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1型DMの血糖管理、間歇スキャン式持続血糖測定vs.SMBG/NEJM

 糖化ヘモグロビン(HbA1c)値が高い1型糖尿病患者において、高血糖/低血糖のアラームを設定できる間歇スキャン式持続血糖測定器(isCGM)の使用は、フィンガースティック(指先穿刺)血糖測定による血糖モニタリングと比較して、HbA1c値の有意な低下に結び付くことを、英国・Manchester Academic Health Science CentreのLalantha Leelarathna氏らが同国で実施した多施設共同無作為化非盲検比較試験「FLASH-UK試験」の結果、報告した。持続血糖モニタリングシステム(間歇スキャン式またはリアルタイム)の開発により、フィンガースティック検査なしでの血糖モニタリングが可能となったが、HbA1c値が高い1型糖尿病患者において、高血糖/低血糖のアラームを設定できるisCGMの有益性は不明であった。NEJM誌オンライン版2022年10月5日号掲載の報告。アラーム機能付きisCGM vs.指先穿刺血糖測定、HbA1c値の改善を比較 研究グループは、16歳以上、罹患期間1年以上で、持続皮下インスリン注入療法またはインスリン頻回注射を行ってもHbA1c値が7.5~11.0%の1型糖尿病患者156例を、isCGM群(78例)とフィンガースティック検査による自己血糖モニタリング(対照)群(78例)に1対1の割合で無作為に割り付け追跡評価した。isCGMは、FreeStyle Libre 2(Abbott Diabetes Care製)を用いた。 主要評価項目は、無作為化後24週時のHbA1c値とし、intention-to-treat解析を行った。主要な副次評価項目は、センサーデータ、患者報告アウトカム、安全性などである。isCGM使用により、低血糖が減少し安全にHbA1c値が改善 156例の患者背景は、平均(±SD)年齢44±15歳、平均糖尿病罹患期間21±13年、HbA1c値8.6±0.8%、女性44%であった。 HbA1c値は、isCGM群でベースラインの平均8.7±0.9%から24週時7.9±0.8%に、対照群で8.5±0.8%から8.3±0.9%にそれぞれ低下した(補正後平均群間差:-0.5ポイント、95%信頼区間[CI]:-0.7~-0.3、p<0.001)。 血糖値が目標範囲内にある時間(1日当たり)は、対照群と比較してisCGM群において9.0ポイント(95%CI:4.7~13.3)高く、130分(95%CI:68~192)延長した。また、低血糖(血糖値<70mg/dL)の時間(1日当たり)は、対照群と比較してisCGM群で3.0ポイント(95%CI:1.4~4.5)低く、43分(95%CI:20~65)短かった。 重症低血糖エピソードは対照群2例で報告された。また、isCGM群ではセンサーへの皮膚反応が1例に認められた。 なお、著者は研究の限界として、非盲検試験のため対照群のうちisCGMに移行した後に24週時のHbA1c値を測定した患者が5例いたこと、ほとんどの患者が白人で結果の一般化に限りがあること、アラームの設定と使用に関するデータは提供されていないため観察された有益性がセンサーのみによるものか、使用したisCGMのアラームによるものかは確認できないことなどを挙げている。

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手引き改訂で診断基準に変化、テストステロン補充療法/日本メンズヘルス医学会

 『加齢男性性腺機能低下症候群(LOH症候群)診療の手引き2022』が15年ぶりに改訂されるにあたり、9月17、18日にオンライン開催された第22回日本メンズヘルス医学会において、シンポジウム「LOHセッション」が開催された。本稿では検査値の改訂ポイントについて、伊藤 直樹氏(NTT東日本札幌病院泌尿器科 部長/外科診療部長)の発表内容からお伝えする(共催:株式会社コスミックコーポレーション)。 LOH症候群とは、“加齢あるいはストレスに伴うテストステロン値の低下による症候群”である。加齢に起因すると考えられる症状として大きく3つの項目があり、1)性腺機能症状(早期勃起の低下、性欲[リビドー]の低下、勃起障害など)、2)精神症状(うつ傾向、記憶力、集中力の低下、倦怠感・疲労感など)、3)身体症状(筋力の低下、骨塩量の減少、体脂肪の増加など)が挙げられる。見直された診断基準値、海外と違う理由 本手引きの改訂においてもっとも注目すべきは、主診断に用いる検査値が変わることである。2007年版の診断基準値では遊離テストステロン値(8.5pg/mL未満)のみが採用されていたが、2022年改訂版では総テストステロン値(250ng/dL未満)を主診断に用いることになる。その理由として、伊藤氏は「海外でのgold standardであること、総テストステロン値と臨床症状との関連性も認められること、健康男性のmean-2SD・海外ガイドラインも参考にしたこと」を挙げた。また、遊離テストステロン値は補助診断に用いることとし、LOH症候群が対象となり始める30~40歳代のmean-2SD値である7.5pg/mL未満とするに至った。これについて「RIA法の信頼性が問題視されていること、海外の値(欧州泌尿器学会では63.4pg/mLなど)と測定方法が異なり比較できないため」とコメントした。<LOH症候群の新たな診断基準>―――・総テストステロン値250ng/dL未満または・250ng/dL以上で遊離テストステロン値が7.5pg/mL未満※各測定値にかかわらず総合的に判断することが重要で、テストステロン補充の妥当性を考慮し、「妥当性あり」と判断すれば、LOH症候群と診断する●注意点(1)血中テストステロン分泌は午前9時頃にピークを迎え夜にかけて低下するため、午前7~11時の間に空腹で採血すること。(2)2回採血について、日本では保険適用の問題もあるため、海外で推奨されているも本手引きではコメントなし。――― また、測定時に注意すべきは、総テストステロンの4割強は性ホルモン結合グロブリン(SHBG:sex hormone brinding globulin)と強く結合しているため、SHBGに影響を与える疾患・状態にある患者の場合は値が左右される点である。同氏は「SHBGが増加する疾患として、甲状腺機能亢進症、肝硬変、体重減少などがある。一方で低下する疾患には、肥満、甲状腺機能低下症、インスリン抵抗性・糖尿病などがあるため、症状の原因となるようなリスクファクターの探索も重要であるとし、「メタボリックシンドローム(高血圧症、糖尿病、脂質異常症)から悪性腫瘍などの消耗性疾患、副腎皮質・甲状腺など内分泌疾患、そしてうつ病などの精神疾患などLOH症候群に疑わしい疾患は多岐にわたるため、すぐに断定することは危険」と強調。「自覚症状、他覚的所見を総合的に判断し、ほかの疾患の存在も常に疑うべき」と指摘した。 さらに、診断基準の“測定値にかかわらず総合的に判断する”という点について、「アンドロゲン受容体の活性効率に影響するN末端のCAGリピートがアジア人は長く、活性効率が低い可能性がある。そのため、テストステロン値が基準値以上でも補充療法が有効の可能性がある」と説明した。 測定値とは別に、症状からLOH症候群か否かを定量的に判定する方法の1つとしてAMS(Aging Males' Symptoms)スコア1)が広く用いられている。これについて、同氏は「感度は高いが特異度は低いため、スクリーニングには推奨されない」と話した。一方でホルモン補充療法による臨床効果の監視には有用という報告もあることから、「全体の合計点だけを見るのではなく、それぞれの症状をピックアップし、患者に合わせて対応することが大切」と説明した。 最後に、診断を確定する前にはLOH症候群が原発性か二次性かの確認も必要なことから、「最終的にはLHおよびFSHを測定し二次性性腺機能低下症の有無を確認するために、その原因疾患を把握し、確認して欲しい」と締めくくった。

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4種類の血糖降下薬、メトホルミン併用時のHbA1c値への効果に差は?/NEJM

