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適切な運動でがん患者の死亡リスク25%減、がん種別にみると?/JCO

 がんと運動の関係について、さまざまな研究がなされているが、大規模な集団において、がん種横断的に長期間観察した研究結果は報告されていない。そこで、米国・メモリアルスローンケタリングがんセンターのJessica A. Lavery氏らの研究グループは、がん種横断的に1万1,480例のがん患者を対象として、がんと診断された後の運動習慣と死亡リスクの関係を調べた。その結果、適切な運動を行っていた患者は非運動患者と比べて、全生存期間中央値が5年延長し、全死亡リスクが25%低下した。本研究結果は、Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2023年8月31日号に掲載された。 前立腺がん、肺がん、大腸がん、卵巣がんのスクリーニング研究(Prostate, Lung, Colorectal and Ovarian [PLCO] Cancer Screening Trial)に参加したがん患者1万1,480例(11がん種)を対象とした。対象患者のがんと診断された後の運動の頻度と死亡の関係を検討した。運動について、米国のガイドラインの基準(中強度以上の運動を週4日以上×平均30分以上および/または高強度の運動を週2回以上×平均20分以上)を満たす患者(適切な運動群)と基準未満の患者(非運動群)の2群に分類し、比較した。主要評価項目は全死亡、副次評価項目はがん死亡、非がん死亡であった。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中央値16年時点において、死亡が認められたのは4,665例であった。内訳は、がん死亡が1,940例、非がん死亡が2,725例であった。・全生存期間中央値は、適切な運動群が19年であったのに対し、非運動群は14年であった。・多変量解析の結果、適切な運動群は非運動群と比べて、全死亡リスクが有意に25%低下した(ハザード比[HR]:0.75、95%信頼区間[CI]:0.70~0.80)。・また、適切な運動群は非運動群と比べて、がん死亡リスク(HR:0.79、95%CI:0.72~0.88)と非がん死亡リスク(HR:0.72、95%CI:0.66~0.78)が有意に低下した。・がん種別のサブグループ解析において、全死亡リスクの有意な低下が認められたがん種は、以下のとおりであった。 -子宮体がん(HR:0.41、95%CI:0.24~0.72) -腎がん(同:0.50、0.31~0.81) -頭頸部がん(同:0.62、0.40~0.96) -血液がん(同:0.72、0.59~0.89) -乳がん(同:0.76、0.63~0.91) -前立腺がん(同:0.78、0.70~0.86)・一方、適切な運動群でがん死亡リスクの有意な低下が認められたがん種は、腎がん(HR:0.34、95%CI:0.15~0.75)、頭頸部がん(HR:0.49、95%CI:0.25~0.96)のみであった。

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手首の骨折の実態が明らかに―好発年齢は性別により顕著な差

 手首の骨折〔橈骨遠位端骨折(DRF)〕の国内での発生状況などの詳細が明らかになった。自治医科大学整形外科の安藤治朗氏、同大学地域医療学センター公衆衛生学部門の阿江竜介氏、石橋総合病院整形外科の高橋恒存氏らの研究によるもので、詳細は「BMC Musculoskeletal Disorders」に6月13日掲載された。 DRFは転倒時に手をついた際に発生しやすく、発生頻度の高い骨折として知られており、高齢化を背景に増加傾向にあるとされている。ただし日本国内でのDRFに関する疫学データは、主として骨粗鬆症の高齢者を対象とする研究から得られたものに限られていて全体像が不明。これを背景として安藤氏らは、北海道北部の苫前郡にある北海道立羽幌病院の患者データを用いて、全年齢層を対象としたDRFの疫学調査を行った。なお、北海道立羽幌病院は苫前郡で唯一、整形外科診療を行っている医療機関であり、同地域の骨折患者はほぼ全て同院で治療を受けている。そのため、著者によると、「単施設の患者データの解析ではあるが、骨折に関しては、地域全体の疫学研究に近似した結果を得られる」という。 2011~2020年に同院で治療を受けたDRF患者は280人で、苫前郡以外の居住者20人、および同側のDRF再発患者2人を除外し、258人を解析対象とした。 まず性別に着目すると、女性が73.6%を占め、男女比は1対2.8と女性が多かった。年齢は全体平均が67.0±21.5歳(範囲2~99)で、男性は49.9±30.4歳、女性は73.0±12.9歳だった。発生年齢は二峰性で、最初のピークは10~14歳に見られ大半が男性であり、二つ目のピークは75~79歳でその多くは女性が占めていた。 高齢化の影響を除外するために年齢調整をした上で、人口10万人年当たりの発生率の推移を見ると、女性は222.0~429.2の範囲に分布しており、2011年から2020年にかけて有意に低下していた(P=0.043)。それに対して男性は74.0~184.6の範囲であって、解析対象期間での有意な変化は観察されなかった(P=0.90)。 DRFの発生場所は屋外が67.1%を占めていたが、85歳以上では屋内での発生が多かった。受傷機転は、15歳以上(234人)では転倒が85.3%と多くを占め、次いで高所からの転落が6.9%だった。一方の15歳未満(24人)ではスポーツ中の受傷が50.0%、交通事故が33.3%であって、年齢層により大きな相違が見られた。DRF発生の季節変動も認められ、冬季に多く、とくに冬季の屋外での発生が多かった。 骨折は53%が左手、47%が右手に起きていた。骨折の形態についてはAO/OTA分類という分類で、15歳以上の患者についてはAタイプ(関節外骨折)が78.7%、Bタイプ(関節内部分骨折)が1.7%、Cタイプ(関節内完全骨折)が19.6%と診断されていた。 治療については、15歳未満の患者は全て保存的に治療され、15歳以上では29.1%に外科的治療が行われていた。カプランマイヤー法により、骨折後1年間の死亡率は2.8%、5年間では11.9%と計算された。 著者らは、「本研究により日本国内のDRFの疫学が明らかになった。DRF発生率は諸外国から報告されている数値と類似していた」とまとめるとともに、女性のDRF発生率が経年的に低下していることについて、「骨粗鬆症の標準化された治療法が普及してきていることを反映しているのではないか」との考察を加えている。また、好発年齢が二峰性で男性では若年者、女性では高齢者に多いことに関連し、「若年男性のスポーツ外傷と高齢女性の転倒を防ぐための公衆衛生対策の必要性が示唆される」と付言している。

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交通事故診療で困ることとその対応(2)

ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。整形外科医の濱口 裕之です。前回の「交通事故診療で困ることとその対応」はいかがでしたでしょうか?やっぱり交通事故診療は面倒くさいとか言わないでくださいね。それでは、今回も交通事故診療の疑問にお答えしましょう!自分の患者さんが、どのような基準で後遺障害に認定されるのかわかりません。後遺障害診断書をしっかり記載したのに非該当になって、患者さんに愚痴られたことがあります自賠責保険の後遺障害認定基準はブラックボックスであり、詳細は公開されていません。このため、自分の患者さんが後遺障害に認定されるか否かを正確に予測するのはほぼ不可能です。これまで、私たちのグループは、全国から寄せられる数千例に及ぶ事案に取り組んできました。それらの事案を分析した結果、自賠責保険は以下の認定基準にしたがって後遺障害の審査を行っていると推察されます。事故の規模症状の一貫性通院頻度適切な専門科の受診の程度身体所見と画像所見の一致の程度症状固定までの期間患者さんが受傷した部位ごとに細かい認定基準があるため、私たちのように年間約1,000例もの症例に取り組んでいても、正確に後遺障害等級を予測できるわけではありません。このため、自分の患者さんの後遺障害等級を予測するのは困難だと割り切りましょう。事故と症状の因果関係が疑わしい患者さんをときどき見かけます。単なる外傷性頸部症候群(頸椎捻挫)なのに、めまい、耳鳴、目のかすみなどの訴えは理解できません交通事故での外傷性頸部症候群(頸椎捻挫)といえば、首の痛みを想像する人が多いと思います。確かに、外傷性頸部症候群の症状として最も多いのは、後頸部から腕にかけての痛みやしびれです。しかし、外傷性頸部症候群では、めまい、耳鳴、目のかすみ、目の疲れなど自律神経失調症の症状を併発する症例があります。外傷の影響で交感神経が刺激されて前庭迷路の血流が減少します。これによって、めまいや耳鳴が起きるといわれています。外傷性頸部症候群に自律神経失調症が合併した状態を、バレリュー症候群と呼びます。バレリュー症候群は、整形外科医の間でさえ一般的な傷病とは言い難いです。しかし、交通事故診療では比較的よく見かける傷病です。患者さんがめまい、耳鳴、目のかすみ、目の疲れなどを訴えると、精神疾患や詐病を連想しがちです。しかし、外傷性頸部症候群では、一定の確率で自律神経失調症を併発します。バレリュー症候群である可能性を念頭に置いて診療しましょう。症状固定の時に、治療終了となることに対して患者さんが納得しなくて困っています。症状固定とは、治療してもそれ以上改善しない状態を指します。具体的には、消炎鎮痛剤の服用やリハビリテーションにより一過性に軽快するものの、すぐ元に戻ってしまう状態です。症状が一進一退になれば、症状固定の時期と思って良いでしょう。症状固定は医学的な概念ではなく、損害保険会社や裁判で慣習的に使われている用語です。そのため、患者さんだけでなく医師が症状固定の意味を正確に理解していなくても不思議ではありません。自賠責保険は、すべての交通事故被害者が完治するとは考えていません。治療効果がなくなった時点で治療を終了し、後遺症に対しては後遺障害を認定して救済します。限りある保険料収入を最大限有効活用することで、公的な利益を追求しています。そのため、治療しても根本的に改善する可能性がなくなったにもかかわらず、延々と治療を続けることには問題があります。患者さんの立場では、交通事故に巻き込まれて後遺症を負ったので、完全に治るまで補償して欲しいと思いがちです。症状固定に納得しない患者さんには、自賠責保険の公的な存在意義を説明するしかないと思います。なお、症状固定しても自賠責保険での治療が終了するだけです。健康保険で症状緩和の治療を続けられることは申し伝えましょう。診断書へ絶対に記載してはいけない事項は何でしょうか?自賠責保険は、醜状などの一部を除いて、すべて書類審査です。したがって、医師が作成した診断書は、患者さんの後遺障害認定に極めて大きな影響を及ぼします。そのため、診断書は自賠責保険のルールに則って記載する必要があります。そうは言っても、特別に勉強する必要はなく、普通の感覚で診断書を作成すればよいでしょう。ただし後遺障害診断書の左下にある「障害内容の増悪・緩解の見通し」については、慎重に記載する必要があります。この欄に、症状は改善する見込みがあるなどと記載すると、患者さんは確実に後遺障害非該当になります。そもそも、症状固定の定義は「治療してもそれ以上改善しない状態」です。症状が改善する見込みがあるのなら、まだ症状固定ではありません。症状固定は医学用語ではないので、多くの医師が症状固定の定義を知らないのは当然といえるでしょう。だからといって、患者さんに不利益になることをあえて記載する理由はありません。主治医として、この点だけは知っておいて損はないと思います。自覚症状だけで他覚所見が乏しい場合の対応はどうすればよいのでしょうか?交通事故診療で最も多い外傷性頸部症候群では、他覚所見に乏しい症例が多いです。身体所見や画像所見と比較して症状の訴えの強い患者さんを診ると、どうしても詐病が頭をよぎります。しかし、私たちの数千例に及ぶ経験では、交通事故診療で明らかに詐病と思われる症例は、さほど多くないのが実情です。たしかに、外傷性頸部症候群では自覚症状だけで他覚所見が乏しい症例は多いですが、彼らが全員ウソをついているわけではありません。単に現在の医療水準では、画像検査などで痛みなどの症状の原因を捉えきれていないだけだと考えるべきでしょう。私たち医師ができることは、客観的に診療することだけです。詐病が強く疑われるケースを除けば、粛々と治療を続けることが望まれます。

