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新規ADC薬・sacituzumab-govitecan、尿路上皮がんに有望(TROPHY-U-01)/ESMO2019

 転移を有する尿路上皮がん(mUC)に対する、抗体薬物複合体(ADC)である新規薬剤sacituzumab-govitecan(SG)の試験結果が、欧州臨床腫瘍学会(ESMO2019)で、米国・Weill Cornell MedicineのScott T. Tagawa氏より発表された。 本試験(TROPHY-U-01)は、オープンラベル・シングルアームの国際共同第II相試験である。本試験薬(SG)は、尿路上皮がんやトリプルネガティブ乳がんなどの腫瘍細胞表面に高発現しているTrop-2タンパクを標的としたヒト化抗体(hRS7)に、トポイソメラーゼ阻害薬であるSN-38を分子レベルで結合させた新規のADCである。 対象はプラチナ系薬剤と免疫チェックポイント阻害薬(CPI)の前治療歴のあるmUC患者(コホート1)100例、およびプラチナ系薬剤不適応でCPI治療後の病勢進行患者40例(コホート2)。試験群にはSG10mg/kgをday1、8に投与3週間ごと。主要評価項目は奏効率(ORR)、副次評価項目は安全性、奏効期間、無増悪生存期間、全生存期間であった。今回は、コホート1の35例による中間解析結果の報告である。 主な結果は以下のとおり。・前治療のライン数の中央値は3(2~6)で、63%の症例に内臓転移があった(肺転移40%、肝転移23%、その他11%)。・追跡期間中央値4.1ヵ月時点での全体のORRは29%(CR:6%、PR:23%)で、前治療が2ラインのサブグループでは18%。3ライン以上のサブグループでは33%であった。・内臓転移を有する症例群でも23%のORRが得られ、全症例の74%で何らかの腫瘍縮小効果が得られた。・安全性は、Grade3/4の好中球減少が55%、白血球減少が29%、発熱性好中球減少が12%、尿路感染が11%、下痢が9%、全身倦怠感6%などであり、3例が治療関連有害事象により投薬中止となっている。また、間質性肺炎や治療関連死はなかった。

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甲状腺機能低下症患者に対する補充療法(解説:吉岡成人氏)-1120

甲状腺機能低下症は頻度が高い疾患 甲状腺機能低下症は、日常の診療の中できわめて高頻度に遭遇する内分泌疾患である。日本においては臨床症状を伴う顕性甲状腺機能低下症の頻度は0.50~0.69%、TSHのみが上昇する潜在性甲状腺機能低下症の頻度は3.3~6.1%であり、女性に多い疾患である(志村浩巳. 日本臨床. 2012;70:1851-1856.)。TSHは加齢に伴い上昇することが知られており、潜在性甲状腺機能低下症の頻度は加齢とともに増加する。甲状腺機能低下症の原因としては、慢性甲状腺炎による原発性甲状腺機能低下症が大部分を占める。しかし、最近ではアミオダロン、炭酸リチウムなどの薬剤に加えて、免疫チェックポイント阻害薬によって発症することも、まれならず経験される。 甲状腺機能低下症には、合成T4製剤(レボチロキシンNa、商品名:チラーヂンS)が経口投与される。T4製剤は小腸から吸収され、吸収率は70~80%、空腹時(朝食前や就寝時)に服薬すると吸収が良いことが知られている。T4製剤の維持量は、TSHを正常に保つように調節することが推奨されている。臨床症状を伴う顕性甲状腺機能低下症患者にT4製剤を投与することにはなんら異論はないが、潜在性甲状腺機能低下症の場合、妊婦を除いて、治療についてはエビデンスが少なく、慎重に対応すべきであると考えられている。顕性甲状腺機能低下症の患者に補充療法を行った際のTSHの値と予後の関連 英国における1,500万人の患者を対象としたプライマリケアの大規模データベース(The Health Improvement Network)を用いて、1995年1月~2017年12月までに甲状腺機能低下症と診断されTSHを複数回測定された16万439人(平均年齢58.4歳、男性23%、女性77%)を平均6年間にわたって追跡し、T4製剤の補充を行い、TSH値を基準範囲(正常範囲)内に調節した際の、TSH値とさまざまなヘルスアウトカムの関連を検討した後ろ向き解析の論文がBMJ誌に掲載された(Thayakaran R, et al. BMJ. 2019;366:l4892.)。 アウトカムとして、全死亡、心房細動、虚血性心疾患、心不全、脳卒中・一過性脳虚血発作、骨折を取り上げており、それぞれのアウトカムはTSH値が基準範囲内(2~2.5mIU/L)であった場合には、有意な差はなかった。しかし、TSH値が10mIU/Lを超える場合に、虚血性心疾患のハザード比(HR)が1.18(95%信頼区間:1.02~1.38)、心不全ではHRが1.42(95%信頼区間:1.21~1.67)となり、有意なリスク増加が確認された。一方、TSH値が0.1mIU/L未満の場合には心不全に対するリスクが減少し、HRは0.79(95%信頼区間:0.64~0.99)、TSH値が0.1~0.4mIU/LではHRが0.76(95%信頼区間:0.62~0.92)であった。また死亡率に関しては、TSH値が0.1mIU/L未満でHRが1.18、TSH値が4~10mIU/LではHRが1.29と、基準範囲を下回った場合も超えた場合もリスクの増加が確認された。すべての骨折とTSH値との関連はなかったが、脆弱性骨折に関してはTSH値が10mIU/Lを超えた際のHRは1.15(95%信頼区間:1.01~1.31)であったと報告されている。臨床現場での対応を追認 顕性甲状腺機能低下症患者に補充療法を行い、TSH値が基準値の範囲内(2~2.5mIU/L)であれば死亡や心不全などのリスクに影響はないものの、全死亡、虚血性心疾患、脆弱性骨折のリスクは、TSH値が10mIU/Lを超えると1.1~1.4倍増加し、死亡に関してはTSH値が0.1mIU/L未満でもリスクが増加するという。 中高年の臨床症状を伴う顕性甲状腺機能低下症患者にT4製剤を投与する際には、TSH値を基準範囲内になるように補充すべきであろうということが再認識された臨床試験といえる。

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医師も学会も「発信体質」になろう【Doctors' Picksインタビュー】第4回

