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脳卒中既往のある心不全患者の心血管リスク、HFrEFとHFpEFで検討

 左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)と左室駆出率が保たれた心不全(HFpEF)の患者における脳卒中既往と心血管イベント(心血管死/心不全入院/脳卒中/心筋梗塞)発生率を調べたところ、左室駆出率にかかわらず、脳卒中既往のある患者はない患者に比べて心血管イベントリスクが高いことが示された。英国・グラスゴー大学のMingming Yang氏らが、European Heart Journal誌オンライン版2023年6月26日号で報告。 本研究は、HFrEFとHFpEFの患者が登録されていた7つの臨床試験のメタ解析である。 主な結果は以下のとおり。・脳卒中既往があったのは、HFrEF患者2万159例中1,683例(8.3%)、HFpEF患者1万3,252例中1,287例(9.7%)であった。・左室駆出率に関係なく、脳卒中既往のある患者は血管合併症が多く、心不全も悪化していた。・HFrEF患者では、心血管死/心不全入院/脳卒中/心筋梗塞の複合アウトカム発生率は、脳卒中既往ありで100人年当たり18.23(95%信頼区間[CI]:16.81~19.77)に対し、既往なしで13.12(95%CI:12.77~13.48)であった(ハザード比[HR]:1.37、95%CI:1.26~1.49、p<0.001)。・HFpEF患者では、複合アウトカム発生率は、脳卒中既往ありで100人年当たり14.16(95%CI:12.96~15.48)に対し、既往なしで9.37(95%CI:9.06~9.70)であった(HR:1.49、95%CI:1.36~1.64、p<0.001)。・脳卒中既往ありの患者では、複合アウトカムの各項目の頻度が高く、またその後の脳卒中リスクは2倍だった。・脳卒中既往ありの患者は、心房細動患者の30%が抗凝固療法を受けておらず、動脈疾患患者の29%がスタチンを服用していなかった。また、HFrEF患者の17%、HFpEF患者の38%が収縮期血圧をコントロールされていなかった(140mmHg以上)。 著者らは、「脳卒中既往のある心不全患者は心血管イベントリスクが高く、ガイドライン推奨の治療を行っていない患者をターゲットにすることが、この高リスク集団の予後を改善する方法かもしれない」と考察している。

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菜食に変えると血清脂質値が良好になる―RCT30件のメタ解析

 無作為化比較試験(RCT)の報告を対象とするメタ解析から、食事を菜食(ベジタリアン食やビーガン食)に変えると、血清脂質値が有意に低下することが分かった。コペンハーゲン大学(デンマーク)のRuth Frikke-Schmidt氏らの研究の結果であり、詳細は「European Heart Journal」に5月24日掲載された。 この研究では、文献データベース(PubMed、Embase)を用いて、1980年~2022年10月に発表された、18歳以上の成人を対象に食習慣を菜食に変更するという介入を行っていたRCTを検索。抽出された30件の研究を統合して、菜食群と一般的な食事(雑食)を続けた群との血清脂質値の差異を検討した。 研究参加者は合計2,372人で、介入期間は10日~5年の範囲であり平均29週だった。メタ解析の結果、菜食群は雑食群に比べてLDL(悪玉)コレステロールが-11.6mg/dL(95%信頼区間-15.5~-7.3)、総コレステロールが-13.1mg/dL(同-17.0~-8.9)、それぞれ有意に低いという群間差が生じていたことが明らかになった。また、コレステロールなどを運搬するタンパク質であるアポリポ蛋白のうちのApoBの濃度には、-12.92mg/dL(-22.63~-3.20)の有意な差が生じていた。 菜食に変更した群の血清脂質の変化率を見ると、LDL-コレステロールは10%、総コレステロールは7%、ApoBは14%低下していた。これらの結果は、研究参加者の年齢や研究が実施された場所(大陸)、介入期間、健康状態(肥満の有無など)にかかわらず、同様に認められた。なお、中性脂肪レベルについては、有意差が観察されなかった。 Frikke-Schmidt氏は、「この研究から得られた重要なポイントは、年齢やBMIなどが異なる全てのサブグループで同じ結果が得られたことだ。もし、人々が幼い頃から食事をベジタリアン食またはビーガン食にしたとしたら、動脈硬化によって引き起こされる心血管疾患のリスクを大幅に軽減できる可能性がある」と話している。同氏らによると、世界中で毎年1800万人以上が心臓病で死亡しており、心臓病が世界の人々の主要な死因となっているという。 さらにFrikke-Schmidt氏らは、「人々が菜食に移行することで、気候変動を食い止めることができるかもしれない。最近発表されたシステマティックレビューでは、高所得国の国民が菜食中心の食生活に変更した場合に、温室効果ガスの排出量を35~49%削減できることが示されている」と語っている。ただ、血清脂質値を下げるという点に焦点を当てた場合、脂質低下薬のスタチンの効果の方が菜食よりも優れているという。とはいえ、菜食とスタチンは互いに相反する関係にあるわけでなく、「両者を組み合わせると相乗効果が生じて、さらに大きなメリットを得られる可能性が高い」としている。 一方、本研究の限界点としては、菜食とともに健康的な食生活として位置付けられている、魚介類の豊富な地中海食による血清脂質値の変化を評価できなかった点が挙げられるという。同氏によると、「地中海食による介入を行い雑食と比較した研究の報告が、検索されなかった」とのことだ。それでも同氏は、「地中海食は魚介類とともに植物性食品が豊富であり、その有益性は十分に確立されている」と解説している。

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LDL-Cが高い人ほど心筋梗塞の予後良好!? 

