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パプリカ【夢と精神症状の違いは?】

今回のキーワードせん妄レム睡眠行動障害ナルコレプシーデフォルトモードローカルスリープマインドフルネスEMDRオプトジェネティクスみなさんは昨夜どんな夢を見ましたか?怖い夢?追われる夢?それとも飛んでいる夢?展開が速くて突飛な夢?なんでそんな夢ばかりなのでしょうか?何か意味ありげではないでしょうか。それは予知夢?正夢?逆夢?そんなふうに考えて、現実の生活を見つめ直すこともあります。このように、夢は、とても不思議で、私たちを魅惑します。なぜ夢にはいろいろな特徴があるのでしょうか? そもそもなぜ私たちは夢を見るのでしょうか? なぜ眠るのでしょうか? 逆に起きているとはどういうことなのでしょうか? さらに、夢に似ているせん妄、解離性障害、統合失調症などの精神障害とはどんな関係や違いがあるのでしょうか? そして、夢をどう利用できるでしょうか?今回は、夢をテーマにしたSFファンタジーのアニメ映画「パプリカ」を取り上げ、これらの謎に進化医学的な視点で、みなさんといっしょに迫っていきたいと思います。主人公の敦子は、精神医学研究所の医師であり研究員。同僚の時田の発明した夢を共有する装置「DCミニ」を駆使するサイコセラピスト、またの名はパプリカです。ある日、そのDCミニが研究所から盗まれてしまいます。犯人はそれを悪用して他人の夢に勝手に入り込み、悪夢を見せて、意識を乗っ取り、支離滅裂にさせる事件が発生していきます。敦子たちは、夢の中でその犯人を見つけ出し、終わりのない悪夢から抜け出す方法を探っていきます。夢の特徴は?パプリカがクライエントの粉川警部の夢に入り込んでいる冒頭のシーン。粉川は、サーカスのショーの中で、「奴はこの中にいる」「やつは裏切り者だ」とパプリカに言い、捜査をしています。ところが、急に展開が変わり、逆に得体の知れない人たちに追いかけられます。さらに、また展開が変わって、今度は自分が追いかけようとします。しかし、そのうちに床が上下に大きくうねって、前に進みません。そして、最後には床が抜けて落ちていきます。そこで目が覚めて、パプリカに「ひどく怖かった」とつぶやきます。粉川警部の夢は、とても典型的です。その特徴は、まず、感情が強いことです。統計的には、特に「不安」「高揚感」「怒り」の3つで、70%を占めています。逆に、残念なことに楽しい夢や性的な夢は少ないです。また、体の動きが多いことです。特に、追われる夢が圧倒的に多く、その追ってくる相手は、見知らぬ人か動物がほとんどです。また、動いているのに進まない、浮遊感、そして落下も多いです。そして、何よりも、展開が突飛であることです。その他の夢の一般的な特徴としては、夢の中では夢だと気付かないことです。どんなにありえなくても当然だと思い必死になっています。また、夢の中では常にその瞬間の自分の視点だけです(現在一人称)。逆に、他人、過去、未来、仮定の視点はありません。そして、夢は見るだけがほとんどです(視覚優位)。聞こえたり、触れたり、嗅いだり、味わったりすることは稀です。粉川警部のように、同じような夢を繰り返し見ることもよくあります。その割に、夢はすぐに忘れやすいです。なぜ夢を見るの? ―レム睡眠の働きー図1パプリカは、粉川警部に「同じレム睡眠でも明け方の夢は長くて分析しやすいの。深夜の夢が芸術的な短編映画だとしたら、明け方は長編娯楽映画ってとこかな」と説明します。レム睡眠とは、睡眠中に急速眼球運動(REM)が出現している状態のことです。周期的に3、4回あり、この時に夢を見ていることが多いです。そもそもなぜ夢を見るのでしょうか? その答えを探るために、レム睡眠の主な3つの働きを整理してみましょう。1)記憶を送る1つ目は、その日の記憶を海馬から大脳皮質に送ることです。そうすることで、長期記憶として保存されていきます。この働きは、特に寝入った直後の初回のレム睡眠で高まります。その時に見える夢は、その日に見たままのものとその時の自分の体の動きです。また、寝入り端(ばな)には、夢に似たような鮮明な映像(入眠時幻覚)や幾何学模様(入眠時心象体験)が一時的に見えます。そのほとんどはその後の深い眠りで忘れてしまいます。断片的で短く、まさに「芸術的な短編映画」です。パソコンに例えると、その日に得たデータをデスクトップから、保存用の大容量のハードディスクに送っている状態です。それでは、夢に自分の体の動きが多いのはなぜでしょうか? その答えを進化医学的に考えることができます。太古の昔から、生存競争において、特に追ってくる動物から逃げ切るなど体をうまく動かすことは、最も必要な能力です。つまり、答えは、その運動の学習(手続き記憶)が次の日に生き延びるために役立つからです。そうする種がより生き残り、子孫を残したでしょう。その子孫が現在の私たちです。さらに、夢で飛ぶ、浮く、落ちることが多いのはなぜでしょうか? その答えは、レム睡眠中に体を動かす筋肉(骨格筋)が脱力しているからです(睡眠麻痺)。踏ん張れず、地に足が着いていない感覚になります。それでは、なぜ脱力しているのでしょうか? その答えも進化医学的に考えることができます。それは、逆に脱力していなければ、見ている夢と同じ動きをしてしまい、自然界では天敵に気付かれ、生き残れないからです。実際に、パーキンソン病や加齢などによって、この脱力モードが働きにくくなると、睡眠中に夢と同じ動きをしてしまい、ベッドパートナーを叩いたり蹴ったりしてしまいます(レム睡眠行動障害)。逆に、疲労などで、この脱力モードが目覚めても残っていると、体が動かないことを自覚できてしまい、いわゆる「金縛り」になります。2)記憶をつなげる2つ目は、海馬から新しく送られた記憶と大脳皮質にすでにある古い記憶をつなぎ合わせることです。そうすることで、記憶が関連付けられ、整理されていきます。この働きは、目覚める直前の最後のレム睡眠で高まります。その時に見える夢は、先ほどの粉川の夢のように、感情的で、ストーリーが次々と展開していきます。詳細な描写があり長く、まさに「長編娯楽映画」です。パソコンに例えると、デスクトップから送られてきたデータを、ハードディスクのそれぞれのフォルダに照合し、上書きをしている状態です。それでは、夢に感情が強いのはなぜでしょうか? その答えは、レム睡眠中に、海馬と隣り合わせの扁桃体(情動中枢)も同時に活性化しているからです。だからこそ、レム睡眠中の心拍、血圧、呼吸などの自律神経は不安定になります。では、なぜ扁桃体が活性化しているのでしょうか? その答えも進化医学的に考えることができます。それは、不安や怒りなどのネガティブで強い感情は、「逃げるか戦うか」を動機付ける心理として、生存するために、より必要だからです。扁桃体によって、より生存に有利な記憶の重み付けがなされて、優先してつなぎ合わされるからです。ちなみに、現代版の追われる恐怖は、試験勉強や仕事の締め切りなどの時間に追われることであると言えるでしょう。また、夢の展開が突飛なのはなぜでしょうか? これが最も夢らしい特徴です。その答えは、レム睡眠中はものごとを論理的に考えたり、同時並行で記憶(ワーキングメモリー)したりする前頭葉(特に背側前頭前野)の働きが弱まっているからです。では、なぜ前頭葉が働いていないのでしょうか? その答えも進化医学的に考えることができます。それは、前頭葉は起きている時の記憶の「司令塔」であり、記憶の保存や整理をする「労働」そのものには必要がないからです。また、夢を見るレム睡眠中に特に活性化する脳の部位は、主に脳幹や大脳辺縁系です。そして、胎児期や乳児期は、レム睡眠がほとんどを占めています。つまり、解剖学的にも発生学的にも、そもそもレム睡眠はとても原始的な脳活動であることが分かります。夢とは、レム睡眠中の記憶をつなぐ脳活動をたまたま垣間見ただけの主観的な体験のつぎはぎであり、客観的なストーリーになっている必要がないということです。ちなみに、先ほど紹介した「金縛り」は、前頭葉が抑制されて、扁桃体が活性化される状態でもあり、恐怖で冷静な判断ができなくなって、霊的な意味付けをしてしまいやすくなります。同じように、統合失調症でも、前頭葉の働きが弱まっていることが分かっており、論理の飛躍から、被害妄想などが出やすくなります。まさに目が覚めていながら、夢を見ているような状態です。夢は原始的であるからこそ、見るという視覚がほとんどだということが分かります。触覚、嗅覚、味覚も原始的ではありますが、生存競争にそれほど必要がないことから、夢に出てこないと理解できます。また、言葉を聞き取る聴覚は、より知的に高い精神活動であるため、出てきにくいと言えるでしょう。ちなみに、身体的な原因で意識レベルが低下している状態(せん妄)では、夢と似たような幻視や錯覚が多く、幻聴は少ないと言えます。逆に、統合失調症では、意識は保たれているので、幻聴が多く、幻視は少ないと言えます。また、レム睡眠中に前頭葉が働いていないからこそ、夢の中では常にその瞬間の自分の視点だけになってしまいます。そのわけは、前頭葉の重要な働きであるメタ認知は、自分から離れた他人の視点、現在から離れた過去や未来の時間軸の視点、そして現実から離れた仮定の視点も同時に持つ能力だからです。この働きが夢ではないのです。さらに、メタ認知ができないからこそ、夢の中では夢だと気付かないのです。よって、そもそもメタ認知ができない動物やメタ認知が未発達の4歳未満の人間の子どもは、夢を見ても現実との区別ができないと言えます。3)記憶を繰り返す3つ目は、つなぎ合わせのバリエーションを少しずつ変えながら記憶を繰り返すことです。そうすることで、記憶が強化され、記憶の引き出しから出てきやすくなります。それは、まるで反復練習によるリハーサルです。パソコンに例えると、出力をよりスムーズにするため、ハードディスクのプログラムを日々バージョンアップしている状態です。それでは、同じような夢を繰り返し見るのはなぜでしょうか? その答えは、自分にとって気になってしまったことだからです。粉川警部にとって、それはやり残したことでした。さらに進化医学的に考えれば、次に同じ状況になったらどうするかという学習を促し、より環境に適応して生き残るために必要だからです。夢を見るレム睡眠は、安全な状況で脅威をシミュレーションする手段として進化した精神活動であるとも言えます。この働きが過剰になってしまうと、例えば、生存が脅かされる体験(トラウマ)によるストレス障害(PTSD)のように、その時の体験を悪夢として繰り返し見て、うなされます(悪夢障害)。また、白昼夢に似たフラッシュバックも出てきます。まさに花粉症を初めとする自己免疫疾患のように、本来は防御のために備わった機能が過剰になったり、誤作動を起こして、逆に自分を苦しめるというわけです。夢が繰り返されると言っても、それはすぐではありません。その日の出来事の夢はその夜の最初のレム睡眠時に記憶の断片として出てきます。しかし、その後はしばらく出てこなくなり、1週間後以降に再び出てくるようになります。この理由は、海馬から大脳皮質への転送が完了されるまでにタイムラグがあるからです(夢のタイムラグ効果)。そして、より強いインパクトやストレスを伴う場合は、より時間がかかるということです。これは、PTSDはすぐには発症しないということを説明できます。最近の研究では、トラウマ体験直後の6時間以内にコンピューターゲームのテトリスをやり続けることで、PTSDの発症を有意に予防できる可能性が示唆されています。これは、レム睡眠中にゲームの体験の学習を多く占めることで、逆にトラウマ体験の学習をある程度阻害することができるからでしょう。ここから分かることは、つらいことがあったときは、そのことばかりに思い悩まずに、代わりに別のことをやるのが悪夢の予防になるということです。夢は繰り返されることがある一方で、忘れてしまいやすいのはなぜでしょうか? その答えも進化医学的に考えれば、生存にとって覚えている必要がないからです。言い換えれば、夢を覚えていてもいなくても、生存の確率は変わらないからです。逆に、全てをはっきり覚えていたら、動物や4歳未満の人間の子どもは、夢を現実と認識するので、毎朝起きて怯えてつらい思いをして、現実の生活に差し障りがあるでしょう。むしろ、覚えていない方が適応的です。実際に、小さい子どもほど、大人よりもレム睡眠が多いにもかかわらず、夢を覚えていないことが多く、思い出せても短かったり、単純です。ここまでで分かったことは、レム睡眠には大きな意味があることです。しかし、夢を覚えておく必要がない点では、進化医学的に夢を見ることには意味がないです。つまり、「なぜ夢を見るの?」というこの章の質問には、「見えたから」と答えるのが正解でしょう。「夢」のない話だと思われたかもしれません。しかし、果たしてそうでしょうか? そうとも限らない可能性を後半に考えてみましょう。なぜ眠るの? ―睡眠の進化―グラフ1これまで、夢をよく見るレム睡眠の働きについて整理してきました。レム睡眠と交互に出てくるノンレム睡眠、特に深睡眠も含めると、そもそもなぜ眠るのでしょうか? ここからは、その答えを探るために、生物の睡眠の進化の歴史を通して、睡眠の主な3つの働きを整理してみましょう。1)夜だから眠る―概日リズム1つ目の答えは、夜だから眠るということです。約10億年前に進化した原始的な菌類などの植物からは、日中に光合成をして、紫外線のない夜に細胞分裂をして、日中と夜の活動を分けるようになりました(概日リズム)。約5億年前に進化した最初の動物の魚類からは、暗くて捕食の行動が難しくなる夜はあまり動かないようになりました(行動睡眠)。約3億年前に進化した最初の陸生動物である両生類やその後の爬虫類は、まだ気温差によって体温が変わる変温動物であったため、冷え込む夜はエネルギーが足りないためずっと動かないようになりました。このように、日中に活動して、夜に活動しないという概日リズム(体内時計)が進化しました。この概日リズムを日中の光によって調節する代表的なホルモンがメラトニンです。例えば、夜勤や時差ぼけや夜更かしなどによって起きている時間が変わった場合、ひきこもりや視覚障害によって光を浴びるのが減っている場合、もともと遺伝的(時計遺伝子)に睡眠時間がずれやすい場合は、1日の決まった時間に眠れず起きにくくなくなります(概日リズム睡眠覚醒障害)。よって、多く光を浴びたり(高照度光療法)、メラトニン受容体作動薬(ラメルテオン)による薬物療法が有効です。2)疲れたから眠る―恒常性2つ目の答えは、疲れたから眠るということです。約2億年前に進化した最初の恒温動物である哺乳類やその後の鳥類は、夜に脱力して筋肉を弛緩させることで産熱を抑え、深部体温や代謝を下げてカロリー消費を抑えました。同時に栄養の消化吸収や筋肉の修復などをして、体調を回復させました。実際に、日中代謝量が多い動物ほど睡眠が多いです。また、そんな睡眠中であっても、外界の脅威に瞬時に反応できるように、脳の活動レベルは起きている時に近い状態を保っていました。これがレム睡眠の始まりです。このように、夜に成長ホルモンなどの様々なホルモンが働くことで、体温を含めた体調の恒常性を維持しました。例えば、休日に平日と違って何もせずに過ごした場合は、運動不足で疲れていないので、恒常性が維持されなくなり、眠りにくくなります。よって、あえて体を動かして疲れさせるという運動療法が有効です。逆に、翌日に試験やプレゼンが控えている場合も、過度の緊張で恒常性が維持されなくなり、眠りにくくなります。よって、適量の晩酌やベンゾジアゼピン系の睡眠薬・抗不安薬による薬物療法が有効です。3)覚えるために眠る―学習3つ目の答えは、覚えるために眠るということです。約1億年前に進化した最初の胎生出産の哺乳類は、卵生出産よりも未熟に生まれてくる分、出生後により多くの学習をして成長する必要がありました。この時から、その記憶の学習のために、レム睡眠が利用されていました。レム睡眠中は、脳から外界への出力(運動)だけでなく、外界から脳への入力(感覚)も遮断されており、記憶の学習のためだけに脳が使われているため、とてもはかどります。例えるなら、パソコンが、インターネットに接続されていない機内モード(オフラインモード)になっている状態です。約6500万年前に進化した最初の霊長類は、脳が高度に発達していった分、脳を休める必要がありました。それが、いわゆる熟睡です。これは、ノンレム睡眠中で徐波という脳波が多く出ている深睡眠(徐波睡眠)に当たります(睡眠段階3と4)。この時、大脳皮質では神経細胞が同期して発火することが分かっています(長期増強)。これは、脳内の神経細胞のつながり(シナプス)で、強いものをますます強め、弱いものをますます弱めているものと考えられています。こうして、過剰なエネルギー消費や細胞へのストレスを抑えて、脳の神経回路を元の強度に戻しています(シナプス恒常性仮説)。つまり、不要な記憶をなくして整理することで、必要な記憶を際立たせて残し、より脳から引き出しやすくしているということです。例えるなら、パソコンが、デスクトップで入力も出力もできないスリープモード中に、重複したデータや使わないデータを消去することで最適化をしている状態です。