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ASCO2024 レポート 消化器がん

レポーター紹介本レポートでは、2024年5月31日~6月4日に行われた2024 ASCO Annual Meetingにおける消化管領域におけるトピックスを解説する。1.【食道がん】ESOPEC trial(#LBA1)最初に解説するのは、今年消化管領域でPlenary Sessionに選ばれたESOPEC trialである。欧米ではわが国をはじめとする東アジアと異なり、食道がんにおいては下部食道から接合部にできる腺がんが中心である。cT2-4a、cN+/-の切除可能進行食道腺がんにおける現在の標準治療は、CROSS trialで用いられたパクリタキセル+カルボプラチン+41.4Gyの術前化学放射線療法(CRT)とFLOT4 trialで用いられた術前・術後のFLOT(5-FU、LV、オキサリプラチン、ドセタキセル)療法の両者が併存しており、それぞれ開発が行われたオランダではCROSSレジメンが、ドイツではFLOTレジメンが主流である。ESOPEC trialでは両者の直接比較が第III相試験として行われた。2016年2月~2020年4月に438例のcT1N+ or cT2-4a、cN0/+、cM0の食道および接合部腺がんが登録された。年齢中央値は63歳、男性が89.3%、cT3/4の症例が80.5%、リンパ節転移陽性症例が79.7%であった。主要評価項目である全生存期間(OS)でハザード比(HR)が0.70、p=0.012、OS中央値がFLOT群66ヵ月、CROSS群39ヵ月、3年OS率がFLOT群54.7%、CROSS群50.7%と有意にFLOT群が優れていた。また、計画された術前治療を完遂できたのはFLOT群で87.3%、CROSS群で67.7%と差を認めた。無増悪生存期間(PFS)では、HR:0.66、p=0.001、3年PFS率がFLOT群51.6%、CROSS群35.0%と有意にFLOT群が優れていた。病理学的完全奏効(pCR)もFLOT群で16.8%、CROSS群で10.0%とFLOT群のほうが良好であった。術後合併症は両群で差を認めない結果であった。本試験結果をもって、切除可能局所進行食道・接合部腺がんにおいてFLOTレジメンの有意性が示された。本邦でも切除可能局所進行食道・接合部腺がんに対してFLOTやDCS(ドセタキセル、シスプラチン、S-1)をはじめとする術前化学療法が主流であり、本結果は受け入れられると考える。一方、術前CRT後pCRとならなかった症例にはCheckMate 577のエビデンスから術後ニボルマブ1年が無病生存期間(DFS)を有意に改善することが検証されているが、KEYNOTE-585やATTRACTION-5の結果より、術前・術後の化学療法に対して免疫チェックポイント阻害薬の有効性は検証されていない。今後FLOTとCROSSの直接比較のみならず、CRT後のニボルマブの有効性も含めた結果の解釈が必要になる。2.【大腸がん】切除不能大腸がん肝転移に対する肝移植の有効性(#3500)切除可能性のない大腸がん肝転移症例に対する標準治療は化学療法であるが、根治は困難である。今回、フランスの研究者から化学療法(C)に対する肝移植+化学療法(LT+C)の優越性を検証するTransMet試験が報告された。適格基準は65歳以下、PS 0-1、化学療法で3ヵ月以上部分奏効もしくは安定が得られている、CEAが80mg/mLもしくはベースラインより50%以上の減少、血小板8万超、白血球2,500超と厳格な基準で行われた。157例がスクリーニングされ、そのうち94例がランダム化された。LT+C群の47例のうち11例がPer protocolから外され(9例が病勢進行のためLTせず)、C群の47例のうち9例がPer protocolから外された(7例が肝切除実施のため)。主要評価項目の5年OS(ITT)はLT+C群が57%、C群が13%(HR:0.37、p=0.0003)であり、LT+Cが実施された36例のうち、26例に再発を認めた(一番多い部位は肺転移の14例)が、その後手術および焼灼療法が12例(46%)に実施され15例で最終的にがんがない状態を維持できていた。副次評価項目である3年・5年PFSは、LT+C群とC群で3年PFSがそれぞれ33%と4%、5年PFSがそれぞれ20%と0%(HR:0.34、p<0.0001)とLT+C群が有意に優れている結果であった。適切な症例選択をすることで、切除不能大腸がん肝転移症例に対してLT+Cは有意にOSとPFSのそれぞれを改善することが示された。長期予後が期待できない切除不能肝転移症例に対して根治の可能性を届けられることが示された。3.【大腸がん】CheckMate 8HW(#3503)CheckMate 8HW試験は1次治療におけるニボルマブ+イピリムマブ(NIVO+IPI)と標準治療(mFOLFOX6/FOLFIRI+/-ベバシズマブ/セツキシマブ)のPFSのデータがすでに2024 ASCO Gastrointestinal Cancers Symposiumで報告されているが、前回と同様のdMMR/MSI-H切除不能大腸がんにおいて1次治療でNIVO+IPIを行った202例と標準治療を行った101例の追加情報が報告された。観察期間中央値は31.6ヵ月と延長したが、PFS中央値でNIVO+IPI群は到達せず、標準治療群は5.9ヵ月(HR:0.21、p<0.0001)とNIVO+IPI群が圧倒的に優れている結果であった。サブ解析でもNIVO+IPI群が肝転移症例、BRAF V600E変異症例、RAS変異症例など、免疫チェックポイント阻害薬の効果が乏しいとされる症例でも良好なHRを認めていた。また、本試験では標準治療群は増悪後NIVO+IPIを試験治療で行うことが可能になっており、今回2次治療までのPFS(PFS2)が報告された。標準治療群では試験治療とそれ以外を合わせて67%の症例がcross overされたが、PFS2中央値でNIVO+IPI群が未到達である一方、標準治療群は29.9ヵ月(HR:0.27)と後治療の実施も含め1次治療でNIVO+IPIを実施する有効性が示された。免疫関連有害事象については一定数認められたが、Grade3以上はいずれも5%以下であり、臨床的には許容できると解釈された。dMMR/MSI-H切除不能大腸がんの1次治療としてNIVO+IPIが重要な選択肢であることが検証されたが、NIVO単剤との比較データは今回報告されておらず、どちらを第1選択にするかの最終判断は、今後の報告を見てからになると考える。4.【大腸がん】PARADIGM試験のバイオマーカー解析(#3507)本邦からもRAS野生型切除不能大腸がんに対してパニツムマブ(Pmab)+mFOLFOX6とベバシズマブ(Bmab)+mFOLFOX6を1対1で比較したランダム化比較試験であるPARADIGM試験のバイオマーカー解析が報告された。治療前と治療後に血漿検体を採取してNGS解析を行った556例のうち、病勢進行(PD)で中止となった276例で治療開始時とPD時のゲノムの変化を解析した。PD症例のOSや増悪後の生存期間(PPS)は両群で差を認めず、PD時のacquired alterationsに注目すると、Pmab群で2つ以上のalterationsが52.4%の症例に認められた一方、Bmab群では43.3%に認められた。Pmab群で2つ以上のalterationsを認めた症例はalterationsを認めなかった症例よりも有意にPPSが短く、Pmab症例において獲得alterationsがPD後の生存に影響している可能性が示された。さらに獲得alterationsをpathwayごとに分けて解析すると、RTK/RAS経路のalterationsを認める症例はPmab群でPPSが不良である一方、CIMPやPI3K経路のalterationsを認める症例はBmab群でPPSが不良な結果であった。RTK/RAS経路とCIMP経路はOSでも同様の結果が認められ、獲得耐性のパターンがレジメンにより異なり、またそれが増悪後の生存に影響する可能性が示唆された。現在の臨床では、治療前後の血漿を用いたNGS解析は実施できないが、科学的には重要な示唆を持つ結果であった。5.【大腸がん】CodeBreaK 300のOSの報告(#LBA3510)CodeBreaK 300試験は前治療のあるKRAS G12C変異結腸直腸がんに対して、ソトラシブ960mg/日+Pmab群、ソトラシブ240mg/日+Pmab群、主治医選択(トリフルリジン・チピラシルまたはレゴラフェニブ)群を1対1対1で比較した第III相試験である。主要評価項目である盲検独立中央判定によるPFSは2つのソトラシブ+Pmab群が主治医選択群よりも有意に優れていることが検証されているが、副次評価項目であるOSの報告が、OSのイベントが50%を超えた今回のタイミングで行われた。症例数からOSの検証はできないが、観察期間中央値13.6ヵ月の段階で2つのソトラシブ+Pmab群が主治医選択群よりも良好な傾向が認められ、有意差はないもののソトラシブ960mg/日+Pmab群はHR:0.70と良好な結果であった。後治療として主治医選択群はその後31%がKRAS G12C阻害薬の治療を受けていた。その他の結果もupdateが報告され、ソトラシブ960mg/日+Pmab群は奏効割合が30%、Duration of Response中央値が10.1ヵ月、PFS中央値の再解析では5.8ヵ月(HR:0.46)の結果であった。これらの結果は、ソトラシブ960mg/日+PmabがKRAS G12C変異大腸がんの新たな選択肢であることを示すものであり、本邦でも今後早期の承認が期待される。6.【直腸がん】切除可能dMMR/MSI-H直腸がんに対するPD-1抗体の医師主導治験の長期治療効果(#LBA3512)スローン・ケタリング記念がんセンターから報告された切除可能dMMR/MSI-H直腸がんに対するdostarlimab(PD-1抗体)の医師主導治験は、14例という少数例の結果であったものの全例に臨床的完全奏効(cCR)が認められるという優れた結果であった。今回さらなる症例集積と治療効果の継続について報告がなされた。今回の報告では48例までの登録がなされており、Lynch症候群の確定検査がなされた41例のうち21例(51%)がLynch症候群の診断であった。またTumor Mutation Burdenの中央値が53.6、BRAF V600E変異が1例に認められた。PD-1抗体薬であるdostarlimabの投与が終わった42例で主要評価項目であるcCRが100%に認められ、観察期間中央値17.9ヵ月の時点で1例も再増悪を認めていなかった。もう1つの主要評価項目である12ヵ月cCRについても26.3ヵ月の観察期間中央値で100%の結果であった。Grade3以上の有害事象は認めず、安全性についても大きな懸念事項は認めなかった。すでにNCCNガイドラインでは、切除可能dMMR/MSI-H直腸がんに対する第1選択は免疫チェックポイント阻害薬6ヵ月となっており、企業主導の検証治験として行われているAZUR-1が進行中である。また本邦でも医師主導治験としてStageI~III直腸がんまでを対象にNIVOの有効性・安全性をみるVOLTAGE-2試験が進行中である。7.【大腸がん】c-Metをターゲットとした新規Antibody-Drug Conjugate(ADC)製剤であるABBV-400の安全性・有効性(#3515)ABBV-400はc-Metをターゲットとした抗体薬であるtelisotuzumabとtopoisomerase-1阻害薬のADC製剤である。BRAF野生型かつMSSの切除不能大腸がんの3次治療以降の症例を対象にdose escalation/expansionが行われた。1.6mg/kg、2.4mg/kg、3.0mg/kgと増量が行われ、Grade3以上の主な有害事象は貧血(35%)、好中球減少(25%)、血小板減少(13%)であった。すべてのGradeで嘔気(57%)、疲労(44%)、嘔吐(39%)が認められた。治療継続期間中央値は4.1ヵ月であり、1.6mg/kgではRelative Dose Intensity(RDI)が100%であったが、3.0mg/kgでは86.5%であった。奏効割合は16%であり、Duration of Response中央値は5.5ヵ月であった。用量が増えるに従って奏効率は上昇し、3.0mg/kgでは24%であった。C-Metタンパクの発現を≧10% 3+をcut offとして検討すると、2.4mg/kg以上で投与された症例のうちcut off以上の症例は奏効割合37.5%、PFS中央値5.4ヵ月と有望な結果であった。2.4mg/kgと3.0mg/kgを比較すると、2.4mg/kgのほうが、RDIが保たれ毒性は許容される結果であった。ABBV-400は大腸がん領域のADC製剤としては有望と考えられており、現在本試験の中でABBV-400とベバシズマブの併用が検討されている。