 低比重リポ蛋白コレステロール(LDL-C)高値であると、冠動脈疾患(CVD)の発症や死亡のリスクが高いことが知られている。しかし、急性冠症候群患者のLDL-C低値が死亡リスクを上昇させることを示唆する観察研究の結果が複数報告されており1-4)、「LDL-Cパラドックス」と呼ばれている。そこで、スウェーデン・ウプサラ大学のJessica Schubert氏らの研究グループは、初発の心筋梗塞で入院した患者のうち、スタチン未使用であった6万3,168例を対象としたデータベース研究を実施した。その結果、LDL-C高値の患者は死亡リスクが低く、非心血管疾患による入院リスクも低かった。本研究結果は、Journal of Internal Medicine誌オンライン版2023年5月31日号に掲載された。LDL-C値が低い群ほど心筋梗塞入院後の死亡率が高かった 研究グループは、心筋梗塞疑いで専門施設に入院した患者を登録したスウェーデンのデータベース(SWEDEHEART)を用いて、2006年1月~2016年12月に初発の心筋梗塞で入院した18歳以上の患者のうち、スタチン未使用であった6万3,168例を対象とした観察研究を実施した。対象患者は、ベースライン時のLDL-C値(mmol/L)で四分位に分類された(Q1:2.4以下、Q2:2.4超~3.0、Q3:3.0超~3.6、Q4:3.6超)。主要評価項目は全死亡率、非致死的心筋梗塞の再発率であった。LDL-Cとは無関係とされる非心血管疾患(肺炎、大腿骨近位部骨折、慢性閉塞性肺疾患[COPD]、新規がん診断)による入院についても検討した。LDL-C値と転帰の関連はCox比例ハザードモデルを用いて評価した。 心筋梗塞で入院した患者のLDL-C値についての観察研究の主な結果は以下のとおり。・心筋梗塞で入院した対象患者のベースライン時の年齢中央値は66歳、LDL-C中央値は3.0mmol/L(約116.1mg/dL)であり、LDL-C値が低いほど患者の年齢と併存疾患が増加した。・追跡期間(中央値:4.5年)中に1万236例が死亡し、4,973例に非致死的心筋梗塞の再発が認められた。・全死亡率(/1000人年)は、ベースライン時のLDL-C値が低い群ほど高く(Q1:56、Q2:35、Q3:26、Q4:20)、ベースライン時のLDL-C値が最も高い(Q4)群は最も低い(Q1)群と比較して、全死亡リスクが低かった(ハザード比[HR]:0.75、95%信頼区間[CI]:0.71~0.80)。・一方、ベースライン時のLDL-C値が最も高い(Q4)群は最も低い(Q1)群と比較して、非致死的心筋梗塞の再発リスクが高かった(HR:1.16、95%CI:1.07~1.26)。・ベースライン時のLDL-C値が最も高い(Q4)群は最も低い(Q1)群と比較して、肺炎、大腿骨近位部骨折、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、新規がん診断による入院のリスクがいずれも低かった(それぞれ、HR[95%CI]:0.54[0.46~0.62]、0.69[0.55~0.87]、0.40[0.31~0.50]、0.81[0.71~0.93])。・退院時にスタチンを使用していなかった患者の50%が追跡終了前に死亡した。全死亡患者の47%は、死亡前6ヵ月間にスタチンが処方されていなかった。・ベースライン時のLDL-C値が中央値以下の集団において、退院後6~10週後のLDL-C値の変化量で四分位に分類した結果、最もLDL-C値が低下した群において、全死亡率と致死的心筋梗塞の再発率が低かった。 本研究結果について、著者らは「LDL-C低値にもかかわらず心筋梗塞を発症した患者には、動脈硬化性CVDを促進するほかの要因が存在することが示唆される。これは、心筋梗塞発症時のLDL-C値にかかわらず、脂質低下療法を継続することの重要性を強調するものである。とくに心筋梗塞発症時にLDL-C低値で未治療である場合には、過少治療のリスクが高まる可能性があるため、非常に重要である」と考察している。