――ご自身のブログ「肺癌勉強会」で新たな研究結果を紹介しているほか、FacebookやTwitterでも頻繁に情報を発信していらっしゃいます。多忙の中ここまでされる理由をお聞かせください。私が勤務している川崎市立 川崎病院は公立の総合病院なので、肺がんだけでなく、喘息やCOPD、肺炎などの一般的な呼吸器の疾患も診ています。しかし昨年のデータでは、呼吸器内科で受け持った約1,500人の入院患者のうち、約半数は肺がんでした。地域の中核病院ですから、紹介で来院されるがん患者さんは多く、がんは肺炎などの呼吸器疾患より求められる専門性が高いので、それに応える必要があります。この病院に来たころから、自分の肺がん治療への知識不足を感じるようになりました。どの疾患も日々治療法は進化しており、日々の勉強が大事なのは同じですが、肺がん領域はとくにその変化が激しい。日々論文が発表され、ガイドラインの変更も多く、昨年勉強した治療のストラテジーがもう使えなくなる。この変化の大きさが、喘息や肺炎とは大きく異なる点だと思います。こと肺がんに関しては、自分に負荷を課して勉強しないと診療に当たれない、目の前の患者さんを助けられない、という切迫感がありました。それが5年ほど前のことです。そこから、肺がん関連の論文を片っ端から読みはじめました。PubMedで肺がん関連の気になる単語を検索し、上から順に読むのです。あまりに大量なので、自分の中で整理するために各論文の要点をメモにまとめたことがブログのスタートになりました。自分の勉強の記録を残すツールにすぎなかったものが、こんなに続くとは思っていませんでしたし、ほかの方に見てもらえるとはさらに思っていなかったですね。――ブログのほかにもFacebookやTwitterを使われ、まめに更新されています。毎日の負荷は相当だと思うのですが、どんな風にサイクルを回しているのでしょうか?勉強することはインプットに当たりますが、それを自分の頭に保持するにはアウトプットが重要です。「人に教えたこと」や「文章に書いたこと」は忘れにくい、というアレです。よって、私の中でインプットとアウトプットは完全にセットです。ベストセラーになった、樺沢 紫苑先生の『学びを結果に変えるアウトプット大全』(サンクチュアリ出版. 2018年)やマイクロソフト日本法人元社長の成毛 眞氏の『黄金のアウトプット術』(ポプラ社. 2018年)などにも、「インプットだけでなくアウトプットの重要性」が書かれていて納得しました。これらの本で気付いたというよりは、「自分なりにずっとやってきたことを再確認した」という感覚です。――実際に論文を読む時間は、どうやって確保されているのでしょう?1本の論文を読み込むのにかかる時間はトータルで2時間ほど。病院への通勤時間、電車の中で読むことが一番多いですね。とはいえ、一度に連続した2時間はとれないので、スキマ時間をかき集めています。具体的には、平日の勤務後や週末の時間を使い、PubMedで気になるキーワードを入れて論文を検索します。そうして集めた論文はすべてPDF化してプリントアウトし、クリアファイルに挟んでおきます。出勤時にはそこから数枚取り、手帳などに挟んでおくのです。また、手帳だけでなく、かばんや白衣のポケットなどあちこちに挟んでおき、休憩時間や勤務中のエレベーターの待ち時間などで30秒程度あればさっと目を通すのです。気になったところにマーカーを引き、再び夜や週末に見返してブログなどにアップする、という流れです。読み込みを始めた当初は、最初から最後まで和訳していたのですが、次第に時間的に厳しくなり、かつ意味も薄いことがわかったので、最近はAbstract、ポイントになるfigure、discussionの部分を中心に見ています。筆者はどんな点に着目してこのデータを解析したのかという部分が大事なので、そこは落とさず確認するようにしています。――読むべき論文は、どのように選んでいるのでしょう?ブログを始めた当初はLancetやNEJMなど一流誌を中心に読んでいたのですが、やっていくうちに気付いたのは、こうした主要誌の論文は日本の医療雑誌やサイトがすぐ翻訳し、高名な先生が解説も付けてくれるのです。それらと速さで張り合っても意味がないので、一流誌はそちらで目を通しつつ、いま現在の私は、医療メディアがあまり取り上げない、最先端というよりは明日の臨床で活かせる本邦での研究やリアルワールドな論文を中心に探しています。たとえば、高齢者に対象を絞っている研究、間質性肺炎の併存症のある症例、がん性髄膜炎や脳転移のある症例を集めた研究であったりします。大規模スタディには載らないセッティングや、小規模であっても日本で行われたデータが臨床の場では貴重なので、こうしたものに目を光らせているのです。私は英語がネイティブではなく、肺がんを専門に勉強したこともなかったので、最初は用語を調べるのにかなりの時間を要しました。それでも、数年も続けていれば人は慣れます。今ではずいぶん速く読めるようになりましたし、読みはじめて興味がなければゴミ箱へ、面白いと思ったものだけを熟読する、といった判別もすぐにつくようになりました。――ブログ、Facebook、Twitterなど、ツールごとの使い分けはどうされているのでしょう?自分のブログは、医療者・専門家が見ることを前提に専門性の高い内容にしています。「EGFR」「複合免疫療法」などの用語も注釈なしでそのまま使っています。Facebookはつながりのある人との少し狭いコミュニティなので、「ブログにこんなことを書いた」「こんな面白い記事があった」といった活動や情報をシェアする場として使っています。Facebookでは読んだ本の書評も書いているのですが、肺がんを患われた医師がご自身の病期について書かれた本1)に感銘を受けて感想を上げたところ、ご本人から直接メッセージをいただくことができました。こうしたつながりがSNSの面白さであり、楽しさですね。Twitterの場合は匿名性が高く、自分のフォロワーが誰なのか、すべては把握できません。看護師や薬剤師などの医療関係者ともつながっていますし、患者さんやご家族もいるかもしれません。拡散力が高いのも特徴なので、より一般的な話題を、わかりやすい言葉で発信することを意識しています。このほかにも医療者向けSNS2)やメディアでも発信しているので、1つの論文をいくつか切り口を変えて取り上げることも多いですね。――医療者の情報発信についてどうお考えですか?今の時代、ネットに医療情報はあふれかえっており、患者さんは病院や自身の疾患について膨大な量の情報に接して来院されます。それなのに、医師サイドはまだまだ情報弱者が多い。ごくごく限られた医師が多大な労力を払って発信を続けている、というのが現状でしょう。Twitter上には多くの有名医師の方々がいますが、パパ小児科医(ぱぱしょー)先生(@papa_syo222)、アレルギーご専門のほむほむ先生(@ped_allergy)は長く続けられているだけあって、一般の方が興味を持つネタや言葉の選び方が上手で参考になります。一般の読者やフォロワーが増えると、自分の発言にはとくに気を付けねばならなくなります。私はどのツールでも名前や立場をオープンにしているので、発言は「医師が発信している情報」として見られます。質の低い情報を発信することは許されません。医療情報をアップするときは、慎重に見直すようにしています。医療者のネットリテラシー向上のためには、学会から変わるといいのでは、と思います。私がTwitterを本格的に始めたのは、2019年の呼吸器学会がきっかけでした。一緒に参加した親しい医師と「Twitterで学会中のトピックスをツイートしてみよう」という話になったのです。思い立ったのは学会の2週間前と時間はなかったのですが、学会事務局に連絡して快諾をいただきました。ハッシュタグをつくり、知り合いの製薬会社の方に呼び掛けたり、母校のメーリングリストで告知するなど、急ごしらえながら準備をしました。会期中のツイートは全部で200ツイート程度でしたが、リツイートも多く、当事者としては大きな満足感がありました。そこまで関心を持っていない発表であっても「伝えなければ」と思えば本腰を入れて聴講しますし、ポイントを捉えようとします。「新しい学会の楽しみ方」という感じがありました。また、ツイートしている同士で同じ演題への見方・捉え方が違うなどの点も、興味深いものがありました。さまざまな知見がたまったので、また別の学会でも取り組みたいと考えています。欧米の学会では、アプリやネットに上がった抄録からすぐに感想をツイートし、発表者自身もキースライドを即時に投稿して世界中から反応が集まる、という時代になっています。日本の研究者・学会も、どんどん情報発信をしないと世界から置いていかれてしまうでしょう。電話帳のような学会抄録とはお別れし、講演スライドも公開したり販売したりすればいい。知見はシェアすることでさらに入ってくる時代になっているのですから。1)『Passion(パッション)~受難を情熱に変えて~』(前田恵理子/著. 医学と看護社. 2019年)2)Doctors’Picksこのインタビューに登場する医師は医師専用のニュース・SNSサイトDoctors’ PicksのExpertPickerです。Doctors’ Picksとは?著名医師が目利きした医療ニュースをチェックできる自分が薦めたい記事をPICK&コメントできる今すぐこの先生のPICKした記事をチェック!私のPICKした記事悪性胸膜中皮腫に対するニボルマブの本邦での効果と安全性中皮腫に対するニボルマブの投与は、日本においては2018年に適応拡大が承認され、まさに今、実臨床で使われはじめたところです。本研究の広島大学・岡田 守人先生をはじめ、全国で症例を集めている途上にあります。呼吸器を専門とする医師であれば、誰もが注目するトピックスでしょう。私が重視する「明日の臨床に役立つデータ」だと判断し、発表後すぐに自分のブログで取り上げ、多くの方の目に留まるようDoctors'PicksでもPickしました。

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免疫チェックポイント阻害薬の効果、抗菌薬投与で減弱?

 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の効果を左右する興味深い知見が発表された。広域抗菌薬(ATB)療法によって引き起こされるディスバイオシス(dysbiosis、腸内細菌叢の破綻)が、ICIの効果を減弱する可能性があるという。英国・インペリアル・カレッジ・ロンドン、ハマースミス病院のDavid J. Pinato氏らが、実臨床でICI治療を受ける患者を対象に前向き多施設コホート研究を行い、ICI投与前のATB投与により、全生存期間(OS)および奏効率が悪化したことを示した。著者は「ICI治療予後不良の決定要因として、ATBを介した腸内細菌叢の変化の解明が喫緊の課題である」とまとめている。JAMA Oncology誌オンライン版2019年9月12日号掲載の報告。 研究グループは、ICI治療と同時またはICI投与前のATB療法と、通常の臨床診療にてICI治療を受けたがん患者のOSおよび奏効との間に関連があるかどうかを評価する目的で、3次医療施設2施設にて前向き多施設コホート研究を実施した。 対象は、臨床試験ではなく通常診療でICI治療を受けるがん患者で、2015年1月1日~2018年4月1日に196例が登録された。 主要評価項目は、ICI治療開始からのOS、RECIST(ver. 1.1)に基づく奏効、ICI治療抵抗性(ICI初回投与後、pseudo-progressionを認めることなく6~8週で進行と定義)であった。 主な結果は以下のとおり。・196例の患者背景は、男性137例、女性59例、年齢中央値68歳(範囲:27~93歳)で、がん種別では非小細胞肺がん119例、悪性黒色腫38例、その他39例であった。・OSは、ATB事前投与例2ヵ月、同時投与例26ヵ月(ハザード比[HR]:7.4、95%CI:4.2~12.9)であった。・同時投与はOSと関連しなかったが(HR:0.9、95%CI:0.5~1.4、p=0.76)、ATB事前投与は事前投与なしと比較してOSの有意な悪化が認められた(HR:7.4、95%CI:4.3~12.8、p<0.001)。・ICI治療抵抗性は、事前投与例が21/26(81%)で、同時投与例の66/151(44%)と比較して有意に高率であった(p<0.001)。・事前投与ありは事前投与なしと比較して、がん種にかかわらず一貫してOSが不良であった(非小細胞肺がん:2.5 vs.26ヵ月[p<0.001]、悪性黒色腫:3.9 vs.14ヵ月[p<0.001]、その他の腫瘍:1.1 vs.11ヵ月[p<0.001])。・多変量解析の結果、ATB事前投与(HR:3.4、95%CI:1.9~6.1、p<0.001)およびICI治療奏効(HR:8.2、95%CI:4.0~16.9、p<0.001)は、腫瘍部位、腫瘍量およびPSとは独立してOSと関連していることが認められた。

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ESMO2019 会員レポート

2019年9月27日から10月1日までESMO2019が開催される。この重要な会議における、実用的な情報をニュートラルに提供するため、ケアネットでは会員現役ドクターによる聴講レポートを企画。現在そして今後のがんの診療トレンドを順次紹介していく。現地バルセロナからオンサイトレビューレポート一覧レポーター

