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切除可能NSCLCへのニボルマブ、術前術後vs.術前(CheckMate 77T vs.816)/WCLC2024

 切除可能な非小細胞肺がん(NSCLC)の薬物療法について、術前および術後にニボルマブを用いた治療を受けた患者は、術前のみニボルマブを用いた治療を受けた患者と比較して、無イベント生存期間(EFS)が良好であることが示唆された。術前および術後にニボルマブを用いたCheckMate 77T試験、術前のみニボルマブを用いたCheckMate 816試験の個別被験者データ(IPD:Individual Patient-level Data)の解析により示された。米国・ジョンズ・ホプキンス大学Bloomberg-Kimmel Institute for Cancer ImmunotherapyのPatrick M. Forde氏が、2024年9月7~10日に米国・サンディエゴで開催された世界肺がん学会(WCLC2024)で本研究結果を発表した。 本研究は、CheckMate 77T試験(ニボルマブ+化学療法[3週ごと4サイクル]→手術→ニボルマブ[4週ごと1年間])またはCheckMate 816試験(ニボルマブ+化学療法[3週ごと3サイクル]→手術)に参加した患者のIPDを用いて実施した。評価項目は根治手術後のEFSとした。解析には傾向スコアマッチングの手法を用い、平均処置効果(ATE:Average Treatment Effect)の重み付け、治療群における平均処置効果(ATT:Average Treatment effect on the Treated)の重み付けを行った。 主な結果は以下のとおり。・CheckMate 77T試験に参加した139例(術前術後群)、CheckMate 816試験に参加した147例(術前群)が、今回の解析の対象となった。・根治手術後のEFSは、術前術後群が術前群と比較して良好であった。解析方法別のハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)は以下のとおり。 ATEの重み付け:0.61、0.39~0.97 ATTの重み付け:0.56、0.35~0.90 重み付けなし:0.59、0.38~0.92・根治手術後のEFSを病理学的完全奏効(pCR)の有無別にみると、いずれのサブグループでも術前術後群が良好な傾向にあったが、pCR未達成のサブグループでベネフィットが大きいことが示唆された。HRおよび95%CIは以下のとおり。 pCR達成:0.58、0.14~2.40 pCR未達成:0.65、0.40~1.06・根治手術後のEFSをPD-L1発現レベル別にみると、いずれのサブグループでも術前術後群が良好な傾向にあったが、PD-L1<1%のサブグループでベネフィットが大きいことが示唆された。HRおよび95%CIは以下のとおり。 PD-L1<1%:0.51、0.28~0.93 PD-L1≧1%:0.86、0.44~1.70・根治手術後のEFSをベースライン時のStage別にみると、全体集団と同様に術前術後群が良好な傾向がみられた。HRおよび95%CIは以下のとおり。 StageIB~II:0.53、0.25~1.11 StageIII:0.63、0.37~1.07・安全性は両群間で同様であった。Grade3~4の治療関連有害事象は術前術後群27%(38例)、術前群35%(52例)に発現し、中止に至った治療関連有害事象はそれぞれ6%(9例)、5%(8例)に発現した。

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ICI関連心筋炎の発見・治療・管理に腫瘍循環器医の協力を/腫瘍循環器学会

 頻度は低いが、発現すれば重篤な状態になりえる免疫チェックポイント阻害薬(ICI)による免疫関連有害事象としての心筋炎(irAE心筋炎)。大阪大学の吉波 哲大氏が第7回日本腫瘍循環器学会学術集会でirAE心筋炎における問題点を挙げ、腫瘍循環器医の協力を呼びかけた。致死率20%を超えるirAE心筋炎 ICIは今や固形がんの治療に必須の薬剤となった。一方、ICIの適用拡大と共に免疫関連有害事象(irAE)の発症リスクも増加する。心臓に関連するirAEは心筋炎、非炎症性左室機能不全、心外膜炎、伝導障害など多岐にわたる。その中でもirAE心筋炎は、発現すると一両日中に、心不全、コントロール困難な不整脈を併発し、致死的な状況に追い込まれることもある1)。 irAE心筋炎はICIにより活性化したT細胞が心筋に浸潤し、心筋を傷害するために起こるとされる。irAE心筋炎の発現は1%前後であるが2)、死亡率は20%を超え、通常の心筋炎をはるかに上回る3)。とくに女性(調整オッズ比[aOR]:0.44、95%信頼区間[CI]:0.38〜0.51、p<0.01)、75歳以上(aOR:0.19、95%CI:0.14〜0.28、p<0.01)、ICI同士の併用(aOR:1.93、95%CI:1.19〜3.12、p=0.08)ではリスクが高い2)。irAE心筋炎の頻度は低いものの、ICIの適応拡大とともに遭遇機会は増えていると考えられる。irAE心筋炎発現時期はICI開始後30日程度(日本のデータでは18〜28日、米国のデータでは中央値34日)と報告されている4、5)。定期モニタリングとステロイドによる治療が原則 わが国のOnco-CardiologyガイドラインではirAE心筋炎スクリーニングに、心電図、トロポニンT、NT-pro BNP、NLR(好中球・リンパ球比)、CRPのモニタリングが有効な可能性を挙げている(FRQ6-1)。吉波氏も、月1回程度行うICIの定期モニタリング時にトロポニンT、NT-pro BNPなどの検査(リスクがあれば心電図)をすべきと提案する。また、irAE心筋炎に対するステロイド治療については、使用すべき種類・投与経路・用量は定まっていないものの、有用な可能性があるとしている(BQ6-2)。irAE心筋炎を管理してICI治療を実施するために腫瘍循環器医の協力を ICIのがん治療に対する影響は大きく、もはや固形がんでは必須の薬剤だ。ペムブロリズマブは周術期化学療法に併用することでトリプルネガティブ乳がんの再発リスクを37%低下させ6)、アテゾリズマブは化学療法に併用することでStageIVもしくは再発非小細胞肺がんの12ヵ月無増悪生存割合を約2倍にする7)。 「治りたい、長生きしたい」という患者の希望を実現するために、腫瘍診療医はirAE心筋炎を危惧しながらもICIを使っている。「irAE心筋炎の発見・治療・管理にぜひとも腫瘍循環器医の協力をお願いしたい」と吉波氏は訴える。■参考1)三浦理. 新潟がんセンター病院医誌. 2024;62:45-48.2)Zamami Y, et al. JAMA Oncol. 2019;5:1635-1637.3)Wang DY, et al. JAMA Oncol. 2018;4:1721-1728.4)Mahmood SS, et al. J Am Coll Cardiol. 2018;71:1755-1764.5)Hasegawa S, et al. Pharmacoepidemiol Drug Saf. 2020;29:1279-1294.6)Schmid P, et al. N Engl J Med. 2022;386:556-567.7)Socinski MA, et al. N Engl J Med. 2018;378:2288-2301.

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Guardant360CDx、EGFR exon20挿入変異肺がんに対するamivantamab+化学療法のコンパニオン診断として承認/ガーダントヘルス

 ガーダントヘルスジャパンは2024年8月26日、リキッドバイオプシー検査Guardant360 CDx がん遺伝子パネル(Guardant360 CDx)について、Johnson&Johnson(法人名:ヤンセンファーマ)が申請中の「EGFR遺伝子エクソン20挿入変異を有する手術不能又は再発非小細胞肺癌(NSCLC)」に対するamivantamabと化学療法の併用療法に関するコンパニオン診断として承認を取得したと発表。 肺がんは世界において罹患率や死亡率が高いがんの1つであり、NSCLCは全肺がんの約80〜85%を占めている。日本を含む東アジアにおける実臨床データのレトロスペクティブ解析では、NSCLC患者から約2.4%のEGFR遺伝子エクソン20挿入変異がGuardant360 CDxによって検出されている。 Guardant360 CDxは、2022年3月に承認された進行固形がん患者を対象とする包括的がん遺伝子パネル検査である。74のがん関連遺伝子を一度に調べると同時に、国内で承認された複数のがん治療薬に対するコンパニオン診断機能を併せ持つ。 Guardant360 CDx は下記のコンパニオン診断として承認されている。・KRAS G12C:(非小細胞肺がん)ソトラシブ・HER2 変異:(非小細胞肺がん)トラスツズマブ デルクステカン・EGFRエクソン20挿入変異:(非小細胞肺がん)amivantamab・BRAF V600E変異:(結腸・直腸がん)エンコラフェニブ、ビニメチニブおよびセツキシマブ・BRAF V600E変異:(結腸・直腸がん)エンコラフェニブおよびセツキシマブ・HER2コピー数異常:(結腸・直腸がん)トラスツズマブおよびペルツズマブ・KRAS/NRAS野生型:(結腸・直腸がん)セツキシマブ、パニツムマブ・MSI-High:(結腸・直腸がん)ニボルマブ・MSI-High:(固形がん)ペムブロリズマブ■関連記事フェスゴ配合皮下注発売でHER2陽性乳がん・大腸がんへの投与時間短縮に期待/中外

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既治療の淡明細胞型腎細胞がん、belzutifan vs.エベロリムス(LITESPARK-005)/NEJM