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椎間板ヘルニアによる坐骨神経痛にはパルス高周波とステロイド注射の併用が有効

 腰椎椎間板ヘルニアにより坐骨神経痛を来した患者の疼痛緩和と障害改善において、パルス高周波(PRF)と経椎間孔ステロイド注射(TFESI)の併用療法は、TFESI単独よりも優れていることが、「Radiology」に3月28日報告された。 ローマ・ラ・サピエンツァ大学付属ポリクリニコ・ウンベルト・プリモ病院(イタリア)のAlessandro Napoli氏らは、12週間以上続く腰椎椎間板ヘルニアにより坐骨神経痛を来し、保存治療に反応しない患者を、CTガイド下でのPRFとTFESIの併用療法1回を受ける群(174人)と、TFESI単独療法1回を受ける群(177人)にランダムに割り付けた。治療後1週目と52週目に、下肢痛の重症度を数値評価スケール(NRS)で測定した。 ベースライン時のNRSは、併用群で8.1±1.1、単独群で7.9±1.1だった。治療後1週目のNRSは併用群で3.2±0.2、単独群で5.4±0.2(平均治療効果2.3)、治療後52週目のNRSはそれぞれ1.0±0.2、3.9±0.2だった(平均治療効果3.0)。52週目の平均治療効果は、オスウェストリー障害指数(ODI)が11.0、ローランド・モリス障害質問票スコアが2.9で、併用群の方が良好だった。 著者らは、「腰椎椎間板ヘルニアにより持続性坐骨神経痛を来した患者に対するPRFとTFESIの併用は、TFESI単独に比較して、治療1年後の疼痛緩和と機能回復の面で良好な臨床結果を示した」と述べている。 なお、1人の著者が医療機器企業と、別の1人が出版企業との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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心筋梗塞後の痛みで死亡リスクが上昇か

 心筋梗塞後の痛みは、胸痛に限らず、長期生存の予測因子となるようだ。新たな研究によると、心筋梗塞から1年後に痛みがある人では、その後の死亡リスクが上昇する可能性のあることが示唆された。ダーラナ大学(スウェーデン)保健福祉学分野のLinda Vixner氏らによるこの研究の詳細は、米国心臓協会(AHA)が発行する「Journal of the American Heart Association」に8月16日掲載された。 Vixner氏は、「痛みは重大な機能喪失を引き起こし、身体障害をもたらす可能性がある。これらの問題は、いずれも世界的な公衆衛生問題につながっている。しかし、心筋梗塞後に生じる痛みが死亡リスクに与える影響について、これまで大規模な研究で検討されたことはない」と述べる。 この研究でVixner氏らは、スウェーデンの心疾患のデータベース(SWEDEHEART)から、2004年から2013年の間に心筋梗塞を起こした75歳未満の患者1万8,376人(平均年齢62.0歳、男性75%)のデータを分析した。患者は、退院から12カ月後の時点の追跡調査において、痛みも含めた健康に関する質問票に回答していた。痛みについては、「痛みや不快感はない」「中等度の痛みや不快感がある」「非常に強い痛みや不快感がある」の3つの選択肢が用意されていた。この追跡調査から最長8.5年間(中央値3.4年間)のあらゆる原因による死亡(全死亡)に関するデータを集めて、心筋梗塞から1年後の痛みの重症度と全死亡との関連について検討した。 対象者の4割以上が、退院から12カ月後の追跡調査時に中等度または非常に強い痛みのあることを報告していた(中等度の痛み:7,025人、非常に強い痛み:834人)。年齢や性別、胸痛、BMIなどの関連因子を調整して解析した結果、中等度の痛みがあった患者では、その後、最長8.5年間における全死亡リスクが、痛みのない患者よりも35%高いことが明らかになった(ハザード比1.35、95%信頼区間1.18〜1.55)。また、非常に強い痛みのある患者での同リスクは、痛みのなかった患者の2倍以上だった(同2.06、1.63〜2.60)。心筋梗塞後の痛みについては、退院から2カ月後にも調査が行われたが、この際に痛みを経験していた患者の65%は12カ月後の追跡調査時にも痛みを訴えており、痛みが慢性的なものであることが示唆された。 Vixner氏は、「心筋梗塞後には、将来の死亡の重要なリスク因子として痛みの有無を評価し、認識することが重要だ。また、激しい痛みは、リハビリテーションや定期的な運動などの心臓を保護する重要な活動への参加を妨げる可能性がある」と指摘。「痛みのある患者においては、喫煙、高血圧、高コレステロール値など、他のリスク因子を減らすことが特に重要だ」と話している。さらに研究グループは、「医師は、治療を勧めたり予後を判断したりする際に、患者が中等度または非常に強い痛みを経験しているかどうかを考慮すべきだ」と述べている。ただし、この研究はスウェーデンに住んでいる人だけを対象としているため、他の国に住んでいる人には当てはまらない可能性がある。 なお、AHAによると、米国では40秒に1件の割合で心筋梗塞が生じているという。

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意識不明の脳損傷患者、EEGとMRIで「隠れた意識」が明らかに?