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エヌトレクチニブ発売、脳転移へのベネフィットに注目

 臓器横断的ながん治療薬として本邦で2剤目となる低分子チロシンキナーゼ阻害薬エヌトレクチニブ(商品名:ロズリートレク)が販売開始したことを受け、9月5日、都内でメディアセミナー(主催:中外製薬)が開催された。吉野 孝之氏(国立がん研究センター東病院 消化管内科長)が登壇し、同剤の臨床試験結果からみえてきた特徴と、遺伝子別がん治療の今後の見通しについて講演した。 エヌトレクチニブは、2018年3月に先駆け審査指定を受け、2019年6月に「NTRK融合遺伝子陽性の進行・再発の固形がん」を適応症とした承認を世界で初めて取得した。すでに承認・販売されているMSI-H固形がんへのペムブロリズマブの適応が、標準的治療が困難な場合に限られるのに対し、NTRK融合遺伝子陽性固形がんであれば治療歴および成人・小児を問わないことが特徴。遺伝子検査にはコンパニオン診断薬として承認されたFoundationOne CDxがんゲノムプロファイルを用いる。がん種ごとの陽性率は? NTRK融合遺伝子陽性率をがん種ごとにみると、成人では唾液腺分泌がん(80~100%)1,2)、乳腺分泌がん(80~100%)3-6)などの希少がんで多く、非小細胞肺がん(0.2~3.3%)7,8)や結腸・直腸がん(0.5~1.5%)7,9-10)、浸潤性乳がん(0.1%)7)などでは少ない。しかし患者の絶対数を考えると、1%であっても相当数の患者がいるという視点も持つ必要があると吉野氏は指摘した。 一方、小児では、乳児型線維肉腫(87.2~100%)11-14)、3歳未満の非脳幹高悪性度神経膠腫(40%)15)など陽性率の高いがん種が多く、同氏は「小児がんへのインパクトはとくに大きい」と話した。治療開始後“早く・長く効く”こと、脳転移への高い有効性が特徴 今回の承認は、成人に対する第II相STARTRK-2試験および小児に対する第Ib相STARTRK-NG試験の結果に基づく。STARTRK-2試験は、NTRK1/2/3、ROS1またはALK遺伝子陽性の局所進行/転移性固形がん患者を対象としたバスケット試験。このうち、とくにNTRK陽性患者で著明な効果が確認され、今回の迅速承認につながった経緯がある。 NTRK有効性評価可能集団は51例。肉腫が13例と最も多く、非小細胞肺がん9例、唾液腺分泌がんおよび乳がんが6例ずつ、甲状腺がんが5例、大腸がん・膵がん・神経内分泌腫瘍が3例ずつと続く。また、何らかの治療歴がある患者が約6割を占めていた。主要評価項目である奏効率(ORR)は56.9%、4例で完全奏功(CR)が確認された。本試験結果だけでは母数が少ないが、がん種ごとに有効性の大きな差はないと評価されている。吉野氏は、とくに奏効例のスイマープロットに着目。初回検査の時点で奏効が確認された症例、治療継続中の症例が多く、「奏功例では早く長く効くことが特徴」と話した。また、ベースライン時の患者背景として、脳転移症例が11例含まれることにも言及。評価対象となった10例での成績は、頭蓋内腫瘍奏効率50%、2例でCRが確認されている。 Grade3以上の有害事象は多くが5%以下と頻度が低く、貧血が10.7%、体重増加が9.7%でみられた。同氏は、「総じて、副作用は非常に軽いといえる」と述べた。3学会合同、臓器横断的ゲノム診療のガイドラインを発行予定 小児・青年期対象のSTARTRK-NG試験においても、エヌトレクチニブの高い有効性が確認されている(ORR:100%)。5例はCNS原発の高悪性度の腫瘍で、うち2例でCRが確認された。周辺組織への浸潤が早い小児がんにおいて、非常に大きなインパクトのある治療法と吉野氏は話し、「どのタイミングで、どんな患者に検査を行い、薬を届けていくかを標準化していく必要がある」とした。 今回の承認を受け、日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会、日本小児血液・がん学会は合同で、『成人・小児進行固形がんにおける臓器横断的ゲノム診療のガイドライン(案)』をホームページ上で公開、パブコメの募集を行った。同ガイドラインは、今回のエヌトレクチニブ承認を受け、2019年3月公開の『ミスマッチ修復機能欠損固形がんに対する診断および免疫チェックポイント阻害薬を用いた診療に関する暫定的臨床提言』を改訂・進化させた内容となっている。「NTRK融合遺伝子の検査はいつ行うべきか?」など、NTRK融合遺伝子の検査・治療についてもCQが設けられ、実践的な診断基準として知見が整理される。 最後に、同氏はこれまで消化器がん・肺がん領域を対象として行ってきたSCRUM-Japanのがんゲノムスクリーニングプロジェクトが、2019年7月からすべての進行固形がん患者を対象に再スタートしたことを紹介(MONSTAR-SCREEN)16)。リキッドバイオプシーおよび便のプロファイリング(マイクロバイオーム)を活用しながら、臓器によらないTumor-agnosticなバスケット型臨床試験を実施していくという(標的はFGFR、HER2、ROS1)。承認申請に使用できる前向きレジストリ研究を推進させ、全臓器での治療薬承認を早めていきたいと語り、講演を締めくくった。■参考1)Skalova A, et al.Am J Surg Pathol. 2016;40:3-13.2)Bishop JA, et al.Hum Pathol. 2013;44:1982-8.3)Del Castillo M, et al. Am J Surg Pathol. 2015;39:1458-67.4)Makretsov N, et al. Genes Chromosomes Cancer. 2004;40:152-7.5)Tognon C, et al. Cancer Cell. 2002;2:367-76.6)Lae M, et al. Mod Pathol. 2009;22:291-8.7)Stransky N, et al. Nat Commun. 2014;5:4846.8)Vaishnavi A, et al. Nat Med. 2013;19:1469-1472.9)Ardini E, et al. Mol Oncol. 2014;8:1495-507.10)Creancier L, et al. Cancer Lett. 2015;365:107-11.11)Knezevich SR, et al. Nat Genet. 1998;18:184-7.12)Rubin BP, et al. Am J Pathol. 1998;153:1451-8.13)Bourgeois JM, et al. Am J Surg Pathol. 2000;24:937-46.14)Chiang S, et al. Am J Surg Pathol. 2018;42:791-798.15)Wu G, et al. Nat Genet. 2014;46:444-450.16)国立がん研究センターSCRUM-Japan/MONSTAR-SCREEN

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アテゾリズマブがTNBCに適応拡大、免疫CP阻害薬で初/中外製薬

 中外製薬株式会社(本社:東京、代表取締役社長CEO:小坂 達朗)は2019年9月20日、PD-L1陽性トリプルネガティブ乳がん(TNBC)に対する免疫チェックポイント阻害薬として国内で初めて、抗PD-L1モノクローナル抗体アテゾリズマブ(商品名:テセントリク)が適応拡大されたことを発表した。PD-L1発現状況の確認は、2019年8月20日にコンパニオン診断薬として適応拡大の承認を取得した、病理検査用キットベンタナOptiView PD-L1(SP142)によって行う。 今回の適応拡大は、第III相IMpassion130試験の成績に基づく。IMpassion130試験は、全身薬物療法を受けていない切除不能な局所進行または転移のあるTNBC患者を対象に、アテゾリズマブ併用群(アテゾリズマブ+nab-パクリタキセル)とnab-パクリタキセル単独群(プラセボ+nab-パクリタキセル)を比較した多施設共同無作為化プラセボ対照の二重盲検国際共同臨床試験。 併用群では、ITT(Intent to treat)解析集団およびPD-L1陽性集団において、単独群と比較して主要評価項目であるPFS(無増悪生存期間)の延長を示した(ITT集団のPFS中央値:7.2ヵ月 vs.5.5ヵ月、ハザード比[HR]:0.80、95%信頼区間[CI]:0.69~0.92、p=0.0025/PD-L1陽性集団のPFS中央値:7.5ヵ月 vs.5.0ヵ月、HR:0.62、95%CI:0.49~0.78、p<0.0001)。もう1つの主要評価項目であるOS(全生存期間)については、第2回中間解析時点では、ITT解析集団におけるOS延長について、統計学的な有意差は認められなかった(OS中央値:21.0ヵ月 vs.18.7ヵ月、HR:0.86、95%CI:0.72~1.02、p=0.078)。一方、PD-L1陽性患者において、臨床的に意義のあるOSの延長が認められたものの、階層構造に基づいて統計解析を行う試験デザインであることから、今回の PD-L1陽性患者におけるOSの解析は検証的な位置づけではない(OS中央値:25.0ヵ月 vs.18.0ヵ月、HR:0.71、95%CI:0.54~0.93)。フォローアップは次回の計画されている解析まで継続される。 併用療法による安全性プロファイルは、これまで各薬剤で認められている安全性プロファイルと一致しており、本併用療法で新たな安全性のシグナルは確認されなかった。なお、同試験におけるアテゾリズマブの用法・用量が840mgの2週間間隔での投与であるため、至適用量製剤として開発が行われ、9月20日付けで840mg製剤の剤形追加についても承認された。 また、中外製薬株式会社は同日、HER2陽性乳がん患者に対するペルツズマブ(商品名:パージェタ)とトラスツズマブ(商品名:ハーセプチン)の配合皮下注製剤が、両剤の静注製剤に対して非劣性を示したことを発表。配合皮下注製剤の投与には、初回は約8分、2回目以降は約5分を要する。これに対して、両剤の静注製剤を併用投与する場合、初回は約150分、2回目以降は60~150分を要する。本結果は第III相FeDeriCa試験によるもので、詳細は今後開催される医学会で発表される予定。

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腫瘍循環器病学の基礎研究の1つとなる論文(解説:野間重孝氏)-1113

 腫瘍循環器病学(Onco-cardiology)という領域には、まだあまりなじみのない方が多いのではないかと思う。この領域が本格的に稼働し始めたのは今世紀に入ってからで、実際、最初の専門外来がテキサス州立大学MDアンダーソンがんセンター内に開設されたのは2000年の出来事だった。わが国で同種の外来が大阪府立成人病センターにおいて初めて設置されるには、その後10年を待たなくてはならなかった。こうした事情を考えると、この領域について少し解説を加える必要があるのではないかと思う。 がん治療における心毒性の歴史は、アントラサイクリン心筋症に始まる。抗がん剤において急性期心毒性に加え、1年以上も経過してから出現する亜急性期心毒性が報告されたことが、同剤の心毒性についての関心を大きく高めた。1970年代の出来事である。その後の研究で、アントラサイクリンの投与容量がドキソルビシン換算400~450mg/m2以上で、高い頻度で心不全の発症が見られることがわかり、投与量を計画的に制限することでその発症を大幅に減少させることが可能になった。この一連の研究が、腫瘍循環器病学のいわば基礎になったことは言うまでもない。 その後がんの病態の解析が進み、今世紀には分子標的薬が出現する。HER2受容体を特異的に阻害する抗体であるトラスツズマブの出現は、今まで増殖性が強く難治性であったHER2陽性乳がんの予後を著明に改善し注目された。しかし、投与前には予想されていなかった心不全例が出現し、その原因としてHER2受容体が心筋細胞にも存在することが証明されたことは、大きな驚きをもって迎え入れられた。最近の最大の話題の1つに、2018年にノーベル生理学・医学賞を受賞した免疫チェックポイント阻害薬があるが、この種の薬剤でも劇症心筋炎が報告され、対応が苦慮されている。つまり新しい抗がん剤が出現すると、さらに新しい作用に合わせた予想できない心毒性が出現する可能性が考えられるのである。 しかし一連の研究の流れが、薬剤の心毒性→薬剤性心筋症→心不全という方向だけだったなら研究は薬剤研究の範囲内にとどまり、腫瘍循環器病学という新しい分野が創出されるに至ったかどうかは疑わしいと思う。がんから回復した患者(がんサバイバー)にがん治療からかなり時期をずらして静脈血栓症が多発すること、そして何よりもがんサバイバーに冠動脈疾患の発生率が高いことが(数倍~10倍ともいわれる)、この領域の研究がぜひ必要と認知される決定的な理由になったのではないかと思う。これらの疾患は原因・病態が複雑でひとくくりにできる性格のものでないことは言うまでもないが、まだその細かな解析にまでは至っていないのが現状である。この領域は、まだ生まれたばかりなのである。 さて、本論文はそうした状況の中、代表的ながん20種について英国の権威あるデータベースであるUK Clinical Practice Research Datalinkを用い、がんサバイバー10万8,215例に対し、年齢・性別をマッチさせた52万3,541例の(つまり複数の)対象をおいて心血管疾患の発生を25年にわたって追跡した大規模疫学研究である。それぞれのがんについて心血管疾患の発生倍率を算出し、かつ信頼区間についても明示された。研究グループの地道な努力に敬意を表するものである。さらに、従来この種の疫学研究は比較的若年者を対象とすることが多かったが、本研究では高齢者も対象としており、かつ年齢が発生頻度と関係することを示したことも注目されるべき点だろう。なお著者らは今回の研究の限界として、投与された化学療法の種類や投与量、がんの再発、心血管疾患の家族歴、人種、食事、アルコール消費量などの情報に信頼できるデータを示すことができなかったことを挙げているが、評者にはこれは確かに限界と言えば限界には違いないが、この種の疫学調査では避けて通れない種類の限界であり、この研究の価値を下げるものではないと思われる。それぞれの患者がそれぞれ置かれた環境で至適治療を受けたという事実が問題で、その結果としてどうなったのかこそが問題だからである。 今後がん治療には、どんどん新しい分野が開拓されていくことが予想される。その際、最も問題になるのが心血管系合併症であることが、はっきりと示されたことは大変に重要なことだと考える。本論文は正確な実態を把握することを主目的とし、何か新しい知見を示すことを目的とはしていない。しかし、今後ますます重要性を増していくであろうこの分野における、記念碑的な論文の1つになるであろうと考えるものである。

