サイト内検索|page:4

検索結果 合計:590件 表示位置:61 - 80

61.

乾癬の発症にPCSK9が関与か

 脂質異常症の治療薬として用いられているPCSK9(proprotein convertase subtilisin/kexin type 9)阻害薬について、乾癬予防に使用できる可能性が指摘された。英国・マンチェスター大学のSizheng Steven Zhao氏らによる1万2,116例の乾癬患者を対象としたメンデルランダム化解析において、乾癬の発症へのPCSK9の関与が示唆された。脂質経路は乾癬の発症に関与しており、スタチンなどの一部の脂質低下薬は疾患修飾の特性を有すると考えられている。しかし大規模集団での研究はほとんど実施されておらず、従来の観察研究の結果に基づく因果関係の解釈は、交絡因子の存在により限界があった。JAMA Dermatology誌オンライン版2023年1月25日号掲載の報告。 研究グループは、脂質低下薬と乾癬発症リスクとの因果関係を調べるため、2022年8月~10月に、2標本のメンデルランダム化解析を行った。検討には、2つのバイオバンク(UKバイオバンク[英国]およびFinnGen[フィンランド])を用いた乾癬に関するゲノムワイド関連研究(GWAS)、およびGlobal Lipids Genetics ConsortiumからのLDL値が含まれた。 LDL値をバイオマーカーとして用い、HMG-CoA還元酵素(スタチンの標的)、Niemann-Pick C1-like 1(NPC1L1、エゼチミブの標的)、PCSK9(アリロクマブなどの標的)の遺伝的阻害(HMG-CoA還元酵素、NPC1L1、PCSK9の阻害を代替する遺伝子変異を抽出)を行い、乾癬発症リスクを評価した。 主な結果は以下のとおり。・1万2,116例の乾癬患者のデータと、LDL測定値が得られた約130万人のデータを基に解析した。・PCSK9の遺伝的阻害は、乾癬発症リスク低下と関連した(LDL値の1標準偏差減少ごとのオッズ比[OR]:0.69、95%信頼区間[CI]:0.55~0.88、p=0.003)。・上記の関連は、FinnGenでも同様であった(OR:0.71、95%CI:0.57~0.88、p=0.002)。・感度分析において、遺伝子変異の多面作用(pleiotropy)または遺伝的交絡によるバイアスは認められなかった。・HMG-CoA還元酵素、NPC1L1の遺伝的阻害は、乾癬発症リスクとの関連が認められなかった。

62.

スタチン・アスピリン・メトホルミンと肝がんリスクとの関連~メタ解析

 スタチン、アスピリン、メトホルミンが肝細胞がんを予防する可能性があることを示唆する報告があるが、これまでのメタ解析は異質性やベースラインリスクを適切に調整されていない試験が含まれていたため、シンガポール・National University of SingaporeのRebecca W. Zeng氏らは新たにメタ解析を実施した。その結果、スタチンおよびアスピリンは肝細胞がんリスク低下と関連していたが、併用薬剤を考慮したサブグループ解析ではスタチンのみが有意であった。メトホルミンは関連が認められなかった。Alimentary Pharmacology and Therapeutics誌オンライン版2023年1月10日号に掲載。 このメタ解析では、スタチン、アスピリン、メトホルミンの肝細胞がんリスクへの影響について、傾向スコアマッチングもしくは逆確率治療重み付けを用いてベースラインリスクのバランスをとって検討した試験を、2022年3月までMedlineおよびEmbaseデータベースを用いて検索した。肝細胞がんの多変量調整ハザード比(HR)は、ランダム効果モデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・スタチンは、全体として肝細胞がんリスクの低下と関連していた(HR:0.52、95%信頼区間[CI]:0.37~0.72、10試験、177万4,476例)。さらに、肝硬変、B型/C型肝炎、非アルコール性脂肪肝疾患、アスピリンとメトホルミンの併用および脂溶性スタチンを考慮した試験のサブグループ解析において肝細胞がんリスクの低下と関連していた。・アスピリンは、全体として肝細胞がんリスクの低下と関連していた(HR:0.48、95%CI:0.27~0.87、11試験、219万285例)が、スタチンやメトホルミンとの併用で検討した試験では関連が認められなかった。・メトホルミンは、全体として肝細胞がんリスクの低下と関連していなかった(HR:0.57、95%CI:0.31~1.06、3試験、12万5,458例)。

63.

スタチンCに基づくeGFRcys式の精度、eGFRcr式と同等/NEJM

 糸球体濾過量(GFR)の推算方法として、欧州腎機能コンソーシアム(European Kidney Function Consortium:EKFC)が開発した、血清クレアチニンを用いる「EKFC eGFRcr式」がある。これは、年齢、性別、人種の差異に関連したばらつきをコントロールするため、健康な人の血清クレアチニン値の中央値で割った「調整血清クレアチニン値」を用いるものだが、血清クレアチニン値の正確な調整には課題があることから、ベルギー・KU Leuven Campus Kulak KortrijkのHans Pottel氏らは、調整血清クレアチニン値を、性別や人種による変動が少ないシスタチンC値に置き換えることができるかどうかを検証した。結果、調整シスタチンC値に置き換えた「EKFC eGFRcys式」は、欧州、米国、アフリカのコホートにおいて一般的に用いられている推算式より、GFRの評価精度を向上させたことが示されたという。NEJM誌2023年1月26日号掲載の報告。調整血清クレアチニン値を調整シスタチンC値に置き換えて検証 研究グループは、スウェーデンの患者のデータを用いて成人のシスタチンC値の調整係数を推定した後、EKFC eGFRcr式の調整血清クレアチニン値を調整シスタチンC値に置き換えて得られたEKFC eGFRcys式の性能を検証した。欧州、米国、アフリカの白人患者および黒人患者のコホートにおいて、実測したGFR、血清クレアチニン値、血清シスタチンC値、年齢、性別に基づく式と比較検証した。EKFC eGFRcys式の精度はEKFCeGFRcr式と同等、CKD-EPI eGFRcys式より高い シスタチンC値の調整係数は、スウェーデン・ウプサラ大学病院の白人患者22万7,643例のデータに基づき、50歳未満の男女で0.83、50歳以上の男女で0.83+0.005×(年齢-50)と推定された。 この数値を基にしたEKFC eGFRcys式は偏りがなく、白人患者および黒人患者のいずれにおいても(欧州1万1,231例、米国1,093例、アフリカ508例)、EKFC eGFRcr式と精度は同等で、国際腎臓病ガイドライン機構(KDIGO)が推奨するCKD-EPI eGFRcys式より精度が高かった。EKFC eGFRcrとEKFC eGFRcysの算術平均値は、いずれかのバイオマーカーに基づく推算値よりも、推算GFRの精度をさらに向上させた。 なお、著者は、今回の結果はアジアや米国の白人患者と黒人患者で構成されたコホートや小児コホートでの検証をしておらず、限定的であるとしている。

64.

