サイト内検索|page:2

検索結果 合計:24件 表示位置:21 - 24

21.

日付が消えた【Dr. 中島の 新・徒然草】(031)

三十一の段 日付が消えた患者「ついにきました。最初に日付が消えまんな」中島「日付が消えますか」患者「せやから、毎朝、新聞で確認するようにしてまんねん」この患者さんは80歳の女性です。10年以上前に大きな手術をされて、その後を私が引き継いで外来でフォローしてきました。もともとの病気のことは御本人の関心の外。もっぱら気にしておられるのは、「自分がいつボケるか、どんなふうにボケるか」というそのことのみ。というのは、母親も祖母も叔母も、皆、晩年に認知症になってしまったので、おそらくは自分もそうなるだろうと思っていたからです。この方にとっては、認知症になるのは既定の事実で、いつどのような形でくるのか、それが問題でした。もちろん、高齢のこととて、置いたものの場所を思い出せないとか、多少の物忘れはあります。でも、それは許せる範囲でした。でも許せる範囲を超えてしまったのが、日付がわからなくなったということなんですね。患者「お祖母さんは、さっき食べたことも忘れてました。でも、私はまだそこまで行ってません」中島「なるほど」患者「それとね、お祖母さんは飼ってたニワトリやネコに話しかけたりしていたんですが、私は今のところ大丈夫です」中島「そいつはよかった。ところで、お独りで住んでおられるのでしたか?」患者「基本は1人です。週3回はデイサービスに行って、週4回はヘルパーさんが来てくれてます」中島「そうすると心強いですね」患者「あ、そうそう。犬を飼ってましてね。『トイレに行くよ』とか『風呂に入るよ』と言ったら、ちゃんと先に行って待っててくれるんです」中島「えっ、犬に話しかけているんですか?」患者「そうですよ」中島「うーん。日付が消えただけではないかもしれませんねえ」というわけで、カルテに「デイサービス週3回、ヘルパーさん週4回」と書きながら、ふと前回受診の記録に目がとまりました。なんと。「デイサービス週3回、ヘルパーさん週4回」と寸分違わず同じ記載がありました。3ヵ月前に自分で書いたことなのに、中身をまったく覚えていなかったのです。駄目だこりゃあ。ついに私にもきてしまったのかも?

22.

