素であることを、英国・ブリストル大学のSarah R. Davies氏らが、システマティックレビューおよびコンポーネントネットワークメタ解析の結果で示した。ただし、有効な要素は、年齢層、医療サービスが不十分な集団およびCOVID-19パンデミック前後で異なっていた。著者は、「今回の知見は、対象を絞った介入の策定、最適化および実装に重要な示唆を与えるものであり、異なる集団や状況においてどの要素が有効であるかを明らかにしている。介入に関する経済データを考慮することで、資源に基づいた意思決定がさらに支持されるだろう」とまとめている。BMJ誌2026年4月15日号掲載の報告。無作為化比較試験237件について解析 研究グループは、ワクチン接種率向上のための介入における各要素の有効性を特定する目的で、システマティックレビューおよびコンポーネントネットワークメタ解析を行った。 解析対象は、英国の予防接種スケジュールに基づくすべてのワクチンの接種対象者またはその介護者を対象とする介入群と、適格な対照(非介入、通常ケア、アテンションプラセボ)群を比較した、参加者が100例以上のクラスター無作為化比較試験で、高所得国および高中所得国で実施され、2000年1月~2024年4月に発表された237件の研究(570の介入、参加者436万1,717例)であった。 介入は、ワクチン接種率向上を目的としたあらゆる介入とし、介入の主要な内容および実施形態は独自のコーディングフレームワークを用いて特定した。研究者(5人)がペアとなり、独立して各介入の構成要素や実施方法のすべてについてコーディングを行った。また、Cochrane Risk of Bias 2ツールを用いてバイアスリスクを評価した。 主要アウトカムはワクチン接種率で、要素レベルのベイズメタ回帰分析により、介入要素の相対効果をオッズ比の比(ROR)として推定し、95%信用区間(CrI)を算出した。小児は費用負担支援、青少年・若年成人は医療従事者+地域住民、成人は人との対話で介入効果が高い 解析対象研究237件のうち、バイアスリスクが「低」の研究は110件、「懸念あり(some concern)」は96件、「高」は31件であった。参加者の40%(174万4,686例)が男性であった。 小児集団においては、費用負担支援(ROR:3.01、95%CrI:1.49~6.06)および意思決定支援ツール(2.73、1.14~7.06)に有益な効果のエビデンスがあり、機会の拡大(1.37、0.98~1.95)および社会的要因(1.27、0.99~1.65)にはある程度のエビデンスがあることが示された。 青少年・若年成人集団においては、医療従事者のみと比較し医療従事者+地域住民による提供(ROR:6.42、95%CrI:1.94~25.62)、社会的要因(2.62、1.45~5.04)、非個人的と比較し個人的に働き掛ける形式の介入(2.13、1.09~4.40)に有益な効果のエビデンスが認められたが、意思決定支援ツール(0.43、0.18~0.98)および自動化された対話(0.47、0.21~1.02)には負の効果が示された。 成人集団においては、人との対話(ROR:1.86、95%CrI:1.42~2.45)、動機付け面接(1.79、1.21~2.64)、機会の拡大(1.63、1.35~2.00)、費用負担支援(1.47、1.03~2.16)、予約の支援(1.38、1.06~1.78)が有益な効果を示し、金銭的インセンティブ(1.15、0.99~1.35)およびワクチンの安全性・有効性に関する情報(1.15、0.99~1.32)はある程度のエビデンスを示したが、自動化された対話は対話なしと比較し負の効果をもたらすことが示された(0.72、0.57~0.92)。 サブグループ解析では、医療サービスが不十分な集団や、COVID-19パンデミックとの関連(2020年以前と2020年以降)で結果にばらつきがみられた。

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第310回 麻疹患者の発生情報、個人特定のリスクか

INDEX都内の集団発生はブレークスルー感染?情報開示による個人特定のリスク都内の集団発生はブレークスルー感染?以前も本連載(第301回)で触れた麻疹の流行が止まらない。国立健康危機管理研究機構が公表している感染症発生動向調査週報(IDWR)によると、2026年15週(4月6~12日)時点の全国での報告数(速報値)は299例。報告事例は25都道府県に及び、最多は東京都の108例。すでに昨年末の52週(12月22日~28日)までの265例をわずか3ヵ月強で超えてしまった。今年は麻疹の流行がかなり危惧される状況だ。東京都では新宿区の小学校で生徒・教職員18例の感染が確認され、都内では12年ぶりの学年閉鎖という異例の事態にまで発展している。感染者の年齢は10代と40代で、由々しきことは、現時点で判明している感染者のワクチン接種歴は1回以下が2例、2回が16例と、そのほとんどがブレークスルー感染という現実である1)。あくまで推測になるものの、感染事例のうちワクチン2回接種済みの16例はおそらくほぼ全員が10代の生徒だろう。小学校であることを考えれば、これら16例の年齢は10~12歳。麻疹ワクチンの定期接種スケジュールから考えれば、2回目接種からわずか5~6年でブレークスルー感染に遭遇した計算になる。現在の新宿区内の小学校は公立私立含めて30校あり、総生徒数は約1万1,000人。単純計算すれば1校1学年当たりの生徒数は約60人。麻疹ワクチンの2回接種でも抗体価が得られない事例が1~5%、同ワクチンの発症予防効果が97%、接種後も10〜20年単位で防御効果が大きくは崩れないという一般的な認識から考えると、新宿区での多数のブレークスルー感染は説明がつかない。小学校の同一教室で朝から夕方まで時間を共有している結果、相当なウイルス量による曝露が起こり、その結果、ブレークスルー感染が起こったと考えるしかなさそうだ。情報開示による個人特定のリスクさて、今回の流行で各種発表を参照していた中、私が気になった事例がある。その理由は後述するが、最近では麻疹感染例が確認されると、各自治体は感染例の行動履歴のうち不特定多数に接触した可能性がある部分を公表し、注意を促す。これ自体はむしろ公衆衛生の観点からは必要な対応だと考えている。私が気になったのは、ある自治体での麻疹感染者の行動履歴の公表事例である。そこには不特定多数への感染リスクがある、立ち寄り先と公共交通機関の利用日時が分刻みで公表されていた。どちらも同一日のことだが、同事例を見ると、感染者がある時間の範囲内でどのような行動をしていたかが、かなりの確度で推定できる。そして、たまたまGoogleマップを利用して同事例の履歴と照らし合わせてみた際にハッとした。少なくとも同事例では、当たっているかどうかは別にして感染者個人の居住地域を推定できてしまう。この自治体の人口は数十万人規模だが、行動履歴から推定できる地域の人口はその5分の1程度。それでも10万人以上だが、公表された行動履歴からは、さらに数万人規模まで絞り込める。しかも今やネット時代。さまざまな情報をつなぎ合わせることで、誤認も含め個人を特定できてしまう可能性がある。ちなみにこうした行動履歴の公表内容は、旧国立感染症研究所感染症疫学センターが2016年6月に公表した『麻疹発生時対応ガイドライン 第二版:暫定改訂版』2)を基に各自治体の裁量に任されている。同ガイドラインでは以下のような記載があるのみである。「情報発信に際しては、患者数が減少しており、個人を特定できる可能性が以前より増しているため発症者及びその周囲にいる感染を受けた者両者への人権に配慮する必要がある。ただし、感染拡大や対策を実施するうえで、麻疹患者の情報の共有が重要となることもある。公表する情報の質、範囲などについては関係機関と十分協議し、個人のプライバシーと感染拡大防止の公衆衛生学的意義を考慮したうえで決定することが望ましい」もちろんこの自治体の公表内容については、個人情報保護と感染拡大防止のせめぎあいのギリギリのラインで決定されたものだろうとは思っている。とくに麻疹の場合は基本再生産数が12~18と、きわめて感染力が強い。時間を分刻みで公表しているのも、パニックのような過剰な反応が起きないようにとの配慮があるのだろうとも受け止めている。しかし、ケースによっては公表された情報から“犯人探し“が行われてしまう可能性は否定できない。言葉として不適切なことを承知で言えば、今回のケースは麻疹という一般には聞き慣れた感染症だから、そこまでのことは起きていないだろうと推察している。ただ、これが多くの人にとって聞き慣れない新興感染症で、この事例のような公表をした場合は、犯人探しリスクはかなり高まる。その意味では、今回のケースは個人特定を防ぐために、行動履歴の時間の粒度をやや粗めにするという対応はできなくもない。国はそろそろ過去の事例なども参照しながら、情報公開に関してはもう少し詳しいガイドラインを作成してもよいのではと思うのだが…。1)都庁総合ホームページ:麻しん(はしか)患者の集団発生について2)国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト::麻疹発生時対応ガイドライン〔第二版:暫定改訂版〕

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第291回 診療報酬「ベースアップ評価料」の対象が拡大、5月中の再届出が必須/厚労省

<先週の動き> 1.診療報酬「ベースアップ評価料」の対象が拡大、5月中の再届出が必須/厚労省 2.麻しん236人、コロナ後最多ペース 10~20代中心に感染拡大/小児学会 3.中東情勢緊迫化で医療物資「目詰まり」 5月に手袋5,000万枚放出/内閣府 4.2040年の外科医不足に備え、がん治療の拠点病院を再編へ/厚労省 5.医師偏在対策の柱・地域枠が再設計へ 2028年度以降は定員減も/厚労省 6.医療機関倒産、20年で最多 人件費高騰が経営圧迫/東京商工リサーチ 1.診療報酬「ベースアップ評価料」の対象が拡大、5月中の再届出が必須/厚労省人件費や物価の上昇で経営環境が厳しさを増すなか、厚生労働省はクリニックや中小病院に対して支援策を拡充し、日本医師会はその活用を呼びかけている。国は2026年度の「働き方改革推進支援助成金」を拡充し、常勤10人未満の小規模事業所では賃上げ加算の上限を引き上げ、最大300万円を上乗せできるようにした。労務管理研修やソフト導入、勤務間インターバル導入、時間外労働削減などの取り組みに応じ、補助上限は最大520万円となる。加えて、月60時間以内の時間外労働の割増賃金率を5%以上引き上げた場合の加算も新設された。その一方で、診療報酬ではベースアップ評価料が見直され、対象職種は看護師や薬剤師に加え、40歳未満の医師や歯科医師、事務職員にも広がった。点数も大幅に引き上げられ、継続的な賃上げを行う医療機関はより高く評価される。しかし、診療所の届出率は病院よりも低く、無床診療所59.2%、有床診療所70.0%にとどまっている。6月の診療報酬改定に向けて、算定するためには医療機関は5月中に必ず届出を行う必要がある。また、2024年度にすでに届け出ている医療機関も再届出が必要となる。賃金改善計画書は不要となり、手続き負担は軽減された。さらに、評価料収入は全額を賃上げに充てること、8月の実績報告に備えて対象職員数や賃上げ実績を整理しておくことが重要となる。人材流出を防ぎ、他産業に見劣りしない処遇改善を進めるためにも、診療所は助成金と評価料を組み合わせて活用する姿勢が求められる。 参考 1)働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)(厚労省) 2)令和8年度診療報酬改定ベースアップ評価料による賃上げについて(日医) 3)日医がベースアップ評価料の積極的な算定を呼びかけ、届け出率は無床診療所で約6割(日経メディカル) 4)日医がベースアップ評価料の届け出を呼びかけ(MEDICAL TRIBUNE) 2.麻しん236人、コロナ後最多ペース 10~20代中心に感染拡大/小児学会麻しん(はしか)の感染拡大が続いている。2026年4月上旬までに報告された患者は236人に達し、新型コロナ禍後で最多だった2025年(265人)を上回るペースで推移している。感染者は10~20代が半数を占め、若年層を中心に流行の兆しが強まっている。麻しんは極めて感染力が強く、免疫を持たない場合ほぼ100%発症するほか、肺炎や脳炎など重篤な合併症を引き起こす可能性がある。わが国は2015年に世界保健機関(WHO)から「排除状態」と認定されたが、近年は海外からの持ち込みを起点とした感染が続いている。世界的にも患者数は増加しており、各国で流行が拡大している。国内ではコロナ禍の水際対策で患者数は一時減少したが、2023年以降は増加に転じた。地域別では東京都が最多で、鹿児島県、愛知県と続く。とくに都市部での感染が目立ち、成人を含む若年層への広がりが確認されている。背景にはワクチン接種率の低下がある。麻疹の排除維持には2回接種で95%以上の接種率が必要とされるが、現状はこれを下回っている。感染者の半数以上が未接種、1回接種、あるいは接種歴不明であり、十分な免疫を持たない層の存在が流行拡大の要因となっている。麻しんへの予防接種は1歳時と小学校入学前の2回接種で高い予防効果が得られる。日本小児科学会は、接種歴を確認し未接種や不明の場合は任意接種を検討するよう呼びかけるとともに、発熱や発疹などの症状がある場合は事前連絡のうえで医療機関を受診するよう求めている。流行抑制には、ワクチン接種の徹底と早期受診が不可欠だ。 参考 1)麻しん累積報告数の推移 2019~26年 (JIHS) 2)2026年における麻疹患者数増加に関する注意喚起 (小児科学会) 3)はしか感染、230人超 新型コロナ後で最多ペース-10~20代が中心(時事通信) 4)はしか感染者増加“子どもの定期接種確実に”日本ワクチン学会(NHK) 5)海外からの流入・予防接種率低下等で麻疹(はしか)流行の兆し、適切なワクチン接種(定期・任意)と医療機関受診を-小児科学会(Gem Med) 3.中東情勢緊迫化で医療物資「目詰まり」 5月に手袋5,000万枚放出/内閣府中東情勢の緊迫化による原油・ナフサ供給不安が、医療物資の流通に影響を及ぼしている。政府は4月16日に「中東情勢に関する関係閣僚会議」を開き、対策として感染症流行に備え備蓄している医療用手袋約5億枚のうち、5,000万枚を2026年5月から医療機関向けに放出する方針を決定した。放出対象は、採血や検査で用いる非滅菌手袋で、新型コロナウイルス感染症医療機関等情報支援システム(G-MIS)を通じて医療機関が必要量を申請し供給される仕組みを整備する。厚生労働省によると、医療物資の供給不安に関する相談はメーカー・卸・医療機関を合わせ2,956件に上り、うち34件が供給に影響ありと判断された。消毒液や透析関連物資など一部は解決が進む一方で、透析用チューブや滅菌関連資材などでは中長期的な供給不安が残る。医療機関からの相談は急増しており、需給逼迫の兆しが強まっている。背景には、医療用手袋やガウン、チューブなど多くの医療消耗品が石油由来であり、原料のナフサを中東に依存している構造がある。現場では価格上昇や出荷制限の動きもみられ、手術や透析など生命維持医療への影響を懸念する声が上がる。実際に通販業者では購入制限が導入され、需給の不安定化が流通段階にも波及している。政府は約1.3万の医療機関から情報収集できるシステムを稼働させ、専門チームを増員して供給状況の把握と対策を強化している。また、アジア諸国との連携によるサプライチェーン強靭化にも着手し、エネルギー供給の安定化を通じた医療物資確保を図る方針。医療物資の安定供給は、エネルギー安全保障と一体の課題となっており、短期対応と中長期対策の両立が求められる。 参考 1)石油関連製品の供給不足に伴う厚生労働分野の影響・対応について(厚労省) 2)中東情勢に関する関係閣僚会議(首相官邸) 3)高市首相 5月から医療用手袋5,000万枚の備蓄放出を表明(NHK) 4)高市首相、医療用手袋5,000万枚放出表明 中東情勢で確保困難(毎日新聞) 4.2040年の外科医不足に備え、がん治療の拠点病院を再編へ/厚労省厚生労働省は、4月16日に「がん診療提供体制のあり方に関する検討会」を開き、高度ながん治療を担う病院の集約化を進める方針を明確にした。従来は全国どこでも一定水準のがん医療を受けられる「均てん化」を重視してきたが、今後は人口減少や医師不足、医療の高度化を踏まえ、質の高い治療を維持するために「集約化」との両立へ軸足を移す。とくに消化器外科では担い手不足が深刻で、現状のままでは2040年にがん治療を担う外科医が約9,200人と足元から39%減り、需要の5,200人を下回る見通しとなっている。一般の医師数は増加している一方で、一般外科医・消化器外科医はこの10年で減少し、若手ほど減り幅が大きい。長時間労働や負担に見合わない処遇が背景にあり、外科医がいる病院の約半数で消化器外科医は1~2人にとどまる。こうした状況から、厚労省は食道がんや膵がんなど高難度手術を拠点病院や大学病院へ集約し、希少がんでは県域を超えた集約も視野に入れる。その一方で、胃がんや大腸がんの標準的手術、長期の薬物療法や検診などは地域の医療機関で担う考え。今後は、新たな地域医療構想と連動し、各医療機関の機能を2028年度までに整理し、第9次医療計画へ反映する。がん診療連携拠点病院の整備指針も見直され、指定期間は最長3年に短縮される見通しで、構想や医療計画との整合性を高める。もっとも、都道府県ごとの議論の進捗にはばらつきが大きく、実施時期未定の地域も多い。国によるデータ提供や技術支援を強化しつつ、患者の受療アクセス低下を防ぎながら、医療の質、病院経営、勤務環境改善を両立できる再編を進められるかが焦点となる。 参考 1)第20回がん診療提供体制のあり方に関する検討会(厚労省) 2)がん医療・地域医療構想・医療計画等を連動させ「集約化すべき病院、高度医療の内容」等を明確化する-がん診療提供体制検討会(Gem Med) 3)がんの医療体制、地域医療構想と連動して整備へ 厚労省案 「28年度までに決定」(CB news) 4)がん手術維持へ病院集約 40年に外科医5,000人超不足、厚労省(日経新聞) 5.医師偏在対策の柱・地域枠が再設計へ 2028年度以降は定員減も/厚労省医師偏在対策の柱として拡大してきた医学部の地域枠が、現在見直しの局面に入っている。厚生労働省は、4月17日に開催した「医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」で、2027年度の医学部臨時定員の調整方法を了承し、医師多数県を中心に削減を進めつつ、へき地尺度などを用いて一部地域では削減幅を緩和する方針を示した。医学部定員に占める地域枠などは2007年度の173人から2025年度には1,847人へと増え、全体の19.9%を占めるまで拡大しており、医学部定員9,393人のなかで大きな比重を占めている。この拡大は2008年度以降の臨時定員増を背景とするが、近年は医師数の増加ペース見直しの議論が進み、今後は臨時定員の縮減とともに、地域枠を恒久定員内で運用する方向が示された。検討会では、2027年度以降は医師多数県の臨時定員削減を基本としつつ、へき地尺度や高齢化の進展を踏まえて調整する方針を確認した。さらに2028年度以降は、医師多数県に限らず定員適正化を進める方向性が示され、量的拡大から質的最適化への転換が明確になりつつある。地域枠の制度設計も見直し対象となっている。現在は卒後9年以上の地域勤務が求められ、一定期間を医師不足地域で従事する仕組みとなっているが、義務履行中断者が約7%に上るなど、若手医師のライフイベントや専門医取得との両立が課題となっている。厚労省の資料でも、仕事と育児の両立志向の高まりなど、若年層の価値観変化が制度運用に影響していることが示されている。実際、日経メディカルの調査では「地域枠は必要だが見直しが必要」との回答が約半数を占め、当事者では6割近くに達した。背景には、都市部の生活の利便性や教育環境、キャリア形成機会の偏在があり、単なる配置義務では地域定着につながらない現実がある。地域枠は一定の成果を上げつつも、若手医師の価値観変化や医師需給の転換期を受け、制度疲労が顕在化している。今後は定員管理、勤務環境改善、経済的インセンティブを組み合わせた総合的な再設計が求められる。 参考 1)医師の確保・偏在対策における医学部臨時定員の方針について(厚労省) 2)今後の地域枠等の運用について(同) 3)27年度臨時定員、へき地尺度で多数県の削減幅を緩和 検討会が了承(MEDIFAX) 4)地域枠、医師48%が「従事期間や奨学金の利息見直しが必要」(日経メディカル) 6.医療機関倒産、20年で最多 人件費高騰が経営圧迫/東京商工リサーチ東京商工リサーチの調査によると、2025年度に倒産した医療機関(病院、診療所、歯科医院)は前年度比20.3%増の71件となり、過去20年で最多を更新した。コロナ禍では支援策により低水準に抑えられていたが、収束後の2023年度以降は53件、59件、71件と増加が続き、経営の悪化が顕在化している。業態別では診療所が32件、歯科医院が31件といずれも最多で、とくに歯科は前年度比1.5倍と急増した。その一方で、病院は8件と減少したものの、依然として高い水準にある。負債規模では1億円以上の案件も多く、中堅規模以上の医療機関の倒産が目立つ点も特徴だ。原因は「販売不振」が66%を占め、「既往のシワ寄せ」と合わせ約9割に達した。人口減少による患者数減少や診療報酬改定の影響に加え、光熱費や人件費、医療材料費の上昇により収益構造が悪化している。さらに、経営者の高齢化や人手不足、設備の老朽化も重なり、経営継続が困難となるケースが増えている。倒産形態は破産が69件で全体の97%を占め、再建型の民事再生は2件にとどまった。医療機関は収益規制や後継者不足などから再建が難しく、退出に直結しやすい構造が浮き彫りとなっている。医療機関の倒産は地域の医療提供体制に影響を及ぼし、とくに高齢化が進む地方では受診機会の喪失につながる懸念が強い。2026年6月の診療報酬改定の効果は不透明で、今後、公的支援の強化に加え、M&Aなどを含めた医療機関の再編・集約が一層進む可能性がある。 参考 1)2025年度の「医療機関」倒産 20年で最多の71件 クリニック・歯科医院の淘汰が加速、「破産」が97%超(東京商工リサーチ) 2)25年度の医療機関倒産、過去20年で最多の71件 商工リサーチ調べ(日経新聞)

