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末梢動脈疾患患者の歩行運動は痛みを覚えるまでやるべき?

 末梢動脈疾患(PAD)患者には「痛みなくして得るものなし(no pain, no gain)」というフレーズがそのまま当てはまりそうだ。米ノースウェスタン大学フェインバーグ医学部教授のMary McDermott氏らの研究から、PAD患者が歩行運動療法を行う場合、足に不快感や痛みを感じるペースで歩行した方が、歩行機能の改善につながりやすいことが明らかになった。この研究結果は、「Journal of the American Heart Association」で7月27日発表された。 McDermott氏は、「足の痛みをもたらす運動は、困難ではあるが有益だ。われわれは現在、PAD患者のために、高強度の運動療法の有益性を保ちつつより簡単にできるような介入方法の特定に取り組んでいるところだ」と話す。 PADは、心臓から全身に血液を運ぶ動脈が狭くなって血液と酸素の流れが悪くなることで生じる。PADの症状としては、歩行時の足のしびれや脱力、疲れ、痛みなどが挙げられる。こうした症状は約10分間休むと消失する。研究者らの間では、トレッドミルでのウォーキングによってPAD患者の歩行が改善し、歩行距離も延長することが知られていた。しかし、歩行ペースによる影響については明らかにされていなかった。 McDermott氏らは今回、Low-Intensity Exercise Intervention in PAD(LITE)と呼ばれるランダム化比較試験において米国内の4つの大学でランダム化が行われたPAD患者305人のうち、264人(平均年齢69±9歳、女性48%)を対象に、事後解析を実施した。同試験で対象者は12カ月間にわたって週に5日、1)自宅で無理のない快適なペースで歩行運動を行う群(低強度歩行群)、2)自宅で足の痛みなどの症状が引き起こされるペースで歩行運動を行う群(高強度歩行群)、3)歩行運動を行わない群(対照群)の3群にランダムに割り付けられた。歩行運動を行った2群では、デバイスを装着して歩行の強度と時間を測定した。高強度の歩行と低強度の歩行の基準は、歩行運動を行う参加者ごとに判定された。参加者は運動の頻度、強度、時間に関するデータを研究用のウェブサイトにアップロードした。 参加者は試験開始時、試験開始から6カ月後と12カ月後に下肢機能検査を受けた。この検査では、4mの距離を通常のペースで歩いたときと、できるだけ速く歩いたときにかかった時間を測定し、歩行速度を評価した。また、4mの歩行テストや立位でのバランステスト、椅子からの立ち上がりテストで構成されるShort Physical Performance Battery (SPPB)と呼ばれる評価法を用いた身体機能の検査も実施した。 その結果、高強度歩行群では、低強度歩行群と比べて歩行速度が6カ月後の時点で0.056m/秒、12カ月後の時点では0.084m/秒改善していた。対照群と比べた場合では、歩行速度が6カ月後の時点で0.066m/秒改善していたが、12カ月後の時点では有意差は認められなかった。さらに、高強度歩行群では、低強度歩行群と比べて12カ月後のSPPBにおける3種類の足の機能テストの合計点(0〜12点)が1ポイント近く高かった。一方、低強度歩行群では対照群と比べて、6カ月後および12カ月後の両時点で、歩行速度の改善は示されなかった。 McDermott氏は、「PAD患者では、足の痛みが生じるペースでの歩行運動は、足の筋肉へのダメージに関連していると考えられてきたため、今回の研究結果は、われわれにとって予想外だった」と驚きを表す。そして、「これらの結果を踏まえ、医師は患者に痛みが出ることのない快適なペースで歩くのではなく、足の苦痛を伴うペースで歩行運動を行うよう助言すべきだ」との見解を示している。 ただしMcDermott氏らは、得られた知見を今後の研究で確認しなくてはならないとの認識を示す。また、本研究は、自宅での歩行運動療法について検討した研究結果であるため、専門家の監督下でトレッドミルによる歩行運動療法を行った場合の結果とは異なる可能性があるとしている。

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運動後のサウナで健康メリットがさらに拡大

 次に運動するときからは、心臓の健康へのメリットのために、運動後に15分間、サウナに入ると良いかもしれない。ユヴァスキュラ大学(フィンランド)のEarric Lee氏らが行った研究から、運動のみでも心血管系の健康上のメリットを得られるが、サウナに入るとさらに効果が上乗せされることが分かった。詳細は「American Journal of Physiology―Regulatory, Integrative and Comparative Physiology」に7月4日掲載された。 この研究では、サウナが心血管系の健康をどのように高めるのかというメカニズムは調査されていないが、サウナに確かにメリットがあることはこれまでの研究で明らかになっている。Lee氏は、「サウナ入浴に伴う急性の心血管反応は、少なくとも中強度の運動に匹敵することが示されている」と解説。また、「サウナはフィンランド文化の不可欠な要素であり、フィンランドでは車の台数よりもサウナの方が多い」と語っている。 Lee氏らの研究は、運動時間が週に30分未満で座業中心の生活を送っている、30〜64歳の成人ボランティア47人を対象に実施された。参加者の主な特徴は、平均年齢49±9歳、女性87%、BMI31.3±4.1、最大酸素摂取量(VO2max)28.3±5.6mL/kg/分で、全員が何らかの心血管疾患リスク因子(高コレステロール血症、高血圧、肥満、喫煙、冠動脈性心疾患の家族歴など)を有していた。 全体を無作為に3群に分け、1群は運動(筋力トレーニングと有酸素運動を1回50分、週3回)を8週間続ける「運動群」、他の1群は同様の運動を行った後に15分間のサウナ入浴をする「サウナ群」とした。残りの1群は運動もサウナ入浴もしない「対照群」。なお、サウナの温度は摂氏65℃からスタートし、2週ごとに5℃ずつ上げていき、最後の2週間は80℃とした。また、入浴中に不快になった場合は自由に中止して良いことを事前に伝えた。ただし、サウナ群の全員が毎回15分の入浴を完了した。 8週間の介入前後の変化を、まず運動群と対照群との比較で見ると、運動群ではVO2maxが有意に大きく上昇し〔平均差6.2mL/kg/分(95%信頼区間4.1~8.3)〕、体脂肪量は有意に大きく減少しており〔同-1.3kg(-2.3~-0.3)〕、運動の効果が認められた。次に、サウナ群と運動群を比較すると、以下のように、サウナ群でより大きな改善効果が認められた。VO2maxは平均差2.7mL/kg/分(0.2~5.3)、収縮期血圧は同-8.0mmHg(-14.6~-1.4)、総コレステロールは同-19mg/dL(-35~0)。 本研究に関与していない米ペンシルバニア州立大学のS. Tony Wolf氏は、「心血管の健康に対するサウナ入浴または温熱療法の効果は以前から研究されている」と話す。同氏によると、「熱によって血管が拡張して体温の高い状態が維持され、血流と心拍数が上昇する。また、血管内皮細胞において、血管拡張作用があり心血管系の健康にとって大切な一酸化窒素(NO)の産生が増加する。運動もこれと同様の効果を生み出すが、運動とサウナ入浴や温熱療法を組み合わせると、相乗効果が発揮される」とのことだ。 一方、米ブリガム・アンド・ウィメンズ病院で心血管インターベンション部門を統括しているDeepak Bhatt氏は、「報告されたデータは小規模な研究ながらも興味深い。運動とサウナの併用によって、運動で得られる心血管危険因子の改善を上回るメリットを得られるようだ」と評価。ただし、「サウナの利用は潜在的に有望なアプローチのように思われるものの、より大規模な研究が必要」と早急な解釈に釘を刺している。なお、同氏も今回の研究に関与していない。 Bhatt氏はまた、サウナ利用の一般的な注意事項として、「重度の心血管疾患があり、病状が不安定な患者はサウナを避けるべき」と述べている。ただし、「心血管疾患があっても病状が安定しているなら、リスクは限定的」だという。とは言え、「脱水状態にならないように注意は必要」と、同氏は付け加えている。

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診療科別、専門医の平均取得数は?/1,000人アンケート

