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7月17日 理学療法の日【今日は何の日?】

【7月17日 理学療法の日】〔由来〕昭和40年に理学療法士について定めた法律「理学療法士及び作業療法士法」が公布され、翌41年に第1回理学療法士国家試験が実施された。この試験に合格した110名の理学療法士によって結成されたのが「日本理学療法士協会」。この日を記念して同協会が制定し、この日の前後に全国で理学療法に関係する医療、介護のイベントが開催されている。関連コンテンツ任天堂リングフィットと理学療法の組み合わせが有効?【Dr.倉原の“おどろき”医学論文】過度の運動はいうほど有害ではなくむしろ寿命を延ばしうる【バイオの火曜日】転倒リスクが低減する運動は週何分?歩行を守るために気付いてほしい脚の異常/日本フットケア・足病医学会肩関節脱臼のリハビリテーション、理学療法は有効か?/BMJ

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ウォーキングに腰痛の再発防止効果

 腰痛がようやく治ったという人は、再発防止のためにウォーキングをすると良いようだ。オーストラリアの新たな研究で、ウォーキングを始めた人は、ウォーキングをしない人に比べて腰痛が再発するまでの期間がはるかに長かったことが示された。マッコーリー大学(オーストラリア)理学療法学教授のMark Hancock氏らによるこの研究結果は、「The Lancet」に6月19日掲載された。 本研究の背景情報によると、腰痛に悩まされている人は全世界で8億人以上に上る。腰痛患者の10人中7人は腰の痛みが和らぐものの、後に再発を経験する。本研究では、最近、特定の疾患を原因としない、24時間以上続く腰痛を経験している18歳以上の成人701人(平均年齢54歳、女性81%)を対象にランダム化比較試験を実施し、6カ月間にわたる個別化された段階的なウォーキングプログラムと理学療法士による教育セッションから成る介入が腰痛の再発予防に有効であるかどうかが検討された。対象者は、351人が介入群、350人が介入を提供されない対照群に割り付けられ、12カ月以上(最長36カ月間)追跡された。 その結果、介入群での腰痛再発までの期間中央値は208日であり、対照群での112日を大きく上回ることが明らかになった。 Hancock氏は、「なぜウォーキングが腰痛予防に効果的なのか、正確な理由は不明だ。おそらくは、全身にもたらされる緩やかな振動、脊椎構造と筋肉への負荷とそれらの強化、リラクゼーションとストレス解消効果、幸せホルモンのエンドルフィンの放出など、さまざまな要因の組み合わせが効果的に作用しているのだろう」と述べている。同氏はまた、マッコーリー大学のニュースリリースの中で、「ウォーキングは低コストで、地理的な場所や年齢、社会経済的な状況に関係なくほぼ全ての人が広く取り組める簡単な運動だ」と述べている。 論文の筆頭著者である同大学のNatasha Pocovi氏は、「これまで検討されてきた腰痛予防のための運動ベースの介入は、概してグループベースで行われる上に、綿密な臨床監督と高価な器具を必要とするため、大多数の患者には利用しにくいものだった」と説明する。それに対し、ウォーキングはシンプルな上に必要コストも低い。またHancock氏は、「その上、ウォーキングには、心血管の健康、骨密度、健康的な体重、メンタルヘルスの改善など、多くの健康上の利点があることも分かっている」と付け加えている。

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定年退職前後の高強度トレーニングで老後も活動的に

 定年退職が視野に入ってきたら、高強度の筋力トレーニングをしておくと良いかもしれない。それにより、身体的に自立した生活にとって重要な下肢の筋力が、退職後にも長期間維持されるという。ウメオ大学(スウェーデン)のCarl-Johan Boraxbekk氏らの研究の結果であり、詳細は「BMJ Open Sport & Exercise Medicine」に6月18日掲載された。 筋力トレーニングによって、加齢による筋肉量や筋力の低下が抑制される。ただし筋力トレーニングを一定期間継続した後に、その効果がどれだけ長く維持されるのかという点はよく分かっていない。Boraxbekk氏らはこの点を検証するために、無作為化比較試験を実施した。 定年退職年齢に相当する高齢者451人を、ウエートを利用した高強度筋力トレーニング(HRT)を行う群、自重やレジスタンスバンドを利用した中強度筋力トレーニング(MIT)を行う群、筋力トレーニングは特に行わない対照群という3群に分けて1年間介入。最長4年間追跡して下肢の等尺性筋力、伸展筋力、握力、体組成などの変化を比較検討した。 4年間の追跡が可能だったのは369人で、ベースライン(介入前)における平均年齢は66.4±2.5歳、男性39%、BMI25.8±4.0、ウエスト周囲長92.7±11.5cmだった。1日の歩数は9,548±3,446歩でこの年齢層としては多く、活動的な集団と考えられた。ただし、参加者の約8割は一つ以上の慢性疾患に罹患していた。 4年後、MIT群(P=0.01)と対照群(P<0.001)では下肢の等尺性筋力が有意に低下していた。それに対してHRT群の変化は有意でなく(P=0.37)、筋力が維持されていた。伸展筋力と握力については3群ともに経時的に低下し、群間差は認められなかった。 体組成に関しては、対照群は4年間で内臓脂肪量が有意に増加していた(P=0.04)。それに対して筋力トレーニングを行った2群は、内臓脂肪量に有意な変化が見られなかった(P値はHRT群が1.00、MIT群は0.95)。除脂肪体重は、対照群(P=0.003)とMIT群(P<0.001)は有意に低下していたが、HRT群では有意な変化がなかった(P=0.81)。 Boraxbekk氏は、「この研究結果は、定年退職前後に高強度の筋力トレーニングを行うことが、その後の数年間にわたる長期的な効果をもたらす可能性があることを示している。高齢者に高強度の筋力トレーニングを推奨することで、より高齢になっても運動能力と自立性を維持しやすくなるのではないか」と述べている。

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【GET!ザ・トレンド】重症COPDの新治療「気管支バルブ治療」病診連携で普及を