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「死なない・死ねない」時代が来る――その時、医師は?【Doctors' Picksインタビュー】第3回

各方面の医療の進化の概略を示し「人は死なない・死ねない時代に入りつつある。これからの時代を生きるうえで、それを踏まえた心と身体の準備をすべき」と呼び掛ける自著をまとめた奥 真也氏。その俯瞰的な視点には、放射線医というキャリアのスタート地点と、民間の医療関連企業で勤務した経験が大きく関わっているという。医療の急速な進化は、医師の仕事も変えていくはず、と奥氏は語る。最大の敵“がん”克服の道筋私は1988年、昭和最後の年に医師になりました。平成の30年間がそのまま医師のキャリアです。この期間に、医療は驚くほど変わりました。その代表格が「がん治療」です。私が医師のキャリアをスタートした20世紀後半には、がんは致死的疾患の主要な座を占めていました。部位ごとのみならず患者さんごとにまったく異なる特徴を示すがんに対し、人類はなかなか有効な手だてを見いだせずにいました。1990年代半ばから、その状況は変わり始めます。手術や放射線、抗がん剤治療が発達し、それらを組み合わせることでがんを克服できるケースが出てきました。さらに21世紀に入ると、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬という新しい治療法の開発が急速に進み、本当の意味で「がんに効く薬」が登場しました。さらに、光免疫療法や遺伝子ゲノム解析を用いた治療も実臨床の段階に入りつつあります。この30年間の各種がんの5年生存率の変化や、死亡率上位を占めるがん種の変遷を見ると、胃がんや大腸がん、肺がんといった、かつては不治と思われたいくつかのがんが、今や克服可能となっていることがわかります。現場で臨床に当たっている方は「克服」と断定してしまうことに違和感があるかもしれませんが、30年前と比較し、人類とがんとの戦いがまったく異なるフェーズに入っていることに異論はないでしょう。「医療の完成」までわずか、死の概念も変わるこれまでの人類の歴史は、病気との戦いの連続でした。ペスト、天然痘、結核、AIDS…、ある病気を克服してもすぐに次の病気が立ちはだかりました。しかし、「がん」という高い壁の乗り越え方が見えつつある今、私はすべての病気を治せる「医療の完成」の9合目の地点まで来た、と考えています。90%ではなく9合目と表現しているのは、最後の1合には、乗り越えるのが大変な「難敵」が待ち構えているからです。大別すると、(1)膵臓がんや胆管がんといった発見・アプローチが難しい病気、(2)筋ジストロフィー、脊髄側索硬化症(ALS)や種々の遺伝的な免疫不全症などの希少疾患、(3)大動脈解離やくも膜下出血などの急死につながりやすい疾患、これらが具体的な難敵でしょう。しかし、(1)のがんは前述のとおり有効なアプローチが増加し、(2)の希少疾患についても、筋ジストロフィーについては小児のうちに完治を目指すアプローチの新薬が登場するなど、克服の道が見えつつあるものが増えてきています。(3)の急死を含め、完全な克服には医療保険制度や社会の在り方なども含めて議論する必要があり、時間はかかるでしょうが、それでもアプローチは日進月歩で進化しています。克服困難だった病気が次々に治療可能となり、数十年前と比較して人類は「予期しないタイミングで死ぬ」ことが圧倒的に減りました。寿命は延び続け、日本をはじめ先進国では急速に高齢化が進んでいます。簡単には「死なない・死ねない時代」になりつつある今、「死」自体が、これまでに考えられてきたもの、長らく恐れられてきたものから変容するでしょう。死、そして人生そのものに対する向き合い方が根本的に変わっていくのです。これまで、私たち医師の役割は、目の前の人の病気を治し、1日でも長く生かすことでした。でも、その常識すらも変わっていくでしょう。私たち医師は、そうした患者さんや社会の変化に向き合う準備ができているでしょうか?画像診断・病理診断はAIの独擅場に医師の仕事を変えつつある、もう1つの大きな要因は人工知能(AI)の応用です。2016年、 Google DeepMindによって開発されたコンピュータ囲碁プログラム「AlphaGo(アルファ碁)」が世界のトップ棋士に勝ち越しました。1980年代には「複雑なルールの囲碁において、コンピュータが人間に勝つのは22世紀以降になる」といわれていたものが、21世紀早々のタイミングでいとも簡単に壁を越えていったのです。こうしたAIが医療の世界ですでに応用されているのは、皆さんもご存じのとおりです。私はよく、画像診断で病変を見つける作業を絵本の『ウォーリーをさがせ!』に例えるのですが、この絵本で要求される「似たような中から条件に当てはまる1人を見つける」という作業は、集中力を要し時間もかかるものです。しかも臨床現場では、「異常があるのかさえもわからない」「あっても確率は1万分の1」といった難しさも加わります。こうした作業は、AIが圧倒的に得意な分野です。たとえば、マンモグラフィの画像診断において、熟練医師が1人の画像を診断するのに10分かかるところ、AIは同じ10分で6万人分を診断します。1分で6,000人を診断して精度にも問題がないのですから、勝負にすらなりません。現在の放射線科医や病理医の仕事の一部は、急速にAIに替えられていくでしょう。そして、変化はややゆっくりかもしれませんが、どの診療科にも同じ流れはやってきます。人間の医師が不要になるわけではありませんが、5年、10年後の医師の仕事は、今とはまったく異なるものになることでしょう。この変化の影響を一番受けるのは医学生や若手医師の方でしょうが、今の医学教育や医師育成のシステムはこれらの変化に対応し切れていないように見えます。事実、こうした話を書籍*にまとめたところ、一般向けの書籍を目指したのにもかかわらず、医師や医学生から反応が多くあったり、大学の医学部から副読本・参考書として使いたいという話がきたりもしました。まったく異なるキャリアで視野を広げる私がこのように医療を俯瞰的に見る視点を持つようになったのは、キャリアのスタートが放射線医だったことが大きく影響しているのだと思います。放射線科は、複数の科の患者の画像診断を一手に引き受ける部門です。幅広い診療科の医師と一緒に仕事をしたことや、多岐にわたる患者の診断を受け持ったことが、自分の土台になっています。もう1つ、ほかの医師があまり持たないキャリア経験が、民間企業に所属したことでしょう。私は長らく大学で教鞭を執っていましたが、あるきっかけから民間企業に転じ、製薬会社や医療系コンサルティング会社、そして医薬機器メーカーに勤めました。それまで、医師として薬や診断機器のユーザー側だったものが、メーカーに入って提供する側に回ったのです。この両者の経験が、医療の全体感をつかむことに大きく役立ちました。私の場合、意図してのキャリアチェンジではありませんでしたが、まったく異なる環境で働き、異なる視点で医療の世界を見る経験は、長い医師人生の中で必ず役立つはずだと感じます。人生100年時代、医師がすべきことは?ロンドン・ビジネス・スクール教授のリンダ・グラットン氏は、共著書『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』の中で「人生100年時代に備えよ」と呼び掛け、大きな話題を集めました。この問題はもちろん、医師自身にも当てはまります。大学で役職をもらい、定年まで勤め上げるといった、これまでの「上がり」のキャリアでは、長く延びつつある人生に対応し切れません。医療が大きく変化しつつある今は、医師にとって活躍の場が増えている時代でもあります。臓器再生や脳の記憶を保存するなど、「不死」の時代を見据えた新たな医療ビジネスがどんどん登場しています。まだ決定的な治療法が見つかっていない認知症に社会としてどう向き合っていくのか、というのも大きな論点でしょう。どのテーマにも、医療の専門知識とともに、高い倫理観が求められます。さらに、「死なない・死ねない」時代を迎えるにあたり、避けて通れないのが「安楽死」を巡る議論でしょう。安楽死(医療が介入する積極的安楽死)を法律で認めている国は、世界に8ヵ国(米国は州単位)あります。もちろん、簡単に答えを出せる問題ではありませんが、高い専門知識と死に向かう人の実情を知る医師だからこそ、この問題からも目を背けず、積極的に議論していくべきではないかと思います。*『Die革命 医療完成時代の生き方』(奥 真也/著. 大和書房. 2019年3月発行)※この記事は、奥氏の著書『Die革命 医療完成時代の生き方』(大和書房)と2019年7月に開催された同書の出版記念講演(「医療の完成による死なない・死ねない時代が来る!!~人生100年時代の生き方~」紀伊國屋書店 新宿本店)の内容を再構成したものです。このインタビューに登場する医師は医師専用のニュース・SNSサイトDoctors’ PicksのExpertPickerです。Doctors’ Picksとは?著名医師が目利きした医療ニュースをチェックできる自分が薦めたい記事をPICK&コメントできる今すぐこの先生のPICKした記事をチェック!私のPICKした記事がん遺伝子パネル検査後の治療をご希望される患者さんへ個人に対するがん治療を遺伝子検査によって最適化するパネル検査。春先に保険収載され始め、いよいよ本格的に動き出しました。本来はがんの標本自体が必要ですが、血液等で代用するリキッドバイオプシー(liquid biopsy)の手法も大いに注目されます。このような追い風の中ですが、まだまだ、「遺伝子的な最適状況は判明しても、適切な治療が提供できない」ということが、パネル検査の概念について、大きな障碍になっているのが現状です。今後、パネル検査、リキッドバイオプシー由来のデータを基に、薬の開発法が新たな方法論に進んでいく時代が拓かれると思われます。仮説検証的な方法から、発見的(heuristic)な方法への転換です。

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免疫関連有害事象もOncologic emergencyに【侍オンコロジスト奮闘記】第80回

第80回:免疫関連有害事象もOncologic emergencyにJohnson DB, et al. Fulminant Myocarditis with Combination Immune Checkpoint Blockade.N Engl J Med. 2016 Nov 3;375:1749-1755.Salem JE, et al. Abatacept for Severe Immune Checkpoint Inhibitor-Associated Myocarditis.N Engl J Med. 2019;380:2377-2379.Esfahani K, et al.Alemtuzumab for Immune-Related Myocarditis Due to PD-1 Therapy.N Engl J Med. 2019;380:2375-2376.

