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2型糖尿病の運動療法に最適な時間帯は?

 運動を午後の時間帯に行っている2型糖尿病患者は血糖コントロールがより良好になる可能性を示す、米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院のJingyi Qian氏らの研究結果が、「Diabetes Care」に5月25日掲載された。ただし研究者らは、この結果のみでは午後の運動を推奨することはできないと述べている。 この研究は、運動を行う時間帯を変えるという介入によって、血糖管理状態が変化するか否かを検証可能なデザインでは行われていない。それでも、午後に運動することで血糖コントロールがより良好になる機序についてQian氏は、「運動による血糖管理状態への影響は、絶食状態で行うよりも食後に行った方が大きい可能性があり、午後に運動をしている人の多くが食後に運動をしているのではないか。それに対して朝に運動をしている人は、運動をしてから朝食を食べることが多いと考えられる」との推論を述べている。とはいえ、「午後に運動をする時間を取れないからといって運動をすべきでないという意味ではない」とし、「時間帯や場所にとらわれず、運動をできるタイミングですべきだ」と同氏は推奨する。 Qian氏らの研究の解析対象は、肥満のある成人2型糖尿病患者2,416人(平均年齢59歳、女性57%)。研究開始の1年目と4年目にそれぞれ7日間、加速度計を腰に身に着けて生活してもらい、中~高強度の身体活動(MVPA)が行われていた時間帯と、血糖コントロール状態の変化との関連性を検討した。 身体活動量の多寡の影響を調整後、午後(14~17時)にMVPAを行っていた群では研究開始1年目のHbA1cが、他の時間帯にMVPAを行っていた人に比べて30~50%ほど大きく低下していた。この群間差は1年目が最も顕著だったが、4年後にも差が認められた。また、血糖降下薬の使用を中止できた割合も、午後にMVPAを行っていた群が最も高かった。なお、この研究では、どのようなMVPAが行われていたかは調査されなかった。Qian氏は、「運動の時間帯の違いに焦点を当てる研究はまだ新しい領域であり、今後、多くの研究が必要とされる」としている。 本研究には関与していない米ユタ大学のTanya Halliday氏は、「運動を行うタイミングそのものが血糖コントロールに影響を与えたのか、それとも午後に運動を行えるという生活環境にある人にはそのほかの人とは異なる何らかの特徴があって、そのことがHbA1cの差を生んだのか、その点が不明である。2型糖尿病患者の運動療法について、最適な時間帯を推奨するのは時期尚早だ」としている。同氏はまた、「例えば、運動の時間帯が異なることで、血糖コントロールに影響を及ぼし得る食事や睡眠のパターンが変化する可能性がある。この観察研究の報告が、追試によって再現可能かを確認することが重要だろう」と付け加えている。

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薬剤師による運動介入でフレイル予防

 処方薬を受け取りに薬局を訪れた慢性疾患のある高齢者に対して、薬剤師が運動に関する簡単な情報提供を行うことが、フレイルの予防につながる可能性が報告された。一般社団法人大阪ファルマプラン社会薬学研究所の廣田憲威氏(研究時点の所属は武庫川女子大学薬学部臨床薬学研究室)らによる研究によるもので、詳細は「BMC Geriatrics」に4月7日掲載された。 フレイルはストレスに対する耐性が低下した状態で、介護リスクの高い「要介護予備群」。介護が必要な状態になってからの回復は困難なことが多いが、フレイル段階であれば、運動や食事の習慣を改善することで元の状態に戻ることができるため、早期介入が重要とされる。他方、地域の薬局には近年、調剤業務にとどまらず、地域住民の健康を支える機能が求められるようになってきた。フレイル予防に関しても、薬局での栄養評価などの試みの報告がなされてきている。ただし、運動介入の報告はまだない。今回の廣田氏らの研究は、以上を背景とするもの。 この研究は、大阪府内の11の薬局における無作為化比較試験として実施された。対象は、処方薬の受け取りのため薬局を毎月訪れる慢性疾患のある70~79歳の高齢者。無作為に2群に分け、1群に対しては、服薬指導に加えて「ナッジ」を利用した運動の勧めを行った。ナッジとは、わずかに後押しする行為のことで、本人の気づきを促し行動変容につなげることを狙うもの。本研究では、薬局を訪れるたびに、自宅でできる簡単な運動の方法(4分の1スクワット、つま先立ちなど)が書かれたプリントを手渡したり、運動を行っているか確認したりした。ただし、実際に運動を行うか否かや、どのような運動を行うかは、患者の判断に任せた。一方、他の1群に対しては、通常の服薬指導のみを行った。 2021年1~3月の間に薬局を訪れた患者のうち103人が研究参加に同意した。骨粗鬆症・がん・メンタルヘルス疾患・認知症の治療薬やステロイド薬が処方されている患者、BMI30以上または低栄養、医師から運動制限が指示されている患者は除外されている。評価項目は、登録時点と6カ月後の体組成計で測定した筋肉量と、椅子立ち上がりテスト(椅子に座って立つという動作をなるべく速く5回繰り返す)の所要時間の変化など。 研究登録時点で両群間に、年齢や性別の分布などに有意差はなかった。研究期間中に、介入群の15人、対照群の18人が受診間隔の延長などの理由で脱落し、解析は介入群46人、対照群24人を対象に行われた。 6カ月間での筋肉量の変化は、介入群が1.08±7.83%(95%信頼区間-1.24~3.41)、対照群は-0.43±2.73%(同-1.58~0.72)であり、介入群において増加傾向があったものの有意でなく、群間差も非有意だった(P=0.376)。それに対して椅子立ち上がりテストについては、介入群の65.2%で所要時間の短縮が認められ、対照群ではその割合は29.2%であり、群間に有意差が認められた(所要時間短縮のオッズ比4.48、P=0.00563)。 椅子立ち上がりテストでは介入効果が示唆されたのに対して筋肉量には有意差が生じなかったことについて著者らは、「サンプルサイズが小さすぎたこと、ナッジを利用するのみでは介入期間が短すぎたことなどが理由として考えられる」と述べている。論文の結論は、「フレイル予防が社会的な課題となる中で、地域の薬局薬剤師によるナッジを利用した簡単な運動介入が、高齢者の行動変容につながる可能性を示すことができた」とまとめられている。また著者らは、「高齢者が毎月医療機関や地域薬局のサービスを利用することが、社会とのつながりを維持する上でいかに重要かを裏付けるものであり、地域薬局が高齢者の『通いの場』として活用できる」と付け加えている。

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双極性障害患者の入院期間に影響を及ぼす要因

 双極性障害患者の入院期間やそれに影響を及ぼす因子を特定するため、 中国・首都医科大学のXiaoning Shi氏らは、本検討を行った。その結果、入院期間の長い双極性障害患者は、自殺リスクが高く、複雑な多剤併用が行われていた。入院期間を短縮するためには、うつ病エピソードの適切な管理と機能的リハビリテーションが有用な可能性がある。Frontiers in Psychiatry誌2023年5月19日号の報告。 双極I型障害またはII型障害患者を対象に多施設共同観察コホート研究を実施した。2013年2月~2014年6月に中国6都市、7施設より募集した外来患者520例を、継続的なサンプリングパターンを用いてフォローアップ調査を行った。本研究は、12ヵ月のレトロスペクティブ期間と9ヵ月のプロスペクティブ期間で構成された。対象患者の人口統計学的特徴および臨床的特徴を収集した。入院期間(プロスペクティブ期間の入院日数)の影響を及ぼす因子の分析には、ポアソン回帰を用い、入院期間(レトロスペクティブおよびプロスペクティブ期間)の分析には、線形回帰分析を用いた。性別、年齢、教育年数、職業的地位、在留資格、精神疾患の家族歴、薬物乱用の併存、不安障害の併存、自殺企図の回数(レトロスペクティブおよびプロスペクティブ期間での発生回数)、初回エピソード特性、双極性障害のタイプ(I型またはII型)を変数として用いた。 主な結果は以下のとおり。・ポアソン回帰分析では、入院期間と相関が認められた因子は、自殺企図の回数(発生率[IRR]:1.20、p<0.001)、抗精神病薬の使用(IRR:0.62、p=0.011)、抗うつ薬の使用(IRR:0.56、p<0.001)であった。・線形回帰分析では、うつ病エピソード期間の長期化や機能低下と関連する可能性のある双極II型障害(β:0.28、p=0.005)および失業(β:0.16、p=0.039)は、長期入院との関連が認められた。・自殺企図の回数と短期入院との間に関連傾向が認められた(β:-0.21、p=0.007)。・自殺リスクの高い患者では、治療が不十分、コンプラインアンス不良の傾向があるため、入院中に適切に評価し、治療を行う必要がある。

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脳卒中後の妻とその夫をテコンドーの「不屈の精神」が支える

