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診療科別2024年下半期注目論文5選(循環器内科編)

Transcatheter Edge-to-Edge Repair for Severe Isolated Tricuspid RegurgitationDonal E, et al. JAMA. 2024 Nov 27. [Epub ahead of print]<Tri.Fr試験>:重症三尖弁逆流のカテーテル治療の時代がくるか?重症三尖弁逆流へのカテーテル治療であるedge-to-edge修復術(T-TEER)を至適薬物療法(OMT)に併用することによって、アウトカムが改善するかを検討。T-TEER+OMT療法はOMT単独療法と比較して、1年後の患者報告アウトカム指標と臨床イベントからなる複合スコアを改善しました。TriClip®による三尖弁カテーテル治療の適応について本邦でも議論が進むものと期待されます。Beta-Blocker Interruption or Continuation after Myocardial InfarctionSilvain J, et al. N Engl J Med. 2024;391:1277-1286.<ABYSS試験>:心筋梗塞既往患者でβ遮断薬の開始ではなく中断を検討、継続すべし薬剤の有効性と安全性を検討し、ポジティブな結果であれば新規の内服開始を薦めるという研究が多くなっています。しかしいったん開始した薬剤は永久に必要なのでしょうか。合併症のない心筋梗塞既往患者において、β遮断薬の長期中断について検討した本研究は興味深いものです。結果として、β遮断薬の中止は安全であると示すことはできませんでした。単純に解釈すれば継続投与が必要となります。β遮断薬を再評価する複数の臨床試験が進行中で、議論が続くと思われます。Pulmonary Vein Isolation vs Sham Intervention in Symptomatic Atrial FibrillationDulai R, et al. JAMA. 2024;332:1165-1173.<SHAM-PVI試験>:心房細動アブレーションの実手技vs.シャム(偽手技)、究極のランダマイズ試験これまでにも心房細動へのアブレーション治療についてのランダマイズ試験は存在し、改善効果を示してきました。しかしアブレーション実施の有無は、医師や患者本人には盲検化されていないため、QOLの改善が実手技を受けた患者のプラセボ効果ではないかとの批判がありました。実手技vs.シャム手技を比較する試験を計画し実施した著者に敬意を表します。シャム手技まで必要とするかとの意見もあると思われます。Finerenone in Heart Failure with Mildly Reduced or Preserved Ejection FractionSolomon SD, et al. N Engl J Med 2024;391:1475-1485.<FINEARTS-HF試験>:ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬フィネレノンは、HFmrEFとHFpEFに有効フィネレノンは、スピロノラクトンやエプレレノンと異なる非ステロイド骨格を有するミネラルコルチコイド受容体拮抗薬です。HFmrEFとHFpEFで、総心不全増悪イベントと心血管系による死亡の複合アウトカムを有意に抑制。SGLT2阻害薬に続いて、この患者群でイベント抑制効果を達成したことは興味深いものです。死亡に至った高カリウム血症はないものの、入院に至った高カリウム血症はフィネレノン群で多いことには注意が必要です。Rivaroxaban for 18 Months Versus 6 Months in Patients With Cancer and Acute Low-Risk Pulmonary Embolism: An Open-Label, Multicenter, Randomized Clinical Trial (ONCO PE Trial)Yamashita Y, et al. Circulation. 2024 Nov 18. [Epub ahead of print]<ONCO PE Trial>:がん合併の低リスク肺塞栓症患者には長期間のDOAC投与を ONCO PE試験は、リスクの低い肺塞栓症を合併したがん患者を対象に、直接経口抗凝固薬(DOAC)であるリバーロキサバンの投与期間を検討した研究。2024年11月に米国シカゴで開催されたAHA2024のLate Breakingで発表され、Circulation誌に同時掲載されました。DOACの投与期間は18ヵ月間投与群のほうが、6ヵ月間投与群より再発が少なく優れていました。

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健康な高齢者では高用量ビタミンDで糖尿病リスクは低下しない

 たとえ高用量のビタミンDサプリメントを摂取したとしても、糖代謝異常がない高齢者の場合、2型糖尿病の発症リスク低下にはつながらないとする研究結果が発表された。東フィンランド大学のJyrki K. Virtanen氏らが行ったプラセボ対照二重盲検ランダム化比較試験によるもので、詳細は「Diabetologia」に12月2日掲載された。 過去の観察研究からは、血中ビタミンD濃度が低い場合に2型糖尿病の発症リスクが高いという関連が示されている。しかし、観察研究の結果のみでは、ビタミンDサプリの摂取が糖尿病リスク抑制につながるかどうかは不明。他方、既に血糖値がやや高い前糖尿病の人を対象に行われた研究では、ビタミンDサプリ摂取が糖尿病への移行リスクをわずかに抑制する可能性も示唆されているが、健康な集団での有用性のエビデンスはない。これを背景としてVirtanen氏らは、フィンランドの一般住民を対象にビタミンDサプリ摂取の影響を検討した大規模研究(FIND)のデータを用いた解析を行った。 FINDの参加者は60歳以上の男性と65歳以上の女性で、心血管疾患やがん、腎障害などの既往がなく、摂取している全てのサプリに含まれているビタミンDが合計20μg/日以下などの条件を満たす2,495人。一次評価項目として心血管疾患、二次評価項目としてがん、三次評価項目として2型糖尿病の発症が設定されていた。ビタミンDの中用量(40μg/日)群、高用量(80μg/日)群、およびプラセボ群の3群に、1対1対1でランダムに割り付け、平均4.2年間介入した。 全参加者のうちベースライン時点で血糖降下薬が処方されていた224人を除外した2,271人が、三次評価項目の解析対象とされた。この対象者の平均年齢は68.2±4.5歳、女性が43.9%、BMIは26.8±4.0であり、食事からのビタミンD摂取量は10.7±7.9μg/日で、66.0%はビタミンDサプリを摂取していなかった。解析対象者のうち504人は血中ビタミンD濃度(25〔OH〕D3)が測定されていて、その平均は29.8±7.2ng/mLだった。 追跡期間中に105人が2型糖尿病を発症。各群の発症者数は、ビタミンD中用量群が31人、高用量群36人、プラセボ群38人であり、100人年当たりの罹患率は同順に0.97、1.11、1.19だった。年齢と性別を調整後、プラセボ群を基準とする発症ハザード比は、中用量群が0.81(95%信頼区間0.50~1.30)、高用量群が0.92(同0.58~1.45)であり、ビタミンDの用量にかかわらず有意なリスク低下は観察されなかった。 追跡開始2年目までに2型糖尿病を発症した人を除外した解析や、性別、年齢層別、BMI別に層別化したサブグループ解析でも、ビタミンDサプリ摂取が2型糖尿病リスク低下につながる集団は特定されなかった。また、血糖値、血中インスリン値、インスリン抵抗性(HOMA-IR)、BMI、ウエスト周囲長の変化も検討されたが、いずれもビタミンD摂取による有意な影響は観察されなかった。 これらの結果から著者らは、「健康な高齢者を対象としたわれわれの研究では、中用量または高用量のビタミンDサプリの長期摂取による2型糖尿病の発症抑止効果は示されなかった」と結論付けている。

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GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドは、駆出率の保たれた心不全肥満患者に有効(解説:佐田政隆氏)

