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HFpEF/HFmrEFに、フィネレノンが有効/NEJM

 左室駆出率が軽度低下の心不全(HFmrEF)または保たれた心不全(HFpEF)患者の治療において、プラセボと比較して非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬フィネレノンは、総心不全増悪イベントと心血管系の原因による死亡の複合アウトカムの発生を有意に抑制し、高カリウム血症のリスクが高いものの低カリウム血症のリスクは低いことが、米国・ブリガム&ウィメンズ病院のScott D. Solomon氏らFINEARTS-HF Committees and Investigatorsが実施した「FINEARTS-HF試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2024年9月1日号に掲載された。国際的な無作為化イベント主導型試験 FINEARTS-HF試験は、日本を含む37ヵ国654施設で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照イベント主導型試験であり、2020年9月~2023年1月に参加者のスクリーニングを行った(Bayerの助成を受けた)。 年齢40歳以上、症状を伴う心不全で、左室駆出率が40%以上の患者6,001例を登録した。通常治療に加え、フィネレノン(ベースラインの推算糸球体濾過量に応じて最大用量20mgまたは40mg、1日1回)を投与する群に3,003例(平均[±SD]年齢71.9[±9.6]歳、女性45.1%)、プラセボ群に2,998例(72.0[±9.7]歳、45.9%)を無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、総心不全増悪イベント(心不全による予期せぬ初回または再入院、あるいは緊急受診と定義)と心血管系の原因による死亡の複合とした。総心不全増悪イベント数も有意に少ない ベースラインにおける全体の平均(±SD)左室駆出率は53(±8)%で、69.1%がNYHA心機能分類クラスIIであった。84.9%がβ遮断薬、35.9%がACE阻害薬、35.0%がARB、8.5%がARNI、13.6%がSGLT2阻害薬の投与を受けていた。 追跡期間中央値32ヵ月の時点で、主要アウトカムのイベントは、フィネレノン群で3,003例中624例に1,083件、プラセボ群で2,998例中719例に1,283件発生し、率比は0.84(95%信頼区間[CI]:0.74~0.95)とフィネレノン群で有意に良好であった(p=0.007)。 心不全増悪イベントの総数は、フィネレノン群が842件、プラセボ群は1,024件であり、率比は0.82(95%CI:0.71~0.94)とフィネレノン群で有意に少なかった(p=0.006)。また、心血管系の原因で死亡した患者の割合は、フィネレノン群8.1%、プラセボ群8.7%であった(ハザード比[HR]:0.93、95%CI:0.78~1.11)。0.5%で入院に至った高カリウム血症が発現 重篤な有害事象はフィネレノン群で1,157例(38.7%)、プラセボ群で1,213例(40.5%)に発現した。また、死亡に至った高カリウム血症のエピソードはなく、入院に至った高カリウム血症はフィネレノン群で16例(0.5%)、プラセボ群で6例(0.2%)であった。低カリウム血症は、プラセボ群に比べフィネレノン群で少なかった。 6ヵ月時の平均収縮期血圧は、プラセボ群に比べフィネレノン群で低かったが(群間差:-3.4mmHg、95%CI:-4.2~-2.6)、1ヵ月時の血圧の変化で補正しても、主要アウトカムに関して観察された治療効果は減弱しなかった。 著者は、「フィネレノンは、患者報告による健康状態(カンザスシティ心筋症質問票[KCCQ]総症状スコア)の改善に関して中等度の有益性をもたらしたが、NYHA心機能分類クラスや腎複合アウトカムのリスクを改善しなかった」とし、「ベースラインでSGLT2阻害薬(この患者集団においてガイドラインで強く推奨されている唯一の治療薬)を使用していた患者の主要アウトカムの結果が、使用していなかった患者と同程度であったことは重要である」としている。

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雨天で悪化する頭痛には…【漢方カンファレンス】第9回

雨天で悪化する頭痛には…以下の症例で考えられる処方をお答えください。(経過の項の「???」にあてはまる漢方薬を考えてみましょう)【今回の症例】40代女性主訴頭痛、嘔吐既往片頭痛、慢性副鼻腔炎病歴12月の雨の日、締めつけられるような頭痛が出現した。頭痛は、左側頭部に徐々に出現し拍動性で嘔気を伴った。起立時や水を飲むとすぐに嘔吐してしまう。頭痛はもともとある片頭痛と同じ性状。2日後、頭痛と嘔吐がひどくなり動けなくなったため救急外来を受診した。現症身長158cm、体重54kg(BMI 22kg/m2)。体温36.1℃、意識清明、血圧158/77mmHg、脈拍62回/分 整、呼吸数16回/分。髄膜刺激症候はなし。神経学的所見を含めて身体所見に特記すべき異常はない。頭部CTで明らかな異常なし。経過受診時「???」エキス2包 分1を内服。(解答は本ページ下部をチェック!)30分後頭痛と嘔気が少し軽減した。45分後歩行しても嘔気がせずトイレにいけるようになった。1時間後頭痛がほぼ消失して帰宅した。問診・診察漢方医は以下に示す漢方診療のポイントに基づいて、今回の症例を以下のように考えます。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?(冷えがあるか、温まると症状は改善するか、倦怠感は強いか、など)(2)虚実はどうか(症状の程度、脈・腹の力)(3)気血水の異常を考える(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む【問診】寒がりですか? 暑がりですか?体の冷えを自覚しますか?のぼせはありませんか?暑がりです。冷えはありません。少しのぼせます。入浴で長くお湯に浸かるのは好きですか?冷房は好きですか?入浴は短いです。冷房は好きです。飲み物は温かい物と冷たい物のどちらを好みますか?のどは渇きませんか?1日どれくらい飲み物を摂っていますか?最近のどが渇いて、冷たい飲み物をよく飲みます。1日1.5L程度です。<頭痛の誘因を確認>頭痛はどのようなときに起こりやすいですか?雨降りと頭痛は関係がありますか?頭痛と月経周期に関連はありますか?雨降り前に多い気がします。月経とは関係がありません。雨降り前や台風接近時など体調が悪くなりませんか?体が重だるかったり、頭痛がするので雨の日は嫌いです。<ほかの随伴症状を確認>疲れやすいですか?横になりたいほどの倦怠感はありますか?倦怠感はありません。普段は食欲はありますか?食欲はあります。尿は1日に何回でますか?夜間尿はありますか?便秘・下痢はありませんか?最近、尿回数が少なくて1日4~5回でした。夜間尿はありません。便は毎日出ます。下痢もありません。月経は順調ですか?月経痛はひどいですか?月経は定期的で月経痛は軽いです。足はむくみやすいですか?めまいや立ちくらみはありませんか?足が夕方になるとむくみます。めまいはしません。乗り物酔いしやすいですか?水を飲むとお腹でチャプンと音がしませんか?乗り物酔いしやすいです。水を飲むとみぞおちでチャプチャプ音がすることがあります。【診察】顔色はやや紅潮、脈診ではやや浮、強弱中間であった。舌は、暗赤色で腫れぼったく(腫大[しゅだい])、舌辺縁部に歯痕(しこん)を認め、湿潤した白舌苔が付着しており、舌下静脈の怒張を認めた。腹診では腹力は中等度、心窩部をスナップをきかせて指で叩くとチャプチャプとした音(振水音)を認めた。触診では四肢に明らかな冷えはなく、皮膚はしっとりと汗ばんでいた。カンファレンス今回は、救急外来を受診した頭痛の症例ですね。現代医学的には、一次性頭痛を片頭痛、筋緊張性頭痛、群発頭痛と鑑別しますね。漢方医学的にも頭痛の要因はさまざまだよ。風邪のひき始めに相当する太陽病では、悪寒・発熱に加えて、頭痛が特徴だね。そのため葛根湯(かっこんとう)は肩こりを伴う筋緊張性頭痛に用いることもあるよ。今回も、陰陽、六病位から考えて気血水のどのパラメーターに異常があるか考えていこう。問診では、暑がり、入浴は短い、冷たい飲み物を好む、倦怠感はないなどから、「陽証」です。さらに脈がやや浮で強弱中間、腹力も中等度であることから「虚実間」ですね。陽証・虚実間でよさそうですね。六病位ではどうでしょう? 陽証は、太陽病・少陽病・陽明病に分類できました。太陽病の特徴である悪寒や発熱はありません。陽明病の特徴である腹満、便秘もみられないので少陽病(第6回「今回のポイント」の項参照)です。よいですね。それでは気血水の異常はどうでしょう?今回は気血水のうち、「水」の異常ではないですか!? 「水」と関連がありそうな所見として、下肢浮腫があります。また、心窩部がチャポチャポする所見や、問診で頭痛が雨降り前に悪化するというところが気になります。現代医学ではあまり注目しないですが…。本症例では「雨降り前に増悪する傾向のある頭痛」が特徴ですね。頭痛のガイドラインでも、片頭痛の誘因として天候の変化や温度差があげられています1)。漢方では雨や低気圧で悪化する症状は水毒(本ページ下部の「今回のポイント」の項参照)です。頭痛やめまいの患者さんに天気との関係を質問すると雨天と関係があるという人がよくいますよ。いままで天気との関係は気にしていませんでした。漢方では症状出現の誘因や様式を考慮することが大切です。一般的に寒くなると悪化する、気温が低くなる明け方に出現するといえば、寒(冷え)の存在を考えます。また、夜間安静時に決まった場所が痛くなる場合は瘀血と考えられます。気の異常は次回勉強しますが、朝がとくに調子が悪い、発作性に症状が出現するなどの特徴があります。面白いですね。これから注意して問診しようと思います。症例に戻りますが、乗り物酔いしやすいことも水毒ですか?乗り物酔いも水毒です。また、水分を飲むわりに尿量や尿回数が少ないことを尿不利(にょうふり)といいます。本症例でも飲水量はおよそ1.5L/日であるのに、尿回数4~5回/日と少なめです。おおよそ1日の尿回数が4~5回以下であれば尿不利を考えるとよいでしょう。排尿に関して、尿量が減少している場合も、多尿であってもどちらも水毒の所見になります。本症例をまとめましょう。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?暑がり、入浴は短い、倦怠感なし冷たい飲み物を好む脈:やや浮→陽証(少陽病)(2)虚実はどうか脈:強弱中間、腹力:中等度→虚実間(3)気血水の異常を考える舌暗赤色、舌下静脈の怒張→瘀血舌の腫大・歯痕、振水音乗り物酔いしやすい下肢浮腫→水毒(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む雨降り前に悪化する頭痛、口渇、自然発汗の傾向、尿不利解答・解説【解答】以上から本症例は、五苓散(ごれいさん)を用いて治療しました。【解説】水毒に対する治療薬を利水剤(りすいざい)といいます。五苓散は最も代表的な利水剤です。五苓散は、桂皮(けいひ)・茯苓(ぶくりょう)・沢瀉(たくしゃ)・猪苓(ちょれい)・朮(じゅつ)の5つの生薬で構成され、このうち桂皮以外は水分代謝を調整する作用がある生薬です。五苓散の3徴として「口渇・自汗(自然発汗の傾向)・尿不利」が挙げられます。夏の暑い時期に水分はたくさん摂るものの、むくんでばててしまったような状態に用います。最近では五苓散はウイルス性胃腸炎にも頻用されます。その場合も発熱によりしっとり汗をかき、嘔吐・下痢のため脱水傾向で尿量が減少する、五苓散の3徴が揃いやすい病態です。五苓散は六病位・虚実による分類では、少陽病・虚実間になります。また注目すべきことに、漢方薬の利水剤は、体内に水が貯留した溢水時には利尿作用をもつが、脱水時にはむしろ抗利尿作用をもつとされ、現代医学のフロセミドなどの利尿剤とは異なる特徴をもちます。なお、本症例は急性の症状なので五苓散を2包飲ませているのもポイントです。片頭痛の発作や回転性めまいの急性期などは五苓散を2~3包と一度に多めに飲ませることが治療効果を高めるうえでのポイントとなります。二日酔いも頭痛がしてのどが渇き、むくんで尿量が少なくなる傾向があることから五苓散の適応です。飲み会の前に予防的に飲むか、翌日、二日酔いになったときに多めに飲むとよいでしょう。漢方医の飲み会では誰かが五苓散を持参していることが多いです。今回のポイント「水毒」の解説漢方では生体内を循環する液体のうち赤い色を「血」、無色を「水」と分けて考えます。水の異常は水毒または、水滞とよび、水の代謝異常と考えて、主に水の過剰・停滞・異常分泌に分類します。具体的には浮腫、胸水、腹水、水様性鼻汁、下痢などです。また、現代医学的には水とつながりにくい症状ですが、頭痛、めまい、立ちくらみ、耳鳴り、嘔気は水毒と関連することが多いです。さらにそれらの症状が雨天(とくに雨降り前)や低気圧の接近により悪化する場合は、水毒による症状だと考えられます。また水毒を示唆する他覚所見を紹介します。舌を観察すると、舌が大きく腫れぼったくなり、舌の幅が口角内に収まりにくいような状態を腫大といいます。また、舌辺縁部に歯による圧迫痕がある場合を歯痕といいます(写真左)。腹部診察では、心窩部(漢方では心下[しんか]という)をスナップをきかせて叩くと、チャポチャポ音がすることを振水音といいます(写真右)。また診察時に振水音がなくても、「水を飲むとチャポチャポ音がしませんか?」と問診で振水音を確認することもあります。参考文献1)日本神経学会・日本頭痛学会・日本神経治療学会 監修. 頭痛の診療ガイドライン2021. 医学書院. 2021:p.104-106.