重症COPDに気管支鏡的肺容量減量術(Bronchoscopic Lung Volume Reduction、BLVR)という新たな治療法が2023年12月に保険適用になった。重症COPD患者に希望をもたらす治療として注目される。市販後調査として実際にBLVRを施行しているNHO近畿中央呼吸器センターの田宮朗裕氏に聞いた。水面下に潜んでいる「症状緩和・機能改善が行えない重症COPD患者」COPDは世界の死因の第3位で年間323万人が死亡する1)。日本では40歳以上の8.6%、530万人以上がCOPDと推定されている2)。そのうち、きわめて高度な気流閉塞を有する患者(GOLD IV期)は11%、自覚症状が多く急性増悪のリスクが高い患者(GroupD)は10%との報告がある3)。重症COPDに対しては薬物療法、呼吸リハビリテーション、必要に応じた在宅酸素療法(HOT)、さらに肺容量減量手術、肺移植が治療選択肢となる。ただし、肺容量減量手術、肺移植については現在、日本ではほとんど行われていない。つまり、HOTなどの対症療法をしているものの、十分な症状緩和・機能改善が行えない重症COPD(根治的治療がCOPDにほぼないため)が水面下に潜んでいることになる。重症COPDの新治療BLVRとは?田宮氏によれば、重症COPDでは「家での軽い労作でも動けず買い物にも出られない方、ある程度呼吸機能はあっても非常に強い息切れによる生活への支障を訴える方」も少なくないという。さらに「肺機能が悪いとCOPDの急性増悪が非常に厳しくなる」と付け加える。そのような中、2023年12月に重症COPDに対する初のBLVRとして、Zephyr気管支バルブシステムが国内承認された。気管支バルブ治療は、気管支鏡を用いて一方弁の気管支バルブを治療対象の肺葉につながる気管支に留置して、肺葉を無気肺にさせ、肺の過膨張が原因で平坦化していた横隔膜運動を適正化させ呼吸機能を改善させる治療法だ。内科的治療では症状改善がみられない重症COPDに症状の改善をもたらす初の気管支内視鏡治療として注目されている。「体に傷を入れることなく、綺麗な部位を残すことで重症COPDの呼吸機能が改善している。非常に小さなサイズの中にシンプルな一方弁機能を実現した技術は素晴らしい」と田宮氏は評価する。Zephyr気管支バルブは25ヵ国以上で発売され、4万人超の治療患者に留置された実績を持つ。欧州では2003年に、米国ではブレークスルーデバイスに指定され2018年に発売されている。長年の海外での使用実績をもとに的確な患者選択や側副換気の評価によって、より効果を示す可能性のある患者を抽出できるようになった。また、気胸の発生に注意が置かれるようになり、発生時に迅速に対応できるよう準備が変わった。「全世界の開発者と医療者がさまざまな工夫を重ねた中の最終形で日本に来ている。美味しいところ取りしているようだ」と田宮氏は言う。多数のエビデンスが証明するZephyr気管支バルブの有効性Zephyr気管支バルブは重症COPDに対する複数の無作為化比較試験で標準治療単独と比べ、呼吸機能(FEV1)、運動機能(6分間歩行)、症状、QOL(St.George's Respiratory Questionnaire, SGRQ)、慢性COPDの生存期間予測指標であるBODE指数*について有意な改善を認めている。代表的な試験は不均一な肺気腫患者を対象としたLIBERATE試験4)と均一な肺気腫患者を対象としたIMPACT試験5)であり、両試験とも主要評価項目を有意に改善した。いずれも高度な気流閉塞(%FEV1 15~45%)を有するCOPD患者が対象である。「不均一な肺気腫でも均一な肺気腫でもしっかり結果が出た。これらの結果から肺容量を減量して残された肺がしっかり伸縮できるようになると、呼吸機能もQOLも改善することが確信できた。動いたあと“はあはあ”しているのに、息が吐けずに空気が溜まっていく一方という状態は非常に辛いもの。それが緩和されることはすばらしい」、さらに「片肺の過膨張を改善することで、もう一方の肺にも余裕ができる可能性もある」と評価する。また、LIBERATE試験の主要評価項目である「ベースラインからFEV1(L)が15%以上改善した患者」がZephyr気管支バルブ群で有意に多かった(群間差31%)という結果について「全体集団の差が30%を超えるのは素晴らしい。しかし、全ての患者に効くというわけではない。逆に考えれば、効く人には非常に高い効果が期待できるということ。患者の選定は重要なポイント」と述べた。Zephyr気管支バルブは日本での市販後調査による140例の症例収集が課せられている。現在は15施設だが、将来的には20施設まで増やす予定である。* BODE指数:Body mass index(BMI)、airflow Obstruction(気道閉塞度)、Dyspnea(呼吸困難)、Exercise capacity(運動能力)により算出され、慢性COPDの生存期間予測に用いられる指数。事前準備から術後フォローまで入念に設計された手技工程Zephyr気管支バルブによるBLVRを実施するには、外科治療を除く全ての治療法が実施されていることを確認し、術前にボディボックス、スパイロメーターによる呼吸機能精査を行い、6分間歩行距離、呼吸困難を評価する。さらに、CT解析システムによる気腫病変、肺葉間裂の確認、治療対象となる肺葉の選定を行う6)。施術当日も専用のChartis肺機能評価システムで留置部位の側副換気(肺葉間裂の完全性確認)を再確認する。そして、全身麻酔またはセデーション下で(NHO近畿中央呼吸器センターはセデーション)、専用のローディングシステムとデリバリーカテーテルで気管支鏡を用いてターゲットとなる気管支にバルブを留置する。「デバイスが精巧にできているので手技自体はシンプルだが、気管支の位置によって難易度が高くなる。研修による技術習得は欠かせない」と田宮氏は言う。合併症として気胸、COPDの増悪、感染症などのリスクがあるので、気管支バルブ留置後も呼吸器内科、呼吸器外科が協力して診療にあたる。気胸の8割が術後4日以内に起こることもあり、術後は手術日を含め4日入院し、術直後と24時間毎に退院まで検査する。退院後も45日、3、6、12ヵ月後の定期検査が設定されている。なお、Zephyr気管支バルブは抜去・交換が可能で、術後の位置ずれが起きた場合も修正できる。画像を拡大するZephyr気管支バルブの径は4.0mmと5.5mmの2種類。それぞれレギュラーとショートタイプがあり、計4種類のバルブで異なる気管支形状に対応画像提供:パルモニクスジャパン(株)画像を拡大する専用デリバリーカテーテルで気管支鏡を用いてターゲットとなる気管支にバルブを留置する画像提供:パルモニクスジャパン(株)画像を拡大する画像を拡大する病診連携で重症COPD患者をレスキュー薬物療法、呼吸リハビリテーション、HOTを行いながらも手の施しようがない重症COPDは相当数いるのではないかと田宮氏は言う。高度な呼吸機能検査ができない施設では、mMRC質問票のGrade2以上、スパイロメーターで1秒率45%以下がBLVR適用の目安である。「BLVRは酸素を吸ってもどうにもならないという状態になる前にレスキューできる治療法。この治療に適用があるかはスクリーニングしてみないとわからない。(mMRC2以上の)症状があってこの治療に興味を示す患者さんがいれば、どんどん紹介していただきたい。ボディボックスなど精密な検査、治療、術後定期検査は当方で行った上で、吸入薬、HOTの管理などはかかりつけの先生にお任せしたい」と田宮氏はいう。治療方法が見つからない重症COPD患者に希望をもたらす新たな治療BLVRが普及していくには、専門施設とかかりつけ医の協同が欠かせないようだ。参考1)日本WHO協会2)NICE study3)Oishi K et, al. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis. 2018:13:3901-3907.4)Criner GA et,al.Am J Respir Crit Care Med.2018;198:1151-1164.5)Valipour A et, al.Am J Respir Crit Care Med.2016;194:1073-1082.6)呼吸器学会 重症COPDに使用する気管支バルブの適正使用指針気管支バルブ治療情報サイト(pulmonx社)Zephyr気管支バルブ製品ページ(pulmonx社)(ケアネット 細田 雅之)

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自然の中での運動は屋内での運動よりも有益

 公園での散歩や小道を自転車で走るなどの自然の中で行う運動は、室内で行う運動よりも有益である可能性が、新たなレビューで示唆された。ただし、公共の自然エリアへのアクセスは地域により異なり、全ての人が屋外で運動できるわけではないと研究グループは指摘している。米テキサスA&M大学健康・自然センターのJay Maddock氏とHoward Frumkin氏によるこの研究の詳細は、「American Journal of Lifestyle Medicine」に5月11日掲載された。 Maddock氏らは本研究の背景説明の中で、現在、米国成人の4人に3人以上が推奨されている1週間の運動量を確保できていないと述べている。同氏らは、このような運動は、心臓病、糖尿病、一部のがん、骨粗鬆症などの慢性的な健康問題の予防に役立つ上に、免疫機能を高め、気分を改善し、痛みのコントロールを助け、寿命の延長にもつながると説明している。 この研究では、屋内運動との比較で屋外運動の利点を検討した先行研究のデータが分析された。その結果、屋外での運動には、気分や脳機能の改善や社会的交流の向上、運動することの楽しさの増大、労作感の軽減など、さまざまな利点のあることが明らかになった。ただし、これらの先行研究は1年未満という短期間で認められる結果に焦点を当てたものであり、得られた利点が長期的に蓄積されるかどうかは不明であるとMaddock氏らは説明している。 また、特定の集団は公園や緑地などの自然空間で運動するのが困難なことも分かった。例えば、地方では私有地が多いため、自然空間へのアクセスが少ないことが多いのだという。この点についてMaddock氏は、「例えば、公園から半マイル(約800m)以内の距離に住んでいる住民は、イリノイ州では98%近くに上るのに、ミシシッピ州ではわずか29%にとどまる」と述べている。 さらに、男性は女性よりも、公園や自然空間を利用する傾向が強いことも明らかになった。Maddock氏らは、これは、おそらく安全性への配慮に由来する結果だとの見方を示している。このほか、ロサンゼルスを拠点とするある研究によると、黒人の成人は白人、ラテン系、アジア系太平洋諸島民の成人よりも自然空間で運動する人が少ないことや、子ども、高齢者、障害を持つ人々は自然空間へのアクセスに課題を抱えていることなども明らかになった。Frumkin氏は、「公園やその他の自然空間を、容易に移動できる安全な空間とし、適切なプログラムを用意することで、そのような環境の利用を増やすことができる」と述べている。 こうした結果を踏まえてMaddock氏とFrumkin氏は、医師は患者に公園や自然空間を「処方」することを検討すべきだと主張している。Maddock氏は、「患者に自然の中で過ごす時間を増やすように勧めることは、自然処方、あるいは『ParkRx』として知られている。今後、研究を重ねる必要はあるものの、これまでの研究ではこのアプローチが効果的であることが示唆されている」と述べている。 Maddock氏らはさらに、医療専門家は、公園や緑地の造成・維持のための資金援助や、それらの利用を促進する地域社会の取り組みを手助けすることもできると話す。Maddock氏は、「公園や自然空間を身体活動に利用することは、運動することと自然の中で過ごすことという2つの重要な健康行動を同時に促進する強力な手段となり得ることは明らかだ。米国人の大多数が運動不足で、屋外で過ごす時間も不十分であることを考慮すると、これは特に重要な可能性がある」と述べている。

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中等度~重度の外傷性脳損傷アウトカム、非制限輸血vs.制限輸血/NEJM

 貧血を伴う重度の外傷性脳損傷患者において、非制限輸血戦略は制限輸血戦略と比較して6ヵ月後の不良な神経学的アウトカムのリスクを改善することはなかった。カナダ・ラヴァル大学のAlexis F. Turgeonらが、無作為化比較試験「Hemoglobin Transfusion Threshold in Traumatic Brain Injury Optimization pragmatic trial(HEMOTION試験)」の結果を報告した。重度の外傷性脳損傷患者のアウトカムに対する制限的輸血戦略と非制限輸血戦略の有効性は不明であった。NEJM誌オンライン版、2024年6月13日号掲載の報告。6ヵ月後の神経学的アウトカム不良について比較検証 HEMOTION試験は、カナダ、イギリス、フランス、ブラジルの神経集中治療専門の外傷センター34施設で実施された、PROBE(Prospective Randomized Open Blinded End-Point)デザインの試験である。 研究グループは、中等度または重度の外傷性脳損傷(グラスゴー昏睡尺度[GCS、スコア範囲3~15で低スコアほど意識レベルが低いことを示す]スコア3~12)および貧血(ヘモグロビン値10g/dL以下)の18歳以上の患者を、非制限輸血戦略群(非制限群)と制限輸血戦略群(制限群)に1対1の割合で無作為に割り付けた。 非制限群では、ヘモグロビン値が10g/dL以下で、制限群ではヘモグロビン値が7g/dL以下で赤血球輸血を行った。 主要アウトカムは、拡張グラスゴー転帰尺度(Glasgow Outcome Scale-Extended[GOS-E]、スコア範囲:1[死亡]~8[上位の良好な回復])の評価に基づく6ヵ月後の不良なアウトカムであった。ベースライン時点で各患者の予後を3つのリスクレベル(最悪、中間、最良)に分類し、6ヵ月後のGOS-Eスコアがそれぞれ3、4、5以下であった場合に不良なアウトカムと定義した。 副次アウトカムは、6ヵ月以内の死亡、機能的自立度(Functional Independence Measure[FIM])、QOL(EQ-5D-5Lなど)、うつ病(Patient Health Questionnaire-9[PHQ-9])などであった。主要アウトカムに両群で有意差なし 2017年9月1日~2023年4月13日に、計742例が無作為化され(各群371例)、722例が主要アウトカムの解析対象集団となった。集中治療室(ICU)におけるヘモグロビン値(中央値)は、非制限群では10.8g/dL、制限群では8.8g/dLであった。 不良なアウトカムは、非制限群では364例中249例(68.4%)、制限群では358例中263例(73.5%)に認められた(制限群と非制限群の補正後絶対群間差:5.4%、95%信頼区間[CI]:-2.9~13.7)。 6ヵ月死亡率は非制限群26.8%、制限群26.3%(ハザード比:1.01、95%CI:0.76~1.35)であった。6ヵ月時の生存例において、非制限群は制限群と比較し機能的自立度やQOLの一部で良好なスコアが得られたが、輸血戦略と死亡率またはうつ病との間に関連性は認められなかった。 静脈血栓塞栓症の発現率は各群8.4%で、急性呼吸窮迫症候群は非制限群で3.3%、制限群で0.8%に発現した。 なお、著者は研究の限界として、貧血患者のみを募集し、より重度の外傷脳損傷患者を対象としたこと、ベースラインでいくつかの予後変数を含む両群間の不均衡が確認されたこと、治療の割り付けに関して診療チームに対する盲検化はできなかったことなどを挙げている。

