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米国てんかんセンター協会がガイドライン改訂

 米国てんかんセンター協会(National Association of Epilepsy Centers;NAEC)はこのほど、てんかんセンターが提供する医療に関するガイドラインを改訂。米ホフストラ大学ザッカー医学部のFred A. Lado氏らが作成したガイドラインの要約版が、「Neurology」に2月2日掲載された。 NAECは米国内の260以上のてんかんセンターが加盟している非営利団体で、1990年に初のガイドラインを発行。初版発行以降、約10年サイクルで改訂を重ねてきており、前回の改訂は2010年だった。今回の改訂に際してはPubMedとEmbaseを用いたシステマティックレビューが行われ、重複削除後の5,937報から197報を抽出。医師、患者、介護者、看護師、検査技師などさまざまなバックグランドを持つ41人から成る委員会が、それらの報告に基づき推奨の草案を作成。その後、修正デルファイ法によって最終的な合意を得るという手法により、信頼できるコンセンサスベースの推奨(trustworthy consensus-based statements;TCBS)として52項目がまとめられた。 52項目の推奨事項は、診断、外来、入院および脳波モニタリングユニット(epilepsy monitoring unit;EMU)、手術に大別され、外来については、診療、薬物管理、患者教育、食事療法、リハビリテーション、心理社会的支援などに細分化されている。推奨事項のいくつかを具体的に挙げると、例えば診断の項目では、全てのてんかんセンターは遺伝子検査が有用と思われる患者を選別するための確立されたプロトコールを持つべきであり、認定カウンセラーによる遺伝カウンセリングを提供する必要があるとしている。また外来での心理社会的支援としては、てんかん患者に生じ得る教育的、社会的、感情的、職業的な障害を把握し対処するために、全てのてんかんセンターには臨床ソーシャルワーカーを配置すべきとの項目が掲げられている。 今回のガイドライン改訂の背景について、筆頭著者であるLado氏は、「医学が進歩していることに加え、近年では発作の管理にとどまらず、患者の総合的な健康や幸福について介入が求められるように環境が変化してきた。不安症やうつ病などの併存疾患のケア、患者-ケアチーム間のコミュニケーションの強化なども、今では欠くことができない。てんかんセンターやその他の医療機関が、質の高い包括的ケアを提供する上で必要なリソースを確保するためにも、ガイドラインの拡充が切に必要とされていた」と語っている。 なお、2人の著者が製薬企業および医療テクノロジー関連企業との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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第216回 異例の承認「外傷性脳損傷による運動麻痺」の改善薬

6月21日夜、私が接したのは異例中の異例の結論だった。国内バイオベンチャー・サンバイオが中等度から重度の外傷性脳損傷後の運動機能障害の改善を適応として申請中の再生医療等製品「アクーゴ脳内移植用注」(一般名:バンデフィテムセル、開発番号:SB623、以下は開発番号で表記)について、厚生労働省(以下、厚労省)の薬事審議会の再生医療等製品・生物由来技術部会*(以下、部会)は、再生医療等製品特有の条件および期限付承認を了承したが、端的に言うと「承認するが、当面出荷は認めず」という“玉虫色”の結論を出したのである。*旧薬事・食品衛生審議会、本年4月より改称SB623とは外傷性脳損傷は、交通事故、労働災害や高齢者のふらつきなどによる転落・転倒、スポーツ外傷などによって起こり、脳の神経細胞の損傷が著しい1割程度の中等~重度の患者では慢性的な記憶障害や運動機能障害などに至ってしまう。運動機能障害の症状は手足の動きの鈍化、嚥下機能の低下、円滑な発話が困難などで日常生活におけるQOLは大幅に低下する。外傷性脳損傷による慢性的な運動機能障害は、現状ではリハビリテーション以外にほぼ治療手段はない。そうした中で2001年に米国・カリフォルニア州で設立されたサンバイオ(2014年、日本に本社移転)が創業以来、開発に注力してきたのがその治療薬SB623である。SB623は健康成人骨髄液由来の間葉系間質細胞を加工・培養して作製されたヒト(同種)骨髄由来加工間葉系幹細胞。これを定位脳手術で脳内の損傷した神経組織へ直接移植手術を行うことで、脳神経再生能力を促し、喪失した運動機能を回復させる効果が見込まれている。損傷した脳の神経細胞の復元がきわめて難しいことは一定の医学知識があれば容易に想像がつくが、そこに挑んだのがSB623である。サンバイオが日本に拠点を移動した2014年11月には国内再生医療等製品に関する早期承認(条件および期限付承認)制度がスタート。同制度は、アンメットメディカルニーズゆえに被験者数の確保が難しく、二重盲検比較試験実施も困難な再生医療等製品について、有効性が推定され、安全性が認められた再生医療等製品を、条件や期限を設けたうえで早期承認する仕組み。承認後は製造販売後使用成績調査や製造販売後臨床試験を計画・実施し、7年を超えない範囲で有効性、安全性を検証したうえで、期限内に再度承認申請して本承認(正式承認)を取得する。株価に期待や不安が織り交ざる先進国内で最も再生医療等製品の上市ハードルを低くしたともいえる同制度は、サンバイオのSB623開発にとって追い風だったことは想像に難くない。同社は2015年に東京証券取引所マザーズ市場(現・グロース市場)に上場を果たし、2018年11月には外傷性脳損傷を対象にしたSB623の日米共同第II相「STEMTRA試験」で主要評価項目の達成を発表。2019年1月に同社株価は1万2,730円と上場以来の最高値を記録した。ただ、当時の株価急上昇は外傷性脳損傷でのポジティブな試験結果とは別の要因も働いていたと考えられる。というのも同社創業直後から、SB623は外傷性脳損傷よりはるかに市場規模が大きい慢性期脳梗塞での運動機能障害を適応とする臨床試験が先行していたからだ。つまり2018年11月の速報結果発表以降の株価の急上昇は、脳梗塞での試験成功への期待値も織り込んでいたというのが、関係者の間では共通認識だった。しかし、上場後の株価最高値を記録した2019年1月末、同社は業績予想の下方修正と脳梗塞で進んでいた第II相試験の主要評価項目未達を相次いで発表。翌2月に株価は反転急落し、同月最安値は2,401円にまで落ち込んだ。ところがこの3ヵ月後の2019年4月、外傷性脳損傷後の運動機能障害の改善の適応に関してSB623が厚生労働省の先駆け審査品目に指定を受け、再び期待が高まることになった。「先駆け審査指定制度」の法制化3年後に申請先駆け審査指定制度は、2014年6月に閣議決定された産業競争力の強化を通じ日本の成長戦略「日本再興戦略改訂2014」で謳われた「世界に先駆けた革新的医薬品・医療機器等の実用化の推進(先駆けパッケージ戦略)」を受け、2015年度から厚生労働省と医薬品医療機器総合機構(PMDA)が試行的に開始。2019年の薬機法改正で法制化された。同制度は(1)治療薬の画期性(2)対象疾患の重篤性(3)対象疾患に係る極めて高い有効性(4)世界に先駆けて日本で早期開発・申請する意思・体制、の4条件を満たす開発中の医薬品を、企業の申請に基づき薬事審議会での意見聴取などを考慮して指定する。指定を受けた医薬品は、申請前に事前にPMDAによる優先相談や事前評価を受けられ、申請から原則6ヵ月以内に承認可否が下されるなどの“特典”がある。そしてついに同社は2022年3月、「外傷性脳損傷に伴う慢性期の運動麻痺の改善」の適応で承認を申請。同制度の原則に基づけば2022年9月には承認可否が決定しているはずだったが、同年8月までに開催された2回の部会の議題には上らず、7月22日付で同社は9月までに先駆け審査制度に基づく承認の見込みはないとのプレスリリースを公表し、10月には「今期中の承認取得はないものと判断しています」とのプレスリリースも発表した。この中身が明らかになったのは2023年3月に行われた同社決算会見。同社が「細胞の製造の際に申請時点と比較して収量が減少する課題が発生した」と公表し、以後、同社のプレスリリースではこの点に関する情報発信が以下のように変化していった。「現時点ではまだ、申請時点と同等の収量に戻り切っていませんが、直近の製造を通して得られた追加データに基づく原因分析の結果、課題解決に直結すると考えられる施策を策定することができました。現在、この施策を講じた上で製造を行っており、8月にこの製造の収量結果をもって課題解決の判断ができる見込みです」(2023年6月)「収量に関する課題について、施策を講じた直近の製造において、収量の改善を確認することができました。今後、追加製造と並行して、生産関連の審査に適時適切に対応していくことで、引き続き、今期中の承認取得を目指します」(2023年8月)「収量に関する課題については解決し、審査は進捗しております。但し、審査の状況から承認取得にはもう少し時間を要するため、承認取得目標時期は2024年3月に修正いたします」(2023年12月)承認審議、そこから明らかになった課題そして今年3月18日、厚労省が3月25日の部会開催を発表し、その議題には「非公開案件 議題2 再生医療等製品『アクーゴ脳内移植用注』について」と記載されていた。「うわっ!承認審議か」と私も含め多くの記者が色めき立ったが、翌日の一部専門紙で「承認可否は審議せず、“今後の方向性”を審議する」と報じられた。そもそも部会審議の議題にあがりながら、承認可否を審議しないこと自体異例である。この時に厚労省が発表した資料によると、「治験製品と本品との同等性/同質性が確認される前提ではあるものの、一定の有効性は期待でき、ベネフィットを踏まえると安全性は許容可能。本品の有効性および安全性に関する情報は現時点で限定的であるものの、本品を臨床現場に提供する意義はあるものと評価」との見解を示しながらも、「現時点で得られたデータでは、治験製品と本品との同等性/同質性は判断できない」と記述されていた。要は製品としての品質が担保されていないということだ。この品質問題の詳細について厚労省側は企業秘密に該当するとして公表していない。サンバイオ側にも確認したところ、「お答えできない」との回答だった。ただ、この件に関する同社のプレスリリースでは品質に関する追加データを提出していく意向を示しており、「(提出するデータは)今後当局との協議の中で明確化して対応していく予定です。当局との協議次第となります」(同社広報)との回答だった。承認へ、本品が唯一の治療方法になる可能性そして再び6月12日に厚労省は6月18日の部会開催を発表。議題の1つが「再生医療等製品『アクーゴ脳内移植用注』の製造販売承認の可否、条件及び期限の要否並びに再審査期間の指定の要否について」。3月の開催案内に比べ、議題表記がかなり具体的であるため、私や周囲の何人かの記者は承認の見通しだろうと予想した。そして6月18日、夜9時からオンラインで開催された部会後の記者レク*。事前に厚労省からメールで届いた資料を読んでいて、「ああやっぱり承認か」と思いながらPDFをスクロールしていると、2ページ目の備考欄で目が留まった。そこには以下のような記載があった。*記者レクチャーの略。記者団などを相手に発表を行うと共に発表者から説明が行われる場「本品の製造実績が限られていることを踏まえ、あらかじめ定めた計画に基づき、本品の品質に関する情報を速やかに収集するとともに、治験製品と本品との品質の同等性/同質性を評価し、結果を報告すること。また、当該結果を踏まえ、必要な承認事項一部変更承認申請を行うとともに、当該申請が承認されるまでの間、本品の出荷を行わないこと。」(下線は筆者追加)実はこの時、記者レク参加予定の記者、AさんとBさんと同時並行でLINEのやり取りをしていた。すぐに2人からメッセージが着信した。Aさん「いや、承認条件の一番下、これなんですか?」Bさん「これってすぐには販売開始できないんですかね?」そして夜9時に厚労省医薬局医療機器審査管理課による記者レクが始まった。まず冒頭、担当者から以下のような説明があった。「(3月25日の部会では)今回の承認条件に関係する同等性/同質性の確認が困難だった。それを経てサンバイオ社から追加データが提出され、その内容をPMDAが評価した結果を踏まえて承認の可否を諮り、承認して差し支えないことになったが、3月に論点になっていた同等性/同質性については、追加データでもなお確認できないという結論。しかしながら、それでもなお承認して差し支えないと判断をしたのは、適用対象疾患に対しては、現時点では代替の治療方法がない、リハビリテーションをするしかないため、本品が唯一の治療方法になる可能性があるというところを鑑みて、条件を付したうえでデータの再提出後に改めて部会で議論することを織り込み済みであれば、承認して差し支えないだろうとの判断をいただいた」以下は医療機器審査管理課の担当者と記者との主なやり取りだ。―前回の部会以降追加で求めたデータはどのようなもので何がネックになっていたのか、可能な範囲で教えてください。担当者今後また審査に付される部分が含まれる内容になりますので、回答はなかなか難しい。先ほど申し上げたとおり、前回の部会以降に追加されたデータでは、同等性/同質性としては確認できなかったので、それを補完するために承認を一度与えたうえで承認後にデータを取り直すことを承認条件としました。―「必要な承認事項一部変更承認申請(通称・一変)を行うとともに」との記述があるが、審議の結果では今後一変の必要性が高いと見込まれたのでしょうか?(筆者)担当者現時点ではデータが不足している事実があり、それを充足したうえで内容を審査するプロセスを経るので、既存の承認事項の中で変更が必要な部分は審査内で明らかになってくる。ただ、少なくとも本品は製造実績が限られ、使用期限の設定ができていません。この点は改めて製造実績を積んで、使用期限設定の根拠となるデータを提出のうえで変更申請をしなければならないので、少なくとも1ヵ所は一変が必要でしょう。―そもそも承認条件付き期限付き承認は迅速に患者に治療薬を提供すること、既に非常に時間かかってます。制度のメリットが生かされていないという指摘もあります。担当者申請から承認に至るまで約2年かかっている点は、迅速なアクセスに至っていないという批判があること、承認されたらすぐアクセスできるものでもないことはご指摘の通りです。しかし、品質をないがしろにしてよいかは別問題で、本品はその点はまだ改善しなければならない点があり、すぐに出荷は認められない背景事情があります。―3月の審議時点とデータ的には変化はないが、厚労省とPMDAの考え方が変わったということですか?担当者追加のデータはあり、それを評価したうえで今回ご審議いただいたので、3月時点から今回の審議品目のデータには差はあります。―3月の審議時点と具体的に何が変わって条件付き承認を認めたのでしょうか?担当者繰り返し申し上げたとおり、3月時点ではなかったデータが今回追加で提出されておりますので、それを含めて評価をした結果、条件付き承認かつさらにこちらが求めたデータの提出とそれに伴う一変申請による承認までは出荷してはならないという条件付き承認を与える対応が妥当、という判断をさせていただきました。―承認しないのと、今回のように一旦は承認して承認条件をつけて実際に出荷できないのは、どのような違いがあるのでしょうか?担当者いずれの場合でもデータ収集のタスクが課せられることは変わりありません。本品の場合、患者のもとに迅速に届ける目的を達成するためにどのような方策が取れるかについて、厚労省とPMDAともさまざまな方策を考えました。その結果、承認前に収集することと承認後に収集することを比べた際、承認後のほうがサンバイオ社の実行可能性が高いと判断し、今回の措置を取りました。―追加データで同等性/同質性を確認できないものの、3月時点よりは科学的に同等性/同質性の確認により近づいたという判断だったのでしょうか?(筆者)担当者結論だけを見れば、同等性/同質性の確認ができない点は変わりませんが、追加データを評価した結果、一定の評価をできるという点が違いとしてあり、同等性の確認のレベルにより近づいたかと言えば微妙ながら近づいた、とご理解をいただければと思います。―承認後にデータ提出を求めたほうがよいという判断根拠はなんでしょうか?(筆者)担当者先ほどから繰り返し申し上げているとおりなんですが、この件はサンバイオ社が主語となりますので、具体的な内容については主体のサンバイオ社にご確認をお願いします。―承認後のほうがデータ収集しやすいというのはサンバイオ社が申し出たのでしょうか?(筆者)担当者さまざまなオプションを検討する中で、承認後のほうがデータを集めやすいということを議論の中で行政側とも合意をしました。記者レクの中で担当者も「異例」の言葉を使っていたが、今まで何か特殊な条件で承認された薬としたら、私の中で浮かぶのは本連載でも取り上げた抗インフルエンザ薬のファビピラビル(商品名:アビガン)くらいだ。とはいえ、アビガンのケースは催奇形性を警戒して通常出荷としなかっただけで、今回のように「承認されたけど、今の時点ではいかなる手段でも使えない」状況とは違う。この記事出稿後、同社はプレスリリースで、今後2回程度の市販品製造を行い、同等性/同質性を確認すること、出荷可能時期は2026年1月期第1四半期を想定している旨を公表した。今後、SB623ことアクーゴはどうなるのだろうか?

