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早期TN乳がんの術前・術後ペムブロリズマブ、QOLの評価(KEYNOTE-522)

 早期トリプルネガティブ乳がん(TNBC)への術前・術後のペムブロリズマブ追加を検討したKEYNOTE-522試験で、主要評価項目の病理学的完全奏効と無イベント生存期間の有意な改善はすでに報告されている。今回、副次評価項目の患者報告アウトカムにおいてペムブロリズマブ追加による実質的な差は認められなかったことを、シンガポール・国立がんセンターのRebecca Dent氏らがJournal of the National Cancer Institute誌オンライン版2024年6月24日号で報告した。 本試験の対象は、治療歴のない高リスク早期TNBC患者で、術前にペムブロリズマブ(3週ごと)+パクリタキセル+カルボプラチンを4サイクル投与後、ペムブロリズマブ+シクロホスファミド+ドキソルビシン(またはエピルビシン)を4サイクル、術後にペムブロリズマブを最長9サイクル投与する群と、術前に化学療法+プラセボ、術後にプラセボを投与する群に2対1に無作為に割り付けられた。事前に規定された副次評価項目のEORTC QLQ-C30およびQLQ-BR23について、ベースライン(術前、術後の1サイクル目の1日目)から、完遂率/コンプライアンス率60%/80%以上であった最後の週までの変化の最小二乗平均の群間差を縦断モデルで評価した。 主な結果は以下のとおり。 ・完遂率/コンプライアンス率が60%/80%以上の最後の週は、術前では21週、術後では24週であった。・術前では、ベースラインから21週目までの変化の最小二乗平均の群間差(ペムブロリズマブ+化学療法[762例]vs.プラセボ+化学療法[383例])は、GHS/QOLが-1.04(95%信頼区間[CI]:-3.46~1.38)、情緒機能が-0.69(同:-3.13~1.75)、身体機能が-2.85(同:-5.11~-0.60)であった。・術後では、ベースラインから24週目までの変化の最小二乗平均の群間差(ペムブロリズマブ[539例]vs.プラセボ[308例])は、GHS/QOLが-0.41(95%CI:-2.60~1.77)、情緒機能が-0.60(同:-2.99~1.79)、身体機能が-1.57(同:-3.36~0.21)であった。

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再発/転移上咽頭がんの1次治療、nab-TPC vs.GC/BMJ

 再発または転移のある上咽頭がんの1次治療において、nab-パクリタキセル+シスプラチン+カペシタビン(nab-TPC)療法はゲムシタビン+シスプラチン(GC)療法と比較し優れた抗腫瘍効果と良好な安全性プロファイルを示したことを、中国・中山大学がんセンターのGuo-Ying Liu氏らが中国の4施設で実施した第III相無作為化非盲検比較試験の結果で報告した。著者は、「nab-TPC療法は再発または転移のある上咽頭がんに対する1次治療の標準治療と考えるべきであるが、全生存期間(OS)に対する有益性の確認には、より長期間の追跡調査が必要である」とまとめている。BMJ誌2024年6月19日号掲載の報告。主要評価項目はIRC評価によるPFS 研究グループは2019年9月~2022年8月に、18歳以上で全身性の化学療法による治療歴がない、ECOG PSが0または1の再発または転移のある上咽頭がん患者81例を、nab-TPC群(41例)およびGC群(40例)に1対1の割合で無作為に割り付けた。 nab-TPC群では、1サイクルを3週間としてnab-パクリタキセル200g/m2を1日目に、シスプラチン60mg/m2を1日目、カペシタビン1000mg/m2 1日2回を1~14日目に、最大6サイクル投与し、その後はカペシタビンによる維持療法を病勢進行、許容できない毒性あるいは同意撤回まで最大2年間行った。 GC群では、1サイクルを3週間としてゲムシタビン1g/m2を1日目および8日目に、シスプラチン80mg/m2を1日目に、最大6サイクル投与し、その後はベストサポーティブケアを行った。 主要評価項目は、ITT集団における独立審査委員会(IRC)評価による無増悪生存期間(PFS、無作為化からRECIST v1.1に基づく病勢進行または死亡までの期間)、副次評価項目はOS、奏効率(ORR)および安全性であった。最新解析において、PFSは11.9ヵ月vs.7.6ヵ月、ORRは83% vs.63% 事前に規定された中間解析(2022年10月31日)の結果、追跡期間中央値15.8ヵ月において、IRC評価によるPFS中央値はnab-TPC群11.3ヵ月(95%信頼区間[CI]:9.7~12.9)、GC群7.7カ月(6.5~9.0)であり、nab-TPC群で有意な延長が認められた(ハザード比[HR]:0.43、95%CI:0.25~0.73、p=0.002)。このことから、独立データモニタリング委員会により試験の早期中止が決定された。 2023年6月3日の最新解析では、IRC評価によるPFS中央値はnab-TPC群11.9ヵ月(95%CI:10.0~13.8)、GC群7.6ヵ月(6.6~8.7)であった(HR:0.39、95%CI:0.24~0.65、p<0.001)。 OSについては、データが未成熟であった。ORRはnab-TPC群83%(34/41例)、GC群63%(25/40例)であり(p=0.05)、奏効期間はそれぞれ10.8ヵ月、6.9ヵ月であった(p=0.009)。 Grade3または4の治療関連有害事象はnab-TPC群よりGC群で高く、主なものは白血球減少症がそれぞれ10%(4/41例)vs.33%(13/40例)(p=0.02)、好中球減少症15%(6/41例)vs.40%(16/40例)(p=0.01)、貧血2%(1/41例)vs.20%(8/40例)(p=0.01)であった。両群とも治療に関連した死亡は報告されなかった。

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ASCO2024 レポート 泌尿器科腫瘍

レポーター紹介米国臨床腫瘍学会(ASCO)は、1964年の創立以来「がんが予防または治癒されすべてのサバイバーが健康である世界」というビジョンを掲げ活動してきた、がん治療研究のための学会であり、世界各国に5万人近くの会員を有する。年1回の総会は、世界のがん研究者が注目する研究成果が発表される機会であり、2024年は5月31日から6月4日まで米国イリノイ州のシカゴで行われた。COVID-19のまん延があった2020~22年にかけてon-line参加のシステムが整い、現地参加と何ら変わりなく学会参加が可能となったため、今年はon-lineでの参加を選択した。泌尿器科腫瘍の演題は、Oral Abstract Session 18(前立腺9、腎5、膀胱4)、Rapid Oral Abstract Session 18(前立腺8、腎4、膀胱4、陰茎1、副腎1)、Poster Session 112で構成されていた。ASCOはPractice Changingな重要演題をPlenary Sessionとして5演題選出するが、今年は泌尿器カテゴリーからは選出されなかった。Practice Changingな演題ではなかったが、新しい見地を与えてくれる演題が多数あり、ディスカッションは盛り上がっていた。今回はその中から4演題を取り上げ報告する。Oral Abstract Session 腎/膀胱4508 淡明細胞腎がん1次治療のアベルマブ+アキシチニブ、PFSを延長(JAVELIN Renal 101試験)Avelumab + axitinib vs sunitinib in patients (pts) with advanced renal cell carcinoma (aRCC): Final overall survival (OS) analysis from the JAVELIN Renal 101 phase 3 trial.Robert J. Motzer, Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, NYJ Clin Oncol 42, 2024 (suppl 16; abstr 4508)JAVELIN Renal 101試験は、転移性淡明細胞腎がんにおける1次治療としてアベルマブ+アキシチニブ(AVE+AXI)をスニチニブ(SUN)と比較するランダム化第III相試験であり、無増悪生存期間(PFS)の延長が示され、すでに報告されている。この転移性腎細胞がんにおける1次治療の免疫チェックポイント阻害薬(ICI)とチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)の組み合わせは、そのほかにもペムブロリズマブ+レンバチニブ、ニボルマブ+カボザンチニブ、ペムブロリズマブ+アキシチニブがあり、いずれも全生存期間(OS)の延長が報告されているだけに、このAVE+AXIのOS結果も注目されていた。この報告は、フォローアップ期間最小値68ヵ月における最終解析である。プライマリ・エンドポイントは2つ設定され、PD-L1陽性の転移性腎細胞がんにおける中央判定によるPFSとOSである。全体集団における解析はセカンダリ・エンドポイントに設定されていた。PD-L1陽性集団のOS中央値は、SUN 36.2ヵ月、AVE+AXI 43.2ヵ月、ハザード比 (HR):0.86(95%信頼区間[CI]:0.701~1.057、p=0.0755)であり、ネガティブな結果であった。全体集団でのOS中央値は、SUN 38.9ヵ月、AVE+AXI 44.8ヵ月、HR:0.88(95%CI:0.749~1.039、p=0.0669)であり、こちらも有意差なしの結果となった。全体集団のOSのサブグループ解析では、とくに効果不良を示唆する群はないが、IMDCリスク分類のPoorリスクにおいてはSUNとの差は開く傾向(HR:0.63、95%CI:0.43~0.92)があった。有害事象(AE)に関し、Grade3以上の重篤なAEはSUN群61.5%とAVE+AXI群66.8%であったが、AVE+AXIにおける免疫関連有害事象(irAE)は全体で50.7%、重篤なものは14.7%であった。この結果により、ICI+TKI療法のすべての治療成績がそろったことになる。ICI単剤においては、抗Programmed death(PD)-1抗体か抗PD-ligand(L)1かの違いによる影響があるかどうか確かな証拠はないが、抗PD-1抗体のみがOS延長を証明できたことになる。またTKI単剤の比較において、VEGFR(Vascular Endothelial Growth Factor Receptor)を強く阻害しつつ耐性化にも対応できる新世代のTKIであるカボザンチニブとレンバチニブのレジメンがより良い治療成績を示した。試験間における患者背景の差はあるものの、薬効の違いもICI+TKI療法の効果に影響しているのではないかと感じる。とはいえ、目の前の患者にICI+ICI療法かICI+TKI療法か、いずれを選択するのがベストかの問いに答えられる臨床試験は行われておらず、PFSやOSだけでなく奏効割合や病勢増悪割合、合併症、治療環境なども加味し、患者との話し合いの下で決定していく現状は今後も変わらないだろう。Oral Abstract Session 前立腺/陰茎/精巣LBA5000 去勢抵抗性前立腺がんのカバジタキセル+アビラテロン併用療法はPFSを延長(CHAARTED2試験)Cabazitaxel with abiraterone versus abiraterone alone randomized trial for extensive disease following docetaxel: The CHAARTED2 trial of the ECOG-ACRIN Cancer Research Group (EA8153). Christos Kyriakopoulos, University of Wisconsin Carbone Cancer Center, Madison, WIJ Clin Oncol 42, 2024 (suppl 17; abstr LBA5000)CHAARTED試験は、転移性去勢感受性前立腺がん(mCSPC)におけるアンドロゲン除去療法(ADT)に加えUpfrontにドセタキセル(DTX)を6サイクル行うことでOS延長が証明された重要な試験であった。これにより、DTXがアンドロゲン耐性クローンも含め初期に量を減らすことに寄与する、という仮説が立証されたと考えられている。CHAARTED2試験は、初回にDTXが行われた患者に対し、アンドロゲン受容体(AR)阻害薬に加えカバジタキセル(CBZ)をさらに加えることで、AR阻害薬の効果が延長するかを検討するランダム化比較第II相試験であった。3サイクル以上のDTX治療歴があるmCRPC患者を、アビラテロン(ABI)1,000mg+プレドニゾロン(PSL)10mg群とABI+PSLに加えCBZ 25mg/m2 3週ごとを6サイクルまで行う群に1:1でランダム化した。プライマリ・エンドポイントはPFS延長(HR:0.67、α=0.10、β=0.10)と設定された。患者背景は、Gleason score 8~10が83%、High-volumeが76%含まれる集団であり、両群にバランスよく割り付けられていた。PFS中央値は、ABI+PSL群で9.9ヵ月、ABI+PSL+CBZ群で14.9ヵ月、HR:0.73(80%CI:0.59~0.90、p=0.049)と有意差を認めた。セカンダリ・エンドポイントのOSは、HR0.93であり、今回の検討ではアンダーパワーではあるが有意差を認めなかった。AEでは、重篤なものは26.7%と42.2%であり、ABI+PSL+CBZ群で多く報告された。Kyriakopoulos氏は、CBZ追加によるOS延長は認められなかったものの、PFSやPSA(Prostate Specific Antigen)増悪までの期間の延長は認められたことから仮説は証明できたことを報告した。とはいえ、現在のmCSPCの初期治療は3剤併用療法(AR阻害薬+DTX+ADT)であることから、日常診療に与える影響は限られると結んだ。Rapid Oral Abstract Session 前立腺/陰茎/精巣5009 陰茎がん1次治療のペムブロリズマブ併用化学療法(HERCULES試験)A phase II trial of pembrolizumab plus platinum-based chemotherapy as first-line systemic therapy in advanced penile cancer: HERCULES (LACOG 0218) trial.Fernando Cotait Maluf, Hospital Beneficencia Portuguesa de Sao Paulo and Hospital Israelita Albert Einstein; LACOG (Latin American Cooperative Oncology Group), Sao Paulo, BrazilJ Clin Oncol 42, 2024 (suppl 16; abstr 5009)希少がんである進行陰茎がんにおける1次治療の免疫療法追加のエビデンスが報告された。陰茎がんの発生は、アフリカやアジア、中南米などの低所得国に多いことが知られているが、ブラジルで行われた単群第II相試験の結果である。陰茎がんの標準治療として無治療と比較したランダム化試験はないが、プラチナ併用レジメンを基本としている。NCCN(National Comprehensive Cancer Network)ガイドラインによると、preferred regimenとして3剤併用のTIP療法(パクリタキセル+イホスファミド+シスプラチン)、other recommended regimenとしてFP療法(5FU+シスプラチン)が提示されている。TIP療法はFP療法と比べると、奏効割合が40%程度と高いが、AEの割合も高く忍容性は問題となることが多い。Maluf氏らは、初発の転移性陰茎がん患者に対し、シスプラチン70mg/m2あるいはカルボプラチンAUC 5 day1と5FU 1,000mg/m2 day1~4に加えペムブロリズマブ200mgを3週間ごとに6サイクル実施後、ペムブロリズマブのみを維持療法として34サイクル実施するレジメンの治療成績を報告した。プライマリ・エンドポイントは奏効割合であり、統計設定は奏効割合期待値40%、閾値20%、両側α=0.1、β=0.215として33症例が必要であると計画された。患者37例が登録され、年齢中央値56歳、白人40.5%が含まれていた。奏効割合は39.4%(95%CI:22.9~57.9%)でありポジティブな結果であった。PFS中央値は5.4ヵ月(95%CI:2.7~7.2)、OS中央値は9.6ヵ月(95%CI:6.4~13.2)であった。サブグループ解析では、TMB(Tumor Mutational Burden)高値(≧10)と低値(<10)の奏効割合は75%と36.4%、HPV-16陽性と陰性では55.6%と35%であり、PD-L1陽性、陰性による一定の傾向はなかった。AEは全Gradeで91.9%、Grade3以上で51.4%であり、治療関連死はなかった。このHERCULES試験により、ペムブロリズマブ+FP療法は転移性陰茎がんの新たな治療オプションとなった、と報告された。日本においてこのレジメンは保険承認が得られず適用は困難だが、陰茎がんが希少がんであることを考慮すると、診断時より遺伝子パネル検査を行うことでICI使用の機会を逃さないよう注意を払う必要がある。Rapid Oral Abstract Session 腎/膀胱4510 尿膜管がん1次治療のmFOLFINOX療法(ULTMA試験)A multicenter phase II study of modified FOLFIRINOX for first-line treatment for advanced urachal cancer (ULTMA; KCSG GU20-03).Jae-Lyun Lee, Asan Medical Center, University of Ulsan College of Medicine, Seoul, South KoreaJ Clin Oncol 42, 2024 (suppl 16; abstr 4510)希少がんの重要なエビデンスとして、膀胱尿膜管がんの単群第II相試験の結果も注目すべき演題の1つである。尿膜管がんは膀胱がんのうち1%未満の発生割合で、標準治療が確立していないがんであるが、病理組織の特徴は消化器がんに類似することから、5FU系、プラチナ系薬剤での治療が適用されることが多く、その有効性が報告されている。Lee氏らは、modified FOLFIRINOXレジメン(オキサリプラチン85mg/m2 day1、イリノテカン150mg/m2 day1、ロイコボリン400mg/m2 day1、5FU 2,400mg day1をそれぞれ2時間、1.5時間、2時間、46時間かけて静注)に、支持療法としてペグフィルグラスチム6mg皮下注を3日目、予防的抗菌薬として少なくとも最初の2サイクルはレボフロキサシン750mgを4~7日目に内服し、2週間を1サイクルとして最大12サイクルまで継続する治療プロトコールを開発し、その治療成績を報告した。プライマリ・エンドポイントは奏効割合であり、期待値35%、閾値17%、α=0.05、β=0.2に設定された。2021年4月~2023年11月の2年7ヵ月間に韓国の5施設で実施した試験であった。患者背景は、年齢中央値50歳(28~68)、PSは0/1がそれぞれ3/18例であった。奏効割合は61.9%(95%CI:41.1~82.7)であり、病勢増悪例は0例であった。PFS中央値は9.3ヵ月(95%CI:6.7~11.9)、OS中央値は19.7ヵ月(95%CI:14.3~25.1)であった。安全性では、Grade 3以上の重篤なものは、貧血2例、好中球減少1例、血小板減少1例、嘔気1例、下痢1例であったが、Grade2の発生は、血小板減少3例、嘔気8例、嘔吐2例、下痢1例、口内炎3例、倦怠感6例、末梢神経障害5例であった。発熱性好中球減少症や治療関連死は認めなかった。演者らは、mFOLFIRINOX療法は膀胱尿膜管がんの新たな治療選択肢として考慮されるべきであると締めくくった。尿膜管がんでも大腸がんと同様に、triplet therapyがdoublet therapyより数値上高い奏効割合を示すことができた試験であったのは、生物学的特性が類似していることを反映すると思われる。また、毒性の強いレジメンに安全性を高める工夫が最大限盛り込まれたプロトコールになっていることで、今回の良い結果を生んだと思われた。この試験の患者背景で特徴的なのは、患者の年齢が若いことと、PS不良例は含まれていないことも重要なポイントである。

