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誤嚥性肺炎に関連する抗コリン薬~日本医薬品副作用データ

 日本の超高齢化社会は、とくに高齢者の誤嚥性肺炎のマネジメントに関して、大きな課題を呈している。大阪・藤立病院の上田 章人氏らは、主に日本医薬品副作用(JADER)データベースを用いて、抗コリン薬使用と誤嚥性肺炎の発生率との関連を調査した。Respiratory Investigation誌2024年11月号の報告。 2004年第1四半期〜2023年第3四半期のJADERデータベースより抽出した、60歳以上の誤嚥性肺炎2,367例のデータを分析に用いた。シグナル検出による報告オッズ比を用いて、誤嚥性肺炎と抗コリンリスクスケールに記載されている49の薬剤との関連を評価した。これらの関連性を検証するため、MEDLINEとコクランライブラリーの調査結果を組み込んだスコープレビューが実施された。 主な結果は以下のとおり。・一次解析では、クロザピン、ハロペリドール、リスペリドン、クエチアピン、オランザピンなど特定の薬剤に関連する誤嚥性肺炎リスクの増加が認められた。・20の薬剤が、誤嚥性肺炎リスク増加と有意に関連していた。・とくに高齢者などの高リスク集団や統合失調症、パーキンソン病などの患者において、これらの薬剤のドーパミンブロック作用を考慮することの重要性が示唆された。 著者らは「誤嚥性肺炎リスクを軽減するためには、クロザピン、ハロペリドール、リスペリドン、クエチアピン、オランザピンなどの強力なドーパミンブロック作用を有する抗コリン薬を注意深くモニタリングする必要がある。これらの関連をさらに調査するためにも、今後の観察研究や介入研究が求められる」と結論付けている。

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高齢者の便秘症放置は予後不良のリスクに/ヴィアトリス

 ヴィアトリス製薬は、「『便通異常症診療ガイドライン』改訂1年を踏まえた慢性便秘症治療の新しい当たり前」をテーマに都内でメディアセミナーを開催した。セミナーでは、とくに高齢者に多い慢性便秘症についてガイドラインの作成に携わった専門医が便秘症の概要と高齢者に多い便秘症とその介護についてレクチャーを行った。便秘は循環器疾患や脳血管疾患のリスク 「慢性便秘症」をテーマに伊原 栄吉氏(九州大学大学院医学研究院病態制御内科学 准教授)が、便秘症の疾患概要、排便の仕組み、診療ガイドラインの内容、最新の慢性便秘症の治療について説明した。 最新の研究では、便秘は循環器や脳血管疾患などの重篤な疾患とも関連があり、排便回数が4日に1回以下の場合、そのリスクが上昇することが報告されている1)。便秘の有訴率は、60歳以下の女性に多いが、高齢者ではその性差はなくなり、高齢者の25%は便秘に悩んでいる。 排便は、消化管の蠕動運動と腸の水分調節が大きな因子となり、この両方に胆汁酸が関連することが知られている。そして、結腸からの通過時間と直腸の排便機能のどちらかに問題があると便秘となる。便の形状も重要であり、ブリストル便形状スケールの4(表面なめらか、やわらかいソーセージ様)が理想的な形状であり、これ以外の形状では排便で弊害をもたらす。こうした仕組みで、高齢者では先述の水の調整機能の低下や結腸蠕動の低下、直腸・肛門排便機能の低下により便秘になりやすいことが知られている2)。新しい診療ガイドラインのポイント 次に診療ガイドラインの改訂ポイントについて触れ、「便秘症と慢性便秘症の定義の改訂」、「新しい慢性便秘症治療薬を含めた診療フローチャートの作成」、「オピオイド誘発性便秘症の治療方針の提示」の3項目が大きく改訂、追加されたことを述べた。 とくに慢性便秘症では「長期生命予後に関連する」ことが追加記載されたほか、慢性便秘症診療のフローチャートが作成され、機能性便秘症とオピオイド誘発性便秘などの診療が区別された。 慢性便秘症の治療目的は、排便回数や症状改善、QOLの向上から「残便感のないスッキリ便」と「便形状の正常化」へシフトしている。また、診療では、まず大腸がんが隠れていないか鑑別診断を行い、「便が出ないか、出せないのか」の診断へと進んでいく。 通常の原因は結腸の運動が弱くなることで排便に問題があるケースが多く、治療では食事療法(3食摂取/適度な水分/食物繊維を多く、脂肪分を少なくなど)と生活習慣改善(生活のリズム/十分な睡眠/便意を我慢しない/適度な運動と休息など)がまず指導される。 これらで改善しない場合に内服薬治療として、酸化マグネシウム薬(腎臓機能低下者には使用しない)などの腸に水を引く治療薬が第1選択薬として使用される。  さらに改善しない場合には、新しい便秘薬として、上皮機能変容薬と胆汁酸トランスポーター阻害薬の使用が考慮され、ケースによっては短期間頓用として刺激性下剤の追加も考慮される。とくに刺激性下剤は、「頻用することで大腸などの蠕動運動を低下させ、さらなる便秘を誘発するリスクがあるため短期間で止めるべき」と伊原氏は注意を促す。 最後に伊原氏は「生活習慣改善・食事療法に非刺激性下剤で改善せず、刺激性下剤を使用しないと排便できないケースでは、医療機関を受診することを勧める。消化管を中心に体のバランスは維持されるので、便秘治療は重要」と述べ、講演を終えた。高齢者の便秘は、時に死亡のリスクへつながる 「たかが便秘? 高齢者便秘とその介護者の“便秘介護”」をテーマに、中島 淳氏(横浜市立大学大学院医学研究科 肝胆膵消化器病学教室 主任教授)が高齢者の便秘診療について講演を行った。 高齢者は加齢による排便機能の低下などにより70歳以上で男女ともに便秘症の患者が増加する。とくに高齢者では、基礎疾患の治療に伴う「薬剤性の便秘」が問題となっており、糖尿病や消化器疾患の治療薬での便秘症状が多いという。また、高齢者では便の形状も重要で、ブリストル便形状スケール(4の正常便が理想)の1~3の硬い便だと排便時のいきみなどで血圧上昇が起こり心血管系疾患を誘発するリスクとなる。一方、便スケール5~6の軟便だと本人も不快であるばかりでなく、介護状態では介護者にも負担をかけると指摘する3)。そのほか、高齢者はトイレで心停止などを起こすリスクがあり、その際家人などに発見される確率も低いという4)。また、排便頻度と循環器系疾患の死亡リスクも相関するとされ、排便のいきみが血圧の変動に影響することも指摘されているほか、近年の研究から便秘がパーキンソン病の発症前駆期にみられる症状であることや、慢性腎臓病の累積発症では便秘がリスクの1つになっている可能性が示唆されていることから、高齢者の便秘(慢性便秘症)はきちんと治療する必要があると指摘する。在宅患者の便秘ケアでは介護者のQOLも視野に 2017年時点で在宅医療を受けている患者は約18万人に上り、年々増加しており、在宅医療を受診している56.9%に便秘がみられるというレポートがある5)。在宅患者が慢性便秘症になる要因としては、先述の加齢に伴う身体変化に加え、四肢機能障害や自室からトイレまでの距離、自力での排便の困難さなど複合的な要因で起こることが知られている。 そして、緩和ケア領域でのマネジメント目標として「快適かつ満足のいく排便習慣の確保」、「排便習慣の自立維持」、「腹痛などの便秘関連症状の予防」の3項目が掲げられている。また、便秘の予防として「プライバシーが保たれ排便が行えるように配慮すること」、「水分や食物繊維を無理のない範囲で摂取すること」、「運動を無理のない範囲で行うこと」、「(禁忌などでない場合)腹部マッサージを行うこと」の4つが提案されている6)。 そのほか、排便管理は、患者家族などの介護する側にも身体的、心理的、社会・経済的負担をかけることにもつながるので、介護者のQOLも視野に入れた排便管理が望まれるという。 慢性便秘症の治療薬としては、浸透圧性下剤が推奨されているが、マグネシウムを含む塩類下剤の使用では定期的なマグネシウム測定が推奨されている。2020年に厚生労働省からもマグネシウム血症へのリスクを考慮した適正使用の文書も発出され、注意喚起がされている。また、中島氏は「刺激性下剤については、有効ではあるものの、日常的に使うと依存性になり、効果減弱となるため、できるだけ必要最小限の使用に止め、頓用か短期間の使用が望ましい」と提唱した。 最後に中島氏は「高齢者の便秘対策は生活指導・食事療法が基本であり、薬物療法では、用量調節が可能な薬剤の考慮が必要。患者の特性に応じた薬剤選択を行い、患者だけでなく、介護者のQOLも視野に便秘治療を行うことが重要」と語り、レクチャーを終えた。■参考文献1)Chang JY, et al. Am J Gastroenterol. 2010;105:822-832.2)伊原栄吉. 日本臨床. 2023;81:242-249.3)Ohkubo H, et al. Digestion. 2021;102:147-154. 4)Inamasu J, et al. Environ Health Prev Med. 2013;18:130-135. 5)Komiya H, et al. Geriatr Gerontol Int. 2019;19:277-281. 6)馬見塚勝郎. 診断と治療. 2018;106:833-838.

