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<先週の動き>1.マイナ保険証を救急搬送に活用開始、全国展開を目指す実証事業/総務省2.高齢者施設の服薬は昼1回に統一で安全性向上を/老年薬学会3.医療機関のサイバーセキュリティ対策チェックリストを改訂/厚労省4.地域医療を支えるため、医学生への修学資金貸与制度の充実を提案/文科省5.紅麹サプリの健康被害受け、機能性表示食品の安全性の強化を/自民党6.介護保険料の地域差拡大、大阪市の介護保険料は全国最高の9,249円に/厚労省1.マイナ保険証を救急搬送に活用開始、全国展開を目指す実証事業/総務省2024年4月、マイナンバーカードを利用した保険証(マイナ保険証)の利用率が過去最高の6.56%に達したが、利用率の低さが依然として課題となっている。5月17日、総務省消防庁はマイナ保険証を活用した救急搬送の実証事業を開始すると発表した。神奈川、兵庫、宮崎の3消防本部で実施され、救急隊員が現場でマイナ保険証を読み取り、患者の情報を迅速に把握し、医療機関へ搬送する。実証結果を踏まえ、2025年度中に全国展開を目指す。厚生労働省は、データと住民基本台帳情報の突合による「紐付け誤り防止」や動画広報、利用率の高い自治体・医療関係団体の表彰などを実施しているほか、さらに医療機関での利用促進に向けた具体策も進められている。マイナ保険証の利用率は病院で13.73%、医科クリニックで5.87%、歯科クリニックで10.91%、調剤薬局で5.71%とされ、さらなるPRと支援が求められている状況。5月15日に開かれた社会保障審議会・医療保険部会では、若年者世代へのPR強化や医療機関での声掛けの強化が提案され、専用レーンの設置や国家公務員の率先利用も呼びかけられている。その一方で、マイナ保険証に対する不信感も問題となっている。過去に他人の情報が紐付けられたり、保険診療の窓口負担の割合が誤って表示されたりするトラブルが相次ぎ、2024年4月までに新たに529件の紐付けミスが確認された。政府の点検作業で発覚した同様のミスは合計で9,000件を超えている。政府は、従来の健康保険証の新規発行を2024年12月2日から停止し、マイナ保険証の利用を基本とする方針を強化している。医療機関での利用促進策とともに、妊産婦支援の強化を目指す会議も設立され、正常分娩への保険適用が検討されている。これにより、マイナ保険証の普及と共に、医療サービスの質の向上が期待される。参考1)マイナ救急実証事業の開始(総務省消防庁)2)マイナ保険証の利用促進等について(厚労省)3)「マイナンバーカードによる医療機関受診」促進策を更に進めよ、正常分娩の保険適用も見据えた検討会設置-社保審・医療保険部会(1)(Gem Med )4)マイナ保険証、救急搬送に活用 23日から実証第1弾 総務省消防庁(時事通信)5)マイナンバーシステム、機能利用進まず 改善求められるデジタル庁(朝日新聞)2.高齢者施設の服薬は昼1回に統一で安全性向上を/老年薬学会5月17日に日本老年薬学会は、高齢者施設における服薬回数の簡素化を推奨する提言を発表した。この提言では、施設の入居者が多くの薬を服用している現状に対し、服薬回数を減らし、なるべく昼1回にまとめることを求めている。目的は、誤薬リスクを減らし、本人や職員の負担を軽減することである。高齢者施設では、認知機能や運動機能が低下した入居者が多く、複数薬を管理することが困難とされている。これに対し、職員数が多い昼間の時間帯に服薬を集約することで、誤薬のリスクを低減し、職員の負担が軽減できるとされる。具体的には、服薬のタイミングを昼に変更できる薬や効き目が長く続く薬に切り替えることが提案されている。提言の作成に関わった薬剤師の丸岡 弘治氏は、「服薬回数を減らすことは医療安全上のメリットにもつながる」と述べている。学会代表理事である秋下 雅弘氏も、「この取り組みはすべての高齢者に必要であり、今後は医療機関や在宅介護にも呼びかけたい」と語る。ただし、すべての薬が昼の服薬に適しているわけではなく、安全性や効果に影響がないかを慎重に確認する必要がある。提言では、医師や薬剤師が協議し、適切な薬を特定することが求められている。また、本人や家族への理解を得ること、療養場所が変わった際の見直しも重要となる。