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ASCO2024 レポート 肺がん

レポーター紹介2024年のASCOはほぼ現地開催となり、同時にWebでのライブ配信等も充実した、ポストコロナを完全に印象付ける形で実施された。ASCO Lung、Lung ASCOと呼ばれるほど肺がんに関しては当たり年であり、早期緩和ケアをVirtualで実施するか対面で実施するか比較したREACH PC、EGFR遺伝子変異陽性III期非小細胞肺がんに対する化学放射線療法後のオシメルチニブの意義を検証したLAURA、限局型小細胞肺がんにおいて化学放射線療法後のデュルバルマブの意義を検証したADRIATICの3試験がPlenaryで採択される等、注目演題がめじろ押しであった。本稿では、その中から重要な知見について解説したい。REACH PC試験2010年のASCOでTemelらが、肺がん患者に対する早期緩和ケア介入が、QOLのみならず生存期間を延長したという驚きの発表を行って以来、早期緩和ケアは肺がん治療のスタンダードとして認識されてきた。ただし、その実施に際しては、医療アクセスの問題、さらに近年はCOVID-19が障壁となっている現状が存在する。そこで、同じグループが実施したのが、進行非小細胞肺がん患者1,250例を対象として、従来の対面の早期緩和ケアを毎月実施することと、VirtualのVideo Visitsによる早期緩和ケアを毎月実施することの、patient-reported measuresへの影響を検証したREACH PC試験をである。米国を中心に実施された本試験は、FACT-Lと呼ばれるQOL指標を主要評価項目として、対面とVideo Visitsが同等であることを検証した。両群で対人、Video Visitsはおおむね遵守されており、双方が併用されていないことも確認されている。結果は明快であり、24週時点で両群のFACT-L指標は同等であることが示され、Video Visitsも早期緩和ケアにおける選択枝の1つであると位置付けられた。今回はまだ初回報告であることから、今後さらなる追加解析の結果が公表される見込みではあるものの、すべての早期緩和ケアをVideo Visitsにすることが妥当ということではなく、どういった場合にVideo Visitsがより有用かについて検討することが必要と、演者も結論付けていた。さらに、米国を中心に実施されたことから、医療環境、医療アクセス、地理的な条件等が大きく異なるわが国ならびに世界各地で同様の結論が得られるのか、解決すべき課題は少なくない。ただ、virtualとrealを併用したコミュニケーションの在り方が今後減少する可能性は乏しく、むしろvirtualをいかに実臨床に活用していくかを検討しよう、というASCOの意図をplenaryセッションでの採択という結果から読み取ることができる。LAURA試験EGFR遺伝子変異陽性の切除不能III期非小細胞肺がんに対して、根治的化学放射線療法後にオシメルチニブを増悪もしくは許容できない毒性が出現するまで続けることで、プラセボ群に対して無増悪生存期間(PFS)における優越性を検証した第III相試験がLAURA試験である。割付調整因子として、根治的放射線治療の同時vs.逐次、IIIA 期vs.IIIB/C期、中国vs.中国以外、が設定されている。216例の患者が2:1でオシメルチニブ群により多く割り付けられた。副次的評価項目として全生存期間(OS)、脳転移無増悪生存期間、安全性等が設定されている。PFSはハザード比0.16、95%信頼区間0.10~0.24で、オシメルチニブを追加することでPFSが有意に延長(39.1ヵ月vs.5.6ヵ月)するという結果であった。24ヵ月時点のPFSの点推定値はオシメルチニブ群で65%、プラセボ群で13%であり、50%以上の上乗せを認めている。とくに、プラセボ群のPFSはEGFR遺伝子変異陽性進行非小細胞肺がんと同様の状況であることが強調されていた。プラセボ群では68%に新規病変(増悪)を認めており、29%が脳転移であり、オシメルチニブ群の8%と明白な違いを示していた。同時に発表されたOSは、36ヵ月以降でややオシメルチニブ群が良好な傾向を示しているものの、ハザード比0.81で大きな違いはなかった。プラセボ群で81%がオシメルチニブにクロスオーバーしていることも同時に報告されている。両群でOSイベントが20%程度であることから、まだ未成熟なデータとはいえ、今後追加報告が行われる見込みである。NEJM誌に同時掲載され、会場では大きな拍手が沸き起こった。ADAURA試験よりも、一段階進行しているが、同様に根治を目指すことができる病態において、チロシンキナーゼ阻害薬であるオシメルチニブの有効性が示されるという、既視感のあるデータであった。ADAURAとの最も大きな違いは、Post-ADAURAともいえる状況で、チロシンキナーゼ阻害薬による地固め療法に対する意見が(現時点では)それほど強く沸き起こっていないところである。確かに、オシメルチニブを増悪もしくは許容できない毒性を認めるまで継続するという治療法は、ディスカッサントもその課題を指摘していた。(1)ADAURA(オシメルチニブ3年)においても、より長いほうがよいのでは、との議論がすでにある状況、(2)ADAURAよりも進行した病状であること、(3)プラセボ群のPFSが進行肺がんを思わせる状況であり進行期同様の治療(増悪まで)が許容されうる!?等の諸点が、ADAURAの結果を初めて見た際とは大きく異なる。ただ、このプラセボ群の成績は、これまでEGFR遺伝子変異陽性III期非小細胞肺がんに対して根治的化学放射線療法を実施した研究結果と比べても悪い印象であり、その点は検証の必要性がありそうである。本試験結果から同対象にオシメルチニブが適応拡大される可能性は高く、実臨床で使用可能となった段階で、最適な対象患者選定、さらには至適使用期間等についてわれわれが検討していく必要があると考えている。ADRIATIC試験臨床病期I~III期、限局型小細胞肺がんを対象として、根治的化学放射線療法後のデュルバルマブ(1,500mg固定用量、4週おき、最大24ヵ月)による地固め療法を、プラセボと比較する第III相試験がADRIATIC試験である。730例が登録され、デュルバルマブ群に264例、プラセボ群に266例、デュルバルマブ+トレメリムマブ群に200例が割り付けられた。今回はデュルバルマブ群とプラセボ群に関する解析が実施され、デュルバルマブ+トレメリムマブ群については次回以降に解析が行われる。割付調整因子は、臨床病期I/II vs.III期、PCIの有無が設定されている。主要評価項目はデュルバルマブとプラセボの比較におけるOSとPFSのCo-primaryとされ、デュルバルマブ+トレメリムマブにおけるOS、PFSはKey secondary endpointと位置付けられている。統計学的設定としては、5%のα(両側検定)を、OSに4.5%、PFSに0.5%使用し、それぞれで優越性が示されればαをリサイクルする予定が設定されている。PFS、OSともに優越性が示され、非の打ちどころのない結果が示された。PFSのハザード比は0.76、95%信頼区間0.61~0.95と有意に試験治療群が良好であり、24ヵ月時点のPFS点推定値は試験治療群で46.2%、プラセボ群で43.2%であった。OSのハザード比は0.73、95%信頼区間0.57~0.93と有意に試験治療群が良好であり、36ヵ月時点のOS点推定値は試験治療群で56.5%、プラセボ群で47.6%であった。IMpower133、CASPIANの両試験により、進展型小細胞肺がんの初回治療に導入された免疫チェックポイント阻害薬が、いよいよ限局型小細胞肺がんの標準治療にも導入され、その有効性は進展型よりも限局型においてより大きい結果であった。同様の傾向は、非小細胞肺がんや、それ以外のがん腫においても繰り返し示されており、Late lineよりもFirst line、進行期よりも早期において免疫チェックポイント阻害薬の意義が大きいことに再現性がある。切除可能小細胞肺がんにおける周術期治療への免疫チェックポイント阻害薬の展開が期待されるところではあるものの、これまで同集団に対して第III相試験を実施し完遂できたのはJCOG1205/1206試験のほかはほぼ存在せず、わが国で小細胞肺がんに対する周術期免疫チェックポイント阻害薬の治療開発が何かしらの形で行われることに期待したい。EVOKE-01試験sacituzumab govitecanは、TROP2を標的とし、ペイロードとしてSN-38をDAR 7.6で搭載した抗体薬物複合体(ADC)である。近年大きな話題となっているADCにおいて、非小細胞肺がんにおいてはTROP2を標的としたDato-DXdが先行しており、昨年のESMOで発表されたTROPION-Lung 01試験においてドセタキセルに対して、とくに非扁平上皮非小細胞肺がんにおいてPFSの優越性を示している。今回、ほぼ同様のセッティングである、進行非小細胞肺がんの2次治療において、sacituzumab govitecanとドセタキセルを比較した第III相試験がEVOKE-01試験である。603例が1:1で登録され、割付調整因子は、扁平上皮がんvs.非扁平上皮がん、前治療での免疫チェックポイント阻害薬がCR/PR vs.SD/PD、ドライバー遺伝子変異(AGA)の有無、が設定された。主要評価項目としてはOSが設定され、PFSが副次評価項目とされた。PFSのハザード比は0.92、95%信頼区間0.71~1.11でドセタキセルに対する優越性は示せなかった。さらに、OSにおいてもハザード比は0.84、95%信頼区間0.68~1.04とsacituzumab govitecanが良い傾向にはあるものの、統計学的な優越性は示せなかった。同じTROP2を標的としたADCによる、ドセタキセルをコントロールとした第III相試験において、TROPION-Lung 01試験とは異なる結果となったことは意外ではあるものの、両試験ともにOSにおいて明白な優越性が示せなかった点は共通している。TROP2は、肺がんを含め多くのがん腫で高頻度に発現していることが報告されていることからADCの良い標的と考えられてきたが、実際の臨床試験で示される有効性はその発現割合とは異なっており、前治療等による蛋白発現への影響が示唆されている。Dato-DXdを用いて、TROP2蛋白発現だけでなくマルチオミックス解析を付加した臨床試験の結果がGustave Roussyでも報告されており、ADCにおいても治療前の標的蛋白の評価の重要性が示唆されている。周術期治療アップデート・追加解析周術期治療に関してもいくつかのアップデート、追加解析の報告が行われている。