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15の診断名・11の内服薬―この薬は本当に必要?【こんなときどうする?高齢者診療】第5回

CareNeTVスクール「Dr.樋口の老年医学オンラインサロン」で2024年8月に扱ったテーマ「高齢者への使用を避けたい薬」から、高齢者診療に役立つトピックをお届けします。老年医学の型「5つのM」の3つめにあたるのが「薬」です。患者の主訴を聞くときは、必ず薬の影響を念頭に置くのが老年医学のスタンダード。どのように診療・ケアに役立つのか、症例から考えてみましょう。90歳男性。初診外来に15種類の診断名と、内服薬11種類を伴って来院。【診断名】2型糖尿病、心不全、高血圧、冠動脈疾患、高脂血症、心房細動、COPD、白内障、逆流性食道炎、難聴、骨粗鬆症、変形性膝関節症、爪白癬、認知症、抑うつ【服用中の薬剤】処方薬(スタチン、アムロジピン、リシノプリル、ラシックス、グリメピリド、メトホルミン、アルプラゾラム、オメプラゾール)市販薬(抗ヒスタミン薬、鎮痛薬、便秘薬)病気のデパートのような診断名の多さです。薬の数は、5剤以上で多剤併用とするポリファーマシーの基準1)をはるかに超えています。この症例を「これらの診断名は正しいのか?」、「処方されている薬は必要だったのか?」このふたつの点から整理していきましょう。初診の高齢者には、必ず薬の副作用を疑った診察を!私は高齢者の診療で、コモンな老年症候群と同時に、さまざまな訴えや症状が薬の副作用である可能性を考慮にいれて診察しています。なぜなら、老年症候群と薬の副作用で生じる症状はとても似ているからです。たとえば、認知機能低下、抑うつ、起立性低血圧、転倒、高血圧、排尿障害、便秘、パーキンソン症状など2)があります。症状が多くて覚えられないという方にもおすすめのアセスメント方法は、第2回で解説したDEEP-INを使うことです。これに沿って問診する際、とくにD(認知機能)、P(身体機能)、I(失禁)、N(栄養状態)の機能低下や症状が服用している薬と関連していないか意識的に問診することで診療が効率的になります。処方カスケードを見つけ、不要な薬を特定するさて、はっきりしない既往歴や薬があまりに多いときは処方カスケードの可能性も考えます。薬剤による副作用で出現した症状に新しく診断名がついて、対処するための処方が追加されつづける流れを処方カスケードといいます。この患者では、変形性膝関節症に対する鎮痛薬(NSAIDs)→NSAIDsによる逆流性食道炎→制酸薬といったカスケードや、NSAIDs→血圧上昇→高血圧症の診断→降圧薬(アムロジピン)→下肢のむくみ→心不全疑い→利尿薬→血中尿酸値上昇→痛風発作→痛風薬→急性腎不全という流れが考えられます。このような流れで診断名や処方薬が増えたと想定すると、カスケードが起こる前は以下の診断名で、必要だったのはこれらの処方薬ではと考えることができます。90歳男性。初診外来に15種類の診断名と、内服薬11種類を伴って来院。【診断名】2型糖尿病、心不全、高血圧、冠動脈疾患、高脂血症、心房細動、COPD、白内障、逆流性食道炎、難聴、骨粗鬆症、変形性膝関節症、爪白癬、認知症、抑うつ【服用中の薬剤】処方薬(スタチン、アムロジピン、リシノプリル、ラシックス、グリメピリド、メトホルミン、アルプラゾラム、オメプラゾール)市販薬(抗ヒスタミン薬、鎮痛薬、便秘薬)減薬の5ステップ減らせそうな薬の検討がついたら以下の5つをもとに減薬するかどうかを考えましょう。(1)中止/減量することを検討できそうな薬に注目する(2)利益と不利益を洗い出す(3)減薬が可能な状況か、できないとするとなぜか、を確認する(4)病状や併存疾患、認知・身体機能本人の大切にしていることや周辺環境をもとに優先順位を決める(第1回・5つのMを参照)(5)減薬後のフォローアップ方法を考え、調整する患者に利益をもたらす介入にするために(2)~(4)のステップはとても重要です。効果が見込めない薬でも本人の思い入れが強く、中止・減量が難しい場合もあります。またフォローアップが行える環境でないと、本当は必要な薬を中断してしまって健康を害する状況を見過ごしてしまうかもしれません。フォローアップのない介入は患者の不利益につながりかねません。どのような薬であっても、これらのプロセスを踏むことを減薬成功の鍵としてぜひ覚えておいてください! 高齢者への処方・減量の原則実際に高齢者へ処方を開始したり、減量・中止したりする際には、「Stand by, Start low, Go slow」3)に沿って進めます。Stand byまず様子をみる。不要な薬を開始しない。効果が見込めない薬を使い始めない。効果はあるが発現まで時間のかかる薬を使い始めない。Start lowより安全性が高い薬を少量、効果が期待できる最小量から使う。副作用が起こる確率が高い場合は、代替薬がないか確認する。Go slow増量する場合は、少しづつ、ゆっくりと。(*例外はあり)複数の薬を同時に開始/中止しない現場での実感として、1度に変更・増量・減量する薬は基本的に2剤以下に留めると介入の効果をモニタリングしやすく、安全に減量・中止または必要な調整が行えます。開始や増量、または中止を数日も待てない状況は意外に多くありませんから、焦らず時間をかけることもまたポイントです。つまり3つの原則は、薬を開始・増量するときにも有用です。ぜひ皆さんの診療に役立ててみてください! よりリアルな減薬のポイントはオンラインサロンでサロンでは、ふらつき・転倒・記憶力低下を主訴に来院した8剤併用中の78歳女性のケースを例に、クイズ形式で介入のポイントをディスカッションしています。高齢者によく処方される薬剤の副作用・副効果の解説に加えて、転倒につながりやすい処方の組み合わせや、アセトアミノフェンが効かないときに何を処方するのか?アメリカでの最先端をお話いただいています。参考1)Danijela Gnjidic,et al. J Clin Epidemiol. 2012;65(9):989-95.2)樋口雅也ほか.あめいろぐ高齢者診療. 33. 2020. 丸善出版3)The 4Ms of Age Friendly Healthcare Delivery: Medications#104/Geriatric Fast Fact.上記サイトはstart low, go slow を含めた老年医学のまとめサイトです。翻訳ソフトなど用いてぜひ参照してみてください。実はオリジナルは「start low, go slow」だけなのですが、どうしても「診断して治療する」=検査・処方に走ってしまいがちな医師としての自分への自戒を込めて、stand by を追加して、反射的に処方しないことを忘れないようにしています。

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イモガイの毒が糖尿病治療につながる可能性

 巻貝の一種で、地球上で最も有毒な生物の一つである「イモガイ」の毒素が、糖尿病や内分泌疾患の治療に役立つ可能性のあることが新たな研究で示された。イモガイの毒素である「コンソマチン」が、血糖値やホルモンの分泌を調節するヒトのホルモンである「ソマトスタチン」に似た働きをするのだという。米ユタ大学のHo Yan Yeung氏らの研究によるもので、詳細は「Nature Communications」に8月20日掲載された。論文の筆頭著者であるYeung氏は、「イモガイはまるで優れた化学者のようだ」と、冗談交じりに語っている。 著者らの過去の研究によると、コンソマチンはイモガイの毒液に含まれる別のインスリン様の毒素と互いに作用し合い、血糖値を急速に低下させるという。それによって獲物は昏睡状態になり、イモガイに捕食される。論文の上席著者である同大学のHelena Safavi氏は、「毒を持つ生物は進化の過程で、標的とする獲物を仕留めるために毒の成分を微調整してきた」と説明する。そして、「毒液の成分を一つずつ取り出して、どのように正常な生理機能を破綻させるかを観察すると、明らかになったメカニズムがしばしば疾患の病態とよく似ていることがある」のだそうだ。同氏は、「医薬品の研究者にとって、このような研究手法はある種の抜け道のようなものだ」と話す。 ソマトスタチンは、人体内の多くの生理的プロセスにおいて、ブレーキのような働きをしている。例えば、血糖値が危険なほど高くなるのを防ぐように作用する。研究によると、イモガイのコンソマチンは、ソマトスタチンと同じような役割を演じて血糖値の上昇を防ぐという。また、ソマトスタチンはヒトのさまざまなホルモンに作用するが、コンソマチンを利用すれば標的を絞り込んで、ホルモン分泌をより精緻に調整できる可能性があるとのことだ。さらにコンソマチンは、分解されにくい希少なアミノ酸を含んでいるために、ソマトスタチンよりもヒトの体内で長時間作用する可能性も示されている。 とはいえコンソマチン自体は、単独で薬として使用するには危険すぎる。しかし研究者らは、コンソマチンの構造を詳しく調べることで、ヒトのホルモンレベルに影響を与え得る新薬の開発の手がかりとなる可能性があるとしている。またコンソマチン以外にも、糖尿病治療に有用な成分が、イモガイの毒液に含まれている可能性もあるという。Yeung氏も、「毒液にはインスリンやソマトスタチンに類似した毒素だけが含まれているのではなく、血糖値を調整する性質を持つほかの毒素も含まれているのではないか」と話している。