エキスパートに聞く!「うつ病診療」Q&A Part2

CareNet.comではうつ病特集を配信するにあたって、事前に会員の先生方からうつ病診療に関する質問を募集しました。その中から、とくに多く寄せられた質問に対し、産業医科大学 杉田篤子先生にご回答いただきました。今回は、うつ病患者に対する生活指導、うつ病患者の自殺企図のサインを見落とさないポイント、仕事に復帰させるまでの手順・ポイント、認知症に伴ううつ症状の治療法、リチウム(適応外)による抗うつ効果増強療法の効果についての質問です。うつ病患者に対する生活指導について具体的に教えてください。生活習慣の改善といった患者自身ができる治療的対処行動を指導することは非常に有用です。とくに、睡眠・覚醒リズムを整えることは重要です。具体的には、毎日同じ時刻に起床し、朝、日光を浴びること、規則正しく3回食事摂取をすること、昼寝をするのは15時までに20~30分以内にすること、不眠のため飲酒するのは治療上逆効果であることを伝えます。また、医師の指示通りきちんと服薬するよう、指導することも大切です。うつ病の症状が軽快したからといって、自己判断で内服を中止する患者さんもいますが、再燃の危険性があることをあらかじめ説明しておきます。症状が悪化した際や副作用の心配が生じた際は、主治医にきちんと相談するように伝えます。軽症のうつ病の場合は、定期的な運動もうつ症状の改善の効果を期待できるため、負担のかからない範囲での運動を勧めます1)。1)National Institute for Health and Clinical Excellence. Depression: management of depression in primary and secondary care: NICE guidance. London: National Institute for Health and Clinical Excellence; 2007.うつ病患者の自殺企図のサインを見落とさないポイントを教えてください。自殺の危険率が高いうつ病患者の基本的特徴として、男性(5~10倍)、65歳以上、単身者(とくに子供がいない)、病歴・家族歴として、自殺企図歴あり、精神科入院歴あり、自殺の家族歴あり、合併疾患として、アルコール・薬物依存の併発、パニック障害の併存・不安の強さ、がんなどの重症身体疾患の併発などが挙げられます1)。自殺企図のサインを見落とさないため、とくに注意すべき点は、希死念慮を何らかの形で表明する際に注意を払うことです。希死念慮は、言語的に表出されるだけでなく、非言語的に伝えられることもあります。“死にたい”、“自殺する”と直接的に言葉にするだけでなく、“生きている意味がない”、“どこか遠くへ行きたい”などと言ったり、不自然な感謝の念を表したり、大切にしていた持ち物を人にあげてしまうこともあります。具体的な自殺の方法を考え、自殺に用いる手段を準備し、自殺の場所を下見に行く場合は自殺のリスクが切迫していると考えるべきです。さらに、自傷行為や過量服薬を行う患者さんも、長期的には自殺既遂のリスクが高い状態です2)。1)Whooley MA, et al. N Engl J Med. 2000;343:1942-1950.2)Skegg K. Lancet. 2005;366:1471-1583.仕事に復帰させるまでの手順、ポイントについて教えてください。職場復帰までの手順は、厚生労働省が「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」 に示しており、第1から第5のステップに沿った支援を行います。第1ステップは、病気休業開始および休業中のケアを行う段階です。主治医による治療はもちろん、家族のサポートや管理監督者や産業医・産業保健スタッフによる病気休業期間中の労働者に安心を与えるような対応が必要です。うつ病が軽快し、家庭での日常生活ができる状態となれば、職場復帰に向けて、生活リズムの立て直し、コミュニケーションスキルの習得、職場ストレスへの対処法の獲得などを目的としたリワークプログラムを行うことがあります。これは、都道府県の障害者職業センターで行われていますが、ほかに、精神保健福祉センター、精神科病院や診療所でも復職デイケアとして行われているところもあります。第2ステップは、休業している労働者本人の職場復帰の意思表示と職場復帰可能の主治医の判断が記された診断書を提出する段階です。この際、主治医が的確に判断を下せるように、産業医が主治医へ会社の職場復帰の制度や本人の置かれている職場環境について情報提供を行います。第3ステップは、職場復帰の可否の判断および職場復帰支援プランの作成を行います。職場復帰支援プランとは、職場復帰を支援するための具体的なプラン(職場復帰日、管理監督者による業務上の配慮、配置転換や異動の必要性など)であり、主治医からの意見を参考に、産業医、管理監督者、人事労務担当者らが協力して作成します。