 左室駆出率が40%未満の心不全を「左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)」、左室駆出率が50%以上の心不全を「左室駆出率が保たれた心不全(HFpEF)」、左室駆出率が40%以上50%未満の心不全は「左室駆出率が軽度低下した心不全(HFmrEF)」と定義されている。 HFrEFに対する薬物療法では、この30年ほどの間に著明な進歩があった。β遮断薬、ACE阻害薬/ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)もしくはARNI (アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)、MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)、そして最近はSGLT2阻害薬の上乗せが予後をさらに改善することが証明された。現在、β遮断薬、ARNI、MRA、SGLT2阻害薬はfantastic fourと呼ばれ、HFrEF患者の予後改善のために1ヵ月以内に早期に導入することが強く推奨されている。 一方、HFpEFに対しては、β遮断薬、ACE阻害薬、ARB、ARNI、MRAを用いて各種大規模臨床研究が行われてきたが、いずれも予後を改善することは証明できなかった。近年、HFrEFよりHFpEFが増加しているという報告もあり、今後予想される心不全パンデミックに備えて、HFpEFに対する有効な治療法の開発が望まれていた。 この数年、SGLT2阻害薬がHFrEFのみでなくHFpEFに対しても有効性があることが証明され、ダパグリフロジンとエンパグリフロジンは糖尿病がなくても心不全治療薬として承認されている。しかし、HFpEF患者の予後改善のためには、さらなる追加の治療法が求められていた。 2023年、肥満を有するHFpEF患者において、セマグルチド2.4mgによる治療によって、プラセボと比較して、症状と身体的制限が軽減し、運動機能が改善し、体重が減少することがSTEP-HFpEF試験で報告された。 小腸から分泌されて膵臓に作用するインクレチン製剤としては長年GLP-1受容体作動薬が用いられてきたが、昨今、GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドが糖尿病治療薬として開発され、その強力な血糖降下作用と体重減少効果から、本邦でも急速に普及している。 本論文では、BMI 30以上の肥満をもったHFpEF患者(2型糖尿病患者はおよそ48%)に対するチルゼパチドの効果を検討した。主要評価項目である104週間での「心血管死と心不全増悪」を、チルゼパチドでプラセボと比較して有意に減少させた。また、カンザスシティ心筋症質問票臨床サマリースコア(KCCQ-CSS:スコア範囲は0~100で、数値が高いほど症状と身体的制限が少ないことを示す)と6分間歩行距離を改善した。体重減少は、チルゼパチド群で-13.9%、プラセボ群で-2.2%であった。注目すべきことには、高感度CRPがチルゼパチド群でなんと-38.8%低下し、プラセボ群では-5.9%であった。この抗炎症効果は、体重減少だけでは説明がつかないと思われ、膵臓以外の臓器へのチルゼパチドの多面的な作用の関与が大きいと思われる。 米国ではチルゼパチドは肥満症治療薬として2023年11月にすでに承認されているが、日本においてもセマグルチドに続いて2024年12月27日に承認された。肥満を有するHFpEF患者に対するチルゼパチドの効果のメカニズム、GLP-1受容体作動薬とGIP/GLP-1受容体作動薬でHFpEFに対してどちらがより効果的なのか、肥満のないHFpEFにも有効なのかと疑問は尽きないが、今後の臨床研究、基礎研究で解明されていくことが期待される。

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片頭痛予防にメラトニン介入が有望な可能性

 近年、とくにCOVID-19後において睡眠・覚醒障害の有病率が増加した。これに伴い、市販のサプリメントとしてメラトニンを使用するケースが有意に上昇した。メラトニンは、不眠症のマネジメントに有効であることは知られているが、使用用途はそれだけにとどまらないといわれている。その中でも、片頭痛の予防や治療に関しては、メラトニンの抗炎症、抗酸化、鎮痛作用が有効である可能性が示唆されており、研究者の大きな関心事項となっている。米国・California Institute of Behavioral Neurosciences & PsychologyのBhavana Nelakuditi氏らは、片頭痛予防に対するメラトニンの役割を評価し、標準療法およびプラセボと比較したメラトニンの有効性および副作用プロファイルを明らかにするため、システマティックレビューを実施した。Cureus誌2024年10月28日号の報告。 2024年6月までに公表された研究(英語または英語翻訳、ヒト対象、ランダム化比較試験)を6つのデータベースより検索し、関連文献735件を特定した。データの品質評価には、ROB-2評価ツールを用いた。 主な結果は以下のとおり。・適格基準、品質評価を満たしたランダム化対象試験7件(1,283例)を分析に含めた。・すべての研究において、メラトニンまたはアゴメラチン治療を行った片頭痛患者であり、従来の予防治療群またはプラセボ群との比較が行われていた。・レビューの結果、メラトニンは、片頭痛の頻度および重症度の軽減に対する有意な効果が示唆された。・用量依存的な作用およびベネフィットについては、以前として議論の余地が残った。・メラトニンは、体重管理にも役立つ可能性があり、追加研究の必要性が示唆された。

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サプリメントや健康食品に関する相談への対応【もったいない患者対応】第20回

サプリメントや健康食品に関する相談への対応患者さんから、サプリメントや健康食品に関する相談を受けることがよくあると思います。新聞広告や通販サイトなどを見て、「認知症の予防」「血圧が下がる」「関節痛が治る」などの効能を期待し、こうした食品を買いたいと考える人は多いようです。医療者としてどのように対応すればいいでしょうか? 意識すべきことは2点あると考えています。原則として、効果があるのは承認されたもののみ1つ目は、信頼性の高い臨床試験で効果が実証された治療は、原則、保険診療で安価に利用できるものだと伝えるべき、ということです。本当に統計学的に有意な程度に認知症が防げたり、血圧が下がったりするのであれば、とうに病院で薬として安価に処方できるようになっているはずです。逆にいえば、効果の証明が不十分であるからこそ「食品」の域を出ない、と考えるべきでしょう。むろん、妊婦に必要な葉酸サプリなど、ピンポイントで補給すべき成分を摂取するといった、目的が明確な食品もあります。乳酸菌やビフィズス菌のようなプロバイオティクスが便秘を改善するという知見も、ある程度エビデンスがあります1)。薬と混同しないよう注意を促すとともに、各専門分野のエビデンスに基づき、補助的な摂取が許容されるかを慎重に判断してください。治療を妨げない範囲であれば、理解を示すことも大事2つ目は、上記のようなことを十分理解しているのであれば、そうした食品への嗜好や期待感まで奪う権利は医療者にはないということです。医療者が「効果が確実でないものはすべて排除せよ」という姿勢を見せると、患者さんは治療への意欲を削がれてしまうかもしれません。「自分の気持ちを理解してもらえなかった」と感じ、信頼関係に傷がつく恐れもあります。医療者は「標準的な治療を妨げない範囲であれば許容する」という寛容な姿勢を見せるべきでしょう。医学的根拠の乏しい商品にお金を払いたいと考える患者さんは、時として、標準治療に不信感や疑念をもっていることがあります。そうした思いに耳を傾けることも大切です。とくにがんの治療では、こうした代替療法に注意が必要です。ある研究では、がん治療において標準治療に加えて代替療法を選択した人は、標準治療だけを選択した人に比べて有意に治療成績が悪く、手術や化学療法、放射線治療などの標準治療の一部を拒否する人の割合も有意に高いことがわかっています2)。代替療法が標準治療の妨げになっていないかどうか、担当医として必ず気にかけておく必要があるでしょう。なお、がん患者さんの場合、こうした代替療法を利用している人の61%は主治医に相談していない、というデータもあります3)。医師がすべてを把握できるとは限らないことにも、私たちは敏感であるべきでしょう。参考文献1)日本消化管学会 編. 便通異常症診療ガイドライン2023―慢性便秘症 南江堂;2023.2)Johnson SB, et al. JAMA Oncol. 2018;4:1375-1381.3)日本緩和医療学会 編. がんの補完代替療法クリニカル・エビデンス2016年版 金原出版;2016.

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鉄剤処方や検査・問診のポイント~「鉄欠乏性貧血の診療指針」発刊

