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第6回 DPP-4阻害薬による治療のキホン【糖尿病治療のキホンとギモン】

【第6回】DPP-4阻害薬による治療のキホン―DPP-4阻害薬の長期投与の安全性について教えてください。 最初のDPP-4阻害薬が海外で臨床使用されるようになってから約10年、国内で使用されるようになってから約7年が経過し、今では国内外で多くの糖尿病患者さんに使われています。しかし、古くから使われているSU薬やビグアナイド(BG)薬などに比べると使用期間が長くないため、長期投与の安全性について懸念される先生方も多いと思います。 DPP-4阻害薬については、心不全による入院リスクの増加が指摘されており、それを受け、1万4,671例の心血管疾患のある2型糖尿病患者さんを対象に、通常治療へのシタグリプチン追加の心血管に対する安全性を検討した多施設共同無作為化プラセボ対照二重盲検比較試験「TECOS(Trial to Evaluate Cardiovascular Outcomes after treatment with Sitagliptin)」が行われました1)。その結果、追跡期間中央値3年(四分位範囲2.3~3.8年)で、主要評価項目である心血管疾患死、非致死的心筋梗塞(MI)、非致死的脳卒中、不安定狭心症による入院の複合エンドポイントにおいて非劣性が示されており、これら有害事象のリスク上昇はみられなかったという結論に至っています※。また、類薬でも心血管に対する安全性を検討した試験が報告されています2)。 ※本試験でのシタグリプチン投与量は「100mg/日(30mL/分/1.73m2≦eGFR<50mL/分/1.73m2例は50mg/日)」となっており、国内での用法・用量は「通常、成人にはシタグリプチンとして50mgを1日1回経口投与する。なお、効果不十分な場合には、経過を十分に観察しながら100mg1日1回まで増量することができる。」です。 しかし、DPP-4阻害薬は、インスリン分泌を促進する消化管ホルモンであるGIPおよびGLP-1を分解し不活性化するDPP-4を阻害することで血糖値を下げる薬剤で、DPP-4は、免疫応答調節に関与するCD26などの活性化T細胞をはじめとし、さまざまな器官の細胞に存在するため、GIPおよびGLP-1以外の物質やホルモンなどに影響を及ぼす可能性があると考えられています。そのため、さらに長期的な安全性については、より多くの実臨床における使用成績が蓄積されることで、現時点で確認されていない有害事象を含め、わかってくることと思います。―DPP-4阻害薬の膵臓がんとの関連について教えてください。 DPP-4阻害薬の膵疾患との関連については以前より議論されており、さまざまな解析が行われ、多くの専門家がそれらを考察していますが、現在のところ、膵臓に対する安全性として、米国糖尿病学会(ADA)および欧州糖尿病学会(EASD)、国際糖尿病連合(IDF)は、情報が十分でないため、DPP-4阻害薬による治療に関する推奨事項を修正するには至らないという合同声明を発表しています3)。 国内では、保険会社の医療費支払い申請のデータベースを基に、DPP-4阻害薬における急性膵炎の発症を検討した後ろ向き解析で、急性膵炎のリスクを高めないという報告もありますが4)、現時点で、膵炎や膵臓がんなどへのDPP-4阻害薬の関与について、十分な症例数で、十分な期間、前向きに検討した試験はありません。しかし最近、インクレチン関連薬(DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬)による膵がんの発症リスクは、スルホニル尿素(SU)薬と変わらないことが、CNODES試験5)で確認されました。CNODES試験は、2型糖尿病患者の治療におけるインクレチン関連薬とその膵がんリスクの関連を検証した国際的な他施設共同コホート研究であり、カナダ、米国、英国の6施設が参加し2007年1月1日~2013年6月30日の間に抗糖尿病薬による治療を開始した97万2384例が解析の対象となりました。DPP-4阻害薬では、リナグリプチン、シタグリプチン、ビルダグリプチン、サキサグリプチンが、GLP-1受容体作動薬ではエキセナチド、リラグルチドが含まれました。SU薬と比較したインクレチン関連薬の膵がん発症の補正ハザード比[HR]は、1.02(95%信頼区間[CI]: 0.84~1.23)であり、有意な差を認めませんでした。また、SU薬と比べて、DPP-4阻害薬(補正HR: 1.02、95%CI: 0.84~1.24)およびGLP-1受容体作動薬(補正HR:1.13、95%CI:0.38~3.38)の膵がん発症リスクは、いずれも同等でした。治療開始後の期間についても、インクレチン関連薬の膵がんリスクに有意な影響はありませんでした。この論文では、インクレチン関連薬に起因するがんが潜在している可能性があるため監視を継続する必要はあるものの、今回の知見によりインクレチン関連薬の安全性が再確認された、と結論付けています。 DPP-4阻害薬の中には、重要な基本的注意として「急性膵炎が現れることがあるので、持続的な激しい腹痛、嘔吐などの初期症状が現れた場合には、速やかに医師の診察を受けるよう患者に指導すること」とされているものもあります。なお、糖尿病患者さんでは、健康成人に比べて急性膵炎や膵がんの発症率が高いので6)、DPP-4阻害薬使用の有無にかかわらず、注意して観察する必要があります。―1日1回、1日2回、週1回の製剤はどのような基準で選べばよいのか、教えてください。 投与回数はアドヒアランスに影響しますので、まずは患者さんの服薬状況やライフスタイルによって選ぶとよいと思います。アドヒアランスは効果に反映します。毎日きちんと服薬できているような患者さんでは問題ありませんが、仕事が忙しく、どうしても飲み忘れてしまうという患者さんや、勤務時間がバラバラだったり、夜勤などもあって、服薬が習慣化できないような患者さんでは、1日2回より1日1回、1日1回よりは週1回のほうが飲み忘れが少なくなるかもしれません。―DPP-4阻害薬の各薬剤間に大きな違いはあるのでしょうか。どのように使い分けをすべきか、教えてください。 DPP-4阻害薬の使い分けについては、第2回 薬物療法のキホン(総論)―同グループ内での薬剤の選択、使い分けを教えてください。をご覧ください。1)Green JB, et al. N Engl J Med. 2015;373:232-242.2)Scirica BM, et al. N Engl J Med. 2013;369:1317-1326.3)Egan AG, et al. N Engl J Med. 2014;370:794-797.4)Yabe D, et al. Diabetes Obes Metab. 2015;17:430-434.5)Azoulay L, et al. BMJ. 2016;352:i581.6)Ben Q, et al. Eur J Cancer. 201;47:1928-1937.

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GLP-1受容体作動薬は心血管イベントを抑止しうるか(解説:吉岡 成人 氏)-603

はじめに  いくつもの大規模臨床試験により、糖尿病治患者の心血管イベントを抑制するためには、発症早期からの集約的な代謝管理が有用であることが確認されている。一方、罹病期間が長く、心血管イベントを発症するリスクが高い患者やすでに心血管疾患の既往がある患者では、インスリンを中心とした薬剤で厳格な血糖管理を目指すことは、低血糖のリスクが高まり、心血管イベントを抑止しえないことも広く知られている。このような背景を基に、インクレチン製剤はGLP-1やGLP-1の代謝産物を介して心保護作用が期待され、心血管イベントに対する有用性を臨床的にも示すデータが待ち望まれていた。しかし、DPP-4阻害薬であるサキサグリプチン、アログリプチン、シタグリプチンを用いたSAVOR-TIMI53、EXAMINE、TECOSの各試験においては、プラセボと比較して心血管イベントに対する非劣性を示すにとどまった。一方、SGLT2阻害薬であるエンパグリフロジンがEMPA-REG試験で心不全の減少を介すると思われる心血管イベント抑制の効果を証明し、その後の解析によって腎保護作用を持つことも示唆されている。GLP-1受容体作動薬と心血管イベント 2016年の米国糖尿病会議において、リラグルチドによって2型糖尿病患者の心血管イベント(心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死的脳卒中)が一定の割合で抑制される(ハザード比0.87、95%信頼区間、0.87~0.97)ことを示したLEADER試験(Liraglutide Effect and Action in Diabetes: Evaluation of Cardiovascular Outcome Results)は大きな話題となったが、有意差はないもののリラグリチド投与群で13例、プラセボ群で5例の膵臓癌の発生(p値0.06)というデータが気にかかった。さらに、急性心不全で入院した患者を対象としてリラグルチドを投与したFIGHT 試験(Functional Impact of GLP-1 for Heart Failure Treatment1))では、リラグルチドによって心不全の予後は改善せず、糖尿病患者に限定すると、予後を悪化しかねないことも示された。リキシセナチドを用いたELIXA試験(Evaluation of Lixisenatide in Acute Coronary Syndrome)でも心血管疾患に対する保護効果はなく、GLP-1受容体作動薬の心血管イベントに対する臨床効果に懸念が持たれた。GLP-1受容体作動薬、週1回製剤の場合 現在、日本において週1回投与が可能なGLP-1受容体作動薬はビデュリオン(エキセナチドをマイクロスフェアに包埋し持続的に放出する製剤)とトルリシティ(デュラグルチド、アミノ酸を置換したヒトGLP-1アナログ2分子にIgG4のFc領域を融合し、吸収速度と腎排泄を低下させ作用時間を延長させる製剤)が発売され、毎日の自己注射が難しい高齢者などを中心に使用が広まっている。 このような背景のもと2016年9月15日号のNEJM誌にノボノルディスクファーマで開発中のGLP-1受容体作動薬、週1回投与製剤であるセマグルチドの心血管イベントに対する影響を検討した研究(SUSUTAIN-6:Trial to Evaluate Cardiovascular and other Long-Term Outcomes with Semaglutide in Subjects with Type2 Diabetes)の報告が掲載された。 20か国230施設にて、50歳以上で心血管疾患の既往がある慢性心不全または慢性腎臓病(CKD)ステージ3以上、または60歳以上で心血管リスク因子(心血管疾患の既往、50%以上の冠動脈病変、運動負荷試験で陽性など)を有するHbA1c7.0%以上の糖尿病患者3,297例を対象としている。対象患者の糖尿病の平均罹病期間は13.9年、平均HbA1cは8.7%、平均体重は87.2kgで、観察期間(中央値2.1年)中に、セマグルチド投与群で6.6%、プラセボ群で8.9%に心血管複合イベント(心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中)が認められ、ハザード比は0.74(95%信頼区間:0.58~0.95、非劣性p<0.001)であった。セマグルチド0.5mg、1.0mg投与群でHbA1cはそれぞれ1.1%、1.4%低下し、体重も3.6kg、4.9kg低下した。膵癌の発生はセマグルチド群1例、プラセボ群4例と報告されている。 個々のイベントでは、心血管死についてはセマグルチド群2.7%、プラセボ群2.8%と差はなかったが、非致死性心筋梗塞と非致死性脳梗塞の発症はそれぞれ2.9% vs.3.9%(ハザード比0.74、95%信頼区間:0.51~1.08、p=0.12)、1.6% vs.2.7%(ハザード比0.61、95%信頼区間:0.38~0.99、p=0.04)と、セマグルチド群での低下傾向が認められた。細小血管障害についてはセマグルチド群の3.0%に網膜症の悪化(硝子体出血、光凝固、硝子体内注射など)が認められプラセボ群では1.8%であった(ハザード比1.76、95%信頼区間:1.11~2.78、p=0.02)。おわりに セマグルチド群では嘔気、嘔吐などの消化管の副作用が多いものの、より良好な代謝管理が得られ、心血管リスクが高い患者では心血管イベントに対する有用性も示唆される成績と考えられる。しかし、GLP-1受容体作動薬で今まで指摘されていなかった網膜症の増悪が示唆される点は不気味な印象を覚える。 いずれにしても、諸手を挙げて「GLP-1受容体作動薬は心血管イベントの抑制に有用」と結論付けるには難しい状況が続いている。【お知らせ】本文内の表記を一部変更いたしました(2016年11月7日)。