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高齢者総合機能評価(CGA)に基づく診療・ケアガイドライン2024

高齢者に関わるすべての医療介護福祉専門職へ!超高齢社会を迎えたわが国では、CGAによる包括的・全人的な評価と、それに基づいた個別化された医療・ケアの提供が求められている。多職種協働により取り組む必要があり、CGAはその共通言語となる。本ガイドラインは、医師だけではなく高齢者に関わる医療介護福祉関係の多職種向けに作成した。診療やケアに幅広く活用いただきたい。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する高齢者総合機能評価(CGA)に基づく診療・ケアガイドライン2024定価1,980円(税込)判型B5判頁数102頁発行2024年6月編集長寿医療研究開発費「高齢者総合機能評価(CGA)ガイドラインの作成研究」研究班日本老年医学会国立長寿医療研究センターご購入はこちらご購入はこちら

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心房細動とその合併症の生涯リスクの2000~22年における経時的変化:デンマークの一般住民を対象とした全国規模のコホート研究(解説:原田和昌氏)

 これまで心房細動発症後の患者ケアでは脳卒中リスクに最も焦点が当てられてきた。しかし、脳卒中だけでなく心不全、心筋梗塞などの心房細動合併症の長期的な影響についても知る必要がある。心房細動の生涯リスクの経時的変化と、心房細動発症後の合併症の生涯リスクの経時的変化を、DOAC上市前後のコホートで調べた。 2000年1月1日から2022年12月31日までのデンマークの一般住民を対象とした全国規模の登録研究において、45歳以上の心房細動を有しない350万人(女性51.7%)が、心房細動の発症、転居、死亡、または調査の終了のいずれか早い時点まで追跡された。心房細動を発症したが合併症のない36万2,721人(女性46.4%)について、心不全、脳卒中、または心筋梗塞の発症を追跡した。主なエンドポイントは心房細動の生涯リスクと、心房細動発症後の合併症の生涯リスクである(2000~10年と2011~22年を比較した)。 心房細動の生涯リスクは、2000~10年の24.2%から2011~22年の30.9%へと増加した(差:6.7%、95%CI:6.5%〜6.8%)。心房細動発症後、最も頻度の高い合併症は心不全であり、その生涯リスクは2000~10年で42.9%、2011~22年で42.1%(-0.8%、-3.8%〜2.2%)であった。脳卒中、心筋梗塞がこれに続いた。心房細動発症後の脳卒中および心筋梗塞の生涯リスクは、脳卒中で22.4%から19.9%(-2.5%、-4.2%~-0.7%)、心筋梗塞で13.7%から9.8%(-3.9%、-5.3%~-2.4%)とわずかに減少した。男女で差を認めなかった。 心房細動の生涯リスクは、20年間の追跡調査で増加した。心房細動診断後の残りの人生で、約5人に2人が心不全を発症し、5人に1人が脳卒中を発症した。これらはDOACの時代になってもわずかしか改善していない。心房細動の生涯リスクの増加は検出感度の上昇や社会の高齢化、心不全や心筋梗塞後における寿命の延長が寄与している可能性がある。 デンマークでは85%以上の心房細動患者が経口抗凝固薬を開始され、2年後の継続率が85%以上である。虚血性脳卒中の生涯リスクに限れば16.1%から10.8%(-5.2%、-6.7%~-3.8%)に減少していたが、これはわが国のANAFIE registryにおける、脳卒中または全身性塞栓症の発現割合(/100人・年)の経口抗凝固薬非投与群2.00、DOAC承認用量投与群1.40に相当するものと考えられる。この研究の結果から、危険因子や体重への介入、リハビリテーション、抗凝固薬以外の薬の開発など、心房細動発症後の脳卒中のリスク低下と心不全の予防を目指したさらなる治療戦略が必要と考えられる。

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ライフステージごとの運動で健康寿命の延伸を目指す/日医

 日本医師会(会長:松本 吉郎氏[松本皮膚科形成外科医院 理事長・院長])は、定例会見を開催し、運動・健康スポーツ医学委員会(委員長:津下 一代氏[女子栄養大学 特任教授])の「令和4・5年度の運動・健康スポーツ医学委員会答申」ならびに医師会としてスポーツ庁長官の室伏 広治氏へ要望書を提出したことを常任理事の長島 公之氏(長島整形外科院長)が説明した。住民の健康寿命延伸は地域の多職種の連携で実現する 今回の答申は、「『健康スポーツ医学実践ガイド』(2022年6月発行)と『運動・スポーツ関連資源マップ作成』を通じて促進する地域の多職種連携について」と題され、全国の医師会を中心に医師と他の医療職種と地域が協同して、運動やスポーツを通じ、住民の健康寿命の延伸を目指す取り組みを記している。 とくに答申では、「学校医や産業医、かかりつけ医が運動について効果的に助言することが望ましい」とされ、「とくに慢性疾患を有する者に対しては、診察時に運動実施状況を確認し、助言、励まし、賞賛することが重要」としている。 『健康スポーツ医学実践ガイドの活用』では、健康スポーツ医と運動指導者の多職種連携推進講演会や健康スポーツ医学実践講習会などにおける普及を念頭に活用が期待されている。また、「運動・スポーツ関連資源マップ作成」では、令和4年度にマップ実用化に向けた事業として、規模の異なる4都市(岩手県北上市、千葉県館山市、東京都狛江市、大分県)をモデル地域としてマップ作成の試行事業を実施した結果、課題として地域のキーパーソンによるところが大きいこと、助成終了後にも機能する仕組みがないと行政は着手しにくいことなどが説明された。今後、課題解決のため、運動施設の情報を自動更新にすること、大手スポーツクラブなどは本部などの中央から積極的に情報提供すること、患者(住民)個人を中心に支援者をひも付けし情報提供できるようにすることなど対策が提言されている。 ライフステージ・対象別にみた運動については、下記のように課題と対策を述べている。(1)子供たちなどの学校保健 運動器検診により子供たちは、「運動過多」と「運動不足」で運動習慣が二極化している。運動器検診の実施では健康スポーツ医の参画や学校長のリーダーシップのもと、運動器の健康に興味を持ってもらうことが必要。(2)勤労世代などの産業医が押さえておきたい健康スポーツ医学 労働者では、身体活動量が低下することで起こる心身の不調が労働生産性の低下をもたらす。さらに業務範囲の拡大やメンタルヘルス不調により、労働経済にも悪影響を与える。疾病予防と生産性向上のため、労働環境の見直し、日常生活に密着した身体活動の向上が必要で、具体的には、休憩時間のストレッチ指導を組み入れることなど産業医からの提案も必要。(3)高齢者など介護予防・リハビリテーションにおける地域連携 身体不活動や運動不足は、非感染性疾患による死亡に影響する因子として、わが国では喫煙・高血圧に次いで3番目の危険因子とされている。国民に身体活動・運動の重要性が認知され、実践されることが健康寿命の延伸に必要である。そのため1次予防(健康増進、疾患予防)、2次予防(早期治療、重症化予防)、3次予防(再発防止)に、介護予防(フレイル対策、介護悪化抑制)を加えた横断的な健康作りの体制が必要。 最後に「健康スポーツ医学実践ガイドのさらなる活用に向けた提言」として研修会・講習会の開催、実践ガイドの各項目に対応した動画の作成、新しいコンテンツの導入が記述され、「運動・スポーツ関連資源マップの作成について」の提言として、スポーツ医などの地域の医師会活動、スポーツ庁や厚生労働省への提言などが今後の取り組みとして記されている。

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第217回 バリアフリーはどこにある!?車いす介助から見えた現実