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大腸癌治療ガイドライン 医師用 2024年版

大腸癌治療の最新研究を踏まえ、5年ぶりの全面改訂!前版の薬物療法領域の部分改訂を経て、今版ではすべての領域を刷新。内視鏡治療におけるunderwaterEMR(UEMR)、外科治療におけるロボット支援手術、薬物療法におけるアルゴリズム・レジメン、放射線療法における粒子線治療、直腸癌に対するTotal Neoadjuvant Therapy(TNT)など、最新の研究成果をもとに記載。巻末資料も「大腸癌取扱い規約 第9版」に準拠し更新された。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する大腸癌治療ガイドライン 医師用 2024年版定価2,750円(税込)判型B5判頁数188頁発行2024年7月編集大腸癌研究会ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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遺伝性大腸癌診療ガイドライン 2024年版

日進月歩の診断モダリティーに対応した遺伝性大腸癌診療の決定版遺伝性大腸癌診療に有益な情報を提供してきた本ガイドライン。2024年版では診療のアルゴリズムを記載しCQの位置付けを明確化。家族性大腸腺腫症におけるIntensive downstaging polypectomyやデスモイド腫瘍の新分類、リンチ症候群における免疫チェックポイント阻害薬のコンパニオン診断、CGPからの診断の流れなど、日進月歩の診断モダリティーに対応したガイドラインとなった。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する遺伝性大腸癌診療ガイドライン 2024年版定価2,970円(税込)判型B5判頁数184頁(図数:27枚・カラー図数:9枚)発行2024年7月編集大腸癌研究会ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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炎症性腸疾患関連消化管腫瘍診療ガイドライン 2024年版

IBD関連消化管腫瘍のガイドラインが誕生!炎症性腸疾患(IBD)患者数は増加の一途をたどり、長期罹患患者では消化管癌が合併することが知られている。本ガイドラインではUC(潰瘍性大腸炎)関連消化管腫瘍とCD(クローン病)関連消化管腫瘍のそれぞれの解説に加え、計28のCQを最新のエビデンスに基づいて設定した。各施設からの貴重な切除標本や病理アトラスなどのカラー図も豊富に取り扱っており、まさに他の追随を許さないIBD関連消化管腫瘍診療に携わる医療者必携の1冊。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する炎症性腸疾患関連消化管腫瘍診療ガイドライン 2024年版定価3,850円(税込)判型B5判頁数152頁(図数:9枚・カラー図数:42枚)発行2024年7月編集大腸癌研究会ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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BTK阻害薬ピルトブルチニブが発売、再発難治MCLに新たな選択肢/日本新薬

 2024年8月、日本新薬と日本イーライリリーは、ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)阻害薬ピルトブルチニブ(商品名:ジャイパーカ)の発売を開始した。適応はほかのBTK阻害薬に抵抗性又は不耐容の再発又は難治性のマントル細胞リンパ腫(MCL)。発売に合わせ、9月5日に行われた日本新薬主催のプレスセミナーでは、がん研究会有明病院の丸山 大氏が「マントル細胞リンパ腫に対する既存のBTK阻害剤後のアンメットニーズ」と題した講演を行った。ピルトブルチニブは従来型BTK阻害薬に比べて副作用リスク軽減の可能性 悪性リンパ腫は全がん種のうち男女とも罹患数で10位以内に入る、比較的患者数の多いがんだ。一方で、MCLは悪性リンパ腫全体の2~3%(日本の場合)であり、希少疾患に数えられる。発症年齢中央値は60代半ば、男女比は2対1程度と「高齢の男性」に多いがんと言える。リンパ腫の中には治癒するものもあるが、MCLは治癒が難しいとされ、初回治療は大量化学療法もしくは自家造血幹細胞移植だが治療抵抗性となる率が高く、多くの患者が次治療に移行する。「造血器腫瘍診療ガイドライン 2023年版」では、再発難治MCLにする治療としてイブルチニブ、ベンダムスチン、ボルテゾミブ単剤もしくはリツキシマブとの併用、GDP療法など複数の多剤併用療法が推奨されており、とくにピルトブルチニブと同じBTK阻害薬であるイブルチニブが広く使われている。しかし、イブルチニブにも治療抵抗性となった場合の次治療のレジメンはさらに多岐にわたり、確立されたものはない状態だ。 イブルチニブをはじめとする従来型のBTK阻害薬は、BTKタンパク質のC481位のアミノ酸に共有結合することで作用する「共有結合型阻害薬」に分類される。一方、今回発売されたピルトブルチニブはC481位を介さない「非共有結合型阻害薬」となる。この違いによって、C481変異によって引き起こされる共有結合型阻害薬への耐性を回避するため、従来型BTK阻害薬に耐性となった患者に対しても有効性が期待される。また、ピルトブルチニブは従来型BTK阻害薬に比べBTKに対する選択性が高く、非標的分子への影響を抑えることができるため、副作用のリスクを軽減できる可能性もある。 今回のピルトブルチニブの承認は、国際共同第I/II相BRUIN-18001試験に基づくもの。有効性解析対象となった日本人8例を含む65例を対象にした本試験では、従来型BTK阻害薬の前治療歴がある参加者に対し、ピルトブルチニブは56.9%の奏効率(CR+PR)を示した。奏効が得られた例では、比較的長期間の奏効持続が得られる傾向があった。一方、安全性解析対象集団となったMCL患者164例では89.0%(146例)に有害事象が認められ、発現頻度の高いものとしては疲労29.9%(49例)、下痢21.3%(35例)、呼吸困難16.5%(27例)などがあった。その他の重大な有害事象として感染症、出血および骨髄抑制が報告されている。 丸山氏は「治癒が困難な再発難治MCLに対し、新たな治療選択肢ができたことは喜ばしい」とまとめた。

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LCAT欠損症〔Lecithin-cholesterol acyltransferase deficiency〕