 意識不明のように見える急性脳損傷患者の中には、言葉による指示に反応して脳の活動が検知できる一方で、実際に行動を起こす兆候は認められない状態の患者が存在する。この状態は、「認知と運動の解離(cognitive motor dissociation;CMD)」と呼ばれ、機能的な回復との関連が示唆されているが、その詳細は明らかになっていない。こうした中、米コロンビア大学神経学教授のJan Claassen氏らによる研究で、MRI検査と脳波検査(EEG)のデータ解析により、CMD患者と非CMD患者での脳の構造や機能の違いが明らかにされた。米国立衛生研究所(NIH)とダナ財団から助成金を受けて実施されたこの研究は、「Brain」に8月14日掲載された。 CMDは、頭部外傷、脳出血、心停止により脳に損傷を受けた患者の約15〜25%に生じる。過去の研究でClaassen氏らは、EEGで検出可能な微弱な脳波が、無反応の脳損傷患者の「隠れた意識」と最終的な回復を強く予測することを明らかにしていた。しかし、脳の中で具体的にどの経路が障害を受けてCMDに至るのかについては明らかになっていない。 この点を明らかにするために、Claassen氏らは、脳損傷により意識不明に陥った患者107人を対象に、CMDについて検討した。まず、「手を開いたり結んだりし続けてください」などの指示を患者に出し、その指示に対する患者の脳の活動(脳波)を測定した。このようなEEGにより、21人の患者がCMD状態にあることを突き止めた。次に、MRI検査により全患者の脳の構造的な変化を分析し、CMD患者と非CMD患者(86人)の病変パターンの特定を試みた。 その結果、非CMD患者では、脳幹の覚醒に関わる経路、特に中脳に損傷が認められたのに対し、CMD患者では、この経路が損傷を受けていないことが明らかになった。また、非CMD患者の中には、言葉の理解に関与する左視床と呼ばれる部位に損傷のある患者が見つかり、これが言葉の理解を困難にしていることが示唆された。こうした結果から、CMD患者は、口頭の指示を聞いてその内容を理解することはできても、指示通りに体を動かすことはできない可能性がうかがわれた。 研究論文の共著者である同大学のQi Shen氏は、「われわれが開発したバイクラスタリング解析と呼ばれる手法を用いて、CMD患者に共通して認められる、非CMD患者とは対照的な脳損傷のパターンを特定することができた」と述べている。研究グループは、「この研究で得られた結果は、隠れた意識のある脳損傷患者を医師がより迅速に特定し、どの患者がリハビリテーションによって回復する可能性が高いのかをより的確に予測するのに役立つだろう」との見方を同大学のリリースで示している。 ただし、このアプローチを実臨床で用いるには、さらなる研究が必要である。それでもClaassen氏は、「われわれの研究は、広く利用可能なMRIにより脳の構造を調べることで、隠れた意識の検出が可能であることを示している。このことは、CMDの検出を臨床現場での使用に一歩近付ける」と述べている。同氏はさらに、「EEGを用いて隠れた意識を検出するためのリソースや訓練されたスタッフが、クリティカルケアユニットであればどこにでも備わっているというわけではない。そのため、より一般的に使われているMRIが、さらなるスクリーニングや診断が必要な患者を特定するための有用な手段となる可能性がある」と付け加えている。

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筋肉痛はタンパク質摂取で抑えられない

 レジスタンス運動(筋肉に繰り返し負荷をかける運動)の前後にタンパク質を摂取することは、運動後の回復とトレーニング効果を高める一般的な戦略である。一方、タンパク質摂取が運動誘発性筋損傷(EIMD:いわゆる筋肉痛)を抑制できるのかについて調査した、英国・ダーラム大学のAlice G. Pearson氏らによるシステマティックレビューの結果が、European Journal of Clinical Nutrition誌2023年8月号に掲載された。筋肉痛はタンパク質摂取群と対照群で有意差はなかった 研究者らはPubMed、SPORTDiscus、Web of Scienceで2021年3月までの関連論文を検索し、運動後の各時点(24時間未満、24時間、48時間、72時間、96時間)におけるタンパク質摂取の効果と、EIMDを計る間接的マーカーのヘッジズ効果量(ES)を算出した。 タンパク質摂取が筋肉痛を抑制できるのかについて調査した主な結果は以下のとおり。・システマティックレビューに含まれた29の研究は45の試験からなり、うち26の研究と40の試験が1つ以上のメタアナリシスに含まれた。計763例が対象となり、うち94%が若年男性であった。・等尺性随意最大筋力は96時間後(ES:0.563、95%信頼区間[CI]:0.232~0.894)および、等速性随意最大筋力は24時間後(0.639、95%CI:0.116~1.162)、48時間後(0.447、95%CI:0.104~0.790)、72時間後(0.569、95%CI:0.136~1.002)の各時点において、タンパク質摂取による筋力低下の抑制効果が認められた。・クレアチンキナーゼ濃度は、48時間(0.836、95%CI:-0.001~1.673)および72時間(1.335、95%CI:0.294~2.376)時点において、タンパク質摂取群は対照群よりも低下していた。・一方、筋肉痛については、タンパク質摂取群と対照群に有意差はなかった。 著者らは「運動前後のタンパク質摂取は、最大筋力の維持とクレアチンキナーゼ濃度の低下に役立つが、筋肉痛を軽減することはできなかった」としている。

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病院機能評価「医療安全」への対策強化で「カルテレビュー」導入へ

 最近では紙カルテ(診療録)から電子カルテへの普及が進み、病院のみならずクリニックでの導入も多くみられるようになった。また、国が推進するマイナンバーカードによる健康保険証には、個人のカルテ情報の搭載も予定され、いつでも、どこでも自分のカルテが読める時代が期待されている。そんなカルテは、医療事故などが発生した場合、真っ先に調査が行われる患者や患者遺族、医療機関などにとって事故と結果の因果関係を証明する大切な資料となるが、カルテの中身の記載については個々の医師の判断に任されている。 今般、日本医療機能評価機構は、「医療安全」の対策強化を目的に、病院機能評価の「カルテレビュー」の強化を行った。従来よりも多数の症例のカルテについてチェックをされることになる。本稿では特別寄稿として病院機能評価の受審を2022年に受けたばかりの井上 雅博氏(稲沢市民病院 内科)が、「カルテレビュー」への対応について述べる。医療事故で顕在化したカルテの不備 先日、兵庫県の神戸徳洲会病院で心臓カテーテル検査や治療後に複数の患者の死亡が発生し、第三者を交えた医療事故調査が決まりました。さらに神戸市が8月28日に、病院に対して行政指導を行いました。●参考記事カテーテル処置後死亡 神戸市“安全管理体制に複数の問題点”(NHK/7月28日)カテーテル治療後に死亡相次ぐ神戸徳洲会病院 市が行政指導へ カルテに記載なし、実質一人で業務か(神戸新聞/7月28日)神戸徳洲会病院への医療安全管理体制に関する行政指導の実施(神戸市/8月28日) 事故の報道で当初から問題とされていたのは、患者の急変などがあったにも関わらず、診療にあたっていた医師によるカルテ記載が十分ではないことでした。 事故露見のきっかけは、今年の1月から赴任した医師の施行したカテーテル手術後に、死亡事例や容体悪化した症例が多発していたにもかかわらず、病院側が再発防止や医療安全のために検証に取り組んでこなかったため、匿名による内部告発で発覚となりました。 カルテの記載は医師法24条1項には「医師は、診療をしたときは、遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならない」と定められているように義務となっています。残念ながら、この医師は毎日のカルテ記載を怠っていただけでなく、病状が急変して死亡された患者についても記載がなく、今回のような指導へとつながってしまいました。 患者安全の確立のためにも、診療にあたる医師による患者や家族への同意説明の内容や臨床経過についてはカルテへの記載が必須事項とされています。 医療事故が発生したときに問題となるのは、医療事故に遭われた患者の治療経過や処置など、具体的に行った医療の内容、さらには事故発生後の経過について記載が不十分であると、カルテ開示を求められた場合、患者側に医療不信を引き起こし医療訴訟につながるということです。 医療事故の解析や再発防止策の立案にカルテ記載は必要であることは言うまでもないですが、「説明と同意」が必須の時代に、十分な同意取得がないまま侵襲性の高い医療行為や手術が実施された場合、今回の事例のように、地方厚生局や自治体などの行政側からも指導が下されることになります。また、最近では、説明同意文書以外にも、インフォームドコンセントの取得時に医師や看護師からの説明を受けた患者や家族の理解度についてもカルテ記載に必要とされてきています。病院機能評価でもカルテ記載の内容を問う時代に 今年の4月から新たに日本病院機能評価機構による病院機能評価も新しいバージョン3.0が導入されました。従来はサーベイヤーが審査するのは当日に選ばれた病棟の退院患者の症例のカルテの中から、実際に1症例を外来から入院、手術や検査、そして退院など一連の流れを審査側に説明してチェックを受けていたものが、カルテの記載内容について「定常状態」を確認するため、ランダムに選ばれたカルテを5症例ほど連続して確認することになりました。 日本医療機能評価機構は、医療機関が質の高い医療を提供するのを支援するために1997年から全国の病院に対し医療機能評価を行っています。2023年7月時点で2,000病院が認定病院となっていますが、これは全国の病床の約4割を認定病院の病床が占めており、ほぼ急性期病院の大半が網羅されています。 この25年で、幾度ものバージョンアップを通して評価項目・評価方法の見直しを行ってきました。今回の新しいバージョンでは、全国の受審病院に対して、これまでのサーベイヤーの審査に際しては、カルテの記載が充実している先生のいわゆる「チャンピオンカルテ」を用意しておけば間に合っていたものが、すべての入院患者について「カルテ記載の充実」を求めていることです。 すでに大学病院や高度急性期病院では医師、看護師、薬剤師、栄養士、セラピストなど、多職種からなるチームで医療が行われています。新しいバージョンの病院機能評価では、これを一般病院に対して実践を求めることになりました。詳しくは病院機能評価機構の説明資料(新しい病院機能評価[3rdG:Ver.3.0]の運用開始について)を参照ください。 この中で、従来は大学病院など「一般病院3」だけで実施されてきた「カルテレビュー」が、機能評価を受審するすべての病院で実施されることになりました。 患者・家族への説明や同意文書の不備の有無のチェックだけではなく、複数のカルテ記載から診療・ケアの適切性、説明と同意の適切性、カルテ記載の定常状態などを確認するために、病院における日々の診療内容、患者・家族への説明についての理解度の評価など記載が求められます。 今までのように特定のカルテだけではなく、入院患者の全員について入院から退院までのカルテが審査対象とされるため、退院後2週間以内のサマリーの作成だけではなく、従来は、個別の医師のカルテ記載についてまではあまり立ち入っていなかったのを、病院側が診療録管理委員会などを通して監督・指導しなければならなくなっています。 さらにカルテレビューの導入に合わせて、バージョン3.0では、400床以上の【区分4】、200~399床【区分3】の病院では、医療安全・感染対策ラウンドが実施され、情報伝達エラーの防止策や医薬品の安全管理や誤認対策、ハイリスクな医療行為の実施にあたっての院内ルールの規定など、細かくチェックをするものとなっています。 これまでのような小手先での対策ではなく、医師が病院の全職員と共に医療安全のためにしっかりとした対策を講じていく必要が出てきたと思います。 病院機能評価は、救急体制充実加算や回復期リハビリテーション病棟入院料1の加算を受けるためには病院機能評価や第三者評価が条件となっているものが複数あり、避けて通れなくなっています(病院機能評価が影響する診療報酬や施設基準等について)。 医療機能評価を受審するにあたっては、病院側はカルテ記載をしっかりと医師に積極的に働きかける必要があり、新入職員の研修医や中途入職の医師に対してもカルテ記載について導入教育を行う必要が出てきていると思われます。 今年の4月から新バージョンの運用開始に伴い、大学病院以外でもカルテレビューが行われており、対策が急がれます。●参考資料機能種別版評価項目(3rdG:Ver.3.0)の機能種別と評価項目について3rdG:Ver.3.0の訪問審査当日の進行について病院機能評価が関連する診療報酬や制度等について