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増える麻しん、医療従事者向け「麻しんを疑った際の対応」公開/JIHS

 日本では、2015年にWHOにより麻しんの排除認定を受けているが、2026年1月からの国内の発生報告数(速報値)は4月8日までに236例と、2020年以降同期間としては最多で、すでに2025年の1年間の発生報告数(265例)に迫る数字となっている。国立健康危機管理研究機構(JIHS)では、医療機関向けのリーフレット「 麻しんを疑った際の対応」を公開。典型的皮疹やコプリック斑を写真で示すとともに、感染対策や臨床対応のポイントを簡潔にまとめている。<麻しんを疑った際の対応(一部抜粋)>麻しんを疑う所見:・発熱+発疹+カタル症状(咳・鼻汁・結膜充血)・口腔内のコプリック斑・海外渡航歴または麻しん患者発生地域への移動歴、接触歴・ワクチン2回未完了または不明※修飾麻しん(麻しんに対する免疫が不十分な人に生じる、軽症で非典型的な麻しん)では、典型所見に乏しいことがあるので注意(1)感染対策・個室管理対応、患者にマスク着用を促し、扉を閉める(可能なら陰圧室)・空気感染対策(原則、N95マスク)+標準予防策を行う・対応する医療者と接触者を最小化する(2)臨床対応・ワクチン接種歴聴取、臨床評価、脱水や呼吸管理等・合併症:中耳炎、肺炎、下痢等による脱水、脳炎※麻しん患者との接触後、72時間以内に麻しん含有ワクチンを接種すること等によって、麻しんの発症を予防できる可能性がある(3)連絡・届け出・院内ICTへ即時連絡・麻しんと臨床診断したら直ちに発生届提出・できるだけ早期(発疹出現後1週間以内)に、保健所の指示に基づく検体(咽頭ぬぐい液・尿・EDTA血)を採取し、提出する・提出方法は、自治体ごとに異なるため、管轄の保健所に問い合わせる※必要に応じてIgM抗体検査も実施するが、発疹出現後3日以内は偽陰性に注意する

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麻疹患者の劇的な増加はワクチン接種率のわずかな低下と関連

 ワクチン接種率がわずかに低下するだけで、麻疹(はしか)の新規感染者数や入院・死亡数がいずれも7倍以上に増える可能性があるとする報告書がCommon Health Coalitionから発表された。米国で、小児の麻疹、おたふくかぜ、風疹の3種混合ワクチン(MMRワクチン)の接種率が年間1%低下するだけで、5年後には年当たり約1万7,000例の麻疹症例と4,000件の入院、36件の死亡につながる可能性があると、報告書は結論付けている。この研究は、査読前論文のオンラインリポジトリ「medRxiv」に2月20日公開された。 報告書によると、この年間1%の接種率低下によって、現在から2030年までの間に米国における麻疹に関連する医療費として年間15億ドル(1ドル159円換算で約2385億円)の追加負担が生じるという。Common Health Coalitionの委員長で医師のDave Chokshi氏はニュースリリースの中で、「ワクチン接種は子どもの健康のためにわれわれができる最も強力な投資の一つだ。しかし、高い接種率を維持できなければ、われわれ自身がその代償を支払うことになる」と述べている。 最近では、サウスカロライナ州、ユタ州、アリゾナ州、テキサス州で大規模な麻疹アウトブレイクが発生し、ワクチン接種の重要性は改めて浮き彫りになっている。米疾病対策センター(CDC)によると、2026年に入ってからこれまでに(3月12日時点)、1,362件の麻疹症例が報告され、14件の新たなアウトブレイクが発生し、その影響は31州に及んでいるという。麻疹は極めて感染力が強く、最大で90%の二次感染率が見込まれる。 米イェール大学公衆衛生大学院の研究グループは今回、米国の郡ごとのMMRワクチン接種率データを用いて、2030年まで0~6歳の接種率が毎年1%下がり、5年後に合計5%低下した場合に何が起こるかを予測した。研究グループは、「現在の傾向を踏まえると、今後5年間でMMRワクチンの接種率が5%低下する可能性は十分に考えられる。実際、2020年以降、最近の政策変更以前の時点ですでに接種率は約2.5~3ポイント低下している。このシナリオでは、全国の接種率は約87.5%にまで下がると予測される。これは、感染力が強い疾患に対して集団免疫を維持するために必要と広く認識されている95%の基準を7.5ポイント下回る水準だ」と指摘している。 このシナリオ通りになった場合、麻疹の年間症例数は2025年の2,181例から1万5,000例以上増えて年間1万7,232例になり、麻疹による入院数は2025年(554件)から3,000件以上増えて年間4,085件に、死亡数は5件から36件になると予測された。また、これらの症例の治療に年間4110万ドル(約65億3490万円)、公衆衛生上の麻疹流行への対応に9億4700万ドル(約1,505億7300万円)が必要になると推定された。さらに、生産性の低下や欠勤による損失も5億1040万ドル(約811億5360万円)に達すると推計された。 論文の上席著者であるイェール大学公衆衛生大学院感染症モデリング分析センター所長のAlison Galvani氏は、「今回の予測は、回避可能なリスクがどれほど急速に増大し得るか、また、高い接種率を維持することでいかに人々の苦痛と経済的負担の双方を回避できるのかを示している」と述べている。 研究グループは、ワクチン接種率を向上させる対策として、1)保険会社がワクチン接種費を全額カバーし、家庭の費用負担が生じないようにすることを確実にする、2)就学時のワクチン接種要件を維持または強化する、3)広報を通じてワクチンに対する人々の信頼を醸成する、4)地域の予防接種連携組織を通じてワクチンへのアクセスを改善する、などを提言している。

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帯状疱疹、50歳未満でも罹患リスクが高くなる6つの併存疾患

 50歳以上および免疫不全を有する成人では、帯状疱疹の罹患リスクが高いが、18~49歳の併存疾患を有する患者における帯状疱疹罹患リスクについてのエビデンスは不足している。グラクソ・スミスクラインのRachel A. Cohen氏らによる米国の医療保険請求データを用いた大規模後ろ向き研究の結果、特定の併存疾患を有する若年成人(30歳以上)では、50~59歳の併存疾患および免疫不全のない成人と比較して帯状疱疹の罹患リスクが高いことが示された。Clinical Infectious Diseases誌オンライン版2026年3月27日号掲載の報告。 本後ろ向きコホート研究では、2015~22年の米国におけるMerative MarketScan CommercialおよびMedicare Supplementalのデータが用いられた。併存疾患(喘息、慢性腎臓病[CKD]、慢性閉塞性肺疾患[COPD]、うつ病、糖尿病、ストレス、および外傷)を有する免疫不全のない若年成人(18~49歳)における帯状疱疹罹患率(IR)を、併存疾患および免疫不全のない成人(50~59歳)と比較した。 併存疾患および免疫不全のない50~59歳と比較した調整罹患率比(aIRR)について、非劣性マージン(95%信頼区間[CI]の下限:0.62)があらかじめ設定された。aIRRは、同等(aIRRの95%CIの下限>0.62かつ≦1.0)、有意に高い(同>1.0)、または結論不能(それ以外の結果)に分類した。帯状疱疹罹患の定義は、診断コードに加え、±7日以内の経口抗ウイルス薬の処方とした。感度分析として、併存疾患の数(1、2、または3以上)別に帯状疱疹の罹患率を検討した。 主な結果は以下のとおり。・対象集団は、帯状疱疹罹患歴または帯状疱疹ワクチンの接種歴がなく18歳以上の2,067万3,677人。免疫不全症および自己免疫疾患を有する成人を除外後、併存疾患を有する成人は316万45人であった。・全体として、併存疾患を有する成人において3万1,995件の帯状疱疹発症が報告された。・帯状疱疹罹患率は、気管支喘息(aIRR:1.19[95%CI:1.10~1.29])、COPD(1.31[1.22~1.40])、うつ病(1.31[1.22~1.40])、糖尿病(1.18[1.06~1.32])、ストレス(1.28[1.11~1.47])、および外傷(1.25[1.17~1.34])を有する集団では30~39歳において、またCKD(1.50[1.28~1.77])を有する集団では50~59歳において、50~59歳の併存疾患および免疫不全のない成人と比較して有意に高かった(aIRRの95%CIの下限>1.0)。・感度分析の結果、帯状疱疹罹患率は併存疾患数の増加および年齢の上昇に伴って増加する傾向がみられた。

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第290回 はしか急増、3月末で全国に197人 接種歴確認と2回接種が急務/厚労省