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病気が潜んでいる“ふるえ”とは

患者さん、それは…ふるえ かもしれません!「ふるえ」とは、医学用語で振戦(しんせん)とも呼ばれます。主に手足、頭、声で起こります。寒さや緊張などのように生理現象で生じるものもあれば、パーキンソン病や本態性振戦という病気が原因で生じるものもあるので、以下のことが該当するか確認してみましょう。●いつ、症状が表れますか?□安静時 □ある一定の姿勢を保持した状態●症状が出るのは、どの部位ですか?□手指□声(のど)□頭部□動作時(箸やペンを持つ…)□顔面□足□体幹◆ある病気が潜んでいる“手のふるえ”は…• 安静時に手がふるえれば、パーキンソン病を疑います• 手のふるえで字がうまく書けないときは、本態性振戦であることが多いです• 甲状腺機能亢進症や尿毒症を発症していると、手がふるえます出典:今日の治療指針2020、MSDマニュアルプロフェッショナル版_振戦監修:福島県立医科大学 会津医療センター 総合内科 山中 克郎氏Copyright © 2022 CareNet,Inc. All rights reserved.

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15の診断名・11の内服薬―この薬は本当に必要?【こんなときどうする?高齢者診療】第5回

CareNeTVスクール「Dr.樋口の老年医学オンラインサロン」で2024年8月に扱ったテーマ「高齢者への使用を避けたい薬」から、高齢者診療に役立つトピックをお届けします。老年医学の型「5つのM」の3つめにあたるのが「薬」です。患者の主訴を聞くときは、必ず薬の影響を念頭に置くのが老年医学のスタンダード。どのように診療・ケアに役立つのか、症例から考えてみましょう。90歳男性。初診外来に15種類の診断名と、内服薬11種類を伴って来院。【診断名】2型糖尿病、心不全、高血圧、冠動脈疾患、高脂血症、心房細動、COPD、白内障、逆流性食道炎、難聴、骨粗鬆症、変形性膝関節症、爪白癬、認知症、抑うつ【服用中の薬剤】処方薬(スタチン、アムロジピン、リシノプリル、ラシックス、グリメピリド、メトホルミン、アルプラゾラム、オメプラゾール)市販薬(抗ヒスタミン薬、鎮痛薬、便秘薬)病気のデパートのような診断名の多さです。薬の数は、5剤以上で多剤併用とするポリファーマシーの基準1)をはるかに超えています。この症例を「これらの診断名は正しいのか?」、「処方されている薬は必要だったのか?」このふたつの点から整理していきましょう。初診の高齢者には、必ず薬の副作用を疑った診察を!私は高齢者の診療で、コモンな老年症候群と同時に、さまざまな訴えや症状が薬の副作用である可能性を考慮にいれて診察しています。なぜなら、老年症候群と薬の副作用で生じる症状はとても似ているからです。たとえば、認知機能低下、抑うつ、起立性低血圧、転倒、高血圧、排尿障害、便秘、パーキンソン症状など2)があります。症状が多くて覚えられないという方にもおすすめのアセスメント方法は、第2回で解説したDEEP-INを使うことです。これに沿って問診する際、とくにD(認知機能)、P(身体機能)、I(失禁)、N(栄養状態)の機能低下や症状が服用している薬と関連していないか意識的に問診することで診療が効率的になります。処方カスケードを見つけ、不要な薬を特定するさて、はっきりしない既往歴や薬があまりに多いときは処方カスケードの可能性も考えます。薬剤による副作用で出現した症状に新しく診断名がついて、対処するための処方が追加されつづける流れを処方カスケードといいます。この患者では、変形性膝関節症に対する鎮痛薬(NSAIDs)→NSAIDsによる逆流性食道炎→制酸薬といったカスケードや、NSAIDs→血圧上昇→高血圧症の診断→降圧薬(アムロジピン)→下肢のむくみ→心不全疑い→利尿薬→血中尿酸値上昇→痛風発作→痛風薬→急性腎不全という流れが考えられます。このような流れで診断名や処方薬が増えたと想定すると、カスケードが起こる前は以下の診断名で、必要だったのはこれらの処方薬ではと考えることができます。90歳男性。初診外来に15種類の診断名と、内服薬11種類を伴って来院。【診断名】2型糖尿病、心不全、高血圧、冠動脈疾患、高脂血症、心房細動、COPD、白内障、逆流性食道炎、難聴、骨粗鬆症、変形性膝関節症、爪白癬、認知症、抑うつ【服用中の薬剤】処方薬(スタチン、アムロジピン、リシノプリル、ラシックス、グリメピリド、メトホルミン、アルプラゾラム、オメプラゾール)市販薬(抗ヒスタミン薬、鎮痛薬、便秘薬)減薬の5ステップ減らせそうな薬の検討がついたら以下の5つをもとに減薬するかどうかを考えましょう。(1)中止/減量することを検討できそうな薬に注目する(2)利益と不利益を洗い出す(3)減薬が可能な状況か、できないとするとなぜか、を確認する(4)病状や併存疾患、認知・身体機能本人の大切にしていることや周辺環境をもとに優先順位を決める(第1回・5つのMを参照)(5)減薬後のフォローアップ方法を考え、調整する患者に利益をもたらす介入にするために(2)~(4)のステップはとても重要です。効果が見込めない薬でも本人の思い入れが強く、中止・減量が難しい場合もあります。またフォローアップが行える環境でないと、本当は必要な薬を中断してしまって健康を害する状況を見過ごしてしまうかもしれません。フォローアップのない介入は患者の不利益につながりかねません。どのような薬であっても、これらのプロセスを踏むことを減薬成功の鍵としてぜひ覚えておいてください! 高齢者への処方・減量の原則実際に高齢者へ処方を開始したり、減量・中止したりする際には、「Stand by, Start low, Go slow」3)に沿って進めます。Stand byまず様子をみる。不要な薬を開始しない。効果が見込めない薬を使い始めない。効果はあるが発現まで時間のかかる薬を使い始めない。Start lowより安全性が高い薬を少量、効果が期待できる最小量から使う。副作用が起こる確率が高い場合は、代替薬がないか確認する。Go slow増量する場合は、少しづつ、ゆっくりと。(*例外はあり)複数の薬を同時に開始/中止しない現場での実感として、1度に変更・増量・減量する薬は基本的に2剤以下に留めると介入の効果をモニタリングしやすく、安全に減量・中止または必要な調整が行えます。開始や増量、または中止を数日も待てない状況は意外に多くありませんから、焦らず時間をかけることもまたポイントです。つまり3つの原則は、薬を開始・増量するときにも有用です。ぜひ皆さんの診療に役立ててみてください! よりリアルな減薬のポイントはオンラインサロンでサロンでは、ふらつき・転倒・記憶力低下を主訴に来院した8剤併用中の78歳女性のケースを例に、クイズ形式で介入のポイントをディスカッションしています。高齢者によく処方される薬剤の副作用・副効果の解説に加えて、転倒につながりやすい処方の組み合わせや、アセトアミノフェンが効かないときに何を処方するのか?アメリカでの最先端をお話いただいています。参考1)Danijela Gnjidic,et al. J Clin Epidemiol. 2012;65(9):989-95.2)樋口雅也ほか.あめいろぐ高齢者診療. 33. 2020. 丸善出版3)The 4Ms of Age Friendly Healthcare Delivery: Medications#104/Geriatric Fast Fact.上記サイトはstart low, go slow を含めた老年医学のまとめサイトです。翻訳ソフトなど用いてぜひ参照してみてください。実はオリジナルは「start low, go slow」だけなのですが、どうしても「診断して治療する」=検査・処方に走ってしまいがちな医師としての自分への自戒を込めて、stand by を追加して、反射的に処方しないことを忘れないようにしています。