 2型糖尿病患者では、糖化ヘモグロビン(HbA1c)の目標値を維持するために、メトホルミンに加えいくつかの種類の血糖降下薬が投与されるが、その相対的有効性は明らかにされていない。米国・マサチューセッツ総合病院のDavid M. Nathan氏らGRADE Study Research Groupは、「GRADE研究」において、4種類の血糖降下薬の効果を比較し、これらの薬剤はいずれもメトホルミンとの併用でHbA1c値を低下させたが、その目標値の達成と維持においては、グラルギンとリラグルチドが他の2剤よりもわずかながら有意に有効性が高いことを確認した。研究の成果は、NEJM誌2022年9月22日号で報告された。米国の無作為化並行群間比較試験 GRADE研究は、2型糖尿病患者の治療における4種類の血糖降下薬の相対的有効性の評価を目的とする無作為化並行群間比較試験であり、2013年7月~2017年8月の期間に、米国の36施設で参加者の登録が行われた(米国国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所[NIDDK]などの助成を受けた)。 対象は、2型糖尿病の診断時の年齢が30歳以上(アメリカインディアンとアラスカ先住民は20歳以上)、糖尿病の罹病期間が10年以内で、500mg/日以上のメトホルミンによる治療を受けており、過去6ヵ月間に他の血糖降下薬を使用しておらず、HbA1c値が6.8~8.5%の患者であった。 被験者は、インスリン グラルギンU-100(以下、グラルギン)、スルホニル尿素薬グリメピリド、GLP-1受容体作動薬リラグルチド、DPP-4阻害薬シタグリプチンを投与する群に無作為に割り付けられた。全例がメトホルミンの投与を継続した。 代謝に関する主要アウトカムは、HbA1c値≧7.0%とされ、年4回の測定が行われた。代謝に関する副次アウトカムは、HbA1c値>7.5%であった。体重減少はリラグルチドで最も大きい 5,047例が登録され、グラルギン群に1,263例、グリメピリド群に1,254例、リラグルチド群に1,262例、シタグリプチン群に1,268例が割り付けられた。ベースラインの全体の平均(±SD)年齢は57.2±10.0歳、41.5%が60歳以上で、10ヵ所の退役軍人省医療センターの参加を反映して63.6%が男性であり、白人が65.7%、黒人が19.8%、ヒスパニック/ラテン系が18.6%含まれた。 それぞれの平均値は、糖尿病の罹病期間4.2±2.7年、メトホルミンの1日投与量1,994±205mg、BMI 34.3±6.8、HbA1c値7.5±0.5%であった。平均追跡期間は5.0年であり、85.8%が4年以上の追跡を受けた。 HbA1c値≧7.0%の累積発生割合には、4つの治療群で有意な差が認められた(全体的な群間差の検定のp<0.001)。すなわち、100人年当たりグラルギン群が26.5、リラグルチド群は26.1とほぼ同様であり、これらはグリメピリド群の30.4、シタグリプチン群の38.1に比べて低かった。これは、HbA1c値<7.0%の期間が、シタグリプチンに比べグラルギンとリラグルチドで約半年間長くなることを意味する。 また、HbA1c値>7.5%の発生割合に関しては、群間差に主要アウトカムと同様の傾向がみられ、100人年当たりグラルギン群が10.7、リラグルチド群は13.0であり、グリメピリド群の14.8、シタグリプチン群の17.5よりも低かった。 事前に規定された性別、年齢、人種/民族別のサブグループでは、主要アウトカムに関して4つの治療群で実質的な差はみられなかった。一方、ベースラインのHbA1c値が高かった(7.8~8.5%)患者では、HbA1c値<7.0%の維持または達成において、シタグリプチン群は他の3剤と比較して効果が低かった。 重症低血糖はまれだったが、グリメピリド群(2.2%)は、グラルギン群(1.3%、p=0.02)、リラグルチド群(1.0%、p≦0.001)、シタグリプチン群(0.7%、p≦0.001)に比べ有意に高頻度であった。消化器系の副作用の頻度は、リラグルチド群(43.7%)が他の治療群(グラルギン群35.7%、グリメピリド群33.7%、シタグリプチン群34.3%)に比べて高かった。また、4年間の平均体重減少はリラグルチド群(3.5kg減)とシタグリプチン群(2.0kg減)が、グラルギン群(0.61kg減)とグリメピリド群(0.73kg減)よりも大きかった。 著者は、「本試験で得られた重要な示唆は、たとえすべての治療が無料で提供される臨床試験であっても、HbA1cの目標値の維持は困難なことである。このデータは、2型糖尿病患者における長期的な血糖コントロールの、より効果的な介入の必要性を強調するものである」と指摘し、「これらの知見は、メトホルミンへの追加の薬剤を選択する際に、医療者と患者の共有意思決定の基礎となるだろう」としている。

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4種類の血糖降下薬、メトホルミン併用時の効果を比較/NEJM

 米国では、2型糖尿病患者の治療においてメトホルミンとの併用で使用される血糖降下薬の相対的有効性のデータは十分でないという。米国・マサチューセッツ総合病院のDavid M. Nathan氏らGRADE Study Research Groupは、「GRADE研究」において、メトホルミンと4種類の血糖降下薬の併用療法の効果を比較し、微小血管合併症や死亡の発生には4種類の薬剤で実質的な差はないが、心血管疾患の発生には群間差が存在する可能性があることを示した。研究の成果は、NEJM誌2022年9月22日号に掲載された。米国の無作為化並行群間比較試験 GRADE研究は、2型糖尿病患者の治療における4種類の血糖降下薬の相対的有効性の評価を目的とする無作為化並行群間比較試験であり、2013年7月~2017年8月の期間に、米国の36施設で参加者の登録が行われた(米国国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所[NIDDK]などの助成を受けた)。本論では、主に副次アウトカムの結果が報告され、主要アウトカムは別の論文で詳報された。 対象は、2型糖尿病の診断時の年齢が30歳以上(アメリカインディアンとアラスカ先住民は20歳以上)、診断からの経過期間が10年以内で、500mg/日以上のメトホルミンによる治療を受けており、糖化ヘモグロビン値が6.8~8.5%の患者であった。 被験者は、メトホルミンに加え、インスリン グラルギンU-100(以下、グラルギン)、グリメピリド、リラグルチド、シタグリプチンのうち1つの投与を受ける4つの群に無作為に割り付けられた。5,047例が登録され、このうちグラルギン群が1,263例、グリメピリド群が1,254例、リラグルチド群が1,262例、シタグリプチン群は1,268例だった。高血圧、脂質異常症、尿中アルブミン上昇にも、実質的な差はない ベースラインの全体の平均(±SD)年齢は57.2±10.0歳、41.5%が60歳以上で、63.6%が男性だった。糖尿病の平均罹病期間は4.2±2.7年、メトホルミンの平均1日投与量は1,994±205mgであり、平均BMIは34.3±6.8、平均糖化ヘモグロビン値は7.5±0.5%であった。平均追跡期間は5.0年。 目標血糖値の維持(代謝に関する主要アウトカム)については、グラルギン群とリラグルチド群の効果がグリメピリド群、シタグリプチン群よりも優れ、4年時の糖化ヘモグロビン値はグラルギン群とリラグルチド群が7.1%であったのに対し、グリメピリド群は7.3%、シタグリプチン群は7.2%であった。 高血圧、脂質異常症の発生、および微小血管アウトカムに関しては、4つの治療群で実質的な差はなかった。また、全体的な尿中アルブミンの中等度上昇の発生割合の平均値は、100人年当たり2.57、尿中アルブミンの高度上昇は1.08、腎障害は2.91で、いずれも治療群間で差はなく、試験終了時の累積発生率はそれぞれ約15%、8%、20%であった。同様に、糖尿病性末梢神経障害の発生割合は100人年当たり16.7であり、追跡期間の1年目の発生率は約20%、試験終了時には約70%に達した。 試験期間中の全心血管疾患の発生割合は100人年当たり1.79で、試験終了時には4つの治療群の発生率は10~15%に達した。治療群別の発生割合は、100人年当たりグラルギン群が1.87、グリメピリド群が1.92、リラグルチド群が1.36、シタグリプチン群は2.00であり、わずかな差が認められた。 また、全体的な主要有害心血管イベント(MACE)の発生割合は100人年当たり0.98、心不全による入院は0.40、心血管系の原因による死亡は0.27、全死因死亡は0.59であり、治療群間で差はなかった。 一方、1つの治療を、他の3つの治療を統合した結果と比較すると、全心血管疾患のハザード比は、グラルギン群が1.07(95%信頼区間[CI]:0.87~1.33)、グリメピリド群が1.12(0.90~1.39)、リラグルチド群が0.71(0.56~0.90)、シタグリプチン群は1.18(0.96~1.46)であった。 著者は、「2型糖尿病の治療薬を選択する際には、血糖値に対する効果とともに、微小血管合併症、心血管リスク因子、心血管アウトカムに及ぼすこれらの薬剤の異なる効果を考慮する必要があり、この試験の結果は、治療薬の選択において有益な情報をもたらすと考えられる」としている。

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オープンソースの自動インスリン伝達システム、1型DM血糖コントロールを改善/NEJM