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切除可能なdMMR大腸がん、ニボルマブ+イピリムマブ術前補助療法が有用/NEJM

 ミスマッチ修復機能欠損(dMMR)の局所進行大腸がん患者において、ニボルマブ+イピリムマブによる術前補助療法の忍容性および安全性は良好であり、高い病理学的奏効を得られたことが、オランダ・Netherlands Cancer InstituteのMyriam Chalabi氏らによる第II相多施設共同単群試験「NICHE-2試験」の結果で示された。dMMR腫瘍は、転移のない大腸がん患者の10~15%に認められ、化学療法の有効性は限られている。小規模なNICHE試験でニボルマブ+イピリムマブによる術前補助療法の有用性が示唆されていたが、さらに多くの症例において有効性と安全性を検討する目的でNICHE-2試験が行われた。NEJM誌2024年6月6日号掲載の報告。計115例を対象に安全性と3年無病生存率を評価 研究グループは、未治療で遠隔転移のない切除可能な局所進行dMMR直腸腺がんで、最初のNICHE試験ではStageI~III、2020年10月のプロトコール改訂後のNICHE-2試験ではcT3以上かつ/またはN+の18歳以上の患者を登録し、1日目にイピリムマブ1mg/kgとニボルマブ3mg/kgを、15日目にニボルマブ3mg/kgを投与した後、試験登録後6週間以内に手術を行うこととした。 主要評価項目は、適時手術(治療関連有害事象による手術の遅延が2週間以内)で定義された安全性および3年無病生存率(DFS)、副次評価項目は病理学的奏効とゲノム解析であった。 本報告では、NICHE試験に登録された32例、およびNICHE-2試験に登録された83例を合わせた115例(登録期間2017年7月4日~2022年7月18日)の解析結果が示されている。手術遅延なしが98%、病理学的著効が95%、病理学的完全奏効が68% 115例の患者背景は、年齢中央値60歳(範囲:20~82)、58%が女性、67%がStageIII、64%がcT4であった。 適時手術が行われた患者は、115例中113例(98%、97.5%信頼区間[CI]:93~100)で、2週間以上の手術遅延に至った治療関連有害事象は2例(2%)のみであった。免疫関連有害事象は全Gradeで73例(63%)、Grade3または4が5例(4%)に発現したが、治療中止に至った有害事象は認められなかった。 有効性解析対象111例のうち、109例(98%、95%CI:94~100)に病理学的奏効が認められた。105例(95%)が病理学的著効(MPR:残存腫瘍が10%以下と定義)、75例(68%)が病理学的完全奏効(pCR:原発巣およびリンパ節のいずれも残存腫瘍なし)であった。 追跡期間中央値26.2ヵ月(範囲:9.1~65.3)時点で、再発は認められなかった。追跡期間が3年を超えた37例は、全例、無病のままである。 なお著者は研究の限界として、大腸がんの放射線学的Stage判定は不正確であることが多く、過剰治療につながる可能性があることなどを挙げている。

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進行胃・食道胃接合部がんの1次治療、tislelizumab+化学療法vs.プラセボ+化学療法/BMJ

 進行胃・食道胃接合部がんの1次治療として、抗PD-1抗体tislelizumab+化学療法は化学療法単独との比較において全生存期間(OS)の改善に優れることが示された。中国医学科学院のMiao-Zhen Qiu氏らRATIONALE-305 Investigatorsによる第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験「RATIONALE-305試験」の結果で、PD-L1 TAP(tumor area positivity)スコア5%以上の患者集団および無作為化された全患者集団のいずれにおいても、OSの有意な延長が認められた。進行胃・食道胃接合部がんの1次治療として、プラチナ製剤+5-FUの併用化学療法単独では生存転帰が不良であり、抗PD-1抗体の上乗せを検討した先行研究では、一貫したOSベネフィットは示されていない。そのため、抗PD-1療法のOSベネフィットおよびPD-L1発現状況によるOSベネフィットの違いについては、なお議論の的となっていた。BMJ誌2024年5月28日号掲載の報告。PD-L1 TAPスコア5%以上の患者集団、無作為化全患者集団のOSを評価 RATIONALE-305試験は、2018年12月13日~2023年2月28日に、アジア、欧州、北米の146医療センターで行われた。 被験者は、全身療法未治療のHER2陰性、切除不能な局所進行または転移のある胃・食道胃接合部がんの18歳以上の患者で、PD-L1の発現状況は問わなかった。 研究グループは被験者を1対1の割合で、tislelizumab 200mg(3週ごと静脈内投与)+化学療法(治験担当医師の選択でオキサリプラチン+カペシタビン、またはシスプラチン+5-FU)を受ける群またはプラセボ+化学療法を受ける群に割り付けた。層別化因子は、試験地、PD-L1発現状況、腹膜転移の有無、および治験担当医師の化学療法選択とした。治療は、病勢進行または許容不能な毒性の発現まで続けられた。 主要評価項目はOSで、PD-L1 TAPスコア5%以上の患者集団および無作為化全患者集団の両方で評価が行われた。安全性は、試験治療を少なくとも1回受けた患者集団で評価した。いずれの患者集団でもOSが有意に延長 2018年12月13日~2021年2月9日に1,657例がスクリーニングを受け、うち660例が不適格(適格基準を満たしていない、同意を撤回、有害事象またはその他の理由)とされ、997例がtislelizumab+化学療法群(501例)またはプラセボ+化学療法群(496例)に無作為化された。 tislelizumab+化学療法群は化学療法群と比べて、PD-L1 TAPスコア5%以上の患者集団(中央値17.2ヵ月vs.12.6ヵ月、ハザード比[HR]:0.74[95%信頼区間[CI]:0.59~0.94]、p=0.006[中間解析時点の評価による])、無作為化全患者集団(15.0ヵ月vs.12.9ヵ月、0.80[0.70~0.92]、p=0.001[最終解析時点の評価による])の両者で、OSの統計学的に有意な延長が示された。 Grade3以上の治療関連有害事象は、tislelizumab+化学療法群では54%(268/498例)に、化学療法群では50%(246/494例)に認められた。

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切除可能な局所進行非小細胞肺がんに対するニボルマブの周術期治療の効果/NEJM (解説:中島淳氏)