心臓に良いとされるサプリのコレステロール低下作用は否定的/JACC

 心臓に良いとされているサプリメント(サプリ)のコレステロール低下作用を検討した結果、いずれも見るべきものはなく、中には負の影響を示すものもあったとする報告が、米国心臓協会(AHA)学術集会(Scientific Sessions 2022、11月5~7日、米シカゴ/バーチャル開催)で発表されるとともに、「Journal of the American College of Cardiology(JACC)」に論文が同時掲載された。米クリーブランド・クリニックのLuke Laffin氏らの研究によるもの。 心血管疾患のリスク抑制には、血清脂質値の改善〔LDL(悪玉)コレステロールや中性脂肪の低下、HDL(善玉)コレステロールの上昇〕が重要であり、その手段として医師からは、主としてスタチンと呼ばれる薬剤が処方される。一方、処方箋のいらないサプリメントの中にも心臓に良いとされているものがある。ただし、それらの血清脂質改善作用は明らかでない。そこでLaffin氏らは、それら6種類のサプリの脂質改善作用をスタチンの一種であるロスバスタチンと比較するという、前向き無作為化単盲検比較試験を実施した。 研究対象は、LDL-Cが70~189mg/dLの範囲で、アテローム性動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の既往がないもののそのリスクが高い40~75歳の成人190人。ロスバスタチン5mg/日、そのプラセボ、または、魚油、シナモン、ニンニク、ウコン、植物ステロール、紅麹を摂取するいずれかの群に無作為に割り付け、28日間での血清脂質値の変化を比較検討した。主要評価項目は、LDL-Cの変化率だった。 その結果、ロスバスタチン群のLDL-C変化率は、プラセボ群や全てのサプリ群より有意に大きく(p<0.001)、対プラセボでは-35.2%(95%信頼区間-41.3~-29.1)だった。またロスバスタチン群では、総コレステロールが24.4%低下し、中性脂肪は19.3%低下した。プラセボ群とサプリ群との比較では、プラセボ群よりもLDL-C低下幅が有意に大きいサプリはなかった。さらに、ニンニクではLDL-Cが7.8%上昇し、植物ステロールではHDL-Cが7.5%低下した。有害事象の発生率は群間に有意差がなく、スタチン服用を避けたがる人がその理由として挙げることの多い、筋骨格系症状や神経学的症状、肝機能・糖代謝への影響も認められなかった。 Laffin氏によると、サプリ市場は米国で約500億ドルの規模に上り、その使用者の約5人に1人は、コレステロールの低下や心臓の健康増進を期待して使用しているという。同氏は、「それらのサプリを使用している人は、目的にかなった恩恵を受けていない。心臓専門医やプライマリケア医は、患者に対してエビデンスに基づいた情報提供を行う必要があるだろう」と語っている。 この発表に対して、業界団体(Council for Responsible Nutrition)の役員を務めているAndrea Wong氏が異議を唱えている。同氏の主張は、「医家向けの処方薬を対照とする短期間の介入では、サプリの有用性の評価はできない。特に高コレステロール血症のような多因子が関与している状態の改善には、4週間という設定は短すぎる」というものだ。さらに同氏は研究に選択されたサプリの種類にも疑問を投げかけている。「用いられたサプリはいずれも心臓の健康上のメリットがよく知られているが、コレステロール低下目的で販売されているのは3種類のみであり、ほかのサプリは糖代謝や中性脂肪へのメリットを期待して使われているものだ。LDL-Cの変化率を評価するという研究目的で、なぜそれらのサプリが選択されたのか、理由が分からない」という。 Wong氏は、「サプリは、医薬品やその他の治療に取って代わるものではない。そうではなく、健康をサポートし、健康的な食事、身体活動、および医療専門家による定期的な検査と組み合わせて使用し、疾患のリスク抑制に役立てるものである」とサプリの意義を強調している。 他方、米ジョージ・ワシントン大学のJanani Rangaswami氏は、本研究結果を、「スタチンとサプリの実際の価値を患者が理解する上で役立つ情報だ。医師が患者へ、適切な治療手段の選択を促す際に助けとなるだろう」としている。「この研究結果を患者に示し、『これが、あなたがお金を払って得ようとしている効果の実情です』と言うだけでよい。ロスバスタチンを低用量服用するだけで、他の全てのサプリやプラセボよりも、はるかに効果的なことを伝えられる」と同氏は本研究の成果を評価している。

65.

喘息が動脈硬化の進行を促す?

 喘息がアテローム性動脈硬化の進行を促す可能性を示唆するデータが報告された。米ウィスコンシン大学マディソン校のMatthew Tattersall氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of the American Heart Association(JAHA)」に11月23日掲載された。持続型喘息の患者では、頸動脈の動脈硬化が有意に進行していることが確認されたという。ただし、間欠型喘息の患者では、この関係は非有意とのことだ。 喘息とアテローム性動脈硬化の病態にはともに炎症が関与していることから、両者に何らかの相互関係がある可能性が想定される。Tattersall氏らは、アテローム性動脈硬化のリスク評価に頻用されている、超音波検査による頸動脈内膜中膜複合体厚(頸動脈IMT)を指標として、喘息の有無により動脈硬化の進行レベルが異なるか否かを検討した。 研究対象は、アテローム性動脈硬化に関する多民族疫学研究(MESA)の参加者のうち、ベースライン時に心血管疾患のなかった成人5,029人(平均年齢61.6±10.0歳、女性53%)。このうち、喘息でない人が4,532人であり、持続型喘息患者(発作抑制のために毎日薬剤を使用している人)が109人、間欠型喘息患者(発作時の薬剤使用のみで管理されている人)が388人含まれていた。頸動脈IMTについては、1.5mm以上の肥厚、または周辺より50%以上肥厚している箇所がある場合に「プラークあり」と定義した。炎症レベルは、C反応タンパク質(CRP)とインターロイキン-6(IL-6)で評価した。 まず、炎症レベルに着目すると、CRPは持続型か間欠型かにかかわらず、喘息患者群は喘息のない対照群に比べて有意に高値だった。IL-6については、持続型喘息群のみ対照群より有意に高値であり、間欠型喘息群は対照群と有意差がなかった。 頸動脈プラークを有する割合は、対照群が50.5%、間欠型喘息群は49.5%、持続型喘息群は67.0%だった。動脈硬化の進行に影響を及ぼし得る因子〔年齢、性別、BMI、喫煙習慣、人種/民族、総コレステロール、HDL(善玉)コレステロール、収縮期血圧、糖尿病、スタチン・降圧薬の処方、教育歴など〕を調整後に、対照群を基準として頸動脈プラークを有する割合を比較。その結果、持続型喘息群は「プラークあり」が83%有意に多いことが分かった〔オッズ比(OR)1.83(95%信頼区間1.21~2.76)〕。間欠型喘息群はOR1.10(同0.87~1.38)であり、対照群と有意差がなかった。 Tattersall氏は、「本研究により、炎症が動脈硬化と喘息の双方の発症に重要な役割を演じていることが明らかになった。ただし、本研究結果からは因果関係に言及することはできない」としている。また、調整因子に炎症マーカーのIL-6またはCRPを追加した解析でも、持続型喘息群では「プラークあり」のオッズ比が高いという有意性が消失することはなかったことから、「炎症以外にも喘息患者の頸動脈プラーク形成リスクを高める因子の存在が示唆される」と考察。「喘息患者の頸動脈IMTの肥厚には、喘息の罹病期間なども関係しているのではないか」とした上で、「持続型喘息の患者は喘息の管理を継続するとともに、食事や運動に気を付け、血圧・コレステロール・体重をコントロールするなど、修正可能な動脈硬化リスク因子にも注意を払う必要がある」とアドバイスしている。 Tattersall氏はまた、2019年に米国心臓協会(AHA)が策定した心血管疾患一次予防のためのガイドラインの中に、慢性炎症が心血管疾患リスクと関係しており、臨床医にこの点の留意を求める記載があることに言及。「われわれの研究結果も、あらゆる種類の炎症が心血管疾患リスクを高めるという考え方を支持している」と語っている。 米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のGregg Fonarow氏によると、米国成人の約10人に1人が喘息を患っているという。同氏は、「慢性炎症は喘息と心血管疾患の双方に関連しており、今回報告された研究も、その関連性を浮き彫りにしたものと言える。何らかの抗炎症療法がメリットをもたらし得るのか、さらなる研究が必要」と論評している。

66.