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スタチンでアジア人乳がん患者のがん死亡リスク低下

 スタチン製剤を服用しているアジア人の乳がん患者では、スタチンを服用していない乳がん患者と比べて、がん関連の死亡リスクが有意に低かったことを、台湾・国立成功大学のWei-Ting Chang氏らが明らかにした。なお、心血管疾患による死亡リスクには有意差はなかった。JAMA Network Open誌4月21日号掲載の報告。 スタチンは化学療法と併用することで、がんの進行や微小転移を抑制することが報告されていて、乳がんの再発リスクを低減させる可能性が示唆されている。しかし、欧米の乳がん患者とは異なり、アジアの乳がん患者は診断時の年齢が比較的若く、ほとんどが心血管リスク因子を有していないため、スタチンの服用によって生存率が改善するかどうかは不明である。そこで研究グループは、アジア人の乳がん患者において、スタチン使用とがんおよび心血管疾患による死亡リスクとの関連を後方視的に調査した。 本コホート研究の対象は、台湾の国民健康保険研究データベース(NHIRD)と国民がん登録を用いて、2012年1月~2017年12月までに乳がんと診断された女性患者1万4,902例で、乳がんの診断前6ヵ月以内にスタチンを服用した患者と、スタチンを服用していない患者を比較した。年齢、がんの進行度、抗がん剤治療、併存疾患、社会経済的状況、心血管系薬剤などを傾向スコアマッチング法で適合させ、解析は2022年6月~2023年2月に実施された。主要アウトカムは死亡(全死因、がん、心血管疾患、その他)で、副次的アウトカムは新規発症の急性心不全、急性心筋梗塞や虚血性脳卒中などの動脈イベント、深部静脈血栓症や肺塞栓症などの静脈イベントであった。平均追跡期間は4.10±2.96年であった。 主な結果は以下のとおり。・スタチン使用群7,451例(平均年齢64.3±9.4歳)とスタチン非使用群7,451例(平均年齢65.8±10.8歳)がマッチングされた。・非使用群と比較して、使用群では全死因死亡のリスクが有意に低かった(調整ハザード比[aHR]:0.83、95%信頼区間[CI]:0.77~0.91、p<0.001)。・がん関連死亡のリスクも、非使用群と比較して、使用群では有意に低かった(aHR:0.83、95%CI:0.75~0.92、p<0.001)。・心不全、動脈・静脈イベントなどの心血管疾患の発生は少数であり、使用群と非使用群で死亡リスクに有意差は認められなかった。・時間依存性解析でも、非使用群と比較して、使用群では全死因死亡(aHR:0.32、95%CI:0.28~0.36、p<0.001)およびがん関連死亡(aHR:0.28、95%CI:0.24~0.32、p<0.001)が有意に少なかった。・これらのリスクは、とくに高用量スタチンを服用している群でさらに低かった。 これらの結果より、研究グループは「アジア人の乳がん患者を対象としたこのコホート研究では、スタチンの使用は心血管疾患による死亡ではなく、がん関連の死亡リスクの低減と関連していた。今回の結果は、乳がん患者におけるスタチンの使用を支持するエビデンスとなるが、さらなるランダム化試験が必要である」とまとめた。

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既報のRCT 3研究の共同解析結果から、高感度CRPとLDLコレステロール濃度モニターでスタチン治療を成功に導く秘策を学ぶ!―(解説:島田俊夫氏)

はじめに 慢性炎症が血管障害、動脈硬化、がん等の発生に密接に関係していることは周知の事実である。Ridkerら1)は高感度CRP(hsCRP)の慢性炎症の評価マーカーとしての有用性に着目して多くの論文を発表しており、スタチン投与によるhsCRP濃度を下げることで、動脈硬化、血管障害、心血管イベント・死の評価に有用だと報告している。 とくに高LDLコレステロール(高LDL-C)血症、高血圧、糖尿病(DM)、肥満等の疾患を複数合併する患者へのスタチン投与でhsCRPが低下すれば、イベント抑制、予後の改善につながるとの期待を抱かせる。 一方で、高LDL-C血症が冠動脈疾患の重要なリスク因子であることは、欧米を中心に多数の研究論文の発表により周知されている。 今回取り上げた多国籍RCT 3研究の対象者(3万1,245例)はすべてが治療目的でスタチン投与を継続中であり、また、多くのDM患者を含んでいることは意味深長である。括弧内はDMを含むパーセントを示す。PROMINENT試験(100%)、REDUCE-IT試験(58%)、STRENGTH試験(70%)に参加し、かつ、スタチン投与が継続されているアテローム性動脈硬化症患者を対象に共同分析が行われた。Ridkerらによりその成果がLancet誌の2023年3月6日号にonlineで発表された。有益なメッセージを含んだ論文であり紹介する。hsCRPおよびLDL-C濃度の心血管死、全死亡および心血管障害の発生予測に関して 動脈硬化、DM、高血圧、高LDL-C血症、メタボ症候群らを有する患者では、hsCRP濃度が高値を示すことはよく知られている。これまでの研究から慢性炎症が関連する生活習慣病では、hsCRP濃度が上昇することがわかっている。 RCT 3研究においてもLDL-C、血清hsCRP濃度の四分位数データの解析結果から、今後発生する心血管イベント、心血管死および全死亡の予測マーカーとして両マーカーともにおしなべて有用であったが、調整済みハザード比による検討から心血管イベントおよび死亡への影響力に関しては、LDL-C濃度に比べてhsCRP濃度の影響力が勝っていた。結語 今回のRCT 3研究を要約すると、研究成果の共同解析結果からhsCRP(残存炎症リスク)とLDL-C濃度(残存LDL-Cリスク)を比較すると、残存炎症リスクマーカーのほうが残存LDL-Cリスクマーカーよりも、スタチン治療を受けている患者の心血管イベント・死に深く関連していることが明らかになった。両マーカーともに治療評価マーカーとして有用ではあるけれども、心血管イベント・死の評価にはhsCRPの影響力が優れていた。目的達成のためにはhsCRP濃度を目安に治療戦略を計画するほうが好ましいとのメッセージと理解する。 スタチン治療の評価には、治療後のLDL-C濃度(残存LDL-Cリスク)の重要性よりも、hsCRPの治療後の低下(残存炎症リスク)のほうが明らかに有用性は大きい。さらに、hsCRP濃度の低下が不十分な場合は、抗炎症剤の補助的使用2)も含んだ治療を考え、致命的な心血管イベント・死を回避するための補助治療の介入選択を示唆しているのではないか。

