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初潮発来が早いと糖尿病リスクが高い

 より低年齢の時期に月経が始まった女性は、成人後の2型糖尿病リスク、および2型糖尿病に伴う65歳以前の脳卒中リスクが高くなる可能性を示すデータが報告された。米チューレーン大学のSylvia Ley氏らの研究によるもので、詳細は「BMJ Nutrition Prevention & Health」に12月5日掲載された。 これまでにも初潮発来(初めての月経)の早さが肥満や2型糖尿病、心血管疾患のリスクの高さと関連のあることが報告されてきているが、それらの研究は閉経後の女性のみを対象にしているなど、解釈上の限界点があった。そこでLey氏らは、1999~2018年の米国国民健康栄養調査(NHANES)のデータを用いて、20~65歳という幅広い年齢の女性を対象として、初潮年齢と2型糖尿病や心血管疾患(CVD)のリスクとの関係を検討した。 解析対象数は1万7,377人。糖尿病やCVDのリスクに影響を及ぼし得ることを考慮して、がん既往歴のある女性は除外されている。初潮年齢は自己申告に基づき、10歳以下、11歳、12歳、13歳、14歳、15歳以上に分類した。対象全体の10.2%に当たる1,773人が、2型糖尿病であることを報告した。年齢、人種/民族、BMI、喫煙・飲酒・運動習慣、糖尿病家族歴、教育歴、出産歴、閉経前/後、ホルモン補充療法の施行の影響を調整後に、初潮年齢が13歳だった人を基準として2型糖尿病発症リスクを比較。すると、初潮発来が早かった女性ほど2型糖尿病発症リスクが高いという関連のあることが明らかになった(傾向性P=0.03)。 次に、糖尿病患者におけるCVDリスクと初潮年齢との関連を検討。前記と同様の手法による解析の結果、CVD全体では初潮年齢との有意な関連は認められなかった(傾向性P=0.09)。ただし、CVDを冠動脈心疾患(CHD)と脳卒中に分けて解析すると、脳卒中については初潮発来が早いほどそのリスクが高いという有意な関連が認められた(傾向性P=0.02)。特に初潮年齢が10歳以下だった2型糖尿病患者では、13歳に初潮発来のあった2型糖尿病患者に比べて、65歳以前での脳卒中発症のオッズ比(OR)が2倍を超えていた〔OR2.66(95%信頼区間1.07~6.64)〕。CHDの発症に関しては、初潮年齢との関連が見られなかった(傾向性P=0.51)。 なぜ、初潮発来が早いと2型糖尿病やそれに伴う脳卒中のリスクが高いのだろうか。研究グループでは、ジャーナル発のリリースの中で、「本研究は横断研究であって、関連のメカニズムについては特定できない」としながらも、「人生のより早い時期に月経が始まった女性は、より長期間にわたりエストロゲン(女性ホルモン)に曝露されることが関係している可能性もあるのではないか」との推測を記している。また論文中に既報研究からの考察として述べられているところによると、エストロゲンの一種のエストラジオールは、インスリン受容体の切断を誘導してインスリンシグナル伝達を阻害するという、潜在的な作用を持つ可能性があるとのことだ。

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第178回 COVID-19の後遺症、倦怠感が最多、女性に多く発症

<先週の動き>1.COVID-19の後遺症、倦怠感が最多、女性に多く発症2.大学病院勤務医の教育・研究の「研鑽」は労働時間と通知/厚労省3.保険医療機関に対する指導・監査、不正請求で19.7億円返還/厚労省4.救急車の過剰利用に対策、非入院患者に7,700円徴収開始/松坂市5.脳神経外科の不適切な手術記録や説明不十分な日赤病院に対して改善指示/京都市6.糖尿病を見落とし患者死亡、神戸徳洲会病院に改善命令/神戸市1.新型コロナウイルス感染症の後遺症、倦怠感が最多、女性に多く発症新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染者が国内で初めて確認されてから4年が経過し、ウイルス感染後の後遺症が重要な課題となっている。世界保健機関(WHO)は「症状が少なくとも2ヵ月以上続き、ほかの病気の症状として説明がつかないもの」と定義し、通常はCOVID-19発症から「3ヵ月たった時点にもみられるもの」とされている。後遺症には疲労感、呼吸困難、集中力の低下など200以上のさまざまな症状が報告されており、北野病院の調査によると、後遺症患者のうち女性は68.8%で、男性は31.2%と女性が多かった。とくに働き盛りの年代で発症しやすい傾向があることが判明している。後遺症の原因としては、持続感染、免疫機能の異常、腸の具合の悪化などが指摘されている。また、後遺症の患者の約7割が女性であり、主な症状には倦怠感が最も多いことがわかってきた。後遺症のメカニズムについて、免疫機能に関わる物質の変化や、コルチゾールの減少、リンパ球の増加、ヘルペスウイルスの再活性化などが関連していることが示されている。ただ、後遺症の予防には、ワクチン接種が有効であり、ワクチン接種によって後遺症の発症を抑える効果があることが報告されている。一方で、治療法はまだ確立されておらず、対症療法が主になっている状況。後遺症の患者支援に、時短勤務や産業医の支援などが必要とされている。参考1)新型コロナ 国内で初確認から4年 感染と後遺症への対策が課題(NHK)2)多様なコロナ後遺症 国内発生4年 不明だった実態、徐々に明らかに(朝日新聞)3)コロナ後遺症、発症者の7割が女性 倦怠感が最多 民間病院調査(毎日新聞)4)働き盛りの女性がコロナ後遺症になりやすく 予防するには?(同)2.大学病院勤務医の教育・研究の「研鑽」は労働時間と通知/厚労省厚生労働省は、1月15日に「大学病院に勤務する医師の教育・研究活動に関連する「研鑽」を労働時間に含めるべき」とする通知を改正した。これは、医師の働き方改革の一環として行われたもので、2024年4月から勤務医の時間外労働に上限が設けられることに伴う措置。改正された通知では、大学病院勤務医の教育・研究活動が本来の業務に含まれることを明示し、これに関連する研鑽も労働時間に該当するとされた。具体的には、医学部生への講義、試験問題の作成・採点、学生の論文指導、入学試験や国家試験に関する事務などが含まれる。この改正は、教育・研究活動が自己研鑽として扱われることによる時間外労働の問題を解決するためのもので、医師と上司間のコミュニケーションを重視し、正しい理解を促すことを目的としている。参考1)医師等の宿日直許可基準及び医師の研鑽に係る労働時間に関する考え方についての運用に当たっての留意事項について」の一部改正について(厚労省)2)医師等の宿日直許可基準及び医師の研鑽に係る労働時間に関する考え方についての運用に当たっての留意事項について」の一部改正について 新旧対照表(同)3)大学病院勤務医、教育・研究の「研鑽」は労働に該当 厚労省が明示(朝日新聞)3.保険医療機関に対する指導・監査、不正請求で19.7億円返還/厚労省厚生労働省は、2022年度の保険医療機関と薬局に対する指導・監査の結果、不正請求などで保険指定が取り消された施設は計18件(取り消し相当を含む)であったことを明らかにした。厚労省の指導・監査によって、医療機関や薬局からの返還総額は約19.7億円となり、コロナ感染拡大の影響もあり前年度からは約28.7億円減少していた。取り消し処分を受けた施設の内訳は、医科7件、歯科9件、薬局2件で、医療保険者や医療機関の従事者からの通報・情報提供が処分のきっかけとなったケースが多かった。また、保険医や保険薬剤師の登録取り消しは計14人に上った。不正請求の内容は架空請求、付増請求、振替請求など多岐にわたり、監査は診療内容や診療報酬の請求に不正やいちじるしい不当が疑われる場合に実施された。指導・監査の実施件数は、個別指導が1,505件、新規個別指導が6,742件、適時調査が2,303件、監査が52件となっている。参考1)令和4年度における保険医療機関等の指導・監査等の実施状況について(厚労省)2)保険医療機関・薬局の指定取消計18件 22年度、返還19.7億円(CB news)3)不正請求等で18件・14人の医師等が保険指定取り消し等の処分、診療報酬20億円弱を返還-2022年度指導・監査(Gem Med)4.救急車の過剰利用に対策、非入院患者に7,700円徴収開始/松坂市三重県松阪市は、2024年6月1日から、市内の3つの基幹病院(松阪中央総合病院、済生会松阪総合病院、松阪市民病院)に救急搬送されたが入院に至らなかった患者に対し、保険適用外の「選定療養費」として1件あたり7,700円(税込み)を徴収することを発表した。この措置は、救急車の過剰利用に歯止めをかけるために行われる。松坂市の救急車の出動件数は、2023年に過去最多の1万6,180件に達し、市は現行の医療体制が限界に近付いていると判断した。この新しい制度は、軽症者に救急車以外の選択肢を促し、医療従事者の負担軽減と緊急患者への適切な医療提供を目指している。ただし、紹介状を持参した患者や公費負担医療制度の対象者、医師の判断で必要とされる場合は徴収対象外とされる。参考1)6月から1件7,700円を徴収 救急車“便利使い”歯止め 三重・松阪市(夕刊三重)2)救急車はもはや“有料化”すべき? 出動件数「過去最高」というハードな現実、賛否渦巻くワケとは(Merkmal)3)三重・松坂の救急搬送、入院しなかったら「7,700円」徴収へ…出動急増で「助かる命が助からない」(読売新聞)5.脳神経外科の不適切な手術記録や説明不十分な日赤病院に対して改善指示/京都市京都市の京都第一赤十字病院の脳神経外科で、手術の説明や記録が不十分だった事例が発覚し、京都市は同病院に対して改善を求める行政指導を行った。この問題は、病院関係者からの通報を受け、京都市が立ち入り検査を実施した結果、明らかになったもの。市の調査では、脳腫瘍やくも膜下出血などの手術において、患者や家族への説明の不備や、医療安全管理委員会への報告不足が確認された。さらに、手術や治療後に患者が死亡した12件の重大なケースについても、市は再検証を要求している。京都第一赤十字病院は、行政指導を真摯に受け止め、適切に対応する意向を示している。参考1)手術説明不十分、京都第一赤十字病院に行政指導 患者死亡の重大事例12件も(産経新聞)2)京都第一赤十字病院、手術の説明や記録で不適切対応 京都市が行政指導(京都新聞)3)手術の説明や記録不十分 京都市が病院に改善求める行政指導(NHK)6.糖尿病を見落とし患者死亡、神戸徳洲会病院に改善命令/神戸市神戸市の神戸徳洲会病院で、70代の男性患者が糖尿病の治療を受けずに死亡した問題について、神戸市は医療法に基づく改善命令を出す方針を固めた。この患者は新型コロナウイルス感染症に感染し、肺炎の悪化により一時的に大学病院に転院した後、徳洲会病院に戻ったが、糖尿病の持病があるにも関わらず、主治医である院長がこれを見落とし、インスリンの投与などの必要な治療が行われていなかった。同病院は、この事態を内部で検証したが、結論を出さずに放置していたとされている。神戸徳洲会病院は、以前から安全管理体制に問題があり、昨年8月にはカテーテル治療を受けた別の患者が複数死亡した事件に関連して行政指導を受けていた。兵庫県内で医療法に基づく改善命令が出されるのはこれが初めて。参考1)糖尿病既往歴見落とし、入院患者死亡 神戸徳洲会病院に改善命令へ(毎日新聞)2)神戸徳洲会病院に市が改善命令へ 入院患者に糖尿病治療行わず(NHK)