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交通事故診療で困ることとその対応(1)

ケアネットをご覧の皆さま、はじめまして。整形外科医の濱口 裕之と申します。交通事故絡みの診療って面倒くさいなぁ…。きっと、そう思っている方が多いことでしょう。何を隠そう私もその1人です。そんな私が、交通事故診療についてお話しする機会をいただきました。その理由は、私が日本で最もたくさんの交通事故患者さんに関わっている医師だからです。一体どれぐらいの数の患者さんかって? ナントその数、年間1,000症例!これほどたくさんの交通事故患者さんに関わっている理由は、勤務医をしながら2016年に創業した弁護士向けの会社にあります。主に交通事故の後遺障害認定サポートを行っており、整形外科医が代表を務める会社としては業界最大手となりました。全国の弁護士や保険会社から毎日たくさんの相談を受けているので、交通事故診療の疑問や悩みなら何でもござれというワケです。そこで今回は、交通事故診療に携わる医師のよくあるお悩みについて回答していきます。どうかご笑覧いただきますようお願い申し上げます。接骨院との併診を希望する患者が多くて困っています。医療機関と接骨院との併診を認めてよいのでしょうか?接骨院は、柔道整復師が施術を行う施設で、整骨院とも呼ばれています。もちろん、接骨院は医療機関ではありません。1998年に柔道整復師養成校設立の規制が緩和されたため、接骨院の数はコンビニエンスストアと同じぐらいにまで増加しました。熾烈な生存競争を勝ち抜くため、接骨院は交通事故患者さんの取り込みに躍起になっています。夜間営業や日祝日営業は当たり前なので、交通事故患者さんは通いやすい接骨院に流れがちです。もちろん、患者さんが接骨院に行くのは自由です。しかし、医療機関と並行して通っていると、いくつかの不具合が発生します。よく見かけるのが、「なか飛ばし」と呼ばれる初診時と症状固定時だけ医療機関を受診して、その間は接骨院に通うパターンです。なか飛ばしでは、医師には診察していない期間の経過がわからないので、症状固定時の症状が事故によるものか否かがわかりません。このため、後遺障害診断書作成が困難になります。なか飛ばしよりもさらに対応が難しいのは「経過後初診」です。受傷してから一度も医療機関を受診せずに接骨院に行ってしまい、症状固定時期に初めて医療機関を受診するパターンです。症状と事故との因果関係がまったくわからないので後遺障害診断書を書けません。また、接骨院にいくら頻回に通っても、一定頻度の医療機関受診がなければ後遺障害に認定されません。接骨院との併診を希望する患者さんには、接骨院併診のデメリットを説明した上で選択してもらうことをお勧めします。どのタイミングで治療終了にするのでしょうか? 症状固定の時期の判断が難しいです症状固定とは、症状が依然として残っているものの、治療を行ってもこれ以上症状が良くならない状態です。症状固定は治癒と混同されがちですが、両者はまったく異なります。治癒は、文字どおり治った状態なので症状はありません。一方、症状固定はリハビリテーションや薬物療法で一時的には症状が改善しても、治療を止めると症状がぶり返してしまう一進一退の状態です。日常診療で症状固定を考えるべきタイミングは、治療していても効果がなくなってきたなと感じる時期です。症状固定と言うと症状がなくなった状態を連想しがちですが、そうではありません。症状がまだ残っているからと言って、治療効果が不十分になったにもかかわらず、漫然と治療を続けることは厳に慎むべきでしょう。もちろん、症状固定したら治療も終了しなければいけないわけではありません。あくまでも自賠責保険での治療を終了するだけです。患者さんの希望があれば、症状の緩和を目的として、健康保険を使用して治療を続けることは可能です。受傷して間もないのに全治までの期間の判断を求められることがあります。何故、保険会社は全治までの期間をすぐに知りたがるのでしょうか?受傷後早期にもかかわらず、保険会社が全治までの期間の判断を求めるケースは、大きく2つに分けられます。1つ目は、保険会社の決算期の関係で備金計上を迫られているケースです。備金とは、決算日までに発生した事故に支払うために積み立てる準備金です。備金計上にはある程度の正確さが要求されるので、保険会社の担当者は全治までのおおよその期間を知りたいと思うのです。2つ目は、保険会社が患者さんの症状や医療機関の治療内容について疑念を抱いているケースです。具体的には、軽い事故にもかかわらず、ほぼ毎日通院しているケースなどが挙げられます。保険会社は詐病や過剰診療の可能性を念頭に置いて調査します。後遺障害診断書の記載内容の書き換え要求があって、患者さんや担当弁護士と揉めることがあります。どのように対応すればよいのでしょうか?最近、交通事故診療の現場に弁護士が介入するケースが増えています。その理由は、自動車保険の弁護士費用特約が普及しているからです。弁護士費用特約とは、交通事故に遭った際に、弁護士に委任する費用を補償してくれる特約です。患者さんの立場では、経験豊富な弁護士に依頼できるので、多くの人が加入しています。弁護士の立場では、弁護士費用特約が附帯されていると費用の取りはぐれがありません。このため、多くの弁護士が交通事故患者さんから受任しようと躍起になっています。弁護士報酬は成功報酬部分が大きいので、患者さんが後遺障害に認定されるように、あの手この手を使います。このため、後遺障害認定に大きな影響を及ぼす後遺障害診断書の書き換え要求をする弁護士が後を絶ちません。後遺障害診断書の書き換え要求があった場合には、自賠責保険の記載ルールから逸脱している場合は追記や修正に応じるべきでしょう。たとえば、関節可動域について他動を記載せず、自動しか記載していないケースです。一方、症状固定日をもう少し後にして欲しいなどの医学的根拠が不明瞭な書き換え要求には応じる必要はありません。あくまでも医師としての専門的な診断を優先しましょう。

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筋トレは方法次第で1日3秒、週3日で効果あり!?

 「筋力トレーニングはつらいので嫌い」という人は、少なくないだろう。しかし1日3秒、週3日で効果があるとしたらどうだろうか。新潟医療福祉大学とオーストラリア・Edith Cowan Universityの研究グループは、1日3秒、週3日の全力の伸張性収縮(重りをゆっくりと降ろすなどの運動)を4週間実施することで、筋力が増加することを明らかにした。本研究結果は、吉田 麗玖氏(間庭整形外科医院)らによってEuropean Journal of Applied Physiology誌オンライン版2023年7月28日号で報告された。 健康な大学生26人を対象として、全力の伸張性収縮を1日3秒、週2日実施する群(週2日群)と1日3秒、週3日実施する群(週3日群)に均等に割り付け、4週間のトレーニングを実施した。4週間のトレーニング前後における短縮性収縮、等尺性収縮、伸張性収縮時の随時最大筋力の変化を群間比較した。また、上腕二頭筋、上腕筋の筋厚の変化も比較した。これらの結果は、先行研究において1日3秒、週5日のトレーニングを4週間実施した群(週5日群)1)とも比較した。 主な結果は以下のとおり。・週2日群は、随時最大筋力に有意な変化はみられなかった。・週3日群は、短縮性収縮および伸張性収縮時の随時最大筋力が有意に増加した(それぞれ2.5%、3.9%、いずれもp<0.05)。・週5日群は、短縮性収縮および伸張性収縮時の随時最大筋力が有意に増加し(それぞれ12.8%、12.2%)、増加の大きさは週3日群よりも大きかった(いずれもp<0.05)。・上腕二頭筋、上腕筋の筋厚に有意な変化は認められなかった。 本研究結果について、著者らは「1日3秒の全力の伸張性収縮によって筋力増加効果を得るためには、少なくとも週3日のトレーニングが必要であり、1週間当たりのトレーニング日数が多いほど、大きな筋力増加効果が得られることが示唆された」とまとめた。

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日本人アルツハイマー病患者の日常生活に影響を及ぼすリスク因子