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スタチンのプレイオトロピック効果はあるの?(解説:平山篤志氏)

 4S試験以来スタチンによる心血管イベント抑制効果が明らかにされ、さらに追加解析でスタチンにはLDL-コレステロール(LDL-C)低下効果に加えて、抗炎症、抗酸化などのプレイオトロピック効果があると示唆されてきた。このような背景から機序の異なるLDL-C低下薬であるエゼチミブやPCSK-9阻害薬を用いた大規模臨床試験では、スタチンに追加することでLDL-Cを低下させる効果で有効性が示されてきた。 しかし、今回のベムペド酸(bempedoic acid)を用いたCLEAR Outcome試験では、対象がスタチン不耐性の患者であるためコントロール群にはスタチンが使用されていない。にもかかわらず、ベムペド酸治療群で、有意なLDL-Cと高感度CRPの低下とともに心血管イベントを有意に減少した。このことは、スタチン不耐性の患者でも使用可能な薬剤が示されたことだけでなく、スタチンのプレイオトロピック効果についても疑問を投げかけたことになる。 では、なぜ高LDL-Cが炎症を引き起こすのか? LDL-Cを低下させることで炎症が抑制されるのか?については、近年、血管内視鏡で大動脈の自然プラーク破綻を観察した小松らの研究から、プラーク内で生成されたコレステロール結晶が自然破綻した後に全身で炎症を惹起する可能性が注目されている。今後展開される多くの研究により解明されるであろう。 米国心臓病学会(ACC)で発表されたとき、ベムペド酸にエゼチミブを加えることでさらなるイベント抑止効果が得られたのではないか?という質問が出された。すでにエゼチミブ単独でイベント低下効果が示されている(EWTOPIA75)ことから、予測される結果であるが、FDAが試験での使用を認めなかったとのことであった。今後、実臨床ではエゼチミブの併用で多用されるであろう。ただ、ベムペド酸が高尿酸血症や痛風の頻度を上げることには注意が必要である。

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Fire and Forget vs.Treat to Target(解説:平山篤志氏)

 これまでの欧米での心血管イベントを低下させるためのガイドラインでは、ハイリスク患者に対してはLDL-コレステロール(LDL-C)を治療するために強力なスタチンの高用量をまず投与するというFire and Forgetの戦略が推奨されてきた。これはスタチンを用いた大規模臨床試験で、高用量と低用量を比較する、あるいはStrongとMildの高用量を比較する試験のメタ解析から得られた結論であった。また、管理目標値を設定するより、初期投与によるLDL-C低下の割合がイベント抑制には必要であるという考えもあった。 ただ、これまでのメタ解析からLDL-C達成値により心血管イベントが低下していること、また冠動脈プラークの退縮が認められることから、LDL-Cの管理目標値を目指す治療が重要であるとされていた(Treat to Target)。さらに、スタチン以外のコレステロール低下薬の有効性が示されると、リスクに応じたLDL-C管理目標値がガイドラインに記載されるようになった。 本試験は、Fire and Forget vs.Treat to Targetを検証するための試験であった。結果としては、両群で達成LDL-C値に差がなく、イベントにも差がなかったという結果であった。これまでのTreat to Targetを検証した試験では、目標値を達成することができず不十分な結果であったが、本試験では十分なコレステロール低下がTreat to Target群で達成できていたことが本試験成功の背景として挙げられる。これは管理目標値を設定しているガイドラインを後押しする結果である。ただ、わが国で通常使用可能なStrongスタチンの高用量は本試験の半量であるため、Treat to Targetで調整するよりはハイリスクの患者では、まずわが国の通常の高用量のStrongスタチンで治療を開始し、管理目標値を達成できない場合に薬剤を追加するFire and Forgetの戦略を選択するほうが実臨床に即していると考えられる。

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相補的に血中LDL-Cを低下させる高コレステロール血症薬「リバゼブ配合錠LD/HD」【下平博士のDIノート】第118回