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「GLP-1受容体作動薬ダイエット」に興味を持った患者さん【Dr. 坂根の糖尿病外来NGワード】第43回

■外来NGワード「あなたには使えません」(保険適用について説明せず)「この薬を使えば、痩せますよ!」(食事と運動療法について説明せず)■解説最近、「GLP-1ダイエット」という言葉が注目を集めています。SNSでは、単品ダイエット、脂肪燃焼スープ、食事時間制限、レモンコーヒーなどとともに、「GLP-1ダイエット」というワードが頻繁に検索されています。GLP-1受容体作動薬は、血糖依存的にインスリン分泌を促進し、グルカゴン抑制や胃内容物排出遅延を介して血糖改善作用を発揮するだけでなく、食欲抑制を通じて減量効果も期待されます。肥満症を対象とした「セマグルチド(商品名:ウゴービ皮下注)」の適応は、高血圧、脂質異常症、または2型糖尿病を有し、かつ食事療法や運動療法が不十分な場合、かつBMIが27以上で2つ以上の肥満に関連する健康障害がある、またはBMIが35以上の患者に限定されています。ところが、「GLP-1ダイエット」では、「初診からオンラインで診察可能、自宅で手軽に実施でき、食事制限や運動不要で、太りにくい体質になる」などといった宣伝文句が並んでいます。一部には自己調整可能な投与量を強調するものも見受けられます。そのうえ、自由診療であるので価格が高額である一方で、副作用については詳細な説明が不足しています。その結果、副作用が発生した場合には、保険診療の医療機関を受診する必要が生じます。そして、自由診療においてGLP-1受容体作動薬が処方されることで、本来必要な糖尿病患者への供給が追いつかないとの指摘もあります。また、自由診療で処方された患者は、適切なライフスタイルの改善方法について充分な説明がなされていないため、薬を中止した際のリバウンドを心配しています。こうした「GLP-1ダイエット」の問題点について適切に理解し、説明することが重要です。■患者さんとの会話でロールプレイ患者この間、SNSを検索していたら、「GLP-1ダイエット」というのがでてきたのですが、どうですか?(糖尿病がない肥満者)医師最近、美容の世界や個人輸入している人もいるそうですね。患者痩せるんですか?医師正しく使えばね。ただし、自己流は禁物です。患者副作用はありますか?医師もちろん。薬ですから、副作用はありますよ。吐き気や嘔吐、胃腸障害など…。あと、専門家の指導のもとで薬の量を調整しないと、低血糖などで救急搬送された例もあるそうですよ。患者えっ、それ怖いですね。医師それに、薬を止めたら、体重がリバウンドするかもしれませんからね。患者確かに、ただ単に薬を飲むだけじゃ、痩せないということですね。医師そうです。こういった肥満症治療薬は食事療法と運動療法の補助として使います。そうすることがリバウンド予防になります。患者食事と運動はどんなことに気を付けたらいいですか?(興味深々)■医師へのお勧めの言葉「ただ、薬を飲むだけでは痩せることはできませんし、止めたらリバウンドは必至です。肥満症治療薬は食事療法と運動療法の補助として使います。その方が、最小限の薬になって副作用も少ないですし、薬を止めた際にもリバウンド予防につながります」 1)Ansari H UI H, et al. Endocr Pract. 2023:23;758-759.Endocr Pract. 2023 Nov 27.[Epub ahead of print]2)日本肥満学会、肥満症治療薬の安全・適正使用に関するステートメント3)最適使用推進ガイドラインセマグルチド(遺伝子組換え)

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インスリン療法を行っている妊娠中の糖尿病に、メトホルミンを追加することの意義は?(解説:小川大輔氏)

 妊娠前から2型糖尿病と診断されている方でも、妊娠後に糖尿病と診断された方でも、妊娠中の糖尿病の管理は食事療法とインスリン療法が基本となる。日本では妊婦に対するメトホルミンの投与は禁忌とされているが、海外では使用が可能となっている。糖尿病合併妊娠あるいは妊娠糖尿病患者を対象に、インスリン療法に加えてメトホルミンを追加した際の新生児期の有害事象に対する効果を検討した結果がJAMA誌に発表された1)。 米国17ヵ所の医療機関で、妊娠前に2型糖尿病と診断されている、または妊娠23週以前に妊娠糖尿病と診断されたインスリン治療中の被検者831症例を対象に、メトホルミン1,000mgを投与する群(メトホルミン群)と、プラセボを投与する群(プラセボ群)に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。主要アウトカムは周産期死亡、早産、新生児低血糖、在胎不当過大児あるいは在胎不当過少児、光線療法を必要とする高ビリルビン血症といった新生児複合有害事象であった。 多く認められた有害事象は早産、新生児低血糖、在胎不当過大児であり、主要アウトカムの発生率はメトホルミン群71%、プラセボ群74%と有意差はなかった。副次アウトカムも両群間で有意差を認めなかった。ただ、新生児複合有害事象の1つである、在胎不当過大児についてはメトホルミン群で有意にイベントが少なかった。著者らはこの効果について、さらなる検討が必要であると考察している。 今回の試験で、妊娠糖尿病あるいは2型糖尿病の妊婦に対し、メトホルミン追加投与による新生児有害アウトカムの抑制効果は示されなかった。インスリンを用いて厳格に血糖を管理すれば新生児の有害事象は減るので、その状況でメトホルミンを上乗せしてもさらなる効果は期待できないのかもしれない。しかし、インスリン療法にメトホルミンを追加することにより、新生児低血糖、在胎不当過大児、妊娠高血圧などのリスクが低下し、また早産や在胎不当過少児、周産期死亡などの有害事象は増加しないというメタ解析の報告もある2)。妊娠糖尿病でも肥満合併例やインスリン抵抗性の強い妊婦を対象として、インスリン療法にメトホルミンを併用する試験が行われることを期待したい。

