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適切な感染症管理が認知症のリスクを下げる

 認知症は本人だけでなく介護者にも深刻な苦痛をもたらす疾患であり、世界での認知症による経済的損失は推定1兆ドル(1ドル155円換算で約155兆円)を超えるという。しかし、現在のところ、認知症に対する治療は対症療法のみであり、根本療法の開発が待たれる。そんな中、英ケンブリッジ大学医学部精神科のBenjamin Underwood氏らの最新の研究で、感染症の予防や治療が認知症を予防する重要な手段となり得ることが示唆された。 Underwood氏によると、「過去の認知症患者に関する報告を解析した結果、ワクチン、抗菌薬、抗ウイルス薬、抗炎症薬の使用は、いずれも認知症リスクの低下と関連していることが判明した」という。この研究結果は、同氏を筆頭著者として、「Alzheimer's & Dementia: Translational Research & Clinical Interventions」に1月21日掲載された。 認知症の治療薬開発には各製薬企業が注力しているものの、根本的な治療につながる薬剤は誕生していない。このような背景から、認知症以外の疾患に使用されている既存の薬剤を、認知症治療薬に転用する研究が注目を集めている。この方法の場合、薬剤投与時の安全性がすでに確認されているので、臨床試験のプロセスが大幅に短縮される可能性がある。 Underwood氏らは、1億3000万人以上の個人、100万症例以上の症例を含む14の研究を対象としたシステマティックレビューを行い、他の疾患で使用される薬剤の認知症治療薬への転用可能性について検討を行った。 文献検索には、MEDLINE、Embase、PsycINFOのデータベースを用いた。包括条件は、成人における処方薬の使用と標準化された基準に基づいて診断された全原因認知症、およびそのサブタイプの発症との関連を検討した文献とした。また、認知症の発症に関連する薬剤(降圧薬、抗精神病薬、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬など)と認知症リスクとの関連を調べている文献は除外した。 検索の結果、4,194件の文献がヒットし、2人の査読者の独立したスクリーニングにより、最終的に14件の文献が抽出された。対象の文献で薬剤と認知症リスクとの関連を調べた結果、ワクチン、抗菌薬、抗ウイルス薬、抗炎症薬が認知症リスクの低減に関連していることが明らかになった。一方、糖尿病治療薬、ビタミン剤・サプリメント、抗精神病薬は認知症リスクの増加と関連していた。また、降圧薬と抗うつ薬については、結果に一貫性がなく、発症リスクとの関連について明確に結論付けられなかった。 Underwood氏は、「認知症の原因として、ウイルスや細菌による感染症が原因であるという仮説が提唱されており、それは今回得られたデータからも裏付けられている。これらの膨大なデータセットを統合することで、どの薬剤を最初に試すべきかを判断するための重要な証拠が得られる。これにより、認知症の新しい治療法を見つけ出し、患者への提供プロセスを加速できることを期待する」と述べた。 また、ケンブリッジ大学と共同で研究を主導した英エクセター大学のIlianna Lourida氏は、ケンブリッジ大学のプレスリリースの中で、「特定の薬剤が認知症リスクの変化と関連しているからといって、それが必ずしも認知症を引き起こす、あるいは実際に認知症に効くということを意味するわけではない。全ての薬にはベネフィットとリスクがあることを念頭に置くことが重要である」と付け加えている。

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あなたのプロテインは安全? 重金属汚染の可能性

 米国のプロテイン・サプリメント市場規模は、2023年に97億ドル(1ドル155円換算で約1兆5000億円)を突破した。しかし、広く消費される市販のプロテインパウダーは、あなたが思っているほど健康的ではないかもしれない。 米国の非営利組織Clean Label Project(CLP)は最新の調査結果の中で、「ポピュラーなプロテインパウダー(特に植物性の製品、オーガニック製品、チョコレート風味の製品)には、高レベルの鉛とカドミウムが含まれている可能性がある」と報告した。鉛には人体に安全な濃度はなく、カドミウムは発がん性物質であることが知られている。 今回の調査では、市場シェアの83%を占めるトップブランド70社の160製品を検査した(ブランド名は非公開)。これらの製品について、重金属やビスフェノールA(BPA)のような内分泌かく乱物質を含む汚染物質258項目、3万5,862件の検査を行った。 その結果、製品全体の47%がカリフォルニア州の厳格な化学物質規制法であるプロポジション65(CA Prop 65)を含む、連邦または州の安全性規制値のいずれか一つを超えていた。さらに対象製品の21%に、CA Prop 65での規制値の2倍以上の鉛が含まれていた。 製品のカテゴリー別の検査結果を比較すると、次のことが明らかになった。・大豆などを原料とする植物性プロテインパウダーは、チーズ製造の副産物である乳清(ホエイ)を原料とする製品と比べ、鉛が約3倍、カドミウムが約5倍多く含まれていた。・オーガニックのプロテインパウダーには、非オーガニック製品に比べて、鉛が3倍、カドミウムが2倍多く含まれていた。・チョコレート味のプロテインパウダーには、バニラ味の製品に比べて、鉛が4倍、カドミウムが110倍も多く含まれていた。 植物は本来、土壌や水から重金属を吸収するが、産業廃棄物や鉱業、特定の農薬や肥料によって汚染された土壌で栽培された場合、重金属含有量がさらに増加する可能性がある。豊富なフラボノイドと抗酸化物質で知られるダークチョコレートも、鉛やカドミウムを含む重金属の濃度が高くなりやすい。 一方で、今回の調査では良いニュースも報告された。2018年に行われた調査では、調査対象製品の5%からBPAとその類似物質のビスフェノールS(BPS)が検出されたが、今回検査された160製品では、これらの物質が検出されたのは、わずか3製品(約1.9%)のみにとどまった。これは、消費者の要望とこの化学物質をめぐる論争に対する業界の対応が反映された結果といえる。 今回の調査では、内分泌かく乱物質で汚染されている製品は少なかったものの、重金属については、植物由来のプロテインパウダーでの汚染レベルが最も高く、乳清ベースの製品の汚染レベルは植物由来のプロテインパウダーよりも一貫して低いことが明らかになった。CLPのエグゼクティブディレクターJaclyn Bowen氏は、今回の調査結果について、「消費者が有害な汚染物質を避けながらプロテインパウダーを選択する際の参考になるかもしれない」と述べた。 また、Bowen氏は、「消費者は健康とパフォーマンスのためにプロテインやサプリメント製品を購入しており、その製品が安全であることを期待している。食品業界はその原材料の安全性について、透明性のある情報を消費者に示す義務がある」とも述べている。

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高齢者の卵摂取、多くても少なくてもダメ?