 米国ノースカロライナ州に住むCecile Boyntonさんは、5カ月前に結婚したばかりの夫に、「仕事が終わって今から帰るところ」とメールした。帰宅後は夫婦でパーソナルトレーナーを訪ね、トレーニングを受ける予定だった。2人は数年前に、自宅近くのテコンドー教室で出会った。夫婦ともに黒帯で、夫のMarkさんは10代の頃から格闘技を習い、Cecileさんもトレーニング歴10年に達していた。 車で家に帰る途中、Cecileさんは頭痛とともに吐き気とめまいを感じ、いったん高速道路を降りた。数分たつと気分が良くなったので、再び車を走らせた。そして彼女が次に覚えていることは、道端に座って救急隊員の質問に答えようとしているシーンだ。乗っていた車は逆さまにひっくり返っていた。 家ではMarkさんが心配していた。Cecileさんの電話はつながらなかった。ネット検索をしてみると、Cecileさんがいつも走行している道筋で、大きな事故が発生し通行止めになっていることが分かった。ちょうどそのとき、自宅のドアベルが鳴った。外には2人の警察官が立っていて、そのうちの1人がこう言った。「あなたの奥さんは重大な事故に遭い入院しています。奥さんは頭に怪我をした可能性があります」。 Markさんが病院に駆けつけると、CecileさんはERに収容されていた。彼女は話すことができなかった。Markさんは、妻の目に恐怖が宿っているのを見た。そして彼女の顔の右側がゆがんでいて、右半身を動かせず、左目は見えないようだった。まだ43歳でそれまで健康だった妻が、脳卒中を発症したことは明らかだった。 Markさんは、偶然にもテコンドー教室で知り合いになっていた神経内科医に電話を入れてみた。その医師は、「彼女から離れずにいて」と答えて電話を切った。時を置かず、医師が看護師とともに駆け込んできた。画像検査の結果、Cecileさんの頸動脈に血栓があることが判明し、血栓除去術を要すると判断された。 血栓除去術の途中で血栓の一部が崩れてしまい、再び発作が発生してしまったが、血流を回復させることには成功した。ただし、Cecileさんにどの程度の後遺症が残るかは不明だった。Markさんは、自分たちの人生は終わったように感じた。しかし、「自分には、自分たちには選択肢がある。あきらめるか、それとも良くなるかだ」と、自分自身に言い聞かせた。 術後のCecileさんは怯えているように見えた。それでもMarkさんの姿を見て、夫であることを認識できた。Markさんが妻の右手を取ると、わずかな指の動きを感じ取れた。それは彼に希望を与えた。「君が話せないことは分かっているし、君が混乱していることも分かっている。でも大丈夫」と彼は妻に言った。その夜、弁護士であるMarkさんは自宅に戻ると、訴訟の準備をする時と同じように、Cecileさんの状態について詳しく調べてみた。そして後遺症を抑えるには、できるだけ早くリハビリテーションを始めるべきであることを学んだ。 翌日、Markさんは医師の許可を得た上で、Cecileさんの全身の筋肉を動かしてみた。少しずつ、力と動きが戻ってきたと感じた。Cecileさんは、言葉を理解することはできたが、自分の言いたいことを伝えるための言葉を探し出せずにいた。表出性失語症と呼ばれる状態だ。Markさんは彼女から言葉を引き出すために歌や詩、祈りなどを口にした。 CecileさんがICUに収容されてから数日後、Markさんは看護師からある話を聞かされた。彼がそばにいる時は元気そうにしているCecileさんも、彼が帰った後に毎晩泣いているという。そして、結婚したばかりのMarkさんが自分から離れていってしまうのではないかとの不安を、困難な発語で訴えるのだという。Markさんは次の面会の時、「僕は君から絶対に離れない」と妻に告げた。そして、「しかし君には成すべき仕事がある。君の体と心を動かす力を持っているのは君だけだ」とも語った。 ICUで2週間過ごした後、Cecileさんはリハビリ施設に転院した。2011年4月から1カ月にわたり毎日、言語療法、作業療法、理学療法を受けた。一方、その間に医師たちは、Cecileさんの脳卒中は抗リン脂質抗体症候群(APS)が原因だったと突き止めた。APSは自己免疫疾患の一つで、血栓症のリスクを高める疾患だ。 退院後もCecileさんは自宅でのリハビリを続けた。右手の麻痺の改善のために、MarkさんはCecileさんの黒帯を使って彼女の左腕の動きを制限して、できるだけ右手を使わざるを得ないようにするなどした。互いにいらつくこともあった。しかし、チームとして力を合わせ、回復を目指した。同じ年の7月までにCecileさんは、Markさんの実家のあるニューヨークに飛行機で行けるほどになっていた。しかし、左目の視力は戻らず、疲れやすくなっていた。 2011年10月、彼女はマーケティングの仕事にパートタイムとして戻り、電車などの公共交通機関を利用するようになった。さらに2013年には失効していた運転免許証を再取得した。ところが翌年、彼女の状態にあわせて就労環境を整備し、回復をサポートしてくれていた勤め先が、ほかの企業に売却された。彼女は職を失っただけでなく、愛する家族を失ったように感じた。憂うつになり、自宅にこもりがちになった。 そんな彼女をそばで見守っていたMarkさんは、2カ月後、妻に言った。「家にいるばかりではいけない。このままでは、僕たちが戦って得てきたものが全て消え去ってしまう」と。彼はテコンドーの教義にある「百折不撓(不屈の精神)」をCecileさんに思い出させて励ました。やがてCecileさんは、友人に会うようになり、新しい職にも就いた。 今年に入り、夫婦でテコンドー教室を訪れた。Cecileさんは視力と平衡感覚の障害のため、トレーニングには参加できなかった。しかし彼女は、「私にとっては、ここに戻ってくることに重要な意味がある。体の麻痺は徐々に改善してきている。まだできないこともあるが、挑戦することに気持ちの昂りを感じている」と語っている。[2023年5月15日/American Heart Association] Copyright is owned or held by the American Heart Association, Inc., and all rights are reserved. If you have questions or comments about this story, please email editor@heart.org.利用規定はこちら

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急性期脳梗塞へのtirofiban、アスピリンより優れた改善/NEJM

 大・中脳血管の閉塞を伴わない急性期脳梗塞患者の治療において、糖蛋白IIb/IIIa受容体阻害薬tirofibanは低用量アスピリンと比較して、非常に優れたアウトカム(修正Rankin尺度[mRS]スコア0または1)が達成される可能性が高く、安全性には大きな差はないことが、中国・陸軍軍医大学のWenjie Zi氏らが実施した「RESCUE BT2試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2023年6月1日号に掲載された。中国のダブルダミー無作為化試験 RESCUE BT2試験は、中国の117施設で実施された二重盲検ダブルダミー無作為化試験であり、2020年10月~2022年6月の期間に参加者のスクリーニングが行われた(中国国家自然科学基金の助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、大・中脳血管の閉塞を伴わない脳梗塞を有し、米国国立衛生研究所脳卒中スケール(NIHSS)スコアが5点以上で、少なくとも1肢に中等度~重度の脱力がみられ、以下の4つの臨床状態のいずれかに当てはまる患者であった。 (1)血栓溶解療法、血栓回収療法の適応がなく、最終健常確認から24時間以内、(2)発症後24~96時間の時点で脳梗塞症状の進行を認める、(3)血栓溶解療法後早期に、神経症状の増悪がみられる、(4)血栓溶解療法後4~24時間の時点で神経症状の改善がない。 被験者は、tirofiban静脈内投与+プラセボ経口投与を受ける群(tirofiban群)、またはアスピリン(100mg/日)経口投与+プラセボ静脈内投与を受ける群(アスピリン群)に無作為に割り付けられ、2日間の投与が行われた。その後は、全例に90日目までアスピリンが経口投与された。 有効性の主要エンドポイントは、90日時点における非常に優れたアウトカムとされ、mRSスコア(0[症状なし]~6[死亡]点)が0または1であることと定義された。主要エンドポイントの達成割合は予想より低い 1,177例が登録され、tirofiban群に606例(年齢中央値68.0歳、男性62.5%、NIHSSスコア中央値9.0点、脳梗塞発症または症状進行から無作為化までの時間中央値10.9時間)、アスピリン群に571例(68.0歳、65.3%、9.0点、11.2時間)が割り付けられた。ほとんどの患者が、アテローム性動脈硬化性と推定される小梗塞を有していた。 90日時にmRSスコア0または1を達成した患者の割合は、tirofiban群が29.1%(176/604例)と、アスピリン群の22.2%(126/567例)に比べ、有意に優れた(補正後リスク比:1.26、95%信頼区間[CI]:1.04~1.53、p=0.02)。 90日時の総合アウトカム(mRSスコア0/1、NIHSSスコア0/1、Barthel指数95~100点、Glasgowアウトカム尺度5点の統合)(共通オッズ比[OR]:1.38、95%CI:1.07~1.78、p=0.01)は、tirofiban群で良好であったが、90日時のmRSスコア中央値(共通OR:1.23、95%CI:1.00~1.51、p=0.06)には有意差はみられなかった。 死亡は、tirofiban群が3.8%(23/604例)、アスピリン群は2.6%(15/567例)で認められ、両群間に有意な差はなかった(補正後リスク比:1.62、95%CI:0.88~2.95、p=0.12)。症候性頭蓋内出血は、tirofiban群が1%(6/606例)で発現し、アスピリン群では発現しなかった(p=0.03)。 著者は、「非常に優れたアウトカムの達成割合は、両群とも予想より低かった。これは、参加者の多くが大学病院以外の施設で募集されたため、脳梗塞後の院外リハビリテーションを受けなかった可能性があり、機能回復が限定的であったことが原因と推察される」としている。