 2018年からスタートした新専門医制度は、昨年初の機構認定の専門医が誕生し、新制度への移行が進む予定となっている。一方、サブスぺ領域の認定や、学会認定の専門医との位置付けなど、課題も多く指摘されている。CareNet.comの20~50代の会員医師1,000人を対象に、現在の専門医取得状況や今後の取得・更新意向について聞いた(2022年7月28日実施)。専門医の取得数が多い傾向がみられた診療科は? 全体で、専門医取得数を2つ以上と回答した医師は51%だった。少数派ではあったが、1.7%の医師が6つ以上と回答した。年代別にみると、30代では2つ以上と回答したのが42.3%だったのに対し、40代では62.5%まで増加、40代と50代はほぼ横ばいだった。 診療科別にみた専門医取得数の平均値(中央値)は以下のとおり。消化器は外科・内科ともに専門医取得数が多かったほか、神経内科や腎臓内科も高い傾向がみられた。一方、精神科や皮膚科では少ない傾向がみられた。消化器外科[n=24]:3.4(3)神経内科[n=26] :3.0(3)消化器内科[n=58]:3.0(3)腎臓内科[n=25]:2.9(3)感染症内科[n=4]:2.8(3)腫瘍科[n=10]:2.7(2.5)外科[n=33]:2.7(2)脳神経外科[n=25]:2.6(3)循環器内科[n=59]:2.5(2)糖尿病・代謝・内分泌内科[n=31]:2.4(2)呼吸器内科[n=34]:2.2(2)心臓血管外科[n=11]:2.1(2)救急科[n=10]:1.9(2)整形外科[n=55]:1.9(2)産婦人科[n=18]:1.9(2)形成外科[n=11]:1.8(1)内科[n=183]:1.7(2)血液内科[n=8]:1.6(2)小児科[n=45]:1.6(2)呼吸器外科[n=4]:1.5(1.5)リハビリテーション科[n=12]:1.5(1)放射線科[n=27]:1.5(1)総合診療科[n=15]:1.5(1)病理診断科[n=9] :1.4(2)耳鼻咽喉科[n=15]:1.3(1)泌尿器科[n=20] :1.3(1)その他[n=21]:1.2(1)麻酔科[n=27] :1.1(1)眼科[n=16]:1.0(1)膠原病・リウマチ科[n=7]:1.0(1)皮膚科[n=22] :0.8(1)精神科[n=76] :0.8(1)臨床研修医[n=59]:0.3(0)58%の医師が持っている専門医をすべて更新予定と回答 現在持っている専門医資格について聞いた質問では、認定内科医が24.5%と最も多く、総合内科専門医(18.8%)、外科専門医(8.4%)が続いた。新専門医制度の基本19領域と認定内科医、総合内科専門医以外の資格(“その他”として自由回答)を持つと回答した医師も14.4%おり、各学会認定の多様な専門医資格を取得している状況がわかる。 今後の更新予定については、現在持っている専門医資格について、58.6%の医師が「資格をすべて更新予定」と回答。「一部は更新しない予定」は3.0%、「すべてを更新しない予定」は1.1%に留まった。専門医取得による給与・待遇の向上があったと回答したのは14% 専門医を取得することによるメリットについては、「知識向上やスキルアップができた」が39.6%と最も多く、「開業時に役立った(15.8%)」「他の医師・スタッフから信頼が得られた(14.6%)」という回答が続いた。「給与や待遇が向上した」と回答したのは14.1%だった。 一方のデメリットについては、「受験料、更新料、学会参加などで費用がかかる」が36.3%と最も多く、「学会での単位取得など、時間的な負担が大きい(31.3%)」「評価システムへの登録等、手続きが煩雑(15.7%)」といった時間・手間等の負担を挙げる声が多く上がった。アンケート結果の詳細は以下のページに掲載中。会員医師の専門医取得状況は―医師1,000人に聞きました

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慢性腰痛の介入、段階的感覚運動リハビリvs.シャム/JAMA

 慢性腰痛患者に対する単施設で行った無作為化試験において、段階的感覚運動リハビリテーション(graded sensorimotor retraining)はシャム・注意制御介入と比較して、18週時点の疼痛強度を有意に改善したことが、オーストラリア・Neuroscience Research AustraliaのMatthew K. Bagg氏らによる検討で示された。慢性疼痛への、痛みと機能の感知に関する神経ネットワークの変化の影響は明らかにされていない。今回の結果について著者は、「疼痛強度の改善は小さく、所見が標準化可能なものかを明らかにするためには、さらなる検討が必要である」としている。JAMA誌2022年8月2日号掲載の報告。12週間の臨床セッション+自宅トレーニングの介入効果を検証 研究グループは、慢性腰痛患者において、段階的感覚運動リハビリテーション(RESOLVE)の疼痛強度への効果を明らかにするため、プライマリケアおよび地域住民から非特異的な慢性(3ヵ月以上)腰痛を有する参加者を集めて並行2群無作為化試験を行った。 合計276例の成人が、オーストラリアのメディカルリサーチ研究所1施設で臨床医による介入またはシャム・注意制御介入を受ける(対照)群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。無作為化は2015年12月10日~2019年7月25日に行われ、フォローアップが完了したのは2020年2月3日であった。 介入群(138例)は、腰痛時の運動や身体活動の教育および支援を行うためにデザインされた12週間の臨床セッションと自宅トレーニングに参加するよう要請された。対照群(138例)は、介入群と期間は同じだが、教育や運動および身体活動は注視されていない12週間の臨床セッションと自宅トレーニングに参加するよう要請された。また、対照群には、シャムレーザーおよび短波ジアテルミーが背部に、またシャム非侵襲的脳刺激などが施術された。 主要アウトカムは、18週時の疼痛強度で、11ポイント評価尺度(範囲:0点[痛みなし]~10点[想像しうる最悪の痛み])で測定し、両群間の臨床的意味のある最小差(1.0ポイント)を評価した。18週時の疼痛強度、介入群で臨床的意味のある改善を確認 無作為化を受けた276例(平均年齢46[SD 14.3]歳、女性138例[50%])において、261例(95%)が18週のフォローアップを完了した。 平均疼痛強度は、介入群がベースライン5.6点から18週時3.1点に、対照群は5.8点から4.0点に変化がみられた。 18週時の推定平均群間差は-1.0ポイント(95%信頼区間[CI]:-1.5~-0.4)で、介入群の良好な改善が認められた。

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日本人アルツハイマー病高齢者の手段的日常生活動作に対する影響

 鹿児島大学の田平 隆行氏らは、地域在住のアルツハイマー病(AD)高齢者における認知機能障害の重症度による手段的日常生活動作(IADL)の特徴を明らかにするため、生活行為工程分析表(PADA-D)を用いた検討を行った。IADLの工程を詳細に分析した結果、著者らは、地域在住のAD高齢者において重症度による影響の有無といった工程の特徴を明らかにできるとし、IADLのリハビリテーションやケアが在宅での生活を継続するうえで役立つ可能性を報告した。International Psychogeriatrics誌オンライン版2022年7月15日号の報告。 日本の医療センターおよびケアセンター13施設より募集した地域在住のAD高齢者115例を対象に、横断的研究を実施した。認知機能障害の重症度はMMSEを用いて3群(軽度:20以上、中等度:20未満10以上、重度:10未満)に分類し、共変量で調整した後、IADLスコアとPADA-DのIADL 8項目について群間比較を行った。PADA-Dの各IADL項目に含まれる5つの実行可能なプロセスの割合を比較した。 主な結果は以下のとおり。・IADLスコアは、交通手段の使用および金銭管理能力を除き、AD重症度と共に独立した低下が認められた。とくに買い物(F=25.58)、電話を使用する能力(F=16.75)、服薬の管理(F=13.1)において認められた。・PADA-Dの工程ごとの調査では、いくつかの工程は認知機能障害の重症度による影響を受ける場合、受けない場合があることが明らかとなった。・たとえば、調理において、献立は重症度の影響を受けるが(ES=0.29)、食材の準備は影響を受けなかった。

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ゴルフ中に突然のめまい!VADに注意!!【知って得する!?医療略語】第16回