 卵の摂取量と70歳以上の高齢者の全死因死亡および死因別死亡との関連性を前向きに調査した結果、卵をまったく/まれにしか摂取しない群に比べて、週に1~6回摂取する群では全死因死亡および心血管疾患(CVD)死亡のリスクが低減したが、毎日摂取する群ではこの潜在的な有益性は認められなかったことを、オーストラリア・モナッシュ大学のHolly Wild氏らが明らかにした。Nutrients誌2025年1月17日号掲載の報告。 卵摂取と健康との関係は広く研究されているが、その結果はしばしば矛盾しており、さらに65歳以上の高齢者におけるエビデンスは限られている。卵にはタンパク質のほか、ビタミンやミネラルなども豊富に含まれており、高齢者の重要な栄養供給源であることから、研究グループは卵摂取と高齢者の死亡との関連性を評価するために前向きコホート研究を実施した。 本研究では、オーストラリア居住者を対象とした高齢化に関する縦断コホート研究「ALSOP試験」の参加者である70歳以上の8,756例のデータを用いた。過去1年間の卵の摂取量を食物摂取頻度調査(FFQ)で聴取し、「まったく摂取しない/まれに摂取(月に0~2回)」、「毎週摂取(週に1~6回)」、「毎日摂取(毎日~1日に数回)」の3つのカテゴリーで解析した。卵摂取と死亡との関連をCox比例ハザード回帰分析により評価した。 主な結果は以下のとおり。●解析対象8,756例の年齢中央値は76.9±5.5歳、女性が54.0%であった。卵を毎日摂取していたのは2.6%、毎週摂取していたのは73.2%、まったく/まれにしか摂取していなかったのは24.2%であった。●追跡期間中央値5.9年で1,034例の全死因死亡(11.8%)が記録された。がん死亡は453例(5.2%)、CVD死亡は292例(3.3%)であった。●卵を毎週摂取する群では、まったく/まれにしか摂取しない群と比較して、全死因死亡リスクが15%低く、CVD死亡リスクが29%低かった。がん死亡では有意な関連は認められなかった。ハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)は以下のとおり。 -全死因死亡のHR:0.85、95%CI:0.74~0.98 -CVD死亡のHR:0.71、95%CI:0.54~0.91 -がん死亡のHR:0.93、95%CI:0.76~1.16●卵を毎日摂取する群では、まったく/まれにしか摂取しない群よりもいずれのリスクも高い傾向にあったが、有意な関連は認められなかった。 -全死因死亡のHR:1.20、95%CI:0.85~1.71 -CVD死亡のHR:1.43、95%CI:0.79~2.58 -がん死亡のHR:1.36、95%CI:0.82~2.27 研究グループは「これらの知見は、高齢者のためのエビデンスに基づいた食事ガイドラインの作成に有益であると考えられるが、関連性の根底にあるメカニズムをより理解するためにはさらなる縦断的研究が必要である」とまとめた。

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若い女性への再発予防の指導方法について 実際どう指導していますか?【とことん極める!腎盂腎炎】第11回

若い女性への再発予防の指導方法について 実際どう指導していますか?Teaching pointリスク因子を評価し適切な再発予防指導(飲水励行や排泄後の清拭など)までできるようになるはじめに女性は解剖学的に尿路感染症を起こしやすく、約3人に1人は24歳までに尿路感染症を少なくとも1回は経験する1)。尿路感染の既往をもつ女性のうち30〜44%が再発し、0.3〜7.6回/年生じるという報告もあり、生活の質(QOL)にかかわる重要な問題である2)。再発防止は本人のQOL維持、繰り返す抗菌薬曝露による耐性菌発生の予防の観点からも重要である。若い女性への尿路感染症の再発予防の生活指導方法について紹介する。1.若い女性の再発性尿路感染症のリスク因子閉経前の女性のリスク因子として、(1)性的活動の活発であること、(2)殺精子剤の使用、(3)新たな(1年以内の)性的パートナー、(4)尿路感染症の既往のある母親、(5)小児尿路感染症の既往がある。しかし、遺伝的な素因よりも性交や殺精子剤のリスクのほうが大きいとされ、行動への介入は予防可能なリスクとなる3)。2.再発予防への日常生活への指導防御機構とリスク因子を踏まえ予防的な介入を考えていく。本項では介入として日常生活への指導をまとめる(薬剤、サプリメントによる予防は第13回で紹介する)。日常生活への指導の有効性を裏づけるエビデンスは限られるが、介入によるリスクの低さから薬物などによる介入前に実践することが推奨されている。飲水量の増加は単施設であるがRCTで有効性が示されている4)。水分摂取量が少ない(1.5L/日未満)、再発性膀胱炎(3回以上繰り返す)を来たした成人女性において通常量の飲水に加えて、1.5L/日の追加飲水の介入を行ったところ非介入群と比較して、膀胱炎の発症が1年あたり1.5回減少した(1.7回[95%信頼区間[CI]:1.5~1.8]vs. 3.2回[95%CI:3.0~3.4])。筆者はさらに飲水行動について詳しく問診するようにしている。飲水量が少なかった場合、「なぜ飲水量が少ないか」を聞くとさらに背景に迫れることがある。気軽に排泄に行きづらい職場環境(例:コンビニ店員でトイレに行くタイミングがないなど)が背景にあり飲水を控えているというケースも経験する。その場合は、職場環境改善への働きかけなどに協力してあげることも大切となる。また、性交や殺精子剤は尿路感染症のリスク因子であり、性交を減らすことや殺精子剤を含む避妊具を避けることを、本人やパートナーとカウンセリングを行うこともリスクを減らすと期待される。その他、明確な関連は示されていない個別での相談や効果を評価する指導内容も含め表にまとめた4,5)。小児期から繰り返している場合や腎結石、尿路閉塞、間質性膀胱炎、尿路上皮がんが疑われるような場合は泌尿器科受診を勧めることも忘れてはならない。表 若年女性の単純性尿路感染症の再発を予防するための日常生活への指導画像を拡大する再発性の膀胱炎の最終手段として抗菌薬投与が選択されることもあるが、耐性菌のリスクの観点からも導入しやすい日常生活への指導からしっかりと介入していくことは大切である。生活へのアプローチは一人ひとりの事情もあるので、本人の生活について丁寧に聴取し生活に合わせた指導内容を一緒に考えていくことはプライマリ・ケア医の重要な役割である。1)Foxman B. Dis Mon. 2003;49:53-70.2)Gupta K, Trautner BW. BMJ 2013;346:f3140.3)Hooton TM, et al. N Engl J Med 1996;335:468-474.4)Hooton TM, et al. JAMA Intern Med 2018;178:1509-1515.5)Hooton TM. N Engl J Med 2012;366:1028-1037.

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服薬アドヒアランスの悪い心血管疾患の患者に対して、一般的なテキストメッセージ、ナッジを追加したテキストメッセージ、ナッジとチャットボットによるテキストメッセージを提供しても、通常のケアと比較して12ヵ月後のアドヒアランスを改善しなかった(解説:名郷直樹氏)

 ナッジ*やチャットボット**という新しい介入手段が出現し、患者の服薬アドヒアランスを改善できるのではないかという視点で行われたランダム化比較試験である。 服薬アドヒアランスの悪い心血管疾患の18歳から90歳までの患者を対象に、一般的なテキストメッセージ、ナッジを追加したテキストメッセージ、ナッジとチャットボットによるテキストメッセージのそれぞれの提供を通常のケアと比較し、12ヵ月後のリフィルの処方箋の発行のギャップを服薬アドヒアランスのアウトカムとして検討している。 この研究は“pragmatic”と書かれているが、個々の患者に臨床試験に対する情報提供と同意を行う“opt in”のステップを踏まず、手紙の郵送によって参加者を募るという“opt out”の手法を用いているところに特徴がある。より幅広いリアルワールドでの患者を対象にしようとする配慮がなされており、これが“pragmatic”ということなのだろう。 結果は、テキストメッセージ群で62.0%、ナッジ追加群で62.3%、ナッジ+チャットボット群で63.0%、通常ケアで60.6%の順守率で、統計学的な差はない。順守率の差の多変量解析による結果も報告され、統計学的に有意な差が認められているが、順守率2%程度の差であり、統計学的な有意差が認められたとしても、臨床的に意味のある差とは言えないだろう。 服薬アドヒアランスを改善することは治療効果を上げるために重要である。アドヒアランスの低下が患者の予後に関連するという研究もある。しかし、アドヒアランスの評価そのものが困難である。毎回きちんと通院している患者が訪問診療に移行し、自宅を訪ねてみると、大量の残薬が発見されることは決して珍しくない。自己負担の少ない国民皆保険の日本で同様な研究を行うとしたら、さらに大きな困難があると思われる。*ナッジ:元の意味は「軽くつつく」というものであるが、ちょっとした本人の意識しない介入(ナッジ)を行動経済学の領域で経済的な利益を高めるための手法として利用したのが始まりである。それがさらに一般的な行動にも適用されるようになり、行動科学に基づいて、強制することなく、小さな介入により、本人に意識させることなく、人々の行動を改善する手法として利用されるようになった。この論文においてナッジの相殺については記載されていないが、サプリメントに記載されている。**チャットボット:「対話(chat)」と「ロボット(bot)」を組み合わせた造語であるが、AIと人との対話ということである。この論文に準じて言えば、アドヒアランスの改善についてAIと対話し、その結果をテキストメッセージとして提供するということであろう。