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先端巨大症〔acromegaly〕

1 疾患概要■ 概念・定義手足の末端や顔貌の変化など特有な容姿から名付けられた疾患名であるが、成長ホルモン(GH)の過剰分泌により生じる。骨端線閉鎖以前では巨人症(gigantism)を、骨端線閉鎖以降では骨の末端の肥大を示す先端巨大症(acromegaly)を呈する。また、GH過剰状態が長期に持続すると、QOLは低下し、心・脳血管障害、悪性腫瘍、呼吸器疾患などを合併し、生命予後は不良となる。■ 疫学欧米の最近の報告によると、発生頻度(罹患率)は、年間3.5~6.5人/100万人、有病率は125~137人と報告されている。わが国の報告では、片上氏らの宮崎県での調査の結果、罹患率は5.3人/100万人、有病率85人と報告されている。本症に性差はみられず、40~60歳を好発年齢とし各年齢層に広く分布している。■ 病因先端巨大症の99%以上は、下垂体のGH産生腫瘍が原因であるが、ごくまれに気管支や膵、十二指腸などに発生する内分泌腫瘍から、異所性にGH放出ホルモンが過剰に産生される異所性GHRH産生腫瘍や、膵臓がんや悪性リンパ腫での異所性GH産生などが原因となる先端巨大症の報告例がある。■ 病態生理GH産生腫瘍もほかの下垂体腫瘍同様、モノクローナルな腫瘍で、体細胞レベルでの突然変異(somatic mutation)が腫瘍化の原因と考えられてきた。約半数の症例ではGHRH受容体と共役しているGタンパク質のαsubunitであるGsαの活性化変異(gsp変異)が認められる。その結果アデニル酸シクラーゼの活性化が持続し、細胞内のcAMPの増加が維持され、細胞増殖が促進する。一方、家族性にGH産生腺腫を合併する疾患にCarney complex、家族性GH腺腫(isolated familial somatotropinoma:IFS)、多発性内分泌腺腫症(MEN1および4)があるが、弧発性GH腺腫でもこれらの遺伝性疾患の原因遺伝子が検討されたが、不活化を伴う体細胞変異は認められていない。■ 臨床症状症状はGH過剰分泌に基づく症候が主体で、時に下垂体腫瘍が大きな場合には下垂体機能低下、視機能障害、頭痛など占拠性症候が同時に認められる。GHの過剰分泌により、肝臓でインスリン様成長因子-1(insulin-like growth factor 1: IGF-1)が過剰に産生され、これらGH、IGF-1の過剰分泌が長期に続くと、骨、軟部組織、内臓の肥大や変形が生じる。臨床症状としては顔貌の変化、手足の肥大はほぼ全例で認められ、耐糖能の低下、巨大舌、発汗過多も70%以上でみられる。また、先端巨大症では約25%(自験例で13%)の症例でプロラクチン(PRL)の同時産生を認めるため、月経異常(無月経、乳汁漏出)が主訴となることがある(図1、図2、表)。画像を拡大するA:先端巨大症の主な症状B:先端巨大症男性例の顔貌。骨の変形に伴う眉弓部・頬骨部の隆起、下顎の突出がみられ、鼻、口唇の肥大も認める特徴的な先端巨大症顔貌C:左は手指の腫大、皮膚の肥厚、多毛など典型的な先端巨大症の手(右は成人男性健常者)画像を拡大する画像を拡大する1)顔貌の変化眉弓部や頬骨部の隆起、下顎の突出、咬合不全、歯間の開大などが認められ、軟骨、軟部組織、皮膚も影響され、鼻、口唇も肥大し、いわゆる先端巨大症様顔貌を呈する(図1B)。2)骨、関節、結合組織手足の骨は伸び、手足の末端は肥大し、指は厚ぼったく太く丸みをおび、時に手指で小さな物をつまみ上げることが困難となる(図1C)。多角的にはX線検査における手指末節骨先端の花キャベツ様変化また結合組織も肥大によるheel pad(踵骨と足底の間の軟部組織)の肥厚が認められる。時に骨、結合組織の肥厚に伴い、手根管症候群や座骨神経痛、股関節、顎関節、膝関節の変形に伴う痛みも認められる。体型も椎骨の肥大変形により、胸部は後彎、腰部は前彎という独特な体型を呈する。これら骨に生じた変形は通常進行性で不可逆的である。3)皮膚肥厚し、色素沈着や発汗過多により、手掌、足底は常にべたつき、しばしば異臭を伴う。4)臓器肥大肝臓、腎臓、甲状腺などが肥大する。舌の肥大は巨大舌と呼ばれ、声帯の肥大などとともに特徴的な低い声となる(deepening of the voice)。5)循環器高率に高血圧を合併する。これは進行する動脈硬化と細胞外液量の増加が関与すると考えられている。心肥大も多く、最終的には拡張性の心不全を生じ、生命予後を左右する大きな一因となっている。6)呼吸器胸郭、肺の弾性が低下し、換気低下が進行すると慢性気管支炎、肺気腫など器質性変化が生じ、時に呼吸不全となる。また、近年本症は閉塞性の睡眠時無呼吸症候群の一因としても注目されている。7)代謝GHのインスリン拮抗作用が原因で耐糖能の低下、糖尿病が高頻度にみられる。8)占拠性症候下垂体腫瘍の70%以上は、腫瘍径1cm以上のmacroadenomaであるが、視野異常など視機能低下を合併する頻度はそれほど多くはない(自験例で5%)。同様に腫瘍の圧迫による続発性下垂体機能低下症もまれである。■ 予後放置した場合の生命予後は、一般人口と比較すると不良で、標準化死亡率は1.72倍高いと報告される一方、治療によりGH、IGF-1値が正常化すると、その後の生命予後は一般人と変わらなくなると報告されている。また、合併する高血圧、糖尿病、心疾患などの合併症のコントロールも生命予後の改善に寄与する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 臨床所見とGH、IGF-1基礎値診断の基本はまず臨床的所見から先端巨大症を疑うことが重要である。しかし、通常患者が直接専門医を受診することは少なく、早期発見のためにも、合併疾患の治療科である整形外科、呼吸器科、一般内科医などへの本疾患の啓発が重要である。近年、新聞・雑誌や下垂体患者会などからの啓発活動の結果、患者自らがこの疾患を疑い、専門機関を受診するケースも増加している。本疾患が疑われる患者では、まずGH、IGF-1値を含めた下垂体ホルモン基礎値を測定し、GH過剰分泌の有無、他のホルモンの過剰あるいは低下の有無を検討する。重要なことは、GH基礎値は変動が大きく、単回の血中GH基礎値のみでのGH過剰状態の判定は不可能で、同時に必ずGHの総分泌量を反映するIGF-1値を測定することが重要である。臨床所見を認め、IGF-1値が年齢、性別の基準値より明らかに高値を示す場合には、通常先端巨大症と考えてよい(図2)。■ 経口ブドウ糖負荷試験など先端巨大症患者では、GHの抑制がないか、逆説的な増加を示し、0.4ng/mL未満には抑制されない。感度の高い検査で、本疾患が疑われる場合には必須の検査である。この検査は、先端巨大症の診断のみならず耐糖能の評価、治療後の耐糖能低下改善の予測などにも重要な検査である。以上で診断が確実となれば、他の前葉ホルモンの機能評価を兼ねたTRH、CRH、GnRH 3者負荷試験、薬物の効果を予測するドパミン作動薬(ブロモクリプチン)やオクトレオチド負荷試験を施行する。■ 画像検査次に重要なことは腫瘍の状況の把握で、このためには下垂体の精検MRIが最も重要である。通常1cm以下の微小腺腫が2~3割程度を占める。また、下垂体腫瘍が認められない場合には、異所性GHRH産生腫瘍なども考慮する必要がある(図2)。■ その他の検査合併症の評価のため、心機能、呼吸機能、動脈硬化の程度の評価、大腸がんの有無の評価なども重要な検査である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)先端巨大症を呈する下垂体腫瘍の治療の目的は、過剰に産生されているGHの早期の正常化と、腫瘍が大きく圧迫症候を伴っているときには、それらの改善にある。本疾患の治療の原則は、外科的切除が第1選択であるが、手術不能例や患者の同意が得られない特殊な場合、手術で治癒が不可能と考えられる一部の症例、外科的治療でも治癒が得られない場合には薬物療法、放射線療法などの補助療法を追加する。同時に合併症のコントロールも予後の改善からも重要である。先端巨大症の治療の流れを示すフローチャートを図3に示した。画像を拡大する■ 手術療法手術は通常経鼻的アプローチで行われ、これを「経蝶形骨洞手術」と呼び、手術用顕微鏡や内視鏡下に施行されるが、大きな腫瘍や浸潤性腫瘍では、患者の全身状態の改善による周術期のリスクの減少と腫瘍の縮小を目的として、術前短期(1~3回程度)のオクトレオチドLAR(商品名: サンドスタチンLAR)、ランレオチド(同:ソマチュリン)を使用する場合がある。現在のところ下垂体外科を専門とする施設での治癒率は、60~70%と報告されている(図4)。手術での治療成績不良な因子としては、腫瘍の大きさ、海綿静脈洞浸潤の有無などが挙げられる。画像を拡大する■ 薬物療法腫瘍からのGH分泌を抑制し、抗腫瘍効果のあるドパミン作動薬(ブロモクリプチン[商品名: パーロデル]やカベルゴリン[同:カバサール])、ソマトスタチンアナログ製剤が主に使用されている。それでも効果が不十分な場合には、GHの作用をブロックするペグビソマント(同:ソマバート)が使用される。ただし、ソマトスタチンアナログ製剤やペグビソマントは、有効率は高いものの、きわめて高価であること、ペグビソマントは毎日自己注射が必要なこと、カベルゴリンは保険適用ではないことが欠点である。また、これらの薬剤の効果をより高めるために、多剤薬物療法(combined therapy)も適時試みられている。■ 放射線照射海綿静脈洞内など外科切除困難な部位に腫瘍が残存し、薬物効果が不十分な場合などが適応となる。現在ではγナイフやサイバーナイフなどの定位放射線療法が主体で、従来の放射線療法に比較し、いずれも短時間でより選択的な照射が腫瘍へ可能であり、かつ治療効果発現までの時間も短く(通常1~2年)、正常下垂体、神経組織への障害も少ない。■ フォローアップ通常治療後、治癒基準を満たす症例が再発を呈することはきわめてまれであるが、半年~1年に1度GH、IGF-1検査のフォローが必要である。また、術前の症状の有無により、適時に大腸内視鏡、心エコーなどの定期的フォローも必要となるし、薬物療法施行例では、それぞれの副作用のチェック、さらに放射線療法が行われた症例ではGH、IGF-1はもちろん、下垂体機能低下症の長期にわたるフォローも重要となる。4 今後の展望本疾患の早期発見、早期治療のためには、関連診療科医師へのさらなる啓発活動が重要である。薬物治療法については、オクトレオチドLAR、ランレオチドなどの標準的なソマトスタチンアナログ製剤と比較して、より優れたGHおよびIGF-1の治療目標値への達成が期待されるSOM230(一般名: パシレオチド)が、2016年末にわが国で発売される予定である。また、ソマトスタチンアナログ製剤は、現在1ヵ月に1度の割合で病院での注射が必要となるが、アドヒアランスのより高い経口薬(oral octreotide)がすでに開発されており、近い将来広く臨床応用されることが期待される。5 主たる診療科下垂体疾患・腫瘍を取り扱う内分泌内科、脳神経外科、小児科6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 先端巨大症、下垂体性巨人症(下垂体性成長ホルモン分泌亢進症)平成27年施行の指定難病。先端巨大症は、下垂体性成長ホルモン分泌亢進症(告示番号77)に分類されている。本サイトは「厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 間脳下垂体機能障害に関する調査研究 先端巨大症および下垂体性巨人症の診断と治療の手引き」にリンクされている。アクロメガリー広報センター(ノバルティスファーマ株式会社)先端巨大症ねっと(帝人ファーマ株式会社)いずれも製薬メーカーが運営するサイトであるが、患者向け、医療者向けの両サイトがあり、先端巨大症についての知識や治療法がわかりやすく解説されている。患者会情報下垂体患者の会(下垂会)2005年に下垂体疾患の患者有志が集まり、自分達の病気の難病指定を目標に結成され、現在全国規模で医療講演会や患者会を定期的に開催・活動している。1)Katznelson L, et al. J Clin Endocrinol Metab.2014;99:3933-3951.2)特集 先端巨大症の診療最前線. ホルモンと臨床.2009.3)平田結喜緒 編. 下垂体疾患診療マニュアル 改訂第2版.診断と治療社;2016.4)千原和夫 監修. 改訂版 Acromegaly Handbook.メディカルレビュー社;2013.公開履歴初回2016年10月18日

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第5回 スルホニル尿素(SU)薬による治療のキホン【糖尿病治療のキホンとギモン】

【第5回】スルホニル尿素(SU)薬による治療のキホン―SU薬が第1選択薬となる典型的な症例は、どのような患者でしょうか。 直接、膵β細胞上のSU受容体に結合してインスリン分泌を促進し、血糖を低下させるSU薬は、インスリン分泌障害のある、非肥満の患者さんに適しています。古くからある薬剤で、以前は臨床現場でも多く使われていましたが、DPP-4阻害薬が登場し、さらにSGLT2阻害薬が出るなど、糖尿病治療の選択肢が増えたことで、長期にわたる治療が必要な糖尿病においては、強力な血糖降下作用を示すSU薬は、「経口血糖降下薬の最後の手段として温存しておく」という考えが徐々に広がっています。 食事・運動療法を行っても血糖コントロールが改善しない場合は、患者さんの病態(インスリン分泌能低下、インスリン抵抗性、空腹時高血糖、食後高血糖など)に合わせ、“単独で低血糖を来しにくい”、“体重増加を来さない”といった安全性の面からも使いやすい薬剤から始め、それでも空腹時血糖値が下がらないようであれば、SU薬を検討してもよいと思います。また、そのときには、“膵β細胞に十分な残存機能がある(インスリン分泌能が比較的保たれている)こと※”、また、“食事・運動療法が守られていること”が重要です。 ※空腹時血中Cペプチド(CPR)値≧0.6ng/mL、24時間尿中CPR排泄量>20μg/日1) インスリン分泌能の評価には、血中インスリン、血中Cペプチド、尿Cペプチドがありますが、尿中Cペプチドは畜尿が必要なため、外来では用いにくい指標です。朝食前血中Cペプチドの正常値は1.0~3.5ng/mlで、0.5ng/ml以下ではインスリン依存状態と考えられます。低値であればあるほど、インスリン分泌障害が高度であり、インスリン療法が必要になります。また、この血中Cペプチドを用いたCペプチドインデックス(CPI)というものが、内因性インスリン分泌能の評価に有用な指標として使用されています。CPIの計算式は、CPI= [朝食前血中Cペプチド(ng/ml) / 朝食前血糖値(mg/dl)]×100 であり、CPI≦0.7ではインスリン療法が必要、CPI≧1.2では食事療法、運動療法を十分に行えば、経口薬で良好な血糖コントロールが得られるとされています2)。―長期使用による膵β細胞の疲弊、アポトーシス(二次無効)のリスクはあるのでしょうか。 SU薬を長期使用した患者さんで、膵β細胞が疲弊し、機能が低下することで、SU薬の効果が減弱し、血糖上昇を認める“二次無効”がみられることがあります。しかし、この効果減弱が、SU薬の長期使用による刺激が直接原因になっているのか、あるいは食事・運動療法の乱れによる血糖コントロール不良により、持続する高血糖が原因になっているのかを見極めることは容易ではありません。 このような状態になってしまうと、膵β細胞を休息させ、インスリン分泌能を回復させる必要があるため、インスリン治療が必要となります(糖毒性の解除)。インスリン分泌能が回復すれば、再び経口血糖降下薬による治療に戻すことができるようになる可能性もありますが、膵β細胞の機能低下程度や二次無効の期間によっては、回復が難しいこともあります。インスリン治療に対しては、患者さんにとって心理的障壁があるというだけでなく、実は医師にとっても大きな負担になることが報告されています3)。できるだけ医師、患者さんの双方で負担なく治療を続けるためにも、二次無効に至らないよう、SU薬は漫然と使用せず上手に使うことが重要です。今は、さまざまな治療薬がありますので、病態や安全性を考慮し、SU薬を使用するのであれば、他の薬剤も組み合わせ、それらの用量を調節しながら、SU薬はできるだけ低用量で維持するのがよいと思います。―低血糖を回避するためには、どのようなことに気を付ければよいでしょうか? SU薬では低血糖に注意する必要があります。強力なインスリン分泌促進作用が長時間続くため、血糖値にかかわらず“遷延性低血糖”が問題になります。とくに肝・腎機能低下例や生理機能の低下した高齢者では注意が必要で、高齢者の場合は認知症と間違われてしまうことがあります。 もう1つ、SU薬を投与する場合に注意したいのが“夜間の無自覚性低血糖”です。第2回 薬物療法のキホン(総論)-ファーストチョイスや併用に迷っています。機序の異なる薬の使い分け・効果的な組み合わせを教えてください。でもお話ししましたが、血糖値は1日の中で常に変動しており、その変動する血糖値をならした“平均血糖”を反映しているのがHbA1cです。持続的にインスリン分泌を促進するSU薬の場合、血糖変動幅はそのままの状態で、全体を下にスライドさせるように血糖値を低下させています。SU薬単独で比較的HbA1cが低い患者さんでは、食後の血糖値は高くても、夕食前や夜間の血糖値がかなり低いためにそれらが相殺されて、見かけ上はHbA1cが低くなっているということがあります。このような患者さんでは、食後高血糖が改善されていないうえに、夜間の血糖値は低血糖域付近であったり、低血糖を起こしている可能性があります(無自覚性低血糖)。夜間に低血糖を生じている場合、悪夢をみて気分が悪くなって目が覚めたり、起床時の頭痛や就寝時の発汗、倦怠感などを訴えることがあります。 夜間の低血糖を回避するためには、SU薬単独で血糖正常化を目指さずに(7.5%以下は目指さない)、食後高血糖を改善する薬剤などを併用して血糖変動幅を縮小する、血糖コントロールが悪化した場合にも、SU薬を増量するのではなく、単独で低血糖や体重増加を来しにくい薬剤の用量を調節するなどして、“上質な”HbA1cの低下を目指すとよいでしょう。―体重増加を回避するためには、どのようなことに気を付ければよいでしょうか? SU薬では、体重増加もしばしば問題になります。これはSU薬により空腹時血糖が下がり過ぎてしまい、空腹を感じて食べてしまうことが原因になります。前述したように、SU薬単独で治療しており、食後高血糖が改善されておらず、それを相殺するように、空腹時血糖値が低血糖傾向になっているような、見かけ上HbA1cが良好な患者さんでよくみられます。このような患者さんでは、血糖コントロールが悪化してくると、どうしても使用中のSU薬を増量したくなることもあるかと思いますが、SU薬を増量すると、ますます空腹感が強くなってしまうため、食後高血糖を改善する薬剤を追加するなどして、血糖変動幅を縮小する治療を行うとよいでしょう。1)日本糖尿病学会編・著.糖尿病治療ガイド2016-2017.文光堂;2016.2)鈴木ひかり、浦風雅春、戸邊一之. インスリン分泌能や膵島量の指標とは. 糖尿病レクチャー 1(1):69-74, 21003)Ishii H, et al. PLoS One. 2012;7:e36361.