トリグリセライドの新基準と適切なコントロール法/日本動脈硬化学会

 今年7月に発刊された『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版』。今回の改訂点の1つとして「随時(非空腹時)のトリグリセライド(TG)の基準値」が設定された。これらの基準をもとに動脈硬化性疾患のリスクとしての高TG血症を確認するが、トリグリセライド値の低下だけではイベントを減らせないため、高トリグリセライド血症の原因となる生活習慣を改善させ適切な治療介入により動脈硬化を抑制するという観点から複合的に行う必要がある。今回、日本動脈硬化学会プレスセミナーにおいて、増田 大作氏(りんくう総合医療センター循環器内科部長)が「高トリグリセライド血症とその治療」と題し、日本人疫学に基づいたトリグリセライドの適切なコントロール法について解説した。動脈硬化抑制のためには、脂質異常値だけをコントロールするのは不十分 「動脈硬化」は虚血性心疾患や脳血管障害などの血管疾患の引き金になる。だからこそ、生活習慣病の改善を行う際には動脈硬化の予防も視野に入れておかねばならならない。本ガイドライン(GL)では脂質異常症の診断基準値の異常をきっかけに「動脈硬化が増えるリスク状態」であることをほかの項目も含めて“包括的リスク評価”を行い動脈硬化がどの程度起こるかを知ることが重要とされる。それに有用なツールとして、増田氏はまず、『動脈硬化性疾患発症予測・脂質管理目標設定アプリ』を紹介。「これまではLDLコレステロール(LDL-C)など単独の検査値のみで患者への注意喚起を行うことが多く、漠然とした指導に留まっていた。だが、本アプリを用いると、予測される10年間の動脈硬化性疾患発症リスクが“同年齢、同性で最もリスクが低い人と比べて〇倍高くなる”ことが示されるため、説得力も増す」と説明した。また、「単に“〇〇値”が高い、ではなくアプリへ入力する際に患者個人が持っているリスク(冠動脈疾患、糖尿病などの既往があるか)を医師・患者とも見直すことができ、治療介入レベルや管理目標などの目指すゴールが明確になる」とも話した。トリグリセライドの基準値に随時採血の基準も採用 今回のガイドライン改訂でトリグリセライドの基準値に随時採血(175mg/dL以上)の基準も採用された。これは、「トリグリセライドは食事によって20~30mg/dL上昇する。食後においてこれを超えてトリグリセライドが高いことが心血管疾患のリスクになっていることが本邦の疫学研究1)でも明らかになっている。コレステロール値が正常であっても、随時トリグリセライド値が166mg/dL以上の参加者は84mg/dL未満の者と比較すると、その相対リスクは冠動脈疾患が2.86倍、心筋梗塞は3.14倍、狭心症は2.67倍、突然死は3.37倍に上昇することが報告された。海外のガイドラインでの基準値も踏まえてこれが改訂GLにおける非空腹時トリグリセライドの基準値が設けられた」と日本人に適した改訂であることを説明。また、今の日本人の現状として「肥満に伴い耐糖能異常・糖尿病を罹患し、トリグリセライドが上昇傾向になる。単にコレステロールの管理だけではなく複合的に対応していくことが求められている」と述べ、「糖尿病患者ではLDL-C上昇だけでなくトリグリセライドの上昇もリスクが上昇する(1mmol/L上昇で1.54倍)。糖尿病患者における脂質異常症を放置することは非常に危険」とも強調した。高トリグリセライドは安易に下げれば良い訳ではない そこで、同氏は本GLにも掲載されている動脈硬化性疾患の予防のための投薬として、LDL-Cの管理目標値を目指したコントロール後のトリグリセライド(non-HDL-C)の適切なコントロールを以下のように挙げた。●高リスク(二次予防や糖尿病患者)+高トリグリセライドの人:スタチンでLDL-Cが適切にコントロールされた場合にイコサペント酸エチルの併用●高トリグリセライド+低HDL-Cの人:スタチン投与有無に関わらずトリグリセライド低下療法(イコサペント酸エチル・フィブラート系/選択的PPARα)●高トリグリセライド+低HDL-Cの人:スタチンにさらにフィブラート系/選択的PPARαでのトリグリセライド低下療法 なお、以前は横紋筋融解症を助長させる可能性からスタチンとフィブラート系の併用は禁忌とされていたが、多くのエビデンスの蓄積の結果平成30年より解除されている。また、選択的PPARαモジュレータにおける腎障害の禁忌も同様に本年8月に解除されているので、処方選択肢が広くなっている。 最後に同氏は「高トリグリセライドの人はさまざまな因子が絡んでいるので、安易に下げれば良い訳ではない。漫然処方するのではなく、血糖や血圧などの管理状態を見て、適切な治療薬を用いてコントロールして欲しい」と改めて強調した。

67.

スタチンが致死的な脳内出血リスクを低減する可能性

 コレステロール低下薬のスタチンは、心臓を守るだけでなく、出血性脳卒中の一種である脳内出血のリスクを低減する可能性のあることが、新たな研究で示された。南デンマーク大学(デンマーク)のDavid Gaist氏らによるこの研究の詳細は、「Neurology」に12月7日掲載された。 脳内出血は、動脈または静脈が破れることで生じる。米国脳神経外科学会(AANS)によると、脳内出血は脳卒中の15~30%を占めており、死亡率も極めて高い。また、出血そのものが脳を損傷するだけでなく、出血による頭蓋内の圧力の上昇が脳にさらなる悪影響を及ぼすこともある。Gaist氏は、「スタチンは脳梗塞のリスクを低減することが明らかにされているが、初回の脳内出血リスクに与える影響については、見解が一致していなかった」と述べている。 今回の研究では、デンマークの医療記録を使用し、2009年から2018年の間に初めて脳葉領域に出血を来した55歳以上の患者989人(平均年齢76.3歳、女性52.2%)を特定した。脳葉領域には前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉などの大脳の大部分が含まれる。これらの患者を、脳内出血の既往がなく、年齢、性別、その他の因子が類似する3万9,500人と比較した。さらに、脳葉領域以外の領域(大脳基底核、視床、小脳、脳幹など)に出血を起こした患者1,175人(平均年齢75.1歳、女性46.5%)についても、脳内出血の既往がなく、年齢、性別、その他の因子が類似する4万6,755人と比較した。スタチンの使用状況は処方データを用いて判断した。 その結果、高血圧、糖尿病および飲酒などの因子を考慮しても、スタチンを使用していた患者では、脳葉領域の脳内出血リスクが17%、脳葉領域以外の領域の脳内出血リスクが16%低いことが明らかになった。いずれの脳領域でも脳内出血リスクの低さはスタチン使用歴の長さと関連を示し、5年以上使用している患者においては、脳葉領域でのリスクは33%、脳葉領域以外の領域でのリスクは38%低かった。 Gaist氏は、「われわれは、脳葉領域とそれ以外の領域に着目し、スタチン使用と初回の脳内出血リスクに部位が関わっているのかを検討した。その結果、スタチンを使用していた患者では、いずれの脳領域でも脳内出血のリスクが低いことが分かった。スタチンを長期間使用している場合のリスクは、さらに低かった」と説明する。 その上でGaist氏は、「スタチンが脳梗塞だけでなく脳内出血のリスクも低減させ得るというこの結果は、同薬剤を使用する人にとって心強いニュースだ」と述べる。その一方で同氏は、「ただしこの研究は、主にヨーロッパ系の人から成るデンマークの人のみを対象にしたものだった。ヨーロッパ系以外の集団を対象に、研究を重ねる必要がある」と話している。

68.

ネガティブな結果を超ポジティブに考える PROMINENT試験【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第55回

第55回 ネガティブな結果を超ポジティブに考える PROMINENT試験冠動脈疾患の危険因子の代表である脂質への介入で、最も目覚ましい成果を挙げている薬剤がスタチンです。多くの疫学研究から、中性脂肪(トリグリセライド:TG)は独立した心血管イベントのリスク因子とされます。しかしながら、スタチン治療下でも高TG血症を呈する症例にしばしば遭遇します。このような例での冠動脈疾患の残余リスク低減に、TG低下作用を持つフィブラート系薬であるペマフィブラートの効果を検証するための臨床研究が実施されました。PROMINENT試験と呼ばれ、十分量のスタチン治療下で、中性脂肪が高く、かつHDLコレステロールが低い2型糖尿病患者を対象に、この薬剤の心血管イベントの抑制作用を確認するデザインでした。2022年11月に米国シカゴで開催された米国心臓協会(AHA)学術集会で結果が発表され、その詳細は臨床系の医学雑誌の最高峰であるNEJM誌に掲載されました(N Engl J Med. 2022;387:1923-1934)。この研究には日本人医師の多くが関心をもっていました。その理由は、本研究は日本人の患者を含む24ヵ国876施設から10,497例が登録されたグローバル試験であるだけでなく、本研究の鍵となるペマフィブラートが日本企業で創製され、その企業の研究開発組織からの資金提供により実施されたからです。つまり日本発の薬剤が世界に勝負を挑んだ大一番であったのです。残念!結果は期待どおりではありませんでした。ペマフィブラート群とプラセボ群のイベント発生率曲線は、観察期間中ほぼ一貫して重なっていました。事前設定されたサブグループ解析も、両群に有意差はありませんでした。つまり、心血管イベントの発生率の抑制作用は証明されなかったのです。PROMINENT試験の結果は、「negative results(否定的な結果)」でした。科学や学問の世界、とくに医療界では否定的な結果が公表されない傾向にあることが問題になっています。膨大なコストを要する臨床試験の実施には、利益を追求する企業として期待する結果があったと推察します。否定的な結果となったPROMINENT試験の結果を、公開することに同意した当該企業の高い倫理観と見識に敬意を表します。また、その否定的な結果を掲載するからこそNEJM誌は一流誌と言われるのだと納得します。否定的な結果が公表されにくい理由を考えてみましょう。単純にいえば、派手で注目を浴びるストーリーが欲しいという人間の根幹的な欲望があります。論文を掲載する側にも有効性を示すポジティブな論文を好むというバイアスがあります。ポジティブな論文のほうが被引用回数を稼ぐことも期待され、インパクトファクター上昇にも寄与します。否定的な研究結果はポジティブな結果よりも公表される可能性が低く、公表された論文を集めるとポジティブな結果に偏りやすいことを出版バイアスと言います。否定的な結果が公表されにくく、ポジティブな研究結果が多くなることによって、メタ解析による分析の結果が肯定的なほうへ偏るといった影響が出ます。メタ解析の結果は、EBMにおいて最も質の高い根拠とされ、診療ガイドラインの策定にも大きな影響を与えます。そのメタ解析の結果に誤認があれば、大勢の健康に影響を与えることに繋がります。PROMINENT試験の否定的な結果についても十分な考察が必要です。研究のベースライン時で95.7%がスタチンを投与されています。さらに、ACE阻害薬やARBの高率な使用や、GLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬なども影響を与えていることでしょう。心血管イベント抑制作用がすでに確認された複数の薬剤が使用可能な現状で、中性脂肪への介入の上乗せ効果を獲得する余地があるのかどうかも議論すべきでしょう。観察研究と介入研究の違いもあります。観察研究では、中性脂肪の高い人にイベントが多く、中性脂肪の低い人にイベントが少ないことは事実かもしれません。しかし、高い中性脂肪を薬剤介入で低下させることにより、イベントを抑制することが可能かどうかは別の問題なのかもしれません。人は、人生においても辛くネガティブな経験に遭遇しながらも、それに対処しながら生きているものです。企業の運営や経営も人生になぞらえることができます。これが法人という言葉の由縁です。人も企業も、ネガティブな経験に苦しむだけでなく、それを乗り越え肯定的な意味に昇華させていくことが必要です。科学や医学の発展を望むならば、否定的な結果が論文として公表され、さらにそれが活かされるシステムが必要です。否定的な試験には、より良い新たな臨床試験を立案するためなど重要な存在意義があるからです。今回、PROMINENT試験の結果は残念ながら否定的な結果でした。しかし、その臨床研究に取り組む姿勢や志には共感するものがあります。エールを送りたい気持ちです。製薬企業の利益の実現のためだけではなく、人類がより健康になることを目指して活動していることが伝わってきます。今後も解決すべき健康上の課題は多く残されています。今も心筋梗塞で命を落とす患者さんが存在する残念な事実が、その証左です。さあ、ポジティブに前に進みましょう!