 免疫チェックポイント阻害薬と血管新生阻害薬による治療歴のある進行淡明細胞型腎細胞がん患者の治療において、エベロリムスと比較して低酸素誘導因子2α阻害薬belzutifanは、無増悪生存率と客観的奏効率を有意に改善し、新たな安全性シグナルの発現はみられないことが、米国・ダナファーバーがん研究所のToni K. Choueiri氏らLITESPARK-005 Investigatorsが実施した「LITESPARK-005試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2024年8月22・29日号で報告された。世界147施設の無作為化実薬対照第III相試験 LITESPARK-005試験は、世界6地域(日本を含む)の147施設で実施した非盲検無作為化実薬対照第III相試験であり、2020年3月~2022年1月の期間に参加者の無作為化を行った(Merck Sharp and Dohmeの助成を受けた)。 年齢18歳以上、StageIVの淡明細胞型腎細胞がんと診断され、プログラム細胞死1(PD-1)阻害薬またはプログラム細胞死リガンド1(PD-L1)阻害薬と、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)受容体チロシンキナーゼ阻害薬(VEGFR-TKI)の逐次投与または同時併用投与を受けた後に、病勢が進行した患者を対象とした。 被験者を、belzutifan 120mgまたはエベロリムス10mgを1日1回、経口投与する群に1対1の割合で無作為に割り付け、病勢進行または許容できない毒性が発現するまで継続投与した。 主要評価項目は、無増悪生存期間と全生存期間とした。主な副次評価項目は、客観的奏効(確定された完全奏効または部分奏効)であった。18ヵ月時の生存率に差はない 746例を登録し、374例をbelzutifan群(年齢中央値62.0歳、男性79.4%)、372例をエベロリムス群(63.0歳、76.3%)に割り付けた。全体の43.3%が2ライン、42.8%が3ラインの前治療を受けていた。 初回中間解析(追跡期間中央値18.4ヵ月)の時点で、無増悪生存期間中央値は両群とも5.6ヵ月であり、18ヵ月時に生存しているか、病勢が進行していない患者の割合は、エベロリムス群が8.3%であったのに対し、belzutifan群は24.0%と有意に優れた(両側p=0.002[事前に規定された有意性の基準を満たす])。 2回目の中間解析(追跡期間中央値25.7ヵ月)の時点における全生存期間中央値は、belzutifan群が21.4ヵ月、エベロリムス群は18.1ヵ月であり、18ヵ月時の生存率はそれぞれ55.2%および50.6%と両群間に差を認めなかった(ハザード比[HR]:0.88、95%信頼区間[CI]:0.73~1.07、両側のp=0.20[事前に規定された有意性の基準を満たさない])。両群とも約6割でGrade3以上の有害事象が発現 客観的奏効率は、エベロリムス群が3.5%(95%CI:1.9~5.9)であったのに対し、belzutifan群は21.9%(17.8~26.5)と有意に優れた(p<0.001[事前に規定された有意性の基準を満たす])。 Grade3以上の有害事象は、belzutifan群の61.8%(Grade5は3.5%)、エベロリムス群の62.5%(5.3%)で発現した。投与中止の原因となった有害事象は、それぞれ5.9%および14.7%でみられた。 著者は、「本試験は、有効な治療メカニズムとして低酸素誘導因子2αの阻害を導入し、免疫チェックポイント阻害薬と血管新生阻害薬の両方の治療を受けた進行腎細胞がん患者の治療選択肢として、belzutifanを確立した」としている。現在、belzutifanを含む併用療法と他の治療法を比較する研究が進行中だという。

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自己免疫疾患を有するがん患者、ICIによるirAEリスクは?

 自己免疫疾患を有するがん患者では、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の投与によって免疫関連有害事象(irAE)が発現する割合は高いものの、これらは軽度で管理可能であり、がんへの反応性には影響がなかったことを、米国・テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのMaria A. Lopez-Olivo氏らが明らかにした。European Journal of Cancer誌2024年8月号掲載の報告。 自己免疫疾患を有するがん患者は、ICIのランダム化比較試験から除外されていることが多い。そこで研究グループは、自己免疫疾患の既往があり、ICIを投与されたがん患者を含む観察試験と非対照試験のシステマティックレビューおよびメタ解析を実施し、新規イベントや自己免疫疾患の再燃を含むirAEの発現率、irAEによる入院・死亡などを調査した。 研究グループは、5つの電子データベースを2023年11月まで検索した。研究の選択、データ収集、質の評価は2人の研究者によって独立して行われた。 主な結果は以下のとおり。・解析には、95件の研究から、がんおよび自己免疫疾患の既往を有する2万3,897例が組み込まれた。がん種で多かったのは肺がん(30.7%)、皮膚がん(15.7%)であった。・自己免疫疾患のある患者は、自己免疫疾患のない患者と比較して、irAEの発現率が高かった(相対リスク:1.3、95%信頼区間[CI]:1.0~1.6)。・すべてのirAEの統合発現率(自己免疫疾患の再燃または新規イベント)は61%(95%CI:54~68)で、自己免疫疾患の再燃は36%(95%CI:30~43)、新規のirAE発現は23%(95%CI:16~30)であった。・自己免疫疾患が再燃した患者の半数はGrade3未満であり、乾癬/乾癬性関節炎(39%)、炎症性腸疾患(37%)、関節リウマチ(36%)の患者で多かった。・irAEが発現した患者の32%は入院を必要とし、irAEの治療として72%にコルチコステロイドが用いられた。irAEによる死亡率は0.07%であった。・自己免疫疾患のある患者とない患者の間で、ICIに対するがんの反応性に統計的な有意差は認められなかった。 研究グループは「これらの結果から、ICIは自己免疫疾患を有するがん患者にも使用可能であることが示唆されるが、患者の3分の1以上が自己免疫疾患の再燃を経験したり、入院を必要としたりするため、注意深いモニタリングが必要である。これらの知見は、がん専門医がモニタリングと管理の戦略を改善し、ICI治療の利点を最大化しつつリスクを最小化するための重要な基盤となるものである」とまとめた。

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肺がん患者、肥満でICIの効果が減少する可能性

 がんと肥満を併存している患者は正常体重の患者に比べて予後が不良であるとされているが、一部のデータでは体格指数(BMI)が高い場合のほうが、治療後の全生存率がより良好であるとの報告もあり、これは「肥満パラドックス」とされている。大阪公立大学・井原 康貴氏らは、進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者を対象に、BMIが免疫療法または化学療法後の全生存率(OS率)に関連するかを調査した。JAMA Network Open誌2024年8月1日号掲載の報告。 研究チームは2015年12月1日~2023年1月31日、日本の急性期病院のレセプトデータを用いた後ろ向きコホート研究を実施した。参加者は新規診断を受けた成人の進行NSCLC患者であり、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)治療または従来の化学療法を受けた。分子標的薬(TKI)治療や化学放射線療法を受けた患者は除外された。主要評価項目はOS率、解析は初回治療後3年の追跡期間を対象とした。BMI 18.5未満を低体重、18.5~24.9を標準体重、25.0~29.9を過体重、30以上を肥満と定義した。 主な結果は以下のとおり。・計3万1,257例が同定された。うち1万2,816例(平均年齢:70.2[SD 9.1]歳、男性1万287例[80.3%]、平均BMI:21.9[SD 3.5])がICI治療、1万8,441例(70.2[8.9]歳、男性1万4,139例[76.7%]、平均BMI:22.1[3.5])が化学療法を受けた。・初回治療から3年以内に死亡した患者の割合は、ICI治療群は28.0%(3,586/1万2,816例)、化学療法群は35.9%(6,627/1万8,441例)と化学療法群のほうが高かった。・BMIが28未満では、ICI治療群は化学療法群と比較して死亡のハザードが有意に低かった(BMI 24のハザード比[HR]:0.81、95%信頼区間[CI]:0.75~0.87)。しかし、BMI 28以上の患者ではこの関連は認められなかった(BMI 28のHR:0.90、95%CI:0.81~1.00)。・ICI治療群では、BMIが15~24まではBMIの増加につれて死亡率が減少したが、24を超えるとリスクは増加し、BMIと死亡率のあいだにU字型の関連が認められた。・一方で、全体としては、低体重と比較して、過体重または肥満のほうが死亡リスクは低かった。 著者らは、「本研究の結果として、過体重または肥満の患者においては、ICI治療は化学療法と比較して生存率の改善と関連していなかった。本研究の結果は、過体重または肥満の患者において、ICI治療が最適な初回療法ではない可能性を示唆している。そのような患者では従来の化学療法の使用も考慮すべきである」としている。

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乳がん遺伝子パネル検査の前向き研究、推奨治療到達率は?(REIWA study)/日本乳癌学会