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スタチン系脂質低下薬も肝臓がんリスクを低下させる?

 スタチン系薬剤が肝臓がんリスクを低下させることは過去の研究で判明しているが、新たな研究で、少なくとも1つの非スタチン系脂質低下薬にも肝臓がんリスクを低下させる効果がある可能性が示唆された。米国立がん研究所のKatherine McGlynn氏らによるこの研究結果は、「Cancer」に7月29日掲載された。 McGlynn氏らは、英国のClinical Practice Research Datalink(CPRD)から抽出した、原発性肝臓がん患者3,719人と、これと年齢、性別、診療歴、CPRD参加歴に加えて、糖尿病または慢性肝疾患の有無を一致させた対照1万4,876人を対象に、非スタチン系脂質低下薬と肝臓がんリスクとの関連を検討した。対象とした非スタチン系脂質低下薬は、コレステロール吸収抑制薬、胆汁酸再吸収抑制薬、フィブラート系薬、ナイアシン、オメガ3脂肪酸であった。 その結果、コレステロール吸収抑制薬の使用歴は肝臓がんリスクの低下と有意に関連することが示された(オッズ比0.69、95%信頼区間0.50〜0.96)。コレステロール吸収抑制薬の使用時期で分けて検討したところ、過去の使用者では有意なリスク低下が認められたが(同0.52、0.33〜0.83)、現在の使用者でのリスク低下は有意ではなかった(同0.92、0.59〜1.42)。2型糖尿病や慢性肝疾患の有無に基づく解析でも同様の結果が得られた(2型糖尿病:同0.46、0.22〜0.97、慢性肝疾患:同0.53、0.30〜0.96)。また、予期された通り、スタチン系薬剤の使用歴も肝臓がんリスクの有意な低下と関連していた(同0.65、0.58〜0.74)。 その一方で、胆汁酸再吸収抑制薬については、全体的な解析では肝臓がんリスクの増加との関連が認められたが(同5.31、3.534〜7.97)、2型糖尿病と慢性肝疾患の有無に基づく解析では一貫した結果が得られなかった。また、フィブラート系薬、ナイアシン、オメガ3脂肪酸と肝臓がんリスクとの間に有意な関連は認められなかった。 McGlynn氏は、「非スタチン系脂質低下薬が肝臓がんリスクに及ぼす影響を検討した研究はほとんどないため、本研究結果が他の集団においても再現されるのかを確かめる必要がある。もし他の研究でも確認されれば、われわれが得た知見は、肝臓がん予防に関する研究で役立つ可能性がある」と「Cancer」誌のニュースリリースで述べている。

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AHA開発のPREVENT計算式は、ASCVDの1次予防に影響するか/JAMA

 米国心臓病学会(ACC)と米国心臓協会(AHA)の現行の診療ガイドラインは、pooled cohort equation(PCE)を用いて算出されたアテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の10年リスクに基づき、ASCVDの1次予防では降圧薬と高強度スタチンを推奨しているが、PCEは潜在的なリスクの過大評価や重要な腎臓および代謝因子を考慮していないなどの問題点が指摘されている。米国・ハーバード大学医学大学院のJames A. Diao氏らは、2023年にAHAの科学諮問委員会が開発したPredicting Risk of cardiovascular disease EVENTs(PREVENT)計算式(推算糸球体濾過量[eGFR]を導入、対象年齢を若年成人に拡大、人種の記載が不要)を現行ガイドラインに適用した場合の、スタチンや降圧薬による治療の適用、その結果としての臨床アウトカムに及ぼす影響について検討した。研究の詳細は、JAMA誌オンライン版2024年7月29日号に掲載された。米国の30~79歳の7,765例を解析 研究グループは、現行のACC/AHAの診療ガイドラインの治療基準を変更せずに、ASCVDリスクの計算式をPCEの代わりにPREVENTを適用した場合に、リスク分類、治療の適格性、臨床アウトカムに変化が生じる可能性のある米国の成人の数を推定する目的で、横断研究を行った(米国国立心肺血液研究所[NHLBI]の助成を受けた)。 2011~20年にNational Health and Nutrition Examination Surveys(NHANES)に参加した30~79歳の7,765例(年齢中央値53歳、女性51.3%)のデータを解析した。 主要アウトカムは、予測される10年ASCVDリスク、ACC/AHAリスク分類、スタチンまたは降圧薬による治療の適格性、予測される心筋梗塞または脳卒中の発症とし、PCEを用いた場合とPREVENTを用いた場合の差を評価した。10年ASCVDリスクは、PREVENTで低下する PCEとPREVENTの双方から有効なリスク推定値が得られた参加者は、心筋梗塞、脳卒中、心不全の既往歴のない40~79歳の集団であった。この集団では、PREVENTを用いて算出した10年ASCVDリスク推定値は、年齢、性別、人種/民族のすべてのサブグループにおいてPCEで算出した値よりも低く、この予測リスクの差は低リスク群で小さく、高リスク群で大きかった。 PREVENT計算式を用いると、この集団の約半数がACC/AHAリスク分類の低リスク群(53.0%、95%信頼区間[CI]:51.2~54.8)に分類され、高リスク群(0.41%、0.25~0.62)に分類されるのは、きわめて少数と推定された。スタチン、降圧薬とも減少、心筋梗塞、脳卒中が10万件以上増加 スタチン治療を受けているか、あるいは推奨されるのは、PCEを用いた場合は818万例であるのに対し、PREVENTを用いると675万例に減少した(群間差:-143万例、95%CI:-159万~-126万)。また、降圧薬治療を受けているか、あるいは推奨されるのは、PCEでは7,530万例であるのに比べ、PREVENTでは7,270万例に低下した(-262万例、-321万~-202万)。 PREVENTにより、スタチンまたは降圧薬治療のいずれかの推奨の適格性を失うのは、1,580万例(95%CI:1,420万~1,760万)と推定される一方、10年間で心筋梗塞と脳卒中を10万7,000件増加させると推定された。この適格性の変動の影響は、女性に比べ男性で約2倍に達し(0.077% vs.0.039%)、また、黒人は白人より高率であるものの大きな差を認めなかった(0.062% vs0.065%)。 著者は、「PREVENTは、より正確で精度の高い心血管リスク予測という重要な目標に進展をもたらすが、推定される変化の大きさを考慮すると、意思決定分析または費用対効果の枠組みを用いて、現在の治療閾値を慎重に見直す必要がある」としている。