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身体活動の指標、時間ではなく歩数でもOK?

 米国における身体活動のガイドラインでは、健康のために中~高強度の身体活動を週150分以上行うことを推奨しているが、歩数に基づく推奨はエビデンスが十分ではないため発表されていない。今回、米国・Brigham and Women's Hospital/Harvard Medical Schoolの浜谷 陸太氏らによる米国の62歳以上の女性を対象としたコホート研究において、中~高強度身体活動時間および歩数と全死亡率および心血管疾患(CVD)の関連が質的に同様であることが示唆された。JAMA Internal Medicine誌オンライン版2024年5月20日号に掲載。 このコホート研究は、1992~2004年に米国で実施した無作為化試験であるWomen's Health Studyの参加者の追跡データを解析したもの。参加者はCVDやがんを罹患していない62歳以上の女性で、年1回アンケートに回答し、中~高強度身体活動に費やした時間と歩数を加速度計で連続7日間測定した。交絡因子調整後の中~高強度身体活動の時間および歩数と全死亡およびCVD(心筋梗塞・脳卒中・CVD死亡の複合)との関連を、Cox比例ハザード回帰モデル、制限付き平均生存時間の差、受信者動作特性曲線下面積(AUC)を用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・計1万4,399人の女性(平均年齢:71.8歳)が対象となった。・中~高強度身体活動時間の中央値は週62分(四分位範囲:20~149分)、歩数の中央値は1日5,183歩(同:3,691~7,001歩)であった。・追跡期間中央値9.0年で、全死亡の1標準偏差当たりのハザード比は、中~高強度身体活動時間が0.82(95%信頼区間[CI]:0.75~0.90)、歩数が0.74(同:0.69~0.80)であった。・中~高強度身体活動時間および歩数が多い(上位3四分位群vs.最低四分位群)ほど生存期間(period free from death)が長かった。・中~高強度身体活動時間および歩数での全死亡率のAUCは同様で、どちらの指標も0.55(95%CI:0.52~0.57)であった。CVDとの関連についても同様だった。 著者らは「今後のガイドラインにおいては、個々人の好みに対応できるよう、時間に基づく目標と共に歩数に基づく目標が検討されるべき」としている。

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高齢者診療の困ったを解決するヒントは「老年医学」にあり!【こんなときどうする?高齢者診療】第1回

今回のテーマは、「なぜ今、老年医学が必要なのか?」です。このような症例に出会ったことはありませんか?85歳女性。自宅独居。糖尿病、高血圧、冠動脈疾患の既往有。呼吸苦を主訴に救急外来を受診。肺炎と診断し入院にて抗菌薬加療。肺炎の治療は適切に行われ呼吸苦症状も改善したが、自力歩行・経口摂取が困難になり自宅への帰宅不可能に。適切な診断と治療をして疾患は治ったにもかかわらず状況が悪化してしまう-高齢者診療でよく遭遇する場面かもしれません。老年医学はこうしたジレンマに向かい合うきっかけを提供し、すべての高齢者に対してQOLの維持・向上を図ること、また同時に心や体のさまざまな症状をコントロールするために体系化された学問です。老年医学の原則とアプローチ(「型」)を実践することで、困難事例に解決の糸口をみつけることができるようになります。老年医学の原則:コモンなことはコモンに起きる-老年症候群と多疾患併存日本における平均寿命と健康寿命はいずれも延伸していますが、平均寿命と健康寿命のギャップは医療の進歩にも関わらず顕著には短縮しておらず、女性で約12年、男性で約7~8年あります。1)この期間に多くの高齢者が抱える問題が2つあります。ひとつは老年症候群。たとえば記憶力の低下や抑うつ、転倒や失禁などの認知・身体機能の低下など、高齢者にコモンに起きる症状・兆候を「老年症候群」と総称します。もうひとつは、多疾患併存(multimorbidity)です。年齢に比例して併存疾患の数が多くなり、60歳以降では約20%が3つ以上の疾患を有しているという調査があります。2)高齢者の治療やケアをする場合、老年症候群と多疾患併存があるという前提で診察やケアにあたることが大切です。老年医学の型:5つのM老年症候群があり、多疾患併存状態にある高齢者の診療は、疾患の診断-治療という線形思考で解決しないことがほとんどです。そこで、複雑な状況を俯瞰するために「5つのM」というフレームを使います。要素は、大切なこと(Matters most)、薬(Medicine)、認知機能・こころ(Mind)、身体機能(Mobility)、複雑性・落としどころ(Multi-complexity)の5つです。今回のケースを5つのMを使って考えてみましょう。ポイントはMatters mostから考え始めること。「生きがい」・「大切なこと」といったことでもよいのですが、「今、患者/家族にとって一番の困りごとは何か、肺炎を治療した先の日々の生活に期待することは何か?」を入院加療の時点で考えられると、行うべき介入がさまざまな角度から検討できるようになります。今回のケースでは、肺炎治療後に自宅に帰り、自立した生活をできる限り続けることがゴールだったと考えてみましょう。そうすると、肺炎治療に加えて1人で歩行するための筋力維持が必要だと気付くでしょう。また筋力を維持するためには栄養状態にも気を配らなければなりません。それに気付けば理学療法士や管理栄養士など、その分野の専門職に相談するという選択肢もあります。また、肺炎治療中の絶対安静や絶食は、筋力や栄養状態の維持を同時に叶えるために適切な選択だろうか?本当に必要なのだろうか?と立ち止まって考えることもできます。しかし命に係わるかもしれない肺炎の治療は優先事項のひとつですから、落としどころとして、安静期間をできる限り短くできないか検討する、あるいはリハビリテーションの開始を早める、誤嚥のリスクを見極めて経口摂取を早期から進めていく、といった選択肢が出てくるかもしれません。100%正しい選択肢はありません。ですが5つのMで全体像を俯瞰すると、目の前の患者に対して、提供できる医療やケアの条件の中で、患者のゴールに近づく落としどころや優先順位を考えることができます。高齢者にかかわるすべての医療者で情報収集し共有する今回のケースでは、例として理学療法士や管理栄養士を出しましたが、その他にもさまざまな専門職が高齢者の医療に携わっています。医師は診断・治療といった医学的介入を職業の専門性として持つ一方で、患者とコミュニケーションできる時間が少ないために十分な「患者―医師関係」が構築しにくく、患者・家族が本当に大切にしていることが届きにくい場合があります。そのため、協働できる多職種の方とともに患者の情報を得る、そして彼らの専門性を活かして介入の方法やその分量のバランスをとること、落としどころを見つけることが医師に求められるスキルのひとつです。参考1)内閣府.令和5年度版高齢社会白書(全体版).第1章第2節高齢期の暮らしの動向.2)Miguel J. Divo,et al. Eur Respir J. 2014; 44(4): 1055–1068.