 転移・再発乳がんにおけるがん遺伝子パネル検査の有用性を評価する前向き観察研究であるREIWA study(JBCRG C-07)の中間解析結果をもとに、乳がん治療におけるゲノム医療の現状や問題点、今後の展望を東北大学病院の多田 寛氏が第32回日本乳癌学会学術総会のシンポジウムで発表した。 標準治療が終了した進行・再発乳がん患者を対象に、2019年6月からがん遺伝子パネル検査が保険で利用できるようになった。本研究では、FoundationOne CDx がんゲノムプロファイル(F1CDx)およびFoundationOne Liquid CDx がんゲノムプロファイル(F1LCDx)を行うことが決定したde novo StageIVまたは転移・再発乳がん患者を2020年1月~2023年7月に前向きに登録し、変異情報、変異にマッチした治療の情報、後治療、予後などの項目を現在も収集している。主要評価項目は遺伝子変異に対応する治療(推奨治療)が存在した集団における推奨治療が施行された割合、および推奨された治験や臨床試験に参加した割合であった。本シンポジウムでは、第2回の中間解析時点の結果やがんゲノム情報管理センター(C-CAT)の乳がん症例データをもとに、転移・再発乳がんに対するゲノム医療の現状と問題点、今後の展望についての考察が示された。 主な内容は以下のとおり。・解析対象は576例で、Luminalタイプが310例(53.8%)、HER2タイプが93例(16.1%)、トリプルネガティブタイプが173例(30.0%)であった。年齢中央値は56歳(50歳以上が70.1%)、再発は74.1%、再発後の治療レジメン数中央値は3レジメン、F1CDxが選択されたのは85.2%であった。F1LCDxが選択された群では50歳以上の割合が多く、再発後の治療レジメン数も多かった。・推奨治療が提示された割合は61.0%(350/574例)で、複数の推奨治療が提示されたのは23例であった。・全体において、推奨治療(主治医判定)が実際に施行されたのは18.1%(104/574例)であった。・HER2タイプに対する抗HER2療法など既知のものを除くと、治療到達率は13.8%(78/574例)であった。F1CDx群では14.1%(69/489例)、F1LCDx群では11.8%(10/85例)であった(p=0.543)。・主要評価項目である推奨治療が存在した集団における推奨治療が施行された割合は29.7%(104/350例)、推奨された治験や臨床試験に参加した割合は4.0%(14/350例)であった。・治験以外の推奨治療の内訳(n=79)は、免疫チェックポイント阻害薬が29.1%、mTOR阻害薬が21.6%、抗HER2療法が20.2%、PARP阻害薬が13.9%、NTRK阻害薬が5.1%、CDK4/6阻害薬が3.8%、SERDが2.5%、その他が2.5%であった。・F1LCDxを選択した理由(n=85)は、「組織の保存期間が長い」が49.4%、「生検による組織検体の採取が困難」が32.9%、「組織標本は得られたが解析が困難であった」が24.7%、「遺伝子変化の状態をよりよく理解することができる」が8.2%であった。・F1CDx/F1LCDx後の治療の選択理由は、「actionableな遺伝子変異がなく承認薬を施行した」が1stラインでは26%、2ndラインでは19.5%、「actionableな遺伝子変異があり対応する治療を施行した」が13.5%/4.3%、「actionableな遺伝子変異があり対応する治験・臨床試験に参加した」が1.9%/1%、「actionableな遺伝子変異があったが対応しない承認薬を施行した」が25.7%/20%であった。 多田氏は、C-CATについては、「遺伝子変異状況や推奨治療の予測にはC-CATのような大規模なデータベースが有用と考えられる。C-CATの乳がん症例における入力ベースの推奨治療到達率は9.7%であったが、推奨治療薬の薬剤名の未入力が多く、また標的治療に殺細胞性抗がん剤が入力されているなど、入力内容の不十分さが散見される」と見解を示した。 最後に、「REIWA studyは治療歴や予後情報などがクエリ作業のもとに正確に入力されており、転移・再発乳がんにおけるゲノム医療の貴重なデータとなる。今後、全生存期間や個々の標的治療の治療効果を含めた副次評価項目の解析を行い、がん遺伝子パネルの有用性を正確に評価していく」とまとめた。

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日本人の子宮頸がんに対するペムブロリズマブ+同時化学放射線療法(KEYNOTE-A18)/日本婦人科腫瘍学会

 局所進行子宮頸がん(LACC)に対する同時化学放射線療法(CCRT)へのペムブロリズマブの上乗せは、日本人患者においてもグローバルと同様に無増悪生存期間(PFS)の改善傾向を示した。 1999年以降、LACCの標準治療は、化学療法と外部照射放射線治療(EBRT)の併用とその後の小線源療法へと続くCCRTである。現在、CCRTの効果をさらに高めるために免疫チェックポイント阻害薬の上乗せが検討されている。 KEYNOTE-A18試験(ENGOT-cx11/GOG-3047)は未治療の高リスクLACCにおいてペムブロリズマブ+CCRTとCCRT単独を比較した第III相試験である。グローバル集団の初回解析の結果ではCCRT単独に比べ、ペムブロリズマブ+CCRTがPFSを有意に改善している(ハザード比[HR]:0.70、95%信頼区間[CI]:0.55〜0.89、p=0.002)1)。第66回日本婦人科腫瘍学会学術講演会では、愛知県がんセンターの鈴木 史朗氏が同試験の日本人サブセットの結果を発表した。対象:FIGO2014 Stage IB2〜IIB(リンパ節転移陽性)またはStage III〜IVAの子宮頸がん(リンパ節転移問わず)試験薬群:CDDP(40mg/m2)毎週 5サイクル+EBRT+小線源療法+ペムブロリズマブ(200mg)3週ごと 5サイクル→ペムブロリズマブ(400mg)6週ごと 15サイクル(ペムブロリズマブ群)対照群:CDDP(40mg/m2)毎週 5サイクル+EBRT+小線源療法+プラセボ 3週ごと 5サイクル→プラセボ6週ごと 15サイクル(プラセボ群)評価盲目:[主要評価項目]治験責任医師・治験分担医師評価のPFSまたは全生存期間(OS)[副次評価項目]24ヵ月PFS、全奏効率、患者報告アウトカム、安全性 主な結果は以下のとおり。・グローバル1,060例中、日本人サブセットは90例(ペムブロリズマブ群42例、プラセボ群48例)であった。・日本人サブセットのPFS中央値は両群とも未到達(HR:0.60、95%CI:0.24〜1.52)、12ヵ月PFS率はペムブロリズマブ群81.8%、プラセボ群71.8%、24ヵ月PFS率はそれぞれ71.6%と評価不能であった。・Grade3以上の治療関連有害事象(TRAE)はペムブロリズマブ群の85.4%、プラセボ群の81.3%に発現した。治療関連死はみられなかった。・ペムブロリズマブ群で頻度の高いTRAEは下痢(80.5%)、悪心(80.5%)、好中球減少(63.4%)、貧血(61.0%)など。ペムブロリズマブ群で頻度の高い免疫関連有害事象は甲状腺機能低下(17.1%)、甲状腺機能亢進(9.8%)などであった。 KEYNOTE-A18試験における日本人サブセットの知見から、ペムブロリズマブ+CCRTは日本人の高リスクLACCに対する治療選択肢となり得るのではないか、と鈴木氏は述べた。

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東海大学医学部 外科学系腎泌尿器科学領域【大学医局紹介~がん診療編】