 貧血の7割を占めるといわれる鉄欠乏性貧血。これに関し『鉄欠乏性貧血の診療指針』が2024年7月に発刊された。これまでに「鉄剤の適正使用による貧血治療指針」が2004年から2015年にわたり3回発刊されてきたが、近年では高用量の静注鉄剤をはじめとした新たな鉄剤が普及しつつあることから、鉄欠乏性貧血の診療の改訂が必要と判断され、このたび、タイトルを刷新して発刊に至った。そこで今回、診療指針作成のためのワーキンググループのメンバーである生田 克哉氏(北海道赤十字血液センター)に鉄欠乏性貧血を診断、治療するうえで知っておくべきポイントなどを聞いた。なお、本書は発刊1年後を目処に学会ウェブサイトへPDFとして掲載される予定だ。 本書は以下のように、3つの章と補遺で構成されている。第I章  鉄代謝に関する総論第II章  鉄欠乏・鉄欠乏性貧血の診断指針第III章 鉄欠乏・鉄欠乏性貧血の治療指針補遺  1. 貯血式自己血輸血における自己血貯血    2. 鉄代謝異常症の遺伝的素因について鉄欠乏が進む患者層、現代ならではの問題 まず、第I章では、鉄の生理作用、人体内での鉄イオンの存在様式、鉄代謝制御の概要などが最新の研究結果を基に見直されており、生田氏によると「鉄代謝全般に関して基礎知識を学びたい先生にも有用となる仕上がりとなっている」という。 続いて第II章では、貧血に関する疫学が示されており(p.18表II-1-1、p.19図II-1-1)、女性の場合は高齢者に続き30~40代の貧血の割合が高いことが示されている。これについては、「晩婚化によって生涯の月経回数が増えていることが一因と考えられる。患者には時代に応じた薬物治療や栄養学的実践の指導を行う必要があるため、30~40代の貧血を診断した際には、上記の説明を加えて、鉄の重要性について意識を持っていただけるようにしてほしい」と述べた。 鉄欠乏性貧血の原因の項目(p.24)では、トピックスとして「悪性貧血と鉄欠乏性貧血」が記されているが、一言で貧血と言っても鉄欠乏・鉄欠乏性なのか否かの判断がその後の治療にも大きく左右するため、非常に重要である。たとえば、慢性炎症に伴う貧血と鉄欠乏性貧血を判別するうえでは、検査値としてヘモグロビン(Hb)値:低、平均赤血球容積(MCV)値:低、血清鉄を確認されるだろう。ところが、血液中の鉄量はどちらも減少している状態のため、いずれの検査値も両者とも同じ動向を示してしまう。鉄欠乏性貧血を鑑別する際には、鉄の体内蓄積の指標である血清フェリチンが低いかどうかをしっかり確認してもらいたい」と同氏は強調し、「不飽和鉄結合能(UIBC)を測定することで総鉄結合能(TIBC)にも違いが見られ、さらなる鑑別になる」とも説明した。ただし問題点として、血清フェリチンが炎症の影響で上昇してしまい、本当に鉄が不足しているのかわからないことがある。病態生理的に慢性炎症に伴う貧血はヘプシジンの測定が鑑別に有用であるが、現時点では保険適用はないため、現状はさまざまな病態や検査マーカーを組み合わせて判断してほしい。なお、微量元素の銅や亜鉛も臨床症状によって過不足の判断が難しい項目であるが、貧血の原因となっている場合があるため、貧血の原因が特定できない時には微量元素の測定も推奨していきたい(p.33)」と話した。鉄剤の処方時にうっかりしやすいこと 鉄剤を処方する前に確認しておくべき第III章は、治療方針、鉄剤による治療開始前に患者へ説明しておくべき事項、治療薬の種類、治療効果や鉄剤が効かなかった場合の対応方法について網羅されており、新薬である経口剤のクエン酸第二鉄水和物錠(商品名:リオナ)、注射剤のカルボキシマルトース第二鉄(同:フェインジェクト)やデルイソマルトース第二鉄(同:モノヴァー)の製品特徴に触れている。「新薬については、発売の経緯や特徴がわかりやすくなるよう意識して構成し、本邦における各薬剤の臨床試験については、コラムで紹介する形にして読みやすさを考慮した」と説明した。 さらに、鉄剤の処方時の注意点については、「たとえば循環器領域において、『静注鉄剤の入院率や入院期間への有用性に関する論文』が海外で報告されているが、この研究対象は鉄欠乏ではあるが貧血患者ではない。日本での鉄剤の保険適用はあくまで“貧血がある場合”に限るため、鉄剤を処方する際には鉄欠乏性貧血の診断基準を満たすかどうかを確認する必要がある」と指摘した。なお、実際の投与量や切り替えタイミング、どのような場面での処方が適切なのかは、今後、実臨床からの声をくみ上げて検証・反映させていく予定だという。 このほか、領域別(腎臓内科、消化器内科、産婦人科、小児科)の鉄剤使用法を示している点が本章の特徴である。鉄欠乏性貧血を問診で疑う際、注意したい症状 問診時の注意点として、同氏は「軽い貧血でもおざなりな対応をせず、鉄剤服用後のモニタリング(たとえば、3ヵ月に1回の通院時で血算以外に血清フェリチンを確認)を行い、鉄剤を漫然投与せず、必要に応じて中断し経過観察することも重要」とし、「鉄欠乏性貧血患者が問診時に訴える症状として、氷をガリガリ食べる異食症が散見される。また、脚のつりやむずむず脚症候群に関しても患者本人からの訴えはないものの、問診してみると症状を有している場合があるため、治療モニタリングのためにもこれらの症状がカギとなることを理解しておいてほしい」と症状を探るポイントを説明した。 さらに、鉄欠乏性貧血患者の特徴として「自覚症状や特異的症状がないことも多いため、だるさ(倦怠感)があったり、自律神経失調症と診断されたりした方はHb値に問題なくても実は…という場合がある。気象病や月経前不快気分障害などを自覚する方には鉄欠乏性貧血を疑い、実際に鉄欠乏性貧血を認めた場合には、軽度の貧血であっても鉄剤を処方すると患者さんが見違えるくらい元気になることがある」とコメントした。改訂に至った経緯 最後に、生田氏は改訂の背景について「鉄代謝に関しての新たな知見は集積しているが、鉄欠乏性貧血に関する目立った研究的視点が加わっていなかったため、なかなか改訂に至らなかった。しかし、近年に新たな経口鉄剤や静注鉄剤が登場したことで、今後の鉄欠乏性貧血の診療もそれらを見据えたうえで方針を決定する必要があることから、第3版では対応しきれなくなった」とし、「今回の改訂ではMinds方式を取ることができなかったが、項目立てからしっかり見直し、各領域の専門家が独立して執筆を担当していた第3版に対して、本書はワーキンググループ全体で見解を統一させた。ありふれた疾患であるゆえ、新たな知見が出そろわない、海外でも高いエビデンスを持って適切な治療の推奨ができない、各国で使用する鉄剤が異なるなどの要因がありMinds方式が取りづらく従来の方式を踏襲した」とガイドラインではなく指針に留まった旨についても説明し、「ぜひ、日常診療で本書を役立ててもらいたい」と締めくくった。

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SGLT2阻害薬やMR拮抗薬などで添文改訂指示/厚労省

 2024年12月17日、厚生労働省はSGLT2阻害薬やミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MR拮抗薬)などに対して、添付文書の改訂指示を発出した。ケトアシドーシスの持続に注意 SGLT2阻害薬はこれまでにもケトアシドーシスに関連した注意喚起がなされていたが、投与中止後の尿中グルコース排泄およびケトアシドーシスの遷延に関連する症例が集積し、現行の注意喚起からは予測できない事象と結論付けられたことから、重要な基本的注意の項に「本剤を含むSGLT2阻害薬の投与中止後、血漿中半減期から予想されるより長く尿中グルコース排泄及びケトアシドーシスが持続した症例が報告されているため、必要に応じて尿糖を測定するなど観察を十分に行うこと」が新たに追記される。 対象医薬品は以下のとおり。・エンパグリフロジン(商品名:ジャディアンス)・ダパグリフロジンプロピレングリコール水和物(同:フォシーガ)・イプラグリフロジン L-プロリン(同:スーグラ)・カナグリフロジン水和物(同:カナグル)・トホグリフロジン水和物(同:デベルザ)・ルセオグリフロジン水和物(同:ルセフィ)MR拮抗薬、禁忌が一部変更に MR拮抗薬のエプレレノン(商品名:セララ)とエサキセレノン(同:ミネブロ)はカリウム貯留作用により高カリウム血症を誘発する可能性がある薬剤であるため、ヨウ化カリウムとの併用が禁忌となっている。しかし、両剤を服用中の患者において、現行では放射線による内部被爆の予防・低減のためにヨウ化カリウムを使用できないことから、「放射性ヨウ素による甲状腺の内部被曝の予防・低減に使用する場合」については、禁忌の項から除外され、併用禁忌から併用注意に変更される。同様に、ヨウ化カリウムの添付文書もエプレレノンとエサキセレノンを併用禁忌から併用注意へ変更される。

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心不全に対するミネラルコルチコイド受容体拮抗薬の効果に関するメタアナリシス(解説:石川讓治氏)

 心不全の薬物治療におけるFantastic fourの1つとしてミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)の使用が推奨されている。現在、心不全に対して使用可能なMRAは、スピロノラクトンやエプレレノン(ステロイド系)とフィネレノン(非ステロイド系)がある。 本研究は下記の4つの研究の患者個人データを統合して行ったメタ解析である。RALESでは、heart failure and reduced left ventricular ejection fraction(HFrEF)に対するスピロノラクトン、EMPHASIS-HFではHFrEFに対するエプレレノン、TOPCATではheart failure and preserved left ventricular ejection fraction(HFpEF)に対するスピロノラクトン、FINEARTS-HFではHFpEFに対するフィネレノンの効果が検証された。各研究結果において、RALES、EMPHASIS-HF、FINEARTS-HFでは有意差が示されたが、TOPCATでは心不全の再入院の抑制効果に有意差が認められたものの、心血管死亡の抑制効果には有意差が認められなかったことが報告されている。このメタ解析において、MRAは心血管死亡や心不全入院のリスクを22%減少させていた。ステロイド系MRAはHFrEFにおける心血管死亡や心不全の入院を減少させ、非ステロイド系MRAはheart failure and mildly reduced left ventricular ejection fraction(HFmrEF)やHFpEFのリスクを減少させたとの結果であった。 メタ解析の結果を解釈するうえで下記の2つのパターンがあり、注意が必要であると筆者は考えている。(1)各研究結果がほぼ同じで、全体としてどの程度の臨床的インパクトがあるのかを示したメタ解析である。たとえば降圧薬の心血管イベント抑制効果を評価した研究において、降圧薬の種類とは関係なく、降圧度によってどの程度の心血管イベント低下が認められたかを示したメタ解析がそれに当たると思われる。(2)その逆に結果が一貫性のない(不均一な)研究を統合して、症例数や有意差が大きい研究の結果が、大きく反映してしまうメタ解析もある。 本研究は(2)のパターンで、HFrEFに対するMRAのイベント抑制効果の大きさ(RALES、EMPHASIS-HF)が、HFpEFにおけるMRAの心血管死亡の抑制効果に有意差が得られなかったこと(TOPCAT)を帳消しにしたような結果に思える。本来メタ解析は(1)のパターンにおいてなされるべきであり、その場合はエビデンスの最上位となると思われる。しかし、(2)のパターンは各研究における対象者や薬剤間の間で結果に違いがあると判断し、メタ解析ではなく次の研究デザインで疑問を解決すべきものではなかろうか?本論文の結論も、全体としては統計学的有意差が大きい研究が小さい研究を淘汰し、各研究の結果の不均一さをサブグループ解析で再現した報告となっているように思われた。