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歩く速さが糖尿病リスクと相関

 歩行速度が速い人ほど糖尿病リスクが低いという関連性を示す研究結果が報告された。セムナン医科大学(イラン)のAhmad Jayedi氏らが行ったシステマティックレビューの結果であり、詳細は「British Journal of Sports Medicine」に11月28日掲載された。 この研究では、PubMed、Scopus、CENTRAL、Web of Scienceなどの文献データベースに2023年5月30日までに収載された論文から、成人の歩行速度と2型糖尿病のリスクとの関連を調査した研究を検索。米国、英国、日本で行われた計10件のコホート研究が特定された。それらの研究参加者は合計50万8,121人で、観察期間は3~11年だった。 プール解析の結果、歩行速度が時速3.2km未満の場合と比較して、時速3.2~4.8kmの場合〔該当する研究数4件、信頼性(GRADE)低〕は、2型糖尿病のリスクが15%低かった〔相対リスク(RR)0.85(95%信頼区間0.70~1.00)〕。時速4.8~6.4km〔研究数10、GRADE低〕ではリスクが24%低く〔RR0.76(同0.65~0.87)〕、さらに時速6.4km/時超の場合〔研究数6、GRADE中〕は39%低いことが分かった〔RR0.61(同0.49~0.73)〕。 これらのデータを基に2型糖尿病患者数への影響を推算すると、時速3.2~4.8kmの歩行速度では100人当たり0.86人、時速4.8~6.4kmでは1.38人、時速6.4km/時超では2.24人、患者数の減少につながると予測された。また、用量反応解析からは、2型糖尿病リスクの有意な低下が認められる歩行速度は、時速4km以上の場合であり、それ以上のスピードでは、時速1km速くなるごとにリスクが9%ずつ低下する可能性が示された。なお、時速4kmという速度で歩くための歩数は、男性では1分当たり87歩程度、女性では100歩程度だという。 これらの結果を基に研究グループは、「健康のためにウォーキングの時間を増やすという、現在よく行われている戦略は有益に違いないが、健康上のメリットをさらに高めるために、より速い速度での歩行を奨励することが合理的ではないか」と、ジャーナル発のリリースの中で語っている。ただし、この研究結果は因果の逆転を見ている可能性もあるため、解釈には注意を要するとも述べている。つまり、歩行速度が速い人は身体的に健康であり、心肺機能が高くて筋肉量が多く身体活動量も多いという、もともと2型糖尿病のリスクが低い人である可能性もあるということだ。 とは言え、早歩き自体に減量効果があり、肥満者や過体重者であれば体重が減るとともにインスリン感受性が良好になって、2型糖尿病リスクが低下することも確かなことだ。なお、本研究では、歩行速度の速さと2型糖尿病リスクの低さとの関連は、1日の総身体活動量や歩行に費やす時間にかかわらず認められた。 論文の結論は、「解析対象となった研究の信頼性は低~中程度であり、バイアスリスクが高い研究が多かったが、より速い速度で歩くほど2型糖尿病のリスクがより低下する可能性を示唆している」と総括されている。

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TG/HDL-C比は2型糖尿病発症の強力な予測因子

 中性脂肪(TG)と善玉コレステロール(HDL-C)の比が、将来の2型糖尿病の発症リスクの予測に利用できることが、12万人以上の日本人を長期間追跡した結果、明らかになった。京都府立医科大学大学院医学研究科内分泌・代謝内科学の弓削大貴氏、岡田博史氏、福井道明氏、パナソニック健康管理センターの伊藤正人氏らの研究によるもので、詳細は「Cardiovascular Diabetology」に11月8日掲載された。2型糖尿病発症予測のための最適なカットオフ値は、2.1だという。 TGをHDL-Cで除した値「TG/HDL-C比」は、インスリン抵抗性の簡便な指標であることが知られているほか、脂肪性肝疾患や動脈硬化性疾患、および2型糖尿病の発症リスクと相関することが報告されている。ただしそれらの報告の多くは横断的研究またはサンプルサイズが小さい研究であり、大規模な追跡研究からのエビデンスは存在せず、2型糖尿病発症予測のための最適なカットオフ値も明らかになっていない。弓削氏、岡田氏らは、国内の企業グループの従業員を対象とするコホート研究(Panasonic cohort study)のデータを用いた縦断的解析によって、この点を検討した。 2008~2017年に健診を受けた計23万6,603人から、ベースライン時点で既に糖尿病と診断されている患者、脂質異常症治療薬を服用している患者、およびデータ欠落者などを除外し、12万613人を解析対象とした。主な特徴は、平均年齢44.2±8.5歳、男性76.0%、BMI22.9±3.4kg/m2であり、TGは110.0±85.9mg/dL、HDL-Cは60.5±15.4mg/dLで、悪玉コレステロール(LDL-C)は123.4±31.5mg/dLだった。 2018年までの追跡〔期間中央値6.0年(四分位範囲3~10年)〕で、6,080人が新たに2型糖尿病を発症した。2型糖尿病発症リスクに影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、BMI、空腹時血糖値、喫煙習慣、運動習慣、収縮期血圧)を調整後に、脂質関連検査値と2型糖尿病発症リスクとの間に、以下の有意な関連が認められた。 まず、TGは10mg/dL上昇するごとのハザード比(HR)が1.008(95%信頼区間1.006~1.010)だった。同様の解析でHDL-CはHR0.88(同0.86~0.90)、LDL-CはHR1.02(1.02~1.03)であり、TG/HDL-C比は1上昇するごとにHR1.03(1.02~1.03)となった。 次に、向こう10年間での2型糖尿病発症を予測するための最適なカットオフ値と予測能(AUC)を検討。すると、予測能が低い指標から順に、LDL-Cがカットオフ値124mg/dLでAUCは0.609、HDL-Cは54mg/dLでAUC0.638、TGは106mg/dLで0.672であり、最も高いAUCはTG/HDL-C比の0.679であって、そのカットオフ値は2.1と計算された。TG/HDL-C比の予測能は、他の3指標すべてに対して有意に優れていた(いずれもP<0.001)。 続いて、性別およびBMI別のサブグループ解析を施行。すると、男性では全体解析と同様に、TG/HDL-C比が1上昇することによる2型糖尿病発症のHRは1.03(1.02~1.03)だったが、女性は1.05(1.02~1.08)であり、より強い関連が示された。ただし交互作用は非有意だった。 BMI25kg/m2未満/以上で層別化した解析からは、25未満の群でTG/HDL-C比が1上昇するごとのHRは1.04(1.03~1.05)である一方、25以上の群ではHR1.02(1.02~1.03)であって、有意な交互作用が観察された(交互作用P=0.0001)。最適なカットオフ値は、BMI25未満では1.7、25以上では2.5だった。 著者らは本研究の特徴として、日本人を対象とする縦断的研究でありサンプルサイズも大きいことを挙げる一方、女性が少ないこと、比較的若年者が多いことなどの限界点があるとしている。その上で「TG/HDL-C比は、LDL-C、HDL-C、TGよりも10年以内の2型糖尿病発症の強力な予測因子であることが示された。この結果は、2型糖尿病発症抑制のための今後の医療政策に有用な知見となり得る」と述べている。

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teplizumabの登場で1型糖尿病治療は新たなステージへ(解説:住谷哲氏)