小路 直 氏(教授/診療科長)梅本 達哉 氏(助教)青木 芽衣子 氏(臨床助手)講座の基本情報医局独自の取り組み・特徴当科は、泌尿器悪性腫瘍(前立腺がん、腎臓がん、尿路上皮がんなど)に対するロボット支援手術、および腹腔鏡手術を多数実施しています。また、良性疾患である前立腺肥大症、および尿路結石症に対して、幅広い内視鏡手術を多数実施しており、個々の状況に応じた術式で対応しています。特徴ある医療技術として、本学が先進医療として開始し、2022年から保険収載された“前立腺針生検法:MRI撮影および超音波検査融合画像によるもの”、また2023年に先進医療として承認された“集束超音波治療器を用いた前立腺がん局所焼灼・凝固療法”があり、国内外の診療、および研究を牽引しています。地域のがん診療における医局の役割主に神奈川県西部の医療圏の患者さんの多くを診療させていただいています。当院は、三次救急も担っているため、外傷や重症尿路感染症の診察も行うことがあります。また、当科で行っている高度な医療を求める国内外の広い地域の患者さんも多く受診しています。今後医局をどのように発展させていきたいか標準医療を高い精度で実施しつつ、個々の患者さんに対応できる医療技術の選択肢を提供できる診療科を目指します。医工連携は重要なテーマとして考えており、すでに交流のある電気通信大学や東京農工大学との連携により、東海大学独自の診療を確立していきたいと思います。力を入れている治療/研究テーマ治療に関してはロボット支援手術全般、研究テーマとしては「転移性腎がんに対する薬物療法後の待機的腎摘除(Deferred cytoreductive nephrectomy:Deferred CN)の有効性」、「下大静脈腫瘍塞栓を有する腎がんに対する薬物療法後の待機的手術」に現在は力を入れています。腎がんに対する薬物治療の効果は免疫チェックポイント阻害薬(ICI)を主軸とした併用療法の出現により劇的に向上しました。ICIの時代におけるDeferred CNの適応や有効性に関してはまだ明らかになっておらず、当院ではICI併用レジメンを半年以上投与し、外科的CRが達成される症例をDeferred CNの主な適応として治療を行っています。下大静脈腫瘍塞栓を有する症例に対してもICI-分子標的薬併用レジメンを使用し、可能な限り腫瘍塞栓を縮小させた状態でロボット支援手術を併用することにより手術侵襲の軽減が得られると考えています。医局でのがん診療/研究のやりがい、医学生/初期研修医へのメッセージ臓器ごと、がんの種別でチームが分かれていないため、すべてのがんに対して診断や治療を行うことができます。その背景には医局の人数が少ないことも関係していますが(笑)、若手の先生にとっては大きな魅力だと思います。また、当科は臨床に強く、症例数も豊富なため入局後早期から多くの経験を積めると思います。医局の雰囲気が良いことも特徴で、若手の先生方の成長をしっかりとサポートできる環境は整っていますので、興味を持っていただけると嬉しいです。同医局を選んだ理由医学科5年の臨床実習で初めて泌尿器領域に触れ、多彩な疾患と幅広い手技に興味を持ちました。特にロボット支援手術や内視鏡手術における豊富な経験と、絶えず最先端・最良を追求する学究的かつ誠意ある柔軟な姿勢に魅力を感じ、入局を決めました。学生として、研修医として、専攻医として、いかなる時にも熱意をもってご指導いただき、医局の先生方ひとりひとりが私の医師人生のロールモデルとなっています。現在学んでいること入局1年目として、まずは病棟管理の基本を学んでいます。感染症の急性期治療から末期がんの緩和治療まで、患者さんにとっての最善を考え、チームで相談しながら実践しています。また処置や内視鏡手術、ロボット手術の助手など、上級医の先生の手技を学びながら、技術の修得に日々励んでいます。今後のキャリアプラン泌尿器科医として一人前になることが第一で、その後は大学院進学や留学で見聞を広めたいと考えています。悪性腫瘍、とくに尿路上皮がんを専門領域として研究や論文執筆にも挑戦したいと思っていましたが、入局すると女性医師として女性患者さんからの需要を肌で感じ、最近では女性泌尿器疾患にも取り組む意欲が湧いています。いずれにしても、大学病院で最先端の治療と研究、そして患者さんのための医療に邁進するつもりです。東海大学医学部 外科学系腎泌尿器科学領域住所〒259-1143 神奈川県伊勢原市下糟屋143問い合わせ先sunashoj@tokai.ac.jp医局ホームページ東海大学医学部外科学系腎泌尿器科学領域専門医取得実績のある学会日本泌尿器科学会日本癌治療学会日本内視鏡外科学会日本泌尿器内視鏡・ロボティクス学会日本排尿機能学会日本メディカルAI学会研修プログラムの特徴(1)ロボット支援手術、腹腔鏡手術など、豊富な症例数を経験することが出来ます(2)先進医療などの新しい医療技術を経験することが出来ます(3)関連病院を活用し、地域医療を勉強する期間をつくっています

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ニボルマブ承認から10年、がん治療はどう変わったか/小野・BMS

 本邦初の免疫チェックポイント阻害薬(ICI)ニボルマブ。2014年7月4日に製造販売承認を取得してから、早くも10年が経過した。ICIによるがん免疫療法は、どれだけ社会に認知されているのだろうか。また、ICIはがん治療においてどのようなインパクトを与えたのだろうか。小野薬品工業とブリストル・マイヤーズ スクイブは、これらの疑問に答えるべく「免疫チェックポイント阻害薬によるがん免疫療法のいまとこれから」と題し、2024年7月24日にメディアセミナーを実施した。ICIは医師には定着も、患者さんへのさらなる情報発信が必要 小野薬品工業とブリストル・マイヤーズ スクイブは、がん免疫療法に対する医師・患者さんの現状評価を把握することを目的として、がん治療に関わる医師100人とがん患者さん900人を対象にアンケート調査を実施した。本調査の結果について、高井 信治氏(小野薬品工業 メディカルアフェアーズ統括部長)が紹介した。 アンケート調査の結果、医師の90.0%は「ICIはがん治療の選択肢としての地位を築いた」と回答し、ICIによるがん免疫療法が実臨床に定着したことが示された。また、87.0%が「さらなる発展を期待したい治療法である」と回答し、ICIへの期待の高さがうかがわれた。 しかし、ICIによる治療を受けたことがないがん患者さんでは「複数のがん免疫療法を知っている」と回答したのは2.9%、「知っているがん免疫療法がある」と回答したのは9.6%に留まり、「名前を聞いたことがある」と回答した50.6%を含めても、がん免疫療法の認知率は63.0%であった。また、この集団(がん免疫療法を認知しているICI未経験の患者さん)に対し、がん免疫療法について知っていることを聞いたところ、「医学的に効果が認められているがん免疫療法には、抗がん剤治療などとは異なる副作用がある」と回答した割合は26.3%に留まり、免疫関連有害事象(irAE)に関する認知や理解が低いことが示唆された。このことから、がん患者さんや一般生活者の方々への正しいがん免疫療法の認知、理解促進に向けてさらなる情報発信が必要であると考えられた。 がん免疫療法の正しい理解促進に向けて、小野薬品工業では患者さん向けの啓発サイト「ONO ONCOLOGY」の充実を図るほか、ブリストル・マイヤーズ スクイブと共同で、臨床試験結果の論文を平易な言葉で要約する「プレーン・ランゲージ・サマリー」を公表している。【アンケート調査の概要】<調査実施期間>2024年6月21~28日<調査対象>医師:ICI適応がん腫いずれかに関連する診療科で全身化学療法によるがん治療経験のある医師(病床数200床以上)100人患者さん:(1)20~70代のICIによるがん治療を受けたことのある200人、(2)20~70代のICI適応のがん腫ではあるがICIによる治療は受けたことのない700人ICIの登場により患者さんへの説明は大きく変わった 続いて「免疫チェックポイント阻害薬ががん治療に与えたインパクト」というテーマで林 秀敏氏(近畿大学医学部 内科学腫瘍内科部門 主任教授)がICI登場後のがん治療の変化を紹介した。 林氏が専門とする肺がんの場合、ICIの登場前は進行期の患者さんの5年生存率は5%未満であったが、ICIの登場後は20%程度に改善していると述べた。ICIの登場前は、進行期の患者さんへ「長生きするチャンスはありますが、治るというのは難しいです」と伝えていたという。ところが、ICIの登場後は治癒に近い形で長期生存が得られる患者さんも存在するようになり、「高い効果がみられるのは2割程度です」との前置きは必要としつつも、患者さんへ大きな希望を持たせることができるようになったと語った。 また、ICIの登場により希少がんの治療薬開発状況も変化している。ICIの登場前は、希少がんに対する治療薬の開発は非常に困難であった。しかし、ICIの登場により希少がんや原発不明がんに対する治療薬の開発が可能となった。実際に、林氏らの研究チームは、原発不明がんに対するニボルマブの有効性を検討する医師主導治験(NivoCUP試験)を実施し、その結果をもとにニボルマブは原発不明がんに対する適応を取得している。この反響は非常に大きかったという。「本試験の結果がYahoo!ニュースのトップに掲載され、近畿大学に行けばICIによる治療を受けられるのかという電話が数多くかかってきたことを覚えています。原発不明がんの患者さんは日本中にいて、治療薬の開発を求めていたことを実感しました」と林氏は述べた。なお、原発不明がんに対してICIの保険適用が得られているのは、日本におけるニボルマブのみである。irAEの伝え方は? アンケート調査結果では、がん免疫療法を認知していてもICIによる治療を受けたことのない患者さんでは、irAEに関する理解が不十分であることが示唆された。そこでセミナー終了後、ICIによる治療を実施する際の患者さんへの説明方法を林氏へ聞いた。 アンケート調査結果を踏まえて、irAEをどう伝えるべきかを聞いたところ、林氏は「irAEは頻度が少ないのに種類が多いため、患者さんへの教育にも限界があります。では、どこまで伝えるのが適切かというのはすごく難しいと感じます。患者さんによって理解度は異なりますし、複雑な伝え方をしてしまうと理解できず、びっくりさせて不安を与えるだけになってしまいます」と話した。そこで、実際にどのように伝えているかを聞いたところ「私はシンプルに伝えています。38℃以上の熱があったらとりあえず連絡をください、下痢が止まらなかったら連絡をくださいという形で、できるだけシンプルに伝えています。100%の説明にならなくてもよいと思います。100%で説明して理解されないよりも、50%で伝えて理解できるほうがよいと思っています」と述べた。ただし、この伝え方が必ずしも正解とは限らないとも述べ、患者さんへの説明用アプリなどの開発とその活用への期待も語った。

