サイト内検索|page:4

検索結果 合計:629件 表示位置:61 - 80

61.

現代の血管インターベンション治療のレベルを無視しているのではないか(解説:野間重孝氏)

 この論文(ORBITA-2試験)の評価には、まず2017年に同グループによってLancet誌に発表されたORBITA試験について知っておく必要がある。同論文はジャーナル四天王で紹介されたのでお読みになった方も多いかと思う(「PCIで運動時間が改善するか?プラセボとのDBT:ORBITA試験/Lancet」)。また、奇縁にもその論文評を評者らが担当していた(下地 顕一郎君との共著)(「ORBITA試験:冷静な判断を求む」)。その関係から、以下前回の論文評と内容に一部重複する部分も見られると思うがご容赦願いたい。 ORBITA試験は至適薬物治療を受けている重症一枝病変の安定狭心症患者200例を対象とし、PCIが行われた群とプラセボ手術が行われた群とに分け、運動時間増加量を無作為化二重盲検試験で比較検討した試験である。この結果は大きな議論の対象となった。両群で運動時間増加量に差が認められなかったからである。つまり、少し乱暴な言い方をすれば、PCIなどやってもやらなくても同じだという結果が出されたのである。これを受けてLancet誌同号のeditorialで「薬物療法に対して不応な症例ですらPCIは無益」で「すべてのガイドラインでPCIを格下げすべきである」といった感情的な議論がなされ、これに対しこの論文の筆頭著者だったAl-Lameeが反論するといった、一種のドタバタ喜劇が演じられるという一幕もあった。 こうした議論のそもそもの背景には、2007年にNEJM誌に発表されたCOURAGE試験があった。この試験により、安定狭心症に対するPCIは薬物療法に比して心筋梗塞や死亡の発生率を減らすことができないことが示されたのである。以後、PCIはもっぱら症状の改善を目的として行われるようになっていた。ところがORBITA試験は、PCIでは肝心の症状の改善すら明確には望めないと断じたのである。 ただし、こうした結果を重症虚血症例にまで拡大適応してはならないことは、他ならぬCOURAGE試験のサブ解析によって示された。サブ解析については紙面の関係から深入りしないが、これはORBITA試験についてもいえることで、この試験では重症虚血例は除外されていた。 ORBITA試験の研究グループは、今回大きく視点を変えてPCI単独の効果の検討を試みた。抗狭心症薬による治療をほぼ受けておらず、かつ客観的虚血が認められる安定狭心症の患者に対してPCIを施行し、PCIにより狭心症症状スコアが有意に改善することを無作為化検定で証明したのである。発想の転換というか、「では薬物の影響を極力排除した場合、PCIは本当に単独で症状改善効果を期待できるのか?」という設問を立てたもので、PCIに対して疫学的観点から評価を与えたものといえるだろう。しかし、ORBITA試験の結果との関係を論じるとなると、難しいものがあるのが事実である。PCIが単独で症状改善効果を持つとして、ではなぜ薬物治療下では追加的な効果が期待できないのか? この疑問には何も答えていないからである。 本試験の問題点としてまず指摘されるのは、前回と同様に、重症患者が試験対象から除外されていることだろう。論文中には明記されてはいないが、血小板機能阻害薬とスタチン以外のすべての薬剤を中止することが医学的にも倫理的にも許容される安定狭心症とはどの程度の重症度であるかは、臨床に携わる医師ならば誰でもわかることである。 しかし、そうした除外規定を容認するとしても残るのが、症状を主要エンドポイントに据えたことであると思う。PCIを実際に施行されたグループでは、複数ある狭窄を含めてすべてを完全に治療されたのである。それでもプラセボ群と大きな差がついたとはいえ、無視できない数の患者が症状を訴えているのである。 こうした現象を評者はよく狭心症・心筋梗塞と脳虚血の違いを例にとって説明している。脳虚血発作の症状は傷害部位によって特徴的かつ明確であり、また発症時期も明らかである。それに対して虚血性心疾患の場合は、心筋梗塞の場合といえども症状は必ずしも典型的なものとは限らず、また発症時期も明らかにすることは難しい。心筋梗塞の治療成績の検討にdoor-to-balloon timeが用いられ、onset-to-balloon timeが用いられないのはonset timeが明確に決められないからである。狭心症についてはさらに難しい。狭心症状はある意味、大変に主観的なものなのである。虚血の発生を客観的に明示できる方法を用いない限り、この種の研究には常に限界が付きまとうのである。これはORBITA試験についてもいえることで、運動時間といっても息切れの発生や動悸の発生で運動を止めているのか、明確なST-T変化によって運動を止めているのかで意味はまったく異なってくる。両論文には、少なくとも明確なST-T変化が見られるまで続行したという、はっきりした記述は見られない。 PCIはすでに成熟した治療法である。一時は確かに業績欲しさに不必要なPCIが行われた嘆かわしい時期があったことは事実であるが、それは過去のことである。現在、冠動脈の形態は造影CTで無侵襲で見ることができ、虚血の評価はMRIだけでなく、最近はFFR-CTなどの技術も実用化している。ワイヤを冠動脈内に入れれば病変形態は冠動脈エコーにより観察できるし、OCTを用いれば石灰化の厚さ・形態、粥腫の安定性の評価も可能である。さらに、治療の必要性についてはFFR/iFRにより的確に判断できる。評者は、当たり前のことであってもきちんと証明することには常に価値があると、日頃より発言してきた。その意味からこの研究を評価するかと聞かれたとするなら、残念ながら現代の技術レベルを無視した研究には、どれだけ多くの人が関わり手間をかけたとしても、評価することはできないとお答えするしかない。この論文評を書いている2023年現在、PCIの効果をこうした疫学的手法から検討しようという時代は終わっているとしかいえないと考えるからである。

62.

lepodisiran、リポ蛋白(a)値を著明に低下/JAMA

 リポ蛋白(a)値の上昇は、主要有害心血管イベントや石灰化大動脈弁狭窄症の発症と関連する。循環血中のリポ蛋白(a)濃度は、ほとんどが遺伝的に決定され、生活習慣の改善やスタチン投与など従来の心血管リスク軽減のアプローチの影響を受けない。米国・Cleveland Clinic Center for Clinical ResearchのSteven E. Nissen氏らは、肝臓でのアポリポ蛋白(a)の合成を抑制することでリポ蛋白(a)の血中濃度を減少させるRNA干渉治療薬lepodisiran(N-アセチルガラクトサミン結合型短鎖干渉RNA)の安全性と有効性について検討を行った。その結果、本薬は忍容性が高く、用量依存性に長期間にわたり血清リポ蛋白(a)濃度を大幅に低下させることが示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2023年11月12日号に掲載された。米国とシンガポールの無作為化用量増量第I相試験 本研究は、lepodisiran単回投与の安全性と忍容性、薬物動態、および血中リポ蛋白(a)濃度に及ぼす効果の評価を目的とする無作為化用量増量第I相試験であり、2020年11月~2021年12月に米国とシンガポールの5施設で実施された(Eli Lilly and Companyの助成を受けた)。 年齢18(シンガポールは21)~65歳、心血管疾患がなく(脂質異常症とコントロール良好な高血圧は可)、BMI値18.5~40で、血清リポ蛋白(a)濃度が高い(≧75nmol/Lまたは≧30mg/dL)患者を、プラセボまたは6つの用量(4、12、32、96、304、608mg)のlepodisiranを皮下投与する群に無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、lepodisiran単回投与の用量増量の安全性(試験期間中の有害事象、重篤な有害事象)および忍容性とした。副次アウトカムは、投与後168日のlepodisiranの血漿中濃度および最長336日(48週)の追跡期間における空腹時血清リポ蛋白(a)濃度の変化量などであった。 48例(平均年齢46.8[SD 11.6]歳、女性35%、アジア人48%)を登録し、プラセボ群に12例、lepodisiranの各用量群に6例ずつを割り付けた。ベースラインの全体のリポ蛋白(a)濃度中央値は113nmol/L(四分位範囲[IQR]:82~151)、平均BMI値は28.0(SD 5.6)であった。608mg群で、337日目に94%の低下 重篤な有害事象として、4mg群の1例で投与後141日目に自転車からの転倒による顔面損傷が発生したが、薬剤関連の重篤な有害事象は認められなかった。有害事象はまれで、プラセボ群とlepodisiranの各用量群で全般に同程度の頻度であった。全身性の過敏反応やサイトカイン放出症候群のエピソードは発現しなかった。また、lepodisiranの血漿中濃度は10.5時間以内にピーク値に達し、48時間までには検出不能となった。 ベースラインの各群のリポ蛋白(a)濃度中央値は、次のとおりであった。プラセボ群111nmol/L(IQR:78~134)、lepodisiran 4mg群78nmol/L(50~152)、同12mg群97nmol/L(86~107)、同32mg群120nmol/L(110~188)、同96mg群167nmol/L(124~189)、同304mg群96nmol/L(72~132)、同608mg群130nmol/L(87~151)。 ベースラインから337日目までのリポ蛋白(a)濃度の最大の変化量の割合中央値は、次のとおりであり、lepodisiran群では用量依存性に低下した。プラセボ群-5%(IQR:-16~11)、lepodisiran 4mg群-41%(-47~-20)、同12mg群-59%(-66~-53)、同32mg群-76%(-76~-75)、同96mg群-90%(-94~-85)、同304mg群-96%(-98~-95)、同608mg群-97%(-98~-96)。 リポ蛋白(a)値の変化量の割合が大きい状態は、lepodisiranの高用量群でより長期に持続した。304mg群では、29~225日目までリポ蛋白(a)値が90%以上低下した状態が持続し、608mg群では、29~281日目まで定量化の下限値を下回り、22~337日目まで90%以上低下した状態が持続した。337日目の時点でのlepodisiran 608mg群におけるリポ蛋白(a)濃度の変化量中央値は-94%(-94~-85)だった。 著者は、「これらの知見は、lepodisiranの研究の継続を支持するものである」とし、「本試験では、最大の用量でも48時間後にはlepodisiranが血漿中に存在しなくなったが、リポ蛋白(a)濃度に対する効果ははるかに長く持続しており、年に1~2回の投与で高度なリポ蛋白(a)低下効果を達成する可能性がある」と指摘している。