「百聞は一見に如かず」とはよく言ったものである。今まさに人生初の経験をしている。車いすの使用である。といっても自分自身が車いすを利用することになったわけではなく、父親の介助者としてだ。以前、本連載でも触れたが、80代後半の両親は今も健在で、父親は軽度認知障害(MCI)持ちで歩行も亀の歩み状態となっている。それでも父親の出掛けたがりな性分は変わらず、それに付き添う母親のイライラが募った結果、私と母親は折り畳み式の軽量車いすの利用を検討し始めていた。ただ、前述の本連載バックナンバーでも触れたように、介助者である母親が納得するものを見つけるという段階で停滞を余儀なくされた。ところが利用しなければならない事態が現実に発生してしまったのだ。父親の容態ちょうどゴールデン・ウイーク(GW)が始まる1週間前のことだった。いつもより早く目が覚めた私は、ジムで小一時間運動し、シャワールームで汗を流して脱衣所に戻ると、スマートフォンに実家近くに住む薬剤師の親戚からLINE通話の着信があったことに気付いた。朝から何だろうと思ってそのまま体を拭いていると、今度は母親から電話の着信。何かあったと直感的に思った。母親には以前から「生死にかかわること以外で日中に音声電話をかけてこないこと」と言い含めていたからだ。急いで電話を受けると、「詳細はLINEに送ってあるから。お父さん、今、病院に救急車で向かっている」と一気にまくしたてられた。母親の声の背後に救急車のサイレン音がかぶさっていた。「わかった。また、連絡頂戴」と言って、一旦電話を切った。そのままLINEを立ち上げてメッセージを確認すると、「しゃべりなくなって救急車で市立病院に向かっている。体は元気(原文ママ)」とのメッセージ。わかるような、わからないような。即座に「脳梗塞か」とだけLINEメッセージを返し、急いで服を着て事務所に戻った。道すがら前述の親戚に折り返し、どうやら「起床後に(父親の)足が浮腫んでいた」と母親が彼に話していたことを知った。事務所に到着した時点で母親から新たなメッセージが着信していた。「一時的に、梗塞したようで(救急)車の中で回復した。病院について診察受けている、大丈夫だと思う」私はこの日、午前10時と午後1時からオンラインでの打ち合わせがあったが、安定した通信状態が必要なので、それが終わるまで事務所は動けない。昼直前に母親から「脳梗塞が見つかり、入院になった」とのLINEメッセージが着信した。午後の打ち合わせを終え、そこから不在に備えた雑務を諸々こなして、仙台駅に到着したのは6時過ぎ。父親と面会できたのは翌日だった。面会時はちょうど理学療法士がついてリハビリ中。横で眺めていると、結構キチンとやり取りし、手足も動いている。理学療法士が去ってから、父親が起き上がってベッドの端に腰掛け、「この姿勢のほうが耳がよく聞こえる。ワハハ」と元気そうだった。主治医からは、アテローム血栓性脳梗塞で搬送時のNational Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS)スコアは1。血栓回収療法は行わず、抗血小板薬の内服のみで対応しているが、経過観察や検査のため10日間の入院と説明を受けた。結局、私はそのままGW半ばまで病院にアクセスの良い市内のホテルに滞在し、毎日父親を見舞った。退院日には再び医師の説明を受け、軽度の心房細動が確認されたため、今後は内服薬を抗血小板薬から抗凝固薬へ切替えるとの方針が告げられた。駅構内・ホームで悪戦苦闘!最終的に後遺症もなく退院に漕ぎ着けたのだが、10日間の入院の結果、教科書通りなのかもしれないが、歩行力が低下してしまった。入院前から通所リハビリは利用していたが、母親が利用先の理学療法士から聞いた話によると、退院後は以前よりもふらつくシーンがやや増えたとのこと。このため母親が急遽ケアマネジャーに相談し、遠出をする時のことも考慮して、折り畳み式の軽量車いすをレンタルすることになったのだ。軽量車いすが実家に届いたのは5月末。そのため父親の状態確認と車いす介助を経験するため、私は帰省することにした。父親は自宅内や自宅近傍は自力歩行をしていたが、やや距離があるところに出かける時は車いすを使っていた。そして実家には今回レンタルした軽量車いすのほかに前述の親戚から譲り受けた車いすがあり、母親は仙台市内などの繁華街に出かける時は前者、地元の街中を移動するときは後者と使い分けていた。実際に介助してみると、なかなか大変である。どちらの車いすもまだ50代の私にとって重量面で堪えることはないが、非日常の車いす操作に伴い、さまざまな“ケアレスミス”が生じる。たとえば、父親の車いすを押しながら駅の自動改札を抜けた時のこと。改札の幅に問題はなく、父親は車いすに座ったまま自分の交通系ICカード(以下、ICカード)を自動改札に見事にタッチ(実はMCIだとこの自動改札のタッチを本人が忘れたりする)。ピッと音が鳴りホッとしてそのまま改札を通過した。実はここですでに“ミス”が発生していた。この時は母親も一緒にいたため、「あんた(私のこと)、自分のICカードは?」と言われてハッとした。父親のことに集中するあまり自分のICカードのタッチを忘れてしまっていたのだ。そのままホームに進む。以前は父親とこうして出かける時は、父親本人はシルバーカーを押していたので、改札前の歩行距離が最短で済む乗降口に並んでいた。この時も車いすを押しながらいつものようにその場所に並ぼうとすると、母親から「こっち!」と改札から少し離れた対抗ホームに向かう階段近くにある乗降口へと誘導された。「何でだろう?」とやや不思議に思ったが、電車が到着する2分ほど前にようやく理由がわかった。母親から促されて父親が電車に乗るために車いすから立ち上がる。最寄り路線を走るJRの車両はいまもドアが開いたところに大きな段差があるため、乗降時は車いすのままとはいかず、父親も自力歩行をしなければならない。そのために父親が車いすから立ち上がる際、足腰が弱った父親が不安定な車いす本体以外で支えとして掴まえることができるポールが、この階段脇の乗降口にしかなかったのだ。父親が立ち上がる直前に私は手早く車輪のブレーキをかけ、車いすを折り畳んで2人の後に続いた。この辺の操作を覚えることは何の苦もない。車内に乗り込むと、母親の指示で折り畳んだ車いすをシルバーシート脇の車両連結部付近にある広めのスペースに置いた。そして自分も両親の真向かいの席に座り、ホッと一息ついてから「あれ?」となった。というのも車いす導入後、母親はすでに父親と車いすを電車に乗せ、仙台市内の繁華街まで何度か出かけている。母親と2人がかりですら、気の抜けない作業だと私が思っていた「駅到着~電車に乗り終える」までの一連の作業を、母親はこれまで1人でこなしていたことに気付いたからだ。80代後半の小柄な母親にとってはかなり大変な作業なはずなのに。仙台駅に到着後は、私が軽量車いすを先に抱えて降りて、ホーム上で展開し、母親の介助で降りてきた父親を乗せ、ホーム中ほどにあるエレベーターまで移動。そこで改札階に上がり、3人で改札を抜ける。この時は私も忘れずICカードをタッチした。駅でのバス乗降、何が大変かって…父親のかかりつけ歯科医院の受診日のこと。とりあえず母親が路線バスで行ってみたいというので、仙台駅の有名なあのペデストリアンデッキ上を車いすを押しながら移動した。バスターミナルへはデッキから階段で降りていくことになる。幸いエレベーターはあったが、実はこれも大変。というのも駅舎からバス乗り場までの最短距離にある階段そばにはエレベーターはなく、デッキ上を大回りで移動してエレベーターがある場所まで移動して乗り場に降りることになった。バス乗り場では車いすに乗った父親の姿を見つけた係員が親切に誘導してくれ、事なきを得てバスに乗り込めた。しかし、折り畳んでもそれなりに大きさのある車いすを車内で保持しながらの移動は決して楽ではなく、人目もやや気になってしまう。目的地のバス停到着時は電車と同じく私が先行して降車し、母親に介助されながら降車した父親を車いすに乗せて、歯科医院まで私が歩道上を押して歩いた。何でもない作業に思っていたのだが、実はこれがそうでもない。歩道の所々には沿道から車両用の横断勾配があるのだが、この勾配に片輪でもかかると、かなりバランスが崩れる。自分は両親と比べまだ若いからとやや過信していたが、勾配でのバランス制御は介助者が車いすを押す力の多寡だけで解決するのはやや無理がある。そして目的地の歯科医院に到着すると、入口は道路の縁石からやや上方に傾斜したところにあった。そのまま前輪を浮かすように傾斜に乗り上げて前進しようとするもうまくいかない。結局、母親のアドバイスに従い、180度回転させ、引き上げるようにして傾斜を上ることになった。認知症カフェ参加、役所までヒヤヒヤそしてこの翌日には、実家近くの役所で開かれる認知症カフェに参加するため、役所まで再び父親を車いすに乗せて連れて行くことなった。この時に使用したのは親戚から譲り受けたほうの車いす。実家から役所までは2ルートあるのだが、母親からは歩道が綺麗に整備されたルートではなく、農道を拡張したルートを行くように指示された。曰く、前者はあの横断勾配が多くバランスを崩しやすいのだという。すでに前日にこの件は経験済みだったので、アドバイスに従うことにした。もっとも後者のルートは専用の歩道はなく、すぐ脇をビュンビュン乗用車が通り過ぎる。しかも路面の舗装は排水性アスファルトと呼ばれる粗い舗装のため、車いすに乗る父親には路面からのガタガタとした振動がまともに伝わってしまう。父親は文句ひとつ言わずに黙って乗っていたが。そして目的地の役所建物の目の前で車道から歩道に入ろうとしたところで。またガツンとやってしまった。ちょうど車道から歩道の境目は極めて緩やかなV字状で歩道の縁石も申し訳程度に隆起していた(後に現場まで行って定規で計測したところ2cm弱)のだが、前進ができない。結局、昨日の歯科医院前と同じく180度回転し、歩道側に引き上げるように車いすで乗り込み、再び180度方向転換して進み、無事、役所に到着した。背後からついてきた母親が「バリアフリーって歩行できる人のためのもので、車いすを使う人のものではないんだよね」と漏らした。同感だった。医療機関や介護施設ならば、車いすも想定したバリアフリーになっているだろうが、市中は必ずしもそうとは言えないのだ。明日はわが身、車いす介助者による事故そんなこんなもあって車いすについて調べるうちに行き着いたのが、独立行政法人製品評価技術基盤機構のホームページである。同機構は各種製品の安全関係に関する調査事業も行っており、そこでは報告のあった製品事故に関する情報も検索ができる。私が「車いす」のキーワードで検索すると、2019~22年に6件(電動車いすは除く)の報告があった。これはあくまで機構に報告があったものであり、世で起きた車いすに伴う事故の本当にごく一部だろう。いずれもリコールなどに該当する製品そのものの不具合ではない。どちらか言うと使用(介助)者側のミスなどに起因する。6件中4件は死亡事故だ。そのうちの1件の事故詳細を読んでいて何とも言えない気持ちになった。事故の詳細は施設介護者が入浴後の使用者を車いすに移乗させ、左足をフットサポートに乗せようとしたとき、車いすのバックサポートの後方に頭を倒していた使用者もろとも後方に転倒。そのまま使用者が亡くなったという事例である。使用者の姿勢もあり、左足をフットサポートに乗せようと持ち上げた時に重心が偏って起こった事故だ。不注意と言われればそれまでだが、介護者に悪意はまったくない。施設勤務介護者ですらこの状況なのだから、家族介護者で同様の事故が起こっているであろうことは容易に想像がつく。また、ある1件は介助者が、使用者の乗車した車いすを車いす用体重計に乗せるため前輪を上げる(浮かす)操作後に前進し、車いすが大きく傾き使用者が転落・負傷したという事案。まさに私が路上の縁石前で父親の車いすで行おうとしたこととほぼ同じ操作で事故は起きている。結局、介助者の「このくらい」という悪意のない行動が事故に結び付いているのだが、同時に私の少ない経験ながらも市中にはそうした操作を“強いられてしまう”現場があちこちにある。過去から比べれば世の中は進展しているとはいえ、私たちはまだ真のバリアフリー社会への途上にあるのだと改めて実感させられている。