 7~70歳の1型糖尿病患者において、オープンソースの自動インスリン伝達(AID)システムはセンサー付きインスリンポンプと比較して、24週時に血糖値が目標範囲にある時間の割合が有意に高く、1日のうち血糖値が目標範囲内である時間は3時間21分延長したとの研究結果が、ニュージーランド・オタゴ大学のMercedes J. Burnside氏らが実施した「CREATE試験」で示された。研究結果は、NEJM誌2022年9月8日号で報告された。ニュージーランドの無作為化対照比較試験 CREATE試験は、1型糖尿病患者におけるオープンソースAIDシステムの有効性と安全性のデータの収集を目的とする非盲検無作為化対照比較試験であり、2020年9月~2021年5月の期間に、ニュージーランドの4施設で参加者の登録が行われた(ニュージーランド保健研究会議[HRC]の支援を受けた)。 対象は、年齢7~70歳、1型糖尿病の診断を受けてから1年以上が経過し、インスリンポンプ療法を6ヵ月以上受け、糖化ヘモグロビンの平均値<10.5%(91mmol/mol)の患者であった。 被験者は、オープンソースAIDシステムまたはセンサー付きインスリンポンプ(対照)を使用する群に無作為に割り付けられた。また、年齢7~15歳が小児、16~70歳は成人と定義された。 AIDシステムは、AndroidAPS 2.8(標準的なOpenAPS 0.7.0アルゴリズムを使用)の修正版で、試作段階のDANA-iインスリンポンプとDexcom G6持続血糖モニター(CGM)を組み合わせて用いた。ユーザーインターフェースは、Androidスマートフォンアプリケーション(AnyDANA-Loop)だった。 主要アウトカムは、155~168日目(試験の最後の2週間[23~24週])に、血糖値が目標範囲(70~180mg/dL[3.9~10.0mmol/L])にある時間の割合とされた。年齢による治療効果に差はない 97例が登録され、AID群に44例(小児21例[年齢中央値14.0歳、女児11例]、成人23例[40.0歳、15例])、対照群に53例(27例[11.0歳、13例]、26例[38.0歳、15例])が割り付けられた。ベースラインの平均糖化ヘモグロビン値は小児が7.5%、成人は7.7%だった。 血糖値が目標範囲にある時間の割合の平均値(±SD)は、AID群がベースラインの61.2±12.3%から24週時には71.2±12.1%へ上昇し、これに対し対照群は57.7±14.3%から54.5±16.0%へと低下しており、有意な差が認められた(補正後平均群間差:14.0ポイント、95%信頼区間[CI]:9.2~18.8、p<0.001)。また、AID群は、1日のうち血糖値が目標範囲内である時間が、対照群よりも3時間21分長かった。 血糖値が目標範囲にある時間の割合が70%以上で、かつ範囲外(<70mg/dL)にある時間の割合が4%未満の患者は、AID群が52.0%であったのに対し、対照群は11.0%であった(補正後平均群間差:36.9ポイント、95%CI:25.9~48.5)。また、年齢による治療効果の差はみられなかった(p=0.56)。 小児では、AID開始から2週間以内には介入効果が認められ、24週の試験期間中も維持された。また、AID群は、夜間(午前0時~午前6時)の血糖値が目標範囲にある時間の割合が76.8±15.8%と、日中(午前6時~午後12時)の64.3±11.7%に比べて高かった。対照群は、それぞれ57.2±21.4%および50.9±17.4%であった。成人のAID群も小児と同様に、夜間が85.2±12.7%と高かったのに対し日中は70.9±12.7%であった。対照群は、それぞれ53.5±20.1%および57.5±14.4%であり、夜間と日中で同程度だった。 重度の低血糖および糖尿病性ケトアシドーシスは両群とも発現せず、インスリン投与のアルゴリズムおよび自動制御に関連した有害事象もみられなかった。また、重篤な有害事象は、AID群で2件(輸液セットの不具合に起因する高血糖による入院と、糖尿病とは無関係の入院)、対照群で5件(インスリンポンプの不具合による高血糖が1件、糖尿病とは無関係のイベントが4件)認められた(いずれも小児)。 著者は、「この試験の参加者は、多くの実臨床研究に比べ、より典型的な1型糖尿病であり、オープンソースAIDの使用経験がなかったことから、さまざまな1型糖尿病患者が、このシステムから利益を得る可能性があることが示唆される」としている。

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1型DMのC-ペプチド分泌能、クローズドループ療法vs.標準療法/NEJM

 新規発症の若年1型糖尿病患者において、診断後24ヵ月間、ハイブリッドクローズドループ(HCL)療法により持続的に血糖コントロールを行っても、標準的なインスリン療法と比較して、残存C-ペプチド分泌能の低下を抑制することはできなかった。英国・ケンブリッジ大学のCharlotte K. Boughton氏らが、多施設共同無作為化非盲検並行群間比較試験「Closed Loop from Onset in Type 1 Diabetes trial:CLOuD試験」の結果を報告した。新規発症の1型糖尿病患者において、HCL療法による血糖コントロールの改善が標準的なインスリン療法と比較しC-ペプチド分泌能を維持できるかどうかは不明であった。NEJM誌2022年9月8日号掲載の報告。10歳以上17歳未満の新規発症1型糖尿病患者97例を対象に無作為化 研究グループは、2017年2月6日~2019年7月18日の間に、10歳以上17歳未満で1型糖尿病と診断されてから21日以内の若年者を、HCL療法群(HCL群)または標準的なインスリン療法群(対照群)に、1対1の割合で無作為に割り付け(10~13歳、14~16歳で層別化)、24ヵ月間治療した。 主要評価項目は、診断後12ヵ月時点での血漿C-ペプチド濃度(混合食負荷試験後)の曲線下面積(AUC)で、intention-to-treat解析を行った。 計97例(平均年齢[±SD]12±2歳)が、HCL群51例、対照群46例に割り付けられた。12ヵ月、24ヵ月時点でのC-ペプチド分泌能に両群で有意差なし 診断後12ヵ月時点の血漿C-ペプチド濃度のAUC(幾何平均値)は、HCL群で0.35pmoL/mL(四分位範囲[IQR]:0.16~0.49)、対照群で0.46pmoL/mL(0.22~0.69)であり、両群間に有意差は確認されなかった(平均補正後群間差:-0.06pmoL/mL、95%信頼区間[CI]:-0.14~0.03)。 24ヵ月時点の血漿C-ペプチド濃度のAUCも両群で有意差はなかった(HCL群0.18pmoL/mL[IQR:0.06~0.22]、対照群0.24pmoL/mL[0.05~0.30]、平均補正後群間差:-0.04pmoL/mL[95%CI:-0.14~0.06])。糖化ヘモグロビン値(算術平均値)は、HCL群のほうが対照群と比較して12ヵ月時点で4mmoL/mole(0.4ポイント、95%CI:0~8mmoL/mole[0.0~0.7ポイント])、24ヵ月時点で11mmoL/mole(1.0ポイント、95%CI:7~15mmoL/mole[0.5~1.5ポイント])低値であった。 重症低血糖はHCL群で5件(患者3例)、対照群で1例発現し、糖尿病性ケトアシドーシスがHCL群で1例認められた。

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認知症と肥満・糖尿病

 米国では、肥満、糖尿病、認知症などの慢性疾患が増加している。これら慢性疾患の予防や適切なマネジメント戦術に関する知見は、疾患予防のうえで重大かつ緊要である。米国・テキサス工科大学のAshley Selman氏らは、認知症と肥満および糖尿病との関連についての理解を深めるため、それぞれの役割を解説し、新たな治療法についての情報を紹介した。International Journal of Molecular Sciences誌2022年8月17日号の報告。 主な内容は以下のとおり。・肥満、糖尿病、認知症の相互関係は、さらに解明されつつある。・肥満、糖尿病、認知症の発症に関連する炎症状態の一因として、加齢、性別、遺伝的要因、後天的要因、うつ病、高脂質の西洋型食生活が挙げられる。・この炎症状態は、食物摂取の調節不全およびインスリン抵抗性につながる可能性がある。・肥満は糖尿病発症につながる基礎疾患であり、後に、2型糖尿病(type 2 diabetes mellitus:T2DM)の場合には“3型(type 3 diabetes mellitus:T3DM)”すなわちアルツハイマー病へ進行する可能性がある。・肥満とうつ病は、糖尿病と密接に関連している。・認知症の発症は、ライフスタイルの改善、植物性食品ベースの食事(地中海式食事など)への変更、身体活動の増加により予防可能である。・予防のために利用可能ないくつかの外科的および薬理学的介入がある。・新たな治療法には、メラノコルチン4受容体(MC4R)アゴニストsetmelanotideやPdia4阻害薬が含まれる。・これらの各分野における現在および今後の研究は保証されており、新たな治療選択肢やそれぞれの病因に関する理解を深めることが重要である。