 外科手術は遠隔転移のない非小細胞肺がんを根治するために、最も有効な手段である。しかし、病期が進むほど術後再発率は高く、現在の国内外の肺がん診療ガイドラインでは臨床病期IIIA期に手術適応の境界線が引かれている。 手術後の成績を改善させるために補助療法が考案されてきたが、今世紀に入り術後platinum-doubletを用いた補助化学療法、そして術前補助化学療法の有効性がそれぞれメタアナリシスによって確かめられたが、いずれも比較的軽微な予後改善にとどまっていた。近年になり分子標的阻害薬や抗PD-1、抗PD-L1抗体などの免疫チェックポイント阻害剤(ICI)が、手術不適応進行非小細胞肺がんに対する従来の化学療法を上回る有効性が示されてから、これを手術補助療法に用いる臨床研究が盛んに行われるようになった。ICIによる術後補助療法、術前補助療法の有効性はすでに多くの臨床研究で明らかにされてきたが、この論文に示された研究では、術前と術後にニボルマブを用いた「周術期」補助療法が検討された。手術を挟んだ前後に行う治療は歴史的には「サンドイッチ療法」とも称され、他部位の固形がん治療で試みられてきた。 本研究(CheckMate-77T試験)は欧米・中国・日本などの多施設共同試験である。臨床病期II-IIIB期(UICC-AJCC第8版病期分類)、切除可能な非小細胞肺がん患者461例を対象とした前向き無作為化二重盲検試験であり、プライマリエンドポイントはevent-free survival(EFS)である。試験群にはニボルマブとplatinum doublet化学療法を術前に4サイクル(3週ごと)投与、術後はニボルマブを4週ごとに、最長1年間投与した。対照群にはplatinum doublet化学療法を術前に4サイクル(3週ごと)投与、術後はプラセボを4週ごとに最長1年間投与した。 中央値25.4ヵ月の追跡調査では、EFSは試験群70.2%、対照群50.0%であり、42%のリスク低減が観察された。4サイクルの術前治療が完遂できた割合はニボルマブ群85%、対照群89%、手術施行は78%、77%、術後補助療法は62%、65%に行われ、ニボルマブ投与の忍容性が確かめられた。 術前補助療法の意義は、腫瘍量を減らして完全切除率向上が期待されること、術後療法よりも忍容性が高いこと、および切除検体による補助療法の効果判定が行えることである。ICIの高い抗腫瘍効果が期待されるが、本研究では切除症例においてニボルマブ群のpathological complete response(pCR)率は25.3%であり、対照群の4.7%と比べて有意に高値であった。本研究では、2群ともにpCRが得られた症例では得られなかった症例と比べてEFSのハザード比(HR)が0.40、0.21であった。ICIは腫瘍のPD-L1発現量が高いほど効果が高いが、サブ解析ではがん組織におけるPD-L1発現が50%以上の症例ではEFSのHRが0.26と非常に低かったが、50%未満ではHRにおいて対照群と有意差はみられなかった。 術前補助療法の負の側面としては、補助療法に伴う合併症あるいは侵襲のために一般状態が低下して耐術不能となる、あるいは術前治療が無効で手術の機会を逸する危険性がある。本研究では、術前治療後の治療継続率に関しては2群間の有意差は認められず、その点では許容される治療であると判断された。 ニボルマブの術前・術後補助療法が、進行非小細胞肺がんの外科治療成績を向上させることは、本研究で明らかにされた。同様の研究はペムブロリズマブ(抗PD-1抗体:KEYNOTE-671試験)、デュルバルマブ(抗PD-L1抗体:AEGEAN試験)などでも行われており、いずれもICIの上乗せ効果が報告されている。 本研究では従来の報告と同様に、がん組織のPD-L1発現度が高い場合には有用性が高いが、逆も真であり、実臨床に応用するためには治療開始前にPD-L1発現度を検査する必要がある。術後ニボルマブ投与の必要性についてはどうだろうか。先行研究のCheckMate-816は、ニボルマブの術前投与の有効性に関する臨床研究であり、対照群は術前にplatinum-doubletと投与、試験群にはこれにニボルマブを加えて投与するという類似した研究である。対象にはcIB期が含まれ多少異なるが、ニボルマブ群のpCRは24.0%とほぼ同等であり、EFSは31.6ヵ月(対照群20.8ヵ月)であった。あくまで参考ではあるが、大きな違いはないように思われる。とくにpCRを達成した症例の術後ニボルマブ継続投与の意義については、医療経済の観点からも重要である。今後、術後投与群・非投与群を比較した試験が必要になるかもしれない。

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和歌山県立医科大学 内科学第三講座(呼吸器内科・腫瘍内科)【大学医局紹介~がん診療編】

山本 信之 氏(教授)赤松 弘朗 氏(准教授)村上 恵理子 氏(学内助教)講座の基本情報医局独自の取り組み・特徴当科は、病院標榜科名を呼吸器内科・腫瘍内科としています。このように呼吸器疾患と腫瘍全般を一括して扱う診療科はほとんどなく、それが当科の特色となっています。当科では、腫瘍内科として、原発不明がんや肉腫などpitfallとなりやすい腫瘍の薬物療法や、標準的治療が終了後の患者に対する臨床試験(第I相試験)等も積極的に取り組んでいますが、腫瘍内科だけでは専門的に学ぶことが難しい、感染症・呼吸管理などの内科医として必要不可欠な技量・知識を習得することが可能です。研究面では、上記の治験を含む臨床研究のみならずリキッドバイオプシー等のトランスレーショナルリサーチが積極的に行われており、その成果は、New England Journal of Medicine等の、世界的なメジャージャーナルに発表されています。また、当科では、病棟をチーム体制にすることや当直明けの休暇の取得等で、ライフスタイルに合わせた仕事をしていただける体制を整えています。当科にきていただければ、どの方向に進むにしても、多くの選択肢から選んでいただくことが可能です。ぜひ、われわれと一緒に、楽しい仕事をしましょう。同医局でのがん診療/研究のやりがい、魅力「肺がんは個別化医療が最も成功したがんの1つ」と言われており、実地臨床でも免疫チェックポイント阻害薬・分子標的薬・細胞障害性抗がん剤を使いこなし、それらによる有害事象対策を多く経験する事で患者さんにとって最適な治療は何か? を常に考えながら、皆で議論しています。また多くの治験に参加しており、NEJMなどのbig journalにも当科医師が共著者として名を連ねています。同時に、地方の医大という事もあり、緩和領域の患者さんを看取る事も多く、「診断から緩和まで1人の患者さんと付き合っていく」経験ができます。医局の雰囲気、魅力若手が多く、中堅は国内留学帰りの先生が多いため、多彩なバックグラウンドを背景に最新の標準治療をどのように目の前の患者さんに適応していくか日々議論しています。また働き方改革にも対応しており、ワークライフバランスへの対応も兼ね備えています。医学生/初期研修医へのメッセージきちんとした日常臨床を身に付けることから始めて、最短での専門医取得を後押しします。また、若手同士の交流も盛んで楽しい医局です。ぜひ、皆で成長しましょう。若手が多く、交流も盛んこれまでの経歴和歌山県立医科大学を卒業し、同大学病院で初期研修を終えたのち呼吸器内科・腫瘍内科に入局しました。2回の産休・育休で診療から離れていた時期もありましたが、時短制度を利用して復職し大学院にも入学しました。子育ての都合で時間の制約があるため、研究日を設けてもらうなどしながら臨床研究を行ないつつ、一昨年がん薬物療法専門医を取得したところです。同医局を選んだ理由大学生のころの基礎実習で腫瘍に関連する研究に触れたことで抗がん剤に興味を持ちました。さまざまながんの治療に携わりたいと考えていたので、自分の目指すところに一致する診療科だと思い入局しました。実際入局してみると、抗がん剤の副作用管理から緩和ケアに至るまで幅広い知識と経験が必要な診療科であり、当初は大変でしたが今はそこもやりがいの1つです。今後のキャリアプラン下の子が1歳を過ぎたのを機に昨年からフルタイム勤務に復帰し、今年は大学院を卒業・学位取得を予定しています。一度に多くのタスクをこなすのは難しいですが、個々のライフスタイルや興味に応じて柔軟に対応してもらえる職場ですので、今後も内科関連の資格取得や新規臨床研究などを少しずつ進めていきたいと思っています。和歌山県立医科大学 内科学第三講座(呼吸器内科・腫瘍内科)住所〒641-0012 和歌山県和歌山市紀三井寺811-1問い合わせ先h-akamat@wakayama-med.ac.jp医局ホームページ和歌山県立医科大学 内科学第三講座(呼吸器内科・腫瘍内科)専門医取得実績のある学会日本内科学会日本呼吸器学会日本がん薬物療法学会日本呼吸器内視鏡学会研修プログラムの特徴(1)女性医師も多い、明るい雰囲気の科です(2)さまざまなバックグラウンドを持つ医師から教育を受けることができます(3)どこに出しても恥ずかしくない一人前の呼吸器内科医になれるよう、援助は惜しみません

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プラチナ+ICI既治療NSCLCへのSG、第III相試験結果(EVOKE-01)/ASCO2024

 プラチナ製剤を含む化学療法および免疫チェックポイント阻害薬(ICI)による治療で病勢進行に至った非小細胞肺がん(NSCLC)の標準治療は、いまだにドセタキセルとなっており、治療成績は十分ではない。そのため、新たな治療法の開発が望まれている。そこで、既治療のNSCLC患者を対象として、Trop-2を標的とする抗体薬物複合体sacituzumab govitecan-hziy(SG)の有用性を検討する国際共同第III相比較試験「EVOKE-01試験」が実施された。スペイン・Hospital Universitario 12 de OctubreのLuis G. Paz-Ares氏が、米国臨床腫瘍学会年次総会(2024 ASCO Annual Meeting)において、本試験の結果を報告した。なお、本発表の詳細はJournal of Clinical Oncology誌オンライン版2024年5月31日号に同時掲載された1)。・試験デザイン:国際共同第III相無作為化比較試験・対象:プラチナ製剤を含む化学療法およびICIによる前治療歴を有するNSCLC患者603例・試験群(SG群):SG(21日間を1サイクルとして、各サイクルの1、8日目に10mg/kg) 299例・対照群(ドセタキセル群):ドセタキセル(75mg/m2、3週ごと) 304例・評価項目:[主要評価項目]全生存期間(OS)[副次評価項目]治験担当医師評価に基づく無増悪生存期間(PFS)、安全性など 主な結果は以下のとおり。・ICIによる前治療への奏効率は、SG群35.5%、ドセタキセル群37.2%であり、actionableな遺伝子変異がある患者の割合は、それぞれ6.4%、8.2%であった。・データカットオフ時点(2023年11月29日)における追跡期間中央値は12.7ヵ月であった。・6ヵ月以上治療を継続した患者の割合は、SG群33.4%、ドセタキセル群17.4%であった。・主要評価項目のOSの中央値は、SG群11.1ヵ月、ドセタキセル群9.8ヵ月であり、SG群が良好な傾向にはあったが、統計学的有意差は認められなかった(ハザード比[HR]:0.84、95%信頼区間[CI]:0.68~1.04、片側p=0.0534[片側有意水準α=0.0223])。1年OS率はそれぞれ46.6%、36.7%であった。・事前に規定されたOSのサブグループ解析において、組織型による差はみられなかったが、ICIによる前治療に奏効しなかったサブグループ(HR:0.75、95%CI:0.58~0.97)、actionableな遺伝子変異があるサブグループ(同:0.52、0.22~1.23)で、SG群が良好な傾向にあった。・ICIによる前治療に奏効しなかったサブグループにおけるOSは、組織型にかかわらずSG群が良好な傾向にあった。・PFS中央値は、SG群4.1ヵ月、ドセタキセル群3.9ヵ月であった(HR:0.92、95%CI:0.77~1.11)。・Grade3以上の有害事象は、SG群66.6%、ドセタキセル群75.7%に発現した。治療中止に至った有害事象は、それぞれ9.8%、16.7%に発現した。 Paz-Ares氏は「主要評価項目のOSについて、統計学的有意差は認められなかった。しかし、SG群はOSの数値的な改善を示し、ICIによる前治療に奏効しなかったサブグループでは、ドセタキセル群と比べてOSが3.5ヵ月改善した。SGは良好な安全性プロファイルを示し、忍容性はドセタキセルよりも高かった。以上から、SGは既治療の転移を有するNSCLC患者における有望な治療選択肢の1つであると言える」とまとめた。なおSGについては、ペムブロリズマブとの併用下における有用性を検討する第II相試験「EVOKE-02試験」、PD-L1高発現例の1次治療における有用性を検討する第III相試験「EVOKE-03試験」が進行中である。