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日本の大学生の2割がロコモ

 日本の大学生400人以上を対象とした研究の結果、ロコモティブシンドローム(ロコモ)の有病率が20%を超えていることが示された。また、ロコモと関連する要因は男性と女性で違いがあることも明らかとなった。国際医療福祉大学理学療法学科の沢谷洋平氏、同大学医学部老年病学講座の浦野友彦氏らによる研究であり、「BMC Musculoskeletal Disorders」に5月10日掲載された。 ロコモは、運動器の障害により起立や歩行などの移動機能が低下した状態であり、ロコモが進行すると最終的には介護が必要となる。若年者にも一定の割合でロコモの兆候が見られると報告されているが、10代~20代の若年者を対象とする研究は不足している。また、男性と女性では筋力や体格に違いがあるため、ロコモと関連する要因も性別により異なる可能性がある。 そこで著者らは、医療・福祉を学ぶ大学生413人(平均年齢19.1±1.2歳、男性192人)を対象とする横断研究を2023年4月~7月にかけて実施。日本整形外科学会の基準に準拠し、立ち上がりテスト(下肢筋力)、2ステップテスト(歩幅)、ロコモ25(体の状態・生活状況)の3つの「ロコモ度テスト」を行い、ロコモが始まっている「ロコモ度1」、ロコモが進行した「ロコモ度2」、ロコモがさらに進行して社会参加に支障をきたしている「ロコモ度3」に該当するかどうかを判定した。筋骨格系・身体組成の評価や、身体活動・栄養摂取習慣の調査などを行い、ロコモと関連する要因を男女別に検討した。 その結果、413人中86人(20.8%)がロコモと判定され、そのうちロコモ度1が83人、ロコモ度2が3人だった。性別の内訳は男性が31人(16.1%)、女性が55人(24.9%)であり、ロコモの有病率は女性の方が有意に高かった。 男性では、ロコモの人とロコモでない人の間で、片脚立ち(5秒以上)ができない人の割合および位相角(骨格筋の質の指標)に有意な差が見られた。一方、女性の場合は、体脂肪量、体脂肪率、骨格筋量指数(SMI)、運動器の痛み、握力に有意差が認められた。 次に、ロコモであることを従属変数、ロコモの人とロコモでない人で有意差のあった項目(女性の体脂肪量は除外)を独立変数とする二項ロジスティック回帰分析を行い、ロコモと関連する要因を解析した。その結果、男性では片脚立ちができないこと(オッズ比7.326、95%信頼区間2.035~26.370)、女性では運動器の痛み(同2.985、1.546~5.765)および高い体脂肪率(同1.111、1.040~1.186)が、ロコモと有意に関連していることが明らかとなった。 今回の研究で20.8%の人がロコモに該当したことから、若年期よりロコモの予防策を実施し、健康寿命を延ばすことの重要性が示された。著者らは、生活習慣の質はロコモの関連要因として示されなかったことを挙げ、中高年者との違いにも言及している。若年者のロコモの予防策として、「男性ではバランス能力を高めること、女性では体幹の筋肉を強化することが効果的である可能性がある」とし、さらに、「運動器の痛みについて整形外科専門医に相談し、適切な治療を受けることも重要だ」と述べている。

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米国てんかんセンター協会がガイドライン改訂

 米国てんかんセンター協会(National Association of Epilepsy Centers;NAEC)はこのほど、てんかんセンターが提供する医療に関するガイドラインを改訂。米ホフストラ大学ザッカー医学部のFred A. Lado氏らが作成したガイドラインの要約版が、「Neurology」に2月2日掲載された。 NAECは米国内の260以上のてんかんセンターが加盟している非営利団体で、1990年に初のガイドラインを発行。初版発行以降、約10年サイクルで改訂を重ねてきており、前回の改訂は2010年だった。今回の改訂に際してはPubMedとEmbaseを用いたシステマティックレビューが行われ、重複削除後の5,937報から197報を抽出。医師、患者、介護者、看護師、検査技師などさまざまなバックグランドを持つ41人から成る委員会が、それらの報告に基づき推奨の草案を作成。その後、修正デルファイ法によって最終的な合意を得るという手法により、信頼できるコンセンサスベースの推奨(trustworthy consensus-based statements;TCBS)として52項目がまとめられた。 52項目の推奨事項は、診断、外来、入院および脳波モニタリングユニット(epilepsy monitoring unit;EMU)、手術に大別され、外来については、診療、薬物管理、患者教育、食事療法、リハビリテーション、心理社会的支援などに細分化されている。推奨事項のいくつかを具体的に挙げると、例えば診断の項目では、全てのてんかんセンターは遺伝子検査が有用と思われる患者を選別するための確立されたプロトコールを持つべきであり、認定カウンセラーによる遺伝カウンセリングを提供する必要があるとしている。また外来での心理社会的支援としては、てんかん患者に生じ得る教育的、社会的、感情的、職業的な障害を把握し対処するために、全てのてんかんセンターには臨床ソーシャルワーカーを配置すべきとの項目が掲げられている。 今回のガイドライン改訂の背景について、筆頭著者であるLado氏は、「医学が進歩していることに加え、近年では発作の管理にとどまらず、患者の総合的な健康や幸福について介入が求められるように環境が変化してきた。不安症やうつ病などの併存疾患のケア、患者-ケアチーム間のコミュニケーションの強化なども、今では欠くことができない。てんかんセンターやその他の医療機関が、質の高い包括的ケアを提供する上で必要なリソースを確保するためにも、ガイドラインの拡充が切に必要とされていた」と語っている。 なお、2人の著者が製薬企業および医療テクノロジー関連企業との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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第216回 異例の承認「外傷性脳損傷による運動麻痺」の改善薬