 膵島関連自己抗体が陽性の1型糖尿病は正常耐糖能であるステージ1、耐糖能異常はあるが糖尿病を発症していないステージ2、そして糖尿病を発症してインスリン投与が必要となるステージ3に進行する1)。抗CD3抗体であるteplizumabはステージ2からステージ3への進行を抑制することから、8歳以上のステージ2の1型糖尿病患者への投与が2022年FDAで承認された。しかし、現実にはステージ2の1型糖尿病患者がすべて診断・管理されているわけではなく、臨床的に1型糖尿病を発症したステージ3の患者が多数を占めている。 teplizumabがステージ2と同様にステージ3の患者でも有効か否かについては、これまでに実施された複数の第I、II相臨床試験のメタ解析で、その有効性が示唆されていた2)。そこで実施されたのが第III相となる本試験PROTECT (Provention Bio’s Type 1 Diabetes Trial Evaluating C-Peptide with Teplizumab)である。 teplizumabは1コース12日間投与で26週後に2コース目が実施された。主要評価項目は、78週後に実施された食事負荷試験後のC-ペプチドAUCのベースラインからの変化量とされた。結果はプラセボ群に比較して、teplizumab投与群ではC-ペプチド値が有意に高値であった。副次評価項目であるインスリン投与量、HbA1cの変化量などには有意差を認めなかったが、主要評価項目が達成されたので本試験の結果はpositiveである。つまり、teplizumabは発症直後の1型糖尿病患者のβ細胞機能を維持する可能性があると考えられる。 わが国の1型糖尿病の発症率は欧米に比べると低い。欧米では2015年に1型糖尿病発症の自然史(ステージング)の概念が導入されたが、わが国では、ほとんど認知されていないのではないだろうか。1型糖尿病は発症予防可能な疾患になりつつある。わが国での発症率から考えて、ステージ2からステージ3への進行を抑制する薬剤としてのteplizumabが承認されなくても大きな問題はないだろう。しかし、teplizumabが発症直後の1型糖尿病患者のβ細胞機能保持薬として欧米で承認されれば、わが国でも早急に承認されることが期待される。

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糖尿病、肥満、膵臓がんの関連性が明らかに

 2型糖尿病の患者や肥満者では膵臓がんのリスクが高いことが知られているが、その原因の一端を明らかにした研究結果が報告された。インスリン値が高くなる「高インスリン血症」が、消化液を産生している膵外分泌細胞の炎症を引き起こし、そのことが前がん状態につながると考えられるという。ブリティッシュコロンビア大学(カナダ)のJames Johnson氏らの研究によるもので、詳細が「Cell Metabolism」に10月31日掲載された。 糖尿病はインスリンの作用が低下するために高血糖になる病気。インスリンの作用が低下する原因として、膵臓の内分泌細胞の機能低下のためにインスリンの量が不足することと、インスリンに対する組織の感受性が低下すること(インスリン抵抗性)が挙げられる。2型糖尿病、特に肥満2型糖尿病では後者の影響が強い。インスリン抵抗性は血糖コントロールの悪化要因であるが、今回発表された研究によると、2型糖尿病や肥満者での膵臓がん発症リスク上昇にもかかわっているようだ。 膵臓にはインスリンなどのホルモンを産生する内分泌細胞と、消化液である膵液を産生する外分泌細胞がある。インスリン抵抗性が存在していると、代償的にインスリンの分泌量が増えて「高インスリン血症」となり、その状態が長引くと内分泌細胞の機能が低下してしまい、糖尿病が悪化することが既に知られている。しかしJohnson氏らの研究により、高インスリン血症の悪影響は内分泌細胞だけでなく、外分泌細胞である膵腺房細胞にも及ぶことが分かった。過剰なインスリンが膵腺房細胞を刺激して炎症を引き起こすのだという。 Johnson氏は、「肥満者数と2型糖尿病患者数の急速な増加に加えて近年は、膵臓がんの罹患率も驚くほど上昇してきている。われわれの発見は、それらの関連性の理解に役立ち、インスリンレベルを健康な範囲内に保つことの重要性を強調するものと言える。インスリンレベルの抑制には、食事や運動が有効であり、場合によっては薬物を用いるという介入も考えられる」と話す。同氏らは今回の研究で、膵管腺がんという最も一般的なタイプの膵臓がんに焦点を当てた。膵管腺がんは悪性度が高いことが多く、5年生存率は10%未満であり、2030年までにがん関連死の原因の第2位になるとの予測もある。 論文の筆頭著者である米スタンフォード大学のAnni Zhang氏によると、「本研究により、高インスリン血症が膵腺房細胞のインスリン受容体を介して、膵臓がんの発生に直接関与していることが明らかになった。そのメカニズムには膵液産生の増加も関与しており、それらが膵臓の炎症を悪化させている」と解説。このようなメカニズムの解明は、新たながん予防戦略、あるいは膵腺房細胞のインスリン受容体を標的とした治療法の開発につながる可能性もある。 一方、論文の上席著者であるブリティッシュコロンビア大学のJanel Kopp氏は、「この研究結果が実臨床に影響を与え、また一般集団の膵臓がんリスクを抑制するためのライフスタイル介入促進に役立つことを願っている」と話す。同氏らの研究チームは現在、膵管腺がん患者に対して内分泌専門医の介入により、血糖値とインスリンレベルをコントロールすることの影響を検証する、他施設との共同臨床試験を進めている。その研究の結果は、肥満や2型糖尿病に関連する膵臓がん以外のがん、例えば乳がんなどの臨床にも影響を与える可能性があると、著者らは述べている。

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抗ウイルス薬が1型糖尿病患児のインスリン分泌能低下を抑制する可能性

 1型糖尿病を発症してからあまり時間が経過しておらず、インスリン分泌がまだ残存している小児に対して抗ウイルス薬を投与すると、インスリンを産生する膵臓のβ細胞の保護につながる可能性のあることが報告された。オスロ大学病院(ノルウェー)のIda Maria Mynarek氏らの研究によるもので、第59回欧州糖尿病学会(EASD2023、10月2~6日、ドイツ・ハンブルク)で発表されるとともに、「Nature Medicine」に10月4日掲載された。 1型糖尿病は、インスリンを産生する膵臓のβ細胞が破壊されてインスリンを分泌できなくなり、インスリン療法の絶対的適応となる病気。ウイルス感染を契機に異常な自己免疫反応が生じて、β細胞が破壊されることが発症の一因と考えられている。例えば、エンテロウイルスというウイルスの感染と1型糖尿病発症の関連などが報告されている。Mynarek氏らは、エンテロウイルス感染症の治療薬として開発されている抗ウイルス薬(pleconaril)と、ウイルス性肝炎の治療などに実用化されているリバビリンとの併用により、診断後間もない1型糖尿病患児のβ細胞機能を保護できるか否かを検討した。 研究参加者は、1型糖尿病と診断されてから3週間以内の患児96人。主な特徴は、年齢は範囲6~15歳で平均11.1±2.4歳、女子が41.7%、診断時のHbA1cが11.8±4.3%で、エンテロウイルスの感染が確認された患児はいなかった。無作為に抗ウイルス薬群47人とプラセボ群49人に分け、診断から17.8±3.2日後から6カ月間にわたって投与を継続した。ベースライン時点において、年齢や性別の分布、BMI、診断時HbA1c、1型糖尿病リスクに関連のある自己抗体の保有率、診断から投与開始までの期間などに有意差はなかった。 主要評価項目として設定していた12カ月経過時点における食事負荷2時間以内のC-ペプチド(インスリン分泌能の指標)上昇曲線下面積(AUC)は、プラセボ群よりも抗ウイルス薬群の方が37%有意に高かった(ベースラインレベルで調整後の群間差がP=0.04)。プラセボ群でのベースラインからのC-ペプチドAUC低下幅は24%だったが、抗ウイルス薬群では11%であり、また後者の群の86%は比較的容易なインスリン療法のレジメンで血糖コントロールが可能な状態に維持されていた。ただし、HbA1cやグリコアルブミン、インスリン投与量には有意差がなかった。なお、重症低血糖を含む有害事象の発生状況は有意差がなかった。 研究グループによると、「1型糖尿病発症のベースにあるメカニズムは悪性度の高くないウイルス感染の持続であって、新たなワクチンを開発することで1型糖尿病を予防できるという考え方はこれまでにもあった」といい、「われわれの研究の結果はそのような概念を裏付けるものだ」としている。また、「1型糖尿病の病態進行を引き起こすβ細胞破壊を、抗ウイルス治療によって遅らせることができるかどうかを詳細に評価するため、より早期の段階で介入するといった、さらなる研究を行うべきだ」と付け加えている。

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肥満症へのチルゼパチドの効果、36週で中止vs.投与継続/JAMA