第16回 ゴルフ中に突然のめまい!VADに注意!!ゴルフがきっかけで脳梗塞になるなんてことがあるのですか?そうなんです。水泳のクロールやテニス、カイロプラクティスなども若年性脳梗塞を引き起こすことがありますよ。いずれも椎骨動脈解離(VAD:vertebral artery dissection)が原因です。≪医療略語アプリ「ポケットブレイン」より≫【略語】VAD【日本語】椎骨動脈解離【英字】vertebral artery dissection【分野】脳神経【診療科】脳神経外科・救急【関連】椎骨動脈解離性動脈瘤 VADA:vertebral artery dissecting aneurysm実際のアプリの検索画面はこちら※「ポケットブレイン」は医療略語を読み解くためのもので、略語の使用を促すものではありません。めまいの鑑別診断で見逃せない疾患の1つに椎骨動脈解離(VAD)があります。見逃すと脳幹梗塞や小脳梗塞、くも膜下出血に至ることもあります。そんなVADは、筆者の経験上、研修医の先生に質問しても、あまり認知されていない疾患ですが、救急外来でめまいの診療をしていると、VADは決して稀な疾患ではありません。しかし、VADという疾患の存在を知らなければ疑うこともできません。また、必ずしも一般的な頭部画像検査ではVADが診断出来るとは限らず、きちんと疑うことができなければ、それに応じたMRオーダーが出来ず、末梢性めまいと誤診してしまう可能性もあります。そこで、今回はVADについて、診断の観点からフォーカスしたいと思います。VADとはVADは脳動脈解離の1つです。脳動脈解離の発症頻度は、椎骨脳底動脈系:頸動脈系=3:1と椎骨脳底動脈系が高く、さらに椎骨脳底動脈系の解離の90%が椎骨動脈です。発症様式は、解離に伴う椎骨動脈内の狭窄で虚血を来す場合と、椎骨動脈の解離部分が瘤状化し椎骨動脈瘤を発症(椎骨動脈解離性動脈瘤)、それが破裂する出血性のものがあります。初期症状は後頸部痛や肩こりで、多くは片側ですが、解離が脳底動脈に及び、脳底動脈の解離であれば頸部痛が両側性になる可能性も十分あります。また、筆者の経験上は頸部痛や肩こりの程度はさまざまで頭重感程度の方もいます。ただ、普段は肩こりや頸部痛が無い人が、めまいで来院し、普段は経験していない肩こりや頸部痛、頭重感を呈している際には、VADの可能性を十分に想定します。VADの主な原因VADの病因は、特発性から外傷性(交通事故・頸椎骨折等)、スポーツ、血管炎、マルファン症候群の結合組織病などさまざまですが、頸部の捻転を伴う動作が発症契機として指摘されています。とくに頸部を急に捻る動きや過伸展を伴うスポーツ、たとえばゴルフや水泳のクロールやサーフィン、テニスやカイロプラクティスなどで症例報告があります。2020年にはくしゃみ直後の発症も報告されています。これは筆者の推測ですが、頸椎の横突孔を通過する椎骨動脈は、頸部の過伸展や捻転動作により、横突孔周囲の骨と強く接触し、ずり応力により血管壁が損傷し解離を来しやすいのではないかと推測しています。頸動脈系よりもVADが圧倒的に多いのは、椎骨動脈の解剖的な構造に由来するのではないかと考えています。VAD診断にはMRのVRFAやBPASが役立つVADの画像診断の上で留意したいのは、虚血発症のVADが必ずしも脳梗塞まで至っていないことがある点です。このため、発症して間もないVADを頭部単純CTでは診断できないのはもちろんですが、頭部MRIでも拡散強調画像で急性期脳梗塞病変を指摘できないことがあります。これは梗塞まで至っていない虚血状態の病態があることによります。そこで頭頸部MRAも併用しますが、椎骨動脈は先天的な左右差も多く、MRAで椎骨動脈が狭窄や途絶しかけているように見えても、椎骨動脈の低形成という場合も少なくありません。このときに参考になるのが、BPAS(basi-parallel anatomical scanning)です。BPASはMRAの撮影法の1つです。MRAが血管内の血流信号(≒血管内腔)を反映するのに対し、BPASは椎骨脳底動脈の外観を表示します。BPASとMRAで示される血管径に明らかな乖離があるとすれば、椎骨動脈に解離腔の存在を疑う、あるいは解離部分の瘤状化を疑う手がかりとして有用です。ただし、BPASで有用な情報を得られない症例も存在し、近年は新たな撮像方法として、可変フリップ角 (VRFA:variable refocusing flip angle)を利用したVRFA-3D-TSE法も登場し、より診断精度の向上が期待されます。しかし、どれほど診断機器が発達しても、まずは疾患を疑わなければ始まりません。VADの診断には病歴聴取がとても重要だと思います。急性のめまいの患者さんの診療においては、症状出現前に頸部の過伸展や捻転イベントがなかったか詳しく問診します。また、これまで経験のない片側の肩こりや頸部痛の有無も確認します。ただし、VADの全例に誘因や頸部痛・後頭部痛があるとは限りませんのでその点は注意が必要です。ですが、少なくとも問診や症状からVADを否定できず、検査前確率が高いと考える場合は、放射線技師と相談し、MRI撮影の依頼時にBPASやVRFAを検討いただくことをお薦めします。最後に筆者がヒヤッとした症例をご報告します。その患者さんはバレリーナで、バレエ中に首を過度に反らしたときに突然のめまいが出現しました。初期対応した医師の診断は、アナムネとCTで異常がないことを理由に良性発作性頭位めまい症(BPPV)と診断したようでしたが、帰宅後も症状持続に改善がなく、患者さんは翌日の内科外来を受診しました。発症状況からVADを否定できないと判断し、BPASも含めた頭部MRを実施したところ、椎骨動脈解離が見つかり緊急入院しました。VADは、受診後にくも膜下出血を来し心機能停止で再搬送されたケースも報告されています。めまいを訴える患者を末梢性めまいと結論付ける前に、中枢性めまいの可能性を慎重に否定する必要があります。なお、近年は脳動脈解離として頸動脈解離とVADが一括りに語られる傾向があり、筆者は少々違和感を持っています。同じ脳動脈解離でも、VADと頸動脈系では臨床像が異なるのがその理由で、現場の実務ではそれぞれの臨床像を知っておく必要があると考えています。1)戌亥 章平ほか. 臨床神経. 2020;60:573-580.2)沖山 幸一ほか. 脳卒中の外科. 2014;42:196-202.3)徳元 一樹ほか. 臨床神経. 2014;54:151-157.4)寺崎 修司ほか. 脳卒中. 1996;18巻:70-73.

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AIとの会話がパーキンソン病患者の笑顔を増やす

 人工知能(AI)を用いた自動会話システム(チャットボット)との会話によって、パーキンソン病患者の笑顔が増えたり、発語障害が改善する可能性が報告された。順天堂大学大学院医学研究科神経内科の服部信孝氏、大山彦光氏らの研究によるもので、研究成果が「Parkinsonism & Related Disorders」に5月4日、短報として掲載された。 パーキンソン病は、神経伝達物質の一つであるドパミンが減って、運動機能が障害される病気。顔の筋肉も影響を受けるため、笑顔が減ったり発語しにくくなったりすることがあり、パーキンソン病の重症度や治療効果を評価する指標にもなっている。 これらの症状に対して発語訓練などのリハビリテーションが行われるが、その機会が十分提供されているとは言えず、患者のニーズを満たせていない。大山氏らは、遠隔医療とテクノロジーがそのニーズを満たす手段となり得るのではないかと考え、自動音声認識・言語処理システム、およびAIを利用して、患者と自動的に会話するチャットボットを開発し、以下の検討を行った。 研究参加者は順天堂医院の外来に通院しているパーキンソン病患者から、年齢が20~80歳で日本語を母国語としていることを条件に抽出した20人。認知機能障害(MMSEが20点未満)や自動音声認識システムで認識できない発語障害のある患者は含まれていない。 まず、20人全員にトライアル期間として、チャットボットによる会話を毎日、5カ月間にわたって続けてもらった。会話の内容は、症状に関することだけでなく、病気とは無関係の事柄(例えば趣味や好きな食べ物、日常生活での出来事など)を含め、毎日5つ以上のトピックを目安とした。このトライアル期間中、主治医との遠隔での面談が週に1回のペースで続けられた。チャットボットで交わされた会話の内容は自動でレポートが生成され、主治医はそれを閲覧することができた。なお、処方の変更などの臨床判断は、遠隔面談とは別の機会に行われた。 続いて全体を無作為に1対1で2群に分け、1群には引き続きチャットボットでの毎日の会話と週に1回の主治医との面談を5カ月間継続。他の1群には週に1回の主治医との面談のみを5カ月間継続した。介入効果は、笑顔の表情の変化の程度や持続時間などを自動判定する「笑顔度」という指標で評価した。また、会話の間を埋める「つなぎ言葉」(えー、あー、など)をカウントして会話の流暢さを評価したほか、運動機能や認知機能、生活の質(QOL)の変化も検討した。 解析の結果、トライアル期間も含めて計10カ月間の介入を行った群で、笑顔度の有意な改善が認められた(反復測定分散分析による時間と群間の交互作用が、笑顔の頻度はP=0.02、最大持続時間はP=0.04)。また、つなぎ言葉の頻度は、介入群は8.6%減少し、非介入群は22.8%増加していた(P=0.04)。 一方、運動機能や認知機能、うつレベル、QOLには有意な影響が認められなかった。ただし、探索的分析から、笑顔度の上昇やつなぎ言葉の減少と、認知機能や運動機能、精神症状の改善とが有意に相関することが明らかになった。 これらの結果から著者らは、「AIによるチャットボットを利用した遠隔医療によって、医療従事者の直接的な介入時間を増やすことなく、パーキンソン病患者の笑顔と会話を増やせる可能性がある。また、自動解析システムを用いることで、医師の診察時には把握することができないような、病状のわずかな変化も見いだすことができるのではないか」と述べている。