第4ステップは、最終的な職場復帰の決定の段階で、労働者の状態の最終確認が行われ、就業上の配慮に関する意見書が作られ、事業者によって職場復帰の決定がなされます。第5ステップは、職場復帰後のフォローアップで、病気が再燃、再発したり、新たな問題が生じたりしていないかを注意深く見守る段階です。管理監督者や人事担当者が勤務状況や業務遂行能力の評価を行ったり、産業医、産業保健スタッフが病状、治療状況の確認を行ったりし、職場復帰支援プランの実施状況の確認を行います。さらに必要に応じて、見直しを行い、職場環境の改善や就業上の配慮を行っていきます。これらの5つのステップに従い、本人を取り巻く家族、主治医、産業医、産業保健スタッフ、管理監督者、人事担当者などがしっかり連携してサポートすることが大切です。認知症に伴う、うつ症状の治療法を教えてください。認知症の抑うつに対して、抗うつ薬とプラセボを使用した19本のランダム化比較試験(RCT)のうち、11本でシタロプラム(国内未承認)、パロキセチン、セルトラリン、トラゾドンなどの抗うつ薬の有用性が報告されています1)。さらに、エスシタロプラム、シタロプラム、セルトラリン、パロキセチンなどの抗うつ薬を継続して使用することで抑うつ症状の再燃を予防するといったデータもあります2)。しかし、認知症の抑うつに対するセルトラリンまたはミルタザピンの効果を検証した大規模RCTでは、有効性がプラセボに対して差が出ず、有害作用は有意に増加したというデータがあります3)。三環系抗うつ薬に比して有害事象が少ないため、新規抗うつ薬が使用されることが多いですが、常にリスクとベネフィットを常に慎重に勘案しながら、慎重に治療する必要があります。薬物療法以外の治療として、日常生活において活動性を向上させるようなデイサービスなどの枠組みを提供したり、介護者が目標指向的な行動を促したりすることも選択肢に挙がります。1)Henry G, et al. Am J Alzheimers Dis Other Demen, 2011;26:169-183.2)Bergh S, et al. BMJ. 2012;344:e1566.3)Banerjee S, et al. Lancet. 2011;378:403-411.リチウム(適応外)による抗うつ効果増強療法はどの程度の効果があるのでしょうか?リチウムと抗うつ薬の併用による抗うつ効果増強作用は、10本中8本のRCTで支持されています1)。リチウムによる増強療法の有効率は44~83%とされています2)。11本のRCTを用いたメタ解析3)では、リチウムが有効となるには、0.5mEq/Lに達する血中濃度が必要であり、最低1週間の併用を要すると報告されています。通常、効果発現には抗うつ薬より時間がかかり、最低6週間以上の投与を推奨する見解もあります4)。リチウム併用による再発予防効果を示すメタ解析もあります5)。リチウムの増強効果は三環系抗うつ薬で発揮され、エビデンスも確立されています。SSRIでは、シタロプラムをリチウムで増強したRCTも報告されており、プラセボと比較して有害作用は認めなかったという報告もあります6)。パロキセチンとアミトリプチリンをリチウムで増強したRCTによると、有害作用や血中リチウム濃度に差は認めず、パロキセチン+リチウム群ではアミトリプチリン+リチウム群に比べて抗うつ効果発現が早かったとされています7)。2013年のEdwardsらの系統的レビューでは、SSRI単独とSSRI+リチウムの比較では有効性に有意差はなく、SSRI単独とSSRI+抗精神病薬の比較では、SSRI+抗精神病薬の有効性が高く、SSRI+リチウムとSSRI+抗精神病薬の比較では有意差は認めなかったとされています8)。1)Crossley NA, et al. J Clin Psychiatry. 2007;68:935-940.2)Thase ME, et al. Treatment-resistant depression. In: Bloom FE et al, eds. Psychopharmacology: The Fourth Generation of Progress. New York: Raven Press;1995. p.1081-1097.3)Bauer M, et al. J Clin Psychopharmacol. 1999;19:427-434.4)井上 猛ほか. 臨床精神医学. 2000;29:1057-1062.5)Kim HR, et al. Can J Psychiatry. 1990;35:107-114.6)Baumann P, et al. J Clin Psychopharmacol. 1996;16:307-314.7)Bauer M, et al. J Clin Psychopharmacol. 1999;19:164-171.8)Edwards S, et al. Health Technol Assess. 2013;17:1-190.※エキスパートに聞く!「うつ病診療」Q&A Part1はこちら