日本においても1年ほど前に承認された、術前ニボルマブ+化学療法の有効性を評価したCheckMate 816試験の4年アップデート解析が報告された。無イベント生存期間(EFS)は3年時点で53%、4年時点で49%の点推定値が報告され、48ヵ月以降はプラトーに達しているかのような生存曲線であり、引き続き良好な成績であった。OSについても同時にアップデートが報告され、3年時点で77%、4年時点で71%と、コントロール群に比べ明確に良好であるものの、もともとの統計設定でOSの優越性を評価する基準が厳しく、統計学的には優越性を示すことができていない。術前のみのCheckMate 816試験は周術期免疫チェックポイント阻害薬の試験ではむしろマイノリティであり、同じ企業が実施したCheckMate 77T試験を含め、他の試験はほぼ術後免疫チェックポイント阻害薬も実施する試験治療を採用している。CheckMate 77T試験からは、N2リンパ節転移のSingle vs.Multipleで、周術期免疫チェックポイント阻害薬の意義が異なるかを検討したサブグループ解析が報告され、結果としてはMultiple N2であっても周術期ニボルマブの意義は十分に存在するというものであった。N2リンパ節のSingle/Multipleに関する解析が企業治験で実施されることの意義は大きい。Multiple N2でも周術期免疫チェックポイント阻害薬の意義は明白であり、R0切除を目指すことができると判断されている状況であれば、Multiple N2であっても切除を前提とした周術期免疫チェックポイント阻害薬が選択肢となりうることが示された。ADAURA試験からは、ctDNAを用いたMRD解析の結果が報告されている。RaDaRと呼ばれるTissue-InformedのMRD解析が用いられており、MRD解析の意義が示されている。ただ、MRD解析においてポイントとなるランドマーク時点(術後アジュバント前)の解析結果というよりは、モニタリング相におけるMRD陽性から画像診断上の再発までの解析に主眼が置かれており、今後の追加解析に期待したい。抗体医薬品の進歩近年の抗体医薬品の進歩は目を見張るものがある。現時点でその中心はADCだが、今後はBispecific抗体、BiTE等がそこに加わり、より多様な展開を示すことが期待されている。抗体製剤に比較的共通する特徴としてInfusion-related reaction(IRR)があり、その対処を目指した試験がPALOMA-3試験である。amivantamabは開発当初からIRRが課題とされており、IV投与よりも皮下注射のほうがIRRの頻度を低減させられることはすでに知られていた。PALOMA-3試験は、amivantamabとlazertinibの併用療法において、amivantamabのIVと皮下注射の有効性と安全性、薬物動態を評価した第III相試験である。主要評価項目は薬物動態における同等性とされ、副次評価項目に奏効割合、PFS等が設定されている。主要評価項目である薬物動態では同等の結果が得られ、IRRの頻度において、IVが66%に対して皮下注射では13%であり、明らかにIRRの頻度を抑制することが可能となった。皮膚毒性等については同等であった。さらに、PFSのハザード比が0.84、95%信頼区間0.64~1.10であり、OSのハザード比は0.62、95%信頼区間0.42~0.92と、いずれも皮下注射で良好という結果であり、安全性、有効性ともに皮下注射を支持する結果であった。また、血管内皮増殖因子(VEGF)と、抗PD-1抗体のBispecific抗体であるivonescimabを用いたHARMONi-A試験の結果も報告された。EGFR-TKI後に増悪したEGFR遺伝子変異陽性進行非小細胞肺がんを対象に、プラチナ併用化学療法とivonescimabもしくはプラセボを併用する第III相試験である。PFSのハザード比は0.46、95%信頼区間0.34~0.62、OSのハザード比は0.72、95%信頼区間0.48~1.09と、PFSでは統計学的に有意に、OSにおいても併用療法がより予後を改善させる傾向が示された。前出のamivantamabだけでなく、血管新生阻害薬と免疫チェックポイント阻害薬の併用療法もすでに検討されている領域に、新たな選択肢が投入される形となった。今後も複数の選択肢が開発されていく見込みであり、EGFR-TKI耐性化後の治療選択は引き続き注目を集めることになりそうである。さいごに冒頭で紹介したように、肺がんの注目演題が多数報告されたASCOは、近年の治療開発の状況を縮図のように示した学会であった。周術期や根治的な病態における免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬の役割、ADC、Bispecific抗体、BiTE等抗体医薬品の治療開発等が注目を集めている。さらに、EGFR-TKI耐性化後、EGFR遺伝子変異陽性初回治療、ALK初回治療、周術期治療等、同一の領域にさまざまな選択肢が展開される状況となることも明白であり、続々と実臨床に投入される治療法から、患者ごとに最適な選択肢をどのように検討し、提案し、相談するかが問われる時代が訪れようとしている。

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局所進行食道がんの術前補助療法、3剤併用がOSを改善/Lancet

 局所進行食道扁平上皮がん(OSCC)の術前補助療法において、シスプラチン+フルオロウラシルによる2剤併用化学療法(NeoCF)と比較して、これにドセタキセルを追加した3剤併用化学療法(NeoCF+D)が全生存率を有意に改善し、日本における新たな標準治療となる可能性がある一方で、NeoCFに比べNeoCF+放射線(NeoCF+RT)では全生存率の有意な改善効果を認めないことが、国立がん研究センター中央病院の加藤 健氏らが実施した「JCOG1109試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2024年6月11日号に掲載された。日本の44施設の無作為化第III相試験 JCOG1109試験は、日本の44施設で実施した非盲検無作為化第III相試験であり、2012年12月~2018年7月に参加者を募集した(日本医療研究開発機構[AMED]などの助成を受けた)。 年齢20~75歳、全身状態の指標であるEastern Cooperative Oncology Group performance status(ECOG PS)が0または1で、未治療の局所進行OSCC(StageIB、II、III[T4は含まない])の患者601例を登録し、NeoCF群に199例(年齢中央値65歳[範囲:38~75]、女性11%)、NeoCF+D群に202例(64歳[41~75]、12%)、NeoCF+RT群に200例(65歳[30~75]、14%)を無作為に割り付けた。 NeoCF群ではCF療法を2コース、NeoCF+D群ではCF+D療法を3コース、NeoCF+RT群ではCF療法を2コース施行後に総線量41.4Gyの放射線照射を行った。引き続き、全例で食道切除術と局所リンパ節郭清を実施した。 主要評価項目は、ITT集団における全生存率とした。無増悪生存率、客観的奏効率、病理学的完全奏効率も良好 追跡期間中央値50.7ヵ月の時点における3年全生存率は、NeoCF群が62.6%(95%信頼区間[CI]:55.5~68.9)であったのに対し、NeoCF+D群は72.1%(65.4~77.8)と有意に優れた(ハザード比[HR]:0.68、95%CI:0.50~0.92、p=0.006)。一方、NeoCF+RT群の3年全生存率は68.3%(95%CI:61.3~74.3)であり、NeoCF群の62.6%(55.5~68.9)に比べ有意な差を認めなかった(HR:0.84、95%CI:0.63~1.12、p=0.12)。また、全生存期間中央値は、NeoCF+D群で未到達、NeoCF群で5.6年であった。 3年無増悪生存率は、NeoCF群の47.7%(95%CI:40.6~54.4)に比べNeoCF+D群は61.8%(54.7~68.1)と良好であった(HR:0.67、95%CI:0.51~0.88)。無増悪生存期間中央値は、NeoCF+D群で未到達、NeoCF群で2.7年だった。 測定可能病変を有する患者における客観的奏効率は、NeoCF群の42.4%(95%CI:30.3~55.2)と比較して、NeoCF+D群は76.4%(64.9~85.6)と高率であり、病理学的完全奏効の割合も、NeoCF群の2.0%(95%CI:0.6~5.1)に対しNeoCF+D群は19.8%(14.5~26.0)と良好だった。手術前後の安全性プロファイルはNeoCF+Dで比較的管理しやすい Grade3以上の発熱性好中球減少は、NeoCF群で193例中2例(1%)、NeoCF+RT群で191例中9例(5%)に発現したのに比べ、NeoCF+D群では196例中32例(16%)と頻度が高かった。また、術前補助療法の中止の原因となった治療関連有害事象は、NeoCF群(8/199例[4%])およびNeoCF+RT群(12/200例[6%])に比べNeoCF+D群(18/202例[9%])で高頻度であった。術後補助療法期間中の治療関連死は、NeoCF群で3例(2%)、NeoCF+D群で4例(2%)、NeoCF+RT群で2例(1%)に認めた。 Grade2以上の術後の肺炎、食道吻合部漏出、反回神経麻痺が、NeoCF群で185例中それぞれ19例(10%)、19例(10%)、28例(15%)に、NeoCF+D群で183例中18例(10%)、16例(9%)、19例(10%)に、NeoCF+RT群で178例中23(13%)、23例(13%)、17例(10%)に発現した。術後の院内死亡は、NeoCF群3例、NeoCF+D群2例、NeoCF+RT群1例であった。 著者は、「手術前後のNeoCF+D群の安全性プロファイルは、NeoCF群やNeoCF+RT群よりも管理しやすいものであった。本試験の目的は、NeoCF+D群とNeoCF+RT群の直接比較ではなく、この2つの群の優越性を認めた場合に、より大規模な比較試験に進む計画であった」と述べたうえで、「各治療群のリスクとベネフィットを明らかにするには、より長期の追跡による最新のデータの解析が必要である」としている。

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進展型小細胞肺がん、アテゾリズマブ+化学療法へのベバシズマブ上乗せの有用性は?(BEAT-SC)/ASCO2024