63.

ハイリスク患者のLDL-C目標達成に期待、持続型LDL-C低下siRNA製剤とは/ノバルティス

 2023年9月25日に製造販売承認を取得した国内初の持続型LDLコレステロール(LDL-C)低下siRNA製剤インクリシランナトリウム(商品名:レクビオ皮下注)が11月22日に薬価収載および発売された。それに先立ち開催されたメディアセミナーにおいて、山下 静也氏(りんくう総合医療センター 理事長)が薬剤メカニズムや処方対象者について解説した(主催:ノバルティスファーマ)。PCSK9阻害薬と異なる作用機序 PCSK9は、LDLの肝臓への取り込みを促進するLDL受容体を分解して血中LDLの代謝を抑制する効果があり、PCSK9阻害薬として国内ではモノクローナル抗体のエボロクマブ(商品名:レパーサ皮下注)が2016年に上市している※。一方、インクリシランナトリウムはPCSK9蛋白をコードするmRNAを標的としたsiRNA(低分子干渉RNA)製剤で、「GalNAc(N-アセチルガラクトサミン)という構造体を有することで標的組織である肝臓に選択的に取り込まれ、肝細胞内で肝臓のRNAi機構によりPCSK9蛋白の産生を抑制するというまったく異なる作用機序を持つ」と、山下氏はインクリシランナトリウムと既存のPCSK9阻害薬の主な違いについて説明した。※現在、アリロクマブは特許の関係で国内販売が中止されている。2次予防・高リスク患者の低い目標達成率に切り込む 本剤の適応の主な対象患者は、2次予防・高リスク患者(1:急性冠症候群、2:家族性高コレステロール血症、3:糖尿病、4:冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞の合併、のいずれかを有する)。しかし現状では、これらの患者に対するLDL-Cの管理目標値(70mg/dL未満)の達成率はわずか25%に留まっていることが直近の山下氏らによる研究1)から明らかになった。他方で、動脈硬化性疾患または糖尿病がある心血管疾患のリスクが高い患者の33%でスタチン/エゼチミブによる治療が処方後100日未満しか継続されていないことも日本医療データセンターのデータベースで判明した。 そして、LDL-C値の管理におけるもう1つの問題が、家族性高コレステロール血症に対する既存薬による治療効果の低さである。PCSK9阻害薬が上市される前に実施されたFAME Study2)からは、FH患者では1次予防の達成率は12%(528例中65例)、2次予防の達成率はわずか2%(165例中3例)という現状が浮き彫りになったが、これに対し同氏は「インクリシランナトリウムを投与することで、目標値を達成できる。安全性(心血管死、心停止からの蘇生、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中の発現割合を含む)においてもプラセボ群と同等だった。なお、心血管イベント抑制効果を検証する臨床試験は現在実施中である」とコメントした。 このほか、インクリシランナトリウムは医療機関で投与する皮下注射薬で、年2回投与(投与間隔:初回、初回から3ヵ月後、以降6ヵ月に1回)であることから治療アドヒアランスの向上が期待できる点、スタチン不耐患者にも有用である点にも触れ、「2次予防において極めて高リスク患者が本薬剤の主な対象者であり、1次予防高リスク患者においては発症予防目的の使用が考えられる。自己注射を敬遠している患者にはインクリシランナトリウムを使うなど、患者のライフスタイルに応じてPCSK9阻害薬と本剤を使い分けられるのではないか」と締めくくった。<製品概要>商品名:レクビオ皮下注300mgシリンジ一般名:インクリシランナトリウム効能・効果又は性能:家族性高コレステロール血症、高コレステロール血症ただし、以下のいずれも満たす場合に限る。・心血管イベントの発現リスクが高い・HMG-CoA還元酵素阻害剤で効果不十分、又はHMG-CoA還元酵素阻害剤による治療が適さない用法・用量:通常、成人にはインクリシランナトリウムとして1回300mgを初回、3ヵ月後に皮下投与し、以降6ヵ月に1回の間隔で皮下投与する。製造販売承認取得日:2023年9月25日薬価基準収載日:2023年11月22日発売日:2023年11月22日薬価:44万3,548円(300mg 1.5mL/筒)――― なお、日本動脈硬化学会は2018年にPCSK9阻害薬の適正使用に関する声明文3)を出し、それに続いて、2021年には継続使用に関する指針4)も出している。

64.

乳がん死亡率とスタチン使用、コレステロール値の関係

 スタチン使用と乳がん死亡率との関連が報告されているが、コレステロール値が考慮されている研究はほとんどない。フィンランド・Tays Cancer CentreのMika O Murto氏らは、乳がん死亡率と血清コレステロール値およびスタチン使用との関連を調査するコホート研究を実施し、結果をJAMA Network Open誌2023年11月1日号に報告した。 本研究には、フィンランドで1995年1月1日~2013年12月31日に新たに浸潤性乳がんと診断され、ホルモン受容体についての情報と少なくとも1回のコレステロール測定値が記録されていた女性患者が含まれた。主要評価項目は、乳がん診断日から2015年12月31日までの乳がん死亡率と全死亡率であった。 主な結果は以下のとおり。・1万3,378例が参加し、年齢中央値は62歳(四分位範囲[IQR]:54~69)。・乳がん診断後の追跡期間中央値は4.5年(IQR:2.4~9.8)で、その間に患者の16.4%が死亡、7.0%が乳がんによる死亡だった。・乳がん診断前のスタチン使用は、総コレステロール値で調整後も乳がんによる死亡のリスク因子であった(ハザード比[HR]:1.22、95%信頼区間[CI]:1.02~1.46、p=0.03)。・乳がん診断後のスタチン使用は、乳がん死亡リスクを低下させた(HR:0.85、95%CI:0.73~1.00、p=0.05)。・スタチンの使用開始後にコレステロール値が低下した参加者では乳がん死亡リスクが低下したが(HR:0.49、95%CI:0.32~0.75、p=0.001)、コレステロール値が低下しなかった参加者では有意な乳がん死亡リスク低下はみられなかった(HR:0.69、95%CI:0.34~1.40、p=0.30)。・スタチン使用による乳がん死亡リスクの低下は、エストロゲン受容体陽性の腫瘍を有する参加者でみられた(HR:0.82、95%CI:0.68~0.99、p=0.03)。・総コレステロール値で調整後、乳がん診断後のスタチン使用者における全死亡リスクは非使用者と比べて低かった(HR:0.80、95%CI:0.72~0.88、p<0.001)。 著者らは、本研究により乳がん診断後のスタチン使用は乳がん死亡リスクの低下と関連し、乳がん死亡リスクは血清コレステロール値の変化と関連していることが示されたとし、スタチンによるコレステロール低下介入が乳がん患者にとって有益である可能性が示唆されたとしている。

65.