<先週の動き> 1.はしか急増、3月末で全国に197人 接種歴確認と2回接種が急務/厚労省 2.中東情勢悪化で医療現場に不安 EMIS活用して在庫把握へ/厚労省 3.医師偏在に現場が危機感、4割が開業規制支持 地域格差是正へ/日経新聞 4.オンライン診療を医療法に明記 96項目の遵守事項で安全確保/厚労省 5.OTC類似薬に25%負担 医療保険改革が審議入り、応能負担強化へ/政府 6.看護専門学校の定員割れ深刻化 2040年見据えた人材確保策を議論/厚労省 1.はしか急増、3月末で全国に197人 接種歴確認と2回接種が急務/厚労省麻疹(はしか)の感染拡大が続いている。国立健康危機管理研究機構(JIHS)によると、2026年第13週までの全国累計患者数は197人に達し、前年同時期の3倍超と、2020年以降で最も速いペースで増加している。東京都48人、鹿児島県24人、愛知県23人が多く、海外流行地からの持ち込みを起点に国内感染が広がった可能性が高い。麻疹は空気感染し、免疫のない人は同じ空間にいるだけで感染し得るうえ、肺炎や脳炎など重い合併症を招くこともあるが、特効薬はない。唯一有効な予防策はワクチン接種で、MRワクチン2回接種が基本となる。日本感染症学会も、流行防止には2回接種率95%以上が必要だと注意喚起をしている。東京都では4月10日時点の患者数が速報値で97人に達し、昨年同時期の10倍超となった。10~30代が約9割を占め、接種歴が1回のみ、あるいは不明な若年成人の脆弱性が浮き彫りになっている。千葉県では今年22例目が確認され、昨年通年に並んだほか、川崎市でも4月だけで複数例が報告された。厚生労働省は、発熱や発疹がある場合は事前に医療機関へ連絡し、公共交通機関を避けて受診するよう求めている。接種歴の確認と未完了者への追加接種が急務となる。 参考 1) 感染症発生動向調査(IDWR)2026年第13週(国立健康危機管理機構) 2) 麻しん(はしか)が世界・国内で増加しています(日本感染症学会) 3) 空気感染するはしか、増加続く 厚労省が接種徹底と注意呼びかけ(Science Portal) 4) はしか患者3月までに197人、コロナ禍後最多だった前年同時期の3倍以上…子どものワクチン接種呼びかけ(読売新聞) 5) はしかの全国感染者数 1週間の新たな感染者30人 感染者数高止まり(日テレNEWS) 2.中東情勢悪化で医療現場に不安 EMIS活用して在庫把握へ/厚労省中東情勢の悪化を受け、石油由来原料を使う医薬品、医療機器、医療物資の供給不安が医療現場で強まっている。厚生労働省と経済産業省の対策本部によると、4月8日時点で医療機関やメーカー・卸業者からの相談は計543件に上り、このうち16件が安定供給に影響ありと判断された。透析回路や医療用手袋など10件はなお対応検討中であり、政府は流通段階の「目詰まり」解消を急ぐとしている。政府は現時点で「直ちに供給が滞る状況ではない」と説明する一方で、医療7団体は買い占めや過剰発注が連鎖すれば、供給不足や価格上昇を招きかねないと懸念を表明した。上野 賢一郎厚生労働大臣との意見交換では、需給見通しの正確な情報発信や、必要量に見合った発注の徹底、医療機関同士で物資を融通できる体制整備を求める声が相次いだ。とくに医療用手袋など日常的に消費する物資への警戒感が強い。厚労省は10日から、災害時に使う広域災害救急医療情報システム(EMIS)を活用し、全国約1万3,000の病院などから在庫や受け入れ状況をオンラインで把握する体制を開始した。今後は定点観測や相談窓口、EMISによる情報収集を通じて需給逼迫の兆候を早期に捉え、厚労・経産両省と医療団体が連携して、安定供給を維持する構え。焦点は、実際の不足が起きる前に冷静な発注行動と情報共有で市場不安を抑え込めるかにある。 参考 1) EMISポータルサイト(厚労省) 2) 医師会ら “医療用物資の需給情報発信し安定的な確保”要請(NHK) 3) 厚労省 医療用物資の調達 災害時にシステム活用で経産省と連携(同) 4) 医療機関1.3万ヵ所から物資の供給状況把握へ 厚労省 災害時システムで10日から情報収集(CB news) 5) 医療物資の供給把握 厚労省、システム運用 全国1.3万の病院(日経新聞) 3.医師偏在に現場が危機感、4割が開業規制支持 地域格差是正へ/日経新聞医師の地域偏在・診療科偏在が深刻化する中、医師自身の間でも自由開業の規制を求める声が強まっている。日本経済新聞と日経メディカルの共同調査では、「開業規制が必要」との回答は42%で、「必要ない」の21%を大きく上回った。地域偏在を深刻とみる回答は46%、診療科偏在も47%に達し、現場の危機感が明確となった。偏在の認識は地域で差が大きく、東京23区では29%にとどまる一方、町村では65%に達する。人口10万人当たり医師数などを基にした偏在指標でも、東京都と岩手県で約2倍の格差があり、西日本に多く東日本に少ない「西高東低」の傾向も続く。勤務医ほど規制支持が強く、病院勤務医では46%が必要と回答したのに対し、開業医では賛否が拮抗した。こうした背景には、現行の自由開業制の下で都市部・人気診療科への集中が進み、地域医療の持続性が揺らいでいる現状がある。厚生労働省の医師確保計画見直しでは、医師偏在は「地域」と「診療科」の二重構造で進行し、とくに外来中心の診療所医師が都市部に偏在している点が課題とされている。政府は改正医療法に基づき、2026年4月から「外来医師過多区域」を設定し、新規開業者に対し在宅医療や夜間対応、医師不足地域での診療などを要請できる制度を開始した。応じない場合には保険医療機関の指定期間短縮というディスインセンティブも設けたが、あくまで要請ベースにとどまる。その一方で、厚労省の資料では、医師確保は単なる配置の問題にとどまらず、勤務環境やキャリアパス、地域医療構想との整合的な政策が不可欠とされる。そのため、単純な規制だけではなく、地域勤務へのインセンティブやタスクシフト、医療提供体制の再編といった総合的な対策が求められている。先述のアンケートの自由回答でも「自由開業制を続ける限り偏在は解消しない」との声がある一方で、「過疎地への誘導策が重要」との指摘も多い。規制と誘導の最適な組み合わせが、今後の医師偏在対策の焦点となる。 参考 1) 野放図な開業を医師も危惧、4割「規制を」 大都市・診療科の偏り加速(日経新聞) 2) 医師の42%が「開業規制が必要」と回答、「不必要」にダブルスコア(日経メディカル) 3) 外来医師過多区域に係る候補区域の公表について(厚労省) 4) 医師確保計画の見直し等に向けたとりまとめ(同) 5) 医師偏在解消に向け、2026年4月から外来医師過多区域・重点医師偏在対策支援区域を設定し対応を強化-地域医療構想・医療計画検討会(Gem Med) 4.オンライン診療を医療法に明記 96項目の遵守事項で安全確保/厚労省2026年4月1日、改正医療法に基づくオンライン診療の関連規定が施行され、これまで通知や指針を中心に運用されてきたオンライン診療が、医療法上明確に位置付けられた。厚生労働省は施行に先立ち、医療機関向けチェックリストを通知し、計96項目の遵守事項と14項目の推奨事項を整理。オンライン診療の提供面では34項目、提供体制では62項目を求め、安全性と適正実施の徹底を図る。新ルールでは、オンライン診療は対面診療の代替ではなく補完とされ、医師は診療の都度、医学的観点から実施の可否を判断し、不適切な場合は速やかに対面診療へ切り替える必要がある。患者への事前説明と同意取得も必須で、触診ができず得られる情報が限られること、対面診療を組み合わせる必要があること、診療計画や急変時対応などを説明しなければならない。初診からのオンライン診療は原則として「かかりつけ医」が行うが、休日夜間やかかりつけ医不在時など例外的に他医師が行う場合は、診療前相談を経た上で、対面診療へ確実につなぐ体制整備が求められる。処方では初診時の麻薬・向精神薬投与や長期処方を制限し、メールやチャットのみで完結する診療も認めない。加えて、通信環境やセキュリティ対策も厳格化され、システムの安全性確認やアクセス管理、情報漏洩対策などが医療機関の責務として明確化された。今回の法改正では、患者がオンライン診療を受ける場所として「オンライン診療受診施設」も制度化された。公共施設などを活用した受診環境整備が可能となる一方で、広告規制も拡大され、受診施設に関する表示も新たな規制対象となる。こうした制度整備の背景には、医療アクセス改善への期待がある。日経新聞・日経メディカルの調査では、医師の51%が「オンライン診療は地域偏在の緩和に寄与する」と回答した。ただ、届け出医療機関はなお限定的で、導入コストや対面より低い診療報酬が普及の壁として残っている。今後は安全確保と普及促進をどう両立させるかが焦点となる。 参考 1) (医療機関向け)基準等遵守の確認をするためのチェックリスト(厚労省) 2) オンライン診療の実施に際し患者に対して説明すべき内容のチェックリスト(同) 3) オンライン診療の基準、厚労省がチェックリスト 順守事項に計96項目挙げる(CB news) 4) 医師の51%が遠隔診療に期待 地域偏在対策、普及へ報酬増求める声(日経新聞) 5) 改正医療法によるオンライン診療規制に伴う医療広告規制の変容~その1 医療広告規制と「オンライン診療受診施設に関する広告」規制~(のぞみ総合法律事務所) 5.OTC類似薬に25%負担 医療保険改革が審議入り、応能負担強化へ/政府4月9日、政府が国会に提出した健康保険法等改正案が衆議院本会議で審議入りした。今回の改革は、増大する社会保障費と現役世代の保険料負担の抑制を背景に、「給付と負担の見直し」と「制度の持続可能性確保」を柱とするものである。最大の焦点は、市販薬と同等の効能を持つ「OTC類似薬」に対する新たな患者負担の導入だ。対象は解熱鎮痛薬や抗アレルギー薬など約77成分・1,100品目に及び、薬剤費の4分の1を保険給付から外し、追加負担として患者に求める仕組みを創設する。これは「一部保険外療養」として制度化され、現役世代の保険料負担を年間2,600億円程度軽減する効果が見込まれている。その一方で、がんや難病患者、小児、長期使用が必要な患者などには負担を課さない方向で検討が進められている。また、後期高齢者医療制度では、株式配当などの金融所得を保険料や窓口負担に反映させる仕組みを強化する。現行制度では申告方法により負担に差が生じる問題があり、金融機関からのデータ提出を義務化することで「応能負担」の徹底を図る。さらに、出産費用については、全国一律の基本単価を設定し、保険で全額給付する仕組みへの転換を進める。従来の出産育児一時金では費用上昇に追いつかず自己負担が残る課題があり、現物給付化と情報の見える化により負担軽減と選択の透明性向上を目指す。このほか、高額療養費制度では長期療養者への影響配慮を明文化し、医療機関の業務効率化や勤務環境改善を支援する新たな基金事業も創設される。DXや生成AI活用などによる効率化も政策的に後押しされる点が特徴となっている。政府は「世代間・世代内の公平性確保」と「限られた財源の効率的活用」を強調する一方で、野党からは「患者負担増による受診控え」や「治療遅延のリスク」が指摘されており、制度設計の妥当性が今後の審議の焦点となる。 参考 1) 健康保険法等の一部を改正する法律案について(厚労省) 2) 健保法等改正案が衆院で審議入り 高市首相「不断の改革に取り組む」 上野厚労相「負担の公平性確保」(ミクスオンライン) 3) OTC類似薬の追加負担「がんや入院中の患者には求めず」 上野厚労相(日経新聞) 6.看護専門学校の定員割れ深刻化 2040年見据えた人材確保策を議論/厚労省厚生労働省は4月10日、「2040年に向けた看護職員の養成・確保の在り方に関する検討会」の初会合を開き、2040年ごろの看護職員の需給を都道府県別に推計する方針を示した。新たな地域医療構想の実現に向け、看護人材の確保と資質向上は不可欠であり、秋ごろまでに養成・確保策と推計方法を議論し、冬ごろに取りまとめる見通し。背景には、看護人材確保を巡る状況の悪化がある。厚労省の調査では、3年制看護専門学校の2025年度入学者は2万868人で、定員充足率は79.5%と初めて8割を下回った。2017年度をピークに減少傾向が続いており、大学入学者は増えているものの、専門学校と大学を合わせた入学者総数も5年連続で減少している。専門学校卒業生は地元就職率が高いとされ、地方の看護師確保への影響が懸念されている。実際、地域では養成基盤の縮小が進む。埼玉県では看護専門学校44校のうち少なくとも7校が募集停止を表明し、少子化や志願者減、4年制大学志向の強まりが経営難に拍車をかけている。人口10万人当たり看護師数が全国最下位の同県では、地域医療への影響に強い危機感が広がる。秩父地域では唯一の看護師養成校の存続も不透明となっている。厚労省の検討会では、若年人口減少に加え、現在の就業者の多くを占める45歳以上が2040年には高齢化することを踏まえ、退職増や高年齢者就業も見込んだ推計を行う。加えて、訪問看護の深刻な人手不足や領域偏在、ICT活用による業務効率化、育児・介護との両立支援、ハラスメント対策など勤務環境の改善も主要な論点となる。看護師不足は、単なる人数の問題ではなく、地域偏在、領域偏在、養成基盤の弱体化が重なった構造的な問題として対策が求められている。 参考 1) 第1回 2040年に向けた看護職員の養成・確保の在り方に関する検討会:資料(厚労省) 2) 看護専門学校の入学者、定員比で初めて8割下回る…学生離れ進み地方で不足との指摘も(読売新聞) 3) 看護職員の40年ごろの需給を地域別に推計へ 厚労省、養成・確保対策の検討会が初会合(CB news) 4) 埼玉県内の看護専門学校 本年度以降、7校が学生募集停止 志願者減少で経営難(東京新聞)

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4月9日 子宮頸がんを予防する日【今日は何の日?】

【4月9日 子宮頸がんを予防する日】〔由来〕「し(4)きゅう(9)」(子宮)の語呂合わせから、「子宮頸がん」予防の啓発活動を行っている「子宮頸がんを考える市民の会」(東京)が制定。この日を中心に「子宮頸がん」についてのセミナーなどを開催している。関連コンテンツ乳がんと婦人科がん、診断の多い年齢層と検診内容【患者説明用スライド】4価HPVワクチン、浸潤性子宮頸がんリスクを長期抑制/BMJ月経血によるHPV検査、子宮頸がん検診に有望/BMJ女性のがん、39ヵ国の診断時期・治療を比較/LancetHPVワクチンのHPV16/HPV18感染予防効果、1回接種vs.2回接種/NEJM

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第307回 2026年4月より定期接種に加わったワクチンは?

INDEX妊婦の7割、「無料であれば接種をする」イレギュラーな定期接種ワクチン妊婦の7割、「無料であれば接種をする」4月1日から2026年度がスタートした。フリーランスの私にとって3月31日と4月1日は、単なる1日違い以上の意味はないのだが、世の中はそうではない。医療業界もこの日を境にいろいろと変わることがある。その1つがワクチンの定期接種である。2026年4月1日から妊婦に対するRSウイルスワクチン接種が予防接種法に基づくA類疾病として定期接種に加わった。これまでは任意接種だったため、約3~4万円の自己負担が必要だったが、これが原則無料となる。国立成育医療研究センターのグループが2024年7月〜2025年8月に出産した1,279例の女性を対象としたオンライン全国調査では、妊娠中のRSウイルスワクチン接種率は約11.6%(95%信頼区間[CI]:9.8〜13.3%)。同ワクチンを公費負担で接種できる米国や英国の接種率の約30〜50%と比べれば、かなり低い水準である。同調査では未接種者にその理由を尋ねているが、「予防効果を知らなかった」(28.9%)、「ワクチンの存在を知らなかった」(27.3%)、「自費での支払額が高過ぎる」(18.7%)など。このうち77.5%は「無料であれば接種をする」と回答したことも明らかになっている。また、接種した人でも接種費用について「やや高い」または「とても高い」と回答した人は87.2%に上っており、やはり高額なワクチン接種費用は接種率向上の大きなハードルになっていることは確実と言ってよい。今後は少なくとも前出の11.6%よりは接種率が高くなると考えられる。もっともこの調査で未接種であった人の15.0%が、「無料でも受けたくない」と回答していることのほうが大きな問題かもしれない。イレギュラーな定期接種ワクチンそもそも今回のRSウイルスワクチン自体が既存の定期接種ワクチンの中では異質である。接種対象者が単なる健常者ではなく妊婦限定であることに加え、接種した妊婦の体内で産生された抗体が胎盤を通じて胎児に移行し、出生直後の乳児のRSウイルス感染を防御するというやや分かりにくいものだからだ。少なからぬ人が経験しているだろうが、妊娠期間中の女性は自身だけでなく胎児の健康を慮るあまり、体内に入る薬や食品などには、平時以上に神経質になりがちである。その意味ではVaccines誌に掲載されたサハラ以南で行われた妊婦の新型コロナウイルスワクチンに関する研究1)が興味深い。同研究はアフリカのサハラ以南というやや特殊な地域で行われ、例数も少ないが、妊婦と非妊婦の年齢マッチングを行ったうえでの研究である。それによると妊婦は非妊婦に比べ有意にワクチンを受ける可能性が低いことがわかっている(オッズ比[OR]:0.12、95%信頼区間[CI]:0.06~0.27、p<0.001)。また、学歴が低いほど接種率が有意に高く(OR:0.04、95%CI:0.01~0.18、p<0.001)、一時“流行”した新型コロナワクチンにマイクロチップが含まれているという誤情報を信じる人ほどワクチン接種率が有意に低いという結果だ(OR:3.63、95%CI:1.12~11.79、p=0.032)。一瞬、これを読むと頭が混乱するかもしれないが、ここはやや補足が必要だ。まず、この研究では、いわゆる高学歴は被験者全体の92.6%を占め、低学歴者の割合は極端に低い。このため学歴による有意差は表面的な結果と受け止められる。また、たとえば新型コロナワクチンがDNAに変化を与えるという誤情報を信じる割合は、妊婦が79.6%、非妊婦が76.6%で有意差はない。むしろシンプルに妊婦のほうが非妊婦に比べ、何事も慎重になりやすい、考え過ぎるゆえにワクチンに対しても忌避傾向がみられることを示唆していると解釈したほうがいいだろう。一方、ワクチン接種については従来から医療者による推奨などが接種率に大きな影響を与えることが知られている。米国疾病予防管理センター(CDC)の「Morbidity and Mortality Weekly Report(MMWR)」2023年9月29日号に掲載された妊婦に関するワクチン接種に関する調査結果2)では、2022年10月~2023年1月の間に妊娠していたと報告した1,814人の女性でのインフルエンザワクチン接種率は47.2%(95%CI:44.4~50.1)に過ぎなかったが、医師による推奨があり、その場で接種が可能だったケースでの接種率は61.4%(同:58.0~64.7)。これに対し、推奨のみでは22.7%(同:15.0~32.0)、推奨なしでは10.8%(同:7.5~14.9)で、各群間では有意差(p<0.05)が認められたとしている。その意味で新たに定期接種に加わったRSウイルスワクチンの接種率向上については、限られた診療時間内で医療者がどのように妊婦に情報提供できるかにかかっているともいえる。もちろんこの点を医療者側も重々承知しているであろうことは、日本産婦人科医会のホームページ3)にRSウイルスワクチン接種に関する医師・患者向け資材が掲載されていることからもうかがい知れる。同時に私たちメディアにもそうした責任は向けられているのだと、新年度を迎え、心新たにもしている。1)Amiebenomo OM, et al. Vaccines (Basel). 2023;11:484.2)Razzaghi H, et al. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2023;39:1065-1071.3)日本産婦人科医会:RSウイルスに関するご案内