23.

デイサービス介護中に失踪した認知症老人が水死体で発見されたケース

精神最終判決平成13年9月25日 静岡地方裁判所 判決概要失語症をともなう重度の老人性認知症と診断されていた高齢男性。次第に家族の負担が重くなり、主治医から老人介護施設のデイサービス(通所介護)を勧められた。約3週間後、通算6回目となるデイサービスで、職員が目を離したわずか3分間程度の間に、高さ84㎝の窓をよじ登って施設外に脱出、そのまま行方不明となった。施設や家族は懸命な捜索を行ったが、約1ヵ月後、施設からは遠く離れた砂浜に水死体として打ち上げられた。詳細な経過患者情報平成7年(1995)11月27日 失語をともなう重度の老人性認知症と診断された高齢男性経過平成8(1996)年10月31日失語症により身体障害者4級の認定。認知症の程度:妻との意思疎通は可能で、普通の感情はあり、家庭内であれば衣服の着脱や排泄は自力ででき、歩行には問題なく徘徊もなかった。ただし、妻に精神的に依存しており、不在の時に捜して出歩くことがあった。次第に家族は介護の負担が大きく疲労も増してきたため、担当医師に勧められ、老人介護施設のデイサービス(通所介護)を利用することになる。4月30日体験入所。5月2日施設のバスを利用して、週2回のデイサービスを開始。デイサービス中の状況:職員と1対1で精神状態が安定するような状況であれば、職員とも簡単な会話はでき、衣服の着脱などもできたが、多人数でいる場合には緊張して冷や汗をかいたり、ほとんどしゃべれなくなったり、何もできなくなったりした。また、感情的に不安定になり、帰宅したがったり、廊下をうろうろすることがあり、職員もそのような状態を把握していた。5月21日通算6回目のデイサービス。当日の利用者は、男性4名、女性5名の合計9名であり、施設側は2名の職員が担当した。10:15入浴開始。入浴サービスを受けている時は落ち着いており、衣服の着脱や歩行には介助不要であった。10:50入浴を終えて遊戯室の席に戻る。やがてほかの利用者を意識してだんだん落着きがなくなり、席を離れて遊戯室を出て、ほかの男性の靴を持って遊戯室に入ってきたところ、その男性が自分の靴と気づいて注意したため、職員とともに靴を下駄箱に返しにいく。その後遊戯室に戻ったが、何度も玄関へいき、そのつど職員に誘導されて遊戯室に戻った。11:40職員がほかの利用者のトイレ誘導をする時、廊下にいるのをみつけ、遊戯室に戻るように促す。ところが、みかけてから1~2分程度で廊下に戻ったところ、本人の姿はなく、館内を探したが発見することができなかった。失踪時の状況:施設の北側玄関は暗証番号を押さなければ内側からは開かないようになっており、裏口は開けると大きなベルとブザーが鳴る仕組みになっていて、失踪当時、北側玄関および裏口は開いた形跡はなかった。そして、靴箱には本人の靴はなく、1階廊下の窓の網戸(当時窓ガラスは開けられ、サッシ網戸が閉められていた)のうちひとつが開かれたままの状態となっていた。そのため、靴箱から自己の靴を取ってきて、網戸の開いた窓(高さは84cm程度)によじ登り、そこから飛び降りたものと推測された。5月22日09:03翌日から家族は懸命な捜索活動を行う。親戚たちと協力して約150枚の立看板を作ったり、施設に捜索経過を聞きにいったりして必死に捜したが、消息はつかめなかった。6月21日約1ヵ月後、施設から遠く離れた砂浜に死体となって打ち上げられているのを発見された。当事者の主張患者側(原告)の主張もともと重度の老人性認知症により、どのような行動を起こすか予測できない状態であり、とくに失踪直前は不安定な状態であったから、施設側は窓を閉めて施錠し、あるいは行動を注視して、窓から脱出しないようにする義務があったのに怠り、結果的に死亡へとつながった。デイサービスを行う施設であれば、認知症患者などが建物などから外へ出て徘徊しないための防止装置を施すべきであるにもかかわらず、廊下北側の網戸付サッシ窓を廊下面より約84cmに設置し、この窓から外へ出るのを防止する配慮を怠っていたため、施設の建物および設備に瑕疵があったものといえる。