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重症COPDに気管支鏡的肺容量減量術(Bronchoscopic Lung Volume Reduction、BLVR)という新たな治療法が2023年12月に保険適用になった。重症COPD患者に希望をもたらす治療として注目される。市販後調査として実際にBLVRを施行しているNHO近畿中央呼吸器センターの田宮朗裕氏に聞いた。水面下に潜んでいる「症状緩和・機能改善が行えない重症COPD患者」COPDは世界の死因の第3位で年間323万人が死亡する1)。日本では40歳以上の8.6%、530万人以上がCOPDと推定されている2)。そのうち、きわめて高度な気流閉塞を有する患者(GOLD IV期)は11%、自覚症状が多く急性増悪のリスクが高い患者(GroupD)は10%との報告がある3)。重症COPDに対しては薬物療法、呼吸リハビリテーション、必要に応じた在宅酸素療法(HOT)、さらに肺容量減量手術、肺移植が治療選択肢となる。ただし、肺容量減量手術、肺移植については現在、日本ではほとんど行われていない。つまり、HOTなどの対症療法をしているものの、十分な症状緩和・機能改善が行えない重症COPD(根治的治療がCOPDにほぼないため)が水面下に潜んでいることになる。重症COPDの新治療BLVRとは?田宮氏によれば、重症COPDでは「家での軽い労作でも動けず買い物にも出られない方、ある程度呼吸機能はあっても非常に強い息切れによる生活への支障を訴える方」も少なくないという。さらに「肺機能が悪いとCOPDの急性増悪が非常に厳しくなる」と付け加える。そのような中、2023年12月に重症COPDに対する初のBLVRとして、Zephyr気管支バルブシステムが国内承認された。気管支バルブ治療は、気管支鏡を用いて一方弁の気管支バルブを治療対象の肺葉につながる気管支に留置して、肺葉を無気肺にさせ、肺の過膨張が原因で平坦化していた横隔膜運動を適正化させ呼吸機能を改善させる治療法だ。内科的治療では症状改善がみられない重症COPDに症状の改善をもたらす初の気管支内視鏡治療として注目されている。「体に傷を入れることなく、綺麗な部位を残すことで重症COPDの呼吸機能が改善している。非常に小さなサイズの中にシンプルな一方弁機能を実現した技術は素晴らしい」と田宮氏は評価する。Zephyr気管支バルブは25ヵ国以上で発売され、4万人超の治療患者に留置された実績を持つ。欧州では2003年に、米国ではブレークスルーデバイスに指定され2018年に発売されている。長年の海外での使用実績をもとに的確な患者選択や側副換気の評価によって、より効果を示す可能性のある患者を抽出できるようになった。また、気胸の発生に注意が置かれるようになり、発生時に迅速に対応できるよう準備が変わった。「全世界の開発者と医療者がさまざまな工夫を重ねた中の最終形で日本に来ている。美味しいところ取りしているようだ」と田宮氏は言う。多数のエビデンスが証明するZephyr気管支バルブの有効性Zephyr気管支バルブは重症COPDに対する複数の無作為化比較試験で標準治療単独と比べ、呼吸機能(FEV1)、運動機能(6分間歩行)、症状、QOL(St.George's Respiratory Questionnaire, SGRQ)、慢性COPDの生存期間予測指標であるBODE指数*について有意な改善を認めている。代表的な試験は不均一な肺気腫患者を対象としたLIBERATE試験4)と均一な肺気腫患者を対象としたIMPACT試験5)であり、両試験とも主要評価項目を有意に改善した。いずれも高度な気流閉塞(%FEV1 15~45%)を有するCOPD患者が対象である。「不均一な肺気腫でも均一な肺気腫でもしっかり結果が出た。これらの結果から肺容量を減量して残された肺がしっかり伸縮できるようになると、呼吸機能もQOLも改善することが確信できた。動いたあと“はあはあ”しているのに、息が吐けずに空気が溜まっていく一方という状態は非常に辛いもの。それが緩和されることはすばらしい」、さらに「片肺の過膨張を改善することで、もう一方の肺にも余裕ができる可能性もある」と評価する。