1 疾患概要■ 概念・定義1966年、角膜混濁、貧血、蛋白尿を呈し、慢性腎炎の疑いで33歳の女性がノルウェー・オスロの病院でみつかった。腎機能は正常ではあるが、血清アルブミンはやや低く、血漿総コレステロール、トリグリセリドが高値で、コレステロールのほとんどはエステル化されていなかった。腎生検では糸球体係蹄に泡沫細胞が認められた。その後、患者の姉妹に同様の所見を認め、遺伝性の疾患であることが疑われた。その後、ノルウェーで別の3家系がみつかり、後にこれらの患者は同一の遺伝子異常を保有していた。患者は血中のレシチン:コレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)活性を欠損しており、NorumとGjoneによりこの疾患が家族性LCAT欠損症(Familial LCAT deficiency:FLD)と名付けられた。後にCarlsonとPhilipsonによって魚眼病(Fish eye disease:FED)が報告された。LCATは、血漿リポタンパク質上のコレステロールのエステル化反応を触媒し、この反応はHDL上とアポリポ蛋白(アポ)B含有リポ蛋白(LDLとVLDL)上の両方で起こる。前者をα活性、後者をβ活性と呼ぶ。LCAT蛋白のα活性とβ活性の両者を欠損する病態がFLD、α活性のみを欠損する病態がFEDと定義されている。現在これらはいずれもLCAT遺伝子の変異による常染色体潜性遺伝性疾患であることが知られており、LCAT機能異常を原因とする脂質代謝異常とリポ蛋白異常を介してさまざまな合併症を引き起こす1-3)。わが国では、2015年7月1日に指定難病(259)として認定されている。■ 疫学FLDおよびFED症例の大部分はヨーロッパで報告されており、FLD症例報告数は男性が多い。ヘテロ接合体の地理的分布は、FEDとFED患者にみられる分布と同じである。興味深いことに、ヘテロ接合体の性別分布は、FED変異とFLD変異のヘテロ接合体の男女比は同等であると報告されている。角膜混濁はほぼすべてのFLDおよびFED患者に認められる。HDL-C値は、FLDとFEDの両者で一様に低く、ほとんどの患者で10mg/dL未満である。FLD症例の85%以上は報告時に蛋白尿を呈しているが、FED症例では蛋白尿は報告されていない。FLD患者のほとんどは貧血を合併している。臨床学的に明らかな動脈硬化性心血管疾患は、FLD患者の10%程度、FED患者の25%程度で報告されている。■ 病因第16番染色体短腕に存在するLCAT遺伝子の変異が原因である。単一遺伝子(LCAT遺伝子)の変異による先天性疾患であり、常染色体潜性遺伝形式をとり、既報では100万人に1人程度の頻度であると述べられている。わが国において同定されている遺伝子変異は20種類程度ある。■ 症状LCAT欠損症の典型的な臨床所見を表に記載した。表 LCAT欠損症の典型的臨床所見画像を拡大するLCAT活性測定法は外因性(HDL様)基質を用いる方法でα活性を評価できる。内因性基質を用いる方法では、血中の総エステル化活性(Cholesterol esterification rate:CER)が評価できる。これらを併用することで、FLDとFEDの鑑別が可能である。1)脂質代謝異常LCATによる血漿リポ蛋白上のコレステロールのエステル化反応は、アポA-IやEなどのアポリポ蛋白の存在を必要とする。FLDやFEDにおけるLCAT活性の低下はHDL-Cの顕著な減少を引き起こし、未熟なHDLが血漿中に残り、電子顕微鏡観察で連銭形成として現れる。このHDLの成熟や機能の障害に伴ってさまざまな合併症が引き起こされる。2)眼科所見角膜混濁はしばしば本症で認識される最初の臨床所見であり、幼少期から認められる。患者角膜実質に顕著な遊離コレステロールとリン脂質の蓄積が観察される。FLDよりもFEDにおいてより顕著である。本症では中心視力は比較的保たれているものの、コントラスト感度の低下が顕著であり、患者は夜盲、羞明といった自覚症状を訴えることがある。3)血液系異常赤血球膜の脂質組成異常により標的赤血球が出現し溶血性貧血が認められる。赤血球の半減期が健常人の半分程度である。また、溶血のため血糖値と比較してHbA1cが相対的に低値となる。4)蛋白尿、腎機能障害幼少期から重篤になるケースは報告されていないが、蛋白尿から進行性の腎不全を発症する。FEDでは一般に認められない。患者LDL分画に異常リポ蛋白が認められ、それが腎機能障害と関連することが示唆されている。5)動脈硬化前述のように動脈硬化性心血管疾患を合併することがある。しかし、これまでに行われている研究の範囲では、LCAT欠損が動脈硬化性心血管疾患のリスクとなるかどうかはどちらとも言えず、はっきりとした結論は得られていない。■ 予後本症の予後を規定するのは、腎機能障害であると考えられる。特定のFLD変異を有する1家系を中央値で12年間追跡調査した研究によると、ホモ接合体ではeGFRが年平均3.56mL/min/1.73m2悪化したのに対し、ヘテロ接合体では1.33mL/分/1.73m2、対照では0.68mL/min/1.73m2であった4)。また、これまでの症例報告をまとめた最近の総説において、FLD患者は年平均6.18mL/min/1.73m2悪化していると報告されている3)。18例のFLD患者を中央値で12年間追跡調査した研究では、腎イベント(透析、腎移植、腎合併症による死亡)は中央値46歳で起こると報告されている5)。これらの報告から、典型的な症例では、蛋白尿を30歳頃から認め、腎不全を40〜50歳で発症すると考えられる。FLDとFEDに共通して、角膜混濁の進行による患者QOLの低下も大きな問題である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 一般検査角膜混濁、低HDL-C血症が本症を疑うべき主な臨床所見である。さらにFLDでは蛋白尿を認める場合がある。HDL-Cはほとんどの症例で10mg/dL未満である。LCATがコレステロールのエステル化を触媒する酵素であることから、総コレステロールに占めるエステル化コレステロールの割合(CE/TC)が低下する。CE/TCはFLDで著減するのに対し、α活性のみが欠損するFEDは大きく低下することはない。■ 特殊検査1)脂質検査HDLの主要なアポリポ蛋白であるアポA-I、A-IIが低下する。血清または血漿中LCAT活性の低下が認められる。LDL分画を中心として異常リポ蛋白が同定される。2)眼科検査Slit-lamp examination(細隙灯検査)により上皮を除く角膜層に灰白色の粒状斑が観察される。本症の患者の中心視力は、比較的保たれているケースが多い一方で、コントラスト感度検査で正常範囲から逸脱することが報告されている。■ 腎生検FLDが疑われる場合は腎生検が有用である。糸球体基底膜、血管内皮下への遊離コレステロールとリン脂質の沈着が認められる。泡沫細胞の蓄積、ボーマン嚢や糸球体基底膜の肥厚が観察される。電子顕微鏡観察では毛細管腔、基底膜、メサンギウム領域に高電子密度の膜構造の蓄積が認められる。■ 確定診断遺伝子解析においてLCAT遺伝子変異を認める。以下に本症の診断基準を示す。<診断基準>本邦におけるLCAT欠損症の診断基準を難病情報センターのホームページより引用した(2024年7月)。最新の情報については、当該ホームページまたは原発性脂質異常症に関する調査研究班のホームページで確認いただきたい。A.必須項目1.血中HDLコレステロール値25mg/dL未満2.コレステロールエステル比の低下(60%以下)B.症状1.蛋白尿または腎機能障害2.角膜混濁C.検査所見1.血液・生化学的検査所見(1)貧血(ヘモグロビン値<11g/dL)(2)赤血球形態の異常(いわゆる「標的赤血球」「大小不同症」「奇形赤血球症」「口状赤血球」)(3)異常リポ蛋白の出現(Lp-X、大型TG rich LDL)(4)眼科検査所見:コントラスト感度の正常範囲からの逸脱D.鑑別診断以下の疾患を鑑別する。他の遺伝性低HDLコレステロール血症(タンジール病、アポリポタンパクA-I欠損症)、続発性LCAT欠損症(肝疾患(肝硬変・劇症肝炎)、胆道閉塞、低栄養、悪液質など蛋白合成低下を呈する病態、基礎疾患を有する自己免疫性LCAT欠損症)二次性低HDLコレステロール血症*1(*1 外科手術後、肝障害(とくに肝硬変や重症肝炎、回復期を含む)、全身性炎症疾患の急性期、がんなどの消耗性疾患など、過去6ヵ月以内のプロブコールの内服歴、プロブコールとフィブラートの併用(プロブコール服用中止後の処方も含む))E.遺伝学的検査LCAT遺伝子の変異<診断のカテゴリー>必須項目の2項目を満たした例において、以下のように判定する。DefiniteB・Cのうち1項目以上を満たしDの鑑別すべき疾患を除外し、Eを満たすものProbableB・Cのうち1項目以上を満たしDの鑑別すべき疾患を除外したもの3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 臓器移植腎移植は一時的な腎機能改善には効果があるが、再発のリスクがある。角膜移植も同様である。■ 食事および薬物治療低脂肪食により腎機能障害の進展が遅延した症例がある。腎機能の増悪の予防や改善を目的とした薬物療法が行われた症例がある。いずれも対症療法であり、長期の進展予防効果や再発の可能性は明らかでない。■ 人工HDL(HDL-mimetic)人工HDLの輸注により腎機能の低下が遅延し、腎生検では脂質沈着がわずかに減少したと報告されている。■ 酵素補充療法組換え型LCAT蛋白の輸注によるものと、遺伝子治療による酵素補充療法が考えられる。1)組換え型LCAT製剤米国で組換え型LCATの臨床試験が1例実施され、脂質異常の改善とともに貧血、腎機能の改善が認められたが、その効果は2週間程度であった。繰り返し投与が必須であり、また、臨床試験期間中に組換え型LCATの供給が不足し、当該患者は透析治療に移行したと報告されている。2)遺伝子治療遺伝子治療は、より持続的な酵素補充が可能であると考えられる。LCAT遺伝子発現アデノ随伴ウイルスベクターが動物実験で評価されている。わが国で脂肪細胞を用いたex vivo遺伝子細胞治療が、臨床試験段階にある。投与された1例において、LCAT活性は臨床試験期間を通じて患者血清中に検出されている。これらは長期の有効性が期待される。4 今後の展望FLDとFEDの診断には、代謝内科、眼科、腎臓内科など複数の診療科の関与が必要であること、また、本疾患が自覚症状に乏しいことなどにより診断が遅れる、もしくは診断に至っていない患者がいると考えられる。わが国では、現状LCAT活性の測定や遺伝子検査は保険適用対象外であり、このことも医師が患者を診断することを困難にしている。現在、遺伝子組換え製剤の輸血や遺伝子・細胞治療によるLCAT酵素補充療法が開発中である。近い将来、これらの治療法が実用化され、患者のQOLが改善されることが期待される。5 主たる診療科代謝内科、眼科、腎臓内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報厚生労働省難治性疾患政策研究事業(原発性脂質異常症に関する調査研究)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ欠損症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本動脈硬化学会ガイドライン「低脂血症の診断と治療 動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド2023年版」(2023年6月30日発行)(医療従事者向けのまとまった情報)千葉大学医学部附属病院【動画】LCAT欠損症について【動画】LCAT欠損症の治療について未来開拓センター(いずれも一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報LCAT欠損症患者会(患者とその家族および支援者の会)1)Santamarina-Fojo S, et al. The Metabolic and Molecular Bases of Inherited Disease, 8th edn. 2001;2817-2833.2)Kuroda M, et al. J Atheroscler Thromb. 2021;28:679-691.3)Vitali C, et al. J Lipid Res. 2022;63:100-169.4)Fountoulakis N, et al. Am J Kidney Dis. 2019;74:510-522.5)Pavanello C, et al. J Lipid Res. 2020;61:1784-1788.公開履歴初回2024年9月12日

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保険適用の高血圧治療用アプリとは?【治療用アプリの処方の仕方】第1回

われわれ自治医科大学とCureAppは、高血圧症治療補助プログラム「CureApp HT 高血圧治療補助アプリ(以下、アプリ)」を開発し、成人の本態性高血圧症の治療補助の適応で2022年に保険適用されました。これは患者アプリと医師アプリで構成されています。患者アプリでは知識の習得、行動の実践、行動の習慣化などの生活習慣の修正支援が最大6ヵ月間行われます。医師アプリでは患者から提供された患者アプリのデータが表示され、診療時に医師がそれを用いて薬剤の調整や適切なアドバイスを行います。私はその際に、「次の1ヵ月はこれをやりましょう」「これを目標にしましょう」など、患者さんと一緒に約束ごとを決めています。臨床試験を始めるにあたって、アプリでどこまで人の行動や考えが変わるのか、という不安はありました。しかし、医師が診察するのは3ヵ月に1回程度で、診察時に行動や食事のことなどを一生懸命話しても、やはりその場で終わってしまいます。最近は多くの人がスマートフォンをずっと持ち歩いているので、自宅でもアプリを通じてずっと介入し続けることでどれくらい人の行動が変わるのだろう、というのを見てみたくて臨床試験を始めました。治療用アプリの特徴無料の健康アプリとは異なり、このアプリは医療用のアプリであり、ランダム化比較試験で降圧効果が認められています。指導内容は高血圧治療ガイドライン2019に準拠しており、患者さんにはまず減塩、体重管理、運動、睡眠、ストレスマネジメント、アルコール管理の6項目についてエビデンスのある教育を受けてもらい、自身の生活習慣を振り返ってもらいます。初めに正しい知識を身に付けてもらうことが大事で、「なぜ行動を変化させなければならないのか/なぜ血圧を管理しなければならないのか」を学習してから、具体的な課題をいくつかの項目の中から自分で選択して行動に移してもらいます。できるところから自分の意思で選択することが重要です。その行動をリアルな医師やアプリ内のバーチャルなキャラクターがレビューすることで、「自分でもできる」という自己効力感を高めつつ成功体験を積んでいってもらい、それを持続・定着させます。このように、このアプリは医師の役目を簡便化するものではなく、高血圧治療の質を変えるというものです。点の治療を線の治療へ6項目の教育の中枢を担うのは減塩です。減塩を行うことで血圧が下がるということは以前の臨床研究で確認しているのでわかっていました。また、栄養士さんによる減塩指導で塩分の摂取が少なくなって血圧が下がることも示されているため、医師が診察でちょこっと指導するよりもプロフェッショナルの指導が重要であるということもわかっていました。降圧のためには減塩指導の質を上げるか減塩指導の量を増やす必要がありますが、医師だけでは両方とも難しいのが現状です。アプリで日常生活にずっと介入し続けることで、「点の治療」を「線の治療」に置き換えるというのがコンセプトであり、アプリならではのメリットです。毎日アプリにアクセスして介入が行われることで、患者さんのやる気も継続します。患者さんへの説明方法アプリを導入した患者さんの反応は非常によいものでした。やり始めたらきちんと勉強もしていますし、毎回バーチャルキャラクターの反応があるので続けなくてはと思っているようです。患者さんの金銭的な負担もありますが、短期集中型のコースと説明しています。「最初に正しい知識をきちんと身につけて、正しい行動の仕方を身につけてください。これは一生ものですよ」と。習字も最初にきちんと習ったら、ずっときれいですよね。理想的な方法があるのでまず実践してみて、それから自分のやり方をアプリが提供してくれる中から見つけてください、という風に話をしています。次回は、臨床試験の結果や適する患者像についてお話しします。

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季節性インフル曝露後予防投与、ノイラミニダーゼ阻害薬以外の効果は?/Lancet