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骨折治療の現在地を知る!

外傷・骨折にまつわるホットな疑問に答える!「整形・災害外科」67巻5号(2024年4月臨時増刊号)日進月歩の骨折治療において、良い医療を行うためには骨折治療を迅速に開始する、多職種連携による医療システムの構築・発展が重要となる。また、診断においては人工知能やエコーのさらなる活用も期待される。今後ますます増加することが予想される高齢者の骨折には、手術のみならず骨粗鬆症の治療や二次性骨折・周術期せん妄の予防も非常に重要となる。本特集ではこれらのホットな話題に対する現時点での取り組みや未来に向けた提言を紹介している。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する骨折治療の現在地を知る!定価8,250円(税込)判型B5判頁数276頁発行2024年4月編集渡部 欣忍ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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第214回 過度の運動はいうほど有害ではなくむしろ寿命を延ばしうる

過度の運動はいうほど有害ではなくむしろ寿命を延ばしうる先週5月6日はヒトの運動能力の限界の1つの突破が樹立された記念日で、とりわけ医師にとっては感慨深い日かもしれません。その記録とは1マイル(約1,600m)を4分未満で初めて走ったことです(1kmを2分30秒未満で走ったことに相当)。その偉業を達成したのは他でもない医学生でした。70年前の1954年5月6日に当時25歳でアスリートでもあったRoger Bannister(ロジャー・バニスター)氏は学び舎のオックスフォード大学の競技場で1マイルを3分59.4秒で走り、1マイルを4分以内で初めて走った人となりました。運動習慣は心臓の健康を保つのに役立ちますが、1マイルを4分以内で走るなどの負荷の大き過ぎる運動は心臓にはかえって毒らしいことも示唆されています。とはいうものの、長距離自転車レース(ツール・ド・フランス)出場者やオリンピックのボート選手などの極度の運動/生理能力を有する持久運動選手の寿命はより長いことを示す報告もあります。Bannister氏を初めとすると1マイル4分以内走者はどうなのでしょうか? それを調べたカナダのアルバータ大学のStephen Foulkes氏らの新たな解析結果がBritish Journal of Sports Medicine誌に先週掲載されました1)。Bannister氏以後1,750人超が1マイル4分未満走者の名簿にいまや名を連ねており、その最初から20人目までを調べた2018年の報告がFoulkes氏らを新たな研究へと駆り立てました。6年ほど前のその先立つ報告によると、それら1マイル4分未満走者20人中18人は80年以上生きており、世間一般の寿命を平均して12年上回っていました2)。かつて不可能とされていたほどの極度の運動に取り組んだところで、命の長さや質は害されないことをその結果は支持しています。Foulkes氏らはその観察結果に触発され、1マイル4分未満走者と世間一般の生存年数をより確かな統計的手法を用いて比較してみました。Foulkes氏らは解析人数も増やし、最初から200人目までの1マイル4分未満走者を調べました。全員が男性で、生まれは1928~55年です。それら200人のうち昨年末までに死亡した60人の平均死亡年齢は73歳、存命の140人の平均年齢は77歳でした。生まれた年や場所を考慮して計算したところ、1マイル4分未満走者は世間一般に比べて平均4.7年長生きでした。1マイル4分未満の初の達成が1950年代だった人はとくに長生きで、世間一般より9.2年長く生きています。1マイル4分未満の初の達成が1960年代と1970年代だった人は世間一般に比べてそれぞれ5.5年と2.9年長生きでした。その違いはおそらく世間一般が時代と共により健康になっていることによるのかもしれません3)。結論として、今回の結果は過度の運動で寿命が損なわれうるという見解に反するものであり、エリート選手レベルさえも含む運動の有益さを支持していると著者は言っています。参考1)Foulkes S, et al. Br J Sports Med. 2024 May 10. [Epub ahead of print]2)Maron BJ, et al. Lancet. 2018;392:913.3)Extreme exercise may help you live longer without stressing your heart / NewScientist

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重症COVID-19生存患者、64%は1年後も健康に問題

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の辛く長い闘病期間を生き延びても、無傷ではいられない可能性があるようだ。新たな研究で、重症のCOVID-19を経験した患者の3分の2近くは、発症から1年が経過しても依然として身体や精神面、思考力に問題を抱えていることが示された。米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)医学部のAnil Makam氏らによるこの研究の詳細は、「Critical Care Medicine」に4月10日掲載された。Makam氏は、「最も重篤で長期にわたるCOVID-19を経験した世界中の数百万人の患者」が直面しているジレンマを浮き彫りにする結果だとの見方を示している。 Makam氏らはこの研究で、COVID-19の重症化により長期急性期病院への転院が必要であった156人(年齢中央値65歳、女性38.5%)を対象に、罹患後に残存している障害について調査した。対象者の61.3%は、COVID-19罹患前は健康であり、入院期間の中央値は57日であった。77%は中央値で26日にわたり機械的な換気療法を受けており、42%は気管切開も受けていた。研究グループによると、これらの患者は一命を取り留めたことに深い感謝の気持ちを示しており、自分が生き延びたことをしばしば「奇跡」と表現したという。 しかし、対象者の64%は罹患から1年が経過しても、身体(57%)、呼吸器(49%)、精神面(24%)、認知機能(15%)に持続的な健康問題を抱えていた。こうした問題を2種類以上抱えていた対象者の割合は半数近く(47%)に上り、19%は今でも酸素の補給を必要としていた。また対象者は、長期入院を原因とする褥瘡や、腕や脚の使用が制限される神経損傷などの問題にも苦しめられていた。さらに、5人に4人(79%)は、健康が完全な状態にまでは回復していないと答えたものの、ほぼ全員(99%)が自宅に戻り、5人に3人(60%)は仕事に復帰していた。 Makam氏は、「われわれが調査した対象者の多くが特に悩まされていたのは、入院を原因とする合併症だった。そのため、これらの合併症を未然に防ぐことが回復の鍵となる」と語る。 ただし、COVID-19が重症化した患者に認められた、このような罹患後の健康問題は、COVID-19に特有のものではない。Makam氏は、「この研究で観察された長期にわたる障害は、COVID-19に特有のものではなく、病状が長期にわたって重症化した生存患者に共通するものだ。こうした罹患後症状を抱える人に対しては、専門分野の異なる医療従事者による集学的なリハビリテーションによって対処するのが最善だ」と話している。

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CVD患者のフレイルと「アクティブな趣味」の関係

 心血管疾患(CVD)で入院した患者のうち、入院前にアクティブな趣味を持っていた患者は、退院時のフレイルのリスクが低いという研究結果が発表された。一方で、入院前に趣味があったとしても、その趣味がアクティブなものでなければ、リスクの低下は見られなかったという。これは飯塚病院リハビリテーション部の横手翼氏らによる研究であり、「Progress in Rehabilitation Medicine」に2月22日掲載された。 趣味を持つことと死亡や要介護のリスク低下との関連を示す研究はこれまでに報告されており、入院中の運動不足で身体機能が低下しやすいCVD患者でも、趣味を持つことが身体機能の維持やフレイルの予防に役立つと考えられる。そこで著者らは、入院前に行っていた趣味と退院時のフレイルとの関連について、趣味の内容にも着目して検討した。 研究対象は、2019年1月~2023年6月に飯塚病院に入院し、その後自宅に退院したCVD患者のうち、入院前から日常生活の介助を要する患者などを除いた269人(平均年齢68.4±11.5歳、男性72.2%)。対象患者のCVD・手術には、心不全、心筋梗塞、狭心症、冠動脈バイパス術、大動脈弁置換術、僧帽弁形成術、大動脈グラフト置換術が含まれた。 患者の状態が安定した後、入院前の趣味に関する情報を入手し、身体活動を伴う趣味(スポーツ、買い物、旅行など)を「アクティブな趣味」、それ以外の趣味(テレビ・映画鑑賞、スポーツ観戦、楽器演奏など)を「非アクティブな趣味」、趣味のない場合は「無趣味」に分類した。フレイルについては退院前日に、日本語版フレイル基準(J-CHS基準)の5項目(筋力低下、歩行速度低下、疲労感、体重減少、身体活動低下)により評価。3項目以上に該当する人を「フレイル」、1~2項目に該当する人を「プレフレイル」に分類した。 その結果、無趣味群(77人)ではプレフレイルの割合が61.4%、フレイルの割合が22.9%、非アクティブな趣味群(64人)では同順に53.2%、37.1%、アクティブな趣味群(128人)では同順に57.4%、13.9%だった。 次に、患者背景の差(年齢、性別、BMI、疾患、入院期間、就労状況、入院時の左室駆出率、入院前のフレイル)を調整して解析すると、アクティブな趣味群は、プレフレイルまたはフレイルのオッズ低下と有意に関連していることが明らかとなった(無趣味群と比較したオッズ比0.41、95%信頼区間0.17~0.90)。一方、非アクティブな趣味群ではこの関連は認められなかった(同1.56、0.52~4.64)。また、アクティブな趣味群では無趣味群と比べて、J-CHS基準の5項目のうち、歩行速度低下、疲労感、身体活動低下のオッズが有意に低かった。 以上から著者らは、「入院前にアクティブな趣味を持っていた患者は、趣味のない患者と比べて退院時にフレイルとなるリスクが低かった。一方で、非アクティブな趣味を持っていた患者では、リスクの低下は認められなかった」と結論。また、アクティブな趣味と疲労感の低下が関連していたことの説明の一つとして、アクティブな趣味を持つことが、入院中のリハビリテーションや理学療法への動機付けとなり、身体機能の維持に寄与する可能性があるとしている。