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4つのステップで糖尿病治療薬を判断/日本糖尿病学会

 日本糖尿病学会(理事長:植木 浩二郎)は、9月5日に同学会のホームページで「2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム」を発表した。 このアルゴリズムは2型糖尿病治療の適正化を目的に、糖尿病の病態に応じて治療薬を選択することを最重要視し、エビデンスとわが国における処方実態を勘案して作成されている。 具体的には、「Step 1」として病態に応じた薬剤選択、「Step 2」として安全性への配慮、「Step 3」としてAdditional benefitsを考慮するべき併存疾患をあげ、「Step 4」では考慮すべき患者背景をあげ、薬剤を選択するアルゴリズムになっている。 同アルゴリズムを作成した日本糖尿病学会コンセンサスステートメント策定に関する委員会では序文で「わが国での糖尿病診療の向上に貢献することを期待するとともに、新しいエビデンスを加えながら、より良いものに進化し続けていくことを願っている」と今後の活用に期待をにじませている。体形、安全性、併存疾患、そして患者背景で判断 わが国の2型糖尿病の初回処方の実態は欧米とは大きく異なっている。高齢者へのビグアナイド薬(メトホルミン)やSGLT2阻害薬投与に関する注意喚起が広く浸透していること、それに伴い高齢者にはDPP4阻害薬が選択される傾向が認められている。 その一方で、初回処方にビグアナイド薬が一切使われない日本糖尿病学会非認定教育施設が38.2%も存在していたことも明らかになり、2型糖尿病治療の適正化の一助となる薬物療法のアルゴリズムが必要とされた。 そこで、作成のコンセプトとして、糖尿病の病態に応じて治療薬を選択することを最重要視し、エビデンスとわが国における処方実態を勘案して制作された。 最初にインスリンの適応(絶対的/相対的)を判断したうえで、目標HbA1cを決定(目標値は熊本宣言2013などを参照)し、下記のステップへ進むことになる。【Step 1 病態に応じた薬剤選択】・非肥満(インスリン分泌不全を想定)DPP-4阻害薬、ビグアナイト薬、α-グルコシダーゼ阻害薬など・肥満(インスリン抵抗性を想定)ビグアナイト薬、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬など【Step 2 安全性への配慮】別表*に考慮すべき項目で赤に該当するものは避ける(例:低血糖リスクの高い高齢者にはSU薬、グリニド薬を避ける)【Step 3 Additional benefitsを考慮するべき併存疾患】・慢性腎臓病:SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬・腎不全:SGLT2阻害薬・心血管疾患:SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬【Step 4 考慮すべき患者背景】別表*の服薬継続率およびコストを参照に薬剤を選択(フォロー)・薬物療法開始後、およそ3ヵ月ごとに治療法の再評価と修正を検討する。・目標HbA1cを達成できなかった場合は、病態や合併症に沿った食事療法、運動療法、生活習慣改善を促すと同時に、Step1に立ち返り、薬剤の追加などを検討する。*別表 安全な血糖管理達成のための糖尿病治療薬の血糖降下作用・低血糖リスク・禁忌・服薬継続率・コストのまとめ―本邦における初回処方の頻度順の並びで比較―(本稿では省略)

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統合失調症患者のメタボリックシンドロームリスクに対する抗精神病薬の影響

 抗精神病薬が統合失調症患者のメタボリックシンドローム(MetS)発症に影響していることが、多くの研究で示唆されている。セルビア・クラグイェバツ大学のAleksandra Koricanac氏らは、抗精神病薬治療を受けている統合失調症患者におけるMetSの発症リスクおよび発症しやすい患者像を明らかにするため、検討を行った。その結果、リスペリドン治療患者およびクロザピン治療患者は、アリピプラゾール治療患者よりも、MetS発症リスクが高い可能性が示唆された。また、リスペリドン治療患者は、健康対照群と比較し、TNF-αとTGF-βの値に統計学的に有意な差が認められた。Frontiers in Psychiatry誌2022年7月25日号の報告。 安定期統合失調症患者60例を対象に、単剤使用の各抗精神病薬に応じて3群(リスペリドン群、クロザピン群、アリピプラゾール群)に分類した。また、健康な被験者20例を対照群とした。最初に、陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)を用いて評価し、その後プロラクチン値、脂質状態、血糖値、インスリン値、サイトカイン値(IL-33、TGF-β、TNF-α)、C反応性タンパク質(CRP)を測定した。BMI、HOMA指数、ウエスト/ヒップ比(WHR)、血圧も併せて測定した。 主な結果は以下のとおり。・リスペリドン群は、対照群およびアリピプラゾール群と比較し、プロラクチン値に有意な差が認められた。・クロザピン群は、対照群と比較し、HDLコレステロールおよびグルコースのレベルに有意な差が認められた。・アリピプラゾール群は、対照群と比較し、BMIの有意な差が認められた。・統計学的に有意な関連は、リスペリドン群ではTNF-αとグルコースおよびHOMA指数(IL-33とグルコース、TGF-βとグルコース)、クロザピン群ではTNF-αとBMI(IL-33とBMI、TGF-βとインスリンおよびHOMA指数)において認められた。・アリピプラゾール群のTGF-βとLDLコレステロールにおいて、統計学的に有意な負の関連が認められた。

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浴槽入浴が糖尿病患者の治療を後押し?

 湯に漬かる入浴(浴槽入浴)の頻度が高い糖尿病患者は、血糖コントロールの指標であるHbA1cが良好であるというデータが報告された。国立国際医療研究センター国府台病院糖尿病・内分泌代謝内科の勝山修行氏らの研究によるもので、詳細は「Cardiology Research」6月発行号に掲載された。HbA1c以外に体格指数(BMI)や拡張期血圧も、浴槽入浴の頻度が高い患者の方が良好だという。 サウナや浴槽入浴の頻度が、心血管イベント発生率と逆相関することが既に報告されている。ただし、これまでに国内で行われた研究は解析対象者数が少なく、また、心血管イベントの既知のリスク因子を網羅的に解析した研究は見られない。勝山氏らは、同院の外来糖尿病患者約1,300人を対象とする横断研究を実施し、この点を検討した。 2018年10月~2019年3月に同院を受診し、入浴の習慣に関するアンケートに回答した糖尿病患者のうち、2型以外の糖尿病、および必要なデータが欠落している患者を除外して、1,297人を解析対象とした。解析対象者の主な特徴は、平均年齢66.9±13.6歳、男性55%、BMI25.9±5.3、HbA1c7.17±1.14%で、冠動脈疾患の既往者が6.6%、脳卒中の既往者が5.5%含まれていた。また、99.9%は自宅に浴槽付きの風呂を有していた。なお、季節による入浴頻度への影響を抑えるため、アンケート実施期間を冬季に限定した。 浴槽入浴の頻度は週に平均4.2±2.7回で、1回当たりの入浴時間は16±14分だった。浴槽入浴の頻度は年齢と有意に正相関(高齢であるほど頻度が高い)していた(R=0.098、P<0.001)。反対に、HbA1c(R=-0.078、P=0.005)、BMI、(R=-0.104、P<0.001)、拡張期血圧(R=-0.118、P<0.001)とは有意な負の相関が認められた。収縮期血圧や血清脂質(コレステロール、中性脂肪)、および腎機能(eGFR)や肝機能(AST、ALT、γ-GT)の指標は、浴槽入浴との有意な相関がなかった。 浴槽入浴の頻度に基づき全体を3群(週に4回以上、1~3回、1回未満)に分類して比較検討した結果も同様に、浴槽入浴の頻度の高い群は、高齢で(P<0.001)、HbA1c(P=0.012)やBMI(P=0.025)、拡張期血圧(P=0.001)が低いという関係が認められた。一方、性別(女性の割合)や収縮期血圧、血清脂質、および腎機能の指標は、この3群間で有意差がなかった。また、心血管代謝関連の処方薬のうち、GLP-1受容体作動薬のみ、浴槽入浴の頻度が低い群で処方率が有意に高く(P=0.038)、その他の薬剤の処方率は有意差がなかった。 次に、入浴頻度との有意な関連が認められた、HbA1c、BMI、拡張期血圧について、それらを従属変数とする重回帰分析を行った。その結果、HbA1c(β=-0.078、P=0.020)、BMI(β=-0.074、P=0.012)、拡張期血圧(β=-0.110、P=0.006)、いずれに対しても、入浴頻度が独立した有意な関連因子として抽出された。 著者らは本研究の限界点として、横断研究であり因果関係は不明であること、入浴頻度の高い患者は身体活動量が多い可能性があることなどを挙げている。その上で、「われわれの研究結果は習慣的な浴槽入浴が、肥満、拡張期血圧および血糖コントロールを、わずかながら改善する可能性のあることを示唆している。浴槽に漬かるという温熱療法は、2型糖尿病患者の心血管疾患抑制のための補助的なオプションとなる可能性があるのではないか」と結論付けている。なお、既報文献を基にした考察から、浴槽入浴による効果発現のメカニズムとして、「体温上昇と血管拡張による血流や血管内皮機能の改善、一酸化窒素(NO)産生の増加、インスリン感受性の亢進などが考えられる」と述べている。