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肩関節鏡視、術後90日以内の有害事象は1.2%/BMJ

 肩関節鏡視下手術は、英国で一般的に行われるようになっているが、有害事象のデータはほとんどないという。同国オックスフォード大学のJonathan L. Rees氏らは、待機的な肩関節鏡視下手術に伴う有害事象について調査し、90日以内の重篤な有害事象のリスクは低いものの、再手術(1年以内に26例に1例の割合)などの重篤な合併症のリスクがあることを示した。研究の詳細は、BMJ誌2022年7月6日号に掲載された。英国の約29万件の手術のコホート研究 研究グループは、待機的な肩関節鏡視下手術における重篤な有害事象の正確なリスクを推定し、医師および患者に情報を提供する目的で、地域住民ベースのコホート研究を行った(英国国立健康研究所[NIHR]オックスフォード生物医学研究センター[BRC]の助成による)。 解析には、英国国家統計局の市民登録死亡データを含むイングランド国民保健サービス(NHS)の病院エピソード統計(Hospital Episode Statistics)のデータが用いられた。 対象は、2009年4月1日~2017年3月31日の期間に、16歳以上の26万1,248例に施行された28万8,250件の肩関節鏡視下手術(肩峰下除圧術、腱板修復術、肩鎖関節切除術、肩関節安定化術、凍結肩関節授動術)であった。 主要アウトカムは、術後90日以内の入院治療を要する重篤な有害事象(死亡、肺塞栓症、肺炎、心筋梗塞、急性腎障害、脳卒中、尿路感染症)の割合とされた。深部感染症は腱板修復術で高い 全体の年齢中央値は55歳(IQR:46~64)で、手技別の年齢中央値は、肩関節安定化術の27歳(IQR:22~35)から腱板修復術の61歳(53~68)までの幅が認められた。47.8%が女性であった。試験期間を通じて、肩峰下除圧術の件数は減少したが、これを除く肩関節鏡視下手術の件数は増加していた。 肩関節鏡視下手術後90日以内の有害事象(再手術を含む)の発生率は、1.2%(95%信頼区間[CI]:1.2~1.3)と低く、81例に1例の割合であり、肩関節安定化術の0.6%(95%CI:0.5~0.8)から凍結肩関節授動術の1.7%(1.5~1.8)までの幅が認められた。年齢、併存症、性別で調整すると、手技の種類による影響はみられなくなった。 最も頻度の高い有害事象は肺炎(発生率:0.3%、95%CI:0.3~0.4)で、303例に1例の割合であった。一方、最もまれな有害事象は肺塞栓症(0.1%、0.1~0.1)で、1,428例に1例の割合だった。 1年以内に再手術を要した患者は3.8%(95%CI:3.8~3.9)と比較的高く、26例に1例の割合であり、肩関節安定化術の2.7%(95%CI:2.5~3.0)から凍結肩関節授動術の5.7%(5.4~6.1)までの幅がみられた。 深部感染症に対する追加手術は全体で0.1%(95%CI:0.1~0.1)と低く、1,111例に1例の割合であったが、腱板修復術に伴う深部感染症の発生率は0.2%(0.2~0.2)と高く、526例に1例の割合だった。 著者は、「膝関節鏡視下手術に比べて90日以内の肺炎の発生率が高かった理由は不明であり、今後、その原因の解明と予防法の確立が求められる。また、今後の研究では、腱板修復術に伴う感染症の増加に関連する因子の検討も行うべきであろう」としている。

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TRFと共同開発のダンスがコロナ禍の高齢者の認知機能を改善―東大先端研

 ダンス・ボーカルユニットのTRFと東京大学先端科学技術研究センターの研究グループが共同開発した高齢者向けのダンスが、認知機能や実行機能の改善に有効であることを示す、無作為化比較試験の結果が報告された。同研究センター身体情報学分野の宮崎敦子氏(研究時点の所属は理化学研究所)らによる論文が、「International Journal of Environmental Research and Public Health」に5月19日掲載された。 運動に認知機能や実行機能(物事を考えて行動する機能)の低下を防ぐ効果があることが知られており、高齢者に対して運動が奨励されている。しかし新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックにより屋外での運動が制限される状況が長引いている。これを背景として宮崎氏らは、屋内でも行えるダンスを開発し、認知機能や実行機能に及ぼす影響を検討した。 ダンスは有酸素運動であるとともに、曲に合わせて振り付けを模倣するというデュアルタスク(二つの作業の同時処理が必要な)運動でもあり、認知機能などの維持・改善により効果的な可能性が想定される。本研究では、30年以上の経験を持つダンス・ボーカルユニットであるTRFとともに、30分のダンスプログラムを開発し介入に用いた。 研究対象者は2020年10~11月にかけて、webを通じて東京と神奈川から募集された60歳以上の健康な地域住民。COVID-19や心疾患・呼吸器疾患の既往者、認知機能の指標である日本語版ミニメンタルステート検査(MMSE-J)が30点中24点未満の人を除外した90人が参加。これを無作為に、ダンス群、ノルディックウォーキング群(以下、歩行群と省略)、対照群の3群に分類した。なお、全員に分岐鎖アミノ酸(BCAA)を含む菓子(BCAAとして約8gを週3回摂取)による栄養介入を行った。 ダンス群と歩行群に割り当てられた人には、1回30分(準備体操と整理体操を含めて45分)、週に3回、4週間にわたる継続を求め、実施回数が9回未満の場合は解析から除外した。ダンス群には、120~125ビートの曲に乗せたダンス動画が収録されているDVDを4枚支給し、1週間に1枚のペースで続けてもらった。 プロトコルから逸脱した2人(歩行群と対照群の各1人)を除く88人の平均年齢は67.81±5.64歳で、29.55%が女性だった。ベースライン時点では、年齢や女性の割合、MMSE-Jスコア、MoCAスコア(認知機能の評価指標)、FABスコア(実行機能の評価指標)、教育歴、就業状況、疾患有病率、BMI、SMI(骨格筋指数)、歩行速度、握力、ふくらはぎ周囲長など、評価した全ての項目について、有意な群間差がなかった。 4週間の介入中に歩行群の2人が脱落し、最終的な解析は86人で行われた。認知機能の指標であるMoCAスコアのベースラインからの変化量は、ダンス群+2.0667点、歩行群+0.7037点、対照群-0.2414点であり、ダンス群は歩行群(P=0.0135)や対照群(P=0.0000)より、改善幅が有意に大きかった。歩行群と対照群の群間差は非有意だった。 実行機能の評価指標であるFABスコアは、同順に、+0.7333点、+0.2963点、-0.5862点であり、ダンス群(P=0.0006)や歩行群(P=0.0369)は、対照群より改善幅が有意に大きかった。ダンス群と歩行群の群間差は非有意だった。 このほか、歩行速度や模倣機能について、ダンス群の方が歩行群よりも有意に大きく改善していた。筋肉量や筋力の変化量は、群間の有意差がなかった。ただし、かかと上げテストは、ダンス群、歩行群ともに対照群よりも有意に大きく改善していた。また、ダンス群は視空間認知機能の改善幅が、歩行群や対照群より有意に大きいなどの違いも認められた。 これらの結果を基に著者らは、「COVID-19パンデミックに伴い自宅での時間が長くなり運動量が減りがちな状況において、屋内で行えるダンスが認知機能を効果的に維持・改善し得る」と結論付けている。また、「若いころにダンスをする機会が少なかっただろう日本の高齢者にも、ダンスは受け入れられた。この事実から、ダンスは日本人の認知機能や身体機能を向上させる、強力なツールになると考えられる」と付け加えている。