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高K血症治療薬patiromerが心不全治療を最適化-DIAMOND試験サブ解析

 ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)を含むレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)阻害薬は高カリウム血症(以下、高K血症)を引き起こす可能性があるため、処方がためらわれる場合がある。今回、オーストラリア・Heart Research InstituteのAndrew J. S. Coats氏らは、高K血症治療薬patiromerがHFrEF(左室駆出率が低下した心不全)患者におけるRAAS阻害薬の目標用量の達成を容易にすることを明らかにした。さらに、RAAS阻害薬による治療以前に高K血症を認めた患者の場合でも、patiromerが血清K値を維持し、MRAの目標用量を達成するうえでより有益である可能性も示唆した。JACC:Heart Failure誌2024年12月号掲載の報告。 本研究はpatiromerの第III相 DIAMOND試験*のサブ解析で、RAAS阻害薬の投与によって高K血症を認めた、または過去(登録前1年以内)に高K血症(血清K値>5.0mmol/L)を認めた患者において、patiromerの効果を評価した。対象者はRAAS阻害薬の用量最適化のための単盲検試験に参加し、その後にpatiromerの継続あるいはプラセボへ変更するかを二重盲検で無作為に割り付けられた。*RAAS阻害薬を投与されているHFrEF患者の高K血症管理に対するpatiromerの有効性をプラセボと比較した研究1) 主な結果は以下のとおり。・観察期を終了した1,038例のうち、RAAS阻害薬によって高K血症を認めた422例中354例(83.9%)と過去に高K血症を認めた616例中524例(85.1%)がRAAS阻害薬の用量最適化を達成し、治療に無作為に割り当てられた。・二重盲検期間中、patiromerはサブグループ(RAAS阻害薬による高K血症患者および過去に高K血症を認めた患者)の両方で、プラセボと比較して血清K値を低下させた。・ベースラインからの調整平均差は、それぞれ-0.12(95%信頼区間[CI]:-0.17~-0.07)および-0.08(95%CI:-0.12~-0.05)であった(相互作用のp=0.166)。・RAAS阻害薬による高K血症患者と過去に高K血症を認めた患者を比較しても、patiromerはMRAの目標用量を維持するうえでプラセボよりも効果的であった(HR:0.45[95%CI:0.26~0.76]vs.HR:0.85[95%CI:0.54~1.32]、相互作用のp=0.031)。・有害事象はサブグループ間で同様であった。

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診療科別2024年下半期注目論文5選(循環器内科編)

Transcatheter Edge-to-Edge Repair for Severe Isolated Tricuspid RegurgitationDonal E, et al. JAMA. 2024 Nov 27. [Epub ahead of print]<Tri.Fr試験>:重症三尖弁逆流のカテーテル治療の時代がくるか?重症三尖弁逆流へのカテーテル治療であるedge-to-edge修復術(T-TEER)を至適薬物療法(OMT)に併用することによって、アウトカムが改善するかを検討。T-TEER+OMT療法はOMT単独療法と比較して、1年後の患者報告アウトカム指標と臨床イベントからなる複合スコアを改善しました。TriClip®による三尖弁カテーテル治療の適応について本邦でも議論が進むものと期待されます。Beta-Blocker Interruption or Continuation after Myocardial InfarctionSilvain J, et al. N Engl J Med. 2024;391:1277-1286.<ABYSS試験>:心筋梗塞既往患者でβ遮断薬の開始ではなく中断を検討、継続すべし薬剤の有効性と安全性を検討し、ポジティブな結果であれば新規の内服開始を薦めるという研究が多くなっています。しかしいったん開始した薬剤は永久に必要なのでしょうか。合併症のない心筋梗塞既往患者において、β遮断薬の長期中断について検討した本研究は興味深いものです。結果として、β遮断薬の中止は安全であると示すことはできませんでした。単純に解釈すれば継続投与が必要となります。β遮断薬を再評価する複数の臨床試験が進行中で、議論が続くと思われます。Pulmonary Vein Isolation vs Sham Intervention in Symptomatic Atrial FibrillationDulai R, et al. JAMA. 2024;332:1165-1173.<SHAM-PVI試験>:心房細動アブレーションの実手技vs.シャム(偽手技)、究極のランダマイズ試験これまでにも心房細動へのアブレーション治療についてのランダマイズ試験は存在し、改善効果を示してきました。しかしアブレーション実施の有無は、医師や患者本人には盲検化されていないため、QOLの改善が実手技を受けた患者のプラセボ効果ではないかとの批判がありました。実手技vs.シャム手技を比較する試験を計画し実施した著者に敬意を表します。シャム手技まで必要とするかとの意見もあると思われます。Finerenone in Heart Failure with Mildly Reduced or Preserved Ejection FractionSolomon SD, et al. N Engl J Med 2024;391:1475-1485.<FINEARTS-HF試験>:ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬フィネレノンは、HFmrEFとHFpEFに有効フィネレノンは、スピロノラクトンやエプレレノンと異なる非ステロイド骨格を有するミネラルコルチコイド受容体拮抗薬です。HFmrEFとHFpEFで、総心不全増悪イベントと心血管系による死亡の複合アウトカムを有意に抑制。SGLT2阻害薬に続いて、この患者群でイベント抑制効果を達成したことは興味深いものです。死亡に至った高カリウム血症はないものの、入院に至った高カリウム血症はフィネレノン群で多いことには注意が必要です。Rivaroxaban for 18 Months Versus 6 Months in Patients With Cancer and Acute Low-Risk Pulmonary Embolism: An Open-Label, Multicenter, Randomized Clinical Trial (ONCO PE Trial)Yamashita Y, et al. Circulation. 2024 Nov 18. [Epub ahead of print]<ONCO PE Trial>:がん合併の低リスク肺塞栓症患者には長期間のDOAC投与を ONCO PE試験は、リスクの低い肺塞栓症を合併したがん患者を対象に、直接経口抗凝固薬(DOAC)であるリバーロキサバンの投与期間を検討した研究。2024年11月に米国シカゴで開催されたAHA2024のLate Breakingで発表され、Circulation誌に同時掲載されました。DOACの投与期間は18ヵ月間投与群のほうが、6ヵ月間投与群より再発が少なく優れていました。

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健康な高齢者では高用量ビタミンDで糖尿病リスクは低下しない

 たとえ高用量のビタミンDサプリメントを摂取したとしても、糖代謝異常がない高齢者の場合、2型糖尿病の発症リスク低下にはつながらないとする研究結果が発表された。東フィンランド大学のJyrki K. Virtanen氏らが行ったプラセボ対照二重盲検ランダム化比較試験によるもので、詳細は「Diabetologia」に12月2日掲載された。 過去の観察研究からは、血中ビタミンD濃度が低い場合に2型糖尿病の発症リスクが高いという関連が示されている。しかし、観察研究の結果のみでは、ビタミンDサプリの摂取が糖尿病リスク抑制につながるかどうかは不明。他方、既に血糖値がやや高い前糖尿病の人を対象に行われた研究では、ビタミンDサプリ摂取が糖尿病への移行リスクをわずかに抑制する可能性も示唆されているが、健康な集団での有用性のエビデンスはない。これを背景としてVirtanen氏らは、フィンランドの一般住民を対象にビタミンDサプリ摂取の影響を検討した大規模研究(FIND)のデータを用いた解析を行った。 FINDの参加者は60歳以上の男性と65歳以上の女性で、心血管疾患やがん、腎障害などの既往がなく、摂取している全てのサプリに含まれているビタミンDが合計20μg/日以下などの条件を満たす2,495人。一次評価項目として心血管疾患、二次評価項目としてがん、三次評価項目として2型糖尿病の発症が設定されていた。ビタミンDの中用量(40μg/日)群、高用量(80μg/日)群、およびプラセボ群の3群に、1対1対1でランダムに割り付け、平均4.2年間介入した。 全参加者のうちベースライン時点で血糖降下薬が処方されていた224人を除外した2,271人が、三次評価項目の解析対象とされた。この対象者の平均年齢は68.2±4.5歳、女性が43.9%、BMIは26.8±4.0であり、食事からのビタミンD摂取量は10.7±7.9μg/日で、66.0%はビタミンDサプリを摂取していなかった。解析対象者のうち504人は血中ビタミンD濃度(25〔OH〕D3)が測定されていて、その平均は29.8±7.2ng/mLだった。 追跡期間中に105人が2型糖尿病を発症。各群の発症者数は、ビタミンD中用量群が31人、高用量群36人、プラセボ群38人であり、100人年当たりの罹患率は同順に0.97、1.11、1.19だった。年齢と性別を調整後、プラセボ群を基準とする発症ハザード比は、中用量群が0.81(95%信頼区間0.50~1.30)、高用量群が0.92(同0.58~1.45)であり、ビタミンDの用量にかかわらず有意なリスク低下は観察されなかった。 追跡開始2年目までに2型糖尿病を発症した人を除外した解析や、性別、年齢層別、BMI別に層別化したサブグループ解析でも、ビタミンDサプリ摂取が2型糖尿病リスク低下につながる集団は特定されなかった。また、血糖値、血中インスリン値、インスリン抵抗性(HOMA-IR)、BMI、ウエスト周囲長の変化も検討されたが、いずれもビタミンD摂取による有意な影響は観察されなかった。 これらの結果から著者らは、「健康な高齢者を対象としたわれわれの研究では、中用量または高用量のビタミンDサプリの長期摂取による2型糖尿病の発症抑止効果は示されなかった」と結論付けている。