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お腹や腕の脂肪は神経変性疾患リスクと関連

 お腹や腕の周りの脂肪が増えたという人は、アルツハイマー病やパーキンソン病といった神経変性疾患の発症リスクが高い可能性のあることが、四川大学(中国)のHuan Song氏らによる研究で示唆された。一方で、筋力が強い人では筋力が弱い人と比べて神経変性疾患のリスクが低い可能性のあることも示された。この研究結果は、「Neurology」に7月24日掲載された。 Song氏らは今回、UKバイオバンクの参加者41万2,691人(登録時の平均年齢56.0歳、女性55.1%)の健康上および身体上の特徴を平均で9.1年追跡したデータを分析した。参加者は研究登録時に、ウエストやヒップのほか、握力や骨密度、脂肪量、除脂肪体重などの測定を受けていた。 追跡期間中に8,224人がアルツハイマー病やその他のタイプの認知症、パーキンソン病などの神経変性疾患を発症していた。高血圧や喫煙、飲酒、糖尿病など脳に影響を与える可能性のある健康上のリスク因子を調整して分析した結果、お腹周りの脂肪量が多い(中心性肥満)人では、脂肪量が少ない人と比べて神経変性疾患のリスクが13%高いことが示された。また、腕周りの脂肪量が多い人も、脂肪量が少ない人と比べてリスクが18%高いことが判明した。その一方で、筋力が強い人では筋力が弱い人と比べてこれらの神経変性疾患のリスクが26%低いことが示された。 Song氏は、「この研究は、体組成を改善することで、これらの疾患の発症リスクを抑制できる可能性があることを浮き彫りにした」と話す。また同氏は、「健康的な筋肉を育てながらお腹や腕の周りの脂肪を減らすことにターゲットを絞った介入は、一般的な体重コントロールよりもこれらの疾患に対する予防効果が高いかもしれない」と付け加えている。 さらに媒介分析からは、腕や腹部の脂肪量が多いことと神経変性疾患との関連には、脳に有害な影響を与え得る心疾患や脳卒中のような心血管疾患が部分的に関与している可能性も示されたという。この点についてSong氏は、「アルツハイマー病やパーキンソン病、そのほかの神経変性疾患の発症を予防したり、発症を遅らせたりするには、こうした心血管疾患の管理が重要であることを明確に示したものだ」と「Neurology」の発行元である米国神経学会(AAN)のニュースリリースの中で指摘している。

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スタチンの使用はパーキンソン病リスクの低下と関連

 日本人高齢者を対象とした大規模研究により、スタチンの使用はパーキンソン病リスクの低下と有意に関連することが明らかとなった。LIFE Study(研究代表者:九州大学大学院医学研究院の福田治久氏)のデータを用いて、大阪大学大学院医学系研究科環境医学教室の北村哲久氏、戈三玉氏らが行った研究の結果であり、「Brain Communications」に6月4日掲載された。 パーキンソン病は年齢とともに罹患率が上昇し、遺伝的要因や環境要因などとの関連が指摘されている。また、脂質異常症治療薬であるスタチンとパーキンソン病との関連を示唆する研究もいくつか報告されているものの、それらの結果は一貫していない。血液脳関門を通過しやすい脂溶性スタチンと、水溶性スタチンの違いについても、十分には調査されていない。 そこで著者らは、LIFE Studyの2014年~2020年の健康関連データを用いて、コホート内症例対照研究を行った。65歳以上の高齢者で、追跡中にパーキンソン病を発症した人を症例、症例1人に対してコホート参加時の年齢、性別、市町村、参加年をマッチさせた対照5人を選択し、解析対象は症例9,397人と対照4万6,789人とした(女性53.6%)。スタチンは脂溶性(アトルバスタチン、フルバスタチン、ピタバスタチン、シンバスタチン)と水溶性(プラバスタチン、ロスバスタチン)に分類し、コホート参加時からの累積投与量の指標として、標準化1日投与量の合計(total standardized daily dose;TSDD)を算出した。 条件付きロジスティック回帰を用い、先行研究に基づいて併存疾患の有無を調整して解析した結果、スタチン使用は非使用と比較して、パーキンソン病リスクの低下(オッズ比0.61、95%信頼区間0.56~0.66)と有意に関連していることが明らかとなった。この関連は性別にかかわらず、男性(同0.62、0.54~0.70)と女性(同0.60、0.54~0.68)ともに認められた(交互作用P=0.71)。また、年齢層ごとに検討した場合も、65~74歳(同0.57、0.49~0.66)、75~84歳(同0.60、0.53~0.68)、85歳以上(同0.73、0.59~0.92)のいずれも同様の関連が認められた(交互作用P=0.17)。 全体として、スタチンの累積投与量が多いほどパーキンソン病リスクが低いことも明らかとなった。具体的には、TSDD 0(投与なし)の人と比較して、TSDD 1~30ではリスク上昇(同1.30、1.12~1.52)と関連していた一方で、TSDD 31~90(同0.77、0.64~0.92)、TSDD 91~180(同0.62、0.52~0.75)、TSDD 181以上(同0.30、0.25~0.35)ではリスク低下と関連していた。また、脂溶性スタチン(同0.62、0.54~0.71)と水溶性スタチン(同0.62、0.55~0.70)のどちらも、パーキンソン病リスク低下と関連していることが示された。 以上から著者らは、「日本人高齢者において、スタチン使用とパーキンソン病リスク低下との間に有意な関連が認められた。スタチンの累積投与量が多いほど、パーキンソン病の発症に対して予防効果を示した」と述べている。スタチンによる予防効果のメカニズムについては、脳動脈硬化の低下やドーパミン作動性神経細胞の生存などによる可能性が考えられるとして、この予防効果をより正確に評価するため、さらなる研究の必要性を指摘している。

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パーキンソン病の構音障害、音声治療LSVT LOUDが有効/BMJ

 パーキンソン病患者の構音障害の治療において、Lee Silverman音声治療(Lee Silverman voice treatment:LSVT)は、国民保健サービスの言語聴覚療法(NHS SLT)を行う場合やSLTを行わない場合(非介入)と比較して、構音障害の影響の軽減に有効であり、またNHS SLTは非介入と比較して有益性はないことが、英国・ノッティンガム大学のCatherine M. Sackley氏らPD COMM collaborative groupが実施した「PD COMM試験」で示された。研究の成果は、BMJ誌2024年7月10日号に掲載された。英国41施設の無作為化対照比較試験 PD COMM試験は、英国の41施設で実施した実践的な非盲検無作為化対照比較試験であり、2016年9月~2020年3月に参加者を募集した(英国国立衛生保健研究所[NIHR]医療技術評価[HTA]プログラムの助成を受けた)。 特発性のパーキンソン病と診断され、発話または発声の問題を有する患者388例を登録した。LSVT LOUDを受ける群に130例(平均年齢69.9歳、女性30%)、NHS SLTを受ける群に129例(69.7歳、22%)、SLTを行わない非介入群(対照群)に129例(70.2歳、26%)を無作為に割り付けた。 LSVT LOUDは、対面または遠隔で行う50分のセッションで構成され、週4回、4週間行い、自宅での練習は、治療日は1日1回、5~10分まで、非治療日は1日2回、15分までとした。NHS SLTの施行時間は、患者の必要に応じて担当のセラピストが決定し、練習も許容された。 主要アウトカムは、無作為化から3ヵ月の時点での自己申告によるvoice handicap index(VHI)の総スコアとし、ITT解析を行った。VHIは、患者報告によるコミュニケーションの困難さの影響を評価する尺度であり、0~120点(点数が低いほど状態が良好)でスコア化した。VHIの感情、機能、身体的側面でも同様の結果 VHI総スコアの平均値は、LSVT LOUD群がベースラインの44.6点から3ヵ月後には35.0点に、NHS SLT群は46.2点から44.4点に、対照群は44.3点から40.5点に低下した。 対照群に比べLSVT LOUD群は改善度が有意に良好で(補正後群間差:-8.0点、99%信頼区間[CI]:-13.3~-2.6、p<0.001)、NHS SLT群との比較でもLSVT LOUD群の改善度は有意に優れた(-9.6点、-14.9~-4.4、p<0.001)。 一方、NHS SLT群と対照群の間には有意差を認めなかった(補正後群間差:1.7点、99%CI:-3.8~7.1、p=0.43)。 VHIのサブスケールである感情的側面(LSVT LOUD群vs.対照群[p<0.001]、LSVT LOUD群vs.NHS SLT群[p<0.001]、NHS SLT群vs.対照群[p=0.78])、機能的側面(それぞれp<0.001、p<0.001、p=0.97)、身体的側面(p=0.04、p=0.003、p=0.38)についても、同様の結果が得られた。有害事象(主に声のかすれ)はLSVT LOUD群で多い 有害事象は、LSVT LOUD群で36例(28%)に93件、NHS SLT群で16例(12%)に46件発生し、対照群では発現しなかった。有害事象の大部分は声のかすれであり、NHS SLT群(45件)に比べLSVT LOUD群(80件)で多かった。重篤な有害事象の報告はなかった。 著者は、「本試験の結果は、臨床的意思決定の指針となるエビデンスをもたらし、パーキンソン病患者における言語聴覚療法のリソースの使用を最適化する必要性を強調するものである」「本試験の知見はまた、言語聴覚療法の提供が介護者に及ぼす影響についても詳しく検討するよう促すものであり、介護者を含むさらなる研究が、パーキンソン病患者に対する今後の言語聴覚療法によるケアを最適化する可能性がある」としている。