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ビタミンDサプリで肥満高齢者の血圧低下

 高齢の肥満者がビタミンDサプリメントを摂取すると、血圧を下げられる可能性のあることが報告された。ただし、推奨される量よりも多く摂取したからといって、上乗せ効果は期待できないようだ。ベイルート・アメリカン大学医療センター(レバノン)のGhada El-Hajj Fuleihan氏らの研究の結果であり、詳細は「Journal of the Endocrine Society」に11月12日掲載された。 ビタミンDレベルが低いことが高血圧のリスクと関連のあることを示唆する研究報告があるが、その関連を否定する報告もあり、結論は得られていない。これを背景としてFuleihan氏らは、ビタミンDレベルが低下していて、血圧が高いことの多い肥満高齢者を対象とするランダム化比較試験を行った。 血清ビタミンDレベルが10~30ng/mLで、BMIが25超の過体重から肥満(日本ではBMI25以上は全て肥満)に該当する65歳以上の高齢者221人をランダムに2群に分け、1群にはビタミンDを600IU、他の1群には3,750IU投与し血圧への影響を評価した。研究参加者は平均年齢71.1±4.7歳、女性55.2%、BMI30.2±4.4であり、143人(64.7%)が高血圧(130/80mmHg以上)だった。なお、米国ではビタミンDの摂取量として、通常1日当たり600IU(約15μg)が推奨されている。 介入から1年後、収縮期血圧は全体平均で3.5mmHg有意に低下していた(P=0.005)。これをビタミンDの用量別に見ると、高用量群では4.2mmHg有意に低下していたのに対して(P=0.023)、低用量群の低下幅は2.8mmHgであり非有意だった(P=0.089)。同様に拡張期血圧に関しても、全体平均で2.8mmHg有意に低下し(P=0.002)、高用量群でも3.02mmHgの有意低下(P=0.01)、低用量群では2.6mmHg低下と有意水準未満の変化だった(P=0.089)。 ベースライン時のBMIで層別化(30以下/超〔30以上は米国における肥満に該当〕)すると、BMI30以下の過体重者(55.2%)ではビタミンDの用量にかかわらず収縮期/拡張期血圧に有意な変化が見られなかった。BMI30超の肥満者(44.8%)では、ビタミンD高用量群では収縮期血圧(P=0.006)と拡張期血圧(P=0.02)がともに有意に低下していたが、低用量群では収縮期血圧のみが有意に低下していた(P=0.024)。 多変量線形混合モデルによる解析の結果、介入後の収縮期血圧はベースライン時の収縮期血圧(β=0.160、P<0.0001)とBMI(β=0.294、P=0.055)によって予測され、ビタミンDの投与量の違い(β=0.689、P=0.682)は有意な予測因子でなかった。 これらの結果を基にFuleihan氏は、「ビタミンDサプリメントは、高齢、肥満、ビタミンDレベルが低いなどに該当する、特定のサブグループの血圧を下げる可能性があることが分かった。ただし、推奨量以上に摂取したとしても、血圧への上乗せ効果は得られないと考えられる」と述べている。

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“Fantastic Four”の一角に陰り:心筋梗塞例にミネラルコルチコイド受容体拮抗薬は無効(解説:桑島巌氏)

 アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、SGLT2阻害薬の4つは心不全の治療薬におけるFantastic Fourとして広く宣伝されてきた。しかし本論文は、その一角を成すMRAの1つスピロノラクトンが心筋梗塞後の心血管死や心不全悪化に対しての効果はプラセボ群と差がなく、有用性を認めなかったという結果を示した。 心不全、収縮機能が低下した心筋梗塞例に対してスピロノラクトンやエプレレノンが死亡率を減少させることは、すでにRALES研究(Pitt B, et al. N Engl J Med. 1999;341:709-717.)やEPHESUS研究(Pitt B, et al. N Engl J Med. 2003;348:1309-1321.)などで証明されている。しかし今回発表されたCLEAR研究では、心筋梗塞後の症例に対してのスピロノラクトンの有用性は証明できなかった。 スピロノラクトンに有意な有効性を認めなかった最大の要因は、イベント数が少ないことによる検出力不足である。本研究の対象者は心筋梗塞後に冠動脈インターベンション(PCI)を受けた症例であり、ほとんどの例でステント(96%)や、抗血小板薬(97%)やスタチン(97%)などによる厳格な再発予防治療を受けており、心血管イベント発症率は低いのは当然である。この点、RALES研究やEPHESUS研究の時代とは背景が大きく異なっている。 また本研究ではKillip II以上の心不全症例が含まれていないことも、スピロノラクトンの有用性を示すことができなかった一因であろう。 約7,000例規模の試験において有効性を認めなかったことは、実臨床においても心不全を合併しない心筋梗塞例に漫然とMRAを処方することは避けるべきとのメッセージである。

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妊娠中のビタミンD摂取は子どもの骨を強くする

 妊娠中のビタミンDの摂取は、子どもの骨と筋肉の発達に良い影響をもたらすようだ。英サウサンプトン大学MRC Lifecourse Epidemiology CentreのRebecca Moon氏らによる研究で、妊娠中にビタミンDのサプリメントを摂取した女性の子どもは、摂取していなかった女性の子どもに比べて、6〜7歳時の骨密度(BMD)と除脂肪体重が高い傾向にあることが明らかにされた。この研究結果は、「The American Journal of Clinical Nutrition」11月号に掲載された。Moon氏は、「小児期に得られたこのような骨の健康への良い影響は、一生続く可能性がある」と話している。 ビタミンDは、人間の皮膚が日光(紫外線)を浴びると生成されるため「太陽のビタミン」とも呼ばれ、骨の発達と健康に重要な役割を果たすことが知られている。具体的には、ビタミンDは、丈夫な骨、歯、筋肉の健康に必要なミネラルであるカルシウムとリン酸のレベルを調節する働きを持つ。 今回の研究では、妊娠14週未満で単胎妊娠中の英国の妊婦(体内でのビタミンDの過不足の指標である血液中の25-ヒドロキシビタミンD濃度が25~100nmol/L)を対象に、妊娠中のビタミンD摂取と子どもの骨の健康との関連がランダム化比較試験により検討された。対象とされた妊婦は、妊娠14~17週目から出産までの期間、1日1,000IUのコレカルシフェロール(ビタミンDの一種であるビタミンD3)を摂取する群(介入群)とプラセボを摂取する群(対照群)にランダムに割り付けられた。これらの妊婦から生まれた子どもは、4歳および6~7歳のときに追跡調査を受けた。 6〜7歳時の追跡調査を受けた454人のうち447人は、DXA法(二重エネルギーX線吸収法)により頭部を除く全身、および腰椎の骨の検査を受け、骨面積、骨塩量(BMC)、BMD、および骨塩見かけ密度(BMAD)が評価された。解析の結果、介入群の子どもではプラセボ群の子どもと比較して、6〜7歳時の頭部を除く全身のBMCが0.15標準偏差(SD)(95%信頼区間0.04~0.26)、BMDが0.18SD(同0.06~0.31)、BMADが0.18SD(同0.04~0.32)、除脂肪体重が0.09SD(同0.00~0.17)高いことが明らかになった。 こうした結果を受けてMoon氏は、「妊婦に対するビタミンD摂取による早期介入は、子どもの骨を強化し、将来の骨粗鬆症や骨折のリスク低下につながることから、重要な公衆衛生戦略となる」と述べている。 では、妊娠中のビタミンD摂取が、どのようにして子どもの骨の健康に良い影響を与えるのだろうか。Moon氏らはサウサンプトン大学のニュースリリースで、2018年に同氏らが行った研究では、子宮内の余分なビタミンDが、「ビタミンD代謝経路に関わる胎児の遺伝子の活動を変化させる」ことが示唆されたと述べている。さらに、2022年に同氏らが発表した研究では、妊娠中のビタミンD摂取により帝王切開と子どものアトピー性皮膚炎のリスクが低下する可能性が示されるなど、妊娠中のビタミンD摂取にはその他のベネフィットがあることも示唆されているという。

