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日常診療で抱く疑問に、専門医がわかりやすく、コンパクトに回答するコーナーです。前回に引き続き、「糖尿病診療」のなかでも「インスリン療法」について、会員医師からの疑問にご回答いただきました。明日の診療から使えるコツをお届けします。経口薬からインスリン治療を開始した患者に、経口糖尿病薬をどのように減量・中止させるべきかご教示ください。最近の外来では持効型インスリンでインスリン治療を開始し、Basal-supported Oral Therapy(BOT)とすることが多いでしょう。持効型インスリンが発売された今、10年前までの超速効型3回打ちでの導入ではなく、先にBOTで導入しておいて、効果不十分例に対してBasal-Plus療法として超速効型インスリンを1日1回から上乗せする方法が主流となりつつあります。その場合、SU薬を一気に減らすとコントロールを急速に乱す恐れがあるので、例えばグリメピリド(商品名:アマリール)なら1㎎ずつ徐々に減らしていき、0.5㎎で十分なコントロールが得られるようなら食後高血糖の選択的改善を狙ってグリニド薬やDPP-4阻害薬に変更するとよいでしょう。SU薬を通常量使っていて食後高血糖があるからといってSU薬をグリニド薬やDPP-4阻害薬にいきなり変えると、こちらもコントロールを乱す恐れがあるので勧められません。αグルコシダーゼ阻害薬との併用は有効です。インスリン抵抗性を改善するビグアナイド薬やピオグリタゾン(同:アクトス)は、BOTを始めるような状況では、いったん止めて薬を整理してもよいと思います。BOTを始めた際には、できれば一度最小限の内服まで減らして、1剤1剤本当に効果があるのかどうか、再確認しながら再開するとよいでしょう。■参考文献弘世貴久. 続これなら簡単 今すぐできる外来インスリン導入. メディカルレビュー社; 2009.p. 60-61.食事を摂りにくいときのインスリン使用のコツについて、教えてください。超速効型インスリンを用いて、食直後に、食事摂取量に応じて打つことが可能です。例えば具体的には、食事摂取量インスリン量7割以上平常と同じ量4~6割平常の半量3割以下打たずある程度食事摂取量が落ち着いたら、食直前の決まった単位打ちに戻します。もし、血糖値が高くなってしまったら、平常の量の設定を増やすか、食前に測定した血糖値に応じて、インスリンを増量して打つこと(通常のスライディングスケールを併用すること)も可能です。例えば具体的には、食前血糖 < 200mg/dL上記スケールでのインスリン量のまま食前血糖 200~299mg/dL上記スケールのインスリン量に2単位増量食前血糖 300~399mg/dL上記スケールのインスリン量に4単位増量食前血糖 400以上上記スケールのインスリン量に6単位増量インスリンから離脱できる症例や継続したほうがいい症例など教えてください。インスリン離脱には、治療薬が不要になる場合と経口薬に切り替わる場合の2つがあります。前者が望ましいのですが、後者になる場合は、相当な理由がない限り、経口薬にSU薬を使って(SU薬を代替に)インスリンから離脱することは避けるべきだと思います。インスリンから離脱できる症例の特徴として、罹病期間が短く、インスリン投与量が少ないということが以前に報告されています1)。また、われわれの検討でも、より若年で体重が重く、インスリン投与量が少ない患者において、超速効型3回 + 持効型1回の強化インスリン療法からミチグリニド(商品名:グルファスト)3回内服 + 持効型1回に変更できることがわかりました2、3)。罹病期間が短いこと、インスリン投与量が少ないこと、若年で体重が重いということはすべて内因性インスリン分泌が保たれていることを示唆していると思われます。内因性インスリン分泌の指標としてCペプチドインデックス(空腹時血清Cペプチド/空腹時血糖×100)というものがあり、0.8未満でインスリン依存の可能性が高いと考えられています。●引用文献1)菅田有紀子ほか. 糖尿病. 2004; 47: 271-275.2)Yoshihara T, et al. Endocr J. 2006; 53: 67-72.3)Kumashiro N, et al. Endocr J. 2007; 54: 163-166.一人住まいの高齢の患者さんに対するインスリンの適切使用の確認と管理について教えてください。高齢者では、視力障害、上肢の麻痺や振戦、認知症、うつ症状などの理由でインスリン自己注射が困難な例も多く存在します。補助器具や文字が大きいダイヤル式のインスリン注入器も利用できますが、それでも困難な場合は家人、往診医、訪問看護師、介護ヘルパーなどと協議します。自己注射の継続が不可能と判断された独居高齢者の場合は、往診医に連日注射してもらうか、注射のためにかかりつけのクリニックなどを連日受診するよう指導します。自力で受診できない場合には、介護ヘルパーの付き添いで受診します。それも不可能で、インスリン注射の継続が困難と判断された独居高齢者の場合は、各種経口血糖降下薬で対処するしかありませんが、内服薬の選択は慎重に行います。正確な内服管理すら不可能な場合や急性代謝失調に陥る危険性が高い場合には、入院や老健施設への入所が必要です。このような状況では、厳格な血糖管理は低血糖を招く危険が高いので、低血糖と著しい高血糖を予防するような血糖管理を行います。■参考文献熊代尚記: 高齢者のインスリン療法の方法と注意点. 糖尿病薬物療法 BRUSHUP. 河盛隆造監, 綿田裕孝, 弘世貴久編, 日本医事新報社; 2011.p.114-116.超高齢者へのインスリン治療で、気をつけなくてはいけないポイントについて教えてください。超高齢者であっても、インスリン療法開始の目安は、SU薬2次無効、急性代謝失調、重症感染症、外科手術時、重症肝障害・腎障害など、一般の2型糖尿病患者と同じであり、治療目的も、(1)急性代謝失調の予防、(2)糖尿病性合併症の発症・進展防止、(3)QOLの維持・向上と、一般の患者さんと同じです。しかし、高齢者では糖尿病の罹病期間や糖尿病性合併症の進展度、ほかの合併疾患もさまざまであり、加えて個々の社会的環境も異なるため、治療方針は個別に考慮する必要があります。超高齢者に対するインスリンの不適切な使用は無自覚性低血糖、認知症傾向、うつ症状を来しやすいので注意が必要です。食事摂取が不安定な場合には、超速効型インスリンを毎食ごとに用いると調節しやすいでしょう。また、感染症、ほかの病気、外傷時などの際(シックデイ)の対策(食事の摂り方、インスリン用量の臨時の調節、主治医への連絡が必要な場合の判断など)を本人と家人に指導し、連絡体制を確立しておくことも大切です。■参考文献熊代尚記: 高齢者のインスリン療法の方法と注意点. 糖尿病薬物療法 BRUSHUP. 河盛隆造監, 綿田裕孝, 弘世貴久編, 日本医事新報社; 2011.p.114-116.