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脳卒中後の回復の鍵は運動

 脳卒中後の回復には、運動が重要である可能性を示すデータが報告された。脳卒中発症後の6カ月間に運動量を増やして継続していた患者は、そうでない患者よりも機能的転帰が良好だったという。ヨーテボリ大学(スウェーデン)のDongni Buvarp氏らの研究によるもので、詳細は「JAMA Network Open」に5月1日掲載された。同氏は、「脳卒中の重症度にかかわりなく、運動量を増やすことでメリットを得ることができる」と話している。 この研究は、2014年10月~2019年6月に、スウェーデンの35の医療機関が参加して実施された、抗うつ薬の有効性を検証した臨床研究のデータを用いて行われた。研究参加者は脳卒中発症後2~15日に登録された18歳以上の患者1,367人〔年齢中央値72歳(四分位範囲65~79)、男性62%〕。主要評価項目は、運動量の経時的な変化であり、副次的に6カ月後の機能回復の程度(mRSスコア)が評価された。 6カ月の追跡期間中に身体活動量が増加していた群720人(53%)と、減少していた群647人(47%)に二分し、交絡因子を調整後に比較すると、脳卒中の重症度(NIHSSスコア)は、脳卒中後の運動量の増減と有意な関連がなかった。その一方、男性であることと認知機能が正常であることが、運動量が増加することと有意に関連していた。また、脳卒中後の運動量の増加は、6カ月後の機能的転帰が良好なこと(mRSスコアが2点以下)と、有意に関連していた〔調整オッズ比2.54(99%信頼区間1.72~3.75)〕。 Buvarp氏によると、脳卒中後の治療には、少なくとも週に4時間の軽い運動が理想的だという。運動の種類としては、散歩やガーデニング、釣り、卓球、ボーリング、自転車などが良いとのことだ。「身体活動は脳と体の双方の能力を高め、脳卒中後の回復を助ける。さらに、アクティブなライフスタイルは脳卒中患者の可動性を高め、転倒、うつ病、心臓病のリスクを軽減する」と話している。 この報告に関連して、米ロングアイランド・ジューイッシュ・フォレストヒルズ病院のRohan Arora氏は、「運動は脳卒中後の回復に不可欠である。運動中には脳の正常な部分が働いて、脳卒中でダメージを負った部位の代わりを果たそうとする。つまり運動は、脳卒中後の脳を再プログラムするように働く」と解説する。 しかし同氏によると、脳卒中後には運動しようという意欲そのものを失っている患者も存在するとのことだ。そして、「そのような患者に対して活動的になるように促すのも、医師の仕事の一部だ」と話す。そのような働きかけの結果、運動を始めると、「脳内で心地良いという情報を伝える物質が増加し、それによってモチベーションが高まり、回復へとつながっていく」のだという。ただ、Arora氏は、「運動は脳卒中後の患者の回復を促し、脳卒中の再発リスクを下げるための一つの手段に過ぎない。禁煙と標準体重の維持、健康的な食事も重要だ」と付け加えている。

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心臓病の家族歴がありながら運動習慣により長期間健康を保った女性

 米国カリフォルニアに住んでいたJana Turnerさんは、自分の人生を常にコントロールしているという感覚を楽しみながら生活していた。結婚せず子供のいない彼女は、仕事のキャリアを最優先事項とし、企業の経営を担う身ともなっていた。 彼女はまた、自分の健康もコントロールしていた。両親と4人の祖父母の全員が心臓病で亡くなっていたため、健康的な食事を取り、身体活動を維持し、痩せ気味の体型を保っていた。ゴルフやサイクリング、ハイキング、ウエートトレーニングも続けていたし、コレステロールを下げる薬も服用していた。 2020年5月、当時65歳だった彼女は、自宅付近を歩いている時に胸の痛みを感じ始めた。彼女は息を鎮めるために15分ほど縁石に座っていた。心臓発作が起きたのではないかと考え主治医の診察を受けたが、心電図上にその兆候は見られないとの結果だった。主治医は消化器系の問題と判断しその薬を処方。しかし症状は数週間持続。そのため次に、消化器科を受診すると、小さな潰瘍が発見された。ただし、ほかにも多くの症状があったため、さらに別の消化器専門医に診てもらったところ、その医師はニトログリセリンを処方した上で、心臓専門医に診てもらった方が良いとアドバイスした。 心臓専門医は、心臓核医学検査を施行。その翌朝、医師から伝えられたのは、「冠動脈の少なくとも1カ所に閉塞がある」という結果だった。さらに詳しい検査が行われ、1本の冠動脈主幹部に99%以上の閉塞があり、別の冠動脈にも閉塞が見つかった。それら2カ所にバイパスを作成するための開心術が必要と判断された。Turnerさんの現在の主治医であるAnne-Marie Feyrer-Melkさんは、「閉塞が99%の場合、猶予はほとんどない。もしプラークが破裂したら、その先はほんの一瞬のことだ」と解説する。Turnerさんはセカンドオピニオンを求めようとしたが、医師は「その時間はない」と彼女に答えた。彼女は涙をこらえきれなくなった。それはコロナパンデミック中に起きたことであり、病院の訪問規制のために誰も相談できる人はなく、彼女は1人で決断しなければならなかった。 手術はうまくいった。6日後に自宅退院し、それからは心臓リハビリテーションに励み、近所の散歩や階段の昇降もした。「私の場合、回復は順調だった」と彼女は語る。Feyrer-Melkさんによると、Turnerさんの若い時からの運動療法の継続が、彼女の迅速な回復に役立ったという。そして、「彼女がもし成人後の45年間、ジムなどで運動をしていなかったとしたら、恐らく数十年前にバイパス術が必要な状態になっていただろう」と解説する。 約1年後、彼女はカリフォルニアからアリゾナに引っ越し、新しい心臓専門医を予約した。そこで受けた検査の結果、バイパスの狭窄を指摘された。バイパス手術では、体の別の部分から採取した血管を使って血行を再建するが、その血管もまた狭くなってしまうことがある。「死にたいと思ったのは、それが初めてのことだった」とTurnerさんは振り返る。しかし医師は楽観的で、それほど深刻な問題ではないと伝えた。結局、再度バイパス手術を行うのではなく、ステントを留置することでこの問題をクリアできた。 完全な健康状態に戻ったTurnerさんは、自分に起こった問題の原因を探した。心臓病の濃厚な家族歴があったにもかかわらず、症状発現から正しい診断を受けるまでに、とても長い時間がかかったことが腹立たしく感じた。彼女は今、自分の経験からほかの人に学んでもらいたいと思っている。「あなたの症状を無視しないでほしい。心臓に何か問題があると感じた時は、心臓専門医に診てもらうことが重要だ。それがあなたの命を救うことになる」と語る。 心臓病を経験したことでTurnerさんは一時期、以前のように人生をコントロールできるという感覚を失っていた。不安に苛まれたり、緊張して動悸を感じたり、感情的になりやすくなった。しかし、仕事量を減らし、広大な風景に囲まれた家を売却して手ごろなコンドミニアムに転居したことで状況が変わった。「現在の私はこの新居に夢中だ。心臓病を経験したことは、今を自由に生きる術を私に与えてくれたと感じている」。[2023年4月20日/American Heart Association] Copyright is owned or held by the American Heart Association, Inc., and all rights are reserved. If you have questions or comments about this story, please email editor@heart.org.

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顔面神経麻痺診療ガイドライン 2023年版

ガイドラインに進化した顔面神経麻痺診療のバイブル誕生!『顔面神経麻痺診療の手引2011年版』を、Bell麻痺・Hunt症候群・外傷性顔面神経麻痺を対象に、『ガイドライン』として大改訂。日本顔面神経学会認定の「顔面神経麻痺治療医」、「顔面神経麻痺リハビリテーション指導士」のテキストで、リハビリテーション治療・形成外科的治療・鍼灸治療・その他の治療内容を詳しく解説します。システマティックレビューに基づいたCQも充実。顔面神経麻痺の治療がどこまで確立しているか、どのような点が不足しているのかも明確化される教科書になっています。顔面神経診療に携わるすべての方々に必読の1冊です。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    顔面神経麻痺診療ガイドライン 2023年版定価3,300円(税込)判型B5判頁数176頁(図数:37枚)発行2023年5月編集日本顔面神経学会

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高齢化の進む米国、在宅介護利用者の増加に介護士の数が追いつかず