このように、レム睡眠で脳を活性化させ、深睡眠で脳を休めることを繰り返すことで、記憶の学習の効率を上げました。つまり、最適な学習には、ぐっすり寝ることが重要であるということです。逆に言えば、睡眠時間を削った学習や、徹夜でのプレゼンの準備は、逆効果であるということです。また、加齢によって、睡眠時間は減っていきますが、中でも特にレム睡眠と深睡眠が減っていき、浅睡眠(睡眠段階1と2)だけになっていきます。この場合、もともと加齢により海馬の神経が新しく生まれ変わること(神経新生)が少なくなることで溜まった不要な脳の老廃物(アミロイドβ)を取り除ききれなくなることと相まって、記憶の学習がますます困難になっていき、反復されていない際立ちの弱い直近の記憶から徐々に失われていきます(アルツハイマー型認知症)。よって、この場合は、より若い時の記憶しか残らなくなっていくので、進行すればするほど、年齢をより若く答えるようになります(若返り現象)。よって、認知リハとして最近に注目されているのは、体を動かすなどの運動をしながらおしゃべりをするなどの学習をすることです(デュアルタスク)。これは、運動により、その刺激で神経新生が高まると同時に、より良い睡眠が得られるからでしょう。さらに、最近の研究では、起きている時にストレスのかかった脳、つまりより学習が必要な脳の領域ほど深い睡眠になることが分かってきています。また、レム睡眠以外の睡眠(ノンレム睡眠)でも夢を見ていることが分かっています。つまり、睡眠は、脳全体で一様ではなく、局所で多様に行われているということです(ローカルスリープ)。その極端な例として、イルカや渡り鳥は大脳半球を交互に眠らせることで、泳いだり飛びながら睡眠をとることができます(半球睡眠)。このローカルスリープの考え方によっても、様々な精神障害を説明することができます。例えば、脳が未発達の子どもでは、深い睡眠中に、一部の脳機能が局所的に覚醒してしまう状況が考えられます。扁桃体(情動中枢)のみ覚醒すれば、泣いたり(いわゆる夜泣き)、叫んだりするでしょう(睡眠時驚愕症)。また、運動中枢のみで覚醒すれば、寝言、歯ぎしり、おねしょをしたり、極端な場合は動き回ります(睡眠時遊行症)。同じようなことは、身体的な原因や加齢などによっても起こります(夜間せん妄)。また、てんかん発作によって、脳の活動電位が局所的に活性化すると、意識を失っていながら、動き回ります(自動症)。起きているとは? ―グラフ2これまで、「なぜ眠るの?」という問いへの答えを通して、眠っている状態について解き明かしてきました。それでは、逆に、起きているとはどういう状態なのでしょうか? ここから、その答えを探るために、起きている状態を3つの要素に分けて、整理してみましょう。1)自分と周りが分かる―意識敦子は、夢の中で見た「妄想パレード」を現実の世界で見てしまい、それに圧倒されます。もはや夢と現実の境目がなくなっていました。敦子は起きているのか寝ているのか私たちも分からなくなりかけます。1つ目は、起きているとは自分と周りが分かることです。厳密に言えば、脳が脳自体の活動を認識することです(意識)。例えば、今がいつで、ここがどこで、自分が誰かと見当を付け(見当識)、周りは何かと注意を払うことです(注意力)。つまり、周りの世界と自分の関係を認識できることです。このためには、さきほどにも触れた前頭葉の働きであるメタ認知が必要です。メタ認知が進化したのは、300、400万年前の原始の時代と考えられます。当時、ヒトは森から草原に出て、天敵から身を守り、獲物を手に入れるために、血縁の集団になって協力していくようになりました。そのために、相手の気持ちや考えを推し量る、つまり相手の視点に立つというメタ認知が生まれました。やがて、この能力は、他人だけでなく、自分自身を振り返る視点としても、そして時間軸、空間軸、仮定軸の視点としても使われるようになっていきました。逆に言えば、300、400万年前より以前のヒト、ヒト以外の動物、そして脳が未発達な4歳未満の子どもは、メタ認知ができないので、今ここでというその瞬間を、まるで夢を見ているのと同じように、反射的に生きているだけであると言えます。睡眠生理学的に言えば、起きている状態(覚醒)では、脳内の「活動ホルモン」(ノルアドレナリン)と「気分安定ホルモン」(セロトニン)であるアミン系の神経伝達物質が活発に出て、交感神経を優位にしています。また、「リラックスホルモン」(アセチルコリン)であるコリン系の神経伝達物質も出ていて、副交感神経に作用して、交換神経との綱引きをしています。体を休めている夢見状態(レム睡眠)では、アミン系が出なくなる一方、コリン系が活発に出るようになり、副交感神経が優位になります。この時にセロトニンが出ていないので、不安や恐怖の夢が出やすいことが理解できます。頭(脳)を休めている熟睡の状態(深睡眠)では、アミン系とコリン系の両方が少くなって出ています。もう1つ脳内で重要な「快感ホルモン」(ドパミン)は、覚醒時にも、レム睡眠や深睡眠などの睡眠時にも変わらず出ており、睡眠や夢と直接関係がないことが分かります。ちなみに、アミン系が増えたままだと躁病になり、眠りたくなくなります。逆に、アミン系が減ったままだとうつ病になり、眠れなくなったり眠りすぎたりして睡眠が不安定になります。また、特にアミン系のセロトニンが減れば不安障害や強迫性障害になり、やはり睡眠は不安定になります。さらに最近の研究では、この覚醒を安定化させるためには、オレキシンというホルモンが大きくかかわっていることが分かっています。オレキシンは、もともと摂食中枢(視床下部)にあることから、満腹で眠くなり、空腹で眠れなくなったり目が冴えてしまうのも納得がいきます。まさに「ハングリー精神ホルモン」とも言えます。このオレキシンが体質的(遺伝的)に足りない場合、覚醒と睡眠の切り替えが不安定になります。よって、起きている時に、急に気絶するように眠ってしまい(睡眠発作)、日常生活に支障をきたします(ナルコレプシー)。特に笑ったり喜んだりして感情の高ぶり(緊張)の後に安堵(弛緩)が起きると、副交感神経が優位となり、アセチルコリンが誘発されて、脱力してしまいます(情動脱力発作)。また、脳の覚醒が残っていて夢見状態(レム睡眠)になると、先ほどにも紹介した白昼夢(入眠時幻覚)や金縛り(睡眠発作)が出てきます。治療薬としては、覚醒作用が強いドパミン作動薬(メチルフェニデート)が適応になっています。ただし、根本治療のためには、オレキシンの作用を高めるオレキシン作動薬の開発が今後に期待されます。逆に、このオレキシンの作用を低めるオレキシン受容体拮抗薬(スボレキサント)は、最新の不眠症の治療薬として、すでに販売されています。夜寝る前だけ、薬で「ナルコレプシー」になるわけです。より自然な睡眠作用があるので、先ほどに紹介した晩酌やベンゾジアゼピン系の睡眠薬・抗不安薬よりも副作用が少ないという利点があります。2)自分が自分であると分かる―自我意識現実の世界の敦子の目の前に、敦子が夢の中でなりきっていたパプリカが現れます。敦子は「時田くんを助けなきゃ」と言いますが、パプリカは「放っときなさい。あんな肥満の無責任」と挑発します。敦子が「パプリカは私の分身でしょ」と叱りつけると、パプリカは「敦子が私の分身だって発想はないわけ?」と言い返します。2つ目は、起きているとは自分が自分であると分かることです。厳密に言えば、知覚や思考などの意識が統合されていることです(自我意識)。例えば、自分は、いつでもどこでも変わらず自分であるということです。逆に、ストレスや恐怖で、起きていながらもぼんやりとしている半覚醒の状態になる場合、意識が統合されず分離している病的な状態になることがあります(解離性障害)。例えば、敦子が扮するパプリカのように、自分の心が、時間や場所によって入れ替わります(人格交代)。同時にもう1人の自分が出てきます(二重心)。敦子の上司の所長のように意識が乗っ取られた感覚になり、自分が意図せずに急に支離滅裂になります(トランス、憑依)。また、脳血管障害などの器質的な原因がある場合、例えば自分の意思とは別に手が勝手に動いてしまいます(エイリアンハンド、分離脳)。睡眠生理学的には、半覚醒の状態では脳内のアミン系が減りつつも出ていて、コリン系が活発化しています。夢見(レム睡眠)に近い状態です。アセチルコリンは、副交感神経に作用する「リラックスホルモン」であるだけでなく、脳内の視覚中枢、感情中枢、運動中枢を活性化する「夢見ホルモン」とも言えます。この時、レム睡眠に近い状態になるので、前頭葉の働きが弱まるにもかかわらず、記憶中枢(海馬)は活性化します。最近の研究では、この半覚醒の状態は、「デフォルトモード」と呼ばれます。この時に、記憶の整理や学習が進むので、もの分かりが良くなり、言われたことをすんなり受け止めやすくなります。これは、かつて「無意識」として、催眠療法や精神分析療法で「暗示」に利用されていました。3)自分の動き、感覚、想起が思いのままである―自律性3つ目は、自分の動き、感覚、想起が思いのままであることです。厳密に言えば、運動機能、感覚機能、記憶機能が全うされていることです(自律性)。逆に、ストレスや恐怖で、起きている時に、先ほど紹介したローカルスリープがある脳領域で過剰になる場合、その脳の機能が部分的に喪失している病的な状態になります(転換性障害)。例えば、立位・歩行機能の喪失なら、腰が抜けて立てなくなったり(失立)、膝が抜けて歩けなくなります(失歩)。発声機能の喪失なら、声が出なくなります(失声)。協調運動機能の喪失なら、手が震えたり(心因性振戦)、字が書けなくなったりします(書痙)。嚥下機能の喪失なら、喉の違和感が出てきます(ヒステリー球)。聴覚機能の喪失なら、突然に聞こえなくなります(突発性難聴)。視覚機能の喪失なら、突然に目が見えなくなります(心因性視力障害)。また、記憶機能の喪失なら、特定の記憶が思い出しにくかったり(抑圧)、思い出せなかったり(選択的健忘)、重度の場合は自分の生活史の全てを思い出せなかったりします(全般性健忘)。これらは、あくまで脳が局所的に「失神」をしているローカルスリープが原因であるため、現代の身体的な精密検査においては明らかな異常とならないのが特徴です。夢に何ができる?これまで、夢を見ている状態、眠っている状態、起きている状態の正体を解き明かしてきました。それでは、夢に何ができるでしょうか? ここから、夢の利用の可能性について、3つご紹介しましょう。1)夢から気付きを得る―ひらめき敦子がパプリカに「言うことを聞きなさい」と叱りつけると、「自分も他人もそうやって思い通りにできると思うなんて」と言い返されます。そこで敦子は我に返り、「時田くんを放っておけない。だって私・・・」と言い、どうしようもない時田を愛しているという自分の抑え込んでいた本当の気持ちに気付くのです。敦子が自分を抑えてクールで知性的な大人の女性であるのに対して、パプリカはまさにスパイスの利いた赤い野菜のように、無邪気で開放的な少女です。性格がとても対照的です。パプリカは、敦子が普段、意識せずに抑えていたもう1人の自分だったのです。1つ目は、夢から気付きを得ることです。それは、起きてる時には思いも付かなかった発想、生きるヒント、さらにはひらめきです。例えば、世紀の科学的な発見、商業的な発明、名曲や名画などは、夢に出てきたという逸話をよく聞きます。そのわけは、起きている時は緊張して堂々巡りの頭でっかちの脳が、前頭葉の働きが弱まることで、連想性や創造性が柔軟になり、情感、発想力、そして直感力が高まるからです。ただし、私たちが夢について話をする時に注意することは、夢はあくまでポジティブな気付きを得るきっかけとして利用するのみとすることです。かつての夢分析のように、不安などのネガティブな感情を煽ったり、性的な関心事に結び付けるなどの過剰な解釈をしないことです。なぜなら、先ほどにも説明したように、夢は突飛で、そもそも内容の解釈にエビデンスがないからです。2)夢をコントロールする―明晰夢粉川警部は、夢の中に登場するバーテンダーの質問によって、繰り返す不快な夢のわけが、過去にやり残したことであることに気付きます。そして、再び同じ夢を見た時、その夢の続きをハッピーエンドにして完成させるのです。また、敦子が犯人と直接対決をするラストシーン。敦子は、無意識の幼児の姿で立ち向かい、犯人の欲望のイメージを丸ごと飲み込み、清々しい爽やかな大人の姿へと成長します。これらは、夢の中ではネガティブな内容をポジティブな内容に変えられることを象徴的に描いています。2つ目は、夢をコントロールすることです。本来、夢を見ている時はその自覚がないので、コントロールすることはできません。そこで、自覚ができるように訓練するのです。いわゆる明晰夢です。そのために必要なのは、起きている時に夢についての意識を高めることです。例えば、夢の内容を細かく記録することです(夢日記)。そして、繰り返し見るネガティブな夢を、ポジティブな筋書きに書き変えて、起きている時に想像することです(イメージリハーサル)。これはちょうど認知行動療法で、ネガティブな思考パターンにポジティブな思考パターンを増やしてバランスを変えていくアプローチに似ています(認知再構築)。また眠る前に、「明晰夢を見る」と念じることです。これはちょうど翌朝に起きる時間を意識したら(注意睡眠)、その時間の少し前に自然に目が覚めることに通じています(自己覚醒)。また、起きている時に、普段よりも五感を研ぎ澄まして全身で世界を感じ取れるように注意力を高めることです(マインドフルネス)。これは、言うなれば「超覚醒」の状態です。そうすることで、もともと夢を見るレム睡眠時に抑制される機能である前頭葉のメタ認知が活性化される可能性があります。さらに、最近の研究では、夢を見ている時に、経頭蓋交流電気刺激(tACS)によって、前頭葉を直接刺激して、明晰夢にすることが可能になってきています。3)夢を変える―オプトジェネティックス冒頭のシーンで、パプリカは粉川警部に「DCミニ。これは夢の扉を開く科学の鍵なの」と説明します。粉川がさっきまで見ていた夢の内容は全てパソコンで映像化され、録画されています。まさにこの映画はSFファンタジーだと思いきや、近い将来にこの「DCミニ」が現実のものになる可能性があります。3つ目は、夢を変えることです。これに近い手法としては、かつて催眠療法で、クライエントに振り子を追わせてまどろみを引き起こし、半覚醒の状態で、セラピストがトラウマ体験の意味付けや解決のための指示をしていました。現在は、眼球運動脱感作再処理法(EMDR)として、クライエントに左右を往復するライトを追わせるなどして目を左右に動かさせながらトラウマ体験を語らせ、セラピストがそれに対してのポジティブな意味付けを促します。ちなみに、EMDRに、新しい技術である仮想現実(VR)を取り入れた手法も今後は可能になるでしょう。催眠療法もEMDRも、眼球運動により半覚醒の状態を引き起こします。これは、眼球運動とアセチルコリンの誘発は連動しているので、レム睡眠で急速眼球運動が出てきますが、逆に眼球運動をするとレム睡眠に近い状態になるということです。つまり、寝付きが良くない時に、眼球を動かすと眠気が来やすくなるということです。ちなみに、アセチルコリンを減らす抗コリン薬の副作用が、眼球上転という眼球が動かなくなる症状であるのも納得がいきます。催眠療法やEMDRが、セラピストのコントロールによって、覚醒状態から意識レベルを下げます。一方、先ほどの明晰夢は、自分のコントロールによって夢見状態から意識レベルを上げます。両者は、スタートは違いますが、トラウマ体験の記憶の上書きがしやすい状態になるという意味でゴールは同じです。そして、最近、人工知能による解析によって、どんな夢を見ているかまで分かるようになりました(夢の可視化)。さらに、最新の研究では、光ファイバーによる脳への刺激によって、別々の記憶をつなぎ合わせたり、引き離したりすることができる可能性が出てきました(オプトジェネティクス)。これは、夢を直接変えることに応用できそうです。例えば、トラウマ体験の夢を見ている時に、楽しい体験の記憶のパターンを刺激することで、トラウマ体験自体の辛さが緩和されるということです。さらに、近未来には、眠って夢を見ているときだけでなく、起きている時も、「DCミニ」のような装置によって、私たちの意識が仮想現実の空間で共有される日が来るかもしれません。夢には「夢」があり「夢中」になれる今回、進化医学的に夢を見ることに意味がないと説明しました。しかし、夢を利用することには限りない可能性が秘められていることが分かってきました。これこそまさに「夢」のある話です。そのことを知った今、私たちは夢についてもっと「夢中」になることができるのではないでしょうか?1)筒井康隆:パプリカ、中公文庫、19972)櫻井武:睡眠の科学、講談社、20103)三島和夫編:睡眠科学、科学同人、20164)アラン・ホブソン:ドリームドラッグストア 意識変容の脳科学、創造出版、20075)アンソニー・スティーブンズほか:進化精神医学、世論時報社、2011