相補的に血中LDL-Cを低下させる高コレステロール血症薬「リバゼブ配合錠LD/HD」今回は、高コレステロール血症治療薬「ピタバスタチンカルシウム水和物・エゼチミブ配合錠(商品名:リバゼブ配合錠LD/同HD、製造販売元:興和)」を紹介します。本剤は異なる作用機序の薬剤を配合することで、相補的に血中コレステロールを低下させるとともに、両剤の併用投与が必要な患者のアドヒアランス向上が期待されています。<効能・効果>高コレステロール血症、家族性高コレステロール血症の適応で、2022年9月26日に製造販売承認を取得し、同年12月6日より発売されています。なお、本剤を高コレステロール血症、家族性コレステロール血症治療の第1選択薬として用いることはできません。<用法・用量>通常、成人には1日1回1錠(ピタバスタチンカルシウム/エゼチミブとして2mg/10mgまたは4mg/10mg)を食後に経口投与します。ピタバスタチンカルシウム/エゼチミブの含量は、LD錠が2mg/10mg、HD錠が4mg/10mgとなっており、ピタバスタチンカルシウムの用量は年齢、症状により適宜増減可能です。<安全性>本剤の承認までの臨床試験において、1%以上の頻度で認められた副作用は、ALT上昇でした。なお、重大な副作用として、過敏症、横紋筋融解症、ミオパチー、免疫介在性壊死性ミオパチー、肝機能障害・黄疸、血小板減少、間質性肺炎(いずれも頻度不明)が設定されています。<患者さんへの指導例>1.本剤には、小腸からのコレステロール吸収を抑える成分と、コレステロールの合成を抑える成分が配合されています。心筋梗塞などの心血管系疾患の危険性を少なくすることが期待されています。2.手足のしびれ、筋力低下、筋肉痛、赤褐色の尿が現れた場合はお知らせください。3.だるさ、食欲不振、吐き気、かゆみ、皮膚や白目が黄色くなるなどの症状があったら肝臓の機能が低下している場合がありますのでお知らせください。4.高コレステロール血症治療の基本は食事療法です。また、適度な運動や適正体重の維持、禁煙などの虚血性心疾患のリスクを減らす生活を心がけましょう。<Shimo's eyes>本剤は、小腸コレステロールトランスポーター阻害薬であるエゼチミブと、HMG-CoA還元酵素阻害薬であるピタバスタチンカルシウム水和物の2剤を組み合わせた脂質異常症治療薬です。異なる作用機序を有する2剤を配合することで、相補的に血中コレステロールを低下させ、また両剤の併用投与が必要な患者のアドヒアランス向上も期待できます。スタチンとエゼチミブの配合薬としては、アトルバスタチン・エゼチミブ(商品名:アトーゼット配合錠)、ロスバスタチン・エゼチミブ(同:ロスーゼット配合錠)に続く3剤目となります。エゼチミブは、小腸壁におけるコレステロール輸送機能を担っている「小腸コレステロールトランスポーター」を阻害することで、小腸からのコレステロール吸収を抑制し、胆汁性および食事性コレステロールの吸収を抑制します。主にコレステロール値を低下させますが、トリグリセリドの低下作用も報告されています。一方、ピタバスタチンなどのスタチン系薬剤は、肝臓に分布するコレステロール合成時の律速酵素であるHMG-CoA還元酵素を阻害し、肝細胞内のコレステロール含量を低下させ、LDL受容体の発現を促進することで血液中のLDLコレステロール(LDL-C)の取り込みを増加させ、血清コレステロールを低下させます。臨床効果としては、高コレステロール血症患者に本剤LDまたはHD、もしくはピタバスタチン2mgまたは4mgを投与した実薬対照二重盲検比較試験の結果、LDL-Cのベースラインからの変化率は、HD群のピタバスタチン4mg群に対する優越性、LD群のピタバスタチン2mg群に対する優越性が認められました。相互作用では、シクロスポリンとピタバスタチンの併用により、ピタバスタチンの血漿中濃度が上昇し、またエゼチミブとの併用によりエゼチミブおよびシクロスポリンの血中濃度が上昇したという報告があり、シクロスポリンとの併用は禁忌となっています。これにはOATP1B1の関与が考えられています。一方、ピタバスタチンはCYPによる代謝をほとんど受けません。他のスタチンであるアトルバスタチンとシンバスタチンはCYP3A4、フルバスタチンはCYP2C9、ロスバスタチンはCYP2C9およびCYP2C19によって代謝されます。また、アトルバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチンは弱いながらもP-糖タンパク阻害作用があります。そのため、本剤は他のスタチンと比べて相互作用による影響が少ない薬剤と考えられます。服薬指導では、高コレステロール血症の管理には食事療法や運動療法をはじめとする生活習慣の改善が必要なため、個々の患者の環境に応じたアドバイスを心がけましょう。

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推定GFR値を、より正確に知る―欧州腎機能コンソーシアムの報告―(解説:石上友章氏)

 慢性腎臓病(CKD)は、21世紀になって医療化された概念である。その起源は、1996年アメリカ腎臓財団(NKF:National Kideny Foundation)による、DOQI(Dialysis Outcome Quality Initiative)の発足にまでさかのぼることができる。2003年には、ISN(International Society of Nephrology:国際腎臓学会)によりKDIGO(Kidney Disease Improving Global Outcomes)が設立され、翌2004年に第1回KDIGO Consensus Conference(CKDの定義、分類、評価法)が開催され、血中クレアチニン濃度の測定を統一し、estimated GFRを診断に使用することが提唱された。その結果、現代の腎臓内科学は、Virchow以来の細胞病理・臓器病理に由来する、原因疾患や、病態生理に基づく医学的な定義に加えて、血清クレアチニン値による推定糸球体濾過量(eGFR)を診断に用いる『慢性腎臓病(CKD)』診療に、大きく姿を変えた。CKDは、心腎連関によって、致死的な心血管合併症を発症する強い危険因子になり、本邦の成人の健康寿命を著しく脅かしていることが明らかになっている。KDIGOの基本理念として、CKDは糖尿病・高血圧に匹敵する主要な心血管疾患(CVD)のリスクファクターであり、全世界的対策が必要で、誰でも(医師でなくても)理解できる用語の国際的統一を呼び掛けた。したがって、CKD対策とは腎保護と心血管保護の両立にある。腎臓を標的臓器とする糖尿病、高血圧については、特異的な治療手段があり、原疾患に対する治療を提供することで、腎障害の解消が期待される。eGFRの減少は、CKDの中核的な病態であるが、その病態を解消する確実な医学的な手段はなかった。これまで、栄養や、代謝、生活習慣の改善を促すこと以外に、特異的な薬物治療は確立されていない。しかし、近年になって、糖尿病治療薬として創薬されたSGLT2阻害薬が、血糖降下作用・尿糖排泄作用といった薬理作用を超えた臓器保護効果として、心不全ならびに、CKDに有効な薬剤として臨床応用されている。SGLT2阻害薬は、セオリーにすぎなかった心腎連関を、リアル・ワールドで証明することができた薬剤といえるのではないか。推定GFRの評価は、CKD診療の基本中の基本であり、原点にほかならない。人種、性別、年齢による推定式が用いられているが、万能にして唯一の推定式とはいえなかった。Pottel氏らの研究グループは、「調整血清クレアチニン値」に代わって、「調整シスタチンC値」に置き換えた「EKFC eGFRcys式」の性能を評価した研究を報告した(Pottel H, et al. N Engl J Med. 2023;388:333-343.)。 本報告のFigure 1にみるように、全年齢においてBias(ml/min/1.73m2)/P30(%)が、狭い範囲での変化にとどまっていることがわかる。これまでの推定式は、簡便ではあったが、精度で劣る可能性があった。「EKFC eGFRcys式」は、「EKFC eGFRcr式」と同等の精度で、推定GFRを予測することができる。CKD診療の確度が、よりいっそう改善することが期待される。