 重症化リスクの高い季節性インフルエンザウイルス曝露者に対し、ザナミビル、オセルタミビル、ラニナミビル、バロキサビルによる曝露後予防投与は、症候性季節性インフルエンザのリスクを低下させる可能性が示された。また、これらの抗ウイルス薬は、ヒトへの感染で重症化を引き起こす新型インフルエンザAウイルス曝露者に対しても、予防投与により人獣共通インフルエンザの発症リスクを軽減する可能性が示されたという。中国・重慶医科大学附属第二医院のYunli Zhao氏らがシステマティックレビューおよびネットワークメタ解析の結果を報告した。抗ウイルス薬のノイラミニダーゼ阻害薬による曝露後予防投与は、インフルエンザの発症および症候性インフルエンザのリスクを低減することが可能だが、その他のクラスの抗ウイルス薬の有効性は不明のままであった。Lancet誌2024年8月24日号掲載の報告。6種の抗ウイルス薬についてシステマティックレビューとネットワークメタ解析 研究グループは、WHOインフルエンザガイドラインの更新サポートのために、システマティックレビューおよびネットワークメタ解析により、抗ウイルス薬のインフルエンザ曝露後予防について評価した。 MEDLINE、Embase、Cochrane Central Register of Controlled Trials、Cumulative Index to Nursing and Allied Health Literature、Global Health、Epistemonikos、ClinicalTrials.govを用いて、インフルエンザ予防における抗ウイルス薬の有効性と安全性を他の抗ウイルス薬、プラセボまたは標準治療と比較した、2023年9月20日までに公開された無作為化比較試験を系統的に検索。2人1組のレビュワーが独立して試験をレビューし、データを抽出、バイアスリスクを評価した。 ネットワークメタ解析は頻度論的(frequentist)ランダム効果モデルを用いて行い、GRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)アプローチを用いてエビデンスの確実性を評価した。 重視したアウトカムは、症候性または無症候性の感染、入院、全死因死亡、抗ウイルス薬に関連した有害事象、重篤な有害事象であった。 検索により公表論文1万1,845本を特定し、6種の抗ウイルス薬(ザナミビル、オセルタミビル、ラニナミビル、バロキサビル、アマンタジン、リマンタジン)に関する33試験・被験者1万9,096例(平均年齢6.75~81.15歳)をシステマティックレビューおよびネットワークメタ解析に組み入れた。ほとんどの試験でバイアスリスクは低いと評価された。ザナミビル、オセルタミビル、ラニナミビル、バロキサビルは軽減効果がある可能性 ザナミビル、オセルタミビル、ラニナミビル、バロキサビルは、重症化リスクの高い被験者において、季節性インフルエンザ曝露後、速やかに投与することで(例:48時間以内)症候性インフルエンザの発症を大幅に軽減する可能性が示唆された(ザナミビル[リスク比:0.35、95%信頼区間[CI]:0.25~0.50]、オセルタミビル[0.40、0.26~0.62]、ラニナミビル[0.43、0.30~0.63]、バロキサビル[0.43、0.23~0.79]、確実性は中程度)。これらの抗ウイルス薬は、重症化リスクの低い人では、季節性インフルエンザに曝露後、速やかに投与しても症候性インフルエンザの発症を大幅に軽減しない可能性が示唆された(確実性は中程度)。 また、ザナミビル、オセルタミビル、ラニナミビル、バロキサビルは、感染したヒトの重症化と関連する新型インフルエンザAウイルス曝露後に、速やかに投与したときは、人獣共通インフルエンザの発症を大幅に軽減する可能性が示唆された(確実性は低度)。 オセルタミビル、ラニナミビル、バロキサビル、アマンタジンは、すべてのインフルエンザのリスクを低下させる可能性が示唆された(症候性および無症候性の感染:確実性は中程度)。 ザナミビル、オセルタミビル、ラニナミビル、バロキサビルは、無症候性インフルエンザウイルスの感染または全死因死亡の予防に、ほとんどまたはまったく効果がない可能性が示唆された(確実性は高度または中程度)。 オセルタミビルは、入院への効果は、ほとんどまたはまったくない可能性が示唆された(確実性は中程度)。 6種の抗ウイルス薬はすべて、エビデンスの確実性は異なるが、薬剤関連の有害事象または重篤な有害事象の発現頻度を有意に増加させないことが示唆された。

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第33回 熱中症、初動が大事!【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)重症度を的確に見積もろう!2)深部体温を測定しよう!3)Active coolingを実践しよう!【症例】70歳代・男性畑で倒れているところを発見され救急要請。救急隊到着時、以下のようなバイタルサインであり、熱中症が疑われ当院へ搬送された。●来院時のバイタルサイン意識30/JCS血圧126/54mmHg脈拍128回/分呼吸24回/分SpO294%(RA)体温40.8℃既往歴不明内服薬不明熱中症の現状毎日のようにニュースで、気温の上昇に伴い、熱中症に注意するように報じられています。実際、昨年と比較しても熱中症の件数は増加し、8月は毎週約7,000~9,000人もの方が全国で救急搬送されているのです1)。7月と比較するとピークは過ぎ、減少傾向にあるもののまだまだ注意が必要です。スポーツ中の学生など成人症例も多いですが、重症度が高く致死的となり得る症例の多くは、本症例のような高齢者の熱中症です。屋外だけでなく自宅内など屋内でも発症し、とくに意識障害や40℃を超える高体温の場合には早急な対応が必要となります。2023年の全国の熱中症搬送患者は9万人以上、死亡者数も1,000人を超えています。まだまだ暑い日は続きますので気を抜かず、熱中症の初期対応の基本的事項を整理しておきましょう。熱中症の重症度熱中症のガイドラインが2015年以来9年ぶりにアップデートされました2)。変更点はいくつか存在しますが、とくに以下の点は重要であり頭に入れておきましょう。IV度の導入2015年に発表された『熱中症診療ガイドライン2015』では、熱中症の重症度分類は3段階に分かれていました(Cf. 第4回 覚えておきたい熱中症の基本事項)。しかし、III度には、軽度の意識障害(JCS2、3など)から多臓器不全を来している症例まで含まれるような幅広い定義となっていたが故に、介入を迅速に行う必要がある重篤な症例において、適切な介入がなされていなかった可能性が示唆されました。そこで、新たにIV度が導入され、早急に治療介入が必要な症例が明確にされました。IV度は「深部体温40.0℃以上かつGCS≦8」と定義され、III度(2024)はIV度に該当しないIII度(2015)となりました(表)。表 熱中症の重症度分類(IV度、qIV度の導入)quick IV度(qIV度)IV度か否かを判断するためには、深部体温の測定が必要です。測定は非常に重要であり、可能であれば行うべきですが、測定できない場面もあるでしょう。その際には、表面体温40℃以上、または皮膚に明らかな熱感があるかを意識しましょう。そのような患者が重度の意識障害(GCS≦8もしくはJCS≧100)を伴っている場合には、速やかな対応が求められます(表)。敗血症におけるSOFA score、quick SOFAのようなイメージですね。Active coolingとは重症度の高い熱中症においては、“active cooling”の早期開始が必要です。Active coolingとは、何らかの方法で、熱中症患者の身体を冷却することを指しますが、冷蔵庫に保管していた輸液製剤を投与することや、エアコンの活用、日陰の涼しい部屋で休憩するなどはpassive coolingに該当し、active coolingではありませんので、これらを実施して安心してはいけません。効果の高い方法として、“cold-water immersion”が挙げられ、これは冷水などを利用し深部体温を下げる方法です。冷たいプールにつかるようなイメージです。深部体温が40℃を超えるような状態が続くと、予後は悪くなりますので、39℃前後までは速やかに下げることが大切です3,4)。さいごに毎年のように熱中症に注意するよう報道されるものの、暑い環境を避けてばかりはお勧めできません。熱中症が今年だけの問題であればよいですが、間違いなく来年以降もますます熱中症は問題となるでしょう。暑熱順化(熱ストレスに繰り返し曝露されることで熱耐性を向上させる生理的適応をもたらす過程)を意識し、耐え得る身体作りもしていかないといけません。1)熱中症情報. 救急搬送状況. 令和6年の情報(2024年8月閲覧)2)日本救急医学会. 熱中症診療ガイドライン20243)Ito C, et al. Acute Med Surg. 2021;8:e635.4)Tishukaj F, et al. J Emerg Med. 2024 May 3.[Epub ahead of print]

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わからないことがあったら?【もったいない患者対応】第13回

わからないことがあったら?登場人物<今回の症例>40代男性夕食後から両下肢にかゆみを伴う膨疹が出現し、救急外来を受診<診察により、アレルギーが疑われました>これはアレルギーの症状かもしれませんね。何かのアレルギーはお持ちですか?いえ、とくにないんですよ。夕食に何か原因があるんでしょうか。原因がはっきりしないこともよくありますからね。では、抗ヒスタミン薬のアレグラという薬を出しますので、これで様子を見てみましょう。ありがとうございます。…あ、そういえば、今朝風邪をひいて近くのクリニックに行ったらフェキソフェナジンという薬を処方されたんですけど、一緒に飲んでも大丈夫ですよね?えーっと…大丈夫ですよ!(フェキソフェナジンってなんだっけな? とりあえず知っているふりして後で調べよう)そうなんですね。安心しました。~患者が診察室を出て行った後で~(フェキソフェナジンってアレグラと同じ薬じゃないか!説明しないと…!)○○さん、すみません、フェキソフェナジンはアレグラと同じ薬でした。一緒に飲むと用量が多くなりすぎてしまいます。え!? さっき先生「大丈夫」って言いましたよね? どういうことですか!?【POINT】患者さんの口から聞いたことのない薬の名前が登場し、思わず面食らってしまった唐廻先生。患者さんからの信頼を失いたくない、という思いから、思わず知ったかぶりをしてしまいました。しかし、後から調べてミスを犯していたことに気づき、慌てて診察室を出て患者さんに説明しに行きます。その説明に、怪訝そうにする患者さん。かえって信頼を損ねてしまいました。では、どうすればよかったのでしょうか?わからないことがあるのは当たり前近年、医療は多様化しています。薬の種類は増え、同じ疾患であっても、その治療法は多岐にわたります。経験豊富なベテラン医師でも、自分の専門分野以外の知識まですべて暗記できている人はいないでしょう。たとえ専門分野であっても、患者さんに正確な情報を提供するために、自分の記憶に頼らず成書やガイドラインなどを参照したほうがよいケースもあります。専門家に求められるのは、すべての知識を頭に入れておくことではありません。求められるのは、必要な知識がどこに書いてあるかを知っていること必要な知識を適切なタイミングでスムーズに取り出せるよう準備していることです。患者さんからの質問に対し、知識不足で答えられないことは必ずしも恥ずべきことではありません。しかし、確かに患者さんのなかには「有能な医師ならなんでも知っていて当然だ」と思っている人もいるでしょう。唐廻先生も、薬の名前を知らないことを患者さんに悟られたくないという思いで、知ったかぶりをしてしまいました。では、わからないことがあるときは、どうすればいいでしょうか?その場で調べても信用は落ちないわからないときは、素直にわからないことを認める。これが大前提です。唐廻先生のように、知ったかぶりをしたせいで後から間違いがみつかったとなると、余計に状況は悪化するからです。しかし、単に知識不足を告白するだけでは、患者さんから「頼りにならない」と思われる危険性もあります。そこで、「すべての知識を暗記しているわけではないが、すぐに答えを提供できるので患者さんに不利益はない」ということを知らせる必要があります。まず今回のようなケースでは、「私も聞いたことがないので少し調べますね」と言って手元の成書を参照し、あるいは患者さんにその成書を見せ、「ここに○○と書いてありますね。ということは△△です」と伝えるのがよいでしょう。スマートフォンやタブレットなどで検索したいなら、「少し調べてみますね」と言って患者さんに画面を見せ、「ここに、こう書いてありますね」と一緒に確認するのも1つの手です。ただし、高齢者のなかにはスマホでの情報検索に対して良いイメージをもっていない人もいます。その場合は成書など紙の本をきちんと使用している姿を見せるほうが無難でしょう。誠実に対応することが1番大切とはいえ、患者さんに知識不足を知られてしまうことは抵抗がある、と感じる人もいると思います。そんなときは、「最近は新しい薬があまりにも増えているので、私たちみんな結構苦労してるんですよ」と顔をしかめ、あえて患者さんに本音を吐露してもいいでしょう。それが事実なのですから、知ったかぶりをするよりよほど素直で良い印象を与えられるはずです。薬以外でも、聞いたことのない治療法などの医療情報があれば、このようにその場で誠実に対応すればいいでしょう。参照する可能性のある成書やガイドラインなどを外来診察室に持ち込んでおき、スムーズに情報提供できるよう準備しておくことも大切です。これでワンランクアップ!では、アレルギーに効くアレグラという薬を出しておきますね。ありがとうございます。…あ、そういえば、今朝風邪をひいて近くのクリニックに行ったらフェキソフェナジンという薬を処方されたんですけど、一緒に飲んでも大丈夫ですよね?フェキソフェナジン…ですか。それはどんな薬でしたかね。最近ジェネリックを飲まれる患者さんも多くて薬の名前が覚えきれなくて…※1。すみません、調べるので少しお待ちくださいね※2。(「薬の事典」を見せて)※3これを見ると、フェキソフェナジンはアレグラと同じ薬ですね。重複して飲むわけにはいかないので、別の方法を考えましょう。※1:知らないことは素直に認めてしまおう。※2:わからない、記憶が曖昧などの場合は目の前で調べる。※3:一緒に確認すると納得してもらいやすい。そうなんですね。相談してよかったです。

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長期収載品の選定療養が10月から開始、生活保護受給者も対象?【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第137回