病院側(被告)の主張失踪当時の状況は、本人を最後にみかけてから失踪に気づくまでわずか3分程度であった。その時の目撃者はいないが、施設の玄関は施錠されたままの状態で、靴箱に本人の靴はなく、1階廊下西側の窓の網戸(当時窓ガラスは開けられサッシ網戸が閉められていた)が開かれたままの状態となっていることが発見され、ほかの窓の網戸はすべて閉まっていたことから、1階廊下西側の窓から飛び降りた蓋然性が高い。当該施設は法令等に定められた限られた適正な人員の中でデイサービスを実施していたのだから、このような失踪経過に照らしても、施設から失踪したことは不可抗力であって過失ではない。裁判所の判断もともと失語を伴う重度の老人性認知症と診断されている高齢者が単独で施設外に出れば、自力で施設または自宅に戻ることは困難であり、また、人の助けを得ることも難しい。そして、失踪直前には、靴を取ってこようとしたり、廊下でうろうろしているところを施設の職員に目撃されており、職員は施設から出ていくことを予見可能であった。したがって、デイサービス中には行動を十分に注視して、施設から脱出しないようにする義務があった。しかし、デイサービスの担当職員は2名のみであり、1名は入浴介助、ほかの1名はトイレ介助を行っていて、当該患者を注視する者はいなかったため、網戸の開いた窓に登り、そこから飛び降り、そのまま行方不明となった。身体的には健康な認知症老人が、84cm程度の高さの施錠していない窓(84cm程度の高さの窓であればよじ登ることは可能であることは明白)から脱出することは予見可能であった。したがって、施設職員の過失により当該患者が行方不明となり、家族は多大な精神的苦痛を被ったといえる。施設側の主張するように、たしかに2人の職員で、男性4名、女性5名の合計9名の認知症老人を介助し、入浴介助、トイレ介助をするかたわら、当該患者の挙動も注視しなければならないのは過大な負担である。さらに施設側は、法令等に定められた限られた適正な人員の中でデイサービス事業を実施しているので過失はないと主張する。しかし、法令等に定められた人員で定められたサービスを提供するとサービスに従事している者にとっては、たとえ過大な負担となるような場合であっても、サービスに従事している者の注意義務が軽減されるものではない。そして、失踪後の行動については、具体的に示す証拠はなく、施設からはるか離れた砂浜に死体となって打ち上げられるにいたった経緯はまったく不明である。当時の状況は、老人性認知症があるといっても事理弁識能力を喪失していたわけではなく、知った道であれば自力で帰宅することができていたのであり、身体的には健康で問題がなかったのであるから、自らの生命身体に及ぶ危険から身を守る能力まで喪失していたとは認めがたい。おそらく施設から出た後に帰宅しようとしたが、道がわからず、他人とコミュニケーションができないため、家族と連絡がとれないまま放浪していたものと推認できる。そうすると失踪からただちに同人の死を予見できるとは認めがたく、職員の過失と死亡との間の相当因果関係はない。原告(患者)側4,664万円の請求に対し、285万円の判決考察デイサービスに来所していた認知症老人が、わずか3分程度職員が目を離した隙に、施設を抜け出して失踪してしまいました。当時、玄関や裏口から脱出するのは難しかったので、たまたま近くにあった窓をよじ登って外へ飛び降りたと推定されます。その当時、9名の通所者に対して2名の職員が対応しており、それぞれ入浴介助とトイレ誘導を行っていて、けっしていい加減な介護を提供していたわけではありません。したがってわれわれ医療従事者からみれば、まさに不可抗力ともいえる事件ではないかと思います。もし失踪後すみやかに発見されていれば、このような医事紛争へと発展することはないのですが、不幸なことに行方不明となった1ヵ月後、砂浜に水死体として打ち上げられました。これからますます高齢者が増えるにしたがって、同様の紛争事例も増加することが予測されます。