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第288回 患者減少が迫る構造転換、小児医療は県境越えて連携へ/厚労省

<先週の動き> 1.患者減少が迫る構造転換、小児医療は県境越えて連携へ/厚労省 2.新たな地域医療構想、2040年を見据えて急性期集約と外来偏在対策を加速/厚労省 3.人材紹介料が医療経営を圧迫 厚労省に上限規制を要請/日医・四病協 4.紹介状が「全国で閲覧可能」に 医療・介護連携DXを加速/厚労省 5.原油高が医療崩壊リスクに 資材不足と経営悪化で緊急要望/保団連 6.手術中に麻酔科医が不在30分 薬剤抜き取り・自己使用で懲戒免職/川崎市 1.患者減少が迫る構造転換、小児医療は県境越えて連携へ/厚労省厚生労働省は、3月26日に「小児がん拠点病院等の指定要件に関するワーキンググループ」を開き、少子化と専門医不足のため、小児医療の提供体制を都道府県単位から広域連携へ転換する方針を明らかにした。小児の集中治療や心臓手術など高度医療は症例減少により各都道府県単独での維持が困難となっており、県外搬送や遠隔相談を前提とした体制整備、財政支援、将来的な集約化を検討する。これらの政策は第9次医療計画への反映が見込まれ、医師不足地域では他科医との連携やオンライン診療、小児科医派遣による維持策も示された。小児がん領域でも体制見直しが進む。高度治療や研究開発を担う拠点病院は集約化しつつ、全都道府県に標準治療を提供する「県拠点病院」を新設、さらに連携医療機関を整備する三層構造へ再編する。症例数減少と分散、ドラッグ・ラグ、アクセス格差が背景にあり、質とアクセスの両立を図る。2027年から新体制が開始される予定。その一方で、人口減少は医療提供体制全体に影響を及ぼす構造問題として顕在化しており、人口減少問題を議論する「未来を選択する会議」の白書では社会保障費増大やインフラ維持への危機感が8割超に達し、出生減少の要因として経済負担や性別役割意識の影響が指摘された。人口減少は、地域差・世代差を伴いながらも全国各地で進行しており、医療政策も広域化・集約化とともに社会制度改革と不可分の課題となっている。 参考 1) 小児がん拠点病院等について(厚労省) 2) 今後の小児がん拠点病院等の指定の考え方について(同) 3) 小児医療、県またぎ連携 厚労省、心臓手術など 少子化や専門医不足で(日経新聞) 4) 小児がん診療体制を大きく見直し、「拠点病院の集約化」とともに「全都道府県に県拠点病院を指定」へ-小児がん拠点病院指定要件WG(Gem Med) 5) 人口減少問題 有識者団体が報告書 “社会経済全般の改革必要”(NHK) 6) 人口減に50歳以上の7割が「危機感」、未来選択会議が初の「人口問題白書」…少子化対策のヒントも(読売新聞) 7) 民間組織「未来を選択する会議」が人口問題白書を発行、人口減見据え(朝日新聞) 8) 人口問題白書2025(未来を選択する会議) 2.新たな地域医療構想、2040年を見据えて急性期集約と外来偏在対策を加速/厚労省厚生労働省は、3月26日に社会保障審議会医療部会を開き、2040年を見据えた新たな地域医療構想のガイドラインを4月中に公表し、都道府県は2026~28年度に新構想を策定することを明らかにした。構想区域は「人口20万人以上」を基本としつつ、地域の実情に応じ柔軟に設定。区域内では医療機関の機能分担や病床再編を協議し、急性期拠点機能は人口20~30万人に1ヵ所を目安に集約化を進める方向である。社会保障審議会での議論では、ガイドラインはあくまで参考とし、地域実情を優先すべきとの意見や、老朽病院の建て替え支援、都道府県への技術的・財政的支援を求める声が相次いだ。あわせて外来医師偏在対策も具体化し、外来医師過多区域で2026年10月以降に新設される無床診療所について、地域で不足する医療機能の提供状況や要請・勧告の有無を「医療情報ネット(ナビイ)」で公表する方針が了承された。スマホ対応マイナ保険証、RSウイルスワクチン、指定難病対応などの情報も追加される。その一方で、「要請・勧告といったネガティブ情報の公開は制度趣旨とずれる」「不公平を生む」との慎重論も出た。医療機関の定期報告率は全国平均72.4%だが、都道府県差が大きく、入力負担軽減と周知徹底が課題とされた。今後、オンライン診療受診施設の広告規制や不適切広告対策の強化も進められ、外来・在宅・介護連携まで含めた医療提供体制の再構築が本格化する。 参考 1) 地域医療構想及び医療計画等に関する検討会とりまとめについて(厚労省) 2) 地域医療構想「人口20万人以上」 40年見据えガイドライン骨子 厚労省(時事通信) 3) 新地域医療構想等のガイドライン、医療部会意見も踏まえて「2026年4月中」に作成・公表、急性期機能等の集約化を地域で推進(Gem Med) 4) 地域医療構想策定ガイドラインは4月に 社保審・医療部会(CB news) 5) 全国の医療機関情報掲載する「ナビイ」に外来医師過多区域での医療機能提供などの情報も公表-医療機能情報提供制度等分科会(Gem Med) 3.人材紹介料が医療経営を圧迫 厚労省に上限規制を要請/日医・四病協3月24日に日本医師会と四病院団体協議会は、医療・介護分野の人材紹介サービスの適正化に向け、紹介手数料の上限規制導入や返戻金制度の義務化を求める要望書を上野 賢一郎厚生労働大臣に提出した。背景には、近年の人材紹介手数料の高騰と早期離職の増加があり、医療機関の経営を圧迫している実態がある。とくに紹介手数料の総額は2023年度に1,000億円を超え、その多くが公的医療保険を原資として支払われている点が問題視されている。医療機関にとっては、診療報酬が公定価格という環境で、採用コストを価格転嫁できず、地方や中小医療機関ほど影響が大きく、地域医療提供体制の持続性にも関わる課題となっている。さらに医療・介護分野では入職後6ヵ月以内の早期離職が多く、採用のたびに高額手数料が発生する構造が経営リスクを増幅させている。要望では、早期離職時の返戻金制度を義務化し、その水準を標準化することで、紹介会社にも一定の責任を負わせる仕組みを提案した。ただし、返戻期間の単純延長では離職の後ろ倒しを招く可能性もあり、実効性ある設計が必要とされる。また、離職実態の可視化として6ヵ月超1年以内の離職データ報告義務化や、求職者が紹介手数料の実額を把握できる仕組みの導入も求めた。加えて、ハローワークやナースセンターなど無料職業紹介の活用促進も提言。民間紹介への依存が進めば人材の都市部集中や地域偏在が加速する懸念がある。これら一連の提言は、単なるコスト問題にとどまらず、人材確保と医療提供体制の持続性に直結する構造課題への対応を求めるもの。厚生労働省では、まず実態把握を進める姿勢を示しており、今後の制度設計が医療経営に与える影響は大きい。 参考 1) 高額な紹介手数料、「原資は公的医療保険」と指摘 日医会長が問題視、緊急対応を要望(CB news) 2) 医療・介護の人材紹介手数料に上限規制を 医師会と病院団体、上野厚労相へ要望書(Joint) 3) 有料職業紹介事業の適正化とハローワークの機能強化に関する要望書(四病院団体協議会・日本医師会) 4) 有料職業紹介事業に関するワーキンググループ報告書~医療分野における人材確保と有料職業紹介事業等の適正化に向けた提言~(同) 4.紹介状が「全国で閲覧可能」に 医療・介護連携DXを加速/厚労省厚生労働省は、3月18日に「健康・医療・介護情報利活用検討会」の医療等情報利活用ワーキンググループと介護情報利活用ワーキンググループの合同会議を開催し、医療と介護の情報連携を強化するため、「全国医療情報プラットフォーム(PF)」を活用し、診療情報提供書や訪問看護指示書・計画書・報告書を医療・介護関係者間で共有する方針を示した。これまで医療分野では電子カルテ情報共有サービス、介護分野では介護情報基盤の整備が進められてきたが、両分野をまたぐ情報共有の具体像は整理されていなかった。今回、標準様式が存在する文書から連携を開始し、将来的にはリハビリ計画書や入退院情報などへ拡大する方向で検討を進める。電子カルテ情報共有サービスでは、診療情報提供書や退院時サマリーなどの「3文書6情報」を全国で共有できるものとし、2027年初頭の本格運用が見込まれる。その一方で、介護情報基盤も要介護認定情報やLIFEデータ、ケアプランなどの共有を2026年度から段階的に開始する予定であり、両基盤を接続することで多職種連携の高度化が期待される。背景には、高齢化の進展に伴い医療と介護の複合ニーズを持つ患者が増加している現状がある。情報連携により入退院時の引き継ぎや在宅療養支援の質向上、災害時対応の強化などが見込まれる一方で、同意取得の在り方や情報セキュリティ、介護側のICT環境整備、標準化の難しさなど課題も多い。とくに介護情報は生活背景や主観的評価を含むため、医療情報との整合性確保が重要となる。今後、合同ワーキンググループでは、詳細設計を進め、2026年夏に開発方針を取りまとめる予定。医療・介護の分断を埋める基盤整備は、地域包括ケアの実効性を左右する鍵となる。 参考 1) 「全国医療情報プラットフォーム」における医療介護連携の進め方について(厚労省) 2) 健康・医療・介護情報利活用検討会 第30回医療等情報利活用ワーキンググループ、及び第10回介護情報利活用ワーキンググループ資料について(同) 3) 医療と介護の情報共有、診療情報提供書などから 全国医療情報プラットフォームで 厚労省案(CB news) 4) 医療・介護連携を「情報面」からも進めるため、まず【診療情報提供書】【訪問看護指示書・計画書・報告書】の電子的共有を検討(Gem Med) 5.原油高が医療崩壊リスクに 資材不足と経営悪化で緊急要望/保団連中東情勢の緊迫化に伴う原油価格の急騰を受け、全国保険医団体連合会(保団連)は政府に対し、医療資材の供給確保と財政支援を求める緊急要望書を提出した。背景には、イランを巡る中東情勢の悪化とホルムズ海峡の機能不全による世界的な原油供給不安があり、医療現場にも直接的な影響が及び始めている。医療用ガウンやグローブ、注射器、点滴バッグ、カテーテルなど、原油由来のプラスチック製品を中心にコスト上昇と供給不安が顕在化しており、基礎的医薬品を含めた医療資材の不足は診療継続そのものに直結するリスクとなる。加えて、在宅医療では燃料費の上昇が訪問コストを押し上げ、結果として患者負担の増加につながる可能性も指摘される。医療機関の経営面でも、光熱費や材料費の高騰が収益を圧迫しており、2026年度診療報酬改定で盛り込まれた物価対応分(+0.76%)は今回の急激な原油高を想定したものではなく、十分な対応とは言えないとの批判がある。さらに改定施行が6月である点も、足元の急激なコスト上昇への対応としては遅いとされる。こうした状況を踏まえ、保団連は医療資材および基礎的医薬品の国内在庫確保と安定供給、診療報酬の期中改定や補助金の拡充による即時的な財政支援を要請した。医療機関が機能不全に陥る前の早期対応を求める内容であり、原油高は単なるコスト問題を超え、地域医療の持続性を揺るがす構造リスクとして顕在化している。今後の政策対応は、医療経営の安定のみならず、患者アクセス維持の観点からも重要な局面を迎えている。 参考 1) 【要望】原油価格高騰に伴う医療資材の不足等への緊急対応を(保団連) 2) 「原油急騰で機能不全に陥る前に…」医師団体が政府に緊急の要望書 医療資材の在庫確保など求める(弁護士JPニュース) 6.手術中に麻酔科医が不在30分 薬剤抜き取り・自己使用で懲戒免職/川崎市川崎市立川崎病院は、麻酔薬を自己使用し患者への投与量を改変したとして、28歳の麻酔科医を懲戒免職とした。医師は不眠に悩み、「麻酔で眠る患者を見て自分も眠りたかった」と供述している。事件は2025年12月、手術中に無断で手術室を離れ、麻酔薬プロポフォールを自己注射したことに始まる。この間、約30分間にわたり麻酔科医不在の状態で手術が継続され、後に別の医師が対応した。さらに2026年1月の復職後、患者に使用予定の麻酔薬から一部を抜き取り、自身の使用目的で持ち去ろうとした上、生理食塩水で希釈した薬剤を患者に投与する不正行為が発覚した。翌日にも同様の行為を試みたが看護師が発見し、事態が明るみになった。患者への健康被害は確認されていないものの、医療安全および倫理の観点から重大な問題と判断され、病院は懲戒免職とともに窃盗容疑で警察に被害届を提出した。この事件により、病院の薬剤管理体制の脆弱性のみならず、医師の健康管理や勤務環境の問題も浮き彫りにした。長時間手術や慢性的な睡眠不足の中で、適切なサポート体制が機能していたかが問われる。医療機関における薬剤管理、職員のメンタルヘルス対策および医療安全体制の再点検が求められる事案といえる。 参考 1) 「不眠に悩み」患者の麻酔薬一部持ち去り自己注射 28歳医師処分(毎日新聞) 2) 不眠に悩む麻酔科医「患者にこんなに効くなら…」抜き取って自分に注射、患者には薄めて 川崎市立病院、懲戒免職(東京新聞) 3) 手術室離れて麻酔薬を自分に注射 「少しでも寝たかった」医師を免職(朝日新聞)

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専門医が総合診療を使って成長する秘訣――50代からの学び直しのコツを教育のプロに聞く【ReGeneral インタビュー】第6回