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PD-1阻害薬による免疫関連肺臓炎はNSCLC患者の予後を悪化させる

 PD-1阻害薬の免疫関連有害事象の1つである肺臓炎は、時に致命的となることが知られるが、予後にどの程度影響するのかは明らかになっていない。名古屋大学大学院医学部の富貴原 淳氏らは、PD-1阻害薬の投与を受けた非小細胞肺がん(NSCLC)患者を後ろ向きに解析し、免疫関連肺臓炎(IRP)の発症と予後の関係を検討した。Clinical Lung Cancer誌オンライン版2019年8月1日号掲載の報告。 研究グループは、2016年1月~2018年3月の間に、PD-1阻害薬(ニボルマブまたはペムブロリズマブ単剤療法)を用いた再発/進行NSCLC患者について、後ろ向きに解析した。 胸部X線画像上の片側浸潤陰影も、PD-1阻害薬に関連すると考えられる場合はIRPとした。 主な結果は以下のとおり。・170例中27例(16%)がIRPを発症した。・IRPを発症した27例中22例(81%)が、副腎皮質ステロイドの有無にかかわらずPD-1阻害薬の投与中止で回復した。・8週間のランドマーク解析の結果、PD-1阻害薬投与後の全生存期間は、IRP発症群が非発症群より有意に短かった(8.7ヵ月vs.23.0ヵ月、p=0.015)。・IRP発症群は、PD-1阻害薬中止後は後方治療を受けずに支持療法(BSC)を選択する傾向がみられた。・多変量解析では、ペムブロリズマブ(対ニボルマブ)および血清アルブミン低値が、IRPの独立したリスク因子であることが示された。

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NSCLC免疫治療のバイオマーカーと生存期間の関係

 非小細胞肺がん(NSCLC)における免疫療法の役割や現在のバイオマーカーの臨床的関連について、興味深い知見が示された。中国・中山大学のYunfang Yu氏らは臨床試験計31件のメタ解析を行い、免疫療法はNSCLC患者の予後改善が期待できること、免疫療法の有効性を評価するバイオマーカーとしてはPD-L1発現と腫瘍遺伝子変異量(TMB)の併用が有用で、CD8+T細胞腫瘍浸潤リンパ球も加えることでさらに信頼性が高い予後予測が可能となることを示した。著者は、「これらを併用した予測値について、前向き大規模臨床試験で確認する必要がある」とまとめている。JAMA Network Open誌2019年7月号掲載の報告。 研究グループは、進行NSCLC患者における免疫チェックポイント阻害薬、腫瘍ワクチンおよび細胞性免疫療法と臨床転帰との関連を評価し、適切な治療戦略、対象および予測因子を探索する目的で、メタ解析を行った。 PubMed、EMBASEおよびCochrane Central Register of Controlled Trialsのデータベースを用い、2018年6月までに発表された論文について、tumor vaccine、cellular immunotherapy、immune checkpoint inhibitor、cytotoxic T-lymphocyte-associated protein 4、programmed death-ligand 1、programmed death receptor 1、non-small cell lung carcinomaを含むキーワードおよびMeSH用語で検索するとともに、システマティックレビュー、メタ解析、参考文献、学会抄録集は手作業で検索した。進行/転移NSCLC患者を対象に、免疫チェックポイント阻害薬、腫瘍ワクチンまたは細胞性免疫療法と従来の治療法について、全生存期間(OS)、無増悪生存期間(PFS)または奏効率(ORR)を比較している無作為化臨床試験で、英語の論文を解析に組み込んだ。解析は2018年2月1日~8月31日に行われた。 主要評価項目は、OSおよびPFSであった。 主な結果は以下のとおり。・無作為化臨床試験31件、計1万4,395例(男性66%)がメタ解析に組み込まれた。・従来の治療法と比較して、免疫療法はOS(HR:0.76、95%CI:0.71~0.82、p<0.001)およびPFS(HR:0.76、95%CI:0.70~0.83、p<0.001)の有意な延長と関連した。・PD-L1発現とTMBを併用した予後予測は、それぞれの単独よりも有用であった。全エクソームシークエンス実施群では、併用法による1年PFSに関するROC(receiver operating characteristic curve)のAUC(area under the curve)が0.829、3年PFSのAUCが0.839、ターゲット次世代シークエンス実施群では、それぞれ0.826および0.948であった。・さらにCD8+T細胞腫瘍浸潤リンパ球も加えた併用法は、OSの予測値が最も高かった(3年OSのAUC:0.659、5年OSのAUC:0.665)。・RYR1またはMGAM遺伝子変異は、持続的臨床効果(DCB)、高TMBおよびPD-L1高発現と有意に関連していた。・RYR1遺伝子変異の頻度は、DCBあり群で24%(12/51例)、DCBなし群で4%(2/55例)(p<0.001)、高TMB群で23%(12/53例)、低TMB群で3.8%(2/53例)(p<0.001)、PD-L1高発現群で27%(8/30例)、PD-L1低発現群で7.1%(6/85例)(p<0.001)であった。・MGAM遺伝子変異の頻度は、DCBあり群で24%(12/51例)、DCBなし群で0%(p<0.001)、高TMB群で17%(9/53例)、低TMB群で0%(p<0.001)、PD-L1高発現群で20%(6/30例)、PD-L1低発現群で6%(5/85例)(p<0.001)であった。

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既治療の非小細胞肺がんにおけるニボルマブの4年生存/Lancet Oncol

 ニボルマブの既治療の進行期非小細胞肺がん(NSCLC)患者における長期的な利益および奏効状態とその後の生存に対する影響を評価することを目的としたプール解析が行われた。Lancet Oncology誌2019年8月14日号オンライン版掲載の報告。 既治療のNSCLC患者におけるニボルマブの 生存転帰を評価するために、4つの臨床研究 (CheckMate 017、057、063、003) からデータを蓄積した。生存結果の決定にあたっては、 6ヵ月の奏効状態によるランドマーク解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・4つの研究を通し、ニボルマブの4年全生存(OS)率は全患者(n=664)では14%、PD-L1発現1%以上の患者では19%、PD-L1発現1%未満の患者では11%であった。・CheckMate 017および057試験におけるニボルマブ治療患者の4年OS率は14%、ドセタキセル治療患者では5%であった。・ニボルマブ、ドセタキセル治療群とも、6ヵ月時点で奏効していた患者の生存は 6ヵ月時点でPDだった患者よりも長かった。・ニボルマブ治療群において6ヵ月時点で奏効していた患者とPDだった患者のハザード比(HR)は0.18(0.12~0.27)、ドセタキセル治療群における同比較のHRは0.43(0.29~0.65)であった。・ニボルマブ治療群において6ヵ月時点でSDだった患者とPDだった患者のHRは0.52(0.37~0.71)、ドセタキセル治療群における同比較のHRは0.80(0.61~1.04)であった。・長期データにおいても新たな安全性の問題はみられなかった。

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情報を発信し、世界にキャッチアップせよ【Doctors' Picksインタビュー】第1回