これは病院、診療所、介護施設を問わず、高齢者の医療・福祉・保健を担当するものにとっては避けて通ることのできない事態といっても過言ではありません。なぜなら、裁判官が下す判断は、「安全配慮義務」にもとづいて、「予見義務」と「結果回避義務」という2つの基準から過失の有無を推定し、かつ、医療・福祉・保健の担当者に対しては非常にハイレベルの安全配慮を求める傾向があるからです。本件では、失踪直前にそわそわして遊戯室の席に座ろうとしなかったり、他人の靴を持ち出して玄関に行こうとしたところが目撃されていました。とすれば、徘徊して失踪するかもしれないという可能性を事前に察知可能、つまり「予見義務」が発生することになります。さらに、そのような徘徊、失踪の可能性があるのなら、「結果回避義務」をつくさねばならず、具体的には、すべての出入口、窓などを施錠する、あるいは、つきっきりで監視せよ、ということになります。われわれ医療従事者の立場からすると、玄関・裏口などの出入口にバリアを設けておけば十分ではないか、外の空気を入れるために窓も開けられないのか、と考えたくもなります。そして、施設側の主張どおり、厚生労働省が定めた施設基準をきちんとクリアしているのだから、それを上回るような、通所者全員の常時監視は職員への過大な負担となる、といった考え方も十分に首肯できる内容です。ところが裁判では、「法令等に定められた人員で定められたサービスを提供するとサービスに従事している者にとっては、たとえ過大な負担となるような場合であっても、サービスに従事している者の注意義務が軽減されるものではない」という杓子定規な理由で、施設側の事情はすべて却下されました。このような背景があると、高齢者を担当する病院、診療所、介護施設で発生する可能性のある次のような事故の責任は、われわれ医療従事者に求められる可能性がかなり高いということがいえます。徘徊、無断離院、無断離設による不幸な事態(転倒による骨折、交通事故など)暴力および破壊行為による不幸な事態(患者本人のみならず、他人への危害)嚥下障害に伴う誤嚥、窒息よくよく考えると、上記の病態は「疾病」に起因するものであり、けっして医療従事者や介護担当者の責任を追及すべきものではないように思います。つまり、悪いのは患者さんではなく、医療従事者でもなく、まさに「病気」といえるのではないでしょうか。ところが昨今の考え方では、そのような病気を認識したうえで患者さんを預かるのであれば、事故は十分に「予見可能」なので、「結果回避」をしなければけしからん、だから賠償せよ、という考え方となってしまいます。誤解を恐れずにいうと、長生きして大往生をとげるはずのおじいさん、おばあさんが、家で面倒をみるのが難しくなって病院や施設へ入所したのち、高齢者にとっては予測されるような事態が発生して残念な結果となった場合に、医療過誤や注意義務違反の名目で、大往生に加えて賠償金も受け取ることができる、となってしまいます。それに対する明確な解決策を呈示するのは非常に難しいのですが、やはり第一に考えられることは、紛争を水際で防止するために、患者およびその家族とのコミュニケーションを深めておくことがとても大事だと思います。高齢者にとって、歩行が不安定になったり、飲み込みが悪くなったり、認知が障害されるような症状は、なかなか避けて通ることはできません。したがって、事故が発生する前から高齢者特有の病態について家族へは十分に説明し、ご理解をいただいておくことが重要でしょう。まったく説明がない状況で事故が発生すると、家族の受け入れは相当難しいものになります。そして、一般的に家族の期待はわれわれの想像以上ともいえますので、本件のよう場合には不可抗力という言葉はなるべく使わずに、家族の心情を十分にくみ取った対応が望まれます。そして、同様の事例が発生しないように、認知症老人を扱うときには物理的なバリアをできるだけ活用し、入り口や窓はしっかり施錠する、徘徊センサーを利用するなどの対応策をマニュアル化しておくことが望まれます。精神

