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第172回 “治験後進国ニッポン”、医療のお宝情報にたどり着けない仕組みが原因か

先日、国産の新型コロナワクチン登場を取り上げたが、そもそも国産ワクチンが海外産ワクチンに比べて登場しにくいのは、臨床試験(以下、治験)実施の難しさがあるように思う。たとえばファイザー製のメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンのコミナティの治験は、わずか4ヵ月弱で4万人を超える被験者がエントリーしている。日本でこの期間と規模の被験者を集めることができるかを問われれば、多くの人が“否”と答えるだろう。その理由として挙げられるのが、まず医療制度の違いである。国民皆保険による安価な医療費と医療機関へのフリーアクセスという制度に慣れ切った日本人にとって、敢えて治験に参加するほどのメリットを感じない人がむしろ多数派ではないだろうか。にもかかわらず、場合によっては二重盲検試験で比較対照にプラセボ(偽薬)を使うという前提ならば、「なんで治療されるかどうかわからないものに参加しなければならないの?」となってしまう。さらにいえば治験そのものに対する情報が少なく、イメージも決して良いとは言えない。今でも嫌悪感を含んだ「人体実験」「ヒトをモルモットにしている」との表現は、医療にそれほど知識のない人の間では普通に使われている。この背景にあるのは、かつては製薬企業が治験の実施そのものを広い意味で企業秘密と取り扱っていた時代があり、被験者募集情報が広く公開されないまま水面下で実施されていた。こういった現実もある種、一般市民に対して“怪しいこと”というイメージを醸成してしまった可能性がある。実際、私が医療専門紙記者となった1990年代前半はやはり治験の被験者募集情報が具体的に公表されていることはなく、あくまで治験参加医師とそこに受診する患者との間のみでやり取りされていた。しかも、中には治験であることを患者に説明せずに行われていたケースもあったと聞く。実際、私自身そうした医師の告白を直接聞いたこともある。また、それとは別の医師から「やはり保険診療の中で『治療してもらって当たり前』という前提が患者にはあるため、治験参加を打診するにしてもどうしても口幅ったい物言いになってしまう。今振り返って、厳密な意味でのインフォームド・コンセントになっていたかと言われれば、そう言い切れない」と吐露されたことがある。もっとも当時と比べれば、この状況は大きく改善された。2000年前後からは製薬企業が新聞への全面広告で被験者募集を行うようになった。当時、新聞でとある治験の広告を初めて目にした私は、思わず「うわ!」と声が出たほどだった。そして今ではインターネット上で検索すれば、すべてではないものの治験情報へのアクセスが可能になり、診療ガイドライン上に定められたレジメンが尽きてしまった固形がんの薬物療法中の患者が治験に参加し、公のシンポジウムなどで「患者にとっては治験も治療手段の1つ」と語る時代になった。とはいえ、まだ十分とは言えない。そもそも治験情報自体が一部の患者団体や製薬企業、あるいは医療機関、各種団体などのホームページに分散して存在しているのが現状である。これらの中で一元的にまとまった情報源としては、臨床研究法と再生医療等安全性確保法に基づき試験実施者が厚生労働大臣に対して実施計画の提出などの届出手続を行うシステムで国立保健医療科学院が運営する「臨床研究等提出・公開システム(jRCT)」がある。もっとも前述のようなあくまで試験者の届け出システムで、一般人が検索することは“おまけ”程度の位置付けという側面もあるのか、やたらと使い勝手が悪い。検索ページを見ればそのことは一目瞭然である。たとえば検索時の選択項目の1つである「企業治験」「医師主導治験」「製造販売後試験」「使用成績調査」などについて、一般人で違いを簡潔に説明できる人は稀だろう。今回のコロナ禍の最中は各種治験情報の確認のため、高頻度でこのサイトを利用したが、一般人と比べて医療情報を多く持つ自分でも、検索画面ではしばしば迷う。私自身、「何とかならないものか」と思っていた一人である。そのようなこともあってか現在、jRCTはサイトの改修作業に入り始めている。そうした中でこの6月にややトピック的な動きがあった。厚生労働省で記者会見が開かれた「臨床試験にみんながアクセスしやすい社会を創る会」の設立である。同会は全国がん患者団体連合会(全がん連)や日本難病・疾病団体協議会、やはり希少疾患対策に取り組むNPOのASrid(アスリッド)といった患者組織と順天堂大学、国立がん研究センターなどから共同発起人が参加し、厚生労働省医政局研究開発政策課治験推進室、jRCTを運営する国立保健医療科学院、日本製薬工業協会(製薬協)もオブザーバーに参加。jRCTをユーザー(患者)フレンドリーなサイトに改修し、治験情報がワンストップで得られるようにすることを目標に政策提言などを進めるために設置されたという。会見で共同発起人の桜井 なおみ氏(全がん連理事)は「患者だけでなく、研究者でも隣の医療機関や時には自分の所属医療機関でどのような研究が現在実施されているか探せない問題もある。患者としては適切なタイミングで適切な臨床試験に参加するチャンスを失っている。ここを解決するためには患者会の力だけでは困難で、医療従事者、研究者、創薬関係機関の皆さんとともに多様な目線を取り入れて情報発信することが必要ではないかということで、今回の会設立に至った」と説明した。会としては2025年をデッドラインとして、現状の治験情報発信の課題とその解消法の議論に始まり、患者にわかりやすい具体的な情報公開の方法の提言などを行う。また、共同発起人の1人でASrid理事長の西村 由希子氏は希少疾患の特有の悩みとして「患者会がある疾患では、(製薬)企業も患者が治験情報へアクセスしやすくすることも可能だが、希少疾患は患者数が少ないために患者会そのものを作るのが難しい場合もある。一方で医師も大規模な治験実施が困難で、どうしても各医師の周囲の患者を対象とした治験になりがちで、結果として地域格差、機会格差にも繋がると考えている」と語った。がん、希少疾患の場合は治療選択肢が限られる分、治験情報入手は命綱でもある。その意味で今回の動きは自然なことと言えるし、行政や企業、医療機関なども含めてより大きな枠組みが動き出した意義は大きい。もっともこれまでのjRCTも含め、とかく公的機関の情報発信は良いものを出しても、読まれる、アクセスされるという点でリーチが足りないという側面があるのも現実だ。この点を質疑で尋ねた。桜井氏は「宝物のような情報があるのにたどり着けないということを私達も多く経験している。実はjRCT自体も子供向け啓発の資材などを作っていたが、私達もそれを知らなかった。それが現状なので、まだ病気になっていない人たちも含めた啓発のためのシンポジウム、教育のようなものにもしっかり取り組んでいきたい。一見無駄なように見えても発信し続けることが、とにかく必要だと思う」と回答した。最後の一言はまさに報道でも同じである。何かを報じたから明日から世の中がドラスティックに変わることは、ほとんどあり得ない。この医療専門紙記者の世界に生きてきて約四半世紀、何回も何回も似たようなことを書いて、ようやく1割程度の人に腹落ちしてもらえれば“もうけ”くらいが現実と私は思っている。いや、1割程度だったら大成功かもしれない。“治験後進国ニッポン”で、小さいかもしれないが起きた新たな動きが10年後、20年後に芽を吹いてもらえば、それこそが実は将来起こり得るかもしれない新たなパンデミックの際に他国に遅れを取らない国産ワクチン登場のためのシーズと言えるのではないだろうか。

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第57回 9月以降の「秋開始接種」の概要は?

XBB.1.5対応1価ワクチンが登場ソコストより使用医療従事者では最多で新型コロナワクチンを6回接種している方がいると思います。私も2023年6月に6回目接種を終えています。現在「令和5年春開始接種」が終盤になっていますが、新型コロナワクチンの接種率がかなり下がってきた印象です。1年以上経過すると、さすがに重症化リスクも上がってくるようなので、前回からの接種期間が空いている人は接種してもよいのではないかと思いますが。65歳以上の高齢者および5歳以上の基礎疾患を有する人やその他重症化リスクが高いと医師が認める方の場合は、基本的に接種が推奨されます。これ以外の健康な人は、予防接種法による接種勧奨・努力義務のいずれの適用もありません。「看護学生がワクチン接種していないと実習に参加できない」問題がわりとSNSで炎上していますが、デリケートな問題ですよね…(遠い目)。さて、9月20日以降使用されるXBB.1.5対応1価ワクチンは、マウスを用いた非臨床試験において、XBB.1.5に対して現行2価ワクチンよりも高い中和抗体価を誘導することが報告されています。XBB.1.5対応1価ワクチンの契約は、モデルナ社とファイザー社を合わせて2,500万回分がすでに済んでいます。数が少し少な目な気がしますが、第一三共の「ダイチロナ」がXBB.1.5対応1価ワクチンとして早期に参入してくるのかどうかは不明です。従来株でのダイチロナ承認となっていますが、変異ウイルス用のものを次々に出してくるのではないかと期待しています。「秋開始接種」の概要9月20日から始まる「秋開始接種」の概要は図のとおりになります。春開始接種では基礎疾患のない12~64歳は接種対象外だったのですが、今回再び対象になっています。とはいえ、「もう接種はいいや」と思っている人がかなり多いので、ヘタするとインフルエンザワクチンよりも打たれないという未来が待っているかもしれません。画像を拡大する図.新型コロナワクチン接種スケジュール(筆者作成)8月7日からオミクロン株対応2価ワクチンが初回接種可能にところで、あまり報道すらされていませんが、8月7日からオミクロン株対応2価ワクチンを初回接種できるようになりました。現状流通するのは5歳以上になります。生後6ヵ月~4歳に対するオミクロン株対応2価ワクチンも書面上は接種可能ですが、いずれXBB.1.5対応1価ワクチンを接種することになるため、こちらについては流通させない方針のようです。現在流行しているのはXBB系統ですが、従来型ワクチンと比べるとオミクロン株対応2価ワクチンでは、約7割の死亡予防効果が確認されています1)。そのため、「系統が違うから効かないのでは」と懸念しなくてもよいと思います。参考文献・参考サイト1)Lin DY, et al. Durability of Bivalent Boosters against Omicron Subvariants. N Engl J Med. 2023;388:1818-1820.