 過体重または肥満の集団において、グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)/グルカゴン様ペプチド1(GLP-1)共受容体作動薬であるチルゼパチドは、36週間の投与で20%以上の体重減少をもたらし、投与を中止すると体重が大幅に増加したが、投与継続により初期の体重減少を維持あるいはさらに増強することが、米国・Weill Cornell MedicineのLouis J. Aronne氏らが実施した「SURMOUNT-4試験」で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2023年12月11日号に掲載された。36週の導入期間後に、投与継続とプラセボに無作為化 SURMOUNT-4試験は、4ヵ国(アルゼンチン、ブラジル、台湾、米国)の70施設が参加した第III相投与中止臨床試験であり、2021年3月~2023年5月に実施された(Eli Lilly and Companyの助成を受けた)。 本試験では、非盲検下にチルゼパチド(最大耐用量として10mgまたは15mg、週1回)を36週間皮下投与する導入期間の後、被験者を盲検下にチルゼパチドを継続する群またはプラセボに切り換える群に無作為に割り付け、52週間投与した。 対象は、BMI値が30以上、またはBMI値27以上で糖尿病を除く体重関連合併症(高血圧、脂質異常症、閉塞性睡眠時無呼吸、心血管疾患)を少なくとも1つ有する、年齢18歳以上の患者であった。 主要エンドポイントは、無作為化(36週目)から88週目までの52週間の体重の平均変化量とした。主な副次エンドポイントは、導入期間中の体重減少分の80%以上を88週目に維持していた患者の割合などであった。投与継続で体重がさらに5.5%減少 670例(平均年齢48歳、女性473例[70.6%]、白人80.1%、平均体重107.3kg、平均BMI値38.4、平均ウエスト周囲長115.2cm)が36週の導入期間を完了し、チルゼパチド継続群335例、プラセボ群335例に割り付けられた。チルゼパチド導入期間中に、体重は平均で20.9%減少した。 36週目から88週目までの体重の平均変化量は、プラセボ群が14.0%増加したのに対し、チルゼパチド継続群は5.5%減少し、有意な差を認めた(群間差:-19.4%、95%信頼区間[CI]:-21.2~-17.7、p<0.001)。 88週目に、導入期間中の体重減少分の少なくとも80%を維持していた患者の割合は、プラセボ群が16.6%(55例)であったのに対し、チルゼパチド継続群は89.5%(300例)と有意に優れた(p<0.001)。また、36週目から88週目までのウエスト周囲長の変化量は、プラセボ群が7.8cm増加したのに対し、チルゼパチド継続群は4.3cm減少し、有意に良好だった(p<0.001)。88週投与で体重25.3%減少、ウエスト22.4cm減少 0週目から88週目までに、体重(チルゼパチド継続群25.3%減少vs.プラセボ群9.9%減少、p<0.001)とウエスト周囲長(22.4cm減少vs.9.0cm減少、p<0.001)は、チルゼパチド継続群で有意に改善した。 36週目から88週目までに最も頻度の高かった有害事象は消化器イベントで、プラセボ群よりもチルゼパチド継続群で高頻度(下痢[10.7% vs.4.8%]、悪心[8.1% vs.2.7%]、嘔吐[5.7% vs.1.2%])であったが、多くが軽度~中等度だった。とくに注目すべき有害事象として、チルゼパチド継続群では悪性腫瘍(3例[0.9%]、プラセボ群も3例[0.9%])、主要有害心血管イベント(3例[0.9%])、重度または重篤な消化器イベント(6例[1.8%])、低血糖症(2例[0.6%])を認めた。 著者は、「これらの結果は、体重の再増加を予防し、体重減少の維持とこれに伴う心代謝系への有益性を保持するためには、チルゼパチドの投与を継続する必要があることを強調するものである」とし、「1年間プラセボに切り換えた後でも、体重が9.9%減少していた点は注目に値するが、心代謝系のリスク因子の最初の改善効果はほぼ消失しており、このような短期治療による長期の有益性とリスクを解明するために、さらなる研究を要する」と指摘している。

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妊娠糖尿病、インスリン+メトホルミン vs.インスリン単独/JAMA

 2型糖尿病を有するまたは妊娠初期に2型糖尿病と新規に診断された妊婦において、インスリン療法にメトホルミンを追加しても新生児の複合有害アウトカムは減少しなかった。米国・ノースカロライナ大学チャペルヒル校のKim A. Boggess氏らが、米国の17施設で実施した無作為化二重盲検第III相試験「MOMPOD試験」の結果を報告した。既往または妊娠初期に診断された2型糖尿病を有する妊婦には、インスリンの投与が推奨されるが、インスリンへのメトホルミンの追加により新生児の有害アウトカムが改善する可能性が示唆されていた。JAMA誌2023年12月12日号掲載の報告。妊娠22週までの2型糖尿病(新規診断を含む)を有する妊婦が対象 研究グループは2017年6月~2021年11月に、単胎妊娠10週0日~22週6日で2型糖尿病を有する、または23週より前にインスリンを必要とする糖尿病と診断された、18~45歳の成人女性を対象とした。施設、妊娠週数(18週未満、18週以上)、糖尿病診断時期(既往、妊娠初期)で層別化し、メトホルミン(1,000mg)群またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付けた。全例がインスリンの投与を受け、それぞれ割り付けられた試験薬を出産まで1日2回経口投与した。 主要アウトカムは、周産期死亡(妊娠10~20週の胎児死亡、20週以上の死産、または出生後28日以内の新生児死亡)、妊娠37週以前の早産、新生児低血糖、出生時外傷(臍動脈pH<7.05、肩甲難産)、光線療法を必要とする高ビリルビン血症、在胎不当過大児、在胎不当過小児、2,500g未満の低出生体重児といった、新生児複合有害アウトカムであった。 事前に規定した副次アウトカムは、母体の低血糖と出生時の新生児脂肪量。また、主要アウトカムに関して、母体のBMIが30未満vs.30以上、2型糖尿病既往vs.妊娠初期の2型糖尿病診断、無作為化時の妊娠週数18週未満vs.18週以上23週未満で、サブグループ解析を行うことが事前に規定された。新生児複合有害アウトカムの発生率は71% vs.74% 2017年6月~2021年11月に、スクリーニングを受けた2,667例中831例が無作為化された。695例が出産し追跡調査を完了した後、データ安全性モニタリング委員会は無益性により試験の中止を勧告し、登録は同年11月に中止された。追跡調査は2022年5月に終了した。 無作為化された831例のうち、試験薬を少なくとも1回服用した794例が主要解析に組み入れられた(メトホルミン群397例、プラセボ群397例)。平均(SD)年齢は32.9(5.6)歳、234例(29%)が黒人、412例(52%)がヒスパニックであった。 主要アウトカムの発生は、メトホルミン群で280例(71%)、プラセボ群で292例(74%)に認められ、両群間に有意差はなかった(補正後オッズ比[OR]:0.86、95%信頼区間[CI]:0.63~1.19)。 両群において多く認められた主要アウトカムのイベントは、妊娠37週以前の早産(それぞれ34%、37%)、新生児低血糖(39%、42%)、および在胎不当過大児(26%、36%)であった。在胎不当過大児については、プラセボ群と比較したメトホルミン群でのイベントが少なかった(補正後OR:0.63、95%CI:0.46~0.86)。 事前に規定された副次アウトカム、ならびにサブグループ解析は、両群間で同等であった。 なお著者は、「インスリンへのメトホルミンの追加で観察された在胎不当過大児のオッズ比減少の効果については、さらなる検討が必要である」と述べている。

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内臓脂肪はアルツハイマー病の発症リスクを高める?