6月21日夜、私が接したのは異例中の異例の結論だった。国内バイオベンチャー・サンバイオが中等度から重度の外傷性脳損傷後の運動機能障害の改善を適応として申請中の再生医療等製品「アクーゴ脳内移植用注」(一般名:バンデフィテムセル、開発番号:SB623、以下は開発番号で表記)について、厚生労働省(以下、厚労省)の薬事審議会の再生医療等製品・生物由来技術部会*(以下、部会)は、再生医療等製品特有の条件および期限付承認を了承したが、端的に言うと「承認するが、当面出荷は認めず」という“玉虫色”の結論を出したのである。*旧薬事・食品衛生審議会、本年4月より改称SB623とは外傷性脳損傷は、交通事故、労働災害や高齢者のふらつきなどによる転落・転倒、スポーツ外傷などによって起こり、脳の神経細胞の損傷が著しい1割程度の中等~重度の患者では慢性的な記憶障害や運動機能障害などに至ってしまう。運動機能障害の症状は手足の動きの鈍化、嚥下機能の低下、円滑な発話が困難などで日常生活におけるQOLは大幅に低下する。外傷性脳損傷による慢性的な運動機能障害は、現状ではリハビリテーション以外にほぼ治療手段はない。そうした中で2001年に米国・カリフォルニア州で設立されたサンバイオ(2014年、日本に本社移転)が創業以来、開発に注力してきたのがその治療薬SB623である。SB623は健康成人骨髄液由来の間葉系間質細胞を加工・培養して作製されたヒト(同種)骨髄由来加工間葉系幹細胞。これを定位脳手術で脳内の損傷した神経組織へ直接移植手術を行うことで、脳神経再生能力を促し、喪失した運動機能を回復させる効果が見込まれている。損傷した脳の神経細胞の復元がきわめて難しいことは一定の医学知識があれば容易に想像がつくが、そこに挑んだのがSB623である。サンバイオが日本に拠点を移動した2014年11月には国内再生医療等製品に関する早期承認(条件および期限付承認)制度がスタート。同制度は、アンメットメディカルニーズゆえに被験者数の確保が難しく、二重盲検比較試験実施も困難な再生医療等製品について、有効性が推定され、安全性が認められた再生医療等製品を、条件や期限を設けたうえで早期承認する仕組み。承認後は製造販売後使用成績調査や製造販売後臨床試験を計画・実施し、7年を超えない範囲で有効性、安全性を検証したうえで、期限内に再度承認申請して本承認(正式承認)を取得する。株価に期待や不安が織り交ざる先進国内で最も再生医療等製品の上市ハードルを低くしたともいえる同制度は、サンバイオのSB623開発にとって追い風だったことは想像に難くない。同社は2015年に東京証券取引所マザーズ市場(現・グロース市場)に上場を果たし、2018年11月には外傷性脳損傷を対象にしたSB623の日米共同第II相「STEMTRA試験」で主要評価項目の達成を発表。2019年1月に同社株価は1万2,730円と上場以来の最高値を記録した。ただ、当時の株価急上昇は外傷性脳損傷でのポジティブな試験結果とは別の要因も働いていたと考えられる。というのも同社創業直後から、SB623は外傷性脳損傷よりはるかに市場規模が大きい慢性期脳梗塞での運動機能障害を適応とする臨床試験が先行していたからだ。つまり2018年11月の速報結果発表以降の株価の急上昇は、脳梗塞での試験成功への期待値も織り込んでいたというのが、関係者の間では共通認識だった。しかし、上場後の株価最高値を記録した2019年1月末、同社は業績予想の下方修正と脳梗塞で進んでいた第II相試験の主要評価項目未達を相次いで発表。翌2月に株価は反転急落し、同月最安値は2,401円にまで落ち込んだ。ところがこの3ヵ月後の2019年4月、外傷性脳損傷後の運動機能障害の改善の適応に関してSB623が厚生労働省の先駆け審査品目に指定を受け、再び期待が高まることになった。「先駆け審査指定制度」の法制化3年後に申請先駆け審査指定制度は、2014年6月に閣議決定された産業競争力の強化を通じ日本の成長戦略「日本再興戦略改訂2014」で謳われた「世界に先駆けた革新的医薬品・医療機器等の実用化の推進(先駆けパッケージ戦略)」を受け、2015年度から厚生労働省と医薬品医療機器総合機構(PMDA)が試行的に開始。2019年の薬機法改正で法制化された。同制度は(1)治療薬の画期性(2)対象疾患の重篤性(3)対象疾患に係る極めて高い有効性(4)世界に先駆けて日本で早期開発・申請する意思・体制、の4条件を満たす開発中の医薬品を、企業の申請に基づき薬事審議会での意見聴取などを考慮して指定する。指定を受けた医薬品は、申請前に事前にPMDAによる優先相談や事前評価を受けられ、申請から原則6ヵ月以内に承認可否が下されるなどの“特典”がある。そしてついに同社は2022年3月、「外傷性脳損傷に伴う慢性期の運動麻痺の改善」の適応で承認を申請。同制度の原則に基づけば2022年9月には承認可否が決定しているはずだったが、同年8月までに開催された2回の部会の議題には上らず、7月22日付で同社は9月までに先駆け審査制度に基づく承認の見込みはないとのプレスリリースを公表し、10月には「今期中の承認取得はないものと判断しています」とのプレスリリースも発表した。この中身が明らかになったのは2023年3月に行われた同社決算会見。同社が「細胞の製造の際に申請時点と比較して収量が減少する課題が発生した」と公表し、以後、同社のプレスリリースではこの点に関する情報発信が以下のように変化していった。「現時点ではまだ、申請時点と同等の収量に戻り切っていませんが、直近の製造を通して得られた追加データに基づく原因分析の結果、課題解決に直結すると考えられる施策を策定することができました。現在、この施策を講じた上で製造を行っており、8月にこの製造の収量結果をもって課題解決の判断ができる見込みです」(2023年6月)「収量に関する課題について、施策を講じた直近の製造において、収量の改善を確認することができました。今後、追加製造と並行して、生産関連の審査に適時適切に対応していくことで、引き続き、今期中の承認取得を目指します」(2023年8月)「収量に関する課題については解決し、審査は進捗しております。但し、審査の状況から承認取得にはもう少し時間を要するため、承認取得目標時期は2024年3月に修正いたします」(2023年12月)承認審議、そこから明らかになった課題そして今年3月18日、厚労省が3月25日の部会開催を発表し、その議題には「非公開案件 議題2 再生医療等製品『アクーゴ脳内移植用注』について」と記載されていた。「うわっ!承認審議か」と私も含め多くの記者が色めき立ったが、翌日の一部専門紙で「承認可否は審議せず、“今後の方向性”を審議する」と報じられた。そもそも部会審議の議題にあがりながら、承認可否を審議しないこと自体異例である。この時に厚労省が発表した資料によると、「治験製品と本品との同等性/同質性が確認される前提ではあるものの、一定の有効性は期待でき、ベネフィットを踏まえると安全性は許容可能。本品の有効性および安全性に関する情報は現時点で限定的であるものの、本品を臨床現場に提供する意義はあるものと評価」との見解を示しながらも、「現時点で得られたデータでは、治験製品と本品との同等性/同質性は判断できない」と記述されていた。要は製品としての品質が担保されていないということだ。この品質問題の詳細について厚労省側は企業秘密に該当するとして公表していない。サンバイオ側にも確認したところ、「お答えできない」との回答だった。ただ、この件に関する同社のプレスリリースでは品質に関する追加データを提出していく意向を示しており、「(提出するデータは)今後当局との協議の中で明確化して対応していく予定です。当局との協議次第となります」(同社広報)との回答だった。承認へ、本品が唯一の治療方法になる可能性そして再び6月12日に厚労省は6月18日の部会開催を発表。議題の1つが「再生医療等製品『アクーゴ脳内移植用注』の製造販売承認の可否、条件及び期限の要否並びに再審査期間の指定の要否について」。3月の開催案内に比べ、議題表記がかなり具体的であるため、私や周囲の何人かの記者は承認の見通しだろうと予想した。そして6月18日、夜9時からオンラインで開催された部会後の記者レク*。事前に厚労省からメールで届いた資料を読んでいて、「ああやっぱり承認か」と思いながらPDFをスクロールしていると、2ページ目の備考欄で目が留まった。そこには以下のような記載があった。*記者レクチャーの略。記者団などを相手に発表を行うと共に発表者から説明が行われる場「本品の製造実績が限られていることを踏まえ、あらかじめ定めた計画に基づき、本品の品質に関する情報を速やかに収集するとともに、治験製品と本品との品質の同等性/同質性を評価し、結果を報告すること。また、当該結果を踏まえ、必要な承認事項一部変更承認申請を行うとともに、当該申請が承認されるまでの間、本品の出荷を行わないこと。」(下線は筆者追加)実はこの時、記者レク参加予定の記者、AさんとBさんと同時並行でLINEのやり取りをしていた。すぐに2人からメッセージが着信した。Aさん「いや、承認条件の一番下、これなんですか?」Bさん「これってすぐには販売開始できないんですかね?」そして夜9時に厚労省医薬局医療機器審査管理課による記者レクが始まった。まず冒頭、担当者から以下のような説明があった。「(3月25日の部会では)今回の承認条件に関係する同等性/同質性の確認が困難だった。それを経てサンバイオ社から追加データが提出され、その内容をPMDAが評価した結果を踏まえて承認の可否を諮り、承認して差し支えないことになったが、3月に論点になっていた同等性/同質性については、追加データでもなお確認できないという結論。しかしながら、それでもなお承認して差し支えないと判断をしたのは、適用対象疾患に対しては、現時点では代替の治療方法がない、リハビリテーションをするしかないため、本品が唯一の治療方法になる可能性があるというところを鑑みて、条件を付したうえでデータの再提出後に改めて部会で議論することを織り込み済みであれば、承認して差し支えないだろうとの判断をいただいた」以下は医療機器審査管理課の担当者と記者との主なやり取りだ。―前回の部会以降追加で求めたデータはどのようなもので何がネックになっていたのか、可能な範囲で教えてください。担当者今後また審査に付される部分が含まれる内容になりますので、回答はなかなか難しい。先ほど申し上げたとおり、前回の部会以降に追加されたデータでは、同等性/同質性としては確認できなかったので、それを補完するために承認を一度与えたうえで承認後にデータを取り直すことを承認条件としました。―「必要な承認事項一部変更承認申請(通称・一変)を行うとともに」との記述があるが、審議の結果では今後一変の必要性が高いと見込まれたのでしょうか?(筆者)担当者現時点ではデータが不足している事実があり、それを充足したうえで内容を審査するプロセスを経るので、既存の承認事項の中で変更が必要な部分は審査内で明らかになってくる。ただ、少なくとも本品は製造実績が限られ、使用期限の設定ができていません。この点は改めて製造実績を積んで、使用期限設定の根拠となるデータを提出のうえで変更申請をしなければならないので、少なくとも1ヵ所は一変が必要でしょう。―そもそも承認条件付き期限付き承認は迅速に患者に治療薬を提供すること、既に非常に時間かかってます。制度のメリットが生かされていないという指摘もあります。担当者申請から承認に至るまで約2年かかっている点は、迅速なアクセスに至っていないという批判があること、承認されたらすぐアクセスできるものでもないことはご指摘の通りです。しかし、品質をないがしろにしてよいかは別問題で、本品はその点はまだ改善しなければならない点があり、すぐに出荷は認められない背景事情があります。―3月の審議時点とデータ的には変化はないが、厚労省とPMDAの考え方が変わったということですか?担当者追加のデータはあり、それを評価したうえで今回ご審議いただいたので、3月時点から今回の審議品目のデータには差はあります。―3月の審議時点と具体的に何が変わって条件付き承認を認めたのでしょうか?担当者繰り返し申し上げたとおり、3月時点ではなかったデータが今回追加で提出されておりますので、それを含めて評価をした結果、条件付き承認かつさらにこちらが求めたデータの提出とそれに伴う一変申請による承認までは出荷してはならないという条件付き承認を与える対応が妥当、という判断をさせていただきました。―承認しないのと、今回のように一旦は承認して承認条件をつけて実際に出荷できないのは、どのような違いがあるのでしょうか?担当者いずれの場合でもデータ収集のタスクが課せられることは変わりありません。本品の場合、患者のもとに迅速に届ける目的を達成するためにどのような方策が取れるかについて、厚労省とPMDAともさまざまな方策を考えました。その結果、承認前に収集することと承認後に収集することを比べた際、承認後のほうがサンバイオ社の実行可能性が高いと判断し、今回の措置を取りました。―追加データで同等性/同質性を確認できないものの、3月時点よりは科学的に同等性/同質性の確認により近づいたという判断だったのでしょうか?(筆者)担当者結論だけを見れば、同等性/同質性の確認ができない点は変わりませんが、追加データを評価した結果、一定の評価をできるという点が違いとしてあり、同等性の確認のレベルにより近づいたかと言えば微妙ながら近づいた、とご理解をいただければと思います。―承認後にデータ提出を求めたほうがよいという判断根拠はなんでしょうか?(筆者)担当者先ほどから繰り返し申し上げているとおりなんですが、この件はサンバイオ社が主語となりますので、具体的な内容については主体のサンバイオ社にご確認をお願いします。―承認後のほうがデータ収集しやすいというのはサンバイオ社が申し出たのでしょうか?(筆者)担当者さまざまなオプションを検討する中で、承認後のほうがデータを集めやすいということを議論の中で行政側とも合意をしました。記者レクの中で担当者も「異例」の言葉を使っていたが、今まで何か特殊な条件で承認された薬としたら、私の中で浮かぶのは本連載でも取り上げた抗インフルエンザ薬のファビピラビル(商品名:アビガン)くらいだ。とはいえ、アビガンのケースは催奇形性を警戒して通常出荷としなかっただけで、今回のように「承認されたけど、今の時点ではいかなる手段でも使えない」状況とは違う。この記事出稿後、同社はプレスリリースで、今後2回程度の市販品製造を行い、同等性/同質性を確認すること、出荷可能時期は2026年1月期第1四半期を想定している旨を公表した。今後、SB623ことアクーゴはどうなるのだろうか?