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コロナ異種ワクチンによる追加接種を支持するエビデンス/BMJ

 オミクロン株が優勢な時期における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン接種では、プライマリ接種スケジュール(2回接種)や同種ブースター接種(3回)と比較して、異種ブースター接種(3回)はCOVID-19による入院や死亡の予防効果が優れていたことが、デンマーク・Statens Serum InstitutのNiklas Worm Andersson氏らの調査で明らかとなった。研究の成果は、BMJ誌2023年7月24日号に掲載された。3種のワクチンを比較する北欧のコホート研究 本研究は、北欧の4ヵ国(デンマーク、フィンランド、ノルウェー、スウェーデン)のデータを用いた住民ベースのコホート研究である(欧州医薬品庁[EMA]の助成を受けた)。 対象は、初回接種時に年齢18歳以上で、2020年12月27日~2022年12月31日に、プライマリ接種スケジュールとして、AZD1222(アストラゼネカ製)、BNT162b2(1価、ファイザー製)、mRNA-1273(モデルナ製)、あるいはこれらの任意の組み合わせで、少なくとも1回の接種を受けた集団であった。 主要アウトカムは、4ヵ国を合わせたCOVID-19関連入院とCOVID-19による死亡とした。フォローアップはブースター接種後14日目から75日間行い、相対的なワクチンの有効性を75日目の累積発生率を用いて(1-リスク比)として算出した。異種接種戦略を支持する新たなエビデンス 北欧4ヵ国全体で、108万6,418人がAZD1222+BNT162b2またはmRNA-1273による異種ブースター接種(3回)を、250万5,093人がBNT162b2+mRNA-1273による異種ブースター接種(3回)を受けた。 プライマリ接種(2回)のみと比較して異種ブースター接種は有効性に優れ、COVID-19関連入院の予防に関する有効性はAZD1222+BNT162b2またはmRNA-1273が82.7%(95%信頼区間[CI]:77.1~88.2)、BNT162b2+mRNA-1273は81.5%(78.9~84.2)であり、COVID-19による死亡の予防に関する有効性はそれぞれ95.9%(91.6~100.0)、87.5%(82.5~92.6)であった。 また、同種ブースター接種(BNT162b2またはmRNA-1273の3回接種)も同様に、プライマリ接種のみの場合に比べCOVID-19関連入院(≧76.5%)およびCOVID-19による死亡(≧84.1%)の予防効果の向上と関連が認められた。 異種ブースター接種を同種ブースター接種と比較すると、COVID-19関連入院の予防に関してはAZD1222+BNT162b2またはmRNA-1273が27.2%(95%CI:3.7~50.6)、BNT162b2+mRNA-1273が23.3%(15.8~30.8)で、COVID-19による死亡の予防ではそれぞれ21.7%(−8.3~51.7)、18.4%(−15.7~52.5)であり、小幅ながら異種ブースター接種で良好だった。 著者は、「COVID-19ワクチン接種は現在、異種接種スケジュールへの依存が高くなり、この傾向は今後も続くと考えられるが、本研究の結果はこの戦略を支持する新たなエビデンスを付け加えるものである」としている。

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第158回 コロナ新規患者報告数、今後も感染拡大の見通し/厚労省

<先週の動き>1.コロナ新規患者報告数、今後も感染拡大の見通し/厚労省2.膨らみ続ける社会保障給付費、高齢化とコロナ対策で過去最高額に/厚労省3.マイナンバーカード一体化続行、健康保険証の来秋廃止は延期に含み-岸田首相/政府4.診療報酬改定時期が6月に変更、医療機関などの負担軽減を目指す/厚労省5.不正アクセスで患者情報が4万8千件以上流出/福岡6.市民病院が経営難から来年3月に閉院へ/大阪1.コロナ新規患者報告数、今後も感染拡大の見通し/厚労省厚生労働省は、8月4日に新型コロナウイルス感染症の発生状況(7/24~7/30)を公表した。その結果、5類移行後も11週連続で増加が継続し、直近では全国約5,000の定点医療機関1施設当たり15.91人と前週比1.14倍に増加していた。地域別の新規患者数は、42都府県で前週より増加傾向にあり、沖縄県では7月上旬以降、減少傾向がみられていた(沖縄県、前週比0.78)が、全国の年代別新規患者数は、10歳代を除きすべての年代で前週より増加傾向にある。定点医療機関の報告に基づく過去の推計値と比較すると、全国で感染者が約10万人に上っていた2022年11月中旬と同水準であり、感染症法上の分類が5類に移行したことで、感染者数は8.8倍となっており、とくに西日本で感染が急速に拡大、新規入院者数も増加していることが明らかになっている。新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード座長の脇田 隆字氏(国立感染症研究所長)は「今後も感染が拡大する」と見通しを公表し、「冷房中でもなるべく換気するように」と発言した。参考1)第124回 新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(厚労省)新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードの資料等(第116回~)新型コロナウイルス感染症の直近の感染状況の評価等2)コロナ新規患者報告数、42都府県で増加-厚労省が第30週の発生状況を公表(CB news)3)新型コロナ 感染警戒レベルの基準設定を検討 厚労省(毎日新聞)4)コロナ感染、定点あたり15人超 全国で1日10万人規模か(日経新聞)2.膨らみ続ける社会保障給付費、高齢化とコロナ対策で過去最高額に/厚労省厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所は、日本の社会保障給付費が2021(令和3)年度に過去最高の138兆7,000億円を記録したことを明らかにした。社会保障給付費の内訳は、年金(55兆8,151億円)、医療(47兆4,205億円)、介護・福祉(35兆5,076億円)。1人当たりの給付費は110万5,500円で、前年度と比べ5万7,400円、5.5%増加していたほか、国内総生産(GDP)比では25.2%と、初めて25%を超えていた。増加の原因として、高齢化による医療費の増加と新型コロナウイルスワクチン接種関連費用などのコロナ対策、子育て世帯への給付金などがあげられている。参考1)令和3(2021)年度 社会保障費用統計の集計結果を公表します(国立社会保障・人口問題研究所)2)社会保障給付費138兆円 コロナ影響で過去最高(産経新聞)3)社会保障給付費138兆円、過去最高 21年度(日経新聞)3.マイナンバーカード一体化続行、健康保険証の来秋廃止は延期に含み-岸田首相/政府岸田文雄総理大臣は、8月4日に記者会見を開き、2024年秋に予定されている健康保険証の廃止は当面は延期せず、マイナンバーカードの問題に対応する施策を続ける考えを示した。しかし、トラブルの総点検の結果によっては廃止を延期する可能性も示した。また、国民の不安を払拭するため、マイナンバーカードと一体化した保険証を持っていない人には「資格確認書」を発行する方針を明らかにした。さらに、デジタル化を進めて国民がメリットを実感できるように広報にも力を入れると述べた。岸田首相は、総点検の中間報告を近く公表する予定。ただ、資格確認書を有資格者全員に交付することについては、多額のコストを要するとして効率化の批判が集まっている。参考1)岸田首相、健康保険証の廃止時期など「適切に対応」-延期に含み(CNET)2)岸田首相会見 “健康保険証廃止は当面維持 不安払拭に努力”(NHK)3)資格確認書、有資格者全員交付は多額のコスト 遠のく効率化(産経新聞)4)保険証、来秋廃止を維持 岸田首相「総点検踏まえ判断」(日経新聞)4.診療報酬改定時期が6月に変更、医療機関などの負担軽減を目指す/厚労省厚生労働省は、8月2日に中央社会保険医療協議会の総会を開き、2024年度以降の診療報酬の改定時期を、従来の4月から6月に変更することを提案し、了承された。診療報酬の改定内容が早く決まることで医療機関などが対応しやすくなるよう準備期間が長くなる。これまで改定の時期は4月で医療機関や薬局、システム改修業者は短期間で準備をしなければならず、負担が大きいとして改善を求める声があったため、厚労省では6月に後ろ倒しすることで負担軽減を図る方針。一方、薬価の改定はこれまで通り4月に実施される予定で、24年度以降も引き続き4月となる見込み。診療側の委員からは、診療報酬と薬価の2回の改定を行うことに対する医療現場への負担や影響についての懸念が示された。参考1)中央社会保険医療協議会 総会[第551回]議事次第(厚労省)2)診療報酬改定、来年度から「6月実施」へ 2カ月後ろ倒し(朝日新聞)3)診療報酬改定6月1日施行、24年度から 薬価改定は4月1日施行を維持(CB news)5.不正アクセスで患者情報が4万8千件以上流出/福岡福岡徳洲会病院は、第三者から不正アクセスを受け、データベースに保存されていた患者の個人情報について、最大で約4万8,983件が流出した可能性を明らかにした。病院の発表によると、流出した情報には、病名や検査値も含まれていたが、悪用は確認されていない。不正アクセスは今年4月4日に、職員が業務用のパソコンで外部のホームページを閲覧していた際に、警告画面に記載された電話番号に連絡して指示に従って操作したところ、パソコンが遠隔操作に切り替わり、金銭を要求されたとしている。同病院はただちにシステムを中止し、より高度なセキュリティー水準のシステムに切り替えている。病院は福岡県警や厚生労働省、個人情報保護委員会へ報告し、専門業者に調査を依頼している。対象の患者には個別に謝罪し、専用の相談窓口を設けて対応しているほか、「再発防止に向けて、管理体制の強化に努める」とコメントしている。参考1)不正アクセスによる個人情報流出の可能性についてお知らせとお詫び(福岡徳洲会病院)2)福岡徳洲会病院、患者情報4万8千件流出か データベースに不正アクセス(産経新聞)3)福岡徳洲会病院 個人情報など5万件余が一時閲覧可能な状態に(NHK)4)福岡徳洲会病院で患者などの個人情報5万件が流出か 不正アクセス受け病名や検査の値も(福岡放送)6.市民病院が経営難から来年3月に閉院へ/藤井寺市民病院大阪府藤井寺市は市立藤井寺市民病院(病床数98床)を、令和6年3月31日で閉院する基本方針案を公表し、市民からの意見を募集している。同病院は厚生労働省から再検証要請対象医療機関に挙げられ、総務省の公立病院改革ガイドラインに基づき、改革(経営)プランを策定してきたが、経常損益も5年度で約8億5千万円、6年度も約9億2千万円の赤字が見込まれている。藤井寺市は平成10年頃から施設の更新を検討してきたが、老朽化も進み、建て替えに多額の費用が必要とされ、さらに医師派遣の減少で診療に制限が出ており、赤字が続くことから、市民病院の経営継続は困難と判断され、閉院が避けられないと結論付けられた。市側は市民説明会を開催し、閉院後の小児科の入院診療機能、災害医療などの機能移転に向けて努めるとしている。なお、「市立藤井寺市民病院のあり方に関する基本方針」に対するパブリックコメントの締め切りは8月16日まで。参考1)「市立藤井寺市民病院のあり方に関する基本方針」(案)についてパブリックコメントを実施します(藤井寺市)2)市民病院を来年3月に閉院案公表 大阪・藤井寺市(産経新聞)3)市民病院、経営難で3月に閉院へ 藤井寺市が方針(朝日新聞)