 高齢化が進む米国では過去10年間、老人ホームよりも自宅で介護士の手を借りながら日常生活動作をこなすこと(Home and Community-Based Services;HCBS、自宅およびコミュニティーに根差したサービス)を好む人が増加している。しかし、そのようなHCBSのニーズが大きな高まりを見せる一方で、それに対応できる介護士の増加の幅はわずかであることが、新たな調査から明らかになった。米ペンシルベニア大学Leonard Davis Institute of Health EconomicsのAmanda Kreider氏とRachel Werner氏らによるこの調査結果は、「Health Affairs」に4月19日掲載された。 Kreider氏は、「自宅で長期介護を受けたいと考える人の数が経時的に増加していることは分かっている。この一因は米国の人口の高齢化にある。その上、介護施設ではなく自宅で長期介護を受ける高齢者や障害者も実際に増えている」と話す。同氏によると、この変化は主に、長期介護保険の担い手であるメディケイドが徐々にHCBSを低料金または無料でカバーするようになってきたことに起因するという。同氏は、「長期介護が必要な人は、できる限り自宅で生活することを望む傾向があることから、理論上はこのシフトは好ましい傾向だ」と述べる。 このような現状を踏まえた上で、Kreider氏とWerner氏は、現在利用可能な訪問介護士の供給が目下の需要を満たすのかどうかを、2種類のデータを用いて調べた。データの一つは、米国国勢調査局が毎年実施する「米国コミュニティー調査」の2008年から2020年のデータである。この調査では、米国の350万世帯の特性に関する情報が集められ、在宅で仕事をしていた医療従事者の数が推計されている。もう一つは、非営利的な医療政策団体であるカイザー・ファミリー財団(KFF)が収集した調査データで、1999年から2020年にかけて、各州で在宅ケアを求めるメディケイド加入者の数が追跡されていた。 データを分析した結果、在宅介護業界の労働力は、2008年の約84万人から2013年の122万人へと増加し、2013年以降は増加のペースが鈍化したものの、2019年には142万人に達したことが明らかになった。これに対して、HCBSを求めるメディケイド受給者の数は2008年から2020年にかけて継続的な増加を示し、特に2013年から2020年にかけてはその増加のペースが加速していたことが判明した。その結果、2013年から2019年にかけて、HCBSを利用する患者100人当たりの訪問介護士の数は11.6%減少したと推定された。 Kreider氏は、「2020年以降に需要と供給の間の差がさらに拡大している可能性は大いにあるが、われわれは、この点に関しては、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの影響を踏まえて慎重に解釈している」と述べている。 在宅介護業界の成長が鈍い理由についてKreider氏は、その負の側面に言及する。同氏は、「在宅介護の仕事は過酷であり、給料は安くて手当も少ない。介護士の多くは貧困状態にあり、半数以上がメディケイドやSNAP(補助的栄養支援プログラム)などの公的なサービスや支援に頼っている。介護業界は労働者を集めるのに苦心しており、より賃金の高いファストフード業界に労働者を奪われているとの逸話さえある。このような現状は、COVID-19によるバーンアウト(燃え尽き症候群)が原因で悪化している可能性もある」と話す。 こうした問題を解決するための現実的な方法は賃金の上昇だとKreider氏は指摘する。同氏によると、介護業界が、労働者の給料を上げられない理由としてよく挙げるのが、メディケイドの支払い率の低さだという。同氏は、「メディケイドは長期在宅介護の主要な保険者であるため、賃金を上げるためにはメディケイドの支払い率の上昇も必要になる可能性がある」との見方を示している。さらに同氏は、「介護業界では、訓練や成長、キャリアアップの機会、予測可能なスケジュール、介護業界の文化や人材紹介業者の改善も必要だ」と付け加えている。

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事例024 外反母趾の治療装具採寸の査定【斬らレセプト シーズン3】

解説事例では、傷病名に対する「J129-3 治療用装具採寸法」(以下「同法」)を行ったところD事由(告示・通知の算定要件に合致していないと認められるもの)にて査定となりました。査定理由を把握するために同法の留意事項をみてみました。「既製品の治療用装具を処方した場合には、原則として算定できない。ただし、医学的な必要性から、既製品の治療用装具を処方するに当たって、既製品の治療用装具を加工するために当該採寸を実施した場合は、診療報酬明細書の摘要欄に医学的な必要性及び加工の内容を記載すること」とあります。この留意事項に従って医学的な必要性が記入されています。記入がない場合は有無なく査定となりますが、今回は医学的な必要性が記入されています。ところがよくみると、必要性のみであって、「及び」で結ばれる後段の加工の内容が記入されていません。したがって、必要十分な医学的な必要性と加工の内容が記入されていないとして査定となったことが推測できます。医師には、必ず後段の記入を頂けるようお願いして査定対策としました。参考までに、加工内容が既製品の単純な長さ調節などの表現のみでは査定対象となるようですのでご注意ください。

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第161回 止められない人口減少に相変わらずのんきな病院経営者、医療関係団体。取り返しがつかなくなる前に決断すべきこととは…(前編)

5月の連休、北海道のテレビが放送されている下北半島で考えたことこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。5月の連休、私は山仲間と青森県の八甲田山に行って来ました。豪雪で有名な酸ヶ湯温泉から地獄湯の沢を登って大岳(八甲田山の主峰です)、毛無岱を経て酸ヶ湯に戻る周回コース。幸い好天で残雪の春山を堪能できたのですが、やはりここ八甲田山でも雪は例年より少なく、地元の人は「季節が変わるのが2週間は早い」と話していました。八甲田山を登った後はレンタカーで下北半島巡りをしました。恐山霊場を参拝した後、下風呂温泉の宿に泊まったのですが、その宿のテレビでは北海道の民放が普通に放送されていました。もちろんCMも北海道の企業のものばかりです。下北半島の北エリアはテレビ的には青森ではなく距離が近い函館圏内、ということなのでしょう。ちなみにマグロで有名な下北半島の先端にある大間町と函館市の距離は直線(フェリー)で約46キロ、大間町と青森間は国道を使って約150キロです。となると仕事柄、医療提供体制についても気になるので、源泉かけ流しの温泉に浸かった後、ちょっと調べてみました。下北半島が位置する下北地域には4つの病院があります。基幹病院である一部事務組合下北医療センター・むつ総合病院(454床)以外は、国民健康保険大間病院(48床)、自衛隊大湊病院(30床)、むつリハビリテーション病院(120床)と、中小病院とリハビリ病院しかありません。実質的にむつ総合病院が、この地域の急性期医療を一手に引き受けていることになります。ただし、大間町からむつ市までは陸路で48キロもあり、距離的には函館とほぼ同じです。医療、とくに救急などの急性期医療に迅速に対応するには微妙な距離です。北海道のドクターヘリが自由に使えれば、ある意味”函館医療圏”と言ってもいいくらいでしょう。翌日我々は、人口減に苦しむ僻地の医療の大変さを実感しながら、約2時間半をかけてむつ市経由で青森まで車を走らせました。日本の人口、50年後の2070年には3,900万人減少し8,700万人にということで今回は、ゴールデンウイーク直前の4月26日に厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所が公表した「将来推計人口」と、日本の医療提供体制への影響について書いてみたいと思います。「将来推計人口」は国勢調査を基に5年に1度公表する日本の人口の長期予測です。今回は新型コロナウイルスの影響で2017年4月以来、6年ぶりの公表となりました1)。それによれば、最も実現性の高いとされるケースで、2020年に1億2,615万人だった日本の人口は、50年後の2070年には3,915万人減少し、8,700万人になるとのことです。女性1人が生涯に産む子供の推定人数「合計特殊出生率」は2070年に1.36と推計されました(2020年は1.33)。推計には、日本に住む外国人も含まれ、933万人で人口の約1割になるとしています。人口が1億人を割るのは2056年で、前回推計の2053年より3年遅くなりました。そして2067年には9,000万人を下回るとしています。「生産年齢人口」は人口の52.1%まで減少65歳以上の高齢者の割合である高齢化率は2020年に28.6%だったのが、今後も上昇し2070年には38.7%まで高まるとしています。高齢者数のピークは前回推計では2042年の3,935万人でしたが、今回は1年遅い2043年の3,953万人となりました。15歳から64歳までの「生産年齢人口」は2020年で7,509万人(全人口の59.5%)だったものが、2070年には4,535万人、全人口の52.1%まで減少するとしています。ただし、外国人の流入もあり、前回(4,281万人)よりは働き手を多く確保できる推計となっています。平均寿命は2020年で男性81.58歳、女性87.27歳だったものが、2070年には男性85.89歳、女性91.94歳にまで延びるとしています。人口が減れば医療・介護のマーケットは縮小、今以上の人手不足が起こる以上が、最新の「将来推計人口」の概要です。6年前の推計と比べ、人口1億人割れの時期は3年遅くなったものの、日本の人口減の勢いはまったく弱まらないようです。人口が減るということは、都道府県、市町村の人口が減り、医療・介護のマーケット(つまり患者数)が縮小、同時に、労働集約型産業の側面が大きい医療・介護の分野での人手不足が今以上に深刻になることを意味します。日本の医療の現場では現在、そうした事態に備えた準備を着実に進めていると言えるでしょうか。私は2つの側面からみて、現場の医療者の多くはまだまだ他人事として、のんきに構えているようにしか見えません。遅々として進まない病院の役割分担の明確化や再編成に向けての動き1つ目の側面は医療提供体制における、病院の役割分担の明確化や再編成、病床削減などの取り組みです。将来の地域の医療提供体制(医療機関の役割分担)を形づくる国の仕組みとしては、医療法で定められた「医療計画」と「地域医療構想」があります。医療計画は現在、各都道府県で第8次医療計画(2024〜28年)の策定が進められています。地域医療構想については当面は策定された2025年の目標に向けての取り組みが進められていることになっています(次の地域医療構想は2040年頃を視野に入れつつ策定予定ですが、詳細は未定)。しかし、大規模な再編が本格化しようとした矢先、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが起こり、地域の病院再編は先延ばしとなってしまいました(「第32回 遅れに遅れた地域の病院再編、コロナに乗じた「先延ばし」はさらなる悲劇に」参照)。コロナ禍で、補助金などにより一時的に地域の公立・公的病院の経営状況が上向いたことや、地域の病院病床の必要性が”再確認”されたこともあり、病院の役割分担の明確化や再編成に向けての動きは活発化していません。実際、財務省もそんな状況にやきもきしています。4月28日に開かれた医療や介護など社会保障分野の改革を検討する政府のワーキンググループにおいて、財務省は地域医療構想について「過去の工程表と比較して進捗がみられない」「目標が後退していると言われかねない」などと指摘しています。山形県米沢市では公立、民間が病院機能を再編するケースももっとも、そんな中でも先を見越し、大胆な再編計画を進める地域もあります。厚生労働省が3月1日に開いた第11回地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループでは、山形県米沢市でのユニークな取り組みが紹介されました。米沢市では、米沢市立病院(322床)と民間(一般財団法人 三友堂病院)の三友堂病院(185床)と三友堂リハビリテーションセンター(120床)の再編計画が進行中です。3つの病院の機能分化と連携強化を推し進め、急性期は米沢市立病院が、それ以外の回復期や慢性期などは三友堂病院が担うことにしたのです。また、各病院とも老朽化が進んでいたことから、現在、米沢市立病院がある敷地に三友堂病院(三友堂リハビリテーションセンターを統合)が移転し、通路を挟んでそれぞれが新病院を建設することになりました。開院予定は今年11月です。人口減と高齢化を背景に、公と民の病院が生き残りを賭けたこの計画、病床数は米沢市立病院が59床減の263床、三友堂病院が106床減の199床になる予定です。公立病院と民間病院の組み合わせということで完全な統合はせず、それぞれ経営が独立したまま「地域医療連携推進法人」を設立し、人材交流や物資の共同利用を進める方針です。この連載でも地域医療連携推進法人については度々書いてきましたが、公立・公的と民間というように、経営母体が違う法人同士の連携を進める上では、使い勝手の良い制度と言えるでしょう(「第138回 かかりつけ医制度の将来像 連携法人などのグループを住民が選択、健康管理も含めた包括報酬導入か?」参照)。ちなみに、この米沢市のケースを想定してか、国の認定再編計画に基づいて再編を行う病院同士を併設する場合、施設や構造設備を共用できるのは「再編対象病院が同一の地域医療連携推進法人に参加していること」とする厚生労働省医制局長通知(医政発0331第10号「病院の併設について」)が今年の3月31日に発出されています。相変わらずのんきな日本医師会、日本薬剤師会「自分たちだけは大丈夫」と考え、依然再編には無関心の病院経営者も少なくないようですが、このケースのように高齢化、人口減、患者減、医師・看護師などの医療者確保難が深刻化している地域では、ドラスティックな再編に乗り出す医療機関がこれからも増えることでしょう。しかし一方で、相変わらずのんきなのは日本医師会や日本薬剤師会といった医療関係団体のトップです。人口減が招くであろう人材難に対する危機感が希薄過ぎるのです。(この項続く)参考1)日本の将来推計人口(令和5年推計)/国立社会保障・人口問題研究所