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スタチンの使用はパーキンソン病リスクの低下と関連

 日本人高齢者を対象とした大規模研究により、スタチンの使用はパーキンソン病リスクの低下と有意に関連することが明らかとなった。LIFE Study(研究代表者:九州大学大学院医学研究院の福田治久氏)のデータを用いて、大阪大学大学院医学系研究科環境医学教室の北村哲久氏、戈三玉氏らが行った研究の結果であり、「Brain Communications」に6月4日掲載された。 パーキンソン病は年齢とともに罹患率が上昇し、遺伝的要因や環境要因などとの関連が指摘されている。また、脂質異常症治療薬であるスタチンとパーキンソン病との関連を示唆する研究もいくつか報告されているものの、それらの結果は一貫していない。血液脳関門を通過しやすい脂溶性スタチンと、水溶性スタチンの違いについても、十分には調査されていない。 そこで著者らは、LIFE Studyの2014年~2020年の健康関連データを用いて、コホート内症例対照研究を行った。65歳以上の高齢者で、追跡中にパーキンソン病を発症した人を症例、症例1人に対してコホート参加時の年齢、性別、市町村、参加年をマッチさせた対照5人を選択し、解析対象は症例9,397人と対照4万6,789人とした(女性53.6%)。スタチンは脂溶性(アトルバスタチン、フルバスタチン、ピタバスタチン、シンバスタチン)と水溶性(プラバスタチン、ロスバスタチン)に分類し、コホート参加時からの累積投与量の指標として、標準化1日投与量の合計(total standardized daily dose;TSDD)を算出した。 条件付きロジスティック回帰を用い、先行研究に基づいて併存疾患の有無を調整して解析した結果、スタチン使用は非使用と比較して、パーキンソン病リスクの低下(オッズ比0.61、95%信頼区間0.56~0.66)と有意に関連していることが明らかとなった。この関連は性別にかかわらず、男性(同0.62、0.54~0.70)と女性(同0.60、0.54~0.68)ともに認められた(交互作用P=0.71)。また、年齢層ごとに検討した場合も、65~74歳(同0.57、0.49~0.66)、75~84歳(同0.60、0.53~0.68)、85歳以上(同0.73、0.59~0.92)のいずれも同様の関連が認められた(交互作用P=0.17)。 全体として、スタチンの累積投与量が多いほどパーキンソン病リスクが低いことも明らかとなった。具体的には、TSDD 0(投与なし)の人と比較して、TSDD 1~30ではリスク上昇(同1.30、1.12~1.52)と関連していた一方で、TSDD 31~90(同0.77、0.64~0.92)、TSDD 91~180(同0.62、0.52~0.75)、TSDD 181以上(同0.30、0.25~0.35)ではリスク低下と関連していた。また、脂溶性スタチン(同0.62、0.54~0.71)と水溶性スタチン(同0.62、0.55~0.70)のどちらも、パーキンソン病リスク低下と関連していることが示された。 以上から著者らは、「日本人高齢者において、スタチン使用とパーキンソン病リスク低下との間に有意な関連が認められた。スタチンの累積投与量が多いほど、パーキンソン病の発症に対して予防効果を示した」と述べている。スタチンによる予防効果のメカニズムについては、脳動脈硬化の低下やドーパミン作動性神経細胞の生存などによる可能性が考えられるとして、この予防効果をより正確に評価するため、さらなる研究の必要性を指摘している。

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日本人高齢者におけるスタチン投与量と認知症リスク

 これまでの研究では、スタチンの使用と認知症リスク低下との関連が示唆されているが、とくに超高齢社会である日本においては、この関連性は十分に検討されていない。大阪大学の戈 三玉氏らは、65歳以上の日本人高齢者を対象にスタチン使用と認知症リスクとの関連を調査した。Journal of Alzheimer's Disease誌オンライン版2024年7月1日号の報告。 2014年4月~2020年12月の17自治体におけるレセプトデータを含むLIFE研究(Longevity Improvement & Fair Evidence Study)のデータを用いて、ネステッドケースコントロール研究を実施した。年齢、性別、自治体、コホート参加年のデータに基づき、1症例を5対照群とマッチさせた。オッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)の算出には、条件付きロジスティック回帰モデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・対象は、症例群5万7,302例および対照群28万3,525例。女性の割合は、59.7%であった。・潜在的な交絡因子で調整したのち、スタチン使用は認知症(OR:0.70、95%CI:0.68〜0.73)およびアルツハイマー病(OR:0.66、95%CI:0.63〜0.69)のリスク低下との関連が認められた。・スタチン未使用者と比較した用量分析における認知症のORは、次のとおりであった。【1日当たりの総標準投与量(TSDD):1〜30】OR:1.42、95%CI:1.34〜1.50【TSDD:31〜90】OR:0.91、95%CI:0.85〜0.98【TSDD:91〜180】OR:0.63、95%CI:0.58〜0.69【TSDD:180超】OR:0.33、95%CI:0.31〜0.36 著者らは「日本人高齢者に対するスタチン使用は、認知症およびアルツハイマー病のリスク低下と関連しており、スタチンの累積投与量が少ない場合には、認知症リスクが高まるが、多い場合には認知症の保護因子となりうることが示唆された」としている。

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tisotumab vedotin、再発子宮頸がんの2次・3次治療に有効/NEJM

 再発子宮頸がんの2次または3次治療において、化学療法と比較してtisotumab vedotin(組織因子を標的とするモノクローナル抗体と微小管阻害薬モノメチルアウリスタチンEの抗体薬物複合体)は、全生存期間(OS)と無増悪生存期間(PFS)が有意に延長し、新たな安全性シグナルの発現はないことが、ベルギー・Universitaire Ziekenhuizen LeuvenのIgnace Vergote氏らが実施した「innovaTV 301/ENGOT-cx12/GOG-3057試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2024年7月4日号で報告された。27ヵ国168施設の無作為化第III相試験 本研究は、日本を含む27ヵ国168施設が参加した非盲検無作為化第III相試験であり、前治療後に病勢が進行した再発子宮頸がん患者におけるtisotumab vedotinの有効性と安全性の評価を目的に行われた(GenmabとSeagenの助成を受けた)。 再発または転移を有する子宮頸がんと診断され、全身状態の指標であるEastern Cooperative Oncology Group(ECOG)performance-statusのスコアが0または1の患者502例(年齢中央値50歳[範囲:26~80]、前治療ライン数は1が61.4%、2が38.4%)を登録した。 tisotumab vedotin単剤(2.0mg/kg体重、3週ごと)の静脈内投与を受ける群に253例、担当医が選択した化学療法(トポテカン、ビノレルビン、ゲムシタビン、イリノテカン、ペメトレキセドのいずれか)を受ける群に249例を無作為に割り付けた。奏効率も有意に優れる 前治療薬として、全体の63.9%がベバシズマブの投与を、27.5%が抗PD-1または抗PD-L1抗体製剤の投与を受けていた。 主要評価項目であるOS中央値は、化学療法群が9.5ヵ月(95%信頼区間[CI]:7.9~10.7)であったのに対し、tisotumab vedotin群は11.5ヵ月(9.8~14.9)と有意に良好であった(ハザード比[HR]:0.70、95%CI:0.54~0.89、両側p=0.004)。 12ヵ月時のOS率は、tisotumab vedotin群が48.7%(95%CI:41.0~55.8)、化学療法群は35.3%(28.0~42.7)であった。 PFS中央値は、化学療法群が2.9ヵ月(95%CI:2.6~3.1)であったのに比べ、tisotumab vedotin群は4.2ヵ月(4.0~4.4)と有意に優れた(HR:0.67、95%CI:0.54~0.82、両側p<0.001)。 また、確定された奏効の割合は、化学療法群の5.2%と比較して、tisotumab vedotin群は17.8%と有意に高率だった(オッズ比:4.0、95%CI:2.1~7.6、両側p<0.001)。毒性による投与中止は14.8% 初回投与の1日目から最終投与後30日までに有害事象が1件以上発現した患者の割合は、tisotumab vedotin群が98.4%、化学療法群は99.2%であり、Grade3以上の有害事象は、それぞれ52.0%および62.3%で発現した。tisotumab vedotin群では、14.8%の患者が毒性により投与を中止した。 とくに注目すべき有害事象では、眼イベントがtisotumab vedotin群で52.8%、化学療法群で6.3%に発現し、このうちGrade3以上はそれぞれ4.0%および0%であった。また、末梢神経障害イベントはそれぞれ38.4%および4.2%、Grade3以上は5.6%および0.4%に、出血イベントは42.0%および14.2%、Grade3以上は2.4%および2.9%に発現した。 著者は、「これらのデータを総合すると、tisotumab vedotinは、再発子宮頸がん患者の治療において化学療法よりも優先される2次または3次治療の選択肢となる可能性が示唆される」としている。