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増加する多発性硬化症の第1選択薬となるか!?

 2月15日、バイオジェン・ジャパン株式会社は、都内において多発性硬化症治療薬フマル酸ジメル「テクフィデラ カプセル120/240mg」の発売に伴うプレスセミナーを開催した。セミナーでは、多発性硬化症診療の最新の知見のほか、テクフィデラの今後の治療での位置付けなどが講演された。40年で40倍以上患者が増えた多発性硬化症 セミナーでは、吉良 潤一氏(九州大学大学院医学研究院 脳研 神経内科学 教授)を講師に迎え、「さまざまな課題をかかえる多発性硬化症~テクフィデラ承認の意義~」をテーマに講演が行われた。 はじめに多発性硬化症(MS)の疫学として、わが国では約1万9,000人を超える患者(指定難病医療受給者証所有者数)がおり、その数も1970年代との比較で40倍を超える数になっていること、毎年患者数は増加していることが説明された。 また、MSの発症では、遺伝因子と環境因子(たとえば高緯度、EBウイルス、ビタミンD欠乏、喫煙、生活の欧米化など)の相互作用が判明しているものの、明確な機序はいまだ解明されていないという。障害部位により多様な症状が出現 MSは、中枢神経の髄鞘が障害される脱髄性疾患であり、最近の研究では、確実なエビデンスはないものの中枢神経髄鞘抗原を標的とする自己免疫性疾患であるともいわれている。そのため、発症するとその多くが再発と寛解を繰り返し、再発寛解型、2次性進行型、1次性進行型の3つの類型に分類される。 症状は、脊髄、視神経、大脳、小脳、脳幹の部位で、それぞれ運動機能、感覚機能、自律神経、高次脳機能が障害され症状として現れる。たとえば、大脳の運動機能が障害されれば片麻痺や単麻痺が、視神経の感覚機能が障害されれば視力低下、視野欠損、中心暗点などの症状が出現する。特徴的な前駆症状としては、急に疲れやすくなったり、新しいことが覚えられないなどが挙げられるという。 診断としては、現在、有用なバイオマーカーがないために、除外診断による診断がなされる。また、MRIや髄液検査、誘発電位検査による検査所見で確定診断を行う。とくにMSでは早い時期から2次進行期(現在2次進行期に有効な治療はない)が始まるケースが多いために、MRI検査で病期進行のモニターが望まれる。MS治療薬の現状と課題 現在MSの治療は、発症後の再発寛解期に主に行われている。痙縮、疼痛などへの対症療法をはじめ、急性期にはステロイドパルス療法が施行される。また、MSでは再発予防のために疾患修飾薬(DMD)を使用し、進行を抑える治療が行われている。 現在DMDの第1選択薬は、インターフェロンβとグラチラマーがあり、さらに第2選択薬としてフィンゴリモド、ナタリズマブ、アレムツズマブが病勢により適応される。しかし、実臨床の場ではDMDの使用は、薬剤の価格ゆえに40~50%未満にとどまるという。また、第1選択薬が注射薬ということもあり、アドヒアランスの観点からも使いづらく、第2選択薬でも長期の使用で進行性多巣性白質脳症(PML)の発生リスクがあるなど注意が必要とされている。 DMDでは、妊婦や小児への負担が少なく、長期安全性があり、就労・就学にも差し支えのない治療薬の導入が望まれているという。患者さんに使いやすいDMDの登場 今回発売されたテクフィデラは、経口薬という特徴を持ち、抗炎症作用と神経保護作用の両輪でMSの進行を抑制する。2013年には米国で、2014年には欧州で承認され、すでに全世界で21万人が使用している。 治療効果として、海外治験では投与開始後2年間でみた年間再発率がプラセボ群(n=771)の0.37と比較して、テクフィデラ群(n=769)では0.19と49%減少していた。また、国際共同治験では、投与開始後の12~24週を観察した新規Gd造影病巣の総数でプラセボ群(n=113)の4.3と比較して、テクフィデラ群(n=111)では1.1と84%減少していた。 安全性では、報告数の多い順に潮紅、下痢、悪心、腹痛などの有害事象があるが、重篤な事象は報告されておらず、投与された最初の1ヵ月間での報告が多かったという。 処方のポイントは、少量から徐々に増やしていくこと、3ヵ月に1回は病状進行の様子をモニターすること、また、視神経脊髄炎に使用すると重篤な再発を起こすことから使用前に鑑別診断をすることが重要だという。 最後に吉良氏は私見として「フィンゴリモドと同等の作用があり、将来的に第1選択薬として使用されると期待している。経口薬という最大の特徴は患者さんの負担を軽くする」と展望を述べ、レクチャーを終えた。

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抗CD20抗体ocrelizumab、多発性硬化症の進行抑制/NEJM

 ヒト化抗CD20モノクローナル抗体ocrelizumabは、一次性進行型多発性硬化症の臨床的および画像上の疾患進行を抑制することが、スペイン・バルデブロン大学病院のXavier Montalban氏らが実施したORATORIO試験で示された。研究の成果は、NEJM誌2017年1月19日号(オンライン版2016年12月21日号)に掲載された。多発性硬化症の組織傷害のメカニズムは不明であるが、B細胞が抗原の発現や自己抗体の産生、サイトカインの分泌を介する機序に関与しており、B細胞の除去が治療に有効である可能性が示唆されている。ocrelizumabは、CD20陽性B細胞を選択的に除去するが、B細胞の再構築能および既存の液性免疫は保持されるという。治療効果をプラセボ対照比較試験で評価 ORATORIOは、一次性進行型多発性硬化症の治療におけるocrelizumabの有効性と安全性を評価する、二重盲検無作為化プラセボ対照並行群間比較第III相試験(F. Hoffmann-La Roche社の助成による)。 対象は、年齢18~55歳、McDonald診断基準(2005年改訂版)で一次性進行型多発性硬化症と診断され、総合障害度評価尺度(EDSS)スコアが3.0~6.5(0~10、点数が高いほど機能障害が重度)、機能別障害度評価尺度の錐体路機能スコアが2(0~6、点数が高いほど機能障害が重度)以上の患者であった。 被験者は、ocrelizumab(600mg)またはプラセボを24週ごとに静脈内投与する群に2対1の割合で無作為に割り付けられた。治療期間は120週以上とし、事前に規定された件数の機能障害の進行イベントが発生するまで継続することとした。 主要評価項目は、time-to-event分析で12週時の機能障害進行が確定された患者の割合であった。障害進行は、ベースラインのEDSSスコアが5.5以下の患者は、ベースラインから1.0以上の上昇、5.5以上の患者は0.5以上の上昇と定義した。 2011年3月3日~2012年12月27日に732例(ITT集団)が登録され、ocrelizumab群に488例、プラセボ群には244例が割り付けられた。120週の治療に到達したのは、ocrelizumab群が402例(82%)、プラセボ群は174例(71%)であった。試験期間中央値は、それぞれ2.9年、2.8年だった。12週時進行割合:32.9% vs.39.3%、MRI脳病変総体積:-3.4% vs.7.4% ベースラインの平均年齢は、ocrelizumab群が44.7±7.9歳、プラセボ群は44.4±8.3歳、女性がそれぞれ48.6%、50.8%含まれた。症状発現からの平均経過期間は6.7±4.0年、6.1±3.6年、診断からの平均経過期間は2.9±3.2年、2.8±3.3年、平均EDSSスコアは4.7±1.2、4.7±1.2だった。 12週時に機能障害進行が確定された患者の割合は、ocrelizumab群が32.9%と、プラセボ群の39.3%に比べ有意に良好であった(ハザード比[HR]:0.76、95%信頼区間[CI]:0.59~0.98、p=0.03)。 24週時に機能障害進行が確定された患者の割合は、ocrelizumab群が29.6%であり、プラセボ群の35.7%と比較して有意に優れた(HR:0.75、95%CI:0.58~0.98、p=0.04)。 ベースラインから120週時までの、25フィート時間制限性歩行試験(T25FW)の悪化の割合は、ocrelizumab群が38.9%と、プラセボ群の55.1%よりも有意に低かった(p=0.04)。 T2強調MRI上の脳病変の総体積は、ocrelizumab群が3.4%減少したのに対し、プラセボ群は7.4%増加した(p<0.001)。また、脳体積は、ocrelizumab群が0.90%減少したのに対し,プラセボ群の減少は1.09%であった(p=0.02)。 SF-36の身体機能サマリースコアの変化には、有意な差はみられなかった(補正平均変化量=ocrelizumab群:-0.7 vs.-1.1、p=0.60)。 ocrelizumab群は、注射部位反応(39.9% vs.25.5%)、上気道感染症(10.9% vs.5.9%)、口腔ヘルペス感染症(2.3% vs.0.4%)の頻度が、プラセボ群に比べ高かった。腫瘍は、ocrelizumab群の2.3%、プラセボ群の0.8%に認められた。また、重篤な有害事象(20.4% vs.22.2%)および重篤な感染症(6.2% vs.5.9%)の発生率は、両群間に臨床的に有意な差はみられなかった。 著者は、「長期の安全性と有効性を明らかにするには、拡大試験による観察を要する」としている。

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幹線道路の近くに住む人は認知症リスクが高い/Lancet

 幹線道路から<50mに住む人は、300m超離れた場所に住む人に比べ、認知症発症リスクが高く、幹線道路から離れるにつれて、同リスクの増加幅は有意に減少することが示された。一方、そうした関連は、パーキンソン病、多発性硬化症はみられなかったという。カナダ・Public Health OntarioのHong Chen氏らが住民ベースのコホート試験の結果、明らかにしたもので、Lancet誌オンライン版2017年1月4日号で発表した。認知症、多発性硬化症、パーキンソン病について関連を検証 研究グループは、2001年4月時点でカナダ・オンタリオ州に居住する20~50歳(被験者数約440万人、多発性硬化症コホート)と55~85歳(被験者数220万人、認知症・パーキンソン病コホート)の2つの住民ベースコホートを対象に試験を行った。被験者はいずれもカナダで生まれ、オンタリオ州に5年以上住む人で、ベースラインで多発性硬化症、認知症、パーキンソン病といった神経性疾患を発症していない人だった。 被験者について、郵便番号を基に試験開始5年前の1996年時点で、幹線道路にどれほど近接して居住していたかを調べた。多発性硬化症、認知症、パーキンソン病の発症については、地域の医療管理データで確認した。 幹線道路への近接居住とこれら疾患の罹患率との関連について、Cox比例ハザードモデルを用いて分析した。なお、糖尿病、脳損傷、居住地域の所得などについて補正を行った。大都市在住の幹線道路から<50m内居住、認知症リスクは1.12倍に その結果、2001~12年に各疾患を発症した人は認知症が24万3,611人、パーキンソン病は3万1,577人、多発性硬化症は9,247人だった。 幹線道路への近接居住との関連性は、パーキンソン病、多発性硬化症については認められなかった。 認知症発症については、幹線道路から<50m内に住む人の、同発症に関する補正後ハザード比は、300m超離れた場所に住む人に対して、1.07(95%信頼区間[CI]:1.06~1.08)、50~100mでは1.04(同:1.02~1.05)、101~200mでは1.02(同:1.01~1.03)、201~300mでは1.00(同:0.99~1.01)と有意な関連が認められた(傾向p=0.0349)。 なかでも、幹線道路近接居住と認知症発症について、大都市在住(幹線道路から50m内に住む人のハザード比:1.12、同:1.10~1.14)と、引っ越し経験なし(同ハザード比:1.12、同:1.10~1.14)で強い関連が認められた。