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移植の予後に、筋肉の「質」が影響する可能性/京都大学

 造血器腫瘍治療で行われる同種造血幹細胞移植(allo-HSCT)において、患者の筋肉の質及び量が移植後の予後に関係する可能性があるという。京都大学の濱田 涼太氏らによる本研究と結果はTransplantation and Cellular Therapy誌オンライン版2022年6月19日号に掲載され、京都大学は7月12日にプレスリリースを発表した。 骨格筋量の減少は、移植後の生存に影響を及ぼすことが複数の研究グループから報告されているが、このような骨格筋量の減少はコンピュータ断層撮影(CT)などを用いて評価されるため、脂肪変性が進行した「質の悪い」骨格筋においては骨格筋量が過大評価されてしまい、正確な評価が出来ていない可能性があるという。 研究者らは、京都大学医学部附属病院で実施された同種造血幹細胞移植後の患者186例のデータを用いて、大腰筋の臍の高さの断面積と平均CT値から算出される大腰筋質量指数(PMI)とX線画像密度(RD)を用いて、それぞれ筋肉の量と質を判断した。 主な結果は以下のとおり。・17~68歳(中央値49)の成人患者186例を対象に 、同じ性・年齢群の中で最も低い四分位値(下位 25%)の患者を低 PMI 群と低 RD 群に割り付けた。46例(24.7%)が低PMI群に、49例(26.3%)が低RD群に割り付けられた。・初診からallo-HSCTまでの経過期間中央値は7ヵ月(範囲:2~46ヵ月)、95%の患者がECOG-PS(0-1)良好であった。・低RDは、移植後の非再発死亡率増加の有意な因子であった(調整後ハザード比[HR]:2.54、95%信頼区間[CI]:1.42~4.51、p

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ハイドロゲル注入が椎間板変性による慢性腰痛を緩和

 実験的な配合のハイドロゲルを椎間板に注入することで、椎間板変性により生じた慢性腰痛を安全かつ有効に緩和できる可能性が新たな研究で示された。米Clinical Radiology of Oklahoma放射線科チーフのDouglas Beall氏らが実施したこの研究の結果は、インターベンショナルラジオロジー学会(SIR 2022、6月11〜16日、米ボストン)で発表された。 背骨は24個の椎骨から成り、椎骨と椎骨の間は軟骨の椎間板で区切られている。椎間板は水分を多く含んだ衝撃吸収材として機能し、椎骨同士がこすれることなく、曲げたりねじったりする動作を可能にしている。しかし、椎間板は、加齢に伴い含まれる水分が徐々に減少して弾力性を失い、すり減ったり、日常生活動作でも亀裂が入ったりして、慢性腰痛の原因となる。 今回の研究は、椎間板変性による慢性腰痛を持つ20人の患者(22〜69歳)を対象にしたもの。NRS(Numerical Rating Scale、0〜10点)で評価した対象患者の腰痛の強さは4点以上だった(平均7.1点)。Beall氏らは、対象患者の摩耗した椎間板に、X線による透視下でHydrafilと呼ばれるハイドロゲルを注射で注入した。注入されたゲルは、椎間板の中心部と外郭に付着し、亀裂を埋めるのだという。なお、本研究で使われたHydrafilは、ReGelTec社が開発した第二世代のハイドロゲルで、2020年に米食品医薬品局(FDA)のブレイクスルーデバイス指定(重篤な疾患に対する現在の治療選択肢よりも有効な治療となり得る実験的な医療デバイスに対して与えられる)を受けている。 治療から6カ月後、20人の患者全てが腰痛の軽減を報告し、腰痛のNRS平均スコアは7.1点から2.0点へと有意に低下していた(P<0.001)。また、オズウェストリー腰痛障害質問票(ODI)で評価した、腰痛による日常生活動作への影響についても、平均スコアが48点から6点に低下し、有意に改善したことが確認された。治療に伴う有害反応が確認された患者はいなかった。 Beall氏は、「これらの知見がさらなる研究で確認された場合、この治療法は、慢性腰痛による疼痛が従来の治療では十分に緩和されなかった患者にとって、非常に有望な治療選択肢になる可能性がある。このゲルは投与が簡単で、開腹手術も必要ないため、患者にとっても負担の少ない処置だ」と語る。 この研究結果について米エモリー大学医学部のJ. David Prologo氏は、「この研究が持つ影響力は、誇張してもし過ぎることはない。椎間板変性に苦しむ患者は世界中に何億人もいるが、現状では、費用もリスクもかかる大手術以外に決定的な治療法はない。Beall氏らによる最先端の治療法は、針と画像ガイダンスのみを用いて、椎間板に液体代替物を注入して椎間板を元の状態に戻そうとするものだ。治療を受けた患者は注射部位に絆創膏を貼るだけで帰宅できる」と話す。 ただし、この治療法には重要な疑問が残っている。それは、「修復された椎間板でハイドロゲルがどのくらい持続するのか」というものであり、この点を本格的な臨床試験で検討する必要がある。Beall氏は、「Hydrafilは、90年間にわたる応力とひずみをシミュレートする、反復応力シミュレーションでテストされている。そのため、Hydrafilによる修復は永続する可能性がある」との見方を示している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものとみなされる。

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ブタ心臓のヒトへの異種移植手術、初期の経過は良好/NEJM

 米国・メリーランド大学医療センターのBartley P. Griffith氏らの研究チームは、2022年1月7日、実験的なブタ心臓のヒトへの異種移植手術を世界で初めて行った。患者は、自発呼吸が可能になるなど良好な経過が確認されたが、約2ヵ月後の3月8日に死亡した。臓器不足の解消につながると期待された遺伝子編集ブタ心臓の移植の概要が、NEJM誌オンライン版2022年6月22日号に短報として掲載された。ECMO導入重症心不全の57歳男性 患者は、慢性的な軽度の血小板減少症、高血圧症、非虚血性心筋症を有し、僧帽弁形成術の既往歴がある57歳の男性で、左室駆出率(LVEF)10%の重症心不全により入院となった。複数の強心薬の投与が行われたが、入院11日目には大動脈内バルーンポンプが留置され、23日目には末梢静脈-動脈体外式膜型人工肺(ECMO)が導入された。 患者は、4つの心臓移植プログラムの審査を受けたが、いずれも許可されなかった。研究チームは、実験的な異種移植が、内科的治療や静脈-動脈ECMOの継続に劣る可能性はないと考え、米国食品医薬品局(FDA)に申請を行い、承認を得た。 今回、実施された異種移植の方法は、拒絶反応を起こさないよう10の遺伝子が編集されたブタドナー(Revivicor製)、免疫抑制薬であるヒト化抗CD40モノクローナル抗体KPL-404(Kiniksa Pharmaceuticals製)、XVIVO心臓灌流システム(XVIVO Perfusion製)を組み合わせた心臓保存療法である。移植後の初期経過:洞調律維持、拒絶反応なし 移植後、乏尿性急性腎不全が持続したため、腎代替療法が施行された。2日目には気管チューブが抜管され、胸部X線写真では肺野が明瞭に描出された。強心薬投与の必要はなく、移植後4日目にECMOから離脱した。 移植後6日目のSwan-Ganzカテーテル抜去前に、低用量ニカルジピンの投与下で、平均収縮期血圧は130~170mmHg、平均拡張期血圧は40~60mmHgで、肺動脈圧は収縮期32~46mmHg、拡張期18~25mmHgであり、中心静脈圧は6~13mmHgだった。心拍出量は5.0~6.0L/分で、体表面積当たりの1回拍出量は65~70mL/m2であった。また、異種移植心は70~90拍/分で洞調律を維持し、LVEFは55%以上を保持していた。 移植後12日目に腹膜炎が発症し、回復したものの非経口栄養に移行した。悪液質が悪化し、体重は入院時の85kgから術後の最低値で62kgまで減少した。 免疫抑制薬として、KPL-404のほかに、移植後1日目からミコフェノール酸モフェチルが投与されたが、顆粒球コロニー形成刺激因子(G-CSF)による治療で重度の好中球減少症が発現したため21日目に中止され、35日目からはタクロリムスの投与が開始された。 ドナー特異的抗体の値は、免疫抑制薬の導入後もベースラインを下回っており、移植後47日目まで低値で推移したが、43日目の免疫グロブリンの静脈内投与でIgG値が急激に上昇し、IgM値も上昇した。血清トロポニンI値は移植後に上昇したが、24日目にはベースラインの値に戻り、その後35日目に急激に上昇し始めた。 移植後34日目の心内膜心筋生検では、拒絶反応は認められなかった。患者は、心血管系のサポートなしにリハビリテーションが可能であり、異種移植心は拒絶反応を示すことなく正常に機能した。 移植後43日目に、傾眠が強くなり、気管挿管が行われた。予防対策を行っていたにもかかわらず、胸部X線と気管支鏡検査でウイルスまたは真菌感染を示唆する所見が得られた。また、微生物無細胞DNA(mcfDNA)検査では、ブタサイトメガロウイルス(pCMV)(suid herpesvirus 2とも呼ばれる)の顕著な増加が認められ、ウイルス感染の可能性が懸念された。ドナーの脾臓と患者の末梢血単核細胞(PBMC)を用いて定量的ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)による検証を行ったところ、両方の検体ともpCMV陽性であり、ドナーがpCMVに潜伏感染していた可能性が示唆された。47日目には、気管抜管が行われ、患者は室内でのリハビリテーションを再開した。異種移植の失敗:検死所見は典型的な異種移植の拒絶反応とは一致せず 移植後48日目、患者は109日ぶりにベッドから解放された。しかし、49日目、軽度の腹部不快感と膨満感に伴い、血清乳酸値が8時間で4mg/dLから11.2mg/dLに上昇し、低血圧が発生したため気管挿管が行われた。肢端チアノーゼが発現し、移植後初めて心拍出量の低下が示唆された。 心エコー図検査でLVEFは65~70%を示したが、左室壁厚(1.7cm)と右室壁厚(1.4cm)の著明な増大、および左室内腔サイズ(3.2~3.5cm)の縮小が認められ、global longitudinal strainの値は劇的に低下(悪化)した。患者家族と相談し、49日目の夕方、静脈-動脈ECMOが再導入された。 移植後50日目の2回目の心内膜心筋生検では、抗体関連型拒絶反応や急性細胞性拒絶反応はみられなかったが、赤血球漏出および浮腫による局所毛細血管損傷が認められた。トロポニンI値は上昇していた。異種移植心由来無細胞DNA(xdcfDNA)値は、異種移植心特異的IgG値やIgM値と共にピークに達していたことが、後に判明した。抗体関連型拒絶反応の非典型的な発現を疑い、治療が開始された。 移植後56日目の3回目の心内膜心筋生検では、病理学的抗体関連型拒絶反応(国際心肺移植学会[ISHLT]のGrade1)が確認された。間質への赤血球漏出や浮腫は、前回の生検時に比べて少なかったが、心筋細胞の40%が壊死していた。 研究チームは、異種移植心に不可逆的な損傷が生じていると判断し、患者家族と相談して移植後60日目に生命維持装置を停止させた。検死では、心臓の重量が移植時の328gから600gに増加していた。心筋細胞や心臓内皮細胞などの所見は、典型的な異種移植の拒絶反応とは一致せず、このような損傷をもたらした病態生理学的なメカニズムの解明に向けた研究が進行中だという。 著者は、「異種移植心の機能不全に、患者の重度の体力減退と術後の複雑な経過が重なり、移植後60日目に、それ以上の高度な支持療法は行わないこととなった」と結んでいる。