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トルリシティ週1回注射で糖尿病患者の負担軽減

 8月31日、日本イーライリリー株式会社は、同社の持続性GLP-1受容体作動薬デュラグルチド(商品名:トルリシティ皮下注0.75mgアテオス)の投薬制限期間が、9月1日に解除されることから、「新しい治療オプションの登場による2型糖尿病治療強化への影響」をテーマにプレスセミナーを開催した。 セミナーでは、糖尿病治療への新しい選択肢を示すとともに、患者の注射に対する意識アンケート調査結果も公表された。トルリシティは簡単な操作で週1回の注射 じめに岩本 紀之氏(同社研究開発本部 糖尿病領域)が、トルリシティの製品概要について説明した。 GLP-1受容体作動薬は、膵β細胞膜上のGLP-1受容体に結合し、血糖依存的にインスリン分泌を促進する作用があり、グルカゴン分泌抑制作用も併せ持つ。胃内容物排出抑制作用があり、空腹時と食後血糖値の両方を低下させ、食欲抑制作用は体重を低下させる作用がある。また、単独使用では、低血糖を来す可能性は低いとされる。 トルリシティは、ヒトGLP-1由来の製剤で、血中濃度半減期は4.5日。1週間にわたり、安定した血中濃度を示すという。 26週の単独使用の国内第III相試験では、HbA1c推移はプラセボ(n=68)がベースラインから+0.14に対し、デュラグルチド(n=280)は-1.43であった。また、HbA1c 7.0未満の達成率(26週後)は、プラセボが5.9%だったのに対し、デュラグルチドは71.4%であった。また、副作用の発現率は29.7%(272/917例)で便秘、悪心、下痢の順で多く、重篤な副作用は報告されていない。低血糖症(夜間・重症含む)の発現は、プラセボ(n=70)で1例、デュラグルチド(n=280)で6例、リラグルチド(n=137)で2例だった。 なお、トルリシティのデバイスであるアテオスは、1回使い切りのデバイスで、わずか3つのステップで使用することができる。インスリンと異なり、針の付け替え、薬剤の混和、空打ちは不要で、訓練を要せずに簡単に使用できるという。 対象は2型糖尿病患者で、週1回、朝昼晩いつでも0.75mgを注射するだけで、優れた血糖低下を発揮する。DPP-4阻害薬はいい治療薬だけれど… セミナーでは、「新しい治療オプションの登場による2型糖尿病治療強化への影響~最新の研究結果から、注射に対する抵抗感の現状と未来を考える~」と題して、麻生 好正氏(獨協医科大学 内分泌代謝内科 教授)が、望まれる糖尿病治療薬の在り方と患者アンケートの概要について解説を行った。 糖尿病の概要と現状について、生活環境の変化(身体活動の低下)と食生活の変化(動物性脂肪の摂取の増加)などにより、患者数が50年前と比較し約38倍になっていること、そして、わが国では新しい血糖コントロール目標が2013年より導入され、個別化による目標血糖値に向けて治療が行われていることが説明された。 次に糖尿病の治療薬に望まれることとして、「低血糖を起さない」「治療に伴う体重増加がない」「血糖低下作用が十分ある」の3点を示すとともに、長期血糖コントロール維持と効果の持続性、膵β細胞機能低下抑制、障害のある腎・肝臓でも使用可能、心血管系に悪影響を及ぼさない、長期の安全性なども望まれると説明した。 現在、使用できる糖尿病治療薬の中でも、体重増加を避け、低血糖リスクの低い薬としては、「DPP-4阻害薬」「GLP-1受容体作動薬」「SGLT2阻害薬」の3種が挙げられる。とくにインクレチン関連薬の「DPP-4阻害薬」はアジア人に効果が高く、わが国でも広く使用されているが、最近増えている欧米型肥満の患者には効果に限界があり、また、経口血糖降下薬だけでは約6割の患者しかHbA1cを7.0%以下に下げることができず、次の治療オプションの模索がされているという。週1回注射のトルリシティは患者のアドヒアランスを向上 もう1つのインクレチン関連薬の「GLP-1受容体作動薬」は、注射薬のために臨床現場では使用へのハードルが高いものであった。しかし、GLP-1受容体作動薬は、DPP-4阻害薬の効果に加え、食欲低下、胃排出能の低下、体重減少効果もあり、抗動脈硬化作用1)も報告されている。他剤との併用では、基礎インスリンが一番効果を発揮し、基礎インスリンの良好な空腹時血糖コントロール、低血糖リスクが少ない、体重増加が少ない、肝糖新生抑制などの特性とGLP-1受容体作動薬の特性とが相まって効果を発揮することで、優れたHbA1cのコントロールをもたらすと期待されている。 先述のように注射というハードル故に、使用に二の足を踏まれていたGLP-1受容体作動薬について、患者へのアンケート調査(糖尿病治療薬[注射製剤]に関する患者調査2))で、次のようなことが明らかになった。 「患者が重視した薬剤属性」では、投与頻度(44.1%)、投与方法(26.3%)、吐き気の頻度(15.1%)、低血糖の頻度(7.4%)と回答が寄せられた。 「投与の度に注射が必要な糖尿病の治療薬を使用したいと思うか?」については、89.5%の患者が使用したくない/あまり使用したくないと回答し、とても使用してみたい/いくらか使用してみたいと回答した患者はわずか1.7%だった。 「トルリシティをどの程度使用してみたいか?」については、37.9%の患者が依然として使用したくない・あまり使用したくないと回答し、とても使用してみたい・いくらか使用してみたいと回答した患者は42.9%となり、上記の1.7%と比較して急伸した。 週1回の注射という患者のアドヒアランスを考慮したGLP-1受容体作動薬の出現は、アンケートにみられた注射への心理的ハードルを越え、たとえば忙しい社会人や在宅治療中の高齢者には、利便性が高く、経口薬だけではない治療の選択肢の幅が拡がるという。 最後に麻生氏は、「これから注射薬の早期導入がしやすくなることで、糖尿病患者の個別化治療の促進や予後の改善が期待される」とレクチャーを終えた。【訂正のお知らせ】本文内の表記を一部訂正いたしました(2016年9月21日)。■参考日本イーライリリー(糖尿病・内分泌系の病気)■関連記事ケアネットの特集「インクレチン関連薬 徹底比較!」

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第4回 チアゾリジン薬による治療のキホン【糖尿病治療のキホンとギモン】

【第4回】チアゾリジン薬による治療のキホン―チアゾリジン薬はどのような患者に適しているのでしょうか。 チアゾリジン薬は、脂肪前駆細胞から脂肪細胞への分化を促進させ、アディポネクチン※を分泌する小型脂肪細胞の増加や大型脂肪細胞のアポトーシス(細胞死)を惹起したり、脂肪細胞への脂肪酸の取り込み増加により、骨格筋や肝に取り込まれる脂肪酸の量を減少させることなどにより、末梢組織でのインスリン感受性を高め、インスリン抵抗性を改善して、血糖を低下させます。そのため、インスリン抵抗性のある肥満患者が適しています(BMI≧24、あるいは空腹時血中インスリン値≧5μU/mL)1)。 チアゾリジン薬では、循環血液量の増加による浮腫や心不全に注意する必要があります。浮腫は女性で多いことが報告されているため、女性では最小用量の15mg(1日1回)から開始します1)。副作用は効果の裏返しともいえます。チアゾリジン薬の市販後調査でも、女性のほうが本剤の感受性が強いことが報告されています。2),3)。女性のほうが効果が出やすいので、15mgでも浮腫が出るようであれば、減量しながらみていきます。 また、海外で、女性でチアゾリジン薬による骨折リスクが報告されていますので4)、骨粗鬆症や、閉経後の女性では注意が必要です。 私のこれまでの臨床経験から、チアゾリジン薬では明らかに効果が出る患者さん(レスポンダー)がいると感じています。そのため、そういった患者さんでは、効果と安全性のバランスをみながら、適宜増減を考慮し、治療を進めていくとよいと思います。 ※脂肪細胞から分泌される生理活性物質(アディポサイトカイン)で、骨格筋や肝における脂肪酸の燃焼と糖の取り込みを促進し、インスリン感受性を増強させる5)。また、マウスにおける動脈硬化の抑制や、アディポネクチン欠損マウスにおける血管の炎症性内膜肥厚の亢進が示されていることから、動脈硬化抑制作用を持つと考えられている6,7)。―どの程度の心疾患既往者であれば使用してよいのでしょうか。 チアゾリジン薬は心不全および心不全既往例では禁忌で、心不全発症の恐れのある心筋梗塞、狭心症、心筋症、高血圧性心疾患などの心疾患患者さんには慎重投与です1)。つまり、心不全以外の既往症であれば投与できますが、心疾患既往例では、心不全のリスクが高いことを念頭に置き、投与中は、浮腫や急激な体重増加、息切れや動悸といった心不全の症状がないかどうか、十分注意します。患者さんにも、あらかじめ、これら異常がみられた場合には、すぐに受診するよう伝えます。 また、定期的に血中BNP値や心電図、胸部X線検査などでモニタリングするとよいでしょう。とくに、心室で合成され、血中を循環する心臓ホルモンであるBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド;Brain Natriuretic Peptide)は、心室への負荷の程度を反映する生化学的マーカーで、広く臨床現場で使用されています。「慢性心不全治療ガイドライン(2010年改訂版)」では、心不全の所見に加え、BNP>100pg/mLであれば、心不全を想定して検査を進めるとされています8)。心不全のリスクが高い患者さんでは、BNP値を測定し、上昇してくるようであれば、診察時には毎回検査するなど、注意が必要です。―膀胱がんの危険性について教えてください。 海外の研究で、ピオグリタゾンを投与した患者さんで膀胱がん発生リスクが増加する恐れがあり、投与期間が長くなるとリスクの増加傾向があることが示されています9)。そのため、膀胱がん治療中の患者さんには投与を避けることとされています1)。また、「膀胱がん既往例には、薬剤の有効性および危険性を十分に勘案したうえで、投与の可否を慎重に判断する」となっていますが1)、私は膀胱がん既往例に対しては、ピオグリタゾン以外の選択肢がない場合にしか用いていません。 ピオグリタゾンの膀胱がんのリスクについては、海外でリスクが増加する恐れがあるという報告があることを患者さんに伝え、投与期間が長くなってきたら、定期的な尿検査を行うなど、注意する必要があります。また、投与終了後も継続して、十分観察します。―浮腫・体重増加がみられる女性患者への対応を教えてください。 前述したように、女性は効果がある反面、浮腫が出現しやすいため、“むくみが出る可能性がある”こと、“塩分摂取量にはとくに注意する必要がある”ことを事前に伝えます。体重増加がみられれば、それが浮腫によるものなのか(急激な体重増加、手足のむくみ、息苦しさ、動機など)、あるいは生活習慣の乱れによる体重増加なのかを見極め、浮腫の場合には、心不全でないことを確認したうえで、浮腫に対する対応として、塩分制限や利尿剤投与などの対応を検討します。 チアゾリジン薬では、小型脂肪細胞が増加し、大型脂肪細胞のアポトーシスが惹起されることでインスリン抵抗性を改善する働きがあるとお話ししましたが、小型脂肪細胞が治療前より増加するため、過食などによる体重増加にも注意する必要があります。実際に、チアゾリジン薬を投与された2型糖尿病患者さんでは、内臓脂肪は減少するものの、皮下脂肪が増加することがわかっています10)。1)アクトス製品添付文書(2015年3月改訂)2)医薬品インタビューフォーム アクトス錠15・30,アクトスOD錠15・30(2015年11月改訂).p533)Kawamori R, et al. Diab.Res.Clin.Pract. 76(2007)229-235.4)Habib ZA, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2010;95:592-600.5)Shindo T, et al. Nat Med. 2002;8:856-863.6)Kubota N, et al. 2002;277:25863-25866.7)Yamauchi T, et al. J Biol Chem. 2003;278:2461-2468.8)日本循環器学会ほか.慢性心不全治療ガイドライン(2010年改訂版).In:循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2009年度合同研究班報告).9)Lewis JD, et al. Diabetes Care. 2011;34:916-922.10)Miyazaki Y, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2002;87:2784-2791.