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脊髄空洞症〔syringomyelia〕

1 疾患概要■ 定義脊髄空洞症とは、さまざまな原因により脊髄に空洞性病変を形成する慢性進行性の疾患である。原因の約半数は、キアリ奇形が原因と言われており、脊髄損傷、脊髄腫瘍に伴うものがそれぞれ約10%、脊髄くも膜炎に伴うものが約6%と言われている。■ 疫学成人10万人あたり8.4人/年という報告があるが、近年、MRIの普及により小児例での早期発見が増えているため、実際はもう少し多いことが想定される。■ 病因脊髄空洞症は、高率に後頭蓋窩の形態異常の合併を認めることがわかっており、後頭蓋窩の狭小化により小脳扁桃下垂が起こりやすくなる。現在のところ小脳扁桃下垂による脊髄空洞症のメカニズムは、完全には解明されていない。小脳扁桃下垂により大孔部で髄液循環障害が起こることは明らかであるが、なぜ髄液循環障害により脊髄空洞症が生じるかはわかっていない。過去にはさまざまな病因説が提唱されているが、現在は脳脊髄液と脊髄細胞外液の動的平衡状態の破綻が、空洞形成の要因となるという説が有力となっている。■ 症状受診の契機については、腕から手にかけてのしびれ、痛みなどを主訴に来院することが多く、息こらえ、咳など腹圧の上昇による頭痛を訴えることもある。脊椎外科、脳神経外科、整形外科のみならず神経内科、一般内科など内科を受診する患者さんも少なくない。小児期の脊椎側弯症の精査で偶然発見される場合もある。症状としては、進行性の四肢知覚鈍麻、筋力低下が多く、とくに温痛覚は初期段階から障害されることが多い。進行すると巧緻運動障害、筋萎縮、上下肢のしびれ、痛み、歩行障害、膀胱直腸障害が出現することがある。また、キアリ奇形合併例では、めまい、嚥下障害、嗄声など小脳や脳幹部圧迫症状の併発を認めることもある。高齢発症例では、術後空洞の縮小を認めるにも関わらず疼痛が残存することがある。■ 分類病因に基づいた分類が用いられることが多い。それぞれの原因により手術方法を決定する。1)交通性:画像上第四脳室と空洞の交通を認める2)非交通性(髄液の流出障害によるもの)(1)後頭蓋窩、頭蓋頸椎移行部での流通障害a.キアリ1型奇形b.脳底部くも膜炎c.腫瘍、くも膜嚢胞、ダンディーウォーカー症候群などd.頭蓋底陥入症(2)脊髄くも膜下腔での流通障害a.腫瘍、くも膜嚢胞b.癒着性くも膜炎3)脊髄自体への損傷(1)外傷、出血、感染(2)椎間板変性疾患、脊柱管狭窄症4)神経管閉鎖障害(二分脊椎)5)原因不明■ 予後基礎疾患による影響もあるが、治療による症状の改善はMRIなどの画像上の空洞の縮小よりも早期にみられることが多い。とくに怒責時の疼痛の緩和は、術後早期より緩和される。また、運動障害は、感覚障害よりも回復しやすいと言われている。ただし、診断されるまでの時間が長くかかった場合、空洞の縮小を認めた場合でも症状が改善しない場合もある。そのためにも早期診断が望まれる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)一番大事な事は病歴、身体所見をしっかりととる事である。症状の進行を詳細に聴取し、とくに感覚障害については温痛覚、振動覚、位置覚など詳しく神経所見をとる必要がある。これにより現在どの段階まで神経障害を受けているのかを推測することができる。また、既往歴、外傷歴より空洞の発生原因がないかを追求することも大事である。画像的診断のゴールドスタンダードはMRIであり、空洞性病変の確認を行う(図1)。腫瘍性病変を伴う場合は造影MRIも実施する。キアリ奇形の合併精査のため頭蓋内および頸髄移行部のMRIも実施する必要がある。図1 空洞症病変のMRI所見画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)現時点では空洞縮小に有効な薬剤は報告されていない。治療について、キアリ奇形を伴うものと脊髄外傷など、その他を伴うものに分けて考える。まず、キアリ奇形に伴う脊髄空洞症の治療について、小児例では患児の成長とともに後頭蓋窩の容積増加が期待できるため、保存的加療を行うことも多い。成人例でも軽微な神経兆候、軽度の側弯症の場合、経過観察をすることもある。ただし、神経徴候や側弯症の増悪、著明な小脳扁桃下垂、限局性ではなく全脊髄に広がる空洞の場合は、手術を行う必要がある。手術の目的は、大孔部における髄液通過障害を改善し、空洞を縮小させることである。後頭蓋窩の骨削除と環椎後弓切除を行い、拡大硬膜形成術を行う方法がもっとも多く施術されている。通常の後頭下減圧術と異なり、十分に外側部まで減圧を行う必要がある(図2)。くも膜下腔に血液が流入すると、癒着性くも膜炎や空洞再発の原因となるため、手術の際にはくも膜を損傷しないように十分に留意する必要がある。図2 拡大硬膜形成術の例画像を拡大する次にその他要因に伴う脊髄空洞症の治療について、腫瘍性病変など原疾患の治療を行うことにより空洞の縮小を認める場合がある。脊髄外傷後に空洞の出現を認めかつ症候性である場合は、空洞短絡術を行う。空洞とくも膜下腔にシャントを作る場合と空洞と腹腔内にシャントを作る場合がある。4 今後の展望前述の通り病因に関して完全な解明はなされていない。脳脊髄液と脊髄細胞外液の動的平衡状態の破綻が空洞形成の要因と考えられている。しかし、なぜ平衡状態の破綻が生じるかはわかっていない。脊髄実質内の静脈圧上昇による髄液吸収障害が一因となっているという報告やアクアポリン受容体の関与などが報告されているが、解明には至っていない。さらなる研究報告が待たれる。原因遺伝子の解析については、家族歴が認められることから、いくつかの候補遺伝子の報告がされている。後頭骨の遺伝子形成や頭蓋頸椎移行部の発生に関与すると言われているHox遺伝子やPax遺伝子が候補とされているが、確定されていない。また、同様の病態が動物でも報告されており、小型犬のキャバリア種において後頭蓋低形成、脊髄空洞症が生じることがわかっている。小動物では純血が保たれ世代交代も早いため、こちらの研究においても今後の発展が期待される。手術方法の進歩の反面、脊髄空洞症に伴う難治性疼痛については、われわれが最も悩まされる問題の1つであり、手術を行っても耐え難い痛みが残存することがある。術前より患者本人および家族に十分な説明を行っておく必要がある。痛みの特徴としては、幻肢痛や視床痛と同じような求心路遮断性疼痛に分類される。高齢発症のケースや術前より激しい痛みがある場合、術後も残存しやすいと言われている。痛みの治療としては通常の消炎鎮痛薬が効きにくく、プレガバリン(商品名:リリカ)、ガバペンチン(同:ガバペン)などの神経障害性疼痛に対する治療薬が第1選択となる。三環系抗うつ薬も一定の効果があると考えられる。星状神経節ブロックや後根侵入部遮断術(DREZ)も選択肢にあがる。いずれにしても痛みとうまく付き合っていく必要があり、手術を行う担当科のみならず、かかりつけ医、ペインクリニック医、心療内科医、看護師、リハビリスタッフなど多角的な立場から治療に当たる必要がある。5 主たる診療科脊椎脊髄外科、脳神経外科への紹介を必要とする。非常に専門性の高い分野であり、ホームページなどで診療実績を確認する必要がある。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療・研究情報難病情報センター 脊髄空洞症(医療従事者向けのまとまった情報)神経変性疾患領域における基盤的調査研究班(医療従事者向けのまとまった情報)日本脊髄外科学会 脊髄空洞症(医療従事者向けのまとまった情報)亀田グループ 医療ポータルサイト キアリ奇形と脊髄空洞症について(一般向け、医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報脊髄空洞症友の会(脊髄空洞症患者とその家族向けの情報)公開履歴初回2017年01月10日

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多発性硬化症、抗CD20抗体ocrelizumabで再発率低下/NEJM

 多発性硬化症再発患者において、ヒト化抗CD20モノクローナル抗体ocrelizumabはインターフェロンβ-1aよりも、疾患活動性および進行を有意に抑制することが示された。米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のStephen L Hauser氏らによる、2つの第III相国際多施設共同無作為化試験OPERAIとOPERAIIの結果で、NEJM誌オンライン版2016年12月21日号で発表された。多発性硬化症にはB細胞が関与していることが知られる。ocrelizumabはCD20+B細胞を選択的に減少する作用を有している。2つの第III相試験で96週投与、年間再発率を評価 多発性硬化症再発患者計1,656例(OPERAIでは32ヵ国141施設で821例、OPERAIIでは24ヵ国166施設で835例)が、それぞれの試験で無作為に2群に割り付けられ、ocrelizumab 600mg静注を24週ごとに投与、またはインターフェロンβ-1a 44μg皮下注を週3回投与した。 試験治療期間は96週間。主要エンドポイントは、年間再発率であった。ocrelizumab群の年間再発率が46~47%低下 結果、ocrelizumab群の年間再発率は、両試験において有意に低下した。OPERAIでは、0.16 vs.0.29(ocrelizumab群が46%低下、p<0.001)、OPERAIIでも、0.16 vs.0.29(ocrelizumab群が47%低下、p<0.001)であった。 事前規定のプール解析の結果、12週時点で確認された障害進行を呈した患者の割合は、ocrelizumab群がインターフェロンβ-1a群より有意に低かった(9.1% vs.13.6%、ハザード比[HR]:0.60、95%信頼区間[CI]:0.45~0.81、p<0.001)。24週時点でも同様に有意な低下が確認された(6.9% vs.10.5%、HR:0.60、95%CI:0.43~0.84、p=0.003)。 ガドリニウム増強MRIT1強調画像で確認した平均病変数は、OPERAIではocrelizumab群0.02に対しインターフェロンβ-1a群0.29でocrelizumab群の病変数は94%少なく(p<0.001)、OPERAIIでは0.02 vs.0.42(同95%減少、p<0.001)であった。 多発性硬化症機能複合(MSFC)スコア(歩行速度・上腕運動・認知機能を複合評価、zスコアがマイナス値は増悪を示し、プラス値は改善を示す)の変化は、OPERAIIではocrelizumab群がインターフェロンβ-1a群よりも有意に良好であった(0.28 vs.0.17、p=0.004)。しかし、OPERAIでは有意差は認められなかった(0.21 vs.0.17、p=0.33)。 注入に伴う反応は、ocrelizumab群において34.3%で認められた。重篤な感染症は、ocrelizumab群では1.3%、インターフェロンβ-1a群では2.9%報告された。腫瘍発生の報告は、ocrelizumab群0.5%、インターフェロンβ-1a群0.2%であった。 結果を踏まえて著者は、「さらなる大規模かつ長期の試験を行い、ocrelizumabの安全性を評価する必要がある」とまとめている。

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線条体黒質変性症〔SND: striatonigral degeneration〕