高齢者施設の服薬管理は、職員の勤務シフトに合わせて朝、昼、夕、眠前に行われているが、この提言に基づき、昼1回の服薬に簡素化することで、誤薬リスクの低下と負担軽減が期待されている。なお、提言は、老年薬学会のウェブサイトで公開されている。超高齢社会を迎えるわが国では、多数の併存疾患を抱える高齢者が増加しており、施設のマンパワー不足やポリファーマシーの問題が深刻となっている。服薬簡素化はこれらの課題に対応するための1つの解決策となり得る。今後も、医療・介護・福祉の専門職が協力し、提言の実施を進めることが求められている。参考1)高齢者施設の服薬簡素化提言(老年薬学会)2)高齢者施設での服薬は「昼1回」に 負担軽減へ老年薬学会が提言(毎日新聞)3)高齢者施設での服薬は昼1回に…飲み間違いや飲み忘れ防止、職員の負担減へ老年薬学会提言(読売新聞)3.医療機関のサイバーセキュリティ対策チェックリストを改訂/厚労省厚生労働省は「医療機関におけるサイバーセキュリティ対策チェックリスト」を2024年度版に改訂した。これにより、サーバへのセキュリティパッチ適用など、2023年度版では参考項目としていた事項が正式なチェック項目として追加された。このチェックリストは、厚労省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」に基づき、優先的に取り組むべきセキュリティ対策をまとめたもの。2024年度版では、サーバへのセキュリティパッチ適用、端末PCでのアクセス利用権限の設定、インシデント発生時のバックアップと復旧手順の確認などが正式なチェック項目となった。また、サイバー攻撃を想定した事業継続計画(BCP)の策定については、今後、参考資料となる手引きを作成する予定。そのほか、このチェックリストには、医療法第25条第1項に基づく立ち入り検査時に使用されることが明記された。これにより、厚労省への問い合わせが多かった使用用途についての明確化が図られた。また、各チェック項目の末尾には、具体的なチェック内容を解説するマニュアルの章番号が追記されている。今回の改訂により、医療機関はセキュリティ対策の強化を図り、サイバー攻撃からの防御を一層強化することが求められる。厚労省は引き続き、医療機関のセキュリティ対策を支援し、患者情報の保護を進めていく方針。参考1)令和6年度版「医療機関におけるサイバーセキュリティ対策チェックリスト」及び「医療機関におけるサイバーセキュリティ対策チェックリストマニュアル~医療機関・事業者向け~」について(厚労省)2)サイバーセキュリティ対策チェックリスト改訂、厚労省 サーバへのセキュリティパッチ適用を正式な項目に(CB news)4.地域医療を支えるため、医学生への修学資金貸与制度の充実を提案/文科省文部科学省は、5月17日に「医学教育の在り方に関する検討会」を開催し、診療参加型臨床実習の推進と充実を強調する第2次中間取りまとめ案を提示した。この中で、医師の偏在解消を図るための教育上の方策として、地域枠の医学学生に対する修学資金貸与制度の充実が、最も有効であるとする意見が出された。診療参加型臨床実習は、医学生が医師の指導監督の下で実際の医療行為を行うことで、診断・治療に関する思考力や対応力を養うもの。2021年の医師法改正により、一定基準を満たした学生が実習中に医療行為を行うことが可能となり、大学では実習の連続した配属期間を確保する取り組みが進められている。また、医師の地域偏在を解消するため、地域枠の活用が推進されている。特定診療科の範囲を選択する「診療科選定地域枠」や大学特別枠などが導入され、修学資金貸与制度を活用して地域医療への貢献を促すことが有効とされている。奈良県立医科大学の今村 知明教授は、「修学資金貸与制度の充実を求め、地域のニーズに応じた柔軟な運用が必要だ」と指摘するとともに、大学病院の役割として、教育・研究・診療の三役を担うことが強調され、国による後押しが求められている。とくに、大学病院で働く医師の待遇改善やキャリアインセンティブの提供が必要とされ、「大学病院がその役割を果たすためには、文科省や厚労省、自治体の連携が必要だ」と述べる。さらに医学研究の充実も重要な課題とされ、研究医枠の増員や研究環境の整備が求められた。