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第171回 「ダイチロナ」承認の裏で継続審議の塩野義ワクチン、その理由は…

新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)のワクチンとして最も早く承認されたファイザーのコミナティから遅れること約2年半、ついに国産の新型コロナワクチンが承認される見通しだ。厚生労働省の薬事・食品衛生審議会・医薬品第二部会は7月31日、第一三共の新型コロナメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンである『ダイチロナ筋注』を承認することを了承した(8月2日付で正式承認取得)。その一方で塩野義製薬が承認申請をしていた遺伝子組み換えタンパクワクチン『コブゴーズ筋注』について、「現在までに評価された臨床試験成績のみでは、本ワクチンの有効性を明確に説明することが難しい」と判断され、継続審議となった。明暗を分けた両ワクチンだが、少なくともダイチロナに関しては公開された一部データを見る限り、承認が了承されたことは傍目にも妥当と思える。公開されたデータは、18歳以上を対象に追加免疫としてダイチロナとファイザーのコミナティ、モデルナのスパイクバックスを比較した非劣性試験の結果だ。非劣性基準は、中和抗体価の幾何平均上昇倍率(GMFR)の両側97.5%信頼区間(CI)の下限値が0.67 を上回ることとなっている。公表されたGMFRは、対コミナティの試験ではダイチロナが58.690(95%CI:49.643~69.386)、コミナティが38.044(95%CI:29.704~48.726)、対スパイクバックスの試験ではダイチロナが36.074(95%CI:29.292~44.426)、スパイクバックスが25.402(95%CI:19.163~33.671)。GMFR比は対コミナティで1.464(両側97.5%CI:1.112~1.927)、対スパイクバックスで1.772(両側97.5%CI:1.335~2.353)。一方の安全性については、データは今のところ開示されていないが、厚生労働省が報道向けに公開した資料では、ダイチロナの安全性プロファイルは、コミナティ、スパイクバックスと同様。主な副反応は注射部位疼痛、倦怠感、頭痛、発熱で、ほとんどが軽度あるいは中等度で回復性が認められているという。もっとも有効性については起源株(武漢株)に対する結果で、今後、第一三共はオミクロン株XBB.1系統への一部変更申請で対応していく方針。この点は従来のコミナティ、スパイクバックスと同様だ。コミナティとスパイクバックスでは、起源株1価ワクチンからオミクロン株BA.4/5系統対応も含めた2価ワクチンへ変更された際、非臨床試験のみで一部変更承認となった点が理論上は理解できても違和感を持ってしまった人は医療関係者でも少なくなかったと理解している。しかし、今ではこの対応が国際的にスタンダードとなっている。今年5月に開催された日本も参加する薬事規制当局国際連携組織(ICMRA)では、現在承認されているワクチンについてはプラットフォームとしての対応を適応可能とし、対応株変更時は確認的な品質と非臨床データのみの資料提出で承認審査が行えるとの見解がまとめられている。なお、第一三共によると、製造は埼玉県北本市にあるグループ会社の第一三共バイオテックの工場で行う。既存のmRNAワクチンはいずれも冷凍保存だが、ダイチロナに関しては冷蔵保存(2~8℃)が可能。もっともmRNAは振動などに弱いため輸送には一定の配慮が必要と言われているが、第一三共によると、流通を担当する卸については、インフルエンザワクチンなどと同様に既存の卸各社で対応する計画で、特定卸への絞り込みは考えていないという。一方、継続審議となった塩野義製薬のコブゴーズでは、審査評価資料として提出されていた国内臨床試験の比較対照薬は、初回免疫(優越性検証)がアストラゼネカ社のウイルスベクターワクチンであるバキスゼブリア、追加免疫(非劣性検証)がファイザーのコミナティだった。厚生労働省によると、部会の審議では「コブゴーズの接種により中和抗体価の上昇は一定程度認められるものの、初回免疫、追加免疫の両試験とも比較対照薬接種群の中和抗体価が通常想定されるよりも相当程度低く、当該試験に基づいて有効性を明確に評価することは困難との議論があった」と説明した。このため今回の申請資料中に参考資料として提出されていた海外などでの臨床試験成績などを新たに評価対象に追加して、改めて評価することになったと話している。私見を言えば、この結果はやや“不可解”とも言える。まず、初回免疫の比較対照薬がなぜバキスゼブリアだったかという点だ。塩野義製薬がこの臨床試験を開始した時期は、既に国内での新型コロナワクチン接種はコミナティやスパイクバックスを軸に実施されていた。バキスゼブリアに関しては、日本よりも先行して使用されたヨーロッパで発生頻度は稀ながら、死亡例も含む重篤な血栓症の報告があり、当初日本では公的接種に用いられなかった。しかし、国内では接種開始後にコミナティとスパイクバックスの供給不足が表面化したことなどから、途中から血栓症の発現頻度が低い40歳以上に限定で公的接種に用いられたという経緯がある。現状も公的接種はmRNAワクチンの2種類が用いられており、バキスゼブリアによる公的接種は2022年9月30日をもって終了している。現在のこうした接種状況、さらに今後も高齢者や基礎疾患保有者に対しては公的接種が継続するだろうという見通しに立てば、その選択肢になり得るワクチンは既存のmRNAのいずれかに対する非劣性検証を行うのが臨床上は筋だと個人的には考えるのだ。もっとも今回のコブゴーズの初回免疫の試験は起源株に対するものであり、コミナティ、スパイクバックスが起源株での発症予防の有効率が95%前後と驚異的とも言える結果だったことを考えれば、これらを比較対照薬とすることは、コブゴーズを含むその他のモダリティを用いたワクチンの有効性を不当に低く評価する可能性はある。この点を考えれば、バキスゼブリアを比較対照薬にするのもわからぬわけではない。この点を塩野義製薬広報部に確認したところ「試験実施時のワクチン接種状況から比較対照として利用でき、相手企業から利用許可が得られたことからバキスゼブリアになりました。また、これは当局とも相談をしながら、当局からもそれで良いだろうという判断で決定しています。他社(ファイザー、モデルナ)から許可が得られなかったのかどうかについては、こちら(広報部)では伺っていないので、ご回答できない状況です」とのことだった。さらに今回の審議結果は、解釈次第では同社の臨床試験実施体制そのものに疑義を呈されたと言えなくもない。今回の審議結果の受け止めについて尋ねたところ、「部会での審議内容については当社も確認中であること、また現状は継続審議となって審議中ですので、コメントすることは差し控えさせていただきます」との回答。新型コロナ治療薬のエンシトレルビルの緊急承認審議に続いて物言いが付いてしまった塩野義製薬だが、ここからどのような展開になるのか。しばらく目が離せそうにない。