1 疾患概要■ 概念・定義線条体黒質変性症(striatonigral degeneration: SND)は、歴史的には1961年、1964年にAdamsらによる記載が最初とされる1)。現在は多系統萎縮症(multiple system atrophy: MSA)の中でパーキンソン症状を主徴とする病型とされている。したがって臨床的にはMSA-P(MSA with predominant parkinsonism)とほぼ同義と考えてよい。病理学的には主として黒質一線条体系の神経細胞脱落とグリア増生、オリゴデンドロサイト内にα-シヌクレイン(α-synuclein)陽性のグリア細胞質内封入体(glial cytoplasmic inclusion: GCI)が見られる(図1)。なお、MSA-C(MSA with predominant cerebellar ataxia)とMSA-Pは病因や治療などに共通した部分が多いので、「オリーブ橋小脳萎縮症」の項目も合わせて参照して頂きたい。画像を拡大する■ 疫学平成26年度のMSA患者数は、全国で1万3,000人弱であるが、そのうち約30%がMSA-Pであると考えられている。欧米では、この比率が逆転し、MSA-PのほうがMSA-Cよりも多い2,3)。このことは神経病理学的にも裏付けられており、英国人MSA患者では被殻、淡蒼球の病変の頻度が日本人MSA患者より有意に高い一方で、橋の病変の頻度は日本人MSA患者で有意に高いことが知られている4)。■ 病因いまだ十分には解明されていない。α-シヌクレイン陽性GCIの存在からMSAはパーキンソン病やレビー小体型認知症とともにα-synucleinopathyと総称されるが、MSAにおいてα-シヌクレインの異常が第一義的な意義を持つかどうかは不明である。ただ、α-シヌクレイン遺伝子多型がMSAの易罹患性要因であること5)やα-シヌクレイン過剰発現マウスモデルではMSA類似の病理所見が再現されること6,7)などα-シヌクレインがMSAの病態に深く関与することは疑う余地がない。MSAはほとんどが孤発性であるが、ごくまれに家系内に複数の発症者(同胞発症)が見られることがある。このようなMSA多発家系の大規模ゲノム解析から、COQ2遺伝子の機能障害性変異がMSAの発症に関連することが報告されている8)。COQ2はミトコンドリア電子伝達系において電子の運搬に関わるコエンザイムQ10の合成に関わる酵素である。このことから一部のMSAの発症の要因として、ミトコンドリアにおけるATP合成の低下、活性酸素種の除去能低下が関与する可能性が示唆されている。■ 症状MSA-Pの発症はMSA-Cと有意差はなく、50歳代が多い2,3,9,10)。通常、パーキンソン症状が前景に出て、かつ経過を通して病像の中核を成す。GilmanのMSA診断基準(ほぼ確実例)でも示されているように自律神経症状(排尿障害、起立性低血圧、便秘、陰萎など)は必発である11)。加えて小脳失調症状、錐体路症状を種々の程度に伴う。MSA-Pのパーキンソン症状は、基本的にパーキンソン病で見られるのと同じであるが、レボドパ薬に対する反応が不良で進行が速い。また、通常、パーキンソン病に特徴的な丸薬丸め運動様の安静時振戦は見られず、動作性振戦が多い。また、パーキンソン病に比べて体幹動揺が強く転倒しやすいとされる12)。パーキンソン病と同様に、パーキンソニズムの程度にはしばしば左右非対称が見られる。小脳症状は体幹失調と失調性構音障害が主体となり、四肢の失調や眼球運動異常は少ない13)。後述するようにMSA-Pでは比較的早期から姿勢異常や嚥下障害を伴うことも特徴である。なお、MSAの臨床的な重症度の評価尺度として、UMSARS(unified MSA rating scale)が汎用されている。■ 予後国内外の多数例のMSA患者の検討によれば、発症からの生存期間(中央値)はおよそ9~10年と推察される3,9)。The European MSA Study Groupの報告では、MSAの予後不良を予測させる因子として、評価時点でのパーキンソン症状と神経因性膀胱の存在を指摘している3)。この結果はMSA-CよりもMSA-Pのほうが予後不良であることを示唆するが、日本人患者の多数例の検討では、両者の生存期間には有意な差はなかったとされている9)。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)GilmanらのMSA診断基準(ほぼ確実例)は別稿の「オリーブ橋小脳萎縮症」で示したとおりである。MSA-P疑い例を示唆する所見として、運動症状発現から3年以内の姿勢保持障害、5年以内の嚥下障害が付加的に記載されている11)。診断に際しては、これらの臨床所見に加えて、頭部画像診断が重要である(図2)。MRIでは被殻外側部の線状高信号(hyperintense lateral putaminal rim)が、パーキンソン症状に対応する病変とされる。画像を拡大する57歳女性(probable MSA-P、発症から約1年)の頭部MRI(A、B)。臨床的には左優位のパーキンソニズム、起立性低血圧、過活動性膀胱、便秘を認めた。MRIでは右優位に被殻外側の線状の高信号(hyperintense lateral putaminal rim)が見られ(A; 矢印)、被殻の萎縮も右優位である(B; 矢印)。A:T2強調像、B:FLAIR像68歳女性(probable MSA-P、発症から約7年)の頭部MRI(C~F)。臨床的には寡動、右優位の筋固縮が目立ち、ほぼ臥床状態で自力での起立・歩行は不可、発語・嚥下困難も見られた。T2強調像(C)にて淡い橋十字サイン(hot cross bun sign)が見られる。また、両側被殻の鉄沈着はT2強調像(D)、T2*像(E)、磁化率強調像(SWI)(F)の順に明瞭となっている。MSA-Pの場合、鑑別上、最も問題になるのは、パーキンソン病、あるいは進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症などのパーキンソン症候群である。GilmanらはMSAを示唆する特徴として表のような症状・所見(red flags)を挙げているが11)、これらはMSA-Pとパーキンソン病を鑑別するには有用とされる。表 MSAを支持する特徴(red flags)と支持しない特徴11)■ 支持する特徴(red flags)口顔面ジストニア過度の頸部前屈高度の脊柱前屈・側屈手足の拘縮吸気性のため息高度の発声障害高度の構音障害新たに出現した、あるいは増強したいびき手足の冷感病的笑い、あるいは病的泣きジャーク様、ミオクローヌス様の姿勢時・動作時振戦■ 支持しない特徴古典的な丸薬丸め様の安静時振戦臨床的に明らかな末梢神経障害幻覚(非薬剤性)75歳以上の発症小脳失調、あるいはパーキンソニズムの家族歴認知症(DSM-IVに基づく)多発性硬化症を示唆する白質病変上記では認知症はMSAを“支持しない特徴”とされるが、近年は明らかな認知症を伴ったMSA症例が報告されている14,15)。パーキンソン病とMSAを含む他のパーキンソン症候群の鑑別に123I-meta-iodobenzylguanidine(123I-MIBG)心筋シンチグラフィーの有用性が示されている16)。一般にMSA-Pではパーキンソン病やレビー小体型認知症ほど心筋への集積低下が顕著ではない。10の研究論文のメタ解析によれば、123I-MIBGによりパーキンソン病とMSA(MSA-P、MSA-C両方を含む)は感度90.2%、特異度81.9%で鑑別可能とされている16)。一方、Kikuchiらは、とくに初期のパーキンソン病とMSA-Pでは123I-MIBG心筋シンチでの鑑別は難しいこと、においスティックによる嗅覚検査が両者の鑑別に有用であることを示している17)。ドパミントランスポーター(DAT)スキャンでは、両側被殻の集積低下を示すが(しばしば左右差が見られる)、パーキンソン病との鑑別は困難である。また、Wangらは、MRIの磁化率強調像(susceptibility weighted image: SWI)による被殻の鉄含量の評価はMSA-Pとパーキンソン病の鑑別に有用であることを指摘している18)。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)有効な原因療法は確立されていない。MSA-Cと同様に、個々の患者の病状に応じた対症療法が基本となる。対症療法としては、薬物治療と非薬物治療に大別される。レボドパ薬に多少反応を示すことがあるので、とくに病初期には十分な抗パーキンソン病薬治療を試みる。■ 薬物治療1)小脳失調症状プロチレリン酒石酸塩水和物(商品名: ヒルトニン注射液)や、タルチレリン水和物(同:セレジスト)が使用される。2)自律神経症状主な治療対象は排尿障害(神経因性膀胱)、起立性低血圧、便秘などである。MSAの神経因性膀胱では排出障害(低活動型)による尿勢低下、残尿、尿閉、溢流性尿失禁、および蓄尿障害(過活動型)による頻尿、切迫性尿失禁のいずれもが見られる。排出障害に対する基本薬は、α1受容体遮断薬であるウラピジル(同: エブランチル)やコリン作動薬であるベタネコール塩化物(同: ベサコリン)などである。蓄尿障害に対しては、抗コリン薬が第1選択である。抗コリン薬としてはプロピベリン塩酸塩(同:バップフォー)、オキシブチニン塩酸塩(同:ポラキス)、コハク酸ソリフェナシン(同:ベシケア)などがある。起立性低血圧には、ドロキシドパ(同:ドプス)やアメジニウムメチル硫酸塩(同:リズミック)などが使用される。3)パーキンソン症状パーキンソン病に準じてレボドパ薬やドパミンアゴニストなどが使用される。4)錐体路症状痙縮が強い症例では、抗痙縮薬が適応となる。エペリゾン塩酸塩(同:ミオナール)、チザニジン塩酸塩(同:テルネリン)、バクロフェン(同:リオレサール、ギャバロン)などである。■ 非薬物治療患者の病期や重症度に応じたリハビリテーションが推奨される(リハビリテーションについては、後述の「SCD・MSAネット」の「リハビリのツボ」を参照)。上気道閉塞による呼吸障害に対して、気管切開や非侵襲的陽圧換気療法が施行される。ただし、非侵襲的陽圧換気療法によりfloppy epiglottisが出現し(喉頭蓋が咽頭後壁に倒れ込む)、上気道閉塞がかえって増悪することがあるため注意が必要である19)。さらにMSAの呼吸障害は中枢性(呼吸中枢の障害)の場合があるので、治療法の選択においては、病態を十分に見極める必要がある。4 今後の展望選択的セロトニン再取り込み阻害薬である塩酸セルトラリン(商品名:ジェイゾロフト)やパロキセチン塩酸塩水和物(同:パキシル)、抗結核薬リファンピシン、抗菌薬ミノサイクリン、モノアミンオキシダーゼ阻害薬ラサジリン、ノルアドレナリン前駆体ドロキシドパ、免疫グロブリン静注療法、あるいは自己骨髄由来の間葉系幹細胞移植など、さまざまな治療手段の有効性が培養細胞レベル、あるいはモデル動物レベルにおいて示唆され、実際に一部はMSA患者を対象にした臨床試験が行われている20,21)。これらのうちリファンピシン、ラサジリン、リチウムについては、MSA患者での有用性が証明されなかった21)。また、MSA多発家系におけるCOQ2変異の同定、さらにはCOQ2変異ホモ接合患者の剖検脳におけるコエンザイムQ10含量の著減を受けて、MSA患者に対する治療として、コエンザイムQ10大量投与療法に期待が寄せられている。5 主たる診療科神経内科、泌尿器科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 線条体黒質変性症SCD・MSAネット 脊髄小脳変性症・多系統萎縮症の総合情報サイト(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報全国脊髄小脳変性症・多系統萎縮症友の会(患者とその家族の会)1)高橋昭. 東女医大誌.1993;63:108-115.2)Köllensperger M, et al. Mov Disord.2010;25:2604-2612.3)Wenning GK, et al. Lancet Neurol.2013;12:264-274.4)Ozawa T, et al. J Parkinsons Dis.2012;2:7-18.5)Scholz SW, et al. Ann Neurol.2009;65:610-614.6)Yazawa I, et al. Neuron.2005;45:847-859.7)Shults CW et al. J Neurosci.2005;25:10689-10699.8)Multiple-System Atrophy Research Collaboration. New Engl J Med.2013;369:233-244.9)Watanabe H, et al. Brain.2002;125:1070-1083.10)Yabe I, et al. J Neurol Sci.2006;249:115-121.11)Gilman S, et al. Neurology.2008;71:670-676.12)Wüllner U, et al. J Neural Transm.2007;114:1161-1165.13)Anderson T, et al. Mov Disord.2008;23:977-984.14)Kawai Y, et al. Neurology. 2008;70:1390-1396.15)Kitayama M, et al. Eur J Neurol.2009:16:589-594.16)Orimo S, et al. Parkinson Relat Disord.2012;18:494-500.17)Kikuchi A, et al. Parkinson Relat Disord.2011;17:698-700.18)Wang Y, et al. Am J Neuroradiol.2012;33:266-273.19)磯崎英治. 神経進歩.2006;50:409-419.20)Palma JA, et al. Clin Auton Res.2015;25:37-45.21)Poewe W, et al. Mov Disord.2015;30:1528-1538.公開履歴初回2015年04月23日更新2016年11月01日

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亜急性硬化性全脳炎〔SSPE : subacute sclerosing panencephalitis〕