肺がんを専門とし、治療法の急速な進化を最前線で経験してきた光冨 徹哉氏。関連学会のトップを歴任した際には、臨床と研究をつなぎ、各方面に情報を発信する取り組みを行ってきた。そして、2019年からは世界肺癌学会のプレジデント(理事長)を務める。米国に留学し、世界の研究者と交流してきた経験から、日本の研究の現状に対して強い危機感を持っているという。――肺がん治療における、大きなトレンドを教えていただけますか?肺がん治療はここ20年でダイナミックに変化しました。かつて、進行・転移性の非小細胞肺がん(NSCLC)は、患者さんの半数が約1年の間に亡くなるという予後不良のがんでした。それが、90年代後半から遺伝子変異を標的にした分子標的薬が登場し、目覚ましい効果を上げました。とくに、2002年に国内承認されたEGFRの分子標的薬ゲフィチニブの登場は衝撃的でした。それまで長年肺がん治療に関わってきましたが、一部の患者とはいえ、初めて“効く薬”に出会えた、と感じたものです。もっとも当初は遺伝子変異が効果予測因子となることはわかっておらず、変異検査が一般臨床に組み込まれるのにはだいぶ時間を要しましたが…。現在ではEGFRやALKなど特定の遺伝子変異のあるNSCLC患者の生存期間は3年以上に延びました。さらに、2018年にノーベル賞を受賞された本庶 佑先生によって腫瘍免疫におけるPD-1の役割が解明されたことにより、ニボルマブなどの免疫チェックポイント阻害薬も臨床で使われるようになっています。こちらの治療ではまだ一部ではありますが、5年以上の長期にわたってがんがコントロールされている症例があることが特徴的です。現在では、抗がん剤、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬を適切に選び、ある場合には組み合わせて患者さん個々人に合わせたかたちで使うという、治療の個別化が研究の大きなテーマとなっています。――2014年からの4年間は日本肺癌学会の理事長を務められ、2019年の年末からは世界肺癌学会(International Association for the Study of Lung Cancer:IASLC)のプレジデントに就任のご予定です。トップとして、どのようなことに取り組もうとお考えですか。治療方法が急速に進化、変化している状況ですので、しっかりと情報収集・発信を行っていきたいですね。日本肺癌学会では専任の広報担当者を置き、医師や患者に対する発信力を高めてきました。2019年12月に開催する日本肺癌学会学術集会でも、患者や家族向けのプログラムを作るなど、積極的な啓発活動を行おうとしています。IASLCでは、まだ欧米の研究者の発言力が強い面があるので、中国・韓国などと連携しながら、アジアの研究や研究者に光を当てる機会を増やしたいと考えています。また、近年は薬物治療の発展が目覚ましく、そこに目が行きがちですが、予防、診断、外科、放射線、緩和、さらに看護など、あらゆる職種の人がメンバーとしてのメリットを感じられるような学会にしていきたいですね。――情報を発信する立場になられて、普段していることや気を付けていることをお聞かせください。Twitterで海外の著名な医師や海外ジャーナルのアカウントをフォローしています。フォロー先には留学時代や学会でのリアルの知り合いもいますが、がん関連組織のトップなど、直接には知らない人もいますよ。興味がある標的療法や免疫療法の分野は、とくに重点的に研究者をフォローしています。プロフィールのリンクをたどればその人が発表した論文を読めますし、Twitter内の会話を見れば、新しい論文の意味を深く理解できます。話題に付随した関係者も一緒に見つかるので、気になった人を都度、追加でフォローしています。学会の直後や発表中に、聴講者が発表スライドをTwitterに投稿していることもあります。これは日本ではあまり見ない光景ですよね。現地の温度感を共有しつつ最新情報を得られるのでありがたいと思います。Twitterの情報で価値があると感じたものは、Facebookで知り合いに紹介する、医師がニュースに関するコメントを寄せ合うサイトDoctors’Picksに投稿するなど、二次的な活用もしています。私は立場上、学会や製薬会社からの情報が手に入りやすい立場にありますが、若手や中堅の方は実務に忙しく、それどころではない方もおられるでしょう。研究も論文数も増加の一途で、自分の専門分野ですら、すべての情報に目を通すことは難しい。一方で、新たな治療法や新薬が続々登場し、臨床の常識が数年で一変する時代でもあります。だからこそ、信用できる「情報の目利き」を確保し、彼ら彼女らのフィルターを通ったものを確実にチェックする、という方法で情報収集を効率化できると思います。そして、有益な情報源と出会うためには、自分も情報を発信していたほうがいい。情報は出せば入ってくるものですから。欧米の研究者・医師は総じて日本人より発信に積極的です。私も今のところ、Twitterは情報収集メインなので大きなことは言えませんが、もっと積極的に発信する人が増えるとよいと思います。日本の医師は概して炎上リスクに敏感で、それも大事なことだとは思いますが、中傷などに気を付ければ、そう大きな問題となることはないと思います。それよりも、医師仲間やそれを超えた社会に対し、自分の考えや研究・実践をアピールすることは、これまで以上に重要な意味を持つようになってきていると感じています。――教育者として医学生や若手研究者と接して、お感じになることは?やはり国際学会で大事なのは英語です。昔に比べれば、インターネットもあるし、航空券も安くなって海外との距離は格段に近くなったと思うのですが、それにしては英語力がそう伸びているわけでもないような気もします。概して、積極的に留学を希望する学生も少ない印象です。ずっと国内で日本人だけを診療して生きていく、というのであればよいのかもしれませんが、そんな時代でもないでしょう。先日、私たちの大学に中東・オマーンから短期留学生が来ましたが、非常に積極的で優秀でした。母国でも医学教育は英語で受けているので、コミュニケーションもまったく問題ありません。医学の世界の公用語は英語であり、隣国の中国、韓国の人とコミュニケーションをとるためにも必須です。このままでは日本は世界とさらに差がついてしまう、と危機感を覚えます。“医学のガラパゴス化”を危惧すると言ったら言い過ぎでしょうか。世界との差は、研究の面でも顕著です。たとえば、米国のTCGA(The Cancer Genome Atlas:がんゲノムアトラス)プロジェクト※1。NCI(米国国立がん研究所)が主導し、あらゆるがんにおけるゲノム解析を行っています。先進的な分野に目をつけ、10年以上にわたって数百億円規模の予算を掛けた国家プロジェクトとして実行する、そのスケール感には圧倒されます。そして何より、研究成果であるデータの大半を一般に公開し、世界中の誰もが使えるようにしている点が素晴らしい。米国もいろいろ問題があるとは思いますが、こうした寛容さは素晴らしいですね。翻って、日本では予算規模も少なく、さまざまなことに対する規制が多過ぎます。たとえば、一般社団法人NCD(National Clinical Database)では手術数やリスクなどの外科系データを収集しています。ですが、私たちがこのデータを研究で利用しようとすると用途やデータの出し方を細かく指定し、解析済みデータを提供してもらう必要があるのです。研究では生データを探索的に解析することで新たな視点や気付きが生まれるものですが、その自由度はありません。科研費においても、設定される研究スパンは3~5年程度が多く、短期で成果を出さねばならないという意識が働くので、研究自体が小粒かつ近視眼的になる側面が否めません。実際、2000年代半ばから、日本の論文は質量ともに急速に低下しています※2。――日本が再び世界でプレゼンスを高めるためには、何が必要でしょうか?即効性のある処方箋はありませんが、まずは医師が危機感を共有し、世界の情報を集め、キャッチアップしていくことからではと思います。語学力を高め、国際的な共同研究に参加することも重要でしょう。ここ10年で急速に力を付けてきた隣国の中国の研究者から学ぶことも多いと思います。※12006年に開始された大型がんゲノムプロジェクト。2018年までに33種のがん種について10,000を超える腫瘍の分子および臨床情報のデータセットについて、網羅的なゲノム解析を完了させた。※2文部科学省 科学技術・学術政策研究所(NISTEP)「科学研究のベンチマーキング」このインタビューに登場する医師は医師専用のニュース・SNSサイトDoctors’ PicksのExpertPickerです。Doctors’ Picksとは?著名医師が目利きした医療ニュースをチェックできる自分が薦めたい記事をPICK&コメントできる今すぐこの先生のPICKした記事をチェック!

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ASCO2019レポート 消化器がん(肝胆膵)