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CAD患者のLDL-C 50~70mg/dL目標の治療 、高強度スタチンに非劣性/JAMA

 冠動脈疾患(CAD)患者の治療において、LDLコレステロール(LDL-C)の目標値を50~70mg/dLとする目標達成に向けた治療(treat-to-target)は高強度スタチン療法に対し、3年の時点での死亡、心筋梗塞、脳卒中、冠動脈血行再建術の複合に関して非劣性であり、これら4つの構成要素の個々の発生率には差がないことが、韓国・延世大学のSung-Jin Hong氏らが実施したLODESTAR試験で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2023年3月6日号に掲載された。韓国の無作為化非劣性試験 LODESTAR試験は、韓国の12施設が参加した医師主導の非盲検無作為化非劣性試験であり、2016年9月~2019年11月の期間に患者の登録が行われた(Samjin Pharmaceuticalなどの助成を受けた)。 CAD(安定虚血性心疾患または急性冠症候群[不安定狭心症、急性心筋梗塞])患者が、LDL-C値50~70mg/dLを目標とするtreat-to-target治療を受ける群、またはロスバスタチン20mgあるいはアトルバスタチン40mgによる高強度スタチン療法を受ける群に、無作為に割り付けられた。 主要エンドポイントは、3年の時点での死亡、心筋梗塞、脳卒中、冠動脈血行再建術の複合であり、非劣性マージンは3.0%とされた。treat-to-target戦略の適合性を支持する新たなエビデンス 4,400例(平均年齢65.1[SD 9.9]歳、女性27.9%)が登録され、2つの群に2,200例ずつが割り付けられた。4,341例(98.7%)が3年の追跡を完了した。ベースラインの平均LDL-C値は、treat-to-target群が86(SD 33)mg/dL、高強度スタチン群は87(SD 31)mg/dLであった。 高強度スタチン療法は、treat-to-target群では1年目に患者の53%、2年目に55%、3年目に56%が受けており、高強度スタチン群ではそれぞれ93%、91%、89%が受けていた。 試験期間中の平均LDL-C値は、treat-to-target群が69.1(SD 17.8)mg/dL、高強度スタチン群は68.4(SD 20.1)mg/dLであり、両群間に有意な差はなかった(p=0.21)。 3年時の主要エンドポイントの発生率は、treat-to-target群が8.1%(177例)、高強度スタチン群は8.7%(190例)で、絶対群間差は-0.6%(片側97.5%信頼区間[CI]:-∞~1.1)であり、treat-to-target群の高強度スタチン群に対する非劣性が示された。 死亡(treat-to-target群2.5% vs.高強度スタチン群2.5%、絶対群間差:<0.1%[95%CI:-0.9~0.9]、p=0.99)、心筋梗塞(1.6% vs.1.2%、0.4[-0.3~1.1]、p=0.23)、脳卒中(0.8% vs.1.3%、-0.5[-1.1~0.1]、p=0.13)、冠動脈血行再建術(5.2% vs.5.3%、-0.1[-1.4~1.2]、p=0.89)の発生率は、いずれも両群間に有意な差は認められなかった。 著者は、「これらの知見は、スタチン治療における薬物反応の個人差を考慮した個別化治療を可能にする、treat-to-target戦略の適合性を支持する新たなエビデンスをもたらすものである」としている。

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スタチン治療患者の将来リスク予測、CRP vs.LDL-C/Lancet