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最高の老後 「死ぬまで元気」を実現する5つのM

最高の老後 「死ぬまで元気」を実現する5つのM高齢者の2割には病気がないことを知っていますか?今から備えればまだ間に合うかもしれません。日本人の平均寿命は男性が約81歳、女性は約87歳。でも、元気に自立した生活を送ることができる期間である「健康寿命」は、男性なら約72歳、女性なら約75歳と報告されています。日本人は最後の約10年を、支援や介護を受けて生きているのです。これらの現実をどうしたら変えられるか、最後の10年を人の助けを借りず健康に暮らすためにはどうしたらよいのか、その答えとなるのが「5つのM」。カナダおよび米国老年医学会が提唱し、「老年医学」の世界最高峰の病院が、高齢者診療の絶対的指針としているものです。【5つのM】Mobility……からだMind……こころMulticomplexity……よぼうMedications……くすりMatters Most to Me……いきがいニューヨーク在住の専門医が、この「5つのM」を、質の高い科学的エビデンスにのみ基づいて徹底解説。病気がなく歩ける「最高の老後」を送るために、若いうちからできることすべてを考えていきます。著者の山田氏のメッセージ私はこれまで全米最大の老年医学科を持つマウントサイナイ医科大学で仕事をする機会を得て、老年医学に関するさまざまなことを学んできましたが、その学びは「目から鱗」の連続でした。中でも、本書で用いた「5つのM」の視点が、レジデントや医学生の教育に極めて有効であることを目の当たりにしてきました。本書でご紹介した「5つのM」は、老年医学の臨床現場では毎日のように口にされるフレームワークです。そんな中、これは医学生やレジデントの教育だけでなく、患者教育にも有効活用できると思ったのがきっかけで、それがこの書籍の発刊につながりました。本書では、この「5つのM」のフレームを用いて、老化の過程とその予防法についてまとめました。本書は一般書ではありますが、1年以上かけて255本以上の老年医学領域の学術論文をもとに執筆しており、医療者の方にも老年医学のエッセンスを学んでいただくのに十分ご満足いただける内容になっているのではないかと思います。また、高齢になりさまざまな病気を抱えながら後悔をされる患者さんの姿を何度も目にしてきた経験から、「後悔しないためにできること」をたくさん詰め込んでおり、患者さんの予防医療教育などにもご活用いただけるのではないかと思っています。高齢者の診療にあたる医療者の方、そうでなくとも老化や老化予防にご関心のある方に、ぜひ手にとっていただければと思っています。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    最高の老後 「死ぬまで元気」を実現する5つのM定価1,980円(税込)判型四六判頁数394頁発行2022年6月著者山田 悠史(マウントサイナイ医科大学 老年医学科フェロー)

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筋肉量減少に、睡眠の満足感・夕食時刻・朝食の有無が関連/日本抗加齢医学会

 加齢とともに減少する筋肉量がどのような生活習慣と関連するのか、東海大学の増田 由美氏らが比較的健康な成人男子を調査し解析した結果、睡眠の満足感との有意な関連が示された。睡眠時間との関連は有意ではなかったという。さらに、60歳未満では20時までの夕食摂取、60歳以上では毎日の朝食摂取が筋肉量の維持に効果的であることが示唆された。第22回日本抗加齢医学会総会(6月17~19日)で発表した。筋肉量は睡眠障害の自覚レベルと飲酒に有意に関連 本研究の対象は、2014年4月1日~2020年6月30日に東海大学医学部付属東京病院で抗加齢ドックを受診した成人男性160名のうち、睡眠時無呼吸症、脳血管障害、肝機能障害の治療中の5名を除いた155名。In-bodyによる筋肉量、BMI、HDLコレステロール、LDLコレステロール、アディポネクチンを検査し、自記式質問票による睡眠時間(6時間未満/6時間以上)、睡眠障害の自覚レベル、喫煙習慣・飲酒習慣・運動習慣・朝食の有無、夕食開始時刻(18時以前/18~20時/20時以降)、入眠剤の服用の有無について、筋肉量との関係を相関分析および重回帰分析で検討した。さらに、60歳未満76名と60歳以上79名の2群に分け、各群において睡眠、朝食摂取、夕食時刻と筋肉量との関係を調べた。 筋肉量が睡眠などの生活習慣とどのように関連するのか調査し解析した主な結果は以下のとおり。・年齢、BMI、入眠剤の服用、喫煙習慣を調整した場合、睡眠障害の自覚レベル(睡眠の満足感)、飲酒が筋肉量と有意に関連していた。・60歳未満では、睡眠障害の自覚レベルが悪いほど、また夕食開始時刻が遅いほど、筋肉量が有意に減少した。・60歳以上では、睡眠障害の自覚レベルが悪いほど、また朝食を毎日摂取していない場合に筋肉量が有意に減少した。 増田氏は、本研究の結果から良質な睡眠による筋肉疲労の回復を示唆する可能性、睡眠の満足感が睡眠リズムの障害を反映している可能性を考察している。睡眠リズムの障害があると成長ホルモンの分泌低下や、グリア細胞の機能低下があることが報告されているという。なお本研究の限界として、横断研究であり、対象者数が少なく、運動強度を設定していないことなどを挙げている。

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第114回 療養病床の終焉、実態に即した「慢性期重症治療病床」へ