 日常生活動作(ADL)を維持することは、アルツハイマー病(AD)患者およびその介護者にとって非常に重要な問題である。エーザイの赤田 圭史氏らは、日本人AD患者の診断時のADLレベルおよび長期(3年以内)治療中のADL低下と関連するリスク因子を明らかにするため、本検討を行った。その結果、低い体格指数(BMI)、脳卒中、骨折を伴う日本人AD患者では、ADL低下リスクが高いことから、これらリスク因子を有する患者では、ADLを維持するためのリハビリテーションなどの適切な介入が求められることを報告した。Journal of Alzheimer's Disease誌オンライン版2023年6月30日号の報告。 日本の健康保険請求データベースより、AD患者の医療記録をレトロスペクティブに分析し、ADLレベルおよびADL低下と関連するリスク因子を特定した。ADLの評価には、バーゼルインデックス(BI)を用いた。ADL低下のリスク因子は、年齢とBIによる傾向スコアマッチングを用いて、ADL維持群と低下群を比較することにより、性別ごとに分析した。 主な結果は以下のとおり。・対象は、日本人AD患者1万6,799例(診断時の平均年齢:83.6歳、女性の割合:61.5%)。・女性患者は、男性患者と比較し、高齢(84.6歳vs.81.9歳、p<0.001)、低BI(46.8 vs.57.6、p<0.001)、低BMI(21.0kg/m2 vs.21.7 kg/m2、p<0.001)であった。・BI60以下の障害は、80歳以上で増加がみられ、女性のほうが有意に高かった。・入浴および身だしなみにおける障害が最も頻繁に認められた。・男性のADL低下は、BMI21.5 kg/m2未満、脳卒中、大腿骨近位部骨折と有意に関連しており、高脂血症との逆相関が認められた。・女性のADL低下は、BMI21.5 kg/m2未満、椎体骨折、大腿骨近位部骨折と有意に関連しており、腰痛との逆相関が認められた。

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男性機能の維持にも、テストステロン増加に最適な運動/日本抗加齢医学会

 いくつになっても男性機能を維持させたい、死亡リスクを減らしたい、というのは多くの男性の願いではないだろうか―。「老若男女の抗加齢 from womb to tomb」をテーマに掲げ、第23回日本抗加齢医学会総会が6月9~11日に開催された。そのシンポジウムにて前田 清司氏(早稲田大学 スポーツ科学学術院 教授)が『有酸素運動とテストステロン』と題し、肥満者のテストステロン増加につながる方法、男性機能を維持するのに適した運動について紹介した。肥満者のテストステロン増加に運動が影響、男性機能には… 近年、国内の死因別死亡数では心血管疾患や脳血管疾患が上位を占めているが、肥満者(BMI≧25)が増加することでこの死因が押し上げられることが示唆されている1)。そのため、肥満者を減らせば心・脳血管疾患も減少傾向に転じる可能性がある。 そこで、前田氏はこの課題解決としてテストステロン濃度に着目。ある研究2)によると肥満者ではテストステロン濃度が低下し、またある研究3)ではテストステロンは血管機能(動脈スティフネスや中心血圧)に保護的に作用することが報告されている。加えて、テストステロン増加がさまざまな疾患リスク減少に寄与する4)ことも報告されている。以上の報告から同氏らは、肥満者ではテストステロン値が低下し、その結果、心血管リスクが上昇していると仮説を立て、肥満者において、食事・運動介入による心血管やテストステロン濃度への影響を調査した。 本研究ではまず、肥満者を対象に生活習慣の改善介入(食事と運動の併用介入)を3ヵ月間実施した。有酸素性運動は3回/週(1回あたり90分、内訳:ストレッチ10~15分、有酸素性運動40~60分、整理運動20~30分)行った。食事法には四群点数法を導入し、1食あたり560kcal程度、1日1,680kcal程度の摂取とし、1回/週の週間食事指導、食事記録に基づいた個別指導が行われた。続いて、肥満者を運動群(n=49)、食事群(n=28)、併用群(n=56)の3群に割付け、食習慣と運動習慣のどちらがよりテストステロン値に影響を与えるかを調査した。なお、併用群ではいずれもの介入がなされた。さらに、運動能力の男性機能やテストステロンへの影響を調べるために筋力(握力)と持久力(最大酸素摂取量)の関係性についても解析した。 主な結果は以下のとおり。・食事と運動の併用介入による減量後に、動脈スティフネスと中心血圧はともに低下した。また、介入後のテストステロン濃度の増加が大きいほど脈波伝播速度で評価した動脈スティフネスの低下は大きく、中心血圧の低下も大きかった。・運動群、食事群、併用群のそれぞれの効果を検討した際の体重変化は、運動群で2kg、食事群で8kg、併用群で12kgの減量がみられ、併用群が最も効果的であった。ただし、単独介入を比較すると、食事群のほうが運動群より効果が高かった(-9.8% vs.-2.5%、p<0.01)。・食事群と運動群でテストステロン濃度の増加率をみると、それぞれ3.8%、17.8%の増加(p<0.05)で、テストステロンの増加には運動療法が重要であった。・運動強度は、高強度の身体活動量(早歩きや軽いジョギング)の増加とテストステロンの増加に有意な関係性がみられた。・持久力および筋力が高いと勃起機能が高く、有酸素性運動はAMSスコア(男性更年期症状の自己評価による点数)を改善することから、有酸素性運動かつ筋力トレーニングが男性機能に有用であった。 以上の結果より、同氏は「体重減少だけをみると食事介入が影響するが、テストステロン濃度の増加には有酸素性運動が、とくに少し強度が高めの早歩きや軽いジョギングなどの運動が有用であることが示唆された。また、男性機能の維持には筋力、持久力を高く保つことが重要で、とくに軽いジョギングや自体重での筋力トレーニングなどの運動療法の実施が重要」と発表した。

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双極性障害患者の入院期間に影響を及ぼす要因

 双極性障害患者の入院期間やそれに影響を及ぼす因子を特定するため、 中国・首都医科大学のXiaoning Shi氏らは、本検討を行った。その結果、入院期間の長い双極性障害患者は、自殺リスクが高く、複雑な多剤併用が行われていた。入院期間を短縮するためには、うつ病エピソードの適切な管理と機能的リハビリテーションが有用な可能性がある。Frontiers in Psychiatry誌2023年5月19日号の報告。 双極I型障害またはII型障害患者を対象に多施設共同観察コホート研究を実施した。2013年2月~2014年6月に中国6都市、7施設より募集した外来患者520例を、継続的なサンプリングパターンを用いてフォローアップ調査を行った。本研究は、12ヵ月のレトロスペクティブ期間と9ヵ月のプロスペクティブ期間で構成された。対象患者の人口統計学的特徴および臨床的特徴を収集した。入院期間(プロスペクティブ期間の入院日数)の影響を及ぼす因子の分析には、ポアソン回帰を用い、入院期間(レトロスペクティブおよびプロスペクティブ期間)の分析には、線形回帰分析を用いた。性別、年齢、教育年数、職業的地位、在留資格、精神疾患の家族歴、薬物乱用の併存、不安障害の併存、自殺企図の回数(レトロスペクティブおよびプロスペクティブ期間での発生回数)、初回エピソード特性、双極性障害のタイプ(I型またはII型)を変数として用いた。 主な結果は以下のとおり。・ポアソン回帰分析では、入院期間と相関が認められた因子は、自殺企図の回数(発生率[IRR]:1.20、p<0.001)、抗精神病薬の使用(IRR:0.62、p=0.011)、抗うつ薬の使用(IRR:0.56、p<0.001)であった。・線形回帰分析では、うつ病エピソード期間の長期化や機能低下と関連する可能性のある双極II型障害(β:0.28、p=0.005)および失業(β:0.16、p=0.039)は、長期入院との関連が認められた。・自殺企図の回数と短期入院との間に関連傾向が認められた(β:-0.21、p=0.007)。・自殺リスクの高い患者では、治療が不十分、コンプラインアンス不良の傾向があるため、入院中に適切に評価し、治療を行う必要がある。

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急性期脳梗塞へのtirofiban、アスピリンより優れた改善/NEJM