69.

高TG血症合併2型糖尿病患者を対象としたRCT研究(ペマフィブラート投与群 vs.対照群)の結果からTGレベルが十分に低下しても心血管イベントの抑制効果に差はみられなかった!―(解説:島田俊夫氏)

 脂質異常症が動脈硬化に悪影響を与えていることは以前から想定されているが、裏付けるエビデンスが乏しい。一方で高LDLコレステロール血症が動脈硬化を促進することは周知の事実となっている。また、コレステロールは細胞膜形成に不可欠な成分であり、ステロイドホルモンや胆汁酸の原料でもある。生命維持に必要不可欠な物質であることを忘れてはならないが、過剰なコレステロール血症の存在は動脈硬化、冠動脈疾患のリスクを増加させることは遍く認識されている。 これまでの多数のスタチンを使った大規模研究でLDLコレステロール値を下げることで、動脈硬化、冠動脈疾患のリスクが下げられることは証明済みである。 しかしながら、糖尿病、メタボ症候群などで高TG血症を随伴することも周知の事実であり、これらの随伴脂質異常症(TG-リッチリポ蛋白、小型高密度リポ蛋白などの増加)の是正が冠動脈疾患や脳血管障害リスク低下に寄与するか否かは定かではない。 今回、タイミングよくNEJM誌2022年11月24日号に掲載された米国・ブリガム&ウィメンズ病院のAruna D. Pradhan氏らが発表した「PROMINENT」試験1):「2型糖尿病患者を対象としたRCT研究で高レムナント血症、高TG血症(200~499mg/dL)、低HDLコレステロール血症(40mg/dL以下)があり、高LDLコレステロール血症がスタチン投与等により比較的良好(100mg/dL以下)にコントロールされている対象を2群にランダム割り付けを行い、コントロール群とペマフィブラート(pemafibrate[PF])投与群に群分けし、心血管イベントがPF群で有意に低下するかを主要評価項目とした多施設共同二重盲検ランダム比較試験」の結果が掲載された。「PROMINENT」試験では治療効果を数年間(中央値3.4年)追跡し、primary outcomeを評価した。 つまり、高TG血症絡みの病態をPFで治療することで心血管発作が抑制できるか否かをprimary outcomeとして評価した研究であり、多くの方が関心を示すと考え、紹介する。 これまでの状況証拠としては高TG血症絡みの病態は糖尿病、メタボ症候群などでよくみられる脂質異常症であり、動脈硬化や血栓症をベースに血管疾患の発生に深く関与していると想定されているが、釈然としない。 本試験でのPFの心血管イベント抑制効果はハザード比[HR]:1.03(p=0.67)でPF投与群とプラセボ群(対照群)間に差はなかった。率直に言えば、目的としたイベント抑制効果はなかった。若干の懸念としては、これまでの論争がこれで完全に氷解したと考えるには臨床家としては多少の違和感を禁じ得ない。また、腎臓有害事象の発生率(HR:1.12[p=0.004])、静脈血栓症の発生率(HR:2.05[p<0.001])はPF群で有意に多かった。一方で、非アルコール性脂肪肝の発生率についてはPF群で有意に低かった(HR:0.78[p=0.02])。しかしながら、これらは副次的な情報と捉えるべきである。 PF群に認められたLDLコレステロール値上昇がTGやレムナント低下などのメリットを相殺した可能性も否定はできないが、つじつま合わせの印象は免れない。 いずれにしても“主テーマであった心血管イベントの抑制効果の差は、PFの上乗せにより得られなかった”というのが本論文の結論である。(2022年12月20日 記事を修正いたしました)

70.

HDL-コレステロールは“善玉”?/JACC

 “善玉”として知られているHDL-コレステロール(HDL-C)は、心臓の健康にそれほど大きな違いをもたらさないことを示すデータが報告された。白人と黒人の比較では、後者において特にその可能性が大きいという。米オレゴン健康科学大学のNathalie Pamir氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of the American College of Cardiology(JACC)」に11月21日掲載された。 米国成人約2万4,000人を対象としたこの研究では、HDL-Cが低い白人は、冠動脈心疾患(CHD)のリスクがやや高くなることが分かった。しかし黒人ではそのような関連は見られなかった。また、白人か黒人かにかかわらず、HDL-Cが高い場合にCHDリスクが低下するという関連は見つからなかった。この結果を受けて、「CHDリスクの予測のためのHDL-Cの位置付けを再検討する必要がある」とする研究者も現れている。論文の上級著者であるPamir氏も、「CHDの古典的リスク因子が誰にでも同様の影響を及ぼすわけではない。治療ガイドラインは全ての人に役立つものであるべきだ」と述べている。 HDL-Cが“善玉”のコレステロールと認識されたのは、1970年代にさかのぼる。第二次世界大戦後に米国で増加していたCHDのリスク因子を探る目的でスタートし、現在も継続されている大規模疫学研究の嚆矢「フラミンガム研究」から、HDL-Cが高いほどCHDリスクが低いことが示され始めていた。HDL-C以外には運動がリスク低下に働き、反対に喫煙、肥満、高血圧、“悪玉”のLDL-Cはリスクを上げることも分かってきていた。 それらのエビデンスを基に、血圧やLDL/HDL-Cなどの値を組み合わせてCHDリスクを予測する手法が確立された。今日でもその手法を用いたリスク判定に基づいて、治療介入が行われている。例えばHDL-Cについては、米国では男性40mg/dL未満、女性50mg/dL未満の場合に、HDL-Cが低すぎる「低HDL-C血症」と診断され、60mg/dLを目標にコントロールすることが推奨されている。 ただし、フラミンガム研究の参加者は大半が白人だった。現在では、CHDリスクに影響を及ぼす因子には人種差があることが分かっており、低HDL-C血症が白人以外にも良くないことかどうかの確認が必要な状況にある。そして今回のPamir氏らの研究により、人種差を十分考慮しないリスク評価は、支持されない可能性が高くなった。 Pamir氏らの研究は、CHDの既往のない45歳以上の米国人2万3,901人(平均年齢64±9歳、女性58.4%、白人57.8%)を中央値で10年間追跡。CHDイベント(心筋梗塞の発症またはCHDによる死亡)リスクとHDL-Cとの関連を検討した。 CHDリスクに影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、喫煙、BMI、LDL-C、中性脂肪、糖尿病、スタチン・降圧薬の処方など)で調整後、低HDL-C血症は白人のCHDリスク増大と関連が認められた〔ハザード比(HR)1.22(95%信頼区間1.05~1.43)〕。一方、黒人では有意な関連が認められなかった〔HR0.94(同0.78~1.14)〕。また、HDL-C高値(60mg/dL超)であっても、白人〔HR0.96(0.79~1.16)〕、黒人〔HR0.91(0.74~1.12)〕ともに、有意なリスク低下は観察されなかった。 この研究結果について、米テュレーン大学のKeith Ferdinand氏は、「この知見が、CHDのリスク評価におけるHDL-Cの位置付けの変更につながるとしたら、それは良い変化である」と語っている。同氏は、黒人患者の場合、低HDL-C血症よりも高血圧や肥満、LDL-C高値などのリスク因子をより重視する必要があるとしている。とはいえ、HDL-Cを上げるために推奨される事柄は全て健康に良いという。具体的には、運動、禁煙、加工食品に多く含まれているトランス脂肪酸の摂取を減らすことなどが当てはまる。Pamir氏によると、HDL-Cが低いのであれば、それらの努力を続けるべきだが、HDL-Cの数値にとらわれる必要はないとのことだ。 なお、本研究は米国立衛生研究所(NIH)の資金提供により実施された。

71.