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特定の前立腺肥大症治療薬がレビー小体型認知症の予防に有効か

 特定の前立腺肥大症治療薬が、レビー小体型認知症のリスク低下に役立つ可能性のあることが新たな研究で示唆された。米アイオワ大学内科学分野のJacob Simmering氏らによるこの研究の詳細は、「Neurology」に6月19日掲載された。Simmering氏は、「レビー小体型認知症は、神経変性により生じる認知症としてはアルツハイマー病に次いで多いが、現時点では予防や治療のための薬剤がないため、今回の結果には心が躍った。既存の薬剤がこの衰弱性疾患の予防に有効であることが確認されれば、その影響を大幅に軽減できる可能性がある」と同大学のニュースリリースで述べている。 米国立老化研究所(NIA)によれば、米国でのレビー小体型認知症の患者数は100万人以上に上るという。レビー小体型認知症は、高度にリン酸化したα-シヌクレインと呼ばれるタンパク質が脳の神経細胞に凝集・沈着して形成されるレビー小体が原因で発症するとされている。レビー小体型認知症では、思考力や記憶力、運動機能が障害されるほか、幻視が生じる可能性もあり、実際に、80%以上の患者では実在しないものが見えるという。 前立腺肥大症の治療では、排尿障害を改善する治療薬として、前立腺と膀胱の筋肉を弛緩させる作用のあるα1受容体遮断薬のテラゾシン、ドキサゾシン、アルフゾシンが用いられている。研究グループによると、これらの薬剤にはまた、脳細胞のエネルギーとなるATP(アデノシン三リン酸)の産生に重要な酵素を活性化する作用もあり、過去の研究では、パーキンソン病においてこれらの薬剤が神経保護作用を有する可能性が示唆されているという。今回の研究では、パーキンソン病と密接に関連するレビー小体型認知症でもα1受容体遮断薬が同様の効果を示すのかが検討された。 Simmering氏らは、Merative Marketscanデータベースから、テラゾシン、ドキサゾシン、アルフゾシンのいずれかを使用している男性12万6,313人と、ATP産生を増大させない別の2種類の前立腺肥大症治療薬、すなわちα1受容体遮断薬のタムスロシンと5α-還元酵素阻害薬(5ARI)を使用している男性を抽出し(タムスロシン:24万2,716人、5ARI:13万872人)、レビー小体型認知症の発症リスクを比較した。 その結果、テラゾシン、ドキサゾシン、アルフゾシンのいずれかを使用している男性でのレビー小体型認知症の発症リスクは、タムスロシンを使用している男性よりも40%(ハザード比0.60、95%信頼区間0.50〜0.71)、5ARIを使用している男性よりも27%(同0.73、0.57〜0.93)低いことが明らかになった。 こうした結果を受けてSimmering氏は、「テラゾシン、ドキサゾシン、アルフゾシンの使用とレビー小体型認知症の発症リスク低下との関連を明らかにするためには、さらなる研究で長期にわたって追跡する必要がある。それでも、これらの薬剤が、高齢化に伴い多くの人が罹患する可能性のあるレビー小体型認知症に対して予防効果を持つことは期待しても良いように思う」と述べている。 研究グループは、本研究には男性しか参加していないことに触れ、「この結果が女性にも当てはまるのかどうかは不明だ」としている。NIAによると、レビー小体型認知症は女性よりも男性の方が罹患率がわずかに高いという。また、レビー小体型認知症は診断が難しいため、本研究では、全てのレビー小体型認知症の発症者が対象に含まれていなかった可能性があることにも言及している。

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人間の「脳内コンパス」の場所を特定か

 人間には、「脳内コンパス」ともいうべき、迷子にならないようにするための脳活動パターンがあることを突き止めたと、英バーミンガム大学心理学分野のBenjamin Griffiths氏らが報告した。Griffiths氏らは、空間の中での自分の位置を把握してナビゲートするために使用する体内のコンパスを人間の脳内で初めて特定したと話している。詳細は、「Nature Human Behaviour」に5月6日掲載された。この発見をきっかけに、アルツハイマー病やパーキンソン病といったナビゲーション機能や見当識がしばしば損なわれる疾患について解明が進む可能性がある。 Griffiths氏は、「自分が向かっている方向を把握することは非常に重要だ。自分がいる場所や向かっている方向に少しでも誤差があると悲惨なことになり得る」と言う。さらに同氏は、「鳥、ネズミ、コウモリなどの動物には、正しい方向に進むための神経回路があることが知られている。しかし、人間の脳が実世界でどのように対処しているのかについて分かっていることは驚くほど少ない」と話す。 人間の脳活動を追跡するためには、通常、被験者ができるだけ静止していることが求められる。しかし今回の研究では、52人の参加者を対象に、脳波(EEG)を測定する携帯型のデバイスとモーションキャプチャを使って、動き回る人々の脳波と頭部の動きを分析した。研究参加者は、頭部に携帯型EEGデバイスを装着した状態で、複数のコンピューターのモニターからの指示に応じて頭や目を動かし、その間の脳活動がEEGデバイスにより測定された。また、てんかんなどの脳の疾患のモニタリング目的で脳に電極を埋め込んだ別の10人の参加者にも同様の実験を実施した。 その結果、脳後部の中心領域できめ細かく調整された頭の方向に関する信号が確認された。また、その信号は、対象者が別の方角に頭を向ける直前に検出され、頭の向きの変化を予測できる特有のパターンを持っていることも明らかになった。Griffiths氏は、「これらの信号を読み取ることで、脳がどのようにナビゲーション情報を処理するのか、また、これらの信号が視覚的な目印など他の手がかりとどのように連動するのかに焦点を合わせることができる」と説明する。 また、Griffiths氏は、「われわれのアプローチは、これらの機能についての研究に新たな道を開くものであり、神経変性疾患の研究や、ロボット工学および人工知能(AI)におけるナビゲーション技術の改善にもつながる可能性がある」と付け加えている。 今後の研究についてGriffiths氏は、「今回の研究で得られた知見からさらに一歩進め、脳が時間をどのようにナビゲートしているのか、また、そのような脳の活動が記憶に関連しているのかどうかを解明することになるだろう」と話している。

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事例048 難病患者指導管理料(パーキンソン病)の漏れ【斬らレセプト シーズン3】