 進展型小細胞肺がん(ED-SCLC)の標準治療の1つに、アテゾリズマブ+カルボプラチン+エトポシド(ACE療法)がある。非小細胞肺がんでは、アテゾリズマブ+ベバシズマブ+化学療法は、アテゾリズマブ+化学療法と比較して優れた治療効果を有し、アテゾリズマブとベバシズマブには相乗効果があることが示されている1)。そこで、ED-SCLC患者を対象に、ACE療法へのベバシズマブ上乗せ効果を検討する「BEAT-SC試験」が、日本および中国で実施された。本試験において、ベバシズマブ上乗せにより無増悪生存期間(PFS)が有意に改善したが、全生存期間(OS)の改善はみられなかった。大江 裕一郎氏(国立がん研究センター中央病院 副院長/呼吸器内科長)が、米国臨床腫瘍学会年次総会(2024 ASCO Annual Meeting)において、本試験の結果を報告した。・試験デザイン:国際共同第III相無作為化比較試験・対象:未治療のED-SCLC患者333例・試験群(ACE+ベバシズマブ群):ACE療法(アテゾリズマブ+カルボプラチン/シスプラチン+エトポシド)+ベバシズマブを3週ごと4サイクル→アテゾリズマブ+ベバシズマブを3週ごと 167例(日本人66例)・対照群(ACE+プラセボ群):ACE療法+プラセボを3週ごと4サイクル→アテゾリズマブ+プラセボを3週ごと 166例(日本人75例)・評価項目:[主要評価項目]治験担当医師評価に基づくPFS[副次評価項目]OS、治験担当医師評価に基づく奏効割合(ORR)、奏効期間(DOR)、安全性など・解析計画:PFSとOSは階層的に検定し、PFSが有意に改善した場合にOSの解析を実施することとした。OSについては3回の中間解析が予定され、今回は第1回中間解析の結果が報告された。・層別化因子:性別、ECOG PS、プラチナ製剤の種類(カルボプラチン/シスプラチン) 主な結果は以下のとおり。・患者背景は両群で同等であったが、過去の試験と比較して喫煙歴のない患者や脳転移を有する患者が多く、シスプラチンを用いる患者が少なかった。・主要評価項目の治験担当医師評価に基づくPFSの中央値は、ACE+ベバシズマブ群5.7ヵ月、ACE+プラセボ群4.4ヵ月であり、ACE+ベバシズマブ群がACE+プラセボ群と比較して有意に改善した(ハザード比[HR]:0.70、95%信頼区間[CI]:0.54~0.90、p=0.0060)。・事前に規定したPFSのサブグループ解析では、現喫煙者のサブグループを除いてACE+ベバシズマブ群が良好な傾向にあった。・OSのデータは未成熟であったが、OS中央値はACE+ベバシズマブ群13.0ヵ月、ACE+プラセボ群16.6ヵ月であった(HR:1.22、95%CI:0.89~1.67、p=0.2212)。・ORRはACE+ベバシズマブ群81.9%、ACE+プラセボ群73.3%であった。DOR中央値はそれぞれ4.3ヵ月、4.0ヵ月であった。・治療関連有害事象の内訳は両群で同等であったが、蛋白尿と高血圧はACE+ベバシズマブ群に多く発現した。治療中止に至った有害事象は、ACE+ベバシズマブ群20.5%、ACE+プラセボ群16.5%に発現した。 大江氏は、本結果について「ACE+ベバシズマブ群はACE+プラセボ群と比較してPFSを有意に改善し、主要評価項目を達成した。OSは本解析時点では未成熟であり、ACE療法へのベバシズマブ上乗せによる改善はみられなかった。ACE療法へのベバシズマブ上乗せの忍容性はおおむね良好であり、新たな安全性に関するシグナルはみられなかった」とまとめた。なお、OSについては、解析が継続される予定となっている。■関連記事ABCP療法、肺がん肝転移例に良好な結果(IMpower150)/ASCO2019

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ASCO2024 レポート 消化器がん

レポーター紹介本レポートでは、2024年5月31日~6月4日に行われた2024 ASCO Annual Meetingにおける消化管領域におけるトピックスを解説する。1.【食道がん】ESOPEC trial(#LBA1)最初に解説するのは、今年消化管領域でPlenary Sessionに選ばれたESOPEC trialである。欧米ではわが国をはじめとする東アジアと異なり、食道がんにおいては下部食道から接合部にできる腺がんが中心である。cT2-4a、cN+/-の切除可能進行食道腺がんにおける現在の標準治療は、CROSS trialで用いられたパクリタキセル+カルボプラチン+41.4Gyの術前化学放射線療法(CRT)とFLOT4 trialで用いられた術前・術後のFLOT(5-FU、LV、オキサリプラチン、ドセタキセル)療法の両者が併存しており、それぞれ開発が行われたオランダではCROSSレジメンが、ドイツではFLOTレジメンが主流である。ESOPEC trialでは両者の直接比較が第III相試験として行われた。2016年2月~2020年4月に438例のcT1N+ or cT2-4a、cN0/+、cM0の食道および接合部腺がんが登録された。年齢中央値は63歳、男性が89.3%、cT3/4の症例が80.5%、リンパ節転移陽性症例が79.7%であった。主要評価項目である全生存期間(OS)でハザード比(HR)が0.70、p=0.012、OS中央値がFLOT群66ヵ月、CROSS群39ヵ月、3年OS率がFLOT群54.7%、CROSS群50.7%と有意にFLOT群が優れていた。また、計画された術前治療を完遂できたのはFLOT群で87.3%、CROSS群で67.7%と差を認めた。無増悪生存期間(PFS)では、HR:0.66、p=0.001、3年PFS率がFLOT群51.6%、CROSS群35.0%と有意にFLOT群が優れていた。病理学的完全奏効(pCR)もFLOT群で16.8%、CROSS群で10.0%とFLOT群のほうが良好であった。術後合併症は両群で差を認めない結果であった。本試験結果をもって、切除可能局所進行食道・接合部腺がんにおいてFLOTレジメンの有意性が示された。本邦でも切除可能局所進行食道・接合部腺がんに対してFLOTやDCS(ドセタキセル、シスプラチン、S-1)をはじめとする術前化学療法が主流であり、本結果は受け入れられると考える。一方、術前CRT後pCRとならなかった症例にはCheckMate 577のエビデンスから術後ニボルマブ1年が無病生存期間(DFS)を有意に改善することが検証されているが、KEYNOTE-585やATTRACTION-5の結果より、術前・術後の化学療法に対して免疫チェックポイント阻害薬の有効性は検証されていない。今後FLOTとCROSSの直接比較のみならず、CRT後のニボルマブの有効性も含めた結果の解釈が必要になる。2.【大腸がん】切除不能大腸がん肝転移に対する肝移植の有効性(#3500)切除可能性のない大腸がん肝転移症例に対する標準治療は化学療法であるが、根治は困難である。今回、フランスの研究者から化学療法(C)に対する肝移植+化学療法(LT+C)の優越性を検証するTransMet試験が報告された。適格基準は65歳以下、PS 0-1、化学療法で3ヵ月以上部分奏効もしくは安定が得られている、CEAが80mg/mLもしくはベースラインより50%以上の減少、血小板8万超、白血球2,500超と厳格な基準で行われた。157例がスクリーニングされ、そのうち94例がランダム化された。LT+C群の47例のうち11例がPer protocolから外され(9例が病勢進行のためLTせず)、C群の47例のうち9例がPer protocolから外された(7例が肝切除実施のため)。主要評価項目の5年OS(ITT)はLT+C群が57%、C群が13%(HR:0.37、p=0.0003)であり、LT+Cが実施された36例のうち、26例に再発を認めた(一番多い部位は肺転移の14例)が、その後手術および焼灼療法が12例(46%)に実施され15例で最終的にがんがない状態を維持できていた。副次評価項目である3年・5年PFSは、LT+C群とC群で3年PFSがそれぞれ33%と4%、5年PFSがそれぞれ20%と0%(HR:0.34、p<0.0001)とLT+C群が有意に優れている結果であった。適切な症例選択をすることで、切除不能大腸がん肝転移症例に対してLT+Cは有意にOSとPFSのそれぞれを改善することが示された。長期予後が期待できない切除不能肝転移症例に対して根治の可能性を届けられることが示された。3.【大腸がん】CheckMate 8HW(#3503)CheckMate 8HW試験は1次治療におけるニボルマブ+イピリムマブ(NIVO+IPI)と標準治療(mFOLFOX6/FOLFIRI+/-ベバシズマブ/セツキシマブ)のPFSのデータがすでに2024 ASCO Gastrointestinal Cancers Symposiumで報告されているが、前回と同様のdMMR/MSI-H切除不能大腸がんにおいて1次治療でNIVO+IPIを行った202例と標準治療を行った101例の追加情報が報告された。観察期間中央値は31.6ヵ月と延長したが、PFS中央値でNIVO+IPI群は到達せず、標準治療群は5.9ヵ月(HR:0.21、p<0.0001)とNIVO+IPI群が圧倒的に優れている結果であった。サブ解析でもNIVO+IPI群が肝転移症例、BRAF V600E変異症例、RAS変異症例など、免疫チェックポイント阻害薬の効果が乏しいとされる症例でも良好なHRを認めていた。また、本試験では標準治療群は増悪後NIVO+IPIを試験治療で行うことが可能になっており、今回2次治療までのPFS(PFS2)が報告された。標準治療群では試験治療とそれ以外を合わせて67%の症例がcross overされたが、PFS2中央値でNIVO+IPI群が未到達である一方、標準治療群は29.9ヵ月(HR:0.27)と後治療の実施も含め1次治療でNIVO+IPIを実施する有効性が示された。免疫関連有害事象については一定数認められたが、Grade3以上はいずれも5%以下であり、臨床的には許容できると解釈された。dMMR/MSI-H切除不能大腸がんの1次治療としてNIVO+IPIが重要な選択肢であることが検証されたが、NIVO単剤との比較データは今回報告されておらず、どちらを第1選択にするかの最終判断は、今後の報告を見てからになると考える。4.【大腸がん】PARADIGM試験のバイオマーカー解析(#3507)本邦からもRAS野生型切除不能大腸がんに対してパニツムマブ(Pmab)+mFOLFOX6とベバシズマブ(Bmab)+mFOLFOX6を1対1で比較したランダム化比較試験であるPARADIGM試験のバイオマーカー解析が報告された。治療前と治療後に血漿検体を採取してNGS解析を行った556例のうち、病勢進行(PD)で中止となった276例で治療開始時とPD時のゲノムの変化を解析した。PD症例のOSや増悪後の生存期間(PPS)は両群で差を認めず、PD時のacquired alterationsに注目すると、Pmab群で2つ以上のalterationsが52.4%の症例に認められた一方、Bmab群では43.3%に認められた。Pmab群で2つ以上のalterationsを認めた症例はalterationsを認めなかった症例よりも有意にPPSが短く、Pmab症例において獲得alterationsがPD後の生存に影響している可能性が示された。さらに獲得alterationsをpathwayごとに分けて解析すると、RTK/RAS経路のalterationsを認める症例はPmab群でPPSが不良である一方、CIMPやPI3K経路のalterationsを認める症例はBmab群でPPSが不良な結果であった。RTK/RAS経路とCIMP経路はOSでも同様の結果が認められ、獲得耐性のパターンがレジメンにより異なり、またそれが増悪後の生存に影響する可能性が示唆された。現在の臨床では、治療前後の血漿を用いたNGS解析は実施できないが、科学的には重要な示唆を持つ結果であった。5.【大腸がん】CodeBreaK 300のOSの報告(#LBA3510)CodeBreaK 300試験は前治療のあるKRAS G12C変異結腸直腸がんに対して、ソトラシブ960mg/日+Pmab群、ソトラシブ240mg/日+Pmab群、主治医選択(トリフルリジン・チピラシルまたはレゴラフェニブ)群を1対1対1で比較した第III相試験である。主要評価項目である盲検独立中央判定によるPFSは2つのソトラシブ+Pmab群が主治医選択群よりも有意に優れていることが検証されているが、副次評価項目であるOSの報告が、OSのイベントが50%を超えた今回のタイミングで行われた。症例数からOSの検証はできないが、観察期間中央値13.6ヵ月の段階で2つのソトラシブ+Pmab群が主治医選択群よりも良好な傾向が認められ、有意差はないもののソトラシブ960mg/日+Pmab群はHR:0.70と良好な結果であった。後治療として主治医選択群はその後31%がKRAS G12C阻害薬の治療を受けていた。その他の結果もupdateが報告され、ソトラシブ960mg/日+Pmab群は奏効割合が30%、Duration of Response中央値が10.1ヵ月、PFS中央値の再解析では5.8ヵ月(HR:0.46)の結果であった。これらの結果は、ソトラシブ960mg/日+PmabがKRAS G12C変異大腸がんの新たな選択肢であることを示すものであり、本邦でも今後早期の承認が期待される。6.【直腸がん】切除可能dMMR/MSI-H直腸がんに対するPD-1抗体の医師主導治験の長期治療効果(#LBA3512)スローン・ケタリング記念がんセンターから報告された切除可能dMMR/MSI-H直腸がんに対するdostarlimab(PD-1抗体)の医師主導治験は、14例という少数例の結果であったものの全例に臨床的完全奏効(cCR)が認められるという優れた結果であった。今回さらなる症例集積と治療効果の継続について報告がなされた。今回の報告では48例までの登録がなされており、Lynch症候群の確定検査がなされた41例のうち21例(51%)がLynch症候群の診断であった。またTumor Mutation Burdenの中央値が53.6、BRAF V600E変異が1例に認められた。PD-1抗体薬であるdostarlimabの投与が終わった42例で主要評価項目であるcCRが100%に認められ、観察期間中央値17.9ヵ月の時点で1例も再増悪を認めていなかった。もう1つの主要評価項目である12ヵ月cCRについても26.3ヵ月の観察期間中央値で100%の結果であった。Grade3以上の有害事象は認めず、安全性についても大きな懸念事項は認めなかった。すでにNCCNガイドラインでは、切除可能dMMR/MSI-H直腸がんに対する第1選択は免疫チェックポイント阻害薬6ヵ月となっており、企業主導の検証治験として行われているAZUR-1が進行中である。また本邦でも医師主導治験としてStageI~III直腸がんまでを対象にNIVOの有効性・安全性をみるVOLTAGE-2試験が進行中である。7.【大腸がん】c-Metをターゲットとした新規Antibody-Drug Conjugate(ADC)製剤であるABBV-400の安全性・有効性(#3515)ABBV-400はc-Metをターゲットとした抗体薬であるtelisotuzumabとtopoisomerase-1阻害薬のADC製剤である。BRAF野生型かつMSSの切除不能大腸がんの3次治療以降の症例を対象にdose escalation/expansionが行われた。1.6mg/kg、2.4mg/kg、3.0mg/kgと増量が行われ、Grade3以上の主な有害事象は貧血(35%)、好中球減少(25%)、血小板減少(13%)であった。すべてのGradeで嘔気(57%)、疲労(44%)、嘔吐(39%)が認められた。治療継続期間中央値は4.1ヵ月であり、1.6mg/kgではRelative Dose Intensity(RDI)が100%であったが、3.0mg/kgでは86.5%であった。奏効割合は16%であり、Duration of Response中央値は5.5ヵ月であった。用量が増えるに従って奏効率は上昇し、3.0mg/kgでは24%であった。C-Metタンパクの発現を≧10% 3+をcut offとして検討すると、2.4mg/kg以上で投与された症例のうちcut off以上の症例は奏効割合37.5%、PFS中央値5.4ヵ月と有望な結果であった。2.4mg/kgと3.0mg/kgを比較すると、2.4mg/kgのほうが、RDIが保たれ毒性は許容される結果であった。ABBV-400は大腸がん領域のADC製剤としては有望と考えられており、現在本試験の中でABBV-400とベバシズマブの併用が検討されている。