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クレアチニン/シスタチンC比で糖尿病患者の動脈硬化を評価可能

 血清クレアチニンとシスタチンCの比が、2型糖尿病患者の無症候性アテローム性動脈硬化の存在と有意な関連があるとする論文が報告された。松下記念病院糖尿病・内分泌内科の橋本善隆氏、京都府立医科大学大学院医学研究科内分泌・代謝内科の福井道明氏らの研究によるもので、詳細は「BMJ Open Diabetes Research & Care」に6月23日掲載された。 糖尿病が動脈硬化の強力なリスク因子であることは古くから知られており、心血管イベントの発症前に動脈硬化進展レベルを評価した上での適切な治療介入が求められる。一方、近年は高齢化を背景に、糖尿病患者のサルコペニアも増加している。サルコペニアの診断には歩行速度や骨格筋量の測定が必要だが、より簡便な代替指標として、血液検査値のみで評価可能な「サルコペニア指数(sarcopenia index;SI)」が提案されている。SIは、血清クレアチニンをシスタチンCで除して100を掛けた値であり、低値であるほどサルコペニアリスクが高いと判定される。またSIは、心血管イベントリスクと相関するとの報告がある。ただし、SIと動脈硬化進展レベルとの関連は明らかでない。 これを背景として橋本氏らは、京都府立医科大学などが外来糖尿病患者を対象に行っている前向きコホート研究「KAMOGAWA-DMコホート」のデータを用いて、SIによる糖尿病患者の無症候性アテローム性動脈硬化を検出可能か検討した。2016年11月~2017年12月に登録された患者から、データ欠落者、および動脈硬化性疾患〔虚血性心疾患、脳卒中、末梢動脈疾患(ABI0.9未満)〕や心不全、腎機能障害(血清クレアチニン2.0mg/dL超)の既往者などを除外した174人を解析対象とした。動脈硬化進展レベルは上腕-足首脈波伝播速度(baPWV)で評価した。 解析対象者は平均年齢66.9±10.1歳、男性56.3%、BMI23.5±3.5kg/m2、糖尿病罹病期間17.7±11.6年、HbA1c7.3±0.9%であり、血清クレアチニンは0.76±0.23mg/dL、シスタチンCは0.99±0.26mg/dLで、SIは77.6±15.8、baPWVは1,802±372cm/秒だった。baPWVが1,800cm/秒を超える場合を無症候性アテローム性動脈硬化と定義すると、43.7%が該当した。 相関を検討した結果、SIは男性(r=-0.25、P=0.001)、女性(r=-0.37、P=0.015)ともに、baPWVと有意な負の相関が認められた。性別を区別せずに全患者を対象としてROC解析を行ったところ、無症候性アテローム性動脈硬化の検出能は、AUC0.66(0.57〜0.74)であり、SIの最適なカットオフ値は77.4(感度0.72、特異度0.58)と計算された。 続いてロジスティック回帰分析にて、共変量(年齢、性別、BMI、喫煙・運動習慣、収縮期血圧、HbA1c、降圧薬・血糖降下薬・スタチンの使用)を調整後に、無症候性アテローム性動脈硬化の存在に独立して関連する因子を検討。その結果、年齢〔オッズ比(OR)1.19(95%信頼区間1.11~1.28)〕、収縮期血圧〔OR1.06(同1.03~1.09)〕が有意な正の関連因子として抽出され、反対にスタチン使用〔OR0.33(同0.13~0.86)〕とSI〔1上昇するごとにOR0.95(同0.91~0.99)〕が有意な負の関連因子として抽出された。性別や喫煙・運動習慣、HbA1cなどは有意でなかった。 以上より著者らは、「SIは2型糖尿病患者の無症候性アテローム性動脈硬化の存在と関連しており、患者のイベントリスク評価に有用と考えられる」とまとめている。両者の関連のメカニズムについては、サルコペニアと動脈硬化に、身体活動量の低下、酸化ストレス、炎症、インスリン抵抗性などの共通の病因が存在しているため、SI低下と動脈硬化が並行して進行する可能性を考察として述べている。その上で、「因果関係を明らかにするには、さらなる大規模な前向き研究が必要」と付け加えている。

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肝臓への脂肪蓄積は心不全リスクを増大させる

 肝臓に脂肪が蓄積する非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)と呼ばれる病態を抱えている人では、今後10年間での心不全リスクが上昇するというメタアナリシスの結果が発表された。ヴェローナ大学(イタリア)医学部のAlessandro Mantovani氏らによるこの研究の詳細は、「Gut」に7月25日掲載された。 Mantovani氏らによると、国を問わず、成人の約30%がNAFLDに罹患しているものと見積もられている。さらに悪いことに、過体重や肥満の増加に伴い、NAFLDの有病率は今後10年間で急増することが予想されているという。 今回のMantovani氏らの研究では、2022年3月までに発表された、米国、英国、韓国、スウェーデン、フィンランドの5カ国で実施された、総計1124万2,231人を対象にした11件の長期研究をレビューし、NAFLDと心不全発症との関連を検討した。対象者の平均年齢は55歳で50.1%が女性、平均BMIは26.4と、過体重だが肥満ではないとされる数値であった。また、対象者の26.2%(294万4,058人)は、すでにNAFLDを有していた。 中央値で10.0年に及ぶ観察期間中に、9万7,716人が心不全の診断を受けていた。解析の結果、年齢、性別、民族、体脂肪、糖尿病、高血圧、その他の一般的な心血管リスク因子の有無にかかわらず、NAFLDがあると、今後10年以内に心不全を新規発症するリスクが50%上昇することが明らかになった。さらに、心不全の発症リスクは肝疾患の重症度にも関連し、特に広範囲の肝線維症(肝組織の瘢痕化)があると、リスクは76%上昇していた。ただし、この所見は、11件の研究のうちの2件のみに基づくものであった。 研究グループは、今回の研究の限界として、「観察研究であるため、NAFLDと心不全発症との因果関係を明らかにできない」と述べている。その上で、心不全発症に関わる可能性があるメカニズムとして、NAFLDがインスリン抵抗性を悪化させ、プラーク形成を促進し、炎症性物質と血栓形成に関与する分子を放出することを指摘している。また、血糖値を下げる最新の糖尿病薬が心不全による入院リスクを低減させる可能性が示されていることにも言及し、この点からもNAFLDと心不全発症との関連に対する関心が高まりつつあると話す。 研究グループは、「今回の研究から得られた知見は、これまでに発表された研究結果に一致するものだ」と述べ、「NAFLDのある人は、慎重な経過観察が必要だ」と話している。