解説レセプトチェックシステムにて「パーキンソン病に対してB001 7(1)難病外来指導管理料が算定できます」とのメッセージが表示されていました。「特定医療費(指定難病)受給者証」を持参している患者が、記載された指定難病を主病として受診されている場合には、難病外来指導管理料(以下「同管理料」)が算定できます。レセプトの目視点検を行いました。レセプトの病名欄には「パーキンソン病」と症状の「振戦」が表示されています。「パーキンソン病」は、同管理料の対象ですが、「ホーン・ヤールの重症度分類3度以上で、生活機能障害度2度以上」と基準が付記されています。レセプトには基準に達していることのコメントはありません。このままでは、同導管理料の算定はできません。カルテを参照しました。患者は「特定医療費(指定難病)」の申請中であることが記載されていました。同管理料の算定要件に合致します。レセプトの傷病名に、標準病名表から選んだ「パーキンソン病Yahr3G20」を表示させ請求をしています。傷病名が「パーキンソン病」のみの場合は、基準に達していることのコメントが必須となります。この調べの過程で、身体状況にかかる補記の無い「パーキンソン」「パーキンソン症候群」のみの病名にて同管理料を認めないとする査定があったことがわかりました。医師には受給者証が無い場合には、疾患の鑑別と身体状況について補記をしていただけるようにお願いして請求漏れ防止対策としました。なお、特定医療費(指定難病)受給の基準に達していなくとも、指定難病を主病とする治療中、月ごとの医療費総額(10割)が3万3,330円を超える月が3月以上ある患者には、軽症高額該当(軽症者の特例)助成対象という負担軽減の特例があることを申し添えます。

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認知症の人と抗精神病薬、深層を読む(解説:岡村毅氏)

 実はこれは20年以上も延焼している問題だ。認知症の人のBPSD(行動心理症状)、たとえば自傷や他害、激しいイライラや怒り、幻覚といった症状は、本人にも介護者にも大変つらい体験である。非定型抗精神病薬(パーキンソン症候群などが比較的少ないとされる第2世代の抗精神病薬、具体的にはリスペリドン以降のもの)が精神科領域で使われ始めると、時を同じくして老年医学領域でも使われ始めたのは当然であった。もちろん、これは患者さんをいじめようと思って処方されたのではない。しかし、どうも肺炎や心不全などの有害事象につながっているのではということが指摘され始め、2005年に米国のFDAが死亡リスクを「ブラックボックス」で指摘してからは、使うべきではない、とされてきた。さまざまなガイドラインでも、認知症の人に抗精神病薬は使ってはならないとされている。 日本では、悪い医師が本当は処方してはならない抗精神病薬を処方して、けしからんという文脈で使われることが多い。 とは言うものの、実際には世界中で使われている。そもそも英国でもハロペリドールとリスペリドンはBPSDに対して正式に使える。 この論文は、英国のプライマリケアのデータベースを用いて、認知症と診断された人について、その後に抗精神病薬が処方された人と処方されていない人を比べたら、された人の肺炎、血栓症、心筋梗塞、心不全などのリスクが高くなったという報告である。やはり使うべきではない、という論文である。 大きなデータを扱う公衆衛生の論文では仕方がないが、いろいろ限界はある。そもそも用量がわからないデータである。一部の人が過剰に多い用量を出されており、それがリスクを上げている可能性は否定できない。また認知症に新たになった人を組み込むために、「認知症診断はついてないがドネペジルを処方されている人は除いた」とある。これは私が英国の臨床を知らないだけかもしれないが、意味がわからない。認知症でない人にドネペジルを処方することなどあるのだろうか? データセットの粗さを示しているのかもしれない。またBPSDの程度もわからない。身体疾患が悪化しているときは高次機能にも影響し、攻撃性が増すなどBPSDとして発現する可能性もある。因果はわからない。 と文句をつけたが、抗精神病薬をなるべく使うべきではない、というのは今や医療現場では常識である。 以下はあくまで個人の印象だが、シンプルに高齢者に慣れている医師は、抗精神病薬はあまりにも危険なのでなかなか使わない。どうしても使わねばならない時に、期間を限定して乾坤一擲に使う。めちゃくちゃに使っているのは、あまり高齢者に慣れていない医師が多いように思われる。 そもそも年を取って心も体も弱ってBPSDが出るのは、人間の本性であり「治せる」ものではない。老いて施設に入ることになった人においては、悲しみ、怒り、焦燥はあって当たり前で、いかに顕在化させないか、行動化させないか、ということだけが論点だ。 環境を変える(認知症の人に過ごしやすい物理環境にする、スタッフの接し方を認知症の特性を踏まえたものにする)ことが最重要である。それでもダメなら漢方、あるいは抗精神病薬以外の処方、それでもダメなら期間限定で抗精神病薬だろう。 こう書くと非道な医師だといわれてしまうかもしれないが、介護スタッフが暴力を振るわれたり、あるいは家族が疲弊したりするのを看過するほうが、よほど非道であろう。 というわけで結論は、「認知症の人に抗精神病薬は出すべきではない。肺炎や血栓症や心疾患のリスクが増えることは臨床家なら知っているし、今回の論文でも改めて示された。しかし、ケアが崩壊して本人もケアラーも破綻するくらいなら期間限定で使う」ということになろう。 延焼は止まらないようだ。だが、こうやって悩み続けるというのも「治せない」ことが前提であることが多い老年精神医学の、基本姿勢かもしれない。最後に「認知症の高齢者に抗精神病薬を処方するからには、しっかり悩み、苦しみながら処方せよ」と言っておこう。

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使用済みの油を使った揚げ物は脳に悪影響を及ぼす

 揚げ物はウエストを太くするだけでなく、脳にも悪影響を及ぼす可能性のあることが、ラットを用いた実験で示唆された。使用済みのゴマ油やヒマワリ油とともに餌を与え続けたラットでは肝臓や大腸に問題が生じ、その結果、脳の健康にも影響が及ぶことが明らかになった。タミル・ナードゥ中央大学(インド)のKathiresan Shanmugam氏は、「使用済みの油が脳の健康に及ぼす影響は、油を摂取したラットだけでなく、その子どもにも認められた」と述べている。この研究結果は、米国生化学・分子生物学会議(ASBMB 2024、3月23〜26日、米サンアントニオ)で発表された。 Shanmugam氏は、「高温で食べ物を揚げる調理法はいくつかの代謝疾患と関連付けられているが、揚げ油の摂取と健康への有害な影響に関する長期的な研究は実施されていない。われわれの知る限り、長期にわたる使用済み油の摂取が第一世代の子孫の神経変性を増加させるという報告は初めてだ」と話している。 研究グループは、食品は油で揚げることによりカロリーが大幅に増加する上に、再利用された揚げ油は、天然の抗酸化物質や健康上の利点の多くを失う一方、有害な化合物を増加させることが多いと説明する。今回、Shanmugam氏らは、揚げ油の長期にわたる摂取の影響を調べるため、雌の実験用ラットを30日にわたって、標準的な餌を与える群、未使用のゴマ油またはヒマワリ油0.1mLと標準的な餌を与える群、加熱使用済みのゴマ油またはヒマワリ油0.1mLと標準的な餌を食べる群の5群に分けた。餌の影響は、最初の子孫(第一世代)まで追跡された。 その結果、加熱使用済みのゴマ油またはヒマワリ油を摂取した群ではその他の群に比べて、総コレステロール、LDLコレステロール、およびTAG(トリアシルグリセロール)の値が有意に増加し、肝機能検査では、AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)値とALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)値の有意な上昇が認められた。また、これらの群では、炎症マーカーのHs-CRP(高感度C反応性タンパク質)値とLDH(乳酸脱水素酵素)値が有意に上昇し、RT-PCR検査では、抗酸化物質遺伝子SOD(スーパーオキシドディスムターゼ)とGPX(グルタチオンペルオキシダーゼ)の発現が有意に増加していることも示された。さらに、肝臓および大腸の組織学的解析では、加熱使用済みのゴマ油またはヒマワリ油を摂取した群では細胞構造に有意な損傷が見られた。ダメージを受けた大腸では、特定の細菌から放出される毒素であるエンドトキシンやリポ多糖に変化が生じ、「その結果、肝臓の脂質代謝が著しく変化し、重要な脳のオメガ-3脂肪酸であるDHAの輸送が減少し、これにより、これらのラットとその子孫では、神経変性が引き起こされた」とShanmugam氏は説明している。 Shanmugam氏は、「これらの結果は、使用済みの油の再利用が、肝臓・腸・脳の間の結合に影響を及ぼす可能性を示唆している」と述べている。ただし研究グループは、「これは初期の研究結果であり、動物実験の結果がヒトにも当てはまるとは限らない」と強調している。 研究グループは次の段階として、揚げ物の摂取がアルツハイマー病やパーキンソン病のような脳の病気、不安やうつ病のような気分障害に及ぼす潜在的な影響について研究したいと考えている。また、「これらの結果は、腸内細菌叢と脳の関係に関する新たな研究実施の可能性につながるものでもある」との見方を示している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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レム睡眠行動障害の男女差が明らかに