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モデルナとファイザーのコロナワクチン、対象年齢や初回免疫の一変承認取得

 新型コロナウイルスに対するmRNAワクチンを提供するモデルナおよびファイザーは、8月2日に各社のプレスリリースにて、ワクチンの接種対象年齢や初回免疫について一部変更承認を取得したことを発表した。 モデルナ・ジャパンのプレスリリースによると、同社の新型コロナワクチン「スパイクバックス筋注」について、これまで接種対象年齢が12歳以上だったものを、6歳以上に引き下げ、6~11歳の用法用量を変更する承認事項の一変承認を取得した。今回の一変承認は、「スパイクバックス筋注(1価:起源株)」の6~11歳における初回免疫、および「スパイクバックス筋注(2価:起源株/オミクロン株BA.1)」と「スパイクバックス筋注(2価:起源株/オミクロン株BA.4-5)」の6~11歳における追加免疫を対象としている。 ファイザーとビオンテックの新型コロナワクチンについては、今回の一変承認で2価ワクチンも初回免疫に使用することができるようになった。ファイザーのプレスリリースによると、初回免疫に関わる製造販売承認事項の一変承認を取得した。対象のワクチンは、これまで追加免疫のみに適応だった「コミナティRTU筋注(2価:起源株/オミクロン株BA.1)」、「コミナティRTU筋注(2価:起源株/オミクロン株BA.4-5)」、「コミナティ筋注5~11歳用(2価:起源株/オミクロン株BA.4-5)」。 また、「コミナティ筋注6ヵ月~4歳用(1価:起源株)」の追加免疫、および「コミナティ筋注6ヵ月~4歳用(2価:起源株/オミクロン株BA.4-5)」の初回免疫と追加免疫に関わる一変承認も今回取得したが、並行して2023年7月7日に厚生労働省にオミクロン株XBB.1.5系統対応の1価ワクチンに関わる製造販売承認事項一部変更を申請している状況を踏まえ、日本国内において供給の予定はないという。

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第56回 第一三共と塩野義のコロナワクチンに明暗

第一三共の新型コロナワクチンが承認Unsplashより使用7月31日の薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会1)において、COVID-19に対する新たなワクチンとして、第一三共のmRNAワクチン「ダイチロナ筋注」の承認が認められました。同日審議された、塩野義製薬の組換えタンパクワクチンである「コブゴーズ筋注」は継続審議となり、実質的に認められなかった形となります。18歳以上への追加免疫に関する国内臨床試験で、従来株に対する中和抗体価の値が、対照群であったファイザー社製・モデルナ社製ワクチンの中和抗体価に対して同程度であることが確認され、中和抗体価の幾何平均上昇倍率で非劣性が確認されたことが決め手となりました。ダイチロナは従来株に対応したものですが、mRNAワクチンであるダイチロナについては変異ウイルスへの対応も期待されるところです。現在オミクロン株対応ワクチンがファイザー社・モデルナ社ともに流通しており、秋以降はXBB系統への対応ワクチンも登場する見込みです。塩野義製薬といえば、エンシトレルビル(ゾコーバ)が国内初のCOVID-19治療薬として承認されましたが、エビデンスの堅牢さが不十分で、実務的に手続きが煩雑であることも相まって、リアルワールドではあまり処方されていない現状があります。COVID-19の分野では、ここでワクチンにも塩野義の名を刻みたいところでしたが、今回は残念ながら承認が認められませんでした。抗体医薬ほどではないですが、新型コロナワクチンも栄枯盛衰が激しい分野で、アストラゼネカやジョンソン・エンド・ジョンソンのように表舞台から姿を消したワクチンもあります(図)。その中で燦然と輝くのがファイザー社とモデルナ社のmRNAワクチンです。変異ウイルスにも対応するそのスピードは圧巻で、とにかくこの分野では強いです2)。図. 新型コロナワクチンの国内承認の流れ(筆者作成)mRNAワクチンはどのメーカーのものでも有効性が高いですが、ウイルスベクターワクチンや組み換えタンパクワクチンがこれを上回ることは現状難しいようです。塩野義製薬が開発しているワクチンは組み換えタンパクワクチンで、既存のワクチンが何らかの理由で接種できない人にも使用できるというメリットがありますが、有効性がmRNAワクチンレベルに到達しなければ、承認は難しいでしょう。国内ワクチンへの期待と課題国内のワクチン流通問題を解決するためには、日本の企業に頑張ってもらう必要があったのですが、コロナ禍から約1,200日で、ようやく承認といったところです。今後は、スピードが課題になりそうです。XBB系統については、すでにファイザー社・モデルナ社と契約済みであり、この速度で第一三共のワクチンを変異ウイルスに対応させることができるのかどうか。また国内流通という強みを生かせるかどうか。いずれにしても日本のワクチン施策の歴史的な一歩になったわけですから、今後に期待したいところです。参考文献・参考サイト1)厚生労働省 令和5年度第3回薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会2)厚生労働省 令和5年度第3回薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会 資料:新変異株対応のコロナワクチンの評価方針について

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新型コロナ、2価ワクチンブースターの有効性は?/BMJ

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン接種について、オミクロンBA.4/5またはBA.1変異株対応2価ワクチンによるブースター接種(4回目接種)は、1価(起源株)ワクチン3回接種と比較して、50歳以上の成人におけるCOVID-19関連入院/死亡の低下と関連していたことを、デンマーク・Statens Serum InstitutのNiklas Worm Andersson氏らが報告した。また、BA.4/5対応2価ワクチンとBA.1対応2価ワクチンの直接比較では、ワクチンの有効性に有意差はなく、潜在的な違いは絶対数では非常に小さいことが示唆されたという。BMJ誌2023年7月25日号掲載の報告。北欧4ヵ国の50歳以上の成人を対象としたコホート研究 研究グループは北欧4ヵ国の住民登録、予防接種登録、患者登録などの各種データベースを用い、2020年12月27日から、解析データが入手できた直近日(デンマーク2023年4月10日、フィンランド4月7日、ノルウェー4月1日、スウェーデン2022年12月31日)までに、AZD1222(アストラゼネカ製)(プライマリ接種コースのみ)、BNT162b2(ファイザー製、1価:起源株)またはmRNA-1273(モデルナ製、1価:起源株)ワクチンを少なくとも3回(プライマリ接種コース2回、ブースター接種1回)接種した50歳(フィンランド60歳、ノルウェー65歳)以上を対象に解析した。 主要アウトカムは、COVID-19関連入院およびCOVID-19関連死である。4回目(2回目のブースター)としてオミクロンBA.4/5またはBA.1変異株対応2価ワクチン接種者と、4回目非接種者(3回接種)をマッチングさせ、それぞれKaplan-Meier推定法を用いてCOVID-19関連入院およびCOVID-19関連死の累積発生率を推定し、90日時点における相対的有効性(1-リスク比)および絶対リスク差を算出した。2価ワクチンのブースター接種者、1価ワクチン3回接種と比較して重症化が減少 4回目としてのBA.4/5対応2価ワクチン接種者は163万4,199例、BA.1対応2価ワクチン接種者は104万2,124例で、3回接種者とのマッチドペアはそれぞれ123万3,741組および93万2,846組であった。 4回目接種者は3回接種者と比較して、90日以内のCOVID-19関連入院およびCOVID-19関連死の累積発生率は非常に低かった。COVID-19関連入院に対する有効性および10万人当たりのリスク差は、BA.4/5対応2価ワクチンで67.8%(95%信頼区間[CI]:63.1~72.5)および-91.9(-152.4~-31.4)(イベント数289 vs.893件)、BA.1対応2価ワクチンで65.8%(95%CI:59.1~72.4)および-112.9(-179.6~-46.2)であった(イベント数332 vs.977件)。また、COVID-19関連死に対する有効性および10万人当たりのリスク差は、BA.4/5対応2価ワクチンで69.8%(95%CI:52.8~86.8)、-34.1(-40.1~-28.2)(イベント数93 vs.325件)、BA.1対応2価ワクチンで70.0%(95%CI:50.3~89.7)、-38.7(-65.4~-12.0)であった(イベント数86 vs.286件)。 4回目接種と3回接種の比較では、ワクチンの有効性は性別および年齢(70歳未満または70歳以上)により差はなく、ワクチン接種日から6ヵ月後まで緩やかに減少したが維持していた。 4回目接種に関してBA.4/5対応2価ワクチンをBA.1対応2価ワクチンと直接比較すると、有効性および10万人当たりのリスク差は、COVID-19関連入院(イベント数802 vs.932件)が-14.9%(95%CI:-62.3~32.4)および10.0(-14.4~34.4)、COVID-19関連死(イベント数229 vs.243件)が-40.7%(95%CI:-123.4~42.1)、8.1(-3.3~19.4)であった。この直接比較の結果は、性別および年齢(70歳未満または70歳以上)による層別化、あるいは追跡期間を6ヵ月まで延長した場合でも、同様であった。