 スタチン療法を受ける患者において、高感度C反応性蛋白(CRP)で評価した炎症のほうがLDLコレステロール(LDL-C)値で評価したコレステロールよりも、将来の心血管イベントおよび死亡リスクの予測因子として強力であることが、米国・ブリガム&ウィメンズ病院のPaul M. Ridker氏らが行った、3つの無作為化試験の統合解析の結果、示された。著者は、「示されたデータは、スタチン療法以外の補助療法の選択を暗示するものであり、アテローム性疾患のリスク軽減のために、積極的な脂質低下療法と炎症抑制治療の併用が必要である可能性を示唆するものである」とまとめている。Lancet誌オンライン版2023年3月6日号掲載の報告。3つの国際無作為化試験データを統合解析 研究グループは、炎症と高脂質血症はアテローム性動脈硬化の原因となるが、スタチン療法を受けていると将来の心血管イベントリスクに対する両因子の相対的な寄与が変化する可能性があり、補助的な心血管治療の選択について影響を与えるとして今回の検討を行った。スタチン治療を受ける患者の主要有害心血管イベント、心血管死、全死因死亡のリスクの決定因子として、高感度CRPとLDL-Cの相対的な重要性を評価した。 アテローム性疾患を有する/高リスクでスタチン療法を受ける患者が参加する、3つの国際的な無作為化試験「PROMINENT試験」「REDUCE-IT試験」「STRENGTH試験」のデータを統合解析した。 ベースラインの高感度CRP(残留炎症リスクのバイオマーカー)の上昇と同LDL-C(残留コレステロールリスクのバイオマーカー)の上昇の四分位値を、将来の主要有害心血管イベント、心血管死、全死因死亡の予測因子として評価。年齢、性別、BMI、喫煙状況、血圧、心血管疾患の既往、無作為化された割り付け治療群で補正した分析で、高感度CRPとLDL-Cの四分位数にわたって、心血管イベントと死亡のハザード比(HR)を算出した。炎症は将来リスクを有意に予測、コレステロールの予測は中立もしくは弱い 統合解析には患者3万1,245例が包含された(PROMINENT試験9,988例、REDUCE-IT試験8,179例、STRENGTH試験1万3,078例)。 ベースラインの高感度CRPとLDL-Cについて観察された範囲、および各バイオマーカーとその後の心血管イベント発生率との関係は、3つの試験でほぼ同一であった。 残留炎症リスクは、主要有害心血管イベントの発生(高感度CRPの四分位最高位vs.最小位の補正後HR:1.31、95%信頼区間[CI]:1.20~1.43、p<0.0001)、心血管死(2.68、2.22~3.23、p<0.0001)、全死因死亡(2.42、2.12~2.77、p<0.0001)のいずれとも有意に関連していた。 対照的に、残留コレステロールリスクの関連は、主要有害心血管イベントについては中立的なものであったが(LDL-Cの四分位最高位vs.最小位の補正後HR:1.07、95%CI:0.98~1.17、p=0.11)、心血管死(1.27、1.07~1.50、p=0.0086)と全死因死亡(1.16、1.03~1.32、p=0.025)については弱かった。

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スタチン不耐患者、bempedoic acidがCVリスクに有効か/NEJM

 スタチンの服用が困難なスタチン不耐(statin-intolerant)患者において、ATPクエン酸リアーゼ阻害薬ベンペド酸(bempedoic acid)はプラセボと比較し、LDLコレステロール値を低下し、主要有害心血管イベント(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、冠動脈血行再建)のリスクを低下することが示された。一方でベンペド酸投与により、脳卒中、心血管死、全死因死亡のそれぞれのリスクは低減せず、また痛風や胆石症発生リスクはやや増大した。米国・クリーブランドクリニックのSteven E. Nissen氏らによる二重盲検無作為化プラセボ対照試験の結果で、NEJM誌オンライン版2023年3月4日号で発表された。ベンペド酸は、LDL値を低下し筋肉関連の有害事象の発生リスクは低いが、心血管アウトカムへの影響は明らかになっていなかった。“スタチン不耐”でCVD、または高リスクの患者を対象に試験 研究グループは、容認できない副作用のためにスタチン服用ができない、または困難な患者(スタチン不耐患者)で、心血管疾患が認められるか、または同リスクの高い患者1万3,970例を対象に試験を行った。 被験者を無作為に2群に分け、一方(6,992例)にはベンペド酸180mgを、もう一方(6,978例)にはプラセボを、それぞれ経口投与した。 主要エンドポイントは、心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、冠動脈血行再建の4つのうちのいずれかの発生と定義した主要有害心血管イベントだった。心筋梗塞、冠動脈血行再建の発生率、ベンペド酸で各2割程度減少 追跡期間中央値は40.6ヵ月。ベースラインのLDLコレステロール値は、両群共に139.0mg/dLであり、6ヵ月後の低下幅は、ベンペド酸群がプラセボ群より29.2mg/dL大きく、減少率の群間差は21.1ポイントだった。 主要エンドポイントの発生率は、ベンペド酸群(11.7%)がプラセボ群(13.3%)より有意に低かった(ハザード比[HR]:0.87、95%信頼区間[CI]:0.79~0.96、p=0.004)。 心血管死、非致死的脳卒中、非致死的心筋梗塞の複合発生率は、8.2% vs.9.5%(HR:0.85、95%CI:0.76~0.96、p=0.006)、また心筋梗塞(致死的・非致死的)の発生率は3.7% vs.4.8%(0.77、0.66~0.91、p=0.002)、冠動脈血行再建の発生率は6.2% vs.7.6%(0.81、0.72~0.92、p=0.001)で、ベンペド酸群がプラセボ群より有意に低かった。 一方でベンペド酸は、脳卒中(致死的・非致死的)、心血管死、全死因死亡への有意な影響はみられなかった。さらに、痛風(ベンペド酸群3.1% vs.プラセボ群2.1%)、胆石症(2.2% vs.1.2%)の発生率はベンペド酸群で高く、同様に血清クレアチニン値、尿酸値、肝酵素値もベンペド酸群でわずかだが上昇が認められた。

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第149回 今の日本の医療IoT、東日本大震災のイスラエル軍支援より劣る?(後編)