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GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドは、駆出率の保たれた心不全肥満患者に有効(解説:佐田政隆氏)

 左室駆出率が40%未満の心不全を「左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)」、左室駆出率が50%以上の心不全を「左室駆出率が保たれた心不全(HFpEF)」、左室駆出率が40%以上50%未満の心不全は「左室駆出率が軽度低下した心不全(HFmrEF)」と定義されている。 HFrEFに対する薬物療法では、この30年ほどの間に著明な進歩があった。β遮断薬、ACE阻害薬/ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)もしくはARNI (アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)、MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)、そして最近はSGLT2阻害薬の上乗せが予後をさらに改善することが証明された。現在、β遮断薬、ARNI、MRA、SGLT2阻害薬はfantastic fourと呼ばれ、HFrEF患者の予後改善のために1ヵ月以内に早期に導入することが強く推奨されている。 一方、HFpEFに対しては、β遮断薬、ACE阻害薬、ARB、ARNI、MRAを用いて各種大規模臨床研究が行われてきたが、いずれも予後を改善することは証明できなかった。近年、HFrEFよりHFpEFが増加しているという報告もあり、今後予想される心不全パンデミックに備えて、HFpEFに対する有効な治療法の開発が望まれていた。 この数年、SGLT2阻害薬がHFrEFのみでなくHFpEFに対しても有効性があることが証明され、ダパグリフロジンとエンパグリフロジンは糖尿病がなくても心不全治療薬として承認されている。しかし、HFpEF患者の予後改善のためには、さらなる追加の治療法が求められていた。 2023年、肥満を有するHFpEF患者において、セマグルチド2.4mgによる治療によって、プラセボと比較して、症状と身体的制限が軽減し、運動機能が改善し、体重が減少することがSTEP-HFpEF試験で報告された。 小腸から分泌されて膵臓に作用するインクレチン製剤としては長年GLP-1受容体作動薬が用いられてきたが、昨今、GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドが糖尿病治療薬として開発され、その強力な血糖降下作用と体重減少効果から、本邦でも急速に普及している。 本論文では、BMI 30以上の肥満をもったHFpEF患者(2型糖尿病患者はおよそ48%)に対するチルゼパチドの効果を検討した。主要評価項目である104週間での「心血管死と心不全増悪」を、チルゼパチドでプラセボと比較して有意に減少させた。また、カンザスシティ心筋症質問票臨床サマリースコア(KCCQ-CSS:スコア範囲は0~100で、数値が高いほど症状と身体的制限が少ないことを示す)と6分間歩行距離を改善した。体重減少は、チルゼパチド群で-13.9%、プラセボ群で-2.2%であった。注目すべきことには、高感度CRPがチルゼパチド群でなんと-38.8%低下し、プラセボ群では-5.9%であった。この抗炎症効果は、体重減少だけでは説明がつかないと思われ、膵臓以外の臓器へのチルゼパチドの多面的な作用の関与が大きいと思われる。 米国ではチルゼパチドは肥満症治療薬として2023年11月にすでに承認されているが、日本においてもセマグルチドに続いて2024年12月27日に承認された。肥満を有するHFpEF患者に対するチルゼパチドの効果のメカニズム、GLP-1受容体作動薬とGIP/GLP-1受容体作動薬でHFpEFに対してどちらがより効果的なのか、肥満のないHFpEFにも有効なのかと疑問は尽きないが、今後の臨床研究、基礎研究で解明されていくことが期待される。

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片頭痛予防にメラトニン介入が有望な可能性

 近年、とくにCOVID-19後において睡眠・覚醒障害の有病率が増加した。これに伴い、市販のサプリメントとしてメラトニンを使用するケースが有意に上昇した。メラトニンは、不眠症のマネジメントに有効であることは知られているが、使用用途はそれだけにとどまらないといわれている。その中でも、片頭痛の予防や治療に関しては、メラトニンの抗炎症、抗酸化、鎮痛作用が有効である可能性が示唆されており、研究者の大きな関心事項となっている。米国・California Institute of Behavioral Neurosciences & PsychologyのBhavana Nelakuditi氏らは、片頭痛予防に対するメラトニンの役割を評価し、標準療法およびプラセボと比較したメラトニンの有効性および副作用プロファイルを明らかにするため、システマティックレビューを実施した。Cureus誌2024年10月28日号の報告。 2024年6月までに公表された研究(英語または英語翻訳、ヒト対象、ランダム化比較試験)を6つのデータベースより検索し、関連文献735件を特定した。データの品質評価には、ROB-2評価ツールを用いた。 主な結果は以下のとおり。・適格基準、品質評価を満たしたランダム化対象試験7件(1,283例)を分析に含めた。・すべての研究において、メラトニンまたはアゴメラチン治療を行った片頭痛患者であり、従来の予防治療群またはプラセボ群との比較が行われていた。・レビューの結果、メラトニンは、片頭痛の頻度および重症度の軽減に対する有意な効果が示唆された。・用量依存的な作用およびベネフィットについては、以前として議論の余地が残った。・メラトニンは、体重管理にも役立つ可能性があり、追加研究の必要性が示唆された。

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サプリメントや健康食品に関する相談への対応【もったいない患者対応】第20回