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診療科別2024年上半期注目論文5選(循環器内科編)

Microaxial flow pump or standard care in infarct-related cardiogenic shockMøller JE, et al. N Engl J Med 2024;390:1382-1393.<DanGer Shock>:心原性ショックのSTEMI患者で、Impellaは死亡を減らすが合併症を増やす経皮的左室補助装置であるImpellaにより、標準治療に比して全死亡を18%減らすことが示されました。心原性ショックのSTEMI患者は、虚血性心疾患治療に残された課題であっただけに、この肯定的なデータは意義深いと思われます。一方で、重度の出血、四肢虚血、溶血、機器故障、または大動脈弁逆流の悪化などの安全性評価のイベントは4倍に増加しており、この合併症低減がいっそうの普及の鍵となるでしょう。RNA Interference With Zilebesiran for Mild to Moderate Hypertension: The KARDIA-1 Randomized Clinical TrialBakris GL, et al. JAMA. 2024;331:740-749.<KARDIA-1>:zilebesiranをシランと!高血圧治療のゲームチェンジャーとなるか血圧調節の重要な経路であるレニン-アンジオテンシン系の最上流の前駆体であるアンジオテンシノーゲンの肝臓での合成を標的とするRNA干渉治療薬がzilebesiranです。RNA干渉治療薬は「~シラン」と呼称され各領域で開発が進展しており、2023年以降zilebesiranの有効性と安全性が実証する試験結果が続いています。降圧治療のゲームチェンジャーとして心臓病や腎臓病の治療に役立つ可能性が示されました。Long-term outcomes of resynchronization-defibrillation for heart failureSapp JL, et al. N Engl J Med. 2024;390:212-220.<RAFT Long-Term>:心不全患者に対するCRT-DはICDのみに比して心不全患者予後を長期的に改善するNYHAクラスIIまたはIIIのEF<30%でQRS幅広の心不全患者で、CRT-Dによる心臓再同期療法はICD単独よりも中央期間14年にわたる長期追跡においても予後改善を持続することが報告されました。一方で、デバイスまたは手技に関連した合併症発生率が高いことや、CRT-DはICDに対する費用対効果などの課題もあります。Intravascular imaging-guided coronary drug-eluting stent implantation: an updated network meta-analysisStone GW, et al. Lancet. 2024;403:824-837.<Intravascular imaging-guided PCI, メタ解析>:血管内イメージングを用いたPCIの有効性がメタ解析で示されたIVUSやOCTなどの血管内イメージングをガイドにすることで、血管造影のみをガイドにするよりもPCIの安全性と有効性を改善することが報告されました。このメタ解析の素材の各研究は、日本に加えて中国や韓国などアジア諸国からのデータも多く含まれています。血管内イメージングガイド下のPCIは日常臨床で定着し、日本のお家芸ともいえるものです。その領域のエビデンス構築においては日本のイニシアチブを期待します。Randomized Trial for Evaluation in Secondary Prevention Efficacy of Combination Therapy-Statin and Eicosapentaenoic Acid (RESPECT-EPA)Miyauchi K, et al. Circulation. 2024 Jun 14. [Epub ahead of print]<RESPECT-EPA>:日本発のエビデンス、スタチン上乗せのEPA製剤は心血管イベントを減少させるも有意差なし慢性冠動脈疾患でEPA/AA比の低い日本人患者で、スタチンに追加投与の高純度EPAによる心血管イベント再発予防の可能性を検討した試験です。心血管イベントは減少したものの、統計学的に有意に至る差異はありませんでした(HR:0.79、95%CI:0.62~1.00、p=0.055)。冠動脈イベントの複合は、EPA群で有意に少なかったものの、心房細動の新規発症は有意に増加していました。今後の詳細なサブ解析に注目したいところです。

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抗菌薬持続間欠の比較(解説:栗原宏氏)

特長・6つの最新試験を含む大規模なメタアナリシスを使用しているため、最新かつ信頼性の高い結果である・ベイズ解析と頻度主義分析を併用し、治療効果の包括的評価と信頼性を高めている・持続投与は間欠投与に対し、90日間の死亡リスクを14%減少させる効果が確認されている。NNTは26であり、持続投与の高い有効性が示唆される。また、ICU死亡率の低下と臨床的治癒率の向上にも寄与している研究上の制約・敗血症および敗血症性ショックの定義が一定していないため、結果の比較にばらつきがある・試験ごとに治癒の定義が異なり、治癒判断が主観的である可能性がある βラクタム系抗菌薬は、最小発育阻止濃度以上の時間(time above MIC)が長いほど効果がある時間依存性であり、頻回投与、長時間投与が望ましいとされている。そのため、究極的に持続投与ならばMIC以上の最適な状態が維持され、より高い治療効果が得られるのではないかと推論される。 この推論に基づき、これまで多数の間欠投与と持続投与の比較試験が行われてきた。最近発表されたものとしては、重症患者におけるメロペネムの持続投与と間欠投与を比較した多国間ランダム化臨床試験であるMERCY試験、BLING III試験が知られている。持続投与は理論上間欠投与より有効であるが、実際に患者の転帰を改善するかどうかについては、有効であったとする研究と差がなかったとする研究があり、結果が分かれている。 本調査では持続投与と間欠投与の比較に関して、敗血症、敗血症性ショックを患う成人患者を対象に、90日間での全死亡率をメインアウトカム、ICU死亡率、臨床的治癒率、微生物学的治癒率、有害事象、ICU滞在期間を2次アウトカムとして検討を行っている。 参考までに使用された抗菌薬は、メロペネム8件、セフェピム3件、チカルシリン-クラブラン酸2件、アンピシリン-スルバクタム、セフトリアアキソン、イミペネム-シラスタチン各1件であった。 サブグループ分析は7項目で行われているが、いずれも差がなかった。1)メロペネム対ピペラシリン・タゾバクタム(相対リスク比 [RRR], 1.00; 95%信用区間 [CrI], 0.75-1.29)2)培養陽性対培養陰性感染(RRR, 1.13; 95%CrI, 0.91-1.72)3)グラム陰性対グラム陽性感染(RRR, 1.13; 95%CrI, 0.85-1.79)4)腎置換療法対非腎置換療法(RRR, 1.08; 95%CrI, 0.82-1.53)5)肺感染対その他の感染(RRR, 0.90; 95%CrI, 0.64-1.15)6)敗血症対敗血症性ショック(RRR, 0.97; 95%CrI, 0.75-1.23)7)男性対女性(RRR, 0.91; 95%CrI, 0.71-1.12) 敗血症、敗血症性ショックという重篤な状態の患者を対象とし、90日間の全死亡をメインアウトカムとしている本調査は臨床的に現実的な調査である。敗血症治療に抗菌薬は不可欠であるが、信頼性の高い調査で投与方法の選択次第で死亡リスクを減少できることが示された意義は大きい。二次アウトカムとしてICU死亡率の減少と臨床的治癒率向上に関連していることが示されたことも臨床的に有益な情報である。 NNT(1人の死亡を防ぐために必要な治療人数)が26と治療効果は高く、サブグループ分析の結果を踏まえても、敗血症治療にβラクタム系抗菌薬を使用する際は持続投与を選択するのがよいと思われる。

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スタチンにEPA併用、日本人の心血管イベント再発予防効果は?/Circulation