2024年10月から「長期収載品の選定療養(以下、選定療養)」が始まります。これは、後発医薬品のある先発医薬品(いわゆる長期収載品)と後発医薬品の差額の4分の1相当を患者さんが自己負担する仕組みです。長期収載品を希望する患者さんが、「その薬剤ごとに差額が発生し、自己負担が増える」と聞くと、どういう仕組み? どのくらい負担が増えるの? など疑問に思うと考えられます。今一度確認しておきましょう。現在、後発医薬品の使用割合がかなり増えているので、現行で長期収載品を希望している患者さんはそれほど多くはないとは思いますが、今までどおり長期収載品を希望できるのか、どのような場合に負担が増えるのか、そしてどの薬剤でいくら負担が増えるのか、という点がポイントになりそうです。まず、2024年10月以降は処方箋様式が変更になります。現行の後発医薬品への変更不可欄が「変更不可(医療上必要)」「患者希望」の2つに分かれます。まず、「変更不可(医療上必要)」欄にチェックが付く場合ですが、医療上の必要性がある場合、というのは疑義解釈にて以下のように定義されています。(1)効能効果に差異がある場合(2)治療効果に差異があると医師が判断する場合(3)ガイドラインにおいて、後発医薬品へ切り替えないことが推奨されている場合(4)後発医薬品の剤形では飲みにくい、吸湿性により一包化ができないなど、剤形上の違いにより、長期収載品を処方する医療上の必要があると判断する場合疑義解釈では「使用感については医療上の必要性としては想定していない」とされているため、使用感を理由に長期収載品を希望する場合は選定療養の対象になり、患者負担が増えます。また、患者さんが長期収載品を希望する場合は、「患者希望」欄にチェックが付きます。こちらはもちろん選定療養の対象になるため患者負担が増えますが、今までどおり長期収載品を希望することはできます。また、8月21日に追加の疑義解釈が出され、以下のような追加の解釈が明らかになりました。10月1日より前に処方され、10月1日以降に薬局に持ち込まれた処方箋については制度施行前の扱いとなる生活保護受給者に対して長期収載品の処方を行うことに医療上必要があると認められる場合は、当該長期収載品は医療扶助の支給対象となる生活保護受給者が、医療上必要があると認められないにもかかわらず、その嗜好などから長期収載品を希望した場合は、当該長期収載品は医療扶助の支給対象とはならず、生活保護法(第34条第3項)に基づき、長期収載品を調剤せずに後発医薬品を調剤する(結果として、生活保護受給者からは長期収載品の選定療養による「特別の料金」を徴収することはない)今回の選定療養の対象になる薬剤は、後発医薬品が上市から5年以上経過したもの、または後発医薬品の置換率が50%以上となった薬剤で、1,095品目です。対象になる薬剤は2024年4月に事務連絡で発出されています。後発医薬品の発売後5年未満かつ置換率50%未満の先発医薬品は選定療養の対象外になるということになりますが、実際に調べてみると対象外の成分は全体の3%ほどですので、ほぼすべての長期収載品が対象となる(=その長期収載品を希望すると差額が増える)と考えてよさそうです。この選定療養の運用開始により、今まで長期収載品を希望していた患者さんが「負担が増えるくらいなら後発医薬品でもいいや」と、後発医薬品に変更するケースが増えそうです。総じて後発医薬品の使用割合がさらに上がることは間違いないでしょう。しかしながら、後発医薬品の安定供給の課題が残っていることは事実です。まずは安定供給が先なのでは…とこの順序に不安を感じずにはいられません。

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患者負担を軽減する世界初の肺胞蛋白症治療薬/ノーベルファーマ

 ノーベルファーマは、世界初の肺胞蛋白症治療薬サルグラモスチム(商品名:サルグマリン吸入用250μg)について本社でプレスセミナーを開催した。 肺胞蛋白症(pulmonary alveolar proteinosis:PAP)は、酸素と二酸化炭素をガス交換する肺胞に蛋白様物質が貯留する希少疾患の総称。酸素と二酸化炭素の交換ができなくなり、うまく酸素が体に取り込めなくなるため、呼吸困難、咳や痰、発熱、体重減少などの症状がある。PAPのうち、免疫細胞の過剰産出に起因する自己免疫性PAPが90%を占め、国内に約730~770例の患者が推定されている。 従来の治療法では、全身麻酔下で老廃物を洗い出す区域肺洗浄か全肺洗浄のみであり、患者の身体的負担、治療時間、限定された専門施設など治療上の課題があった。 サルグラモスチムは、肺胞マクロファージに直接作用し、成熟を促すことで、老廃物の分解を促進する薬剤であり、患者にとって新たな治療の選択肢となる。自己免疫性肺胞蛋白症(APAP)と先天性肺胞蛋白症(CPAP)は2015年に指定難病の指定を受けている。 セミナーでは、サルグラモスチムの特徴、効果の実際、治療を受けての患者の感想などが説明された。患者を全身麻酔下の治療から解放する画期的治療法 「世界初の自己免疫性肺胞蛋白症に対する薬物療法-サルグマリン吸入療法の何処が画期的なのか?-将来の展望」をテーマに中田 光氏(新潟大学医歯学総合病院高度医療開発センター先進医療開拓分野 特任教授)が、PAPの診療、サルグラモスチムの特性と従来の治療との違い、今後の展望などを説明した。 PAPとは、老廃物がゆっくりと肺胞を埋め尽くす疾患で、年間発症200例程度あるが、呼吸器の専門医ではよく知られている疾患。肺胞腔内に溜まるサーファクタント由来の老廃物は、血漿や肺由来のタンパク質、リン脂質、コレステロールなどであり、中でもタンパク質が多く溜まることから本症の名前が付いたとされる。 APAPの病因は、患者の肺にある抗GM-CSF自己抗体であり、肺胞マクロファージの成熟を阻害することで発生するとされている。 症状としては、相当呼吸が苦しくなるというものではなく、正常に呼吸できるときとそうでないときがまばらに生じ、病状が進行すると酸素の取り込みができず呼吸が重くなり、酸素の供給量を増やしても改善されない。 今回承認されたサルグラモスチム(GM-CSF)は、顆粒状マクロファージコロニー刺激因子の人工タンパク(分子量は15,000)で、吸入器を使用して細かい霧を口腔から吸う治療薬で、吸入器から出る粒子は3~5ミクロンの大きさとなる。 薬効機序として、肺胞に到達後、一部は自己抗体に結合するほか、肺胞マクロファージ受容体にたどり着き、機能を賦活化する仕組みで、細胞表面の受容体に結合することで、細胞増殖や成熟、機能維持に効果を発揮する。 また、サルグラモスチムが画期的な治療薬であることから、画期性加算の対象となった。その理由として、既存の治療では、全身麻酔下で10~20Lの生理食塩水で肺の洗浄をするしかなかった治療から吸入だけで肺の老廃物の処理、呼吸機能の改善が期待できること、APAPで肺胞機能が改善された世界初の治療薬であること、広い安全性を有し、通常の使用量を超える量でも安全性が確認されていることが挙げられている。 最後に中田氏は、「サルグラモスチムがマクロファージや好中球などの機能を高め、生体防御に貢献している働きから緑膿菌感染症、肺MAC症、ウイルス性肺炎、肺アスペルギルス症などにも適用拡大ができる可能性がある」と展望を語り、説明を終えた。肺活量が落ちる前に積極的にGM-CSF吸入療法の使用を 「自己免疫性肺胞蛋白症の克服に向けて-GM-CSF吸入療法の重要性」をテーマに石井 晴之氏(杏林大学医学部呼吸器内科 主任教授)が、サルグラモスチムの概要や効果について説明した。 初めに自験例のAPAPの症例を示し、酸素がうまく肺に取り入れないことで予後が悪いと窒息死することを説明。最近では新型コロナウイルス感染症との鑑別診断が難しいという。『肺胞蛋白症診療ガイドライン2022』では、3段階の重症度に合わせた治療指針が示されている。 重症度(DSS)と治療は以下のとおりである。・軽症:DSS1、2/動脈血酸素分圧はPaO2≧70→治療は慎重な経過観察・中等症:DSS3/動脈血酸素分圧は70>PaO2≧60→治療は対症療法(去痰薬、鎮咳薬など)またはサルグラモスチム吸入療法・重症:DSS4/動脈血酸素分圧は60>PaO2≧50DSS5/動脈血酸素分圧は50>PaO2→治療は区域洗浄、対症療法、長期酸素療法、サルグラモスチム吸入療法 今回発売されたサルグラモスチム吸入療法では、1日250μg(1バイアル)を12回(24週間)繰り返して治療を行う(吸入は3秒周期で吸気・息止・呼気を繰り返す)。そして、その効果については、プラセボと比較し、有意に肺の酸素化の改善を示し、肺CT所見以外でもLDH、KL-6、SP-Aも有意に改善していた1)。 また、先に講演した中田氏らが実施した特定臨床研究PAGEIIにも触れ、最重症例を含めた30例について、ベースラインから24週にわたる肺胞気動脈血酸素分圧較差の変化をみたところ、サルグラモスチム吸入療法により標準偏差で平均-12.8mmHg±10.7mmHg下がったという2)。 安全面については、副作用として赤血球・白血球の増多、咳嗽、発声障害、頭痛、尿中陽性などが報告されたが重篤なものはなかった。 最後に石井氏はまとめとして「世界初の承認された薬物療法であり、重症度3~5には積極的に導入すべきであること、肺活量が落ちると効果が下がるので%VCが80%未満の拘束性換気障害を呈する前に導入すべきであること、そして患者さんには禁煙の重要性を指導すべきである」と4項目を挙げ、説明を終えた。GM-CSF吸入療法をしてわかった患者目線の吸入時のポイント APAPの患者として小林 剛志氏(日本肺胞蛋白症患者会 代表)が、「GM-CSF製剤吸入療法の経験談 未来に向けての願い」をテーマに、現在進行形の実体験を語った。 小林氏は、医療機関に勤務する臨床工学技士であり、医学の知識がある。症状は2006年ごろに運動時の息切れ、運動パフォーマンスの低下から始まり、約4ヵ月後にPAPと確定診断されたという。 当初、治療では、全身麻酔下での肺洗浄が行われていたが、2008年からGM-CSF吸入療法を開始した。途中1回の両肺洗浄(2012年)を経て、継続している。吸入治療を経験し、小林氏が気付いたこととして、吸入に際しては「毎日30分吸入」、「臥位で吸入」、「腹式呼吸→胸式呼吸の順」という3点がしっかりと吸入できると提案した。 おわりに小林氏は、患者がもつ本症への不安として「患者ならば誰でも処方してもらえるのか、治療を受けられる施設(現在12程度施設)は今後広がるのか、GM-CSF吸入療法が有効でない場合の対応などがある」と示唆し、今後の患者の願いとして薬剤の冷蔵保管、調剤の煩雑さ、吸入器具の清潔、薬価などの課題解決への期待を寄せた。

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第209回 医師の偏在是正、美容医療規制も含めて年末までに対策を策定へ/厚労省