サプリメントや健康食品に関する相談への対応患者さんから、サプリメントや健康食品に関する相談を受けることがよくあると思います。新聞広告や通販サイトなどを見て、「認知症の予防」「血圧が下がる」「関節痛が治る」などの効能を期待し、こうした食品を買いたいと考える人は多いようです。医療者としてどのように対応すればいいでしょうか? 意識すべきことは2点あると考えています。原則として、効果があるのは承認されたもののみ1つ目は、信頼性の高い臨床試験で効果が実証された治療は、原則、保険診療で安価に利用できるものだと伝えるべき、ということです。本当に統計学的に有意な程度に認知症が防げたり、血圧が下がったりするのであれば、とうに病院で薬として安価に処方できるようになっているはずです。逆にいえば、効果の証明が不十分であるからこそ「食品」の域を出ない、と考えるべきでしょう。むろん、妊婦に必要な葉酸サプリなど、ピンポイントで補給すべき成分を摂取するといった、目的が明確な食品もあります。乳酸菌やビフィズス菌のようなプロバイオティクスが便秘を改善するという知見も、ある程度エビデンスがあります1)。薬と混同しないよう注意を促すとともに、各専門分野のエビデンスに基づき、補助的な摂取が許容されるかを慎重に判断してください。治療を妨げない範囲であれば、理解を示すことも大事2つ目は、上記のようなことを十分理解しているのであれば、そうした食品への嗜好や期待感まで奪う権利は医療者にはないということです。医療者が「効果が確実でないものはすべて排除せよ」という姿勢を見せると、患者さんは治療への意欲を削がれてしまうかもしれません。「自分の気持ちを理解してもらえなかった」と感じ、信頼関係に傷がつく恐れもあります。医療者は「標準的な治療を妨げない範囲であれば許容する」という寛容な姿勢を見せるべきでしょう。医学的根拠の乏しい商品にお金を払いたいと考える患者さんは、時として、標準治療に不信感や疑念をもっていることがあります。そうした思いに耳を傾けることも大切です。とくにがんの治療では、こうした代替療法に注意が必要です。ある研究では、がん治療において標準治療に加えて代替療法を選択した人は、標準治療だけを選択した人に比べて有意に治療成績が悪く、手術や化学療法、放射線治療などの標準治療の一部を拒否する人の割合も有意に高いことがわかっています2)。代替療法が標準治療の妨げになっていないかどうか、担当医として必ず気にかけておく必要があるでしょう。なお、がん患者さんの場合、こうした代替療法を利用している人の61%は主治医に相談していない、というデータもあります3)。医師がすべてを把握できるとは限らないことにも、私たちは敏感であるべきでしょう。参考文献1)日本消化管学会 編. 便通異常症診療ガイドライン2023―慢性便秘症 南江堂;2023.2)Johnson SB, et al. JAMA Oncol. 2018;4:1375-1381.3)日本緩和医療学会 編. がんの補完代替療法クリニカル・エビデンス2016年版 金原出版;2016.

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鉄剤処方や検査・問診のポイント~「鉄欠乏性貧血の診療指針」発刊

 貧血の7割を占めるといわれる鉄欠乏性貧血。これに関し『鉄欠乏性貧血の診療指針』が2024年7月に発刊された。これまでに「鉄剤の適正使用による貧血治療指針」が2004年から2015年にわたり3回発刊されてきたが、近年では高用量の静注鉄剤をはじめとした新たな鉄剤が普及しつつあることから、鉄欠乏性貧血の診療の改訂が必要と判断され、このたび、タイトルを刷新して発刊に至った。そこで今回、診療指針作成のためのワーキンググループのメンバーである生田 克哉氏(北海道赤十字血液センター)に鉄欠乏性貧血を診断、治療するうえで知っておくべきポイントなどを聞いた。なお、本書は発刊1年後を目処に学会ウェブサイトへPDFとして掲載される予定だ。 本書は以下のように、3つの章と補遺で構成されている。第I章  鉄代謝に関する総論第II章  鉄欠乏・鉄欠乏性貧血の診断指針第III章 鉄欠乏・鉄欠乏性貧血の治療指針補遺  1. 貯血式自己血輸血における自己血貯血    2. 鉄代謝異常症の遺伝的素因について鉄欠乏が進む患者層、現代ならではの問題 まず、第I章では、鉄の生理作用、人体内での鉄イオンの存在様式、鉄代謝制御の概要などが最新の研究結果を基に見直されており、生田氏によると「鉄代謝全般に関して基礎知識を学びたい先生にも有用となる仕上がりとなっている」という。 続いて第II章では、貧血に関する疫学が示されており(p.18表II-1-1、p.19図II-1-1)、女性の場合は高齢者に続き30~40代の貧血の割合が高いことが示されている。これについては、「晩婚化によって生涯の月経回数が増えていることが一因と考えられる。患者には時代に応じた薬物治療や栄養学的実践の指導を行う必要があるため、30~40代の貧血を診断した際には、上記の説明を加えて、鉄の重要性について意識を持っていただけるようにしてほしい」と述べた。 鉄欠乏性貧血の原因の項目(p.24)では、トピックスとして「悪性貧血と鉄欠乏性貧血」が記されているが、一言で貧血と言っても鉄欠乏・鉄欠乏性なのか否かの判断がその後の治療にも大きく左右するため、非常に重要である。たとえば、慢性炎症に伴う貧血と鉄欠乏性貧血を判別するうえでは、検査値としてヘモグロビン(Hb)値:低、平均赤血球容積(MCV)値:低、血清鉄を確認されるだろう。ところが、血液中の鉄量はどちらも減少している状態のため、いずれの検査値も両者とも同じ動向を示してしまう。鉄欠乏性貧血を鑑別する際には、鉄の体内蓄積の指標である血清フェリチンが低いかどうかをしっかり確認してもらいたい」と同氏は強調し、「不飽和鉄結合能(UIBC)を測定することで総鉄結合能(TIBC)にも違いが見られ、さらなる鑑別になる」とも説明した。ただし問題点として、血清フェリチンが炎症の影響で上昇してしまい、本当に鉄が不足しているのかわからないことがある。病態生理的に慢性炎症に伴う貧血はヘプシジンの測定が鑑別に有用であるが、現時点では保険適用はないため、現状はさまざまな病態や検査マーカーを組み合わせて判断してほしい。なお、微量元素の銅や亜鉛も臨床症状によって過不足の判断が難しい項目であるが、貧血の原因となっている場合があるため、貧血の原因が特定できない時には微量元素の測定も推奨していきたい(p.33)」と話した。鉄剤の処方時にうっかりしやすいこと 鉄剤を処方する前に確認しておくべき第III章は、治療方針、鉄剤による治療開始前に患者へ説明しておくべき事項、治療薬の種類、治療効果や鉄剤が効かなかった場合の対応方法について網羅されており、新薬である経口剤のクエン酸第二鉄水和物錠(商品名:リオナ)、注射剤のカルボキシマルトース第二鉄(同:フェインジェクト)やデルイソマルトース第二鉄(同:モノヴァー)の製品特徴に触れている。「新薬については、発売の経緯や特徴がわかりやすくなるよう意識して構成し、本邦における各薬剤の臨床試験については、コラムで紹介する形にして読みやすさを考慮した」と説明した。 さらに、鉄剤の処方時の注意点については、「たとえば循環器領域において、『静注鉄剤の入院率や入院期間への有用性に関する論文』が海外で報告されているが、この研究対象は鉄欠乏ではあるが貧血患者ではない。日本での鉄剤の保険適用はあくまで“貧血がある場合”に限るため、鉄剤を処方する際には鉄欠乏性貧血の診断基準を満たすかどうかを確認する必要がある」と指摘した。なお、実際の投与量や切り替えタイミング、どのような場面での処方が適切なのかは、今後、実臨床からの声をくみ上げて検証・反映させていく予定だという。 このほか、領域別(腎臓内科、消化器内科、産婦人科、小児科)の鉄剤使用法を示している点が本章の特徴である。鉄欠乏性貧血を問診で疑う際、注意したい症状 問診時の注意点として、同氏は「軽い貧血でもおざなりな対応をせず、鉄剤服用後のモニタリング(たとえば、3ヵ月に1回の通院時で血算以外に血清フェリチンを確認)を行い、鉄剤を漫然投与せず、必要に応じて中断し経過観察することも重要」とし、「鉄欠乏性貧血患者が問診時に訴える症状として、氷をガリガリ食べる異食症が散見される。また、脚のつりやむずむず脚症候群に関しても患者本人からの訴えはないものの、問診してみると症状を有している場合があるため、治療モニタリングのためにもこれらの症状がカギとなることを理解しておいてほしい」と症状を探るポイントを説明した。 さらに、鉄欠乏性貧血患者の特徴として「自覚症状や特異的症状がないことも多いため、だるさ(倦怠感)があったり、自律神経失調症と診断されたりした方はHb値に問題なくても実は…という場合がある。気象病や月経前不快気分障害などを自覚する方には鉄欠乏性貧血を疑い、実際に鉄欠乏性貧血を認めた場合には、軽度の貧血であっても鉄剤を処方すると患者さんが見違えるくらい元気になることがある」とコメントした。改訂に至った経緯 最後に、生田氏は改訂の背景について「鉄代謝に関しての新たな知見は集積しているが、鉄欠乏性貧血に関する目立った研究的視点が加わっていなかったため、なかなか改訂に至らなかった。しかし、近年に新たな経口鉄剤や静注鉄剤が登場したことで、今後の鉄欠乏性貧血の診療もそれらを見据えたうえで方針を決定する必要があることから、第3版では対応しきれなくなった」とし、「今回の改訂ではMinds方式を取ることができなかったが、項目立てからしっかり見直し、各領域の専門家が独立して執筆を担当していた第3版に対して、本書はワーキンググループ全体で見解を統一させた。ありふれた疾患であるゆえ、新たな知見が出そろわない、海外でも高いエビデンスを持って適切な治療の推奨ができない、各国で使用する鉄剤が異なるなどの要因がありMinds方式が取りづらく従来の方式を踏襲した」とガイドラインではなく指針に留まった旨についても説明し、「ぜひ、日常診療で本書を役立ててもらいたい」と締めくくった。