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栄養不良による糖尿病が世界で8千万人に達する可能性

 栄養不良に伴う糖尿病に関する、米アルバート・アインシュタイン医科大学のMeredith Hawkins氏らの研究報告が、「Diabetes Care」6月号に掲載された。同氏らは、「本研究は、このタイプの糖尿病は1型糖尿病や2型糖尿病などとは大きく異なる独自の代謝特性を示すことを明らかにした初の報告であり、治療法の開発における重要な知見と言える。栄養不良に関連する糖尿病のさらなる研究が求められる」と述べている。 栄養不良に伴う糖尿病は約70年前に初めて報告され、1985年には世界保健機関(WHO)が「栄養不良関連糖尿病(malnutrition-related diabetes mellitus)」と命名し、糖尿病の病型の一つとして位置付けた。しかしその後、栄養不良が糖代謝異常の原因であるとする十分なエビデンスが集まらないことから1999年、WHOはこのカテゴリーを削除し今日に至っている。しかし1999年以降も食料事情の良くない国々からは、栄養不良に伴う糖尿病の存在を支持する疫学データの報告が続いている。 Hawkins氏らは過去12年間にわたり、栄養不良に伴う糖尿病の研究を続けてきた。同氏によると、このタイプの糖尿病の患者の多くは痩せた貧しい十代の青年や若年成人であり、診断から1年以上生存することはほとんどないという。通常、インスリン注射は無効で、かえって低血糖による死亡を引き起こす可能性さえあるとのことだ。 「栄養不良に伴う糖尿病は、世界中の60以上の低中所得国に存在している。その一方、高所得国ではめったに見られない。低中所得国の医師も高所得国で編集された医学誌から情報を得ているため、このタイプの糖尿病について学ぶことができず、目の前に患者が現れても、この疾患の可能性を疑うことができない」と、大学発のリリースの中で同氏は語っている。そして、「われわれの発見がこの病気への認識を高め、効果的な治療法の開発への道を開くことを願っている」と述べている。 Hawkins氏らの研究はインドで行われた。栄養不良に伴う糖尿病のリスクが高いと考えられる19〜45歳のインド人男性の糖代謝を、1型・2型糖尿病の患者群、および糖代謝が正常な対照群と比較した。なお、栄養不良に伴う糖尿病の患者は約85%が男性で占められているため、本研究は男性のみを対象とした。糖代謝の評価には最新の検査技術を用い、インスリン分泌能、肝臓および末梢のインスリン感受性を測定したほか、肝臓や筋肉の脂肪含有量なども評価した。 その結果、栄養不良に伴う糖尿病の患者は、2型糖尿病と比較してインスリン分泌能が低く、内因性グルコース産生が少なく、グルコースの取り込みは多いといった特徴が見られた。論文の結論は、「栄養不良に伴う糖尿病は、1型および2型糖尿病とは代謝的に明確に異なり、別のタイプの糖尿病と見なされるべきである」とまとめられている。 Hawkins氏によると、「現在、世界中の成人の10人に1人が糖尿病に罹患しており、その約4分の3に当たる4億人程度が低中所得国に住んでいる。それらの国々からの研究報告に基づけば、低中所得国の糖尿病患者の約20%は栄養不良が関連していると考えられる」とのことだ。同氏は、「これはつまり、世界中で約8000万人の糖尿病患者が、栄養不良の影響を受けている可能性があることを意味する」と推測。そして、「他の疾患の患者数に目を向けると、例えば現在HIV/AIDSとともに生きている人は3800万人と推定されている。その数値との比較からも、われわれが栄養不良に伴う糖尿病とその治療法について、もっと多くを学ぶ必要があることは明らかだ」と付け加えている。

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1型糖尿病にSGLT2阻害薬を使用する際の注意点/日本糖尿病学会

 日本糖尿病学会(理事長:植木 浩二郎)は、2014年に策定された「SGLT2阻害薬の適正使用に関する Recommendation」を改訂し、2022年7月26日に公開した。改訂は7度目となる。 今回の改訂は、2022年4月よりSGLT2阻害薬服用中の1型糖尿病患者の在宅での血中ケトン体自己測定が可能となったことに鑑み、これらの情報をさらに広く共有することにより、副作用や有害事象が可能な限り防止され、適正使用が推進されることを目的としている。 具体的には、【ケトアシドーシス】の項で「SGLT2阻害薬使用中の1型糖尿病患者には、可能な限り血中ケトン体測定紙を処方し、全身倦怠感・悪心嘔吐・腹痛などの症状からケトアシドーシスが疑われる場合は、在宅で血中ケトン体を測定し、専門医の受診など適正な対応を行うよう指導する」という文言が追加された。1型糖尿病患者のSGLT2阻害薬使用はケトアシドーシスが増加していることに留意1)1型糖尿病患者のSGLT2阻害薬使用には一定のリスクが伴うことを十分に認識すべきであり、使用する場合は、十分に臨床経験を積んだ専門医の指導のもと、患者自身が適切かつ積極的にインスリン治療に取り組んでおり、それでも血糖コントロールが不十分な場合にのみ使用を検討すべきである。2)インスリンやSU薬などインスリン分泌促進薬と併用する場合には、低血糖に十分留意して、それらの用量を減じる(方法については下記参照)。患者にも低血糖に関する教育を十分行うこと。3)75歳以上の高齢者あるいは65歳から74歳で老年症候群(サルコペニア、認知機能低下、ADL低下など)のある場合には慎重に投与する。4)脱水防止について患者への説明も含めて十分に対策を講じること。利尿薬の併用の場合には特に脱水に注意する。5)発熱・下痢・嘔吐などがあるときないしは食思不振で食事が十分摂れないような場合(シックデイ)には必ず休薬する。また、手術が予定されている場合には、術前3日前から休薬し、食事が十分摂取できるようになってから再開する。6)全身倦怠・悪心嘔吐・腹痛などを伴う場合には、血糖値が正常に近くてもケトアシドーシス(euglycemic ketoacidosis:正常血糖ケトアシドーシス)の可能性があるので、血中ケトン体(即時にできない場合は尿ケトン体)を確認するとともに専門医にコンサルテーションすること。特に1型糖尿病患者のSGLT2阻害薬使用では、インスリンポンプ使用者やインスリンの中止や過度の減量によりケトアシドーシスが増加していることに留意すべきである。7)本剤投与後、薬疹を疑わせる紅斑などの皮膚症状が認められた場合には速やかに投与を中止し、皮膚科にコンサルテーションすること。また、外陰部と会陰部の壊死性筋膜炎(フルニエ壊疽)を疑わせる症状にも注意を払うこと。さらに、必ず副作用報告を行うこと。8)尿路感染・性器感染については、適宜問診・検査を行って、発見に努めること。問診では質問紙の活用も推奨される。発見時には、泌尿器科、婦人科にコンサルテーションすること。

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オープンソース開発の自動インスリン伝達システムが血糖管理を改善

 オープンソースで開発された自動インスリン伝達システムは、1型糖尿病患者の血糖管理に有効で安全とする研究結果が、米国糖尿病学会(ADA2022、6月3~7日、ニューオーリンズ)で6月6日報告された。オタゴ大学(ニュージーランド)のMartin de Bock氏らの研究によるもの。 自動インスリン伝達(automated insulin delivery;AID)システムは、インスリン製剤を注入するためのポンプ、持続血糖モニター(continuous glucose monitor;CGM)、および、血糖レベルを設定範囲に維持するために必要なインスリン製剤の投与量を判断するアルゴリズムからなるシステム。現在臨床で使われているAIDシステムは、メーカーが開発・販売した商用システムが多くを占めているが、商用AIDシステムの臨床応用に先行して、糖尿病患者らがプログラムを公開・共有し修正を重ねてきた、オープンソースAIDシステムが存在する。このオープンソースAIDシステムは世界各地で使用されているものの、米食品医薬品局(FDA)の承認は受けていない。 Bock氏らは、現在最も広く使用されているオープンソースAIDシステムの有効性と安全性を、CGMを利用しながらインスリン注入ポンプを使うSAP(sensor augmented pump)療法という治療法と比較検討した。なお、SAP療法ではインスリン投与量を予めプログラムしておき、CGMの値を基に使用者の判断でマニュアル調整を加える。 この研究は、多施設共同無作為化比較試験として実施された。研究参加者は、AIDシステムの使用経験がほとんどない1型糖尿病の小児(7〜15歳)48人、および成人(16〜70歳)49人。介入の初期はシステムの使い方に慣れるための期間として設定し、介入の最後の2週間に、血糖値が70~180mg/dLの範囲内にある時間の割合(time in range;TIR)を評価して群間差を検討した。 解析の結果、オープンソースAID群の評価期間(介入終了前の2週間)のTIRは、小児は67.5±11.5%(習熟期間から9.9±14.9ポイント増)、成人では74.5±11.9%(同9.6±11.8ポイント増)であり、有意な改善が認められた(いずれもP<0.001)。一方、SAP群のTIRは改善が見られなかった。両群の評価期間のTIRには、14ポイントの差が存在していた。 一般的に、TIRは70%を超えることが良好な血糖コントロールの目安とされている。オープンソースAID群では、その患者割合が60%だったが、SAP群は15%に過ぎなかった。重症低血糖や糖尿病性ケトアシドーシスは、両群ともに発生しなかった。なお、ハードウェアの問題のため、オープンソースAID群の2人が介入中に脱落した。 Bock氏はADA発のリリースの中で、「この結果は、オープンソースAIDシステムが安全で効果的な技術であり、血糖管理改善のための本システム使用を支持するエビデンスが、また一つ加わった」と述べている。これまでオープンソースAIDシステムの開発を主導してきた研究者で、共同発表者の1人であるDana Lewis氏は、「介入時のTIRが最も低い患者でより顕著なTIR改善が認められたことに、われわれは勇気付けられた。現在どのような治療を行っているのかにかかわらず、多くの糖尿病患者にとってオープンソースAIDシステムの使用はメリットとなるだろう」と語っている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものとみなされる。

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加糖飲料が女性の肝臓がんを増やす?