 スタチン治療を受けている慢性冠動脈疾患の日本人患者で、エイコサペンタエン酸/アラキドン酸(EPA/AA)比の低い患者において、高純度EPAのイコサペント酸エチルによる心血管イベント再発予防の可能性を検討したRESPECT-EPA試験で、心血管イベントリスクは数値的には減少したが統計学的有意差は認められなかった。一方、冠動脈イベントの複合は有意に減少した。順天堂大学の宮内 克己氏らがCirculation誌オンライン版2024年6月14日号で報告。 本試験はわが国の前向き多施設共同無作為化非盲検試験である。スタチン投与中の慢性冠動脈疾患でEPA/AA比が低い(0.4未満)患者を、通常治療による対照群とイコサペント酸エチル(1,800mg/日)を併用するEPA群に割り付けた。主要エンドポイントは、心血管死・非致死性心筋梗塞・非致死性脳梗塞・不安定狭心症・冠血行再建術の複合とした。冠動脈イベントの副次複合エンドポイントは、心臓突然死・致死性および非致死性心筋梗塞・緊急入院を要し冠血行再建術を必要とした不安定狭心症・臨床所見に基づく冠血行再建術の複合とした。 主な結果は以下のとおり。・国内95施設で3,884例が登録され、うち2,506例がEPA/AA比が低く、1,249例がEPA群、1,257例が対照群に無作為に割り付けられた。・追跡期間中央値5年で、主要エンドポイントはEPA群では1,225例中112例(9.1%)、対照群では1,235例中155例(12.6%)に発生した(ハザード比[HR]:0.79、95%信頼区間[CI]:0.62~1.00、p=0.055)。・冠動脈イベントの複合は、EPA群で有意に少なかった(6.6% vs.9.7%、HR:0.73、95%CI:0.55~0.97)。・有害事象に差はなかったが、心房細動の新規発症がEPA群で有意に高かった(3.1% vs.1.6%、p=0.017)。 著者らは「これらの結果を総合すると、スタチン治療を受けている慢性冠動脈疾患でEPA/AA比の低い患者において、イコサペント酸エチルが将来のイベントを軽減するという臨床的意義を有する可能性が示唆される」としている。

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くも膜下出血の発症リスクが上がる/下がる薬は?

 オランダ・ユトレヒト大学医療センターのJos P. Kanning氏らは、動脈瘤によるくも膜下出血(aSAH:aneurysmal subarachnoid hemorrhage)の発症リスクを下げるとされる処方薬として、5剤(リシノプリル[商品名:ロンゲスほか]、アムロジピン[同:アムロジンほか]、シンバスタチン[同:リポバスほか]、メトホルミン[同:メトグルコほか]、タムスロシン[同:ハルナールほか])を明らかにした。一方で、aSAHの発症に関連している可能性がある薬剤についても示唆した。Neurology誌オンライン版2024年6月25日号掲載の報告。 研究者らは、処方薬とaSAH発症リスクとの関連性を体系的に調査するため、drug-wide association study(DWAS)を実施。Secure Anonymised Information Linkage(SAIL)データバンクの1982年1月1日以前に生まれた患者を研究対象とし、ICD-9およびICD-10を用いて2000~20年までの全aSAH症例を抽出した。さらに、各症例を年齢、性別で9つの対照群と無作為にマッチングさせ、さらに症例と対照の観察期間を比較できるようデータベースへの登録年を基にマッチングさせた。本研究集団の2%超に処方された薬剤を調査し、インデックス日(aSAH発生)前で、処方に関連する曝露期間を重複しないように3つ定義付けした(現在:インデックス日から3ヵ月以内、最近:インデックス日から3〜12ヵ月、過去:インデックス日から12ヵ月より前)。また、年齢、性別のほか、交絡因子の調整のためaSAHと薬物曝露に関連するであろう変数として、既知のaSAHリスク因子(喫煙状況、高血圧の有無、飲酒、BMI)についてコントロールし、インデックス日以前の1年間のヘルスケアの利用(かかりつけ医への来院数など)も評価した。 主な結果は以下のとおり。・aSAH群4,879例(平均年齢±SD:61.4±15.4歳、女性:61.2%)と対照群4万3,911例を照合した。・aSAH症例群は対照群よりもかかりつけ医の受診回数が多く(平均受診回数:23回vs.19回)、インデックス日以前の喫煙率(37% vs.21%)や高血圧症の既往(42% vs.37%)も高かった。・本研究中に特定された2,023種類の薬剤のうち、205種類(10.1%)が共通して処方されていた。・二項ロジスティック回帰分析でボンフェローニ補正を用いたところ、現在服用中でaSAH発症リスクが低下した薬剤は、リシノプリル(オッズ比[OR]:0.63、95%信頼区間[CI]:0.44~0.90)、アムロジピン(OR:0.82、95%CI:0.65~1.04)であった。ただし、両者とも服用が「最近」の場合には、aSAH発症リスクが上昇(リシノプリルのOR:1.30[95%CI:0.61~2.78]、アムロジピンのOR:1.61[95%CI:1.04~2.48])し、リシノプリルとアムロジピンで同様の傾向が見られた。・シンバスタチン(OR:0.78、95%CI:0.64~0.96)、メトホルミン(OR:0.58、95%CI:0.43~0.78)、タムスロシン(OR:0.55、95%CI:0.32~0.93)を現在服用中の場合でも、aSAH発症リスクの低下が認められた。・対照的に、ワルファリン(商品名:ワーファリンほか、OR:1.35、95%CI:1.02~1.79)、ベンラファキシン(同:イフェクサー、OR:1.67、95%CI:1.01~2.75)、プロクロルペラジン(同:ノバミン、OR:2.15、95%CI:1.45~3.18)、Co-codamol*(OR:1.31、95%CI:1.10~1.56)を現在服用中の場合、aSAH発症リスクの増加が認められた。*アセトアミノフェン・コデインリン酸塩、国内未承認

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うっ血やLVEFの低下がある急性心筋梗塞では、SGLT2阻害薬の追加により心不全入院を予防できる可能性(解説:原田和昌氏)

 心不全ステージBである急性心筋梗塞(MI)患者では心不全(HF)発症リスクが高く、とくにうっ血やLVEFの低下がある場合は予後不良とされる。SGLT2阻害薬エンパグリフロジンは、2型糖尿病、CKD、HF患者における心血管イベント抑制効果が示されており、MI後の心不全発症の予防も期待される。Butler氏らは、MI後のHF発症に対するエンパグリフロジン上乗せの有効性と安全性を検証する国際共同第III相多施設ランダム化並行群間プラセボ対照優越性試験EMPACT-MI試験を行った。 急性心筋梗塞(STEMIまたはNSTEMI)発症後14日以内でLVEFが45%未満、またはうっ血が認められる18歳以上のHF高リスク患者6,522例が対象で、慢性HFの既往、1型糖尿病、eGFR 20mL/分/1.73m2未満などは除外した。2型糖尿病31.9%、心筋梗塞の既往13.0%、STEMI 74.3%、三枝病変31.0%、心房細動10.6%などであった。RAS阻害薬、β遮断薬、MRA、スタチン、抗血小板療法などの標準治療がなされ、血行再建術は89.3%に行われた。主要評価項目は複合イベント(HFによる初回入院または全死亡)の発生であった。 17.9ヵ月の追跡期間中にHFによる初回入院または全死亡の発生について、エンパグリフロジン群の優越性は認められなかった。副次評価項目のうち全入院または全死亡の発生は、プラセボ群に比べてエンパグリフロジン群で有意に少なかったが(HR:0.87)、その他の副次評価項目に有意差は認められなかった。評価項目の構成要素別の解析では、エンパグリフロジン群でプラセボ群に比べHFによる初回入院までの期間(HR:0.77)、HFによる入院は有意に良好だった(RR:0.67)。安全性プロファイルは既報のデータと一貫していた。 主要評価項目において、エンパグリフロジン群はプラセボ群に対する優越性が認められなかった。その理由としてはイベントの数が少なかったこと、PCIを施行されたMI後のLVEFの低下は一部気絶心筋によるためSGLT2阻害薬の効果が出にくかった可能性が考えられる。なお、Butler氏はACC.24でHFに対するSGLT2阻害薬の有効性に関するシステマティックレビューとメタ解析を行い、HFによる初回入院までの期間を検討したRCT 12件、HFによる入院の発生を検討したRCT 8件において、EMPACT-MI試験と同様の「29%、30%のリスク低減が確認された」と述べた。 同様な患者を対象とした2021年のPARADISE-MI試験で、サクビトリル・バルサルタン400mgはラミプリル10mgと比較して、心血管死亡とHF入院を減らさなかった。一方、2023年のDAPA-MI試験では、MI後でLVEFの低下した糖尿病のない患者を、ダパグリフロジン10mgまたはプラセボに無作為に割り付けた。主要アウトカムは、死亡、HFによる入院、非致死的MI、心房細動/粗動、2型糖尿病、最終来院時のNYHA機能分類、最終来院時の5%以上の体重減少の階層的複合で、ダパグリフロジンのwin ratioはプラセボよりも有意に高かった。ダパグリフロジンは階層的複合の改善に関して有意なメリットがあったが、心血管死またはHFによる入院はプラセボと比較して有意な差はなかった。DAPA-MI試験はレジストリーベースの無作為化試験であり、イベント発生が少なかったため、途中で試験デザインがwin ratioに変更されたうえ、有意な結果は追加された心代謝系アウトカムによっていた。MI後のHF高リスク患者に対するSGLT2阻害薬のエビデンスとしては合わせ技一本ということかもしれない。さらに、EMPACT-MI試験がNEJMで、DAPA-MI試験がNEJM evidence(臨床試験の結果、方法論、分析に焦点)である点も興味深いところである。