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プラチナ+ICI既治療NSCLCへのSG、第III相試験結果(EVOKE-01)/ASCO2024

 プラチナ製剤を含む化学療法および免疫チェックポイント阻害薬(ICI)による治療で病勢進行に至った非小細胞肺がん(NSCLC)の標準治療は、いまだにドセタキセルとなっており、治療成績は十分ではない。そのため、新たな治療法の開発が望まれている。そこで、既治療のNSCLC患者を対象として、Trop-2を標的とする抗体薬物複合体sacituzumab govitecan-hziy(SG)の有用性を検討する国際共同第III相比較試験「EVOKE-01試験」が実施された。スペイン・Hospital Universitario 12 de OctubreのLuis G. Paz-Ares氏が、米国臨床腫瘍学会年次総会(2024 ASCO Annual Meeting)において、本試験の結果を報告した。なお、本発表の詳細はJournal of Clinical Oncology誌オンライン版2024年5月31日号に同時掲載された1)。・試験デザイン:国際共同第III相無作為化比較試験・対象:プラチナ製剤を含む化学療法およびICIによる前治療歴を有するNSCLC患者603例・試験群(SG群):SG(21日間を1サイクルとして、各サイクルの1、8日目に10mg/kg) 299例・対照群(ドセタキセル群):ドセタキセル(75mg/m2、3週ごと) 304例・評価項目:[主要評価項目]全生存期間(OS)[副次評価項目]治験担当医師評価に基づく無増悪生存期間(PFS)、安全性など 主な結果は以下のとおり。・ICIによる前治療への奏効率は、SG群35.5%、ドセタキセル群37.2%であり、actionableな遺伝子変異がある患者の割合は、それぞれ6.4%、8.2%であった。・データカットオフ時点(2023年11月29日)における追跡期間中央値は12.7ヵ月であった。・6ヵ月以上治療を継続した患者の割合は、SG群33.4%、ドセタキセル群17.4%であった。・主要評価項目のOSの中央値は、SG群11.1ヵ月、ドセタキセル群9.8ヵ月であり、SG群が良好な傾向にはあったが、統計学的有意差は認められなかった(ハザード比[HR]:0.84、95%信頼区間[CI]:0.68~1.04、片側p=0.0534[片側有意水準α=0.0223])。1年OS率はそれぞれ46.6%、36.7%であった。・事前に規定されたOSのサブグループ解析において、組織型による差はみられなかったが、ICIによる前治療に奏効しなかったサブグループ(HR:0.75、95%CI:0.58~0.97)、actionableな遺伝子変異があるサブグループ(同:0.52、0.22~1.23)で、SG群が良好な傾向にあった。・ICIによる前治療に奏効しなかったサブグループにおけるOSは、組織型にかかわらずSG群が良好な傾向にあった。・PFS中央値は、SG群4.1ヵ月、ドセタキセル群3.9ヵ月であった(HR:0.92、95%CI:0.77~1.11)。・Grade3以上の有害事象は、SG群66.6%、ドセタキセル群75.7%に発現した。治療中止に至った有害事象は、それぞれ9.8%、16.7%に発現した。 Paz-Ares氏は「主要評価項目のOSについて、統計学的有意差は認められなかった。しかし、SG群はOSの数値的な改善を示し、ICIによる前治療に奏効しなかったサブグループでは、ドセタキセル群と比べてOSが3.5ヵ月改善した。SGは良好な安全性プロファイルを示し、忍容性はドセタキセルよりも高かった。以上から、SGは既治療の転移を有するNSCLC患者における有望な治療選択肢の1つであると言える」とまとめた。なおSGについては、ペムブロリズマブとの併用下における有用性を検討する第II相試験「EVOKE-02試験」、PD-L1高発現例の1次治療における有用性を検討する第III相試験「EVOKE-03試験」が進行中である。

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HR+/HER2-転移乳がん、SG+ペムブロリズマブvs.SG(SACI-IO HR+)/ASCO2024

 既治療の切除不能な局所進行または転移を有するHR+/HER2-乳がんに対して、sacituzumab govitecan(SG)+ペムブロリズマブを、SG単独と比較した無作為化非盲検第II相SACI-IO HR+試験で、ペムブロリズマブ併用による無増悪生存期間(PFS)の有意な改善は認められなかった。米国・ダナファーバーがん研究所のAna Christina Garrido-Castro氏が、米国臨床腫瘍学会年次総会(2024 ASCO Annual Meeting)で発表した。 SGはトポイソメラーゼI阻害薬(SN-38)をペイロードとする抗TROP2抗体薬物複合体(ADC)で、その作用機序から抗PD-1抗体との相乗効果が期待されている。・対象:切除不能な局所進行または転移を有するHR+/HER2-乳がんで、転移後に1ライン以上の内分泌療法歴があるか、術後補助内分泌療法中もしくは12ヵ月以内に進行した患者(活動性脳転移のある患者、トポイソメラーゼI阻害薬ADC、イリノテカン、抗PD-1/L1抗体による治療歴のある患者は除外)・試験群(併用群):SG(1、8日目に10mg/kg静注)+ペムブロリズマブ(1日目に200mg静注)、21日ごと・対照群(SG群): SG単独・評価項目:[主要評価項目]PFS[副次評価項目]PD-L1陽性患者のPFS、全生存期間(OS)、奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、奏効までの期間(TTOR)、臨床的有用率(CBR)、安全性 主な結果は以下のとおり。・治療開始した104例(併用群52例、SG群52例)が解析に組み入れられた。・年齢中央値は57.0歳(範囲:27.0~81.0歳)、40例(38.5%)がPD-L1陽性(CPS≧1)、56例(69.1%)が術前/術後化学療法歴があり、51例(49.0%)が転移乳がんに対する1ラインの化学療法歴があった。・追跡期間中央値12.5ヵ月(データカットオフ:2024年3月9日)におけるPFS中央値は併用群が8.12ヵ月で、SG群の6.22ヵ月より数字上は延長したが、統計学的に有意ではなかった(ハザード比[HR]:0.81、95%信頼区間[CI]:0.51~1.28、p=0.37)。・OSデータはimmatureであるが、OS中央値は併用群18.52ヵ月、SG群17.96ヵ月で有意な差は認められなかった(HR:0.65、95%CI:0.33~1.28、p=0.21)。・PD-L1陽性(CPS≧1)患者において、PFS中央値は併用群がSG群より4.4ヵ月長く(HR:0.62、95%CI:0.29~1.36、p=0.23)、OS中央値は6ヵ月長く(HR:0.61、95%CI:0.18~2.04、p=0.42)、どちらも有意ではないが併用群で改善傾向が認められた。・ORRは、併用群21.2%、SG群17.3%で有意な差はなかった(p=0.80)。また、CBR(p=0.84)、DOR(p=0.31)、TTOR(p=0.68)も有意な差は認められなかった。・主なGrade3以上のTEAE(治療中に発現した有害事象)は、併用群では好中球減少症(54%)、白血球減少症(23%)、リンパ球減少症(12%)、発熱性好中球減少症(6%)、貧血(6%)、下痢(6%)で、単独群では好中球減少症(44%)、貧血(10%)、悪心(10%)、下痢(8%)、白血球減少症(8%)、疲労(6%)、高血圧(6%)であった。 Garrido-Castro氏は、「これらの結果は、転移を有するPD-L1陽性HR+/HER2-乳がん患者におけるSG+ペムブロリズマブのさらなる検討を支持している。ADCと免疫チェックポイント阻害薬併用によりベネフィットが得られる予測因子を調査するために、追加の研究が必要である」と述べた。

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転移乳がんへのT-DXd、HER2-ultralowでもPFS延長(DESTINY-Breast06)/ASCO2024