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坐骨神経痛の手術の効果のほどは?

 坐骨神経痛による痛みや障害に対する治療として、手術は最良の選択肢とは言えないのではないかとする論文が、「The BMJ」に4月19日掲載された。シドニー大学(オーストラリア)のChristine Lin氏らの研究によるもの。 Lin氏は坐骨神経痛を、「腰椎椎間板ヘルニアなどによって脊髄の神経が圧迫されるために生じる下肢の痛みであり、腰の痛みや筋力の衰え、下肢の異常感覚として現れることもある」と解説する。治療法としては、「侵襲性の低い手段が優先されるが、その効果が不十分な場合には手術が推奨されることが多い」という。 今回、Lin氏らは、その手術治療の有効性をシステマティックレビューとメタ解析により検討。ヘルニアを取り除く椎間板切除術によって、術後の短期間は痛みと障害の抑制効果が確認されたものの、1年後には手術をしなかった群との差がほとんど見られないという結果だった。ただし同氏によると、「坐骨神経痛の治療は手術以外にも、理学療法やステロイドの局所注射など複数の方法があるが、どれも科学的エビデンスが十分でない」とのことだ。 システマティックレビューには、Medline、Embaseなどの文献データベースを利用。2022年6月までに収載された論文から、画像検査で診断された椎間板ヘルニアに対して、椎間板切除術の有効性を対照群(薬物療法、プラセボ投与、シャム手術などの非外科的治療)と比較検討している、24件の無作為化比較試験の報告をメタ解析の対象として抽出した。下肢の痛みと障害の程度は、0~100点のスケールに変換し、両群の差が20点を超えた場合は効果が「大」と判定。10~20点は効果が「中」、5~10点は「小」、5点未満は「わずか」と判定した。 メタ解析の結果、下肢の痛みに対しては、手術後の早期には軽減効果が認められるものの、時間の経過とともに群間差が小さくなっていき、障害に対しては手術後の早期から群間差が少ないことが明らかになった。より具体的には、術後3カ月までは痛みに対する効果が「中」、障害に対しては「小」、3~12カ月ではどちらも「小」であり、12カ月時点の評価ではどちらも「わずか」と判定された。 これを基にLin氏らは、「椎間板切除術が非外科的治療よりも有効であるとするエビデンスは低い、もしくは非常に低い」と結論付けている。ただし、この結果に関して同氏は、「以前の研究でも同様のデータが示されており、驚くべきことではない。坐骨神経痛は、治療にかかわらず時間の経過とともに改善することが多いものだ」と解説。一方で、「手術は症状を迅速に緩和する可能性があり、早期治療の選択肢と見なしても良いのではないか。手術のリスクとコストをメリットが上回ると考えられる患者にとっては、重要な選択肢となり得るだろう」と付け加えている。 この論文に対して、英オックスフォード大学のAnnina Schmid氏らが付随論評を寄せている。Schmid氏はその中で、「坐骨神経痛患者の多くは、理学療法、薬物療法、または手術のいずれを選択するかにかかわりなく、自然に症状が軽快する。その影響もあり、この研究に見られるように、外科的治療と非外科的治療は、長期的には同等の改善効果を示すと考えられる」と述べている。

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第146回 テドロス氏、新型コロナ緊急事態宣言終了を発表/WHO