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HR+/HER2-転移乳がん、SG+ペムブロリズマブvs.SG(SACI-IO HR+)/ASCO2024

 既治療の切除不能な局所進行または転移を有するHR+/HER2-乳がんに対して、sacituzumab govitecan(SG)+ペムブロリズマブを、SG単独と比較した無作為化非盲検第II相SACI-IO HR+試験で、ペムブロリズマブ併用による無増悪生存期間(PFS)の有意な改善は認められなかった。米国・ダナファーバーがん研究所のAna Christina Garrido-Castro氏が、米国臨床腫瘍学会年次総会(2024 ASCO Annual Meeting)で発表した。 SGはトポイソメラーゼI阻害薬(SN-38)をペイロードとする抗TROP2抗体薬物複合体(ADC)で、その作用機序から抗PD-1抗体との相乗効果が期待されている。・対象:切除不能な局所進行または転移を有するHR+/HER2-乳がんで、転移後に1ライン以上の内分泌療法歴があるか、術後補助内分泌療法中もしくは12ヵ月以内に進行した患者(活動性脳転移のある患者、トポイソメラーゼI阻害薬ADC、イリノテカン、抗PD-1/L1抗体による治療歴のある患者は除外)・試験群(併用群):SG(1、8日目に10mg/kg静注)+ペムブロリズマブ(1日目に200mg静注)、21日ごと・対照群(SG群): SG単独・評価項目:[主要評価項目]PFS[副次評価項目]PD-L1陽性患者のPFS、全生存期間(OS)、奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、奏効までの期間(TTOR)、臨床的有用率(CBR)、安全性 主な結果は以下のとおり。・治療開始した104例(併用群52例、SG群52例)が解析に組み入れられた。・年齢中央値は57.0歳(範囲:27.0~81.0歳)、40例(38.5%)がPD-L1陽性(CPS≧1)、56例(69.1%)が術前/術後化学療法歴があり、51例(49.0%)が転移乳がんに対する1ラインの化学療法歴があった。・追跡期間中央値12.5ヵ月(データカットオフ:2024年3月9日)におけるPFS中央値は併用群が8.12ヵ月で、SG群の6.22ヵ月より数字上は延長したが、統計学的に有意ではなかった(ハザード比[HR]:0.81、95%信頼区間[CI]:0.51~1.28、p=0.37)。・OSデータはimmatureであるが、OS中央値は併用群18.52ヵ月、SG群17.96ヵ月で有意な差は認められなかった(HR:0.65、95%CI:0.33~1.28、p=0.21)。・PD-L1陽性(CPS≧1)患者において、PFS中央値は併用群がSG群より4.4ヵ月長く(HR:0.62、95%CI:0.29~1.36、p=0.23)、OS中央値は6ヵ月長く(HR:0.61、95%CI:0.18~2.04、p=0.42)、どちらも有意ではないが併用群で改善傾向が認められた。・ORRは、併用群21.2%、SG群17.3%で有意な差はなかった(p=0.80)。また、CBR(p=0.84)、DOR(p=0.31)、TTOR(p=0.68)も有意な差は認められなかった。・主なGrade3以上のTEAE(治療中に発現した有害事象)は、併用群では好中球減少症(54%)、白血球減少症(23%)、リンパ球減少症(12%)、発熱性好中球減少症(6%)、貧血(6%)、下痢(6%)で、単独群では好中球減少症(44%)、貧血(10%)、悪心(10%)、下痢(8%)、白血球減少症(8%)、疲労(6%)、高血圧(6%)であった。 Garrido-Castro氏は、「これらの結果は、転移を有するPD-L1陽性HR+/HER2-乳がん患者におけるSG+ペムブロリズマブのさらなる検討を支持している。ADCと免疫チェックポイント阻害薬併用によりベネフィットが得られる予測因子を調査するために、追加の研究が必要である」と述べた。

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転移大腸がん1次治療のニボルマブ+イピリムマブ、PFS2も良好(CheckMate 8HW)/ASCO2024

 肺がん、胃がんなど幅広い固形がんで有用性が報告されているニボルマブ+イピリムマブのレジメン。本レジメンの転移大腸がん1次治療における有用性を検証するCheckMate 8HW試験では、2024年1月に行われたASCO-GIにおいて、ニボ+イピが化学療法と比較して無増悪生存期間(PFS)を延長したことがすでに報告されている。5月31日~6月4日に行われた米国臨床腫瘍学会年次総会(2024 ASCO Annual Meeting)では、米国・南カリフォルニア大学のHeinz-Josef Lenz氏が本試験のPFSの追加解析結果を報告した。・試験デザイン:多施設共同ランダム化非盲検第III相試験・対象:高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-H)またはミスマッチ修復機能欠損(dMMR)切除不能または転移大腸がん(mCRC)、ECOG 0~1・試験群(ニボ+イピ群):ニボルマブ(240mg)+イピリムマブ(1mg/kg)を3週ごとに4サイクル後、ニボルマブ(480mg)を4週ごと投与 202例・対照群(化学療法群):医師選択による化学療法±標的療法 101例病勢進行または許容できない毒性が認められるまで(全群)、または最長2年間(ニボ+イピ群)継続。化学療法中に進行した患者はニボ+イピへのクロスオーバーを許可(試験にはニボ単剤群も設定されているが、今回の解析には含まれない)。・評価項目:[主要評価項目]PFS:1次治療におけるニボ+イピ群vs.化学療法群(今回の発表)、全期間におけるニボ+イピ群vs.ニボ単剤群[副次評価項目]安全性、PFS2(無作為化から後続全身療法後の病勢進行、2番目の後続全身療法の開始、あるいは死亡までの期間:今回の発表)、全生存期間(OS)など 主な結果は以下のとおり。・ニボ+イピ群(202例)または化学療法群(101例)に無作為に割り付けられた303例のうち、ニボ+イピ群171例、化学療法群84例がMSI-H/dMMRと確認された。・追跡期間中央値31.5ヵ月(SD 6.1~48.4)時点のPFS中央値は、ニボ+イピ群が未到達(95%信頼区間[CI]:38.4~未到達)、化学療法群が5.9ヵ月(95%CI:4.4~7.8)、ハザード比(HR)は0.21(97.91%CI:0.13~0.35、p<0.0001)で、ニボ+イピ群が有意に延長した。設定されたすべてのサブグループでも同様の結果だった。・ニボ+イピ群20例(12%)、化学療法群57例(68%)が後続全身療法に移行した。化学療法群は56例(67%)が免疫療法を受け、うち39例(46%)は試験中にニボ+イピにクロスオーバーし、17例(20%)は試験外の免疫療法を受けた。・後続全身療法を含めたPFS2中央値はニボ+イピ群で未到達、化学療法群で29.9ヵ月、HRは0.27(95%CI:0.17~0.44)とクロスオーバー後もニボ+イピ群が優位であり、1次治療でニボ+イピを実施する有用性が示された。1年PFS2率はニボ+イピ群89%、化学療法群65%、2年PFS2率はニボ+イピ群83%、化学療法群52%だった。・Grade3/4の治療関連有害事象はニボ+イピ群で46例(23%)、化学療法群で42例(48%)発生し、ニボ+イピ群で2例の治療関連死亡があったが、新たな安全性シグナルは確認されなかった。 Lenz氏は「化学療法と比較した1次治療のニボ+イピの臨床的利点は、その後の治療後も維持され、新たな安全性の懸念は確認されなかった。これらの結果により、MSI-H/dMMR大腸がん患者に対する1次治療としてニボ+イピがさらに支持される」とした。ニボ+イピ群とニボ単剤群との比較データは今後発表される。

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第215回 乱立する一般社団法人の美容クリニック、院長の名義貸しも常態化、見て見ぬふりの厚労省も規制にやっと本腰か?