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製薬企業から医師への報酬、処方に有意に影響/BMJ

 製薬企業から医師に支払われる、講演料やコンサルティング料などは、その地域で営業活動が展開されている経口抗凝固薬と非インスリン糖尿病治療薬の、処方日数の増加と結び付いていることが明らかにされた。同処方増は、報酬対象が非専門医よりも専門医の場合であったほうが、有意に大きかったという。米国・エール大学のWilliam Fleischman氏らが、米国306地域の病院医療圏(hospital referral region:HRR)を対象に断面調査を行った結果で、BMJ誌オンライン版2016年8月18日号で発表した。製薬企業から医師への報酬は処方に影響しないと考える医師が多いが、これまでその影響を調べた検討はほとんど行われていなかった。病院医療圏306ヵ所を対象に調査 研究グループは、2013~14年の米国高齢者向け公的医療保険メディケアパートDの処方記録(政府サイトで検索・入手可能)を基に、処方頻度の高い経口抗凝固薬と非インスリン糖尿病治療薬の2種について、製薬企業から医師への報酬と、各地域における処方との関連を分析した。対象地域は306の病院医療圏で、製薬企業から医師への報酬としては、講演料、コンサルティング料、謝礼金、贈答品、飲食費、旅費などを含んだ。調査対象は、対象期間中に地域における医師への報酬が100件以上報告されていた薬剤(marketed drugs)とした。 主要評価項目は、医師が処方した経口抗凝固薬や非インスリン糖尿病治療薬の割合または市場占有率だった。 306病院医療圏において、対象とした2種の処方薬は、医師62万3,886人により患者1,051万3,173人に4,594万9,454例処方されていた。報酬が1回増ごとに、糖尿病治療薬の処方日数107日増加 306病院医療圏において、経口抗凝固薬に関連して97万7,407件、総額6,102万6,140ドルの医師への報酬があった。非インスリン糖尿病治療薬では、178万7,884件、総額1億841万7,616ドルの報酬があった。 病院医療圏における調査対象薬の市場占有率は、経口抗凝固薬が21.6%、非インスリン糖尿病治療薬12.6%だった。 病院医療圏において、医師への報酬が1回(中央値13ドル、四分位範囲:10~18ドル)増えるごとに、経口抗凝固薬の処方日数は94日(95%信頼区間[CI]:76~112)、非インスリン糖尿病治療薬の処方日数は107日(同:89~125)、それぞれ増加が示された(いずれもp<0.001)。こうした増加は、報酬対象が非専門医よりも専門医の場合で有意に大きく、経口抗凝固薬の専門医 vs.非専門医の処方日数増は212 vs.100日、非インスリン糖尿病治療薬でも331 vs.114日だった(いずれもp<0.001)。 また、非インスリン糖尿病治療薬の処方日数の増加について、報酬が飲食費であった場合は110日増であったのに対し、講演料・コンサルティング料の場合は484日増と有意な差が認められた(p<0.001)。 なお、今回の検討について著者は、「医師への報酬と処方増との因果関係を示すものではなく、所見は一部の限られたものであると解釈するにとどめるべきであろう」としている。

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1型糖尿病の夜間クローズドループ療法、妊婦にも有効/NEJM

 1型糖尿病の妊婦では、自動化された夜間クローズドループ療法は、センサー付きのインスリンポンプ(sensor-augmented pump:SAP)療法よりも良好な血糖コントロールをもたらすことが、英国・ケンブリッジ大学のZoe A Stewart氏らの検討で示された。研究の成果は、NEJM誌2016年8月18日号に掲載された。妊娠中の1型糖尿病の合併症として、先天性異常、死産、新生児の死亡、早産、巨大児の発生率が増加する。妊娠していない1型糖尿病患者の血糖コントロールでは、クローズドループ療法がSAP療法よりも優れることが報告されているが、妊婦における効果や安全性、実行可能性のデータは十分でないという。2つのデバイスをクロスオーバー試験で評価 研究グループは、1型糖尿病妊婦の血糖コントロールにおける2つのデバイスの有用性を比較する非盲検無作為化クロスオーバー試験を行った(英国国立健康研究所[NIHR]などの助成による)。 16例が、クローズドループ療法(介入)とSAP療法(対照)をランダムな順序で4週間行った。引き続き、継続期には14例が昼夜ともクローズドループ療法を行い、分娩まで継続した。 主要評価項目は、夜間血糖値が目標範囲内(63~140mg/dL[3.5~7.8 mmol/L])にある時間の割合であった。 ベースラインの16例の平均年齢は34.1±4.6歳、平均BMIは29.7±5.7、平均糖化ヘモグロビン値は6.8±0.6%、平均糖尿病罹病期間は23.6±7.2年であった。夜間目標血糖値達成率が改善、重度低血糖は発現せず 夜間血糖値が目標範囲内の時間の割合は、クローズドループ療法が74.7%であり、SAP療法の59.5%よりも高かった(絶対差:15.2ポイント、95%信頼区間[CI]:6.1~24.2、p=0.002)。また、夜間の平均血糖値は、クローズドループ療法が119mg/dL(6.6mmol/L)と、SAP療法の133mg/dL(7.4mmol/L)に比べ低かった(p=0.009)。 血糖値が目標範囲より低い時間の割合(クローズドループ療法:1.3 vs.SAP療法:1.9%、p=0.28)、インスリン投与量(59.8 vs.58.2U/日、p=0.67)、有害事象(全体で26件、そのうち14件が皮膚反応)の発現率は、2つの治療法に有意な差を認めなかった。 継続期(出産前の入院、陣痛、分娩を含め最長で14.6週)では、血糖値が目標範囲内の時間の割合は68.7%であり、平均血糖値は126mg/dL(7.0mmol/L)であった。 第三者の介助を要する重度の低血糖エピソードは、4週の無作為化期間とその後の昼夜継続期間のいずれにも発現しなかった。 妊娠期間中央値は36.9週であり、帝王切開が15例で行われた。37週未満の分娩は7例であった。胎児の肺成熟のための母体へのグルココルチコイド投与が6例で行われた。 出生時体重中央値は3,588gであった。12例が新生児集中治療室に入室し、新生児低血糖で11例がブドウ糖を投与された。 著者は、「これらの知見は、クローズドループ療法はSAP療法に比べ、低血糖エピソードやインスリン投与量を増加させずに血糖コントロールを改善するとの最近の研究結果を裏付けるものであり、妊婦の血糖コントロールは妊婦以外とほぼ同じであった」とし、「おそらく、妊娠中の厳格な目標血糖値の維持に対する、妊婦の強い動機付けを反映している」と指摘している。

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糖尿病性腎症の有病率、26年間の変遷/JAMA

 1988~2014年の26年間に、米国の糖尿病の成人患者における糖尿病性腎臓病(diabetic kidney disease:DKD)の有病率には有意な変化はなかったが、アルブミン尿は有意に低下し、推定糸球体濾過量(eGFR)低下は有意に増加したことが、米国・ワシントン大学のMaryam Afkarian氏らの調査で示された。研究の成果は、JAMA誌2016年8月9日号に掲載された。DKDは、糖尿病患者で持続的アルブミン尿、持続的eGFR低下あるいはその双方がみられる場合と定義される。以前は、進行性のアルブミン尿に続いてeGFR低下が発現するとされたが、最近では、アルブミン尿の発現前または発現なしにeGFRが低下する例が多く、人口動態や治療の変化の影響が示唆されている。6,000例以上の糖尿病患者で腎臓病症状の経時的変化を調査 研究グループは、米国の糖尿病の成人患者における腎臓病の臨床症状の経時的な変化の特徴を検討するために連続的な断面研究を行った(米国国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所[NIDDK]などの助成による)。 1988~2014年に米国国民健康・栄養調査(NHANES)に参加した20歳以上の糖尿病患者を解析の対象とした。糖尿病は、HbA1c≧6.5%、血糖降下薬(インスリン製剤、経口血糖降下薬)の使用、またはその双方と定義した。 主要評価項目として、アルブミン尿(尿中アルブミン/クレアチニン比[UACR]≧30mg/g)、顕性アルブミン尿(UACR≧300mg/g)、eGFR低下(<60mL/分/1.73m2)、重度eGFR低下(<30mL/分/1.73m2)の評価を行った。 糖尿病患者6,251例(1988~94年:1,431例、1999~2004年:1,443例、2005~08年:1,280例、2009~14年:2,097例)のデータを解析した。2008年は有意でなかったアルブミン尿の有病率が、有意に低下 DKDの有病率は、1988~94年が28.4%(95%信頼区間[CI]:23.8~32.9%)、2009~14年は26.2%(95%CI:22.6~29.9%)であり、経時的な変化に有意な差はなかった(年齢、性別、人種/民族で補正した有病率比:0.95、95%CI:0.86~1.06、傾向検定:p=0.39)。 一方、アルブミン尿の有病率は1988~94年の20.8%(95%CI:16.3~25.3%)から2009~14年には15.9%(95%CI:12.7~19.0%)へと有意に低下した(補正有病率比:0.76、95%CI:0.65~0.89、傾向検定:p<0.001)。 これに対し、eGFR低下の有病率は1988~94年の9.2%(95%CI:6.2~12.2%)から2009~14年には14.1%(95%CI:11.3~17.0%)へと有意に増加した(補正有病率比:1.61、95%:1.33~1.95、傾向検定:p<0.001)。また、重度eGFR低下にも同様のパターンが認められた(補正有病率比:2.86、95%:1.38~5.91、傾向検定:p<0.004)。 このアルブミン尿の時間的傾向の有意な異質性(heterogeneity)は、年齢(交互作用検定:p=0.049)および人種/民族(交互作用検定:p=0.007)で顕著であり、アルブミン尿の有病率の低下は65歳未満および非ヒスパニック系白人のみで観察された。これに対し、eGFR低下の有病率の増加には年齢、人種/民族による有意な差を認めなかった。 前述のように、2009~14年に糖尿病の成人患者の26.2%がDKDの基準を満たしたが、これは約820万例(95%CI:650~990万)に相当し、このうちアルブミン尿は460万例、顕性アルブミン尿は190万例、eGFR低下は450万例、重度eGFR低下は90万例であった。 著者は、「以前に、1988~2008年のデータを解析した時点では、eGFR低下の有病率は有意に増加したが、アルブミン尿の有病率には有意な変化は認めなかった。今回の2014年までのデータでは、eGFR低下の持続的な増加に加え、アルブミン尿の経時的に有意な低下が示された」としている。

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2型糖尿病患者における血糖降下薬間の効果および有害事象の比較:第1選択薬はやはりメトホルミンである(解説:小川 大輔 氏)-581

 近年、DPP4阻害薬、GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬の登場により、数多くの糖尿病治療薬が使用できるようになった。欧米では2型糖尿病の第1選択薬はメトホルミンであるが1)、日本では患者の年齢および病態に応じて薬剤を選択することが勧められており、どの薬剤でも選択可能である2)。最近、経口血糖降下薬とインスリン、GLP-1受容体作動薬を含む、すべての糖尿病治療薬の効果と有害事象を比較したメタ解析の結果が報告された3)。 解析対象はランダム化され、24週以上の期間で行われた301の臨床研究であり、主要評価項目は心血管死、副次評価項目は総死亡、重篤な有害事象、心筋梗塞、脳卒中、HbA1c、治療失敗、低血糖、体重である。結果は、心血管死と総死亡については単剤投与、2剤投与、3剤投与のいずれの場合も薬剤間で有意な差は認められなかった。一方、単剤投与の場合、HbA1cはメトホルミンと比較し、SU薬、チアゾリジン薬、DPP4阻害薬、αグルコシダーゼ阻害薬で有意に高かった。また、低血糖はメトホルミンよりSU薬と基礎インスリンで有意に多く、体重増加はメトホルミンよりSU薬とチアゾリジン薬で有意に多かった。メトホルミンを含む2剤投与の場合、メトホルミンとどの薬剤を併用してもHbA1cは同程度であったが、メトホルミンとSGLT2阻害薬の併用が最も低血糖が少なかった。また、メトホルミンとSU薬を含む3剤投与の場合、基礎インスリンとの併用が最も治療失敗が少なく、GLP-1受容体作動薬との併用が最も低血糖が少なく、SGLT2阻害薬との併用が最も体重増加が少なかった。 このメタ解析の目的は、どの薬剤が2型糖尿病治療において最も有効かつ安全かを明らかにすることであった。結果は、インスリンを含む9種類の薬剤間で心血管死や総死亡には差がなく、単剤投与ではメトホルミンが他のすべての薬剤と比較しHbA1cを同程度もしくはより低下していた。また、併用療法ではメトホルミンに他のどの薬剤を併用しても効果は同等であった。つまり、2型糖尿病治療の第1選択薬はやはりメトホルミンであり、第2、第3選択薬は患者の病態に応じて選択するという、アメリカ糖尿病学会(ADA)のリコメンデーションを支持する内容であった。一方、日本ではADAのリコメンデーションとは異なり、第1選択薬は明確に示されていない。2型糖尿病の病態やライフスタイルが異なるわが国では、欧米の薬剤選択が実情に合致しないため、日本糖尿病学会は年齢や病態などに応じて最適な薬剤を選択するように推奨している2)。しかし、実際の臨床現場ではインスリン分泌能やインスリン抵抗性の程度の評価が難しい場合もあり、どの薬剤を投与するべきか悩むことがある。その意味で、今回の研究報告は主に欧米で行われた研究のメタ解析ではあるが、実地臨床において参考になる内容である。 2015年にSGLT2阻害薬エンパグリフロジン、2016年にGLP-1受容体作動薬リラグルチドの心血管死あるいは総死亡を抑制するという試験結果が次々と報告され話題となっている4)5)。注意しなければならないことは、これらの試験が単剤投与あるいはメトホルミンとの併用投与ではなく、通常の治療に追加して行われた試験であるという点である。また、心血管リスクの高い糖尿病患者を対象としている点も考慮しておかなければならない。心血管リスクの低い糖尿病患者も含めた通常の糖尿病診療において、SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬をメトホルミンと比較する、あるいはメトホルミンと併用する試験の結果に期待したい。 興味深いことに、単剤投与においてメトホルミンと比較し、治療失敗はDPP4阻害薬で多く、SGLT2阻害薬で少ないことが示された。また、2剤投与においてもメトホルミンにDPP4阻害薬あるいはαグルコシダーゼ阻害薬を併用した場合に治療失敗が多く、メトホルミンにSGLT2阻害薬あるいはSU薬を併用した場合に治療失敗が少ないことが示された。日本ではメトホルミンよりもDPP4阻害薬が第1選択薬として、あるいは他の薬剤に併用して使用される頻度が高いが、DPP4阻害薬の有効性に関する比較検討はまだ少ないので今後の検討が待たれる。

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スルホニル尿素(SU)薬と低血糖―essential drugとしてのグリクラジドを再考する―(解説:住谷 哲 氏)-577