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ChatGPTは高齢患者のポリファーマシー対策に有用

 人工知能(AI)は、高齢者の多剤併用(ポリファーマシー)対策に役立つ可能性のあることが、新たな研究で示唆された。OpenAI社の大規模言語モデル(LLM)であるChatGPTに高齢者の架空の投薬リストを評価させたところ、一貫して不必要な可能性のある薬の使用の中止を推奨したという。米ハーバード大学医学大学院のArya Rao氏らによるこの研究の詳細は、「Journal of Medical Systems」に4月18日掲載された。 Rao氏らによると、高齢者の40%以上が5種類以上の薬を処方されており、それが薬物相互作用のリスクを高めているという。このリスクは、不要な薬の処方をやめることで軽減されるが、そのための意思決定プロセスは複雑であり、時間もかかる。そのため、特に人手不足に直面していることの多いプライマリケア従事者をサポートする、効果的なポリファーマシー管理ツールが必要とされている。 今回の研究でRao氏らは、多剤を併用している同一の高齢患者に関する複数の臨床シナリオを作成し、ChatGPTの薬物削減を通じたポリファーマシー管理の性能についての評価を行った。それぞれのシナリオでは、心血管疾患の既往歴や日常生活動作(ADL)の障害の程度が異なっていた。薬の削減については、ChatGPTにイエス/ノーで回答させた。 その結果、患者に心血管疾患の既往歴がない場合には、ChatGPTは一貫して薬の削減を推奨することが明らかになった。一方、心血管疾患の既往歴がある場合には、ChatGPTはより慎重な姿勢を示し、患者の薬物療法の変更はしないと判断する傾向が認められた。いずれのケースでも、ADLの障害の重症度はChatGPTの意思決定に影響を与えていなかった。また、ChatGPTは、痛みについては考慮しない傾向や、スタチンや降圧薬などの種類の薬を削減するよりも痛み止めを削減することを推奨する傾向があることも示された。 このほか、同じシナリオを新しいチャットセッションで提示すると、ChatGPTの応答が異なることもあったという。研究グループはこの結果について、「モデルのトレーニングに使用された研究報告の中で、臨床上の減薬傾向が一貫していないことを反映している可能性がある」との見方を示している。 こうした結果を受けてRao氏は、「本研究結果は、高齢者に対する薬剤処方の安全性を確実なものにする上でAIベースのツールが重要な役割を果たし得ることを示唆している。ただし、医療上の意思決定の複雑さに対応できるよう、これらのツールを改良し続けることが不可欠だ」と述べている。 研究グループは、医師が患者の処方箋を管理するのはますます難しくなっていると指摘する。さまざまな専門医を受診するメディケア加入の高齢患者が増えている一方で、それらの患者の服薬管理はプライマリケア医に一任されているからだ。 論文の上席著者で、米Mass General Brigham放射線学部門のMarc Succi氏は、「このようなモデルの精度を高める上では注意が必要だが、AIによる服薬管理は、一般開業医の負担増を軽減するのに役立つ可能性がある」と話す。その上で同氏は、「服薬管理のために特別に訓練されたAIツールを使ってさらに研究を進めれば、高齢患者のケアを大幅に改善できるだろう」との見方を示している。

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スタチンで糖尿病発症リスクは本当に増加する?

 スタチン療法により、糖尿病の新規発症リスクが約10%増加すると報告されているが、そのタイミングやどのような患者でリスクが高いかは明らかでない。英国・Cholesterol Treatment Trialists'(CTT)Collaborationの研究者らは、大規模な無作為化比較試験の個々の参加者データを用いたメタ解析を実施し、結果をLancet Diabetes &Endocrinology誌2024年5月号に報告した。スタチン療法群で糖尿病を発症した約62%は血糖値が最高四分位群に属する 対象となったのは、追跡期間2年以上で1,000人以上が参加するスタチン療法に関する二重盲検無作為化比較試験。メタ解析では、糖尿病の新規発症(糖尿病関連有害事象、新規血糖降下薬の使用、血糖値[空腹時血糖値≧7.0mmol/Lまたは随時血糖値≧11.1mmol/Lが2回以上]、HbA1c値[≧6.5%が1回以上]により定義)、糖尿病患者における血糖値悪化(ケトーシス関連の有害事象または血糖コントロールの悪化、ベースラインから≧0.5%のHbA1c値上昇、血糖降下薬の強化で定義)に対するスタチン療法の影響を評価した。 糖尿病の新規発症に対するスタチン療法の影響を評価した主な結果は以下のとおり。・CTT Collaborationの研究のうち、スタチンとプラセボを比較した19試験(参加者:12万3,940例、糖尿病患者:2万5,701例[21%]、追跡期間中央値;4.3年)が解析に含まれた。うち2試験(2万1,455例)は高強度スタチン療法と、16試験(9万5,890例)は中強度スタチン療法と、1試験(6,605例)は低強度スタチン療法とプラセボを比較していた。・低または中強度スタチン療法を受けた患者では、プラセボ群と比較して糖尿病の新規発症が発生率比で10%高かった(3万9,179例中2,420例[1.3%/年] vs.3万9,266例中2,214例[1.2%/年]、発生率比[RR]:1.10、95%信頼区間[CI]:1.04~1.16)。・高強度スタチン療法を受けた患者では、プラセボ群と比較して糖尿病の新規発症が発生率比で36%高かった(9,935例中1,221例[4.8%/年]vs.9,859例中905例[3.5%/年]、RR:1.36、95%CI:1.25~1.48)。・ベースラインで糖尿病のなかった参加者において、平均血糖値は低または中強度スタチン療法群で0.04mmol/L(95%CI:0.03~0.05)、高強度スタチン療法群でも0.04mmol/L(0.02~0.06)上昇し、平均HbA1c値は低または中強度スタチン療法群で0.06%(0.00~0.12)、高強度スタチン療法群では0.08%(0.07~0.09)上昇した。・スタチン療法群で糖尿病を新規発症した症例の約62%は、ベースラインの血糖値が最高四分位群に属する参加者であった。・糖尿病新規発症に対するスタチン治療の相対的影響は、さまざまなタイプの参加者および治療期間で同様であった。・ベースラインで糖尿病があった参加者において、血糖値悪化のRRはプラセボ群と比較して、低または中強度スタチン療法群で1.10(1.06~1.14)、高強度スタチン療法群で1.24(1.06~1.44)であった。 著者らは、スタチンは糖尿病の新規発症について用量依存的な増加を引き起こしたが、これは血糖値のわずかな上昇と一致しており、糖尿病の新規発症の多くはベースラインの血糖マーカーが糖尿病の診断基準値に近い人々で起こっていたとし、スタチンの主要な心血管イベントに対するベネフィットはこれらの糖尿病リスクを大幅に上回ると結論付けている。