わが国初の脂質異常症siRNA製剤「レクビオ皮下注300mgシリンジ」【最新!DI情報】第4回

わが国初の脂質異常症siRNA製剤「レクビオ皮下注300mgシリンジ」今回は、持続型LDLコレステロール(LDL-C)低下siRNA製剤「インクリシランナトリウム注射剤(商品名:レクビオ皮下注300mgシリンジ、製造販売元:ノバルティス ファーマ)」を紹介します。本剤の投与間隔は初回、3ヵ後、以降6ヵ月に1回であるため、治療アドヒアランスの向上が期待されています。<効能・効果>本剤は、家族性高コレステロール血症および高コレステロール血症の適応で、2023年9月25日に製造販売承認を取得しました。本剤の使用は、心血管イベントの発現リスクが高い場合、HMG-CoA還元酵素阻害薬で効果不十分/不適の場合のいずれも満たす場合に限られます。<用法・用量>通常、成人にはインクリシランナトリウムとして1回300mgを初回、3ヵ月後、以降6ヵ月に1回の間隔で皮下投与します。なお、HMG-CoA還元酵素阻害薬による治療が適さない場合を除き、HMG-CoA還元酵素阻害薬と併用します。<安全性>海外第III相ORION-9、10、11試験における18ヵ月間の治療期間中の副作用の発現割合はそれぞれ24.1%(58/241例)、13.4%(105/781例)、15.2%(123/811例)でした。主な副作用は下記のとおりでした。ORION-9試験:注射部位紅斑3.7%(9/241例)、注射部位疼痛2.5%(6/241例)、注射部位そう痒感2.5%(6/241例)ORION-10試験:注射部位疼痛2.9%(23/781例)、糖尿病2.3%(18/781例)、注射部位反応1.7%(13/781例)ORION-11試験:注射部位反応2.2%(18/811例)、注射部位紅斑1.6%(13/811例)、糖尿病0.5%(4/804例)、注射部位疼痛1.0%(8/811例)<患者さんへの指導例>1.この薬は、これまでの治療で十分な血中LDL-Cの低下効果が得られなかった患者さんに使われます。2.初回、3ヵ月後、その後6ヵ月ごとに医療機関で皮下に投与し、LDL-Cの管理目標値を目指します。3.この薬による治療で医療費が高額になったときは、公的な支援を利用できる場合があります。<ここがポイント!>動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)を予防するためにはLDL-Cを適切に管理することが重要です。LDL-Cを低下させるには、第1選択薬であるスタチンをはじめ、複数の脂質低下療法で治療しますが、管理目標値まで低下させることが困難な患者が一定数存在します。本剤は、PCSK9 mRNAを標的とするsiRNA製剤です。PCSK9はLDL受容体に直接結合し、LDL受容体の分解を促進する働きがあります。本剤は肝臓内でPCSK9の機能を阻害することでLDL受容体の分解を抑制し、LDL-Cを効率よく細胞内に取り込んで血中濃度を低下させます。投与間隔が初回、3ヵ月後、以降6ヵ月に1回の注射薬であるため、治療アドヒアランスの向上が期待されます。日本人患者312例を対象とした国内第II相用量設定試験(ORION-15)において、主要評価項目である投与180日目のLDL-Cのベースラインからの変化率(最小二乗平均)はプラセボ群で9.0%、本剤300mg群で-56.3%であり、変化率の群間差は-65.3%(95%CI:-72.0~-58.6)で、プラセボ群と比較して有意にLDL-Cが低下しました(p<0.0001)。また、海外第III相試験(ORION-9、10、11試験)では、投与510日目のLDL-Cのベースラインからの変化率は、プラセボ群ではそれぞれ8.22%、0.96%、4.04%であった一方、本剤群では-39.67%、-51.28%、-45.82%であり、群間差は-47.89%、-52.24%、-49.85%で、プラセボ群と比較して有意にLDL-Cが低下しました。脂質異常症の治療には、食事療法とともに運動療法、禁煙、ほかの虚血性心疾患のリスクファクター(糖尿病、高血圧症など)の軽減も重要です。患者さんが積極的に取り組めているかどうかを適宜確認しましょう。

66.

増加する化学療法患者-機転の利いた専攻医の検査オーダー【見落とさない!がんの心毒性】第26回

※本症例は、患者さんのプライバシーに配慮し一部改変を加えております。あくまで臨床医学教育の普及を目的とした情報提供であり、すべての症例が類似の症状経過を示すわけではありません。《今回の症例》年齢・性別70代・女性(BMI:26.2)既往歴高血圧症、2型糖尿病(HbA1c:8.0%)、脂質異常症服用歴アジルサルタン、メトホルミン塩酸塩、ロスバスタチンカルシウム臨床経過進行食道がん(cT3r,N2,M0:StageIIIA)にて術前補助化学療法を1コース受けた。化学療法のレジメンはドセタキセル・シスプラチン・5-fluorouracil(DCF)である。なお、初診時のDダイマーは2.6μg/mLで、下肢静脈エコー検査と胸腹部骨盤部の造影CTでは静脈血栓症は認めていない。CTにて(誤嚥性)肺炎や食道がんの穿孔による縦隔炎の所見はなかった。2コース目のDCF療法の開始予定日の朝に37.8℃の微熱を認めた。以下が上部消化管内視鏡画像である。胸部進行食道がんを認める。画像を拡大する以下が当日朝の採血結果である(表)。(表)画像を拡大する【問題】この患者への抗がん剤投与の是非に関し、専攻医がオーダーしていたために病態を把握できた項目が存在した。それは何か?a.プロカルシトニンb.SARS-CoV-2のPCR検査c.Dダイマーd.βD-グルカンe.NT-proBNP筆者コメント本邦のガイドラインには1)、「がん薬物療法は、静脈血栓塞栓症の発症再発リスクを高めると考えられ、Wellsスコアなどの検査前臨床的確率の評価システムを起点とするVTE診断のアルゴリズムに除外診断としてDダイマーが組み込まれているものの、がん薬物療法に伴う凝固線溶系に関連するバイオマーカーに特化したものではない。がん薬物療法に伴う静脈血栓症の診療において、凝固線溶系バイオマーカーの有用性に関してはいくつかの報告があるものの、十分なエビデンスの集積はなく今後の検討課題である」と記されている。一方で、「がん患者は、初診時と入院もしくは化学療法開始・変更のたびにリスク因子、バイオマーカー(Dダイマーなど)などでVTEの評価を推奨する」というASCO Clinical Practice Giudeline Updateの推奨も存在する2)。静脈血栓症の症状として「発熱」は報告されており3)、欧米のデータでは、実際に肺塞栓症(PE)発症患者の14~68%で発熱を認め、発熱を伴う深部静脈血栓症(DVT)患者の30日死亡率は、発熱を伴わない患者の2倍になることも報告されている4)。このほか、可溶性フィブリンモノマー複合体定量検査値は、食道がん周術期においても中央値は正常値内を推移することが報告されており、その異常高値はmassiveな血栓症の指標になる可能性もある5)。がん関連血栓症の成因として、(1)患者関連因子、(2)がん関連因子、(3)治療関連因子が2022年のESC Guidelines on cardio-oncologyに記載された6)。今後一層のがん患者の生存率向上とともに、本症例のようなケースが増加すると思われる。1)日本臨床腫瘍学会・日本腫瘍循環器学会編. Onco-cardiologyガイドライン. 南江堂;2023. p.56-58.2)Key NS, et al. J Clin Oncol. 2023;41:3063-30713)Endo M, et al. Int J Surg Case Rep. 2022;92:106836. 4)Barba R, et al. J Thromb Thrombolysis. 2011;32:288–292.5)Tanaka Y, et al. Anticancer Res. 2019;39:2615-2625.6)Lyon AR, et al. Eur Heart J. 2022;43:4229-4361.講師紹介

67.