 世界保健機関(WHO)が発行している資料に、Model lists of essential medicines(EML)がある。WHOが認定した必須医薬品(essential drugs)のリストで、1977年に初版が発行され、その後2年ごとに改訂されている。最新の19版は2015年に発行された1)。薬剤選択の基準は“disease prevalence and public health relevance, evidence of clinical efficacy and safety, and comparative costs and cost-effectiveness”とされ、血糖降下薬としてリストアップされているのは、ヒトインスリン、メトホルミン、そして本論文で議論されているSU薬のグリクラジドのみである。2011年の17版までは長らくSU薬としてグリベンクラミドが挙げられていたが、2013年の18版からグリクラジドに変更された。全世界的に高齢2型糖尿病患者数が激増していることが変更の背景にあり、SU薬の中で低血糖の頻度が少なく安全性が高いことが、グリクラジドが選択された主な理由である2)。 本論文は、その点について疑問を提出した点で意義がある。腎機能低下およびSU薬投与量の増加が低血糖のリスクとなるのはほぼ常識であり、いわば付け足しのデータと考えてよい。問題は、WHOのお墨付きを得たグリクラジドが、essential drugとしてふさわしくないのか否かである。 本論文は、英国のCPRDデータベースに基づく観察研究である。インスリン以外の血糖降下薬が投与された18歳以上の患者12万803例を約4年にわたり観察した。70~79歳が対象患者の24.0%、80歳以上が23.5%を占めており、対象患者の約半数は70歳以上の高齢者であった(原著 表1)。9万2,005例(76.2%)はメトホルミン単剤投与であったが、注目すべきは、全対象患者の中で80歳以上の76.7%、70~79歳の76.3%がメトホルミンの単剤投与であった(原著 付属表A)。低血糖はRead code(診療所での疾患登録のための符牒)において低血糖と登録された場合または随時血糖値<3.0mmol/L(54mg/dL)が記録された場合と定義した。その結果、低血糖の頻度は、腎機能にかかわらずSU薬よりメトホルミンが少ない、腎機能が低下すれば増加する、SU薬の投与量が増加すれば増加する、ことが確認された。前述のように、これらはほとんど常識である。おそらく著者らの主眼は、グリメピリド、グリベンクラミド、グリピジド、トルブタミドおよびグリクラジドそれぞれの低血糖リスクを比較した表4(原著)にあると思われる。 それぞれのSU薬のメトホルミンに対する調整後HRは、グリメピリド1.97[95%信頼区間:1.35~2.87]、グリベンクラミド7.48[同:4.89~11.44]、グリピジド2.11[同:1.24~3.58]、トルブタミド1.24[同:0.40~3.87]、グリクラジド2.50[同:2.21~2.83]であり、グリベンクラミドを除いた他のSU薬の低血糖リスクは同等であり、とくにグリクラジドが少ないとはいえない、とするのが著者らの主張である。 しかし、この多変量解析の結果には少し疑問が残る。グリクラジドは、その代謝産物が血糖降下作用を有さないことから(inactive metabolites)、腎機能低下患者(これは高齢者と言い換えてもよい)に対するSU薬の第1選択薬として推奨されている。このことは、SU薬を処方された患者の80%以上にグリクラジドが処方された結果にも反映されている(原著 表4)。したがって、腎機能低下患者(つまり低血糖のリスクが高い患者)においては他のSU薬ではなくグリクラジドが処方された可能性が高く、各SU薬の調整HRを計算する際には腎機能(eGFR)による調整が必要と考えられるが、なされていない。eGFRの代替として「ループ利尿薬の使用」が独立変数として組み込まれているが適切ではないと思われる。 わが国では「第3世代のSU薬」として一世を風靡したグリメピリドが、おそらく現時点においても最も処方されているSU薬と思われる。グリクラジドとグリメピリドのどちらが低血糖を起こしやすいか、との疑問に対してはランダム化比較試験(RCT)により厳密に評価することが必要である。これについて検討したものにGUIDE(GlUcose control In type 2 diabetes: Diamicron MR vs.glimEpiride)試験がある3)。両薬剤の安全性を評価するためにクレアチニンクリアランス>20mL/minの患者が対象とされた。使用されているのがグリクラジド徐放剤(Diamicron MR)であるのと研究資金供与がServier(Diamicron MRの発売元)である点には注意が必要であるが、厳密に評価した結果、グリクラジドの低血糖の頻度はグリメピリドの約50%と結論された。 低血糖のリスクはあるが、血糖コントロールのためにはどうしてもSU薬が必要な患者は少なからず存在する。しかし、低血糖は広義には1つのsurrogate endpointと考えられる。UKPDS33において細小血管障害を抑制することが証明されたことから4)、低血糖のリスクにもかかわらず、グリベンクラミドは血糖降下薬として長く使用されてきた。ADVANCE試験は、厳密にはグリクラジドの有効性を検討した試験ではないが5)、グリベンクラミドと同じくグリクラジドが細小血管障害を抑制することをほぼ証明したといってよい。グリメピリドには細小血管障害を抑制したエビデンスはない。したがって、筆者は本論文の結果に基づいて、グリクラジドをessential drugとするWHOの見解を変更する必要はないと考える。

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未分化大細胞型リンパ腫〔ALCL : anaplastic large cell lymphoma〕

1 疾患概要■ 概念・定義未分化大細胞型リンパ腫(anaplastic large cell lymphoma:ALCL)は、1985年Steinらによって初めて特徴づけられたaggressive lymphomaである。キール大学で開発されたCD30に対するKi-1抗体によって認識される活性化T細胞由来のリンパ腫で、Ki-1リンパ腫との異名ももっていた。以前「悪性組織球症」といわれていた症例の多くがこのリンパ腫であることが判明し、リンパ球の活性化マーカーであるCD30、CD25のほか、上皮性細胞マーカーであるEMAが陽性となる特徴を有する。腫瘍細胞は胞体が豊かなホジキン細胞様で馬蹄様核をもつhallmark cellが特徴的である(図)。画像を拡大するこの多形芽球様細胞の形態を示すリンパ腫には、全身性ALCLのほか、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫のanaplastic variantや病変が皮膚に限局する皮膚ALCLがある。また、豊胸手術後に乳房に発症するALCLも、最近注目されるようになった。ALCLは、あくまで末梢性T細胞リンパ腫の一病型であり、B細胞由来のものは含まれない。ALCLは、インスリン受容体スーパーファミリーの受容体型チロシンキナーゼであるanaplastic lymphoma kinase(ALK)をコードするALK1遺伝子の発現増強を認めるALK陽性ALCLと、発現増強を認めないALK陰性ALCLに分類される。皮膚ALCLや豊胸術後のALCLは共にALK陰性である。■ 疫学ALCLは、わが国で発症する非ホジキンリンパ腫の中で、3%程度を占めるまれな疾患である。ALK陽性ALCLは、ほとんどが50歳以下で発症し、発症のピークは10代の若年者である。一方、ALK陰性ALCLは、加齢とともに発症頻度が増し、50代に多い。両者ともやや男性に多く発症する。皮膚ALCLと豊胸術後のALCLについては、わが国での頻度は不明である。■ 病因ALK陽性ALCLは、t(2;5)(p23;q35)の染色体異常を80%程度に認める。2番染色体2p23に位置するALK1遺伝子が5q35のNPM遺伝子と結合して融合遺伝子を形成し、その発現増強が腫瘍の発症・維持に重要と考えられている。この転座によって生じるNPM-ALKはホモダイマーを形成し、midkineなどのリガンドの結合なしにキナーゼ活性を亢進させ、PI3KからAkt、STAT3やSTAT5などの細胞内シグナル伝達を活性化させる。ALK1遺伝子はNPM遺伝子以外にも1q21/TPM3などの遺伝子と融合するが、このような場合でもALKのホモダイマー形成が生じ、ALKの構造的活性亢進が起きるとされている。NPMは核移行シグナルをもち、NPM-ALKとNPMのヘテロダイマーは核まで移行するため、t(2;5)異常をもつALCLでは、ALKが細胞質のみならず、核も染色される。一方、ALK陰性ALCLの病因はすべて明らかにされているわけではない。アレイCGHやgene expression profilingによる解析では、ALK陰性ALCLは、ゲノム異常や遺伝子発現パターンがALK陽性ALCLとはまったく異なることがわかっている。ALK陰性ALCLの中には、t(6;7)(p25.3;q32.3)の染色体転座をもち、6p25.3に位置するDUSP22遺伝子の切断による脱リン酸化酵素機能異常が確認されている群がある。6p25には転写因子をコードするIRF4遺伝子も存在するが、末梢性T細胞性リンパ腫・非特定型や皮膚ALCLにおいても6p25転座が認められることがあり、それらとの異同も含めてまだ不確定な部分がある。皮膚ALCLはリンパ腫様丘疹症(lymphomatoid papulosis)との異同が問題となる症例があり、これらは皮膚CD30陽性リンパ増殖性疾患という範疇であって、連続性の疾患と捉える向きもある。豊胸術後のALCLについてはまだ不明な点が多い。■ 症状全身性ALCLは、診断時すでに進行期(Ann ArborシステムでIII期以上)のことが多く、B症状(発熱・体重減少・盗汗)を認めることが多い。リンパ節病変は約半数に認められ、節外病変も同時に伴うことが多い。ALK陽性ALCLでは、筋肉などの軟部組織や骨が多く、ALK陰性ALCLでは皮膚・肝臓・肺などが侵されやすい。皮膚ALCLは孤立性または近い部位に複数の皮膚腫瘤を作ることが多いが、所属リンパ節部位以外の深部リンパ節には病変をもたず、その点が全身性ALCLとは異なる。また、豊胸術後のALCLも80%以上の症例が乳房に限局しており、その中で腫瘤を作らずeffusion lymphomaの病態をとるものもある。両者とも発熱などの全身症状は認められないことが多い(表)。画像を拡大する■ 予後ALK陽性ALCLは、末梢性T細胞リンパ腫の中でも予後のよい病型である。5年の全生存割合は80%程度で、ALK陰性ALCLの40%程度と比べて、CHOP療法などのアントラサイクリン系抗生剤を含む初回化学療法によって、効果が期待できる疾患である。ヨーロッパの小児領域における3つの大規模臨床研究の結果から、(1)縦隔リンパ節病変(2)体腔内臓器浸潤(肺、脾、肝)(3)皮膚浸潤が予後不良因子として重要で、これら1項目でも満たすものを高リスク群とみなす。高リスク群は5年の全生存割合が73%と、標準リスク群の94%に比べて有意に下回る結果を示している。小児領域のALCLは、90%がALK陽性例で占められるが、成人領域と比べるとリスクに応じてかなり強度を上げた治療が施行され、高リスク群の治療成績は比較的良好な結果を示していると思われる。一方、成人例に多いALK陰性ALCLは、aggressive lymphomaで共通する国際予後指標(international prognostic index〔IPI〕: 年齢、performance status、LDH値、節外病変数、臨床病期からスコア化する)が参考となるが、(1)骨髄浸潤(2)β2ミクログロブリン高値(3)CD56陽性なども予後不良因子として認識されている。International T-cell lymphoma projectによる検討では、ALK陰性ALCLの60%程度を占めるIPI 3項目以上の患者群における5年の全生存割合は、CHOP療法主体の治療を受けても30%を下回る結果となっている。ただし、ALK陰性であっても皮膚ALCLや豊胸術後のALCLは限局例が多く、生命予後はそれほど悪くない。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)ほかの悪性リンパ腫と同様、ALCLの診断には、(1)組織診断による病型の確定(2)PET-CTなどの画像検査と骨髄検査による正確な臨床病期診断が必須である。また、皮膚に病変がある場合には、全身症状と病変の分布について、しっかりと把握しなければならない。■ 組織診断HE染色による腫瘍の形態観察とhallmark cellの有無を確認する。hallmark cellがあればALK染色によってALK陽性かALK陰性かを明らかにする。まれにsmall-cell variantや反応性の組織球増生が特徴的なlymphohistiocytic variantがあるので注意を要する。これらはALK陽性ALCLのうち、治療反応の乏しい形態学的亜型として注目されている。さらに腫瘍細胞の特定には、CD30、EMA、lineage marker、TIA-1、granzyme Bなどの細胞傷害性分子の発現を免疫染色で評価する。ALK陽性例についてはFISH検査で2p23の転座があるか確認する。■ 臨床病期診断ALCLはFDG-avidな腫瘍であり、FDG-PETを組み込んだPET-CT検査によって臨床病期診断のみならず治療効果の判定が可能である。皮膚に限局しているようにみえても、PETで深部リンパ節病変が指摘された場合には、全身性ALCLとして対応しなければならない。骨髄検査は、リンパ腫細胞の浸潤の有無と造血能の評価を行うことを目的とする。単なる形態診断だけでなく、免疫染色や染色体・FISH検査によって腫瘍の浸潤評価を行う必要がある。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)前述した通り、全身性ALCLは進行期例が多いことから、アントラサイクリン系抗生剤を含む多剤併用化学療法が施行される。ALK陽性ALCLでは、CHOP様レジメンで90%近くに奏効が得られ、再発・再燃の割合もALK陰性ALCLよりも低く、5年の生存割合は70%以上を維持できる。つまり、低リスク群の初回治療はCHOP様レジメンで十分といえる。高リスク群に対し、小児領域では髄腔内抗がん剤投与を含む強度を上げた治療が行われている。成人領域ではなかなか治療強度を上げることが難しいため、自己造血幹細胞移植(autologous hematopoietic stem cell transplantation: ASCT)が考慮される。また、小児領域の治療研究では、ビンブラスチン(商品名:エクザール)が単剤で再燃を延長させる効果をもつことが示されている。高リスク群では、この薬剤をいかに利用して再燃を防ぐことができるのか、今後のレジメン内容を考えるうえでも、さらなる検討が必要である。一方、成人に多いALK陰性ALCLに対しては、現時点で標準化学療法が確立した状況とはいえない。CHOP療法による奏効割合は80%程度期待できるものの、再発・再燃の割合も高く、無増悪生存割合は最終的に20%台まで落ち込んでしまう。成人領域のALCLに対する治療研究は、ほかの末梢性T細胞リンパ腫の病型と同時に含まれて対象とされるため、ALCLに限った治療法が開発されているわけではない。そのため今後も残念ながら、個々の病型に対する標準治療が確立しにくい状況なのである。ALCL患者を対象として多く含む、ドイツの複数の前向き治療研究の解析結果をまとめると、CHOP療法にエトポシド(同:ラステットほか)を加えたほうが完全奏効割合や無イベント生存割合が改善することがわかっている。また、末梢性T細胞リンパ腫全体では、治療強度を上げることが必ずしも全生存割合の向上に寄与しているとは証明されていないが、それは十分な治療効果を生む標準化学療法が確立していないことが背景にあるためと考えられる。全身放射線を前処置として用いないASCTを初回奏効例に施行する、ノルウェーから報告されたNLG-T01試験では、ALK陰性ALCLに対する5年の全生存割合は60%以上を示し、他の病型よりも期待のもてる結果を示している。小児領域のリスクに応じて強度を調節する治療研究の結果も踏まえて考えると、ALK陰性ALCLに対し、治療強度を上げることで生存に有利となる患者群がいることがわかる。こういった問題は、今後も前向き治療研究の場で確定していかなければならない。実地診療において現時点では、CHOPあるいはCHOEP、EPOCHなどのエトポシドを含むCHOP様レジメンが初回治療として選択されることになる。非常にまれな皮膚ALCLや豊胸術後のALCLについての標準治療法は確立されていない。皮膚ALCLは限局性であれば、外科的切除、電子線照射が試みられる。多発性腫瘤の場合には化学療法が行われるが、どのような治療が適切か確固たるエビデンスはない。経験的に少量メトトレキサート、少量エトポシドなどの内服治療が行われている。豊胸術後のALCLも外科的切除で、対応可能な限局期症例の予後は比較的良好であるが、両者とも進行期例に対する治療は全身性ALCLに準ずることになる。4 今後の展望小児領域のヨーロッパ・日本の共同研究で検討された中枢神経浸潤についてみると、全体の2.6%に中枢神経系のイベントが認められ、その半数に脳実質内腫瘤を認めている。ヨーロッパのintergroup(EICNHL)のBFM90試験において、メトトレキサートの投与法が24時間から大量の3時間投与として髄腔内投与を施行しなくとも、中枢神経系のイベントは変わらずに同等の治療効果を生むことが確認されている。Lymphohistiocytic variantでは、比較的中枢神経系イベントが多いとされているが、生命予後の悪い高リスク群患者に対して、いかに毒性を下げて治療効果を生むかという点について、今後も治療法の進歩が期待される。小児領域と成人領域では、治療強度とそれに対する忍容性が異なる。成人領域では治療強度を上げるためには、ASCTを考慮しなければならず、とくに10代後半~20代の患者群に対する治療をどうしていくか、まだまだ解決しなければならない課題は多い。ALK陽性ALCLはALKが分子標的となるため、ALK陽性非小細胞肺がんで効果を示しているALK阻害薬が、今後の治療薬として注目される。クリゾチニブ(同: ザーコリ)は第I相試験が海外で終了しており、今後ALCLに対する有効性の評価がなされていくことになる。わが国ではそれに先立ち、再発・難治性のALK陽性ALCLに対してアレクチニブ (同: アレセンサ) の第II相試験が現在進行中である。また、CD30を標的したマウス・ヒトキメラ抗体のSGN-30は、皮膚ALCLに対する一定の効果は認められたものの、全身性ALCLに対する効果は不十分であったため、SGN-30に微小管阻害薬であるmonomethylauristatin Eを結合させたSGN-35(ブレンツキシマブ ベドチン、同: アドセトリス)が開発された。ブレンツキシマブ ベドチンは再発・難治性のALCL58例に対し、50例(86%)に単剤で奏効を認めており(33例に完全奏効)、再発・難治例に期待できる薬剤である。有害事象として血球減少以外に、ビンカアルカロイドと同様の神経障害が問題となるが、ホジキンリンパ腫でABVD療法と併用した際に肺毒性が問題となっていて、ブレオマイシン(同:ブレオ)との併用は難しいものの、アントラサイクリン系抗生剤やビンブラスチンとの併用が可能であることを考えると、ALCLに対して化学療法との併用の可能性も広がると考えられる。5 主たる診療科血液内科、小児科、皮膚科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報European Intergroup for Childhood NHL(欧州で開催された医療従事者向けのフォーラムの内容)患者会情報グループ・ネクサス・ジャパン(悪性リンパ腫患者とその家族の会)1)Savage KJ, et al. Blood.2008;111:5496-5504.2)Kempf W, et al. Blood.2011;118:4024-4035.3)Ferreri AJ, et al. Crit Rev Oncol Hematol.2012;83:293-302.4)Ferreri AJ, et al. Crit Rev Oncol Hematol.2013;85:206-215.5)Miranda RN, et al. J Clin Oncol.2014;32:114-120.公開履歴初回2014年03月13日更新2016年08月02日