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体重増加のリスクは抗うつ薬の種類により異なる

 体重増加は抗うつ薬の一般的な副作用であるが、特定の抗うつ薬は他の抗うつ薬よりも体重を増加させやすいことが、新たな研究で明らかになった。この研究では、例えば、ノルアドレナリン・ドパミン再取り込み阻害薬(NDRI)のブプロピオン使用者は、最も一般的な抗うつ薬である選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)のセルトラリン使用者よりも体重増加のリスクが15%低いことが示されたという。米ハーバード・ピルグリム・ヘルスケア研究所のJason Block氏らによるこの研究の詳細は、「Annals of Internal Medicine」に7月2日掲載された。 本研究の背景情報によると、抗うつ薬は米国の成人に最もよく処方されている薬剤の一つで、約14%が抗うつ薬を使用しているという。抗うつ薬の使用により頻発する副作用は体重増加である。体重増加は、使用患者の代謝面の健康に長期にわたる影響を及ぼすのみならず、処方された抗うつ薬の使用中止の原因となり、それが不良な臨床アウトカムにもつながり得る。 今回の研究対象者は、米国の8件のヘルスシステムの電子健康記録(対象期間2010〜2019年)から抽出した、抗うつ薬による治療を開始した18歳から80歳までの患者18万3,118人である。抗うつ薬は、SSRIのセルトラリン、シタロプラム、エスシタロプラム、フルオキセチン、パロキセチン、NDRIのブプロピオン、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)のデュロキセチン、ベンラファキシンの8種類が対象とされた。抗うつ薬の使用開始から6カ月後の体重の変化が、セルトラリンとの比較で検討された。 その結果、エスシタロプラム、パロキセチン、デュロキセチン、ベンラファキシン、シタロプラム使用者ではセルトラリン使用者に比べて体重が有意に増加しており、セルトラリン使用者との平均差は同順で、0.41kg、0.37kg、0.34kg、0.17kg、0.12kgであった。フルオキセチン使用者とセルトラリン使用者の間に体重増加について有意差は認められず(平均差−0.07kg)、ブプロピオン使用者ではセルトラリン使用者に比べて体重が有意に減少していた(平均差−0.22kg)。また、ベースラインから5%以上の体重増加のリスクは、セルトラリン使用者に比べてエスシタロプラム、パロキセチン、デュロキセチンの使用者では10〜15%上昇していたのに対し、ブプロピオン使用者では15%低下していた。 Block氏は、「われわれの研究では、ブプロピオンのような一部の抗うつ薬は、他の抗うつ薬に比べて体重を増加させにくいことが明らかになった」と述べている。 さらにBlock氏は、「患者やその臨床医が特定の抗うつ薬を選択する理由はいくつかあるが、体重増加はしばしば患者が服薬を中止する原因となる重要な副作用だ。よって、患者と臨床医は、自分のニーズに最も合う抗うつ薬を選択する理由の一つとして、体重増加を考慮してもよいのではないか」と研究所のニュースリリースで述べている。

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局所進行食道がんに対する術前補助療法として3剤併用化学療法が標準治療となるか?(解説:上村直実氏)

 日本の臨床現場における食道扁平上皮がんは、発見される時期により予後が大きく異なる疾患である。内視鏡検査によりStage0やIの早期段階で発見されると、外科的手術や化学放射線治療ではなく侵襲の少ない内視鏡的切除により完治する可能性が高い疾患であるが、一方、StageII以上の進行がんになると、化学療法や放射線療法および外科的手術を含む集学的治療を行っても予後が悪い疾患となる。したがって、進行がんの予後に関しては外科的手術に先立つ術前治療の有効性が重要となっている。 今回、術前治療としてわが国の標準治療である2剤併用化学療法(A群、CF療法:フルオロウラシル+シスプラチン)と欧米における標準治療である2剤併用化学療法+放射線療法(B群、CF+RT療法)およびC群として3剤併用化学療法(DCF療法:フルオロウラシル+シスプラチン+ドセタキセル)を加えた3群の有用性と安全性を比較検証するオープンラベルの多施設共同臨床試験(RCT)が施行された結果、C群の3年生存率がA群やB群と比較して統計学的に有意に延長することが2024年6月のLancet誌に掲載された。なお、3年後に生存している患者の割合は、A群が62.6%、B群が68.3%に対して、C群が72.1%であった。 本研究の対象患者はStageIII、すなわち、がんが食道外に進展してリンパ節に転移を認める場合や周囲臓器に進展しているが転移を認めない症例であり、最近の疫学調査によると現在の5年生存率35%程度の改善が期待できる。この結果、進行食道扁平上皮がんに対する術前補助治療に関するガイドラインにおいて、標準治療とされている2剤併用化学療法+放射線治療に代わって3剤併用療法が新たな標準治療となるものと思われる。 今回の臨床研究は国立がん研究センター(NCC)のJCOGが主導して行われたものであるが、世界の食道がん診療ガイドラインに影響を与える大きなインパクトを有するものであり、がん治療に関して免疫チェックポイント阻害薬(ICI)療法や臓器温存療法の分野においても、わが国からのさらなるエビデンスの創出が期待できる。 さいごに、本研究をはじめとしてがんに対する臨床試験の対象症例は20歳から75歳の患者に限定されているが、高齢化が著しい実臨床からみると75歳以上の高齢者を含めた検討が必要と思われる。

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名古屋大学医学部 化学療法学(附属病院化学療法部)【大学医局紹介~がん診療編】

安藤 雄一 氏(教授)満間 綾子 氏(病院講師)近藤 千晶 氏(病院助教)宮井 雄基 氏(医員)講座の基本情報医局独自の取り組み・特徴化学療法部では、腫瘍内科の診療とともに、外来化学療法室の運用、がんゲノム医療外来、診療科横断的なカンファレンスやコンサルテーション対応、化学療法レジメンの整備、緩和ケアチームの活動、がん診療連携拠点病院の事業、そしてがん薬物療法の実践的な教育などに取り組んでいます。いずれも日頃からの各診療科や部門との連携によって、初めて実践できるものです。専用病床では、新規抗がん薬の治験や稀ながんや重篤な合併症をもつ患者さんの診療を行っています。名大病院は「臨床研究中核病院」、「がんゲノム医療中核拠点病院」に選定されており、それらの関連事業においても化学療法部は重要な役割を果たしています。昨年度から開始されている文部科学省「次世代のがんプロフェッショナル養成プラン(がんプロ)」では、がん医療を担う大学院生や専門医療人材の養成に取り組んでいます。毎朝行われる多職種カンファレンス同医局でのがん診療/研究のやりがい、魅力外来化学療法室では、小児から高齢者まで外来で抗がん薬の点滴投与を受けるすべての患者さんに対応しています。殺細胞性抗がん薬はもちろん、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬など臓器横断的に使用されるレジメンが増える中で、多彩な副作用をうまくコントロールすることが求められています。担当医だけでなく、今までがん医療と関連が少なかった分野の専門医や多職種との連携、地域との連携など院内外でのチーム医療が重要です。腫瘍内科学のオンザジョブトレーニングを通して科学的で適切ながん薬物療法を実践できる環境です。外来化学療法室での処置医局の雰囲気、魅力医局では大学院生から医員、教員まで、多様なバックグラウンドをお互いに尊重しながらそれぞれの特色を活かした診療や学術活動を行っています。今後のキャリアパスを考える上で、ロールモデルを見つけることもできますし、迷いが生じた時にはさまざまな経験に基づいたアドバイスを得ることが可能です。これまでの経歴大学卒業後、市中病院で初期研修を行いました。研修終了後の進路として腫瘍に加え、アレルギー、感染など多様な分野が含まれるという理由で呼吸器内科を選択しました。各分野の疾患の診療を通じて難治である進行肺がんの化学療法、中でも分子標的薬に興味を持ち、がん薬物療法専門医を取得するとともに、大学院で学びました。このような経歴もあって、現在はがん種横断的にがんゲノム医療に関わり、化学療法部での仕事・診療とともに名大病院のがん遺伝子パネル検査とエキスパートパネルの運営を行っています。今後のキャリアプランがんの性質を知り、がん患者さんの化学薬物療法の選択肢を広げるためのがんゲノム医療は、2019年の保険診療開始から常に状況が変化しています。がんゲノム医療を多くの患者さんに届け、また名大病院内や地域のがんゲノム医療の普及のための活動、研究を続けたいと考えています。これまでの経歴初期研修を終えたのち、大学院入学とともに入局しました。基礎と臨床の両方を学ぶため、横断的ながん薬物療法の臨床経験を積みながらがん薬物療法専門医を取得する一方で、腫瘍病理学でがんの間質に多く存在するがん関連線維芽細胞に注目し、これらが免疫治療の効果にどう影響するかについての基礎研究にも励んでいます。現在学んでいること治療法の最新動向の把握や有害事象への対応法だけでなく、腫瘍学以外の分野も含めて幅広い知識を日頃から学んでいます。最近は、定量的解析手法の習得に注力しています。具体的には、大規模オミクスデータを解析する手法や高度な統計手法を学び、実際に臨床データや実験データの高精度な解析に応用しています。今後のキャリアプラン海外留学など異なる文化圏での仕事や、他分野の研究者と接することで、視野を広げたいと考えています。この過程で目標が変わる可能性もありますが、現時点では、まだ治療法が少ない、あるいは治療薬開発への機運が乏しい、稀な悪性腫瘍の治療実績の改善に貢献できる医師・医学研究者となることを目指しています。名古屋大学医学部 化学療法学(附属病院化学療法部)住所〒466-8560 愛知県名古屋市昭和区鶴舞町65問い合わせ先chemo-sec@med.nagoya-u.ac.jp医局ホームページ名古屋大学医学部附属病院化学療法部専門医取得実績のある学会日本臨床腫瘍学会日本緩和医療学会日本人類遺伝学会日本内科学会 など研修プログラムの特徴(1)臓器横断的な臨床腫瘍学のトレーニングが可能(2)がん薬物療法学、緩和ケア、ゲノム医療、トランスレーショナルリサーチなど多様な領域の研修・研究が可能名古屋大学医学部附属病院化学療法部【動画】