 レム睡眠行動障害の臨床的特徴を性別に着目して検討した結果、男性と比べて女性では、睡眠の質が悪く、抑うつ傾向が強いことが明らかとなった。愛知医科大学病院睡眠科の眞野まみこ氏らによる研究結果であり、「Journal of Clinical Medicine」に2月5日掲載された。 レム睡眠中には筋肉の活動が低下しているため、夢を見て、夢の中で行動しても手足や体は動かない。しかし、レム睡眠行動障害では筋肉の活動が抑制されず、夢の中でとっている行動がそのまま現実の行動として現れる。寝ながら殴りかかったり、暴れたりするなどの異常行動を伴い、本人や周囲の人が怪我をする危険もある。 また、レム睡眠行動障害はパーキンソン病やレビー小体型認知症などのリスク因子とされている。発症年齢の中央値は49歳と報告され、加齢とともに増加する。しかし、その特徴の男女差についてはまだ十分に研究されていない。 そこで著者らは、2013年5月~2022年3月に愛知医科大学病院睡眠科を受診し、終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)を用いてレム睡眠行動障害と診断された患者の臨床的特徴を後方視的に評価した。40歳未満の患者やパーキンソン病の患者などを除外し、研究対象は204人(男性133人、女性71人)となった。睡眠や抑うつなどに関する質問紙調査も行った。 その結果、男性は女性と比べて、年齢が有意に低く(平均67.9±8.0対70.5±8.2歳)、BMIが有意に高い(平均23.5±2.7対22.5±3.3)などの特徴が見られた。主観的評価では、男性と比べて女性の方が、睡眠の質が有意に悪く(ピッツバーグ睡眠質問票の平均得点:5.9±3.8対7.2±3.6)、抑うつ症状が有意に高かった(うつ病自己評価尺度の平均得点:38.0±8.7対41.7±8.5)。一方、男性の方が女性よりも、レム睡眠行動障害の症状は有意に高かった(スクリーニング問診票の平均得点:8.6±2.9対7.7±3.1)。 PSGによる客観的評価では、中途覚醒時間に男性と女性で有意な差は見られなかった(97.3±57.3対89.0±57.0分)。総睡眠時間に占めるノンレム睡眠のステージ1(N1)の割合(48.8±17.7対36.5±18.2%)およびステージ2(N2)の割合(32.1±16.4対45.4±17.4%)には有意差が認められた。最も深い睡眠段階であるステージ3(N3)の割合は、有意差はなかったものの、女性の方が高かった(0.4±1.4対1.0±2.9%)。レム睡眠時間の割合に有意差はなかった(18.7±7.7対17.1±6.6%)。無呼吸低呼吸指数(AHI:15.1±7.6対7.2±7.9回/時)および覚醒反応指数(ArI:29.5±16.3対22.3±11.8回/時)は、男性の方が有意に高かった。 さらに、ロジスティック回帰分析により、性別と睡眠の質および抑うつとの関連が検討された。年齢、BMI、AHI、ArIの差を調整した解析の結果、女性は睡眠の質の悪化(男性と比較したオッズ比2.03、95%信頼区間1.082~3.796)および抑うつ(同2.34、1.251~4.371)と有意に関連していることが明らかとなった。 研究の結論として著者らは、レム睡眠行動障害の女性は男性と比べて、PSGでN2とN3の割合が高かった一方で、主観的な睡眠の質は悪く、さらに抑うつ傾向が強いことも確認されたとしている。また、「これまで、レム睡眠行動障害が睡眠の質や抑うつに及ぼす影響についてはあまり注目されてこなかった。特に、女性患者の睡眠の質と抑うつに留意することは重要である」と述べている。

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認知症の修正可能な3大リスク因子

 認知症のリスク因子の中で修正可能なものとしては、糖尿病、大気汚染、飲酒という三つの因子の影響が特に大きいとする研究結果が報告された。英オックスフォード大学のGwenaelle Douaud氏らの研究によるもので、詳細は「Nature Communications」に3月27日掲載された。 Douaud氏らは脳画像データを用いて行った以前の研究で、アルツハイマー病やパーキンソン病、および加齢変化などに対して特に脆弱な神経ネットワークを特定している。このネットワークは、脳のほかの部分よりも遅れて思春期に発達し始め、高齢期になると変性が加速するという。今回の研究では、この脆弱な神経ネットワークの変性に関与している因子の特定を試みた。 研究には、英国で行われている一般住民対象大規模疫学研究「UKバイオバンク」の参加者のうち、脳画像データやさまざまなライフスタイル関連データがそろっている3万9,676人(平均年齢64±7歳)のデータを利用。認知症リスクに影響を及ぼし得る161の因子と、脆弱な神経ネットワークの変性との関連を検討した。161の因子のうち、遺伝的因子などの修正不能のもの以外は、食事、飲酒、喫煙、身体活動、睡眠、教育、社交性、大気汚染、体重、血圧、糖尿病、コレステロール、聴覚、炎症、抑うつという15種類に分類した。 年齢と性別の影響を調整後の解析により、脆弱な神経ネットワークの変性への影響が強い修正可能な因子として、医師により診断されている糖尿病(r=-0.054、P=1.13E-24)、2005年時点の居住環境の二酸化窒素濃度(r=-0.049、P=5.39E-20)、アルコール摂取頻度(r=-0.045、P=3.81E-17)という三つの因子が特定された。また、遺伝的背景は多かれ少なかれ、脆弱な神経ネットワークの変性に影響を与えていることも分かった。 Douaud氏は、「われわれは既に特定の脳領域が加齢変化の初期に変性することをつかんでいたが、今回の研究により、その領域は糖尿病と交通関連の大気汚染、および飲酒に対しても脆弱であることが示された。また、その領域の変性は心血管死、統合失調症、アルツハイマー病、パーキンソン病のリスクにも関連があるようだ」と述べている。 論文共著者の1人である米テキサス大学リオグランデバレー校のAnderson Winkler氏は、「今回の研究は、脳の『弱点』とも言える脆弱な神経ネットワークに生じる変性のリスク因子について、その寄与の程度を定量的かつ網羅的に評価し得たことに意義がある」としている。

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早期パーキンソン病へのGLP-1受容体作動薬、進行抑制効果を確認/NEJM

 診断後3年未満のパーキンソン病患者を対象とした糖尿病治療薬のGLP-1受容体作動薬リキシセナチド療法について、第II相のプラセボ対照無作為化二重盲検試験で、プラセボと比較して12ヵ月時点での運動障害の進行を抑制したことが示された。ただし、消化器系の副作用を伴った。フランス・トゥールーズ大学病院のWassilios G. Meissner氏らLIXIPARK Study Groupによる検討結果で、NEJM誌2024年4月4日号で発表された。リキシセナチドは、パーキンソン病のマウスモデルで神経保護特性を示すことが報告されていた。今回の結果を踏まえて著者は、「より長期かつ大規模な試験により、パーキンソン病患者に対するリキシセナチドの有効性および安全性を確認することが必要である」とまとめている。リキシセナチドを1日1回皮下投与、1年後のMDS-UPDRSパートIIIスコア変化を評価 試験は、パーキンソン病患者の運動障害進行に対するリキシセナチドの有効性を評価するため、パーキンソン病診断後3年未満で、対症薬の服用量が安定しており、運動合併症のない患者を無作為に2群に割り付け、一方にはリキシセナチドを1日1回皮下投与(当初14日間は10μg/日、その後は20μg/日)、もう一方にはプラセボを、それぞれ12ヵ月投与し、2ヵ月休薬した。 主要エンドポイントは、運動障害疾患学会・改訂版パーキンソン病統一スケール(MDS-UPDRS)のパートIIIスコア(範囲:0~132点、スコアが高いほど運動障害が大きい)のベースラインからの変化量で、12ヵ月時点で試験薬服薬中の患者を対象に評価した。 副次エンドポイントは、6ヵ月、12ヵ月、14ヵ月時点のMDS-UPDRSのその他のサブスコアや、レボドパ換算投与量などだった。スコア変化の群間差は3.08ポイントで有意な差 試験登録のスクリーニングは2018年2月~2020年3月に行われ、新型コロナウイルス感染症の影響を受け、計156例(各群78例)が登録された時点で組み入れ中止となった。ベースラインの両群の人口統計学的および臨床的特性は類似しており、典型的な早期パーキンソン病の被験者像であった。平均年齢はリキシセナチド群59.5±8.1歳、プラセボ群59.9±8.4歳、男性被験者は同56%、62%、平均診断後期間は1.4±0.8年、1.4±0.7年で、MDS-UPDRSパートIIIスコアは両群とも約15点(14.8±7.3点、15.5±7.8点)だった。 12ヵ月時点で、MDS-UPDRSパートIIIスコアの変化量は、リキシセナチド群では-0.04ポイント(障害の改善を示す)、プラセボ群では3.04ポイント(障害の悪化を示す)だった(群間差:3.08、95%信頼区間[CI]:0.86~5.30、p=0.007)。 2ヵ月の休薬期間後14ヵ月時点で、非服薬状態でのMDS-UPDRSパートIIIスコアの平均値は、リキシセナチド群17.7点(95%CI:15.7~19.7)、プラセボ群20.6(18.5~22.8)だった。 副次エンドポイントに関するその他の結果は、両群で大きな差は認められなかった。 リキシセナチド群の46%で悪心が、13%で嘔吐が報告された。