24.

「認知症」診療に関するアンケート第2弾~判断に迷った時~

対象ケアネット会員の内科医師500名方法インターネット調査実施期間2012年10月2日~10月8日Q1.認知症スクリーニング検査は何をお使いですか?(複数選択可)Q2.認知症診療において、判断を迷うことはありますか?(回答は1つ)Q3.認知症診療において、判断を迷った時どうしますか?(複数選択可)先生がこれまでに診療に関わった認知症患者さんやそのご家族に関して、記憶に強く残っているエピソードがございましたらお教えください(自由記入、一部抜粋)<診断に関して>もの忘れ等で受診しても、「年のせい」で片付けられて、診断が遅れている患者さんが多い。かかりつけ医も認知症を勉強して、専門医への紹介などで早期発見、早期治療に結び付ける診療が必要である。(開業医・内科・70歳代)外来診療で認知症だと気付かず、血糖・脂質異常悪化が認知症によるコンプライアンスの低下が原因だったと、入院して初めて気付いた事がある。(開業医・内科・50歳代)数年来、内科外来に通院しておられた独居の女性が、受診時はしっかりされているので誰も認知症を疑わなかった。ある時、急に身なりが乱れて来院し、しばらく後に腰痛で動けなくなって入院となった。その時になって初めて認知機能の低下と在宅での様子を知るに至り、驚くとともに深く反省したことがあった。(勤務医・内科・40歳代)アルツハイマー型認知症と思って加療していたが、他病で頭部MRIを行ったら、前頭側頭型認知症だった。臨床症状だけでなく、器質性変化もチェックが必要だと思った。(開業医・内科・50歳代)認知症としてきた人が甲状腺機能低下症であり、ホルモン剤で良好化した。(勤務医・内科・50歳代)もの忘れ専門外来を紹介したら脳腫瘍であった。 (開業医・内科・50歳代)薬物性甲状腺機能低下症による認知症。他院ではうつと診断されていた。(開業医・内科・40歳代)専門医にてレビー小体型認知症と診断された症例。 問診で何かおかしいが、HDS-Rは満点であった。結局、同居家族に注意深く観察してもらい診断に至った。 限られた時間内での診察では無理がある事を実感した。 (開業医・内科・60歳代)典型的な認知症で受診し、頭部CT検査にて3例が否定、硬膜下血腫2例、メニンギオーマ1例、いずれも手術にて改善し家族に感謝されたことがあります。(開業医・内科・50歳代)老夫婦で奥さんが認知症で来院されたが、実はご主人が認知症だった。(勤務医・内科・50歳代)<治療に関して>アルツハイマー型認知症は、たとえ内服治療等の治療を行っても、進行性に悪化する病気であることの理解が進んでいない。施設に入ったり、入院してしまうと、家族が途端に、無関心になってしまうか、上記の内容を理解せず、病状悪化がクレームにつながるケースも多い。(勤務医・内科・40歳代)「アルツハイマーの薬は進行を止めるだけで認知症が治るものではありません」と説明すると、治療を拒否されることが多い。(開業医・内科・50歳代)85歳の男性。めまいなど不定愁訴で来院。HDS-R13点。妻によると易怒的で攻撃性もあると困っておられた。頭部CTで陳旧性多発性ラクナ梗塞と前頭葉、側頭葉萎縮を認めた。認知症治療薬を開始し穏やかになった。転居のため転院することになり、奥さんに涙を流してお礼を言われた。(勤務医・内科・30歳代)重度の認知症の症状が、栄養代謝療法の施行により、生活意欲、注意など著明な改善を認めた症例の経験。(開業医・内科・50歳代)女性の患者さんで、急に自分の娘の顔がわからなくなり、自分の家にいるにもかかわらず帰ろうとして、娘が困り果て来院した。検査を予約すると同時に、娘からの要望もあり、薬物治療を開始した。治療早期より劇的に改善し、家事を積極的に手伝い、以前と変わらない母親になったと娘から感謝された。(開業医・内科・60歳代)抗認知症薬を投与して2ヵ月ほどして、今までまったく反応のなかった患者が、まともな受け答えをしたこと。(勤務医・内科・50歳代)<その他>夫が認知症になり、困惑して夫を叱ったりしていた妻に、患者に対して笑顔をみせることの重要さを説明し、実行してもらったところ、患者である夫も穏やかになり、夫婦の日常生活が改善されたという事例をいくつか経験している。(開業医・内科・40歳代)ロングスカートにつばの広い帽子で、何時も若々しく着飾ってくるおばあちゃん。お財布をなくしたの、転んだのと、楽しいエピソードをたくさん話してくれます。(開業医・内科・50歳代)危ないからと車を家族に取り上げられたのち、新車の軽自動車を購入し、ちょっと近所のスーパーに買い物に行くつもりだったが、(高速道路の)上り車線と下り車線とを間違えて、岡山から東京まで行き、東京の歩道に乗り上げ、警察に保護された。1日帰ってこないので家族が警察に届けを出していたため、すぐわかった。本人はどうやって行ったのか、まったく覚えておらず、高速道路料金も支払っていたようだし、事故もなかったようである。(開業医・内科・40歳代)動ける認知症の患者さんで、電車を乗り継いで他県で見つかった例があった。(開業医・内科・40歳代)自動車運転を禁止しても勝手に乗り回し、鍵を取り上げた際には配偶者に暴力をふるってどうしても乗ろうとした。(開業医・内科・60歳代)子供さんの親への思い入れがとても強く、お世話をする施設側として、その気持ちに添う事は大変だなと思う事が時としてある。(開業医・内科・60歳代)認知症で長年加療中で安定していた患者を、嫌がっていたデイサービスに行かせたところ、その日のうちに認知症が急速に悪化し、あっという間に奥さんも子どもの顔もすべて忘れてしまった事例。(開業医・内科・40歳代)まだ認知症について説明すればするほど引いてしまう家族は多い。また、初期の認知症患者に「あなたは認知症です」と告げるのがベストなのかは未だ疑問。(開業医・内科・50歳代)

検索結果 合計:24件 表示位置:21 - 24