1 疾患概要■ 概念・定義亜急性硬化性全脳炎(subacute sclerosing panencephalitis: SSPE)は、1934年Dawsonにより急速進行する脳炎として初めて報告された。この疾患は、麻疹に感染してから数年の潜伏期間を経て発症する。発病後は数ヵ月から数年の経過(亜急性)で神経症状が進行し、病巣の性状はグリオーシス(硬化)であり、全脳を侵すことにより、亜急性硬化性全脳炎と呼ばれる。このように潜伏期間が長く、緩徐に進行するウイルス感染を遅発性ウイルス感染と呼び、ほかにはJCウイルスによる進行性多巣性白質脳症(progressive multifocal leukoencephalopathy: PML)が知られている。根本的治療法は確立されておらず、現在でも予後不良の疾患である。■ 疫学わが国での発症者は、麻疹ワクチンが普及する以前は年間10~15人程度であったが、麻疹ワクチン普及後は減少し、現在は年間5~10人程度となっている。男女比は2 : 1でやや男性に多く、潜伏期間、症状の発症とも女性と比較すると長く、遅くなっている。SSPEの発症年齢は平均12歳で、20代をピークに10~30歳代で96%を占める。麻疹ワクチンによるSSPEの発症は認められておらず、SSPE発症には直接的な麻疹ウイルス(MV)感染が必要であるため、発症予防には麻疹への感染予防が重要であるが、わが国では他の先進国に比べて麻疹ワクチンの接種率が低く、接種率向上が必要である。■ 病因SSPEの発症のメカニズムは現在まで十分には判明していないが、発症に関与する要因として、ウイルス側のものと宿主側のものが考えられている。1)ウイルス側の要因MVの変異株(SSPEウイルスと呼ぶ)が、中枢神経に持続感染することで起こる。SSPEウイルスは野生のMVと比較すると、M遺伝子やF遺伝子の変異が生じている。M遺伝子は、ウイルス粒子形成とカプシドからの粒子の遊離に重要なMタンパク質をコードし、Mタンパク質機能不全のため、SSPEウイルスは、感染性ウイルス粒子を産生できない。そのため隣接する細胞同士を融合させながら、感染を拡大していく。F遺伝子は、エンベロープ融合に関与するFタンパク質をコードし、一般にはSSPEウイルスはFタンパク質の膜融合が亢進しており、神経親和性が高くなっている。2)宿主側の要因幼少期にMV初感染を受けると免疫系や中枢神経系が十分に発達していないため、MVの脳内での持続感染が起こりやすく、SSPE発症リスクが上がる。ほかにSSPE発症に関わる遺伝的要因として、これまでにIL-4遺伝子多型とMxA遺伝子多型が報告されている。IL-4は、ヘルパーT細胞のTh1/Th2バランスをTh2(抗体産生)側に傾けるサイトカインで、SSPE患者ではIL-4産生が多いタイプの遺伝子多型を持つことが多いために、IL-4産生が亢進してTh2側に傾き、細胞傷害性T細胞の活性が抑えられて、MVの持続感染が起こりやすくなっていると考えられている。また、SSPE患者はインターフェロンによって誘導され、細胞内でのウイルス増殖を抑える機能を持つ、MxAの産生が多くなる遺伝子多型を持つことも知られている。MxA産生が多いと、中枢神経系のMV増殖が抑制され、MVに感染した神経細胞が免疫系から認識されにくくなり、中枢神経系での持続感染が起こりやすくなると考えられている。■ 症状と特徴初発症状として、学校の成績低下、記憶力低下、行動の異常、性格の変化があり、その後、歩行障害、ミオクローヌス、痙攣、自律神経症状、筋固縮を来し、最終的には無言・無動となり、死に至ることが多い。これらの症状の分類には、Jabbourが提唱した臨床病期分類が一般的に用いられる。■ Jabbourの分類第1期精神神経症状性格変化(無関心、反抗的)、学力低下、行動異常など第2期痙攣および運動徴候痙攣のタイプは全身強直発作、失神発作、複雑部分発作など運動徴候として運動機能低下、不随意運動(SSPEに特徴的な四肢の屈曲や進展を反復するミオクローヌス)第3期昏睡に至る意識障害の進行、筋緊張の亢進、球症状の出現による経口摂取困難、自律神経症状など第4期無言無動、ミオクローヌス消失全経過は通常数年だが、数ヵ月以内に死に至る急性型(約10%)、数年以上の経過を示す慢性型(約10%)がある。■ 予後SSPE症例は、無治療の場合は約80%が亜急性の経過をたどり、約1~3年の経過で第1期から第4期の順に進行し死亡する。約10%は発症後急速に進行し、3ヵ月以内に死亡する。また、残り約10%の進行は緩徐で、約4年以上生存する。無治療で寛解する症例や、寛解と増悪を繰り返す症例も報告されている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)診断は、臨床症状を軸に血液、髄液、脳波、画像検査を統合して行う。■ 特徴的な検査所見1)麻疹抗体価血清および髄液の麻疹抗体価が上昇する。髄液麻疹抗体価の上昇はSSPEに特異的であり、検出されれば診断的意義が高い。SSPE患者の抗体価は異常高値が特徴とされたが、最近では、軽度上昇にとどまる症例も多く、注意が必要である。また、抗体価の推移と臨床経過は必ずしも一致しない。2)髄液検査多くの場合は細胞数・糖・蛋白とも正常だが、細胞数・蛋白が軽度上昇することもある。また、髄液IgGおよびIgG indexの上昇も認める。3)脳波検査Jabbour2期から3期にかけて、左右同期性または非同期性で3~20秒間隔で出現する周期性同期性高振幅徐波をほとんどの症例で認めるが、Jabbour4期になると消失する(図)。画像を拡大する4)画像検査MRIは、疾患の推移を評価するのに有用である。画像変化は臨床病期とは一致せず、主に罹患期間に依存する。病初期のMRI所見では、正常または後頭葉の皮質・皮質下に非対称なT2強調画像での高信号の病変を認める。病期の進行とともに脳萎縮が進行し、側脳室周囲に対称性の白質病変が出現・拡大する。5)病理病理所見の特徴は、灰白質と白質の両方が障害される全脳炎であることと、線維性グリオーシスにより硬化性変化を示すことである。組織学的には、軟膜と血管周囲の炎症細胞浸潤、グリア細胞の増生、ニューロンの脱落および神経原線維変化の形成、脱髄などの所見がみられる。炎症所見は、発症からの経過が長いほど乏しくなる。麻疹ウイルス感染に関連した所見として、核内および細胞質の封入体を認める。■ 鑑別診断SSPEは急速に進行する認知症、ミオクローヌス、痙攣などを来す疾患の一部であり、ADEM(acute disseminated encephalomyelitis)、亜急性および慢性脳炎、脳腫瘍、多発性硬化症、代謝性白質脳症、進行性ミオクローヌスてんかんなどが鑑別に挙がる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ イノシンプラノベクスイノシンプラノベクス(商品名: イソプリノシン)は、抗ウイルス作用と免疫賦活作用を併せ持つ薬剤で、保険適用薬として認可されている。通常50~100mg/kg/日を3~4回に分割し、経口的に投与する。これにより生存期間の延長が得られるとされている。副作用として、血中および尿中の尿酸値の上昇(18.8%)があり、注意を要する。■ インターフェロン(IFN)インターフェロンは、ウイルス増殖阻害作用を持つ薬剤であり、IFNα、IFNγともに保険適用薬として認可されている。イノシンプラノベクスとの併用により有効であったとの報告例を多数認める。通常100~300万単位を週1~3回、脳室内に直接投与する。副作用として一過性の発熱をほぼ全例で認める。頻度は低いが、アレルギー反応を来す症例も認める。イノシンプラノベクス経口投与とIFN髄腔内または脳室内投与を併用するのが一般的で、有効性は言われているものの進行を阻止した例はまれであり、治療効果として不十分と考えられている。■ リバビリン近年、研究的治療(保険適用外)として、リバビリンの髄腔内または脳室内投与療法が試みられている。リバビリンは、広い抗ウイルススペクトラムを有する薬剤であり、麻疹(SSPE)ウイルスに対しても優れた抗ウイルス効果を示す。直接脳室内に投与することで、髄液中のリバビリン濃度はウイルス増殖を完全に抑制する濃度に維持され、重篤な副作用を認めず、少数例ではあるが臨床的有効性が報告されている。しかし、病初期(Jabbour2期)に投与した症例においては、臨床症状に明らかな改善を認めたとする報告が多く、病期の進行した症例(Jabbour3期)では改善効果に乏しかったとする報告が多い。以上のことから、リバビリン療法は、リバビリンがウイルスの増殖を抑制して病期の進行を抑制する治療法であり、進行した神経障害を改善させるものではないと考えられている。■ 対症療法上記の治療のほかには対症療法として、ミオクローヌスのコントロールや呼吸管理、血圧コントロールなどの対症療法を行っていく必要がある。4 今後の展望SSPEの重症度の評価として、新たにトリプトファン代謝の主要経路であるキヌレニン経路の代謝産物の髄液中濃度について検討されている。SSPE群では対象例と比較し、髄液中のキノリン酸濃度が有意に高値であり、病期の進行とともに増加が認められている。代謝産物であるキノリン酸の増加はキヌレニン経路の活性化が示唆され、その活性化はSSPEにおける変異型麻疹ウイルスの持続感染に関与している可能性がある。さらにキノリン酸は NMDA型グルタミン酸受容体アゴニストとして興奮性神経毒性を持つため、SSPEにおける神経症状との関係が示唆されている。また、前述したが、研究的治療としてリバビリン髄腔内または脳室内投与が有望である可能性が考えられている。具体的な投与方法として、リバビリン1mg/kg/回、1日2回、5日間投与から開始し、1回量、投与回数を調整し、髄液リバビリン濃度を目標濃度(50~200μg/mL)にする。投与量が決定したら、5日間投与・9日間休薬を12クール(6ヵ月)継続するものとなっている。効果としては、国内で詳細に調査された9例において、治療前後の臨床スコアの平均は前が52.9、後が51.0であり、治療前後で有意差は認めなかった。しかし、イノシンプラノベクスとIFNの併用療法を施行された48症例では治療前後の臨床スコアは前が54.3、後が61.1と悪化を認めており、リバビリン脳室内投与群のほうが優る結果となっている。しかしSSPEは、症例により異なる経過をたどり、その経過も長いため、多数例の調査を行ったうえでの慎重な判断が必要である。5 主たる診療科神経内科および小児科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 亜急性硬化性全脳炎(一般利用者向けと医療従事者むけのまとまった情報)プリオン病及び遅発性ウイルス感染症に関する調査研究班プリオン病のサーベイランスと感染予防に関する調査研究班(医療従事者向けの情報)患者会情報SSPE青空の会(SSPE患者とその家族の会)1)厚生労働省難治性疾患克服研究事業 プリオン病及び遅発性ウイルス感染症に関する調査研究班. 亜急性硬化性全脳炎(SSPE)診療ガイドライン(案)2)平成27年度(2015年度)プリオン病及び遅発性ウイルス感染症に関する調査研究班 総括研究報告書3)Gutierrez J, et al. Dev Med Child Neurol.2010;52:901-907.公開履歴初回2014年05月19日更新2016年09月20日

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“ゆるスポーツ”とコラボ 多発性硬化症 啓発イベント開催

 毎年5月の最終水曜日は、「World MS Day」(世界多発性硬化症の日)※1。その日を前に、多発性硬化症(MS)患者や家族などを対象とした、啓発イベント「ゆるMeeting & Sportsデー」(主催:バイオジェン・ジャパン株式会社)が、NEW PIER HALL(東京都港区)にて、5月22日に開催された。 イベントではMSの理解を深めるための講演、そして、MS患者と専門医のアドバイスを受け“世界ゆるスポーツ協会”※2とバイオジェン・ジャパンが開発したオリジナルスポーツが初披露された。イベント司会には、元・吉本芸人で現放送作家のWマコト氏、ゲストには女子レスリング選手の浜口 京子氏が招かれ、会場を盛り上げた。本イベントの概要をレポートする。多発性硬化症(MS)とはどんな病気か? MSへの理解を深めるため、東京女子医科大学八千代医療センター 神経内科 准教授 大橋 高志氏によって講演が行われた。 多発性硬化症(MS)は国が指定する特定疾患の1つだ。脳、脊髄、視神経などに炎症が起こることで、多様な神経症状が再発を繰り返しながら進行していく。症状としては、感覚障害、運動障害、疲労、視力障害、性機能障害、疼痛など実にさまざまである。MSは若年成人に発病することが最も多く、女性の割合が高い(平均発病年齢:30歳前後、男女比:約1 : 2~3)1)。 MSは早期治療によって再発や進行を抑制できると考えられている。そのため、MSの認知を高めていくことは重要な課題である。MS患者に適したオリジナル“新”スポーツとは? MSの理解を深める講演の後、いよいよ“新”スポーツのお披露目となった。 今回行ったスポーツは「スポーツかるた」と「シーソー玉入れ」の2種類だ。どちらもMSの特徴である“疲労”を考慮したルールになっている。また、チームの協調性が求められる内容になっているため、参加者は笑顔でコミュニケーションを取り合いながらゲームを進めていた。【MSオリジナルスポーツかるた】床に置かれた巨大なかるたに、MS患者の体のストレッチとなる動きが書かれている。相手チームより早く札を取り、札に書かれた動きをチームでこなすことができると得点が得られる。【シーソー玉入れ】ある程度玉を入れるとカゴが傾き、玉がすべて外に出され、20秒間ゲームがストップしてしまう。ゲーム終了時にカゴが傾く“ぎりぎり”を目指して玉入れをする。また、敵チームも玉入れに参加し、カゴを傾けることができる。カゴの玉の数、敵チームの動き、制限時間をみながら、チームで戦略的に玉を入れていく。 スポーツには浜口 京子氏も参加し、ゲームを大きく盛り上げていた。また、最後は逆転優勝となるなど白熱したゲーム展開となり、イベントは終始笑顔に包まれた。 本イベントを企画したバイオジェン・ジャパン 代表取締役社長のスティーブ・スギノ氏は「このイベントを通じて、より多くの方に多発性硬化症についての知識と、患者さんへの理解を深めていただけたと思います」と述べた。このようなイベントをきっかけとして、MSの認知と理解が深まることが望まれる。※1 World MS Day(世界多発性硬化症の日): MS世界連合と世界各国のMS協会により、MSの認知度向上などを目的として2009年制定された。※2 世界ゆるスポーツ協会:子供から高齢者まで誰もが気軽に楽しめるスポーツを開発している団体。

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一次性進行型多発性硬化症における経口フィンゴリモド療法(INFORMS):第III相二重盲検プラセボ対照試験(解説:内山 真一郎 氏)-485

 一次性進行型多発性硬化症(MS)に、有効性が証明されている治療法は存在しない。フィンゴリモドは、経口のスフィンゴシン-1-リン酸受容体修飾薬であり、再発型MSに効果があるが、一次性進行型MSには試されたことがない。 INFORMS試験は、一次性進行型MS患者970例において、フィンゴリモド1.25mg/日またはプラセボを3~5年間投与して比較した、国際共同研究による二重盲検並行群間試験であったが、フィンゴリモドは、MSによる神経障害の進行を遅らせることができなかった。 フィンゴリモドは、中枢神経の炎症を抑制する効果があるが、一次性進行型MSは再発型MSに比べて炎症の関与が少なく、神経変性過程の関与が大きいために有効性が示されなかったと考えられる。一次性進行型MSには、再発型MSに用いられるような抗炎症戦略は有効性が期待しにくいので、今後は新たな治療戦略が必要になるであろう。

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一次性進行型MSに対するフィンゴリモドの有用性/Lancet

 一次性進行型多発性硬化症(PPMS)に対するフィンゴリモド(スフィンゴシン-1-リン酸受容体調節薬)の安全性と有効性を検証した第III相試験「INFORMS」の最終結果が報告された。フィンゴリモドによる抗炎症療法は、PPMSの病態進行を抑制しないことが示された。試験報告を行った米国マウント・サイナイ・アイカーン医科大学のFred Lublin氏らは、結果を踏まえて「PPMSの治療は、再発性MSとは異なるアプローチが必要である」とまとめている。フィンゴリモドは、再発性MSおよび二次性進行型MSに有効であることから、PPMSに対しても同様の効果が期待されていた。Lancet誌オンライン版2016年1月27日号掲載の報告。障害進行の検出精度を高めるため、新たな複合評価項目を設定 INFORMS試験は、18ヵ国148施設で行われた多施設共同二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験で、PPMS患者を、フィンゴリモド投与群またはプラセボ投与群に1対1の割合で無作為に割り付け、3~5年間治療した。 フィンゴリモドの用量は、当初1.25mg/日であったが(コホート1)、2009年11月19日にプロトコルが改定され、盲検下のまま0.5mg/日に変更された(コホート2)。患者の主な選択基準は、年齢25~65歳、疾患進行1年以上、脳MRI陽性・脊髄MRI陽性・脳脊髄液陽性のうち2つを満たす、罹病期間2~10年、過去2年間の障害進行の客観的な証拠がある、などであった。 研究グループは、総合障害度評価尺度(EDSS)、歩行時間テスト(25' Timed-Walk Test:25’TWT)スコアあるいは上肢機能の評価(9-Hole Peg Test:HPT)スコアのベースラインからの変化に基づく新たな複合主要評価項目を用い、3年以上治療を受けた被験者について、3ヵ月間持続する障害進行の発現までの期間を評価した。フィンゴリモド群とプラセボ群で障害進行に差はない 2008年9月3日~11年8月30日に、970例が無作為化された(コホート1:1.25mg投与群147例、プラセボ群133例/コホート2:0.5mg投与群336例、プラセボ群354例)。有効性解析対象は、コホート1および2のプラセボ群487例と0.5mg投与群336例の計823例であった。ベースラインの両群の特性は類似していた(女性48%、平均年齢48.5歳、平均EDSSスコア4.67、ガドリニウム増強病変なし87%)。 試験終了までに、複合主要評価項目の3ヵ月間持続する障害進行が認められたのは、0.5mg投与群で232例、プラセボ群で338例であった。Kaplan-Meier法で算出した障害進行率は、0.5mg投与群77.2%(95%信頼区間[CI]:71.87~82.51)、プラセボ群80.3%(同:73.31~87.25)で、プラセボに対するリスク減少は5.05%(ハザード比[HR]:0.95、95%CI:0.80~1.12、p=0.544)であった。EDSSのみを評価項目とした場合でも同様に、両群間で有意差は認められなかった(リスク減少:11.99%、HR:0.88、95%CI:0.72~1.08、p=0.217)。 安全性については、再発性MS患者を対象としたフィンゴリモドの臨床試験成績とおおむね一致していた。主な有害事象は、リンパ球減少症(0.5mg投与群19例[6%] vs.プラセボ群0例)、徐脈(同5例[1%] vs.1例[<1%])、1度房室ブロック(3例[1%] vs.6例[1%])であった。重篤な有害事象は、0.5mg投与群84例(25%)、プラセボ群117例(24%)に認められ、主なものは黄斑浮腫がそれぞれ6例(2%)と6例(1%)、基底細胞がんが14例(4%)と9例(2%)であった。 著者は、「INFORMS試験は、複合主要評価項目を用いた初めての大規模臨床試験で、結果には整合性が認められたことから、今後、PPMSを対象とした臨床試験の評価項目として有用であることが示唆される」と結論している。