「療養病床の終焉がすぐそこに近づいてきた」。日本慢性期医療協会(日慢協)の武久 洋三会長は、会長職としては最後の定例記者会見となる5月19日、刺激的な発言をした。「今では療養病床は、病床の実態が療養ではなく、慢性期重症治療病床となっている。もはやこのような病床は療養病床とは言えない」との見解を述べた。療養病床の入院患者は、決して療養が必要な患者ではなく、むしろICU(集中治療室)に近いような重度の高齢者がほとんどであるとの現状認識を示したうえで、病床の名前を実態に即した「慢性期重症治療病床」にただちに変更すべきであると提案した。重症高齢患者を短期間の治療で日常生活に戻す役割に療養病床の変遷を見ると、まず1983年に特例許可老人病棟が導入され、1992年に療養型病床群が創設された。2000年には療養病棟入院基本料が新設され、現在に至っている。以前は療養が必要な病床として、高齢の寝たきり患者の受け入れを主に担っていたが、2006年に医療区分が導入され、重症である医療区分2・3患者の割合は「療養病棟入院基本料1」(以下、療養1)で8割以上、「療養病棟入院基本料2」(以下、療養2)で5割以上が求められている。2010年には療養病棟入院基本料が再編され、20対1の療養1と、25対1の療養2という看護師配置基準が入った。2018年に、25対1をやめ、20対1に一本化することが決定。介護保険制度の施行などにより、療養病床の役割は「重度の高齢患者を受け入れ、短期間の治療で日常生活に戻す」ことになっている。実際、日慢協会員病院は、療養1で50%以上の患者を日常生活に戻している実績がある。療養病床の「療養」という言葉には「養生」のイメージが強いが、現状は「治療」の要素が強い。それにもかかわらず、療養病床と呼ばれていることに対して、武久会長は異を唱えたわけだ。「療養的な病床はもうやめなさいということ」2022年度診療報酬改定も、療養病床が「治療」の病床でない場合は評価しない方針を示している。療養病床である地域包括ケア病棟に対して、救急医療提供などを行わない場合は入院料を5%減算するなど、複数の減算規定が盛り込まれた。「5%減算されたら、病院によっては収支トントン状態が少々赤字に転じる可能性がある。10%減算されると、完全に赤字になる」と武久会長。療養病棟入院基本料の経過措置病棟は、今回の改定でそれまでの15~25%減算となった。武久会長は「要するに、もうやめなさいということだ」と述べた。武久会長が2008年に日本療養病床協会の会長に推挙された際の条件として、協会名を日本慢性期医療協会にすることをお願いして現在の協会名に改称された。そして14年が経過し、武久会長は「会の名称を変えたのは正しかった。療養病床という病床名を慢性期重症治療病床に変えるべきだ」と訴えた。目指すは地域の医療ニーズに応えられる多機能化そのうえで、「急性期医療だけでは日本の医療制度は完遂しない。そして全床療養病床だけの病院は消滅するだろう。地域の高齢の慢性期患者や要介護者の急変も治療できないような病院は、地域で必要とされなくなる」と指摘。「これからの会員病院は慢性期多機能病院として、地域包括ケア病棟と回復期リハビリテーション病棟を配置し、2次救急指定を取って自宅・居住系施設などの入所者の急変時対応を行い、地域多機能病院として地域の信頼を得る努力をするべきだ」と提言した。病院は看取りの場ではない。病院は治療の場である。治る見込みがある患者を治療する場である。看取りは介護医療院などで慎重に行うべきだろう。武久会長の考えは、療養病床を持つ病院に対して、地域の医療ニーズに応じた多機能化を求めている。

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地域一般住民におけるフレイルな高齢者に対する多因子介入が運動機能障害を予防する(解説:石川讓治氏)

 日本老年医学会から提唱されたステートメントでは、Frailtyとは、高齢期に生理的予備能が低下することでストレスに対する脆弱性が亢進し、生活機能障害、要介護状態、死亡などの転帰に陥りやすい状態で、筋力の低下により動作の俊敏性が失われて転倒しやすくなるような身体的問題のみならず、認知機能障害やうつなどの精神・心理的問題、独居や経済的困窮などの社会的問題を含む概念であるとされている。わが国においてはフレイルと表現され、要介護状態や寝たきりになる前段階であるだけでなく、健康な状態に戻る可逆性を含んだ状態であると考えられている。フレイルの原因は多面的であり、運動、栄養改善、社会的なサポート、患者教育、ポリファーマシー対策といった多因子介入が必要であるとされているが、加齢という最大のフレイルのリスク要因が進行性であるため、フレイルの要介護状態への進行の抑制は困難を要する場合も多い。 SPRINTT projectは、欧州の11ヵ国16地域における1,519人の一般住民(70歳以上)を対象として、SPPBスコア3~9点、四肢骨格筋量低下、400m歩行機能などから身体的フレイルやサルコペニアと見なされた759人に対して、多因子介入(中等度の身体活動をセンターにおいて1週間に2回および家庭において週に4回、身体活動量の測定、栄養に関するカウンセリング)を行った群とコントロール群(1ヵ月に1回の健康的な老化に関する教育)を比較した。1次評価項目は運動機能低下(400mを15分未満で歩行困難)、副次評価項目は運動機能低下持続(400m歩行機能、身体機能、筋力、四肢骨格筋量の24~36ヵ月後の変化)であった。1次評価項目はSPPBスコア3~7の対象者において評価され、追跡期間中に身体機能低下は多因子介入群で46.8%、コントロール群で52.7%に発症し、多因子介入によって22%(p=0.005)の有意なリスク低下が認められた。運動機能低下持続は多因子介入群で21.0%、コントロール群で25.0%に認められ、多因子介入によって21%のリスク低下が認められる傾向があった(p=0.06)。 本研究の結果は、フレイルやサルコペニアを有する地域一般住民に対する多因子介入の有用性を示したものであり、地方自治体などが行っている“通いの場”、“集いの場”などでの運動教室や栄養教室をサポートするエビデンスになると思われる。またデイサービスなどの老人福祉施設においても、本研究の介入方法は参考になると思われる。比較的健康であると思われた地域一般住民のデータにおいても、約3年の間に対象者の約半数が運動機能低下を来しており、心不全(7.2%)、がん(13.4%)、糖尿病(22.4)など併存疾患の多いことが驚きであった。現在、病院に通院中で何らかの疾患を要するフレイル患者の場合、6ヵ月以上の慢性期リハビリ介入は、医療保険診療では困難な場合が多い。そのため、病院通院中の患者でありながら、フレイルに対する多因子介入は老人保健施設にお願いせざるを得ない状況がある。病院でフレイル患者を診療する医師としては、医療機関においても慢性期リハビリが継続できるような医療保険システムの構築を願っている。 本研究において、運動機能低下の発症がコックスハザードモデルで評価されているが、登録時はフレイルで、運動機能低下の発症後に、多因子介入で健常に戻った場合でも、運動機能低下発症ありと評価されていることに多少の違和感がある。フレイルは可逆性のある状態であるにもかかわらず、解析上はあたかもエンドポイントであるかのように評価されている。定義上、フレイルは可逆性で、要介護状態は非可逆の要素が多いとされているが、日常臨床では可逆性と非可逆の境界を見極めるのは困難な場合が多い。身体機能低下は悪化と改善を繰り返しながら、徐々に要介護状態へ進行していく。本研究の運動機能低下は、400m歩行が15分以内に困難な状態として定義されているが、これをもって運動機能低下(不可逆なポイント)と定義していいのかどうかも疑問が残った。日常臨床上における要介護状態は、介護保険制度の要介護度を用いて判断される場合が多いが、基本的ADLの低下をもって判断され、本研究の運動機能低下の判定基準とは異なることに注意が必要である。

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虚弱高齢者への運動+栄養介入、運動障害の発生を約2割減/BMJ