米国でのAMIの30日死亡率、保険プランでの差は?/JAMA

 米国高齢者向けの公的医療保険・メディケアの、マネジドケア型でカバーする健康保険プラン「メディケアアドバンテージ」加入者と、従来型の出来高払いでカバーするプラン加入者について、2009~18年の急性心筋梗塞(AMI)のアウトカムを比較したところ、30日死亡率は、2009年時点ではメディケアアドバンテージ加入者が従来型メディケア加入者より、わずかながら統計学的に低かったが、2018年までに統計学的有意差は認められなくなっていた。米国・ハーバード大学医学大学院のBruce E. Landon氏らが、メディケアプログラムのデータを基に行った後ろ向きコホート試験の結果で、JAMA誌2022年12月6日号で発表された。メディケアアドバンテージプラン加入者の支払いカバー率は、2018年は37%だったが、2022年には48%に増大している。メディケアアドバンテージプランにおいて、特定の臨床状態の患者に同質のケアを提供していたかどうかは明らかになっていないが、著者は「今回の結果は、他の結果も考慮したうえで、メディケアプランの違いによる治療とアウトカムの格差に関する見識を提供するものになるだろう」と述べている。STEMI約56万人、NSTEMI約167万人を対象に試験 研究グループは、メディケアアドバンテージ加入者と従来メディケア加入者で、2009~18年にAMIの治療を受けた患者について、後ろ向きコホート試験を行い、30日死亡率と治療内容について比較した(データの最終フォローアップは2019年12月31日)。 被験者数は、ST上昇型心筋梗塞(STEMI)が55万7,309例、非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)が167万193例だった。 主要アウトカムは、補正後30日死亡率。副次アウトカムは、年齢・性別補正後の治療(カテーテル法、血行再建術)の施行率、退院後の処方とアドヒアランス、医療システムパフォーマンス指標(ICU入院率、30日再入院率)などだった。ICU入院率や30日再入院率はメディケアアドバンテージ群で低率 被験者総数は222万7,502例で、2018年の平均年齢はメディケアアドバンテージSTEMI群の76.9歳から、従来メディケアNSTEMI群の79.3歳の範囲にわたっていた。女性患者の割合は、メディケアアドバンテージ群と従来メディケア群で類似していた(2018年STEMIは41.4%、41.9%)。 2009年の30日死亡率は、メディケアアドバンテージ群が従来メディケア群より統計学的に有意に低かった。STEMI患者では、メディケアアドバンテージ群19.1% vs.従来メディケア群20.6%で群間差は-1.5ポイント(95%信頼区間[CI]:-2.2~-0.7)、NSTEMI患者では、それぞれ12.0% vs.12.5%で群間差は-0.5ポイント(-0.9~-0.1)だった。 しかし2018年までに、同死亡率はすべての群で低下が認められ、メディケアアドバンテージ群と従来メディケア群の統計学的有意差は認められなくなっていた。同死亡率は、STEMI患者でそれぞれ17.7%と17.8%(群間差:0.0ポイント[95%CI:-0.7~0.6])、NSTEMI患者で10.9%と11.1%(-0.2ポイント[-0.4~0.1])だった。また、2018年までに、標準化90日血行再建術施行率についても両群間で有意差はなくなっていた。 ガイドライン推奨の薬物処方について、2018年のSTEMI患者に対する退院後スタチン処方率は、メディケアアドバンテージ群(91.7%)が従来メディケア群(89.0%)より有意に高率だった(群間差:2.7ポイント、95%CI:1.2~4.2)。 また、メディケアアドバンテージ群は従来メディケア群に比べ、2018年のICU入院率が低く(STEMI患者について50.3% vs.51.2%、群間差:-0.9ポイント[95%CI:-1.8~0.0])、自宅への退院率が亜急性期施設への退院率に比べ高率だった(STEMI患者について71.5% vs.70.2%、1.3ポイント[0.5~2.1])。 30日再入院率は、2009年、2018年共にメディケアアドバンテージ群が従来メディケア群に比べ低率だった(2009年STEMI患者:13.8% vs.15.2%、群間差:-1.3ポイント[95%CI:-2.0~-0.6]、2018年STEMI患者:11.2% vs.11.9%、-0.6ポイント[-1.2~0.0])。

72.

「ゾコーバ」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第82回

第82回 「ゾコーバ」の名称の由来は?販売名ゾコーバ®錠125mg一般名(和名[命名法])エンシトレルビル フマル酸(JAN)効能又は効果SARS-CoV-2による感染症用法及び用量通常、12歳以上の小児及び成人にはエンシトレルビルとして1日目は375mgを、2日目から5日目は125mgを1日1回経口投与する。警告内容とその理由設定されていない禁忌内容とその理由禁忌(次の患者には投与しないこと)1.本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者2.次の薬剤を投与中の患者ピモジド、キニジン硫酸塩水和物、ベプリジル塩酸塩水和物、チカグレロル、エプレレノン、エルゴタミン酒石酸塩・無水カフェイン・イソプロピルアンチピリン、エルゴメトリンマレイン酸塩、メチルエルゴメトリンマレイン酸塩、ジヒドロエルゴタミンメシル酸塩、シンバスタチン、トリアゾラム、アナモレリン塩酸塩、イバブラジン塩酸塩、ベネトクラクス〔再発又は難治性の慢性リンパ性白血病(小リンパ球性リンパ腫を含む)の用量漸増期〕、イブルチニブ、ブロナンセリン、ルラシドン塩酸塩、アゼルニジピン、アゼルニジピン・オルメサルタン メドキソミル、スボレキサント、タダラフィル(アドシルカ)、バルデナフィル塩酸塩水和物、ロミタピドメシル酸塩、リファブチン、フィネレノン、リバーロキサバン、リオシグアト、アパルタミド、カルバマゼピン、エンザルタミド、ミトタン、フェニトイン、ホスフェニトインナトリウム水和物、リファンピシン、セイヨウオトギリソウ(St.John's Wort、セント・ジョーンズ・ワート)含有食品3.腎機能又は肝機能障害のある患者で、コルヒチンを投与中の患者4.妊婦又は妊娠している可能性のある女性※本内容は2022年12月9日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2022年11月作成(第1版)医薬品インタビューフォーム「ゾコーバ®錠125mg」2)SHIONOGI:製品情報一覧

73.

スタチン、抗凝固薬服用の心房細動患者の出血リスクを低減

 経口抗凝固薬を服用している非弁膜症性心房細動患者において、スタチン服用で大出血、全死亡、虚血性イベントのリスクが有意に低下したことが、多施設後ろ向きレジストリ研究で示唆された。兵庫医科大学の内田 和孝氏らがAmerican Journal of Cardiovascular Drugs誌オンライン版2022年11月16日号で報告した。 本研究は、心臓機械弁もしくは肺/深部静脈血栓症の既往歴のある患者を除外した経口抗凝固薬を服用している非弁膜症性心房細動患者を対象とした。2013年2月26日に7,826例を登録し、2017年2月25日まで追跡した。主要評価項目は大出血、副次評価項目は全死亡、虚血性イベント、出血性脳卒中、虚血性脳卒中で、スタチン投与群と非投与群で比較した。 主な結果は以下のとおり。・スタチン投与群(2,599例、33%)は非投与群に比べ、発作性心房細動(37% vs.33%、p=0.0003)、高血圧(84% vs.76%、p<0.0001)、糖尿病(41% vs.27%、p<0.0001)、脂質異常症(91% vs.30%、p<0.0001)を有している患者が多かった。・大出血の累積発生率は、スタチン投与群6.9%、非投与群8.1%であった(p=0.06)。・スタチン投与群の非投与群に対する各評価項目の調整ハザード比(95%信頼区間)は、大出血が0.77(0.63~0.94)、全死亡が0.58(0.47~0.71)、虚血性イベントが0.77(0.59~0.999)、出血性脳卒中が0.85(0.48~1.50)、虚血性脳卒中が0.79(0.60~1.05)だった。

74.