 従来のHR陽性(+)かつHER2陰性の転移を有する乳がんのうち、約60~65%がHER2-low(IHC 1+またはIHC 2+/ISH-)、約20~25%がHER2-ultralow(膜染色を認めるIHC 0[IHC >0<1+])とされているため、約85%がトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)が有用である可能性がある。米国臨床腫瘍学会年次総会(2024 ASCO Annual Meeting)において、HR+かつHER2-lowおよびHER2-ultralowで化学療法未治療の転移・再発乳がん患者を対象とした第III相DESTINY-Breast06試験の結果、T-DXdは化学療法群と比較して、有意に無増悪生存期間(PFS)を延長したことを、イタリア・ミラノ大学のGiuseppe Curigliano氏が発表した。・試験デザイン:国際共同第III相非盲検無作為化比較試験・対象:転移に対する治療として1ライン以上の内分泌療法※を受け、化学療法は未治療の、HR+かつHER2-low(HER2-ultralowも含む)の転移・再発乳がん患者866例・試験群(T-DXd群):T-DXd(3週間間隔で5.4mg/kg)を投与 436例・対照群(TPC群):治験医師選択の化学療法(カペシタビンまたはパクリタキセル、nab-パクリタキセル)を投与 430例・評価項目:[主要評価項目]盲検独立中央判定(BICR)によるHER2-low集団のPFS[主要副次評価項目]BICRによるITT集団(HER2-lowおよびHER2-ultralow)のPFS、HER2-low集団およびITT集団の全生存期間(OS)・層別化因子:CDK4/6阻害薬の使用有無、HER2発現状況、転移がないときのタキサン使用有無・データカットオフ:2024年3月18日※内分泌療法:(1)2ライン以上の内分泌療法±分子標的薬、(2)初回の内分泌療法+CDK4/6阻害薬で6ヵ月以内に病勢進行、(3)術後の内分泌療法開始から24ヵ月以内に再発 のいずれか。 主な結果は以下のとおり。・866例がT-DXd群とTPC群に1対1に無作為に割り付けられた。年齢中央値はそれぞれ58.0歳(範囲:28~87)/57.0歳(32~83)、IHC 1+が54.8%/54.4%、IHC 2+/ISH-が26.8%/27.4%、内分泌療法抵抗性が29.4%/32.6%、診断時のde novoが30.5%/30.7%、骨転移のみありが3.0%/3.0%、内臓転移ありが86.2%/84.7%、肝転移ありが67.9%/65.8%であった。・TPC群では、カペシタビンが59.8%、nab-パクリタキセルが24.4%、パクリタキセルが15.8%に投与された。ITT集団(HER2-lowおよびHER2-ultralow):866例・ITT集団におけるPFS中央値は、T-DXd群13.2ヵ月、TPC群8.1ヵ月であり、T-DXd群で統計学的に有意かつ臨床的に意義のある改善を示した(ハザード比[HR]:0.63、95%信頼区間[CI]:0.53~0.75、p<0.0001)。・12ヵ月OS率は、T-DXd群87.0%、TPC群81.1%であった。・全奏効率(ORR)は、T-DXd群57.3%(CRが3.0%)、TPC群31.2%(0%)であった。臨床的有用率(CBR)はそれぞれ76.6%、51.9%であった。HER2-low集団:713例・主要評価項目であるHER2-low集団におけるPFS中央値は、T-DXd群13.2ヵ月、TPC群8.1ヵ月であり、T-DXd群で統計学的に有意かつ臨床的に意義のある改善を認めた(HR:0.62、95%CI:0.51~0.74、p<0.0001)。・12ヵ月OS率は、T-DXd群87.6%、TPC群81.7%であった。・ORRは、T-DXd群56.5%(CRが2.5%)、TPC群32.2%(0%)であった。CBRはそれぞれ76.6%、53.7%であった。・HER2-low集団のすべてのサブグループ解析においてT-DXd群が良好な結果であった。HER2-ultralow集団:152例・HER2-ultralow集団におけるPFS中央値は、T-DXd群13.2ヵ月、TPC群8.3ヵ月であった(HR:0.78、95%CI:0.50~1.21)。・12ヵ月OS率は、T-DXd群84.0%、TPC群78.7%であった。・ORRは、T-DXd群61.8%(CRが5.3%)、TPC群26.3%(0%)であった。CBRはそれぞれ76.3%、43.4%であった。安全性・新たな安全性シグナルは確認されなかった。・Grade3以上の試験治療下における有害事象(TEAE)は、T-DXd群40.6%、TPC群31.4%に発現した。T-DXd群で多かったGrade3以上のTEAEは、好中球減少症(20.7%)、白血球減少症(6.9%)、貧血(5.8%)などであった。・T-DXd群における薬剤関連間質性肺疾患の発現は11.3%で、Grade1が1.6%、Grade2が8.3%、Grade3が0.7%、Grade4が0%、Grade5(死亡)が0.7%であった。 これらの結果より、Curigliano氏は「本試験によって、T-DXdは、1種類以上の内分泌療法を受けたHR+かつHER2-lowおよびHER2-ultralowの転移・再発乳がん患者の新たな治療選択肢となった」とまとめた。

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ドセタキセル後のアビラテロン+カバジタキセル、転移を有する去勢抵抗性前立腺がんでPFS改善(CHAARTED2)/ASCO2024

 ドセタキセル治療歴のある、転移を有する去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)患者において、アビラテロンとカバジタキセルの併用療法が無増悪生存期間(PFS)を有意に改善した。米国・ウィスコンシン大学カーボンがんセンターのChristos Kyriakopoulos氏が、第II相無作為化非盲検EA8153(CHAARTED2)試験の結果を、米国臨床腫瘍学会年次総会(2024 ASCO Annual Meeting)で報告した。・対象:去勢感受性前立腺がん(CSPC)に対する3サイクル以上のドセタキセル治療歴のあるmCRPC患者(ECOG PS>2、CRPCに対する治療歴、Grade≧2の末梢性ニューロパチーを有する患者は除外)・試験群(カバジタキセル併用群):カバジタキセル(25mg/m2を3週ごとに最大6サイクルまで静脈内投与)+アビラテロン(1,000mgを1日1回)+prednisone(5mgを1日2回) 111例・対照群(アビラテロン単独群):アビラテロン+prednisone 112例・評価項目:[主要評価項目]PFS[主要な副次評価項目]PSA反応、PSA増悪までの時間(TTPP)、全生存期間(OS)、安全性と忍容性 主な結果は以下のとおり。・ベースラインにおける患者特性は両群でバランスがとれており、年齢中央値は64(41~80)歳、PS 0が58.3%、Gleasonスコア8~10が83.1%、アンドロゲン除去療法(ADT)開始からCRPCへの進行までの期間≦12ヵ月が50.9%、high-volume diseaseが76.0%、診断時に内臓転移ありが24.2%であった。・追跡期間中央値47.3ヵ月において、PFS中央値はカバジタキセル併用群14.9ヵ月vs.アビラテロン単独群9.9ヵ月となり、カバジタキセル併用群で有意に改善した(ハザード比[HR]:0.73[80%信頼区間[CI]:0.59~0.90]、p=0.049)。・PFSのサブグループ解析の結果、65歳未満(15.6ヵ月vs.9.8ヵ月、HR:0.65)、PS 0(20.9ヵ月vs.10.1ヵ月、HR:0.56)、CRPCへの進行までの期間≦12ヵ月の患者(12.9ヵ月vs.5.1ヵ月、HR:0.56)、および内臓転移のない患者(18.1ヵ月vs.10.1ヵ月、HR:0.62)でより顕著なベネフィットがみられた。・ベースラインから12週のPSAの変動について、カバジタキセル併用群の89%、アビラテロン単独群の77%で減少がみられた(p=0.03)。治療中のPSA nadir中央値はカバジタキセル併用群1.0ng/mL vs.アビラテロン単独群3.7ng/mLであった(p=0.002)。・TTPP中央値は、カバジタキセル併用群10.0ヵ月vs.アビラテロン単独群6.1ヵ月となり、カバジタキセル併用群で良好であった(HR:0.60[95%CI:0.44~0.83]、p=0.002)。・OS中央値は、カバジタキセル併用群25.0ヵ月vs.アビラテロン単独群26.9ヵ月となり、両群で差はみられなかった(HR:0.93[95%CI:0.68~1.29]、p=0.67)。ただし、本研究はOSに対する検出力が不足していた。・カバジタキセル併用群で多くみられたGrade3以上の治療関連毒性は、好中球数減少(10.1% vs.0%)、白血球数減少(8.3% vs.0%)、貧血(6.4% vs.0.9%)、疲労(5.5% vs.1.9%)であった。 Kyriakopoulos氏は、アビラテロンおよびプレドニゾンにカバジタキセルを追加することでPFSを有意に改善し、併用による安全性上の新たな懸念は確認されなかったが、mCSPCに対する2剤および3剤併用療法の導入による治療環境の変化で、今回の結果の適用は限定的な可能性があるとまとめている。

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食道腺がん、周術期化学療法が術前化学放射線療法を上回る(ESOPEC)/ASCO2024

 切除可能な局所進行食道腺がんに対する世界的な標準治療は、術前化学放射線療法(CROSS療法)+手術とされてきた。一方、切除可能な胃がんに対しては、周術期化学療法(FLOT療法)+手術といった新たな治療戦略の開発が進められている。これらの両治療戦略を直接比較した第III相ESOPEC試験の結果、FLOT療法がより優れた治療成績を示した。米国臨床腫瘍学会年次総会(2024 ASCO Annual Meeting)のPlenary Sessionにおいて、ドイツ・ビーレフェルト大学のJens Hoeppner氏が本試験の詳細を報告した。・試験デザイン:多施設共同前向きランダム化比較試験・対象:cT1N+またはcT2-4a、cN0/+、cM0の切除可能食道線がん患者・試験群(FLOT群):術前化学療法(5-FU/ロイコボリン/オキサリプラチン/ドセタキセル、8週ごと4サイクル)+手術+術後化学療法 221例・対照群(CROSS群):術前化学放射線療法(41.4Gy、カルボプラチン/パクリタキセル、5週ごと5サイクル)+手術 217例・評価項目:[主要評価項目]全生存期間(OS)[副次評価項目]無増悪生存期間(PFS)、術後病理学的病期、術後合併症など 主な結果は以下のとおり。・2016年2月~2020年4月、ドイツの25施設から438例が2群にランダムに割り当てられた(FLOT群221例、CROSS群217例)。ベースライン時の特性は男性89.3%、年齢中央値63歳(SD 30~86)、cT3/4 80.5%、cN+79.7%だった。・術前補助療法は403例(FLOT群207例、CROSS群196例)、手術は371例(FLOT群191例、CROSS群180例)で行われた。うち351例(FLOT群180例、CROSS群171例)でR0切除が達成された。・術後90日死亡率は4.3%(FLOT群3.2%、CROSS群5.6%)であった。追跡期間中央値55ヵ月時点で218例が死亡した(FLOT群97例、CROSS群121例)。・OS中央値は、FLOT群66ヵ月(95%信頼区間[CI]:36~推定不能)、CROSS群37ヵ月(95%CI:28~43)であった。・3年OS率は、FLOT群57.4%(95%CI:50.1~64.0)、CROSS群50.7%(95%CI:43.5~57.5)であった(HR:0.70、95%CI:0.53~0.92、p=0.012)。・腫瘍縮小グレードが判明している359例のうち、FLOT群35例(18.3%)、CROSS群24例(13.3%)で病理学的完全奏効(pCR)が達成された。 Hoeppner氏は「FLOT療法+手術はCROSS療法+手術と比較して、OSを改善した。今後はFLOT療法を優先して選択すべきだろう」とした。日本では現在の標準治療が欧米とは異なるため、即時の治療戦略変更につながることはなさそうだが、食道がんにおいて術前化学療法の有用性が検証されたことは、今後の上部消化管腫瘍領域における治療戦略の検討に影響を与えそうだ。

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HER2+進行乳がん1次療法、エリブリン+HP vs.タキサン+HP(JBCRG-M06/EMERALD)/ASCO2024

 日本で実施された第III相JBCRG-M06/EMERALD試験の結果、HER2陽性(+)の局所進行または転移を有する乳がんの1次療法として、トラスツズマブ+ペルツズマブ+エリブリン併用療法は、トラスツズマブ+ペルツズマブ+タキサン併用療法と比較して、無増悪生存期間(PFS)が非劣性であったことを、神奈川県立がんセンターの山下 年成氏が米国臨床腫瘍学会年次総会(2024 ASCO Annual Meeting)で発表した。 現在、トラスツズマブ+ペルツズマブ+タキサンは、HER2+の再発・転移乳がんに対する標準的な1次療法である。しかし、タキサン系抗がん剤による浮腫や脱毛、末梢神経障害などは患者QOLを低下させうるため、同等の有効性を有し、かつ副作用リスクが低い治療法の開発が求められていた。そこで山下氏らは、非タキサン系の微小管阻害薬エリブリンをトラスツズマブ+ペルツズマブと併用した場合の、トラスツズマブ+ペルツズマブ+タキサンに対する非劣性を評価するために本研究を実施した。・試験デザイン:多施設共同ランダム化非盲検非劣性第III相試験・対象:進行・転移に対する化学療法(T-DM1を除く)未治療のHER2+乳がん患者446例・試験群(エリブリン群):21日サイクルで、エリブリン1.4mg/m2(1・8日目)とペルツズマブ+トラスツズマブ(1日目)を病勢進行または許容できない毒性が認められるまで継続・対照群(タキサン群):21日サイクルで、ドセタキセル75mg/m2(1日目)またはパクリタキセル80mg/m2(1・8・15日目)とペルツズマブ+トラスツズマブ(1日目)を病勢進行または許容できない毒性が認められるまで継続・評価項目:[主要評価項目]PFS[副次評価項目]奏効率(ORR)、奏効期間、全生存期間(OS)、患者報告の健康関連QOL、安全性など 主な結果は以下のとおり。・2017年8月~2020年4月に、エリブリン群224例、タキサン群222例に無作為に割り付けられ、2022年4月まで追跡された。追跡期間中央値は35.7ヵ月(範囲:0.3~66.5)であった(データカットオフ:2023年6月30日)。・ベースライン時の年齢中央値はエリブリン群56.0歳(範囲:27~70)/タキサン群57.0歳(32~70)、閉経後が67.9%/76.6%、ER+が57.1%/58.1%、de novo StageIVが58.0%/59.9%、周術期のタキサン治療歴ありが31.7%/30.2%、内臓転移ありが65.2%/65.8%であった。・主要評価項目であるPFS中央値は、エリブリン群14.0ヵ月(95%信頼区間[CI]:11.7~16.2)、タキサン群12.9ヵ月(95%CI:10.8~15.6)であった。ハザード比(HR)は0.96(95%CI:0.76〜1.19、p=0.6817)であり、95%CIの上限値が非劣性マージン(1.33)を下回ったため、エリブリン群の非劣性が示された。・ORRは、エリブリン群76.8%(CRが11.6%)、タキサン群75.2%(13.5%)であった。・OS中央値は、エリブリン群は未達、タキサン群は65.3ヵ月であった(HR:1.09、95%CI:0.76~1.58、p=0.7258)。・試験治療下における有害事象は、エリブリン群93.3%(うちGrade3以上が58.9%)、タキサン群96.3%(59.2%)に発現した。好中球減少症(エリブリン群61.6%、タキサン群30.7%)と末梢神経障害(61.2%、52.8%)はエリブリン群で多く、下痢(36.6%、54.1%)と浮腫(8.5%、42.2%)はタキサン群で多かった。・末梢神経障害がエリブリン群で多かったのは、エリブリン群のほうが投与期間が長かったことに起因していると推測された(投与期間中央値:エリブリン28.1ヵ月、ドセタキセル18.1ヵ月、パクリタキセル20ヵ月)。 これらの結果より、山下氏は「本研究は、HER2+の局所進行・転移乳がんの1次療法として、トラスツズマブ+ペルツズマブと併用した場合の、エリブリンのタキサンに対する非劣性を示した初めての研究である。トラスツズマブ+ペルツズマブ+タキサンと同等の効果を有する代替治療として、トラスツズマブ+ペルツズマブ+エリブリンは第1選択となる可能性がある」とまとめた。