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治療薬は「痛み」の種類で変わる

 ファイザー株式会社とエーザイ株式会社は、12月1日に都内において「いまさら聞けない痛み止め薬の基礎知識」をテーマに、プレスセミナーを共催した。 セミナーでは、ファイザー社が行ったアンケート調査「痛み止め薬の使用実態と患者意識に関する全国調査」を織り交ぜ、加藤 実氏(日本大学医学部麻酔科学系麻酔科学分野 診療教授)が慢性痛とその治療の概要をレクチャーした。慢性痛には、種類に応じた治療薬がある 加藤氏は、「慢性痛に対する痛みの種類に応じた薬物選択と適切な服薬指導の必要性」と題し、慢性痛治療の現状と今後の治療の在り方について説明した。 現在わが国には、慢性痛を有する患者は2,700万人と推定されており、神経障害性疼痛疑いの患者は660万人と推定されている。これらの痛みの治療を放置すると、睡眠・情動・QOLに多大な影響を及ぼし、破局的思考モデル(痛みへの不安や悲観的思考の増大)により、さらに身体状態を悪化させることになる。 痛みは、大きく「侵害受容性痛(外傷などの痛み)」と「神経障害性痛(電気が走るようなビリビリした痛み)」と、その混合である「混合性痛」に分かれる。通常、侵害受容性痛であれば、NSAIDsやオピオイドでの治療が行われ、神経障害性痛であれば、神経障害性疼痛治療薬、抗うつ薬、オピオイドで治療が行われる。 とくに神経障害性痛の痛みの仕組みでは、侵害受容器からの痛み信号が神経節などを経る段階で中枢感作されて脳に到達し、そのため痛み信号の増幅が起こり痛苦が発生するものであり、この感作を抑える治療薬が適用される。具体的には、第1選択薬ではプレガバリン、ノルトリプチリンなどがあり、第2選択薬ではワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液含有製剤、デュロキセチンなどが、第3選択薬ではフェンタニル、モルヒネなどが使用される。また、慢性痛の原因となる神経障害性痛は、画像所見、病理検査で診断できず、NSAIDsでも治療反応がないことから、臨床の場では痛みの鑑別に注意が必要となる。患者の8割は医師から副作用の説明を受けていない 次に11月にファイザー社がインターネットで行った「痛み止めの使用実態と患者意識に関する全国調査」を紹介した(調査対象:長く持続する痛みを抱える全国の成人男女、n=9,400)。これによると不適切使用・管理の実態として、回答者の約6割が「以前の処方薬が余っていても定期的に処方をしてもらう」と答え、約3割が「ほかの医療機関からも処方してもらい併用している」、「そのことを疼痛治療の主治医に伝えていない」など、患者の実態がわかった。また、自己判断による治療中の痛み止め中止については、約6割の回答者が「経験がある」と答え、その理由として「痛みの軽減」「症状の改善なし」「薬に頼りたくない」(上位3つ)などが挙げられていた。また、「治療薬処方時の医師からの説明」では、約5割が「効能・効果の説明を受けていない」と答えるとともに、約8割が「副作用の説明を受けていない」と回答し、医療側からの情報提供不足が懸念される結果となった。 「痛みの種類の知識」では、約2割が「よく知っている」と回答、約5割が「聞いたことがある」と答えている反面、「痛みの種類により治療効果のある薬が異なることの知識」では、約6割以上が知らないと回答するなど知識の偏在も明らかとなった。 「患者が求める痛み治療の目標設定の現状」では、「痛みは完全に取り除きたい」と約9割が回答していたが、約6割は「痛みがあっても日常生活を送ることができればよい」とも回答していた。 治療目標をどこに設定する? 実際の痛みの治療現場では、目標を「痛みを消す」ことから、「痛みが半分になり、生活改善ができる」ことを目指して、治療が行われている。具体的には、患者の痛みが和らぎ、QOLやADLが改善され、日常生活が送れるようになること、睡眠がきちんと取れることが目安となる。そして、治療薬選択の際は、痛みの評価をすることと、無効な薬を速やかに中止することが重要だという。また、加藤氏は、痛み止めを処方する際に、・少ない副作用で最大の鎮痛効果を目指す痛み止めの治療プランを提示する・患者と医師間での治療目標の設定を明確化する・治療薬の必要性について、わかりやすく説明する・副作用の種類/長期投与の安全性を説明する・効果と副作用の継続的な評価の必要性を考えるの5項目を心がけている。診療の際に具体的な説明を言葉やメモで、患者にきちんと伝えることが大切だという。 最後に、「治療環境の質の向上には、医療側から治療薬の効果と副作用の情報提供、そして、患者の正しい理解と能動的な協力は必要不可欠であり、患者参加型の治療環境で治療薬を最大限活用させることが治療のポイントになる」と述べ、レクチャーを終えた。ファイザー株式会社の「痛み止め薬の使用実態と患者意識に関する全国調査」はこちら(ケアネット 稲川 進)関連コンテンツ特集「慢性疼痛 神経障害性疼痛」

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統合失調症患者の不安症状はしばしば軽視されている

 統合失調症患者において不安症状の有症率は65%にも上り、併存するさまざまな不安障害(強迫性障害や心的外傷後ストレス障害を含む)の診断は転換期を迎えている。南アフリカ・ケープタウン大学のHenk Temmingh氏らは、統合失調症患者における不安症の臨床所見、診断、神経生物学および薬物治療についてレビューした。著者らは、「統合失調症患者の不安症状や不安障害の診断および治療はしばしば軽視されている」と警鐘を鳴らしている。CNS Drugs誌オンライン版2015年10月19日号の掲載報告。統合失調症患者における不安障害の有病率は38%と推定 統合失調症患者における不安症についてのレビューの概要は以下のとおり。・統合失調症患者における不安障害の有病率は38%と推定され、社交不安障害が最も一般的である。・陽性症状の重症度は不安症状の重症度と相関するが、不安症は精神病症状とは独立してみられる。・不安症は良好な病識と関連するが、うつ病、自殺傾向、医療サービスの利用および認知障害の増加とも関連している。・不安症状を有する患者は、外在化症状とはまったく異なる他の内在化症状を有しているおそれがある。・統合失調症における不安症の診断は、陽性症状(不安症をわかりにくくしている)、感情表出やコミュニケーションの乏しさ(診断を妨げる)およびアカシジアのため、困難と思われる。・急性期精神症状消失後のアセスメントや、スクリーニング用質問票および疾患特異的な自己記入式質問票の使用によって、高い診断率が得られる。・不安症を有する統合失調症患者では、自律反応の増加や中性刺激への反応増加以外の、不安誘発刺激存在下における恐怖回路の機能低下が認められている。・最近の研究では、セロトニントランスポーター遺伝子、脳由来神経栄養因子(BDNF)遺伝子およびセロトニン1a (5-HT1A)受容体の関与が示唆されているが、予備的研究であり再現研究が必要である。・統合失調症患者の不安症状や不安障害に対する精神療法に関する無作為化比較試験は、ほとんどない。・薬物療法に関しては、アリピプラゾールおよびリスペリドンが強迫および社交不安症状に、クエチアピンおよびオランザピンが全般不安症に有効であることが、少数の無作為化試験および非盲検試験で示されている。・トリフロペラジンのような古い薬剤が、併存する不安症状を軽減する可能性もある。・代替選択肢には選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)と抗精神病薬併用による増強療法等があるが、エビデンスは少なく(少数の無作為化試験、小規模な非盲検試験、症例報告)、チトクロムP450薬物相互作用ならびにQT間隔延長に注意が必要である。・buspironeとプレガバリンによる増強療法も考慮される。

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神経障害性疼痛を伴う慢性腰痛へのプレガバリン、費用対効果は良好

 神経障害性疼痛を伴う慢性腰痛(CLBP-NeP)の治療におけるプレガバリン(商品名:リリカ)の費用対効果について、東京大学大学院 薬学系研究科・薬学部 准教授の五十嵐 中氏らが、公的医療費支払者および社会の視点から分析した。日常的な臨床診療のデータと仮定を用いた結果、わが国においてCLBP-NePに対するプレガバリンによる治療は、費用対効果が良好であることが示されたという。ClinicoEconomics and Outcomes Research誌オンライン版2015年10月7 日号の掲載報告。 研究グループは、CLBP-NePに対するプレガバリンと通常治療の費用対効果を、増分費用対効果比(ICER)を用いて検討した。 効果はEQ-5D-5L調査より算出した質調整生存年(QALYs)で測定し、医療費および生産性損失を算出して、状態遷移モデル(軽度、中等度および重度疼痛の状態推移を表す)を用いた12ヵ月間のコホートシミュレーションを行った。疼痛重症度の分布は8週間の非介入研究から、また、各重症度に関する直接医療費を推計するための医療資源の消費は医師調査から得た。 1QALY獲得当たりのICERを算出するとともに、感度解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・直接医療費および入院費はいずれも、通常治療群と比較してプレガバリン群が低かった。・基本ケースにおいて、プレガバリンによる1QALY獲得当たりのICERは、公的医療費支払者の立場で約202万5,000円、社会の立場(生産性損失に関連した間接費を含む)で143万5,000円であった。・非介入研究から得られた術後疼痛スコア、最初の疼痛重症度レベルおよび現時点のEQ-5D-5Lスコアに関する代替値を使用した感度解析により、費用対効果解析の結果の頑健性が認められ、ICERsは基本ケースと類似していた。・費用対効果受容曲線を描出した結果、プレガバリンの費用対効果が良好となる確率は高かった(≧75%)。

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脊髄性筋萎縮症〔SBMA : Spinal and Bulbar Muscular Atrophy〕

1 疾患概要■ 概念・定義緩徐進行性の筋力低下・筋萎縮や球麻痺を示す成人発症の遺伝性運動ニューロン疾患である。単一遺伝子疾患であり、発症者には後述する原因遺伝子の異常を必ず認める。本疾患の病態にはテストステロンが深く関与しており、男性のみに発症する。国際名称はSpinal and Bulbar Muscular Atrophy(SBMA)であるが、報告者の名前からKennedy diseaseとも呼ばれる1)。わが国ではKennedy-Alter-Sung症候群と呼ばれることも多いが、本症は単一疾患であるため、症候群という表現は適切ではないとの意見もある。■ 疫学有病率は10万人あたり2人程度で、わが国の患者数は2,000~3,000人程度と推定されている。人種や地域による有病率の差は明らかではない。■ 病因X染色体上にあるアンドロゲン受容体(AR)遺伝子のCAG繰り返し配列の異常延長が原因である。正常では36以下の繰り返し数が、SBMA患者では38以上に延長している。このCAG繰り返し数が多いほど、早く発症する傾向が認められる。CAG繰り返しの異常延長の結果、構造異常を有する変異ARが生じる。この変異ARは男性ホルモン(テストステロン)依存性に下位運動ニューロンなどの核内に集積し、最終的には神経細胞死に至る。同様の遺伝子変異はハンチントン病や脊髄小脳変性症などの疾患でも認められ、CAGはグルタミンに翻訳されることから、これらの疾患はポリグルタミン病と総称される。SBMAでは他のポリグルタミン病とは異なり、世代を経るに従って発症が早くなる表現促進現象は軽度である。■ 症状1)神経症状初発症状として手指の振戦を自覚することが多く、しばしば筋力低下に先行する。四肢の筋力低下は30~60代で自覚され、下肢から始まることが多い。同じ時期に有痛性筋痙攣を認めることも多い。脳神経症状として代表的なものは、嚥下障害や構音障害などの球麻痺である。むせなどの嚥下障害の自覚がなくても、嚥下造影などで評価すると潜在的な嚥下障害を認めることが多い。喉頭痙攣による短時間の呼吸困難を自覚することもある。その他の脳神経症状として、顔面筋や舌の筋力低下・線維束性収縮を認める。線維束性収縮は安静時には軽度であるが、筋収縮時に著明となり、contraction fasciculationと呼ばれる。顔面や舌のほか、四肢近位部でも認められる。眼球運動障害は認めない。感覚系では下肢遠位部で振動覚の低下を認めることがある。腱反射は低下、消失し、Babinski徴候は一般に陰性である。小脳機能には異常を認めない。高次機能は保たれることが多いが、一部障害を認めるとした報告もある。2)随伴症状代表的な随伴症状として、女性化乳房を半数以上に認める。また、肝機能障害、耐糖能異常、高脂血症、高血圧症などをしばしば合併する。女性様皮膚変化、睾丸萎縮などを認めることもある。■ 分類とくに分類はされていない。同じ運動ニューロン疾患である筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis: ALS)は、球麻痺型など発症部位で分類することもあるが、SBMAでは一般的に行われていない。■ 予後四肢の筋力低下は緩徐に進行し、筋力低下の発症からおよそ15~20年の経過で、歩行に杖を必要としたり、車いすでの移動になったりすることが多い2)。進行に伴い球麻痺も高度となり、誤嚥性肺炎などの呼吸器感染が死因の大半を占める。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)厚生労働省の神経変性疾患に関する調査研究班が作成した診断基準を表に示す。家族歴がない症例の場合、特徴的な症状から臨床的な診断は可能だが、特定疾患の申請には遺伝子検査が必要となる。血液検査では、血清CKが異常高値を示す。また、血清クレアチニンは異常低値となることが多い。随伴症状に伴い、血液検査でもALT(GOT)やAST(GPT)、グルコース、HbA1c、総コレステロールの上昇などがしばしば認められる。髄液検査は正常である。筋電図では高振幅電位、interferenceの減少など神経原性変化を認める。感覚神経伝導検査において、活動電位の低下や誘発不能がみられることが多い3)。SBMA患者の約10%においてBrugada型心電図異常を認める報告がある4)。特に、失神の既往歴や突然死の家族歴がある症例では、検出率を上げるため右側胸部誘導を一肋間上げて、心電図を測定することが推奨される。病理学的には、下位運動ニューロンである脊髄の前角細胞および脳幹の神経核の神経細胞が変性・脱落するとともに5)、残存する神経細胞には核内封入体を認める6)。CAG繰り返しの異常延長によって生じる変異ARが、この核内封入体の主要構成成分である。筋生検では、小角化線維や群集萎縮といった神経原性変化が主体であるが、中心核の存在など筋原性変化も認める。鑑別診断として、ALSや脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy: SMA)の軽症型であるKugelberg-Welander病、多発性筋炎などがあげられる。とくに、進行性筋萎縮症(progressive muscular atrophy: PMA)と呼ばれる成人発症の下位運動ニューロン障害型の運動ニューロン疾患は、ALSよりも進行がやや遅いことがあり、SBMAとの鑑別が重要である。本症の臨床診断は、遺伝歴が明確で、本疾患に特徴的な身体所見を呈していれば比較的容易であるが、これらが不明瞭で鑑別診断が困難な症例では、遺伝子検査が有用である。現在、遺伝子検査は保険適用となっている。画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)かつては男性ホルモンの補充療法や蛋白同化ステロイド投与、TRH療法などが試みられたこともあるが、これらの治療の有効性は確認されていない。現在のところ有効な治療法はなく、耐糖能異常や高脂血症などの合併症に対する対症療法が中心である。また、四肢の筋力低下に対する対症療法として、筋力維持のためのリハビリテーションを行うことも多い。球麻痺に対し、嚥下リハビリを行うこともある。これらのリハビリの具体的内容に関するエビデンスは確立されていない。重度の嚥下障害がある場合、胃瘻を造設するなどして経管栄養を導入する。呼吸障害が進行した症例では、NIPPVや気管切開を行ったうえでの人工呼吸管理が必要となるが、患者本人や家族に対するインフォームド・コンセントが重要となる。SBMAのモデルマウスを用いた研究によって、変異ARが下位運動ニューロンの核内に集積する病態が、男性ホルモン(テストステロン)依存性であることが解明された。テストステロンの分泌を抑制する目的でオスのSBMAモデルマウスに対して去勢術を施行したところ、核内に集積する変異ARの量は著しく減少し、運動障害などの神経症状が劇的に改善した。この治療効果は、黄体形成ホルモン刺激ホルモン(LHRH)アゴニストであるリュープロレリン酢酸塩(商品名:リュープリンほか)の投与による薬剤的去勢でも再現された7)。リュープロレリン酢酸塩は前立腺がんなどの治療薬として、すでに保険適用となっている薬剤であるため、SBMA患者で薬剤の有効性と安全性を検討するフェーズII試験が行われ、さらにフェーズIII試験に相当する医師主導治験(JASMITT)が実施された。その結果、リュープロレリン酢酸塩がSBMAの病態を反映するバイオマーカーとして重要な陰嚢皮膚における変異ARの核内集積を抑制するとともに、血清CKも低下させることが判明した8)。また、有意差は認めなかったものの嚥下機能の改善を示唆する結果が得られたため、追加の治験も実施され、今後の承認申請を目指している。リュープロレリン酢酸塩とは作用機序は異なるものの、男性ホルモン抑制作用をもつ5α還元酵素阻害薬であるデュタステリド(同:アボルブ)の臨床応用を目指した第II相試験が、アメリカで実施された。この試験でも嚥下機能などで改善傾向が示されるなど、前述したリュープロレリン酢酸塩の治験に近似した結果が得られたが、これも承認には至っていない9)。4 今後の展望最近では、SBMA患者からもiPS細胞が樹立され10)、治療薬のスクリーニングやSBMAの病態解明に寄与することが期待されている。また、マイクロRNAや片頭痛の治療に用いられるナラトリプタンもSBMAモデルマウスの表現型を改善することが報告されており、今後の臨床応用が期待されているが、具体的な臨床試験の計画には至っていない。5 主たる診療科神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究情報難病情報センター 球脊髄性筋萎縮症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報SBMAの会(患者とその家族向けのまとまった情報)1)Kennedy WR, et al. Neurology.1968;18:671-680.2)Atsuta N, et al. Brain.2006;129:1446-1455.3)Suzuki K, et al. Brain.2008;131:229-239.4)Araki A, et al. Neurology.2014;82:1813-1821.5)Sobue G, et al. Brain.1989;112:209-232.6)Adachi H, et al. Brain.2005;128:659-670.7)Katsuno M, et al. Nat Med.2003;9:768-773.8)Katsuno M, et al. Lancet Neurol.2010;9:875-884.9)Fernandez-Rhodes LE, et al. Lancet Neurol.2011;10:140-147.10)Nihei Y, et al. J Biol Chem.2013;288:8043-8052.公開履歴初回2013年04月25日更新2015年11月17日