専門医が総合診療を使って成長する秘訣――50代からの学び直しのコツを教育のプロに聞く2018年の総合医育成プログラムの立ち上げ時、講師として関わったことをきっかけに、プログラム運営チームリーダーとして関わり続けている菅家 智史氏(福島県立医科大学 総合内科・総合診療学講座)。総合医育成プログラムのほかにも卒前から卒後まで一貫して総合診療教育に携わっている菅家氏に、プログラムの本質と、年齢を重ねてから飛躍する医師の共通点を聞きました。――総合医育成プログラムに関わるようになったきっかけを教えてください2018年に総合医育成プログラムを立ち上げるときに、講師の1人として声をかけていただいたのがきっかけです。その後、2020年以降の対面からオンラインへの移行、2025年には、同期型と非同期型にわけて集合研修時間の短縮といった、ほとんどすべての変遷に関わってきました。経歴としては2012年から福島県立医大におりまして、医学部での講義、初期研修医の教育、ローテート指導、専攻医の教育プログラム責任者など、卒前から卒後まで幅広く教育に携わっています。現場の困りごとに強くなる――臨床に直結する学びの仕組み――医学生・研修医の教育と比較して、総合医育成プログラムの特徴は?一番の違いは、実臨床に即した内容に絞っていることです。 医学部では理論的な講義が多く、専攻医では高度専門的な知識や技術に関する研修が中心となりますが、このプログラムは “現場で困るところ”を確実に扱うこと、未経験の領域でも診療に踏み出せる内容を大切にしています。例えば耳鼻科では、鼻血が止まらない、整形外科なら怪我やねんざ、それから動物にかまれたなど、医学部でもあまり学ばないのに、実臨床で遭遇すると対応に困るようなものを多く扱っています。各領域の講義はプライマリ・ケアの現場のニーズをよく知っている専門医の先生にお願いし、日本プライマリ・ケア連合学会のプロジェクトチームで細かく内容調整して作っています。――未経験の領域でも取り組みやすい工夫とは、具体的にどのようなことをされているのでしょうか医学部卒業後、初めてその領域を学ぶ方を前提に講義を構成しています。言い換えると、専門の方が聞くと“つまらない”くらいのレベル感です。そんなに?と思われるかもしれませんが、それが狙いです。 私たちは、できるだけ総合的な診療に携わってくださる先生方を増やしたい。そのためには、専門の先生からみたら初歩的だと思えることを、安心して学び質問してもらえる環境がとても大切だと考えています。基本的であり実践的な内容を勉強し、質問を正直にぶつけられる。それがこのプログラムの最大の強みだと思っています。――なぜ質問を重視されるのでしょうかわからないことを身につけていただくのが、このプログラムの役割だからです。そして、わからないことは悪いことではありません。どのテーマでも、お1人の困りごとは、ほかの受講生の困りごとでもあります。ですから、オンラインで集まる同期型学習では、講師の先生方には内容を少し削ってでも質疑の時間を確保できるようお願いしています。1テーマ3時間のセッションで60〜70の質問をいただくので、当日答えきれないときには後日テキストなどで回答いただいています。そのくらい、質問に価値を置いています。わからないことを恥ずかしいと思ったら学びは深まりません。毎年、いただいた質問や困っている事柄を伝えてもらうことでプログラムの内容に反映し続けています。だから、恥ずかしいといったことは一切考えずに、どんどん疑問をぶつけてほしいと思います。年齢を味方にする学び方――受講者に共通する伸びる力――受講生に共通する資質はありますか?これまでの受講者平均年齢は50代付近ですが、受講する皆さんの共通は「何か新しいこと、自分が今まで知らなかったことを使ってチャレンジする気持ち」を持っておられることだと思います。自分は総合診療をしてみたい!と飛び込んでみて、うまくいかなくて試行錯誤して、診療に出ておられる方。今もプログラムの中身も使って頑張っていますというような方。ご自身のおかれた状況で、自分ができることやろうと思う方は、プログラムを上手に使っていただけると思います。プログラムの中で、「診療に活用できる道具を増やしましょう」という雰囲気でお伝えすることが多いのですが、各分野の知識も、ノンテクニカルスキルも道具です。道具が増えるとやれることも増えます。プログラムで道具を教えてもらったから使ってみようとチャレンジしていただけると、どんどん患者さんにとってもプラスになる効果が生まれるんじゃないかなと思います。――なるほど。とはいえ、新しいことを学びはじめることに二の足を踏む方も多かったのではないでしょうかそうですね、多くの受講生から、受講前は近くに似た考えの方がおらず、こんなことを考えていていいのかな?という不安があったということを聞いています。周りにそういう人がいないと尻込みしてしまいますよね。でも、この総合育成プログラムには同じような境遇の方が集まります。 一歩踏み出してみると、「似た思いの人がここにいた」「勇気づけられた」 という声がとても多いです。一歩踏み出しさえすれば、仲間がたくさんいます。ということをお伝えしたいですね。――受講者同士の交流も重視していると伺いましたはい、講師・受講生間だけでなく、受講生同士の相互作用を意識してライブ研修を組んでいて、ケーススタディやグループディスカッション、ロールプレイなど、受講生がお互いに学びを得る機会を多く作るよう意図しています。 たとえばロールプレイでは医師役・患者役・観察役を担い、「この言い方がよかった」「こういう話の持っていき方がよかった」といった具体的なフィードバックをし合ってもらいます。グループディスカッションでお互いに状況を知って悩みを相談したり、励ましあったりできて、背中を押してもらったというような感想もいただきます。2025年にライブ研修を6時間から3時間に短縮しましたが、それでも受講生同士の交流の密度や熱量を保つように毎年改善を続けています。専門医が“総合診療”を使いこなすためのマインドセット――受講後、総合診療の実践に移す際のハードルはありますか?どうしても、勉強したことと実践の間には、一歩分のハードルがあります。そこで、スモールステップを意識して講義内容を構成しています。「まずはここから」「これくらいならできる」「さらに踏み込めるときはこれもできる」と段階を示して、まずはひとつやってみようと、初めの一歩を踏み出しやすいようにしています。例えば小児科では、まずワクチン相談を受けてみる。受診した子どもの様子から“危ない/危なくない”の判断ポイントを押さえる。救急外来で帰せるかどうかを判断する。といった最初の段階にだけフォーカスした内容をお願いしています。最初から全部できなくてもまったく問題ありません。修了生の中塚先生が仰っていたように、「総合医育成プログラムで総合診療の地図を手に入れる」と思ってもらうといいかもしれません。――ご自身の専門と、総合診療スキルを両立して、うまく診療をされる方に共通することはありますか?物事を柔軟に捉えていただける方でしょうか。自分が今まで触れてこなかった概念や手法に出会ったときに「そういう考え方もあるよね」と、柔軟に考えられる方は、総合医育成プログラムで学んだことをご自身の診療に上手に活用いただけていると思います。専門診療と総合診療にはマインドセットの違いがある気がしていて、医師は医学で疾患を治療するだけじゃないという考え方を持っていただけると、ご自身の専門と同時に総合診療の道具をとてもうまく使っていただけると思います。――疾患を治療するだけではない、というのは総合診療のキーワードのように感じましたがいかがですかそうですね。疾患を治療するのが医師の仕事なので、当然行うべきものなのですが、ただそれだけではない。疾患を治療するだけだと対応が難しい患者は、社会にたくさんいらっしゃる。 そこで医学だけを道具にしていると、行き詰ってしまいます。そこで医学以外の道具があればできることが増える。それから、総合診療では他科の医師、看護師、そのほか医療者、地域や患者家族など、他の人の力を借りることも必要です。ノンテクニカルスキルコースで学ぶ、こういった道具は医学部でも専門医教育でもあまり扱いません。これらのスキルを身に付けることは、医師自身の働きやすさにもつながると思います。 累計500名の受講生とともに描く、次のステップ――今後の展望を教えてください同期型学習の相互交流や学習の熱量をさらに上げたいと思っています。 また、JPCAの学術大会でアルムナイ(卒業生)の集いを開催することも考えています。2018年の開始から500名ほどに受講いただいていますが、2020年からは完全オンラインで、受講生同士、実際にお会いしていない方がほとんどです。リアルに会う機会が新しい刺激になるのではないかと思っています。それから、プログラム以外に、総合診療を学びたい先生方へ、オーダーメイドの教育やコンサルティング、伴走の仕組みを整えていけたらと考えています。――受講を迷っている方へ、メッセージをお願いしますとにかく、一歩踏み出してください。私たちは全力でサポートします。一歩踏み出していただければ、多分、いや、絶対に、診療の幅を広げるお役に立てるプログラムです。

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第306回 「清潔な国」日本、なぜノロウイルス集団食中毒が起こるのか

INDEXノロウイルスによる大規模集団食中毒が発生食品管理に対する姿勢、日本は甘い?ノロウイルスによる大規模集団食中毒が発生大阪府熊取町で3月17日に小中学校向けの給食で提供されたパンに混入したノロウイルスを原因とする集団食中毒事件が発生した。最新の報道によると、同町教育委員会が3月24日までに把握した体調不良者は633人。原因であるパンを食べてからノロウイルスの潜伏期間内に発症したとみられるのは、うち302人だったという。2025年の食中毒統計(速報値:2026年3月2日までの報告)1)によると、同年の食中毒報告件数は1,176件、総患者数は2万4,854件。このうち発生件数の39.2%に当たる462件、患者数の74.7%に当たる1万8,566例の原因がノロウイルスである。同統計によれば、食中毒件数とそれによる患者数ともに4年連続で増加し、ノロウイルスによる患者割合が最も多い。ちなみに2025年のノロウイルスによる食中毒で最大規模だったのは、同年2月に兵庫県で発生した仕出し弁当を原因とした2,307例もの患者が発生した事例である。今回の熊取町の事例は、給食パンが原因の食中毒と断定される可能性が高く、302例に限定しても、昨年のワースト5に入る規模だ。これだけノロウイルスによる食中毒が多いのは、ご存じのようにこのウイルスが10~100個というごく少量で感染が成立してしまうことに加え、二枚貝を中心とする食品、感染した調理者を介した食品、接触・飛沫を通じたヒト・ヒト感染という感染経路の多様さ、アルコール消毒が効きにくいエンベロープ(脂質膜)を持たないウイルスであることなどが影響しているといわれる。熊取町のケースは、パン製造業者の従業員の便からノロウイルスが検出されていることから、前出の「感染した調理者を介した食品を通じた感染」に当たると考えられる。そして現状、ノロウイルス感染症には特異的な治療薬もワクチンも存在しない。これもノロウイルスの特性が影響している。そもそもこのウイルスは成熟したヒトの腸管上皮細胞でしか増殖しないため、実験室レベルでの培養がきわめて難しく、結果として動物モデルによるデータも乏しい。これではウイルスの増殖機構の解明、薬剤スクリーニング、ワクチン評価のいずれも入口からつまずいてしまうのだ。ここに22種類もの遺伝子型*があることで汎用ワクチンを開発しにくいという特徴も加わる。*遺伝子群GIIの場合結局のところ最大の対策は、汚染された食品を回避するという意味での“予防”となってしまう。しかし、これも実は一般人にとっては対策が事実上困難である。というのも、報告されているノロウイルス食中毒のほとんどは、仕出し屋を含む飲食店や給食施設から提供された飲食物、あるいは今回の熊取町の事例のような製造事業者が提供する食品・食材であるからだ。食品管理に対する姿勢、日本は甘い?こうなると、ノロウイルスによる食中毒を減らすためには、川上の事業者への規制を強化するしか方法がない。日本ならば、食品衛生法に基づく規制となる。実はこの点、日米欧ではかなり基準が異なり、欧米のほうが基準は厳しい。食品などを取り扱う事業者は、自ら食中毒の原因微生物による汚染や異物混入などのリスク要因を把握したうえで、原材料の入荷から製品の出荷に至る全工程のリスク要因の除去・低減するため、とくに重要な工程を管理し、製品の安全性を確保する手法「HACCP(ハサップ)」に基づく衛生管理が求められている。これは米国で開発された国際的な食品衛生管理手法で、日米欧ともに義務付けられている。しかし、法令やそれに基づく実態としての衛生管理は、日本の食品衛生法はかなり曖昧である。たとえば、同法第5条では「食品又は添加物の採取、製造、加工、調理、貯蔵、運搬、陳列及び授受は、清潔で衛生的に行われなければならない」とし、それを受けて通知・ガイドラインで下痢・嘔吐のある従業員を調理に従事させないことや手洗い・消毒の徹底、嘔吐物の適切処理を謳っている。これに対し、EUでは「食品取扱者で疾病・感染の疑いがある者は食品を取り扱ってはならない」旨を事業者の義務として明記している。米国になると、米国食品医薬品局(FDA)の食品規則により、ノロウイルスをはじめ具体的な病原体を明記し、それに伴う症状(ノロウイルスの場合は嘔吐・下痢症状)がある場合は現場からの即時排除とより強力な文言で規定している。また、同規則では該当する病原体の有症状者の復帰基準についても、症状消失後24時間以上(州により48時間)経過とし、さらには、食品施設で誰かが嘔吐または下痢などをした場合のクリーンアップ手順も具体的に定めているほどの念の入れようだ。ちなみにFDAの食品規則は法律ではなく、あくまでモデル規則であるため米国内の各州が採用して初めて法的拘束力を持つものだが、実際にはほぼ全州で採用されているため、事実上の全国標準として法的拘束力を有している。(表)食品衛生規制における日米欧の比較画像を拡大するさらに追加すると、ノロウイルスによる汚染の可能性のある二枚貝の代表格のカキの出荷に対する考え方も日本と欧米では異なる。日本ではスーパーなどの店頭に並ぶカキには「生食用」「加熱用」の2種類があるのはご存じだろう。これは保健所が海域の海水に含まれる大腸菌の量を検査し、生で食べても問題ないとされる海域でとれたカキを生食用、それ以外の海域でとれたカキを加熱用と分類している。これに対し、欧米では同じように大腸菌を指標とした海域検査を行い、海域ごとに出荷可否までも規制している。端的に言えば、日本の加熱用カキに該当するものの一部は、欧米では出荷すら認められない。日本がここまで厳格でないのは、あくまで推測になるが、「従来から日本の法規制などが緩やかな条文による包括規定に行政指導を組み合わせる柔軟運用を軸としているから」だと考えられる。しかしながら、前出のように最近の食中毒統計での件数増加を見る限り、そろそろ欧米型の規制に乗り出すべき時期に差し掛かっているようにも思えるのだが…。参考1)厚生労働省:食中毒統計資料

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呼吸器感染症やアレルギーに対する点鼻ワクチン、動物実験で有望な結果

 注射を何本も打たれるのが嫌でワクチン接種を避けてきた人にとって、希望の持てるニュースがある。米国の主要5大学の科学者たちが、将来的にはインフルエンザや新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、細菌性肺炎、さらには一般的なアレルギーにまで効果を発揮し得る点鼻スプレー型ワクチンの開発に大きな一歩を踏み出したのだ。このワクチンのマウスでの実験に携わった米スタンフォード大学医学部の微生物学・免疫学教授であるBali Pulendran氏は、「これは医療のあり方を一変させる可能性がある」と語っている。この研究の詳細は、「Science」に2月19日掲載された。 現行のワクチンは、病原体の一部をあらかじめ免疫に提示することで、実際の感染に備えさせるものだ。しかし、多くのウイルスは瞬く間に変異してしまうため、追加接種やインフルエンザワクチンのような毎年の接種が必要とされている。Pulendran氏は、「ヒョウが模様を変えるように、ウイルスは表面の抗原を容易に変えてしまう」と説明する。 一方、「GLA-3M-052-LS+OVA」と名付けられた今回のワクチンは、感染時に免疫細胞同士が交わすシグナルを模倣することで体の主要な防御機構を総動員し、より長く続く協調的な免疫反応を引き起こすように設計されている。具体的には、この点鼻ワクチンは、脂質から成る粒子であるリポソームを用いて、免疫を強く刺激するTLR4(Toll様受容体4)およびTLR7/8のリガンドと、モデル抗原である卵白由来のタンパク質、オボアルブミンを組み合わせたもので、鼻腔に投与することで気道や肺の免疫系を直接活性化する。 実験では、マウスの鼻腔にワクチンを滴下投与し、一部のマウスには1週間おきに複数回投与した。その後、呼吸器系ウイルスに曝露させた。その結果、これらのマウスは、新型コロナウイルスやSARS(重症急性呼吸器症候群)コロナウイルス、コウモリ由来のSARS関連コロナウイルスであるSHC014-CoVなどの複数のウイルスだけでなく、黄色ブドウ球菌やアシネトバクター属菌などの細菌、さらにはダニなどのアレルゲンに対しても3カ月以上続く防御効果を示した。一方、未接種のマウスでは著しい体重減少と重症化が認められ、死亡例も多く確認された。 Pulendran氏は、「最初は突拍子もないアイデアに思えた。こんなことが可能だと本気で考えていた人はほとんどいなかったと思う」と話す。しかし、実際に成果は得られた。同氏は、「ワクチンを投与された肺の免疫システムは、ウイルスに対処する準備が万全であり、通常は2週間程度かかるウイルス特異的T細胞や抗体による適応免疫反応をわずか3日で起こすことができるのだ」と述べている。 とはいえ、すぐに現行のワクチン接種をやめられるわけではない。動物実験の結果がそのまま人間に当てはまるとは限らず、GLA-3M-052-LS+OVAについても、これからヒトを対象にした試験が必要である。しかし、ヒトでも同様の結果が得られれば、将来は毎年必要な複数の注射をこの1本の点鼻ワクチンに置き換えられる可能性がある。また、新たに出現したパンデミックを引き起こし得るウイルスに対して迅速に防御を提供できる可能性もあるという。研究グループは、ヒトでの試験が成功すれば、5〜7年以内に「呼吸器系ウイルスに対するユニバーサルワクチン」が利用可能になる可能性があるとしている。 なお、今回の研究には、スタンフォード大学のほか、エモリー大学、ノースカロライナ大学チャペルヒル校、ユタ州立大学、アリゾナ大学の研究者も参加した。

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第287回 医師国試合格率91.6%と低下、新卒合格者も9千人割れ/厚労省