重症コロナ患者に対するスタチンとビタミンCの治療効果、対照的な結果に

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者を対象に、広く使用されている安価なスタチン系薬のシンバスタチンとビタミンCのそれぞれの有効性を調べた2件の臨床試験で、大きく異なる結果が示された。これらの試験は感染症の患者を対象とした進行中の国際共同研究「REMAP-CAP(Randomised, Embedded, Multi-factorial, Adaptive Platform Trial for Community-Acquired Pneumonia)」の一環で実施され、スタチン系薬に関する試験の詳細は「The New England Journal of Medicine(NEJM)」、ビタミンCに関する試験の詳細は「Journal of the American Medical Association(JAMA)」にいずれも10月25日掲載されるとともに、欧州集中治療医学会(ESICM 2023、10月21~25日、イタリア・ミラノ)でも発表された。 シンバスタチンの臨床試験には13カ国、141施設の病院からCOVID-19重症患者が参加し、最終的に2,684人のデータが解析された。その結果、シンバスタチンはCOVID-19重症患者の集中治療室(ICU)での臓器サポートを要する日数の短縮に95.9%の確率で寄与し、90日時点での生存率向上に91.9%の確率で寄与することが明らかになった。研究グループの計算によると、この結果は、同薬を投与した33人のうち1人の命が救われることに相当するという。 REMAP-CAPのシンバスタチンの試験を主導した英クィーンズ大学ベルファストのDanny McAuley氏は、米国での研究のスポンサーとなったGlobal Coalition for Adaptive Research(GCAR)のニュースリリースで、「この結果は、シンバスタチンによる治療がCOVID-19重症患者の転帰を改善する可能性が高いことを示しており、実に心強いものだ」とした上で、「この研究は、各国の医療専門家がCOVID-19患者に対する治療を向上させる上で助けとなるだろう」と述べている。 一方、COVID-19重症患者に対する高用量ビタミンCの有効性については、2件の臨床試験(LOVIT-COVIDとREMAP-CAP)を組み合わせて検討された。対象は、20カ国のCOVID-19による入院患者2,590人で、重症患者と非重症患者の双方が含まれていた。その結果、ビタミンCが臓器サポートを要する日数の短縮や生存に寄与する可能性は低いことが示された。 ビタミンCに関する試験の共同代表である、サニーブルック・ヘルスサイエンスセンター(カナダ)のNeill Adhikari氏は、「この結果は、COVID-19入院患者に対するビタミンCの使用は控えるべきことを示している」と述べている。また、本試験の別の共同代表である、シャーブルック大学(カナダ)のFrancois Lamontagne氏は、「現時点で利用可能な治療法のうち、患者にとって有益性がなく、かえって有害な影響を与え得る治療法を特定し、それを中止することには健康と経済の両面でメリットがある。今回の臨床試験の結果はその重要性を示したものだ」と述べている。 REMAP-CAPの米国の研究責任者で米ピッツバーグ医療センター(UPMC)集中治療医学部長のDerek Angus氏は、「REMAP-CAPから2つの結果が論文として同時に掲載されたことは、REMAP-CAPが複数の介入方法を効率的に評価できることの証しともいえる」と説明。「この恐ろしいパンデミックを通じて、われわれは治療に関するいくつかの大きな疑問に迅速に対処するための新しい方法を開拓し、今いる患者の治療に取り組み、将来、より機敏に対応するための準備をしてきた」と述べている。

68.

脂質低下療法の効果にストロングスタチン間の違いはあるのか?(解説:平山篤志氏)

 動脈硬化性疾患の2次予防にLDL-コレステロール(LCL-C)低下の重要性が明らかにされているが、ガイドラインにより、LDL-Cの管理目標値を達成するアプローチ(Treat to Target)と目標値を設定せず病態に応じたスタチンを投与するアプローチ(Fire and Forget)がある。韓国で行われたLODESTAR試験は、この2種のアプローチでOutcomeが異なるかを検討した試験で、すでに報告されたように管理目標値を達成できれば両者に優劣はなかった。本試験ではさらに、エントリーされた患者はTreat to Target群とFire and Forget群に分けられると同時に、2種のストロングスタチン、すなわちロスバスタチン群とアトルバスタチン群に割り付けられ、今回はスタチンの相違についての検討が報告された。 結果は、ロスバスタチン群でアトルバスタチン群に比し、0.1mmol(3.85mg/dL)の有意なLDL-Cの低下は認められたが、心血管イベントには両者で差がない結果であった。また、数多くの2次エンドポイントが設けられていたが、ロスバスタチン群で新規糖尿病と白内障の発症がアトルバスタチン群に比して有意に多いと報告されていた。スタチン使用と新規糖尿病の発症については2012年にFDAが警告を発して以来、投与に関しては注意が必要とされている。スタチンがグルコーストランスポーターのGULT4のダウンレギュレーションを来すことが一因とされており、これまでスタチンの強度、脂溶性・水溶性などの解析が行われてきたが、相違については結論が出されていない。今回の検討でも、全参加者の解析では新規糖尿病の発症や糖尿病治療薬の使用開始では確かにロスバスタチン群で有意に高いが、糖尿病の既往のない患者群では新規発症には有意差が示されなかった。したがって、この結果だけをもってロスバスタチンのほうが糖尿病を来すリスクが高いとはいえない。 これまでに報告されているように、スタチンによる糖尿病発症や悪化のリスクはあっても、心血管イベント抑制効果が上回ることから、スタチン使用に躊躇すべきではない。この論文のメッセージとしては、いずれのスタチンを用いても有効性と安全性には差がないというものである。論文のメッセージとしてのインパクトは大きくないが、韓国でこれほどの大規模試験が行われ結果を報告しているのに、なぜか日本ではRegistry研究は盛んだがRCT研究が少なくなっているように思われる。今後、わが国でRCTを行いやすくできる環境整備が必要なのであろう。

69.

善玉コレステロール値は高くても低くても認知症リスクと関連

 HDLコレステロール(HDL-C)は、心臓や脳の健康に良い「善玉コレステロール」と考えられているが、その値は高過ぎても低過ぎても認知症の発症リスクを高める可能性のあることが、新たな研究で示唆された。この研究論文の上席著者である米ボストン大学公衆衛生大学院のMaria Glymour氏は、「この研究は、非常に多くの参加者を長期間追跡したものであるため、得られた結果は極めて有益だ。われわれは、コレステロール値の非常に高い場合から非常に低い場合まで、あらゆる値と認知症の発症リスクとの関連を推定することができた」と話している。研究の詳細は、「Neurology」に10月4日掲載された。 この研究では、カイザー・パーマネンテ北カリフォルニアのヘルスプラン加入者を対象に、HDL-Cおよび「悪玉コレステロール」とされるLDLコレステロール(LDL-C)の値と認知症との関連が検討された。対象者は、2002年から2007年の間に健康行動に関する調査に回答し、調査時点では認知症のなかった55歳以上の18万4,367人(調査時の平均年齢69.5歳、平均HDL-C値53.7mg/dL、平均LDL-C値108mg/dL)で、2020年12月まで追跡された。対象者のコレステロール値は、調査後2年以内に検査室で平均2.5回測定されていた。なお、HDL-Cの基準値は、男性では40mg/dL以上、女性では50mg/dL以上とされている。 追跡期間中に2万5,214人が認知症を発症した。HDL-Cの値に基づき、対象者を5群に分類して認知症発症との関連を検討したところ、HDL-C値が最も高い(65mg/dL以上)群と最も低い(11〜41mg/dL)群では、中間値の群に比べて認知症の発症リスクがそれぞれ15%と7%高いことが明らかになった。これに対して、LDL-C値と認知症の発症との間に関連は認められなかった。ただし、コレステロール低下薬であるスタチン使用の有無で分けて検討すると、LDL-C高値の場合、スタチン使用者では認知症発症リスクがわずかに上昇していたが、スタチン非使用者では同リスクがわずかに低下していたという違いが認められた。 Glymour氏は、「HDL-C値が高い場合も低い場合も認知症の発症リスクと関連するというのは、予想外の結果だった。ただし、リスク上昇の程度はわずかであり、臨床的に意味があるかどうかは不明だ」と述べている。さらに同氏は、「これに対して、LDL-C値と認知症発症リスクとの間に関連は認められなかった。これらの結果は、HDL-Cが心疾患やがんと同様に認知症とも複雑に関連していることを示す、新たなエビデンスとなるものだ」と話す。 一方、米国神経学会(AAN)はこの研究に関するニュースリリースの中で、「HDL-C値の高低が実際に認知症の原因であることが証明されたわけではない」と述べ、慎重な解釈を求めている。

70.

CAD患者へのスタチン、種類による長期アウトカムの差は?/BMJ

 冠動脈疾患(CAD)成人患者においてロスバスタチンvs.アトルバスタチンは、3年時点の全死因死亡、心筋梗塞、脳卒中または冠動脈血行再建術の複合に関して有効性は同等であった。ロスバスタチンはアトルバスタチンと比較し、LDLコレステロール(LDL-C)値の低下に対して有効性が高かったが、糖尿病治療薬を必要とする糖尿病の新規発症および白内障手術のリスクが上昇した。韓国・延世大学校医科大学のYong-Joon Lee氏らが、韓国の病院12施設で実施した多施設共同無作為化非盲検試験「Low-Density Lipoprotein Cholesterol-Targeting Statin Therapy Versus Intensity-Based Statin Therapy in Patients With Coronary Artery Disease trial:LODESTAR試験」の2次解析結果を報告した。LDL-Cの低下作用はスタチンの種類によって異なり、冠動脈疾患患者におけるロスバスタチンとアトルバスタチンの長期的な有効性および安全性を直接比較した無作為化試験はほとんどなかった。BMJ誌2023年10月18日号掲載の報告。CAD患者4,400例をロスバスタチン群とアトルバスタチン群に無作為化 研究グループは2016年9月~2019年11月に、冠動脈疾患を有する19歳以上の患者4,400例を、2×2要因デザイン法を用いて、ロスバスタチン群(2,204例)またはアトルバスタチン群(2,196例)に無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、3年時点の全死因死亡・心筋梗塞・脳卒中・冠動脈血行再建術の複合で、副次アウトカムは安全性(糖尿病の新規発症、心不全による入院、深部静脈血栓症または肺塞栓症、末梢動脈疾患に対する血管内血行再建術、大動脈インターベンションまたは手術、末期腎不全、不耐容による試験薬の中止、白内障手術、および臨床検査値異常の複合)とした。3年時点の複合アウトカム、両群で同等 4,400例中4,341例(98.7%)が試験を完遂した。3年時点の試験薬の1日投与量(平均±SD)は、ロスバスタチン群17.1±5.2mg、アトルバスタチン群36.0±12.8mgであった(p<0.001)。 主要アウトカムの複合イベントは、ロスバスタチン群で189例(8.7%)、アトルバスタチン群で178例(8.2%)に確認され、ハザード比(HR)は1.06(95%信頼区間[CI]:0.86~1.30、p=0.58)であった。 投与期間中のLDLコレステロール値(平均±SD)は、ロスバスタチン群1.8±0.5mmol/L、アトルバスタチン群1.9±0.5mmol/Lであった(p<0.001)。 ロスバスタチン群はアトルバスタチン群と比較し、糖尿病治療薬の導入を要する糖尿病の新規発症率(7.2% vs.5.3%、HR:1.39[95%CI:1.03~1.87]、p=0.03)、ならびに白内障手術発生率(2.5% vs.1.5%、1.66[1.07~2.58]、p=0.02)が有意に高かった。その他の安全性エンドポイントは、両群で差は確認されなかった。