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多発性硬化症再発へのステロイド、経口が静注に非劣性/Lancet

 多発性硬化症の再発に対し、高用量メチルプレドニゾロンの経口投与は静注投与に対して非劣性であることが判明した。フランス・レンヌ大学病院のEmmanuelle Le Page氏らが、199例を対象に行った二重盲無作為化比較試験の結果、報告した。高用量メチルプレドニゾロンの静注投与は、多発性硬化症の再発治療として推奨されているが、経口投与に比べて利便性に乏しく高価なことが指摘されていた。検討の結果、安全性についても同等であった。Lancet誌オンライン版2015年6月26日号掲載の報告より。治療開始28日後の改善率を比較 研究グループは、2008年1月29日~2013年6月14日にかけて、フランス13ヵ所の医療機関を通じて、多発性硬化症の再発から15日以内の18~55歳の患者199例を対象に試験を行い、高用量メチルプレドニゾロン経口投与の静注投与に対する非劣性を検証した。被験者は、Kurtzke機能評価尺度スコアの1項目以上で、1ポイント以上の増加が認められた。 検討では被験者を無作為に2群に分け、メチルプレドニゾロン1,000mg/日の3日間投与を、一方の群には経口投与(100例)、もう一方の群には静注投与(99例)にて行った。 主要エンドポイントは、28日時点の評価でコルチコステロイドによる再治療の必要性がなく改善が認められた人(Kurtzke機能評価尺度スコアの最も影響のあった部位で、1ポイント以上減少)の割合とした。 非劣性のマージンは15%と規定されていた。主要エンドポイント達成率は同等、経口群で不眠発生が高率 被験者の再発から治療開始までの平均期間は、経口群が7.0日、静注群が7.4日だった。 主要エンドポイントを達成した人の割合は、経口群が81%(82例中66例)、静注群が80%(90例中72例)で、経口投与の非劣性が示された(絶対差:0.5%、90%信頼区間:-9.5~10.4)。 有害事象発生率は、不眠症発生率が静注群で64%に対し経口群で77%と高率だったほかは、両群で同程度だった。 これらの結果を踏まえて著者は、「経口投与は静注投与に対して非劣性であり、安全性も類似していた」とまとめつつ、「治療へのアクセス、患者の快適性そしてコストは重要である。しかし、常に臨床医は再発の徴候について適切に判断する必要がある」と慎重を期すよう指摘している。

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メラトニン使用でベンゾジアゼピンを簡単に中止できるのか

 統合失調症や双極性障害患者における長期のベンゾジアゼピン使用について、徐放性メラトニンを使用することで容易な離脱を促すかどうか、デンマーク・コペンハーゲン大学のLone Baandrup氏らは検討した。The world journal of biological psychiatry誌オンライン版2015年6月18日号の報告。 24週間のランダム化プラセボ対照並行優越性試験。対象者を、徐放性メラトニン群(2mg/日)とプラセボ群に無作為に振り分け、通常のベンゾジアゼピン用量から連続的に漸減を行った。主要転帰は、24週後のベンゾジアゼピン1日投与量とした。副次的転帰は、ベンゾジアゼピン投与量の経時的パターン、中止率、離脱症状とした。 主な結果は以下のとおり。・86例(21~74歳)がエントリーされ、徐放性メラトニン群42例、プラセボ群44例に無作為に振り分けた。・24週時の平均ベンゾジアゼピン投与量は、両群間で有意な差が認められなかった(徐放性メラトニン群:8.01mg、プラセボ群:5.72mg[ジアゼパム換算]、平均差:-2.29、95%CI:-5.78~1.21、p=0.20)。・ベンゾジアゼピン中止率は、徐放性メラトニン群38.1%(16/42例)、プラセボ群47.7%(21/44例)であった(OR:0.64、95%CI:0.26~1.56、p=0.32)。・徐放性メラトニンは、ベンゾジアゼピンの離脱症状に影響を及ぼさなかった。 著者らは「ベンゾジアゼピン投与量は、漸減24週間後において、両群ともに比較的低い値であった。本研究では、徐放性メラトニンにより、ベンゾジアゼピン中止を容易にすることはできなかった」としている。関連医療ニュース ベンゾジアゼピン使用は何をもたらすのか 統合失調症治療にベンゾ併用は有用なのか ベンゾジアゼピン処方、長時間型は大幅に減少  担当者へのご意見箱はこちら

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1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第21回

第21回:全般性不安障害とパニック障害のアプローチ監修:吉本 尚(よしもと ひさし)氏 筑波大学附属病院 総合診療科 プライマリケアの場において、原因がはっきりしないさまざまな不安により日常生活に支障を生じている患者を診療する経験があるのではないかと思います。またとくに若い患者たちの中でみることの多いパニック障害もcommonな疾患の1つと思われ、その数は年々増加しているともいわれています。厚労省の調査1)では、何らかの不安障害を有するのは生涯有病率が9.2%であるとされ、全般性不安障害1.8%、パニック障害0.8%という内訳となっています。医療機関を受診する患者ではさらにこの割合が高くなっていると考えられ、臨床では避けて通れない問題となっています。全般性不安障害とパニック障害の正しい評価・アプローチを知ることで患者の不要な受診を減らすことができ、QOLを上げることにつながっていくと考えられます。 タイトル:成人における全般性不安障害とパニック発作の診断、マネジメントDiagnosis and management of generalized anxiety disorder and panic disorder in adults.以下、American Family Physician 2015年5月1日号2)より1. 典型的な病歴と診断基準全般性不安障害(generalized anxiety disorder:GAD)典型的には日常や日々の状況について過度な不安を示し、しばしば睡眠障害や落ち着かなさ、筋緊張、消化器症状、慢性頭痛のような身体症状と関係している。女性であること、未婚、低学歴、不健康であること、生活の中のストレスの存在がリスクと考えられる。発症の年齢の中央値は30歳である。「GAD-7 スコア」は診断ツールと重症度評価としては有用であり、スコアが10点以上の場合では診断における感度・特異度は高い。GAD-7スコアが高いほど、より機能障害と関連してくる。パニック障害(panic disorder:PD)明らかな誘因なく出現する、一時的な予期せぬパニック発作が特徴的である。急激で(典型的には約10分以内でピークに達する)猛烈な恐怖が起こり、少なくともDSM-5の診断基準における4つの身体的・精神的症状を伴うものと定義され、発作を避けるために不適合な方法で行動を変えていくことも診断基準となっている。パニック発作に随伴する最もよくみられる身体症状としては動悸がある。予期せぬ発作が診断の要項であるが、多くのPD患者は既知の誘因への反応が表れることで、パニック発作を予期する。鑑別診断と合併症内科的鑑別:甲状腺機能亢進症、褐色細胞腫、副甲状腺機能亢進症などの内分泌疾患、不整脈や閉塞性肺疾患などの心肺疾患、側頭葉てんかんやTIA発作などの神経疾患その他の精神疾患:その他の不安障害、大うつ病性障害、双極性障害物質・薬剤:カフェイン、β2刺激薬、甲状腺ホルモン、鼻粘膜充血除去薬、薬物の離脱作用GADとPDは総じて気分障害、不安障害、または薬物使用などの少なくとも1つの他の精神的疾患を合併している。2. 治療患者教育・指導配慮のある深い傾聴が重要であり、患者教育自体がとくにPDにおいて不安症状を軽減する。また生活の中で症状増悪の誘因となりうるもの(カフェイン、アルコール、ニコチン、食事での誘因、ストレス)を除去し、睡眠の量・質を改善させ、身体的活動を促す。身体的活動は最大心拍数の60%~90%の運動を20分間、週に3回行うことやヨガが推奨される。薬物療法第1選択薬:GADとPDに対してSSRIは一般的に初期治療として考慮される。三環系抗うつ薬(TCA)もGADとPDの両者に対して有効である。PDの治療において、TCAはSSRIと同等の効果を発揮するが、TCAについては副作用(とくに心筋梗塞後や不整脈の既往の患者には致死性不整脈のリスクとなる)に注意を要する。デュロキセチン(商品名:サインバルタ)はGADに対してのみ効果が認められている。buspironeのようなazapirone系の薬剤はGADに対してはプラセボよりも効果があるが、PDには効果がない。bupropionはある患者には不安を惹起するかもしれないとするエビデンスがあり、うつ病の合併や季節性情動障害、禁煙の治療に用いるならば、注意深くモニターしなければならない。使用する薬剤の容量は漸増していかなければならない。通常、薬剤が作用するには時間がかかるため、最大用量に達するまでは少なくとも4週間は投与を続ける。症状改善がみられれば、12ヵ月間は使用すべきである。ベンゾジアゼピン系薬剤は不安の軽減には効果的だが、用量依存性に耐性や鎮静、混乱や死亡率と相関する。抗うつ薬と抗不安薬の併用は迅速に症状から回復してくれる可能性はあるが、長期的な予後は改善しない。高い依存性のリスクと副作用によってベンゾジアゼピンの使用が困難となっている。NICEガイドライン3)では危機的な症状がある間のみ短期間に限り使用を推奨している。中間型から長時間作用型のベンゾジアゼピン系薬剤はより乱用の可能性やリバウンドのリスクは少ない。第2選択薬:GADに対しての第2選択薬として、プレガバリン(商品名:リリカ)とクエチアピン(同:セロクエル)が挙げられるが、PDに対してはその効果が評価されていない。GADに対してプレガバリンはプラセボよりは効果が認められるが、ロラゼパム(同:ワイパックス)と同等の効果は示さない。クエチアピンはGADに対しては効果があるが、体重増加や糖尿病、脂質異常症を含む副作用に注意を要する。ヒドロキシジン(同:アタラックス)はGADの第2選択薬として考慮されるが、PDに対しては効果が低い。作用発現が早いため、速やかな症状改善が得られ、ベンゾジアゼピンが禁忌(薬物乱用の既往のある患者)のときに使用される。精神療法とリラクゼーション療法精神療法は認知行動療法(cognitive behavior therapy:CBT)や応用リラクゼーションのような多くの異なったアプローチがある。精神療法はGADとPDへの薬物療法と同等の効果があり、確立されたCBTの介入はプライマリケアの場では一貫した効果が立証されている。精神療法は効果を判定するには毎週少なくとも8週間は続けるべきである。一連の治療後に、リバウンド症状を認めるのは、精神療法のほうが薬物療法よりも頻度は低い。各人に合わせた治療が必要であり、薬物療法と精神療法を組み合わせることで2年間の再発率が減少する。3. 精神科医への紹介と予防GADとPD患者に対して治療に反応が乏しいとき、非典型的な病歴のもの、重大な精神科的疾患の併発が考慮される場合に、精神科医への紹介が適用となる。※本内容は、プライマリケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) 川上憲人ほか. こころの健康についての疫学調査に関する研究(平成16~18年度厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業). こころの健康についての疫学調査に関する研究,総合研究報告書). 2007. 2) Locke AB, et al. Am Fam Physician. 2015;91:617-624. 3) NICEガイドライン. イギリス国立医療技術評価機構(The National Institute for Health and Care Excellence:NICE).

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