<先週の動き> 1.医師国試合格率91.6%と低下、新卒合格者も9千人割れ/厚労省 2.はしか患者100人超、若年層中心に増加、感染拡大に警戒/厚労省 3.移植医療を集約化と体制強化、報酬を4倍加算、逼迫した現場を支援/厚労省 4.「新たな地域医療構想」機能選択で病院の再編・集約本格化/厚労省 5.2027年度専攻医シーリング決定、偏在是正へ都道府県連携強化/厚労省 6.薬剤アレルギー既往見落としで死亡事故が発生、市民病院を提訴/愛知県 1.医師国試合格率91.6%と低下、新卒合格者も9千人割れ/厚労省厚生労働省は2026年3月16日、第120回医師国家試験の合格者を発表した。受験者9,980人のうち合格者は9,139人で、合格率は91.6%と前回から0.7ポイント低下した。合格者数は前年より347人減少し、とりわけ新卒合格者は8,716人(合格率94.7%)と313人減少となり、3年ぶりに9,000人を下回った。医師供給動向に変化が生じている可能性が示唆される。試験は2026年2月に実施され、合格基準は必修問題で200点満点中160点以上、一般・臨床問題で300点満点中224点以上、禁忌肢3問以下とされた。近年と同様の基準であるが、合格率の微減と新卒者数の減少が今回の特徴となっている。大学別では、自治医科大学が新卒・既卒ともに合格率100%を達成したほか、北海道大学、京都大学も新卒で100%を記録した。平均合格率は国立93.0%、公立93.5%、私立92.5%と大きな差はないものの、既卒者を含むその他区分では54.8%と低水準にとどまった。男女別では女性92.4%、男性91.1%と女性が上回った。合格者数はコロナ禍以降、回復傾向にあったが、今回の減少は医学生数の変動や受験動向の影響が考えられる。医師偏在や地域医療構想の議論が進む中、今後の医師供給の量と質のバランスが一層重要となる。とくに新卒者数の減少は初期研修医確保にも影響を与える可能性があり、今後もこの傾向が続けば、各医療機関や自治体にとっても注視すべき事態となる。 参考 1)第120回医師国家試験の合格発表について(厚労省) 2)第120回医師国家試験の学校別合格者状況(同) 3)第120回医師国家試験合格者の状況(大学別合格者数)-9,139人が合格、合格率は91.6%(医事新報) 4)医師国家試験、合格率91.6%-新卒合格者は3年ぶりに9千人下回る(CB news) 5)2026年医師国家試験大学別合格率…合格率100%は自治医科大学(リセマム) 2.はしか患者100人超、若年層中心に増加、感染拡大に警戒/厚労省国内の麻疹(はしか)報告数が増加し、厚生労働省は注意喚起を強めている。2026年第9週までの累計報告数は87例、第10週時点では100例に達し、新型コロナ禍以降で最多となった。前年同期の22例を大きく上回る水準で、感染拡大の兆しがみられる。近年、わが国では土着株による感染は確認されておらず、2015年には世界保健機関(WHO)から排除状態と認定されている。現在の流行は、海外から持ち込まれたウイルスを起点に、国内で2次感染が広がる構図となっている。事例として、愛知県の高校での集団感染をはじめ、各地で散発的な発生が報告されており、都市部を中心に感染が拡大している。患者の約7割は10~30代で、ワクチン接種歴の不十分な層の影響が示唆されている。麻疹は空気感染を起こす極めて感染力の高い疾患であり、同一空間にいるだけで感染する可能性がある。発熱、咳、鼻水に続き発疹を呈し、重症例では脳炎を合併するリスクもある。その一方で、予防の柱であるMRワクチンの接種率は低下傾向にある。2024年度の接種率は1期92.7%、2期91.0%と、目標の95%を下回った。コロナ禍以降の接種控えが影響しているとみられ、集団免疫の維持に懸念が生じている。厚労省は、渡航前の接種歴確認や帰国後の健康観察を呼びかけるとともに、疑わしい症状がある場合は事前連絡のうえ医療機関を受診するよう求めている。感染再拡大を防ぐには、早期診断とワクチン接種率の回復が急務である。 参考 1)麻疹報告数、コロナ禍以降最多 厚労省が注意喚起(MEDIFAX) 2)はしか患者数、2026年累計100人に 25年同期22人を上回る(日経新聞) 3)感染症発生動向調査週報 2026年第9週第9号(国立健康危機管理研究機構) 3.移植医療を集約化と体制強化、報酬を4倍加算、逼迫した現場を支援/厚労省厚生労働省は、脳死下臓器提供の増加を背景に、移植医療の集約化と体制強化に舵を切った。今回の診療報酬改定で、多くの移植手術を担う施設を「拠点病院」として位置付け、人的・設備面の支援を検討する方針を打ち出している。臓器提供数は近年増加し、2025年には150例を超えたが、心臓や肺、肝臓など複数臓器の同時対応が求められるため、実施可能な施設は一部大学病院に限られている。その一方で、突発的な手術対応により手術室や看護師の確保が困難となり、受け入れ断念例も生じている。こうした現場の逼迫は深刻で、東京大学病院では移植件数が年間100例を超える中、ICUベッドに余裕があっても人員不足で受け入れられない状況や、病院経営への負担が指摘されている。実際、移植医療は従来、手術準備や人員確保のコストが大きく、病院側の持ち出しが問題となっていた。このため2026年度診療報酬改定では、臓器移植実施体制確保加算が新設され、手術料の実質4倍相当の評価が行われる。大学病院の試算では、従来は肺移植1例当たり約400万円の赤字だったが、新加算によりほぼ解消可能とされる。また、ドナーコーディネーターの業務も評価対象とし、院内での同意取得体制強化を促す。背景には、体制不足により移植を受けられなかった患者が2024年に延べ662人に上った現状がある。国立大学病院全体でも今回の改定により年間443億円の増収が見込まれ、赤字解消に寄与すると評価されている。しかし、紹介・逆紹介要件の厳格化による減収も予測され、経営改善には引き続き対応が求められる。移植医療は高度化・集約化が不可避な領域であり、今後は拠点化と財政支援を軸に、持続可能な提供体制の構築が問われる局面に入ったと言える。 参考 1)臓器移植支援へ一部病院を拠点化 厚労省、東大病院「経営苦しく」(朝日新聞) 2)脳死者の臓器移植に診療報酬加算へ…ドナーコーディネーターの働きも評価、報酬を手厚く(読売新聞) 3)国立大学病院長会議 26年度診療報酬改定年間443億円増収で赤字解消へ 外科医療確保や臓器移植加算を評価(ミクスオンライン) 4.「新たな地域医療構想」機能選択で病院の再編・集約本格化/厚労省厚生労働省は、2040年を見据えた「新たな地域医療構想」のとりまとめ案を示し、2028年度末までに各医療機関の「主たる機能」を明確化する方針を打ち出した。従来の病床機能報告に加え、新たに医療機関機能報告を導入し、各病院が担う役割を整理することで、再編・集約化と病床削減を一層進める構えである。新構想では、「医療機関の機能を急性期拠点」「高齢者救急・地域急性期」「在宅医療等連携」「専門等機能」の4区分に整理し、各施設が2040年に向けて担う機能を選択・報告する。複数機能の併存は認めつつも、急性期拠点については手術件数や救急対応などの実績要件を設け、実質的に高度急性期病院の集約を図る。人口20~30万人に1施設程度とする考え方が示され、全国では400~600施設に集約される見通しである。また、人口減少地域では構想区域の広域化を求め、より広い圏域で医療資源を維持する方向性も示された。その一方で、急性期以外の救急医療や夜間手術機能についても集約が検討されており、地域によってはアクセス低下への懸念が指摘されている。病床数の算定では、在宅医療の強化や早期リハビリによる在院日数短縮、医療DXによる効率化を前提に必要病床数を低く見積もる仕組みが採用される。急性期病床の稼働率も78%から84%へ引き上げられ、将来的な病床削減圧力が強まる見通しである。さらに、リハビリテーションでは、入院から在宅までの連続的な提供体制を支える「地域インフラ」として位置付けられ、栄養管理や口腔ケアとの一体的な取り組みも明記された。2026年10月からの機能報告を経て、各都道府県が調整を行い、医療機関ごとの役割分担が具体化する。医療提供体制の再構築が本格化する中、地域医療への影響が注視される。 参考 1)新たな地域医療構想に関するとりまとめ(厚労省) 2)新たな地域医療構想とりまとめ案 28年度末までに病院の「主な機能」を決定(保団連) 3)「新たな地域医療構想」とりまとめを了承、リハビリテーションは「地域のインフラ」へ(PT-OT-ST.NET) 5.2027年度専攻医シーリング決定、偏在是正へ都道府県連携強化/厚労省厚生労働省は、2026年3月18日に開催した「医道審議会医師専門研修部会」で、2027年度に専門研修を開始する専攻医の採用上限、いわゆるシーリング数案を了承した。新たに加算対象となった都道府県診療科から提出された指導医派遣実績を踏まえ、日本専門医機構が算定したもので、委員から大きな異論は出なかった。今後、6月下旬以降に都道府県へプログラム情報を提供し、各都道府県知事の意見や厚生労働大臣の要請を反映した修正を経て、11月の募集開始を予定している。今回のシーリングでは、最新の必要医師数と足下の医師数を用いて対象都道府県を設定し、特別地域連携プログラムと都道府県限定の連携プログラムを統合した点に特徴がある。特別地域連携プログラムの受け入れ可能数は全領域で採用上限を上回り、地域偏在是正に向けた受け皿整備は一定程度進んだ。その一方で、通常プログラム加算は実績に応じて付与されるが、加算上限を下回る領域もあり、制度運用はなお調整段階にある。あわせて部会では、2040年を見据えた医療需要の変化に対応する専門医養成も論点となった。85歳以上人口の増加、高齢者救急の拡大、生産年齢人口の減少を踏まえ、各基本領域学会に対し、将来重要となる疾患や患者像、専門医制度上の課題を尋ねるアンケート調査を実施する方針が示された。専攻医以降のキャリアチェンジやリカレント教育の必要性も指摘された。さらに、医師偏在対策では都道府県、大学医学部、大学病院の連携強化が不可欠とされた。地域枠、広域連携型臨床研修、専門研修連携プログラム、総合診療医育成などを医師確保計画に明確に位置付け、地域定着を後押しする方向で議論が進む。専攻医シーリングは、単なる採用枠調整にとどまらず、地域医療を支える医師養成全体を再設計する局面に入った。 参考 1)令和7年度第5回医道審議会医師分科会 医師専門研修部会(厚労省) 2)2027年度の専攻医シーリング数が決定、募集開始に向けた調整進む(日経メディカル) 3)医師偏在是正策の強化に向け「都道府県・大学医学部・大学病院の連携」をこれまで以上に強化せよ-医師偏在対策検討会(Gem Med) 6.薬剤アレルギー既往見落としで死亡事故が発生、市民病院を提訴/愛知県愛知県の西尾市民病院で診療を受けた70代女性が、薬剤アレルギー既往のある薬を処方・服用後に死亡したとして、遺族が市と調剤薬局を相手取り約2,541万円の損害賠償を求め提訴した。訴状によれば、女性は2025年2月に受診し、処方箋を受け取り、院外薬局で調剤された薬剤を服用後、約41日後に死亡した。遺族側では、医療機関はアレルギー既往歴を把握可能であったにもかかわらず看過したと主張している。その一方で、市側はアレルギー薬剤の処方自体は認めつつも、死亡との因果関係には争いがあるとしている。この事件は単なる確認漏れが原因ではなく、電子カルテおよびオーダリングシステムにおけるアレルギー情報の管理・共有体制が問題の根幹にある。日本医療機能評価機構は、医療安全情報の分析レポートで、アレルギー情報が「登録されているが参照されない」「画面上で視認性が低い」「更新が不十分」といった要因により、処方時に活用されない事例が発生していることを繰り返し指摘している。また、院内で把握されていた情報が院外薬局に十分伝達されないケースや、薬局側での最終確認が機能しなかった事例も報告されている。院外処方が一般化してから、医療機関と薬局の間の情報連携不足は構造的リスクとなっており、患者申告に依存した運用には限界がある。電子カルテ上のアレルギー情報については、入力の標準化、警告アラートの強化、処方時の確認が不可欠である。このためマイナ保険証の活用のほか、2重3重のチェック体制をどのように実効性ある形で運用するかが問われている。今回の訴訟は、医療安全について「情報があること」と「実際に使われること」の乖離を改めて浮き彫りにした。現場での確認フローの見直しなど再発防止策が求められる。 参考 1)「薬のアレルギーで死亡」70代女性遺族、愛知県西尾市などを提訴(中日新聞) 2)電子カルテ・オーダリングシステムを用いた薬剤アレルギーの情報共有に関連した事例(日本医療機能評価機構) 3)電子カルテ・オーダリングシステムを用いた薬剤アレルギーの情報共有に関連した事例(日本医療機能評価機構)

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第304回 Lancet誌が怒りあらわに、ケネディ氏に向けたEditorialを掲載

INDEX保健福祉省長官が公衆衛生を破綻に追い込む危険な結果を導き出す愚策感染症の流行で結果は明確保健福祉省長官が公衆衛生を破綻に追い込む前回は米国によるイラン攻撃の影響を取り上げたが、米国の無茶苦茶ぶりはほかでも進行中である。何かといえば、昨年2月に保健福祉省長官に就任したロバート・ケネディ・ジュニア氏のことである。過去に本連載でもケネディ氏によるLancet誌、NEJM誌、JAMA誌の3誌の腐敗呼ばわり、米国疾病予防管理センター(CDC)が推奨する小児向けワクチン接種スケジュールの大幅縮小、CDCにワクチン政策の助言・提案を行う外部専門家機関・ACIP(予防接種の実施に関する諮問委員会)の委員全員解任とワクチン懐疑派委員への入れ替え、mRNAワクチン開発への研究支援の縮小、自分の主張と反する科学的研究論文を掲載したジャーナルへの論文撤回要請などを取り上げてきた。しかし、ケネディ氏の傍若無人ぶりには、いよいよ目を背けたくなる。ケネディ氏の長官就任1年を経た2026年2月28日付のLancet誌407巻では、表紙にデカデカと“The destruction that Kennedy has wrought in 1 year might take generations to repair, and there is little hope for US health and science while he remains at the helm.”(ケネディがこの1年で引き起こした破壊は、修復するのに何世代もかかるかもしれない。そして彼が指揮を執り続ける限り、米国の保健と科学に希望はほとんどない)と謳い、冒頭では「Robert Kennedy Jr:1year failure(ロバート・ケネディ・ジュニア:1年間の失敗)」と題したEditorialが掲載された1)。詳細は省くが、これまでの数々の悪行を取り上げ、「ジャンクサイエンスや異端の信念が正当な説明もなく重視されている」「誤情報を拡散し、国の最も弱い立場にある人々を犠牲にして政治的な政策を推進し続けている」「議会から自身の決定について説明を求められても、彼は逃げ腰で攻撃的な態度をとってきた」と徹底的にこき下ろしている。危険な結果を導き出す愚策前述のようにケネディ氏は、小児向けワクチン接種スケジュールの大幅縮小により、従来は小児全員に推奨されていたインフルエンザ、B型肝炎、A型肝炎、ロタウイルス、髄膜炎菌、新型コロナウイルスの6種類のワクチンを推奨から外し、「高リスク群のみ」または「医師と個別に相談して決定」という枠組みに変更した。また、2025年10月、ケネディ氏が刷新したACIPは、「MMRV(麻疹・おたふくかぜ・風疹・水痘)ワクチン」の4歳未満への定期接種の推奨を取り消した。これにより州レベルでは、フロリダ州が接種義務解除に踏み切ったほか、低所得者層向けの無料接種プログラム(VFC)からMMRVワクチンが外れ、接種のハードルが上がった。そしてこれらの影響と思われる現実は深刻である。感染症の流行で結果は明確CDCによると、米国での2025年の麻疹感染報告は2,283例、2026年(3月6日時点)は1,281例で、今年はわずか3ヵ月で前年の半数超に達している。2024年が285例なので昨年は前年比で9倍弱、感染報告が増加したことになる。もちろんMMRVワクチンの非推奨は2025年秋のことなので、これが同年の麻疹患者増加の主要な原因とまでは言えない。しかし、2026年の急速な感染報告数の立ち上がりを見る限り、ケネディ氏の政策の影響は徐々に顕在化していると言わざるを得ない。しかも、ケネディ氏はこうした危機的な状況に対して何も具体的な対策を講じてはおらず、保健福祉省の公式声明でもコメントしていない。そもそも、ケネディ氏は以前からワクチン懐疑派であることは有名だが、昨年3月のFOX Newsでのインタビュー2)では麻疹ワクチンに関し、「ワクチンの効果は年間約4.5%低下する」「麻疹ワクチン接種が毎年死者を出している」と科学的根拠の乏しい発言をしている。ちなみにこの当時、麻疹が流行していたテキサス州では、米国では10年ぶりとなる麻疹による死者が発生し、2025年全体で麻疹による死者は3例が確認され、いずれもワクチン未接種者だったことがわかっている。この数字から算出される2025年の米国の麻疹感染者の死亡率は0.1%強。一般に先進国の麻疹感染者の死亡率は0.01%程度と言われるが、それより1桁高い数字だ。このままでは2026年はもっと悲惨なことになるかもしれない。また、インフルエンザについても懸念が生じ始めている。CDCの報告では、2025~26年シーズンの小児のインフルエンザによる死者は暫定値で90例。2024~25年シーズンの293例と比べればかなり少ない。ケネディ氏の考えに基づき、インフルエンザワクチンの接種推奨が外された中で、この数字は不思議に思われるかもしれない。ここはおそらく米国小児科学会(AAP)のケネディ氏に抗った努力の成果かもしれない。2025年9月にはAAP独自でインフルエンザワクチンの接種を推奨する声明を発表した3)ほか、今年1月にはアメリカの保険業界団体であるAHIP(America's Health Insurance Plans)と直接交渉し、インフルエンザワクチンなど推奨から外されたワクチン接種を2026年末までは無償提供を維持する旨の共同声明を発表している。もっとも2026年2月最終週の死者報告は11例だが、それ以前の3シーズンでは同時期に死者はいない。これも踏み込んで解釈すれば、ケネディ氏の政策決定の負の効果が表れているとは言えないだろうか。いずれにせよ国外では戦争、国内ではパンデミックというまさに内憂外患状態が今の米国である。ボーダレス化が一層加速する現在の世界で、この禍に日本が無縁でいられるだろうか?参考1)The Lancet. Lancet. 2026;407:825.2)FOX NEWS:We will make sure anyone who wants a vaccine can get one, says HHS secretary3)Committee on Infectious Diseases. Pediatrics. 2025;156:e2025073620.