71.

CKDの腎と心血管疾患への悪影響はさらに広い範囲(解説:浦信行氏)

 JAMA誌において、2,750万人余りを対象としたメタ解析の結果、CKDの悪影響は従来報告されている全死因死亡、心血管死、腎代替療法を要する腎不全、脳卒中、心筋梗塞、心不全、急性腎障害にとどまらず、あらゆる入院、心房細動、末梢動脈疾患にまで及ぶことが報告された。結果の詳細はジャーナル四天王のニュース記事をご覧いただきたいが、本研究はそれ以外にもいくつかの重要な成績が示されている。 尿アルブミン/クレアチニン比(UACR)とeGFRをクレアチニンのみで評価したものと、クレアチニンとシスタチンCで評価したものの各々の有害事象のリスクを対比すると、全体の傾向はヒートマップ上では同様であるが、クレアチニンのみで評価したeGFRでの結果は少し感度が悪い印象を受ける。eGFR各階層での有害事象のハザード比を表した図3においても、確かにクレアチニンのみで評価したeGFRでのハザード比の変化の傾きは緩徐であり、各有害事象に対する感度が対比上は低いと考えられる。かつ、各有害事象のハザード比は、クレアチニンでのeGFRは90~105を底値としてU字型を描いている。シスタチンCを加えたものではこのような結果を示していない。これはおそらく高齢者主体のサルコペニア・フレイル症例のリスク上昇を表すものと考えられる。したがって、症例によってはシスタチンCによるeGFRの評価を加えることが必須である。 UACRは30未満が正常範囲であるが、10未満の正常と10~29の正常高値で比較すると、正常高値ですでにリスクが高くなっている。すなわち、正常と考えられる範囲でもすでに有害事象に対する認識を持つ必要があるのかもしれない。わが国では保険診療上、尿アルブミンの評価は糖尿病症例に限られ、それ以外は尿蛋白で評価しなければならない。尿蛋白は尿細管由来のものも含むので同様の評価が可能かは不明であるが、注目すべき結果と考える。

72.

eGFR低下とアルブミン尿、腎不全や心血管疾患と関連/JAMA

 CKD Prognosis Consortiumの114コホートからの個人データを対象としたメタ解析において、血清クレアチニン(Cr)値に基づく推定糸球体濾過量(eGFRcr)あるいは血清Cr値と血清シスタチンC値に基づくeGFR(eGFRcr-cys)の低下、および尿アルブミン/クレアチニン比(UACR)の上昇は、腎不全や心血管疾患、入院などを含む10の有害アウトカムの発生率上昇と関連していることが示された。米国・ニューヨーク大学のMorgan E. Grams氏らCKD Prognosis Consortiumの執筆グループが報告した。米国では成人の約14%が慢性腎臓病(CKD)(eGFR低下またはアルブミン尿)に罹患しているという。しかしながらeGFRの低さやアルブミン尿の重症度と有害アウトカムとの関連性については不明であった。JAMA誌2023年10月3日号掲載の報告。CKD Prognosis Consortiumのコホートから約2,750万人のデータをメタ解析 解析には、CKD Prognosis Consortiumの参加コホート(1980~2021年)から、2021 CKD Epidemiology Collaboration(CKD-EPI)式を用いたeGFRcrのデータがある114コホート2,750万3,140例、2021 CKD-EPI式によるeGFRcr-cysのデータがある20コホート72万736例、およびUACRのデータがある114コホート906万7,753例の個人データが集められ包含された。 有害アウトカムの発生は、米国の診療報酬請求データベースであるOptumLabs Data Warehouse(OLDW)のデータを用いた。 主要アウトカムは、全死因死亡、心血管死、腎代替療法を要する腎不全(慢性透析または腎移植)、あらゆる入院、脳卒中、心筋梗塞、心不全、急性腎障害、心房細動あるいは末梢動脈疾患とし、Cox比例ハザードモデルを用いて腎臓の測定値と有害アウトカムとの関連を各コホート内で解析し、ランダム効果メタ解析を用いて統合した。eGFRcrまたはeGFRcr-cys低値、UACR高値で、10の有害アウトカムのリスクが上昇 eGFRcr集団(平均[±SD]年齢54±17歳、女性51%、平均追跡期間4.8±3.3年)では、平均(±SD)eGFRは90±22mL/分/1.73m2、UACR中央値は11mg/g(四分位範囲[IQR]:8~16)であった。eGFRcr-cys集団(59±12歳、53%、10.8±4.1年)では、平均eGFRは88±22mL/分/1.73m2、UACR中央値は9mg/g(6~18)であった。 eGFR(eGFRcrまたはeGFRcr-cys)の低さとUACRの高さは、CKDの最も低い重症度分類に属するものを含め、10項目の有害アウトカムの各リスク上昇とそれぞれ有意に関連していた。たとえば、UACR 10mg/g未満の患者では、eGFRcr 45~59mL/分/1.73m2の場合、eGFR 90~104mL/分/1.73m2と比較し入院率が有意に高かった(補正後ハザード比:1.3、95%信頼区間[CI]:1.2~1.3、1,000人年当たりのイベント件数161件vs.79件、過剰絶対リスク:22件/1,000人年[95%CI:19~25])。 著者は研究の限界として、GFRのほかの推定式は包括的にテストされていないこと、組み込まれたコホート試験は異なる試験デザインやプロトコールを使用していることなどを挙げている。

73.

アントラサイクリン系薬剤による心機能障害をアトルバスタチンは抑制したがプラセボとの差はわずかであった(解説:原田和昌氏)

 近年、Onco-cardiologyが注目されており、がん化学療法に伴う心毒性を抑制できる薬剤の探索が行われている。動物実験や小規模なランダム化比較試験では、アントラサイクリン系薬剤による左室駆出率(LVEF)低下に対する、アトルバスタチンの抑制作用が報告されていたが、乳がんを中心としたPREVENT試験では効果を示せなかった(ドキソルビシン換算の中央値、240mg/m2)。 リンパ腫患者においてアトルバスタチン(40mg/日)の投与はプラセボと比較して、アントラサイクリン系薬剤に関連する心機能障害を有意に抑制し、心不全の発生には有意な差がないことが、二重盲検無作為化プラセボ対照臨床試験であるSTOP-CA試験で示された(同、300mg/m2)。主要評価項目はLVEFが化学療法前後で絶対値において10%以上低下し、12ヵ月後に55%未満となった患者の割合で、プラセボ群22%対アトルバスタチン群9%であった(p=0.002)。しかし、群全体としてのEF低下幅はスタチン群4.1%で、プラセボ群5.4%との差は1.3%のみであった(p=0.029)。 がん化学療法の心毒性に対する抑制効果のメタ解析では、スピロノラクトン、エナラプリルが最も有効で、スタチン、β遮断薬がこれに続いた。また、アントラサイクリン系薬剤もしくはトラスツズマブ治療を受けた患者のコホート研究では、ACE阻害薬、β遮断薬の治療にて全死亡が少なかった。さらに、アントラサイクリン系薬剤治療に関するメタ解析では、β遮断薬によって心不全の発症が有意に低下した。 スタチンによる心保護作用についてはさまざまな機序が推定されており、その意味で本試験の結果は納得のいくものである。そもそも、最近のメタ解析によるとスタチンにはHFrEF患者の入院の抑制作用も示されている。しかし、EF低下幅の差1.3%で有意差を出すことができたのは、ひとえに試験デザインの秀逸さによるものと考えられる。

74.