 大・中脳血管の閉塞を伴わない急性期脳梗塞患者の治療において、糖蛋白IIb/IIIa受容体阻害薬tirofibanは低用量アスピリンと比較して、非常に優れたアウトカム(修正Rankin尺度[mRS]スコア0または1)が達成される可能性が高く、安全性には大きな差はないことが、中国・陸軍軍医大学のWenjie Zi氏らが実施した「RESCUE BT2試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2023年6月1日号に掲載された。中国のダブルダミー無作為化試験 RESCUE BT2試験は、中国の117施設で実施された二重盲検ダブルダミー無作為化試験であり、2020年10月~2022年6月の期間に参加者のスクリーニングが行われた(中国国家自然科学基金の助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、大・中脳血管の閉塞を伴わない脳梗塞を有し、米国国立衛生研究所脳卒中スケール(NIHSS)スコアが5点以上で、少なくとも1肢に中等度~重度の脱力がみられ、以下の4つの臨床状態のいずれかに当てはまる患者であった。 (1)血栓溶解療法、血栓回収療法の適応がなく、最終健常確認から24時間以内、(2)発症後24~96時間の時点で脳梗塞症状の進行を認める、(3)血栓溶解療法後早期に、神経症状の増悪がみられる、(4)血栓溶解療法後4~24時間の時点で神経症状の改善がない。 被験者は、tirofiban静脈内投与+プラセボ経口投与を受ける群(tirofiban群)、またはアスピリン(100mg/日)経口投与+プラセボ静脈内投与を受ける群(アスピリン群)に無作為に割り付けられ、2日間の投与が行われた。その後は、全例に90日目までアスピリンが経口投与された。 有効性の主要エンドポイントは、90日時点における非常に優れたアウトカムとされ、mRSスコア(0[症状なし]~6[死亡]点)が0または1であることと定義された。主要エンドポイントの達成割合は予想より低い 1,177例が登録され、tirofiban群に606例(年齢中央値68.0歳、男性62.5%、NIHSSスコア中央値9.0点、脳梗塞発症または症状進行から無作為化までの時間中央値10.9時間)、アスピリン群に571例(68.0歳、65.3%、9.0点、11.2時間)が割り付けられた。ほとんどの患者が、アテローム性動脈硬化性と推定される小梗塞を有していた。 90日時にmRSスコア0または1を達成した患者の割合は、tirofiban群が29.1%(176/604例)と、アスピリン群の22.2%(126/567例)に比べ、有意に優れた(補正後リスク比:1.26、95%信頼区間[CI]:1.04~1.53、p=0.02)。 90日時の総合アウトカム(mRSスコア0/1、NIHSSスコア0/1、Barthel指数95~100点、Glasgowアウトカム尺度5点の統合)(共通オッズ比[OR]:1.38、95%CI:1.07~1.78、p=0.01)は、tirofiban群で良好であったが、90日時のmRSスコア中央値(共通OR:1.23、95%CI:1.00~1.51、p=0.06)には有意差はみられなかった。 死亡は、tirofiban群が3.8%(23/604例)、アスピリン群は2.6%(15/567例)で認められ、両群間に有意な差はなかった(補正後リスク比:1.62、95%CI:0.88~2.95、p=0.12)。症候性頭蓋内出血は、tirofiban群が1%(6/606例)で発現し、アスピリン群では発現しなかった(p=0.03)。 著者は、「非常に優れたアウトカムの達成割合は、両群とも予想より低かった。これは、参加者の多くが大学病院以外の施設で募集されたため、脳梗塞後の院外リハビリテーションを受けなかった可能性があり、機能回復が限定的であったことが原因と推察される」としている。

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顔面神経麻痺診療ガイドライン 2023年版

ガイドラインに進化した顔面神経麻痺診療のバイブル誕生!『顔面神経麻痺診療の手引2011年版』を、Bell麻痺・Hunt症候群・外傷性顔面神経麻痺を対象に、『ガイドライン』として大改訂。日本顔面神経学会認定の「顔面神経麻痺治療医」、「顔面神経麻痺リハビリテーション指導士」のテキストで、リハビリテーション治療・形成外科的治療・鍼灸治療・その他の治療内容を詳しく解説します。システマティックレビューに基づいたCQも充実。顔面神経麻痺の治療がどこまで確立しているか、どのような点が不足しているのかも明確化される教科書になっています。顔面神経診療に携わるすべての方々に必読の1冊です。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    顔面神経麻痺診療ガイドライン 2023年版定価3,300円(税込)判型B5判頁数176頁(図数:37枚)発行2023年5月編集日本顔面神経学会

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事例024 外反母趾の治療装具採寸の査定【斬らレセプト シーズン3】

解説事例では、傷病名に対する「J129-3 治療用装具採寸法」(以下「同法」)を行ったところD事由(告示・通知の算定要件に合致していないと認められるもの)にて査定となりました。査定理由を把握するために同法の留意事項をみてみました。「既製品の治療用装具を処方した場合には、原則として算定できない。ただし、医学的な必要性から、既製品の治療用装具を処方するに当たって、既製品の治療用装具を加工するために当該採寸を実施した場合は、診療報酬明細書の摘要欄に医学的な必要性及び加工の内容を記載すること」とあります。この留意事項に従って医学的な必要性が記入されています。記入がない場合は有無なく査定となりますが、今回は医学的な必要性が記入されています。ところがよくみると、必要性のみであって、「及び」で結ばれる後段の加工の内容が記入されていません。したがって、必要十分な医学的な必要性と加工の内容が記入されていないとして査定となったことが推測できます。医師には、必ず後段の記入を頂けるようお願いして査定対策としました。参考までに、加工内容が既製品の単純な長さ調節などの表現のみでは査定対象となるようですのでご注意ください。

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第161回 止められない人口減少に相変わらずのんきな病院経営者、医療関係団体。取り返しがつかなくなる前に決断すべきこととは…(前編)

5月の連休、北海道のテレビが放送されている下北半島で考えたことこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。5月の連休、私は山仲間と青森県の八甲田山に行って来ました。豪雪で有名な酸ヶ湯温泉から地獄湯の沢を登って大岳(八甲田山の主峰です)、毛無岱を経て酸ヶ湯に戻る周回コース。幸い好天で残雪の春山を堪能できたのですが、やはりここ八甲田山でも雪は例年より少なく、地元の人は「季節が変わるのが2週間は早い」と話していました。八甲田山を登った後はレンタカーで下北半島巡りをしました。恐山霊場を参拝した後、下風呂温泉の宿に泊まったのですが、その宿のテレビでは北海道の民放が普通に放送されていました。もちろんCMも北海道の企業のものばかりです。下北半島の北エリアはテレビ的には青森ではなく距離が近い函館圏内、ということなのでしょう。ちなみにマグロで有名な下北半島の先端にある大間町と函館市の距離は直線(フェリー)で約46キロ、大間町と青森間は国道を使って約150キロです。となると仕事柄、医療提供体制についても気になるので、源泉かけ流しの温泉に浸かった後、ちょっと調べてみました。下北半島が位置する下北地域には4つの病院があります。基幹病院である一部事務組合下北医療センター・むつ総合病院(454床)以外は、国民健康保険大間病院(48床)、自衛隊大湊病院(30床)、むつリハビリテーション病院(120床)と、中小病院とリハビリ病院しかありません。実質的にむつ総合病院が、この地域の急性期医療を一手に引き受けていることになります。ただし、大間町からむつ市までは陸路で48キロもあり、距離的には函館とほぼ同じです。医療、とくに救急などの急性期医療に迅速に対応するには微妙な距離です。北海道のドクターヘリが自由に使えれば、ある意味”函館医療圏”と言ってもいいくらいでしょう。翌日我々は、人口減に苦しむ僻地の医療の大変さを実感しながら、約2時間半をかけてむつ市経由で青森まで車を走らせました。日本の人口、50年後の2070年には3,900万人減少し8,700万人にということで今回は、ゴールデンウイーク直前の4月26日に厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所が公表した「将来推計人口」と、日本の医療提供体制への影響について書いてみたいと思います。「将来推計人口」は国勢調査を基に5年に1度公表する日本の人口の長期予測です。今回は新型コロナウイルスの影響で2017年4月以来、6年ぶりの公表となりました1)。それによれば、最も実現性の高いとされるケースで、2020年に1億2,615万人だった日本の人口は、50年後の2070年には3,915万人減少し、8,700万人になるとのことです。女性1人が生涯に産む子供の推定人数「合計特殊出生率」は2070年に1.36と推計されました(2020年は1.33)。推計には、日本に住む外国人も含まれ、933万人で人口の約1割になるとしています。人口が1億人を割るのは2056年で、前回推計の2053年より3年遅くなりました。そして2067年には9,000万人を下回るとしています。「生産年齢人口」は人口の52.1%まで減少65歳以上の高齢者の割合である高齢化率は2020年に28.6%だったのが、今後も上昇し2070年には38.7%まで高まるとしています。高齢者数のピークは前回推計では2042年の3,935万人でしたが、今回は1年遅い2043年の3,953万人となりました。15歳から64歳までの「生産年齢人口」は2020年で7,509万人(全人口の59.5%)だったものが、2070年には4,535万人、全人口の52.1%まで減少するとしています。ただし、外国人の流入もあり、前回(4,281万人)よりは働き手を多く確保できる推計となっています。平均寿命は2020年で男性81.58歳、女性87.27歳だったものが、2070年には男性85.89歳、女性91.94歳にまで延びるとしています。人口が減れば医療・介護のマーケットは縮小、今以上の人手不足が起こる以上が、最新の「将来推計人口」の概要です。6年前の推計と比べ、人口1億人割れの時期は3年遅くなったものの、日本の人口減の勢いはまったく弱まらないようです。人口が減るということは、都道府県、市町村の人口が減り、医療・介護のマーケット(つまり患者数)が縮小、同時に、労働集約型産業の側面が大きい医療・介護の分野での人手不足が今以上に深刻になることを意味します。日本の医療の現場では現在、そうした事態に備えた準備を着実に進めていると言えるでしょうか。私は2つの側面からみて、現場の医療者の多くはまだまだ他人事として、のんきに構えているようにしか見えません。遅々として進まない病院の役割分担の明確化や再編成に向けての動き1つ目の側面は医療提供体制における、病院の役割分担の明確化や再編成、病床削減などの取り組みです。将来の地域の医療提供体制(医療機関の役割分担)を形づくる国の仕組みとしては、医療法で定められた「医療計画」と「地域医療構想」があります。医療計画は現在、各都道府県で第8次医療計画(2024〜28年)の策定が進められています。地域医療構想については当面は策定された2025年の目標に向けての取り組みが進められていることになっています(次の地域医療構想は2040年頃を視野に入れつつ策定予定ですが、詳細は未定)。しかし、大規模な再編が本格化しようとした矢先、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが起こり、地域の病院再編は先延ばしとなってしまいました(「第32回 遅れに遅れた地域の病院再編、コロナに乗じた「先延ばし」はさらなる悲劇に」参照)。コロナ禍で、補助金などにより一時的に地域の公立・公的病院の経営状況が上向いたことや、地域の病院病床の必要性が”再確認”されたこともあり、病院の役割分担の明確化や再編成に向けての動きは活発化していません。実際、財務省もそんな状況にやきもきしています。4月28日に開かれた医療や介護など社会保障分野の改革を検討する政府のワーキンググループにおいて、財務省は地域医療構想について「過去の工程表と比較して進捗がみられない」「目標が後退していると言われかねない」などと指摘しています。山形県米沢市では公立、民間が病院機能を再編するケースももっとも、そんな中でも先を見越し、大胆な再編計画を進める地域もあります。厚生労働省が3月1日に開いた第11回地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループでは、山形県米沢市でのユニークな取り組みが紹介されました。米沢市では、米沢市立病院(322床)と民間(一般財団法人 三友堂病院)の三友堂病院(185床)と三友堂リハビリテーションセンター(120床)の再編計画が進行中です。3つの病院の機能分化と連携強化を推し進め、急性期は米沢市立病院が、それ以外の回復期や慢性期などは三友堂病院が担うことにしたのです。また、各病院とも老朽化が進んでいたことから、現在、米沢市立病院がある敷地に三友堂病院(三友堂リハビリテーションセンターを統合)が移転し、通路を挟んでそれぞれが新病院を建設することになりました。開院予定は今年11月です。人口減と高齢化を背景に、公と民の病院が生き残りを賭けたこの計画、病床数は米沢市立病院が59床減の263床、三友堂病院が106床減の199床になる予定です。公立病院と民間病院の組み合わせということで完全な統合はせず、それぞれ経営が独立したまま「地域医療連携推進法人」を設立し、人材交流や物資の共同利用を進める方針です。この連載でも地域医療連携推進法人については度々書いてきましたが、公立・公的と民間というように、経営母体が違う法人同士の連携を進める上では、使い勝手の良い制度と言えるでしょう(「第138回 かかりつけ医制度の将来像 連携法人などのグループを住民が選択、健康管理も含めた包括報酬導入か?」参照)。ちなみに、この米沢市のケースを想定してか、国の認定再編計画に基づいて再編を行う病院同士を併設する場合、施設や構造設備を共用できるのは「再編対象病院が同一の地域医療連携推進法人に参加していること」とする厚生労働省医制局長通知(医政発0331第10号「病院の併設について」)が今年の3月31日に発出されています。相変わらずのんきな日本医師会、日本薬剤師会「自分たちだけは大丈夫」と考え、依然再編には無関心の病院経営者も少なくないようですが、このケースのように高齢化、人口減、患者減、医師・看護師などの医療者確保難が深刻化している地域では、ドラスティックな再編に乗り出す医療機関がこれからも増えることでしょう。しかし一方で、相変わらずのんきなのは日本医師会や日本薬剤師会といった医療関係団体のトップです。人口減が招くであろう人材難に対する危機感が希薄過ぎるのです。(この項続く)参考1)日本の将来推計人口(令和5年推計)/国立社会保障・人口問題研究所