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第3回 ビグアナイド薬による治療のキホン【糖尿病治療のキホンとギモン】

【第3回】ビグアナイド薬による治療のキホン-ビグアナイド薬による治療のポイントを教えてください。 ビグアナイド(BG)薬は、主に肝での糖新生を抑制し血糖を低下させる、インスリン抵抗性改善系の薬剤です。そのほかに、消化管からの糖の吸収を抑制したり、末梢組織でのインスリン感受性を改善させるといった作用があります。非常に古くから使われている薬剤で、以前は、日本では1日最大用量750mgのメトホルミンしか使用できませんでしたが、海外での使用実績を踏まえ、それまでのメトホルミンの用法・用量を大きく見直し、高用量処方を可能としたメトホルミン(商品名:メトグルコ)が2010年から使用できるようになりました。 上記の作用でインスリン抵抗性を改善し、体重増加を来さないというメリットがあるので、とくに肥満の糖尿病患者さんや食事療法が守れない患者さんに適しています。 腎機能低下例、高齢者、乳酸アシドーシス、造影剤投与に関しては注意が必要ですが、単独で低血糖を起こしにくい薬剤ですので、注意が必要な点を守りながら投与すれば使いやすい薬剤です。-初期投与量と投与回数を教えてください。 通常、1日500mg(1日2~3回に分割)から開始します(各製品添付文書より)。食後投与のものと食前・食後いずれも投与可能な薬剤がありますが、最も異なる点は1日最大用量で、750mg/日(商品名:グリコラン、メデット)と2,250mg/日(同:メトグルコ)があります。メトグルコは通常、750~1,500mg/日が維持用量です。 メトホルミンの主な副作用として消化器症状がありますが、程度には個人差があるように感じています。消化器症状は用量依存性に増加するので、投与初期と増量時に注意し、消化器症状の発現をできるだけ少なくするために、増量する際は1ヵ月以上空けるとよいでしょう。-どの程度の腎障害および肝障害の時、投与を控えたほうがよいでしょうか。 メトグルコを除くBG薬は、腎機能障害患者さん(透析患者含む)には禁忌です(各製品添付文書より)。メトグルコは、腎機能障害がある患者さんに投与する場合、定期的に腎機能を確認して慎重に投与することとされており、中等度以上の腎機能障害および透析中の患者さんが禁忌となっています1)。国内臨床試験で、血清クレアチニン値が「男性:1.3mg/dL、女性:1.2mg/dL以上」が除外基準になっているので1)、それを目安にするとよいでしょう。 ただし、高齢患者さんの場合、血清クレアチニン値が正常範囲内であっても、実際の腎機能は低下していることがあるので(潜在的な腎機能低下)、eGFR(推定糸球体濾過量)も考慮して腎機能を評価したほうがよいでしょう。 日本糖尿病学会による「メトホルミンの適正使用に関するRecommendation(2016年5月12日改訂)」(旧:ビグアナイド薬の適正使用に関するRecommendation)では、乳酸アシドーシスとの関連から、腎機能の評価としてeGFRを用い、「eGFRが30mL/分/1.73m2未満の場合にはメトホルミンは禁忌、eGFRが30~45mL/分/1.73m2の場合にはリスクとベネフィットを勘案して慎重投与とする」としています2)。 メトグルコを除くBG薬は、肝機能障害患者さんには禁忌です(各製品添付文書より)。メトグルコは、肝機能障害がある患者さんに投与する場合、定期的に肝機能を確認して慎重に投与することとされており、重度の肝機能障害患者さんが禁忌となっています1)。国内臨床試験で、「ASTまたはALTが基準値上限の2.5倍以上の患者さんおよび肝硬変患者さん」が除外基準になっているので1)、それを目安にするとよいでしょう。-造影剤と併用する時のリスクはどのくらい高いですか? 尿路造影検査やCT検査、血管造影検査で用いられるヨード造影剤との併用によるリスクの程度に関する報告はありませんが、ヨード造影剤は、腎機能を低下させる可能性があるため、乳酸アシドーシスを避けるために、使用する場合は「検査の2日前から検査の2日後の計5日間(緊急の場合を除く)」は服用を中止します3)。また、検査の2日後以降に投与を再開する際には、患者さんの状態に十分注意をする必要があります。-乳酸アシドーシスの頻度と、予防・管理の方法を教えてください。 BG薬による乳酸アシドーシス発現例が多く報告された1970年代を中心とする調査では、フェンホルミン(販売中止)で10万人・年当たり20~60例、メトホルミンでの頻度は10万人・年当たり1~7例程度と報告されています4)。 日本糖尿病学会による「メトホルミンの適正使用に関するRecommendation(2016年5月12日改訂)」(旧:ビグアナイド薬の適正使用に関するRecommendation)では、乳酸アシドーシスの症例に多く認められた特徴として、1.腎機能障害患者(透析患者を含む)2.脱水、シックデイ、過度のアルコール摂取など、患者への注意・指導が必要な状態3.心血管・肺機能障害、手術前後、肝機能障害などの患者4.高齢者 を挙げています2)。 腎機能や心血管・肺機能障害、手術前後、肝機能障害などの患者、高齢者といった点は、医療従事者側が留意すべきことですが、脱水やシックデイ、過度のアルコール摂取といった点については、これらが乳酸アシドーシスのリスクになるということを患者さんにお伝えしたうえで指導する必要があります。 とくに、脱水には注意が必要です。夏場、室内でも脱水を起こす可能性があること、発熱、嘔吐、下痢、食欲不振などを来すシックデイのときには脱水を起こす可能性があるため、服薬を中止し、かかりつけ医に相談するなど、患者さんに指導する必要があります。炎天下で農作業を行う方も注意が必要です。とりわけ高齢者は脱水に気付きにくいという特徴があります。また、利尿作用を有する薬剤(利尿剤、SGLT2阻害薬など)を服用している場合にも注意が必要です。-高齢者に投与する際の用量について知りたいです。そのまま使い続けてよいのでしょうか。 メトホルミンは、高齢者では、腎・肝機能が低下していることが多く、脱水も起こしやすいため、乳酸アシドーシスとの関連から慎重投与するとされています。高齢者については、青壮年に発症し、すでにメトホルミンを服用している患者さんが高齢になった場合と、高齢になってから発症した場合に分けて考えます。すでにメトホルミンを服用している患者さんが高齢になった場合は、とくに問題がなければ、メトホルミンによって得られる効果を考慮して継続しますが、定期的に腎・肝機能については観察すること、また、用量についても、高用量は使用せず、私は500~750mg/日で維持するようにしています。 高齢になって発症した場合、とくに75歳以上では、慎重な判断が必要とされていますが2)、基本的には推奨されません。1)メトグルコ製品添付文書(2016年3月改訂)2)日本糖尿病学会. メトホルミンの適正使用に関する Recommendation(2016年5月12日改訂)3)日本糖尿病学会編・著. 糖尿病治療ガイド20156-2017. 文光堂;2016.4)Berger W. Horm Metab Res Suppl. 1985;15:111-115.

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血糖降下薬9種、心血管・全死因死亡リスクは同等/JAMA

 2型糖尿病治療薬の心血管死リスク、全死因死亡リスクについて、インスリンを含む血糖降下薬9つのクラス間による有意な差はないことが明らかにされた。また、ヘモグロビンA1c(HbA1c)値の低減効果については、単剤療法ではメトホルミンが他の薬剤と比べて、同等もしくは低下する効果があることが、またすべての薬剤がメトホルミンとの併用効果があることも示唆されたという。ニュージーランド・オタゴ大学のSuetonia C. Palmer氏らが、無作為化試験300件超のメタ解析の結果、明らかにした。JAMA誌2016年7月19日号掲載の報告。 追跡期間24週間以上の無作為化試験をメタ解析 研究グループは、Cochrane Library Central Register of Controlled Trials、MEDLINE、EMBASEのデータベースから、2016年3月21日までに発表された試験期間24週間以上の無作為化試験を対象に、インスリンを含む血糖降下薬の有効性と有害事象について、メタ解析を行った。 主要評価項目は、心血管疾患死だった。副次評価項目は、全死因死亡、重篤な有害事象、心筋梗塞、脳卒中、HbA1c値、治療の失敗、低血糖、体重だった。メトホルミンとの併用はいずれの薬剤も血糖降下効果は同等 対象に包含されたのは、301試験、延べ141万7,367患者月だった。そのうち、単剤療法は177試験、メトホルミンに追加しての2剤併用療法は109試験、メトホルミン+SU薬への3剤併用療法は29試験だった。 分析の結果、心血管疾患死亡率と全死因死亡率については、単剤療法、2・3剤併用療法のいずれについても、薬剤クラスの別による有意な差はなかった。HbA1c値については、メトホルミンに比べ、SU薬(標準化平均差[SMD]:0.18、95%信頼区間[CI]:0.01~0.34)、チアゾリジンジオン系薬(同:0.16、0.00~0.31)、DPP-4阻害薬(同:0.33、0.13~0.52)、α-グルコシダーゼ阻害薬(同:0.35、0.12~0.58)で高かった。 低血糖リスクについては、SU薬(オッズ比[OR]:3.13、95%CI:2.39~4.12、リスク差[RD]:10%、95%CI:7~13)と、基礎インスリン(OR:17.9、95%CI:1.97~162、RD:10%、95%CI:0.08~20)で、いずれも高かった。 メトホルミンとの併用では、HbA1c値の低減効果はいずれの薬剤も同等だったが、低血糖リスクはSGLT2阻害薬が最も低かった(SU薬併用に対するOR:0.12、95%CI:0.08~0.18、RD:-22%、95%CI:-27~-18)。 メトホルミン+SU薬への3剤併用では、低血糖リスクはGLP-1受動体作動薬で最も低かった(チアゾリジンジオン系薬併用に対するOR:0.60、95%CI:0.39~0.94、RD:-10%、95%CI:-18~-2)。 著者は、「これらの結果は、米国糖尿病協会の推奨治療と一致するものだった」と述べている。

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糖尿病治療薬、死亡・心血管リスクを下げる組み合わせは?/BMJ

 糖尿病治療薬の単独療法あるいは併用療法は、使用する薬剤によって心血管疾患(CVD)・心不全・死亡リスクに臨床的に重大な差があり、概してグリプチン系もしくはグリタゾン系(チアゾリジン系)を用いた場合はこれらを使用しない場合と比べて、CVD・心不全・死亡のリスクが低いことが明らかになった。英国・ノッティンガム大学のJulia Hippisley-Cox氏らが、英国プライマリケアのデータベースを用いた2型糖尿病患者のコホート研究の結果、報告した。これまでいくつかの糖尿病治療薬は、臨床試験や市販後調査において心不全のリスク増加との関連が示唆され、総合的なリスクとベネフィットに関する懸念が高まったことから、大規模な2型糖尿病患者集団での糖尿病治療薬長期使用による臨床的アウトカムのリスク定量化が望まれていた。著者は、「今回の結果は、服薬アドヒアランスの程度や服薬量に関する情報はなく、適応による交絡を受けているが、糖尿病治療薬の処方に影響するかもしれない」とまとめている。BMJ誌オンライン版2016年7月13日号掲載の報告。英国プライマリケア約1,200施設の2型糖尿病患者約47万例を追跡 研究グループは、2007年4月1日~2015年1月31日の間、英国プライマリケア1,243施設のデータベース「QResearch」を用い、25~84歳の2型糖尿病患者46万9,688例を対象に前向きコホート研究を行った。 主要評価項目は、患者の診療記録、死亡または入院記録に基づくCVD、心不全の初発あるいは全死因死亡の記録で、糖尿病治療薬(グリタゾン系、グリプチン系、メトホルミン、SU薬、インスリン、その他)の単独または併用投与との関連について、潜在的交絡変数を補正したCox比例ハザードモデルにて解析した。リスク低下に寄与する単独または併用療法が明らかに 追跡期間中、1つ以上の糖尿病治療薬の処方を受けた患者は27万4,324例(58.4%)で、グリタゾン系が2万1,308例(4.5%)、グリプチン系が3万2,533例(6.9%)、メトホルミン25万6,024例(54.5%)、SU薬13万4,570例(28.7%)、インスリン1万9,791例(4.2%)であった。 グリプチン系の使用は、非使用と比較し、全死因死亡のリスクが18%低下、心不全リスクが14%低下したが、CVDリスクの有意な変化は認められなかった。一方、グリタゾン系使用では、全死因死亡リスクが23%、心不全リスクが26%、CVDリスクも25%有意に低下した。 無治療(糖尿病治療薬の処方を受けていなかった期間)と比較すると、グリプチン系単独療法ではいずれのリスクとも有意な関連はなかったが、グリプチン+メトホルミン2剤併用療法は3つのアウトカムすべてでリスクが有意に低下し(リスク低下:心不全38%、CVD33%、全死亡48%)、グリプチン+メトホルミン+SU薬3剤併用療法も同様であった(同:心不全40%、CVD30%、全死亡51%)。 無治療(糖尿病治療薬の処方を受けていなかった期間)と比較して、グリタゾン系単独療法は心不全リスクが50%低下し、グリタゾン系+SU薬の2剤併用療法では心不全35%、CVD25%のリスク低下が認められた。また、グリタゾン系+メトホルミンの2剤併用療法は、3つのアウトカムすべてのリスクが有意に低下した(心不全50%、CVD54%、全死因死亡45%)。グリタゾン系+SU薬+メトホルミンの3剤併用療法も同様であった(心不全46%、CVD41%、全死因死亡56%)。