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MI後のスピロノラクトンの日常的使用は有益か?/NEJM

 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受けた心筋梗塞(MI)患者において、スピロノラクトンはプラセボと比較し、心血管死または心不全の新規発症/増悪の複合イベント、あるいは心血管死、MI、脳卒中、心不全の新規発症/増悪の複合イベントの発生を低減しなかった。カナダ・マクマスター大学のSanjit S. Jolly氏らCLEAR investigatorsが、14ヵ国の104施設で実施した無作為化比較試験「CLEAR試験」の結果を報告した。ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬は、うっ血性心不全を伴うMI患者の死亡率を低下させることが示されているが、MI後のスピロノラクトンの日常的な使用が有益であるかどうかは不明であった。NEJM誌オンライン版2024年11月17日号掲載の報告。スピロノラクトンvs.プラセボ投与を比較 研究グループは、PCIを受けたST上昇型MIまたは1つ以上のリスク因子(左室駆出率[LVEF]≦45%、糖尿病、多枝病変、MIの既往または60歳以上)を有する非ST上昇型MI患者を、2×2要因デザインによりスピロノラクトン+コルヒチン、コルヒチン+プラセボ、スピロノラクトン+プラセボ、またはプラセボのみを投与する群に1対1対1対1の割合で無作為に割り付けた。 コルヒチン群とプラセボ群を比較した結果は別途報告されている。本論ではスピロノラクトン群とプラセボ群の比較について報告された。 主要アウトカムは2つで、(1)心血管死および心不全の新規発症または増悪の複合と、(2)MI、脳卒中、心不全の新規発症または増悪および心血管死の複合であった。2つの主要アウトカムについて有意差なし 2018年2月1日~2022年11月8日に、7,062例が無作為化され、3,537例がスピロノラクトン、3,525例がプラセボの投与を受けた。今回の解析時点で、45例(0.6%)の生命転帰が不明であった。 追跡期間中央値3.0年において、1つ目の主要アウトカムである心血管死および心不全の新規発症または増悪の複合イベントは、スピロノラクトン群で183件(100患者年当たり1.7件)、プラセボ群で220件(100患者年当たり2.1件)が報告された。非心血管死の競合リスクを補正したハザード比は0.91(95%信頼区間[CI]:0.69~1.21、p=0.51)であった。 2つ目の主要アウトカムの複合イベントの発生率は、スピロノラクトン群で7.9%(280/3,537例)、プラセボ群で8.3%(294/3,525例)が報告され、競合リスク補正後ハザード比は0.96(95%CI:0.81~1.13、p=0.60)であった。 重篤な有害事象は、スピロノラクトン群で255例(7.2%)、プラセボ群で241例(6.8%)に報告された。

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高K血症または高リスクのHFrEF、SZC併用でMRAの長期継続が可能か/AHA2024

 ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)は、左室駆出率の低下した心不全(HFrEF)患者の予後を改善することが報告されている。しかし、MRAは高カリウム血症のリスクを上げることも報告されており、MRAの減量や中断につながっていると考えられている。そこで、高カリウム血症治療薬ジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム水和物(SZC)をMRAのスピロノラクトンと併用することが、高カリウム血症または高カリウム血症高リスクのHFrEF患者において、スピロノラクトンの至適な使用に有効であるかを検討する無作為化比較試験「REALIZE-K試験」が実施された。本試験の結果、SZCは高カリウム血症の発症を減少させ、スピロノラクトンの至適な使用に有効であったが、心不全イベントは増加傾向にあった。本研究結果は、11月16~18日に米国・シカゴで開催されたAmerican Heart Association’s Scientific Sessions(AHA2024、米国心臓学会)のLate-Breaking Scienceで米国・Saint Luke’s Mid America Heart Institute/University of Missouri-Kansas CityのMikhail N. Kosiborod氏によって発表され、Journal of the American College of Cardiology誌オンライン版2024年11月18日号に同時掲載された。 本試験の対象は、高カリウム血症(血清カリウム値5.1~5.9mEq/LかつeGFR≧30mL/min/1.73m2)または高カリウム血症高リスクのHFrEF(左室駆出率40%以下、NYHA分類II~IV度)患者203例であった。本試験は導入期と無作為化期で構成された。導入期では、スピロノラクトンを50mg/日まで漸増し、必要に応じてSZCを用いて血清カリウム値を正常範囲(3.5~5.0mEq/L)に維持した。導入期の終了時において、スピロノラクトンを25mg/日以上の用量で継続、かつ血清カリウム値が正常範囲であった患者をSZC群とプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付けた。無作為化期では、スピロノラクトンとSZCまたはプラセボを6ヵ月投与した。主要評価項目と主要な副次評価項目は以下のとおりで、上から順に階層的に検定した。【主要評価項目】・スピロノラクトンの至適な使用(スピロノラクトンを25mg/日以上の用量で継続し、血清カリウム値が正常範囲を維持し、高カリウム血症に対するレスキュー治療なし)【主要な副次評価項目】・無作為化時のスピロノラクトン用量での血清カリウム値正常範囲の維持・スピロノラクトンを25mg/日以上の用量で継続・高カリウム血症発症までの期間・高カリウム血症によるスピロノラクトンの減量または中止までの期間・カンザスシティ心筋症質問票臨床サマリースコア(KCCQ-CSS)の変化量 主な結果は以下のとおり。・主要評価項目のスピロノラクトンの至適な使用は、SZC群71%、プラセボ群36%に認められ、SZC群が有意に優れた(オッズ比[OR]:4.45、95%信頼区間[CI]:2.89~6.86、p<0.001)。・主要な副次評価項目の上位4項目はSZC群が有意に優れた。詳細は以下のとおり。<無作為化時のスピロノラクトン用量での血清カリウム値正常範囲の維持>SZC群58% vs.プラセボ群23%(OR:4.58、95%CI:2.78~7.55、p<0.001)<スピロノラクトンを25mg/日以上の用量で継続>SZC群81% vs.プラセボ群50%(OR:4.33、95%CI:2.50~7.52、p<0.001)<高カリウム血症発症までの期間>ハザード比[HR]:0.51、95%CI:0.37~0.71、p<0.001<高カリウム血症によるスピロノラクトンの減量または中止までの期間>HR:0.37、95%CI:0.17~0.73、p=0.006・KCCQ-CSSの変化量は、両群に有意差はみられなかった(群間差:-1.01点、95%CI:-6.64~4.63、p=0.72)。・心血管死・心不全増悪の複合は、SZC群11例(心血管死1例、心不全増悪10例)、プラセボ群3例(それぞれ1例、2例)に認められ、SZC群が多い傾向にあった(log-rank検定による名目上のp=0.034)。