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身体活動の指標、時間ではなく歩数でもOK?

 米国における身体活動のガイドラインでは、健康のために中~高強度の身体活動を週150分以上行うことを推奨しているが、歩数に基づく推奨はエビデンスが十分ではないため発表されていない。今回、米国・Brigham and Women's Hospital/Harvard Medical Schoolの浜谷 陸太氏らによる米国の62歳以上の女性を対象としたコホート研究において、中~高強度身体活動時間および歩数と全死亡率および心血管疾患(CVD)の関連が質的に同様であることが示唆された。JAMA Internal Medicine誌オンライン版2024年5月20日号に掲載。 このコホート研究は、1992~2004年に米国で実施した無作為化試験であるWomen's Health Studyの参加者の追跡データを解析したもの。参加者はCVDやがんを罹患していない62歳以上の女性で、年1回アンケートに回答し、中~高強度身体活動に費やした時間と歩数を加速度計で連続7日間測定した。交絡因子調整後の中~高強度身体活動の時間および歩数と全死亡およびCVD(心筋梗塞・脳卒中・CVD死亡の複合)との関連を、Cox比例ハザード回帰モデル、制限付き平均生存時間の差、受信者動作特性曲線下面積(AUC)を用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・計1万4,399人の女性(平均年齢:71.8歳)が対象となった。・中~高強度身体活動時間の中央値は週62分(四分位範囲:20~149分)、歩数の中央値は1日5,183歩(同:3,691~7,001歩)であった。・追跡期間中央値9.0年で、全死亡の1標準偏差当たりのハザード比は、中~高強度身体活動時間が0.82(95%信頼区間[CI]:0.75~0.90)、歩数が0.74(同:0.69~0.80)であった。・中~高強度身体活動時間および歩数が多い(上位3四分位群vs.最低四分位群)ほど生存期間(period free from death)が長かった。・中~高強度身体活動時間および歩数での全死亡率のAUCは同様で、どちらの指標も0.55(95%CI:0.52~0.57)であった。CVDとの関連についても同様だった。 著者らは「今後のガイドラインにおいては、個々人の好みに対応できるよう、時間に基づく目標と共に歩数に基づく目標が検討されるべき」としている。

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高齢者診療の困ったを解決するヒントは「老年医学」にあり!【こんなときどうする?高齢者診療】第1回

今回のテーマは、「なぜ今、老年医学が必要なのか?」です。このような症例に出会ったことはありませんか?85歳女性。自宅独居。糖尿病、高血圧、冠動脈疾患の既往有。呼吸苦を主訴に救急外来を受診。肺炎と診断し入院にて抗菌薬加療。肺炎の治療は適切に行われ呼吸苦症状も改善したが、自力歩行・経口摂取が困難になり自宅への帰宅不可能に。適切な診断と治療をして疾患は治ったにもかかわらず状況が悪化してしまう-高齢者診療でよく遭遇する場面かもしれません。老年医学はこうしたジレンマに向かい合うきっかけを提供し、すべての高齢者に対してQOLの維持・向上を図ること、また同時に心や体のさまざまな症状をコントロールするために体系化された学問です。老年医学の原則とアプローチ(「型」)を実践することで、困難事例に解決の糸口をみつけることができるようになります。老年医学の原則:コモンなことはコモンに起きる-老年症候群と多疾患併存日本における平均寿命と健康寿命はいずれも延伸していますが、平均寿命と健康寿命のギャップは医療の進歩にも関わらず顕著には短縮しておらず、女性で約12年、男性で約7~8年あります。1)この期間に多くの高齢者が抱える問題が2つあります。ひとつは老年症候群。たとえば記憶力の低下や抑うつ、転倒や失禁などの認知・身体機能の低下など、高齢者にコモンに起きる症状・兆候を「老年症候群」と総称します。もうひとつは、多疾患併存(multimorbidity)です。年齢に比例して併存疾患の数が多くなり、60歳以降では約20%が3つ以上の疾患を有しているという調査があります。2)高齢者の治療やケアをする場合、老年症候群と多疾患併存があるという前提で診察やケアにあたることが大切です。老年医学の型:5つのM老年症候群があり、多疾患併存状態にある高齢者の診療は、疾患の診断-治療という線形思考で解決しないことがほとんどです。そこで、複雑な状況を俯瞰するために「5つのM」というフレームを使います。要素は、大切なこと(Matters most)、薬(Medicine)、認知機能・こころ(Mind)、身体機能(Mobility)、複雑性・落としどころ(Multi-complexity)の5つです。今回のケースを5つのMを使って考えてみましょう。ポイントはMatters mostから考え始めること。「生きがい」・「大切なこと」といったことでもよいのですが、「今、患者/家族にとって一番の困りごとは何か、肺炎を治療した先の日々の生活に期待することは何か?」を入院加療の時点で考えられると、行うべき介入がさまざまな角度から検討できるようになります。今回のケースでは、肺炎治療後に自宅に帰り、自立した生活をできる限り続けることがゴールだったと考えてみましょう。そうすると、肺炎治療に加えて1人で歩行するための筋力維持が必要だと気付くでしょう。また筋力を維持するためには栄養状態にも気を配らなければなりません。それに気付けば理学療法士や管理栄養士など、その分野の専門職に相談するという選択肢もあります。また、肺炎治療中の絶対安静や絶食は、筋力や栄養状態の維持を同時に叶えるために適切な選択だろうか?本当に必要なのだろうか?と立ち止まって考えることもできます。しかし命に係わるかもしれない肺炎の治療は優先事項のひとつですから、落としどころとして、安静期間をできる限り短くできないか検討する、あるいはリハビリテーションの開始を早める、誤嚥のリスクを見極めて経口摂取を早期から進めていく、といった選択肢が出てくるかもしれません。100%正しい選択肢はありません。ですが5つのMで全体像を俯瞰すると、目の前の患者に対して、提供できる医療やケアの条件の中で、患者のゴールに近づく落としどころや優先順位を考えることができます。高齢者にかかわるすべての医療者で情報収集し共有する今回のケースでは、例として理学療法士や管理栄養士を出しましたが、その他にもさまざまな専門職が高齢者の医療に携わっています。医師は診断・治療といった医学的介入を職業の専門性として持つ一方で、患者とコミュニケーションできる時間が少ないために十分な「患者―医師関係」が構築しにくく、患者・家族が本当に大切にしていることが届きにくい場合があります。そのため、協働できる多職種の方とともに患者の情報を得る、そして彼らの専門性を活かして介入の方法やその分量のバランスをとること、落としどころを見つけることが医師に求められるスキルのひとつです。参考1)内閣府.令和5年度版高齢社会白書(全体版).第1章第2節高齢期の暮らしの動向.2)Miguel J. Divo,et al. Eur Respir J. 2014; 44(4): 1055–1068.

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骨折治療の現在地を知る!