<先週の動き>1.テドロス氏、新型コロナ緊急事態宣言終了を発表/WHO2.第8次医療計画、医師偏在の解消のため医師確保計画を強化へ/厚労省3.健康保険法改正でかかりつけ医機能は強化されるか?/内閣府4.2024年診療報酬・介護報酬改定に向けた議論開始/厚労省5.医師偏在対策、新規開業希望者や金融機関にも外来医師偏在指標の明示へ/厚労省6.介護ロボットで介護サービスの生産性向上と人手不足解消を/厚労省1.テドロス氏、新型コロナ緊急事態宣言終了を発表/WHO世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は、5月5日に「新型コロナウイルスに関する緊急事態宣言を終了する」と発表した。この宣言は、ワクチンの普及により死者数が大幅に減少したことに基づくもので、約3年3ヵ月の期間を経て終了となった。ただし、ワクチン接種などの感染対策を通じたウイルスとの共存が今後の課題とされており、専門家からは、緊急事態宣言の解除により各国の対策が緩む可能性や、新たな変異株の出現による感染者や死者の増加リスクに注意が必要との懸念も示されている。WHOはこれまでに計7回の緊急事態宣言を行っており、今回の終了宣言により世界中で新型コロナウイルスの位置付けは変わる。WHOの集計によれば、新型コロナによる死者数は5月初めの時点で700万人弱とされ、実際、少なく見積もっても2,000万人の死亡推定がなされるなど、今後もウイルスの変異や感染の動向に対する警戒が必要となる。(参考)WHOテドロス氏「悲劇繰り返さぬよう」 コロナ緊急事態宣言終了(毎日新聞)WHO、新型コロナ緊急事態の終了を宣言 テドロス事務局長が表明(朝日新聞)WHOの緊急事態宣言とは コロナ以外も、計7回(同)WHO、新型コロナ緊急事態宣言終了を発表 3年3カ月(日経新聞)2.第8次医療計画、医師偏在の解消のため医師確保計画を強化へ/厚労省厚生労働省は、2024年度から第8次医療計画が開始されことに先立ち「第8次医療計画等に関する検討会」を開催し、2022年12月に意見の取りまとめを行った。これを基に3月31日に「医師確保計画策定ガイドライン及び外来医療に係る医療提供体制の確保に関するガイドライン」に付随する「医師確保計画策定ガイドライン」と「外来医療に係る医療提供体制の確保に関するガイドライン」を改定した。医療計画に「医師確保計画」が含まれているのは、医師の偏在により医療計画が進捗しないため、2019年度に医療計画に新たに「医師確保計画」として3次医療圏間および2次医療圏間の偏在是正による医師確保対策などを定め、2020年度から取り組みが行われてきた。しかし、2020年度以降も「医師偏在」が進行しているとして、第8次医療計画では「医師確保計画」をさらに強化し、厚生労働省では2036年までに医師偏在是正の達成を目指している。医師偏在格差の是正の取り組みについて、各都道府県が2次医療圏を、医師多数区域(医師偏在指標に照らし上位3分の1)、中間の区域、医師少数区域(同下位3分の1)に3区分に分類する。そして、上位の医師多数区域と中間区域について、医師偏在の助長を回避するため、目標医師数は、原則として、計画開始時の医師数を設定上限数として、格差是正のため、医師多数区域では、圏域外からの医師確保は行わず、逆に医師少数区域に医師を派遣するように求め、中間の区域では、圏域内に「医師少数スポット(限定的ながら医師が少ない地域)」がある場合は他の2次医療圏からの医師派遣を受ける、医師少数区域医師多数の区域(他の2次医療圏)から医師派遣などを受けるなどで、医師確保計画の効果の測定・評価を行っていく。今回の計画策定では、2024年4月に施行される「医師に対する時間外・休日労働時間の上限規制」を踏まえて、「医師の働き方改革」と「地域医療構想」「医師確保」の取り組みを一体的に推進することになる。(参考)医師確保計画策定ガイドライン~第8次(前期)~(厚労省)医師偏在指標について(同)医師確保計画の見直しに向けた意見のとりまとめ(同)第8次医療計画等に関する意見のとりまとめ(同)2024年度から強力に「医師偏在解消」を推進!地域の「すべての開業医」に夜間・休日対応など要請-厚労省(Gem Med)3.健康保険法改正でかかりつけ医機能は強化されるか?/内閣府子育て支援策を含む「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案」は、衆議院で賛成多数で可決され、現在参議院で審議が行われている。この法案は、全世代型社会保障構築会議のこれまでの議論を取りまとめ、昨年12月16日に全世代型社会保障構築会議報告書の形で内閣府に提出された内容を反映しており、岸田総理が異次元の少子化対策を打ち出したこども・子育て支援の拡充のほか、高齢者医療を全世代で公平に支え合うことを目的に高齢者医療制度の見直し、医療保険制度の基盤強化のほか、かかりつけ医機能の4つが含まれている。通常国会への同改正法案の提出後の2月24日に第13回全世代型社会保障構築会議が開催された。元厚生労働省の香取 照幸氏から「全世代型社会保障構築会議報告書の内容と法案との対比~報告書の内容はどこまで法案に反映されているか~」という資料が提出、議論された。この中で、かかりつけ医機能につき、かかりつけ医については「患者による選択」がコンセンサスであることが確認された。また、今回の法案の「かかりつけ医機能の定義」や「かかりつけ医機能報告の対象は慢性疾患を有する高齢者に限定」されていることが問題であり、かかりつけ医機能はネットワークで実装することやそのための医療情報基盤の整備については不明のままであるなど問題点を指摘した香取氏は、「今回の制度改正はあくまで『かかりつけ医機能が発揮される制度整備』の第一歩であるとして、引き続き必要な制度整備・政策遂行に尽力してほしい」と意見を述べた。今後、本法案の国会可決後に、厚生労働省は具体化に向け、各方面から意見を集め、令和7年4月にかりつけ医機能報告制度は創設される予定。(参考)全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案について(内閣府)第13回 全世代型社会保障構築会議(同)第13回 全世代型社会保障構築会議 議事録(同)全世代型社会保障構築会議報告書(同)全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案(医療法改正部分)について(同)4.2024年診療報酬・介護報酬改定に向けた議論開始/厚労省2年に1度の診療報酬改定と3年に1度の介護報酬改定が同時になる2024年春。同時改定に向けた議論が厚生労働省で始まっている。厚生労働省は、中央社会保険医療協議会と社会保障審議会・介護給付費分科会の主要メンバーを交えた令和6年度の同時報酬改定に向けた意見交換会を今年の3月から開始している。3月15日に開催された第1回では、地域包括ケアシステムのさらなる推進のための医療・介護・障害福祉サービスの連携やリハビリテーション、要介護者などの高齢者に対応した急性期入院医療について話し合われた。この中で従来から求められてきた「医療・介護」の連携だけでなく、「医療・介護と障害福祉サービスとの連携」まで踏み込んだ形で議論が行われており、入院前からの情報連携や、医療や介護職とケアマネジャーとの情報提供の強化によりケアの継続性・連続性を担保する仕組みの強化が必要といった意見も出されている。また、4月19日に開催された第2回では、高齢者施設・障害者施設などにおける医療、認知症について話し合われ、急性期入院医療でも「身体拘束ゼロ」を目指すべきといった意見のほか、感染対策向上加算の合同カンファレンスに介護施設の参加を求める意見などが出されている。今後は5月に、「人生の最終段階における医療・介護や訪問看護など」をテーマに第3回が開催される予定。これらの意見を基に来年度の診療報酬改定、介護報酬改定に向けた具体的な政策が盛り込まれていくとみられる。2024年はほかにも医療介護総合確保方針、第8次医療計画、介護保険事業(支援)計画、医療保険制度改革などの医療と介護に関わる関連制度の一体改革にとって大きな節目であることから、今後の医療および介護サービスの提供体制の確保に向けさまざま視点から、大規模な改正が見込まれ、医療・介護現場において対応が求められる。(参考)令和6年度の同時報酬改定に向けた意見交換会(第1回)令和5年3月15日(厚労省)令和6年度の同時報酬改定に向けた意見交換会(第2回)令和5年4月19日(同)感染対策向上加算の要件である合同カンファレンス、介護施設等の参加も求めてはどうか-中医協・介護給付費分科会の意見交換(1)(Gem Med)急性期入院医療でも「身体拘束ゼロ」を目指すべきで、認知症対応力向上や情報連携推進が必須要素-中医協・介護給付費分科会の意見交換(2)(同)要介護高齢者の急性期入院医療、介護・リハ体制が充実した地域包括ケア病棟等中心に提供すべきでは-中医協・介護給付費分科会の意見交換(同)5.医師偏在対策、新規開業希望者や金融機関にも外来医師偏在指標の明示へ/厚労省厚生労働省は、3月31日に「外来医療に係る医療提供体制の確保に関するガイドライン」を公表した。この中で診療所医師数が一定程度充足している地域について、外来医師偏在指標の値が全2次医療圏の中で上位33.3%に該当する2次医療圏を「外来医師多数区域」と設定し、新規開業希望者に対して外来医師の偏在の状況を理解した上で開業について判断を促すため、外来医師多数区域については都道府県のホームページに掲載するなど工夫をするほか、医療機関のマッピングのデータなども参考資料として提供する。また、これらのデータは資金調達を支援する金融機関や開業支援を行っている医薬品卸売販売業者、医療機器販売業者、薬局にもアクセスが可能となるようにする。さらに「外来医師多数区域」での新規開業希望者に対して、地域で不足する外来医療機能を担うことを求めるため、新規開業者の届出様式には、地域で不足する外来医療機能を担っていくことに合意する記載欄を設け、2次医療圏ごとに設けられる協議の場(地域医療構想調整会議などが想定されている)において合意の状況を確認する。また、新規開業希望者が求めに応じない場合には協議の場への出席を求めるとともに、協議結果などを住民などに対して公表することになる。この第8次(前期)外来医療計画に基づく、外来医師の偏在解消の取組みは2024年度から各都道府県で開始される見込み。(参考)外来医療に係る医療提供体制の確保に関するガイドライン~第8次(前期)~(厚労省)外来医師偏在指標(2019年)(同)外来医師偏在の解消に加え、「かかりつけ医機能の明確化、機能を発揮できる方策」の検討も進める-第8次医療計画検討会(1)(Gem Med)6.介護ロボットやICTの導入で介護サービスの生産性向上/厚労省厚生労働省は、4月27日に社会保障審議会・介護給付費分科会を開催し、テクノロジー活用などによる生産性向上の取り組みに係る効果検証について議論を行った。この中で、介護ロボットやICT機器、介護助手の導入により、「介護サービスの質を下げずに介護従事者の負担を軽減できる」という可能性の実証研究が示された。介護ニーズの増加と現役世代人口の減少により、介護従事者の人手不足が深刻化しており、介護サービス事業者からは人員配置基準の緩和を求める意見が上がってきているが、介護施設の規模なども考慮して、人員配置基準の緩和には慎重に検討する必要があるとした。厚生労働省は、今回の検証結果や議論を含めて、来年春の介護報酬改定の参考にするとみられる。(参考)第216回 社会保障審議会介護給付費分科会(厚労省)テクノロジー活用等による生産性向上の取組に係る効果検証について(同)介護施設での見守り機器など活用、効果実証 厚労省(CB news)介護ロボット・助手等導入で「質を下げずに介護従事者の負担軽減」が可能、人員配置基準緩和は慎重に-社保審・介護給付費分科会(2)(Gem Med)