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季節性インフルエンザとニパウイルス感染症の現状/感染症クォータリーレポート

 ケアネットライブにて4半期に1回実施している感染症クォータリーレポート。2026年第1クォーターの報告を期間限定で公開する。 感染症クォータリーレポートでは感染症専門医である国立国際医療研究センター 国際感染症センターの石金 正裕氏が、世界の病原微生物の流行状況を4半期ごとにレポートしている。 本年(2026年)の第1クォーターでは、季節性インフルエンザ(25/26)とニパウイルスを取り上げる。 前編は第2波が報告されている季節性インフルエンザの状況についての紹介。 例年と比較して早期に始まった結果、2回目の流行も例年より早期に始まっている。2回目の流行の型、現在までのワクチンの有効性などを解説いただいた。 後編はインド東部での感染例が確認されているニパウイルスについての紹介。 その死亡率の高さからマスコミで大きく取り上げられることが多い。実際のウイルスの特性や日本での感染発生の可能性などを解説いただいた。(ケアネット)番組はこちらから!CareNeTVアーカイブページ(3月11日21時~18日24時まで 前後編無料公開)

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テコビリマト、エムポックス感染者の臨床転帰を改善せず/NEJM

 成人のクレードIIエムポックスウイルス感染者において、p37エンベロープタンパク質を標的とする抗ウイルス薬テコビリマトは、プラセボと比較して臨床的回復までの期間を短縮せず、疼痛の軽減やウイルス除去の促進にも寄与しないことが、米国・コロンビア大学アービング医療センターのJason Zucker氏らSTOMP/A5418 Investigatorsが行った「STOMP/A5418試験」で示された。テコビリマトは、天然痘の治療薬として米国食品医薬品局(FDA)の承認を得ているが、前臨床試験などの結果に基づきエムポックスの治療薬候補として注目を集めていた。研究の成果は、NEJM誌2026年2月26日号で発表された。7ヵ国の無作為化プラセボ対照第III相試験 STOMP/A5418試験は、日本を含む7ヵ国の49施設で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験(米国国立アレルギー感染症研究所[NIAID]の助成を受けた)。2022年9月~2024年10月に、年齢18歳以上、検査で確認されたクレードIIエムポックスウイルス感染者344例(年齢中央値34歳[四分位範囲[IQR]:28~40]、男性339例[99%])を登録した。 被験者は、テコビリマト(232例)またはプラセボ(112例)を、14日間経口投与する群に無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、time-to-event解析で評価した臨床的回復とし、すべての皮膚病変がかさぶたを形成し落屑して治癒に至り、すべての肉眼的な粘膜病変が治癒するまでの期間と定義した。主要・副次アウトカムに差はない 336例が活動性の皮膚または粘膜病変を有しており、主解析の対象となった。症状発現から試験登録までの日数中央値は8日(IQR:6~10)、登録時の病変数中央値は9個(IQR:4~18)であった。122例(35%)が直腸炎を、116例(34%)が重度の疼痛を有しており、HIV陽性の337例のうち117例(35%)が「HIVと共に生きる(living with HIV)」の状態で、78例(23%)は少なくとも1回の天然痘またはエムポックスワクチンの接種を受けていた。 29日目までの、臨床的回復の推定累積達成率は、テコビリマト群が83%、プラセボ群は84%であった。臨床的回復の競合リスクハザード比(HR)は0.98(95%信頼区間[CI]:0.74~1.31)であり、両群間に有意な差を認めなかった(p=0.89)。 副次アウトカムについては、ベースラインで重度疼痛を有していた患者における5日間の治療後の疼痛強度の軽減(群間差:0.1ポイント、95%CI:-0.8~1.0)、29日目までの病変の完全治癒(競合リスクHR:0.97、95%CI:0.75~1.26)、皮膚病変分泌物中のウイルスDNA消失(8日目の群間差:12%ポイント[95%CI:-2~26]、15日目の群間差:1%ポイント[95%CI:-10~13])のいずれにも、両群間に有意な差はなかった。Grade3以上の有害事象:4%vs.3% Grade3以上の有害事象は、テコビリマト群で4%(12/275例)、プラセボ群で3%(4/136例)に発現し、両群間に実質的な差はみられなかった(群間差:1%ポイント、95%CI:−5~5)。重篤な有害事象はそれぞれ6例(2%)および2例(1%)に発生した。死亡例の報告はなかった。 著者は、「本研究の結果は、クレードIエムポックスを対象としたPALM007試験の知見と一致する。これらの知見を統合すると、テコビリマトはクレードIおよびIIエムポックスに対する臨床的有効性を欠くことが示唆され、エムポックス治療のための治験薬を評価する無作為化対照比較試験の必要性を強調すべき状況にあると考えられる」としている。

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第285回 診療科名に「睡眠障害」追加へ 18年ぶり見直し、受診導線改善狙う/厚労省

<先週の動き> 1.診療科名に「睡眠障害」追加へ 18年ぶり見直し、受診導線改善狙う/厚労省 2.MMRワクチン承認へ、麻疹再拡大で接種体制強化が課題に/厚労省 3.急性期病院の要件厳格化 救急・手術実績で拠点化進める/厚労省 4.医師偏在対策が次の段階へ 地域医療構想と医師養成を一体で見直し/厚労省 5.社会保険料抑制へ制度改革 OTC類似薬と高額療養費が焦点/政府 6.美容クリニックの再生医療で訴訟相次ぐ 安全性と説明責任が焦点に 1.診療科名に「睡眠障害」追加へ 18年ぶり見直し、受診導線改善狙う/厚労省厚生労働省は、医道審議会医道分科会の専門部会で、医療機関が看板や広告で掲げる診療科名に「睡眠障害」を追加することを了承した。診療科名の見直しは2008年以来で、政令改正を経て、今春にも施行される見通し。医療機関は「睡眠障害内科」「睡眠障害精神科」など、既存の基本診療科名と組み合わせた形で標榜できるようになる。診療科名は医療法に基づき規制されており、医療機関が自由に名乗ることはできない。現在は「内科」「外科」「小児科」など約20の基本診療科名に加え、「糖尿病」「腫瘍」など疾患名や臓器名を組み合わせる形で標榜が認められている。今回の見直しで「睡眠障害」もこの組み合わせ名称の1つとして追加される。背景には、睡眠に関する医療ニーズの拡大がある。不眠症や睡眠時無呼吸症候群、過眠症など睡眠障害は多様で、成人の約5人に1人が何らかの睡眠問題を抱えるとされる。その一方で、どの診療科を受診すればよいか、わかりにくいことから受診が遅れるケースも多いとされ、日本睡眠学会が診療科名の追加を要望していた。睡眠障害の診療は内科、精神科、耳鼻咽喉科など複数の領域にまたがる。精神科受診への心理的抵抗から適切な診療につながるまで時間を要する例もあり、診療科名として明示することで受診先の選択が容易になり、早期診断や治療につながることが期待されている。一方、制度上は専門資格がなくても「睡眠障害科」を標榜できるため、専門性を伴わない医療機関が患者集めを目的に掲げる可能性も指摘されている。睡眠障害治療では、睡眠薬の長期使用による依存や離脱症状の問題もあり、専門的な診断や治療体制の整備が課題とされる。日本睡眠学会の専門医は約660人にとどまり、地域偏在も大きい。診療科名の追加を契機に、専門医育成や診療体制整備をどう進めるかが今後の課題となる。 参考 1) 第8回医道審議会医道分科会診療科名標榜部会(厚労省) 2) 病院の診療科名に「睡眠障害」追加 厚労省部会が了承(日経新聞) 3) 「睡眠障害」の診療科名追加を了承、今春にも導入…通院先選びの利便性向上期待(読売新聞) 4) 「睡眠障害」診療科名に追加へ、受診の目印に 08年以来の見直し(朝日新聞) 2.MMRワクチン承認へ、麻疹再拡大で接種体制強化が課題に/厚労省厚生労働省は3月2日に開かれた薬事審議会医薬品第二部会で、麻疹(はしか)、おたふくかぜ、風疹を防ぐ3種混合ワクチン(MMRワクチン)の製造販売承認を了承した。開発した第一三共の製品「ミムリット皮下注用」が正式に承認されれば、わが国で使用可能なMMRワクチンは約30年ぶりとなる。今後、定期接種に組み込むかどうかの検討が進められる。わが国では1989年にMMRワクチンが導入されたが、おたふく風邪成分に関連した無菌性髄膜炎の報告が相次ぎ、1993年に使用が中止された経緯がある。今回のワクチンは、無菌性髄膜炎の発生頻度が極めて低い株を使用しており、臨床試験でも重大な副作用は確認されていないとされる。海外では100以上の国・地域でMMRワクチンが定期接種として導入されており、わが国でも接種回数の減少など接種体制の効率化が期待される。その一方で、麻疹の感染は国内外で拡大の兆しを見せている。国内では愛知県で高校を中心に感染が広がり、2026年に入ってすでに20例以上の感染が確認された。東京都や埼玉県、神奈川県、岐阜県、鹿児島県などでも散発的な患者が報告され、医療機関や商業施設で不特定多数と接触した可能性のある事例も相次いでいる。海外渡航歴のない患者も複数確認されており、地域内感染の可能性も指摘されている。麻疹は、空気感染で感染する極めて感染力の強いウイルス感染症で、発熱や咳、結膜充血などの症状の後に高熱と発疹が出現する。肺炎や脳炎を合併すると重症化することがあり、ワクチン接種が最も有効な予防策とされる。海外でも流行は深刻化している。米国では、今年に入り約2ヵ月で1,100例以上の感染が報告され、前年の年間患者数を上回る可能性が指摘されている。患者の大半はMMRワクチン未接種、または2回接種を完了していない人だった。米疾病対策センター(CDC)はワクチン接種を改めて呼びかけている。国内でのMMRワクチン承認は、麻疹対策の強化に向けた制度的転換となる可能性がある。麻疹排除状態の維持には、2回接種率の向上とともに、集団免疫を維持するためのワクチン政策の整備が重要となりそうだ。 参考 1) 新薬等15製品が承認へ 第一三共のMMRワクチン・ミムリットなど 薬事審・第二部会が了承(ミクスオンライン) 2) 麻疹・おたふく・風疹の3種混合ワクチン承認へ…かつて報告された無菌性髄膜炎の発生頻度、極めて少なく(読売新聞) 3) はしか感染の20歳代男性、2月21日に日本医科大付属病院で不特定多数と接触か…東京都が注意呼びかけ(同) 4) 愛知県内で新たに2人が「はしか」に感染(NHK) 5) 米はしか感染 2カ月で1、100人 高水準だった去年の年間2,300人を上回る見通し(東日本放送) 6) 米CDC所長代理、はしかワクチン接種呼びかけ(ロイター) 3.急性期病院の要件厳格化 救急・手術実績で拠点化進める/厚労省令和8(2026)年度の診療報酬改定の詳細が明らかになってきた。今回の改定では、急性期入院医療の評価軸が「病棟単位」から「病院全体の急性期機能」へと変更され、実質的に急性期の担い手は急性期A、看護・多職種協働加算を組み合わせた急性期B、急性期1、同様の急性期4に集約される流れが強まった。厚生労働省は、3月5日に「基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」として通知を発出し、その中で急性期病院Bの実績要件として救急搬送1,500件以上、または500件以上+全麻手術500件以上などを示し、さらに急性期総合体制加算では、総合性と高い手術実績を備えた拠点病院を評価する仕組みに再編した。中央社会保険医療協議会(中医協)でも、人口の少ない地域では救急搬送の受入件数に加え、外来・在宅診療体制の確保を支援する拠点病院を評価する方向性が示されている。その一方で、人口減少地域への影響は大きい。地域の急性期病床を持つ病院が同時に高度急性期を目指せば、看護師やリハビリスタッフ、症例数が分散し、どこも基準を満たせず、かえって経営不振や医療の質の低下を招きかねない。仮に50床の病棟で多職種7対1を実現するには看護師24人に加え、多職種約10人が必要で、人材が少ない地域の病院にはハードルが高くなる。結果として、急性期機能は一部病院へ集約され、周辺病院は包括期医療や在宅医療へ役割転換を迫られる可能性が高い。住民にとっては、高度急性期病院へのアクセスが遠のく一方で、地域内での「救急受け止め→早期転院→在宅復帰」の流れが整えばメリットもある。ただし、その前提は地域のかかりつけ医や在宅医療機関や介護施設の協力医療機関が軽症の救急患者の受け入れ、退院後のフォロー、看取りの支援を担えることだ。今回、介護施設の入所者の救急搬送は、協力医療機関で対応可能な例を原則として急性期A・Bの実績に算入しない方針も示され、急性期病院と地域密着病院で役割分担する発想がより鮮明になった。過疎地では、病院再編だけでなく、クリニックや訪問看護ステーションとの連携強化、訪問診療、余剰病床の介護施設への転換を含めた検討が不可欠になる。 参考 1) 基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて(厚労省) 2) 急性期入院医療の提供主体は「急性期A、多職種7対1の急性期B、急性期1、多職種7対1の急性期4」に集約されるのでは(Gem Med) 3) 急性期総合体制加算の施設基準詳細、「総合的かつ高度な体制を整え、小児・周産期含めた十分な手術実績」持つ病院が加算1を取得(同) 4) 救急患者応需係数で底上げ、地ケア病棟は対象外 看護必要度 C項目に腰椎穿刺など追加(CB news) 4.医師偏在対策が次の段階へ 地域医療構想と医師養成を一体で見直し/厚労省厚生労働省は、3月3日に「地域医療構想及び医療計画等に関する検討会」を開き、2040年を見据えた「新たな地域医療構想」についてガイドラインを取りまとめた。また、医師の偏在について「医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」での検討を重ねてきていた第8次「医師確保計画」の見直し方針をとりまとめ、公開した。今回の2つの検討会の取りまとめは、病床数の議論だけでなく、医師偏在対策や医師養成過程の見直しまで一体で進める点にある。人口減少と高齢化、医療人材不足を前提に、地域ごとに「どの病院が急性期を担い、どこが高齢者救急や在宅を支えるか」を再設計する考えだ。まず、新たな地域医療構想では、人口減少と高齢化を前提とした医療提供体制の再編を進めるため、2040年の必要病床数を最新のNDBデータで推計し、高度急性期79%、急性期84%、包括期89%、慢性期92.5%の病床稼働率で換算する。急性期は少なめ、包括期は厚めに見積もる方向で、厚労省はこの数値を「必要病床数を算定するための換算値」であって、各病院が目標とすべき経営指標ではないと明示した。また、2028年度までに全病院・有床診療所が将来担う医療機関機能を整理し、地域で協議する枠組みを示している。医師確保計画の見直しでは、従来の「目標医師数」だけでなく、「地域で不足する診療科」などの定量指標を導入する。さらに、医師数は極端に少なくなくても、へき地尺度(RIJ)が高くアクセスに課題のある地域を新たに支援対象とする。小児科や産科に加え、皮膚科、耳鼻咽喉科、眼科なども、人口減少地域では常勤確保が難しい診療科として位置付けられ、遠隔医療の活用も検討対象となる。医師にとって重要なのは、外来医師過多区域への新規開業で、地域に不足する医療機能の提供を要請する仕組みが本格化する。その一方で、医療資源が乏しい地域では、承継支援や医師派遣、代替医師確保への支援が行われる。また、国は都道府県任せにせず、運用状況を毎年度把握し、必要なフォローを行う方針も示している。今後は、病院の再編だけでなく、診療所が休日夜間対応、在宅医療、退院後フォロー、遠隔診療をどう担うかが、地域医療構想の実効性を左右しそうだ。医師養成では、医学部の地域枠、臨床研修、専門研修、総合的な診療能力を持つ医師の育成を組み合わせる方向性が整理された。政府は、2040年の医療提供体制を「病床再編」と「医師配置」、さらに「医師の育て方」まで連動させて作り直そうとしている。2040年に向けた医療体制は、急性期医療の集約、高齢者救急への対応、在宅医療との連携、医師偏在是正を一体で進める形となる。病院にとっては、自院が地域で担う医療機能を明確にすることが求められ、外来患者数減少に直面する開業医は、医師会や地域の病院と連携して、地域で何を担うかがこれまで以上に問われる局面に入った。今後は限られた医療人材の中で、どう医療提供体制を維持するか重要な課題となりそうだ。 参考 1) 第12回地域医療構想及び医療計画等に関する検討会(厚労省) 2) 「医師確保計画策定ガイドラインの見直しに向けた医師養成過程における取組のとりまとめ」(同) 3) 急性期病床2040年の必要数、稼働率84%で推計 高度急性期79%、包括期89%、慢性期92.5%(CB news) 4) 2040年の必要病床数、病床利用実態・業務効率化等加味し「急性期は少なめ・包括期は多め」に推計-地域医療構想・医療計画検討会(Gem Med) 5.社会保険料抑制へ制度改革 OTC類似薬と高額療養費が焦点/政府政府が進める医療保険制度改革により、公的医療保険の加入者1人当たりの社会保険料が年間約2,200円減少する見通しであることがわかった。上野 賢一郎厚生労働大臣が3月6日の閣議後の会見で明らかにした。改革の柱は、高額療養費制度の見直しと、市販薬と成分や効能が類似する「OTC類似薬」の保険給付の見直しなどで、医療費の抑制を通じて保険料負担の軽減を図る狙いがある。高額療養費制度では、医療費が高額になった場合の患者自己負担の月額上限を段階的に引き上げる。2026年8月と2027年8月の2段階で実施され、最終的には現行より最大38%引き上げられるケースも想定される。厚生労働省は、この見直しにより医療費を年間約2,450億円削減できると試算しており、保険料は加入者1人当たり年間約1,400円程度の軽減効果が見込まれるとしている。薬剤費の見直しも改革の柱となる。市販薬と成分や効能が近い「OTC類似薬」については、保険給付を受ける場合でも薬剤費の4分の1を患者が「特別の料金」として負担する制度を新設する。対象は鼻炎、胃痛、解熱鎮痛薬など77成分、約1,100品目とされ、2027年3月の施行を予定している。これにより社会保険料は年間約400円の減少が見込まれる。また、後発医薬品(ジェネリック)があるにもかかわらず先発薬を選択した場合の追加負担も拡大する。現在は差額の4分の1を患者が負担しているが、これを差額の2分の1まで引き上げる方針だ。こうした薬剤関連の見直し全体では年間約800円の保険料軽減効果が見込まれている。その一方で、高額療養費の上限引き上げに対しては、患者団体や野党から「重症患者の負担増につながる」との批判も出ている。国会審議では、保険料軽減が月額150円程度にとどまるとの指摘もあり、受診控えが生じる可能性への懸念も示された。政府は制度の持続可能性確保のための改革と説明するが、患者負担と保険財政のバランスをどう取るかが引き続き議論となりそうだ。 参考 1) 医療保険制度改革で保険料1人当たり年2,200円減、高額療養費制度やOTC類似薬の負担見直し(読売新聞) 2) 高額療養費見直しなどで社会保険料年2,200円減 厚労相が見通し(毎日新聞) 3) OTC類似薬の負担見直し、保険料減は月額33円程度 高額療養費は117円減 上野厚労相(CB news) 4) 「ペットボトル1本分の社会保険料負担軽減のために、高額療養費の負担増やすのか」共産議員が見直し迫る 衆院予算委で質疑(ABEMA TIMES) 6.美容クリニックの再生医療で訴訟相次ぐ 安全性と説明責任が焦点に美容医療を巡る訴訟が相次いでいる。焦点となっているのは、顔のしわやたるみ改善をうたう「プレミアムPRP皮膚再生療法」を受けた後に、頬や目の下にしこりや隆起が残ったとする事案だ。2026年2月には女性3人が東京都内のクリニックを東京地裁に提訴し、施術費用の返還、原状回復のための治療費、慰謝料など計約1,850万円を求めた。原告側は、施術前に重い合併症や除去の困難さ、使用成分の実態について十分な説明がなく、安全性を強調する宣伝の下で同意が取られたと主張している。被害相談の増加を受け、医療問題弁護団は3月1日にプレミアムPRP皮膚再生療法の被害者救済を目的に無料ホットラインも開設し、同種事案の掘り起こしを進めている。この訴訟で争点となるのは、単なる仕上がり不満ではなく、説明義務違反と再生医療法令への適合性だ。報道では、「bFGFを加えたPRP療法は未承認の再生医療に当たり、患者への説明事項は省令で定められているのに、同意書や説明内容が不十分だった可能性」が指摘されている。実際、2025年1月には同種の美容目的再生医療を巡る別件で、東京地裁が医療法人の責任を認める決定が確定した。そこでは、「施術の有効性に十分な科学的根拠が乏しいこと」、「bFGFによる長期のしこりや隆起が起こりうることを説明すべき義務があったのに尽くされなかった」と判断され、解決金支払いと再発防止が求められた。今回の3人提訴は、この先行事例を踏まえ、同種施術の説明体制や広告表示を改めて司法の場で問う意味合いが大きい。美容医療トラブルが急増する背景として、過度な広告、一括払いの勧誘、十分な訓練を経ない医師の参入が挙げられる。消費者保護の視点から患者側は施術を受ける前に「専門医かどうか」「リスク説明が十分か」を見極める必要性がある。今回の訴訟は、その問題が個人の後悔ではなく、説明不足を伴う構造的な消費者被害として司法判断の対象になり始めたことを示している。美容医療では、適応外使用や未承認技術を含む施術ほど、インフォームド・コンセントの質そのものが法的責任の核心になる。 参考 1) 「鏡向くたびに絶望」顔にしこりなど副作用…美容医療受けた女性ら、都内のクリニック提訴(産経新聞) 2) 「成功してるじゃん」美容医療で“しこり”も医師が失敗認めず…被害者が施術費用の返還など求めクリニックを提訴(弁護士JPニュース) 3) 3月1日(日)プレミアムPRP皮膚再生療法被害ホットラインを実施しました(医療問題弁護団) 4) 「美容目的の再生医療で合併症」 医療法人の責任認定、訴訟が終結(朝日新聞) 5) トラブル急増・美容医療の見極め方 消費者保護に取り組む医師・大塚篤司(TBS)【動画】 6) プレミアムPRP皮膚再生療法で被害相談ホットライン開設 医療問題弁護団が3月1日に電話受付 2026年2月には3人の女性が美容クリニックを提訴