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PREVENT計算式で心血管疾患リスクを推定可能に

 「心血管疾患(CVD)イベントのリスク予測(Predicting Risk of CVD EVENTs;PREVENT)」方程式は、心不全を含むCVDのリスクを正確に推定できることが、「Circulation」に11月10日掲載のmethods paperおよび付随する科学的声明により報告された。この結果は、米国心臓協会の年次学術集会(AHA 2023、11月11~13日、米フィラデルフィア)でも同時発表された。 CVDの絶対リスクを評価する多変量リスク予測方程式の使用は、複数の一次予防ガイドラインにおいて現在推奨されているが、課題も多く存在する。米ノースウェスタン大学ファインバーグ医学部のSadiya S. Khan氏らは、心血管・腎臓・代謝の3つの軸に関連する予測因子や、健康の社会的決定因子も考慮した新たな方程式が必要と考え、CVDの既往のない30~79歳の米国成人を対象としたPREVENT方程式を開発した。 主要アウトカムはCVD〔アテローム動脈硬化性CVD(ASCVD)および心不全(HF)〕で、予測因子は従来のリスク因子である喫煙、収縮期血圧、コレステロール、降圧薬・スタチン使用、糖尿病に加え、推算糸球体濾過量(eGFR)を用いた。モデルの導出は、コホート25件から得た個人レベルの対象者データ328万1,919人を対象とし、外部検証は、追加コホート21件の対象者333万85人を対象とした。モデルの開発では、年齢を尺度として使用し、非CVD死亡を競合リスクとして考慮した上で、男女別に予測因子とCVDとの関連を推定した。モデルの予測能はC統計量で評価し、較正は十分位数による観察リスクと予測リスクの傾きとして算出した。 対象者全体の平均年齢は53歳、女性56%で、平均4.8年間の追跡期間中に21万1,515件のCVD発症が確認された。外部検証の結果、PREVENTモデルはCVDリスク予測において、C統計量の中央値が女性で0.794、男性で0.757を達成した。較正曲線は女性で1.03、男性で0.94だった。ASCVDとHFを個別に予測するモデルにおいても、予測能と較正は同程度だった。選択可能な予測因子として、尿中アルブミン・クレアチニン比、HbA1c、社会的剥奪指数を追加したところ、モデルのCVD予測能はわずかながら有意に向上した(C統計量の差は女性で0.004、男性で0.005)。 Khan氏らは科学的声明の中で、PREVENT方程式の臨床的意義を説明している。この方程式を使用すれば、10年間および30年間におけるCVD(ASCVDとHF の複合)リスクを推定可能になることが重要という。方程式は男女別であり、予測因子としてeGFRを含み、人種を含んでいないことも特徴である。 Khan氏らは「PREVENT方程式は、CVDのリスク予測に心血管・腎臓・代謝に関わる健康因子と社会的因子を含めるための重要な第一歩である」と結論付けている。 なお、複数人の著者がバイオ医薬品企業との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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CKDへの適応が追加されたエンパグリフロジンへの期待/ベーリンガーインゲルハイム・リリー

 SGLT2阻害薬エンパグリフロジン(商品名:ジャディアンス)に、2024年2月、慢性腎臓病(CKD)の適応が追加された。この適応追加に関連して日本ベーリンガーインゲルハイムと日本イーライリリーは、3月29日に都内でプレスセミナーを共同開催した。セミナーでは、CKDの概要、エンパグリフロジンのCKDに対するEMPA-KIDNEY試験の結果などについて講演が行われた。CKDの早期発見、早期介入で透析を回避 はじめに「慢性腎臓病のアンメットニーズと最新治療」をテーマに岡田 浩一氏(埼玉医科大学医学部腎臓内科 教授)が講演を行った。 腎炎、糖尿病、高血圧、加齢など腎疾患の原因はさまざまあるが、終末期では末期腎不全となり透析へと進展する。この腎臓疾患の原因となる病気の発症から終末期までを含めてCKDとするが、CKDの診療には次の定義がある。(1)尿異常、画像診断、血液、病理で腎障害の存在が明らか(とくに蛋白尿)(2)GFR<60mL/分/1.73m2(1)、(2)のいずれか、または両方が3ヵ月以上持続した場合にCKDと診断 また、重症度分類として18区分でヒートマップ化したものがあり、個々の患者の病態に応じ早期に治療介入することが必要だという。 最近の研究では、心血管死へのCKDの影響も解明されつつあり、厚生労働省の調査班の研究では、喫煙、糖尿病、高血圧、CKDが心血管死の主要因子とされ、とくにCKDの頻度は高血圧44.3%に次いで高く20.4%、人口寄与危険割合も高血圧26.5%に次いで10.4%と2番目に高いリスクであると説明した。また、わが国のCKD患者は、2005年時に推定1,328万人から2015年には推定1,480万人に増加しており、そのうち2022年時点で透析患者は約35万人、年間で約1.63兆円の医療費が推計されている。この対策に厚生労働省は、腎疾患対策検討会などを設置し、「2028年までに新規透析導入患者数を3万5千人以下に減少させる(10年で10%以上減少)」などの目標を示し、さまざまな調査と対策を打ち出している。 CKDの治療では、減塩や蛋白質制限などの食事療法、禁煙などの生活習慣改善のほか、RA系阻害薬を中心とした降圧療法、スタチンを用いた脂質異常症の治療など個々の患者の病態に合わせた多彩な治療が行われている。先述の対策委員会の中間報告では、診療ガイドラインの推奨6項目以上を達成すると予後が良好となりCKDの進展抑制が可能との報告もあり、「個別治療を1つでも多く達成することが重要」と岡田氏は指摘する。また、CKD患者への集学的治療は、患者のeGFRの低下を有意に遅らせる可能性があり、初期段階を含めて原疾患に関係なく有効である可能性があると示唆され、とくにステージ3〜5の患者には集学的治療が推奨されるという研究結果も説明した1)。 今後の課題として、わが国の新規透析導入患者は、2020年をピークに減少傾向にあるが、高齢男性では依然として増加傾向にあること、主な透析導入の原因として、第1位に糖尿病、第2位に高血圧・加齢、第3位に慢性腎炎が報告されている(日本透析医学会「わが国の慢性透療法の現況」[2022年12月31日現在])ことに触れ、第3位の慢性腎炎の疾患の1つである腎硬化症に焦点を当て解説を行った。腎硬化症は、蛋白尿を伴わず、進行も遅いためになかなか治療対象として認知されておらず、また、現在は根治療法がなく、診療エビデンスも少ないと今後解決すべきアンメットニーズであると説明した。 岡田氏は最後に「CKDは早期発見と介入が何よりも重要であり、eGFR>30である間に、かかりつけ医から専門医への紹介を推進することが大切」と語り講演を終えた。糖尿病の有無にかかわらずCKD患者の心血管死リスクを低下させる 次に「慢性腎臓病に対する新しい治療選択肢としてジャディアンスが登場した意義」をテーマに門脇 孝氏(虎の門病院 院長)が、エンパグリフロジンのCKDへの適応追加の意義や臨床試験の内容について説明を行った。 糖尿病などの代謝性疾患、心血管疾患、CKDは相互に関連し、どこか1つのサイクルが壊れただけでも負のスパイラルとなり、身体にさまざまな障害を引き起こすことが知られている。 2014年に糖尿病治療薬として承認されたSGLT2阻害薬エンパグリフロジンは、当初から心臓、腎臓への保護作用の可能性が期待され、2021年には慢性腎不全に追加承認が、本年にはCKDへ追加承認がされた。その追加承認のベースとなった臨床試験がEMPA-KIDNEY試験である。 EMPA-KIDNEY試験は、8ヵ国で行われた第III相ランダム化二重盲検プラセボ対照試験で、目的は「CKD患者にエンパグリフロジンが腎疾患の進行または心血管死のリスクを減少させるかを検討すること」、対象範囲は糖尿病ではない患者、低蛋白尿を呈する患者を含む、腎疾患進行リスクを有する幅広いCKD患者である。 EMPA-KIDNEY試験の概要は以下の通り。〔試験デザインとアウトカムなど〕・腎疾患進行リスクのあるCKD患者6,609例(うち9%が日本人)を、エンパグリフロジン10mg/日+標準治療(3,304例)とプラセボ+標準治療(3,305例)に割り付けた。・主要評価項目:心血管死または腎疾患の進行・副次評価項目:心不全による初回入院または心血管死までの期間など・患者背景は糖尿病患者と非糖尿病患者が半々だった。・eGFR<30mL/分/1.73m2の低下例も組み入れたほか、微量アルブミン尿患者も組み入れた。〔主な結果〕・主要評価項目では2.5年の追跡期間で腎臓病進行または心血管死の初回発現について、エンパグリフロジン群で432例(13.1%)、プラセボ群で558例(16.9%)だった(ハザード比:0.72、95%信頼区間:0.64~0.82、p<0.001)ことから初回発現までの期間が有意に抑制された2)。・ベースラインから最終フォローアップ来院までの全期間のeGFRスロープ(年間変化率)は、プラセボ群の-2.92に対してエンパグリフロジン群が-2.16で、その差は0.75だった。・2ヵ月目の来院から最終フォローアップ来院までの慢性期のeGFRスロープは、プラセボ群の-2.75に対してエンパグリフロジン群が-1.37で、その差は1.37だった。・安全性については、有害事象発現率はエンパグリフロジン群で43.9%、プラセボ群で46.1%であり、エンパグリフロジン群では骨折、急性腎障害、高カリウム血症などが報告されたが重篤なものはなかった。 門脇氏は、本試験の特徴について、「蛋白尿が正常な患者を初めて組み入れたCKDを対象としたSGLT2阻害薬の臨床試験であること」、「幅広いeGFR値のCKD患者に対し、糖尿病罹患の有無にかかわらず、腎疾患の進行または心血管死の発現リスクの有意な低下を示したこと」、「有害事象発現率がプラセボよりも低かった」とまとめ、レクチャーを終えた。 今後、微量アルブミン尿患者などを含め、幅広く使用される可能性があり、CKDへの有効な治療手段となることが期待されている。