第141回 退院COVID-19患者に抗凝固薬アピキサバン無効

抗凝固薬は重度の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の回復を助けると広く考えられてきましたが、英国での無作為化試験結果によるとどうやらそうとはいえず、むしろ有害かもしれません。英国全域で実施されている無作為化試験HEAL-COVIDの結果、退院COVID-19患者に経口の抗凝固薬・アピキサバン(apixaban)を投与しても死亡や再入院のリスクは残念ながら低下しませんでした1)。COVID-19患者のその病気との戦いは退院して一件落着というわけにはいかず、心臓、肺、循環器がしばしば絡む症状の新たな発生や悪化、俗に言うlong COVIDをおよそ5人に1人が退院後に被ります。命を落とす人も少なくなく、退院したCOVID-19患者の10人に1人を超える12%は半年以内に死亡しています2)。HEAL-COVID試験はCOVID-19患者のそういった長引く症状や死亡を予防するか減らしうる治療に目星をつけ、それらの治療がCOVID-19患者の長期の経過を改善しうるかどうかを調べることを目当てに実施されています。被験者はCOVID-19で入院した患者から募り、自宅へと退院する少し前にアピキサバン投与群か病院それぞれのいつもの退院後治療群(標準治療群)にそれら患者を割り振りました。アピキサバン投与群の患者は同剤を1日2回2週間経口服用しました3)。1年間の追跡の結果、アピキサバン投与群と標準治療群の死亡か再入院の発生率はほとんど同じでそれぞれ29.1%と30.8%であり、アピキサバンの死亡や再入院の予防効果は残念ながら認められませんでした。アピキサバンは抗凝固薬なだけにHEAL-COVID試験でも出血と無縁ではなく、同剤投与群402人のうち数名は大出血により同剤服用を中止しています。COVID-19患者の退院後の手当として有用と広くみなされていた抗凝固薬は実際のところ死亡や再入院を減らす効果はなく、むしろ危険らしいことを示した今回の試験結果をうけてCOVID-19患者への本来不要な同剤投与がなくなることを望むと試験主導医師Mark Toshner氏は言っています。今回の結果は無益な治療で患者に害が及ぶのを断ち切る重要な役割を担うことに加え、COVID-19患者の長い目でみた回復、すなわちlong COVIDの解消を助ける治療を引き続き探していかねばならないことも意味します1)。HEAL-COVID試験でもその取り組みは続いており、コレステロール低下薬アトルバスタチン(atorvastatin)1年間投与の検討が進行中です。同剤は抗炎症作用があり、COVID-19患者にみられる炎症反応を緩和しうると目されています4)。long COVIDは本連載第140回で紹介したとおり英国では230万人、米国ではその10倍の2,300万人に達すると推定されており、その影響は医療に限らず雇用、障害年金、生命保険、家のローン、老後の備え、家計に波及します5)。それらをひっくるめてlong COVID が米国に強いる負担は4兆ドル近い(3.7兆ドル)とハーバード大学の経済学者David Cutler氏は予想しており6)、その額は実にサブプライムローン絡みの2000年代後半の大不況(Great Recession)の負担に匹敵します。目下のところCOVID-19といえば感染してすぐの時期に目が行きがちですが、感染がひとまずおさまった後の長患いの最適な治療をいまや急いで確立する必要があります1)。参考1)Blood thinning drug does not help patients recover from Covid / Cambridge University Hospitals NHS Foundation Trust2)About HEAL-COVID3)HEAL-COVID試験(Clinical Trials.gov)4)Blood Thinner Ineffective for COVID-19 Patients: Study / TheScientist5)Long Covid may be ‘the next public health disaster’ - with a $3.7 trillion economic impact rivaling the Great Recession / CNBC6)Cutler DM.The Economic Cost of Long COVID: An Update

75.

2型DM患者の高TG血症へのペマフィブラート、心血管イベント抑制効果は?/NEJM

 軽度~中等度の高トリグリセライド血症を伴い、HDLコレステロールとLDLコレステロールの値が低い2型糖尿病患者において、ペマフィブラート(選択的ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体αモジュレーター)はプラセボと比較して、トリグリセライド、VLDLコレステロール、レムナントコレステロール、アポリポ蛋白C-IIIの値を低下させたが、心血管イベントの発生は抑制しなかったことが、米国ブリガム&ウィメンズ病院のAruna Das Pradhan氏らが実施した「PROMINENT試験」で示された。研究の詳細は、NEJM誌2022年11月24日号に掲載された。24ヵ国のイベント主導型試験 PROMINENT試験は、日本を含む24ヵ国876施設が参加した二重盲検無作為化プラセボ対照イベント主導型試験であり、2017年3月~2020年9月の期間に患者の登録が行われた(Kowa Research Instituteの助成を受けた)。 対象は、2型糖尿病と診断され、軽度~中等度の高トリグリセライド血症(空腹時トリグリセライド値200~499mg/dL)を伴い、HDLコレステロール値が40mg/dL以下の患者であった。また、患者は、ガイドラインに基づく脂質低下療法を受けているか、有害事象なしでスタチン療法を受けることができず、LDLコレステロール値が100mg/dL以下の場合に適格とされた。 被験者は、ペマフィブラート(0.2mg錠、1日2回)またはプラセボを経口投与する群に無作為に割り付けられた。 有効性の主要エンドポイントは、非致死的心筋梗塞、虚血性脳卒中、冠動脈血行再建術、心血管死の複合とされた。非アルコール性脂肪性肝疾患の頻度は低い 1万497例(年齢中央値64歳、女性27.5%)が登録され、ペマフィブラート群に5,240例、プラセボ群に5,257例が割り付けられた。1次予防の集団(年齢が男性50歳以上、女性55歳以上でアテローム動脈硬化性心血管疾患がない)が33.1%、2次予防の集団(年齢18歳以上で、アテローム動脈硬化性心血管疾患が確立されている)は66.9%であった。 ベースラインで95.7%がスタチンの投与を、80.1%がACE阻害薬またはARBの投与を、9.3%がGLP-1受容体作動薬を、16.8%がSGLT2阻害薬の投与を受けていた。空腹時トリグリセライド中央値は271mg/dL、HDLコレステロール中央値は33mg/dL、LDLコレステロール中央値は78mg/dLだった。追跡期間中央値は3.4年。 4ヵ月の時点におけるプラセボ群と比較した脂質値のベースラインからの変化率の差は、トリグリセライドが-26.2%(95%信頼区間[CI]:-28.4~-24.10)、VLDLコレステロールが-25.8%(-27.8~-23.9)、レムナントコレステロールが-25.6%(-27.3~-24.0)、アポリポ蛋白C-IIIが-27.6%(-29.1~-26.1)と、いずれもペマフィブラート群で低かった。一方、HDLコレステロールは5.1%(4.2~6.1)、LDLコレステロールは12.3%(10.7~14.0)、アポリポ蛋白Bは4.8%(3.8~5.8)であり、ペマフィブラート群で高かった。 有効性の主要エンドポイントは、ペマフィブラート群が572例(3.60/100人年)、プラセボ群は560例(3.51/100人年)で発生し(ハザード比[HR]:1.03、95%CI:0.91~1.15、p=0.67)、両群間に差はなく、事前に規定されたすべてのサブグループで明確な効果修飾(effect modification)は認められなかった。 重篤な有害事象の発生には両群間に有意な差はみられなかった(ペマフィブラート群 14.74/100人年vs.プラセボ群14.18/100人年、HR:1.04、95%CI:0.98~1.11、p=0.23)。一方、ペマフィブラート群では、腎臓の有害事象(10.67/100人年vs.9.55/100人年、HR:1.12、95%CI:1.04~1.20、p=0.004)、静脈血栓塞栓症(0.43/100人年vs.0.21/100人年、HR:2.05、95%CI:1.35~3.17、p<0.001)の発生率が高く、非アルコール性脂肪性肝疾患(0.95/100人年vs.1.22/100人年、HR:0.78、95%CI:0.63~0.96、p=0.02)の発生率が低かった。 著者は、「ペマフィブラート群で観察されたアポリポ蛋白BとLDLコレステロール値の上昇が、トリグリセライド値やレムナントコレステロール値の低下による有益性を打ち消した可能性は否定できない」としている。

76.