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高リスクHR+/HER2-乳がんの術前療法、レトロゾール+アベマシクリブ12ヵ月投与vs.化学療法(CARABELA)/ESMO BREAST 2024

 高リスクのHR+/HER2-早期乳がんに対する術前療法として、レトロゾール+アベマシクリブ12ヵ月投与を化学療法と比較した第II相無作為化非盲検CARABELA試験で、主要評価項目であるResidual Cancer Burden(RCB)インデックス0~Iの割合は達成できなかったが、臨床的奏効率(CRR)は同様であった。スペイン・Instituto de Investigacion Sanitaria Gregorio MaranonのMiguel Martin氏が、欧州臨床腫瘍学会乳がん(ESMO Breast Cancer 2024、5月15~17日)で報告した。・対象: HR+/HER2-、Ki67≧20%、StageII/IIIの乳がん・試験群(レトロゾール+アベマシクリブ群):レトロゾール2.5mg+アベマシクリブ300mg±LHRHアナログを12ヵ月投与(100例)・対照群(化学療法群):アントラサイクリン(4サイクル)→タキサン(weeklyパクリタキセルを12サイクルもしくは3週ごとドセタキセルを4サイクル)(100例)・層別化基準:TMN Stage(II vs.III)、閉経の有無、Ki67(<30% vs.≧30%)・評価項目:[主要評価項目]RCBインデックス0~Iの割合[副次評価項目]MRIによるCRR、RCBインデックスの分布、RCBインデックス中央値、安全性など 主な結果は以下のとおり。・レトロゾール+アベマシクリブ群と化学療法群で年齢中央値は共に53歳、閉経後が56%と58%、StageIIが78%と80%、Ki67≧30%が78%と76%であった。・RCBインデックス0~Iの割合は、レトロゾール+アベマシクリブ群が13%(95%信頼区間:7~21)で化学療法群の18%(同:12~26)と同等ではなかった。・RCBインデックスの中央値は、レトロゾール+アベマシクリブ群が2.8、化学療法群が1.9だった(p=0.0182)。・RCBインデックスの分布は、レトロゾール+アベマシクリブ群(98例)で0~Iが13例、IIが60例、IIIが25例、化学療法群(98例)で順に18例、57例、23例だった(p=0.62)。・CRRはレトロゾール+アベマシクリブ群78%、化学療法群71%で有意差はなかった(p=0.26)。・有害事象による治療中止は、レトロゾール+アベマシクリブ群9例(9%)、化学療法群 4例(4%)であった。 現在、レトロゾール+アベマシクリブで最大のベネフィットを得られる患者を同定するべく、分子的研究を実施中。

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高リスク早期乳がんへのテーラードdose-dense化学療法、10年時解析で無再発生存期間を改善(PANTHER)/ESMO BREAST 2024

 高リスク早期乳がん患者において、テーラードdose-dense化学療法は標準化学療法と比較して10年間の乳がん無再発生存期間(BCRFS)を改善し、新たな安全性シグナルは確認されなかった。スウェーデン・カロリンスカ研究所のTheodoros Foukakis氏が、第III相PANTHER試験の長期追跡調査結果を欧州臨床腫瘍学会乳がん(ESMO Breast Cancer 2024、5月15~17日)で報告した。・対象:18~65歳、リンパ節転移陽性もしくは高リスクリンパ節転移陰性で、初回手術後の乳がん患者・試験群(tdd群):白血球最下点を基にエピルビシン+シクロホスファミドを2週ごと4サイクル、その後ドセタキセルを2週ごと4サイクル(用量は前サイクルの血液毒性に応じて調整)・対照群(標準化学療法群):フルオロウラシル+エピルビシン+シクロホスファミドを3週ごと3サイクル、その後ドセタキセルを3週ごと3サイクル・評価項目:[主要評価項目]BCRFS[副次評価項目]5年無イベント生存期間(EFS)、遠隔無病生存期間(DDFS)、全生存期間(OS)、Grade3/4の有害事象発現率 主な結果は以下のとおり。・2007年2月~2011年9月にスウェーデン、ドイツ、オーストリアの施設から2,017例を登録、2,003例が解析対象とされ、両群に1:1の割合で無作為に割り付けられた。・追跡期間中央値10.3年において、tdd群は標準化学療法群と比較して主要評価項目であるBCRFSを有意に改善した(ハザード比[HR]:0.80、95%信頼区間[CI]:0.65~0.98、log-rank検定のp=0.041、10年イベント率:18.6% vs.22.3%、絶対差:3.7%±1.9%)。・BCRFSの改善は、ホルモン受容体やHER2の発現状況、病期、およびそのほかの人口統計学的・病理学的要因によらずサブグループ全体で認められたが、とくに50歳以上のホルモン受容体陽性患者でdose-denseスケジュールによる一貫したベネフィットがみられたほか、術後にトラスツズマブ投与を受けたHER2陽性患者では用量強化によるベネフィットがみられた。・DDFSはtdd群で有意な改善がみられたが(HR:0.79、95%CI:0.64~0.98、log-rank検定のp=0.039)、OSについては有意な差はみられなかった(HR:0.82、95%CI:0.65~1.04、log-rank検定のp=0.095)。 Foukakis氏は今回の結果を受けて、術後の高リスク早期乳がん患者において、dose-denseスケジュールは標準治療として考慮されるべきではないかとし、また毒性に応じた用量調整は化学療法を最適化するために有望な戦略であるとして、さらなる研究が必要と結んだ。

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早期再発TN乳がんへのアテゾリズマブ上乗せ、予後を改善せず(IMpassion132)/ESMO BREAST 2024

 切除不能な局所進行または転移を有する早期再発トリプルネガティブ乳がん(TNBC)患者を対象に、化学療法に抗PD-L1抗体アテゾリズマブを上乗せした第III相IMpassion132試験の結果、PD-L1陽性患者においても予後が改善しなかったことを、シンガポール・国立がんセンターのRebecca A. Dent氏が欧州臨床腫瘍学会乳がん(ESMO Breast Cancer 2024、5月15~17日)で報告した。 IMpassion130試験において、進行TNBCへの1次治療としてのアテゾリズマブ+nab-パクリタキセル併用療法は、PD-L1陽性患者の全生存期間(OS)を改善した。しかし、早期再発TNBCにおけるデータは限られている。そこで研究グループは、治験医師選択の化学療法にアテゾリズマブまたはプラセボを上乗せして、病勢進行または許容できない毒性が認められるまで継続した場合の有効性と安全性を評価した。・試験デザイン:第III相二重盲検プラセボ対照無作為化比較試験・対象:アントラサイクリンおよびタキサンを含む早期TNBCの治療完了後12ヵ月以内に再発した手術不能な局所進行または転移を有するTNBC患者※・試験群(アテゾリズマブ群):治験医師選択の化学療法(カペシタビン1,000mg/m2を21日サイクルの1~14日目に1日2回経口投与、またはカルボプラチンAUC 2+ゲムシタビン1,000mg/m2を21日サイクルの1・8日目に静注)+アテゾリズマブ(1,200mgを21日ごとに静注)・対照群(プラセボ群):上記の治験医師選択の化学療法+プラセボ・評価項目:[主要評価項目]PD-L1陽性集団(SP142によるPD-L1発現状況が1%以上)におけるOS[副次評価項目]無増悪生存期間(PFS)、奏効率(ORR)、安全性・層別化因子:選択された化学療法、内臓転移(肺、肝臓)の有無、PD-L1発現状況※2018年1月からPD-L1が陰性でも陽性でも登録されたが、IMpassion130試験の結果により、2019年8月からはPD-L1陽性患者に限定された。 主な結果は以下のとおり。・合計594例が登録され、うちPD-L1陽性は354例(アテゾリズマブ群177例、プラセボ群177例)であった。・両群の患者特性はバランスがとれていた。アテゾリズマブ群は年齢中央値48歳(範囲:23~77)、無病期間が6ヵ月未満であったのは66%、肺および/または肝転移ありは60%であった。プラセボ群はそれぞれ48歳(範囲:25~83)、69%、62%であった。両群ともに治験医師選択の化学療法としてカルボプラチン+ゲムシタビンが選択されたのは73%であった。・追跡期間中央値9.8ヵ月時点で、アテゾリズマブ上乗せによるPD-L1陽性患者のOSの有意な改善は認められなかった(ハザード比[HR]:0.93[95%信頼区間[CI]:0.73~1.20]、p=0.59)。 -アテゾリズマブ群:OSイベント発生70%、OS中央値12.1ヵ月(95%CI:10.1~15.1) -プラセボ群:OSイベント発生72%、OS中央値11.2ヵ月(95%CI:9.0~13.3)・PFS中央値は、アテゾリズマブ群4.2ヵ月(95%CI:3.7~5.6)、プラセボ群3.6ヵ月(95%CI:3.4~4.2)で有意差は認められなかった(HR:0.84[95%CI:0.67~1.06])。・未確定のORRは、アテゾリズマブ群40%(95%CI:32~48)、プラセボ群28%(95%CI:21~36)であった(群間差11%[95%CI:>0~22])。・奏効期間中央値は、アテゾリズマブ群6.6ヵ月(95%CI:4.6~8.0)、プラセボ群4.1ヵ月(95%CI:3.5~5.8)であった(HR:0.73[95%CI:0.48~1.11])。・これらの結果は、PD-L1陰性集団を含む修正ITT集団でも同様の傾向にあった。・安全性解析集団(587例)における有害事象の発現率は両群でおおむね同等で、新たな安全性シグナルは報告されなかった。

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未治療MCL、免疫化学療法+イブルチニブ±ASCT(TRIANGLE)/Lancet