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5月2日 カルシウムの日【今日は何の日?】

【5月2日 カルシウムの日】〔由来〕丈夫な骨を作るために欠かせない「カルシウム」を摂ることの大切さを多くの人に知ってもらうことを目的に、骨(コ[5]ツ[2])の語呂合わせからワダカルシウム製薬が制定。関連コンテンツ高齢糖尿病患者の骨折リスク、骨粗鬆症にどう対応する?【高齢者糖尿病診療のコツ】カルシウム製剤について【患者説明用スライド】カルシウムを含む食材は何【患者説明用スライド】カルシウムってなあに?【患者説明用スライド】

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間質性肺疾患の緩和ケア、日本の呼吸器専門医の現状を調査

 間質性肺疾患(ILD)は症状が重く、予後不良の進行性の経過を示すことがある。そのため、ILD患者のQOLを維持するためには、最適な緩和ケアが必要であるが、ILDの緩和ケアに関する全国調査はほとんど行われていない。そこで、びまん性肺疾患に関する調査研究班は、日本呼吸器学会が認定する呼吸器専門医を対象とした調査を実施した。その結果、呼吸器専門医はILD患者に対する緩和ケアの提供に困難を感じていることが明らかになった。本研究結果は、浜松医科大学の藤澤 朋幸氏らによってRespirology誌オンライン版2023年3月22日号で報告された。 日本呼吸器学会が認定する呼吸器専門医のうち、約半数に当たる3,423人を無作為に抽出し、ILDの緩和ケアの現状に関するアンケートを郵送した。アンケートは、「緩和ケアの現状や実施状況(5項目、27問)」「終末期のコミュニケーションの最適なタイミングと実際のタイミング(2問)」「緩和ケアに関するILDと肺がんの比較(6問)」「ILDの緩和ケアにおける障壁(31問)」で構成された。解析はアンケートに回答した医師のうち、過去1年以内にILD患者を診療した医師を対象とした。 主な結果は以下のとおり。・1,332人(回答率38.9%)がアンケートに回答し、そのうち、1,023人が過去1年以内にILD患者を診療していた。・大多数の医師が「ILD患者はしばしば、あるいは常に呼吸困難や咳の症状を訴える」と回答したものの、「緩和ケアチームへ紹介したことがある」と回答した医師は25%にとどまった。・緩和ケアチームへ紹介したことのない医師のうち、48%は「緩和ケアチームを利用できる環境にあるが、紹介したことはない」と回答し、33%は「緩和ケアチームを利用できる環境がなかった」と回答した。・終末期のコミュニケーションについて、実際のタイミングは最適と考えるタイミングよりも遅れる傾向にあった。・ILDの緩和ケアは、症状の緩和や意思決定において肺がんと比較して困難であった。・ILD患者は肺がん患者と比較して、呼吸困難に対してオピオイドが処方される頻度が少なかった。・ILDの緩和ケアに特有の障壁として、「予後を予測できない」「呼吸困難に対する治療法が確立されていない」「心理的・社会的支援が不足している」「患者やその家族がILDの予後の悪さを受け入れるのが難しい」といった意見が挙げられた。

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社会的な役割の喪失が心不全患者の予後悪化に独立して関連

 社会的フレイルの状態にある心不全患者は死亡や心血管イベントのリスクが高く、特に、自分が周囲の人に必要とされていないと感じている場合は、よりリスクが高くなることを示すデータが報告された。札幌医科大学附属病院リハビリテーション部の片野唆敏氏、同院看護部の渡辺絢子氏らの研究によるもので、詳細は「Frontiers in Cardiovascular Medicine」に12月20日掲載された。 近年、「心不全パンデミック」と称されるほど、心不全患者の増加が問題となっている。心不全は心機能が低下する病気ではあるが、その予後を規定する因子は心機能だけでなく、特に高齢患者の場合は栄養状態や併存疾患、周囲のサポート体制などの多くが関係しており、フレイル(ストレス耐性が低下した要介護予備群)もその因子の一つとされている。 フレイルは、身体的フレイル、認知的フレイル、社会的フレイルなどに分類される。それらのうち、親しい人や地域社会との絆が弱い状態である「社会的フレイル」が、身体的・認知的フレイルに先行して現れる可能性を指摘する研究報告がある。ただし、心不全患者での社会的フレイルの頻度や予後への影響は不明。片野氏らの研究はこの点を明らかにしようとするもの。 この研究は、札幌医科大学附属病院での単施設後方視的コホート研究として実施された。2015年3月~2020年12月の同院の心不全入院患者のうち、65歳以上で、心臓リハビリテーションを含む多科・多職種による集学的治療が行われ、退院後6カ月以上の追跡が可能だった310人を解析対象とした。社会的フレイルは既報研究に基づき、「前年と比べて外出頻度が減ったか?」、「友人に会いに出かけることがあるか?」、「自分が友人や家族の役に立っていると感じているか?」などの五つの質問のうち、二つ以上に否定的な回答をした場合に、該当すると判定した。主要評価項目は、追跡期間中の全死亡(あらゆる原因による死亡)と心不全の悪化による再入院で構成される複合エンドポイントとした。 解析対象310人の主な特徴は、年齢が中央値79歳(四分位範囲72~84)、女性46%、左室駆出率(LVEF)は中央値51.1%(同35.2~63.5)。NYHA心機能分類はII(階段を上る時などに症状が現れる)が59%、III(わずかな身体活動でも症状が現れる)が36%で、LVEFが維持された心不全(HFpEF)が54%、LVEFが低下した心不全(HFrEF)が30%。また42%はベースライン以前の心不全入院歴があった。社会的フレイルの該当者は、188人(61%)だった。 1.93±0.91年の追跡で、64人(21%)にエンドポイントが発生した。予後に影響を及ぼし得る交絡因子(年齢、性別、NYHA心機能分類、NT-proBNP、eGFRcys、ベースライン以前の心不全入院、併存疾患、栄養状態、身体的フレイル、歩行速度、握力など)を調整したCox比例ハザードモデルでの解析の結果、社会的フレイルは複合エンドポイント発生の独立したリスク因子であることが明らかになった〔ハザード比(HR)2.01(95%信頼区間1.07~3.78)〕。 次に、社会的フレイルを判定するための五つの質問に対するそれぞれの回答で全体を二分し、カプランマイヤー法でイベント発生率の推移を検討。その結果、「自分が友人や家族の役に立っていると感じているか?」、または「友人に会いに出かけることがあるか?」の答えが「いいえ」である場合は、イベント発生率が有意に高いことが明らかになった(いずれもP<0.01)。 続いて、前述のCox比例ハザードモデルに五つの質問のそれぞれの回答を追加した解析を施行。すると、社会的な役割の喪失を意味する「自分が友人や家族の役に立っていると感じるか?」に「いいえ」と答えた群でのみ、イベント発生リスクの有意な上昇が認められ〔HR2.23(同1.33~3.75)〕、「友人に会いに出かけることがあるか?」の回答が「いいえ」の場合はわずかに非有意だった〔HR1.86(0.99~3.47)〕。 Cox比例ハザードモデルで交絡因子としたパラメーターに、社会的フレイルに該当するか否かという情報を追加してイベント発生を予測すると、予測能(cNRI)が有意に上昇することも明らかになった。また、「自分が友人や家族の役に立っていると感じるか?」という質問に対する答えを追加した場合は、社会的フレイルの該当の有無を追加した場合よりもさらに大きくcNRIが上昇した。加えて、この質問に対する回答は、身体的フレイルや認知的フレイルの評価指標である、日常生活動作(バーゼル指数)、歩行速度、握力、認知機能(Mini-Cog)と有意に関連していることも分かった。 以上より著者らは、「社会的フレイルに該当することに加え、社会的な役割を喪失することは、高齢心不全患者の全死亡や再入院のリスク上昇と関連しており、ケアやサポートにおける社会的な絆の重要性を示唆している」と結論付けている。

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4月20日 腰痛ゼロの日【今日は何の日?】

【4月20日 腰痛ゼロの日】〔由来〕「腰(4)痛(2)ゼロ(0)」と読む語呂合わせから「420の会」代表の本坊 隆博氏が制定。腰痛で悩んでいる人をゼロにしたいとの思いが込められており、腰痛に対する対処法、予防法が指導されている。関連コンテンツ外来でできる肩こり・腰痛対策【Dr.デルぽんの診察室観察日記】腰部の痛み【エキスパートが教える痛み診療のコツ】腰痛診療ガイドライン2019発刊、7年ぶりの改訂でのポイントは?慢性腰痛の介入、段階的感覚運動リハビリvs.シャム/JAMA急性腰痛に筋弛緩薬は有効か/BMJ

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日本人統合失調症患者の職業機能に認知機能はどう関連しているか