<先週の動き>1.医師の偏在是正、美容医療規制も含めて年末までに対策を策定へ/厚労省2.認知症施策、希望を持って生きる社会を目指す基本計画を閣議決定へ/内閣府3.喫煙率14.8%、規制強化で最低水準に/厚労省4.マイナ保険証の利用率に基づく医療DX加算、翌月から適用可能/厚労省5.新たな地域医療構想、二次医療圏見直しと在宅医療強化へ/厚労省6.75歳以上の医療費抑制、3割負担の対象拡大を検討/内閣府1.医師の偏在是正、美容医療規制も含めて年末までに対策を策定へ/厚労省厚生労働省は2024年9月5日、医師の地域・診療科偏在を是正するために「医師偏在対策推進本部」を設置し、9月5日に初会合を開催した。武見 敬三厚労相は冒頭で、「医師偏在の解消なしには、国民皆保険制度の維持は困難だ」と述べ、医師偏在問題に対する強い危機感を示した。本部は年末までに、経済的インセンティブや規制的手法を含む総合的な対策パッケージを策定する予定。会合では、主に「医師確保計画の深化」「医師の育成と配置」「実効的な医師配置」の3つの柱に基づき議論が進められた。とくに、医師少数区域での医師確保を目指し、若手医師や医学生に対する地域医療への理解促進や研修制度の見直しなどが検討されている。また、外来医師が多い都市部での新規開業を制限するため、規制的手法も導入される可能性がある。さらに、美容医療への若手医師の流出を抑えるため、公的保険診療の経験をクリニック開業の条件とする案も議論された。とくに美容外科などの分野で若手医師が急増している現状を踏まえ、保険外診療のみに依存する医療機関の乱立を防ぐ狙いがある。対策推進本部では、地方の医療機関への財政支援や医師が少ない地域への医師派遣制度の強化なども進める予定。都道府県が策定する医師確保計画に基づき、地域ごとの医師の需給バランスを見極めながら対策を推進する。今後、さらに具体的な議論が進み、年末には法改正も視野に入れた包括的な対策が発表される見通し。参考1)医師偏在是正に向けた総合的な対策パッケージの骨子案について(厚労省)2)医師偏在是正に向けた総合的な対策パッケージの骨子案 主な論点(同)3)美容クリニック開業に規制案 公的医療の経験必要に(日経新聞)4)外来医師多数区域における新規開業への規制的手法などを議論 厚生労働省「医師偏在対策推進本部」が始動(日経メディカル)5)医師偏在「もはや待ったなし」 厚労省、是正に向け部局横断会議(毎日新聞)2.認知症施策、希望を持って生きる社会を目指す基本計画を閣議決定へ/内閣府2024年9月2日に政府は、認知症施策の基本計画案を発表した。計画の中心には「認知症になっても希望を持って自分らしく暮らし続けることができる」という新たな認知症観が据えられ、その浸透を進めることが重点目標とされた。これにより、認知症の人を「支える対象」とする従来の考え方から、共に支え合う社会を目指す方針へと転換する。また、この計画は、認知症基本法に基づく初めての施策であり、2029年度までを計画期間とし、5年ごとに見直しを行う予定。計画案では、認知症になった後も、できることややりたいことがあるという前提を掲げ、偏見の解消を目指す。「ピアサポート活動」を推進し、認知症当事者が支え合う仕組みや、学校現場での教育活動なども盛り込まれた。また、当事者の意思を尊重し、地域での生活を支えることが重要視されている。さらに、重点目標として「当事者の意思尊重」「地域での安心した生活」「新技術の活用」が挙げられ、認知症の人が他者と支え合いながら住み慣れた地域で暮らせる社会を目指す。具体的な施策として、若年性認知症の人の就労支援強化や地域のバリアフリー化推進、認知症サポーターの養成などが含まれている。計画は今月下旬にも閣議決定され、各自治体においても地域の実情に応じた計画の策定が進められる。これにより、認知症の人々が、社会の一員として共に生きるための施策が強化される見通し。参考1)認知症施策推進基本計画[案](内閣府)2)「認知症でも自分らしく」 政府重点目標、基本計画案(日経新聞)3)希望を持って生きる「新しい認知症観」 基本計画案を了承(毎日新聞)4)「新しい認知症観」で社会参画促す 認知症基本計画 閣議決定へ(朝日新聞)5)認知症施策推進基本計画案、当事者らの参画を強調 認知症カフェなどでの交流促す 政府(CB news)6)「新しい認知症観」を明示 国の基本計画固まる(福祉新聞)3.喫煙率14.8%、規制強化で最低水準に/厚労省厚生労働省は、2022年に実施した国民健康・栄養調査の結果を公表した。これによると、20歳以上の喫煙率は14.8%と過去最低を記録した。前回の2019年の調査結果の16.7%を下回り、2003年以降の最低値を更新したが、政府が「健康日本21(第2次)」で掲げた目標の12%には届いていない。男女別の喫煙率は、男性が24.8%、女性が6.2%で、いずれも過去最低だった。とくに男性では30代が35.8%、女性は40代が10.5%と高い傾向がみられた。喫煙者のうち、たばこを止めたいと考えている人は全体の25%で、男性では21.7%、女性では36.1%が禁煙を希望している。今後、厚労省は、喫煙を止めたい人への治療支援をさらに充実させる方針を示している。また、「受動喫煙の機会がある」と答えた人の割合も減少しており、とくに飲食店や遊技場では規制強化により半減し、それぞれ14.8%、8.3%となった。一方、路上や職場での受動喫煙は依然として高く、路上では23.6%、職場では18.7%と報告されている。この調査は2022年11~12月にかけて、全国約2,900世帯を対象に実施された。新型コロナウイルス感染症の影響で、2020年と2021年の調査は中止され、今回は3年ぶりの調査となった。厚労省は今後も、規制強化と禁煙支援の充実を進めることで、喫煙率のさらなる低下を目指す考えを強調している。参考1)令和4年「国民健康・栄養調査」の結果(厚労省)2)喫煙率14.8%、過去最低 国民健康・栄養調査(日経新聞)3)「喫煙率」14.8% 厚労省2022年の調査 2003年以降で最も低く(NHK)4.マイナ保険証の利用率に基づく医療DX加算、翌月から適用可能/厚労省9月3日に厚生労働省は「医療情報取得加算及び医療DX推進体制整備加算の取扱いに関する疑義解釈資料」を事務連絡で発出した。2024年10月から導入される「医療DX推進体制整備加算」では、マイナンバーカードによる保険証(マイナ保険証)の利用率に基づき、医療機関が算定する新たな評価制度がスタートする。資料によれば、この加算の算定基準となるマイナ保険証の利用率が、翌月に適用されることを明確にした。医療機関は、毎月中旬に社会保険診療報酬支払基金からメールで通知される利用率を基に、翌月1日から加算の算定が可能になる。この加算は、マイナ保険証利用率に応じて3区分に分類され、医療機関ごとの利用率が基準値を満たしている場合、施設基準の再届け出は不要とされる。ただし、利用率が基準に満たない場合は加算が算定できないことも示されている。さらに、利用率は2~5ヵ月前までの期間で「最も高い数値」を選択して算定できる柔軟な対応が可能となる。医療DX推進体制整備加算は、診療情報や処方箋情報の電子化、患者の医療情報の共有を促進する取り組みであり、医療の質と効率を高めることを目指す。2024年10月からの基準値は、最も高い加算(11点)を受けるためには15%以上の利用率を求め、来年1月以降は30%以上が必要となる。その他の区分も利用率に応じた基準が設けられている。さらに、今回の加算見直しでは、利用率の基準を確認できる仕組みが強化され、支払基金のポータルサイトを通じて、医療機関が確認できるようになっている。2025年4月以降の利用率基準も今後の状況を踏まえて再評価される予定であり、今後も医療機関の対応が重要視される。参考1)医療情報取得加算及び医療DX推進体制整備加算の取扱いに関する疑義解釈資料の送付について(その1)(厚労省)2)通知のマイナ利用率、翌月に適用 DX加算で医療課(MEDIFAX)3)医療DX推進体制整備加算、マイナ保険証利用率は「自院に最も有利な数値」を複数月から選択適用可能な点など再確認-厚労省(Gem Med)5.新たな地域医療構想、二次医療圏見直しと在宅医療強化へ/厚労省2025年に向けて地域の病床機能の再編や地域ごとの医療体制を整備するために取り組んできた地域医療構想を見直すために、厚生労働省は、新たに2040年に向けて立ち上げた「新たな地域医療構想に関する検討会」で、2040年に向けた新たな地域医療構想の方向性を示した。とくに85歳以上高齢者の救急医療や在宅医療の需要増加に対応するため、現行の二次医療圏よりも小規模な地域単位での医療提供体制を強化することが求められている。日本病院会も、二次医療圏の見直しを提言し、今後意見書を提出する予定。新たな地域医療構想の議論では、現行の考え方を継続する部分と新しい要素を組み込む部分を区別しながら進めるべきという意見が出されている。各都道府県が策定するガイドラインについて、国は細部を厳格に定めず、地域の実情に応じた柔軟な対応が求められている。9月5日に開かれた社会保障審議会医療部会では、市立病院の再編や経営支援、在宅医療や外来医療を含む包括的な地域医療体制の整備が提案された。また、現行の病床機能報告制度や病床数の不足が指摘されている回復期病床の見直しも求められている。精神科医療の組み込みやかかりつけ医機能報告制度に関する議論も進められ、これらを踏まえた新たな医療構想の実現が目指されている。2040年には後期高齢者の増加に伴い、介護・福祉との連携も重要視され、内科系の急性期医療や救急医療の需要が高まることが予想されている。とくに85歳以上の救急搬送件数は、2020年から2040年にかけて75%増加する見通しであり、ADL(活動能力)の低下を防ぐため、早期のリハビリ提供が重要になる。加えて、在宅医療の需要も同時期に62%増加すると予想され、24時間対応の体制構築やオンライン診療の活用が課題とされた。新たな地域医療構想では、入院医療だけでなく外来医療や在宅医療も対象とし、長期的に地域における医療提供体制を見直す方針が示された。また、医療圏を越えて一定の症例や医師の集約を進め、高度医療の提供体制を強化することも検討されている。過疎地域では医療機能の維持が重要視され、医師の派遣やICTの活用を通じて地域の医療提供力を高めることが求められている。今後、年末までに具体的な対策が取りまとめられ、2025年度からの実施を目指す。参考1)新たな地域医療構想の検討状況について(厚労省)2)2040年ごろを見据えた新しい地域医療構想の方針を提示 医療圏より小さい範囲で在宅医療の提供体制の検討を(日経メディカル)3)新たな地域医療構想、「2次医療圏」見直しを 日病(MEDIFAX)4)新たな地域医療構想論議、「現行の考え方を延長する部分」と「新たな考え方を組み込む部分」を区分けして進めよ-社保審・医療部会(Gem Med)6.75歳以上の医療費抑制、3割負担の対象拡大を検討/内閣府政府は、75歳以上の後期高齢者の医療費窓口負担について、3割負担の対象範囲を拡大する方針を検討している。これは、2024年に改定予定の「高齢社会対策大綱」に盛り込まれ、高齢化に伴う医療費の膨張に対応するための措置として進められる。現在、75歳以上の高齢者は原則1割自己負担だが、一定の所得がある場合は2割、さらに現役並みの所得がある場合には3割を負担している。今回の改定では、この3割負担の適用範囲が広がる可能性がある。政府は2023年12月に決定した社会保障改革の工程表で、この負担増を検討課題として挙げており、2028年度までに「現役並み所得」の判断基準を見直す計画を示している。医療費の膨張を抑制するため、負担を増やす一方で、負担増に対する国民の反発も懸念され、今後の議論は難航する可能性がある。さらに、内閣府は、高齢者の就労を促進するための「在職老齢年金制度」の見直しも提言。具体的には、働く高齢者が一定以上の所得を得た場合に年金受給額を減らす現行の制度を見直し、就労を支援する方向での改革を進めるとされている。また、個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入可能年齢の引き上げなど、私的年金制度の拡充も検討中であり、これらも大綱に含まれる予定。この改定案は、2024年内に閣議決定される見通しで、今後のわが国の高齢社会に対応する医療制度の持続性を高めるための重要な議論となる。参考1)高齢社会対策大綱の策定のための検討会 報告書[案](内閣府)2)75歳以上医療費、3割負担の対象拡大検討 高齢社会大綱(日経新聞)3)政府が75歳以上の医療費3割負担の対象拡大検討 高齢社会大綱案に明記、制度持続狙い(産経新聞)

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75歳以上=高齢者は正しい?高齢者総合機能評価に基づく診療・ケアガイドライン