2月6日に発生したトルコ・シリア大地震のニュースを見て村上氏は東日本大震災時のイスラエル軍の救援活動を思い出します。後編の今回は、現在の日本が顔負けのIoTを駆使したイスラエル軍の具体的な支援内容についてお伝えします。前編はこちら 仮設診療所エリアには内科、小児科、眼科、耳鼻科、泌尿器科、整形外科、産婦人科があり、このほかに冠状動脈疾患管理室(CCU)、薬局、X線撮影室、臨床検査室を併設。臨床検査室では血液や尿の生化学的検査も実施できるという状態だった。ちなみにこうした診察室や検査室などはそれぞれプレハブで運営されていた。一般に私たちが災害時の避難所で見かける仮設診療所は避難所の一室を借用し、医師は1人のケースが多い。例えて言うならば、市中の一般内科クリニックの災害版のような雰囲気だが、それとは明らかに規模が違いすぎた。当時、仮設診療所で働いていたイスラエル人の男性看護師によると、これでも規模としては小さいものらしく、彼が参加した中米・ハイチの地震(2010年1月発生)での救援活動では「全診療科がそろった野外病院を設置し、スタッフは総勢200人ほどだった」と説明してくれた。この仮設診療所での画像診断は単純X線のみ。プレハブで専用の撮影室を設置していたが、完全なフィルムレス化が実行され、医師らはそれぞれの診療科にあるノートPCで患者のX線画像を参照することができた。ビューワーはフリーのDICOMビューアソフト「K-PACS」を使用。検査技師は「フリーウェアの利用でも診療上のセキュリティーもとくに問題はない」と淡々と語っていた。実際、仮設診療所内の診療科で配置医師数が4人と最も多かった内科診療所では「K-PACS」の画面で患者の胸部X線写真を表示して医師が説明してくれた。彼が表示していたのは肺野に黒い影のようなものが映っている画像。この内科医曰く「通常の肺疾患では経験したことのない、何らかの塊のようなものがここに見えますよね。率直に言って、この診療所での処置は難しいと判断し、栗原市の病院に後送しましたよ」と語った。ちなみに東日本大震災では、津波に巻き込まれながらも生還した人の中でヘドロや重油の混じった海水を飲んでしまい、これが原因となった肺炎などが実際に報告されている。内科医が画像を見せてくれた症例は、そうした類のものだった可能性がある。診療所内の薬局を訪問すると、イスラエル人の薬剤師が案内してくれたが、持参した医薬品は約400品目にも上ると最初に説明された。薬剤師曰く「持参した薬剤は錠剤だけで約2,000錠、2ヵ月分の診療を想定しました。抗菌薬は第2世代ペニシリンやセフェム系、ニューキノロン系も含めてほぼ全種類を持ってきたのはもちろんのこと、経口糖尿病治療薬、降圧薬などの慢性疾患治療薬、モルヒネなども有しています」と説明してくれ、「見てみます?」と壁にかけられた黒いスーツカバーのようなものを指さしてくれた。もっとも通常のスーツカバーの3周りくらいは大きいものだ。彼はそれを床に置くなり、慣れた手つきで広げ始めた。すると、内部はちょうど在宅医療を受けている高齢者宅にありそうなお薬カレンダーのようにたくさんのポケットがあり、それぞれに違う経口薬が入っていた。最終的に広げられたカバー様のものは、当初ぶら下げてあった時に目視で見ていた大きさの4倍くらいになった。この薬剤師によると、イスラエル軍衛生部隊では海外派遣を想定し、国外の気候帯や地域ブロックに応じて最適な薬剤をセットしたこのような医薬品バッグのセットが複数種類、常時用意されているという。海外派遣が決まれば、気候×地域性でどのバッグを持っていくかが決まり、さらに派遣期間と現地情報から想定される診療患者数を割り出し、それぞれのバッグを何個用意するかが即時決められる仕組みになっているとのこと。ちなみに同部隊による医療用医薬品の処方は南三陸町医療統轄本部の指示で、活動開始から1週間後には中止されたという。この時、最も多く処方された薬剤を聞いたところ、答えは意外なことにペン型インスリン。この薬剤師から「処方理由は、糖尿病患者が被災で持っていたインスリン製剤を失くしたため」と聞き、合点がいった。ちなみにイスラエルと言えば、世界トップのジェネリックメーカー・テバの本拠地だが、この時に持参した医薬品でのジェネリック採用状況について尋ねると、「インスリンなどの生物製剤、イスラエルではまだ特許が有効な高脂血症治療薬のロスバスタチンなどを除けば、基本的にほとんどがジェネック医薬品ですよ。とくに問題はないですね」とのことだった。この取材で仮設診療所エリア内をウロウロしていた際に、偶然ゴミ集積所を見かけたが、ここもある意味わかりやすい工夫がされていた。感染性廃棄物に関しては、「BIO-HAZARD」と大書されているピンクのビニール袋でほかの廃棄物とは一見して区別がつくようになっていたからだ。大規模な医療部隊を運営しながら、フリーウェアやジェネリック医薬品を使用するなど合理性を追求し、なおかつ患者情報はリアルタイムで電子的に一元管理。ちなみにこれは今から11年前のことだ。2020年時点で日常診療を行う医療機関の電子カルテ導入率が50~60%という日本の状況を考えると、今振り返ってもそのレベルの高さに改めて言葉を失ってしまうほどだ。

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