NHKが先頭に立って報道してきた美容医療のトラブル問題こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。最近気になっていることに電動キックボードがあります。東京の中心部の道路では、企業が貸し出すタイプ(シェアリングサービス)や個人所有の電動キックボードが増えており、素足むき出しの若者(とくに女子)などがヘルメットも被らずに疾走しています。学生時代からヘルメットにブーツでオートバイに乗ってきた私(最近では胸部ガードもしています)としては、危なっかしくて見ていられません。2023年7月の法改正では、個人所有、貸し出しにかかわらず、時速20km以下の電動キックボード(特定小型原付)は免許不要で、ヘルメットも努力義務となりました。いわゆる規制緩和ということでしょうが、交差点での直進・左折優先の常識も知らない輩が車道、歩道の区別なく走り回るというのはどうなんでしょう。おそらく、事故が多発して、再び何らかの規制がかかるのではないでしょうか。そもそもあの小さなタイヤ径だと、多少大きな石や障害物、段差にぶつかると簡単に転倒してしまいます。素足だと即、血だらけです。なお、個人的には子供を乗せて猛スピードで走る母親運転の電動ママチャリ(電動アシスト自転車)や、若者がしたり顔で無免許運転するペダル付き原動機付自転車が電動キックボード以上に恐いのですが、それについてはまた日を改めて。さて今回は、NHKが先頭に立って報道している美容医療のトラブル問題について書いてみたいと思います。こちらは公益法人制度改革という規制緩和によって、少々やっかいなことになっているようです。専門の医師などによる検討会を立ち上げ、適切な美容医療のあり方や対策を協議へ5月30日朝、NHKは「美容医療でトラブル増加 厚労省 検討会立ち上げ対策など協議へ」と題するニュースを放送、「脱毛や薄毛治療など自由診療で行われる美容医療をめぐって健康被害などの相談や契約上のトラブルが増加していることを受け、厚生労働省は専門家などによる検討会を立ち上げ、対策などを協議していくことになりました」と報じました。NHKニュースによれば、「保険診療の場合は、地方厚生局や診療報酬の審査支払機関による確認が行われているが、自由診療の場合、第三者が確認する制度がない」とのことです。自由診療であり、保険財政には直接影響が及ばない美容医療は、長年厚労省が放置してきた問題でもあります。NHKの報道が事実ならば、何らかの“規制”や“ガイドライン”導入などが行われるかもしれません。近年開設の多くの美容医療のクリニックが医療法人ではなく一般社団法人実は、NHKのこの報道には前段がありました。前日、5月29日の午後7時のニュースで、「一般社団法人のクリニック 都市部で増 医師『名義貸し』証言も」のニュースを放送、それに続く「クローズアップ現代」でも「追跡“自由診療ビジネス”の闇 相次ぐ美容・健康トラブルの深層」のタイトルで、その実態を詳細に報道しました。「厚労省 検討会立ち上げ」のニュースは、そうした一連の報道の最後に発信されたスクープだったわけです。5月29日のニュースと「クローズアップ現代」を観て驚いたのは、「国民生活センターによると美容医療をめぐるトラブルの相談件数は昨年度が5,833件で、5年前のおよそ2.9倍に増加」したという実態に加え、多くの美容医療のクリニックが医療法人ではなく、一般社団法人で開設されており、理事長は医師以外であるケースが少なくない、という事実です。「クローズアップ現代」では、取材班が東京23区や大阪市内の一般社団法人のクリニックを独自に調査した結果も報道していました。それによれば、「一般社団法人が運営するクリニックは298件、ほとんどがコロナ禍前後に設立され、6割以上が美容医療を行っている」とのことでした。管理者となる医師の「名義貸し」が疑われるケースもさらに、管理者となる医師(いわゆる院長)の「名義貸し」が疑われるケースもあるとのこと。大阪市内の美容クリニックの管理医師となっていた医師の「保健所の職員が来た時に1度だけクリニックに行ったが、それ以降は1度も出勤しておらず、“名義貸し”状態だった。管理医師をやっていたときは給料をもらっていた」というショッキングなコメントを紹介していました。つまり、医師以外、異業種のオーナーが医師にお金を払って院長の名義を貸してもらい、一般社団法人で美容外科のクリニックを開設、実際の美容外科の施術は形成外科が専門でもない医師をアルバイトで雇って対応――、というのが基本的なビジネススキームのようです。院長の名義貸しは、ほかの医療機関の院長や病院の常勤医などではできないため、「医師免許がある大学院生」や「病院の研修医」などを専門業者が仲介して紹介してもらうケースが多い、とのことでした。また、「クローズアップ現代」では、実際に施術を行う医師について、飲食店オーナーが経営するクリニックの元職員の「小児科や放射線科などが専門で美容医療の経験のない30人ほどの医師がアルバイトで集められシフトを回していた。トラブルが起きた際のマニュアルなどは整備されていなかった」という証言も紹介していました。監督官庁がなく野放しの一般社団法人クリニック一般社団法人は2008年の公益法人制度改革にともなって創設された新しい法人類型です。原則、医師が理事長となる医療法人とは違い、管理者となる医師(いわゆる雇われ院長)が用意できれば誰でも経営に参入することができるほか、都道府県の認可も不要で登記のみで設立できます。診療所という業態の開設は管轄する保健所の認可が必要となりますが、保健所の管轄地域にすでに一般社団法人の診療所があれば、ほぼ認可されるようです。つまり、すでに一般社団法人の美容外科が乱立している大都市部ならば、その開設は極めて容易と言えます。医療法人であったり、保険診療を行ったりしているのであれば、そのクリニックは厚生労働省の管轄となります。しかし、一般社団法人は監督官庁がなく、事業の報告義務もありません。文字通り“野放し”なのです。自由診療で行われる“アコギな医療”に鋭いメスを問題は、美容医療だけではありません。「クローズアップ現代」では、一般社団法人の自由診療クリニックが、がん免疫療法や再生医療の世界にも積極的に進出し始めているとも報じていました。法律の力が及ばず監督外、管轄外になることについて、役所は往々にして無関心かつ放置しがちです。臨床効果が確立していないにもかかわらず、自由診療で法外な治療費をふっかけてきた一部のがん免疫療法についても、これまでとくに明確な規制を設けることはしませんでした。今回、厚労省は、美容医療について専門家などによる検討会を立ち上げ、対策などを協議する、とのことです。電動キックボードやペダル付き原動機付自転車などは、被害が交通事故という「目に見えるかたち」で現れるので対策も比較的講じやすいですが、広く自由診療で行われる“アコギな医療”の多くは、根拠となる法律や規制も曖昧なため、実際の被害がなかなか表沙汰になりません。せっかくの機会ですから、そうした“アコギな医療”にもぜひ鋭いメスを入れてほしいですし、さらに言えば、「第184回 線虫がん検査『N-NOSE』、検査精度の疑惑が再燃、日本核医学会の中にあるPET核医学分科会・PETがん検診ワーキンググループが本格調査へ」で書いたような、臨床的な評価が定まっていないにもかかわらず、一般向け検査で荒稼ぎする一部の検査法も、そろそろ“放置”するのはやめていただきたいと思います。

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NSCLCへのICI、抑うつ・不安が効果を減弱か/Nat Med

 抑うつや不安などの精神的苦痛は、がん患者において、抗腫瘍免疫応答を損なう可能性がある。実際に、悪性黒色腫患者を対象とした研究では、精神的苦痛が免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の効果を低下させたことが報告されている1)。そこで、中国・中南大学のYue Zeng氏らの研究グループは、非小細胞肺がん(NSCLC)患者における抑うつ・不安とICIの治療効果の関連を調べた。その結果、治療開始前に抑うつ・不安を有する患者は、無増悪生存期間(PFS)や全生存期間(OS)、奏効率(ORR)が不良であった。本研究結果は、Nature Medicine誌オンライン版2024年5月13日号で報告された。 研究グループは、NSCLC患者227例を対象とした前向き観察研究(STRESS-LUNG)を実施し、抑うつ・不安とICIによる治療効果の関連を検討した。抑うつと不安は、それぞれPatient Health Questionnaire-9(PHQ-9)、Generalized Anxiety Disorder 7-item(GAD-7)を用いて評価し、PHQ-9スコア5以上またはGAD-7スコア5以上のいずれかを満たす場合、抑うつ・不安ありと定義した。主要評価項目はPFS、副次評価項目はOS、ORRなどとし、抑うつ・不安の有無別に評価した。 主な結果は以下のとおり。・PFS中央値は、治療開始前の抑うつ・不安あり群が7.9ヵ月であったのに対し、抑うつ・不安なし群は15.5ヵ月であり、抑うつ・不安あり群が有意に不良であった(ハザード比[HR]:1.73、95%信頼区間[CI]:1.23~2.43、p=0.002)。・傾向スコアマッチング法(HR:2.08、95%CI:1.42~3.04、p<0.001)、逆確率重み付け法(HR:1.71、95%CI:1.21~2.42、p=0.002)を用いても、治療開始前の抑うつ・不安あり群はPFSが不良であった。・多変量解析におけるPFS不良の独立した予測因子は、抑うつ・不安あり(HR:1.63、95%CI:1.15~2.31、p=0.006)、StageIV(同:1.72、1.13~2.63、p=0.012)であった。・OSは、治療開始前の抑うつ・不安あり群が、抑うつ・不安なし群と比較して不良であり(HR:1.82、95%CI:1.12~2.97、p=0.016)、2年OS率はそれぞれ46.5%、64.9%であった。・ORRは、治療開始前の抑うつ・不安あり群が46.8%であったのに対し、抑うつ・不安なし群は62.1%であり、抑うつ・不安あり群が有意に低かった(オッズ比:0.54、95%CI:0.32~0.91、p=0.022)。 本研究結果について、著者らは「進行NSCLC患者において、治療開始前の精神的苦痛がICIの効果を低下させることが示唆され、精神的苦痛を適切に管理することの潜在的な重要性が強調された」とまとめた。

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切除可能NSCLC、周術期ニボルマブ追加でEFS改善/NEJM