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進行期古典的ホジキンリンパ腫の1次治療、BrECADDが有効/Lancet

 進行期の古典的ホジキンリンパ腫の成人患者に対する1次治療において、ブレオマイシン+エトポシド+ドキソルビシン+シクロホスファミド+ビンクリスチン+プロカルバジン+prednisone(eBEACOPP)療法と比較して、2サイクル施行後のPET所見に基づくbrentuximab vedotin+エトポシド+シクロホスファミド+ドキソルビシン+ダカルバジン+デキサメタゾン(BrECADD)療法は、忍容性が高く、無増悪生存(PFS)率を有意に改善することが、ドイツ・ケルン大学のPeter Borchmann氏らAustralasian Leukaemia and Lymphoma Groupが実施した「HD21試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2024年7月3日号に掲載された。9ヵ国233施設の無作為化第III相試験 HD21試験は、欧州7ヵ国とオーストラリア、ニュージーランドの合計9ヵ国233施設で実施した非盲検無作為化第III相試験であり、2016年7月~2020年8月に患者を登録した(Takeda Oncologyの助成を受けた)。 新規に診断された進行期の古典的ホジキンリンパ腫(Ann Arbor病期分類のStageIII/IV、B症状を呈するStageII、リスク因子として大きな縦隔病変および節外病変のいずれか、または両方を有する)で、60歳以下の成人患者1,482例(ITT集団)を登録し、BrECADD群に742例、eBEACOPP群に740例を無作為に割り付けた。 両群とも試験薬を21日間隔で投与した。2サイクル(PET-2)および最終サイクルの終了後にPETまたはCTによる奏効の評価を行い、PET-2の所見に基づきその後のサイクル数を決定した。 主要評価項目は、(1)担当医評価による忍容性(投与開始から終了後30日までの治療関連疾患の発生)、および(2)有効性(PFS)に関するBrECADD群のeBEACOPP群に対する非劣性とし、非劣性マージンを6%に設定した。治療関連疾患は、有害事象共通用語規準(CTCAE)のGrade3/4の急性非血液学的臓器毒性、およびGrade4の急性血液毒性と定義した。PFSの優越性を確認 ベースラインの全体の年齢中央値は31歳(四分位範囲[IQR]:24~42)、644例(44%)が女性で、1,352例(91%)が白人であった。 1つ以上の治療関連疾患が発生した患者は、eBEACOPP群が732例中430例(59%)であったのに対し、BrECADD群では738例中312例(42%)と有意に少なかった(相対リスク:0.72、95%信頼区間[CI]:0.65~0.80、p<0.0001)。 PFSの中間解析で、BrECADD群の非劣性が確認されたため優越性の検定を行った。追跡期間中央値48ヵ月の時点における4年PFS率は、eBEACOPP群が90.9%(95%CI:88.7~93.1)であったのと比較して、BrECADD群は94.3%(92.6~96.1)と有意に良好だった(ハザード比[HR]:0.66、95%CI:0.45~0.97、p=0.035)。 また、4年全生存率は、BrECADD群が98.6%(95%CI:97.7~99.5)、eBEACOPP群は98.2%(97.2~99.3)であった。血液学的治療関連疾患が有意に少ない 血液学的治療関連疾患は、eBEACOPP群では732例中382例(52%)で発現したのに対し、BrECADD群では738例中231例(31%)と有意に少なかった(p<0.0001)。これは、赤血球輸血(52% vs.24%)および血小板輸血(34% vs.17%)がBrECADD群で少なかったことに反映されている。Grade3以上の感染症の発生(19% vs.20%)は両群で同程度であった。 ホジキンリンパ腫による死亡は、BrECADD群で3例、eBEACOPP群で1例に認めた。治療関連死はeBEACOPP群で3例にみられた。また、2次がんは、BrECADD群で742例中19例(3%)、eBEACOPP群で740例中13例(2%)に発生した。 著者は、「この第III相試験の結果に基づき、BrECADDは新規に診断された進行期古典的ホジキンリンパ腫の成人患者に対する標準的な治療選択肢となることが期待される」としている。

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tisotumab vedotin、再発子宮頸がんの2次・3次治療に有効/NEJM

 再発子宮頸がんの2次または3次治療において、化学療法と比較してtisotumab vedotin(組織因子を標的とするモノクローナル抗体と微小管阻害薬モノメチルアウリスタチンEの抗体薬物複合体)は、全生存期間(OS)と無増悪生存期間(PFS)が有意に延長し、新たな安全性シグナルの発現はないことが、ベルギー・Universitaire Ziekenhuizen LeuvenのIgnace Vergote氏らが実施した「innovaTV 301/ENGOT-cx12/GOG-3057試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2024年7月4日号で報告された。27ヵ国168施設の無作為化第III相試験 本研究は、日本を含む27ヵ国168施設が参加した非盲検無作為化第III相試験であり、前治療後に病勢が進行した再発子宮頸がん患者におけるtisotumab vedotinの有効性と安全性の評価を目的に行われた(GenmabとSeagenの助成を受けた)。 再発または転移を有する子宮頸がんと診断され、全身状態の指標であるEastern Cooperative Oncology Group(ECOG)performance-statusのスコアが0または1の患者502例(年齢中央値50歳[範囲:26~80]、前治療ライン数は1が61.4%、2が38.4%)を登録した。 tisotumab vedotin単剤(2.0mg/kg体重、3週ごと)の静脈内投与を受ける群に253例、担当医が選択した化学療法(トポテカン、ビノレルビン、ゲムシタビン、イリノテカン、ペメトレキセドのいずれか)を受ける群に249例を無作為に割り付けた。奏効率も有意に優れる 前治療薬として、全体の63.9%がベバシズマブの投与を、27.5%が抗PD-1または抗PD-L1抗体製剤の投与を受けていた。 主要評価項目であるOS中央値は、化学療法群が9.5ヵ月(95%信頼区間[CI]:7.9~10.7)であったのに対し、tisotumab vedotin群は11.5ヵ月(9.8~14.9)と有意に良好であった(ハザード比[HR]:0.70、95%CI:0.54~0.89、両側p=0.004)。 12ヵ月時のOS率は、tisotumab vedotin群が48.7%(95%CI:41.0~55.8)、化学療法群は35.3%(28.0~42.7)であった。 PFS中央値は、化学療法群が2.9ヵ月(95%CI:2.6~3.1)であったのに比べ、tisotumab vedotin群は4.2ヵ月(4.0~4.4)と有意に優れた(HR:0.67、95%CI:0.54~0.82、両側p<0.001)。 また、確定された奏効の割合は、化学療法群の5.2%と比較して、tisotumab vedotin群は17.8%と有意に高率だった(オッズ比:4.0、95%CI:2.1~7.6、両側p<0.001)。毒性による投与中止は14.8% 初回投与の1日目から最終投与後30日までに有害事象が1件以上発現した患者の割合は、tisotumab vedotin群が98.4%、化学療法群は99.2%であり、Grade3以上の有害事象は、それぞれ52.0%および62.3%で発現した。tisotumab vedotin群では、14.8%の患者が毒性により投与を中止した。 とくに注目すべき有害事象では、眼イベントがtisotumab vedotin群で52.8%、化学療法群で6.3%に発現し、このうちGrade3以上はそれぞれ4.0%および0%であった。また、末梢神経障害イベントはそれぞれ38.4%および4.2%、Grade3以上は5.6%および0.4%に、出血イベントは42.0%および14.2%、Grade3以上は2.4%および2.9%に発現した。 著者は、「これらのデータを総合すると、tisotumab vedotinは、再発子宮頸がん患者の治療において化学療法よりも優先される2次または3次治療の選択肢となる可能性が示唆される」としている。