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オメガ3・6脂肪酸の摂取はがん予防に有効か

 多価不飽和脂肪酸(PUFA)のオメガ3脂肪酸とオメガ6脂肪酸の血中濃度は、がんの発症リスクと関連していることが、新たな研究で示唆された。オメガ3脂肪酸の血中濃度が高いことは、結腸がん、胃がん、肺がん、肝胆道がんの4種類のがんリスクの低下と関連し、オメガ6脂肪酸の血中濃度が高いことは、結腸がん、脳、メラノーマ、膀胱がんなど13種類のがんリスクの低下と関連することが明らかになったという。米ジョージア大学公衆衛生学部のYuchen Zhang氏らによるこの研究の詳細は、「International Journal of Cancer」に10月17日掲載された。Zhang氏は、「これらの結果は、平均的な人が食事からこれらのPUFAの摂取量を増やすことに重点を置くべきことを示唆している」と述べている。 この研究でZhang氏らは、UKバイオバンク研究の参加者25万3,138人のデータを用いて、オメガ3脂肪酸およびオメガ6脂肪酸の血漿濃度とあらゆるがん(以下、全がん)、および部位特異的がんとの関連を検討した。ベースライン調査時(2007〜2010年)に得られた血漿サンプルを用いて、核磁気共鳴法(NMR)によりこれらのPUFAの絶対濃度と総脂肪酸に占める割合(以下、オメガ3脂肪酸の割合をオメガ3%、オメガ6脂肪酸の割合をオメガ6%とする)を評価した。対象としたがんは、頭頸部がん、食道がん、胃がん、結腸がん、直腸がん、肝胆道がん、膵臓がん、肺がん、メラノーマ、軟部組織がん、乳がん、子宮がん、卵巣がん、前立腺がん、腎臓がん、膀胱がん、脳腫瘍、甲状腺がん、リンパ系および造血組織がんの19種類だった。 平均12.9年の追跡期間中に、2万9,838人ががんの診断を受けていた。喫煙状況、BMI、飲酒状況、身体活動量などのがんのリスク因子も考慮して解析した結果、オメガ3脂肪酸およびオメガ6脂肪酸の血漿濃度が上昇すると全がんリスクが低下するという逆相関の関係が認められた。全がんリスクは、オメガ3%が1標準偏差(SD)上昇するごとに1%、オメガ6%が1SD上昇するごとに2%低下していた。がん種別に検討すると、オメガ6%は13種類のがん(食道がん、結腸がん、直腸がん、肝胆道がん、膵臓がん、肺がん、メラノーマ、軟部組織がん、卵巣がん、腎臓がん、膀胱がん、脳腫瘍、甲状腺がん)と負の相関を示した。一方、オメガ3%は4種類のがん(胃がん、結腸がん、肝胆道がん、肺がん)と負の相関を示す一方で、前立腺がんとは正の相関を示すことが明らかになった。 オメガ3脂肪酸やオメガ6脂肪酸は、脂肪分の多い魚やナッツ類、植物由来の食用油に含まれているが、十分な量を摂取するために魚油サプリメントに頼る人も多い。しかし研究グループは、これらのPUFAの効用が全ての人にとって同じように有益になるとは限らないとしている。実際に、本研究では、オメガ3脂肪酸の摂取量が多いと前立腺がんのリスクがわずかに高まる可能性のあることが示された。論文の上席著者であるジョージア大学Franklin College of Arts and SciencesのKaixiong Ye氏は、このことを踏まえ、「女性なら、オメガ3脂肪酸の摂取量を増やすという決断も容易だろう」と同大学のニュースリリースの中で話している。

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フィネレノンによるカリウムの影響~HFmrEF/HFpEFの場合/AHA2024

 左室駆出率(LVEF)が軽度低下した心不全(HFmrEF)または保たれた心不全(HFpEF)患者において、非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)のフィネレノン(商品名:ケレンディア)は高カリウム血症の発症頻度を高めたが、その一方で低カリウム血症の発症頻度を低下させたことが明らかになった。ただし、プロトコールに沿ったサーベイランスと用量調整を行った場合、プラセボと比較し、カリウム値が5.5mmol/Lを超えた患者でもフィネレノンの臨床的な効果は維持されていた。本研究結果は、米国・ミネソタ大学のOrly Vardeny氏らが11月16~18日に米国・シカゴで開催されたAmerican Heart Association’s Scientific Sessions(AHA2024、米国心臓学会)のFeatured Scienceで発表し、JAMA Cardiology誌オンライン版2024年11月17日号に同時掲載された。 本研究は日本を含む37ヵ国654施設で実施された二重盲検無作為化プラセボ対照イベント主導型試験多施設ランダム化試験であるFINEARTS-HF試験の2次解析である。FINEARTS-HF試験において、HFmrEFまたはHFpEFの転帰を改善することが示唆されていたが、その一方で、追跡調査では血清カリウム値上昇の関連が示されていたため、それを検証するために2020年9月14日~2023年1月10日のデータを解析した。追跡期間の中央値は32ヵ月だった(追跡最終日は2024年6月14日)。 研究者らは、 血清カリウム値が5.5mmol/L超(高カリウム)または3.5mmol/L未満(低カリウム)となる頻度とその予測因子を調査し、ランダム化後のカリウム値に基づきフィネレノンによる治療効果をプラセボと比較、臨床転帰に及ぼす影響を検討した。NYHAクラスII~IVの症候性心不全およびLVEF40%以上、ナトリウム利尿ペプチド上昇、左房拡大または左室肥大を有する、利尿薬を登録前30日以上使用しているなどの条件を満たす40歳以上の患者が登録され、フィネレノンまたはプラセボの投与が行われた。主要評価項目は心不全イベントの悪化または全心血管死の複合であった。 主な結果は以下のとおり。・対象者6,001例(平均年齢72歳、女性2,732例)はフィネレノン群3,003例、プラセボ群2,998例に割り付けられた。・血清カリウム値の増加は、1ヵ月後(中央値の差0.19mmol/L[IQR:0.17~0.21])および3ヵ月後(同0.23mmol/L[同:0.21~0.25])において、フィネレノン群のほうがプラセボ群より大きく、この増加は残りの追跡期間中も持続した。・フィネレノンは、高カリウムになるリスクを高め、そのハザード比(HR)は2.16(95%信頼区間[CI]:1.83~2.56、p<0.001)であった。また、低カリウムになるリスクを低下させた(HR:0.46[95%CI:0.38~0.56]、p<0.001)。・低カリウム(HR:2.49[95%CI:1.8~3.43])と高カリウム(HR:1.64[95%CI:1.04~2.58])の双方が両治療群における主要アウトカムのその後のリスクの上昇と関連していた。しかしながら、カリウム値が5.5mmol/L超であってもフィネレノン群はプラセボ群と比較して、主要評価項目のリスクがおおむね低かった。

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高用量ビタミンDは心血管マーカーを低下させるか

 観察研究において、血清ビタミンD値が低い高齢者の心血管疾患(CVD)リスクが高いことが示されているが、ランダム化比較試験ではビタミンDサプリメントによるCVDリスクの低下効果は実証されていない。今回、米国・ハーバード大学医学部のKatharine W Rainer氏らの研究で、高用量ビタミンD投与は低用量ビタミンD投与と比較し、血清ビタミンD値が低い高齢者の潜在的心血管マーカーに影響を与えなかったことが明らかになった。American Journal of Preventive Cardiology誌オンライン版2024年12月号掲載の報告。 STURDY試験は、潜在的なCVDを特徴付ける心血管マーカーの高感度心筋トロポニン(hs-cTnI)とN末端プロb型ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)が、高用量ビタミンD投与によって低下するかを検証するため、ビタミンD3を4用量(200、1,000、2,000、4,000IU/日)で投与し、効果を検証する二重盲検ランダム化適応型試験で、本研究はこのSTURDY試験の付随研究であった。血清25-ヒドロキシビタミンD(25[OH]D)濃度が低く(10~29ng/mL)、転倒リスク予防のためにビタミンDを投与された高齢者を低用量治療群(200IU/日)と高用量治療群(1,000IU以上/日)に割り付け、Hs-cTnI値およびNT-proBNP値をベースライン、3ヵ月、12ヵ月、24ヵ月のタイミングで測定した。主要評価項目は最初の転倒または死亡までの時間であった。なお、ビタミンDの投与量によるバイオマーカーへの影響は、回帰分析であるトービットモデルを用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・解析対象者688例の平均年齢±SDは76.5±5.4歳で、女性が43.6%、CVD既往歴を有する者は29.4%であった。・hs-cTnIは低用量群で5.2%、高用量群で7.0%の増加がみられた。・NT-proBNPではそれぞれ11.3%と9.3%の増加がみられた。・調整モデルではベースラインの血清25[OH]D値はベースラインのHs-cTnIと関連していなかった。・低用量群と比較して高用量のhs-cTnIは1.6%差(95%信頼区間[CI]:-5.3~8.9)、NT-proBNPは-1.8%差(95%CI:-9.3~6.3)であった。・いずれのマーカーにおいても、3ヵ月後、12ヵ月後、24ヵ月後に有意な変化はみられなかった(Hs-cTnI:傾向のp=0.21、NT-proBNP:傾向のp=0.38)。 研究者らは、「ビタミンD値とhs-cTnIの間には逆相関関係があるものの、ビタミンD3の投与量を増やしても時間経過に伴うhs-cTnIの改善は見られなかった。本結果は、CVDイベントを予防するためにビタミンD3の高用量使用を支持するものではない」としている。

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日本人の認知機能にはEPA/DHAに加えARAも重要―脳トレとの組合せでの縦断的検討