 切除可能な非小細胞肺がん(NSCLC)患者において、周術期(術前および術後)補助療法にニボルマブを用いることで、化学療法単独の補助療法と比較して無イベント生存期間(EFS)が有意に延長し、新たな安全性シグナルは観察されなかった。米国・テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのTina Cascone氏らCheckMate 77T Investigatorsが試験の結果を報告した。切除可能なNSCLC患者において、ニボルマブ+化学療法の術前補助療法はアウトカムを有意に改善することが示され、術前補助療法における標準治療となっている。ニボルマブを周術期に用いることで、臨床的アウトカムがさらに改善する可能性が示唆されていた。NEJM誌2024年5月16日号掲載の報告。化学療法単独と比較、EFSを評価 CheckMate 77T試験は、国際共同第III相無作為化二重盲検試験。切除可能なStage IIA~IIIBのNSCLC成人患者を対象とし、被験者を、ニボルマブ群(術前にニボルマブ+化学療法を3週ごと4サイクル投与→手術→ニボルマブを4週ごと1年間投与)、または化学療法群(術前にプラセボ+化学療法を3週ごと4サイクル投与→手術→プラセボを4週ごと1年間投与)に無作為化して追跡評価した。 主要評価項目は、盲検下独立中央判定によるEFSであった。副次評価項目は、盲検下独立病理判定による病理学的完全奏効(pCR)および病理学的奏効(MPR)、全生存期間、安全性とした。 2019年11月~2022年4月に計735例が登録され、うち461例が無作為化された(229例がニボルマブ群、232例が化学療法群)。 本報告は、事前に規定されていた中間解析(追跡期間中央値25.4ヵ月)の結果である。中間解析時点でニボルマブ群のEFSのハザード比は0.58で有意差 中間解析時点において、18ヵ月EFS率は、ニボルマブ群70.2%、化学療法群50.0%であった(病勢進行または再発、手術中止、死亡のハザード比[HR]:0.58、97.36%信頼区間[CI]:0.42~0.81、p<0.001)。 pCR率は、ニボルマブ群25.3%、化学療法群4.7%であった(オッズ比[OR]:6.64、95%CI:3.40~12.97)。MPR率はそれぞれ35.4%、12.1%であった(OR:4.01、95%CI:2.48~6.49)。 Grade3/4の治療関連有害事象は、ニボルマブ群32.5%、化学療法群25.2%に発現した。

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第210回 GLP-1製剤の品薄状態、危惧する人と安堵する人

以前、こちらで取り上げたGLP-1受容体作動薬(以下、GLP-1製剤)のダイエット目的の濫用とそれが原因の1つであると思われる供給不安問題。品薄はダイエット目的で使いやすいであろう週1回製剤のセマグルチド(商品名:オゼンピックなど)、デュラグルチド(商品名:トリルシティ)、チルゼパチド(商品名:マンジャロ)に集中していたが、今年1月15日にセマグルチド、4月22日にデュラグルチドが限定出荷から通常出荷に切り替わり、残すはチルゼパチドのみが品薄状態となっている。そして2023年のメガファーマ各社の決算内容が明らかになっているが、この3製剤の中で最も売上高が高いセマグルチドの2型糖尿病に適応をもつ注射薬「オゼンピック」の2023年売上高は138億ドル(日本円換算で2兆1,126億円、ノボ ノルディスク社の決算はデンマーク・クローネでの発表のため、ドル・円の売上高は現行レートで換算)となった。ちなみに同じセマグルチドを成分とし、同じく2型糖尿病の適応をもつ経口薬「リベルサス」は27億ドル(同4,204億円)、肥満症の適応をもつ注射薬「ウゴービ」は45億ドル(同7,025億円)。セマグルチド成分括りにした2023年総売上高は210億ドル(同3兆2,355億円)である。2023年の医療用医薬品の製品別売上高は、世界第1位が免疫チェックポイント阻害薬ペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)の250億ドル(同3兆8,911億円)、世界第2位が新型コロナウイルス感染症のmRNAワクチン「コミナティ」の153億ドル(同2兆3,814億円)で、オゼンピックが世界第4位。だが、セマグルチド括りでの売上高は世界第2位となる。日本の製薬企業で考えると、国内第2位のアステラス製薬と第3位の第一三共の2024年3月期決算で発表された売上高の合算を1成分の売上高で超えてしまっているのだ。なんとも驚くべきことである。オゼンピックは2017年末のアメリカでの発売から1年強で、全世界売上高10億ドル以上のブロックバスター入りを果たし、過去4年ほどで全世界売上高は9倍以上に急伸長している。糖尿病治療薬は患者数の多さゆえにブロックバスター入りしやすいが、オゼンピックは糖尿病治療薬としては、ほぼ史上最高売上高を記録している。糖尿病治療薬の売上高を更新、“注射製剤”のなぜこの背景には、これまでブロックバスター入りした糖尿病治療薬がほぼ経口薬であり、それと比べて注射薬のオゼンピックは薬価が高いという事情はあるだろう。しかし、それだけではないはずだ。余計な一言を言えば、オゼンピックの売上高が2型糖尿病患者への処方のみで形成されていると思うウブな関係者はいないだろう。たぶんここには世界的に見ても、ダイエット・美容目的の適応外処方による売り上げが含まれていると考えられる。さて、供給不安はかなり解消されたとは言え、現場ではまださまざまな不都合が生じている模様だ。たとえば薬局薬剤師に話を聞くと、実際の週1回GLP-1製剤の処方箋は1ヵ月分、すなわち製剤としては注射キット4本の処方が多いという。しかし、市中の保険薬局では今でも入庫がスムーズではなく、処方箋受け取り時には2本のみを患者に渡し、残り2本は後日に再来局をお願いするか、配送するケースも目立つという。この背景には通常出荷になっても供給が綱渡りということもあれば、自由診療クリニックへの横流しを警戒して必要量を医薬品卸が適宜配送しているという事情もあるらしい。このようなケースで薬局側が患者宅に配送をする際は、人が直接届けるかクール便を使うという。ある薬剤師は「(薬局への)納入価に配送の人件費やクール便費用を上乗せしたら赤字になる」とため息をついていた。この現状は患者にとっても薬局にとっても迷惑千万な話だろう。この状況の解消まで考えると、完全な通常流通まではまだ時間がかかりそうだ。しかし、あまのじゃくな私は、危惧すべきは完全な通常流通が実現した後ではないか? と考えてしまう。少なくとも現状はGLP-1製剤を必要とする2型糖尿病や肥満症の患者に薬が届かないという最悪の状況は避けられている。ただ、前述のように受け取りに多少の手間暇がかかっている。その一方で、いわば「メディカルダイエット」と称したダイエット・美容目的の自由診療でのGLP-1製剤の適応外処方が極端に廃れたなどという話は、少なくとも私個人はまったく耳にしていない。ネット広告では今でもこの手の広告がじゃんじゃん表示される。余談になるが、どうやら年齢・性別の属性では中高年男性もGLP-1製剤のターゲットにされているらしく、最近は私に対してもこの種の広告と薄毛治療の広告が頻繁に表示される。そして、ご存じのように自由診療での適応外処方を法令で取り締まることはできない。つまるところGLP-1製剤で完全な通常流通が実現するということは、本当に必要な患者が困らないだけではなく、適応外処方の自由診療も栄えるということだ。通常流通を危惧する理由こんなことを考えてしまったのは、先日ある開業医と話をしていて、ため息が出るような事例を聞いてしまったからだ。この医師は都内の繁華街近くで内科クリニックを開業している。そのクリニックに昨春、強い吐き気で路上にうずくまっていたという若い女性が通行人に付き添われて来院したという。「場所柄もあり『昨夜、かなり飲みましたか?』と尋ねても本人は元々飲めないと答えるし、昼時だったので食中毒を疑って直近の食事状況を聞いたら、朝からお茶を飲んだのみで、とくに何かを食べたわけでもないと言うんですよ。そこでピンと来ました」結局、問診の結果、オンラインの自由診療でGLP-1製剤の処方を受けていたことがわかった。医師は女性にGLP-1製剤では悪心・嘔吐の副作用頻度が高いことなどを伝え、中止を促すとともに、最低限の対症療法の処方箋を発行。女性は「こんなに副作用がひどいとは思わなかった。すぐに止めます」と応じたという。ちなみに問診時に身長、体重を尋ねたところBMIは18にも満たなかったとのこと。その後、女性は来院していないため、本当に彼女がGLP-1製剤を止めたかどうかは定かではない。この医師は私に「自由診療の副作用で苦しんでいる患者でも助けなければならないとは考える。でもね、それを保険診療で対応しなければならないのはねえ…」とぼやいた。至極真っ当な指摘である。この話を聞いて私が反応してしまったのは、「朝から何も食べていない」という話だった。痩身願望のある人が我流の食事制限などを行っていることは少なくない。GLP-1製剤は、その性格上、低血糖になりにくいことがウリの一つである。しかし、それはごく普通の食生活を送っていることが前提で、その場合でもほかの血糖降下薬を併用している場合には低血糖は発生している。ということは、今後、自由診療が野放しのまま完全流通が実現すれば、この医師が経験した副作用の悪心・嘔吐レベルだけではなく、重大な低血糖発作の報告事例が増加してしまうのではないだろうか?そしてオンライン診療でかなりの適応外処方が行われている実態を考えれば、車社会である地方都市在住者でも適応外で使われることが増えるだろう。運転の最中に低血糖発作が起きたらどうなるのだろうと考えてしまった。これは私の妄想だろうか? それとも考え過ぎだろうか?