第183回 認知症を阻止するらしい神経細胞2種類を同定

認知症を阻止するらしい神経細胞2種類を同定アルツハイマー病(AD)の病変であるアミロイド蓄積がたとえあっても認知機能が維持されて認知症になりにくいことと関連する脳の神経細胞2種類が同定されました1,2)。それらの神経細胞が死なないようにする手段を新たな成果を頼りに開発できるかもしれません。ねばねばしたアミロイドタンパク質の脳での蓄積がADの病因と広く言われています。その蓄積がやがて垢のような塊になって神経を死なせ、ついには記憶や意識を損なわせるという考えです。しかし認知機能障害を被る高齢者の誰もが脳にアミロイド塊を有するというわけではありませんし、脳にアミロイドが蓄積していると必ずADが生じるというわけでもありません。それはなぜなのかを調べるべく米国・ピッツバーグ大学やマサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者らは数千人の高齢者の認知や振る舞いの推移を1994年から追っている試験・Religious Orders Study/Memory and Aging Project(ROSMAP)に目を向けました。AD病変や認知機能障害の程度がまちまちな死亡被験者427例の脳組織の前頭前皮質の細胞が活動遺伝子の配列を頼りに分類され、どこにどの細胞があるかを示す地図が作られました。その結果、認知機能全般がすこぶる良好な人に多く、逆に低下している人では乏しい細胞の集団2つが同定されました。その1つは統合失調症などの脳疾患と関連するタンパク質・リーリン(reelin)の遺伝子が発現している神経細胞、もう1つは体のあちこちの営みを調節するホルモン・ソマトスタチン(somatostatin)の遺伝子を発現する神経細胞です。認知機能が損なわれていない人ではADの特徴である脳のアミロイド大量蓄積があったとしてもそれらの神経細胞が脳に豊富に残っており、それらの細胞はAD発症を防ぐ役割をどうやら担うようです。ADの研究では電気信号を伝えて別の神経を活性化する興奮性神経細胞がもっぱら注目されてきました。しかし今回の研究で見つかった2種は興奮性神経とは正反対の抑制性神経です。抑制性神経は神経間の通信を止める働きを担います。少なくともいくらかの人のそれらリーリン/ソマトスタチン発現抑制性神経はAD病変によってとりわけ壊れやすいのではないかと研究者は考えています。今年の早くにNature Medicine誌に掲載されたリーリン遺伝子変異の報告3)はその考えを支持しています。リーリンの機能を底上げするその変異を有する男性は脳のアミロイド蓄積が半端なく大量にもかかわらず67歳になっても認知機能が正常でAD症状を示しませんでした。そういう先立つ成果があるのでリーリン発現神経に辿りついた今回の成果はそれほど驚くものではなく、一貫した成果が得られていることに安心していると研究者は言っています4)。これまでAD治療手段の開発といえば脳のアミロイド蓄積をどうにかする手段にもっぱら目が向けられていました。今回の結果はそうではなくADで壊れやすい脳細胞を守る手段を見つける取り組みを後押しするでしょう。個々の細胞の配列を読み取ってそれらの地図(atlas)を作った今回の成果は最新技術の賜物であるとカリフォルニアの研究所Sanford Burnham Prebys Medical Discovery Instituteの神経科学者Jerold Chun氏は言っています4)。AD患者は神経が発火しすぎて生じる発作を生じやすいことが知られますが、それは抑制性神経損失のせいかもしれないと同氏は想定しています。今回の研究で作られた脳細胞の地図はどの研究者も使えるように公開5)されており、それを出発点にして研究の裾野が一層広まるでしょう。参考1)Mathys H, et al. Cell. 2023;186:4365-4385.2)Decoding the complexity of Alzheimer’s disease / Massachusetts Institute of Technology3)Lopera R, et al. Nat Med. 2023;29:1243-1252.4)The brain cells linked to protection against dementia / Nature5)Single-cell transcriptomic atlas of the aged human prefrontal cortex

75.

脳出血後のスタチン使用は脳梗塞リスクを低下させる

 脳出血(intracerebral hemorrhage;ICH)後にコレステロール低下薬であるスタチン系薬剤(以下、スタチン)を服用すると、その後の虚血性脳卒中(脳梗塞)リスクが低下する可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。南デンマーク大学のDavid Gaist氏らによるこの研究の詳細は、「Neurology」に8月30日掲載された。 脳卒中は、脳内の出血により引き起こされるもの(くも膜下出血、ICH)と、脳への血流の遮断により引き起こされる脳梗塞に大別され、発生件数は脳梗塞の方が圧倒的に多い。Gaist氏は、今回の研究背景について、「過去の研究では、ICHの既往歴を有するスタチン使用者での脳卒中発症リスクについて、一致した結論が得られていない」と指摘。「われわれは、ICH後のスタチンの使用が、その後のICHや脳梗塞の発症リスクと関連するのかどうかを検討した」と説明している。 Gaist氏らは、デンマークの脳卒中レジストリを用いて、2003年1月から2021年12月の間に初発のICHにより入院し、その後30日を超えて生存した50歳以上の患者1万5,151人を特定。これらの患者を、脳卒中の再発、死亡、または追跡終了(2022年8月)に到達のいずれかが起きるまで平均3.3年にわたって追跡した上で、3つのコホート内症例対照研究を実施し、スタチンの使用と脳卒中(あらゆる脳卒中、脳梗塞、ICH)リスクとの関連を検討した。患者のスタチンの使用状況は、処方データを用いて調べた。 まず、あらゆる脳卒中を再発した1,959人(平均年齢72.6歳、女性45.3%)と年齢や性別などを一致させた、脳卒中を再発していない対照7,400人の比較を行った。脳卒中群では757人(38.6%)、対照群では3,044人(41.1%)がスタチンを使用していた。高血圧や糖尿病、飲酒などの関連因子で調整して解析した結果、スタチンの使用により、あらゆる脳卒中の再発リスクが12%低下することが示された(オッズ比0.88、95%信頼区間0.78〜0.99)。 次に、脳梗塞を発症した1,073人(平均年齢72.4歳、女性42.0%)と脳卒中を再発していない対照4,035人の比較を行った。脳梗塞群では427人(39.8%)、対照群では1,687人(41.8%)がスタチンを使用していた。関連因子で調整して解析した結果、スタチンの使用により、脳梗塞の発症リスクが21%低下することが示された(オッズ比0.79、95%信頼区間0.67〜0.92)。 最後に、ICHを再発した984人(平均年齢72.4歳、女性42.0%)と脳卒中を再発していない対照3,755人の比較を行った。ICH群では385人(39.1%)、対照群では1,532人(40.8%)がスタチンを使用していた。関連因子で調整して解析した結果、スタチンの使用と、ICH再発との間に有意な関連は認められなかった(オッズ比1.05、95%信頼区間0.88〜1.24)。 Gaist氏は、「この研究結果は、ICHの発症後にスタチンを使用している人にとっては朗報だ」と述べる。同氏は、「スタチンを使用することで、脳卒中リスクが低下することは確認されたが、その効果は、主に脳梗塞の発症に対してであったことには留意する必要がある。ただ、ICHの再発リスクについても、増加が認められたわけではない。この結果を、さらなる研究で検証する必要がある」と話している。 研究グループは、本研究の対象者がデンマーク人のみであったことに言及し、得られた知見はその他の国の人には該当しない可能性のあることも指摘している。

76.