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乳がん患者のQOLと死亡リスクの関係

 乳がん患者は生活の質(QOL)に悪影響を及ぼすさまざまな問題を抱えているが、乳がん患者のQOLと死亡リスクとの関連については議論の余地がある。静岡県立静岡がんセンターの鈴木 克喜氏らは、QOLが乳がん患者の予後に与える影響についてシステマティックレビューおよびメタ解析を実施し、結果をBreast Cancer誌オンライン版2024年4月9日号で報告した。 本研究では、CINAHL、Scopus、PubMedのデータベースを用いて、2022年12月までに発表された乳がん患者のQOLと死亡リスクを評価した観察研究が検索された。 主な結果は以下のとおり。・11万9,061件の論文が検索され、6件の観察研究がメタ解析に含まれた。・身体機能QOL(ハザード比[HR]:1.04、95%信頼区間[CI]:1.01~1.07、p=0.003)、情緒機能QOL(HR:1.01、95%CI:1.00~1.03、p=0.05)、および役割機能QOL(HR:1.01、95%CI:1.00~1.01、p=0.007)は、死亡リスクとの有意な関連が示された。・一方で、全般的QOL、認知機能QOL、および社会機能QOLは、死亡リスクとの関連が示されなかった。・治療時点に従い行われたサブグループ解析によると、治療後の身体機能QOLが死亡リスクと関連していた。 著者らは、身体機能QOL、情緒機能QOL、および役割機能QOLが乳がん患者の死亡リスクと関連したとし、治療後の身体機能QOLは、治療前の身体機能QOLよりも生存期間延長とより有意な関連を示したとまとめている。

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認知機能低下の高齢者における活動時の疼痛の特徴

 神戸学院大学の中田 健太氏らは、アビー痛みスケール(APS)を用いて、認知機能が低下している高齢者の運動および活動に伴う疼痛を評価し、活動時の疼痛を効果的に反映するサブ項目を特定しようと試みた。Journal of Pain Research誌2024年3月5日号の報告。 富山県・池田リハビリテーション病院の筋骨格系疾患および認知機能低下を有する高齢患者225例を対象に横断的研究を実施した。歩行中または移動中の疼痛の評価には、言語式評価スケール(VRS)およびAPSを用いた。疼痛の有無や程度を最も正確に反映するAPSサブ項目を特定するため項目反応理論(IRT)を用いた。 主な結果は以下のとおり。・運動に伴う疼痛スコアは、VRSで1.3±1.1、APSで2.5±2.6であった。・IRT分析では、疼痛の最も信頼できる指標として、発声、顔の表情、ボディランゲージの変化が抽出された。・これらの抽出された項目は、内部一貫性が良好であり(Cronbach's α=0.72)、VRSの変化と有意な正の相関が認められ(rs=0.370、p<0.001)、主観的な疼痛がある患者とない患者において有意な差が認められた。 著者らは「認知機能が低下している高齢者の運動および活動時の疼痛を最も正確に反映している指標として、APSのサブ項目である発声、顔の表情、ボディランゲージの変化が挙げられた。運動療法中の疼痛の評価やマネジメントの信頼性を高めるためにも、このようなアプローチは重要である」としている。

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植物ベースの食事、内容で骨折リスクは変わるか?

 これまでの研究で、植物性食品を多く摂取し、動物性食品を少なく、あるいはまったく摂取しないヴィーガン食は、骨密度の低下や骨折リスクの上昇に関連する可能性が示唆されている。しかし、植物性食品の質については区別されていなかった。スペイン・マドリード自治大学のMercedes Sotos-Prieto氏らは、閉経後の女性において、植物性食品の質と股関節骨折リスクとの関連を検討した。JAMA Network Open誌2024年2月29日号掲載の報告。 研究者らは、1984~2014年に米国のNurses' Health Studyに参加した7万285例の閉経後女性を対象に、植物性食品(菜食主義とは限らず雑食主義も含む)の質と股関節骨折リスクとの関連を検討した。データは2023年1月1日~7月31日に解析された。 股関節骨折は2年ごとのアンケートで自己報告、食事内容は調査票を用いて4年ごとに評価した。食事の質は「健康的な植物性食品」(全粒穀物、果物、野菜、ナッツ、豆類、植物油、茶/コーヒー)、「健康的でない植物性食品」(ジュース、甘味飲料、精製穀物、イモ類、菓子/デザート)、「動物性食品」に分類したうえでPlant-Based Diet Indexスコアに換算して最高五分位から最低五分位までを算出し、それぞれの股関節骨折リスクのハザード比(HR)を求めた。 主な結果は以下のとおり。・7万285例の参加者は、ベースライン時の平均年齢54.92(SD 4.48)歳、全員が白人女性だった。研究期間中および最長30年間の追跡期間中に2,038例の股関節骨折が報告された。・「健康的な植物性食品」摂取が最も多い群と少ない群の比較(HR:0.97、95%信頼区間[CI]:0.83~1.14)、「健康的でない植物性食品」摂取が最も多い群と少ない群の比較(HR:1.02、95%CI:0.87~1.20)のいずれも、股関節骨折リスクとは関連しなかった。・一方、最近の食事に絞って検討すると「健康的な植物性食品」摂取は股関節骨折リスクの21%低下(HR:0.79、95%CI:0.68~0.92)と、「健康的でない植物性食品」は28%上昇(HR:1.28、95%CI:1.09~1.51)と関連した。 研究者らは「本コホート研究の結果より、長期的に摂取された植物ベースの食事の内容は、股関節骨折リスクとは関連しないことが示された。最近の食事摂取で観察された関連が、これらの食事パターンの短期的な影響によるものかは、今後の研究で明らかにすべきである」としている。

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任天堂リングフィットと理学療法の組み合わせが有効?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第254回

任天堂リングフィットと理学療法の組み合わせが有効?新垣 結衣さんがCMをしている任天堂「リングフィット アドベンチャー」。あれって結構健康にいいんだろうな、と思っていたのですが、結局買わずじまいで今に至ります。理学療法にこのリングフィットを組み合わせるとよいのでは、という研究結果が出ました。Takei K, et al. Acceptability of Physical Therapy Combined with Nintendo Ring Fit Adventure Exergame for Geriatric Hospitalized Patients.Games Health J. 2024 Feb;13(1):33-39.Games for Health Journal誌というのは、その名のとおり健康とゲームに関する医学雑誌です。あまり知られていないかもしれませんが、インパクトファクターは3.5もあります。すごい。この研究は、従来の理学療法がやや単調であることを指摘したうえで、そこにゲーム要素を取り入れることで、リハビリのアドヒアランスを高められるのではないかという仮説を検証するために立案されました。選ばれたゲームは任天堂リングフィット アドベンチャーです。このゲーム、ガチでやると昔流行ったビリーズブートキャンプくらいしんどいらしいです。このことを知り合いに話すと、ビリーズブートキャンプ、令和版になって現在カムバックしているらしいですよ、とコメントをいただきました。そうなんですか、知りませんでした。さて、研究の対象となったのは30人の高齢入院患者さんです。1日目にリングフィット+通常の理学療法、2日目に通常の理学療法のみを受けました。自覚的運動強度(Borgスケールなど)だけでなく、楽しさや継続意欲などもアンケートで調査されました。その結果、自覚的運動強度と楽しさの感覚は、リングフィット+通常の理学療法のほうがやや高いという結果になりました。ただし、統計学的には何ともいえない水準で、もう少し規模を大きくして検討する必要があるかもしれません。

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第207回 コーヒーの成分トリゴネリンが老化に伴う筋肉消耗を防ぐ

コーヒーに豊富な成分トリゴネリンが老化に伴う筋肉の減少や筋力の低下(サルコペニア)の治療効果を担いうることが示されました1-3)。サルコペニアは筋肉、筋力、歩く速度の病的な減少/低下を特徴とし、分子や細胞の老化病変の組み合わせと筋線維消耗が筋収縮を障害することで生じます。それら数ある病変の中でもミトコンドリア機能不全は顕著であり、ミトコンドリアの新生が減ることやミトコンドリア内での呼吸反応やATP生成が減ることなどが筋肉老化の特徴に寄与することが明らかになっています。サルコペニア患者の筋肉はそのようなミトコンドリア機能不全に加えて、補酵素の1つニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)の減少を示すことがシンガポール、英国、ジャマイカの高齢者119人を調べた先立つ試験で示されています4)。NAD+は代謝に不可欠で、ビタミンB3の類いから作られます。新たな研究では筋肉のミトコンドリア機能不全やNAD+代謝異常と全身の変化の関連を目指してサルコペニア患者と健康な人の血清代謝物が比較されました。その結果、コーヒーなどの植物に存在し、ヒトの体内でもNAD+と同様にビタミンB3からいくらか作られるアルカロイドであるトリゴネリンがサルコペニア高齢者の血中には少ないことが判明しました。また、トリゴネリンの血清濃度がより高い人ほど筋肉がより多く、握力がより強く、より早く歩けました。サルコペニア患者とそうでない健康な人から採取した筋肉組織(筋管)にトリゴネリンを加えたところ、サルコペニアかどうかを問わずNAD+が増加しました。続いて個体レベルでの効果が検討され、線虫やマウスにトリゴネリンが与えられました。するとミトコンドリア活性が向上し、筋力が維持され、老化に伴う筋肉消耗を防ぐことができました。また、トリゴネリンで線虫はより長生きになり、老化マウスの筋肉は強度の収縮時の疲労が少なくて済むようになりました。今回の研究によるとトリゴネリンはサルコペニアやその他の老化病態に有効かもしれず、サルコペニアの予防や治療の効果を臨床試験で検討する価値があるようです3)。コーヒーでトリゴネリンは増やせる?コーヒーを飲んでトリゴネリンが増えるならコーヒー好きには朗報ですが、話はそう簡単ではないようです。今回の試験の一環で調べられた高齢者186人の血清トリゴネリン濃度はカフェインやビタミンB3摂取レベルと無関係でした。また、トリゴネリン血清濃度と握力の関連はカフェインやビタミンB3摂取の補正の影響を受けませんでした。試験の被験者がコーヒーをあまり飲まない中東地域(イラン)であったことがトリゴネリン血清濃度とカフェイン摂取の関連が認められなかったことの原因かもしれないと著者は言っています。トリゴネリンとコーヒーの関連はまだ検討の余地があるようですが、お隣の韓国での試験でコーヒーをよく飲む人にサルコペニアが少ないことが示されています5)。トリゴネリンの寄与のほどは定かではありませんが、コーヒーを1日3杯以上飲む人は1日1杯未満の人に比べてサルコペニアの有病率が60%ほど低いという結果が得られています。参考1)Membrez M, et al. Nat Metab. 2024 Mar 19. [Epub ahead of print] 2)Natural molecule found in coffee and human body increases NAD+ levels, improves muscle function during ageing / Eurekalert3)Substance in coffee may improve muscle health in older age / Universities of Southampton4)Migliavacca E, et al. Nat Metab. 2019;10:5808.5)Chung H, et al. Korean J Fam Med. 2017;38:141-147.