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ASCO2024 レポート 老年腫瘍

レポーター紹介昨今、ASCOで老年腫瘍に関する重要な臨床研究の結果が発表されるようになった。高齢がん患者を対象とする臨床研究の枠組みとしては、(1)高齢がん患者を対象とした治療開発(特定の治療の有用性を検証)に関する臨床試験、(2)特定の因子、とくに高齢者機能評価が予後因子になるか否かを評価する臨床研究、(3)「高齢者機能評価+脆弱性に対するサポート」の有用性を評価する臨床試験に大別されるだろう。ASCO2024では、それぞれの枠組みの中で、日常診療の参考になる臨床研究が多数発表されていた。その中から、興味深い研究を紹介する。転移性膵がんを患う「脆弱な」高齢者を対象としたランダム化比較試験(GIANT study: #40031))近年、高齢者という集団は不均一であり、暦年齢だけで治療方針を決めるべきではない、という認識が浸透しつつあるように思う。とくに欧州では、高齢者という集団を全身状態の良いほうから順番に、fit、vulnerable、frailに分類するという考え方が提唱されている。すなわち、“fit”は、積極的ながん治療の恩恵を受けられるような全身状態の良い患者、“frail”はベストサポーティブケアの適応となるような全身状態の悪い患者、“vulnerable”は、その中間に位置することが提唱されている2)。しかし、それぞれの分類の線引きは定まっておらず、がん種ごと、病態ごとに定義が異なっているのが現状である。米国のECOG-ACRINグループが実施したGIANT試験は、“vulnerable”な高齢者を独自に定義し、GEM+nab-PTX vs.5FU/LV+nal-IRIの有用性を比較したランダム化比較第II相試験である。70歳以上、転移性膵管腺がんを有する、ECOG-PS:0~2かつ高齢者機能評価(生活機能、併存症、認知機能、暦年齢、老年症候群[転倒、失禁])の結果で“vulnerable”な高齢者と判断された患者が本試験に登録された(表1)。登録患者は、ゲムシタビン(1,000mg/m2)とナブパクリタキセル(125mg/m2)を14日ごとに投与するA群および5-フルオロウラシル(2,400mg/m2)、ロイコボリン(400mg/m2)、リポソームイリノテカン(50mg/m2)を14日ごとに投与するB群に無作為に割り付けられた。Primary endpointは全生存期間、secondary endpointsは、無増悪生存期間、奏効割合、有害事象などであった。A群の生存期間中央値を7.7ヵ月、B群を10.7ヵ月(HR:0.72)、片側α:0.10、検出力80%とした場合、予定登録患者数は184例であった。本試験は想定よりも予後が悪すぎたため、第1回目の中間解析で無効中止となった。92施設から176例の患者が登録され、年齢中央値は両群とも77歳。登録はしたものの治療を開始できなかった患者はA群で10.2%、B群で14.8%、1~3コースしか治療ができなかった患者はA群で34.2%、B群で42.7%であった。全生存期間は、A群で4.7ヵ月、B群で4.4ヵ月(HR:1.12、0.76~1.66、p=0.72)であり、無増悪生存期間はA群3.0ヵ月、B群2.4ヵ月であった。Grade3以上の有害事象発生割合は、A群45.6%、B群58.7%であった。残念ながら早期中止となってしまったが、“vulnerable”な高齢者を対象として治療開発を試みた意欲的な試験である。高齢者機能評価を用いて高齢者を分類するという手法を用いた臨床試験は過去にも複数存在3)するが、このタイプの臨床試験では試験結果がnegativeになった場合、「試験治療が適切なのか」という問題以外にも、「そもそも高齢者機能評価を用いた分類方法が適切なのか」という問題がつきまとう。本試験の場合、両群で治療強度を弱め過ぎたのかもしれないという問題と、本試験で定義した“vulnerable”という分類方法が適切ではなかったのではないかという問題が生じる。治療が開始できなかった患者や治療期間が極端に短かった患者が多かったことを踏まえると、本試験で定義した“vulnerable”の大部分が本当は“frail”なのではないかという疑問を持ってしまう。患者の大多数は、認知機能障害(46%)、暦年齢が80歳以上(36%)、併存疾患(31.4%)により“vulnerable”と判断されており、これらの患者は、より慎重に化学療法を実施、またはベストサポーティブケアを提案してもよいのかもしれない。一方、サブグループ解析では、75歳以上と75歳未満の集団の生存曲線に大きな違いはなかったため、やはり暦年齢だけで治療方法を決めるのは避けるべきなのだろう。本試験は早期中止となり、また“vulnerable”な高齢者を定義することの難しさを改めて知ることになったが、このような意欲的な試験のデータが蓄積されていくことで、より適切な集団を設定することができ、その集団に適切な治療を提供できるようになると考えている。画像を拡大する日本発の高齢者機能評価+介入のランダム化比較試験の副次的解析(NEJ041/CS-Lung001: #15024))“vulnerable”な高齢者をどう定義するのか、という議論は以前からある。生理的予備能が乏しい高齢者が全身化学療法などで重篤な有害事象が生じると全身状態が悪化することが予想されるため、重篤な有害事象が生じうる集団を“vulnerable”な高齢者とするという考え方もある。化学療法の毒性を予測するツールで有名なものとして、米国の高齢がん研究グループ(Cancer and Aging Research Group:CARG)が作成したChemo Toxicity Calculator(以下、CARGスコア)がある。CARGスコアは簡単な11項目(年齢、がんの種類、予定されている化学療法の投与量、予定されている化学療法の薬剤数、ヘモグロビン、クレアチニンクリアランス、聴力、転倒、服薬管理、身体活動、社会活動)を評価するだけでGrade3以上の有害事象の出現頻度を予測できるとされている5,6)。CARGスコアは米国では妥当性が検証されており、また正式な手順で翻訳されたCARGスコア日本語版があるため日本でも使用しやすいツールである(当該URLのlanguageをJapaneseにすれば日本語になる)7)。しかし、日本人での有用性が評価されていないこと、また分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬などは予測式を作成する際の対象集団に含まれていなかったことから、その使用には注意が必要であるとされていた。今回、日本発の高齢者機能評価+介入のランダム化比較試験の副次的解析の中で、日本人におけるCARGスコアの有用性が評価された。NEJ041/CS-Lung001は、非小細胞肺がんを患う75歳以上の患者を対象とした、高齢者機能評価+介入の患者満足度における有用性を評価したクラスターランダム化比較試験であり、主たる解析の結果はASCO2023で報告された。1,021例が登録され、そのうち911例がCARGスコアで評価された。CARGスコアは19点満点であり、0~5点を「低い」、6~9点を「中間」、10~19点を「高い」とした場合、米国のデータでは、それぞれのカテゴリーとGrade3以上の有害事象の発生割合に関連がみられたため、CARGスコアは重篤な有害事象を予測できるという結論に至ったが、今回の日本人データではそれらに関連がみられなかった。また、CARGスコアの対象外とされていた分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬を受けている集団でもCARGスコアの有用性を評価したものの、いずれもCARGスコアのカテゴリーと重篤な有害事象に明らかな関連はみられなかった。欧米のKey opinion leaderが提唱しているツールをそのまま日本に流用することなく、日本人データで妥当性を検証し、日本人でのCARGスコアの有用性をきちんと否定するという重要な研究である。CARGスコアの日本語版はCARGのホームページに掲載してもらっているのだが、日本人でも毒性を予測できるか否かの評価がされていなかったため、研究目的以外でのCARGスコアの使用は推奨してこなかった。今回、副次的解析ではあるものの、日本人ではCARGスコアの有用性が示せなかったことは、臨床上重要である。ただし、欧米でもCARGスコアは絶対的なツールではない。実際、「全がん種」を対象として生まれたCARGスコアでは予測精度が低いという理由で、「乳がん」に特化した予測ツールCARG-BC(Breast Cancer)が作成されている8)。このように、それぞれのがん種、人種に特化した予測ツールが望まれており、今後、日本独自の毒性予測ツールが求められる。『高齢者機能評価+脆弱な部分をサポートする診療』モデルの費用対効果分析(#15099))欧米の老年腫瘍ガイドラインでは、高齢者機能評価(Geriatric Assessment:GA)を実施するのは当然であり、「高齢者機能評価+脆弱な部分をサポートする診療」、いわゆるGeriatric Assessment and Management (GAM)の実施までもが推奨されるようになった。これは、世界中で「高齢者機能評価+脆弱な部分をサポートする診療」の有用性を検証するランダム化比較試験が公表されたためである。ただ、それぞれの試験におけるGAMの診療モデルはまったく異なるため、どの診療モデルが最適なのかはわかっていない。このため今回、GAMの有用性を検証したpivotal study 4試験のデータを基に、費用対効果分析が行われた(表2)。これらの試験のGAMモデルを概説すると、(1)The 5C試験は「老年医学の訓練を受けたチームによる電話を用いてフォローアップするモデル」10)、(2)GAIN試験は「老年医学の訓練を受けたチームによる脆弱な部分をサポートする方法を提示するモデル」11)、(3) GAP70+試験は「老年医学の訓練を受けたチームがいない状態でのGA実施および脆弱な部分をサポートする方法を提示するモデル」12)、(4)INTEGERATE試験は「適宜、老年科医にコンサルトしながら診療を行うモデル」13)である。本試験はカナダの研究者が実施したため、カナダの医療費をベースとして、さまざまなシナリオの下でそれぞれの試験における12ヵ月以内の、がん薬物療法に伴う費用、有害事象に伴う費用、入院/救急外来受診に伴う費用、GAM実施に伴う費用を推定し、質調整生存年(Quality-adjusted life years:QALY)当たりの医療費および増分純金銭便益(incremental monetary benefit、INMB)を計算した(INMB=[λ*ΔQALY]-ΔCosts、閾値は50,000ドル)。患者当たりの平均QALYはGAM群で0.577~0.662、通常診療群(GAMを実施しない通常診療)で0.606~0.665、平均総費用は、GAM群で3万1,234~3万9,432ドル、通常診療群で2万9,261~4万1,756ドルであった。がん薬物療法の費用は総費用の46~66%を占めていた。INTEGERATE試験およびGAP70+試験では、INMBが3,975ドルおよび1,383ドルと正の値だったが、GAIN試験、The 5C試験では、INMBの値がそれぞれ-3,492ドル、-2,125ドルと負の値であった。INTEGERATE試験の診療モデル(適宜、老年科医にコンサルトしながら診療を行うモデル)は最も高価なモデルであったが、入院の減少(GAM群での入院/救急外来受診割合:26.6%、通常診療群:40.2%)により費用対効果が良好になったと考察されている。結果の解釈には慎重になる必要がある研究である。すなわち、12ヵ月のみのデータであること、カナダの医療費を基に計算されたものであること、入院/救急外来受診のしやすさは環境によって変わりうることなど、多くのlimitationがある。しかし、それぞれの診療モデルの一長一短は推察できるため、どの診療モデルが自施設に適していそうかの考察には使えると考えている。欧米の老年腫瘍ガイドラインがGAMを推奨しており、また日本老年医学会が発刊した『高齢者総合機能評価(CGA)に基づく診療・ケアガイドライン2024』でも悪性腫瘍を患う患者に高齢者総合機能評価(ほぼGAMと同じ意味)は推奨しているが、これらガイドラインはGAMを推奨しているにもかかわらず、具体的にどのようなモデルを用いればよいかは提示していない。日本では現状、がん治療に携わる老年科医が少ないため、「老年医学の訓練を受けたチームがいない状態でのGA実施および脆弱な部分をサポートする方法を提示するモデル」、すなわちGAP70+モデルが費用対効果の意味でも適しているのかもしれない。しかし、将来的には老年科医と協働して高齢がん患者の診療を進めてゆける環境がつくられることを祈っている。画像を拡大する参考1)Dotan E, et al. A randomized phase II study of gemcitabine and nab-paclitaxel compared with 5-fluorouracil, leucovorin, and liposomal irinotecan in older patients with treatment-naive metastatic pancreatic cancer (GIANT): ECOG-ACRIN EA2186.J Clin Oncol.2024;42:s4002)Ferrat E, et al. Performance of Four Frailty Classifications in Older Patients With Cancer: Prospective Elderly Cancer Patients Cohort Study. J Clin Oncol. 2017;35:766-777.3)Corre R, et al. Use of a Comprehensive Geriatric Assessment for the Management of Elderly Patients With Advanced Non-Small-Cell Lung Cancer: The Phase III Randomized ESOGIA-GFPC-GECP 08-02 Study. J Clin Oncol. 2016;34:1476-1483.4)Furuya N, et al. Geriatric assessment in older patients with non-small cell lung cancer: Insights from a cluster-randomized, phase III trial―ENSURE-GA study (NEJ041/CS-Lung001).J Clin Oncol.2024.42:s15025)Hurria A, et al. Predicting chemotherapy toxicity in older adults with cancer: a prospective multicenter study. 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診療科別2024年上半期注目論文5選(呼吸器内科編)