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SGLT2阻害薬やMR拮抗薬などで添文改訂指示/厚労省

 2024年12月17日、厚生労働省はSGLT2阻害薬やミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MR拮抗薬)などに対して、添付文書の改訂指示を発出した。ケトアシドーシスの持続に注意 SGLT2阻害薬はこれまでにもケトアシドーシスに関連した注意喚起がなされていたが、投与中止後の尿中グルコース排泄およびケトアシドーシスの遷延に関連する症例が集積し、現行の注意喚起からは予測できない事象と結論付けられたことから、重要な基本的注意の項に「本剤を含むSGLT2阻害薬の投与中止後、血漿中半減期から予想されるより長く尿中グルコース排泄及びケトアシドーシスが持続した症例が報告されているため、必要に応じて尿糖を測定するなど観察を十分に行うこと」が新たに追記される。 対象医薬品は以下のとおり。・エンパグリフロジン(商品名:ジャディアンス)・ダパグリフロジンプロピレングリコール水和物(同:フォシーガ)・イプラグリフロジン L-プロリン(同:スーグラ)・カナグリフロジン水和物(同:カナグル)・トホグリフロジン水和物(同:デベルザ)・ルセオグリフロジン水和物(同:ルセフィ)MR拮抗薬、禁忌が一部変更に MR拮抗薬のエプレレノン(商品名:セララ)とエサキセレノン(同:ミネブロ)はカリウム貯留作用により高カリウム血症を誘発する可能性がある薬剤であるため、ヨウ化カリウムとの併用が禁忌となっている。しかし、両剤を服用中の患者において、現行では放射線による内部被爆の予防・低減のためにヨウ化カリウムを使用できないことから、「放射性ヨウ素による甲状腺の内部被曝の予防・低減に使用する場合」については、禁忌の項から除外され、併用禁忌から併用注意に変更される。同様に、ヨウ化カリウムの添付文書もエプレレノンとエサキセレノンを併用禁忌から併用注意へ変更される。

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心不全に対するミネラルコルチコイド受容体拮抗薬の効果に関するメタアナリシス(解説:石川讓治氏)

 心不全の薬物治療におけるFantastic fourの1つとしてミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)の使用が推奨されている。現在、心不全に対して使用可能なMRAは、スピロノラクトンやエプレレノン(ステロイド系)とフィネレノン(非ステロイド系)がある。 本研究は下記の4つの研究の患者個人データを統合して行ったメタ解析である。RALESでは、heart failure and reduced left ventricular ejection fraction(HFrEF)に対するスピロノラクトン、EMPHASIS-HFではHFrEFに対するエプレレノン、TOPCATではheart failure and preserved left ventricular ejection fraction(HFpEF)に対するスピロノラクトン、FINEARTS-HFではHFpEFに対するフィネレノンの効果が検証された。各研究結果において、RALES、EMPHASIS-HF、FINEARTS-HFでは有意差が示されたが、TOPCATでは心不全の再入院の抑制効果に有意差が認められたものの、心血管死亡の抑制効果には有意差が認められなかったことが報告されている。このメタ解析において、MRAは心血管死亡や心不全入院のリスクを22%減少させていた。ステロイド系MRAはHFrEFにおける心血管死亡や心不全の入院を減少させ、非ステロイド系MRAはheart failure and mildly reduced left ventricular ejection fraction(HFmrEF)やHFpEFのリスクを減少させたとの結果であった。 メタ解析の結果を解釈するうえで下記の2つのパターンがあり、注意が必要であると筆者は考えている。(1)各研究結果がほぼ同じで、全体としてどの程度の臨床的インパクトがあるのかを示したメタ解析である。たとえば降圧薬の心血管イベント抑制効果を評価した研究において、降圧薬の種類とは関係なく、降圧度によってどの程度の心血管イベント低下が認められたかを示したメタ解析がそれに当たると思われる。(2)その逆に結果が一貫性のない(不均一な)研究を統合して、症例数や有意差が大きい研究の結果が、大きく反映してしまうメタ解析もある。 本研究は(2)のパターンで、HFrEFに対するMRAのイベント抑制効果の大きさ(RALES、EMPHASIS-HF)が、HFpEFにおけるMRAの心血管死亡の抑制効果に有意差が得られなかったこと(TOPCAT)を帳消しにしたような結果に思える。本来メタ解析は(1)のパターンにおいてなされるべきであり、その場合はエビデンスの最上位となると思われる。しかし、(2)のパターンは各研究における対象者や薬剤間の間で結果に違いがあると判断し、メタ解析ではなく次の研究デザインで疑問を解決すべきものではなかろうか?本論文の結論も、全体としては統計学的有意差が大きい研究が小さい研究を淘汰し、各研究の結果の不均一さをサブグループ解析で再現した報告となっているように思われた。

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ビタミンDサプリで肥満高齢者の血圧低下

 高齢の肥満者がビタミンDサプリメントを摂取すると、血圧を下げられる可能性のあることが報告された。ただし、推奨される量よりも多く摂取したからといって、上乗せ効果は期待できないようだ。ベイルート・アメリカン大学医療センター(レバノン)のGhada El-Hajj Fuleihan氏らの研究の結果であり、詳細は「Journal of the Endocrine Society」に11月12日掲載された。 ビタミンDレベルが低いことが高血圧のリスクと関連のあることを示唆する研究報告があるが、その関連を否定する報告もあり、結論は得られていない。これを背景としてFuleihan氏らは、ビタミンDレベルが低下していて、血圧が高いことの多い肥満高齢者を対象とするランダム化比較試験を行った。 血清ビタミンDレベルが10~30ng/mLで、BMIが25超の過体重から肥満(日本ではBMI25以上は全て肥満)に該当する65歳以上の高齢者221人をランダムに2群に分け、1群にはビタミンDを600IU、他の1群には3,750IU投与し血圧への影響を評価した。研究参加者は平均年齢71.1±4.7歳、女性55.2%、BMI30.2±4.4であり、143人(64.7%)が高血圧(130/80mmHg以上)だった。なお、米国ではビタミンDの摂取量として、通常1日当たり600IU(約15μg)が推奨されている。 介入から1年後、収縮期血圧は全体平均で3.5mmHg有意に低下していた(P=0.005)。これをビタミンDの用量別に見ると、高用量群では4.2mmHg有意に低下していたのに対して(P=0.023)、低用量群の低下幅は2.8mmHgであり非有意だった(P=0.089)。同様に拡張期血圧に関しても、全体平均で2.8mmHg有意に低下し(P=0.002)、高用量群でも3.02mmHgの有意低下(P=0.01)、低用量群では2.6mmHg低下と有意水準未満の変化だった(P=0.089)。 ベースライン時のBMIで層別化(30以下/超〔30以上は米国における肥満に該当〕)すると、BMI30以下の過体重者(55.2%)ではビタミンDの用量にかかわらず収縮期/拡張期血圧に有意な変化が見られなかった。BMI30超の肥満者(44.8%)では、ビタミンD高用量群では収縮期血圧(P=0.006)と拡張期血圧(P=0.02)がともに有意に低下していたが、低用量群では収縮期血圧のみが有意に低下していた(P=0.024)。 多変量線形混合モデルによる解析の結果、介入後の収縮期血圧はベースライン時の収縮期血圧(β=0.160、P<0.0001)とBMI(β=0.294、P=0.055)によって予測され、ビタミンDの投与量の違い(β=0.689、P=0.682)は有意な予測因子でなかった。 これらの結果を基にFuleihan氏は、「ビタミンDサプリメントは、高齢、肥満、ビタミンDレベルが低いなどに該当する、特定のサブグループの血圧を下げる可能性があることが分かった。ただし、推奨量以上に摂取したとしても、血圧への上乗せ効果は得られないと考えられる」と述べている。