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前庭リハビリテーションガイドライン 2024年版

平衡訓練/前庭リハビリテーションのガイドラインが誕生!前庭リハビリテーションはめまい患者の日常生活動作(ADL)改善目的で行われるが、日本国内ではかつてさまざまな訓練方法が混在していた。日本めまい平衡医学会はその標準化を目的に、本ガイドラインを策定した。訓練方法をイラストで詳細に解説し、11のCQでシステマティックレビューに則ってエビデンスを解析し、推奨を作成した。エビデンスによって標準化された前庭リハビリテーションを学ぶために、必携・必読・必修の1冊。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する 前庭リハビリテーションガイドライン 2024年版定価3,300円(税込)判型B5判頁数100頁(カラー図数:9枚)発行2024年2月編集日本めまい平衡医学会ご購入はこちらご購入はこちら

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第185回 国内外で広がるはしかの脅威、予防接種の呼びかけ/厚労省

<先週の動き>1.国内外で広がるはしかの脅威、予防接種の呼びかけ/厚労省2.地域包括医療病棟の導入で変わる高齢者救急医療/厚労省3.電子処方箋の導入から1年、病院での運用率0.4%と低迷/厚労省4.公立病院の労働環境悪化、公立病院の勤務者の8割が退職願望/自治労5.見劣りする日本の体外受精の成功率、成功率を上げるためには?6.ALS患者嘱託殺人、医師に懲役18年の判決/京都地裁1.国内外で広がるはしかの脅威、予防接種の呼びかけ/厚労省厚生労働省の武見 敬三厚生労働省大臣は、関西国際空港に到着したアラブ首長国連邦(UAE)発の国際便に搭乗していた5人から、はしかの感染が確認されたことを3月8日に発表した。この感染者は、2月24日にエティハド航空EY830便で関空に到着し、岐阜県で1人、愛知県で2人、大阪府で2人が感染していることが判明している。武見厚労相は、はしかの感染疑いがある場合、公共交通機関の利用を避け、医療機関に電話で相談するよう国民に強く呼びかけた。また、はしかは空気感染するため、手洗いやマスクでは予防が難しく、ワクチン接種が最も有効な予防策であることを強調した。はしかは世界的に流行しており、2023年の感染者数は前年の1.8倍の30万人を超え、とくに欧州地域では前年の60倍に当たる5万8,114人と大幅に増加している。国内でも感染が広がる可能性があり、すでに複数の感染者が報告されている。はしかには10~12日の潜伏期間があり、発症すると高熱や発疹が出現し、肺炎や脳炎などの重症化リスクがある。武見厚労相は、国内での感染拡大を防ぐために、ワクチン接種を含む予防策の徹底を呼びかけ、2回のワクチン接種で95%以上の人が免疫を獲得できるとされ、国は接種率の向上を目指しているが、2回目の接種率が目標に達していない状況。参考1)はしか、厚労相が注意喚起 関空到着便の5人感染確認(毎日新聞)2)はしかの世界的流行 欧州で60倍 国内も感染相次ぐ 国が注意喚起(朝日新聞)3)麻しんについて(厚労省)2.地域包括医療病棟の導入で変わる高齢者救急医療/厚労省厚生労働省は、2024年度の診療報酬改定について3月5日に官報告示を行ない、新たに急性期病床として設けられる「地域包括医療病棟」の詳細について発表した。この病棟は、とくに高齢者の救急搬送に応じ、急性期からの早期離脱を目指し、ADL(日常生活動作)や栄養状態の維持・向上に注力する。この病棟は、看護師の配置基準が「10対1以上」で、かつリハビリテーション、栄養管理、退院・在宅復帰支援など、高齢者の在宅復帰に向けて一体的な医療サービスを提供することが求められている。また、理学療法士や作業療法士などのリハビリ専門職を2名以上、常勤の管理栄養士を1名以上配置することを求めている。地域包括医療病棟入院料は、DPC(診断群分類)に準じた包括範囲で設定され、手術や一部の高度な検査は出来高算定が可能とされ、加算ポイントとしては、入院初期の14日間には1日150点の初期加算が認められる。さらに、急性期一般入院料1の基準が厳格化され、急性期から地域包括医療病棟への移行を促す。この改定により、急性期病棟、地域包括医療病棟、地域包括ケア病棟という3つの機能区分が明確にされ、患者のニーズに応じた適切な医療提供の枠組みが整うことになる。この改革の背景には、高齢化社会における救急搬送患者の増加と、それに伴う介護・リハビリテーションのニーズの高まりがあり、地域包括医療病棟は、これらの課題に対応するため、急性期治療後の患者に対して継続的かつ包括的な医療サービスを提供することを目指す。参考1)地域包括医療病棟、DPC同様の包括範囲に 診療報酬改定を告示(CB news)2)新設される【地域包括医療病棟】、高齢の救急患者を受け入れ、急性期からの離脱、ADLや栄養の維持・向上を強く意識した施設基準・要件(Gem Med)3)令和6年度診療報酬改定の概要[全体概要版](厚労省)【動画】3.電子処方箋の導入から1年、病院での運用率0.4%と低迷/厚労省電子処方箋の運用開始から1年、全国の医療機関や薬局において導入が約6%にとどまっていることが明らかになった。とくに病院の運用開始率は0.4%と非常に低く、25道県では運用を始めた病院が1つもない状況。導入が進まない主な理由として、高額な導入費用、医療機関や薬局が緊要性を感じていないこと、さらには患者からの認知度の低さが挙げられている。電子処方箋は、医療のデジタル化推進の一環として導入され、医師が処方内容をサーバーに登録し、患者が薬局でマイナンバーカードか健康保険証を提示することで、薬剤師がデータを確認し、薬を渡す仕組み。これにより、患者の処方履歴が一元化され、重複処方の防止や薬の相互作用チェックなど、医療の質向上が期待されている。政府は、2025年3月までに約23万施設での電子処方箋の導入を目指しており、システム導入費用への補助金拡充などを通じて、その普及を後押ししていく。しかし、病院での導入費用が約600万円、診療所や薬局では55万円程度が必要であることが普及の大きな障壁となっている。3月3日時点で、電子処方箋の運用を始めた施設は計1万5,380施設に達しているが、そのうち薬局が全体の92.4%を占めており、医科診療所、歯科診療所、病院での導入は遅れている。厚労省は、診療報酬改定に伴うシステム改修のタイミングでの導入を公的病院に要請しており、導入施設数の増加を目指す。参考1)電子処方箋の導入・運用方法(社会保険診療報酬支払基金)2)電子処方箋導入わずか6% 運用1年、費用負担も要因(東京新聞)3)電子処方箋、病院の「運用開始率」0.4%-厚労省「緊要性を感じていない」(CB news)4.公立病院の労働環境悪化、公立病院の勤務者の8割が退職願望/自治労公立・公的病院で働く看護師、臨床検査技師、事務職員など約8割が現在の職場を辞めたいと考えていることが、全日本自治団体労働組合(自治労)の調査によって明らかになった。この調査は、47都道府県の公立・公的病院勤務者1万184人を対象に実施され、36%がうつ的症状を訴えていた。理由としては、業務の多忙、人員不足、賃金への不満が挙げられており、とくに「業務の多忙」を理由とする回答が最も多く、新型コロナウイルス感染症が5類へ移行した後も、慢性的な人員不足や業務の過多が改善されていない状況が背景にあると分析されている。新型コロナ関連の補助金減額による病院経営の悪化と人件費の抑制も、問題の一因とされている。自治労は、業務量に見合った人員確保や公立・公的医療機関での賃上げ実施の必要性を訴えているほか、医師の働き方改革に伴い、医療従事者全体の労働時間管理や労働基準法の遵守が必要だとしている。参考1)公立病院の看護師ら、8割が「辞めたい」 3割超がうつ症状訴え(毎日新聞)2)公立病院の看護師など 約8割“職場 辞めたい” 労働組合の調査(NHK)3)「職場を辞めたい」と感じる医療従事者が増加-衛生医療評議会が調査結果を公表-(自治労)5.見劣りする日本の体外受精の成功率、成功率を上げるためには?わが国は「不妊治療大国」と称されながらも、体外受精の成功率は10%台前半に留まり、米国や英国と比べ約10ポイント低い状況であることが明らかになった。日経新聞の報道によると、不妊治療に取り組むタイミングの遅れが主な原因とされている。不妊治療の開始年齢が遅いことによる成功率の低下は、出産適齢期や妊娠についての正確な知識の提供が不足していることと関係しており、わが国の「プレコンセプションケア(将来の妊娠を考えながら女性やカップルが自分たちの生活や健康に向き合うこと)」の取り組みが十分ではないことによる。わが国は、体外受精や顕微授精などの生殖補助医療の件数が世界で2番目に多いにもかかわらず、出産数に対する成功率は低いままであり、この理由として年齢が上がるほど、成功に必要な卵子の数が減り、治療開始の遅れだけでなく、高齢になるにつれて卵子の質が低下することにも起因する。不妊治療の体験者からは、治療の長期化による心身への負担や、職場での理解不足による仕事と治療の両立の困難さが指摘されている。また、不妊治療について適切な時期に関する情報が不足していることも、問題として浮き彫りになっている。企業や自治体による不妊治療支援は徐々に広がりをみせているが、職場での不妊治療への理解を深め、支援体制を構築することが求められる。NPOの調査によれば、治療経験者の多くが職場の支援制度の不足を訴えており、不妊治療に関する休暇・休業制度や就業時間制度の導入が望まれている。参考1)不妊治療、仕事と両立困難で働き方変更39% NPO調査(日経新聞)2)不妊治療大国、日本の実相 体外受精の成功率10%台前半(日経新聞)3)プレコンセプションケア体制整備に向けた相談・研修ガイドライン作成に向けた調査研究報告書(こども家庭庁)6.ALS患者嘱託殺人、医師に懲役18年の判決/京都地裁京都地裁は、ALS(筋萎縮性側索硬化症)を患う女性への嘱託殺人罪などで起訴された被告医師(45)に対し、懲役18年の判決を下した。女性の依頼に応えて行ったとされる殺害行為について、被告は「願いをかなえた」ためと主張し、弁護側は自己決定権を理由に無罪を主張したが、裁判所はこれを退け、「生命軽視の姿勢は顕著であり、強い非難に値する」と述べた。判決では、「自らの命を絶つため他者の援助を求める権利は憲法から導き出されるものではない」と指摘、また、社会的相当性の欠如やSNSでのやり取りのみで短期間に殺害に及んだ点を重視した。被告の医師は2019年、別の被告医師と共謀し、女性を急性薬物中毒で死亡させたとされ、さらに別の殺人罪でも有罪とされた。事件について、亡くなった女性の父親は「第2、第3の犠牲者が出ないことを願う」と述べ、ALS患者の当事者からは、「生きることを支えられる社会であるべき」という訴えがされていた。判決は、医療行為としての嘱託殺人の範囲や自己決定権の限界に関する議論を浮き彫りにした。参考1)ALS嘱託殺人、医師に懲役18年判決 京都地裁「生命軽視」(日経新聞)2)ALS女性嘱託殺人 被告の医師に対し懲役18年の判決 京都地裁(NHK)3)「命絶つため援助求める権利」憲法にない ALS嘱託殺人判決、弁護側主張退ける(産経新聞)