 2017年より日本老年学会・日本老年医学会の合同ワーキンググループが再検討・提言していた「高齢者」の定義が7年の時を経て、現行の65歳以上から“75歳以上を高齢者”とする動きにシフトしていく1)。しかし、患者を一概に年齢だけで判断し、治療時の判断基準にしてはいけない。その理由はこれと同時に発刊された『高齢者総合機能評価(CGA)に基づく診療・ケアガイドライン2024』が明らかにしている。今回、ガイドライン(GL)作成代表者である秋下 雅弘氏(東京都健康長寿医療センター センター長)に本書の利用タイミングや活用方法について話を聞いた。いつ、どこで、誰がCGAする? 本GLの使い方(p.X)にも「明確な年齢上の区分は設けない。高齢者総合機能評価(CGA:comprehensive geriatric assessment)の最もよい対象は老年疾患や老年症候群を抱えて日常生活機能が低下した方であるが、必ずしも65歳以上とは限らない」と記載がある。同氏は「75歳以上が高齢者という定義を念頭に置きつつも、個々の生物学的年齢で判断することが重要。そのためにも機能低下がみられる成人の場合、75歳未満であっても本GLに掲載されている機能評価を使ってもらいたい」と個別化医療の観点から説明した。 CGAとは、疾患の評価に加えて日常生活活動度(ADL、基本的ADL・手段的ADL)、認知機能、気分・意欲・QOL、療養環境や社会的背景などを構成要素とし、評価/スクリーニングツールを使って系統的に評価する手法のことである。医療者であれば患者と接する際におのずと頭の中で意識していた内容が、構成要素として整理されたものだ。これを作成した目的について、同氏は「高齢者の状態に適した個別化医療やケアの提供のために利用するのはもちろん、高齢者の医療・ケアに関わる医師、医療者や介護福祉関係者が、多職種協働する際の共通言語となるように」と述べ、医療と介護福祉に携わる全職域が本GLの利用対象者であることを説明した。<CGAの構成要素とその主なツール>(1)スクリーニング(p.8~11)  CGA7、基本チェックリストなど(2)日常生活活動度(p.13~18)  ・基本的ADL:Barthel Index  ・手段的ADL:Lawton’s IADL、老研式活動能力指標(3)認知機能(p.19~26)  ・MMSE(Mini-Mental State Examination)、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)、DASC-21、ABC認知症スケールなど(4)気分・意欲・QOL(p.27~35)  ・GDS(Geriatric Depression Scale)、意欲の指標(Vitality Index)  ・QOL:Short From(SF)-8など(5)社会的背景(p.36~47)  ・要介護認定、家族関係、自宅環境、財産、地域医療福祉資源など 患者へCGAの介入をするタイミングは、職種によって異なる。同氏は「医師であれば、初診時、入院時、退院前、病状の変化時など日常的に実施してほしい。看護師は入院、退院支援、訪問看護の導入、高齢者施設の入所・入居に際して、その他の専門職は療養環境の変化時に、薬剤師は処方見直しに際して実施してほしい」とし、「現場で利用する→多職種共通の言語になる→高齢者に最適な医療提供ができる→それぞれの診療科でも利用価値が高まるというように、臨床でのCGAのメリットを実感してもらいたい」と強調した。 その一方で、今回の改訂までに21年もの年月を要した経緯について、「実際のところ、高齢者一人ひとりを評価するには手間がかかり、マンパワーが必要なゆえ、現場に広がらなかった。CGAを行う場所も確保できなかった」と説明。現時点でも外来での診療報酬加算がなく、CGAを実践してもそれに対する評価がされないことから、CGA実践のハードルの高さは否めないという。疾患ごとの有用性 とはいえ、昨今ではさまざまなガイドラインがMinds診療ガイドライン作成マニュアルに則り作成されているが、それらを高齢者に対して有効活用するためには、目の前の患者の身体・精神機能が高齢者あるいは高齢者に準ずるのかどうかをCGAできちんと判断したうえで、治療にあたることが求められるようになるだろう。p.50 からは高齢者が罹患しやすい疾患や症候群の管理について、各論が記載されている(1.フレイル/低栄養 2.認知症 3.ポリファーマシー 4.Multimorbidity 5.糖尿病 6.高血圧、心疾患 7.[誤嚥性]肺炎 8.骨折 9.外科手術[周術期] 10.悪性腫瘍)が、たとえば糖尿病の場合、研究報告の結果のみならず、本邦の『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』との整合性も考慮し、高齢糖尿病患者の管理にCGAを用いることを提案する(エビデンスの強さ:D、推奨度:2)となっている。悪性腫瘍については、疾患管理において唯一、エビデンスの強さA、推奨度1で合意されている。この領域ではCGAをgeriatric assessment(GA)と称し、診断と並行して行うアセスメントツールとして用いているため、他の疾患領域と比較し、生存効果、有害事象、QOL、入院に関する結果が見いだされている。 方や、(誤嚥性)肺炎に至っては、“CGAの有用性はFRQ(future research question)とし今後の研究に期待する”と記されており、以前より老年疾患として注目のある領域でも有用性の違いが生じていた。 このような課題を残しての次回改訂について、同氏は「エビデンスがないRCTを中心にシステマティックレビューを行ったこともあるが、LIFE(介護保険データ)が集積されるとFRQという次のステップにいけるのではないか」とコメント。さらに、同氏の専門領域であるポリファーマシーについても、「薬剤師は当然ながら、ほとんどの医師にもポリファーマシーが認識されるようになった。しかし、患者さんにポリファーマシーの重要性が届いているかは疑問が残るため、医療費適正化も踏まえて医療従事者へのCGAの啓発を行っていきたい」と締めくくった。

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重症インフルエンザに抗ウイルス薬は有効か/Lancet

 重症インフルエンザの治療に最適な抗ウイルス薬は未だ不明とされる。中国・蘭州大学のYa Gao氏らは、重症インフルエンザの入院患者において、標準治療やプラセボと比較してオセルタミビルおよびペラミビルは、入院期間を短縮する可能性があるものの、エビデンスの確実性は低いことを示した。研究の成果は、Lancet誌2024年8月24日号で報告された。WHO診療ガイドライン改訂のためのネットワークメタ解析 研究グループは、世界保健機関(WHO)のインフルエンザ診療ガイドラインの改訂を支援するために、重症インフルエンザ患者の治療における抗ウイルス薬の有用性を評価する目的で、系統的レビューとネットワークメタ解析を行った(WHOの助成を受けた)。 医学関連データベースを用いて、2023年9月20日までに発表された論文を検索した。対象は、インフルエンザが疑われるか、検査で確認された入院患者を登録し、直接作用型抗インフルエンザウイルス薬をプラセボ、標準治療(各施設のプロトコールに準拠またはプライマリケア医の裁量による)、あるいは他の抗ウイルス薬と比較した無作為化対照比較試験であった。 注目すべき主要アウトカムとして、症状改善までの期間、入院期間、死亡率のほか、侵襲的機械換気への移行、機械換気の期間、退院先、抗ウイルス薬耐性の発現、有害事象、治療関連有害事象、重篤な有害事象などの評価を行った。 頻度論に基づく変量効果モデルを用いたネットワークメタ解析でエビデンスを要約し、GRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)アプローチによりエビデンスの確実性を評価した。死亡率に対する効果、エビデンスの確実性は「非常に低」 8件の試験(1,424例、平均年齢の幅36~60歳、男性の割合の幅43~78%)が系統的レビューの対象となり、このうち6件をネットワークメタ解析に含めた。 季節性インフルエンザおよび人獣共通インフルエンザにおけるオセルタミビル、ペラミビル、ザナミビルの死亡率に対する効果に関しては、プラセボまたは標準治療と比較した場合、どの薬剤も有効性に差はなく、エビデンスの確実性は「非常に低(very low)」であった。また、オセルタミビルとペラミビル、オセルタミビルとザナミビル、ペラミビルとザナミビルの比較でも、死亡率に対する有効性に差を認めず、エビデンスの確実性はいずれも「非常に低」だった。 季節性インフルエンザによる入院期間は、プラセボまたは標準治療に比べオセルタミビル(平均群間差:-1.63日、95%信頼区間[CI]:-2.81~-0.45)およびペラミビル(-1.73日、-3.33~-0.13)で短縮したが、いずれもエビデンスの確実性は「低(low)」だった。 また、症状改善までの期間については、標準治療と比較してオセルタミビル(平均群間差:0.34日、95%CI:-0.86~1.54、エビデンスの確実性「低」)およびペラミビル(-0.05日、-0.69~0.59、エビデンスの確実性「低」)で差がほとんどないか、差を認めなかった。有害事象、重篤な有害事象の頻度も3剤で有意差なし 有害事象および重篤な有害事象の頻度には、オセルタミビル、ペラミビル、ザナミビルで有意な差はなく、エビデンスの確実性はいずれも「非常に低」であった。 機械換気への移行、機械換気の期間、抗ウイルス薬耐性の発現、治療関連有害事象ではネットワークメタ解析を行うことはできなかったが、ペアワイズメタ解析は可能であり、機械換気への移行、抗ウイルス薬耐性の発現、治療関連有害事象に関してはザナミビルに対するオセルタミビルのリスク比は1.20~2.89の範囲であった(エビデンスの確実性はいずれも「非常に低」)。退院先を評価した試験はなかった。 著者は、「これらの知見は、重症インフルエンザ患者の治療における抗ウイルス薬の効果に関する不確実性を強調するものであるが、抗ウイルス薬の使用をある程度正当化する」「重症インフルエンザ患者における抗ウイルス薬の臨床的有用性、安全性、抗ウイルス薬耐性への影響について知るためには、より多くの臨床試験が必要である」としている。

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ICI関連心筋炎の発見・治療・管理に腫瘍循環器医の協力を/腫瘍循環器学会

 頻度は低いが、発現すれば重篤な状態になりえる免疫チェックポイント阻害薬(ICI)による免疫関連有害事象としての心筋炎(irAE心筋炎)。大阪大学の吉波 哲大氏が第7回日本腫瘍循環器学会学術集会でirAE心筋炎における問題点を挙げ、腫瘍循環器医の協力を呼びかけた。致死率20%を超えるirAE心筋炎 ICIは今や固形がんの治療に必須の薬剤となった。一方、ICIの適用拡大と共に免疫関連有害事象(irAE)の発症リスクも増加する。心臓に関連するirAEは心筋炎、非炎症性左室機能不全、心外膜炎、伝導障害など多岐にわたる。その中でもirAE心筋炎は、発現すると一両日中に、心不全、コントロール困難な不整脈を併発し、致死的な状況に追い込まれることもある1)。 irAE心筋炎はICIにより活性化したT細胞が心筋に浸潤し、心筋を傷害するために起こるとされる。irAE心筋炎の発現は1%前後であるが2)、死亡率は20%を超え、通常の心筋炎をはるかに上回る3)。とくに女性(調整オッズ比[aOR]:0.44、95%信頼区間[CI]:0.38〜0.51、p<0.01)、75歳以上(aOR:0.19、95%CI:0.14〜0.28、p<0.01)、ICI同士の併用(aOR:1.93、95%CI:1.19〜3.12、p=0.08)ではリスクが高い2)。irAE心筋炎の頻度は低いものの、ICIの適応拡大とともに遭遇機会は増えていると考えられる。irAE心筋炎発現時期はICI開始後30日程度(日本のデータでは18〜28日、米国のデータでは中央値34日)と報告されている4、5)。定期モニタリングとステロイドによる治療が原則 わが国のOnco-CardiologyガイドラインではirAE心筋炎スクリーニングに、心電図、トロポニンT、NT-pro BNP、NLR(好中球・リンパ球比)、CRPのモニタリングが有効な可能性を挙げている(FRQ6-1)。吉波氏も、月1回程度行うICIの定期モニタリング時にトロポニンT、NT-pro BNPなどの検査(リスクがあれば心電図)をすべきと提案する。また、irAE心筋炎に対するステロイド治療については、使用すべき種類・投与経路・用量は定まっていないものの、有用な可能性があるとしている(BQ6-2)。irAE心筋炎を管理してICI治療を実施するために腫瘍循環器医の協力を ICIのがん治療に対する影響は大きく、もはや固形がんでは必須の薬剤だ。ペムブロリズマブは周術期化学療法に併用することでトリプルネガティブ乳がんの再発リスクを37%低下させ6)、アテゾリズマブは化学療法に併用することでStageIVもしくは再発非小細胞肺がんの12ヵ月無増悪生存割合を約2倍にする7)。 「治りたい、長生きしたい」という患者の希望を実現するために、腫瘍診療医はirAE心筋炎を危惧しながらもICIを使っている。「irAE心筋炎の発見・治療・管理にぜひとも腫瘍循環器医の協力をお願いしたい」と吉波氏は訴える。■参考1)三浦理. 新潟がんセンター病院医誌. 2024;62:45-48.2)Zamami Y, et al. JAMA Oncol. 2019;5:1635-1637.3)Wang DY, et al. JAMA Oncol. 2018;4:1721-1728.4)Mahmood SS, et al. J Am Coll Cardiol. 2018;71:1755-1764.5)Hasegawa S, et al. Pharmacoepidemiol Drug Saf. 2020;29:1279-1294.6)Schmid P, et al. N Engl J Med. 2022;386:556-567.7)Socinski MA, et al. N Engl J Med. 2018;378:2288-2301.