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SU薬とメトホルミン、単独服用時の低血糖リスクを比較/BMJ

 血糖降下薬SU薬単独服用者は、メトホルミン単独服用者と比べて、低血糖発症リスクが約2.5倍と有意に高く、同リスクは、グリベンクラミド服用者や、腎機能が低下している人では、さらなる増大が認められた。オランダ・マーストリヒト大学のJudith van Dalem氏らが、12万例超を対象に行ったコホート試験の結果、明らかにした。低血糖リスクの増大は、すべてのSU薬服用者で観察されたという。現行のガイドラインの中には、低血糖リスクがより低いとして、SU薬の中でもグリクラジドを第1選択薬とするものがあるが、今回の試験結果は相反するものとなった。そのため著者は、「さらなる検討が必要である」と述べている。BMJ誌オンライン版2016年7月13日号掲載の報告。1,100万人超の患者データベースを基に試験 研究グループは、英国内674ヵ所の医療機関からの1,100万例超の診療録データを包含する「Clinical Practice Research Datalink」(CPRD)を基に、2004~12年に非インスリン抗糖尿病薬の処方を受けた18歳以上の患者12万803例を対象に、コホート試験を行った。 SU薬の服用量や、腎障害、SU薬のタイプと低血糖症リスクについて、Cox比例ハザードモデルで解析を行った。年齢や性別、ライフスタイル、併存疾患、使用薬剤については補正を行った。低血糖症リスク、グリベンクラミドはメトホルミンに比べ7.48倍 その結果、低血糖症の発症リスクは、メトホルミンのみを服用している人に比べ、SU薬のみを服用している人では約2.5倍の有意な増大が認められた(補正後ハザード比[HR]:2.50、95%信頼区間[CI]:2.23~2.82)。グリクラジド服用患者の同ハザード比も2.50(同:2.21~2.83)だった。 SU薬単独服用者の中でも、糸球体濾過量(GFR)が30mL/分/1.73m2未満の人で、低血糖症リスクはさらに増大した(同:4.96、同:3.76~6.55)。また、SU薬服用量が多い人(グリベンクラミド10mg同等量超)や、グリベンクラミド服用患者では、よりリスクの増大がみられた。それぞれの補正後HRは、3.12(95%CI:2.68~3.62)、7.48(同:4.89~11.44)だった。なお、SU薬の第1選択薬であるグリクラジドの補正後HRは2.50(同:2.21~2.83)で、その他のSU薬(グリメピリド:1.97[1.35~2.87]、glipizide:2.11[1.24~3.58]、トルブタミド:1.24[0.40~3.87])も同程度だった。

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アジソン病〔Addison's disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義慢性副腎皮質機能低下症(アジソン病)は、アルドステロン(ミネラルコルチコイド)、コルチゾール(グルココルチコイド)、デヒドロエピアンドロステロンとデヒドロエピアンドロステロンサルフェート(副腎アンドロゲン)の分泌が生体の必要量以下に慢性的に低下した状態である。アジソン病は、副腎皮質自体の病変による原発性副腎皮質機能低下症であり、その病因として、副腎皮質ステロイド合成酵素欠損症による先天性副腎過形成症、先天性副腎低形成(X連鎖性、常染色体性)、ACTH不応症などの責任遺伝子が明らかとされた先天性のものはアジソン病とは独立した疾患として扱われるため、アジソン病は後天性の病因による慢性副腎皮質機能低下症を指して用いられる。■ 疫学わが国における全国調査(厚生労働省特定疾患「副腎ホルモン産生異常症」調査分科会)によるとアジソン病の患者は1年間で660例と推定され、病因としては特発性が42.2%、結核性が36.7%、その他が19.3%であり、時代とともに特発性の比率が増加している。先天性副腎低形成症は約12,500人出生に1人である。副腎不全症としては、10,000人に5人程度(3人が下垂体性副腎不全、1人がアジソン病、1人が先天性副腎過形成症)の割合である。■ 病因病因としては、感染症、その他の原因によるものと特発性がある。感染症では結核性が代表的であるが、真菌性、後天性免疫不全症候群(AIDS)に合併するものが増えている。 特発性アジソン病は、抗副腎抗体陽性の例が多く(60~70%)、21-水酸化酵素、17α-水酸化酵素などに対する自己抗体が原因となる自己免疫性副腎皮質炎であり、その他の自己免疫性内分泌疾患を合併する多腺性自己免疫症候群と呼ばれる。I型は特発性副甲状腺機能低下症、皮膚カンジダ症を合併するHAM症候群、II型は橋本病などを合併するシュミット症候群などがある。その他の原因によるものとしては、がんの副腎転移、副腎白質ジストロフィーなどがある。また、最近使用される頻度が増えている免疫チェックポイント阻害薬の免疫関連有害事象(irAE)として内分泌障害があり、副腎炎によるアジソン病もみられる(約0.6%)。■ 症状コルチゾールの欠乏により、易疲労感、脱力感、食欲不振、体重減少、消化器症状(悪心、嘔吐、便秘、下痢、腹痛など)、血圧低下、精神症状(無気力、嗜眠、不安、性格変化)、発熱、低血糖症状、関節痛などを認める。副腎アンドロゲン欠乏により女性の腋毛、恥毛の脱落、ACTHの上昇により、歯肉、関節、手掌の皮溝、爪床、乳輪、手術痕などに色素沈着が顕著となる。■ 分類副腎皮質の90%以上が障害されて起きる原発性副腎皮質機能低下症(アジソン病)と続発性副腎皮質機能低下症にまず大きく分類できる。続発性副腎皮質機能低下症には、下垂体性(ACTH分泌不全)と視床下部性(CRH分泌不全)に分けられる。■ 予後欧州の大規模疫学研究によると、原発性副腎不全症患者の全死亡リスクは、男性で2.19、女性では2.86との報告がある。長期予後が悪い理由は、グルココルチコイドの過剰投与によるQOLの低下、心血管イベントや骨粗鬆症のリスクの増加などが、生存率の低下につながると考えられている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)一般検査では、低血糖(血糖値が70mg/dL以下)、低ナトリウム血症(135mEq/L以下)、正球性正色素性貧血(男性13g/dL以下、女性12g/dL以下)、血中総コレステロール値低値(150mg/dL以下)、末梢血の好酸球増多(8%以上)、相対的好中球減少、リンパ球増多、高カリウム血症を示す。内分泌学的検査では、非ストレス下で早朝ACTHとコルチゾール値を測定する(絶食で9時までに)。早朝コルチゾール値が18μg/dL以上であれば副腎不全症を否定でき、4μg/dL未満であれば副腎不全症の可能性が高いが、4~18μg/dLでは可能性を否定できない。血中コルチゾール基礎値が18μg/dL未満のときは、迅速ACTH負荷試験(合成1-24 ACTHテトラコサクチド[商品名:コートロシン]250μg静注)を施行する。血中コルチゾール頂値が18μg/dL以上であれば副腎不全症を否定でき、18μg/dL未満であれば副腎不全症を疑うほか、15μg/dL未満では原発性副腎不全症の可能性が高い。迅速ACTH負荷試験では、原発性と続発性副腎皮質機能低下症の鑑別ができないため、ACTH連続負荷試験、CRH負荷試験、インスリン低血糖試験などを組み合わせて行う(図)。画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)可能な限り、生理的コルチゾールの分泌量と日内変動に近い至適な補充療法が望まれる。コルチゾールを1日当たり10~20mg補充するのが生理的補充量の目安である。日本人は食塩摂取量が多いので、ヒドロコルチゾン(同:コートリル)10~20mg/日を2~3回に分割服用する(2分割投与の場合は、朝2:夕1、3分割投与では朝:昼:夕=3:2:1)。4 今後の展望現在、使用されているヒドロコルチゾンは放出が早く、内因性コルチゾールの日内リズムを完全に再現できない。わが国では使用できないが、欧州を中心にヒドロコルチゾン放出時間を遅らせる徐放型ヒドロコルチゾンの開発研究が進んでおり、生理的補充に近い薬理動態を再現できることが期待される。5 主たる診療科内科(とくに内分泌代謝内科)※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本内分泌学会臨床重要課題(副腎クリーゼを含む副腎皮質機能低下症の診断基準作成と治療指針作成)(医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター アジソン病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Charmandari E, et al. Lancet.2014;383:2152-2167.2)南学正臣 総編集.内科学書 改訂第9版.中山書店; 2019. p.153-160.3)矢崎義雄 総編集.内科学 第11版.朝倉書店; 2017. p.1630-1633.公開履歴初回2015年01月08日更新2016年07月19日更新2022年02月28日

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リラグルチドはインクレチン関連薬のLEADERとなりうるか?(解説:住谷 哲 氏)-564

 インクレチン関連薬(DPP-4阻害薬およびGLP-1受容体作動薬)は、血糖依存性インスリン分泌作用を有することから低血糖の少ない血糖降下薬と位置付けられ、とくにDPP-4阻害薬は経口薬であることから、わが国で多用されている。心血管イベント高リスク2型糖尿病患者に対する安全性を確認する目的でこれまでに報告されたCVOTs(CardioVascular Outcomes Trials)は、SGLT2阻害薬エンパグリフロジンを用いたEMPA-REG OUTCOME試験を除くと、SAVOR-TIMI53(サキサグリプチン)、EXAMINE(アログリプチン)、TECOS(シタグリプチン)、ELIXA(リキシセナチド)とも、すべてインクレチン関連薬を用いた試験であった。しかし、これら4試験においてはプラセボに対する有益性を示すことができず、インクレチン関連薬は2型糖尿病患者の心血管イベントを減らすことはできないだろうと考えられていた時に、今回のLEADER試験が発表された。  その結果は、リラグルチド投与量の中央値1.78mg/日(わが国の投与量の上限は0.9mg/日)、観察期間3年において、主要評価項目である心血管死、非致死性心筋梗塞および非致死性脳卒中からなる3-point MACEが、リラグルチド投与により13%減少し(HR:0.87、95%CI:0.78~0.97、p=0.01)、さらに全死亡も15%減少する(同:0.85、0.74~0.97、p=0.02)との結果であった。 主要評価項目を個別にみると、有意な減少を示したのは心血管死(HR:0.78、95%CI:0.66~0.93、p=0.007)のみであり、非致死性心筋梗塞(0.88、0.75~1.03、p=0.11)、非致死性脳卒中(0.89、0.72~1.11、p=0.30)には有意な減少が認められなかった。3-point MACEの中で心血管死のみが有意な減少を示した点は、SGLT2阻害薬を用いたEMPA-REG OUTCOME試験と同様である。 この結果は、心血管イベント高リスク2型糖尿病患者に対する包括的心血管リスクの減少を目指した現時点での標準的治療(メトホルミン、スタチン、ACE阻害薬、アスピリンなど)により、非致死性心筋梗塞・脳卒中の発症がほぼ限界まで抑制されている可能性を示唆している。したがって、本試験の結果もEMPA-REG OUTCOME試験と同じく、リラグルチドの標準的治療への上乗せの効果であることを再認識しておく必要がある。 ADA/EASD2015年高血糖管理ガイドライン1)では、メトホルミンへの追加薬剤としてSU薬、チアゾリジン薬、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、基礎インスリンの6種類を横並びに提示してある。どの薬剤を選択するかの判断基準として提示されているのは、有効性(HbA1c低下作用)、低血糖リスク、体重への影響、副作用、費用であり、アウトカムに基づいた判断基準は含まれていない。今後も多くのCVOTsの結果が発表される予定であるが2)、将来的にはガイドラインにもアウトカムに基づいた判断基準が含まれることになるのだろうか? ここで、CVOTsから得られるエビデンスについて、あらためて考えてみよう。本来CVOTsは、新規血糖降下薬が心血管イベントのリスクを、既存の標準的治療に比べて増加しないことを確認するための試験である。そこで、新規血糖降下薬が有する可能性のある血糖降下作用以外のリスクを検出するために、新規血糖降下薬群とプラセボ群とがほぼ同等の血糖コントロール状態になるよう最初からデザインされている。つまり、血糖降下薬に関する試験でありながら、得られた結果は血糖降下作用とは無関係であるという、ある意味矛盾した試験デザインとなっている。さらに、対象には心血管イベントをすでに発症した、または発症のリスクがきわめて高い患者、かつ糖尿病罹病歴の長い患者が含まれることになる。したがってCVOTsで得られたエビデンスは、厳密には糖尿病罹病歴の長い2次予防患者にのみ適用されるエビデンスといってよい。 一方、ADA/EASDをはじめとした各種ガイドラインは、初回治療initial therapyを示したものであり、その対象患者はCVOTsが対象とする患者とは大きく異なっている。したがって、ここではEBMに内包されている外的妥当性 external validity(一般化可能性 generalizability)の問題を避けて通れないことになる。換言すれば、糖尿病罹病歴の長い2次予防患者で得られたCVOTsのエビデンスを、ガイドラインが対象とする初回治療患者に適用できるのだろうか?教科書的には2次予防のエビデンスと1次予防のエビデンスははっきり区別しなければならない。つまり、CVOTsで得られたエビデンスは、厳密には1次予防には適用できないことになる。しかし、2次予防のエビデンスのない薬剤と2次予防のエビデンスのある薬剤との、二者のいずれかを選択しなくてはならない場合には、眼前の患者におけるリスクとベネフィットを十分に考慮したうえで、2次予防のエビデンスのある薬剤を選択するのは妥当と思われる。この点でリラグルチドは、インクレチン関連薬のLEADERとしての資格はあるだろう。ただし、部下の標準的治療(メトホルミン、スタチン、ACE阻害薬、アスピリンなど)に支えられてのLEADERであるのを忘れてはならない。 ADA/EASDのガイドラインには、治療にかかる費用も薬剤選択判断基準の1つに含まれている。本試験における全死亡のNNTは3年間で98であり、0.9mg/日の投与で同様の結果が得られると仮定すると(大きな仮定かもしれない)、薬剤費のみで約5,500万円の医療費を3年間に使用することで、1人の死亡が防げる計算になる。これが、高いか安いかの判断は筆者にはつきかねるが、この点も患者とのshared decision makingには必要な情報であろう。

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第2回 薬物療法のキホン(総論)【糖尿病治療のキホンとギモン】