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聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学講座(大学病院 腫瘍内科)【大学医局紹介~がん診療編】

砂川 優 氏(主任教授)梅本 久美子 氏(講師)小川 和起 氏(専攻医)講座の基本情報医局独自の取り組み・特徴治療薬開発だけではなく、支持療法、がん患者さんへの栄養介入、アプリケーションや遠隔診療を利用したがん診療など、多岐に渡るオリジナリティのある研究を行っています。当講座から、がん領域における新しいエビデンスを発信していきたいと考えています。地域のがん診療における医局の役割消化器がんを中心に外科・内科・放射線科などさまざまな科と連携し、最新のエビデンスに基づいた最適な治療を提供しています。当院はがんゲノム医療拠点病院でもあり、地域の病院と連携協力体制を作り、「ゲノム医療」にも力を入れております。また、新規薬剤のチャンスを提供できるよう、多くの臨床試験、治験を行っています。患者さん1人ひとりのニーズに応え、最適な治療を提供することを目指しています。医師の育成方針初期・後期研修を通じ、薬物療法の副作用マネジメントとして必要な内科学的知識を学んでいただきます。内科専門医を取得後に幅広い領域での薬物療法を経験し、がん薬物療法専門医の取得を目指します。内科専門医の取得と併行して大学院への進学や基礎研究を行うことも可能であり、海外留学も選択できます。基礎から臨床まで、さまざまな経験を通じて、がん治療のエキスパートとなれる医師の育成に取り組んでいます。症例カンファレンスの様子力を入れている治療/研究テーマ私は、胆膵がんを中心に診療、研究に力を入れています。研究の主なテーマは胆膵がんのゲノム解析や後方ラインでの治療開発であり、多くの多施設共同臨床試験に参加して、患者さんへより良い治療が提供できることを目指しています。当院では2023年に胆道・膵臓病センターを設立し、当科の他に消化器外科、消化器内科、代謝・内分泌内科、病理診断科、栄養科、リハビリテーション科、薬剤部が参加した症例検討会を毎週実施し、さまざまな視点から患者さん個々に合わせた治療を立案しています。各診療科が積極的に発言しコンセンサスを得て方針を決定していくスタイルは、自身の診療スキルを磨くうえでも大変役立っております。また、同センターでは、複数科をまたいだ臨床研究を現在計画中です。医局の雰囲気、魅力主任教授を筆頭に比較的若いスタッフで成り立っている講座です。年齢の近い先生が多く、診療や研究の相談がしやすい環境であると感じています。大学本院の講座というと堅苦しい雰囲気を想像しがちですが、われわれの講座は、一緒に仕事のしやすいスタッフ・秘書・研究補助員で成り立っており、魅力的な講座だと思います。医学生/初期研修医へのメッセージ腫瘍内科は専門性が高く、社会からも求められていて、各がん種で治療開発が望まれていますが、まだまだ成り手が少ない診療科です。診療と研究いずれもしっかり基礎から学びたい! という方に、ぜひ興味を持っていただけたら嬉しいです。診療科を超えてディスカッションを行う胆道・膵臓病センターのカンファレンスこれまでの経歴神奈川県内の高校を卒業した後、富山大学医学部へ入学しました。私は祖父をがんで亡くした経験から、抗がん剤の開発をしたいと考えていました。4年次の講義で腫瘍内科を知り、自分に合っている診療科だと思い、卒業と同時に、地元かつ腫瘍内科がある聖マリアンナ医科大学病院にて初期研修を行いました。やりたいことができる環境だと思い、聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学講座へ入局しました。同医局を選んだ理由腫瘍内科として確立していること、消化器内科とは独立して消化器がんを中心にさまざまな化学療法を盛んに行っていること、所属する医師のキャリアは多岐に渡っており、ロールモデルを探しやすいことなどから、聖マリアンナ医科大学の臨床腫瘍学講座を選びました。当講座では症例カンファレンスや医局会などを業務時間内で行い、働き方を重視していることも魅力の1つだと思います。学会で忙しい時期はありますが、やるときはやる、休むときは休むといったオンオフがしっかりしている良い環境だと思います。現在学んでいること腫瘍関連の多様な合併症・治療の副作用に対応するため、後期研修医として内科の診療科をローテーションして研修しています。また、さまざまながん種の化学療法、がん終末期医療など入院管理、上級医の化学療法外来を見学し、治療方法の選択、外来マネジメントの仕方を学んでいます。研究カンファレンスの様子聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学講座(大学病院 腫瘍内科)住所〒216-8511 神奈川県川崎市宮前区菅生2丁目16番1号問い合わせ先oncology-mari@marianna-u.ac.jp医局ホームページ聖マリアンナ医科大学病院 腫瘍内科医局特設サイト医局特設サイト/医局員募集専門医取得実績のある学会日本内科学会 認定医、総合内科専門医日本癌治療認定医機構 癌治療認定医日本臨床腫瘍学会 がん薬物療法専門医研修プログラムの特徴(1)がん薬物療法専門医の取得と多彩な臨床経験がん薬物療法専門医の取得のためには、造血器・呼吸器・消化管・肝胆膵・乳房の5領域を含めたさまざまながん領域での症例経験が必須ですが、これらの症例について当院のみで経験が可能です。合併症を有する患者さんや治験候補となる患者さん等に対する抗がん剤治療を経験・勉強することにより、地域の中核病院やがんセンターなどで中心となって活躍できる腫瘍内科医を目指すことができます。当講座のスタッフの多くは、がん薬物療法指導医・専門医を取得しているため、専門医取得へ向けたアドバイス等の指導体制が充実しています。(2)学位取得初期研修終了後、どのタイミングでも大学院への進学ができ、学位を取得することが可能です。大学院に入学しない場合でも、論文によって学位を取得することが可能です。当講座のスタッフは、国際・国内学会にて多数の発表経験を有し、さまざまな論文を報告しています。学会発表から論文作成に至るまで指導体制が充実しています。(3)海外留学当講座のスタッフは海外(米国・南カルフォルニア大学等)への留学を経験しており、海外の腫瘍内科医との研究コラボレーションを行っています。海外留学を希望される先生には、留学先の紹介等のサポートを行っています。

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転倒リスクが低減する運動は週何分?

 高齢女性7,000人超を対象としたコホート研究によって、150分/週以上の余暇の運動を行っている場合、けがを伴う転倒とけがを伴わない転倒の両方のリスクが有意に低減したことを、オーストラリア・シドニー大学のWing S. Kwok氏らが明らかにした。JAMA Network Open誌2024年1月31日号掲載の報告。 世界保健機関(WHO)は、心身の健康のために150~300分/週の中強度の運動を行うことを推奨している。しかし、これまでのシステマティックレビューおよびメタ解析では、運動量と転倒または転倒に伴うけがとの関連に一貫性がない。そこで研究グループは、高齢女性における余暇の運動量・種類と、けがを伴わない転倒およびけがを伴う転倒との間に関連性があるかどうかを調べるため、一般集団ベースのコホート研究を行った。 研究グループは、オーストラリア女性の健康に関する縦断研究(ALSWH)のデータをレトロスペクティブに解析した。解析には、1946~51年生まれで、2016年と2019年の追跡調査票に記入した7,139人(平均年齢[SD]:67.7[1.5]歳)が含まれた。2016年の調査では、運動の種類(早歩き、中強度の運動[軽いテニスや水泳など]、高強度の運動[呼吸が荒くなるようなエアロビクス、サイクリング、ランニングなど])と1週間当たりの運動量(0分、1~150分未満、150~300分未満、300分以上)を聴取した。2019年の調査では、過去12ヵ月間の転倒と転倒に伴うけがの有無を聴取した。 主な結果は以下のとおり。・7,139人中2,012人(28.2%)が過去12ヵ月間に転倒した。996人がけがを伴わない転倒、1,016人がけがを伴う転倒であった。・運動をしなかった(0分/週)群と比較して、1~150分/週群のけがを伴わない転倒のオッズ比(OR)は0.88(95%信頼区間[CI]:0.71~1.10)で有意な関連は認められなかった。150~300分/週群は0.74(0.59~0.92)、300分以上/週群は0.66(0.54~0.80)で関連が認められた。・けがを伴う転倒のORは、1~150分/週群が0.87(95%CI:0.70~1.09)で同じく関連が認められず、150~300分/週群は0.70(0.56~0.88)、300分以上/週群は0.77(063~0.93)で関連が認められた。・運動の種類別にみると、早歩き(OR:0.83[95%CI:0.70~0.97])、中強度の運動(0.81[0.70~0.93])および中~高強度の運動(0.84[0.70~0.99])を行っている集団では、けがを伴わない転倒のリスクが低減した。高強度の運動はリスク低減傾向にあったが有意ではなかった(0.87[0.74~1.01])。・すべての運動の種類とけがを伴う転倒との間には統計学的に有意な関連は認められなかった。

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第182回 診療報酬改定を答申、賃上げの実現を主眼とするも医療費抑制も視野に/中医協