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非喫煙者の42%に肺がんと関連する肺結節所見

 45歳以上の非喫煙者(喫煙未経験者と元喫煙者)1万人以上を対象にした研究で、42.0%もの人に肺がんと関連する可能性のある肺結節が1つ以上認められたことが報告された。非喫煙者の肺がんリスクは、通常は低いと考えられている。この論文の上席著者を務めたフローニンゲン大学医療センター(オランダ)心胸部画像診断科教授のRozemarijn Vliegenthart氏は、「この数字は予想以上に高く、喫煙者のハイリスク集団で報告されている肺結節の発生率に近いものだった」と述べている。この研究の詳細は、「Radiology」に8月13日掲載された。 研究グループの説明によると、胸部CT検査で肺結節が見つかるのは珍しいことではなく、肺がんの高リスク集団においては初期肺がんの兆候である可能性が高い。また、肺結節の発生率とサイズに関する過去の研究の大半は、ヘビースモーカーの肺がん検診データに基づくものであり、現在の肺結節の管理に関する推奨のほとんどもこの集団をベースにしている。そのため、低リスク集団において肺結節が見つかった場合に現在のガイドラインに準拠すると、不必要な追加検査の実施につながる恐れもあるという。 Vliegenthart氏らは今回の研究で、45歳以上の非喫煙者1万431人(平均年齢60.4歳、女性56.6%、喫煙未経験者46.1%、元喫煙者53.9%)を対象に、肺結節の発生率とサイズの分布を年齢と性別ごとに調査した。 その結果、対象者の42.0%(4,377人、男性47.5%、女性37.7%)に1つ以上の肺結節が確認され、この割合は年齢とともに上昇することが明らかになった。また、臨床的に意味のある肺結節(結節サイズが6〜8mm以上)が認められた対象者の割合は11.1%で、この割合も年齢とともに上昇していた。さらに、男性の方が女性よりも肺結節が見つかる確率と複数の結節を持っている確率が高いことも示された。 ただしVliegenthart氏は、「これらの肺結節のほとんどは、がんではなかった。これらの非喫煙者での肺がん発症率は0.3%と極めて低く、発見された臨床的に意味のある結節や対応が必要とされる結節のほとんどが良性であることを示唆している」とフローニンゲン大学のニュースリリースで述べている。それでも、これらの結節が見つかった場合には、現行のがん検診ガイドラインに従った追加検査と診察が必要となる。 研究グループは、欧米諸国では喫煙者が減少傾向にあることに言及した上で、「肺がん検診のガイドラインを更新することが重要だ」との考えを示している。またVliegenthart氏は、「このような喫煙者の減少傾向に鑑みると、非喫煙者の肺結節に関する基礎的かつ包括的なデータを提供した今回の研究結果の重要性が増す」とニュースリリースの中で述べている。 なお、米国肺協会(ALA)によれば、肺結節はがん以外にも、大気汚染、関節リウマチのような慢性炎症性疾患、結核のような感染症によっても引き起こされるという。また、非喫煙者の肺結節は、交通事故や健康問題でX線検査やCT検査を受けたときに偶然、発見されることが多いという。

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高齢のCKD患者、タンパク質制限は本当に必要?

 軽度または中等度の慢性腎臓病(CKD)を有する高齢者におけるタンパク質摂取量と全死亡率を調査した結果、タンパク質摂取量が多いほど死亡リスクが低く、タンパク質摂取の利点が欠点を上回る可能性があることを、スウェーデン・カロリンスカ研究所のAdrian Carballo-Casla氏らが明らかにした。JAMA Network Open誌2024年8月1日号掲載の報告。 健康な高齢者では健康を維持するために一定のタンパク質を摂取することが推奨されているが、CKD患者ではCKDのステージ進行を抑制することを目的として、タンパク質摂取量を制限することが推奨されている。しかし、軽度または中等度のCKDを有する高齢者のタンパク質摂取を制限した場合の全般的な健康への影響については十分なエビデンスが得られていない。 そこで研究グループは、60歳以上の地域在住成人で構成されたスウェーデンおよびスペインの3つのコホート研究の縦断的データを統合し、国際腎臓病ガイドライン機構(KDIGO)の分類によるCKDステージ1~3の高齢者における総タンパク質、動物性タンパク質、植物性タンパク質の摂取量と10年全死亡率との関連性を推定し、その結果をCKDを有さない高齢者(対照群)の結果と比較した。参加者は2001年3月~2017年6月に募集され、最長で2024年1月まで追跡された。食事や死亡率に関する情報がない参加者、CKDステージが4または5の参加者、腎代替療法を受けている参加者、および腎移植を受けた参加者は除外された。 タンパク質摂取量は、食事歴および食物摂取頻度調査票により推定された。穀物、豆類、ナッツ類、その他の植物由来のタンパク質は植物性タンパク質とみなされ、乳製品、肉、卵、魚類、その他の動物由来のタンパク質は動物性タンパク質とみなされた。Cox比例ハザードモデルを用いて、タンパク質摂取量と死亡率の関連性についてハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を推定した。 主な結果は以下のとおり。●合計1万4,399例(CKD群:4,789例、対照群:9,610例)が解析に含まれた。CKD群は女性が2,726例(56.9%)、平均年齢が78.0(SD 7.2)歳であった。追跡期間中に、両群合わせて1,468例が死亡した。●CKD群では、総タンパク質摂取量が多いほど死亡リスクが低くなることが示された。 ・1.00g/kg/日vs.0.80g/kg/日のHR 0.88(95%CI:0.79~0.98) ・1.20g/kg/日vs.0.80g/kg/日のHR 0.79(95%CI:0.66~0.95) ・1.40g/kg/日vs.0.80g/kg/日のHR 0.73(95%CI:0.57~0.92) ・1.60g/kg/日vs.0.80g/kg/日のHR 0.67(95%CI:0.51~0.89)●CKD群の各タンパク質摂取量0.20g/kg/日増加当たりの死亡のHRは、総タンパク質、動物性タンパク質、植物性タンパク質で同等であった。 ・総タンパク質のHR 0.92(95%CI:0.86~0.98) ・動物性タンパク質のHR 0.88(95%CI:0.81~0.95) ・植物性タンパク質のHR 0.80(95%CI:0.65~0.98)●CKD群の総タンパク質摂取量0.20g/kg/日増加当たりの死亡のHRは、75歳未満でも75歳以上でも同等であった(相互作用のp=0.51)。 ・75歳未満のHR 0.94(95%CI:0.85~1.04) ・75歳以上のHR 0.91(95%CI:0.85~0.98)●総タンパク質摂取量と死亡率との逆相関は、対照群のほうがCKD群よりも大きかった(相互作用のp=0.02)。 ・CKD群のHR 0.92(95%CI:0.86~0.98) ・対照群のHR 0.85(95%CI:0.79~0.92) これらの結果より、研究グループは「高齢者を対象としたこのマルチコホート研究では、総タンパク質、動物性タンパク質、植物性タンパク質の摂取量が多いほど、CKD患者の死亡リスクが低いことが示された。CKDを有さない人では関連性がより強く、軽度または中等度のCKDを有する高齢者ではタンパク質摂取の利点が欠点を上回る可能性があることを示唆している」とまとめた。

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鼠径部ヘルニア診療ガイドライン改訂~非専門医も知っておきたい治療動向

 外科医にとっての登竜門とも言えるが、奥も深いとされるヘルニア手術。その診療指針である『鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2024 第2版』が5月に発刊された。治療は外科手術が中心となるものの、鼠径部ヘルニアは日常診療で遭遇しやすい疾患の1つであるため、非専門医も治療動向については知っておきたい領域だろう。そこで今回、ガイドライン作成検討委員会委員長を務めた井谷 史嗣氏(広島市民病院 外科上席主任部長)に鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2024の改訂点や非専門医も知っておきたい内容について話を聞いた。 鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2024は、大腿ヘルニアを含む鼠径部ヘルニアと小児分野を広くカバーした初版(2015年版)の特徴を継承しつつ全面改訂されたもので、井谷氏は「Mindsの作成マニュアル基準に則りメタアナリシスを行いエビデンスレベルの高いものを作成した」と説明、鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2024の特徴として以下の3つを挙げた。<鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2024今回の主な改訂点>(1)鼠径部切開法に関して、ヨーロッパヘルニア学会(EHS)のガイドラインにまとめられていないMesh plug法やKugel法などにも言及(CQ7-1~3、p.30~35)(2)CQとしてはデータが不足するも、臨床上、重要な課題と考えられるものをコラムとして掲載(CQ1-1~2-1、p.16~18ほか)(3)初版では初回Lichtenstein法において軽量メッシュが推奨されていたが、鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2024ではどちらか一方を強く推奨することはできないと記載(CQ12-1、p.45)鼠径部ヘルニア診療ガイドラインでは危険因子を掲載 鼠径部ヘルニアの発症因子について、鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2024のClinical Question(CQ)1-1『成人鼠径ヘルニア発症における危険因子は何か?』(p.16)によると、明確なエビデンスはなく推奨の方向性やエビデンスの確実性は明示していないが、男性、高齢、白人、鼠径ヘルニアの家族歴が挙げられている。また、既往歴としてはヘルニアの病歴、食道裂孔ヘルニア、慢性咳嗽、慢性閉塞性肺疾患、前立腺全摘除術、前立腺肥大症などの下部尿路機能障害、腹膜透析などが、生活歴としては、肉体労働の量、飲酒歴、喫煙歴が報告されている。 同様に成人大腿ヘルニア発症の危険因子について、教科書的には高齢でやせ型、多産の女性に多いと記されているが、指示する明確なエビデンスがないとしている(CQ2-1、p.18)。鼠径部ヘルニア手術はリスクと隣り合わせ 鼠径部ヘルニアの治療は今も外科的手術が一般的であり、リスクが少ない患者であれば高齢者でも同意の下で実施する。一方、無症候性の場合には手術および経過観察の双方が許容される(CQ5-1、p.26)。鼠径部ヘルニアの発症ピークは小児あるいは70代以降であるが、「腹筋を使うようなスポーツをする人、仕事で重い荷物を扱う人では発症しやすく注意が必要。また、無症候であってもトイレの際に気張りにくい場合などには手術が考慮される」とコメントした。 鼠径部ヘルニア、大腿ヘルニア共に術式は鼠径部切開法か腹腔鏡手術を選択するが、現在の腹腔鏡手術の普及率は2021年のNational Clinical Database (NCD)1)よると6割に上る。それぞれの推奨度についてはCQ7-1~CQ9-1(p.30~40)を参照されたい。一方、鼠径部ヘルニア手術の課題として、同氏は「本治療は外科手術の基本であるものの、良性疾患であるがゆえに再発した際の言い訳がきかず、術後に神経損傷などによる慢性疼痛を発症した場合には医療訴訟にもなりかねない。現在は内視鏡手術が普及してきたので鼠径部解剖がよりわかりやすくなったが、単純ではないため手術は非常に奥が深いものと言える。にもかかわらず、急患が来院した場合にはヘルニア専門外の医師の対応も必要となる分野」と、専門を問わず知識を持っておく必要性について言及し、「若手・非専門医にも鼠径部ヘルニアに興味を持ってもらい、一定レベルに達する教育・指導を普及させていきたい。まずは外科医の皆さまには鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2024のCQすべてに目を通してもらいたい」とコメントした。 現在、日本ヘルニア学会は鼠径部ヘルニア診療に関する研究、教育および診療の向上を目的として、鼠径部ヘルニア修得医認定制度の整備を進めており、本年は11月30日まで応募を受け付けている。鼠径部ヘルニアに脱腸ベルトは使っていい?その効果は? 鼠径部ヘルニアはちまたでは“脱腸”と表現され、新聞広告などで「脱腸ベルト(ヘルニアバンド)」なるものが販売されているため、これに関する問い合わせを受ける医師もいるのではないだろうか。鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2024ではこれについて言及していないが、同氏は「治療目的としての効果は得られない。しかし、手術までの待機期間(1~2ヵ月)に痛みを軽減する目的での利用は問題ない」と述べ、「みやざき外科・ヘルニアクリニックの宮崎 恭介氏によると、自己判断で購入し長年使っている方がいるのが実情で、そのような方から問い合わせがあるという。脱腸ベルトを長年使用している方には圧迫による瘢痕組織ができるため、初発ヘルニアでも再発ヘルニアのような癒着があり、手術がしづらくなるため推奨はせず、“脱腸ベルトを使ってもヘルニアは治りません。治すためには手術しかありません”と説明されている」とのコメントであった。 最後に同氏は「今後、鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2024は英文化を検討しているが、内容は外科医を対象としたCQに偏っている。外科医以外の医師の参考にもなるような鼠径部ヘルニアの総論的な視点を含むCQも必要といった声が寄せられているので、これを今後の課題としていく」と締めくくった。

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