スタチンC/クレアチニン比で骨粗鬆症性骨折のリスクを予測可能

 腎機能の指標であるシスタチンCとクレアチニンの比が、骨粗鬆症性骨折の発生リスクの予測にも利用可能とする研究結果が報告された。吉井クリニック(高知県)の吉井一郎氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of General and Family Medicine」に4月20日掲載された。 骨粗鬆症による骨折は、生活の質(QOL)を大きく低下させ、生命予後を悪化させることも少なくない。骨粗鬆症による骨折のリスク因子として、高齢、女性、喫煙、飲酒、糖尿病などの生活習慣病、ステロイドの長期使用などが知られているが、近年、新たなリスクマーカーとして、シスタチンCとクレアチニンの比(CysC/Cr)が注目されつつある。 シスタチンCとクレアチニンはいずれも腎機能の評価指標。これらのうち、クレアチニンは骨格筋量の低下とともに低値となるために腎機能低下がマスクされやすいのに対して、シスタチンCは骨格筋量変動の影響を受けない。そのため骨格筋量が低下するとCysC/Crが上昇する。このことからCysC/Crはサルコペニアのマーカーとしての有用性が示されており、さらに続発性骨粗鬆症を来しやすい糖尿病患者の骨折リスクも予測できる可能性が報告されている。ただし、糖尿病の有無にかかわらずCysC/Crが骨折のリスクマーカーとなり得るのかは不明。吉井氏らはこの点について、後方視的コホート研究により検討した。 解析対象は、2010年11月~2015年12月の同院の患者のうち、年齢が女性は65歳以上、男性は70歳以上、ステロイド長期投与患者は50歳以上であり、腰椎と大腿骨頸部の骨密度およびシスタチンCとクレアチニンが測定されていて、長期間の追跡が可能であった175人(平均年齢70.2±14.6歳、女性78.3%)。追跡中の死亡、心血管疾患や肺炎などにより入院を要した患者、慢性腎臓病(CKD)ステージ3b以上の患者は除外されている。 平均52.9±16.9カ月の追跡で28人に、主要骨粗鬆症性骨折〔MOF(椎体骨折、大腿骨近位部骨折、上腕骨近位部骨折、橈骨遠位端骨折で定義)〕が発生していた。MOF発生までの平均期間は15.8±12.3カ月だった。 単変量解析から、MOFの発生に関連のある因子として、MOFの既往、易転倒性(歩行障害、下肢の関節の変形、パーキンソニズムなど)、生活習慣病(2型糖尿病、高血圧、脂質異常症、心不全、COPD、不眠症など)、ステージ3a以上のCKDとともに、CysC/Cr高値が抽出された。年齢や性別、BMI、骨密度、飲酒・喫煙習慣、骨粗鬆症治療薬・ビタミンD・ステロイドの処方、ポリファーマシー、関節リウマチ、認知症などは、MOF発生と有意な関連がなかった。 多変量解析で有意性が認められたのは、易転倒性と生活習慣病の2項目のみだった。ただし、単変量解析で有意な因子についてROC解析に基づく曲線下面積(AUC)を検討したところ、全ての因子がMOFの有意な予測能を有することが確認された。例えば、易転倒性ありの場合のAUCは0.703(P<0.001)、生活習慣病を有する場合は0.626(P<0.01)であり、CysC/Crは1.345をカットオフ値とした場合に0.614(P<0.01)だった。また、カプランマイヤー法によるハザード比はCysC/Crが6.32(95%信頼区間2.87~13.92)と最も高値であり、易転倒性が4.83(同2.16~10.21)、MOFの既往4.81(2.08~9.39)、生活習慣病3.60(1.67~7.73)、CKD2.56(1.06~6.20)と続いた。 著者らは、本研究が単施設の比較的小規模なデータに基づく解析であること、シスタチンCに影響を及ぼす悪性腫瘍の存在を考慮していないことなどの限界点を挙げた上で、「CysC/Crが1.345を上回る場合、MOFリスクが6倍以上高くなる。CysC/CrをMOFリスクのスクリーニングに利用できるのではないか」と結論付けている。

77.

心血管疾患や死亡のリスクの低さと関連のある6種類の食品

 世界80カ国の人々の食事関連データを解析した研究から、野菜、果物、魚などの摂取量が多いほど、全死亡(あらゆる原因による死亡)や心筋梗塞・脳卒中などの心血管疾患(CVD)発症のリスクが低いことが明らかになった。マクマスター大学(カナダ)のSalim Yusuf氏らの研究によるもので、詳細は「European Heart Journal」に7月6日掲載された。 この研究ではまず、21カ国の35~70歳の一般住民16万6,762人が参加し現在も進行中の大規模疫学研究「PURE研究」のデータを用いて、新たな食事スコアを開発。そのスコアを、5件の疫学研究(80カ国、24万4,597人)に適用し、全死亡およびCVDリスクとの関連が検討された。なお、論文の上席著者であるYusuf氏によると、「これまでにも地中海食スコアなどを用いた同様の検討が行われているが、それらのスコアは主に欧米の高所得国のデータを基に作られたものである」という。それに対してPURE研究は、「低・中・高所得国が含まれていることが特徴だ」としている。 新たに開発された食事スコアは、野菜、果物、ナッツ、豆類、魚、乳製品という6種類の食品について、対象全体の摂取量の中央値以下の場合は「0」、中央値より多い場合は「1」として、合計6点のスコアで評価するというもの。PURE研究の参加者の平均は2.95±1.50点であり、国民1人当たり所得と正相関していた(傾向性P<0.0001)。 PURE研究では、中央値9.3年(四分位範囲7.5~10.8)の追跡で全死亡1万76件、CVDイベント8,201件が記録されていた。食事スコアと全死亡およびCVDリスクとの関連の解析に際しては、交絡因子〔年齢、性別、喫煙・運動習慣、摂取エネルギー量、ウエスト・ヒップ比、糖尿病、教育歴、経済状態、スタチン・降圧薬の使用、居住環境(都市部か否か)など〕の影響を統計学的に取り除いた。その結果、スコアが1点以下の群(17.6%が該当)と比較して5点以上の群(17.0%が該当)は、全死亡〔ハザード比(HR)0.70(95%信頼区間0.63~0.77)〕、CVD〔HR0.82(同0.75~0.91)〕ともに有意に低リスクだった。 PURE研究とは別の血管障害を有する患者を対象とする3件の研究、および2件の症例対照研究のデータを用いた解析からも、同様の結果が示された。 また、PURE研究を通じて、以下のような健康的な食事パターンが明らかになった。それは、スコアが5点以上の人が摂取しているものであり、野菜と果物は毎日それぞれ2~3食分(サービング)摂取し、そのほかに1週間で豆類を3~4サービング、ナッツを7サービング、魚を2~3サービング、乳製品を14サービング摂取するというもの。ただしYusuf氏によると、これら以外にも「精製されていない全粒穀物や未加工の肉であれば、適量の範囲内である限り、健康上のメリットは変わらない」としており、それぞれ1日に1サービング程度はほかの食品と置き換えてもよいという。 なお、世界保健機関(WHO)によると、2019年には世界中で約1800万人がCVDにより死亡しており、これは全死亡者数の約32%に相当する。またCVD死の約85%は、心筋梗塞と脳卒中によるものだった。

78.

ASCVDリスク評価、タンパク質リスクスコアが有望/JAMA

 アテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)のリスク評価において、プロテオミクスに基づくタンパク質リスクスコア(protein risk score)は、1次および2次予防集団の双方で優れた予測能を示し、1次予防集団で臨床的リスク因子にタンパク質リスクスコアと多遺伝子リスクスコアを加えると、統計学的に有意ではあるもののわずかな改善が得られたことが、アイスランド・deCODE genetics/AmgenのHannes Helgason氏らの検討で示された。研究の成果は、JAMA誌2023年8月22・29日合併号に掲載された。3つのリスク評価法を比較するアイスランドの研究 研究グループは、1次および2次予防集団において、ASCVDのリスクを予測するタンパク質リスクスコアを開発し、臨床的リスク因子モデルおよび多遺伝子リスクスコアと比較した。 主解析は1次予防集団の後ろ向き研究であり、募集時にプロテオミクスのデータを有し、主要なASCVDイベント既往のない年齢40~75歳のアイスランド居住者1万3,540人を対象とした。募集期間は2000年8月23日~2006年10月26日で、2018年まで追跡調査を行った。 2次予防集団の解析では、スタチン治療を受けている安定期のASCVD患者を対象とした二重盲検無作為化試験(FOURIER試験、2013~16年)の参加者で、プロテオミクスのデータを有する6,791人を対象に含めた。 4,963人の血漿タンパク質の値に基づき、1次予防集団の訓練セットを用いてタンパク質リスクスコアを開発し、冠動脈疾患と脳卒中の多遺伝子リスクスコア、および血漿採取時の年齢、性別、スタチン使用、高血圧治療、2型糖尿病、BMI、喫煙状況などを含む臨床的リスク因子のモデルと比較した。 主要アウトカムは、心筋梗塞、脳卒中、冠動脈性心疾患死、心血管死の複合とした。Cox生存モデルと、非ASCVD死の競合リスクを考慮した判別および再分類の指標(C index)を用いて、3つのリスク評価法の性能を解析した。アフリカ/アジア系の2次予防で、MACEと有意な関連 1次予防集団のテストセット(白人4,018人[女性59.0%]、イベント発生数465件、追跡期間中央値15.8年)では、タンパク質リスクスコアの1標準偏差(SD)当たりのハザード比(HR)は1.93(95%信頼区間[CI]:1.75~2.13)であった。 また、臨床的リスク因子モデルに、タンパク質リスクスコアと多遺伝子リスクスコアを加えると、C indexが有意に上昇した(C indexの変化量:0.022、95%CI:0.007~0.038)。臨床的リスク因子モデルに、タンパク質リスクスコアのみを追加した場合も、C indexの有意な上昇を認めた(群間差:0.014、95%CI:0.002~0.028)。 2次予防集団(白人6,307人、イベント発生数432件、追跡期間中央値2.2年)では、タンパク質リスクスコアの1SD当たりのHRは1.62(95%CI:1.48~1.79)であり、臨床的リスク因子モデルにタンパク質リスクスコアを加えた場合、C indexが有意に上昇した(C indexの変化量:0.026、95%CI:0.011~0.042)。 また、2次予防集団のアフリカ系およびアジア系の人種では、タンパク質リスクスコアが主要有害心血管イベント(MACE:心筋梗塞、脳卒中、心血管死の複合)と有意な関連を示した(アフリカ系の1SD当たりのHR:1.82、p=0.001、アジア系の同HR:1.82、p=0.008)。 著者は、「タンパク質リスクスコアと多遺伝子リスクスコアが、スクリーニングを目的とした場合に臨床的に有用かを明らかにするために、さらなる検討を要する」としている。

79.