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“Fantastic Four”の一角に陰り:心筋梗塞例にミネラルコルチコイド受容体拮抗薬は無効(解説:桑島巌氏)

 アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、SGLT2阻害薬の4つは心不全の治療薬におけるFantastic Fourとして広く宣伝されてきた。しかし本論文は、その一角を成すMRAの1つスピロノラクトンが心筋梗塞後の心血管死や心不全悪化に対しての効果はプラセボ群と差がなく、有用性を認めなかったという結果を示した。 心不全、収縮機能が低下した心筋梗塞例に対してスピロノラクトンやエプレレノンが死亡率を減少させることは、すでにRALES研究(Pitt B, et al. N Engl J Med. 1999;341:709-717.)やEPHESUS研究(Pitt B, et al. N Engl J Med. 2003;348:1309-1321.)などで証明されている。しかし今回発表されたCLEAR研究では、心筋梗塞後の症例に対してのスピロノラクトンの有用性は証明できなかった。 スピロノラクトンに有意な有効性を認めなかった最大の要因は、イベント数が少ないことによる検出力不足である。本研究の対象者は心筋梗塞後に冠動脈インターベンション(PCI)を受けた症例であり、ほとんどの例でステント(96%)や、抗血小板薬(97%)やスタチン(97%)などによる厳格な再発予防治療を受けており、心血管イベント発症率は低いのは当然である。この点、RALES研究やEPHESUS研究の時代とは背景が大きく異なっている。 また本研究ではKillip II以上の心不全症例が含まれていないことも、スピロノラクトンの有用性を示すことができなかった一因であろう。 約7,000例規模の試験において有効性を認めなかったことは、実臨床においても心不全を合併しない心筋梗塞例に漫然とMRAを処方することは避けるべきとのメッセージである。

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妊娠中のビタミンD摂取は子どもの骨を強くする

 妊娠中のビタミンDの摂取は、子どもの骨と筋肉の発達に良い影響をもたらすようだ。英サウサンプトン大学MRC Lifecourse Epidemiology CentreのRebecca Moon氏らによる研究で、妊娠中にビタミンDのサプリメントを摂取した女性の子どもは、摂取していなかった女性の子どもに比べて、6〜7歳時の骨密度(BMD)と除脂肪体重が高い傾向にあることが明らかにされた。この研究結果は、「The American Journal of Clinical Nutrition」11月号に掲載された。Moon氏は、「小児期に得られたこのような骨の健康への良い影響は、一生続く可能性がある」と話している。 ビタミンDは、人間の皮膚が日光(紫外線)を浴びると生成されるため「太陽のビタミン」とも呼ばれ、骨の発達と健康に重要な役割を果たすことが知られている。具体的には、ビタミンDは、丈夫な骨、歯、筋肉の健康に必要なミネラルであるカルシウムとリン酸のレベルを調節する働きを持つ。 今回の研究では、妊娠14週未満で単胎妊娠中の英国の妊婦(体内でのビタミンDの過不足の指標である血液中の25-ヒドロキシビタミンD濃度が25~100nmol/L)を対象に、妊娠中のビタミンD摂取と子どもの骨の健康との関連がランダム化比較試験により検討された。対象とされた妊婦は、妊娠14~17週目から出産までの期間、1日1,000IUのコレカルシフェロール(ビタミンDの一種であるビタミンD3)を摂取する群(介入群)とプラセボを摂取する群(対照群)にランダムに割り付けられた。これらの妊婦から生まれた子どもは、4歳および6~7歳のときに追跡調査を受けた。 6〜7歳時の追跡調査を受けた454人のうち447人は、DXA法(二重エネルギーX線吸収法)により頭部を除く全身、および腰椎の骨の検査を受け、骨面積、骨塩量(BMC)、BMD、および骨塩見かけ密度(BMAD)が評価された。解析の結果、介入群の子どもではプラセボ群の子どもと比較して、6〜7歳時の頭部を除く全身のBMCが0.15標準偏差(SD)(95%信頼区間0.04~0.26)、BMDが0.18SD(同0.06~0.31)、BMADが0.18SD(同0.04~0.32)、除脂肪体重が0.09SD(同0.00~0.17)高いことが明らかになった。 こうした結果を受けてMoon氏は、「妊婦に対するビタミンD摂取による早期介入は、子どもの骨を強化し、将来の骨粗鬆症や骨折のリスク低下につながることから、重要な公衆衛生戦略となる」と述べている。 では、妊娠中のビタミンD摂取が、どのようにして子どもの骨の健康に良い影響を与えるのだろうか。Moon氏らはサウサンプトン大学のニュースリリースで、2018年に同氏らが行った研究では、子宮内の余分なビタミンDが、「ビタミンD代謝経路に関わる胎児の遺伝子の活動を変化させる」ことが示唆されたと述べている。さらに、2022年に同氏らが発表した研究では、妊娠中のビタミンD摂取により帝王切開と子どものアトピー性皮膚炎のリスクが低下する可能性が示されるなど、妊娠中のビタミンD摂取にはその他のベネフィットがあることも示唆されているという。

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MI後のスピロノラクトンの日常的使用は有益か?/NEJM

 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受けた心筋梗塞(MI)患者において、スピロノラクトンはプラセボと比較し、心血管死または心不全の新規発症/増悪の複合イベント、あるいは心血管死、MI、脳卒中、心不全の新規発症/増悪の複合イベントの発生を低減しなかった。カナダ・マクマスター大学のSanjit S. Jolly氏らCLEAR investigatorsが、14ヵ国の104施設で実施した無作為化比較試験「CLEAR試験」の結果を報告した。ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬は、うっ血性心不全を伴うMI患者の死亡率を低下させることが示されているが、MI後のスピロノラクトンの日常的な使用が有益であるかどうかは不明であった。NEJM誌オンライン版2024年11月17日号掲載の報告。スピロノラクトンvs.プラセボ投与を比較 研究グループは、PCIを受けたST上昇型MIまたは1つ以上のリスク因子(左室駆出率[LVEF]≦45%、糖尿病、多枝病変、MIの既往または60歳以上)を有する非ST上昇型MI患者を、2×2要因デザインによりスピロノラクトン+コルヒチン、コルヒチン+プラセボ、スピロノラクトン+プラセボ、またはプラセボのみを投与する群に1対1対1対1の割合で無作為に割り付けた。 コルヒチン群とプラセボ群を比較した結果は別途報告されている。本論ではスピロノラクトン群とプラセボ群の比較について報告された。 主要アウトカムは2つで、(1)心血管死および心不全の新規発症または増悪の複合と、(2)MI、脳卒中、心不全の新規発症または増悪および心血管死の複合であった。2つの主要アウトカムについて有意差なし 2018年2月1日~2022年11月8日に、7,062例が無作為化され、3,537例がスピロノラクトン、3,525例がプラセボの投与を受けた。今回の解析時点で、45例(0.6%)の生命転帰が不明であった。 追跡期間中央値3.0年において、1つ目の主要アウトカムである心血管死および心不全の新規発症または増悪の複合イベントは、スピロノラクトン群で183件(100患者年当たり1.7件)、プラセボ群で220件(100患者年当たり2.1件)が報告された。非心血管死の競合リスクを補正したハザード比は0.91(95%信頼区間[CI]:0.69~1.21、p=0.51)であった。 2つ目の主要アウトカムの複合イベントの発生率は、スピロノラクトン群で7.9%(280/3,537例)、プラセボ群で8.3%(294/3,525例)が報告され、競合リスク補正後ハザード比は0.96(95%CI:0.81~1.13、p=0.60)であった。 重篤な有害事象は、スピロノラクトン群で255例(7.2%)、プラセボ群で241例(6.8%)に報告された。