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第146回 テドロス氏、新型コロナ緊急事態宣言終了を発表/WHO

<先週の動き>1.テドロス氏、新型コロナ緊急事態宣言終了を発表/WHO2.第8次医療計画、医師偏在の解消のため医師確保計画を強化へ/厚労省3.健康保険法改正でかかりつけ医機能は強化されるか?/内閣府4.2024年診療報酬・介護報酬改定に向けた議論開始/厚労省5.医師偏在対策、新規開業希望者や金融機関にも外来医師偏在指標の明示へ/厚労省6.介護ロボットで介護サービスの生産性向上と人手不足解消を/厚労省1.テドロス氏、新型コロナ緊急事態宣言終了を発表/WHO世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は、5月5日に「新型コロナウイルスに関する緊急事態宣言を終了する」と発表した。この宣言は、ワクチンの普及により死者数が大幅に減少したことに基づくもので、約3年3ヵ月の期間を経て終了となった。ただし、ワクチン接種などの感染対策を通じたウイルスとの共存が今後の課題とされており、専門家からは、緊急事態宣言の解除により各国の対策が緩む可能性や、新たな変異株の出現による感染者や死者の増加リスクに注意が必要との懸念も示されている。WHOはこれまでに計7回の緊急事態宣言を行っており、今回の終了宣言により世界中で新型コロナウイルスの位置付けは変わる。WHOの集計によれば、新型コロナによる死者数は5月初めの時点で700万人弱とされ、実際、少なく見積もっても2,000万人の死亡推定がなされるなど、今後もウイルスの変異や感染の動向に対する警戒が必要となる。(参考)WHOテドロス氏「悲劇繰り返さぬよう」 コロナ緊急事態宣言終了(毎日新聞)WHO、新型コロナ緊急事態の終了を宣言 テドロス事務局長が表明(朝日新聞)WHOの緊急事態宣言とは コロナ以外も、計7回(同)WHO、新型コロナ緊急事態宣言終了を発表 3年3カ月(日経新聞)2.第8次医療計画、医師偏在の解消のため医師確保計画を強化へ/厚労省厚生労働省は、2024年度から第8次医療計画が開始されことに先立ち「第8次医療計画等に関する検討会」を開催し、2022年12月に意見の取りまとめを行った。これを基に3月31日に「医師確保計画策定ガイドライン及び外来医療に係る医療提供体制の確保に関するガイドライン」に付随する「医師確保計画策定ガイドライン」と「外来医療に係る医療提供体制の確保に関するガイドライン」を改定した。医療計画に「医師確保計画」が含まれているのは、医師の偏在により医療計画が進捗しないため、2019年度に医療計画に新たに「医師確保計画」として3次医療圏間および2次医療圏間の偏在是正による医師確保対策などを定め、2020年度から取り組みが行われてきた。しかし、2020年度以降も「医師偏在」が進行しているとして、第8次医療計画では「医師確保計画」をさらに強化し、厚生労働省では2036年までに医師偏在是正の達成を目指している。医師偏在格差の是正の取り組みについて、各都道府県が2次医療圏を、医師多数区域(医師偏在指標に照らし上位3分の1)、中間の区域、医師少数区域(同下位3分の1)に3区分に分類する。そして、上位の医師多数区域と中間区域について、医師偏在の助長を回避するため、目標医師数は、原則として、計画開始時の医師数を設定上限数として、格差是正のため、医師多数区域では、圏域外からの医師確保は行わず、逆に医師少数区域に医師を派遣するように求め、中間の区域では、圏域内に「医師少数スポット(限定的ながら医師が少ない地域)」がある場合は他の2次医療圏からの医師派遣を受ける、医師少数区域医師多数の区域(他の2次医療圏)から医師派遣などを受けるなどで、医師確保計画の効果の測定・評価を行っていく。今回の計画策定では、2024年4月に施行される「医師に対する時間外・休日労働時間の上限規制」を踏まえて、「医師の働き方改革」と「地域医療構想」「医師確保」の取り組みを一体的に推進することになる。(参考)医師確保計画策定ガイドライン~第8次(前期)~(厚労省)医師偏在指標について(同)医師確保計画の見直しに向けた意見のとりまとめ(同)第8次医療計画等に関する意見のとりまとめ(同)2024年度から強力に「医師偏在解消」を推進!地域の「すべての開業医」に夜間・休日対応など要請-厚労省(Gem Med)3.健康保険法改正でかかりつけ医機能は強化されるか?/内閣府子育て支援策を含む「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案」は、衆議院で賛成多数で可決され、現在参議院で審議が行われている。この法案は、全世代型社会保障構築会議のこれまでの議論を取りまとめ、昨年12月16日に全世代型社会保障構築会議報告書の形で内閣府に提出された内容を反映しており、岸田総理が異次元の少子化対策を打ち出したこども・子育て支援の拡充のほか、高齢者医療を全世代で公平に支え合うことを目的に高齢者医療制度の見直し、医療保険制度の基盤強化のほか、かかりつけ医機能の4つが含まれている。通常国会への同改正法案の提出後の2月24日に第13回全世代型社会保障構築会議が開催された。元厚生労働省の香取 照幸氏から「全世代型社会保障構築会議報告書の内容と法案との対比~報告書の内容はどこまで法案に反映されているか~」という資料が提出、議論された。この中で、かかりつけ医機能につき、かかりつけ医については「患者による選択」がコンセンサスであることが確認された。また、今回の法案の「かかりつけ医機能の定義」や「かかりつけ医機能報告の対象は慢性疾患を有する高齢者に限定」されていることが問題であり、かかりつけ医機能はネットワークで実装することやそのための医療情報基盤の整備については不明のままであるなど問題点を指摘した香取氏は、「今回の制度改正はあくまで『かかりつけ医機能が発揮される制度整備』の第一歩であるとして、引き続き必要な制度整備・政策遂行に尽力してほしい」と意見を述べた。今後、本法案の国会可決後に、厚生労働省は具体化に向け、各方面から意見を集め、令和7年4月にかりつけ医機能報告制度は創設される予定。(参考)全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案について(内閣府)第13回 全世代型社会保障構築会議(同)第13回 全世代型社会保障構築会議 議事録(同)全世代型社会保障構築会議報告書(同)全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案(医療法改正部分)について(同)4.2024年診療報酬・介護報酬改定に向けた議論開始/厚労省2年に1度の診療報酬改定と3年に1度の介護報酬改定が同時になる2024年春。同時改定に向けた議論が厚生労働省で始まっている。厚生労働省は、中央社会保険医療協議会と社会保障審議会・介護給付費分科会の主要メンバーを交えた令和6年度の同時報酬改定に向けた意見交換会を今年の3月から開始している。3月15日に開催された第1回では、地域包括ケアシステムのさらなる推進のための医療・介護・障害福祉サービスの連携やリハビリテーション、要介護者などの高齢者に対応した急性期入院医療について話し合われた。この中で従来から求められてきた「医療・介護」の連携だけでなく、「医療・介護と障害福祉サービスとの連携」まで踏み込んだ形で議論が行われており、入院前からの情報連携や、医療や介護職とケアマネジャーとの情報提供の強化によりケアの継続性・連続性を担保する仕組みの強化が必要といった意見も出されている。