 腹部を中心とした内臓の周りに脂肪が多くついている中高年は、後年、アルツハイマー病を発症するリスクの高いことが、新たな研究で示唆された。研究では、表面からは見えないこの脂肪(内臓脂肪)が脳の変化に関係しており、その変化は、アルツハイマー病の最初期の症状である記憶障害が生じる最長で15年前に現れ始めることが示されたという。米ワシントン大学医学部マリンクロット放射線医学研究所のMahsa Dolatshahi氏らによるこの研究結果は、北米放射線学会年次総会(RSNA 2023、11月26~30日、米シカゴ)で発表された。 米アルツハイマー協会によると、米国でのアルツハイマー病患者数は600万人以上に上るが、この数は2050年までに1300万人近くに達すると見込まれている。Dolatshahi氏らは、認知機能が正常な40〜60歳の54人(BMIの平均値32)を対象に、頭部MRIで測定した脳の異なる領域の容積、PET検査で評価したアミロイドβの蓄積およびタウタンパク質のもつれと、BMI、肥満、インスリン抵抗性、および腹部の脂肪組織(皮下脂肪と内臓脂肪)との関連を調べた。アミロイドβの蓄積とタウタンパク質のもつれは、脳細胞間のコミュニケーションを阻害すると考えられている。 その結果、内臓脂肪と皮下脂肪の面積比(V/S比)の値が高いほど、脳の楔前部における、アミロイドβを検出するためのPETトレーサーの取り込みが増加する傾向が認められた。楔前部は、アルツハイマー病の進行初期にこの病気に特有の脳の病理学的変化であるアミロイドβの蓄積が生じる部位であることが知られている。V/S比とアミロイドβ蓄積との関連は、女性よりも男性で強かった。さらに、内臓脂肪の量が増加すると、脳内炎症が増加することも明らかになった。 内臓脂肪と脳内炎症との関連についてDolatshahi氏は、「いくつかの経路の関与が示唆されている。皮下脂肪が保護作用を持つ可能性があるのとは対照的に、内臓脂肪から分泌される炎症性物質は、アルツハイマー病における主要なメカニズムの一つである脳内炎症を引き起こしているのかもしれない」と述べている。 Dolatshahi氏は、「これまでの研究で、BMIと脳の萎縮、あるいは認知症リスクの上昇との関連は報告されていたが、認知機能が正常な人において、特定の種類の脂肪とアルツハイマー病の発症に関わるタンパク質とを関連付けた研究はなかった」と強調する。同氏はさらに、「同様の研究でも、特にアルツハイマー病でのアミロイドβの病理学的変化に果たす内臓脂肪と皮下脂肪の役割の違いについて、中年期早期の人を対象に調査したものは存在しない」と付け加えている。 共同研究者である、マリンクロット放射線医学研究所の神経磁気共鳴画像診断部長であるCyrus Raji氏は、「これらの知見は、医師がアルツハイマー病を発症するリスクがある人を診断し、治療するのに役立つかもしれない」との見方を示す。同氏は、「この研究は、内臓脂肪がアルツハイマー病の発症リスクを高め得る重要なメカニズムを明らかにするものだ。研究では、このような脳の変化が概ね50歳という早い段階で起こることが示された。50歳という年齢は、アルツハイマー病の初期症状である記憶障害が認められる年齢よりも最大で15年も早い」と述べている。その上で同氏は、医師が患者の内臓脂肪量を減らすことで将来の脳内炎症を抑え、認知症やアルツハイマー病の発症を予防できる可能性に言及している。

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Hybrid closed loop(HCL)療法は1型糖尿病合併妊娠においても有効である(解説:住谷哲氏)

 CGMが一般的になってTIR time in rangeも日頃の臨床でしばしば口にするようになってきた。TIRは普通70 -180mg/dLが目標血糖値とされているが、より厳格な血糖管理が要求される妊婦の場合は、これが63-140mg/dLに設定されている1)。1型糖尿病患者におけるHCL療法の有用性はほぼ確立されているが、1型糖尿病合併妊娠患者におけるエビデンスは、これまで存在しなかった。本試験によって、ようやくエビデンスがもたらされたことになる。 HCLシステムはCGM、インスリンポンプおよびそれを統合管理するアルゴリズムから構成される。本試験で用いられたのは、CGMがDexcomの Dexcom G6 (リアルタイムCGM)、インスリンポンプがSooilのDana Diabecare RS、そしてアルゴリズムがCamDiabのCamAPS(Cambridge Artificial Pancreas System) FX (version 0.3.71)、スマートフォンがSamsungのGalaxy S8-12(または本人希望の機種)が用いられた。従来治療群のほぼ全例がCGMを併用しており、さらに約半数がインスリンポンプ使用患者であった。目標血糖値は従来治療群で食前血糖値63-130mg/dL、食後1時間値140mg/dLとされた。一方、HCL群では目標血糖値は妊娠初期では100mg/dL、妊娠16週から20週では81-90mg/dL、それ以降分娩までは81mg/dLに設定された。 主要評価項目である目標血糖値63-130mg/dLの達成時間の割合の差である10.5%(約2.5時間に相当する)が臨床的にどれほどのインパクトを持つのだろうか? 先行する観察研究の結果からは、5%の差が母児の有害事象の減少と相関することが示されており2)、本研究で得られた10%の差が臨床的に意義のある可能性は高い。厳密には臨床的アウトカムをエンドポイントにしたRCTが必要であるが、膨大な時間と費用がかかることから実施される可能性は低いと思われる。 現在では、すべての1型糖尿病患者に対してHCLを推奨する流れになっている。より厳格な血糖管理が必要とされる1型糖尿病合併妊婦にとっても同様である。エビデンスとテクノロジーは十分にそろったといえる。

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新規発症1型糖尿病へのバリシチニブ、β細胞機能を維持/NEJM

 発症100日以内の10~30歳の1型糖尿病患者に対し、バリシチニブの48週間経口投与は、プラセボ投与と比較して、混合食負荷後のC-ペプチド濃度で測定したβ細胞機能を維持すると思われることが、オーストラリア・St. Vincent's Institute of Medical ResearchのMichaela Waibel氏らによる第II相の二重盲検プラセボ対照無作為化試験で示された。バリシチニブなどJAK阻害薬は、サイトカインシグナル伝達を阻害することで、いくつかの自己免疫疾患に対して有効な疾患修飾薬である。バリシチニブが1型糖尿病のβ細胞機能を維持可能かどうかは明らかになっていなかった。NEJM誌2023年12月7日号掲載の報告。対プラセボで、2時間混合食負荷試験中のC-ペプチド濃度平均値を比較 研究グループは2020年11月~2022年2月に、オーストラリアの医療機関4ヵ所を通じて、1型糖尿病の診断後100日以内の10~30歳を対象に試験を開始した。 被験者を無作為に2群に分け、一方にはバリシチニブ(1日1回4mg)を48週間経口投与、もう一方にはプラセボを投与した。 主要アウトカムは、48週時点の2時間混合食負荷試験中の平均C-ペプチド濃度で、濃度-時間曲線下面積で算出した。副次アウトカムは、糖化ヘモグロビン値のベースラインからの変化、1日インスリン投与量、持続血糖モニタリングで評価した血糖コントロールの指標などだった。1日インスリン投与量、糖化ヘモグロビン値は両群同等 被験者総数は91例(バリシチニブ群は60例、プラセボ群は31例)だった。 48週時点の混合食負荷後平均C-ペプチド濃度の中央値は、バリシチニブ群は0.65 nmol/L/分(四分位範囲[IQR]:0.31~0.82)、プラセボ群0.43 nmol/L/分(0.13~0.63)だった(p=0.001)。 48週時点の1日インスリン投与量平均値は、バリシチニブ群0.41 U/kg/日(95%信頼区間[CI]:0.35~0.48)、プラセボ群で0.52 U/kg/日(0.44~0.60)だった。糖化ヘモグロビン値平均値も両群で同等だった。 一方で、48週時点の持続血糖モニタリングによる血糖値の変動係数平均値は、バリシチニブ群29.6%(95%CI:27.8~31.3)、プラセボ群33.8%(31.5~36.2)だった。 有害事象の発現頻度および重症度は両群で同程度で、重篤な治療関連有害事象は報告されなかった。

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糖質制限or脂質制限、向いている食事療法を予測/京都医療センター