 身体的フレイルおよびサルコペニアが認められるShort Physical Performance Battery(SPPB)スコアが3~9の70歳以上に対し、中等度身体的アクティビティ指導(対面週2回、家庭で週4回以下)と個別栄養カウンセリングを実施することで、運動障害の発生が減少したことが示された。イタリア・Fondazione Policlinico Universitario Agostino Gemelli IRCCSのRoberto Bernabei氏らが、技術的サポートと栄養カウンセリングによる身体活動ベースの多面的介入が、身体的フレイルとサルコペニアが認められる高齢者の運動障害を予防するかを確認するため検討した無作為化試験「SPRINTT project」の結果を報告した。結果を踏まえて著者は、「身体的フレイルとサルコペニアは、虚弱高齢者の可動性を維持するターゲットになりうることが示された」とまとめている。BMJ誌2022年5月11日号掲載の報告。SPPBスコア3~9、400m自力歩行可能な70歳以上を対象に試験 研究グループは2016年1月~2019年10月31日に、欧州11ヵ国、16ヵ所の医療機関を通じて、身体的フレイルとサルコペニアを有し、SPPBスコアが3~9、除脂肪体重が低く、400mの自力歩行が可能で、地域に居住する70歳以上の男女1,519例を対象に試験を行った。 被験者を無作為に2群に分け、一方(介入群)には中等度身体アクティビティを試験センターで週2回、家庭で週4回まで実施。身体アクティビティは、アクチメトリ(活動量)データを用いて個別に調節した。また、個別に栄養カウンセリングも行った。もう一方(対照群)には、月1回、健康的なエイジングに関する教育を行った。介入と追跡は最長36ヵ月にわたった。 主要アウトカムは運動障害で、15分未満での400m自力歩行不可で定義された。事前に規定した副次アウトカムは、運動障害の持続(400m自力歩行が2回連続で不可)、ベースラインから24ヵ月および36ヵ月時点の身体機能・筋力・除脂肪体重の変化などだった。 主要比較は、ベースラインSPPBスコアが3~7の1,205例を対象に行い、SPPBスコアが8/9の被験者314例については探索的目的で別に解析を行った。運動障害発生率は介入群46.8%、対照群52.7%でハザード比0.78 被験者1,519例(うち女性1,088例)の平均年齢は78.9歳(SD 5.8)、平均追跡期間は26.4ヵ月(9.5)だった。 SPPBスコア3~7の被験者における運動障害の発生は、介入群283/605例(46.8%)、対照群316/600例(52.7%)だった(ハザード比[HR]:0.78、95%信頼区間[CI]:0.67~0.92、p=0.005)。運動障害の持続が認められたのは、介入群127/605例(21.0%)、対照群150/600例(25.0%)だった(HR:0.79、95%CI:0.62~1.01、p=0.06)。 24ヵ月時点および36ヵ月時点でのSPPBスコアの群間差も、それぞれ0.8ポイント(95%CI:0.5~1.1、p<0.001)、1.0ポイント(0.5~1.6、p<0.001)といずれも介入群を支持する結果が示された。 24ヵ月時点の握力低下は、介入群の女性で対照群よりも有意に小さいことが示された(0.9kg、95%CI:0.1~1.6、p=0.028)。 除脂肪体重の減少は、24ヵ月時点で介入群が対照群よりも0.24kg少なく(95%CI:0.10~0.39、p<0.001)、36ヵ月時点では0.49kg少なかった(0.26~0.73、p<0.001)。 重篤な有害事象は、介入群237/605例(39.2%)、対照群216/600例(36.0%)報告された(リスク比:1.09、95%CI:0.94~1.26)。 なお、SPPBスコア8/9の被験者では、運動障害の発生は介入群46/155例(29.7%)、対照群38/159例(23.9%)だった(HR:1.25、95%CI:0.79~1.95、p=0.34)。

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英語で「食上げ」は?【1分★医療英語】第29回

第29回 英語で「食上げ」は?Mr. A is tolerating well with clear liquid diet.(Aさんは水分を問題なく飲めているようです)Great. Let’s advance his diet from clear to full liquid diet.(いいですね。水分からペースト食に食上げしましょう)《例文1》Please advance diet as tolerated.(問題ない範囲で食上げしてください)《例文2》Let’s hold off on advancing his diet until we get the barium swallow results.(バリウム造影検査の結果が返ってくるまで、食上げはやめておきましょう)《解説》「食上げ」は、病院の中ではよく用いるものの、英会話スクールなどではなかなか出合うことのない表現だと思います。「食上げを行う」は“advance diet”と言いますので、丸ごと覚えてしまいましょう。また、流動食は“liquid diet”、軟菜食は“soft diet”、常食は“regular diet”と言います。“clear liquid”と“full liquid”の違いは、前者が水やスープ、後者がペースト食のようなものです。米国の病院では、三分粥、五分粥、全粥のような段階的に水分が減るお粥はありませんので、これに対応する英語はありません。ただし、普通のお粥は出す病院もあり、これは“congee”と呼ばれます。日本語の「漢字」に発音が近いので、渡米して間もないころ、「漢字?」と思わず聞き返してしまったことがありました。ちなみに「漢字」の英単語は“chinese character”です。また、“advance diet”という表現と一緒に“as tolerated”という表現もよく用います。「耐えられる範囲で」という意味で、食上げだけでなく、安静度やリハビリテーションのオーダーの際にも用いられる表現ですので、併せて覚えておくとよいでしょう。講師紹介

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事例050 骨粗鬆症治療のイベニティ皮下注で査定【斬らレセプト シーズン2】

解説骨粗鬆症の患者にロモソズマブ(商品名:イベニティ皮下注)(以下「同注射薬」)を2筒皮下注射したところ、皮下注射の手技料がB事由(医学的に過剰・重複と認められるものをさす)にて査定となりました。レセプトには注射部位の記入を求められていません。また、初回の投与であるため、通知にある再投与開始時の理由をコメント記載する場合には該当しませんでした。査定理由を調べるために、カルテを確認しました。前月に同注射薬投与の是非を判定するための検査が行われていました。皮下注射は部位を変えて2ヵ所に注入したことも記載されていました。不備はありません。再度、増減点票を確かめると、他にも同注射薬に皮下注射手技料に査定があることに気付きました。調べてみると同注射薬を投与している患者すべてにおいて、皮下注射手技料が1回に査定となっていました。同注射薬の添付文書をみると、「1回当たり210mgを皮下注射する」とあります。同注射薬1筒105mgを2本使用することになります。総量の指定があるために、「皮下注射手技料は1回しか認めない」と審査基準が変更されたようです。医師と会計担当者には、皮下注射手技は1回のみの算定となったことを伝え、レセプトチェックシステムの改修を行い査定対策としました。

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修復不能な腱板断裂、肩峰下バルーンスペーサーは無効/Lancet

 修復不能な肩腱板断裂に対し、関節鏡視下デブリドマンと比較しInSpaceバルーン(米国Stryker製)の有効性は認められなかったことが、英国・ウォーリック大学のAndrew Metcalfe氏らが英国の24施設で実施したアダプティブ群逐次デザインの無作為化二重盲検比較試験「START:REACTS試験」の結果、示された。InSpaceデバイスは、2010年にCEマークを取得し、2021年7月に米国食品医薬品局(FDA)で承認されるまで、米国以外では約2万9,000件の手術で用いられていた。しかし、InSpaceデバイスの有効性については、初期の小規模なケースシリーズで有望な結果が報告されていたものの、いくつかの研究では好ましくない結果や炎症・疼痛がみられる症例について報告され、無作為化試験のデータが必要とされていた。著者は今回の結果を受けて、「われわれは修復不能な腱板断裂の治療としてInSpaceバルーンを推奨しない」と結論づけている。Lancet誌オンライン版2022年4月21日号掲載の報告。12ヵ月後の肩スコアをデブリドマンのみとInSpaceバルーン留置併用で比較 研究グループは、保存療法の効果がなく手術の適応となる症状を有する修復不能な腱板断裂の成人患者を、上腕二頭筋腱切除を伴う肩峰下腔の関節鏡視下デブリドマンのみ(デブリドマン単独群)、またはInSpaceバルーン留置を併用したデブリドマン(デバイス群)の2群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。無作為化は、術中、肩の断裂と周辺構造の評価後に適格性を決定し(医師が腱板断裂を修復できると判断した場合は試験から除外)、断裂サイズを測定した後、中央ウェブシステムにアクセスすることで実施された。 患者および評価者は割り付けに関して盲検化された。盲検化は、両群とも手術の切開部を同じとし、手術記録の盲検性を保持し、治療群にかかわらず一貫したリハビリテーションプログラムを提供することで達成された。 主要評価項目は、12ヵ月時の肩スコア(Oxford Shoulder Score[OSS]、範囲:0~48[48が最良])である。 なお、本試験は2回の中間解析が計画されていたが、最初の中間解析で事前に規定された無益性の基準を満たしたため、2020年7月30日に募集と無作為化が中止された。デブリドマンのみがInSpaceバルーン留置併用より有効 2018年6月1日~2020年7月30日の期間に、385例の適格性が評価され、適格と判断され試験参加に同意を得られた患者のうち117例が治療群に割り付けられた(デブリドマン単独群61例、デバイス群56例)。43%が女性、57%が男性であり、患者背景は両群で類似していた。 12ヵ月時の主要評価項目のデータは117例中114例(97%)から得られた。 12ヵ月時の平均(±SD)OSSは、デブリドマン単独群(59例)が34.3±11.1、デバイス群(55例)が30.3±10.9であった。適応的デザインで補正した平均群間差は、-4.2(95%信頼区間[CI]:-8.2~-0.26、p=0.037)であり、デブリドマン単独群が優れていた。 有害事象に関しては、両群間で差はなかった。

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