 統合失調症患者の職業機能に対し、認知機能が影響を及ぼしていることが示唆されている。帝京大学の渡邊 由香子氏らは、日本人統合失調症患者の職業機能に対する認知機能の影響を評価するため、統合失調症認知機能簡易評価尺度(BACS)を用いた研究を行った。その結果、統合失調症患者の職業機能は、全体的な認知機能と関連しており、とくにBACSのシンボルコーディングスコアが、作業能力と関連していることが示唆された。Neuropsychopharmacology Reports誌2023年3月号の報告。 対象は、統合失調症または統合失調感情障害の外来患者198例(女性:66例、平均年齢:34.5±6.8歳)。職業機能の評価には、精神障害者社会生活評価尺度の労働サブスケール(LASMI-w)を用いた。独立変数をBACS、従属変数をLASMI-wとし、重回帰分析を行った。LASMI-wスコアに応じて3群(11未満、11~20、21以上)に分類し、多重ロジスティック回帰を行った。 主な結果は以下のとおり。・重回帰分析では、LASMI-wスコアは、BACS複合スコアとの負の相関が確認された(β=-0.20、p<0.01)。・BACSのサブ項目の中で、シンボルコーディングスコアのみで有意な負の相関が認められた(β=-0.19、p<0.05)。・多重ロジスティック回帰では、BACS複合スコアとシンボルコーディングスコアが高いほど、職業機能障害の程度が小さいことが示唆された。 ●BACS複合スコア(β=2.39[職業機能障害レベル 軽度 vs.中等度]、p<0.05) ●BACSシンボルコーディングスコア(β=2.44[職業機能障害レベル 軽度 vs.重度]、p<0.05)・これらの結果は、就労支援を目的とした認知リハビリテーションの評価やトレーニングに役立つ可能性がある。

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第5回AYAがんの医療と支援のあり方研究会学術集会の開催について【ご案内】

 一般社団法人AYAがんの医療と支援のあり方研究会は、5月13~14日に『第5回 AYAがんの医療と支援のあり方研究会学術集会』を開催する。今回は、「Co-Creation ―対話からはじめる共創―」とし、長期的健康管理や身体活動性の維持、新規就労など社会とのつながりにおける課題、AYA世代と家族、終末期医療などAYA世代のがん医療を取り巻く多様な課題について取り上げる。大会長の渡邊 知映氏(昭和大学 保健医療学部)は、「この学術集会を通して、当事者と家族・医療者・支援者それぞれが向き合いながら、ときには立場を超えた対話をすることに挑戦したい」としている。 本研究会は、思春期・若年成人(Adolescent and Young Adult,:AYA)のがん領域の学術活動、教育活動、社会啓発および人材育成などを行うことにより、わが国の思春期・若年成人がん領域における医療と支援の向上に寄与することを目的としている。 開催概要は以下の通り。【日時】現地開催:2023年5月13日(土)~14日(日)オンデマンド配信:5月下旬~6月末 予定※一部プログラムをオンデマンド配信【会場】昭和大学上條記念館〒142-0064 東京都品川区旗の台1丁目1番地20アクセスはこちら【会長】渡邊 知映氏(昭和大学 保健医療学部)【テーマ】Co-Creation ―対話からはじめる共創―【参加登録】下記URLから参加登録が可能https://eat-sendai.heteml.net/jcs/ayaken-cong5/regist/index.html【プログラム(抜粋)】会期前日5月12日(金) 19:00~20:30 ライブ配信(後日オンデマンド配信あり)市民公開講座 「AYA研ラジオ」AYA世代でがんを経験した患者さんから、そのエピソードを大会長と副大会長をMCに進行する予定。オンラインでどこからでもつながることができる。また、スペシャルなゲストも招く企画も進行中のため、乞うご期待!<5月13日(土)>シンポジウム1 「AYAがん患者における運動器障害マネジメント~がんであっても動きたい!」塚本 泰史氏(大宮アルディージャクラブアンバサダー 事業本部 社会連携担当)五木田 茶舞氏(埼玉県立がんセンター整形外科/希少がん・サルコーマセンター)岡山 太郎氏(静岡県立静岡がんセンター リハビリテーション科)パネルディスカッション1 「AYA世代がん患者と家族 親との関わりに着目して」前田 美穗氏(日本医科大学)山本 康太氏(東京ベイ・浦安市川医療センター 事務部総務課)枷場 美穂氏(静岡県立静岡がんセンター 緩和医療科)国際連携委員会企画米国におけるAYAがん支援プログラムの活動体制、支援内容、活動評価についてProf. Bradley J. Zebrack氏(University of Michigan School of Social Work)<5月14日(日)>シンポジウム2 「青年期および若年成人(AYA)がんサバイバーの長期的健康管理」三善 陽子氏(大阪樟蔭女子大学 健康栄養学部健康栄養学科 臨床栄養発育学研究室)志賀 太郎氏(がん研究会有明病院 腫瘍循環器・循環器内科)理事長企画おばさん(おじさん)どもに思春期なんてわかるもんか~コロナ世代のコミュニケーションと未来~大野 久氏(立教大学名誉教授)【主催】一般社団法人AYAがんの医療と支援のあり方研究会【お問い合わせ】運営事務局 第5回AYAがんの医療と支援のあり方研究会学術集会E-mail: ayaken-cong.5@convention.co.jp

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44歳で脳卒中発症後にヨガインストラクターとして復帰した女性

 米国に住む韓国人女性、LeeAnn Waltonさんは当時、オフィスワークのほかに、ヨガのインストラクターをしていた。彼女のヨガクラスは大変な人気で、オフィスでの仕事が終わり次第、マンハッタンやその周辺のフィットネスクラブに駆けつけて指導するという毎日だった。 その日もウォームアップに続いて、いつものように指導を始めた。部屋の中を歩きながら生徒のフォームを手直ししている時、突然、頭の中で輪ゴムを鳴らしたような音がした。「変だな」とは思ったが、特に異常は感じなかった。しかし数分後、右手が不自然にねじれて発語も不明瞭になり始め、ついにはバランスを崩して生徒の上に倒れこみ、嘔吐した。 Waltonさんの次の記憶は2日後のことだ。集中治療室で目を覚ました。体にはさまざまな医療機器が取り付けられていた。彼女は体の右側をほとんど動かせなくなっていた。まるで誰かに右腕と右足に重いおもりを縛り付けられたように感じた。医師から、「あなたは脳卒中を起こした」と告げられた。医師の説明によると、原因は不明だが、脳の中で血管が破裂して出血が起き、その出血によって脳が圧迫されるのを抑えるための緊急手術を行ったとのことだった。 しかし当時44歳だったWaltonさんは、そのような脳卒中が今後の自分にどのような影響を及ぼすのか、よく分からなかった。ただ、病室の外で医師たちが交わす会話が耳に入ることがあった。その中の1人が、「彼女はおそらく再び歩くことはできず、ヨガの指導は無理だろう」と話す声が聞こえた。その時、Waltonさんは心の中でつぶやいた。「よし。だったら見せてあげよう」。 1週間後、彼女は急性期リハビリテーション施設に転送された。その時すでに、手すりを握り、一歩一歩止まりながら歩くことができるようになっていた。彼女が左利きであることは幸運だった。脳卒中前の記憶も、全部ではないが少しずつ戻ってきていた。 リハビリ施設では毎日、理学療法と作業療法を受け、さらにセラピストと相談の上、自分自身の方法でのエクササイズも追加した。2週目には、杖を使って歩けるようになり、さらに10日後には右半身の筋力が回復して自宅退院した。退院の際、セラピストは、「あなたの前途は非常に困難なものかもしれないが、頑張って」と語った。 一人暮らしだったWaltonさんは自分のペースで治療を続け、障害はゆっくりと改善していったが、加入している健康保険の関係で3カ月以内に復職する必要があった。会社側は彼女に配慮し、ラッシュアワーを避けて遅めに出社して、早めに退社することを許可した。それでも歩行速度が遅いために地下鉄内で人にぶつかって、ののしられたりした。帰宅すると、ベッドに倒れこむように横になった。ソファーの下に置いてあったヨガマットが目に入り、涙が止まらなくなった。 脳卒中が起きてから約1年後、新型コロナウイルス感染症パンデミックが発生した。自宅勤務となり、彼女は落ち着いてリハビリを続けられるようになった。ただし、パンデミックに伴いアジア人に対する差別や暴力が増加したため、韓国人である彼女は恐怖を感じ、同じニューヨーク市内でもより多様なコミュニティーが形成されている地区に転居した。 昨年の春、脳卒中後に何度か現れて、その都度、対症的な治療を受けていた右腕の震えが再発した。彼女は仕事を辞めてリハビリに専念することを決めた。集中的な歩行訓練を含む、新しい理学療法プログラムを受け、歩き方が正常に近づいたように感じた。彼女のセラピストは、シンプルで優しい動きのヨガを試してみるように助言。それを受けて、ヨガの簡単なフォームから、練習をするようになった。 そして今年に入り、Waltonさんはついに、ヨガの基礎クラスのインストラクターとしての活動を再開した。「二度とこんなことができるとは思っていなかったので、今は感謝の気持ちで毎日泣いている」と彼女は話す。 Waltonさんの親友の1人、Amber Harrisonさんは看護師だ。そのため、Waltonさんが脳卒中になった時、彼女がそれから直面するに違いない苦難の大きさを知っていた。しかし今、Harrisonさんは、「LeeAnnはファイターだ。脳卒中は彼女の人生の全てを変えたが、彼女はその後、完璧な奇跡をやってのけた」と語っている。[2023年3月14日/American Heart Association] Copyright is owned or held by the American Heart Association, Inc., and all rights are reserved. If you have questions or comments about this story, please email editor@heart.org.利用規定はこちら

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