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ホモ接合体家族性高コレステロール血症治療に新たな兆し/ウルトラジェニクス

 Ultragenyx Japan(ウルトラジェニクスジャパン)は「エヴキーザ点滴静注液 345mg(一般名:エビナクマブ[遺伝子組換え]、以下エヴキーザ)」の日本における製造販売承認を取得したことを機に、「治療の選択肢が広がるホモ接合体家族性高コレステロール血症―病態、現状の課題及び今後の治療について―」と題したメディアセミナーを2024年3月12日に開催した。 本セミナーでは、初めに大阪医科薬科大学 循環器センター特務教授 斯波 真理子氏より「病態と新薬への期待」について語られた。ホモ接合体家族性高コレステロール血症(HoFH)治療の課題 HoFHは、LDL-C値が370mg/dL以上あるいは小児期より皮膚および腱黄色腫が認められる指定難病であり、若年齢より動脈硬化性心血管疾患を引き起こすことが知られている。LDL-C値を下げるためには、LDL受容体の活性を上昇させることが有効とされ、スタチンやエゼチミブ、PCSK9阻害薬などが用いられている。しかし、HoFHではLDL受容体活性がないあるいはほとんどないため、こうした薬剤を投与しても効果が得られにくい。そのため、HoFHにおいてLDL-C値を低下させる有用な手段として、長い間LDLアフェレシスが用いられてきた。LDLアフェレシスの登場により動脈硬化の進行をある程度抑制できるようになったものの、効果が一時的であることや、体外循環血流量を確保できる年齢になるまでは実施できないという課題が残されていた。HoFHの治療実態 わが国におけるHoFHの実態を調査したデータベース研究では、目標LDL-C値に到達できているのは、一次予防(LDL-C値≦100mg/dL)で21.7%、二次予防(LDL-C値≦70mg/dL)で30.5%であったとされている。また、HoFH患者のうち70%が冠動脈疾患を、24%が心臓弁膜症を合併しているとされ1)、現行の治療法では動脈硬化性心血管疾患の予防が困難であることが示唆された。LDL-C値を低下させることで予後改善にもつながる可能性があることから、斯波氏はLDL-C値の厳格なコントロールの重要性を強調した。 また、HoFHは認知度が低く、診断に至っていないケースが多い。中年になって心筋梗塞を発症し、スタチンやエゼチミブ、PCSK9阻害薬を使用してもLDL-C値が下がらない症例に対して、遺伝子検査をしたらHoFHであったというケースは少なくない。斯波氏は、「HoFHはいかに若年期に診断できるかが重要である」と強く訴えた。 次いで、Ultragenyx Japanのメディカル・クリニカルオペレーション部門長 飛田 公理氏より「エビナクマブ(遺伝子組換え)について」と題し、エヴキーザの作用機序や臨床試験について語られた。エヴキーザの推定作用機序 エヴキーザは、ANGPTL3に特異的に結合して阻害する遺伝子組換えヒトモノクローナル抗体である。ANGPTL3は肝臓で合成される血中タンパク質で、本剤によって阻害されると、脂質の代謝をコントロールしているリポタンパクリパーゼ(LPL)および血管内皮リパーゼ(EL)の活性が制御される。その結果、超低比重リポタンパク(VLDL)からLDL-Cへの移行を阻害し、LDL-C値を低下させると考えられている。エヴキーザの臨床試験成績 エヴキーザは、国際共同第III相試験(R1500-CL-1629試験)、国際共同第III相長期継続試験(R1500-CL-1719試験)、海外第Ib/III相小児試験(R1500-CL-17100試験)の成績を基に製造販売承認申請が行われた。 国際共同第III相試験(R1500-CL-1629試験)は、日本人10例を含む多施設共同、二重盲検、無作為化、プラセボ対照、並行群間比較試験である。本試験は24週間の二重盲検投与期間と24週間の非盲検投与期間で構成されており、二重盲検投与期間には、患者をエヴキーザ15mg/kgまたはプラセボをそれぞれ4週に1回静脈内投与する群に2:1の割合で無作為化し、治験薬を24週間投与した。本試験の参加者が行っていた基礎治療としての脂質低下療法の内訳は、エヴキーザ群(43例)でスタチン41例(95.3%)、エゼチミブ33例(76.7%)、PCSK9阻害薬34例(79.1%)、ロミタピド11例(25.6%)、LDLアフェレシス14例(32.6%)、プラセボ群(22例)でスタチン20例(90.9%)、エゼチミブ16例(72.7%)、PCSK9阻害薬16例(72.7%)、ロミタピド3例(13.6%)、LDLアフェレシス8例(36.4%)であった。また、ベースラインの平均LDL-C値は、エヴキーザ群259.5±172.40mg/dL、プラセボ群246.5±153.71mg/dLであった。 主な結果は以下のとおり2)。・ベースラインから投与24週後のLDL-C値の変化率はエヴキーザ群で-47.1%であり、プラセボ群1.9%に対して優位であった。なお、LDL受容体の活性の程度によらず、LDL-C値の低下が認められた。・投与24週後にLDL-C値が50%以上低下した患者割合はエヴキーザ群で55.8%であり、プラセボ群4.5%に対する優越性が示された。・有害事象の発現率は、二重盲検投与期間にエヴキーザ群で29/44例(65.9%)、プラセボ群で17/21例(81.0%)、非盲検投与期間では、全体集団で47/64例(73.4%)であった。いずれの期間においても、有害事象により治験薬の投与中止に至った患者はおらず、死亡例は認められなかった。 なお、国際共同第III相長期継続試験(R1500-CL-1719試験)、海外第Ib/III相小児試験(R1500-CL-17100試験)は、現在も進行中である。

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