Clarithromycin for early anti-inflammatory responses in community-acquired pneumonia in Greece (ACCESS): a randomised, double-blind, placebo-controlled trialGiamarellos-Bourboulis EJ, et al. Lancet Respir Med. 2024 Apr;12:294-304.<ACCESS試験>:全身性炎症反応を認める市中肺炎においてβラクタム系抗菌薬へのマクロライドの追加は早期臨床反応を改善市中肺炎の治療においてβラクタム系抗菌薬へのマクロライド追加の上乗せ効果については、観察研究で証明されてきました。今回、全身性炎症反応症候群、SOFAスコア2点以上、プロカルシトニン0.25ng/mL以上を有する市中肺炎の入院成人患者を対象として、無作為化比較試験としては初めて、マクロライドの有益性が示されました。Perioperative Nivolumab in Resectable Lung CancerCascone T, et al. N Engl J Med. 2024 May 16;390:1756-1769.<CheckMate 77T試験>:非小細胞肺がんへの術前ニボルマブ併用化学療法+術後ニボルマブ単剤で無イベント生存期間を改善切除可能な非小細胞肺がん患者を対象とした無作為化比較試験で、術前ニボルマブ併用化学療法+術後ニボルマブ単剤投与が、無イベント生存期間を有意に改善することが明らかとなりました。新たな安全性シグナルは認められませんでした。Dupilumab for COPD with Blood Eosinophil Evidence of Type 2 InflammationBhatt SP, et al. N Engl J Med. 2024 May 20.<NOTUS研究>:タイプ2炎症を有するCOPDにおいてデュピルマブで増悪が減少タイプ2炎症を有するCOPD患者に対するヒト型抗ヒトIL-4/13受容体モノクローナル抗体デュピルマブの有効性を評価した二重盲検無作為化比較試験です。末梢血好酸球数300/uL以上のCOPD患者において、デュピルマブはプラセボに比べて中等度または重度の増悪の減少と有意に関連していました。Bisoprolol in Patients With Chronic Obstructive Pulmonary Disease at High Risk of Exacerbation: The BICS Randomized Clinical TrialDevereux G, et al. JAMA. 2024 May 19.<BICS研究>:ハイリスクCOPD患者へのビソプロロールで増悪は減少せずCOPD患者において、β1受容体選択性遮断薬ビソプロロールがCOPD増悪を減少させるかどうかを検証した無作為化比較試験です。増悪リスクの高いCOPD患者において、ビソプロロールによる治療はCOPD増悪を減少させませんでした。しかし、呼吸器系を含む有害事象の増加をビソプロロールで認めることはなく、ビソプロロールの安全性が示されました。Morphine for treatment of cough in idiopathic pulmonary fibrosis (PACIFY COUGH): a prospective, multicentre, randomised, double-blind, placebo-controlled, two-way crossover trialWu Z, et al. Lancet Respir Med. 2024 Apr;12:273-280. <PACIFY COUPH試験>:特発性肺線維症患者においてモルヒネで咳嗽が減少特発性肺線維症(Idiopathic pulmonary fibrosis:IPF)患者の咳嗽に対する低用量徐放性モルヒネの効果を検証した無作為化比較試験です。モルヒネはプラセボと比較して、客観的覚醒時咳嗽頻度を39%減少させました。この研究は、IPF患者の咳嗽に対するモルヒネの有用性を報告した初めての研究です。

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診療科別2024年上半期注目論文5選(消化器内科編)

Durvalumab plus gemcitabine and cisplatin in advanced biliary tract cancer (TOPAZ-1): patient-reported outcomes from a randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 3 trialBurris HA 3rd, et al. Lancet Oncol. 2024 May;25:626-635.<進行胆道がんGCD療法のQOL>:進行胆道がんにおける1次治療としてGCD療法は忍容される進行胆道がんに対する GCD療法は、良好な治療効果に加え、 QOLに有害な影響を及ぼさないことが示されました。進行胆道がんにおいて、GCD療法が1次治療における第一選択薬として支持される結果となっています。Factors Affecting Nonfunctioning Small Pancreatic Neuroendocrine Neoplasms and Proposed New Treatment StrategiesHijioka S, et al. Clin Gastroenterol Hepatol. 2024;22:1416-1426.<非機能性PNENに対する治療戦略>:PNENは悪性度、サイズによっては経過観察が推奨されるPNENは従来外科的治療が画一的に推奨されてきましたが、その侵襲性の大きさから手術の絶対的な必要性は明らかではありませんでした。本結果により腫瘍の悪性度、サイズによっては経過観察が適切な可能性が示唆されました。Neoadjuvant Immunotherapy in Locally Advanced Mismatch Repair-Deficient Colon CancerChalabi M, et al. N Engl J Med. 2024;390:1949-1958. <NICHE-2 試験>:局所進行dMMR結腸がん腫瘍に対してニボルマブ+イピリムマブによる術前補助療法の有効性が報告されたミスマッチ修復機構欠損(dMMR)腫瘍は、転移のない結腸がん患者の 10~15%に認められます。ニボルマブ+イピリムマブによる術前補助療法により病理学的著効が95%に、病理学的完全奏功が68%に確認されました。dMMR結腸がんに対する術前補助療法は今後の標準治療になる可能性が示唆された結果です。Aspirin for Metabolic Dysfunction-Associated Steatotic Liver Disease Without Cirrhosis: A Randomized Clinical TrialSimon TG, et al. JAMA. 2024;331:920-929.<MASLDに対するアスピリンの有用性>:MASLDへの低用量アスピリンで肝脂肪量が減少基礎研究や観察研究からアスピリンはMASLDの治療薬として有望視されていましたが、この第II相試験により低用量アスピリンが肝脂肪量を有意に減少することが証明されました。臨床的アウトカムの結果も出れば、すぐに臨床に活用できる結果です。Tirzepatide for Metabolic Dysfunction-Associated Steatohepatitis with Liver Fibrosis Loomba R, et al. N Engl J Med. 2024 Jun 8. [Epub ahead of print]<SYNERGY-NASH trial>:線維化F2/F3を伴うMASH患者に対するチルゼパチドの安全性と有効性が証明された第II相試験でGIP/GLP-1のデュアルアゴニストであるチルゼパチドは、すべての容量においてMASH消失効果(15mg群62% vs.プラセボ群10%)、1ステージ以上の線維化改善効果を認めました。すでに市場にある薬での卓越した奏効率であり、今後の第III相試験結果が期待されます。a

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