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国産初の新型コロナmRNAワクチンを追加免疫として承認、供給なし/第一三共

 第一三共は8月2日のプレスリリースにて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する起源株1価mRNAワクチン「ダイチロナ筋注」(DS-5670)について、「SARS-CoV-2による感染症の予防」を適応とした追加免疫における国内製造販売承認を取得したことを発表した。ダイチロナ筋注については、2023年1月に国内製造販売承認申請を行い、COVID-19に対する国産初のmRNAワクチンとして今回承認に至った。ダイチロナ筋注は、冷蔵(2~8度)での流通・保管が可能となるため、医療現場での利便性の向上が期待される。ダイチロナ筋注は追加接種に用いられる起源株対応1価のmRNAワクチン 今回承認となったダイチロナ筋注は、同社が見出した新規核酸送達技術を活用し、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質の受容体結合領域(RBD)を標的としたCOVID-19に対するmRNAワクチンだ。ダイチロナ筋注の研究開発は、XBB.1.5系統1価ワクチンの開発を含め、日本医療研究開発機構(AMED)の「ワクチン開発推進事業」および厚生労働省の「ワクチン生産体制等緊急整備事業」の支援を受けて実施している。 なお、2023年5月開始の現行の追加接種には、ファイザーおよびモデルナのオミクロン株BA.4/5対応2価のmRNAワクチンが使用されている。また、2023年9月から予定されている追加接種には、XBB.1.5系統を含有する1価のワクチンを用いる方針が厚生労働省より示されている。今回承認された第一三共のダイチロナ筋注は、追加接種に用いられる起源株対応1価のmRNAワクチンであることから、供給は予定していない。 同社は、XBB.1系統1価ワクチンに対応できるよう速やかに開発を進め、早ければ年内にXBB.1.5系統1価ワクチンを供給できるよう取り組むとしている。

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秋接種、ファイザーとモデルナのXBB.1.5対応1価ワクチン購入合意/厚労省

 厚生労働省は7月28日、新型コロナワクチンの2023年秋開始接種に向けて、オミクロン株XBB対応1価ワクチンとして、ファイザーから2,000万回分、モデルナから500万回分を追加購入することについて、両社と合意したことを発表した。なお、必要に応じて追加購入することも合意している。 同日にファイザーが発表したプレスリリースによると、今回供給を予定しているのは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のオミクロン株XBB.1.5系統のスパイクタンパク質をコードするメッセンジャーRNA(mRNA)を含む1価ワクチンとなっている。本ワクチンは、同社が2023年7月7日に厚生労働省に承認事項一部変更申請を行っていた。 また、モデルナも同日に発表したプレスリリースにて、秋開始接種に使用するオミクロン株XBB.1.5系統に対応した新型コロナワクチンを供給するとしている。同社も2023年7月7日に厚生労働省に承認事項一部変更申請を行っていた。 両社ともに、XBB.1.5対応ワクチンについて薬事承認取得後に供給するとしている。

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7月28日 世界(日本)肝炎デー【今日は何の日?】

【7月28日 世界(日本)肝炎デー】〔由来〕世界的レベルでのウイルス性肝炎のまん延防止と患者・感染者に対する差別・偏見の解消や感染予防の推進を図ることを目的に2010年に世界保健機関(WHO)が定め、肝炎に関する啓発活動などの実施を提唱。わが国でもこれに倣い、「日本肝炎デー」を制定し、肝炎の病態や知識、予防、治療に係る正しい理解が進むよう普及・啓発を行うとともに、肝炎ウイルス検査の受診を促進している。関連コンテンツA型肝炎ワクチン【今、知っておきたいワクチンの話】B型肝炎(HB)ワクチン【今、知っておきたいワクチンの話】C型肝炎ウイルス検査ってなあに?慢性B型肝炎へのbepirovirsen、第IIb相試験結果/NEJM日本のウイルス肝炎診療に残された課題~今、全ての臨床医に求められること~

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第55回 コロナ後遺症、どんな子供に多い?

スウェーデンの大規模研究Unsplashより使用小児におけるCOVID-19は、多系統炎症性症候群(MIS-C/PIMS)を除くと、成人ほど医学的な影響は大きくないため、感染症としては比較的軽視されています。そのため、新型コロナワクチン接種率は非常に低いところでプラトーに達しています。最新のデータによると、2回目まで接種した児は23.4%、3回目の接種を受けている児はわずか9.8%です1)。さて、スウェーデンの集団ベース研究において、小児におけるCOVID-19罹患後症状(後遺症)が評価されました2)。この研究は、スウェーデンの2つの地域に居住する6~17歳の小児を対象とし、2020年1月31日~2022年2月9日のCOVID-19の症例を組み入れました。後遺症は、感染後28日以上経過してから発生したものとしました。合計16万2,383人の小児(男児8万1,789人、女児8万594人)が感染を経験し、本コホートに登録されました。平均年齢は12.0±3.5歳で、入院に至った症例はわずか529例(0.3%)でした。日本においても小児のCOVID-19入院のみならず、後遺症で入院に至ることは非常にまれですよね。性別・年齢・親の教育水準などで差結果、後遺症と診断されたのは、326例(0.2%)だけでした。女児における後遺症の発生率は男児よりも高いことが示されました(100人年あたり0.19[95%信頼区間[CI]:0.16~0.22]vs.0.12[95%CI:0.10~0.14])。また、6~11歳より12~17歳のほうが後遺症の発生率は高いという結果でした(12~17歳:100人年あたり0.19[95%CI:0.17~0.22]vs.6~11歳:0.11[95%CI:0.09~0.14])。さらに、当然ではありますが、入院COVID-19例のほうが非入院例よりも後遺症は多かったようです(100人年あたり1.25[95%CI:0.62~2.23]vs.0.15[95%CI:0.13~0.17])。興味深いことに後遺症の発生は親の教育水準によって異なっていました。初等教育卒業水準と比べて高等教育卒業水準のほうが、後遺症が多かったのです(高等教育卒業水準:100人年あたり0.15[95%CI:0.13~0.18]vs.初等教育卒業水準:0.10[95%CI:0.04~0.19])。そして、両親のいずれかが後遺症と診断された場合、児の後遺症発生が5倍多いことが示されました(100人年あたり0.70[95%CI:0.49~0.97]vs.0.14[95%CI:0.13~0.16])。教育水準が高い集団は医療アクセスが速やかなので、後遺症の診断につながりやすいという側面もあります。また、自身の後遺症の経験から子供の長引く症状に対して懸念を抱く両親が多いためと考えられます。考察では遺伝的影響もありうると書かれています。参考文献・参考サイト1)新型コロナワクチンについて(首相官邸)2)Bygdell M, et al. Incidence and Characteristics in Children with Post-COVID-19 Condition in Sweden. JAMA Netw Open. 2023 Jul 3;6(7):e2324246.