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4価HPVワクチン、浸潤性子宮頸がんリスクを長期抑制/BMJ

 4価ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種により浸潤性子宮頸がんリスクは有意に低下し、その予防効果は長期追跡期間を通じて持続しており減衰の兆候は認められなかった。スウェーデン・カロリンスカ研究所のShiqiang Wu氏らが、同国の全国的な登録データを用いて最長18年間追跡したコホート研究の結果を報告した。本研究では、出生コホート別の評価において、最も若い学校ベースコホート(1999~2001年生まれ)が最も年長の機会的コホート(1985~88年生まれ)と比べて発生率が低かったことも示された。2006年に4価HPVワクチンが導入されているが、HPVワクチン接種後の浸潤性子宮頸がんの長期リスクに関するデータは依然として限られており、HPVワクチン効果の持続性を評価するための長期追跡研究が求められていた。BMJ誌2026年2月25日号掲載の報告。スウェーデンの全国的な登録データを用いたコホート研究、最長18年間追跡 研究グループは、スウェーデンの全国的な登録データを用い、HPVワクチンと浸潤性子宮頸がんリスクとの関連を評価するコホート研究を行った。 対象は、1985~2001年生まれで2006~23年にスウェーデンに居住し、追跡調査開始時にHPVワクチン接種歴がなくかつ浸潤性子宮頸がんの既往がない女性であった。 2006年1月1日または10歳の誕生日のいずれか遅い時点から、2023年12月31日までまたは浸潤性子宮頸がんの診断、死亡、国外移住、追跡不能、2価/9価HPVワクチン接種のいずれか早い時点まで追跡した(最長38歳時まで追跡。17歳未満でワクチン接種を受けた女性は最長34歳時まで追跡)。 主要アウトカムは、HPVワクチン接種者と非接種者の浸潤性子宮頸がんの罹患率比(IRR)。追跡期間中の浸潤性子宮頸がんの初回診断で評価し、IRRは、年齢、暦年、社会人口学的要因、および病歴を補正したポアソン回帰モデルを用いて推定した。また、ワクチン接種後の期間別コホート、接種後3年ごとで区分したコホート(1~3、4~6年群など)、接種時の年齢別コホート、出生コホート(1985~88年生まれ[機会的コホート]、1989~92年生まれ[補助金対象コホート]、1993~98年生まれ[キャッチアップコホート]、1999~2001年生まれ[学校ベースコホート])分類による解析も行った。17歳未満でのワクチン接種、未接種と比較しIRRは一貫して低値 解析対象は92万6,362例、追跡期間中央値は18年(四分位範囲:15.8~18.0)で、追跡期間中に4価HPVワクチンを少なくとも1回接種した女性(ワクチン接種群)は36万5,502例(39.5%)、このうち74.2%は17歳未満で接種を開始し、76.5%が全3回の接種を完了した。 浸潤性子宮頸がんは930例確認され、うち97例はワクチン接種群、833例は未接種群で、ワクチン接種群の未接種群に対する補正後IRRは0.44(95%信頼区間[CI]:0.35~0.55)であった。 接種年齢別評価では、17歳未満集団では補正後IRRは0.21(95%CI:0.13~0.32)で、ワクチン接種後13~15年間予防効果の持続が認められた(IRR:0.23、95%CI:0.11~0.46)。 一方、17歳以降の集団では、補正後IRRは全体で0.63(95%CI:0.49~0.81)、ワクチン接種後7~9年で0.77(0.52~1.15)、10~12年で0.54(0.33~0.86)、13~15年で0.23(0.08~0.60)と、ワクチン接種後10年以降で罹患の減少が有意であった。 出生コホート別では、機会的コホートと比較し、学校ベースコホートで、共変量補正後の子宮頸がんリスクが72%(95%CI:11~91)低下した(IRR:0.28、95%CI:0.09~0.89)。

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第51回 帯状疱疹ワクチンが認知症を防ぐ? 最新の大規模研究が明かす驚きの研究結果

高齢化が進む現在、認知症は誰にとっても無関係ではない重大な健康課題となっています。2050年までに世界の認知症患者数は1億5,000万人を超えると予測されていますが、いまだに根本的な治療法は確立されていません。そのような中、Nature Communications誌に掲載された最新の研究論文が、大きな注目を集めています1)。研究チームは、米国の医療システム「カイザーパーマネンテ・サザンカリフォルニア」の利用者約6万5,800人を対象に、現在主流となっている「組換え帯状疱疹ワクチン(商品名:シングリックス)」の接種状況と、その後の認知症発症率を詳しく追跡調査しました。その結果、2回のワクチン接種を完了した人は、未接種の人と比較して、その後の認知症発症リスクが51%も低いことが明らかになったのです。認知症の予防において、日々の生活習慣の改善に加えて、特定のワクチンがこれほど劇的なリスク低下をもたらすのであれば、画期的と言えるでしょう。なぜ帯状疱疹の予防が「脳」に関係するのか?しかし、そもそもなぜ皮膚の病気が主体となる帯状疱疹のワクチンが、脳の病気である認知症に影響を与えうるのでしょうか。この背景には、帯状疱疹の原因となる「水痘・帯状疱疹ウイルス」の特殊な性質が関係していると考えられています。このウイルスは、私たちが子供の頃に「水ぼうそう」として発症した後、体内の神経細胞の中に一生涯潜伏し続けます。そして、加齢や疲労、ストレスなどをきっかけに再び暴れ出し、神経を伝って帯状疱疹を引き起こします。このウイルスが再活性化するプロセスが、実は脳内での微細な炎症や神経細胞のダメージを誘発し、認知症の発症を早める一因になっているのではないかと推測されています。そして今回の研究データも、この仮説を支持するような興味深い傾向を示しています。たとえば認知症リスクの低下はアルツハイマー型認知症だけでなく脳血管性認知症にも共通して見られ、さらには認知症の前段階となる軽度認知障害(MCI)のリスク低下も示唆されています。つまり、ワクチンが特定の認知症に限らず、脳の機能低下全般に対して何らかの保護的な役割を果たしている可能性があるのです。この研究の「追加の価値」これまでにもワクチン接種と認知症リスクの低下を関連づける報告はありましたが、専門家の間では常に一つの大きな疑問が付きまとっていました。それは「自発的にワクチンを打つような人は健康意識が高く、食事や運動にも気を配っているため、もともと認知症になりにくいだけではないか」というバイアスに対する疑問符です。今回の研究が、大きな「追加の価値」を生み出している理由は、このバイアスを慎重な手法で排除した点にあります。研究チームは、帯状疱疹ワクチンを打った人と全く打っていない人を比較するだけでなく、別のワクチン(百日咳や破傷風などを予防するTdapワクチン)を接種したグループとの比較も行いました。分析の結果、帯状疱疹ワクチンの接種者は、別のワクチンを接種した健康意識の高い人たちと比べても、認知症のリスクがさらに27%低いことが判明しました。これにより、個人の健康意識の高さだけでは説明できない、帯状疱疹ワクチン固有の認知症予防効果の可能性がより強固に裏付けられたのです。現状の限界点と私たちが知っておくべきことこのように非常に希望の持てるデータが示されましたが、正しく解釈するためには、研究の「限界点」も知っておく必要があります。まず、これは過去の医療データを振り返って分析した観察研究であり、ワクチンが直接的に認知症を食い止めるメカニズムや因果関係を完全に証明したものではありません。また、認知症は通常、数十年という長い時間をかけて静かに進行する病気ですが、本研究の追跡期間は平均して約3.4年と比較的短いものです。このため、10年後、20年後といった長期的な予防効果が見られるのかについては、さらなる研究が必要です。加えて、医療機関の受診記録に基づいているため、病院を訪れない潜在的な認知症患者のデータが反映されていない点も考慮すべきでしょう。こうした限界はあるものの、今回の研究結果は私たちに前向きなメッセージを届けてくれました。帯状疱疹は50歳を過ぎると発症率が急増し、治癒後も長期間にわたって激しい痛みが続く病気です。この厄介な病気そのものを高率に防ぐというワクチンの本来の目的に揺るぎはありません。それに加えて「将来の脳の健康も守るかもしれない」という副次的メリットがあるのであれば、ワクチン接種を検討するうえでさらに前向きな材料となるのではないでしょうか。参考文献・参考サイト1)Rayens E, et al. Recombinant zoster vaccine is associated with a reduced risk of dementia. Nat Commun. 2026;17:2056.

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