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NSCLC術前補助療法、ニボルマブ+relatlimabの生存ベネフィットは?(NEOpredict-Lung)/Nat Med

 複数の免疫チェックポイント分子を阻害する治療法は、免疫抵抗性の克服の観点から注目されている。抗PD-1抗体ニボルマブと抗LAG-3抗体relatlimabの併用療法は、悪性黒色腫においてニボルマブ単剤療法と比較して、無増悪生存期間の改善が認められたことが報告されている1)。また、この結果をもとに米国食品医薬品局(FDA)の承認を取得している。切除可能な非小細胞肺がん(NSCLC)の術前補助療法においてもニボルマブ+relatlimab併用療法の有用性が検討されており、全例で手術の施行が可能であったほか、1年無病生存(DFS)率が93%、1年全生存(OS)率が100%と有用性を示唆する結果が報告された。本研究結果は、ドイツ・エッセン大学病院のMartin Schuler氏らにより、Nature Medicine誌オンライン版2024年4月30日号で報告された。試験デザイン:海外第II相無作為化非盲検比較試験対象:未治療の切除可能なStageIB、II、IIIA(UICC第8版に基づく)のNSCLC患者60例試験群:ニボルマブ(240mg)+relatlimab(80mg)を2週ごと2回→手術→標準治療(併用群、30例)対照群:ニボルマブ(240mg)を2週ごと2回→手術→標準治療(単独群、30例)評価項目:[主要評価項目]術前療法後43日以内の手術施行[副次評価項目]RECIST1.1に基づく術前の奏効率(ORR)、病理学的奏効(MPR)、R0切除率、1年DFS率、1年OS率、安全性など 主な結果は以下のとおり。・全例が術前療法後43日以内に手術を受け、R0切除率は併用群90%、単独群100%であった。・術前のORRは併用群27%、単独群10%であった。・MPR率は併用群30%、単独群27%であり、病理学的完全奏効率はそれぞれ17%、13%であった。・1年DFS率は併用群93%、単独群89%であった。・1年OS率は併用群100%、単独群93%であった。・MPRが得られた患者は、末梢血においてCD8陽性T細胞、CD8陽性Granzyme B陽性エフェクターT細胞が増加した。・併用群でMPRが得られた患者では、CD24、CXCL1、CXCL14、IL8、MIF、ISG15といった顆粒球や単球、マクロファージに関連する遺伝子発現が抑制されていたが、単独群でMPRが得られた患者ではこれらの所見は確認されなかった。・Grade3以上の試験治療下における有害事象は併用群13%、単独群10%に発現した。

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PD-L1高発現NSCLCに対するネシツムマブ+ペムブロリズマブの可能性(K-TAIL-202)/AACR2024

 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は進行非小細胞肺がん(NSCLC)の標準治療となっている。KEYNOTE-024試験でみられるように、抗PD-1抗体であるペムブロリズマブはPD-L1発現≧50%の進行NSCLCにおいてPFS(無増悪生存期間)とOS(全生存期間)を有意に延長している1,2)。しかし、PD-L1陽性であってもICIが奏効しない症例は依然として存在する。 EGFRの発現はPD-L1のグリコシル化を介しPD-L1の発現を安定化させ、PD-1とPD-L1の結合を強化することが報告されており3)、抗EGFR抗体ネシツムマブと抗PD-1抗体ペムブロリズマブの併用療法は新しい治療コンセプトとして期待されている。K-TAIL-202試験はPD-L1高発現NSCLCの初回治療として、ネシツムマブとペムブロリズマブの併用を評価した第II相試験。昭和大学の堀池 篤氏が米国がん研究協会年次総会(AACR2024)で結果を発表した。・対象:未治療のPD-L1発現≧50%の進行NSCLC(EGFR、ALK変異なし)・介入:ネシツムマブ+ペムブロリズマブ 3週ごと2年間または35サイクル(n=50)・評価項目:[主要評価項目]奏効率(ORR)[副次評価項目]PFS、OSORR期待値の設定はKEYNOTE-024試験のORR44.8%1)を10ポイント上回る54.8%とした。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中央値は14.2ヵ月であった。・患者の年齢中央値は72歳、男性が76%、現・過去喫煙者が88%、腺がんが60%であった。・ORRは76.0%で、病勢コントロール率は86.0%(CR2%、PR74%、SD10%)であった。・58%の患者が50%以上の標的病変縮小を示した。・PFS中央値は15.7ヵ月、OS中央値は未到達であった。・ネシツムマブによる試験治療下における有害事象(TEAE)発現は全Gradeで98%、Grade≧3は40%で、頻度の高いTEAEは、ざ瘡様皮疹、低マグネシウム血症などであった。・治療中止に至ったTEAEは26%、死亡に至ったTEAEは2%(1例)に発現した。・Grade3の間質性肺疾患が10%(5例)で発現したが、ステロイド治療により改善した。 今回のK-TAIL-202試験結果から、PD-L1高発現進行NSCLC初回治療におけるネシツムマブとペムブロリズマブ併用の可能性が示唆される。

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免疫療法+個別化ワクチン、肝細胞がんの新治療法として有望

 標準的な免疫療法にオーダーメイドの抗腫瘍ワクチン(以下、個別化がんワクチン)を追加することで、肝細胞がんが縮小する患者の割合が、免疫療法のみを受けた場合の約2倍になることが、新たな研究で示された。米ジョンズ・ホプキンス・キンメルがんセンターの副所長であるElizabeth Jaffee氏らによるこの研究結果は、米国がん学会年次総会(AACR 2024、4月5〜10日、米サンディエゴ)で発表されるとともに、「Nature Medicine」に4月7日掲載された。研究グループは、肝細胞がんの診断後、5年間生存する患者の割合は10人に1人未満であるため、このワクチンは患者の生存の延長に役立つ可能性があると話している。 Jaffee氏らはこの研究に肝細胞がん患者36人を登録し、免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1抗体)のペムブロリズマブ(商品名キイトルーダ)による通常の免疫療法に加え、個別化がんワクチンを投与して、その効果を調べた。個別化がんワクチンは、まず、生検で得た患者のがん細胞を分析し、コンピューターアルゴリズムにより変異が生じている遺伝子のうち、免疫系が認識できるタンパク質〔がん細胞で起こる遺伝子変異により新たに生じたがん抗原(ネオアンチゲン)〕を産生している遺伝子を特定した。この情報を基に、最大で40個のネオアンチゲンをコードするDNAを含む個別化がんワクチン(GNOS-PV02)を作成した。ワクチンが投与された患者では、免疫系がこれらのネオアンチゲンを認識し、それらを産生するがん細胞を攻撃するのを助ける。 個別化がんワクチンと抗PD-1抗体の組み合わせは、腫瘍に大きな打撃を与える。抗PD-1抗体は、腫瘍内で疲れ果て、がん細胞を破壊できなくなった免疫細胞のT細胞を再活性化する。このワクチンはまた、特定の変異タンパク質を標的とするT細胞を新たに呼び寄せて、この効果を補強する。 実際、抗PD-1抗体とともにこの個別化ワクチンを投与された患者の3分の1近く(30.6%)でがん細胞の縮小が認められた。この割合は、免疫療法のみを受けた場合の2倍に当たるという。さらに、8.3%の患者では、治療後の検査でがん細胞が見つからない完全奏効を達成した。 Jaffee氏は、「われわれは、開発中の個別化がんワクチンを使った治療で成果が得られて興奮している。この個別化がんワクチンは、治療の難しいがんに対する次世代の治療法として有望だ」と語っている。 一方、ジョンズ・ホプキンス大学医学部腫瘍学分野のMark Yarchoan氏は、「この研究は、個別化がんワクチンが抗PD-1抗体に対する臨床反応を高めることができるというエビデンスを提供するものだ」と話す。同氏は、「この知見を確認するためには、より大規模なランダム化比較試験が必要だ。それでも、今回の結果が非常に胸躍るものであることに変わりはない」と述べている。

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肺がん診療ガイドラインのトリセツ【DtoD ラヂオ ここが聞きたい!肺がん診療Up to Date】第5回

第5回:肺がん診療ガイドラインのトリセツパーソナリティ日本鋼管病院 呼吸器内科 部長 田中 希宇人 氏ゲスト藤田医科大学病院 呼吸器内科・アレルギー科 大矢 由子 氏参考1)日本肺癌学会 肺癌診療ガイドライン2023(オンライン版)関連サイト専門医が厳選した、肺がん論文・ニュース「Doctors'Picks」(医師限定サイト)講師紹介

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進行肺がん、初診から治療までの待機期間が治療効果に影響/日本呼吸器学会

 肺がん治療において、初診から治療開始までの時間が長くなるほど悪液質の発症率は増加し、さらに悪液質があると治療効果が低下すると示唆された。 悪液質は進行がんの50〜80%に合併し、がん死亡の20〜30%を占める予後不良な病態であるため、早期からの介入が重要である。肺がんでは、治療が進化する一方、病期診断、病理学的診断に加え、遺伝子変異の有無やPD-L1の発現率などの専門的検査が必要となり、初診から確定診断・治療開始までに一定の期間が必要となる。 この初診から治療開始までの待機期間に全身状態が悪化し、抗がん剤治療の導入自体ができなくなる例がある。また、治療導入できても悪液質に陥った状態で化学療法を開始した患者では、初回治療の効果が不良となりやすい。関西医科大学の勝島 詩恵氏は、初診から治療開始間に起きる身体機能変化、がん悪液質の発生について、第64回日本呼吸器学会学術講演会で発表した。 主な結果は以下のとおり。・初診から治療開始までの期間中央値は、手術症例37.0日、化学療法症例42.5日であった。・初診時と治療開始時の身体機能の変化はBMI(p=0.001)、握力(p=0.009)、MNA-SF(Mini Nutritional Assessment-Short Form)精神ストレススコア(p=0.001)と有意に相関していた。・初診から治療開始までの期間中央値を基準に早期群と遅延群で悪液質発症率を評価すると、早期群では初診時61%、治療開始時61%と変化がなかった。一方、遅延群では初診時37%、治療開始時87%と悪液質の発生が増加していた。・病期別で悪液質発症率を評価すると、StageI~IIIAでは初診時と治療開始時で変化はなかった一方、StageIIIB/CとIVでは治療開始時に悪液質発症が増えた。とくにStageIVでは初診時から治療開始時のあいだに新規に悪液質発症が有意に増加していた(8例→16例、p=0.008)。・悪液質発症の有無と治療効果を評価すると、病勢制御率(DCR)は悪液質あり群66.7%、なし群100%、初回治療完遂率は悪液質あり群58.3%、悪液質なし群では100%であった。 進行期の肺がん患者においては、初診から確定診断・治療までの待機時間は長く1ヵ月を超える。この期間に悪液質を発症した結果、初回治療の機会さえ失ってしまう症例がある。たとえ治療導入ができても、この待期期間中に身体機能が落ち、悪液質の状態となっていると初回化学療法の効果が劣ることが示唆された。 勝島氏は「よりよい治療選択のための精査にかかる時間は、初回治療導入のチャンスを失うリスク、身体機能低下のリスク、治療効果を下げるリスクを抱える。悪液質に対する真の『早期』からの介入とは、化学療法開始時ではなく、さらに前の初診時なのかもしれない。今後、悪液質に対する適切な介入時期についても検討していきたい」と述べた。

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がん免疫療法中の抗菌薬投与が予後に影響?