 未治療・65歳以下のマントル細胞リンパ腫(MCL)患者において、自家造血幹細胞移植(ASCT)+免疫化学療法へのイブルチニブ追加はASCT+免疫化学療法に対する優越性を示したが、ASCT後のイブルチニブの投与継続により有害事象が増加した。ドイツ・ミュンヘン大学病院のMartin Dreyling氏らEuropean Mantle Cell Lymphoma Networkが欧州13ヵ国およびイスラエルの165施設で実施した無作為化非盲検第III相優越性試験「TRIANGLE試験」の結果を報告した。結果を踏まえて著者は、「導入療法および維持療法にイブルチニブを追加することは、65歳以下のMCL患者の1次治療の一部とすべきで、イブルチニブを含むレジメンにASCTを追加するかどうかはまだ決定されていない」とまとめている。Lancet誌オンライン版2024年5月2日号掲載の報告。治療成功生存期間(FFS)を評価 TRIANGLE試験の対象は、組織学的にMCLと確定診断された未治療の、Ann Arbor病期II~IV、測定可能な病変が1つ以上、Eastern Cooperative Oncology Groupのパフォーマンスステータスが2以下の、ASCTの適応がある18~65歳の患者であった。 研究グループは、被験者をASCT+免疫化学療法群(A群)、ASCT+免疫化学療法+イブルチニブ群(A+I群)、免疫化学療法+イブルチニブ群(I群)の3群に、試験グループおよびMCL国際予後指標リスクで層別化し、1対1対1の割合で無作為に割り付けた。 3群とも導入免疫化学療法は、R-CHOP(リツキシマブ+シクロホスファミド+ドキソルビシン+ビンクリスチン+prednisone)と、R-DHAP(リツキシマブ+デキサメタゾン+シタラビン+シスプラチン)またはR-DHAOx(リツキシマブ+デキサメタゾン+シタラビン+オキサリプラチン)を交互に6サイクル行った。A+I群およびI群ではR-CHOPサイクルの1~19日目にイブルチニブ(560mg/日経口投与)を追加した。その後、A群およびA+I群ではASCTを施行し、A+I群ではASCT後に、I群では導入免疫化学療法に引き続き、イブルチニブによる維持療法(560mg/日経口投与)を2年間継続した。なお、3群とも、リツキシマブ維持療法を3年間追加することが可能であった。 主要評価項目は、治験責任医師評価による治療成功生存期間(failure-free survival:FFS[導入免疫化学療法終了時に安定、進行、または死亡のうちいずれかが最初に起こるまでの期間と定義])で、3つのペアワイズ片側ログランク検定により比較し、ITT解析を行った。 2016年7月29日~2020年12月28日に、計870例(男性662例、女性208例)が無作為化され(A群288例、A+I群292例、I群290例)、そのうち866例が導入療法を開始した。イブルチニブ併用+ASCTで3年治療成功生存率88%、ただしGrade3~5の有害事象が増加 追跡期間中央値31ヵ月において、3年FFS率はA群72%(95%信頼区間[CI]:67~79)、A+I群88%(84~92)であり、A+I群のA群に対する優越性が認められた(ハザード比[HR]:0.52、片側98.3%CI:0.00~0.86、片側p=0.0008)。一方、I群の3年FFS率は86%(95%CI:82~91)であり、A群のI群に対する優越性は示されなかった(HR:1.77、片側98.3%CI:0.00~3.76、片側p=0.9979)。A+I群とI群の比較検討は現在も進行中である。 有害事象については、導入療法中またはASCT中のGrade3~5の有害事象の発現率について、R-CHOP/R-DHAP療法とイブルチニブ併用R-CHOP/R-DHAP療法で差は認められなかった。 一方、維持療法中または追跡調査中においては、ASCT+イブルチニブ(A+I群)が、イブルチニブのみ(I群)やASCT(A群)と比較してGrade3~5の血液学的有害事象および感染症の発現率が高く、A+I群では血液学的有害事象50%(114/231例)、感染症25%(58/231例)、致死的感染症1%(2/231例)が、I群ではそれぞれ28%(74/269例)、19%(52/269例)、1%(2/269例)が、A群では21%(51/238例)、13%(32/238)、1%(3/238例)が報告された。

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薬剤溶出性バルーンがもたらす新たな世界(解説:山地杏平氏)

 パクリタキセルを用いた薬剤溶出性バルーン(商品名:Agent、 ボストン・サイエンティフィックジャパン)が、再狭窄に対する治療においてFDAで認可を受けるに当たり、通常のバルーンと比較するRCTが行われた。1次エンドポイントは、1年のIschemia-driven target lesion failureであり、予想通り、通常のバルーンでの28.6%のイベント発生率と比較し、Agentバルーンは17.9%と有意にイベント発生率は低く、これを受けて米国においてFDAで認可が得られた。 本邦では、2013年以降ビー・ブラウンのSeQuent Pleaseシリーズが、薬剤溶出性バルーンとして広く使われてきたが、こちらとAgentとを直接比較したAGENT Japan SV試験において、いずれの群もイベント発生率が低く、非劣性が示されることで、承認を受けている。 より新しい世代のバルーンを用いたボストン・サイエンティフィックジャパンのAgentは、通過性も良く、今まで治療が困難であった高度屈曲病変や、高度石灰化病変などにも使用が可能となることが予想される。一方で臨床研究に登録されるような症例は、そのような高リスク病変での治療は含まれておらず、その有用性については今後の知見が待たれる。さらには、これらのような薬剤溶出性バルーンを用いることで、その安全性が確認されれば、ステント留置に伴う遠隔期リスクが懸念される若年症例や、塞栓症リスクが高い症例において、ステント植え込みを行わないstrategyが可能となるかもしれない。

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薬剤コーティングバルーンでステントは不要となるか、不射之射の境地【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第71回

PCI発展の過程急性心筋梗塞や狭心症に代表される冠動脈疾患の治療では、冠動脈の流れを回復させるために冠血行再建が決定的に重要です。その方法として冠動脈バイパス手術(CABG)と、カテーテル治療である冠動脈インターベンション(PCI)があります。PCIの発展の過程は再狭窄をいかに克服するかが課題でした。再狭窄とはPCIで治療した冠動脈が再び狭くなることです。バルーンのみで病変を拡張していた時代は、再狭窄率が約50%でした。金属製ステント(BMS)が登場してからは約30%まで減少しましたが、それでも高い再狭窄率でした。再狭窄の要因は、ステント留置後に血管内の細胞が増殖しステントを覆ってしまい内腔が狭小化することです。この新生内膜の増殖抑制を治療ターゲットとして薬剤溶出ステント(DES)が開発されました。当初はステント血栓症などの問題もありましたが、DESの改良が進み再狭窄は劇的に改善されました。現在は、本邦だけでなく世界中でDESを用いたPCIが広く普及しています。「不射之射」皆さんは、「不射之射(ふしゃのしゃ)」という言葉をご存じでしょうか。小生の最も敬愛する作家である中島 敦の作品の『名人伝』に詳しく書かれています。中島 敦(1909~42年)は喘息により33歳という若さで没しています。『山月記』や『李陵』などが代表作ですが、その格調高い芸術性と引き締まった文章が魅力です。「名人伝」のあらすじを紹介します。紀元前3世紀に、中国の都で、天下第一の弓の名人を目指した紀昌(きしょう)という男がいました。伝説の弓の名人である甘蠅老師(かんようろうし)に勝負を挑みに出かけます。そこで、名人に想像を超えた境地を教えられます。弓の名人は、「弓」という道具を使わずに、「無形の弓」によって飛ぶ鳥を射落とすのです。「射之射」とは、弓で矢を射て鳥を撃ち落とすこと、 不射之射とは、矢を射ることなく射るのと同様の結果が得られることです。紀昌は、不射之射を9年かけて会得し都へ帰還します。「弓をとらない弓の名人」となった紀昌は、晩年には「弓」という道具の使い方も、名前すらも忘れてしまうという境地に到達したといいます。野球の川上 哲治氏は「打撃の神様」と言われた強打者で、日本プロ野球史上初の2,000安打を達成しました。全盛期には、ピッチャーの投げたボールが「止まって見えた」と言っていたそうです。このような境地に到達した者を名人と称賛し憧れるのが日本人です。ステントに代わる、薬剤コーティングバルーン(DCB)の登場日本におけるPCIで、注目されているコンセプトがステントレス PCIです。薬剤溶出ステント (DES) を留置するPCIは、冠動脈疾患の治療に革命をもたらし、最も行われている治療法の1つとなっています。しかし、DESは金属性のデバイスであり、その使用により冠動脈内に異物が永続的に留まるという制限があります。これを克服するために登場したのが、薬剤コーティングバルーン(DCB)です。このDCBによる治療は、金属製ステントを使用せず、バルーンに塗布されたパクリタキセルなどの薬剤を血管の壁に到達させて再狭窄を予防するものです。DCBによる、ステントレス PCI のメリットを考えてみましょう。DESを留置した後にはステント血栓症を防ぐため抗血小板薬の2剤併用(DAPT)が必要ですが、抗血小板薬1剤に比べて出血が増加します。高齢の患者では出血性の合併症が問題となります。DCBで治療すれば、抗血小板薬を減弱化することが可能となります。冠動脈CTによる評価法が普及していますが、金属製ステントがあるとノイズとなり冠動脈ステントの内部がよく見えません。PCI術後に何年か経ってから病変が進行し、CABGや2回目のPCIが必要になった場合には、既存の冠動脈ステントが治療の邪魔になる可能性があります。このような利点もありDCBの使用は増加しています。一方で、金属製ステントの効能の1つである、急性冠閉塞の予防効果がDCBでは期待できないことからリスク増加も懸念されます。DCBは、冠動脈内に異物を残さない治療を実現するもので、このコンセプトを、「leave nothing behind」と呼んでいます。欧米や諸外国においてもDCBを用いたステントレス PCIが話題として取り上げられることはありますが、日本ほど注目されている訳ではありません。日本でステントレス PCIへの議論が高まってきているのは、その背景に「不射之射」を尊ぶ東洋的思想があるように思います。ステントを用いずにPCIを完遂することが、あたかも弓矢を用いずに飛ぶ鳥を射落とすが如く捉えられているのです。冠動脈疾患の予防治療が将来さらに進化して、冠血行再建を必要とする患者がゼロとなり、CABGやPCIという道具や手技の名前を忘れてしまうという、「紀昌」の境地までに到達する日を夢みております。

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HER2+早期乳がん、PET pCR例の化学療法は省略可?(PHERGain)/Lancet

 HER2陽性の早期乳がん患者において、18F-FDGを用いたPET検査に基づく病理学的完全奏効(pCR)を評価指標とする、化学療法を追加しないトラスツズマブ+ペルツズマブ併用療法でのde-escalation戦略は、3年無浸潤疾患生存(iDFS)率に優れることが示された。スペイン・International Breast Cancer CenterのJose Manuel Perez-Garcia氏らが、第II相の無作為化非盲検試験「PHERGain試験」の結果を報告した。PHERGain試験は、HER2陽性の早期乳がん患者において、化学療法を追加しないトラスツズマブ+ペルツズマブ併用療法での治療の実現可能性、安全性、有効性を評価するための試験。結果を踏まえて著者は、「この戦略により、HER2陽性の早期乳がん患者の約3分の1が、化学療法を安全に省略可能であることが示された」とまとめている。Lancet誌オンライン版2024年4月3日号掲載の報告。PET実施はベースラインと治療2サイクル後 PHERGain試験は、欧州7ヵ国の45病院を通じて行われ、HER2陽性、StageI~IIIAの手術可能な浸潤性乳がんで、PETで評価可能な病変が1つ以上ある患者を、1対4の割合でA群とB群に無作為に割り付けた。 A群では、ドセタキセル(75mg/m2、静脈内投与)、カルボプラチン(AUC 6、静脈内投与)、トラスツズマブ(600mg固定用量、皮下投与)、およびペルツズマブ(初回投与840mg、その後420mgの維持用量、静脈内投与)(TCHPレジメン)を投与した。 B群では、トラスツズマブ+ペルツズマブ(±内分泌療法)併用療法を3週ごと投与した。 無作為化は、ホルモン受容体の状態で層別化。PETはベースラインと治療2サイクル後に実施し、中央判定で評価した。B群の患者は、治療中のPETの結果に従って治療を変更。2サイクル後のPET反応例は、トラスツズマブ+ペルツズマブ(±内分泌療法)併用療法を6サイクル継続し、PET無反応例にはTCHPを6サイクル投与した。術後、B群でpCRを達成した患者は、トラスツズマブ+ペルツズマブ(±内分泌療法)併用療法を10サイクル投与し、pCRを達成しなかった患者は、TCHPを6サイクル、トラスツズマブ+ペルツズマブ(±内分泌療法)併用療法を4サイクル投与した。PET無反応例は、トラスツズマブ+ペルツズマブ(±内分泌療法)併用療法を10サイクル投与した。 主要評価項目は、治療2サイクル後のB群のpCR(結果は既報[37.9%]1))と、B群の3年iDFS率だった。本論では、後者の結果が報告されている。有害事象の発現はグループBで低率に 2017年6月26日~2019年4月24日に、356例が無作為化された(A群71例、B群285例)。手術を受けた患者の割合は、A群が89%(63例)、B群が94%(267例)。2回目の解析時までの追跡期間中央値は43.3ヵ月だった。 主要評価項目であるB群の3年iDFS率は、94.8%(95%信頼区間[CI]:91.4~97.1)だった(p=0.001)。 治療関連有害事象(TRAE)および重篤な有害事象(SAE)は、A群がB群より高率だった(Grade3以上発現率:62% vs.33%、SAE:28% vs.14%)。B群のPET反応例でpCRが認められた患者は、Grade3以上のTRAEの発現率は1%と最も低く、SAEはみられなかった。

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