 ソーダなどの加糖飲料が、女性の肝臓がん発症リスクを高める可能性があるとする研究結果が、米国栄養学会議(ASN)の年次学術集会(NUTRITION 2022、6月14~16日、オンライン開催)で報告された。閉経後の女性9万人以上を対象とする研究から、加糖飲料の摂取頻度が1日に1回以上の人は、1カ月に3回未満の人と比べて、肝臓がんの発症が7割以上多いという結果が得られたという。 発表者の1人である米ハーバードT. H.チャン公衆衛生大学院のXuehong Zhang氏は、「われわれの研究結果が今後の研究でも追認された場合、肝臓がんによる疾病負担の抑制に、加糖飲料の摂取量を減らす公衆衛生戦略を推進すべきと言って良いのではないか」と語っている。ただし同氏らは、本研究では加糖飲料が肝臓がん発症の原因であるとの結論を導くことはできず、両者の間に関連がある可能性が示されたにとどまることを強調している。 この研究は、閉経後の女性の健康状態を長期間追跡している「女性の健康イニシアチブ(WHI)研究」のデータを用いて行われた。1990年代半ばに研究参加登録された50~79歳の閉経後女性9万504人を中央値18年間追跡し、肝臓がんの新規発症リスクを調査した。参加登録時に行った加糖飲料の摂取量に関するアンケートから、全体の約7%が1日に12オンス(約340g)の加糖飲料を1杯以上飲んでいた。 追跡期間中に、205人が肝臓がんを発症した。加糖飲料を1日に1杯以上飲むと回答していた人は、加糖飲料を全く飲まないか月に3杯未満と回答していた人に比べ、肝臓がんの発症が73%多かった。研究者らは、加糖飲料は肝臓がんの危険因子である肥満と2型糖尿病のリスクを高める可能性があると指摘している。さらに、インスリン感受性の低下や肝臓への脂肪蓄積にもつながり、それらはいずれも肝臓にダメージを与えるという。 Zhang氏は本研究の限界点についても述べている。具体的には、「このような観察研究では、加糖飲料の摂取が、肝臓がん罹患率上昇の原因なのか、または肝臓がんリスクを高める不健康なライフスタイルのマーカーに過ぎないのかを判定することができない。われわれの研究結果は慎重な解釈が求められ、今後の研究による追試が必要だ」としている。また、WHI研究の参加者は閉経後女性のみであるため、男性や閉経前女性の加糖飲料摂取の影響は依然不明だ。 米国がん協会(ACS)の患者会活動部門のトップを務めるArif Kamal氏は、「本報告は加糖飲料の健康リスクを検討した最新の研究結果であり、肝臓がんとの潜在的な関係を示唆しており興味深い」と評価。その上で、「加糖飲料摂取と肝臓がんリスクとの関連が肥満によって媒介されるのか、もしくはBMIの変化とは独立しているのかを確認するためのさらなる研究が必要」と指摘している。 また、米ニューヨーク大学(NYU)ランゴン・ヘルスのSamantha Heller氏は、「1日に12オンスの加糖飲料を1杯以上飲むという習慣と、1カ月に3杯飲むこととの間には大きなギャップがある。前者のようなライフスタイルの人には、果物・野菜、食物繊維の摂取量が少なく、肉類やジャンクフード、ファストフードの摂取量が多く、運動量が少ない人が多いのではないだろうか」との疑問を投げかけている。 Heller氏は、「ソーダやそのほかの加糖飲料の過剰摂取は、肥満や肥満に関連する慢性疾患の一因でもある」と語る。米国では2003~2018年にかけて、加糖飲料の消費量が着実に減少してきたが、全体的な消費量は依然として高いままだ。Heller氏によると、「飲料メーカーの広告戦略が、一般市民のそのような消費行動を刺激している」とのことだ。同氏は、加糖飲料に替えて、「水や炭酸水、お茶、ハーブティー、もしくは果汁100%ジュースを飲むと良い」とアドバイスしている。 なお、学会発表された研究は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものとみなされる。

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ヘルペスウイルスが2型糖尿病のリスクを高める?

 性器ヘルペスウイルスを含む、ごく一般的なウイルスの感染が、2型糖尿病のリスクを押し上げる可能性を示す研究結果が報告された。ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン(ドイツ)のAnnette Peters氏らの研究によるもので、詳細は「Diabetologia」に5月11日掲載された。 2型糖尿病の高い有病率の背景には、高齢者人口の増大と肥満の二つが主要因子として挙げられる。これに加えて新たな研究では、二つのヘルペスウイルス(単純ヘルペス2型とサイトメガロウイルス)が、2型糖尿病のリスクを高める可能性があることを示している。単純ヘルペス2型(HSV-2)は性器ヘルペスを引き起こす。一方、サイトメガロウイルス(CMV)は感染しても通常、症状が現れない。ただし、新生児や免疫能が著しく低下している人には、深刻な感染症を引き起こすことがある。感染症を発症しない場合でも、ウイルスは体内にとどまり休眠状態で維持される。 本研究から、HSV-2またはCMVに対する抗体が陽性と判定された成人は、その後7年弱で糖尿病前症になる可能性が高いことが分かった。糖尿病前症とは、血糖値が正常よりも高い状態のことであり、2型糖尿病のハイリスク状態に当たる。糖尿病前症のリスク因子としては、加齢、肥満、運動不足、糖尿病の家族歴などがある。しかし今回の研究では、それらの因子の影響を統計的に調整後も、抗体が陽性であることと糖尿病前症のリスクの高さとの間に有意な関連が認められた。 ウイルスへの感染そのものが血糖状態に影響を与えると考えた場合、それには免疫系の異常が関与している可能性があると、研究者らは推測している。免疫系の異常により内分泌系が乱れて、血糖値の制御が困難になるのだという。ただし、まだ十分には証明されていない。Peters氏は、「ヘルペスウイルスと糖尿病前症の関連について、免疫系以外の経路が関与している可能性もある」と述べている。 一方、米ジョスリン糖尿病センターのGeorge King氏は、「ウイルス感染が糖尿病発症に関与する可能性があるという考え方は、目新しいものではない」と語る。事実、その関連は長年にわたって研究されてきた。ただしその研究は主として、1型糖尿病に焦点を当てたものだった。1型糖尿病は自己免疫疾患であり、インスリン産生細胞に対する免疫系の異常な攻撃によって発症する。それに対して2型糖尿病の発症には加齢や生活習慣が関与しており、有病率もはるかに高い。 King氏は、「ある種のウイルス感染が2型糖尿病の発症にも寄与するというアイデアは興味深い」と語る。しかし同時に、「2型糖尿病の発症には非常に多くの因子が関与している。約700種類の遺伝子がこの病気に関係しており、それらの一つ一つがわずかずつ影響を及ぼしている」と説明する。つまり同氏は、他のリスク因子の影響を除外して、ヘルペスウイルスのみの影響を評価することの難しさを指摘している。そして、「おそらくその影響は小さなものだろう」と語っている。 Peters氏らの研究の参加者は、血糖値が正常な32~81歳(中央値49)の成人1,257人。CMVに対する抗体陽性者が46%、HSV2に対する抗体陽性者が11%含まれていた。6.5年の追跡で381人(30.3%)が糖尿病前症となった。 糖代謝に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、BMI、教育歴、喫煙・身体活動習慣、家族歴、血圧、血清脂質、インスリン抵抗性、空腹時血糖値)を調整後、糖尿病前症となるリスクがHSV-2に対する抗体陽性者は59%高く〔オッズ比(OR)1.59(95%信頼区間1.01~2.48)〕、CMVに対する抗体陽性者は33%高かった〔OR1.33(同1.002~1.78)〕。 この結果についてKing氏は、調整因子に食習慣が含まれていないことを指摘している。同氏によると、食習慣は腸内細菌叢に大きな影響を与え、ひいては免疫能にも関与し、それらを介して2型糖尿病のリスクを大きく変えるという。他方、Peters氏は現在、新型コロナウイルス感染症罹患と慢性疾患の発症や増悪との関連に関する研究が精力的に進められていることを引き合いに出し、「ヘルペスウイルス感染後の体内で何が起こっているのかを理解するため、さらなる研究が必要とされる」と述べている。

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活性型ビタミンD3は耐糖能異常患者の2型糖尿病発症を予防しない(解説:住谷哲氏)