 米国糖尿病予防プログラム(DPP)やフィンランド糖尿病予防研究では低脂肪食が糖尿病に有効との報告がある一方で、糖質制限が減量に有効であるとの報告もある。それでは、目の前の患者さんにどのような食事療法を指導していけばいいのだろうか。 この問題を解決するために、坂根 直樹氏(京都医療センター臨床研究センター予防医学研究室)らの研究グループは、PwCグループが開発した膵臓・肝臓・脂肪など臓器間のネットワークを含めたシミュレーションモデル(機序計算モデル)を用いて、糖尿病の食事療法の個別化分析を行った。PLOS ONE誌2023年11月30日号の報告。112例の糖質と脂質の割合を変えたシミュレーションを実施 糖尿病予防のための戦略研究J-DOIT1(研究リーダー:葛谷 英嗣氏)の2,607例(中央値4.2年のフォローアップ期間)のデータを用いた。生活習慣介入を受けた介入群(1,240例)から最も結果が良かった者と悪かった者を抽出し、それに合わせたデータセットを対照群(1,367例)から抽出した(合計112例)。体重とHbA1cの時間的変化について機序計算モデルを用いてシミュレーションを行った。生理学的なパラメーター(インスリン感受性など)とライフスタイルのパラメーター(食事摂取など)との関連性を評価した。最後に、体重減少と血糖改善のための個別に最適化されたダイエットを予測するためにシミュレーションを行った。 主な結果は以下のとおり。・本モデルを用いることで、生活習慣介入による体重とHbA1cの時間的変化(4年間)を、それぞれ1.0±1.2kgと0.14%±0.18%の平均予測誤差で予測することができた。・最も改善された生体標識と最も改善されなかった生体標識を持つ個人間では、モデル推定のエネルギーバランスに有意な差はみられず、エネルギーバランスだけでは体重の予測をする良い因子とはなり得なかった。・糖質と脂質の割合を変えたシミュレーションを行うことで、個別に糖質制限が向いているか、低脂肪食が向いているかを予測することができた。たとえば、被験者41が減量に成功(5~7%減)するには、炭水化物の割合を10~20%程度減らすとよいと予測されたのに対し、被験者44では炭水化物の割合ではなく、脂質を10~20%制限する必要があると予測された。・さらに、被験者41が減量だけでなく、血糖も改善(HbA1c0.1~0.2%減)するには脂質の割合を±20%程度に留めておく必要があると予測された。 この結果から坂根氏は「従来、平均化されたエビデンスから平均的な医療が提供されることが多かった。本モデルを用いることで、この人には緩やかな糖質制限、この人には脂質制限と糖尿病食事療法というように個別化できるようになる。さらに、極端に糖質制限をしなくとも、減量と血糖改善は可能であり、脂質はいくらでも増やしてもいいわけではないことも説明できる。今後は、このモデルを用いた生活習慣介入試験を実施する必要がある」と展望を語っている。

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インスリン療法患者のisCGMによるHbA1c改善には治療満足度が関与

 インスリン療法を行っていない2型糖尿病患者が間歇スキャン式持続血糖測定(isCGM)を使用すると、早ければ使用開始の翌週から血糖管理が有意に改善すること、HbA1c改善幅は治療継続に関する満足度の高さと相関することなどが明らかになった。名古屋大学大学院医学系研究科内分泌・糖尿病学の尾上剛史氏、有馬寛氏らによる論文が、「Primary Care Diabetes」に10月9日掲載された。 現在、保険診療でisCGMを使用できるのはインスリン療法を行っている患者のみだが、有馬氏らはインスリン療法を行っていない2型糖尿病患者でもisCGM使用によって血糖コントロールが改善することを、多施設共同無作為化比較試験の結果として既に報告している。今回の論文は、そのデータを詳細に事後解析した結果の報告。 この研究では、インスリン療法を行っていない20~70歳未満でHbA1c7.5~8.5%未満の2型糖尿病患者100人を登録し無作為に2群に分け、1群をisCGM群、他の1群を血糖自己測定(SMBG)群とした。過去にisCGMまたはSMBGを行ったことのある患者や腎機能障害のある患者などは除外されている。12週間の介入でisCGM群はSMBG群に比較しHbA1cが有意に大きく低下し、介入終了から12週後にも有意な改善効果が持続していた。今回の検討では、isCGM群(48人)のみを解析対象として、血糖管理改善の推移や関連因子を解析した。 まず血糖関連指標の推移を見るとisCGM開始後の翌週には、平均血糖値が有意に低下、血糖値が70~180mg/dL以内にあった時間が有意に増加、180mg/dLを超えていた時間が有意に減少していた。またGMI(glucose management indicator)やMAGE(mean amplitude of glycemic excursions)といったCGMを用いた血糖管理の評価指標も、それぞれ開始翌週、2週後に有意に改善していた。また、これらの有意な改善は、介入期間を通じて維持されていた。 次にisCGMの使用状況に着目すると、isCGM装着時間が占める割合は第1週が中央値97.1%(四分位範囲87.1~99.1)と最も長く、最終週は同86.1%(31.8~96.9)と、介入期間中に徐々に減少していた。同様に、血糖値や血糖トレンドの確認(スキャン)回数は、第1週が9.2回/日(5.7~12.7)と最も多く、最終の12週目は6.4回/日(3.0~10.0)と徐々に減少していた。isCGMの装着時間が長いほど、12週間の介入期間中のHbA1c低下幅が大きいという、有意な相関も認められた(r=-0.39、P=0.009)。ただし、介入終了から12週後まで(計24週間)のHbA1cの低下幅との関連は非有意だった(r=−0.13、P=0.395)。また、スキャン回数は、12週後および24週後、いずれのHbA1c低下幅との関連も非有意だった。 続いて、年齢や性別、罹病期間、BMI、介入時点のHbA1c、処方されている経口血糖降下薬(OHA)の数、および糖尿病治療満足度質問表(Diabetes Treatment Satisfaction Questionnaire;DTSQ)の回答と、HbA1c低下幅との関連を検討した。 その結果、介入終了時点(12週後)までのHbA1c低下幅は、介入時のHbA1cと逆相関し〔HbA1cが高い患者ほどより大きく改善(r=-0.290、P=0.048)〕、DTSQの8番目の項目(現在の治療を継続することへの満足度)のスコアと正相関していた(r=0.390、P=0.009)。一方、介入終了から12週後(介入開始から24週後)までのHbA1c低下幅は、DTSQの8番目の項目のスコア(r=0.373、P=0.012)、および、5番目の項目(治療法の融通性に関する評価)のスコア(r=0.364、P=0.014)と正相関していた。年齢や性別、罹病期間、BMI、OHAの数、DTSQの他の項目(自分自身の糖尿病の理解度に関する満足度など)は、HbA1c低下幅と有意な関連がなかった。 以上より著者らは、「非インスリン療法の2型糖尿病患者がisCGMを使用することにより、血糖コントロールが迅速かつ持続的に改善し、その改善の程度はisCGMの使用を含む治療の継続に対する満足度の高さと関連していた」と総括している。

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ヴィーガン食の健康への影響を双子で比較すると…?

 ヴィーガン(完全菜食主義)食は環境負荷が低いだけでなく、健康にも良い影響を及ぼすことが報告されている。しかし、その多くは疫学研究に基づくものである。そこで、米国・スタンフォード大学のMatthew J. Landry氏らは、交絡を抑制するために一卵性双生児を対象とした臨床研究を実施し、ヴィーガン食の心代謝系への影響を検討した。その結果、ヴィーガン食は通常食と比べてLDLコレステロール(LDL-C)値、空腹時インスリン値、体重を有意に低下させた。本研究結果は、JAMA Network Open誌2023年11月30日号で報告された。 一卵性双生児22組44人(男性10人、女性34人)を対象とした単施設無作為化比較試験を実施した。双生児のうち片方をヴィーガン食を摂取する群(ヴィーガン食群)、もう一方を通常食を摂取する群(通常食群)に無作為に割り付け、8週間追跡した。1~4週時は提供した食品を摂取させ、5~8週時はそれぞれの群に適した食品を被験者に自ら用意させて摂取させた。主要評価項目は8週時におけるLDL-C値であった。副次評価項目は8週時における空腹時インスリン値、体重などであった。 主な結果は以下のとおり。・被験者の平均年齢(標準偏差[SD])は39.6(12.7)歳、平均BMI(SD)は25.9(4.7)であった。・主要評価項目の8週時におけるLDL-C値は、通常食群116.1mg/dLであったのに対し、ヴィーガン食群95.5mg/dLであり、ヴィーガン食群で有意に低下した(群間差:-13.9mg/dL、95%信頼区間[CI]:-25.3~-2.4、p=0.02)。・空腹時インスリン値と体重についても、ヴィーガン食群で有意な低下が認められた。詳細は以下のとおり。 -空腹時インスリン値:通常食群13.7μIU/mL、ヴィーガン食群10.5μIU/mL(群間差:-2.9μIU/mL、95%CI:-5.3~-0.4、p=0.03) -体重:それぞれ71.7kg、69.5kg(同:-1.9kg、-3.3~-0.6、p=0.01)