レポーター紹介ASCO会場のメインの通りに掲げられたテーマ2019年度のASCOが、2019年5月31日~6月4日の5日間、今年もシカゴのマコーミックプレイスにて開催された。毎年同じ開催場所である。今年のテーマは「Caring for Every Patient, Learning from Every Patient」で、患者のためのケア、患者から学ぶことを重要視した学会であった。そして、今年の肝胆膵領域の発表はOral presentationも多く、Plenary sessionで採択された演題もあり、非常に興味深い発表が多かった年で、いわゆる豊作の年となった。膵がんPOLO試験今回のASCOで、肝胆膵領域の最も注目すべき演題は、膵がんに対するPARP阻害薬であるオラパリブのPOLO試験であろう。生殖細胞系(Germline)BRCA1またはBRCA2の変異を有する転移性膵がん患者に対して、1次治療としてプラチナ製剤を含む化学療法を16週以上行い、抗腫瘍効果でCR、PRまたはSDが得られ、増悪を認めていない患者を、オラパリブ300mgを1日2回内服する群と、プラセボを内服する群に3:2にランダムに割り付けて、がんの増悪または忍容できない有害事象を認めるまで治療を継続した。主要評価項目は、RECIST v1.1での中央判定による無増悪生存期間であった。オラパリブ群に92例、プラセボ群に62例がランダム割り付けされた。主要評価項目である無増悪生存期間(中央値)はオラパリブ群7.4ヵ月、プラセボ群3.8ヵ月で、ハザード比は0.53(95%信頼区間[CI]:0.35~0.82)であり、有意に良好な結果(p=0.0038)が示された。生存期間はまだ十分に経過観察しえた結果ではないが、中央値でオラパリブ群18.9ヵ月、プラセボ群18.1ヵ月であり、ハザード比も0.91(95%CI:0.56~1.46)と有意な差は認めなかった(p=0.68)。有意差を認めなかった理由として、プラセボ群の後治療でPARP阻害薬を投与された患者が14.5%存在するなどの後治療の影響や十分な経過観察ができていないことが指摘されていた。有害事象は、疲労、悪心、下痢、腹痛、貧血、食欲低下などで、Grade 3以上の有害事象は貧血と疲労であり、忍容性は良好と判断された。また、プラチナ製剤に特有の末梢神経障害はあまり認めないことが、プラチナ製剤投与後の維持療法として使用するうえで好ましい点のように思われた。今後、BRCA1または2の遺伝子変異を有する膵がん患者には、まずプラチナ製剤を含むレジメン、たとえば、FOLFIRINOXやゲムシタビン+シスプラチンなどによる治療を開始し、4ヵ月以降でSD以上の抗腫瘍効果が得られていたら、維持療法としてオラパリブを投与することが標準治療になるものと思われる。本試験の結果は、日本では明日からの診療につながる話ではないが、その体制整備をしておく必要がある。まず、germline BRCA1/2を調べることから始まる。初回治療開始前にgermline BRCA1/2の変異の有無を調べてから結果が戻ってくるまでの時間を考慮すると、診断の早い段階で同意を取ったうえで、採血の検査をオーダーする必要がある。また、生殖細胞系変異を見つけることは、すなわち遺伝カウンセリングの体制整備が重要になる。日本は本試験に参加しておらず、われわれ肝胆膵領域の臨床腫瘍医にPARP阻害薬の経験が乏しいことが問題点であり、十分にPARP阻害薬のマネジメントに精通しておく必要がある。また、germline BRCA1/2の変異は膵がん患者の4~7%と言われており、プラチナ製剤とオラパリブが有効な対象はまだまだ限られた対象であることも理解しておくことが必要である。Plenary sessionの会場の光景:全部でモニターが12台、演者がかなり遠くに見える。このASCOのPlenary sessionは何千人入るかわからないほどの巨大な会場で行われた。今回も、巨大なモニターが会場内に12台設置され、椅子も所狭しと並んで、聴衆が間を開けることなくぎっしり座っていた。そこに、Prof Kindlerのゆっくりと丁寧な言葉で発表が進んだ。そんな巨大な会場で発表が行われている最中に、メールの配信で、New England Journal of MedicineからPOLO試験の論文掲載の案内が届き、まさに学会と論文の同時発表であり、ここまでタイムリーな対応に驚きを隠せない状況であった。発表が終わってからは拍手喝采が鳴りやまず、まさに圧巻で、一見の価値のある光景であった。APACT試験膵がんにおけるもうひとつの注目演題は、ゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法の補助化学療法であるAPACT試験である。膵がん切除後の補助療法としては、日本ではS-1による補助療法が主流であるが、海外ではゲムシタビンが汎用され、近年、ゲムシタビン+カペシタビンやmodified FOLFIRINOXなども使用されている。進行膵がんにおいて、ゲムシタビン+ナブパクリタキセルの高い有効性が示されていることから、膵がん切除後の補助療法としても期待され、ゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法とゲムシタビン単独療法を比較した第III相試験が計画された。R0または1の切除後の膵がん患者をゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法とゲムシタビン単独療法に1:1にランダムに割り付けて行われた。主要評価項目は無病生存期間、副次評価項目は全生存期間、安全性であった。全世界から866例が登録され、ゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法に432例、ゲムシタビン単独療法に434例がランダムに割り付けされた。主要評価項目である中央判定による無病生存期間(中央値)は、ゲムシタビン+ナブパクリタキセル療法群が19.4ヵ月、ゲムシタビン単独群が18.8ヵ月であり、ハザード比0.88(95%CI:0.729~1.063)、p=0.1824と有意差が示されなかった。しかし、担当医判断の無病生存期間(中央値)で、ゲムシタビン+ナブパクリタキセル療法群が19.4ヵ月、ゲムシタビン単独群が16.6ヵ月であり、ハザード比0.82(95%CI:0.694~0.965)、p=0.0168と有意差が示された。また、副次評価項目である全生存期間(中央値)もゲムシタビン+ナブパクリタキセル療法群が40.5ヵ月、ゲムシタビン単独群が36.2ヵ月であり、ハザード比0.82(95%CI:0.680~0.996)、p=0.045と有意差が示された。ゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法の安全性はこれまでの報告と違いはなかった。本試験はプラセボコントロールの試験ではないため、中央判定の無病生存期間が主要評価項目に用いられたが、膵がん切除後の再発判定は非常に難しく、担当医は全身状態や腫瘍マーカーなどから総合的に判断できるため、中央判定よりも担当医のほうが早期に再発を指摘しえたのかもしれない。プラセボコントロールで、担当医判断の無病生存期間が主要評価項目であったら、Positiveな結果であっただけに非常に惜しい試験である。肝細胞がん肝細胞がんにおいて注目された演題は、肝切除とラジオ波焼灼術(RFA)を比較したSURF試験、ソラフェニブに不応/不耐の肝細胞がんに対する2次治療としてペムブロリズマブとプラセボを比較したKEYNOTE-240試験である。ともに有意な結果は示されなかったが、日常診療に大きなインパクトを与える試験であった。また、進行がんに対する有望な薬物療法として、ニボルマブ+イピリムマブの併用療法の結果が報告された。SURF試験3cm、3個以下の小肝細胞がんに対して、肝切除とRFAのどちらが良いかは長年のClinical questionであった。これまでも4試験ほど、ランダム化比較試験の結果が報告されているが、切除が良好という結果や両者変わりないという結果など、一定の見解は得られていない。今回、日本から301例という症例数も多く、質も良好な試験の結果が報告された。初回の肝細胞がんで腫瘍径3cm以下、腫瘍数3個以下で、Child-Pugh 7点以下の20~79歳までの患者600例を目標に肝切除とRFAにランダムに割り付けた比較試験が行われた。主要評価項目は無再発生存期間、全生存期間であり、RFAに比べて肝切除の優越性を検証する試験デザインであった。2009年4月より登録を開始したが、2016年2月の段階で300例しか登録ができておらず、データモニタリング委員会から中止勧告が出され、登録は中止となった。最終的には、切除群150例、RFA群151例が適格で、解析対象となった。両群の患者背景に有意差は認めなかった。無再発生存期間(中央値)は、肝切除群2.98年、RFA群2.76年、ハザード比0.96(95%CI:0.72~1.28)で、p=0.793であり、肝切除の優位性は示されなかった。また、両群ともに死亡例は認めなかったが、入院期間や治療時間はRFA群が有意に良好であった。3cm以下の小肝細胞がんに対して、肝切除とRFAの無再発生存期間はほぼ同等であったと結論された。この発表のDiscussantは、これまでにランダム化比較試験が5試験行われたが、3cm以下、単発の腫瘍に関しては、ほぼRFAの非劣性が示されたと考えてよいだろうと。3cm以上や多発する場合には肝切除が選択肢になるであろうと。そして、患者登録も困難になることから、今後、同様のランダム化比較試験を行うべきではないだろうとまとめていた。長年、論争になっていた肝切除とRFAの比較にひとつの区切りがつけられたように思われた。KEYNOTE-240ソラフェニブ不応/不耐の肝細胞がん患者に対するペムブロリズマブとプラセボを比較した第III相試験の結果が報告された。肝細胞がんに対して初めての免疫チェックポイント阻害薬の第III相試験の結果であり、非常に注目された。対象は、ソラフェニブに不応/不耐の肝細胞がん患者で、Child-Pugh Aで測定可能病変を諭旨、門脈本幹腫瘍栓のない患者で、ペムブロリズマブ200mg/回を3週ごとの投与とプラセボに2:1に割り付けて投与する第III相試験である。主要評価項目は全生存期間と無増悪生存期間の2つであり、全生存期間はp値が0.0174未満で有意に、無増悪生存期間はp値が0.0020で有意になる設定であり、通常のp値が0.05未満よりは厳しい設定であった。ペムブロリズマブ群に278例、プラセボ群に135例が登録された。主要評価項目の全生存期間(中央値)は、ペムブロリズマブ群で10.6ヵ月、プラセボ群で10.6ヵ月、ハザード比は0.781(95%CI:0.611~0.998)で、p値は0.0238と当初設定した0.0174を下回らず、有意な結果は得られなかった。また、無増悪生存期間(中央値)は、ペムブロリズマブ群で3.0ヵ月、プラセボ群で2.8ヵ月、ハザード比は0.718(95%CI:0.570~0.904)で、p値は0.0022と当初設定した0.0020を下回らず、こちらも有意な結果は得られなかった。奏効割合はペムブロリズマブ群で18.3%、プラセボ群で4.4%であり、第II相試験(KEYNOTE-224)と同様に有意差が認められ(p=0.0007)、奏効期間(中央値)も13.8ヵ月とともに良好であった。有害事象はこれまでの報告と同様であった。本療法の後治療として、プラセボ群で47.4%と非常に高率で、抗PD-1/PD-L1抗体による治療が10.4%も含まれていた。本試験は、統計学的に有意差がついていそうな試験結果であったが、主要評価項目は達成しておらずNegativeな結果となった。この発表のDiscussantは、試験としてはNegativeであったが、マルチキナーゼ阻害薬に忍容性がないような患者に、2次治療の日常診療で抗PD-1抗体を継続することは問題ないであろうとコメントしており、有効性は評価していた。今後、中国を中心に行っているペムブロリズマブとプラセボの比較試験(KEYNOTE-394)の結果も参考にして、今後の本薬剤の承認までの方向性を検討することが必要であろうと結論づけた。また、今後の開発の方向性として、VEGF阻害薬との併用療法であるベバシズマブ+アテゾリズマブ、レンバチニブ+ペムブロリズマブの併用療法も期待されており、定位放射線やRadioembolization、肝動脈化学塞栓療法との併用療法の可能性なども示唆していた。会場入り口の階段にはWelcomeの文字がこの結果を受けて、1次治療としてのニボルマブとソラフェニブを比較した第III相試験の結果が期待されたが、2019年6月24日に本第III相試験も主要評価項目を達成しなかったことがプレスリリースされ、残念ながら免疫チェックポイント阻害薬単剤の結果は肝細胞がんにおいては厳しいものとなった。CheckMate-040ソラフェニブに不応/不耐の肝細胞がん患者を対象として、ニボルマブとイピリムマブの推奨投与量を決定する第I/II相試験が発表された。A群はニボルマブ1mg/kg+イピリムマブ3mg/kgを3週ごとに4回投与後、ニボルマブ240mg/bodyの固定用量にて2週ごとの投与を継続し、B群はニボルマブ3mg/kg+イピリムマブ1mg/kgを3週ごとに4回投与後、ニボルマブ240mg/bodyの固定用量にて2週ごとの投与を継続、C群はニボルマブ3mg/kgにて2週ごと、イピリムマブ1mg/kgにて6週ごとに投与を継続した。どの群もがんの増悪または忍容できない有害事象が出現するまで、投与を継続した。奏効割合はA群32%、B群31%、C群31%であり差は認めなかったが、生存期間(中央値)は、A群22.8ヵ月、B群12.5ヵ月、C群12.7ヵ月と、A群で良好であった。主な有害事象は、掻痒、皮疹、下痢、AST上昇などであり、免疫関連有害事象は、皮疹、肝障害、副腎不全、下痢、肺炎などであった。A群の有害事象はやや高率に認めていたが、忍容性は十分と判断され、A群(ニボルマブ1mg/kg+イピリムマブ3mg/kg)が推奨投与量と考えられた。ソラフェニブに不応/不耐の患者に対する良好な治療レジメンの登場により、今後、本レジメンの開発の動向が気になるところである。胆道がん胆道がんにおいて最も注目された演題は、ゲムシタビン+シスプラチン(GC)療法の2次治療として、mFOLFOXと症状コントロールのみを比較したABC-06試験である。この結果は、長らく胆道がんにおける2次治療は確立していなかったのだが、mFOLFOXが2次治療の標準治療として確立することになった。ABC-06対象は、GC療法後に増悪を認めた進行胆道がん患者で、増悪を認めてから6週以内でPSが0または1で、臓器機能が保たれている患者を、A群:積極的な症状コントロールを行う群とB群:積極的な症状コントロールに加えて、mFOLFOXを行う群にランダム割り付けされた。主要評価項目は全生存期間であり、層別化因子は、1次治療のGC療法のプラチナ感受性があったかどうか、アルブミンが35g/L以上か未満か、局所進行か転移性か、であった。主要評価項目である全生存期間において、B群:mFOLFOX群は有意に良好な生存期間を示した(生存期間中央値、6ヵ月と12ヵ月生存割合:A群 5.3ヵ月、35.5%、11.4%、B群 6.2ヵ月、50.6%、25.9%、ハザード比0.69、95%CI:0.50~0.97、p=0.031)。1次治療のGC療法のプラチナ感受性別に検討したサブグループ解析では、プラチナ製剤に感受性がある群のみならず、プラチナ抵抗性のグループでも有意な差が認められ、プラチナ感受性にかかわらず、mFOLFOXは有用であることも示された。mFOLFOXの奏効割合は5%、病勢制御割合は33%、無増悪生存期間(中央値)は4.0ヵ月であった。また、主なGrade 3以上の有害事象は疲労、好中球減少、感染症などであり、忍容性は良好と判断された。GC療法後の2次治療として初めて延命効果を示した治療法であり、今後、標準治療として位置付けられることになるであろうと結論づけられた。Discussantも治療効果が高いわけではないが、新しい標準治療になるであろうと結論づけている。ただし、胆道がんではさまざまな治験や臨床試験が進行中である。1次治療として、化学療法+/-免疫チェックポイント阻害薬の併用療法や、GCにナブパクリタキセルの併用療法、mFOLFIRINOX療法などの3剤併用療法の開発が進行中であり、また、IDH1やFGFR、homologous Recombination Deficiencyなど遺伝子異常に基づいた分子標的治療薬の開発などが進行中であり、これらの動向にも注目する必要がある。まとめASCO2019では、膵がんに対してのゲムシタビン+ナブパクリタキセル療法が補助療法としてはNegativeな結果であったが、PARP阻害薬が登場した。肝細胞がんでは、ペムブロリズマブの残念な結果が報告されたが、ニボルマブ+イピリムマブにおいて有望な結果が報告され、期待されている。また、切除とRFAは同等の治療成績であることが明らかになり、よりRFAが選択されるようになるかもしれない。そして、胆道がんではmFOLFOXが2次治療における標準治療として位置付けられており、日本もmFOLFOXを承認してもらうような準備が必要である。そのほかにも有望な治療法の開発が進行中であり、肝胆膵領域の化学療法の開発も活気づいており、海外に遅れをとらないように開発を進めていく必要がある。