 パズルやクイズなどの“脳トレ”を行う頻度の高さと、アラキドン酸(ARA)やドコサヘキサエン酸(DHA)という長鎖多価不飽和脂肪酸(LCPUFA)の摂取量の多さが、加齢に伴う認知機能低下抑制という点で、相加的に働く可能性を示唆するデータが報告された。また3種類のLCPUFAの中で最も強い関連が見られたのは、DHAやエイコサペンタエン酸(EPA)ではなくARAだという。サントリーウエルネス(株)生命科学研究所の得田久敬氏、国立長寿医療研究センター研究所の大塚礼氏らの研究結果であり、詳細は「Frontiers in Aging Neuroscience」に8月7日掲載された。 認知機能の維持には、食習慣や運動習慣、脳を使うトレーニング“脳トレ”などを組み合わせた、多面的なアプローチが効果的であると考えられている。ただ、それらを並行して行った場合の認知機能に対する影響を、縦断的に追跡した研究報告は少ない。得田氏らは、栄養関連で比較的エビデンスの多いLCPUFAと脳トレの組み合わせが、加齢に伴う認知機能低下を抑制するのではないかとの仮説の下、以下の検討を行った。 この研究は、国立長寿医療研究センターが行っている「老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」のデータを用いて行われた。2006~2008年に登録された認知症のない60歳以上の地域住民から、EPA製剤が処方されておらずデータ欠落のない906人を解析対象とした。対象者の主な特徴は、平均年齢70.2±6.7歳、男性50.8%で、認知機能を表すMMSEは30点満点中28.1±1.6点であり、3日間の食事記録(サプリメント摂取も含む)から推計したLCPUFAの1日当たり摂取量の中央値は、ARAが152mg、EPAが280mg、DHAが514mgだった。また、クロスワードパズルや数字パズルなどの脳トレを、週1回以上行っている割合は、35.8%だった。 2年間の追跡で、MMSEが2点以上低下した場合を「認知機能の低下」と定義すると、180人(19.9%)がこれに該当。認知機能が低下した群はそうでない群に比べて、高齢で教育歴が短く、ベースライン時点のMMSEが高いことのほかに、ARA摂取量が少ない(140対154mg/日、P=0.005)という有意差が認められた。EPAとDHAの摂取量は認知機能低下と有意な関連を認めなかった。また、性別の分布、喫煙、アルコール摂取量、身体活動量、BMI、基礎疾患有病率、および脳トレの頻度も有意差がなかった。 脳トレの頻度および3種類のLCPUFAの摂取量について、それぞれの三分位で3群に分け、交絡因子(年齢、性別、BMI、喫煙、アルコール摂取量、身体活動量、教育歴、収入、基礎疾患、抑うつ傾向、MMSEなど)を調整して、認知機能の低下との関連を検討すると、脳トレの頻度の高さ(傾向性P=0.025)と、ARA摂取量の多さ(傾向性P=0.006)が有意に関連していた。EPAやDHAの摂取量との関連は非有意だった。有意な関連の認められた脳トレ頻度の高低(週1回以上/未満)、および、ARA摂取量の多寡(中央値以上/未満)とで全体を4群に分けて、双方が少ない群を基準として認知機能の低下のオッズ比(OR)を算出した結果、他の3群は全てオッズ比が有意に低く、双方が多い群で最も低いオッズ比(OR0.415)が観察された(傾向性P=0.001)。 ところで、本研究ではEPAやDHAと認知機能低下との関連が非有意だったが、海外からはEPAやDHAも認知機能に対して保護的に働くことを示唆するデータが複数報告されている。この違いの理由として、日本人は魚の摂取量が多いため、EPAやDHAの平均摂取量が海外の報告より約3倍以上高いことの影響が考えられる。そこで、本研究の対象者のうち、EPA、DHAの摂取量が下位3分の1の人に絞り込んで、上記と同様のサブグループ解析を施行した。その結果、DHAについては摂取量が多いほど認知機能低下のオッズ比が低いという有意な関連が認められ(傾向性P=0.023)、かつ、脳トレ頻度と組み合わせた4群での比較でも、双方が多いことによる相加的な影響が認められた(傾向性P=0.025)。一方、EPAに関してはこの対象の解析でも、有意性が見られなかった。 著者らは、「脳トレ頻度の高さとARA摂取量が多いことの組み合わせは、高齢日本人の認知機能低下リスクを相加的に抑制する可能性がある。また、魚介類の摂取量が少ない高齢者では、DHAも同様に作用すると考えられる」と結論付けている。

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高齢男性の筋肉量、食事摂取量に左右されず?

 地域在住高齢者の筋肉量の多寡と食事・栄養素摂取量の関係を、性別に検討した結果が報告された。女性で筋肉量の少ない人は食事摂取量が少ないが、男性はそのような差がないという。順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学の加賀英義氏らの研究によるもので、詳細は「BMC Geriatrics」に7月18日掲載された。著者らは、性差に配慮したサルコペニア予防戦略の必要性を指摘している。 高齢社会の進展とともにサルコペニア(筋肉量や筋力低下)対策が公衆衛生上の喫緊の課題となっている。筋肉量や筋力を高めるために、タンパク質を中心とする十分な栄養素摂取が推奨されているが、高齢者の筋肉量と栄養素摂取量の関連については不明点も残されている。そこで加賀氏らは、都市在住高齢者コホート研究である「文京ヘルススタディ」のベースラインデータを横断的に解析し、詳細な検討を行った。 解析対象は東京都文京区に住む65~84歳の高齢者1,618人(平均年齢73.1±5.4歳、男性42.0%)。生体インピーダンス法で測定した四肢骨格筋量を基に骨格筋量指数(SMI)を算出し、アジアのサルコペニア診断基準(男性は7.0kg/m2未満、女性は5.7kg/m2未満)に基づいて二分すると、男性の31.1%、女性の43.3%が低SMIと判定された。男性・女性ともに低SMI群は、年齢が高く、BMIが低値だった。ただし体脂肪率については、女性は低SMI群で低値だったが(29.6対32.7%、P<0.001)、男性は有意差がないという(24.3対24.6%、P=0.544)、性別による違いが認められた。 食事・栄養素摂取量は、簡易型自記式食事歴質問票で調査した。年齢、身長、体重、身体活動量で調整後、女性は低SMI群の方が、摂取エネルギー量と主要栄養素(炭水化物、タンパク質、脂質)の摂取量が有意に少なく、また微量栄養素(ビタミン、ミネラル)についてもその多くで、低SMI群の摂取量が有意に少なかった。その一方、男性では、低SMI群と高SMI群とで摂取エネルギー量や主要栄養素の摂取量に有意差がなく、また大半の微量栄養素の摂取量も有意差がなかった(マンガンと銅のみ低SMI群で低値)。 食品の摂取量を比べた場合、男性は全ての食品群で差が観察されなかった。女性では、脂肪分の多い魚や豆腐、油揚げは低SMI群の摂取量が少なく、反対に小麦製品の摂取量は高SMI群の方が少なかった。 著者らは本研究が横断研究であるという限界点を挙げた上で、「都市在住高齢者の筋肉量の多寡と食事・栄養素摂取量の関係には性差が存在しており、サルコペニア予防のための栄養介入では性別を考慮する必要があるのではないか。女性に対しては摂取エネルギー量を全体的に増やすようにアドバイスすることが重要と考えられる」と結論付けている。他方、男性については低SMI群と高SMI群とで摂取エネルギー量および、ほぼ全ての栄養素・食品の摂取量に有意差が認められなかったため、「サルコペニアの予防法を探るさらなる研究が必要」としている。 なお、論文の考察では、男性において食事や栄養素の摂取量に差がないにもかかわらずSMIに差が生じるメカニズムとして、消化・吸収や体タンパク質の同化・異化の違いなどが関与している可能性が述べられている。また、有意水準未満ながら、低SMI群では米の摂取量が少ない一方でパンの摂取量が多く、さらに動物性タンパク質の摂取量も非有意ながら低SMI群で少なかったことなどが記されている。

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妊娠中の魚油摂取、出生児のアトピー性皮膚炎リスクは低減する?