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パーキンソン病のオフ症状のため認知症薬の減量を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第59回

 今回は、第42回で紹介したパーキンソン病患者のその後の治療についてです。認知症症状とパーキンソン症状のバランスを考慮して、優先順位をつけて減量提案しました。パーキンソン病と認知症は、病態メカニズム上、どちらかの治療を優先するとどちらかの症状を悪化させかねない難しさがあります。患者さんが最も困っている症状が何であるかを丁寧に聴取して医師に話をしてみましょう。患者情報75歳、男性(施設在宅)基礎疾患パーキンソン病、レビー小体型認知症、脊柱管狭窄症、高血圧症介護度要介護2服薬管理施設管理処方内容(下記内服薬を一包化指示)1.アムロジピンOD錠5mg 1錠 分1 朝食後2.オルメサルタンOD錠20mg 1錠 分1 朝食後3.レボドパ・カルビドパ水和物錠 4.5錠 分3 朝昼夕食後4.ゾニサミドOD錠25mg 1錠 分1 朝食後5.リバスチグミン貼付薬18mg 1枚 朝貼付6.リマプロストアルファデクス錠5μg 6錠 分3 朝昼夕食後7.デュロキセチンカプセル20mg 1カプセル 分1 朝食後本症例のポイントこの患者さんは施設で生活しながら、隣町の専門医のいる総合病院に2ヵ月に1回、家族の送迎で通院しています。認知症が進行して空間認知機能の低下と複視から生活負担が増加し、前回の診察でリバスチグミン貼付薬が13.5mgから18mgに増量となりました。しかし、日中のオフタイムの頻度と強度が増加し、食事や入浴の介助途中でオフ症状が出て動けなくなることで介護負担が増加しました。また、施設では意識障害かどうかの判断がつかず、ご家族を臨時受診のために呼び出しても、施設に到着したときにはすでに症状が改善していることも多く、ご家族の負担も増加していました。考えられることは、リバスチグミン貼付薬の持続的なコリン作動(線条体のコリン系神経の亢進)により、ドパミンの作用がブロックされた影響です。そこで、まず施設スタッフに、オフ症状が出たときの動画を撮影してもらうよう協力依頼しました。また本人との面談で、認知機能低下に伴う症状(複視、空間認識低下)とパーキンソン症状(オフタイムによる運動症状)のどちらが心身の負担と感じているかを聴き取りました。本人としては、動けない時間があることで迷惑をかける頻度が高く、家族の負担になってしまう懸念から、運動症状をどうにかしたいという希望を聴き取りました。そこで医師にリバスチグミンの減量を提案することにしました。処方提案と経過診察に同行し、医師に施設スタッフから提供されたオフ症状時の動画を確認してもらうとともに、運動症状の頻度や強度が増強されていて、本人にも施設スタッフにも負担があることを報告しました。また、パーキンソン病治療と認知症治療の強度バランスから、リバスチグミンを減量することで現症状を緩和できないか提案しました。医師から患者に対し、リバスチグミンを減量することで空間認知や認知機能低下が進行する可能性はあるものの、今のオフ症状の負担を減らすことを優先する治療方針でよいか説明がありました。本人もそれでよいと了承を得たので、運動症状改善を優先にリバスチグミンを漸減中止する対応となりました。リバスチグミンを減量して1週間経過すると、施設からのオフ症状の報告がなくなりました。また、食事やベッド上の生活において空間認知の悪化はなく経過しています。今後もパーキンソン病と認知症の症状経過をみながら、負担を最小限に生活を維持できることを目標にフォローアップします。

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心臓18F-ドパミンPET検査でレビー小体病を予測できる可能性

 心臓の18F-ドパミンPET(陽電子放射断層撮影)により、後に中枢性レビー小体病と診断されるリスクのある人を同定できる可能性を示した研究が、「Journal of Clinical Investigation」に10月26日掲載された。 米国立衛生研究所(NIH)のDavid S. Goldstein氏らは、3つ以上のパーキンソン病のリスク因子を有する34人を対象に、最長7.5年間あるいはパーキンソン病と診断されるまでの期間中、心臓18F-ドパミンPET検査を1.5年間隔で実施した。 その結果、研究開始時に心臓PETでの18F-ドパミン由来の放射線濃度が低い対象者は9人、正常者は25人だった。7年間追跡し、放射線濃度が低かった9人のうち8人、正常だった11人のうち1人が、中枢性レビー小体病と診断された。レビー小体病と診断された9人全員が、診断前または診断時に18F-ドパミン由来の放射線濃度が低かったが、レビー小体病と診断されなかった25人のうち放射線濃度が一貫して低かったのは1人のみだった。 Goldstein氏は、「パーキンソン病やレビー小体型認知症の多くの症例で、病気のプロセスは実際には脳では始まっていないと考えられる。自律神経の異常により、病気の進行は最終的に脳に到達する。心臓でのノルエピネフリン消失は、レビー小体病での脳のドパミン消失を予測するもので、それに先立って生じる」と述べている。

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第199回 コロナ感染でくしゃみが生じる仕組みを発見/コロナ感染でドーパミン神経が老化する