<先週の動き>1.診療報酬改定を答申、賃上げの実現を主眼とするも医療費抑制も視野に/中医協2.「地域包括医療病棟」を新設、病床再編で高齢者救急患者の受け皿を開設/厚労省3.医療DXを診療報酬改定でさらに推進、マイナ保険証の普及促進で患者負担増/厚労省4. 医療機関の倒産件数は高水準のまま横ばい、負債総額は過去最大を記録/帝国データバンク5.リピーター医師、透析治療せずに患者が死亡、遺族が病院に訴え/大阪6.昇圧薬の補充遅延で患者が死亡、神戸徳洲会病院の安全体制問題が再び問題に/兵庫1.診療報酬改定を答申、賃上げの実現を主眼とするも医療費抑制も視野に/中医協厚生労働省は、2月14日に中央社会保険医療協議会(中医協)の総会を開き、2024年度の診療報酬改定について答申を行った。今回の診療報酬改定は、医療従事者の賃上げを進めつつ、医療費抑制という2つの目標を達成しようとする「メリハリ」のある内容を特徴としている。とくに生活習慣病に関する管理料の適正化が注目されている。これにより医療費の国費負担の一部抑制が図られたが、全体抑制額は200億円に止まり、医療費全体の増大傾向に対する根本的な解決には至っていないとする声もある。今回の改定により、医療従事者への賃上げが実施され、とくに40歳未満の勤務医や看護職員、薬剤師らの待遇改善が図られている。これには、外来・在宅ベースアップ評価料の新設や初診料、再診料の増額などが含まれている。しかし、生活習慣病に関する報酬の適正化には、糖尿病や高血圧、脂質異常症を特定疾患療養管理料の対象から除外するなどの措置が含まれ、これによりプライマリケアを提供する開業医の収入に影響が出る可能性がある。また、介護報酬の改定では、訪問介護の基本報酬が削減される一方で、介護職員の賃上げを目的とした加算の設定が行われた。しかし、小規模事業者からは報酬減による経営の危機やサービス提供能力の低下が懸念されている。精神科訪問看護に関しても、報酬の取得条件が厳格化され、不正や過剰請求への対策が強化された。参考1)中央社会保険医療協議会(第584回) 総会(厚労省)2)「めりはり」ある診療報酬改定、武見厚労相が総括 生活習慣病の管理料など適正化(CB news)3)開業医の改革道半ば 診療報酬改定 医療費の国費負担12兆円 200億円抑制、生活習慣病が軸(日経新聞)4)訪問介護 異例の報酬削減 小規模事業者、撤退の危機(東京新聞)2.「地域包括医療病棟」を新設、病床再編で高齢者救急患者の受け皿を開設/厚労省2024年度の診療報酬改定のうち、入院診療では、高齢者救急患者への対応強化を目的とした「地域包括医療病棟入院料」の新設が注目されている。厚生労働省は、以前から急性期一般入院料1(旧7対1病床)の病床削減が進まないことを問題視しており、急性期病床の削減のため急性期一般入院料1の平均在院日数を16日以内にすることで、病床の再編を病院に促している。厚労省は、後期高齢者が増加するのに合わせて、病気の治療に加えて、早期のリハビリや栄養管理で身体機能の低下を抑え、退院支援を行う目的で1日当たり3,050点の「地域包括医療病棟」を新たに設けた。看護配置は「10対1」で、リハビリテーションや栄養管理、口腔管理を含む包括的なサービス提供が施設基準の条件。地域包括医療病棟の要件としては、平均在院日数は21日以内、在宅復帰率が8割以上としているほか、特定機能病院や急性期充実体制加算を届け出ている高度急性期病院は算定できないなど制限も設けられている。地域包括医療病棟の新設で、急性期医療の機能分化を促進し、中小病院などに少なくない影響が及ぶ可能性があり、地域医療への影響が大きくなると予想されている。今回の改定により、地域包括医療病棟が高齢者救急の受け皿として機能強化されることが期待されているが、急性期医療の再編や地域医療提供体制の整備と連携が今後の課題となる。参考1)令和6年度診療報酬改定について(厚労省)2)厚労省 早期のリハビリで退院を支援する病棟新設を後押しへ(NHK)3)24年度改定 急性期の機能分化へ「地域包括医療病棟入院料」新設 中小病院など地域医療への影響大きく(ミクスオンライン)4)地域包括医療病棟入院料を新設 10対1看護配置、急性期一般入院料からの転換が進むか(日経メディカル)5)地域包括医療病棟入院料は3,050点 リハ・栄養・口腔連携加算80点、24年度改定(CB news)3.医療DXを診療報酬改定でさらに推進、マイナ保険証の普及促進で患者負担増/厚労省2024年度の診療報酬改定では、医療従事者の賃上げを支援し、医療のデジタル化(医療DX)を推進するための複数の措置が導入された。とくに、マイナンバーカードを活用した「マイナ保険証」の利用促進が後押しされ、救急搬送時の情報確認などに活用される方針だ。しかし、このデジタル化推進は患者の負担増につながり、障害者団体からは現行の健康保険証廃止に対する懸念の声が上がっている。新たに設けられる「医療DX推進体制整備加算」により、マイナ保険証や電子処方箋の利用を促進する医療機関に対して、初診時に80円、歯科で60円、調剤で40円が加算され、患者の自己負担が増加する。また、政府は、救急搬送時にマイナ保険証を用いることで、患者かかりつけ医や服薬歴などの情報を迅速に確認し、効率的な救命活動をする計画を立てている。一方で、障害者団体は、マイナ保険証の1本化により、支援が必要な障害者が置き去りにされる恐れがあると指摘し、現行の保険証も残すべきだと訴えている。政府は、現行の健康保険証を2024年12月に原則廃止し、マイナ保険証への完全移行を計画しており、利用率の向上に努めているが、現在の利用率は4.29%と低調。今回の改定で、医療DXの推進やマイナ保険証の普及に向けた取り組みが強化されるが、患者負担の増加や障害者の利便性の問題など、新たな課題も提起されている。参考1)マイナ保険証の利用促進なども後押し 診療報酬改定 患者は負担増に(朝日新聞)2)マイナ保険証、救急搬送時に活用へ 服薬歴など確認(日経新聞)3)マイナ保険証への一本化で障害者が置き去りに…「誰のためのデジタル化か」当事者団体が国会議員に訴え(東京新聞)4.医療機関の倒産件数は高水準のまま横ばい、負債総額は過去最大を記録/帝国データバンク2023年、医療機関の倒産件数は41件で、前年と同数だったが、負債総額は253億7,200万円と過去10年で最大となったことが、帝国データバンクの調査で明らかとなった。この負債総額の増加は、大きな負債を抱えていた「八千代病院」(八千代市)などを運営する医療法人社団心和会(負債132億円)と「東京プラス歯科矯正歯科」などを運営していた医療法人社団友伸會(負債37億円)の影響が大きい。倒産した医療機関のうち、「病院」が3件、「診療所」が23件、「歯科医院」が15件で、大部分が5億円未満の負債。帝国データバンクは、2024年も医療機関の倒産が高水準で推移すると予想しており、とくに診療所では経営者の高齢化や健康問題が影響し、過剰債務などを理由に法的整理を選択するケースが増える可能性を指摘している。参考1)病院などの「医療機関」、倒産が2年連続で40件超え 今後は診療所の動向に注目(ITmedia)2)帝国データバンク 2024年 1月報(帝国データバンク)5.リピーター医師、透析治療せずに患者が死亡、遺族が病院に訴え/大阪透析治療を受けていた90歳男性が、新型コロナウイルス感染で転院したにもかかわらず、必要な治療を受けられずに死亡した事件で、遺族が病院運営法人に約5,000万円の損害賠償を求めて大阪地裁に提訴した。男性は、大阪府内のクリニックで週3回の透析治療を受けていたが、新型コロナウイルス陽性と診断された後、同系列の医誠会病院に転院した。転院後は抗ウイルス薬のみ投与され、透析治療は一切行われなかったとされている。数日後に男性は、窒息による低酸素脳症で死亡した。遺族は病院が透析治療可能であるとクリニックに返答し、クリニックが診療情報を引き継いだにもかかわらず治療が行われなかったと主張している。問題は、過去に赤穂市民病院で医療過誤を含む複数の医療事故に関与し、依願退職した後に医誠会病院へ転職した40代の男性医師が関与した可能性があり、この医師は患者の透析治療が必要であるにもかかわらず、適切な対応を怠ったとされている。遺族は、医師の初動対応の不備と病院の管理体制の欠如が死に直結したと主張し、医療法人「医誠会」に対し約5,000万円の損害賠償を求めている。この訴訟は、医療機関の責任と医師個人の過去の問題が患者の命にどのような影響を及ぼしたかという点で、病院側の安全体制の責任を問いかけている。遺族は、真実を求めるとともに、同様の悲劇が再発しないよう医療機関の体制改善を訴えている。参考1)腎不全で透析治療の男性 新型コロナ陽性で転院するも透析治療されず死亡 遺族が約5,000万円の賠償を求め病院側を提訴 大阪地裁(MBS)2)元市民病院脳外科医 転職先でも医療トラブル 透析治療せず患者死亡か(赤穂民報)6.昇圧薬の補充遅延で患者が死亡、神戸徳洲会病院の安全体制問題が再び問題に/兵庫神戸徳洲会病院(神戸市垂水区)で今年1月、心肺停止状態から回復した90代の男性患者が、昇圧薬が切れた直後に死亡していたことが判明した。報道によると、患者に投与していた昇圧薬が切れた直後、薬剤の補充が準備されておらず、必要な治療が提供されなかったため、薬が切れた直後に患者は亡くなった。病院側は「死期を早めた可能性がある」として家族に謝罪し、神戸市は医療安全体制に不備がなかったか調査を行っている。同院は、去年カテーテル治療後の患者死亡事案や適切な治療が行われず糖尿病患者が亡くなった事案が発覚しており、医療安全体制の問題で神戸市から行政指導を受けていた。今回の事案を受け、神戸市は改善命令を出す方針であり、病院は救急患者の受け入れを一時中止し、院内で原因調査と適切な対応を進めている。参考1)神戸徳洲会病院 投与の薬剤追加されず その後 患者死亡(NHK)2)薬剤の補充分なく、薬切れた直後に90歳代患者が死亡…神戸徳洲会病院「死期早めた可能性」(読売新聞)3)神戸徳洲会病院、薬剤の追加を怠り患者が死亡 警告音が鳴り、家族が訴えるも対応されず(神戸新聞)

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「進行がんだから仕方がない」は使わない ~外来通院の進行がん患者へのリハビリテーション~【Oncologyインタビュー】第45回