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コロナ再感染、高齢者よりも若年層で増加

 新型コロナウイルス感染症の流行が長期にわたり、再感染者も増えている。コロナ再感染は基礎体力が劣り、基礎疾患を持つ人が多い高齢者に多いのではと考えられるが、実際には若年・中年層の増加率が高齢者よりも高いことが明らかになった。米国疾病管理予防センター(CDC)が実施した研究結果は、Morbidity and Mortality Weekly Report(MMWR)誌2023年6月23日号に掲載された。コロナ再感染の割合の絶対的増加は18〜49歳で最も高い CDCは2021年9月5日~2022年12月31日に、米国の18の管轄区域から報告された18歳以上の成人のCOVID-19全症例、入院、死亡に占めるコロナ再感染の割合を調査し、5つの期間(デルタおよびオミクロン[BA.1、BA.2、BA.4/BA.5、BQ.1/BQ.1.1]がそれぞれ優勢だった期間)と年齢層別に解析した。 コロナ再感染の割合を調査した主な結果は以下のとおり。・期間中に278万4,548例のコロナ再感染が報告され、同集団および期間に報告された全症例(2,194万3,686例)の12.7%を占めた。・18~49歳が人口に占める割合は54%だが、この期間のコロナ再感染者の66.8%を占めた。50~64歳は21.2%、65歳以上は11.9%であった。・全症例に占めるコロナ再感染の割合は、2.7%(デルタ期)から28.8%(オミクロンBQ.1/BQ.1.1期、以後期間はすべてデルタ期→オミクロンBQ.1/BQ.1.1期)に大幅に増加した。COVID-19関連入院(1.9%→17.0%)および死亡(1.2%→12.3%)に占めるコロナ再感染の割合も大幅に増加した。・コロナ再感染の割合の絶対的増加は18〜49歳で最も高く(3.0%→34.4%)、50~64歳は2.1%→29.0%、65歳以上は2.0%→18.9%だった。・COVID-19の全症例、入院、および死亡のうちコロナ再感染の割合は、50歳以上と比較して、18~49歳では期間を通じて一貫して高かった。・コロナ感染間隔の中央値は269~411日であり、BA.4/BA.5期間の開始時に急減した。 レポートはこの期間のコロナ再感染およびそれに伴う入院と死亡の割合が若年層で高い理由として、初感染の累積発生率が高いこと、ワクチン接種開始の時期が遅いこと、ワクチン接種率が低いこと、曝露リスクが高いこと、初感染の重症度が低いために生存バイアスがかかっている可能性、など複数の要因が考えられるとしている。

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XBB/XBB.1.5、ほかの変異株より再感染リスク高い

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の多様な変異の出現は、ワクチンと感染の両方による集団免疫を回避する能力の向上と関連している。米国・カリフォルニア大学バークレー校のJoseph A. Lewnard氏らの研究によると、現在主流となっているオミクロン株XBB/XBB.1.5系統は、ワクチン由来の免疫と感染由来の免疫とで回避傾向が異なり、同時期に流行しているほかの変異体と比較して、ワクチン接種回数が多い人ほど感染リスクや感染時の入院リスクが低減する一方で、過去に感染既往がある人はXBB/XBB.1.5への感染リスクが高いことが示された。Nature Communications誌2023年6月29日号に掲載の報告。 XBB/XBB.1.5系統は2023年1月下旬までに、ほかの変異体を追い抜き米国内で主流となった。本研究では、南カリフォルニアにおいて2022年12月1日~2023年2月23日の期間に、外来でSARS-CoV-2陽性と判定された3万1,739例のデータを解析した。これらの被験者において、XBB/XBB.1.5に感染した人と、ほかのBA.4/BA.5などに感染した人について、ワクチン接種歴と過去のSARS-CoV-2感染既往、および臨床転帰を比較した。 主な結果は以下のとおり。・XBB/XBB.1.5系統に感染していると推定された外来患者の割合は、2022年12月1日の時点で21.1%(45/213例)であったのが、2023年2月23日の時点で77.8%(49/63例)に増加した。全被験者3万1,739例のうち、XBB/XBB.1.5症例は9,869例、それ以外のBA.4/BA.5などの非XBB/XBB.1.5症例は2万1,870例だった。・COVID-19ワクチン接種回数と感染リスクの関連は、XBB/XBB.1.5症例は、非XBB/XBB.1.5症例と比較した調整オッズ比(OR)が、接種2回で10%(95%信頼区間[CI]:1~18)、3回で11%(3~19)、4回で13%(3~21)、5回以上で25%(15~34)低かった。・過去のSARS-CoV-2感染既往と感染リスクの関連は、XBB/XBB.1.5症例は、非XBB/XBB.1.5症例と比較した調整ORが、過去1回の感染既往で17%(95%CI:11~24)、過去2回以上の感染既往で40%(19~65)高かった。・COVID-19ワクチン接種回数と感染時の入院リスクとの関連は、XBB/XBB.1.5症例における検査陽性後30日間の入院予防効果の推定値が、接種2回で41%(95%CI:-44~76)、3回で54%(0~79)、4回で70%(30~87)であった。一方、非XBB/XBB.1.5症例では、接種2回で6%(-65~46)、3回で46%(7~69)、4回で48%(7~71)であり、XBB/XBB.1.5症例のほうが有意に予防効果が高かった。・過去のSARS-CoV-2感染既往と入院リスクの関連は、XBB/XBB.1.5症例および非XBB/XBB.1.5症例において同等であった。2回以上の感染既往の入院の調整ハザード比は、XBB/XBB.1.5症例で0.73(95%CI:0.17~3.15)、非XBB/XBB.1.5症例で0.72(0.26~2.01)。 著者らは本結果について、XBB/XBB.1.5系統は、オミクロン株以前の変異株を含む過去の感染によって引き起こされた免疫応答に対する回避能が、同時期に流行しているBA.5系統より優れているものの、ワクチン接種によって引き起こされる免疫応答に対してはより感受性が高く、過去の変異株とは異なる特徴を持っていると述べている。

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第173回 コロナと戦えるT細胞が風邪のお陰で育まれうることの初の裏付け

ウイルスが体内の細胞の1つに感染すると病原体駆逐に携わるヒト白血球抗原(HLA)遺伝子のタンパク質がその細胞表面にウイルスタンパク質の切れ端を提示して免疫系に通知します。その通知を受け、病原体を認識して記憶しうるT細胞が感染細胞を殺してウイルスが複製できないようにします。HLA遺伝子群の顔ぶれはすこぶる多彩で、その多くはどれかのウイルスへの免疫反応の強さの個人差に寄与しています。たとえばHLA-B遺伝子の1つは感染したヒト免疫不全ウイルス(HIV)が体内で極わずかなままで発症しない人にも認められ、かたや別の種類のHLA-B遺伝子を有する人では正反対にHIV感染後速やかにAIDSを発症します。HIV感染の経過との関連のように新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染の経過と関連するHLA遺伝子があるかもしれません。そこで米国・カリフォルニア大学の免疫遺伝研究者Jill Hollenbach氏が率いるチームは骨髄ドナー登録のおかげでHLAの種類が検査ですでに判明している3万例弱に協力を仰ぎ、SARS-CoV-2感染の経過とHLAの関連を調査しました。被験者の携帯機器にダウンロードしてもらったアプリを使って情報を集めたところSARS-CoV-2ワクチン普及前の2021年4月30日までに白人被験者の約1,400例がSARS-CoV-2に感染しており、その1割ほどの136例は無症状で済んでいました。HLA遺伝子情報と照らし合わせたところ、それら136例の5人に1人(20%)はHLA-B*15:01として知られるHLA-B遺伝子変異を有していました1)。一方、発症した人のHLA-B*15:01保有率は10人に1人に満たない9%でした。続いて、それら被験者とは別の米国とオーストラリアの被験者の血液検体を使ってHLA-B*15:01と発症予防を関連付ける仕組みの解明が試みられました。それら血液検体は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行前に集められました。それにも関わらずHLA-B*15:01保有者の血液検体の75%のT細胞はSARS-CoV-2スパイクタンパク質の一部NQK-Q8を認識しました。どうやらHLA-B*15:01保有者のT細胞はSARS-CoV-2の情報を知らされていないのにSARS-CoV-2と戦う準備ができているようなのです。それはなぜか。SARS-CoV-2が広まる前から馴染みの季節性コロナウイルス感染の経験がその理由の一端を担っているようです。風邪ウイルスとしても知られる季節性コロナウイルスのスパイクタンパク質はNQK-Q8とほぼ同一のペプチド配列NQK-A8を含みます。HLA-B*15:01保有者のT細胞はそのNQK-A8にも強力に反応しました。HLA-B*15:01保有者のT細胞は季節性コロナウイルスによる風邪の経験を糧に鍛えられ、SARS-CoV-2を含むほかの見知らぬコロナウイルスをも相手できる免疫を備えたのかもしれません。見知らぬSARS-CoV-2も相手しうるT細胞が季節性コロナウイルスとの先立つ交戦を経て生み出されうることを裏付けた初めての成果となったと免疫学の研究者などは述べています2)。今後の研究課題として、HLA-B*15:01がSARS-CoV-2への免疫反応を底上げする仕組みを調べる必要があります。その仕組みの解明は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の新たな予防ワクチンや治療手段の開発に役立ちそうです3)。参考1)Augusto DG, et al. Nature. 2023 Jul 19. [Epub ahead of print]2)One in five people who contract the COVID-19 virus don’t get sick. A gene variant may explain why / Science3)Gene Mutation May Explain Why Some Don’t Get Sick from COVID-19 / UC San Francisco