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皮膚がん、PD-1阻害薬治療後の予後予測因子が判明

 PD-1阻害における制御性T細胞(Tregs)の役割とその免疫抑制のメカニズムは完全には解明されていないが、皮膚がんに対する免疫チェックポイント阻害薬治療と、臨床的アウトカムの関連についての研究が進んでいる。今回、予備的エビデンスとして、PD-1阻害薬による治療導入後の血中PD-1+ Tregsの急速な低減は、メラノーマの進行およびメラノーマ特異的死亡(MSD)のリスク低下と関連していることが示された。ドイツ・ルール大学ボーフムのT. Gambichler氏らによる検討の結果で、「末梢血でこうしたPD-1+ Tregsの低減がみられない患者は、免疫チェックポイント阻害薬に対する反応が認められず、アウトカムは不良という特徴が認められた」とまとめている。The British Journal of Dermatology誌オンライン版2019年7月30日号掲載の報告。 研究グループは、ニボルマブまたはペムブロリズマブの治療を受けるメラノーマ患者のサブ集団で、フローサイトメトリーを用いて血中のTregサブポピュレーションを調べ、その所見と臨床的アウトカムとの関連を評価した。 主な結果は以下のとおり。・CD4+CD25++CD127-PD-1+リンパ球(PD-1+ Tregs)の発現頻度は、免疫療法の初回サイクル後に有意に減少した(23% vs.8.6%、p=0.043)。・初回治療後にPD-1+ Tregsの有意な減少を認められず死亡した患者と比較して、無増悪生存(PFS、p=0.022)、MSD(p=0.0038)に関する臨床的アウトカムは良好であった。・初回治療後の末梢血中PD-1+ Tregsの有意な減少について多変量解析したところ、より良好なPFSやMSDに関する有意な予測因子であることが示された(それぞれp=0.04、p=0.017)。・興味深い所見として、免疫関連の有害事象の発生についても、MSDリスク低下の独立予測因子であることが示された(p=0.047、オッズ比:0.064、95%信頼区間[CI]:0.0042~0.97)。

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PD-1阻害薬のILD、GGOタイプは予後不良?/日本臨床腫瘍学会

 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は、非小細胞肺がん(NSCLC)に有効かつ持続的な効果をもたらすが、ICIによる間質性肺炎(ILD)は致死的となる場合もある。しかし、ILDの画像パターンと抗腫瘍効果、さらに患者の生存との関係は明らかになっていない。新潟大学の渡部 聡氏らはPD-1阻害薬治療患者によるILDの放射線学的特徴と臨床結果の後ろ向き観察試験を実施し、その結果を第17回日本臨床腫瘍学術集会で報告した。 2016年1月~2017年10月に、Niigata Lung Cancer Treatment Group(11施設)の診療記録から、1~3次治療でPD-1阻害薬投与を受けたNSCLC患者を評価した。ILDは各施設の担当医が診断し、画像データを元に独立した1名の放射線科医と2名の呼吸器科医がILDの画像分類を行った。リードタイムバイアスを最小限にするため、PD-1阻害薬開始43日時点(PD-1阻害薬開始からILD発症までの中央値)でのランドマーク解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・231例がPD-1阻害薬治療を受けており、ILD発症は33例(14%)であった。・扁平上皮がんの割合はILD非発症群32%に対しILD発症群では52%とILD発症群で有意に高かった。組織型以外の患者背景は両群で同様であった。・ILD発症33例の画像パターンは、COP(cryptogenic organizing pneumonia-like)16例、GGO(ground glass opacities)16例、NOS(pneumonia not otherwise specified)1例であった。・ランドマーク解析による無増悪生存期間(PFS)中央値は、ILD発症群未達、ILD非発症群8.6ヵ月とILD発症群で有意に長かった(p=0.032)。・全生存期間(OS)中央値は、ILD発症群14.8ヵ月、ILD非発症群24.5ヵ月と両群間に差はみられなかった(p=0.611)。・ILDパターン別のOS中央値は、COP未達、GGO7.8ヵ月、NOS3.3ヵ月であり、COPとGGOの比較ではCOPで有意に長かった(COP対GGO、p=0.018)。・ILD発症後のOS中央値は、COP未達、GGO7.3ヵ月、NOS3.3ヵ月であり、COPとGGOの比較ではCOPで長い傾向にあった(COP対GGO、p=0.05)。 渡部氏らは、この試験の結果から、ILDのパターンとPD-1阻害薬治療後の予後に関連が示唆されるとの見解を示した。

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本邦初、高齢者のがん薬物療法ガイドライン発行/日本臨床腫瘍学会

 約3年をかけ、高齢者に特化して臓器横断的な視点から作成された「高齢者のがん薬物療法ガイドライン」が発行された。第17回日本臨床腫瘍学会学術集会(7月18~20日、京都)で概要が発表され、作成委員長を務めた名古屋大学医学部附属病院の安藤 雄一氏らが作成の経緯や要点について解説した。なお、本ガイドラインは日本臨床腫瘍学会と日本癌治療学会が共同で作成している。高齢者を一律の年齢で区切ることはせず、年齢幅を持たせて評価 本ガイドラインは「Minds 診療ガイドライン作成の手引き 2014」に準拠し、臨床試験のエビデンスとともに、益と害のバランス、高齢者特有の価値観など多面的な要因に基づいて推奨の強さが検討された。作成委員会からは独立のメンバーによるシステマティックレビュー、専門医のほか非専門医・看護師・薬剤師・患者からの委員を加えた推奨パネルでの投票により、エビデンスの強さ(4段階)と推奨の強さ(2段階+推奨なし)が決定されている。 対象となる高齢者については、一部のCQを除き具体的な年齢で示すことはしていない。各薬物療法の適応になる基本的な条件を満たしており、PS 0または1、明らかな認知障害を認めず、主な臓器に機能異常を認めない患者が対象として想定されている。“実臨床で迷うことが多い”という観点で12のCQを設定 12のクリニカルクエスチョン(CQ)は、CQ1が総論、CQ2~3が造血器、CQ4~6が消化管、CQ7~9が呼吸器、CQ10~12が乳腺という構成となっている(下記参照)。各CQは実臨床で遭遇し判断に迷うもの、そして臨床アウトカムの改善が見込まれるものという観点で選定。例えば呼吸器のCQ7は、予防的全脳照射(PCI)を扱っており、薬物療法ではないが、実臨床で迷うことが多く重要、との判断から取り上げられた。 推奨パネルでの投票で意見が割れ、最終的な決定にあたって再投票を実施したCQも複数あった。呼吸器のCQ8では、高齢者の早期肺がんに対する術後補助化学療法としてのシスプラチン併用について検討している。報告されている効果は5年生存率で+10%と小さく、1%の治療関連死が報告されている。判断について意見が分かれたが、最終的に、「実施することを明確に推奨することはできない(推奨なし)」とされている。 本ガイドラインでは、関連のエビデンス解説や推奨決定までの経緯についての記述を充実させており、巻末には各CQについて一般向けサマリーを掲載している。患者ごとに適した判断をするために、また患者にリスクとベネフィットを正確に伝えるために、これらの情報を活用することが期待される。独自のメタアナリシスを実施したCQも そもそも高齢者は臨床試験の選択基準から除外されることが多く、エビデンスは全体的に乏しい。評価できるエビデンスがサブグループ解析に限られ、直接高齢者を対象としたRCTは存在しないものが多かった。消化器のCQ5では、70歳以上の結腸がん患者に対する術後補助化学療法について検討しているが、70歳以上へのオキサリプラチン併用療法は、現状の報告から明確な上乗せ効果は確認できず、一方で末梢神経障害の増加が認められることから、「オキサリプラチン併用療法を行わないことを提案(弱く推奨)」している。 独自のメタアナリシスを行ったCQもある。乳がん領域のCQ11では、高齢者トリプルネガティブ乳がんの術後化学療法で、アントラサイクリン系抗がん剤の省略が可能かどうかを検討している。2つの前向き試験(CALGB49907とICE II-GBG52)のメタアナリシスを行い、アントラサイクリン系抗がん剤を省略することで生存期間と無再発生存期間が短縮する可能性が示唆された。その他心毒性についての観察研究結果などのエビデンスも併せて検討された結果、「アントラサイクリン系抗がん薬を省略しないことを提案(弱く推奨)」している。各領域で取り上げられているCQ[総論] CQ1 高齢がん患者において,高齢者機能評価の実施は,がん薬物療法の適応を判断する方法として推奨されるか?[造血器] CQ2 高齢者びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の治療方針の判断に高齢者機能評価は有用か? CQ3 80才以上の高齢者びまん性大細胞型B細胞リンパ腫に対してアントラサイクリン系薬剤を含む薬物療法は推奨されるか?[消化器] CQ4 高齢者では切除不能進行再発胃がんに対して,経口フッ化ピリミジン製剤とシスプラチンまたはオキサリプラチンの併用は推奨されるか? CQ5 結腸がん術後(R0切除,ステージIII)の70才以上の高齢者に対して,術後補助化学療法を行うことは推奨されるか?行うことが推奨されるとすれば,どのような治療が推奨されるか? CQ6 切除不能進行再発大腸がんの高齢者の初回化学療法においてベバシズマブの使用は推奨されるか?[呼吸器] CQ7 一次治療で完全奏効(CR)が得られた高齢者小細胞肺がんに対して,予防的全脳照射(PCI)は推奨されるか? CQ8 高齢者では完全切除後の早期肺がんに対してどのような術後補助薬物療法が推奨されるか? CQ9 高齢者非小細胞肺がんに対して,免疫チェックポイント阻害薬の治療は推奨されるか?[乳腺] CQ10 高齢者ホルモン受容体陽性,HER2陰性乳がんの術後化学療法でアントラサイクリン系抗がん薬を投与すべきか? CQ11 高齢者トリプルネガティブ乳がんの術後化学療法でアントラサイクリン系抗がん薬の省略は可能か? CQ12 高齢者HER2陽性乳がん術後に対して,術後薬物療法にはどのような治療が推奨されるか?

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