また、4月19日に開催された第2回では、高齢者施設・障害者施設などにおける医療、認知症について話し合われ、急性期入院医療でも「身体拘束ゼロ」を目指すべきといった意見のほか、感染対策向上加算の合同カンファレンスに介護施設の参加を求める意見などが出されている。今後は5月に、「人生の最終段階における医療・介護や訪問看護など」をテーマに第3回が開催される予定。これらの意見を基に来年度の診療報酬改定、介護報酬改定に向けた具体的な政策が盛り込まれていくとみられる。2024年はほかにも医療介護総合確保方針、第8次医療計画、介護保険事業(支援)計画、医療保険制度改革などの医療と介護に関わる関連制度の一体改革にとって大きな節目であることから、今後の医療および介護サービスの提供体制の確保に向けさまざま視点から、大規模な改正が見込まれ、医療・介護現場において対応が求められる。(参考)令和6年度の同時報酬改定に向けた意見交換会(第1回)令和5年3月15日(厚労省)令和6年度の同時報酬改定に向けた意見交換会(第2回)令和5年4月19日(同)感染対策向上加算の要件である合同カンファレンス、介護施設等の参加も求めてはどうか-中医協・介護給付費分科会の意見交換(1)(Gem Med)急性期入院医療でも「身体拘束ゼロ」を目指すべきで、認知症対応力向上や情報連携推進が必須要素-中医協・介護給付費分科会の意見交換(2)(同)要介護高齢者の急性期入院医療、介護・リハ体制が充実した地域包括ケア病棟等中心に提供すべきでは-中医協・介護給付費分科会の意見交換(同)5.医師偏在対策、新規開業希望者や金融機関にも外来医師偏在指標の明示へ/厚労省厚生労働省は、3月31日に「外来医療に係る医療提供体制の確保に関するガイドライン」を公表した。この中で診療所医師数が一定程度充足している地域について、外来医師偏在指標の値が全2次医療圏の中で上位33.3%に該当する2次医療圏を「外来医師多数区域」と設定し、新規開業希望者に対して外来医師の偏在の状況を理解した上で開業について判断を促すため、外来医師多数区域については都道府県のホームページに掲載するなど工夫をするほか、医療機関のマッピングのデータなども参考資料として提供する。また、これらのデータは資金調達を支援する金融機関や開業支援を行っている医薬品卸売販売業者、医療機器販売業者、薬局にもアクセスが可能となるようにする。さらに「外来医師多数区域」での新規開業希望者に対して、地域で不足する外来医療機能を担うことを求めるため、新規開業者の届出様式には、地域で不足する外来医療機能を担っていくことに合意する記載欄を設け、2次医療圏ごとに設けられる協議の場(地域医療構想調整会議などが想定されている)において合意の状況を確認する。また、新規開業希望者が求めに応じない場合には協議の場への出席を求めるとともに、協議結果などを住民などに対して公表することになる。この第8次(前期)外来医療計画に基づく、外来医師の偏在解消の取組みは2024年度から各都道府県で開始される見込み。(参考)外来医療に係る医療提供体制の確保に関するガイドライン~第8次(前期)~(厚労省)外来医師偏在指標(2019年)(同)外来医師偏在の解消に加え、「かかりつけ医機能の明確化、機能を発揮できる方策」の検討も進める-第8次医療計画検討会(1)(Gem Med)6.介護ロボットやICTの導入で介護サービスの生産性向上/厚労省厚生労働省は、4月27日に社会保障審議会・介護給付費分科会を開催し、テクノロジー活用などによる生産性向上の取り組みに係る効果検証について議論を行った。この中で、介護ロボットやICT機器、介護助手の導入により、「介護サービスの質を下げずに介護従事者の負担を軽減できる」という可能性の実証研究が示された。介護ニーズの増加と現役世代人口の減少により、介護従事者の人手不足が深刻化しており、介護サービス事業者からは人員配置基準の緩和を求める意見が上がってきているが、介護施設の規模なども考慮して、人員配置基準の緩和には慎重に検討する必要があるとした。厚生労働省は、今回の検証結果や議論を含めて、来年春の介護報酬改定の参考にするとみられる。(参考)第216回 社会保障審議会介護給付費分科会(厚労省)テクノロジー活用等による生産性向上の取組に係る効果検証について(同)介護施設での見守り機器など活用、効果実証 厚労省(CB news)介護ロボット・助手等導入で「質を下げずに介護従事者の負担軽減」が可能、人員配置基準緩和は慎重に-社保審・介護給付費分科会(2)(Gem Med)

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5月2日 カルシウムの日【今日は何の日?】

【5月2日 カルシウムの日】〔由来〕丈夫な骨を作るために欠かせない「カルシウム」を摂ることの大切さを多くの人に知ってもらうことを目的に、骨(コ[5]ツ[2])の語呂合わせからワダカルシウム製薬が制定。関連コンテンツ高齢糖尿病患者の骨折リスク、骨粗鬆症にどう対応する?【高齢者糖尿病診療のコツ】カルシウム製剤について【患者説明用スライド】カルシウムを含む食材は何【患者説明用スライド】カルシウムってなあに?【患者説明用スライド】

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間質性肺疾患の緩和ケア、日本の呼吸器専門医の現状を調査

 間質性肺疾患(ILD)は症状が重く、予後不良の進行性の経過を示すことがある。そのため、ILD患者のQOLを維持するためには、最適な緩和ケアが必要であるが、ILDの緩和ケアに関する全国調査はほとんど行われていない。そこで、びまん性肺疾患に関する調査研究班は、日本呼吸器学会が認定する呼吸器専門医を対象とした調査を実施した。その結果、呼吸器専門医はILD患者に対する緩和ケアの提供に困難を感じていることが明らかになった。本研究結果は、浜松医科大学の藤澤 朋幸氏らによってRespirology誌オンライン版2023年3月22日号で報告された。 日本呼吸器学会が認定する呼吸器専門医のうち、約半数に当たる3,423人を無作為に抽出し、ILDの緩和ケアの現状に関するアンケートを郵送した。アンケートは、「緩和ケアの現状や実施状況(5項目、27問)」「終末期のコミュニケーションの最適なタイミングと実際のタイミング(2問)」「緩和ケアに関するILDと肺がんの比較(6問)」「ILDの緩和ケアにおける障壁(31問)」で構成された。解析はアンケートに回答した医師のうち、過去1年以内にILD患者を診療した医師を対象とした。 主な結果は以下のとおり。・1,332人(回答率38.9%)がアンケートに回答し、そのうち、1,023人が過去1年以内にILD患者を診療していた。・大多数の医師が「ILD患者はしばしば、あるいは常に呼吸困難や咳の症状を訴える」と回答したものの、「緩和ケアチームへ紹介したことがある」と回答した医師は25%にとどまった。・緩和ケアチームへ紹介したことのない医師のうち、48%は「緩和ケアチームを利用できる環境にあるが、紹介したことはない」と回答し、33%は「緩和ケアチームを利用できる環境がなかった」と回答した。・終末期のコミュニケーションについて、実際のタイミングは最適と考えるタイミングよりも遅れる傾向にあった。・ILDの緩和ケアは、症状の緩和や意思決定において肺がんと比較して困難であった。・ILD患者は肺がん患者と比較して、呼吸困難に対してオピオイドが処方される頻度が少なかった。・ILDの緩和ケアに特有の障壁として、「予後を予測できない」「呼吸困難に対する治療法が確立されていない」「心理的・社会的支援が不足している」「患者やその家族がILDの予後の悪さを受け入れるのが難しい」といった意見が挙げられた。

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