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コロナ罹患後症状における精神症状の国内レジストリ構築、主なリスク因子は?/日本精神神経学会

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行はすでに3年以上経過しているが、流行が長期化するほど既感染者が増加し、コロナ後遺症(コロナ罹患後症状、Long COVID)のリスクも上がる。コロナ後遺症は、倦怠感や認知機能障害といった精神神経障害が年単位で持続する場合もある。 国立精神・神経医療研究センターの高松 直岐氏らの研究チームは、こうしたコロナ後遺症の病態解明と新規治療法開発につなげるため、COVID-19感染後の精神症状を有する患者レジストリの構築を実施している。中間解析の結果、コロナ後遺症による有意な心理社会的機能障害の予測因子は、退職経験、主婦層、COVID-19罹患への心配や抑うつが中等度以上、ワクチン接種2回以下であることが示された。6月22~24日に横浜にて開催された第119回日本精神神経学会学術総会にて、高松氏が発表した。 本レジストリ、PSCORE-J(Psychiatric Symptoms for COVID-19 Registry Japan)の研究の正式名称は「COVID-19感染後の精神症状を有する患者レジストリの構築と病態解明及び新規治療法の開発に資する研究」。同センターの久我 弘典氏が研究代表を務める。COVID-19急性期患者(前向き)と過去にCOVID-19に感染した患者(後ろ向き)で16歳以上の人を対象に登録目標数1,000例とした、国内の多施設共同研究である。対象者に、頭部MRIや血液検査、認知機能検査(MOCA-J)、罹患後症状の重症度評価(CGI-S)などの医師による診察、および、スマートフォンを使って患者が自己回答する心理検査(ePRO)を定期的に実施した。対象者への「新型コロナウイルス後遺症の影響で、日常的な生活がこれまでと明らかに違いますか?」という質問で、当てはまる人をケース群、当てはまらない人をコントロール群とした。 本研究の医師の診察による予備的解析結果は以下のとおり。・ケース群43例、コントロール群29例の計72例が解析された。ケース群は女性67%、平均年齢44.9歳(SD 11.9)、コントロール群は女性66%、平均年齢42.1歳(SD 9.7)。・コロナ後遺症の重症度を臨床全般印象重症度スコアCGI-S(スコア範囲:1[正常]~7、スコアが高いほど重症)で評価したところ、コントロール群は29例すべて正常(1点)であったが、ケース群では、精神疾患の境界線上(2点)1例、軽度(3点)13例、中等度(4点)10例、顕著(5点)8例、重度(6点)10例であった。・抑うつをPHQ-9スコアで評価したところ、コントロール群は大半が正常だったのに対し、ケース群はCGI-Sで評価された重症度に比例してPHQ-9の重症度が高くなった。・ケース群では女性のほうが男性よりも有意に重症度が高い人が多かった。 ePROを使った患者アンケートでは、コントロール群115例、ケース群121例の計236例の結果が得られた。この回答を多変量解析し、コロナ後遺症による心理社会的機能障害の予測因子とオッズ比(OR)を推定した。主な結果は以下のとおり。・「COVID-19による退職経験がある」はOR:44.9、95%信頼区間[CI]:5.66~355.1(p<0.001)であった。・「主婦である」はOR:83.3、95%CI:3.15~2204.3、p=0.008であった。・「COVID-19感染が心配である(中等度)」はOR:11.9、95%CI:1.48~96.2、p=0.020、「同(重度)」はOR:56.1、95%CI:5.97~527.3、p<0.001であった。・「抑うつ(PHQ-9スコア)が中等度」はOR:7.02、95%CI:1.76~28.0、p=0.006、「同(重度)」はOR:12.3、95%CI:2.53~60.2、p<0.001であった。・「ワクチン接種が2回以下」はOR:14.2、95%CI:3.77~53.7、p<0.001であった。 高松氏は、本結果の制限として、対象者が国立機関の精神科を受診した比較的重症度の高い集団であるため、現時点では本邦の全体集団を表すものではないことを挙げつつ、今後の展望としてさらに被験者のリクルートを拡大する意向を示した。

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英語で「避妊薬」は?【1分★医療英語】第89回

第89回 英語で「避妊薬」は?There are several methods of contraception.(いくつかの避妊方法があります)I prefer oral contraceptives.(経口避妊薬がいいです)《例文1》How effective are the contraceptive devices?(避妊具の成功率はどれくらいですか?)《例文2》Most contraceptive pills contain a combination of estrogen and progestin.(多くの避妊薬にはエストロゲンとプロゲスチンが含まれています)《解説》“contraception”(避妊)の語源は前置詞の“contra”(妨げる)と名詞の“conception”(妊娠・受胎)を合わせたものです。さらに“-ive”を付けると“contraceptives”(避妊具・避妊薬)を意味します。避妊薬は“birth control pill”とも表現します。例文にありますが、ホルモンの“estrogen”は日本語では「エストロゲン」ですが、英語の発音は「エストロジェン」(「エ」にアクセント)とかなり異なります。同様に“progestin”は「プロゲスチン」ではなく「プロジェスティン」(「ジェ」にアクセント)です。日本でもアフターピルの市販化について議論がされていますね。アフターピルは日本語と同じように“after pill”、“morning after pill”とも言いますが、“emergency contraceptive pill”(緊急避妊薬)、あるいは有名な商品名から“Plan B”(Plan B One-Stepという緊急避妊薬がある)と表現することもあります。米国の全州でアフターピルは薬局やオンラインで処方箋なしに「OTC(over-the-counter)薬」として購入できます。また、私のいるカリフォルニアでは2016年より薬剤師の権限が広がり、通常の避妊薬も薬局で薬剤師から購入できるようになりましたが、これは「BTC(behind-the-counter)薬」扱いとなっています。BTCとは言葉どおり「カウンターの後ろ」に置かれる薬剤であり、年齢や量を確認したうえでないと販売できない仕組みです。素早くアクセスできることが大事である“emergency contraception”や“immunization”(ワクチン接種)などは、日本でも薬局での販売や実施が早期に実現すればよいと思います。講師紹介

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第172回 long COVIDと関連する遺伝子領域を同定

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後症状(long COVID)と関連する6番染色体の遺伝子領域が見つかりました。16ヵ国での24試験のlong COVID患者6千人超(6,450人)とそうでない約110万人(1,09万3,995人)が全ゲノム関連解析(GWAS)で検討され、ほぼどの組織でも発現することが知られる転写因子FOXP4の遺伝子領域rs9367106地点の塩基がシトシン(rs9367106-C)の人のlong COVIDの発現率はそうでない人に比べて1.6倍高いことが示されました1,2)。rs9367106地点とlong COVIDの関連はFOXP4遺伝子発現の変化を介するらしく、遺伝子発現データベースGTExを解析したところrs9367106-Cの代理役rs12660421-Aと肺や脳の視床下部のFOXP4遺伝子発現亢進の関連が認められました。先立つ研究でFOXP4とCOVID-19重症度の関連が示されています。今回の研究でも同様の結果が得られており、COVID-19重症度がlong COVID発生におそらく一枚かむことがさらに裏付けられました。ただし、FOXP4遺伝子座とlong COVIDの結び付きはより強く、重症度だけで説明がつくものではなく、重症度とは独立したFOXP4とlong COVIDの関連がどうやら存在するようです。long COVIDの快復のほどは?世界の少なくとも6,500万人がlong COVIDを患っており、その数は日々増えています3)。頭痛、疲労、脳のもやもやなどの症状を特徴としますが、long COVIDの定義はいまだに議論されています。上述したような遺伝子解析の成果が出始めてはいるもののlong COVIDの生理学的な仕組みもこれから調べていく必要があります。しかしわかってきたこともあります。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が世界に広まり始めてから3年以上が過ぎ、long COVID患者のどれほどが快方に向かうかの目安となる試験結果2つがこの5月に報告されています。5月25日にJAMA誌に掲載された報告では米国の成人約1万人が調べられ、感染から6ヵ月時点でlong COVIDだった人の3人に1人が9ヵ月時点ではlong COVIDを脱していました4)。その約1週間後の5月31日にBMJ誌に掲載された別の報告はワクチン普及前にSARS-CoV-2感染した成人約千人の追跡結果です。それら感染者のうち5人に1人を超える22.9%は感染から6ヵ月経っても不調が続いていましたが、1年後のその割合は5人に1人に満たない18.5%に低下しました5)。2年後の不調患者の割合は17.2%であり、1年後とあまり変わりませんでした。すなわち感染から1年経つと不調の解消は頭打ちとなるようです。感染から1年後までは快方がより期待できるものの1年を過ぎるといよいよ慢性病態に陥るとBMJ報告の著者は言っています6)。参考1)Genome-wide Association Study of Long COVID. July 01 2023. medRxiv.2)Gene linked to long COVID found in analysis of thousands of patients / Nature3)Davis HE, et al. Nat Rev Microbiol. 2023;21:133-146.4)Thaweethai T, et al. JAMA. 2023;329:1934-1946.5)Ballouz T, et al. BMJ. 2023;381:e074425.6)Long COVID: answers emerge on how many people get better / Nature