 ペムブロリズマブによる術前治療中のHER2陰性高リスク早期乳がん患者において、抗菌薬の投与と高い残存腫瘍量(RCB)との関連が示唆された。これまで、免疫療法中の抗菌薬への曝露が、さまざまな種類のがんにおいて臨床転帰に悪影響を与えることが報告されている。米国・ミネソタ大学のAmit A. Kulkarni氏らは、ISPY-2試験でペムブロリズマブが投与された4群について、抗菌薬への曝露がRCBおよび病理学的完全奏効(pCR)へ与える影響について評価した2次解析の結果を、NPJ Breast Cancer誌2024年3月26日号に報告した。 ISPY-2試験では、ペムブロリズマブの4サイクル投与と同時にパクリタキセルを12週間投与し、その後ドキソルビシンとシクロホスファミドを2~3週間ごとに4サイクル投与した。免疫療法(IO)と同時に少なくとも1回の抗菌薬の全身投与を受けた患者が抗菌薬曝露群に、それ以外のすべての患者が対照群に割り付けられた。 RCBインデックスとpCR率は、t検定とカイ二乗検定、線形回帰モデルとロジスティック回帰モデルを使用してそれぞれ両群間で比較された。 主な結果は以下のとおり。・66例が解析に含まれ、うち18例(27%)が抗菌薬投与を受けていた。・免疫療法中の抗菌薬の投与は、より高い平均RCBスコア(1.80±1.43 vs.1.08±1.41)および低いpCR率(27.8% vs.52.1%)と関連していた。・抗菌薬の投与とRCBスコアについて、多変量線形回帰分析においても有意な関連がみられた(RCBインデックス係数:0.86、95%信頼区間:0.20~1.53、p=0.01)。 著者らは、より大規模なコホートでの検証が必要としている。

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NSCLCへの周術期ニボルマブ上乗せ、術前療法が未完了でも有効か(CheckMate 77T)/ELCC2024

 切除可能非小細胞肺がん(NSCLC)患者を対象とした国際共同第III相無作為化二重盲検比較試験(CheckMate 77T試験)において、周術期にニボルマブを用いるレジメンが良好な結果を示したことがすでに報告されている。本レジメンは、術前にニボルマブと化学療法の併用療法を4サイクル実施するが、有害事象などにより4サイクル実施できない患者も存在する。そこで、CheckMate 77T試験において術前薬物療法が4サイクル未満であった患者の治療成績が検討され、4サイクル未満の患者でも周術期にニボルマブを用いるレジメンが治療成績を向上させることが示された。米国・ダナ・ファーバーがん研究所のMark M. Awad氏が、欧州肺がん学会(ELCC2024)で報告した。・試験デザイン:国際共同第III相無作為化二重盲検比較試験・対象:StageIIA〜IIIB(American Joint Committee on Cancer[AJCC]第8版)の切除可能NSCLC患者・試験群:ニボルマブ(360mg、3週ごと)+プラチナダブレット化学療法(3週ごと)を4サイクル→手術→ニボルマブ(480mg、4週ごと)を最長1年(ニボルマブ群、229例)・対照群:プラセボ+プラチナダブレット化学療法(3週ごと)を4サイクル→手術→プラセボを最長1年(プラセボ群、232例)評価項目:[主要評価項目]盲検下独立中央判定に基づく無イベント生存期間(EFS)[副次評価項目]盲検下独立病理判定に基づく病理学的完全奏効(pCR)、病理学的奏効(MPR)、安全性など 今回報告された主な結果は以下のとおり。・ニボルマブ群の17%(38例)、プラセボ群の12%(27例)が術前薬物療法を3サイクル以下で中止した。このうち、有害事象による中止はそれぞれ55%(21例)、41%(11例)であった。・術前薬物療法のサイクル数別にみたEFS中央値は以下のとおり。 -4サイクル完了:ニボルマブ群未到達、プラセボ群未到達(ハザード比[HR]:0.57、95%信頼区間[CI]:0.42~0.79) -4サイクル未満:それぞれ未到達、7.8ヵ月(同:0.51、0.23~1.11)・術前薬物療法のサイクル数と手術の有無別にみたpCR率は以下のとおり。 -4サイクル完了:ニボルマブ群26.7%、プラセボ群5.4%(群間差:21.3%、95%CI:14.3~28.4) -4サイクル未満:それぞれ18.4%、0%(同:18.4%、2.9~33.4) -4サイクル完了かつ手術あり:それぞれ32.3%、6.5%(同:25.7%、17.4~33.9) -4サイクル未満かつ手術あり:それぞれ35.0%、0%(同:35.0%、2.5~56.7)・術前薬物療法のサイクル数と手術の有無別にみたMPR率は以下のとおり。 -4サイクル完了:ニボルマブ群38.2%、プラセボ群13.7%(群間差:24.6%、95%CI:16.1~32.7) -4サイクル未満:それぞれ21.1%、0%(同:21.1%、5.1~36.3) -4サイクル完了かつ手術あり:それぞれ46.2%、16.7%(同:29.5%、19.6~38.7) -4サイクル未満かつ手術あり:それぞれ40.0%、0%(同:40.0%、6.9~61.3)・無作為化された全患者および術前薬物療法のサイクル数別にみた死亡または遠隔転移までの期間の中央値は以下のとおり。 -全患者:ニボルマブ群未到達、プラセボ群38.8ヵ月(HR:0.62、95%CI:0.44~0.85) -4サイクル完了:それぞれ未到達、38.8ヵ月(同:0.61、0.42~0.88) -4サイクル未満:それぞれ未到達、10.9ヵ月(同:0.46、0.22~0.98)・術後薬物療法を受けた患者の割合は、術前薬物療法を4サイクル完了した集団ではニボルマブ群69%(131例)、プラセボ群71%(145例)であり、4サイクル未満の集団ではそれぞれ29%(11例)、26%(7例)であった。術後薬物療法のサイクル数中央値は、いずれの集団においても両群13サイクルであり、多くの患者が術後薬物療法を完了した。 Awad氏は、本結果について「CheckMate 77T試験の探索的解析において、切除可能NSCLC患者に対する周術期のニボルマブ上乗せは、術前薬物療法4サイクル完了の有無にかかわらず有効であった。手術を実施した患者集団において、4サイクル完了した患者集団と4サイクル未満の患者集団のpCR率とMPR率は同様であった」とまとめた。

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高齢NSCLC患者へのICI、化学療法の併用を検討すべき患者は?

 PD-L1高発現(TPS≧50%)の非小細胞肺がん(NSCLC)患者において、PD-1またはPD-L1を標的とする免疫チェックポイント阻害薬(ICI)単剤療法、ICIと化学療法の併用療法は標準治療の1つとなっている。しかし、高齢者におけるエビデンスは限られており、ICI単剤療法とICIと化学療法の併用療法のどちらが適切であるかは明らかになっていない。そこで、70歳以上のPD-L1高発現の進行NSCLC患者を対象とした多施設共同後ろ向き研究において、ICI単剤療法とICIと化学療法の併用療法が比較された。その結果、ECOG PS0または非扁平上皮がんの集団では、ICIと化学療法の併用療法が全生存期間(OS)および無増悪生存期間(PFS)を改善した。本研究結果は、京都府立医科大学の武井 翔太氏らによってFrontiers in Immunology誌2024年2月23日号で報告された。 本研究は、70歳以上でECOG PS0/1のPD-L1高発現の進行NSCLC患者のうち、初回治療でICI単剤療法による治療を受けた患者131例(単剤群)およびICIと化学療法の併用療法による治療を受けた68例(併用群)を対象とした。傾向スコアマッチングにより背景因子を調整し、両群のOSとPFSを比較した。 主な結果は以下のとおり。・OS中央値は、単剤群が25.2ヵ月であったのに対し、併用群が42.2ヵ月であったが有意差は認められなかった(p=0.116)。・PFS中央値は、単剤群が10.9ヵ月、併用群が11.8ヵ月であり、有意差は認められなかった(p=0.231)。・単剤群のサブグループ解析において、喫煙歴のない患者はOSが有意に短かった(ハザード比[HR]:0.36、95%信頼区間[CI]:0.16~0.78、p=0.010)。・併用群のサブグループ解析において、ECOG PS1の患者(HR:3.84、95%CI:1.44~10.20、p=0.007)、扁平上皮がんの患者(同:0.17、0.06~0.44、p<0.001)はOSが有意に短かった。・ECOG PS0の集団におけるOS中央値は、単剤群が26.1ヵ月であったのに対し併用群は未到達であり、併用群が有意に長かった(p=0.0031)。同様にPFS中央値は単剤群が6.5ヵ月であったのに対し併用群は21.7ヵ月であり、併用群が有意に長かった(p=0.0436)。・非扁平上皮がんの集団におけるOS中央値は、単剤群が23.8ヵ月であったのに対し併用群は未到達であり、併用群が有意に長かった(p=0.0038)。同様にPFS中央値は単剤群が10.9ヵ月であったのに対し併用群は17.3ヵ月であり、併用群が有意に長かった(p=0.0383)。 本研究結果について、著者らは「PD-L1高発現の高齢NSCLC患者の治療選択時には、ECOG PSと組織型を考慮すべきである」とまとめた。

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