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高K血症または高リスクのHFrEF、SZC併用でMRAの長期継続が可能か/AHA2024

 ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)は、左室駆出率の低下した心不全(HFrEF)患者の予後を改善することが報告されている。しかし、MRAは高カリウム血症のリスクを上げることも報告されており、MRAの減量や中断につながっていると考えられている。そこで、高カリウム血症治療薬ジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム水和物(SZC)をMRAのスピロノラクトンと併用することが、高カリウム血症または高カリウム血症高リスクのHFrEF患者において、スピロノラクトンの至適な使用に有効であるかを検討する無作為化比較試験「REALIZE-K試験」が実施された。本試験の結果、SZCは高カリウム血症の発症を減少させ、スピロノラクトンの至適な使用に有効であったが、心不全イベントは増加傾向にあった。本研究結果は、11月16~18日に米国・シカゴで開催されたAmerican Heart Association’s Scientific Sessions(AHA2024、米国心臓学会)のLate-Breaking Scienceで米国・Saint Luke’s Mid America Heart Institute/University of Missouri-Kansas CityのMikhail N. Kosiborod氏によって発表され、Journal of the American College of Cardiology誌オンライン版2024年11月18日号に同時掲載された。 本試験の対象は、高カリウム血症(血清カリウム値5.1~5.9mEq/LかつeGFR≧30mL/min/1.73m2)または高カリウム血症高リスクのHFrEF(左室駆出率40%以下、NYHA分類II~IV度)患者203例であった。本試験は導入期と無作為化期で構成された。導入期では、スピロノラクトンを50mg/日まで漸増し、必要に応じてSZCを用いて血清カリウム値を正常範囲(3.5~5.0mEq/L)に維持した。導入期の終了時において、スピロノラクトンを25mg/日以上の用量で継続、かつ血清カリウム値が正常範囲であった患者をSZC群とプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付けた。無作為化期では、スピロノラクトンとSZCまたはプラセボを6ヵ月投与した。主要評価項目と主要な副次評価項目は以下のとおりで、上から順に階層的に検定した。【主要評価項目】・スピロノラクトンの至適な使用(スピロノラクトンを25mg/日以上の用量で継続し、血清カリウム値が正常範囲を維持し、高カリウム血症に対するレスキュー治療なし)【主要な副次評価項目】・無作為化時のスピロノラクトン用量での血清カリウム値正常範囲の維持・スピロノラクトンを25mg/日以上の用量で継続・高カリウム血症発症までの期間・高カリウム血症によるスピロノラクトンの減量または中止までの期間・カンザスシティ心筋症質問票臨床サマリースコア(KCCQ-CSS)の変化量 主な結果は以下のとおり。・主要評価項目のスピロノラクトンの至適な使用は、SZC群71%、プラセボ群36%に認められ、SZC群が有意に優れた(オッズ比[OR]:4.45、95%信頼区間[CI]:2.89~6.86、p<0.001)。・主要な副次評価項目の上位4項目はSZC群が有意に優れた。詳細は以下のとおり。<無作為化時のスピロノラクトン用量での血清カリウム値正常範囲の維持>SZC群58% vs.プラセボ群23%(OR:4.58、95%CI:2.78~7.55、p<0.001)<スピロノラクトンを25mg/日以上の用量で継続>SZC群81% vs.プラセボ群50%(OR:4.33、95%CI:2.50~7.52、p<0.001)<高カリウム血症発症までの期間>ハザード比[HR]:0.51、95%CI:0.37~0.71、p<0.001<高カリウム血症によるスピロノラクトンの減量または中止までの期間>HR:0.37、95%CI:0.17~0.73、p=0.006・KCCQ-CSSの変化量は、両群に有意差はみられなかった(群間差:-1.01点、95%CI:-6.64~4.63、p=0.72)。・心血管死・心不全増悪の複合は、SZC群11例(心血管死1例、心不全増悪10例)、プラセボ群3例(それぞれ1例、2例)に認められ、SZC群が多い傾向にあった(log-rank検定による名目上のp=0.034)。

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オメガ3・6脂肪酸の摂取はがん予防に有効か

 多価不飽和脂肪酸(PUFA)のオメガ3脂肪酸とオメガ6脂肪酸の血中濃度は、がんの発症リスクと関連していることが、新たな研究で示唆された。オメガ3脂肪酸の血中濃度が高いことは、結腸がん、胃がん、肺がん、肝胆道がんの4種類のがんリスクの低下と関連し、オメガ6脂肪酸の血中濃度が高いことは、結腸がん、脳、メラノーマ、膀胱がんなど13種類のがんリスクの低下と関連することが明らかになったという。米ジョージア大学公衆衛生学部のYuchen Zhang氏らによるこの研究の詳細は、「International Journal of Cancer」に10月17日掲載された。Zhang氏は、「これらの結果は、平均的な人が食事からこれらのPUFAの摂取量を増やすことに重点を置くべきことを示唆している」と述べている。 この研究でZhang氏らは、UKバイオバンク研究の参加者25万3,138人のデータを用いて、オメガ3脂肪酸およびオメガ6脂肪酸の血漿濃度とあらゆるがん(以下、全がん)、および部位特異的がんとの関連を検討した。ベースライン調査時(2007〜2010年)に得られた血漿サンプルを用いて、核磁気共鳴法(NMR)によりこれらのPUFAの絶対濃度と総脂肪酸に占める割合(以下、オメガ3脂肪酸の割合をオメガ3%、オメガ6脂肪酸の割合をオメガ6%とする)を評価した。対象としたがんは、頭頸部がん、食道がん、胃がん、結腸がん、直腸がん、肝胆道がん、膵臓がん、肺がん、メラノーマ、軟部組織がん、乳がん、子宮がん、卵巣がん、前立腺がん、腎臓がん、膀胱がん、脳腫瘍、甲状腺がん、リンパ系および造血組織がんの19種類だった。 平均12.9年の追跡期間中に、2万9,838人ががんの診断を受けていた。喫煙状況、BMI、飲酒状況、身体活動量などのがんのリスク因子も考慮して解析した結果、オメガ3脂肪酸およびオメガ6脂肪酸の血漿濃度が上昇すると全がんリスクが低下するという逆相関の関係が認められた。全がんリスクは、オメガ3%が1標準偏差(SD)上昇するごとに1%、オメガ6%が1SD上昇するごとに2%低下していた。がん種別に検討すると、オメガ6%は13種類のがん(食道がん、結腸がん、直腸がん、肝胆道がん、膵臓がん、肺がん、メラノーマ、軟部組織がん、卵巣がん、腎臓がん、膀胱がん、脳腫瘍、甲状腺がん)と負の相関を示した。一方、オメガ3%は4種類のがん(胃がん、結腸がん、肝胆道がん、肺がん)と負の相関を示す一方で、前立腺がんとは正の相関を示すことが明らかになった。 オメガ3脂肪酸やオメガ6脂肪酸は、脂肪分の多い魚やナッツ類、植物由来の食用油に含まれているが、十分な量を摂取するために魚油サプリメントに頼る人も多い。しかし研究グループは、これらのPUFAの効用が全ての人にとって同じように有益になるとは限らないとしている。実際に、本研究では、オメガ3脂肪酸の摂取量が多いと前立腺がんのリスクがわずかに高まる可能性のあることが示された。論文の上席著者であるジョージア大学Franklin College of Arts and SciencesのKaixiong Ye氏は、このことを踏まえ、「女性なら、オメガ3脂肪酸の摂取量を増やすという決断も容易だろう」と同大学のニュースリリースの中で話している。

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