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第168回 コロナワクチン接種に悩む友人の“例え”が衝撃的だった話

先週、沖縄での新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)について触れたが、この秋からのワクチン接種に関して厚生労働省の厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会は6月16日、オミクロン株XBB.1系統に対応した新しい1価ワクチンを使用する方針を了承。これに応じて7月7日、ファイザー、モデルナの両社はオミクロン株XBB.1.5系統対応の1価ワクチンの承認事項一部変更(通称・一変)を申請した。さすがに抗原タンパク質の設計変更が容易なメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンだと、こうも迅速に対応が可能なのだと個人的には改めて驚いている。もちろん一変なので改めて臨床試験を行う必要はないが、前述の6月16日の分科会ではモデルナが実施した予備的臨床試験の結果も報告されている。この予備的臨床試験は18歳以上ですでにワクチンを4回接種済み、かつBA.4/5用の追加接種から3ヵ月以上を経た101人を2群に分け、5回目の追加接種としてXBB.1.5系統対応1価ワクチンとBA.4/5+XBB.1.5系統対応の2価ワクチンを接種して比較したもの。それによると、接種後の中和抗体価の変化は、XBB.1.5系統に対しては1価ワクチンで16.6倍、2価ワクチンで11.6倍、XBB.1.16系統に対しては1価ワクチンで10.2倍、2価ワクチンで9.3倍、いずれも上昇したとの結果だ。過去のオミクロン株BA.1対応あるいはBA.4/5対応の時の中和抗体価上昇に関する臨床試験の際も、やはりこれらに対応した1価と武漢株を含む2価のワクチンでは1価ワクチンのほうが中和抗体価の上昇がより高いことが確認されている。しかし、念のためと称して2価ワクチンが採用されたことを考えれば、今回はこの経験が生かされていると言えるかもしれない。さて問題はここからだ。もはや新型コロナワクチンに関しては、感染予防、発症予防、重症化予防でも一定の有効性が認められることに医学的にほぼ異論はないと考えるのが一般的である。一部にそうではない意見があることはもちろん承知しているが、誤解を恐れずに言えばそれはノイズである。しかし、すでに多くの国民が「コロナ禍」、そして相次ぐ「ワクチンの追加接種」に疲弊しているのは確かだろう。実際、今春の接種が開始された直後から知人・友人から「まだワクチンを接種したほうが良いの?」と相談を受けることが増えた。これに対して、私はまずはかかりつけ医がいるかどうかを確認し、「いる」と答えた人には「先生は何と言っている?」と聞き返している。偶然にもそうしたケースはいずれも「先生は『接種したほうが良いよ』と言っているよ」との答えが返ってきたので、「俺もそう思うよ」と言うと、だいたい話は終わる。これに対して「いない」と答えてくる人はやや対応が面倒になる。この際には私はまず「データ上は有効性が明らかなので、できるだけ接種したほうが良いと思うよ」と答える。ただ、これで終わることはまずない。一番多い反応は「なんか打つたびに熱が出るし、しんどいよ」というもの。まあ、気持ちはわからないわけではない。だが、私はそうは答えない。というのも、過去4回の接種で私は自覚できる副反応らしきものを経験していないからだ。そこでとりあえずは「俺は次回も打つよ」とだけ答えている。これに対する反応は実にまちまちだ。列挙するとこんな感じだ。「ふーん」「うーん、もう一度考えてみるか」「まあ、タダのうちは打っとくか」「本当に物好きだよね」「出ました。ワクチン男」「お前、今にワクチンで死ぬんじゃない?」最後の3つは大きなお世話と言いたいところだ。そのような中で1人だけ興味深いことを口にした友人がいた。彼はワクチン接種後の死亡事例の中で、ワクチン接種との因果関係が否定できないとして国の健康被害救済制度の認定を受けた事例があることを挙げて、とことん食い下がってきた。私はどの医薬品、ワクチンでも副作用・副反応はゼロにならないこと、その中でごく少数とは言え、極めて不幸な結果になってしまう事例は完全には避けられないことなどを話した。まあ、定型のやり取りと言えばそれまでかもしれない。約1時間の電話でのやり取り後に妙な沈黙となった。正直、私自身かなり疲れてしまって、それ以上何かを言う気にもなれなかった。その沈黙を破ったのは友人のほうだった。「まあ、俺の父親の件みたいなものか」一瞬、混乱した。彼の父親は今から10年以上前に交通事故で亡くなっている。新型コロナワクチンとは何も関係ない。「え、何が?」と私が問うと彼は次のように答えた。「いやさ、父親が交通事故で死んだのは知ってるよね。もちろん父親をはねた運転手に対する恨みは今でもあるよ。でもさ、父親が交通事故で死んだからって自動車を世の中から廃止しろとは言わないよ。ワクチンもそんなものかなと。さっきからワクチンの有効性についてはコンセンサスがあるって言ってたじゃん。確かに報道で医師がこのワクチンのことについて言及する時も多くは打ったほうが良いと言うよね。それはそうなんだろう。ただ、どうしてもごく少数の不幸な事例は出てしまう。かといってこのワクチン接種を止めろと言うならば、それは俺が自動車を全廃しろと言うくらいナンセンスかもね、ということよ」何気ない会話かもしれないが、私は彼のこの発言にかなり圧倒されてしまった。言葉を仕事にしながら、自分はこうした表現は思いつかなかったからだ。結局、彼はひとしきりそう言うと「まあ、もう一度じっくり考えてみるわ」と言って電話を切った。さて国は、そして報道は、このもはやコロナ禍は終わったかのような空気が漂う中で、この秋から始まる予定のXBB系統の新ワクチンの接種を推進するためにどのような言葉を選択していくのだろう。報道の片隅に身を置く立場として、この友人の言葉を私自身はこの1週間反芻している。参考(1)厚生労働省:第47回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会 資料

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COVID-19罹患後症状の追跡調査(解説:小金丸博氏)

 COVID-19に罹患した一部の患者にさまざまな罹患後症状(いわゆる後遺症)を認めることがわかってきたが、その原因やメカニズムはまだ解明されておらず、効果的な介入方法も確立していない。罹患後症状はpost COVID-19 condition、long COVID、post-acute sequelae of SARS-CoV-2 infection(PASC)などと呼ばれ、WHOは「新型コロナウイルスに感染した人にみられ、少なくとも2ヵ月以上持続し、他の疾患による症状として説明できないもの」と定義している。罹患後症状の種類や有病率、長期経過の把握は、治療方法や介入方法を検討するための臨床試験の設計につながる有益な情報となる。 今回、COVID-19罹患2年後までの健康状態の変化を追跡したスイスの人口ベース前向き縦断コホート研究の結果がBMJ誌2023年5月31日号に報告された。感染者と未感染者を比較していることが本研究の特徴の1つである。患者の訴える症状がCOVID-19に関連する症状かどうかを判断することは難しいが、未感染者と比較することで統計学的に評価することが可能となっている。時間の経過とともに症状の重症度や健康障害は軽減していたが、罹患24ヵ月後の時点で感染者の18.1%(95%信頼区間:14.8~21.9)にCOVID-19関連症状を認めた。罹患6ヵ月後の時点で頻度の高かった罹患後症状と思われる症状は、味覚・嗅覚の変化(9.8%)、労作後倦怠感(9.4%)、集中力低下(8.3%)、呼吸困難(7.8%)、記憶障害(5.7%)、疲労(5.4%)などであった。 COVID-19罹患後症状の長期的な転帰を評価した過去の研究の多くは入院患者などに限定した集団を対象としており、さまざまな重症度のCOVID-19の症状や回復経過のばらつきを完全には反映していない可能性があった。本研究では疾患の重症度では対象を限定せず、幅広く解析対象に組み込んでいることが特徴である。ただし、18歳以上の成人、ワクチン未接種者、初回感染である者などに対象を限定しており、小児やワクチン接種者での罹患後症状の経過については判断できない。とくに現在はワクチン接種者が数多く存在するようになっており、ワクチン接種が罹患後症状にどのような影響を与えるかは興味ある点である。 本研究では解析されていないが、抗ウイルス薬の投与が罹患後症状の予防に有効であることが報告されてきている。重症化防止のみならず、罹患後症状の予防という観点は、今後の抗ウイルス薬投与の方針を決めるうえで重要な要素になると考える。

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