外傷・骨折にまつわるホットな疑問に答える!「整形・災害外科」67巻5号(2024年4月臨時増刊号)日進月歩の骨折治療において、良い医療を行うためには骨折治療を迅速に開始する、多職種連携による医療システムの構築・発展が重要となる。また、診断においては人工知能やエコーのさらなる活用も期待される。今後ますます増加することが予想される高齢者の骨折には、手術のみならず骨粗鬆症の治療や二次性骨折・周術期せん妄の予防も非常に重要となる。本特集ではこれらのホットな話題に対する現時点での取り組みや未来に向けた提言を紹介している。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する骨折治療の現在地を知る!定価8,250円(税込)判型B5判頁数276頁発行2024年4月編集渡部 欣忍ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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第214回 過度の運動はいうほど有害ではなくむしろ寿命を延ばしうる

過度の運動はいうほど有害ではなくむしろ寿命を延ばしうる先週5月6日はヒトの運動能力の限界の1つの突破が樹立された記念日で、とりわけ医師にとっては感慨深い日かもしれません。その記録とは1マイル(約1,600m)を4分未満で初めて走ったことです(1kmを2分30秒未満で走ったことに相当)。その偉業を達成したのは他でもない医学生でした。70年前の1954年5月6日に当時25歳でアスリートでもあったRoger Bannister(ロジャー・バニスター)氏は学び舎のオックスフォード大学の競技場で1マイルを3分59.4秒で走り、1マイルを4分以内で初めて走った人となりました。運動習慣は心臓の健康を保つのに役立ちますが、1マイルを4分以内で走るなどの負荷の大き過ぎる運動は心臓にはかえって毒らしいことも示唆されています。とはいうものの、長距離自転車レース(ツール・ド・フランス)出場者やオリンピックのボート選手などの極度の運動/生理能力を有する持久運動選手の寿命はより長いことを示す報告もあります。Bannister氏を初めとすると1マイル4分以内走者はどうなのでしょうか? それを調べたカナダのアルバータ大学のStephen Foulkes氏らの新たな解析結果がBritish Journal of Sports Medicine誌に先週掲載されました1)。Bannister氏以後1,750人超が1マイル4分未満走者の名簿にいまや名を連ねており、その最初から20人目までを調べた2018年の報告がFoulkes氏らを新たな研究へと駆り立てました。6年ほど前のその先立つ報告によると、それら1マイル4分未満走者20人中18人は80年以上生きており、世間一般の寿命を平均して12年上回っていました2)。かつて不可能とされていたほどの極度の運動に取り組んだところで、命の長さや質は害されないことをその結果は支持しています。Foulkes氏らはその観察結果に触発され、1マイル4分未満走者と世間一般の生存年数をより確かな統計的手法を用いて比較してみました。Foulkes氏らは解析人数も増やし、最初から200人目までの1マイル4分未満走者を調べました。全員が男性で、生まれは1928~55年です。それら200人のうち昨年末までに死亡した60人の平均死亡年齢は73歳、存命の140人の平均年齢は77歳でした。生まれた年や場所を考慮して計算したところ、1マイル4分未満走者は世間一般に比べて平均4.7年長生きでした。1マイル4分未満の初の達成が1950年代だった人はとくに長生きで、世間一般より9.2年長く生きています。1マイル4分未満の初の達成が1960年代と1970年代だった人は世間一般に比べてそれぞれ5.5年と2.9年長生きでした。その違いはおそらく世間一般が時代と共により健康になっていることによるのかもしれません3)。結論として、今回の結果は過度の運動で寿命が損なわれうるという見解に反するものであり、エリート選手レベルさえも含む運動の有益さを支持していると著者は言っています。参考1)Foulkes S, et al. Br J Sports Med. 2024 May 10. [Epub ahead of print]2)Maron BJ, et al. Lancet. 2018;392:913.3)Extreme exercise may help you live longer without stressing your heart / NewScientist

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重症COVID-19生存患者、64%は1年後も健康に問題

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の辛く長い闘病期間を生き延びても、無傷ではいられない可能性があるようだ。新たな研究で、重症のCOVID-19を経験した患者の3分の2近くは、発症から1年が経過しても依然として身体や精神面、思考力に問題を抱えていることが示された。米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)医学部のAnil Makam氏らによるこの研究の詳細は、「Critical Care Medicine」に4月10日掲載された。Makam氏は、「最も重篤で長期にわたるCOVID-19を経験した世界中の数百万人の患者」が直面しているジレンマを浮き彫りにする結果だとの見方を示している。 Makam氏らはこの研究で、COVID-19の重症化により長期急性期病院への転院が必要であった156人(年齢中央値65歳、女性38.5%)を対象に、罹患後に残存している障害について調査した。対象者の61.3%は、COVID-19罹患前は健康であり、入院期間の中央値は57日であった。77%は中央値で26日にわたり機械的な換気療法を受けており、42%は気管切開も受けていた。研究グループによると、これらの患者は一命を取り留めたことに深い感謝の気持ちを示しており、自分が生き延びたことをしばしば「奇跡」と表現したという。 しかし、対象者の64%は罹患から1年が経過しても、身体(57%)、呼吸器(49%)、精神面(24%)、認知機能(15%)に持続的な健康問題を抱えていた。こうした問題を2種類以上抱えていた対象者の割合は半数近く(47%)に上り、19%は今でも酸素の補給を必要としていた。また対象者は、長期入院を原因とする褥瘡や、腕や脚の使用が制限される神経損傷などの問題にも苦しめられていた。さらに、5人に4人(79%)は、健康が完全な状態にまでは回復していないと答えたものの、ほぼ全員(99%)が自宅に戻り、5人に3人(60%)は仕事に復帰していた。 Makam氏は、「われわれが調査した対象者の多くが特に悩まされていたのは、入院を原因とする合併症だった。そのため、これらの合併症を未然に防ぐことが回復の鍵となる」と語る。 ただし、COVID-19が重症化した患者に認められた、このような罹患後の健康問題は、COVID-19に特有のものではない。Makam氏は、「この研究で観察された長期にわたる障害は、COVID-19に特有のものではなく、病状が長期にわたって重症化した生存患者に共通するものだ。こうした罹患後症状を抱える人に対しては、専門分野の異なる医療従事者による集学的なリハビリテーションによって対処するのが最善だ」と話している。

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CVD患者のフレイルと「アクティブな趣味」の関係

 心血管疾患(CVD)で入院した患者のうち、入院前にアクティブな趣味を持っていた患者は、退院時のフレイルのリスクが低いという研究結果が発表された。一方で、入院前に趣味があったとしても、その趣味がアクティブなものでなければ、リスクの低下は見られなかったという。これは飯塚病院リハビリテーション部の横手翼氏らによる研究であり、「Progress in Rehabilitation Medicine」に2月22日掲載された。 趣味を持つことと死亡や要介護のリスク低下との関連を示す研究はこれまでに報告されており、入院中の運動不足で身体機能が低下しやすいCVD患者でも、趣味を持つことが身体機能の維持やフレイルの予防に役立つと考えられる。そこで著者らは、入院前に行っていた趣味と退院時のフレイルとの関連について、趣味の内容にも着目して検討した。 研究対象は、2019年1月~2023年6月に飯塚病院に入院し、その後自宅に退院したCVD患者のうち、入院前から日常生活の介助を要する患者などを除いた269人(平均年齢68.4±11.5歳、男性72.2%)。対象患者のCVD・手術には、心不全、心筋梗塞、狭心症、冠動脈バイパス術、大動脈弁置換術、僧帽弁形成術、大動脈グラフト置換術が含まれた。 患者の状態が安定した後、入院前の趣味に関する情報を入手し、身体活動を伴う趣味(スポーツ、買い物、旅行など)を「アクティブな趣味」、それ以外の趣味(テレビ・映画鑑賞、スポーツ観戦、楽器演奏など)を「非アクティブな趣味」、趣味のない場合は「無趣味」に分類した。フレイルについては退院前日に、日本語版フレイル基準(J-CHS基準)の5項目(筋力低下、歩行速度低下、疲労感、体重減少、身体活動低下)により評価。3項目以上に該当する人を「フレイル」、1~2項目に該当する人を「プレフレイル」に分類した。 その結果、無趣味群(77人)ではプレフレイルの割合が61.4%、フレイルの割合が22.9%、非アクティブな趣味群(64人)では同順に53.2%、37.1%、アクティブな趣味群(128人)では同順に57.4%、13.9%だった。 次に、患者背景の差(年齢、性別、BMI、疾患、入院期間、就労状況、入院時の左室駆出率、入院前のフレイル)を調整して解析すると、アクティブな趣味群は、プレフレイルまたはフレイルのオッズ低下と有意に関連していることが明らかとなった(無趣味群と比較したオッズ比0.41、95%信頼区間0.17~0.90)。一方、非アクティブな趣味群ではこの関連は認められなかった(同1.56、0.52~4.64)。また、アクティブな趣味群では無趣味群と比べて、J-CHS基準の5項目のうち、歩行速度低下、疲労感、身体活動低下のオッズが有意に低かった。 以上から著者らは、「入院前にアクティブな趣味を持っていた患者は、趣味のない患者と比べて退院時にフレイルとなるリスクが低かった。一方で、非アクティブな趣味を持っていた患者では、リスクの低下は認められなかった」と結論。また、アクティブな趣味と疲労感の低下が関連していたことの説明の一つとして、アクティブな趣味を持つことが、入院中のリハビリテーションや理学療法への動機付けとなり、身体機能の維持に寄与する可能性があるとしている。

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乳がん患者のQOLと死亡リスクの関係

 乳がん患者は生活の質(QOL)に悪影響を及ぼすさまざまな問題を抱えているが、乳がん患者のQOLと死亡リスクとの関連については議論の余地がある。静岡県立静岡がんセンターの鈴木 克喜氏らは、QOLが乳がん患者の予後に与える影響についてシステマティックレビューおよびメタ解析を実施し、結果をBreast Cancer誌オンライン版2024年4月9日号で報告した。 本研究では、CINAHL、Scopus、PubMedのデータベースを用いて、2022年12月までに発表された乳がん患者のQOLと死亡リスクを評価した観察研究が検索された。 主な結果は以下のとおり。・11万9,061件の論文が検索され、6件の観察研究がメタ解析に含まれた。・身体機能QOL(ハザード比[HR]:1.04、95%信頼区間[CI]:1.01~1.07、p=0.003)、情緒機能QOL(HR:1.01、95%CI:1.00~1.03、p=0.05)、および役割機能QOL(HR:1.01、95%CI:1.00~1.01、p=0.007)は、死亡リスクとの有意な関連が示された。・一方で、全般的QOL、認知機能QOL、および社会機能QOLは、死亡リスクとの関連が示されなかった。・治療時点に従い行われたサブグループ解析によると、治療後の身体機能QOLが死亡リスクと関連していた。 著者らは、身体機能QOL、情緒機能QOL、および役割機能QOLが乳がん患者の死亡リスクと関連したとし、治療後の身体機能QOLは、治療前の身体機能QOLよりも生存期間延長とより有意な関連を示したとまとめている。

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