出演:関西医科大学 呼吸器腫瘍内科学講座 勝島 詩恵氏「進行がんだから仕方がない」。がん医療の現場で何げなく使ってしまう言葉ではないだろうか。この言葉を考え直す時期が来ているようだ。外来通院の進行がん患者へのリハビリテーション介入という新たな挑戦が始まっている。関西医科大学の勝島 詩恵氏に聞いた。進行がん患者治療の課題に立ち向かう外来通院がん患者は増加している。その反面、治療に適応するための対策は追いついていないという。外来通院ができるがん患者は、基本的に全身状態(PS)良好で身体機能が維持されているはずだが、実際は問題を抱えているケースが多い。外来通院が可能な状態であっても、進行がん患者である以上、薬物だけで治療は成立しない。患者の栄養状態、身体機能、精神面の安定があってこそ、より良いがん診療ができる。外来通院がん患者に対して、これから始まる、あるいは現在行っている治療に適合させるための介入(リハビリテーション)が必要だと考え、2020年、関西医科大学附属病院は「フレイル外来」を立ち上げた。多職種が連携した介入を実現大学病院などのハイボリュームセンターでは、連日100人を超える外来化学療法患者が受診する施設も珍しくない。そのため、主治医の診察から治療(点滴)開始まで、長い待ち時間が生じ、患者の大きな負担となっている。フレイル外来は、その待ち時間を有効利用する。患者は化学療法外来主治医の診療終了後、フレイル外来を受診する。化学療法レジメンに合わせて、月1~2回の通院が通常である。関西医科大学附属病院のフレイル外来では、腫瘍内科医(勝島氏)が診察を行い、患者の治療内容、副作用や経過などの理解を深める。それ以外にも、食欲不振や体重減少が強い患者には、栄養士への栄養指導の依頼や治療薬に関する主治医への相談を行う。介護保険申請を行っている患者や通院が困難となってきた患者には、デイケアや訪問リハビリテーションの紹介、精神的ケアや症状緩和が必要な患者には緩和ケア科と連携したサポートを行う。フレイル外来には、立ち上げからの3年間で360人の患者が紹介されている。外来の認知度と共に患者は増え、現在は月100人の患者がフレイル外来を受診する。呼吸器、消化器、乳腺などが主体であったが、最近は血液内科から造血幹細胞移植後の患者の紹介も多い。「外来の認知度が上がるにつれ、紹介が増えており、確実なニーズの増加を実感している」と勝島氏は述べる。病勢進行していなくても、半数以上が悪液質を合併していた勝島氏らは、フレイル外来を受診する進行再発肺がん患者の調査を実施した。定期的に外来通院にて化学療法を受ける肺癌患者は基本的にPS良好で、病勢もコントロールされているはずの外来患者だが、フレイル外来初診時、過半数(55.2%)が悪液質を合併していた1)。また、化学療法を受ける進行再発がん患者の悪液質は、低栄養状態、低身体活動が悪液質の臨床的特徴、もしくは、悪液質の特徴として独立した因子として抽出された。低身体活動については、10分以上続けて行う身体活動を評価する「IPAQ*」で評価できたが、従来のPSでは拾い上げられなかった1)。「医師が判断するPSは実際の活動量と乖離している可能性があるため、PSだけで判断すると危険」と勝島氏は言う。*IPAQ(International Physical Activity Questionnaire、国際標準化身体活動質問票):1週間における高強度および中等度の身体活動を行う日数および時間を質問する。治療成績向上、鍵は治療開始までの期間と悪液質の早期予防また、勝島らは、近年肺癌診療において、病期診断、病理診断に一定の時間を要し、その間に身体機能が落ちる患者がいることに着目して調査を行った。初診から治療開始までの期間が長いほど悪液質発症が高まる傾向が明らかになった。初診から治療開始までが45日以上の群では、治療開始までに悪液質発症が増加したが(初診時37%→治療開始時87%)、45日未満の群では増加しなかった(61%→61%)。悪液質の存在は化学療法の効果に悪影響を及ぼすことも示されている。悪液がない患者では、初回化学療法の病勢コントロール率(DCR)は100%、初回治療完遂率も100%であった。一方、悪液質がある患者での初回化学療法のDCRは66.7%、初回治療完遂率は58.7%と、有意差はないものの、悪液質がない患者よりも悪い傾向であった。しかし、悪液質の合併については、医療者も患者も危機意識は低い。勝島氏によれば、がんの確定診断を受けながら、治療開始までの待機期間にPSが悪化し、抗がん剤治療が受けられなくなってしまったケースも少なくないという。悪液質は決してがん終末期の病態ではなく、がん治療の早期にも現れ、抗がん剤治療に悪影響を及ぼす。迅速な診断と介入で、いかに悪液質がない状態で化学療法を実施できるかが、がん治療成功の鍵を握るといえる。これらの研究結果について勝島氏は、「多くの医療者が何となく気付いていたこと。少し全貌が明らかになった」と言う。がんリハビリテーションの質的なメリット進行再発がんリハビリテーションの真のエンドポイントは定まっていない。治療を行ったとしても最終的には病勢が進行する。そのため、体重や身体機能などの量的なエンドポイントは、いずれ達成できなくなってしまう。一方、フレイル外来通院患者の中には、病勢が進行しても受診を希望する患者も多い。そのため、進行再発がん患者へのリハビリテーションは、量的な効果だけでなく、質的な効果を持つのではないかという仮説を立てた。そして、フレイル外来通院患者に、リハビリテーションでの経験について、半構造化面接法によるインタビューを行った。その結果、がんリハビリテーションに取り組むことで、フレイル外来通院患者は「身体機能改善に対する期待感」「変化を客観的に把握できる安心感」「自分の存在意義の再確認」といったポジティブな経験をし、根治不能な進行がんとの付き合い方を見いだしていることがわかった2)。現時点でできることとはいえ、すべての施設で関西医科大学のような取り組みができるわけではない。そのような中、医療者ができることは何だろうか。まず、悪液質に対する危機意識を高めるべきだと勝島氏は強調する。また、医療者と共に患者の理解も重要だ。治療医の言葉は患者に大きな影響を与える。治療医から患者への「どれだけ動けて、痩せずに治療を受けられるか、で抗がん剤の効果も変わってくる」などの一言で、患者の理解も深まるという。多職種連携の最初の一石は医師しか投じられない。モチベーションが高い理学療法士や看護師は多いが、医師からの紹介がないと動くことはできないことも多い。勝島氏は「治療医から発信するがん悪液質診療を形作るべき」と述べる。前向き試験の取り組み前述の先行試験から、悪液質は初回治療前からでも存在し得ること、治療に悪影響を及ぼすことが明らかとなった。勝島氏らは、次の段階として前向き試験を実施し、初回治療前からの運動・栄養療法が進行再発がんにおける悪液質の発症を抑制し、がん治療に良い効果を生み出すか否かを検証する予定である。今回の試験は治療前から介入するため、少なくとも化学療法の影響を受けない。交絡因子として化学療法の影響を受けないことから、がんリハビリテーションの効果をより純粋に評価できる可能性があるという。外来がんリハビリテーションの診療報酬獲得に結び付ける現在は、患者も医療者も、治療中の体重減少や身体機能低下の重要性について認識不足で、介入も遅れがちである。実際、フレイル外来には、痩せきって身体機能が落ちてから紹介されるケースも少なくないという。早期からのリハビリテーションの重要性を医療者が認識することで、治療効果が乏しくなる前に介入できる。勝島氏は、「痩せて筋力もない患者が、化学療法という大きな剣を無理やり持たされている状況が悪液質。それに対し、早期から多職種が介入して、身体機能や栄養状態、精神面を維持してもらうことで、大きな剣をしっかり振りかざすことができる」とし、「われわれの研究によって、運動療法・栄養療法という低コストの介入が、進行がん治療に寄与することが証明できれば、最終的には外来がんリハビリテーションの診療報酬獲得に結び付くかもしれない」と述べた。画像を拡大する画像を拡大する(ケアネット 細田 雅之)参考1)Katsushima U, et al. Jpn J Clin Oncol. 2024 Jan 11. [Epub ahead of print]2)勝島 詩恵ほか. Palliative Care Research.2022;17:127-134.

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フレイル、「やせが多い」「タンパク質摂取が重要」は誤解?

 人生100年時代といわれ、90歳を迎える人の割合は女性では約50%ともされている。そのなかで、老衰が死因の第3位となっており1)、老衰の予防が重要となっている。また、要介護状態への移行の原因の約80%はフレイルであり、フレイルの予防が注目されている。 そこで、2024年1月26日(腸内フローラの日)に、青森県りんご対策協議会が「いま注目の“健康・長寿”における食と腸内細菌の役割 腸内細菌叢におけるりんごの生体調節機能に関する研究報告」と題したイベントを開催した。そのなかで、内藤 裕二氏(京都府立医科大学大学院 医学研究科 教授)が「京丹後長寿研究から見えてきたフレイルの現状~食と腸内細菌の役割~」をテーマに、日本有数の長寿地域とされる京丹後市で実施している京丹後長寿コホート研究から得られた最新知見を紹介した。フレイルの4つのリスク因子、やせではなく肥満がリスク 内藤氏はフレイルのリスク因子は、大きく分けて4つあることを紹介した。1つ目は「代謝」で、糖尿病や高血圧症、がんの既往歴、肥満などが含まれる。実際に、京丹後市のフレイルの人にはやせている人はほとんどいないとのことである。2つ目は「睡眠」で、睡眠時間ではなく睡眠の質が重要とのことだ。3つ目は「運動」で、日常的な身体活動度の低さがリスク因子になっているという。4つ目は「環境」で、これには食事、薬剤、居住地などが含まれる。このなかで、内藤氏は運動と食事の重要性を強調した。高タンパク質食はフレイルの予防にならない!? 厚生労働省が公開している「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、65歳以上の高齢者のフレイルやサルコペニアの発症予防には、少なくとも1g/kg/日以上のタンパク質摂取が望ましいとしている2)。しかし、内藤氏はこれだけでは不十分であると指摘した。高齢者の高タンパク質食は、サルコペニアの発症予防にならないどころか発症のリスクとなっているという報告もあり3)、単純にタンパク質を多く摂取すればよいわけではないことを強調した。フレイル予防に有用な栄養素とは? 内藤氏は、京丹後長寿コホート研究でフレイルと非フレイルを比較した結果を報告した(未発表データ)。3大栄養素(タンパク質、脂質、炭水化物)について検討した結果、フレイルの有無によって脂質や炭水化物の摂取量には差がなく、タンパク質についても植物性タンパク質がフレイル群でわずかに少ないのみであった。しかし、6大栄養素(3大栄養素+ミネラル、ビタミン、食物繊維)に範囲を広げて比較すると、フレイル群はカリウムやマグネシウム、ビタミンB群、食物繊維の摂取が少なかった。また、食物繊維を多く含む食品のなかで、その他野菜(非緑黄色野菜)や豆類の摂取がフレイル群で少なかったことも明らかになった。 京丹後長寿コホート研究では、食物繊維の摂取が腸内細菌叢にも影響することもわかってきた。食物繊維の摂取と酪酸産生菌として知られるEubacterium eligensの量に相関が認められたのである。Eubacterium eligensの誘導に重要な食物繊維はペクチンであり4)、内藤氏は「りんごにはペクチンが多く含まれており、フレイル群で不足していたカリウムやマグネシウムも多く含まれているので、フレイル予防に役立つのではないか」と述べた。 食物繊維について、現在の日本人の食事摂取基準2)では成人男性(18~64歳)は21g/日以上、15~64歳の女性は18g/日以上が摂取目標値とされている。しかし、最新の世界保健機関(WHO)の基準では、10歳以上の男女は天然由来の食物繊維を25g/日摂取することが推奨されているため5)、内藤氏は「日本が世界基準に遅れをとっていることを認識してほしい」と述べた。

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