塩野義のコロナ治療薬ゾコーバを緊急承認/厚生労働省

 厚生労働省は11月22日、塩野義製薬と北海道大学の共同研究から創製された3CLプロテアーゼ阻害薬の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬エンシトレルビル フマル酸(商品名:ゾコーバ錠125mg)を、医薬品医療機器等法第14条の2の2に基づき緊急承認した。緊急承認制度は2022年5月に新たに創設された制度で、薬剤の安全性の「確認」は前提とする一方で、有効性が「推定」できれば承認することができる。今回、本制度が初めて適用となった。同日開催された薬事・食品衛生審議会薬事分科会と医薬品第二部会の合同会議で、塩野義製薬が提出した第III相試験(第II/III相試験Phase 3 Part)の速報データに基づき緊急承認された。 第III相試験(第II/III相試験Phase 3 Part)では、軽症および中等症のSARS-CoV-2感染者を対象とし、オミクロン株流行期に重症化リスク因子の有無やワクチン接種の有無を問わず、日本、韓国、ベトナムで計1,821例が登録された。COVID-19発症から無作為割付までの時間が72時間未満の集団において、5症状(鼻水または鼻づまり、喉の痛み、咳、熱っぽさまたは発熱、倦怠感[疲労感])が回復するまでの時間を主要評価項目とした。2022年9月末に主要目的の達成を示す結果が得られた。 主な結果は以下のとおり。・5症状が回復するまでの時間の中央値は、本剤群が167.9時間(約7日)、プラセボ群が 192.2時間(約8日)であり、本剤の投与により24.3時間(約1日)の短縮が示された。・治療開始から3日後(Day 4)のウイルスRNA量のベースラインからの変化量は、プラセボ群に対して本剤群で約30倍の差(1.47 log10[copies/mL])があり、本剤群はプラセボ群と比較して統計学的に有意な減少を示した(両側p<0.0001)。 本剤の用法・容量は、通常、12歳以上の小児および成人にはエンシトレルビルとして1日目は375mgを、2~5日目は125mgを1日1回経口投与する。SARS-CoV-2による感染症の症状が発現してから速やかに投与を開始する。なお、重症度の高い患者に対する有効性は検討されていない。 添付文書に記載された本剤の禁忌は以下のとおり。2. 禁忌(次の患者には投与しないこと)2.1 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者2.2 次の薬剤を投与中の患者:ピモジド、キニジン硫酸塩水和物、ベプリジル塩酸塩水和物、チカグレロル、エプレレノン、エルゴタミン酒石酸塩・無水カフェイン・イソプロピルアンチピリン、エルゴメトリンマレイン酸塩、メチルエルゴメトリンマレイン酸塩、ジヒドロエルゴタミンメシル酸塩、シンバスタチン、トリアゾラム、アナモレリン塩酸塩、イバブラジン塩酸塩、ベネトクラクス〔再発または難治性の慢性リンパ性白血病(小リンパ球性リンパ腫を含む)の用量漸増期〕、イブルチニブ、ブロナンセリン、ルラシドン塩酸塩、アゼルニジピン、アゼルニジピン・オルメサルタン メドキソミル、スボレキサント、タダラフィル(アドシルカ)、バルデナフィル塩酸塩水和物、ロミタピドメシル酸塩、リファブチン、フィネレノン、リバーロキサバン、リオシグアト、アパルタミド、カルバマゼピン、エンザルタミド、ミトタン、フェニトイン、ホスフェニトインナトリウム水和物、リファンピシン、セイヨウオトギリソウ(St. John's Wort、セント・ジョーンズ・ワート)含有食品2.3 腎機能または肝機能障害のある患者で、コルヒチンを投与中の患者2.4 妊婦または妊娠している可能性のある女性 本剤は、緊急承認時において有効性および安全性に係る情報は限られており、引き続き情報を収集中。緊急承認の期限は1年とされ、正式承認を得るには再審議が必要となる。

77.

いよいよRNAの薬の時代!(解説:後藤信哉氏)

 生命機能を担うタンパク質の構造と機能はDNA配列により規定される。細胞におけるタンパク質の産生はDNA配列に基づいたRNAの配列の影響を受ける。分子生物学の黎明期に医学教育を受けた筆者には、ゲノム編集などのDNAを標的とする治療の論理を理解できても、低分子干渉RNAを薬にするとは想像したこともなかった。本研究は生命体に関する分子生物学的研究の進展が新規技術による革新的治療法を生み出す可能性を示唆した画期的研究である。 心筋梗塞の発症とLDLコレステロールの関係が深いことは広く知られている。スタチン、PCSK9阻害薬などLDLコレステロールを十分に低下させる治療は広く普及した。それでも冠動脈疾患の再発を完全に予防できているわけではない。本研究では冠動脈疾患のリスク因子としてLDLコレステロールよりも複雑なリポ蛋白(a)を治療標的とした。 水に溶けない脂質の研究はタンパク質よりも難しい。遠心分離した血液サンプルを用いて比重からタンパク質と結合した脂質を分類してきた。リポ蛋白(a)はLDLによく似ているがアポ蛋白としてapo(a)が結合している。本研究では低分子干渉RNAにてapo(a)の産生を制御し、結果としてリポ蛋白(a)を低下させようとの発想である。高度な生命科学技術の複合として開発された治療法といえる。 革新的技術により開発された薬剤であっても古典的なランダム化比較試験による臨床評価が必要というのが現在の薬剤開発のルールである。本研究は用量設定試験として281例が登録された。小規模試験であるがサロゲートエンドポイントであるリポ蛋白(a)はいずれの用量でも劇的に低下した。この低分子干渉RNA製剤によるリポ蛋白(a)低下作用は証明されたとせざるを得ない。少数例のランダム化比較試験であっても、NEJM誌に採択されるほど本研究は革新的である。薬剤として臨床使用されるためにはリポ蛋白(a)低下により冠動脈イベントなどの臨床イベントを低下させることを示さなければならない。しかし、汎用性のある方法なので今後、他の疾病に応用される可能性が高いと思う。

78.

開発中のsiRNA治療薬、リポ蛋白(a)高値ASCVDに有効/NEJM

 リポ蛋白(a)値150nmol/L超のアテローム性心血管疾患(ASCVD)患者に対する、開発中の低分子干渉(si)RNA薬olpasiranの投与はプラセボと比較して、36週後のリポ蛋白(a)値を有意に低下したことが示された。米国・ハーバード大学医学大学院のMichelle L. O' Donoghue氏ら「OCEAN(a)-DOSE試験」研究チームが、281例を対象に行った第II相プラセボ対照無作為化用量設定試験の結果を報告した。36週後のリポ蛋白(a)値は用量に依存して70.5~101.1%低下したという。結果を踏まえて著者は、「今回の短期中規模試験では、olpasiranは安全であると思われた。また基礎的所見は、より大規模な評価を行い、ASCVDにおけるリポ蛋白(a)との因果関係を確認する必要があることを示すものであった」とまとめている。NEJM誌オンライン版2022年11月6日号掲載の報告。4種の用量とプラセボを投与し比較 研究グループは、ASCVDでリポ蛋白(a)値150nmol/L超の18~80歳、281例を対象に試験を行った。 被験者を無作為に5群に割り付け、olpasiranを12週ごと10mg(10mg/12週群)、同75mg(75mg/12週群)、同225mg(225mg/12週群)、24週ごと225mg(225mg/24週群)、またはプラセボ(マッチングプラセボ群)をそれぞれ皮下投与した。 主要エンドポイントは、ベースラインから36週の、リポ蛋白(a)値のパーセント変化で、プラセボ補正後の平均%変化で報告した。安全性も評価した。36週時のリポ蛋白(a)値、10mg/12週群で-70.5%、225mg/12週群で-101.1% 被験者281例のベースラインでのリポ蛋白(a)中央値は260.3nmol/L、低比重リポ蛋白コレステロール(LDL-C)中央値は67.5mg/dLだった。ベースライン時に、88%がスタチン療法を受けており、52%がエゼチミブを服用、23%がPCSK9阻害薬を服用していた。 36週時点で、リポ蛋白(a)値はプラセボ群で平均3.6%上昇したのに対し、olpasiran群では用量に依存して有意に大幅に低下した。10mg/12週群で-70.5%、75mg/12週群で-97.4%、225mg/12週群で-101.1%、225mg/24週群で-100.5%だった(ベースラインとの比較でいずれもp<0.001)。 有害イベントの全発生率は、すべての群で同程度であり、最も多く報告されたolpasiran関連有害イベントは、疼痛を主とする注射部位反応だった。

79.