コロナ感染でくしゃみが生じる仕組みを発見新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染でよく生じる症状の1つ、くしゃみを誘発する仕組みが見つかりました。SARS-CoV-2は手持ちのプロテアーゼPLpro(パパイン様プロテアーゼ)を頼りに複製します。そのPLproが感覚神経の一員である侵害受容神経を活性化してくしゃみを誘発することがマウスを使った検討で明らかになりました1)。ウイルス感染の別の主な症状である咳をPLproが促すかどうかは検討されませんでした。というのもマウスの咳を確かめようがなかったからです2)。しかしPLproが咳も引き起こしている可能性はありそうです。PLproは侵害受容神経で発現するイオンチャネルTRPA1を介した作用により、くしゃみや痛みを誘発することが今回の研究で示されました。TRPA1活性化の咳誘発作用が先立つ研究で知られており3)、PLproが咳も誘発するかどうかを調べることは価値がありそうです。PLproはSARS-CoV-2の複製に不可欠なことから、その阻害薬の開発が進んでいます。たとえばビタミンA誘導体イソトレチノンにPLpro阻害作用があると示唆されており、Clinicaltrials.govには同剤による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療の臨床試験がいくつか登録されています。また、米国・Sound Pharmaceuticals社の開発品ebselenもどうやらPLpro阻害作用があるらしく、COVID-19患者を対象にした2つの第II相試験が進行中です。今回の結果によるとそれらPLpro阻害薬はこれまでの見込み以上の症状緩和作用や感染の拡大を防ぐ作用を担いうるかもしれません。くしゃみを誘発するウイルスはほかにもありますが、そもそもウイルス感染のくしゃみの原因はこれまでわかっていませんでした。今回見つかった仕組みはSARS-CoV-2のみならず、そのほかのウイルス感染の症状や感染の伝播を減らす手段の開発にも役立ちそうです2)。コロナ感染でドーパミン神経が老化する続いて、SARS-CoV-2が神経に支障を来す仕組みを同定し、COVID-19患者のパーキンソン病症状の発生に注意する必要があることを示唆した研究成果を紹介します。COVID-19の嗅覚/味覚障害や頭痛などの神経異常はますます広く知られるようになっています。神経のSARS-CoV-2感染のしやすさは一様ではないらしく、たとえばiPS細胞(人工多能性幹細胞)から作ったドーパミン放出(DA)神経はSARS-CoV-2感染を許し、皮質神経はそうでないことが先立つ研究で示されています。新たな研究の結果、SARS-CoV-2感染したiPS細胞由来DA神経はパーキンソン病と関連する老化状態に陥ることが示されました4,5)。SARS-CoV-2感染で老化経路の活性化がみられたのはDA神経細胞のみで、肺を模す組織(肺オルガノイド)、膵臓細胞、肝臓オルガノイド、心臓細胞のSARS-CoV-2感染では老化経路遺伝子の有意な働きは認められませんでした。そういう神経老化を防ぎうる手段も早くも同定されました。検討されたのは米国FDA承認薬一揃いで、まずそれらをiPS細胞由来DA神経に与え、次にSARS-CoV-2を加えた後に細胞老化の生理指標βガラクトシダーゼ(β-gal)活性が測定されました。その結果やほかの検討により、3つの薬・リルゾール、イマチニブ、メトホルミンがDA神経へのSARS-CoV-2感染を阻止してその老化を防ぐことが判明しました。筋萎縮性側索硬化症(ALS)治療に使われるリルゾールとSARS-CoV-2感染の関わりは知られていませんが、イマチニブのSARS-CoV-2阻止作用は肺オルガノイドを使った先立つ研究で確認されています。メトホルミンといえばSARS-CoV-2感染した肥満や2型糖尿病患者の死亡率低下と同剤使用の関連が示されており、COVID-19治療効果を担いうることが知られています。それら薬剤がSARS-CoV-2感染に伴う神経病変を解消しうるかどうかは今後調べる価値がありそうです。また、SARS-CoV-2感染した人にパーキンソン病関連症状が発生していないかどうかを注意して観察する必要がありそうです。パーキンソン病で損傷を受けやすいのが脳の黒質のDA神経A9型であるのと同様に、そのA9型はSARS-CoV-2にどうやらとくに影響を受けやすいことが今回の研究で示唆されています。参考1)Mali SS, et al. bioRxiv. 2024 Jan 11. [Epub ahead of print]2)Why does COVID-19 make you sneeze? / Science3)Grace MS, et al. Pulm Pharmacol Ther. 2011;24:286-288.4)Yang L, et al. Cell Stem Cell. 2024 Jan 10. [Epub ahead of print]5)SARS-CoV-2 Can Infect Dopamine Neurons Causing Senescence / Weill Cornell Medicine

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日本人高齢者における抗コリン薬使用と認知症リスク~LIFE研究

 抗コリン薬が認知機能障害を引き起こすことを調査した研究は、いくつか報告されている。しかし、日本の超高齢社会において、認知症リスクと抗コリン薬の関連は十分に研究されていない。大阪大学のYuki Okita氏らは、日本の高齢者における抗コリン薬と認知症リスクとの関連を評価するため本研究を実施した。International Journal of Geriatric Psychiatry誌2023年12月号の報告。 2014~20年の日本のレセプトデータを含むLIFE研究(Longevity Improvement & Fair Evidence Study)のデータを用いて、ネステッドケースコントロール研究を実施した。対象は、認知症患者6万6,478例および、年齢、性別、市区町村、コホート登録年がマッチした65歳以上の対照群32万8,919例。1次曝露は、コホート登録日からイベント発生日またはそれに一致したインデックス日までに処方された抗コリン薬の累計用量(患者ごとの標準化された1日当たりの抗コリン薬総投与量)であり、各処方の抗コリン薬各種の総用量を加算し、WHOが定義した1日の用量値で除算して割り出した。抗コリン薬の累計曝露に関連する認知症のオッズ比(OR)の算出には、交絡変数で調整した条件付きロジスティック回帰を用いた。 主な結果は以下のとおり。・インデックス日の平均年齢は84.3±6.9歳であり、女性の割合は62.1%であった。・コホート登録日からイベント発生日またはインデックス日までに1種類以上の抗コリン薬が処方された割合は、認知症患者で18.8%、対照群で13.7%であった。・多変量調整モデルでは、抗コリン薬を処方されていた人は、認知症と診断されるORが有意に高かった(調整OR:1.50、95%信頼区間:1.47~1.54)。・完全多変量調整モデルでは、抗コリン作用を有する薬剤の中でも、抗うつ薬、抗パーキンソン病薬、抗精神病薬、膀胱に対する抗ムスカリン薬の使用で、認知症リスクの有意な増加が確認された。 著者らは「日本の高齢者が使用するいくつかの抗コリン薬は、認知症リスクの増加と関連している」とし、「これらの集団に対して抗コリン薬を使用する際には、ベネフィットと並び、潜在的なリスクを考慮する必要がある」としている。

40.

アルツハイマー病に対する薬物療法~FDA承認薬の手引き

 近年、認知症の有病率は高まっており、患者および介護者のQOLを向上させるためには、認知症の病態生理学および治療法をより深く理解することが、ますます重要となる。神経変性疾患であるアルツハイマー病は、高齢者における健忘性認知症の最も一般的な病態である。アルツハイマー病の病態生理学は、アミロイドベータ(Aβ)プラークの凝集とタウ蛋白の過剰なリン酸化に起因すると考えられる。以前の治療法は、非特異的な方法で脳灌流を増加させることを目的としていた。その後、脳内の神経伝達物質の不均衡を是正することに焦点が当てられてきた。そして、新規治療では、凝集したAβプラークに作用し疾患進行を抑制するように変わってきている。しかし、アルツハイマー病に使用されるすべての薬剤が、米国食品医薬品局(FDA)の承認を取得しているわけではない。インド理科大学院Ashvin Varadharajan氏らは、研究者および現役の臨床医のために、アルツハイマー病の治療においてFDAが承認している薬剤を分類し、要約を行った。Journal of Neurosciences in Rural Practice誌2023年10~12月号の報告。 主な結果は以下のとおり。・認知症の症状を緩和するための薬剤は、認知症の行動・心理症状(BPSD)と認知機能低下の緩和を目的とした薬剤に分類可能である。・BPSDに対する薬剤には、認知症に伴うアジテーションの治療に対する1日1回投与の抗精神病薬ブレクスピプラゾール、睡眠障害の治療に用いられるオレキシン受容体拮抗薬スボレキサントが含まれる。・認知機能低下に対する薬剤には、ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミンなどのコリンエステラーゼ阻害薬とメマンチンなどのグルタミン酸阻害薬が含まれる。・ドネペジルは、最も一般的に使用されている薬剤であり、安価で忍容性が良好で、1日1回経口投与および週1回の経皮吸収投与が可能である。アセチルコリンレベルを増加させ、希突起膠細胞の分化を促進し、Aβ毒性保護効果を示す。しかし、心臓伝導系の副作用が報告されているため、定期的なモニタリングが必要とされる。・リバスチグミンは、1日2回経口投与または1日1回経皮吸収投与が可能である。ドネペジルよりも心臓に対する副作用リスクは低いが、貼付部位の局所反応が問題となる。・ガランタミンは、短期間で認知症症状を改善することに加え、BPSDの発現を遅延させると報告されている。また、複数の代謝経路を有するため、薬物相互作用を最小限に抑えることが可能である。ただし、心臓伝導系の副作用については、注意深くモニタリングする必要がある。・グルタミン酸調整物質であるメマンチンは、認知機能および神経保護の改善に加え、抗パーキンソン病薬や抗うつ薬としても作用することが期待される。即時放出製剤または徐放性経口剤での1日1回投与が可能である。・aducanumab、レカネマブなどの疾患修飾薬は、Aβの負担を軽減する。脳内のAβプラークの原線維構造と結合することで効果を発現する。これらの薬剤は、とくにApoE4遺伝子を有する患者においてアミロイド関連の画像異常を引き起こすリスクがある。aducanumabは4週間に1回、レカネマブは2週間1回の投与である。 著者らは「アルツハイマー病に対する薬剤選択では、薬剤入手の可能性、患者コンプライアンス、コスト、特定の併存疾患、特定の患者におけるリスクとベネフィットのバランスを考慮したうえで、決定する必要がある」とし「治療に対する総合的なアプローチとして、非薬物療法の使用も検討すべきである」としている。

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