【第2回】薬物療法のキホン(総論)-薬物療法のポイントを教えてください。 糖尿病では、血糖のみならず、体重、血圧、脂質の良好なコントロール状態を維持し、細小血管合併症や動脈硬化性疾患の発症・進展を抑制し、健康な人と変わらない日常生活の質(QOL)を維持し、寿命を確保することが求められます1)。そのために、まず、食事・運動療法から開始し、効果がなければ薬物療法を開始しますが、そのときも重要なのは“食事・運動療法”です。 第1回でもお話ししましたが、糖尿病では、食事・運動療法は治療の大前提です(第1回 食事療法・運動療法のキホン)。食事・運動療法、とくに食事療法が守られなければ、薬物療法の効果が十分に得られないからです。薬物治療を開始する際には、患者さんに“食事療法の代わりになる薬はない”こと、“食事療法が守られないと、どんな薬を使っても十分な効果が得られない”ことをお伝えするとよいでしょう。また、薬物療法で期待できる効果が得られないときには、食事・運動療法が守られていない可能性があるので、生活習慣が乱れていないかを確認してください。-経口血糖降下薬のファーストチョイスは?DPP-4阻害薬かメトホルミンかで迷っています。 DPP-4阻害薬、メトホルミンのいずれの薬剤も単独で低血糖を来しにくく、体重増加を来さないという点で使いやすい薬剤です。 DPP-4阻害薬は、腎機能、あるいは肝機能障害に注意が必要ですが、薬剤によって異なるので、各薬剤の腎・肝機能障害のある患者さんに対する適応を確認して選択します。メトホルミンは、高齢者や腎機能低下進行例注)では注意が必要ですが、薬価が安いというメリットがあります。糖尿病患者さんは他の薬剤を服用していることも多いため、経済的事情を考慮するのも大切な視点です。 私は、メトホルミンを最初に処方することが比較的多く、メトホルミンが使えない場合はDPP-4阻害薬を選択することがあります。また、メトホルミンで治療を開始するも、副作用である消化器症状のために治療が継続できない場合には、DPP-4阻害薬に切り替えることがあります。 DPP-4阻害薬はインスリン分泌促進系の薬剤で、メトホルミンはインスリン抵抗性改善系の薬剤ですので、若くて肥満があり、食事療法が守れない方であればメトホルミン、非肥満、高齢であればDPP-4阻害薬という考え方もよいと思います。それぞれの薬剤の特性や副作用、禁忌などを考慮し、患者さんに適した薬剤を選択するとよいでしょう。注:メトグルコを除くビグアナイド薬は、腎機能障害患者に禁忌となっています。-機序の異なる薬の使い分け・効果的な組み合わせを教えてください。 日本糖尿病学会の「糖尿病治療ガイド」1)では、病態に合わせた経口血糖降下薬の選択が示されています。病態で分けるとすれば、インスリン分泌能低下、あるいはインスリン抵抗性のどちらが優位かによって薬剤を選択できます。いずれかを使っても目標とする血糖コントロールが得られなければ、異なる作用機序の薬剤を組み合わせるのも有用です。 もう1つは、「平均血糖」と「血糖変動」という考え方です。診断、あるいは治療開始後の血糖コントロール状況の確認のために、空腹時血糖値とHbA1cでみることが多いと思いますが、HbA1cは、過去1~2ヵ月の血糖値の平均をみているものです。しかし、血糖値は1日の中で常に変動していて、その変動する血糖値をならした「平均血糖」を反映しているのがHbA1cであり、そこに大きく影響するのは基本的には空腹時血糖値です。 血糖値は、食事のたびに上昇し、食後1時間半~2時間の間にピークを迎えますが(食後血糖値)、糖尿病、あるいは予備軍であるIGT(境界型)で、食後高血糖が心血管疾患のリスクになることが、幾つかの大規模臨床試験で示されています2,3)。しかし、食後高血糖をHbA1cでみることはむずかしく、空腹時血糖値やHbA1cで良好な血糖コントロールが得られている患者さんで、CGM(Continuous Glucose Monitoring:持続血糖測定)により24時間の血糖変動をみたところ、空腹時血糖値は正常範囲でしたが、食後高血糖が認められたというケースも少なくありません。 糖尿病で血糖値を下げる目的は、合併症の予防です。生命予後を左右する心血管疾患などの大血管障害予防のために、空腹時血糖のみならず、食後の急激な血糖上昇を抑制し、血糖変動幅を縮小させる治療が重要だと私は考えています。血糖変動幅の縮小によりHbA1cが低下することを、われわれは「“上質”なHbA1cの低下」と呼んでいます。 平均血糖、つまり主に空腹時血糖値を低下させる薬剤には、スルホニル尿素(SU)薬、チアゾリジン薬、BG薬、SGLT2阻害薬があります。対して、食後高血糖を抑制し、血糖変動幅を縮小させる薬剤には、α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)と速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)があります。DPP-4阻害薬はいずれの作用も持ちます。空腹時血糖値、食後血糖値ともに高い患者さんであれば、空腹時血糖値を低下させる薬剤と食後高血糖を改善する薬剤を組み合わせるのもよいでしょう。 このように病態や血糖日内変動幅などの観点から患者さんに適した薬剤を選択しますが、加えて年齢や肝・腎などの生理機能、肥満の有無や低血糖を起こしにくい、といった視点も合わせて、最適な治療を決めていきます。-同グループ内での薬剤の選択、使い分けを教えてください。 いざ、薬剤を選択しようとすると、同種・同効の薬剤が多いものもあり、どれを選べばよいか迷うこともあると思います。とくに比較的新しい薬剤はそうですね。 DPP-4阻害薬は血糖低下作用についてはおおむね同等ですが、排出経路が薬剤によって異なります。主に腎で排泄される薬剤と肝で排泄される薬剤があるので、腎機能、もしくは肝機能障害がある患者さんで使い分けるとよいでしょう。また、半減期の違いから、1日1回投与のものと2回投与のものがあるので、服薬回数で選択するというのもよいでしょう。 最も新しい薬剤であるSGLT2阻害薬は、腎の近位尿細管で糖の再吸収を担うSGLT2を阻害することで、腎における糖の再吸収を抑制し、尿中への糖排泄を促進させて血糖を低下させます。SGLT2阻害薬の血糖低下作用についてもおおむね同等と思っていますが、私は、SGLT2以外に腎でブドウ糖の再吸収を担うSGLT2と同じファミリーであるSGLT1に注目しています。 腎における糖の再吸収の90%はSGLT2によるものですが、残り10%を担っているのがSGLT1です4)。このSGLT1は主に小腸に存在し、腸管からの糖の吸収・再吸収という役割を担っています5)。SGLT2に選択性が高い場合、腎における糖の再吸収抑制という点ではよいのですが、食直後に消化管から糖が吸収されるスピードに、尿細管での糖の再吸収阻害がどうしても追い付かないという問題が出てきます。SGLT2阻害薬の中にはSGLT2に対する選択性が低い、つまりSGLT1の阻害作用を持つ薬剤もあり、その場合、食後の消化管における糖の吸収遅延が期待できます。実際に、カナグリフロジン(商品名:カナグル)で、小腸での糖の吸収を遅らせ、食後の血糖上昇を抑制したというデータもあります6)。α-GIと同じ作用と考えてよいでしょう。このSGLT1の小腸における糖の吸収・再吸収という作用に着目し、SGLT2とSGLT1の両方を阻害するデュアルインヒビターが現在、海外では開発中です。 インスリン分泌を促進する消化管ホルモンであるインクレチンに着目し、7年前にその関連薬として臨床応用できるようになったのがDPP-4阻害薬と、もう1つGLP-1受容体作動薬があります。間接的に作用するのがDPP-4阻害薬であるのに対し、直接作用するのがGLP-1受容体作動薬です。GLP-1受容体作動薬は注射ですので、インスリン療法のようにきめ細やかな用量設定の必要はないものの、患者さんの注射に対する心理的障壁もあって、導入は容易ではないかもしれません。GLP-1受容体作動薬では、血糖低下以外に体重減少が期待できますが、これは、中枢神経系にも作用して食欲を抑制する以外に、胃の内容物の排出を遅らせることで、内容物が胃にとどまっている時間が長くなり、満腹感を感じやすいことにもよります。 GLP-1受容体作動薬には、半減期の長い長時間作用型[リラグルチド(商品名:ビクトーザ)、持続性エキセナチド(同:ビデュリオン)、デュラグルチド(同:トルリシティ)]と、半減期の短い短時間作用型[エキセナチド(同:バイエッタ)、リキシセナチド(同:リキスミア)]があり、短時間作用型のものは、高濃度のGLP-1が維持されないため、胃排泄の遅延作用に対するタキフィラキシー(効果減弱)が起こりにくいという特徴があります。胃排泄の遅延作用が継続するため、体重減少効果が期待でき、さらに、食後高血糖の抑制作用が期待できます。対して、長時間作用型のものは、高濃度のGLP-1が維持されるため、空腹時の血糖低下作用が期待できます。1)日本糖尿病学会編・著. 糖尿病治療ガイド2015-2016. 文光堂;2016. 2)DECODE Study Group, the European Diabetes Epidemiology Group. Arch Intern Med 2001;161:397-405.3)Tominaga M et al. Diabetes Care 1999;22:920-924.4)Fujita Y, et al . J Diabetes Investig. 2014;5:265-275.5)稲垣暢也編. 糖輸送体の基礎を知る. SGLT阻害薬のすべて. 先端医学社;2014. 6)Polidori D et al. Diabetes Care. 2013;36:2154-2161.

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予後が改善されつつある難病LAL-D

 アレクシオンファーマ合同会社は、6月23日都内において、5月25日に発売されたライソゾーム酸性リパーゼ欠損症治療薬「カヌマ点滴静注液20mg」[一般名:セベリパーゼ アルファ(遺伝子組み換え)]に関するプレスセミナーを開催した。「ライソゾーム酸性リパーゼ欠損症」(以下「LAL-D」と略す)は、遺伝子変異が原因でライソゾーム酸性リパーゼという酵素活性が低下または欠損することで発症するまれな代謝性疾患であり、患者の多くが肝硬変から肝不全、死亡へと至る予後不良の希少疾患である。セミナーでは、本症の最新知見について2人の研究者が講演を行った。「ちょっと気になる脂肪肝」への意識が大事 はじめに、「LAL-Dの疾患概要と自験例紹介」というテーマで、村上 潤氏(鳥取大学医学部附属病院 小児科 講師)が、診断の視点から自験例を交え、レクチャーを行った。 通常「脂肪肝」は、栄養性、薬剤性、先天代謝異常症などが原因で起こり、腹部エコーやCT、MRI、肝生検などで詳しく診断が行われる。しかし、小児の脂肪肝では、一定頻度で先天性代謝異常が存在し、注意が必要であるという。たとえば、小児で肥満がなく、肝腫大の程度が強く、体重増加不良、低血糖、発達遅滞などの症状や、乳酸、アンモニア高値などを伴う脂肪肝を見かけたら、先天代謝異常症を疑う必要がある。 この先天代謝異常症の一つにLAL-Dがあり、LAL-DにはLAL活性が完全欠損している乳児型のWolman病(WD)と、部分欠損している遅発型のコレステロールエステル蓄積症(CESD)の2つの表現型がある。 WDでは、顕著な肝・脾腫大や肝不全を観察し、持続性の嘔吐・下痢、腹部膨満、腸管の吸収不良、胆汁うっ滞などの症状があり、急速進行性で致死的である。一方、CESDでは、同じく肝・脾腫大が観察され、一般に肥満はないとされる。臨床所見では、ALT>正常上限の1.5倍以上、LDL-C≧182mg/dL、HDL-C<50mg/dLなどが見られ、肝生検では、小滴性脂肪沈着も観察される。患者の89%が12歳未満で発症、50%が21歳未満で死亡している。 LAL-Dの正確な罹患率は、疫学調査が行われていないため不明であるが、2013年までに全国でWDが12例、CESDが13例報告されている。 自験例として、11歳・男児について、小学校の健診で高脂血症を指摘されたことで精査へとつながり、LAL-Dと診断された例を紹介した。一見、一般的な脂肪肝と見なしがちで、臨床検査や画像診断ではなかなか見分けがつきにくいところが、本症の診断の難しい点であるという。 本症のスクリーニングについては、肝臓関連所見では持続性肝腫大、原因不明のトランスアミナーゼ値上昇、顕著な小滴性脂肪沈着、潜在性肝硬変、インスリン耐性がないメタボリックシンドロームと思われる患者が挙げられ、脂質関連所見では、高LDL-C値および/または低HDL-C値、家族歴不明の家族性高コレステロール血症(FH)疑い、LDLR、APO BおよびPCSK9をコードする遺伝子の検査結果陰性のFH疑いが挙げられる。 確定診断は、非侵襲的で簡便な方法である血中酵素活性測定によって診断される。 補充療法が予後を改善 続いて、「ライソゾーム酸性リパーゼ欠損症の臨床像と治療」と題して、天野 克之氏(東京慈恵会医科大学附属病院 消化器肝臓内科 診療医長)が、治療の視点から本症と新治療薬について解説を行った。 従来、LAL-Dは、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)などと同じ治療法で、支持療法が行われてきた。また、臓器移植を行ってもその治療効果は弱いものであったという。 今回、本症の治療薬として発売されたセベリパーゼ アルファ(商品名:カヌマ)は、遺伝子組換えヒトライソゾーム酸性リパーゼ製剤であり、細胞内に取り込まれた後、ライソゾームに運ばれ、コレステロールエステル(CE)およびトリグリセリド(TG)を加水分解する作用を持つ。これにより脂肪量の減少、LDL-CやTGの低下、HDL-Cの上昇、脂質減少による成長障害の改善が期待されている。 臨床試験は、2歳未満の小児(n=9)と4歳以上の小児/成人(n=66)に分かれて実施され、報告された。 2歳未満の小児では、カヌマを週1回、最大5mg/kgまでを最長208週間投与した結果、生後12ヵ月で9例中6例が生存していたほか、ALT/ASTの顕著な減少、体重増加、リンパ節腫脹、血清アルブミン値の改善が認められた(II/III相試験)。 4歳以上の小児/成人では、30例をプラセボに、36例をカヌマ(1mg/kg、2週に1回投与)に割り付けて、20週の効果を比較した。その結果、ALTの正常化が認められた患者がプラセボ7%に対し、カヌマでは31%、同様にASTでプラセボ3%に対し、カヌマでは42%だった。また、肝脂肪量の減少(ベースラインからの平均変化率)では、プラセボ-4%に対し、カヌマでは-32%だったほか、LDL-C低下、脂質プロファイルの改善なども見られた(III相試験/20週後はオープンラベルで実施)。ALTのベースラインからの平均変化率推移では、投与後4週までに急激に下がり、肝機能が改善されることで以後はフラットに維持される。報告された有害事象は、尿路感染症、アナフィラキシー反応、不安症などで、いずれも重篤なものではないが、投与1年後までみられる場合があるという。 自験例として21歳・女性の例を紹介し、13歳でLAL-Dと診断されて以降、高脂血症などの対症療法が行われてきたが、カヌマによる治療で速やかに肝機能、脂質異常が改善し、対症療法の常用薬の中止も検討されていることを報告し、レクチャーを終えた。関連コンテンツ待望の治療薬登場、希少疾患に福音新薬情報:カヌマ点滴静注液20mg

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