若手研究者のキャリアパスを明確にし、研究を続けるモチベーションを高めるための支援が必要であると指摘されている。文科省は、今回の取りまとめを踏まえて、今後の医学教育に関する施策を進める方針。とくに、医師の地域偏在解消と医学研究の充実を図るため、大学や地域との連携を強化し、持続可能な医療提供体制の確立を目指す。参考1)第10回 今後の医学教育の在り方に関する検討会(文科省)2)第二次中間取りまとめ(案)(同)5.紅麹サプリの健康被害受け、機能性表示食品の安全性の強化を/自民党小林製薬(大阪)の「紅麹」サプリメントによる健康被害を受け、自民党は5月16日に政調、消費者問題調査会・厚生労働部会合同会議を開き、機能性表示食品の安全性を強化する提言案をまとめた。提言案では、健康被害情報の報告ルールの明確化や定期点検の義務化を求めており、安全性強化で消費者保護につなげたいとしている。自民党の消費者問題調査会と厚生労働部会の合同会議で示された提言案には、以下の内容が含まれている。健康被害情報の報告ルールの明確化:行政への報告対象や報告期限を明確にし、企業が報告義務を順守するよう求める。定期点検の義務化:事業者が食品の届け出内容を定期的に点検・自己評価し、その結果を消費者庁に報告しなければ販売できなくすることを提案。GMP認証の義務化:サプリメントの製造において、品質・衛生管理に関する指針「GMP(適正製造規範)」の認証取得を義務付ける。さらに消費者庁の専門家検討会でも、以下の点が議論されている。報告義務の強化:企業が報告の是非を判断せず、症状の重篤度に関わらず健康被害を報告することを義務付ける方向で検討されている。また、情報公開基準を明確にすることで企業の風評被害の懸念を軽減する方策も議論されている。サプリメントの特化規制:成分が濃縮されたサプリメントの安全性を食品と同じ基準で評価できないため、サプリメントに特化した規制を求める声が上がっている。自民党は、この提言案を来週にも政府に提出する予定。これにより、機能性表示食品の安全性が強化され、消費者の健康被害を防ぐ取り組みが進むことが期待される。参考1)届け出後の定期点検義務化 機能性表示食品で自民原案(東京新聞)2)自民 紅麹問題再発防止へ ルール明確化など求め提言案まとめる(NHK)3)機能性表示食品の健康被害情報報告ルールの明確化も議論 消費者庁の検討会の見直しポイント(産経新聞)6.介護保険料の地域差拡大、大阪市の介護保険料は全国最高の9,249円に/厚労省厚生労働省は、各地の自治体など全国1,573の保険者を調査。介護保険の第1号保険料の全国の市町村の動向を取りまとめ、公表した。2024~26年度にかけて65歳以上の高齢者が支払う介護保険料の全国平均は月額6,225円で、最も高いのは大阪市の9,249円、最も低いのは東京都小笠原村の3,374円だった。地域差の原因は、高齢者の割合や介護事業者の参入状況、自治体の財政状況が影響している。大阪市は単身高齢者が多く、保険料が高額な一方、小笠原村は高齢化率が低く、保険料が抑えられている。各自治体は保険料の引き上げを抑えるための対策を講じており、一例として千葉県栄町は、介護予防活動を推進し、保険料を低く抑えている。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、2039年には65歳以上の高齢者が3,900万人を超え、介護サービスの需要が高まり、保険料の上昇が予想されている。厚労省は、所得別の負担見直しやケアプランの有料化を検討している。淑徳大学の結城 康博教授は、「抜本的な制度改革がなければ地域間の格差が広がる」と指摘し、介護保険料は2000年の制度開始時の月2,911円から2040年には9,000円程度に達すると見込まれている。介護保険料の地域差は、今後も続くと予想され、国や各自治体は対応策を講じる必要がある。参考1)全国 介護保険料マップ(NHK)2)介護保険料、月6225円 24~26年度全国平均 65歳以上、3.5%増(日経新聞)3)上昇傾向の介護保険料 目立つ地域差 サービス利用減で引き下げも(朝日新聞)4)介護保険料“格差”今後も拡大か 若い世代にも影響(FNN)【動画】5)第9期介護保険事業計画期間における介護保険の第1号保険料及びサービス見込み量等について(厚労省)