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糖尿病の合併症があると大腸がんの予後がより不良に

 糖尿病患者が大腸がんを発症した場合、糖尿病のない人に比べて予後が良くない傾向があり、糖尿病の合併症が起きている場合はその傾向がより強いことを示唆するデータが報告された。国立台湾大学のKuo-Liong Chien氏らの研究によるもので、詳細は「Cancer」に10月23日掲載された。 糖尿病は大腸がん予後不良因子の一つだが、糖尿病の合併症の有無で予後への影響が異なるか否かは明らかになっていない。Chien氏らはこの点について、台湾のがん登録データベースを用いた後方視的コホート研究により検討。2007~2015年にデータ登録されていた症例のうち、ステージ(TNM分類)1~3で根治的切除術を受けた患者5万9,202人を、糖尿病の有無、糖尿病の合併症の有無で分類し、Cox回帰分析にて、全生存期間(OS)、無病生存期間(DFS)、がん特異的生存率(CSS)、再発リスクなどを比較した。なお、全死亡(あらゆる原因による死亡)は2万1,031人、治療後の再発は9,448人だった。 交絡因子(年齢、性別、TNM分類、組織学的悪性度、化学放射線療法の施行、高血圧・脂質異常症の併存など)の影響を調整後、糖尿病で合併症のない群(15.0%)は、OS〔ハザード比(HR)1.05(95%信頼区間1.01~1.09)〕やDFS〔HR1.08(同1.04~1.12)〕が、わずかに非糖尿病群(75.9%)に及ばないことが確認された。CSS〔HR0.98(0.93~1.03)〕は非糖尿病群と有意差がなかった。 一方、糖尿病で合併症のある群(9.1%)では、OS〔HR1.85(1.78~1.92)〕やDFS〔HR1.75(1.69~1.82)〕への影響がより大きく、かつCSS〔HR1.41(1.33~1.49)〕にも有意な影響が認められた。再発リスクに関しては、糖尿病で合併症のない群がHR1.11(1.05~1.17)、糖尿病で合併症のある群はHR1.10(1.02~1.19)であり、いずれも同程度のリスク上昇が観察された。 OSに関連する因子のサブグループ解析の結果、男性では糖尿病で合併症のある群でのみハザード比の有意な上昇が認められたのに対して、女性では合併症のない群でもハザード比が有意に高いという違いが認められた(交互作用P<0.0001)。また、TNM分類で層別化すると、より早期のステージの場合に、合併症の有無によるOSへの影響に大きな差が生じていることが示された(交互作用P<0.0001)。年齢(50歳未満/以上)やがんの部位(結腸/直腸)、組織学的悪性度の層別解析からは、有意な交互作用は示されなかった。 Chien氏はジャーナル発のリリースの中で、糖尿病が大腸がんの予後を悪化させる理由について、「高インスリン血症や高血糖によって引き起こされるさまざまなメカニズムが関与している可能性があり、その中には2型糖尿病の特徴の一つである炎症状態の亢進も含まれるのではないか」との考察を述べている。また、「糖尿病合併症の予防には、多職種の専門家が関与した連携に基づく医療が重要であり、われわれの研究結果は特に女性や早期がん患者において、そのような介入が長期的な腫瘍学的転帰を改善する可能性のあることを示唆している」と付け加えている。

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肥満2型糖尿病患者に強化インスリン療法は必要か?(解説:住谷哲氏)

 本試験では基礎インスリンを投与しても、血糖コントロール目標が達成できない肥満2型糖尿病患者に対するチルゼパチド週1回投与と毎食前リスプロ投与による強化インスリン療法との有効性が比較された。結果は予想通り、HbA1c低下、体重減少、目標血糖値達成率、低血糖の回避のすべてでチルゼパチドが優れていた。 経口血糖降下薬のみでは血糖コントロール目標が達成できない場合の治療選択肢として、以前は基礎インスリンを併用するBOT basal-supported oral therapyが金科玉条であったが、現在では基礎インスリンを投与する前にGLP-1受容体作動薬(GIP/GLP-1受容体作動薬を含む)を追加投与することが推奨されている1)。しかし現在でもfirst injectionにGLP-1受容体作動薬ではなく基礎インスリンが選択されることが少なくない。その場合、まずは基礎インスリンを0.5U/kgまで増量する。それでも血糖コントロール目標が達成できない場合には、GLP-1受容体作動薬を併用しないのであれば、強化インスリン療法へ移行することになる。しかし肥満2型糖尿病患者における強化インスリン療法はもろ刃の剣であり、肥満の助長は避けては通れない。 本試験では、FBGはチルゼパチド群およびリスプロ群の両群で100-125mg/dLを目指してグラルギンを増量し、さらにリスプロ群では毎食前BG100-125mg/dLを目指してリスプロを増量するようにデザインされた。試験開始時のグラルギン投与量は両群で46U/日(0.5U/kg)であったが、チルゼパチド群ではグラルギン投与量は試験終了時52週後に13U/日(0.15U/kg)まで減少した。さらに15mg投与群では、19%の患者においてグラルギン投与が不要となった。一方、リスプロ群の52週でのグラルギン投与量は42U/日(0.45U/kg)、リスプロ投与量は62U/日(0.67U/kg)、1日総インスリン投与量は112U/日(1.2U/kg)となった。 筆者も強化インスリン療法で治療中の肥満2型糖尿病患者に、セマグルチドを併用することでインスリン投与から離脱した症例を経験したことがある。病態生理から考えても、高インスリン血症を伴っている可能性の高い肥満2型糖尿患者における強化インスリン療法には疑問がある。コストや有害事象などを考慮することが当然必要であるが、肥満2型糖尿病患者における強化インスリン療法は、基礎インスリンにGLP-1受容体作動薬を併用しても血糖コントロール目標が達成できない患者に対する最後の選択肢としての位置付けが適切だろう。

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赤身肉の摂取量が多いと糖尿病リスクが上昇

 赤身肉の摂取量が多い人ほど糖尿病発症リスクが高いというデータが報告された。米ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院のXiao Gu氏らの研究によるもので、詳細は「The American Journal of Clinical Nutrition」に10月19日掲載された。 この研究は、米国内の看護師を対象に実施されている「Nurses' Health Study(NHS)」、NHSより新しい世代の看護師を対象に実施されている「NHS II」、および、医療従事者対象の「Health Professionals Follow-up Study(HPFS)」の参加者21万6,695人(女性81%)を解析対象として実施された。赤身肉の摂取量は、参加登録時と2~4年ごとに、半定量的な食物摂取頻度調査票(FFQ)を用いて評価された。 548万3,981人年の追跡で、2万2,761件の2型糖尿病発症が確認された。交絡因子を調整後、赤身肉の総摂取量、および赤身の加工肉や未加工肉別の摂取量は、いずれも2型糖尿病発症リスクとほぼ直線的な正相関が見られた。例えば、赤身肉の総摂取量の最低五分位群(摂取量の少ない下位20%)を基準として、最高五分位群(摂取量の多い上位20%)の糖尿病発症リスクは約6割高かった〔ハザード比(HR)1.62(95%信頼区間1.53~1.71)〕。 この研究結果は、赤身肉を多く摂取することが2型糖尿病を引き起こすという因果関係の証明にはならない。しかし論文の筆頭著者であるGu氏は、「赤身肉は一般的に飽和脂肪酸が多く、多価不飽和脂肪酸が少ない。飽和脂肪酸はβ細胞(膵臓にあるインスリン分泌細胞)の機能、およびインスリン感受性を低下させて、2型糖尿病のリスクを高めると考えられている」と解説。また同氏によると、赤身肉にはヘム鉄が多く含まれており、ヘム鉄が酸化ストレスやインスリン抵抗性を高めるなど、複数の経路で2型糖尿病のリスクを押し上げる可能性があるという。 一方、1日に摂取する赤身肉のうち1サービングをナッツや豆類に置き換えると、2型糖尿病の発症リスクは約3割低下すると計算された〔HR0.70(0.66~0.74)〕。また、加工された赤身肉をナッツや豆類に置き換えた場合には約4割〔HR0.59(0.55~0.64)〕、未加工の赤身肉を置き換えた場合には約3割〔HR0.71(0.67~0.75)〕、それぞれリスクが低下すると計算された。この点についてGu氏は、「ナッツや豆類などの植物性タンパク質は、最も健康的なタンパク源の一つである」と解説している。 Gu氏はまた、「米国だけでなく世界中で糖尿病の罹患率が急速に上昇している。糖尿病は心血管疾患や腎臓疾患、がん、認知症の主要な危険因子であるため、その発症予防が重要だ」と述べ、さらに、「タンパク源を赤身肉から植物性食品に置き換えることは、温室効果ガスの排出と気候変動の抑制をはじめとする、地球環境上のメリットにもつながる」と付け加えている。

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