スタチン開始後の効果、高齢者では大きい!?

 高齢になってからスタチンの使用を開始した患者では、若いときにスタチンの使用を開始した患者と比べて、同薬により得られるLDLコレステロール(LDL-C)の低減効果が大きい可能性のあることが、約8万3,000人のデンマーク人患者のデータ解析から明らかになった。デンマーク国立血清研究所のMarie Lund氏らによる研究で、詳細は、「Annals of Internal Medicine」に8月1日掲載された。Lund氏は、「スタチンによる治療が必要な高齢患者は、同薬による副作用のリスクを最小限に抑えるために、低強度のスタチンから開始すると良いのではないか」との見解を示している。 スタチンは安全な薬と考えられているが、一部の人に筋肉痛や血糖値の上昇などの問題を引き起こすことがある。副作用が生じる可能性は通常、スタチンの強度が高まるほど上昇し、また、高齢者では若い人よりも副作用が起きやすい。そのため、高齢患者にとっては、低強度のスタチンで治療を開始することが「好ましい選択肢」になり得るとLund氏は言う。ただし、その際には、高齢者の健康状態や、その後の心筋梗塞や脳卒中のリスク低減の必要性といった問題を考慮する必要があることも付け加えている。 スタチンは世界的に最も広く使用されている薬剤の一つだ。同薬の使用が広がった背景には、同薬が「悪玉コレステロール」とも呼ばれるLDL-C値を低下させ、心筋梗塞や脳卒中の予防に役立つことが複数の臨床試験で示されていることがある。しかし、一般的に、臨床試験の対象者に70歳以上の患者はほとんど含まれていないため、高齢者に対するスタチン使用の指針につながるエビデンスは少ない。 米ニューヨーク大学(NYU)ランゴン・ヘルス、心血管疾患予防センターのHoward Weintraub氏によると、現行の治療ガイドラインにおいては、脳卒中や心筋梗塞の既往がある高齢者ではLDL-C値を大幅に低下させることが推奨されている。一方、心筋梗塞や脳卒中の初発予防に関しては異なった推奨が示されており、スタチンの使用に関する意思決定は全般的により個別化されたものとなっている。これは、年齢だけでスタチンの開始用量を決めるべきではないことを意味している。 今回の研究はデンマークの国民登録データを用いたもので、2008~2018年にシンバスタチン(米国での商品名ゾコール、日本での商品名リポバス)、またはアトルバスタチン(商品名リピトール)が新たに処方された8万2,958人のデンマーク人患者を対象に解析が行われた。 その結果、75歳以上の患者(1万388人)では、50歳未満の患者と比べて低~中強度のスタチンの使用を開始した後のLDL-C値の低下度が大きいことが示された。例えば、LDL-C値の平均低下率は、シンバスタチン20mgの使用を開始した人では、75歳以上で39.0%、50歳未満で33.8%、アトルバスタチン20mgの使用を開始した人では、75歳以上で44.2%、50歳未満で40.2%だった。 また、年齢やスタチンの用量などを考慮して解析したところ、50歳で低~中強度のスタチンの使用を開始した患者と比べて、75歳で開始した患者ではLDL-C値の低下度が2.62%ポイント大きかった。一方、高強度のスタチン(アトルバスタチン40mgまたは80mg)の使用を開始した人では、その差はより小さかった(アトルバスタチン40mgで1.36%ポイント、80mgで−0.58%ポイント)。 Weintraub氏は今回の研究について、高齢患者の方が若い患者よりもスタチンの使用開始後の効果が大きい可能性があることを示した点で「有益な情報」だと話す。ただし、高齢患者とより若い患者との間に認められた効果の平均差は小さいものであったと付け加えている。また、「スタチンによって高齢患者の心筋梗塞や脳卒中、死亡のリスクはどの程度低下するのか」という、より大きな疑問については答えが示されていないことも指摘。「この研究結果を受けて現行の治療法が変わるとは思えない」と話している。 Lund氏も今回の研究では、「心血管疾患のリスク低減効果について直接的な評価は行われていない」と述べている。また、スタチンの使用を開始して間もない患者のみを対象とした研究であるため、得られた結果が長年スタチンを使用している高齢患者には当てはまらないことも強調している。

80.

悪性リンパ腫のアントラサイクリンによる心機能障害、アトルバスタチンが抑制/JAMA

 アントラサイクリン系薬剤による治療が予定されているリンパ腫患者において、アトルバスタチンの投与はプラセボと比較して、アントラサイクリン系薬剤関連の心機能障害を有意に抑制し、心不全の発生には有意な差がないことが、米国・マサチューセッツ総合病院のTomas G. Neilan氏らが実施した「STOP-CA試験」で示された。研究の成果は、JAMA誌2023年8月8日号で報告された。北米9施設の無作為化プラセボ対照臨床試験 STOP-CA試験は、米国とカナダの9つの施設が参加した二重盲検無作為化プラセボ対照臨床試験であり、2017年1月~2021年9月の期間に患者を登録し、2022年10月に追跡調査を終了した(米国国立心肺血液研究所[NHLBI]の助成を受けた)。 年齢18歳以上の新規に診断されたリンパ腫で、アントラサイクリン系薬剤ベースの化学療法が予定されている患者を、化学療法の施行前にアトルバスタチン(40mg/日)またはプラセボの経口投与を開始し12ヵ月間投与する群に無作為に割り付けた。 主要評価項目は、左室駆出率(LVEF)が化学療法前の値から絶対値で10%以上低下し、12ヵ月後の最終値が55%未満となった患者の割合であった。副次評価項目は、LVEFが5%以上低下し、最終値が55%未満の患者の割合とした。 300例(平均年齢50[SD 17]歳、女性142例[47%])を登録し286例(95%)が試験を完遂した。アトルバスタチン群に150例、プラセボ群にも150例を割り付けた。ベースラインの全体の平均LVEFは63(SD 4.6)%で、追跡期間中の平均LVEFは58(SD 5.7)%であり、12ヵ月で5%低下した。また、試験薬のアドヒアランスは91%だった。重篤な有害事象の発生率は低い 12ヵ月時に、LVEFが化学療法前の値から10%以上低下し、最終値が55%未満となった患者は、全体で46例(15%)であった。主要評価項目の発生率は、プラセボ群が22%(33/150例)であったのに対し、アトルバスタチン群は9%(13/150例)と有意に低かった(p=0.002)。主要評価項目発生のオッズ(OR)はプラセボ群で約3倍高かった(OR:2.9、95%信頼区間[CI]:1.4~6.4)。 また、副次評価項目の発生率も、アトルバスタチン群で有意に低かった(13% vs.29%、p=0.001)。 24ヵ月の追跡期間中に13例(4%)で心不全イベントが発生した(主要評価項目を満たしたのは11例)。このうちアトルバスタチン群は4例(3%)、プラセボ群は9例(6%)であり、両群間に有意な差を認めなかった(p=0.26)。 12ヵ月の時点で8例(各群4例ずつ)が死亡した。筋肉痛は49例(アトルバスタチン群28例[19%]、プラセボ群21例[14%]、p=0.35)で報告されたが、筋炎(クレアチンキナーゼ値上昇)は認めなかった。ASTおよびALT値上昇が51例(17%)でみられ、このうち2例(各群1例ずつ)がGrade4だった。腎不全が6例(2%、2例 vs.4例)で発現した。重篤な有害事象の発生率は低く、両群で同程度だった。 著者は、「全コホートの比較では、12ヵ月時のLVEFの群間差は1.3%とわずかであったことから、アントラサイクリン系薬剤の投与を受けた患者の中にはアトルバスタチンの有益性がほとんどない患者が含まれると示唆された。一方、アトルバスタチンは、アントラサイクリン系薬剤による心収縮機能障害のリスクが高度な患者で高い有益性を持つと考えられる」とし、「本試験の知見は、アントラサイクリン系薬剤による心機能障害のリスクが高いリンパ腫患者におけるアトルバスタチンの使用を支持する可能性がある」としている。

検索結果 合計:629件 表示位置:61 - 80