また、LIBERATE試験の主要評価項目である「ベースラインからFEV1(L)が15%以上改善した患者」がZephyr気管支バルブ群で有意に多かった(群間差31%)という結果について「全体集団の差が30%を超えるのは素晴らしい。しかし、全ての患者に効くというわけではない。逆に考えれば、効く人には非常に高い効果が期待できるということ。患者の選定は重要なポイント」と述べた。Zephyr気管支バルブは日本での市販後調査による140例の症例収集が課せられている。現在は15施設だが、将来的には20施設まで増やす予定である。* BODE指数:Body mass index(BMI)、airflow Obstruction(気道閉塞度)、Dyspnea(呼吸困難)、Exercise capacity(運動能力)により算出され、慢性COPDの生存期間予測に用いられる指数。事前準備から術後フォローまで入念に設計された手技工程Zephyr気管支バルブによるBLVRを実施するには、外科治療を除く全ての治療法が実施されていることを確認し、術前にボディボックス、スパイロメーターによる呼吸機能精査を行い、6分間歩行距離、呼吸困難を評価する。さらに、CT解析システムによる気腫病変、肺葉間裂の確認、治療対象となる肺葉の選定を行う6)。施術当日も専用のChartis肺機能評価システムで留置部位の側副換気(肺葉間裂の完全性確認)を再確認する。そして、全身麻酔またはセデーション下で(NHO近畿中央呼吸器センターはセデーション)、専用のローディングシステムとデリバリーカテーテルで気管支鏡を用いてターゲットとなる気管支にバルブを留置する。「デバイスが精巧にできているので手技自体はシンプルだが、気管支の位置によって難易度が高くなる。研修による技術習得は欠かせない」と田宮氏は言う。合併症として気胸、COPDの増悪、感染症などのリスクがあるので、気管支バルブ留置後も呼吸器内科、呼吸器外科が協力して診療にあたる。気胸の8割が術後4日以内に起こることもあり、術後は手術日を含め4日入院し、術直後と24時間毎に退院まで検査する。退院後も45日、3、6、12ヵ月後の定期検査が設定されている。なお、Zephyr気管支バルブは抜去・交換が可能で、術後の位置ずれが起きた場合も修正できる。画像を拡大するZephyr気管支バルブの径は4.0mmと5.5mmの2種類。それぞれレギュラーとショートタイプがあり、計4種類のバルブで異なる気管支形状に対応画像提供:パルモニクスジャパン(株)画像を拡大する専用デリバリーカテーテルで気管支鏡を用いてターゲットとなる気管支にバルブを留置する画像提供:パルモニクスジャパン(株)画像を拡大する画像を拡大する病診連携で重症COPD患者をレスキュー薬物療法、呼吸リハビリテーション、HOTを行いながらも手の施しようがない重症COPDは相当数いるのではないかと田宮氏は言う。高度な呼吸機能検査ができない施設では、mMRC質問票のGrade2以上、スパイロメーターで1秒率45%以下がBLVR適用の目安である。「BLVRは酸素を吸ってもどうにもならないという状態になる前にレスキューできる治療法。この治療に適用があるかはスクリーニングしてみないとわからない。(mMRC2以上の)症状があってこの治療に興味を示す患者さんがいれば、どんどん紹介していただきたい。ボディボックスなど精密な検査、治療、術後定期検査は当方で行った上で、吸入薬、HOTの管理などはかかりつけの先生にお任せしたい」と田宮氏はいう。治療方法が見つからない重症COPD患者に希望をもたらす新たな治療BLVRが普及していくには、専門施設とかかりつけ医の協同が欠かせないようだ。参考1)日本WHO協会2)NICE study3)Oishi K et, al. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis. 2018:13:3901-3907.4)Criner GA et,al.Am J Respir Crit Care Med.2018;198:1151-1164.5)Valipour A et, al.Am J Respir Crit Care Med.2016;194:1073-1082.6)呼吸器学会 重症COPDに使用する気管支バルブの適正使用指針気管支バルブ治療情報サイト(pulmonx社)Zephyr気管支バルブ製品ページ(pulmonx社)(ケアネット 細田 雅之)