 妊娠中のオメガ3長鎖多価不飽和脂肪酸(n-3 LCPUFA、魚油)サプリメント摂取と出生児のアトピー性皮膚炎リスクとの関連は、母体が有するシクロオキシゲナーゼ-1(COX1)遺伝子型によって異なることが示された。デンマーク・コペンハーゲン大学のLiang Chen氏らが実施した無作為化比較試験「Danish Copenhagen Prospective Studies on Asthma in Childhood 2010」の事前に規定された2次解析において、TT遺伝子型を有する母親がn-3 LCPUFAサプリメントを摂取した場合、出生児はアトピー性皮膚炎のリスクが有意に低いことが示された。著者は、「TT遺伝子型を有する妊婦にのみサプリメントを摂取させるという個別化された予防戦略の参考になるだろう」と述べている。エイコサノイドは、アトピー性皮膚炎の病態生理に関与しているが、出生前のn-3 LCPUFAサプリメント摂取や母体のCOX1遺伝子型の影響を受けるかどうかは明らかになっていなかった。JAMA Dermatology誌オンライン版2024年8月28日号掲載の報告。 「Danish Copenhagen Prospective Studies on Asthma in Childhood 2010」の事前に規定された2次解析では、出生コホートの母子ペアを対象とし、出生児が10歳になるまで前向きに追跡した。妊娠中のn-3 LCPUFAサプリメント摂取と小児アトピー性皮膚炎の関連について、全体および母親のCOX1遺伝子型別に検討した。本試験では、母親と出生児のCOX1遺伝子型を確認し、出生児が1歳になった時点で尿中エイコサノイドを測定した。本試験は2019年1月~2021年12月の期間に実施し、データ解析は2023年1~9月に行った。 合計736例の妊娠24週の妊婦を、1日2.4gのn-3 LCPUFA(魚油)サプリメントを摂取する群(介入群)またはプラセボ(オリーブオイル)を摂取する群(対照群)に1対1の割合で無作為に割り付け、出産1週後まで摂取を継続させた。 主要アウトカムは、全体および母親のCOX1遺伝子型別にみた10歳時までの小児アトピー性皮膚炎リスクであった。 主な結果は以下のとおり。・10歳時のフォローアップを完了した出生児は635例(91%、女子363例[57%])であり、母親と共に、介入群321組(51%)、対照群314組(49%)が解析に含まれた。・妊娠中のn-3 LCPUFAサプリメントの摂取は、出生児の1歳時点における尿中トロンボキサンA2代謝物量と有意な負の関連があった(β:-0.46、95%信頼区間[CI]:-0.80~-0.13、p=0.006)。また、尿中トロンボキサンA2代謝物量はCOX1 rs1330344遺伝子型との有意な正の関連も認められた(Cアレル当たりのβ:0.47、95%CI:0.20~0.73、p=0.001)。・10歳時点までの小児アトピー性皮膚炎発症とn-3 LCPUFAサプリメント摂取(ハザード比[HR]:1.00、95%CI:0.76~1.33、p=0.97)、母親のCOX1遺伝子型(同:0.94、0.74~1.19、p=0.60)との間には、いずれも関連が認められなかったが、n-3 LCPUFAサプリメント摂取と母親のCOX1遺伝子型には有意な交互作用がみられた(交互作用のp<0.001)。・TT遺伝子型を有する母親の出生児のアトピー性皮膚炎のリスクは、対照群よりも介入群で有意に低かった(390組[61%]のHR:0.70、95%CI:0.50~0.98、p=0.04)。一方で、CT遺伝子型を有する母親の出生児において、介入群のアトピー性皮膚炎のリスク低下はみられず(209組[33%]のHR:1.29、95%CI:0.79~2.10、p=0.31)、CC遺伝子型を有する母親の出生児では有意なリスク上昇が認められた(37組[6%]のHR:5.77、95%CI:1.63~20.47、p=0.007)。・アトピー性皮膚炎発症について、n-3 LCPUFAサプリメント摂取と出生児のCOX1遺伝子型には、有意な交互作用がみられた(交互作用のp=0.002)。

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HFpEFに2番目のエビデンスが登場―非ステロイド系MRAの時代が来るのか?(解説:絹川弘一郎氏)

 ESC2024はHFpEFの新たなエビデンスの幕開けとなった。HFpEFに対する臨床試験はCHARM-preserved、PEP-CHF、TOPCAT、PARAGONと有意差を検出できず、エビデンスのある薬剤はないという時代が続いた。 CHARM-preservedはプラセボ群の一部にACE阻害薬が入っていてなお、プライマリーエンドポイントの有意差0.051と大健闘したものの2003年時点ではmortality benefitがない薬剤なんて顧みられず、PEP-CHFはペリンドプリルは1年後まで順調に予後改善していたのにプラセボ群にACE阻害薬を投与される例が相次ぎ、2年後には予後改善効果消失、TOPCATはロシア、ジョージアの患者のほとんどがおそらくCOPDでイベントが異常に少なく、かつ実薬群に割り付けられてもカンレノ酸を血中で検出できない例がロシア人で多発したなど試験のqualityが低かった、PARAGONではなぜか対照にプラセボでなくARBの高用量を選んでしまうなど、数々の不運または不思議が重なってきた。 その後ここ数年でSGLT2阻害薬がHFmrEF/HFpEFにもmortality benefitこそ示せなかったが心不全入院の抑制は明らかにあることがわかり、初のHFpEFに対するエビデンスとなったことは記憶に新しい。今回のFinearts-HF試験は、スピロノラクトンやエプレレノンと異なる非ステロイド骨格を有するMRA、フィネレノンがHFmrEF/HFpEFを対象に検討された。ここで、ステロイド骨格のMRAとフィネレノンとの相違の可能性について、まず説明する。 アルドステロンが結合したミネラルコルチコイド受容体は、cofactorをリクルートしながら核内に入って転写因子として炎症や線維化を誘導する遺伝子の5’-regionに結合して、心臓や腎臓の臓器障害を招くとされてきた。ステロイド骨格のMRAではアルドステロンを拮抗的に阻害するものの、ミネラルコルチコイド受容体がcofactorをリクルートすることは抑制できず、わずかながらではあっても炎症や線維化を促進してしまうことが知られている。このことがステロイド系MRAに腎保護作用が明確には認めづらい原因かといわれてきた。 一方、フィネレノンはもともとCa拮抗薬の骨格から開発された非ステロイド系MRAであり、cofactorのリクルートはなく、アルドステロン依存性の遺伝子発現はほぼ完全にブロックされるといわれている。FIDELIO-DKD試験ですでに示されているように糖尿病の合併があるCKDに限定されているとはいえ、フィネレノンには腎保護作用が明確にある。さらに、フィネレノンの体内分布はステロイド系MRAに比較して腎臓より心臓に多く分布しているようであり、腎臓の副作用である高カリウム血症が少なくなるのではないかという期待があった。このような背景においてHFmrEF/HFpEF患者を対象に、心不全入院の総数と心血管死亡の複合エンドポイントの抑制をプライマリーとして達成したことはSGLT2阻害薬に続く快挙である。カプランマイヤー曲線はSGLT2阻害薬並みに早期分離があり、フィネレノン20mgをDKDに使用している現状では血圧や尿量にさほどの変化を感じないが、早期に効果があるということは、やはり血行動態的に作用しているとしか考えられず、40mgでの降圧や利尿に対する効果を今一度検証する必要があると感じた。またかというか、HFpEFでは心血管死亡の発症率が低いため、mortalityに差がついていないが、これはもともと6,000人2年の規模の試験では当初から狙えないことが明らかなので、もうあまりこの点をいうのはやめたほうがいいかと思われる。 ちなみに死亡のエンドポイントで事前に有意差を出すための症例数を計算すると、1万5,000人必要だそうである。しかし、高カリウム血症の頻度は依然として多く、非ステロイド系MRAとしての期待は裏切られた格好になっている。もっとも、プロトコル上、eGFR>60の症例にはターゲット40mg、eGFR<60ではターゲット20mgとなっており、腎機能の低い症例に高カリウムが多いのか、むしろ高用量にした場合に一定程度高カリウムになっているのか、など細かい解析は今後出てくる予定である。腎保護の観点でもAKIはむしろフィネレノンで多いという結果であり、DKDで認められたeGFR slopeの差などがHFpEFでどうなのかも今後明らかになるであろう。このように、現状では非ステロイド系という差別化にはいまだ明確なデータはないようであり、それもあってTOPCAT Americasとのメタ解析が出てしまうことで、MRA一般にHFpEFに対するクラスエフェクトでI/Aというような主張も米国のcardiologistから出ている。 しかし、前述のようにいかにロシア、ジョージアの症例エントリーやその後のマネジメントに問題があったとはいえ、いいとこ取りで試験結果を解釈するようになればもう前向きプラセボ対照RCTの強みは消失しているとしかいえず、あくまでもTOPCAT全体の結果で解釈すべきで、ここまで長年そういう立場で各国ガイドラインにも記述されてきたものを、FINEARTS-HF試験の助けでスピロノラクトンの評価が一変するというのは、さすがに多大なコストと時間と手間をかけた製薬企業に残酷過ぎると思う。 少なくともFINEARTS-HF試験の結果をIIa/B-Rと評価したうえで、今後フィネレノン自体がHFrEFにも有効であるのか、または第III相試験中の他の非ステロイド系MRAの結果がどうであるかなどを合わせて、本当に非ステロイド系MRAが既存のステロイド系MRAに取って代わるかの結論には、まだ数年の猶予は必要であろうか。

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