 後ろ向きの観察研究で有効性が示唆されたが、前向きのランダム化比較試験で有効性が否定されることは少なくない。ビタミンD3物語もその1つだろう。がん、心血管病、認知症などの発症を予防できるのではないかと期待されたが、残念ながら現時点でビタミンD3がこれらの疾患の発症を予防するエビデンスは存在しない。今回、新たにその物語に追加されたのが2型糖尿病発症予防効果である。 わが国で多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験を実施することはかなりの困難があると思われる。2型糖尿病発症予防における活性型ビタミンD3エルデカルシトールの有効性を検証した本試験は、結果は否定的であったが、その点で貴重な報告と思われる。 ビタミンD3の2型糖尿病発症予防効果を検証した試験としては、既にD2d試験の結果が報告されている1)。天然型ビタミンD3を用いたこの試験においても、ビタミンD3の2型糖尿病発症予防効果は認められなかった。この研究におけるサブグループ解析では、ビタミンD3欠乏症のグループ(血清ビタミンD3<12ng/mL)では、2型糖尿病発症のハザード比[HR]は0.38(95%信頼区間[CI]:0.18~0.80)であり有効である可能性が示唆されていた。したがって次のステップとしては、ビタミンD3欠乏症を有する耐糖能異常患者を対象としたRCTを実施したほうがよかったかもしれない。しかし本試験とD2d試験はほぼ同時進行で実施されており、本試験で患者の組み込み基準に血清ビタミンD3が入っていないのは無理からぬことと思われる。しかし本試験で、多変量分数多項式Cox回帰分析を用いた事後解析で有効性が示唆されたのは、組み込み時の血清ビタミンD3低値ではなく、基礎インスリン分泌量低値であった。したがってこの結果が正しいとすると、インスリン分泌能の低下した耐糖能異常患者においてはビタミンD3が2型糖尿病発症予防効果を有する可能性もある。しかし、これもそのような患者を対象としたRCTの結果が出るまでは仮説にとどままるだろう。 本試験においてもエルデカルシトールの投与により腰椎と大腿骨頸部の骨密度および血清オステオカルシン濃度が有意に上昇した。現時点ではビタミンD3には骨密度増加作用のみを期待するのが妥当と思われる。

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糖尿病患者の便秘が冠動脈疾患に独立して関連―江戸川病院

 2型糖尿病患者の便秘が、冠動脈疾患と独立した関連のあることが報告された。江戸川病院糖尿病・代謝・腎臓内科の伊藤裕之氏らの研究結果であり、詳細は「Internal Medicine」に5月1日掲載された。 糖尿病患者は合併症の自律神経障害などの影響のために、便秘になりやすいことが知られている。ただし、糖尿病の有無にかかわらず便秘はありふれた症状であり、治療を受けていない患者が多く、疫学的な調査があまり行われていない。最近まで便秘の統一された診断基準がなかったことも、疫学データが少ない一因と考えられる。これらを背景として伊藤氏らは、同院の2型糖尿病患者を対象に便秘の有病率や関連因子を検討した。 対象は2019年8~9月に同院糖尿病外来を受診し、調査協力に同意した2型糖尿病患者410人。抗がん剤治療や緩和ケアを受けている患者、消化器がんの手術が予定されている患者、および炎症性腸疾患や認知症のある患者は除外されている。なお、消化器がんに対する内視鏡的粘膜切除術の既往者は対象に含まれている。対象者の主な特徴は、平均年齢66±12歳、女性42%、BMI25.8±4.4kg/m2、糖尿病罹病期間14±10年、HbA1c7.3±1.0%、インスリン療法27%、糖尿病性神経障害38%、冠動脈疾患13%など。 便秘の有病率は患者自身の判断と、「慢性便秘症診療ガイドライン2017」の定義に基づく診断の2通りで検討した。前者の自己判断による便秘の有病率は29%だった。ただし、便秘を医師に相談したことのある患者は14%に過ぎず、症状のある患者の半数未満だった。 ガイドラインに基づく診断では26%が慢性便秘に該当し、これに「普段から下剤を使用している」と回答した患者を加えると、有病率は36%(146人)になった。なお、自己判断で「便秘でない」と回答した患者の中にも、慢性便秘の診断基準を満たす患者が8%存在した。一方、自己判断で「便秘である」と回答した患者の32%は、診断基準を満たしていなかった。 便秘のある群は便秘でない群(264人)に比べて、高齢で女性が多く、糖尿病罹病期間が長く、それぞれ有意差が存在した。また、インスリンやスタチンが処方されている患者が多く、糖尿病性神経障害や冠動脈疾患の有病率が高いという有意差が見られた。一方、BMIは便秘のある群の方が有意に低値だった。HbA1cは有意差がなかった。 多変量ロジスティック回帰分析の結果、冠動脈疾患は便秘に独立して関連していることが明らかになった〔オッズ比(OR)2.00(95%信頼区間1.14~3.52)〕。冠動脈疾患以外の関連因子としては、インスリン療法〔OR1.80(同1.11~2.94)〕、女性〔OR1.73(同1.09~2.37)〕、糖尿病性神経障害〔OR1.60(同1.01~2.52)〕が抽出された。反対にBMIとは負の関連が認められた〔OR0.94(同0.89~1.00)〕。 糖尿病患者は冠動脈疾患のリスクが高い。今回の研究で、糖尿病患者の冠動脈疾患と便秘との間に有意な関連のあることが明らかになった。著者らは、「便秘は有病率の高い症状であるため、日常診療で注意が払われることが少ない。しかし、冠動脈疾患のリスク評価のために、糖尿病患者の便秘を積極的に診断することが望ましい」と結論付けている。

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オメガ3脂肪酸がニキビに効く?

 米国には5000万人のニキビ患者がいるとされる。人によってはニキビを恥ずかしいと感じたり、ときには痛みの症状を伴うことがある。このようなニキビに対する新たな治療法につながる研究結果が、欧州皮膚科学・性病学アカデミー(EADV)春季シンポジウム(5月12~14日、スロベニア・リュブリャナ)で発表された。この新しい治療法には、副作用の懸念がないという。 ルートヴィヒ・マクシミリアン大学(ドイツ)のAnne Gurtler氏らは、ニキビ患者100人を対象に血液中の栄養関連指標を検討。その結果、患者の約94%は、魚油やナッツ類に豊富に含まれている脂肪酸であるオメガ3脂肪酸(ω3FA)のレベルが、推奨される値よりも低いことが明らかになった。また、ニキビの生成を刺激することが知られている、インスリン様成長因子-1(IGF-1)のレベルが高かった。 本研究には関与していない、米国アーカンソー州の皮膚科医であるSandra Johnson氏はこの研究発表について、「非常に興味深い報告だ。われわれはニキビに有効な治療法を既に手にしているが、それらはコストがかかり、潜在的な副作用のリスクを伴う。それに対して食事療法は、より自然でリスクが少なくコストもかからない」と評価する。 Gurtler氏らの研究では、大半のニキビ患者のω3FAレベルが推奨される値を8~11%下回っていた。一方、ω3FAレベルが高い人は普段、ひまわり油を控え、ひよこ豆やレンズ豆を習慣的に食べていた。ひまわり油の過剰摂取はニキビを悪化させることが、過去の研究で示されている。Gurtler氏によると、ω3FAは抗炎症作用のあるプロスタグランジンE1やE3、およびロイコトリエンB5の生成を刺激し、IGF-1のレベルを下げることによって炎症を軽減するという。 IGF-1は、ニキビを誘発することが知られている。Gurtler氏らの研究からは、ω3FAレベルが低い患者は、IGF-1のレベルが高いことも示された。またω3FAレベルが極めて低い一部の患者は、IGF-1レベルが特に高かった。これらの研究結果を基に同氏は、「臨床医は、ニキビ治療の最新のアプローチの一つとして、食事の選択に関する情報を患者に提供する必要がある」と述べている。 なお、Johnson氏によると、ニキビに対する食事の影響はこれまでにも長年調査されてきたという。しかし、このテーマの研究には資金が十分集まらず、質の高い研究が少なかったとのことだ。本研究でニキビとの関連が示されたω3FAのほかには、グリセミック指数の高い食品、肥育ホルモンが使われている食肉、乳製品などについて、ニキビリスクを高める可能性を示唆する研究報告があるという。 米国ニューヨーク市の皮膚科医であるDebra Jaliman氏は、「ニキビの治療に際しては、患者が使っているスキンケア用品とともに、食事の好みについても把握するようにしている」と話す。Jaliman氏も本研究には関与していない。同氏は、「ω3FAはわれわれの食事において非常に重要な栄養素であり、多くの健康上のメリットと関連がある。今回の発表は観察研究のため、食事以外の因子が結果に関与している可能性もあるが、実際にω3FAには効果があるのではないか」と語っている。 ただ、研究者らは、血液中のω3FAレベルが低いニキビ患者にはω3FAサプリメントが有効と判断するのは、時期尚早であるとする。有効性を確かめる介入試験がまず必要とされる。またJohnson氏は、「ω3FAの潜在的な副作用リスクと、最適な投与量を確認する必要がある」と指摘している。Jaliman氏も「よりサンプル数の大きい研究が必要だ」と語る。ただ、同氏は「ω3FAサプリではなく、ω3FA含有量の高い食品を積極的に食べたとしても、それによる有害事象の心配はない」と話している。 なお、学会発表された研究は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものとみなされる。

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