重症CKDのRAS阻害薬中止で、腎機能は改善するか/NEJM

 レニン-アンジオテンシン系(RAS)阻害薬(ACE阻害薬、ARB)は、軽症~中等症の慢性腎臓病(CKD)の進行を抑制するが、重症CKD患者ではRAS阻害薬を中止すると、推算糸球体濾過量(eGFR)が上昇し、その低下が遅延する可能性が示唆されている。英国・Hull University Teaching Hospitals NHS TrustのSunil Bhandari氏らは、「STOP ACEi試験」において、重症の進行性CKD(ステージ4/5)患者では、RAS阻害薬の投与を中止しても、継続した患者と比較して3年後のeGFR低下に関して臨床的に重要な変化はなく、死亡率も同程度であることを示した。研究の詳細は、NEJM誌オンライン版2022年11月3日号に掲載された。英国の重症CKD患者対象の無作為化試験 STOP ACEi試験は、重症の進行性CKD患者におけるRAS阻害薬の中止が、eGFRを上昇させるか、あるいは安定化させるかの検証を目的とする非盲検無作為化試験であり、英国の37施設で参加者の登録が行われた(英国国立健康研究所[NIHR]と英国医学研究会議[MRC]の助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、ステージ4/5のCKD(体表面積補正eGFR<30mL/分/1.73m2)で、透析および腎移植を受けておらず、過去2年間にeGFRが2mL/分/1.73m2以上低下し、ACE阻害薬またはARBの投与を6ヵ月以上受けている患者であった。被験者は、RAS阻害薬の投与を中止する群または投与を継続する群に無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは3年後のeGFRで、腎代替療法開始後のeGFRは除外された。副次アウトカムは、末期腎不全(ESKD)および腎代替療法の複合、腎代替療法(ESKD患者を含む)およびeGFRの50%以上低下の複合、死亡などであった。生活の質や運動能にも有意差はない 411例(年齢中央値63歳、男性68%)が登録され、投与中止群に206例、投与継続群に205例が割り付けられた。ベースラインのeGFR中央値は18mL/分/1.73m2、29%がeGFR<15mL/分/1.73m2、尿蛋白中央値は115mg/mmolであった。また、糖尿病(1型、2型)が37%、糖尿病性腎症が21%含まれた。58%が3剤以上の降圧薬、65%がスタチンの投与を受けていた。 3年の時点で、最小二乗平均(±SE)eGFRの値は、中止群が12.6±0.7mL/分/1.73m2、継続群は13.3±0.6mL/分/1.73m2であり、両群間に有意な差は認められなかった(群間差:-0.7、95%信頼区間[CI]:-2.5~1.0、p=0.42)。また、事前に規定されたサブグループで、アウトカムの異質性は観察されなかった。 3年時のESKDおよび腎代替療法の複合(中止群62%[128/206例]vs.継続群56%[115/205例]、ハザード比[HR]:1.28[95%CI:0.99~1.65])、腎代替療法(ESKD患者を含む)およびeGFRの50%以上低下の複合(68%[140/206例]vs.63%[127/202例]、相対リスク[RR]:1.07[95%CI:0.94~1.22])、死亡(10%[20/206例]vs.11%[22/205例]、HR:0.85[95%CI:0.46~1.57])について、両群間に有意差はなかった。また、生活の質(KDQOL-36)や運動能(6分間歩行距離)にも有意差はなかった。 重篤な有害事象(52% vs.49%)および心血管イベント(108件vs.88件)の頻度は、両群で同程度であった。 著者は、「これらの知見は、進行性CKD患者では、RAS阻害薬の投与中止により腎機能、生活の質、運動能が改善するとの仮説を支持しない」とまとめ、「本試験は、RAS阻害薬の中止が心血管イベントや死亡に及ぼす影響の評価に十分な検出力はなかったが、腎機能に関して中止による利益はないことが明らかになった。そのため心血管系の安全性を検討するための、より大規模な無作為化試験を行う理論的根拠はほとんどないと考えられる」としている。

80.

新型コロナ飲み薬、心疾患治療薬との併用で相互作用の可能性も

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の飲み薬の1つである抗ウイルス薬のパクスロビド(一般名ニルマトレルビル・リトナビル、日本での商品名パキロビッドパック)は、高リスク患者を重症化から守ることで世界のパンデミックの様相を大きく変えた。そうした中、脂質低下薬や抗血栓薬、抗不整脈薬など、広く処方されている心疾患の治療薬とパクスロビドを併用するとリスクがもたらされる可能性を警告する論文を、米レーヘイ・ホスピタル&メディカル・センターのSarju Ganatra氏らが「Journal of the American College of Cardiology」に10月12日発表した。同氏は、「一部の心疾患患者はパクスロビドの使用を避けるか、同薬による治療を受けている間は心疾患の薬を減らす必要があるかもしれない」と述べている。 パクスロビドはワクチンを接種していない高リスク患者の重症化リスクを89%低減することが示されているため、医師と患者にとっては、難しい判断を迫られる状況であるといえる。Ganatra氏は、「医師たちには、われわれがパクスロビドの処方をやめさせようとしていると受け取ってほしくない。パクスロビドがベネフィットをもたらす可能性が最も高いのは心疾患患者だ。心血管のリスク因子を持つ人では、COVID-19の重症化リスクが極めて高いからだ。われわれの目的は、人々に薬物相互作用について認識してもらうことだ」と強調している。 パクスロビドはニルマトレルビルとリトナビルの2種類の薬剤を組み合わせたものだが、専門家らは、薬物相互作用は主にリトナビルに起因していると考えている。米国心臓協会(AHA)臨床心臓病学評議会メンバーのRobert Page氏の説明によると、リトナビルは抗ウイルス薬の効果を増強する作用を持つことから、長年にわたってHIV治療薬として使用されている。しかし、リトナビルによって効果が増強される薬剤は他にも数多くあり、その割合は米国で販売されている薬剤の最大で3分の2を占めるという。 Page氏によると、パクスロビドは脂質低下薬のスタチンが体内に貯留する原因となり得る。スタチンが体内に貯留すると、肝機能障害や筋変性が惹起される。さらに、パクスロビドと一部の抗不整脈薬との間でも相互作用が生じる可能性があり、それによって致死性の異常な不整脈(心室性不整脈)のリスクが上昇すると考えられている。 米国心臓病学会(ACC)心血管ケアチーム評議会を率いるCraig Beavers氏は、パクスロビドとの相互作用が懸念される薬剤として抗血栓薬(抗血小板薬、抗凝固薬)も挙げている。Ganatra氏らの論文には、パクスロビドに含まれるリトナビルが抗血小板薬のチカグレロル(商品名ブリリンタ)や抗凝固薬のワルファリンの効果を増強することで出血リスクが高まる可能性があると記されている。Beavers氏は、「出血リスクが高い患者に対しては、これらの薬剤とパクスロビドの併用は回避するか、慎重に患者をモニタリングする必要がある」としている。その一方で、パクスロビドを抗血小板薬のクロピドグレル(商品名プラビックス)と併用した場合、相互作用によって血栓リスクが高まるとされている。 さらなる問題としてGanatra氏は、薬剤の中には体内に蓄積されやすいものがあることを指摘する。そのため、COVID-19罹患患者がパクスロビドの使用を開始するにあたり、それまで使用していた薬剤の使用を中断しても、依然として重大な相互作用のリスクがある。例えば、一部の抗不整脈薬は半減期が極めて長いため、使用の中止後、何日も、あるいは何週間も体内に残る場合があるという。 さらに、リトナビルに関する情報のほとんどは、長期間にわたって処方されるHIV治療薬としての使用データから得られたものであることも、状況を複雑にしているとBeavers氏は指摘。「データがないため、COVID-19患者が短期間これらの薬剤を使用した場合に大きな影響があるのかどうかについては、今のところ不明」としている。 Beavers氏は、「現時点では、パクスロビドの使用を避けるか、あるいは心疾患の治療薬の使用を中止するかについては、最終的にはケースバイケースで判断することになる」と話している。一方、Ganatra氏は、パクスロビドと患者に処方されている心疾患の治療薬の間で相互作用が起こり得る場合には、警告が表示されるよう電子医療システムをプログラムすることを提案している。

検索結果 合計:590件 表示位置:61 - 80